佐野満「えっ?強くてニューゲーム?」

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6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/23(日) 23:54:31.24 ID:p+cBhhHk0
 〜〜

鏡の中

 何もかもが反転した鏡写しの世界。といっても、そこは自分の部屋と

何もかもが、全てが鏡映しになっている以外は瓜二つだった。

「えっ?どういう...ことだよ...?」

「佐野満だな?」

「そうだけど...って、アンタ一体何者だ!?」

 布団の中に居る自分の背後から厳かな声が聞こえてきた。

 慌てて振り返ると、そこには黒いコートを着た陽炎のような存在感の

男が幽霊のように自分のすぐ後ろに立っていた。

「うわああああ!あ、アンタど、泥棒か?」

「違う」

 音もなく忍び寄った男にビビった満はそのまま壁へと後ずさった。

 しかし、男はそんな満の行為を一瞥するだけで、泥棒がするような

凶器を出して脅迫するような行為は一切しなかった。

「名乗るのが遅れたな。私は神崎士郎」

「かんざき...しろう?」

「そうだ。これからお前の運命を変える存在と言えるが」

「運命を、変える?」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/23(日) 23:55:05.67 ID:p+cBhhHk0
 そうだ。確かにさっきの声はこいつの声だった。

 欲しいか?お前の人生を変える力を。

 ああそうだ。欲しいとも!

(何だって良い。今のこんな惨めな暮らしから抜け出せるならな!)

 満は失念していた。

 彼の愛読する少年漫画の主人公の大半が、自分が使う異能力を望まぬ

形で入手し、その力のせいで自分の周囲を不幸にしていくことを。

 だが、今の彼にはそんなことを冷静に考えるだけの思考力はなかった。

 手軽に手に入った力できっと俺の都合の良いように面白おかしく楽しく

生きていけるんだ。程度の実感しか、目の前の脅威に対して抱くことが

出来なかったのだ。

 そんな目の前のバカを見下すような薄ら笑いを浮かべた神崎士郎は、

自分の懐から一枚の茶色い板のような何かを取り出したのだった。

「これが、お前が手に入れる力だ」

「ん〜?なんだこりゃ?」

 まるでプラスチックと鉄が入り交じったような材質の、掌にすっぽりと

おさまるような板を手に取った満を見ながら、神崎士郎は訥々とこれから

始まるであろう戦いの説明を始めたのだった。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/23(日) 23:55:33.03 ID:p+cBhhHk0
「なるほど。つまりライダーに変身し、ライダーやモンスターを倒せ」

「ふーん。これを持ってるやつを倒せばいい訳ね」 

「要するに、このカードデッキってやつで変身してこの世界で闘う。と?」

「そうだ。制限時間の中で相手のライダーを全て戦闘不能に追い込め」

「タイムリミットは1年間。その間に最後の一人になれ」

「最後の一人になった時、お前の望みは叶う」

「一年もかかるのかよ?!なんだよ、じゃあ前払いとかないの?」

「ああ。ない」

「ちなみにその戦い、何人くらい参加してるの?」

「13人だ」

「彼等もお前と同じように叶えたい願いを抱えて闘っている」

 その後、神崎士郎からライダーバトルと並行してミラーワールドに

生息するミラーモンスターという化け物も倒さなければならないことを

聞いた満の心は、先程の心の中に湧き上がった怒りにも似た決心を

鈍らせたのだった。

 誰に見つかることなく素知らぬ顔でたった1年間を隠れてやり過ごすと

方針を決めた直後にこの対応である。

 この神崎士郎と言う男は、きっと場の空気を読むどころか自己中心的で

高圧的な嫌なやつとして周囲の連中に嫌われていたに違いない。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/23(日) 23:56:06.17 ID:p+cBhhHk0
「ライダーはカードを使い、相手やモンスターを倒す」

「お前のデッキを貸せ」

 満からデッキを渡された士郎は、その中から何枚かのカードを引き抜き、

満の目の前に広げて見せた。

「えっと、この鹿みたいなカードは何?」

「アドベントのカードだ。契約したミラーモンスターを召喚できる」

「えっと、ようは助っ人として加勢してくれるってこと」

「そういう事だ。そしてこれがスピンベント。お前の主な武器だ」

「ドリル?え?この取っ手のついたドリルでチャンバラやれって言うの?」

 武器は銃がいいなぁと密かに憧れていた満にとって、鹿のねじ曲がった

角のような武器は到底受け入れがたい代物でしかなかった。

 なんとか気を取り直して、次のカードに目を向ける。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/23(日) 23:56:33.62 ID:p+cBhhHk0
「うん、まぁ...で、次のカードは...ん、紋章か、これ?」

「それはファイナルベント。必殺技のカードだ」

「相手に直撃すれば、一撃でとどめを刺せる切り札だ」

「そっかぁ。で、この5000APってのは高い方なの?」

「そうだ。それより下のAPのファイナルベントも存在する」

「ふーん。で?まだあるんですよね?俺のカード」

「いや、お前の使えるカードはこの三枚だけだ」

「はぁ?!」

 これはもしや縛りプレイと言うやつなのか?

 冗談にしても笑えないどころか、俗に言うゲームで言う所の、最低限の

装備すら用意されていないという、最悪の状況ではないのか?

 カードが少ない=圧倒的不利ということを一発で悟った満はなんとか

一枚でも多くのカードを手に入れようと、必死の形相で目の前の男に

食ってかかった。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/23(日) 23:57:16.29 ID:p+cBhhHk0
「ふざけんなよ!これ思い切り外れじゃねぇか!」

「なんだよ鹿って?舐めてんのかお前!」

「ガゼルだ」

「言い方変えても無駄だよ?!だってガゼルって鹿の仲間でしょ!」

「そのモンスターは群れを成して行動する習性がある」

「聞けよ!」

「他のライダーは原則として、一人一体のモンスターだが...」

「いやいやいや!鹿ってあれだよ?捕食される側だよ?」

「いくら群れを成すって言ったって、強いやつには喰われるんだよ?」

「っていうか、これは依怙贔屓認めたようなもんだよね?ねぇ?」

「他のライダーにはもっと強い装備を渡したんだろ?違うのか?」

「...」

「認めてるじゃねぇか!話にならねぇ!」

 かつてここまで不平等な運営を見たことはないと憤った満は、しかし

この全てが反転した世界から出る方法がないことに気が付いてしまった。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/23(日) 23:57:51.70 ID:p+cBhhHk0
「...そうだ。お前はこの装備で戦うしかない」 

「分かった...なんて言うわけないだろ!」

「いいか、じゃあ一つ聞かせてくれ。ちゃんと答えろよ?」

「契約したミラーモンスターが喰われた場合、俺はどうなるんだ?」

「一応、デッキが無事ならミラーワールドからは出られるが」

「その場合、契約は無効になり、装備は初期状態に戻る」

「大幅に弱体化した状態で一からモンスターと再契約、ねぇ」

「俺が聞かなかったら教える気なかったろ?」

 どうやら目の前の男は本当に性格が悪いらしい。

 自分の目的のためには手段を選ばない。

 それがこの男の行動原理だと長年のゴマすり経験から見抜いた満は、

一枚でも多くのカードを目の前の男から毟ろうと目的を変えた。

「いいよ。アンタの言う条件で闘ってもいい」

「だけど、契約モンスターがすぐに喰われた場合のことも考えて...」

「せめて、後一枚でいいから契約のカードを俺にくれよ?な?」

「他のライダーは楯とか特殊なカードがあるんだろ?」

「三枚だけじゃあんまりにも不公平すぎるだろ〜?なぁ頼むよ〜」

「アンタのバトルにも協力するからさぁ〜。お願いだよ〜」
 
 沈黙が部屋を支配する。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/23(日) 23:58:27.29 ID:p+cBhhHk0
「...いいだろう」

 熟考の果て、神崎士郎は契約のカードと封印のカードを満へと渡した。

「ありがとうございま〜す。いや〜これで一安心、一安心だよ〜」

 ゴネ得に頬が緩んだ満は先程の態度を一変させて、もみ手をしながら

士郎に最高の笑顔を向けて礼を述べた。

 その礼に何も感じない士郎は、最低限の補足だけを付け足してさっさと

満をミラーワールドから追い出しに掛かった。

「そうか。ならそのデッキを鏡にかざせ。それで元の世界に戻れる」

「オッケー」

 近くにあった窓硝子にカードデッキをかざす。

「うおおおおお?!」

 次の瞬間、満は鏡の世界から現実世界へとはじき出されていた。

「夢じゃ...なかったんだ」

 惚けたように呟く満に、神崎士郎は鏡越しに最後の忠告を送った。

「一度ライダーの資格を得たものは死ぬまでこの戦いから抜け出せない」

「ミラーモンスターを飢えさせるな。飢えさせたらお前が喰われる」

「また、どのように闘うのかは自由だが、闘わなければ生き残れない」

「最後の一人になるまで、闘え...」

 そう言い残し、神崎士郎は忽然と姿を消したのだった。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/23(日) 23:58:59.04 ID:p+cBhhHk0
「ライダーの戦い、ねぇ...」

 手元に残ったカードデッキからカードを引き抜く。

 アドベント、コントラクト、シール、スピンベント、ファイナルベント。

 そのうちの一枚、ミラーモンスターから狙われないというシールの

カードを財布の中に入れて、これでカードは残り四枚となった。

「もしかして俺、とんでもないのに参加しちゃったのかな?」

 じっとりと濡れたパジャマが物語るのは半端でない程の嫌な予感。

「はは...よせよ。今時鏡にお化けが写るなんて流行らない..だろ」  

 布団から身体を起こす自分が映る窓硝子。

 その向こう側の世界から、足のついた鹿の化け物がこちらを覗いている。

 爛々と輝く赤い目と、口からもれるどう猛な鳴き声。

「やめてくれよぉ...泣きたいのはこっちなんだって」

 こうして、やり直された世界での佐野満の戦いが幕を開けたのだった。

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/23(日) 23:59:33.64 ID:p+cBhhHk0
 第二話 鏡の中の怪物


 あれから三日後、満の日常に特に変化はなかった。

 掛け持ちのバイトに合わせた不規則な毎日を送りながら、機械的に

生きていくような、そんな日々に埋没し始めている実感が愛おしい。

 鏡の向こうからは未だに自分を見つめる視線を感じるが、それを

無視させるほどの集中力を仕事がもたらしてくれる。

「おう、佐野!今日は珍しく真剣じゃねぇか!」

「あ、どうも監督。いや〜真剣に仕事するのも悪くないですね〜」

「なんて言ったって、後もう少しでこの工事終わりますからね」

「僕はアルバイトですけど、なーんか頑張ろうって思えてきちゃって」

「こいつ!思ってもないことをべらべらしゃべりやがって」

「まぁいい。もう上がりだろ?ラーメン奢ってやる」

「本当ですか?いや〜嬉しいです。ありがとうございます!」

「一時間後に駅前のラーメン店に集合な?」

「はいっ!」

 朗らかな笑みを浮かべた五十歳の工事現場の監督はそう言い残して、

しっかりとした足取りで更衣室へと向かっていった。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:00:03.90 ID:WOJJWRsc0
「よっしゃ!今日の夕食代一食分浮いたぁっ!」

 適当にサボっていると目をつけられない程度に適度に手を抜きながら

退勤時間を10分オーバーしたところで、そつなく仲間達に挨拶を済ませた

満は足取りも軽やかに自分の荷物を置いてあるプレハブ小屋の更衣室の

扉を勢いよく開けた。

「お疲れさまでしたー!」

 時刻は既に午前を回っている。

 しかし、何かがおかしい。

 男特有の鼻をつく饐えた汗と体臭の合わさった臭いは鼻が曲がるほどの

悪臭を放っていたが、問題はそこではなく...

(あれ?なんで服脱ぎっぱなしで散らかってるんだ?)

 その悪臭の元となった人間が監督を含め、誰一人としてその姿が全く

見当たらない。

 まるで神隠しに遭ったかのようだ。

「シャワー浴びてるのかな?」

 奥のシャワー室から微かに聞こえるしゃああああ...という水音に

気が付いた満は意を決し、その扉を開く。

「...なんだよ、これ?」

 いつだって後悔というものは先に出てくることはない。

 なぜなら、後で悔いるから後悔というのだ。

 扉の向こうから満の目に飛び込んできたのは...
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:00:30.97 ID:WOJJWRsc0
「何で血がそこかしこに飛び散ってるんだよ...」 

 惨たらしい惨殺現場から遺体だけを取り除いたかのような夥しい

血がシャワー室を鮮やかな赤色で彩っていた。

「うげぇ...」

 その光景のあまりの恐ろしさに、満はたまらず嘔吐した。

「どう...なってんだよ...これは...」

 何がどうなっているのかをハッキリと理解できない。

 そのうち、今度は外からも悲鳴が聞こえてきた。

 助けてくれ!なんだこの化け物はー!!

「はっ?!」

 化け物という単語に満はあの日のことを思い出していた。

 神崎士郎と初めてであった日、アイツは...

「ミラーモンスターを飢えさせるな。飢えさせたらお前が喰われる」

 みたいなことを言っていた...。

 もし、自分が契約しているあの鹿の化け物みたいなのよりも強いのが

この場所に何体もいたとしたら?

 もし、自分のポケットの中にカードデッキが入っていなかったら?

