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【安価】Timeless Heroes【クロスオーバー・ヒーロー】
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10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:13:59.84 ID:wAG4LHulO
みんな詰め込みたい要素をギチギチに詰めると思うから
設定が纏まりのない感じになるかも?
それを捌き切れるのであればいいかもしれないが。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:17:50.04 ID:PFWm3AhkO
単純に
>>1
がテンプレートを出してキャラを安価で募集する一般的な形式じゃないってことでいいのかな?
どれだけ人が集まるかは分かんないけど良くも悪くも自由度が高くなりそう
個人的な意見になるけど正義の味方サイドとか悪の組織サイドとか明確に線引きしたり、単なる勧善懲悪モノにはしたくないなぁ
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:27:48.46 ID:u315Ki120
異世界の人類へが敵、別世界から生命エネルギーを奪わないと世界が滅ぶみたいなの好きかな
異世界も奪われたせいで奪わないといけなくなったって感じで
13 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/03(月) 01:32:35.14 ID:3DciI8RXo
>>7
>>10
>>11
・安価テンプレ用意してキャラ募集するのは考えています。ですが、最初の段階でそれを扱いきれるか分からないので今回はできるだけそれをしない方向で
・設定の形式はそれで募集したいと思います。でも
>>2
にある通り全部反映できるとは限らないし、安価の内容の通りにするとも限りません
・全然OKです。基本的に主な舞台は現代の地球を考えています
>>9
・ムリってことはないけど最初は男かなー。女主人公についてはよく考えておきます
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:39:32.37 ID:wAG4LHulO
おk とりあえず今思いつくとしたら
・敵勢力はそれぞれの目的の為に一時的に手を組んでいる(いざとなれば一旦ヒーローと手を組んで邪魔な敵を排除しようとしたりする、逆もまた然り)
・初期段階では敵勢力に所属しているが話の展開によって永続的にヒーロー側につく者がいる。
ぐらいだな。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:43:12.39 ID:Zo3bJhP00
異世界が関係するのもいいんじゃないかな?
舞台がそういう別の世界をつなぐワープゲートの入り口になっているかさ
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:44:39.67 ID:8xmqWYi30
それなんてナムカプ
17 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/03(月) 01:47:33.48 ID:3DciI8RXo
・主な質問についてはこれくらいかな? なんとなく思いついてきました
・では、これから設定の形式をさらに募ります
↓1〜4【キャラや設定についてアイデアください】
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:50:34.69 ID:8xmqWYi30
主人公は世界の均衡を保つ為に組織された特殊部隊の隊長
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:50:58.05 ID:TRLjkbGK0
侍をモチーフとした姿で、白い着物に蒼い袴を着用し、帯刀している。
性格は軽薄飄々として掴み所がないが、神算鬼謀の策士でもある。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:55:47.02 ID:m0ipqTJKO
身長は高めで容姿の整った優男。線は細いが鍛えあげられた肉体をしている。
黒髪赤目、髪型はポニーテール(うなじ辺りまでの長さ)。
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:57:12.13 ID:VG6vfjXr0
決して私情を挟まない冷徹な人間だが、心の何処かに葛藤がある
22 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/03(月) 02:10:02.83 ID:3DciI8RXo
・ありがとうございます。大体話が見えてきました
・じゃあ話数構成を考えましょう。終着点が見える方が良いので
・コンマで決めちゃおう。短縮もあるのであくまで予定で
【直下コンマ下一桁】
0:全12話(メチャ大変)
987:全6話
654:全3話
321:全1話
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 02:10:39.59 ID:8xmqWYi30
あ
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 02:10:41.97 ID:VG6vfjXr0
あ
25 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/03(月) 03:03:39.18 ID:3DciI8RXo
Next…
First Timeless Hero:Ultimate fate of the universe
#1 Pirot 開かれる門
理論上の可能性だった平行世界の痕跡が観測されてから1年。その存在を確かなものとする為、アメリカでは秘密裏に観測施設を設立。研究を行っていた。
成果を急ぐ政府の圧力に苦しむ研究所は、並行世界に存在する新たなエネルギー資源を得る為、無謀にも確立されていない危険な方法で新たな研究を始める。
研究のプロジェクトリーダーに選ばれた優れた知性を持つタイムレス「カラム = チャーチル」は、同じ研究所に機密保持部に勤める友人「コンドー=アズマ」に、自らに課せられた重責と不安について相談しに来ていた。
26 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/03(月) 03:18:39.95 ID:3DciI8RXo
・このような感じで進めていきたいと思います
・現在#〜3までの展開は大まかに思いついています(全6話予定)
・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です
・今日はこのへんで
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 08:44:22.44 ID:ts1Rhc4fO
HXZがやりたいなら初めからHXZの世界線でやればいいのに
28 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/03(月) 23:59:50.88 ID:3DciI8RXo
・はじめていきたいと思います
29 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/04(火) 00:09:29.23 ID:vlXqhbp/o
#1 Pilot
――僕らは友だちだ
そりゃたまにケンカする時だってあったさ
でも、次の日には一緒にいつもの店でタコスを食べに行っていただろ?
最初は二人目も合わせずに店に入って、帰りには笑いながら出ていく
いつものことさ
僕らは友達
それはいつどんな時だって変わらない事実
だからさ
大丈夫だよ
初めて会った日
君が僕に話しかけてくれた言葉、覚えているかい――?
30 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/04(火) 00:25:25.04 ID:vlXqhbp/o
…
「待て」
深夜の空港、目深に帽子を被り足早にカウンターへと急ぐ男がいた。
彼≠ヘその男の肩を強く掴んだ。
目深帽の男は小さく悲鳴を上げ、振り向いた。
「誰かと間違えているのでは?」
とぼけてみせるが、その声は震えていた。
目深帽の男は彼≠フ正体をもちろん知っていた。声をかけられた理由も。
「オーラフ = ラングリッジだな。先々月退職した――」
彼≠ヘネームプレートを見せ形式上の*{人確認を取った。彼≠ヘ続けた。
「オーラフ、君には、ある疑いがかかっている。研究所の情報流出についてだ」
「機密を漏らすことは禁じられている。入る時に聞いていただろう。規約違反だ」
「これから自分がどこへ行くか、分かっているな?」
31 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/04(火) 00:47:48.33 ID:vlXqhbp/o
オーラフは必死に弁明をした。
自分の娘が今、病に侵されていること。多額の手術費用が必要であること。
しかし、その言葉は彼≠ノは届かない。
「そこらの研究員の倍は出ているはずだ。今の給料で足りなかったなら、上に何故交渉しなかった」
彼≠ヘその一言で一蹴し、オーラフに手錠をかけ、空港前で待つタクシーまで連行した。
オーラフが犯した罪は死を以て償うこととなっていた。
これから彼は、空港ロビーで忘れ物をしたことに気付き、タクシーで家へと戻る途中事故に会うことが決まっていた。
彼≠ヘ泣き叫ぶオーラフの首に注射をし、眠らせた。せめてもの配慮だった。
「これも世界の均衡を保つためだ。勝手な行動は許されない」
彼≠ヘ眠るオーラフをタクシーのシートに座らせ、ドアを強く閉めた。
32 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/04(火) 01:34:42.10 ID:vlXqhbp/o
彼≠フ名は「コンドー=アズマ」。
とある研究所の機密保持部の部長である。彼らの仕事は研究所の情報流出を未然に防ぐこと。
防ぐと言ってもその方法は荒く、残酷なもので「暗殺」という手段でほぼ行われていた。
アズマ自身、何故オーラフがあのような危険な橋を渡るのか知っていた。
また、オーラフが持ち出そうとしていた情報に、どれ程の価値があるのかも。
あの情報を然る場所に与えれば、数十年働いただけでは得られないであろう報酬を与えられるであろう。あるいは口封じのために消されるかである。
情報流出を避けるために、流出元を暗殺するなんてまるでスパイ小説の中での出来事だと彼≠ヘ考えていた。
だが、その情報が流出したことで世界にどのような影響が及ぶかについても彼≠ヘ知っていた。
そうだとしても――
彼の中には葛藤があった。
U.S. Armyとしての実績を持ち、16年前のテロ教団指導者の殺害を目的とした作戦への参加経験がある彼≠ナも、自国の人間を防衛のためとはいえ殺めるのは――苦しい。
それを親友にも打ち明けることすらできず、毎夜今まで職務を執行してきた者の亡霊達に囲まれ、首元にアンプルを当てられる夢を見ていた。
