永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」

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249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 21:10:45.06 ID:scudlLjvo


(かッ…………かッ…………か…………)


 病状の果てに、ついに外出禁止令まで出されたレイセン。
 与えられた病室にあった物は、頑丈な壁。窓には鉄格子。外側だけしか鍵がかけられない扉……
 
 どう見ても、牢屋でした。
 しかし別にレイセンは悪い事をしたわけではありません。
 その部屋の真相は、またしても、レイセンだけに与えられた特別扱いだったのです。


(か…………か…………)


 それは、レイセンの【狂気を操る程度の能力】を危惧した月側の、苦肉の策でした。
 生半可な部屋では簡単に抜けだされてしまう。
 かと言って、見張りをつければ乱されてしまう。
 そして何よりも、狂気を操る”レイセン自身が狂ってしまっていた”とあれば、月も迂闊に手を出せなかったのです。


(………………)


 自らの持つ力のせいでまともな治療も受けられないまま、お酒の猛烈な依存症状に苦しめられ続けるレイセン。
 日々奇声を挙げ、爪が割れるまで壁をひっかき、落ち着いたかと思えばビクビクと痙攣を繰り返す。
 そんな姿にかつての栄華の影もなく、もはや一匹の獣同然でした。


 医者は飼い主に言いました。
「大丈夫。これは一時的な離脱症状。山場を越えればまた、回復に向かいます」と
 飼い主は医者に言いました。
「自分が甘かった。永琳様の置き土産だからと甘やかしていた。これからは兎達を厳しく躾けるとしようと」と。


 確かに、お酒の病気を治すには断酒しかありません。
 しかしレイセンの心に巣食う”鬼”から逃れるには、お酒しかない事を、二人は知りませんでした。
 故に、「時間を掛ければ治るだろう」と言う二人の目論見は、後に最悪の結果を招きます。
 時間を掛ければかけるほど、レイセンの心は押しつぶされていくのですから。


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250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 22:00:21.90 ID:scudlLjvo


(カッ……カッ……カッ……)



(カッ―――― カ ッ ! )



 日に日に衰弱していくレイセンは、もはや自力で立ち上がる事すら困難な状態になっていました。
 あれほど瞬足だった足はただ震えるだけの棒になり、あれほど饒舌だった口は、もはや声すらもまともに発する事ができません。
 体の至る所が自分から逃げていく……四肢の一つ一つが自分に背を向ける。
 まるで、「自分の中の誰かが勝手に動いている」。そんな感覚に苛まれるようになりました。



(…………える)



 しかし言う事を聞かない体の中で、一つだけ、まだレイセンに忠実な部位がありました。
 ――――耳です。
 兎特有のピンと張った耳だけが、唯一、忠実に役目を果たし続けていました。


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 日に日に弱っていく体と反比例するように、レイセンの耳は、日々研ぎ澄まされていきました。
 元々鋭かったレイセンの耳でしたが、何故でしょう。
 弱る度により遠く、より鮮明に磨かれていきます。

 原因はわかりません。
 ただその時のレイセンは、「死せる間際のなんとやら」。
 火事場の馬鹿力のような物だろうと、一人でそう、勝手に思い込んでいました。



(聞…………こえる)



 分厚い壁の向こう。
 建物の外。
 道行く人々。
 数十里離れた場所。
 そこからさらに遠くの屋内――――

 レイセンの集音感覚はドンドンと研ぎ澄まされていき、直に、常に何かの音が聞こえるようになりました。
 溢れる程に飛び込んでくる音の群れ。
 静かな密室のはずが、まるでかつてのような、どんちゃん騒ぎの真っ只中のようです。



(聞こえる…………声が…………聞こえる…………!)



 原因はやはりわかりません。
 しかしレイセンは、その五月蠅すぎる音に、一つの救いを見出しました。
 そうやって五月蠅く騒ぎ立てる音だけが、レイセンの気を紛らわさせてくれたからです。


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251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 22:33:01.14 ID:scudlLjvo


(な…………に…………?)



 そして研ぎ澄まされ過ぎた耳は、ついに――――
 堕落へ誘う運命の声をも、拾ってしまいます。



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(だ…………れ…………?)




 その声は――――紛れもなく”穢れ”の混じった声でした。



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(地球は…………青…………かった…………?)




 そして穢れた声は、一言――――こう言いました。







【だが神はいなかった】






 「あ”あ”あ”あ”あ”――――」
 レイセンの心は、ついに限界を迎えました。


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【亥】


252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/12(金) 22:37:04.40 ID:scudlLjvo
風呂
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/13(土) 01:36:26.34 ID:c7/SmhYwo
寝る
続きは明日
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage ]:2017/05/13(土) 03:12:32.43 ID:G/vfDWeHo
乙乙
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 03:33:01.24 ID:hsMcz/j0o
乙 楽しみ
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/13(土) 22:25:41.91 ID:c7/SmhYwo


レイセン「何とかかんとか号……なんだっけな。ちょっとその辺うろ覚えだけど」

レイセン「でも、あたしはその時確かに聞いた……あれは紛れもなく、穢れ人の声だった」

薬売り「地上の人々が長年の時を経て、ついに月へと踏み出す術を編み出した……」


【飛躍】


レイセン「それは同時に月に穢れが振りまかれる事を意味していた」

レイセン「月の根底を揺るがす大事件だと思った……でも、誰もあたしの話を聞こうとしなかった」



(――――本当よ! 穢れ人が月にやってきた――――聞いたのよ! 声を!)


(――――このままじゃ月まで穢されてしまう……! お願いよ! 速くみんなに知らせて!)



レイセン「当然よね。だって、あたしが言った事だもん」

レイセン「穢れ人は頭も穢れてるから原始人同然の生活をしている。だからあいつらは、ずっとあのままなんだ。ってさ……」



(――――こんな事してる場合じゃないのに……なんで……なんでだれも…………!)



薬売り「ましてやその時の貴方は」

レイセン「呂律もロクに回ってなかったでしょうね……あんときゃあたし、完璧にアル中だったしね」

レイセン「それに案の定、ハッキリと聞こえたわ」



(――――嘘なんか……言ってない……!)



レイセン「内緒話のつもりだったんでしょうけど……”レイセンは精神に支障を来たしている”。そんな噂話が、そこかしこからね」

薬売り「因果な物です」

レイセン「本当にね……本当に……”因果応報”って感じ」



【因果ノ鎖】
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/13(土) 22:42:35.08 ID:c7/SmhYwo


レイセン「月が穢されれば、当然そこにいるあたしも穢れてしまう」

レイセン「月が死ねば、当然あたしも死んでしまう」

薬売り「しかしどこにも逃げ場はなかった」

レイセン「目をそらし、なかった事にすらできなかった」

薬売り「だから、乱した」

レイセン「全ての逃げ道を塞がれたあたしが、逃げれる場所は、ただの一つしかなかった」



(――――ハハ…………なんだぁ…………)


(――――最初から…………こうすればよかったんじゃ〜ん…………)



レイセン「あたしの中に――――切り落とされた”眼”だけが、溜まっていった」


薬売り「逃げたのは……自分自身から」


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【幻視】

258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/13(土) 23:24:49.57 ID:c7/SmhYwo

 その瞬間、レイセンを蝕んだ全ての病状は、一気に成りを潜めました。
 震えは止まり、足は直立を取り戻し、口はかつてのような饒舌を存分に捲し立てます。
 久しぶりの健康は、なんとも言えぬ格別の気分でした。
 この心を満す軽やかな爽快感は、まるでお酒をたくさん飲んだ時のようでした。


(…………行こう)


 そうしてしばらくの爽快に浸った後。
 レイセンは、なんだか急に、ぴょんぴょん飛び跳ねたくなりました。
 それは、足が動く喜び……とかじゃなく、ただなんとなくそうしたいだけでした。

 レイセンはまず、イチニ・イチニと軽い体操をしました。
 その後に、スゥーっと大きく息を吸いました。
 「ハァ――――……」最後に、吸った息を全て吐き戻しました。
 


――――と、同時に。



【警報】【警報】【警報】【警報】

【警報】【警報】【警報】【警報】

【警報】【警報】【警報】【警報】

【警報】【警報】【警報】【警報】




【脱走・狂気之兎】


259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/13(土) 23:31:22.63 ID:c7/SmhYwo


 レイセンは、縦横無尽に駆け巡りました。
 牢屋同然の病室から。
 新たな飼い主から。
 幾度となく通ったあの建物から。
 そしてついには――――生まれ育った、月の都から。



(不思議ね……あんなに怯えていたはずの、地上の青が……)



 元々月の番人だったレイセンにとって、追っ手を振り切る事など造作もない事でした。
 どの兎もレイセンの足には到底追いつけず、また仮に先回りできた所で、やはりレイセンの力の前にはなす術もありませんでした。
 そうして、あれよあれよと都の中心から離れていくレイセン。
 中心・郊外・僻地・最果て――――そしてあっという間に、辿り着きました。




(今は……希望の色に見える)




 そこは――――産まれて初めて足を踏み入れた場所でした。


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 その場所とは――――都の外。
 月の者が「表側」と呼ぶ、真っ新な大地だけが、そこには広がっていたのです。


260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/13(土) 23:55:50.34 ID:c7/SmhYwo


(………………静か)



 月の表側は、それはそれは静かでした。
 レイセンにとっては初めての経験です。
 レイセンの耳を以てしても、何も聞こえない”真の静寂”が、そこにはあったのですから。



(何にも…………聞こえなぁ〜い…………)



 静寂は、全ての音をかき消しました。
 今頃必死になって探しているであろう追っ手の声。
 自分の噂話をしているであろう月人の声
 心配しているであろう飼い主の声。
 部屋の中で聞こえた、穢れ人の声。
 そして――――”自分自身の声”すらも。



(………………まぁ)



 月の表側は、もう一つ、とある法則がありました。
 それは「全てが軽くなる」事です。
 足元の小石を少し蹴とばしただけで、石はまるで、土煙のようにどこまでも漂っていきます。

 ふわふわと心地よさそうに浮いていく小石を見て、レイセンはふと思いました。
 この場所で、この何もかもが浮つく静寂の場所で――――
 もしも、自分の脚で、”思う存分跳んだなら”。



(気持ち…………よさそ〜…………)



