梨子「5年目の悲劇」

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111 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:07:36.51 ID:OK/bdtscO
────梨子の部屋。


梨子「んー……」


分からない。この事件は謎が多すぎる。


まず一つ、何故犯人は鞠莉の首を切断したのか。

鞠莉の死体には、首を絞めたような跡がはっきりと残されていたのを確認している。

仮に彼女を殺すだけなら、絞殺死体でも十分なのではないだろうか。
112 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:09:25.83 ID:OK/bdtscO
二つ。何故犯人は犯行を善子の仕業のように見せかけているのか。

首が狩られていた件についても、かつて善子がハマっていた黒魔術、その類の見立てと考えれば一応辻褄は合う。

現に善子の持ち物である魔法陣の描かれたクロスが使われたのだから、彼女が犯人と考えるのが自然ではある。
113 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:10:18.57 ID:OK/bdtscO
しかし、もし彼女が犯人ではないと仮定した場合。

犯人はその偽装を、“Aqoursの皆”に見せつけたのだ。

全盛期ならいざ知らず、5年経った今でもその名前を紙に記し、私たちを誘導した。

度の過ぎたファンの仕業か、或いは。
114 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:11:24.21 ID:OK/bdtscO
梨子「まさか」


『私たちの中に、犯人がいる』

あまりしたくない想像を保留として、思考を次へ進める。
115 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:12:44.43 ID:OK/bdtscO
三つ目。何故犯人はロープウェイを使えなくしたのか。

ワープロであんな紙を用意していたことと言い、私たちをここに閉じ込めたことといい。

一連の犯行には、計画性が滲み出ている。

犯人はこの後も誰かを狙っているのだろうか、そんな考えが頭をよぎった。
116 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:13:50.71 ID:OK/bdtscO
梨子「そうだ、内線」


果南はあの時、内線電話について触れていた。

当然、この部屋にも備え付けの電話機が設置されている。

薄い期待を胸に受話器をあげ、1、1、0のボタンを押してみる。
117 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:14:36.55 ID:OK/bdtscO
梨子「……やっぱりダメか」


繋がらない。外部への連絡手段は全て絶たれている。

夕飯時までベッドで寝転がっていようか。そう思った矢先。

プルルルル、とさっき切ったばかりの室内電話が鳴り出した。
118 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:15:24.44 ID:OK/bdtscO
梨子「もしもし」

果南『もしもし、私。さっきはごめんね』

掛けてきたのは果南だった。別段何かが起こったワケでもないらしい。

梨子「いいですよ、そんな……」
119 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:18:32.44 ID:OK/bdtscO
果南『私ね、梨子ちゃんが羨ましいって思う』

梨子「……?」

果南『鞠莉が死んだ時、梨子ちゃんは私やダイヤを気遣ってくれた』

果南『でも、私自身は鞠莉があんな死に方をしたのに全く悲しめてなくてさ。死んだのか、程度にしか思えなくて』

梨子「果南さん……」
120 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:20:37.25 ID:OK/bdtscO
果南『梨子ちゃんも気を付けた方がいいよ。2年で変わらなくたって、5年も経てば人は変わるんだから』

梨子「っ……」

果南『それじゃあ、夕飯の時になったら教えてね』ガチャッ ツー ツー ツー

彼女の言葉に、私は何も言い返すことが出来なかった。


──ねえ、梨子ちゃん。あのこと、私は忘れてないからね。


同時に、何となく千歌のことが気になったが……結局、電話を掛けることも、直接部屋に行くことも出来なかった。
121 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:21:05.45 ID:OK/bdtscO
────14時頃、千歌の部屋。


千歌「──うん、多分そういうことだから。じゃあね」 ガチャリ

千歌「……ハァ」
122 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:22:06.51 ID:OK/bdtscO
鞠莉の死体を目にした時、「当然だ」という感情しか湧かなかった。

理由はどうあれ、彼女はそういう運命だった。然るべき報いを受けたのだ。

千歌「…………」

いつからだろう。いつからこうなってしまったんだろう。
123 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:22:36.40 ID:OK/bdtscO
千歌「……雨、まだまだやみそうにないね」

カーテンを閉め、ベッドに軽くダイブする。

千歌「まったく、都合が良いんだか悪いんだか」

その呟きを聞く者は、ここにはいなかった。
124 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:24:01.21 ID:OK/bdtscO
────15時頃、花丸の部屋。


