日向「神蝕……?」

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1 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/07(火) 21:27:02.74 ID:IvyvkjHz0
日向「……神蝕?」


※アホリズムとロンパ無印、スーダンのクロス的なもの

※主人公は日向だけど、他キャラで『〇〇編』的な書き方をしていく予定

※苗木くん逆補正気味。

________________

日向  (その日は、俺にとって単なる365分の1日ではなく……)

日向  (あのコロシアイ修学旅行よりもっと理不尽で、残酷で、苦痛と哀しみに満ちた……)

日向  ("毎日"の始まりだったんだ)  


【日向創 Chapter0 "始"(ハジマリ)】



日向  (俺の名前は日向創(ヒナタ ハジメ)。元は希望ヶ峰学園の予備学科生だ)

日向  (常夏の島、ジャパウォック島でのコロシアイ修学旅行――。
     11人の犠牲を出しながらもなんとか生き残った俺たち5人は、
     現実のジャパウォック島で仲間たちの目覚めを待つことに決めた)

日向  (未来機関へ帰る苗木たちの船を見送った俺たちは、ひとまずホテルを拠点とすることにした。
     そして明日からの探索に備え、それぞれのコテージに戻った……)

日向  (……はず、だった)


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2 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/07(火) 21:27:41.10 ID:IvyvkjHz0
【???】


日向  「う……、ん……」パチッ

日向  「!?」

日向  (背中に感じたのは、コテージのベッドではなく、固いパイプ椅子の冷たさ。
     そして……目の前に広がっていたのは、つい昨日見たばかりの景色だった)

日向  「ここは、希望ヶ峰学園の体育館か……?」

日向  (まるで、入学式のようだった。パイプ椅子に腰かけた奴らが眠っている。
     あちこちから聞こえる寝息が、異様な雰囲気を演出していた)

日向  (よく見ると、そいつらは皆同じ制服を着ていた。見覚えのある茶色のジャケット…
     あれは、希望ヶ峰の制服だ……)

日向  (何人いるのかは数え切れない。だが、おかしくないか……?たしか予備学科の生徒は
     集団自殺したはずだし、本科の学生も学園にはいないはず。それに何より)

日向  「なんで俺は、プログラムの中と同じ姿なんだ?」

左右田 「ん……」ガタッ

日向  (隣で寝ていたそいつは、起きるなりつんざくような叫び声をあげた)

左右田 「あれっ、日向?なんで朝からオレの部屋に……って、えええええ!!?」キョロキョロ

日向  「落ち着け左右田、俺にも理由は分からな」

左右田 「こ、ここ希望ヶ峰だよな!?ハッ、まさかオレらまだプログラムの中に」

九頭龍 「いや、それはねーだろ」

日向  (振り返った先には、やはり同じようにパイプ椅子に座った九頭龍がいた。
     眼帯も黒いベストも、修学旅行の時と全く同じ姿をしている)
3 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/07(火) 21:28:25.28 ID:IvyvkjHz0
九頭龍 「オレらはたしかに現実のジャパウォック島にいたんだ……寝てる間に拉致られたってのがまあ、
     妥当なとこだな」

左右田 「つー事は、これも未来機関の差し金か!?」

九頭龍 「さあな……そもそもオレら77期生の命を助けたのは苗木の独断だったろ。
     "希望"どもが黙ってるとも思えねえ。
     どうせ一度は死んだような命だしな……こいつが未来機関の意思だってんなら、
     煮るなり焼くなり好きにしてもらおうじゃねえか」フーッ

左右田 「そんなあああ!!オレまだソニアさんと手もつないでねーってのに!!」ガーン

九頭龍 「ま、未来機関の仕業って考えるとおかしい事だらけだ。日向、お前はどう思う?」

日向  「どう……って」

九頭龍 「前の列のコック帽……どっかで見覚えねえか?隣のおさげも」クイッ

日向  「あ、あの二人は……!」

日向  (前列で眠っているのは、"超高校級の料理人"花村輝々に間違いなかった。
     俺たちの目の前でヘリコプターに吊るされ、火山でカツにされたはずのあいつが……)

日向  (その隣は、狛枝が手に入れていたファイルの中で見た顔だった)

日向  「超高校級の文学少女……腐川冬子か!」

九頭龍 「あいつらだけじゃねーぞ。周りよく見てみろ」

日向  (周りを見渡すと、たしかに全員いた)

左右田 「おいおい、どーなってんだこりゃ……!ソニアさんに小泉に西園寺、澪田、辺古山……
     狛枝も……十神までいやがる!あいつら今ごろ、島でグースカ寝てるはずだろ!?」

日向  (ソニアを真っ先に見つけたので、目の前の左右田は偽物ではないと確信できた。
     あいつは……本名はないらしいし、俺たちにとっての十神はあいつ以外いない)

西園寺 「うわあああん!!小泉おねぇぇぇ!!」ギュウウウ

小泉  「ちょっ、日寄子ちゃん?どしたの?」

日向  (遠くで、西園寺が小泉にしがみついて泣いている。
     俺は高鳴る心臓をおさえて、77期生の仲間全員がいるのを確認した)
4 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/07(火) 21:29:18.06 ID:IvyvkjHz0
日向  「77期生だけじゃないぞ。ちらほら見覚えのある顔がいる」

左右田 「あーっ!あいつ、裁判場にいた……」

日向  「霧切響子だな。…お、向こうも目が覚めたみたいだ」

日向  (霧切は目を覚ましてあたりを見回す。俺たちを見つけると、一瞬だけ目を見開いたが、
     すぐに元の無表情に戻って、"あとでね"と声を出さずに言った)

苗木  「霧切さん、ここは……体育館?」

石丸  「う……しまった!個室以外での就寝は……ッ、僕はっ、いつの間に体育館に!?」ガタッ

苗木  「!」

石丸  「いや、それより……僕はたしか美術準備室に呼び出されて……うっ!」ズキッ

苗木  「石丸クン?どうして、生きて…」

石丸  「そうだ、後ろで気配がしたんだ。振り返ろうとした所を……誰だったんだ、
     あれは…あの影は……いっ、痛い!頭が痛いぞ!割れるみたいに……」ズキズキ

苗木  「石丸クン、それ以上はやめるんだ!」

舞園  「わ、私死んだんじゃ……なんで体育館なんかにいるんですか!?」

苗木  「舞園さん?」

舞園  「あれ、お腹……刺されたはずなのに」

日向  (傷一つない腹を制服ごしに撫でて、舞園は困惑している)

霧切  「これは、一体……」

日向  (霧切は事態の把握に務めているが、さすがの名探偵でも無理らしい)

桑田  「……」

日向  (78期生から一人離れたパイプ椅子に、ぽつんと座っているあいつ……桑田怜恩か?)

