魔王「リインカーネーション」

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:04:51.00 ID:ZMBRJL+YO

盗賊「あ、そう。どんな奴?」

看守「会えば分かる」

盗賊「女?」

看守「……会えば分かる」

盗賊「なんだ、男か……」ハァ

看守「お前は本当におかしな奴だな」

盗賊「どこが?」

看守「全てだよ。処刑を言い渡されたというのに何事もなかったかのように振る舞い。手枷足枷をされた状態で熟睡し。果ては性別で一喜一憂だ」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:05:54.04 ID:ZMBRJL+YO

盗賊「捕まるのは慣れてますから」ハイ

看守「盗賊が聞いて呆れるな。よくもまあ、今まで生きてこられたものだ」

盗賊「まあまあ。でもさ、あんただって厳つい男と見目麗しい女だったら後者の方が嬉しいだろ?」

看守「そんなザマで、こんな状況でもか?」

盗賊「こんなザマで、こんな状況だからさ」ニコニコ

看守「……長いこと看守をしているが、お前のような囚人は今まで見たことがない」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:06:41.59 ID:ZMBRJL+YO

盗賊「褒めてる?」

看守「ああ。感心する程に愚かで、呆れる程に前向きで向こう見ずな奴だ」

看守「順番待ちしていた悪党共を差し置いて真っ先に独房に入れられたのも頷ける」

盗賊「俺には全く理解出来ないね。昨日の晩から首かしげっぱなしで首が痛えよ」

看守「単に寝違えだけだろう」

盗賊「はははっ、そうかもな。でもやっぱり納得行かねえなぁ。何もしてないってのにさ」

看守「王家の宝を狙って王宮に忍び込んだのが罪にならないとでも思ったのか?」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:07:11.00 ID:ZMBRJL+YO

盗賊「未遂、未遂だから」

看守「未遂だろうが何だろうが、武器を携帯して王宮に不法侵入したんだ。暗殺の嫌疑を掛けられるのは当然だ」

盗賊「俺の眼を見てみろよ。殺しをするような奴がこんな純粋な眼をしてるはずないだろ?」

看守「純粋な奴は不法侵入などしない」

盗賊「純粋な気持ちで盗みに入ったから誠心誠意しっかり平謝りすれば不起訴で済むかも…」

看守「不起訴はあくまで不起訴であって無実にはならないからな?」

盗賊「そりゃそうだけど処刑はやりすぎだろ。見ただけで盗んだわけじゃないし、誰も傷付てないんだぜ?」

看守「はぁ…お前は極まった馬鹿なようだから分からないかもしれないが、処刑されるに足ることをしたんだ」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:07:40.80 ID:ZMBRJL+YO

盗賊「見ただけなのに?」

看守「お前も分からない奴だな。それが処刑される理由なんだ」

盗賊「(人目に触れることすら禁じられた秘宝か。でも、確かにあれはなぁ……)」

ーーーー
ーーー
ーー


盗賊『(宝物庫に見張りは無しか。大体の奴等は狙い通り、王のとこに行ったみたいだな)』

盗賊『(大方、暗殺者か何かだと勘違いしてんだろう。失礼な話だぜ。ま、いいけど)』

盗賊『さて、と。やりますか』スッ

カチャカチャ…ガチリ…

盗賊『(開いた…けど、何か妙な感じだな。多少複雑な構造だったけど、そこまでじゃない)』
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:08:45.40 ID:ZMBRJL+YO

盗賊『(何度も開けられた形跡がある)』

盗賊『(宝物庫なんて滅多に開ける機会はないはずだ。多少錆び付いててもいいようなもんだけど……)』

盗賊『(まあ、楽に済むならそれに越したことはないか。さて、ご対面と行こうか)』

ガチャッ…ギギィィ…

『……んっ…誰ですか?』

盗賊『……は?』

『……賊、ですか。外には物騒な輩がいると常々聞かされていましたが、どうやら本当だったようですね』

盗賊『(なんだこりゃ? 何で宝物庫に女がいるんだ? つーか寝巻き? 見るからに高そうなやつだな)』
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:12:19.80 ID:MXFnJz4+O

『……あなたは…ニンゲン…ですよね? わたしを殺しに来たのですか?』

盗賊『殺す? いや、王の輪転機を盗みに来たんだけど……きみは?』

『王の娘です。血縁関係はありませんが』

盗賊『(王の娘? 王女? もし本当なら、何の理由があって宝物庫に入れられてるんだ?)』

王女『どうします? 盗みますか?』

盗賊『盗むって言ってもなぁ。枕元の日記くらいしかなさそうだけど、人様の日記を盗むのはちょっと…』

王女『違います。わたしを、です』

盗賊『俺は人攫いに来たわけじゃないから止めとくよ。どうやら部屋を間違えたみたいだし』

王女『間違えてはいませんよ? わたしが王の輪転器ですから』
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:12:59.18 ID:MXFnJz4+O

盗賊『きみが宝具? どこからどう見ても寝巻きを着た女性にしか見えないけど……』

王女『宝具など最初から存在しません。必要なのは王の力を受け継ぐ器。それが、輪転器です』

盗賊『……うつわ。じゃあ、きみが次の…』

王女『ええ、そうなりますね。どうします?』

盗賊『……はぁ、こりゃあ参ったなぁ』ポリポリ

王女『(何だか変な人。わたしを見て怖れる風もない。扉が開いているのも変な感じです。でも、今なら……)』
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:14:44.04 ID:MXFnJz4+O

盗賊『……決めた』

王女『?』

盗賊『面倒なことになる前に帰る』ウン

王女『いいのですか? わたしを殺せば英雄になれますよ?』

盗賊『生憎、そういう類のものには一切興味がないんだ』

盗賊『それに、英雄になったら悪いこと出来ないだろ?』

王女『フフッ…ええ、そうですね』

盗賊『お休みのとこ邪魔して悪かったな。それじゃ』
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:15:33.78 ID:MXFnJz4+O

王女『あっ…』

盗賊『ん?』

王女『……いえ、何でもないです』

盗賊『……大丈夫、扉は開けたままにしておくよ。この部屋から出たいんだろ?』

王女『何で…』

盗賊『顔に書いてある…ってのは嘘だけど、俺が入ってきた時のきみは何だか嬉しそうな顔をしてた』

盗賊『何て言うか、牢屋の扉が開いた時の囚人みたいな。そんな感じ』
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:18:00.98 ID:MXFnJz4+O

王女『……囚人』

盗賊『何も知らないのに好き勝手言って悪い。俺がそう感じたってだけだから』

王女『……外は…楽しいですか?』

盗賊『う〜ん、そうでもないんじゃいか?』

盗賊『楽しいことより辛いことや苦しいことの方が多いし』

王女『……そう、ですか…』

盗賊『でも、俺がきみだったら……』

王女『?』

盗賊『退屈ってやつに殺される前に、外に出るよ』
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:24:59.31 ID:GBNVh6xqO

王女『!!』

盗賊『んじゃ、もう行くよ』

王女『あ、あの…』

盗賊『悪いけど連れて行くのは無理だ。その格好は目に毒だし。どうしてもって言うなら特別にーー』

王女『いえ、そうではなくて……その、後ろ…』

盗賊『…………』クルッ

ゾロゾロ…

盗賊『……もうちょっと早めに言って欲しかったなぁ』


『『『確保ォ!!!』』』


盗賊『うおっ!? ちょっと待っ…痛ッ! 痛い、痛いから!! 大人しく捕まるからやめろって!! 痛ッ!ちょっ…やめ……』
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:26:36.33 ID:GBNVh6xqO
ーーーー
ーーー
ーー


