俺ガイルSS 『思いのほか壁ドンは難しい』 その他 Part2

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928 :1 [sage]:2022/10/11(火) 23:02:14.24 ID:Djle0+rf0

陽乃「まぁ、それはそれとして」

その話はもう終わりとばかりにさっさと話題を切り替える。

陽乃「雪乃ちゃんから聞いてはいたけれど、キミって本当に最後には誰でも救ってしまうんだね」

八幡「そんな大それたことなんてしてやしませんよ」

他人を救うだなんて烏滸がましい。
今回の件だってそうだ。何だかんだ言いつつ、結局はまたいつものように、ある意味既存の枠組であった雪ノ下家と葉山家の婚姻関係をブチ壊してしまったというだけの話だ。
例えそれで誰かが救われたのだとしても、それはあくまで結果論に過ぎない。
いずれにせよ、救われた人間も、そうでない人間も、そのうちにまた収まるところに収まるのだろう。
だが、そこまでは俺の関知するところではない。アフターケアまでは奉仕部の活動の範疇にないのだから。

陽乃「でもハッタリとはいえ、うちのお母さんとあそこまで渡り合えるなんて大したものよ」

その声に珍しく掛け値なしの讃嘆が混じるのを聞いて、少しだけ面映ゆくなってしまう。

陽乃「私の高校時代にも比企谷くんみたいな子がいたら、きっともっと面白かったかも知れないわね」

八幡「いえ、既に十分過ぎるくらい我が世の春を謳歌してたって聞いてますけど?」

陽乃でなければ人でなしっていうくらい。いやむしろ陽乃さんだからこそ人でなしなのかも知れないが。

陽乃「ね、比企谷くんって案外、学校の先生なんかよりも政治家の方に向いているんじゃない?」

八幡「なんすかそれ」 

いきなりそんな風に言われ、思わず苦笑してしまう。そもそも端(はな)から学校の先生になるつもりすらない。

それにもし仮にこんなヤツが政治家に立候補しても多分誰も投票しない。俺だってしない。
なんなら立候補する前に全会一致で辞職勧告が可決されリコールが成立するまである。

陽乃「さすがに国会議員までとは言わないまでも、もしかしたら県議会議員くらいなら務まるかもしれないわよ?」

八幡「 ……… とりあえず貴女は今すぐプ〇ティ長嶋さんに謝ってください」

929 :1 [sage]:2022/10/11(火) 23:07:40.83 ID:Djle0+rf0

陽乃「実はね、うちのお父さん、次の選挙で国政に打って出るつもりでいるらしいの」

八幡「 ……… へぇ、そうなんですか。―――― って、え?」

話の流れなのだろうが、さりげなく口にされた話題にしては結構重い。知らず彼女の美しい横顔を二度見してしまう。

陽乃「それで今のお父さんの地盤はそのまま私が引き継ぐことになりそうなんだけど」

八幡「ってことは、もしかして大学卒業したら県議に立候補するつもりなんですか?」

陽乃「そ。とりあえず、それもいいかなって」

軽っ! え? そういうもんなの? 議員に立候補って、とりあえずとかそんなサラリーマンが居酒屋で最初に生ビール注文するみたいなノリでするものなの?

