('A`)はベルリンの雨に打たれるようです

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350 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/11(日) 23:43:12.49 ID:JslRmT7e0
undefined
351 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/11(日) 23:51:15.43 ID:JslRmT7e0
(;'A`)「【Astro Boy】かっての!!」

直ぐに地面から飛び起きてもう一度リ級に射撃を加えつつ頭を過ぎったのは、ガキの頃にちらりと目にした日本の古いアニメーション。そのアニメの主人公である少年型の高性能ロボットは、テレビ画面の中で10万馬力のパワーを振るい悪役達を次々とぺしゃんこにしていたのを覚えている。

ただし、世界的に有名なコミック・アーティストが生み出したそのロボットは正義の味方であり、決して人間に拳を振りかぶることはない。

『────♪♪♪』

…………それに俺の記憶が正しければ、悪役をぶちのめすときにしてもこれほど獰猛で凶悪な笑みを浮かべて武力を行使してはいなかったはずだ。

『────!!!』

(;'A`)「っ………ぐぁっ!?」

ほとんど零距離射撃だったはずだがやはり微塵も影響はない。拳を地面から引き抜くや否や飛びかかってきたリ級は、今度はぐるりと体を捻り回し蹴りをかましてくる。

身をかがめて躱すが、風圧だけでも首がもぎ取られるのでは無いかというほど凄まじい衝撃が走る。堪えきれず、そのままごろごろと数メートルにわたって水浸しの路上を転がる。

「※※※※!!」

『────』

俺が離れた隙を突いて、ポーランド軍のハンヴィーが機銃掃射をかける。が、リ級は其方を見向きすらせずに艤装だけ構え、砲撃。火柱が上がり、銃声が止まった。

「少尉、離脱を……がっ!?」

「Ah………」

今度は海兵隊とドイツ兵が数人ずつ、両側から挟み込むように展開して牽制射撃。リ級は両腕の機銃を同時に放って彼らをなぎ倒しながら、なおも俺を追撃する。

( A ;)「うぁっ────!?」

『〜〜♪』

ようやく起き上がりかけていた俺に、奴の拳が迫る。咄嗟に横に転がって直撃こそ免れたが、先程より遙かに近くで感じた拳圧は爆風のそれと大差が無い。

゚∴・( A ;)「ゴアハッ……!」

衝撃で再び身体が浮遊し、叩きつけられた場所はさっき俺が蹴倒した奴のバイク。呼吸が止まり、背中と脇腹の辺りでビキリといやな音がした。

ξ;゚听)ξ「ドク!!!」

(;<●><●>)「少尉!!」

ティーマスとツンの叫び声に続いて、四方でアサルトライフルや機関銃の乾いた発射音が重なる。幾十の銃火が障壁上で爆ぜるが、それらを意に介す素振りすら見せずリ級は満面の笑みを浮かべながらゆっくりと俺に向かって歩いてくる。
352 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/11(日) 23:55:22.94 ID:JslRmT7e0

『〜〜〜〜♪』

(; A )「………」

バイクの上で仰向けになったまま、銃声に混じって朦朧となっている意識に微かに聞こえるリズム。

それは、確かにリ級の歩みに従って近づいてきている。

(;'A )「……鼻歌なんぞ歌いやがって」

明確に奴の「声」だと決まったわけではないし、仮にリ級が音の主だとしてもそれがどこから出されたものかも解らない。更にいえば、例えばその音が他の深海棲艦への通信波のようなものである可能性も捨てきれない。

だが、なんとなく俺は確信していた。その独特のリズムで奏でられるなんとも形容しがたい不可思議な音は、間違いなくリ級eliteの発する“鼻歌”だ。

(;'A )「……っ」

たいそう上機嫌で近づいてくるリ級eliteから逃れようと、僅かに自由が利く手で下のバイクを押して身体を動かそうとする。酷く緩慢な動作で数ミリずつずれていく俺の様子を見て、奴の笑みが一段深くなった気がした。

(#<●><●>)「───────ぁああああああああああああっ!!!!!」

(;'A`)そ「はっ!?」

『!?』

悠然と歩み寄るリ級に、雄叫びと共に“人影”が衝突した。姿勢を低くして突っ込んできたティーマスが、弾丸のような勢いでリ級eliteの腰辺りに組み付いた。

華奢とはいえ軍人として鍛えた成人一人分の全力の体当たり。流石に転倒したりはなかったものの、リ級eliteの身体が一瞬衝撃で揺れて歩行が止まる。

(#<●><●>)「ツーさん!!」

(*#゚∀゚)「あらほらさっさー!!」

(;'A`)「おおお!?」

ぐいっと肩口が引っ張られ、“自称美人女性兵”が俺の身体をバイクから引きずり下ろしそのまま物陰へ一直線に引っ張っていく。

ちょ待て待て待て待て背中摩ってるいでででででで!!!!
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sagesaga]:2017/06/12(月) 00:04:11.01 ID:UBy2Bc3A0
辛抱汁!
背中と命のどっちが大事?

つか生き残ったら絶対ツンが看病に来る。
いやモテ期が来る。
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 00:08:02.84 ID:1ns2sOJzo
ドクはもててるだろ、リ級ちゃんに
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 00:09:47.18 ID:QEHwxYjyo
レっきゅんがまだ来ていないという幸運
356 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/12(月) 00:11:39.08 ID:UzMXyL4n0
『────!!!』

(;< >< >)「カハッ……!」

(;'A`)「ティーマス!!」

リ級は忌々しげに纏わり付いてくるティーマスを睨んだ後、その手をふりほどいた後軍服を掴んで放り投げる。一瞬脳裏を過ぎった強烈な違和感は、正体を追求する前にその光景によって消し飛んだ。

派手な音を立ててティーマスの身体が瓦礫に叩きつけられた。リ級の姿勢が十分に立て直されていなかったこともあり勢いは今までに比べて弱いが、それでも負った傷が小さいとは思えない。

(;'A`)「ツー放せ!ティーマスを……!」

(*#゚∀゚)「その身体で相棒を心配できる心意気は買うけどじっとしてなお馬鹿さん!あんたその身体で何する気だよ!!」

『───……!!?』

俺を怒鳴りつけつつ、なおも一人で引きずっていくツー。追おうとしたリ級の足下に、フラッシュバンが一発投げ込まれる。

『ッッッッ!!!!』

(#//‰ ゚)「Shoot, Shoot!!」

( ’ t ’ #)「※※※※!!」

今度はしっかりと至近距離で炸裂した閃光と爆音。仰け反るリ級に向けてサイ大尉指揮下の海兵隊が弾幕を張り、完全に態勢を立て直したカルリナ達も射撃に加わった。

リ級の足が止まる間に、俺はツーによって再び戦車隊の近くまで来て崩れ落ちた建物の影に引き込まれる。

(*;゚∀゚)「ぷぇー…あっぶね!」

ξ;゚听)ξ「ドク、ドク!!ねぇ、ドクは無事なの!?」

(*゚∀゚)「安心しねぇフロイライン!我らが少尉殿は生きてるよ!」

ξ; )ξ「………っ!別に心配してないけど、心配かけないでよバカ!!」

('A`;)「どっちだよ……」

ツッコミつつも、視界の端でティーマスも海兵隊に回収されていたことに僅かに安堵の息が漏れた。
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 00:20:12.83 ID:QEHwxYjyo
ドクオとティーマスをミンチにしないんだな
358 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/12(月) 00:32:11.73 ID:UzMXyL4n0
『ォオオオオオオ………』

俺が救出されてからほとんど間を置かず、戦車隊の向こう側で上がった呻き声。地面に重い何かが倒れ込み、レオパルト2A4の戦車兵が拙い発音の英語で「エネミーだうん!!」と叫んだ。

('A`)「ツン!!前段艦隊の状況は!?」

ξ;゚听)ξ「今し方ホ級eliteが完全に沈黙したわ!ロ級は既に倒してあるから、これで私達の正面は完全に殲滅よ!

……ってかあんたね」
??_,
(*゚∀゚)「今し方大ダメージ食らって運び込まれたのにもう戦況の確認とは恐れ入ったね。佐官になったらあたしの昇進もついでに頼むよ」

('A`;)「冗談抜かせ、これ以上階級上がったら面倒くさくて仕方ねえだろうが」

……ツンやツー以外に、随伴していたポーランド軍や海兵隊、連邦共和国の同胞諸君からまでじとっとした視線が突き刺さった。その目つきやめてイタイイタイ、ついでにいうと肋も痛い。

('A`;)「あー……ツー、リ級の様子は?」

(;*゚∀゚)「とりあえずサイ大尉達とカルリナ准尉達が止めてくれてるけど、あんなんだから直ぐに立ち直るだろうし………うぉおおおっ!!?」

『…………ッ!!!』

数十人分のアサルトライフルを束にしてもかなわない、凄まじい銃撃音が区画に鳴り響く。更に間髪を入れず、上空から飛来した対戦車ミサイルが数発連続してリ級の障壁に着弾し爆炎をまき散らす。

「Air sport incoming!!」

先程敵艦隊に追い散らされた編隊の生き残りなのか、或いは新手なのかは判別が着かない。とにかく上空に三度現れたMi-24ヘリが、リ級に向けて猛然と攻撃を開始した。
359 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/12(月) 00:56:18.04 ID:UzMXyL4n0
「友軍機対地掃射、リ級eliteに全弾集中!!」

「リ級elite動きません!攻撃を受け続けています!!」

「やれやれやっちまえ!そのままぶっ殺せ!!」

戦車隊に随伴していた面々はやんやの歓声を上げ、その声援に応えるようにMi-24による空襲は一段と激しさを増した。ロケット弾とミサイルの雨にチェーンガンの猛射も加わり、リ級の障壁上から爆光が途切れる様子はない。

先程は奇襲砲火によって一方的に撃墜されたが、本来戦闘ヘリの火力は“ヒト型”にとってもある程度高い脅威度を誇る。少なくともこうも一方的に受け続けていいものではないはずで、俺達陸の人間をわざわざ格闘戦でいたぶるのとはワケが違う。

そのため、艤装による反撃の素振りも見せず攻撃を受け身動きをしないリ級の姿は、確かに周りから見れば“攻撃すらできない”ように見えるのだろう。

────だが俺は、遠目にもかかわらず奴の「眼」に気づいてしまった。

苦痛というよりは不機嫌…………例えるなら最高に楽しい遊びを邪魔された子供のような、幼くも獰猛で残忍な光を宿した「眼」が。

(;'A`)「………逃げろ!!逃げろ!!」

『───────!!!』

聞こえないと解っていても、声を限りに叫ぶ。同時にリ級は、おもむろに足下から何かを持ち上げそれをMi-24めがけて無造作に投げ上げた。

グシャリ─────その音は、Mi-24のコックピットが叩きつけられた大型バイクによって潰されたことによって発せられたもの。

(*;゚∀゚)「…冗談じゃねえぞ!!!」

('A`;)「逃げろ!!退避、退避!!」

ξ;゚听)ξ「戦車隊全速前進!!」

コントロールを失ったMi-24【ハインド】が、激しく回転しながら此方に向かって墜落してきた。ほとんど反射的に痛む身体を堪えて立ち上がり、物陰から飛び出して疾走する。

「※※※※!!?」

先程ホ級の撃破を報告した兵士の乗るレオパルト2A4のスタートが、計器のトラブルか動き出しが遅れる。

「〜〜〜〜〜〜っ」

無情にもその車両に向かって、Mi-24は堕ちていき────




  _
(#゚∀゚)「Leberecht!!」

「Jawohl!! Feuer!!」

12.7cm連装砲の砲撃によって、衝突の直前に空中で爆散した。
360 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/12(月) 00:59:43.14 ID:UzMXyL4n0
さわりまで行きたい(行けるとはいってない)

本日ここまでです、いつもとほとんど変わらない長さになってしまい申し訳ありません。いい加減れっきゅんや軽巡棲姫出さないと……
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 01:03:21.16 ID:QEHwxYjyo
おつー
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 01:05:27.60 ID:GQxHb/Alo
おつです
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 01:08:48.93 ID:fwG2UFekO
364 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 00:01:24.29 ID:qoUzhAK/0
「続けて撃ちます!! Feuer!!」

『………!』

更に二回、右手に構えられたレーベレヒトの連装砲が火を噴いた。今度の砲弾は立て続けにリ級に着弾し、障壁がチカチカと明滅する。

駆逐艦とはいえ艦娘の攻撃。流石に勝手が違うようで、僅かだが明確な“焦り”の色を浮かべて奴はレーベレヒト達から距離を取った。

『────!!』

「わっ!?」

リ級の艤装が起動し、反撃の砲火。横っ飛びで躱したレーベレヒトの背後で、既に半壊状態だったビルが直撃弾によって消滅する。

戦車や護衛艦でもほぼ一撃で粉砕される通常兵器より遙かにマシとはいえ、艦種がもたらす火力差はあまりにも大きい。まともに食らえば一発で中大破の大打撃を被る可能性も十分だ。

('A`#)「ツン、戦車隊全車両の火力をリ級に集中!効かなくてもいいから機銃もぶち込め、とにかく奴への攻撃を絶やすな!」

ξ#゚听)ξ「解った────Feuer!!」

『……ッ』

反転を終えたツン達を含め、7両の戦車隊による砲撃。レーベレヒトの存在にリ級が気を取られていたことも有り、この内五発が甲高い金属音を立ててリ級に命中した。

『────』

《うわっ!?》

反撃の砲火は狙いを急に変えたせいか照準が定まっておらず、頭上を飛び越えて数キロ先で炸裂する。乗り捨てられた自動車でも巻き込まれたのか、何か大きな鉄の塊が地面に叩きつけられたような音がここまで届く。

「Feuer!!」

『ッッッ!!?』

すかさず、態勢を立て直したレーベレヒトが全ての艤装を稼働させ一斉射をリ級に浴びせかける。

真正面から斉射を受けたリ級の身体が衝撃で僅かに浮き上がり、艤装と障壁からバチバチと火花が飛んだ。
365 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 00:06:04.64 ID:qoUzhAK/0
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366 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 00:10:30.10 ID:qoUzhAK/0
  _
(#゚∀゚)「クソッタレ、【ハインド】が堕とされたのが痛ぇ!

