日向「神蝕……?」

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179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/06(土) 19:07:31.08 ID:ivDNb5XA0
葉隠が悟った感じになったのは自分の未来見たからか
180 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:11:52.58 ID:3h/q+p2e0
>>179

そのつもりだけど、それは後々。
_________


菜摘  「……」ペラッ


<『求む アマチュアカメラマン! 写真部】


菜摘  「……」グシャグシャ、ポイッ


丸めた紙をゴミ箱へ投げて、菜摘は顔の前に手をかざした。


菜摘  「今日もまぶしいなあ……」スウッ

菜摘  「!?」


手の向こうに、青空が見える。

まばたきする間にまた肌色になった視界。


桑田  「よっ、ヒマか?」ヒョイッ

菜摘  「……あんた、部活見に行ったんじゃなかったの」

桑田  「いつ死ぬか分かんねーのに、のんびり部活なんかやってられっかよ」

菜摘  (今の……気のせい?)


菜摘 「ねえ、今日も空島って見えてる?」

桑田 「あー、昨日よりちょっと北北西?のあたりに浮かんでる」


学園で空島の見えない生徒は、菜摘だけだ。


菜摘 「ふーん……私もいつか、見えるようになるかな」

菜摘 「……」

菜摘 「ねえ、あんたは死なないでよね。絶対にここを出て、自由になりなよ」


お前もな、と言いかけた口は、

菜摘の沈んだ表情につぐまれる。

そうやって二人はしばらく、中央広場のベンチから空を眺めていた。
181 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:13:01.81 ID:3h/q+p2e0
ザワザワ…カチャカチャ…

キョウノテストドウダッタ? コノパスタウメーナ ダレカオチャトッテキテー


桑田  (スパゲッティと、野菜のスープ。デザートのドーナツ率が高いのは誰の策略なんだ?)モグモグ

桑田  (今日も今日とてぼっち飯。今気がついたけど、この一ヶ月菜摘以外と会話してねえ)ゴクゴク

桑田  (頼むぜ、九頭龍菜摘。オメーが死んだらオレはマジのぼっちになっちまうかんな、
     ぜってー死なないでくれよ)チラッ

ワイワイ…

石丸  「なるほど、そんな考え方もあるのだな!参考になったぞ苗木先生!!」

苗木  「あはは、久しぶりにその呼ばれ方したよ」

不二咲 「そういえば、だいぶ暑くなってきたけど…衣がえはやっぱり6月1日かな?」

石丸  「あと一ヶ月もあるのか……蝕で走り回ると制服が蒸れる。融通を利かせてはもらえないだろうか」

腐川  「あんたの口から"融通"なんて言葉が出る日が来るなんてね……」

石丸  「僕は常に成長を続けているのだよ!」


アアハハ…


大和田 「よ、よぉ…ここ、いいか?」ガタッ

桑田  「……なんか用かよ」


苗木が差し向けやがったのか、と思ったけどちがうらしい。

コイツとは仲良かったらしいけど、実感がねえから、オレの中では他人とそんなに変わらない。


大和田 「いや、特に用とかねえけどな……その、お前は平気なのか?」

桑田  「何がだよ」(イライラすんなこいつ、でけえ図体してモジモジ喋りやがって)

大和田 「不二咲が生きて喋ってるって言ってもよ…オレがテメエの勝手な都合であいつをブッ殺したって
     罪は消えねえんだよ……お前もそうなんだろ?」

桑田  「……」プチッ


ハッキリ言えよ、『傷の舐めあいがしたいです』ってよ。


桑田  「オメーは悪くねえよ」

大和田 「……!」

桑田  「悪いのはあんな事させたモノクマだろ?不二咲もオメーを許すつもりなんだろ?だったら
     それでいいじゃねえかよ。な?」

大和田 「やめろよ…」

桑田  「もう楽になれって。辛かったんだろ?」

大和田 「やめろっつってんだろうが!!!」ガタンッ


なんと総長は、親切にもなぐさめてやったオレの胸ぐらをつかんできた。

あいかわらずの短気。こいつ、不二咲の事件から何も学んでねーな。


苗木  「やめなよ、大和田クン!手離して!」ぐいっ

桑田  「あー、どれが気に食わなかったのか知んねーけど、落ち着けよ」

大和田 「離せ苗木!桑田のヤロー、やっぱ何も分かっちゃいねえ!!」


『つづいてはスポーツです!』


そこで、テレビのニュースがスポーツの話題に切りかわった。

『まずはメジャーリーグで活躍中の大谷選手。二刀流はアメリカでも……』
182 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:13:32.46 ID:3h/q+p2e0

