見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!)

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220 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/13(水) 02:20:13.32 ID:hov1LVWT0

「桜咲刹那………見抜いてたのかな」
「ん?」

「薔薇の棘、合気、隠れ居合抜き。

あれだけの剣の使い手、
何て言うか、凄い正統派の武術をやってるって私にも分かる。

それが、ギリギリまで手の内が分からない、
凄くトリッキーで卑怯なぐらいの攻撃を連発して来た。
私が言うのもなんだけど、プライドはないのか、ってぐらい」

「刹那は誇り高き剣士でござる」
「だろう!」

「そして、その剣を何のために使うか、
何が大切なものであるかを知り、
それを守るためには、己すらも只一振りの剣と化す。
剣はそのための道具に過ぎない。
それが刹那でござる」

「………………」

キリカは天を仰ぎ、布団に背を着けた。

「明日には一応の決着がつく。
それまで少し、身を隠すでござるよ」
221 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/13(水) 02:23:34.26 ID:hov1LVWT0

ーーーーーーーー

「生き、てる?」

薔薇の庭園で、半身を起こした美国織莉子に
水干姿でしゃがみ込んだ近衛木乃香が小さく頷いた。

「あなたが、私を助けたと言う事?」
「そういう事になりますなぁ」

白扇で口元を覆い、木乃香は答えた。

「どうして?」

「せっちゃんに人殺しさす訳いかんからなぁ。

だから



木乃香は、閉じた扇の先を織莉子に向け、
すっと立ち上がる。

「せっちゃんはあんたらには絶対負けへんし、
だからと言うて、次にうちに手ぇ出したら、
うちに関わる勢力が総力挙げて
草の根分けても探し出して八つ裂き言う事になりますえ」

木乃香の言葉に、織莉子はくすっと笑みを漏らした

「ごめんなさい、真面目に聞いてるけど、
お上品な素振りで臆面もなくバックを出して来たわね」
「守らなあかんものがありますよって。
そのためなら、使えるものは何でも使います」
「そう」

ふっ、と、力を抜き、織莉子は静かに立ち上がる。
222 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/13(水) 02:27:22.32 ID:hov1LVWT0

「桜咲刹那、あなたにとってそれほど大事な存在なのね。
あなたは恐らく生粋のお嬢様。
本来、それを誇示し振り翳す事を潔しとしない程に。
そして、そんなプライドを些細と切り捨てられるぐらい、
彼女はあなたにとって大切な存在」

そう言って、織莉子はふっと笑った。
その目の前で、木乃香はとろける様にはんなり微笑み頷いていた。

「肝心な事がまだだったわね」
「肝心な事?」
「命を助けてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」

「まして、あなたを攫った私を」
「おおきに、それもうちのためですよって。
もう一度言いますけど、次はありまへんえ」
「それならば、灯しなさい」

二人は、真顔で向き合っていた。

「あなたの、その光で、桜咲刹那の道に陽を灯しなさい。
キリカを探さないと、絶対に無茶してる。
急ぐのに、体は治っても今、精度の高い………」

焦りを見せる織莉子の前で、木乃香はにこにこ微笑んでいた。
223 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/13(水) 02:30:59.28 ID:hov1LVWT0

 ×     ×

「夜が明ける………」

佐倉愛衣が、ホオズキ市の住宅街の一角で呟く。

「完全に見失った………一度お姉様達と合流して………」

ドンッ

「あ、ごめんなさい」
「………大丈夫………」

曲がり角を曲がろうとして人対人の衝突事故を起こした愛衣が、
身を起こしてすーっと首を動かす。

「ちょっと待って!」

愛衣の叫びに、天乃鈴音が足を止めてくるーりと後ろを向く。
そんな鈴音の前に、愛衣がさささっと回り込んだ。

「待ちなさいっ! キリサキさん、見つけました………」
「邪魔」
「え?」
「仕事中、みんな待ってる」
「あ、ああ、ごめんなさい………じゃ、なくってっ!!」

愛衣が、新聞の束を抱えてタッタッタッと走り去る鈴音の後を追う。
曲がり角を曲がった所で、
タッタッタッと通り過ぎる鈴音の側で
愛衣はきょろきょろ周囲を見回していたが、
その唇は薄く笑っていた。

「アデアット」

鈴音の姿が見えなくなった辺りで、
愛衣は魔法具であるオソウジダイスキ、
簡単に言えば空飛ぶ箒を取り出してその場でふわりと浮遊した。
224 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/13(水) 02:36:13.90 ID:hov1LVWT0

ーーーーーーーー

見滝原の仮住まいであるアパートに戻った刹那は、
浴室でシャワーを浴び、ぐっ、ぐっとその手を拭っていた。
ふうっと嘆息してから浴室を出て、
体を拭った辺りで音に気が付く。
それは、「最重要」を示すものだった。

「こ、これは学園長、この様な時間にっ!!」

スマホで電話を受けた刹那は、
その場で深々と頭を下げる。

「こ、この度はこのかお嬢様を、私がいながら、
何と申し上げて………」

「うむ、その事も関連してじゃが………」

「………積極的攻撃をやめろ、と?」

「色々と事情は聴いたが、
元々はこちらが魔法少女のテリトリーに割り込んでの事。
このかには当分そちらに近づかない様にその辺りの事も注意しておいた。
無論、この件に就いては刹那の非ではないと、重々理解した上の事じゃ。
故に、そのままそちらで元の任務に戻る様に」

「ご温情、感謝いたします。
美国織莉子、呉キリカをこちらから攻撃する事はやめて
見滝原での元の任務に戻る様に、と言うご指示ですね?」
「そういう事じゃ、引き続きよろしく頼む」

==============================

今回はここまでです>>218-1000
続きは折を見て。
225 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/17(日) 02:54:22.86 ID:4iqOK/Pc0
それでは今回の投下、入ります。

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>>224

ーーーーーーーー

「間違いないのですね?」

ホオズキ市内で佐倉愛衣に合流した高音・D・グッドマンが確認する。

「はい、あの新聞販売店に。どうやら住み込みの様です」
「そうですか。キリサキさんの動きは夜間、それを待ちましょう」

高音の言葉に愛衣と夏目萌が頷き、踵を返す。

「夕凪新聞、ですか………」

こうして場所を把握した後、愛衣と高音、夏目萌は、
近場のファミレスでモーニングを頼んでいた。

「配達中を見つかったって事は、逃げ出さないですかね?」
「多分………ないと思う」

萌の言葉に、愛衣が言う。

「根拠は?」

高音が尋ねる。

「彼女は、私に見つかってからも淡々と新聞配達を続けていました。
もっと言うと、桜咲さんや私達に面が割れても平然としています。

念のため、認識阻害を張った上空から彼女の帰りを待っていましたが、
取り敢えず普通に戻って来ています。

とにかく、ネットなんかで確認したキリサキさんだとするなら、
彼女、普通じゃないです」
226 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/17(日) 02:59:24.44 ID:4iqOK/Pc0

「キリサキさんが普通だったら困るけど」
「普通だから普通じゃない」

萌の言葉に愛衣が真面目に答える。

「つまり、キリサキさんが全く普通に新聞配達の勤労少女をしている、
と言う事ですね」
「そうです」

高音の答えに愛衣が頷く。

「だから、印象ですけど、
これから「普通」を捨てて逃げ出すとは考えにくい」

「そうですか………メイ」
「はい」

「あのキリサキさんの実力、どう見ましたか?」

「魔法のスペックは高い。
だけど、術師の練度が何処か追い付いていない。
剣士が外付けの魔法具で強力な魔法を使っている、
そういう印象でもあります」

愛衣の言葉を、高音は黙考して聞いていた。

「協会には?」
「少し待ちます」

萌の問いに対する高音の答えは、
二人にとって少々意外なものだった。

「何か、嫌な感じがします。
3Aや桜咲刹那も、私達が全く預かり知らない所で動いていた。
思い過ごしならいいのですが、キリサキさんの被害は看過出来ない。
この一日二日に限っては、私達は個人的に行動します。
そして、偶発的にキリサキさんを確保して、
それから協会の指示を仰ぎます」
227 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/17(日) 03:03:41.52 ID:4iqOK/Pc0

ーーーーーーーー

魔法使い、魔法少女、結構な激動の夜が終わり朝が来て、
一部に例外はあったものの、
その後に続いたのは至って平凡な学校生活だった。

「美樹さんですか?」
「ええ」

放課後、夕暮れ過ぎに、
スマホを使っていた巴マミと桜咲刹那が言葉を交わす。

「元々、上条君のお見舞いの後で合流の予定だったけど、
ちょっと予定が変わってこっちには来られないって」
「そうですか」

かくして、この日は二人で魔女退治の散策を開始する。

ーーーーーーーー

「おや」
「あっ!」

夜、自宅を飛び出しそのまま走り出した鹿目まどかは、
それから程なく桜咲刹那と遭遇していた。

「どうしました?」
「さ、さやかちゃんがっ!!」
228 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/17(日) 03:16:14.26 ID:4iqOK/Pc0

ーーーーーーーー

「一体何をしているんですかっ!!」

高速道路上の跨道橋に、
下の走行音にも負けない大喝が響き渡る。

「救兵衛におよその事は聞きました。
それが、一度は私に剣を教わろうとした者の行動ですかっ!?」
「刹那さん、ごめん………」

既に魔法少女姿で槍を担いでいる佐倉杏子の側で、
制服姿の美樹さやかが目を反らす。

「駄目だよさやかちゃんっ」

「いいでしょう」

まどかが先にさやかに駆け寄る中、
刹那は、野太刀「夕凪」を無造作な程に抜き放ち、
切っ先を前に向けて歩き出す。

「荒稽古を付けましょう。
あなたには過ぎた玩具を弄ぶその性根、叩き直します。
五体満足で帰れるとは思わないで下さい」
「ヒュウッ」
「さやかちゃん謝ってっ!!」

大真面目にザシザシと迫る刹那の姿に、
杏子が口笛を吹きまどかが悲鳴を上げる。
まどかも知っている、刹那の剣には嘘も冗談も無い事を。
しかも、今の刹那には大真面目に加えて何処か不機嫌な気配がある。
そして、さやかの気性もまどかにはよくよく分かっている。

「ごめん、まどか。
刹那さん、これだけは譲れないんだ。
止めたいなら………」
「さやかちゃん、ごめん!」

まどかが、光り出したソウルジェムをさやかの手から奪い取る。
そして、跨道橋から下の高速道路へと投げ捨てた。
229 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/17(日) 03:20:16.70 ID:4iqOK/Pc0


「チッ!!」

即座に刹那が駆け出し、高速道路へと飛び降りる。

「任せて」

そこで、刹那は一瞬だけ、真横に暁美ほむらの姿を見た。

「………あれ? ………」

刹那が戻った時には、
跨道橋の床に横たわっていた美樹さやかが、
鹿目まどか、佐倉杏子、暁美ほむらに囲まれて
目を覚まし身を起こしている所だった。

「………つまり、ソウルジェムは魂の器で、
百メートル以上離れたら肉体から魂が離脱して死亡した状態になる。
そういう話をしていた、と言う事ですか?」
「そういう事になるね」
「あんた、冷静だな」
「多少、場数を踏んでいると言うだけです」

杏子の言葉に、刹那が応じた。

「とにかく………」

コメカミに指を押し付けたほむらが口を挟む。

「この事を巴マミに話すのは少し待ちましょう」
「そうですね。
今のこの状況を見ても、彼女にしても相応のショックはある筈です」
「そうだね、正直ショックと言うかなんと言うか」

刹那の言葉に、さやかが乾いた笑いと共に言って立ち上がる。
230 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/17(日) 03:24:12.22 ID:4iqOK/Pc0

「あなたも、落ち着くのは難しくてもこれ以上短気を起こさないで下さい。
あなたが、得た力で人を助け、
様々なものをもたらした事は確かなのですから。
折を見て少し話しましょう」

「うん。今はちょっと、帰らせてもらうわ」

さやかが、ぎこちなく笑みを浮かべながらぎくしゃくと動き出す。

「まどかさん、彼女をお願いします」
「うん。一緒に帰ろう」
「うん………」
「あー、あたしも帰るわ」

かくして、三々五々解散して行く。
最後に残った刹那が、ぽつりとつぶやく。

「………それでも、終わる道がまだ残っている」

ーーーーーーーー

チリ、ン………

「貴方の名前…教えて?」

夜のホオズキ市内。何時もの魔女探索のパトロール中、
魔法少女詩音千里は路地裏でその声を聞いた。

「教えて…貴方の名前」
「…答える義務はないわ」
「そう…残念ね」
「伏せてっ!!」

千里は、突如割り込んだ怒号に従った。

「くっ!」

ぶおっ、と、周囲の地面に一瞬燃え立つ火線が走り、
そのまま蛙飛びした千里は、振り返り様に魔法拳銃を発砲する。
231 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/17(日) 03:28:17.54 ID:4iqOK/Pc0

「紫炎の捕らえ手っ!」
「桜火っ!」

横を向いた鈴音は、飛んで来た炎の捕縛魔法を
剣から放った炎で呑み込む。

「火の9矢!」
「炎舞」
「風楯っ!(手数が多過ぎるっ!)」

上空から監視していた箒から飛び降り、介入した愛衣は
鈴音が放った大量の炎の剣に攻撃魔法を相殺され、
更に斜めに降り注ぐ炎剣に対して防御を張る。

「エルサルマ………風楯っ!!!」

愛衣が次の魔法を放とうとした時には
鈴音はごうっと迫っており、
鈴音が振るう大剣を愛衣は防御魔法で、
更に魔法の箒オソウジダイスキで受け流す。
鈴音がぶうんっ、と、剣を大きく横薙ぎし、
大きく飛び退いた愛衣が胸元を抑えた。

(かなり、硬い………)
(黒衣でなければ真っ二つね)

詩音千里は、
肌面積の大きな水着にセーラー服マントと言うのが近い大剣の少女と
巻き髪に黒衣姿で箒を振るっている少女の争いを油断なく見ていた。

当初は割り込んだ黒衣をセーラーマントが凌ぐ形で、
今は灰色のセーラーマントが押している。

千里の見た所、黒衣の攻撃距離は遠距離、
対して、セーラーは遠距離も使えるが基本が剣士タイプ。
黒衣はセーラーマントの距離に捕まってしまい防戦一方。
そうなると、こちらも遠距離タイプの千里も迂闊に介入出来ない。

どうもあの黒衣が異常に堅牢らしく、
そうでなければ一度や二度はグロ画像を見ていた頃だ。
232 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/17(日) 03:31:48.55 ID:4iqOK/Pc0

「チサト、大丈夫っ!?」
「良かったっ!」

望んでいた近距離の到着に千里が叫んだ。

「あっちの灰色が多分、キリサキさん。
かなりの剣の使い手で遠距離の炎も使うから、
第一は捕獲、手に余るならって事でお願い」

「オッケーッ! 行くわよこの変態キリサキ魔っ!!」

鈴音の視線が動いた一瞬で、愛衣はタンッと飛び退き、
突入した千里の魔法少女パートナー
成見亜里紗の大鎌の柄が鈴音の剣と激突する。

「えっ?」
「紫炎の捕らえ手っ!」
「チッ!」

亜里紗が鈴音をぶち抜いた、と思った鎌が空を切り、
その側で、正確に鈴音を狙った捕縛魔法を
炎をまとった鈴音の剣が叩き落す

(キリサキさんは幻術の様なものを使ってる?
だけど、黒い少女は恐らくそれを見抜いてる)

千里が推測する間にも、亜里紗と愛衣の即席コンビは、
特に打ち合わせるでもないまま割と効果的に動いていた。

「メイプル・ネイプル・アラモード………」
「炎舞………」
「紅き焔っ!!」
「よっしゃあっ!!