 その答えに辿りついた瞬間、満の身体は驚くべき早さで最善の動きを

やってのける。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:00:58.08 ID:WOJJWRsc0
 慌ててロッカーの扉を開き、鞄の中からカードデッキを取り出す。

 取るものもとりあえず慌てて外に飛び出した満は一台の車の前に立つ。

「へ、変身」

 車のサイドミラーの前にカードデッキを突き出す。

 次の瞬間、自分の腰にベルトのようなものが巻き付いていた。

 デッキを持つ手をベルトの空白部分へと押し込む。

「うおおおわぁああああ!」

 ガシャン!ガシャン!という音と同時に自分の身体を包むスーツが

一瞬のうちに装着された。

 茶色い、まさに鹿のような意匠のスーツはこれ以上ないほどに自分の

身体へとピッタリ馴染んでいた。

「インペラー...」

 それが、自分の戦士としての名だということに満は唐突に気が付いた。

 震える足を無理矢理動かし、鏡の中へと一歩踏み出す。

 のめり込んだからだが吸い込まれるようにして鏡の中に突入する。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:01:37.23 ID:WOJJWRsc0
 プシューッ!

 鏡の中、そのすぐ傍にバイクのような乗り物が音を立てて自分を

乗せるために、その屋根を開いた。

「行くしか、ない...よな?」

 初めて下す自分自身による決断は前進だった。

 引き返せない戦いへと身を投じた一人のライダーは、ただただ前を

見据え、待ち受ける敵へと挑みかかっていった。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:02:19.96 ID:WOJJWRsc0
 〜〜〜

 ライドシューターに乗り、鏡の向こうの世界へと辿りついた満が

目にしたのは、阿鼻叫喚の地獄の光景だった。 

 深夜の道路の工事現場の近くにはこれまた建設途中のビルがあった。

 ライダースーツによって強化された視力は、鉄骨の上に実に6体もの

ミラーモンスターが陣取っていることを目ざとく捉えていた。

 口から吐き出す糸で絡め捕って、鏡の世界へ引きずり込む半人半獣の

蜘蛛型モンスターが一体。また赤、青、黄色の人型の昆虫型モンスターが

それぞれ一体ずつ。そして翼の生えた鳥みたいなモンスターが二体。

 モンスター達は手当たり次第にプレハブ小屋の中に突入して、先程まで

汗を流して働いていた仲間達を頭からボリボリと音を立てながら旨そうに

むしゃむしゃと貪っていた。

(やべぇ...もし、見つかっちまったら...)

 クソ装備の今の自分では絶対に勝てないだろう。

 いや、そもそも見つかった時点でアウトだ。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:03:50.78 ID:WOJJWRsc0
「あっ...」

 モンスター達の一部がプレハブ小屋の外に出てきた。

 慌てて車の横に身を隠した満は、満腹になった鳥型と蜘蛛型となんだか丸い形の

ミラーモンスター達がめいめいに散っていくのを息を殺して見守る。

 これで残りのモンスターは3体になった。

(どうするよ?確か変身時間は10分くらいって言ってたしなぁ...)

(このまま今回は見過ごした方が良いかな、いやダメだ)

(モンスターに餌やらなきゃ喰われるとか神崎が言ってたしな...)

 せめて1対1なら劣勢に陥ったとしても、あるいはなんとか...

 だが、ミラーモンスターにとってミラーワールドは勝手知ったる自分の

庭に等しい。道路に止めてある車の影に隠れていた満の姿は、まさに

頭隠して尻隠さずを地で行くものだった。

「?!」

 背後から各層ともせずに襲いかかる殺気を敏感に感じ取った満は、咄嗟に

プレハブ小屋から見て、後ろにあたる左方向の道路へとその強化された

脚力で飛びずさった。

 一瞬遅れで自分の居た場所に轟音を立ててのめり込む二つの拳。

「ぎえええええええ!!!!」

 餌を取り逃した苛立ちの叫びを上げたモンスターは先程満が発見した

どのモンスターにも該当しなかった。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:04:19.81 ID:WOJJWRsc0
 ゼブラスカル・アイアン。

 身長2.45m。体重140kgのシマウマを模したウマ型のモンスター。それが

満と対峙する化け物の名前だった。

 普通の人間よりも一回り全てのスペックが強化された化け物は、まだ

心の準備も出来ていない目の前のよく分からない餌に飛びかかっていった。

「うわっ...わぁぁああああああ!来るなぁああああ!」

 いかに神崎士郎から闘うための武器を貰ったとしても、肝心のそれを

使う使い手が臆病者だったら話にならない。

 逃げ足だけが強化された情けない仮面ライダーはミラーモンスターの

魔手から逃れる為に猛然と駆けだしていった。

 100mを5秒で駆け抜ける脚力は伊達ではなく、その早さについていく事を

諦めたゼブラスカルは唐突に体を後転させ、そのまま走りさってしまった。

「はぁ...はぁ...助かった....」

 久々に全速力で息切れするまで走った満は、そのまま疲労のあまり、

道路の真ん中にへたり込んでしまった。

「なんだよ...ぜぇぜぇ...なんなんだよ、あの化け物どもは!」、

「冗談じゃねぇ。冗談じゃねぇよ...こんなの」

 誰も居ない夜の閑静な住宅街に満の憤懣やるかたない叫びが木霊する。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:04:47.30 ID:WOJJWRsc0
「くそっ!鏡...鏡見つけないと」

 息切れしている状態でいるのをモンスターに見つかってしまえば

一貫の終わりだ。

 呼吸を整え、ゆっくりと体を動かす。

「よし、誰も居ないな...」

 注意深く闇に目をこらして前へと歩き出す。

 幸い100mもしないうちにカーブミラーがある。

(ゆっくりだ。そう...ゆっくりと、気が付かれないように)

 10、20、30、40、50と徐々にミラーと自分の距離が詰まっていく。

 このまま何事もなく進めば、あっという間に残りを歩ききれる。

(念のため、武器は持ってた方が...いい、よな?) 

 膝についたバイザーにカードデッキから取り出したカードを手早く

挿入する。一秒後、バイザーの無機質な音声と同時に自分の手には

ガゼルの角を模した柄のついたドリルが握られていた。

 と、その瞬間!

「ぐぎゃごおおおおおお!!」

 猛然と唸りを上げ、背後からモンスターが襲いかかってきた。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:06:23.92 ID:WOJJWRsc0
 襲いかかってきたミラーモンスターは先程見かけたモンスターの近種である

ゼブラスカル・ブロンズだった。

 アイアンと異なり、体の各部位を繋ぐ筋肉がバネ状に伸縮し、

攻撃を受けてもダメージを軽減する能力を備えている。

 破壊力に欠けるインペラーにとって、非常にやり辛い相手である。

「チックショォオオオオオ!やっぱり間違って無かった!」

 振り向きざまにモンスターへとインペラーはドリルを振るう。

 だが、怪物はそれを易々と交すと両方の腕についた手甲を滅茶苦茶に

振り回し、インペラーへと襲いかかった。

「くっ、早い!早えええ!」

 放たれた10発の拳の内、3発が足と手を掠めた。

 ブロック塀に逸れた拳は当たった壁を粉々に粉砕する。

 もし一撃でも直撃すれば、きっと運が良くても瀕死の重傷は間違いない。

 恐らく粉砕骨折は免れないだろう。

「くそ!カードを入れる暇すら貰えないのかよ!」

 鏡がある場所は既に通り過ぎてしまった。

 カーブミラーを背後にしたゼブラスカルは絶対に逃がさないとばかりに

更に鏡のある場所からインペラーを遠ざけ始める。

 振るわれる拳も蹴りも徐々に様子見から全力へと引き上げられていく。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:06:57.68 ID:WOJJWRsc0
(この先は十字路だ。あそこでトドメを刺すしかない...)

 あと100mもしないうちに見える道路の交差点でケリをつけなければ

きっと自分はこのモンスターに確実に食べられる。

 骨が折れるのは嫌だが、死んでしまえばもう何も出来ない。

 体から立ち上り始めた茶色の粒子が活動時間の限界を教える。

「わぁあああああ!」

 恥も外聞もなく、ただ自分が生き残れる確率に全てを賭けた満は

「ここで死ぬなら」

「最後くらい格好くらいつけさせろよぉ!」

 腹を括り、ドリルを楯代わりにしてゼブラスカルに突っ込む。

 悲鳴にも似た威嚇の声をあげたゼブラスカルは、正面からバカ正直に

突っ込んできた哀れな獲物の武器を、その豪腕で一気にはじき飛ばした。

 ガゼルスタッブが空を舞う中、インペラーは体制を崩したゼブラスカルに

最後っ屁の全力のドロップキックを見舞い、十字路の真ん中に吹き飛ばす。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:07:27.59 ID:WOJJWRsc0
「Advent!」

 ガゼルバイザーに突っ込んだアドベントカードが効力を発揮する。

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 交差点の左右、正面、背後からどこからともなく湧き出てきた無数の

契約モンスター達がゼブラスカルを一斉に取り囲んだ。

 いかにダメージ軽減に優れていようと、集団攻撃による絶え間ない

継続的なダメージを与え続けられてしまえば、ミラーモンスターとて

ひとたまりもない。

 蹴る殴るは当然だが、更に一部の契約モンスターの仲間達は槍などの

どこからどう見ても危険な得物でゼブラスカルを串刺しにし始めた。

「はぁ...はぁ...お前なんか、お前なんかぁ...!」

「Final vent!」 

「うおああああああ!!!!!」 

 この瞬間、ゼール達による集団リンチが更に加速する。

 ありとあらゆる暴力に晒されたゼブラスカル・ブロンズの肉体は

既にダメージを軽減できない程、ボロボロに壊れていた。

「あああああ!決めてやるぅうううう!」

 ゼール型モンスターの一体がゼブラスカルを放り投げる。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:08:03.56 ID:WOJJWRsc0
「喰らえええええええええええええ!!!」

 全ライダーの中で最高のジャンプ力を誇るインペラーが、それに呼応する

ように宙高く舞い上がり...

「終わりだアアアアアアア!!!!」

 ゼブラスカルの土手っ腹に最高威力の跳び蹴りを見舞ったのだった。

 爆散するミラーモンスターの身体から一筋の光が球体のような形を取る。

 それを群れの中から飛び出した一体のギガゼールが捕食した。

 きっとあれが、俺と契約したモンスターなのだろう。

「どう...だ。やりゃ、俺だって出来るんだよ!」

 身体の節々が軋みを上げる。先程殴られた場所も徐々に痛みを帯び始めた

 しかし、まだ自分は生きている。生きているのだ。

「早く、早く...外に行かなくちゃ...」

 重い身体を引きずった満は、左手に止まっている軽自動車からほうほうの

体で現実世界へと帰還した。

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:08:34.39 ID:WOJJWRsc0
「〜〜〜〜〜ッ!はぁ〜〜〜〜〜!」

 生きている。

 死を覚悟したというのに、未だに自分は生きている。

「やった...ははっ、俺、生きてんじゃん...」

 そう言った満は、久しく浮かべなかった心からの充足を味わいながら

近くにあったブロック塀に体を預けて、気を失ったのだった。

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:09:06.59 ID:WOJJWRsc0
 第三話 仮面ライダー

 朝八時過ぎ、朝日が昇らない曇り空とは関係なく新しい一日が唐突に

始まりを告げる。

「ねーねー、お兄ちゃん、ここで何やってんの?」

「はっ?!」

 昨夜の死闘によって、体の節々が痛む中、深い眠りに落ちていた満を

不思議そうな顔をした小学生が覗き込んでいた。

「えっと...いや、疲れてつい寝ちゃったみたいだ」

「ふぅん。ま、いいや。じゃ〜ね〜」

「ああ。じゃあね」

 黒いランドセルを背負った少年は、そのまま学校へと走って行った。

(そうだ...俺は、昨日...)

 時間にしてわずか10分の死闘だった。

 初めて武器を取り、初めて自分が生きる為に『何か』を殺した。

 それは、今までのぬるま湯のような自分の人生観を根底から揺るがす

ような大きなショックをもたらしていた。

「そうだ。俺は、勝ったんだ...」

 呆けながら口に出した言葉はまだ軽かった。

 ギリギリの所でつかみ取った明日が今ここにある。

 今は、それだけでよかった。

「行かなきゃ...あそこに...」

 だが、勝利以上に今の満の心を占めていたのは...
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:09:45.39 ID:WOJJWRsc0
 工事現場


「ねぇ?一体何があったのかしら?」

「さぁ?でもただごとじゃないわよ。このパトカーの量は」

「そ、そんな...」 

 昨日まで働いていた工事現場に大量のパトカーが停車しているのを

見つけた満はあまりのことに言葉を失った。

 そりゃそうだ。

 ミラーモンスターによるあれだけの大量殺人が行われていたにも拘らず、

あの化け物達に殺されてしまった人達の遺体がどこにもないのだ。

「どいてください...どいてください!」 

 そうだ、監督はどうなったんだ?

 俺より先に仕事を上がったあの人は無事なんだろうか?

 説明のつかない感情に突き動かされながら、満は人混みをかき分け、

立ち入り禁止のテープを乗り越えて、現場となったプレハブ小屋へと

急いで向かおうとした。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:10:11.82 ID:WOJJWRsc0
「何をしている!君!」

「離せよッ!俺は、ここで働いてるアルバイトなんだよッ!」

「なんだって?」 

 不意を突かれたように目を丸くした警察官は、佐野を引き留めることなく

そのまま現場検証をしている現場へと向かわせてしまった。

「おい、誰だコイツ?放り出せ!」

 現場を血眼になって捜査している刑事や鑑識課の人間に怒鳴られながら

満は懸命になってある場所へと向かっていった。

「待ってくれ!確かめさせて欲しいんだ!」

「ロッカー!誰か監督のロッカーを開けてくれ!」

 形相を変えて叫び続ける満の言葉に、一人の刑事が動いた。

「開けるぞ」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:10:42.33 ID:WOJJWRsc0
 閉ざされたロッカーが音を立てて開く。

 そこには... 

