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【安価】Timeless Heroes【クロスオーバー・ヒーロー】
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156 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/14(月) 20:18:13.50 ID:mre5kRA2o
>>155
一応上にも書いてあるけど、もう一度整理して説明します
【こんなキャラなんです】
・#3でアズマに立ちはだかる敵
【こんなキャラを想定して書きたいです】
・ヴィラン寄り(ようするに悪玉ってこと)
・人間(タイムレスであっても無くてもかまわない)
・あるキャラの手下或いはそのキャラに雇われている
【聞きたいこと】
・上を踏まえた上でどんな敵が出てくると面白いですか?
【ヒント】
・#3の予告を見ると、このキャラの目的、誰の手下か分かると思います。
・そういうキャラを考えているのですがまだ輪郭が出来ていない状態なので、手伝ってもらいたいのです
・時間が過ぎましたが30分延長して質問や意見を聞いてみましょう
157 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/14(月) 20:36:19.61 ID:mre5kRA2o
・質問はない感じかな?
・ではこれから皆さんの意見・アイデアを参考に色々考えてみます
・皆さんの意見・アイデア・提案を全部反映できるとは限らないし、安価の内容の通りにするとも限りません
・では、
>>156
を踏まえたアイデアを募集します
↓1〜3【#3に出てくる敵の設定のアイデアをください】
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/14(月) 20:42:50.66 ID:t5oX6wXYO
コンラッドによって雇われた『タイムレス狩り』の殺し屋。
本人にしか知り得ない弱点を突いてくる。
本人はタイムレスではない。
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/14(月) 21:11:59.59 ID:zRaK7q5A0
見た目は人畜無害そうな好青年。
常にヘラヘラとした笑みを浮かべている。
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/14(月) 21:13:52.93 ID:R/GEZf5rO
精神改造を受けて任務に疑問を持たないようにされている
両親からは心配されている
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/14(月) 21:14:40.99 ID:vYIt5raTO
理由は不明だがタイムレスに対して非常に深い憎悪と劣等感を抱いている。
162 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/14(月) 21:28:56.07 ID:mre5kRA2o
・ありがとうございます!
・皆さんのアイデアを元に良いキャラが思いつきそうです。
・では一旦中断
・意見、要望、アイデアについてはまだまだ募集中です! 感想励みになります! ありがとうございます!
・ではこのへんで
163 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 00:02:45.52 ID:UOwJTWrQo
・ゆっくりはじめて行きたいと思います
164 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 00:16:21.22 ID:UOwJTWrQo
#3 Chaser
炎の中でアズマはふと我に返った。目の前は火の海。足下に転がるのは蟲の死骸。
ここまで来て、彼はようやく自分がどのような状況に置かれているのか思い出した。
これだけの炎の中に居て、彼はその熱さを全く感じずにいた。
また、その感覚は鋭敏になっており、ジッと目を凝らせば周囲2m程であれば目視圏に無くても、生命反応を感知できるようになっていた。これがタイムレスになったということかと彼は身をもって知った。
現在、周囲に生命反応は無い。アズマは炎の中から――研究所から出ることにした。
そんな彼を出迎えてくれたのは、アズマが以前所属していたU.S. Armyの兵士達だった。彼らはアズマに銃を向けていた。
弁解は不可能だ。数年前まで銃を向ける側に立っていたアズマは理解していた。それに今の自分の姿。この状況で口を開こうものなら、確実に撃たれる。
「そこの未登録タイムレス! 大人しくしろ!」
「手を上げて、頭の後ろに組め!」
彼は黙ってそれに従った。
165 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 01:09:29.04 ID:UOwJTWrQo
そうすると、すぐに周りに兵士と警察官が走り寄って来て、彼を拘束した。
警察官はトレーラーから拘束台を持ってきた。アズマはこの拘束台を知っていた。
あの拘束台はタイムレス用のものである。台とベルトには超能力系能力を持つタイムレスの能力を抑制する金属が含まれている。
彼がそれに繋がれると、何と彼の身体に異変が起きた。皮膚がミシミシと音を立てているのである。
黒く硬い皮膚は音を立てながら、本来の肌の色と柔らかさを取り戻した。だが、身体にはヒビが入ったような傷が残った。
変身が終わると彼の身体は一回り小さくなったので、警察官はもう一つ小さいサイズの拘束台を用意しなおした。
彼は一切抵抗しなかった。
警察も聞いていた情報より大人しい人物で驚いたらしい。身体検査の結果、一旦アズマの身柄は拘束から解かれた。
*
「私がこの件を担当するエズメ=ピール警部だ」
そう彼は名乗った。中年の男性であった。
彼は今回の研究所火災を事件と事故の両面から捜査していると語った。
アズマは、そこで研究所の被害状況を初めて知らされた。
死者は研究所の所員に関しては全体の2割。遺体が確認されていないのが実験の見学者らと一人の記者。
彼らの死因は全て火災に巻き込まれたことによるものではなく、何かの生物に食い殺されたことによるものだという。
また、犠牲者を攻撃した生物は既に何者かによって全て焼死させられており、外部に飛び立つなどしたものは一体もいないと告げた。
アズマは心底安心した。
聴取の後、警部は改まってアズマに聞いた。
「君は、この研究所を故意に焼こうとしたのか?」
「そんな事実は一切ない」「自分も訳も分からないまま、タイムレスになってしまって混乱している」と答えた。
「そうか……いや、良かった」
と、逆に安堵した様子を見せたのは警部の方だった。
警部は言った。
「タイムレスへの突然の覚醒はよくあることだ。君もあの≠謔、な仕事をしていたのだから分かっているとは思うが――タイムレス覚醒直後の行為は殆ど罪に問われないケースが多い」
「君が起こしたのは火災だが、それが原因で犠牲者を出した訳ではないから――原則事故≠ニして処理されるだろう」
「しかし、その無罪即日判決は、『故意ではない』という意志を確認しないことには始まらない。君にはまずそう言ってもらいたかったのだよ」
「これから君は精神科によるいくつかのテストを受けてもらう。それから弁護士からの再度タイムレスに対する説明。超人保護局のタイムレス登録説明がある。長時間かかるが、諦めてくれ」
彼は鞄からドーナツを出して「ずっと食べていなかっただろう」とアズマに渡した。
アズマは「随分と優しいのですね。研究所を無差別に焼いたタイムレスですよ」と言うと、彼は肩をすくめてこう言った。
「娘がね、君みたいに覚醒≠オたんだよ。その時、同級生にケガをさせてしまってね。ファラリスの方の学校に転校させたばかりなんだ」
ファラリスとは英国にある世界有数のタイムレス人権に特化した自治区である。
「大体、覚醒する人間は……ああ、これは私の推測なんだがね。覚醒する人間は、皆心の中に何かを抱えている。そんな気がするんだ。それが一気に……バーンと爆発して覚醒する」
「私の娘は学校でいじめられていてね。気付いてあげられなかったんだよ。それに彼女は今や親元を離れて遠くで勉強をしている」
「君は大人だが……何か抱えているんだろうと勝手に心配してしまってね。いや、独り言だ。忘れてくれ」
エズメ警部は言い終わると恥ずかし気に部屋から去っていった。
166 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 01:54:48.72 ID:UOwJTWrQo
*
精神科の意志から出されたいくつかのテストを受け終わると、次に弁護士がやってきた。
弁護士は先程エズメ警部がした話と同じことを言い、アズマは罪に問われないと伝えた。
しかしアズマは、知っていたとは言え、自分が全くの御咎め無しだということに疑問を持ったため、では責任の在り処はどこにあるのかと弁護士に聞いた。
その答えは彼にとって絶望に等しいものであった。
「今回の実験による事故。火災の諸原因は法律上、カラム=チャーチル博士の重過失になると考えられます。また犠牲者の遺族からも訴訟の話が――」
「なんだって!?」
「博士は以前より、今回の並行世界観測実験の失敗を予見していたそうです。失敗を分かっていながら、実験を続行したことでこのような事態を招いたのです」
「貴方が先ほど証言したことから考えても――貴方が強い並行世界の宇宙線を浴びてタイムレスへと変異したのにも関係あります」
「俺がこうなったのはどうでもいい。もうカラムはいない!」
「重過失の場合、その責任を問われるのは――」
「リンか!!」
「ええ、まあ。遺族が『夫を止められなかった家族の責任ではないか』という方もいまして」
「それはカラムがリンを危険な実験の利権関係に関わらせたくなかったからであって……カラムの辛さをお前らは分かっていない!」
親友の苦しみをよそに事が動き出し、それはカラムが関わらせまいとしてきたリンにまで及ぼうとしていた。
それにアズマは更なる理不尽を感じていた。
アズマは怒りを抑えきれず、その皮膚が再び黒く硬くなっていくのを感じた。
慌てた弁護士はすぐに警報を鳴らした。
アズマの拘留期間は伸びることとなった。
*
167 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 01:58:02.48 ID:UOwJTWrQo
・中断
・意見、要望、アイデアについてはまだまだ募集中です!