鈴音が放った大量の炎剣を空を舐める火炎が呑み込み、
その後から亜里紗が突撃して剣と鎌の柄が衝突する。
その間に、地面に幾筋かの火線が走り、周囲を照らす。
233 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/17(日) 03:35:37.09 ID:4iqOK/Pc0

(今度こそ………)
「かはっ!!」

一瞬不愉快気に眉を動かした鈴音は、
下から振られた鎌の柄を腹に打ち込まれ、
咳き込みながら足を後ろに滑らせた。

「もらったあっ………」
「桜火っ!!」
「のわっ!!」

トドメとばかりに大振りに振り被った亜里紗を強力な火炎魔法が襲い、
亜里紗は慌てて身を交わす。

「くっ!」

そのまま愛衣に駆け寄ろうとした鈴音が、ステップを始めた。
鈴音の前方では、愛衣がステップを踏みながら
鈴音の足元を狙って次々と速射の火炎弾を撃ち込んでいる。

「狙いは分かるけど、ちょこまかウザイ………」

今すぐにでも背中に鎌を叩き付けたい亜里紗が
的を絞れない苛立ちを口にする。

「桜火っ!」
「風楯っ!!」

それでも鈴音が発動した巨大な炎を愛衣が防御し、
その間に迫っていた鈴音の一刀を、
愛衣がバーベル持ちした箒で受ける。

「らあああっ!!」

その間に背後から亜里紗が迫っていたが、
一瞬早く動いた鈴音の剣が
ぶうんと横薙ぎに亜里紗を牽制する。
234 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/17(日) 03:39:30.73 ID:4iqOK/Pc0

(いけるっ!!)

詩音千里が、魔法拳銃を構えた。

「正義の使徒、高音・D・グッドマンここに見参!!!」

さっ、と、そちらに視線を向けた成見亜里紗は、
目が点になった。
その視線の先の空中には、馬鹿でかい黒いエイリアン、
とでも呼ぶしかない代物が浮遊している。

「メイ、よく時間を稼ぎました、

私が来たからには決まったも同然。

さあキリサキさん、神妙に縛につきなさいっ!!」

千里が放った魔法解除弾は、

黒衣姿の夏目萌を引き連れ、
その背景に巨大な触手影人形を浮遊させながら
この戦場に勇躍踊り込んだ、

黒衣姿の高音・D・グッドマンの

颯爽たる勇姿へと真っ直ぐ吸い込まれて行った。

「………えーと………私、まだ何もしてなかったよね………」

==============================

今回はここまでです>>225-1000
続きは折を見て。
235 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/24(日) 02:30:10.63 ID:khg1YZwz0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>234

「紫炎の捕らえ手っ!」
「流水の縛り手!」

ものを言ったのは、踏んだ場数の差、
その突発的な異常事態に対する耐性、経験値だった。

「くっ」
「しまっ!? 私が、こんな精神攻撃にっ!!」

一瞬の静寂の後、佐倉愛衣と夏目萌が放った捕縛魔法は、
物陰から現れて半ばショートした思考で事態を把握しようとした日向華々莉と
大剣の切っ先を斜め下に向けて棒立ちで瞬きしていた天乃鈴音を直撃していた。

「あれが、キリサキさんですか?」
「はい、恐らくキリサキさんとその仲間です」

高音・D・グッドマンが愛衣に確認をとる。

「それでは、改めて………」

そして、高音とその仲間が円陣の形で仮契約カードを用意する。

「「「アデアット!!!(((変身フォーム)))」」」
「終わった?」
「何が、どうなってんの、これ?」

改めて、成見亜里紗が詩音千里に尋ねる。

「さっきも言ったけど、
多分、あの水で縛られてる剣使いがキリサキさん、だと思う」
「ふーん、で、あっちは………ん?」

そこで、亜里紗が何かに気付いてツカツカ動き出す。
236 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/24(日) 02:33:42.94 ID:khg1YZwz0

「ちょっと、あんたマツリ? 何やってんのこんな………」
「アリサ? ………危ないっ!!」
「!?」
「お姉さまっ!?」

次の瞬間、高音が腕から伸ばした影の鞭が
間一髪で亜里紗の大鎌を絡め取り、刃を地面に突き刺していた。

「くっ!」

亜里紗は馬鹿力で地面から刃を抜き、高音が鞭を消滅させる。

「アリサ、そっちは敵じゃないっ!!」
「メイ、彼女がキリサキさんではっ!?」
「違うっ! お姉さまは彼女を止めて、
あなた、彼女に魔法解除をっ!!」

愛衣がさささっとその場を仕切り、隙を突いて駆け出す。
高音が呼び出した影法師を亜里紗が切り裂いている間に、
千里が亜里紗を銃撃する。

「あれ?」
「わっ!」

亜里紗がきょとんとしながら影法師に押し囲まれ、
華々莉は背後から頭にバケツを被せられて声を上げる。

「あなた、幻術か催眠術を使いますね、
それも魔力を込めた高度なものを。
この人の目を見たら駄目です」

愛衣の言葉に、華々莉が鼻を鳴らす。

「大丈夫っ!?」
「ハルカ先輩っ」

そこに駆け込んで来たのは、奏遥香と日向茉莉だった。
237 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/24(日) 02:39:48.90 ID:khg1YZwz0

「キリサキさん一味の身柄を確保しました、魔法少女です」
「キリサキさんの?」
「スズネちゃんっ!?」

鈴音の顔を見た茉莉が声を上げた。

「知り合い?」
「同じクラスに転校して来た天乃スズネちゃん」

遥香の問いに茉莉が答えた。

「あれ、双子の姉妹かなんか?」

亜里紗がくいっと顎を動かす。

「ちょっと待って、彼女は魔法の催眠術を使う、
目を見たら危ない」

千里が茉莉を制した。

「じゃあ、十数える間に一度変身を解除して
ソウルジェムをこちらに渡しなさい。
事が事です、キリサキさん相手に選択の余地はありません、
従うか、自分が同じ目に遭うか選んで下さい」

遥香が槍先を向けて二人に命令し、二人がそれに従うのを確認する。
それを見て、拘束魔法が解除された。

「えー、っ、と………つっ………」

華々莉に接近した茉莉は首を傾げていたが、
その内、地面に膝をついて呻き始めた。

「ちょっ?」
「大丈夫?」

軽く狼狽する亜里紗の側で遥香が駆け出す。
238 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/24(日) 02:42:54.34 ID:khg1YZwz0

「呪い、の様な痕跡が感じられます」

茉莉の頭に手を乗せた愛衣が言い、
それを聞いた千里が茉莉を銃撃した。

「お姉、ちゃん?」
「催眠術で存在を忘れさせてた?」

茉莉の反応を見て、高音が呟いた。

「お姉ちゃん? これって何? どういう事なのっ!?」

茉莉が華々莉の肩を揺さぶり、華々莉が鼻で笑った。

「どうですか、メイ?」
「医術は専門外ですが、こちらも魔力が感じられます」
「つまり、彼女も何等かの洗脳を」

鈴音の頭に掌を当てていた愛衣に千里が訪ね、愛衣が頷く。

「う、あ………あぁあああーーーーーーーーーっっっっっ!!!」

千里が鈴音の魔法を解除した後、鈴音は少しの間きょとんとしていたが、
次の瞬間、周囲を絶叫が貫いた。

「あ、あああ、ああ………」
「あーあ、やっちゃったぁー」

華々莉の唇が、にまあっと歪んだ。

「あなた、何をしたのっ!?」

怒鳴り付ける遥香を、華々莉は鼻であしらった。
239 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/24(日) 02:46:15.88 ID:khg1YZwz0

「私は、スズネちゃんを助けてあげてたんだよ。
ニセモノの記憶で蓋をしてっ!
辛いでしょ? 痛いでしょ?
やっちゃったのはあいつら、あんたのお仲間。
終わるよ、みんな、あんた達が地獄の窯の蓋を開けたせいでね。
アーッ、ハッハッハッハッ!!」

「このっ!」

亜里紗が振り上げた拳を千里が抑えた。

「ソウルジェムが急激にっ、私の手持ちで………」
「あ、ああ、あ………つ、ばき………」
「!?」
「ああ………ツバキ………」
「ツバキ、知ってるのっ!?」

そこに、駆け寄ったのは茉莉だった。

「ねえ、ツバキの事、知ってるの?
うん、知ってるよね、ツバキと一緒にいた娘なんだからっ!」
「………マツリ?」

「ずっと、ずっと探してた、ツバキの事も、スズネちゃんの事も。
ううん、スズネちゃんの事は忘れてたけど、
でも、ずっと、ずっとずっと会いたかった、
ツバキと一緒にいたスズネちゃんにっ!!」

茉莉が鈴音の手を取り、茉莉の前向きな目が、
焦点の合わない鈴音の目をしっかりととらえる。

「………後でいいなら………少し、長い話になる」

鈴音の返答に、茉莉が小さく頷いた。
240 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/24(日) 02:50:01.78 ID:khg1YZwz0

「で、あんた達って結局なんなの?」
「あなた達は恐らく魔法少女、マギカ、ですね?」

亜里紗の言葉に、愛衣が質問を質問で返す。

「マギカ? あの魔法少女のマギカですか」

高音の言葉に愛衣が頷いた。

「マギカであれば、契約の使い魔がいる筈ですが」
「僕の事かい?」

高音の言葉に、物陰からキュゥべえがひょこっと姿を現す。

「彼女たちはマギカ、魔法少女なのですか?」
「そうだね」
「キュゥべえ、彼女達は魔法少女じゃないの?」
「違うね、魔法少女とはちょっと違う」

遥香の問いに、キュゥべえが言う。

「私達は魔法使いです。
簡単に言えば、ある程度の隠れた素質を持つ人間が、
自分で修行をして魔法を身に着ける。
そういうカテゴリーの存在がある、と、理解して下さい」

「私達魔法使いは世の中の裏側で世の中のお手伝いをする存在。
本来、あなた達魔法少女には干渉しない立場を取っているのですが、
今回は行きがかりでこの様に関わる事になりました」

「はぁー、そんなのがいるんだ」

愛衣と高音の説明に、亜里紗が言った。

「何にせよ、私達のチームを助けていただいた事、
有難うございました。

遥香が頭を下げ、他のチームメイトもそれに倣い
高音以下も礼を返す。
241 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/24(日) 02:53:32.92 ID:khg1YZwz0

ーーーーーーーー

「分かりました」

高音がスマホの通話を切る。

「魔法協会としては、キリサキさん事件は
非のある無しに関わらず魔法少女内部の抗争事件、と言う事で、
犯人も確保出来た事ですし、
これ以上関与せずにあなた達に一任すると言う事です」

「分かりました」

高音の言葉を遥香が引き受ける。

「ねえ」

千里と亜里紗に引き立てられながら、華々莉が言葉を発した。

「魔法使い? あんた達、魔法少女にちょっかい出して何やってんの?」

「行きがかりで正体不明の連続殺人事件に遭遇しましたが、
私達には帰還命令が出ています」

「見滝原の刀使いは? なんかさ、素直なスズネちゃんに、
あいつが魔法少女の守護者だー、とか吹き込んだ奴がいたみたいでね。
お陰でノルマなんか全っ然こなせなかったの。
他に魔法少女から狙われる様な事やってんの?」

「地元と協力して節度を持って動いているとは聞いています。
それ以上の事は分かりません」
「あ、そ」
「ほら、行くわよっ」

鼻で笑って引き立てられる華々莉を見送りながら、
高音は指で顎を撫でて黙考していた。
242 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/24(日) 02:57:42.16 ID:khg1YZwz0

 ×     ×

「おはよー」
「おはよー」
(鹿目さん)

見滝原中学校の校門から玄関に向かう途中、
鹿目まどかは脳内に響く声に背筋を伸ばす。

(マミさん)
(お早う、鹿目さん。美樹さんは?)
(あ、あの、今朝は風邪でお休みするって)
(そう)
「どうかしましたか?」

まどかと並んで歩いていた志筑仁美が、
ふと上の空な姿を見せたまどかに声をかける。

「あ、うん、風邪、さやかちゃん大丈夫かな?」
「そうですわね。
さやかさんが風邪でお休みなんて、珍しいですから」

ーーーーーーーー

「あたしはね、高すぎるものを支払ったなんて思ってない。
この力は、使い方次第で、
いくらでも素晴らしいモノにできるはずだから」

風見野市内の一角で、決意を込めた言葉が放たれる。

「この分なら、持ち直すか」

桜咲刹那は、廃教会の屋根の上で、
建物の中から聞こえるその青い言葉を耳にしながら呟いた。

「そろそろ、戻るか………」

身を起こしながらも、
刹那は一応顛末を聞き届けようと耳を澄ませる。

「バカヤロウ! ………」
243 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/24(日) 03:04:48.90 ID:khg1YZwz0

ーーーーーーーー

「何が、起きているの?」

昼休み、二年生校舎の屋上と三年生校舎の屋上入口近くで、
それぞれ暁美ほむらと巴マミが、
前方で翻る黒いサイドポニーを眺めながら棒立ちで呟く。

「わーっ」
「すっごーいっ」

三年生校舎の屋上では、巴マミと同じクラスの女子生徒数人が
黄色い歓声を上げていた。

彼女達のクラスには最近同性の転校生が転入して来ており、
普段はむっつり不愛想な転校生が何となく興味を示したので
スマホでこっそり見ていた洋楽動画をそのまま見せたところ、
一分以内の謎の挙動を経て今に至っていた。

「ウ、ウェ、ヒヒヒ………」

ほむらの隣では、
ほむらと少々込み入ったお話しをする予定だった鹿目まどかが
思わぬ成り行きと素晴らしくハイスペックな完コピダンシングに
取り敢えず笑うしかなかったので乾いた笑いを漏らす。

その間にも、まどかの前方では、
アニメの中のアイドルダンスが、
投げキッスと共にハイクオリティで再現されていた。

==============================

今回はここまでです>>235-1000
続きは折を見て。
244 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/26(火) 01:29:13.87 ID:66NF0Ngw0

>>239差し替えです

==============================

「私は、スズネちゃんを助けてあげてたんだよ。
ニセモノの記憶で蓋をしてっ!
辛いでしょ? 痛いでしょ?
やっちゃったのはあいつら、あんたのお仲間。
終わるよ、みんな、あんた達が地獄の窯の蓋を開けたせいでね。
アーッ、ハッハッハッハッ!!」
「このっ!」

亜里紗が振り上げた拳を千里が抑えた。

「ソウルジェムが急激にっ、私の手持ちで………」
「あ、ああ、あ………つ、ばき………」
「!?」
「ああ………ツバキ………」
「!?」

頭を抱え蹲る鈴音に駆け寄ったのは茉莉だった。

「スズネちゃん、私、覚えてるマツリの事っ!」
「………」
「マツリだよっ。お話ししたよね、ツバキの事も」
「マツ、リ………」
「ずっと、ずっと探してた、ツバキの事も、スズネちゃんの事も。
スズネちゃんの事は忘れてたけど、でも、ずっと、ずっとずっと会いたかった、
ツバキと一緒にいたスズネちゃんにっ!!」

茉莉が鈴音の手を取り、焦点の合わなかった鈴音の目が
茉莉の前向きな目を捕らえた。

「………又、話がしたい。
後で………少し、長い話になる」

鈴音の返答に、茉莉が小さく頷いた。

==============================
差し替えは以上です。
一言で言って読み込み不足による修正、ごめんなさい。
今回はここまでです、続きは折を見て。
245 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/29(金) 22:50:45.70 ID:qyqyKnwr0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>243 >>244

ーーーーーーーー

オハヨー
オハヨー

「さやかちゃん、おはよ!」
「おはようございます、さやかさん」
「あ、ああ。おはよっ」

朝、せせらぎ流れる通学路で、
何時もの三人が合流し、挨拶を交わす。

「んー、ちょっとばかり風邪っぽくてね」
「さやかちゃん………」
(ふむ………)

並木、と言うか林に近い木々の中で、
桜咲刹那はそんな三人の姿を捕らえ心の中で呟く。

(空元気、ですか………視線?)

