俺ガイルSS 『思いのほか壁ドンは難しい』 その他 Part2

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77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/27(月) 00:30:02.39 ID:qkIaKqvWo
乙です
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/27(月) 02:55:46.31 ID:lRvHAXGGo
おっつー
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/27(月) 12:38:50.32 ID:rC9PnO5OO
何かガハマの批判に過剰反応してる人がいるけど
ガハマを擁護して持ち上げるのって匿名掲示板のごく一部のみでむしろガハマに対して嫌悪感を抱く人間の方が多いんだよ

それだけがガハマが叩かれるSSが増加してる原因だとは思わないけど、ガハマが大多数から嫌われてる事そのものが一番の原因なのは間違ってもいないんじゃないかな?
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/27(月) 13:05:14.69 ID:wdoFKb4ho
そうだなお前が一番だわ
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/27(月) 22:16:35.94 ID:lWPy5xJU0
電池くんが言ってた共感って言葉にすごい違和感を覚える
どのキャラに共感してんの?
82 :1 [sage]:2017/02/28(火) 00:42:02.59 ID:yQveVbmA0

先を焦るとやっぱり更新が雑になりますね。
あまりにも多過ぎてスルーするつもりだったんですが、気になった場所だけ。

>>65 7行目 がせり上がってくるを感じとっていた。 → がせり上がってくるのを感じとっていた。

>>66 8行目 俺の危惧していた事が起きてしまったこと知る。→ 俺の危惧していた事が起きてしまったと知る。
83 :1 [sage]:2017/02/28(火) 00:42:38.63 ID:yQveVbmA0

ついでに思い付きでちょっとだけ更新。
84 :1 [sage]:2017/02/28(火) 00:48:25.57 ID:yQveVbmA0

放課後。

帰りがけに由比ヶ浜からは“今日は優美子たちのカラオケにつきあうから”と、部活を欠席する旨の報告を受けていた。

どうやら言い出しっぺは海老名さんらしい。

もしかしたら、やはり彼女は彼女なりに三浦の事を気遣ってのことなのかも知れない。

由比ヶ浜によると海老名さんの十八番はアニソンで、滅多歌わない代わりに一度歌い出すとなかなかマイクを手放さない、とも聞いている。

意外な一面である。

しかも、時々アニメの主題歌をBL風の替え歌で歌うらしいのだが、そちらの方は意外でもなんでもない。

85 :1 [sage]:2017/02/28(火) 00:51:01.57 ID:yQveVbmA0

意外と言えば今朝方、由比ヶ浜が素知らぬ顔で吐いた嘘にも少しばかり驚かされた。

もちろん、彼女が吐いたのは日常生活の上で誰もがごく普通にするような些細な噓に過ぎない。

とはいえ、それでも彼女も嘘を吐く、という、考えてみればごく当たり前の事に当惑する俺がいた。

案外、雪ノ下にしろ由比ヶ浜にしろ、知っているつもりでいて、実は俺の知らない面がまだまだたくさんあるのかも知れない。


86 :1 [sage]:2017/02/28(火) 01:01:21.73 ID:yQveVbmA0

そんな事をつらつらと考えている内にいつの間にか部室の前まで辿り着く。

由比ヶ浜はいないので、今日は当然、雪ノ下と俺のふたりだけ、という事になる。

どういう顔をして会えばいいのか、どんな話をしたらいいのか、ここ暫くふたりだけになることなど滅多になかっただけに対応に困ってしまう。

暫し迷った挙句、深呼吸をひとつ、ままよとばかりに覚悟を決めて扉に手をかける ――― と、


普段は開いているはずの部室の鍵が、今日に限ってはなぜか閉まったままだった。

と、いうことはつまり、雪ノ下はまだ部室に来ていない、ということになる。

今日の昼の出来事の件もある。何やら胸がざわつくのを感じながらも、そのまま暫く廊下で待っていたが、5分経っても10分経ってもやはり雪ノ下は姿を見せる気配がない。

由比ヶ浜は雪ノ下から暫く部活には出れないかも知れないと聞いている、とは言っていたが、まさかあの厳格な雪ノ下が無断欠席するようなことはあるまい。
遅れてくるからには何かしらの事情があるのだろう。