「あっ...あ、ああ...」

 何も手つかずで残っていた監督の私物が仕舞われていたのだった。

 それだけで、全てが分かってしまった。

 この世界のどこにも昨日まで働いていた監督や仲間達は存在しないと

いうことが、全て理解できてしまった。

「...重要参考人として、署まで同行願おうか?」

 言葉を失い、気を失った満はまるで犯人のようにその場にいた警察官に

引き立てられ、警察署へと連れ去られてしまったのだった。

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:11:18.05 ID:WOJJWRsc0
 取調室

「さぁ吐け!お前が犯人なんだろう?!」

「違う!俺は誰も殺してなんかいないんだ!」

 昨日まで働いていた仲間の安否を確かめようと軽率に動いた満は、

代償として重要参考人として、警察署で激しい取調を受けていた。

 警察も遺体のない迷宮入り事件の犯人として、昨日深夜に居なくなった、

正確にはミラーモンスターに食べられてしまった人間の唯一の生存者として

アリバイのない容疑者からの自白を取ろうとするのは当然の帰結だった。

 既に三時間にも渡る尋問により、満の心はすり減っていった。

「答えろ!お前が殺した従業員達をどこに隠した!」

「知らないよ!だから言ってるだろう?!俺は誰も殺してないって」

「嘘をつけ!じゃあなんであの時監督のロッカーって言ったんだ?」

「お前が何か知っていることは確かなんだ!」

 知っているもなにも、あの夜に従業員達を襲った犯人は全て知っている。

 ただ、そいつらが人にあらざる怪物だと言うことが自分の状況を

とんでもないところにまで追い詰めているのだ。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:11:51.38 ID:WOJJWRsc0
「勘弁してくれよ...俺が何をしたって言うんだよ」

「先輩、コイツが一番怪しいのに、凶器もなにも出てきません」 

「探せ!草の根分けても探せ!」

 部下を叱責した年配の刑事は苛立ちを隠そうともせず、パイプ椅子に

乱暴に腰掛ける。ギシギシと軋む耳障りな音が満の頭をかき乱す。

「はぁ...もう、三時間か」

「おい、須藤を呼べ。俺はすこし外で休む」

「はい」

 事ここに至って、なにも答えない満にあきれ果てた刑事は同室した

部下に別の取り調べをする人間を呼びに行かせた。

「おい、お前いまいくつだ?」

「21です」

「21か。お前、家族になんて言い訳するんだよ?」

「ええ?どうして職場の仲間を皆殺しにする必要があったんだ?」

「...だから、俺は無実なんだって!」

 不毛なやりとりは、五分後に先程部屋から出て行った部下が一人の

若い刑事を連れてきたことにより、一応の終結を見た。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:12:17.33 ID:WOJJWRsc0
「お待たせしました。では、ここからは私が引き継ぎますので」

「おう、頼んだぞ。須藤」

 須藤と呼ばれた二十代後半の若い刑事は、ニコニコと笑いながら

今まで満の尋問を担当していた刑事達を部屋から送り出していった。

「佐野、満さんですね?」

「はいそうです。なんだよ、もう何がやりたいんだよアンタ等」

「申し訳なく思っています。ですが、私達の事情も分かって下さい」

「凶器も遺体も見つからない中、唯一貴方だけが生存している」

「ほー。そうやってそれっぽい証言引き出して犯人に仕立てあげんだろ!」

「白も黒も関係なく、私達は貴方から情報を引き出すしかないのです」

 申し訳なさそうな表情を浮かべた須藤は、なんとか怒り狂う満を

宥めようと言葉を尽くして、懸命に言葉を重ね続けた。

「どうしても俺を信用させたいなら証拠を見せろよ!証拠を!」

「そんな...」

「見せられないだろ?そりゃそうだよ!」 

「お前らは俺を犯人に仕立ている最中なんだからなぁ!」

 言葉を失った須藤は、そのままうつむいたまま黙ってしまった。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:12:48.17 ID:WOJJWRsc0
「はっ、刑事さんのその沈黙が答えだよ」 

「もし俺が警察署を出たら、その足で全部バラしてやるよ!」

「警察官達が未来ある若者に無実の罪を着せようとしたってなぁ!」

「分かりました...」

「はぁ〜?はぁ〜?何が分かったって言うんだよ」

 気息奄奄と息巻く満を真っ直ぐに見据えた須藤は、自らの胸ポケットの

中からあるものを取り出したのだった。

 それを見た瞬間、満の血の気は一斉に引いた。

「やっぱり...貴方も私と同じライダーでしたか...」

 自分の持つものと色違いのカードデッキが目の前に突き出された。

「なんで、どうしてアンタが...それを持っているんですか?」

「私も選ばれたんですよ。あの男...神崎士郎にね...」

 神崎士郎。

 その名をまさかこんな取調室で聞くことになろうとは... 

 言葉を失った満を見た須藤は、今度は懐から満のカードデッキを取り、

無造作に机の上に置いたのだった。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:13:22.40 ID:WOJJWRsc0
「私は貴方が知っていることを知っている」

「しかし、貴方はそれを口にして証明することは不可能だ」

「なぜならこの事件の犯人は、複数のミラーモンスターだからだ」

「...そうです」

「このまま行けば、貴方は確実に犯人に仕立て上げられる」

「ですが、私はそれを回避できる方法を使える立場の人間です」

「佐野満さん。私と取引をしませんか?」

 すっかりイニシアティブを取り、立場を逆転させた須藤はこれまでの

怒声と罵声による尋問のせいで頭が正常に働かない満を丸め込みに

掛かり始めた。

「私が貴方を容疑者から外し、その見返りとして貴方は私に協力する」

「もし、俺が断ったら?」

「その時は縁がなかったということで、また別の人を探しますよ」

「最も、貴方がシロだということが判明した今」

「貴方をここに留めて置く必要はもうないので、どうぞお帰り下さい」

 椅子から立ち上がり、扉の前に立った須藤は満に早く部屋を出て行けと

無言で促していた。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:13:49.68 ID:WOJJWRsc0
「帰って、いいのか?」

「ええ。勿論です。カードデッキもお返ししますし」

「警察が保管している貴方の私物もちゃんとお返しします」

 本来なら敵対する相手に塩を送る行為をする必要などないのに、それを

わざとする須藤の行いは腑に落ちない点ばかりだ。

 だが、誰も味方がいないこの状況下で須藤のような男を味方につける

ことができたのならば、あるいはこの先のライダーバトルもきっと

戦い抜いていけるかも知れない。

「信じて、いいんですか?」 

「それを決めるのは、貴方です」

 真摯に自分を見つめる二つの瞳。

 結局、満は須藤を信じる事にした。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:14:18.64 ID:WOJJWRsc0
「須藤さん。俺、アンタのこと信じるよ」

「ありがとう。こんな俺に手を差し伸べてくれた恩は必ず返す」

「そうですか。では、これを」

「私の携帯電話につながります。靴の隙間に挟んでいて下さい」

 受け取った紙を慌てて靴の隙間に挟み込んだ満を満足げにニッコリと

微笑みながら須藤雅史は取調室のドアを開け、満を警察署内の廊下へと

出したのだった。

 須藤は約束を守り、満の私物を返還した後、警察署の入り口まで

送り届けたのだった。

「須藤さん。本当にありがとうございました」

「いえいえ、また近いうちに警察の者が伺うと思います」

「しばらくは大変だと思いますが、どうか頑張って下さい」

「はい!」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:15:14.33 ID:WOJJWRsc0
 〜〜〜〜
 
 ボロアパート

 長い聴取を終えた満が帰宅できたのは、午後六時だった。

 警察署には朝から半日以上いた計算になる。

「はぁ...そっか、監督死んじゃったのかぁ...」 

 他の柄の悪い連中はともかく、少なくともあの監督はあんな無残な形で

ミラーモンスターに食べられて終わる最後を迎えて良い人ではなかった。

 気さくで人当たりが良く、誰にも好かれるようないい人だった。

 給料泥棒の自分にも優しく隔てなく仕事を丁寧に教えてくれた。

『佐野。大人になるとな、大切なことを一つ一つ忘れちまうんだよ』 

『全部、社会っていう砂の一粒として大きな砂漠の下に埋もれちまうんだ』

『だけどな、優しさだけは忘れちゃいけないんだよ』

『打算なく誰かを信じたり、誰かを助けたりするのが一番難しいんだ』

『もし、お前の前にそんな人が現れたら躊躇わずに力を貸してやれ』

『ま、そんなお人好しのことをバカって言うんだけどな。がはは』

 初めて仕事を監督に教わった日の帰り道の居酒屋、ビールを飲みながら

過去を懐かしむように自分の事を案じてくれたあの笑顔が瞼の裏に、鮮明に蘇る。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:15:58.01 ID:WOJJWRsc0
「うっ...ぐっ...あああ...」

「なんで、だよ...あんた、俺の親父でもないくせに...」 

「どうしてそんなに誰かのことを考えられんだよ...」

 100円の値引きシールの貼られた幕の内弁当に大粒の涙がこぼれる。

「涙で味が分からなくなるじゃんか...なんだよ、なんで...なんで...」

 あの時、もしも自分が監督と一緒についていっていれば...

 いや、結末は変わらなかったに違いない。

 ただ、次の日に行方不明者の欄に自分の名前が記載されるだけだろう。

「ううっ...クソっ...クソッ...」

 今まで流してきた涙よりも熱いその涙の名前を満は知らない。

 だが、決してなくしてはいけない何かが満の中で芽生え始めた。

「ミラーモンスター...アイツ等は絶対に許さねぇ...」 

 今の自分はあまりに非力だ。

 職場の仲間を殺したミラーモンスターを討つのに、自分もその化け物と

同じ力を得なければ仇を取れない。

 だから今、少ないながらもできることから始めよう。

「そうだ」

 残りの幕の内弁当を掻き込んだ満は、先程受け取った紙に書かれた

須藤の電話番号のボタンを押していたのだった。

42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:16:30.57 ID:WOJJWRsc0
 〜〜〜〜

「はぁっ...はぁっ!」 
 
 ここではないどこか、全てが反転したミラーワールドの森の中で

二人のライダーが戦いを始めていた。

「ねぇ...どうしたの?もう終わりなの...」

「まだ、まだ終われないッ!こんなところでッ!」

 猛虎の爪のような籠手を纏う青色のライダーと白鳥が空に舞うような

美しさを誇る白いライダーの二人は、雌雄を決そうとバイザーを開いた。

「final vent!」

 先手を取ったのは、純白の仮面ライダー...ファムだった。

 彼女が契約する白鳥型のミラーモンスター、ブランウィングはその

両翼を広げ、目の前にいるもう一人のライダー、仮面ライダータイガの

巨大な身体をあっというまに吹き飛ばそうとした。

「freeze vent!」

「うそ、なんで止まったの?ねぇ!!ブランウィング」 

 相手の動きを止める特殊カードの効力により、純白の白鳥は永遠に

閉じることのない両翼を広げたまま、その時間を凍りづけにされた。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:17:37.46 ID:WOJJWRsc0
「Advent!」

 全てのカードを使い果たしたファムの目の前で、悠然と残りのカードを

見せつけるようにバイザーに挿入したタイガは、呼び出した自分の契約獣に命じ、

美しい白鳥の首を一息に刎ねさせた。

 絶命の叫び声を上げる間もなく、ブランウィングはその命を白虎型の

ミラーモンスター、デストワイルダーに吸収される形で散らされた。

 契約モンスターが殺されたファムは当然ブランク状態へと戻った。

「君さぁ...復讐のために闘うんだって言ってたよね」

「こ、こないで...」  

 腰を抜かし、立ち上がれなくなった目の前の敵に哀れみを込めながら

英雄を目指す仮面ライダーはその投げ出された足に、斧型のバイザーを

無慈悲に振り落とした。

「うわああああああああああああああああ!!!」

 派手な血しぶきを上げながら、断末魔の叫びを上げる敗者。

「はぁ...君の戦いってさ、結局無意味なことだったんだよ」 

「姉の敵を取るためにライダーになった?」

「はっ、そんな理由の為に僕の命を狙って戦いを仕掛けるなんて...」

「ミラーワールドを閉じようとする『英雄』に失礼じゃないのかなぁ!」

 自分で自分の怒りの火に油を注いでいく意味不明な行為をして、更に

激昂したタイガは残りの足をすっぱりと切り飛ばした。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:18:13.98 ID:WOJJWRsc0
「君のような醜い怪物は僕が手を下す価値すらない」

「い、いや...来ないで...来ないでよ...」

 朦朧とする意識の中、霧島美穂は自分に近づく死神達の前に屈した。

「お願い...助け...て。まだ、死にたくないよ...シンジ...助けて」

 心引き裂かれそうな白鳥の叫びは、心無き虎には通用しなかった。

「ふーん」

「デストワイルダー。お疲れ様。そこの人間、食べて良いよ」 

 ブランク状態のカードデッキから契約とシールのカードを抜き取った

タイガはデストワイルダーをねぎらう言葉をかけて、その場を後にした。

 森に木霊する敗者の断末魔を聞くことなく...。

 仮面ライダーファム/霧島美穂、脱落 残り12人
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 00:18:59.60 ID:WOJJWRsc0
 今日の投稿はここまでです。続きはまた明日か明後日に投稿します。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 05:57:10.48 ID:eO9E0x5DO
スレタイからしてサバイヴでも渡すのかと思ったらすっげ付け焼き刃みたいな強化で草
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 08:24:12.53 ID:g2z3JoEWO
面白い
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:29:32.97 ID:WOJJWRsc0
 コメントありがとうございます。それでは今日の分を投下したいと思います。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:30:11.87 ID:WOJJWRsc0
 第四話 その男、刑事