それでも部を抜けられないのは、彼自身の責任感の強さと彼もまたオーラフの立場に立つかもしれないという恐怖感を持っていた為であった。
アズマが研究所の情報を外部に流すことは恐らくない。
しかし、いくつかの戦場を生きてきた彼は知っていた。死はいつでも誰かの背後に立っている。
情報流出の疑いありとの密告を受け、研究所職員を処罰したことがあった。
機密保持部は一般の司法組織ではない為、捜査は独自で行われている。
部に元CIAの調査官がいたとしても――だ。
その処罰の内容に死≠オかない以上、死んでからそれが冤罪だと知った時。密告が何らかの私怨を含んだ虚偽だった時。
そのようなケースは今までに報告されていないが、アズマは常に不安に駆られていた。
33 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/04(火) 01:53:00.54 ID:vlXqhbp/o
*
今、世間を賑わす一つの言葉――「並行世界の尾」。
1年前、理論上の可能性だった平行世界の痕跡が、並外れた視点と知性を持つ若き科学者でありタイムレスの「カラム = チャーチル」博士によって観測された。
「並行世界の尾」とは、並行世界の存在の可能性について指す言葉である。
今、我々が住むこの宇宙に似た物質・構造で作られた世界が幾重にも重なり存在する。
その証明が、数十年の内にできるという。
さらに、その並行世界の存在を実証するために今月、世界初の観測実験が行われる。
その発見が我々人類の生活を飛躍的に便利にするものではないかもしれない。
だが、昨今世界を不安に陥れている自然災害や経済問題。それを一時忘れさせているのだから、科学は偉大だ。
アズマの所属する研究所は、それについての調査を行っていた。
表向きにはだが。
*
34 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/04(火) 02:26:44.42 ID:vlXqhbp/o
――研究所
「おはようございます、博士」
「おはよう、カラム。調子はどうだい」
研究所は観測実験を1週間に控え、静かに沸き立っていた。
朝、カラムが出所すると大学の同期バッブと研究員ケインが声をかけて来た。
昨日の夜、空港近くでタクシーで事故が起き、元研究所職員が死亡したことを彼らは知ってはいたが、この件に関しては誰も話そうとはしなかった。
「やあケイン、バッブ。ああ、僕は――」
「いやいや、お前に聞いているんじゃあない。お前の奥さんに聞いているんだ。お腹に赤ちゃんがいるんだろ?」
「やあひどいなぁ。僕のこと心配してくれたっていいだろ。実験が近づいているんだから」
カラムには出産を控える妻がいた。
「お前なら訳ないだろ。なんせアメリカが誇る類稀なる知性を持ったタイムレス≠ネんだからな。さすがだぜ」
「バッブ、褒めても何も出ないよ」
「ランチは?」
「しょうがない。今日は出すよ。この間の研究発表の評価も良かったみたいだし、お祝いだ」
「ハハ、さっすが太っ腹だぜ博士ーっ」
「――ああ、リンは元気だよ。周期も安定している。今日は病院へ行っているんだ。経過を聞くのが楽しみだよ」
35 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/04(火) 03:02:49.86 ID:vlXqhbp/o
そこにカラムの研究室秘書ラヴィニアが足早にやってきた。
「――博士」
「ああ、ラヴィニア。どうかした?」
「それが――」
ラヴィニアはバッブとケインに見聞きされないようカラムに続けた。
カラムは彼らと部署≠ェ違う。彼らにとってカラムは量子科学・量子力学の研究を行う研究者である。
が、実際のところ彼には、他にも研究所内である役割≠担っていた。
「DOEとDoDから、博士とお話ししたいと――」
カラムは眉間に皺を寄せた。
彼にとって憂鬱な1日が始まる。
36 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/04(火) 03:13:09.72 ID:vlXqhbp/o
・かなり進みが悪いですが今日はここまで
・chapter1ってことで
・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です!
・ではこのへんで
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/04(火) 07:40:08.51 ID:astje4xs0
乙。これからに期待
38 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/06(木) 01:27:22.40 ID:hHTQKwago
・はじめていきたいと思います
39 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/06(木) 01:47:37.00 ID:hHTQKwago
カラムが会議室に行くと、二人の中年男性が座っていた。アメリカ政府の役人であった。
彼らはカラムに自己紹介をする。
「多忙のところ申し訳ない……直接会うのは初めてでしたな。私はDOE情報部のジョーン=マカロク」
「私は、NROのコンラッド=バジョットだ。よろしく」
「ええ、どうも……」
「で、いきなりだが本題に入りたい。今、研究の段階は、どれ程進んでいる?」
彼らはいつも同じことをカラムに聞いてきた。
今日に関して今までと違うことと言えば、使者を通さず直接カラム自身に会うことで圧をかけにきたことくらいであった。
カラムは彼らと同じようにいつもと同じように答えた。
「そちらにお送りした資料に書いてある通りです」
40 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/06(木) 02:00:48.70 ID:hHTQKwago
「そうではないのです。カラム博士。分かっているでしょう」
ジョーンは眉間の皺を強く押さえ、言った。
カラムは何も言わなかった。
沈黙が暫し続き、コンラッドが口を開いた。
「では、単刀直入に聞きたい」
「我が国は……いや、地球……全宇宙は――」
「本当に助かる見込みがないのか?」
41 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/06(木) 02:41:55.76 ID:hHTQKwago
*
今、世間を賑わす一つの言葉――「並行世界の尾」。
カラム = チャーチル博士は、波動関数の分析を行っていた際、粒子の波形の中から偶然発見された所謂副次的なものであった。
簡単に言ってしまえば、一枚の紙を数百枚重ねれば立体が生まれるのと同じように、我々今暮らすこの次元も我々とほぼ%ッじ大きさの世界が複数重なりあうことで成り立っていることの発見である。
理論上、この考えは元より存在していた。
しかし、カラムが発見したのは、その並行世界を繋ぐ一つのベクトル(軸)であった。
この軸こそが並行世界を繋ぐものである。
我々の暮らすこの次元は、まるで古代の象徴ウロボロスのように並行世界同士が隣り合う世界の尾≠噛むことで一つの円形の次元を作り上げている
その並行世界を噛み合わせる粒子波形の流れをカラムは「並行世界の尾」と呼んだ。
しかし、ここからが問題であった。
42 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/06(木) 03:15:45.22 ID:hHTQKwago
現段階で観測できる「並行世界の尾」は、隣り合った世界についてのみ。
自分の世界が?みついている相手の尾か、噛みつかれている自分の尾といったところか。
その波形の強さ、歪みの根源、エネルギーの発散について更に調べていく内、カラムはエントロピーとの関連性を疑った。
カラムはまず、自分の世界が?みついている相手の尾の熱的量を計算し、次に自分の世界の尾も同じようにした。
そして、それを比べると――
我々の住む世界(以下基本世界とする)の「並行世界の尾」は大変不安定な状況にあることが分かった。
特に基本世界の中で発生した熱量の発散の停滞が顕著であった。
ここで彼が考えたのが宇宙の熱的死≠ナある。
「並行世界の尾」が基本世界のエントロピーと同じ或いは近い値を持つ熱量だとすると、この世界の値は隣り合う世界の持つ熱量と比べ、明らかに異常なものであり、実際こうしている今でも発散されずに残ったエネルギーが増大している。
また、近年観測される超自然災害、NROが発表した天体の異常事象との繋がり。
ここから導き出された答えは――近い未来における基本世界の崩壊であった。
当時カブリ理論物理学研究所に勤めていた彼はこの論文を米政府に提出した。
ここから全てが始まったのである。
43 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/06(木) 04:02:42.41 ID:hHTQKwago
並行世界の存在証明と、近い未来における基本世界の崩壊の可能性。
カラムは、既に幼少期から政府公認のタイムレスであった。
政府の呼んだ国内の物理的学術に優れたタイムレスでない学者らにそれが正しい情報なのか計算させたところ、3年後やはりそれは正しいことが証明された。
可視化された世界の終わり。そんな彼からの報告を受けた米政府は――恐怖に慄いた。
世界で初めて観測されたこの情報を世界を混乱に陥れぬよう、世界の警察としてはどうしても他国に漏らす訳にはいかなかった。
すぐさま情報統制を敷いた。
カラムが出した証明は、並行世界の存在証明のみとなり、基本世界の崩壊については徹底して隠匿され、本国さらには政府内のみの情報とした。
それが、いずれ他国或いは政府に属さないタイムレスらによって証明されたとしても、である。
ともかく、何としてでも数年以内に解決策・延命策を見つけ出す必要があった。
この統制は時間稼ぎの意味もあった。
カラムによって提示された残された基本世界の余命は――
「長くとも200年以内。早ければ1秒後」
44 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/06(木) 05:16:47.69 ID:hHTQKwago
政府は新たに研究所を立ち上げ、その一つの室長にカラムを推薦した。
カラムの役職は表向き並行世界の存在を確かなものとする研究を行っているとしている。
カラムの所属する研究室以外の職員も皆そうだと考えていた。
彼の所属する研究施設は他の物とは規模が違う。
政府が秘密裏に用意した資金源によって設立した特殊な観測施設であった。
政府の要請を受けて参加したカラムが、基本世界の延命手段を探る為に必要とした施設内容は破格の物であった。
だが、政府も世界の存亡を背負う以上、資金を出すことに対して惜しむことは無かった。
とは言え、明日へと知れぬ宇宙滅亡、政府も悠長に待ってはいられなかった。
解決策を見つける為の期限が設けられていた。
それが今月――さらに言えば来週に迫る世界初の観測実験である。
*
45 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/06(木) 05:53:59.59 ID:hHTQKwago
・今日はここまで 思いのほか進まなくてごめんなさい
・chapter1.5くらいですね
・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です!
