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とある魔神の上条当麻II
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2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/16(火) 19:12:21.01 ID:RWnxsmZ9O
知るかバカ!そんなことよりオナニーだ!
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/17(水) 17:01:20.69 ID:h5AGtYtz0
楽しみ。
4 :
無し
[sage saga]:2017/05/18(木) 16:13:15.84 ID:HKB+8XA70
オティヌスの作り出した結界の中で、神裂は心を落ち着かせながら思った。
これほどまで高度な結界を一人で張り、聖人である自分の全力の一撃を受けてもなお、平然としている。
さらに彼女は、オティヌスは、自分が聖人であると知っていながら、肉弾戦を申している。通常の人間であれば自殺行為に等しいだろう。
だが神裂は既に、オティヌスのただならぬ気配を感じ取っていた。かといって、この気配は感じたことはなかった。一言で言えば異端。人間とは違ったものだった。
並みの魔術師なら失神するであろう魔力と、呼吸と同じように、絶えずはっせられている殺気。あの時の一撃で神裂はオティヌスが聖人でもなく、人間でもないことをさとったのだ。しかし、勝ち目がない訳ではない。自分はロンドンでも五本の指にはいると呼ばれている。自惚れているわけではないが、自分を倒すような相手はそういないのだ。
しかし彼女は知らない、オティヌスが魔神の失敗作であり、既に別の出来損ないに、別の聖人が完敗していることを。
「聖人対オティヌス、か……。」
完璧な魔神、上条当麻は、オティヌスの作り出した結界の外でつぶやく。
「おてぃぬすは勝てるのかな?」
銀髪純白シスターのインデックスがといかける。
「少なくとも並みの魔術師には一瞬もかかんないだ
ろ。でも今回は聖人だからなぁ…。」
戦闘経験が狭い当麻は強さを比べるのが苦手だ。
それに先の一撃で全てを決められる訳にもいかない。
「やって見ないとわかんねぇわ…」
「ふーん。」
5 :
無し
[sage saga]:2017/05/18(木) 16:42:27.33 ID:HKB+8XA70
「意外と役に立たないね。」
「がふっ!」
痛烈なお一言! 、という声が辺りにこだましまた。
「でも、おてぃぬすが勝つと思うよ。」
自分の身がかかった勝負でありながら、インデックスは自信ありげにいう。
「へぇ、なんでそう思うんだよ?」
精神的ダメージからなんとか復活した当麻が問う。
するとインデックスはなぜか嬉しそうなうな顔で、
「だって、私のために戦ってくれようとしてくれてるもん。」
6 :
無し
[sage saga]:2017/05/18(木) 18:05:07.24 ID:HKB+8XA70
「っっっっ!」
今度は嬉しそうに彼女は話した。
「それだけでも嬉しいし、迷える子羊に手を伸ばす
者は神の名のもとに救われるんだよ」
ここで当麻はさとった。
彼女が今までずっと一人でにげつつけていたのを。
「それに、わたし何にも覚えてないんだ。」
記憶喪失ってのかな。 彼女は続けた。
「気がついたら裏道にいて、頭の中で自分の名前と
か、魔術結社、とかが頭の中で回っていて、追わ
れてる、逃げなきゃ、て必死に逃げてたの。だか
ら……」
くるり、とインデックスは当麻を見た。そして、
「助けてくれようとしててくれてありがとう」
弾けんばかりの笑顔でそう言った。それは不幸な境遇にある少女の顔ではなく、純粋な、幸せそうな顔だった。
かつて、同じように一人ぼっちな状況にあった当麻だったが、そこには支えてくれる家族がいた。
しかし彼女は、ずっと一人でいた。ずっと一人、恐怖からにげつづけていたのだ。
「……待ってろよ」
当麻の言葉にインデックスが反応する。
「必ず救いだしてやるからな!」
その誓いにインデックスはにっこりと微笑んだ。
「おい魔神、お話しはすんだか」
7 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/18(木) 19:32:28.61 ID:HKB+8XA70
割って入るように話しかけてきたのは、神裂と一緒に結界の中にいる魔神の失敗作、オティヌスだった。
「今からこの勝負のルールを説明する。二人には審
判をやってもらうからな」
相変わらずの身勝手ぶりに、いつもは反応するはずの当麻だが、それよりも気になることがあった。
「審判て……、俺らがやったら不利になるんじゃない
か?」
当麻が言っているのは勿論神裂だ
「あっちには審判になれそうなやつはおらん。それ
に勝敗の決め方は簡単さ」
「なんなんだよ?」
不思議そうな顔をする当麻に、オティヌスはニヤリと笑う。すると、一枚の赤い布切れを見せた。
「日本で言うところの、しっぽとり、てやつさ」
8 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/18(木) 22:54:09.22 ID:HKB+8XA70
張り出されている結界の半径は約200メートル、高さは400メートル近い。肉弾戦には充分過ぎる広さであろう。既に、今いた空き地の面積を超え、町をものみこんでいるのだ。
そしてその中に立ち、いがみ合う少女が二人。
一人は黒髪をポニーテールに結んだ長身の少女。服装は奇抜(率直に言うと痴女)で腰に2メートル近い日本刀を据えている。聖人神裂火織。
それに逆方向に位置するのは、流れるような金髪と金瞳の丸腰の少女。ゆったりとした金と黒のトルコ系民族衣装を身にまとっている。魔神の失敗作オティヌス。
すでにピリピリとした空気が流れているが、先に口を開いたのはオティヌスだった。
「魔術無しの肉弾戦、といっていたが、そっちにハ
ンデをやる」
「ハンデ、ですか」
なめられたものだ。
すると、オティヌスは一枚の赤い布切れを出した。
「この布切れにはこの結界の核となる術式がかかっている。私以外の者が触れると核の役割を終え、この結界は解除される仕組みだ」
さらにオティヌスは続けた。
「お前のハンデとしての勝利条件はこの結界の解除だ。私が腰に巻いたこの布切れに触れて解除するか、この結界をちからずくで壊すかすれば勝ちだ」
他に質問は? とオティヌスは聞く。
しかし神裂は答えもせず、何かの術式を唱えた。
「ほう、解除術式か」
しかしオティヌスともに、結界は余裕そうだ。多少の影響を受けてか結界にブレが生じたが、他に何ともないようだ。
「かなり高等な術式ですね……」
神裂が唱えたものも並みの魔術師が扱えるものではないが、それを上回るように結界はもろともしない。
「で、他に質問は?」
オティヌスが同じ問いをする。
「……ちなみに聞いておきますが……、そちらの勝利条件は?」
「私か? そうだな……」
そこら辺を考えていないあたり、オティヌスらしからぬところだ。ただ単に忘れただけか、それか……。
「二度と立てんようにしてやるか」
極度の好奇心によるものか。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 06:38:31.34 ID:cQeInpmbO
いつぞの続きか
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 06:48:57.20 ID:HPs1J8fEo
なつかし
11 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/19(金) 14:44:41.28 ID:JHXpflAw0
その言葉を合図に、先に地面を蹴ったのはオティヌスだった。ただ一蹴り、たった一蹴りだけで、オティヌスは金色の閃光となり、10数メーター離れた神裂の目の前まで距離を詰める。
「ッ!」
反射的に腕を顔の前でクロスしてガードする、が、その刹那に放たれた拳にその場にとどまることができず、大きく後退する。
(この威力は、聖人並み……!!)
例えるならば大砲、それに近しい威力の拳だ。
「ーーーー応言っておくが、もうこの結果(なか)では魔術は使えん」
まるで歌でも歌うように、オティヌスは話す。
「と、言っても、あの程度のものなら使っても変わらんがな、聖人」
最後に皮肉を添えて。
「っ! 調子にのんじゃ……!」
体勢を立て直し、神裂は両足に力を入れる。
「ねぇっっ!!」
今度は神裂が地面を蹴る。その一瞬にして神裂は音速を超え、すでに眼前へと迫ったオティヌスに放つ右拳に、力をこめ、そして放つ。
「やるうっ! が」
マッハ2近い右拳(凶器)を前にして、オティヌスは怖がるどころか逆に楽しそうだった。
「足りんわっ!!」
「ぐっ!」
マッハ2近い拳を、オティヌスは机上の消しカスを払うように、容易く片手で払いのける。
しかし神裂の狙いはそこだった。
空いていた左手を動かし、腰に巻いている赤い布切れに素早く手を伸ばす。
あと数センチ。しかし、
「なんだ、もう止めるのか?」
神裂の眼には、それがスローに見えた。
自分の左手か、どこからともなくやってきた白い右手に払いのけられるのを。
そして、
「もう少し楽しめよ、神裂」
もう片方の、全てを壊す力を持つ白い左手が、自分に迫るのを。
「らあぁぁぁぁっ!!!」
「!?」
そこで、オティヌス側にはじめて予想外のことが起きた。
右頬に直撃すると思われた、いや、確信していた自身の拳が、スカッ、という風に空をきったからだ。
神裂が、自分の予想を上回るスピードで拳を避けきったのだ。
通常の聖人には避けられるはずがない、そう、『通常』の聖人には。
12 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/19(金) 16:16:26.27 ID:JHXpflAw0
undefined
13 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/19(金) 16:44:26.98 ID:JHXpflAw0
神裂は上位9位以内に入る実力者聖人だった。それも、身体能力だけでなく魔術の面でも世界最高クラスの実力を持つ。
(……なめていた)
すでにオティヌスの攻勢はくずれ、今は均衡の状態にある。
いや、神裂がやや押している。
(こいつ、私のスピードに順応してきているのか……?)
神裂ほどの上位聖人となると、その強さは正に反則級である。下位の聖人、つまり『通常の聖人』ではなく、『聖人 神裂火織』の強さが今、発揮されている。
それは今のオティヌスと渡り合うほどに。
まさにこれは音速戦闘。周囲に衝撃波を出しながら、お互い戦闘を続けている。
14 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/19(金) 17:33:18.70 ID:JHXpflAw0
そして何より、この状況に深く関わっている要因があった。
(……予想外のスピードだな……。そしてマヌケにも……。)
腰に巻いている布切れに伸ばされた神裂の手をいなし、オティヌスは忌々しく思う。
(自分の付けたハンデで苦戦するとは……!)