花丸「善子ちゃんが犯人なワケ、ない……」

絞り出すように呟いた。

あの状況では善子に疑いが向くのは無理もないだろう。

現に果南は疑っていたし、他の皆もその方向に傾いているかも知れない。

何しろ、彼女の消息は自分にさえ分からないのだ。

けれども津島善子が人殺しをするような人間でないことは、自分が一番分かっている。
125 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:24:30.05 ID:OK/bdtscO
善子『ずら丸、私、番号がない……』

花丸『嘘……だって、405、406、よんひゃくは……』

善子『…………』

学科は違っても、一緒の大学に行こう。

そう誓って一緒に勉強したけれど、善子は受験に失敗した。
126 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:25:31.61 ID:OK/bdtscO
善子『何で私に構うのよ……あんた今日講義あるんでしょ?』

花丸『善子ちゃんが部屋から出るまで、ここにいるずら』

善子母『ごめんなさいね、いつも』

花丸『いえ、お構いなく』

善子『…………』

やがて彼女は、浦の星入学当初のように引き籠ってしまった。
127 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:26:22.16 ID:OK/bdtscO
花丸『昨日、ルビィちゃんがテレビに出てたずら』

善子『知ってる。芸能事務所入ったんでしょ』

善子『私もあんな風に、輝いてたのにね……』

善子『あの頃に、戻りたい……』

花丸『…………』

出席日数に影響の出ない範囲で、ずっと善子に構い続けた。
128 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:27:24.33 ID:OK/bdtscO
善子『ずら丸、今日空いてる?』

花丸『空いてるけど……どうしたの?』

善子『スーツ買いに行くから、付き合って頂戴』

花丸『スーツ……?』

やさぐれていた彼女は、ある日を境に突如活発になった。
129 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:28:17.97 ID:OK/bdtscO
善子『この前、マリーが家に来てね。今度社長になるから、何ならウチで働かないかって』

花丸『おぉう……だからってこんな急に変わるものずらか』

善子『何だっていいの。これでニート脱出、リア充への第一歩よ!』

ビフォーアフターっぷりに最初は面食らったが、何はともあれ善子が引き籠りから脱却したことを喜んだ。

そして、彼女を救ってくれた鞠莉に感謝した。
130 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:29:45.16 ID:OK/bdtscO
それが、今。

鞠莉が死に、善子がその容疑者だと思われている。

花丸「……」ハァ

こうなってしまうのは仕方ないこと、なのだろう。
131 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:30:13.73 ID:OK/bdtscO
コンコン。

誰かがドアを叩く音。ルビィだろうか。

「はーい」と返事をし、ドアを開けた。
132 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:30:41.42 ID:OK/bdtscO
────16時頃。

プルルルル プルルルル

梨子「…………ん」

いつの間にか寝てしまっていた私を、電話の音が起こした。

梨子「……もしもし」

寝ぼけ眼を擦りながら、応答する。
133 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:31:11.94 ID:OK/bdtscO



『────助けて、殺される!』




そのSOSで、私の眠気は霧消した。
134 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:33:11.82 ID:OK/bdtscO
今回はここまで。

すっかり忘れていましたが、全員の部屋割です。

135 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:36:15.21 ID:OK/bdtscO
……アップローダー側のエラーなのかそれともこちら側に問題があるのか

よく分からないので念のために
https://gyazo.com/64fd497b0bca02c0816f2f469db64ce3

今度こそ今回はここまで。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/18(日) 12:50:37.11 ID:lIrPYmvDO
2年で変わらなくたって〜のくだりでゾッとした
マリー何やったんだよ…
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/18(日) 14:29:38.65 ID:WcxPAKvRo
つまんね
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/18(日) 21:51:04.37 ID:ElGD4bQvo
おつ
続きが気になる〜
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 22:09:20.94 ID:ItDOrnPEo
>>135

http://i.imgur.com/2614FLr.png
140 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:28:25.68 ID:bpoy+28wO
梨子「花丸ちゃん、どうしたの!?」

電話の主は花丸だった。だが、様子が明らかにおかしい。

花丸『ダイヤ、さ、やめ……ガハッ!?』ザクッ

梨子「え……?」

花丸『あっ ギっ があ˝Aあア˝っ!!!?』ザシュッ ズシャッ ズチュッ
141 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:29:20.94 ID:bpoy+28wO
何度も何度も、刃物で肉体を刺す生々しいサウンドが耳に入る。

梨子「もしもし、もしもし!?」

『ぁ…………』



『…………』ガチャッ ツー ツー ツー
142 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:30:17.82 ID:bpoy+28wO
梨子「…………」

