本田未央「Re:サンセットノスタルジー」

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1 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:44:48.27 ID:5UUNa7QZ0



 つないだ両手は、汗でしっとりと湿っていた。

 イベントの舞台袖。眩いスポットに上がる直前。

 登場のBGMが、かかり出していた。

 何度経験しても、この瞬間は緊張する。胸の高鳴りが体を伝って直接鼓膜を揺らす。誰にも気付かれないようにゆっくり唾を飲む。

 客席からの熱気。お客さんたちが待ち望んでいるのを感じる。

 その期待に応えられるだろうか。本当に、少しだけその不安がよぎる。

 だけどそれは表には出さない。

 変わりに、両手を強く握り返した。


「二人とも」


 声をかけると、両側から私の顔を覗いてきた。

 ぱっちりと開いた大きな瞳と、強い意志を感じさせる釣り目がちな瞳。

 私は二人に頷いた。


「さあ、行くよ」


 二人がそれぞれに返事を返してきた。とっても力強く、心強く。
 
 高いヒールの靴で一歩前に踏み出し、私たちはお客さんの前に飛び出した。

 お客さんの歓声が上がる。

 精いっぱいの笑みを浮かべ、両手を高く振りながら私は言った。






「みなさーん。私達、ニュージェネレーションでーす!!!」






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2 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:47:48.07 ID:5UUNa7QZ0