レーベは戦車隊と連携してリ級に攻撃続行、俺も援護に回る!ビロード、負傷者の救援と残存兵力の回収を急げ!!」

「解った!」

(;><)「了解なんです!!」
  _
(#゚∀゚)「Allemann vorwarts!」

「「「Jawohl!!」」」

ポーランド軍と合流する形で進み出てきたジョルジュの部隊が、半円形の隊列でリ級を包囲して弾幕射撃に移行する。携行砲や手榴弾も総動員しての猛攻だが、今度はここにレーベレヒトの“軍艦の火力”と戦車砲の砲撃が加わっている。

『グゥッ…………!』

膨大な至近弾が巻き上げる泥に視界を遮られ、全方位から襲い来る火線の爆圧に動きを封じられるリ級。轟音渦巻く中で微かに漏らされた奴の苦悶の声を、俺は確かに耳にした。

(*゚∀゚)「おっほー、艦娘の到着かよ!」

戦車隊の砲撃音にさえ負けない歓声を張り上げながら、横でツーが嬉しそうに手を叩く。

(*゚∀゚)「温存してたZ1達を出してきたってことは、いよいよこっちの反攻ってことか!?こっからがーーーっと向こうの大将首を取りに行くんだろ!?な、そうだろドク!?」

('A`;)「お前のいうとおりだったらさぞや素敵なんだがな……!」

さっきの今でその考えにたどり着けるお気楽思考は羨ましい限りだが、プリンツの報告によれば突入してきた敵艦隊は全てヒト型───つまり基本的には重巡洋艦以上の艦種になる。

軽巡と駆逐しか居なかった前段艦隊との攻防でもあれだけ青息吐息だったのに、通常兵器のみで食い止めきれるわけがない。このリ級eliteのように敵艦隊が全て“遊び”に走ったとしても、もって10分あるかないかといったところだろう。

即ち前線へレーベレヒトが突入したのは、温存する“必要”がなくなったからではなく“余裕”がなくなったからと考える方が遙かに自然だ。

それでも僅かにツーの予想通りにならないかと叶わぬ思いを抱きつつ、イヨウ中佐に無線を繋げる。

(;'A`)「前線よりCP、Z1 レーベレヒト=マース並びに増援部隊と合流を完了した!以後の指示を請う!」

(=;゚ω゚)ノ《CPより前線、無事で何よりだよぅ!早速、合流した部隊と交戦中のヒト型を牽制しつつ速やかに後退を開始してくれよぅ!》

果たして帰ってきた返事は、予想を最悪の形で裏付けた。

(=;゚ω゚)ノ《君達以外の前線部隊は壊滅、敵中核艦隊はシュプレー川を渡河したよう!

トレプトゥ=ケーペニックとパンコウで遅滞戦を展開してるけど、戦況は圧倒的に不利だよぅ!》
367 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 00:23:21.68 ID:qoUzhAK/0
(;'A`)「……前線よりCP、侵入した敵艦隊の概要を教えてくれ」

(=;゚ω゚)ノ《右翼、パンコウ区防衛線正面にリ級通常型2、ル級flagship1、タ級flagship1!

また左翼トレプトゥ=ケーペニック防衛線正面に、敵艦影1!》

(;'A`)「1……?」

中央の俺達と交戦するこのリ級もそうだが、あまりに戦力が偏りすぎている。無論ヒト型である以上一隻でも通常兵器相手には十分だろうが、それなりの損耗は強いられるはずだ。

(=;゚ω゚)ノ《………左翼の一隻は、過去に世界中のどの戦線でも確認されていない新型艦だよぅ》

俺の疑問を敏感に感じ取って、中佐は直ぐに補足を入れる。

(=;゚ω゚)ノ《詳細は一切不明だよぅ。身長は此方のZ1やZ3と同じ程度という点と、艤装が巨大な尾のような形をしているという点以外交戦している部隊の混乱が酷くて入ってこない。

コンツィ中尉が戦線の指揮を執っているけれど、左翼の損害拡大は右翼の何倍も早い。ポーランドから派遣されてくる陸軍部隊もピストン投入しているけれど、まるで止められる気配がないよぅ》

(ノA`)「………」

あまりにも絶望的な情報ばかりを突きつけられて、急速に痛み始めた頭を抑える。

例え新型艦であったとしても、ミルナ中尉の経験と指揮能力なら本来十分に対応ができるはずだ。少なくとも、損害を最小限に抑えつつの漸減戦闘程度はわけなくこなせる力があの人にはある。

それが適わぬほどの戦況ということは、“新型”とやらが尋常ではない、まさに規格外の戦闘能力を持っていることの証左。

('A`)「………………」

(*;゚∀゚)「………ドク?どうしたきめー顔して」

('A`)「元からだよ。というかせめて恐い顔にしてくんない?」

同時に、もう一つ気づきざるを得ない事実がある。敵艦隊にそこまで押し込まれているのなら、レーベレヒトだけではなく最早ビスマルクやグラーフも温存する余裕はないはずだ。にもかかわらず、両翼に展開するのはポーランドとドイツの陸軍部隊のみ。

つまりこれは、“艦娘が受ける損害”を最小限に抑えるためのいわば時間稼ぎ。

対深海棲艦兵器として最も有用な存在を確実に逃がすための、“必要な出血”。

('A`)「………ビスマルクとグラーフは、よく納得しましたね」

(=゚ω゚)ノ《……………君ほどの力を持つ尉官と戦えたことを、僕は誇りに思うよぅ》

ベルリン放棄の、下準備。
368 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 01:04:13.55 ID:qoUzhAK/0
戦車砲と艦砲射撃の音、銃声が壮絶に混ざりあい辺りを満たす。だが、俺の耳にはそれらの騒音より遙かに重く、大きく、イヨウ中佐の淡々とした語りが響く。

(=゚ω゚)ノ《言いたくないけれど、最早大勢は決したよぅ。ベルリン放棄と聞いてGraf ZeppelinはともかくBismarckは烈火の如く怒っていたけれど、彼女にも戦況の詳細を話してなんとか納得して貰ったよぅ……まさか戦艦がバイクで乗り込んでくるなんて、ヴァルハラへの土産話には丁度いいよぅ》

中佐はそう言って、自嘲気味に乾いた笑い声を上げた。

(=゚ω゚)ノ《艦娘の回収手配は完了している。ポーランド陸軍にオーデル川での防衛線へ一時的に参加させることを条件として艦娘の移送を手伝わせるようにした。君達の後退が完了次第、遅滞部隊も順次退却を開始する。

とはいえさっきも言ったとおり遅滞部隊は到底長くは持たない、そっちもリ級eliteの存在がある以上難しいとは思うけれど、何とか退却して欲しいよぅ》

('A`)「………その口ぶりですと、どうも中佐は脱出するつもりがないようですが」

(=゚ω゚)ノ《無謀な作戦でたくさんの兵士を死なせた責任は僕自身が取らなきゃ行けないよぅ。

それにこう見えて僕は日本通でね。カツナガ=モウリというサムライが大好きなんだよぅ》

学のない俺にはまるで馴染みのない名前だが、口ぶりから“どんなことをした人間か”は概ね想像がつく。

黙り込んだ俺に、中佐は更に言葉を重ねた。

(=゚ω゚)ノ《これは命令だよぅ少尉。

────そして、これが現段階で可能な次善の手だ》

('A`)「っ」

そうだ。そんなことは言われなくても解っている。

中核艦隊に奥深くまで食い破られたことによって、“軽巡棲姫のみに艦娘の全火力を集中する”という【最善の手】は最早打てない。

軽巡棲姫の撃沈が限りなく不可能に近い状態になった今、俺達がベルリンでこれ以上交戦することはほとんど無意味。次に為すべきことは、Bismarck zweiを初めとする貴重な戦力を可能な限り温存して逃げ延びること。

そして、退却の態勢が整うまでの遅滞部隊の犠牲も、艦娘という“貴重な戦力”を確実に逃がすために囮となるイヨウ中佐の犠牲も、この戦争に少しでも希望を残すための必要経費だと。

そんなことは、俺にだって解っている。
369 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/15(木) 01:14:41.54 ID:qoUzhAK/0
('A`)「────ツン」

ξ;゚听)ξ「何よ!リ級の奴ならすこしずつダメージは蓄積してるけど」

('A`)「退却の指揮は任せた」

ξ;゚听)ξ「あーもう!解っt………」

でも、解っていることだからこそ。

ξ゚听)ξ「………は?」

(*;゚∀゚)「………あー、ドク?お前何するつもりなんだ?」

('A`)「あぁ、別に何って程のことじゃない」








('A`)「ちょっとした悪あがきだ」

それが心底、気にくわないんだよ。
370 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/15(木) 01:20:45.98 ID:qoUzhAK/0
今更新ここまでです
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/15(木) 02:06:18.74 ID:mVbCGBT3o
おつ
状況は最悪、だけど
いいねいいね、ここにきて無理で道理を押し通そうとするドクオは格好いいね
372 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/19(月) 22:32:35.86 ID:3i1wtBQb0
脇腹の鈍い痛みを堪え、レオパルト1の影から飛び出す。包囲下でリ級への攻撃を続ける兵士達の後ろを駈け抜けて、一直線に向かった先はロ級の砲撃で吹き飛ばされた輸送トラックの傍。

(;//‰ ゚)「ドク!?」

(=;゚ω゚)ノ《少尉!一刻も早く退却を開始しろ、聞いているのかよぅ!?》

ξ;゚听)ξ「あんたいったい何する気なの!?ドク、ちょっ……止まりなさいよぉ!!」

無線や後ろから聞こえる声を完全に無視して、俺はトラックの脇に倒れている目的の物────カルリナ達が乗ってきていた、軍用バイクを引き起こす。

(;'A`)「………」

他の三台は砲撃に巻き込まれたのか滅茶苦茶に壊れており、まともに原形を保っているのはこの一台だけだ。そしてこの一台だって、外観に傷がないだけで内部回路や機関も無事とは限らない。

祈るような気持ちでエンジンを捻る。

(;'A`)

(;'∀`)

ドルンッと音が鳴り、排気口が煙を吹き出す。

揺れる車体に薄らと刻まれた、「KAWASAKI」の文字。俺は苦笑いを浮かべて8文字のアルファベットを眺めた。

(;'∀`)「っはは……流石だなものつくり大国は……!」

これで、逃げられなくなった。

逃げる必要が、無くなった。
373 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/19(月) 22:48:05.21 ID:3i1wtBQb0
('A`)「……中佐」

(=#゚ω゚)ノ《マントイフェル少尉、繰り返すが命令だ!!速やかに部隊を纏めて帰還を───》

('A`)「30分だけ時間を下さい。

30分過ぎて敵艦隊に変化がなければ、“中佐の指揮で”オーデル川まで退却を」

(=;゚ω゚)ノ《………っ!》

バイクに跨がり、エンジンの回転数を上げながら空を見上げる。もう数え切れないほどの反復攻撃を続けているF-16の編隊が、バルカンを放ちながら通り過ぎた。

('A`)「………マンドクセ」

思わず、本音が漏れる。

俺は別に英雄願望も出世欲もないし、愛国心だって皆無じゃないが潤沢に持ち合わせているとは言い難い。

本当なら、今すぐ踵を返して逃げ出したいぐらいだ。幸いにしてイヨウ中佐から撤退の“命令”は既に下されている、仮にベルリンを捨てたとしても、軍法会議にかけられるようなことにはならないはずだ。………そもそも、軍法会議を開く上層部が生き残っているのかどうかも疑わしいしな。

俺達は十分に戦った。逃げる権利はあるし、艦娘や機甲戦力が損失する前に退却することは戦略的にも間違っていない。何よりも、中佐の言うとおりにした方が楽だ。死ぬ確率も、当然俺が今からやろうとしていることよりは遙かに低いだろう。

────だけど。

('A`#)「ジョルジュ、ティーマスとツン達を頼んだ!!」
  _
(#゚∀゚)「飲み代一ヶ月おごりな!!」

('A`#)「死ねクソ眉毛!!」

こんな結末は、きっと誰も望んじゃいない。

リ級に立ち向かったフランス広場の警備隊も。

規格外の化け物と戦わされたベルリン市警も。

退役済の戦車で逃げずに深海棲艦に立ち向かった戦車隊の奴らも。

遠く離れたドイツの土地で死ぬことになった海兵隊も。

核が降り注ぐかも知れない国に飛び込んできたポーランド軍も。

今まさに侍のまねごとをしようとしているドイツ陸軍の中佐殿も。

もう一度ベルリンが灰になる様を見せつけられている艦娘達も。

死んでいった奴も、生きている奴も、こんな結末のために戦っていたわけじゃない。

ξ; )ξ「────ドk」

('A`)「ドイツ陸軍少尉、ドク=マントイフェルよりベルリン市内の全戦力並びにCPに通達!!」

これは俺の自己犠牲精神でも、愛国心でも、偽善ですらない。ただの自己中心的な責任放棄だ。

国を守るために死んでいった戦友だの、政治の壁を乗り越えて救いに来てくれた友軍だの、首筋が痒くなるような肩書きの奴らの「無念」を背負って生きる方が。

('A`#)「これより俺は、敵旗艦【軽巡棲姫】の撃沈に向かう!!総員、何としても現戦線を維持しイヨウ=ゲリッケ中佐の指揮下で反攻に備えよ!!」

“これ”よりも遙かに、マンドクセェ。

(#'A`)「───Los!!」

叫び、地を蹴り、絞っていたエンジンを解放する。

Kawasaki KLX250が、一声吠えた後西へと疾走を開始した。
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 22:52:07.61 ID:SnO+Pgh0o
カワサキか……
375 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/19(月) 23:05:23.73 ID:3i1wtBQb0




─────ヤッパリ、君ハ面白イ人間ダ。
376 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/19(月) 23:14:49.96 ID:3i1wtBQb0
【彼女】は、砲火の中で一人笑う。紅の瞳を細め、真っ白な肌に僅かに血の気を差し、口元を自然に綻ばせ、笑う。

凄まじい砲弾と銃撃の中でも聞こえてきた、“あの人間”の叫び声。後に続いた、乗り物のエンジン音。

それらを耳にした瞬間、彼が“何をしようとしているのか”を正確に理解した【彼女】の身体は、心は、歓喜に震えた。

────ソウダ。コレダカラ私ハ君ヲ見テイタインダ。

頭がキレて、圧倒的に不利な中でも考えることをやめず。

脆弱な存在のくせに戦い続け、いつの間にか戦況を互角以上に引き上げて。

何度絶望を突きつけても、直ぐに新たな策で立ち向かってくる。

あの痩せぎすな“人間”との戦いは、スリリングで、変化に満ち、この上なく楽しい。

艦娘なんかとの戦いよりも、ずっとずっと。

  _
(#゚∀゚)「あのクソバカもやし野郎の背中を守れ!!何としてもコイツをここで沈めろ!!」

ξ# )ξ「Feuer, Feuer, Feuer!!

