('A`)はベルリンの雨に打たれるようです

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1 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/08(月) 12:08:12.94 ID:N84Ou5maO
《ベルリン放送、朝のニュースの時間がやって参りました。

深海棲艦の脅威が再び高まる中、大手旅行会社の株価が軒並み大幅に下落する事態が発生しており───》

《ZDFより新鮮な朝のニュースを放送します。

欧州大陸近海における深海棲艦側の小規模な襲撃はここ2週間で8件に上り、EU連合艦隊司令部では大規模攻勢に備えて大西洋上における戦力の増強を────》

《【Guten Morgen Deutschland】のお時間がやって参りました。司会のアンニー=スロムカがお届けします。

先日アメリカ、ロシア、日本の3カ国防共協定締結が正式に発表された件について、ヨコスカで第七艦隊提督の────》

《ドイチェ・ヴェレよりお知らせです。来月から開かれる欧州戦車道博覧会に先駆けて、毎朝5分【私の戦車道】のコーナーを───》

《アメリカのトソン=カーヴィル大統領は、東海岸防衛のためにも深海棲艦への対応をヨーロッパ諸国と連携し緊密に行っていくと声明を───》

《ダイオード=リーンウッド首相は、本日フランス大統領とロシアの東欧問題に関する対策を協議する予定で───》

《北ドイツ放送よりお知らせです。

ドイツ連邦刑事局は、ここ一年ほど北部地域にて活動を活発化させているバイカーギャング【デビル・ブレーメン】が、昨晩ノルデン方面へ大規模な移動をしていたという目撃証言があったと発表しました。

刑事局では【デビル・ブレーメン】と敵対組織による抗争が勃発する可能性を示唆し、住民になるべく外出を控えるよう勧告がでています》

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1494212892
2 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/08(月) 12:09:27.40 ID:N84Ou5maO
〜('A`)はベルリンの雨に打たれるようです〜
3 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:10:19.94 ID:N84Ou5maO





「当店は禁煙です」

('A`)「……あー、すまない」

何の気なしに取り出した煙草を、横から伸びてきた手がかすめ取る。
絶対零度の視線で口元にだけ笑みを貼り付けたウェイトレスに頭を下げると、彼女はツンッと顔を背けて足早にその場を去って行く。

('A`)「……Verdammt」

ウェイトレスが十分に離れた辺りで、聞こえないように小さく悪態をつく。仮にも軍人が情けない話だが、そもそも非が此方にある以上強く言えないのが現実だ。彼女はあくまで職務を全うしたに過ぎない。

('A`)「くたばれ禁煙法」

やり場のない怒りを、とりあえず10年前に施行された今世紀最悪の悪法にぶつけることにする。
まぁ10年前の段階では俺はまだ煙草のうまさを知らなかったわけだが、Marlboroがティーマスの次に掛け替えのない相棒となってしまった今は「喫煙者に対する人種差別」の深刻さを身を以て感じる日々だ。

('A`)「……朝飯食うか」

喫煙者の社会的地位を取り戻すにはどうすればよいか真剣に頭を悩ませつつ、厚焼きのベーコンをフォークに突き刺しスクランブルエッグに絡めつつ口に運ぶ。

ベルリン屈指の高級ホテル備え付けカフェだけあって、味は最高だった。
4 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:11:56.52 ID:N84Ou5maO

('A`)「………休暇、ですか?」

「ああ、明日から1週間だ」

それは、二日前の出来事。呼び出しを受けておっかなびっくり陸軍局へと出頭した俺に、眼鏡を掛けたいかにも頭が固そうな局員はそういって紙の入った封筒を突きつけてきた。

「アルカンタラマールでの大手柄への“報償”だよ。帰国から日が経ってしまい申し訳ないがね」

('A`)「また急な話ですね」

「君が大尉への昇進を素直に受けてりゃこの“急な話”を持ち出す必要も無かったさ」

嫌味を苦笑いでスルーし、封筒を開封。中に入っていた書類には休暇期間中も給与対象となること、加えて、休暇期間中の諸費用も陸軍から支給されることが書かれている。

('A`)「……こりゃ至れり尽くせりだ」

「2階級特進に見合う代替案だからね。ま、陸軍全体の話で言えばこっちの方が安上がりだから助かると言えば助かるさ」

局員はそう言って、受付の台に100ユーロ紙幣の束を三つ叩きつける。

「こっちはしめて二万ユーロの“休暇手当”だ。足りなくなった分は領収書を切っておけばそれも陸軍局から補填する。また使い切れなかった場合でも、手元に残った金の返済義務はない。こっちの一万ユーロは純粋なボーナスの方だな。これは休暇手当とは別だから、ここからの消費分は補填の範囲内だ。

何か質問は?」

('A`)「いや、特にない」

「ならその金持ってとっとと失せな。

よい休暇を、“英雄気取り”君」
5 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:13:54.28 ID:N84Ou5maO

さて、かくして俺は昇進を蹴り上層部に睨まれた見返りとして、1週間の素敵なバケーションを獲得した。

とは、いえ。

('A`)「……休暇は休暇で持て余すな」

彼女ナシ。
趣味ナシ。
友達ナシ……というほどではないが、休暇中に遊びに誘うような仲の奴はごく少数。

そのごく少数も、リスボンでの一件以降激増した深海棲艦襲撃の対応に逐われ激務の日々だ。貴重な休日を俺の退屈しのぎに付き合わせるような真似はしたくない。

結果、俺の手元には“特にすることがない10080分”という膨大な空白の時間だけが残った。

因みにこの内1440分は、割り当てられた部屋でルームサービスをつまみながらベットで寝転んでいたらいつの間にか消化されていた。

('A`)「……金はあるしな、うん。今日から適当にベルリンを回ってみるか」

('A`)

('A`)「ベルリンってどこ見りゃ良いんだ?」

休暇、マンドクセ。
6 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:20:08.30 ID:N84Ou5maO
「ベルリンの見所、でございますか」

('A`)「あぁ。多忙なところ申し訳ないんだが、頼む」

いちいち調べるのも億劫なので、年配のウェイターを一人呼び止めて尋ねることにする。相場より少し多めのチップを盆に置くと、目尻の皺をだらしなく緩めながら饒舌に答えてくれた。

「いつもならヨーロッパ・パークがやはり一番手に上がるのですが……ここ数日はあいにくの天気ですからな」

そう言ってテラスの外にちらりと視線をやる。今日も厚い雲が空を覆い、朝から盛んに雨水をアスファルトに叩きつけている。

「ブランデンブルク門など如何でしょう。今年で建設から326年になる歴史ある門ですが、雨の中のたたずまいもまた格別な趣がございます。

距離的にもここからそう遠くありません。タクシーなら2〜3分、徒歩でも15分といったところですな」

('A`)「……なるほど、ね」

グランドスクールの頃に歴史学で最悪な成績を叩き出し続けていた俺にとって、そのブランデンブルク門とやらが積み重ねた326年の月日は“この天気に近づいたらさぞ土臭いだろうな”という感想を抱かせるだけだ。

此方の心情が伝わったらしく、ウェイターは「お気に召さないようですな」と言って苦笑いを浮かべた。

「確かに、今の若い人たちにはあまり愉快な場所とは言えないでしょうな。

しかし、同じドイツ人に紹介できるようなベルリンの見所というとなかなか思いつきませんなぁ」

('A`)「いや、そこは気にしないでくれ。元は田舎の出身だし、アビトゥーア(ドイツにおける高等教育受講の権利)を取得できず学園艦への乗船ができなかった落ちこぼれだ。

俺にとってはベルリンもニューヨークも変わらないよ、脳みそがラードでコテコテのアメリカ人に紹介する感じで大丈夫だ」

「なるほど。ではケンタッキーフライドチキンかステーキハウスが付近にあることは必須条件ですな。

……とまぁ冗談はさておきまして、今ならばパリ広場に行かれては?」

('A`)「パリ広場?」
7 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:20:56.84 ID:N84Ou5maO
どちらにせよブランデンブルク門も目にすることになりますがねと前置きした上で、ウェイターはどこからともなく一冊の手帳サイズの冊子を取り出し、机の上に置く。

