佐野満「えっ?強くてニューゲーム?」

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86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:54:01.32 ID:WOJJWRsc0
「advent!」

 瞬間、部室の屋根から大きな灰色の塊が地面へと轟音を立てて着地する。

「メタルゲラス。お前の格好良いところ見せてくれよ?」

 呼び出したモンスターの頭を親しげに撫でたガイは、目の前に立つ

シザースを指さした。

「アイツを倒せ。出来るよな?」

 その一言にメタルゲラスは任せろとばかりに雄叫びを上げ、シザース

めがけて突進を始めた。

「なるほど、どうやら貴方はご自分のペットに自信がおありのようだ」

「advent!」

「ですが、私の相棒も負けてはいませんよ」

 強気を崩さぬシザースも己の契約獣であるボルキャンサーを召喚。

 APではメタルゲラスに劣るものの、人間をふんだんに与えて強化された

ボルキャンサーの地力も出会った時とは比較できないほど上昇している。 

「来いよ。蟹野郎。泡吹かせてノックアウトしてやるから」

「なんだt」  

 シザースに二の句を継がせぬまま、ガイはその高い防御力を存分に

前面に押し出した白兵戦を仕掛けていった。

 13ライダーの中で最弱のスペックのシザースのストライクベントのAPは

たったの1000AP。ガードベントに至っては2000GPしかない。

 対照的にガイはガードベントは保有していないが、ストライクベントは

シザースの倍の2000AP。加えてガードベントと同威力と来ている。

 普通に考えれば、どう考えてもシザーズの敗北は必至である。

 そして、その事実を裏切らない光景が目の前で起きている。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:54:34.43 ID:WOJJWRsc0
「ぐはっ!」

「ハハハハ。なんだよ手応えなさ過ぎて笑いが止まんないよ」

「なに?なんなのその弱さ?」

 初撃の不意打ちのタックルでシザースを吹き飛ばしたガイは、その

ガタイの良さを生かし、シザースのマウントポジションを取った。

「ま、これでアンタも一貫の終わりって訳よ!」

「俺の勝利は揺らがねぇ!」

 怒濤の拳のラッシュがシザーズの頭部に襲いかかる。

 1発のパンチ力が10tを越える威力を持つライダーの強化された拳の雨は

並大抵のガードでは防ぐことが出来ない暴風雨のように、無防備な

シザーズの頭へと降り注ぐ。

 気をつけの体制のまま、両ももに手をつける形で押し倒され、更に

その腕にのし掛かられては顔面をガードすることは不可能だった。

「ひゃ...ひゃめれ...やめれ...ふらふぁい...」

「やだね。ってかお前死ねよ。ライダーバトルってこういう戦いだろ?」

「いや〜俺も一回やってみたかったんだよね。人殺し」

 狂気すら感じられるその言葉に、ようやく須藤雅史はこの状況が到底

覆せないことを悟ってしまった。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:55:11.96 ID:WOJJWRsc0
「おー。お帰り〜。よく頑張ったな、メタルゲラス」

 グルルルと満足げに喉を鳴らしながら、ガイの隣にあのサイのような

契約獣が戻ってきた。

「おっ、なんだ蟹野郎の爪をもぎ取ってきたのか。え?俺にくれるの」

 ぽいっ。

 無造作に投げ捨てられた、見覚えのあるその黄金のハサミは自分の

契約獣であるボルキャンサーの左腕部だった。

 主のご機嫌を伺うように、膝を折り曲げちょこんと隣に座った

メタルゲラスを愛おしそうに撫でたガイは...

「悪いけどいらないな。でも...」

 ボロボロになったシザースから離れたガイは、見せつけるように

カードデッキからカードを引き抜いた。

「strike vent!」

 外からは見えないが、既に頭蓋骨が陥没しているシザースのマスクの

中には溢れた脳がピンク色の鮮やかな中身をはみ出させていた。

「はい。これでおしまい」

 メタルゲラスの頭部を模した手甲を呼び出し、ピクリとも動かない

シザースの腹部のカードデッキに突き刺す。

 パリィィン!

 風鈴が砕けるような儚い音を立てたシザースのカードデッキは、粉々に

砕け散り、それに伴うようにその装甲も音を立てて消えていった。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:55:37.35 ID:WOJJWRsc0
「うっわ。グッロ...やっべ、気分悪くなってきたわ」

 原形を留めないほど変形した須藤の頭は腐ったスイカのような様相を

呈していた。なんとも言えない血なまぐささが更にグロテスクさに

拍車をかける。

「えーっと、これ俺の勝ちで良いんだよね?」

 いつの間にか現れた神崎士郎に、ガイはそう尋ねた。

「ああ。そうだ」

 無表情に頭を砕かれた死体を見下ろした士郎は短く答える。

「ねぇ、あと何人ライダーは残ってるの?」

「11人だ。引き続きバトルを楽しむと良い」

「りょーかい。んじゃ、後片付けよろしく!」

 そう言い残した勝者は敗者を置き去りにして現世へと帰還した。

「....」

 神崎士郎も消えかかっている死体を一瞥した後、その姿を消した。

「..................」 

 
 こうして、また一人のライダーがその命を落としたのだった。

 バトルファイトは終わらない。最後の一人になるまで終わらない...。


 仮面ライダーシザース/須藤雅史、死亡 残り11人。


90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:56:17.43 ID:WOJJWRsc0
 第七話 仲間


 満がライダーバトルから遠ざかってから二週間が経過した。 

 その間にも粛々とライダー同士の戦いは加速し、尊い命が戦いによって

奪われてしまった。

 だが、人間は外に一歩も出ないで暮らすことは不可能である。

「そろそろ...確かめないとな。新しい力を」

 相棒の死の悲しみが癒えた満は、ようやく自分の手に入れた新たな力に

向き合う決心をつけた。

「行くか...」

 二週間もの無断欠勤によって、満はバイト先を全て首になった。

 だが、今となってはそんなことは些細なことでしかない。

 命がある。身体が動く。そして戦わなければ生き残れない。

 いつの間にか腐りきっていた性根が前を見据えていたことに、満は

唐突に気が付いた。

 幸い無駄遣いをしなかったお陰で、貯金額はちょっとしたものに

なっていた。

 これなら半年は働かなくても、飢え死にすることはないだろう。

 そう思うと急に腹が空いてきた。
 
(よし、まずは腹ごしらえからだ...)

 玄関の扉を開け、久しぶりに浴びる日の光に目を細めながら

満の足は自然とある場所へと向かっていったのだった。

91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:56:55.68 ID:WOJJWRsc0
 〜中華料理店〜


「こんにちは〜」

 電車を乗り継ぎ、以前須藤に連れてこられた中華料理店ののれんを

くぐると、そこには机に腰掛け、テレビを見ている店長がいた。

「おう、この前の坊主じゃねぇか。メシ食いに来たのか?」

「はい。給料出たんで食べに来ました」

「そうか!じゃあ早く注文しろよ。沢山作ってやるからな!」

「ありがとうございます!!」

 満の笑顔に気をよくした店長は気の良い笑顔を浮かべて、調理の

準備に取りかかった。

「店長〜。注文なんですけど」

「エビチリと野菜炒飯とガツと野菜炒めでお願いします」

「あいよ〜」

 ジャッ、ジャッと中華鍋に油を引き、火を通しながら具を炒める

音が厨房から聞こえて来た。

(3品合わせて2000円ぽっきり。しかもボリューム一杯なんだよな)

(早く来ないかなぁ?)

 香辛料の香ばしい匂いが店の中に充満する。

 客足もまばらな平日の朝10時53分の一人飯というのも、中々乙だよな。

と優越感に浸りながらテレビのニュースを眺めていた。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:57:27.25 ID:WOJJWRsc0
 「へい!お待ち!」 

 どんっ!と勢いよくテーブルの上に置かれていく料理を見た満は

たまらず口の端から涎を垂らした。

「味わって食えよ。じゃ、食い終わったら呼んでくれ」

「はい!」

 厨房に引っ込んだ店長の背中を見送った満は、そのまま脇目も振らずに

レンゲ一杯にエビチリを掬い取り、口の中に放り込んだ。

「ほわぁぁぁぁあ...」 

 口の中が香ばしい唐辛子と甘辛く味付けされた匂いで満ちた。

 舌がビリビリするほど痺れているのにも拘らず、エビの甘さが辛さで

打ち消されないように味付けされたエビチリは病みつきになる旨さだった。

 コップの水を一口含み、今度は豚の内臓と野菜炒めに箸をつける。

 噛みきれないほどの弾力を持つ豚の胃袋を噛みきれるように包丁で

刻まれたその切れ目から、人参、ターサイ、青梗菜、ほうれん草の甘みが

肉の隅々にまで行き渡っている。

「で、エビチリをまた一口含んで、と...」

 辛さと甘さのハーモニーを楽しむように、満は夢中で食事を楽しんだ。

 鏡の向こうから恨めしそうに自分を睨み付ける二体の契約モンスターの

抗議の視線もなんのその、あっというまに三食全てを完食したのだった。

「店長〜。お会計お願いしま〜す」

「はいはいはい。えっと三品で2000円ね」

「じゃあ2000円丁度でお願いします」

「はい。確かにお預かりしました。また来て下さいね〜」

「ごちそうさまでした〜」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:57:54.13 ID:WOJJWRsc0
  美味しい食事に舌鼓をうった満は、そのままあてどなくブラブラと

東京の街中を歩き回っていた。

 これからのこと、父親との確執、そして須藤との同盟のこと。

「あれぇ?なんで電話に出ないのかなぁ?」 

 この前手渡された紙に書いてあった須藤の携帯電話に電話をかける。

 だが、既に須藤はライダーバトルに敗れて死んでいるため、いくら

電話をかけても、鏡の向こうの世界に置き去りにされている携帯に

つながることは永遠にない。

「...考えたくないけど...やられちゃったのかな?」

 最後に会った日に須藤が漏らした一人の男の存在。

 浅倉威、世間を震え上がらせる凶悪連続殺人犯にして、このライダー

バトルの大本命と言える実力者であれば、赤子の手を捻るよりも容易く、

スペック差のあるライダーを葬るのは朝飯前だろう。

「...一人じゃ危ないよな」

 ポケットの中に仕舞っているデッキの中には5枚の強力なカードが

眠っている。

 ソードベント、アドベント二枚、ストライクベント、ファイナルベント。

 危険を冒しただけあり、手に入れた新たな力はかなり凶悪な

攻撃力を誇っていた。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:58:28.91 ID:WOJJWRsc0
(須藤さんが当てにならない以上、友好的なライダーを探すしかない) 

 まだ戦いは序盤だが、そのうち何人かがきっと脱落するだろう。

 持てる枚数の制限が各自に割り振られている以上、相手の持つカードを

全て使い切らせれば自然と勝ちは転がり込む。

 まだ須藤以外のライダーがどう出方を決めているのかは分からないが、

少なくとも早い内に手を組めるに足りる相手を早急に見つける必要が

あるのは確かだ。

 キィィィィィン...キィィィィィン

「行くか...ミラーワールドに」

 運が良ければ、モンスターや自分を狙うライダーには遭遇せずに済むし、

逆に運が悪ければ、それらに見つかって戦わざるを得ない。

 覚悟を決めた満は、人混みから離れた駐車場で変身した。

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:58:54.62 ID:WOJJWRsc0
 〜街中〜

 
 変身を終えた満が、耳障りな金属音を頼りに道路を走っていると

なにやら金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。

(誰か戦ってるのか?)

 音のする方向に足を向けると、そこには先客がいた。

 灰色の分厚い装甲に身を包んだサイのようなライダーと、虎のように

全身がバネのような筋肉に包まれた白い甲冑を着込んだようなライダーが

互いの獲物を振りかざして死闘を繰り広げていた。

(へぇ...結構強いなぁ...)

 一進一退の攻防というよりかは、虎のようなライダーが劣勢のサイの

ライダーを弄んでいるような感じがする戦いではあるものの、この際

盗み見も辞さないという態度で満は息を潜めて二人の戦いを覗こうとした

 だが、そうそう事が上手く運ぶ訳はなく...

「?!」

 空を切る弦の音がどこからか聞こえてきた。

 満がそれを矢が放たれた音だと認識したとき、自分のすぐ傍の

道路のアスファルトに三本の矢が突き刺さっていた。

(どこだ?!どこにいる?)
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:59:21.10 ID:WOJJWRsc0
 もし、運が悪かったら..確実に今の攻撃で自分は仕留められていた。

 弾かれたように立ち上がった満は、咄嗟の判断で近くに立っていた

ビルの中へと身体をぶち当てて転がり込んだのだった。

 このまま外にいれば好きな時に相手に隙を晒し続けるという地の利を

取られるというハンデを背負わなくてはならない。

 ここは一旦ビルの中で体勢を立て直し、なんとか相手をやりすごす。

 そう決めた満は階段を駆け上がっていった。

「....」 

 だが、これはライダー同士のバトルロイヤルでもある。

 自分の見た光景が絶対的な正しさを持っているとは誰も断言は出来ない。

 最善と思って取った行動が間違っていたと言うこともままある。

 満の後を追うように、また一人、ビルの中へと黒いマントを翻した

ライダーは音もなく潜入に成功したのだった。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:00:06.08 ID:WOJJWRsc0
 〜ビルの中〜

「はぁ〜〜〜〜ッ....助かった〜」

 10階建のビルの三階の空きテナントに素早く身を隠した満は、遮る

ものの何もない部屋に唯一残された机の下に潜り込んだ。

 貫通力のある矢にどれだけこの机が耐えられるか疑問だが、少なくとも

相手がビルの屋上に陣取っていれば、狙いを修正するのに何分かの時間は

稼げるだろう。

 だが、

 カツーン、コツーン...

 微かだが、誰かが階段を登る音が聞こえてきた。

 間違いない、新手のライダーかモンスターだ。

「......」

 デッキから一枚のカードを引き抜く。

 雑居ビルのような小回りの利かない場所、それも階段を背中にして

二本の大剣を振り回すような危険な真似は出来ない。

 故に満は小回りの利かない場所で小回りの利く立ち回りが出来る

ストライクベントをアビスバイザーにセットした。

「strike vent!」

「来い...部屋に入ってきたら打ち抜いてやる」

 頭の中にアビスバイザーを通じて、今自分がベントインしたカードの

情報が流れ込んでくる。

「よし...」 

 アビスバイザーもアビスクローも両方とも先端から高水圧の水弾を

連射可能な遠距離対応武装である。

 照準をたったひとつの部屋の入り口に合わせる。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:00:42.87 ID:WOJJWRsc0
 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1

 足音が消えた。ドアノブが回転するッ!

(今だ!喰らえッ!)

 右足を前に出し、拳を扉めがけて一直線に突き込む!

 その瞬間、アビスラッシャーの頭部を模した手甲はその射出口から

大量の高圧水流を放った。

 ダムの決壊を思わせるような暴流は、扉を開いて入ってこようとした

黒ずくめの仮面ライダーを今し方上がってきた階段の下へと叩き付けた。

「やったか!?」

 あそこまで凄まじい水流をモロに受けたのだから、無傷という訳には

いかないだろう。なにせすぐ後ろは階段である。運が悪ければ受け身

すら取れずに壁に頭を叩き付けて死んでいるかも知れない。

 人を殺したかもしれないという恐怖感が満の中にある慎重さを

忘れさせてしまったかのように、あれほど部屋をも出ようとしなかった

満は、相手の状態を確かめるために階段を降りようと...

