千歌「私のぴっかぴか音頭・タイムトラベル」

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180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:15:50.11 ID:smyUCZOA0


――――


ダイヤ「……千歌さん、そろそろ……」

千歌「ううん、絶対来るよ。絶対」

ライブの後。制服に着替え終わり、私とダイヤさんは体育館にとどまっていた。

薄暗くなった体育館は少し冷えてくる。


ダイヤ「待つなら、部室の方が――」

ダイヤさんが急に言葉を切る。

外から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

花丸「――ほら、ルビィちゃん」

ルビィ「う、うん、でも……」

花丸「もう、それなら……えいっ!」

ルビィ「ぴぎぃ!!」

倒れこむようにして、ルビィちゃんが入ってきた。

181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:16:22.61 ID:smyUCZOA0


千歌「ほら、来たよ、ルビィちゃん」

ダイヤ「……ルビィ」

ルビィ「……千歌さん、お姉ちゃん」

ゆっくり身を起こすと、ルビィちゃんはダイヤさんと向き合った。

乱れた髪を手で払って直す。

やがて、ルビィちゃんが遠慮がちに口を開いた。


ルビィ「お姉ちゃん、今日のステージ、楽しかった?」

ダイヤ「……ええ」

ルビィ「そっか」

ダイヤ「ルビィは……」

ダイヤ「ルビィは、楽しかったですか?」

ルビィ「……うん。楽しかった。お姉ちゃんたちきらきらしてて、楽しそうで……。一緒に踊りたいってそう思ったよ」

ダイヤ「そう、ですか」

嬉しそうにそう言った後、ダイヤさんは目線を下げた。
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:16:49.65 ID:smyUCZOA0


ダイヤ「どうして、今まで……」


ルビィちゃんは少し迷った後、一言だけ答えた。

ルビィ「お姉ちゃんが、泣いてたから」

ダイヤ「わたくしが?」


ルビィ「ルビィに、スクールアイドルやらないのって聞くたびに、やりたい、やりたいって、お姉ちゃんは心で泣くの」

ダイヤ「……!」

ルビィ「ルビィに、この雑誌はどうですか、このCDはどうですかって聞くたびに、自分も踊りたい、歌いたいって、お姉ちゃんは心で泣くの」

ルビィ「ルビィはね、気づいてほしかったんだ……。お姉ちゃんが、ルビィに自分を重ねてたこと」

183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:17:43.97 ID:smyUCZOA0


ぽつぽつと語るルビィちゃんの言葉を、ダイヤさんはじっと目を閉じて聞いていた。

ルビィ「Aqoursをもう一度やりたいのは自分なのに、それをルビィに押しつけちゃってたこと」

ルビィ「お姉ちゃんに、もう一度好きなことをしてほしかった。それで、ルビィも一緒に踊れたらって思ってた」

ルビィ「一緒に踊りましょうって、またそうやって誘ってくれるまで待とうと思ったの。それが、ルビィの精一杯の意地だったんだ」


ダイヤ「そう、だったのですね……。わたくしの、わたくしの後悔は、もしもという夢は、全て……」

呆然と、けれど納得したように、ダイヤさんは呟いた。


ルビィ「どうしたら本心を話してくれるんだろう。ルビィが頼りないのがダメなのかな。そう思って、だから――」

ダイヤ「確か、ルビィが急に家のことに積極的になったのは……」

ルビィ「うん……。髪も伸ばして、お弁当も作って、お洗濯も、お皿洗いも、習い事も、全部やったけど、お姉ちゃんは本心を話してくれなくて」


ダイヤ「わたくしも、同じでしたわ。どうしたらルビィは本心を見せてくれるのだろうと思っていました」

ダイヤ「あなたは家事をこなして、やりたくもない習い事もまた始めて。それなのに夜な夜な雑誌を広げて」

ダイヤ「普段厳しくしすぎたのかと思いました。不思議な夢も見ました。毎日ルビィにスクールアイドルの話を振りました」

ダイヤ「それでもルビィは本心を話してくれませんでした」

184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:18:16.01 ID:smyUCZOA0


ルビィ「ルビィたち、似た者同士、なのかな」

ダイヤ「ふふ……姉妹ですからね」


ルビィ「でも、もう大丈夫。お姉ちゃんは素敵な友達に背中を押してもらえたから。ルビィも、大好きな友達に背中を押してもらったから」

ダイヤ「そうですわね……」

ダイヤさんがごほんと咳払いをして、私の方に向き直った。



ダイヤ「千歌さん。ありがとうございます。これで、十分です。これで、千歌さんを送り出すことができます」

千歌「ダイヤさん……」

ルビィ「……?」

千歌「そっか、ルビィちゃんは、全部は聞いてないんだよね」

ダイヤ「わたくしと千歌さんで説明しますわ」


千歌「えっと、簡単に言うとね、私―――」



―――――

―――
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:18:48.00 ID:smyUCZOA0


――――


ルビィ「えっと、千歌さんが盆踊りを踊って、今が夢で、ルビィたちが……?」

ルビィちゃんは目をぐるぐる回して疑問符を浮かべている。

ダイヤ「やはりルビィには難しすぎましたか……」

ルビィ「そ、そんなことないよぉ!」

呆れるダイヤさんに、ちょっぴり困り顔のルビィちゃん。

見慣れた光景に、つい和んでしまう。


千歌「あはは、仲良くしてね」

ルビィ「千歌さん……」

ルビィ「これで、お別れなんですか?」

千歌「うん、私は『先』に行くよ。ダイヤさんが、背中を押してくれたから」

ダイヤ「ええ、歩みを止めてはいけませんわよ」

千歌「……はい、ありがとうございます」

ルビィ「うゅ……。せっかく、仲良くなれたのに……」

ルビィちゃんがうるうると目を潤ませている。
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:20:01.86 ID:smyUCZOA0


千歌「ルビィちゃん」

千歌「ルビィちゃんと私はね、同じユニットになって、とってもとーっても仲良くなるんだよ」

ルビィ「そ、そうなんですか……?」

千歌「うん、だから泣かないで」

ルビィ「でも、千歌さんが行っちゃったら、千歌さんはどうなるんですか。ルビィたちは、どうなるんですか」

千歌「……ごめんね、千歌バカだから、わからないんだ」

ダイヤ「きっと、それは誰にもわからないことだと思いますわ。それでも、千歌さんは進もうとしているのです」

ダイヤ「それでも、千歌さんは選ばなくてはならないのです。……わたくしたちは、応援しなければ」

ダイヤさんの優しい声が響く。


ダイヤ「……ルビィ。そろそろ……」

ルビィ「……」

ルビィ「……うん」

2人が手を握り合い、まっすぐに私を見る。



ダイヤ「親愛なるルビィ……わたくしと、そして千歌さんたちと、スクールアイドルをやってくれませんか?」


ルビィ「うんっ! 喜んでっ!」


体育館が、光に包まれた。
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:21:02.89 ID:smyUCZOA0


ルビィ「ぴっ……!」

驚いたようにルビィちゃんが叫び声をあげる。

ダイヤ「なるほど、これが……」



ダイヤさんの視線の先、ゆっくり交差しながら、2枚の紙が落ちてくる。



『入部届 黒澤ルビィ』


『仮入部届 黒澤ダイヤ』



音もなく床を滑った『入部届』を、ダイヤさんが拾う。

ダイヤ「仮……わたくしは、もう少し後から、というお話でしたわね」

千歌「うん……ダイヤさんは、大事な友達をずっと待ってるんだ」


千歌「でも、もう千歌が予約しちゃったよ! いくらダイヤさんでも、逃げられないのだ!」

びしっと指を突き付けて、ありったけの力を込めて叫ぶ。


ダイヤ「……っ」

ダイヤ「……まあ、それは、困ってしまいますわね」

ダイヤさんが笑う。

ダイヤ「ふふ……」

本当に可笑しそうに、お腹に手を当てて、くるりと後ろを向く。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:21:52.68 ID:smyUCZOA0


ダイヤ「……ふふ、うふふ、うっ……くっ……」

口に手を当てたまま、ダイヤさんは微かに身体を震わせている。

ルビィ「お姉ちゃん……」

ダイヤ「な、なんですの……っ」

千歌「ダイヤさん……」

ダイヤ「早く、早く……っ、その入部届をっ……受け取りなさいな」


掠れた声を聞くうちに、私まで胸がよじれそうだった。

言われた通りに、『入部届』に手を伸ばす。


千歌「ダイヤさん、ルビィちゃん、ありがとう。千歌、行くね」


ゆっくりと手を伸ばし、紙に触れた。

189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:22:26.52 ID:smyUCZOA0


強烈な眩暈に襲われる。


千歌「……っ」


視界に見えるものが、白く形を失っていく。


ルビィ「千歌さんっ!」


ルビィちゃんが腰に抱き着いてくる。

その感覚もだんだんとふわふわ溶けていく。


ルビィ「千歌さんなら、きっと大丈夫です! 大好きだったら大丈夫……。ルビィに、そう教えてくれたから」


ダイヤ「目指す先を、見失ってはなりません。信じて、選び続けなければなりません。それでも、貴方ならきっと……」


ルビィちゃんの優しい声が、ダイヤさんの震える息が、周りの音が重なり始め、意識が遠のいていく。


最後に見たのは、まっすぐ私を見上げるルビィちゃんと、おずおずとこちらを振り返るダイヤさんの、同じ色の潤んだ瞳だった。





―――――――

―――――

―――
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:23:06.21 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


カリカリとペンが動く音が聞こえる。

少し止まって、またカリカリ。


ダイヤ「過去への手紙、ですか……」

ルビィ「うぅ、迷っちゃうなあ」

花丸「お盆らしいと言えば、そうなのかな……?」

果南「なるほどね……。あー……、私たちは、言いたいこといっぱいだよね」

まったくですわ、とダイヤさんが笑っている。


狭い部室の中、皆が思い思いの方向に身体をむけている。


一瞬訪れた静寂を、蝉の声が埋める。

やっぱり私は、強い既視感を感じていた。

191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:24:08.99 ID:smyUCZOA0


『『……千歌さん』』


声が聞こえる。

きらきらと穏やかに乱反射する、宝石のような声が。


『ずっと、思っていました。もしも、ルビィに優しくできていたら、どうなっていたのだろうかと』


『つらくあたらなければよかったのに、ルビィの趣味を咎めなければよかったのにと』


『ですが、あの時期。あの苦しかった時期は、わたくしのルビィへの甘えであり、同時にそれまで本気であったことの証左でもありました』


『そして、甘えるわたくしを支えてくれたルビィへの感謝を、わたくしは忘れたくはありません』






『ずっと思ってたんだ。もしあの時、お姉ちゃんを助けられていたら、もっとよかったんじゃないかって』


『家事とか、生徒会とか、家のこととか、もっとお姉ちゃんの負担を減らせたんじゃないかって』


『でも、お姉ちゃんが怒ったり、泣いたり、そういう弱音を吐くのは、黒澤家の中で、いつもルビィの隣だったんだ』


『ルビィも、助けになれていたんじゃないのかな。ちょっとくらい、特別な場所だったって、うぬぼれてもいいんじゃないかなって、思うんだ』



2人の影が、混ざって溶けた。


192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:24:47.89 ID:smyUCZOA0

――――――――――#3「私と夢」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:25:22.69 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