表紙には“ドイツ戦車展覧会”と書かれ、やや装飾過多なその文字の下に突撃戦車A7V、ティーガーU、レオパルト2の写真が並んでいる。

「来月の欧州道博覧会に先駆けて、ムンスター戦車博物館から借り出された保管車両がパリ広場に展示されているんですよ。

このドイツは戦車、そして戦車道と共に歩んできた国ですからね。ベルリン市の方でもかなり気合いを入れているみたいです。

なかなか壮観な光景でしたよ、ドイツ国内だけでなく欧州各国の戦車道ファンが朝から広場に詰めかけるぐらいの眺めですから」

そう言われ、今更ながらこのカフェが朝から大盛況な理由に合点がいった。
こいつらの大半はパリ広場に雁首揃えるドイツ戦車群が目的というわけか。
8 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:22:11.69 ID:N84Ou5maO
ぱらりと何の気なしに冊子を開けば、最初のページにはやたらと古くさくてでかい門──おそらくブラなんとか門──を背景に、その門に向かってずらっと2列縦隊で並ぶ戦車隊の写真が見開きで載っている。
なるほど、砲や機銃を斜め上に向けて整列する様は、王に仕える歴戦の騎士達が剣を掲げ忠誠の誓いを立てている姿を思い起こさせる。

例え戦車道に微塵も興味が無い人間でも、少なからず高揚を覚えそうな光景だ。

他にも、近くのホテルやショッピングモールでTBL───タンク・ブンデス・リーガの歴代優勝チームパネル展や強豪学園艦による戦車の実演操作イベント、近年国際試合でめざましい結果を上げつつある日本の戦車道特集、果てには陸軍で公式に利用される戦車シミュレーターの体験など催しはかなり充実している。
……シミュレーターまで借り出されてるって事は陸軍も一枚噛んでるのか。

世界に冠たるドイツ戦車道のアピールの場とあって、どうも戦車道連盟も鼻息が荒い。ここ数年海の女神にばかり賞賛が集まった結果、陸の女神の崇拝者達が欲求不満気味らしい。

('A`)(しかし、“パリ広場”ねぇ……)

ふと、アルカンタラマールで出会った巻き毛の戦車兵を思い出す。

アイツとはその後顔を合わせぬまま帰国となったが、今はどこで何をしているのだろうか。






ξ゚听)ξ「お話中にごめんなさい。私にもそのパリ広場?への行き方を教えてほしいのだけれど」

('A`)
9 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:23:15.68 ID:N84Ou5maO
「おや、マドモアゼル。戦車道に興味が?」

ξ゚听)ξ「興味というか関係者というか……ベルリンって大して見るところも無さそうだし、暇つぶしになるなら寄ってみようかなって」

('A`)

「はっはっはっ、これは手厳しい。ですが、戦車道と何らかの関わりがある方なら退屈しないことは保証させていただきます。

これを機に、ベルリンへの印象も変えていただければ幸いですが」

ξ゚听)ξ「善処はするけどそれは私次第ね、えぇ」

('A`)

ξ゚听)ξ「あら」

('A`)






ξ゚听)ξノ「よっす久しぶり、元気してた?」

('A`)「軽くね?」
10 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:24:44.80 ID:N84Ou5maO

《ヴェルヘルム=スハーフェン鎮守府にて行われた定例記者会見の中で、マモン元帥は海上防衛網の盤石性を強調。深海棲艦側はリスボン攻撃の失敗後勢いを欠いている状態だと説明し───》

《ポルトガル政府は本日、日本のミナミ首相に正式に艦娘の派遣を要請することを決定したと発表───》

《えー、駅構内の皆様にお知らせ致します。マリーエンハフェ〜ノルデン間の列車は現在貨物車の脱線が原因で運休となっており───》

《此方レーベレヒト=マース、該当エリアの捜索を完了。未だに捕捉できない、引き続き───》

《台頭著しい日本の戦車道界で、一人の少女の活躍が脚光を浴びています。

国から廃艦を突きつけられた学園艦を救ったその少女は、まさしく現代のジャンヌ=ダルクと言っても過言ではなく───》

《あぁ、そうさ。あのどら息子は集会があるとかいって昨日の夜から家を空けてるさね!はっ、あいつは年がら年中遊び回ることしか考えてないからね!

どうせまたバイク仲間とそこらを走り回ってるだろうよ、電話にも一向に───》

《此方51号車、高速道路沿いで【デビル・ブレーメン】のメンバーと思われる男を一人確保した。

酷く錯乱している、応援と救急車を急ぎで寄越してくれ。

……女?女がいったいどうしたってんだ。それよりお前さん、バイクはどうした?他のメンバーはどこにいるんだ?》
11 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/08(月) 12:29:23.89 ID:N84Ou5maO
ξ゚听)ξ「改めて、フランス陸軍のツン=デレよ。

階級は先日昇格して中尉になったわ。四日前からミュルハイムに配属されているの、よろしく」

('A`)「ドイツ連邦陸軍第11歩兵連隊所属のドク=マントイフェルだ、階級は少尉。

リスボンの時はアンタ達のおかげで助かった」

ξ゚听)ξ「それはこっちの台詞よ。貴方が声を掛けてくれなければ私は今頃2階級特進だったわね。

後、当然のことながらそちらのBismarck zewiにも感謝してる」

('A`)「もしも会う機会ができれば伝えるよ………しかし、ミュルハイムね」

多少フランス訛りがあるものの、非常に流暢なドイツ語に合点がいった。

ミュルハイムには欧州合同軍の一角であるドイツ・フランス合同旅団が駐屯している。
ドイツ語の取得も趣味や酔狂ではなく必要に駆られてのことだろう。

('A`)「それにしてもたった四日でそのレベルか、凄いな」

ξ゚听)ξ「あぁ、配属が四日前ってだけで辞令自体はもっと前から貰ってたのよ。ドイツ語の勉強も別件もあって二ヶ月前ぐらいから既に始めてたし」

ツンはコーヒーを飲み干しながらそう言って肩を竦める。
……いや、二ヶ月でもここまで完璧にできるか?ドイツ語って他の国の奴等からしたら難しいって聞いたことあるんだが。

ξ--)ξ「一応リスボンの時点で日常会話ぐらいならこなせはしたけど、あの急場だと表現のすれ違い一つでお陀仏の可能性もあったしね。

だからやりとりはより使い慣れている英語でやらせて貰ったの」

つまり英語も本来ならもうちょっと高いレベルで扱えると。なるほど、合同軍に派遣されるだけあってかなり優秀なようだ。

('A`)「………あー、ところで中尉殿」

ξ゚听)ξ「……急に他人行儀ね。何?」

('A`)「何故自然な形で相席を?」
12 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:32:33.74 ID:N84Ou5maO
ξ゚听)ξ「………」

依然として俺の目の前の席に座りながら、ツンは何故か空になったコーヒーカップを口元に持っていき傾けた。

フランス式のテーブルマナーだろうか。

ξ゚听)ξ「……ほら、あれよ。お店混んでるから、ね?見ず知らずの他人と相席になってもアレだし」

('A`)「……」

言われて店内を見回す。確かに朝の八時半にしては異例の人入りなのは確かだが、空席は皆無じゃない。窓際のカウンター席は寧ろ若干の余裕すらある。

ξ゚听)ξ「それに貴方と私の仲で挨拶無しって言うのも変だしほら助けて貰った御礼もしっかり言えてなかったし何より見知らぬ土地で見知った顔に会えたから少し安心したというかまぁそういうね深い意味はないのよ別に」

一時間弱同じ戦車に乗っていたことが“深い仲”と言えるかどうかは議論の余地があるだろ間違いなく。
しかしやけに早口だな、やはり取得期間が短かった分ドイツ語は慣れない面もあるのか。

ξ゚听)ξ、「その……相席が迷惑って事なら移動するけど」

('A`)「疑問に思っただけで別に迷惑じゃない。そっちが構わないなら俺はこのままでいい」

ξ*゚听)ξ「!」

ξ;*゚听)ξ「そ、そう!な、ならこのまま相席でいいわね!