 その瞬間、遅ればせながら満は今の自分が押し流した黒いライダーは

幻だったと気が付いた。

「Nasty vent!」 

 そう聞こえた相手ライダーのバイザーの電子音声と共に、至近距離から

立っているのも困難なほどの超音波をアビスは浴びせられた。

「ううっ、なんだよ!これ...くそ、立てねぇ...」

「はぁッ!」

 してやられた...

 階上の部屋の利点を逆手に取られてしまった。

 アビスの誤算は姿の見えないライダーが一人だけだと信じたことだ。

 確かにそれは半分正解だった。

 階下から、階上から物凄い勢いで降りてくる二人分の足音...
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:01:22.32 ID:WOJJWRsc0
「残念だったな。ここで終わりだ」

「ぶ、分身って...あんまりだろ...」 

 漆黒の槍を携えた同じ姿の二人のライダーは、首筋とカードデッキに

それぞれその切っ先を向けていたのだった。

 仮面ライダーナイト。蝙蝠型モンスターと契約したライダーの一人だ。

「ま、待ってくれ!俺はアンタと戦うつもりはないんだ」

「仮にそうだとして、俺がお前を助けるとでも?」

 超音波のせいでまともに立てないまま、仰向けに転がっている眼前の

ライダーを冷ややかに見下したナイトは、そのまま無感情に槍を振り上げ

トドメを刺すべく大きく振りかぶった。

「いやだぁあああああああああ!」

 誰でも良い。誰か俺を助けてくれ!俺はこんな所で殺されたくない!

「うわああああああああああ!お願いだぁあああああああ!!」

 みっともなくジタバタと床でのたうち回りながら叫んでいると、また

新しいライダーが階段を登ってくる音が聞こえた。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:01:58.82 ID:WOJJWRsc0
「出してくれぇ!出してくれぇえええええ!」

「俺は帰らなくちゃ行けないんだ!俺の世界に!」

「嫌だぁああああああああ!出して!出してえええええええええ」

「五月蠅い!黙れ」

「おい、何をやっている!!」

「邪魔をするな手塚!俺はコイツにトドメを刺す!」

「やめろ!恋人が悲しむぞ!彼女はそんなお前を認めないッ!」

「...ッ!」

 みっともなく悪足掻きをするアビスにトドメを刺そうとしたナイト

だったが、階段の方から聞こえて来た声...どうやらナイトの仲間の

忠告に、苛立ちながらも渋々その大きな槍を下ろしたのだった。

「甘いな手塚。あのバカに影響されてお前もバカになったのか?」

「ああ。俺は、人の心を失いたくない」

「最後まで、俺は人として自分の運命に抗ってやる」

「...興がそがれた。俺は帰る」

 見ず知らずの、それも明日にはその命を奪い合う相手になるかも知れない

ライダーを助けようとする友の甘さを唾棄すべきものだと吐き捨てた

ナイトは階段を降り、その姿をくらましたのだった。

「おい、立てるか?」

「ありがとう...ありがとう....ございます。ッうっぅっ....」

「立て。もうタイムリミットが迫っている」

「はい...はい...」

 初めてライダーに命を狙われた恐怖心によって腰を抜かしてしまった

満は手塚と呼ばれたライダーに担がれながらミラーワールドを這々の体で

抜け出すことに辛うじて成功したのだった...

101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:02:25.87 ID:WOJJWRsc0
 〜花鶏〜

「いらっしゃ〜い!おや、アンタ見ない顔だねぇ」

「はい...すいませんすいません」

「ちょっと真司君。アンタこの子になにしたのさ」

「してませんって!人聞きの悪いこと言わないで下さいよぉ!」

 ミラーワールドから現実世界に戻った満は、隣にいたライダー...

変身を解いた彼は自らを手塚海之と名乗り、近くにあったタクシーに

満とともに乗り込んだ。

「あ、あの...どこに行くんですか?」

「知り合いの働いている喫茶店だ。紅茶とコーヒーが特に美味い」

 10分後、花鶏という名前の古ぼけた喫茶店の前にタクシーが止まり、

今に至るというわけである。

「手塚ぁ!お前からも何か言ってくれよ〜」 

「城戸、俺からも特に言うことはない」

 席に着いた自分の横で二人の男が騒がしく揉めている。

 花鶏のマスターに席を案内されてから一分も立たないうちに、今度は

新しい...様子からして常連客のように見えた...一人の青年が慣れた

様子で店のカウンターに腰掛けた。

 虚ろな瞳で誰彼構わず謝り続ける満をダシに、顔馴染みの常連客を

からかう女店主に噛みつく青年は、自分より少し年上のようだった。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:02:57.50 ID:WOJJWRsc0
 
「で?何か注文するのかい?」

「えーと、じゃあミルクティー二つとカフェオレ一つで」

「はいはい。じゃあちょっと待っとくれよ」

 城戸、と呼ばれた青年の注文に応えた女店主はコーヒーメーカーの

スイッチを押し、鼻歌交じりに紅茶の茶葉を探し始めたのだった。

「初めまして?で、いいんだよな?」

「えーっと、何さんでしたっけ?」

「俺、佐野満です。21歳のフリーターです!」

「お、おう...佐野さんね」

「俺は城戸真司。23歳のジャーナリスト見習いだ」

「今はOREジャーナルってところでネット記事を書いてたりするんだ」

 何を考えて良いのか分からない今、相手の気持ちを考えて先読み

してくれる真司の馴れ馴れしさが今は無性にありがたかった。

 タクシーの中で聞かされたとおりの人なんだな。と満は目の前の真司の

ひたむきで裏表のない、その真っ直ぐさに感動を覚えていた。

 真司も自分と同様にライダーである事には変わりないが、他のライダーと

変わっているのは、モンスターを倒す為だけにライダーの力を振るう

唯一の非戦的なライダーだと言う点に尽きていた。

 自分と同じ位の年齢で、しかも神崎士郎によって凄惨な殺し合いに

巻き込まれたにもかかわらず、なぜ彼は今の自分のように憔悴せずに、

持ち前の明るさを失っていないのだろう?
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:03:23.54 ID:WOJJWRsc0
 (この人だったら...信じられる、かもしれない)  

「はい。おまちどおさま」

 女店主が見計らったかのように、ミルクティーとカフェオレを盆に載せて

三人の目の前におき始める。

「おっ、来た来た。ここのミルクティーは甘くて良い味なんだ」

「そうよ〜。隠し味に山羊のミルクを入れてるからね」

「熱が冷めないうちにグイッと飲むのがおすすめよ〜?」

 手を擦りながら、甘い香りのするミルクティーに口をつける真司。

「あっち!あっちぃ!ふー!ふー!」

 舌を火傷しながらも、どこか楽しそうに、美味しそうにミルクティーを

飲むその姿に、いつの間にか満は笑みを零していた。

「凄いっすね。城戸さんは」

「え?なにが?」

「ライダー同士で殺しあってるっていうのに、明日死ぬかもしれないのに」

「今の城戸さん見てると、まるでそんなのを感じてない風に見えますよ」

「あー...まぁ、確かにそうかも知れないなぁ」

 湯気を立てるミルクティーをフーフーしながら冷ましている満を

手塚は満足そうな微笑みを浮かべながら見ていた。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:03:55.10 ID:WOJJWRsc0
 「俺だってそりゃ怖いさ。だって他のライダー話聞いてくれないんだもん」

「イヤミな悪徳弁護士、刑事のくせに悪い奴、極めつけは連続殺人犯」

「考えてもみてよ?折角人を助けるための力がこの手にあるんだぜ?」

「ミラーモンスターなんて化け物に襲われる人も増えていくし...」

「だったらさ、俺はこの力を人助けのために使おうと思ったんだ」

 真司の愚痴は留まることを知らなかった。

 願いを叶えるために、誰かの命を奪い合うライダー同士の戦いなんて

間違っている。だけど、一部の願いを除き、ライダーがそれぞれ抱いている

願いの価値を一方的に決めて良いものなのだろうかと悩んでいる。

 神崎士郎の都合によって引き起こされた人殺しの戦いにおいて、

そこまで出会った人達のことを深く考えて戦えるなんて...。

(勝てねぇよ...本当にこの人ならって、思っちまったじゃんか...)

 ただ流されるままの人生を過ごしてきた満にとって、真司の信念は

到底直視できないほどのまばゆい光を放っていた。

「蓮はさ、あっ、蓮っていうのは俺の...なんていうかダチでさ」

「偉そうな奴なんだけど、本当はすっげぇ優しい奴なんだ」

「アイツの願いは、事故で昏睡状態の恋人を元に戻すことなんだよ」

「あ、あとは美穂っていうじゃじゃ馬娘がいてさ...」

「アイツ、死んじゃった家族を蘇らせるために戦ってんだ」

「佐野君知らないかな?白鳥みたいなライダーなんだけど...」

「いえ、知らないです...」

「そっかぁ...アイツ神出鬼没だからなぁ。また男騙してんのかなぁ」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:04:29.71 ID:WOJJWRsc0
 かつて、監督が自分に教えてくれたことが蘇る。

『だけどな、優しさだけは忘れちゃいけないんだよ』

『打算なく誰かを信じたり、誰かを助けたりするのが一番難しいんだ』

『もし、お前の前にそんな人が現れたら躊躇わずに力を貸してやれ』

『ま、そんなお人好しのことをバカって言うんだけどな。がはは』

 打算抜きにこの人なら信じられるという直感は間違っていないと、

今なら確実に断言できる。今がまさにその時ではないのだろうか?

「あ、あの...城戸さん。俺を城戸さんの仲間に入れて下さい!」

 そう思った瞬間、満の口は自然とその言葉を出していた。

「えっ?お、おい!聞いたか手塚?」

「ああ。お前の仲間になりたいって彼は口にしたようだ」

 信じられないように自分を見つめる真司に、満は今まで自分の心の中に

抱えていた暗い何かを吐き出し始めた。

「俺、...良い暮らししたいからって理由でこの戦いに参加したんです」

「バトルに勝ったら、お前の願いが必ず叶うからって...」

「で、でも...現実はそんな甘くなくて...」

「何度も死にかけて、城戸さんみたいに誰かを助けられなくて...」

「誰かを殺さなきゃ生き残れないのに、殺したくない自分がいるんです」

「でも...怖くて、やっぱり...怖くて...」

 先程の恐怖が蘇る。槍を突きつけられ、あと一歩でカードデッキを

破壊されて殺される自分の姿が一向に消え去らない。

 それは、あくまでも一人で戦い続けたときの末路かも知れない。

 だが二人なら?三人なら?

 きっとこの戦いを止められるかも知れない。それどころか神崎士郎を

とっちめてライダーバトルを終わらせられるかも知れない。

 その可能性を城戸真司は信じさせてくれた。

 今の佐野満にとって真司の言葉はまさに天啓に等しかった。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:05:07.29 ID:WOJJWRsc0
「よっし!アンタの気持ち、分かったよ」

「これからよろしくな。佐野さん!」

 満の手を取った真司はその手を両手で包み込むように握った。

「はい、これからよろしくお願いしま...」 

 満が真司の信頼に応えようと、その手を固く握ろうとしたその瞬間...

「おい、これは何の茶番だ、城戸?」 

 先程の恐怖が一気に蘇った。

 ガタンッ!と音を立て椅子からずり落ちた満の視線の先には... 

「蓮、お前なぁ、空気読めよ。佐野さんがびっくりしちゃったじゃんか」

「おーい、大丈夫?って...どうした?」

 くぐもった声だが、聞き間違えるはずがない。

 何故ならそこにいたのは、先程自分を平然と殺そうとした『敵』だった。

「ぁ...アンタは...」

 怪訝な表情を浮かべながらも、自分を見て腰を抜かした男を見て、

仮面ライダーナイトの変身者、秋山連は佐野満を先程自分が殺し損ねた

相手だと一瞬で看破した。

「お前、どうしてここにいる?」

「ちょ、ちょっと待てよ蓮!今この人が俺達の仲間になってくれるって」
 
「そうだ。俺が城戸とお前に引き合わせるために連れてきた」 

「お前ら...」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:05:36.38 ID:WOJJWRsc0
 二人の仲間達のあまりのお人好しに頭を抱えながらも、蓮は再び

自分の目の前に立った殺し損ねたライダーにどう接すれば良いのかを

考えることはなかった。

「おい、貴様。デッキを出せ。さっきは殺し損ねたがそうはいかない」

「丁度良い機会だ。中々強力なモンスターも従えているようだしな」

「は、話が...違う」 

 偉そうな奴なんだけど、本当はすっげぇ優しい奴?

 それが本当なら、今目の前の男は一体何なんだ?

(い、いや...城戸さんが俺に嘘つくメリットはないはずだ)

(でも...コイツには背中を預けられない。背中を見せたら殺される...)

 ズリズリと床を這うように逃げるしか出来なかった自分が恨めしい。

 今は虚勢を張ってでも、目の前のライダーに真っ向勝負を挑まなければ

ならない時だというのに、自分は怯えてしまった。

 命惜しさに、目の前の信用できる人に頼ろうとしてしまった。

 それが自分にとって致命的な甘さと気が付いてしまった。

「おい!蓮!お前なんて事言うんだよ!」

「すいません...本当にすいません...」

「大丈夫?って...」

 蓮を押しのけ、床にへたり込んだ真司の手を満は取ることはなかった。

 本当は払いのけたかったが、こんな自分のことを敵とは言え、真剣に

案じてくれた優しい人をこれ以上満は拒絶したくなかった。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:06:04.50 ID:WOJJWRsc0
「待ってくれよ!まだ蓮とは一回しか会ってないんだろ!?」

「俺だって蓮と最初に出会った感じは君と同じ感じだって」

「な?そうだよな?蓮?」

 真司の懸命な説得に、しかし秋山蓮はこれ以上ないほどの冷淡な笑みを

満と真司に向け、あろうことかこう言い放ったのだった。

「ふん。俺はお前と違って人が悪いからな」
 
「それに、お前は殺そうにも殺せないほどしぶとかったからな」

 この時、満の心の中にあった蓮を信用しようという気持ちは粉々に

粉砕されたのだった。

「城戸さん、そこにいる男は...貴方達とは違う存在だ」

「ためらいなく、冷酷に人を殺せる本物のライダーだ」 

 絞り出すように、正鵠を突いた言葉を絞り出した満はそのまま扉を

押し開けて、花鶏から出て行った。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:06:48.96 ID:WOJJWRsc0
 「泣くな...泣いちゃダメだ...」 

 重い足を引きずりながら、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら必死に

満は泣き出しそうになる自分を押さえ込んでいた。

「戦わなきゃ...一人でも戦い抜かなきゃ...」

 心の中が黒く濁り始める。

 何かが変わりそうな今日が、結局昨日と変わらない一日に過ぎない事に

落胆を隠せない、否、失望と無気力が身体を全て覆い隠した。

 家を放り出されたときに吐き捨てた言葉が口をつく。

「もういいや。誰かを信じた俺がバカだったよ」

110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:08:23.96 ID:WOJJWRsc0
 第八話 見えざる敵

「でぃやああああああああ!!」

「ぎぇえええええええ!!!」

 城戸真司との後味の悪い別れから三日後、佐野満の姿はミラーワールドの

中にあった。

 今日の相手は蜘蛛型のモンスター、ソロスパイダーと蜂型のモンスター

バズスティンガー・ビーの二体だった。

 耳障りな金属音を頼りにモンスターの潜伏場所に近づくと、目の前の

図書館の入り口の硝子から人型の蜘蛛モンスターが子供達に狙いを

つけていた。

「変身!」

 不自然に見えないようにガラスにデッキをかざし、ミラーワールドに

飛び込んでいく。

 ライドシューターが図書館前に停車したとき、二体のミラーモンスターは

図書館の内部へと逃げ去っていくのが見えた。

「Sword vent!」

 二対の鮫の鋭い歯を模した大刀を呼び出して、臨戦態勢を取る。

 バイザーの左腕に持つ刀を逆手に、右手の刀は順手に持つ。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:08:52.62 ID:WOJJWRsc0
 (この図書館は二階建だから...隠れる場所は本当に少ない)

(俺がモンスターなら...)