桑田  「あ……」

食堂のテレビに映った野球選手が、ホームランを打った瞬間。

オレは短い悲鳴を上げてその場にぶっ倒れた。

______________


「ネームプレート、よし。返り血防止のシーツ、よし。ドアの鍵、よし。
 あとは桑田くんを待つだけですね」

「なーんか怪しいなあ……あの流れだったらフツー苗木じゃね?
 でも二人っきりってトコはやっぱ、期待しちゃうよなあ」

「でも、あの手紙に引っかかってくれるでしょうか。
 自分で言うのもなんですけど、かなり怪しいのに」

「あれだ、吊り橋効果ってやつを期待したってバチは当たんねーだろ、うん。ぶっちゃけ不安だしな、オレも」

「……大丈夫。きっと桑田くんは来てくれます。だって、桑田くんと私は」

「ま、舞園ちゃんに限って変なことはねーだろ!だってオレと舞園ちゃんは」



――ともだちだから!


【保健室】


桑田  「……」

桑田  「……あれ?」パチッ

シャアッ

罪木  「よかった…!あ、あのぉ…何があったか、覚えてますか……?」

桑田  「オレ、たしか……食堂で」

罪木  「はい…食堂で倒れた桑田さんを、大和田さんが運んできたんです」


起き上がって見ると、外はもう真っ暗だった。

オレのせいで夕飯を食いそこねたらしい罪木先輩は、おにぎりをかじってる。


桑田  「大和田が…?」


特に理由のない暴力はこの働きでチャラにしてやっか。やさしーなオレ。


罪木  「はい…すっごく心配してました。"オレがまた八つ当たっちまったんだ"……って。
     あ、お部屋まで付き添いましょうかぁ?」

桑田  「いや、一人で歩けるんでへーきっす」ガラッ

罪木  「そうですかぁ…でも、具合が悪くなったらすぐに言ってくださいねぇ……
     私は超高校級の保健委員ですから…お注射でも点滴でも……手術だって……」モジモジ

桑田  「は、はあ…」(この人まだ絶望なんじゃねーの?)


なんか危険な匂いがする。保健室はなるべく行かないようにしとこう。

今日は大安吉日だったはずなのに、不運の連続だ。

電子生徒手帳を見ると、菜摘から『おだいじにー』とメールが来てた。


桑田  「……ん?」


個室のドアの前に、クリアファイルが置かれてる。

堅っ苦しい字と分かりやすい図は、気絶してる間にあった午後の授業の内容らしい。
183 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:14:01.64 ID:3h/q+p2e0

桑田  「……自覚のねえ悪口が一番タチ悪いよなあ」


でも追試は正直めんどくせーし、ここは石丸の言うとおり勉強しておいた方が後々楽そうだ。

どーせ帰宅部だし、毒見係は仕事ないし。


桑田  「そーいや、明々後日が晴れだっけ。死んだら追試受けなくていいんだよな」カリカリ

桑田  「……何考えてんだオレは、葉隠のアホが伝染ったか」ペラッ


葉隠  「へくしっ!!」


【数日後】


教師  『で、あるからして…マルクスの三頭政治。これがローマの共和制を……』

キーンコーンカーンコーン

教師  『では、本日の授業はここまで。明日のテストで70点以下の生徒は追試があるので、気をつけるように』

大和田 「」

朝日奈 「」

葉隠  「」

忘れてた。希望ヶ峰学園は偏差値も超高校級なんだった。


桑田  (えーと、明日は雨だし……暗記すればなんとか)ダラダラ


そんなことを考えてる間に、空島が太陽に重なった。

カッ!!

