他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
青葉「けしの花びら、さえずるひばり。」
Check
Tweet
508 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/08(金) 05:49:45.67 ID:SfivEjrbO
本部は遠い所でした。
でも鎮守府に帰るまでの記憶は、ほとんどありません。
新幹線の中も、いつもの通り道も、朧気な記憶のまま。
そんな中…近所の公園に近付いた時、ようやく滲んでいた意識が正常に戻りました。
そこにいたある存在に、声を掛けられた事によって。
「青葉ー、おかえりー!」
「ガサ!どうしたの?」
「迎えに来たんだよ。大丈夫だった?」
「…うん、キツい尋問とかは無かったよ。」
「良かった。早く帰ろ?」
来てくれたんだ…心配かけちゃったかな。
てくてくといつもの公園を歩いていると、自販機が目に入りました。
「青葉、ちょっと休んでく?」
「うん…そうしよっか。」
ジュースを手にベンチに座ると、既視感を覚えます。
…そうだ、ここでもジュンとこうしてたっけ。
ふと選んだジュースも、その頃よく買っていたもので。
ああ、ジュンはここでよくコーラ買ってたなぁなんて、また寂しくなったものでした。
もう誰もいない時間かぁ…日が長くなったね。
「……提督、本当に死んじゃったんだね。」
「……うん。夢じゃないんだよ。」
「…まさかあの件に関わってたなんて、びっくりだよ。
あんな良い人が…元帥に命令されたのかな。」
…………。
………………。
「ねえ、ガサ……。」
「どうしたの?」
509 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/08(金) 05:51:00.33 ID:SfivEjrbO
「____なんでガサが、その事を知ってるの?」
510 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/08(金) 05:52:19.61 ID:SfivEjrbO
捜査が終わるまでは、何故殺されたのかはまだ秘匿義務がある。
真相は、私と少尉さんしか知らない。
それをこのこは、どうしてしってる?
少尉さんや裏方さん達以外に、通報した可能性のある者……日頃接する機会が多い分、不在だった事を知りやすい者……。
それは、艦娘。
ガサはしばらく、黙ったままでした。
でも……少し口角を釣り上げると……
511 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/08(金) 05:53:27.19 ID:SfivEjrbO
「____何のこと?」
512 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/08(金) 05:54:20.95 ID:SfivEjrbO
ガサは蝶が羽を開くかのように、そう笑ってみせたのでした。
いつかの夜や、防空棲姫と化した母親を殺した時と同じ…。
ゾッとするような、あの笑顔で。
513 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/08(金) 05:55:19.25 ID:SfivEjrbO
今回はここまで。
514 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/11(月) 19:21:42.11 ID:oMqbEQnMo
乙
515 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:35:31.97 ID:6oJ0bnNeO
「……………ガサ。」
「何?青葉。」
まるでさも何もないかのように、あの子は笑う。
何も悪意など無いかのように、薄らとあの子は笑う。
……嘘、だよね。
そんな私の気持ちを嘲笑うかのように、頭の中では次々と点と線が繋がって行く。
そうだ、あのバラバラ殺人も…
あの時現場の近くにいて。
捕縛術や体術を齧ったことがあり。
__そして、殺人と解体の経験がある者は。
516 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:36:53.35 ID:6oJ0bnNeO
「………ガサ、まさかあの事件も…!」
「そっかそっかー、さっきうっかり口滑らせちゃったね。
でもやっぱりそうだったかぁ、アレ提督が殺っちゃったんだ。ただ、『そう言えばあの日いなかった』って、電話しただけなんだけど。
でも流石だね、そっちも気付くなんて。
確かにあのバラバラ事件も衣笠さんだよ?」
「……どうして…。」
「どうしてって?何も悪い事してないじゃん。
あのクソ野郎は天罰下しただけだし、提督だって犯罪隠して青葉と付き合ってた嘘吐きだよ?
あのヤリチンが死んだ時、スッキリしたでしょ?