・ではこのへんで
168 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 08:53:07.55 ID:UOwJTWrQo
・ゆっくり続けていきます
169 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 09:20:52.48 ID:UOwJTWrQo
*
アズマは精神的な落ち着きを取り戻すと、また人の姿に戻ることができた。
最後にやってきたのは、政府直轄超人保護局の局員ミシェル=ボルダックと名乗る女性であった。
超人保護局というのは、様々な形で世界に影響を及ぼし続けるタイムレスを保護の名目で、その影響を小さなもの或いは国家の繁栄に使う為監視を行う組織であった。
名前を変えながら、タイムレスという存在の裏で活躍してきたこの組織は、未だに彼ら≠ゥらの反発を受けることが多い。
しかし、アズマのミシェルに対する印象は悪いものではなかった。
何より彼女はアズマの姿にいちいち驚かない。彼女は穏やかな口調で彼に話した。
「ようこそ、タイムレスの世界へ」
「私はタイムレスに中途覚醒した人へタイムレスとしての新たな生き方を教えに来たの」
「ああ、そんなに緊張しなくても良いわ。私も中途覚醒したタイムレスでね。パイロキネシスが使えるの」
アズマを安心させるべく彼女は手の上で火球を作り上げ、ゆらゆらと揺らして見せた。
すると火球に火災報知器が反応して、スプリンクラーが二人を濡らした。
「やだ! 私っていっつもこうなの」
ミシェルは肩を竦めた。
アズマは久しぶりに少し笑った。
170 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 11:19:27.05 ID:UOwJTWrQo
ミシェルはアズマのこれからについて話した。
「貴方はこれからこの国でタイムレスとして生きる中で、選ばなければいけないことがあるわ」
「それは『政府にタイムレスとして登録する』か『しないか』」
「未だタイムレスへの差別が多い時代、政府にタイムレスとして登録すれば貴方の人権は守られるわ。でも、その分自由は少なくなるのは事実よ。だから『登録しない』という選択肢があるの」
アズマはカラムのことを思い出した。
彼は政府に登録されたタイムレスであったが、彼は常に何者かに監視される不快感について語っていた。
だが、何より今のアズマにはそんなことを考える余裕はなかった。
心配なのは、訴訟について。リンが、カラムの意志が、今、無碍にされようとしているのである。
彼の意志は、現在も彼の左掌の中に握られている。
身体検査の時、検知器は彼の手に反応しなかった。以来、彼を警戒する警察官らはそれに言及していない。
容疑者でない以上、気を損ねて暴れられるのも面倒なのである。
アズマは、彼の意志を守らねばならないと思っていた。
どのように守るかはまだ思い付いてはいない。ただ、その衝動が彼をより感情的にしていた。今までにはない自分の意志による強い力が彼の胸の内で動いていたのである。
「タイムレスとしてこれから俺がどう生きていくか。今すぐに答えは出せない。俺にはすべきことがある」
アズマはミシェルにそう告げた。
彼女はそれでも良いと言った。タイムレスの
自身の中途覚醒を受け止めるのは簡単なことではなく、能力の扱いにもしばらく時間がかかるであろうという。
171 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 13:15:38.40 ID:UOwJTWrQo
*
数日すると、アズマは警察署から解放された。
タイムレスとは言え、無実の人間を数日間拘留するのは難儀なことだとアズマは思った。
外に出たアズマはまず、自分は今からどこへ行べきかを考えた。
顔が浮かんだのはやはり――リンだった。彼女は今出産を控え、主人を失い、訴訟の話が出ており不安な日々を過ごしているであろう。
友人としてすぐに行ってやりたい気持ちではあったが、今のこの姿を見て、彼女はどのような反応をするだろうか。
だが、彼の意志≠持つのは彼女が相応しい。変わり果てたこの姿に驚かれようと、不安に晒される彼女に、カラムと最期までいた自分が彼の意志について話す必要がある。
実験の情報を悪用する者に渡してはいけない。それを伝えることが親友として最後にできることである。伝えたい、アズマは強くそう願った。
彼はカラムとリンが暮らす家へと向かった。
しかし問題もあった。
気付かれていないと思っているのであろうが、アズマの歩く場所より数m程離れた建物の屋上に彼を隠れて監視し、尾行する者がいた。
アズマの察知能力で視るに、奴の正体は超人保護局の局員。
その視線はミシェルと話していた時から感じていた。目的は恐らく、本当に自分が無害なタイムレスか見定める為だと考えられる。
これについての対処は、簡単。
撒けば良いのである。機密保持部で隠密行動を行っていたアズマにとっては訳ないことであった。
アズマは静かなる密偵の目を欺くべく、路地へと入り込んだ。
(――早く。早くカラムの意志≠安全な所へ!)