 ちらりと見えたバズスティンガーの得物は弓だった。

 天井近くまで届きそうな本棚の上に陣取ってまともな狙撃が出来るとは

思えない。

(決めた。二階から攻めていこう)

 アビスは意を決して、近くにあった階段に足をかけた。

 入り口の案内板には二階は休憩室と喫煙室しかないと記されている。

「....」 

 いた!

 階段の手すりの死角、下から見上げて見えない場所にソロスパイダーが

その姿を隠していた。

 口から吐き出す粘着質な糸を右手の刀で盾代わりに防御する。

 腕か足にひっついてしまえば、蜘蛛の巣に引っかかった哀れな虫の

ように糸をたぐり寄せられて頭から啜られてしまうだろう。

「しゃあああああああ!!!」

「喰らうかよ!」 

 ブッ!ブッ!ブッ!と散弾銃のように口内で丸めた蜘蛛の糸の塊を

銃のように鋭く狙いをつけて連射するミラーモンスター。

 足場の不安定な階段に陣取るアビスだが、その段差を美味く利用し、

糸の弾丸の軌道を読み切り、攻撃の手が緩んだその隙にアビスは一気に

階段を強化された脚力で階段を登り切る!

「ぎゅえええええええ?!」

 アビスはソロスパイダーをガラスの自動開閉ドアに押しつけ、全力で

その身体へと突進を仕掛けた。

 ドアのガラスをブチ割ったライダーとモンスターは、出口が一つしかない

休憩室へとなだれ込んだ。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:09:31.27 ID:WOJJWRsc0
「うおおおおおおお!!」

 蜘蛛の糸が絡まった右手の刀を体勢が整っていないソロスパイダーに

叩き付け、その結果としてソロスパイダーの左足は半分ちぎれかけた。

「ぎしゃああああああああ!!!」

 身動きが取れず、足から血を撒き散らしたソロスパイダーは必死に

目の前のアビスから逃げようと必死になった。

「Advent!」

 床に倒れ、悶え苦しむソロスパイダーのもう一本の足を今度は失敗

することなくたたき切ったアビスは容赦なくアビスハンマーを召喚した。

「しゃあああああああ!!」

 約10日ぶりのご馳走にアビスハンマーは歓声を上げながら貪り始めた。

「ぎぃっ?!ぎぎぎっぎぎぎぎぎ〜〜〜〜〜〜!」 

 物凄い悲鳴を上げながら頭を貪られるソロスパイダー。

「そこで満足するまで喰ってろ」 

 吐き捨てるように契約獣に声をかけた満は、階段を注意深く降りた。

 そして制限時間が迫る中、図書館の中に未だに残っている蜂型の

ミラーモンスターを探し始めた。

(カードは残り3枚。だけど負ける気はしない)

 自動ドアの前に立つ。自動ドアはアビスを迎え入れた。

「Advent!」 

 もう一枚のアドベントをバイザーに挿入する。

「....」

 背後からもう一体の契約獣アビスラッシャーが姿を現す。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:10:08.18 ID:WOJJWRsc0
「いいか。俺の前を歩け。お前は盾だ。俺の盾代わりになれ」 

 言葉が通じたかどうかは理解できないが、うなり声を上げたもう一体の

契約獣は特にその命令に逆らうことなくゆっくりと前を歩き出した。

「狙えるもんなら狙ってみろよ...」

 アビスラッシャーの先導を注意深く見守り、歩を進めていた満は、

ここで唐突に自分の背後ががら空きであることに気が付いた。

 確かに50mも離れていないところにはモンスターが身を隠すのに絶好の

本棚がいくつも並んでいる。だが、目の前の契約獣は館内にいるであろう

モンスターの気配を察知することはなく、ズンズンと前に歩を進める

ばかりだった。

「?!」

 自分が無防備な背中を敵に見せている事に気が付いたアビスは、まるで

弾かれたように近くにあった大きなコンクリートの柱に身を隠した。

「アビスラッシャー!後ろだ!」

 その声にくるりと身体の向きを変えたアビスラッシャーの胴体に

4本の矢が狙い誤ることなく次々に突き刺さっていった。

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」 

 口、右腕、左腿、鼻。

 もし自分がアビスラッシャーの後ろにいたままだったら、今頃ああ

なっていたのは間違いない。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:10:50.38 ID:WOJJWRsc0
「出やがったな!」

 床で悶えるアビスラッシャーの右腕から刀をもぎ取ったアビスは

自動ドアの前に陣取る弓を構えたバズスティンガーの元へと猛然と

かけ始めた。

 縦横無尽に狙いをつけられないように、軽快なフットワークで

どんどん間合いを詰めていく。

 開け放たれたドアの真ん前に陣取る弓を構えたバズスティンガーは

その場から一歩も動けない。なぜなら一歩でも下がれば自動ドアが閉まり、

そのドアのガラスに向かって弓を射ようというのなら、ガラスの厚さに

弓の軌道がずれるのは明白だったからだ。

 バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!

 計六発の高水圧の不可視のかまいたちがアビスバイザーの口から

発射される。

「ぎっ?ぎっぎぃいいいい!」

 そのうちの四発がバズスティンガーを捉える。

 唯一の武装である弓の弦を切られたバズスティンガーはたまらず

逃走を選んだ。

 素手で戦うには目の前の敵はあまりに手強いと判断した上での懸命な

撤退だった。ただ、その判断を下すのが些か遅れた事が、運命の分かれ目と

なってしまった。

「逃がすかよ!」

「ぐがあああああああああ!!」

 アビスの叫びに応じるように、身体から矢を引き抜き、怒りに燃える

雄叫びを上げながらアビスラッシャーがバズスティンガーに食らいつく。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:11:22.86 ID:WOJJWRsc0
 
「Strike vent!」

 右手にアビスクローが装着される。

「発射ァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」 

 膨大な水が高水圧により一条の光線のように束ねられ放たれる。

 それはレーザーガンのように真っ直ぐに、狙いを外すことなく

バズスティンガーの心臓を貫き、その勢いで胴体を真っ二つにした。

 爆散するミラーモンスターの身体から魂のような塊が立ち上る。

「〜〜〜〜〜〜♪」 

 アビスラッシャーは機嫌良くそれを空中でキャッチし、口の中に

突っ込んでムシャムシャと食べ始めた。

 もし、あの光がミラーモンスターが今まで食べた人達の命の輝き

だとしたら?

 そんな可能性が、ふと満の中に湧き上がってきた。

「お前らなんか...ずっと鏡の中に閉じこもってりゃ良いのに」

 嫌悪感をあらわにしたアビスは、自分の身体から立ち上る粒子を認め、

自分に残された時間がないことを悟り、ミラーワールドから立ち去った。

116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:11:50.62 ID:WOJJWRsc0
 〜〜

 二体のミラーモンスターとの激闘を制した満は、図書館の近くの

ラーメン店に足を運んでいた。

 10人も入れば満員になるこじんまりとした店内は、昼前という

こともあってか、誰もいなかった。

「醤油ラーメンセットでお願いします」

「あいよ。ちょっと待ってな」

 ジュウジュウと音を立てる厨房をボケッと見ながら、満はこれからの

自分の身の振り方を真剣に考えていた。

(城戸さんと手塚さんは信用できるから、置いとくとして)

(他の連中がどういう動きをするかが分からないんだよな...)

(秋山蓮と須藤さんと後はサイと虎と白鳥を入れてこれで8人)

(ライダーは13人いるから、俺が知らないのはあと5人か...)

 ライダー同士の戦いに身を投じてから、一ヶ月が経過した。

 怒濤のような日々だったが、それでもまだ戦いは終わらない。

 今日まで一体何人のライダーが死んでしまったのだろう? 

 ライダーバトルの終焉の日まで果たして自分は生き残れるのだろうか?

(くっそ、あの時ライダーの情報を交換しとけば良かった)

(あ、でも...あの時城戸さんは悪徳弁護士って言ってたよな?)

 そして連続殺人犯、おそらく浅倉威と会わせるとこれで11人。

(絶対に、残り二人と浅倉には会わないように注意しなきゃな)
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:12:18.26 ID:WOJJWRsc0
 
「お客さん!お客さん!ラーメン出来てるよ!」 

「あっ、はい!すいません」

 店主の怒鳴り声に我に返った満は、湯気を立てるラーメンと餃子を

だらしなく顎を動かしながら口に運ぶ。

 あの中華料理店の餃子と比べて、ここの餃子はまずいな。と率直な

感情を抱いた満は、ラーメンのスープでごまかしながら、生臭さのする

餃子を食べ終えた。

「ラーメンは美味しいのになぁ」

「なんか言ったか?」

「い、いえ。何にも」

 じろりと自分を睨めつける店主にラーメンセットの代金を支払った

満はそそくさと店を出て行った。

「美味しいとは、言えなかったなぁ...」

 胸焼けのする胸をさすりながら、満はラーメン店を後にした。


「あー。居た居た。みーっけ」

 自分が今まで何をしているのかを全て見張られているということに

気が付かないまま... 

118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:12:56.25 ID:WOJJWRsc0
 〜北岡弁護士事務所〜

「はい。こちら北岡弁護士事務所です」

「ああ〜。お待ちしておりましたよ。さ、こちらへどうぞ」

 昼下がりの高級住宅街に事務所を構える若手のやり手弁護士、北岡秀一は

今日も忙しく働いていた。

「いや〜。北岡先生の弁護とあれば私も安心出来ますな」

「いえいえ、私なんて皆さんから見ればまだひよっこですよ」

「またまたご謙遜を〜。では、打ち合わせを始めましょうか」

「ええ」

(はぁ...子供をひき殺して良心の呵責ってのはないのかね?)

(こーゆー大人のことを人でなしっていうんだよね)

 にこやかな笑みを浮かべながら、秀一は内心で目の前の男をそう評し、

テーブルの上に事前にまとめておいた今回の裁判の資料を並べる。

 今回の裁判で弁護するのはそれなりに名前がある企業の幹部だった。

 大事な会議に遅れそうになり、制限速度を大幅にオーバーして愛車を

運転している中、運悪く曲がり角から飛び出してきた子供を跳ね飛ばして

しまったのだった。

 この事故で命を落とした子供はまだ10歳だった。

 時速60kmを超える速さの鋼鉄の塊に直撃された子供の身体は宙を舞い、

そのまま頭からアスファルトに突っ込んでしまい、即死。

 当然100%目の前の男が悪いのだが、問題はこの男の性根だった。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:13:39.96 ID:WOJJWRsc0
 
「私は全く悪くないんですよ。注意せずに飛び出したあのガキが悪い」 

「信号は点滅していたとは言え、青だった。証拠だってある」

「ええ。ばっちりドライブレコーダーに写ってましたね」

「流石次期社長。クラクションも鳴らして注意を促してる」

 自分の罪を認めるどころか、殺した人間の命を無価値と断じる傲慢さは

悪徳弁護士を自認する秀一の気分を害するには充分だった。

 この男の年齢は43歳。まだまだ働き盛りの出世頭だ。

 だが、信じられないことにこの男は一児の父親だった。

 我が子が殺されたとき、相手の親が自分みたいな白を黒にするような

悪徳弁護士に弁護を依頼し、あの手この手で無罪を勝ち取られる気持ちを

想像できないのだろうか?

(ま、俺も人でなしには違いないけど、お得意様だからねぇ...)

(2000万前払いされたわけだし。本気で取りかからせて貰いましょうか)

 子供を失った親には悪いとは思うが、これが自分の仕事なのだ。

 弁護士としてこういう事件は既に6件ほど担当しているから、相手の

出方や反論パターンも全てにおいて完璧に対応できる。

 シニカルな笑みを浮かべた秀一は今回の裁判も楽勝だなと高を

くくった。 
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:14:11.13 ID:WOJJWRsc0
 その後、二時間の綿密な打ち合わせにより、自分の勝利を確信した

依頼人は意気揚々と秀一のオフィスを後にしたのだった。

「ふーっ。あー胸くそ悪くなるなぁ」

「ゴロちゃん。ダージリン入れてよ」

 玄関の扉を乱暴に閉めた秀一は、近くに居た秘書である由良吾郎に

お気に入りの銘柄の紅茶を淹れるように頼んだ。

「先生、先程芝浦商事の息子さんからお電話が入っていました」

「なに?あのクソガキから電話?用件何よ?」

 手際良く紅茶とクッキーをテーブルの上に並べる吾郎は、数分前に

掛かって来た電話の内容を一言でまとめた。

「明日ライダーを倒すから、手を貸してほしい。だそうです」

 吾郎が言うにはこちらの方で倒す相手の情報は全て掌握しているので、

万全を期すために自分の力を借りたいと言っていたらしい。

 秀一としては、いけ好かないクソガキの命令なんか聞いてたまるかという

腹づもりだったが、護衛料として100万円もの前金を貰ってしまっている

以上、無碍に護衛対象の依頼を突っぱねるわけにはいかない。

 何故なら一回の護衛ごとに300万の報酬が手に入るからだ。

「えーっと、明日はなにか仕事入ってたっけ?」

 ともあれ、相手がわざわざライダーの一人を追い込むところまで全て

お膳立てしてくれているのなら断る理由は特にない。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:14:43.21 ID:WOJJWRsc0
「先生、明日は取材が入っているほかには何もありませんよ」

「取材?どこよ?」

「OREジャーナルです」

「うーん。どーしたもんかなぁ」

 自分に靡かない気の強い女を選ぶか、それとも300万円の仕事を選ぶか?

 秀一はしばし目を瞑り、熟考したが...

「よし、決めた」

「朝にライダーを倒して昼に令子さんに会いに行く。どうよ?」

「完璧なプランですね。先生」

 心から信頼する友人の笑顔に、秀一は心からの笑顔を見せたのだった。

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:15:09.22 ID:WOJJWRsc0
 第九話 最後のライダー
 
 深夜 ミラーワールド
 
 神崎士郎は、誰も居ないミラーワールドの中で一人佇んでいた。

「...」 

 瞳を閉じ、磔にされた一人の男の足下に跪き懸命に何かを祈っていた。

 その祈りの内容を知るものは誰も居ない。何故ならここは向こう側の

世界、ミラーワールドだからだ。

 ぎぃいいいいいい...

