【艦これ】伊58「黒く塗り潰せ」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

413 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/11/15(水) 20:41:06.59 ID:xA9Se3Ry0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



414 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/11/15(水) 20:58:33.57 ID:xA9Se3Ry0


ふと目が覚める。

天井に一つだけ埋め込まれた、星のような僅かな光以外は暗くて何も見えない暗闇の中目が覚める。

首を動かして電子時計の時刻を見たところ、総員起こしの時間までまだ4時間以上の猶予があるようだ。

またやっちまったか。そう思いながら提督は左腕から感じる重さと温もりに視線を移した。

如月の頭と頬が彼の肌にべったりとくっついている。

普段なら布で遮られ触れられない場所まで、彼の脇腹や脚にべったりとくっついている。

如月の足の付け根と彼の身体が歯車のように噛み合っているのが彼にはわかった。視線を移さなくても、感触でわかった。

その重さと柔らかさと温もりは、二人の心に一種の安心感をもたらしていたものだ。

肌が擦り合わされる、その摩擦の感触すら愛おしい、彼女の身体をゆっくりと剥がしていく。

一定の間隔で寝息を繰り返す彼女の頭の下にそっと枕を置いて、提督は持ってきていた部屋着に身を包んだ。

あらゆる意味で無防備な如月の方を振り返り、頭を撫でる。

さら、と滑る感触。その感触を楽しんでいた時に浮かべた如月の笑顔を思い出す。

思わず身体に手を伸ばそうとした意識を強引に押さえ、扉に向き直る。

提督はゆっくりと、なるべく音を立てないように扉を開けて外に出た。


ドアノブを引きながら、もう片手でゆっくりと扉を押す。

小さくゆっくりと、がちゃと扉が閉まる音がしたのを確認した後、提督は特別鎮守府の地図を頭の中でイメージしながら廊下を歩き始めた。

次のエリアまであと3秒という所で頭の中のイメージを地図から最寄の自動販売機の陳列に切り替える。

ファンタかココアか。一瞬考えすぐにココアを選択する。そしてノンストップで廊下を出て次のエリアに足を踏み入れた。

しかし彼は、自動販売機に行く前に足を止めた。

彼が知る人物が3人、そのエリアの椅子に座っているのを見たからだ。


「しおい」

「ユー」

「ゴーヤ」

大きな声を出さないよう、少し小さな声で呼びかける。

静まり返った深夜の鎮守府の中、小さな声は確かに彼女達の耳に入った。

「Admiral」

それに対して、U-511が誰よりも早く返事をした。

415 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/11/15(水) 21:00:25.47 ID:xA9Se3Ry0


提督「眠れなかった?」

伊58「うん」

提督「…怖かった?」

伊58「…うん」

伊58「ここは…前の鎮守府を、思い出すから」

提督「そっか」

提督「ごめんな。連れて来なきゃよかったかな?」

伊58「そんな事無いよ。ハチとも会えたんだし」

提督「それならいいんだけどさ…」


U-511「Admiralは一人なの?」

提督「ん。うん。如月は寝てる」

提督「俺はその、たまに起きちゃうんだよね。このぐらいの時間で」

提督「部屋にいて如月起こしちゃうのもアレだから出てきちゃった」

提督「しばらく一緒にいてもいい?」

伊401「うん。いいですよ」

提督「ユーとゴーヤは?」

U-511「うん」

伊58「」コクリ

提督「ありがと」

416 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/11/15(水) 21:08:13.33 ID:xA9Se3Ry0


提督「………」

U-511「………」

U-511「Admiral」

提督「ん」

U-511「ごめんなさい」

U-511「ユー、Admiralを怒らせちゃったんだよね」

提督「え、いつ?」

U-511「こないだ、みんなで集まった時」

提督「…あぁ〜…あの時の事?こっちの明石さん呼んで集まった時の」

提督「それ、俺の方こそ謝らなきゃいけないよな」

提督「ユーは全然関係無いのに、イライラしてユーに当たっちまって。ごめん」

U-511「いいよ。ユーは、気にしてないから」

伊401「でもどうしてあんな事言っちゃったんですか?」

U-511「しおい」

伊401「変な言い方だけど、普通じゃなかったよ。あの時の提督」

提督「色々あったんだよ。色々」


伊401「色々って」

伊401「それ、私達が知っちゃいけない事?」

417 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/11/15(水) 21:10:03.25 ID:xA9Se3Ry0


提督「そういう訳じゃ、ないけど」

伊401「じゃあ教えて」

提督「胸糞の悪い話だよ」

伊401「いいから」

提督「わかったよ。でも眠れなくなっても知らないよ」

伊401「大丈夫だよ」

伊401「胸糞の悪い話なら、お昼にも聞いたから」

伊58「………」

提督「………そっか」


提督「何か、飲み物買ってくる。その間に覚悟決めておいて」

提督「何がいい?」

U-511「お水」

伊401「ファンタ」

伊58「…えっと…」

提督「…ココアでいいか?俺のお勧め」

伊58「じゃあそれで」

提督「了解」

418 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/11/15(水) 21:36:25.33 ID:xA9Se3Ry0


U-511「………しおい、本当に聞くの?」

伊401「ユーは知りたくない?私は知りたいよ、提督の事」

伊401「どんな事でも」

U-511「どんな事でも?」

伊401「うん…だって、悔しいんだもん」

伊401「今日一緒にいてわかった。如月ちゃんとか、ずっと傍にいて提督の事わかってるって顔されると、凄い悔しい」

伊401「だから私も、提督の事もっともっと知って、秘書艦になってやるって…決めたんだ」

U-511「Admiralの事を知ると秘書艦になれるの?」

伊401「そうだよ!秘書艦ってのは艤装の性能で左右されない『提督のお気に入り』なんだから」(他の鎮守府だって駆逐艦娘が秘書艦やってるなんて普通にあるし!)

伊401「それって提督の事何でも知ってるくらいの仲になれば、秘書艦になれるって事だよ!」


U-511「って事は」

U-511「那珂ちゃんと羽黒さんと赤城さんと如月ちゃんは」

U-511「Admiralの事、何でも知ってるの?」


伊401「………」ヒクッ

伊401「ゴーヤは知りたくない?提督の事」

伊58「え、ゴーヤは…提督の事」

伊58(見ず知らずだったゴーヤと一緒に、死んでくれるって言った時)

伊58(提督の顔は、笑っていた)



伊58(まるで)

伊58(それをずっと望んでいたかのように)

伊58(泣きながら笑っていた)



伊58(…知りたい。何があったのか知りたい)

伊58(提督の事を、もっと知りたい)

伊58(ふざけてる提督の事も、あの時の笑っていた提督の事も)

伊58(もっと知りたい。知って、知って、ゴーヤは…)


提督「おまたせー」

419 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/11/15(水) 21:41:20.23 ID:xA9Se3Ry0


提督「いろはすとファンタグレープとココアー」

U-511「提督、それ」

提督「これはお酒。だから飲ませねぇぞ未成年達よ」

伊401「飲まないよ。でも珍しいね。お酒いつも飲まないでしょ」

提督「たまに飲みたくなるんだよねぇ」

提督「言うても、隼鷹とかからすりゃジュースみてぇなもんらしいけどなこれ」ブシュゥ!