提督も嘘吐きだから、通報しただけ。
青葉にはあんな奴いらないよ……ね?」
「…………!!」
その時私は、人生で最大の恐怖を感じたのです。
戦場のどんな敵よりも、死を意識したピンチよりも、何よりもおぞましいもの。
怪物としか言いようの無い、絶対的な狂気。
そんなものを感じさせる視線が、目の前の親友から放たれている。
その現実を前に、私は石のように固まってしまったのです。
517 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:38:20.33 ID:6oJ0bnNeO
「……むぐっ!?」
「……………。
………ぷはっ。ふふ、そんな顔も可愛いね…。
…青葉だけだよ、私が人殺しだって知っても離れなかったのは…。
言ってくれたよね、ずっと友達だって…嬉しかったなぁ…。
だから要らないの。邪魔する奴らは皆要らない。
クソ野郎も嘘吐きも、皆消してあげたでしょ?
あんたの嫌いな奴ら、あんたの邪魔する奴ら、これからも皆消してあげる。」
「………ガサ…どうして…。」
恐怖で歯がカチカチと鳴り、息が上手く出来ない。
殺意の無いガサの目は、その実何よりも鋭いナイフのように見えて。
「あんたが欲しいだけだよ?もう寂しいのはヤなの。
邪魔なんだよ、皆。だからどかしただけ。
ゴミを捨てるのに何か感情なんて持つ?持たないよね?
提督、良いように利用出来たと思ったんだけど。失敗しちゃったなぁ。
人殺し同士、仲間になれるかと思ってたけど…ダメだったね。役立たずだよ。」
「…………!!」
518 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:39:25.36 ID:6oJ0bnNeO
ですが、私の中が水を打ったように静まり返ったのは…その言葉を聞いた時でした。
……これまでのガサとの記憶が、頭を巡ります。
楽しかった思い出や、いつもの日常…走馬灯と言う奴でしょう、それが次々巡っては消える。
死んでしまうのは、私ではないけれど。
「………ガサ。」
「あはっ…青葉……分かってくれるんだね…。」
優しく抱きしめて、ガサの温もりを感じて。
見えないけれど、肩に落ちる水滴の正体は、きっとこの子の涙。
苦しかったのでしょう、寂しかったのでしょう。
故に、壊れてしまったのでしょう。
……でもね、ガサ……。
私はあなたを許さない。
519 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:40:44.16 ID:6oJ0bnNeO
首を絞める意味は無い。手を汚す価値も無い。
この子の返り血なんて、浴びたくもない。
私の存在に、依存してたんだね…だからこの子を殺すのに、凶器も暴力もいらない。
『言葉は剣よりも強し』……ただ優しく、耳元でこう囁けばいい。
この子に一番、言ってはいけない事を。
520 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:41:24.39 ID:6oJ0bnNeO
「___気持ち悪いんだよ、この人殺し。」
521 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:43:19.74 ID:6oJ0bnNeO
「…………。
………ふふ……あはっ…あはははははははは……。」
公園にこだましていたのは、あの子のか細い笑い声と、立ち去る私の足音だけ。
それもやがて風の音に呑まれ、聞こえなくなっていました。
ガサが死体で見付かったのは、翌日の事。
自室で血の海に倒れ臥すあの子は、笑いながら泣いていました。
首にはナイフのためらい傷がいくつもあって、最後の一撃がようやく動脈を切ったようでした。
かつて母親を殺した時のように、あの子もまた、同じように死んだのです。
522 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:44:17.38 ID:6oJ0bnNeO
『私は愛されたいだけのバカでした。
みんな、ごめんなさい。』
523 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:45:23.88 ID:6oJ0bnNeO
遺書として残されていたメモは、真実を知る者にしか分からない内容で。
動機不明のまま、ガサの死は自殺として処理されました。
血が飛び散った壁には、いつか二人で撮った写真が飾られていました。