・ではこのへんで
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/06(木) 07:49:10.71 ID:y5ZjZkY40
乙。
47 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/10(月) 15:33:11.48 ID:8TsD+Jozo
・はじめて行きましょう
48 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/10(月) 15:34:54.06 ID:8TsD+Jozo
*
「――それも資料にある通りです」
カラムは答えた。
今回の観測実験とは表向きの発表。
実際、この実験にはもう一つの側面があった。
――基本世界の崩壊を防ぐ為の方法についての具体的な解決策。研究成果発表。
それ故、実験はカラムが発表した基本世界崩壊の事実を知る政府高官のみ観覧が許されていた。
49 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/10(月) 16:15:35.19 ID:8TsD+Jozo
実験内容はこうである。
真空にした部屋に、水素やヘリウムを想とした気体、所謂星雲ガスを再現したものを注入。
模擬宇宙空間を作り上げる。
そこにカラムが発見した基本世界と隣接する平行世界とを隔てる壁を開くことができるであろう理論上の波形を流し入れる。
ここまでは、観測実験=B隣り合う並行世界の宇宙を観ることが可能である。
次に――
基本世界と隣接する並行世界とを繋ぐ@ア子を照射。
そう、繋ぐ≠アとが重要なのである。
これを行うことによって宇宙空間のエネルギー法則に従い、エントロピーが低下傾向にある基本世界に、隣り合う並行世界のエントロピーを流しいれることができるという考えである。
これが基本世界の崩壊を防ぐ為の具体的な解決策であった。
50 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/10(月) 16:52:46.04 ID:8TsD+Jozo
「しかし――」
カラムは続けた。
「この実験は無謀です。これは資料にもありますが、シミュレーションの結果、並行世界を繋ぐ粒子照射後の疑似宇宙空間が安定しないことが分かっています」
「何が起こるか分からないということです」
「実験の責任は負いかねる、ということですかな?」
ジョーンがそう尋ねた。
「いえ、そういう意味では」とカラムが言いかけるが、ジョーンは彼の真意を汲むこと無く話を続けた。
「実験中に起こった事故について、責任は問わない。例え我々の上官が死んでも、です」
「君はアメリカが誇るタイムレスだ。国の頭脳――いや、世界の頭脳をそんなこと≠ナ潰す訳にはいかない」
「結果さえ出してくれれば、我々政府は君を全力でバックアップすると約束しましょう」
51 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/10(月) 17:20:52.56 ID:8TsD+Jozo
(――そうじゃない!)
カラムは苛立っていた。
研究所を巻き込む事故。政府高官の死。それに対する責任。
カラムが危惧する問題はそれだけではなかった。
ジョーンとコンラッドは、成果を急ぐばかりに大事なことを見落としていた。
並行世界は未知の領域。
生命が存在しないであろう並行世界の宇宙空間でさえ基本世界と同じ性質とは言え、内容が違った場合、そこに発生する宇宙線が周囲にもたらす影響は未知数である。
カラムの言う通り何が起こるか分からないのだ。
52 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/10(月) 17:50:45.93 ID:8TsD+Jozo
実験そのものが無謀。
それは実験が成功した際でも同じだとカラムは考えていた。
並行世界からエントロピーを基本世界へ流れ込ませるという事は、即ち並行世界の寿命を奪うこと。
今回観測、接続する隣接した並行世界に人間のような生命体が存在する時――
その生命を奪ってしまうことになるのではないか。
基本世界を延命する為に、並行世界を殺す。
それが自然の摂理を大きく逸脱した行為であることは、学者であるカラムが一番に理解していた。
基本世界崩壊を食い止める手段を発見したその日から、そんなジレンマが彼を苦しめていた。
53 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/10(月) 18:05:48.99 ID:8TsD+Jozo
並行世界の尾≠フ存在と、基本世界の崩壊の可能性を発見してから3年。
世間に並行世界の尾≠フみ発表をしてから、1年。
崩壊を止める方法を発見してから、同じく1年。
政府から目に見える成果を期限付き≠ナ求められて、4年。
(――短すぎる)
カラムの想定では実験が安定を得るには、短くとも15年。
政府が提示した期間は、余りに短すぎるものだった。
54 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/10(月) 20:34:33.69 ID:8TsD+Jozo
「で、軍からの報酬についてだが――」
「実験時の安全配備は――」
そんな不安をよそに、話は平行線を辿っていた。
実験予定日は変わらず、来週に行われる。これは決定事項であった。
何とか――
何とか実験を遅らせることはできないのか――
彼の頭脳を以てしても、実験を遅らせる手立ては思いつかない。
いや、思い付いたとしても実行できない理由があった。
「ふう――」
ジョーンは一息つき、テーブルの上のカップに指をかけ、カラムにこう聞いた。
「それでだが、カラム博士。奥さんは元気ですかな?」
「確か――あと数か月でお子さんも生まれるそうで」
「ご家族も実験の成功を楽しみに待っているでしょう」
政府が認めたタイムレス――彼らは、その貴重な能力を十分に活かすことができ、且つ差別されることなく暮らせるよう手厚く保護される。
が、彼らに対して行われる保護≠ニは、事実監視≠ノ近く、プライベートは無いに等しかった。
それでもカラムは大学在籍時に出会ったリン=デュゲイ≠ニ結婚した。
幼少期より政府の育成施設預けられ育ってきた彼が、初めて愛し、作り上げた家族≠ナあった。
今、彼の立場が危うくなった時、一番の被害を被るのは彼女。
カラムは、それを失うことが怖かった。
それが彼の実験期間について口を出せない理由である。
彼女は所謂、人質。高い知能指数を持つ彼でも、国に飼われる身である以上、不自由を拭い去る方法は思いつけど実行できなかった。
見えない銃口をこめかみに突き付けられているような気分であった。
55 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/10(月) 20:39:39.56 ID:8TsD+Jozo
・今日はここまで
・chapter1.8くらいですね
・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です!