別に私はどっちでもいいけど!どっちでもいいけど!!」

('A`;)「……そうか」

15分にも満たない時間の中で、俺は一つ学ぶ。

目の前のフランス人女性は、割と変な奴らしい。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/08(月) 12:40:51.64 ID:N84Ou5maO
秋口の空模様のように表情を安定させないツンを面食らって眺めつつコーヒーカップを持ち上げるが、いやに軽い。覗いてみるとカップにはなにも入っていなかった。

ドイツには空のコーヒーカップに口吻をする習慣はないので、通りすがったウエイトレスにお代わりを注文する。

ξ゚听)ξ「貴方、この後予定はないのね?」

そう尋ねつつもう一度カップを口元に持って行こうとしたツンは、一瞬眼を見開いてカップの中を覗き込んだ後「私にもお代わりを」とウェイトレスに手元のそれを差し出す。
……はて、ではさっきの動きはいったい何だったのだろうか。

('A`)「というか待て、何を根拠に決めつけてるんだ?」

ξ゚听)ξ「予定のある人間がウェイター呼び止めてわざわざベルリンの見所なんて聞くかしらね?」

('A`)「……」

ぐうの音も出ない正論を叩きつけられ、口にコーヒーと苦虫を含んで黙り込む。単に変な奴というわけではなく、存外鋭い。

('A`)「軍人やめて探偵でも始めたらどうだ?女エルキュール=ポワロになれるぜ」

ξ--)ξ「よく勘違いされるけど、ポワロはフランス語圏に住んでるだけでベルギー人よ。それに私、子供の頃あこがれたのはアルセーヌ=ルパンの方だし」

ああ言えばこう言う奴だ。

('A`)「仰るとおり、何も特に決めてないよ。というかドイツ人でありながらベルリンに来たこと自体数えるほどしかないな」

ξ゚听)ξ「そう……」

ξ゚听)ξ

ξ゚听)ξ「あー………んっん。その、私はフランス広場の戦車道展に行こうと思ってるんだけど、良かったら貴方も一緒に来る?」

('A`)「え?」

ξ゚听)ξ「ほ、ほら。それなりに扱えるようになったとはいえやっぱり私のドイツ語なんて付け焼き刃だし?ベルリンも私は完全に初めてだし?その、もし行くところがないなら一緒に回ってくれないかしら……なんて……」

('A`)「別に構わんが、エスコートといえるような上質な案内はできなi」

ξ*゚听)ξ「そ、そう!!なら仕方ないから貴方にエスコートされてあげるわ!

別にどっちでも良かったけど!!どっちでも良かったけど!!」

('A`;)「……」

どっちでも良かったのなら、一人でさっさとフランス広場に行けばよかったんじゃないだろうか。
14 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:42:45.62 ID:N84Ou5maO


《何度も言うがこんなこと陸軍の連中にも上にも知られるわけにはいかんのだ!!類を見ない大失態だぞ!?何としても内々に処理を───》

《軍のヘリがやたらと飛んでるな……また深海棲艦か?

あぁいや、こっちの話だ。そろそろ家を出るから駅で待ち合わせを───》

《ドイツ中央は今日も厚い雲に覆われ、ベルリンを中心に強い雨が────》

《先年から続くウクライナ問題についてEU加盟各国は引き続きロシアに対応を要請していますが、ロシア政府は深海棲艦との戦闘激化を理由に返事を引き延ばし───》

《BFM-TVよりニュースです。フランス海軍は我が国唯一の艦娘であるコマンダン・テストの配備数が昨日丁度40隻目になったと発表。新たなコマンダン・テストは深海棲艦の本土上陸への備えとして内地に配備される予定で────》

《France 24から臨時ニュースをお伝えします。つい先ほど、フランス・ドイツ国境付近のA-320番道路にて大規模な陥没・崩落事故が発生した模様です。

死傷者についての情報はまだ入っておらず、フランス陸軍・消防・警察が急行中とのこと。

付近の住人の皆様は、決して現場に近づかないようにしてください》
15 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:44:41.56 ID:N84Ou5maO





あまり早く出過ぎてしまってもそれだけ雨に多く当たることになると考え、1時間ほどカフェテリアで潰してからホテルを後にする。

ぱらりと傘を開いて一歩外に踏み出す。大量の雨粒がナイロン生地の上で弾け、たくさんの子供が裸足で走り回っているようなバタバタという音が耳朶を打った。

フランス広場までの道中を、並んで歩きながら他愛のない会話で潰す。会話と言っても、ほとんどはツンが一方的に喋り俺は軽く相づちを打つ程度だが。

ξ゚听)ξ「にしても、このご時世によく軍属で一週間も休暇なんて取れたわね」

('A`)「そりゃドイツ陸軍上層部のありがたーーいご厚意………と言いたいところだが、世間体半分、もう半分はある種の嫌がらせだろうな」

深海棲艦の襲撃が続き、陸海空軍全てが厳戒態勢を維持している欧州にあって一人だけ優雅に一週間バカンス。特に最前線で命がけの日々を送る海軍並びに艦娘からしたら、深海棲艦より先に俺をぶち殺したくなるような案件だろう。

陸軍にしたって、決して良い気持ちがするものとは思えない。ジョルジュやビロードやミルナ中尉、ティーマスのように理解してくれている(と思いたい)面々はともかく、話だけを聞いた奴等からすれば俺は敵前逃亡した臆病者にしか見えない。
 _,
ξ゚听)ξ「……特に何もしてないのに罰を与えるの?ドイツって割と変な国ね」

ツンはそう言って首をひねったが、上層部の当たりが異様に悪い理由は察しがついている。

('A`)「広告塔がほしかった陸軍の期待に添わなかった結果だな」

艦娘の実装で深海棲艦が大西洋に叩き出されて以来、陸軍の存在感は海軍に比べてあからさまに薄くなった。ポルトガルでの一件は久しぶりのアピールの場だったが、それもBismarck zwei という“救世主”の登場にかっさらわれた。

人類の平和よりも自分たちの権力の方が大事らしい上層部は、「陸軍の功績」を大々的に発表するために俺に白羽の矢を立てたというわけだ。そんなものに参加させられたくなかったので断ったが。

小耳に挟んだ話だが、将軍の一人は「いっそ名誉の戦死を遂げていてくれていた方が好き勝手に脚色できたのに」とこぼしたらしい。
16 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:48:52.78 ID:N84Ou5maO

ξ゚听)ξ「……陸海軍の啀み合いはどこも同じってわけね」

('A`)「やっぱりフランスも酷いのか?」

ξ゚听)ξ「貴方たちよりもね。

ウチの海軍が実装している艦娘はコマンダン・テストだけ、数もようやく40隻に過ぎない。それで艦娘の数を増やしたい海軍と、増やされたら困る陸軍が泥沼の主導権争いしてるわ」

ツンはそう言いながら、心底不快げに息を吐く。

ξ--)ξ「しかもその陸軍の中でも、海軍との協調も必要だとする穏健派とこれを機に陸軍の指導力を徹底的に強化しようとする強硬派が権力争いの真っ最中よ」

('A`)「……」

ξ゚听)ξ「………私ね、所属する部隊の隊長に聞かれたのよ。君は“どっちの派閥に入る気だ”って。

今は国のために戦っているので、どっちにも入りませんって答えたら………」

('A`)「ジャガイモとソーセージの国に飛ばされた、と」

::ξ* )ξ::「ゴフッ………そ、その通りだけど、人が真面目な話してるときに笑わせに来るのやめなさいよ」

……優秀さを買われての抜擢ではなく、中央から遠ざけるための左遷だったと。

われわれの真の国籍は人類である────確か、H.G.ウェールズの言葉だったか。

“深海棲艦”という共通の脅威を前にしても、【人類共和国】の設立は残念ながら難しいようだ。
17 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:51:19.41 ID:N84Ou5maO

ヤパーヌ製の高性能防水傘さえあまり役に立たない大雨の中で、しかしながらフランス広場は傘を広げた多くの人でごった返す。

('A`)「………おぉ」

そして、その人混みが納得できる程度には確かに“その眺め”は荘厳だった。

ブランデンブルク門へ向かって伸びる石畳の道路、その両脇にパンフレットと全く同じ構図で並ぶ歴代のドイツ軍戦車。

最も手前にはドイツ軍が世界に誇る、“最強の戦車”ケーニッヒ・ティーガーと第一次大戦時にの最初の戦車であるA7V。この二台を先頭に、優に30は越えるであろう戦車・軽戦車・自走砲が門へ向かって鎮座する。
最奥、門のすぐ手前では超重量戦車マウスとカール自走臼砲が巨躯を晒し、あえての演出なのか砲を広場へ入ってくる人々に向けていた。

門の上に鎮座する、おそらく大昔の王様と思われる馬車に乗った銅像の存在も併せれば、雨靄の中に悠然と佇む戦車群はまさに“精強な騎士団の整列”だった。

会場周囲は万一の車両の誤作動やテロを警戒してか、ドイツ陸軍の顔も知らぬ同僚達が一個小隊ほど警戒の任にあたっている。
とはいえ景観への配慮からか身につけているのは全員Reichswehr時代の軍服だ。邪魔になるどころか彼らの存在もまたこの眺めの重厚さを増すのに一役買っていた。

ξ*゚听)ξ「────Tr?s bien」

隣で、恍惚とした表情を浮かべてツンが呟く。

TBLの試合をニュースで追う程度の関心でしかない俺でもこの光景には圧倒されているのだから、実際に戦車と関わり愛着を持っている人間からすれば例え他国のものであっても相当な感動を受けるに違いない。

ξ*゚听)ξ「アーーー……アーーーっ!!