 だが、その静寂を破るものが現れた。

 神崎士郎とその妹以外に人間は存在し得ないミラーワールドに、唯一

その存在を認められた、もう一人の契約者<ライダー>は、薄汚れた

ステンドグラスから差し込む月光の下に佇む士郎の横へと歩を進める。

「来たか」

「ああ」

 顔を合わせることなく二人の男は、そのまま沈黙を貫いた。

「時が来た。お前のデッキだ」

「そうか。真司はまだ生き残っていたか...」

 コートのポケットから神崎士郎は一つのカードデッキを取り出した。

 龍騎と呼ばれるライダーのカードに酷似したそのデッキは、全てが

黒く塗り潰されていた。

 そして、そのデッキを持つ存在も龍騎のデッキの持ち主と驚くほどに、

全てが似通っていた。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:15:50.56 ID:WOJJWRsc0
 「全てを無に帰す暗黒の龍、ドラグブラッカー...最高だ」

「忘れていないだろうな?お前の役割を」

「無論だ。確実にライダーを一人一人消していけば良いんだろう?」

「そうだ。全てのライダーを葬り去ったその先に優衣の救いがある」 

「そうか。ならばお前との契約は成立だ」

 城戸真司は...否、そこに立つ真司とは似て非なる存在には名前がない。

 名前がない故に、その存在は未だに朧気な霞でしかない。

 形容しがたきもの、ミラーワールドの意思、鏡の中の残留思念。

 名も無き者が自らを定義する名を与えられた時、真の悪魔が降臨する。

「では、その力を用いて最強のライダーとして君臨しろ」

「城戸、真一」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:16:32.51 ID:WOJJWRsc0
 神崎士郎に名を呼ばれたもう一人の城戸真司、かつて真司の記憶の中に

存在していた彼の血を分けた唯一の肉親、城戸真一は、真司によく似た

その顔に、鏡の向こうにいる弟への憎悪を滾らせたおぞましい笑みを浮かべ

教会から立ち去っていった。

「そうだ、戦え...戦え...」

 真一の姿が消えるまで教会の外を眺めていた神崎士郎は、誰も居ない

教会の中心に鎮座したオルガンに指を置く。

 誰も聞く者のいない教会の中に、新たな戦いの始まりを告げる

荘厳なレクイエムが今、奏でられ始めたのだった...
 
 
 第一部 完  

125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:20:25.87 ID:WOJJWRsc0
 第一部という名のチュートリアルが終わった所で今日の投稿はここまでになります。
 十話から第二部という形で更にライダーバトルが激化していく予定です。
 次の投稿は明日か明後日になります。運が良ければ今日の夜くらいに投稿するかも?
 ということで、今日の投稿はおしまいです。
 
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 15:10:32.47 ID:lt5bQRgNo
乙ふむ悪くない
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 15:32:22.18 ID:wIMoJDQ0o
おつおつ
アビスは確かに弱くは無いが……強くてニューゲームか?本当に大丈夫かこれ?
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/25(火) 00:26:09.75 ID:RPyutF6zO
期待せざるを得ない
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:49:39.94 ID:L6BVEgLS0
 >>127さん。申し訳ないです。じつはこのssを投稿する際に良い感じのタイトルを思いつけなかったんです。
 それで、それっぽいタイトルにしようということでこのタイトルにしました。
 正直、強くてニューゲームの意味を理解せずにつけちゃいました。どうか笑って許して下さい。
 
 それでは、今日の分の投稿を始めたいと思います。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:51:15.01 ID:L6BVEgLS0
第二部 十話目 ゾルダとガイ


 神崎士郎により開催されたライダー同士の戦いから既に一月半が

経過していた。

 残るライダーは11人。

 龍騎、王蛇、ガイ、ナイト、ゾルダ、ライア、タイガ、ベルデ、

オーディン、リュウガ、そしてアビス。

 ある者は手を組み、またある者は己の心の赴くままに戦いに臨む。

 全ては己の叶えたい願いのため、生き残るために彼等は戦う。

 だが、戦いは更に激化の一途を辿っていた...


〜〜〜〜〜


「ははっ。どーしたよ仮面ライダー。もっと楽しませてくれよ?」 
 
「confine vent!」

 夢ではない現実世界で今も戦いが繰り広げられていた。

 
 逃げ場もない、隠れる場所もない河川敷で一人のライダーが三人の

ライダーに追い込まれていた。

「クソッ...どうしてカードが使えないんだ!」  

「はぁ...バカな奴ってほーんと救いようがないよねぇ」

「北岡さんもそう思わない?」

「ああ。俺もそうだと思うよ。バカって罪だよなぁ」

 三人のライダーに追い詰められ、満身創痍の仮面ライダーアビスは

目の前に立つ二人のライダー、仮面ライダーゾルダとガイの罵倒を

浴びながら懸命にこの窮地を打開する策を考えていた。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:52:24.55 ID:L6BVEgLS0
 事の始まりは、いつもと同じあの金属音からだった。

 スーパーの朝のセールの帰りに、家に帰る近道として河川敷を自転車で

走っていた満は、突然背後から迫ってきた何者かに自転車ごと河原まで

吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた痛みに悶えながら、何事かと周囲を見回すと

「....」

 自分の200m後ろに緑色のミラーモンスターが立っていた。

「クソッ...敵襲かよッ...」

 不幸中の幸いだが、手も足も折れていない。

 しかし広大な河川敷には隠れる場所はおろか、逃げ道すら見当たらない。

「やられた...」

 変身して相手を叩かなければやられるのは自分だ。

 覚悟を決め、ポケットからデッキを取り出し川の水面にかざす。

「変身!」 

 瞬時にアビスに姿を変えた満は躊躇うことなく川の中に飛び込み

ミラーワールドへと戦場を移した。

132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:53:13.31 ID:L6BVEgLS0
「はぁっ!」

 全てが反転した景色の中、自分の立っていた場所に先日見かけた

灰色の防御力の高そうなサイのようなライダーの姿があった。

「strike vent!」

「strike vent!」 

 それぞれの得物を、アビスクローとメタルホーンを呼び出した二人のライダーは

にらみ合いながら自らの攻撃が届く間合いの距離を冷静に分析し続けていた。

 防御特化の白兵戦スタイルのガイにとって、1対1や遠い間合いからの

高水圧の水鉄砲の攻撃はさして脅威ではない。

 問題なのは相手の契約獣の地の利に押し負けすることだった。

 ガイこと、芝浦淳が佐野満の事を知り得たのは須藤雅史からだった。

 ハマったら本当に殺し合いをしてしまうゲームを製作してしまう程の

クレイジーな本性の淳は、このライダー同士の命懸けの戦いを、その裏に

ある黒幕の真の狙いを知る事なく、あくまでも合法的に人を殺せる

新時代のニューゲームという感覚で気軽にプレイしていた。

 最初は半信半疑で神崎士郎に言われたとおりに変身し、実際に鏡の中に

生息するそこそこ強いミラーモンスターをファイナルベントで一発で

葬り去ったとき、淳の身体を稲妻にも似た快感が走った。

「モンスターを殺したときでさえ、こんなに気持ちが良いのに...」

「ライダーを殺せばもっと気持ちよくなれるんじゃないのか?」

 完全に思考は狂人のそれだが、悪質な事に淳は前述のゲームをいじくり

プレイした人間が、今度はミラーワールドに出入りする人間の後を徹底的に

追尾するように改良してしまったのだった。

 そして、強キャラやボスキャラの前の前菜として目をつけたのが、

刑事、須藤雅史だったのだ。

 駒から通達される須藤雅史の一挙手一投足により、芋蔓式に二人目の

雑魚キャラ、佐野満が姿を現した事により、淳のゲームは第二段階に

移行した。

 即ち、雑魚キャラ討伐による経験値稼ぎである。
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:53:58.98 ID:L6BVEgLS0
 鏡の中でシザースのカードをのぞき見して、その全てを把握した淳は、

手駒の学生達に学内で刃傷沙汰を起こさせ、運悪くその事件を担当した

雅史をライダーバトルで合法的に葬り去ったのだった。

 しかし、満を調査していく内に思ったよりも底力を発揮した満が死線を

潜り抜ける内に、段々と目障りになってきた淳は、父親の知人にして仮面

ライダーである北岡秀一に助勢を頼み、今日ここに至ると言うわけである。

〜〜〜

「ふっ!」

 膠着する戦況に先にしびれを切らしたのはアビスの方だった。

 ガイの分厚い甲冑にではなく、頭部のみに狙いを定めた近距離狙撃。

「うぐぁっ!」

 視界を封じられ、たまらず右往左往するガイ。

 意表を突かれた不意打ちに狼狽しながらも、予め決めていた合図を

指定したポイントに身を潜めている護衛へと送る。

 アビスにとって敵の姿が見えない中、カードの枚数を減らされた状態で

長期戦に持ち込まれるのは一番避けたい事態であり、まして自分を襲った

連中の中でも一番防御力が高そうなガイが先鋒を務めているという事は...

(草むらに隠れて今も俺を狙おうとしているかも知れない...)

 助かるためには手段など選んでられない。

 アビスは悶えるガイの首に手を回し、強化された腕力でその首根っこを

締め付け始めた。

「うぐっ!がっ、がはっ...ぐ、ぐるじ...い」

 喉を潰されれば一貫の終わりだと言う事を理解しているガイは、それでも

必死に北岡の助けを信じて、その時がくるのを待ち続けていた。

 奥の手である特殊カード、コンファインベントは相手が直前に発動した

アドベントカードの効果を一度だけ無効化するカードだが、武器はでなく

自らの素手で首を絞めているライダーには全く効果がない。

 屈辱的だが、ここは助けが来るまで堪え忍ぶしかない。

 そして、その忍耐が報われるときが遂にやってきた。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:54:32.60 ID:L6BVEgLS0
「ん?!」

 ガイの首を絞めるのに夢中になっていたアビスの後ろから何か細い

紐のようなものが幾重にも巻き付いている。

「くけぇええええええええ!」
 
 その赤い色をしたものからベットリとまとわりつくような粘液が

出てきたことに気が付いたアビスだったが、時は既に遅く...

「がはっ!ぜぇ...ぜぇーっ、はぁーっ!」

 今度はガイではなく自分が逆に首を絞めつけられている状況へと

陥ってしまったのだった。

「げほっ...アハハハハハ!どーだ、これがライダーの戦いなんだよ!」

 咳き込みながらも、余裕を取り戻したガイは声高らかに目の前で

手も足も出ずにもがき苦しむアビスに嘲笑を向けた。

 アビスの首を絞めている存在がその姿を現す。

「けっけっけぇええええええええええ!!!」

 周囲に溶け込む保護色を脱ぎ捨てた化け物の名はバイオグリーザ。

 仮面ライダーベルデの契約獣にして忠実な僕である。

「執事さん。危なかったよ、ナイスアシスト」

「いえ、これが仕事っすから」

 後ろを振り返ったガイは、三人目のライダー、ベルデに率直に感謝した。

 その変身者、由良吾郎は手短にその感謝に答えた。

 バイオグリーザの手が首に巻き付く舌を引きはがそうとするアビスの

両手に掛かる。更に運の悪い事に、アビスの両手はモンスターの手によって

引きはがされ、その大きな左手でひとまとめにされてしまったのだった。

 いかにライダーとは言え、自分の倍以上の体躯を誇るミラーモンスターの

腕力には叶う筈もなく、そのままカメレオン型のモンスターは当然のように

得物の首を巻き付けた舌のまき付けを強め、窒息死させようとした。

 このまま死んでしまうかも知れない。

 酸欠になった頭が徐々に意識を手放しに掛かる。

 何かないのか?何か助かる方法は?

 その瞬間、アビスの頭に電撃のような閃きが走った。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:55:01.88 ID:L6BVEgLS0
 バシュッ!バシュッ!

「げええええええええええ!」 

 アビスバイザーから飛び出した水の刃が、バイオグリーザの足の指を

一瞬で切り落とす。咄嗟の出来事にモンスターはたまらず左手の拘束を

緩めてしまった。

 舌と手の拘束が緩んだアビスは今度は一か八かの追撃に移った。

 バカみたいに大口開けているバイオグリーザの口内に向けて、バイザーが

出せる限りの最高出力の高水圧弾をぶち込んだのだ! 

「うげええうごおおおええええええ〜〜〜〜〜!」

 頭の骨格が変わってしまうかのような物凄いショックを受けた

バイオグリーザは、あまりの激痛に地べたを転がり回った後、持ち前の

保護色を最大限に活用し、三人の目の前から姿を消したのだった。

「くそっ!もう時間がない!」

 身体から立ち上る淡い粒子が活動限界時間を告げる。

「Final vent」

 アビスになってからまだ一度も使っていない切り札を今ここで切る!

「この時を待ってたんだよッ!」 

「confine vent!」

「なにっ!」 

 コンファインベントを左肩にガイがベントインした瞬間、アビスの

ファイナルベントは一瞬でその効力を失ってしまったのだった。

「そんな!嘘だろ!?」

 ファイナルベントがその絶大な力を発揮する前に無効化されてしまった。

 そのショックに、アビスはしばし我を忘れ、呆けてしまった。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:55:40.39 ID:L6BVEgLS0
「Advent!」

 ガイのバイザーに契約中のカードがベントインされる。

 忠実なガイの下僕、メタルゲラスは猛る闘志を咆哮に滲ませ、大声を

上げながらアビスを一瞬で吹き飛ばしたのだった。

「ぐああああああああああああッ!!」

 ダンプカーにはね飛ばされたような、全身がバラバラになりそうな衝撃が

アビスの身体を襲う。右手のアビスクローはぶつかった衝撃でどこかへと

飛んでいってしまった。

「ははっ。どーしたよ仮面ライダー。もっと楽しませてくれよ?」 
 
 全身を襲う痛みにアビスは悶えるしかない。カードを取り出して

バイザーに入れようとしても、指一本動かせない。

「ゴロちゃん。お疲れ様、あとは俺がやっとくからいいよ」

「もうゴロちゃんの変身時間、限界が近いだろ?」

「はい。では、お先に失礼します」

 ベルデの背後から、新たなライダーが姿を現す。ゾルダだ。

 自分やガイと異なり、まだミラーワールドでの活動限界時間を迎えて

いないゾルダは、何の躊躇いもなく自分のカードを銃型のバイザーに

ベントインした。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:57:11.30 ID:L6BVEgLS0
「shoot vent」 

 巨大なバズーカ砲、そのトリガーにゾルダの指がかかった。

 もう、勝ち目がないのは明白だ。

 あんな巨大なバズーカをこんな近くでぶっ放されたら、人間の肉体など、

木っ端みじん、欠片すら残らないだろう。
  
「クソッ...どうしてカードが使えないんだ!」

「はぁ...バカな奴ってほーんと救いようがないよねぇ」

「北岡さんもそう思わない?」

「ああ。俺もそうだと思うよ。バカって罪だよなぁ」

 悪足掻きすら出来ず、負け惜しみしか言えない目の前の雑魚ライダーに

ガイとゾルダは冷笑と同意をもって返答とした。

「悪いね。これもライダーバトルの一つの結末だからさ」

「死んでくれ。なぁに、一発で仕留めるからさ」

 まるで気軽に友人をゴルフに誘うような口ぶりでゾルダは躊躇う事なく

ギガランチャーのトリガーを引こうとした。が...

「strike vent!」

「なにっ!」

 背後から聞こえた電子音声により、ゾルダの集中力が途切れた。

 引き金に掛かった指が離れ、ガイと共に周囲を警戒する。

「くそっ!なんだ誰だよ、俺のゲームを邪魔する奴は?」

 姿の見えない敵にゾルダもガイも咄嗟の反応が遅れてしまった。

「Advent!」

 一瞬の油断が二人の命運を分けたと言っても過言ではなかった。

 アビスを囲むように立っていた二人の立ち位置があだとなってしまった。

 背後に迫る殺気にガイよりも早く反応したゾルダは、遅ればせながらも

同様に反応したガイの足下にギガランチャーを叩き付け、そのまま横へと

飛び退き、呼び出したライドシューターに乗り込んで、あれよあれよと

いう間にミラーワールドから間一髪で脱出したのだった。 

 ゆうに100kgを超えるバズーカ砲を爪先に落とされてしまったガイは、

自分の足の甲が折れた事を感じた瞬間に、頭の右横からスイングされた

巨大な虎の掌に意識を刈り取られたのだった。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:57:40.08 ID:L6BVEgLS0
「ほら、これ使って脱出しなよ?」

 悠々と身動きの取れなくなったガイの背後から、また新たなライダーが

姿を現した。

 仮面ライダータイガ。以前満がミラーワールドで戦いをのぞき見ていた

もう一人のライダーだった。

 タイガは大きな鏡をアビスの横に置き、それを使ってミラーワールドから

脱出するようにアビスを促した。

 アビスは消えかかった身体を引きずるようにして、その手鏡の中に

吸い込まれていった。

「お前...あの時の...」

 そう、あの時の殺し損ねたライダーが自分を見下すように立っている。

 僕は英雄になるんだ。という意味の分からないふざけた事を言いながら

いきなり自分の命を狙ってきたライダーとの決着は、ミラーモンスターの

乱入によってつく事はなかった。

 今度会ったら真っ先に殺してやると誓った矢先なのに...