不二咲 「うう……ん、あれ…?ボク、ずいぶん長い間眠ってたみたいだ……」ゴシゴシ

日向  (苗木たちの反応から言っても、間違いない。
     あいつらは……"コロシアイ学園生活で死んだ78期生"だ)

日向  (しかし、78期生が生き返るなんてことがあるのか?いくら超高校級とはいえ、
     "実は絶望側の仕掛け人でした"くらいしか、生きている理由なんて……)

日向  (そんな俺の思考は、懐かしくも不快な声によって遮られた)
5 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/07(火) 21:35:41.19 ID:IvyvkjHz0
狛枝  「やあ、ずいぶんと久しぶりに会ったような気がするけど……日向クンたちに
     間違いないよね?」ガタッ

左右田 「げっ、唯一会いたくねえクラスメートが……」

狛枝  「あはは、いくらボクが77期の屑鉄だからって、そこまで冷たくしなくてもいいじゃないか。
     一緒にあの島で過ごして、共に希望を追い求めた仲間ではあるんだからさ!」

終里  「おい……!オメーがいつオレたちの仲間になったんだ……?」ユラリ

狛枝  「あ、終里さんも目が覚めたんだ」

終里  「黙ってろ!それ以上喋ったら、そのニヤケ面を七海の分ヘコませてやんぞ!!」ゴォッ

日向  「七海…そうだ、七海は……!」キョロキョロ

日向  「……そうか、いるわけ……ないんだったな……」ストン

日向  (生徒たちの中には、ちらほらと78期生の姿もあった。数えてみたが、人数は16人……
     あの"コロシアイ学園生活"で死んだはずの奴までいたということは、ここはやっぱり
     ジャパウォック島と同じプログラムなんだろうか?)

キーン、コーン、カーン、コーン……

??? 『みなさん、おはようございます』

??? 『これより…第××回、希望ヶ峰学園入学式を執り行います』

日向  (××の所は、ノイズが混ざって聞こえなかった。そして、次の瞬間――


ありえない人物が、壇上に姿を現した。


『体育館で目覚めた者たちも、教室、あるいは
 武道場、水練場、寄宿舎……この学園で目覚めた希望ヶ峰の全生徒諸君。

 はじめまして……いや、"お久しぶり"かな?』

『私の名前は霧切仁。希望ヶ峰の……君達の、学園長だ』


霧切  「……おとう、さん?」フラッ

日向  「――!!」

日向  (誰もが、驚き……言葉を失っていた。死んだはずの希望ヶ峰学園長が、そこにいる。
     かたわらにモノクマのヌイグルミを抱えて。きっちりとスーツを着こんで。
     生前と髪の毛一本違わない姿で。……静かな微笑みを、浮かべていた)
6 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/07(火) 21:36:46.19 ID:IvyvkjHz0
学園長 「書けたかな。そうしたら次は、その漢字を声に出して読むんだ」

腐川  「えっと…語(かたり)?」

霧切  「……索(さく)」
     
澪田  「音(おと)ー!」

左右田 「きっ、機(き)!」

辺古山 「刀(かたな)」

十神  「皇(すめらぎ)」

日向  (えっと……これは、"かわる"か?それとも"へん"?)

日向  「変(へん)……!」

日向  「いてっ…!」バチィンッ

日向  (文字を読み上げた瞬間、紙が粉々に弾けた。火傷のような痛みに、思わず声が出る。
     痛みの走った手を恐る恐る確認すると…)

日向  「なんだこれ……さっきの文字、なんだよな?」

日向  (そこには、甲骨文字のような書体で"変"の一文字が浮かび上がっていた。
     こすっても、つねっても消えない。まるで刺青のようだ。
     隣を見ると、左右田がうなじに手を当てて"なんだ!?"と叫んでいる。
     周りの生徒たちも、体に刻まれた文字を見て目を丸くしている)

学園長 「よし、無事に"儀式"は完了したみたいだね……ではそろそろ、試練の時間だ。 
     ここにいるうち一人でも多くが"生き残る"ことを、願っているよ」

ズズズズ…

日向  「なっ、なんだ、次は何が……」

日向  (空間に、次々と黒い円が現れた。床、天井、壁に出た円の中から出てきたのは)

生徒A 「きゃああああっ!!」

生徒B 「なんだ、なんだよこの化け物…!」

日向 (四本の足に、三つの目玉。鋭い牙の覗く口からは、よだれをダラダラと垂らしている。
    恐竜のような化け物たちの牙はまっすぐに、俺たちを狙っていた)
7 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/07(火) 21:37:44.02 ID:IvyvkjHz0
学園長 「全員、起立っ!!さあ、希望を背負った生徒たちよ、闘うんだ!!」

日向 (生徒達の悲鳴と、化け物の唸り声が轟く体育館で、俺は知った)

日向  (今日は、俺にとって単なる365分の1日ではなく……)

日向  (あのコロシアイ修学旅行よりもっと理不尽で、残酷で、苦痛と哀しみに満ちた……)

日向  ("毎日"の始まりなんだと)  

_______

今日はここまで。
様子見ながら書いてきます。
8 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/07(火) 21:50:02.61 ID:IvyvkjHz0
>>5>>6の間に入れ忘れていた…しょっぱなからのミスで死にそうだ

学園長 「ほとんどの生徒は驚いていることだろうね。"なぜ自分は生きている?"と……
     答えは簡単だ。君達は"試練"のために、再び生を受けたのだ」

左右田 「試練……?また、あのコロシアイみてーなのがあんのか……?」

日向  (コロシアイなら、まだマシだったかもしれない。学園長はスーツの胸ポケットから、
     何枚かの紙を取り出して見せると、気がふれているとしか思えない言葉を放った)

学園長 「これから君達2500人の生徒には、命を賭して戦ってもらう!!」

日向  (俺たちの手の中に、ひらりと小さな紙が落ちてきた。学園長が持っているのと同じ、
     円の周りに四つの三角形が描かれている。それだけでなく、俺の右手にはいつの間にか
     小さな鉛筆が握られていた)

学園長 「その円の中に、各々が"闘う"ための漢字を書いてくれ。一文字しか書けないから、
     慎重に選ぶんだ」

霧切  「待って!……どういうことなの、あなたはもう死んだはずよ。それに、"命を賭して"って
     何?私たちに何をさせようと言うの?」

日向  (立ち上がった霧切には目もくれず、学園長は腕時計を見た)

学園長 「あまり時間がないな……」

霧切  「お願い、説明して!あなたは本当に私の」

学園長 「まだ文字を決めていない生徒は、早く書くんだ!!」

日向  (学園長の気迫に圧されて、俺たちは紙に目を落とす)