アイツの指示を聞いたでしょ!?アイツがあそこまで言うってことは、絶対に何かが起きる!!その“何か”が起きるまで、死に物狂いでここを守りなさい!!」

「「「Jawohl!!」」」

他の人間達と駆逐艦と思わしき艦娘は、更に激しい攻撃を【彼女】に加える。障壁の出力が弱まり、四肢に装備される艤装から次々と火花や黒煙が吹き出し始めた。

「リ級elite、状態中破に移行!!」

(#><)「トドメを刺すんです!!絶対に火線を絶やすな!!!」

(#//‰ ゚)「ディープワン共を深海に叩き返せ!!」

自身の身体に浮かぶ損傷、周りの人間達の怒号、そして入り交じる火線。その直中で、恍惚とした表情すら浮かべて【彼女】は呟く。







ダカラ私ハ、君ガ愛オシイ。
377 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/19(月) 23:41:02.63 ID:3i1wtBQb0
両腕の艤装が起動する。逆巻く砲火の中で、【彼女】の両腕がさながら通せんぼをするような形で左右に開かれた。

( ゜ t ゜ ;)「※※※※!!!」

ξ;゚听)ξ「こ、後退────きゃああっ!?」

2門の主砲が火を噴く。左手で直撃を食らった戦車が吹き飛び、金髪巻き毛の女が乗る車両も爆風に煽られて横転。右手ではバズーカやアサルトライフルで攻撃をかけていた一団が、凡そ半分ほど肉塊になる。

「この────え!?」

正面にいた艦娘が改めて艤装を構えたときには、【彼女】の足は既にその眼前まで踏み込んでいた。

驚きに見開かれた鮮やかな青色の眼に向かって微笑んでやりながら、右拳を振るう。

「────ゥゲホッ!?」

衝撃で歪む皮膚と、ぐちゅりと伸縮する内蔵の感触が伝わってきた。その小柄な艦娘が吐き出した体液がまき散らされる様に僅かに眉を顰めつつ、拳を振り抜く。

「っあ………」
  _
(;゚∀゚)「レーベ!?」

(;><)「救護班、彼女を回収するんです!!携行砲所有者、残弾全て奴に叩き込み足止めを!!」

(;//‰ ゚)「おら紳士共、夢にまで見たか弱い女を守るシチュエーションの到来だ!!

Go go go!!」

気を失ったらしい艦娘は、吹き飛ばされた先に転がっていた戦車の残骸に叩きつけられズルズルと地面に崩れ落ちた。それを守るためか、人間の兵士達が進み出て【彼女】と艦娘の間に立ち塞がる。

健気に効きもしない小銃で弾幕を張ってきた彼らの勇気に応えるべく、彼女は舌なめずりと共にその懐に飛び込み内一人の顔に手を伸ばす。

「ォウァ」

悲鳴ともなんとも判別がつかない奇声を残して、彼の頭が握りつぶされた。
378 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/20(火) 00:21:15.08 ID:FxmbLDhi0
「………No, no, n」

無造作に腕を振り、直ぐ隣にいたもう一人の頭を粉砕しながら【彼女】は軽くため息をつく。

やはり、“アノ人間”がいなくなると退屈だ。他の個体は勇敢だし数も多いが、とてつもなく脆い上に“アノ人間”に比べて機転が利かない。ただ立ち向かってくるだけの獲物を潰す“作業”は、特に【全の意志】の憎しみに興味が無い【彼女】からすれば趣向に合わないのだ。

────マァ、仕方ナイカ。

「わぁっ!?」
  _
(;゚∀゚)「クソッ……!怯むな!撃て!!」

【彼女】は軽くため息をつくような素振りを見せ、無造作に右手の主砲を放つ。また一つ戦車が燃え上がり、周囲にいた兵士達の射線が乱れた。

遊ぶことに夢中になって艦娘の突入を察知できなかった点や、その結果あらゆる火力を投入した集中砲火によって身動きが取れず中破まで押し込まれた点は彼女のミスだ。結果、策を思いついた“アノ人間”は動きを縫い止められている彼女を尻目に西へと向かった。

更に言うと、乗ってきたバイクを含めて他に“足”となり得る存在を破壊してしまったのは他ならぬ彼女自身でもある。

「り、リ級、此方に向かってきます!!」
  _
(;゚∀゚)「退避、退避しろ!!」

姿勢を低くし、眉毛が濃い人間が率いる部隊に向かって突っ込んでいく。一人をひっつかんで遙か上空に投げ飛ばしつつ、彼女は再び深いため息をついた。

今から【姫】の元に向かったとて、“アノ人間”の策が成るにしろ成らないにしろほぼ確実に間に合わない。それに万一策が成った場合、いくら何でも川を渡った“同胞”達を孤立させるのもまずい。

セイゼイ、スグ全部潰サナイヨウ気ヲツケテ遊ボウ。

そう心に決めて、【彼女】は更にもう一人を蹴り砕く。

ふと、遙か東にも“凄い人間”がいるという話を思い出した。
379 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/20(火) 00:55:09.08 ID:FxmbLDhi0


《BBCより緊急報道です。先程ノルウェー政府より公式発表が有り、ベルゲン上空の制空権失陥を公式に発表しました。ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北欧3ヶ国連合空軍は壊滅的な打撃を受けた模様です》

《トルコ政府はTRTの取材に対し、中東諸国と共同で日本に艦娘の派遣・国外鎮守府の設置要請も視野に入れた要請を出す用意があると回答しました》

《ドイツ・ベルリンへの正式な軍事介入を発表したポーランド政府ですが、これにルール地方への核攻撃を準備しているロシア政府は強い不快感を示しています》

《現在スペイン空軍はヨーロッパアメリカ軍、フランス軍と共同で深海棲艦への攻撃を敢行していますが、敵の大規模な侵攻を食い止めきれていません。また、フランスの許可を得て越境した一部陸軍はフランス西部の主要都市に戦力の配備を開始しているとのことです》

《キューバ政府は、欧州・大西洋の危機的な状況に過去のしがらみを捨ててアメリカ、EUに全面協力をすると表明。大西洋に艦隊を派遣しました》

《ロシア政府による核発射宣言から3時間が経過しましたが、未だ西ヨーロッパにおける混迷は治まる気配を見せません》

《CCTVより、スポーツニュースの時間です。我が中華人民共和国の卓球界にニューヒーローが誕生しました。広東出身の劉?厳がスーパーリーグで大金星です》

《ルール地方には未だ1万人を越える生存者が逃げ遅れているという情報も有り、ロシアが核を発射した場合国際的な批判・孤立は免れないと見られています。茂名官房長官も、先日3ヶ国協定を結んだばかりのロシアの動きには非常に強い批判を浴びせています。

NBSではCM後も引き続き、ヨーロッパ戦線の情報をお伝えしていきます》

《あの名作アクションゲームが、オープンワールドになって帰ってきた!!

今度の舞台はまさに、中国全土!!雪原を、平原を、山あいを駆け抜け敵を薙ぎ倒せ!!

今度の無双は、1000人じゃあおさまらない!!

一万人をぶっ飛ばす爽快感!!真・三○無双8、今冬発売予定!!

先行予約で、程普ドイツ軍コスチュームがあたる!!》
380 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/20(火) 00:56:07.54 ID:FxmbLDhi0
今回ここまでと致します。

本日を1日目とカウントし、三日以内に最終章を投稿させていただきます。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 01:27:05.56 ID:FFlR4nyA0
おつおつ…それにしてもkawasakiは卑怯だw
まあ火達磨にしたり、海に沈めたり、叩き潰しても蘇る不死身な日本車の伝説も欧州発祥だし色々と有名なのか

それにしてもこれだけ相性の良さげな相手が、人類の敵ってとこが最大の不幸だよなあw
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 01:43:45.08 ID:5AJAyGpYo
おつ
中国と日本ワロタ
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 10:02:04.61 ID:36eyi5ALo
現行陸自偵察車両になる程度には信頼性あるか
でもまぁkawasakiかぁ
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 11:17:16.74 ID:DPyB2a1OO
乙。決着や如何に

関係ないけどこの世界でゆーちゃんがろーちゃんになって帰ってきたらどんな騒ぎになるんだろうかw
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 14:04:51.15 ID:mOzesBLH0
中国が情報統制で日本が厭戦による艦娘による戦闘が他人事になっていると見ると放送内容があれだの
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/22(木) 07:56:10.91 ID:FQZJTdqe0
乙でした
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 11:09:35.81 ID:eXqSBnfSO
テレ東感
388 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/22(木) 22:25:16.27 ID:oz1JkISL0
体調の方が安定せず、最終更新開始を明日に延期します。
本当にお待たせしまして申し訳ありません。原稿自体はほぼ完成しているので、明日回復次第投稿を開始させていただきます。
お待たせして申し訳ありません
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 22:28:59.68 ID:EKcttg8Po
了解
お大事にね
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 00:58:16.04 ID:VdKeRUXA0
ラジャー、あまり無理せずに(^_^;)
391 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/23(金) 23:34:45.90 ID:rsc+wgkx0





かつて、カルタゴの名将・ハンニバルはこういった。

視点を変えれば、不可能が可能になる、と。

実際、彼は自身の言葉通り常に斬新な視点から様々な戦略を練り上げ、アルプス越えやカンナエでの勝利など数々の【不可能】を【可能】に変えてきた。その変幻自在にして大胆不敵な戦術は彼の死後2000年以上経った今なお研究の対象であり、ドイツ学園艦の戦車道教育や艦娘達の座学にも用いられる。

尤も、当然の話になるがハンニバルの相手は同じ“人間”───つまり、人知の枠の中に収まった存在だった。

例えば大津波。
例えば大地震。
例えば大嵐。
例えば大噴火。

そういった“人知を超越した厄災”に対するとき、人間は驚くほど無力になる。
どれだけ視点を変えようとも、どれだけ策を練ろうとも、被害を軽くすることはできても厄災そのものに打ち勝つことはできない。



────そして。

「ヘリが一機やられた!!」

「負傷者下げろ、負傷者下げろ!」

《此方19号車、現地に到ちゃ

「増援の市警装甲車が破壊されました!!」

《レオパルト五号車よりCP、T-72が3両撃破された!プーマ戦闘車も沈黙、更なる機甲戦力の増強を求む!!》

(;゚д゚ )「Allemann zuruck!

次のブロックまで退却しろ、機甲師団と擲弾装備兵でしんがりだ!」

『────www』

ミルナ=コンツィの前に現れたソレは、まさしく立ち向かうことが不可能な“厄災”そのものだった。
392 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/23(金) 23:45:01.15 ID:rsc+wgkx0
頭上を、ポーランド軍の戦闘装甲車であるKTO-ロマソクが飛び越えていく。16トンの重量を感じさせぬ軽やかさで飛翔してきたそれは、ベルリン市警のパトカーを一台真上から叩きつぶした。

因みに砲撃で吹き飛ばされきたものではない、此方めがけて“投げ飛ばされた”ものだ。

(;゚д゚ )「道路両脇の家屋を爆破しろ、瓦礫の山で奴の進路を封鎖するんだ!」

《Jawohl!! Feuer!!》

数両の戦車が一斉に砲弾を放つ横を、ミルナは負傷した味方兵を引きずりながら駆け抜ける。背後でコンクリートの塊が崩れ落ちる音が聞こえ、足下から震動が伝わってきた。

《目標破壊、進路を封s

(; д⊂ )「うおっ!?」

爆風が吹き付け、握り拳大の礫が頬を掠める。

バランスを崩してつんのめるミルナの横を、火達磨のレオパルト1が地面をバウンドしながら通り過ぎる。立ちこめる爆炎と土煙の向こう側へ機銃を放つエノクが、2発目の砲撃で吹き飛ぶ。

(メ゚д゚;)「っ、誰か援護してくれ!負傷者の回収を………」

引きずろうとした兵士の身体があまりにも軽い。違和感を覚えてふり向くと、腰から下がなくなっていた。

一瞬悔しげに表情を歪めた後、ミルナは屍体を打ち捨てる。“敵”は、彼に部下の死をまともに弔う暇さえ与えようとしない。

「エノク、破壊されました!PT-91【トファルデ】、レオパルト1もロスト!!

尚、瓦礫によるバリケードは崩壊、妨害効果無し!!」

「砲兵隊より連絡、正面新型艦の艦砲射撃が展開地点に直撃!迫撃砲多数と操作人員を失逸、支援攻撃困難とのことです!」

(メ;゚д゚)「砲兵隊は市街地からの離脱を許可!CPも間違いなく同じ判断だ、万一咎められたら全責任は俺が取る!」

「バルシュミーデ少尉の携行砲部隊、敵艦への側面奇襲失敗!通信途絶!」

(゚д゚メ;)「第二波、第三波奇襲部隊に攻撃中止を通達!後方部隊と合流して防衛線の構築に参加するよう伝えろ!」

入ってくる報告も、眼前に広がる状況も、どちらも地獄の様相。それは最早“戦闘行動”といえるような有様ではなかった。

それでも、ミルナは指揮をやめない。彼自身混乱と恐怖から思考が停止しかけているのを強靱な精神力で辛うじて耐えている。

もし彼以外の誰かがこの場を指揮していれば、おそらく疾うの昔に正気ではなくなっていただろう。

「中尉、いったいアレは………奴は何なんですか!?」

「幾ら新種のヒト型とはいえ戦闘能力が今までの個体と違いすぎる、戦車も携行砲もまるで効果がない!!」

(メ゚д゚;)「考察は後だ!とにかく今は退却と次のブロックでの防衛線を────」

頭の上で妙な“気配”を感じて、ミルナたちは視線を其方に向ける。

「ヒッ…………」

まるで、獲物を狩る直前に鎌首をもたげた蛇のように。

路地の一角で漂う土煙を突き抜けて、巨大な“尻尾”が屹立していた。

先端に着いたウツボの頭部を象ったような艤装────そこから突き出した四つの砲は、全てミルナ達をにらみ据えている。

(;゚д゚#)「…………走れ!!」

砲弾が、降り注ぐ。
393 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/23(金) 23:46:23.97 ID:rsc+wgkx0

( д メ)「ぅぐあっ……………!!?」

背中に感じる、強烈な圧力と熱。衝撃が身体を突き上げ、足が地面から離れて空を掻く。

砲弾の破片や飛び散った瓦礫が背面のあちこちに突き刺さり、皮膚を破り肉を裂く。迸る血液が、吹き飛ばされるミルナの軌道に併せて中空に紅い線を描いた。

(メ д ;)「ガフッ……」

そのまま、砲撃で拉げたレオパルト1の残骸に全身を叩きつけられる。想像を絶する激痛はかえって意識を手放すことを許さず、悲鳴の代わりに口から漏れたのは血の臭いが混じった弱々しい呼気。

それでも、手や足の感触は確かに存在した。痛みがもたらす痙攣のせいで今は自由が利かないが、神経が繋がっている感覚もある。機能を取り戻し始めた耳には、周りで部下達が上げるうめき声も薄らと聞こえてきた。