「ねぇ知ってる?虎って執念深いんだよ?」 

「一度狙った獲物は、必ず仕留めて殺すんだ」

「一時はどうなる事かと思ったんだけど、見つける事が出来て良かったよ」

「Final vent!」

 待て!と声をあげる間もなく仮面ライダーガイは頭を串刺しにされた。

 ドクドクとマスクに空いた穴から大量の血液が流れ出す。

 タイガのファイナルベントは、契約獣デストワイルダーがその鋭い爪を

相手の身体に突き刺し、そのまま虎が獲物を狩るように、地面を引きずり

回し、最後にタイガの大きな爪でトドメを刺すえげつない技だった。

 しかし、頭を貫いて即死してしまったそのあっけなさに、当の本人達は

困惑を隠せなかった。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:58:11.89 ID:L6BVEgLS0
「ダメじゃないか。デスト。頭を貫いたら遊べなくなっちゃうだろ?」

 不満げに喉を鳴らすデストワイルダーを頭を撫でて慰めたタイガは

ピクリとも動かなくなったガイのデッキから残りのカードを全て

引き抜いた。

「あっ、あったあった」

 満足げな笑みを浮かべたタイガの手には、もう一枚のカードの効果を

無効化する特殊カード、コンファインベントが握られていた。

「これ欲しかったんだ〜」

 デッキからカードを引き抜いた瞬間、ガイの変身が解ける。

 頭をスライスされ、物言わぬ死体となった芝浦淳は虚ろな目のまま、

白い虎に頭を丸かじりされはじめた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 どこからか悲痛な声が聞こえてきた。

 声の元にデストワイルダーが目を向けると、川岸から猛然と突進

してくる新しいミラーモンスターがいた。

 そう、主を失ったメタルゲラスだ。

 主の危機に駆けつけられなかった不忠者は、せめて主を殺した犯人を

八つ裂きにして復讐を果そうと、何も後先を考えずに猪突猛進ならぬ

犀突猛進しながら、その自慢の一本角でタイガを貫こうとした。

「デストワイルダー。アイツの動きを封じろ」

 信頼する主の命令にデストワイルダーは頷いた。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:58:40.69 ID:L6BVEgLS0
「がおおおおおおおおおお!!!」

 猛虎の咆哮と犀の突進がぶつかり合う。

 かつて相対した蟹の契約獣なんかとは比較にならないほどの剛力で

メタルゲラスは押さえ込まれてしまった。

 首筋を噛まれ、腹部を貫かれた忠臣は恨めしげな視線でタイガを

睨み付け、断末魔の叫びを上げ続けていた。

「よかったね。デストワイルダー。お前に友達が出来るよ」 

 未だに寝取られた女のような女々しい悲鳴を上げ続けるメタルゲラスを

にこやかに見つめたタイガは、自分の相棒と遊んでくれそうな目の前の

元気の良いミラーモンスターを仲間に加える事を決めた。

 カードデッキから取り出した一枚のカードがメタルゲラスを吸い込む。

 プライドや主への想い、そして自慢の一本角を粉々に打ち砕かれた

メタルゲラスは一瞬のうちに、契約のカードの中に吸収されてしまった。

「先生、喜んでくれるかなぁ?」

 英雄の卵である自分を導いてくれる恩師の笑顔を思い浮かべながら、

仮面ライダータイガは意気揚々と充分な戦果をひっさげて、鏡の中の

世界から引き上げていったのだった。

 仮面ライダーガイ/芝浦淳、死亡 残り10人。

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:59:06.68 ID:L6BVEgLS0
 第十一話 the alternative

 清明院大学大学院 401研究室

「う、うーん...」

 意識を取り戻した満がいたのは、全く来た事のない大学の一室だった。

「ここは...どこだ?」

 身体を起こして周囲を見渡す。

 窓という窓は黒いカーテンで閉められている。それどころか何かを

反射する者には全て何かしらの黒い覆いが掛けられているのだ。

(ああ...こうすりゃミラーモンスターは出てこれないよな)

 ソファーをくっつけた簡素なベッドから降りた満は、そこかしこに

物が散乱した研究室を歩き始めた。

「おや、お目覚めですか?」 

「ひぃっ!」 

 自分の背後、大きな黒板の隣にある扉から一人の男が姿を現した。

「あ、アンタ一体誰だ?!」

「これは失礼。驚かせてしまったようですね」

「私は香川英行。この研究室の主です」

 一分の隙も無駄すらもないその洗練された動きは、まるで全てが自らの

想定内だと言わんばかりの自信に溢れていた。

 研究室の一番端っこの黒いカーテンを男は引いた。

 シャッ!シャッ!シャーッ!

 研究室の全てのカーテンが開かれた時、満は自分に語りかけた人物の

顔をようやく直視する事が出来た。 
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 10:59:46.46 ID:L6BVEgLS0
 その男は、一言で言うならば理知的だった。

 全身から立ち上るカリスマが、目に見える自信という形で見える人間。

 それが目の前の男、香川英行に対して満が抱いた第一印象だった。

「香川さん、ですか。えっと...ありがとうございます」

「なにがでしょうか?」

 理知的だが、同時に温厚さすら感じさせる香川は、事情が掴めずに

きょとんとしている満の近くに歩み寄り、手に持っていた500mlのペット

ボトルのジュースを手渡した。

 キャップを開けて、口をつけて一気に飲み干す。

「一息つけましたか?」

「ええ。ジュース美味しかったです。ありがとうございます」

 混乱する心を静めた満は、一体どのように自分がここに来たのかを

香川に対して質問した。 

「さっき...河川敷で倒れていた僕を助けてくれたんですよね?」

「いえ、私はただ貴方をここで休ませただけです」

 自分も手に持っていたペットボトルのオレンジジュースを飲みながら、

香川は満が理解できるように、簡単に事情を説明し始めた。

「私の教え子がね、貴方を抱えてきたんですよ」

「河川敷を車で走っていたら、なにやら自転車が転がっている」

「怪しい。誰かが犯罪に巻き込まれたのではないのだろうか?」

「そう思って河川敷を探すと、貴方が倒れていたそうです」

「意識を失った貴方を起こそうとしても、中々目覚めない」

「かといって警察を呼んであらぬ疑いをかけられたくもない」

「それで僕をここに連れてきたと?」

「ええ。私は教授なんですよ。当然この大学の医学部にも顔が利きます」

「そうだったんですか...」

 色々と腑に落ちないことはあるものの、香川の言っている事は大体が

真実なのだろう。以前ミラーワールドがらみで警察に厄介になった

満としては、また警察に厄介になるのは避けたかったというのもあるし、

何よりも目の前の男が社会における一種の立場を確立した大人である

ことも香川を信用できる大きな安心としてあった。

(ふう...我ながら悪運が強いなぁ...運が良いんだか悪いんだか...)

 果たして目の前の人にライダーバトルの事を打ち明けても良いの

だろうかと思案に暮れた満は、ここでようやく自分の今着ている服が

先程まで着ていた服とは違う事に気が付いた。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:00:14.02 ID:L6BVEgLS0
(ま、まずい。デッキがない!)

 デッキがなければミラーモンスターやライダーとも戦えないし、財布の

中には、自分にとって決して無視できない財産を引き出せるカードだって

ある。

「すいません。あのっ、僕の私物はどこにありますか?」

「ああ、すっかり忘れていましたよ。どうぞ、こちらへ」

 色々と事情のありそうな初対面の男に動じる事なく、香川は落ち着いて

自分の使っている個室のデスクから、袋に保管していた諸々の満の私物を

そっくりそのまま返還したのだった。

「助かったぁ...本当にどうお礼を申し上げたらいいのか..」  

「何から何までこんな見ず知らずのフリーターに....」

「そうかしこまらないでください。困ったときはお互い様ですよ」

 財布も、家の鍵も、そしてカードデッキも全部揃っている。

 何も欠けていないし、何も壊れていない。

 唯一の後悔は、買い込んだ食料が全部おじゃんになってしまった事だが

今は自分の命があるだけ丸儲けだと満は自分を納得させた。

「佐野さん。これからなにか用事はおありですか?」

「あー、ないです。今はその...職無しのプー太郎でして...」

「そうですか、では...これから食事などいかがでしょう?」

「えっ、いや...悪いですよ。だって俺、お礼できないっすよ?」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:00:42.08 ID:L6BVEgLS0
 思ってもみなかった香川からの素敵な提案に、しかし満は首を縦に

振る事が出来なかった。

 見ず知らずの自分に、そうする義理がないにも拘わらず、まるで

そうするのが当然のように至れり尽くせりの対応をしてくれた香川に

対して何もお礼が出来ない自分が恥ずかしいと思ったからだ。

 しかし...

 ぐぅ。と空腹を告げる腹の音が、ごまかせない音を立てた。

 それは確かに満の耳にも、香川の耳にも飛び込んできた。

「丸二日寝込んでいるのに、ですか?」

「二日?!」

「ええ。貴方が眠ってから既に二日が経過しています」

「一日だけならば、ここで笑って送り出せるのですが...」

「二日も寝込んだ人間を空腹のまま送り出すのは偲びありませんので」

「ここは一つ、何かの縁と思っていただければ嬉しいのですが?」

「...はい。じゃあ、その...ご馳走になります」

 この立派な人にいつか恩が返せるときになったら、ちゃんと返そう。

 そう考えた満は、香川の申し出をありがたく受ける事にしたのだった。

145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:01:13.61 ID:L6BVEgLS0
 〜清明院大学 食堂〜

「あっ、香川先生だ!せんせーい!こっち向いて〜」

「やぁ。今日も元気だね。吉田さん」

「センセーかっこいー!デートして〜」

「木田さん。私を口説かないでください。妻子ある身ですからね」

 午後一時、少し遅めの昼食を取ろうとする香川の横には沢山の女子

生徒達が並んでいた。

 最終学歴が大学中退の満だったが、満の通っていた大学ではこんな風に

なれなれしく教授達に生徒達は近寄ってこなかった。

(うわぁ...人望あるんだなぁ...この人)

 女の子達が囲む香川の席に座る事に気後れした満は、遠目に生徒と

香川のやりとりを見守る事にしたのだった。

「海原君。就職活動はどうかね?良いところは見つかったかな?」

「それがさ〜。上場企業は全部ダメで中小しか受かんなかったんだよ〜」

「そうですか。でも、企業の名に甘んじてはいけませんよ」

「受かった企業を上場させるくらいのガッツを持たなくては」

「ちぇ〜。先生みたいに特別な才能があればなぁ〜」

「個性と才能は違いますよ。才能というのは努力の極致です」

「先天的に自らに備わっているのが、個性だと私は思います」

「はーい。よくわかんないけど頑張りまーす」

「ファイトですよ」

 生徒達がいなくなったのを見計らった満は、そろりそろりと香川の

座る席の隣に自分のトレイを置いた。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:01:52.18 ID:L6BVEgLS0
「いや〜。香川先生って凄いんですね〜」

「生徒さん達、みんな先生のことすっごく慕ってるじゃないですか」

「いえいえ、私はそんなに大したことをしていませんよ」

「教師として、自分の見識の範囲内で彼等に助言をしただけです」

 満の絶賛を謙虚に受け止めた香川は、満の持ってきたトレイをじっと

見つめながら、話題を逸らし始めた。

 満のトレイには、A定食とカツカレーの二つが乗っかっていた。

「おや、佐野君はカレーが好きなんですか」

「大好きですよ。あ、横浜カレーって知ってますか?」

 大盛りのカレーを口に運びながら、香川は満の振った話題に真摯に

答え始めた。 

「よく知っていますよ。私の家では年に三度ほどそのルーを使いますから」

「あー!そうなんですか〜?やっぱり分かる人には分かるんだ〜」

「俺のバイト仲間は皆バーモント、バーモントって口を揃えるんすよ」

「ほう、それは損をしていますね。コクの深さが分からないとは...」

「さっすが先生、お目が高い!」

「そもそもカレーというのは、辛くなくては始まりません」

 カレーうどんを綺麗に啜る香川は、満とカレー談義に花を咲かせていた。

 やれスープカレーは邪道だとか、カレーの隠し味に牛乳や果物は

不必要だとか、今まで食べたカレーの中で何が一番辛かったか、等等の

他愛もない話に熱中していたのだった。

 そのうち、カレー談義は香川の家族の話へと変わっていったのだった。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:02:21.73 ID:L6BVEgLS0
「ですが、家内や息子はどうにも辛いのが苦手らしく...」

「私は家で常に一人だけレトルトパウチのカレーなんですよ...」

「え?先生奥さんとお子さんがいるんですか?」

「ええ。ほら、この写真の小さい子が私の息子なんですよ」 

「裕太っていう名前なんですけどね。まだ小学生なんですよ」

「うわ〜。可愛いな〜。裕太君が羨ましいっすよ」

「俺の父親なんか...父親...なんか...」

 携帯電話の待ち受け画面には幸せそうな笑顔を浮かべている香川と

その家族の写真が写っていた。

「どうかしましたか?佐野君」

「あ、いえ...俺の親父はなんていうか嫌な奴だったんで」

「こんな感じに家族で写真なんか撮った事ないんですよ」

 思い出したくない思い出に蓋をした満は、心配そうに自分を見つめる

香川に無理矢理笑いかけて、席を立とうとした。

「香川先生。なにからなにまでありがとうございました」

「お礼はいつか必ずさせて頂きますので、これで失礼させて頂きます」

 話の合う相手との話を切り上げる事に残念そうな表情を浮かべながらも、

香川は深く満を引き留めようとしなかった。

 丁度昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったのを口実に、満は

香川に深々と頭を下げて、大学の食堂を後にしようとした。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:02:54.63 ID:L6BVEgLS0
「ああ、待ってください。佐野君、一つだけお願いがあるんです」

「はい?なんでしょうか?」

 自分に背を向けた満に、香川は声をかけた。

「いえ、大したことではないんですが」

「私が預かっていた荷物の中にあった、あの格好良い玩具」

「もう一度、見せて貰えませんか?」

「カードデッキのことですか...いいですけど...」 

 香川の言葉を疑う事なく、満はポケットの中からカードデッキを

取り出して、香川の前に置いたのだった。

「そうそう。これですよ」

「息子の誕生日が近くて...これ、なんていう番組の玩具ですか?」

「えっと...それは...なんでしょうね?」

 香川の言葉に答えを返せずに口ごもってしまう。

 なぜならこれは玩具などと言う生ぬるい物ではないからだ。

 これは鏡の向こうに渡り、ライダーや怪物を殺す為のライセンスだ。

 しかし、香川は脳天気にデッキの中からカードを引き抜いて、興味深げに

裏と表を交互にひっくり返し、目を輝かせながらじっと観察している。

「この二枚は、サメですか?」

「ええ。まぁそうですね。何の鮫かは分からないですけど」

「アビスハンマー...アビスラッシャー...」

 二枚の契約獣のアドベントのカードを見つめる香川の視線が徐々に

厳しい物に変わっていく。

「実はこれ、知人っていうか...ある人から貰ったんですよ」

 カードをじっくりと見ていた香川は、納得したように全てのカードを

満のデッキの中に入れ戻し始めた。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:03:27.75 ID:L6BVEgLS0
「胡散臭い人なんですけど...捨てるに捨てられなくて...」

 その瞬間、香川の顔から穏やかさが消えた。

「その胡散臭い人、というのは...神崎士郎と名乗りませんでしたか?」

「ど、どうして...香川さんがあの男の名前を...」

 愕然とした満は、自分の手元にデッキがない事に今更気が付いた。

 そして、耳元から聞こえるあの金属音。

 なんてことだ、助けて貰ったと今まで思っていた人間もライダーなのか?