提督「ほい。んじゃ。乾杯」スッ

伊401「乾杯」

伊58「乾杯」

U-511「え…えっと…Prosit?」

提督「プロージット!いいね。でも叩き付けるなよ」


U-511「え…叩き付ける…?」

提督「プロージットって、グラスを叩き付けるイメージがあるんだけど」

U-511「しないよ」

提督「しないのかぁ…」

420 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/11/15(水) 21:45:04.68 ID:xA9Se3Ry0


提督「………」ゴクッ

421 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/11/15(水) 21:47:25.80 ID:xA9Se3Ry0


「…あん時言った事は俺の本音だ」




「俺は」

「人間ってもんが大嫌いだ」



422 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/11/15(水) 21:55:15.07 ID:xA9Se3Ry0

☆今回はここまでです☆

ソニックフォースを2日でクリアしてしまった。
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 22:48:32.29 ID:rSuWGQs8o
おつ
これで提督の過去がわかるな
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/16(木) 00:53:02.60 ID:t5U4AIoOO
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/16(木) 01:26:31.00 ID:PUT673nk0
乙です
426 : ◆ZFgfLAc.nk [saga sage]:2017/12/01(金) 23:07:24.57 ID:NPp1L14D0
>>1です。仕事とイベントに時間とられててまだかかりそうなので生存報告だけ…
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/05(火) 05:10:19.72 ID:y2ck+7LIo
待ってる
428 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 21:09:33.03 ID:r6zBS8jK0
>>1です。イベントお疲れ様でした。
ドロップには恵まれませんでしたが、全海域クリアできました。

早速ですが投下を始めさせて頂きます。
429 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 21:22:44.46 ID:r6zBS8jK0


伊401「………」

提督「人間ってもんをさ、考えれば考えるほど訳がわからなくなるんだ」

提督「色々考えてきたつもりでいたけど、もう俺にはよくわからねぇ」

提督「ただ一つ確信した事は」



「人は皆」

「悪魔だって事だ」


430 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 21:34:52.34 ID:r6zBS8jK0


提督「昼の、車の中で見かけた奴ら、居たろ」

伊401「あぁ…うん。あの轟沈轟沈言ってた人達」

提督「艦娘反対集団SEALD。艦豚特権を許さない地球市民の会」

U-511「かん、ぶた…?」

提督「艦娘と俺みたいな提督の事だよ」

提督「あいつらにとって俺達は豚なんだよ。人間じゃない」

提督「だから平気で如月を殺せる」

伊401「殺…っ!?はぁっ!?」

提督「あいつらは休暇で街に出た如月型艦娘を見つけては殺しているんだ」

提督「もしかしたら、今じゃ他の艦娘も殺してるかもしれないけどな」

U-511「何で、そんな事」

提督「テレビ番組見た事ない?ちょっと前にやってた、艦娘のドキュメンタリー番組」

提督「あれで、如月型の艦娘が轟沈したんだ」

提督「テレビで放送したから、殺していい。そういう論理」

伊401「何それ…」

伊401「そんなの、そんな論理通るわけないじゃん!!」

伊401「そんなの、元々艦娘(私達)が嫌いで!殺してやりたいって思ってたからやってるだけに決まってるじゃん!!」

伊401「テレビで、そうだったから殺すなんて、普通しない」

提督「だろうね。普通しないさ」


提督「でもしたんだよ」

431 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 21:44:57.72 ID:r6zBS8jK0


「そいつらも」

「他の提督も」

「そのテレビ番組を作った奴らも」

「みんなやった」


「元々あの番組自体が工作だったんだ」

「深海棲艦の脅威が知られるようになって、艦娘の功績が認められるようになって」

「それが嫌だと思った連中が艦娘のイメージダウンで作成した番組。それがあのテレビ番組だった」

「如月が死んだのだって、艤装に工作してストッパーを外していたせい」

「全部何もかも、でっち上げの工作だったんだ」


「なのに、みんなそれを鵜呑みにして如月を殺した」

「提督も、反対派の連中も、一緒になって如月を殺していった」

432 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 21:54:39.97 ID:r6zBS8jK0


U-511「で、でも、Admiralはしなかったんだよね?」

U-511「泊地に、如月、いるよね?」

提督「うん。俺はしなかった。絶対にするもんかって心に決めていた」

提督「うちの泊地で、如月を秘書艦に置いたのはその辺りからだ」

提督「せめて少しでも、傍にいてやらなきゃいけないって。そう思って、怖かったから」


提督「でも俺は、一番肝心な時に何もできなかったんだ」

提督「あの番組が放送した後すぐに、俺は上司にハメられて横須賀まで行かされた」

提督「そこでその番組の本当の事を知って、友提督に助けてもらって、殺されかけて、やっとの思いで帰って」

提督「泊地に帰って来た時、あの子はもうボロボロだった」


提督「もう既に手遅れだったんだ」

433 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 22:26:31.62 ID:r6zBS8jK0


伊401「手遅れって、如月ちゃんは今だってここに!」

提督「心はもう手遅れだよ」

提督「あの子は、依存症なんだ」

提督「結局部屋に戻った時にやっちまった」

伊401「………まさか?」

提督「うん」

伊401「…!…!…!!!」

提督「下心は確かにあったさ。でも俺は、如月の心が晴れて欲しいと思ったんだ」

提督「でも、あの子の欲求はどんどんどんどん膨れ上がっていった」

提督「いや、あれは欲求じゃない。逃げだ。感情を処理しきれなくなって、俺のベッドに潜り込む」

提督「…完全に、歪んじまった。壊れちまった。病んじまった」


提督「曙さんが教えてくれた」

提督「如月には、もうセックス以外に自分の心を癒す方法が無いんだ」

提督「その為だったらあいつは」


提督「泊地の友達も、特別鎮守府の友達も、捨てる」

434 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 22:29:52.77 ID:r6zBS8jK0


「気持ちはわからなくはないよ」

「もうどうしようもない悪意を一斉に向けられて、それから逃げるにはそうする以外に思い付かなかったんだ」


「あのクソどもが、あとちょっとでも誰かを思いやる気持ちがあったら」

「あんなクソ番組をさっさと切り捨てて偏見を捨てる優しさがあったら」

「如月はあんな思いをしなくて済んだんだ」


「あとちょっと」


「あとちょっとでも」


「みんなに誰かを思いやる気持ちがあったら」


「如月はあんな辛い思いをしなかったはずなんだ」


「だけどそうならなかった」



「だから、如月は壊れた」


435 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 22:35:24.69 ID:r6zBS8jK0


「みんな如月を殺した」

「みんな如月を深海棲艦扱いした」

「俺が一緒にいる時にも言われた事があるよ」

「『お前の如月にはいつ角が生えてくるんだ』って」


「特務提督も」

「艦娘も」

「街の奴等も」

「みんなそうだった」

「どうでもいい命だって吐き捨てて、如月を見下して、殺した」

436 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 22:42:22.37 ID:r6zBS8jK0


「おかしいよな?」

「艦娘が嫌いだって言ってる奴が如月を殺して」

「みんなを守りたいとかぬかす奴も如月を殺すんだ」

「何でそうなると思う?」

「簡単な話」

「どいつもこいつも、正義だ何だなんてのは綺麗事の建前でしかねぇんだよ」

「どいつもこいつも、心の底じゃ他人を否定したくてしたくてしょうがねぇんだ」

「どいつもこいつも、人を否定したくて、人を殺したくてたまらねぇんだ」

「そうやって、優越感に浸るのが、人間っていう生物なんだ」

「だから殺す」


「だから如月を殺した」


「だからユダヤを殺した」


「だから黒人を殺した」


「だから奴隷制度なんてもんがある」


「だからカーストなんてもんがある」




「だからお前(伊58)が!こんな姿になった!!」



437 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 22:50:24.29 ID:r6zBS8jK0


真っ直ぐ目を見開いて自分を見つめる提督に対し、伊58は縮こまり自分の腕をもう片方の腕で掴んだ。

こつん、と金属がぶつかる音が響く。僅かに残った生身の二の腕に伝わる感覚以外の何物も感じなかった。

伊58が動かした腕は作り物の艤手であり、掴んだ腕も作り物の艤手だからだ。


もう二度と、伊58の指は感触を覚える事はない。


もう二度と、伊58の手は暖かくなることはない。


彼女の腕も脚も、心無い者達による虐待と仕置きによって永遠に失われたのだから。

438 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 22:55:53.99 ID:r6zBS8jK0


「だから俺は人間が嫌いだ」

「どいつもこいつも、正義面で酷ぇ真似ばかりしやがって」

「その正しさを、自分達以外の誰かが証明してくれてるわけでもねぇのに」

「そんな証明を知る事すらできるわけねぇのに」

「まるで自分が正しいと」

「正しいから何でもしていいと」

「酷い真似ばかりしていく」

「数えだして2000年も経っているのに」

「人間ってのは、ずぅっと、ずぅ〜〜っと、他人に残酷な事ばかりしていく」


「もううんざりだ」


「人間なんて皆死んじまえばいい」

439 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 23:05:22.32 ID:r6zBS8jK0