盗賊「(……あの子、今頃何してんのかな)」

看守「……そろそろか」ソワソワ

コツ…コツ…

看守「!!」ビクッ

盗賊「どんなお偉いさんが来るのか知らないけど看守が囚人の前でビビってどうすんだよ」

看守「うるさい。静かにしろ」ビクビク

盗賊「ハイハイ」

盗賊「(この怯え、極度の緊張。どうやら当たりを引いたみたいだな。さてと、ここからが本番だ……)」

コツ…コツ……

老人「………」

盗賊「………」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:28:41.53 ID:GBNVh6xqO

老人「……下がれ」

看守「し、承知致しました」サッ

老人「お主が盗賊か。思っていたより若いな」

盗賊「あんたが魔王だろ?待ってたぜ」

老人「……儂が来ると分かっていたのか?」

盗賊「いや、来る方に賭けただけさ。来なかったら逃げてたよ」

老人「盗賊よ、お主ーー」

盗賊「あ〜、ちょっと待った。話す前に枷を外させてくれ。こんなのぶら下げてちゃ集中出来ないから」

カチャカチャ…ガチッ…ガシャンッ

老人「……そう簡単に外せるものではないはずなのだが、やはりお主には意味を成さないようだな」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:30:03.20 ID:GBNVh6xqO

盗賊「なんだ、俺のこと知ってんのか」

老人「標的に定めたものは必ず奪い盗る。それが物であれ、命であれ、如何なるものでも……」

盗賊「輝くものなら何でも盗むってだけさ。光り物には眼がないもんでね」ニッコリ

老人「成る程、鴉と揶揄されるだけはある。『あれ』はそれ程まで輝いて見えたか?」

盗賊「ん〜、そうだな。今まで見た何よりも輝いて見えた。瞼の裏が火傷するくらいに」

老人「フッ、中々に面白い男だ。盗賊よ、あれを殺さなかったのは何故だ?」

盗賊「あ〜、何か誤解してるみたいだから言っとくけど、俺は盗むつもりで入ったんだぜ?」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 00:31:12.52 ID:GBNVh6xqO

老人「殺す気はなかったと?」

盗賊「無い。これっっっぽっちも無い。魔王の秘宝、輪廻転生機。通称『輪転機』。俺はそれが欲しかっただけだ」

老人「…………」

盗賊「実物を見た時は驚いたよ。まさか輪転『器』だとは思わなかったからな」

老人「では、諦めるか?」

盗賊「諦めたら逃がしてくれる…」

老人「………」

盗賊「……わけないよな。まあ、諦めるつもりはさらさらないけど」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/28(日) 00:47:29.96 ID:GBNVh6xqO

老人「儂の眼を掻い潜り、あれを盗めるとでも?」

盗賊「既に一度掻い潜ってる。二度あることは三度あるし、一度出来れば二度目も出来る」

老人「何故そこまで固執する? いや、それ以前にあれを盗ってどうする? お主には何の役にも立つまい」

盗賊「見せたくなった」

老人「?」

盗賊「あの子が知ってる世界はあの部屋だけだ。そんなのって寂しいだろ?」

盗賊「何の不自由もない豪華な暮らし。でも、それを幸せだと感じるかどうかは本人次第だ」

盗賊「きっと彼女は生まれ変わりたいと思ってるはずさ。今の自分、今いる世界からね」

老人「……あれがそう言ったのか? あれが自ら口を開いたのか?」

盗賊「大した会話はしちゃいないさ。ただ俺を見たとき、ほんの一瞬だけ瞳が輝いたんだ」

盗賊「期待、願望。望みが叶ったような…そんな感じの眼だった」

盗賊「とまあ、色々言ったけど俺の勘違いかも。そんだけ落ち着いていられるってことは輪転器…彼女はまだあの部屋にいるんだろ?」

老人「………」

盗賊「何だよ、急に黙り込んで……悩み事があるなら聞くぜ?」

老人「……頼みがある」

盗賊「?」

老人「あれを…儂の娘、輪転器を盗んでくれ」

盗賊「………は?」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 01:02:08.58 ID:GBNVh6xqO
また明日
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 02:40:44.77 ID:BwlCMyOmO
いいね
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 06:16:24.80 ID:dmdhQCirO
nice
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 06:55:42.10 ID:8Xq9vpDgO
こりゃあ久々に面白そうだ
主人公が魅力的
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 11:03:37.91 ID:Gk3bxKGUO

盗賊「盗ってくれっていうなら頂くのもやぶさかじゃねえけど……何か裏がありそうな感じだな」

老人「そう難しい話ではない。儂はこの通り老いた……儂の期限はもうじき切れる」

盗賊「なにそれ、賞身期限?」

老人「そんなものだ。間もなく儂は死ぬ。だが、王の力は輪転器へと引き継がれる」

老人「輪転器は魔王となり、次代の魔王が誕生するというわけだ。これまでのようにな」

盗賊「(これまでのように…ってことはこの爺さんも元々は……)」

老人「これより更に時期が迫れば輪転器を暗殺せんとする者が現れるだろう。それもまた、これまで通りだ……」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 11:06:21.20 ID:Gk3bxKGUO

盗賊「……そっか。あんたも苦労したんだな」

老人「フッ…ああ、随分と昔の話だがな」

盗賊「……で、俺にどうしろと?」

老人「お主はあれに外を見せたいと、そう言ったな」

盗賊「ああ、確かに言った」

老人「なら盗め。そして何処へでも行くがいい。王の力が印刷される、その時まで……」

盗賊「それってさ、あんたが死ぬまであの娘を守れってことだよな?」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 11:09:53.42 ID:Gk3bxKGUO

老人「そうだ。魔王とは不死であり、不滅の存在であらなければならない」

老人「常にニンゲンの脅威でなくてはならないのだ。あれが死ねば、『魔王』は死ぬことになる」

盗賊「要件は分かった。けど、何で俺に?」

老人「怖ろしいのは外より内だ。この歳になると身内も信用出来なくなる」

盗賊「……なるほどね。分かった。引き受けるよ」

老人「引き受けた後で悪いが報酬はない。その時には儂は死んでいるからな。それでも引き受けるのか?」

盗賊「そりゃあまあ、出来ればあった方が嬉しいけど……別に無くても構わない」

盗賊「正直、魔王がどうなろうが知ったことじゃないんだ。ただ、あの娘に死なれんのは困る」ウン

老人「何故?」

盗賊「一目惚れして目が眩んだから」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/28(日) 11:34:20.17 ID:Gk3bxKGUO

老人「それは宝にか? それとも…」

盗賊「さあ、どっちだろうね」ニッコリ

老人「………」

盗賊「そんな怖い顔しなくても大丈夫さ。きちんと盗むし、きちんと守る」

盗賊「昨日の今日で申し訳ないけど、今夜の内に盗みに行くから警備は厳重にしといてくれ」

老人「言われずともそのつもりだ。手練れを揃えておく、心して掛かれよ」

盗賊「分かってるって。じゃあ、俺は夜に備えて寝るよ。あんたも少し休んだ方がいいぜ?」

老人「これより先は休む暇はなどない。おそらく、次の眠りが最後になるだろう」

盗賊「………」

老人「……娘を頼む」

カツン…カツン…カツン…

盗賊「(老いた魔王は朽ちた輪転器。器を変えて、王の力のみが生き続けるってわけだ……)」

盗賊「………ハァ」

盗賊「(あの爺さんも、あの娘みたいに監禁されてたんだろうか……とてもじゃないけど俺には耐えらんねえな)」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 20:27:39.96 ID:iuwd4mISO

【宝物庫】

何も変わらない毎日。

何も変わらない部屋。

朝も昼も夜も同じ景色。

私が輪転器であることを知る人は、これは命を守るためだと言う。

けれど、それはわたしが輪転器であるからであって、大事なのはわたしの命ではない。

あくまで、王の器として。

でも、わたしは王の器なんかじゃない。

弱虫で怖がりで従うことしか出来ない臆病者。そんなわたしが、王の器であるわけがない。

わたしは容れ物。王の容器。

価値あるものを入れるために選ばれた空っぽの存在。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 20:42:29.17 ID:iuwd4mISO

この部屋から出た時…

空っぽの容器が満たされた時、わたしはどうなっているんだろう?