そして、改めてさやかの視線を追う。

(松葉杖の少年………成程………
………あの様子は少し厄介………彼女も?)

どちらかと言うと自分に不向きな方面の懸念に、
刹那は小さく嘆息する。
246 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/29(金) 22:54:08.39 ID:qyqyKnwr0

ーーーーーーーー

「?」
「どうしましたの、さやかさん?」

帰りのHRを終えた教室で、
つと視線を上に向けたさやかに志筑仁美が尋ねた。

「ん、いや、鼠かなって。気のせいかな?」
「嫌ですわね」

少し眉を潜めた仁美は、気を取り直して
きりっとした眼差しを親友に向ける。

ーーーーーーーー

「あら」

教室で帰り支度をしていた巴マミは、
スマホを取り出して小さく声を上げる。

「どうかしましたか?」

そんなマミに、最近クラスメイトになった桜咲刹那が声をかけた。

「ええ。美樹さん、風邪は治ったんだけど
用事が出来たので今日は先に行っててくれって」
「そうですか。私もこれから用事がありまして」
「桜咲さんも?」
「ええ、すいません」
「謝る事は無いわ。元々私の側の仕事なんだから」
「では、失礼します」

相変わらず折り目正しいクラスメイトをマミは見送る。
多分、友達と言ってもいいと思うのだが、
一方で他人行儀に見えるのは、
最近はちょっと崩れた所が見えても折り目正し過ぎるからだろうか。
247 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/29(金) 22:58:01.97 ID:qyqyKnwr0

ーーーーーーーー

(わあー)

何時ものファーストフード店で着席した美樹さやかは、
少し後に入って来た女性客を見て、少々見惚れていた。

それは、同席した友人志筑仁美も同じ、
或は、もっとお熱かも知れないと、
仁美と付き合いの長いさやかは察知していた。

さやかから見て、その女性客はよく見ると少女なのは分かるのだが、
年齢は少し年上と言った所か。
ロングと言う程ではない黒髪をポニーテールに束ね、
サングラスをかけていても美人の部類に入るのは分かる。

何より、取り立てて逞しくも見えないむしろ小柄な体格の筈が、
SPか、と言いたくなる黒いパンツスーツが何故かドハマリして見える。
そんな、年頃の女の子がふと見惚れる凛々しい雰囲気を身にまとっている。

こほん、と、仁美が咳払いをして、さやかがそちらを見る。
その一瞬に、黒スーツの少女は、
さやかの背後の背もたれの裏側にすっと触れていた。

「………それで、話って何?」

気を取り直して、さやかが仁美に尋ねる。
その頃には、二人の意識を外れた黒スーツは少し離れた席に着席し、
ジャケットの内側から伸ばしたイヤホンを耳に差していた。
248 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/29(金) 23:01:37.04 ID:qyqyKnwr0

ーーーーーーーー

さやかが帰宅して、改めて外出した時には、既に陽は沈んでいた。
これから、闇に潜む怪物を退治に行く正義の味方。
と、心を奮い立たせようとするだけで、鼻の奥が辛くなる。
そして、街灯の下に立つ大事な友達の存在に気付き、
又、胸に来る。

「まどか」

さやかが声をかける。
それでも、付いて来てくれる、付いて行きたい、と、
心からさやかを気遣ってくれる。
付き合いの長いさやかにはその真情がよく分かる。
だからこそ、その綺麗な心に触れて、
さやかはとうとう泣き崩れる。

「あんた、何で……何でそんなに、優しいかなぁ……
あたしには、そんな価値なんてないのに……」

ーーーーーーーー

影の魔女の結界内。
おぞましく、悲しい光景を前に、
目を見開き立ち尽くしていた佐倉杏子の横を、
ばびゅんっ、と、何かが突き抜けて通り過ぎた。

「ア、ハハ?」

自分を縛り上げ、持ち上げていた触手が消し飛んだ、
と、思った時には、
そう思ったさやか自身も強烈な打撃で弾き飛ばされていた。
249 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/29(金) 23:05:51.16 ID:qyqyKnwr0

「やばっ!」

前方の光景に尋常ならざるものを察知した杏子が、
まどかの元に走った。

「神鳴流決戦奥義、真・雷光剣っ!!!」

杏子がまどかをかばう中、
結界そのものを揺るがす様な大爆発が巻き起こる。

「おいっ、大丈夫か!?」
「まどかっ!!」
「う、うん、大丈夫」
「桜咲刹那っ!」
「いや………」

怒りの形相で顔を上げるほむらを杏子が制する。

「信じらんねぇけど、安全だった。
こっち飛ばさない様にあの威力コントロールするって、
どんだけなんだよあいつ」

杏子がごくりと息を飲む前で、
爆風にその身を転がしていたさやかがゆらりと立ち上がった。
そのさやかに、刹那は「白き翼の剣」の切っ先を向けていた。
250 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/09/29(金) 23:11:29.97 ID:qyqyKnwr0

「じゃま………するなあっ!!………」
「………はは………」

杏子が、乾いた笑いを漏らす。
馬鹿でかい建御雷の一振りと共に、さやかが血迷って振るった刀身は
鍔元からへし折れてどこかに吹っ飛んでいた。

「おふっ!」

そして、「白き翼の剣」の柄の底がさやかの腹に叩き込まれる。

「この………」

さやかが顔を上げた瞬間、刹那の裏拳がさやかの頬を捕らえる。

「こ、の………」
「痛くないですか?」

その声は、静かに響いた。

(なみ、だ?)
「私は、痛いです」

そして、刹那はどん、と、掌でさやかの胸を押した。

「これは、あなたの体と心が血を流して得たものです。
返却する事は私を侮辱する事と心得て下さい」

杏子は、さやかに背を向けて立ち去る刹那を見送り、
グリーフシードを手にすとんと両膝をついた
さやかの肩をぽんと叩く。

「いい先輩じゃん。あんまし独りで意地張んなよ。
何せアレだからな、
力ずくでも独りにさせてくんねーんじゃね?」

==============================

今回はここまでです>>245-1000
続きは折を見て。
251 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/05(木) 01:37:36.66 ID:zmSPctAJ0
始まったか………

原作プロローグは余韻だったけど、
13巻冒頭から繋げて来たか。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>250

ーーーーーーーー

「何やってんだ?」

佐倉杏子は、魔女の結界を出た所で、
そこに突っ立っている桜咲刹那に尋ねる。

その刹那は、ネコミミ和風メイド服と言う
堅物な刹那にしてはキテレツな姿で、
建御雷の切っ先を体の正面の地面にドン、と、突き立て、
杏子から見て薄気味悪い笑みを浮かべて立っている辺り、
悪い予感しかしなかった。

「皆さんには、
これからちょっと
ミーティングに参加していただきます」

「ミーティング?」

行きがかり上、杏子と一緒に結界を出た美樹さやかが尋ねる。

「ええ、巴マミさんを交えて、
ソウルジェムの事等々に就いてすり合わせを行います」
「どうしてあなたが仕切ってるのかしら?」
「私の事情です」

暁美ほむらの問いに、刹那はにっこり返答した。
252 :mita刹 ◆JEc8QismHg [sage]:2017/10/05(木) 01:41:13.84 ID:zmSPctAJ0

「このパーティー、あなた達は否定するでしょうが、
私から見たこのパーティーはこのまま行けば早晩瓦解します。
余所者だからこそ見える事もありますから。
そうなると、こちらとしても色々困るものでして」

「お断り、って雰囲気じゃなさそうだなぁ」

槍を肩で担いだ杏子と刹那が笑みを交わす。
そして、その一瞬の壮絶なやり取りに、
美樹さやかは目を見張った。

「今の、見切れるのかよ」

大槍を手槍のサイズに戻した杏子が、
「白き翼の剣」を八双に構えた刹那に言う。
なお、この場合の手槍とは槍術用語であり、
二分割してはめ直す様な携帯用ではない。

「身近に如意棒使いがいますので」
「やるじゃん」

次の瞬間、高速の剣と槍が再び打ち合い、弾ける。

「!? 百烈桜華斬っ!」

馬鹿長くなった槍の柄がゴム化し、
柄のしなりと共に刹那を狙った槍の穂先が
刹那の斬撃に乗せた「気」のカーテンに弾き飛ばされる。

その時には、杏子はそこに踏み込み斬り付けた刹那の一撃を交わしていた。
刹那が振り下ろした「白き翼の剣」が持ち上がる前に、
本来の機能に戻った槍の柄が上から剣を押さえつける。

「す、ごい………」

その激突に、さやかが息を飲む。
魔法少女だからこそ分かる、
やはり杏子はヴェテランの魔法少女であり、刹那は強者の剣士。
到底今の自分が及ぶ実力ではない、と。
253 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/05(木) 01:45:23.51 ID:zmSPctAJ0

ぎゃりっ、と、槍と剣が一回転し、横殴りの槍の柄を跳び越えた刹那が
タタッ、と動いて袈裟斬りに斬り付ける。
そして、空を切った「白き翼の剣」に、
上から槍の柄が叩き付けられた。

「アデアット!」

「白き翼の剣」が地面に叩き落され、刹那の新たな得物を杏子は鼻で笑う。

「どうしたどうしたあっ!?
そんなちっこいのであたしの首の届くのかよおっ!?」

叫んだ杏子が、手槍サイズの槍で幾度も突き、払いを繰り出すが、
刹那も流石にしぶとく交わし続ける。
ニッ、と、笑った杏子の目の前で、杏子の槍が多節棍に化け、
膨大な節の連結棍が、範囲攻撃と言うべき規模で浮遊を始めた。

「匕首・十六串呂、稲光尾籠っ!!」
「!?」

次の瞬間、そのまま刹那を縛り上げようと高々と動いた連結棍が、
その直前に刹那の結界術式の雷帯に絡め取られた。

「くっ!」

杏子が、自分が絡め取られる前に一度多節棍を消滅させる。
その時には、刹那の手からも得物が消え、
杏子は刹那の当て身をすれすれで交わしていた。

(まっ、ずいっ………)

もちろん、魔法少女は基本スペックが人間離れして強い。
しかし、それは現状退魔師である刹那もやり様によっては似た様なものだ。
そして、魔法少女同士で争う事はあっても、
魔法少女の仕様は魔女と戦う事を基本としている。
254 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/05(木) 01:49:24.16 ID:zmSPctAJ0

「あんた、素手もイケる口かよっ!?」
「神鳴流は武器を選ばずです」
「くそっ!」

ハメられた、と、杏子は腹の中で吐き捨てる。

自分は実戦経験はあるし、汚い事だって平気だ、と、杏子は思っていたが、
この清廉誠実を絵に描いた様な桜咲刹那こそ、実戦にも誠実と言う事だった。
気に入った、と言いたい所だが、
目下その的が自分だと言う所が最大の問題だった。

我流の素手喧嘩が魔法少女基準でも決して弱くない杏子だからこそ、
鍛錬に鍛錬を重ねた洗練された動きのキレ。
その鍛え抜いた芯があるからこそ、そこからあらゆるパターンに
応用と自信で応じる事が出来る刹那の桁違いな技量が分かる。

仕切り直そうにも、明らかに杏子の基礎を読み切っている刹那は、
杏子が槍を作り出す前に素手の間合いからの攻撃を途切れさせない。

「そらっ!」

一瞬の隙を突き、復活させた槍で突きの一撃を繰り出す。
そして、この時も、杏子の勘はハメられた、と警報を響かせた。
果たして、杏子は頭上に刹那の気配をとらえる。
つまり、跳び越えられた。
杏子が振り返るが、槍の重みに引きずられた体がワンテンポ遅れる。

「浮雲・桜散華」

ずっがぁーんっ、と、迫力の投げ技一閃。
只の倉庫街と言う場所柄、
まともな人間ならばトマト的な何かになりかねない馬鹿げた地響き。

「つーっ………」

「白き翼の剣」を回収しつつ接近する刹那の前で、
杏子は半身を起こしてぶんぶん頭を振る。
255 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/05(木) 01:53:24.58 ID:zmSPctAJ0

「つえぇなぁ、せっちゃんは」

その瞬間、ここにいる大半の者が異変に気付く。
「白き翼の剣」の刃を杏子の首筋に向けた辺りで、
刹那はぱちくりと瞬きをしていた。

「らあっ!」
「!?」

次の瞬間、杏子の頭頂部が刹那の鼻を一撃していた。

「おふっ!」

そして、杏子の拳が刹那のリバーをとらえる。

「おら、あっ………?」

距離を取った杏子が、刹那の頭に槍の柄を振り下ろす。
それは、建御雷に受け止められた訳だが、
そこで、ここにいる全員が、
何かゴゴゴゴゴゴゴゴと聞こえそうな異変に気付く。

「え、ええと、どうかした? せっちゃん?」

思わずあは、は、と笑って尋ねた佐倉杏子の記憶は、
ピキッ、と言う幻聴と共に
白黒反転した恐怖の目を見た辺りで一時中断されていた。
256 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/05(木) 01:56:46.61 ID:zmSPctAJ0

「神鳴流決戦奥義、真・雷光剣」

建御雷を一振りした後、桜咲刹那は、
「白き翼の剣」を肩に掛けて美樹さやかに向けてにっこり微笑んだ。

「棟打ちですのでじきに目を覚ますでしょう。
ちょっと予定を変更して
DEAD OR ALIVE
と言う事になりましたが、
ミーティングに参加すると言う事に異存は?」

暁美ほむらの足首に繋がる稲光尾籠の一帯を握って
とてもとても可愛らしく微笑む刹那の目の前で、
ゆっくり首を横に振る
美樹さやかの瞳のハイライトは節電モードに入っていた。

==============================

今回はここまでです>>251-1000
続きは折を見て。
257 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:10:21.24 ID:8Yz3Yo/y0
まずは訂正です。