通話を一方的に切られ、断末魔が物理的に途絶える。

あまりにも一瞬すぎる出来事に、脳の処理が追い付いていない。

花丸が襲われ、恐らく殺された。それだけでも十分すぎることなのに。

私はこの耳で、はっきりと聞き取ったのだ。




『あなたが、鞠莉さんを……!』




彼女を刺す音に混ざるようにして、憎しみの籠った黒澤ダイヤの声を。
143 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:31:04.37 ID:bpoy+28wO
廊下に出ると、間髪入れず曜と鉢合わせした。

曜「あれ、どうしたの? すっごく顔色悪いけど……」

梨子「話はあとよ、3階に急がないと!」

曜「え、ちょっと、何!?」

困惑している曜の手を引いて、エレベーターホールへと駆けた。
144 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:31:44.44 ID:bpoy+28wO
────3階。

花丸の客室が位置しているのはエレベーターを降りてすぐ、306号室。

部屋の前には既に、ドアを何度も叩く先客がいた。

ルビィ「花丸ちゃん! ねぇ、花丸ちゃん!?」ドンドン


事情をまだ知らない曜が「どうしたの?」と尋ねる。

ルビィ「花丸ちゃんの部屋からヘンな声が聞こえたから……でも、何度呼んでも出なくて……!」

果南「なんだかうるさいけど……」

高森「何かあったの?」

騒ぎを聞きつけ、高森、果南も廊下へと現れた。
145 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:33:03.42 ID:bpoy+28wO
私がかいつまんで事情を話す。

電話があったこと。花丸が襲われたこと。

犯人がダイヤであるらしいことは……言いかけて、結局喉元でつっかえた。

もしそれが真実ならば、目の前にいる赤髪の少女にはあまりにも酷な現実を二ついっぺんに突きつけてしまうことになる。


高森「じゃあ、国木田さんはもう……」

梨子「まだ何とも言えない。けれど、鞠莉さんが殺されてる以上、確認しないワケには……」

曜「私、マスターキー探して来る!」
146 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:34:14.47 ID:bpoy+28wO
千歌「どうしたの? さっき曜ちゃんとすれ違ったけど」

名乗りを上げエレベーターへと急ぐ曜と入れ違いに、千歌が現れた。

梨子「あ、えーと……」
147 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:35:06.33 ID:bpoy+28wO
曜「梨子ちゃん、これ!」

千歌に事情説明をしているうちに、マスターキーを手にした曜がフロントから戻ってくる。

パスされた鍵をキャッチし私は、鍵穴へそれを差し込んだ。

ギィィィ。

オートロック式の重たい扉が開かれ、皆一斉に部屋へとなだれ込む。
148 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:36:04.21 ID:bpoy+28wO
梨子「花丸、ちゃ……」

飛び込んできた光景は、反射的に目を背けたくなるほどに凄惨だった。

真っ赤に染まったベッドの上には、ゴミでも捨てるかのように無造作に置かれた身体が。

滅多刺しにされたということが嫌でも分かるくらいに、衣服にもでかでかと赤い染みを作っている。
149 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:37:01.43 ID:bpoy+28wO
ルビィ「花丸ちゃん、花丸ちゃんが……いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」

そして、部屋の隅にあるテーブルには、鞠莉の時と同様に。

血の気の失せた花丸の首が、魔法陣の描かれたクロスに乗せられていたのだ。
150 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:37:39.77 ID:bpoy+28wO
視界の端に、泣き叫ぶルビィと、苦い顔をして彼女を連れ出す曜と果南の姿が映る

私は無意識のうちに唇を噛んでいた。

もし、あのSOSに早く対応出来ていれば、花丸が命を落とすことはなかったのだろうか。

実際には無理だと言われたとしても、一縷でもその可能性があった以上、私は悔しくてたまらなかった。
151 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:38:21.49 ID:bpoy+28wO
高森「ねえ、これって……」

高森の声で我に返る。

部屋の窓が開いていて、ベランダから1本のロープが垂らされていた。

雨の降る中、犯人はここから逃げたのだろう。


千歌「ところで、ダイヤさんが見当たらないけど……」

梨子「…………」

やっぱり、彼女のことも話した方がいい。

そう判断して、私は残っていた2人と一緒に部屋を出た。
152 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:39:44.31 ID:bpoy+28wO
曜「……ルビィちゃんは、向こうの果南ちゃんの部屋にいる」