そして今日も、試練が始まる。

___________


桑田  「ん……」パチッ

桑田  「隔離型か。気持ちわりー場所だな」スッ


立ち上がって、周りを観察。

灰色の空と、ガレキの山と、血の池。うん、こりゃ確実にやべーもんが来るわ。


ガラガラッ


終里  「あれ?お前……誰だっけ」

山田  「桑田怜恩殿!お久しぶりですなあ!」パァァ

桑田  「山田……と、終里先輩」

終里  「あれ、お前オレのこと知ってんのか?えーと……なあ山田、こいつ誰だ?」

山田  「終里赤音殿は人の名前を覚えるのが苦手なのです。なにか食べ物をあげるといいですぞ」ヒソヒソ

桑田  「ブーデーは何やったんだよ」

山田  「リュックの中にあった油芋チップスを……半分のつもりが全部取られてしまいまして……」ずぅぅん…

桑田  「チッ、しょうがねーなあ」ゴソゴソ

終里  「おわっ!?あんぱん!?なんでポッケからあんぱん出てくんだお前!すげえな!!」キラキラ

桑田  「食ってる間に覚えてほしいんすけど、オレは桑田怜恩っていいます」

終里  「おうっ!くわたな!おほへたへ!」モグモグ


腹いっぱいになった終里先輩と山田を連れて、出口を探した。

そんなに広くない空間で、山田が見つけた道を歩く。
184 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:14:29.43 ID:3h/q+p2e0

山田  「もうすぐ出口……!?!?」

桑田  「……んだよ、あれ」

山田  「おうふっ!?き、きょきょきょ…リアル巨女キタ――(゚∀゚)――!!」

終里  「なんだあいつ!?すっげー倒しがいがありそうだぜ!!」ゴォッ


そこにいたのは、何cm…いや、何mの巨大な女だった。髪を揺らして、オレたちを見下ろしてる。

文字の先制攻撃だべ!……と思った瞬間、そいつが『妾は夢の主』と笑った。


『人の子よ……何を望む。永遠の吉夢か、それとも泡沫の凶夢か……』


山田  「そりゃもちろん、ぬっぷぬぷのぐっちょぐちょ「それ以上言ったら殺すぞ」男のロマンという
     奴じゃありませんか!」

終里  「きょーむってなんだ?食えんのか?」


『ふむ……なかなかに骨のありそうな子らよ。どれ、しばし妾の夢を見せてやろう』ズズズ…


パカッと割れた腹から、白い手が出てきて、オレたちの体にからまる。

山田  「あああ!!そんなところ触らないでぇ!!触手プレイはらめぇぇ!!」ジタバタ

終里  「くそっ、ちぎれねーぞこいつ!」グイグイ

桑田  「うわ、ああああああ!!!」ズルズル


ぱくんっ。


___________

___


ピチャン…ピチャン…


桑田  「……あ……」パチッ

桑田  「オレ……たしか、あのデカい女に……」ゴソッ

桑田  「どこだ、ここ……?」


シャワーから水滴が落ちて、静かな中で響く。

暗がりに目が慣れてくると、そこがシャワールームだと分かった。


ガチャガチャッ!


桑田  「!?なんっ…いってぇ!」ズキッ

手首が痛い。熱をもったみたいだ。赤く腫れたそこに、金箔がついてる。

オレは、模擬刀を取ろうとしたのを舞園に先回りされて、手首を叩かれて……

シャワールームのドアをこじ開けて、中にこもった?


ガチャガチャ…ギイッ
185 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:14:57.50 ID:3h/q+p2e0

桑田  「うそ、だろ……だって、女子の方は、鍵が」ハッ

桑田  (そうだ、あいつら、部屋入れ替えて……じゃあここは、苗木の)


ザクッ


桑田  「あっ……」ボタボタ

舞園  「……桑田くんが、いけないんですよ」ズズッ


腹から抜かれた包丁は、べっとりと血がついている。

そっか、オレは舞園に殺されるんだ。


桑田  (……あんまりじゃねーかよ、これ……)ズルッ


くそ、いいダイイングメッセージが思いつかねえ。なんかねーのか、まだらのひもみてーなやつ。


桑田  (そうだ、あれだったら……苗木はたぶん分かる)ズッ…

オレは最期の力を振り絞って、壁に『つる』とだけ書いた。


『それ、夢の時間はもう終わりじゃ』


桑田  「……は?」


パアッ…


気がつくと、オレたちは元の場所にいた。山田が「うげえええ」と吐いてるのを、

終里先輩が「大丈夫か?もう終わったぜ」と背中をさすってやってる。

『そなたら、よほど妾の夢が気に入ったようじゃの。今一度見てみるか?』


終里  「冗談じゃねーぞ…オレはもうあんなん見たくねえよ…」


『よう凶夢を耐えた。名残惜しいが、もう時間じゃ。どれでも好きな扉を選べ』


終里  「んじゃ、オレは一番右の行くぜ」

山田  「えええ、三人一緒ではないと!?」

桑田  「なあ、入った瞬間喰われるとかねーの?」

『どれも出口に繋がっておるゆえ、案ずるな』

桑田  「……だってよ、オレは真ん中行っから、オメーもさっさと来いよ」ガチャッ

山田  「うう、これは精神的にキツいですぞ…」ギィッ

____________

バタンッ

桑田  「あー、ひでえ目にあった……龍の方が楽だったわ、マジで」


出た先は、この前とは違って中央広場だった。

ベンチに座って休んでるオレの隣に、終里先輩が出てくる。
186 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:15:26.17 ID:3h/q+p2e0


