【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:00:47.21 ID:zOwcRhlF0
一応の区切り。
デレマス時代劇もしばらく休むと思う。

第1作 【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作 【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」

読み切り 
【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」 
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」
【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
【デレマス時代劇】大原みちる「麦餅の母」
【デレマス時代劇】キャシー・グラハム「亜墨利加女」
【デレマス時代劇】メアリー・コクラン「トゥルーレリジョン」
【デレマス時代劇】島村卯月「忍耐剣 櫛風」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1496890846
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:01:46.69 ID:zOwcRhlF0
美城の名にふさわしい、豪奢な城郭。

その主は現将軍の長子、三村かな子に決まった。

彼女は特段優れた能はないが、

初代将軍に生き写しのようにそっくりで、

周りからの支持を集めていた。 

ゆくゆくは母を継ぎ、

天下の支配者になる、そう言われていた。

だが、それを快く思わない者達がいた。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:02:50.57 ID:zOwcRhlF0

「荒木の連中が…そうか」

かな子の家臣の1人が呟いた。

現在、美城に向けて出立の準備をしている最中だったが、

そこへ、荒木の忍達が差し向けられた、という知らせが届いた。

荒木家は将軍家の分家で、その長子の荒木比奈も

次期将軍候補として目されている。


無論三村側は対策が必要だったが、並の武士では忍に勝てぬ。

さらに三村の忍、浜口家はすでに断絶している。

かつての美城における、浜口あやめの死によって。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:03:25.40 ID:zOwcRhlF0
「どうされますか」

報告にやってきた部下はそう尋ねながらも、

どうすればよいかは理解していた。

荒木の忍に勝てるだけの、

腕の立つ剣客を雇い入れるほかあるまい。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:06:02.85 ID:zOwcRhlF0
「するってえと、

 アタシらはその“かな子様”とやらの
  
 子守をすればいいわけだ」

 向井家の屋敷に、4人の女が集まっていた。

 柳生新陰流、向井拓海。

 同じく新陰流、双葉杏。

 拳法、諸星きらり。
 
 我流捕縛術、安斎都。

 木村屋における、上位の実力者達である。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:07:02.34 ID:zOwcRhlF0
「お相手が少し可哀想ですね、

 向井さんと双葉さんがいるなんて!」

 安斎都は、底の知れない笑顔で言った。

 一同は、未だこの女の

 実力を把握しきれていないところがある。
 
 ただ、あの高垣楓を捕縛した、という事実を知るのみである。

「それにしたって、杏。

 お前が出張るなんて珍しいじゃないか」

 向井が双葉を指差して、尋ねた。

 放っておけば飯も食わないような不精者が、藩外で仕事をするとは。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:08:18.69 ID:zOwcRhlF0
「んー、給金がいいからねえ」

 双葉の言葉は事実であった。

 此度の護衛には、尋常でない報酬が支払われる。

 その出どころは複数あった。

「三村家、かな子様を支持する桐生屋…あと1つは、不明だったな」

 木村屋は仕事柄、客と顔を合わせずに剣客を派遣することもあった。

 暗殺や襲撃などの場合は、特にそのような傾向があったが、

 護衛で顔を伏せるとは珍しい。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:09:15.76 ID:zOwcRhlF0

「ひょっとしたら、荒木派の人かもしれないにぃ」

 諸星がそう言った。ありえる話だ。

 一家の長に対する忠誠と、

 将軍に対する畏怖が別々な人間は多い。

「杏は別に行きたくなかったんだけど…」

 双葉が面倒そうに答えた。

 一同がくすりと笑う。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:10:01.72 ID:zOwcRhlF0
「まあ、権力とお金以外に取り柄のない人達が、

 金に飽かして上位を引き抜いたわけですから、

 しょうがないですね!

 せめて未央さんがいれば、もっと楽ができたんでしょうけど!」

「そーだね」

 双葉が安斎の言葉に頷いた。

 しかし未央は別件で隠岐に向かっている。

 「いや、いなくてもよかったかも分からねえ。
 
  木村の野郎と財前屋のせいで、村上があっちにいるからな」
 
  向井の言葉に、一同はまた苦笑しながら頷いた。

10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:10:58.61 ID:zOwcRhlF0
村上巴は、財前屋の借り切った料理屋で

荒木の忍達3名と会うことになった。

しかし姿が見えるのは2人。

その2人もずいぶん奇妙であった。

安部菜々。本名かどうかは分からない。

人参のような髪の色をしていて、表情は穏やかに笑っている。

しかし目は笑っていない。

年は若く見えるが、奇妙な圧迫感を感じる。

服装は蘭国の給仕のような、洋服と前掛け。

そしてなぜか、頭に兎のような耳が生えている。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:11:44.89 ID:zOwcRhlF0
佐々木千枝。こちらも偽名かもしれぬ。