目が覚めた。

千歌「う、うーん……」

木の感触を感じる私の頬の上で、穏やかな声が交わされている。

曜「あ、千歌ちゃんおはよーそろ!」

曜ちゃんの声。

ルビィ「もうすぐ衣装ができます! ふんばるびぃ!」

ルビィちゃんの声。

顔を上げて辺りを見回すと、そこは少しだけ物が増えた部室だった。

梨子ちゃんは楽譜と睨めっこしていて、曜ちゃんとルビィちゃんはチクチクと衣装を縫っている。

ルビィちゃんの髪は2つに括られている。

ダイヤさんと果南ちゃんは、部室にいなかった。
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:26:11.52 ID:smyUCZOA0


梨子「歌詞係さん、よく眠れた?」

とげとげした梨子ちゃんの言葉に目を下ろすと、書きかけの歌詞ノートがあった。

少しずつ、歌詞が埋まっている。

私の記憶にあるところまで、少しずつ近づいている。


千歌「その先には、何があるんだろう。1つ1つ、思い出を取り戻していって、白紙のページを全部埋めて」

千歌「最後のページには、何があるんだろう。その先には、何が待っているんだろう」

梨子「何だかロマンチックだね。それ、歌詞?」


千歌「……ううん、違うよ」


ちらりと携帯を見る。

6月10日。

あと4人。
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:26:55.66 ID:smyUCZOA0

#4「私の今」
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:27:30.23 ID:smyUCZOA0


――――


「この」世界で、私たちは4人でスクールアイドルをやっているようだった。

Aqoursという名前も復活していた。

歌詞ノートの表紙を見て、じんと胸が熱くなった。


梨子ちゃんと、曜ちゃんと、ルビィちゃんと。

4人で使う部室は、にぎやかなようで物足りなかった。

相変わらず廃校の話は聞かなかった。

私たちは、ただラブライブ出場という目標を掲げて活動していた。


千歌「それでも、立ち止まったらダメなんだよね、ダイヤさん」


ダイヤさんに会いに生徒会室に行ったが、用がないなら邪魔をするなと追い返された。

その裏で砂浜にAqoursなんて書いていたことを、私は知っている。
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:28:03.00 ID:smyUCZOA0


花丸「いつもありがとうございますー」

私たちが部室で集まっていると、花丸ちゃんがのほほんとした声で部室に入ってきた。

ルビィ「あ、花丸ちゃん! さっきぶり!」

花丸「ルビィちゃん、さっきぶり」

梨子「取材、いつも大変そうだね。お話はだいぶ進んでるの?」

花丸「うーん、なかなか難しくて」

困ったように花丸ちゃんが笑う。

花丸ちゃんは、文芸部に所属している。

校内新聞に小説を掲載していて、クラスでは冗談交じりに『先生』なんて呼ばれているそうだ。

「前に」聞いた話と変わっていない。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:28:39.68 ID:smyUCZOA0


曜「花丸ちゃんの小説、本当に面白いよね! 私いっつもわくわくしちゃって!」

ルビィ「うん! 特にハナちゃんが初めてライブをしたときなんか、ルビィ泣いちゃったよぉ……」

花丸「えへへ……照れるずら。でもそれも、先輩方とルビィちゃんのおかげだよ」


花丸ちゃんの書いている小説は、スクールアイドルを目指す女の子が主人公だった。

名前はハナちゃん。花丸ちゃんそっくりの名前ではあるが、黒髪で大和撫子、合唱部という設定だ。

花丸ちゃんはたびたび取材で部室を訪れるのだと、ルビィちゃんが教えてくれた。


千歌「……」


これも、花丸ちゃんの描いた夢なのかな。

花丸ちゃんは、文芸部に入りたかったのかな。

スクールアイドルは、やりたくなかったのかな。


千歌「ううん、迷わない。そう決めたから」

まずは、花丸ちゃんのことを知らなくちゃ。

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:30:26.12 ID:smyUCZOA0


――――


千歌「お邪魔しまーす」

花丸「あ、ようこそ千歌さん!」

6月13日。文芸部の部屋を訪ねると、花丸ちゃんが迎えてくれた。

小説を見せてほしいと頼んでみたのだ。

千歌「急にごめんね」

花丸「ううん。読んでもらえてうれしいずら」

ごそごそと棚を漁りながら、花丸ちゃんが微笑む。


花丸「そういえば、千歌さんは文芸部室は初めてですよね」

千歌「え? 前に一緒に――っと、そうそう、初めて初めて」

花丸「ちょっと前まで先輩がいたんですけど……受験があるからって辞めちゃったずら」

少し寂しそうに、花丸ちゃんが椅子の背を撫でる。

「前」は、ルビィちゃんと2人でこの部屋を使っていた。

けれど、今は。


千歌「……」

ごめんと言いかけた口を閉じる。

文芸部からルビィちゃんを奪ったのは私だった。
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:30:57.47 ID:smyUCZOA0


花丸「でもね、スクールアイドル部に行ったらルビィちゃんがいるし、千歌さんたちもいるし、マルは寂しくないずら!」

千歌「花丸ちゃん……」

花丸「あ! あったずら!」

花丸ちゃんは棚の下の方から、埃をかぶった封筒を取り出した。

花丸「はい、どうぞ。マルも本を読んでいるので、好きなだけ読んでください」

照れたようにはにかみながら差し出された封筒を、丁寧に受け取る。

中にはびっくりするくらい多くの紙が入っていて、封筒はずっしりと重かった。

これが、花丸ちゃんの「もしも」の夢なんだ。


千歌「これを読んだら、わかるかな」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:31:36.71 ID:smyUCZOA0


主人公のハナちゃんは、高校2年生。

黒髪の大和撫子で、自称、地味な子。

合唱部に入っているが、小さい時に見たアイドルの輝きが忘れられない。

無類のアイドル好きだと言う同級生に引っ張られて、何となくスクールアイドル部への転部を決める。

厳しい練習の日々。運動が苦手なハナちゃんは何度も折れそうになり、そのたびに小さい頃に憧れたアイドルに、友達に支えられ、立ち上がる。

はじめて立った文化祭のステージで、自分のやりたいことに心から気づき、歌の才能も開花して――


千歌「……」

ぺらりぺらりと原稿用紙をめくっていく。

花丸ちゃんの文章はとても丁寧で、細かくて。

ハナちゃんの揺れ動く心情が、アイドルに憧れる熱い想いが、自分への自信のなさが、鮮やかに描かれていた。

それはまるで、まるで―――



千歌「よかった、やっぱり、やりたいんじゃん」



聞こえているのかいないのか、花丸ちゃんは穏やかな顔でずっと本を読み続けていた。

202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:32:12.76 ID:smyUCZOA0


――――


千歌「ごめんね。すっかり遅くまで」

花丸「大丈夫ずら! マルも本に集中しちゃってたし……」

慌てて封筒を抱えて、花丸ちゃんは部室の鍵を閉める。

千歌「それ、持って帰るの?」

花丸「はい……」

なぜか花丸ちゃんは浮かない顔だ。


花丸「その、実は今、執筆が上手く行ってなくて。家でもう一回読んでみようと思うんです」

千歌「そうだったんだ……」

花丸「ごめんなさい、急にこんな話」

千歌「ううん、私こそ、何のアドバイスも――」

話しながら、職員室を目指して角を曲がる。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:32:43.74 ID:smyUCZOA0


花丸「ひゃっ!」

曲がり角で何かにぶつかった花丸ちゃんが、どさりと封筒を落とす。

中の原稿が飛び出て宙を舞った。

善子「ご、ごめんなさい!」

花丸「あ……善子ちゃん……」

善子「は、はなま――えっと……」

ぶつかったのは、善子ちゃんだった。

花丸ちゃんの名前を呼びかけた善子ちゃんは、なぜか黙り込んでしまった。

気まずい沈黙が廊下に落ちる。


善子「あ、あの、拾うわ。ごめんなさい」

花丸「……ありがとう、善子ちゃん」

ちら、とお互い視線を合わせた後、2人は屈んで原稿を拾い始めた。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:33:23.61 ID:smyUCZOA0


千歌「私も手伝うよ!」

善子「あ、確か、曜さんの友達の……」

千歌「そう、高海千歌!」

善子「1年の津島善子です」

床に張り付いた原稿を折らないように拾い上げながら、善子ちゃんは器用に会釈した。

千歌「……」

やっぱり、「この」善子ちゃんはやけに普通だった。

善子ちゃんは黙ったまま原稿を集め、トントンと揃えて花丸ちゃんに渡す。

憮然とした顔で、原稿を睨んでいるようにも見えた。


花丸「ありがとう。ぶつかっちゃってごめんね。怪我はない?」

善子「大丈夫よ。こっちこそ、ごめんなさい」

花丸「……」

善子「じゃあ、私は行くわ」

花丸「よ、善子ちゃん!」

善子「えっと……?」

花丸「あ、ううん、何でもない……」

善子「……そっか」

善子ちゃんはくるりと踵を返して廊下を歩きだす。

205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:33:55.63 ID:smyUCZOA0


何となく、止めなければいけない気がした。

このまま善子ちゃんを見送ってはいけない気がした。

千歌「善子ちゃん!」

善子「え?」

私に呼び止められるとは思っていなかったのか、善子ちゃんは驚いた顔で振り返る。


千歌「えーっと、その、スクールアイドル、興味ない?」

花丸「えっ!?」

善子「は……?」

私の言葉に、隣の花丸ちゃんは短い声を漏らし、善子ちゃんはきょとんとして固まっていた。

そうしてしばらく経った後。


善子「高海先輩って、変わった人ですね」

それだけ言って、善子ちゃんは去って行った。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:34:44.80 ID:smyUCZOA0