写真の私は血で真っ赤に染まっていて…それを見た時、悲しさや虚しさより、気持ちの悪さを覚えたものでした。
あの子の葬儀には行ったんです。
でも…焼かれて小さくなってしまったガサを見ても、ジュンの時のような感情は抱けなかった。
スッキリしたとも、ぽっかりしたとも言えるような虚しさ。
私が感じていたのは、ただそれだけでした。
その後最後の仕事を終えた私は、逃げるように軍を去りました。
就職の為に借りたのは、二人で住もうとしていた神奈川じゃなく、都内の小さなアパート。
何よりも先に開けた荷物は、ジュンの遺骨と遺影。
それをタンスの上に置いて、ただボンヤリと夕日を浴びていました。
524 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:46:23.55 ID:6oJ0bnNeO
こうして私の戦争は、終わりを告げたのです。
平和も取り戻し、新たな日々が始まる。
皮肉な事に、あの戦争で得た大切なものも確かにあった……それも最後は全て無くしてしまったけれど。
仇を討ちたいと願った叔父さんは、怪物に変えられ。
この手で、叔父さんを殺し。
あの戦争を通じて出会った恋人は、終戦と共に国家に殺され。
そして最後に。
あの戦争を通じて出会った親友を……
私は、この喉で殺したのでした。
ジュン…もうすぐ仕事が始まるよ。
ひとりだけど、あの日みたいに、泣いたりしないから。
大丈夫、大丈夫だよ。
もう、『泣けない』から。
525 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/02(月) 18:47:38.31 ID:6oJ0bnNeO
今回はここまで。
次回、最終回を予定しています。
526 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/02(月) 20:40:14.11 ID:Rdp7Z60so
乙
527 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/02(月) 23:57:27.00 ID:F41Yj4V7o
乙
528 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:44:59.04 ID:FKWrXIy5O
いつかのおおいわのうえで、わたしはわらっていた。
ふたりでいればどこでもてんごくだって。
あのひともつられてわらった。
かたくかたく、つないだてとこころ。
そこにあったもの。
なみおと。
すな。
たいよう。
かぜ。
あおいうみ。
えがお。
けしのはな。
とりがとぶ。
じゅうせい。
おとのないせかい。
きょむ。
てんごく。
そのなかで、なまなましくかんじたもの。
ちのにおい。
529 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:46:12.41 ID:FKWrXIy5O
………また、あの夢…。
時計に目を移すと、朝の8時でした。
もう何度見たのか忘れてしまった、あの頃の夢。
寝室から出て、キッチンで水を飲む。
体内を通る冷たさが、何とか意識を今に連れ戻してくれる。
それが今の、朝の日常です。
『お疲れ様です。
予定通り14時にお伺い致しますので、よろしくお願い致します。』
今日は…14時に打ち合わせか。それまでは仕事かな。
あれから8年。
今の私は、とある在宅の仕事をしています。
それと同時に、艦娘を辞め記者になる時に捨てた『青葉』を、またやっているんです。
『青葉マリ』
艦娘としての『青葉』と、本名である『マリ』を掛け合わせたもの。
それが今の、小説家としての私の名前。
530 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:47:52.17 ID:FKWrXIy5O
あの後3年程記者をしていましたが、『あるスクープ』を書いたのを機に、当時いた出版社を辞めてしまいました。
深海棲艦との戦争中に起きた、軍のとある不正をスクープしたんです。
世間は大変な騒ぎとなり、軍や政界に逮捕者も続出。挙句には、当時の関係者の自殺と言った事態にまで発展しました。
…ジュンの犯した罪も殺人ではあるけど、それ以上の謂れのない汚名だけは晴らせたのです。
ですが私の書いたスクープにより、特捜部の隊長は自殺した。
彼はどこか、復讐を望んでいるような印象もありましたが…今となっては、真相は闇の中。
『お見事だ、完敗したよ。』