>>253 >>256

○「稲交尾籠」
×「稲光尾籠」

です。すいません。

アニメはこのペースか。
雑誌連載ん時、神鳴流的に結構とんでもない技使われて
え? ってなったのも懐かしい。

時刻もよろしい頃合ですか。

それでは今回の投下、入ります。
258 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:14:14.41 ID:8Yz3Yo/y0

==============================

>>256

ーーーーーーーー

「こんな時間にすいません」

見滝原の夜景を望む丘の上のお花畑で、
マミに対した刹那がぺこりと頭を下げた。

「いいわ、ちょうど一仕事終えて帰る所だったから。
それでも桜咲さんからのお願いって
それだけの事があるんでしょうから」

そう言って、巴マミはちろりと刹那の周囲を見回した。

「………それで、佐倉さんに暁美さん?
確かに、この面子での話し合いだと聞いてはいたけど」
「この面子で良かったのか?」
「ええ。桜咲さんの誘いなら考えがあっての事でしょうしね」

杏子の問いに、マミが応じる。

「信用あるんだな」
「誠実な人だとは思うわ。
理由があるとは言え、魔女とも何度か一緒に戦った」

「戦場の絆、って言いたいの?」
「取り敢えず、今の所は心強い味方。
そう思わない理由は無いわ」

まず間違いなくかつての戦友。
言葉を交わすマミと杏子を見て、
さやかにもその辺りの見当はついていた。

「まず、先日少々ハプニングがありまして、
そこでここにいるメンバーが知ったある情報を共有すべき、
と言う結論に達しました」
「共有すべき、情報?」
259 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:18:01.71 ID:8Yz3Yo/y0

そこで、マミは改めて周囲を伺う。
刹那は真顔でほむらも相変わらず表情を消している。
だが、最近は、この後輩暁美ほむらも
何か無理をしていそうだと段々分かって来た。
そして、さやかと杏子は間違いなく気まずそう。

「最初に断っておきたいのですが、
俗に霊魂とか幽霊とか言われるものは、
間違いなくこの世に実在します」

刹那の言葉を聞き、正面に立つマミが目をぱちくりさせた。
周囲の面々も、刹那の切り出し方に半分は同じ気持ちだったが、
それでも、理屈として繋がる事は理解している。

「何を、言っているの?」
「すいません、おかしな話にしか聞こえないのは理解していますが、
話の順序としてここから始めるべき事でして」
「それは、退魔師として真面目に言っているの?」
「はい」

マミの問いに、刹那は真面目に返答する。

「………それなら、一度ぐらい会いたいものね、父と母に」
「既に極楽浄土より見守ってくれているものと推察します」
「有難う」
「うちは、あの死に様じゃそれ無理っぽいんだけどさー。
来るなら来いって感じだけど、まだ会った事ねーや」
「ごめんなさい、変な事言って」
「いや、いいよ今更」
「えーと、じゃあ刹那さんも悪霊退散とかやってるの?」

マミと杏子がいわゆる湿っぽい会話を交わす中で、
さやかが話を進める。

「ええ、どちらかと言うと私の同僚の方が専門ですが。
教室に取り憑いた幽霊を剣と拳銃で追いかけ回した事もありますし」
「アハハハハ(ナイスジョーク)」
「そういう訳で」

一片たりとも嘘偽りを言ったつもりの無い刹那は、
近くのさやかの乾いた笑いを意に介さず話を進める。
260 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:21:37.34 ID:8Yz3Yo/y0

「まず、大方のイメージに近い形でそうしたものが存在する。
その事は理解して下さい。
この際、直ぐに信じられなくても、
まずはその概念を前提に話を聞いて下さい」
「分かったわ」

何時も通りの真面目な口調に、
マミもお仕事モードで真面目に返答した。

「まず、通常の状態ですと、霊魂は肉体とセットになっています。
霊魂と肉体は頭と臍の緒の魂の尾で肉体とケーブル接続された状態で、
普段は肉体に吸収されて収納されています」

「そのケーブルが繋がったまま肉体と霊魂が分離すると、
幽体離脱、って言うのよね。
そして、死神がケーブルを切断する事で人は死ぬ。
漫画なんかだとこういう話になるのかしら?」

「それで合っています。
そして、一連の霊魂と肉体のシステムに関して、
少々特殊に改造している存在があります」

「………魔法少女ね」
「その通りです」
「この集まりで、只でさえオカルトな話。
忘れそうになるけど、魔法少女だって普通から見たら特殊過ぎる存在。
魔法使いじゃなければ魔法少女、そう考えるのが自然でしょう」

回答の速さに刹那がやや目を見張り、マミが応じた。
刹那がチラッと視線を送った杏子が、ふっと不敵に笑みを見せる。
成程マミがボンクラであれば魔法少女としてここまで生きていられる訳がない。

「そこまで理解して下さるなら、
これから言う事を気をしっかり持って聞いて下さい」
「ええ」
261 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:25:06.25 ID:8Yz3Yo/y0

「あなた達魔法少女の魂はソウルジェムになっています」
「ソウルジェムに?」

「はい。救兵衛は魔法少女の契約に当たり、
少女の霊魂を抜き取って固形化している、それがソウルジェムです。
但し、抜き取った上で魂を肉体を電波接続している様な状態にしているために、
ソウルジェムを所持している限りは精神が肉体を動かす事に支障はない。
そういう仕組みになっている様です」

マミが改めて周囲を伺う。
まずさやかと杏子の表情に隠せない憤りが浮かんでいる。
もちろん刹那が言っていると言う事も含め、
冗談の類の話ではない事は確かな様だ。

「そう………」

マミが、黄色いソウルジェムを掌に乗せた。

「これが私の魂。
どうしてそういう事になっているのかしら?」

「魔法少女として効率的に戦闘を行うため、だそうです。
肉体と精神が不可分である場合、肉体の損傷は死に直結する。
精神を魂と言う形で分離してしまえば、
理論上はこのソウルジェムが破壊されない限り、
幾ら肉体を破壊しても生き続ける事が出来る。
只、実際には完全に別物と言う訳にはいかないので、
肉体のストレスは濁りと言う形でソウルジェムにも反映される事になります」

「………少し、付いて行けないんだけど。
ええ、桜咲さんの説明は真面目で丁寧だった。
だから、多分理屈としては理解しているんだと思う」

「そうですね。今、初めて聞いたと言うのなら突拍子もない事ですね。
今の話には続きがあります。
肉体と魂の電波接続、その距離は百メートルが限度。
それを超えると、接続が切れて肉体は死亡した状態になる。
実の所、美樹さんのソウルジェムが事故で体から離れて、
それで、ここにいる面々はその事実を知った、と言う状態です」
262 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:28:36.43 ID:8Yz3Yo/y0

「じゃあ、その現場を見たのね?」
「ああ」

最初に聞かれた杏子が、そっぽを向いて答える。

「美樹、さん? 死に至る、って今………」
「うん、少しの間意識失ってたみたい」

「すぐにソウルジェムを取り戻して
距離を近づけたから復帰する事が出来た。
そうじゃなかったら、
肉体そのものが死亡した状態で時間が経過したら危ない所だった。
死亡に伴う肉体の損傷が進行したら、肉体も魂も完全に死んでしまうから」

さやかに続き、ほむらが説明した。

「救兵衛はいますか?」
「何だい?」
「キュゥべえ」

刹那に呼ばれ、現れたキュゥべえにマミが声をかけた。

「今の話、本当なの?」
「そうだよ」
「どうして、そんな事を?」

「彼女も言った通り、魔法少女として、効率的に戦うためさ。
生命そのものである魂を、肉体と言う脆弱な器に入れたまま
魔女との戦いをさせる訳にはいかないからね」

「そう、言ってたね」

キュゥべえの言葉に、さやかが続いた。
263 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:34:19.78 ID:8Yz3Yo/y0

「直接攻撃を受けたら、人間の肉体なんて簡単に壊れてしまう。
本当ならとても耐えられない痛みだから、
魂さえ分離しておけば、肉体は魔法で治す事が、出来る、って」

「………そう………」
「巴マミ、大丈夫?」
「心配してくれるの?」

ほむらの言葉に、マミが笑みを浮かべた。

「ごめん、なさい。美樹さん」

マミが、深々と頭を下げた。

「私はいい、契約しなければ死んでただけの事だから。
だけど、美樹さんは、
私が魔法少女の道を教えて、そして、契約を結んだ。
こんな事になるなんて知らなかった、
だから教える事が出来なかった私が、美樹さんを………」

「いい、ですよ。キュゥべえに騙されてたんですから。
マミさんも、あたしも」
「騙すなんてひどいなぁ。ちゃんと聞いた筈だよ。
魂を差し出すに足る願いはあるのか、って」
「ああ、そうだね」

さやかが天を仰いだ。

「確かに、医学の限界。本当だったらこうでもしなきゃ、
あたしの人生と引き換えにしても絶対に出来ない事をしてもらった。
それは本当の事だからね」

「少し、外してもらえますか?
あなたがここにいると、悪い予感しかしません」
「君に呼ばれて出て来たんだけどね」

既に殺意の籠る眼差しを丸で意に介さず、
キュゥべえはその場を離れる。
264 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:37:22.93 ID:8Yz3Yo/y0

「そこで、もう一つ問題があります」

刹那が話を続けた。

「むしろ、こちらの方が本題です」

刹那の言葉を聞きながら、マミとさやかは少々訝しんだ。
刹那が言ったその時、
ほむらの表情がこわばったのを二人は見ていた。

「それは、美樹さんの事です」
「あたし?」

刹那の言葉に、さやかは自分を指さし
ほむらは少々意外そうにさやかに視線を向けていた。

「色々断片的に情報を得ています、
それは、ここにいる皆も同じです。
ですから、まず、周知の事実から確認します。
美樹さやかさん」

「何?」

「あなたが契約した理由、契約の対価は、
幼馴染でクラスメイトの上条恭介の左腕のケガを治す事、
それで間違いはないですね?」
「うん。間違い、ないよ」

「不十分な説明だったとは言え、
現代医学の限界を超えた願いを、
己の命を懸ける事になってもかなえる必要があった。
そこには、それだけの個人的な想いがあった。
この、誰でも行き着く当然の推測に誤りはありますか?」

「………ない、よ。うん。
これで否定したら馬鹿みたいだよね今更」

さやかが、ははっ、と笑って答えた。
265 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:40:46.86 ID:8Yz3Yo/y0

「その想い、伝える心算は、あるんですか?」
「ないよ。無理でしょそれは。
だって、あたしもう、ゾンビなんだしさ………」

そこまで言って、さやかは息を飲んだ。
その鼻先に、長匕首の切っ先が向いている。

「巴マミさん、佐倉杏子さん、暁美ほむらさん、そしてあなた。
事情はどうあれ、命懸けの魔女との戦いを共にした。
私の大事な人の恩人、最近出来た学友。
私自身、大事な人への侮辱を聞き流す程人間は出来ていませんが、
あなたは、皆の前で今の言葉をもう一度言えますか?」

ぽろり、と、大粒の涙がさやかの頬を伝い、
さやかはそのまま座り込み泣き崩れた。

「泣きたい時は泣いて下さい。魂の濁りもまとめて洗い流して。
怖いのも、悲しいのも死にたくないと言うのも
愛しく思うのもそのために醜くあがくのも、それは、人間だからです」

「仁美に、仁美に恭介、恭介を取られちゃう、
取られちゃうよぉ………」

ーーーーーーーー

タイミングを見てマミがさやかにハンカチを渡し、
さやかが顔を拭って立ち上がった。

「少し、現実的な話をしましょう」

それを見て、刹那が口を開く。

「その事での負い目がなくなったとしても、
あなたが上条君に告白をする、と言う事には
極めて大きな問題が生じています」

刹那の言葉に、さやかがぐっと正面から刹那を見据える。
266 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:44:46.82 ID:8Yz3Yo/y0

「あなたは、己の魂を賭して上条君の左腕を治した。
言い替えるなら、それは、大き過ぎる恩義であり負い目です。
到底、対等な恋愛が成立しない程に」

さやかは、ぐっと目を見開きながら頷いた。

「私は、あなたの事を聡明な人物だと思っています」

「は? いや、だって、
可愛いかも知れないけど賢い、って事はないんじゃないかな?
だって、今だってそう。契約しちゃってからさ、
心の中こんなぐちゃぐちゃで自分が何したかったのかも本当は分からない」

「本当に大切な、守るべきものは何か?
あなたは、直感でそれを見抜く目とそれに従う行動力を持っています。
それは、最初に只の人としてあの異常な結界で鹿目さんと共にいた時から。
時に馬鹿みたいに見えるのは、小賢しさに負けないからです」

そう言って、刹那はふと天を仰いだ。

「時に台所的な俗称でも呼ばれる私達の年頃、
それも誰もが経験を持たない命懸けの魔法少女が絡めば
経験不足の未熟さ、間違いが生ずるのは当然の事です」
「刹那さんにそう言ってもらえるのは嬉しい、嬉しいよ。
でも、あたしって、そんな綺麗じゃない、と思う」

「見返りを求める気持ちですか。それはそうでしょうね。
犠牲を払う以上、それを求めるのは自然な欲求です。
それでも、救兵衛の説明に欠ける所があったとしても、
今までの命懸けの戦いを見て、それでも選択したのはあなたです。
今、守らなければならない、救わなければならないと。
己の勝手な願いだと理解して、美しくないと自覚し、
己を押し留め相手を思いやる理性を持っている。それで十分です」

「………有難う」

小さく頭を下げるさやかに、刹那が小さく頷く。
267 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:48:22.49 ID:8Yz3Yo/y0

「時に美樹さん」
「うん」
「仁美、と言うのは、先日廃工場で救出したお友達の事ですか?」
「うん」

答えたさやかは、少し辛そうに下を向いた。

「鹿目さん。その仁美さん、育ちのいいお嬢さんとお見受けしましたが」

「はい、志筑仁美ちゃん。
えっと、この辺りだと名門のお嬢様、って言われてる。
だからお稽古事とかも凄く大変で。
小学校からのお友達なんですけど、凄く優しくて、いい娘で………」

「うん、いい娘だよ仁美。
優しくて上品で美人で、恭介とも、お似合い、だよ」

はあっと息を吐く刹那。
そこは、さやかの言葉を聞いた全員が共感する。

「なるほど、仁美さんと恭介君は、
そういう事になっていると」

「明日、告白するって。
あたしが幼馴染だから一日だけ待つ、って言ってくれたんだけど、
それでも、あたし、言えなかったから、だから」

「では、三日待ってもらいましょう」

間髪入れない刹那の言葉に、さやかがぽかんと目を見開く。

「向こうが勝手に設定したタイムリミットです。
その程度の申し入れがあっても然るべきでしょう」

「い、いや、ちょっと待って刹那さんっ」
「想いを告げる、と言う事は、本当に勇気が要る事です。
魔女と戦う勇気なんか問題にならない、って言うぐらい」
「そうね」

刹那の物言いにマミがくすっと応じて、
その時のさやかの狼狽に杏子も苦笑する。
268 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 03:56:55.33 ID:8Yz3Yo/y0