 心地よい汗は拭うのすら恋しかったけど、乙女がいつまでも汗だくなのはよろしくない。

 スタッフさんから受け取ったタオルで、額をつたっていた汗をふきとった。

 お礼を言って、タオルをスタッフさんに返す。


「お疲れ様。よかったですよ」


 女性スタッフさんの言葉に、私は自然と笑みが零れた。


「えへへ、ありがとうございます」


 気分はすっきり。頬にはまだ熱気が残っていた。

 甘い熱気だ。アイドルにならなければ、きっと一生感じられなかった心に染みる喜び。
 
 顔を上に向け、私は目をつぶってその余韻に浸る。頬が緩んでしまう。

 透き通るようなエメラルド色の海に浮かんで、まばゆい太陽を全身に浴びたって、きっとこの気持ち良さには敵わない。


「みーおーちゃん」


 耳をくすぐった声に、私は目を開けた。

 島村卯月。しまむーだ。彼女にしか咲かせられない満開の笑顔が私の顔を覗き込んでいた。

 私と一緒に舞台に立っていたから、顔には火照りと疲労があったけど、しまむーの輝きは色あせるどころか、何倍にも輝いていた。


「お疲れ様です。今日もとっても良かったですよ」

「いやいや、しまむーだって。流石ですなー、登場直後のドジっ子アピールで、お客さんの心をがっつり掴むとは


 桃色だったしまむーの頬が、真っ赤なリンゴ色に染まり変わった。

 名乗り出た直後、しまむーは舞台上で盛大につまずいたのだ。今のように顔を赤くしたしまむーにお客さんは大受けだった。


「先に言って欲しかったなー。そしたら、私も一緒に可愛くこけられたのにー」

「あれはワザとじゃなくてですね。その、えっと……」

「未央。卯月を困らせないで」


 わたわたするしまむーの後ろから、黒いストレートの長髪の少女が言った。

 汗を拭きながら飲み物を飲んでいるだけなのに。こう、凄く様になっている。

 渋谷凛こと、しぶりんだ。




3 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:49:13.25 ID:5UUNa7QZ0


 この三人がニュージェネレーション、通称ニュージェネのメンバーだった。


「いやあ、ゴメンゴメン。しまむーが可愛過ぎてついさー」

「卯月も気を付けてよね。足でも捻ってたらミニライブ、台無しになってたかもしれないんだよ。怪我しなかったから良かったけど」

「ゴメンなさい……」


 かなり気にしていたのか。しょんぼりしてしまったしまむーに、しぶりんがあからさまに動揺した。


「えっと、いや。怒ってる訳じゃないんだけど。そんな落ち込まないでよ」

「心配してるんだよね。しまむーが怪我したらしぶりん、夜も眠れなくなっちゃうもん」

「そこまでじゃないけど……でもまあ、そういうこと」

「だけど、顔真っ赤にしたしまむーは可愛かったよね?」

「うん、可愛かった」

「ちょっと、二人ともー!?」


 頷き合った私としぶりんに、照れ隠しみたいにしまむーが怒った。


 開かれていた控え室の扉から、プロデューサーが顔を覗かせた。片手にはスマホが握られている。誰かと電話中らしい。


「お喋りもいいけど、未央は早く着替えろよ」

「あれ、プロデューサー。労いの言葉もなし?」

「さっき言ったろ。未央はこの後にラジオ収録あるんだから、急いでくれ」

「わかったよ、もー」


 プロデューサーはすぐに電話へ戻った。たくさんのアイドルのプロデュースをしているだけあって、いつも忙しそうだ。

 そんなプロデューサーに、これ以上迷惑をかける訳にはいかないか。

 着替えた私は、一足先に控え室を後にした。

 片づけをしているスタッフの合間を縫って会場を出る。

 四月も中旬なのに、沁みるような寒さが身をとらえた。

 冬が名残惜しそうに居座っていた。

 日は落ち始め、街灯に照らされた街路樹の桜の木の下を人々が足早に歩いている。

 桜はまだ花咲いており、ビル群の景色を艶やかに飾っていた。



 風に木々がそよぐ。

 桜吹雪が春の都心に舞い上がった。



4 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:50:43.25 ID:5UUNa7QZ0




 プロデューサーは車でラジオ局まで送ってくれると、別の現場に向かった。


「階は分かるよな?」

「もっちろん」


 私は一人でラジオ局に入ると、エレベーターで収録のある階へ向かった。

 エレベーターを出たすぐ目の前に、局の番組ポスターが並んで張られていた。

 柔らかな頬笑みがポスターの中から私に向けられている。

 高森藍子。あーちゃんのラジオのポスターだ。

 今日はそのラジオのゲストだった。

 ウェーブのかかった深い栗色の髪を後ろで結んで、ゆったりとした服でリラックスした笑みを浮かべている。


 ポスターも可愛いが、本物の方がもっと可愛い。

 でも私の眼は、その隣のポスターに向けられていた。

 穏やかなあーちゃんのポスターとはま逆。


 『新番組!』と謳われたポスターでは、三人の少女が思い思いのポーズで立っていて、ともかく元気いっぱいという感じだ。

 その中央で大きく両手を広げる子。

 後ろで髪を結んでいるのはあーちゃんと一緒だけど、髪は黒くウェーブもかかっていない。耳の前に垂らした髪は短め。

 なによりも、その弾ける笑みはあーちゃんとは全然違っていた。


「あ、未央ちゃん!」


 声に振り返ると、まさにその少女が立っていた。



 矢口美羽。みうみうだ。




5 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:52:17.29 ID:5UUNa7QZ0