左右田 「お、おい……漢字ってなんだよ、オレらもう命の心配とかしなくていいんじゃねーのかよ!」

九頭龍 「嫌な予感がするな……」

日向  (そう言いつつ、九頭龍はもう書きだしていた。周りを見ると、たかが漢字一文字に
     駄々をこねるのもバカらしいと気づいたのか、みんな半信半疑で書いている)

日向  「書くしか、ないのか……!」

日向  (闘う……闘う……)

日向  (俺があの島でやったのは……手に入れたのは……"封じていた記憶"と、"汚い過去"……
     でも、そこから目を背けてはいけないんだ。俺は……今度こそ、誰の手も借りない。
     カムクライズルではなく、日向創として)

日向  (俺自身を、"変えて"みせる!)ガリッ
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/07(火) 22:31:36.01 ID:YtLrdVV+o
期待
10 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/08(水) 17:27:00.71 ID:r4P7jXfa0
>>9ありがとう。

日向  「どっ……どうすれば……」

辺古山 「坊ちゃん!ここは危険です、早く!」

目にも止まらぬスピードで走ってきた辺古山は、九頭龍の手をぐいっと引っぱって
立たせた。九頭龍は「先に行ってんぞ!」と叫んで、体育館を後にする。

ソニア 「あ、あ……!」ガタガタ

田中  「……思考は本能を鈍らせるぞ、雌猫。しかしこの怪奇……再会を喜ぶ暇もなさそうだな」

ソニア 「田中さん……!」

田中  「これが罪深き我らに与えられた蜘蛛の糸か……いいだろう、地獄より還りしこの魂、
     後は野となれ山となれ!……雌猫、貴様が望むなら、その立会人にしてやってもいい」

ソニア 「わ、私は……」

ソニア 「……」グッ

ソニア 「行きましょう!」スクッ

左右田 「あーっ!!チックショー、また田中に抜け駆けさせてたまっかよ!!」ダダダダッ

左右田も二人を追って出て行ってしまう。ソウルフレンドに激励の言葉はないのか?
……気づくと、この一分足らずで体育館からほとんどの生徒が消えていた。

学園長 「君達、何をしているんだ?」コツッ…

霧切  「……」ギリッ

学園長 「すでに試練は始まっているよ。早く外に出て闘うんだ。その"文字"を使ってね」

ズズズッ

日向  「!床にも円が出て……」グイッ

学園長 「ちなみにこの化け物たちは、"始"という漢字から生まれた。
     漢字から生まれた本能だろうね……君達の体に刻まれた文字の"匂い"を追う。
     学園のどこに逃げようと、闘いからは逃れられない」

学園長はその言葉を証明するかのように、抱えていたモノクマのぬいぐるみを
ポイッと化け物たちの群れへ放り投げる。
……化け物は見向きもせず、生徒たちを追い回していた。

霧切  「何を、他人事のように……これを仕組んだのはあなたでしょう!?」

豚神  「日向、走るぞ!」

足がすくんでいる俺を引っ張ったのは、十神だった。
その肥った体をものともしない走りは健在だ。
十神はそのまま、空いた左手で泣いている赤いジャージの襟首をつかむ。

朝日奈 「あ、あんた……十神?」

豚神  「説明は後だ、とにかくこの体育館を出るぞ!この狭さだ、囲まれたら……」

グチュッ…ガシュッ、ギャアアアアア!!

俺たちの後ろで、肉が引きちぎれるような音と、悲鳴が聞こえた。

グチュ、グチョッ…ゴリゴリ…ブシュゥゥ…

豚神  「……ああなる」

霧切の声ではなかったことに、少しだけホッとする。
ちらっと振り返った向こうでは、何体もの化け物が下半身のない女子生徒にかぶりついていた。
血しぶきが上がるたび、まだ生きている女子生徒は体をびくつかせて、悲鳴をあげる。

日向  「うぶっ……」オエッ

豚神  「吐くな、貴重なエネルギーを無駄にする気か!
     ……おい、愚民ども!お前たちがまだ生きることを諦めていないなら、すぐにここを出ろ!
     これは忠告ではない、"超高校級の御曹司"の命令だ!!」

十神の声に、残っていた生徒たちも弾かれたように逃げ出した。
俺たちの手を握る十神の手に、じっとりと冷や汗がにじむ。

朝日奈 「いやだ……こわいよ……さくらちゃん、どこにいるの……?」グスッ
11 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/08(水) 17:30:11.99 ID:r4P7jXfa0
体育館前のホールを抜けて、廊下を走る。化け物の足元をくぐりぬけて、
床に浮かぶ円……化け物の召還陣を跳び越えて、俺たちはただひたすらに、外を目指した。

バタァンッ!

日向  (しかし、廊下の扉を蹴破った俺たちが見たのは……さらなる地獄だった)

豚神  「くそっ……もうこんなに死者が!」ワナワナ

化け物が出てきてから、まだ4、5分しか経っていない。その短い時間で、
校庭は血の海になっていた。薄暗い中、頭のない死体を引きずる化け物。泣き叫ぶ生徒を
バリバリと足から食らっていく化け物。まだ温かい内臓を……舐めて……しゃぶって……

朝日奈 「う、うぅっ……!」

へたりこんだ朝日奈は、わずかな胃液だけを吐いた。口元をジャージの袖でぬぐって、
「ひどい……!」とつぶやく。そんな中、十神はネクタイをゆるめて鎖骨の文字を見せた。
やわらかい脂肪に埋まった鎖骨に、文字がある。

豚神  「日向、お前の文字は何だ?」

日向  「えっ、と……"変"だ。変わるって字だよ」

豚神  「なるほど、使い勝手はよさそうだな。ちなみに俺は"偽"(いつわり)だ。
     あの学園長が言っていたな。"文字を使え"と。つまり、俺たちに与えられた能力は……
     "漢字を具現化する能力"だと考えられる」

豚神  「死者が蘇り、消えたはずの学園が存在するこの世界…何が起こってもおかしくはあるまい。
     しかし、まさか本当の意味で"闘い"とはな……分かっていたら、もっと使い勝手のいい
     文字にしたぞ!」

十神は手ごろな枝を拾い上げると、近づいてきた化け物の口に

豚神  「お、おおおッ!!」ブンッ

つっかえ棒にして差しこんだ。

化け物 「……グルルッ……」ガジガジ

化け物 「ガアアアアア!!」バキンッ!