まったくの別人になっているのだろうか? 王に足る者へ生まれ変わるのだろうか?

こんなわたしが、怖れ敬われる存在に…魔王になれるのだろうか?

だとしたら、今のわたしはどうなるんだろう。そう考えると酷く怖ろしい。

でも、ニンゲンから皆を守るためだと思えば、輪転器に選ばれたのはとても光栄なことだ。

わたし一人が消えれば、皆が救われる。

国の皆が、これまでと変わらない生活を続けていける。

なら、わたしはそれで……
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 21:27:27.51 ID:iuwd4mISO

そうだ、それで良い。仕方が無いんだ。

今まではそんな風に思っていたのに、そう思い込もうとしていたのに。

昨日の晩に現れたニンゲンが、それら全てを吹き飛ばしてしまった。

輪転器に選ばれたあの日から、王になるのは誉れだと、そう教え込まれてきたのに。

彼が開かないはずの扉を開いた時に吹き抜けた風が、この部屋の空気を全て入れ換えてしまった。

わたしの中の覚悟や決心すらも。

……ううん、違う。これは覚悟なんて格好の良いものなんかじゃない。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 21:30:17.23 ID:iuwd4mISO

これは諦めだ。

わたしは、諦めていたんだ。

誰かの為になるならと、ニンゲンから守る為ならと、そんな風に言い聞かせて……

今更になって怖ろしいのは、見えてしまったからだろう。

とうの昔に蓋をしたはずの希望が、彼の現れによってひょっこりと顔を覗かせたのだ。

今なら出られるかもしれない

もしかしたら、外に出られるかもしれないと。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 21:38:41.77 ID:iuwd4mISO

頬を撫でる風、屋根叩く雨音。

何処までも続く空、煌めく星の川、満ち欠ける月の姿、照り注ぐ太陽の温もり。

遠いあの日には当たり前だったものを、再び感じられるかもしれない。

この部屋から出ることなんて出来やしないのに。


『でも、俺がきみだったら……』

『退屈ってやつに殺される前に、外に出るよ』


彼は今頃、何をしているのだろう。

変わったニンゲン。おかしな泥棒。気さくな賊。

白馬の王子ではないけれど、わたしが求めていたものを届けてくれた人。

出来ることなら、また話してみたい。叶わないことだとは分かっている。

でも、もう一度だけ。もう一度だけ、あの扉を開け放って下さい。

もう、迷わないから。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 23:11:34.32 ID:nCX3XoB0O

王女「………」パタンッ

王女「(結局、何も変わりはしない。素直になれるのは日記の中だけ。こうして願いを綴るだけでも気が晴れる)」

王女「(だからもう、昨晩のことは忘れよう。あれはなかったこと。有り得てはならなかったことなのだから……)」

ガチャッ!

王女「!!?」ドキッ

騎士団長「姫様、御無事でしたか!!」

王女「えっ?」

騎士団長「驚かせてしまいましたね。声もかけずに申し訳ありませんでした」

王女「い、いえっ…大丈夫です」

王女「(あぁ、一瞬でも期待してしまった自分が恥ずかしい……)」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 23:29:36.14 ID:nCX3XoB0O

騎士団長「如何されました?」

王女「いえ、何でもありません。お気になさらないで下さい。それより何があったのですか?」

騎士団長「誠に不甲斐ないことですが、またしても賊に侵入を許してしまいました」

騎士団長「まして二日続けて同じ輩に侵入を許すなど、騎士団に身を置く者として一生の恥」

王女「彼…コホン…あのニンゲンが?」

騎士団長「ええ。王の命により以前にも増して警備を強化したのですが……情けないばかりです」

王女「し、しかしどうやって? あの賊は昨晩捕らえられたばかりではありませか」

騎士団長「ええ。ですが奴は再び現れました。まさか、あの独房から抜け出す者がいるとは……」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 23:43:10.95 ID:nCX3XoB0O

王女「独房、ですか? 主に処刑を言い渡された者が入るという?」

騎士団長「そうです。これまで一度たりとも破られたことはありません」

王女「あ、あのっ…」

騎士団長「?」

王女「賊…あのニンゲンは、そんなに凄いのですか?」

騎士団長「相当の手練れと見て間違いないでしょう。そして、常識の通じない相手です」

騎士団長「脱獄したその日に再び王宮に侵入するなど常人の思考ではない」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 23:55:14.75 ID:nCX3XoB0O

王女「………」

騎士団長「少々喋り過ぎました。さて、そろそろ行きましょう」

王女「えっ? でも、部屋から出てはならないとあれほど……」

騎士団長「奴の狙いは姫様です」

王女「!!?」

騎士団長「奴はこの場所を知っている。速やかに別の場所へ移すようにと王に命じられました」

王女「……そうですか。分かりました」

王女「(まさかこんな形で此処から出ることになるなんて……でも、彼は何故…)」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 01:13:34.54 ID:MfTBN0bcO

騎士団長「夜は冷えます。姫様、これを…」

王女「ありがとうございます」ファサッ

騎士団長「では、参りましょうか」

王女「はい」

コツ…コツ…

王女「(身を震わす寒さすら心地良い。このまま王宮を抜け出せたならどんなに……)」

騎士団長「止まって下さい」サッ

王女「?」

騎士団長「曲がり角に潜んでいるようだが無駄だ。不意打ちは喰わん。潔く姿を見せろ」

ザッ…

盗賊「あ〜あ、見付かっちまったか。大人しく喰らってくれれば楽に済んだだけどなぁ」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/29(月) 02:28:36.79 ID:MfTBN0bcO

王女「あっ…」

盗賊「今晩は、お姫様」ニコッ

王女「は、はい。こんばんは?」

盗賊「昨日に続いてこんな夜更けに来ちまって悪いね。早速で悪いけど攫われてくれないかな?」

騎士団長「ふざけるな!! 貴様にはドブ浚いが似合いだ!!」ダッ

ドゴンッ!

盗賊「……ふ〜っ、危ねえ危ねえ。あんた、見かけ通り短気だな」

騎士団長「(素早い。我が鉄槌をああも容易く躱すとは……やはり只者ではないな)」

盗賊「(凄え腕力だ。手練れを揃えておくって言ってただけはある。さて、どうすっかな)」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 02:30:22.17 ID:MfTBN0bcO

騎士団長「ふ〜ッ…さあ来い!!」

騎士団長「姫様を攫おうなどという不届き者め、成敗してくれる!!」

盗賊「(うん。男には好かれそうだけど女には見向きされないタイプだな)」チラッ

王女「………」ガタガタ

騎士団長「来なければ此方から行くぞ」ズンッ

盗賊「(……甲冑か。あんまり待たせて姫様に風邪引かれても困るし、ささっと終わらせるか)」スッ

ヒュパッ…グイッ!!