オティヌスがハンデをつけたのは神裂の心を折るためだった。圧倒的な力の差を見せつけ、勝利する。それが目的だった。
しかし実際はどうだ。自らが劣勢とまでは言わずとも、互角以上に渡り合っている。魔神の失敗作であるオティヌスの体力が神裂以上としても、攻撃力そのものでは神裂には劣っていた。
仕方なくオティヌスは神裂の最期の拳をいなし、一旦距離をとる。
「……どうしたんですか?」
神裂はやや息を切らして問う。すでに愛刀『七天七刀』は腰からおろされていた。
「正直予想外だ……。それほどの強さを秘めていたとは……」
オティヌスは息を切らしてはいなかったが、以前、状況は変わっていない。それどころかいつか押し負けてしまう恐れも。
「……もうやめましょう。こんな下らないことはやめて、彼女を渡して下さい。」
神裂が降参を促す。しかしオティヌスは、
「図にのるな聖人」と一蹴した。
「貴様ごときが、私に勝てると本気で……」
「時間がないんです……」
ついに神裂が絞り出したような声をだす。その顔は、今にも悲しみで潰れてしまいそうな顔だった。
15 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 10:08:07.73 ID:rvVVdfy60
「あの子にはもう……、時間が残ってないんです」
(……あの子とは……禁書目録?)
オティヌスは後ろの二人、結界の外にいる上条当麻とインデックスに目をやる。
この結界には防音加工がされているので、二人はこちらをただ観ているだけだった。
ここでオティヌスは長考、といってもほんの数秒だけ頭を巡らせる。
(こいつら、禁書目録と過去に接点でもあるのか……?)
ここで、あの赤髪神父の言葉がよみがえる。
『例え君が全てを忘れてしまうとしても、僕は何一つ忘れず君のために生きて死ぬ』
16 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 10:56:59.91 ID:rvVVdfy60
(『例え全てを忘れてしまうとしても』……?)
オティヌスが原典を数千冊抜き取った際、インデックス自身の記憶はゼロに近かった。ここ一年以前の記憶が、『消去されていた』(面倒くさそうだったので黙っておいたが)。
(こいつらが抜き取った……?)
だが何の為に……。
この二人とインデックスには、過去に接点があるように思える。現に、神裂と赤髪神父(ステイル)には、そういったそぶりが見えた。
オティヌスは長考、といってもほんの数秒だが思考を巡らせたあと、
(茶番は終わりだ……) とため息をついた。
するとオティヌスは腰の布切れを外した。敵の突然の動きに、神裂はつい身構えてしまった。がーー、
ーーブチンッーーーー
という音に、それを見ていた三人は驚愕に目
を見開く。そしてーーーー、
「なぁにやってんだあぁぁっーーーー!!!!」
結界の解除によって、魔神の怒声がオティヌスたちの耳に届く。強固な結界は核の破壊によって崩れ、跡形もなくなる。
17 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 12:32:59.73 ID:rvVVdfy60
「オティヌス! お前っ!」
当麻は初めて彼女に激怒した。
インデックスの事情をオティヌスは知らないとしても、オティヌスは勝手に勝負を仕掛け、勝手に負けたのだ。
長年付き添った仲だとしても、さすがにこの身勝手さは許せなかった。
彼女がどれだけ辛い過去を背負っているのか、
彼女がオティヌスにどんな感情を抱いていたのか、
それを無下にしたのが許せなかった。
そう、当麻が激怒した理由はそこだった。
「こいつがーーインデックスがお前にどんな気持ちを抱いていたのか、わかってたはずだろうが!!
自分の身がかかった勝負だとしても、こいつはお前を信じてたんだぞ!?」
「今はそこに注目している時じゃない」
「っ!」
オティヌスは平然とした口調で答えた。
当麻はまた何かを言おうとするが、オティヌスは当麻ではなく、神裂の方に向かって口を開き、それを遮った。
「禁書目録……、インデックスの記憶を消去したのはお前らだな?」
「!?」
神裂の顔が驚愕と恐怖の色に染まる。オティヌスはそれを見て図星か、と確信した。
「ーー記憶を消したって……、どういう……!」
「まぁ、確かに、インデックスを狙う輩がこいつの記憶をわざわざ消したというのはおかしい」
インデックスの知識が欲しいなら、記憶を消すついでに抜き取ればいいのだ。
「 だが、こいつらはそれだけをやった。それにこいつらの言葉からは、インデックスと過去に何か合ったことが伺える。因縁など、そう言った物ではない、何かが」
そして、その場を沈黙が支配した。
当麻とインデックスは驚愕で何も言えず、神裂は沈痛な顔をし、オティヌスはただ答えを待った。
だが、その沈黙を破る声が。
18 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 14:52:51.83 ID:rvVVdfy60
「答える理由はないな……」
神裂ではない。別の、男の声だった。
「ス、ステイル!」
「寝たふりして聞いていたのか? それとも本気でいままで寝てたのか?」
オティヌスの問いにステイルは答えない。代わりにステイルはルーンのカードをオティヌスの背に向けた。
「黙れ。人の心にずかずか踏み込んできやがって……!」
「おいおい、ボロを出したのはそっち側のはずだろ?
それにその言葉はさっきの肯定として受け取っていいのか?」
敵対心丸出しの姿勢と言葉に、オティヌスは背を向けたまま逆に挑発するように答えた。
一触即発の空気が流れた。オティヌスとステイル、どちらに軍配が上がるかは明白だった。
しかし、その空気を破るように、
「…………私とステイルは、1年前インデックスと同僚でした」
「!?」
突然、神裂が話始めた。
「神裂っ……!!」
ステイルが止めようとする。しかしオティヌスはすかさず、「続けろ」と遮った。
「記憶を抜き取る手間が省けた」
神裂は続ける。
まるで、思い出を語るように。
19 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 16:06:34.77 ID:rvVVdfy60
【1年前】
ある日、二人はとある少女と出会った。
当時、二人は悩みを抱えていた。
まだ、自分の選択が正しかったのか悩んでいて、それに沈みこんででしまったような気持ちで前を向けずにいた。
だが、彼女は、インデックスは二人に光をくれた。
インデックスは純粋で、無垢で、二人に優しく接してくれた。
話しているだけで心が安らぎ、
自然と笑顔があふれ、
ーーーーいつしか二人の悩みは消え去っていた。
幸せだった。
彼女が笑えば自分達も笑い、
彼女が悲しくなれば自分達も悲しくなる。
ありきたりの
平穏な日々が、
二人にはそう感じられた。
永遠に続く、そう思っていた。 だけどーーーー、
彼女は魔導図書館。完全記憶能力をもち、十万三千冊の原典を記憶し、保持する。
そのため脳の容量の八十五パーセントはそれに侵されていた。
そして、残っている十五パーセントは、完全記憶能力を持つ故か、たった1年で埋まって、限界で死んでしまう。
容量の限界を迎えたときの彼女は苦痛と高熱で苦しそうにうめき、見るに耐えなかった。背けたかった。助けたかった。その手段を探した。 でもーーーー、
二人は消すことにした。
見つからなかった、方法が。彼女を救えなかった。
なのに、記憶を消す時の彼女の顔は笑っていた。
『絶対に忘れないから…………』
できやしない。なのに、二人にとっては救いの言葉だった。それとともに、ある罪悪感ができた。
『忘れないから…………』
高熱で苦しそうな顔に、無理に作った笑顔。
それは二人に対する罪悪感も籠っているようだった。
情けなかった。救うことができなかったうえ、純粋で無垢な少女に、自分達は罪悪感を抱かせてしまった。 あんな苦しい顔をしてほしくなかった。
だから……、罪悪感を抱かず、自分達への罪悪感を抱かず、出来るだけ楽に、
彼女の記憶を消すことにした。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/20(土) 20:02:55.00 ID:eBrj0NFpo
おつかーレ
21 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 23:40:08.81 ID:rvVVdfy60
私達のせいだ…………。
これからも引き続き、インデックスの罪悪感で埋まってしまった顔を見ることができなかった。
自分達のせいで、あの美しい笑顔を歪ませたくなかった。
自分達の楽しい思い出で、彼女を苦しませたくなかった。
だから、恨まれ、嫌われることを選んだ。
それが正しいことではないと分かっていた。
けれど少なくとも、罪悪感は抱かない。
それで苦しんだりはしない。悲しんだりしない。
だから、悪役を買った。
最低限の記憶を残し、自分達に追われているという状況を作り、『学園都市』という壁の内に彼女を閉じ込めた。
『学園都市』という科学の街の中では、インデックスを狙う魔術師はそう易々と手は出せない。魔術サイドと敵対する総本山が、安全の地だった。
ーーーーもう一度言うがそれが正しいとは思って
いない。
けれど、二人はそれを選んだ。
もう、これ以上、苦しませたくなかったから。
それが、とある少女と二人の過去(思い出)だった。
22 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 00:49:59.71 ID:xxEEm2Hq0
過去を話し終えた神裂は、ただ前を向いている。悲しそうな顔で。
その視線の先は、彼女が心の底から愛するインデックスか、お互い拳を交えたオティヌスか、傍観者であった当麻か、同じ過去を歩いたステイルか、それは定かではない。
「私達は感情という余計な物を捨て去り、時に敵の追跡者を演じ、時に害するものから彼女をまもり、今日まで監視をすることに徹していました」
誰も何も言わないので、「だから……」と神裂がまた話しはじめた。
「もう時間がないんです……! 今日を含めて、あと一週間もないんです……!! だから……っ」
ついに神裂が、切羽詰まったような声を出した。それはまるで、懇願する、弱々しい少女のようだった。
「彼女を、ーーインデックスを引き渡して下さい……!」
ついに、神裂は、頭を垂れた。
「……何、戯れ言いってんだ……!!」
誰も言葉を発さない『沈黙』を破るのは、オティヌスやインデックス、ステイルでもない。
その声は、神裂にただ傍観者としてしか位置付けられていた、オティヌスより格下と判断されていた、上条当麻のものだった。
その顔はさっきまでの腑抜けたような顔ではなく、真剣で、怒気を含んだ表情(かお)だった。
「インデックスを苦しめたくない!?
余計なものは捨て去った!?
ふざけんな! ただ怯えてただけじゃねぇか!!
自分が背負い込めそうなもんだけ背負って、他こいつに押し付けただけじゃねぇか!!」
「ッ!!!」
「何でテメェらが勝手にこいつを『不幸』って決め付けて勝手にこんなことやってんだ!
気づかねぇのか!? 自分達がこいつにただ下向かせてるだけだって!!」
23 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 00:52:41.08 ID:xxEEm2Hq0
次ページへの移りかた、教えて下さい。
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/21(日) 12:37:18.06 ID:+S4SveEho
乙カレー?