その時であった。
「どこへ行くつもりだ、アズマ」
聞き覚えのある、しかしもうそこには居ないはずの彼≠フ声が聞こえた。
そこに居たのは、研究所で蟲に喰われたと思われていたコンラッド=バジョットが居た。
アズマは彼の生存を知らなかったのである。
172 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 14:12:36.84 ID:UOwJTWrQo
顔右半分は大きく焼け爛れ、左足は引き摺っており杖が無いと歩けない状況。
コンラッドの姿は、アズマほどではないものの変わり果てていた。
「随分と驚いているようだな。死んでいた方が良かったか?」
コンラッドは笑いながらアズマに近付いてきた。
笑顔で引き攣った火傷顔が不気味に歪んだ。
「バーティ、任務ご苦労! 後は二人きりで話させてくれ!」
『了解』
コンラッドは持っていた無線で合図すると、今まで感じていた監視者の気配が消えた。
それを機にコンラッドは話し出す。
「大分変わったな、アズマ」
「貴方もです、コンラッド大佐」
「姿の話をしているんじゃない。内面の話をしているんだ。まさかお前に撃たれる日が来るとはな、あの時の私は完全に油断していた」
「年を取ったのでは」
「ははは、言うようになった。やはり変わったなアズマ。私が与えた任務に一切疑問を抱かぬよう育てたのは私だというに……要するにお前は任務より友情≠ニやらを取った訳だ」
「ええ……そうです。俺は貴方に不信感を感じ、カラムを信じることにしました。今までの自分を恥じたい……彼の友情を裏切ってきたことに」
「ほお、では戻る気はないのか」
「……どこへ」
「私の下へ、だ」
「どの口が」
「この焼け爛れた口がそう言わせているのだ。お前は優秀だ。失うには惜しい。カラム博士が死に、最早友情を行使する相手はいないだろう。戻ってきたら良い。私をこう≠オたことは水に流そう」
「友情を行使≠セと? カラムが死んでも、その友情は失われない。これは永遠だ」
「……そうか、残念だ。ならばここから立ち去りネバダ辺りで静かに暮らすと良い。その前に――」
「その手に握られているデータを私に渡してからな」
「何ッ!?」
173 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 14:34:44.65 ID:UOwJTWrQo
「タイムレスが現れてから警察組織は臆病になった。ヴィランと呼ばれる悪人が現れ、それから市民を守るべくヒーローが生まれ、あの組織が市民を守るべき意志は以前より希薄になってしまったのだ」
「奴らはタイムレスの能力に怯え、今や治安維持、捜査の一部を超人保護局やヒーローに任せきりにしている。呆れたものだ」
「……で、お前のそのお粗末に隠したモノ≠ノも言及しなかったわけだ」
「私が、お前がカラム博士が所持していたデータを持っていることを知ったのは僅か一日前になる」
「お前が起こしたあの火事で全ては炎の中に消えたと思っていたが――違ったようだな」
「ミシェル=ボルダックからも連絡が入った。お前の手はやはり不自然に握られている、とな」
「……もう一度言う、アズマ。そのUSBメモリを渡せ。そうすれば、全てがうまくいくようにしてやる」
「そんなうまい話があるものか。カラムがそうしたように、俺も命を捨ててでもこの意志≠守る!」
「……リン=チャーチルへの全ての賠償・訴訟を取り下げると言ったら?」
「!」
「この国は金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる。このメモリは金額にしてそれ程、いやそれ以上の価値があるということだ。加えて、お前に50年ほど不自由なく暮らせる金を渡すこともできる」
アズマは凍り付いた。
これは究極の選択であった。
リンを守る為、メモリを渡せば、カラムの意志を裏切ることとなる。
カラムの意志を守り、メモリを渡さなければ、リンへの訴訟・賠償は行使され、最悪コンラッドの手にかけられる可能性もある。
アズマはどちらも選択できなかった。
迷いという感情は、軍在籍時、怒りや憎しみと言った任務に支障を来す感情と共に捨て去ったもののはずであった。
それが今になって表れたということは、つまり――
彼に考える時間が必要であることを意味していた。
コンラッドがそんな暇を与えてくれるはずもないことは分かっていたが、アズマは怒り≠解放し、全力で彼から逃げ出した。
それを見たコンラッドは無線を取り出し、こう告げた。
「0911よりコンラッド大佐。現在超人保護局より観察中であったアズマ=コンドーが件の火災事故の重要証拠を盗み、逃走。至急応援を頼む」
『了解。至急ヒーローを派遣します』
*
174 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 15:16:16.32 ID:UOwJTWrQo
(どこだ――どこへ行けば――)
町にはヒーロー出動中市民待機令を告げるサイレンが鳴り響いていた。
異形が町を走っているだけでも目立つというのに、逃げ込む場所はどこにもなかった。
とにかく誰にも見つからない場所へ隠れる必要があった。
アズマ自体それを行うことは得意であったが、師であるコンラッドが指揮をあのまま行うのだとしたら抜け出す方法は容易に考えつくものではない。
彼は頭を絞って考えた。
(37番道路を出た先の裏路地! あそこの先にスラムがある。そこに紛れ込めば――)
*
アズマは警備が薄いであろう裏路地を走っていた。
スラムに隠れ、態勢を立て直そうとしたのである。
スラムは目論見通り、浮浪者が多い。
また、浮浪者は普通の人間だけではない。タイムレスとして世間に馴染めずここに滞在するものも多い。ヴィランの大半はここから生まれたとも言われる程である。
よって異形の物も日常的に存在する。アズマ一人が、そこを走っていても気にはならないであろう。
そうして紛れ込もうとした時である。
アズマは不意に男とぶつかった。
「す、すまん。今急いでいるんだ」
「あいや、こちらこそ済まない。拙者≠煖}いでいる故――」
男は白い着物に青い袴、腰に刀、そして白い仮面。中央に赤く大きな目のようなものが描かれていた。
日本のサムライ≠ノ似た姿をしていた。
(ハロウィンにはまだ早いぞ)
アズマはその姿が気にはなったものの、何も言わず立ち去ろうとした。
しかし――
「待たれよ」
男は逃がしてくれなかった。
「な、なんだ……」
「今、急ぎの用が無くなったのでな。声をかけたのだ」
「拙者、今、人を探しておったのだ」
「その名は……アズマ=コンドー。蟲のような姿をしたタイムレスだと聞いている」
「……貴様だな?」
アズマは観念し――なかった。
「……ああ。そうだが?」
「開き直るか。それもまた良し」
「貴様に逮捕令が出されている。素直に投降せよ」
「さもなくば……斬る」
「言っただろ。俺には急ぎの用があるんだって」
「抵抗するか。それもまた良し。では――」
「斬る!」
男は刀を抜いた。
鞘から抜かれると怪しげな白い光を纏った刀身が現れる。
刀を構えると男は大きな声で名乗りを上げた。
「名乗ろう! 拙者はサムライヒーロージェモン=I 日ノ本より来たイノー流剣術≠ェ一つ斬(ザン)≠フ皆伝者である!」
「火災事故の証拠物品を盗んだ不届きものめ! いざ成ば――」
「長い!」
アズマは名乗りの途中で右腕を解放し殴りつけた。
175 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 16:01:51.50 ID:UOwJTWrQo
ジェモンは刀を杖に立ち上がる。
「殴るとは失礼千万! 許せん! 斬る!」
アズマは後ろを向いて走り出した。
ヒーローと追いかけっこしている状況で目立つのは仕方がない。
どうやらこのヒーロー、頭が良い方では無いようなので、アズマは必死に凌いで逃げ道を探した。
だが、侮ってはならない。
このジェモンの太刀筋は非常に正確。それに破壊力も妙に高い。
首を狙った一太刀を屈んで避けると、その刃はスラムのレンガ造りの壁に軽く当たった。
鈍く大きく擦れる音がした。
壁は大きな音を立てて、簡単に切れてしまった。
(これは普通の刀じゃない……!?)
また、その衝撃波も鋭く、強い力がアズマの腕の外皮をこそぎ取ってしまう。
(この動き、人型の蟲より――繊細で強いッ!)
その後、間を置いて強い風が吹いた。スラムの住人の掘立小屋と共にアズマの身体も宙に浮きあがった。
(マズい、このままでは!)
ジェモンは、無防備になったところを追いかけるようにして飛び上がり刀を大きく振り上げた。
176 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 16:38:27.31 ID:UOwJTWrQo
ジェモンの太刀は空を切った。
ジェモンがアズマの姿を探すと、その頭上一つ高くに彼の姿があった。
アズマは飛んで≠「たのである。
あの瞬間、何があったのか。
あの瞬間――
敵に斬られまいと自分の身体について深く考える内、怒り≠フエネルギー放出の時の状況に目を付けた。
怒りを放出する時、アズマの身体は大きく後方に下がる。
その方向を一か所に向けた時、どうなるか。
アズマはそれを足≠ノ集中させ高速≠ナ飛行≠オたのである。
「悪いなサムライ。お前と戦っている暇は無いんだ」
そのままアズマは空高く舞い上がり、ジェモンの前から消えて行った。
*
ジェモンは仮面の中の無線から通信する。
「こちらマスター・ジェモン。RSフォース、ターゲットを逃がした。すまん!」
『こちらRSフォース。またですか……マスター・ジェモン』
「追跡任務は苦手だ。精進する」
*
177 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 16:39:57.33 ID:UOwJTWrQo
・中断します。これで1/2くらいです
・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です!