「佐野君。どうやら私はこのまま君を帰すわけにはいかなくなりましたよ」

「どうです?ここは一つ、腹を割ってとことん話し合いませんか?」

 理知的な瞳の中に渦巻くある種の狂気にも近いその感情に、満は

黙って頷く事しか出来なかった...

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:04:08.10 ID:L6BVEgLS0
 〜清明院大学大学院 401研究室〜


 大学の食堂から研究室に引き返した満を待ち受けていたのは、ただ者

ではない異様な雰囲気を纏った二人の学生だった。

「先生、お疲れ様です。そこにいるのが例のライダーですか?」

「ええ。そうですよ仲村君。彼が東條君が助けたライダーです」

「....」

 どうやら香川に話しかけた学生、どこか喧嘩腰で、触れれば切れる

ナイフのような鋭い目つきをしているのが仲村で、その仲村の後ろで

沈黙を守り、虎のような視線で自分を見つめているのが東條という学生だろう。

 満を自分のラボに連れてきた香川は、それなりに値の張りそうな革張りの

椅子に腰掛け、その両脇に東條と仲村を控えさせた。

「あの、香川先生...そこの二人の人は一体誰なんですか?」

「ああ、この二人は私の教え子です」

 満の質問に答えた香川は、仲村と東條に自己紹介を促した。

「仲村創だ。香川先生の下で大学院生をしている。よろしく」

「東條悟です。仲村君と同じく先生の教え子です。よろしく」

 素っ気ない自己紹介は信用のなさの表れとよく言う。

 いや、信用がない奴だと思われているだけならまだ良い。

 問題はこの三人がやろうと思えばいつでも楽に自分の命を容易く

奪えるほどの手練れだという事が問題なのだ。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:04:39.46 ID:L6BVEgLS0
「佐野満です。三日前は本当にありがとうございました」

「あの時助けて頂けなければ、俺死んでました」

「お二人には感謝してます」

 深々と頭を下げて、目の前の二人の反応を伺う。

「...良かったな東條。お前、感謝されてるぞ?」

「流石英雄。やることなすことがいちいち格好ついてるな」

「仲村君さぁ、そういう男の癖にネチネチしてるの女々しいよ?」

「何でも蔑むのは、人としてかなり未熟な証拠なんじゃないの?」

「なんだと!!」

「よしなさい!」

 どうやら香川の教え子は、香川に比べれば小物も良いところだ。

 仲村は心が狭く、東條は人に言えない闇を抱えているように見えた。

 香川に窘められた二人は、渋々その怒りを収めたのだった。

「仲村君。今のは君が悪い。東條君に謝りなさい」

「何でですか!トドメを刺せるときに刺すのは当然で...」

「人を殺す事を甘く考えるな!」

 香川の怒号が研究室を震わせる。

 その怒りに仲村は堪えきれないなにかをグッと飲み込んで、横にいる

東條へと頭を下げたのだった。

「すまない...言い過ぎた」

「別にいいよ。仲村君は僕とは違ってまっとうな人間だから」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:05:06.89 ID:L6BVEgLS0
 一言多すぎる所か、その一言で今更ではあるが、東條がライダーとして

既に他のライダーを殺していたことに満は気が付かされた。

「ふぅ...お見苦しいところを見せてしまいましたね」

「い、いえ...。香川先生も大変なんですね」

 正直な話、なぜ香川ともあろうひとかどの人間がこんな人として

癖のありすぎる二人を同士として迎えているのかが満には欠片ほどの

理解も出来なかった。
 
 しかし手を組むにしろ、組まないにしても、いずれ戦う事になるかも

しれない、この場にいる三人の真意を見極めなくてはならない。

 満は固唾を飲んで香川の言葉を待つ事にした。

「では、本題に入らせて貰いましょうか」

「佐野君。私達に貴方の力を貸しては頂けませんか?」

「えっ?!」

 それは初めてのライダーによる勧誘だった。

 城戸真司との出会いの時は、自分から彼の下に入る事を望んだが、

今回はそれとは異なる全く逆のパターンだった。

「先生、彼は信用できるんですか?」

「それを今から君達に判断して欲しいのです」

 東條が困惑を顔に浮かべながら、香川にその真意を問う。

 しかし香川は東條に選択を任せると答え、すぐさま話を戻した。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:05:36.83 ID:L6BVEgLS0
「佐野君。幾つか答えて欲しい事があります。いいですか?」

「は、はいっ!答えます」

「では、一つ目の質問です。佐野君は何のために戦っているんですか?」

「え、えっと...死なないためです。生きる為です」

「ほう。生きる為。ですか」

「では、生きる為にライダーを殺す覚悟を持った事はありますか?」

「そ、それは...分からない、です」

 自分は浅はかで、何かを変える事が出来ない人間だけど、復讐の

無意味さと報復の連鎖はいつまでも悪い方向に続いてしまうと満は

己を回顧した。

 神崎士郎に巻き込まれて満のライダーバトルは始まった。

 アイツのせいで、自分は何度も死にかけたし、罪のない人達が自分の

せいで命を落としてしまった。

 今でも神崎士郎の事は恨んでも怨み足りない。 

 だけど、望む望まぬに拘らずこのバトルに参加したライダー達を

殺すのは間違っていると、それだけは断言できる。

「そうですか。では言い方を少し変えてみましょうか」 

「多数を殺す事が出来る個の存在を殺さなければならないとき」

「その個を殺して、平穏が得られるのが確定しているなら」

「貴方は、それでも自分の戦いをやめる事が出来ますか?」

「それは...」 

 満のような人間にとって、善悪の二元論は難しい質問だった。

 何を成せば善となるか?何を成せば悪となるか?

 その二つを己の心の中の秤にかけて、人は未来を選びとっていく。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:06:17.93 ID:L6BVEgLS0
(もし、俺が...浅倉威と1対1で対峙したら...) 

 足りない頭で満は必死に考えた。

 今は亡き須藤から連続殺人犯がライダーとしてこの戦いに参加している事を

聞かされた時の事を思い出す。

 ただ自分の我欲の為に多くの人を殺害した奴は、まさに香川の言う

多数を殺す事が出来る個の存在と言えるだろう。

 自分はこの戦いを生き残るために戦うと言った。
 
 人殺しは正当化できない。例えどんな理由があったとしても、人が

人を手にかけた時から、その人は後戻りできなくなる罪を背負うことに

なってしまう。

 だが、浅倉を野放しにしてしまえば犠牲者の数は増え続ける。

(どう答えりゃ良いんだよ...) 

 こんな時、城戸真司であればきっと、それでも自分を貫き通すだろう。

 誰彼構わず救おうとして、その為に戦うんだ。と...

 自分には真司のような確固たる信念がないことがこれほど恨めしかった

ことはないと満は唇をかみしめた。

「俺は...その個を止められる力を持っているのが俺しか居なかったら」

「俺は、多分戦いに行くと思います」

「だけど!」

「だけど?なんですか?」

「俺は、弱いから殺されてしまうかも知れません...」

「死にたくないけど、先生の言う個がどれだけ悪い存在でも...」

「生き残りたいという想いが強い方が生き残るのではないんでしょうか」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:07:05.21 ID:L6BVEgLS0
 詭弁だ。

 聞こえの良い事を言っているように見えるが、その本質はただの

他力本願でしかない。満は自分の背後にいる人間の生きたいという想いを

自分の戦う理由に入れていない。

 どのような理由があっても、殺人は大罪だ。

 しかし自分しか守りたい者を守れる力を持っていない状況下で、そんな

あやふやな理由で武器を取っても、悪を排除する事は到底不可能だ。

 何故なら人の命は一つしかない。一度死ねば人は蘇らない。

「....」 

 しかし、その不条理を受け入れた上で悪と戦い勝利する者が必要なのだ。

 善でありながら悪を担い、可能な限り多くの人を守る存在が世界には

必要なのだ。

 それが、香川英行の掲げる『英雄』の姿だった。

 英雄とて完全な善ではない。

 掲げる善の中に悪を担うが故に犠牲を是とする、救う側の自己満足。

 即ち、大多数のよりよき明日の為の、少数の犠牲という全てを救えないが故の

諦念を第三者に肯定させる押しつけが香川の掲げた理想の矛盾とも言えた。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:07:37.12 ID:L6BVEgLS0
「佐野君。君は多数を救うための少数の犠牲を許容できますか?」

「私は、いや私達は...ミラーワールドを閉じる為、戦っているんです」

 遂に香川の口から、彼等が戦うための理由が明かされた。

 満はまるで金縛りにあったかのように身体を硬くして、香川の言葉に

耳を傾け続けていた。 

「ミラーワールドを閉じる方法を私は知っています」

「今の君には明かせませんが、それが成されれば全てはゼロになる」

「ミラーワールドは閉じ、ライダーバトルという殺し合いもなくなる」

「教えてください。その、ミラーワールドを閉じる方法を...」 

「今の俺に教えられないってことは、結局、綺麗事じゃ済まないんでしょ」 

「誰かを殺すんでしょ?ねぇ、そうなんでしょ?」

「お前!いい加減に...」

 あまりのしつこさに耐えきれなくなった仲村が、満を研究室から

放り出そうと立ち上がった。

「仲村君!良いんです。早いか遅いかの違いですから...」

 その行為を一喝して止めた香川は観念したように、教える筈のなかった 

方法を満に語った。
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:08:07.58 ID:L6BVEgLS0
「ミラーワールドとこの世界をつなぐ、いわば中間的な存在...」

「本来なら交わることのない二つの世界を行き来する人間がいるんです」

「一人は神崎士郎。そして、もう一人は彼の妹、神崎優衣」

「なぜ、神崎士郎は13人のライダーを戦わせる必要があるのか?」

「それは、彼の妹に新しい命を与えるためです」

「新しい、命?」

「ええ。にわかには信じがたい話ですが、その通りなんです」

「ライダーを戦わせ、最後の一人になったライダーの命を妹に与える」

「それがこの戦いの全てです。神崎士郎による壮大な自作自演です」

「そ、そんな...ありえない!そんなバカな事あって良いのかよ!」

 じゃあ、アイツの言葉を信じてライダー達は戦っているっていうのか?

 アイツのエゴのせいで、アイツが契約者達に渡したデッキのせいで、

一体何人もの命が奪われたっていうんだ?

「しょ、証拠は?そうだよ、そこまでいうなら証拠あるんだろ」

「ええ。この部屋と仲村君がまさにその証拠です」

 重い腰を上げた香川は腰を上げ、部屋の中をグルグルと歩き出した。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:08:51.13 ID:L6BVEgLS0
「ライダーバトルが始まる数年前、ある実験がなされました」

「昔ここは江島実験室と呼ばれ、神崎君はここに在籍していました」

「彼はここでライダーバトルの礎となる研究に取り組んでいました」

「ミラーモンスターやそれをコントロールする手段...」

「カードデッキのシステムを開発し、彼は全てを実用化させました」

「そして、最後にライダーのシステムの実用化の実験が行われたとき」

「ある事件が起きたのです」

「ミラーワールドからモンスターがこの世界に飛び出してしまったのです」

「モンスターは手当たり次第に人を襲い、多くの人が死にました」

「仲村君はその時の江島研究室の唯一の生き残りです」

「アイツのせいで、俺は仲間を失ったんだ」

「アイツさえ...アイツさえいなければこんなことにはならなかった」

「皆が死んだのに...なんでアイツはまだ生きているんだ...」

 仲村が悔しさを滲ませながら、香川の言葉の後を継いだ。

「なんで香川先生がこんなことを知ってるか不思議に思うだろ?」

「そうだよな。でも、この人は天才なんだよ」

「一度見たものを完全に記憶してしまう大天才なんだ」

「江島研究室がアイツのせいでなくなる前、先生は奴の資料を見た」

「何から何までを全部記憶した先生は、ライダーシステムを作った」

「アイツとは異なる、アイツに対抗するためのもう一つのシステム...」

「ライダーとは異なるもう一つの存在、オルタナティブだ」

「オルタナティブ?」

「そうだ。これを見ろ」

 仲村は涙に濡れた手にカードデッキとよく似た黒いデッキを取りだした。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:09:34.16 ID:L6BVEgLS0
「これを...先生が一人で作ったんですか?」

「正確には、東條君のデッキも参考にしました」

「僕も最初は驚いたけどね。でも、これで分かったでしょ?」

「本当なら首を突っ込まなくても良い事に先生は首を突っ込んだ」

「神崎士郎と無関係の筈なのに、それでも先生は危険を冒したんだ」

「君にその理由が分かる?」

「正義感、ですか?」

「そう。先生は英雄なんだ」

「他のライダーとは違う明確な意思を持ってこの戦いに臨んでいるんだ」

「我欲のために他人を蹴落とそうとするライダーが襲ってくる中」

「先生は戦いを止めたいという信念の元で戦っているんだ」

「誰かの命を平然と奪うような奴に先生の命を奪われてたまるか...」

「君もそう思うだろう?」

 コイツ、かなり危ない方向にいるイタイ奴だ。と満は率直に思った。
  
 まるで邪教の神を狂信する狂った宗教マニアのような、信仰の為なら

なにをしても許されるという狂気すら感じられる。 

 確かに香川の主張も分からなくはない。

 多数の為の少数の犠牲を必要な犠牲と割り切れば、ある程度の良識や

正義感を持っている奴なら、迷いながらも最後まで戦えるだろう。

 だが、この東條悟という男には確たる信念が何もない様に見える。

 ただその理想が綺麗だったから憧れた。そして運の悪い事に、自分を

高く買ってくれた香川の優しさを絶対視、いや神格化してしまっている。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:10:00.72 ID:L6BVEgLS0
 こういう奴は自分とその理想の乖離に気が付いた途端に、掌を返して

相手を裏切る奴だと、満は昔付き合っていた面倒くさい彼女の事を

思い出していた。

 勝手に自分の理想を押しつけるが、そのくせ自分の本音を打ち明ける

ことは絶対にないという、そんな匂いを敏感に満はかぎ取った。

 情緒不安定な浅倉予備軍、本性が獣な奴とはお近づきにはなりたくない。

 コイツとはなるべく二人きりにならないようにしようと満はそう心に

固く誓ったのだった。

 満面の笑みを浮かべるサイコ野郎は香川先生がいかに凄いのかを誰も

聞いていないのにべらべらとその後、仲村が切れて話を遮るまでの間、

ずっとしゃべり続けていた。

(城戸さんってやっぱり凄い人だったんだなぁ)

 しかし、今更元の鞘には戻れないだろう。

 真司の信念と相通じる信念はあるものの、ライダーの犠牲を許容できる

その精神性の違いから、この人達と真司は限りなく相容れないだろうと

満は推測した。

 その上で満は、ある決心をつけたのだった。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:10:46.26 ID:L6BVEgLS0
「香川先生。俺、先生とは真逆の信念の人を知っています」

「ほう、それは興味深いですね。聞かせてください」

「はい。その人は一回会ったきりなんですけど、不思議な人でした」

「戦わなきゃ生き残れないのに、戦いを止めようと躍起になってるんです」

「正直、先生の言ってる事のほうが俺としては納得しやすかったです」

「でも、1を捨てて多数を守る先生の主張を聞いているとき」

「俺の頭の中には、1を守って多数と戦うあの人の信念がありました」

「俺は、弱いけど...正直そっちの英雄の方が格好良いと思ってます」

「そう、ですか...確かに、それも立派な英雄の在り方かも知れませんね」

 それは、今更自分を変える事ができない香川の在り方と相反する

もう一つの正義の在り方だった。

 自分のしている事は限りなく正しい。

 弱者の犠牲の肯定というエゴに目をつむれば、必ずミラーワールドは

閉じられる。いや閉じてみせるという覚悟が香川にはあった。

 しかし、真司のそれは香川の方法よりも遙かに難しいにもかかわらず、

香川は心からそのもう一つの英雄の在り方を否定する事は出来なかった。

 なぜなら、それこそが...