自身の胸を三発撃ち抜いた彼の側には、綺麗な字でそう書かれたメモが遺されていたそうです。
……私の紡いだ言葉が、また人を殺した。
それを噛み締めた時、『あの子』の時のような空虚さを感じたものです。
531 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:49:30.08 ID:FKWrXIy5O
その後少しの間は、フリーの記者として食いつなぐ日々でした。
機を同じくして、知人から小説の執筆を勧められたんです。
仕事の暇を見ては書き続け数ヶ月。それがある大きな賞を取り、私のデビュー作となりました。
その小説は…死の淵から生還した軍人の辿る、苦悩と再生の物語。
…デビュー作以降も、次々と作品を世に出しました。
助からない事故に遭遇した記者の、最期の20分。
幼い少女が辿る、残酷な運命の架空戦記。
精神を壊した青年と、その恋人が辿る結末。
愛を欲していただけの、殺人鬼の少女の世界。
どの作品も、世間からすればヒット作となりました。
映画化やドラマ化もされ、側から見れば私も売れっ子になれたのでしょう。
でも私にとっては…物語としてでも、あの人達が生きた証を残す事。そちらの方が余程重要でした。
処女作の刊行から4年を経た今でも、本屋さんに置かれている。それだけ多くの人の手に、彼らの生きた跡が渡っている。
売れた事以上に、その事が何より嬉しかった。
記者として復讐を果たした今、私が生きる意味はそれしか残っていませんから。
532 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:51:19.85 ID:FKWrXIy5O
書いて…書いて……来る日も来る日も書き続けて。
気付けば手首はタイプのし過ぎで腱鞘炎になり、視力も随分落ちて。
もう三十路手前で、7つ違いのジュンより年上になってしまいました。
それと…あの頃と違って、髪をバッサリと切ったんです。
この前出版社のパーティに着る服を買いに行ったら、勧められたスカーフと帽子も違和感が無いようになってしまって。
もうおばさんだなぁ…なんて、切なくなったりしたものでした。
心の中は、今でもジュンが好きなままなのに。
小さなアパートから始まった都内での生活も、気付けばそこそこのマンションに一人で暮らす日々。
ずっと変わらないのは、すぐ見える位置に置いたジュンの遺影と遺骨で。毎日お線香をあげて、その日あった事を話すんです。
写真の彼は、笑顔で聞いてくれている気がするから。
「〜〜〜〜♪」
決まってそんな時は、彼の好きだった音楽を部屋に流して。
533 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:52:41.01 ID:FKWrXIy5O
…あ、この曲……。
彼が死んで、1年が過ぎた頃でしょうか。
その頃の私は、泣く事だけは上手く出来なかったんです。
当時の職場でも明るい子で通っていて…でも一度休日になれば、床から窓の外を見るばかりの生活でした。
ぼーっと青空を眺めても、何も晴れやかじゃなかった。ひたすらに虚無でしかなくて。
そんな時ですかね…何となく再生した、あの歌が入っているアルバム。
それをぼーっと聴いて、最後の曲になった時。
血が泣いてる。
ただその1フレーズだけで、涙が溢れてきたのは。
“ああ、こんなに虚しいのは……。
やっぱりあの人は、私の家族になるはずだった人だからなんだ。”
そう感じた時、涙が止まらなくなったんです。
ジュンだけじゃない…扶桑さんの事、あの子の事、叔父さんの事……それと、ガサの事。
あの戦争で私を駆け抜けたいくつもの死が。
直接、間接問わず奪ってしまった命が。
その時ようやくそれらへの感情が、涙と共に溢れ出て来たんです。
534 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:53:56.22 ID:FKWrXIy5O
「……ジュン。」
遺影に話しかけても、返事は無い。
ティッシュを一枚瞼に当てて、私は仕事用のPCに電源を入れました。
今、とある連載の準備をしてるんです。
今日の打ち合わせも、来るのはその担当さん。
連載が告知された時、私はSNSでかつて艦娘として戦地にいた事をカミングアウトしました。
何故ならこれは、艦娘時代の事を記したエッセイだからです。
書けない事も多いのですが…艦娘としての日常、仲間たちの事、戦場での生と死。
それを出来るだけ、今度は体験記として記しておきたい。
あの戦争がどう言うものであったのか、後に遺していく為にこそ。