25 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 12:50:08.90 ID:xxEEm2Hq0
その言葉に、聞いていた二人はうっ、と声を詰まらせる。
二人の様子は当麻の尋常ならざる怒気にたじろいでいるようにも見える。
「インデックスを苦しめたくないってテメェら言ったよな!? でもどこかも分からない場所に一人ぼっちの状況がどんだけ辛いのかぐらい分かるだろ!? 何でそんな馬鹿見たいな選択しちまったんだよ!?」
「ほ、他にどうしろって言うんです!?
教会の中で監禁するのも考えました! でもそうしたら彼女の目には全てが敵に……!!」
「……誤解ときゃいいだけだろ。一年で記憶なくなんならその次の一年でもっと幸せな記憶を作ってやれよ……」
二人の魔術師は何も言わない。
「記憶失っても次の一年にはもっと幸せな記憶が待ってんなら苦しまねぇだろ……。インデックスを幸せにすることくらいは貫き通せよ。それができねぇんなら……」
魔術師は顔を伏せたままだった。そして当麻は、最期の言葉を叩きつけた。
「てめぇらにインデックスの友達はつとまんねぇ」
「何……!」
その言葉に反応したのは、神裂ではなく、ステイルだった。
「お前の言ってることは最もだ。けどな、世の中は何で綺麗事だけじゃやっていけないんだ。
『必要悪の教(こちら側)』の事情もあるんだ。
そんな感情論だけじゃどうにもならない事情がな……!」
「だからいってんだろ……!」
一瞬の間も開けず、当麻が言う。
「こいつを幸せにすることくらい、貫けって!!」
「……………………」
ステイルは何も言わない。だが、代わりに彼の手には、今の心情を表すような、炎があった。
「っ! ステイルッ!」
神裂が咎めようとするが、「止めるな」、としか彼は言わなかった。
26 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 13:59:37.64 ID:xxEEm2Hq0
「……お前は本当に生意気で気にくわないよ、心の底からな……!」
「…………俺も同じ気持ちだよ……!」
当麻も拳を握った。
まさに一触即発の空気。少しでも刺激が加われば、また新たな争いが起こるだろう。
「……いい加減頭を冷やせお前ら」
そんな空気の中、声を出したのはオティヌスだった。はりつめた空気は消えないが、構わずオティヌスは、諭すように話しはじめた。
「……まずルーンの魔術師、ここで争って何になる?
その時の感情で動くんじゃない。そのうち自分の身を滅ぼすことになるぞ。
そして魔じ……上条……」
この二人がいるところで、『魔神』という呼びは控えた方がいい。が、不覚にも当麻は何故か揺らいだ気持ちになった。
「お得意の説教は良いが、当然何か解決策でもあるんだろうな?」
「そ、そりゃ、原典の記憶を抜き取ったり……」
「お前はイギリス清教と戦争するつもりか。勝敗云々はともかく、お前ん家の野蛮……聖人の立場が悪くなるだろ」
「そうかもしんねーけど、このままほっとけるかよ! このまま記憶を消され続けるなんて……、こいつの人生なのに……!!」
27 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 14:01:28.33 ID:xxEEm2Hq0
すいません。23の質問は無視して下さい。
28 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 14:44:56.76 ID:xxEEm2Hq0
「これ以上こいつの人生を消され続けるだけにしたくねぇよ!!」
その言葉は上条当麻の心の願いにも聞こえた。誰の支えもなく、これからも一人で、何も知らず、この街をさ迷い続ける宿命を、背負わせたくなかった。
可哀想、という言葉は見下したような言葉だ。
けれど上条当麻にはわかる。自分以外の全てのものを失った気持ちが。
「だから、頼む! 二人とも!」
当麻の声が一段と大きくなる。
「俺に、インデックスを……任せてくれ!!」
「…………」
また辺りが沈黙に包まれる。当の二人は何も言わない、いや、言えない。何を言えばいいのか分からない。
オティヌスはただ静観していた。が、口角は何故か、少し吊り上がっているようにも見える。
「……私はとうまにまかせてもいいよ」
「!?」
「インデックス……」
「とうまは助けてくれるもん。私が飢えていたら食べ物をくれたんだもん」
それは、インデックスにある思い出。
「私を飢えから救ったように、とうまは私を救ってくれるよ、きっと」
インデックスの大切な友達。
「だから、大丈夫」
それは、至極当たり前で、最も困難なこと。
「私は……、とうまを……信じるよ……」
人を心の底から信じること。
「だ、から……」
その時、インデックスの体勢がぐらりと崩れる……。
バタン! と、インデックスが倒れた。
「イ、インデックス!?」
29 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 15:11:55.68 ID:xxEEm2Hq0
突然倒れたインデックスに、当麻が駆け寄る。
インデックスの顔は赤く、体中から熱という熱を出している。
当然、インデックスは苦しそうにうめいていて、口からは僅かに、「とうま……、オティヌス……」と二人の名を呼ぶ声が。
「まさか……、これが……!」
「ああ、症状だ」
驚愕する当麻に、ステイルが平然を装いながら、忌々しげに言う。
「もう良いだろ。インデックスの記憶を……」
「待って下さい」
「神裂?」
「彼らはいわば、今のインデックスのパートナーの様なものです。彼らが何とかすると言っているのなら、我々は静観すべきでは?」
「何を言ってるんだ!? 今日、昨日会った様な奴らだぞ!? もう時間は迫っている! やるぞ!」
「記憶を消す直前、何も出来なかった私達は、彼女に泣きつき、何度も謝りました。
その時間ぐらい、与えてもいいのでは?」
30 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 15:47:49.85 ID:xxEEm2Hq0
神裂はステイルと違い、冷静だった。
それがステイルの怒りにさらなる拍車をかけた。
「神裂!! 正気か!? 教会精鋭の僕らでもどうにもできなかったんだぞ!? あの得体の知れない奴らが、彼女を救える訳がない!!」
「そうでしょうか? 少なくともあのオティヌスと名乗る少女は聖人でもないに関わらず、魔術なしの肉弾戦でも私と互角の力を持っていましたよ?」
「なっ……!?」
「ステイル、何より彼女が信頼しているんです。
ここはインデックスの意思を尊重すべきです。
あなたは彼女を信じた人間を、信じられないんですか?」
その一言が、ステイルを黙らせた。
やがて、ステイルは「君は信じるのか?」と神裂に聞いた。
が、彼女はただこちらをまっすぐ見つめるだけだった。
「……はぁ、分かった」
ついにステイルが折れた。
「でもいざとなったら……」
「私もそのつもりです」
「話しは終わったのか?」
わかりきったことなのに、オティヌスが言葉をかける。
「ああ、君達を信じよう」
その言葉に、オティヌスは待ってましたと言わんばかりの顔をする。当麻はインデックスをだきかかえながら安堵した笑みを浮かべていた。
「だがその前に、君達のことを知りたい。
君達は何者で、どこの国の魔術師だ?」
神裂にも聞かれたことだが、これはあまり聞かれたくなかった。
さっきの勝敗はうやむやになったから、答える必要はないのだが、
断ったら面倒になりそうなので、仕方なくオティヌスは答えることにした。
「はぁ、上条……」
「な、何でせうか……?」
まだ呼ばれなれていないからか、当麻は多少びくついた様な、裏返った様な声を出した。
31 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/22(月) 00:40:33.39 ID:gnptlIuz0
「……インデックスを降ろしてこっちにこい。
こいつらに正体を話す」
「必要ねぇだろ。下、地面だぞ?
つか、何でインデックス降ろす……」
「来い。いいから降ろせ」
オティヌスの声はなぜだかいつもより威圧的に聞こえた。
「………………」
「なんだそのオッレルス似の気色悪い笑み顔は」
「いや、ひょっとしてオティちゃん、インデックスに焼きもちを……イタイ、イタイ、イタイ!!」
「オティちゃん言うなっつってんだろ!! つか、妬いてねぇしっ!!」
「蹴んなって! インデックス抱えてんだぞ!?
つか妬いてんだろ、行動からして!
あと、上条さんの笑った時の顔はあんな気色悪くないぞ!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そこまで気色悪くなんかない!!」
「うるさいわよ、オッレルス!!」
「ゴ、ゴメン、何か罵られた気がして……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……で? あらためて聞くけど、君達は何者なんだ
い?」
当麻に抱えられていたインデックスの体は、四人の後ろで、オティヌスの浮遊魔術(当麻がうるさかったので)によって数10センチほど宙に浮いていた。
両腕は自由だが体はボロボロの当麻は、隣に立つオティヌスが答えるのを待った。
32 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/22(月) 01:07:20.68 ID:gnptlIuz0
「まず初めに言っておく。私達はどこの国の、どこの勢力の魔術師と言うわけではない」
国はともかくとして、オティヌスには組織はあるのだが、ここではそれを隠しておいたほうがいいだろう。
「フリーの魔術師、ですか?
