千歌「私のぴっかぴか音頭・タイムトラベル」

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302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:52:32.20 ID:smyUCZOA0


千歌「私が、不安だったんだ! 私が、それでももう一度って思ったんだ……っ!」


千歌「私が『皆』と出会ったんだっ! 私が、大事なこと、教えてもらったんだ……っ!」


千歌「私が、帰りたいって思ったんだっ! ずっとずっと、私が選んできたんだっ!」


千歌「全部全部、私なんだ……っ! 私の想いなんだ……っ!」





千歌「私が、『私』がっ!!」



絞り出すように、ねじ切るように、叫んだ。



千歌「私が、Aqoursのリーダーなんだ……っ!!」





曜「……やっと、言えたね」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:53:21.36 ID:smyUCZOA0


そっと、曜ちゃんは私を抱きしめた。


夜の海が、眩い光に包まれていく。

煌々と辺りを照らす光は、私の胸から広がっていた。


眩暈と、体中を巡る熱で、くらくらと視界が歪む。




曜「千歌ちゃん」


曜「それが、千歌ちゃんだよ」


曜「私は、ううん、私たちは――」


曜「いつでも、どこでも、何があっても、千歌ちゃんのこと、信じてるから」



曜ちゃんの腕が白く光っている。

海が白く光っている。

世界が、白く光っている。



そして、私の意識は―――





―――――――

―――――

―――

304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:54:03.74 ID:smyUCZOA0

『諦めないで、会いに来て――』
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/20(火) 04:57:03.84 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


白かった。

床も、空も、周りの景色も、全てが真っ白だった。


『やっと来たね』

どこかから、声が響いてきた。


千歌「……ここ、は……?」


『うーん、私もよくわかんないんだ。ほら、千歌バカだから』


千歌「私の、声……?」


『そうだよ。私、高海千歌』


千歌「私、どうなったの?」


『もうすぐ、帰れるよ。旅が終わるよ』

私の声は、そう言った。


千歌「そう、なの……?」

306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/20(火) 04:58:29.94 ID:smyUCZOA0