「香川先生や仲村さん、東條さんのお話しを聞いて決心がつきました」

「俺、先生達の所でこの戦いを戦い抜きたいです」

「先生や城戸さんのような英雄に俺はなれない」

「だけど、俺は切り捨てられる1にはなりたくないんです」

「だから、皆さんの力になれるよう一所懸命頑張ります!」

 拳を握りしめた満は、決意も新たに己の道を選んだ。

 俺はまだ弱い。だから、少しでも生き残れる確率の多い側について

自分に出来る事を探してみよう。

 そう決意した上での自分の売り込みだった。
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:11:35.41 ID:L6BVEgLS0
「先生...俺は、コイツの事信じても良いんじゃないかって思います」

「ほう、意外ですね?君がそんな事を言うなんて」

 沈黙を破った仲村は、先程の剣呑な視線ではなく、まるで初めて

まともな人間に会ったかのような視線を自分に向けていた。

「俺や東條より、遙かにマシな奴だと思ったからですよ」

「正直な話、俺は神崎の計画さえ潰せればそれでいいと思ってます」

「先生の言う素晴らしい英雄像にもあまり興味はありません」

「だけど、この男は先生の理想に賛同して、庇護を求めていながら」

「何も考えないで戦う事なく、自分の意思で戦いを続けることを示した」

「打算と保身はあるでしょうけど、一応使ってみてはどうでしょうか?」

「ふむ。君はどう思いますか東條君」

「僕は...この人の事、あまり信用はできないです」

「他のライダーとつながっているかも知れないし、なによりも」

「多くを助ける為なら一つを犠牲する覚悟が足りなすぎると思います」

「僕はこれまで二人のライダーを殺しましたけど」

「この人には多分、そんな覚悟は殆どないように見えるし、むしろ」

「このままここから帰した方が互いのためになると考えます」

「勿論、僕は先生に従いますけど...今のが僕の本心です」

「なるほど...わかりました...」

 二人の意見が割れた以上、後は全て香川の判断へと委ねられた。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:12:27.41 ID:L6BVEgLS0
「佐野君。色々考えましたが、私達は貴方を迎え入れます」

「本当ですか!」

 満の想像以上の早さで香川教授は答えを出した。

「ですが、当分は仮採用期間ということで様子を見たいと思います」 

「そうですね...一ヶ月の期間でどうでしょうか?」

「一ヶ月間、私達の傍で私達の行動を見れば充分ですよね?」

「え、ええ。勿論です」

「いや〜、鋭い!あえて警告をすることで相手の気先を制する! 」

「感動しちゃうな〜。まさに先生はライダーの救世主ですよ! 」

「....」

「仲村君。堪えて。ここで怒ったら...あとは分かるでしょ?」

 調子に乗って香川にゴマをする満を目の当たりにした仲村は、先程の

自分の発言がいかに迂闊で浅慮なものだったのかを自覚し、早速後悔し始めた。

 珍しくもないが、仲村の短慮による失敗を見てきた東條は珍しく

仲間に当てこすりをぶつける事なく、本心から仲村を気遣った。

「...ああ、お前の言葉に耳を傾けたくはないが、そうだな」

 目の前に居る奴はそういう奴だから、キレたら負けだよ。

 暗にそう言った東條は、そのまま部屋から黙って出て行った。 
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:13:08.82 ID:L6BVEgLS0
「あれぇ〜?どうしたんですか東條せんぱーい」

「気にする事はありませんよ。彼は優秀ですが、シャイなんです」

「時々一人になって落ち着きたいと言っていましたから」

「そうなんですか〜。へぇ〜」

 先程の真剣な態度を180度かえた満を正視に耐えないと思った仲村も

ミラーモンスターを狩ってくるという最もらしい言い分をつけて、東條の

後を追うように研究室から出て行った。

「流石です先輩方!日常にあっても常に心は戦いの中」

「なんか俺、一人だけ場違いっぽく思えてきちゃいましたよ」

 佐野の褒めちぎりに若干のウザさを感じ始めてきた香川は、ここで

一つの保険をかけておく事にした。

「佐野君。これからの一ヶ月間は私達となるべく行動を共にし」

「ライダーとの交戦は、相手が本気で襲いかかるまで控えてください」

「今は、ミラーワールドの内部を探索したいんです」

「そうですよね。大丈夫です!」

 自分と仲村と東條の三人で見張っていれば、仮に目の前の男が変な気を

起こして、相手側に...特に神崎士郎に自分達の目的や情報を明かす事は

ないだろう。仮にそうだとしたら東條と仲村が黙っていない。
 
 しかし、往々にしてバカは想像の斜め上を行くとんでもないことを

しでかしてしまう。佐野満という男はそう言った類だ。

 では、バカの行動をできるだけ規制するにはどうすれば良いのか?

 答えは簡単だ。金で釣れば良い。 
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:13:40.86 ID:L6BVEgLS0
「では、報酬の話に移りましょうか」

「報酬?」

「ええ。ミラーモンスター一体を倒すごとに一万円でどうでしょうか?」

「一万円も?」

「ええ。ただし、私の見ている前でのみ。という条件付きですが」

 不定期ながらも、日給一万円という割の良いバイトは金に五月蠅い

満にとって無視できない程の魅力を放っていた。

 仮に一ヶ月に10回香川と行動を共にしたと計算する。

 一回のミラーワールドでのモンスターとのバトルで2,3体を葬れば

大体月給で20万円は軽く超えるだろう。

 しかも、これは個人間の金銭のやりとりだから、税金も何も掛からない。

 頭の中で素早く電卓を叩いた満は諸手を挙げて香川の提案に乗った。

「良いですとも!いや〜流石教授。懐も心も広い!」

「憧れるな〜」

 しかし、香川には別の狙いがあった。

 そう、東條と仲村と自分の戦力の温存である。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:14:12.33 ID:L6BVEgLS0
 先程のやりとりで、満のカードデッキの情報を全て記憶した香川は

満が契約したモンスターが、実は合体モンスターが分裂した姿の

ミラーモンスターだということを、知識上すぐに探り当てた。

 ライダーの武器や盾のAPとGPの平均は2000であるのに対して、満の

カードには3000AP以下のカードは一枚も入っていなかった。

 まさに切り込み隊長にはうってつけである。

 ライダーに当てるのも良し、雑魚モンスターの大軍に当てるも良し。

 まさに戦力の温存にこれほどうってつけの人材は居ない。

 仮に怖じ気づいて逃げ出すとしても、中途半端な義務感で最後の

仕事を成し遂げてから、遺恨を残さないような形で辞めていくはずだ。

 誰も損をしない有益な関係を築いた上での協力関係ほど、恐ろしい物は

ない。何故なら互いの真意が見えないからだ。

 更に、神崎士郎の奥の手を香川英行は身を以て知っている。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:14:44.07 ID:L6BVEgLS0
 まず一つ目は、時を巻き戻すカード、タイムベントの存在。

 二つ目はミラーワールド最強のモンスター、ゴルドフェニックスと

その強力な眷属の存在。

 そして、神崎士郎のみが知るミラーワールドの中枢にしてあの世界を

存続させ続けているミラーワールドのエネルギー源、コアミラーの存在だ。

 既に仲村の使っているデッキと同スペックのオルタナティブのデッキは

量産済みで、その数は10を超えている。

 神崎士郎に見つかってそれらを全て壊されるというリスクを回避する為、

香川は自分の人脈をフルに使い、信頼できる協力者にそれらを分散して

預けていた。 

 手はずとしては、ライダーの数が残り五人を切ったところで香川が

協力者にしか分からない合図を出し、それを確認した協力者達が一斉に

この自分のラボに押し寄せて、神崎と残りのライダーを討つという手はずに

なっている。

 佐野の本当の役割は、神崎士郎のミスリードの誘発である。

 ライダーになる人間は、心のどこかに致命的な弱さを抱えている。

 お人好しだったり、死にたくないという生存本能だったり、人を殺して

自分の生を実感する破綻だったり、英雄になりたいという願望を心の中に

抱きながらも、英雄というのは何かという答えを持ち得なかったりする

そんな破綻者達がライダーバトルを加速させ続けている。

 故に、人間としては若干クズの部類には入るものの、ごく普通の人間の

価値観、自己保身や打算に走りながらも、ライダーバトルを肯定的に

捉えながら生き残るために他人を出し抜く満の雑草のような強さこそが、

神崎士郎の失敗を引き出す鬼手となり得る可能性に香川は賭けたのだった。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:15:12.36 ID:L6BVEgLS0
 そんな香川の深く大きな計画の中に組み込まれた事をつゆ程も自覚

できなかった満は、深く考える事なく香川の手を取ったのだった。

「佐野君。長い事引き留めてしまって申し訳なかったですね」

「いえ!とんでもない。とても有意義な時間でした」

「俺!頑張ります!先生達に協力を惜しみませんから」

「ええ。期待していますよ」

 満が深々と自分に頭を下げ、研究室から出て行く前に自分の携帯電話を

書いた紙を渡した香川は笑顔を浮かべ、何度もペコペコと頭を下げる

満の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。

(さぁ、神崎君。君は私の一手にどう出るのかね?)

 多大な犠牲者を出すこの戦いを仕組んだ黒幕に、香川は一人その心の中で

静かに宣戦布告をしたのだった....
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:15:42.93 ID:L6BVEgLS0
 第十二話 予兆


〜花鶏〜


 喫茶店花鶏のテーブルで、うららかな日差しを浴びながら手塚海之は

安らかな一時を過ごしていた。

 秋山蓮はそんな手塚の珍しい姿に安堵を覚えていたが、徐々に手塚は

悪夢にうなされ、激しく動き始めた。

「おい!どうした手塚!」 

 慌てた蓮はテーブルから転がり落ち、なにやら大声で喚き始めた

手塚を抱え上げ、顔を叩いて正気に戻そうと試みた。

「手塚!おい手塚!どうしたんだ手塚!」

「はぁっ!はぁッ!」

 蓮の乱暴なビンタに無理矢理眠りから覚めた手塚は、真っ先に蓮を見、

それから安堵のため息をついた。

「何か悪い夢でも見たのか?」

 ぶっきらぼうだが、真剣に手塚の話に耳を傾けようとする蓮に対して、

手塚は手を乱暴に振りながら、強引に話を切り替えた。

「い、いや...なんでもない」

「少しストレスがたまっているんだろう。すまないが家に帰る」 

「ちょっと待て」

 その不自然さが腑に落ちない蓮は、急いで花鶏から出て行こうとする

手塚を引き留めようとした。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:16:23.39 ID:L6BVEgLS0
「どうしたんだ手塚!占いの次は千里眼か?」

 全く、どうしてコイツはどうでも良いときに勘が鋭くなるんだろうか?

 自分が見た悪夢は、まさにコイツが渦中にいるというのに...

「そうだ。俺の家が火事になってしまう夢を見たんだ」

「家には色々なものが置いてある。勿論、燃えたら困る物もな」

「だからってそれが今日というわけでもないだろう?」

「だが、俺の占いは良く当たる。今日は確かにその日ではないが」

「...雨の日だ。その日に俺の家は燃えるだろう」

「だろうって...」

 手塚の占いの精確さを知っているが故に、蓮は彼のやろうとする事に

それ以上深く突っ込む事ができなかった。
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:16:57.25 ID:L6BVEgLS0
「ああ。また明日」

 そっぽを向く仲間に手を振った手塚は、急いで花鶏からできるだけ

離れようと必死になった。

 曲がり角を曲がって、蓮が自分の姿を見つけられなくなった場所からは

走って走って走り続けて、そしてようやく3km離れた場所へと辿りついた。 
 全速力で走った為、喉が干上がっている。

 近くにあった自販機で一番安いペットボトルの水を買った手塚は

一息にその水を飲み干した。

(蓮...お前の運命は、必ず俺が...変えてみせる)

 断固たる決意を瞳に浮かべた手塚海之は、近くにあった電話ボックスに

入り、電話帳をめくり、あるページを探していた。

 手塚の視線の先、何人もの弁護士の電話番号が書かれているページの中で

一際目立つフォントで印刷されている番号があった。

「北岡、秀一...」

172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:17:44.39 ID:L6BVEgLS0
 〜どこかの倉庫にて〜

 深夜一時。

 人目に付かない倉庫の中で熾烈なライダーバトルが繰り広げられていた。

 相対するライダーのカラーは深緑と緑の二色。

 深緑のライダーの名前はゾルダ。変身者は北岡秀一。

 もう一人の緑色のライダーの名前はベルデ、変身者は高見沢逸郎。

 なぜ二人が戦っているのか?それはライダーだからである。

 例え二人の間にいかなる私怨が存在していようとも、命を賭けた

バトルロイヤルに参加している以上、そのようなモノは自分を鈍らせる

不純物でしかなかった。

「高見沢さ〜ん。もう観念して刑務所行きなよ〜」

「今から自首すれば五年程度の実刑で済ませるからさ。ね?」
 
「ばっ、化け物め...」

 さながら悪党を追い詰める正義のヒーローのような場面ではあるが、

生憎、この戦いには正義は存在しない。あるのは純粋な願いだけだ。

 秀一は自らの不治の病を取り除くこと。

 高見沢の願いは、超人的な力を手に入れること。

 願いを叶える権利を手に入れられるのは、たった一人だけ。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:18:26.29 ID:L6BVEgLS0
 邪魔になる人間を片っ端から消すのがこの戦いのセオリーである。

 特に、特殊能力で姿を消したり真似たりするようなカメレオンのような

嘘つきのくせに大物ぶる小物も勿論その中に含まれている。

「ふ、ふざけるなぁっ!てめぇ俺を誰だと思ってる!」

「俺は高見沢逸ろっ...」

「べらべら五月蠅いよ、もう。黙っててくれないかな?」

 マグナバイザーの銃口が火を噴く。

「ぎゃああああああ!!」

「こっすい真似するよね〜。ま、小物なりに善戦した方じゃない?」

 デッキから引き抜いた最後の一枚は、ベルデの持つ秘密兵器、己の姿を

一定時間消すことができる特殊カード、クリアーベントだった。

 自分の右腕の指を三本吹き飛ばされた高見沢は、まるで赤子のように

ヒーヒーと情けない声をあげながら、数十年ぶりに人前で尿を漏らした。

 そんな逸郎をどうでも良さそうにちらっと見た秀一は、最後のトドメを

刺しに掛かったのだった。

「ま、待ってくれ。こ、ころさなッ」

「Advent」 
 
 高見沢の懇願もどこ吹く風、秀一は自分の契約したマグナギガを

平然と召喚した。
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:18:56.45 ID:L6BVEgLS0
「マグナギガ。コイツの頭を吹き飛ばせ。胴体は潰すな」

 鋼の巨人マグナギガは主の命令に忠実に従った。

 腕のバズーカ砲の照準をベルデの頭にロックオンする。

「ぎべっ!」

 ぼんッ!