“艦砲射撃”に巻き込まれたにもかかわらず、大きなダメージは受けたが致命傷を免れ四肢の欠損もない。
それは本来奇跡に近い幸運。

::(メ д #)::「……………ッッ!!!」

だが、ミルナ=コンツィが感じたのは幸運に対する安堵ではなく、脳の奥を焼き焦がすような激しい怒り。

唇が、苦痛を耐えるためではなく悪態が飛び出すのを防ぐために噛みしめられる。

砲弾や爆風より速く走れる人間は存在しない。攻撃が行われたのは頭上5メートルにも満たない至近距離からである点を考えれば、狙いが定まらなかったということも考えづらい。

要は、あの状況からはどれほど自分たちが幸運だったとしても助かる可能性などあり得ない。

向こうが、“故意に爆心地をずらす”ような真似でもしない限り。

(メ д゚#)「く、そっ、がぁっ!」

ミルナ=コンツィは、明確に理解した。

自分たちは、遊ばれている。

人間の子供が面白半分に蟻の巣を踏み散らしているように。

猫がネズミや虫を前足で執拗にいたぶるように。
394 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/23(金) 23:52:39.42 ID:rsc+wgkx0
脳漿や血液が沸騰しているのではないかと錯覚してしまう激烈な怒り。体内でアドレナリンの濃度が一気に跳ね上がり、痛覚が遮断され身体の自由を一時的に取り戻したミルナは脇に転がるG36Cを掴んで立ち上がった。

(#゚д゚メ)「携行砲保有部隊と装甲戦隊は全火力をあの艤装に集中、牽制攻撃をかけろ!付近残存部隊は目標のブロックまで負傷者を回収しつつ後退急げ!!」

《レオパルト六号車よりコンツィ中尉、お言葉だけど先ず貴方が後退するべきです!あんな砲撃を受けて中尉の身体が大丈夫なはずが……》

(#゚д゚メ)「俺に構うな!行け!!」

《………Jawohl!!》

無線に向けて叫びつつ、“尻尾”に手榴弾をピンを引き抜き投げつける。手榴弾は防壁に当たってカンッと小さく乾いた音を立てて跳ね上がり、丁度真上の辺りで爆発する。

《総員、全車両、攻撃開始!》

《中尉を援護しろ、Feuer!!》

その爆発が合図だったかのように、何十もの砲声が重なり徹甲弾や対戦車ミサイルが尻尾にあらゆる方向から殺到した。5メートルを超えようかという巨体が爆光に全身を包まれて見えなくなる………が、直ぐに応戦の砲火がその中から放たれ街の一角で炸裂した。

《此方カンナビヒ少尉、部隊待機地点に艦砲射撃着弾!死傷者数名!》

《デーベライナー隊より各部隊に通達、敵艦艤装に損傷見られず。繰り返す、敵新型艦未だダメージ無し。

……Verdammt!!》

《Fuck!!》

《Kurwa!!》

損害無しの報告が流れた瞬間、デーベライナー軍曹と同時にポーランド兵とアメリカ兵も異口同音に毒づく。

ミルナも思い切り罵倒の言葉を並べ立ててやりたいという気持ちは同じだが、その光景は彼が半ば───どころか九割方予想していたものでもある。だから落胆はしないし、思考を止める理由にもならない。

(;゚д゚メ)「前衛の負傷者回収がまだ終わっていない、後衛部隊は引き続き火線を展開しろ!陣地転換をこまめに行い反撃による損害はなるべく抑え────うおっ!?」

横っ飛びでその位置から動いた直後、機銃弾がレオパルト1の残骸にぶち当たり火花を散らす。射角にそって視線を動かすと、口元から細い煙を吐き出す“尻尾”の姿がそこにあった。

笑っているように半開きになった口内から顔を覗かせるのは、連装式の対空機銃。

無線通信での指示をわざわざ大声で放していたのが聞こえたのだろう。指揮官は優先して潰した方が良いという判断か、イキのいい玩具と遊びたいという嗜好か、或いはその両方か。

どちらにせよ、周囲で負傷者の回収を続ける救護班にも散発的に砲撃を加えてくる後衛部隊にも射線は向けられていない。ミルナにとってはその事実さえあれば、理由などどうでもよかった。

(#メ゚д゚)「捕まえてみろ化け物!!」

叫び、G36Cを構え、引き金を引く。弾丸が障壁の表面で小さく火花を散らす様を見届けると、そのまま踵を返し全速力で前衛部隊とは別方向に走る。

『………♪♪』

その後ろを、機銃掃射の火線と艦砲射撃の爆発が追いかけていく。
395 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/23(金) 23:56:24.18 ID:rsc+wgkx0
────ミルナ=コンツィドイツ陸軍中尉は、怒りを覚えていたが怒り“狂って”はいなかった。彼の脳内に残る冷静な部分は、彼我の戦力差を的確に把握している。

《此方救護班、前衛の負傷者・生存者の回収を完了!》

《ポーランド軍のMi-24、敵艦“本体”の対空射撃によって撃墜されました!》

(メ゚д゚;)「CPにヘリ部隊の突入は今後控えるよう通達しろ!………っくぉ!?」

バイカーギャング仕様のバイクを乗り回して突然こちらに飛び込んできたあの“新型”は、おそらく過去に確認されてきた深海棲艦の中でも格段に高い戦闘能力を誇る。現に単艦である上にこれだけあからさまに“遊んで”いるにもかかわらず、ミルナ達の方面は右翼のパンコウ区よりも遙かに深く押し込まれた。

右翼でも此方の損失は甚大ながら、通常種のリ級2隻に小破の損害まで与えていることを考えればあまりにも状況差がありすぎる。

《中尉!?いったい何があったんですか!?》

( ゚д゚メ)「機銃が掠めただけだ、心配ない!この歳で鬼ごっこなんてやる羽目になるとはな!」

さっきの喩えを繰り返すが、要はあの“新型”は【人間の軍隊】にとってほとんど天災と変わらないとミルナは結論づける。大津波や大嵐に人間が立ち向かったところで、少なくとも“今の科学”では打ち勝つことはできない。できることと言えばせいぜい被害をなるべく受けないよう被災範囲から遠くに逃げることと、後は収まってくれと神に祈ることぐらいだ。

(=#゚ω゚)ノ《CPよりトレプトゥ=ケーペニック区防衛ライン、新型の状況を教えるよぅ!!》

( ゚д゚メ)「防衛ライン前衛よりCP、敵のお嬢さんは俺の抹殺に大層御執心……!」

自身の無力さへの口惜しさこそあれ、ミルナは役目を見失わない。

敵が天災に等しい存在である以上、立ち向かうことは自分たちの領分から外れる。

今の彼に課せられているのは、部隊の被る損害を可能な限り減らし、厄災から逃れ────

(#゚д゚メ)「攻撃を開始するなら、今だ!!」

(=#゚ω゚)ノ《此方CP、状況を確認した!!

全駆逐艦隊に通達、目標敵新型艦!攻撃を開始せよ!!》

────残る全てを、味方の“女神”に託すことだ。
396 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:00:13.24 ID:W1r6lzRK0








《《Z1, Feuer!!》》

《《《Z3, Feuer!!》》》

ミルナ=コンツィ中尉をしつこく追い回していたであろう“尻尾”が、12.7cm連装砲の弾丸で動きを止める。

障壁の上で弾けた爆炎は、決して大きな物ではない。だけど“尻尾”の主にも、今の砲撃が私達艦娘によるものだと十分に理解できたのだろう。混乱というほどのものでもないけれど、訝しむようにぐるりと────“5箇所から飛来した”砲撃の出所を確かめようとしたのか艤装をもたげて辺りを見回す。

『…………!』

そこに、肉薄するのは、二台のパトカー。

ただし屋根の上に、私とビスマルクお姉様を乗せてだ。

「Prinz、続けて撃ちなさい!!

Feuer!!」

「了解ですお姉様!

Feuer!!」

猛スピードで“尻尾”に接近していくパトカー。その屋根の上で跪くような姿勢を取り、私はお姉様に続いてSKC20.3cmを撃つ。砲撃の反動で浮き上がりひっくり返りかけた車体を、つま先をめり込ませ両手に全身の力を込めることで抑え付けた。

『ィアアアアアアッ!?』

戦艦と重巡洋艦の主砲、4基8門の一斉射撃。

流石にその威力は絶大で、向こうも効果無しとはいかなかったらしい。先端の艤装から火花をまき散らしながら、“尻尾”が苦悶とも怒りとも着かない声で鳴きながら身を捩らせる。

『ウァア………!』

そのまま“尻尾”は一瞬此方に先端を向けて低いうなり声を上げると、笛で操られる蛇みたいな動きでシュルシュルと立ちこめる煙の中に戻っていった。
397 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:05:06.82 ID:W1r6lzRK0
《よし、現地に到着!

お嬢さん方、武運長久をお祈りするよ!》

《ニ号車、十号車、移送任務完了につき後退します!頼むよ艦娘さん、あいつら化け物をやっつけてくれ!!》

「ええ、任せてちょうだい!きっとこの国を、貴方たちの街を守ってみせるわ!

─────さて、と」

私達を“尻尾”が引っ込んでいった区画から直線距離200M程度の位置まで運んだ二台のパトカーは、屋根から降りた私達に激励の言葉を残してUターンする。

お姉様はサムズアップと満面の笑みでその声援に応えた後、一転して厳しい表情で正面───さっき、“尻尾”が引っ込んでいった辺りを睨んだ。

「Bismarck zwei、敵新型の正面───と、思われる場所に到着したわ。黒煙の噴出が未だに激しくて艦影を視認できない」

( ゚д゚メ)《ミルナ=コンツィよりBismarck zwei、負傷者や生存者は近くに残っているか?》

「……。

いいえ、見当たらないわ」

( ゚д゚メ)《確認感謝だ。

…………すまんが、“奴”に対して俺達陸軍ができることはない。お前達に全て任せる》

「あら、誰に物を言ってるのよ。このBismarck zweiに何もかも任せなさい!」

( ゚д゚メ)《俺達はこのまま右翼のパンコウ区に戦闘可能な部隊で転進、防衛線に参加する。

………艦娘部隊の、武運を祈る!》

………無線越しでも解るほどとても悔しそうなミルナ中尉の声だったけれど、判断はとても冷静で的確だ。

中央の増援に向かったレーベみたいに砲火力がそこまで高くない駆逐艦ならともかく、私やビスマルクお姉様のように重巡以上の等級になると主砲火力が高い故に友軍を巻き込む危険性が跳ね上がる。広く間隔が取れる海上ならいざ知らず、市街戦で陸軍と共闘する場合、敵の配置や攻勢によっては通常兵器の支援部隊の存在は寧ろありがた迷惑になることも多い。

だから、中尉が後退した部隊をそのままパンコウ区に転用してくれることはとてもありがたい。

ましてや、今回は相手が相手だ。
398 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:15:55.26 ID:W1r6lzRK0
「Prinz EugenよりCP、全艦隊戦力の敵新型艦包囲完了。ミルナ中尉以下陸戦隊も後退、離脱済みです。

………本当に、グラーフさん以外の全戦力を此方に回して良かったんですか?」

(=゚ω゚)ノ《問題ないよぅ。その代わり、Graf Zeppelinの艦載機による航空支援とポーランド軍の後続戦力は以後全てパンコウ区、フリードリヒ=スハイン区に回して右翼艦隊、中央のリ級eliteを打撃するよぅ。

寧ろ君達は正真正銘左翼に投入できる最大にして最後の防衛戦力だ。油断はしないで欲しいよぅ》

「できるわけないじゃないでしゅかぁ……」

………内心に渦巻く不安から台詞が口の中でひっかかり、なんとも奇妙な口調になってしまった。

私達艦娘を運用するにあたって、国際社会は公式・非公式を問わず様々な規則や条約を設けた。アイザック=アシモフの提唱したロボット三原則より発想を得た「艦娘三原則」や国家間での艦娘の奪い合いを避けるために設けられた「艦娘保有制限条約」のように正式に国際連合で会議を持って締結された物から、“資源確保や偵察任務に潜水艦娘を酷使するのはやめるべき……でち”という提唱者不明の怪文書(因みに誰も実行していない)まで数千を軽く超える。

その中の一つである、「同一種の艦娘を同艦隊内で運用してはならない」という規則は、法・条約的拘束力こそないもののある理由から全世界の海軍教本にも記載される基本中の基本だ。

“新型”を包囲する形で区内の離れた位置にレーベ達とマックス達は配置されているけれど、通信は連携を迅速に取るため各個が直接行っている。作戦後何の影響もないかどうかはかなりギリギリなように思う。

イヨウ中佐ほど優秀な人が、この教範を知らないということはあり得ない。にもかかわらず、多少の対策こそとられているとはいえ事実上その禁を犯してまで投入し得る戦力を全てトレプトゥ区に注ぎ込んだ。

「………………ッ」

つまり、さっきまでミルナ中尉たちが戦っていた敵の新型艦が「そこまでしなければいけない」とイヨウ中佐に判断させるほどの敵と言うこと。しかも私達は勝つ必要が無く、ドク少尉が無線で宣言した30分という時間が稼げれば十分であるにも関わらず。

……お姉様の前でみっともない姿を見せたくはないけれど、私は生唾を飲み下す音を止められなかった。

心底、恐い。だけど、私達は艦娘だ。

やるしか、ない。
399 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 00:26:41.54 ID:W1r6lzRK0
「………Bismarck zweiより包囲網各艦並びに護衛部隊、其方は異常ないかしら?」

《Z1-23、状況クリア!敵影ありません!》

《Z3-04、周辺に異常なし》

《Z3-08同じく》

《Z1-02、何もないよ》

《こちらZ3-11、穏やかなものだわ。

………不謹慎だったかしら》

お姉様が、レーベ達に連絡を取る。時間にして中佐達とのやりとりも含めてせいぜい2、3分しか経過していないはずだけど、しかし私にはその時間が何十倍も長く感じられた。

右翼と中央から聞こえてくる砲声や銃声、頭上を飛び交う戦闘機のエンジン音が市街地に木霊する中で、この辺りだけ奇妙な沈黙に包まれる。

「────!」

…………それまで何かに纏わり付いているかのような不自然な動きで一定の位置に渦巻いていた黒煙が、ブワリと揺れる。

「お姉s」

全て言い切る前に、私の視界は大きく開かれた口とその中に並ぶぎらぎらした鋭い歯に埋め尽くされた。

「─────Prinz, 下がりなさい!」

「きゃあっ!?」

『─────ア゛ア゛ッ!!』

ぐいっと首筋を猫のように引っ張られ、(また)情けない悲鳴を上げながら仰向けに地面に倒れて尻餅をつく。さっきまで私の顔があった位置で、巨大な顎がガチリと空を噛んだ。