 次の日の昼、朝のバイトを終えた満は昨晩電話した須藤の指定した

都内にある寂れた中華料理店に足を運んでいた。

「お待ちしていましたよ。佐野さん」 
 
 キョロキョロと周囲を見回す満を見つけた須藤は満面の笑みを浮かべ、

席を立ち、自分の席へと誘った。

「須藤さん。これからよろしくお願いします」  

「いえいえ、私の都合で協力を仰いだのですからこちらこそお願いします」

 丁寧に挨拶を返した須藤は、満にメニュー表を渡した。

「佐野さん。昨日はお疲れ様でした。これは本当に細やかな気持ちです」

「えっ?好きなもの頼んで良いんですか?」

「勿論です。ですが、ほどほどにお願いしますよ?」

「は〜い」

 場末の中華料理店とは言え、メニューは意外とあった。

 一品500円程度のリーズナブルさがきっとこの店の売りなんだろう。

「すいません。ラーメンと餃子と炒飯と青椒肉絲お願いします」

「私はカニ雑炊と酢豚と水餃子でお願いします」

「あいよ〜」

 注文を承ったアルバイトのオバサンの気軽な声に緊張がほぐれる。

 そんな佐野を見た須藤は本題へと切り込んだ。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:30:52.00 ID:WOJJWRsc0
「では、佐野さん。私達の同盟の話に移りましょうか」

「同盟...ああ、そうですよね。俺達これから協力するんですよね」

「ええ。今ここにカードデッキはありますか?」

「ありますけど...」

 いい年した男が二人顔突き合わせてなにやら意味深な話をしているように

他の客からは見られがちだったが、生憎当の本人達はそんな目を気にする

ことはなく、互いのカードデッキからそれぞれのカードを取り出していた。

「こうしてみると、あれですよね...」

「ええ。私達の契約モンスターは本当に弱い」

「私のカードは四枚、佐野さんのカードは三枚。ですが」

「武器の威力が低すぎて心配になっちゃいますね」

「ですが、早いうちに佐野さんと出会えて良かったですよ」

「最近、私もモンスターを中々倒せずにいて困っていたんです」

「そうだったんですか。いつごろ須藤さんはライダーに?」

「実は一ヶ月前からです。仕事があるのに...はぁ」
 
「へい。おまち!熱いから気をつけてね〜」 

 一旦、話を中断した二人はそれぞれが注文した料理をそれぞれ

受け取る。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:31:26.60 ID:WOJJWRsc0
(うわぁ〜。久しぶりに湯気の立ってるラーメンとか見るよ〜)

「須藤さん!ありがたく頂かせて貰います。いただきます」

「ははは。そんなに嬉しそうな顔をされるとは思いませんでしたよ」

「では、私も頂くとしましょうか」

 久々の外食に心を振るわせた満は、飢えた獣のように目の前の食事に

かぶりついたのだった。

「んまい!旨いっすよ!く〜!ここの飯マジ最高っす!」

「特にこの餃子!ニンニクが凄い利いてて美味しい!」

 久々にありついたまともな食事と、自分の話をちゃんと聞いてくれる

他人の存在が満の心をかつてないほどに昂揚させていた。

「佐野さん、声大きいですよ」

「あっ...すいません」

「なんだい兄ちゃん。そんなに俺の餃子が旨いのかい?」  

 大声を須藤に窘められた満は赤面したが、そのやりとりを聞いた店主が

はげた頭を照れくさそうに掻いて厨房から出てくる。

「あっ、いやその...毎日コンビニ弁当ばかりだったんで...つい」

「あんだぁ?おめえ歳は今いくつだ?」

「21歳です。えーっと現在進行形でフリーターやってます」

「かーっ、なっさけねぇなぁ!人生どぶに捨ててるじゃねぇか!」

「いやぁ〜。言い返せなくてすいません」

「おし、じゃあちょっと待ってろ!」

 そう言うなり店主は再び厨房に戻り、中華鍋を動かし始めた。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:31:58.02 ID:WOJJWRsc0
 五分後...

「ほら!サービスだ。熱いうちに食べな」

 厨房から再び戻ってきた店主が持ってきたのは八宝菜だった。

「えっ、いいんですか?」

「おうよ。これは俺からのサービスだ」

 お皿に盛った八宝菜を炒飯にかけた店主は満足げな微笑みを浮かべ、

そのまま厨房へと引っ込んでいった。

「須藤さん。なんだかここのお店、俺好きになりそうっす」

「ええ。あの店長さんは素敵な人ですからね」

 とろりとした餡掛とエビやウズラの卵、キクラゲなどの歯触りの良い

食感が炒めた飯に絶妙にマッチングしていた。

 一口頬張れば頬が落ち、二口食べれば涙が溢れる。

「人の親切の味っていうのはこういう味のこと言うんですかね」

「ええ。きっとそうでしょうね」

 涙を流しながら、満は黙々と箸とスプーンを動かす。

 30分後...

「ごちそうさまでした。いや〜美味しかったです」

「いえいえ」

 会計を済ませ、店を後にした満と須藤は裏道からそのまま大きな

通りへと出る。

 人混みに紛れながら、周囲を注意して情報交換を再開する。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:32:36.43 ID:WOJJWRsc0
 「なるほど、佐野さんはまだ一回しか変身していない。と?」

「ええ。だけど、なんとか独力でモンスターを倒したんですよ」

「わらわらーって契約モンスターが出てきて、トドメを刺したんです!」

「ほう。では、まだ他のライダーとは顔を合わせていないと?」

「?そうですけど」

 信号機の前ではたと立ち止まった須藤は、思い直したように左の角を

曲がって、その先にある公園へと進んでいった。

「良いですか佐野さん。今からする話は真剣な話です」

「このライダーバトルにはあの浅倉威が参加しています」

「いやだな〜。浅倉ってあれでしょ?あの連続殺人鬼の」

 須藤は未だに半信半疑の満に対して、更に真顔でとんでもないことを

さらりと言い放った

「もう、既に一人ライダーが脱落しています」

「え?なに、脱落って...どういうことだよ」

「言葉の通り、命を落としたそうです」

 深刻な表情を浮かべる須藤に、満の顔も自然と厳しいものに切り替わる。

「佐野さん。私達はライダーの中でも最弱の部類に入ります」

「なので、今の所は他のライダーとの争いを避け、地力を上げましょう」

「...そうっすね。モンスター狩りに専念した方が賢明ですね」

「私は他のライダーの事を調べます。佐野さんは私の手が届かないところ」

「モンスター狩りの手助けや退路の確保をして欲しいのです」

「オーケー。お互いの手の届かない所を補う寸法ですね」

「分かりました。戦闘には不向きっすけど逃げ足なら自信ありますから」

 須藤の要求はとてもシンプルなもので、決め手に欠ける乏しい戦力の

ライダー同士が手を取り合って、互いの短所を補い合おうという提案だった。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:33:04.50 ID:WOJJWRsc0
 満としても、既に死者の出たバトルロイヤルで無駄な戦いを避け、

できる限り身の安全の保障を得られるこの提案を拒む理由がない。

「頑張りましょう!須藤さん」

「頼もしい限りです。よろしくお願いしますよ?佐野さん」

 須藤と固い握手を交し満は、三日後の再会を約束して公園を後にした。

「ふっ、バカな男だ」

 満の背中が見えなくなるまで見送っていた須藤の笑顔が醜悪に歪む。

「ま、せいぜい私の役に立って下さいよ。佐野さん」

 
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:33:51.34 ID:WOJJWRsc0
 〜〜〜

 コンビニ

「いらっしゃいませー」

「50番のタバコ下さい」

「かしこまりました」

 須藤と別れた後、満は掛け持ちのバイトの一つであるコンビニにいた。

 入荷された品物を下ろして棚に陳列し、それが終わったらバックに

引っ込んで在庫の確認と発注作業の繰り返しである。

「合計1700円になります」

「2000円で」

「かしこまりました。こちら300円のおつりになりまーす」

 朗らかな笑顔が自然とにじみ出てくる。
 
 やはり、なにかやりがいが見つかるのは気持ちが良いなと思いながら

満は退屈なアルバイトを満喫していたのだった。

 しかし...

「?!」

 レジで会計をこなしている最中、あの音が突然聞こえて来た。

(嘘だろ...まさかここにミラーモンスターが?!)

 幸い、店内の客は目の前にいるのと、あとはコミックを読んでいる

小さな女子中学生の二人だけだった。

「またのおこしをお待ちしておりまーす」 

 背を向けて自動ドアに歩いて行く客の背中に声をかけた満は、レジを

飛び出し、慌てて店内を掃除するふりをして注意深く窓硝子に目をこらす。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:34:31.59 ID:WOJJWRsc0
 「....」

 いた。

 漫画に夢中になっている女子中学生の死角から丸いミラーモンスターが

じっと窓硝子の向こう側から目を凝らしている。

(まずい、これは...連絡すべきか?)

 コンビニのバックヤードには年配のおばさん店員以外は誰もいない。

 須藤の顔が自分の頭をよぎった瞬間...

 プルルル...

 ポケットの中の携帯電話が震えた。着信元は須藤からだ。

「須藤さんですか!どうしましたか?」

「いえ、明日また聴取があるということをお伝えしようと...」

 まさに天の助けだ。

 この際須藤に助力を乞い、モンスターを倒すのが上策だ。

 そのことを須藤に伝えようとした、まさにその時...

「きゃっ!」

 短い悲鳴と共に、目の前にいた女の子が忽然と姿を消した。

「くそっ!すいません須藤さん。また夜にかけ直して下さい」

「モンスターが現れて人を攫ったんです。放って置けない!」

「まっ!」 

 携帯電話の通話ボタンを切り、慌ててトイレに駆け込む。

 万が一、カメラに自分が変身する姿を写されたりしたら大変だ。

「変身!」

 トイレの個室にくっついている鏡に向かい、ポーズを取って満は

インペラーに変身する。

「頼む...無事でいてくれ!」

 少女の無事を祈りながら、佐野満は再びミラーワールドへと赴いた。

57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:34:59.63 ID:WOJJWRsc0
〜ミラーワールド〜

 全てが反転した世界に足を踏み入れた満は、トイレの扉を押し開け、

コンビニの外へと駆けだしていった。

「くそっ!なんで、なんでこうなるんだよ!」
 
 コンビニの外、そのすぐ近くにある駐車場に奴はいた。

 クラゲのような身体を膨らませながら、身体にくっついている嘴で

先程の女子中学生の頭を貪り喰らっているミラーモンスターがそこには

存在していた。

 ブロバジェル。それが今回満が相手をするモンスターの名だった。

 2.38mの身長と138kgの体重は到底か弱い女の子が太刀打ちできない

程の重量と高さを誇っていた。

 生きていてくれさえいれば、そう思う後悔の念を押し込めながら満は

猛然と目の前にいるクラゲの化け物へと襲いかかっていった。

「spin vent!」

 ベントインしたカードをバイザーが読み込み、音声と同時に自分の手元に

得物が現れる。

「その子を、離せー!」

 叫びながら己に斬りかかる満を、しかし億劫なほど緩慢に振り返った

ブロバジェルは両腕の音叉状の爪から物凄い音がするなにかを目の前の

敵へと放った。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:35:39.45 ID:WOJJWRsc0
「?!」

 突き刺すように差し出されたミラーモンスターの爪を全力で回避した

インペラーは、数秒遅れで自分の立っていた場所に小さなクレーター

らしき穴が空いているのを見逃さなかった。

「なんだよ...あれ。音からして電気を操ってんのか?」

 スタンガンのようなバチバチという音を鳴らしながら、クラゲの怪物は

足音を立てながら自分の元へと歩み寄ってきた。

(まずい。あの電撃喰らったら一たまりもねぇよ!)

 既に自分の手には得物が握られている。

 だが、自分のカードは残り二枚しかない。

 もし、アドベントが効かなかったら?

 もしファイナルベントすら無効にするほど相手が強かったら?

 そんな最悪の予想が脳裏をよぎり、脳はそのおびえを身体に伝える。

「くそっ!こんな所で終わるわけにはいかないのに!」

 こんな時、つくづく神崎士郎に優遇された人間達が恨めしくなる。

 遠近距離戦のどちらもこなせる万能型のデッキさえ持てていれば...
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:36:15.02 ID:WOJJWRsc0
 「Advent!」

 貴重なアドベントのカードを切る。

 数秒もしないうちに、自分の背後からガゼルのミラーモンスターの大群が

大挙して目の前のブロバジェルに殺到する。

 バチバチバチィ!