陽乃「 ……… で、ここから本題なんだけど」

思いがけず声の調子が真面目なものに変わったせいもあり、いけないとわかっていながらも、ついついその巧みな話術に惹きこまれてしまう。

陽乃「もしその気があるのなら、だけど、比企谷くん、将来のことを考えて今からうちで秘書みたいなことやってみない?」

八幡「秘書 …… ですか?」

陽乃「うん。最初は私のマネージャーっていうか、簡単な雑用係みたいなものなんだけど。比企谷くん、そういうの得意そうだし?」

八幡「 ……… ふぅ。いいですか? 雑草という名の植物が存在しないように、雑用という名の仕事も存在しないんですよ?」

昨年の文化祭の時も雪ノ下から記録雑務の雑務という名目で際限なく仕事を振られ続けた俺が言うのだから間違いない。

陽乃「もちろん、大学に通いながらでも全然構わないし、ちゃんとそれなりのお給料も支払うわよ?」

冗談めかしながら「どう?」とばかりに問うてくるその目が全く笑ってないのが逆にヤバい。

八幡「え、あ、や、その、そりゃ、もちろん ……… 」

陽乃「え? 本気?」

自分から誘っておきながら陽乃さんの方が驚いた顔をする。


八幡「 ……… お断りするに決まってるじゃないですか」

陽乃「 ……… だと思ったわ」


まるで最初から俺がそう答えるのを予期していたかのように、陽乃さんが小さく溜息交じりに呟いてみせる。そして、

930 :1 [sage]:2022/10/11(火) 23:09:23.91 ID:Djle0+rf0


「でもホントはそういう意味で誘ったんじゃないんだけどな」

小さく口を尖らせ、つまらなそうにぽしょりと口にするその声は、離陸する飛行機のエンジン音に掻き消されて俺の耳にまでは届いて来なかった。

931 :1 [sage]:2022/10/11(火) 23:19:28.90 ID:Djle0+rf0
陽乃「あ! あれ、雪乃ちゃんの乗った飛行機よ」

まるで何かを誤魔化すかのように、わざとらしくはしゃいで見せながら指さす方向に目を向けると、ちょうど飛行機が一機、滑走路から空に向けて飛び立つところだった。


八幡「 ……… "本物"ってあるんですかね」

ふと口を衝いて出たのは単なる独り言に過ぎなかったのだが、そんな俺の横顔を、なぜか陽乃さんは黙って凝っと見つめている。

しかしやがて、

陽乃「そうね。比企谷くんが本物だと信じているなら、それが本物なんじゃないかしら?」

あまりにも漠とした問いにふさわしい、答えともいえない答えはまるで哲学か禅問答のそれだ。

だが、確かにその通りなのかもしれない。

本当の本物。そんなあるかどうかもわからないものをずっと追い続けた俺は、ある意味、幸せの青い鳥を探して旅していた、あの兄妹のようなものだったのかも知れない。

苦労して追い求めていたはずのそれは、実は手を伸ばす勇気さえすればいつでも届くところにあったのだ。

手にした葡萄が甘いか酸っぱいかは些細な問題に過ぎない。

自分が心から欲し、希(こいねが)うものを自分自身の手で掴み取るために、気持ちを行動に移す事こそが大切なのだから。

そして、その過程で失敗することや間違いを犯すことも決して悪い事ではないのだろう。

なぜならば、数え切れないほどの失敗と、数えるのもイヤなるほどの挫折を積み重ね、黒歴史の上に更なる黒歴史を厚く塗り重ね、トライ・アンド・エラーどころかエラー・アンド・エラーを繰り返してきた俺だからこそ、今はこうして自分だけの“本物”を手にすることができたのだから。

甲高いエンジン音の尾を引きながら、機体は徐々に高度を上げて行き、何もない虚空の彼方へ吸い込まれるように消えて行く。

春に向けて日に日に長くなる太陽は既に傾きはじめ、気がつくと午後の斜陽があたりを黄金色に染め始める。

やがて太陽は水平線に姿を消し、明日の朝には再びその姿を現す。

泣こうが喚こうが常に地球は回り、人々は日々途切れることなく生活を営む。


そして、―――― これからも俺の青春ラブコメは間違い続ける。







                俺ガイルSS 『(やはり)俺(に)は友達がい(ら)ない』了


932 :1 [sage]:2022/10/11(火) 23:21:55.85 ID:Djle0+rf0


* * * * * * *

933 :1 [sage]:2022/10/11(火) 23:23:27.83 ID:Djle0+rf0

もしもし? お母さん? もう、探したわよ。今どこにいるの? え? 案内所? そこで何してるの?

面白いものを見つけた? ほっぺがもちもちで、お腹がぷにぷに? 

家に連れて帰りたい? ダメよ。うちでは飼えないって言ってあるでしょ。元あった場所に戻してきなさい!







……… ちまん? 八幡? 八幡? どこにおるのだ? …… 我を、我を助けるのだあああああああああああああああ!!

934 :1 [sage]:2022/10/11(火) 23:24:38.57 ID:Djle0+rf0

無事、完結しました。いずれどこかでまたお会いしましょう。ノシ゛
935 :1 :2022/10/12(水) 20:28:37.48 ID:dDR/aJIV0
最後だし、アゲときます
936 :1 [sage]:2022/10/16(日) 21:19:09.36 ID:WbZnScKj0

完結に5年も費やしてしまい、さすがにもう誰も見てないだろうと思ってたら、まとめサイトにアップされてちょっとびっくり。
しかも前・後編てww

ありがたや、ありがたや。

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