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【クウガ×デレマス】一条薫「灰被」
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75 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:24:12.63 ID:iCe2g1Pi0
その一点を狙い、一条薫は最後の弾丸をライフルに装填するため、コートの内側に手を入れた。
「……何っ!?」
第50号の頭部に弾丸が命中することはなかった。
いや、それ以前に、弾丸は発射されなかった。
一条は何が起こったのか理解出来なかった。
会場に来る前に神経断裂弾が二発、ライフルに装填されているのは確認していた。
そして、万が一の理由でライフルが他の者の手に渡ってしまうようなことがあった時、強力な威力を持つ神経断裂弾を全てその者に使われぬようにコートの中に残りの一発を忍び込ませていたのも今朝確認した。
ならば何故だ?
何故、ポケットの中を探った手は空を切ったのか?
疑問を抱いても答えは出てこない。
76 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:24:49.00 ID:iCe2g1Pi0
そして、一発のチャンスを逃したせいで第50号は人を掻き分け逃げ出してしまった。
「…………逃したか」
肩の力を抜きつつ、内ポケットを確認する。
そこには……何も無かった。
勿論、穴が空いている訳もない。
万が一にもポケットで暴発しないようにされている弾丸ケースも存在しなかった。
だが、今朝確認した際には確かに『一発』あったはずなのだ。
なのに、その一発がそれを入れていたケースもろとも無くなっている。
その謎を考えつつ事態収束のために辺りを見回そうとした時……目が合った。
77 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:26:27.17 ID:iCe2g1Pi0
脅えた目、普段の元気に満ち溢れた目とは違う目、幼い、龍崎薫の目。
ステージの上で、安全な場所に避難させようと年上のアイドルたちに引っ張られながら、脅えた目が、一条薫を見つめていた。
17年前にも見たことのある、17年前の夏目実加が演奏会での事件の時に一条に向けた目。
未確認生命体ではなく、一条のことを恐れる目。
それを、龍崎薫が一条薫に向けている。
まだ幼い薫にとっては未確認生命体によって人が殺されるということは例えようがないほどにショッキングな出来事である。
だが、それ以上に彼女は、一条の豹変に脅えていた。
未確認生命体に向けて、無慈悲に銃の引き金を引いた一条に戸惑い、思わず声をかけた、そして、薫の方を向いた一条の表情は……
少し前まで、控え室で楽しく談笑していた一条とは全く違う、冷たい表情、人を殺す覚悟をした表情。
数秒前まで第50号を仕留める気でいた一条は、その表情を上手く崩すことの出来ぬまま、ステージを、龍崎薫を見てしまった。
『ひっ!』
衣装についたマイクを通して、龍崎薫の短い悲鳴が響いた。
それが、一条薫の胸に静かに、そして深く突き刺さった。
78 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:28:09.09 ID:iCe2g1Pi0
一条が第50号に銃口を向けている間、実加は手早く避難指示をしつつ、警察本部への状況説明と応援要請を済ませていた。
そのため、事件発生から三十分もしない内に事態は収束し、第50号のいなくなった会場では観客たちと、観客たちへ事情聴取をする警察で溢れかえった。
「やっぱりこうなっちまったか」
「杉田さん」
ステージ端でその光景を見る一条の隣に、一条にCGプロのことを教えた杉田守道が立っていた。
「予想していたとはいえ、こうなって欲しくなかったんだがなぁ」
「……そうですね。
ですが、未確認が出てしまったことはもう覆せません。
我々は、これからすべきことをするしか他に道はないんです」
「……そうだな、んじゃ、俺は調査に戻るが、お前はどうするんだ?」
「CGプロのアイドルたちに事情を聞きに行きます。
今は夏目くんが彼女らのことを落ち着けているところでして、それが一段落つきましたら私も合流して話を伺うことになっています」
「何だ?何でお前はダメなんだ?」
「その……色々とありまして」
一条の銃撃は、アイドル全員が目撃している。
つまり、龍崎薫のみならず、アイドル全員が少なからずショックを受けているのだ。
それを、同じような経験のある実加が慰めなければ、前と同じようにアイドルたちが一条と接することは難しいのである。
79 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:30:01.16 ID:iCe2g1Pi0
「?……そうか、ま、頑張れよ」
そう残して杉田は調査に戻って行った。
それから実加から何かしらの連絡があるまでの間、一条は弾丸の謎について思案することにした。
確かに今朝、神経断裂弾の確認はしていた。
その時は間違いなく『三発』銃弾はあったはずだ。
だが、内ポケットには弾丸はなかった。
銃を撃った現場を軽く探したが、残りの一発は見つからなかった。
今日の朝から銃弾を撃つまでの間で、弾丸が失われる可能性があるのは……
『脱げー!』
『脱げ〜……』
一条の脳裏に、控え室での一幕がよぎった。
あの時、コートに触れたのは……本田未央、龍崎薫、遊佐こずえ、そして……
『すいません、刑事さん』
『その時の困惑のスメル、志希ちゃんも嗅ぎたかったな〜』
島村卯月と一ノ瀬志希。
彼女らなら、相当なテクニックを必要とするが、弾丸を抜き取ることは不可能ではない。
「……いや、無いだろう」
技術があったところで、やる意味がない。
彼女らは未確認生命体ではないことは今回のライブでほぼ証明されたと言っていい。
経歴におかしな点はなく、ライブ中に、『観客席から』第50号が姿を現したのだ。
ならば彼女らは未確認生命体では……?
一条の中で、あることが引っ掛かった。
80 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:31:05.39 ID:iCe2g1Pi0
何故、あの未確認生命体は……人を殺した?
そう、それ自体は未確認生命体としてはありふれたこと……だが、今回は事情が違う。
今回の未確認生命体は、人を眠らせる力を持つ者のはずだ。
ならば、殺さず、眠らせるはずだ。
眠らせないにしても、眠らせた人を遠隔で殺すのではないか?
だが、眠り病により眠っていた人たちが急死したという連絡は一切無い。
そして、警官たちから聞いた情報。
『これで、九人目』
あの未確認生命体は、そう『日本語』で言ったそうだ。
未確認生命体は、グロンギは、彼ら独自の特殊な言語で話す。
だが知能が高いために、日本語も学習し、日本語も話せる個体がいることは一条も知っている。
だが、誰に聞かせるでもない独り言のような言葉まで日本語で話すものだろうか?