そして私はこの連載を最後に、筆と命を折る。
535 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:55:23.26 ID:FKWrXIy5O
鍵の付いた引き出しを開ければ、1瓶のテキーラと、沢山の睡眠薬。
そこに最近、プリントアウトした遺書も加えました。
この連載を終え、それが本になった日の晩。私はこれを飲み、命を絶つ。
それがエッセイを始める時に決めた事でした。
もう世に残したい事は、書き尽くしてしまいましたから。
そして…これが、最後の復讐でもある。
あの時誰も救えなかった私を、私の手で裁く為に。
笑っちゃいますよねぇ…1番強いテキーラを探したら、瓶がドクロ型なんですよ。自分が骨になる為に用意するのに。
引き出しの鍵を閉めたら、ちょうどPCも立ち上がった頃。
その後はお昼も食べず、ずっと画面に向かっていました。
「青葉先生ー、担当の__ですー。」
「あ、はーい。」
あ、もうそんな時間かぁ。
今回の担当さんは、私の1つ下。晩年のジュンと同じ歳の方です。
今日はお世話になってる編集長も一緒で、3人で入念な打ち合わせをしていました。
籠りがちなこの生活をしてると、季節感もおかしくなるものです。
担当さん達が寒そうにコートを着ている様を見て、もう年末だと言う事をようやく思い出しました。
そっかぁ、もうすぐ…。
536 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:56:49.65 ID:FKWrXIy5O
「…久々に会ったが、青葉君も元気そうでよかったな。__、よろしく頼むぞ。」
「はい!ざっと聞いただけでも、壮絶なエピソードだらけでしたね…。」
「青葉君とは付き合いも長いからな…さっきは出なかったが、他のエピソードも聞いた事がある。」
「何か、不思議な人ですよね…可愛らしい部類の顔だけど、妙な色気があるって言うか……。
文章や本人のあの雰囲気って、そう言う所から来てるんですかね。言葉は悪いけど、未亡人みたいだなって…。」
「………未亡人とは呼べないが、近いものはある。」
「……それって…。」
「後藤ジュンイチロウ。お前もこの名は知っているだろう?
5年前、死後数年にしてなお、軍はおろか国会すら揺るがせた男だ。
彼女はそこにまつわる件をスクープした記者であり、裁判や捜査の渦中にもいた。デビューはその後さ。」
「……!!」
「……触れてやるなよ?恐らく今回のエッセイでも、その話は出てこないだろう。
過去の彼女の作品も、何処か実話がベースにあるのかもしれんな。」
「………はい。」
537 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:58:25.35 ID:FKWrXIy5O
何日か経ち、雪が降った日の深夜。
私は執筆の気晴らしに、雪景色の中を歩いていました。
都内としては大雪で、新雪に私の足跡だけが刻まれて行く。
誰も歩いていない住宅地。でも通りの公園や、誰かの家の庭。あちこちがイルミネーションで輝いていて。
…今日は、クリスマス・イブですから。
缶コーヒーを買って、屋根付きのベンチで一息。
公園の一角にあるここからは、周りのイルミネーションがよく見えます。
雪に吸われて、一層静かな夜。
白く積もったそこにイルミネーションが反射して…それはとても綺麗で、寂しい景色でした。
「……メリークリスマス。」
ポツリとこぼしたのは、そんな独り言。
空に向けてみたって、誰の耳にも届かない。ただの世迷言でした。
さて、帰ろう…風邪引いちゃいけない。
人気の無い夜道を、またとぼとぼと歩き始めた時でした。
538 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 03:59:15.35 ID:FKWrXIy5O
『ぞぶっ……。』
539 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:01:26.86 ID:FKWrXIy5O
腰に熱さと重みを感じて。それが痛みだと気付くのに、何秒か間が空きました。
腰からじわじわと流れ出たものが、気温で一気に冷えて行く。
それが血だと気付いた時、後ろを振り返ると…。
「………ガサ?」
一瞬、確かにあの子が見えたんです。
でもそれは一度会った事のある、ガサによく似た初老の人。
「………よくも…娘を……!!」
はは…そっかぁ…お父さん、本当そっくりだもんね……別の遺書でも遺してたのかな?
