【艦これ】伊58「黒く塗り潰せ」

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1 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 19:26:20.60 ID:Zy0z2Oka0




・艦隊これくしょんのssです


☆内容に関する重要なこと☆

・この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事等とは一切関係ありません

・独自設定あり

・ノムリッシュ要素あり(途中注釈を入れます)

・全方面に喧嘩を売る

・胸糞表現あり

・だいたいみんなひどい目に遭います

☆内容に関する重要なこと終わり☆


・伏字での規制あり

・意訳調の英語訳あり

・地の文、誤字脱字、駄文、妙なところで改行あり

・荒らしやコメ上の喧嘩は避けて頂くようお願い致します





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1488709580
2 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 19:28:15.29 ID:Zy0z2Oka0


水を裂く空気の音。

海が動く流れの音。

僅かな光が前を照らす。

彼女はその見慣れた光景を突き進んでいく。

3 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 19:32:36.66 ID:Zy0z2Oka0


こめかみまで響く血液の流れ。

脊椎と食道に蠢く恐怖の感情。

彼女はただひたすら突き進んでいく。

逃げ延びる為に。

命を長引かせる為に。


『奴ら』の手は海の底まで届かない。

しかし、『奴ら』は確実に自分を殺す。

『奴ら』は自分達を絶対に許さない。


たった一つの頼みの綱も、あっけなく無くなった。

『奴ら』は自分達を絶対に許さない。

だから次に殺されるのは自分だと、身体が脳に警告を出した。

4 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 19:35:23.30 ID:Zy0z2Oka0


だから彼女は逃げ出した。

そうしなければ、今度は何をされるかわからない。

だが最後にどうなるかだけは確信していた。

今度こそ、殺される。


だから彼女は逃げ出した。

罵倒され

否定され

搾取され

追い詰められ

それでも尚捨てられなかった生への執着が彼女を暴走させた。



先の事など今は何も考えられない。

ただ、その場を離れる事のみを考えて彼女は突き進んだ。


5 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 19:36:19.50 ID:Zy0z2Oka0



だが


6 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 19:47:19.67 ID:Zy0z2Oka0


彼女の頭のすぐ左隣から、海水に圧縮された爆音が襲い掛かる。

冷たい海の中で、彼女の身体が熱を帯びていく。

そして同時に感じる激痛。


続いて右隣。

激痛が彼女の感覚を奪っていく。

激痛が彼女の力を奪っていく。


右下。

彼女の身体は爆発に吹き飛ばされ左右に揺れている。

彼女は既に前に進む事ができなくなっていた。


左下。

四度目の爆風と水の圧力に彼女の身体が押し流される。


そして、彼女の動きが完全に止まった。

力が入らない。

否、力が入れられないのだ。


常人ならば意識が飛んでいる程の激痛

痛みと、それまでの逃亡によって乱れた呼吸

そして何よりも




彼女が己の力を入れるべき、その両手両足は



今、彼女の目の前に浮かんでいるのだから。



7 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 19:55:15.00 ID:Zy0z2Oka0


前に進む事も戻る事もできなくなった彼女は

何故か訪れた静寂の中で、自分の死期を悟った。




どうしてこんな事になったのだろう。


本当はあの時逃げていなければこんな事にはならなかったのだろうか。


この合間は一体何なのだろう。


こんな事になるのなら、お父さんとお母さんの言う事を聞いていればよかった。


艦娘になんて、ならない方がよかった。


死にたくない。


助けてお父さん。


助けてお母さん。


死ぬのは怖い。


死にたくない。


死にたくない。




疑問、後悔、恐怖、怒り。

黒い感情がこみ上げて、彼女の目から流れた涙は

一瞬で周囲の海水に飲み込まれ、溶かされ、消えてなくなった。

8 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 19:55:54.91 ID:Zy0z2Oka0



そして最後の爆発が起こった。


9 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 20:00:10.81 ID:Zy0z2Oka0


重さ、という概念が彼女の脳から消え失せる。


こめかみを叩く鼓動が一瞬にして消え失せる。


頭を締め付ける水圧だけが、自分がどんどん沈んでいる事を知らせている。




沈み行く彼女が最期に見たものは


遠くなっていく太陽の光と


逆光で黒く染まった




自分の



胴体



10 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 20:05:13.63 ID:Zy0z2Oka0