一条の疑問は深まるばかりであった。
81 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:31:58.23 ID:iCe2g1Pi0
「一条さん!」
「おお、夏目くん」
「もう大丈夫です……が……」
「が?」
「薫ちゃんは……重症で、一条さんと直接顔を合わせることは、今は無理です……」
「……しょうがないだろう、兎に角、今は情報が必要だ。
ステージの上という他よりも辺りを見渡せる場所では何が見えたのか知りたい、特に、一番最初に未確認生命体を発見したと思われる卯月くんが見た物を」
「はい、ではこちら……」
「刑事さん!」
実加の言葉を遮るようにして、実加の後ろからプロデューサーが走って現れた。
「プロデューサーさん?どうかされましたか?」
「ハァ……ハァ……う、卯月が!」
「卯月くんが?」
「ハァ……いなくなりました!」
「何だって!?」
走ったために乱れた呼吸を整えながら、プロデューサーは焦りを隠さずに言った。
82 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:33:14.13 ID:iCe2g1Pi0
「どういうことですか!?」
「夏目さんの状況説明と軽いカウンセリングの後に、一息つけさせる意味も込めて衣装から着替えるように指示したんです。
そして、更衣室からみんなが出てきたんですが、卯月だけ出てくるのが遅くて……更衣室の中を確認したら、卯月がいなくなっていたんです!どうやら窓から出ていったみたいで!」
「何故そんなことを?」
「わかっていればここには来ませんよ!警察の方で卯月の姿を目撃してませんか?」
「少し待っていて下さい」
プロデューサーの言葉を聞き、一条はすぐさま会場の中、周囲を見張っている警官たちに連絡し、情報を募ったが、卯月を目撃したという情報はなかった。
「……すいません、こちらも誰も目撃していないようです」
「そうですか……」
大切なアイドルの安否がわからない不安からプロデューサーは頭を押さえてうずくまった。
『こちら追跡班!』
そんな時、一条のトランシーバーから連絡が入る。
『傷ついた第50号の血痕から追跡したところ!未確認の人間態らしき男を○○公園にて発見!事情聴取を試みるも未確認生命体の姿となり現在交戦中!至急応援求む!』
「なっ!?」
「急ぎましょう!一条さん!まだ神経断裂弾は届いていないんです!私たちが向かわないと!」
「そうだな!急ごう!」
『なっ!?何だ君は!?』
『攻撃をやめてください!』
「この声は!?」
トランシーバーからの音声が乱れ、女性の物と思われる、どこか聞き覚えのある声が割り込んで来る。
その声にプロデューサーが反応した。
「卯月!」
「なっ!それは本当ですか!?」
「プロデューサーとしてあの娘の声は直接でもテレビ越しにも聞き続けてます!間違えるはずがありません!今のは卯月の声です!」
「何故第50号のところに……今はここでとやかく言ってる場合ではないな、急ごう!」
「お、俺も!」
「プロデューサーさんはここに残っていて下さい!
誰が他の娘たちのことを見てやれるんですか!」
「うっ……卯月を……頼みます」
「任せてください!」
手短に話を済ませると、一条と実加は全速力で会場最寄りの公園へと急いだ。
83 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:35:03.62 ID:iCe2g1Pi0
全速力で五分未満のその公園から銃声が聞こえてくる。
公園に入り状況を確認する。
負傷し気絶している警官数名、未だに応戦している警官数名、その中心にいる未確認生命体第50号、そして……
「止めて下さい!何で警察のみなさんと争うんですか!」
第50号に必死に語りかける普段着の島村卯月がいた。
「何故お前がここにいる!島村卯月!」
「あ!刑事さん!」
「問答はいらん!今すぐ退避するんだ!」
「でも……」
「『でも』じゃない!」
「一条さん!みなさんが!」
実加に促されてもう一度第50号の方を向くと、応戦していた警官たちが負傷により全員戦闘不能な状態にされてしまっていた。
84 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:36:18.75 ID:iCe2g1Pi0
この場にいる動ける者は、一条薫、夏目実加、島村卯月……そして、左腕と左肩の付け根から血を流し、更についさっき警官の銃撃により右目を潰された未確認生命体第50号だけであった。
「逃げろ!」
「嫌です!」
第50号に向けてニューナンブを放つ一条の命令を無視し、卯月は退かなかった。
それどころか、一歩踏み出し、第50号に語りかけた。
「なんでこんな酷いことをするんですか!……お願いですから……話し合いましょう!」
「何を馬鹿なことを!」
卯月の努力むなしく、第50号にその言葉は届かないようで、第50号は右腕を上げ卯月に襲いかかり、一条は卯月を庇った。
だが、第50号の鋭い爪が一条に届くことはなかった。
第50号の右腕を、白い腕が止めていた。
「……ハァッ!」
気合いを込めて白い拳の戦士が正拳を第50号に放った。
一条らに背を向け、第50号と対面するのは、短い二本の角を持つ白い戦士、超古代の戦士クウガ、その未熟な姿であった。
85 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:38:11.43 ID:iCe2g1Pi0
「あれって……実加さん!?」
4年前、未確認生命体が再び復活した。
第零号と雄介が変身したクウガによって滅ぼされたはずの未確認生命体が何故まだ残っていたのか?
その疑問は、とある発見によって解明された。
第零号が封印されていた、長野県の九郎ヶ岳遺跡、その近くにもう一つ、同様の形式を持つ小さな遺跡が発見されたのだ。
そこには、三体の未確認生命体と、リントが作ったクウガのベルトの試作品が納められていた。
4年前の事件は、その遺跡から復活した三体の未確認生命体が起こしていた。
そして、本庁に務める前に長野県警に務めていた実加は、災害による地形隆起によって偶然表層が顕になったその遺跡から、試作品のクウガのベルトを回収していた。
そうしてクウガの力を得た実加は、一条らに隠れて三体の未確認生命体と戦ったのだ。
今でもその事実を知るのは、一条を含めて数人しかいない。
86 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:39:19.01 ID:iCe2g1Pi0
「邪魔だ!」
実加の正拳を受け、二、三歩のけぞった第50号であったが、あまり怯んだ様子もなく力任せに右腕を振り回した。
「ウグッ!?」
白いクウガは至近距離だったために右腕の薙ぎ払いを受け、地面に倒れた。
実加が使用する試作品のベルトには欠点があった。
感情に左右されやすく、負の感情に飲まれ、暴走しやすいのだ。
さらに、実加がそのベルトを扱うには精神力が足りなかった。
実加が変身出来るのは未熟な白い姿のみ、赤や青になることは出来ず、暴走か未熟な姿かの二択しか存在しない。
手負いとはいえ、グロンギとして完成されている第50号の方が白いクウガよりも力は強い。
勝機は五分と言ったところだろう。
87 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:40:27.66 ID:iCe2g1Pi0
実加はすぐに立ち上がると、再び第50号に向き直る。
その実加に第50号は右腕を振り下ろした。
その右腕を両手で受け止めた実加の顔面に第50号の左ストレートが決まった。
「かはっ!?」
「実加さん!」
左腕は神経断裂弾により破壊されていることから、左腕で攻撃されることはないと実加は完全に油断していた。
その隙をついた一撃だった。
88 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:41:32.99 ID:iCe2g1Pi0
事実、第50号の左腕のダメージは深刻であり、今のストレートも死力を振り絞った苦し紛れの一撃である。
だがそれが勝負を分けた。
実加の体勢は大きく崩れ、防御体勢へと移行するまで一、二秒。
一条の持つ銃は威力の弱いニューナンブ。
ニューナンブでもある程度のダメージを与えられる場所は左目をおいて他にない……が、その左目はかろうじて動く左腕で即座に守られている。
第50号が右腕を引く。