――――


花丸「どうしてあんなことを?」

千歌「うーん、Aqoursに入ってほしかったから」

花丸「善子ちゃんに?」

千歌「2人に、かな」

花丸「2人……?」

千歌「ね、花丸ちゃん」


千歌「花丸ちゃんは、興味ないの? アイドル、やってみない?」

花丸「え゛」

千歌「ほ、ほら、小説のためにもなるかもしれないし!」

花丸「……」

花丸ちゃんは意外そうな顔で、ぽかんと私を見上げていた。

千歌「あ、ごめんね、急に……」

Aqoursのメンバーが増えれば「移動」する。

それがはっきり分かっただけに、どうしても先を急いでしまっている。

花丸「……」

千歌「ほら、取材だったら、いつでも」


花丸「千歌さん」

強い声で呼び止められる。

花丸ちゃんは、どこか熱っぽいような、それでいて遠い目をしていた。


花丸「お試しでも、いいですか?」




―――――

―――
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:35:24.00 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


ルビィ「うわあ! かわいい! かわいいよ花丸ちゃん!」

花丸「う、うぅ、オラ、恥ずかしいずら……」

曜「いやあ、こんなに似合うと何を作ろうかわくわくしちゃうね!」

翌日。

律儀に部室に来てくれた花丸ちゃんは、使っていない衣装を試着していた。

感激したルビィちゃんがぴょんぴょんと跳ねている。


千歌「ね、やっぱり大丈夫だって、花丸ちゃん」

花丸「そ、そうかな……」

梨子「千歌ちゃんが急に連れてきたからどうしたのかと思ったけど……。よかったの、曜ちゃん?」

曜「私は花丸ちゃんさえよければ大歓迎だよ!」

花丸「え、えへへ……」

ルビィ「でも、どうして急に来てくれたの?」

花丸「ち、千歌さんに誘われて」

ルビィ「むーっ、ルビィが誘っても来てくれなかったのに……」

花丸「ごめんずらルビィちゃん! 別に、変な意味はなくって……!」

ルビィ「えへへ、わかってるよ。一緒にやれて、嬉しいんだぁ」

2人は仲良く笑い声をあげた。

208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:36:06.31 ID:smyUCZOA0

――――


ルビィ「千歌さん!」

練習後、ルビィちゃんがたたっと駆け寄ってきた。

花丸ちゃんは衣装の採寸をすると言って、曜ちゃんと一緒に帰っていった。


千歌「ルビィちゃん、どうしたの?」

ルビィ「あの、花丸ちゃんについてなんですけど……、どうして来てくれたんですか?」

千歌「へ? あー、私が誘って、そしたら来てくれるって」

ルビィ「でも、ルビィがAqoursに入るときは、文芸部の活動が大事だからって」

ルビィ「まだ小説出来てないのに、よかったのかなぁ……。嬉しかったけど、ちょっぴり心配なんです」

千歌「うーん……」

昨日の花丸ちゃんを思い返す。

最後、遠い目で花丸ちゃんは何と言ったんだったか。


千歌「あのね、実は、お試しなんだ」

ルビィ「お試し?」




―――――

―――

209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:36:57.91 ID:smyUCZOA0

―――

ルビィ「そっか、そうだったんだ……。だから、花丸ちゃん」

千歌「……?」

妙に納得した様子で、ルビィちゃんは俯いた。

ルビィ「花丸ちゃんと津島さん、幼馴染らしいんです」

千歌「……そうなんだ」

聞いたことがある。確か幼稚園が一緒だったと言っていた。


ルビィ「それで、花丸ちゃんは仲良くしたいみたいなんですけど、クラスでは少しグループが違っていて……」

千歌「花丸ちゃんと善子ちゃんが?」

「元の」世界では、いつも一緒だった。

善子ちゃんと、花丸ちゃんと、ルビィちゃん。

3人が一緒にいないというだけで、違和感があった。


ルビィ「津島さんはクラスの中心で、いつも楽しそうなんです。ルビィたちは、どっちかというと、端の方で……」

ルビィ「でも、きっと花丸ちゃん、一緒にやりたいんじゃないかなぁ。だから、千歌さんの言葉を聞いて来てくれたんじゃないかなって、思うんです」

2人とも、入ってくれたりしないかなぁ。

ルビィちゃんはそう言って、また笑った。
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:37:42.04 ID:smyUCZOA0


「この」世界の善子ちゃん。

普通な善子ちゃん。

クラスの中心にいる善子ちゃん。

それが、善子ちゃんが描いた「もし」なのかな。

堕天使はやめちゃったのかな。


千歌「だとしたら、ちょっと寂しいな……」

あれは、善子ちゃんの輝きだったから。

私たちは、そんな善子ちゃんが好きだったから。

花丸ちゃんの小説に出てくる「幼いころに憧れたアイドル」は、きっと善子ちゃんのことだから。


千歌「だからさ、誘いに行かなくちゃ」

ルビィ「うゅ?」

毎日だって、通うんだ。

どこかで「梨子ちゃん」がくすりと笑った気がした。

211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:38:15.33 ID:smyUCZOA0


――――


善子「驚きました。本気だったんですね」

6月17日。善子ちゃんに会いに来た。

教室に現れた私に善子ちゃんは目を見張り、そしてちらちらと友達を気にしながら近寄ってきてくれた。

千歌「本気だよ。善子ちゃんとやりたいんだ、スクールアイドル」

善子「……どうしてですか、高海先輩」

千歌「千歌でいいよ」

善子「じゃあ、千歌先輩。なんで、私なんですか?」

千歌「うーん、綺麗だから?」

善子「……」

釈然としないとばかりに、善子ちゃんは腕を組んだ。


善子「あの子は、どうするんですか?」

千歌「あの子?」

善子「えっと、はなま、その……」

千歌「花丸ちゃん?」

そう聞くと、善子ちゃんは恥ずかしそうな顔でこくりと頷いた。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:39:27.18 ID:smyUCZOA0


千歌「昨日ね、練習に来てくれたんだ」

善子「ほ、ほんとですか!」

千歌「善子ちゃん?」

善子「あ、ご、ごめんなさい。でも、そっか。アイドル、始めたんですね」

千歌「まだ、お試しだけどね。私は善子ちゃんにも入ってほしいな」

善子「……」

善子ちゃんは目を落とした。

善子「少し、考えさせてください」

千歌「……うん、わかった。また来るね。Aqoursに関係なくても、何でも言ってね!」

善子「……」


善子「あの、千歌先輩!」

千歌「へ?」


善子「千歌先輩は、曜さんと、仲いいんですよね」

千歌「曜ちゃんと? うん、小さいころからずーっと一緒で――」

言いかけて、「曜ちゃん」の叫び声が胸を刺した。

私が仲良しだったのは、「違う」曜ちゃんだった。

この世界の曜ちゃんも、なかったことにしてしまうのだと、わかっていた。

それでも。


千歌「私は曜ちゃんのこと、大好きだよ」

善子「……そう、ですか」

善子ちゃんは、少し羨ましそうに目を細めた。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:40:16.56 ID:smyUCZOA0