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11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/05(日) 20:13:10.33 ID:LMMI/kBX0
タイトルでローリングストーンズを思い出した私はおっさん
12 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 20:22:54.28 ID:Zy0z2Oka0


「二千十六年六月二十六日」

「潜水艦娘U-511、フィリーネ・シュナイダー」

「定時報告を行います」


椅子と机と白い壁、壁沿いに置かれた機材。

その部屋に彼女は一人立っていた。

彼女の目の前にはビデオカメラが置かれ、彼女はカメラのレンズを見つめながら言葉を続ける。

13 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 20:28:07.80 ID:Zy0z2Oka0


『…お父さん、お母さん、元気ですか?』

『パラオに着任して四ヶ月目になったよ』


緊張感が抜け、声色が変わる。

年相応で、少し甘えた声。

この光景を見た人間は、その言葉を受け取る人物と彼女がとても親しい間柄である事を察するまで数分もかからないだろう。


だが彼女が何を伝えようとしているか、その言葉の意味を全て理解できる人間は、この泊地には五人もいない。

彼女は、ドイツ語で語りかけているからだ。

14 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 20:35:57.55 ID:Zy0z2Oka0


『戦うのは怖いけど、提督さんは相変わらずとてもいい人で』

『危なくなったらすぐに帰してくれるの』


深海棲艦との戦争が長引き、新たな艦娘の艤装の開発が日々続いている。

妖精と呼ばれる存在の力を借りて開発される艦娘の艤装。

歴史を辿り、資料を元に作り出されていく数々の艤装。

その開発経路は日本の域を飛び出し、ついに海外にまで達していた。


『怪我もしてないよ。本国から貰ったスーツだってぜんぜん破けてないよ』


第二次世界大戦当時、日本と同盟を結んでいたドイツ。

そのドイツに属する軍艦。

その魂を持って生まれる新たな艦娘。

彼女達の一部はドイツに残って国土の防衛にあたり、

彼女達の多数は、今や対深海棲艦防衛本部となった日本に渡り最前線の戦いに赴く。

今ここに立っているU-511もその一人だ。


だがしかしドイツ艦娘達は、ある大きな問題を抱えていた。

彼女達が第二次世界大戦当時の軍艦の魂を受け継いだばかりに抱えてしまった大きな問題が。

15 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 20:44:47.95 ID:Zy0z2Oka0


『というか、私達はあまり戦う事はなくて』

『授業も終わって暇になったら、提督さんのお仕事のお手伝いをする事もあるの』

『…もしかしたら戦ってるよりお仕事してる時間の方が長いかも』


『最近ね、お仕事しながら提督さんとお喋りするのが楽しいの』

『日本語はまだよくわからないけど、提督さんはちゃんと聞いてくれるの』

『お喋りしすぎて、大淀さんに怒られちゃったりもするけど』


アドルフ・ヒトラー。絶対的権力を行使した、当時のドイツの指導者。

ナチス・ドイツ。彼が支配していた当時のドイツ国に対する呼称。

アーリア人至上主義を掲げ、迫害・虐殺に手を染めたとされる彼らは、第二次世界大戦の闇として世界の歴史に刻み込まれた。

そして、ドイツの歴史にも彼らの存在は深く刻み込まれている。



だからこそ

その当時の軍艦の魂を持つ彼女達の存在を否定する者、警戒する者は少なくない。


また、あのような惨劇を繰り広げるのではないか。

また、ドイツの名誉に泥を塗るような真似をしでかすのではないか。

深海棲艦などそっちのけで、世界を余計に混乱させるつもりなのではないか。


やるかもしれない。

何故なら彼女達はナチス・ドイツの魂を持った存在なのだから。

彼女達を否定し警戒する誰もが、そう感じていた。



だがその反面で

人類共通の敵である深海棲艦への対抗手段である艦娘を失う事のリスクを理解している者も少なくなかった。

深海棲艦によって行われた、五発もの核相応の爆撃は、それほどまでに世界中を震撼させたのだ。

16 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 20:52:12.45 ID:Zy0z2Oka0