 ポスター同様の満面な笑みを浮かべていたけど、今は髪の毛をお団子に結んでいる。

 みうみうは一人ではなかった。同じポスターに映った眼鏡の少女が並んでいた。


「お、出たなニューウェーブ!」

「そっちこそ、ニュージェネレーション!」 

 笑いながら言いあったのは土屋亜子ことつっちー。

 ニューウェーブというアイドルユニットをメインで活動している子だった。ユニット名がニュージェネと似ているから、会うたびに互いにからかい合ったりしていた。

 私はポスターに目を向ける。


「うまくいってるらしいね『ブエナ・スエルテ』」


 それはみうみうとつっちー、それに喜多日菜子こと日菜子ちんの三人で最近組んだユニットだった。

 評判は上々のようで、この春からラジオの看板番組も始まったと聞いていた。

 みうみうがぶいっとピースサインを作る。


「えへへ、そうなんだー。さっき収録があったんだけど、たくさんおハガキ貰ってさ。もー嬉しくて!」

「『ハラハラして耳が離せません』って言うのは、喜んでええのかな?」


 苦笑しているつっちーに私は頷く。


「いいのいいの。どんなことだろうとファンの心さえ掴めればね」


 ともかく、聞いてみようと思わせるのが大事なのだ。

 その点、みうみうと日菜子ちんのペアはこう、刺激的だ。

 二人は良くも悪くも突っ走ってしまう性質の子だから。

 ラジオで暴走する姿が目に、もとい耳に容易く浮かんだ。




6 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:53:17.44 ID:5UUNa7QZ0


 私の想像は、つっちーの反応から間違いではないのが伝わってきた。


「美羽ちゃんと日菜子ちゃん相手にするアタシの苦労も考えて欲しいわ」


 つっちーは苦笑しながら息をつく。


「そう? 楽しそうじゃん」

「なんなら未央ちゃん、変わってみる?」

「それは遠慮しようかな」

「えー、遠慮しないでよ?!」


 みうみうがびっくりしたように肩を落としたけど、すぐに開き直って。


「でも一回ぐらい変わってみるのも面白くない? どっきり企画でニューウェーブとニュージェネレーションを間違えちゃった、的な!」

「はいはい、いつかね」

「亜子ちゃん釣れない!」


 ドヤったみうみうをあっさり流した。流石のつっちーだ。


 やがて日菜子ちんもやってきて、三人はエレベーターに乗り込んだ。



 扉が閉まる前に、みうみうが小さく手を振ってきた。


「じゃあね、未央ちゃん」




7 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:55:10.89 ID:5UUNa7QZ0


 私はあーちゃんの控え室へ向かう。中を覗き込むと、あーちゃんがなにかを読んでいた。

 台本ではない。雑誌のようだ。

 振り返ったあーちゃんは、嬉しそうに微笑んだ。


「未央ちゃん、お疲れさま」


 やっぱり実物が一番可愛い。


「あーちゃん。今日はよろしくね」

「うん、こちらこそ。未央ちゃんがゲストに来るの、楽しみにしてたんだ」

「私もだよー」


 あーちゃんとは、もう一人、日野茜こと茜ちんを加えた三人で『ポジティブパッション』というユニットで活動している。

 そうでなくてもプライベートで会うことは多いが、こうして個人番組にゲストで来るのは、いつもと違うわくわくがあった。

 私はあーちゃんが閉じた雑誌の表紙に目を落とす。二十代向けのファッション雑誌のようだ。

 あーちゃんがふだん読むような雑誌ではなかった。


「ふうん。『貴方の「カッコいい」を見つけよう』ねー」


 表紙に書かれていた煽り文句を声に出して読む。


「あーちゃんそう言うの目指してたり?」

「えっ? ああこれ。そんなんじゃないって」


 あーちゃんは雑誌を手に取るとぱらぱらとページをめくった。中央付近のページを私に見せるように開く。



 私は眼を丸くした。

 そこには、ピアノに背を預けて立っている一人の女性が写っていた。

 長くて滑らかな髪の毛に、整った顔立ち。何気ないように首をかしげている立ち姿は自然であるのに、ピアノに乗せた指先一つとってもキレイに決まっていた。

 そう感じるのは、カメラマンの腕だけが良いからだけではないだろう。


 彼女自身の努力の賜物だ。




8 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:56:12.61 ID:5UUNa7QZ0


 そのキレイさにちょっと嫉妬を覚えて、でもその嫉妬が不愉快なものでないのは、彼女をよく知っているからか。

 松山久美子。くみちーだった。


「これ、くみちーじゃん」

「そう、久美子さんから今度雑誌に連載が乗るって教えてもらったの」

「くみちーと仲良かったっけ?」

「前にイベントで一緒になってから、少しだけ。このカフェ、久美子さんに連れていってもらったことあるんだ」

「へえ」

「素敵なカフェなの。オリエンタルな感じでね」


 雑誌を受け取った私は、書かれていた文章を軽く目を通す。これが初回らしい。

 次のページには雨の中、カフェでゆったりと過ごしてるくみちーが写っていた。

 『雨だからこそ、自分とじっくり向き合える』。


 それから、雨の日のおしゃれなんかを色々書いてあった。くみちーらしい記事だ。

 最近はこういうモデルの仕事も増えているようだった。

 くみちーの仕事を、あーちゃんのお陰で見つけられたのは嬉しかった。二人が仲良くやっているという話も。でも。


(あーちゃんに教えて、私には教えてくれなかったんだ)