豚神  「!……やはり、この文字でなければ対抗できないのか!」

枝を噛み砕いた化け物は、その勢いのまま十神に飛びかかって倒した。
胸に乗りかかられて、十神は化け物のアゴをがっしりつかむ。

豚神  「くっ……日向、そいつをっ、朝日奈を連れて逃げろ!」

日向  「バカ野郎、お前を見捨ててなんて行けるか!」

豚神  「この俺が"頼んで"いるんだぞっ……十神の信念を、曲げてまでっ…ぐっ、」

化け物はさらに力をこめる。鋭い牙をつたって、十神の高級そうな服にダラァッ…と
よだれがこぼれた。十神は気持ち悪そうに眉をひそめて、もはやこれまでかと目をつぶる

日向  「仲間が死ぬところなんて……もう二度と見たくないんだよ……」シュルッ

俺は、深緑色のネクタイを外して握りしめた。
もう、うんざりだ。仲間の涙を見るのも……成すすべもなく、死んでいく仲間を見送るのも……
自分の無力さに苛まれるのも。

日向  「変……変……変わる……」

だから、俺に、武器を。現実に立ち向かう、力を!

日向  「変われ……変われぇっ!!」カッ


"変"(へん)


朝日奈 「……きゃっ!」

朝日奈 「……ひな、た?」

まばゆい光がおさまった後。俺の右手にはネクタイが変化した、一振りの刀が握られていた。
辺古山が使っていたのと同じ、切れ味のよさそうな日本刀だ。

日向  「らあああッ!!」ブンッ

化け物 「!?」

肉を斬る確かな手ごたえが、刃から手につたわる。十神の顔を噛み千切ろうとしていた
化け物のアゴは、俺の一閃で血を吹き出して地面に転がった。
その隙に這い出した十神は、朝日奈を背中にかばって立つ。
12 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/08(水) 17:31:04.04 ID:r4P7jXfa0
日向  「やっぱりか……"超高校級の剣道家"は、持ってたはずなんだけどな……
     まあ、カムクラが消えたんならそれでいい!」

その時だった。化け物と対峙する俺の耳に、ふと声が届く。

生徒A  「よっ……っと、登れないことは、ないけど……キツいな」ズルズル

生徒B  「頑張れ、もうちょっと……」ググッ

生徒C  「おい桑田、無理そうだしさっさと"出口"作ってくれよ」

桑田   「……たりめーだろ……こんなとこ、一秒でもいられっかよ」ボソッ

予備学科の生徒たちと一緒にいたのは、意外な人物だった。
"超高校級の野球選手"桑田怜恩は、塀に手を当てて「すうっ」と深呼吸する。


"出"(いずる)


パアッと光が放たれて、真っ白な壁に教室の扉が生まれた。

生徒A 「やりぃっ!俺いーちばんっ♪」ストンッ

塀の上にいた生徒は、飛び降りるなり扉を開けて……

生徒A 「……って、あれっ?」

塀の中から、扉を開けて出てきた。

生徒B 「おい桑田、お前ちゃんと出口作ったのかよ!」

生徒C 「出らんねーじゃねえか!もっかいちゃんと……」

桑田   「お、おい!前……」

生徒C 「あ?」

桑田の生み出した扉の上に、ズズッ…と召還陣が現れた。
予備学科の生徒たちは悲鳴を上げる間もなく、ばくんっと呑みこまれる。

桑田  「あ、あっ……!」ガタガタ

桑田  「あ゛っ、あああああああっ!!」

腰を抜かしていた桑田は転がるように立ち上がって、逃げ出した。
化け物の腹の中で、丸呑みされた生徒が暴れている。人の形に出っ張った『それ』は
出してくれ、というように腹を叩く。しかし…みるみるうちに消化されてしまった。
残酷だ……。
13 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/08(水) 17:32:03.04 ID:r4P7jXfa0
日向  「くそ、敵が多すぎるっ……!」ブンッ、ザクッ

日向  「ああっ!」ボキッ

ネクタイを『変化』させた刀は耐久性もあまりなかったらしく…
二体目をどうにか切り伏せたところで真っ二つに折れてしまった。
もう変化させられるものは残ってないぞ……
俺たちのパーティーは、文字の使い方が分からない十神と、闘える状態ではない朝日奈だ。
かくなる上は。

日向  「逃げるぞ!朝日奈、今度こそ走れるか?」

朝日奈 「う、うん!」タッ

豚神  「助かったぞ日向……やはり、お前はやる男だな」タタッ

とはいえ、学園内に逃げ場はない。俺たちはだだっ広い校庭を縦横無尽に走って逃げた。
途中、小泉が西園寺の手を引いて走っているのとすれ違ったり、
化け物に囲まれてなぜか高笑いしている狛枝を見たが、他の仲間には出くわさない。

日向  (まさか……死んだりはしていないよな?狛枝は"幸運"だし、ソニアや
     澪田はなんとなく大丈夫そうな気がする。こうなるとやっぱり、
     仲間もいなそうな上に、すぐに怯える罪木が一番心配だ……)タッタッタッ

体育館の出口の所に、霧切が立っているのが見えた。
彼女はこめかみに指を当てて、意識を集中させて行く。太もものあたりにチラッと、
文字が浮かび上がっているのが見えた。


"索"(さく)


瞬間、霧切の前にパッとホログラムが現れた。

霧切  「この現象は"神蝕"というのね……学園長は"始"と言っていたけど……これからもっと
     様々な蝕が現れるということかしら。
     弱点は見た目の通り、頭と心臓部分……四足ということを考えると、脳天を狙うのが
     最も効率がいいようだわ。動きはそこまで素早くない。三つ目ではあるけれど、
     視力も大してよくない……」

その時、一頭の化け物が霧切に気づいた。「ウウ…」と唸る化け物は、前足を振り上げて、

霧切  「――ふっ!」タンッ

さっきまで霧切の立っていた場所に、大きな穴が空く。

霧切  「知能も低いようね。避けるだけなら簡単だわ。私には武器もないし……蝕が終わるまで
     あと数分もない……最初は驚いたけれど、もう大丈夫かも」タタタッ

日向  ("名探偵"に相応しい一文字だな……)
14 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/08(水) 17:33:05.76 ID:r4P7jXfa0
そして、霧切の言葉通り……数分で、俺たちの足元がすうっと明るくなる。
それが、空を覆っていた雲が晴れたからだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
『始』の化け物たちも首をもたげて、唸り声をあげながら歩き出す。化け物が一歩進むごとに
その体躯は透けて、やがて跡形もなく消え去った。
残されたのは血と体液の、すえたような匂いと、血でぬかるんだ地面、そして……
数え切れない死体の山だけだ。


豚神  「……おい、日向。あれはなんだ?」スッ

日向  「島?空に島が浮かんでるのか?」

空に浮かんでいるのは、島だった。
城のようなものが建っていて、目を凝らすと風にはためく布も見える。
さっきまでやけに校庭が薄暗かったのは、あの島が学園をすっぽり覆うように
影を作っていたからか。

