【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:04:23.21 ID:xsmWJuXh0
性役割逆転系時代劇 江戸中期ぐらい  

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:17:07.54 ID:xsmWJuXh0
 連年の不作のあおりを受け、美城藩は慢性的な財政難に陥っていた。

 それをきっかけとして、家老千川ちひろと大目付東郷あいの派閥争いは顕在しつつあった。

 執政会議において、千川は倹約令を唱えた。

 未納分の年貢と負債を残らず取り立て、それができぬ地主や百姓は土地を没収。

 同時に藩が手に入れた土地は富商に引き受けさせ、見返りとして貸付を増やしてもらう。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:29:51.16 ID:xsmWJuXh0
 つまるところ、倹約というよりは藩が土地売買に手を染めるようなものだった。

 これに東郷は異を唱えた。

「不作でもっとも困窮している者達を、さらに痛めつけてどうするんだい?」

 これに対して千川派の人間達は、それは感情論だと非難した。

 しかし実のところ、東郷は単なる感傷で口を挟んだのではなかった。

 千川は昨年、藩主の江戸参上に同行した。

 そこで主とともに藩の財政に響きかねないほどの遊興をし、領地に戻ってからも無為な散財を行なっている。

 勘定奉行は千川の息がかかっていたために、今まで咎める者がいなかった。

 だが東郷は執政会議を機に、藩主と老中千川を暗に批判したのである。絞り上げる人間が間違っているぞ、と。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:36:27.28 ID:xsmWJuXh0
 藩内は千川派と東郷派に真っ二つに割れた。

 流血沙汰こそまだ起こっていないが、中立という安易な立場が許されぬほど、対立は深まっている。

 本田未央は一応東郷派に属しているが、率直な所政治に興味はない。

 それどころか千川派の者の邸宅で酒を貰っている始末である。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:42:03.48 ID:xsmWJuXh0
「大変なことになっちゃったねえ」

 まるで他人事のように、未央はつぶやいた。話し相手は、若くして馬廻の長を勤める渋谷凛である。

「政治は政治屋にまかせて、私達はできることをやろうよ。権力争いの走狗になって死ぬなんて、馬鹿馬鹿しい」

 凛は血累によって千川派に属していたが、未央と同じく政治に興味はない。

 両者は派閥も家柄もちがっていたが、無二の親友であった。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:52:14.18 ID:xsmWJuXh0
 未央は酒をすすりながら、豪奢な庭園を眺めた。

 季節の花々が軽く数百種咲き誇り、えもいわれぬ芳香を放っている。これが、渋谷邸が“花屋敷”と称される所以である。

 花々の蒐集を始めたのは先先代の当主で、彼女は色を好まない代わりに、文字通りの花狂いであった。

 蒐集の手は国内だけでなく国外にも伸び、一時期渋谷家が傾きかけたほどである。

 しかし当人は晩年、花の数を聞かれた折「二種類しかありませぬ」と答えた。

 すなわち、孫娘の凛とそれ以外。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 22:12:24.12 ID:xsmWJuXh0
 未央は凛の顔をしげしげと眺めた。

 切れ長の瞳。まっすぐ綺麗な形の鼻。小さく艶めいた、美しい唇。長い黒髪は月光を浴びて、ほのかに輝いている。
 
 同性の未央ですら時折妙な気分になるほど、凜という女は魅力的な容貌である。

 さらに気も利き、文武にも優れている。先先代の孫馬鹿にも納得できよう。

 幼少にして四書を読破し、漢詩を趣味として嗜む。また謡もうまく、たびたび藩主に乞われて参上するほどである。

 剣術においては柳生新陰流の免許皆伝を受け、門下生百名以上の道場で並ぶ者がない。まさに天才剣士である。

 家柄は家老の千川家に連なる名門である。

 果たして渋谷凛ほどの逸材が、此度の政争に無関係でいられるだろうか。未央はまた酒をすすった。

 

 
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 22:41:15.30 ID:xsmWJuXh0
 自分は心配ない。本田家の禄高は50に届かず、未央個人の身はしがない平武士。

 二年前苦労して論語を読み解いたが、孟子でつまずいた。

 内容があまりにくだらなかったから。未央は述懐した。読めなかったせいでは、決してない。

 唯一のたのみは剣であるが、藩内では異端の示現流である。

 九州から流れ着いた“という”浪人が、食うに困って始めた道場が外れにあった。

 そこは月謝がとかく安く、下級武士の吹き溜まりのような場所だった。

 未央はそこで皆伝を受けたが、なにせ道場主がそもそも怪しいので、凜とは比べるべくもない。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 22:48:05.04 ID:xsmWJuXh0
 おかげさまで気楽に酒が飲める。未央は自嘲気味に微笑んだ。

 彼女の当面の懸念は、政治や自身の進退ではなく花嫁だ。

 脳裏に浮かぶのは、自身よりも一回り近く年上の男。背は六尺一寸、領内一の長身。

 肩幅はがっしと広く、身体つきは引き締まっている。顔は世辞にも美男子とは言えず、近寄りがたい険がある。

 まず、抱いて楽しい男ではない。

 だが気性は優しく、家事もそつなくこなす。口数は少なく、伴侶をよく立ててくれるだろう。

 未央にとっては理想の嫁である。
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