・ではこのへんで
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/15(火) 16:55:46.79 ID:JT46QXEZ0
乙
あの安価がいま回収されたか。
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/15(火) 17:22:16.52 ID:qA3hxF0gO
味方なら心強い相手…なのだろうか
180 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 20:24:51.16 ID:UOwJTWrQo
・ゆっくり続けて行きます
181 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 20:42:32.40 ID:UOwJTWrQo
*
スラム街から幾分か離れた空き家。
アズマは、空き家のカーテンが閉じられた窓に向かって突っ込んだ。
ガラスが割れた大きな音が聞こえる。彼は足の怒り≠放出し終わって、そのまま無様に転がり入った。
そこには空き家に存在しない、してはいけないはずのものが広がっていた。
無数のPCモニター、キーボード、ピザ、太った黒人男性。
「おいおい、ハリウッド映画もビックリなエントリーだなアズマさんよォ」
黒人男性は、あまり驚きもせずアズマに皮肉を言った。
「良く気付いたな、俺だと」
「アンタテレビ見てないだろ。スゲェことになってるから見てみろ」
男はPCの傍らにある古いテレビの電源を付けた。
そこには未だ火の消えきらない研究所から黒い蟲のような姿の男が現れ拘束される姿が映し出されていた。
アズマにとっては見慣れない映像であったが、覚えのある後継でもあった。
これは自分が研究所から出てきた時の状況だ。
「並行世界研究の第一人者カラム博士の死と研究所火災。謎の黒蟲男の登場でワイドショーは持ち切りだ。それに今指名手配されてるんだろ?」
「黒蟲男?」
「アンタのことだよ。大分また姿が変わっちまったみたいだが、これ皮膚?」
「分からん。だが、怒り≠発散すると、発散した箇所がこうなる」
「へぇ、カッコいいじゃん」
「で――本題は?」
「お前がまだ中立≠フ立場にいるなら、相談したいことがある。情報屋≠フジョン」
「今の名前はアランだ、アラン=スミシー。おっと、ハンドルネームはA.S.A.Pのままな」
「中立? ははーん、アンタやっぱりめんどくさいことに巻き込まれてるんだな? いいぜ。相談に乗ってやるよ」
182 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 21:01:59.65 ID:UOwJTWrQo
「で、相談って――?」
アズマはここで初めて左掌を開き、男――A.S.A.Pに見せた。
A.S.A.Pはそれを興味深そうに眺めた。
「USBか。これに何か入ってんの?」
「このデータを誰にも売らないと約束できるか?」
「……ああ、いいぜ? 断ったらアンタに始末されちまうかもしれないからな」
「良かった――なら、このデータを見てくれ。親友が遺したものだ」
「親友?」
A.S.A.Pはアメリカ全土を股にかける情報屋である。
彼とアズマの関係は長い。その関係は、アズマがカラムに出会う前からの腐れ縁であった。
A.S.A.PはUSBを自分のPCに差し込み、データを閲覧した。
彼はそれを見る内、その内容に震えた。
「お、おい。これって――」
「そう、これは親友――カラムが遺した並行世界観測実験のデータだ」
「それだけじゃない。実験の危険性を提示した文書、新たな可能性全てが書かれているらしい。俺も見るのは初めてだ。これほどとは――」
「こらァ……やべェもん持って来ちまったなぁ。で、このデータをどうしたい?」
「分からない」
「はァ?」
183 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 21:37:19.95 ID:UOwJTWrQo
「カラムは生きている時……このデータが軍によって悪用されてほしくないと言っていた」
「だから……俺はその意志を受け継ぎたい。だが、どうすればいいか分からないんだ」
「やっぱり軍が関わってんのか! なら俺ができるのは助言ぐらいしかねーな。しょっ引かれんのも、アンタみたいなやつに殺されるのもごめんだ」
「しかし全くのノープランか。どうしようかねェ」
「最初はカラムの妻……の家に行ってこれを渡そうかとも思った。でも危険すぎる」
「いい心がけだ。そんなことしたらすぐその奥さん、殺されちまう」
A.S.A.Pは腕を組んで呻り始めた。するとすぐに「そうだ!」と膝を打った。
「アンタ、そのUSBを破壊しろよ! その能力でさ! 跡形もなくなれば悪用もされないぜ」
「ダメだ」
しかしアズマはその案には乗れなかった。新たな可能性の項目には、カラムはこの実験に反対はしていたが、未来的に安全な実験法の確立がされた時、この国の量子科学は飛躍的な進歩を遂げると書かれてあった。
誠実な彼を尊重した判断はそれではない。そう思えてならなかったのだ。
これがカラムの意志≠受け継いでいく為に必要な答えだった。
A.S.A.Pも「なーんだ。答え、出てるじゃん」と首を振った。そして彼は答えた。
「アズマさんよォ、その情報、軍の誰かに奪われる前に誰かにリークしちまわないか?」
「リーク?」
「そうだ、一番信頼できる……そうだな、知り合いの記者に当てがある」
「信頼できるのか?」
「ああ、悪かない。どうだ?」
「会って話してみたい」
「そうか……なら、俺がアポを取ろう。それでこの情報を公開するかどうかはアンタが決めりゃあいい。俺が手伝えるのはここまでだ」
「アポが取れるまでどれくらい時間がかかる」
「24時間だ。それまでどこかで凌いでいてくれ。どうにかしてアンタに連絡する」
「……ありがとう」
「今までの悪事を見逃してもらってるお返しってことでいいぜ」
「特に違法エロサイト動画を閲覧してることをな」
184 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/15(火) 21:37:49.17 ID:UOwJTWrQo
・休憩
185 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 10:10:27.80 ID:U3R2g18Ao
・ゆっくり続けます
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 12:43:54.55 ID:iHrqj+snO
マダー?