終里  「弐大のおっさーん!オレの方が先だったぜ!」ブンブン

弐大  「応ッ、じゃあ約束通り、放課後にアレをしてやるか!!」

山田  「安広多恵子殿はまだ……」

不二咲 「まだだよぉ。山田君は本当に安広さんが好きなんだね」ニコニコ

山田  「ふおあっ!?い、いやいや、僕はそんな、恋愛感情とかそういったものでは」ブンブンブン

安広  「あら、あなたを好きだなんて言う奇特な女性がいたなんて驚きですわ」


オレたちはかなり早めに出たみてーだ。

知ってる顔が次々に出てくる中で、見覚えのある金髪が歩いてくるのが見えた。


菜摘  「……」

桑田  「おせーぞ、お嬢。……あ?何泣いてんだおま」ガシッ

菜摘  「う、うえっ……あ、あああ……!!」ボロボロ

桑田  「はっ?あ、あああ!?やめろ、誤解だアホ!」


なんと、こいつはいきなり抱きついてきた。

生温かい目で見てくる山田に、オレは必死に弁解する。


菜摘  「助けて……」

桑田  「は?」

菜摘  「怖いよ、わたし……もう、どうしたらっ……」

桑田  「――っ、!!」


そこで、オレはやっと気づいた。山田たちからは影になって見えてないけど。


桑田  「お、お前……それ、なんなんだよ」カタカタ


オレのシャツをつかんでる菜摘の手が、顔が、

透けていた。

_______

切ります。

菜摘視点でちょっと書くかな。
187 : ◆XksB4AwhxU :2017/05/08(月) 12:00:29.93 ID:HDabpnKM0
抜けてた。

>>182の最後に

「石丸だ。来週はテストがある。君は記憶力が悪いのだから復習を怠らぬように!」

...石丸のノートのコピーだったらしい。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/10(水) 08:43:09.75 ID:S+0E/Me5o


ザッピングシステムはサイレンみたいに視点変更する時日にちとか時間とかあるといいかも
どこまで戻ったかわからず混乱した
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/08(木) 21:59:24.83 ID:52WG9KYA0
待ってる
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:43:08.62 ID:sE0XGrgQ0
二次試験で落ちましたひゃっほーい
そして保守ありがとう


山田  「ほほう…桑田怜恩殿も隅に置けませんなあ……ではここで定番の、"リア充爆発しろ"!!」ビシィッ

安広  「まずはあなたから爆ぜてくださいます?……あらっ?あなた、その手」

桑田  「っ、!」カッ


"出(いずる)"


フッ…


安広  「……見間違えでしょうか」


【西地区.寄宿舎】


シュウッ…スタンッ


桑田  「いって!」ドサッ、ゴロゴロ

桑田  「くっそ…やっぱ、座標が遠いと着地むずいな」ガチャッ

キイ…

桑田  「自分で歩けよ……暗いな、電気つけ「やめて!……お願いだから、やめて」……わーったよ」

行こうとしたオレの手を、ベッドに寝かせた菜摘が引っぱった。

菜摘  「まだ帰んないで。ちょっとだけ……私の話、聞いてよ」

菜摘  「でなきゃ、本当に…消えてなくなっちゃいそうなんだ、私……」



それの名前を表すなら。

『不安』の二文字がふさわしいと、思った。


菜摘  「なん、で……お兄ちゃん……?」


【九頭龍菜摘 (クズリュウナツミ)
 Chapter:幕間】


声をかけた、つもりだった。
しかし、兄――冬彦は、まるで自分なんか眼中にないように通り過ぎていく。

菜摘  「珍しいなあ、お兄ちゃんが冗談なんて」


アハハ、と笑ってはみたものの、心の中ではものすごいショックだ。
短気だが真面目な性格の兄が、仮にも妹を。しかもこんなサバイバルの後で
無視するなんてイタズラをするだろうか?