 落雷のような凄まじい音を立てながら、ギガゼール達に応戦するクラゲの

ミラーモンスター。

 だが、満の予想に反して鹿型ミラーモンスター達の群れは思った以上に

目の前の敵に善戦していた。

 運悪く電撃を浴び、即死した仲間達の亡骸を見て学んだのだろうか、

十数体にも渡る武器を持つ個体達が、得物の利を最大限に生かして

ブロバジェルの射程外から切る、突く、刺す攻撃を加え始めた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 苦悶と激痛に身体を悶えさせながら、ブロバジェルは徐々に弱り始める。

「Final vent!」

「でりゃあああああああああ!!!!」

 叫び声と同時に、意を決したインペラーがブロバジェルに躍りかかった。

 四方をかこまれ逃げ場を失った哀れな獲物は、そのままなすすべなく

身体中を槍や角で突かれて全身に穴が空いた所を仕留められた。

 爆散するミラーモンスターの身体から出たエネルギー源の塊を喰らう

ギガゼール。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:37:07.82 ID:WOJJWRsc0
 
「これで、二体目か」

 思ったより、簡単にモンスターを狩れることを確信した満は意気揚々と

ミラーワールドから引き上げたのだった。

「...新しいライダーかぁ」

 だが、インペラーの視界の届かない場所に奴はいた。

「カードの数は三枚...うん。アドベントを崩せば楽に勝てる相手だ」

 車の影から今までのインペラーの戦いぶりをじっくりと観察していた

ライダーがその姿を現した。

 サイのような装甲を身に纏うそのライダーの名は...仮面ライダーガイ。

「ま、せいぜい俺を楽しませてくれよな」

 ライダーバトルに選ばれた13人の一人であると同時に...

「さぁこのゲームも面白くなってきたぞ〜」
 
 この戦いをゲームとして捉えるエキセントリックな破綻者でもあった。

61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:37:33.35 ID:WOJJWRsc0
 第五話 危険な賭け

 警察署内

「えっ?昨日別れた後にモンスターと闘った?」

「そうなんですよ...バイト先のコンビニで運悪く出会っちゃって」

 ミラーモンスターを倒した次の日、満は事情聴取という名目で昨日

自分に起きた出来事を須藤に伝えていた。

 須藤も聴取をそこそこにして、満の話に耳を傾けていた。

「そちらに中学生くらいの女の子の捜索願、出されてますか?」

「...一件ありました。でも、もう...」

「...すいません。俺がミラーワールドに行ったときには、ダメでした」

 重苦しい空気が取調室に満ちる。

 一体、あの女の子が何をしたというのだろう。

 人を殺したわけでもない、誰かを苦しめたわけでもない。

 どこにでもいる平凡で普通の楽しい生活を享受していただけじゃないか。

「分かりました。今日はもう帰って貰って結構です」

「はい」

 警察は、あの事件を未解決事件として処理することに決定したそうです。

 去り際に須藤の呟いた言葉は、何の慰めにもならなかったが、少なくとも

自分の稼ぎ先である工事現場のバイトにはもう顔は出せないだろう。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:38:20.78 ID:WOJJWRsc0
「はぁ...また面接行かないといけないかぁ...」 

 ぶつくさ言いながら満は重い足を引きずりながら、近くのコンビニへ

週刊の無料求人誌を見るために入った。

 このご時世に高卒正社員を求める企業はごく僅かだ。

 漁船の乗組員や木こりならまだ1発採用の目はあるが、元々がお坊ちゃん

気質の満にとって、3K揃った劣悪な肉体労働をする気など毛頭ない。

 かといって給料の良い外回りの営業職をする気も起きない。

 コンビニから歩いて1kmの小さな公園。その一つしかないベンチを

まるで会社の重役が偉そうにテーブルに腰掛けるように独占しながら、

求人誌のページをパラパラとめくる。

(やっぱデスクに座ってふんぞり返れる人事とか総務がいいよなぁ...)

 しかし、現実はそう甘くない。

 人事も総務もどちらかと言えば女性向けの部署である。

 となると消去法で日給のいい派遣社員のページに目が行くのは当然で...

(おっ、このリゾートバイトは良い感じじゃん)

(北海道はこの前行ったし、久しぶりに沖縄行きたいなぁ...)

 短期間で最大50万と大きく掲載されているリゾートバイトの派遣社員の

募集広告に胸をときめかせた満は早速電話をかけようとした。

(あれ?ちょっと待てよ。そんなに上手くいくもんなのか?) 

 ライダーバトルは1年。そして、今目にしている広告のバイトの期間は

最長でも約半年である。上手いこと神崎士郎を騙せれば半年は確実に命を

長らえることは出来る計算になる。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:38:54.57 ID:WOJJWRsc0
 だが、

「小賢しいことを考えているなら、やめた方が良い」

「げぇっ!か、神崎?!」

 まるで幽霊のようにいつの間にか自分の横に立っている神崎士郎が

不機嫌丸出しの顔で自分を睨み付けていた。

「ライダーバトルに非協力的なら、お前を真っ先に潰す」

「12人のライダーに狙われ、果たしてお前はいつまで逃げられるかな?」

 ぐうの音も出ないほどの死刑宣告に満はガックリと膝を突いた。

「勘弁してくれよぉ...お前のせいでこっちは職探ししてんだよ!」

「オタクの可愛いペット達のせいで俺は警察にマークされてるの!」 

「そんなことは私の知ったことではない」

 無愛想で無慈悲な神崎の対応にますます嫌悪感が募っていく。

 だが、こんな奴がライダー同士の戦いを作り上げた黒幕なのだ。

 なんでもいい。一つでも神崎から有用な情報を毟ってやろう。

 そう考えを改めた満は、以前から気になっていたことを聞くことにした。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:39:51.11 ID:WOJJWRsc0
「なぁ神崎さん。アンタから貰った契約のカードなんだけどさ」

「別々のモンスターと二体契約したとして、片方が相手にやられた時」

「もう一体のカードが残っていれば、ブランク体にならないで済むのか?」

「そうだな。繰り上がりでそのモンスターが再契約の対象となる」

「だが、ブランク体には一度戻ってしまう」

「頭の中で契約すると念じたあとに、モンスターとの再契約は完了する」

「それまではブランク体だ。カードも同様にブランク体のもののままだ」

「へぇ...じゃあブランクに戻る前に契約したモンスターはどうなるの?」

「以前のライダーの紋章はなくなるが、契約はなくならない」

「原則は一枚につき一体のモンスターとの契約だ」

 契約が解ければライダーは初期状態に戻るが、二体のモンスターと契約を

していれば、残ったモンスターの情報が自分のデッキに上塗りされると

直々に神崎士郎から言質が取れた。

 これで、あの群れしか取り柄のないガゼル軍団をわざと囮にして本体を

別のモンスターに喰わせれば、こっちの方からモンスターとの契約解除が

できるということが実証された。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:40:34.89 ID:WOJJWRsc0
(よし、次は強いモンスターを探さなきゃな)

「じゃあさ、あの世界にはどんな強いモンスターがいるんだ?」

「ドラゴンとかフェニックスとかいるんだろ?」

「ああ。確かにその個体は存在する。だが、もう契約済みだ」

「って事は何?万能型のデッキの持ち主は二人以上いるって訳?」

「そうなるな。そう言った種は希少性が高く遭遇することは稀だ」

「仮に遭遇したとしても、その気性の荒さ故すぐに捕食に入る」

 危ないところだった。
 
 もし前情報もなしに貴重な契約のカードを雑魚モンスターとの契約に

使い果たしてしまえば、また今の自分の二の舞になるところだった。

 だが、ドラゴンやフェニックスはダメでもまだ強いモンスターは

必ず残っているはずだ。食い下がるわけにはいかない!

「なぁなぁ教えてくれよ〜。伝説の生き物じゃなくて良いからさぁ〜」

「野良のモンスターでそれなりに強い奴を教えてくれよぉ〜」

「...これ以上教えるわけにはいかない」 

「そんなこと言うなよ〜。もう文句は言わないからさ〜」

「...モンスターはそれぞれ自らの元となった生物の生息域に潜む」

「ハチや蜘蛛は街の中に居るが、クラゲや魚は海の中に居ると言う事だ」

「つまり、お目当てのモンスターの生息場所に足を伸ばせってこと?」

「ああ。手がかりは与えた。これ以上、私の口からは伝えられない」

「上々だよ。サンキュー」

 これでようやくこれからの方針に目処が立った。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:41:11.38 ID:WOJJWRsc0
 ライダー同士の戦いを避けつつミラーワールドに潜入し、今の契約している

モンスターよりも強そうなミラーモンスターを捜索する。

 インペラーのまま新しいモンスターと契約すれば、少なく見積もっても

武装、アドベント、ファイナルベントの三枚もの強力な新しいカードが

手に入るはずである。それに相手を騙して戦闘を優位に運べる利点もある。

「よし、じゃあ久々に遠くまで足を伸ばすとしますか...」

 満足げに頷いた満は、足取りも軽やかに走り出した。

67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:42:01.63 ID:WOJJWRsc0
 〜〜〜

 東京湾近辺

「ん〜!久々にお台場まで来た〜」

 三時間後、士郎のアドバイスに従って都内で海に面する場所へ電車を

乗り継いでやってきた満は、観光したい気持ちを抑えながら早速近辺の

フィールドワークを開始した。

「海の近くなら、虫とかシマウマとかガゼルは住んでないよな?」 

 満の狙いはそこにあった。

 都会に潜むミラーモンスターは大半が陸棲型のモンスターである事を

須藤とのやりとりで情報を得ている。

 ということは、これから闘うであろうライダー達の契約モンスターは

ドラゴンや蛇や鳥や猛獣の類が大半を占めているはず。

 つまり、海にはまだ誰も知らない強力なモンスターが街中よりも

潜んでいる確率が高い。

 ドラゴンやフェニックスよりかは小さくて弱いだろうが、それでも

大きな期待は持てる。

「ライダーを倒せば、いくら相手のモンスターが強くても問題ないよな」

 そこに目をつけた満は一旦家に帰宅し、押し入れの中から25000分の1の

大きな地図帳を引っ張りだし、海辺の近くにある人が密集しそうな

場所に片っ端から○をつけ始めていった。

 何故なら、ミラーモンスターは人が密集する場所に沢山集まる。

 それを身を以て理解していた満はPCの画面を睨みながら、じっくりと

慎重に目当てのミラーモンスターの出現場所を絞っていった。

 そして、人が密集し、更に海に面しているある臨海公園を見つけ出し、

今に至るというわけである。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:42:39.80 ID:WOJJWRsc0
 時刻は午後五時十七分。夕暮れ時である。

「サメは夜行性だからな...頼むぜ〜サメちゃんよ〜」

 そう、満が新たな契約モンスターとして選んだのはサメだった。

 海のギャングと呼ばれ忌み嫌われるあの肉食魚である。

 何度でも生え替わる鋭い歯とその巨大な身体。まさに強者と言える。

 そして、ミラーワールドにはサメ型のミラーモンスターが存在している。

 その個体はアビスラッシャーとアビスハンマーと呼ばれていた。

 大きな手鏡を持ち、必死になって人がまばらになった臨海公園の

海の近くをうろうろとうろつく満。

「ねーねーママ〜。あの人何やってるの〜?」

「しっ!見ちゃいけません!家に帰るわよ」

 すっかり日が暮れた午後七時。汗だくになりながら持参したタオルで

汗を拭い、砂浜で身体を休める満の横を三人家族が通り過ぎていった。

 幸せそうに子供の手をつなぐ父親と母親と両親の愛を一身に受けている

その小学生くらいの子供に自然と満の視線は釘付けになった。

(母さん...)

 まだ満が小さかった頃、自分を置いて家を出て行った母親。

 今となっては顔も思い出せないけど、それでも幼稚園の時には必ず

自分の運動会や授業参観、遠足に参加してくれた優しい母親だった。

 思い出したくない過去に無理矢理蓋をした満は、充分に休息を取った

身体を起こし、最後の捜索へと向かった。 
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:43:06.99 ID:WOJJWRsc0
 これでダメなら、また日を置いて出直すしかないなと思った矢先...

「きゃあああああああ!!!」

 自分から見て500m先、海辺を歩いていた先程の親子達のいる方角から

耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。

「あなた!あなたぁああああ!!!」

「パパッ!パパァッ!!どこ、どこにいるの〜〜〜〜!!」

 悲壮な母子の元へ慌てて駆け寄ろうとする満だったが...

「しゅぉおおおおわああああ!!!!」

 押し寄せる波の音に混じったモンスターの泣き声と同時に、泣き叫ぶ

母子の声もパッタリと消えてしまったのだった。

「嘘だろ...おい」

 呆然とする満だが、慌ててポケットの中からカードデッキを取り出す。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:43:41.53 ID:WOJJWRsc0
(...なんだよ、こうなることはお前だって分かってたじゃんか!)

 ミラーモンスターであってもサメが人間が大好物だって事は分かっていた。

 その習性を利用して、ミラーモンスターをおびき寄せようという案を

自分で立案して、実際望んだとおりの展開がやってきた。

 ミラーモンスターに捕まった人間の末路なんてもう決まり切っている。

 だけど...それでも満は、変身せざるを得ない。

 誰かを助けるためではなく、ただ己の利己心のためだけに...

 それが無性に腹立たしかった。

 無力が罪なら、力は正義か?

 その覚悟<こたえ>を持たないまま力を振るう自分は果たして正しいか?