朝日奈 「船みたいにも見えるよ!…でも、あんなの見たことない。もしかしてこの変な現象って、
     あの島のせいだったり……」

豚神  「そうとしか考えられんな。決めつけは禁物だが、変化といえる変化はあの島だけだ」


【初日:始
 死亡者数:876名
 生存者数:1624名
 総生徒数:2500名→1624名】

日向  「俺たちは……これからどうなるんだ」

豚神  「それを考えるのは、全員の安否を確認してからだ。……ひとまず体育館に戻るぞ。
     生きているなら、あそこに戻ってくるはずだ」スッ

日向  「あ、ああ……」

日向  (やっぱり、こいつは冷静だな……不思議と頼りになる感じがある)

成り行きで仲間になった朝日奈も連れて、俺たちはひとまず体育館へ帰ることにした。

_______

一旦切ります。Rで立て直すほうがいいのか、それとも…
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/08(水) 18:06:54.09 ID:T9KBe2+4o


豚神の実に頼りになることよ
エロがないならここでいいと思うよ
16 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/10(金) 12:47:57.39 ID:lcFU0T5b0
>>15
分かった、ありがとう。
SS速報VIPの冒頭に『グロ禁止』とあったので迷ってた。
__________________


俺たちが体育館へ戻ると、生き残った生徒たちがちらほらと帰ってきていた。
とりあえず三人で並んで腰を下ろしたが、仲間達が全員集まるのにはまだ時間がかかりそうだ。
苗木たち未来機関組とも話をしたいので、77期、78期の双方が集まるまでこうして待つ事にした。

罪木  「……ふんっ!」パァァ


"癒"(いやし)


罪木  「ふうっ…あっ、一応治ったと思うので……腕、回してくださぁい……」

声をかけようかと思ったが、忙しそうだ。後にしよう…。
"超高校級の保健委員"である罪木の前には、負傷した生徒がずらりと列を作っている。
罪木は俺の視線に気づくと、「あ、日向さん…」となんともいえない表情をした。
……俺だって、記憶を消せるものなら、消してやりたい。

西園寺 「ふんっ、ゲロブタの奴…いい子ちゃんぶって治療なんかしちゃってさ。
     ああやってりゃ誰にも責められないって思ってんだよ。見え見えだっつーの」

小泉  「日寄子ちゃん、悪口は聞き苦しいよ」

西園寺 「うぐっ…だって、だってあいつ……わたしを殺したんだよ!わたし何もしてないのに!」

小泉  「日寄子ちゃんだって、ずっとあの子をいじめてたじゃない。口を開くたんびに
     "黙れ"とか"あんたに聞いてない"とか、酷い事ばっか言って……パーティーの時だって
     転んだのを笑い者にしてみんなの前で恥をかかせたでしょ。蜜柑ちゃんも悪いけど……
     何もしてないっていうのは違うんじゃないかな」

西園寺 「小泉おねぇ、まさかあいつの肩持つ気なの!?」

西園寺が罪木への仕打ちを正当化するのは間違っているが……
罪木には(絶望病の所為とはいえ)クロだという挽回しようのない負い目がある。
「本当は死んでなかったんだし、いいじゃないか」なんてことは言えるわけがない。
この二人は、なるべく交流させないようにしておくしかなさそうだ……。

朝日奈 「ねえ日向、聞いてる?」

日向  「あっ、ああ…聞いてる……」

朝日奈 「なんか…今日はほんと、二人ともありがとね。私、わけが分かんなくてさ……
     さっきも情けないとこ見せちゃって……ほんと、恥ずかしいや」

頬をかいている朝日奈に、俺たちは「気にするな」と首を振った。
ちらほらと人数が増えてきたのを見て、十神は「ちょっと77期生を集めてくる」と行ってしまう。
苗木たち生き残り組以外との付き合いはどうすればいいんだ?

正直……朝日奈とは初対面だ。お互いのことを知るためにも、何か話すか。
17 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/10(金) 12:49:17.05 ID:lcFU0T5b0
日向  「そういえば、お前の文字は何なんだ?」

朝日奈 「あのね……」スルッ

何気なく聞いた俺に、朝日奈はジャージをめくって二の腕に刻まれた文字を見せる。

日向  「水……か。そういえばお前は"超高校級のスイマー"だったな」

朝日奈 「正直、闘うって言われてもピンと来なくて…ドーナツが大好きだから"輪"と
     最後まで迷ったんだけど、結局これにしちゃった」テヘヘ

『輪』だったら、チャクラムでも出たんだろうか?
それとも巨大ドーナツがホカホカと湯気をたてて……じゅるり。

朝日奈 「じゅるり?」

日向  「悪い、ちょっと空腹のせいで意識が……もう油芋でもジャパ塩でもいいから食いたい……
     あ、今のは忘れろ。ビームは出ないけど忘れろ」

日向  「でも、イメージだけなら簡単そうだな」

朝日奈 「ほんと?じゃあちょっとここでやってみていいかな。練習。今度は役に立って
     二人に恩返ししなきゃだし……あ、そんないっぱいは出さないよ!ちょっとだけ!」

俺が頷くと、朝日奈は「むむむ…」と眉をしかめ、両手を胸の前で合わせた。


"水"(みず)


朝日奈 「あ、出た!見て見て、すごいよー!」キャーッ
日向  「よかったな、おかげで断水しても安心だ!」

はしゃぐ朝日奈の手のひらで、水が踊っている。どうやら成功したようだ。
これを高圧で出したら、ハイドロポンプみたいに武器として使えるかもしれない。
……が、その想像は朝日奈の「カハッ!」という苦しげな吐息でかき消された。

朝日奈 「ぐっ…ゴボッ、ガボッ……!」ボタボタ

日向  「朝日奈!?」

朝日奈 「ごぼっ…ご、ぐっ、ボォッ…!」ビチャビチャ

日向  「朝日奈!おいっ……しっかりしろ!!」ユサユサ

一体、何が起こっているんだ!?
朝日奈は苦しそうに宙を引っかきながらもがいている。口からは酸素を吸うのに
合わせて水が吐き出され、腕の中の朝日奈は少しずつ重くなって行く。
俺は頭が真っ白になっていた。どうすればいい、どうすれば……
18 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/10(金) 12:50:22.04 ID:lcFU0T5b0
罪木  「日向さん、私に!」

騒ぎを聞きつけて走ってきた罪木は、朝日奈の背中を強く叩いて揺さぶると、
胸の中の水を一気に吐かせた。ぐったりと目を閉じた朝日奈を床に寝かせて、人工呼吸を繰り返す。