ドク、もうちょい近くで見るわよ!行くわよ!!」

('A`)「ぉK、落ち着け。この雨の中ですっ転んだら悲惨だぞ」

興奮状態のツンにほとんど引きずられるようにして、俺は門の方へと向かう。正直一緒に居るのが少し小っ恥ずかしくなるぐらいのはしゃぎようだが、幸いどいつもこいつも居並ぶ戦車達に釘付けだ。

まぁ、せっかく来たんだし少し見て回ろう。そう考え直し、顔を上げ────

18 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:52:26.82 ID:N84Ou5maO







─────眼が、合った。



19 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:54:29.72 ID:N84Ou5maO

('A`)「…………」

広場を埋め尽くす人混みの中で、

“それ”は。

“そいつ”は。

ただ一人、俺たちを見据えていた。

『…………』

土砂降りの中で傘も差さず、佇む影。

ブランデンブルク門の、丁度真下辺り。そこから向けられた赤い瞳は、間違いなく俺たちを───俺を見据えている。

(;'A`)「………」

一時期軍内でも話題になったバイカーギャングのエンブレムがついた革のジャケットを着ているせいで、一目見ただけではただの人間にしか見えない。実際周囲は大雨の中で傘を差さずにいるそいつを奇異の目線でちらりと見た後避けこそすれ、誰も騒ぎ立てはしない。

それでも、俺には解った。

漆喰で塗り固めたような白い肌。

対照的に、血のように紅い双眸。

“奴等”にしては滑らかで自然な笑みを浮かべた、口元。

ヤァ、マタ会ッタネ。

まるでそう言いたげな笑みを浮かべて、奴は────重巡リ級eliteは、挨拶するように左手をひょいと上げる。

腕周りに、艤装が展開された。

(;'A`)「────伏せろ!!」

ξ;゚听)ξそ「きゃあっ!?」

傘を投げ捨て、ツンに飛びつき、地面に転がる。





─────砲声。

轟音と共に、ブランデンブルク門が崩落した。
20 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 12:55:50.32 ID:N84Ou5maO
お昼休み中に書きため第1波。第二波は夜辺りに。

今回かつてない(私にしては)長丁場になる予定ですが、お付き合いいただければ幸いです
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/08(月) 12:57:14.29 ID:jgwlT8fXO
いいね
ブーン復権支援支援
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/08(月) 12:59:32.98 ID:R1TydmEK0
これって前作とかあるの?
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/08(月) 13:05:38.28 ID:cFSa5Hteo

ツンドクいいぞ^〜
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/08(月) 14:57:08.71 ID:odpUzXbBO
乙、こないだのやつの続きか
25 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/08(月) 22:32:25.49 ID:Z9goZ7tp0
《あー……此方51号車。現場に到着したが酷い有様だ、死体がそこら中に───》

《此方43号車、デビル・ブレーメンのユニフォームを着てバイクで走行中の一団を捕捉。これより追せk

《42号車より43号車、状況を報告せよ!それと今の爆発音はなんだ!?おい、43号車───》

《プリンツ・オイゲンよりHQ、観測機が奴等を捕捉しました、24号道路です……タ、タ級elite2隻!?HQ、単艦での対処は困難、至急増援を────》

《ば、ば、ば、バイクに乗った女が突然ぶっ放してきたと思ったらパトカーが吹き飛んじまったんだよ!!ありゃイスラムのテロリストにちげえねぇ、早く来て────》

《元帥、陸軍局から問い合わせです!民間から深海棲艦が現れたという通報が入ったと────》

《誤情報だと言っておけ!何度も言うがこのことは奴等にバレては───》

《げ、元帥!!ベルリンに、ベルリンに深海棲艦が!!》

《……………何だと?》

《ラベ川よりハンブルクにル級4体の上陸が確認されました!民間から通報があった模様!》

《ハノーファー北部、七番道路にて陥没事故発生!無人偵察機が急行していますがおそらく深海棲艦による攻撃です!!》

《ヴンストルフ空軍基地に【Helm】による大規模な空襲を確認!!同基地よりグラーフ・ツェッペリンの出撃要請が出ています!!》

《ネルフェニッヒ航空基地からも要請が到着!ル級による砲撃も行われているとのこと!!》

《イェーファー空軍基地からも同様の要請あり!》

《何が、何が起きている……?》
26 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/08(月) 22:35:03.98 ID:vhkD1UQdO
《France 24より緊急放送です。A-320番道路にて、艦隊規模の深海棲艦の出現が確認されました。現在陸軍が迎撃を敢行すると同時に、警察と連携して避難誘導を各地で行っています。フランス東部の皆様は、誘導に従い速やかに避難してください》

《北ドイツ放送より北部住民に緊急放送をお送りします。複数地域に深海棲艦が出現したという通報が陸軍・海軍局に入りました。最低限の身の回りの物のみ持って迅速な行動を心がけて下さい》

《ZDFより特別報道を行います。

この映像が見えますでしょうか、ドイツ各地に深海棲艦の艦載機が襲来しております。街に容赦なく爆弾の雨が降り注いでいます。人が、建物が、次々となぎ倒されていきます》

《ドイツ海軍から、深海棲艦の本土上陸に関する公式のコメントは未だにありません。複数箇所で艦娘と海軍陸戦隊、陸軍が展開、深海棲艦への反撃と遅滞を行っている模様です》

《既に幾つかの地方支局と連絡が取れない状態になっており、ドイツ国内は混乱の極みに達しています》

《BBCから衝撃の映像をお届けします。ドイツ・フランス両国で深海棲艦の大規模な内陸侵攻が確認されました、ご覧下さい、ル級が砲撃を放ちながら道路を闊歩しています》

《オランダ政府は陸軍を国境線へ出撃させたと発表、同時に国民に、政府公式発表を絶対に聞き逃さないようにと注意喚起のコメントを添えています》

《CNNドイツ支局との連絡は途絶しており、フランス支局も混乱状態で正確な情報が入ってこない状況です。

ホワイトハウスは在独アメリカ人の保護と、友好国であるフランス・ドイツの救援に最大限力を尽くすと談話を発表。

大西洋上で深海棲艦の警戒に当たらせていた第六艦隊をイギリス海峡に派遣、ドイツ・フランス救援作戦を発動する模様です》
27 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/08(月) 22:41:04.57 ID:vhkD1UQdO

.




真下から門に向かって放たれた、重巡洋艦の主砲撃と同程度の威力を持つ一撃。積み重ねた300年の歴史とやらは、その前にはあまりにも無力だ。

門は上部中央を破砕され、両断状態となった支柱は音を立てて崩れていく。

そして────“真下からの砲撃”によって上空に撃ち上げられるかたちとなった門の残骸が、迫撃砲弾のような軌道で周辺へと降り注いだ。

「────えっ」

「……は?何?うs」

ツンを庇って地面に伏せる俺の周りで、事態を飲み込めぬまま石の弾丸に人間が叩きつぶされるしめった音がいくつも雨音をかき消して聞こえてくる。噎せ返るような血の臭いが、一瞬で広場に充満した。

ξ;゚听)ξ「……ドク、いったい何が」

(#'A`)「逃げるぞ!!立て!!」

ξ;゚听)ξそ「あ、えっ?」

瓦礫の飛翔が納まったのを確認し、まだ理解が追いついていないツンの腕を引いて立ち上がらせる。

走り出しながら背後を見やると、リ級eliteはニヤニヤとからかうように笑いながら此方に腕を向けていた。

(;'A`)「────皆、散れーーーーーーーーっ!!!!」

ξ;゚听)ξ「きゃあっ!?」

未だにボケッと突っ立っている広場の奴等に向かって絶叫しつつ、ツンを抱きかかえて先ほど落下してきていた瓦礫の影へと転がり込む。下敷きになっている紅い染みと白い脂肪、それから左手が眼に入ったが気にしている暇はない。

『♪』

熱と鉄の塊が、リ級eliteの右腕艤装から吐き出される。第4世代戦闘機の装甲をも引きちぎる威力と速度を誇る弾丸が、雨粒を切り裂いて先ほどまで俺たちが居た場所を駆け抜けていった。

「ふぁっ」

「ああああああああああえあっ!!!!?」

叫び声に反応した幾らかは、俺の後に続いて物陰に飛び込み避けられたようだ。だが、そうできなかった奴の方が遙かに多い。

ξ;゚听)ξ「っ」

射線上の人体が引き裂かれ、砕かれ、意思がある人間から物言わぬ肉塊へと姿を変えて路上に横たわる。響き渡る断末魔に腕の中でツンの身体がびくりと震えた。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/08(月) 22:44:40.64 ID:vhkD1UQdO
「撃て、撃て!!」