9 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 19:57:46.49 ID:5UUNa7QZ0


「今度一緒にどうかなって……未央ちゃん?」

「えっ、なに?」


 私は顔をあげてあーちゃんを見る。あーちゃんは首を傾げていた。


「どうかしたの。なんだか、ボーっとして」

「え、いや。そんなことないって……このカフェでしょ。いいよね。今度一緒行こうよ!」


 ぎこちなく笑った私を、あーちゃんは不思議そうに見つめていたけど。


「変な未央ちゃん」


 そう、優しく綻んだ。






 収録は気楽な雰囲気で進んでいった。

 番組には何回もゲストに出ていたし、ラジオのディレクターや放送作家さんとは他の番組でも顔を合わせる人たちだった。

 砕けた感じで、でも崩し過ぎないで。だけどやっぱり喋り過ぎちゃって、収録は少し押していた。

 リスナーからのメールコーナーのことだった。


 今月のテーマは、春らしく『初心』。


 交互にメールを読むことにしており、次は私の番。

 放送作家さんから受けとったメールに目を通した。




10 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:00:12.98 ID:5UUNa7QZ0

「続いては、PN・『春よ去るな』さん。
『藍子ちゃん、ゲストの未央ちゃんこんにちは』、
はい、こんにちはー。
『お二人とも今では押すに押されぬ人気アイドルで、ファンの皆さんからたくさんお便りを貰っていると思います』。
いやいや……
『それで質問なのですが、今でも最初に貰ったお便りのことなどは覚えているでしょうか。また、そのお便りは現在も持っているでしょうか?』。
だって」

「お便りですか」

「あーちゃん覚えてる?」

「もちろん覚えてるよ。それにこの番組の最初に読んだメールも」

「へえ。どんなの?」

「えっと、どっち? 普通に貰ったのか、このラジオか――」

「ラジオが気になるかな」

「ラジオはね、嬉しかった。ラジオのレギュラーはこれが初めてで、すっごく緊張してたからさ」

「初めてのが今も続いてるって凄いよね」

「いや、そんな……えっと、それでメールなんてくるのかなって不安だったから、お便りがきてるって聞いた時。すっごく、すっごく嬉しかったの」

「どんな内容だったの」

「まずは番組スタートおめでとうってあって。それから質問があったの」

「どんなの?」

「『好きなお寿司のネタはなんですか』って」

「ちょっと待って。作家さんなんで最初にそれ選んだの? 最初の手紙の内容がお寿司のネタって……え? 『本田さんは?』。作家さん誤魔化しててない?」

「聞きたいな私も。未央ちゃんは覚えてる? 最初の手紙」

「覚えてるに決まってるじゃん。手紙は今でもちゃんと持ってるし。『応援しています。活動を頑張ってください』って。アイドルになったばっかで、あの頃はさ……」

「あの頃は、なに?」

「そのー……デビューした頃は、色々苦労したって話」




11 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:01:49.05 ID:5UUNa7QZ0


 夕食はいらないというと、お母さんは不満そうな顔をした。

 ご飯はあーちゃんと食べて帰ると連絡していたのに、お茶ぐらいだと勘違いしていたらしい。

 唐翌揚げは明日のお弁当のおかずになるだろう。

 部屋に入ると私はベッドに腰をかける。窓の外はすっかり暗い。居間からはテレビと両親の笑い声が聞こえてきた。

 私も自室のテレビの電源を入れる。地方局の番組でユッキーが下町案内をしているのが映し出された。

 テレビをBGMに部屋着に着替える。ぼんやりとテレビを観ていたが、テレビラックの小物入れに視線を落とした。

 その引き出しを開ける。中には封筒が二つ入っていた。淡い水色の封筒と、どこにでもある茶封筒。

 水色の封筒は、初めてのファンレターだった。

 前はこの引き出しをファンレター入れに使っていた。喜ばしいことに、その引き出しでは入りきらなくなって別の大きな箱に移したけど、これだけはここから移す気にはなれなかった。