それだけじゃないように思えますが?」
やはり、神裂は鋭い。たまらず苦笑したオティヌスは、内心で舌を巻いた。
「もちろんそこらの魔術師ではない。
ちょっと違っていてな。お前らも聞いたことがあるんじゃないか? ーーーー『魔神』」
「!!!?」
神裂とステイルが受けた衝撃は並々ならぬものだろう。
何故ならば、自分達が相容れていた存在が、
魔術を極め、『神』の領域にまで足を踏み入れた存在だったのだから。
普通はこの瞬間、生きているだけでも何億分の一の確率の奇跡なのだから。
33 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/22(月) 21:22:04.53 ID:gnptlIuz0
「もっと詳しく言うとその失敗作だ。力は到底本物には及ばんだろうが、世界を壊すぐらいは出来る」
さらりととんでも発言がでたが、ステイル達は敢えて無視する。それよりも気になったことがあった。
「……まるで本物に会った様な言い方だな」
「ふん、何を言うか」
当たり前だろう、とオティヌスは隣に立つ当麻の背を叩く。それは彼を差し出すようだった。
「こいつが『完璧』な魔神だ」
敢えて、オティヌスは当麻をただの『魔神』として紹介した。100%成功の確率を喋るより、ただの魔神としての方が、都合が良いと考えた。
ちなみに当麻にはさっき蹴っているときに「何も喋るな」と伝えておいた。
ここまではオティヌスの演出通りだった。が、
「いまいち信じられません……」
「そこのマヌケ面が魔神? そういう寝言は寝てても言うな」
さんざんな評価だった。
当の魔神は何か言おうとするが、オティヌスから余計なこと言うな、とばかりに足を踏まれる。
色々とかわいそうな神様だ。
予想外の出来事に、オティヌスははぁ、とため息をつく。
「いや、確かに、こんな中も外も腑抜けな奴が魔神とは、私は正直今でも信じられん。
まぁ、そういう結果は見えていたが」
「おい」
「……仕方ない。魔神」
オティヌスは魔神呼びに戻す。
34 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/22(月) 22:47:46.22 ID:gnptlIuz0
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35 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/22(月) 23:26:17.74 ID:gnptlIuz0
「……あれをやれ」
「……分かったよ、いつものあれだろ?」
いまだに不機嫌な当麻は、オティヌスに言われて手のひらを前にだす。突然の事に、ステイル達は身構える。
すると魔神の手のひらから、まばゆい光を放つ魔方陣が出現した。
「どうだ? 初めて見た感想は?」
その輝きは、八年前、一人の少女と老人に見せたものと同じ光だった。
「『聖ジョージの領域』に出現した空間の亀裂から放たれる巨大な光の柱。
魔術名は"竜王の息吹"」
オティヌスが淡々とした説明口調で話す。
ステイル達は禍々しい光と魔力を感じ、驚愕としている。これが自分達に向けば、塵一つも残らないだろう。
実際、これは聖ジョージのドラゴンの一撃と同義なのだ。
「魔神級の魔術師……おっと魔神だったな。その限られた者達でしか使えん超魔術だ。
……それで、信じてくれたか?」
「…………信じましょう。あなたが魔神だと」
神裂はこれを見て信じたようだ。
「…………はぁ」
しかしステイルは、ため息をついた。
「正直、信じたくないけど、君が魔神であることを信じる……!」
不快感を隠そうともせず、ステイルはイライラ声で言った。当麻達に自分の大切な少女を委ねることが気にくわないようだ。
「で、改めて俺達にインデックスを任せてくれるよな?」
「ああ、任せたよ!」
「任せます」
二人は自分達を信じたようだ。
「しかし、私達が一年かけても見つけられなかったのに、あなた達には探す宛でもあるんですか?」
いくら魔神と言えど、後一週間でインデックスを解放する方法が見つけられるのか、神裂は疑問に思った。
しかしオティヌスはこう答えた。
「もう既に、方法は見つかった」
「!?」
「ほ、本当かよ!?」
「ああ。しかしそれにはまず、お前達の間違いを正す必要がある」
オティヌスは、ステイル達の間違いについて話しはじめた。
36 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/23(火) 20:54:13.13 ID:BH9q7Wei0
「最初に言っておく。人間が記憶のしすぎで死ぬことはない」
しょっぱなからオティヌスは、問題の大前提を覆した。それにステイルは勿論、神裂も「ほ、本当ですか!?」と驚いたそぶりをする。
「ほんとも何も、よく考えてみろ。インデックスの脳の八十五%は原典の記憶で、残りの十五%はたった
一年で埋まってしまうんだったら、
他の完全記憶能力者はたった七、八年しか生きられない、という理屈になるぞ」
「それに、人間の記憶したものはその種類によってそれぞれ別の部分に振り分けられる。知識は知識、エピソードはエピソード、というように。
知識である原典の記憶を消すべきなのに、何故エピソード記憶を消すんだ?」
「じ、じゃあ、一年おきに記憶を消すというのは……」
「お前らの上の人間のデマだろう。そう言えばお前らは絶対に助けようとするし、魔術どっぷりならその理屈でも信じるに決まってると踏んだんだろう」
大体、というよりほとんどの魔術師は、科学を嫌う、または苦手としている者達である。
中には一般家庭にある電化製品すらまともに扱えない者もいるので、こういった多少のこじつけでも信じてしまうのだろう。
「インデックスは天才なんだろ? 恐らく自分達へ反乱を起こされるのが怖くて、記憶を消して使いたい時だけ使えるように手近に置いたほうがいいと考えたんだ」
「…………インデックスが苦しんでいるのは?」
ステイルが静かに問う。
一見冷静に見えるステイルだが、その両拳は強く、固く握られていた。相当怒っている。
「一年周期にインデックスの記憶を消さないと死ぬ、といったような魔術でもかけられているんだろう。恐らくずっとな」
「最大主教……! あなたは……!」
ついにステイルが憤慨したかのような声をあげた。最愛の友人の命と人生、記憶すら奪われたのだ。彼は今、『最大主教』という人物に怒りを向けている。
オティヌスはステイルを敢えて無視して続ける。
「術式は恐らくインデックスの体のどこかだ。その場所さえ分かれば破壊できる」
37 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/23(火) 21:38:07.66 ID:BH9q7Wei0
「じゃあ、俺がそれを右手で壊せば……!」
「インデックスは晴れて自由になる」
つまり、可能なのだ。この少女の地獄を終わらせることが、自分達にはできる。このふざけた現実を、ぶち壊せる。それを実感した瞬間だった。
「だったら話しは早えな!」
「そうだな。しかしその前にもう一度聞く。お前達、本当に『私達』に任せていいのか?」
それを聞き、オティヌスの言葉の真意に気付いた神裂は、「いいえ、私達も協力させて下さい」と答える。
「インデックスの友として、あなた達に協力させて下さい」
「よし。……で、そこの神父は?」
「助けるに決まってるだろ。……彼女を救って見せる。ずっと前に、僕の魔法名に誓ったんだ」
「おお! ようやく折れてくれたか」
オティヌスのオーバーリアクションにステイルは煙草をふかすだけだ。それにオティヌスのニヤケ顔が自分の上司に似ているからか、さらにイライラが加速する。
「うるっさいな! とっととやれよ!!」
イライラが頂点に達し、ついにステイルが怒鳴った。
「分かってますって。さて、さっそくインデックスの術式を……」
急かされた当麻が軽いテンションでインデックスに駆け寄り、右手で彼女の体に触れようとする。
が、しかし、「待て! 魔神!」とオティヌスの慌てた声ですんでの所で静止する。
「な、何でせうか……?」
恐る恐る、当麻が聞く。オティヌスの顔は本気で焦っていた。
「いいか、魔神。インデックスが着ているのは、『歩く教会』だぞ?」
「ああ、そうだけど……」
当麻はまだ自分のしようとしたことが理解出来ていないようだった。
「即ち、魔術だ。お前の右手でそれに触れれば……」
「あ……」
当麻の右手は自分の幸運どころか、魔術すら消す。いや、それがこの場に置いて役に立つのだが、今その手でインデックスに触れれば、
「『歩く教会』は壊れて……」
「……インデックスの衣類はバラバラになる……」
38 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/23(火) 22:17:43.53 ID:BH9q7Wei0
それを聞いた神裂は横を向いて咳払いをする。
一方ステイルは幽鬼の様な表情を浮かべ、「燃やしてやる……!」といった不穏な言葉を呟いている。
「危うく上条さんの不幸の確率が働くところでした……」
もしあのまま触っていたら、一気に袋叩きだった。
「お前が完璧なのに完璧じゃない理由が分かった気がする……」
オティヌスはすでにげんなりとしていた。
気を取り直して当麻は、『歩く教会』に触れないよう気をつけて、インデックスの術式を探そうとする。
が、また問題にぶち当たった。
「……どっから探せばいいんだ……」
考えて見れば、どこから探すべきかそんなもの決めていなかった。後ろではステイルが「変なところ触ったら燃やす!」とうるさい。
というかずっと燃やす、しか言ってないな。
「あの〜、神裂?」
「はい?」
インデックスの体に術式っぽいものとかなかった?」
いつも一緒にいた二人なら、それらしき物を見ているかも知れないと思った。
「……いえ、私の知る限りは……」
「そうか……」
また振り出しに戻る。こうなれば泣き寝入りだ。
「オティヌ……」
「自分で考えろ」
「……ひどい」
泣き寝入りも失敗した。こうなればない知恵を振りしぼるしかない。
(神裂やステイルにも見つけられなかったんだから、普通の隠し場所じゃないよな……。他人にも、インデックス自身にも見つからない………………あ)
それは偶然だった。いや、奇跡とも呼んでもいい。
当麻に答えが下りてきた。
「な、なぁ! 体の中は!? インデックスの身体の中に術式があるんじゃないか!?」
その言葉に、三人ははっ、とする。
39 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/23(火) 23:15:44.00 ID:BH9q7Wei0
「例えば……口の中とか」
確かに、体内に術式があるのなら、ステイルやインデックスには発見はまず不可能だ。しかし口の中ならば、まだ術式の解除ができる。
それに納得したのか、オティヌスは「でかした!」と声をあげる。
「本当によくやった! まさかこんな的確な答えをお前が導き出すとは!」
「誉めすぎると逆に傷つくんですけど!?」
当麻が悲痛な叫びを上げる。不憫すぎるだろ。
「……で、口の中、というと……」
「もちろんお前が探せ」
「デスヨネー」
これで見つからなかったら、また振り出しだ。
そう思いながら、当麻はインデックスの口をできるだけ優しく開く。口内は温かいというより熱く、インデックスの熱い吐息が手にかかる。
そして当麻はその中を覗く。
「……あった」
見つけた。喉の奥に、魔方陣が描かれていた。
40 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/26(金) 00:26:25.06 ID:CZrVDGL70
形はまるで数字の4がねじまがった様で、ここからでも禍々しい魔力を感じた。
明らかに並みの魔術ではない。オッレルスの持つ原典の中にも、このような術式はなかった。
「喉の奥にある。けど、この術式、なんというか……」
「"やばい感じがする"んだろう?」
当麻の言葉を察してか、オティヌスが先に言う。
「そこらの教会の防御術式とは比にならないだろうな。なんせイギリス清教の最重要人物だからな、魔神のお前でも、ダメージを受けるんじゃないか?」
まぁ、当麻に本当で勝とうとするならば、それこそ魔神級の術式を数十個使うか、同じ存在である魔神でもなければ無理だろう。
「まさかインデックスの魔力を使うとか……」
「それはありえません。インデックスは魔術が使えません」
当麻の不安要素神裂がを否定した。しかし当麻は、
「それ、どこ情報?」
「教会からですが」
「今すぐその考えを捨てろ。お前らを騙した奴等だぞ?」
「いえ、インデックスが魔術を使えないのは事実です。実際、彼女は魔術を使うことができませんでしたし」
「…………んじゃ、これはもう壊していいよな?」
当麻が最終確認をとる。
「たとえ教会に刃向かうことになっても」
「もう覚悟は決まっているからね……」
「お前ら……ほんとインデックスのことが好きだな」
その答えを待たず、当麻はインデックスの口に入っていた右手をさらに奥へ入れる。インデックスはやはり呻き声を上げたが、当麻は人差し指を魔方陣に当てた。
バキィィィィィィン!!