盗賊「重っ!! なんだこりゃ!ビクともしねえ!!」グイグイ

騎士団長「鞭で足を取る気か。小癪な真似を…だが無駄だ。その程度で倒れる程やわな足腰ではない!!」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 02:32:37.14 ID:MfTBN0bcO

盗賊「じゃあ、もう一本追加で」ヒュパッ

騎士団長「むっ!!」サッ

盗賊「あ〜あ、避けちゃった」

グルンッ…ガシッ…

王女「えっ?」

騎士団長「何ッ!!?」

盗賊「戦いに熱中し過ぎたみたいだな。熱中症対策はしっかりしないと…ねっ!!」グイッ

王女「きゃっ!」

騎士団長「ッ、しまった!!」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 02:37:23.36 ID:MfTBN0bcO

王女「(あっ、落ち……)」

ギュッ…

盗賊「大丈夫かい?」

王女「え、ええ。何とか…」

盗賊「そっか、なら良かった」

騎士団長「ひ、姫様っ!!」ダッ

盗賊「(あ〜あ、脚に鞭巻き付いてんの完全に忘れて走ってるな。今なら簡単に…)」グイッ

ズデンッ! ゴチンッ!

盗賊「お〜、盛大にコケた。鈍い音したけど大丈夫かな? まあ、いいや……」

王女「……あ、あの」

盗賊「あのさ、今夜は月がとっても綺麗なんだ。星も沢山出てる」

王女「?」

盗賊「俺は今から外に出て星を眺めようと思ってるんだけど、良ければ一緒にどうかな?」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/29(月) 02:38:25.75 ID:MfTBN0bcO
また明日
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/29(月) 03:06:58.47 ID:X515PZofO

盗賊と姫って王道良いよね
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 22:09:46.38 ID:r0gIcZfKO

盗賊「ダメかな?」

王女「(今すぐに頷きたい。此処から連れ出してと叫びたい。でも、わたしが居なくなったら沢山の方に……)」チラッ

盗賊「………」

王女「(同意なんて求めずに連れ出してくれたら…っ、やっぱり、わたしは弱虫で臆病者だ)」

王女「(こんな時になっても他人に身を委ねようとしている。わたしには、何も変えられない)」

王女「(今こそが変わる機会なのに。それなのに……わたしは……)」

ガチャガチャ…

王女「っ、兵が来ます。逃げて下さい」

盗賊「そりゃ無理だ」

王女「ご自分の置かれている状況を理解しているのですか!? 殺されてしまうかもしれないのですよ!?」

盗賊「そんなことは百も承知さ。おそらく牢にぶち込まれることなくその場で殺される」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/29(月) 22:13:20.08 ID:g/Rl8ycBo
爺に頼まれたって言えばそれで済むのになんで言わないの?
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 22:13:30.37 ID:r0gIcZfKO

盗賊「どうかな?」

王女「(今すぐに頷きたい。此処から連れ出してと叫びたい。でも、わたしが居なくなったら沢山の方に……)」チラッ

盗賊「………」

王女「(同意なんて求めずに連れ出してくれたら…っ、やっぱり、わたしは弱虫で臆病者だ)」

王女「(こんな時になっても他人に身を委ねようとしている。わたしには、何も変えられない)」

王女「(今こそが変わる機会なのに。それなのに……わたしは……)」

ガチャガチャ…

王女「っ、兵が来ます。逃げて下さい」

盗賊「そりゃ無理だ」

王女「ご自分の置かれている状況を理解しているのですか!? 殺されてしまうかもしれないのですよ!?」

盗賊「そんなことは百も承知さ。おそらく牢にぶち込まれることなくその場で殺される」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/29(月) 22:16:09.97 ID:wnXFQb9SO
>>44
アスペ
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 22:41:24.07 ID:r0gIcZfKO

王女「なら何で!!」

盗賊「だって、きみの返事を聞いてないだろ?」

王女「っ…わたしのことなんてどうだって良いではないですか!! もっと自分のことを…」

盗賊「そうだね。全く以てその通り」

盗賊「きみの場合、俺なんかの心配をせずに自分のことを考えるべきだ。きみの人生なんだからさ」

王女「(……わたしの…人生…)」

盗賊「それに、攫うとは言ったけど無理矢理ってのはあんまり好きじゃないんだ」

盗賊「きみが外へ出たいって言うなら、どんなことがあっても連れ出してみせる。部屋に戻りたいって言うならそれでもいい」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 23:16:43.13 ID:r0gIcZfKO

王女「………」

ガチャガチャ…

盗賊「……もう一つだけ。きみは輪転器なんて無機質なモノじゃない。きみは、生きてる」

王女「!!」


『『『賊め!姫様を離せッ!!』』』


盗賊「(うじゃうじゃ来やがって。まあ、道は塞がれたけど天井高いし何とかなるか)」

王女「……あの」

盗賊「ん?」

王女「まだ、間に合いますか?」

盗賊「勿論さ。何事も遅すぎるなんてことはない。出来ればもう少し早くして欲しかったけどね」ニコッ

王女「……クスッ…わたしも星空を見たいです。だから…だから、此処から連れ出して下さい」ギュッ

盗賊「分かった。じゃあ、責任を持ってお連れするよ。星空の見える場所に」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/29(月) 23:52:11.19 ID:r0gIcZfKO

盗賊「さて、と。じゃあ、ささっと行きますか」

王女「(何でこんなにも余裕を持っていられるのでしょう? まるで、こういった状況に慣れているような……)」

盗賊「姫様、そのまましっかり掴まってくれ。それから深く息を吸って息止めて」

王女「は、はいっ」

『『『もう一度言う、姫様を…』』』

盗賊「絶対に離しません」ポイッ

ボフッ…ブワッッ…

『煙玉? こんなもので逃げられ…何だ…眼が…痛ッ!?』

『ゲホッ…ゲホッゲホッ!! 涙が止まらん!!何だこれは!!』
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 00:05:51.39 ID:DGgZ3uF7O

盗賊「よっ…」ヒュッ

王女「(奥の柱に鞭を絡ませた…一体何を…)」

盗賊「おっさん、悪いけどちょっと肩貸りるぜ?」タンッ

『ゲホッ…上だ!上にいる!天井を狙え!!』

『馬鹿、止せ!! 姫様に刺さったらどうする!!武器を下げろ!!』

グサッ…

盗賊「ッ…」ダッ

王女「(凄い、壁を走ってる。私を抱き抱えているのに……最初から、こうするつもりで…)」

盗賊「……ッ!!」グラッ

ズダンッ…

盗賊「ふ〜っ、何とか上手くいったな。姫様、怪我はねえか?」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 00:36:32.67 ID:DGgZ3uF7O

王女「は、はいっ。大丈夫です」

盗賊「なら良かった。さて、増員が来る前にずらからねえとな。しっかり掴まってろ」

王女「………」ギュッ

盗賊「ッ…じゃあ、行くか」ダッ

王女「(……風を切る音がする。それから、彼の鼓動も…)」

盗賊「(背中が痛え。こりゃあ結構深いな、後で縫って貰わねえと……)」

王女「どこか痛むのですか? 顔色が…」

盗賊「たまに顔が紫色になる体質なんだ。だから気にしなくて良い。それより聞きたいことがあるんだ」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 01:02:18.47 ID:DGgZ3uF7O