――――


その日から毎日、善子ちゃんはAqoursの練習を遠くから眺めるようになった。

本人は隠れているつもりのようだったけれど、バレバレだった。


曜「今日も来てるね。善子ちゃん」

梨子「ほんとだ。ふふっ、お団子見えてる」

花丸「善子ちゃん……」

ルビィ「えへへ」

言葉には出さないけれど、花丸ちゃんは嬉しそうだった。

曜「はいはい、じゃあ今日も練習終わり! 千歌ちゃんはまた善子ちゃんのところ?」

千歌「うん、ごめんね」

曜「大丈夫! こっちは任せて!」


練習が終わるたびに善子ちゃんと話に行くのが日課になっていた。

善子ちゃんは毎回、偶然ね、なんて白々しいことを、目も合わせずに言ってくる。

そういう所は「元の」善子ちゃんと変わっていなかった。

214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:41:13.25 ID:smyUCZOA0


私が善子ちゃんを気にしているからだろうか、練習は曜ちゃんが仕切ってくれていた。

千歌「やっぱり、曜ちゃんは頼りになるなあ」

盆踊りがあった「あの日」から、随分長い時間が過ぎた気がする。

少しずつ形を取り戻していくAqoursに、安堵のようなものを感じていた。


善子「曜さんが?」

「偶然」会った善子ちゃんが聞き返してきた。

千歌「うん、そうなんだ! 曜ちゃんはすごいんだよ。水泳も上手だし、衣装も作っちゃうし」

善子「器用なのね」

だいぶ打ち解けたらしい善子ちゃんは、最近少し乱暴な口調になった。

千歌「そんなに曜ちゃんが気になるなら、直接話せばいいのに」

善子「曜さんとはバスでたまに話すわよ」

ぷいっと顔を背けられる。


善子ちゃんは、なぜか曜ちゃんや梨子ちゃんの話を聞きたがった。

どこに遊びに行ったとか、普段どんな話をしているだとか、詳しいことまで興味を持った。

215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:41:59.13 ID:smyUCZOA0


千歌「ねえ善子ちゃん。どうしてそんなに2人のことが気になるの?」

善子「……」

善子「バスの中でね、曜さんが話してくれるのよ」

千歌「曜ちゃんが?」

善子「そう。千歌さんのこと、梨子さんのこと、スクールアイドルのこと。たくさんたくさん、飽きちゃうくらい」


善子「私ね、今まで誰かと何かに打ち込んだことなくて。部活もしてないし……」

「前の」世界では、善子ちゃんは水泳部に入っていた。

それは「曜ちゃん」が誘ったからだった。


善子「色んな部活を見ても、どれも違う気がして」

千歌「スクールアイドルには、興味あるの?」

善子「す、少しだけよ」

善子「とにかく、千歌さんたちみたいなの、憧れて……」

千歌「でも、クラスにはたくさん友達がいるんだよね?」

善子「……たぶん。皆だって、大事よ」

善子ちゃんは照れたようにはにかんだ。

千歌「……そっか」

216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:42:40.08 ID:smyUCZOA0


善子「でも、あの子とは、あんまり……」

千歌「花丸ちゃん?」

善子「実は、1回だけ文芸部も見てみようと思ったの。あの子がいるから」

千歌「え、そうだったんだ」

花丸ちゃんやルビィちゃんは一言も話さなかった。

会わなかったのだろうか。

善子「でも、途中で辞めたわ」

千歌「……どうして?」

善子「小説を、読んだから」

千歌「小説?」

聞き返したけれど、さあさあと流れる風の中、善子ちゃんは黙ったままだった。


善子「だからね」

帰り際、善子ちゃんは小さく呟いた。

善子「千歌さんが誘ってくれて、嬉しかった」


千歌「……」

千歌「ねえ、善子ちゃん、今度よかったら――」



――――――

―――

217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:43:14.33 ID:smyUCZOA0


――――


梨子「えーっと、これが紙で、糊付けはこうで……」

梨子ちゃんが和紙をくるくると丸めながら、眉を寄せている。

ルビィ「曜さん! こっちはできました!」

曜「こっちも完成! 綺麗に飛ぶかなあ……?」

ルビィちゃんと曜ちゃんが完成品を並べている。さすが衣装組、仕事が速い。

6月21日、私たちはランタンを作っていた。

ダイヤさんに学校を宣伝するためのPR動画を作ってほしいと依頼されたのだと、曜ちゃんは言った。

ランタンを使おうと言ったのは私だった。

徐々に記憶と重なっていく活動に、浮き立つような気持ちだった。

私はしょっちゅう、わいわいとランタンを作っていた「あの頃」を思い出していた。


花丸「ランタンを飛ばすなんて、素敵な案ずら!」

梨子「そうだね。千歌ちゃんらしくはないかも」

千歌「失礼な!」

どこかでしたような会話をしながら、紙に糊をつける。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:43:40.97 ID:smyUCZOA0


「し、失礼します」

コンコンというノックの音とともに、扉が開いた。

善子「えっと、その……」

千歌「善子ちゃん! 来てくれたんだ!」

善子「その、見学っていうか、手伝うっていうか……」

口ごもる善子ちゃんに、私たちは顔を見合わせてくすりと笑った。


曜「ようこそ、善子ちゃん!」

ルビィ「津し――ううん、善子ちゃん! ルビィと一緒にランタン作ろう! ほら、花丸ちゃんも!」

善子「ちょっと黒澤さん!」

ルビィ「ルビィでいいよ!」

善子「えっと……る、ルビィ」

ルビィ「えへへ」

ルビィちゃんが善子ちゃんの制服の裾を引っ張り、花丸ちゃんのところへ連れて行く。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:44:18.93 ID:smyUCZOA0


花丸「……善子ちゃん」

善子「は、花丸」

花丸「別に、昔のあだ名でもいいずらよ」

善子「あれは、もう……!」

花丸「冗談ずら! オラ、善子ちゃんが来てくれて、嬉しいよ!」

善子「……そっか」

ルビィ「よかったね、花丸ちゃん!」



梨子「……なんだかあの3人、前から仲良しだったみたい」

ほわほわと笑う花丸ちゃんと、優しい目をしたルビィちゃんと、そっぽを向く善子ちゃんと。

穏やかに、暗くなるまで3人でランタンを作り続けていた。



―――――

―――

220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:45:15.10 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


コツコツと、2人分の足音が廊下に響く。

スピーカーからは、下校を促す鞠莉さんの声が流れていた。

私の前を歩く善子ちゃんは、ぼうっと廊下の壁を眺めていた。


花丸ちゃんと善子ちゃんは楽しそうだった。

このまま、スクールアイドルを始めてくれるかな。

揺れるお団子を目で追いながら、そう考えていた。


善子「……千歌さん」

千歌「なあに、善子ちゃん?」

善子「ありがとう」

千歌「へ?」

善子「今日、楽しかったから」

千歌「……そっか、よかった」

善子「でも、1つだけ教えてほしいことがあるの」

千歌「教えてほしいこと?」

善子「千歌さんは、どうして私を誘ったの?」

千歌「……」

なぜだか、その質問には答えたくなかった。

私が必死で隠してきたものがばれてしまうような、そんな気がした。


221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:45:51.58 ID:smyUCZOA0


善子「千歌さんは、私が、その、綺麗だって」

千歌「うん」

善子「でも、おかしいわ。こんな時期に誘うなんて、普通じゃない」

千歌「そう、かな」

善子「それに一週間練習を見ていて、思ったの」

善子「千歌さんは、どこか一歩、引いてるんじゃないかって」

千歌「え……?」

善子「なんだか、たまにぼうっとして、皆と違う方向を向いて……」

善子「まるで、どこかに行っちゃうみたいに」

千歌「……っ」

どきりとした。

善子ちゃんの言う通りだった。

Aqoursが記憶に近づいていくにつれて、練習中ふとした瞬間に思い出がよみがえることが増えていた。

その度に、私ははるか昔の未来を想って、動きを止めてしまうのだった。

222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:46:27.30 ID:smyUCZOA0


善子「だから、教えてほしい。千歌さんは、どうして私に声を掛けたのか」

まっすぐな視線を受け止めきれずに、下を向く。

どうして、こんなに苦しいのだろう。

私は信じて前に進むだけなのに。

「梨子ちゃん」の寂しそうな顔が、「曜ちゃん」の絞り出した声が、「ダイヤさん」の震える瞼が、「ルビィちゃん」の零した涙がよみがえってきた。


千歌「……どうしても?」

善子「どうしても」

千歌「善子ちゃんには、信じられないかも」

善子「信じるわ」

千歌「……」


善子「お願い、千歌さん」

縋りつくような善子ちゃんの声に、私は目を閉じた。


あのね、善子ちゃん、私ね―――






―――――――

―――――

―――

223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:47:11.69 ID:smyUCZOA0


――――


善子「……」

善子「私たちの、『もしも』の夢……」

善子ちゃんは、それ以上言葉が出ないようだった。


千歌「隠してて、ごめんね」

善子「……」

千歌「でもね! 善子ちゃんがいい子だって知ってるし、堕天使だって、善子ちゃんの魅力だったし!」

善子「堕天使……」

千歌「そ、そうだよ! 善子ちゃんは堕天使ヨハネって名乗ってて、それで」

善子「何よそれ……」

千歌「でも、それが善子ちゃんの魅力なんだよ! だから私、善子ちゃんを――」


善子「千歌さん」

千歌「……っ」

私の言葉をさえぎって、善子ちゃんは震える声を出した。


善子「そうじゃないかって、思ってた。何か隠してるんじゃないかって。おかしいおかしいって、思ってたわ」

善子「でも、信じたかった。一緒にスクールアイドル、やりたかった」


善子「ねえ千歌さん」

善子「私、やっぱりスクールアイドルはやれないわ」

224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:47:44.67 ID:smyUCZOA0


千歌「どう、して……?」

善子「だって、だって……!」

善子ちゃんが、壁に貼られた校内新聞をくしゃりと握る。


善子「だって、結局同じなんじゃない! 千歌さんも、花丸も! 結局一緒じゃない!」

千歌「え……?」


善子「昔の私が輝いてた……? 知らないわよそんなの! 堕天使ヨハネ……? そんなの中学校に上がる前に卒業したわよ!」


善子「『私』を見てよっ!」


力強い善子ちゃんの声が、私の肺をきゅっと鷲掴むようだった。

225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:48:21.98 ID:smyUCZOA0


善子「変わりたくて変わったのよ! 変わる努力だってしたのよ!」

善子「それを何よ、今さら、幼稚園の方がよかったとか、他の私の方が輝いてるだとか……!」

善子「だったら、今の私は何なのよ! これまでの私は何なのよ!」


善子「どうしようもなく普通だったけど……っ、これまでの思い出はどうなるのよ……っ!」

千歌「善子、ちゃん……」


ぽろぽろと頬を濡らす善子ちゃんを見て、言葉が出なかった。

そっか。だから小説を読んで、文芸部に入らなかったんだ。

だから、スクールアイドルはできないんだ。

わかっていたはずなのに。

「元の」世界と「ここ」とは違うと、「曜ちゃん」に教えてもらったはずなのに。
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:49:26.91 ID:smyUCZOA0


善子「嬉しかった! 私のこと誘ってくれて、普通な私でも必要としてもらえてるんだと思えて、嬉しかった!」

善子「一緒にやりたいと思ったの! 花丸とだけじゃないわ、ルビィとも、千歌さんとも、スクールアイドル……っ!」


善子「なのに、千歌さんが誘ったのは『私』じゃない! 花丸が書いているのは『私』じゃない!」


善子「私はキラキラしたアイドルでも、堕天使ヨハネでもない!」

善子「皆が想う私なんて、もうどこにもいないのよっ!」


善子「なのに……っ、なのに…っ――」



善子「千歌さんになんか、会わなければよかったっ! あんな小説、読まなければ――……っ!」


そこまで善子ちゃんが言いかけた時だった。

どさりと、何かが落ちる音がした。


花丸「――善子、ちゃん」


善子「ぁ……」


振り返ると、スクールバッグを落として立ち尽くす花丸ちゃんがいた。

隣でルビィちゃんがおろおろしている。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:49:54.85 ID:smyUCZOA0