提督「こんな腐った世界、さっさと無くなっちまった方がいいんじゃないかって何度も考えている」

提督「深海棲艦も、そう考えて産まれて来たんじゃないかって思ったりもしてる」

提督「『人間なんてクソみてぇな生き物皆殺しにした方が地球の為だ』、ってな」

提督「もしそうなら、向こうの言い分にも一理あると思う。つーかむしろ喜んで手伝ってやる」

U-511「Admiral…」

提督「でも」

提督「そのせいで俺の周りの誰かに死んでほしくはないとも思うんだ」

440 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 23:07:05.03 ID:r6zBS8jK0


「みんなで安全地帯に立ちながら、死んでいく世界を指差して笑い飛ばしてやりたい」

「俺が今、こんな仕事を続けてるのはそういう事がしたいからだ」

「この腐った世界が死んでいく様を、安全かつ一番近い所から見届けてやりてぇんだ」

「ただの一般人じゃそれはできねぇ。何もできないで何も知らないまま深海棲艦に殺されちまう」

「だからこの仕事を続けてる。給料結構高いしね」

「国を守る為じゃない。自分の為に、自分を守る為だけに提督をやってるんだ」

「俺の周りの人達が死ぬのはもう見たくない」

「でも他の誰が死のうが構うものか」

441 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 23:14:48.29 ID:r6zBS8jK0


「あいつらだって同じだ。あいつらも安全なところで誰かを殺したいだけなんだからな」

「だからインテリ気取って偏った知識で人を否定する。それでマウント取ったらそのまま殴り殺す」

「俺もあいつらも全く一緒。ただ、価値観が違うだけ」

「自分が気に食わないものを、それっぽく言葉を飾って理性的っぽく見せるだけ」

「俺の言葉だって同じ。自分勝手な論理感を他人に押し付けて悪魔だなんて言って、あげくの果てに皆死ねだ」

「SEALDSの連中も、こっちを何だ世界が何だと言いながら、望んでいるのは俺達の全滅」

「俺達が望んでいるものに、違いなんて何も無い」

「ただ、自分以外の誰かが死ぬ所を見たい。それだけは何も変わらない」

「違いなんてどこにも無い」

「考える事はみんな同じさ」

「だって同じ人間なんだからな」

442 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 23:18:12.59 ID:r6zBS8jK0


「あいつらだって俺と同じように友達がいて家族がいて趣味があって仕事があって」

「それら全てを踏まえた上で、あぁいう振る舞いをしている」

「あの時話した、ホロコーストもアパルトヘイトも全部一緒だ」

「全部、普通の人間がやった事なんだよ」

「冷血だの残虐だのと言うけど、全部普通の人がやった事だ」

「常人じゃ思い付かない殺し方って言うけど、ただそいつの頭じゃ思い付かないだけだ」

「幼稚な承認欲求と愉悦感を得る為に、普通の人間がやった事なんだ」

「自業自得って言葉を免罪符にして、別の場所、別の時間で何度も何度も同じ事をやる」

「自分のくだらねぇ承認欲求に『正義』って名前を付けて暴れたいって所だけは全く変わらず残っている」


「人を殺して承認欲求が満たされる」


「人を馬鹿にして愉悦感を得られる」


「自分は正しい。何故なら自分の方が格が上だから」


「自分は死なない。何故なら自分の方が格が上だから」


「自分が上だ。あいつは下だ。ただそれを感じたい為に」


「人は、2千年以上も殺し合いを続けているんだ」

「だから、それが普通の人間…人間っていう生き物の特性だって俺は思う」

443 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 23:23:34.31 ID:r6zBS8jK0


伊401「………」

U-511「………」

伊58「………」

提督「現に俺がそうだからな」

提督「今こうやって人間ってもんに唾を吐いて、今こうして生きる為に」



提督「俺は、六人も人を殺した」



伊58「!?」

提督「俺の為だけに、みんな俺が殺した」

提督「どんな奴だったか、全員覚えているよ」


「長門」


「金剛」


「大井」


「北上」


「木曽」



「それと、那珂」


444 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 23:32:30.95 ID:r6zBS8jK0


伊401「那珂、ちゃん、さん?」

提督「意外だった?でもそんなもんだよ」

提督「偉そうな事を言ったけど、俺に正義は無い」

提督「俺も所詮はただの人間。どこにでもいるクズ野朗の一人だよ」

提督「自分の欲の為に、他の命を踏み躙ったクズ野朗の一人なんだよ」

提督「勿論、他の奴らには正義があるなんて事は絶対に無いと思うけどね」

提督「そいつが人間である限り、正義を盾にして他人を踏み躙るクズ野朗である事に変わりは無いんだから」

445 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 23:38:26.48 ID:r6zBS8jK0


「もし、仮にだよ?」

「全世界、全宇宙共通の本当の正義、っていうもんがあるのだとしたら」

「少なくとも人間にはそんなもん備わっていないし、今後備わる事はない」

「それだけは絶対に言い切れる」



「だから今」


「この地球上のどこに行ったとしても」


「本当の意味での正義は無い」


「絶対に存在していない」


「俺達人間に、この世界に、正義なんてもんはありはしないんだ」


446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/12(火) 23:45:50.39 ID:oBh67bGLO
大正義アズールレーンを信じろ
447 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 23:49:23.87 ID:r6zBS8jK0


提督「はい!これで俺の話は終わり!」パン!

伊401「え」

提督「それで、丁度俺もちょっと聞きたい事があったんだ。だから今度は俺が聞いていい?」

U-511「え?」

提督「ゴーヤ」

伊58「は、はい!」




提督「前にいた鎮守府の事。あと、そこの提督の事」


提督「話せたらでいいんだけど、俺に教えてくれないかな?」



448 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/12(火) 23:51:42.83 ID:r6zBS8jK0

☆今回はここまでです☆

戦艦少女とかアズールレーンとか、出したい気はしてます。
この世界観だとこうかなぁというイメージはできていますので。
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 04:41:33.89 ID:6ALq6VL+o
おちゆん
450 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 16:47:14.76 ID:aGTrpE+90
メぇぇぇ〜〜〜リぃぃぃぃクリっスマぁぁぁーーースぅ!!
ひゃーーーはっはっはっはっはぁーーーーっ

投下はじめまーす!
451 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 16:49:55.62 ID:aGTrpE+90


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



452 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 16:53:57.75 ID:aGTrpE+90


-翌日 パラオ泊地 重巡洋艦娘青葉私室-


青葉「………」カタカタカタカタ

扉「」コンコン

青葉「はぁい」

提督「提督だけどー。入っていい?」

青葉「………」カタカタカタカタ

青葉「………」カチ、カチ、カチ

青葉「あ、どうぞー」

ガチャ

提督「相変わらず、凄いなここは…」

提督「まぁとりあえず」

提督「ただいま青葉」

453 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 17:05:41.65 ID:aGTrpE+90


青葉「お帰りなさい司令官。どうでした?特別鎮守府」

提督「流石友提督だよ。演習のやり方からしてウチとは全然違う」

青葉「そりゃあ、ウチとは戦い方が違うんですからそうですよ」

提督「普通に戦えるようになってもいいとは思うけどね。あくまでアレは最終手段だ」

提督「相手が対応しきれない内に艦隊をグチャグチャにして皆殺しにする為の切り札」

提督「できれば使わずに取っておくに越した事はない…はず」

提督「とにかくあっちの演習は凄い勉強になったよ。うちでも取り入れようと思う」

青葉「ふぅん…」


青葉「ところで本当に間宮さんうちに来るんですか?」

提督「来ると思うよ?足柄のカレー食いに。あの人は来る。絶対に来る」

青葉「勉強熱心ですねぇ」

提督「あ!間違ってもネタ取ろうとするんじゃないぞ。したら怒るからな」

提督「間宮さんは友提督の」
青葉「わーかってますよぉ!それ位の分別は青葉でもつきますぅ!!」

青葉「司令官、青葉の事そんなに信用してないんですか?」ウルウル

提督「そ、ういうわけじゃないけど…その、一応、礼儀ってのがあるでしょ?だから言っておきたかったの。念の為」

青葉「へぇー」

青葉「ま、そういう事にしておきましょうか?」ニヤニヤ

提督「何その言い方…」

青葉「それよりネタといえば一個、面白い事があったんですよ。聞きます?」

454 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 17:07:39.52 ID:aGTrpE+90


提督「え、何」

青葉「副業の方にですね…新しいお客さん、できちゃいました」

提督「………」

青葉「誰だと思います?」

提督「知らない」


青葉「雪風ちゃんですよ」

提督「………」

455 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 17:15:28.22 ID:aGTrpE+90