ああ、やっぱり罰って来るんだね…。
540 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:03:11.80 ID:FKWrXIy5O
倒れた時、雪がクッションになってくれて。それは布団に飛び込むような心地よさでした。
刺されても、意外と色々考えられるんだ…。
ガサのお父さんは、ナイフを手に何処かへ消えてしまいました。
終電を過ぎたクリスマスの夜、他に誰かが通りかかる事もない。
じわじわと、周りの雪が真っ赤に染まって。それもすぐに積もっては消えて行く。
次第に体も雪に覆われて、私は溶け込んで行くかのよう。
このまま、一人で死ぬんだね……いいね、これ程相応しい死に様も無いよ。
もう、生きてくのに疲れたんだ…これで終われるなら、きっと最高のクリスマス。
…でもあの連載は、終わらせたかったな…それも含めて、私らしい終わりかぁ…。
541 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:04:22.33 ID:FKWrXIy5O
「メリークリスマス。」
542 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:06:16.94 ID:FKWrXIy5O
そんな時、確かに声が聞こえたんです。
何年経っても、一度も忘れる事なんて無かった声。
あの頃と同じ、白い軍服を纏う姿。
あぁ…やっと会えた…。
「……ジュン!!」
抱き着いた私もまた、あの頃の姿で。
触れれば触れただけ、その存在を感じられる。
……ずっと…ずっと会いたかった!
「……今までどこにいたの?」
「…どこか遠くさ。」
「………ばか。」
夢じゃないんだ…ましてやここは天国でもない。
確かなものとして、こうして抱き合えている。
重ねた唇は、あの頃のまま。
もう魂はいつでも二人。きっと変わる事も無い。
543 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:07:20.80 ID:FKWrXIy5O
「……これで、ずっと一緒だね。」
「………。」
黙ったまま、彼は優しく私の髪を撫でて。
ようやく口を開いたのは、その直後の事でした。
「………そう言う訳には、行かないんだよ。」
「…………どうして?」
「簡単な事さ…お前は、生きるべき人間だからな。」
「……!?」
雪が、強くなる。
それはやがて吹雪に変わって、彼の姿を覆い隠して行く。
「……ジュン!!」
「時間みたいだな…お前には、帰るべき場所があるだろう?」
「…嫌だよ……もうジュンのいない世界なんて耐えられない!!
お願い…私も連れてってよ……ねえ!!」
「………ごめんな。」
「……ジュン……待って!!」
吹雪はやがて、真っ白な世界に変わって行く。
白く白く、目の前全てが真っ白に塗り潰される。
“生きるんだよ、お前は。”
最後にその声が聞こえて、世界が白く暗転した時。
目覚めた私の目には、真っ白な天井が映っていました。
544 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:08:41.28 ID:FKWrXIy5O
「……先生!患者さんが意識を取り戻しました!」
その声に我に帰ると、次々と白い服の人達が部屋に雪崩れ込んできて。
そこでようやく、ここが病院だと理解出来たのです。
「………っ!?」
「ああ、まだ体を起こさないで。
危ない所でしたね…出血多量で一時危篤だったんですよ。
あちらにいらっしゃる方にも、輸血の協力者集めに奔走していただけまして…。」
奥の椅子に腰掛けていたのは、連載の担当さんでした。
彼は眠っていて…その顔には、深い隈が刻まれている。
「………ん……青葉先生!?
良かった……本当に良かった……!!」
自分の事のように号泣する姿に、いつかのジュンの姿が重なります。
その時、確かに私の肩に何かが触れたんです。
545 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:09:50.11 ID:FKWrXIy5O
“俺はもういないけど、それでもお前を待ってる人がいるんだよ。
マリ……達者でな。”
546 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:11:22.08 ID:FKWrXIy5O
優しく微笑んで、手を振る影。
それは幻なのかもしれないけど、確かにそこにいたんです。
ジュン……ずっと、守ってくれてたんだね。
過去は消えない、未来は疑いたくなる事ばかり。
心の痛みは変わらないけれど、それだけじゃ悲しい。
そうだよ、あの日から必死で生きて書き続けたじゃん…だから死を望むのは、あの人の遺志に背く事だ。
この時ようやく、私はジュンの望みを受け入れる事が出来たんです。
全てを失ってしまったけど、それでも生きようと。
いつかまた、何かを得る日が来るって。
ジュン…寂しいけど、私は生きるよ。
何があっても、本当に尽きてしまうまでは。
547 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:12:24.40 ID:FKWrXIy5O
“…よく頑張ったな…!”