「ですから、その三日でどちらの選択をしたとしても、
それは、あなたが精一杯、真摯に考えた末の結論。
誰がみっともないと言おうが、尊いものです」

「と、この人はいい人だから。
その分あたしが思いっ切り大爆笑して残念会してやるよ」
「はあっ!?」

叫んださやかは天を仰ぎ、狂った様に笑い出すさやかの姿に、
周囲がやや引き気味となった辺りでさやかは前を向く。

「あー、なんか、色々真面目に話して
思いっ切り笑って泣いて、少しすっきりしたかも」
「美樹さん」
「はい」

ふうっと一息ついたさやかに刹那が声をかけた。

「魔法を知っていますか?」
「刹那さん達、魔法使いなんでしょう?」

「ええ。只、これは魔法使い、或はそれ以外の者たちにとっても、
本当に初歩的で、そして最も尊い魔法です」

「何、それ? この流れって恋の魔法とか教えてくれる訳?」
「そんな魔法があるの、桜咲さん?」
「マミ………」

さやかを押し退ける勢いで、
瞳から大量の星を飛ばしながら食い気味に尋ねている
年上の少女の名を杏子が呟く。

「ええ、ありますよ」
「「何それっ!?」」

ずいっと迫るボーイッシュなショートカット少女と
ツインドリルなグラマーガールに
桜咲刹那は優しい微笑みを見せた。
269 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/10/10(火) 04:00:48.85 ID:8Yz3Yo/y0








わずかな勇気が



本当の魔法







ーーーーーーーー

山中の高木の枝で、龍宮真名は望遠鏡を覗いていた。

「取り敢えず平和に終わった、か」

望遠鏡の視界には、木陰から木陰へと林道に沿って移動する
暁美ほむらの姿がとらえられている。

(仮に敵意があったとしても、あの距離から刹那を討ち取る等)

鼻で笑い、一応視界が続く限り、異変危険の検索を継続する。

==============================

今回はここまでです>>257-1000
続きは折を見て。
270 :mita刹 ◆JEc8QismHg [sage]:2017/11/01(水) 03:04:46.74 ID:0XjICj8d0
生存報告です
271 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/09(木) 03:40:15.95 ID:CfIgk/oW0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>269

 ×     ×

「状況は?」

昼休みの廊下で、風の様に現れた桜咲刹那が鹿目まどかに耳打ちし、
まどかが小さく首を横に振る。
まどかが振り返った時には、既に刹那の姿はそこにはなかった。

ーーーーーーーー

「巴さん、転校生と仲いいよね」
「桜咲さん、ちょっと怖い感じだけど」
「でも、二人とも何話してるんだろ?」
「なんか、すっごい真面目な怖い顔してるんだけど………」

ーーーーーーーー

放課後、混雑を始めた廊下で、
巴マミと桜咲刹那にたたたっと駆け寄る者がいた。

「さやかちゃん、いなくなっちゃった」

まどかの言葉に、マミが額を抑え刹那が斜め下を見る。

「それで、例の件、美樹さんはまだ切り出していないんですね?」
「うん、まだ話してないと思う」
「そうですか………巴さん」

刹那の言葉に、マミは小さく頷いた。
272 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/09(木) 03:43:36.88 ID:CfIgk/oW0

ーーーーーーーー

「ん?」

見滝原中学校周辺の路上で、
刹那がたたっと風の様に近くの物陰に移動した。

「何をしているんですかこんな所で?」
「散歩だよ散歩、食うかい?」
「あら、風見野の魔法少女がこんな所でお散歩?」

刹那が貰い物のアンパンを食している隣で、
マミが杏子に質問を重ねた。

「で、いちおー言っとくが見失うんじゃねーのか?」

ーーーーーーーー

静かに移動しながら、刹那は自分のスマホを取り出した。

「もしもし、状況は?」
「私のGPSに合わせてついて来てくれ」
「分かった。学園祭で使った残りを用意したが」

「私がOKを出すまでは待ってくれ。
相手は志筑家だ、大事は出来るだけ避けたい。
それから、MSを見かけたら連絡をくれ」

「ロストしたのか?」
「そういう事だ、オーバー」

「どうしたの?」
「ええ、ちょっと仕事仲間と」

電話を切った刹那にマミが声をかけ、刹那が答える。

「この進路ですと、行先は公園ですかね?」

杖を突いている上条恭介に合わせて
前方をゆっくり進む恭介と志筑仁美を見て、刹那が言った。
273 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/09(木) 03:47:05.45 ID:CfIgk/oW0

ーーーーーーーー

「これって………」

マミの呟きに、刹那が頷く。

「緊張感が伝わって来ます。
これは、決めるつもりですね」
「あっちの坊やの方は?」
「気づいている様に見えますか?」
「ありゃ全然気づいてないな」

大きな緑地公園に入り、物陰を移動しながら、
刹那とマミ、杏子は
遊歩道を進む恭介と仁美の状況に就いて一応の結論を出す。
その時、刹那のスマホが振動した。

「ポジションはとった、
事態は危険水域と見るが、どうする?」
「そこから狙えるか?」
「ああ………いや」
「どうした?」

マイクから聞こえた舌打ちに刹那が尋ねる。

「タイミングが悪いな、西日の反射が酷い」
「人口の滝か………ちょっと待ってくれ」

スマホをしまい、刹那がさっと周囲を見回す。

「どうした?」

杏子が声をかけるが、その時には、
おおよその見当はつけていた。

「マジか?」
「巴さん、美樹さんを探して下さい、恐らくこの近辺にいます。
佐倉さんは」
「分かった」
274 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/09(木) 03:50:21.99 ID:CfIgk/oW0

ーーーーーーーー

入口は、遊歩道の構造物の一角にあった。

「おらあっ!!」

ブラッドオレンジに渦巻く空を背景に、
絵画模様の地面に立つ佐倉杏子の大槍一閃。
魔女の結界に突入した杏子に
ゾンビの如き動きでぎくしゃくと群がって来た人型の使い魔達が
ひとまとめに蹴散らされる。

「ここはお任せします。私は魔女を」
「ああっ!」

その間に、杏子が声を聞いたと思った時には
刹那はひとっ跳びの勢いで魔女の気配へと突き進む。

「出たな。神鳴流奥義・斬岩剣、斬鉄閃っ!!」

刹那は、魔女の本体を見つけるや、
そちらから群がって来た使い魔を一蹴する。

「すまないが先を急ぐ、一度に決めさせてもらうぞ。
神鳴流秘剣・百花繚乱………」
275 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/09(木) 03:54:23.10 ID:CfIgk/oW0

ーーーーーーーー

「うらんんんんんっっっっっっっっっ!!!!!???」
「!?」

使い魔相手にもうひと暴れしていた杏子が衝撃に目を向けると、
大量の桜華と共に桜咲刹那が全身吹っ飛ばされて戻って来た所だった。

「なん、だあっ!?」

そして、杏子は舌打ちして上の方に槍をふるう。

「ミサイルだあっ!? うぜえっ!!!」

まず自分に向けられた飛翔物を弾き飛ばしてから、
数を増す使い魔を切り裂いていく。

「ぐ、っ………」

ずしゃあっと、辛うじて受け身を取りながらも
白黒絵画な地面を全身で滑り終えた刹那が立ち上がろうとする。

「ぐ、っ………(あばら? こんな、時にっ)」

一旦しりもちをついた刹那が、手の甲で唇を拭う。
276 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/09(木) 03:58:03.87 ID:CfIgk/oW0

「な、何!?」
「が、せん、もん………」

背後からの声に、刹那がとっさに声を出す。

「魔女!? 大丈夫っ!?」
「え、ええ………」
「いや、脂汗酷いって、今治すから」

本当に敵だったら即斬していた所だが、
それでも断る間もなく、
当てられた掌からの感触に刹那が一息ついたと言うのも本当の所だった。

「助かりました、っ(脚も少し、か)」
「魔女はあっちだね。あんまり無理しないで、
たまには弟子もどきの活躍でも見ててよ師匠っ」

==============================

今回はここまでです>>271-1000
間が空いてすいません。
続きは折を見て。
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/26(日) 11:16:23.89 ID:q+WeEqR+0
ネギまとはなつかしなー今UQやってるけども

禁書クロス書いてた人か
今も書いてると知ってなんか嬉しいぜ
278 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/27(月) 03:41:35.75 ID:zgiCmC+l0
感想どうもです

>>277
ありがとうございます。
月日が経つのは早いものです。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>276

「このおっ!!」

わらわらと群がる使い魔を斬り伏せ、美樹さやかは魔女を探す。

(なんか、美術の教科書って感じ?
でも、あの刹那さんがやられそうになったって相当………)

周囲を伺い、
自分のいる結界の状況を把握しながらさやかが心の中で呟く。

(魔力、こっちかっ)

サイズの大きな魔力をさっちし、さやかは駆け出す。

(もしかして、あれ? ………)

魔力の出所に走ったさやかが、
使い魔を片付けながらそれらしいものに見当をつける。

「どけえっ!!」

そして、さやかは行先から一斉に群がって来た使い魔を二刀流で片付け、
跳躍していた。
279 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/27(月) 03:45:02.86 ID:zgiCmC+l0

「これで………!?」

跳躍したさやかか、一見すると建物にしか見えない魔女に
渾身の二刀を叩き込もうとマントを翻す。
次の瞬間、さやかの体は弾き飛ばされていた。

「(これ、って………?)このおおおっ!!………?」

空中で魔女を睨み付けたさやかが、
魔力を練って空中に何振りもの剣を発生させる。
後方に弾き飛ばされていたさやかか、
遠ざかる魔女の正面に向けてその剣を一斉に飛翔させた。

「………え、っ?」

違和感、次に痛み。
さやかはとっさに痛覚を遮断する。

(や、ばい?
あんときはヤケだったけど、覚えてて、良かっ、た?)

地面に叩き付けられたさやかは、
左の腿を剣に射抜かれた左脚を引きずり、
胸のど真ん中を貫通して突き刺さり、
墜落の弾みでもう少々肉を抉った別の剣をどうしようか少々思案する。

「!? (ミサイル、って………)」
「さやかあっ!!!」

侮れない雄叫び攻撃で苦しめて来た使い魔を片付け、
佐倉杏子が爆炎上がる戦場に駆け付けた。
280 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/27(月) 03:48:11.10 ID:zgiCmC+l0

「た、たた………」
「おらあっ!!!」

直撃に近いミサイル攻撃を受け、
立ち上がろうとするさやかの側で、杏子の槍が使い魔を一蹴する。

「サン、キュー。」
「おっ」

杏子が魔女を見た時、魔女には大量の黄色い紐が巻き付いた所だった。

「ティロ・フィナーレッ!!」

魔女の背後からの爆発音と共に、魔女はその姿を消した。

ーーーーーーーー

「た、たたた………」

魔女の消滅を確認したさやかが、取り敢えず身を起こし立ち上がる。

「おいおい、ひどい有様だって」
「あ、ホント。
ちょっとヤバかったんで痛覚切ってたから」

そして、さやかはずぼっずぼっと体から剣を抜き、
空いた穴やら折れた骨やらを魔法で修復する。

「ん?」

そして、気配に気づきそちらを見る。
281 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/27(月) 03:51:31.99 ID:zgiCmC+l0

「あ………」
「さ、やか?」
「あ、きょうす………」
「く、来るな」
「え?」
「来るな、来るな化け物っ!
さやかに化けて僕らを騙すつもりかっ!?」
「ち、ちょっと恭介? 仁美っ………」
「騙されませんわっ、
さやかさんに化けてわたくしたちを騙すつもりですのっ!?」
「おいっ、お前ら………」

杏子が剣呑な眼差しと共に動き出そうとした時に、
さやかは踵を返していた。

「匕首・十六串呂」
「へっ?」

青春の逃避行へと駆け出した美樹さやかは、
気が付いた時には幾筋もの帯の中に絡め取られていた。

「稲光尾籠」
「へ? えええええっ!?!?!?」
「………」

稲光と共に帯が消え、
その場にぱったり倒れたさやかを杏子は少々不思議そうに見下ろしていた。

「さて、あなた達」

百戦錬磨の杏子からしてそうであるからして、
目が点になっていた上条恭介と志筑仁美が振り返ると、
そこでは見覚えのない少女が優しく微笑んで声をかけて来た。

「取り敢えず、逃げたら無事は保障しませんよ」

目の前で野太刀夕凪をすとん、と、地面に突き刺され、
微笑む刹那の前で恭介は左腕の杖を手放し仁美に支えられた。
282 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/27(月) 03:55:02.03 ID:zgiCmC+l0

「初めまして、私は桜咲刹那、
最近転校して来た見滝原中学校の三年生です」
「それはご丁寧に、
見滝原中学校二年生志筑仁美です」
「あ、二年生、上条恭介です」

刹那に合わせて丁寧に一礼する仁美を見て、
恭介もそれに倣っていた。
この時仁美は察していた。
この桜咲刹那と言う自称先輩、
少なくとも余所行きの立ち居振る舞いを叩き込まれた人物であると。

「既に、この空間が
あなた達の常識が通じない状況であるとご理解いただけると思いますが」
「それは、確かに」

刹那の言葉に仁美が応じる。

「それを前提に論より証拠から始めましょう」
「?」

言葉と共に刹那が腕を×字に組み、
二人はそれを不思議そうに眺める。

「!?!?!?」

ここにいるほぼ全員、
行きがかり上少し遠くで成り行きを見守っていたマミを含めて目を見張る。

「暴れたら危ないですよ」

そして、気が付いた時には、
距離を飛ばす様に接近していた刹那の両腕に抱えられる形で、
恭介と仁美は空中に浮遊していた。

「非常識な話である事を、実感いただけましたか?」
「はい」

コクコクコクコク首を縦に振る恭介の側で、
刹那の問いに仁美が応じていた。
283 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/27(月) 03:58:29.01 ID:zgiCmC+l0

「簡単に言いましょう。
この世界には、あなた達が知らない所で人間を食らう魔物がいる。
そして、それを退治する側の者もいる。
私もそうですし、美樹さやかさんもしかりです」
「さやかが!?」

恭介が驚きの声を上げる隣で、
仁美が力強くこちらを見るのを刹那は見ていた。

「そうです。詳しい事情は申し上げられませんが、
事情により彼女はテレビのヒーローの様な使命、能力を持つ身となっています。
つまり、あの様な魔物を狩る立場です。
ですから、先ほどあなた達が見た様に、
身体や回復の機能が人間離れして強化されている所もありますが、
中身、少なくとも頭の中身は
間違いなくあなた達の知っている美樹さやかさんです」
「………謝らなくては………」

ぽつりと言った仁美に、刹那が小さく頷く。

「そ、そうだ、さっきさやかに、っ………」

恭介が気が付いた時には、その鼻先に夕凪の鞘の底が向けられ、
恭介は腰を抜かしそうになった。

「もちろん人に知られてはならないミッションであり、
今回はその無知と言う事で、むしろこちらの不手際と言う事で聞き流しますが、
私としても、
大切な仲間を侮辱された時為すべき事は心得ているつもりです」
「はい」

一瞬、杏子ですらひやりとする眼差しが向けられたが、
それでも、恭介は精一杯の返答を返す。
刹那は静かに微笑んでいた。

「では、先ほどの私の説明を聞いたと、
美樹さんにはそう伝えて、後は今まで通り接してあげて下さい。
今後、この件に関しては深く関わらず、もちろん他言無用で」
「はい」
「分かりました」
284 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/27(月) 04:01:38.48 ID:zgiCmC+l0