その爪に貫かれれば、白のクウガではひとたまりもあるまい。
万事休す。
この状況を表すならば、その言葉しかないだろう。
「やめてください!!」
第50号が右腕を始動させる直前、一人の影が実加と第50号の間に割り込んだ。
実加の前で両手を広げるのは島村卯月……何の力もない人間が、争いを止めんがために、無謀にも立ち塞がった。
「卯月くん!」
一条が第50号に制止のために銃弾を放つが、皮膚に阻まれ傷一つつけることなく弾丸は落ちた。
「死ね!」
恐ろしい威力を内包した抜き手が卯月に迫る。
「っ!」
圧倒的な死の予感からか、卯月は涙を流す目を閉じた。
第50号の右手は卯月の身体を貫通し、卯月の身体と第50号の右腕を赤く染め上げる……
89 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:42:27.91 ID:iCe2g1Pi0
「…………?」
……ことはなかった。
一条が見たのは、卯月の腹部まで後数cmのところで右腕を静止させた未確認生命体第50号の姿だった。
「うぐ……痛い……痛い痛い痛い痛いぃぃぃ!?」
静止から数秒、突如として第50号は自らの頭を押さえて苦しみだした。
理由は不明、だが好機には違いない。
「夏目くん!今だ!」
「はい!」
体勢を立て直した実加が第50号に向けて走る。
90 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:43:52.22 ID:iCe2g1Pi0
それは攻撃へ繋げるための助走。
第50号へと一歩、また一歩と歩を進める度に白い戦士の右脚に力が集まって行く。
そして、助走の勢いそのままに大きく跳び上がり、右脚を前に出し力を込める。
「オリャァァ!」
「グウウッ!?」
第50号の胸に放たれた跳び蹴り。
その命中地点には古代文字が浮かび上がった。
それはクウガから放たれた封印エネルギー。
古代文字は腹部の装飾へと亀裂のように広がって行く。
17年前、雄介はこうして封印エネルギーを送り込み、それが未確認生命体の腹部のベルトのエネルギーと反応し、内部から爆発を起こさせて未確認生命体を倒して来たのである。
91 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:44:43.70 ID:iCe2g1Pi0
今回もその例に漏れずに、第50号は苦しげな嗚咽を漏らしながら爆発……しなかった。
「!?……これは……どういうことだ?」
一条の困惑の声が飛ぶ。
そもそも、一条含め人間たちは何故未確認生命体が爆発するのか、クウガが放つエネルギーが何なのかを知らなかった。
本来ならばグロンギを封印するのがクウガなのだが、雄介が上手くクウガの封印の力を使いこなせなかったこと、そして、グロンギはゲゲルの際に自分のベルトに細工を施され、タイムオーバーすると爆発するように仕込まれていたことが災いした。
そのため、一条は攻撃を受け爆発、もしくは死亡し潰れる未確認生命体の姿は見たことはあるものの、この姿を見るのは初めてだった。
第50号は……彫像のように完全に固まってしまったのだ。
92 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:45:49.65 ID:iCe2g1Pi0
「……死んだ……のか?」
全く動かない第50号を一条は注意深く探った。
そして、動く様子が無いことを確認すると、銃を下ろして大きく息を吐いた。
確信はないものの、危険はないことを半ば本能的に理解した。
「理由はわからんが、もう危険は無いようだ。
……卯月くん」
「は……はい!」
「後で詳しく話を聞かせてもらう。
……それと、夏目くんのことは内密に頼む」
「はい……」
卯月に手短に要件を話すと次に一条は実加の方を向いた。
すでに実加は変身をといていた。
「夏目くん、無事か?」
「ええ、なんとか……でも、一体何が……」
「…………今ここで考えても答えは出ないだろう。
考えるのは後にして、今は事態の収束を優先させる。
負傷した警官並びに卯月くんと第50号を移送させなければ」
「はい!すぐに……応援を…………」
「……夏目くん?」
急に実加の声が弱々しくなった。
93 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 19:46:56.03 ID:iCe2g1Pi0
トランシーバーで状況説明と応援要請をしようと実加から一瞬目を離していた一条が実加に視線を戻す。
そこに、実加の姿はなかった。
かすかに聞こえた音を頼りに視線を下に向けると、そこでは実加が散った桜の花びらの絨毯の上に倒れ伏していた。
「夏目くん!」
「実加さん!」
2017年、三度(みたび)姿を現した未確認生命体、その第50号は、数多の謎を残して活動を停止した。
……第二のクウガ、夏目実加と共に。
94 :
◆ZfqRKaJB86
:2017/07/02(日) 19:49:04.13 ID:iCe2g1Pi0
これで三章終了です、一旦落ちます
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/02(日) 19:50:17.25 ID:O8MpdB2hO
待ってるぞ
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/02(日) 20:58:54.12 ID:CqcsrAnn0
おもしろい続き期待です
97 :
◆ZfqRKaJB86
:2017/07/02(日) 21:04:14.14 ID:iCe2g1Pi0
再開します
98 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:06:00.21 ID:iCe2g1Pi0
あ、コメント来てる!
ありがとうございます!
99 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:06:28.73 ID:iCe2g1Pi0
第四章「究明」
100 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:07:18.95 ID:iCe2g1Pi0
「……夏目くん」
一条は、護送車の中で眠ったままの実加に話しかけた。
確証はないものの、実加は例の眠り病であることは誰の目にも明らかだった。
護送車は四台、二台で負傷した警官たち、一台で実加と卯月、残りの一台で活動を停止した第50号を運んでいる。
「……あの、それって、眠り病……ですよね?」
険しい顔をする一条に、卯月が話しかけた。
「おそらくは、な……だが、これで更にわからなくなった……」
「何がですか?」
「……こちらの話だ」
101 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:08:15.48 ID:iCe2g1Pi0
第50号を倒せば、眠り病の患者は目覚める……そう思ってきた。
だが、眠り病患者は誰一人として目覚めないどころか、実加が新たに眠り病を発症してしまった。
そして、卯月を前にして急に苦しみだした第50号。
一条の中では、一つの結論が芽生えていた。
「……だとしたら……いや、まさかな」
一条は隣に座る卯月に視線を向け、すぐに首を振る。
102 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:09:11.17 ID:iCe2g1Pi0
「島村卯月」
「は、はい!」
「……後でまた訊かれるだろうが、この場で簡単に聞いておこう。
ステージの上で真っ先に声を上げたのは君だ、一体何を見た?」
「それは……あの人が、あの姿に変わる瞬間です。
ステージって、結構細かく、色んなものが見えるんです。
お客さんはほとんどサイリウムを振ってくださるんですけど、その光の波が、あの人のところでポッカリ空いてて、それで少し気になってたんです。
そしたら、新しい皮膚が身体の中から盛り上がるみたいに、出て来て、あの姿に変わったんです。
それでも凄く驚いたのに、あの人が腕を振り回して……それで、私……」
「声を上げた、と」
「はい……」
「それからのことはもういい。
あと訊きたいことは一つ。
何故あの未確認生命体を追った?」
「それは……知りたかったんです……どうして人を傷つけるのか……」
「……『どうして』だと?」