王女「何です?」

盗賊「姫様って裁縫とか出来る人?」

王女「え、ええ。刺繍や編み物などは好きですから多少は…ですが、何故そんなことを?」

盗賊「いや、何となく聞いただけ。俺、料理と裁縫出来る人が好きなんだよ」

王女「そ、そうですか……(案外、普通の人なのかも…)」

盗賊「(感覚がなくなってきてる。視界もぼやけてきやがった。けど、もう少し…もう少しで……)」

王女「ところで、何故上に向かっているのですか?」

盗賊「正門はがっちり固められてる。一階からは無理だ。でも、下りなきゃ逃げられない」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 01:03:41.17 ID:DGgZ3uF7O

王女「では、どうやって脱出を?」

盗賊「あの大窓から飛び降りる。丁度あの真下に厩舎があるんだ」

王女「へっ? 今までずっと上へ上へと走っていましたよね? 結構な高さがあるのでは…」

盗賊「準備はしてあるから大丈夫」

盗賊「さ、破片入らないように目を閉じて。それから舌噛まないように口も閉じてな」

王女「んッ…」

盗賊「じゃあ、行ッ…くぜ!!」ダッ

ガシャンッ!
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/30(火) 13:21:13.24 ID:yTB1hwJs0
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:20:38.40 ID:coyGi7G7O

盗賊「くッ!!」ヒュッ

ガギッ…ギシッ…ギシギシッ…

盗賊「ふ〜っ…姫様、大丈夫か?」

王女「ぅ〜…」

盗賊「(気ぃ失っちまったか。でもまあ、暴れられるよりはマシだな。後は壁伝いに…)」ギュッ

ギッ…ギシッ…

盗賊「(厩舎に兵が集まり始めてる。厩舎の側にある見張り塔の兵もいるな…よし…)」

王女「んっ…っ!!」

盗賊「静かに。大丈夫、大丈夫だよ。しっかり掴んでるから落ちたりしない」

王女「で、でもっ…」ビクビク

盗賊「俺は絶対にきみを離したりしない」

盗賊「だから落ち着くんだ。きみが暴れたら星を見る前に二人揃ってお星様になっちまう」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:21:53.64 ID:coyGi7G7O

盗賊「そんなの嫌だろ?」

王女「!!」コクコク

盗賊「……高いとこは嫌い?」

王女「……ど、どうやらそうだったみたいです。今初めて知りました」ムギュゥ

盗賊「……そっか」

盗賊「(自分のことさえ知らないか。そりゃそうか、部屋から出たことねえんだもなんな…)」

盗賊「(しかし、こうも抱き付かれちゃ動けねえ。本来なら喜ぶべきとこなんだろうけど、こんな場所じゃあ素直に喜べねえな)」

王女「………」ギュゥゥ

盗賊「……姫様と同じで、星も高所恐怖症だったりしてな」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:24:35.55 ID:coyGi7G7O

王女「?」

盗賊「たまに落ちてくるんだ。うっかり足を滑らせた間抜けな奴が綺麗な尾を引きながら」

盗賊「いや、もしかしたら地に足を着けたかったのかもしれない……」

盗賊「そりゃあもう凄い速さで落ちてくるんだぜ? 願いを唱える暇なんてありゃしない」

王女「……それって…流れ星…のことですか?」

盗賊「うん。あいつらってさ、一体何処に向かってんだろうな? 無事に着陸出来てりゃいいけど」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:26:20.17 ID:coyGi7G7O

王女「フフッ…やっぱり変な人…」

盗賊「少しは落ち着いた?」

王女「…ええ、先ほどよりはだいぶ…取り乱してしまって申し訳ありません……」

盗賊「いいって、気にすんな」

盗賊「それより姫様、こんな場所で悪いけど一つ頼まれてくれないかな」

王女「わ、わたしに出来ることなら」

盗賊「そんな顔しなくても大丈夫さ。まずは腰の革鞄に紐の付いた玉が入ってるから取り出してくれ」

王女「分かりました。んっしょ…ん〜っっ! あっ、取れました! これですか?」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:27:13.71 ID:coyGi7G7O

盗賊「うん、それで合ってる」

王女「あのぅ…これってもしかして…」

盗賊「あ〜、うん。そうだね。姫様の想像通りのものだと思う」

王女「ど、どうすればいいのでしょうか?」ガタガタ

盗賊「火を着けて厩舎の屋根の上に落とすだけでいい。右腕の手甲に擦り付ければ点火出来る」

盗賊「見ての通り俺は両手が塞がってる。これはきみにしか出来ないんだ」

王女「……わたしにしか、出来ないこと…」

王女「(だ、大丈夫。きっと出来る。此処は厩舎の真上。高さはあるけれど外すことの方が難しいくらいだもの)」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:33:19.57 ID:coyGi7G7O

王女「(……だけど、万が一…)」

王女「(万が一狙いが逸れて兵の方々に当たったら…それに、急に風が吹いたりしたら……)」ガタガタ

盗賊「(あ、震えてる)」

盗賊「(大方、下にいる奴らに当たったら…なんて考えてんだろうなぁ)」

盗賊「(こんな時まで他人の心配か。優しいと言うか悠長というか……)」

王女「(やっぱり、わたしには出来…えっ?)」

盗賊「ん? どうかした?」

王女「いえっ、何でも……」

王女「(手のひらに血が…勿論わたしのじゃない。おそらくこれを取り出した時に付着したもの……)」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 19:36:16.22 ID:coyGi7G7O

王女「(…じゃあ、これは…)」

盗賊「?」

王女「(……きっとあの時。兵の頭上を跳び越えた時に刺された…なら、彼はあの時からずっと……)」

王女「(余裕なんてないはずなのに、わたしを怒鳴ることもせず気遣って……それになのに、わたしは…)」

盗賊「姫様?」

王女「やります。もう、大丈夫です」

盗賊「いや、別に無理しなくても…」

王女「出来ます!」

盗賊「そ、そう? じゃあ、早速お願いします」

王女「(右腕の手甲に導火線を擦り付けて……)」ジュッ

王女「(後は、落とすだけ)」パッ
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 22:31:15.19 ID:coyGi7G7O

コツン…ドガンッ!