菜摘  「……ま、まあ……お兄ちゃんだって友達と話したいだろうし?
     全然ショックじゃないけど?うん」

自分を納得させるようにひとりごと。
単純に気づかなかっただけかもしれない。
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:43:35.46 ID:sE0XGrgQ0


◆◆◆◆


菜摘  「その理由に気づいたのは、ずっと後だったんだけど」

桑田  「……」

菜摘  「ほら、いつか買い物付き合ってもらった時にさ。パン屋で花村先輩と弐大先輩に会ったでしょ?」

菜摘  「二人が"知らない"って言った…あれが、本当だったんだ」


◆◆◆◆

佐藤  「……閻魔様ってのは、モウロクしてるらしいね。あんたみたいな悪党が
     生き返るなんて」

菜摘  「あんたこそ、犬のくせに偉そうに机座ってんじゃないわよ。小泉の靴でも舐めてれば?」

佐藤  「なんだって!?」ガタッ

言い争う私たちを、クラスメイトは遠巻きにしている。
いつものことだ。私と佐藤がお互いの性質を嫌悪しているのは明らかだったから。

でも、その日は違った。

「……おい、誰か止めてこいよ」
「嫌だよ、怖えもん」
「つーかさァ」


――誰だっけ、あいつら。


◆◆◆◆


桑田  「……んん?あいつ"ら"ってことは、佐藤ってやつもか?」

菜摘  「うん。でも不思議なんだよ。机にはそれぞれ名札がついてるんだけど、私と佐藤の机、ちゃんとあるんだ。
     寄宿舎にもちゃんと部屋があるし……でも、朝の出席で呼ばれたことは一回もなかった」

菜摘  「九頭龍菜摘の存在を証明してくれるのは、私自身と、それから……あんただけだったんだ」

菜摘  「少しずつ、記憶が鮮明になっていく。小泉真昼に嫉妬していたこと。予備学科で腐っている奴らを
     笑って鬱憤晴らししてたこと。組の若いの使って、小泉のネガを全部燃やしたこと……」

菜摘  「最初は、自分ってこんなにひどい奴だったんだ……って苦悩した。
     でもね……気づいたんだ。それら全てがあいまいで……そうだったみたいなようにも思えるし、
     そうじゃなかったみたいな気もする」

菜摘  「自分の記憶すら……たしかに自分のものだと信じられない。
     その孤独が、あんたに分かる?」

桑田  「……分かるよ」

菜摘  「そんなの、口ではどうとでも「大和田と、苗木と……あとは、不二咲か」

桑田  「男子ではそこらへんとつるんでたな。たまに舞園とか、朝日奈も一緒で……ゲーセン行ったり、
     買い食いしたり、まあ普通の高校生やってた」

桑田  「オレってこんなに幸せだったんだ……って知った時にさ、すげえ後悔が来たよ。
     なんで忘れてられたんだ、なんで……殺しちまったんだ、って」

菜摘  「……」

桑田  「オレはもう二度と、あんな幸せを感じる事は許されない。
     なのに死にたくない、こんな怖い所から抜け出したい、そう思ってる自分に気づいて……」

桑田  「また、苦しくなる。その繰り返しだ」

菜摘  「……ははっ、私たち、ホント似た者同士だね」クスクス


◆◆◆◆
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:44:01.16 ID:sE0XGrgQ0

九頭龍 「いいかペコ、ちゃんと覚えろよ。こいつは菜摘。菜っ葉を摘むって書いて菜摘だ」

辺古山 「申し訳ありません……」

菜摘  「いいって。ペコもまだ調子悪いんでしょ」

九頭龍 「……」じーっ

菜摘  「な、なに?どしたの、お兄ちゃん」タジタジ

九頭龍 「……あいつになんかされてないだろうな」

菜摘  「あー、もしかして桑田のこと言ってる?ただの友達だって。何もないない」

九頭龍 「ならいいけどよ……いいか、ああいう奴は口説き文句がそれと分かんねえもんなんだ。大体…」

辺古山 「坊ちゃん。ひとまず話は後にして、まずはこの夢から出ませんか?」

九頭龍 「そ、そうだな…菜摘、足元気をつけろよ」

転ばないように手を差し出してくれる兄は、
記憶の中と同じように優しい。

なのに、それがまるで夢の中の出来事みたいに感じられるのは、どうしてだろう?