「変身...」

 インペラーに変身した満は、躊躇うことなく戦いの場へと身を投じる。

71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:44:09.04 ID:WOJJWRsc0
 〜〜〜〜

「あ、ああ....」

 インペラーに変身した満は、自分から100mも離れたていない砂浜で

二体のサメ型のミラーモンスターが三人の人間を頭から貪っているのを

その目で直視していた。

「やめろーーーーー!」

 仲睦まじく過ごしていた幸せな家族の幸せをぶち壊した化け物に

今の憤怒に駆られた状態の満が冷静な判断を下せるわけがなかった。

「Advent!」

「spin vent!」

 ギガゼール達と武器を呼び出した満は、猛然と目の前にいる二体の

サメのミラーモンスター達へと立ち向かっていった。

「しゃあああああああああ!!!」

 食事を邪魔された怒りか、それとも自らに向けられた殺意に対してか、

二体のモンスター達はうなり声を上げながら迎撃行動に入った。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:45:09.01 ID:WOJJWRsc0
 インペラーは二本の剣を持つアビスラッシャーを。

 ギガゼール達は胸から突出している二門砲を構えるアビスハンマーに。

 それぞれが生き残るために戦いを仕掛けていった。

「うおおおおおおおお!」

 まず戦端を開いたのはインペラーだった。

 二股に別れたガゼルの角を模した手甲を構え、猛然と斬りかかる。

「ふんっ!」

 しかし、アンバランスで扱い辛いインペラーのスピンベントと比べて、

アビスラッシャーの得物はサメ歯状の二振りの大刀だった。

 加えて尋常ならざる怪力によって軽々と振り回される二本の大刀は

あっという間にインペラーの体力を削っていく。

「くっ、あああ...」

 仮面の下の顔を苦悶に歪めながらジリジリと圧され始める満。

 荒削りで力任せの技巧も何もない純粋な暴力。

 原始的ではあるが、それが怪物の強さと言える。

(奴の剣をどうにかして一本に減らさなきゃ...)

 微かに読めてきた相手の行動パターンの裏を掻き、なんとか致命傷を

避けるインペラーの脳裏には今目の前に立つミラーモンスターの得物を

減らす算段を目まぐるしく考えていた。

 なにしろ後ろにはもう一体が控えている。加えて胴体には銃門つき。

 ドキュン!バキュン!と大口径の銃口が火を噴き、ガゼル達の

悲鳴が今も絶え間なく聞こえ続けている。

 アドベントで呼び出したゼール達がいつまで格上のモンスターを

食い止めてくれるかは分からない。だが、もう限界も近いだろう。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 12:45:48.72 ID:qXNaFJzqo
僕の知ってる佐野満とは違うようだ(T_T)
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:46:03.45 ID:WOJJWRsc0
 アビスラッシャーの背中をとり、ちらりと見遣ったその先には司令塔の

ギガゼールを含めた味方のミラーモンスターは後五体しか存在しなかった。

(頼む!耐えてくれ!)

 必死に頑張る相棒に念じながら、満はなんとか大刀の猛攻をかいくぐり

勝機を見いだそうと奮戦していた。

 だが、アビスラッシャーはそんなインペラーの見苦しい悪足掻きを

嘲笑うかのように手数を増やし、唯一の武装であるガゼルスタッブを

たたき割ろうと一気呵成に勝負を決めに掛かった。

 あえて力を緩め、インペラーがギリギリまで踏ん張れる程度の力で

ガゼルスタッブとつばぜり合いをする。

 僅かに緩んだインペラーの緊張を感じ取ったアビスラッシャーは

初見殺しの高水圧水鉄砲を超至近距離からインペラーに直撃させた。

「ぐああああああああ!!!」

 強化されたライダースーツがなければひとたまりもない必殺技を

モロに受け止めてしまったインペラーは一瞬で砂浜から海の中へと

吹き飛ばされてしまう。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/24(月) 12:46:37.03 ID:WOJJWRsc0
「がっ...はッ...」

 骨に罅が入っていないのが奇跡的な状況の中、満は今にも消えて

しまいそうな自分の意識を辛うじてつなぎ止めていた。

(ははっ...なに、見苦しい悪足掻きしてんだ...俺?)

「もう、いいだろ?」

 頑張ったんだ。

 今までの自分からは想像もつかないくらい頑張ったんだもん。

 化け物を何体も倒した。

 見ず知らずの誰かを助けるために、剣を取って戦った。

 それでいいじゃないか。うん、立派な最期だ。

「グルルルルルルルル」

 満足そうなうなり声を上げながら、満を吹き飛ばした場所へと悠然と

二体のサメの化け物達は歩み寄る。

「違う...」 

 何が立派な最期だ。

 敵の作戦にまんまと引っかかって、無様に吹き飛ばされて逃げ道を

ふさがれて、そんでもってサメの餌らしく食い殺される?

(バカに、されたまま...[ピーーー]ない...よなぁ)

 最後になるかも知れない。でも、そうはならないかも知れない
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:47:23.16 ID:WOJJWRsc0
(まだだ...まだ、終わって、たまるか...)

 唇を噛みちぎり、無理矢理意識を引き戻した満は腰から契約のカードを

引き抜いて、ベルトの横に、そうとはバレないようにそっと隠した。

 生きることを諦めて死ぬなんて無様な死に方だけは絶対嫌だ。

 無力なままで終わってしまえば、佐野満は一生愚か者のままだ。

「まだだ...もっとだ、もっと近づいてこい...」

 既に武器はどこかへ吹き飛び、頼れる仲間達は既に姿を消していた。

 孤立無援の絶体絶命の状況の中、満はまだ生きることを諦めていない。

「....来いよ!」
 
 知性のないミラーモンスターにもどうやら自分が侮辱された程度の

事を感じる知能はあるらしい。

 先程まで仲良く歩調を合わせていた二体の内、胴体に銃砲が付いた

アビスハンマーが一瞬で自分の前に距離を詰めてきた。

「ぎぃしゃああああああああああ!!!」

 絶対的な怪力を発揮し、目の前の獲物をホールドする。

 目の前の餌の腕と足を同時に封じたアビスハンマーは、己の勝利は

絶対に揺らがない確信を持って、最後にその巨大な口を開いて...
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:48:31.80 ID:WOJJWRsc0

「喰われてやる...訳ねぇだろおおおおおお!!!」

 その声に呼応するように、腰に挟んだたった一枚の切り札が強力な

効果を発揮しだした

「?!?!?!?!?!?!」

 何が起きているのかを理解できないアビスハンマーは、一瞬のうちに

カードの中に吸い込まれてしまった。

 一秒でも遅れてしまえば、立場はまるで逆のものになっていたが...

「ハハハ!どーだサメ野郎!人間様を舐めるんじゃねぇ!」

 サメと人間の知恵比べは、人間に軍配が上がった。

 相手が自分の身体を掴む事は予想できていた。

 ならば、自分の頭より早く密着する胴体の死角に、カードデッキを挿入する

ベルトの隙間に契約のカードを半分程度隠しておけば、後先考えずに契約のカードに

身体の触れたモンスターが吸い込まれるのではないかと満は仮説を立てた。

 そして、その仮説は見事的中した。

「ぐがあああああああああ!!!」 

 しかし、結局それは一度きりの勝利でしかなく... 

「参ったね...。もう、俺にはお前を倒せないよ」

 仲間を奪われ、激昂したアビスラッシャーが二本の太刀を構える。

 ミラーモンスター達に一矢報いることは出来たが、結局完全な

勝利を収めることは出来なかった。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:49:55.30 ID:WOJJWRsc0
 でも、ああ...チクショウ。

 あともう少しだったんだけどなぁ...。

 走馬燈のように今までの戦いが瞼の裏に蘇る。

(ごめん...) 

 瞳を閉じた満は、自らの運命を従容と受け入れる覚悟を決めた。

 振り下ろされる断頭の刃が首に吸い込まれる。

 はね飛ばされたその首からは夥しい程の血が海に流れ出し、その周囲を

真っ赤に、深紅に染める。

 頭を失った肉体は、そのままどう、と音を立てて海へと倒れ...

「へっ?」

 なかった。

 恐る恐る目を開けると、そこには...

「.....」

 首に刃を食い込ませながらも、懸命に自分を庇うギガゼールがいた。

 アビスラッシャーは鋸を引くように大刀を引き抜こうとするも、それを

させまいと懸命にギガゼールは自分の身体に刃を押しつけ続けていた。

 アドベントで呼び出した個体は、既に己の不利を悟りその全ての個体達が

姿を消していたことから、恐らくこの個体が自分と契約を交していたインペラーの

契約獣に違いない。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 12:49:55.62 ID:qXNaFJzqo
調べたら「仮面ライダー龍騎」の
主人公か……道理で次藤洋が
全然出てこないわけだ(^^;
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:50:38.72 ID:WOJJWRsc0
 「お前...なに、考えてんだよ...」

 呆然と、まるで信じられない光景を直視した満は、徐々に自分の体が

白く白くなっていくことを感じていた。

「ごめん!」

 主を庇うギガゼールに背を向けたインペラーは、徐々に自分の身体が

インペラーから何もない空白のブランク体へと戻っていくのを感じた。

「Sword vent!」

 手甲型のバイザーにソードベントのカードをベントインする。

「うおおおおおおおおおお!!」

 大刀を一本失ったアビスラッシャーめがけて満は刀を投げる。

 その刀は、あまりにも脆く目眩ましにもならない攻撃だった。

 だが、それだけで充分だった。

 五月蠅そうに残りの大刀で棒切れを払いのけたアビスラッシャーは

その瞬間、自分のがら空きになった右側に組み付いてきた満の持つ

カードへと一瞬で吸い込まれてしまった。

 後悔する間も無く、ただ一瞬の隙を突かれて...
 
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:51:07.94 ID:WOJJWRsc0
 〜〜〜

「ぶはぁっ!ぜぇ...ぜぇ...」

 タイムリミット寸前に海の中に沈み込むことによって、現世への

期間を辛うじて果した満は、重い身体を引きずりながら、砂浜まで

自分の足で歩いていた。

「....」

 ポケットの中にはなにも紋章の入っていないカードデッキがあった。

「...あった」

 海水に濡れた身体を横たえ、デッキの中から目当てのカードを引き抜く。

 封印された二体のミラーモンスターのカードがそこにはあった。

 アビスハンマーとアビスラッシャー。

「契約、しなきゃ...」

 神崎とのやりとりで得た情報を元に、カードデッキを握りながら、

新しいモンスターと再契約すると念じると、まばゆい光があふれ出した。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:51:38.02 ID:WOJJWRsc0
 「これが、俺の...新しい、力...」

 デッキに浮かび上がるどう猛なサメを象った紋章。

 良かったのだ...これで、良かったのだ。

 インペラーのままでは、この先の戦いは絶対に戦い抜けなかった。

 だけど...

「なんで、なんでお前...俺のこと庇ったんだよ...」

 最後の最後まで、結局心を通わすことなく死んでしまったあの契約

モンスターは、一体どんな気持ちで自分を庇ったのだろうか?

 ミラーモンスターは人を食べるだけの獣じゃなかったのか?

 だったら、なぜ...

「うっ...ううっ...うわああああああああ!!」

 説明の出来ないものが心の中からあふれ出す。

 悲しみや情けなさ、自分の無力さが入り交じったそれらの感情が

涙として地に落ちて、吸い込まれていく。

 佐野満は、この日かけがえのない相棒を失った。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:52:15.48 ID:WOJJWRsc0
 第六話 加速する戦い

 
「....ううう」 

 期せずして新しいモンスターと再契約した満は、あの日以来、無気力に

侵されていた。

 なにをやるにもやる気が出ない。

 戦わなければ生き残れないライダー同士の戦いにさえ、飽きてしまった。

「グルルルルル...」

「シャアアアアアア...」

 鏡越しから餌を与えられずに飢えている二体の契約モンスターが

うなり声を上げて、自らの契約者に戦いを促す。

「うるせぇよ...黙ってろ、サメ野郎...」 

 しかし、満がテーブルの上のシールのカードをかざすと渋々では

あるが、二体の契約モンスター達は鏡の奥へと引っ込んでいった。

 あの日以来、須藤からの連絡はパッタリと途絶えてしまった。

 刑事の仕事が忙しいのか、他のライダーに倒されてしまったのか。

 今となってはそれを確かめようという気すらおこらない。

「ああ...早く、終わってくれないかな...ライダーバトル」

 もう、何もかもどうでも良い。

 そう思いながら、佐野満は再び布団の中に潜り込んだのだった。

84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:52:45.91 ID:WOJJWRsc0
 〜明林大学〜


 佐野満が無気力に心身を苛まれている頃、彼と同盟を結んだ刑事、

須藤雅史は窮地に追い込まれていた。

「くっ、私は生き残るんだ!」

「どんな卑劣な手を使っても私は生き残ってみせるッ!」

 10分前、別件の事件の調査の一環としてとある大学に立ち寄った須藤は

自分の背後からあの金属音が聞こえてくるのを確かに聞き届けた。

「へぇ...アンタもライダーなの?」 

 周囲を見回すと、そこには今時の大学生がくちゃくちゃと口の中に

含んでいた風船ガムを膨らませていた。

「はて、一体何のことやら?」 

「とぼけんなよ、これが証拠だ」

 好戦的な笑みを浮かべた大学生は鞄の中からデッキを取り出す。

「デッキ、あるんだろ?」

「ふっ...話が早い。場所を変えましょうか」 

 にらみ合う二人のライダーは、暗黙の了解として人目に付かない場所、

大学内のグラウンドの裏手にある使われていない部室へと場所を移した。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:53:19.01 ID:WOJJWRsc0
「「変身!!」」