あの日。あの盆踊りの日から始まった旅。

「過去を想う日」

そう言いながら踊った日だった。


『色んな条件が重なっちゃったんだ』


『まず、私――ううん、あなたたちは、船に乗った』


ギイギイ揺れる船の上を思い出す。



『手紙を送った。ランタンにして、たくさん、たくさん……。それが、道になった』


淡島はオレンジ色に包まれていた。柔らかい光だった。

私たちは、そのランタンに過去への手紙を書いた。



『思い浮かべた。もしもこうだったら……。過去を、想った』


もしもの夢。9人分の夢を、私は見てきた。



『そして何より、お盆だった。過去との橋が架かる日だった。道と、乗り物と、想いと……。全部揃えたあなたたちは、過去へ飛んだ』

307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:59:17.96 ID:smyUCZOA0


千歌「ちょ、ちょっと待って、『私たち』ってことは、皆も……!」


『そうだよ。千歌だけじゃない。皆も違う過去に飛んだ。それぞれ迷って選んで、たどり着いた』


「私」が一番遅かったみたいだけど。

私の声が可笑しそうに笑った。


千歌「そう、だったんだ……」


千歌「どうしてそんなに詳しいの? あなたは、私なんだよね」


『そうだよ、私は高海千歌。詳しいのはね、私だったから。全ての始まりは、私で、あなただったから』


千歌「どういう、こと……?」

308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:00:14.34 ID:smyUCZOA0


『7月15日、私はあなたのところに行った』


千歌「7月、15日……?」

千歌「それって志満姉が言ってた……」


『そう、7月盆。もう1つのお盆なんだって。詳しいことはわかんないけど』


千歌「その時……」


『覚えてるんじゃないかな。「元の」7月15日、あなたが何をしたか』


千歌「私は……」


7月15日。私は、不安だった。

東京でのライブがあったばかりだった。

悔しい思いをして、海の中で泣いたばかりだった。

自信を無くしていた。


千歌「私は、ナスとか、キュウリとかを並べて……」



『そう、精霊馬に、あなたは願った。曜ちゃんがリーダーだったら、上手く行ったのかな。そう願った』

309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:01:16.19 ID:smyUCZOA0


『だから、私が来たんだ。私は、過去のあなた。あなたが選ばなかった、高海千歌。精霊馬に乗って、私はあなたと一緒になった』


千歌「私と、一緒に……?」


『そうだよ。私は、あなたの中からあなたを見ていた。あなたの願いも、逃げ出したい不安も、全部わかった』


『だから、揃えたんだ。手紙も、想いも。Aqoursの皆に提案までして、過去に戻れるように』


千歌「Aqoursの皆に、提案……。ひょっとして、あの夢の……!」


『そうだよ。あれは、私がやったんだ。あなたはその間、私と交代して眠っていた。だからあんまり覚えてないみたい』


千歌「そういえば、あの時期、たまに気がついたらぼうっとしてた……」


『まさか、あんなにぐちゃぐちゃになるなんて、Aqoursがなくなるなんて、思ってなかった。焦って、ちょっとした言葉しか残せなくて……』


千歌「会いに来て、って……」


『うん、でも、会いに来てくれた』


千歌「……」
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:02:05.36 ID:smyUCZOA0


『あなたは、選べるよ』


千歌「え?」


『ここから進むか、ここから戻るか。リーダーだって、辞められるよ。責任だって、負わなくていいんだよ』


『「私」は、どうするの?』


千歌「……」

千歌「梨子ちゃんが、教えてくれたんだ」


『梨子ちゃんが?』


千歌「私は、Aqoursのこと、大好きなんだって」


千歌「曜ちゃんが約束してくれたんだ。いつでもどこでも、絶対待ってるって」


千歌「ダイヤさんが背中を押してくれたんだ。諦めないで、選び続けなさいって」


千歌「ルビィちゃんが励ましてくれたんだ。大好きだったら大丈夫って」

311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:03:22.89 ID:smyUCZOA0


千歌「善子ちゃんが気づかせてくれたんだ。無駄なことなんかないんだって」


千歌「花丸ちゃんが見せてくれたんだ。その先に奇跡があるんだって」


千歌「鞠莉さんが叱ってくれたんだ。スクールアイドルを信じるんだって」


千歌「果南ちゃんと一緒に考えたんだ。不安も、怖さも……全部全部抱きしめて、先に進んでいけるんだって」



千歌「私は、気づいたんだ。今までの私が……今までの想いが、経験が、過去が、全部全部積み重なって、私になるんだって」


千歌「どれか1つでも欠けたら、私じゃないんだよ」


千歌「そんな私を、皆は信じてくれてるんだ」



『……そっか。見つかったんだね』


千歌「うん、私、先に進むよ」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:09:32.44 ID:smyUCZOA0

『うん、千歌は――あなたは、先に進んでいける』


千歌「あなたは、どうなるの? これまでの世界の千歌は、どうなるの?」


『私は、たくさんの私たちは、また戻るよ。これまで通り、私の世界で過ごしていくんだ』


『でもね、私たちの想いは、あなたの一部になる。あなたが残した想いは、私たちの一部になる』


『全部の想いが混ざり合って、私になるんだよ』



千歌「私、全部背負っていけるかな」


『大丈夫。あなたはもう、皆から受け取ってるよ』


千歌「え?」


『旅の途中で、もらったはずだよ。8人分の、入部届を』


『あなたはずっと埋めてきたはずだよ、自分の、Aqoursの、歌詞ノートを』


何もない真っ白な空間から、みかん色のノートがゆっくり落ちてくる。

その周りを踊るように、8枚の小さな紙がひらりひらりと舞っている。

313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:10:43.40 ID:smyUCZOA0


ノートを受け取る。


表紙には、Aqoursと書いてあった。ページをぺらぺらとめくって、また閉じる。

裏表紙には「高海千歌」


――私の名前。


『想いを乗せて、歌詞を書いて、日々を積み重ねて……そうやってページをめくった先には、あなたがいるから』


『皆が悩んで選んだ想いが、入部届には詰まっているから』



『それがあれば、大丈夫』


『それは、あなたの、皆の、大切な――――未来へのチケットだから』


千歌「未来への、チケット……」


『願って。Aqoursの想いに』


千歌「うん」




千歌「私、皆の所へ帰りたい。皆と、未来へ進みたい」






―――――――

―――――

―――


314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:11:13.44 ID:smyUCZOA0


―――――

―――


315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:12:50.65 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