・ではこのへんで
56 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/14(金) 18:12:58.40 ID:NyMu1gOCo
・はじめて行きましょう
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/14(金) 18:43:58.84 ID:0Qr6GyLN0
わーい
58 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/14(金) 19:09:25.93 ID:NyMu1gOCo
続いてコンラッドも話し始めた。
「そうだカラム博士。アズマは元気かね?」
「ええ。アズマはいつも通りですよ。無口で、いつも眉間に皺を寄せていて」
「だから気に入っているんだ。奴は無駄なことを喋らないし、考えない。常に任務に忠実な男だ」
「そう……ですか」
カラムは、機密保持部のアズマと、大学時代から旧知の間柄であった。
しかし、親友の話をするカラムの表情は明かに曇っていた。
その理由は、無謀な実験の日が避けようなく近づいていることだけではない。
カラムは、コンラッドの言葉が、ただ同じ研究所に居る自分の友人のことを聞いただけとは思えなかったのである。
「なあ、カラム博士。昨日の空港側で起きた事故の件、知っているかね?」
「ええ、まあ」
「あれの被害者は偶然にも≠アの研究室の元職員だったそうだ。それも――」
「知っています。オーラフは……優秀な研究員でした。よく家族の話をしていた。優しい……人でしたよ」
「そうか」
コンラッドは付け加えた。
「もし――もしものことだが、君がこの研究所を離れると言うのなら、事故には気を付けると良い」
「それは君だけに関して言っているのではない。君の妻や子供にも言えることだ」
「コンラッド上級顧問、それは脅しですか……?」
カラムは聞いた。その声はひどく震えていた。
守るべきもの≠ェできる前まで、彼はこのようなことをするのに勇気などいらなかった。
だが、それが彼を弱くした。
コンラッドは何か変わった様子も無く答える。
「何のことだねカラム博士。私は交通事故に気を付けろ、と言っただけだが。交通規則を尊守することは市民の特権だと思わないのかな?」
「――実験結果、楽しみにしているよ」
不安は尽きぬまま、その時は訪れようとしていた。
*
59 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/07/14(金) 21:25:36.88 ID:NyMu1gOCo
*
夜、カラムとアズマはいつもの店≠ナ待ち合わせていた。
「カラム、リンを家に置いていていいのか?」
「やあ、アズマ。ああ、リンには今夜のことはもう連絡している。それに、ここにはそんなに長くはいないよ」
「その方が良い。つまむものは先に頼んでおいた。何か飲むか?」
「じゃあ、ミルクを――」
60 :
◆RbLyhCxL4nw3
[sage]:2017/07/14(金) 21:58:32.19 ID:NyMu1gOCo
・ごめんなさいちょっと中断
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/14(金) 22:02:43.90 ID:0Qr6GyLN0
一旦乙。
簡単にまとめると「基本世界のエネルギーが低下してるから平行世界のエネルギーを吸収して保つ必要があるけどめっちゃ危険」ってことでええの?
62 :
◆RbLyhCxL4nw3
[sage]:2017/08/08(火) 13:19:22.94 ID:2YLE0rmIo
・お久しぶりですごめんなさい。始めます
>>61
そうです! 回りくどく説明してます
63 :
◆RbLyhCxL4nw3
[sage]:2017/08/08(火) 13:39:25.68 ID:2YLE0rmIo
*
学生時代のカラムは非常に孤独だった。
彼は生まれた時から既にタイムレスだった。
インド系アメリカ人の家に生まれた彼が1歳の誕生日を迎えるころには、6歳に求められる程度の言語機能を取得しており、それを気味悪く思った親が自主的に政府の機関に通報、さらに育成施設へと預けた。
多額の契約金と共にであった。
カラムはそれを「自分は金と引き換えに売られた」と認識している。
その出来事を育成施設職員の話を盗み聞いてしまった日から彼は人間不信に陥っていた。
政府から常に監視される恐怖感も相まって、その思いは日に日に強まっていった。
友人などできるはずもなかった。
育成施設内の同世代のタイムレスは数人いたが、その会話の輪には入らず、いつも少し遠くの場所からジッとそれを見つめていた。
15歳の時、彼は大学に在籍し研究員として働くこととなった。
次世代の育成を目指した彼は、教授職に就くことを希望したがそれは出来ぬ相談であった。
非タイムレスの教授らがそれを許さなかったのである。
タイムレスへの偏見・嫉妬は今も根深い。年上の同僚、年上の部下達の彼に対する態度も厳しいものであった。
それが彼の心をさらに頑なにしていった。
64 :
◆RbLyhCxL4nw3
[sage]:2017/08/08(火) 14:00:56.69 ID:2YLE0rmIo
そんなある日。
その日の学食は特に混んでいた。
カラムは、いつも座る席が空いていなかった為、違う場所で昼食を取っていた時のことである。
「隣、いいか」
そう声をかけてきた者がいた。
これがアズマであった。
その次に彼がカラムに言った言葉が
「キャンパスツアーは今日だったか? 友だちとはぐれたのか?」
であった。
最初カラムは、それを侮辱と受け取った。
自分の存在は、ある程度知られていると思っていたし、周りの同僚からそうやってからかわれたことがあったからである。
後から聞くと、アズマはそんなことはないと笑って答えた。
あどけなさが残る少年が、一人で居たから純粋にそう言っただけ。実際、アズマが通っていた学部とカラムが働く研究室は全く違う場所に位置し、アズマは彼を知らなかっただけである。
そもそも、大学の研究室にはタイムレスが在籍しているケースが多い。カラムもその一人にすぎなかった。
カラムはぽつりとこう答えた。
「友だちなんていないさ。いつも一人」
皮肉の一つでも言い返してやろうかと思っていたが、そんな余裕も当時の彼にはなかったのである。
65 :
◆RbLyhCxL4nw3
[sage]:2017/08/08(火) 14:11:03.02 ID:2YLE0rmIo
そんな彼にアズマはこう言った。
「なら、またここに来た時、この場所に座ると良い。俺がいる」
何気なく言った一言であろうが、カラムはその言葉に強く心を揺さぶられた。
「いいの?」
恐る恐る彼は聞くと、アズマは笑いながら返した。
「一人で食う飯は、マズい」
66 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/08(火) 14:35:38.65 ID:2YLE0rmIo
一度だけ、信じてみよう。カラムはそう思った。
こんな経験は初めてだったのだ。
カラムは次の日、学食へ行くと昨日と同じ場所にアズマが座っていた。
待っていてくれたのである。
カラムは昨日とは今までの孤独をぶつけるように、不器用ながらもアズマに話しかけることにした。
名前を教え合う時、アズマはさすがにその名に気付き驚いていたが、アズマはタイムレスに別段畏怖も偏見も抱いていなかった為、彼らはすぐに友人となった。
アズマは学生、カラムは研究員。5つ離れた友人関係だった。
この出会いが後のカラムに良い影響をもたらすこととなる。
カラムは社交的な性格へと変わっていった。
人とも積極的に会話するようになっていったし、年上の同僚の心無い一言にも反論するようになった。
また、アズマと友人であった学生リン=デュゲイ≠ニ知り合い、その内良い関係へと発展していった。
この二人がいなければ今頃自分はどうなっていただろうか、カラムはたまにそう想像する。
カラムはアズマに日々感謝していた。
彼はカラムにとって唯一無二の親友であった。
*
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/08(火) 14:37:57.60 ID:52ysMmUq0
更新ktkr!