花丸「ごめん、ごめんね、善子ちゃん……。マル、気づかなくて。善子ちゃんのこと、傷つけて」


善子「はな、まる……」


花丸「もう、いいから。無理にマルと話さなくても、小説も、読まなくてもいいから。もう、書かないから。だから……っ」

善子「ち、ちがう、違うの花丸、私、ただ……!」


花丸「…っ!」


善子「花丸!」

ルビィ「は、花丸ちゃんっ!」

2人の制止を振り切って、花丸ちゃんは姿を消した。

228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:50:25.59 ID:smyUCZOA0


善子「ごめ、ごめんなさい……っ」

善子ちゃんは伸ばした手をだらんと下ろす。


千歌「よ、善子ちゃん……」

善子「私、私、ひどいこと……花丸にも、千歌さんにも……っ」

善子「このままじゃ、花丸がやめちゃう。あんなに小説、人気だったのに。あんなにアイドルに、憧れてたのに」

善子「私のせいだ、私の――」


違う。善子ちゃんは悪くない。

善子ちゃんにそれを言わせてしまったのは、私なんだ。

そうやって声を掛けようとしたが、喉が震えて上手く動かなかった。


ルビィ「善子ちゃんっ!」

善子「ルビィ……ごめんなさい、私、花丸に……」

ルビィちゃんが善子ちゃんの手を握る。

229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:51:09.55 ID:smyUCZOA0


ルビィ「善子ちゃん。ルビィね、善子ちゃんとは高校からだし、花丸ちゃんとのことはよくわからないけど……」

ルビィ「でもね、楽しかったよ! 今日一緒にランタン作って、お話して、どんな曲が好きとか聞けて、楽しかったよ!」

善子「ルビィ……?」

ルビィ「何でもない会話だったかもしれないけど、ルビィは善子ちゃんと話したかったんだもん!」

善子「……でも、私は花丸に、あんなこと……」


ルビィ「花丸ちゃんがね、言ってたんだ」

ルビィ「善子ちゃんに会ったら、お礼を言いたいって。小さい頃に、善子ちゃんに憧れたから今の自分があるんだって」

善子「……でも、それは」

ルビィ「結局自分は恥ずかしがり屋で、踊りも上手じゃなくて、善子ちゃんは幻滅しちゃうかもしれないけど……」

ルビィ「それでも色んな事を経験してきた、だからまた、善子ちゃんと仲良くしたいって」

ルビィ「あんなこともあったかなって、笑い合えるような友達になりたいって!」

善子「……!」


ルビィ「だから、追いかけてあげて? 花丸ちゃんは、きっと待ってる。きっと、待ってるから」

ルビィ「ルビィは、3人一緒が楽しかったから」

230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:51:55.38 ID:smyUCZOA0


善子「ルビィ……」

ルビィ「大丈夫だよ。善子ちゃんなら話せるよ。花丸ちゃんと話せるよ」

ルビィちゃんが善子ちゃんを抱きしめる。

善子「……」

善子「……ルビィ、私、行くから。ちゃんと、話すから。次に会うときは、3人だから」

ルビィ「……うん」

それだけ言うと、善子ちゃんは花丸ちゃんの消えた方に走っていった。


ルビィ「……千歌さんも」

千歌「え……?」

ルビィ「花丸ちゃんと善子ちゃんを結んだのは、千歌さんだから」

千歌「ルビィちゃん……」

ルビィ「2人のこと、お願いします」

ぺこりと、ルビィちゃんが頭を下げる。


千歌「……ありがとう」


千歌「私、行くね」





―――――

―――
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:52:23.88 ID:smyUCZOA0


――――


文芸部室は、既に足元もよく見えないくらい真っ暗だった。

息を整えて入ろうとすると、善子ちゃんが恐る恐る部屋の奥に踏み込んだところだった。


善子「花丸……?」

花丸「……」

花丸ちゃんは背中を向けて椅子の上に体育座りをしていた。


善子「あの、はなま――」

花丸「善子ちゃん」

花丸「マルは、ダメずらね」

善子「え……?」

花丸「『アイドルが大好きな友達』のこと、困らせて。『小さい頃に憧れたアイドル』のこと、傷つけて」

花丸「マルは、やっぱりただのマルだったずら。『ハナちゃん』にはなれない、ただのマル」

善子「花丸……」
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:53:20.38 ID:smyUCZOA0


花丸「ごめんね、善子ちゃん。マル、ただお礼が言いたくて。こんなに大事な思い出なんだよって、言いたくて」

花丸「小説だって、そのためだったんだ。気づいてほしくて、思い出してほしくて、マルを見てほしくて。それで、仲良くなりたくて」

善子「私、普通の高校生よ。何の特技もなくって、何の特徴もない、ただの善子。それでも……?」

花丸「……うん。マルが仲良くなりたいのは、善子ちゃんずら」


善子「花丸は、昔の私じゃないとダメなんだと思ってた。夢だって見たわ。黒い服を着て、蝋燭なんか振り回してる、変な夢」

善子「私も、そうならなきゃダメなのかと思ってた。なれなくて、つらかった」

ゆっくりと花丸ちゃんが振り向いた。


善子「ごめん、あんなこと言うつもりじゃなかった。ただ、私を見てほしかった。今の私でも、もう一度仲良くなれたらそれでいいって……」

花丸「善子ちゃん……」


花丸「ふふっ、マルたち、ちゃんと話してなかっただけみたい。お互い、勝手に想像し合って、すれ違って」

善子「……そうね」

233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:54:43.66 ID:smyUCZOA0


花丸ちゃんと、善子ちゃん。

ゆっくりと、自分のことを伝えあっている。

これまで抱いてきた想いを伝えあっている。


それぞれが生きてきた過去が積み重なって今がある。

確かに今を生きている。


なかったことになってるんじゃない。

「梨子ちゃん」や「曜ちゃん」や、「ダイヤさん」や「ルビィちゃん」は消えてない。

その想いが、言葉が、私の中に残っている。「皆」は確かにあの時を生きていた。


そして私も、ほんの一瞬でも一緒に生きていた。

今までたくさんのAqoursと出会って、別れて。

そうやって、私は今ここにいるんだ。全部全部、繋がっているんだ。
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:55:29.06 ID:smyUCZOA0


向かい合って、2人が話し続けている。

お互いの過去を交換している。


善子「ルビィがね、3人一緒がいいって、そう言うの」

花丸「ルビィちゃんが?」

善子「ええ、そうよ……だから、あー……、ごほん」

善子「く、ククク……! 今からあんたは堕天使ヨハネの、そのー、そう、リトルデーモンよ! もちろん、ルビィもなんだから!」

花丸「……」

花丸「大丈夫?」

善子「な、ななっ! たまには付き合ってあげてもいいって、そういう話じゃない! 普段は今の私でいいなら、たまにはって、そういう……!」

花丸「マルにそんな趣味はないずら」

善子「なっ、ちょっと!」

花丸「……ふふっ」

善子「……もうっ」

目を真っ赤にして、2人がふっと笑みをこぼした。





――――――

―――
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:56:25.03 ID:smyUCZOA0


――――


善子「……千歌さん」

千歌「善子ちゃん、ごめんね。私、善子ちゃんのこと……」

善子「許さないわ」

千歌「善子、ちゃん……」

善子「だからね千歌さん、話しましょ。これまでのこと、お互いのこと」

花丸「うん、千歌さん。話したら分かり合える。マルたちはたった今、それを学んだずら」

千歌「……うん!」


それから、私たちはずっと話していた。

警備員のおじさんに見つかってからは、近くのバス停に腰かけてまで。


私の話、善子ちゃんの話、花丸ちゃんの話。

何でもない日常の話、家族の話、Aqoursの話、私の不思議な旅の話。


たくさんたくさん、話し続けた。

236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:57:23.22 ID:smyUCZOA0


私たちは、自分の奥の奥に手を伸ばして、少しずつ見せては引っ込め、見せては引っ込めを繰り返していた。

2人の想いが、しとしと私の胸に染み込んでくる。刻み込まれていく。

それは「元の」2人と同じようで違っていて、違うようで同じだった。


私が行ってしまっても、2人の想いは無駄じゃない。

2人は生き続ける。

そして2人の想いは、それぞれの過去と結びついた「皆」の想いは、私を通して続いていくんだ。


だからだろうか、自然と言葉が口から漏れた。


千歌「私、皆ともやりたかったな、スクールアイドル」

237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:57:59.68 ID:smyUCZOA0


善子「千歌さん……」

一瞬言葉を詰まらせ、善子ちゃんは寂しそうに笑った。


善子「……ありがとう。私、それだけで十分よ」

千歌「……」


善子「……平気よ! 千歌さんがいなくたって、平気なんだから」

善子「花丸とルビィが言ってくれるの。私と仲良くしたいって」

善子「だからきっと、大丈夫。私、やっていける」

善子「だから、ね、花丸」

花丸「……うん」



「「私たち、スクールアイドル、始めます」」



少しだけ枯れた声が響いた瞬間、光が満ちた。

238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:58:43.11 ID:smyUCZOA0


花丸「これが、千歌さんが言ってた……!」

善子「お別れ、なのね」

花丸「どうしても、行っちゃうの……?」

千歌「ごめんね、私、行かなきゃいけないんだ」

花丸「せっかく、話せたのに……」

千歌「話せたから、大丈夫。皆の言葉を聞けたから」


白い光はどんどんと強くなっていく。


善子「……あれは」


角が錆びついた標識の上、ひらひらと紙が落ちてくる。



『入部届 津島善子』


『入部届 国木田花丸』



花丸「……」

受け取った花丸ちゃんが、不思議そうに栞のような『入部届』を眺めている。

239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:59:23.34 ID:smyUCZOA0


善子「これを渡したら、お別れなのよね。千歌さんは、そのために来たのよね」

千歌「……うん、そうだよ」

善子「じゃあ、はい、これ」

花丸「千歌さんは、不思議な人。マルの話を聞いてくれて、善子ちゃんを連れてきてくれて。マルたちを、繋げてくれた。なんだか、魔法使いみたい」

千歌「私は、何もしてないよ」

花丸「……ううん。千歌さんにもお礼を言いたいんだ。千歌さんは行っちゃうのかもしれないけど……、マルの話を聞いてくれて。マルと、お話してくれて」

花丸「だから、はい、これ」


善子ちゃんと花丸ちゃん。

2人が『入部届』を差し出してくれる。


これに触れば先へ進める。

また、Aqoursを少し取り戻せる。

けれど、同じくらい大事な2人が目の前にいる。同じくらい大事な8人が「この世界」にいる。



2人に手を伸ばす。

ぐらりと視界が歪む。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:00:27.22 ID:smyUCZOA0


千歌「―――ありがとう……」


善子「……忘れないで、私たちのこと。私たちが過ごした時間は、消えないから。目にした景色は、交わした言葉は、消えないから」

善子「『ここ』も、千歌さんの過去だから。『ここ』も、消さないでほしいから」

千歌「……うん。絶対に消さない。2人のこと、Aqoursの皆のこと、絶対に忘れない」



花丸「……忘れないよ、千歌さんのこと。千歌さんと過ごした時間は、マルたちの中からも消えないから」

千歌「……花丸ちゃん、ありがとう。私ね、小説最後まで読みたかったな」

花丸「うん、うん……。でも、千歌さんなら見つかるよ。自分の物語、見つけられるよ」

花丸「ページを埋めて、その先まで。きっとその先に、奇跡があるから」

241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:01:01.18 ID:smyUCZOA0


どんどんと光が強くなっていく。

視界には何もうつらなくなっていく。

自分の声が何重にも響いていく。


きっと、すぐにまた会える。

だけど、違うんだよね。「ここ」も、消しちゃダメなんだよね。なかったことにはならないんだよね。

だから。


善子「……それじゃあ」

花丸「千歌さん」




千歌「……さよなら」


私は初めてそう言ったんだ。





―――――――

―――――

―――
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:01:52.04 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