「只、少々よろしいですか?」
「はい」

ついっと目で促され、仁美がちょっと恭介を離れて、
歩き出した刹那に接近する。

「そういう訳で、実の所さやかさんがこの役についたのはごく最近の事でして、
あなたに悪気が無いのは重々理解しているのですが、
その事でここ数日些か精神的な負担が大きかったと言う事情がありましてですね。
長くは言いません、私がさやかさんから無理に聞き出した例の案件を
せめて三日だけでも延長していただけないかと。
これは、あくまでお節介な先輩からの勝手なお願いとして、
嫌なら聞き流していただきたいと」

「分かりました。
魔物とやらから助けていただいた事、侮辱してしまった事は本当ですから、
こうした貸し借りを放置するのは余り好きではありませんので」

「ありがとうございます」

「………愛されているのですのね、さやかさん」
「少々面倒ですが、むしろだからこそ好ましい気性だと」
「ですわ」

思わずほおほおほおーっと呼吸する刹那に、
仁美は実に魅力的な微笑みを返し、
刹那の優しい微笑みに見送られて仁美は秘かな想い人の元に戻る。
285 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/27(月) 04:05:05.09 ID:zgiCmC+l0

ーーーーーーーー

「さやかっ!」
「さやかさんっ!!」
「ん、んーっ………」

薄目を開き、見覚えのある顔を認識したさやかがガバッと跳ね起きた。

「ここ、って………」
「良かった、気が付いた」

恭介がほっと胸を撫で下ろし、さやかが周囲を見回す。
さやかが横たわっていたのは、公園のベンチだった。

「あ、あの、さやか………」
「桜咲先輩から伺いました」

毅然とした態度で言う仁美に、さやかが目を見開いた。

「詳しい事情は教えていただけませんでしたが、
何やら人を害する魔物を狩る特別なお仕事をなさっていると。
先程は事情も分からず酷い事を言ってしまい、
本当に申し訳ありませんでした」
「ごめん、さやか」

仁美に続き、恭介も深々と頭を下げるのを見て、
茫然としていたさやかもくしゃっと笑った。

「うん、いいよ、分かってくれたんだったら」
「良かった」

「いやー、そりゃあんなのびっくりするよねー」

「うん。よく分からないけど、有難うさやか。
それに、ごめんね」
「有難うございます」
「どういたしまして」
286 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/27(月) 04:08:43.32 ID:zgiCmC+l0

「さやかさん、少々女同士のお話を」
「………分かった」

仁美に促され、さやかと仁美が石造りの柱の陰に移動する。

「この様な騒ぎがありましたから、
今日の所は保留させていただきます。
ここは一度、休戦と言う事に致しましょう。
近い内にリミットをお話合い出来ましたら」
「………分かった、仁美がそう言うなら」
「それでは」

魔女退治の作戦会議に匹敵する眼差しで応じたさやかの前で、
仁美がにこっと笑って大きな声を出す。

「そういう訳で、今後もさやかさんはさやかさん、
その事に変わりはないと言う事を」
「うん、そうしてくれるんなら」

仁美の言葉にさやかが言い、恭介も頷いていた。


「いい先輩ですわね」
「うん」
「………白き翼のナイト様………
いえ、サムライですか」
「ん?」

仁美の呟きをさやかが聞き返し、
仁美は可愛らしく微笑んだ。
287 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/11/27(月) 04:13:06.39 ID:zgiCmC+l0

ーーーーーーーー

「余り無理しちゃ駄目よ。桜咲さんは魔法少女ではないし、
私も美樹さんや近衛さん程得意なタイプじゃないんだから。
悪くすると後遺症が残るわよ」
「面目ない」

公園の構造物の陰で、刹那の脚を手で包み込みながらマミが言い、
脂汗を浮かべていた刹那がぺこりと頭を下げる。

「おーおー、無理しないでさやかに頼んどきゃ良かっただろうに」
「………先輩の矜持、ですかね」
「だわな」

佐倉杏子と桜咲刹那が苦笑を交わし、杏子が紙箱を差し出す。

「食うかい?」

==============================

今回はここまでです>>278-1000
続きは折を見て。
288 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/02(土) 03:41:26.71 ID:Yt6D+SED0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>288

 ×     ×

「大きいねー」
「芸術ね」
「芸術、ねぇ………」

巨大なダビデ像を見上げ、
素直な感想を漏らした鹿目まどかに暁美ほむらが続く。
その側にいるまどかの幼馴染美樹さやかは、と言えば、
巨大な芸術には少々思う所があるのか
やや複雑な感慨を漏らす。

「近衛さん」
「こんにちは」

その側で巴マミと近衛木乃香が挨拶を交わす。

「遠路はるばるおおきに」
「こちらこそ、お招きいただいて」
「有難うございます」

丁重に頭を下げる木乃香にマミも礼を返し、
まどかもそれに倣った。

「来てくれたんやなぁ」
「ああ、ご馳走してくれるって言うからな、
作法は期待するなよ」
「おおきに」

不敵に笑って言う佐倉杏子に木乃香がにっこり応じ、
どうにも叶わない、と杏子は苦笑する。
マミの側にいたまどかは木乃香の隣に視線を移す。
289 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/02(土) 03:44:37.68 ID:Yt6D+SED0

「いらっしゃい、麻帆良にようこそ」
「有難うございます」

ふっ、と、まどかと目が合った桜咲刹那が優しく微笑み、
双方丁寧に礼儀を交わす。

(桜咲刹那………)

その様子をほむらが伺う。

「転校生、二つばかり言いたいんだけど」
「何かしら?」
「やっぱり、刹那さんこっちがホームだよね、
特にこのかさんの隣。
の、割には、まどかと目と目で通じ合ってる。
やっぱ、保護欲誘うのかなまどかって」

どうも聞こえそうな声でひそひそ問いかけるさやかの声を聞き、
ほむらとしては変に鋭い青魚の顎の下に銃口を突っ込む事を
一瞬の妄想で済ませて素知らぬ顔を作る。

取り敢えず、週末を利用しての木乃香からのお茶会の誘いが
多少の伝言を経てこのメンバーに齎され、
こうして麻帆良学園都市女子校エリア
ダビデ広場に集合して今に至っていた。

それに合わせて、
見滝原に滞在していた桜咲刹那も一度麻帆良に戻っていたらしい。

「ほな、行こか」
「え、ええ」

木乃香の声に、つと周囲に視線を走らせていたマミが応じた。
290 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/02(土) 03:47:49.86 ID:Yt6D+SED0

ーーーーーーーー

「わあー」

今度こそ、まどかとさやかが感嘆の声を上げた。

「近衛さん素敵」
「おおきに」

マミの言葉に、振袖姿の木乃香が素直に応じた。

「うんうん、マジ可愛いっすよ、
なんか舞妓さんみたいと言うか」
「おおきに」

さやかの言葉に木乃香がにっこり微笑み、
さやかは脇腹に鈍い痛みを覚える。

「何? 転校生?」
「この場合、舞妓さんって言うとちょっと失礼なのよ
京都のお嬢様には」

さやかの囁きに、
肘鉄を打ち込んだほむらに代わりマミが渋い顔で囁く。

「あ、いや、あはは、流石は京都のお姫様、
でもホントに可愛いですよ」
「はい、お人形さんみたいです」
「おおきにな」

そんな挨拶を交わしながら、まどかが視線を動かす。

「て言うか、刹那さんも格好いいですよ」

さやかの言葉に、白小袖緋袴の刹那が小さく頭を下げた。

「そろそろ、始めましょう」

かくして、一同毛氈に移動する。
291 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/02(土) 03:51:23.63 ID:Yt6D+SED0

「でも、学校の敷地にこんな所あるんですね」
「普段は茶道部で使こてるけど、空きがあって申請通ったさかい」

周囲の日本庭園を見回すさやかに木乃香が言った。

取り敢えず、事前にマミから一応の注意を受けていたとは言え、
この庭園で実際がさつ者の自分が見ても溢れる気品が眩しい
振袖姿の木乃香を前にして、
自分の格好を見て上条恭介のコンサートを経験していて良かった、
と美樹さやかは思う。

付け加えると、その点はまどかもおよそご同様、
マミも一応のドレスコードを把握し、ほむらは制服姿で
杏子も、まあ見苦しくはないと言う辺り。
木乃香の一番側に正座したマミと木乃香が言葉を交わし、
マミに合わせて一同もお辞儀をする。

「お先に」
「頂戴します」

まずはお菓子の羊羹が回される。
実際にはマミも丸暗記に近かったが、
それでも、他の面々はこちらで用意されていた懐紙を使い
マミに倣って菓子を食する。
平均的に言って、上品な甘さ、取り敢えず美味しいのは確か、
と言うのがここの面々に辛うじて分かる評論だった。

ここまでの手順も、そして、茶を点てる手前も淀みなく、
木乃香からマミに茶碗が回される。
マミが口をつけ、杏子に続きさやかに。

「………曜変天目………」

ぼそっ、とした杏子の囁きに、さやかの手が止まる。
ダラダラダラと汗を流しながら、
さやかがガチガチガチと主人席に顔を向ける。
そちらでは、木乃香は相変わらず
天然なんだか京女なんだかと言う微笑みを返す。
292 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/02(土) 03:54:53.88 ID:Yt6D+SED0

「悪い冗談よ」

少し叱責する様なマミの囁きが聞こえ、
さやかがようやく茶碗に手を伸ばす。
さやかからまどか、ほむら、最後に刹那。

「結構なお点前でした」
「おおきに」
「有難うございました」

まあ、平均的には、
真面目な素人中学生はこんなものだろう、と言う茶席だった。

「はぁー」
「ウェヒヒヒ」

脱力するさやかにまどかが苦笑いするが、
にこにこ微笑みを向ける木乃香を含め
お互い不快なものではない。
心地よい緊張感と敬意。さやかは、又あの演奏を聞きたい、と思った。
293 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/02(土) 03:58:07.50 ID:Yt6D+SED0

ーーーーーーーー

「ほな、続きは………」
「ごめんなさい」
「え?」

めいめい動き出した辺りで、言葉を遮るマミに木乃香が聞き返す。

「ちょっと、お友達から急ぎの連絡で、先に行っててくれるかしら?
用事が済んだら連絡するから」

片手で謝るマミに、ちょっと困惑しつつも木乃香が頷き一同が動き出した。
一度東屋の陰に入ったマミが、先行した面々を追う様に動き出す。

ーーーーーーーー

(見滝原にもそこそこあるけど………)

日本庭園を出た巴マミは、
女子校エリアの路上で周囲の光景に少々心を奪われる。

(こういう西洋意匠、私は好きだけど………)

次の瞬間には、マミは駆け出していた。
294 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/02(土) 04:01:58.99 ID:Yt6D+SED0

ーーーーーーーー

ヨーロッパ風の建物と建物の間、
黄金に近い黄色の輝きと共にそこに駆け込んだマミは、
耳で追って斜め上を見る。
そちらでは、人影がタンタンターンッと壁を蹴って別の壁へ、と言う形で、
上へ上へと跳躍している。
その時には、マミの肩にはバズーカ的なものが担がれていた。

「!?」

砲弾は跳躍する人影をすり抜けて追い抜き、
上空で弾けて幾筋ものリボンを降らせる。
人影は、跳躍から落下に転じ、地面をジグザグに動き始める。

一瞬、相手がマミを狙った一瞬をとらえ、
マミが右手に握ったアンティーク拳銃を発砲する。
その銃弾は鋭く交わされ、マミの目の前で、
動きにデタラメさが加わったゴム鞠の様な跳躍が弾ける。

ざっ、と、振り返ったマミが左手の拳銃を発砲した時には、
マミは腹の下に気配を感じていた。
路地裏に、ごうっと旋風が一回りした。

「バスケットかしら?
得意のアクロバティックを少し過信したわね」

マミの右手に握られたリボンが、
目の前で魔法拳銃を握る相手の右手を引きつりながら白い首に絡みつく。

「降参して付け回す理由を話すなら綺麗に治癒してあげる。
暴れるなら、死ぬわよ」

魔法アンティーク拳銃を左手に握り見下ろすマミから見えるのは、
ざっとくくった黒髪、地面に赤い血を吸わせている撃ち抜かれた左足の甲。
ビスチェタイプの黒い衣装から
半ばはみ出した白い膨らみその豊かさを示す深い谷間。

==============================

今回はここまでです>>288-1000
続きは折を見て。
295 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 03:50:11.63 ID:70vzDXqZ0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>294

「!?」

捕獲した尾行者の右腕と首に絡み付いていたリボンが切断され、
巴マミはざっと飛び退く。
リボンを切断した銃弾が近くの壁にぴしっと着弾したかと思うと、
マミは両手持ちしたマスケット銃を斜め上の空に発砲していた。

「く、っ」
「ちっ!」

その間に、リボンを逃れた尾行者明石裕奈が左足を引きずってその場を逃れ、
マミは飛来する銃弾を避けて裕奈と距離をとる。

(あの隙間から狙い撃ち、っ!?)