『そういえばね』

『こないだ提督さんのお友達のはっちゃんがシュトーレンを作ってくれて、みんなで食べたの』


そこで考えられたのが、この定時報告だった。

日本海軍所属の艦娘は、人としての本名を封印し、軍艦の名前で呼ばれる制度ができている。

ドイツ海軍所属の艦娘は、人としての本名を封印せず、定時報告を義務付けている。

その報告はドイツに対して、そして親しい者に対して行われる。


『でも食べてたら、お父さんとお母さんの所に帰りたいなーってちょっと思っちゃった』

『はっちゃんの作ったシュトーレンはおいしかったけど、お母さんのシュトーレンには勝てないもん』


現在進行形でビデオカメラに記録されていく彼女の姿は、大本営を通じてドイツにいる彼女の両親に届けられる。


U-511ではなく、海外に赴いた一人の少女として、自分は今ここにいる。

自分はナチス・ドイツではない。

自分はただ、U-511の力を借りているフィリーネ・シュナイダーという一人の少女だ。

例え姿が変わって、軍艦の力を持とうとも、ナチス・ドイツそのものにはならない。

だからナチス・ドイツのような蛮行をするつもりはない。

これは、内外にそうアピールする為の苦肉の策だ。

17 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 20:53:54.73 ID:Zy0z2Oka0


『帰るのがいつになるかはわからないけど』

『また来月ビデオレター送るから、待っててね』



笑顔で手を振った後、U-511はビデオカメラに近付き、録画を止めた。


18 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/05(日) 20:57:34.79 ID:Zy0z2Oka0

☆今回はここまでです☆
19 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 20:31:37.39 ID:ttribPHx0
>>1です。
イベントはなんとか完走できました。
今から投下を始めさせて頂きます。
20 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 20:32:30.34 ID:ttribPHx0


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21 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 20:37:37.32 ID:ttribPHx0


「………OK?」

「OK」

執務室に備えられたテレビを見て、二人の黒髪の少女が呟いた。

軽巡洋艦娘大淀、提督の秘書艦の一人として彼を支える傍ら、大本営との連絡係という大任も背負っている。

駆逐艦娘暁。駆逐二班の班長。普段は遠征や演習に出ることの多い彼女だが、今は執務室で大淀とテレビを見ている。


「よし、これで大丈夫ですね」

大淀は息を吐き、肩の力を抜く。その隣で暁が、あぁあ、と声を上げながらソファの背もたれに体重を預けた。

「お疲れー」

暁の気の抜けた声を聞いた提督が、紙に走らせていたペンを止めて二人に労いの言葉をかける。

大淀と暁は執務室で娯楽作品を楽しんでいたのではない。先ほどのビデオの検閲を行っていたのだ。

と言っても、基本的には報告者の自由。規則があるとするならば、軍事機密は喋らないという一点のみだが。

だがそれでも、艦娘を指揮する方からすれば、軍機が漏れる事は死活問題だ。

深海棲艦にこちらの暗号が解読されるという事例も過去にはある。

にもかかわらず不用意な情報漏洩を見逃すなど愚の骨頂。

だからこそ、検閲を行う必要がある。例えそれがドイツ語で語られるものだとしても、検閲の義務がある。


「りんごジュースでいいかな?」

常備された冷蔵庫から飲み物を取り出し、コップに注いだジュースを二人に差し出す。

「ありがとうございます、提督」

「そりゃーこっちの台詞だ。俺はドイツ語わからねぇし、やってくれて本当に助かってる」

22 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 20:45:10.61 ID:ttribPHx0