 貰った時は嬉しかった。読んでは閉まって、また開いては読んでを繰り返した。

 そんな頃を思い出し、頬が綻ぶ。

 でも、いつしかそんな事はしなくなった。

 慣れというのもあるだろう。今でもファンレターを貰うのは嬉しいし、ちゃんと目も通す。

 だけど初めてというのはやはり特別で、だからここから移さなかった。


 でも、ここに入れたままの理由はそれだけじゃない。


 気がつけば、私の顔からは笑みが消えていた。




12 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:03:05.60 ID:5UUNa7QZ0


 茶封筒に手を伸ばして、中身を取り出す。

 入っていたのは一枚の写真だった。

 三人で映っている写真だ。

 ニュージェネとも、ポジパとも違う。


 裏にはその当時に考えたばかりの各人のサインと共に、ある言葉が添えられていた。




『三人で、星を目指して』




 私と、くみちーとみうみう。


 サンセットノスタルジーの写真だった。




13 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:04:56.36 ID:5UUNa7QZ0


 私がアイドルになったばかりの頃、会社自体も試行錯誤を繰り返していた。

 様々なアイドルの可能性を探していると、プロデューサーからは聞かされた。

 その一環で、沢山のアイドルとユニットを組んだりした。それは今でも変わらないけど、前はもっと頻繁だった。


 その中で、みうみうとくみちーと組んだのがサンセットノスタルジー。サンノスだった。


 年もバラバラで、ユニットでは私が真ん中。偶然にも私も三人兄弟の真ん中だから、立場は一緒だ。

 ユニットは、けっこううまくいっていたと思う。

 私にとって初めての専用衣装も、このユニットで作ってもらったものだ。

 オレンジとクリーム色の意匠は、夕焼けとその空に浮かぶ雲の色のよう。

 体のラインに合わせた、ちょっとセクシー衣装だった。

 その衣装を着て何度かミニイベントも行った。


 初めて貰ったファンレターも、サンノス活動の時のものだった。


 サインも一緒に考えた。初のイベントの前、ファミレスで何時間もこもって、あーでもないこーでもないと言いあって。実際は殆ど雑談をしていただけで、最後に無理やり決めたサインも、おふざけが過ぎてボツになった。

 写真に書いたサインと寄せ書きは、そのイベントの後だと思う。

 初めてのイベントの成功を祝って。

 そしてこれからの私たちの発展を願って。



 でも、気がつけばサンノスでの活動はなくなっていた。

 ニュージェネレーションに、私の活動がシフトしたのもあると思う。

 くみちーやみうみうも、それぞれの場所で活躍するようになっていった。




14 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:07:06.41 ID:5UUNa7QZ0




 サンセットノスタルジーの活動が減って、二人と会う機会も減った。

 完全に疎遠となったわけではない。

 会えば話もするし、みうみうとはよくメールのやりとりがあった。


 もちろんくみちーとも。


『雑誌に載ってたお店、昨日行ってきたよー!』


 朝。登校中にふと思い立ち、くみちーにメッセージを送った。

 学校についてから確認すると返信が来ていた。


『雑誌って連載のこと? 見てくれたんだ!』

『あーちゃんから聞いたの。教えてくれないなんて水臭いぞ〜』

『ゴメンゴメン。藍子にはレッスンが一緒になった時に話したんだ』


 返信を書いている時に、またメッセージが送られてきた。


『誰と行ったの。まさかデート?』

『あーちゃんとだよ』

『やっぱりデートじゃん』

『なになに、妬いてるの?』


 チャイムと同時に、先生が教室にやってきた。私はスマホをしまった。



 
 一限目を終えて、スマホを確認する。新しいメッセージが三つ。一つは茜ちん。残り二つがくみちーだ。


『なに言ってんのよ、馬鹿』


 その五分後のメッセージ。


『妬いてる訳じゃないけど、今度一緒に遊び行かない? 予定が合えばだけど』


 もちろん。と私は返信した。




15 : ◆saguDXyqCw :2017/06/18(日) 20:08:10.63 ID:5UUNa7QZ0



 だから、別に寂しいとかは思わない。

 ずっと昔、お母さんが言ったことがあった。

 私が幼稚園のときだ。

 もう何年もあってない友達がいると聞いたとき、幼かった私には信じられなくて、それって友達なの? と尋ねたことがあった。


 当然よ。とお母さんは答えた。



 だから私も言い切れる。

 今でも二人は大事な仲間で、友達だ。

 お母さんと比べたら遙かに頻繁に会っているし、やりとりだってしているのだから。




 それでもふと、考えることがある。

 あの衣装は今どこにあるのか。


 ダンボールに入れられ、棚にしまい込まれている衣装を、たまに想像することがあった。




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