テクテク…

菜摘  「うわ、血の池だ、気持ち悪……二人とも、よく冷静でいられるね」

九頭龍 「ああ、隔離型が来るってのは分かってたからな。心の準備だけは、どうにか」

菜摘  「そっ、か。いいな、そういうの」

辺古山 「お嬢?」

菜摘  「あ、ううん。なんでもない」

菜摘  (お兄ちゃんには、仲間がいるんだ……いいなあ)


たいして広くない空間の、一本道を歩く。
そのうちに、開けた場所に出た。


菜摘  「……っ!?」ズキンッ

髪を揺らして笑う、巨大な女。

それを見た瞬間、頭に鋭い痛みが走る。

菜摘  (なに、これ……)ズキズキ

九頭龍 「……なるほど。テメエがここの主ってわけか」

夢の主 『いかにも。……されど、しばし待て』

辺古山 「……?」

女は、私を見つめて――本当に美しい、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

夢の主 『久しいのう……我が娘よ。うつつの寝心地はどうじゃ?』

菜摘  「……は?」

クズペコ「「わが……娘?」」


――何を、言ってるの?


夢の主 『まだ思い出せぬか。菜摘よ……そなたの甘く芳しき想い出も、その身に宿す心も。
     頭の上から足の先まで、すべて』

夢の主 『妾が作り出したもの。そなたは、一つの泡のごときもの――』

九頭龍 「テメエ…何ふざけた事抜かしてやがる、菜摘が泡だと?」

夢の主 『分からぬか。なら……思い出させてやろうぞ』カッ


瞬間、女の腹がパックリと割れて、無数の白い手が伸びてくる。
声を上げる間もなく『それ』にからめとられて、私の意識は真っ暗な底へ落ちた。


◆◆◆◆
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:44:32.59 ID:sE0XGrgQ0


私は、暗い中を漂っていた。

その中でぼんやりと光る場所がある。そこに、糸で吊るされた人形がひょこひょこと歩いてきた。

モノクマ「ある所に、一組の夫婦がありました。お父さんは極道の組長。お母さんは元芸者。
     日陰者の二人でしたが、仲良く、楽しく暮らしていました」

モノクマ「しかし、体の弱かったお母さんは、息子を産んですぐに死んでしまいました。
     お父さんは、若頭をつとめる弟の裏切りにあい……」

パンパーン…ザァァァ……

モノクマ「ある雨の日に、殺されてしまいました」

お父さん人形が、ぐったりと血のりの海に沈む。

モノクマ「残されたのは、やっと歩けるようになったばかりの男の子。
     その名を冬彦といいました」

パッと明るくなったそこには、赤ちゃんの人形が座っていた。

モノクマ「九頭龍組は二つに分かれます。裏切り者の若頭をいただく派閥と、直系の血筋である
     冬彦くんを次期組長とする派閥です。二つの勢力は激しく争い、多くの血を流しました。
     ――冬彦くんの意志など無関係に」

しくしく。しくしく。折り重なって倒れる死体の中で、冬彦の人形が泣いている。
それをなぐさめる、ペコ人形。

モノクマ「冬彦くんの心の支えは、共に育ったペコちゃんだけでした。
     誰もが自分を、権力の道具としか見てくれません。誰も、自分を愛してくれません。
     冬彦くんはいつしか、逃れようのない運命を呪うようになりました」

九頭龍 『オレが九頭龍の直系だから……みんなオレが組長になるのが当たり前だと思ってる。
     やめてくれ!!オレはそんなの嫌だ!!オレは、ペコがそばにいて、毎日が平和な……
     そんな人生が欲しいだけなんだ!!』

モノクマ「その時。冬彦くんはひらめきます」

九頭龍 『そうだ、オレの代わりに組を継いでくれる奴がいればいいんだ!』

モノクマ「それが、冬彦くんの悲しい空想の始まりでした……」

九頭龍 『オレには妹がいるんだ。オレより背が高くて、オレに顔がそっくりで。
     頼りがいがあって、組の若い奴らには姐さんって慕われてる』

九頭龍 『ちょっと口が悪くて、気が強くて……あ?ヤクザならそういう奴の方がいいだろ。
     肝が据わってて、血を見てもビビりゃしねえ。本当にいい妹だぜ』

九頭龍 『九頭龍組を継ぐのにふさわしいのは、あいつの方だ』

モノクマ「しかし、空想の日々は終わりを告げます。次期組長としての正当性が欲しい冬彦派の人々が、
     彼を"超高校級の極道"として希望ヶ峰学園に入れてしまったのです」