見慣れた部室の中、私のそばには8人が座っている。

紙を丸めたり、糊をつけたり、紙に何かを書いていたり。


善子「それにしても、ランタンの材料が余ってて助かったわね」

花丸「うん、本当ずら!」

ルビィ「このランタンに手紙を書いて海に流すんだよね! うわあ……! 綺麗だろうなあ……!」

鞠莉「シャイニーな日になりそうね。小原家も全面バックアップするわ! ……あ、私たちも船に乗るとか、いいんじゃない?」

梨子「そんな適当な……」


くすくすと、笑い声が響く。

その「適当」な案が採用されたことを、私は知っている。

それでもやっぱり、この時のことは覚えていなかった。

痛いほどの既視感だけが、頭をガンガン殴りつけていた。

243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:02:53.33 ID:smyUCZOA0


『『千歌さん』』


声が聞こえる。

天使の羽のような、本のページをめくる音のような、しなやかで、静かな声だった。


『ずっと思っていたの。もし、堕天使じゃなかったら、もし、中学で普通な私になっていたらって』


『教室で何でもない話をしながら盛り上がって、はしゃいで、騒いで。そんな私もあったんじゃないかって』


『でもね、そんなことを想うとき、一緒にいるのはあの2人なのよ。それと、変な格好をしてまで追いかけてきてくれた、千歌さんたちなのよ』


『だから私は、自信を持ちたい。今までの自分に、今までの時間に、育った景色に。きっとそれは、美しいはずだから』







『ずっと思ってたずら。もし、小説なんか書いていたら。もし、スクールアイドルにならなかったらどうなっていたんだろうって』


『皆の足を引っ張っちゃうことも、なかったのかな。練習やライブで迷惑かけちゃうことも、なかったのかなって』


『でもね、善子ちゃんとルビィちゃんが――2人がいるから。友達に憧れて、友達に手を握ってもらったから。世界を見せてもらったから』


『だからマルは何度でも、ふらふらふらふら、この世界に入り込んでしまうんだって、そう思うな』





―――――――

―――――

―――
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:03:44.51 ID:smyUCZOA0

――――――――――#4「私の今」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:04:18.23 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


目が覚めた。

私は何かふわふわしたものに包まれていた。

天井のシミが見える。

カチコチという秒針の音が聞こえる。

私の部屋だ。


志満「千歌ちゃーん? ちょっと手伝ってー!」

志満姉が私を呼ぶ声がする。


千歌「はーい! 今行くね!」


布団をめくり、廊下に出る。

私の部屋で目覚めたのは2回目だ。

最初はもっと混乱していたことを思い出して、くすりと笑う。

246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:04:53.04 ID:smyUCZOA0


志満姉は台所で作業をしていた。

ナスやらきゅうりやらが辺りに散乱している。

志満「おはよう、千歌ちゃん。これ、玄関に置いてきてくれる?」

千歌「これ……」

志満「もう、毎年置いてるでしょ。これに乗って、ご先祖様が行き来するのよ」

大小さまざまな野菜に、4本ずつ割りばしが刺さっている。


志満「月曜は7月盆。8月盆と、どちらの慣習の人も泊まりに来るから、出しておかなきゃね」

千歌「……そっか」

受け取って、玄関へ向かう。

7月12日。

月曜は7月盆。

あの暑い夏の夜は、1か月後。

247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:05:37.13 ID:smyUCZOA0


千歌「何だか、すっごく長い旅をしている気がする……」

それも、あと少しなんだ。

あと2人。

志満姉に言われた通りに、玄関に野菜でできた精霊馬を置く。

何だか前にも、同じことをした気がする。

ずっとずっと前。「4月」に来るより、もっと前。


あの時、私は何を考えていたんだっけ。

千歌「あの時は、東京から帰って来たすぐ後で……」

私は、どうしようもなく悔しくて、不安だった。


千歌「でもね、今なら知ってるよ」

それから3年生が入ってくれること。

9人になって、また歩き出せること。


千歌「まずは皆に出会わなくちゃ」


別れの後には、出会いがある。

それを繰り返して、今の私は「ここ」にいる。

だから、次の挨拶は決まってるんだ。



千歌「そうだよね、皆」

248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:06:36.08 ID:smyUCZOA0

#5「私とスクールアイドル」

249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:07:30.35 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


学校は変わっていなかった。

相変わらず校舎の壁や机は新しかった。

それも初めて「4月」に行った時と比べれば、ところどころに傷が入っていた。


私が呼んだ8人は、不思議そうな顔をしながらも部室に集まってくれた。

気だるそうに椅子に座っている善子ちゃんは、黒いマントを身に着けていた。


果南「千歌、どういうこと? 何で鞠莉までいるわけ」

不機嫌そうに果南ちゃんが指をさす。

鞠莉「私だって呼ばれたんだから仕方ないじゃない」

果南「だいたいここ、スクールアイドル部の部室でしょ。私には関係ない」

曜「でも果南ちゃん、前はスクールアイドルやってたって……」

果南「ちょ、ダイヤしゃべったの!?」

ダイヤ「ええ」

梨子「ま、まあまあ、ここは千歌ちゃんの話を、ね?」

250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:08:14.29 ID:smyUCZOA0


記憶そっくりの会話を繰り広げる3年生に、苦笑いしてしまう。

きっといつでもそうなのだろう。

不器用にすれ違って、お互いのことを変に気遣っている。


曜「それで、千歌ちゃん。今日はどうして?」

千歌「あのね、今日は大事な話があって、呼んだんだ」


千歌「信じてもらえないかもしれないけど、信じてほしい」

千歌「この9人じゃないとダメなんだ。この9人で、したい話なんだ」

千歌「長い長い話になるんだけどね、聞いてほしいんだ」

梨子「千歌ちゃん……?」



千歌「まずは、自己紹介から」



千歌「はじめまして、高海千歌です」




―――――――

―――――

―――

251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:09:36.20 ID:smyUCZOA0


――――


「「「…………」」」


どこかで、蝉の鳴く声がする。

赤みがかった陽光が机を彩る。

しばらく、誰も声をあげなかった。



一番最初に立ち上がったのは、果南ちゃんだった。

果南「……悪いけど、信じられない。帰る」

鞠莉「意気地なし」

果南「なっ、どういうこと!」

ダイヤ「お止めなさいな。鞠莉さんも、わざわざ煽らなくてもよいはずですわ」

鞠莉「……」

果南「……」

ダイヤ「果南さんも、わかっているのでしょう? わたくしも、到底信じられません。ですが、ですが……。千歌さんは知るはずのないことを知っている」

果南「……」

ダイヤ「わたくしは、Aqoursの名前については話していません。鞠莉さんに留学の話が来たことも、話していません」

ダイヤ「それなのに、千歌さんは知っている。それなのに、千歌さんは知らない。鞠莉さんが帰ってきたのは、去年の話ですわ」

千歌「え……?」

鞠莉さんの留学の時期がずれている。

それが、違いなのかな。

果南ちゃんか鞠莉さんの「もし」のヒントなのかな。

252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:10:08.41 ID:smyUCZOA0


ダイヤ「全て千歌さんのお話で説明がつきますわ。千歌さんは、わたくしたちと一緒に過ごして、そして……」

梨子「別の過去に移動した……?」

果南「それが今ってこと? 信じられない」

ルビィ「ルビィは、何がなんだか……」

善子「ぐぬぬ……タイムトラベルだなんて、このヨハネを差し置いて……!」

花丸「善子ちゃん、千歌さんはしたくてしたわけじゃないんだよ」

善子「わ、わかってるわよ!」

ざわざわと、部室が騒々しくなる。

信じる、信じない、そんな言い合いが続いている。


曜「千歌ちゃん」

曜ちゃんの静かな声が部室に落ちた。


曜「千歌ちゃんは、どうしたいの?」


千歌「私は……」
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:12:30.03 ID:smyUCZOA0


千歌「私は、9人でスクールアイドルがやりたい」


曜「それは、帰れるから?」

千歌「……正直に言うと、それもあるんだ」

千歌「でもね!」

千歌「私は、今ここにいる皆ともやりたいんだ! スクールアイドル!」


梨子「私たちは、千歌ちゃんの知ってる私たちじゃないのに?」

千歌「うん」


たくさんの皆に出会って、別れて、ここまで来た。

出会った仲間は、なかったことになる仲間なんかじゃない。

「皆」との関係が、思い出が、出会いが、別れが、ずっと残り続けるんだ。


千歌「私は皆と踊りたい。今はまだよく知らないけど……。お互い大好きになれるって、知ってるから」

254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:12:59.84 ID:smyUCZOA0


曜「……」

曜「……わかった」

曜「……ううん、本当は難しくてわからないけど、それでも」

梨子「曜ちゃん……?」

曜「私は、千歌ちゃんを信じるよ」

千歌「よ、曜ちゃん! ありがとう……!」

曜「だって、千歌ちゃんが出会った『私』もそうしたんだよね。千歌ちゃんと喧嘩してまで、そうしたんだよね」

千歌「……うん」

曜「たくさんの私が今に繋がっているなら、『私』も信じなきゃ」

梨子「はぁ……」

梨子「曜ちゃんがそこまで言うなら。それに、私も千歌ちゃんのこと、信じたい」

千歌「梨子ちゃん……」

2人の言葉を聞いて、1年生の3人も静かに頷いてくれる。
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:13:30.99 ID:smyUCZOA0


果南「……」

果南「やっぱり、帰る」

千歌「果南ちゃん!」

果南ちゃんは部室の扉に手を掛けたところで、立ち止まった。

果南「……」

何も言わずに、果南ちゃんは部室から出て行った。


ダイヤ「……」

鞠莉「……バカ」



千歌「話して、くれませんか。ダイヤさん、鞠莉さん」

前は、聞けなかったけれど。

まだ何も、知らないけれど。


千歌「知りたいんです。それで、一緒にやりたいんです」


ダイヤ「……わかりましたわ」

256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:14:15.43 ID:smyUCZOA0


ルビィ「お姉ちゃん……!」

ダイヤ「どの道、近々話さなければと思っていました。あなたたちが東京に行ったからですわ」

ダイヤ「Aqoursは、今苦しんでいる。挫折を味わい、悔しくて、もがいて……だからこそ、話さなければと思っていました」

ダイヤ「わたくしたちも、そうだったから」

鞠莉「……ダイヤ」

ダイヤ「鞠莉さん、よろしいですか?」

鞠莉「私は、別に」


ふいと外を向いた鞠莉さんを横目で見ながら、ダイヤさんは話し始めた。


ダイヤ「そうですわね、どこから始めればいいのか……ですが、やはりここからですわね」



ダイヤ「わたくしたち3人は、親友でした」

257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:14:49.43 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