「それにしても、ユー(U-511)も毎回大変だな。こんなのを送らなきゃいけないなんて」

テレビの画面を見ながら提督がぼやいた。U-511は彼にとって初めてのドイツ艦娘だった。

定時報告の事も、U-511が着任してから初めて知った。

ドイツ語がわからないのにドイツ語の内容を検閲しなければいけない。

危機感を感じて泊地中の艦娘に声をかけた結果、ドイツ語がわかる艦娘を二人見つけられた。

それが大淀と暁だった。意外としか言い様が無かった。


いや、大淀はまだいい。暁が意外だった。

彼女の見た目は小学生程度。普段から一緒に遊んだりしているが、その時から考え方や感情の表し方も見た目相応だと感じていた。

その彼女がドイツ語堪能というギャップに彼は最初、白目を剥きそうになった。

だがそれだけではなかった。聞いた話だと彼女は日本語・ドイツ語を始め6ヶ国語に精通しているらしい。

この話を聞いた時、提督は完全に白目を剥いた。そして暁に正面から突っ込みを入れられた。

「暁はレディだから」と彼女は言うが、そんな当然のように言われても、という感想しか抱かなかった。



それはともかく、彼女達二人の活躍により今回の定時報告の検閲も無事終了したのだ。


23 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 20:51:37.30 ID:ttribPHx0


提督「じゃあ………あ」

暁「どうしたの?」

提督「いや…もうすぐ昼飯だったかって思って」

提督「りんごジュースはまずかったかな?ご飯入らなくならないかな?」

大淀「一杯くらいなら大丈夫ですよ…」

提督「そっかな…」

提督「まぁ、それじゃあ、行ってらっしゃい」ヒラヒラ

暁「え、司令官はご飯食べないの?」


提督「もうすぐ遠征隊が帰って来るからそいつら待ってる」

提督「俺が席外すわけにもいかんでしょ?」

暁「別にちょっとくらいいいと思うけど」

提督「そうっちゃそうかもだけど、何だ…待たせるのは悪い気がするんだ」

提督「新人もいるし、ちょっと話がしたいしな」

提督「そんなわけだから先に行ってていいよ。早くしないと伊良子ちゃんの『めっちゃうまいご飯』が『うまいご飯』にランクダウンしちゃうぞ」


大淀「いえ…私は、待ってます」

提督「えー…いいの?」

大淀「遠征隊の皆と、提督と私で一緒にご飯を食べましょう?」

提督「じゃあ暁は」

大淀「我慢できなかったら先に行っててもいいですよ」

暁「あ、暁は!待ってるし!!我慢できるし!!!」

提督「そっか。じゃあ一緒に待ってるか。悪いね」

提督「二人には色々手伝ってもらったのもあるし、ここでのんびりしててもいいよ」

大淀「ありがとうございます、提督」


提督「俺は〜♪書類の続きでも〜やりましょか〜♪」

暁「………」

提督「お菓子食うなよーご飯食べられなくなるぞー」

暁「わ、わ、わかってるし!!!」ピピピピピ

暁「え」

24 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 20:57:45.78 ID:ttribPHx0


提督「………通信?」ガチャ

提督「はいこちら提督」



「提督!!お願い!!そっちから迎え出して!!」



提督「え、蒼龍!?わかった!ちょっと待ってくれ!!」

大淀「提督!?」

提督「大淀!!軽巡二班(※)を遠征隊の迎えに出してくれ!!」

(※)川内・神通・那珂の三人の事

大淀「え!?」

提督「何かトラブったみたいだ。襲撃を喰らってるかもしれない。とりあえず早く出撃の準備を頼む」

提督「南西から戻ってくる遠征隊の迎えだ。他にも用意するもんがあるから後の指揮は頼む」

大淀「わ、わかりました!!」ダッ


提督「…で、蒼龍!聞こえるか?」

提督「迎えの指示は出した!一体何があった!?」


「囮機動部隊支援作戦が終わって帰ってる途中なんだけど…」

「雪風ちゃんが、その途中で負傷した子を見つけて…助けるって先行して…!!」


提督「…まだ練度も無いのに一人突出するのは危ないな。それでか」

提督「それで雪風が見つけたっていうのは、艦娘か?」

「そう、だけど…!!」

提督「だけど?」

「だけど…!!」

提督「はっきり言ってほしい。状況がよくわからない」

「その子…もう………」

25 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 20:58:11.28 ID:ttribPHx0


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26 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:00:04.81 ID:ttribPHx0