という甲高い音が響く。破壊した。
しかしその瞬間、当麻は衝撃波の様な何かに吹き飛ばされた。
41 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/26(金) 22:36:38.26 ID:CZrVDGL70
「!?」
何が起こるかは覚悟していたが、これほどまでの衝撃は予想できなかった。不様にも当麻はしりもちを地面につき、黒いオーラを漂わせて体を浮かばせるインデックスを、ただ見ることしかできなかった。
「…………」
ギン、と魔方陣を浮かばせた目と、当麻の黒い瞳が合う。
そして、インデックスの口が開く。
「ーー警告、第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorumーー禁書目録の『首輪』、第一から第三までの全結界の貫通を確認……」
それは間違いなく彼女の声だった。しかし、その口調は機械的で抑揚の欠片もなかった。
「再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能。現状、10万3000冊……もとい、10万2997冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」
42 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/26(金) 22:44:14.30 ID:CZrVDGL70
突如、インデックスの眼の魔方陣が拡大した。
「『書庫』内の10万2997冊により、防壁に傷をつけた魔術の術式を逆算……失敗。該当する魔術は発見できず。
術式の構成を暴き、対侵入者用の特定魔術を組みあげます」
43 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/26(金) 23:20:49.61 ID:CZrVDGL70
まずいーーーー、直感的にそう感じた。
(やっぱりただの魔術じゃねぇ!)
当麻は今のインデックスにかかっている術式を解除しようと駆ける。が、
「迎撃用の結界を展開ーー」
先にインデックスが結界を展開する。
それによって発生した衝撃波に押しのけられるように、当麻は数メートル後退した。
「こ、これは……! シルビアの……!?」
オッレルス家の聖人シルビアは、結界を防御だけでなく、攻撃にも使っている。
しかしあれは彼女の独創魔術だったはずだ。それも聖人特有の『天使の力〈テレズマ〉』を使うはず。
44 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/27(土) 17:11:25.98 ID:FcTNH5zc0
「天使の力すら使うのかよ!」
右手を大きく突き出す。一見何の変哲のないただの手。しかしそれは神の奇跡を打ち消す。
「やってやろうじゃねぇか……!!」
甲高い音と共に、結界は壊れた。
45 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/27(土) 17:21:33.05 ID:FcTNH5zc0
「……結界の崩落を確認。侵入者個人への有効な術式を検索、組み立てーー」
「ーー侵入者個人に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました」
インデックスの眼の魔方陣がまた広がる。
その時、当麻の背中にとてつもない悪寒がはしった。
何か来る。核兵器級の何かが。
当麻は反射的に右手を前に突き出した。
「これより、特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」
46 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/27(土) 17:30:18.83 ID:FcTNH5zc0
インデックスから、見覚えのある光を放つ、直径数メートルの光の柱が当麻を襲う。
突き出した右手でそれをおさえるが、絶えずぶつかってくる砲撃の威力と質量に、体全体が押される。
当麻の右手はただの右手ではない。しかし魔術の類いを打ち消すだけで、強度は人間並み。
47 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/27(土) 17:36:14.18 ID:FcTNH5zc0
防御の術式もかけられないし、仮に魔神の左手で受けても怪我ではすまないだろう。
そのため衝撃はダイレクトに、絶えず体に伝わる。
この右手こそが、魔神上条当麻の最大の特徴であり、弱点である。
48 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/27(土) 17:45:01.97 ID:FcTNH5zc0
しかし、
「っぐ……! うおおお!!」
他の部位は魔神だ。魔神の肉体は強大な魔力とリスクの高い術式、そして原典に耐えられる強度を持つ。
そのため聖人と比較して身体能力は2〜3倍、肉体強度は3〜4倍だ。
直に受けない限り、現状では押しきることができる。
49 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/27(土) 17:54:28.75 ID:FcTNH5zc0
(一歩、一歩ずつでも……! 前に進む!!)
ほんの数センチずつだが、前進しはじめた。
押しきればインデックスに触れられる。
インデックスの術式を解除できる。
この魔術"竜王の息吹"の弱点は、威力が高過ぎてコントロールが難しく、下手すれば自分にも当たることだ。そのため一直線にしか放てない。
50 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/27(土) 17:58:05.02 ID:FcTNH5zc0
押しきってインデックスにたどり着ければ、自分達の勝ちだ。
51 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/27(土) 18:17:59.71 ID:FcTNH5zc0
〈オティヌスside〉
オティヌスは目の前の光景に言葉を失っていた。
巨大な光の柱と、自分の相棒が右手一本で拮抗している。
どう見てもあり得ない状況だ。
「何故だ……!」
オティヌスが言葉を絞り出す。
「何故インデックスに魔術が!?」
52 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/27(土) 21:03:02.43 ID:FcTNH5zc0
驚愕が困惑へと変わった。
インデックスは魔術を使えない。つまり魔力を練れない、そう解釈していた。
しかし魔力を練れないのではなく、魔術を使うのに制限がかかっているのでは、その時は考えつかなかった。
「……あれは"自動書記"……」
一緒に傍観している神裂がつぶやいた。表情と目は、驚愕の色に染まっている。
「彼女の持つ10万3000冊の魔道書の知識を総動員し、最適な対抗手段を用いて敵を排除する魔術……!」
「インデックスが魔術を使えないのはあの魔術の維持、発動のためだったと言うのか……!」
吐き捨てるようにステイルが言う。
「10万3000冊の魔道書の知識を持つ彼女と戦うとことは……、一つの戦争を迎えることを意味するぞ……!」
「いや、ちがう……、もしかしたら」
インデックスこそが、完璧な魔神なのでは、
オティヌスはそんな気がした。
53 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/27(土) 23:46:15.62 ID:FcTNH5zc0
ギリ、と無意識に歯ぎしりする。
恐れている? 自分が?
急激に今の自分に対する怒りを感じた。
自分が浅はかな考えをしなかったら、自分が考えを急かさなければ、こんなことにはなり得なかったはずだ。これは自分の責任だ。
彼が進もうとする限り、オティヌスも諦められない。
だがら、インデックスを救う以前に、魔神の失敗作として、上条当麻の相棒として、
(打開策を…………!!)
「魔神! よく聞け!」
「!? オティヌス!?」
「分かっているだろうが、インデックスはお前が触れれば解除される。つまり私達の勝ちになる!」
「知ってら! だからこうやって近づこうと……!」
「近づけば近づくほど威力が増しているのくらい分かってるだろ、このバカ野郎!
右手は人間なんだぞ!? 今でもその手は悲鳴をあげている! 下手すりゃ耐えきれず消し飛ぶ!」
「悪いが引くってのはなしだぜ!?」
54 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/28(日) 10:48:34.50 ID:zUXEOD3/0
「当たり前だ。誰に当たると思ってるんだ、このマヌケ。いや、弾除け」
「おい! 上条さんの価値ってその程度なの!?」
「いいか、魔神」
「スルー!?」
「少しの間だけ、その攻撃を私達が食い止める。その間にインデックスに触れて術式も解除しろ!」
「ん、んなことできんのか!?」
当麻にはとてもこの力をオティヌス達が押さえきれるとは思えない。
「ああ、できる。ステイル」
オティヌスがステイルの名を呼ぶ。
「"魔女狩りの王"は?」
「一応使えるが……」
ここら一帯にあるステイルのルーンは、まだはずされていない。"魔女狩りの王"を使うのには十分だ。
しかし、あの火力が何の役にたつのか、ステイルは分からなかった。
「……いくら持つ?」
「おい! まさか!」
ステイルはオティヌスの考えを察した。"魔女狩りの王"を、盾がわりにする気だ。
確かに防御に特化しているが、今回は度が違う。
「魔神級の魔術だぞ!? 一瞬も耐えきれない!」
「魔力と耐久性については私が補助する。数秒持てばあいつがインデックスにたどり着ける!」
55 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/28(日) 11:01:52.93 ID:zUXEOD3/0
「だが……」
「自信がないのか!? 助けたいんじゃないのか!? 少なくとも今、あいつは逃げず耐えているぞ!」
ステイルの態度にオティヌスはついに激昂したような声を上げる。
「やれ、ステイル! インデックスを救え!」
「っ!! ……"魔女狩りの王"」
キッ! と前を向き、ステイルは炎の巨人を呼び出す。
出現した巨人はいつもより
56 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/28(日) 11:35:20.82 ID:zUXEOD3/0
「お、大きい……!」
オティヌスの補助を得てか、2メートル程増していた。これほど大きなものはステイル自身、作ったこともなかった。
燃え盛る炎は大きく、ここからでも熱を感じる。
「魔神! 準備はできたぞ!」
そのオティヌスの声を合図に、当麻は"竜王の息吹"をいなし、かわす。
そして砲撃はオティヌス達の方へと向かい、その射線上にある"魔女狩りの王"に直撃する。
「よし!耐えているぞ!」
普通ならすでに崩壊していてもおかしくない。
しかし、オティヌスの補助で、余裕で耐えている。
再生も追いついていた。
が、
「い、威力が!?」
"魔女狩りの王"の防御力に比例するように、砲撃の威力もとたんに上昇した。
今度は再生が追いつかず、"魔女狩りの王"はすぐに崩壊しはじめた。
そしてさらに追い討ちをかけるように、
「上条当麻の接近を確認。標的に攻撃を行います」
二発目の"竜王の息吹"が当麻に放たれる。
「うおっ!」
反射的に右手をつき出す。直撃はしなかったが、受けていた右手から、ごきり、と嫌な音が。
八方塞がり、万策尽きたかに思われた、が、
「Salvare000!!」
神裂の声と共に、剣激がインデックスの足下へ向かう。
57 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/28(日) 11:44:42.87 ID:zUXEOD3/0
「神裂!」
放たれた剣激はインデックスの足下、正確にはその地面に直撃し、インデックスの体ごと、二つの砲撃が空へと向く。
「行って下さい! 上条当麻!」
当麻はもう一度走り出す。そしてインデックスの眼前へとたどり着き、インデックスに触れた。
そして、
バキィィィィィィン!!