306号室を出ると、曜が待っていた。

曜「果南ちゃんだって、鞠莉ちゃんがあんなことになって辛い筈なのに……」

梨子「っ……」

少し前に果南本人から話を聞いているせいで、つい「本当にそうなんだろうか」と無意味な反論をしそうになる。

梨子「……実は、さっきの電話のことなんだけどね」

衝動をぐっとこらえ、代わりに姿を見せないダイヤに関することを口にした。
153 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:40:45.96 ID:bpoy+28wO
高森「……それ、本当なの?」

梨子「犯人が前もってダイヤさんの声を録音していてそれを流した、ってなったら話は変わるけど、間違いない」

千歌「ダイヤさんが犯人だったら……もう、逃げたのかな」

曜「どうして?」

千歌「だって、ベランダにはロープが掛かってたし、梨子ちゃんに声を聞かれてるんだよね?」

高森「確かに筋は通っているけど……」
154 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:42:42.42 ID:bpoy+28wO
高森の言う通りだ。

花丸を殺そうとしたが電話でSOSをされ、それに気づかないままダイヤ本人の声が乗り、逃亡。

一見辻褄は合っているが、そうすると何故魔法陣クロスを再び用いたのかという疑問が残る。

津島善子=犯人のシナリオの次は、黒澤ダイヤ=犯人のシナリオ。

犯人はどうしてそんな回りくどいことをしようとしているのだろう。

何より、私たちはもっと根本的な何かを忘れているような……そんな気がしてならなかった。
155 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:43:38.74 ID:bpoy+28wO
曜「とにかく、一旦部屋に戻ろう」

高森「……そうね」

千歌「…………」

梨子「あ、千歌ちゃん」

千歌「なに?」

向けられた視線に、何故か異様な冷たさを感じた。
156 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:45:09.11 ID:bpoy+28wO
梨子「ちょっと、話があるんだけど」

千歌「……別にいいけど」

怯まず、私は彼女を部屋へ招く。

今のうちに、違和感を払拭しておきたかった。
157 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:45:48.12 ID:bpoy+28wO
────梨子の部屋。

梨子「はい、これ」

千歌「ありがと。それで、話って?」

備え付けのティーパックをゴミ箱に捨て、沸かしたばかりの緑茶を差し出す。

「あちっ」とカップを口から離す動作を見ていると、やっぱり千歌は千歌だ、とどこか安心する自分がいる。
158 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:46:54.07 ID:bpoy+28wO
梨子「前に千歌ちゃん“あのこと、忘れてないから”って言ってたけど……」

千歌「あー……あれね。うん、忘れて」

梨子「え?」

千歌「勢いで言っちゃったけど、あれ、私の自分勝手でしかないから」

梨子「どういうことなの? 話が全然見えないんだけれど」

千歌は、言おうかどうかを迷っているような節が見えた。

けれども少し考える動作をして、やがて紅茶を飲み干し、語り始めた。
159 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:47:40.43 ID:bpoy+28wO
千歌「梨子ちゃん、東京の音大に通ってたんでしょ?」

梨子「うん、そうだけど……」

千歌「梨子ちゃんのお母さんから聞いたんだ。教員免許取れる方の学科も受験したけど、結局ピアノ専攻の学科にしたって」

梨子「確かにそう。浦の星で音楽教師をやってみるのもいいかなって思って」
160 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:48:10.07 ID:bpoy+28wO
千歌「私もそれを聞いて、教職課程の単位を取れる大学を選んだの」

千歌「曜ちゃんもその予定だったんだよ? 飛び込み選手もいいけど、浦の星で体育教師も捨てがたいって」

結局、家の仕事が忙しくて大学には行けなかったけど。伏目がちに、千歌は付け加えた。
161 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:48:57.55 ID:bpoy+28wO
梨子「……なるほど。そういうことだったのね」

ようやく彼女に関する謎が解けた。

私と千歌と曜。いつか3人で、一緒に浦の星で働く。

千歌はそれを夢見ていたのだ。
162 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:49:54.54 ID:bpoy+28wO
千歌「ごめんね。考えてみれば、梨子ちゃんには梨子ちゃんのユメがあるんだし」

梨子「いいよ、そんな……」

千歌「結局、私も大学は中退しちゃったからね。お母さんたちにすっごく怒られた」

てへ、と舌を出す千歌。

なんだ、蓋を開けてみれば単純な話だったのか。

安堵しかけた表情は……しかし、次に紡がれた言葉で再度こわばることになる。
163 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:50:30.38 ID:bpoy+28wO
千歌「……ところでさ」