青葉「どこから聞いたのか雪風ちゃんの方から来ましてね」

青葉「『しれぇの動画ください』って。顔真っ赤にして来たんですよ」

提督「………」

青葉「あまりにも面白かったからスペースも貸して見せてあげたら、まぁた凄かったですよ」

青葉「『しれぇ、しれぇ、しれぇ』って。雌の顔して何度も司令官を呼んで…」

提督「…スペース貸したって事はまさかお前」

青葉「えぇ撮ってます。見ます?凄いですよ」

提督「見ない!早く処分してあげて!」プイ

青葉「えー」

提督「えーじゃない!」


青葉「でも雪風ちゃんがああなったのは、間違いなく司令官のせいですよ?」

青葉「…またやっちゃいましたねぇ司令官」

提督「うるさいなそんなつもりじゃないんだ。あの時だって俺は罰とか脅しになると思って」

青葉「パンツ脱がそうとした?」

提督「普通いきなりアレやられたら嫌悪感が勝るだろ。常識的に考えて」

青葉「残念ながら違いますねぇ」

456 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 17:31:40.07 ID:aGTrpE+90


青葉「嫌いな人とか知らない人だったらそうかもしれませんけど」

青葉「好きな人から無理矢理迫られて困っちゃう、なんて漫画じゃよくあるシチュエーション」

青葉「女の子の憧れですよ?それが懲罰だなんて、逆効果です」

提督「にしたって限度っつーもんがあるだろ普通」

提督「そんな都合の良い女演じて、俺が死ねって言ったら死ぬのか?お前ら」

青葉「言えるんですか?」

提督「またやるって言ったよな?」

青葉「いや司令官は無理ですよ。もう二度とそんな事は言えないです」

青葉「だから、今こうなってるんですから」

青葉「自分が盗聴されてるってわかってて、それでも何も言わないってのが何よりの証拠です」

青葉「青葉がこんな副業やってても、わかってても何も言わないってのが何よりの証拠です」

青葉「口では色々言うけど、司令官は優しいんです。だからもうどうにもならない」

青葉「何かやろうにも裏に何かがあるってのが見え見えになっちゃってる」

青葉「だからもう何やっても無駄ですよ」

青葉「ウチの泊地の子達は、みぃんな司令官の事が好きなんですから」

青葉「しおいちゃんもユーちゃんも、ゴーヤちゃんも」

提督「………」チッ

457 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 17:38:20.34 ID:aGTrpE+90


青葉「司令官だって別にそこまで嫌じゃないんじゃないですか?」

青葉「…現に今こうやって青葉の部屋まで来て、何がしたいんですか?」クスクス

提督「え」

青葉「挨拶だけだったら別に朝礼の時にみんなにしたからそれでも別にいいですよね?」

青葉「こんな二人っきりの場所で、密室で、青葉に何の用事なんですかぁ?しれいかん?」

青葉「さっきから、青葉のどこを見ているか、わかっていないと思っています?」

提督「………」

青葉「言わなきゃわかりませんよぉ?ちゃんと言葉にしてください」

青葉「司令官は何がしたいんですかぁ?青葉は、どうすればいいですかぁ?」ニヤニヤ

458 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 17:42:32.97 ID:aGTrpE+90


提督「…青葉の」

提督「青葉のお尻が恋しくなっちゃって」

青葉「♪」

459 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 17:48:57.71 ID:aGTrpE+90


「よく言えました」

後ろ向きで、僅かに臀部をこちらに突き出した青葉を抱きしめる。

両手を彼女の腹部に回し、かちゃかちゃとベルトを外す。

よく見えなくとも滞りなく完了できる位には繰り返し手馴れた動作。

がさ、とベルトごとズボンがずり落ちる音だけがした。

視界には超至近距離まで近付いた青葉の顔しか映っていなかった。

460 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 17:49:36.21 ID:aGTrpE+90


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



461 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 17:57:47.38 ID:aGTrpE+90


「こうしてると何か、生きてるって感じがするんです」

背中に触れる感触を楽しみながら青葉が呟いた。

「生物は死にそうになると子孫を残したいっていう欲求が強くなるって聞いたけど」

青葉の背中とその下の感触を楽しみながら提督が呟いた。

「うーん。でも艤装のストッパーがあるから余程じゃないと怖くなくなっちゃうんですよねぇ」

「たまにさ、やたら緊張感がないように思えるのはそのせい?」

「司令官だったら、私達が危なくなったらすぐ帰還命令出してくれるって信頼してるんですよ」

「信頼ねぇ」

会話を続けながら、提督は片腕をベッドの外に伸ばす。

自分の上着に隠し持っていたものを掴む為に。

その信頼を裏切る為に。

462 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 18:00:19.71 ID:aGTrpE+90


「帰ってきてすぐに青葉の所に来てくれた事、嬉しかったですよ」

「ありがとうございます。司令官」

「どういたしまして」

463 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 18:04:27.52 ID:aGTrpE+90


そう言いながら提督は、手に持ったハンカチで青葉の口と鼻を押さえ付けた。

464 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 18:18:47.87 ID:aGTrpE+90


青葉のくぐもった悲鳴が提督の手の内から響く。

提督は片手で青葉を抱きしめ、片手で口と鼻を押さえ付ける。

脚を絡ませ、本気で抱きしめ、本気で気絶させようと押さえ付ける。

口と鼻から入り込む何かから、青葉は自分の身に何が起こっているのかを理解する。

普段嗅ぎ慣れない薬品の匂い。でも何故。どうして。どうして司令官が。

突然であまりにも予想外な奇襲に対する動揺と身体に入り込む何かが青葉の意識を蝕んでいく。

今青葉を落とす為に使っている片腕以外の全てで青葉を愛でながら、提督は彼女の耳元でささやいた。

「悪ぃな青葉。お前が起きてて視られてると、こっから出るのは難しいだろうからな」

「提督命令だ。ちょっと眠ってろ」

そこから少しの時間が経ち、青葉は眠るように気を失った。

465 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 18:36:46.16 ID:aGTrpE+90


青葉の身体から力が抜けた事を確認し、何度か力を緩めて意識を失っている事を確認する。

これでまずは大丈夫。提督はある種の満足感を覚えながらそそくさと準備を始めた。

散らかったゴミを片付け、青葉に布団をかけ、急いで服を着ていく。

自分の服に仕込まれた機械を記憶と視覚を頼りに外していく。だが最後の一つに手を伸ばし少し考えた後、何も掴まずに引っ込めた。

手に持った機械を机の上に並べ、パソコンを全てシャットダウンさせる。

第二段階はほぼ完了。だが提督の心には焦りしかない。

上着のボタンを上から下までしっかり留めていきながら、青葉の様子をじっと見つめる。

クロロホルムで気絶してそのまま死亡するケースがある、という知識が彼の不安を別所からも沸き立てる。

だが艦娘の身体は戦闘に耐えられるよう頑丈にできている。ストッパーが無くともちょっとやそっとじゃ死ぬ事はない。

不安を湧きたてる知識を別の知識で押し潰しながら、青葉の顔に顔を近付け寝息を確認する。

青葉がしっかり息をしている事実が、彼を少しだけ安心させた。


「ごめんな青葉。本当にごめん」

そう言い残して提督は部屋から出て行った。

466 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 18:42:30.51 ID:aGTrpE+90


もし、生きて帰ってくる事ができたなら

今日の事は仕切りなおしにしよう。

もしこれでも青葉が望むなら、もう一度青葉と触れ合おう。


そう考えながら提督は自分の携帯端末からある人物に電話をかけた。

「あ、もしもし。パラオ泊地の提督と申します」

「実は」

「ブラック鎮守府の、告発を行いたくて…」

467 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 18:44:58.12 ID:aGTrpE+90


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



468 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 18:58:24.44 ID:aGTrpE+90