「早く広場の外に逃げろ!!巻き込まれるぞ、急げ!!」

「此方フランス広場、敵襲を受けている!至急増援を派遣してくれ!!」

機銃掃射が納まると同時に、広場のあちこちで銃声が幾つも上がる。

先ほどの瓦礫の雨と掃射から生き残った警備担当のドイツ兵達が、H&K G36Cを構えリ級eliteに向けて引き金を引いていた。同時に、広場の外からも民間人に逃げるよう促しつつ20名あまりがなだれ込んでくる。

誰もが、死を覚悟した顔つきで。

('A`)「行くぞ」

ξ゚听)ξ「……私たちも戦」

('A`)「俺たちがあっちに入っても意味はない」

ξ;゚听)ξ「……」

あえて、感情を殺して平坦な声で答える。

事実、俺たちが彼らに加わったところでできることはない。俺もツンも武器を持っていないし、もし持っていたとして「歩く重巡洋艦の装甲」を歩兵の携行火器ごときで抜けるはずもない。

そして彼らが生を捨ててまで稼げる時間も、あのリ級が最大限に「遊ぶ」であろう事を考慮に入れても15分あれば十分な“健闘”だ。

ならばせめて、彼らの意思を少しでも無駄にしないように選択する。

('A`)「急いでここから離れろ!!東だ、東へ向かえ!!」

ξ゚听)ξ「もし怪我人が居たら手の空いてる人で運んで!押さないで、押し合うとかえって逃げ足が遅れるわよ!!」

ようやく現状を認識して会場出口に恐慌状態で殺到しようとする人の波を誘導し、パニックや怪我で動けない奴等を立たせ、促し、リ級から遠ざけていく。

('A`)「こっちだ、早く!!」

座り込んで泣き喚く子供を抱え上げ、その母親と思わしき女の背を押し進ませる。

一瞬、背後に視線を向けた。

「………」

警備隊の指揮官と目が合う。彼は微笑み、ありがとうとでも言いたげに此方に向かってサムズアップした。

「────Los, Los, Los!!」

突撃の号令、アサルトライフルを構えた兵士達が弾丸を放ちながらリ級との距離を詰めていく。俺は彼らに背を向け、母親の背中を先ほどより強く押す。

指揮官の右手薬指に輝いていた指輪の存在を、無理やり脳内から追い出す。

やがて、H&K G36Cのそれよりも遙かに重苦しい銃声が後ろで鳴り響いた。
29 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 22:46:07.00 ID:vhkD1UQdO
「おい見ろ!陸軍の援軍だ!!」

「頼むぞ、あいつをやっつけてくれ!!」

広場を後にしてほんの数分。ベルリン大聖堂──“敬虔なる信徒”だった両親のおかげで、俺が唯一明確に認識しているベルリンの建造物──の前に差し掛かった辺りで、プーマ装甲戦闘車三両とすれ違う。
周囲の人々は安堵の息と共に彼らに歓声を送り、程なくして広場から機関砲の軽快な発射音が聞こえてくるとそれは更に大きくなった。

俺とツンを除いての話だが。

ξ゚听)ξ「さ、後は陸軍がきっとなんとかしてくれるわ!私たちは今のうちに逃げましょう!」

('A`)「ここなんてまだまだ奴の射程圏だ、流れ弾が飛んできたら元も子もないぞ!!」

彼らのおかげで恐慌が治まってくれたのは幸いなので、わざわざ事実は告げない。だが、相手は「歩く戦艦」だ。機関砲で障壁を抜ける相手ではない。

副兵装のスパイクLR対戦車ミサイルなら或いはダメージを与えられるかも知れないが、それも「当たれば」。

要は、時間稼ぎが「何分延ばせるか」の問題だ。

ξ゚听)ξ「……それで、どこに誘導する気?」

('A`)「………まずは東だ。あくまでも“見る限り”だが、他に安全な方角はない」

小声で問いかけてきたツンにそう返しながら、俺は改めて辺りを見回した。
30 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 22:51:08.00 ID:vhkD1UQdO

('A`)「………クソッ」

───やはり、見直したところで黒煙が上がっている箇所がフランス広場だけではないという事実は変わらなかった。

西でも、北でも、南でも、まるで空の黒雲が地面から立ち上っているのではと錯覚するほどに。

太く黒い煙の柱が天へ昇っていく。

幾筋も、幾筋も、根本にオレンジ色の炎をちらつかせながら。

警察車両や救急車のサイレンが、或いは市民に避難を促す役所の放送が、風に乗って聞こえてくる。それらの幾つかが、爆発音の後に不自然に途切れた。

今、この街で何が起きているのか───グランド・スクールに入りたての子供でも解る簡単なクイズだ。

('A`)「黒煙が上がってないってのもそうだが、実際こっちはプーマが走ってきた方角でもある。少なくとも、陸軍がそれなりの規模で防衛線を展開しているはずだ」

ξ゚听)ξ「展開している“はず”、ね……」

そう、100%ではない。プーマが東からやってきた理由がたまたまである可能性も、俺たちが深海棲艦共によって罠に誘い込まれている可能性も十分にあり得る。

それでも、他に選択肢がないのも確かなことだ。

ξ--)ξ-3「ま、あんたの予想が当たることを神にでも祈りましょうか」

('A`)「あぁ、祈るのは勝手だがそいつに捧げるのはやめといた方が良いぞ」

ツンも、逃げ道が限定されていることは理解している。肩を竦めながら賛同してくれた彼女への感謝から、俺は一つだけ忠告しておくことにした。

('A`)「どんなに必死に祈っても、あいつらが応えてくれることなんて滅多にないさ。

お宅のところのジャンヌ=ダルクだって、最後には見捨てられただろ?」

ξ゚听)ξ「………あんた、友達少なかったでしょ」

('A`)「何で過去形なんだ?現在進行形で少ないぞ」

ξ;゚听)ξ「何で自慢気に胸張ってるのよ………」


.
31 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 22:55:35.24 ID:vhkD1UQdO







レヒフェルト航空基地の滑走路に、次々とUH-1/D?イロコイが着陸していく。

機内から降り立つ兵士達も、それを迎える側も一様に表情は暗く険しい。彼らの多くはベルリンや、或いは自身の故郷が────即ち祖国ドイツが現在どのような状況下を正確に認識していた。更に言えば、この事態が半ば“人災である”という点にも、一部の兵士達は気づいていた。

(?゚д゚?)「…………やはり、そうか」

〈::゚−゚〉「あぁ、完全なヒューマン・エラーだよ」

早々に滑走路を後にし、ブリーフィングルームへ直行していたミルナ=コンツィもまた、“勘づいていた”内の一人だ。彼の予測は、廊下で一緒になった同僚からの申告によって“事実”にたった今変わった。

〈::゚−゚〉「警戒網をかいくぐったヒト型の深海棲艦複数体が沿岸部から国内に侵入していた可能性は、海軍は昨日の内に既に把握していたそうだ。

ただ、問題が発覚すれば自分のキャリアに傷がつくとマモン元帥が現場の艦娘と提督達に箝口令を敷いてね。極秘に見つけ出して始末するつもりだったようだが、結果はご覧の有様さ」

(?゚д゚?)「そこまで正確な情報が入ってるとなると、エラーはこっち側にも責がありそうだな」

〈::゚−゚〉「当然。私たちの上層部は、海軍が陸戦隊や艦娘を内陸に動かしていることに早い段階で気づいていた。ただ、彼らの愉快な思考回路はその光景を見て“国家と国民の危機”ではなく“海軍を追いおとすチャンス”だと考えた。

彼らは、海軍の失敗がより致命的なものになるまで泳がせておくことにした」

(?゚д゚?)「…………そして、陸海が予想してたよりも遙かに多くの深海棲艦が入り込んでいた結果、通報も民間への警報も戦力の編成も何もかも後手に回ってこのザマか」

ミルナは意図的に、深く深くため息をつく。そうして落ち着いておかないと、彼はまず部下達にコブレンツの陸軍指揮司令部への攻撃を命じかねなかったからだ。
32 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/08(月) 22:57:46.58 ID:Z9goZ7tp0
( ゚д゚ )「それで、核爆弾の方は?」

〈::゚−゚〉「在独米軍が回収済みだ。ビューヒェルのB-61は全弾深海棲艦の襲撃前に移送を完了した」

ミルナの問いかけに、イッシ=ストーシュル陸軍少佐は即座に答えつつ皮肉な響きを声に含ませた。

〈::゚−゚〉「かの国の軍が我々ほどお花畑な脳みそは持ってなかったのは幸いだな。海軍の動きがおかしいことに気づいた時点で、米軍の上層部は緊急時に備え核の運搬用意をさせていたらしい。