梨子「?」

千歌「誰が鞠莉ちゃんと花丸ちゃんを殺したんだろうね」

千歌の視線と声色が再び、暗さと冷たさを帯びた。
164 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:52:34.84 ID:bpoy+28wO
梨子「でも、ダイヤさんが犯人だって言ったのは千歌ちゃんじゃ……」

千歌「そんなワケないじゃん。紙なんかを前もって準備したりしてかなり計画を練ってるのに、電話で声を出してしまうなんてミスをすると思う?」

梨子「それは、そうだけど……」

千歌「それに、梨子ちゃんの話が本当ならダイヤさんは花丸ちゃんが鞠莉ちゃんを殺したって思ったことになるでしょ? 何でそうなるの? どうやって知ったの?」

まくしたてる千歌に、ただただ気圧される。
165 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:53:52.29 ID:bpoy+28wO
千歌「何でっていえば……言っておくよ。花丸ちゃんは分からないけど、私には鞠莉ちゃんを殺す動機はある。ああ、果南ちゃんもね」

梨子「ちょっと、どういうことなのそれ!?」ガタッ

突然すぎる告白に、私は思わず椅子から立ち上がる。
166 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:54:53.01 ID:bpoy+28wO
千歌「話はおしまい。犯人推理するなら頑張ってね」

梨子「ちょっと、千歌ちゃん!」

足早に部屋を出た千歌を追いかける。

彼女は自室、203号室に入り扉を閉める。これ以上の追求は許してくれなさそうだ。
167 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:55:29.69 ID:bpoy+28wO
梨子「……あ」

諦めて部屋に戻ろうとして、私は気づいた。

まずい。鍵を持たないまま部屋を出てしまった。

客室の扉はオートロック式。このままでは部屋に入ることが出来ない。
168 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:56:28.64 ID:bpoy+28wO
高森「あら、どうしたの?」

マスターキーは誰が持っていただろうか。

そんなことを考えながら、念のためフロントに確認するためエレベーターへ向かうと、偶然にも高森と鉢合わせした。

梨子「ちょうど良かった。実は……」
169 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:57:47.13 ID:bpoy+28wO
────高森の部屋。

高森「それなら、私が保管してるわ。一番の年長者が預かっててくれると安心だ、ってね」

そう言われ、私は彼女の部屋、305号室へと案内された。

彼女の机には、スケジュールがびっしり詰め込まれている紙や、Aqoursの記事が載った雑誌などが置かれている。
170 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:58:38.37 ID:bpoy+28wO
高森「こういうところって大体オートロックだからね。気を付けなよ?」

梨子「ありがとうございます」

マスターキーを受け取り、ぺこりとお辞儀をする。

返すのは夕飯の時でいいよ、と付け加えられた。
171 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 02:00:00.49 ID:bpoy+28wO
梨子「そういえば高森さんって、今でもスクールアイドルのイベントに携わっているんですか?」

高森「うーん……ちょっと違うかな。今は、『昔スクールアイドルだった人』のお仕事に携わってる」

高森「黒澤ちゃんや、元μ’sの矢澤ちゃんみたいにね。あと、元Saint Snowの2人なんかも」

梨子「あー……」

ラブライブ大会以降、Saint Snowともしばらく会っていない。

懐かしい名前に、あの頃に引き戻されたような感覚になる。
172 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 02:01:11.31 ID:bpoy+28wO
高森「あの時はごめんね、0票の紙……辛かったでしょ?」

梨子「いえ、そんな……」

高森「隠さなくていいんだよ。顔に出てる」

梨子「……辛かった、です。みんな落ち込んでました。特に千歌ちゃん」

確かに辛かった。けれども一度壁にぶち当たったからこそ、私たちAqoursは軌道に乗り始めた。

……その軌道は、もう二度と元通りにはならないくらいに血塗られてしまったのだが。
173 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 02:01:46.26 ID:bpoy+28wO
高森「μ’sやA-RISEが解散してから、スクールアイドルは数が爆発的に増えて、競争主義が目立つようになっていった」

高森「私は何だかそれが我慢出来なくてね。だって、観る人を楽しませるのもそうだけど、自分たちが楽しくなければやってる意味はあるのかなって」

高森の言葉に、初めてAqoursがスクールアイドルとしてラブライブに登録した日を思い出す。

5000グループ、或いはそれ以上のグループの中で、あの時、私たちは頂点に輝けたのだ。
174 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 02:02:31.98 ID:bpoy+28wO
高森「そんな時、あなたたちAqoursが現れた。めいいっぱいに楽しんで、輝こうとしているスクールアイドルに」