憲兵「提督さん。そろそろ到着します」

提督「わかりました」

提督「ありがとうございます、憲兵さん。無理を聞いて頂いて」

憲兵「いえ、これが我々の仕事ですから」

憲兵「ですがどうして、貴官まで付いて来たいと?」

提督「………」

提督「今から向かうブラック鎮守府の、ブラック提督とは研修の頃の知り合いでして」

提督「まぁ、ちょっとした恨みがあるんですよ」

憲兵「………」

提督「不純ですよね」

憲兵「不純ですね。ですがあの鎮守府がブラック鎮守府である事は確かです」

憲兵「動機が不純だろうが、行いが正しければ一考の価値はあると、小官は考えております」

提督「…そう言って頂けますと、少し安心できます」

469 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 19:08:33.56 ID:aGTrpE+90


車のガラスの向こうで、門が開く音が響く。

「開いた?」

「やけに素直な…まぁそれなら行くしかあるまい」

再びエンジンが音を立て、開いた道の先へと車が進んでいく。

提督は窓の外の風景を、網膜に焼き付けるように見回していた。

道、建物の位置、港の場所。

それらを見回してようやく当たり前のような感情を抱く。かなり大きな鎮守府だ。

そんな感情をくだらないと切り捨て、再び周囲の風景を見回す。

広場、入渠施設、その他諸々。

もしこの場で提督の事に注目している人がいたならば、挙動不審と言われかねない程周囲を見回していた。

だからこそ、まず最初にそれに気付いたのは提督だった。

470 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 19:13:47.22 ID:aGTrpE+90


寮の機能があると思わしき建物の、窓から見える二つの影。

何かに吊り下げられているかのようにも見える、縦長の二つの影。

様々な色で彩られた、少し大きな二つの影。

まるで人を形取っているかような、二つの影。


それは、首を吊ったまま晒された如月型艦娘。

それは、首を吊ったまま晒された睦月型艦娘。


模造品ではない、本物の、生きていた艦娘。

471 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 19:16:50.79 ID:aGTrpE+90



「如月」

「お前の予想、的中していたぞ」


472 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/12/25(月) 19:18:42.34 ID:aGTrpE+90

☆今回はここまでです☆
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 19:44:45.33 ID:uJ8YjF5Po
乙です
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 23:26:10.66 ID:IqstxOW20
乙です
475 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 21:31:02.18 ID:iEoh7WMr0
建物の中に入った二人を出迎えたのは白い軍服を来た男。この鎮守府の提督、ブラック提督だった。

彼の傍には艦娘達が控えている。

吹雪型艦娘、漣型艦娘、電型艦娘、五月雨型艦娘、叢雲型艦娘、朝潮型艦娘に不知火型艦娘。どれも駆逐艦娘だ。

「何だと思ったら妙に懐かしい顔が来た」

「お前が今さら、一体何の用なんだ?憲兵まで連れてきて」

憲兵が一瞬口を開きかけたが、先程車の中で二人が研修時代の知り合いであると言われた事を思い出し、踏みとどまった。

「調べ物をしてたんだけど、まさかそこでブラック提督が出てくるとは思ってなかったよ」

提督が懐から取り出した、ビニールに入れたままのそれを目の前にかざす。

それは伊58が泊地に運ばれてきた時に首に付けていた首輪型の爆弾。

泊地の明石と特別鎮守府の明石が協力して解析した、一番初めに見つけた物だ。
476 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 21:34:49.64 ID:iEoh7WMr0
「これは何だ?」

「…うちの艦娘が遠征中に『死体』を見つけたんだ」

「その死体が付けていた機械がこれだ。調べてみたら、爆弾だったらしい」

この手の話題での定型文に対して提督は詳細まで説明をしていく。

多少の嘘を交えながら、九割近くの真実を、はっきりとした口調で伝えていく。

「見覚えあるか?」

首輪型爆弾だったものをブラック提督に手渡し、その顔をじっと見つめる。

その表情が少しでも変わらないかと様子を伺いながら。

この装置がこのブラック鎮守府のものである事は確信している。

伊58の言葉とそれを裏付ける憲兵の調査。罪に問える程の証拠は既に挙がっている。

今提督が持つ中でも一番大きな証拠となるこの装置を見て、ブラック提督はどう出るか。

とぼけた振りをして逃れようとするならば証拠を出して追い詰めていける。

目の前のブラック提督はどのような反応を示すのか。


「ある」

「これは俺の鎮守府で作った装置。ヌカヌカカナル君2号だ」
477 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 21:48:26.43 ID:iEoh7WMr0
毅然とした態度で帰ってきた自白と、くだらない情報によって一瞬で練っていた策が崩れた。

だが悪い事ではない。用意してきたものが全て無用になっただけの話だ。

「…この爆弾を、お前らが作ったんだな?」

念の為、確認するように提督が問うもブラック提督は何ら動揺も後悔も見せずに言い切った。

「あぁそうだ。逃亡と反乱防止用に俺が明石と夕張に命じて作らせた」

「この装置を両手両脚と首に付け、何かあれば爆発して吹っ飛ぶようにした。手も足も、首もな」

「起爆装置は俺が持っている。これを付けた奴が少しでも俺の気に障る事をすればすぐ爆破できるって事だ」

「…貴様」

いけしゃあしゃあと自らの外道を武勇伝のように言い聞かせるその様に憲兵が眉間に皺を寄せる。

そして目の前のこの男、ブラック提督が外道である事を確信する。

だが、彼にはどうしてもわからない所があった。何故憲兵である自分を前にして、あっさりと自白するのか。

諦めた様子でも無く、自暴自棄にも見えない。

そんな男がどうしてあっさりと自白したのか。その妙な自信が不気味だった。

ある種の混乱から抜け出す為に、憲兵は無理矢理物事をシンプルに考える事にした。

この男が艦娘を虐待し殺害する犯罪者であるのは事実。提督の証言、提示された証拠と、先程見た睦月・如月型艦娘の首吊り死体が何よりの証だ。

そしてこの男は自分の罪を自白した。つまりこれで何事も無く逮捕できる。それで終わりだ。

そう考え、怒りを静めようとした憲兵の耳に予想外の言葉が聞こえてくる。


「で、それが何か問題でも?」
478 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:02:27.85 ID:iEoh7WMr0
目を見開いた。そして口を開く前に提督が憲兵の心を代弁するように追及する。

「問題だ!お前がやっている事は艦娘の強制労働」

「それだけじゃない。『死体』には暴力を受けた跡が残っていた…お前は、艦娘を虐待していたんだろ!?」

「ここに来る前に潜水艦娘を一人見かけた。身体に痣があって、死んだ目をしていた」

「それと俺が見つけた『死体』も潜水艦娘だったし、身体に無数の傷と痣があった」


「オリョールクルージングだろ!?潜水艦娘に不眠不休で働かせながら、気晴らしで暴力まで振るった!!」

「こんなふざけた機械まで作って、無抵抗にさせた上でだ!!」

「お前らがやった事は許されるものじゃない!!!」


はっきりと、大声で、事実を突きつけるように話す提督に対し、ブラック提督はどこまでも冷静、否冷淡な反応を示す。

「許されるものじゃない?お前が、何の権利があってそんな事を言う?」

「潜水艦娘の役割がオリョールクルージング以外無いんだから仕方が無いじゃないか。潜水艦娘に他の使い道があるとでも?」


「いいか。俺達がやってるのは戦争だ。戦争には資源が必要だ。戦争を続ける為にも資源の回収は最重要なんだ」

「一個人の心情なんざ気にしてる場合じゃない」

「なのに疲れただの、休みをくれだの、そんなグダグダと弱音を吐く奴を拳でわからせて何が悪い?」

「俺がやっている事は勝つ為に必要な事だ」

「そんな事も理解してないんだからお前は、成績最下位の無能提督なんだよ」

ブラック提督の傍で話を聞いていた漣型艦娘が提督を鼻で笑い、その声は提督にもはっきりと届いた。

漣型艦娘の方を一瞥する。提督には一瞬だけ彼女が特別鎮守府の漣とダブッて見えた。

冗談を言い合い趣味の話に花咲かせる、年下の親友と同じ声、同じ姿をした憎き相手。

目の前の彼女は同じ姿で、同じ声で、同じ魂で、全く違う心を見せる。何故、と考え出そうとしたその瞬間提督は我に返った。
479 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:11:16.71 ID:iEoh7WMr0
ブラック提督の言い分は論理としては正しい。