ようやく見慣れてきた建物が視界の奥に映り始め、雪風は少し安堵する。


「頑張ってください…!あとちょっと、あとちょっとですから!!」

胸の中で抱え込んだ少女に激励を飛ばす。

海水と溶けた血液が衣服に滲み、肌を滑り、下着の中にまで入り込む不快感に耐えながら、最大戦速で突き進む。

意識を胸の中の少女と足に集中し、目の前の泊地に向かって突き進む。


雪風はつい2ヶ月前に泊地に着任したばかりの新人だ。

彼女と共に遠征に出向いていた蒼龍や飛龍達とは練度が文字通り桁が違う。



だからこそ、彼女は自分の行動が悪手であると気付けなかった。


27 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:01:04.89 ID:ttribPHx0


近くに潜んでいた偵察艦が放った魚雷が、彼女の進行ルートに直撃する形で向かっていた。

意識を別の所に向けていた雪風はそれに気付かなかった。

ふと嫌な予感と気配を感じて雪風がそちらを見た時には既に遅く、完全に捉えられていた。


状況を理解した瞬間、緊張で高鳴っていた雪風の心臓に鉄の棒が突き刺さったような痛みが走る。



一秒が長く感じる。ゆっくりと魚雷が自分に向かって突き進んでいく。


身体は動けない。このまま直撃する。


後悔、恐怖、怒りの感情が理性を叩き潰していく。


魚雷が自分に向かってゆっくりと突き進んでいく。


28 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:03:26.79 ID:ttribPHx0




だが



不意に、不自然に雷跡が曲がった。

まるで雪風を避けるかのように、魚雷は進むべき道を逸らして彼女の斜め後ろへと進んでいった。



29 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:06:37.12 ID:ttribPHx0


そして次の瞬間、雪風から少し離れた場所で爆音と怪物の呻き声が轟いた。

魚雷を放ったイ級が川内の砲撃を喰らって撃沈したのだ。


「雪風!!」

イ級の轟沈を確認した川内は、自分の艤装から発する硝煙の帯を引き千切るかのように腕を振り抜き、雪風の傍に奔り寄った。


雪風に声をかけようと、川内は彼女の方に視線を向ける。

だが、川内は声をかける事ができなかった。

視界に映った情報を頭で処理しきれず、ただ自分の口を手で押さえることしかできなかった。


雪風の白い制服は赤く染まっていた。

赤い液体で濡れた服が彼女の身体に張り付き、僅かに膨らんだ胸や、幼さが残る下腹部、大腿部を浮かび上がらせている。

そして、彼女が抱えているもの。

それを見た神通と那珂も、顔をしかめて黙り込むしかできなかった。

30 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:07:49.89 ID:ttribPHx0




「この人を」

「この人を助けてください!!」


雪風は、そう叫ぶ事しか思い付かなかった。



31 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:08:36.84 ID:ttribPHx0


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32 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:11:02.13 ID:ttribPHx0