「はい……同じ人間なのに……何であんな酷いことが出来るのかなって……どうにか、説得とか、出来ないかな?って、そう思ったんです」
「…………君は知らないのかもしれないが、アイツらは、『同じ人間』ではない、別の生物だ」
「……私にはそうは思えません。
……いえ、そう思いたくありません」
「……そう思うのは君の勝手だが、命を危険に晒す真似は止めてくれ」
「…………はい、すいませんでした」
卯月は自分の思いを否定され、項垂れた。
103 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:10:21.13 ID:iCe2g1Pi0
そのまま、沈黙が流れて数秒後、異変は起こった。
護送車が突如急停止したのだ。
それに驚き、一条は護送車を運転している警官に声をかけた。
「っ!?どうした?」
「あの……女性が急に飛び出して来たんです」
「女性?」
促され一条はフロントガラスから前方を確認した。
そこにいたのは……
「っ!?あれはっ!」
その姿を視認した瞬間、一条は護送車の外へと飛び出した。
「刑事さん!?」
卯月がそれに驚き声を上げた。
だが一条はそれもお構い無しにコートの内側から、応援部隊により運ばれてきた追加の神経断裂弾を何発か取りだし、ライフルに装填すると女性に銃口を向けた。
「キサマ!一体何をしに来た!」
その声に、女性がゆっくりと一条の方を向く。
その額には……白い薔薇のタトゥがあった。
104 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:11:47.31 ID:iCe2g1Pi0
薔薇のタトゥの女、B1号は一条を確認するとゆっくりと微笑んだ。
「安心しろ、お前たちと争う気はない。
私は……失敗作を破壊しに来た」
「……失敗作?」
「そうだ」
短く一条の声に応えると、薔薇のタトゥの女は右手を護送車のうちの1台に向けた。
次の瞬間、薔薇のタトゥの女の右腕が変質し植物の蔓のような触手が伸びた。
「っ!?」
不穏な気配を感じた一条は躊躇せずにライフルの引き金を引いた。
だが、その弾丸は薔薇のタトゥの女の蔓に器用に絡め取られ、薔薇のタトゥの女に届く前にその勢いを無くし、受け止められた。
105 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:13:44.19 ID:iCe2g1Pi0
その後も、二発、三発と銃弾を放つが、薔薇のタトゥの女に届く前に全て受け止められる。
「無駄だ」
一条が放つ弾丸を受け止めつつも、薔薇のタトゥの女はその蔓で護送車の壁を突き破り、その中から未確認生命体第50号を引き摺り出し、第50号の身体に蔓を絡めて行く。
「仲間の救出に来たのか!?」
「言っただろう?……失敗作を破壊するために来たのだと」
「破壊……まさか!」
蔓が第50号の身体にきつく巻き付き、ギリギリと、特に腹部を締め上げる。
そのまま、あっという間に第50号の身体はいくつかの部分に引きちぎられた。
「キャァアア!?」
その残酷な光景を見て、一条を追って護送車を降りていたらしい卯月が悲鳴を上げた。
106 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:14:56.41 ID:iCe2g1Pi0
「……用は終わった」
「……一つだけ、答えてくれ。
今回のプレイヤーは……何人いる?」
「二人……いや、もう一人だけか。
いや、もしかしたら、プレイヤーとも呼べぬのかもしれないな」
「プレイヤー……ではない?」
「今回のゲゲルはジュジュドシガスだ、ゲゲルとは呼べん。
……だが、もう一人は……成功だ。
奴ならすぐにでもゲゲルのプレイヤーになれるだろう……何万というリントの屍の上でな」
「そんなことはさせん!」
「ふっ……見届けさせてもらうぞ、キサマの足掻きをな」
そう残して、薔薇のタトゥの女は何処からともなく薔薇の花びらを巻き上げた。
そして、視界が晴れた時には既に薔薇のタトゥの女の姿は何処にもなかった。
だが、一条には微かに見えた。
薔薇のタトゥの女は、姿を消す直前に一条の方を向いて妖しく微笑んでいた。
107 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:16:04.68 ID:iCe2g1Pi0
薔薇のタトゥの女の出現から数日、一条は警視庁本部に設置された未確認生命体対策本部にて、部下の報告に頭を抱えていた。
「……空白の期間も何もかも、ない……だと?」
「はい、ライブチケットより身元を特定しましたが、未確認生命体第50号、熊谷 和樹(くまがい かずき)には性格が急変した時期も、空白の期間も存在しませんでした」
「そんなはずは……未確認生命体が人間社会に紛れるためには、誰かと入れ替わるか、存在しない人間をでっちあげるしかないんだぞ?」
4年前、人間社会に紛れるために未確認生命体たちは、山野愛美という女子高生と入れ替わり、伽部凜となり、もう一体の未確認生命体は記憶喪失を装って人間社会に溶け込んだ。
このように、未確認生命体が人間を装うと、その人間には空白の期間が生まれるはずなのだ。
108 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:16:48.45 ID:iCe2g1Pi0
だが、いくら調査しても、未確認生命体第50号であった熊谷和樹という人間には、空白の期間が存在しなかった。
「はい……ですが、親族や近隣住民にいくら聞き込みをしても、そのような期間は全く……」
「そんな馬鹿な……」
空白の期間、その前後の人間関係や行動から、もう一体の未確認生命体を炙り出そうと考えていた一条はさっそく壁にぶつかった。
そのもう一人の未確認生命体が眠り病の真の犯人であり、一番の難敵であるというのに、折角掴んだその尻尾がするりと一条の手から滑り抜けて行ったように感じた。
109 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:20:58.89 ID:iCe2g1Pi0
「しかし、空白の時期こそないものの、この熊谷ってやつは……最初からおかしかったみてぇだな」
「杉田さん!」
資料をパラパラと捲りながら、杉田が呆れたように部屋に入って来た。
「熊谷和樹33歳、小学生の頃から問題行動を繰り返す、いわゆるサイコパス……普段の言動からその危険性が垣間見られるためか、就職は出来ずフリーター。
周囲の人間との問題も絶えず、危険視されていた……最初からコイツは未確認だったんじゃねぇのか?」
「いえ、子供の未確認生命体がいると仮定しても、熊谷が子供の頃に未確認生命体と入れ替われるような状況はありませんし、17年前から彼は既に問題児でした」
「マジか……何か別のアプローチが必要ってことかぁ」
杉田は資料をテーブルの上に放ると、椅子にドカッと腰を沈めた。
「お、そうだ一条、榎田さんから連絡があった。
眠り病の原因をある程度発見し、対策がとれるようになったらしい」
「本当ですか!?」
「俺はそう聞いている、詳しくは科警研に行きゃわかるはずだ、行ってこい」
「はい、失礼します」
一条はペコリと一礼すると、足早に未確認生命体対策本部から出て、科警研へ急いだ。
一つの道に大きな壁が立ちはだかったところで、そこで立ち止まってはいられない。
少しでも前に進むために、一条は奔走していた。
110 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:21:54.79 ID:iCe2g1Pi0
科学警察研究所、科警研に赴いた一条を待っていたのは、長い黒髪を後ろで一つに束ね、ガスマスクを着けた怪しげな白衣の女性だった。
「あ!待ってたよ〜一条くん!」
ガスマスクを着けた女性がくぐもった声で一条を呼んだ。
「榎田さん、なんですかそのマスクは?」
彼女こそ、科警研の要、榎田ひかり。
17年前、クウガと一条に未確認生命体と争うための数々の武器を開発し、与え、未確認生命体の身体構造やその攻撃の謎を解明した頼りになる女性である。
ちなみに、普段からガスマスクを着けているわけではない。
111 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:23:05.72 ID:iCe2g1Pi0
「例の眠り病の原因になってた化合物、あれガス状でライブ会場に散布されてたみたいなのよ!」
「あぁ、それでガスマスクを……ガスマスクを?