魔法でばばっと生成するマスケット銃で反撃を行いながら、
立ち並ぶ建物の隙間を抜ける敵方の銃弾にマミが舌を巻いた。
無論、魔法の力により、
その銃弾は本来のマスケット銃の威力よりも遥か遠くの空を貫く。

「ゆーなっ!?」
「あ、ああ」

表通りに出た所で、裕奈は無理に笑顔を作る。

「どうしたん!? 今治すなっ!」

路地裏では、たんっ、と、後ろに跳躍しながら、
マミが両手のマスケットを発砲する。
その銃弾は地面に突き刺さっていた。
地面に突き刺さった銃弾からぶわっ、と、膨大なリボンが下から上に噴出し、
巴マミはリボンの壁を前にしながら建物の壁から壁へ、
手に持ったリボンをアンテナや鉄柵に絡めながら上へ上へと跳躍していた。
296 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 03:53:41.53 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「!?」

すたんっ、と、巴マミが建物の屋根に着地した所で、
次の瞬間にはスリップして屋根に手をついていた。
マミが、右手に生じさせたアンティーク拳銃で、
自分の右足首に絡み付き引っ張られたピンク色のリボンを銃撃する。

その次の瞬間には、
とんとんーっと弾む動きで急接近して来た相手を認識し、
びゅびゅっ、と、振られた棍棒を交わし、マスケット銃の打撃で弾き飛ばす。
相手が距離をとったためマスケットで発砲したが、
その相手は見事な跳躍で横に交わす。

(バスケットの次は新体操?
魔力も感じるしレオタードって間違いなく魔法で変身の類。
動き自体、跳躍に柔らかさも少し、いや………)

ガンガンガンッ、と、棍棒とマスケット銃が叩き合い、
ぱあーんっ、と、発砲したがその銃弾は彼方へと無為に飛び去る。

(かなり、厄介ね)

空中で、ピンクと黄色のリボンが絡み合い、引っ張り合う。
マミが手を放し、
ピンクのリボンを引く佐々木まき絵が姿勢を崩した瞬間、
マミはばばばんっと屋根に発砲して後ろに跳ぶ。

「わっ!」

屋根に埋まった銃弾からぶわっと黄色いリボンが噴き出し、
たたたっと接近して間一髪リボンに飲まれそうになりながらも
まき絵は一度後ろに跳躍し、迂回していた。
297 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 03:56:54.36 ID:70vzDXqZ0

(もらった、あっ? ………)

>字型のステップ跳躍でリボンを避け、
そのまま斜め前方にいるマミに跳躍したまき絵は、
華麗な捻りと共に目の前のマミのベレー帽を棍棒で一撃し、
ぼこんっ、と言う感触がまき絵の手に伝わる。

その瞬間、たんっ、と後ろに跳躍しながらまき絵がリボンを放った。
次の瞬間には、マミの形をしていたリボンがぶわっと解けて膨張し、
ごうと渦巻きまき絵を飲み込まんとした大量の黄色いリボンに
まき絵が放ったピンクのリボンが絡み付き、縛り上げていた。

膨張したリボンがまき絵の手で締め上げられ、
まき絵はその向こうに一瞬、マスケットを構えたマミの姿を見る。
マスケットから放たれた銃弾が、
まき絵の左手から放たれた棍棒を弾き飛ばす。
その時には、まき絵は高々と跳躍していた。

ざざっ、と、双方向き直して対峙する。
まき絵が棍棒を、マミがマスケットを構え直そうとした所で、
マミは一瞬視線を横に向けた。
きらっ、と、遠くの銀の光を目に感じたマミがたんっ、と、飛び退く。

そちらからの銃弾が屋根の上を突き抜け、
マミが両手持ちしたマスケットをだだだんっと屋上に撃ち込みながら、
その銃弾から噴出するリボンの壁に足を止めるまき絵を後目に
マミは屋根から別の屋根へと跳躍した。
298 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 04:00:51.59 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「!?」

麻帆良学園都市女子校エリア内にある取り壊し予定の店舗ビルの屋上で、
龍宮真名は愛銃レミントンM700を置く。

そして、背後に颯爽と現れた巴マミの姿を二挺拳銃で容赦なく撃ち抜き、
その巴マミに化けていた大量のリボンが渦巻いて真名を襲撃するのを
少々高価な爆符で吹き飛ばす。

真名がその身を翻し二挺拳銃を発砲する。
マミは、それを横っ飛びに交わしながら両手のマスケットを発砲する。

「!?」
(今回はコスト割れだな)

高く跳躍していた真名は、
爆符の爆発と共に真名は床に空いた穴へと消える。

「!?」

着地した真実は、
前方の天井が爆発して何かがぶち抜けるのを目の当たりにする。
その天井から瓦礫と共に落下して来た巴マミは、
ぱん、と、柏手を打つ。
外側に開く両手の動きに合わせ、何挺ものマスケット銃が空中に浮遊した。

(威力はある、大量に発生させる事も出来るが
マスケットはマスケット、足利義輝タイプか)

廊下を低く跳躍し、頭上を突き抜ける銃弾を感じながら、
真名は二挺拳銃を発砲する。
双方の銃弾が交わされ、たんっ、と、双方が前に跳んだ。
どんどんっ、と、双方が手にした拳銃、マスケットを発砲し、
双方が身を反らしたそのすぐ前の空中を銃弾が飛び去った。
299 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 04:04:08.22 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「ほら、埒が明かないわ」

取り壊し予定の店舗ビルだった瓦礫地帯で、
一歩程度の距離の龍宮真名にマスケット銃を向けた巴マミが言った。

「ああ、そうだな」

片手拳銃の龍宮真名が、
右手に握るデザートイーグルの銃口をマミに向けたまま低く呟く。
次の瞬間、マミの左手が彼女の首元からリボンを引き抜き、
猛スピードでマミに迫る五百円玉を弾き飛ばす。
たたんっ、と、瓦礫の上で双方距離を取り、
びゅう、と、マミが振り下ろしたリボンの房が
飛来する五百円玉を叩き落とす。

「!?」

そして、双方が銃口を向け直そうとした瞬間、
その足元で衝撃が弾けた。

「どうもー」
「あなたはっ!?」

そこに現れた明石裕奈が二挺の魔法拳銃を手ににへらっと笑い、
それを見たマミが声を上げる。

「うん、色々有耶無耶にして欲しいって言う
ここまでの努力は非常にありがたいんだけど、
ここは一つ私に預けてくれないかな?」

「それは、学園警備からの要請と受け取っていいのか?」
「その辺は、さ。話通しとくから頼むわ龍宮さん」

「………いいだろう」

「って、事で、それぞれみんなここ離れて、
あなたは私に付いて来て。
そうした方がいいと思うよ、この状況見ても」
「そうね、是非納得のいく説明をいただきたいものね」
300 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 04:07:20.74 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「派手にやったねー、
近づいただけでも口ん中じゃりじゃりしてる」

第二体育館のシャワー室で、
土埃を洗い流しながら裕奈が言った。

「シャワーを浴びて、と言うかそれ以前に、
ケガは大丈夫なの?」

その裕奈に案内され、
裕奈の隣のシャワーブースでシャワーを浴びながらマミが尋ねる。

「うん、大丈夫。
身近に治癒魔法使える仲間がいるから」
「近衛さんの事?」
「あれは特別、
あれ程じゃなくてもまあ筋はいいって言われてる私の仲間」

拭いた体を着替え筒に包み、
黒髪をバスタオルで拭いながら裕奈がブースを出る。

「そっちこそ、ケガない?」

同様に、ブースから出て来たマミに裕奈が声をかけた。
301 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 04:10:30.72 ID:70vzDXqZ0

「ええ、これからお友達と合流するから、
シャワーを借りて正直助かった」
「どういたしまして」

「もっとも、元はと言えばあなたのせいなんだけど、
一体あなたは何者でどういうつもりなの?
あなたも魔法使いでいいのかしら?」

「最後の質問に就いてはYes、
魔法使いの明石裕奈、よろしく凄腕のマギカさん」
「巴マミよ、魔法使いが私達魔法少女に敵対するつもりなのか、
きちんと説明して頂戴」
「分かった」

真面目に釘を刺すマミに、
少々軽薄にも見えた裕奈も真面目に応じた。

ーーーーーーーー

「マミさん、遅いね」
「何やってんだろ?」

麻帆良学園女子中等部寮643号室で、
テーブルの前に座ったまどかとさやかがひそひそ話をする。

「お待たせ」

そして、台所から木乃香がお盆を持って現れた。

「美味しい」

木乃香が入れた紅茶に、さやかが声を上げる。

「やっぱり、このかさんの紅茶って美味しいわ、
マミさんもそうだけど、
あたしなんかがやるのとは段違いだもんね」
「美味しいです」
「おおきに」

さやか、まどかと木乃香が言葉を交わす中で、
ほむら、杏子と刹那もめいめい紅茶を楽しむ。
302 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 04:13:54.84 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

マミは、肩の上からこちらを見る子どもと目が合い、
くすっと微笑んでいた。

裕奈はマミを案内して教会に入り、
ちびっこシスターをおんぶした同年代のシスターと言葉を交わす。

小さなシスターはすとんと着地して、
おんぶしてくれたシスターと共にその場を離れる。
その仲の良さそうな二人をマミは微笑ましく見送っていた。

「そうだね、何処から話そうかね?
取り敢えず、折角麻帆良に来たのに
不快な思いをさせたのは謝る、この通り」
「それは、ここからの説明次第ね」
「そうだね」

裕奈とマミが、中央近くの長椅子に並んで座る。
もちろん油断なく目を配っていたつもりだが、
この時点で、マミはもう余り悪い印象を持ってはいなかった。

この明石裕奈、さっぱりとして見える気性はさやかにも似ていて
憎めない明るさと芯の強い真摯さが見える。

確かに割と本気の攻防はあった訳だが、
利害の衝突で刃物沙汰になりかねない、
そういう日常を送っているのはマミも同じだ。
大体、ダメージ自体は裕奈の方が大きいもので、
譲れないものがあっても、それが常に個人的な好悪に直結するとも限らない。
先程は、湯殿に通せば丸腰の所を襲撃出来る、
と思っているなら魔法少女相手にむしろ好都合だと誘いに乗ったが、
全くそんな事もない善意のお誘いだった。

「さっき、学園警備とか言ってたわね」
「うん、まあー、私の所属、かな?
魔法使いの事は知ってるんだよね?」
「ええ、一応の事は桜咲刹那さんから聞いてる」
303 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 04:17:19.01 ID:70vzDXqZ0

「そ。この麻帆良学園そのものが関東の魔法の一大拠点であり
関東魔法協会の中枢って事になるんだけど、
関東魔法協会の正式な組織として麻帆良学園の警備に当たるのが学園警備。
私はそこでエージェントの見習いをしている。
もう少し言っちゃえば、学園警備と3Aの二重スパイってとこかな?」

「二重スパイ、ってそんな事言っちゃっていいの?」

「それじゃあ、パイプ役って事にしとく?
3年A組が独自にあなた達マギカ、
魔法少女と接触して動いているみたいだから、
そっち関係で何かあったら報せる様にって先輩から言われててさ。
そしたら、このかちゃんがあんたらこっちに呼ぶって小耳に入ったから
探り入れてたらこんな感じになったって事で」

ーーーーーーーー

「でも、凄いっスねーこのかさん」
「ん?」

「だって、あんなばっちり野点して、
それで紅茶もこんなに美味しいって。
正に和洋折衷流石はお嬢様」

「ややわー」
「ま、旨いモンは旨い」

さやかの誉め言葉に木乃香がころころ笑い、
楽な姿勢でクッキーを口にしながら杏子が言った。

「ふふっ、うちも知ってたけど教えてもろたからなぁ」

暁美ほむらが一人静かに紅茶を傾け、ちらっと視線を走らせる。

「それはもしかして、この子が関わりあるのかしら?」
「えっ?」
304 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 04:20:38.27 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「3年A組、って、学校のクラスみたいに聞こえるんだけど」
「そうだよ」

マミの問いに、裕奈はあっさり応じる。

「ええと、ごめんなさい。
学園警備が魔法協会の正規の組織なのはいいとして、
学校のクラスとの二重スパイ?
そう言えば、この学校自体が………」

「うん、麻帆良学園と関東魔法協会がイコール、
現実問題としてこう説明しても否定するほど間違っていない」

「それじゃあ、あなた達のクラス、ここの学校は魔法使いの学校か何かなの?
あの、えーと例えばホg………」

「あーごめんちょっと違う。
確かにそれこそイギリスにはガチでそういう学校もあるみたいだけど、
麻帆良学園に関しては微妙に違うんだわ」
「訳が分からないわ」
「そうだね」

微笑み、同意しながら裕奈はスマホを操作する。

「どっから説明したらいいかなーって思ったけど、
やっぱりここからかな?」
「………この子? ………」
305 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 04:24:07.16 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「図書館?」

ほむらが目で指した先、写真立ての写真を見てさやかが言う。

「ではないわね、個人の書庫かしら?」
「うん、ちょっと高い所にあるねこの本棚」
「それに、さっきからよく見かける制服だから、
ここの学校の行事、或いは調べもの」
「ああ、さっきからよく見かける顔が二つ程写ってるな」

ほむらの推測に続き、
杏子が視線を走らせた先で刹那はポーカーフェイス、
このかがにっこり微笑んだ。

(近衛木乃香はとにかく、
桜咲刹那のこの柔らかい笑顔。そして………)

「可愛い」

さやかが、ぽつりと言った。

「何て言うか、国際色豊かなの?
金髪の女の子とか白人の男の子とか」
「いや、ちょっと待て」

そこで杏子が言う。

「子ども、だよなこれ?」
「そうね、明らかに子どもなのに同じ制服を着てる。
男の子の格好も、ちょっと珍しいと言うか」
「あれ? もしかしてこのかさんの紅茶って?」

話を元に戻したさやかに、木乃香がにっこり微笑んだ。

「そうや、一緒によう勉強したなぁ」
「この子って………」
306 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/04(月) 04:27:21.71 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー


















ネギ・スプリングフィールド


















==============================

今回はここまでです>>295-1000
続きは折を見て。
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/12/04(月) 07:54:46.34 ID:fQfvgeXVO
F9 色盲絵師 福島 炎上 業者 まどか☆マギカ マギアレコード アニメ板
https://2ch.me/vikipedia/F9
308 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 16:45:04.55 ID:wCTSvUcm0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

ーーーーーーーー

>>306

「白人? 可愛い男の子ね」
「でっしょー」

スマホを手ににへらっと笑った明石裕奈の横顔を、
巴マミは微笑ましく見ていた。
まるで、自慢の弟を誉められた様だと。
そして、裕奈がすっすっとスマホを操作する。

「これが、3年A組、私達のクラス」
「………見知った顔が何人もいるけど………
この子、さっきの男の子よね?」
「うん。ネギ・スプリングフィールド、
私達の担任の先生」

ーーーーーーーー

「これが、うち達のクラス3年A組や」

女子寮643号室で、
近衛木乃香がミニアルバムの集合写真を見せていた。

「あ、このかさんに刹那さん………
さっきの男の子?」
「ますますおかしいわね」

美樹さやかの言葉に暁美ほむらが続いた。

「その辺りの事は、私から」

口を開いたのは、桜咲刹那だった。
309 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 16:49:39.57 ID:wCTSvUcm0

「最初に、今私達がいる麻帆良学園。
この学園自体が、関東魔法協会とイコールに近い関係にあります。
表向き普通の学校で、
実際に普通の生徒や教師も少なからず在籍していますが、
その中枢は魔法組織である、そう思っていただいて結構です」

「そういう学校あるんだ」
「丸で秘密結社ね」
「そう考えていただいても構いません」

さやかに続いたほむらの言葉に、刹那が同意を示す。

「そして、この少年、ネギ・スプリングフィールドは、
私達3年A組の担任の先生です。
イギリスの魔法学校を首席で卒業し、
学業成績と形式の上では大学卒業相当の飛び級が認められています。
そして、魔法学校の卒業実習を兼ねて
この学校の私達のクラスに担任教師として着任した」

「子ども、ですよね」
「弱冠十歳です」

やや怖々と尋ねたまどかに刹那が答えた。

「いやいや、幾らお勉強が出来たって………
まさか、魔法で支配してるとか?」
「そんな事は出来ませんよ」

さやかの言葉に、刹那はふふっと笑って言った。

「第一に、そういう魔法の濫用は禁止されています。
第二に、学校自体が魔法組織で、
教室内にはネギ先生を超える実力者がいるぐらいです。
かく言う私も、少なくとも当初の時点ではその中にいました」
「魔法使いの学校、ねぇ」

刹那の説明に佐倉杏子がお手上げした。
310 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 16:52:44.20 ID:wCTSvUcm0

「答えを言えば、ネギ先生が才能に恵まれた誠実な努力家だった。
確かに大変な事も多くありましたが、
それを乗り越えるだけの力量も持ち合わせていました」

「………それに、形の上で私立みたいだから、
余り目に余るケースは正式に排除も出来る」
「それも無いとは言いません。
言わば、前提ですね」

ほむらの言葉に刹那が応じた。

「十歳の、先生ねぇ」

「ええ。ですから、少なくとも最初の段階では、
今でも少なからず、クラスの生徒からは可愛い弟扱いもされていますが、
それでも、一生懸命先生としての役目を果たすネギ先生に、
私達もそれに応じて来たと言う事です」