朝日奈 「ケホッ…げほっ!はっ、はぁっ…!」

罪木  「!大丈夫ですか!?」

ヒュー、ヒューと苦しげに息をしている朝日奈が、ぼんやりと視線をさまよわせた。
と、そこで成り行きを見守っていた学園長が近づいてくる。

学園長 「水、か……正直、朝日奈さんには余る文字かもしれないな」

学園長 「四大元素、神、王、国、死……文字には体系があってね。いくつかの"特殊な"文字は、
     扱いに気をつけないと自分に跳ね返るんだ。"水"には形がない。そのまま具現化はできないよ」

罪木  「あ、あの…学園長先生っ……朝日奈さんを念のためにお医者さんに……」

学園長 「それはできない」

罪木  「他にもっ、すごい怪我をしている人がたくさんいるんです!こんな所じゃ
     満足な治療なんて……」

学園長 「ここは、神に見放されし穢れた土地……"卒業"まで、出ることはまかりならない。
     門の鍵で出ようが、塀に穴を空けようが、空を飛んで逃げようが。
     必ずこの学園の中へ戻ってくるようになっている」

罪木  「そんな……」

卒業……というのは、どういうことだ。
コロシアイでは『クロになって学級裁判を生き残る』というゴールがあったが、この場合は……

俺は目を閉じて、ロジカルダイブを行う。学園長は『試練』という言葉を使った。
試練とはすなわち、この『神蝕』のことだ。つまり、卒業とは『神蝕を生き延びる』こと。
『文字を与えた』ということは、『学園長は俺たちの全滅を希望していない』
推理はつながった!

日向  「……仲間を[ピーーー]よりは、ずっとマシだ。お互いを疑って、欺いて、残酷な処刑の
     スイッチを押すよりは……だって、守るのは命一つだけなんだからな」

泣いている罪木と、まだ呼吸が整わない朝日奈の背中をさすって、自分に言い聞かせる。
そこで、演台に戻った学園長がマイクのスイッチを入れる。『あー、あー』とテストをして、
思い出したようにモノクマのぬいぐるみ(スペア)を取り出しマイクの横に置く。
持ってないと死ぬ病気なのか?
テディベアをパーティーに代理出席させた英国首相はいたけどな……

学園長 『さて、生き残った1624名の生徒たちよ、まずは素直に"おつかれさま"と言わせてくれ。
     そして、命を落とした876名の希望たちには、"おやすみなさい"の一言を送ろう。
     時間がなかった所為で、"蝕"について説明できないままだったことは、すまなかった』

学園長 『――空に、島が浮かんでいることに気づいた生徒はいるかい?
     知らないというなら、夕食の後にでも見てみるといい。
     あれは"空島(そらじま)"と云う。この穢れた地とは違う。神聖なる神のおわす処だ』

大和田 「あの学園長……いつの間にカルト宗教にハマりやがったんだ」

女子に大人気だったのによお、と大和田が吐き捨てる。
生き残った生徒たちは、もはや学園長に怒鳴る気力すらないのか、ぐったりと話を聞いていた。

学園長 『"空島の影が、この地に重なる刻(とき)、怪異現る。これすなわち神蝕なり"――。
     あの空島が太陽と重なって、この学園に影を落とすと……"蝕"が発生する。
     今日発生した"始"は、いうなればオリエンテーリングさ。あの化け物たちに遭うことは
     二度とない。……蝕は全て、君たちが刻んでいるのと同じ"文字"から生まれる』

学園長 『今日は、そうだな……2011年4月1日と"しておこう"』

日向  (しておこう……?ということは、外の時間は違うのか?この学園だけ時間の流れが
     隔絶されている?……ダメだ、まだ情報が少ない!)

学園長 『ああ、ただ闘えと言われても、ご褒美がないと張り合いがないだろう』

そう云うと、学園長は見覚えのある青い欠片を取りだしてみせる。
俺たちだけでなく、78期生の手の中にも次々と舞い下りて、輝く。

学園長 『これは、"希望のカケラ"だ。君たちが蝕を生き残るたびに"戻して"あげよう。
     この中には、君たちが忘れてしまった"記憶"が入っている。
     中にはとても思い出したくない過去があるかもしれないが……これも試練と思って、
     受け止めたまえ』

学園長 『卒業式までの一年間、頑張って生き残ってくれ。
     ああ、安心したまえ。予備学科の生徒たちのために、西地区にも二人一部屋の
     学生寮を用意してある……何も心配はいらない。君たちはただ――』


闘うんだ――その先にある"希望"のために。
19 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/10(金) 12:51:33.67 ID:lcFU0T5b0
その言葉を最後に、学園長は美しいお辞儀をして、舞台袖へ引っこんだ。
残された生徒たちも困惑の表情で顔を見合わせていたが、本科と同じ空間にいるという
居心地の悪さ、血なまぐさい記憶に耐え切れなくなったのか……
一人、また一人と体育館を出て行く。

朝日奈 「罪木ちゃん、さっきはほんとにありがとねー!罪木ちゃんは命の恩人だよ!」ブンブン

罪木  「えっ?えっ?えぇ……?なんでそんなに感謝してるんですかぁ……これを盾に
     何をさせられるんですかぁ……?」オロオロ

朝日奈 「あ、罪木ちゃんのほうは知らないんだっけ。朝日奈葵!"超高校級のスイマー"だよ!」

握りしめた手をブンブンと上下に振られて、罪木はおろおろしている。
一応罪木のほうが先輩にあたるはずだが……まあ、罪木に友達が増えるならそれでいい。

朝日奈 「で、さ。ずっと考えてたんだけど…十神はなんて呼べばいいのかな。
     あっ、太ってる方の十神ね。さっきちらっと聞いたんだけど……あいつ、
     名前ないんでしょ?だけどこのまんまじゃややこしいし……権兵衛じゃ可哀想だし」

そんなことを真剣に考えてくれるのか。

朝日奈 「だから、十神がいる時は"七志 太郎(ななし たろう)"なんてどうかな?」

豚神  「七志か…初めて食した時、肉厚ながらしっとりと柔らかいチャーシューには感動したものだ……
     豚骨系チェーン店では三本指に入る。いいぞ、俺は今日から七志太郎だ」

朝日奈 「あははっ、名付け親になっちゃった!よろしくね、七志!」

日向  「はは…順応性が高いな二人とも」

普通『詐欺師』なんて聞いたらもっと警戒しないか?
そんな俺の思考をよそに、苗木は78期生を集めていた。

苗木  「あれっ、大神さんは?」キョロキョロ

朝日奈 「さくらちゃん、まだ来ないの?……どこ行っちゃったんだろ」

霧切  「安心して、西地区で彼女らしき座標を探知したわ。
     私たちが体育館にいることも知らないかもしれないわね。責任感の強い大神さんだもの。
     きっと予備学科生たちを落ち着かせるのに忙しいんじゃないかしら?後で行ってみましょう」