ここで着ける必要はあるんですか?」
「ううん、無い」
あっけらかんと榎田は言ってのけた。
……やはりこの人と一ノ瀬志希はどことなく似ているな。
雰囲気というか、ノリのようなものが。
112 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:26:43.97 ID:iCe2g1Pi0
「そ、そうですか……」
「一条くんの部隊の人にお願いして、警備の片手間に会場内の大気サンプルを回収してもらったのよ。
そうしたら、未知の化合物がステージに近くなるほど多く発見されてね。
その化合物を詳しく解析した結果、人体、もしくはそれに近い環境で別の化合物に変化することがわかったの」
「その変化した化合物が、眠り病を……」
「そ、経口、もしくは鼻から入った化合物は、その構造を変化させ対象者の脳内に移動、その後、脳漿にて潜伏……更に、これには後二段階ありそうなのよ」
「二段階?……これに追加して、ですか?」
「そ、脳漿に多少含まれている段階では何の効果もないんだけど、その物質は脳漿内で少しずつ分裂してその数を増やしていって、脳漿に対する化合物の割合がある一定量を越えると化合物が再び変化して、それが人を眠らせてしまう性質を有しているみたいなのよ」
「それが、椿が発見した……」
「そう、化合物を人体と同じ環境に置いて変化させた時、椿くんに貰った化合物とは組成が異なっててね、変だな〜?って思ったから少しアプローチを変えてみたら発見出来たのよ……ただし、何故この段階を挟むのかは不明。
そして、最後の段階なんだけど……これは完全に推測」
「推測……ですか?」
「椿くんから第50号の脳漿からまた別の化合物が出てきたって情報が来てね、サンプルの解析はまだ終わってないから確定したわけじゃないんだけど、一条くんからの情報も会わせると、それが最後の段階だと思う」
「最後の……段階」
「うん、4年前の、第49号の事件のリオネル、覚えてる?」
「……忘れるはずがないですよ」
4年前、第49号は記憶喪失を装い、郷原忠幸という政治家として人間社会に紛れ込んだ。
そして、リオネルという商品を売り出した。
疲労が取れ、中毒性が無く、笑顔になれるというその飲料は瞬く間に日本中で人気となった。
だが、そのリオネルに含まれる、ある化合物は第49号の能力によるものであり、体内に侵入後脳内に止まり第49号の意思一つでその化合物はその組成を変え、人を狂わせるという恐ろしいものであった。
113 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:28:06.11 ID:iCe2g1Pi0
「あれは量子もつれを用いて飲んだ人を狂わせていたわけだけど、たぶん今回のも同じパターンだと思うの」
量子もつれとは、一度関連付けられた二つの量子は、片方が外からの力や自然変化によりその性質を変化させると、もう片方には力が加わっていないのにも関わらず同様の変化を見せるという現象のことである。
第49号は、リオネルを飲んだ者の脳に潜伏する化合物を、第49号自身が持つ化合物の量子を変化させることにより量子もつれを起こして変化させていたのだ。
「ほら、一条くんの報告だと、急に第50号が苦しみだしたそうじゃない?それと合わせて考えると、どうやら第50号はもう一体の未確認生命体に量子もつれを用いて攻撃されたんじゃないかな?って」
「なるほど……しかし、何故仲間を……」
「それはもう一体の未確認に聞かないとね〜。
……あ〜、疲れた!」
榎田が身体を伸ばすと、ボキボキと凄まじい音がした。
114 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:28:55.06 ID:iCe2g1Pi0
「また徹夜ですか?」
「うんにゃ、五十越えるともう徹夜は無理だね〜。
椅子に座って仮眠を何回か……だからもう身体じゅうバッキバキよ」
依然としてガスマスクを着けたままの白衣の女性が柔軟体操をする図というのはシュールなもので、一条にはかける言葉が見つからず、「は、はぁ……」と力の無い相槌を打つので精一杯だった。
115 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:30:39.33 ID:iCe2g1Pi0
一通り関節を伸ばし終えると、ようやく榎田はガスマスクを外した。
「ふぅ、んじゃ、これ、はい」
「えっ?」
唐突にそのガスマスクを手渡され、一条は呆気にとられた。
「まだ意味あるかどうかはわからないけど、これ着けとけば眠り病の原因の化合物の侵入は防げるはず。
それと、屋外だとちょっとの風にでも飛ばされて化合物は飛んじゃうからほぼ無害。
今日は何にも受け取らない日だろうけど、これはホント必要かもだから貰っといて……それと言葉ぐらいは受け取って、ハッピーバースデイ、これでまた一歩オジサンになったね」
未確認生命体が三度現れたという情報が発信されてから約三週間、この日、4月18日は一条薫の誕生日であった。
116 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:32:22.23 ID:iCe2g1Pi0
「その……ありがとう……ございます」
一条の誕生日、それは一条の父親の命日である。
一条の父は家族を大切にする人間であった。
その日も、仕事から帰って来たら一条に野球のネット裏の席のチケットをプレゼントするつもりで父は仕事へ向かい……殉職した。
それ以来、一条は誕生日にプレゼントを一切受け取らなくなった。
だが、このガスマスクは受け取らなければいざという時に困るので、誕生日プレゼントではないと自身に無理矢理納得させて受け取った。
その一条の表情は複雑なものだった。
「よし……んじゃ、椿くんから送られて来た化合物の解析終わるまで私は寝るわ。
もう眠くて眠くて……」
「最後に、一つ訊ねてもよろしいでしょうか?」
「ん?いいよ、何かな?」
「そのーー」
117 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:33:06.08 ID:iCe2g1Pi0
科警研を後にした一条は、椿に呼び出しを受け、関東医大病院に赴いていた。
「椿、何か掴んだのか?」
「あぁ……嫌な真実をな」
「嫌な真実?」
「熊谷和樹のレントゲンを撮った。
それがこれだ」
そう言って椿はレントゲン写真を指し示す。
何枚ものレントゲンが、パズルのように切られ、人型に重ねられていた。
「何だこのレントゲンは?」
「バラバラだったんだからしょうがねぇだろ。
んで、これ見て何か気づかないか?」
「何か?」
椿に促され、一条はレントゲン写真を注視した。
118 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:34:43.54 ID:iCe2g1Pi0
腹部に穴のような物が空いており、そこから白く神経が伸びて全身に絡んでいた。
一条には、それに見覚えがあるような気がして、必死に記憶を手繰り寄せた。
「……!五代!」
「その通りだ」
五代雄介、クウガのレントゲン写真と、今椿が見せているレントゲン写真は良く似ていた。
「違うのは腹部にアマダムが無いことぐらいだが、これは恐らくバラバラにされた時にB1号が回収したんだと思う」
「だが、これがどうかしたのか?クウガと未確認生命体のレントゲン写真が似ているということか?」
「いや、お前は見たことがないだろうから知らないだろうが、未確認のレントゲンは、こうはならない」
「……なに?」
「未確認は神経が完全に身体の一部になっているため、中央のアマダムから神経が伸びているようには映らない。
確かに、アマダムに神経が集中するものの、末端まで太く神経が行き渡るはずなんだ。
だが、第50号の手先などの末端に届いている神経は細い、つまり、こいつは普通の未確認じゃない」
「普通の未確認生命体じゃない!?
それなら、一体何だと……」
「お前は、このレントゲンが誰のに似てると言った?」
「……まさか!」
「そ、こいつは……熊谷和樹は……人間だ……いや、人間だった、が正しいかもな」
119 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:36:28.59 ID:iCe2g1Pi0
「…………馬鹿な」
「恐らく、五代と同じように腹部にアマダム……いや、未確認になる、クウガでいうアマダムに対応する何かを埋め込まれたんだろう。
そして、自分の意志で、未確認生命体になることを選んだ」
「自分の意志だという根拠は?」
「クウガは五代の意志に応えて力を与えた。
なら、推測でしかないが、向こうも同じなんだろう。
警察の報告書によると、熊谷和樹という人物は元から人間を嫌っていた様だしな、だから未確認の道を選択したのだと頷ける。
爆発せずに固まったのも、完全な未確認生命体ではなく、未確認生命体への変化の途中だったから……かもしれん」
「……人間は、遂に……未確認生命体と同じになってしまったのか……」
それは、一条が危惧していたことであった。
人間は、殺戮をゲームとして楽しむ未確認生命体とは違う。
一条はそう信じて、それを信じるために警察という職から人間を見続けて来た。
その一条に突きつけられたのは、人間は未確認生命体と変わらないという事実だった。
120 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:37:14.94 ID:iCe2g1Pi0
「……蝶野潤一」
「……?」
「覚えてるか?一条、蝶野潤一を」
「蝶野……潤一?」
一条はその名前を頼りに記憶の海の中を検索する。
最初に脳裏に浮上してきたのは、首に施された刺青だった。
その一欠片が見つかると、芋づる式に次々と記憶から蝶野潤一という人間に対しての情報がサルベージされて行った。
17年前、未確認生命体を捕らえたという一報が入った。
その男は第23号の殺しの現場の近くに居合わせ、未確認生命体の人間態の特徴とされるタトゥが首に施されていたことから第23号ではないかと疑われ、疑われた本人もそれを否定しなかったために警察に連行された。
後に、その男は未確認生命体ではなく只の人間であることが判明する。
その男こそが蝶野潤一であった。
蝶野が只の人間であることと共に、蝶野は病気であることも判明した。
蝶野はその病気から自暴自棄になっており、その経緯から未確認生命体という圧倒的な力に憧れ、首にタトゥを入れた、未確認生命体の信者だった。
だがしかし、椿に第23号に殺された遺体を見せられ、死というものと向き合わせられ、更に第23号に命を狙われ、クウガ、五代雄介に助けられたことで改心した。
121 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:38:02.42 ID:iCe2g1Pi0
「ああ、思い出した……」
「あいつもさ、馬鹿だったよな。
未確認生命体に憧れて、未確認生命体に成りたいってさ……
でもよ、自分の思いが間違ってたことに気づけたじゃねぇか」
「……そうだな」
「実はな……蝶野は7年前に病気が悪化して死んじまった……この病院でな」
「…………そうか」
「だが、アイツは最期まで人間として生きて……死んだ……人間として生きれたことを誇りに思ってな。
この熊谷和樹って男は手遅れだったが、蝶野みたいに、周りの人間が導いてやれば人は道を踏み外さない……俺は、そう思う。
だから、へこたれてる時間はねぇぞ!