甲高い音と共に、インデックスの魔術が、ついに、解除された。
58 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/28(日) 12:18:51.33 ID:zUXEOD3/0
〈上条side〉
やっと、終わった。
インデックスを助けることができた。
術式から解放されたインデックスは、自身の傍らで気絶していた。今はスースーと、寝息をたてている。
当麻の右手はもう動きそうにない。二発目に耐えきれず、何本か折れていた。
(終わったんだな……)
しかし右手に痛みはない。珍しく今日は疲労を感じていて、痛みより疲労が勝っていた。
すると、自分の頭上から、光の羽が落ちてきた。"竜王の息吹"の余波だった。
(や、やばい!)
その羽はインデックスに触れそうだった。
どのような効果があるかはよく知らないが、インデックスに触れられればやばいことはわかる。
すぐに消そうとするが、
(右手が動かねぇ!)
先で折れてしまった右手が、動きそうにない。衝撃を受けて肩も痛めているようだ。
59 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/28(日) 12:26:49.62 ID:zUXEOD3/0
(ハッ……)
何故か当麻は心の中で笑った。
(魔神って、これ受けてもだいじょぶだよな……)
当麻はついに、インデックスに覆い被さった。
そして、光の羽が、当麻の体じゅうに当たった。
60 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/28(日) 17:49:57.39 ID:zUXEOD3/0
目を開けるとそこには、見知らぬ白い天井があった。
どれ程寝ていただろうか。ゆっくりと上体を起こすと、自分はベッドの上だった。
(……ここは……病院?)
なんとなく状況がわかってきたところで、ドアが開いた。
「魔神、気分はどうだ?」
入ってきたのはオティヌスだ。どこか申し訳なさそうなのは気のせいだろうか。
「よ、オティヌスか」といつも通り返事をしたつもりだが、今度は安堵したかのような顔をした。
「インデックスはどうなったんだ?」
「無事だ。お前が庇ったおかげでどこも怪我していない」
淡々とオティヌスが答える。
「そーですか。上条さん、一安心ですよ」
「…………」
「ん、オティヌス? どうかしたか?」
急に黙りこくったから、どうかしたのかと思った。
すると、オティヌスは気まずそうに「なぁ……」と声を出した。
「聞きたいことがあるんだ」
61 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/28(日) 23:45:25.97 ID:zUXEOD3/0
〜〜数分前〜〜
「これは記憶喪失というより、記憶破壊じゃないかと思うよ?」
とある病院の診察室で、カエル顔の医者が言った。
「脳細胞の一部が焼ききれていて、正直記憶が戻る見込みは無いよ? なんせ物理的に潰されているようなんだから」
彼はこの学園都市内で一番の腕前を誇っている。必要な機材があれば直ぐ様用意し、取りこぼした命は一つと無い。
しかし、その力を持ってしても、
「これは、僕でも治せないよ?」
目の前に座る二人の少女は、何も言葉を発さない。明らかに二人は学園都市の人間ではなかった。
片方の金髪の少女は悔しそうな表情で、ギリ、と歯ぎしりし、もう片方の銀髪の少女(シスター?)は今にも泣き出しそうだった。
やがて、金髪の少女が口を開いた。
「……肉体のダメージは……?」
恐らく、彼女が最も恐れていることだろう。よほど大切な人なのか。それでも、真実を伝えなければ。
「完治したとは言えないよ」
62 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/29(月) 00:14:04.07 ID:F8zkmxMu0
「恐らく後遺症が残る。
外傷の無い所にまで体のあらゆる所に大きなダメージを負ったんだ。それは精密検査しないと分からないけれど―――――――」
「もういい」
金髪の少女が遮った。
やはり聞くに耐えなかったようだ。今の彼女の胸中は察せないが、穏やかではないのは確かだ。
「――――面会してもいいか?」
「ああ、いいとも」
昨日、あの少年と彼女達に何が起こったかは知らない。けれど、彼女達が、これから大きな業を背負っていくのは、その場にいなかった自分でも分かる。
だから、背を押すことしかできない。
「言っておいで」
それに答えず、彼女は診察室を静かに去って行った。
〜〜現在〜〜
診察室をでて、現在病院の廊下を歩いているインデックスの胸中も、穏やかではなかった。
自分はどんな顔をして、彼に会えばいいのだろうか。
第一、彼は自分を覚えていてくれているのだろうか。
忘れられていることを考えると、胸に黒い何かが渦巻いてきた。
63 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/29(月) 00:40:45.77 ID:F8zkmxMu0
それが何かはわからない。
結局それが分からないまま、彼のいる病室の前へとたどり着いた。
いや、たどり着いてしまった。
自分の気持ちも定まらない、そんな不完全な気持ちだった。こんなので入れるのだろうか。
けど、そんな気持ちでも、
オティヌスは既に入っている。自分より先に覚悟を決めて。だから、自分もいかなければ。自分だけ逃げたくなんかない。
「ふぅ………………」と病室の前で一息つく。
そして、インデックスはドアを開けた。
64 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/29(月) 20:36:39.89 ID:F8zkmxMu0
「―――――――――――――――――お、インデックス」
いた。
ベッドには間違いなく、上条当麻がいた。右手が折れているなど違った所はあるが、確かに、はっきりと自分の名を呼んだ。
彼の傍らではオティヌスが「遅いぞ。何してた」とやや膨れっ面で、怒ったような口調だが、間違いなく診察室の時とは雰囲気が違っていた。
「だ、大丈夫なの…………?」
おかしい、嬉しいのに声がかすれてる。目頭も熱くなってきた。
「ああ、身体のことか? いやー、上条さんもさすがに死んだと思いましたけど、奇跡的に助かったんですよ。魔神の肉体も捨てたもんじゃないですよ」
「よく言え。もろに受けて魔力生成に障害を持ったくせに。どんだけ体はるんだ」
「いいんですぅ、上条さんの身体なんだから。障害くらい、訓練すれば」
「…………その訓練に付き合うのは誰だ」
「オティヌス様、お願いします」
65 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/29(月) 21:03:07.71 ID:F8zkmxMu0
「イヤだ」
「土下座したのに!?」
「怪我人の土下座ほど見苦しいものがあるか。お前限定で。お前限定で!」
「理不尽すぎんだろ! つか二回も同じ事を!?」
「あ、違った。いつもだったな」
「………………あれ、目から涙が…………?」
「キモいんだよ、目の前で」
全く、何にも変わっていない。
二人はさもいつも通りのように、夫婦漫才を始めていた。至って健全に振る舞っている。
昨日何が有ったかはあの魔術師二人に聞いた。
自覚と記憶はないけれど、確実にこの二人とあの魔術師達が、生死の間際にまで達してしまいそうになったのは紛れもない事実だろう。
そして、その原因が自分であることも。
けれども二人は、何も言わず、自分という存在を受け入れてくれた。この場にいることを拒みはしなかった。
66 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/29(月) 21:45:16.03 ID:F8zkmxMu0
「さすがにそれは許せねぇ! 仕返しに炎の魔術で燃やしてやる!」
「はぁ? 今のお前なら、初見の魔術じゃチャッカマン程度がせいぜいだろうが(笑)!」
「火炎放射器くらいは出せますぅ! 上条さんは腐っても魔神です! 魔力練れなくても魔神です!」
しかし、拒まれてはいないが、今は相手にされていない気がする。
(…………早速空気なんだよ…………)
今や、さっきまで感じていた嬉しさはどこへやら、自身の存在の空気化が気がかりだった。
早く自分の存在に気づいてほしくて、声をかけようとしたその時、ガラリ、とドアが開いた。
「やぁ。気分はどうだい?