大神……ドッキリハウスにあった銅像のモデルか。
"索"で探した霧切は「彼女が死ぬということはないわ」と確信しているようだった。

葉隠  「つーか、さっそく文字使いこなしてるとかすげえ……俺なんか発動したらあとは自動だから
     わけわかんねーままだべ」

苗木  「葉隠クンは"予"だっけ?」

葉隠  「的中率はまだ計算できてねーけど、3割は超えてるはずだべ!ただ、ビジョンが次々頭ん中に
     流れこんでくっから、全然便利じゃねーよ……この文字で大儲けしようって思ったのに」ハァ…

十神  「ふん……安直だな」

苗木  「あ、十神クンはなんの文字……ごめん、なんでもない。舞園さん…大丈夫?」

まだ体を抱えて小さく震えている舞園に向き直った苗木は、落ち着かせるように視線を合わせて聞く。
舞園はこっくりとうなずいて、「怖いです」とだけ答えた。

苗木  「無理もないよ…あんな"怖いこと"があって、今度は化け物が出てくるなんて……
     でも、大丈夫だよ。今度こそ僕が舞園さんを守るから。絶対だよ」

舞園  「……桑田君、行っちゃいましたね」

苗木  「……」

舞園  「やっぱり…怒ってるんでしょうか」

苗木  「今は、生き残る事だけを考えよう。少なくとも僕は、また舞園さんに会えてすっごく嬉しいよ」

不二咲 「あ…待って!ねえ、大和田君!僕、大和田君に話が……ああ、行っちゃった」

石丸  「そういえば、僕達を[ピーーー]計画をたてたクロはセレスくんだと聞いたが……彼女は大丈夫だろうか。
     蝕の最中も見なかった……まさか死んだりはしていないと思いたいが……」

石丸  「山田くんもいないな……僕も複雑な心境だが、少なくとも彼らを恨んではいない。
     ただ、"超高校級の風紀委員"を名乗りながら、彼らの不安を取り除いてやれなかったことが
     悔やまれるだけだ。あの極限状況だ。誰もクロとなった者を責められないだろう……全ては
     "運が悪かった"とでも言うしかない。しかしそれを伝えるには、彼らの心の鎧が硬すぎる」

不二咲 「僕ねえ…大和田君にごめんなさいって言いたいんだぁ……知ってるような口きいて、
     傷つけて、死なせることになって、ごめんねって……あんな事になっちゃったけど…
     バカって言われるかもしれないけど…それでも僕、大和田君とまたお友達になりたいんだ」

苗木  「石丸クン、不二咲クン……今は落ちこんでいる時じゃないんだ……こんな時
     だからこそ、皆で力を合わせないと。その前に、紹介したい人たちがいるんだ」
20 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/10(金) 12:52:45.33 ID:lcFU0T5b0
日向  「……悪い、まずは77期生で情報を共有したいんだ。後にしてくれないか?」

苗木  「えっ?あ、うん」

俺が強めの語気で言うと、苗木は不思議そうな顔をしながら引き下がった。
78期生から少し離れた所に、全員で腰を下ろす。ひい、ふう、みい…よし、全員いるな。
無事だったことに、改めてホッとした。

小泉  「あのさ、さっき十神が教えてくれたんだけど」

豚神  「十神こと七志太郎だ。78期生のいるところでは七志と呼べ」

小泉  「……七志が、"あのジャパウォック島はバーチャルの世界だった"って……千秋ちゃんは
     そのプログラムが作ったAIだったって教えてくれたけど、
     それって、ホントなの?」

どうやら77期生を集めている間に、七志の方で簡単に流れを説明してくれていたらしい。
小泉は「あの千秋ちゃんが人間じゃないなんて……」と悲しむような表情をしている。

九頭龍 「おう。ちなみに現実に出られたのはオレと日向と、終里と……あと、左右田にソニア。
     そんだけだ。後は全員クロになっておしおきか、殺されたか……今ごろお前らは、
     脳死状態でカプセルん中に寝てるはずなんだがな」

花村  「とても信じられないよ……」

狛枝  「でも、大事なのはもう一つの秘密の方だよ。
     ……僕たちが"絶望の残党"だったという事」

声をひそめた狛枝に、西園寺は「えええーー!!?」と叫んでその気遣いをぶち壊す。
78期生が一斉に振り返った。あわててその口をおさえたソニアが「なんでもありませーん……」と
引きつった笑顔で首を横に振る。

日向  「まず、"絶望"という言葉の意味は……」

俺がかいつまんで説明して行くと、仲間たちの表情がどんどん沈んだものに変わって行く。
話を終える頃には、固まって座らされた理由を知った仲間達の蒼白な顔があるだけだった。

小泉  「何よ、それ……あたし達こそが、"世界の破壊者"だったってこと……?」

弐大  「にわかには信じられん……あの島はいわば、現実から離れた流刑地だったというわけか!!」

辺古山 「では、モノクマが我々にコロシアイを強要した理由は……体のいい処刑ということか?」

日向  「空になった肉体を乗っ取るっていうのが真の目的だけどな。未来機関から見れば処刑の手間が
     省けて、かえって都合がよかったかもしれない」

自分で言っていて気分が悪くなる……。
21 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/10(金) 12:53:24.19 ID:lcFU0T5b0
西園寺 「でもさー。わたし達、なんにも覚えてないんだよ?それで責められたって……」

狛枝  「どうかな。罪木さんは全部思い出していたはずだよ。だからこそ澪田さんを……そして、
     西園寺さんを躊躇なく手にかけられたんだからね」

罪木  「ううっ……」

日向  「おい狛枝、少しは言葉を選べよ。お前だって希望の方にベクトル行ってるだけで
     似たようなもんだろ……五十歩百歩だ」

左右田 「それを言うなら、どんぐりの背比べじゃねーのか?全員が高校中退でS級犯罪者とか、
     裁判ナシで死刑だろ。このカルマ来世まで持ち越しだな」

しかし、不思議な連帯感が生まれているのも事実だ……。

ソニア 「田中さんもファイナルデッドルームをクリアしたんですよね?だったら、狛枝さんが見たのと
     同じファイルを見ていたんですか?」

田中  「いや……俺が込めた弾丸は、ロシアンルーレットの作法に則り一発だけだった。
     手に入れたのはオクタゴンへのパスだけだ。ファイルとやらの存在も、狛枝からの又聞きでな」

豚神  「そういえば、学園長が言ってたな。この"希望のカケラ"に、
     俺たちの忘れている記憶が入っていると。それが、その"人類史上最大最悪の絶望的事件"を
     封じ込めているのか?」