 レイセンは、何も考えていませんでした。
 本当に、何も考えていませんでした。
 考える声も、月で過ごしたたくさんの思い出も、自分が最も恐れた顏さえも。
 脳裏によぎる全てが、目の前の単純な好奇心に上塗りされていきます。




(何やってんだ―――― や め ろ ! )




 何も聞こえませんでした。
 何も見えませんでした。
 だから跳びました。
 だから跳べました。




 それが――――穢れた地への落とし穴だとも、気付かずに。



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【子】
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/13(土) 23:56:50.19 ID:c7/SmhYwo
メシ
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 00:01:18.18 ID:jNYsIBPPO
一旦乙
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/14(日) 03:09:20.73 ID:O7KGhXGYo


レイセン「そうして兎は自分から穴に落ち、二度と這い上がってこれませんでした……」

レイセン「めでたし、めでたし……ってか?」

薬売り「おや……終わりですか?」

レイセン「何よ、なんか文句あんの?」


 かつて幾度となく陥れ、あまつさえ姫君にまで手を掛けた玉兎。
 その自身による行いが、八意永琳を一人の鬼へと変えようとは、さすがの玉兎も思ってもみなかったであろう。
 そして玉兎は逃げ出した……自分の目に入る、全てから。
 

薬売り「いえ……てっきり、”落ちた後”も続く物だと思っていましたので……」

レイセン「あー……後日譚? 別に言っても良いけど、死ぬほどくだらないわよ」


 その結果――――
 自身が最も恐れた”鬼”と再び会いまみる事となるとは、これまた因果なものよの。


薬売り「折角ですから……是非」

レイセン「まぁ、じゃあ……なんでこいつがこんな所で薬師見習いなんてやってるかなんだけど……」

レイセン「わかる?」

薬売り「はて……薬師の道を志したからでは?」

レイセン「違うわよ。本音はこう――――」


レイセン「――――”怖かったから”よ。鬼に目をつけられないようにね」


薬売り「ああ……なるほど」


 身共も似たような経験がある故な。その気持ちはよ〜くわかるぞ。 
 運無き者が出くわすと言う山の獣――――熊。
 あの巨体から生える、鋭い牙や桑のような爪ときたらそれはもう……

 いやはや、まっこと恐ろしや。
 一度睨まれれば、体の芯から硬直してしまうあの感覚。
 できるならば、もう二度と味わいたくないものよの。


レイセン「自分が過去にしでかした事が、バレるのが怖かった……あたしにとって、八意永琳は鬼でしかなかった」

レイセン「だから下ったの。師匠と仰いで従順な”フリ”さえしてれば、とりあえず矛先は向かないだろうってね」

薬売り「その場凌ぎ……ですね」


 そうそう熊と言えば、皆の衆にも是非知っておいて貰いたい事がある。
 誰が言ったか「熊と出会ったら死んだふりをするとよい」との教え。ありゃ嘘っぱちじゃ。
 熊の目の前で横たわったが最後。
 熊はおぬしらをエサと認知し、あわや食われる運命を辿るのである。


レイセン「ね? 下らないでしょ。NGシーンはバッサリカットよ」

レイセン「終わりよければ全てよし……の逆」

レイセン「クソみたいな終わり方すると、”全部が台無しになる”」


 では真に正しき対処法は何か――――それは「目を合わせる」事じゃ。
 目をそらさず、じっと見詰めながら、決して騒ぎ立てず、徐々〜に徐々〜にと後ずさる。
 こうすれば「拙者は危害を加える生き物ではござらんよ〜」と、熊にそう知らせる事ができるのじゃ。
 熊はああ見えて賢き獣。相手が無害とわかると、むやみに襲ってきたりはせぬのだよ。

264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/14(日) 03:21:04.41 ID:O7KGhXGYo


レイセン「そーよ、こいつはいつだってそう。何も考えずに思い付きで動いて、何もかもを台無しにするの」

レイセン「今だってそう。こんな夜中にここにいるのが何よりの証拠…………」

レイセン「こいつは、永琳と再会した時点から――――”逃げる事しか頭になかった”」


 そして根気よく距離を取り続け、十分離れた頃合いを見計らって――――”脱ッ”!
 ……何? 真偽に欠けるだと?
 おやおやおや、一体何を申すかと思いきや。
 身共がこうして無事な身でいる事こそが、真たる何よりの証ではないか。


レイセン「モノノ怪がみんなを匿っている? バカ言わないで。匿ってるのはお前だけだろ」

レイセン「薬師になって人の病気を治す? ふざけないで。治したいのは自分だけだろ」

レイセン「いつだって可愛いのは自分だけ……いつだって、守りたいのは自分だけの癖に!」


 そこまで疑うなら、自ら実践してみるとよいわ。
 まぁおぬし等のような平民風情の場合……ふふん。
 そもそも、山へ登る前に力尽きる気がするがの。
 

レイセン「さぁ薬売り――――これでわかったでしょ!?」


レイセン「あたしの形・真・理! 必要なもんはこれで全部見せたわ!」


レイセン「今こそ、その退魔の剣を抜く時よ! そして――――斬って!」


レイセン「かわいいあたしを二つに分ける、この境をさ!」



【懇願】

265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/14(日) 03:31:03.68 ID:O7KGhXGYo

レイセン「さぁ…………」



【急】



レイセン「さぁ…………!」



【求】



レイセン「さぁ…………はやく…………!」


 
 過去の恐れから目をそらす為に生れ出た、悲しきもう一羽の玉兎。
 その分身が、語らぬ主の代わりに囃し立てる。
 「速く斬ってくれ――――」
 この分身がこうまでして望む事。
 それはただ、一つに戻りたかっただけなのだ。
 


うどんげ「…………」



 人は、どうしようもなく追いつめられた時。無意識の内にもう一人の自分を作ることがあると言う。
 身共からすればやや眉唾物の話ではあるが、しかし薬売りにとっては存外によくある事なのだとか。
 それは薬売りとしてではない。
 モノノ怪を斬る者として、”実際に経験した事のある”話……らしい。



レイセン「 は や く し ろ ! 」

266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/14(日) 03:34:52.27 ID:O7KGhXGYo



薬売り「…………」


 内なる玉兎の心意気をしかと見届けた薬売りは、あえて返事を出さぬまま、無言のまま退魔の剣を突き立てた。
 チリンと剣の音だけが小さく鳴る。
 剣越しに見る分身の表情は、札を寄せ集めた仮の体にもかかわらず、「どこか嬉しそうな表情に見えた」。
 後にそう、薬売りは語っておった。



薬売り「…………では」



 して本来の玉兎の方は、未だ何も語らぬまま、膝を地に押し黙ったままであった。
 いや、この場合……むむ? 何やら、わけがわからなくなってきたぞ?
 この場合……”どっちが本当の玉兎”なのだ?



うどんげ「…………」



 まぁ、よいか。
 そんな事は後数刻もせずにわかる事。
 答えは薬売りの行動にある――――故に、ただ待てばよいのだ。
 薬売りが、事を起こすその時まで。



退魔の剣「――――!」




 そして――――薬売りは動いた。







(……………………は?)






 薬売りが出した答えは――――”剣を懐にしまう”であった。




【鈴】
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/14(日) 03:36:04.70 ID:O7KGhXGYo
本日は此処迄
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 05:21:21.26 ID:ll/DjOVR0
ハズレか?
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/15(月) 18:03:46.06 ID:CvNTe7oGO
二次設定のはずなのに妙に説得力があるのはなんでだろう
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/16(火) 21:55:29.54 ID:fw8gKZ+Qo


レイセン「…………何してんの?」

薬売り「何って……刀をしまっただけですが」

レイセン「いや、しまっただけですがじゃなくて……ふざけてんの?」

薬売り「ふざけてなどいませんよ……話を聞けとおっしゃるから、聞いたまでです」

レイセン「……真と理がいるっつったのは、お前だろーが!」


 薬売りは退魔の剣を袖の奥へとしまい、そしてそのまま、二度と表へ出す事はなかった。
 「道具をしまう」。それ自体は至極些細な行動ではあるが、それをされて鼻持ちならないのは当の玉兎本人。
 当然の如く猛った玉兎が、薬売りにあーだーこーだと怒涛の罵詈雑言を浴びせ始めるのは、ごくごく自然な成り行きであろう。

 そしてその全てを、右から左へ受け流す薬売り……
 全く、人の悪さは相変わらずじゃな。
 だったら最初から、そう言ってやればよかったのに。
 


薬売り「斬りませんよ……貴方はね」


レイセン「――――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」


 
 その場にこそいなかったが、何となしに想像はつく。
 どうせその時の薬売りはまた、いつぞやのような見下した顔つきをしておったのだろうて。

 なんだか……想像しただけで、段々とムカッ腹が立ってきたぞ。
 くぅ〜憎らしや。腹いせに「薬売りは玉兎の叱責に怯え、動く事ができなかった」。
 とりあえずこの場は、そういう事にしておこう。



【放棄】


271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/16(火) 22:12:29.15 ID:fw8gKZ+Qo


レイセン「人の話を聞かない奴だとは思ってたけど……まさかこの期に及んでまだ、そんな態度かましてくるとはね!」

薬売り「何をおっしゃいますか。ちゃんと聞いたじゃないですか……」

薬売り「貴方の、真と、理とを」

レイセン「だからそれは剣を……ああっ! い、イラつく!」

レイセン「ほら、あんたも黙ってないでなんとか言いなさいよ! 今あたしら二人、まとめてコケにされてんのよ!」


 わざわざ内から這い出てまで、二羽共々コケにされるとは……この内なる玉兎も、よもや露も思わなかったであろうて。
 確かに、聞いてくれと頼んだのは玉兎の方である。
 だがその経緯は、薬売りが「退魔の剣を抜く条件」を、あらかじめこうこうこうと伝えておいたが故であろうに……
 やれやれ、どこまでも厚顔無恥な奴よ。
 そうでもなければ、誰がこんな面妖な薬売りに”過去”を語るものか。


薬売り「それに……先ほどから話を聞けだのとおっしゃりますが」

薬売り「その言葉……そっくりそのまま、お返ししますよ」

レイセン「は……?」

薬売り「だって……ねえ? つい先ほど、申し上げたばかりじゃないですか……」

薬売り「斬るのは――――”幕が閉じてから”だと」



 クシャリ――――まるで薬売りの言葉に合わせるように、微かな擦音が過った。
 音の感じからしてそれは、何か薄い物同士が擦れ合う音である。
 してこの場における薄き物とは、現状ただの一つしかない。 