187 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 14:58:18.66 ID:U3R2g18Ao
*
かくしてアズマは情報屋A.S.A.Pの手を借りて、カラムが遺した情報を信頼できる人物にリークすることで未然に軍諸機関に悪用できないよう牽制する試みに出た。
まず、A.S.A.Pが勧める記者へのアポイントメントを取る為に24時間時間が欲しいと言った。
それまでの間、指名手配中のアズマはどうにかして自分の身を守り続けなければならない。
アズマはA.S.A.Pが教える逃走ルートを利用して、ヒーローから逃げ続けた。
ルートはスラム街、地下駐車場、ショッピングモール裏など、どう見てもヒーローがパトロール範囲に入れていないであろう場所であった。
次にアズマが訪れた場所は、下水道。鼻を突く汚臭と溜まった気がタイムレスとして鋭敏になった感覚を刺激した。
不快感に襲われながらも、ダニも見つからないであろうこの場所は疲れた体を癒すのには十分であった。
彼はため息をつきながら、湿った壁に背中を預けると、どこからともなく声が聞こえて来た。
「――1976年」
「――5月29日」
「電気技工士の父と母の元に生まれ――」
「――11歳の時、親の離婚により母方の叔母の家に預けれられる」
最初は何を言っているのか分からなかった。
「貧困層にありながら、勉学に秀でており優秀な成績で大学に入学、卒業」
「大学在籍時――唯一無二の親友に出会う」
しかし、ここまで来て、この声の主が誰≠フことを話しているか分かった。
「卒業後、給与と保証金を実家に仕送りする為、軍に入隊」
「コンラッド=バジョット隊に配属」
「コンラッド式メンタルトレーニング第一期生として志願。その後、大規模作戦に幾度も参加し優れた戦歴を上げるようになる」
アズマの額に冷たい汗が伝った。
――彼≠ヘアズマ≠フことを語っていたのである。それも彼自身しか分からないようなことを。
「驚いた?」
彼≠ヘいつの間にかアズマの間合いに張り込みへらへらと笑って見せた。
188 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 15:16:01.75 ID:U3R2g18Ao
アズマはその速さに驚き、これ以上近寄られないよう距離を取った。
アズマについて語った男は、黒いパーカーにフードを深くかぶっており、顔がよく見えなかった。
だが、その声の感じから若いことは分かった。
「お前……ヒーローか?」
アズマが尋ねると、男は首を振り、こう言った。
「あんな甘い連中と一緒にしてもらったら困るよ。あいつらはターゲットを基本的に殺すことは許されない」
「気絶させるか、自分の攻撃に目を向かせてRSフォースに撃たせるか、だろ」
「俺達≠ヘ違う」
「俺はコンラッド大佐の私設部隊に雇われた。ブラックドッグ≠チて言えば分かるかい」
その名前に聞き覚えがあった。最近名の知れたタイムレスがヒーロー・ヴィラン関係なく殺害されている。
その事件現場に描かれる黒い犬のスプレーアート。
捜査関係者は彼をタイムレス狩りのブラックドッグ≠ニ呼んでいた。
ブラッグドッグは再び、アズマとの間合いを詰めながら言った。
「俺(ブラック・ドッグ)は不吉の証! 俺を見た奴は必ず死ぬ! アンタも死ね!」
彼は腰の大型ナイフを抜き、アズマの首にそれを押し当てて、思い切り引いた。
189 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 15:36:31.08 ID:U3R2g18Ao
アズマはすぐさま自分の身体を黒い装甲に覆わせた。ナイフは彼の喉笛を切り裂くことが出来ず、外皮と擦れて赤い火花を散らした。
この数日でアズマは自分の能力を知ることができた。
まず、この外皮は精神が落ち着いているときであれば、自分の意志で自由に発現させることが出来ること。
次に、怒り≠解放して砕け散った外皮は6時間程で回復すること。
全ての外皮が散った時に現れる、紅い姿は防御は弱いが運動性能が格段に上昇すること。
最後に、ジェモンに攻撃された時に分かったこと。怒り≠コントロールして放出すれば空を飛べること。
二人の攻防が続いた。アズマは相手が殺しに来ていると分かっている以上、こちらも本気でやらねばと攻撃をしていた。
しかし、決め手に欠けていた。
ブラック・ドッグはすばしこく攻撃しにくい上、こちらの手の内が読まれているかのように攻撃をふさがれ反撃されるので対応しきれない。
それに、この場で怒り≠放出できない理由があった。
「どうしたの、アズマさん! 俺を殺してみなよ!」
ブラック・ドッグは相も変わらずすばしこく、こちらを挑発しながら攻撃してきた。
アズマの余裕は失われつつあった。
それが彼の目論見とも言える。苛立ちは能力に暴走を与え、いつ何時怒り≠解放してしまうか分からない。
アズマは自らの心に自制を呼びかけた。
190 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 15:59:17.69 ID:U3R2g18Ao
「おいアンタ! 何でさっきから切り札¥oしてこないワケ?」
ブラック・ドッグは挑発を止めない。
こちらの弱みにすでに気付いていたのである。
彼はわざとらしく大声で言った。
「ああ、そうか! ここは下水道! ガスが溜まりやすい上に何かに引火したらすぐに酸欠になっちまう!」
「ああ、そうか! 分かったぞ! アズマ=コンドー! お前はタイムレスなんかになっても呼吸器官は人間の時のまんま!」
「それにお前の身体は熱に満ちている!」
ブラック・ドッグはすぐさまパーカーのポケットから小型の機械を取り出し顔面に押し当てた。
すると機械は変形し、犬の顔に似たガスマスクになり、彼の顔面に装着された。
更に彼はポケットからスプレー缶を出した。
爆発物と誤認したアズマは一瞬、怯んだ。
その隙が仇となった。ブラック・ドッグはスプレーをアズマの身体に振りかける。
アズマの身体に激痛が走った。痛みのあまり、汚水の中に転び、のたうち回った。
「痛くて聞こえてないだろうがこれはただの液体窒素」
「だけど、お前の熱い身体と、遠くの人間を察知できるくらい鋭敏になった感覚であれば、その痛みは普通の人間にこれをかける何百倍も痛いはず!」
「どうだ! 痛いだろう? 痛くて痛くて殺してほしいくらいだろ!」
「でもまだ殺してやらなーい!」
ブラック・ドッグは液体窒素の入った缶を投げ捨て、次のスプレー缶を出す。
すると、その缶を周りに振りまいた。
痛みにもがき苦しみながらも、アズマはそれが何なのか凝視しようとした。
その時、視界がぐにゃりと歪んだ。そして、とてつもない吐き気が彼を襲った。
「神経毒さ! 呼吸器が人間と同じならこれも苦しいだろうと思ってさ! 用意したんだ!」
アズマはもがけばもがくほど空気が吸えず、苦しみ、身体に残る痛みと共に短時間で衰弱していった。
191 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 16:11:16.73 ID:U3R2g18Ao
アズマは薄れ行く意識の中で色々なことを考えた。
(俺はこれから死ぬのだろうか)
(俺が死んだらカラムの意志は――リンは――)
(あいつ、俺のことを過去だけでなく能力と弱点まで……俺も知らなかった弱点が……)
(もっと力があれば……ここで死ぬわけには――)
(クソ……クソ……クソ……ッ! もっと……力を――!)