すりたての墨のよういに艶めいた、黒の短髪。

小さな子どものような丸顔で、背も低い。

こちらも薄く微笑んでいるが、

先ほどから一向に村上と目を合わせない。

服装は縁日のような、明るい水色に金魚模様の着物。

大きさがだぶだぶで、身体に全く合っていない。

手や足が外にでるのだろうか?
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:12:39.77 ID:zOwcRhlF0
両者ともあまりに目立つ格好。

世俗離れ、あるいは、“忍者離れ”した風体である。

「服部さんとやらは…?」

沈黙と忍者達の異様さに耐えかねて、村上は尋ねた。

服部瞳子の姿は見えない。

「もう“お見えになって”いますよ! キャハっ!」

菜奈が馬鹿に陽気な声で言う。

村上はもう一度辺りを見回したが、服部の姿はない。

忍術か。

村上は、そんなものは信じていなかったが、

実際“目の当たり”にしているのだから、そう納得するほかない。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:13:23.39 ID:zOwcRhlF0
「そいじゃあ話を始めようかのう」

背中にひりりとした感触を覚えながらも、村上は会合を始めた。

「三村側についている護衛は、皆化け物じゃ」

彼女は端的にそう言った。

抽象的な表現であるが、事実である。

「戦い方がどう、と言うことはできん。
 
 それで勝てるような奴らじゃないからのう」

率直な感想と、仲間としての情を

うまく噛み合わせて、村上は説明した。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:14:12.93 ID:zOwcRhlF0
「それじゃあ村上さんは、どうして荒木に?」

千枝が、少女の声で村上に質問した。

なんとない一言であったが、

返答次第では殺す、そういう意味があるのやもしれぬ。

「財前屋から声がかかったのと、うちが戦いたかったから」

そう村上は答えた。

彼女は、平和な日々を仲間と楽しんだが、同時に退屈していた。

侠客として全国を流浪していて時のような、

じりじりと灼きつく緊張感がない。

片桐と戦った時のような、恐怖と興奮がないまぜになった、

複雑な悦楽に溺れる機会もない。
15 : :2017/06/08(木) 12:14:18.17 ID:RQ31ifed0
ウルトラ忍法帖
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:14:47.50 ID:zOwcRhlF0
「うちは戦うのが好きで、好きで、しょうがないんじゃ!」

とても純真な、童女のような笑顔で村上は言った。

荒木の忍達よりも、あるいは彼女の方が

螺子が多めに外れているのかもしれない。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:16:07.88 ID:zOwcRhlF0
向井達は美城の外、三村家の本家に招かれた。

かな子に謁見するためである。

しかし一同が入室を許されたのは、

少々広い程度の茶室であった。

とても次期将軍にふさわしい部屋には思えぬ。

かな子自身の風体も、

まったく将軍家の後継とは見えなかった。

薄い鷲色の髪や、体格こそ立派だが、覇気がない。

向井達が入室したときも、畳に寝そべりながら、

片手に読本、片手に小倉饅頭という格好だった。

服は麻でできた質素なもので、涼しげだが侘しい。

町でせせっこましく三文そばなど食っていても、

将軍家の娘と気づかれないだろう。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:16:40.71 ID:zOwcRhlF0
「そちらが、護衛の者かえ?」

口調もなんだかだらしがなく、気が抜けている。

しかも口周りには、饅頭のかすがついている。

「…はい、左様で御座います」

なぜか急に静かになった双葉の代わりに、向井が答えた。

「家臣達が集めてきてくれた者達じゃ。期待しておるぞ」

本当にそう思っているのか、読本から目を外さずに、

かな子が言った。

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:18:07.59 ID:zOwcRhlF0
「「「「は」」」」

向井一同が頭を下げた。

それから互いに言葉が続かず、

間の悪い沈黙が広がった。

だがそそくさと退出すれば、

任務ひいては、

次期将軍をおろそかにしていると判断されかねない。

向井達は、じわりと嫌な緊張感を覚えた。


かな子は気にせず読本をぺらぺら捲っていたが、

突然それを閉じて、双葉の前に立った。

「お前」

「はっ!」

双葉が恐縮したように縮こまった。

普段落ち着いた彼女にしては珍しい反応であった。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:18:35.82 ID:zOwcRhlF0

「随分貧相な身体をしておるのう。饅頭を食うか?」

「はっ! 殿の御好意、臓腑の隅まで染み渡りまする!」

饅頭を急いで食べながら、双葉が言う。

どうした…?