 窓硝子にカードデッキをかざし、戦いの言葉を告げる。

 二人の仮面ライダーは、そのまま鏡の中の世界へと突入する。

「strike vent!」

「へぇ、蟹だけあって武器はハサミって訳ね。だっせぇ...」

「口だけが達者ではないことを祈りますよ!」 

 まだ見た事のないライダーと直面する須藤改め、仮面ライダーシザース。

 シザースの対面には、まるでサイを思わせるような重厚な甲冑に身を

包んだもう一人の仮面ライダーが悠然と佇んでいた。

 仮面ライダーガイ。変身者は大学生の芝浦淳。

 一目でガイを白兵戦に特化したライダーということを看破したシザースは

距離を取りながらも、ギリギリで相手のタックルをいなせるように一瞬も

警戒を怠ることなく一定の間合いを取っていた。

「なんだよ〜。そんなに警戒しなくてもいいじゃんか」

 相手がすぐに肉弾戦を仕掛けてこない理由の見当をつけたガイは

そのあまりの哀れさに冷笑を浮かべながら、一枚のカードを左肩の

バイザーにベントインする。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:54:01.32 ID:WOJJWRsc0
「advent!」

 瞬間、部室の屋根から大きな灰色の塊が地面へと轟音を立てて着地する。

「メタルゲラス。お前の格好良いところ見せてくれよ?」

 呼び出したモンスターの頭を親しげに撫でたガイは、目の前に立つ

シザースを指さした。

「アイツを倒せ。出来るよな?」

 その一言にメタルゲラスは任せろとばかりに雄叫びを上げ、シザース

めがけて突進を始めた。

「なるほど、どうやら貴方はご自分のペットに自信がおありのようだ」

「advent!」

「ですが、私の相棒も負けてはいませんよ」

 強気を崩さぬシザースも己の契約獣であるボルキャンサーを召喚。

 APではメタルゲラスに劣るものの、人間をふんだんに与えて強化された

ボルキャンサーの地力も出会った時とは比較できないほど上昇している。 

「来いよ。蟹野郎。泡吹かせてノックアウトしてやるから」

「なんだt」  

 シザースに二の句を継がせぬまま、ガイはその高い防御力を存分に

前面に押し出した白兵戦を仕掛けていった。

 13ライダーの中で最弱のスペックのシザースのストライクベントのAPは

たったの1000AP。ガードベントに至っては2000GPしかない。

 対照的にガイはガードベントは保有していないが、ストライクベントは

シザースの倍の2000AP。加えてガードベントと同威力と来ている。

 普通に考えれば、どう考えてもシザーズの敗北は必至である。

 そして、その事実を裏切らない光景が目の前で起きている。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:54:34.43 ID:WOJJWRsc0
「ぐはっ!」

「ハハハハ。なんだよ手応えなさ過ぎて笑いが止まんないよ」

「なに?なんなのその弱さ?」

 初撃の不意打ちのタックルでシザースを吹き飛ばしたガイは、その

ガタイの良さを生かし、シザースのマウントポジションを取った。

「ま、これでアンタも一貫の終わりって訳よ!」

「俺の勝利は揺らがねぇ!」

 怒濤の拳のラッシュがシザーズの頭部に襲いかかる。

 1発のパンチ力が10tを越える威力を持つライダーの強化された拳の雨は

並大抵のガードでは防ぐことが出来ない暴風雨のように、無防備な

シザーズの頭へと降り注ぐ。

 気をつけの体制のまま、両ももに手をつける形で押し倒され、更に

その腕にのし掛かられては顔面をガードすることは不可能だった。

「ひゃ...ひゃめれ...やめれ...ふらふぁい...」

「やだね。ってかお前死ねよ。ライダーバトルってこういう戦いだろ?」

「いや〜俺も一回やってみたかったんだよね。人殺し」

 狂気すら感じられるその言葉に、ようやく須藤雅史はこの状況が到底

覆せないことを悟ってしまった。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:55:11.96 ID:WOJJWRsc0
「おー。お帰り〜。よく頑張ったな、メタルゲラス」

 グルルルと満足げに喉を鳴らしながら、ガイの隣にあのサイのような

契約獣が戻ってきた。

「おっ、なんだ蟹野郎の爪をもぎ取ってきたのか。え?俺にくれるの」

 ぽいっ。

 無造作に投げ捨てられた、見覚えのあるその黄金のハサミは自分の

契約獣であるボルキャンサーの左腕部だった。

 主のご機嫌を伺うように、膝を折り曲げちょこんと隣に座った

メタルゲラスを愛おしそうに撫でたガイは...

「悪いけどいらないな。でも...」

 ボロボロになったシザースから離れたガイは、見せつけるように

カードデッキからカードを引き抜いた。

「strike vent!」

 外からは見えないが、既に頭蓋骨が陥没しているシザースのマスクの

中には溢れた脳がピンク色の鮮やかな中身をはみ出させていた。

「はい。これでおしまい」

 メタルゲラスの頭部を模した手甲を呼び出し、ピクリとも動かない

シザースの腹部のカードデッキに突き刺す。

 パリィィン!

 風鈴が砕けるような儚い音を立てたシザースのカードデッキは、粉々に

砕け散り、それに伴うようにその装甲も音を立てて消えていった。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:55:37.35 ID:WOJJWRsc0
「うっわ。グッロ...やっべ、気分悪くなってきたわ」

 原形を留めないほど変形した須藤の頭は腐ったスイカのような様相を

呈していた。なんとも言えない血なまぐささが更にグロテスクさに

拍車をかける。

「えーっと、これ俺の勝ちで良いんだよね?」

 いつの間にか現れた神崎士郎に、ガイはそう尋ねた。

「ああ。そうだ」

 無表情に頭を砕かれた死体を見下ろした士郎は短く答える。

「ねぇ、あと何人ライダーは残ってるの?」

「11人だ。引き続きバトルを楽しむと良い」

「りょーかい。んじゃ、後片付けよろしく!」

 そう言い残した勝者は敗者を置き去りにして現世へと帰還した。

「....」

 神崎士郎も消えかかっている死体を一瞥した後、その姿を消した。

「..................」 

 
 こうして、また一人のライダーがその命を落としたのだった。

 バトルファイトは終わらない。最後の一人になるまで終わらない...。


 仮面ライダーシザース/須藤雅史、死亡 残り11人。


90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:56:17.43 ID:WOJJWRsc0
 第七話 仲間


 満がライダーバトルから遠ざかってから二週間が経過した。 

 その間にも粛々とライダー同士の戦いは加速し、尊い命が戦いによって

奪われてしまった。

 だが、人間は外に一歩も出ないで暮らすことは不可能である。

「そろそろ...確かめないとな。新しい力を」

 相棒の死の悲しみが癒えた満は、ようやく自分の手に入れた新たな力に

向き合う決心をつけた。

「行くか...」

 二週間もの無断欠勤によって、満はバイト先を全て首になった。

 だが、今となってはそんなことは些細なことでしかない。

 命がある。身体が動く。そして戦わなければ生き残れない。

 いつの間にか腐りきっていた性根が前を見据えていたことに、満は

唐突に気が付いた。

 幸い無駄遣いをしなかったお陰で、貯金額はちょっとしたものに

なっていた。

 これなら半年は働かなくても、飢え死にすることはないだろう。

 そう思うと急に腹が空いてきた。
 
(よし、まずは腹ごしらえからだ...)

 玄関の扉を開け、久しぶりに浴びる日の光に目を細めながら

満の足は自然とある場所へと向かっていったのだった。

91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:56:55.68 ID:WOJJWRsc0
 〜中華料理店〜


「こんにちは〜」

 電車を乗り継ぎ、以前須藤に連れてこられた中華料理店ののれんを

くぐると、そこには机に腰掛け、テレビを見ている店長がいた。

「おう、この前の坊主じゃねぇか。メシ食いに来たのか?」

「はい。給料出たんで食べに来ました」

「そうか!じゃあ早く注文しろよ。沢山作ってやるからな!」

「ありがとうございます!!」

 満の笑顔に気をよくした店長は気の良い笑顔を浮かべて、調理の

準備に取りかかった。

「店長〜。注文なんですけど」

「エビチリと野菜炒飯とガツと野菜炒めでお願いします」

「あいよ〜」

 ジャッ、ジャッと中華鍋に油を引き、火を通しながら具を炒める

音が厨房から聞こえて来た。

(3品合わせて2000円ぽっきり。しかもボリューム一杯なんだよな)

(早く来ないかなぁ?)

 香辛料の香ばしい匂いが店の中に充満する。

 客足もまばらな平日の朝10時53分の一人飯というのも、中々乙だよな。

と優越感に浸りながらテレビのニュースを眺めていた。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:57:27.25 ID:WOJJWRsc0
 「へい!お待ち!」 

 どんっ!と勢いよくテーブルの上に置かれていく料理を見た満は

たまらず口の端から涎を垂らした。

「味わって食えよ。じゃ、食い終わったら呼んでくれ」

「はい!」

 厨房に引っ込んだ店長の背中を見送った満は、そのまま脇目も振らずに

レンゲ一杯にエビチリを掬い取り、口の中に放り込んだ。

「ほわぁぁぁぁあ...」 

 口の中が香ばしい唐辛子と甘辛く味付けされた匂いで満ちた。

 舌がビリビリするほど痺れているのにも拘らず、エビの甘さが辛さで

打ち消されないように味付けされたエビチリは病みつきになる旨さだった。

 コップの水を一口含み、今度は豚の内臓と野菜炒めに箸をつける。

 噛みきれないほどの弾力を持つ豚の胃袋を噛みきれるように包丁で

刻まれたその切れ目から、人参、ターサイ、青梗菜、ほうれん草の甘みが

肉の隅々にまで行き渡っている。

「で、エビチリをまた一口含んで、と...」

 辛さと甘さのハーモニーを楽しむように、満は夢中で食事を楽しんだ。

 鏡の向こうから恨めしそうに自分を睨み付ける二体の契約モンスターの

抗議の視線もなんのその、あっというまに三食全てを完食したのだった。

「店長〜。お会計お願いしま〜す」

「はいはいはい。えっと三品で2000円ね」

「じゃあ2000円丁度でお願いします」

「はい。確かにお預かりしました。また来て下さいね〜」

「ごちそうさまでした〜」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:57:54.13 ID:WOJJWRsc0
  美味しい食事に舌鼓をうった満は、そのままあてどなくブラブラと

東京の街中を歩き回っていた。

 これからのこと、父親との確執、そして須藤との同盟のこと。

「あれぇ?なんで電話に出ないのかなぁ?」 

 この前手渡された紙に書いてあった須藤の携帯電話に電話をかける。

 だが、既に須藤はライダーバトルに敗れて死んでいるため、いくら

電話をかけても、鏡の向こうの世界に置き去りにされている携帯に

つながることは永遠にない。

「...考えたくないけど...やられちゃったのかな?」

 最後に会った日に須藤が漏らした一人の男の存在。

 浅倉威、世間を震え上がらせる凶悪連続殺人犯にして、このライダー

バトルの大本命と言える実力者であれば、赤子の手を捻るよりも容易く、

スペック差のあるライダーを葬るのは朝飯前だろう。

「...一人じゃ危ないよな」

 ポケットの中に仕舞っているデッキの中には5枚の強力なカードが

眠っている。

 ソードベント、アドベント二枚、ストライクベント、ファイナルベント。

 危険を冒しただけあり、手に入れた新たな力はかなり凶悪な

攻撃力を誇っていた。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:58:28.91 ID:WOJJWRsc0
(須藤さんが当てにならない以上、友好的なライダーを探すしかない) 

 まだ戦いは序盤だが、そのうち何人かがきっと脱落するだろう。

 持てる枚数の制限が各自に割り振られている以上、相手の持つカードを

全て使い切らせれば自然と勝ちは転がり込む。

 まだ須藤以外のライダーがどう出方を決めているのかは分からないが、

少なくとも早い内に手を組めるに足りる相手を早急に見つける必要が

あるのは確かだ。

 キィィィィィン...キィィィィィン

「行くか...ミラーワールドに」

 運が良ければ、モンスターや自分を狙うライダーには遭遇せずに済むし、

逆に運が悪ければ、それらに見つかって戦わざるを得ない。

 覚悟を決めた満は、人混みから離れた駐車場で変身した。

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:58:54.62 ID:WOJJWRsc0
 〜街中〜

 
 変身を終えた満が、耳障りな金属音を頼りに道路を走っていると

なにやら金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。

(誰か戦ってるのか?)

 音のする方向に足を向けると、そこには先客がいた。

 灰色の分厚い装甲に身を包んだサイのようなライダーと、虎のように

全身がバネのような筋肉に包まれた白い甲冑を着込んだようなライダーが

互いの獲物を振りかざして死闘を繰り広げていた。

(へぇ...結構強いなぁ...)

 一進一退の攻防というよりかは、虎のようなライダーが劣勢のサイの

ライダーを弄んでいるような感じがする戦いではあるものの、この際

盗み見も辞さないという態度で満は息を潜めて二人の戦いを覗こうとした

 だが、そうそう事が上手く運ぶ訳はなく...