68 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/08(火) 15:11:47.61 ID:2YLE0rmIo
*
アズマは酒を煽った。
カラムが彼のこのような姿を見るのは初めてであった。
しかしカラムは、アズマが軍から離れた後、変わってしまったようには感じていた。
アズマの姿は、まるで自分の姿のようであった。
今の彼が、カラムと同じ研究所に配属され、機密保持部の部長職に就いてから黒いうわさが絶えない。
元研究所職員らの事故死、急な旅行を告げ音信不通になる者、それらに彼が関わっているのではないかという噂であった。
噂がうわさを呼び、今はまるで事実かのように周囲で語られている。アズマの友人であるカラムはそれが不愉快で仕方が無かった。
二人は友人。そんなことあるはずがないとカラムは断言していた。
以前、同僚のケインとバッブがその話をした時、彼は耐えかねて二人を叱責したことがあった。
それ以来、彼の周囲のその話をすることはタブーとなった。
しかし元々この研究所は国家機密の研究を行っているが、今までにそのようなことは起こってこなかった事実であった。
それについて、カラムは思うことがあった。
アズマが配属されたのは、カラムの元に役人が研究結果の発表の催促をしてくるようになってからである。
アズマは、この研究所に就職した経緯を「入隊時培ったノウハウを戦場ではなく、今度は国の未来を担う現場で活かしたい」と語っていた。
これが建前であることは明白。
だが、その本当の理由を彼はカラムに語ることは無かった。
ここで先程NROのコンラッド上級顧問が言った『アズマは元気かね?』と続けて『事故には気を付けると良い』という言葉を思い出す。
この時、カラムの中で自分の中でタブー視されていたある″lえが浮かんでいた。
アズマは自分を監視するために、この研究所へ配属されていたのではないか という考えである。
69 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/08(火) 15:30:58.42 ID:2YLE0rmIo
黒い考えが頭の中を巡った。
疑惑は他にもあった。
コンラッド=バジョット上級顧問はアズマの軍在籍時の恩師である。
そんな彼がそう′セったというのには、何か意味があるのではないか。
自分の深読みだろうか。答えは出せないまま。真相は聞けないまま、時間ばかりが過ぎ、他愛もない会話が続いた。
アズマは大分酔っていた。
これ程になるまで酒を飲み、乱れる彼の姿を見てカラムは店員に会計を告げた。
日頃の疲れからか子供のように眠ってしまう彼に肩を貸し、店を出た。
カラムは自分の車でアズマを彼の家まで送っていくことにした。
「アズ、大丈夫かい」
「ああ」
「部の仕事は僕より忙しそうだね」
「ああ」
「出来ればかわってやりたいよ。僕も観測実験の座標計算に飽きてきたからね」
「……俺は計算は苦手だ」
「覚えてしまえば簡単さ。プログラムを組むより楽だよ」
「そうか……」
70 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/08(火) 15:40:04.06 ID:2YLE0rmIo
「カラム――」
「どうした? アズマ」
「……今日は誘ってくれて……ありがとう」
「良いんだよ。暫くこうして会うことも少なくなったろう? だからさ――」
「俺達は……友だち、だよな」
「何さ、急に。当たり前だろ?」
「だよな……分かっていた……どうやら少し、飲み過ぎたようだな……眠い」
「あれだけ飲めばああなるさ。大丈夫、家まで送っていくよ」
「玄関までで……良い」
「はいはい」
「アズマ――」
「……どうした」
「初めて会った日、君が僕に話しかけてくれた言葉、覚えているかい?」
「……」
「……寝ちゃったか」
カラムは後部座席に彼を寝せ、家まで送った。事故≠ヘ起きなかった。
彼は自分の抱く黒い思いはバカバカしいものだと考え直し帰宅した。
*
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/08/08(火) 15:55:48.69 ID:xN3R6syE0
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72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/08/08(火) 16:08:53.16 ID:xN3R6syE0
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73 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/08(火) 17:05:43.68 ID:2YLE0rmIo
*
「おかえりなさい、カラム」
「リン、ごめんよ。思ったより遅くなってしまった」
「気にしなくていいわ。アズとでしょ?」
「ああ。彼、かなり酔ってて……身長が高いから運ぶのが大変だったよ」
「そうね。彼、あなたより――」
「気にしてるんだ、やめてくれよ。はは」
「気にするのは、そのお腹の方ね」
「それもだよ、リン」
「あ……見てカラム。今、蹴ったわ」
「元気な子だ……人体の構造と機能は知っていたが……自分の子供となると……不思議なものだ」
「ええ……そうね……」
「僕、研究成果発表、頑張るよ」
「ええ……不安なの?」
「ああ、少しね」
「らしくないわ。あなたなら大丈夫よ。絶対に、大丈夫」
「ああ……そうだといいんだけど」
*
74 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/08(火) 17:52:57.21 ID:2YLE0rmIo
*
観測実験当日。研究所は大いににぎわっていた。
多数のマスコミ関係者に囲まれながら、カラムと、共に研究に携わる所員らは研究室へと入っていった。
その後ろには、米科学界を代表する研究者、兼ねてよりこの研究に興味を示していたハーマリー上院議員、をはじめとした政府高官ら、DOE情報部ジョーン、NROコンラッドの軍部高官、それを警護するアズマら機密保持部であった。
ここから先は、関係者以外立ち入り禁止。
それは、議員らのSPである。機密保持の点において、この場の警備はアズマらに任されることとなっていた。
彼らは6時間に及ぶ実験の結果報告を鍵の掛けられたドアの前で待つのみ。
これ以上の介入は許されない。
その期待に押される歩くカラムの表情は固かった。不安によるものだった。
75 :
◆RbLyhCxL4nw3
:2017/08/08(火) 18:57:34.87 ID:nvKo6sLiO
・中断もうすぐ一話も終わりです
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/08(火) 19:14:15.96 ID:YbkUMNkd0
乙
おかえり
77 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 12:26:36.89 ID:fsGUhO/Ao
・はじめていきたいと思います
78 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 12:40:28.81 ID:fsGUhO/Ao
実験は二室にわたって行われる。
100メートル四方で囲われ模擬宇宙空間で構成された本実験室。
真空のこの部屋には人間が入り込むことができない。その為、特殊ガラスで隔てられた装置制御室兼観測室がある。
実験に参加する全員は観測室で見守ることとなる。
実験は滞りなく開始された。
「真空状態安定しています」
「星雲ガス注入完了。気圧安定」
研究員らは次々カラムに報告した。
カラムは静かに頷き、参加者らに告げた。
「特殊ガラスの向こうに広がるのは宇宙です。宇宙とは未知の空間。そこに更に僕達が開くことになるのは更に未知の空間『並行世界』です」
「タイムレスの存在が発表されてから半世紀。それでも未だ宇宙空間には謎が多い」
「未知の空間の先に更に未知の空間を広げることの危険さを皆さんはまだ知らない」
「これから起こることは、僕にも分からない。初めに言っておきますがこの実験は非常に危険なもので――」
「はじめたまえ、カラム博士。我々はもう十分待った」
「世界で初の試み、緊張をしているのは分かるがもういいだろう。皆君に期待しているんだ」
遮ったのコンラッドであった。
カラムはコンラッドを一度睨むように見つめた。
何かを訴えるかのようであった。
カラムは観測室の最後尾にいるアズマを見つめた。
アズマは静かに頷いた。
カラムは一度目を伏せた後、視線を上げ、実験室の方を見た。
そして言った。
「これから実験を始めます」
79 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 13:02:38.19 ID:fsGUhO/Ao
予め準備されていた照射装置のメーターがゆっくりと動き出す。
基本世界と、それに隣接する並行世界の隔たりを粒子を照射し徐々に徐々に広げていくのである。
開かれた空間を安定させるのには、相応の時間が必要。
この様子を見学者は静かに見守った。
目に見える変化が現れたのは実験開始から2時間半後のことであった。
疑似宇宙空間に小さな光が見えた。
その光は時間に従って光量を増しながら一本の縦筋を描くかの如く広がっていった。
80 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 13:13:53.14 ID:fsGUhO/Ao
その後、観測は停滞を見せた。
実験終了予定の6時間を大幅に超え、8時間が経過しようとしていた。
カラムは見学者らに、空間の安定が予想より難航していることと、疑似宇宙空間に見える光からは膨大なエネルギーが発生していることが告げられた。
エネルギーとは基本世界を維持させるにものであろう。
それを知るコンラッドらは静かに拍手をした。
カラムの実験は政府の意志の下、最早彼自身の意志で止められるものではなくなっていた。
81 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 13:46:10.33 ID:fsGUhO/Ao
空間が安定したのはそれから1時間後。
光の縦線から溢れる光は強い光を発生させていた。
それは門の内側から明かりが漏れ出しているようにも見えた。
そのまばゆい光に見学者がわく傍ら、カラムはこの光の解析を行っていた。
光には高い宇宙線量を持っていた。
実験室と観測室を隔てる特殊ガラスや壁には、それを妨げる加工が施してあったがそれでも危険であった。
――解析不能な反応があった。
想定はしていたが、やはり並行世界には基本世界とは構造が全く異なっているらしい。
宇宙線であっても違う原子核が存在しており、それが僅かに漂っている。
それがこの世界にどのような影響をもたらすのかまったく分からない。
空間が安定した途端、急激に上がる光量は不安の的中を感じさせた。
カラムは何度も実験の中止を呼び掛けようと思った。