資源が無ければ戦えない。戦えなければ、世界は深海棲艦に支配され人間は絶滅するかもしれない。

種の存続がかかっている戦いに一個人の心情を汲みいれる余地は無い。

そこだけ切り取れば、その通りだ。種全体を生き残る為に多少の犠牲は必要、と考える事もできる。


だが提督は覚えている。

先程見た、首を吊られ晒された睦月と如月の姿。

そして伊58の心と身体に刻まれた傷をはっきりと見て、覚えている。

その記憶がブラック提督の言い分を叩き潰す最大の要因となる。


「…じゃあ、あの窓から吊り下げられた二人はどう説明するつもりだ」

「あれが、どうって?」

「睦月と如月だ!!何であんな真似をしているかって聞いてるんだよ!!!!」

「あれが、戦争と、どう関係あるって言うんだ!!!」

「あれが勝つ為に必要な事か!?味方をブッ殺して晒しモノにする事と戦略に何の関係があるんだ!?」

「言えよ!!!!!!!」
480 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:13:38.66 ID:iEoh7WMr0
激昂への返事は無言。それが提督の感情を更に逆撫でしていく。

「綺麗事ばかり言いやがって!!お前の言ってる事は全部嘘っぱちだ!!」

「お前は!!!ただ誰かを傷付けて殺したいだけじゃねぇか!?」

「何が潜水艦娘の役割だ!何が反乱阻止だ!!何が戦争を続ける為だ!!」

「そんなもんは建前なんじゃねぇか!!!」

「お前は!!綺麗事や一方的な正義を押し付けて自分の殺しを正当化したいだけのクソッタレのクソ提督だ!!!」

「だから潜水艦娘を虐待する!!だから睦月と如月を殺した!!!」

「一緒なんだよ!!お前は仲間を傷付け殺して喜ぶ最低のサディスト、サイコパスなんだからな!!!」

「それがお前だ!!!」


「この…」

「ク ソ 野 朗 が ぁ !!!!」
481 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:18:45.85 ID:iEoh7WMr0
そこまで言い切り、息を吸った瞬間


「司令官を愚弄するなァ!!!!!」


背後から聞こえた怒号と激痛がほぼ同時に提督を襲った。

脚の間から何かが引き抜かれるのを感じながら、腰を折り曲げ床に倒れ伏す。

下半身の激痛。体外にありながら内蔵の一部である箇所への蹴り上げ。

簡潔に言うならば後ろから股間を蹴り上げられた。

胃まで裏返るかという程の痛みと怒号でそれを把握するが、起き上がれない。

艤装を付けていない、かつ非力な駆逐艦娘とは言え多少は鍛えてある脚で股間を蹴られたのだ。

目を強くつぶり、歯を食いしばり、声が漏れないようにするのが精一杯だ。
482 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:31:43.65 ID:iEoh7WMr0
「あんな雌豚、絶殺されて当然よ!」

「朝潮のように戦闘にも出られない雑魚!」

「朝潮と違ってどこの鎮守府にも重宝されない産廃!」

「朝潮の司令官を誘惑する事しか考えてない淫乱女の分際で…!!!」

「あの雌豚のせいで、鎮守府が、艦娘全体の地位が貶められた!」

「あろうことか、司令官の顔にまで泥を…!!」

「そんな死んで当然、産業廃棄物どころか核廃棄物にも劣る生ゴミを!!殺して何が悪い!!!」

「朝潮達の手で殺されるだけでも光栄に思うべきなのよ!!!」


朝潮型艦娘の怒号が上から降り注ぎ、電型艦娘が嫌がらせのように落ち着いた声でそれに続く。

「少し前に睦月ちゃんと如月ちゃんがてるてる坊主を作っていたのです」

「ゴミの分際で生意気だったから、代わりに如月ちゃんをてるてる坊主にしてあげようと思ったんですけど、睦月ちゃんが邪魔するから…」

「姉妹揃って首を吊らせて、窓から下げたのです」

「ゴミにしてはなかなかいいてるてる坊主っぷりになったのです」

「でもそしたら、死んでしまったのです」

「死んだ、のです…ふふふふふ」


「ふふふふふ!!!ふふふふふふふふふふふふふふふふ!!!!!!」



「DEATHDEATHデース!!!!死んでしまったの、でーす!!!!!」

「きゃはははははははははははは!!!!!!!あははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!」

483 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:37:36.79 ID:iEoh7WMr0
堰を外したように、一斉に笑い声がこの空間に轟いた。

提督は床に倒れ伏したまま、吐き気を堪えながら周囲を見渡す。

吹雪型

綾波型

暁型

初春型

白露型

朝潮型

陽炎型

島風型

夕雲型

多くの駆逐艦娘。

そして鳳翔型

天龍型

川内型

駆逐艦娘に混ざって少数存在するその他艦娘。

伊58から聞いていた通り、重巡洋艦娘も戦艦娘もいない。だが、その数十人の艦娘が提督と憲兵を囲んでいた。


「貴様ら何をしている!!!」

憲兵が笑い声をかき消すように怒号を上げるが、ブラック提督の片手で静止された。

「憲兵殿。貴方では俺を逮捕できない」

「いや…誰も、俺とこの可愛らしい駆逐艦娘たん達を逮捕する事などできやしない!」

「馬鹿な事を言うなぁ!!」

罪を犯せば罰せられる。社会のルールを完全に覆すその発言を憲兵は馬鹿な事と切り捨てる。

この外道どもをこの場で逮捕できないのならば何の為の規則か。何の為の憲兵なのか。

戯言だ。この男が言う事は戯言だ。そう憲兵の頭の中でブラック提督の言葉が何度も何度も切り刻まれていく。

「少し冷静になってください。そんなに俺の言っている事を疑うなら貴方の上司に聞いてみればいい」

「誰も、俺達を逮捕する事などできやしないとわかるから」
484 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:41:24.31 ID:iEoh7WMr0
ぴん、と指を一度鳴らすと朝潮型艦娘と不知火型艦娘が一切躊躇することなく顔を上げブラック提督の方を向いた。

「朝潮、不知火。憲兵殿を別室までお連れしろ」

「了解しました」

「抵抗はしない方がいいです。貴方の首が飛びますから」

両脇を抑えられたまま憲兵は連れて行かれ、倒れ伏したままの提督は残された。


その周囲を多くの艦娘が敵意の視線を送りながら囲んでいる。

自分の提督、司令官を侮辱した提督に対する怒りと、ヘドロのようにドロドロとしたドス黒い加虐心を孕んだ目で。
485 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:51:16.80 ID:iEoh7WMr0
ブラック提督は倒れた提督の髪を掴み、勝ち誇った目で彼を見下す。

「クソ野朗か。俺に対してよくもまぁそんな口が利けるな?」

「一番のクソ野朗はお前だろ?裏切り者の提督君」

「あぁ。そういえばそうだったな。裏切り者のクソ野朗」

天龍型艦娘が唾を吐いて毒づく。唾が脇腹に当たり、白い軍服に染みを作る。

事情をよく知らない他の艦娘達は好奇心と窃視願望を露に首をかしげた。


「こいつは深海棲艦と密通して人類を売った」

「史上最悪の裏切り者の一人さ」
486 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:56:45.40 ID:iEoh7WMr0
「アイアンボトムサウンドの話は聞いた事があるだろう?」

「数多くの轟沈者を出した、史上最悪の大規模作戦」

「何故そう呼ばれるに至ったか。その一番の原因はいくら敵の本拠地を叩こうがすぐさま修復された事だ」

「それによって戦いが長引き、功を焦った提督や艦娘が無策で突撃…沈んでいった」


「では何故、敵の本拠地が修復されたのか?」


「その答えはただ一つ」


「人間陣営に裏切り者がいたからだ」


「深海棲艦と必死に戦っている裏で、深海棲艦と密通して物資を横流ししていた裏切り者がいたからだ」


「大本営から送られてきた物資と資源を深海棲艦に横流しして、奴らはその補給ルートをフル活用。本拠地の修復を行った」


「そして、アイアンボトムサウンドは無間地獄になった」


「一部の人間の私利私欲に塗れた裏切りで、あまりにも多くの、取り返しの付かない程の犠牲者が出たんだ」
487 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 23:01:41.58 ID:iEoh7WMr0
「その後大本営は裏切り者の存在を察知。憲兵隊も動き回らせて裏切り者の捜索と逮捕に回った」