薬売り「芝居の準備はできましたか……”姉弟子様”」


レイセン「ウソ…………!」



 そう――――紙である。
 この内なる玉兎が、薬売りから借りた札を折り紙に変えたのと同じく、外なる玉兎もまた、同じ事をしていたのだ。
 「さっきまで呼吸に苦しんでいたとは思えない」と、薬売りは密やかにそう零した。
 夜分深くにも関わらず、見る者を思わず感嘆させる程に――――
 それはそれは見事な”紙の兎”が、玉兎の手元に出来上がっていたそうな。


 
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272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/16(火) 22:34:48.94 ID:fw8gKZ+Qo


うどんげ「カッ、カッカッ……カ……」


レイセン「鈴……仙……なんで……」

薬売り「おや、まだうまく話せませんか……?」


レイセン「か……が……か……」


薬売り「いいでしょう。ならば代わりに、口上を務めましょう」

レイセン「鈴仙…………何を…………」



 立ち上がりし玉兎は息も絶え絶えに、見るからに満身創痍であった。
 未だ言葉もロクに話せぬままであったが、それでもその意思は十二分に感じ取れたと言う。
 不自由な言葉の代わりとでも言おうか……その眼だけが、しかと伝えておったのだ。



薬売り「ここから先は……”客は一人でイイ”」

薬売り「ですね? 姉弟子様……」


うどんげ「か……が……」



 二つに分かれし御身の、”真なる理”である。



薬売り「こなた、月から舞い降りし兎あり」

薬売り「こなた、月を見あげし兎あり」



レイセン「何を――――」



薬売り「こなた、鬼に怯えし兎あり」

薬売り「こなた、鬼に居所を求めし兎あり――――」




――――同じ身を持ち、同じ心を宿したとて、目指す標は決して同じではなく。
 違えし標に駆けたとて、いつしか戻るは元の鞘。
 それは、現世が孤を描く故。
 輪廻転生の如く、永久にめぐるが運命が故――――




【鈴仙の半生・第四幕】


273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/16(火) 22:58:56.65 ID:fw8gKZ+Qo


(ふんふんふ〜ん……)


 昔々、ある所に、一匹の兎がいました。
 兎は兎らしく、跳んだり跳ねたり、たまに耳をツンと立てて何かを聞いたりしていました。
 傍から見るとただの兎です。といっても、兎はそこに住まう兎ではありませんでした。
 兎はその実、遥か遠い土地からやって来た、所謂迷い兎だったのです。


(…………ぬおっ!? なんだこりゃ!?)


 見知らぬ地にアテなどあるはずもなく、兎はただただ迷い続けました。
 兎は兎らしく跳んだり跳ねたりしているかと思いきや、実は右往左往しているだけだったのです。 
 しかもその間、まともに食事もとっていませんでした。
 当然です。他所から来た兎には、何が食べれる物かすら、わからなかったのですから。


(え、ええ〜……こんな所で土座衛門とか……)


 そんな日々を送っていた兎には当然、すぐに限界が訪れました。
 パタリ――――糸が切れた人形のように倒れ、そのままピクリとも動かなくなりました。
 しかしながら、兎は動けないながらも、ハッキリと感じました。


(もしも〜し、人間や〜い)


(人間…………人間?)


 「死ぬ」――――何をどう考えても、それしかありませんでした。
 しかし兎は、死を拒むどころか、無抵抗なままに受け入れようとすらしていました。
 それは自分の不摂生のせいでもあり、自分が健康を顧みなかったせいでもあり、自分がしでかした罪のせいでもある。
 「自分が死ぬのは当然の事」。兎の心には、そういった考えが根付いていたのです。



(いや、違うわね……ていうか、これ……)


(…………兎?)



 しかし運命は、兎に死を与えませんでした。
 死に限りなき近い状態でありながら、それでも寸での所で回避できたのです。


――――偶然そこに居合わせた、もう一人の兎の手によって。


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274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/16(火) 23:00:18.38 ID:fw8gKZ+Qo
メシ
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/17(水) 00:53:08.90 ID:PrSgG1Elo


――――兎が再び目を開いた時、その瞳には視界いっぱいに天井が映っていました。
 空を覆う黒塗りの壁。月を隠す天の蓋。
 なのに何故か天井は、あの星々の煌めく夜空に負けず劣らずの、実に優雅なる天井でした。


(お、起きたかぁ)


(いやぁびっくりしたわ。まさか幻想郷に、あたし以外の妖怪兎がいたとはね)


 わけもわからぬまま、ぼーっと美しい天井に見とれていると、横からひょっこりもう一羽の兎が顔を覗かせました。
 今でもその時の顏はハッキリ覚えています。
 その時のもう一人の兎の顏は、こちらを見て、何故かニヤニヤと笑っていたのです。


(どこの誰だか知んないけど、ラッキーな奴ね。よりにもよって、医者の近くで倒れるなんてさ)

(もしかして……”急患”狙ってた?)


 どこか嘲りを感じる、気持ちの悪い不気味な笑顔でした。
 おかげで美しい天井を眺めるのに、とても邪魔だった事を、今でも鮮明に思い出せます。


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(ちょくちょくいるのよね〜。永遠亭の噂を聞きつけたまではよかったけど、竹林で迷ってぶっ倒れるおバカさんが)

(まぁそういうのを見かけたら見つけ次第拾ってこいって言われてるわけなんだけど……)

(近頃はそれを逆手にとって、わざと迷い人のフリする奴なんかでてきちゃってるのよね)

(あんたも……そのクチなわけ?)


 それでも、嫌悪感はありませんでした。
 兎は直観で理解したのです。
 この体を包むぬくもりに、額に乗った冷たい布綿。
 「この兎が、自分をここまで運んでくれたのだ」と理解するのに、時間はさして必要ありませんでした。



(て〜わけで、目を覚ましたら呼べって言われてるから、呼んでくるわね)


(ちゃんとお礼言うのよ……”お上りさん”)



 しかしながら、代わりに兎の正体に気づくまでには、随分と時間がかかりました。
 と言うのも――――兎の正体は、運び手だったのです。
 それは荷を運ぶのではありません。
 兎が運ぶのは、運命そのものだったのです。





(――――鈴仙……)





 知らなかったのかわざとだったのか、それは今でもわかりません。
 しかし兎は、本当にそっくりそのままの意味で運んできました。
 息も絶え絶えだった兎の前に――――永遠を生み出す「師」を。


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276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/17(水) 01:04:48.52 ID:PrSgG1Elo


レイセン「――――な、何を今更なのよ!? そんな事、言われなくても知ってるわよ!」

レイセン「そうよ……その時、よりにもよってあの永琳と再開してしまったせいで、あたしはいつも怯える日々を送るハメになった……」

レイセン「知らないはずないじゃない! だって、あたしはあんた、あんたはあたし!」

レイセン「いつも同じで、いつも同じ過去を送ったんだから!」

薬売り「……フッ」

レイセン「 何 笑 っ て ん だ ! 」


 薬売りの失笑に、敏感に反応する兎。
 その嘲りたっぷりの笑みは、怒りに値するのは重々承知である。
 しかしそれは誤解である。
 薬売りの笑みは、あくまで自分の記憶に向けられたものであったのだ。


薬売り「いや……失敬。少し、思い出しまして……」

レイセン「何を……だよ……」

薬売り「同じ時を過ごそうと、同じ景色を見ようと……互いの胸の内にあるものは、決して同じではなく」

レイセン「意味わかんねえ……んだよ!」


 まぁだからと言って、時と場所を選べと言う話ではあるが……
 余計な茶々は往々にして場を崩す。
 それは雰囲気だけではない。
 この場合に限っては、文字通り崩れるのだ。
 

薬売り「それに……あまり茶々を入れない方がイイ」

薬売り「無駄に間延びさせると……最後まで、聞けないかもしれませんよ?」

レイセン「ハ――――」




――――そっくりそのままの意味で。




レイセン「ちょ…………!」




【剥】



レイセン「あ、あたしの体が……!」




【剥】




レイセン(崩れていく――――!?)


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277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/17(水) 01:37:19.76 ID:PrSgG1Elo


薬売り「貴方様とて不本意でしょう……? 噺の途中で、消えてしまうのは」

レイセン「まさか……これが……!」



うどんげ「そう……して……体を……治した……兎は……」



薬売り「まぁまぁ、じっくり聞こうではありませんか……ひょっとしたら、わかるかもしれませんよ?」

薬売り「貴方が…………一体”誰”なのかを」



うどんげ「再会した……お師匠様と……姫に……」



レイセン「やめ――――」



――――こうして兎は、予想だにしない形で、かつての飼い主と再会しました。
 元の飼い主……元い八意永琳は、兎との再会に涙を浮かべて喜んでいました。
 兎にとっても、久しぶりに見る永琳の姿は、幸せだったあの頃のままでした。
 変わらないのは姿だけではありません。
 月にいた頃から有名だった薬師の手腕は全く衰えておらず、その証拠に、弱り切った兎の体をたった一晩で治して見せました。




レイセン「ろ――――」




 健康を取り戻した兎は、改めてその脚で永琳の元へと向かい、そして今度こそ誓いました。
 「ずっとおそばにいます、お師匠様」――――その言葉は、嘘偽りない本心でした。




【忠誠】

278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/17(水) 02:02:17.49 ID:PrSgG1Elo

 そこは、かつての故郷に比べれば、随分と質素な場所でした。
 巻割り、かまど、徒歩、収穫……等々、まさに文明のぶの字もない、原始的な生活そのものでした。
 けれど不満はありませんでした。
 不自由だらけな生活なのに、何故か、心からの自由を感じていたのです。

 いつしか兎は、自らの意思で永琳にこう言うようになります。
 「自分もあなたのような薬師になりたい」――――こう述べる兎に、永琳は快く受け入れました。


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 こうして、兎は再び、居場所を手に入れました。
 永遠を生み出す師の元で、永遠の一部となる弟子として。