ホントに、迅速な対応には感謝してもしきれない」

( ゚д゚ )「全くだ」

アメリカ軍の管理下、ドイツ国内で唯一核兵器が配備されているビューヒェル航空基地。
目と鼻の先であるネルフェニッヒが襲撃されたと聞いたとき、ドイツ軍の誰もが“最悪の事態”が頭を過ぎり顔色を無くした。

一国の軍事組織としては赤っ恥以外の何者でも無いが、恥か核爆発かを選択するならどんな内容であろうと前者一択だ。

( ゚д゚ )「戦力の再編状況は?」

〈::゚−゚〉「当たり前だが艦娘の集結はほとんどできていない。主要戦力は北部沿岸に居たわけだが、最早南北を繋ぐ交通網は壊滅状態だ。ヴェルヘルム=スハーフェンの司令府とは連絡こそついているが、機能はほぼ停止している。

艦娘どころの話じゃない、陸軍戦力さえ集結が完了したのはようやく30%だぞ。

本当に、上のアホ共が権力争いごっこに夢中になった挙げ句がこれだ」

ほとんど蹴破るようにして、イッシはブリーフィングルームの扉を開ける。途端廊下にはコンソールを叩く音や通信を試みるオペレーターの声が溢れかえるが、彼女はミルナを連れて脇目も振らずに奥の机へ直進した。

〈::゚−゚〉「大佐、戻りました」









(`∠´)「あぁ、待っていた」
33 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/08(月) 23:03:19.09 ID:Z9goZ7tp0
その男の容姿を一言で言い表すなら、“南部戦線帰りのシャーロック=ホームズ”だろうか。

オールバックでまとまった黒髪に、細く鋭い眼光。肌はたたき上げの軍人らしく日に焼け、幾つもの小さな傷が刻まれている。
6フィートと少しの長身は一見すると細く頼りないが、軍服の下に鋼のような鍛え抜かれた筋肉が眠っていることが覗えた。

特に目につくのは鼻で、お伽話に出てくる魔女の顔にうってつけなほど見事な鉤鼻である。

足を組んで机に座るその男の姿を見て、ミルナは思わず襟を正す。

出世という物に興味が無く軍上層部の人物相関に疎いミルナでも、その男のことは知っていた。否、ドイツに住まう人間ならば、“知っていなければいけない”人物だ。

(`∠´)「初めましてミルナ=コンツィ中尉。ベル=ラインフェルトだ」

(?゚д゚?)「存じ上げています、ラインフェルト大佐。お目にかかれて光栄です」

差し出された手を握り返すとき、震えが走らないようにするのに苦労した。
34 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/08(月) 23:04:59.48 ID:Z9goZ7tp0
ルール攻防戦、ラベ川封鎖作戦、アムステルダム救援戦など、艦娘のヨーロッパ配備前にドイツ軍が携わった主要な深海棲艦との“陸戦”。

そのほとんどに参戦し、内陸浸透の危機を幾度となく跳ね返した「21世紀のマンシュタイン」、それがベル=ラインフェルトだ。

同時に、艦娘の配備後に泥沼の権力闘争を繰り広げる陸海両上層部を痛烈に批判して形だけの昇格で閑職に追いやられた「問題児」でもあるが。

(?゚д゚?)「大佐が何故ここに?確か交流武官としてイタリアに派遣されていたはずでは」

(`∠´)「戦車道展での舞台挨拶を押しつけられてしまってな、たまたま帰国したところにこの騒動が起きたというわけだ。事態収拾のために、今から私が指揮を執る」

(?゚д゚?)「それは心強い。……しかし、状況が状況というのもありますがそれを差し引いてもよく上があっさりと許可しましたね」

〈::゚−゚〉「あぁ、上層部はこのことを知らない」

(?゚д゚?)「は?」

〈::゚−゚〉「いや、ほら。クソバカが現場に介入するとめちゃくtゲフンゲフン……んっん。何せ我々ドイツ軍の頭脳に当たる方々だからな、万一があったら多大な損失だ。

全員安眠の上、輸送ヘリに詰め込んでポーランドの方に飛ばしておいたよ」

(;゚д゚?)「………そうか」

ミルナは深く突っ込まないことにした。
35 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 23:07:41.64 ID:Z9goZ7tp0
(`∠´)「さて、挨拶はこのぐらいにして、仕事の話に移ろう。

コンツィ中尉、君のポルトガルでの活躍は聞いているよ。ストーシュル少佐の戦車隊も心強い限りだ。二人とも宜しく頼む」

( ゚д゚ )「はっ、恐縮です」

〈::゚−゚〉「ご期待に応えます」

(`∠´)「現状だが、単刀直入に言おう。絶望的だ。

北部は陸海空全ての主要な軍事拠点が深海棲艦の襲撃を受けて通信途絶或いは混乱状態、民間人の犠牲者も既にまともな把握が不可能な数までふくれあがっている。

リーンウッド首相を始めドイツ首脳も安否不明、深海棲艦の内陸侵攻という事態に伴い欧州の全空港は全便を緊急欠航。ドイツ・フランス全学園艦の退避受け入れによりイギリス、スウェーデン、ポーランドは海路の物流も滞った。経済損失もこの僅かな時間で既に数百億ユーロに上るだろうな。

だがそういう状況下にあってなお、我々は敵の正確な規模さえ把握できていない」

(;゚д゚ )「……」

〈::゚−゚〉「……」

(`∠´)「そしてつい10分前、もう一つ悪いニュースが飛び込んできた」

ベルはそう言って、二枚の紙を机の上に置く。ミルナとイッシは同時に手に取り、同時に眼を通し、

(B゚д゚)

〈B゚−゚〉

同時に、顔色を失った。

(`∠´)「海軍も我々同様、下の方は決して毒されていない。この情報は警備府の提督がリークしてきたものだ。

………ただ、この混乱の中で情報の到着が遅れた」

言いながら、ベルは二人の顔色を見て口元に笑みを浮かべる。

尤も、眼は微塵も笑っていなかったが。





「7時間前より、ルール地方の艦娘艤装製造工場からの定時連絡が途絶している。調査に向かった海軍陸戦隊も消息を絶った。

………おそらく、深海棲艦の手に落ちたとみていい」
36 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/08(月) 23:14:08.02 ID:Z9goZ7tp0

《Россия?1より深海棲艦の欧州襲撃に関する続報です。

連邦政府は先ほどクレムリンより、モスクワ周辺に首都防衛機甲師団を展開したと正式に発表。同時に、防共協定に基づきアメリカ、日本にも相互連携の確認を電話で行い、政府は欧州の“失陥”も視野に入れた防衛計画を練っている模様です》

《ポーランド政府は先ほど、西部全住民に避難警報を正式に布告しました。陸軍が出動し、国境の防備を固めています》

《スヒップホル空港には海外への避難を望む人々が殺到し、港内は大変な混雑状況です。

また、南オランダでは恐慌状態となった民間人の一部が暴徒化し、陸軍と警察が鎮圧に動いています》

《ベルギー政府より国民の皆様にお知らせ致します。ドイツ・フランスへの深海棲艦襲撃に伴い、多くの流言が飛び交っている状態です。決して慌てないで下さい。基本的に、政府からの公式発表にのみ耳を傾けて下さい》

《ルクセンブルク市は無法地帯となっています!そこかしこのスーパーが襲われ民家に人々が押し入り………いや、やめて、放して───きゃあああああ!!?》

《イタリア海軍は陸軍との共同展開に備えて北部に一部艦娘戦力を転用、ドイツ・フランス両国への増援派兵も視野に連絡を試みていますが、どちらも混乱が続き連絡がつかない状態のようです。

また、ターラント海軍基地より艦娘のRome、Paula、Aquila、Libeccio、そして強襲揚陸艦ジュゼッペ・カリバルティを旗艦とした洋上打撃艦隊6隻を編成し地中海に展開。イタリア政府は深海棲艦の別方面からの襲撃に対応するための物だとして、近隣諸国に理解を求める声明を発表しました》

《スペイン政府はイタリアのこの迅速な対応を評価する一方、我々のジブラルタル海峡における警戒はリスボン沖の惨事以来徹底していると主張。イタリア海軍の地中海への展開を、“過剰な反応である”と批難しています。

また、スペイン国民の皆様にお知らせします。現在ドイツ・フランスにおける深海棲艦の襲撃によって、欧州全体に大きな動揺が広がっています。

決して不確かな情報に惑わされず、落ち着いた行動を心がけて下さい》
37 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/08(月) 23:15:38.68 ID:Z9goZ7tp0
第2波ここまで。基本昼&夜の二回更新になると思われます。