『な、何だ!?』

『マズい!今の音で馬が!!』

盗賊「馬達よ、夜遅くに走らせて悪いな。姫様、助かったよ。降りるからじっとしててくれ」

王女「はい」ギュッ

盗賊「(なんか顔付きが変わったような気がする。気のせいか?)」

王女「………怪我、してますよね?」

盗賊「……あ〜、うん。背中をちょっと小突かれた」

王女「小突かれた程度で血は出ません。背中を刺されたのでしょう? 早く手当てをしないと」

盗賊「気持ちは嬉しいけど今は此処から抜け出すことだけ考えろ。俺のことは気にすんな」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 22:35:01.19 ID:coyGi7G7O

王女「でもっ…」

盗賊「じゃあ、頼んでもいい?」

王女「ええ。わたしに出来ることであれば何でも言って下さい」

盗賊「後で俺の背中縫ってくれない?」

王女「分かりました」

盗賊「えっ?」

王女「えっ? どうかしました?」

盗賊「いや、冗談のつもりだったんだけど……本気? かなり気分悪くなると思うよ?」

王女「気分が悪くなる程度であなたの傷が塞がるなら安いものです」

盗賊「(自分より他人か。優しさとはちょっと違うのかもしれないな)」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 23:44:11.61 ID:coyGi7G7O

王女「………」ギュッ

盗賊「(そうか、怖いのか。誰かが傷付くこと、傷付きを見ることが…)」

盗賊「(あんなに躊躇っていたのに爆弾を投げたのも、自分が逃げ出す為じゃなく俺の傷を知ったから?)」

盗賊「(まったく…あの爺さんは何でこんな娘を選んだんだ? いや、この娘だからこそか?)」

王女「……下は、凄い騒ぎになっていますね」

盗賊「そりゃそうさ。王女様が攫われたんだぜ?」

王女「輪転器です。彼らにとっては…」

盗賊「そうかな、姫様が輪転器だってことを知らない奴だっているんだろ?」

王女「ええ。けれど、何故か他人事のように見えてしまうのです。わたしのことなのに、別の何かを捜しているような……」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 23:48:49.50 ID:coyGi7G7O

盗賊「じゃあ、自分探しだな」

王女「自分探し?」

盗賊「だって姫様は自分のこと知らないだろ? 高所恐怖症だってことも知らなかったしな」

王女「………」

盗賊「きっと迷子になってる。なら、きちんと捜してあげないとダメだ」

盗賊「自分は何が好きで何が嫌いなのか。得意なことや苦手なこと。他にも色々ね」

王女「……自分探し…わたしに見つけられるでしょうか?」

盗賊「きみにしか見つけられない。だから迎えに行こう。外に出て、探しに行くんだ」

王女「……あなたは、本当の本当に不思議なニンゲンですね」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/30(火) 23:51:37.27 ID:coyGi7G7O

盗賊「じゃあ、自分探しだな」

王女「自分探し?」

盗賊「だって姫様は自分のこと知らないだろ? 高所恐怖症だってことも知らなかったしさ」

王女「………」

盗賊「きっと迷子になってるんだ。なら、きちんと捜してあげないとな」

盗賊「自分は何が好きで何が嫌いなのか。得意なことや苦手なこと。他にも色々ね」

王女「……自分探し…わたしに見つけられるでしょうか?」

盗賊「きみにしか見つけられない。だから迎えに行こう。外に出て探しに行くんだ」

王女「……あなたは、本当の本当に不思議なニンゲンですね」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 00:13:09.12 ID:WrFUAt64O

盗賊「そうかな?」

王女「ええ、わたしたちともニンゲンとも違うような気がします」

盗賊「よっ…」

スタンッ…

盗賊「ようやく地に足付けられたな。さて、続きは星を見ながら話そうか」

王女「いえ、傷を縫うのが先です。縫いながら話しましょう」

盗賊「ははっ、分かった。じゃあ、馬を探すから付いてきてくれ」

王女「馬ですか? 馬は先ほどの爆発で全て逃げ出したのでは?」

盗賊「あれは兵士を追っ払う為にやったんだ。一頭くらいはいるはずだ。肝の据わってる奴が…」

『こ、こらっ!暴れるな!!』

『そいつは相手にするな。誰の言うことも聞きやしない駄馬なんだ。それより賊を捜…ぐはっ!』
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 00:49:50.40 ID:WrFUAt64O

王女「……いましたね」

盗賊「……ありゃあ何人か殺ってるな」

王女「逞しい白馬ですね。ちょっと青白いですけれど……あれは雄でしょうか?」

盗賊「いや、あれは雌だな」

王女「見ただけで分かるのですか?」

盗賊「つぶらな瞳してるからな」ウン

王女「えっ?そんな理由で判断するんですか?」

盗賊「今のは冗談。でもあれは確かに牝馬だ。きっと男性社会でストレス溜まってるのさ」

盗賊「牝馬ってのは若い頃は粗暴なもんなんだ。さっきみたいな扱いするから男性不信になるんだよ」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 01:19:41.99 ID:WrFUAt64O

王女「……あれに乗る気ですか?」

盗賊「そうだね。どうやら一番肝が据わってるのは彼女みたいだから」

王女「だ、大丈夫でしょうか?」

盗賊「大丈夫だって、俺の後ろにいてくれ」

スタスタ…

白馬「……」ギロッ

盗賊「夜更けにごめん。きみと話がしたいんだけど…ちょっといいかな?」

王女「(凄い、暴れ馬に話しかけてる。でも動物と会話だなんて出来るのでしょうか?)」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 01:21:33.38 ID:WrFUAt64O

白馬「……」

王女「(あ、何か満更でもない感じ。やっぱり女性だったんですね……)」

盗賊「ありがとう。実は、この王宮から出たいんだ。きみが力を貸してくれれば出られる」

盗賊「その後……きみが良ければだけど、丘の上で星空を眺めながら干し草でもどうかな?」

白馬「……」フイッ

王女「(あぁっ…)」

盗賊「そっか、残念だよ。邪魔して悪かったね。それじゃ…さようなら」クルッ
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 01:24:36.60 ID:WrFUAt64O

王女「(あっさり引き下がった? あれ、馬の様子が……)」

白馬「……」グイッ

盗賊「どうしたの?」

白馬「……」グイグイ

盗賊「離してくれ、僕には時間はないんだ。本当はきみが良かったけど、きみが嫌なら仕方ない」

盗賊「女性に無理強いするようなことはしたくないんだ。さあ、離してくれ」

白馬「……」コテン

王女「(甘えた感じで彼の肩に頭を乗せた!? あれは乗せてもいいということなのでしょうか?)」

盗賊「ありがとう、僕なんかの為に……悪いけど、彼女のことも乗せてやってくれないかな?」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 01:27:19.58 ID:WrFUAt64O

白馬「………」チラッ

王女「こ、こんばんは」

白馬「…フーッ…フーッ…」

王女「(もしかして嫉妬!? 馬って凄い!!)」

王女「わ、わたしは別にそんなつもりはないです。どうか乗せて下さい。お願いします」ペコッ

白馬「………」フンッ

王女「(は、鼻で笑われた。何だかよく分からないけど悔しい……)」

盗賊「さあ、行こうか」スッ

王女「わたしが前なんですか?」

盗賊「後ろで俺に掴まってたら変に見られるだろ? きみはあくまで俺に攫われるんだから」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 01:50:15.18 ID:WrFUAt64O

王女「……そうでしたね。分かりました」

盗賊「じゃあ、行こうか」

ガガッ…ガガッ…

王女「(うわぁ、景色が凄い速さで変わっていく。馬ってこんなに速かったんだ!!)」

盗賊「(大門の前には槍兵と騎兵の壁か……)」

盗賊「(あの爺さん、何がなんでも俺を討ち取れって言ったんだろうな)」

盗賊「(依頼がバレないように警備を増やせとは言ったけど、ここまでやれとは言ってないぜ)」

盗賊「(槍兵は騎兵を崩せば何とかなる。戦う必要もない。隊列さえ崩せればそれでいい)」

ガガッ…ガガッ…

盗賊「どっちの馬が優れてるのか」ジュッ

盗賊「度胸試ししようじゃねえか」ブンッ

ドガンッ!ドガンッ! ブワァッ…

王女「土煙で前が!」

盗賊「そりゃあ向こうも同じさ。このまま突っ切る!!」

ガガッ…ガガッ…

盗賊「良しッ、隊列は乱れた!! 跳べッッ!!」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 02:07:24.84 ID:WrFUAt64O