熊谷和樹みたいな人間をもう出さないために、もう一体の未確認生命体とB1号を止めなきゃいけねぇだろ!しっかりしろ!一条!」
「……ふっ、お前にそんなことを言われるとはな……
ああ、落ち込むのは後だ、人間が未確認生命体になるなら、空白の時期は必要ない、日本語しか話さなかったことにも説明がつく……捜査をまたやり直さなければ……いけない……な……」
「……?……どうした?」
「いや……何でもない」
一条の中で、一つのビジョンが明確になって行く。
122 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:38:56.69 ID:iCe2g1Pi0
そんな中で、椿は思い出したように「あ、そうだ!」と声を出した。
「一条、この前ポレポレに行ったんだが、お前宛てに手荷物を渡されてな……あ、いや……今日は無理か?」
「手荷物の内容にも依るだろう。
俺はさっき榎田さんにガスマスクを持たされたよ」
「ガスマスクゥ!?」
「眠り病の原因のガス対策でな」
「はぁ……ま、俺も中身は見てないが、多分そんな有用な物ではないだろ、ほいコレ」
椿は小さな包みを投げて一条に渡した。
「おっと」
「手紙が着いてたが、そっちも俺は読んでない……なんか面白いことが書いてたら教えろよな」
「わかった」
一条は包みを開ける前に、その手紙を確認することにした。
123 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:40:08.06 ID:iCe2g1Pi0
一条は包みを開ける前に、その手紙を確認することにした。
封を切り、二つ折りされた手紙を取り出し、広げる。
その内容に目を走らせると、一条は首を傾げた。
その手紙に書かれていた内容は、至極簡単なものだった。
『最高の舞台への招待状です、受け取ってください。
PS.必要無くなったので、お返しします』
明らかに、おやっさんやみのり、雄之介の字ではないそれに書かれていた文の意味を理解出来ずに、とりあえず一条は包みを開くことにした。
そこには……
「っ!?」
一枚のアイドルのライブへのチケット、そして……『一発の銃弾』が入っていた。
124 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:41:01.98 ID:iCe2g1Pi0
銃弾の後部に書かれている文字から、いや、その前になんとなく理解出来た、それは、『神経断裂弾』だった。
それを認めた瞬間、すぐさま一条はポレポレへ電話を繋げた。
「お、おい一条、どうした?」
「……留守電!
……椿!おやっさんかみのりさんの連絡先を知らないか!?」
「はぁ?何だよいきなり……みのりちゃんの番号が確かスマホに……」
「早く繋いでくれ!」
一条の真剣な表情から、長い付き合いの椿は一刻を争う事態なのだと理解した。
「っ!後で説明しろよ、ホレ」
「すまない!」
椿のスマホを受け取りながら、駐車場へ急いだ。
125 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:42:31.60 ID:iCe2g1Pi0
その途中に電話が繋がり、スマホの向こうは騒がしかったが、確かにみのりの声が聞こえて来た。
『椿さん?どうかしたんですか?』
「一条です」
『あ、一条さん!贈り物、届きましたか?
ライブ、今日なんですけど……来てます?』
「今日だって!?」
慌ててチケットを良く見ると、公演日は4月18日となっていた。
『はい!いくつかの事務所のアイドルたちによる合同ライブらしいんですが、卯月ちゃんたちのところの事務所がシークレットゲストとして参加するらしくて!チケットをプレゼントしてくれたんですよ!
もちろん、一条さんにも』
「いいですか!今すぐそこから……」
『あ!すいません!もうすぐ次の娘たちのライブ始まるので切りますね、それでは』
「みのりさん!……みのりさん!……マズい!」
駐車場に着いた一条は、愛車に乗り込むとパトランプを着けて急いで今日のライブの会場へと向かった。
126 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:43:47.77 ID:iCe2g1Pi0
その間に、今までの情報を全て整理する。
一条は何度も思い付いては否定してきた答えに、またたどり着いた。
127 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:44:44.62 ID:iCe2g1Pi0
眠り病が広まった原因と思われる、事務所が社運を賭けて挑んだライブツアー、その全てに参加したアイドルは、稼ぎ頭のニュージェネレーションズの三人のみ。
眠り病の騒ぎの中心にあったCGプロ、そのアイドルたちが容疑者から外れた理由は、空白の時期の有無。
だが、椿からの情報から、今回の未確認生命体は、人間が未確認生命体へ変質した者であることが発覚した。
これならば空白の時期の有無は未確認生命体ではない証明にはならない。
つまり、彼女らも容疑者となる。
128 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:46:31.10 ID:iCe2g1Pi0
途中からポツポツと小雨が降り出した中、警察という立場でも許されないような速度で道路を疾走したことにより、かなり早くライブ会場が見えてきた。
129 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:47:15.63 ID:iCe2g1Pi0
そして、消えた神経断裂弾。
ついさっきのプレゼントから、神経断裂弾は盗まれていたということになる。
ならば、全員にその技術があると仮定して、盗めたのは……本田未央、龍崎薫、遊佐こずえ、島村卯月、一ノ瀬志希。
130 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:47:42.93 ID:iCe2g1Pi0
とはいえ、1時間は経過しており、CGプロはシークレットゲストとはいえ、ライブが始まるまでは秘密というだけで、CGプロが出るタイミングは特段遅くはない。
つまり、もう時間はない。
131 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:48:34.33 ID:iCe2g1Pi0
さらに、第50号の不自然な苦痛と実加の眠り病。
榎田ひかりに訊ねたのは……
『その、相手を選んで量子もつれを起こす場合、相手を見なくても可能なのでしょうか?』
『範囲によるかな、周囲何mの〜、とかなら見なくても大丈夫だろうけど、個人レベルでこの人とこの人を〜とかなら目視したり何だりで、個人を特定しないといけないだろうね』
つまり、公園でのあの時、第50号を狙うにはその姿を見ていなければいけない。
132 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:49:27.02 ID:iCe2g1Pi0
乱暴に車を会場前に止めると、ガスマスクを片手に持ち、会場入り口の警備員とスタッフに警察手帳を見せ、その確認をさせる時間もなく無理やりに近い形で会場に潜り込む。
警備員が追って来ることも気にせずにガスマスクを装着し、重い防音扉を力任せに開いた。
133 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:50:05.11 ID:iCe2g1Pi0
そして、眠り病のガスは屋外ではほぼ無害。
その状態で実加を眠り病にするには、かなり近距離まで近づいてなければいけない。
134 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:51:01.82 ID:iCe2g1Pi0
扉を開けた瞬間、会場内の熱気が一条を襲った。
その熱気に少し怯むと、その隙に会場の警備員に追い付かれる……が、警備員は一条に触れることなく倒れた。
確認するまでもなく、眠り病だ。
135 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:51:40.17 ID:iCe2g1Pi0
もし、薔薇のタトゥの女が消える直前に見せた微笑みが、一条に対する嘲笑でなかったとしたら……
一条の後ろへいた人物への、期待の笑みだったとしたら?