ご静聴ありがとうございました
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/09(火) 01:04:49.98 ID:pDjhVfSA0
乙です、これはツンを応援しなければw
それにしても平時以上に荒れやすいにしろ、化け物相手にしてる中でよく足の引っ張り合いができること…国民と配下の部隊が辛過ぎる
39 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/09(火) 13:14:15.01 ID:B042YGid0







ベルリン大聖堂を通り過ぎてからの20分ほどの逃避行の中で、更に四台の装甲車と相次いですれ違う。
最初こそ上がっていた激励の歓声は回を追うごとに少なくなっていき、最後の一台の時には誰も顔すら上げなかった。

まぁ、当然だろう。一向に治まらないどころか、激しさを増していく戦闘音。黒煙が立ち上る数は増え、逆にパトカーや救急車、消防車のサイレンは次々と途切れていく。何より、これほどの騒ぎにも関わらずヘリや戦闘機は一機たりとも市の上空を飛んでいない。

どれだけ鈍くて楽観的な人間でも、ベルリンが置かれている状況がいかに悲惨かは見えてくる。

「押さないで、誘導に従うんだ!」

「深海棲艦は陸軍と警察が食い止めている!まだ来ない、安心して下さい!」

なので、予想(というより願望)通りに築かれていた陸軍とベルリン市警の共同防護陣地にたどり着いたときに、誰よりも安堵したのは俺とツンだ。

ξ;゚听)ξ「正直、危なかったわね」

(;'A`)「全くだ」

深海棲艦に対する恐怖から暴動一歩手前だった避難民達の悪意は、明らかに東への逃走を先導した俺とツンに向けられていた。もし実際に彼らが暴徒化して俺たちの私刑(リンチ)を始めた場合、幾ら軍隊格闘の経験があってもこの人数を丸腰で抑えることは不可能だったに違いない。
40 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/09(火) 13:16:04.20 ID:B042YGid0
ξ゚听)ξ「先ずはこの拠点の指揮官のところに行きましょう。武器も何もないわけだし」

('A`)「そうだな………あー、そこのあんた!あんたらの指揮官のところまで連れてってくれないか?」

「……は?」

たまたま傍に居た年若い歩哨に声をかけたところ、胡乱げな表情で生返事を返される。思わぬ反応に一瞬面食らうが、自分とツンの服装を思い出して合点がいった。

俺は灰色のトレンチコートに黒のスラックス、コートの中も白のポロシャツという服装。ツンが身につけているのは藍色を基調にしたジャケットにチェック柄のタイトスカート、ゆったりしたブラウス。

逆立ちしたって見た目で軍人と判別することはできない。しかもフランス広場での一件とその後の逃避行によって頭から足の先までずぶ濡れだからなおさらだ。

('A`)「いいとこベルリン旅行中に戦闘に巻き込まれたアベックってところか」

ξ;*゚听)ξ「あ、アベック!?私と、あんたが!?」

後ろで慌てふためくツンをひとまず無視し、身分証を鼻先に突きつける。歩哨は一瞬眼を見開いた後直立不動になり、すぐにどこかへと駆けていった。

ξ;*゚听)ξ「だだだだだ!誰が!!あんたなんかと!!!アベックに!!!!」

('A`;)「…………冗談だから落ち着けよ」

いくらなんでも嫌がりすぎじゃないかと、流石に少しヘコんだ。
41 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/09(火) 13:32:33.26 ID:B042YGid0
この部隊の指揮官は案内された即席指揮所であるテントの中で、折りたたみ式の椅子にその瘦せぎすの身体を乗せて手元の地図を睨んでいた。
ほうぼうに好き勝手に撥ねるブロンズ色の短髪に子狐を思わせる少しとがり気味の横顔、鼻の頭にはそばかす。長身ではあるが力強さは微塵も感じられず、アサルトライフルよりはコミック雑誌でも持たせた方がおそらくよほど様になる。

俺とツンを先導した歩哨が、指揮官のすぐ傍まで行き耳打ちする。すると奴さんは此方を一瞥し、軽い調子で片手を上げた。

(=゚ω゚)ノ「イヨウ=ゲリッケだよぅ」

そう言って、奴は挨拶を終えた。……やや高い声といい若干幼い顔立ちといい、胸元に光る中佐の階級章と身長がなければ来年アビトゥーアを受ける予定の学生だと言われても信じてしまいそうだ。

(=゚ω゚)「ドク=マントイフェル少尉、並びにツン=デレフランス陸軍中尉。細かい話は抜きだ、とにかく人手が足りない。

君たちには早速前線で働いて貰うよぅ」

ξ;゚听)ξそ「ちょっ……いきなり!?というか、私のこと知って」

(=゚ω゚)「無駄話をしている暇はないよぅ。ベルリン東部一帯の掌握に成功したとはいえいつ全面崩壊が起きてもおかしくないよぅ。諸々の話は事態が収拾してから聞くよぅ」

ξ゚听)ξ「」

早口で語尾がやけにうわずった、いかにも神経質そうなしゃべり方でイヨウ中佐は捲し立てる。ツンは面食らった様子で黙り込んだ。

……まぁ、聞き心地のよい喋りとは世辞でも言えないが内容はド正論なので此方も合わせることにする。

('A`)「市内ドイツ軍・ベルリン市警の現在の稼働状況は?」

(=゚ω゚)「兵力だけで言えば凡そ一個師団相当、陸軍としての兵力は戦車道展の警備のために投入されていた2000名ほどだよぅ。ただし、この内組織的な戦闘を展開できている戦力はシュプレー川以東に展開している4000人ほどでしかないよぅ。

敵勢力に関しては現在把握される限りではフランス広場に重巡リ級elite、アムボス通りに戦艦ル級、タ級各一隻。それと、未確定ながら軽巡棲姫と思わしき存在と護衛のヒト型数隻がシュパンダウ方面で確認されているよぅ」

イヨウ中佐は地図の各所を矢継ぎ早に指さし、若干どもりながらも戦況を正確に述べていく。だが、地図には何も書かれておらず、報告書のようなものも辺りに見当たらない。

まさか、ベルリン市内の戦況全部記憶してるってのかこの人?
42 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/09(火) 13:38:19.12 ID:B042YGid0
(=゚ω゚)「ベルヴュー宮殿、連邦首相府、国会議事堂は襲撃開始段階で通信途絶。ダイオード首相以下内閣議員も野党議員も安否不明。

ベルリン市外のドイツ三軍拠点とも……更に言えば欧州周辺国ともまともに通信ができない状況だよぅ。妨害されているのか、或いは単純に全滅したか。

どちらにせよ現段階では外部からの増援が期待できないよぅ。そもそも、さっき言った首相府一帯を始め市内ですら通信の乱れが見られるよぅ」

ξ゚听)ξ「一応聞きますけど、艦娘戦力は?」

(=゚ω゚)「あったらもっとまともな対処してるよぅ。

装甲戦力としては、プーマ歩兵戦闘車が残6両にレオパルト1戦車が8両、それからエノク(軽装甲車)が20両と少し」

('A`)「………レオパルト1って確か退役済のはずじゃ」

(=゚ω゚)「戦車道展における展示車両とほとんど兼任みたいな扱いで引っ張り出された代物だよぅ。深海棲艦の襲撃激化に伴い、たかがイベント警備のために前線からレオパルト2を引き抜くわけにはいかなかったようだよぅ」

つまり、今までの話を要約するとこうか。

ベルリンは現在孤立無援で連絡すらまともに取れず、深海棲艦の正確な規模は不明、かつ姫級を始め知能も戦闘力も高いヒト型が主力。
対抗する此方の戦力は、型落ちの戦車と旅団になるかならないか程度の数の歩兵、しかも主力は警官隊。加えて行方不明の国家首脳部の捜索と、逃げ惑う民間人の保護もおそらく併行することになる。

そして、艦娘はいない。航空支援もない。

('A`)「無理ゲーじゃね?」

(=゚ω゚)「だが、それが我々の役割だ」

('A`)「………」

その一言だけは、イヨウ中佐はどもりもしなければ語尾も上げず、力強い口調で言い切った。
43 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/09(火) 13:41:17.86 ID:B042YGid0

(=゚ω゚)「とにかく、まずシュプレー川以東の防衛線は死守するよぅ。二人は避難してくる民間人の保護と合わせて、最激戦区になる可能性が高いフリードリッヒスハイン区の防衛指揮を─────」

元の口調に戻りながら、なおも指示を出していたイヨウ中佐。

('A`)「……………」

だが、それを遮るようにして何の前ぶれもなく。

ξ゚听)ξ「………」

外で、甲高いサイレンが鳴り響く。

('A`)「………中佐、一応聞きますが今のは」

(=゚ω゚)「空襲警報だよぅ」

正直違っていて欲しかったが、残念ながら予想は大当たりだった。

(=゚ω゚)「交通整理用の拡声器と音声テープを組み合わせた簡易な奴だったけど役に立って良かったよぅ。ま、そろそろ来ると思ってたよぅ」

「中佐!!」

テントを跳ね上げて歩哨が一人駆け込んでくる。
一瞬、不安げな人々のざわめきとこれを制止する兵士達の叫び声が入り交じったものがテントの中を満たす。

「高層警戒班より緊急連絡!!北西よりベルリンに向かって飛来する何かの“群体”を捕捉したとのこと!!