「ふっ!!」

『ゴォアッ!?』

顎………いや、煙の中から伸ばされた尻尾の先を、お姉様は力一杯フックの要領で殴りつける。艤装の一部が鈍い音を立てて砕け、尻尾は呻き声を上げた後凄いスピードで再び煙の中に引っ込む。

─────だけど、今度はこれで終わらなかった。
400 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 01:00:20.88 ID:W1r6lzRK0
「お姉様!?」

「っ、大丈夫よ!じっとしてなさい!!」

鳴り響く轟音。煙を切り裂いて次々と飛来した砲弾から庇うようにして、ビスマルクお姉様が私の上に覆い被さった。

一発が至近で炸裂して泥を巻き上げ、もう一発が背後からお姉様を射抜く。

「うっ………」

幸い、かつて大英帝国を震え上がらせた戦艦の装甲は伊達ではない。障壁はお姉様の身体を爆風から完全に守り切った。

でも、全くの無傷というわけにもいかない。艤装から火花が飛び、お姉様を覆う障壁が一瞬黄色く明滅する。

(一撃で、小破まで……)

《Z1-23よりビスマルクさん!何が起きたの!》

《Z3-11より旗艦、攻撃準備はできてるわ!いつでも言って!》

「Prinz Eugenより各艦、座標同一で速やかに支援砲撃の再開を!私とBismarckが攻撃を受けて………!?」

指示を出す暇なんてなかった。お姉様が咄嗟に私を更に後ろまで投げ飛ばし、そこに新しく四発の砲弾が飛来する。

内一発が、直撃。当たり所が良かったのか障壁の色は黄色から変わらないものの、背負う艤装の端で機銃が小さく爆発して根本から吹き飛んだ。

「Feuer!!」

衝撃を何とか踏みとどまって耐えたお姉様が、主砲を放ち反撃する。

───けれど、38cm砲が炸裂するよりも僅かに早く、煙の中から飛び出してくる“人影”があった。

背後で爆炎をまき散らすお姉様の38cm砲弾など気にとめる様子すら無く、その影は小柄な体躯を更に小さく丸めて弾丸のようにお姉様めがけて突進する。

『────♪♪♪』

「あ゛うっ!?」

速い。反撃も、回避も、防御もままならずに跳躍と共に振り切られた尻尾がお姉様の腹部を殴打する。凄まじい打撃で浮き上がった身体は、着地と共に二、三歩後退って横倒しになった戦車の残骸にぶつかりようやく止まった。
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 01:38:32.91 ID:VKo8g0HA0
ミルナ中尉がマジで勇敢すぎる…
ドクは機転や幸運に恵まれて局面を切り抜けてるけど、それより前から部隊を率いて最前線で折れない精神的支柱としてあり続けるとか凄過ぎる
402 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 02:10:08.70 ID:W1r6lzRK0
「…………この!!」

なおもお姉様に肉薄しようとした“影”に向かって、膝立ちの状態から20.3cm連装砲を連射。迫る四発の砲弾を、“影”はバレリーナみたいに軽やかな動きで後ろに飛んで回避する。

そして、元々そうするつもりだったような迷いのない動きで今度は私に向かって突進してきた。

「なっ────きゃあっ!?」

慌てて機銃と副砲を放ち動きを止めようとしたけれど、驚くほど低い姿勢から弾丸のように飛び込んでくる動きに対応できない。“影”ほんの数歩で私との距離を零にして、そのまま大きな動作で尻尾を振りかぶる。

「うぁっ………!?」

顔スレスレを薙いだ尻尾の一撃を避けて崩れた体勢。予想だにしなかった白兵戦に混乱する頭はめまぐるしい動作に追いつけず、続けて放たれた回し蹴りが私の胸板を殴打した。

「けほっ────がっ、ゴホッ!?」

激痛と圧迫感に口から息が漏れる。後ろに流れた身体に、今度は背中から尻尾の一撃。無理やり引き起こされたところで、肘打ちが顔に、更に尾の追撃が脇腹に突き刺さる。

「………ブフッ」

口の中に広がる鉄の味と、生ぬるい液体の感触。こみ上げてくる吐き気と激痛が合わさって視界が激しく揺らぎ、脳が揺すられて立っていられない。

(何……なの……この、戦い方………)

ぐらりと前のめりに倒れかけながら、ぐちゃぐゃになった思考が脳内でぐるぐると回る。

陸であれ海であれ、砲雷撃戦で深海棲艦と戦うための教育と訓練を受けてきた私達。反艦娘団体の暴動に備えた対人戦の手ほどきも多少は受けているが、“同等の戦闘能力を持つ相手”との格闘戦など想定していない。

予想が全くつかない動きの数々に、対応がまるでできない。一方的に、嬲られる。

「痛っ…………」

膝を突いた私の頬に、拳がめり込む。血の味が更に濃くなるのを感じて、私の身体は裏拳によって地面に横倒しにされた。

『…………wwww』

降りしきる雨の中で、敵の尻尾がなんとも禍々しいシルエットを浮かび上がらせながら振り上げられるのが眼に映った。

動けない私の頭を噛み砕こうと、大口を開けた牙だらけの顎が迫ってくる。
403 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 02:37:21.89 ID:W1r6lzRK0

……………響いたのは、私の頭が噛み潰される咀嚼音、ではなかった。

『─────!?』

何か巨大なものが空を切る音。常軌を逸した大きさの打撃音と、堅い何かが砕ける鈍い音が間を置かず続く。逃れる術がなかったはずの痛みも死も訪れないことに訝しみ、恐る恐る眼を開けた。

「…………プリンツ、大丈夫かしら?」

荒い息で、それでも私に向かって背中越しに微笑みながら、ビスマルクお姉様が立っていた。手に何か棒状の、太く大きな物を持って構えている。

それが、へし折られた戦車の残骸の主砲だと気づくのに幾らかの時間を要した。

『────!!』

「…………っふ!!」

『ギァッ………』

距離を取っていた“影”が、再び自らの尾を伸ばしてくる。が、お姉様が手に構えた筒で跳ね上げるようにして下顎を殴打すると、形容しがたい不快な鳴き声を残して尾は自らの主の元に舞い戻る。

「Feuer!!」

『………』

流れるような動きで艤装を展開し、射撃。これは躱されたが、若干の警戒心を抱いたのか向こうは反撃せずに私達から僅かに距離を取った。

「それで?まだ戦える?プリンツ」

「………あ!はい!まだ何とか!

あの、お姉様………そんな戦い方、いったいどこで」

「zweiへの改装を受けるために日本に行ったときに、ちょっとね」

立ち上がろうとする私への射線を塞ぐ位置取りで筒を構え直しながら、お姉様はそういって肩を竦めた。

「なんとかっていう映画スターみたいなすっごい筋肉身につけたAdmiralから、色々教わったのよ。

……ま、まさか役に立つとは思わなかったけどね」
404 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 02:38:16.58 ID:W1r6lzRK0
ぎゃー予定位置までまにあわなかった……でも流石に寝ないと行けないので今回ここまでの更新です
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 02:50:22.16 ID:VKo8g0HA0
おつです!
相変わらず面白いし、どんだけヤバいんだよと…
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 06:58:26.28 ID:PGdKYvqDo
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 10:51:39.22 ID:7eZPfZhho

マッチョは偉大だった
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 15:40:34.97 ID:O9j3Ot4DO
なるほど、マッスル鎮守府でzwaiに改装されたのか…
なら直撃弾食らっても髪がアフロになるだけで済みそうだな。
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 19:36:01.42 ID:qyQLMCX70

マッスル鎮守府と聞いたらシリアス度が…
410 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 23:32:06.96 ID:W1r6lzRK0
「日本ですか………」

私がまだただの軍艦だった頃に、当時ハーケンクロイツを掲げていた祖国が同盟を結んだ海の向こうの国というのはなんとなく知っている。ただ、私は所謂【実装艦】とは違いドイツの国営工場で建造されたので実際に行った経験はない。

そのため、持っている知識は例えば“なぜか潜水艦娘達に倒錯した性的嗜好が覗える指定制服を着せるHENTAIの国”という断片的かつ真偽も微妙なものばかりだ。

………まぁお姉様のこの急激な変化(というより悪化)の具合を見る限り、ろくでもない一面がある国なのは間違いないと確信した。勿論歴史も民族性も完全無欠な国家なんてこの世に存在しないことは理解しているけれど、それにしてもこのかつての血盟者は瑕疵の方向性が一般的な国家と随分違う気がする。

などと、私が東洋の端っこに浮かぶ島国についてなんともいえない思いを抱えていると。

「来るわよ!!」

「えっ?」

“影”が、再び動いた。

「Artillerie!!」

「うんにゃあーーーっ!!?」

尻尾の先端で艤装が稼働し、此方に向けられた砲口。雷鳴みたいな音を響かせて向かってきた熱と鉄と火薬の塊を、私とお姉様は左右に飛んで避ける。

「ぶぎゅっ!?」

こういうとなんとも鮮やかに回避したようだけど、実情はだいぶ違う。最小限かつ的確な身のこなしで素早く射線から外れたお姉様と対照的に、私は低俗なコメディ・コミックの登場人物みたいな慌ただしさでバタバタと地面を這いつくばって爆心地から逃れた。

結果大いにバランスが不安定になっていた私は、爆風で押されたことによって再度水溜まりに頭から突んだ。
411 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 23:41:05.28 ID:W1r6lzRK0
次の攻撃が来る前にと慌てて泥を吐き出しながら立ち上がろうとした私は、後ろの───さっきまで私達が立っていた辺りの光景を目にして思わず悲鳴を上げた。

(なにこれ………一発の砲弾でこんな………)

巨人がスプーンでその一角をくり抜いたみたいに、ぽっかりと口を開ける穴。直系7〜8メートルはあるそれが先程敵艦が放った砲撃によるものだと理解した瞬間、全身に雨粒よりずっと冷たい汗が噴き出た。

こんな威力……私やお姉様でもまともに食らったら一溜まりもない。一撃大破だって十二分にあり得る。

「突入するわ。プリンツ、援護して!」

「ふぇっ!?や、Ja!」

新型の攻撃の威力はお姉様も十分に理解しているはずなのに、彼女は何の躊躇もなく戦車砲を(打撃武器として)構えて前傾姿勢で突貫する。私の顔からは更に血の気が飛んでいったが、同時にその気高く勇敢な姿に恐怖も私の身体から抜けた。

ドイツ海軍重巡洋艦Prinz Eugenともあろうものが、お姉様一人だけを戦わせるなどあってなるものか。

「Beginnen Feuerschutz!!」

『!!』

幸い、さっきの回避行動でお姉様の身体は射線から外れている。攻撃には直ぐに移れた。

僅かに角度を調整し、主砲2基4門を同時に射撃。

距離にして300Mに満たない、至近距離からの射撃だ。こっちが外す道理も、向こうが回避する暇もない。

───筈なのに。

『────!!!』

「くぅっ……!」

「嘘でしょ!?」

あり得ない反応速度で振られた尻尾に、砲撃が下から跳ね上げられる。打撃された場所が先端ではないため信管が作動せず、起爆しないまま私の砲弾はあらぬ方向へと舞い上がる。

そのまま咄嗟にガードの姿勢を取ったお姉様に蹴りが突き出され、これを筒で受けたお姉様の突進が衝撃で止まる。ほぼ同時に、ふっ飛ばされた砲弾がどこか遠くで立て続けに炸裂した。
412 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/24(土) 23:52:12.13 ID:W1r6lzRK0
《Z3-11よりBismarck並びにPrinz Eugen、当艦付近に至近弾4!そっちの敵艦の砲撃なの!?》

「………うん!そんなところ!!」

胸にちくちくと突き刺さる罪悪感を勤めて無視しながら、水偵射出のカタパルトを構えAr-196改を空に撃ち上げる。

「Prinz Eugenより包囲網構成艦各員に通達!水偵を上空に上げた、感覚をリンクし弾着観測射撃にて敵艦に全火力を集中して!!」

《《《Jawohl!!》》》

基本的に艦種を問わず、艦載機はそれを出撃させた母艦以外で指示や収容、補給などを行うことはできない。ただし水偵や水戦、或いは日本の【サイウン】等の偵察機は、母艦以外───更に言えば駆逐艦や未改装の潜水艦のように本来艦載機を搭載できない艦種の子たちでも【視界共有】ができる。

勿論映像が安定しないなど母艦に比べると制限はかかるし、多数の艦娘と視界をリンクさせることは妖精さんにも大きな負担を強いる。

けれど、弾着観測射撃ができるとできないとでは攻撃効率に大きな違いが生じる。ここはもう一頑張りして貰うしかない。

「お姉様、水偵を発艦させてレーベ達とリンクさせました!駆逐艦隊による支援射撃可能です!」

「Ja! ありがとうプリンツ、貴女みたいなKameradin持てて幸せね!!」

『ッ!!』

私の報告に、あのまま白兵戦に突入していたお姉様は“影”と激しく打ち合いながらにやりと大きく口元を歪める。

……私に向けてのお褒めの言葉を伴った、大好きなお姉様の笑顔。

「……」

なのに、目にした瞬間、なぜか私の肩には小さな震えが走る。
413 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 00:05:48.56 ID:SQt7g1jh0
そのまま、“尻尾”の艤装に覆われた部分とお姉様が構える戦車砲が空中で何度か凄まじい速度で衝突する。

艦娘と深海棲艦の“白兵戦”、しかも片方は戦車の残骸を引き抜いたものが得物───見方によってはシュールとも、タチの悪いジョークとも取れる光景。

だけど相手もお姉様も、その動きは見とれてしまうほど洗練されて無駄がなく、そして激しかった。

「はぁっ!!!」

『ッッッッ!!!』

攻防の中で生じた一瞬の隙。お姉様が大きく腰を落とし、図太い戦車砲を勢いよく槍のように突き出す。

“影”はこれを尾の艤装部分で受け止めたが、衝撃までは殺しきれなかったのか身体が浮き上がり2,3メートル後ろにはね飛ばされた。

「「Feuer!!」」

『………!!』

機を逃さず、私とお姉様の艤装───15.5cm連装副砲が同時に火を噴く。流石に主砲を撃てるような距離ではないけれど、副兵装での射撃ならば威力的にこちらが巻き込まれる心配はない。