レイセン「違う……あの時弟子入りを志願したのは……ただのその場凌ぎだった……」

レイセン「逃げ出す為に咄嗟に思いついたでまかせ……薬師なんて、ほんとはどうでもよかったはず……!」

薬売り「と、思っている割には、随分と熱心に勉強されてましたね……」

薬売り「夾竹桃なんて……薬師じゃなければ、ただの花なのに」

レイセン「なッ…………!」


 正式に弟子として入門し、いくつの時を経たでしょう。
 かつて、あれほど拒み続けた地上の生活が、いつしか兎にとって、なくてはならない物となっていました。
 変わらない日々、変わらない生活。いつまでも変わらない永遠亭――――。

 けれど、兎にとっては、それこそが幸せだったのです。
 変わらなくていい。
 「この幸せがいつまでも続きますように」。
 いつしか兎の心は、その思いだけが全てとなっていきました。


レイセン「そんな……なんで……なんでよ……鈴仙……」

レイセン「あんなに怯えていたのに……あんなに、目を背けていたのに……!」


薬売り「だとすると……これはあくまで……ひょっとしたらの話なのですが」

薬売り「もしかすると……”逃げ出したのは貴方の方”だったのでは?」


レイセン「は――――」


 けれどやっぱり、永遠なんて所詮儚い幻想でした。
 永遠の意味が「変化のない様」だとすると、やっぱりそんなものは存在しないんだと、兎は改めて思い知りました。
 よくよく考えれば当然でした。「過ごしたい永遠」と「成りたい薬師」。
 この二つは、変わると言う意味に置いて、全く正反対の物だったのですから――――。



【矛盾】
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/17(水) 02:11:09.07 ID:PrSgG1Elo


(あたた……もう……てゐの奴……)

(毎日毎日懲りずに……一体、何が楽しいのかしら……)


 兎の毎日はほぼほぼ決まっていました。
 朝起きて、用事を済ませ、人里に薬を売りに行く。
 合間に余った時間を勉強に費やし、食事の支度をし、掃除をし、夜になれば床につく……そんな日々でした。
 そして目を覚ませば、また最初から繰り返しです。


(ほんと……いつまでもバカなんだから)


 時には疎ましい時もありました。
 特に、毎度毎度落とし穴を仕掛けてくるバカのせいで、随分まぁ無駄に頭へ血を上らせたものです。
 ですが――――穴に落ちる度に、兎は感じました。
 痛む尻。猛る声。穴から這い上がろうとする手。そして、穴から空を見上げる目……
 「自分はまだここにいる」。そう感じさせる程度に、穴は、繰り返される日々の中に走る生の刺激だったのです。


(お師匠様に……言いつけてやるんだから)


 ですが、兎が穴から空を見上げるのと同じように――――
 空から穴を見下ろす瞳があった事を、兎はすっかり忘れておりました。


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280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/17(水) 02:31:27.00 ID:PrSgG1Elo


(何よ……これ……)


 そんな日々が続いた後――――つい、こないだの事です。
 兎の元に、一枚の手紙が届きました。
 差出人の書いていない、出所不明の手紙でした。
 ですが、兎は手紙の主が誰であるのか、ただの一目でわかりました。



【召集令状】



 手紙の材質。封の切り方。中身の文字。その文体。
 全てが一致していました。
 かつて故郷にいた頃の――――”二人目の飼い主”とです。



【此度 都カラ逃亡セシ兎 
 ソノ行為ハ甚ダ遺憾ナレド 結果トシテ功績トナリキ故 此レヲ持ッテ全テヲ不問トス
 此度ノ所業 都ガ与エシ任ト置キ換エ 現時刻ヲ持ッテ ソノ任ヲ解カン】
 


(ふざ…………けンな…………!)



 兎は確信しました。
 かつて大罪を犯し、月から逃げ出した姫と師。この二人が、ついに見つかったのだと。



【長キ間ノ任 真大義デアッタ
 最早汝ヲ縛ル物ナシ 
 直ニ”迎人ヲ寄越ス”故 此レヲ持ッテ 直チニ都ヘト帰還セヨ】



 そして罪人を見つけ出した月の使者が、次にどのような行動を起こすのか……
 それはもはや、想像すらしたくありませんでした。



(何を…………今更なのよ…………)



(何を…………今…………更…………)




 してその原因が――――全て、自分のせいである事も。




【意訳】







【――――お前は逃げられない】


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281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/17(水) 02:34:51.72 ID:PrSgG1Elo


薬売り「なるほど……あの紙は、その時の手紙ですか」


レイセン「……知らない」


薬売り「月人にとって兎とは純粋なる配下。故にその管理も徹底していた……」

薬売り「と言いつつも、一体どのような手段で見つけ出したのかまでは存じません」


レイセン「知らない……」


薬売り「ですがまぁ、大体の想像は尽きます」

薬売り「だって貴方……”特別”だったんでしょう?」

薬売り「月の注目を一手に集める……”人気者”だったのだから」



レイセン「――――知らない! 知らない! そんな手紙、見た事もない!」

レイセン「あたしじゃない! それはどこか別の誰かの……あたし宛なんかじゃない!」



レイセン「あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない!
      あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない!
      あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない!
      あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない!
      あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない!
      あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない!
      あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない! あたしじゃない!」




薬売り「やれ、やれ……」



 その手紙が指し示すように、あくる日、見るからに胡散臭い一人の男が現れました。
 その胡散臭い男は自称・薬売りを名乗り、「自分はモノノ怪を斬る為に馳せ参じた」と言いました。
 ハッキリ言って、全く信用できませんでした。
 ですが、信用せざるを得ませんでした。
 何故なら、兎にとって最も信頼する人が、信用した男だったのですから――――。



【丑】


282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/17(水) 02:35:17.88 ID:PrSgG1Elo
本日は此処迄
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/17(水) 17:54:09.48 ID:DHj/bApEo
乙ですよ
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 17:53:43.47 ID:vYXW/NBlo


レイセン「嘘よ……そうよ、こいつは”また”嘘をついている!」

レイセン「だってそうじゃない! あたしが斬られれば、あたしに封じ込めた”嫌な事”も全部元に戻ってしまう!」

レイセン「騙されないでちんどん屋! こいつはまたこうやって……嘘八百でこの場を凌ごうとしてるのよ!」

薬売り「何故嘘と……わかるんです?」



――――何から何まで一切信用できない薬売りでしたが、一つだけ、本当の事を言ってました。
 それは、”本当にモノノ怪が現れた”事です。
 モノノ怪は次から次へと周りの人々を攫います。
 にもかかわらず、薬売りは未だモノノ怪を斬れずにいました。



レイセン「”そーゆー奴”だからよ! 最初に言ったでしょ!」

レイセン「こいつはいつだって嘘ばかり……出まかせと口八丁でその場を凌ぐしかできない、ただの兎なんだから!」

薬売り「では何故……嘘をつく必要があるんです?」

薬売り「嘘であろうとなかろうと……結局、”剣は抜けないまま”だと言うのに」

レイセン「それは…………!」



 全く頼りにならない、本当にうさんくさいだけの男です。
 が、そんな役に立たない薬売りのおかげで……一つだけ、気づく事が出来ました。
 


薬売り「そういえば……最初にお師匠様がおっしゃってましたね」


(――――だったら出て行きなさい)


薬売り「ある意味……師の命を忠実に守ったと言えますが」


 
 それは――――「逃げる事」。
 モノノ怪がこの地で暴れまわっている間に、逃げて、逃げて、遥か遠くに逃げて――――
 ”月の迎えを永遠亭から遠ざける事”。
 それが今の自分にできる事なのだと、そう思いました。


285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 18:10:28.55 ID:vYXW/NBlo


レイセン「ふざ…………け る な ァ ァ ァ ァ ! こいつがこんな事、思うはずなんてないんだ!」

レイセン「いつだって自分だけが可愛い臆病兎! この機に逃げ出そうとしている逃亡兎!」

レイセン「それ以外に――――一体何がある!」


 逃げた先に、一体何があるのか。
 逃げた先に、どのような運命が待ち受けているのか。
 兎には皆目見当が付きません。
 もしかしたら、今よりずっと酷い目に合うかもしれません。
 


レイセン「それ以外に……ない……はずなのに……」



 ですが、それでもかまいませんでした。
 心から愛した永遠が、この先も保たれるなら。
 永遠が永遠のまま、ずっとそこにあり続けるのなら……
 例え自分がどうなろうと、何ら悔いはありませんでした。




薬売り「…………」




 そうして兎は、逃げ出しました――――永遠を守る為に。


 めでたし、めでたし。




薬売り「以上……ですかな」




 ご清聴、ありがとうございました。




【――――拍手】


【拍手】【拍手】【拍手】【拍手】

【拍手】【拍手】【拍手】【拍手】

【拍手】【拍手】【拍手】【拍手】



 玉兎の物語は、これにて終わった。
 自らの生涯を題材にした物語はまさに納得の出来栄えであり、その証に、薬売りもつい自然と拍手を送る程であった。
 身共とて、ついつい引き込まれてしもうわ。さすがは元・月の達者兎と言った所である。
 堕落と転落を繰り返した半生だけあって……話の結末すらも、無事落としたのだ。




【余韻】

286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 18:23:31.65 ID:vYXW/NBlo


薬売り「いやぁ、貴方も人が悪い……この期に及んで、こんな素晴らしい話を出し惜しみするだなんて」

薬売り「やっぱり、ちゃんとあったんじゃないですか……落ちた後の、続きが」

薬売り「……おや」


 しかしそんな素晴らしい話に、余韻を乱す”不服”を唱える者が、一人だけおった。
 その物言い屋は、声高らかにこう訴えた。
 「話が違う――――」

……なにやら、あらぬ誤解を招く表現である。
 その言い方だと、まるで玉兎が、この物言い屋から話を盗作したかのようではないか。



レイセン「なんで……! なんでこうまで違う……!」



【別個】



レイセン「同じ……兎なのに……!」 



【異同】



「同じ……”レイセン”なのに……!」



 まぁでも……そんなわけはないのだ。
 盗作か否か等、真偽を確かめるまでもなくわかる事。

 何故ならば、幕を開いたのも兎。
 語り始めたのも兎。聞いていたのも兎。
 不服を唱えるのも兎。実際に体験したのも兎……
 全ては、同じ兎による物なのだから。



【画然為る兎】

287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 18:34:20.89 ID:vYXW/NBlo


レイセン「あってたまるか……そんな事……ざけんな……ふざけんな……」

薬売り「…………」


 芝居・歌舞伎・能・芸事――――
 これらの見世物を楽しむ際には、やってはならぬ無作法が、一つある。
 それは、不平不満を吹聴するかの如く唱える事である。
 
 「つまらなかった」「時間のムダだった」
 そう思うのは各々の勝手じゃ。だがそれを聞かされる周りの身にもなってみよ。
 せっかくの余韻が台無しとなる……
 まさに「終わりよければ全てよし」の”逆”である。


レイセン「クソ脚本……ゴミ脚本……ホラ話……与太話……」

レイセン「勝手にオチ変えてんじゃないわよ……カス……死ねよ……マジ……」

薬売り「…………」


 作法と言うより、行儀だな。
 このレイセンを見よ。このような負の言葉を延々と聞かされる不快さは、まさに筆舌に尽くし難しであろう?
 隣に佇む薬売りも、まぁ災難である。
 これでは、余韻に浸る暇もなかろうて。



薬売り「そういえば……前からずっと気になっていた事がありまして」


レイセン「あ”……?」


薬売り「よい機会ですから……お伺いしても、いいですかな?」



 ……こいつに限っては、そんなタマではなかったの。



【疑問】


288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 18:40:02.00 ID:vYXW/NBlo


薬売り「貴方の名は鈴仙……それは周知なのですが……」

薬売り「そういえば……一人だけ、違う名で呼ぶ者がいましたな」



(――――すごいわうどんげ、とっても斬新だわ!)