おそらく深海棲艦の戦闘機、到着予想時刻は6分後です!!」

(=゚ω゚)「展開中の全部隊に対空戦闘の準備を指示……それと君、余っている軍服とアサルトライフルを二人に。

あぁ、マントイフェル少尉、デレ中尉、1分で用意して外へ」

イヨウ中佐はそれだけ言うと、軍帽を被りテントから出て行く。

(=゚ω゚)「さぁ、“僕らの仕事”の時間だよぅ」
44 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/09(火) 13:43:51.52 ID:B042YGid0

.


中佐の指示より10秒早く着替えを終えて、テントから飛び出す。隣の更衣スペースからツンが転がり出てきたのもほとんど同時だった。

('A`)「女の身支度は長くかかると聞いてたがな!」

ξ゚听)ξ「知らなかった?フランスのレディは余裕の笑みで男を待ってやるもんなのよ!」

相変わらずざざ降りの雨の中で軽口を交わしながらG36Cの安全装置を外す。自身の装備を簡単に確認した後、今一度周囲の地形を頭に叩き込むために辺りを見回した。

深海棲艦機が来るまであとたったの300秒。できることは限られているが、それでもやれるだけのことはやっておきたい。

相変わらずサイレンは鳴り続け、あえて人の不安を煽るよう作られた警戒音に急かされ避難民達が我先にと道路を駆けていく。兵士と警官が、ともすれば大氾濫を起こしかねない人間の濁流をぎりぎりのところで制御し、更に東へと送り出していく。

('A`)(……あと五分でこの人数が避難しきるのは間違いなく無理だな)

この密集状態に深海棲艦の空爆が直撃すれば大惨事もいいところだ。かといって、避難民の「自主性」に任せて分散避難をさせても間違いなくパニックが起きる。それに、部隊運用にも大きな制約がかかりかねない。

つまり間もなく行われる深海棲艦の爆撃から避難民達を護るには、攻撃を此方に可能な限り引きつけ、かつそもそも爆撃自体を抑制する必要があると言うことだ。

(;'A`)「やっぱ無理ゲーじゃねえか………!」

一週間も素敵な休暇を下さった、上層部のおかげでこのざまだ。

いつか、感謝と殺意と火薬が籠もった御礼を贈ると胸の内で誓う。
45 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/09(火) 13:45:28.91 ID:B042YGid0

('A`#)「各区画、レオパルト1とプーマは避難民の列からなるべく離れろ!!随伴歩兵は戦車隊になるべく密着、対空警戒を厳となせ!!」

(=#゚ω゚)ノ《東部区画に展開する全ての陸軍並びに警察戦力は今の指示に従うんだよぅ!!

これより防衛線は全指揮権を今発言したドク=マントイフェル少尉に一任!僕から別途指示がなければ少尉に従うよぅ!!》

近くに止まっていたパトカーに駆け上がり、声を張り上げる。ざわめいた場は直後に飛んだイヨウ中佐の命令で静まり、すぐに全軍が指示に従って動き出した。

全権委任ってマンドクセッ!!でも仕事が早いのはありがたい!!

深海棲艦機が到着するまで後4分程。煙草でも吸って不安を紛らわせたいところだが、懐に入れていた煙草はびしょ濡れになり全滅済みだ。

クソッタレ。

(#'A`)「歩兵並びに警官隊は10名程度で一塊となり射線形成!分散射撃だとかえって隙間を奴等に潜り抜けられる、戦力を塊にすることで奴等を射線上に引きつけろ!!」

「し、しかし少尉!サブマシンガンやアサルトライフルが届く距離に敵が来るとは」

('A`#)「断言するが間違いなく来る!!

寧ろ自動小銃はHelm共に対抗する主兵装だ、射線には穴を開けるな!最低限半数以上は常に撃ち続ける状態を作れ!!」

兵力不足、火力不足、時間不足と無い無い尽くしの状態だが、打つ手は皆無じゃない。不幸中の幸いと言うべきか、天が俺たちに全力で味方をしてくれていた。

天と言っても断じて神のことではない。神はいない、いたとしても死ね!!
46 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/09(火) 13:49:14.84 ID:B042YGid0

(=#゚ω゚)ノ《ベーデカー隊、マントイフェル少尉の直属指揮に!ディーツェル軍曹の隊はデレ中尉の指揮下に入るんだよぅ!!》

「「Jawohl!!」」

(#'A`)「ツン、レオパルト1の随伴に付け!!常に機銃の死角をカバーする形で射線を集中させろ!」

ξ#゚听)ξ「了解!!」

残り3分。俺たちは、慌ただしく戦いの準備を終えていく。

ξ#゚听)ξ「機銃の射撃仰角もう少し上げて!それと一機一機狙う必要は無いわ、空にばらまく感じで撃ちなさい!!」

「や、Jawohl!!」

(=#゚ω゚)ノ《避難誘導班は持ち場を絶対に離れるな!!最後まで市民の導き手としての責務を全うするんだよぅ!!》

(#'A`)「エノクは各車機動防御態勢!なるべく敵艦載機の目につくように動き回ってくれ!歩兵並びにレオパルト1は釣られた敵機は特に重点的に撃墜しろ!!」

残り2分。サイレンに、録音された早鐘の音が加わった。意味など聞かなくても察しがつく。

真っ直ぐに向かってきているんだ。奴等が。

「押すんじゃねぇ!!」

「早く進めよ、深海棲艦が来てるんだぞ!!」

「子供が、子供がぁ!!」

「列を乱すとかえって動けなくなるぞ!!死にたくないならそれこそ誘導に従ってくれ!!」

恐怖から箍が外れかけている避難民達の怒鳴り声が響く。

俺たちは降りしきる雨の中でただ銃口を空に向け、敵を待つ。

────残り、1分。

「敵機、来襲!!!!」

(;'A`)「っ」

音が、聞こえてきた。
47 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/05/09(火) 14:02:28.76 ID:B042YGid0
腹を空かせた獣が呻いているような、低い音。

ジェット戦闘機の全盛期にあって最早空から駆逐されたはずの、レシプロエンジンが奏でる重低音が、雨に混じり雲の中から聞こえてくる。

奴等は最大のものでも4フィートを越えない程度の大きさでしかない。そのため、まだまだその姿は見えない。

見えないが、音は確実に近づいてきている。

('A`;)「────!!」

エンジン音は、丁度俺たちの頭上に差し掛かったところで調子を変えた。

低いうなり声から、高い叫び声へ。

【Helm】が急降下爆撃の態勢に入ったときに鳴る、独特の風切り音。

ジェリコのラッパ───かつて、ドイツを護るためにソヴィエト赤軍の頭上で空の魔王によって吹き鳴らされていた音が、今はベルリンを破壊しドイツ人を殺すために迫ってくる。

なんとも、皮肉な巡り合わせだ。

('A`;)「合図があるまで撃つな!それから絶対にフォーメーションを崩すなよ!!」

音は次第に大きくなり、数を増やして降りてくる。周りに指示を出しながら、ともすれば震えそうになる照準を必死に抑える。

ベルリンの雨は、未だに止まない。
48 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/05/09(火) 14:09:05.11 ID:B042YGid0

───やがて、“奴等”は来た。

「………ひっ」

厚い雲の隙間から、ぽつりとインクの染みのように小さな点が最初に一つ。刹那の間を置いて二つ、四つ、八つ………一瞬で、数えるのも馬鹿らしくなるほどの黒点が空を埋め尽くした。あまりの数に、誰かが小さく悲鳴を上げる。

西洋甲冑か、さもなきゃ競輪選手が被るヘルメットか。とにかく通称が本当によく似合う、細長く先鋭的な黒い機体。

少なく見積もっても1000は下らないHelmの群れが、“ジェリコのラッパ”を吹き鳴らしながら雨と共に降ってくる。

Helm達は街区に展開する戦車や装甲車、そして歩兵隊に向かって、降下速度を上げながら獰猛な猛禽類の如く突っ込んできた。



、、、 、、、、
完璧に、読み通りだ。

('A`#)「─────Feuer!!」

声を限りに叫び、H&K G36Cの引き金を引く。

無数の弾丸が、雨を切り裂いて空へと駆け上がった。
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