ダイヤ「高校に入り、また一緒になりました。しかし、廃校の噂を聞きました」

花丸「廃校? この学校が、ずらか?」

ダイヤ「ええ、そうです。今では信じられないかもしれませんが……」

ダイヤ「その噂を聞いたわたくしは、果南さんと鞠莉さんを誘ったのです」

千歌「……スクールアイドル」

それで、3人でAqoursを始めたのだと聞いていた。

けれど、「ダイヤさん」はAqoursは2人だったと言っていた。


ダイヤ「反対したのは果南さんです」

ダイヤ「果南さんは……鞠莉さんは留学するべきだと、そう言いました」

鞠莉「……パパの伝手よ。千歌っちの知ってる私は、ずっと断っていたみたいだけど」

後ろを向いたまま、鞠莉さんが口を挟んだ。


ダイヤ「鞠莉さんは、すぐに留学に行きました」

千歌「……」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:15:41.55 ID:smyUCZOA0


ダイヤ「わたくしたちは、約束をしました」

ダイヤ「鞠莉さんが帰って来たら3人でやろうと。一緒に廃校をなくそうと」

鞠莉「……嘘つき」

ダイヤ「……」

一瞬、2人の目が合った。


ダイヤ「……残ったわたくしたちは、2人で活動をしていました。曲を作って、練習して……。順調でした」

ダイヤ「しかし……」

ダイヤさんが物憂げに目を伏せる。

ルビィちゃんが、そっと肩に触れた。


ダイヤ「わたくしが、怪我をしました。練習中のことでした。オーバーワークが祟り、足首を……」

鞠莉さんは留学に行った。

ダイヤさんが怪我をした。


少しずつ「違い」が明らかになっていく。
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:16:22.50 ID:smyUCZOA0


ダイヤ「果南さんは気づいていました。それで、東京で歌わないことを決めました」

ダイヤ「わたくしたちは、大喧嘩をしました。果南さんと喧嘩したのは、はじめてでした」

ダイヤ「最後の機会でした。早期に廃校を阻止しようと思えば、そこで結果を出すしかありませんでした」

梨子「え、でも……」


ダイヤ「果南さんは、諦めないと言いました。まだ大丈夫、鞠莉さんがもうすぐ帰ってくる。3人でやり直せる。そう言いました」

ダイヤ「そして、去年の夏、鞠莉さんが帰ってきました」



ダイヤ「廃校は、なくなりました」

260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:17:10.63 ID:smyUCZOA0


鞠莉「……」

鞠莉「私が帰ってきた時、浦の星女学院はもうボロボロだったのよ」

鞠莉「ダイヤたちはまだ間に合うと思っていたようだけれど、無理だった」

曜「どうして……?」


鞠莉「……私のせいよ」

鞠莉「私が留学に行ったから、パパは向こうの学校にかかりきりだった。この学校のことが後回しになった」

鞠莉「せめて1年、1年でも私が在籍していれば、もう少し延ばせたかもしれないのに」

千歌「そう、だったんだ……」


鞠莉「帰って来てすぐに、2人のことを聞いたわ。怪我があって、厳しい状況だって」

鞠莉「廃校を止めるために他の手段も考えているって。それこそ、生徒会とかね」

鞠莉「だから、投資したの」

鞠莉「パパに頼み込んで、校舎の外装から、備品や、学校周辺の施設にまで」

千歌「だから……、だから『ここ』は……」


だから、学校は変わっていたんだ。

新しい机と椅子。見たことのない自動販売機。真っ白の塗装。

きっと細かいところはもっと変わっている。

鞠莉さんだったんだ。
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:17:55.32 ID:smyUCZOA0


善子「何でそこまでして……」

鞠莉「廃校がなくなれば、続けられるでしょ?」

ダイヤ「……」

鞠莉「きっかけは廃校阻止のためだったわ。でも、2人がSchool Idolをやっていたのはそれだけが理由じゃなかった」

鞠莉「ダイヤと果南はSchool Idolが大好きだった。続けたかった。私もやってみたいと思った。だから、続けられるように手を打ったの」



ダイヤ「……果南さんは、怒りました」

ダイヤ「今まで見たことがないくらい、怒りました。もうやらないと言って、スクールアイドルを辞めました」


ダイヤ「それからは……」


鞠莉「ご覧の通り、ね」

おどけた調子で、鞠莉さんが結んだ。

部室にまた沈黙が落ちる。


違いは、驚くほど単純だった。

鞠莉さんはすぐに留学に行った。果南ちゃんはそれを後押しした。

たったそれだけで、大きな違いが生まれてしまった。

262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:18:38.74 ID:smyUCZOA0


鞠莉「私は、失望したの」

いつの間にか、鞠莉さんがまっすぐこちらを見ていた。

鋭い視線に、いつかの理事長室でのように息が継げなくなる。


鞠莉「School Idolに、果南に、失望したの」

千歌「……」

鞠莉「School Idolは、その程度だったの? 廃校阻止っていう目的がなくちゃ、続けられないの?」

鞠莉「ただの手段だったの? 目的を達成したら、辞めてもいいの?」

鞠莉「3人でやろうと言ってくれたのは、嘘だったの?」

鞠莉さんが早口でまくし立てる。

瞳が夕日を映して鈍く光った。

ダイヤさんが、眩しそうに顔を逸らす。



鞠莉「School Idolがその程度なんだったら、やる意味なんかない」



鞠莉「ねえ千歌っち。……どうして、School Idolなの?」



―――――

―――

263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:19:23.81 ID:smyUCZOA0


――――


私はどうしてスクールアイドルをやっているんだろう。

私たちは、どうしてAqoursをやっていたんだろう。


あの暑い暑い夜、私はどんな気持ちで内浦の海の上に立っていたんだろう。


千歌「なんだか不思議な気持ちだったような……」

Aqoursの皆と踊ったことを思い出す度、きゅうきゅうと胸が締め付けられた。

私は楽しかったのかな。嬉しかったのかな。それとも――。


帰り道でも、ずっと考えていた。

歩きながら、ぺらぺらと歌詞ノートをめくっていた。


1曲1曲、頭の中で歌いながら歩き続けた。

この世界の私は、どんな想いで歌詞を書いていたんだろう。

そして私は、どんな想いで……。


千歌「……」

家について、ドアを開けた。



志満「あら、お帰り千歌ちゃん。果南ちゃんが来てるわよ」

264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:20:03.64 ID:smyUCZOA0


――――


果南「千歌」

私の部屋のベッドの上、果南ちゃんは座ったまま首をこちらへ向けた。

千歌「ひどいよ果南ちゃん。勝手に乙女の部屋に入るだなんて」

果南「志満姉が案内してくれたんだよ。それに乙女って……?」

千歌「あー! 失礼な!」

果南「……」

果南「……ふふっ」

困ったように果南ちゃんは笑った。


果南「あー、千歌が相手だとやりにくいな。鞠莉相手だったら、ずっと真顔でいられるのに」

千歌「ほんとに?」

果南「どういう意味?」

千歌「べっつにー。果南ちゃんは相変わらず変なところで意地っ張りだなって」

果南「……帰る」

千歌「冗談だよ。いや、冗談じゃないけど」

千歌「でもさ、どうして急に?」

尋ねると、果南ちゃんはきゅっと眉を上げた。
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:20:50.96 ID:smyUCZOA0


果南「聞きたいことがあるんだ」

千歌「うん、なあに?」

果南「千歌は、どうしてスクールアイドルをやってるの?」


千歌「……」


果南「今日言ってたよね。千歌は別の未来から来たって。私は、信じてないけど」

最後の一言だけ、語調が強い。

果南「でもさ、もしそうなら――」


果南「千歌は、廃校になるかもしれない世界に戻ろうとしてる」

千歌「……うん、そうだよ」


果南「どうして?」


千歌「また、9人で踊りたいから」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:21:55.55 ID:smyUCZOA0


そう言うと、果南ちゃんは苛立たし気に息を吐いた。

果南「千歌、ダイヤと鞠莉から話聞いたんでしょ?」

千歌「うん、聞いたよ」

果南「だったらわかるでしょ。スクールアイドルじゃ廃校は止められない」

千歌「わかんないよ」

果南「わかるよ。あれだけ頑張って、不安で、怖くて、悔しくて」

果南「それなのに、無駄だったんだよ」

果南「私たちのやってきたことは、鞠莉が一瞬で解決しちゃった」

果南「はじめから、そうしておけばよかった。はじめから、スクールアイドルなんか――」

千歌「果南ちゃんっ!」

果南「……っ」


千歌「ダメだよ、果南ちゃん。それは言っちゃダメ」

果南「どう、して……? 私は……っ」

果南ちゃんの目尻が、どんどんと湿り気を帯びる。
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:22:29.82 ID:smyUCZOA0


果南「私は……っ! 3人でやりたかった!」

果南「鞠莉が帰って来て、3人でだったら何でもできるって、そう信じてた!」

千歌「果南ちゃん……」

果南「それなのに、鞠莉は、鞠莉は……!」


果南「私たちの活動が無駄だったって言うみたいに、お金で全部解決して……っ!」

果南「曜たちだってそうだよ。あんなに頑張ってたのに。東京で悔しい思いして……」

果南「スクールアイドルを続けても、意味なんかない。奇跡なんか、起きない」

千歌「……そんなことないよ」

果南「どうしてそう言い切れるの」

拗ねたような声で、果南ちゃんは聞いた。


果南「どうして、信じられるの? それとも千歌の知ってる私たちは、すごいスクールアイドルなの?」

千歌「ううん。おんなじだよ、果南ちゃんたちと、おんなじ」

千歌「それでも、私はスクールアイドル、辞めないよ」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:23:14.45 ID:smyUCZOA0