薬売り「後弟子として、姉弟子様の名を知らぬのは、これまた失礼な話……」

薬売り「故に……お聞かせ願いたい」

薬売り「貴方は……”一体どちら”なのでしょう」



【レイセン】【うどんげ】
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 18:50:46.34 ID:vYXW/NBlo


レイセン「うどんげ……そうだ、うどんげだ!」

レイセン「これこそがこいつが嘘ついてる何よりの証拠じゃない! だって、あたしに無断で勝手に改名しやがったのよ!?」


薬売り「無断……?」


レイセン「自分は鈴仙じゃない、うどんげだ」

レイセン「だからレイセンなんて知らない――――とでも、言いたかったのよ!」

レイセン「これこそ自分から目を背けたこいつの、何よりの証拠じゃない!」


薬売り「しかしどちらかに統一されず、両方の名が使われるのは何ゆえに」

薬売り「人は貴方を鈴仙と呼び、兎は貴方をうどんげと呼ぶ」

薬売り「これではただ……ややこしいだけだ」



 それは、簡単な話でした。




(――――これが……あたしの名前……?)


(――――いや、嫌とかじゃないんだけど……なんか……変な名前)




 誰かに、与えられた名だったからです。




レイセン「 嘘 つ く な ! 」


290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 19:01:09.31 ID:vYXW/NBlo


レイセン「知らない! そんなの知らない! そんな変な名前、あたしが受け入れるはずないじゃない!」


 そう、その名を最初に聞いた時は、「変な名前」以上の感想を持てませんでした。
 「うどんに毛? 意味わかんな〜い」
 当時の兎も、そう言ってました。


レイセン「それに、今更名を変えて何になる! ずっとレイセンだったのに! ずっとずっと、レイセンとして生きてきたのに!」


 「ださいから鈴仙のままでいい」
 当時の兎は、そう言い捨ててやりました。


薬売り「知らない物にはただの音……しかし知っていれば、その名は何より貴重な”花”となる」


 「だから鈴仙だっつってるだろ!」
 兎をうどんげ呼ばわりする因幡兎に、何度も声を荒げました。


薬売り「貴方は知らなかったんじゃない。貴方はただ、目を背け続けていただけに過ぎない」


 「いい加減にしなさ〜い!」
 何度注意しても、因幡兎はうどんげと呼び続けました。
 あまりのしつこさに、つい声を荒げましたものです。
 が、ですが……兎は決して、それ以上の事はしませんでした。



薬売り「貴方を心の底から怯えさせる……貴方の中だけの”鬼”から、ね」



 注意を諦めたわけではありません――――実は、”嬉しかった”のです。
 それは、”約束の証”だったからです。
 約束の証……それをしつこいくらい連呼される事に、その実、何よりの幸福を感じていたのです。



薬売り「知らないはずが……ないんですよ。それは、貴方がレイセンだった時の決め事だったのだから」



 ついつい昔のような憎まれ口を叩いてしまう程に
 ついつい無駄に声を荒げてしまう程に
 ついつい、一人でに飛び跳ねたくなる程に……
 兎の心は、歓喜の波に乱されていたのです。




薬売り「鬼は…………”約束を守った”」




 その日から――――兎の中から、鬼がいなくなりました。



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291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 19:42:21.25 ID:vYXW/NBlo


レイセン「そ……んな……嘘……よ……」

レイセン「だったら……あたしは……ずっとこいつの中にいた……あたしは……」

レイセン「こいつの”恐れ”を押し付けられ続けた……あたしは……一体……」


【問掛】


【我は誰なるや】



レイセン「――――カッ! カッ! カッ! カッ!」


薬売り「大丈夫ですか……随分、声が乱れておりますが」


レイセン「カ……カ……カ……」


 兎の声が、乱れ始めた。
 声はまるで喉を詰まらせたように濁り、音は乱れ、あれほど悠長であった声は瞬く間に咳と化した。
 カッカッカと、まるで笑い声のような咳である。
 が、薬売りはなんら不思議に感じなかった。
 そりゃそうじゃ。それと全く同種の物を、つい先刻聞いたばかりであったが故な。


薬売り「咳がひどい場合は、体を横にするといい……喉の奥が広がり、息が通りやすくなりますから」




うどんげ「――――もしくは、暖かい飲み物を飲むといい。乱れた気管を、ぬくもりが落ち着けてくれるから」




薬売り「おや……まぁ……」

薬売り「随分と……お詳しいですな」



レイセン(レイ……セン……)



うどんげ「当然よ……”あたしを誰だと思ってんの”」




【薬師・見習】

292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 19:52:41.20 ID:vYXW/NBlo


薬売り「最初から……知っておられたのですね……」

薬売り「自分の中に……”もう一人誰かがいる事”を」

うどんげ「なんとなくは気づいてた……でも、確信はなかったの」

うどんげ「だって、いくら呼びかけても……ずっと、無視され続けてたからね」

薬売り「それは……いけませんなぁ」


レイセン「カ…………ッ!」


 人はだれしも、思い出したくない記憶があると言う物よ。
 何らかの失態を犯した時。人前で大恥をかいた時。誰かに裏切られた時。身の毛もよだつ恐怖を感じた時――――
 それらを自在に忘れる事ができれば、一体どれほど、楽な事であろうなぁ。
 だが口惜しい事に、生きとし生ける物は、残念ながらそのようにはできておらぬのだ。


うどんげ「呼びかけても答えてくれない。面と向かっても目を合わせてくれない」

うどんげ「だから、わからなかったのよ……自分の中にいるのが、一体誰なのかを」


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薬売り「しかし今、ようやっと分かり合えた……」

うどんげ「あたしの中にいたのは……”あたし自身”だった」


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 故に生き物は、そうせざるを得なかった。
 苦しい過去を糧にするしかなかったのだ。

 過去の苦痛を経て、新たな存在に再生せんとする道。
 まさに修験が唱えし「疑死再生」の道――――。
 その道を選んだが故に、生き物は、今日における多種多様な存在に枝分かれしていった……のかもしれん。


293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 20:04:03.34 ID:vYXW/NBlo


薬売り「過去が置き去りにされたのではなく……過去の方が、自ら遠くへ逃げたのだ」

うどんげ「それはあたしを守るため……新しい兎になったあたしを、過去に縛り付けない為」


 兎が真に恐れる物――――それは、「見つかる」事ではなく「見つかってしまった」事にあった。
 紆余曲折を経てようやく得た安住の地が、再び亡き者になる恐怖。
 そして自身の進む道を照らしあげてくれた大恩に、意図せず仇成す形となった恐怖。



薬売り「過去は決して変わる事がない……それは、当の過去自身が深く存じていたから」


うどんげ「だから……知らなかったんだわ」


薬売り「兎が、真に恐れる物を」



 枝分かれせしもう一人の兎が、存じ上げぬのも無理はない。
 もう一人の兎とは、すなわち”月にいた頃”の兎。
 そして今の兎が取ろうとする行動は、過去の兎の理とは、まるで反転する”陰陽”だったのだから――――。




【真相】



【玉兎之理】

294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 20:16:35.29 ID:vYXW/NBlo


うどんげ「面倒かけたわね……薬売り」

薬売り「いえいえ滅相もない……」

薬売り「…………おや」



レイセン「カ…………カ…………!」



うどんげ「レイセン……」

薬売り「まだ……抗うと言うのですか」


 真実を突き付けられてなお、もう一人の兎は、抗う姿勢を崩さなかった。
 過去を否定すると言う事は、すなわち過去の自分をも否定すると同義。
 自分の存在そのものを乱す「否定」。
 ともすれば、自身を守るために……如何に苦しかろうと、拒み続けるしかなかったのであろう。



レイセン「う”ぞ…………だ…………カッ! 認め”……ナ”イ”…………!」



薬売り「致し方……ありませんな」



 しかしながら、もはやレイセンに術はなし。
 抗う気持ちと裏腹に、どうにもできぬ現実が、すぐ目の前に迫っておる。
 追いつめられた鼠は、時として猫を噛む事もあるらしいが……
 はたしてそれが兎だった場合――――”逃げる”以外に何ができると言うのか。


うどんげ「待って薬売り……”レイセンは置いていかない”」

薬売り「残念ながらその命は聞けません……貴方も、薬師の端くれならわかるはず」

薬売り「これはもはや……完全なる末期。このまま放置しておけば、”直にモノノ怪と化す”のは目に見えている」

薬売り「そうなる前に手を打つのが、この場における最善なのですよ」


うどんげ「…………」



薬売り「異論は……ありませんね?」



うどんげ「…………わかった」



 兎は鈴仙を一瞬庇おうとしたものの、薬売りの問いかけに、存外素直に身を引いた。
 兎は、理解していたのだ――――鈴仙は今、”モノノ怪になりかけている”。
 自らあふれ出る程の強き情念。してその発生源が他ならぬ自分自身とあらば……
 兎に異を唱える権利など、ありはしなかったのだ。