王女「(月が目の前に…本当に飛んでる)」

盗賊「越えた!このまま突っ走るぞ!!」

ヒュッ…ドッッ…

盗賊「ぐっ…」クルッ


射手「……………」


盗賊「(見張り塔? あんなとこから当てやがったのかよ。バケモンかアイツは)」

王女「どうかしましたか?」

盗賊「ッ、いや、何でもない。前見てろ。このまま行けるとこまで行くぞ」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 02:08:58.98 ID:WrFUAt64O

王女「は、はいっ!」

ガガッ…ガガッ…

盗賊「(やっぱり報酬は貰おう。何がなんでも貰おう。これじゃ流石に割に合わねえ)」ボタボタッ

ガガッ…ガガッ

王女「かなり遠くまで来ましたけど、これからどうしますか?」

盗賊「……まだだ。もう少し…走る…」

王女「もう無理はしないで下さい。早く傷の手当てをしないと……」クルッ

盗賊「…………」

王女「あのっ、聞いてま…!!?」

盗賊「…………」グラッ

ドサッ…ゴロゴロ…
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 02:11:16.78 ID:WrFUAt64O
また明日
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 04:20:32.00 ID:TvKBxbBaO

面白いよ
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 17:35:24.56 ID:gZZNvJr/0
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:19:22.76 ID:vgh55vgsO

盗賊「(あれ、何で寝転んでんだ?)」

盗賊「(……あぁ、そっか。馬から落ちたのか。あちこち痛え。矢傷に刺し傷。それから打撲)」

盗賊「(まあ、あんだけのことやったんだ。命があるだけマシだと思わねえとな)」

ガガッ…ガガッ……

盗賊「(あ〜あ、戻ってきちまった)」

盗賊「(ったく、そのまま逃げりゃあいいのに。今にも追っ手が来るかもしれないんだぜ?)」

盗賊「(…って言っても無駄なんだろうな。つーか少しは疑え。こんな奴を簡単に信じちゃ駄目だ)」

王女「泥棒さん!!」

盗賊「(何だよ泥棒さんって…まあ、間違っちゃいないけどさ。にしても間抜けな響きだな)」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:23:05.18 ID:vgh55vgsO

王女「今行きます!んっしょ…きゃっ!」ズルッ

盗賊「(あっ、落ちた。馬に乗ったのも初めてなんだろ? あんまり無理すんなって……)」

王女「いたた…っ…泥棒さん!!」タッ

盗賊「(もう泥棒さんでいいから落ち着けって。そんなに走ると転んじまう)」

王女「はぁっ、はぁっ…泥棒さん!しっかりして下さい!!」

盗賊「(悪い。声が出せないんだ)」

王女「わたしの声が聞こえているなら瞬きを二回して下さい!!」

盗賊「(へ〜、凄いな。そんなのどこで覚えたんだ? そういや部屋には本が沢山あったな。読書家?)」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:35:08.56 ID:vgh55vgsO

王女「良かった。意識はあるみたい」

王女「っ、酷い傷…失血も酷い。早く手当てをしないと……」

王女「(でも、こんな所で手当てしていたらすぐに見つかってしまう。そうなったら彼は……)」

盗賊「?」

王女「(っ、そんなのは絶対に嫌。わたしが何とかしなければ彼は死んでしまう)」

王女「(わたしが助けるんだ。他の誰でもない、自分自身の手で。もう、人任せにはしない)」

王女「(とにかく、何処か身を隠せる場所に移動しなければ。手当てをするにもそれからだ)」

王女「(ここに来るまで通ってきた道にそれらしい場所は……!!)」

王女「(少し戻ってしまうけれど、先ほど通った橋の袂の坂を下って川辺に行けば…)」

王女「(でも、戻って見つかったりしたら……)」

盗賊「…ハァッ…ハァッ……」

王女「(っ、今更怖じ気付くな臆病者。見つかったら、その時に考えればいい)」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:49:12.73 ID:vgh55vgsO

盗賊「(なに考えてんだ?)」

王女「泥棒さん、今から運びます。もう少しだけ頑張って下さいね?」

盗賊「(馬に乗せる気なのか? 止めとけ、姫様には無理だって)」

王女「んっ…おもいっ…」

盗賊「(おいおい…無茶すんなよ)」

王女「わたしが助けるんだ。絶対、絶対に助ける。わたししか、いないんだから……」

盗賊「………」

王女「…はぁっ…はぁっ…ん〜っっ!!」

ドサッ…

盗賊「(……本当に乗せやがった。以外と根性あるんだな)」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/31(水) 19:52:50.75 ID:vgh55vgsO

王女「…はぁっ…はぁっ…」

王女「白馬さん、もう一度だけ背に乗せて下さい。彼を橋の袂まで運びます」ヨジヨジ

白馬「……ブルルッ…」

ガガッ…ガガッ…

王女「あのっ、ありがとうございます!」

白馬「………」フンッ

盗賊「(律儀か。馬相手に何してんだよ)」

王女「すぐに着きますから待ってて下さいね。きっと…ううん、絶対大丈夫ですから」

ガガッ…ガガッ……

盗賊「(……なあ、姫様。俺を変わり者だって言ったけどさ、きみも十分変わってるよ)」

ガガッ…ガガッ…

王女「あ、あの橋です! あそこから下りて下さい!!」

盗賊「(あ〜あ、こんな娘が魔王になんのかよ。今のままでいいのに、勿体ねえなぁ……)」

ガガッ…ガガッ…ガガッ…
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 21:39:38.34 ID:J6McHLMVO

ド根性お姫さま
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 00:01:15.66 ID:yC23JsdKO

【玉座の間】

老人「そうか、捕り逃がしたか」

騎士団長「陛下、誠に申し訳ありません。全ては不覚を取った私の責任でございます」

老人「済んだことだ。もうよい、頭を上げよ」

騎士団長「ですが姫様を…」

老人「よいと言っている。して、彼奴はどうであった」

騎士団長「?」

老人「直接対峙したのはお主のみ。彼奴が強者であったのかと聞いておるのだ」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 00:04:12.80 ID:yC23JsdKO

騎士団長「強者であります。紛うことなく」

騎士団長「刃は交えておりませんが、戦の最中であって沈着冷静。機転も利く男です」

老人「……ふむ。そうか…」

騎士団長「しかし陛下、何故にそのようなことをお聞きになるのですか?」

老人「……初代王の傍らには、常に一人の騎士がいた」

老人「闇夜にあって幾千の敵を討ち。屍から屍へと渡り歩くその姿はあたかも鴉のようであったという」

老人「彼の者は畏敬の念と共に死の騎士と呼ばれ。多くの騎士に崇められていたそうだ」

老人「王は彼の者を半身の如く信頼し、深く愛していた。添い遂げることは叶わなかったがな」

騎士団長「……そのような話は初めて聞きました。如何なる文献でも見かけたことはありません」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 00:19:20.33 ID:yC23JsdKO