…………て、だいじょぶそうか」
入ってきたのは、二メートル越えの大男、ステイルだった。
その後ろからは、病院の中でも露出過多な服装の神裂が、ステイルに続いて入ってきた。
67 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/29(月) 22:06:07.50 ID:F8zkmxMu0
「あ、ステイルと神裂か」
「なんだ、見舞いか?」
「それも兼ねて………………て言うか、お前ら何やってんだ!?」
「いや、これは……」
ステイルが驚くのも無理ない。
今二人の状況を説明すると、オティヌスがどこからともなく取り出した縄で当麻の身体を縛って、彼を芋虫状態にして自由を奪い、その胴体を片足で踏んづけている最中だった。
俗に言う、SMプレイだ。
「上条当麻。昨日の一件で君に対して尊敬と感謝の気持ちを抱いたが………………幻想だったようだ」
「誤解だ! これはオティヌスが……」
「見損ないました……」
間髪入れずに、神裂が告げる。
「インデックスの前で、こんなことをして!」
「違うってば! あ、インデックス! お前何か言ってよ!」
68 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/29(月) 22:20:33.15 ID:F8zkmxMu0
今度は恥とプライドをかなぐり捨て、インデックスに懇願する。もちろん芋虫状態で。しかし、
「ふん! とうまなんか知らない!」
「何故にお怒りモード!? つーかオティヌスいい加減、縄(これ)、外せーーーー!!」
〜〜数分後〜〜
「危うく変態認定されるとこでした…………」
「安心しろ、もうなってる」
「安心の要素どころか、不安要素しかない!?」
ようやく解放された当麻だが、オティヌスの不穏な一言に反応する。
「インデックスは何か不機嫌だし……、あー、不幸だ…………」
69 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/29(月) 22:53:31.28 ID:F8zkmxMu0
サラリーマンのようなため息をつき、当麻はお決まりの口癖を呟く。神裂がそれに反応したのは気のせいだろうか。
「で、何の用できた? 見舞いだけじゃないだろ」
「……さすがは魔神、の失敗作か。
確かにそれだけじゃない。というか、見舞いがついでだね」
ステイルの言葉におい、と病室内から声が上がる。
しかしステイルは意に介さず続ける。
「インデックスの処遇が決まった」
「!!」
「…………教会はインデックスを、上条当麻の下に保護させるそうだ」
「え!?」
「……なんだ、嫌なのか? 生活費の方は補助するそうだが」
「いや、そういう問題じゃねぇよ! それよりシルビアに何を言われるか分かったもんじゃねぇ!」
「そっちかよ」
オティヌスの突っ込みが入る。
70 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/30(火) 20:43:03.08 ID:UnnL04lf0
「前から思うんだが、シルビア程度、お前には赤子以下のはずだろ」
「お前はあの『お仕置き』を知らないから言えるんだ!」
すると突然、当麻の体がぶる、と震えたように見えて
「シルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖い」
と、何かのトラウマを呼び覚ましてしまったようだ。
「で、インデックスを私達に預けるのはいいとして……」
(潔いくらいにスルーしたんだよ…………)
「お前達の方はどうなんだ? インデックスを監視する任務も解かれ、実質、そっちの上司に逆らったようなことをしたんだぞ?」
形からすれば二人は、『必要悪の教会』に逆らったことになる。恐らく二人もそれを覚悟してインデックスを救おうとしたのだろう。
それ相応の罰が下るはずだとオティヌスはおもっていた。
「いえ、インデックスの件については何も言及されていません。私達に対しては、通常の勤務に戻れ、というお達しだけでした」
71 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/31(水) 20:05:39.08 ID:kkolI7u70
「それだけ?」
「教会の方もあまり表沙汰にはしたくないのでしょう。インデックスはイギリス清教の重要人物ですから」
「ま、君達が僕達にする心配事なんて、ないってことさ」
そう言うとステイルはゆっくりと振り返り、「彼女をよろしく」とだけ言って神裂と共に当麻の病室を出た。
72 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/31(水) 21:11:18.47 ID:kkolI7u70
「……ま、とりあえずよろしく。インデックス」
「とりあえずよろしくな」
「なんで『とりあえず』!?」
「「いや、急だったし」」
「だとしても扱いがひどい!」
そしてまたいつもの空気に戻る。
今の所はインデックスがいじられ役にいるようだ。まぁ、基本自由奔放なインデックスを翻弄できるのはこの二人ぐらいだろうが。
「あ、インデックス。あのお医者さんに俺の薬貰ってきてくれない? 後で取りに来るよう言われてるから」
「わ、分かったんだよ。でも代わりに、お家に帰ったらいっぱい食べさせてほしいかも!」
「ああいいぞ。当麻(こいつ)の財布が空になるくらいまでは大丈夫だ」
「何が大丈夫だ!?」
「分かったんだよ!」
「わかるなーーーーーーーー!」
73 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/31(水) 21:28:11.80 ID:kkolI7u70
前言撤回。オティヌスの方が上手であった。
「…………お前……後で覚えとけよ……」
「暇だったらな」
つまり、覚える気はない。
当麻は諦めたように、はぁ、とため息をつき、上体をベッドに寝かせる。昨日の疲れが完全に取れたわけじゃなかった。
それに後一週間は入院生活、とあのカエル顔の医者が言っていた。
「…………ふふ…………」
「?」
オティヌスが急に笑った。それを見て当麻は怪訝な顔をする。
「お前と会って、早くも八年たったか。正直、私にとって、お前と出会ったあの日は最高の日だと思っている。勿論今も」
74 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/31(水) 21:51:32.48 ID:kkolI7u70
「ああ、もう八年たつのか……」
オティヌスが唐突に他意のない話を始めるのはいつもの事なので、当麻も慣れたように返す。
「バチカンでお前とまた会ったときも、お前は私のことを覚えていてくれてたな」
「そりゃ、あんな痴……すいません、なんもない」
「……それ以上言ったらグーをとばすつもりだった。
ま、それも覚えているくらいなら問題ない。やはりお前は何の記憶も失っていないな」
「人名、用語、知識、全部問題無かったしな」
当麻が目を覚ました後、 オティヌスは自分に細かい所まで質問してきた。当麻はその全てを正確に答えていたし、オティヌスが頭の中を覗いても、脳の機能には何の問題もなかった。
つまり、上条当麻は何の記憶も失っていなかった。
75 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/03(土) 00:39:57.06 ID:oaNvi/Np0
「だが、それは今分かっている範囲だけだ。
後々から何かの記憶を失っていることが分かるかもしれない。……そういった時は頼れよ?」
「ハイハイ。喜んで頼らせて頂きます」
しかし、当麻の答えを聞いたオティヌスは、何故か不服そうにジトッとした目でこっちを見た。
(そう言っていつも頼らん癖に……)
「え? 上条さん何か悪いこと言った!?」
本気でオティヌスが不服な顔である原因が分からない当麻は、態度を崩して慌て始める。
それを見て、不満を通り越して呆れ始めたオティヌスはもういい、と病室を出ようと立ち上がる。
「…………俺も、オティヌスと会えてよかった」
ピタリ。
病室のドアの前まで歩いたオティヌスが動きを止める。
「オティヌスはすげぇ頼れるし、俺の知っている中じゃ、ダントツに強い。それに何より、オティヌスは優しい」
76 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/03(土) 01:01:56.68 ID:oaNvi/Np0
「…………優しい、のか? 私は……」
いつもの自分なら否定していたであろう。だが、他でもない自分の相棒、上条当麻の言葉にオティヌスは何故か、やや恐怖心を抱きながら聞き返す。
生まれてこのかた、そんな事は他人に言われたことがなかった。
自分が持つ力を見たものは誰であれ、恐れ、また拒絶され、敬遠された。当麻以外の人間で、まともに話そうとする者はいなかった。
自らの力が原因の彼女の苦悩を、理解しようとする者はいなかった。
77 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/03(土) 16:03:27.14 ID:oaNvi/Np0
オティヌスは信頼する相棒からの返事をまった。
「友達のために立ち上がるやつが、優しくないわけねぇだろ」
「――――――――――そうか………………」
短い返事だけ返して、病室の外へと出る。当麻には見えるはずもなかったが、その時のオティヌスは、
――――――――――――いつもより柔らかな、白く、美しい、聖母のような笑みを浮かべていた。
(優しい、か………………)
78 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/03(土) 16:41:31.65 ID:oaNvi/Np0
病室から出ても、オティヌスはどこにも行かずそのままゆっくりとドアにもたれ掛かった。
その間も彼女はその笑顔を崩すことはなかった。
やはり、ああ言われると反応に困る。
だけど今、オティヌスの心はとても穏やかだった。
いや、暖かい。今まで感じたこともないくらいに。
それは、ただ優しいと言われたからだけじゃない。
自分にとって、世界で最も長い時間を共に過ごしてきた人に、そう『理解』してくれていたからだ。
それが堪らなく、嬉しい。
(やはり、私も一人の人間なのだな)
まぁ、それがあいつの耳に入れば、『そんなこと思わなくてもお前は人間だろ』と言われそうだが。
79 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/04(日) 19:04:40.86 ID:6kO2MXYq0
少しして、トテトテ、という音がオティヌスへ近づいてきた。
「おてぃぬす〜。どうしてそこにいるのー?」
「ん、いや、お前を迎えにいこうとしててな」
「まだそんな立ってないと思うんだけど……。
あ、当麻のお薬貰ってきたよ」
「おお、ありがと」
すると突如、インデックスの表情が凍るように固まった。あまりにも唐突なことだったので、オティヌスは「ど、どうした!?」と狼狽え始めた。
「お、おてぃぬすが、わ、私にお礼を言ったんだよ……!」
「なんだよその理由!? 失礼すぎんだろ!?」
「いや、自分勝手で傍若無人な性格してて、問題が起こったらとうまに押し付けてるし…………」
「今日のご飯、もやしな」
80 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/04(日) 19:21:58.91 ID:6kO2MXYq0
「嘘なんだよ!? 冗談なんだよ!? 昨日会ったばかりでおてぃぬすのことあんまり知らなかったし……!」
「……………………これから知っていけばいいだろ…………」
「…………え?」
「私もお前のことをよく知ってる訳じゃない。これからお互いのことを知りあって、理解していけばいい。理解し合う時間なら、たくさんあるだろ。勿論、あいつとも」
「お、おてぃぬす…………」
これまで、オティヌスが積極的に人と関わろうとしたことは少なかった。ましてや仕事関係ではなく、友情関係を築いていこうとしたことは、全く無かったと言っていい。
しかし、上条当麻との出会いによって、八年前から少しずつ、オティヌスの心は変わっていっていた。
勿論、インデックスもたじろいでいた。
だがオティヌスは、内心不安ながらも黙って目の前の少女の答えを待った。
81 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/04(日) 19:39:33.60 ID:6kO2MXYq0
「…………………………と、とうまとならともかく! お、女の子どうしでそう言った関係は、私としては遠慮しとくんだよ!」
「は!?」
「ゆ、百合展開はかんべんかも!!」
「んな展開望んじゃいねぇよ!
ちくしょう、一生に一度の告白なのにィ!!!」
「…………はは、不幸だ」
病院、特に病室の前では静かに(切実)。
82 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/04(日) 20:23:01.08 ID:6kO2MXYq0
…………………………………………………………………………………………………………………………………
「…………何かな? 冥土帰し」
とある病院の一室。そこでは冥土帰しと呼ばれるカエル顔の医者が、数年ぶりに誰かと電話ごしの会話をしていた。
勿論、ただ世間話をするために掛けたのではない。
「今日、僕の所に一人運ばれて来たんだがね? 明らかに学園都市の生徒じゃないんだよ」
「ほう。それがどうかしたのかい?」
電話の向こうからは、それだけがかえってきた。
「君と彼らは関わっているんじゃないか? アレイスター。特にその付き添いで来た金髪の子と」
今度は少し間があった。
83 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/04(日) 20:45:19.20 ID:6kO2MXYq0
「…………なぜ、そう思う?」
「彼らのIDが見つからなかったからだよ。
それに今日は来賓の予定も無かったし、そうなると君が関わっているのがいつものことだろう?」
冥土帰しは淡々と、詰問するように答えていく。
「それにあの金髪の子、なんというか、雰囲気が昔の君と似ているんだよ」
「…………ク、ククククク、ふ、ふははははは! ふはははははは………………!!」
アレイスターが電話の向こうから地獄の亡者のような笑い声をあげた。
「さすがだ。さすが冥土帰しだ。 もう数十年と経っているのに……。私のクローンだと見破ったか?」
「クローン? 私が似ていると言ったのは雰囲気だが?」
84 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/04(日) 21:33:19.14 ID:6kO2MXYq0
「ふむ。確かに彼女……オティヌスは私と姿形は似ていない。しかし彼女と私の考えることは非常によく似ている。合理的思考、判断力、観察力。全てにおいて私と似かよった方式だ」
「……まるで今まで見ていたかのような言い方だね」
「"プラン"に必要な"パーツ"だからな。部品の性能はよく見ておくべきだろ?」
「――――僕の患者を部品呼ばわりするな。彼らは僕の患者なんだからな――――」
いつもの彼なら考えられないであろう、怒気の籠った声で冥土帰しは忠告する。医者として、患者を守ることが彼にとっての信条だった。
85 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/05(月) 21:14:49.69 ID:87TSx8Lp0
「おっと、失言だったな。
用がそれだけなら、そろそろ切らせてもらうよ。
さらばだ」
その言葉を最後に、電話からはプー、プーという電子音だけが、冥土帰しの耳へと入ってきていた。
「……アレイスター、君は……」
…………………………………………………………………………………………………
…………………………
86 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/05(月) 21:22:15.84 ID:87TSx8Lp0
インデックス編、終わりです。
ぐだぐだとひきのばしすぎてしまったと今思います。
慣れないせいで、下手な文ばかりを書いてしまいました。
次は、三沢塾編をとばして、日常編、妹達編に続きます。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/05(月) 23:41:14.34 ID:wPrEeo4Yo
おつなのー
88 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/06(火) 22:48:53.63 ID:cabx3Vyj0
次回予告
「また勝負かよ! このビリビリ中学生!」
魔神になった不幸体質を持つ少年ーー上条当麻
「ビリビリじゃなくて、名前で呼べっての!」
学園都市のビリビリ中学生ーー???