【決着】

295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/20(土) 20:17:02.38 ID:vYXW/NBlo
本日は此処迄
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 21:16:44.41 ID:AvIZ/txLo
自分と向き合うのは辛いよな
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 21:28:00.60 ID:cwBtpuErO
乙です!
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 07:22:04.40 ID:/9tLyFV9o
乙です
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 14:14:59.49 ID:5G44u8ucO
もしかしてのっぺら意識してる?
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 19:38:29.04 ID:eRuspO3go



レイセン「殺す”のガ……アダジを……?」



【急場】



薬売り「いやぁ、楽しませてもらいました……」

薬売り「さすがは元・月の人気者。あっしもついつい、最後まで聞いてしまいましたよ……」



【打込】



レイセン「姉弟子ノ”……ア”だジヲ”……?」



【後手】



薬売り「しかし肝心の貴方自身がわかっていなかった……何故に貴方の芝居が人を魅力するのか」

薬売り「それは……全てが真であったが為です」


レイセン「ア”…………?」


薬売り「わかりますか……? ”真”があったからこそ、貴方の織成す芝居は、鮮やかな色々に染め上がったのです」



【六死八活】



薬売り「それ故に……勿体ない。最後の最後で、”芝居は色を失った”」


 ”昨日今日会ったばかりのお前に何がわかる”――――兎は濁った声で、そう吠えた。
 確かに、赤の他人に知った風な口を聞かれる事ほど不快な物はないよの。
 それもそれも、見るからに胡散臭い男の、あからさまに見下した口ぶりとあらば……
 ったく、まっこと度し難い。
 何故にあやつは、ああも人の気を逆立たせるのやら。







301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 19:50:43.33 ID:eRuspO3go


薬売り「確かに、会ったばかりのあっしに、貴方の全てを理解できる道理はありませぬ」

薬売り「ただし……それが、”貴方をよく知る者”だったら、どうでしょう」


レイセン「は”…………?」


薬売り「過去から現在に駆けて、貴方の存在をよく知る者が……」

薬売り「”貴方はこう言う存在ですよ”と、あっしにこっそり教えていたとすれば……」

薬売り「意味合いは、少し変わります……」


 「誰だそいつは――――」兎はまたも、擦り切れそうな声でそう吠えた。
 自分を知る者を名乗る者が、自身の事を勝手に第三者に語っていたとあらばなおさらである。



【定石】


 だが、少なくとも身共は、その怒りにはやや賛同しかねるな。
 だって、そうではないか。よく考えてもみよ。
 別に、「悪口を言っていた」とは限らぬであろう?
 さもあれば、もしかすると……身共の事を陰ながら”讃えておる”かもしれぬではないか。



【大高目】



302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 20:30:53.90 ID:eRuspO3go


薬売り「貴方が恐れ敬う師・永琳……つい先刻、モノノ怪に憑りつかれ、どこぞの果てに消え失せた」

薬売り「しかしその顏はどうでしょう……苦痛に歪んでおりましたか? 恐怖に怯えておりましたか?」

薬売り「あっしにはとてもそのようには……まるで、”自ら望んで消えた”ようにすら見えました」



レイセン「望ん”デ……消え”ダ……?」



薬売り「永琳も、最初から知っていたんですよ――――貴方の事を、”もう一人の貴方を含めて”ね」



レイセン「あだジを”……知っでダだど……!?」



【相似】



薬売り「ともすれば、”未曾有の危機は絶交の機会である”とでも思っていたのかもしれません」

薬売り「まるで……この機に乗じて逃げ出そうとしている、貴方のように」



 確かに、あの時の永琳は、恐れる表情など微塵も見せておらなかったな。
 御身に無数の目が蔓延る最中にて。
 異形同然になり果てど、さりとてその姿勢は、最後まで「威風堂々」を貫いたままであった。
 「永琳程の賢人になると、恐れを跳ね除ける強靭な胆力が備わっておる」とも考えられるがの。
 が、あの場合は……”そもそも恐れる必要がなかった”と考えた方が、幾ばくか自然であろうて。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 20:31:46.61 ID:eRuspO3go



薬売り「そんな、貴方を深く知る永琳が、消える間際にあっしへ五つの示唆を託しました」

薬売り「それは、貴方を深く知る永琳をも深く知る、永遠亭の真の主からの教授でした」



薬売り「――――”姫君が残せし五枚の符”。そこに貴方の、答えがある」



レイセン「ズベル…………ガード…………?」



 そうそう永琳と言えば、これを忘れてはならなかったな。
 永琳が薬売りに託せし「符」は、別に姫君だけのものではなく、この幻想郷では広く知れ渡った常識なのじゃ。
 幻想郷に住まう者なら誰しもが持っておる物。故にその使い方も多種多様。


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 とは言いつつも、此度の符は、この幻想郷に置いてもやや特殊だったようで……
 流石の身共も、少してこずらされたわい。
 



【難題】龍の頸の玉-五色の弾丸-
【神宝】ブディストダイアモンド
【難題】火鼠の皮衣-焦れぬ心-
【神宝】ライフスプリングインフィニティ
【難題】蓬莱の弾の枝-虹色の弾幕-




――――この符が示す、”答えの解き方”にはな。



304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 20:51:16.58 ID:eRuspO3go


薬売り「この符は……竹取物語における五つの難題を模した物」

薬売り「して五つの難題とは、かぐや姫が求婚を断る為に用いた方便」

薬売り「故に”難題”。これらの品々は、どこを探そうと、どこにもありはしない」


 そう、かぐや姫が課した難題は、最初からこの世に存在せぬ物。
 存在せぬが故に提示できるはずもなく、よって大手を振って求婚を断れると言う、なんともまぁ〜意地の悪い難題じゃ。
 さりとて「はいそうですか」と引き下がれぬのが貴公子の辛い所。
 果たせぬとわかりつつ、あの手この手で何とか難題に答えんと奮闘していた小話は、まぁ皆も知る所じゃろう。
 

薬売り「しかしどうでしょう……果たせぬが故の【難題】。にも拘らずその頭文字には、確かに【神宝】の文字があるではありませんか」

薬売り「あるはずがないのに、あたかもそこにあるように置かれる【神宝】の頭文字」

薬売り「これは一体……何を意味するのでしょう」


 【難題】が果たせぬ「幻」を意味するならば、【神宝】は存在そのものを指す「現」。
 言い換えれば「在る・無し」と置き換える事が出来よう。
 姫君の符は、その名の通り「五つの難題」を模した者である。
 その中に「在る」を意味する頭文字が混ざる、その所以は――――


薬売り「言い換えるならば、【難題】と【神宝】の頭文字こそが、姫が示した”答え”」

薬売り「ほら、よくご覧なさい……三つの【難題】と二つの【神宝】」

薬売り「この中に、確かに……”貴方を指す”言葉が、あるじゃありませんか」


 ふふ……ッと失礼。いやはや、関心しておったのだよ。
 「嫁ぎたくない」ただそれだけの為に咄嗟に出た方便にしては、よくできた御題目じゃと思うての。
 かの書を読んだ際は「なんだこの性悪女は」とタカをくくっていたが、しかし改めて見てみれば、こう……
 確かにこの難題ならば、相手の身分に関係なく、まんまと求婚を断り抜けようものぞ。



薬売り「目を背けてはなりません。貴方を知る者が、貴方を一体どう思っているのか」


薬売り「それこそが貴方の望みを果たす唯一の術……隔てし境を打ち破る、唯一の答え」



 この姫君、やるのぅ。どうして中々、存外に賢しき姫君じゃ。 
 これほどに頭の回る姫ならば、うむ。なるほどの。
 咄嗟の間際であろうとも、このような示唆も十分できようものぞ。




薬売り「その全てが……ここにある……!」




 確かにこの符には、しかと記されておるわ――――”兎はモノノ怪ではない”とな。



305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:11:08.53 ID:eRuspO3go


薬売り「今一度思い出すのです。かつて貴方が、何を欲していたのか」

薬売り「欲した物を手に入れるために何を交わしたか。奈落の底に堕ちてまで手に入れたかった物は何か」


レイセン(――――???)


薬売り「してそれは――――誰に与えられた物だったのか」


レイセン「ぞ…………レバ…………」





【鈴仙】





(随分……待たせてしまいました)

(あの約束を交わしたあの時から……何がふさわしいか、ずっと悩んでいたのです)

(ずっとずっと、長い時間をかけて……考えてたのです……)

(……姫様と、二人でね)




レイセン「アダジガ…………欲ジガッダ物…………」




(こうして渡せる日が訪れた事を……心から感謝します)

(さあ、受け取りなさい……今日から貴方は――――)




薬売り「その言葉は、永遠を生む枝から咲く、一輪の花から取った言葉だった……」



【憶】



うどんげ「――――その意味を知ったのは、此処へ来てしばらく後だった」




レイセン(じゃあ…………)


レイセン(うどんげって…………!)




【覚】

306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:23:54.77 ID:eRuspO3go


薬売り「ずっと……気になっておりました……」

薬売り「存在せぬはずの五つの難題の中で……何故姫君は、蓬莱の玉の枝のみ”本物を所持している”と、言い張っているのか」



【蓬莱の玉の枝】



うどんげ「あたしがこいつに……教えたのよ……」


レイセン(じゃあ…………)



 先ほど述べた通り、蓬莱の玉の枝とは、不老不死の薬の元になる原料である。
 多少の差異はあれど、不老不死に纏わる大抵の物語に出てくる故な。
 五つの難題の中では、最も名の知れた品なのではないだろうか。

 さもあれば、不老不死と言う広く知られた表の顏もさることながら……
 実はこの蓬莱の玉の枝。もう一つ”裏の顏”がある事は、ご存じかな?



レイセン(”本物の蓬莱の玉の枝”って…………!)