その度、家族の顔が浮かんだ。
愛する妻の顔、まだ見ぬ我が子の顔。これが彼の口に枷を付けていた。
その時、観測室にけたたましいビープ音が鳴り響いた。
実験室が異常を検知したのである。
以上の原因は室内の大気圧の増加。
光の内側から強い圧力がかけられているのを感知したのである。
光は門が開かれるように広がっていった。目視で言えばゆっくりと広がっているように見えるが、この光が広がる工程は本来これより4時間以上かけて行われるものであった。
退避を告げる赤いランプが観測室染める中、コンラッドは大声を上げた。
「はははッ! そうだ! すばらしい! 開かれるぞ、並行世界の門が!」
82 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 14:05:25.69 ID:fsGUhO/Ao
「実験は中止します! 危険すぎる!」
カラムは叫んだ。
正しい判断であった。事故が予想される以上、見学者に危害が及んではいけない。
早急に粒子照射を取りやめ、宇宙空間を元に戻す必要がある。そう結論付けたのである。
「いやダメだ! 例え何が起こるか分からなくても、だ! 成果が出なければ君の立場でさえ――」
コンラッドも叫んだ。しかし、カラムはこの程度の脅しはもう通用しなかった。
「ダメだ! 照射を中止する! ラヴィニア! 装置の線量を既定の速度に低下させるんだ!」
瞬間、コンラッドが25口径の銃を抜いた。
観測室内の女性らが悲鳴を上げた。
「続行しろ。これは国の……世界の存亡に関わることだぞ」
コンラッドは言った。ジョーンもこれはマズいと制止したが、銃口を向けられると手を上げ何も言わずその場に伏せてしまった。
コンラッドは続けた。
「これは国のためだ」
「……事故? 気にするな。例えこの場で誰が死のうと、すぐに後任が続けてくれるだろう。アメリカに何人タイムレスが居ると思うんだ?」
「だから、続けろ。中止では上に伝えることができない」
「私が求めるのは『大きな成功』か『大きな失敗』だ。こんな中途半端な形で終わらせることはできない」
83 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 14:28:55.33 ID:fsGUhO/Ao
コンラッドは更に言った。
「君の心労は十分に理解している。実験と家族の身の安全に挟まれていて――」
「しかしそれでも君はここまでやってきた。何故だ?」
「妻のリンか? いや、違うな。君の意志で彼女を研究から遠ざけていた」
「なら他に誰が孤独な君を支えてくれた――?」
カラムはハッとした表情で、彼≠見た。
「アズマ=コンドー。そう、彼が君を支えていた」
「彼は君を監視する為に、私がこの研究所に送り込んだんだよ」
「苦しむ君を元気付け、君が話した言葉を逐一報告させていた。優秀なトレーナーだろう。なあアズマ?」
「逃げ出すことは許されない。もし万が一、君が逃げ出した時は家族だけでなく君自身をアズマが事故に合わせていた=v
「アズマ、やっぱり君――」
疑惑が現実に変わった瞬間であった。
アズマは苦し気に目を逸らした。
コンラッドはカラムに語り掛けるように言った。
「カラム=チャーチル博士。天才はやはり孤独でなければいけない。その為に私は君たちの友情とやら≠利用させてもらっていたんだよ」
「もういいだろう。博士、実験を続行するんだ」
「ふざけるな!!」
カラムは力の限り叫んだ。
「撃つなら撃て!」
手を大きく広げるカラムを見て、コンラッドはため息を吐いた。
「そうか。ガッカリだ。こんな報告をしなければいけないのにも、君にも」
コンラッドは銃を構えた。
84 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 14:45:47.61 ID:fsGUhO/Ao
*
銃声の後、その場に倒れこんだのはコンラッドだった。
撃ったのはアズマだった。
「アズマ、何を――」
足を撃たれ、苦しむコンラッドはアズマを睨んだ。
アズマはそれに答えず、コンラッドの持つ銃を奪い、カラムに言った。
「これくらいで許されるとは思っていない。だが、時間が無いんだろ」
「カラム、実験を中止するんだ!」
カラムは合点が言った。
最近の彼の様子のおかしさは、自分を監視する任務に苦しんでいたのであろうと。口数が少ないゆえに、自らが抱える問題を伝えられない彼らしい行動であった。
コンラッドが言った利用させてもらった≠聞くに、友情は確かに存在していた。
都合が良すぎる考えであることは自覚していたが、今のカラムはその思いを信じるしか自分を保てなかった。
「ああ!」
カラムは震えるラヴィニアに代わって照射装置のスイッチに手を掛けた。
*
部屋が強い光と衝撃に包まれた。
遅かったのだ。
*
85 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 15:03:04.72 ID:fsGUhO/Ao
*
カラムは目を覚ました。衝撃で後方吹き飛ばされ、気を失っていたらしい。
ふと隣に目をやるとラヴィニアの細い指が見えた。彼は彼女を起こすべく、視線を上げた。
彼女は死んでいた。
衝撃で打ち所が悪く死んだのではない。
彼女の頭部は今まさに何か≠ノ捕食されているところであった。
カラムは実験室の方向を見た。
「門が……開いている」
彼は呟いた。
実験室の中で輝いていたあの光は、今や巨大化しており、完全に並行世界との接続を完了させていた。
何か≠ヘ虫のような姿をしていた。ラヴィニアの頭を喰らうそれは、喰らうことに集中しておりカラムには興味を示していない。
カラムは辺りを見回した。虫のような何か≠ェ数匹。見学者らはそれらに襲われていた。或いは既に捕食され肉塊になっている者もいた。
ハーマリー上院議員、ジョーンがそうであった。
86 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 15:21:46.32 ID:fsGUhO/Ao
(――アズマは!)
カラムは親友を思い出し、その姿を探した。
(いた!)
彼は今何か≠ノ向かって銃を撃っていた。効果は感じられない。
「アズマ!」
カラムは叫んだ。アズマはすぐさまそれに気づき答える。
「カラム、この場を離れるぞ!」
「でも装置が!」
「コイツら≠フ対処方法が分からない事には話にならない! 動きが遅いが食いつかれたら、死ぬぞ!」
「他の見学者も起こさなきゃ!」
「ダメだ! 時間がない! 起こしている間にも増えるだけだ! 襲われる確率が高くなるぞ!」
「増える!?」
そういえば、自分が目を覚ました時より観測室内の何か≠フ数が増えている。
恐らく出所は、実験室の門の光から特殊ガラスをどういう原理か透過し来ているようである。
人間を襲う姿を見た以上、この場に留まるのは自殺行為に等しい。
「……研究室の外の人たちを避難させなくちゃ……」
苦しい決断であったが、カラムはアズマに従い研究室から一旦離れることにした。
1メートルほどの虫は逃げる彼らを追うが足の遅さ故、追いつくことはできなかった。
*
87 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 15:27:33.43 ID:fsGUhO/Ao
#1 Pilot
to be continued…
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/09(水) 15:28:54.09 ID:87F3p93CO
乙。
事態が動き始めましたねぇ…。
89 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 15:37:42.31 ID:fsGUhO/Ao
Next…
First Timeless Hero:Ultimate fate of the universe
#2 Insect 異界の蟲
避難を呼びかけながら研究所内を逃げる二人。状況を窺うが何か≠ヘ増えていくばかり。
被害を最小限にするよう努めるが、遂に研究室から何か≠ヘ外に出てしまい、所内の人間に無差別に襲い掛かる。
その中で、アズマは何か≠ヨの対抗手段の確立。カラムは装置の停止を行うため新たな行動に出る。
90 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 15:59:11.90 ID:fsGUhO/Ao
【#1解説】
・このコーナーでは話の中で説明しきれなかったことを今後のネタバレをしない程度に解説します
☆あれ? 予告と内容違くね?:書いてるうちに変わってきました。あくまで予定なので変わる可能性も大いにあります。本来は#1で全て終わらせることを#1〜3を使って終わらせようとしています。
☆U.S. Army:泣く子も黙るアメリカ軍。
☆DOE:ジョーンは、アメリカ合衆国エネルギー省。国家の存亡と、並行世界を基本世界とつなげることで得られるエネルギーについて聞きに来ていたという側面もあります。
☆DoD(NRO):アメリカ国防総省。通称ペンタゴン。NROはアメリカ国家偵察局、米諜報機関です。空軍直轄の組織で、アズマの「16年前の〜作戦」にかかってきます。空挺降下作戦に参加していたのです。コンラッドとの繋がりはここですね。
☆カブリ理論物理学研究所:カリフォルニア大学サンタバーバラ校が擁する、世界で最も権威ある理論物理学研究所の一つです。
☆学食:アメリカの学食は肉がいっぱいあります。
☆上院議員:大統領に助言したり立法したり弾劾したりする偉い人です。ハーマリー上院議員は、国の科学に関する立法を勧める為、研究所を訪れるなどして精力的な外部視察活動を行っていました。
91 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 16:07:24.85 ID:fsGUhO/Ao
【refer to…#1】
・このコーナーでは皆さんのこんなアイデア・意見を参考に書いたことをお知らせするコーナーです。皆の意見がこんな感じで反映されているとお話しします。
☆人類が、別世界から生命エネルギーを奪うことで世界の存続を計る:モロですね。基本世界から並行世界の寿命をいただいていこうと研究が進められていました。
☆別の世界を繋ぐワープゲートの入り口:本文内の『門』に当たります。
☆主人公は世界の均衡を保つ為に組織された特殊部隊の隊長:大分変ってしまいましたが、アズマはそこから着想を得ました。
☆身長は高めで容姿の整った優男。線は細いが鍛えあげられた肉体をしている:まだ描写されていませんがアズマはそんなつもりです。伊勢谷友介とかオダギリジョーを想定しています。そこから更にその逆を行く見た目のカラムを思いつきました。
☆決して私情を挟まない冷徹な人間だが、心の何処かに葛藤がある:これもアズマのキャラを考える時役に立ちました。彼にも葛藤があったようですね。
92 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/09(水) 16:08:59.20 ID:fsGUhO/Ao
・中断
・意見、アイデアについてはまだまだ募集中です!