強い後悔が怒り≠ノ変わり、その中から不甲斐ない自分とブラック・ドッグに対する憎しみ≠ェ心に満ちた時、アズマの意識は深い海に落ちて行った。
*
「あれェ? もう死んじまったのか?」
アズマは小さく蹲り、呼吸をしていなかった。
「チェッ、つまんないの」
ブラック・ドッグはつまらなさそうにその身体を軽く蹴った。
その時、アズマの身体は内側から紅く輝いた。
「なんの光――」
下水道に強い光と激しい炎が走った。
*
約束の時間まで23:00、22:59、22:58、22:57…
*
192 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 16:13:41.95 ID:U3R2g18Ao
#3 Chaser
to be continued…
193 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 16:22:07.58 ID:U3R2g18Ao
Next…
First Timeless Hero:Ultimate fate of the universe
#4 Time of fate 運命の時まで…
怒り≠ノ次ぐ新たな能力憎しみ≠フ解放を行ったアズマは小さな繭の中で仮死状態に陥っていた。
沈下した下水道に新たな刺客達が現れ、アズマを発見する。コンラッドの命に従い、彼らはアズマをとある場所≠ヨと連れ去る。
運命の時まで残り19時間――
194 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 16:47:15.81 ID:U3R2g18Ao
【#1解説】
・このコーナーでは話の中で説明しきれなかったことを今後のネタバレをしない程度に解説します
☆今回短くね?:イベントが多いから許して
☆タイムレス用拘束台:便利アイテム。費用が馬鹿にならないので一警察署に2台くらいしか置いてない。アズマは事件の重要参考人としてこれが使われました。みんなビビってたんです
☆アズマって変身解除できるの?:精神が落ち着いている限りは可能です。怒ると医師関係なく変身します。
☆タイムレスの中途覚醒条件:これはあくまでエズメ警部の推測です
☆タイムレスの法的保護:登録法云々でもめた上、今の法律があります。
☆タイムレスの拘留期間:長い
☆ファラリス自治区:タイムレス人権に手厚い保護法を敷いた自治区。高い金を払って住むことができます。かなり平和な場所で、富裕層のタイムレスはここに移住してます。
☆超人保護局:自由の国なので、登録しない自由とそのメリットも教えてくれます
☆何があっても絶対壊れないUSB:アズマの能力は指向性を持たせることが出来るので、攻撃があたりにくいです。手の中が一番安全かも(適当)
☆ヒーロー:政府に登録したタイムレスが国の正義に従って、人命救助・ヴィラン退治を行う職業。国ごとにヒーローがおり、国の顔としてお国柄が見えてくる。なのでタレント活動もする。
☆ヴィラン:犯罪者
☆RSフォース:Riot suppression force(暴動鎮圧部隊)の略。ヒーローと連携しながらヴィランを捕えたりするサポートチーム。汚れ役。
195 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 16:56:33.33 ID:U3R2g18Ao
【#1解説(人物編)】
・今回出て来た名前アリのキャラクターは後のシリーズに出ることを想定して作られたキャラクターです。ネタバレしないようにおさらいしていきましょう
☆エズメ=ピール警部:しがない中年警部。人柄が良いので周りから好かれている。借金をしてファラリス自治区に娘を引っ越させた。次作に関わらせたい。
☆ミシェリン=ルーロウ=ボルダック(ミシェル=ボルダック):超人保護局の案内役
☆サムライヒーロー・ジェモン(マスター・ジェモン):安価を頂いた時から考えていたキャラ。日本からアメリカに移籍したヒーロー。日本での人気は無かった。
☆A.S.A.P:情報屋。A.S.A.Pは、as soon as possible(可及的速やかに)の略。メールに書いたりするのに使う。
☆ブラック・ドッグ:タイムレス狩りのヴィラン。スプレーアートが趣味。
196 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 17:03:27.85 ID:U3R2g18Ao
【refer to…#3】
・このコーナーでは皆さんのこんなアイデア・意見を参考に書いたことをお知らせするコーナーです。皆の意見がこんな感じで反映されているとお話しします。
☆侍をモチーフとした姿で、白い着物に蒼い袴を着用し、帯刀している:ジェモンのキャラクター作成の参考にしました
☆あとアズマがarmy入りした経緯とか知りたい:ブラック・ドッグが話す形でお話ししました。
☆カラムとは違ったおちゃらけた性格とか良さそう、陽気な黒人枠的な:A.S.A.Pのキャラクター作成の参考にしました。
☆コンラッドによって雇われた『タイムレス狩り』の殺し屋。
本人にしか知り得ない弱点を突いてくる。
本人はタイムレスではない。
見た目は人畜無害そうな好青年。
常にヘラヘラとした笑みを浮かべている:ブラック・ドッグのキャラクター作成の参考に大いになりました。ありがとうございました。
☆精神改造を受けて任務に疑問を持たないようにされている:コンラッド式メンタルトレーニングというワードを考えるきっかけになりました。
197 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 17:04:41.12 ID:U3R2g18Ao
・では一旦中断
・質問、意見、要望、アイデアについてはまだまだ募集中です!
・ではこのへんで
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 17:25:08.10 ID:FdTcq0SXO
乙
ブラック・ドッグのキャラいい感じだなあ
次回あっさり死んでそうだけど
199 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 19:36:54.98 ID:U3R2g18Ao
・再開します。
・これから2話くらいは連戦に次ぐ連戦展開になるかもしれません。
・残り3話、折り返し地点
・ここまでで全てにおいて(設定・展開含め)質問はありますか?
・決めることがあるので質問なんかない場合は「はよ」と言ってください
・30分或いは「はよ」3つで次に進みます
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 19:43:18.56 ID:0kYQV8CD0
あんまり疑問点の考察とかしないで読む派です
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 19:51:24.50 ID:Ptd3g0l+0
はよ
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 19:59:05.69 ID:HHS/FoLg0
はよ
203 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 20:07:46.33 ID:U3R2g18Ao
・では、今のところ変な所はないっつーことで進めていきます
・次は件の敵キャラ(ヴィラン)募集についてです
・ヴィランはこの物語での悪役・敵役なだけで、その内、配属替えやヒーロー転向もあるかもしれません
・前回時点で、キャラ自体を募集することを予告していましたが、実際どちらがいいでしょう?
・負担はどちらも変わらないと思います
・なので、ここで以下二つの中からどちらか選んでいただきたいのです
1キャラ安価:
>>1
が用意したテンプレを使ってキャラを作る
2今までの作り方:安価から得たイメージからキャラクター作成の参考にする
3その他:ほかにいい案があるなら教えてください
↓先にいただいた3つの意見を優先して進めていきたいと思います
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 20:08:25.23 ID:YlcmqfIFo
2
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 20:11:16.47 ID:HHS/FoLg0
2
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 20:13:57.65 ID:Ptd3g0l+0
2
207 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 20:21:42.62 ID:U3R2g18Ao
・ではいただいた意見を優先して、今まで通りの作り方で行きたいと思います
・これから皆さんのアイデア・意見を参考にヴィランを考えていきます
・募集するヴィランのイメージとしてはこんな感じです
【こんなキャラなんです】
・#4でアズマを捕え、立ちはだかる敵
【こんなキャラを想定して書きたいです】
・ヴィラン寄り(ようするに悪玉ってこと)
・人間(タイムレスであっても無くてもかまわない)
・コンラッドにアズマの持つデータを生死問わず奪うことを条件に雇われている或いは元から彼に仕えている
【聞きたいこと】
・上を踏まえた上でどんな敵が出てくると面白いですか?
・こんな感じで募ります。
・次回は複数体出てくる予定なので、できるだけたくさん集めたいと思います。少しずつやっていきます
↓1〜3
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 20:27:51.60 ID:Ptd3g0l+0
超人的な頭脳を持つタイムレスだが、思考の箍が外れたマッドサイエンティスト。
その危険性から隔離されていたが、政府と『解放』と『実験施設及び動物(人間含む)の提供』を条件とした取引でアズマを捉えようとする。
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 20:28:28.59 ID:HHS/FoLg0
棘のような触手を背中から生やしている高慢な女性
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 20:32:25.71 ID:0kYQV8CD0
内部分裂起こしそうな横暴な女キャラが見たい
211 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 20:36:17.44 ID:U3R2g18Ao
>>210
次作で嫌というほど見せる予定です
・更に集めます。もうちょっとアイデアをお借りしたい
↓1〜3
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 20:42:43.82 ID:f//NUxb7O
動物性愛者で筋骨隆々な黒人男性
様々な動物と会話でき信頼関係を築いている
社会的にお目こぼしをしてもらう代わりに、動物を使った任務で協力している
213 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 20:50:08.56 ID:DHFTKN9KO
ただ「タイムレスを狩ってみたい」という好奇心とその腕前から雇われた軍のスナイパー
214 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 20:59:55.94 ID:0kYQV8CD0
自分の技術を誇示したい欲が強い天才ハッカーの若者とか
正義感は強いけど、まだ何が正しいか自分の頭で考える脳がなくて、他人にすぐ影響される
215 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 21:11:55.81 ID:f//NUxb7O
人種とかの設定は詳しくあるんでしょうか?