 それは――――枝に咲く花の逸話じゃ。
 蓬莱の玉の枝には、もう一つの伝説があっての。
 それもズバリ”三千年に一度だけ花を咲かす”と言う伝説じゃ。



【咲】



 三千年に一度……おそらく大多数の者共が一生お目にかかる事はないであろう、大変に珍しい花よ。
 そんな、あまりに度を超えた希少さが故に、じゃ。
 一度咲けば――――”三千年分の吉祥を振りまく”と言う、これまた大層な逸話もあるのだ。



薬売り「あくまで、推測にすぎません……が」



 そんな二つの顏を持つ蓬莱の玉の枝。
 その枝に咲く花は、誰がつけたかこう名付けられた――――
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:25:27.12 ID:eRuspO3go







【開花】






薬売り「――――”貴方の事”だったんじゃないですか」


薬売り「姫君だけが所持する……”本物の蓬莱の玉の枝”とは」




【――優曇華ノ花――】



 ……もう、お分かり頂けただろう。
 優曇華の花を咲かす蓬莱の玉の枝に、無しを意味する【難題】が頭についておる。
 よってこれらを結び合わせれば、浮かび上がる意は「蓬莱の玉の枝は無し」となる。
 つまり、言い換えれば――――「モノノ怪は優曇華ではない」と読める。と、言う事じゃな。


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308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 21:29:02.74 ID:eRuspO3go
メシ
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 21:38:40.56 ID:3yWtMGbTO
一旦乙
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 22:12:16.33 ID:9VrC1l3u0
スペカが難度取り混ぜだったのはこういう仕掛けか、見事
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 22:55:04.32 ID:eRuspO3go


レイセン(ウソ……)


 いやぁ、にしても……何と言おうか……
 竹取物語などさして興味はなかったが……なんだか、段々と身共も興が湧いて来たわ。



レイセン(じゃあ……あたしは……あたしには……!)



 月よりいずるかぐや姫……か。
 まだこの地上におるならば、是非一度お会いしたいものよ。



薬売り「恐れる必要はなかった……いや、恐れなど、最初からありはしなかった」

うどんげ「ありもしない恐れに怯え、ありもしない幻に、勝手に狂気に満ちた鬼を想像していた……」



……阿呆! 求婚を申し込みに行くわけではないわ!
 身共はただ、測りたいのだよ。 
 この聡明精錬にして明晰な頭脳を存分に発揮できる、知恵比べ相手としてな。
 


【至】



薬売り「あるのただ、単純な一つの事実のみだった」

うどんげ「あたしがお師匠様から最初に教わった、教え……それが全てだった」



レイセン(あたしが…………あたしも…………)





【答】





薬売り・うどんげ「――――(私・貴方)は”愛されていた”」




 ブワリ――――その瞬間、薬売りが貸し与えた札が、辺り一面に飛び散った。
 ひらひらと周囲に舞い散り、瞬く間に闇夜に消えゆく札。
 それはまるで、春の終わりを告げる桜の花びらのようであった。


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 しかしそこに、風はなかった。
 風無き空に札だけが舞う……そうじゃ。
 兎の中の”恐れ”だけが、形を失ったのだ。




【解】     【恐】     【之】

    【放】     【怖】     【殻】



  
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:06:57.67 ID:eRuspO3go



レイセン(嗚呼…………)



【塵】



レイセン(消えていく……あたしが……あたしの存在そのものが……)



【理知】



薬売り「貴方を知る者は……何も、貴方自身だけとは限りません」

薬売り「貴方と同じ過去を過ごした他人もまた……貴方を知る者の一人であるのです」



【反転】



レイセン(じゃあ……あたしも……他人なの……?)


薬売り「あなたは一体誰なのか――――そんな事は、最初から分かり切った事だったのですよ」



 してそれらの舞い散る札を、薬売りは気にも留めぬままに、懐からまた私物を一つ取り出した。
 それは、モノノ怪を斬る退魔の剣にあらず。
 掌に収まる程度の、おなごが身なりを整える際に使われる物――――
 一枚の、手鏡である。


313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:30:46.23 ID:eRuspO3go



薬売り「ほら、ここには……”最初から一羽の兎しかいない”」



【反射】



レイセン(ほんとだ……)


レイセン(おんなじ…………だ…………)



 鏡越しに見る闇夜には、しかと映っておった。
 舞い散る札の一枚一枚の、その中心に――――
 優曇華と名付けられし、一羽の兎が。



レイセン(最初から……おんなじだったんだ……)



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――――故に願いも、また同じとなりし。




【同】



【願】



【――――安ラギヨ永遠ニ】


       
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314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/21(日) 23:31:18.25 ID:eRuspO3go
本日は此処迄
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 01:24:31.91 ID:3hpyWw77O
乙!
お見事です…!
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/22(月) 20:41:41.09 ID:qusnPhudo
いよいよクライマックスかな
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 22:04:34.16 ID:3uu0rWtyo


ドーン


【散】



ゴーン



【札】



ボーン



【紛・闇夜之中】



――――静寂が、辺りを包んだ。
 丑三つ時に相応しき、闇夜にあるべき静けさである。
 その静けさは、意図的に作られた静けさであった。
 薬売りと兎。
 この両名が黙す事によって、出(いず)る事を許された、いとも儚き静寂なのだ。
 


薬売り「…………行くのですか」


うどんげ「…………ええ」



 儚きが故、打ち破るのもまた容易な事で――――
 薬売りが、ポツリと訪ねた。
 してその返答は、すぐに返ってきた。
 そしてその返答を気に、飛び交う音のやり取り。
 結果、あっという間に静寂は消え申した。
 しかし返事の主の姿は、もはや背中でしか見えなくなっていたのである。 


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薬売り「そんなに息を押し殺して……一体何処へ行こうと言うのです」

うどんげ「行くんじゃない。生むの」

うどんげ「永遠亭が永遠足りえる……いつまでも変わらない静寂を」


 玉兎の決意は、この一言に集約されておった。
 こうまで言われては、もはや誰にも止める事はできぬ。
 まぁ、なんだ……結局また、振り出しに戻ったわけだ。
 紆余曲折を経て導き出された答えは、最初の通り、亭から逃げ出す事のままだったのだ。



【元ノ鞘】

318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 22:17:29.28 ID:3uu0rWtyo


【満】


うどんげ「止めないの?」

薬売り「止める必要がない……貴方がモノノ怪ではないのなら、どこで何をしようが貴方の勝手」

うどんげ「冷たい奴。こういう時は、社交辞令でも止めるフリくらいはするものよ」

薬売り「それに……自信がないのですよ」

うどんげ「自信?」

薬売り「あっしにはどうも……兎の脚に追いつける自信がありませぬ」


 それは何も心のあり様の話ではない。実際問題無理なのだ。
 一度逃げ始めた兎を捕らえる事は、本当に至極困難である。
 と言うのも――――単純に”速い”のだよ。


うどんげ「頼りない奴……ほんとに大丈夫なの?」

うどんげ「あんた……言ったわよね? ”モノノ怪は必ず斬る”って」


 知っておるか? 兎は時として、馬よりも速く駆けるのだ。
 さもあれば、人の脚程度では到底追いつけぬ速さである。
 「脱兎の如く」の語源は、まさにそこにあるのだ。

 そんな兎の脚を止めるには、何か別の手段が必要となろう。
 そうじゃな……まぁ、強いて言うならば、だ。
 「罠を仕掛ける」事。それが一つの、定石であろう。


薬売り「ええ……斬りますよ、モノノ怪はね」

うどんげ「だったら……モノノ怪を斬り終えた暁には……」


 玉兎は、言伝を頼んだ。
 それはモノノ怪が去りしこの地にて、残されし者への”声明”であった。

 玉兎はその身に宿せし思いを、こう言い表した。
 「永遠は終はらず」――――。
 自分が逃げ続ける限り、亭の永遠は潰える事はないと言う意である。


薬売り「確かに……承りました」

うどんげ「……はぁ、あたしもヤキが回ったわ」

うどんげ「あんたみたいなうさんくさい奴にしか、こんな大事な頼み事をできないなんて」


 モノノ怪を斬るのが薬売りの仕事なら、亭を守るのが玉兎の仕事。
 一見なんら関係のない責務であるが、両者の利害が一致しているとあらば、手を組まぬ道理はない。

 しかし玉兎からすれば……まぁ、やはり不安であろうよの。
 手を組む相手が、どうにも”うさんくさすぎる”。



【夜八つ】

319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 22:32:22.30 ID:3uu0rWtyo


薬売り「僭越ながら、あっしからも、お節介を一つ……」

うどんげ「あによ」

薬売り「貴方の中に在りし、もう一人の貴方の事です」


 亭を守るのが玉兎の仕事なら、モノノ怪を斬るのが薬売りの仕事。
 玉兎が不安を感じると同時に、薬売りもまた、一抹の不安を抱えておったのだ。
 
 よって薬売りは、身の丈もわきまえず、釘を刺した。
 姉弟子に対し末弟子の分際で、指図紛いの忠告を、最後の最後に言い放ったのである。


薬売り「モノノ怪を成すのは、人の因果と縁(えにし)――――」

薬売り「人の情念や怨念がアヤカシに取り憑いた時、それはモノノ怪となる」


うどんげ「……」


薬売り「貴方の中のもう一人の貴方……モノノ怪でこそなかったものの、その情念は十分モノノ怪を成すに足り得る」

薬売り「よって万が一、優曇華の幕が下り、レイセンなる一匹のモノノ怪の幕が開けた、その暁には……」

薬売り「斬りに来ますよ――――”約束通り”ね」 


 にしても、言い方が……
 要するに「お前がモノノ怪になったら、追い掛け回してぶった斬る」と言う事だろう。
 別れの言葉とは思えん。これではまるで脅迫ではないか……
 彼奴の態度もまた、永遠なのかのぅ。



うどんげ「……”そうなったら”ね」



 陰ながら切に願っておるぞ……二度と再開せぬ事を。


320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 22:48:37.92 ID:3uu0rWtyo



うどんげ「んじゃ――――」



薬売り「お達者で――――」




【疾風】


【消失】




薬売り「…………」



――――別れは、存外に淡泊な終わり方であった。
 大層な餞もなく、淡々と。まるで一時の別れであるかのようである。
 しかしながら、双方共に、再び会いまみえるなど思っていない。




【土煙】




薬売り「…………ふぅ」




【脱兎の如く】




 「脱」――――兎が蹴った駆け足だけが、最後の音であった。




【来たる】


【――――暁七つ】




321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 23:04:21.85 ID:3uu0rWtyo