モノクマ「彼の逃げ道は、今度こそ完全に閉ざされてしまったかのように見えました。
     ――"人類史上最大最悪の絶望的事件"が起こるまでは」

また、場面が切りかわる。血まみれの人形たちの中で、冬彦人形が笑っている。

モノクマ「九頭龍冬彦は、運命に勝利しました。もう、空想の妹に呪われた運命を背負わせる
     必要はないように思えました」

モノクマ「しかし……空想の妹はバーチャルの世界で復活を果たします。
     偽物の記憶と"九頭龍菜摘"という名前を得て」

――え?
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:44:59.68 ID:sE0XGrgQ0


菜摘  「……嘘」

菜摘  「そんなの、嘘に決まってる!!!」

モノクマ「冬彦くんは、島での記憶と、外で生きてきた20年の記憶の両方を有している。
     いわばキミは、空想上の妹に偽の記憶を肉づけされた人形……」

菜摘  「ちがう、ちがう、ちがう、ちがう!!!」ブンブン

モノクマ「どうして自分には空島が見えないのか、不思議に思っていただろう?
     君という存在は、夢の主が九頭龍冬彦の記憶から作ったもの――つまり、文字と同質だから」

モノクマ「ヒトではない君は、常世と彼世を繋ぐ空島を認識できない」

菜摘  「黙れぇぇぇぇ!!!」ブンッ、スカッ

モノクマ「……これが現実なんだよ。そして、君の存在はすでに"揺らいで"いる」

菜摘  「なんっ…」

その時、気づいた。私の手が、また透けている。

モノクマ「身に覚えがあるようだね。……そう。九頭龍冬彦の記憶が、君の命の源。
     しかし、彼は少しずつ"現実"を思い出してきている」ズズッ…

ストンッ

モノクマがいた場所に、学園長が現れた。その手には、希望のカケラがあった。


学園長 「すでに九頭龍組がないことも……両親や叔父の記憶が嘘であったことも……
     君という存在が、いないことも。彼はたびたび、君の存在を認識できなかった」