仕方なく俺は彼女の代わりに職員室まで部室の鍵を取りに戻ることにした。

87 :1 [sage]:2017/02/28(火) 01:07:50.48 ID:yQveVbmA0


八幡「 ――― 失礼します」


職員室の扉を潜った途端、急に身体が温かな空気に包まれたことで、外がかなり冷え込んでいたことに改めて気づかされる。

そのままふと室内を見回すと、平塚先生が自席に着いているのが見えた。

俺の声に気が付いた様子もなく、何やら難しい顔をして作業に没頭しているようだ。
素は美人だけに、真剣な顔をしている時はおいそれと声をかけるのも憚られる雰囲気がある。

今朝のこともあって少しばかり気後れするのを感じながらも、興味の惹かれた俺は、何をしているのかしらん?と邪魔にならないように背後からそっと覗き込んだ。

机の上には少年ジ○ンプやらチャ○ピオンやらと一緒に、ジン○ャーだの○ギーだのといったアラサー向けの女性誌うず高く積まれ、その表紙にはいずれも“婚活特集”の文字がデカデカと踊っている。


………… うん、とりあえず見なかったことにしよう。

88 :1 [sage]:2017/02/28(火) 01:09:55.86 ID:yQveVbmA0

俺は足音を忍ばせながらその場を離れると、少し離れた位置から改めて声をかける。


八幡「 ―――― 平塚先生?」

平塚「ひゃう!」///


慌ててそれまで開いていた雑誌を閉じて重ね、更にその上に書類を載せたかと思うと、上体をおっ被せるようにしてひた隠しに隠す。

その必死という言葉ではとても言い尽くせないような涙ぐましいまでの努力に、さすがの俺も同情を禁じ得ない。
思わず後ろからひしと抱きしめたくなるくらい切ない。


平塚「 ………… ひ、比企谷か? い、いつからいたのだね?」

八幡「 ………… 今、来たばかりです」 


いいんです。わかってますから、とばかりにうんうんと頷いて見せる。

89 :1 [sage]:2017/02/28(火) 01:11:46.12 ID:yQveVbmA0

平塚「み、見たのかね?」

八幡「いいえ、天地神明に誓って俺は何も見ていません」


神聖な宣誓でもするが如く、右手を胸の高さに上げて応える俺を半信半疑の目で見る平塚先生。


平塚「 ……… そ、そうか。な、なら、いいのだが」

それきり二人の間になぜか超気まずい沈黙が落ちる。



………… どうすんだよ、これ。

90 :1 [sage]:2017/02/28(火) 01:17:14.02 ID:yQveVbmA0

平塚「ち、丁度良かった、実はキミにちょっと話があってな。こ、ここは不味い。とりあえず場所を変えよう。コーヒーでもどうだ?」

八幡「 …… でも俺、これから部活なんで。雪ノ下の代わりに部室のカギを取りに来たところなんですけど?」

今朝の件もある。警戒心を顕わにする俺に対し、そこは心得たもので平塚先生が懐柔を図る。

平塚「少しくらいならいいだろう? 奢るぞ?」

八幡「奢りとあらば、地の果てまでもお供します」

もし一生養ってくれるんなら、人生のパートナーだって務めちゃいますよ?