 轟音を立てながら、マグナギガはあっという間に高見沢逸郎の頭を

粉々に粉砕した。

「ふふん。使えるものは貰っておかなきゃね?」

 頭部を失ったベルデの身体が消える前に、秀一は素早くその腰から

デッキを引き抜いた。

「ねぇ、これってどうなのよ?反則じゃないよね?」 

「ああ。敗北したライダーのデッキの第三者への委譲を認めよう」

「そう来なくっちゃ」

 意味深な笑みを仮面の下で浮かべたゾルダは意気揚々と自分の帰りを

待ってくれている頼れる秘書の元に向かったのだった。


 仮面ライダーベルデ/高見沢逸郎、死亡 残り11人
 
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:19:23.47 ID:L6BVEgLS0
 〜ミラーワールド〜

「うああああああああ!」

「足りない...うああああああああああああ!」

「北岡ァ!北岡ぁあああああああああああああ!!!」

 夜と静寂が支配する山の中で、一人浅倉威は戦い続けていた。

 神崎士郎という男に窮地を救われた浅倉は、しかし一向に現れない

ライダー達にしびれを切らし始めていた。

 目の前には12体ものミラーモンスターが威を喰らおうとその牙と

武器と毒で一斉に襲いかかっていた。

 ゼノバイター。テラバイター、ゼブラスカル、バクラーケン、

ミスパイダーの5種類12体を相手取り、仮面ライダー王蛇は手に持った

ベノサーベル一本でモンスター達を殺そうと無謀な戦いを始めたのだった。
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:19:50.99 ID:L6BVEgLS0
「しゃあああああ!!」

 まず手始めに鋭い毒牙を首に突き立てようとしたミスパイダーが大きく

開けた口にベノサーベルを突き立てて、力任せに突き刺す。

 貫通とまでは行かない物の、ミスパイダーは脳幹付近を傷つけられ

まともに立ち上がれないほどの重傷を負う羽目になった。 

 続いてイカのような姿をした化け物が自分の首にムチのような獲物を

巻き付けようとしているのを察知した王蛇は、近くに居た馬モンスターを

盾にして急場をしのぐが、しかしその隙に乗じた二体のカミキリムシ型の

ミラーモンスターが、左右から大上段に構えたブーメランのような獲物を

威の肩めがけて振り下ろしにかかった。

「おおおおおおおおおおおお!!!!」

 瞬時に攻撃から回避に判断を切り替えた威は、左にいたゼノバイターの

横に生じた僅かな隙間に飛び込み、その背後へと回り込んだ。

「ぎっ?!」

 ベノサーベルを投げ捨てた王蛇は、一瞬でゼノバイターの首をねじり、

更になくなった自分の武器代わりに、今殺したモンスターの鋭利な刃付の

ブーメランを拾い上げ、後退しようとしていたテラバイターめがけて

滅茶苦茶に切りつけ始めたのだった。

「ぎいいいいいっ!ぎぃいいいいいいいいッ!」

 頭、腰、手、胴体。

 とにかく自分の目のつく範囲へと無尽蔵に振るわれるその暴力は

人を貪るミラーモンスターに恐怖心を植え付けさせるだけの圧倒的な

何かがあった。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:20:34.02 ID:L6BVEgLS0
「うおおおおおおおおおお!どうした!もっと俺を楽しませろ!」

 数の上では圧倒的に優位なモンスター達は、狂ったように暴れる

王蛇に恐れをなして、早くも撤退を始めたのだった。

「待てよ...もっと遊んでいけよ...」

 潰れた蜘蛛のようにピクピクと蠢くミスパイダーの首を逆方向に

蹴り飛ばした王蛇はデッキの中からファイナルベントを取りだした。

「Advent」

 バイザーの無慈悲な機械音声がこの場に存在する全てのモンスター達に

死刑宣告を下した。

「シャアアアアアアアアッ!!!」

「シューッ、シューッ...!」

 毒々しい紫色の身体を輝かせた王蛇の名を冠するライダーに相応しい

契約獣が現れる。

 コブラ型ミラーモンスター、ベノスネーカーである。

 主である浅倉同様に凶暴な性格をしたこの契約獣の主な武器は、口から

放つ強力な毒液と頭部両脇に生えた鋭利な刃だった。

「ぎゃあおおおおおおおおお!!!」 

 この場にいるどのモンスターよりもベノスネーカーは大きかった。

 口から吐き出される毒液の量も、その体躯に見合う量...モンスターが

浴びれば即死する致死量を大量に何度も吐き出せる上に、頭部の両脇から

沢山生えている刃とその刃の特性を全て引き出せるその長大な蛇身は

二足で走り去ろうとするミラーモンスターに難なく追いついては、その

鋭利な刃で足を切り落とす。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:21:02.59 ID:L6BVEgLS0
「シューッ、シューッ!シューッ、シューッ!」

 もっとだ!もっと殺させろ...

 ベノスネーカーの吐く息に滲む殺意に王蛇は微かに笑みを零した。

 強欲な奴だ。八体も瀕死にしておいてまだ欲張るのか...

「Final Vent」 

 王蛇は目の前で苦しむモンスター達にトドメを刺した。

 吐き出した毒液の暴流に乗りながら、一体、また一体と蹴り砕いては

蹴り砕き続け、それが最後の一体になるまでを延々と繰り返す。

 モンスター達の身体が砕かれた衝撃で次々に爆散する。

 ベノスネーカーは長い舌を伸ばし、そのエネルギー源を美味そうに

吸い込み始めた。

「足りない...もっとだ!もっと強い相手を俺に寄越せええええ!!」

「シャアアアアアアアア!!!」 

 血に飢えた蛇の王と、それを従えたライダーは抑えきれない本能のままに

次なる獲物を探して血祭りに上げる事を夢見ながら月に吠えた。 

179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:21:36.64 ID:L6BVEgLS0
第十三話 初任務 


 今回の探索範囲は、とある駅前に存在する大きな百貨店の地下駐車場

だった。

 香川曰く、神崎士郎の性格からして、コアミラーの配置場所、あるいは

コアミラーの配置場所のダミーと思われる場所にはライダーに見つかる

危険性を考慮した上で、充分な数の伏兵を忍ばせる筈であるとの事だった。

『コアミラーはライダー達が密集する場所の近くに必ず配置されています』

『今はまだ見つかりませんが、そのうち神崎君はボロを出す筈です』

 ミーティングの後、仲村と指定された場所に向かう前、満は香川から

今まで三人がミラーワールドで遭遇したミラーモンスターと出現場所の

傾向をまとめられた資料を香川から手渡された。

「神崎君の性格上、こちらが動く事は予想できるはずです」

「鏡の世界のコアに近づくにつれ、より強い敵を配置するでしょう」

「彼に忠誠を誓うモンスターやライダーをね」

「ってことは、そいつらが出現した場所を一つずつ潰していけば」

「おおまかに最終的な場所を絞り込める。そういうことですね?」

『ええ、神崎士郎は必ずその場所に自分に忠実な手下を置くでしょう』

 香川は目を輝かせて自分を見つめる満に念のために釘を刺した。
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:22:04.98 ID:L6BVEgLS0
『気をつけてください。次の三体のモンスターとは交戦しないように』

『ガルドストーム、ガルドサンダー、ガルドミラージュ』 

『この鳳凰のようなミラーモンスターが現状では一番強い野良です』

『貴方のモンスターも強いですが、それ以上に強いです』

『良いですね?』

「分かりました」

 しっかりと自分の成すべき事を頭にたたき込んだ満はお目付役の

仲村を車に乗せて、指定された駅前の百貨店の地下駐車場へ向かった。

「仲村先輩。さっきの話なんですけど」

「ああ、お前の言いたいのはコアミラーの配置を神崎が変えてるかだろ?」

「その通りだ。だけど先生の言っている事もあながち間違いじゃない」

 ハンドルを握る満に仲村は今までの探索の成果を教え始めた。

「お前が来る前、俺達は他の場所でコアミラーを見つけたんだ」

「えっ?!本当ですか」

「ああ。その時は古ぼけた廃工場の中にあったんだ」

「東條がまっさきに動いた。あれを破壊すれば全てが終わるからな」

「でも、出来なかったんだよ」

「...黒い龍、さっきの最強の野良モンスター、そして黒龍の契約者」

「そいつらと俺達は交戦して...命からがら逃げ帰ったんだ」

「手も足も出なかった。その時、俺は本当に死を覚悟したよ」

「....」

 重苦しい沈黙が車の中を包み込む。

「で、もう一度日を改めてその工場に向かったんだ」

「でも、その時には何もかもがもぬけのカラでコアミラーは消えていた」

「そういう事が既に二度あったんだ」

「そうなんですか...」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:22:40.97 ID:L6BVEgLS0
 そうこうしているうちに、二人を乗せた車は探索地点である百貨店の

地下駐車場へとなんなく辿りついたのだった。

 軽自動車から降りた仲村は注意深く辺りを見回し始めた。

「佐野。神崎はこういう所に巨大な蜘蛛型を配置する傾向にある」

「目の前の敵を倒すのも大事だが、天井の警戒も怠るなよ?」

「はい!」

 つくづくあの時の判断は間違っていなかったな。と満は自らの判断を

自画自賛した。

 監視付とは言え、安心して自分の背中を任せられる仲間も居るし、

ミラーモンスターの出現場所や種類の詳しい情報もタダで手に入る。

 ずんずんと先を歩く仲村がその歩みを止めた。

 そこは駐車場と百貨店をつなぐエレベーターの前だった。 
 
「先に変身して鏡の中で待ってろ。俺は先生に報告入れるから」

「了解です。変身!」

 仲村の命令を唯々諾々として受け入れた満は、誰も近くに居ない事を

確認した後、デッキを自動扉の前にかざして変身した。

「じゃ、行ってきます!」

 ガッツを見せ、ミラーワールドへ入り込んだ後輩を見遣った仲村は、

ポケットから電話を取りだし、香川に定期連絡を入れた。

「仲村君ですか?どうしたんです」

「今、調査地点に辿りつきました。これから調査を開始します」

「了解です。東條君を今からそちらに送ります」

「そうですか。では、失礼します」

 短いやりとりの後、携帯の通話ボタンを切った仲村はカードデッキを

取り出して、満の後を追うようにミラーワールドへと入っていった。 

182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:23:10.17 ID:L6BVEgLS0
 〜ミラーワールド〜

「...」

 仲村と満は注意深く辺りを見渡し、現在地点の地下2階の駐車場から

もう一つ下の駐車場へと向かっていた。

 この百貨店の地下駐車場は地下三階まである。

 地下に作られた広大で見晴らしの良い人工の迷宮は、ミラーモンスターに

とってまさに絶好の餌場だった。

 車のガラスに身を潜め、獲物が自分の前に来るのを待つだけで労力を

消費する事なくコンスタントに空腹を満たせるからだ。

 加えて、100台を超える車よりも高い遮蔽物がないため、仮に自分達を

狩ろうとするライダー達が出現しても、自然とその視線は高低入り乱れる

車の後ろへと傾けられる。

 そんな魔窟に制限時間付きで少人数で足を踏み入れるとどうなるのか?

 地下三階の入り口に到達した二人を待ち受けていたのは... 
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:23:43.16 ID:L6BVEgLS0
「うわああああああああああ!!!!」

 巨大なクモの下半身を持つ半獣半人体の姿に進化を遂げたモンスターを

筆頭にした蜘蛛型モンスター達の手荒い歓迎だった。

 その数およそ8体。加えて天井には猿のような三つ目のモンスター達が

三体もいる。

 地の利と遠近距離戦に特化したミラーモンスターの大群が一斉に仲村と

満に襲いかかる。

「うろたえるな!」

「Advent!」 

 カードリーダーに契約モンスターのカードを読み込ませた仲村の後ろから

猛然と走ってくる人型の機械的な外見のモンスターが現れた。

「サイコローグ!やれ!」

 サイコローグは頭に付いている目らしき部分からミサイルのような

弾丸を乱射しまくり、更にその実力に相応しい怪力を発揮した。

「!!!!!!!!」

 徒手空拳で二足歩行型の蜘蛛型モンスターの頭をはじき飛ばし、近くに

あった軽自動車の扉を思い切り引っぺがして、盾代わりにして使えと

命じるように、乱暴にオルタナティブへその扉を投げつけた。

 そして自分は唸り声をあげながら、目の前の大型蜘蛛モンスターへと

巨大なランドクルーザーを盾にしながら猛然と突撃していった。

「な、なんつー馬鹿力だよ...」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:24:13.00 ID:L6BVEgLS0
 仲村はドアを武器代わりにして、複数体のモンスターの攻撃を受けて、

いなし続け、致命傷を巧みに避けていた。

 ブンブンと力任せにぶん回された盾は、強烈なシールドバッシュとして

蜘蛛型モンスターの身体を軽々と吹き飛ばす。

 退路をあっという間に作り上げた仲村は、ディスパイダーと単騎で

渡り合うサイコローグの邪魔にならないようにモンスター達を

おびき寄せる。

「先輩!これを使って!」

「Sword vent!」

 仲村の作ってくれた隙に乗じ、満は二振りの大刀を呼び出し、そのうちの

一本をモンスターが一体も居ない背後へと投げ飛ばした。

「助かった!」

 飛び退いた先の通路の上の天井にぶら下がった猿型のミラーモンスター、

デッドリマーがオルタナティブに覆い被さろうとするも、最後まで

手放さなかった軽自動車のドアを蹴り上げたオルタナティブは、なんとか

無傷のままで新たな武器を手に入れることができた。

「先輩!下がって!」

 しかし、このままではじり貧も良いところだ。

 そう判断した満はここでようやく今まで隠していた奥の手、アビスに

なってから一度も使っていないファイナルベントを切る事にした。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 11:24:40.21 ID:L6BVEgLS0
「Final vent!」

 バイザーの電子音が二体の契約獣、アビスラッシャーとアビスハンマーを

呼び出し、その二匹を一つに束ねる。

「シャアアアアアアアアア!!!」

 眩い光と共に二匹のモンスターは一つに合体し、その真の姿を契約者の

眼前に初めて晒した。

 ホオジロザメを何倍にもデカくした巨体を悠然と宙に躍らせた合体

モンスター...アビソドンは、瞬く間にその姿をシュモクザメの姿へと

変化させ、天井に張り付いているデッドリマーめがけ、エネルギー弾を

無制限に乱発し始めた。

「ぎええええええええええ!!!」

 なすすべもなく見ざる、言わざる、聞かざるの状態になってしまった

哀れな三匹の猿はこんがり黒焦げになったところをアビソドンの大口に

飲み込まれ、一瞬で噛み砕かれた。

 巨大な鮫に恐れをなした蜘蛛たちは、蜘蛛の子を散らすように二人の

ライダーの攻撃圏内から離れようと全速力で逃げ出し始めた。

 しかし、

「accele vent!」

 それを逃すオルタナティブではなかった。

 サイコローグから授かった高速移動の力を持つカードにより、瞬く間に

三々五々に散らばった蜘蛛達に致命傷を与えては切り裂いていく。
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