その言葉に、私はハッと気づく。
私が見えているはずなのに、無視して通りすぎたお兄ちゃんのことを。


学園長 「九頭龍くんが"思い出す"につれて、君の存在は揺らぎ、やがて消え去るだろう。
     君は、"夢"の文字に還るんだ」

菜摘  「そんなっ…そんなの、いやだよぉ……」ポロポロ


ザアッ…

段々明るくなっていく視界。学園長の「可哀想に」という声が、聞こえた気がした。


◆◆◆◆


菜摘  「……」パチッ

そこは、元の空間だった。お兄ちゃんとペコは、まだ出てきてない。
ゆらゆらと髪の毛を揺らして、夢の主――母親が、私を見下ろしている。

夢の主 『我が娘よ、悲しいか。それとも怒っておるか』

菜摘  「……分からないよ。だって私、人間じゃないんでしょ。私が感じているこの感情は、」ポロッ

菜摘  「……この心も、あんたに作られたものなの?」ポロポロ

夢の主 『そなたが外で何を想い、何を得、何を感じたか……それまでは、妾の手では作れぬ』

菜摘  「そっか。じゃあ、それだけで、いい」グスッ

菜摘  「私、先に出てるね。おに…冬彦さんと、顔合わせづらいから」クルッ

夢の主 『すまぬ。我がそなたを作ったのは、ほんの戯れであった。……そなたの涙を、見るためではなかった』

パァッ…

◆◆◆◆
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:47:56.66 ID:sE0XGrgQ0

どんな言葉をかければいいのか、分からない。

混乱しているオレに、菜摘は叫んだ。


菜摘  「そんなのっ……そんなの、嫌だよぉ……!!」ガバッ

桑田  「!!」

菜摘  「約束したもん!一緒に外に出るんだって!…っ、いっぱい、やりたいことあるの!!
     私ッ……私、」ズルズル

菜摘  「消えたく、ないよ……!まだ、ここにいたいっ……」

本音を全部吐き出した菜摘が、オレにしがみついたまま大泣きする。

菜摘  「うっ……う、うわあああん……!!」

お兄ちゃんには言わないで、とか。人に会いたくない、とか言っているのを、
オレはどこか遠くで聞いていた。


◆◆◆◆

シュゥッ…スタッ

桑田  「あー、ひどい目にあったぜ。さすがヤクザ」コンコン

桑田  「よーっす、メシ持ってきてやったぞ。今日は塩パンに、サラダに、ラタトゥイユな。
     デザートは苺のアイスだってよ」カチャッ

菜摘  「……ありがと」


ベッドに寝転がってる菜摘は、だいぶ透けて後ろの壁が見えていた。
透けてんのに食えるのかは謎だ。


菜摘  「……あんた、なんで私の世話してくれんの」

桑田  「いや、オメーがちゃんと飯食いに出てくるんならしねえよ?」

菜摘  「あ、そ……」

菜摘  「……」

菜摘  「私がいなくなっても、ちゃんとしなよ」


それが、九頭龍菜摘と交わした最後の会話だった。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:50:13.38 ID:sE0XGrgQ0
今日はここまで
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/14(金) 22:18:48.86 ID:IjujQ/X70
おつ
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 23:08:27.32 ID:aCCXLinR0
おつでした 待ってましたが展開ががが 菜摘ちゃんと桑田くんのコンビは大好きなので最後の会話ってとこに号泣です
うう、続き待ってます
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/08(火) 19:10:02.43 ID:wJ3xLOsd0
あげ
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/08(火) 20:11:46.74 ID:wJ3xLOsd0
あげ
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/28(月) 20:38:37.59 ID:B4M2oVZl0
女子十一番/総合二十三番 時岡千波(ときおか・ちなみ)



身長 152cm
体重 42kg
誕生日 11月13日
血液型 A
部活動 吹奏楽部
友人 久瀬ゆかり・宗和歩
辻莉津子・寺内紅緒
藤原奈央・堀内尚子
前川染香・水無瀬繭子
山崎雛子
(女子主流派グループ)
愛称 千波・千波ちゃん
能力値
知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★★★☆

★★★★☆

★★★☆☆

★★★★☆

★☆☆☆☆

★★★☆☆
無邪気で天然の幼い子。周りから可愛がられる妹的存在。
口が達者で、はっきりした物言いで相手を傷つけることもあるが、本人に自覚は全くない。頭はいいが、何事も直感なので深くは考えない。
 

以下ネタバレです。白黒反転すると読めます。

支給武器:

NO DATA
kill:

なし
killed:

酒井真澄(男子六番)
死亡話数:

第90話
凶器:

コルト・ガバメント
 

教室内で、プログラムに対して東海林至(男子十番)が反論。芝崎務(担任)が銃を取り出し危険に晒されるが、城龍慶(男子九番)に守られ事なきを得た。<11話>

D=02エリアの倉庫に、寺内紅緒(女子十番)・藤原奈央(女子十四番)・水無瀬繭子(女子十七番)と共に篭城。<55話>

繭子と奈央が気絶した相模夕姫(女子七番)を連れてくる。目覚めた夕姫の話で辻莉津子(女子九番)の最期の状況を知る。倉庫に木下亘(男子特別参加者)が来る。亘とただならぬ関係の夕姫に説得され、亘を信用する。突如酒井真澄(男子六番)の襲撃を受け、頭部に被弾し死亡。<88〜90話>


個人的にはデザインした時から好きな子だったんですが、あっけない最期になってしまいました。計 画 通 り …ではないという。ごめんよぅ。
せめてこの子には真澄の前髪をパッツンにしてほしかったww
 
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/18(月) 11:52:09.15 ID:4ji/cLmA0
待ってる
203 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [https://plus.fm-p.jp/u/mofu11]:2019/03/31(日) 13:12:24.28 ID:XS37ogRT0
お久しぶりです。
酉が合ってるか自信ありませんが作者です。
引っ越しなどでコンスタントな更新が難しいので
(今までも遅かったですが)
同人サイトを作りました。
自分のペースで書きたいと思ってのことです、あとは、地の文つきの方が楽だというのもありますが。
アホリズムの方も病文字など新たな設定が出たところですし
サイトの方で仕切り直して書いていきますので、
そういう事でよろしくお願いします。
204 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2019/04/30(火) 12:52:09.56 ID:/7hsh0fB0
書き忘れてましたが、サイトの方は普通の逆行だのクロスだのに
混ざって普通にホモがあります
(ジャンルによっては10割ホモです)
ロンパはNLオンリーですが、苦手な方はご注意ください。
カプ表記をしてありますので、だいたい避けられると思います。
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