勿論威あの敵艦に大きなダメージは与えられない。でも、副砲とはいえはね飛ばされた矢先に砲撃を受ければ踏ん張りは利かないだろう。

転んで隙を作ることを嫌ったか、“影”は着弾の衝撃に身を任せて更に10メートル近く後方へと跳んだ。

「─────全艦、一斉射撃!!」

『!!!?』

その着地点に、連なり炸裂する五発の砲弾。やはりダメージは小さいけれど、予想外のタイミングに加えて上からの攻撃。おまけにAr-196改を用いた弾着観測射撃。

動きが完全に縫い止められる。

────そして、今度は彼我の距離も十分だ。

「「Feuer!!」」

38cm連装砲。

SKC34-20.3cm連装砲。

全門が一斉に火を噴き、砲弾が放たれる。

火柱が、天を焦がす。
414 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 00:53:14.24 ID:SQt7g1jh0
絶望的な状況下に置かれていた友軍を救援した後の包囲戦。完璧な誘導で敵艦の動きを制限したところへ戦艦と重巡による主砲射撃。

ど派手な爆発と、敵の姿を覆い隠す爆炎。

ハリウッド映画辺りなら、派手な演出や勿体ぶったBGMを施されて“実は健在だった敵艦”が観客の悲鳴やスクリーンに投げつけられるポップコーンと共に颯爽と再登場するのだろう。

《…………冗談でしょ》

現実にはそんな演出は存在しない。渦巻く焔と煙を尾で切り裂き悠然と“影”は再び現れた。水偵から妖精さんの眼を通してその様子を見た駆逐艦の一人が呆然とした口調で呻く。

影の………【彼女】の周囲を守る障壁が、火柱から出てくる直前オレンジ色に一瞬明滅する。流石に重巡洋艦と戦艦の一斉砲撃をまともに受けて損害を抑えることは難しかったようで、少なくとも中破レベルの大きなダメージは受けているらしい。

『─────♪』

なのに、【彼女】は笑っていた。

目深に被っていたフードを脱ぎ捨て。

先端の艤装部分から小さく火花を上げ続ける尾をゆらゆらと小刻みに震わせ。

人間や艦娘だったら“美少女”に分類されるだろう、幼さが残るけれど整った顔立ちに狂気を、狂喜を滲ませて。

【彼女】は、心底嬉しそうに満面の笑みで私達を見つめる。

少しだけ長く伸ばされた白い頭髪の隙間から覗く、玩具を見つけた子供みたいにきらきらと輝く眼が、真っ直ぐに私とお姉様を見つめる。何かを呟くようにして、青白い唇が動く。

………きっと、偶然だ。深海棲艦が人語を発したという話は、一度も聞いたことがない。

だけど私には、【彼女】の唇がこう言ったように見えた。


───アイツノイッタトオリダヨ。
415 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 01:44:42.98 ID:SQt7g1jh0
深海棲艦が作る表情としては、あまりにも“血が通っている”微笑み。

本当に人間や私達のものと遜色がない自然さなのに、溢れ出る狂気。

「────あぁ、やっぱり貴女も“此方側”なのね」

そして………私の隣に肩を並べるビスマルクお姉様も、【彼女】と同質の笑みを浮かべていた。

「あのAdmiralから、彼のKameradinのアオバから、貴女たちの存在は聞いている。戦い方を見て、薄々そうだと気づいていたわ」

「お姉様………?」

興奮気味に、お姉様は【彼女】を見つめながら捲し立てる。その口調は徐々に速度を増し、今や熱にうなされた重病患者のように夢見心地なものになっていた。

「ええそうでしょ?きっと貴女も気づいている。

そうよ、私達ははぐれ者。だけどそんなものは関係ない。私がどんな存在であろうとも、私がナチス・ドイツ海軍ビスマルク級1番艦、Bismarckであるという事実は変わらない。

この地がドイツであるという事実は変わらない。私が守るべき国であるという事実は変わらない!!」

台詞の最後は、ほとんど叫ぶようにして放たれる。お姉様は………Bismarck zweiは、どこか箍の外れた笑みと共に【彼女】に向かって手招きをする。






「Bismarckの戦い、見せてあげるわ!

さぁ、かかってきなさい!!」
416 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 02:31:32.19 ID:SQt7g1jh0




(`・ω・´)「…………以上が国防省の見解です、大統領」

(゚、゚トソン「………そう、ですか」

(`・ω・´)「南部ドイツ全域やライプツィヒ、ドレスデンなど主にドイツ国内で極局所的にはある程度優勢の地域も見られます。

しかしながら、現状よほど劇的な“何か”が起きない限り最早オーベル川以西のヨーロッパ失陥は確定したも同然です」

爪'ー`)「既にフランス・ドイツ・北欧の戦況は、“敵の攻勢をどの辺りで食い止められるのか”に重点を置く段階まで悪化しています。

特にフランスはコマンダン=テストのみとはいえ艦娘保有国。彼女らの損失は第二の防波堤である英国、はては合衆国の国防それ自体にも影響します」

(゚、゚トソン「………」

ハハ ロ -ロ)ハ「大統領閣下。本来なら我々も、“最後の手段”に打って出ることを本格的に検討しなければいけない立場です。

────ロシアが汚れ役を買って出てくれるというのなら、渡りに船だと私は考えます」

(-、-トソン「……………」

(`・ω・´)「大統領閣下、ご決断を」

(゚、゚トソン「…………在ロシア大使館に連絡を。それから、日本のミナミにもアポイントを取って下さい。

不測の事態に対する保険として、【海軍】出撃の手配をしておきましょう」

(`・ω・´)「かしこまりました、では」

(゚、゚トソン

( 、 トソン「…………この悪の帝国のどこが、世界の警察なのかしらね」
417 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 02:45:04.51 ID:SQt7g1jh0




《先程アメリカホワイトハウスでフォックス=カーペンター国務長官が記者会見を開き、ロシアの核兵器使用の意志を覆すことはできなかったと談話を発表しました。

この発表は事実上ロシア連邦のドイツに対する核兵器投射を黙認するという前倒しの宣言とみられ、先に同様の意思表明を行っていたイギリス、フランス、元々肯定的な立場だった中国も含めてこれで常任理事国は全てロシアの核兵器使用を認めた形になります。

これに対し日本、インド、台湾などアジア諸国からは非難声明が続出し────》
418 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/25(日) 02:46:22.88 ID:SQt7g1jh0
今更新ここまで。……本当は前回更新時にここまで行きたかった(叶わぬ願い)
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 03:49:37.41 ID:wetHYdPSO
デェェェェェェェェェェェェン
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 10:44:08.92 ID:PBKsgKXo0
\ コマンドー /
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 15:55:42.87 ID:GS8rlehX0
>>419 こんな素晴らしいSSに出会えた私はきっと特別な存在なのだと感じました
422 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 00:02:30.88 ID:xO5NyUVn0






段差を踏み越えてジャンプした車体が、10メートルあまりの浮遊を経て着地する。ズンッと身体の芯に響いた震動を、歯を食いしばって耐える。

(;'A`)「チッ、ここもか!」

ちらりと前方の状態を確認し、舌打ちと共にハンドルを右へ。本来進むはずだった道路は隆起と砲撃によるクレーターで悲惨な有様になっていて、バイクのスリムさを考慮に入れても到底走れる代物ではなかった。

元々深海棲艦の爆撃や砲撃で道路事情が最悪であることを考慮に入れてのバイクチョイスではあったし、軍用のオフロード仕様なのである程度の荒れ地はツーの運転するエノクを下回る乗り心地にさえ目をつぶれば走破できる。

(;'A`)「……また!」

とはいえ、ベルリンの道路網は俺が想像していたよりもずっと「最悪」だった。ビルが崩れ落ちて隙間なく塞がれてる場所やさっきのように隆起やクレーターが多すぎて流石に走行できない場所が大通りから裏路地まで至るところに見受けられ、その都度“目標地点”への移動は遠回りになっていった。

(;'A`)「ここ───またか………!」

本来バイクの速度を考えれば大した距離ではない、多少経路が膨らんだところで増える時間は5分か10分かのレベルだ。

だが、ロシアの核兵器発射時刻やヨーロッパ全体の戦況、そして何より後方でリ級達に遅滞戦術を強いているだろうイヨウ中佐達の事を考えればその僅かな時間が身を焦がすほどにもどかしい。
423 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 00:11:24.22 ID:xO5NyUVn0
幾つかの角を曲がり、幾つかの道路の状態に苛立ちを募らせ、それでも少しずつ西へ西へと進む。

ツン、ジョルジュたちと別れてからおそらくまだ5分と経っていない。だが俺には、もう1時間は経ってしまったんじゃないかと錯覚するほど時の流れが早く感じられた。

(;'A`)(クソッ、こうなりゃ多少の悪路でも道自体があるなら強行するしかない……!慎重になってても時間が経ちすぎたら元も子もない────)

(;゚A゚)そ「うぉおおっ!?」

砲声。放置停車されていたものが吹き飛ばされたのか、火達磨のスポーツカーが一台眼前の十字路左手から現れる。

咄嗟にバイクにピタリと身を伏せながら僅かに車体を傾け回避。背中に熱を感じつつ、その十字路を駆け抜けた。

(;'A`)「……っ、あぁそうだよな!」

背後で、更に何台かの車が吹き飛ばされていく音が重なる。そしてその中に混じってなおはっきり聞こえる、異常に大きなガスの排気音。バイクや車にちっとも詳しくない俺だが、その音だけは聞き覚えがあった。

(;'A`)「そりゃあ完全放置とはいかないよな!!」

重巡リ級たちが此方に突入してくるときに使っていた、あのバカでかいギャング仕様のバイクが奏でていたものと同じだ。

『─────!!』

(;'A`)「っと!!」

背後から追ってくる“艦影”二つ。その片方が、左手の艤装を起動し弾丸を放つ。

再び身を伏せた俺の周囲で、無数の機銃弾が火花を散らした。
424 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 00:26:07.58 ID:xO5NyUVn0
『『────』』

('A`;)「………随分近未来的な造形だなオイ」

背後から追走してくる敵艦の外観を一言で表すなら、“より人間に近づいた軽巡ヘ級”だろうか。

両腕はヘ級同様完全に艤装と融合していて、後方から追撃してくる二隻はどちらも左手が機銃で右手が単装砲だ。頭部にマスクのようなものが被せられているという点も共通するが、此方は上半分のみの装着。鼻から下は装着物がなく、青白く血の気を微塵も感じさせないマネキンみたいな口元が剥き出しになっている。仮面の左側、眼の位置に穴は穴が開けられその中から覗く眼が青く光を放つ。

服装?はル級とリ級を足して二で割ったような組み合わせで、一昔前のセパレート水着のような形状の胸当てが肋骨の辺りまでをぴったりと胸部のラインを浮き上がらせながら覆う。少し縮れ気味の首筋辺りまでの長さになる髪が、雨の中で靡いていた。

ヒト型深海棲艦の一種、雷巡チ級。本来はヒト型と違って足を持たず、海上移動に極端に特化した機械ユニットが腰から下に直接装着されている。そのため過去確認されたチ級は、eliteやflagshipといった上位種でも出現箇所が海上に限定されており、人類や艦娘の間でもチ級は【雷巡】という艦種の特性も相まって海上限定の敵艦という認識だ。

………で、何の悪夢なのか今俺の後ろから追撃してくるチ級は、下半身を海上ユニットではなくバイクと結合させベルリン市街地の真っ只中を推定時速100kmオーバーで疾走している。

('A`;)「マイケル=ベイの映画かっての!!」

愚痴を飛ばしながら腰のホルスターからピストルを抜き、背中越しに当てずっぽうで引き金を引く。

『────!』

たまたま命中したらしく乾いた音が聞こえてきたが、チ級は他のヒト型同様障壁を持つ。当たり前だが、効果はない。
425 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 00:38:16.03 ID:xO5NyUVn0

『───! ───!!』

(;'A`)「……っ!」

右手後方で“気配”を感じ、ハンドルを握る手に力を入れる。俺が車体を左に寄せたのと、二度の砲声は同時だった。

本来進路上だった箇所で上がる二つの爆炎。ぱらぱらとコンクリート片が降り注ぐ。

『─────!』

(;'A`)そ「危ねぇっ!?」

すぐさま、真後ろに着いたもう一台から機銃掃射が放たれる。此方もハンドルを即座に右に切り、射線から逃れる。

(;゚A゚)「───どわぁっ!?」

がつんっと前輪に衝撃が走り、ひっくり返って転がっていた軽自動車を踏み台に再びバイクが宙を舞う。胃がひっくり返りそうな浮遊感をたっぷり一秒ほど味わった後、縮み上がった“タマ”を突き上げるようにして車体が地面を踏みしめた。

(; A`)「────っの!」

悶絶したくなるような痛みだったが、聞こえてきた打撃音がそれを許さない。

エンジンのギアを上げて加速する。猛スピードで路を駆けるバイクの直ぐ後ろ、ほんの1メートルほどの位置にさっき俺がジャンプ台にした赤い軽自動車が突き刺さった。

また車体を左へ。道路脇の家屋に砲弾が直撃し、飛んできた瓦礫も回避するため一瞬歩道に乗り上げる。放置された露店の木箱数個を踏みつぶし、道路に戻る際に台を足に引っかけて蹴倒す。

道路に散らばった幾つかのくだものを踏みつぶして、チ級達はなおも追ってくる。……違法改造バイクがベースになっているためか、どうも基本速度は向こうが上のようで差が詰まり気味だ。

(;'A`)(このまま肉薄され続けたら回避が間に合わなくなる………なら!)