「そこまでしてようやく、深海棲艦への補給ルートを断つ事ができた」

「もうあいつらに本拠地の修復を行うほどの物資が送られる事はない」

「だけどな。その時の裏切り者の一部はまだ娑婆に残ってのうのうと生きているんだよ」
488 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 23:03:44.91 ID:iEoh7WMr0


「それがこいつだ」

「パラオ泊地所属、提督特務中佐」

「こいつこそが、人類の敵なんだ」

489 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 23:07:19.90 ID:iEoh7WMr0
☆今回はここまでです☆

てるてる坊主って何の事だ、と思われるかも知れません。
季節限定家具の梅雨の緑カーテン窓と、季節限定ボイスが元ネタです。
もう一つ元ネタがあるのですが、見つからず…あれは夢だったのか。気のせいだったのか
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 22:13:11.46 ID:nLLg+Ri1o
おつ
続き待ってるわ
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/15(月) 10:05:41.21 ID:GYcwVX5To
おつ
492 : ◆ZFgfLAc.nk [sage]:2018/01/24(水) 23:05:52.89 ID:Rszmy9Zk0
相変わらずめっちゃ遅くなってますが生存報告
493 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 18:54:37.62 ID:x4LQrqlJ0
・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・
494 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 18:58:31.16 ID:x4LQrqlJ0
「納得できません!何故逮捕してはいけないのですか!?」

客室に憲兵の声が響く。至近距離で大声を受けた通信端末がその声を電波に載せてそのまま相手に送っていく。

「何でもだ。とにかく君は動こうとするな」

それに対して彼の通信端末から聞こえてくる声は落ち着いている。その落ち着きが憲兵のいらつきを更に煽った。

「何もしないわけにはいかないでしょう!?」

「奴は潜水艦娘に労働を強制し、それだけでなく虐待して殺害しています!」

「だとしても何もするな」

「どうしてですか!?」

何もするな。何故。

何もするな。何故。

この繰り返しがこれまで二度三度繰り返されてきた。

そしてこの無意味な繰り返しに痺れを切らした通信相手が彼を納得させようと論調を変える。

「いいか正直に言おう。我々はブラック提督を失う事を良く思っていないんだ」
495 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:05:45.60 ID:x4LQrqlJ0
「少し考えてみてくれ」

「奴の鎮守府の所属艦娘を見ただろう。殆どが駆逐艦娘、潜水艦娘、それと他艦種の艦娘が少し。それだけだ」

「ではこの構成でどうやって日々鎮守府を運営していると思う?」

鬼級、姫級との戦いで重要になる重巡洋艦娘以上の艦娘や、正規空母娘がいない鎮守府が日々どのような活動をしているか。

当然できる事も限られてくる。強力な深海棲艦が出現する海域には出られないからだ。

今まで集めた情報を基に推測して憲兵は答えを出す。

「遠征とオリョールクルージング、ですか」

「そうだ。その鎮守府はその二つで回っている」

「ではもう一つ考えてくれ。そうして手に入れた有り余る資源を、ブラック提督はどうしていると思う?」

「戦艦娘も正規空母娘もいないその鎮守府で溜まり続ける多くの資源を君ならどう扱う?」

どう扱う。その問いに憲兵の考えが詰まる。

低燃費の小型艦娘による遠征、オリョールクルージングで資源は溜まる一方だ。

この資源をどう扱う?資源とは艦娘の艤装を動かす為の必需品だが、それをどれだけ使おうが収入の方が上回る。

余った資源は大規模作戦に備えて備蓄に回すのがセオリーだ。だがこの鎮守府の構成では大規模作戦で戦果を挙げるのは難しい。

いくら遠くの敵に砲弾を当てられるようになろうが、敵の装甲を貫けなければ意味が無い。

溜まり続ける多くの資源をどう使う?考えても考えても憲兵には自分が納得できる答えが出す事ができない。
496 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:11:51.11 ID:x4LQrqlJ0
数秒の沈黙の後、通信相手が答えを出してきた。

「答えは『他の鎮守府に売り捌く』だ」

「ブラック提督は手に入れた資源を商品として他の鎮守府に売買しているんだ」

「その顧客の中には多大な戦果を挙げている提督も数多くいる」

その答えは憲兵に、疑問が解けた快感と恐怖を同時にもたらした。

この鎮守府は規模の割りにあまりにも豪勢な造りをしている。今ここにある小物一つ取っても高級品ばかりだ。

何故そんなものがここにあるのか?そしてあの男は資材を売り捌いて稼いだ金をどう使っているのか?

一部は賄賂。今こうやって上層部がブラック提督を庇っているのもそれがあっての事だ。

そして残りは何の戦術的価値も無い贅沢にのみ使われている。

食材、家具、パソコンにゲーム機、雑誌に漫画に酒に煙草等々等。

ありとあらゆる軍事的価値の無い贅沢に残りの全てが注がれていた。

他の提督が日々任務や作戦で奮闘している中、彼らはここでだらだらと無為に日々を過ごす。

潜水艦娘を始めとした、自分達が弱者とみなした艦娘達を虐げながら。

傷付かず、痛みも感じず、ただ快楽それだけを感じて過ごす無為な日々を、無価値な死体を増やしながら延々と続けている。
497 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:16:34.13 ID:x4LQrqlJ0
「つまり彼がいなくなれば今後の作戦遂行が困難になるかもしれない」

「我々の敵は人間ではない。人間を滅ぼそうとする侵略者、インベーダーのようなものだ」

「負ければ人間が滅びる。だから我々は勝たなければならない。作戦の失敗は許されないのだ」

だが資源を供給する存在が必要不可欠である事も確かだ。

資源が無ければ作戦の遂行すらできないなら、資源を供給するブラック提督の存在がどれだけ重要であるかなどすぐにわかる。

人類の存亡がかかっている作戦に失敗が許されないなら、彼の役割は作戦成功に欠かせない存在である事などすぐにわかる。

「だから、逮捕するなと?」

「そうだ」


「その陰で何人の艦娘が虐げられて殺されていると思っているんですか!?」

しかしその為に犯罪を見逃していいとはならない。正義感の強い憲兵は葛藤しつつも叫んだ。

守る為に味方を殺すのか。それを良しとしていいのか。それが本当に正しい事なのか。

「潜水艦娘だけじゃありません!睦月型艦娘と如月型艦娘も首を吊って晒されているんですよ!?」

「こんな鎮守府を見逃して何が憲兵なんですか!?」

そんなはずがない。多くの人が生き残る手段を探していかなければいけない。

例えそれが自分の死を覚悟して戦場に立つ軍人であっても、無為に殺していいものではないはずだ。

まして戦いの果てで死ぬのではなく味方に虐め殺される末路など、絶対にあってはならないはずだ。

胸のざわめきを力で抑え付けるように憲兵は力の限り叫んだ。
498 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:19:11.06 ID:x4LQrqlJ0
「いいから黙っていろ!!」

そんな彼を更に大きな力で抑えようと、通信端末から大声が届いた。

「なら今奴と話をしている特務提督はどうなるんですか!?」

「奴の艦娘が提督に暴行を加えるのを見ました!このままでは彼は!!」

相手を言い負かす為だけに飛び出した考えを、憲兵は一切ろ過せずに相手にぶつけた。

艦娘が失われるのならともかく、指揮官の立場に居る特務提督ならどうだ。失えば鎮守府や泊地一つが丸ごと機能停止する。

嘘は吐いていない。憲兵は事実だけを述べた。

彼が今危険な状況にいるのは確かだ。さぁどう出る。
499 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:21:42.08 ID:x4LQrqlJ0
「それでも動くな。君は彼には何もせずに帰ればいい」

「それと君が考えているであろう最悪の場合だが」


「その特務提督の死体の処理は君がやれ」


「あの鎮守府はあのままでいい。あのまま維持するのが一番なんだ。何の騒ぎも起こす事無く、資源を供給している現状が一番なんだ」

「彼には何もするな。死体の処理は君がやれ」

「これは命令だ。以上」

通信端末からの声はそう言い残し、切れた。
500 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:24:47.72 ID:x4LQrqlJ0
☆続きます☆
501 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 20:35:15.08 ID:kHsRUOb+0
・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・
502 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 21:03:16.10 ID:kHsRUOb+0
-同時刻 パラオ泊地-