東南アジアや南米系もいたらいいな
日系はキャラ立てしやすそうだけれど、それ以外はシナリオ上の設定に結びつけるのは大変そうだけれど…
216 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/16(水) 23:00:41.82 ID:U3R2g18Ao
>>215
一応設定されているキャラはいます。
アズマは名から察せる通り日系。カラムは本文にもある通りインド系移民(インド系アメリカ人)。
A.S.A.Pは黒人。ジェモンは本名ですが、純日本人です。
描写の無いものに関しては、エズメ=ピール警部は、ヒスパニック系と妄想していたりします。それ以外だとコンラッドは特に白人というイメージで書いています。
確かにシナリオ設定に結び付けるのは難しいですね。勉強します。
・皆さんのアイデアのおかげで私設部隊の設定が出来上がりました! ありがとうございます
・一旦中断
・質問、意見、要望、アイデアについてはまだまだ募集中です! 感想励みになります! ありがとうございます!
・ではこのへんで
217 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/20(日) 23:26:04.62 ID:NRMj6yVDO
更新はしばらく出来なさそう?
218 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 15:44:57.73 ID:cG9LBXvXo
・ゆっくりとはじめていきます
219 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/23(水) 15:50:13.75 ID:lg4NJiIp0
待ってた
220 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/23(水) 16:03:21.52 ID:cn3AoUB90
キター(゚∀゚)!
221 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 16:09:43.43 ID:cG9LBXvXo
#4 Time of fate
――あれから1時間後。
未だ煉瓦造りの壁が燻る古い下水道に、男女二人が足を踏み入れた。彼らには目的があった。
今から一時間ほど前、ターゲット――アズマ=コンド―を追わせたブラック・ドッグの生命反応が忽然と消えた。彼の生死を確かめる為、更にアズマの回収をする為に彼らは来たのである。
そう、彼らもブラック・ドッグと同じコンラッド=バジョット大佐の手下である。
「生きてると思うか? あの小僧」
屈強な男は女の方に尋ねた。黒髪をポニーテールに纏め上げた美女はのんきに答える。
「彼、しぶといもの。きっと生きてるわ」
彼らは暫く歩くと、倒れているブラック・ドッグを見つけた。男は小柄な彼をひょいと背負うと
「ほれ見ろ、死んでる」
と呆れたように言った。すると、後方で大きな咳き込みがあった後
「死んでなんかいねえ、勝手に殺すなオッサン。シグナルはターゲットに吹っ飛ばされた時壊れただけだ」
とブラック・ドッグが息を吹き返した。
「ほら、余計なこと言ったから生き返っちゃったわ」
「悪ィ冗談はやめろって!」
女は、ブラック・ドッグをからかい、その犬の顔に似たマスクの鼻をちょんとつついた。
222 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 16:20:48.87 ID:cG9LBXvXo
「で、ターゲットは?」
男はブラック・ドッグに聞いた。彼は数m先を指さした。
そこには大きな黒い繭のようなものが落ちていた。男は気味悪そうにゲェっと餌付いた。
「これがアズマ=コンドーなのか?」
「ああ。気を失う前にコイツ体中から糸を出して、こうなりやがったところまでは覚えている」
「気味悪ぃ」
「全くだ。気色悪いんだよタイムレスなんて連中は」
ブラック・ドッグらは悪態を付いた。それに関して興味なさげに女は繭に近付き、無警戒に触った。
繭の奥からは微かに拍動する音が聞こえていた。
「見て! 生きてる!」
女は少女のように無邪気に二人に叫んだ。
「あの繭、どうした方が良いと思う、ブラック」
「殺さないのか?」
「命令が変わった。生きたまま持って来いとさ」
「聞いてないぞ糞ッ……」
大男は背中のブラック・ドッグに指示を仰いだ。
大男は彼のその戦闘力自体は低いと見ており侮ってはいるものの、その情報収集能力やタイムレスを多数殺してきた経験から導き出される観察眼については信用に値すると考えていた。
少なくとも学のない自分の勘よりは宛てになると。
ブラック・ドッグは答えた。
「前にも似たタイプの虫型タイムレスを殺したが、繭みたいなのを作るのは初めて見た」
「だが、大概繭ってもんは虫が変態前に行うものだ」
「アイツの性質から考えて……この繭から出たら奴はさらに強くなる。或いはあの中で回復しているのかもしれねえ」
「繭を破壊しろ。中のアイツをそこから引きずり出せ」
「どろどろに溶けてなんかねーよな」
「黙ってやれっ」
大男はナイフを取り出し、繭にそれを刺した。
繭からは黒い粘液がぶしゅりと吹き出し、三人の顔を汚した。
223 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 16:23:01.71 ID:cG9LBXvXo
ある程度繭を切り裂いていくと、そこから裸のアズマが転がり出て来た。
「あらご立派!」
女は粘液に濡れたアズマをべたべたと触りながら喜んだ。
すると、何かに気付いたようにブラック・ドッグは大男に「脈を調べろ」と言った。
大男は首を横に振った。
繭と違い、脈を感じないのである。胸が動いている様子もない。
「死んでいるのか」
「分かんねー。タイムレスだからな。何でもありだ。戻るぞ。ドクターに解析してもらうんだ」
「分かった」
大男は言われたままアズマを更に背負おうとした。その時
「おっと、その前に!」
ブラック・ドッグは、左手を見るよう大男に指示した。
224 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 17:52:24.02 ID:cG9LBXvXo
左手は強い意志の下、硬く握られていた。その中には恐らく彼らの雇い主が求めている重要なデータがあるのであろう。
大男はブラック・ドッグに話した。
「強く握っているだけに見えるが? ならこじ開けちまえば」
「見ろ。掌のそこだけ硬化している。恐らく覚醒した時からこの状態だったんだと思うぜ。守れるよう進化したんだろ。よっぽどあのUSBを守りたかったんだろうな」
「そんなに友情≠ニやら大事だったのかねェ。冷血漢の元軍人アズマ=コンドーがここまで躍起になるたあ――」
「そりゃ子供の時から親戚の世話になってて、そこの家に迷惑かけないよう奨学金稼ぐためにガリ勉してたんだ
。アイツもカラム博士に会うまではそれなりに孤独な生活を送ってきたんだろうよ」
「さっすがA級プロファイラーだな、ブラック・ドッグ先生はよォ」
「うるせえ。帰るぞ」
3人はアズマを連れて、下水道を奥へ進む。これから向かうのは彼らの拠点。
――コンラッド=バジョット邸である。
*
225 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 18:07:33.39 ID:cG9LBXvXo
*
ネイビーの家系であるバジョット家に生まれたコンラッドは、裕福な家庭で育った。
彼は父に代わって少将まで務めた祖父が勉強と愛国心とは何たるかを教わった。ただし、彼の祖父は暴力的な教え方を好んだ。
度重なる暴力と監禁により彼の心は歪んだものへと変わった。
彼の国を愛する心は、暴力的な防衛心、国の意志に反する者への激しい嫌悪感を中心に固められていったのである。
このことは軍の内部の人間は皆、知っていることであった。
彼は軍人としては優秀であった。
それ故に、誰も言及されない事柄であったのである。
彼は現在、NROの上級顧問として在籍している。
国家安全の為、新型偵察衛星による朝鮮民主主義人民共和国への警戒案を秘密裏に樹立させており、評価が上がっている一方、更にその裏で私設部隊を作り上げ、彼の信じる道に反したものに対して彼なりの正義≠執行しているのである。
226 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 18:09:53.42 ID:cG9LBXvXo
それがこうして郊外に聳え立つ屋敷、コンラッド邸に集まる5人の構成員である。
5人はコンラッドを囲んで会食をしていた。
「やあ、みんな。よく集まってくれた。嬉しいよ」