「………ん」

「……………え?」


明石「………あ!!」

明石「よかった!目が覚めたんですね!!」




明石「伊58さん!!」



33 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:13:59.05 ID:ttribPHx0


伊58「ひっ………!!」

明石「あ…ごめんなさい」


伊58「こ、ここ、どこなんでちか…」

伊58「鎮守府…!?鎮守府に、こんな所、ゴッパ知らないでち…」

明石「ここは鎮守府じゃないですよ。パラオ泊地」

伊58「は、はくち…?」

伊58「鎮守府じゃなくて?」

明石「鎮守府って言うほど大きくないですしね」


伊58「じゃあ、ゴッパ…もう、大丈夫なのかな?」

明石「大丈夫…?えぇ、大丈夫、です、よ…その……」


伊58「………」


明石「………」


伊58「ゴッパ、逃げられたんだね…」

伊58「あれも、夢だったん、じゃ………」


伊58「………!!」


明石「………」

34 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:15:53.44 ID:ttribPHx0


伊58「あ…明石、さん…」

明石「………」



伊58「ゴッパの身体、何で動かないの…!?」


伊58「手もっ足もっ『無くなっちゃった』みたいに…!!」


伊58「何でっ」


伊58「何で!?」



伊58「 何 が 起 こ っ て る の ぉ ! ? 」



明石「ま、待って!!動かないで!!」

伊58「嫌ぁ!!来ないで!ネジはもう嫌ぁ!!!!」ガバッ


35 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:21:41.35 ID:ttribPHx0


伸ばされた明石の手から逃れるように伊58は背筋を使って身体を逸らす。

そのままの勢いでベッドから文字通り転がり落ちた。

それによってシーツに隠されていた伊58の身体が彼女の視界に映る。


包帯が巻かれた右の二の腕。

包帯が巻かれた左の二の腕。

包帯が巻かれた右の大腿部。

包帯が巻かれた左の大腿部。


その全てが


そこから先の部位が




無くなっていた。




指も

足も

手も

脛も

膝も

肘も


全て、視界から消えてなくなっていた。


痛み以外の感覚全てが消えてなくなっていた。


頭の中で何度も何度も動かそうとしても


目の前に存在しないそれらは一切動かず


現実を叩き込むように、ただただ痛みだけが襲い掛かってきた。

36 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:26:56.82 ID:ttribPHx0


伊58は悟った。

こぼれた涙と崩壊を始めた精神が視界を歪ませていく。

両腕両足に痛みが走る。

あれは

あの夢は

夢じゃなかった。



「あははは」

「あはははははっ」



笑うしかなかった。

無意識の内に泣きながら、笑うしかできなかった。



さっきまでの自分に。

今までの自分に。

「あははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」


何が助かっただ。

「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!」


何が自由だ。

「あーっはっはっはははははははははははははははははははは!!!!ぎゃはははははははははははははははははは!!!!!!!」


死にたくなかった。

自由になりたかった。

でも

そんなもの、ゴッパにあるわけないってわかっていた。

ゴッパにそんな権利があるわけないってわかっていた。

でも

死にたくなかった。

自由になりたかった。


でも


それももう叶わない。


これが現実。

37 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:28:04.90 ID:ttribPHx0



どうせ



どうせ



ゴッパなんて



所詮



こんな



もの


38 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/16(木) 21:50:24.04 ID:ttribPHx0

☆今回はここまでです☆

CSMブレイバックルCSMブレイラウザーCSMラウズアブソーバーCSMキングラウザーまーだ時間かかりそうですかねー
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/16(木) 21:59:24.31 ID:dukSCcXbo
おつー
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/20(月) 11:11:20.85 ID:TlLOFGM4O
なんでゴッパなのwwwwwwwwww

ゴーヤじゃないのwwwwwwwwww
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/22(水) 01:34:27.34 ID:Rz/4XY5dO
ゴッパに草
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/25(土) 22:45:45.30 ID:gnppPc0SO
北上のAAできたよー

_人人人人人人人人_
> 駆逐艦うざい! <
 ̄YYYYYYYY ̄
    __
   /  \
  /   ・|
  | ・ __ノ
 <>\ (三_
 <> /`ー-イ
 <> L__/
 廿 〉 ) Σ二に⊃
43 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 19:38:54.76 ID:LYixaHQ90
>>1です。
ニーアオートマタやってたら凄く遅くなりました。
今から投下を始めさせて頂きます。
44 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 19:39:47.97 ID:LYixaHQ90


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



45 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 19:48:35.26 ID:LYixaHQ90




「両腕両脚欠損」




「欠損箇所を中心に広がる重度の火傷」




「身体全体に無数の裂傷、傷口からの出血」




「内臓破裂」



46 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 19:56:48.14 ID:LYixaHQ90


明石「艦娘じゃなかったら………」

伊168「」ジッ

明石「………かなり、危なかったです」

明石「修復剤を大量投入して、何とか持たせた感じですかね…」

那珂(やっぱり修復剤使っても手足は戻らなかったんだ)

提督「今、あの子はどうしてるんだ?」

明石「一旦『眠らせ』ました」

提督「………そっか」


明石「ごめんね。同じ伊号の艦娘として会いたいとは思うけど」

伊401「ん、うん」

伊19「…正直、今の今でも何が起こってるのか全然わかんないのね」

伊19「伊58が運ばれてきたって聞いて、両手両足が無くなっててパニックになってるって聞いて」

提督「だろうな」



提督「だからこの場で一度現状確認をしようと思ってみんなを集めたんだ」



提督「この泊地の秘書艦」

提督「秘書艦補佐」

提督「潜水艦娘のみんなも…」

提督「多分、辛い話をすると思うけど知っておいてほしい」

47 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 20:00:26.86 ID:LYixaHQ90