老人「そうであろうな……」

老人「これは輪廻する力に宿る王の記憶。いや、王ではなく一人の女の記憶やもしれん」

老人「幾度もの輪廻。長らく探し求めていた相応しき器。あれを得た時の歓喜たるや…フッ…フフッ…」

騎士団長「へ、陛下?」

老人「そう怪訝な顔をするな。安心しろ、呆けたわけではない。これは事実なのだ」

老人「そして、偶然か必然か。或いは輪廻か……我が娘を奪い去った男は鴉と呼ばれている」

騎士団長「……何故にそのような話を私に?」

老人「お主は期待を裏切らぬ男だからだ。これまでも、現在もな」

騎士団長「は、はぁ…」

老人「……もう下がってよいぞ」

騎士団長「姫様の捜索は…」

老人「追う必要はない。何もせずとも、あれは近々帰って来る。必ず、必ずな……」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 01:28:43.19 ID:yC23JsdKO

【川辺】

盗賊「………」

王女「(革鞄には消毒薬と包帯、針と糸が入っていた。それに、体には数え切れない傷痕……)」

王女「(刺し傷に切り傷。それから火傷。命に関わるようなものも数多くあった)」

王女「……はぁ」

王女「(矢も抜いて傷口も縫って…本で見た薬草を傷口に貼って止血も出来た。後は目覚めを待つだけだ)」

盗賊「…スー…スー…」

王女「泥棒さん。あなたはいつもこんな怪我をしているんですか?」

王女「そんなに沢山の傷を負ってまで手にしたい物って何ですか?」

王女「男の人だからですか? ニンゲンだからですか? わたしには、そこまでする意味が分からないです……」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 01:34:15.87 ID:yC23JsdKO

盗賊「…ッ…ぅぅ…」

王女「(震えてる。先ほどよりも冷えてきているし、何より血を流し過ぎたから)」

王女「(わたしが羽織っていたものを被せたけど、これだけでは足りない……)」

王女「(でも、どうしよう。彼の服は血塗れだったから洗ってしまったし……)」

盗賊「…ハァッ…ぅぅ…」

王女「…………」パサッ

ギュゥゥ…

王女「(迷う必要なんてない。こうすれば温められる。この人を死なせはしない)」

王女「(あなたはあの場所からわたしを連れ出してくれた。傷を負い、血を流してまで……)」

盗賊「………」

王女「泥棒さん。わたし、まだ星を見ていないんです」

王女「一緒に星を見よう。そう言ったのはあなたでしょう?」

王女「……生きて下さい。お星様になんかなっちゃ駄目ですよ…」ギュッ
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 01:35:33.97 ID:yC23JsdKO
また明日
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/01(木) 18:07:56.69 ID:do/w+HRCo
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/01(木) 21:49:50.85 ID:8I1ke8g50
盗賊と姫様の見た目気になるな
盗賊は軽装だけど、鞭やら手甲やら爆弾やら結構色々仕込んだ装備?
姫様は寝間着にケープか何か羽織っただけで持ち物特に無しかな
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/01(木) 23:49:30.16 ID:zp8uLoG+O

盗賊「(ここは…つーか姫様…)」

ムギュゥ…

盗賊「!?」ビクッ

王女「…スー…スー…」

盗賊「(……通りで温けえわけだ。ったく、臆病なのにやることは大胆だな)」

盗賊「(包帯…手当てまでしてくれたのか。嫌なもん見せちまったな……)」

王女「…っ…ん〜っ…」

盗賊「………」

王女「…スー…スー…」

盗賊「………起きるか。え〜っと…服はあそこか」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 00:26:58.63 ID:oNb79cG2O

盗賊「危ねっ…」フラッ

ボフッ…

白馬「…ブルルッ…」

盗賊「そっか、きみも一晩中傍に居てくれたんだね。ありがとう。助かったよ」

白馬「……」コテン

盗賊「昨日は無理させて悪かったね。怪我してなくて良かったよ」

白馬「……」スリスリ

盗賊「…っくし! ごめん。もう少しこうしていたいけど早く服着ないと…」ザッ

盗賊「(濡れてる。汚れもねえ。姫様、服まで洗ってくれたのか……)」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 00:53:45.01 ID:oNb79cG2O

盗賊「(コートだけ羽織っとこ)」バサッ

王女「…スー…スー…」

盗賊「(まさか攫った相手の世話になるなんて思いもしなかったな……)」

盗賊「っくし! 寒っ…枯れ枝集めて火でも起こすか。早いとこ服も乾かさねえとな」

ーーー
ーー


パチッ…パチパチッ…

王女「…んっ。あれっ…泥棒さん?」

盗賊「お〜、こっちこっち」

王女「(良かった。いなくなってしまったのかと…)」

盗賊「どうした?早くこっちに来て一緒に火に当たろう。服着てからな」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 01:22:50.42 ID:oNb79cG2O

王女「えっ……あっ!!」イソイソ

トコトコ…トスン…

王女「えっと…おはようこざいます」

盗賊「うん、おはよう。傷の手当てから洗濯まで、何から何までありがとう」

王女「いえっ、そんな…」

盗賊「……きみがいなかったら、こうして朝日を拝むことなんて出来なかったと思う」

盗賊「あっ、こういう場合は朝日なんかより姫様を拝むべきなのかもな」ウン

王女「クスッ…泥棒さんが生きてて良かったです。体はどうです? ふらついたりとかは…」

盗賊「血ぃ流し過ぎたからなぁ。たらふくメシ食って寝ればその内に治るさ」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 02:10:33.19 ID:oNb79cG2O

王女「………」

盗賊「いや、本当に大丈夫だから!そんな顔すんなって!!」

王女「でも、傷を負ったはわたしのーー」

盗賊「傷を負った俺が間抜けだからさ。きみのせいじゃない。この話はこれで終わり」

王女「………」

盗賊「さて、と。服も乾いたしそろそろ行こうか」ザッ

王女「えっ? 行くって何処へ……」

盗賊「何処へって、姫様の自分探しに決まってるだろ?」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 02:13:06.84 ID:oNb79cG2O

王女「………」

盗賊「いや、本当に大丈夫だから!そんな顔すんなって!!」

王女「でも、傷を負ったはわたしのーー」

盗賊「傷を負ったのは俺が間抜けだからさ。きみのせいじゃない。はい、この話はこれで終わり」

王女「………」

盗賊「さて、と。服も乾いたしそろそろ行こうか」ザッ

王女「えっ? 行くって何処へ……」

盗賊「何処へって、姫様の自分探しに決まってるだろ?」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 02:28:45.31 ID:oNb79cG2O

王女「(彼は本当に何なのだろう?)」

王女「(あんなにも酷い傷を負っているのに、わたしの何倍も疲弊しているはずなのに……)」

王女「(何故こんなにも、瞳をきらきらと輝かせていられるのでしょう?)」

盗賊「まずは姫様の服を買って、それからメシも食わねえとな」ウン

王女「(まるで昨夜のことなどなかったかのよう。はしゃいでいる子供のような、そんな笑顔…)」

盗賊「姫様も腹減ってるだろ?」

王女「えっ? は、はい…」

盗賊「じゃあ行こうか。俺が外を案内するよ」ニコッ

王女「(彼といれば、わたしもこんな風になれるのでしょうか? 彼のように、自由に……)」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/02(金) 02:49:06.77 ID:oNb79cG2O
>>92
盗賊は軽装備で複数のウエストポーチ?のようなものに色んな道具を入れています。
所持しているのは鞭と爆弾と催涙玉。それから縄に鉤爪の付いてるやつ。他の武器などは後から出てくると思います。

姫様は寝巻きの上に白熊みたいな、もふもふしてるやつを羽織ってるだけです。

また明日。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/02(金) 03:15:56.70 ID:+s1RSyp0O

もふもふお姫さま
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