一同が、彼女を怪訝な目で見た。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:19:26.13 ID:zOwcRhlF0

茶室から退室し、

向井達は城下の旅館に泊まることになった。

そこで、安斎がにやにやしながら双葉に尋ねた。

「次期将軍にビビってました?
 
 杏さんらしくもないですね!!」

双葉の表情は、先ほどから青ざめている。

「杏ちゃん、本当にどうかしたのぉ…?」

きらりがとても心配そうに言った。

「いや、どうかしたっていうか…うーん…」

双葉はしどろもどろになりながら、答えた。

「かな子様の読んでた本、どろどろの女色ものだった……」

そこで、安斎も含めて、皆の顔もさあっと青ざめた。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:21:05.86 ID:zOwcRhlF0
2週間後、三村家と向井一同の旅路は、

美城へと続く山道にさしかかっていた。

荒木派からの襲撃は、

この山道において来ると予想されている。

さて、どう仕掛けてくるか。

向井はかな子の籠の横で考えた。

矢や手裏剣ぐらいなら、他の従者達が壁になって防げる。

また、向井達ならはたき落とすことが可能だ。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:22:07.95 ID:zOwcRhlF0
一番厄介なのは山道に火を放たれることだが、

その可能性については双葉が否定した。

確実に将軍を葬るのであれば、

死体の判別がつかなくなるような殺し方はしない。

そんなことをすれば、

「実は…」という形で、影武者なりが本物と入れ替わろうとも、

荒木側にはそれを確かめる術がない。

彼女達には、本物のかな子の首が必要なのだ。

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:22:39.48 ID:zOwcRhlF0
忍術とやらが気にかかるが…。

向井がそう思った矢先、正面の茂みがごそごそ音を立てた。

一同が、そちらを注視する。

しかし、現れたのは鹿であった。

怯えたような顔をして、踵をかえし森へ隠れた。

驚かせやがって。

向井が振り返ると、籠の反対側で異変が起こっていた。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:23:35.52 ID:zOwcRhlF0
宙から刃が突き出し、諸星きらりに突き刺さっていた。

「きらり!!」

向井が叫ぶ。

諸星が宙に向かって拳を振るう。

すると、肉の鈍い音がした。

透明になる術か!?

向井がそう理解した時に、安斎は既に動いていた。

籠の真上に向かって、自身の小太刀を投擲する。

すると、それは宙に突き刺さり、籠を越え、

森へ消えた。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:24:36.74 ID:zOwcRhlF0
服部瞳子は、思いがけない反撃に驚いた。

まさか動きを見切って、透明になっていた

服部に攻撃を仕掛けてくるとは。


彼女は、安部菜々と佐々木千枝、村上巴の3人に合流した。

「派手にやられましたね!」

苦痛にあえぐ服部を気にせず、菜々は小太刀を

傷口から抜いた。

「だから言うたじゃろうが」

村上が肩をすくめた。表情は嬉しそうだった。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:25:35.50 ID:zOwcRhlF0
「ナナさん、治療を…」

服部は懇願した。

しかし、菜奈は人指し指を横に振った。

「治してもらえる、そう思っているから負傷するんですよ!

 キャハっ!!」

 千枝もにこにこ笑っている。

 “最年少の”服部は、何も言い返すことができない。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:26:12.15 ID:zOwcRhlF0
菜々さんの字がまちがっとるー!!!
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:27:26.61 ID:zOwcRhlF0
 
「ところで……うちら、今日の夕餉はどうするんじゃ?」

 村上は尋ねた。
 
 忍者の社会構造よりも、夕食のことが気にかかる。

 村上はすでに顔が割れているから、付近の茶屋などで

 軽食を済ますこともできない。

 忍達の方は、どうなのだろうか。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:28:19.88 ID:zOwcRhlF0
「ナナ達は…蛇でも食べましょうか…金欠ですから…」

 菜々の表情が、一気に暗くなった。

「…忍者って、貧乏なんか?」

「まあ、目立った生活はできませんからね…

 今回の仕事も、別に報酬とかありませんし…

 荒木の家臣達は“忠義だ”、“大義だ”って…。

 それでお腹は膨れないのに…」

 非常に物悲しそうな表情で、菜々が言った。

 村上は、忍者生活の苦労を忍んだ。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:29:19.50 ID:zOwcRhlF0
向井が倒れた諸星に手を貸そうとすると、