“うん…二人とも元気だよ。予定通り、男の子と女の子。”
“双子だもんな、賑やかになるぞ。
名前は前から決めてた通りでいいんだよな?”
“ふふ…うん、『サクラ』と、『ジュンイチロウ』って。”
548 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:16:28.54 ID:FKWrXIy5O
『青葉マリ(あおばまり、××年×月×日-)は、日本の小説家、エッセイスト。
幼少期から叔父の影響で記者を志し、叔父に師事。
高校在学中の頃、叔父が取材中、深海棲艦による襲撃にて殺害される。
それを機に高校卒業後、艦娘として従軍。ペンネームである青葉マリの名は、この時適合した青葉(重巡洋艦)から取られている。
深海戦争の終結後、退役し××社の記者として勤務。
この頃海軍大佐暗殺事件、海軍大佐艦娘強姦殺人事件、憲兵隊特捜部不正粛清事件の3つの事件に纏わるスクープを掲載。
後に事件の真相究明、当時の閣僚や関係者の相次ぐ逮捕に繋がる重大な報道となった。
__年に××社を退社し、以降1年程フリーランスとして生計を立てる。
その頃知人の勧めにより、処女作を執筆。これが__賞を受賞しデビュー作となる。
その後も__賞の受賞、映画化と繋がり、_年までに80万部を売り上げるベストセラーとなった。
_年12月、当時住んでいた__区の路上にて、男に刃物により刺される。
その後一時危篤となるが、一命を取り留めた。
_年_月、1歳年下の出版社勤務の男性と結婚。
_年秋、双子として二児を出産。
_年にそれぞれ戦災孤児、被虐待児童の為の2つの基金を設立。
これらは艦娘として従軍していた頃、同僚に孤児や虐待経験者がいた事を機に設立された。
小説家として精力的に活動し、これまで長編を10冊、短編集を2冊、エッセイ集を3冊発行。
その内5作品は各々映画化、ドラマ化され、こちらも大ヒット作となった。
生涯現役を宣言し、寝たきりになるまでは書く事を目標として掲げている。
座右の銘は、「尽きるまでは生きる」。』
549 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:17:24.84 ID:FKWrXIy5O
青葉「けしの花びら、さえずるひばり。」 完
550 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/07/20(金) 04:25:40.00 ID:FKWrXIy5O
当初はある方達の復活を機に書き始めたSSでしたが、かなり重いお話となりました。
書く方としてもそれなりにメンタルを整えて進めなければならず、長い時間が掛かってしまいましたが、ようやく完結できて安堵しています。
今までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
551 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/20(金) 06:08:10.24 ID:rKdpkbrMo
珍しく重い話でしたが…完走乙でした。
また、次の作品を気長にお待ちしております
552 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/20(金) 08:58:14.86 ID:7V+j8eiKO
終わってしまった…
約1年3ヶ月、ずっと読ませていただきました
お疲れさまです
553 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/20(金) 09:47:37.40 ID:na/a5ZHFO
完走乙でした。一応ハッピーエンド、なのかな?
また気が向いたらシリアスもの期待してます。
554 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/20(金) 19:18:00.02 ID:9IJILNKR0
乙です
北上SSのときはそう感じなかったけど
今回はなんか作者の独り善がり臭がして
自分には合わなかった...
555 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/20(金) 20:23:40.15 ID:sIUhN25t0
乙
556 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/20(金) 20:23:49.76 ID:zoYriRywo
完走乙です
557 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/20(金) 23:36:28.66 ID:pGdN2FqU0
北上「離さない」の方でしたか
良いものでした
457.29 KB
Speed:0.1
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
新着レスを表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)