高森「私ね、期待してたの。一度スクールアイドル界隈の現実を見せて……そのあとでも輝けるのかなって」

高森「もしそれで辞めちゃったら、私の責任だった。でも、あなたたちは再び舞台に戻ってきた。まさか昔のAqoursまで連れて来るとは思わなかったけどね」

苦笑する高森。

昔のAqours……彼女は、ダイヤたちのことも知っていたのだろう。
175 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 02:03:09.38 ID:bpoy+28wO
高森「いま黒澤ちゃんたちの仕事に移ったのは、あれ以来、競争が激化しすぎて見ていられなくなったからなの」

梨子「そうだったんですね……」

高森「だから、あのAqoursがまた集まるって聞いた時はすっごくワクワクしたのよ」

それが、こんなことになるなんて。

私は、犯人への怒りが己の中に湧いてくるのを感じていた。
176 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 02:03:53.10 ID:bpoy+28wO
梨子「……なんだか、ごめんなさい」

高森「いいのいいの。5年って、人をこうも変えてしまうのかなって、ちょっと悲しくなっただけだから……」

物憂げな言葉に居たたまれなくなって、私は話を切り上げて高森の部屋を出た。
177 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 02:04:24.95 ID:bpoy+28wO
エレベーターの『▼』のボタンを押す。

ふと、思った。

高森は一体何の用があってエレベーターに乗っていたのだろう。

結局その答えは分からないまま、夕食の支度が始まりそうな時間になった。
178 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 02:05:03.39 ID:bpoy+28wO
今回はここまで。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/25(日) 09:01:20.18 ID:tRiRehFDO
千歌ちゃんがすっごい怪しい…
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/25(日) 18:11:01.47 ID:Ib8ngptpO
怪しくないのがダイヤと善子ぐらい
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/27(火) 16:37:35.94 ID:ILFTTQEDO
>>63からの犯人視点?は実は善子が殺されてるとか......? どうだろ
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 20:11:55.41 ID:Oq19cIVN0
なんとなくだけどもうダイヤも善子も生きてなさそう
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/27(火) 23:09:04.10 ID:IdrNbd7SO
まあ金田一やコナン的には死んでるだろうね
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 00:52:42.08 ID:XGo2BZ+To
>>1がしねばいいのに
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 03:21:35.32 ID:69c3LbbDO
桜内少女の事件簿...
186 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:06:58.45 ID:tV5HRLQYO
────17時頃、食堂のキッチン。

曜「なんで二人が殺されなきゃいけないんだろう」

梨子「分からないよ、そんなの」

スープの煮える大鍋をかき混ぜながら、曜が尋ねる。

結局、夕食は私と曜の二人で作ることになった。

食堂には今しがた果南とルビィが現れ、席で待機している。

千歌と高森もいずれ来るだろう。
187 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:07:42.27 ID:tV5HRLQYO
曜「そうだよね……。私にも理由は分からないし、しばらく東京にいた梨子ちゃんなら尚更、だよね」

梨子「うん……」

梨子「(5年も経てば人は変わる、か……)」

果南や高森の言葉が胸に刺さる。

一度殺されて、更に首を切断される。どんな恨みを買えばそうなるのだろう。
188 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:08:54.04 ID:tV5HRLQYO
曜「そういえば、水泳辞めた理由、梨子ちゃんには教えてなかったよね」

梨子「……うん」

曜「……本当はさ、水泳続けたかった。でもパパが身体壊しちゃって」

曜「ほら、私、パパと二人で暮らしてるから……」

曜「悔しかった。けど、私が仕事をしないと生活が出来ない。だから夢を諦めた」

曜「でも鞠莉ちゃんも花丸ちゃんは、これからって時じゃない……」
189 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:09:37.82 ID:tV5HRLQYO
梨子「曜ちゃん……」

ギリ、と奥歯を噛みしめる音がこちらの耳にまで届く。

大企業の社長と小説家志望。二人とも、確かな未来や夢があったのに、殺された。

……水泳選手を諦めた曜にとっては、それがかなり堪えたのだろう。

私はまたしても、返す言葉を失っていた。
190 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:10:57.85 ID:tV5HRLQYO
梨子「……痛っ」

不意に、左手に軽い痛みが走った。

曜「大丈夫!?」

梨子「うん、大丈夫……」

手元が狂って、包丁で指を切ったらしい。

恐らくまだ新品であろう真っ白なまな板に、じわりじわりと赤い染みが広がってゆく。

怪我人に仕事をさせるワケにはいかないと待機する側へと移され、残りの工程は全て曜に任せる形になった。
191 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:11:34.08 ID:tV5HRLQYO
食堂にいたのは、まだ果南とルビィの二人だけ。