・ではこのへんで
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/09(水) 17:10:40.80 ID:RinGSVNN0
わずかな内容からここまで引き込まれるダークな展開とは…圧巻です
とりあえず蟲怖い
94 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 14:28:51.22 ID:tFzSZnUao
・ゆっくりはじめていきたいと思います
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/12(土) 14:35:38.47 ID:C7rnmyPjO
まってた
96 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 14:38:50.81 ID:tFzSZnUao
#2 Insect
観測室出た二人は、真っ先にマスコミ待機部屋へ向かった。
彼らを見た、多くのマスコミ陣は彼らに群がった。
事情を知らない報道陣、は次々と質問を投げかけた。
「実験はどうなったのですか」
「成功? それとも失敗?」
「他の研究員の話も聞きたいのですが」
「ハーマリー上院議員はまだ観測室の方に居るのですか?」
カラムは憔悴仕切っていた。実験はやはり失敗。そうなることは気づいていたものの、あの警報が鳴るまで止める決心は付かなかった。
更にその先にあったのはまさに地獄≠ナあった。
並行世界から現れた。巨大な甲蟲のようななにか=Bそれが、人間を喰らい始めたのである。
更に彼らは、恐らく正しい判断とはいえ見学者を置き去りにし、観測室を離れてしまったのである。次いで言うなら並行世界と基本世界を繋げる為の粒子照射装置は止めることができておらず、現在も動き続けている。
彼は強い自責の念に駆られており、とても答える気にはなれなかった。
そんなことはお構いなしに記者らは質問を増やす。
「隣に居るのは機密保持部のコンドー=アズマさんですね。貴方は現在近代のアサシン≠ニして黒い噂が囁かれていますが、その噂は本当なのでしょうか?」
「カラム博士、コンドー氏とは大学在籍時代の友人と聞きましたが」
「実験の結果は?」
「並行世界など存在しないと他科学者の批判を受けていると聞きますが――」
辟易するカラムに代わってアズマは答えた
「端的に言えば、実験は失敗だ。現在実験室内で事故が発生している。現在上院議員含め見学者全員は機密保持の観点において観測室内で待機中。我々から話せることは以上だ」
マスコミ陣は事故発生という単語に大いに沸き、質問を更に増やしたが
「現在原因究明中。更なる事故が予想される。一般関係者はご退出を願う」
とアズマが言うと、彼らは少し文句を言いながら研究所を去って行った。彼らも命までは惜しかったらしい。
「アズ……すまない」
カラムはアズマに礼を言った。その声は酷く震えていた。
「混乱は優先して防がなくてはならない。この事態を最初から説明するには時間がかかりすぎる」
アズマは事もなげに答えた。こういうこと≠ノは慣れていたのである。
97 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 14:43:08.40 ID:tFzSZnUao
二人はマスコミ陣全員が出ていくのを確認すると、自体を伝える為、研究所所長の元へ向かおうとした。
すると一人の男が応接室出入り口から飛び出し、実験室へと一目散に走り出した。
先程帰ったと思われた報道陣の一人であった。彼は文字通りの「命知らず」であった。
アズマが止める暇なく彼は研究室へと侵入してしまった。
その後、悲鳴が聞こえた。悲鳴は数秒続いた後ピタリと止まった。
「愚かな奴だ」
アズマは呟いた。
「しかし、あの部屋を封鎖できなかったのはマズかった。だがこちらもあの場所に留まり続けることは良いこととは思えない」
「奴らは直に、観測室の扉を食い破り所内で暴れ出すに違いない。その前に――」
「ああ、全員をこの研究所から避難させる。所長にこの事態を説明しに行かなくちゃ」
「そうだな、カラム」
*
98 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 15:07:38.21 ID:tFzSZnUao
*
研究所の所長ジャスタス=アクロイドはカラムらの報告に震えあがった。
その理由を説明するには、何故彼が今この地位に就いているかということから話さなくてはならない。
彼の昇進は常にカラムと共にあった。
カブリ理論物理学研究所在籍時発見した世界の終焉を予見する論文の提出を政府に提出するよう進言したのも、今回の並行世界という理論上の存在を研究するにあたって多額の研究支援金を出したのも彼である。
更には彼自身の研究成果発表の小さな成功と、カラムからの推薦が重なってここまで上り詰めたのである。
正直な所、彼はカラムに依存していた。彼自身才能は科学者として優れたものを持っていることは間違いない。
しかし、知能に優れたタイムレスが現れてからというもの、賞賛の目は彼らに向けられることが多くなり、その居場所はひどく狭苦しいものとなってしまった。
彼の信頼はカラムへの信頼。彼の成功はカラムの成功。カラムの後ろ盾がどうしても必要であった。
そんな彼が信用するカラムの実験失敗報告は、ジャスタス自身の次の昇進はないということを意味していた。
失敗という言葉を聞いてからというもの、彼の耳にすべての音が届かなくなっていた。
「平行世界を繋ぐ門が未だ開き続けている」ことも、「平行世界の住人と見られる生物が現れた」ことも、「その生物が見学者らを食らう」ことも、「今すぐ避難命令を出さないと被害が大きくなる」ことも、
彼には聞こえていなかった。
だが、傍目から見て彼はとても冷静な様子に見えた。平静を装っていたのである。
ジャスタスは日常的に周囲の科学者達からの非難に晒されていた。何故なら彼の持つ地位的なものは全てカラムからのおこぼれに過ぎないからである。
それを彼は重々承知していた。だが、家族を守るためにも自身を守るためにもこれは捨てられない唯一のものなのであった。
そんな中、彼に芽生えた才能があった。
「都合の悪いことは聞こえない」才能。
実際、パニックに陥っていた彼は一言
「そうか、分かった」
とだけ二人に言い、所長室を小走りに出、車に乗り、研究所から帰るマスコミ陣と共に消えてしまった。
二人は、二人だけでこの状況を納めなくてはいけなくなってしまった。
カラムは頭を抱え、アズマは眉間をつまんだ。
*
99 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 15:34:02.30 ID:tFzSZnUao
*
避難誘導は最初、思うようにうまくいかなかった。
放送を行っても、直接話しに行っても、所員の動きは緩慢だった。
それもそのはず、並行世界から人食い生物が現れたので逃げろなどということを誰が信じるであろうか。パニックにさえ陥る者が現れなかった。
カラムが予測するに、蟲が何らかの方法で観測室から出るまでおよそ40分。
避難誘導するにも呼び掛けるにも時間が足りない。二人はまず事情を信じ、避難誘導を手伝ってくれる者を探した。
二人が手分けして10分程協力者を探すと数人が名乗りを上げた。
カラムとは別部署にいる友人ケインとバッブ。
彼らは、「事情は見ない事には信じられないがカラムが、この実験を前にして嘘を吐くことはないだろう」と言った。
バッブは「ランチは大盛で頼むぜ」と付け加えた。
そして、上院議員らのSS。
「機密保持部が付いていながらなぜこのようなことに」とアズマを責めたが、「責任追及は後にする。とにかく誘導が先だ」とカラムの指示に従った。
彼らが手伝ってくれるようになってから、避難誘導は円滑に進むようになった。
避難者らにはとにかく早くこの研究所から退避させるため、「事故が起きた。二次被害を防ぐ為、一旦退避」と伝えるようにした。
馬鹿正直に事情を教えるより、ある程度ぼかして伝えた方が良いらしい。
100 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 16:06:31.17 ID:tFzSZnUao
そこから暫く誘導を行っていると、カラムが突然呻き出した。
アズマが「どうした?」と尋ねるのに答えることなく、彼は近くの会議室に入ってしまった。
アズマがそれを追いかけると、部屋の端で小さくなり子供のように震えるカラムの姿があった。
カラムは呟いた。
「僕のせいだ。全部、僕の」
「僕がこんなもの見つけなければ」
「どうすればいいんだ」
「カラム、そんなことしている場合じゃ――」