「?!」

 空を切る弦の音がどこからか聞こえてきた。

 満がそれを矢が放たれた音だと認識したとき、自分のすぐ傍の

道路のアスファルトに三本の矢が突き刺さっていた。

(どこだ?!どこにいる?)
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 12:59:21.10 ID:WOJJWRsc0
 もし、運が悪かったら..確実に今の攻撃で自分は仕留められていた。

 弾かれたように立ち上がった満は、咄嗟の判断で近くに立っていた

ビルの中へと身体をぶち当てて転がり込んだのだった。

 このまま外にいれば好きな時に相手に隙を晒し続けるという地の利を

取られるというハンデを背負わなくてはならない。

 ここは一旦ビルの中で体勢を立て直し、なんとか相手をやりすごす。

 そう決めた満は階段を駆け上がっていった。

「....」 

 だが、これはライダー同士のバトルロイヤルでもある。

 自分の見た光景が絶対的な正しさを持っているとは誰も断言は出来ない。

 最善と思って取った行動が間違っていたと言うこともままある。

 満の後を追うように、また一人、ビルの中へと黒いマントを翻した

ライダーは音もなく潜入に成功したのだった。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:00:06.08 ID:WOJJWRsc0
 〜ビルの中〜

「はぁ〜〜〜〜ッ....助かった〜」

 10階建のビルの三階の空きテナントに素早く身を隠した満は、遮る

ものの何もない部屋に唯一残された机の下に潜り込んだ。

 貫通力のある矢にどれだけこの机が耐えられるか疑問だが、少なくとも

相手がビルの屋上に陣取っていれば、狙いを修正するのに何分かの時間は

稼げるだろう。

 だが、

 カツーン、コツーン...

 微かだが、誰かが階段を登る音が聞こえてきた。

 間違いない、新手のライダーかモンスターだ。

「......」

 デッキから一枚のカードを引き抜く。

 雑居ビルのような小回りの利かない場所、それも階段を背中にして

二本の大剣を振り回すような危険な真似は出来ない。

 故に満は小回りの利かない場所で小回りの利く立ち回りが出来る

ストライクベントをアビスバイザーにセットした。

「strike vent!」

「来い...部屋に入ってきたら打ち抜いてやる」

 頭の中にアビスバイザーを通じて、今自分がベントインしたカードの

情報が流れ込んでくる。

「よし...」 

 アビスバイザーもアビスクローも両方とも先端から高水圧の水弾を

連射可能な遠距離対応武装である。

 照準をたったひとつの部屋の入り口に合わせる。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:00:42.87 ID:WOJJWRsc0
 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1

 足音が消えた。ドアノブが回転するッ!

(今だ!喰らえッ!)

 右足を前に出し、拳を扉めがけて一直線に突き込む!

 その瞬間、アビスラッシャーの頭部を模した手甲はその射出口から

大量の高圧水流を放った。

 ダムの決壊を思わせるような暴流は、扉を開いて入ってこようとした

黒ずくめの仮面ライダーを今し方上がってきた階段の下へと叩き付けた。

「やったか!?」

 あそこまで凄まじい水流をモロに受けたのだから、無傷という訳には

いかないだろう。なにせすぐ後ろは階段である。運が悪ければ受け身

すら取れずに壁に頭を叩き付けて死んでいるかも知れない。

 人を殺したかもしれないという恐怖感が満の中にある慎重さを

忘れさせてしまったかのように、あれほど部屋をも出ようとしなかった

満は、相手の状態を確かめるために階段を降りようと...

 その瞬間、遅ればせながら満は今の自分が押し流した黒いライダーは

幻だったと気が付いた。

「Nasty vent!」 

 そう聞こえた相手ライダーのバイザーの電子音声と共に、至近距離から

立っているのも困難なほどの超音波をアビスは浴びせられた。

「ううっ、なんだよ!これ...くそ、立てねぇ...」

「はぁッ!」

 してやられた...

 階上の部屋の利点を逆手に取られてしまった。

 アビスの誤算は姿の見えないライダーが一人だけだと信じたことだ。

 確かにそれは半分正解だった。

 階下から、階上から物凄い勢いで降りてくる二人分の足音...
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:01:22.32 ID:WOJJWRsc0
「残念だったな。ここで終わりだ」

「ぶ、分身って...あんまりだろ...」 

 漆黒の槍を携えた同じ姿の二人のライダーは、首筋とカードデッキに

それぞれその切っ先を向けていたのだった。

 仮面ライダーナイト。蝙蝠型モンスターと契約したライダーの一人だ。

「ま、待ってくれ!俺はアンタと戦うつもりはないんだ」

「仮にそうだとして、俺がお前を助けるとでも?」

 超音波のせいでまともに立てないまま、仰向けに転がっている眼前の

ライダーを冷ややかに見下したナイトは、そのまま無感情に槍を振り上げ

トドメを刺すべく大きく振りかぶった。

「いやだぁあああああああああ!」

 誰でも良い。誰か俺を助けてくれ!俺はこんな所で殺されたくない!

「うわああああああああああ!お願いだぁあああああああ!!」

 みっともなくジタバタと床でのたうち回りながら叫んでいると、また

新しいライダーが階段を登ってくる音が聞こえた。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:01:58.82 ID:WOJJWRsc0
「出してくれぇ!出してくれぇえええええ!」

「俺は帰らなくちゃ行けないんだ!俺の世界に!」

「嫌だぁああああああああ!出して!出してえええええええええ」

「五月蠅い!黙れ」

「おい、何をやっている!!」

「邪魔をするな手塚!俺はコイツにトドメを刺す!」

「やめろ!恋人が悲しむぞ!彼女はそんなお前を認めないッ!」

「...ッ!」

 みっともなく悪足掻きをするアビスにトドメを刺そうとしたナイト

だったが、階段の方から聞こえて来た声...どうやらナイトの仲間の

忠告に、苛立ちながらも渋々その大きな槍を下ろしたのだった。

「甘いな手塚。あのバカに影響されてお前もバカになったのか?」

「ああ。俺は、人の心を失いたくない」

「最後まで、俺は人として自分の運命に抗ってやる」

「...興がそがれた。俺は帰る」

 見ず知らずの、それも明日にはその命を奪い合う相手になるかも知れない

ライダーを助けようとする友の甘さを唾棄すべきものだと吐き捨てた

ナイトは階段を降り、その姿をくらましたのだった。

「おい、立てるか?」

「ありがとう...ありがとう....ございます。ッうっぅっ....」

「立て。もうタイムリミットが迫っている」

「はい...はい...」

 初めてライダーに命を狙われた恐怖心によって腰を抜かしてしまった

満は手塚と呼ばれたライダーに担がれながらミラーワールドを這々の体で

抜け出すことに辛うじて成功したのだった...

101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:02:25.87 ID:WOJJWRsc0
 〜花鶏〜

「いらっしゃ〜い!おや、アンタ見ない顔だねぇ」

「はい...すいませんすいません」

「ちょっと真司君。アンタこの子になにしたのさ」

「してませんって!人聞きの悪いこと言わないで下さいよぉ!」

 ミラーワールドから現実世界に戻った満は、隣にいたライダー...

変身を解いた彼は自らを手塚海之と名乗り、近くにあったタクシーに

満とともに乗り込んだ。

「あ、あの...どこに行くんですか?」

「知り合いの働いている喫茶店だ。紅茶とコーヒーが特に美味い」

 10分後、花鶏という名前の古ぼけた喫茶店の前にタクシーが止まり、

今に至るというわけである。

「手塚ぁ!お前からも何か言ってくれよ〜」 

「城戸、俺からも特に言うことはない」

 席に着いた自分の横で二人の男が騒がしく揉めている。

 花鶏のマスターに席を案内されてから一分も立たないうちに、今度は

新しい...様子からして常連客のように見えた...一人の青年が慣れた

様子で店のカウンターに腰掛けた。

 虚ろな瞳で誰彼構わず謝り続ける満をダシに、顔馴染みの常連客を

からかう女店主に噛みつく青年は、自分より少し年上のようだった。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:02:57.50 ID:WOJJWRsc0
 
「で?何か注文するのかい?」

「えーと、じゃあミルクティー二つとカフェオレ一つで」

「はいはい。じゃあちょっと待っとくれよ」

 城戸、と呼ばれた青年の注文に応えた女店主はコーヒーメーカーの

スイッチを押し、鼻歌交じりに紅茶の茶葉を探し始めたのだった。

「初めまして?で、いいんだよな?」

「えーっと、何さんでしたっけ?」

「俺、佐野満です。21歳のフリーターです!」

「お、おう...佐野さんね」

「俺は城戸真司。23歳のジャーナリスト見習いだ」

「今はOREジャーナルってところでネット記事を書いてたりするんだ」

 何を考えて良いのか分からない今、相手の気持ちを考えて先読み

してくれる真司の馴れ馴れしさが今は無性にありがたかった。

 タクシーの中で聞かされたとおりの人なんだな。と満は目の前の真司の

ひたむきで裏表のない、その真っ直ぐさに感動を覚えていた。

 真司も自分と同様にライダーである事には変わりないが、他のライダーと

変わっているのは、モンスターを倒す為だけにライダーの力を振るう

唯一の非戦的なライダーだと言う点に尽きていた。

 自分と同じ位の年齢で、しかも神崎士郎によって凄惨な殺し合いに

巻き込まれたにもかかわらず、なぜ彼は今の自分のように憔悴せずに、

持ち前の明るさを失っていないのだろう?
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:03:23.54 ID:WOJJWRsc0
 (この人だったら...信じられる、かもしれない)  

「はい。おまちどおさま」

 女店主が見計らったかのように、ミルクティーとカフェオレを盆に載せて

三人の目の前におき始める。

「おっ、来た来た。ここのミルクティーは甘くて良い味なんだ」

「そうよ〜。隠し味に山羊のミルクを入れてるからね」

「熱が冷めないうちにグイッと飲むのがおすすめよ〜?」

 手を擦りながら、甘い香りのするミルクティーに口をつける真司。

「あっち!あっちぃ!ふー!ふー!」

 舌を火傷しながらも、どこか楽しそうに、美味しそうにミルクティーを

飲むその姿に、いつの間にか満は笑みを零していた。

「凄いっすね。城戸さんは」

「え?なにが?」

「ライダー同士で殺しあってるっていうのに、明日死ぬかもしれないのに」

「今の城戸さん見てると、まるでそんなのを感じてない風に見えますよ」

「あー...まぁ、確かにそうかも知れないなぁ」

 湯気を立てるミルクティーをフーフーしながら冷ましている満を

手塚は満足そうな微笑みを浮かべながら見ていた。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:03:55.10 ID:WOJJWRsc0
 「俺だってそりゃ怖いさ。だって他のライダー話聞いてくれないんだもん」

「イヤミな悪徳弁護士、刑事のくせに悪い奴、極めつけは連続殺人犯」

「考えてもみてよ?折角人を助けるための力がこの手にあるんだぜ?」

「ミラーモンスターなんて化け物に襲われる人も増えていくし...」

「だったらさ、俺はこの力を人助けのために使おうと思ったんだ」

 真司の愚痴は留まることを知らなかった。

 願いを叶えるために、誰かの命を奪い合うライダー同士の戦いなんて

間違っている。だけど、一部の願いを除き、ライダーがそれぞれ抱いている

願いの価値を一方的に決めて良いものなのだろうかと悩んでいる。

 神崎士郎の都合によって引き起こされた人殺しの戦いにおいて、

そこまで出会った人達のことを深く考えて戦えるなんて...。

(勝てねぇよ...本当にこの人ならって、思っちまったじゃんか...)

 ただ流されるままの人生を過ごしてきた満にとって、真司の信念は

到底直視できないほどのまばゆい光を放っていた。

「蓮はさ、あっ、蓮っていうのは俺の...なんていうかダチでさ」

「偉そうな奴なんだけど、本当はすっげぇ優しい奴なんだ」

「アイツの願いは、事故で昏睡状態の恋人を元に戻すことなんだよ」

「あ、あとは美穂っていうじゃじゃ馬娘がいてさ...」

「アイツ、死んじゃった家族を蘇らせるために戦ってんだ」

「佐野君知らないかな?白鳥みたいなライダーなんだけど...」

「いえ、知らないです...」

「そっかぁ...アイツ神出鬼没だからなぁ。また男騙してんのかなぁ」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/24(月) 13:04:29.71 ID:WOJJWRsc0
 かつて、監督が自分に教えてくれたことが蘇る。

『だけどな、優しさだけは忘れちゃいけないんだよ』

『打算なく誰かを信じたり、誰かを助けたりするのが一番難しいんだ』

『もし、お前の前にそんな人が現れたら躊躇わずに力を貸してやれ』

『ま、そんなお人好しのことをバカって言うんだけどな。がはは』

 打算抜きにこの人なら信じられるという直感は間違っていないと、

今なら確実に断言できる。今がまさにその時ではないのだろうか?

「あ、あの...城戸さん。俺を城戸さんの仲間に入れて下さい!」

 そう思った瞬間、満の口は自然とその言葉を出していた。

「えっ?お、おい!聞いたか手塚?」

「ああ。お前の仲間になりたいって彼は口にしたようだ」

 信じられないように自分を見つめる真司に、満は今まで自分の心の中に

抱えていた暗い何かを吐き出し始めた。

「俺、...良い暮らししたいからって理由でこの戦いに参加したんです」

「バトルに勝ったら、お前の願いが必ず叶うからって...」

「で、でも...現実はそんな甘くなくて...」

「何度も死にかけて、城戸さんみたいに誰かを助けられなくて...」

「誰かを殺さなきゃ生き残れないのに、殺したくない自分がいるんです」

「でも...怖くて、やっぱり...怖くて...」

 先程の恐怖が蘇る。槍を突きつけられ、あと一歩でカードデッキを

破壊されて殺される自分の姿が一向に消え去らない。

 それは、あくまでも一人で戦い続けたときの末路かも知れない。

 だが二人なら?三人なら?

 きっとこの戦いを止められるかも知れない。それどころか神崎士郎を

とっちめてライダーバトルを終わらせられるかも知れない。

 その可能性を城戸真司は信じさせてくれた。

 今の佐野満にとって真司の言葉はまさに天啓に等しかった。
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