【艦これ】伊58「黒く塗り潰せ」

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702 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2020/09/05(土) 20:28:03.89 ID:kzBmeXH00
駆逐艦夕立は第三次ソロモン海戦で多大な戦果を挙げた武勲艦である。

一夜にして夕立は重巡級五隻を撃沈、二隻大破、防空巡洋艦の二隻を撃沈、駆逐艦の三隻を大破、三隻中破に追い込んだのだ。

夕立の非論理的、非常識的な暴挙とも言える殺戮は一部の者を異名で呼ばせた。その異名は『ソロモンの悪夢』。

駆逐艦娘夕立もその名に劣らぬ高性能な優秀な艦娘だった。

自分のルーツがそこにあると知った時、夕立は喜びを隠せなかった事を忘れられない。

自分の家族を奪った深海棲艦をこの手で倒せる機会に恵まれている。そう予想できたからだ。

他の誰でもない自分が、今度こそ守れるのだとそう信じ込めたからだ。

事実、駆逐艦娘夕立はあらゆる鎮守府泊地で重宝されていた。

だからこそ自分も重宝されるだろうし、守る為の力を十分に得たのだとそう信じ込んでいた。

パラオ泊地の補充要員として着任した夕立は同期の如月、潮と日々切磋琢磨し合った。

その合間に絆を紡ぎ、そして増える守りたい者。同期班員の如月と潮、そして提督。

何故か話題に乗らない潮はともかく、如月とは提督の話でよく盛り上がった事を昨日のように思い出す。

しかし必ず訪れるとすら思っていた輝かしい未来はたった一か月程度の出来事で全て否定された。
703 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2020/09/05(土) 20:32:36.36 ID:kzBmeXH00
『ソロモンの悪夢』の力で如月を守る事はできなかった。

新たな力を求め鍛錬を続ける中で如月は秘書艦に着任した。

彼女自身の適正と何よりあまりにも醜い理不尽に対する同情が要因だったが、周囲がそんなものを理解するはずがなかった。

演習の度に自分達に、否提督と如月に向けられる嘲笑と侮蔑。

その度に如月は提督との絆を深めていく。夕立を置き去りにして。彼との絆だけが自分の命を繋ぐと思い込んでいるかのように。

提督もそれを受け入れた。夕立と如月と潮の部屋だった場所は気付けば夕立と潮の部屋になり彼女の面影は消え去った。

外部の人々が望んでいるように本当に如月が死やその他の要因で消えたわけではない。如月は常に提督の傍に居た。

それに感づいた時、夕立はとどめを刺された。
704 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2020/09/19(土) 21:52:19.62 ID:Y+aHME880
あの日全てを失ったのは如月ではない。自分だ。夕立はそう感じていた。

確かに如月は多くのものを失った。名誉、地位、発言力、そして生きる権利すらも失った。

それでも最後の最後で彼女は得たかったものを得た。何もかもを失ったという自分を利用してそれを確固たるものとした。

だが夕立は、自分はどうだ。

得たかった力は何の意味も無かった。『ソロモンの悪夢』では何も守れなかった。

そして目の前で男を奪われた。自分が守ろうとしていた、自分が守れなかった友人に奪われた。

どれだけ力を付けようとも如月を守れない。何も知らない何も感じないキチガイは如月を傷付け続け、如月はそれすら利用して愛を得る。

湧き上がり止められない劣等感は夕立を確実に壊していった。

何も知らない外部の馬鹿が如月を貶めようとすればするほど、夕立は劣等感を刺激される。

優っているからこその無力感と劣等感。それ故に並大抵の事では覆せない。運命に近い絶望的状況。

ついに狂った夕立はある一つの答えに辿り着いた。


ならば自分を貶めてしまえばいいのだと。
705 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2020/09/19(土) 21:57:31.35 ID:Y+aHME880
夕立型艦娘が忌み嫌われる存在になったその時、提督は如月より自分の事を見てくれる。

提督の視線を独り占めできる時間が増える。

その為には『悪夢』では足りない。『地獄』を見せなければ。

自分に、自分の身内に害する者全てに『地獄』を見せてやる。

悪夢なんてものは所詮目を開ければ消えるもの。

二度と取り返しの付かない苦痛と損失を与えてやらなければいけない。

やりすぎと言われるほど痛めつけ、過剰に力を振るう。

軍規や規則なんていくらでも破ってやる。良識を捨て、時に良識を相手に突き刺す。

惨たらしく殺す事だけを考え、惨たらしく殺す事だけを実施し、惨たらしく殺す事を最優先事項として行動すれば自分の希望は成される。

軍規違反という汚点、制御不能という欠点、過剰防衛という短所。

どれだけ積み上げれば、否掘り下げれば如月に届くのかわからない。

だけどもうこれしかない。悪意という名の永久機関に届くには最初からこうするしかなかった。

これこそが最適解だ。夕立はそう確信した。

軽蔑されようが見下されようが嘲られようが構わない。むしろそれこそ自分が望むもの。

何もかもを自分が殺してしまう事こそが夕立の運命を切り開く唯一の道だ。

それができなければ負け犬だ。
706 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2020/09/19(土) 21:58:17.06 ID:Y+aHME880
動かせるだけの理性を動かし、心を塗り潰していく。

自分のトラウマを、辛い過去をわざと掘り起こし感情を沸き立てていく。

心を黒く、黒く、塗り潰していく。

歯痒さを、無力感を、怒りを、嫉妬を、夕立が思いつく限りのあらゆる負の感情を沸き立てていく。

黒く、黒く、塗り潰していく。

手に持っていた島風の両脚の破片が握り潰され余りが千切れて地に落ちた。

塗り潰せ。

殺意で自分の全てを塗り潰していけ。
707 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2020/09/19(土) 22:00:04.43 ID:Y+aHME880
夕立は叫んだ。今からお前達を皆殺しにするぞと言葉を使わずに叫んだ。

その音の波に弾き飛ばされるように二房の髪がびんと跳ね上がった。

あの頃絹糸のように柔らかくすらりと垂れ下がっていた彼女の髪。

今は彼女の心を表すように癖が付いて跳ね上がり、広がっている。

髪が女の魂という論が正しいのであれば、今の夕立の髪こそ彼女の魂が如何に変質したかを物語っていた。

目を見開き、牙を剥き、爪を立てる彼女の姿は獲物を殺す猟犬そのもの。

否、これは猟犬ではあるが猟犬ではない。

ティンダロスの猟犬。

腐臭をまき散らしながら時間や時空すら飛び越えながら獲物を追い詰めて殺す『犬の形をした化物』。

絶えず飢え、執念深く、獲物を恐怖させ発狂させても尚その命を啜るまで追い続ける。

伝説の通りあらゆる邪悪を自分の身体に集約させる為に今

化物が鎮守府の扉真正面から突っ込んでいった。
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