意を決し、俺は次の十字路が眼に入った瞬間にハンドルを切り左に曲がった。
426 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 00:51:03.23 ID:xO5NyUVn0
通りに入った瞬間、今までと“質”が違う揺れを感じた。つんのめる形で後輪が浮き上がり、一瞬逆ウィリーのような状態になって数メートル走行する。

(;'A`)「おぉっとぉ……!?」

転倒しかけた車体をなんとか立て直し、そのまま前へ。

俺が突入した通りは、今までは走行を回避していたレベルの量の砲撃痕や隆起、陥没、放置車両などがある荒れ果てた道路。当然、移動の難易度は今までの比ではない。

バイクが浮き、揺らぎ、滑り、そこら中にぶつかる。車体のありとあらゆる装置やパーツが悲鳴を上げて、途切れない揺れが俺の肋骨を軋ませた。

(; A )「がぁっ!?」

突き出していた自動車のパイプにひっかかり、足の軍服が破れ脹ら脛の皮膚を裂く。鋭い痛み、だが視線を切ればたちまち大事故待ったなしだ。

『『────!!』』

当然、チ級も俺を追って通りに入る。乗用車を殴り飛ばし、水溜まりを蹴立て、速度を落とすことなく俺へと迫る。

『────!?』

『ア゛ア゛ッ!?!!!!?!』

そして、内一隻が悲鳴と共に空に舞い上がった。
427 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 01:13:34.65 ID:xO5NyUVn0
おそらく、雨水が溜まっていた砲撃痕に気づかず前輪を引っかけたのだろう。僅かに背後を振り返ると、まるで前転しようとしているかのように後輪を上に向けて飛翔するチ級の内一隻の姿が見えた。

『ギァアアアアッ!!?』

自身が意図しない形で跳躍してしまったチ級は態勢を立て直せず、そのまま道路脇のビルの一つへと突っ込む。横向きで支柱に衝突した際に「車体」がへし折れ、後ろ半分が脱落する。

『グアッ……アァッ……アァァ………』

前輪だけになった下半身では到底まともな着地などできず、転倒したチ級の身体は数メートルにわたり地面を転がった後街灯に腹をぶつけて止まった。

気絶したのか、或いは完全に撃沈できたのかをしっかりと確認する暇はない。ただ、あれだけ完全に移動手段が破壊されれば追撃はできない。

(;'A`)「よしっ!」

狙い以上の結果が生まれ思わず拳を握りしめる。

チ級の艤装がもしリ級達が乗っていたバイクと同系統のものであるとすれば、此方が乗るミリタリータイプと違って極端な荒れ地の走行は考慮に入れられていない可能性が高くなる。バイカーギャングの目的は基本的に示威行為であり、改造は自然速度を出すためのものに限定されるはずだ。人が殆ど通らない荒れ地を走るための対策が施されているとは考えづらい。

そのため此方の軍用オートバイでも走行が困難な地形におびき寄せられれば破壊とまではいかずとも距離を大きく開けるチャンスができると踏んでいたが、一隻が早々に完全脱落といい意味で計算が外れてくれた。
428 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 02:07:20.87 ID:xO5NyUVn0
まぁ、最高の結果が生まれたとはいえ危機が去ったわけではない。

『─────ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』

(;'A`)「っ、お盛んなことだな!」

過去に交戦した深海棲艦の行動パターンからある程度解ってきたことだが、あいつらは(特定の個体を除いて)“同族”の死や損傷に強い反応を示す場合が多い。後ろのチ級もどうやらその類いのようで、単装砲と機銃による攻撃の勢いが今までより更に増した。車や瓦礫が転がっていても、お構いなしにそれらも砲撃で吹き飛ばしながら追ってくる。

────あっという間に距離が詰められるが、今の俺にとっては寧ろありがたい。

('A`)「………」

一つだけ持ってきていた手榴弾を腰のベルトから取り外して、ピンを抜く。タイミングを計り、後ろに転がす。

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』

………チ級の沈黙の時に、解ったことは三つ。

一つ、上半身は例の障壁によって通常兵器ではダメージが与えられないが、下半身のバイク部分は何らかの理由で障壁の効果が及んでいない。

二つ、バイク部分については耐久力も高くない。

三つ、チ級は特に地上戦に不慣れなためか、不測の事態に弱い。

故に。

『ア゛ア゛ア゛───ヴアッ!!?』

('A`)「Fahr zur Holle」

冷静さを欠いた状態のもう一隻を破壊することは、これら三点を考慮すれば簡単だ。

ご丁寧に直進してきてくれたチ級の前輪が手榴弾の起爆によって吹き飛び、残った後輪部分に火が回った状態でチ級が転倒する様を一瞬だけ確認する。此方としては足さえ奪えれば十分なので、直ぐに視線を戻す。

『グア゛』

ただ、背後でもう一つ大きめの爆発が起きたのだけは音で理解できたが。
429 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/26(月) 03:01:44.87 ID:xO5NyUVn0
(;'A`)「……撃破できたとはいえまた時間食ったなクソッタレ。いい加減“目的地”について欲しいもんだ」

(; A )「がっ──────!?」

呼吸が止まるほどの、信じがたい衝撃。さっきまでのチ級の砲撃が子供のお遊びになってしまうような、巨大な火柱が俺の左右で上がる。

高々と飛んだバイクは、奇跡的に転倒せずまた地面を走り出した。

(;゚A゚)(艦砲射撃………少なくとも戦艦クラス………正面から………!!)

ブレーキに伸びかけた手を引っ込めて、前方に目をこらす。

彼方で、微かに光が見えた。

(; A )「っつぅ………!!?」

今度は前方数メートルほどの位置で砲弾が炸裂する。揺れと土砂でハンドルを取られバランスを崩しかけるが、ギリギリのところで持ちこたえる。

(;'A`)「うぉあああああっ!!?」

三たびの砲撃。これは両側のビルに直撃した。崩れ落ちてきた瓦礫を、ワケのわからない叫び声を上げてギリギリのところで躱す。

────そして、見えた。

立ちこめる土煙の向こう側に。

俺が進んでいる、真っ直ぐな道の彼方に。

三つの、影が見えた。

まだ、顔が判別できるような位置ではない。見えるのはあくまでも人影だ。

だが俺は、確信を持って誰にともなく叫ぶ。

(#'A`)「────軽巡棲姫、捕捉!!」
430 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/26(月) 03:02:45.33 ID:xO5NyUVn0
今更新ここまでです。

次回、最終更新(予定)
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 08:16:53.86 ID:fKGdJm1A0
おつおつ
バイクチェイス?までこなし始めるとか、主人公もヤバいなあw
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 10:00:32.15 ID:aISb4hapo
おつ
主人公も順調に人外の域に入り始めてる感
とはいえこっからどうやって軽巡棲姫をどうにかするのかは想像がつかん
433 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 22:30:37.41 ID:+IPvwG8p0
三つの光が、彼方で瞬く。

(; A`)「……っぐ……おぉっ………!!?」

押し寄せてきたそれは、鉄と火薬の暴風だった。

『『『─────!!』』』

軍艦3隻分の、機銃の一斉掃射。雨音が完全に掻き消され、アスファルトを弾丸が削り、火花がそこら中で飛び散る。道の脇に転がっていた車が蜂の巣にされて火達磨になる。背負っていたG36Cを一発が僅かに掠め、高い金属音が鳴った。

奴らの攻撃は“砲撃”を含まない。にもかかわらず、機銃掃射の衝撃のみで地面が揺れている。

(;'A`)「………っ、嘗めんな!!」

弾幕。まさにそれ以外の表現が思いつかない、膨大な数の火線が混ざり合う。

その真っ只中で、俺はバイクの速度を最大まで上げた。

(; A )「うおっ────!」

空気抵抗を、そして被弾面積を減らすため、限界まで運転席に身を伏せる。ハンドルを握る手と前方を見つめる両眼に全神経を集中し、張り巡らされる火線の隙間を縫うようにして駆ける。

『『!!!』』

(;'A゚)そ「ひっ……!」

迫る三つの艦影。両脇の二つが、砲声を伴う一際大きな光を放った。

ほとんど水平射撃で放たれた、二発の艦砲射撃。砲弾が炸裂する直前、ギリギリのタイミングで着弾点の傍を走り抜ける。

背中に吹き付けた爆熱に、情けない悲鳴が喉から漏れた。脳裏を走馬燈のような映像が駆け回り……その、ズボンが雨でびしょ濡れになっていることを死ぬほど感謝した。

それでも、ハンドルを放さない。速度を落とさない。

『………ッ!!』

奴らとの距離が、この間にも更に詰まる。比例して、火線も濃密さを増していく。

────彼我の距離、目測凡そ200M。ただの小さな点に過ぎなかった三つの艦影を、朧気ながらはっきり人間の形として視角が、脳が、認識する。

このタイミングだ。

(#'A`)「─────ぅおらぁあっ!!!!」

ハンドルを放す。車体から身体を起こす。背中のG36Cに手を伸ばしながら、KLX-250を前に蹴り出すかのような動きで座席から飛ぶ。

『───────!!!?』

物理法則に基づいた当然の帰結として、俺の身体はバイクから離れ宙を舞った。
434 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 22:38:49.83 ID:+IPvwG8p0
(;゚A`)「ぶっ───ぉ」

一瞬の浮遊感を経て襲ってくる、全身をバカでかいハンマーでぶん殴られたような衝撃。息がつまり、チカチカと眼の奥で星が飛ぶ。

知覚の限界を超えた激痛にブラックアウトしかけた意識を繋ぎ止めたのは、なんとも皮肉なことに直ぐ後に続いた別の痛み。

(;゚A゚)そ「あづあああいでででででででで!!!??!」

慣性に従って路上を滑り出す身体。雨によって幾らか摩擦が減り、前後に防弾板を縫い込んだ最新式の軍服を着ているとはいえ気休めにもなりはしない。

すさまじい速度で擦れる背中の皮膚が破れ、血が滲み、摩擦熱が軍服を通して背骨を炙る。落下直後に味わった瞬間的な痛みに程度では及ばないものの、継続して襲ってくる激痛に精神が焼き切れそうになる。

(;メ'A )「………ッ、おぉっ!!」

歯を食いしばり、銃を構え、引き金を引く。狙う先は、運転手を失った後も走り続けるKLX-250───そのエンジン部分。

乾いた銃声が響く。此方に向けて放たれる無数の銃火の中で、ただ一筋、細い火線が逆方向に伸びた。

……これがアクション映画の一場面の光景だったなら、弾丸は見事に狙いの位置を貫いていたのだろう。だが、残念ながら俺はトニー=ジャーでも、ジェイソン=ステイサムでも、ジョシュ=デュアメルでもない。

(;メ'A`)「───クソッタレ!!」

放った弾丸はエンジンどころかバイクの車体にすら数発当たった程度で、残りの殆どは射線がばらけ見当違いの方向へと飛んでいく。

銃撃を受けてバランスを崩したKLX-250は横転し、50M程その状態のまま滑走した後カラカラと虚しい音を立てて奴らの足下で停止した。
435 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 22:43:34.80 ID:+IPvwG8p0
『…………』

あれだけ激しかった銃撃が、まるで指揮者の合図を受けたオーケストラの演奏みたいにピタリと止まった。真ん中の“艦影”はおもむろに脚を持ち上げ、力なく地面に転がるKLX-250をそっと踏みしめた。

(メ; A`)「ゴホッ………ゲホッ……」

バイクから一拍遅れて滑走が止まった俺は、咳き込み、背中の激痛に耐えながらその光景を眺めている。

俺と奴らの距離は、あと150Mといったところだろうか。両側に立つ戦艦ル級二隻と、真ん中のヒト型が俺自身は初めて見る艦影────おそらく軽巡棲姫の姿形は解るが、この距離では流石に表情などを窺い知ることはできない。

『─────フッ』

(メ;'A`)「………Verdammt」

だが、俺は感じた。

奴は、俺のことを………いや、ベルリンでの人類の抵抗自体を嘲笑っている。

(メ; A`)(はっ………さっきまでのお返しってか)

そもそも、さっきの“派手だが当てる気はない”機銃掃射や艦砲射撃の時点で薄々勘づいていたことだ。空を高速で飛び回る戦闘機を追い払い撃墜するために張り巡らされる弾幕に、時速100kmにも満たないバイクが飛び込んだところで普通なら一瞬でスクラップになって終わる。

俺が単騎で飛び出したことは、リ級達の報告か空でポーランド軍に迎撃されている爆撃隊からの監視か、とにかく何らかの方法で旗艦である軽巡棲姫のところにも届いていたのだろう。

そして、これを俺達の「最後の攻撃」と見た(事実そうなのだが)軽巡棲姫は、シュパンダウ区からここまで出てきて俺を待ち構えていた。

散々に翻弄されて痛くプライドを傷つけられた報いを受けさせるために。

自らの手で、俺達の「最後の手段」を叩き潰してやるために。

死に物狂いでここまで来た俺に、最大限の絶望を突きつけるために。
436 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 22:53:29.59 ID:+IPvwG8p0
思えば、チ級による追撃すら──あの二体が破壊されたことは予想外だったとしても──奴が俺をここに連れてくるための誘導だったのかも知れない。それだけ奴には俺が自分を狙っているという確信も、そして俺達の策を粉砕できる自信もあったのだろう。

『──────♪』

そして奴は今、その通りになったことで勝ち誇っている。散々手こずらせてきた俺達の、最後の希望を打ち砕いてやったと嘲笑っている。








(メ A )「……………ッ!」

────それが、“自分の中でそのつもりになっているだけ”だとは気づかなかったようだが。

(メ#゚A゚)「ああああああああああああああああああっ!!!!!」

喉を振り絞って絶叫し、全身の力を込めて立ち上がる。骨が軋み、傷から血が滲み、焼け付くような痛みが脳を震わせるが、その全てを無視して足を踏み出す。

ヒーローでもスーパーマンでも何でもない、痩せぎすで満身創痍の軍人の全力疾走。自分で俯瞰する余裕はないけれど、きっと無様で滑稽なフォームになっているとは予想がつく。

『……………!?』

それでも………なおも迫ってくる俺の姿に、軽巡棲姫が少しだけ後退ったように見えた。
437 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 23:20:41.22 ID:+IPvwG8p0
構えたG36Cが、鉛のように重い。一歩踏み出す毎にのたうち回りたくなるような痛みに視界が霞む。

(#メ A )「あぁああああああああああああっ!!!!」

それらを耐え、誤魔化すために叫び続ける。声を出すことを止めれば、途端に意識が途切れてしまいそうだ。

前へ。前へ。前へ。

叫び、敵影だけを見つめ、走る。蹌踉めき、躓き、水溜まりに滑り、それでもとにかく進み続ける。

『…………』

彼我の距離、120M。

最初は戸惑い気圧された軽巡棲姫も、大声はただのハッタリでこの突貫を破れかぶれの特攻と踏んだらしい。動揺は直ぐに消え、此方に左手を向けた。

軽巡ト級を思わせる、巨大な顎を象った艤装が展開される。口の直ぐ上には4連装の魚雷発射管が、更にその上には単装砲と2門の対空機銃がごてごてとどこか不格好に突き出している。

どの艤装が使われるにしろ、生身に近い俺が食らえば跡形も残るまい。おまけに両サイドのル級も砲をこちらに向けていて、回避は難しい。

上等だ。こっちも、回避するつもりは毛頭ない。

(メ# A`)「っ!!!」

G36C、一連射。弾倉一つが空になるまで引き金を離さず撃ち放つ。銃から伝わってくる振動すら痛みに変わるが、歯を食いしばって耐える。

『……………?』

ただし火線は、棲姫にも両脇のル級にも向いていない。三隻の足下───KLX-250、その燃料タンクが、狙いだ。

『『『────!!?』』』

爆炎が、奴らの足下を焦がす。

彼我の距離、100M。
438 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/28(水) 23:46:12.95 ID:+IPvwG8p0
基本軍用車は燃えにくいディーゼルエンジンを主流にしているが、偵察を主な任務として足回りが重視されるオートバイに関しては殆どの場合ガソリンエンジンが採用される。無論ポーランド軍が同様の考えだとは限らないので一抹の不安はあったが、あの爆発、景気の良い燃えっぷりを見る限り杞憂に終わってくれたようだ。