薬売り「いやぁ…………」


薬売り「にしても…………」


薬売り「なんと言いましょうか…………」


薬売り「存外に…………”良い話だった”と言いますか…………」



 兎は、本当に瞬きをする間もなく、闇夜に消えた。
 その地には、兎が掘った穴と、兎が蹴った痕しか見えなかったと言う。

 そして一人残されし薬売りは……月を見上げながら、ポツリ言葉を呟いた。
 傍から見ればまるで、月に語り掛ける、面妖なうさんくさい男が一人である。
 しかしそれは――――確かに”会話”であったのだ。



薬売り「”守る為に逃げる”ですか……確かに、少々わかりづらいでしょうな」

薬売り「ですがその理は、確かに繋がっていた……兎の、嘘偽りなき真と」



 薬売りは語った。
 玉兎の秘めし思い。決意。そしてそこから伴う行動が、やや”分かりにくかった”事を。
 しかし幸運にも、兎が話し上手であった為か。
 その理は、最後には”理解足り得る物”であった事も。



薬売り「臆病な兎だから……いや、臆病な兎だからこそ、辿り着く事のできた兎の理」

薬売り「だったのかも知れません……ねぇ?」



 理解足り得るが故に、結ぶことができたのだ。
 兎なき後の永遠亭の、あってはならぬ”怪”を排除する役目。
 「モノノ怪を斬り払え」――――薬売りにしか託せぬ、兎の命である。



薬売り「そう、思いませんか…………」



 だからこそ、だろうなぁ……
 如何に見聞に長けた兎とて、よもや、露も思わなんだろう。

 




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 その薬売りが、まさか――――先に”モノノ怪と手を結んでいようとは”。



322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/22(月) 23:06:50.29 ID:3uu0rWtyo
メシ
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 00:27:56.64 ID:yA5aoPY9o



(ハァ――――……ハァ――――……)



【同刻】



(ハァ――――ハァ――――)




【兎側】




「ハァ――――ハァ――――ッ!」



【止】



うどんげ「あ”〜……」




【竹林の境にて】




うどんげ「喉……渇いたぁ……」




――――ウサギは、あっという間にゴールまで到着しました。
 馬より速いと評判のウサギの瞬足を持ってすれば、どこであろうと、辿り着くのはいとも容易い事だったのです。


 ですが最終的にその脚は、カメより遅い鈍足となってしまいます。
 瞬足にかまけ、あろうことか、ゴールの手前で居眠りをしてしまうからです。



うどんげ「またあんたなの……」


324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 00:40:11.89 ID:yA5aoPY9o


 ウサギがのんきに熟睡している間に、カメはウサギを抜かし、結果カメはウサギより早くゴールに辿り着きました。
 そうです。これは所謂「ウサギとカメ」。
 このまさかの結果に終わった事で有名な、ウサギとカメのかけっこですが……
 実はこの話には、続きがあったのはご存じでしょうか。


うどんげ「…………」


 負けたウサギはその後どうなったのか。
 勝ったカメは何を得たのか。
 勝者と敗者。栄光と挫折。
 この相反する二匹が辿る、数奇な運命とは一体――――


うどんげ「…………」



――――知りません。
 むしろこっちが聞きたいくらいです。
 話し手はまだ、続きを読んでいないですから。 



うどんげ「ってオイ」


325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 00:51:18.16 ID:yA5aoPY9o


 だって……しょうがないじゃない。
 読もう読もうって言ってたくせに、今やすっかり忘れちゃってるんだから。


うどんげ「っさいな〜、あんときゃ勉強で忙しかったのよ」


 だったら、最初の行先は人里で決定ね。
 頼めば一冊くらい、貸してくれるかもよ?


うどんげ「バカね、なんでわざわざこんな夜更けに童話を読みに行かないといけないのよ」

うどんげ「あたしらと違って、人は夜眠る生き物なのよ。人里に向かうなら、その辺考えないと――――」



(ぐぅ〜)



うどんげ「……」



――――とか言いつつも、やっぱり最初の行先は人里でした。



うどんげ「……食料よ! 食料の調達に行くのよ!」

うどんげ「ほら、腹が減ってはなんとやらって言うじゃない!? ていうか、そもそもまだなんも食べてなかったし!?」


 はいはい、そういう事にしてあげる……
 別に、どうとでも言えばいいんです。
 どんな屁理屈を述べたって、結局は意味がないんだから。
 いくら言い訳を並べたって、結局は筒抜けなんだから。



うどんげ「ほら、行くわよ…………”一緒に”ね!」



 だって、あたし達はずっと一緒なんだから。


326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 01:04:51.85 ID:yA5aoPY9o


うどんげ「……でも」


 でも?


うどんげ「許されるなら、まだ……」

うどんげ「あんたさえよければ、もうちょっと、あと少しだけ……」



 あ〜……


 ……どうぞ、ご自由に。



うどんげ「…………」



 優曇華は、体を前にしたまま、首だけでくるりと振り返りました。
 そしてしばしの間、夜のくらぁい竹林を、じ〜っと見つめ続けていました。


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 じぃ〜……ちょっとだけと言う割には、結構な間です。
 やっぱりこいつは、嘘つきだと思いました。



うどんげ(さよなら……あたしの永遠亭……)



 でも、「別にいいんじゃない?」って感じです。
 もう互いに、目を逸らし合う必要はないんですから。
 誰にも言う必要はないんです。
 その時の優曇華が何を考えていたのかは、あたしだけが知ってれば、それでいいんです。



うどんげ(さよなら……あたしの故郷だった場所)



327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 01:21:27.84 ID:yA5aoPY9o


 思い出を過去に。未来を眼に。
 これから兎は、ご自慢の逃げ脚で、どこまでも走り続けます。
 


うどんげ(さよなら…………永遠と思ってた今)



 時に疲れてしまう事もあるでしょう。
 時には脚を止め、休息に浸る事もあるでしょう。 
 それらと同じく、もしいつか、今のように振り返りたくなる時が訪れたなら……
 いつだって、目を合わせてあげるつもりです。



うどんげ(さよ…………なら…………)



 だって、あたしはあなた。あなたはあたし。
 鈴仙と優曇華は、どっちも同じ、兎なのだから――――。




うどんげ(――――)




――――そして今から、始まるのです。







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 新しい二人のk






――――





――











【鈴仙・優曇華院・イナバ】×


328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 01:42:56.11 ID:yA5aoPY9o



薬売り「…………」



 薬売りは兎が去りし後、立ち上がる事すらせぬままに、じぃ〜っとその場に座し続けておった。
 喋らず、動かず、瞼すら開かず。
 兎去りし夜の竹林にて、ただ、静かなるままに……


 ……何? この時薬売りが何を考えていたかだと? 
 知るか。どうせ眠くなったから目を閉じたとかそんな所だろう。
 というか、わかるわけがなかろう……身共とこやつは、赤の他人なのだから。



薬売り「……逝ったか」



 ああでも、一つだけわかるぞ。
 ……いやだから、薬売りの事ではないと申すに。
 そっちじゃなくて、身共が言いたいのは、ここの”面子”の事よ。



薬売り「ではこちらも……そろそろ、参りましょうか」



 ひーふーみー……ほれ、おぬしらもやってみよ。

 よいか、最初に面子は「六」人おったのじゃ。
 そして後に「三」人がいなくなり、「一」人は無関係とわかり、たった今「一」羽が逃げ出した。
 ならば残りし数は何とならん。

 如何に平民風情とて、このくらいはできるであろう?


329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 01:47:37.99 ID:yA5aoPY9o




【八意永琳】×

【鈴仙・優曇華院・イナバ】×

【蓬莱山輝夜】×

【八雲紫】×

【藤原妹紅】×





 ま、と言うわけで、残りし数は後一人……いや、一羽じゃな。





【残】因幡てゐ



 

 果たしてこの最後の因幡兎は、一体どんな因果を抱えておるのやら。
 してその因果は、一体どのような形でモノノ怪と結びついておるのやら。
 目玉を形作るモノノ怪は一体何を見据え、薬売りはその視線に、一体いかような理を見出したのやら。
 


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 全てが明らかとなる時は近い。
 ではでは皆の衆。
 直に訪れる終幕を、努々見逃すことなかれ――――。
 



【突入】



【寅の刻】




薬売り「残る因果は――――”後一つ”!」





                         【後編へつづく】



330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/23(火) 01:48:30.04 ID:yA5aoPY9o


【御知らせ】

またしても書き溜めが尽きました
なのでしばらく休みます
感覚は前と同じくらいだと思います
例によって、再開の目途が立てば報告しにきます
一応次の再開で完結する予定です

ではではそういうわけで、しばし御免
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 01:55:32.73 ID:NIA92u12O
乙でございまする!
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 09:13:35.82 ID:sHFix48co
乙!

こんだけ意味ありげな回だったのにうどんげ犯人ではなかったというw
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 12:45:14.09 ID:zyPN71K0O
紫以外で目に関係するキャラってうどんげしかいないと思ってたが、違うのか
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/24(水) 23:04:55.19 ID:Du2MhX33o
スペカのヒントおかしくね?
読み方はわかったけどこれだと犯人二人いる事になるじゃん
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/24(水) 23:17:40.56 ID:DbQfPPCyo
んんんマジかぁ!
楽しみに待ってるよ!
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/26(金) 08:17:10.80 ID:c84eJ9WMO
>>334
共犯がいるって事だろ
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/17(土) 12:24:35.12 ID:Ippp5Mj90
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 00:01:34.31 ID:Pe//o5w/o
【御知らせ】
すんませんもうちょいかかりそうです
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 00:04:02.76 ID:BHH5fiKJo
了解
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 10:43:02.54 ID:jUhe9nJZO
待ってるよー
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 18:15:12.28 ID:iRUhd6Uho
おk
焦らず無理なくやってね
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 04:58:39.87 ID:5iAcMxhD0
追いついた
これは近年稀に見る東方SSですねえ・・・
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/16(日) 02:29:23.41 ID:imehHrz2o

【定時報告】

少女書溜中……………………
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/16(日) 14:25:23.50 ID:XD/2BLtNo
がんがれ
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 00:39:33.81 ID:U1mHusAko
俺の退魔の剣がカチカチ言ってる
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/15(火) 21:21:39.57 ID:vHqjlvRXo
【定時報告】
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1339642.jpg
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/15(火) 21:23:06.05 ID:vHqjlvRXo


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                 ↑
               今この辺
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 21:25:29.64 ID:i/Gof5RBo
待ってる
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