そう言って俺は、いつの間にかポケットに入っていた青い欠片を取りだして見せた。
他の面々も同じように貰っていたらしく、手のひらに希望のカケラを出す。

九頭龍 「…で、こいつをどうするんだ?」

日向  「それは……」


パアッ…


真っ白い光が、視界を包み込む。
それが晴れると……少しずつ、視界がクリアになって……俺の目の前に、テレビがあった。
薄暗い部屋で、古いブラウン管テレビの光だけがある。

『続いてのニュースです。"超高校級の絶望"と名乗るグループによる一連のテロ行為と、
 希望ヶ峰学園との関与が明らかになりました。犯行グループの人数は15人。全員が希望ヶ峰学園の
 77期生であるとの情報が……』

俺は……いや、『カムクライズル』が、ニュースを見ている。
退屈そうに髪をいじりながら、カムクラはリモコンに手を伸ばしてチャンネルを切り替えた。

『ヨーロッパにあるノヴォセリック王国が陥落しました。王宮には暴徒と化した国民が押しよせ……
 ソニア.ネヴァーマインド第一王女はいまだ行方が……』

『各地で猛獣が放たれ、自衛隊が出動しました……指揮しているのは"超高校級の飼育委……』

『日本政府は、非常事態を宣言……もはや国家としては機能しておらず、陥落も近……』

『これが最後の放送です、皆さん、さようなら……世界よ、さようなら……』

テレビ画面がぷつんっと消える。
同時に、俺の視界も晴れた。
22 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/10(金) 12:53:55.58 ID:lcFU0T5b0
石丸  「なっ……なんだ、今のは……"才能研究科"?僕はそんな教室は知らないぞ……しかし、
     興味深い授業だったな、脳波を調べて才能の出所を探るとは……」

苗木  「僕は文化祭のステージを見ていたよ……舞園さんと澪田さんが一緒に歌っていて……
     山田クンがドラムを叩いてた。他のメンバーはよく見えなかったけど、すごく楽しい記憶だったよ」

霧切  「私は、体育祭の準備で紙の花を作っているところだったわ」

78期生たちが口々に語り合うのを聞きながら、
俺はじっとりと冷や汗が背中に垂れるのを感じた。楽しげな思い出を語り合う78期生とは正反対に、
こちらは。

澪田  「い、今……唯吹が流してたのって……サブリミナル、って奴っすか?ひ、人が……
     一斉に燃えて……あばばばばばばばば」ブクブク

花村  「誰かぁぁぁ!早く火を消してよ、お母ちゃんが天ぷらになっちゃうよおおお!!」

終里  「騒ぐんじゃねーよ花村……空きっ腹のドタマに響くだろーが……」

西園寺 「……ねえ、何なのその扇……なんで針がついてんの……?捨ててよ、それ捨ててぇぇ!!」

石丸  「だ、大丈夫か君たち!?」

不二咲 「保健室に連れてってあげた方が……」

78期生の中から優しいおせっかいが立ち上がるのを、
「そっとしておいてあげて」と苗木が必死に止めてくれた。

九頭龍 「クソッ…!まだ右目が疼いてやがる……!」

狛枝  「今すぐにでも切り落としたい気分だよ…絶望を受肉するなんて、
     過去の僕は一体何を考えていたんだ?」プルプル

罪木  「うう……」ペラッ

罪木  「!手術跡が……ない?」スベスベ

そういえば、江ノ島の体を移植したのは誰だった?……口ぶりから言うと、
狛枝が左手、罪木が子宮、九頭龍は右目だったな。
三人はそれぞれの部位をおさえて、うずくまっている。
脂汗を垂らし、ぐっしょりと濡れた服からは、苦痛の度合いが分かるというものだ。
23 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2017/03/10(金) 12:54:26.43 ID:lcFU0T5b0
日向  「何が見えたのか、嫌じゃなかったら教えてくれないか?」

九頭龍 「フラスコとビーカーのある部屋だ。台の上にすっぱだかの江ノ島が置いてあって……
     んで、三人でジャンケンして……狛枝が左手を」ウプッ

日向  「無理するな、聞いた俺が悪かった」

九頭龍 「いや、ここまで来たら最後まで言うぞ。左手を、ノコギリで……んで、次勝ったオレが
     ビニールの手袋で右目を……人体が味わう最も強い苦痛を感じて絶望したいとかいう
     理解不能な理由で、麻酔なしで指突っこんでえぐってた……手術の方はお前だよな、罪木?」

罪木  「は、はひぃぃ…狛枝さんの手をつけたのも、私みたいですぅ……
     ごめんなさい、ごめんなさい!今すぐ外しますからぁ!!」

九頭龍 「おい錯乱すんな!眼帯から手ェ離せ!!」ギャー

辺古山 「可哀想な坊ちゃん……」

聞いているだけで俺も痛くなってきた……。

豚神  「俺たちが思い出したのは、"絶望"の記憶……それに対して、78期生に与えられるのは
     幸福な学園生活の記憶……まさに"希望のカケラ"だな」

日向  「でも、それは本当に希望といえるのか?だってあいつらは、"仲良しのクラスメート"で
     殺しあった"絶望"を同時に感じているんだぞ。むしろ楽しい記憶なんて、思い出さない
     ままの方が幸せだったんじゃないのか」

豚神  「確かにな……」

日向  「ところでお前、いつまでその見た目のままなんだ?」

豚神  「しばらくはこれで行くつもりだ。そこそこ慣れているしな」

しばらく話している内に、みんなが落ち着いてきた。
そこで、俺はずっと考えていた『方針』を伝えることにする。

日向  「みんな、断片だけど"絶望"については思い出せたよな。だったら……俺がこれから
     言う事もうなずけるはずだ」

日向  「78期生とはなるべく交流を持つな。予備学科生ともだ。俺たち77期はなるべくお互いで
     固まって過ごそう。蝕の時も、それ以外も」

その提案に、全員が少なからず動揺する。

罪木  「えっ……朝日奈さんとも、だめなん…ですか?」

日向  「いや、苗木たち6人とは話してもいい」

ソニア 「どうしてですか!?この非常事態を生き延びるには、78期の皆さんとも力を合わせないと……」

日向  「あいつらを学園に閉じ込めて殺し合わせたのは、俺たちだぞ?」

元を辿れば江ノ島盾子だが、
誰が好き好んで『世界の破壊者』なんかとお近づきになりたいだろうか。

日向  「いいな、お互いが傷つけあわないためだ。78期の奴らには近づくな」

全員の顔を見回して、繰り返す。
ごく、と誰かが唾液を飲み込む音がした。やがて「分かった」「言うとおりにするよ」と答えが返る。
本当は、責められるのが怖いだけかもしれない……。ただ、これが一番いい選択だと、
俺も、仲間たちも心のどこかで信じていた。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/10(金) 13:43:57.31 ID:lcFU0T5b0
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