コンラッドは食事の手を止めて全員に言った。
全員は彼の言葉を無視して下品に食事を続けた。コンラッドは話を続ける。
「……君たちは我が国の為に集まってくれた。勇気ある英雄達だ。君たちの人数は分隊にも満たないが、その力は大隊に勝る」
「英雄(ヒーロー)? 俺達、世間的にはヴィラン側だけどな」
コンラッドと向かい合って、奥に座る包帯で全身を巻いたブラック・ドッグが口をはさんだ。コンラッドは話を続ける。
「英雄は高潔なる意志の下に戦わなくてはいけない。君たちはその条件に十分当てはまる正しい者たちだ」
「……我々は国の忠実なる犬でなくてはいけない。我々は正義を執行する忠犬となって働く必要がある」
「私は、それを遂行する為の私設部隊にそろそろ名前を付けようと思う。どうだね?」
「好きにしたまえ。私は寛大だ」
ブラック・ドッグの隣に座る熟年の男性は言った。
「"Dogs"……これが我が部隊の名前……」
「我々は……この国を守る……忠犬だ……」
「タイムレスが現れ、この国の正義は変わった。一人のタイムレスによって世界の勢力が覆る。それ程彼らの力は大きいということだ」
「その脅威にアメリカは……この国に住む我々は常に晒されている」
「恐怖の中で暮らすことは辛いものだ……かつて私も恐怖の中で暮らしていた」
「恐怖は打ち消さねばならない。打ち消すためには力が必要だ……君たちの力が……必要だ」
「"Dogs"……世界の不安は我々が取り除く……あのデータを以て……」
「返してもらうぞ……アズマ=コンドー……"あのデータ"はもうお前の親友のものという範疇を越えている。あれはアメリカの……世界のものだ!!」
227 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 18:28:21.30 ID:cG9LBXvXo
「ブラック・ドッグ、お前の名前を参考にしてコードネームを付けた。犬(dog)の部隊だからな。それにちなんだ方が面白いと思った」
「好きにしろ。俺らは好きにやれりゃあ良い」
「では――」
コンラッドはブラックドッグの隣に座る熟年男性を手のひらで指した。
「Dr.マギネシア。貴方を今日からマッド・ドッグ(狂犬)と呼ぶ」
熟年の男――マッド・ドッグは嬉しそうに山高帽をぐいと上げてみせた。
「私の部下の中からスカウトした――ハウンド・ドッグ(猟犬)」
大男はそう呼ばれた。
「パピヨン」
女はそう呼ばれた。
彼女は不満げに頬を膨らます。
「ちょっとコンラッドぉ、私は前のコードのままなのォ?」
「パピヨンはパピヨンでも今はPhaleneだ。それに私はお前の本名を知らない」
「蝶から犬へ格下げね」
パピヨンはコンラッドから、その意味を聞き肩をすくめた。
228 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 19:07:58.18 ID:cG9LBXvXo
「最後に――」
コンラッドは隣に座る黒人の青年を見た。
彼は図体は大きい割に、気が小さく会食が始まってからおどおどとしており、食事については一切手を付けていなかった。
「どうした、ペット・ドッグ(飼い犬)。食欲がないのか?」
ペット・ドッグと呼ばれた青年はそうコンラッドに聞かれたが、もじもじしており中々言葉が出てこなかった。
その態度に苛立ったハウンドは、テーブルを思い切り蹴った。テーブルの上のワイングラスが転がり落ち、割れる。
音に驚いたペットは小さな悲鳴を上げた。
「いや、その――」
ペットは弁明する。
「"メリー達"がまだ何も食べていないんだ。だから僕は……後で……良い」
それを聞くとコンラッドは「そうか」とだけ答え、使用人に"メリー達"に対し"餌"の用意をしろと命じた。
使用人が部屋を出ていくと、コンラッドはペットに「食べたまえ」と肩を叩く。
冷めてしまったテーブルの上の料理が下げられ、新たに料理が置かれた。
229 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 19:13:41.10 ID:cG9LBXvXo
「あのガキに随分とお優しいなァ、コンラッド殿ォ」
皆、用意された飯を意地汚く喰らう中、ブラック・ドッグはペットの待遇の差を不満げに言った。
「口を慎め、ブラック」
「彼は優秀なタイムレスだ。今回の"更なる計画"に必要不可欠な人員なのだ」
「……けっ、こいつもタイムレスかよ! どいつもこいつもタイムレスタイムレス……」
ブラックは床に唾を吐き、大広間を後にした。彼はその行動が分かる通り、大のタイムレス嫌いであった。
それを皮切りに他の構成員も何かと理由を付けて広間を去って行った。
残ったのはコンラッドとマッド・ドッグだけとなった。
230 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 19:21:32.43 ID:cG9LBXvXo
「ドクター、アズマの様子は?」
コンラッドが口を開いた。マッドは答える。
「坊やはまだ眠ったままだ、コンラッド。私もそろそろ研究室に戻るよ。"アレ"をはじめようと思っていたところだ」
「"再実験"成功の暁には坊やは私のものになるのだろう?」
「構わない。あのデータさえ無事であれば、奴はもう用済みだ」
「そうか、そうか。ははは」
マッドは杖を回し、上機嫌で大広間を出て行った。
彼が向かう先は、屋敷の中に在る自分の研究室であった。
Dogsの構成員は事情により、全員拠点持たず活動する者ばかりであった為、コンラッドが屋敷の部屋を一人ずつに明け渡したのである。
彼らはコンラッドの想定以上に実力が高かったが、それと同時に個性も強かった。
"首輪"が必要であった。
彼らはコンラッドの許可無しに、この屋敷を出ることはできない。
無断で外に出よう、勝手な行動を起こそうものなら、彼の正義に反したと見なされすぐさま粛清の準備が始まるであろう。
Dogs以外にも私設兵はいる。その意識をさせることで暴走の抑止力にしたのである。
マッドの笑い声は屋敷に響き渡った。
*
231 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 19:39:33.27 ID:cG9LBXvXo
*
研究室の中央にはベッドが置かれていた。そこに裸で横たわるのは、コンドー=アズマ。
彼は仮死状態にあった。呼吸は無く、脈も機械を通さなければ確認できない程弱いものとなっていた。
ベッドの前に立つのはマッド・ドッグこと――マギア・マギネシア博士。
彼は眠るアズマの口元に酸素マスクを付けた。アズマの眠りは更に深い眠りの中に落ちていった。
マッドは眠るアズマの左掌を、それはまるで恋人の物のように撫でた。その手は固く閉ざされたままである。
マッドは呟く。
「ああ……私のかわいい坊や……ブラックから聞いたよ。お前は友人の為に、その身体を黒く染めて戦っていると」
「私はその魂を尊敬する。お前の精神性はまさに――タイムレス・ヒーロー(超越した英雄)と言えるだろう」
「しかし、そんなお前の身体にメスを入れるのは本当に心苦しいよ……でも仕方ないのだ」
「固く閉ざされた手を開かせるためには……"切断"するしかないんだ……許してくれ、坊や」
「君の身体は"苦痛"を与える度、強くなっていくそうだ。手術中に覚醒されては大変だから麻酔は強いものを使わせてもらうよ――」
「ははは、かわいい、私のかわいい坊や……目が覚めた時、守るべき"親友の意志"が己の手首ごと消えていたら……どんな顔をすることか」
「ははは、ははは、ものすごく――楽しみだ」
マッドは静かにメスを取った。
*
232 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/23(水) 19:42:38.50 ID:cG9LBXvXo
・中断
・最後に向けての大事な回。最長になるかもしれません
・ここが全体の1/5です
・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です!
・ではこのへんで
233 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/23(水) 19:53:28.92 ID:cn3AoUB90
乙
234 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/23(水) 19:58:06.20 ID:lg4NJiIp0
乙
どのキャラも魅力的に描かれていて素敵だ
235 :
◆RbLyhCxL4nw3
[sage]:2017/11/08(水) 21:35:48.34 ID:AzPHANmro
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