導き出される人物はたった一人……
136 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:52:18.62 ID:iCe2g1Pi0
会場内の観客たちは、一人残らず眠っていた。
そして、ステージの上には五つの影。
その中で倒れているのは四つ。
渋谷凛、本田未央、一ノ瀬志希、遊佐こずえ。
そして……ステージの上でたった一人、マイクを片手に、一条の方を見つめているのは……
137 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/02(日) 21:53:11.78 ID:iCe2g1Pi0
「…………島村、卯月」
138 :
◆ZfqRKaJB86
:2017/07/02(日) 21:58:06.21 ID:iCe2g1Pi0
これで四章終了です。
時間も遅いので、今日のところはここまでにしときます。
残りは明日の夜、九時ころに投下していこうと思います。
読んでくださり、また、コメントしてくださりありがとうございます。
改善点や文句、まだ途中ではありますが感想などありましたらお気軽にコメントしてください。
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/02(日) 22:09:40.12 ID:P5dF2Ewn0
ちょっぴりしきにゃん疑ってたけどやはりしまむーだったか
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/02(日) 22:33:58.97 ID:t1phZiubo
乙
これはすごい……いいぞ、すごくいい。きになるなぁ
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/02(日) 22:46:44.90 ID:svBZQ9PZ0
ゴヅ
ガンダシラグ!
142 :
◆ZfqRKaJB86
[sage]:2017/07/03(月) 12:47:34.30 ID:zktv0ZWZO
作者です。
少しネタバレになりますが、この後のシーンで歌の歌詞をガッツリ全部載せる展開にしてました。
ですが、少し調べてみたら、SSには原則的に歌詞は載せてはいけないと初めて知りました。
というか、知ってたら三章のライブシーンで歌詞いれてません……無知ですいません。
なので、そのシーンの歌詞を削って、その代わりにその歌の公開されているYouTubeの動画のリンクを張り付けようと思うんですが(そういうことをしているSSは見たことあるので、セーフなんですよね?)やり方がわかりません。
どなたか教えてくださると嬉しいです。
また、三章で『Star!!』の歌詞いれてすいません。
143 :
◆ZfqRKaJB86
[sage]:2017/07/03(月) 21:00:58.52 ID:uGT5zZja0
再開します
144 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:02:23.40 ID:uGT5zZja0
第五章「真相」
145 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:03:19.90 ID:uGT5zZja0
一条を見つめる卯月の目に宿るのは、意外にも困惑と不安、そして恐怖のように見えた。
右手に持っていたアタッシュケースから緩慢な動作でライフルを取り出し、贈り物で返された神経断裂弾を装填しながら、ゆっくりとステージへと歩を進める。
その間にトランシーバーも取り出して、応援を呼ぶ。
146 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:04:35.26 ID:uGT5zZja0
……未だに、この状況においても信じたくはない。
彼女が見せてきた笑顔の数々は……偽物だったのか?
未確認生命体を、『同じ人間』と称したのは、君なりの皮肉だったのか?
友人に慕われていた君は、偽りの姿だったのか?
答えが知りたい……だが、同時に、知りたくない。
笑顔の君が、全て偽りだったとは……知りたくない。
……ただ……ただひたすらに……哀しい。
五代の笑顔に重なる君の笑顔を……信じた。
だから、確信に変わり行く疑問を、振り払っていた。
……だというのに。
147 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:05:50.52 ID:uGT5zZja0
一条は、ステージにたどり着き、ステージの上に上がった。
銃口を卯月に向け、一条は動きを止めた。
「……け、刑事さん……ですよね?」
ガスマスクで顔の隠れている一条だが、服装や背格好から卯月は一条だと気がついた。
「卯月くん……君は……」
「違います!わ、私じゃありません!」
何を問われるかを察した卯月は、瞳に涙を浮かべて弁明する。
「歌ってたら突然……お客さんや凛ちゃんたちが倒れて……何が起こったのかわからなくて……そしたら刑事さんが来て……」
その様子は脅える少女のそれそのものだった。
148 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:07:05.69 ID:uGT5zZja0
……それも、演技なのか?
149 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:13:50.80 ID:uGT5zZja0
状況は卯月が未確認生命体だと如実に語っていた。
逆に、卯月のことを信じられる証拠は何一つ見つからない。
一条には、銃口を下げられる理由が無かった。
かろうじて一つ、銃口を下げるべき理由は、改正マルエム法。
その法律により、警察は未確認生命体が怪人形態にならなければ発砲は出来ない。
だが、未確認生命体をここで仕留なければこの先どうなるのかわかったものではない。
相手が未確認生命体であることがほぼ確実である場合、法律に従い撃たずに数万、数十万人を犠牲にすることと、法律を破りその数万、数十万人を守った末に一条一人が処分を受けることを天秤に掛けた時、どちらに傾くかは言うまでもない。
第50号に銃口を向けた時、一条の手は1mmの震えも無かった。
だが、今はそれが嘘のように銃を持つ手が震えている。
一条は未だに葛藤の中にあった。
150 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:14:50.37 ID:uGT5zZja0
正義感、そして危機感が引き金を引かせようと急かし、警察としての矜持、そして一条の瞳に焼き付いた卯月の笑顔がそれを止める。
「刑事さん……」
涙目で卯月がまっすぐに一条を見つめる。
『信じてください』、言葉にはせずとも、その瞳はそう語っていた。
151 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:15:57.28 ID:uGT5zZja0
……なぁ、五代……お前と似た笑顔の娘に会った。
152 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:16:44.98 ID:uGT5zZja0
その娘は、未確認生命体かもしれない……その可能性が高い。
153 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:17:54.94 ID:uGT5zZja0
それでも……お前ならその娘を信じられるか?
154 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:18:47.46 ID:uGT5zZja0
……その笑顔を信じられるか?
155 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:20:01.34 ID:uGT5zZja0
…………五代……お前の笑顔を……信じていいのか?
156 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:20:51.48 ID:uGT5zZja0
一条は……銃口を下げた。
157 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:21:55.21 ID:uGT5zZja0
「……詳しい話は署で聞く、悪いが、同行してもらうぞ」
「!……ありがとうございます、刑事さん!」
ほっとした様に、卯月が涙で濡れた顔を綻ばせた。
一条は肩の力を抜き、卯月に背を向けライフルのケースを取りに……行けなかった。
158 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:22:55.30 ID:uGT5zZja0
突如、一条の腹部に鋭い痛みが走った。
「な……」
あまりにも唐突なことで声が出なかった。
一条が視線を下げ、自らの身体を見れば、腹部に鋭い獣の爪が刺さっていた。
159 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:24:01.56 ID:uGT5zZja0
「あ〜あ、つまんないの」
その獣の爪から腕へ視線を移す、そこにあったのは白く細い女性の腕、さらに視線を顔まで移すと、その先にいたのは、島村卯月……ではなかった。
「…………志希……ちゃん?」
一条が刺されて数秒、ようやく衝撃から少しだけ回復した卯月が口を開き、僅かに空気を震わせた。
160 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:25:09.47 ID:uGT5zZja0
名を呼ばれた少女、一ノ瀬志希は爪を一条の身体から抜き、異形と化した右手を卯月に向けて振った。
「は〜い♪卯月ちゃ〜ん♪」
爪の先を一条の血液で赤く染めているというのに、その表情は心底楽しそうな笑顔だった。
その爪が抜かれた瞬間、一条が感じたのは凄まじい眠気だった。
身体中の筋肉が弛緩し、一条は膝をついた。
「刑事さん!」
崩れ落ちる一条の身体を卯月が走り寄って支えた。
一条はそれを振り払うことも出来ずに、大人しく卯月の腕に抱かれるしかなかった。
161 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:27:11.10 ID:uGT5zZja0
「志希ちゃん!何でこんな事を……お客さんも、凛ちゃんたちもみんな志希ちゃんがやったの!?」
「全く〜、今さら何言ってるの?