『………ッ、…………!!』

無論、それなりの爆発とはいえ所詮バイク一台分。“軍艦”に大きなダメージを与えられるような規模にはどう考えてもなりっこない。だからこそ軽巡棲姫も、仮に俺の策が成功したとしても“撃沈はない”と踏み、前に出てきたといえる。

だが、至近距離で炸裂した爆光は、周囲でちらつく焔は、例えダメージにならなくても“動きを抑え、射線を遮る”目眩ましとしてはあまりに十分すぎる。

『『…………!!』』

軽巡棲姫からの指示か、ル級が機銃を放ち始める。だが、炎越しに放たれた弾幕は次々とあらぬ方向で火花を散らし、俺の周りにすらまともに飛んでこない。

(メ#'A`)「─────」

身体を丸め、姿勢を低くし、足を止めずに突っ込む。

彼我の距離、80M。

『…………!!!』

(#メ'A`)「っと!!」

『ッ?!』

ようやくル級の内一隻が態勢を立て直し、勢いを弱めていく炎の向こうで艤装を構える。───が、俺が左手に立ち並ぶビルの一つに銃口を向けると、其方に釣られて自ら射撃の機会を手放した。

(メ#'A`)凸「はっ、バーーーカッ!!!ゲホッ、ゴホッ!!」

さっきのバイクの件が頭にあったのだろうが、これはただのハッタリだ。間抜けに虚空を警戒するル級に中指を突き立ててやりながら、前へ進む。

互いの距離は、60M程になっていた。
439 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 00:27:57.36 ID:8fhCldZ+0
『ギィッ………!』

ここにきて、目の前の三隻も焦燥を露わにした。俺の前進が「やけくそのkamikaze」なんかじゃないことに、「KLX-250による自爆攻撃」が二重の目眩ましであることに、ようやく奴らも気づいたのだろう。

『ア゛ア゛ア゛ッ!!!』

あからさまに苛立った声で、軽巡棲姫は俺に再度艤装を向ける。

(メ#'A`)「はっ、不機嫌だなお姫様!!」

軽巡棲姫は目元をゴーグルのようなもので覆っており、他のヒト型に輪を掛けて表情が読みにくい。だが、上げられた声には苛立ちと、俺への殺意が溢れていた。

そりゃそうだ。奴らはあれだけはっきりと人類を見下している。艦娘に比べて、少なくとも陸の俺達は恐れるに足らない存在だと蔑んでいる。

そして、その自分たちに遙かに劣るはずの存在に翻弄され、幾度も策を破られ、同族を殺され、今また自らの思惑さえ逆手に取られて追い詰められている。

苛立たないはずがない。焦らないはずがない。

軽巡棲姫にしてみれば、この行為は憂さ晴らしなのだろう。何らかの策を弄そうとするこざかしい陸の猿を、自らの一撃で吹き飛ばしてやろうという八つ当たり。

─────だが。

(#メ'A`)「遅えよ」

全ては、賭けだった。

もしも軽巡棲姫が、中核艦隊を引きずり出されたことに対する苛立ちを抱いていなければ。

もしも俺達の策を自ら潰す方向に動かなければ。

そしてなにより、もしも俺が軽巡棲姫ののど元までたどり着けなければ。

一つでもズレれば、何かもが瓦解した分が悪いどころではない危険な賭け。

だが、俺達はその賭に勝った。

(#メ'A`)「チェックメイトだ化け物ぉおおおお!!!!!」

叫び、全身を躍動させ、腰から取り出した【切り札】を──────フラッシュバンを奴らの足下に投げつける。

彼我の距離は、50M。

『『『────アアアアッ!!!?』』』

閃光と、爆音。

三隻の動きが、再び止まった。
440 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 00:58:27.43 ID:8fhCldZ+0
(#メ゚A゚)「ぅおあああああああああああっ!!!!!」

最初で、最後のチャンスだ。ル級だろうが軽巡棲姫だろうが、とにかく一隻でも衝撃から立ち直ればもうこっちに手立てはない。攻撃された瞬間に、ドク=マントイフェルという存在は木っ端微塵でゲームオーバーだ。

叫び、走る。全身の力を一滴残らず絞り出しながら、駆ける。

彼我の距離は、40M。

(; A )「クッ、ソッ、がァあああああああああ!!!!」

全身が悲鳴を上げている。脳が苦痛を、限界を認識しないようにと叫び続けるが、その叫びがまた体力を削る。

距離、30M。

(;メ A )「     !!!」

視界が揺れる。耳が機能を失い、自分が何を叫んでいるのかすら解らない。

それでも、脚だけは前へと進み続ける。

距離、20M。

(;メ A )

脚の感覚が消える。揺れる視界と、フラッシュバンの衝撃から立ち直ろうと蹲り頭を振る軽巡棲姫の姿が近づいていくことだけが自分がまだ前に進んでいると教えてくれる。

残り、10M。

『    !!!』

軽巡棲姫の上半身が起き上がった。よろめき、長い髪を振り乱し、それでも左手の艤装を持ち直し、ソレを身体の手前まで持ち上げる。

『     !?』

5M。艤装を構えようと此方に向き直った棲姫の口元が何かに怯えるように引きつった。

1M。脚がもつれ、地面に倒れ込みかけた身体を、伸ばした手が何かに引っかかってギリギリのところで支える。妙にひやりとした感触に、僅かな心地よささえ覚えつつ身体を前へと投げ出す。

もう、視界にも何も映らない。ただ、自分が何かを抱擁していることだけ理解する。

0M。

俺の耳元で、誰かが叫ぶ。

『──────コナクテイイノニ……ナンデクルノヨ…………クルナ、来るなぁああああ!!!』
441 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 00:59:35.17 ID:8fhCldZ+0



(メ'A`メ)「断る」



442 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 01:00:41.72 ID:8fhCldZ+0




─────俺は手元のナイフを、ソイツの首筋に突き立てた。


443 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 01:22:39.93 ID:8fhCldZ+0






ξメ;゚听)ξ《此方フリードリッヒスハイン=クロイツベルク区よりCP、重巡リ級eliteが戦線を離脱!繰り返す、リ級eliteが突如戦闘行動を中止し戦線を離脱!》
  _
(メ;゚∀゚)《レーベの様態を確認しろ!かなり手酷くやられたぞ!》

(;メ><)《防壁状態赤色、大破状態ですが脈拍有り!少なくとも処置を行えば十分回復できるんです!》

(;メ//‰ ゚)《部隊損害が大きすぎて追撃は不可能!これより艦娘を含めた負傷者を回収し後退を開始する!》

(;゚д゚メ)《右翼、パンコウより全部隊に通達!敵艦隊、後退を開始!!》

《高層観測班よりCP、敵の爆撃編隊が退いていきます!また、近隣ですが市外の複数区域残存部隊との通信が取れました!通信妨害が消滅!!》

《少尉だ、マントイフェル少尉がやってくれたんだ!!》

《Hurra!! Hurraaaaaaa!!!!》

無線で、歓喜の雄叫びと情報伝達の声が飛び交い混ざり合う。砲声も銃声も止まないけれど、それらすら興奮を抑えきれない人々の声でしばしば掻き消されている。

私でも、それらが示す事実は直ぐに気がつき胸が激しく高鳴った。

敵の旗艦が────軽巡棲姫が、あの通信を入れてきた少尉の手で撃沈されたんだ。
444 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 02:02:08.22 ID:8fhCldZ+0
「お姉様、市内中央、右翼の敵艦隊並びに航空隊が離脱を開始!敵旗艦軽巡棲姫が撃沈された模様です!」

「ええ、私にも聞こえたわ…………さて、見知らぬ敵艦さん」

『─────』

お姉様は、手元の戦車砲を一度振りかぶって目の前の“新型”に突き出す。

「中央と右翼の貴女のお友達は退いたみたいだし、爆撃隊も尻尾を巻いて逃げていく……。このままだと、空からも陸からもここにわんさか援軍が来ちゃうわよ?

私とプリンツもまだまだ余裕はあるし、流石の貴女もマズいんじゃないかしら?」

………お姉様はこう言うけれど、これはほとんど虚勢に近い。

“新型”の……【彼女】の現在の損傷状態は、相変わらず橙色───即ち中破。対して此方は、私が小破でお姉様が中破。

状況だけを見れば互角だけど、その実向こうはあの不意打ち以降まともに損害を受けていない。着実にダメージが蓄積されている私たちは、明らかに押されている───どころか圧倒的に不利だ。

おまけに、周囲に展開しているレーベ達支援部隊の残弾も心許ない。向こうの高すぎる戦闘力を考えると、たとえ援軍がやってきたとしてそれらごと薙ぎ払われる可能性すらある。

「さぁ、どうするの?」

『………………wwww』

一歩踏み出して問いかけるお姉様を見つめ、【彼女】は突然今までのものとは毛並みが違う笑顔………“狂気”が抜けた、まるで遊び疲れた子供みたいな邪気のない笑顔を浮かべた。

「っ!!」

「きゃあっ!?」

ズンッ、と地面が揺れて、辺りに煙が立ちこめる。それは、【彼女】が足下に砲撃を行ったために発生したもの。

『♪』

ジャアネとでも言うように手を上げて。

煙の向こうに、【彼女】の姿が消えていった。
445 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 02:27:01.67 ID:8fhCldZ+0
………しばらく奇襲を警戒して身構えるが、10秒、20秒と時間が過ぎても何も起こらない。

息が詰まるような、何時間にも感じられる数十秒が過ぎ去った。

「────Bismarck zweiより支援艦隊各位に通達。敵新型艦の離脱を確認。状況を一時終了せよ」

《《《Jawohl!!》》》

「────ぷはっ」

お姉様のその声を聞いて私は、ようやく肩の力を抜くことができた。…………肩だけじゃなくて腰まで抜けてしまい、泥濘の地面にお尻をビタンと着いてしまったのはご愛敬ということにしておきたい。

「Prinz? ちょっとばかりそれはドイツの“れでぃ”として端なさ過ぎるんじゃないかしら?」

「あ、あはは………」

お姉様に窘められて、照れ隠しに頬を掻きながらもう一度立ち上がる。

「すみませんお姉様、思わず安心してしまって」

「……ま、その点は無理もないわ。私もアイツの強さには驚かされたもの」

視線の先は、煙の向こうに…………【彼女 】が消えた先に向けられる。

お姉様の表情からは既に安堵が消えていた。

「アイツとは間違いなくまた戦うことになるわ………次は負けないわよ。何てたって、この私だもの!」

「………はい!」

自信に満ちあふれたその言葉に「いつも通り」の雰囲気を感じ取り頷きつつも、私の脳裏にはふと、別の疑問が張り付いた。

<ええそうでしょ?きっと貴女も気づいている。

そうよ、私達ははぐれ者。だけどそんなものは関係ない>

お姉様が【彼女】と砲火を本格的に交える前に叫んだ、あの言葉。

<私がどんな存在であろうとも、私がナチス・ドイツ海軍ビスマルク級1番艦、Bismarckであるという事実は変わらない。

この地がドイツであるという事実は変わらない。私が守るべき国であるという事実は変わらない!!>

あれはいったい、どういう意味だったのだろう……?
446 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 03:10:24.30 ID:8fhCldZ+0





(メメ A )

傷だらけで倒れる一人の男。その傍に【少女】は立っていた。

身長は、130cmあるかどうかといったところ。極東の島国をどことなく想起させる、古めかしい衣服────人類間では“着物”と呼ばれる服に身を包む。【少女】の同族達に共通する、人工的な艶やかさを持つ頭髪を右側に垂らし、錨を連想させる髪留めでまとめている。

全体的に黒を基調とした衣服故に、彼女のとびきり白い肌と、着物の所々を纏める白い襷がよく映えた。

『…………』

【少女】は、眠り続ける男の顔を、どこか楽しそうに覗き込む。つんつんと指先で突いたり、頭髪を手で梳いてみたり、力なく伸ばされる腕に組み付いてみたり。

そんな、眠る恋人を眺める女子のような他愛のない動作を、降りしきる雨を気にとめる様子も無いまま続ける。

『………♪』

一通りそれらの動きを堪能した後、【少女】はゆっくりと名残惜しそうに立ち上がった。

その場を立ち去ろうとした【少女】は、はたと何かに気づいて踵を返す。男の耳元まで唇を近づけ、彼女は小さな声でささやく。

次ハ、私トモ。

ふわりと袴の裾を翻し、【少女】は雨の中を今度こそ男の傍から立ち去っていく。

(メメ A )

後には、雨に打たれる一人の男と、うなじに深深とナイフが突き刺さった一つの屍体。


そして、頭部を吹き飛ばされた二つの屍体が転がっていた。
447 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/06/29(木) 03:27:34.35 ID:8fhCldZ+0







(=#゚ω゚)ノ「どういうことだよぅ!!!!」

絶叫が、テントの中に響き渡る。

(=#゚ω゚)ノ「もう一度言えHQ!!同じことを、もう一度、僕にはっきり聞こえるように言ってみろよぅ!!」

先程まで市内の他の部隊同様歓喜に沸いていた面影は、最早微塵も見られない。雨音を押し潰して聞こえてくる外の歓声とは対照的に、イヨウ以外の全員は呆けたような表情で立ち尽くしている。

深海棲艦からのベルリン奪還────誰もが不可能だと考えていた事象を、彼らは成し遂げた。払われた犠牲は決して小さくなかったが、圧倒的に劣る戦力での軽巡棲姫撃沈という大戦果も上げての勝利。

それはドイツはおろかヨーロッパ全土の苦境を救う勝利であると誰もが信じていたし、実際状況はそうなるはずだった。

《………イヨウ、現場を見ていない私が、お前の気持ちを“理解する”等とは口が裂けても言えない。そして実際私も、お前達にこの命令を下すことは心底から辛い。

何より私自身が、ベルリンの奪還によって戦況を打開できると信じていたからだ》

だが、南部の暫定総司令部と連絡がついた彼らに、一番最初に総司令官が突きつけた命令は。

(;`∠´)《しかし、今は状況が変わったんだ………!》

ドレスデン以北のドイツ領全域の───ベルリンの放棄撤退だった。
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 03:54:14.20 ID:HZWikPiTO
疑問なんですが、なぜ軽巡棲姫の体にナイフが刺さるんでしょうか? 機関銃やミサイルが通用しないほど障壁の防御力は高いはずでは?
もしナイフが刺さるほど体が柔らかくて、かつ死ぬなら、拳銃が当たっても死ぬのでは?
そうなると普通の人間と変わらないんじゃないですかね……


449 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/06/29(木) 03:56:35.58 ID:8fhCldZ+0
>>448
今後の展開のネタバレになっちゃうのでくわしくは書けないんですが、ただ中途に発生したリ級との格闘戦でヒントは出てますね
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