阿賀野「矢矧!?矢矧!?そっちに提督さん行ってない!?」

阿賀野「いないぃ!?そ、それじゃあ友提督さんとか何か知ってない!?」

阿賀野「提督さんがいないのよ!!いなくなっちゃったのよ!!」

龍田「ほんとにどこ行っちゃったのかしらね」

龍田「提督ー?出てこないと後でひどいわよー」

那珂「ほんとにそれで出てきたらいいんだけどねー!」


大淀「青葉、提督は何かおっしゃられてましたか!?」

青葉「いえ、その…いきなり薬をかがされて」

大淀「クロロホルムって誰よこんなの持ち込んだの!?」

明石「あー…うん。それ私だ。そういうプレイしたいのかなーって思って仕入れちゃった」

大淀「何やってるのよこの淫乱ピンク!!」

阿賀野「納豆ヘアー!!」

龍田「ドスケベスカート」ボソッ

明石「ちょ酷くない!?というかあんた達に言われたくないんだけど!?」
503 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 21:14:05.37 ID:kHsRUOb+0
明石「盗聴器の類は?ワレアオバで使ってる奴」

青葉「取られてるみたいで…!あ、いや、ちょっと待って!!」

阿賀野「もしかしてあるの?」

青葉「ちゃんと数えてなかったけどもしかしたら取られてない奴があるかも!」

青葉「1、2、3…やっぱり。司令官一個だけ付けたままだ」

青葉「よぉしそこの盗聴器から音声を取れば場所がわかるかも!!」カタカタカタカタ

大淀「どれ!?」

青葉「わかんない!しらみつぶし!!」

那珂「ですよねー!!」
504 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 21:24:19.40 ID:kHsRUOb+0
青葉「1個ずつ調べるから何か音立てたり声出したりしてみて!」


大淀「あーあー!」

青葉「違う!」


那珂「You listen to my voice Listen to my heart〜♪」

青葉「違う!」


龍田「」ガリガリガリガリガリガリガリガリ

青葉「違う!」


阿賀野「あ、あ、あ、あっぷるぺんぺんぺん!!」

青葉「違ーう!」
505 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 21:35:38.93 ID:kHsRUOb+0
『…!…!』

青葉「あった!これかも!?」

大淀「音量上げて!」

青葉「わかってる!!」

『…ね!』

青葉「…」
506 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 21:45:46.33 ID:kHsRUOb+0
『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!裏切り者!』

『死ね!』

『この鎮守府から出て行け!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『なのDEATH!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『なのDEATH!』

『死ね!』

『死ね!』

『なのDEATH!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『なのDEATH!』

『死ね!』

『死ね!』

『なのDEATH!』

『死ね!』

『死ね!』
507 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 22:46:02.16 ID:kHsRUOb+0
☆続きます☆
508 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:01:22.90 ID:7pY4BLrl0
「がふ!ごっ!おぇえ!おごえぇえ!」

腹部にめり込む複数の足と拳が内臓を痛めつけていく。

消化が間に合わなかった内容物が逆流し、提督の口から吐き出された。

「うぅわ!汚ぇな!!」

最後の一撃を加えた天龍が床にぶちまけられたモノから逃げるように後ずさった。

痛みと止まらない吐き気で歪む提督の視界に吐瀉物が広がっていく。

おかしいな。そう感じた彼は今日の食事の記憶を辿る。

泊地を抜け出す前にこっそり作って食べた握り飯、今日彼が食べたものはそれだけだ。

白い米に白い塩。海苔すら巻かない、人によっては料理とも呼ばないであろうそのあまりにもシンプルなその料理を彼は好んでいた。

自分で作る握り飯。ただ真っ白で、塩の辛さと米の甘さが口の中で溶け合う握り飯。

自分で作るからこそ美味しいと感じる。自分で作ったからこそ価値がわかる料理。


なのに、目の前で吐き出された握り飯の成れの果ては何故こんなにも赤いのか。

喉を焼く苦味と一緒に来るこの鉄のような味は何だ。
509 : ◆ZFgfLAc.nk [sage]:2018/02/08(木) 19:07:11.84 ID:7pY4BLrl0
「何だ、血はまだ赤いのか?てっきり青い血でも出すかと思ったんだけどなぁ裏切り者ォ!!」

声が裏返ったブラック提督の声が頭上から聞こえる。声の大きさからしてすぐ近くにいるのが提督には感じ取れた。

その言葉の間違いは、どうしても訂正しなければならない。

「あの時の疑いは晴らしただろ!?俺はあ号艦隊決戦作戦を成功させた…それで全部終わりだったろ!」

「そんな事で俺が納得するかァ!!!」

痛む箇所に響くか、という程の叫び声が食い気味に返ってくる。

「お前は深海棲艦に資源と情報を流した!どれだけごまかそうが俺にはわかる。お前は裏切り者だ!!」

「お前は俺達に嫉妬していたんだ。成績最下位で何をやっても駄目駄目の無能提督!!」

「お前は自分が認められないこの世界を恨んだ!そして俺達と世界を滅茶苦茶にしてやろうと企んだ!!」

「お前はガキだからな!!だから裏切った!!深海棲艦に世界を売り渡したんだお前は!!」

「俺にはわかる!!お前みたいな馬鹿の考えなんて俺にはお見通しなんだよぉお!!!!」

アドレナリンを大量に湧き立たせている脳の与える命令に従い、ブラック提督は目の前のゴミを力一杯蹴り上げた。
510 : ◆ZFgfLAc.nk [sage]:2018/02/08(木) 19:09:55.54 ID:7pY4BLrl0
ブラック提督「あぁーもういいや。こいつの処理はお前達に任せる。飽きるまで使ってやれ」

電「殺してもいいのです?」

ブラック提督「[ピーーー]と面倒が増えるんだけど、まぁいいんじゃね」

ブラック提督「こんな奴死んだって問題ないだろ?」

電「なのですなのです♪」

天龍「だとよ。とうとうお前も終わりだな。フフッ怖いか?」

提督「…クソだよ。お前ら全員」

天龍「あ?」

提督「そうやって潜水艦娘や如月達を殺して何になるかわかってんのか?」

提督「死人が増えれば深海棲艦が増える。それがわかってやってんのか!?」

提督「お前らが遊びでやってる人殺しはただ深海棲艦を増やすだけの利敵行為だ!!」

提督「何が裏切り者だよ。お前らのほうがよっぽど裏切り者じゃねぇか!!」
511 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:12:08.59 ID:7pY4BLrl0
雷「それの何が悪いの?この雷様をあなた達と一緒にしないで貰えるかしら」

提督「…は?」

雷「わたしは何やっても許されるのよ。何やったって生きていけるのよ」


雷「だってわたしは愛されているから!」


雷「あんなゴミクズとは違う!わたしは愛されている!あいつは愛されていなかった!」

雷「愛されなかったら、死よ!当然じゃない!!」

雷「でもわたしはああならない!だってわたしは愛されているから!!」

雷「だからわたしは死なない!あいつとは違う!わたしは特別!特別なの!!」

雷「だから何でも手に入る!どこにいっても誰にも愛される!!」

雷「あいつは愛されなかった!どこにいったって愛されない!!」

雷「だからテレビでも轟沈したんでしょ!?だから殺した!!いいじゃない!誰にも愛されないゴミを殺して何が悪いの!?」

雷「むしろ感謝して欲しいくらいだわ!『雷様のかませ犬にしてくださってありがとうございます』ってね!!」
512 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:16:32.81 ID:7pY4BLrl0
「あぁそうかよ。いつかてめぇらみてぇなのが出てくると思ってた所だ」

耳を疑いたくなるような暴言を提督はあっさりと受け入れた。彼は本当にいつか彼女のような存在が出てくるであろうと予想していた。

何故なら彼女達は艦娘であり、艦娘のベースは人間であるからだ。

暁型、一部朝潮型は多くの鎮守府に配属されている駆逐艦娘の中でもメジャーな存在だ。

その理由は彼女達の見た目と性格、それが小児性愛の性癖がある特務提督達にうけたからだ。

後進の特務提督は先進に倣い、戦略的価値の薄い理由で決められたメジャーな彼女達を選択する。

特務提督とその鎮守府泊地の人事事情の歴史は殆どがその繰り返しだ。

そしてそれを繰り返していく事でとある深刻な問題が彼らの預かり知らぬところで現れてくる。


それは艦娘間の格差だ。
472.52 KB Speed:0.2   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)