伊168「…それって」

提督「大体の目星は付いているって事かな?」


提督「イムヤは、多分ある程度予想してるんじゃないか?」

提督「知ってるだろ?あれの事」


伊168「!!」

U-511「え?」

伊401「それって、どういう事?」

伊168「………やっぱり、そうなの?」


U-511「Admiral、何か知ってるの?」

提督「本当の事は知らないよ」

提督「でも、『恐らくこうだろうな』ってのは考えてる」

U-511「………?」

提督「今からちゃんと教えるよ」

提督「怖い話をすると思うけど、しっかり聞いてほしい」

提督「あの子(伊58)にとって大切な話だから」

提督「…大丈夫かな?」

U-511「………うん」コクン

提督「ありがとう」

48 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 20:08:51.78 ID:LYixaHQ90


提督「それじゃあ蒼龍、飛龍。何があったか詳しい話を教えてくれないか」

提督「俺はお前達に囮機動部隊支援作戦に参加してもらった」

提督「それで、その帰り道で伊58を発見し保護した」

提督「大まかな話はそれでいいんだよね?」

飛龍「うん」

提督「…じゃあ、どこで見つけたとか、周囲に何があったかとかは覚えている?」

蒼龍「索敵しながら進んでいましたけど、周囲に敵はいませんでした」

蒼龍「でも雪風ちゃんが、急に動き出して、見つけたのがあの子です」

蒼龍「その時には、もう………」


伊401「周囲に敵がいなかったって、深海棲艦にやられちゃったわけじゃないんですか?」

飛龍「多分ね」

霧島「あの辺りは戦艦や空母がメインで、対潜が得意な深海棲艦はあまりいない」

霧島「だから深海棲艦にやられてああなったっていう確率は低いんじゃないかしら」

U-511「あのあたり…」


提督「飛龍、伊58を見つけたのがどの辺か、もう一度教えてくれないか?」バサッ

飛龍「………」

飛龍「ここ」トン



飛龍「東部オリョール海」


49 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 20:21:35.13 ID:LYixaHQ90


提督「……………」

伊168「やっぱりオリョール海か…」

U-511「やっぱり、って」


「…提督さん」ガチャ

提督「!!」

もう一人の明石「伊58ちゃんに付いていたものの検査終わりました」

明石「………」

提督「あぁ、明石さん。ありがとうございます」


U-511「えっ…あっ…明石さん…?」

如月「大丈夫よ。あの人はパラオ特別鎮守府の明石さん」

U-511「あっ…Admiralのお友達の…」

如月「そう。『パラオの英雄』さんの所の明石さん」

飛龍「いきなりだとちょっとびっくりするよね。私もちょっとびっくりしちゃった」


赤城「伊58さんに『付いていたもの』というのは?」

提督「あの子の首に何か巻き付いていたのが気になってね」

提督「艤装でもない、明らかに大本営の認可が下りている装備でもない」

提督「チョーカー…というか」



提督「首輪、みたいなものが」



伊168「首輪………」

提督「…で、どうでした?」



もう一人の明石(以下明石弐)「………あれ」

明石弐「爆弾です」


50 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 20:27:00.82 ID:LYixaHQ90


飛龍「…え?」

明石弐「伊58ちゃんの首に付けられていた首輪から起爆装置と火薬が見つかりました」

明石弐「あと、恐らく遠隔操作の媒体になるであろう機械も」


提督「………艤装の方は」

明石弐「…あまり驚かないんですね」

提督「そんな事だろうと思ってましたから」


明石弐「………」

明石弐「艤装の方は、特に異常も無い普通の艤装です」

蒼龍(艤装が発生させる結界によって、私達艦娘は敵からの攻撃のダメージを軽減している)

蒼龍(でも今回みたいに結界の内側、超至近距離から何かあった時は………)

蒼龍「………」


提督「そうですか」

提督「…ちょっと聞きにくい事ですが、爆弾の取り外しは可能ですか?」

明石弐「できます」

51 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 20:33:49.62 ID:LYixaHQ90