「ふうん」

そんな、さやかと刹那のやり取りをほむらは横目で見ていた。

「あなた達は、その中でも親しかったと言う事かしら?」
「否定はしません」

ほむらの問いに刹那が答える。

「色々あったからなぁ」

木乃香が、そう言って天を仰いだ。

「うん、色々あってな、
ネギ君この部屋に住んでるん」
「は?」

木乃香の言葉に、さやかがぽかんと応じた。
311 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 16:56:07.11 ID:wCTSvUcm0

「最初にこの学校に来た時、ネギ君の住む所が決まってのうて、
それでうち達の部屋に住めばいいってお爺ちゃんが」
「このかお嬢様の祖父は麻帆良学園学園長であり、
関東魔法協会の長でもあります」
「魔法世界のザ・お嬢様がここにいる」

刹那の説明にさやかが乾いた笑いと共に言い、
木乃香はにこにこ受け流す。

「ネギ先生は優れた魔法使いであり、この麻帆良は魔法の拠点。
木乃香お嬢様も、本来は一般人としての生活が家の意向でしたが
最終的には魔法に関わる事となりました。
そこで、魔法に関わる様々な事件、出来事があり、
私達、私やお嬢様、ネギ先生、アスナさん、
他の皆さんが関わっていく事になったのです」

「アスナさん?」
「それは、もう一人のルームメイト、と言う事かしら?」

鹿目まどかが聞き返し、すっと周囲を見たほむらが続いた。

「そう、この部屋は今、
うちとアスナ、ネギ君の部屋として使こてるさかい」

そう言って、木乃香はふふっと少し寂し気に微笑む。

「でも、そんな可愛い子で凄い魔法使いって会ってみたいかな?」
「それは、少し難しいですね」

さやかの言葉に刹那が苦笑する。

「魔法の世界で少々大きな出来事がありまして、
ネギ先生とアスナさんはそちらの関係でここを離れる事が多くなりましたから」

刹那の言葉と共に、まどかはちらっと木乃香の顔を見る。
何処か寂し気なのはそのせいか、と。
312 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 16:59:18.81 ID:wCTSvUcm0

「ネギ先生が凄いのは聞いたけど、
アスナさんもそれ程の人物なの?」
「そういう事になります」
「………ちょっと、寂しいなぁ」

ほむらの問いに応じた後に刹那が言い、
木乃香がぽつっと口にした。

「京都からこっちに来て、うちがちょっと馴染めんかった時に
最初に友達になったのがアスナやったから。
今言うたみたいに私立の学校で人の異動も少ないさかい、
ずっと一緒やったから、いない事が多くなると寂しいわ。
うちの事もネギ君の事も力一杯引っ張ってくれて。
ネギ君も、ここで一緒になって、弟が出来たみたいで楽しかったからなぁ」

「そうですね」

はんなりと言葉を紡ぐ木乃香と優しい口調の刹那を、
ほむらは静かに見ていた。

ーーーーーーーー

「ごめんなさい、担任の、先生?」
「うん。まあ、付いて行けないのは当然だと思うけど」

教会で、聞き返したマミに裕奈が言った。

「ネギ先生、ネギ・スプリングフィールド。
イギリスの魔法学校を首席で卒業した天才魔法少年。
形の上では飛び級の大学卒業扱いだとかで、
魔法学校の卒業実習もかねてこの学校の先生になったって事。
この学校、麻帆良学園は実質的に魔法使いが作って
裏から仕切ってる学校だからね」

「そういう学校、だったわね」

「そ、関東魔法協会の長が学園の学園長ってぐらいで、
生徒にも教師にもその筋の人間が大勢いるからね。
まあー、私も知ったのはつい最近、
ってぐらい普通の生徒も結構いる訳だけど」
313 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 17:03:00.62 ID:wCTSvUcm0

「ちょっと、集合写真をもう一度見せてもらえるかしら?」
「どうぞ」

裕奈が差し出したスマホを、マミは改めて見直す。

「あなたと桜咲さん、近衛さんね。
それから、さっきのスナイパーと新体操の娘もいるわね」

「こっちは佐々木まき絵。
私と同じ時期にこっちの世界に首突っ込んだんだけどさ、
私の親友だから、私が大怪我したの見て
反射的に巴さんに突っ掛かって行ったんだね。
それは私が悪かったし私からもよく話しておくから許してあげて」

「それで、こっちのスナイパーは?
佐々木さんは新体操の技量はとにかく実戦は素人っぽい粗があった。
だけど、スナイパーは尋常な使い手じゃない」

「龍宮真名、巴さんの言う通り魔法使いの凄腕スナイパー。
この人の事は、正直言って私にもよく分からない。
3年A組でも話す機会は少ないし、
依頼で動くタイプだから魔法協会とのパイプはあるんだろうけど、
どういう筋で動いているのかまでは把握出来ないんだ。
さっきのは多分行き掛り上私を助けようとした訳で、
これはどっちかって言うと私のドジで
龍宮さん自身は筋の通らない事はやらないと思う。
それで、こっちから聞くけど、
巴さんはどうして魔法使いの事を知ったの?」

「桜咲さんの方から接触して来た。魔女の結界でね。
あなた達魔法使いは本来私達魔法少女には関わらないとも聞いてるけど、
見滝原の魔女の発生率が高くなってるとかで、
そちらの魔法協会の内内の指示で調査しているって」

「成程ねぇ。それでここに来たのは?」

「近衛さんに招待されたから。
以前に見滝原でも紅茶のお茶会を開いた事があって、
それで、今度は麻帆良で野点に招待したいと」
314 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 17:07:10.08 ID:wCTSvUcm0

「ちょっと待って、刹那さんが魔法少女の調査をしていたって?
魔女、って、そっちで狩ってるモンスターの事だよね?」
「ええ、魔女を狩るのが私達魔法少女の使命。
桜咲さんが関わって来る迄は、そこに魔法使いが関わる事は無かった」
「それは、刹那さんとこのかちゃんが?」

裕奈の問いに、マミが首を横に振った。

「近衛さんは桜咲さんを勝手に追いかけて来たみたいね、
桜咲さんも驚いていたみたいだから。
桜咲さん、近衛さんも明石さんのクラスメイト、でいいのよね?」

「うん、3Aのクラスメイト。
只、特に刹那さんに関しては詳しいって程詳しい間柄でもないけどね」

「やっぱり、魔法協会の魔法使いなの?」
「と、言うか、ネギ・パーティーのコア・メンバーだね」
「ネギ・パーティー?」

マミの問いに、裕奈は椅子に指で同心円を描き始める。

「色々あって、特に夏休みにね、
それで3年A組は私も含めてかなりの部分魔法関係に染まっちゃったんだけど、
魔法関係、それ以外含めてネギ先生を中心としたパーティーが出来てるんだ。
参加した時期が幾つかに分かれるんだけど、
はっきりコア・メンバーなのは」

裕奈がスマホの集合写真を指す。

「ネギ君、神楽坂明日菜、近衛木乃香、桜咲刹那。
この四人で間違いないと思う。
元々刹那さんを除く三人は女子寮の同じ部屋に住んでるし」

「ネギ先生も?」
315 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 17:12:18.91 ID:wCTSvUcm0

「うん。まだ子どもだからって事で、
成り行きでそういう事になった流れだけどね。
でも、魔法関係の事でもかなり早い段階でこの三人はつるんでたって聞いた。
そして、刹那さんとこのかちゃんは故郷の京都で大親友。
その縁でアスナの剣の師匠で、
刹那さん普段はちょっと冷徹で怖い人に見えるんだけど
特にこの三人には心開いてる感じかな。
それで、ネギ先生からの信望も厚い」

「ええ、私も桜咲さんは信頼に値する人だと思う。
命がけの魔女退治に何度も同行しているから間違いない」
「その辺は間違いないと私も思うよ。
只、こっちの仕事始めて分かったんだけど、
刹那さんって所属が結構複雑でね」

「魔法協会じゃないの?」

「と言うか、近衛家の直属なのかな?
刹那さんが使う剣術は京都神鳴流、
この流派は京都で陰陽師とかと一緒に魔物退治してたそういう流派。
フィクションだとあの狂言の人がやってた映画とかの怨霊退治の裏側に、
って言ったらもっと分からなくなるか」

「大丈夫、ゴ○ラの人がやってたあの映画ね?」

「それで合ってる。
近衛家はその時代からの京都の超大物で、
今でも格式、能力ともに
日本の魔法、呪術のトップに君臨していると思っていい。
だから、青山家を宗家とする神鳴流も近衛家とは密接な関りがあった。
歴史の教科書的に言うと、京都の朝廷の下で魔物を退治していたのが神鳴流で、
その京都の朝廷の権力者で
今でも魔法、呪術の裏側に君臨しているのが近衛家って事になるから」

「やっぱり、エージェントってそういう事を調べるの?」

「まあ、それも仕事ではあるんだけど、
実際これ分かり易く調べて来たのはまき絵。
文字通りの新体操バカで勉強とかさっぱりだったんだけど、
こっちに関わってから、やたらこっち側の歴史とかにドハマリしてね。
まあ、関わったものは仕方がないって事で、
知り合った関係者も支障の無い限りの事は教えてくれてるみたいで」
316 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 17:15:57.95 ID:wCTSvUcm0

「つまり、桜咲さんは京都の近衛家と?」

「そっちの影響が強いんじゃないかな?
今の近衛家は、当主の近衛近右衛門が関東魔法協会の長で麻帆良学園の学園長。
近衛近右衛門の娘婿の近衛詠春が京都在住で
関西呪術協会の長で近衛の義理の親子が東西の魔法・呪術の長を務めてる。
近衛詠春の前の名前は青山詠春、
つまり神鳴流宗家青山家の出身で実際めちゃ強い剣の達人。
近衛近右衛門の娘と近衛詠春の間に生まれた娘が」

「近衛木乃香」

マミの言葉に、裕奈が頷いた。

「つまり、今の近衛家は近衛と青山、
西と東、魔法と剣ががっちり絡んだ上に君臨してる状態になってる。
神鳴流の剣士として関東協会に属してる刹那さんが
実質的な直属なのもまあ当然だね。
学園警備から見ても独自の指揮系統で動いてる節があるし、
このかちゃんの護衛でもある訳だし」

「やっぱり」
「そう見えた?」

「ええ、漫画や時代劇でよく見る関係に見えた。
幼い頃からのお付きの者で、お嬢様は友達として心から慕ってる。
お付きは形の上では遠慮してるけど、本当は大切な友達だと思ってて、
お互いにその気持ちは通じ合ってる。
これが執事だったらちょっとしたラブストーリーな関係よ」

「まあねー」

くすっと笑って言うマミに、裕奈がくくくっと笑って答えた。
317 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 17:19:02.01 ID:wCTSvUcm0

「そういう事、見りゃ分かるよね。
西と東、魔法と呪術、剣術まで加わって頂点に君臨している、
裏の魔法のスーパーサラブレッド、って、家柄だけじゃなくて、
潜在的な能力も桁違いに高いのがこのかお嬢様」

「知ってるわ、
それは私達から見てもとんでもない魔力を持っているから」

「うん。そして、そのこのかお嬢様が京都にいた時、
護衛としてつけられたのが刹那さん。
いわゆるご学友って奴だね。

流派的にも、この時は関西呪術協会の所属だったのかな?
このかちゃんがこっちの学校に来たのに合わせて
刹那さんもこっちに来て、
それに合わせて関東魔法協会に移籍したみたいだけど、
今の東と西は上で繋がってるからね。

なーんか今から思えばこっち来たばっかの頃は
このかちゃんが色々声をかけても刹那さんの方で素っ気なくしてて
このかちゃんが落ち込んでたみたいな事もあったみたいだけどさ」

「それは、多分護衛の任務を優先したから。
だから物理的にも精神的にも客観的な視座を得るために、
大切だからこそ敢えて距離をおいた。
彼女はそういう人じゃないかしら?」

「ご名答。でも、中等部の修学旅行以来かな、
なんか打ち解ける事があったみたいで、
そっからはもうじゃれつくこのかちゃんを
刹那さんとしても内心嬉しい熱々の幼馴染っぷり。
なんか、その頃に魔法絡みで色々あったみたいで、
それでアスナとも繋がって、
学校ではアスナとこのかちゃんが親友だったからね。
それでこの四人がコアな関係で結びついたって事」

「アスナさん、ね」
318 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 17:23:10.82 ID:wCTSvUcm0

「うん、まあ、私立って事で長い事クラスメイトしてるけどいい娘だよ。
自分ではがさつ者って言ってるけど、
なんか馬鹿みたいに楽天的で情に厚くて。

ネギ君とか刹那さんとか、実の所このかちゃんも、
ちょっと重く考え過ぎる真面目なタイプだからさ、
アスナがいて丁度いいバランスになってる。
ネギ君の事とか、正面から止められるのアスナか千雨ちゃんぐらいだし。

ああ、千雨ちゃんってこの娘ね。
普段はちょっと距離取った感じだけど、実は頭もハートもいい奴で。
真面目過ぎて優秀過ぎて、可愛いお子ちゃまなのに一人で抱えすぎなネギ君に、
真正面から向き合っていい感じにブレーキ役になってるのかな。
だから、ネギ君からも相当信頼されてって言うか心が通じ合ってるみたいでさ」

「いい仲間、お友達なのね」

「まあー、この四人は特別かな?
ネギ君がこの学校に来てから、
私達が知らない間にも随分色々あったみたいだけど、
その辺の事をこのメンバー中心で解決してたって言うし、
それで付き合い長かったり同居してたり、
もうファミリーって言ってもいいレベルだわ」

裕奈があははっと笑うのを、マミも微笑ましく眺めていた。

ーーーーーーーー

「マミさん、まだかな?」

643号室でアルバムを見ながらわいわいしている中、
まどかがぽつりと言った。

「折角こちらに来たんですから、一度外に出ますか。
散歩がてらカフェにでも。
巴さんには連絡を入れておきましょう」

刹那が言い、めいめいそれに同意を示す。
319 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2017/12/09(土) 17:26:38.72 ID:wCTSvUcm0

「あの、刹那さん」
「はい」

そこで、さやかが刹那に声をかけた。

「仁美や恭介に説明してくれたって。
有難うございました。
お礼、言いそびれてすいません」
「いえ、私も急にこちらに戻って来ましたから。
それで、その後の進展は?」

真面目な顔で尋ねる刹那にさやかは笑って首を横に振る。

「色々あったから一時休戦だって。
いい友達持ったよあたし。
本当に、いい友達、いい仲間を持った、ね、まどか」
「ウェヒヒヒ」
「気ぃ付けろよ」

そこに杏子が口を挟む。

「そういう事に女の友情は無いって言うからな、
案外そう言っといて」
「あー、そう言えばアーニャちゃんもいつぞや言うてたなぁ、
向こうにはちょうどいい諺があるて」
「うん、分かってる」

さやかがにこっと笑い、紅茶の残りを口にした。

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今回はここまでです>>308-1000
続きは折を見て。
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