「それほどこの町は、人を狂わせるんだ」
クローン(?)の魔神の失敗作ーーオティヌス
「もう! 卵ばっかりはイヤなんだよ!」
十万三〇〇〇冊を記憶する少女ーーインデックス
「よろしくだにゃー、カミやん」
謎の金髪グラサンニャーニャー男ーー???
「ボクぁ落下型ヒロインのみならず、」
謎の青髪変態ピアス男ーー???
「―――と、ミサカはツンツン頭の少年に答えます」
学園都市のビリビリ中学生(?)ーー???
89 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/06(火) 22:51:51.18 ID:cabx3Vyj0
「 第五話・学園都市の日常」
90 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/09(金) 16:54:15.06 ID:igQ1IyIM0
学園都市
東京西部に位置し、三メートルの壁に囲まれた完全な円形の都市。
総面積は東京都の3分の1を占める広さを持つ。
総人口は約230万人で、その8割は学生。
ここの学生らは「記憶術」だの「暗記術」という名目で超能力研究、即ち「脳の開発」を行っている。
そのため外の世界との技術格差は二、三十年ほどあり、二十三に別れたそれぞれの学区で様々な研究を行っている。
そしてその一角、第七学区
中学・高校といった中等教育機関を主としており、同校に通う学生や勤務教師たちの生活圏となっていて、9つの他学区と隣接するせいか雰囲気は雑多である。
91 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/09(金) 17:32:05.78 ID:igQ1IyIM0
はー、ホントついてないわ…………。
7月中旬終わりのある日、八時を少し過ぎた頃、第七学区のとある路地で、一人の少女がいた。
しかしその周りには、がらの悪そうな男が四人いて、その少女を囲って逃げ場をなくすかのようにして絡んでいた。
「なー、君、常盤台の子だよねー?」
「こんな夜中に何で一人でいんの? 暇なら俺らと遊ばない?」
「帰りはちゃんと俺らが送るからさ」
「いつ帰れるかはわかんねーけどよー」
その言葉で下品な笑い声を上げる不良達に対し、彼女は軽くため息を漏らすだけだった。
その理由は呆れ。
誰にと言うと、この状況を見ていながらにして、見ないふりをしてそこを通りすぎる生徒達にだった。
92 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/09(金) 17:45:32.64 ID:igQ1IyIM0
自分の身が可愛いのは分かるが、この状況を見たのなら、せめてこの街の治安を守る、警備員や風紀委員に通報だけでもするべきだ。
それすらもできない生徒達は、いくら何でも情けないと思った。
最も、彼女の素性を知る者がいたなら、イヤお前が追っ払えよ、と口を揃えるだろうが。
(ホント、ろくでもないやつばっかね、この街も、こいつらも)
そろそろ不良達が手を出してきそうだ。出して来たら即攻撃する。相手が手を引いてくれたのならこっちはありがたいが、今までの経験では、今日もまた攻撃することになるだろう。
93 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/09(金) 18:27:28.50 ID:igQ1IyIM0
攻撃しようと身構えたその時、「おい、どこ行ってたんだよ」と見知らぬツンツン頭の少年が、不良達の間を割って入り声をかけてきた。
「探したんだぜ? ほら、帰るぞ」
まるで自分を囲む不良達は眼中に無いとばかりに、少年は続けて話しかける。勿論面識はない。
しかしこの少年はまるで知り合いとでも話しているかのようだった。
「ちょ、待ってよ! あんた誰!?」
思わず叫んでしまった。そしてそれを聞いた不良達は一気に雰囲気を変え、少年は「おい! 知り合いのふりして逃がそうとしたのに!」と慌て始めた。
94 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/09(金) 19:03:09.15 ID:igQ1IyIM0
「はぁ!? いきなり話しかけてきたらそうなるでしょう!?」
「だとしても空気読めよ!」
「誰に向かって口聞いてんのよ!!」
自分は昔から少々勝ち気だ。ゆえに、些細なことでもすぐ突っかかってしまい、今のように言い争いになったりする。
一方、完全に無視されたと思った不良達は「テメー何無視してんだ?」と詰めよってきていた。
「いきなり出て来て舐めたことしやがって。覚悟できてんだろーな?」
「ハッ。女の子に手を出すような小者が吐きそうな台詞はいてんじゃねーよ」
「あぁ!?」
95 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/09(金) 19:15:18.94 ID:igQ1IyIM0
「よく見ろ! まだガキじゃねぇか!」
「え?」
……おい、このツンツン頭今なんつった?
「こんなガキに手ぇ出して、お前ら恥ずかしくねぇのかよ!?」
「だっ……………………!!」
ブチン、と自分の中の糸が切れた。
「誰がガキだああぁぁぁぁぁぁ!!!?」
自分の身体から、怒りの叫びと共にビリビリ、と電撃がほとばしける。それは周りの不良達に至らず、近くの電子機器にも直撃した。放電が終わると当然不良達は揃って気絶し、頭上の街灯は弱々しく点滅していた。
96 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/09(金) 19:33:07.14 ID:igQ1IyIM0
しかしそんな中で、断末魔の悲鳴を上げて気絶した不良達と同じようには倒れず、頭上の街灯のように弱々しいそぶりは見せず、その場に堂々と立っている男がいた。
「な、何すんだよ! この電撃ビリビリ女!」
このツンツン頭の少年だった。
右手を前に構え、それだけで身体を守っているような姿勢と、驚きながら非難するかのような口調で自分の目の前に立っていた。
さっきの電撃は右手一本で防げるようなものじゃない。どうやって防いだのかは分からなかったが、それよりも、自分にはまず言うべきことがあった。
「ビリビリ言うなっ! あたしにはねぇ!―――――」
「―――― 御坂美琴って名前があんのよ!」
その瞬間、ついに、科学と魔術は交差した。
97 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/10(土) 13:39:33.40 ID:9SYNKKcb0
上条当麻と御坂美琴が出会ってから数日たった。
その日、学園都市は記録的な猛暑を観測し、今の時間帯なら平日は学生達が通学中で、その暑さに身を焦がすはずだが、その日はちょうど日曜日で、この猛暑の中では誰も外を出歩こうせず、ほとんどは冷房の効いた学生寮に引きこもっているだろう。
が、しかし、当麻らのいる学生寮は、数少ない例外だった。
「あ、暑い……んだよ………」
当麻達が住む、とある高校の学生寮の一室。純白修道服のシスターことインデックスは、そのリビングでうだるような暑さに耐えきれず、だらしなくねっころがっていた。
98 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/10(土) 13:53:47.31 ID:9SYNKKcb0
「そ、それに、お腹すいたよぉ……。とうま〜〜、朝ご飯まだ〜〜?」
この暑さなら食欲も失せるのが普通だが、インデックスはそんなこと関係ないようだ。
それを聞いた当麻は、テーブルの宙に浮いた卵とのにらめっこをやめ、「やかましい! 上条さんは忙しいんです!」とインデックスへ一喝した。
しかしその弾みで、宙に浮いた卵はバリリッ、という音をたてて割れてしまった。
「集中しろ! これで三十一個目だぞ!」
今度はテーブルの向かいに座っているオティヌスが、半ば涙目で当麻に一喝する。
それを聞いた当麻は「不幸だ……」とお決まりのセリフを呟く。
99 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/10(土) 14:10:49.12 ID:9SYNKKcb0
「お前はどんだけ卵を無駄にする! 今日と昨日を合わせて、六十個はやってるぞ!」
「せ、正確には五十三個なんだよ……」
インデックスが意味のない訂正をする。こうでもしないと気が持たない。
「ほら、まだ六十個もいってないよ!」
「やかましい、開き直んな! 六十個も五十三個も五十歩百歩じゃねぇか! インデックス、テメェがんなこと言うからこいつが屁理屈胡くんだよ!」
ついに溜まったストレスが爆発し、インデックスは「どうどう、落ち着くんだよ、オティヌス」といつかの流れのように宥める。
「私は犬じゃねーしっ!!」
(この流れどっかであったな……)
100 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/10(土) 14:41:04.05 ID:9SYNKKcb0
当麻がやっているのは、魔力をコントロールする訓練"卵割り"だ。八年前にオッレルスから魔力を扱うための訓練としてやらされていて、とうの昔に成功した(二百個近く無駄にしたが)はずだが、なぜ今更こんな訓練をやっているのか。
それは学園都市に着いたその日のこと、彼はインデックスを救うため、自らの身体に光の羽を受けた。
魔神級の魔術の余波だけあって、普通なら骨も残らないだろう。しかし上条当麻は魔神。身体に受けて死にはしなかったものの、魔力の生成と制御に障害が残ってしまった。
このまま魔術を使われると下手すれば世界そのものがぶっ壊れる危機を感じたオティヌスは、当麻に昔やった"卵割り"の訓練を聞き出し、早速昨日からその訓練を課していたのだが、一向に成功する気配は無かった。
101 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/06/10(土) 15:06:35.13 ID:9SYNKKcb0
「はぁー、はぁー。……すまない、取り乱した」
さっきのは取り乱したってレベルじゃ無かったけど、と当麻は思った。しかしそれを言うとまたキャラが崩壊しかねないので、黙っておこう。
「今日はこれくらいにするか。卵はもうないし」
「んじゃ、朝ご飯にするか」
「ご飯!?」
ガバッ、とインデックスが生き返る……もとい起き上がる。
「は、早く食べたいんだよ! とうま! 今日は何!?」
「あー、卵焼きと目玉焼きとスクランブルエッグにしようかな」
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