提督「!!」

明石弐「伊58ちゃんの首輪の爆弾、壊れているみたいです」

提督「え、壊れてる?」

羽黒「えっと…それってつまり?」

明石弐「起爆装置も爆弾も作動しないんです」

那珂「…どうやって試したのさ?」

明石弐「私が中開けた時には、もう丸焦げのボロボロでしたよ」

明石弐「だから爆発する事はありません」

明石弐「安全に、あの爆弾を伊58ちゃんから取り除く事ができます」


提督「壊れた?深海の水圧でも耐えられるであろう爆弾が壊れた?」

提督「というか、そうじゃない」

提督「起動したけど、爆発が内部だけに留まって装置だけを破壊した?」

明石弐「かもしれないですね」

明石弐「機械に不具合が起こってほんの小規模な爆発…首輪の機械を壊す程度の爆発になったか」

明石弐「そうじゃなかったらやっぱり不具合で高温になって配線を焼き切っちゃったか」



提督(じゃあもし)


提督(本来の規模の爆発が起こってたとしたら…)


52 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 20:35:48.37 ID:LYixaHQ90






あの子の、首は




あの子の両腕や両脚のように




吹き飛んでいた





53 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 20:38:42.68 ID:LYixaHQ90


提督「………」

提督(だとするなら、爆破のタイミングと意図は)

提督(それに、青葉から貰った音声ファイル)

提督(『健全な鎮守府であるならばまず聞かないであろう言葉』が入っていた)

提督(そこから考えられるのは………)



提督「…やっぱり、あれか」ボソッ



羽黒「…司令官さん」

提督「ありがとうございます。明石さん」

明石弐「…何か、わかりましたか?」

提督「ほぼ大体。予想の範囲から出ないですけど」

提督「知らないより知っていたほうがずぅっとマシな話はしますよ」

明石弐「…そうですか」

提督「明石さんは、これからどうされますか?帰るなら送りの者を誰か付けますが」


明石弐「いえ、私は…」チラッ

明石「………」ジッ


明石弐「一緒に聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

提督「気分が悪くなる話ですよ」

明石弐「覚悟はしています」

提督「…わかりました」

54 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 20:41:54.16 ID:LYixaHQ90


提督「それじゃあ、始めるよ」

提督「まず最初にみんなに思い出してほしい事がある」

提督「『作戦海域内での資源回収の要項』」


提督「しおい、覚えているかな?」

伊401「あ…はい!」

提督「大まかでいいから、説明してくれ」

伊401「えーっと…」



伊401「作戦行動中に座礁、転覆した船、沈没して油が漏れている船等を見つけた場合」

伊401「人命救助を最優先に行う」



提督「うん。そうだね。それで?」



伊401「生存者の確認、安全確保、護送が完了した場合」

伊401「艦娘は船に積まれている物資や資材、海上に漏れ出した油等を回収して利用して良い」


55 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 20:53:37.63 ID:LYixaHQ90


提督「正解」

提督「よく覚えていたな。偉いぞしおい」ニコッ

伊401「えへへ…」


提督「作戦海域中で発見した物資は俺達が回収できる」

提督「それは海軍が決めたルールとして、正しい事だって保障されている」

提督「『そのまま深海棲艦に取られる位なら、人類側の誰でもいいから先に回収して使ってしまえ』って事だろうけど」

伊401「でも、それが今回と何の関係があるんですか?」


提督「東部オリョール海にはそういう船が沢山あるんだ」

提督「深海棲艦が出てきたばかりの頃に沈められた旅客船や、その後の輸送作戦で失敗して沈められた輸送船とかがな」

提督「深海棲艦の第一目標である日本本土とフィリピンの間に位置してるから、そういう船は沢山あるし」

提督「あいつらの上陸部隊はあの辺りで編成してるみたいだ。補給艦も多いしな」

提督「だから俺達にとっちゃ最高の資材回収源だ」




提督「だからこそ過剰に利用する奴がいる」



56 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 20:55:22.53 ID:LYixaHQ90






伊168「…『オリョールクルージング』」





57 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/03/31(金) 21:01:07.48 ID:LYixaHQ90

☆今回はここまでです☆

中途半端なんで、また近いうちに更新したいです。
それとオートマタ二週目イクゾー!!
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