二人とも表情は暗い。今でこそ化粧で隠しているが、ここに来る前はルビィの顔には泣き腫らした跡があったという。

指から血を流していることを心配されたが、包丁で少し切ってしまっただけだと宥めた。

……けれども、しばらくはピアノ演奏に支障が出るかも知れない。
192 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:12:40.39 ID:tV5HRLQYO
ルビィが絆創膏を持っているらしいので、私は二人で彼女の部屋へ向かうことにした。

千歌「やっほ。二人揃ってどうしたの?」

道中、千歌とすれ違い、怪我のことなどを簡潔に説明した。

千歌「そっか、お大事に」

やはり彼女の態度はそっけない。何かを隠しているのか、それとも。
193 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:13:07.52 ID:tV5HRLQYO
エレベーターに乗り、3のボタンを押す。

彼女は終始無言を貫き、気まずさだけが場に残っていた。

チン、とベルの音が鳴り、扉が開く。

梨子「────え?」

私は、私たちは、目の前にある“それ”に理解が追い付かなかった。
194 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:14:06.98 ID:tV5HRLQYO
人だ。

倒れている人。

これは誰? 高森だ。

なんで倒れてるの? 背中から包丁が生えてる。

死んでるの? 息は──ない。
195 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:14:40.97 ID:tV5HRLQYO
ルビィ「ひっ……」

直後、耳を劈くような甲高い悲鳴が3階に響き渡る。

高森が殺された。惨劇はまたしても繰り返されたのだ。
196 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:15:44.90 ID:tV5HRLQYO
────食堂。

梨子「……」

気まずい食事はこれで二度目だ。

私は、視線を合わせないように気を付けつつ、全員の表情をうかがう。

千歌も、曜も、ルビィも、果南も。表に出しているかは個人差こそあれど、誰もが3人の死を悲しんでいるように見えた。

だがきっと、この中に芝居を打っている人物がいるのだ。

……我ながら、仲間を疑うことしか出来ない自分が嫌になる。
197 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:16:22.38 ID:tV5HRLQYO
千歌「…………」ズズーッ

果南「ちょっと千歌、行儀悪いよ」

目立つ音を立ててスープを啜る千歌を窘める果南を横目に、思考を更に進める。

犯人はこの中にいる。いつしかそれは、確信へと変わっていた。

しかし、鞠莉と花丸だけならまだしも、今日久しぶりに再会したばかりの高森を殺す動機などあるだろうか。

何より、彼女だけは首を斬られておらず、刺殺されただけ。
198 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:16:59.49 ID:tV5HRLQYO
梨子「……」

私の脳内に、一つの仮説が浮上する。

マスターキーを取りに行く時に、高森とエレベーターで鉢合わせした時。

もしあの時点で彼女がこの事件に関する“何か”を掴み、それを調べる過程、或いは調べがついた後だったとしたら。

犯人によって、口封じをされた。

先の手間の凝った2件と違い、高森殺しは至ってシンプルだ。

あながち間違っていない……のかもしれない。
199 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:17:47.36 ID:tV5HRLQYO
だが仮にそうだとして、彼女は一体何を掴んだのだろう。

そして遺体の見つかった場所のことを考えると、ある明確な『壁』が生まれる。

遺体があったのは3階、エレベーターを降りてすぐ。

果南とルビィは共に3階の部屋、まして途中まで2人一緒の部屋に居たのだ。

ルビィは一度泣き腫らしの跡を隠すために自室に戻ったらしいが、どのみちエレベーターを使えば遺体があることに気付く筈だ。

勿論、果南とルビィが共犯の可能性や、2人して非常階段を使った可能性もないとは言い切れない。
200 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:18:14.25 ID:tV5HRLQYO
次に曜。彼女は私と一緒に夕食を作っていたという明確なアリバイがある。

私と行動する前に既に高森を殺し終えていた、というのならこの前提は崩れる。

しかし、これまた果南とルビィに遺体があることを騒がれてしまう可能性が大いにあるのだ。

と、なれば。
201 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:18:56.93 ID:tV5HRLQYO
千歌「ごちそうさま。私、先に部屋に戻ってるよ」

梨子「……千歌ちゃん」

千歌「ん、どうしたの?」

梨子「……いや、なんでも」

千歌「じゃあね」

当然、疑いの目が向くのは唯一アリバイのない千歌だ。
202 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:19:32.83 ID:tV5HRLQYO
梨子「…………」