果南「不安じゃないの……?」

果南「どうして、ここまで来たの? 苦しくて、寂しくて……それなのに、どうして」


私は、どうしてここにいるんだろう。

私たちはあの始まりの夜、何を思っていたのだろう。

嬉しいような、楽しいような、ううん、それだけじゃない。


千歌「不安だったよ。ううん、今も」

そうだ、私はあの時、不安だった。


千歌「このままでいいのかなって思って。これでよかったのかなって不安に思って」

千歌「だから、私はここに来たのかも」

果南「……どういうこと?」

千歌「あの日……私の旅が始まった日」

千歌「私たちは『過去を想う日』を過ごしてた」

果南「……」

千歌「私たちは皆、過去を想ってた。ううん、過去に憧れてた」

果南「憧れてた……?」

千歌「こうだったらよかったのに。こうだったら、もっと上手くいったかもしれないのにって」

千歌「もしもこうだったらって、手紙なんて送って。だから私は、『4月』に着いたんだと思う」

真相なんて、わからないけれど。
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:24:24.07 ID:smyUCZOA0


果南「もしも、こうだったら……」

千歌「そこには、Aqoursはなくて。皆の『もしもの夢』だけが叶ってた」

果南「そこから、どうしてここまで……」


私は、どうしてここまで進んで来れたんだろう。

どうして、今ここにいるんだろう。「9人」という奇跡を、諦めずにいられるんだろう。


千歌「……」

果南「……」


静かな時間が部屋に流れる。

不意に、どこからか音が聞こえてきた。

ぽろぽろと、零れるような音だった。


果南「……この音」


千歌「……梨子ちゃん」


梨子ちゃんが、ピアノを弾いていた。

千歌「最初も、そうだった。梨子ちゃんのピアノを聞いて、思い出したんだ」

千歌「そこからまた、私は走り出したんだ。梨子ちゃんに会って、曜ちゃんに会って、そして――」


途端に、全部を伝えたくなった。


ねえ果南ちゃん。

私ね、こんな素敵な仲間に出会って、素敵な言葉をもらって、それで今、ここにいるんだよ。

270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:25:33.72 ID:smyUCZOA0


千歌「皆がいたからなんだ」

果南「皆?」

千歌「そう、皆が。果南ちゃん、さっき奇跡は起きないって言ってたよね」

果南「……うん」


これまでの旅が、「皆」の想いがぐるぐると私の中を巡っている。


千歌「やっぱり、そんなことないよ。果南ちゃんが必死にもがいてきた先に、私たちが必死に走ってきた先に、奇跡はあるんだよ」

―――『千歌さんなら見つかるよ。自分の物語、見つけられるよ。きっとその先に、奇跡があるから』



果南「たしかに私は必死だった。でも、それは全部無駄だったんだよ」


千歌「果南ちゃんのやってきたことは、無駄じゃない。無駄なんかじゃない。消えたりなんか、しない」

―――『私たちが過ごした時間は、消えないから。目にした景色は、交わした言葉は、消えないから』



果南「でも! 結局廃校は鞠莉が解決したんだ。私たちは、何もできなかった」


千歌「果南ちゃんが踊っていたのは、本当に学校だけのため? 他に大事なものは、あったんじゃないかな。見失っちゃダメだよ」

―――『目指す先を、見失ってはなりません。信じて、選び続けなければなりません』

271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:26:34.45 ID:smyUCZOA0


果南「私は……不安だったけど、つらかったこともあるけど、ダイヤと笑っている時間が、踊っている時間が楽しくて」

果南「でも、ダイヤとも、鞠莉とも喧嘩を……」


千歌「ううん、大丈夫。2人のことが大好きなままなら、絶対大丈夫」

―――『大好きだったら大丈夫……。ルビィに、そう教えてくれたから』



果南「でも、今さらだよ。今さら、そんなこと言ったって2人は……」


千歌「行ってあげて、鞠莉さんのところ。ダイヤさんのところ。2人とも、きっと待ってる」

―――『きっと、待ってるから。何日、何か月、何年でも、いつでも、どこでも、千歌ちゃんのこときっと待ってる』



果南「……そうかな。私、行ってもいいのかな。スクールアイドル、辞めなくてもいいのかな」


千歌「……うん。思い出して。始めて踊ったときのこと。スクールアイドルを始めたときの気持ち。鞠莉さんとダイヤさんとの約束を、思い出して」

―――『私にAqoursの話をしたときの気持ちを、思い出してね』



果南「私は、本当は――――」






―――――――

―――――

―――

272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:27:08.59 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


屋上には、他に人はいなかった。


3人と、私と。4つの影だけがゆらゆらとアスファルトに揺れていた。




果南「鞠莉、ダイヤ」



ダイヤ「まったく……」



鞠莉「遅すぎよ、バカ」



7月13日。乾いた風がふわりと身体を撫でた。


3人は手を握り合って一度笑い合うと、長い間じっと黙っていた。





―――――――

―――――

―――

273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:28:13.50 ID:smyUCZOA0


――――



果南「……千歌」

照れくさそうに、果南ちゃんが私の目を見た。


果南「私たちがスクールアイドルを始めたら、Aqoursに入ったら、千歌は元の世界に帰れるんだよね」

千歌「……うん」

ダイヤ「最後、ですのよね。千歌さんの長い長い旅の、最後ですのよね」

千歌「……うん、最後なんだ。これで、9人なんだ」


鞠莉「ねえ千歌っち。1つだけ教えて」

少しだけ赤くなった鼻をこすりながら、鞠莉さんがまっすぐこちらを見た。


鞠莉「どうして9人にこだわるの? 帰るのに必要なんだってことはわかってるわ。でも、それを抜きにして――」


鞠莉「千歌っちにとって『9人』はそんなに大事なの?」

探るような、けれど乞い願うような瞳だった。

274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:28:44.92 ID:smyUCZOA0


千歌「……」

千歌「同じだよ」


鞠莉「え……?」


千歌「果南ちゃんとダイヤさん、そして鞠莉さんの『3人で』と、同じなんだよ」


果南「……」

ダイヤ「……」


鞠莉「……」

長い間、鞠莉さんは何も言わなかった。

浅い息で、言葉を探しているようだった。



鞠莉「……そう、そんなに」

一粒だけ、ぽたりと雫が落ちた。

鞠莉「そんなになのね、私たち」



千歌「うん……そんなになんだよ、私たち」


屋上に、光が溢れた。

275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:29:52.72 ID:smyUCZOA0


ダイヤ「これが……!」

果南「うわっ……! 千歌、本当だったんだ……」

眩しそうに目を細めながら、果南ちゃんは呆けていた。


千歌「ひどいなあ、信じてなかったなんて」

果南「いや、そうじゃなくて、そうじゃないけどさ」

鞠莉「ダイヤと果南は頑固だからね」

果南「うるさいなあ。ダンスの練習は覚悟してよね」

ダイヤ「鞠莉さんは経験がありませんし、苦労するかもしれませんわね」

鞠莉「Oh……」


3人が言葉を交わしている。

影が重なったその上に、ひらひらと紙が落ちてくる。



『入部届 黒澤ダイヤ』


『入部届 松浦果南』


『入部届 小原鞠莉』



千歌「……」

最後なんだ。

これを取れば、終わりなんだ。
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:31:13.02 ID:smyUCZOA0


千歌「皆、待っててくれてるかな……」

『入部届』に手を伸ばす。


千歌「……っ」

くらりと頭が揺れる。


ガタンと、どこか遠くで音がする。


曜「千歌ちゃん!」

屋上の鉄扉が開いて、曜ちゃんたち5人が駆け寄ってくる。


千歌「曜、ちゃん……!」


薄れる意識の中、8人の目が見えた。

皆が口々に私の名前を呼ぶ。


眩暈はどんどん強くなっていた。

もうすぐ、戻るんだ。
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:32:15.85 ID:smyUCZOA0


鞠莉「千歌っち」

鞠莉「きっと、理由なんかないのよ。School Idolじゃなきゃいけない合理的な理由なんか、1つも」

鞠莉「だから、信じて。どんな想いで、どんな顔で踊っているかの方が、きっと遥かに大事だから」



果南「先のことは、わからないよ。不安にもなる。それでも、無駄になることなんかないって、千歌が教えてくれたんだ」

果南「怖さも不安も抱きしめて、進んでいける。千歌なら、大丈夫」




千歌「鞠莉さんっ! 果南ちゃんっ! 皆――」



千歌「千歌、帰るから! 皆のおかげで、帰れるから! だから……ありがとう、さよなら―――…」





―――――――

―――――

―――
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:33:23.84 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


音を立てて、海水が皆の足に掛かる。

8人が砂浜に立っていた。

波の音が聞こえる。船が海上を走る音が聞こえる。

遠くの方から誰かが笑う声が聞こえる。


千歌「もうすぐ、お盆だね」

また、勝手に私の口が動いた。相変わらず身体は動かない。

鞠莉「そうねえ……。盆踊り、楽しみね!」

果南「それが終わったら、もう地方予選だっけ。早いなあ」

千歌「……よかったのかな」

曜「え、何が?」


千歌「私たち、ここまで来て、よかったのかな。もっと、何かできることはなかったのかな」

梨子「……千歌ちゃん?」

千歌「えへへ、ごめんね。ちょっとだけ、考えちゃうんだ。もしもあの時、もしもこの時……って」

私の言葉を聞いて、皆は考え込んでいた。

相変わらず、覚えていない会話だった。

けれど相変わらず、既視感だけが強く残った。


果南「もしも、もしも、ね……」


「「「もしも、かあ……」」」


279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:34:35.54 ID:smyUCZOA0


『千歌』

『千歌っち』


声が聞こえた。

海のように深く、雲のように軽やかな声だった。


『ずっと思ってたんだ。もしも、最初から鞠莉を留学に送り出していたらどうなっていたんだろうって』


『その方が、鞠莉の将来のためになったんじゃないか。少しでもスクールアイドルをやったことで、鞠莉を縛り付けてしまったんじゃないかって』


『でもさ、その度に鞠莉に叩かれた頬が痛むんだ。私の気持ちを馬鹿にしないでって、そう言われるんだ』


『きっと、先のことなんて考えても仕方ないんだよ。大事な人と今何がしたいか、それだけじゃないのかな』





『ずっと思ってたの。本当は、すぐに留学に行くのが正解だったんじゃないかって』


『そうしたら、喧嘩しなくて済んだんじゃないか、自分のためにも、パパのためにもなったんじゃないかって』


『でもね、思いきり悩んだあの時期に、私は大事なことを学んだのよ。一生消えない、大事な記憶』


『正解ばかりじゃ学べない。悩みながら、選んで選んで、私は今を生きるのよ』



青い海に、青い空に、8人の影が溶け込んだ。




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