8月15日、桟橋の上、日は既に傾きかけ。

予報通り熱帯夜を迎えつつある内浦の海を、熱を孕んだ空気がもやりと包んでいた。


梨子「……なんだか、不思議な気分」

浴衣を着た梨子ちゃんがぼそりと呟いた。


曜「ほんとだよね。とんでもないことに、巻き込まれてさ」

ルビィ「だ、だだ大丈夫だよね、また飛ばされたりしないよね」

千歌「……大丈夫。私たちは、もう大丈夫」


果南「おーい、そろそろ船が出るよー!」

鞠莉「もう、果南ったらまた帯が曲がってるわよ」




全員が目を覚ました時、私たちは浴衣を着たまま、お祭り会場の控室で肩を寄せ合って眠っていた。

時計を見た誰かが大声を上げた。

私たちはお互いの旅の経験も話し合えないまま、慌てて船に乗り込んだ。


でも大丈夫。これから、いくらだって時間がある。

私たちは9人一緒に、未来に向かって進んでいくんだから。

316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:13:35.29 ID:smyUCZOA0


千歌「ねえ!」

曜「どうしたの、千歌ちゃん?」

千歌「今日が終わったらさ、歌詞を作ろうよ! 次の曲は、皆でさ!」

花丸「皆で、歌詞……楽しそうずら!」

ルビィ「わあ……! 今からわくわくするね!」

善子「ククク……ッ、このヨハネの刻を超えた黙示録が聞きたいって、そういうことね!」

梨子「それは少し違うと思うけど……」

ダイヤ「ええ、でも、いい案ですわね。わたくしたちの、再出発ですわ!」

千歌「ね、でしょでしょ!」


きゃあきゃあと騒ぎながら船に乗る。

私たちを、過去に連れて行った船。


今度は、未来へ。

皆、悩みながらここへ辿り着いたんだ。

私たち、これからなんだ。


千歌「もう、迷わない!」

全部全部抱きしめて、新しい世界へ出発するんだ。

317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:14:10.91 ID:smyUCZOA0


果南「ふふっ、それも楽しみだけどさ、今日は、まず……」

鞠莉「Yes! 前は途中でくらっとしちゃったけど……盆踊り、楽しむわよ!」


にこにこと笑顔で、私たちは配置につく。

私は先頭で提灯を掲げる。




「「「あっちから こっちから よっといで―――」」」




くるりと回る。

8人分の笑顔が目に入る。


「皆」はどうしてるかな。

それぞれの時間を過ごしているのかな。

それとも、盆踊りに誘われて、見に来てくれているのかな。

318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:16:39.49 ID:smyUCZOA0


蝶が飛んでいた。

ひらひらと、楽しそうに飛んでいた。

私、帰ってきたよ。

大切な世界に。大切な皆の隣に。



「「「あっちから こっちから よっといで―――」」」



ふわふわと上下に揺れるランタンの灯りの中、私たちの船が出た。



不思議な旅だった。甘くて苦い旅だった。

きっと、ずっとそうなんだろう。

これから味わうこと全部、甘くて苦いんだろう。それでも。

それでも、私たちは感じたもの全部を胸に抱いて、少しずつ少しずつ、歩んでいく。



これは、そんな旅だったんだ。


私のぴっかぴか音頭・タイムトラベル。


―――私が私に出会った物語。









End



319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:17:30.69 ID:smyUCZOA0
おわりです。長々とお目汚し失礼しました。
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:18:49.05 ID:smyUCZOA0
以下過去作です。


ダイヤ「あ、この写真…。」

曜「見て!イルカの真似ー!」

花丸「今日も練習疲れたなあ…。」

梨子「ほ、本当にこのメンバーなの…?」

果南「これだから金持ちは……」

鞠莉「果南が…」千歌「戻ってこない…?」

321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 11:44:08.65 ID:hUgahH4KO
おつおつ〜
感動したよ
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 11:45:26.66 ID:daJQN0MyO
おつ

だーっと読んだから帰ってからもう一回読むわ
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 11:55:23.99 ID:Dpbg3RwA0
乙乙
久しく読みごたえのあるSSに出逢えた、感謝する。
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/20(火) 12:07:39.52 ID:W2/RqEGY0
長けりゃバカみたいに持ち上げられるな
ウザイわ
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 16:46:05.97 ID:H8y6/U4p0
面白かった

他メンバー視点の攻略も気になるな
誰視点が一番高難易度だったんだろう
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/21(水) 05:34:58.18 ID:XTS2P8dZo


すごい力作だった
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 20:12:23.90 ID:+OfO5beZ0
冒頭の船で踊るシーンはすでに一度改変られた曜ちゃんリーダーの世界て、最後は直接に最初の世界の8月ヘ飛ばされた…ってこと?

こまけえこと抜きで今回も面白かった乙。
それぞれのもしもは着眼点が良くて、ギャップを見せながらもちゃんとキャラに沿っててみんなかわいい。ダイヤ部長の安心感好き。
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/03/24(火) 07:08:22.30 ID:joL8Xqgk0
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