曜「りーこちゃん」

彼女はこれまでも意味ありげな発言を繰り返している。

犯人がそこまで露骨なことをするだろうか。

曜「ねえ、梨子ちゃん?」

駄目だ、全然分からな──

曜「梨子ちゃんってば!」
203 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:20:24.92 ID:tV5HRLQYO
梨子「ひゃぁ!? び、びっくりしたぁ……」

曜「だって、何度呼んでも反応がないし、顔色も悪かったから」

テーブルの下からひょこっと首だけを出す曜。

前後左右から声を掛けても反応がないもので、次は足元から、なのだという。

曜「もう果南ちゃんもルビィちゃんも帰ったし、お皿も洗い終えたよ」

梨子「えっ?」

辺りを見回せば、今ここにいるのは本当に2人だけではないか。

大時計の短針も、いつの間にか8の字に差し掛かろうとしていた。
204 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:21:50.60 ID:tV5HRLQYO
────梨子の部屋。

梨子「はぁ……」

明確な答えを出せないまま、時間だけが過ぎてゆく。

落ち着け。順番に整理していこう。


・11時:いなかった鞠莉と善子以外はロープウェイに乗った。高森が遅れて来た。

・彼女曰く、自分以外のスタッフには翌日にずらして欲しいとの連絡があったらしい。

・ロビーには、全員分の名前の紙と部屋の鍵、そして正午にロビーに集まるよう書かれた紙があった。

・正午:ロビーに、血の付いた『小原CEO』の紙と鍵。206号室に行くと、首を切断された鞠莉の死体があった。ロープウェイが通じず、後に外との連絡手段も全てシャットアウトされていたことが判明。

・昼食。13時半頃、唯一食べなかった果南の部屋の前に彼女の分を置いた。
205 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:22:44.71 ID:tV5HRLQYO
・果南から内線電話があった。

・16時頃、花丸からの内線電話。電話越しに殺害された。

・曜と一緒に306号室へ向かうとルビィがいた。果南、高森、千歌の順で集まる。

・曜にマスターキーを取って来て貰う。部屋には鞠莉同様、首を切断された花丸の死体。

・ルビィは果南の、曜と高森は自分の部屋へ。私は千歌と少しお話した。

・ちょっとしたアクシデントからフロントに行こうとして、高森と遭遇。

・17時頃、私と曜で夕飯を作る。果南とルビィ、少し時間を空けて千歌の順で食堂に来る。

・ルビィの部屋に絆創膏を取りに行くと、3階のエレベーター前で高森が殺されていた。

・夕食を食べ終え、現在に至る。
206 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:23:10.95 ID:tV5HRLQYO
梨子「……!」

おかしい。あまりにも不自然な箇所があった。

梨子「じゃあ、何でそんなことが……」

今まで見聞きしてきた事柄が、頭の中を駆け巡る。

徐々に霧が晴れ、目の前にあった正体不明が少しずつ形を明らかにしていくような、そんな感覚。
207 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:24:23.64 ID:tV5HRLQYO
梨子「だって、そんなこと……あ」

カーテンを開け、窓の向こうを見た時。ふと、その可能性に気付いた。

梨子「ある。たった一つだけ、方法が!」

思わず叫ぶ。いつの間にか外の雨も止んでいた。
208 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:24:55.36 ID:tV5HRLQYO
私は急いで室内電話の受話器を取り、3、1、0のボタンを押す。

果南『誰?』

梨子「もしもし、私です」

果南『梨子ちゃんか、どうしたの?』

梨子「少し、確認したいことがあって──」

───
──

209 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:25:45.67 ID:tV5HRLQYO
果南『そうだね。その逆も、昔見たことがあるよ』

梨子「やっぱり……ありがとうございます」

果南『でも、それを聞くってことは、まさか……』

私の手から受話器が滑り落ち、床にぶつかった。

まずい。これが真相だということは、犯人は──


果南『もしもし、もしもし!?』

梨子「あ、いえ大丈夫です。ちょっと受話器を落としちゃって……失礼します!」

ガチャ。勢いよく電話を切り、高森に返しそびれていたマスターキー片手に私は部屋を出た。
210 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/07/03(月) 00:26:21.03 ID:tV5HRLQYO
────???号室。

「…………」

“彼女”は、明かりのついていないその部屋にいた。

ポリタンクの中身をぶちまけ、佇んでいた。

その部屋には、ベッドに横たわるもう一つの影があった。

“彼女”は、まだ温かいその身体に、口を開けた2つ目のポリタンクの中身をかけた。
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