かな子の従者達が止めた。

「諸星殿は、我らが運ぶであります!」

向井は困惑した。

たかが一介の護衛に、何故。

「かな子様の命ですっ! 押忍!」

向井と双葉は、はっとかな子の籠を見た。

そして、両者は深々と一礼した。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:29:55.53 ID:zOwcRhlF0
荒木比奈は、自身の書室で頭を悩ませていた。

将軍になどなる気はないのに、家臣達が勝手に動いた。

そして、親友のかな子を暗殺するという。

比奈は家臣達が、自分ではなく

“荒木という権力”に仕えていることに、

前々から気づいていた。

比奈の意見には、毎度「しかし」を付けて、

自分たちのいいように捻じ曲げる。

我らにお任せ下さい、と言って報告を怠る。

失態をすれば、身内で卑しく庇い合い、

罰する側の比奈が悪いように責める。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:30:39.71 ID:zOwcRhlF0

できることなら全員打ち首にしてやりたいが、

別に家臣達は比奈に悪意を持っているわけではない。

領民達への手前もあり、簡単には処罰できないのだ。

そして頼れる忍、安部菜々と佐々木千枝は

尖兵として出立してしまった。彼女達を使うことはできない。

比奈は、かつてない無力感に打ちひしがれた。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:31:36.13 ID:zOwcRhlF0
3日後。

三村一同は山道を抜け、美城領の一歩手前にたどり着いた。

物静かな郊外を好む、奇特な武士達が築いた屋敷群。


時刻は夕暮れ。

諸星きらりは離脱。どうやら、敵の刃に毒があったらしい。

かな子の医師が手を尽くしてくれているが、

未だ意識は戻っていない。

向井、安斎、双葉の3名で、かな子を守らねばならないのだ。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:32:20.92 ID:zOwcRhlF0
向井拓海、安斎都はかな子のいる屋敷の外に立った。

双葉は中で、かな子と諸星を守っている。

「透明になる忍者、どうやって倒しますか?」

安斎は向井に尋ねた。

術は単純明快、ゆえに厄介。

おおまかな場所をつかんで攻撃しても、

仕留めることができない。

急所がわからないからだ。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:32:53.90 ID:zOwcRhlF0
「掴んで死ぬまで殴る」

向井は獰猛な顔で言った。

完全に頭に血が上ってしまっている。

これじゃあ、双葉さんの方がかえって落ち着いてますね…。

安斎は肩をすくめた。

そんな2人の前に、刺客達は正面から現れた。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:33:25.18 ID:zOwcRhlF0
「一応聞いてやる。何者だ」

「ウサミン星からやってきました、

 安部菜々17歳です! キャハっ!!」

「はは、面白いやつだ」

向井の蹴りで、相手の頭が身体を残して、

どこかへすっ飛んでいった。

「安斎、餓鬼の方を頼む」

「了解です!!」

だぶだぶの着物を着た娘を、安斎が弾き飛ばした。

そして、彼女は向井から離れていった。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:35:54.45 ID:zOwcRhlF0

双葉杏は座敷で瞑目していた。

諸星が負傷、いまは生死をさまよっている。

さらに相手方には村上がいる。

三村側にとっては苦しい状況だ。

木村夏樹は多額の報酬を貰っておきながら、

なぜ護衛を4人に限定したのだろうか。

双葉らが腕利きなのは間違いがないが、

次期将軍をお守りするとなれば、

もう2人か3人欲しいところだ。

それだけでなく、情報を持った村上を荒木側に送るとは。

まるで、意図的に三村側が

不利になるように仕向けているようだ。

双葉にはそう感じられた。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:36:41.65 ID:zOwcRhlF0

金に目が眩んでいるのか、最近の木村は妙な采配が目立つ。

新城の材木集めにしても、一歩間違えば桐生屋と財前屋

両者を敵に回していた。

彼女の頭が切れることには間違いがないが、

『木村屋』はしょせんごろつきの集まりだ。

 背伸びはあまりしすぎない方がいい。面倒なことになる。

 双葉はざらついた畳を撫でた。

 武家社会からはぐれた自分達に、誇るべき功も名誉もありはしない。

 木村屋の仲間、互いを守ること。

 それだけが双葉達に残された、唯一の矜持だ。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/08(木) 12:38:10.49 ID:zOwcRhlF0
「これで2人っきりだ、巴」

向井拓海は、村上巴を見た。

「お前を殺さないために、刀を持ってこなかったんだ。

 感謝しろよ!」

「そいつは有難いのう」

残された菜奈の身体を見ながら、村上が苦笑した。

「拓海さん、うちはな。
 
 木村屋の中で、アンタと一番戦いたかったんじゃ。

 仕事のことは正直どうでもええ」

村上が小太刀を抜いた。

その表情は、本気で向井を殺すつもりだった。

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