この状況を見たらわかるでしょ?
これはぜ〜んぶ志希ちゃんがやったの♪
理由はね〜?」
志希が左手を首筋に当てる。
その手で皮膚を掴み、引っ張ると、志希の首の皮膚がペリペリと剥がれた。
その下から現れたのは、猫をかたどったと思われる黒い刺青。
それは、奇しくも未確認生命体に憧れた男、蝶野潤一が刺青を入れていた場所と同じだった。
人工皮膚、医療でも使われるその簡単な偽装方法で、志希は未確認生命体の証拠を隠し続けていたのだ。
「志希ちゃんが〜、もう人間じゃないから♪」
志希の皮膚が変化する。
黒い皮膚が盛り上がり、新たな姿へと変わって行く。
それは、まるで志希が人間という殻を破り、未確認生命体の姿へ脱皮したかのように見えた。
美しく均整のとれた体型はそのままに、その身体は黒い体毛に覆われ、その目は縦に一本黒い線が走る金、ピンと立った黒い獣の耳。
ネコ型の異形、未確認生命体第51号、それが今の一ノ瀬志希だった。
「じゃ〜ん♪」
志希は爪を短くし、自分の姿を披露するように両手を広げた。
162 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:28:19.15 ID:uGT5zZja0
それを見る卯月の表情には困惑が浮かんでいた。
「く……あ……」
舌の筋肉すら弛緩する凄まじい眠気に精神力で抗い、一条はライフルを志希に向けた。
だが、引き金を引こうとしても、眠気が増す一条の握力では引き金を引き切れない。
「それにしても、興ざめだよ刑事さん。
せっかくキミを選んだのに」
「選……ん……だ?」
「まだ喋れるんだ、凄いね〜♪
私のゲゲルのフィナーレ、その幕を下ろす役、だったんだけどにゃ〜」
少しずつ、志希の姿が元に戻る。
未確認生命体から人間に戻り、志希はため息をついた。
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 21:30:49.01 ID:UZXCNhKQo
YOUTUBEのリンクはそのままはりつけるだけでいいよ、期待してるからがんばって
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 21:34:12.15 ID:IENKODYmO
クウガのssは基本ハズレが無いってのが凄いわ
165 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:38:56.56 ID:aNWtHagf0
「……どういうことですか?志希ちゃん」
「その刑事さんに通じるように話すね、卯月ちゃんには刑事さんが寝ちゃった後、詳しく教えてあげる。
……私はね、最後のスイッチを持ってない。
私が持ってるのは、任意の人物をお薬の量に関係なく起きたままの状態を保たせるスイッチと逆にお薬の量に関係なく眠りへ誘うスイッチ、熊ちゃんへの攻撃スイッチだけ。
最初のスイッチを使わないとお客さんの前にアイドルのみんながぐーすか眠っちゃうでしょ?そこのおかしさに気付かなかった?
んで、二番目のスイッチで女刑事さんを眠らせたの……あ、君は私たちにカウンセリングしてない分ちょっとお薬が足りなくてね、そのまま眠らせようとしても眠らないかもしれなかったから追加したんだ。
んで、本物の攻撃スイッチは〜……卯月ちゃんの頭の中♪
卯月ちゃんの脳の電気信号が無くなると作動するんだ〜♪
スイッチを押すのは私じゃなくてキミ……だったんだけど失敗しちゃった♪
だから真実を知ったキミには眠ってもらうよ、後は別の人間にスイッチを押してもらう。
……人間の手で、人間の正義感で、人間を殺させる……面白いと思わない?」
166 :
◆ZfqRKaJB86
[sage]:2017/07/03(月) 21:40:13.68 ID:aNWtHagf0
>>163
さん
やり方を教えて下さりありがとうございます
167 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:41:12.93 ID:aNWtHagf0
「……どこが……どこが面白いんですか!
志希ちゃん……お願いですから、もうやめてください……こんなのおかしいですよ……」
「おかしいかにゃ〜?
動物が他の動物に淘汰される、これは自然なことだよ?」
「そこじゃありません……志希ちゃん、本気でこんなことしてるの?」
「……何言ってるの?」
「志希ちゃん……本当はこんなことやりたくないですよね?」
「……はぁ、この状況でもまだそんなこと言ってるの?」
ため息の後、志希は再び未確認生命体の姿へと変わった。
「全ては私の意思、グロンギになったのも、このゲゲルをしたのも、卯月ちゃんを刑事さんに殺させようとしたのも」
「でも……志希ちゃん……」
「……あ〜、本当イラつく。
私ね、卯月ちゃんのこと大嫌いだったの」
「え……?」
「特別な何かを持ってる訳でもない平凡な娘。
それがアイドルとして持て囃されて、この私に対等に接してくる。
オマケに人に理想を押し付けて、人を測る。
それが本当に大嫌い。
これが私、この姿が私。
卯月ちゃんの理想を挟む余地の無い、この化け物の姿が私なの」
「志希ちゃん……」
「……それ以上話すと……ここで殺すよ?」
極めて冷淡に、志希は言った。
そして、ゆっくりと卯月に手を伸ばす。
168 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:42:05.14 ID:aNWtHagf0
「う……おぉ……」
眠気に支配される身体を精神力で一条は必死に動かす。
それは、市民を守るという警察の使命。
未確認生命体となった志希に卯月は触れさせないという、強い意思。
その精神力を持って、一条は、腹部の傷口に左手の人差し指を突っ込んだ。
「ぐああああああああ!!」
激痛。
流れ出る鮮血。
それに構わず更に傷口を抉る。
169 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:43:04.04 ID:aNWtHagf0
「ぐううぅぅ!!」
「刑事さん!?」
「おっと?」
脳髄を焼く痛み。
それが一条の意識を覚醒させる。
一条は血走った眼で志希を睨み付けた。
「それ以上近寄るな」
血液の流れ落ちる腹部も、血液が流れないように一条の傷口を手で押さえようとする卯月も気にせず、ライフルを構え、銃口を志希に向ける。
170 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:44:07.09 ID:aNWtHagf0
激痛により一時的に握力は戻っている。
「ここまでとは……キミを選んで正解だったよ」
志希の皮膚が脈打つ。
志希の形態が変化して行く。
それを待たずに、一条は手の震えを消す。
数秒前まで眠気に支配されていた脳内には、もう無駄な思考は一切無い。
当てる、ただそれだけ。
一条は、右手に込める力を一際強くした。
171 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:45:01.21 ID:aNWtHagf0
「ダメぇ!」
その右腕に、卯月が抱きついた。
同時に、銃声。
放たれた弾丸は、卯月の妨害も虚しく、真っ直ぐ飛んで行き、志希の眉間に命中する。
「うわっ!?」
「卯月くん……キミは……ま……だ……」
『一ノ瀬くんを信じているのか』そう続ける前に、精神力の全てを使い果たした一条の意識は闇に落ちて行った。
172 :
◆ZfqRKaJB86
[sage]:2017/07/03(月) 21:48:32.58 ID:aNWtHagf0
短いですが、これで五章終了です
>>139
さんが志希にゃん疑っていると見た時はドキリとしました(笑)
志希にゃんが卯月を未確認生命体だと一条さんに何をしたか、不明な部分は後々明らかになります。
173 :
◆ZfqRKaJB86
[sage]:2017/07/03(月) 21:49:37.27 ID:aNWtHagf0
では、引き続き六章を投下していきます
174 :
◆ZfqRKaJB86
[saga]:2017/07/03(月) 21:50:22.66 ID:aNWtHagf0
第六章「決意」
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