アズマがカラムの肩に手をかけると、強く振り払われた。
カラムは彼を睨む。
「分かってる! 分かっているんだ! でも! でも……身体が、身体が震えるんだ。どうしようも……ないんだ」
「もう人が死んでいるんだぞ! 僕の実験のせいで……」
「何がタイムレスだ! そんなものを持たなかったらこんなことは起こらなかった! もう、嫌だ! 僕だって! 僕だって! 普通に――」
「辛い気持ちは……分かる。だが――」
アズマの言葉は、カラムに火に油を注ぐだけだった。
「君に分かる訳ないだろ! 人が死んでいるのに――」
ここでカラムは口を噤んだ。
アズマの目は言葉では到底言い表せないくらい悲しい目をしていた。
カラムは気付く。
そうだ、彼もまた――。
カラムは目から溢れかけた涙を拭い、言った。
「ごめん、アズマ。僕はもう大丈夫。でも……少し……10秒だけ待ってくれ」
*
101 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 16:07:03.43 ID:tFzSZnUao
・休憩
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/12(土) 16:13:24.09 ID:Ay/nRG+7O
乙。
超人的な頭脳を持っててもやっぱり精神は人間そのものなんやなって。
103 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 19:15:26.27 ID:tFzSZnUao
*
二人は誘導を他に任せ、次なる行動へ出た。
「カラム、次はどうする」
「ロッカールームへ向かう。実験の工程から言えば、あの門≠閉じるには照射装置を段階的に止める必要がある」
「だが、あのなにか≠ェ蔓延る部屋でそれを行うのは不可能だ」
「強制停止を行う」
「強制停止? できるのか、そんなことが」
「できる。ただ――」
「ただ?」
「いや、何でもない。強制停止さえすればあの門≠ヘ閉じ、消え去る。そうすれば奴ら≠烽烽、増えることはないだろう」
「残った奴らはどうする。奴らは人間を襲うんだぞ」
「それは……考えていなかった。門を閉じることばかり考えていて」
「カラム、お前は考え過ぎだ。なにか≠ヨの対抗手段については俺に任せろ。相手は生物である以上、タイムレスじゃない俺でも何かしらは考えつくはずだ」
「アズ……ありがとう」
「当たり前だ」
二人は拳をぶつけ合った。
*
104 :
急に始まってすいません
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 19:38:32.75 ID:tFzSZnUao
*
ロッカールームにもちろん誰もいなかった。
カラムは自分のロッカーを開けるとUSBメモリを取り出した。
「これはなんだ」
アズマは聞いた。
「これを観測室にあるメインコンピュータに差し込み、データを入れるんだ」
「それだけでいいのか」
「ああ、それだけ。データを読み込むと全ての装置が強制停止する。もちろん照射装置もだ」
「用意がいいな」
「ああ……元々実験は失敗すると思っていた。万が一の為にこれを用意していたんだ。まさか、ここまで被害が及ぶとは思っていなかったし、事故発生時であっても手動で装置を止めることを想定していたからね。持ってきていなかったんだ。それがまさか……」
「いや、今そんなことは気にしていられない。とにかく、これが僕の最終兵器≠ウ」
カラムは、この話をしている間終始俯きがちだった。
更に言えば、さっきからカラムの様子がおかしい。
重責によりパニックを起こし、会議室に引きこもったのは仕方がないとして、「ロッカールームへ向かう」と言った時の何か決意したような表情をアズマは見逃さなかった。
何かを諦めるような悲しい表情、そして決意をした勇気の意志が込められた瞳。友人としてその意味を知る必要があった。
アズマは意を決して、彼に聞いた。
「カラム。お前……俺に何か隠していないか」
「いや、何も」
「……言ってくれ」
「何言ってるんだアズ。君には何も隠し事なんかしないよ」
「そうか……」
「そうだ、カラム。お前、そのUSBを入れに行く時、俺も着いて行くだろ? その時――」
カラムは目を逸らした。
「……おい、カラム。お前――」
「あの危険な観測室へ独りで装置を止めに行くつもりなのか!」
105 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 19:55:59.01 ID:tFzSZnUao
カラムは観念して話し出した。
観測実験の終了及び基本世界と並行世界とを繋ぐ門を閉じる為には、ある段階を踏まなければいかない。
まず照射装置の照射線量を徐々に減らし、並行世界とのつながりを断つ。
次に、疑似星雲ガスを半減させて行き疑似宇宙空間状態を解除。
更に、大気圧を戻し、真空状態も解除。
最後に除染。
この工程を行わなくてはならない。
つまりは、カラムの持つUSBとはその工程を全て行わない上で全ての装置を切ってしまうということであった。
それがどういう状況をもたらすのであろうか。
照射装置の緊急停止により門は突然閉じられる。
門から溢れていた強いエネルギー反応は行き場を失い、装置によって安定を保っていた疑似宇宙空間と反応を起こす。
その時、大気圧の安定しない実験室内の空間体積が膨張と強い光、つまり放射線を発生させるのである。
簡単に言えば、致死量の宇宙線を生身で浴びる、ということ。
USBを使った強制停止を使えば、カラムの死は免れないのである。
106 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 19:56:26.68 ID:tFzSZnUao
・休憩
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/12(土) 20:21:52.03 ID:XdaAmYP50
乙
108 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 21:23:50.64 ID:tFzSZnUao
・再開していきます
109 :
◆RbLyhCxL4nw3
[saga]:2017/08/12(土) 21:54:36.97 ID:tFzSZnUao
「助かる道はないのか?」
アズマは聞いたが、カラムは首を振るばかりであった。
「……なら俺も着いて行く」
「ダメだ。これは僕にしかできないことだ」
「どうしてもか?」
「ああ。これは僕の責任の取り方だ」
「責任の取り方」。この言葉にアズマは違和感を抱いた。
責任とは何を指して呼んでいるのだろうか。
実験を終わらせる責任――それは0911を呼べば政府公認のヒーローが対応してくれる可能性もあるが、到着まで何か≠フ侵攻までは間に合わない。
人を死なせてしまった責任――それは危険性を知る彼に実験を強要したコンラッドらに向けられるべきであろうとアズマは考える。
実際、この強制停止は、並行世界研究を深く知るカラム自身にしかできないことである。
しかし――しかし、だ。彼が言う責任とは、本当に彼が死を以て行える程大きいものなのであろうか。そうだとすれば、これ程残酷な運命はない。
アズマもU.S. Armyの一兵士として戦っていた時も、機密保持部として情報漏洩を行う者に制裁を加えることにも責任を感じ、行っていた。
だが、友人としてカラムの感じている責任はそれとはまた違う。
タイムレスとしての責任だ。
先程彼は自信がタイムレスとして生まれたことへの怨嗟を口にしていた。それ程、彼の責任は重く常に彼の背中にのしかかっていたものなのである。
それは、アズマがカラムに初めて出会った時から、いやそれより前から抱いていたものなのであろう。
「大いなる力には、大いなる責任が伴う」
ある本に、そんな言葉があった。
だが、その責任は大いなる力を背負う者だけが払うものなのか。
アズマは答えを出す。断じて否。
「カラム、観測室にはまだあの蟲がいる。お前はその中で作業を行えるのか」
「いや、それは――」
「カラム、リンは元気か」
「ああ、今日も――いや、今そんな話関係ないだろう!」
「……お前が停止作業を行う間、俺はあの蟲を引き付ける」
「アズマ!」
「俺も着いて行く。いいな」
「……後悔、しないのかい」
「なあ、カラム。お前と初めて会った時、なんて言ったか覚えているか?」
「『友だちなんていないさ。いつも一人』」
「今は俺がいる」
「行くぞ」
大いなる責任は、時に共に、その責任を分けて背負うこともできる。
これがアズマのカラムの友人としての責任≠フ取り方であった。
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