91 :1 [sage]:2017/02/28(火) 01:18:22.04 ID:yQveVbmA0

ではでは。ノシ
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/28(火) 08:52:46.72 ID:Xp2gnqBco
乙です
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/28(火) 11:54:14.64 ID:eU4/ZbzQo
乙カレー
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/28(火) 17:07:00.86 ID:xmy+zLlKo
おつーな
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/28(火) 20:56:02.13 ID:W6RL9jlHO
おつん
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/01(水) 07:56:51.25 ID:Kv753tyX0
おつです.
97 :1 [sage]:2017/03/04(土) 01:19:25.03 ID:sjPlVRts0


八幡「 ――― 雪ノ下の留学申請が正式に受理された?」


校舎の外に設置された自販機コーナーでマッカンを啜りながら、今しがた言われたばかりの言葉をまるで間の抜けたオウムのように繰り返す。

ちなみにマッカンは平塚先生の奢りだ。ただでさえ美味いのに、加えて他人の奢りともなればその味はまた格別のはずである。

しかし、普段は心地よく感じるはずのその甘さも、今日に限ってはなぜか苦みばかりを口に残すのみだった。


平塚「うむ。それも、少しばかり時期が早まるらしい」

平塚先生は既に缶コーヒーを飲み終え、今はその空き缶を灰皿代わりに一服つけている。

……… だから学校は敷地内全面禁煙じゃありませんでしたっけ? まぁいいや。見つかっても怒られるのは俺じゃないし。


八幡「早まるって …… それ、いつ頃になりそうなんですか?」

平塚「なんやかやあって色々と前倒しになってな。早ければ来月の頭くらいか」

という事は、せいぜいあと2週間足らず。つまり、雪ノ下は終業式を待たずして海外に旅立つことになる。

98 :1 [sage]:2017/03/04(土) 01:21:53.91 ID:sjPlVRts0

八幡「 ……… 随分と急な話ですね」

平塚「今回の件は異例づくめでな。学校側も当初は難色を示していたのだが …… 」


八幡「 …… もしかして、今日、雪ノ下の母親が学校に来てたってのは、その件ですか?」

平塚「ほう、さすがに耳が早いな」

八幡「 ……… ええ、まぁ」

自慢ではないが、こう見えて早いのは耳だけではない。逃げ足だって速いし、仕事を投げ出したり諦めたりするのはもっと早い。


平塚「彼女の母親がわざわざ学校まで足を運んで、校長らと直談判に及んだ、というわけだ」

何分、相手が相手だ。校長の方でもさぞかし慌てた事だろう。

99 :1 [sage]:2017/03/04(土) 01:23:34.59 ID:sjPlVRts0

平塚「ま、結果から言えば、いわゆるツルの一声、というヤツだな」

そう言って皮肉な笑みを浮かべる。校長はハゲているので、もしかしてツルとハゲを掛けているのかも知れない。


平塚「こうなることは、ある程度予想してはいたのだが ……… 」

チラリと俺に目をくれ、そこで一端言葉を切る。

そして、ポケットから二本目のタバコを取り出すと、手で風除けを作りながら、どこぞの飲み屋の名前の入ったライターで火を点けた。

どうでもいいけど、パリっとした美人のくせに要所要所でおっさん臭いのな、このひと。

100 :1 [sage]:2017/03/04(土) 01:26:21.63 ID:sjPlVRts0

平塚「 ……… 色々と複雑なのだよ、彼女も、彼女達の家庭も、な」

言外に何かを含ませつつ、先程言いかけた言葉の先を濁す。敢えて用いた“彼女達”というフレーズに、何かしら引っかかるものを覚えた。


八幡「その雪ノ下の母親のことなんですけど …… 」

平塚「うん?」

八幡「俺らの担任とも、随分親しげだったって話を聞いたんですが?」

平塚「ん、ああ、その事かね。確かにキミたちの担任は、以前、陽乃のクラスを担当していたことがあるからな」

ああ、なるほど。そういうわけ、ね。

101 :1 [sage]:2017/03/04(土) 01:29:06.45 ID:sjPlVRts0

八幡「 …… 雪ノ下さん、いえ、陽乃さんは、在学中はどんな生徒だったんですか?」

平塚「前にも話しただろう。優等生ではあったが良い生徒ではなかった、と」

答えと共に空に向かって白い煙をふぅと吐き出す。

なんとなくだが想像はつく。あれだけ自由奔放で、かつ、バイタリティのある人だ。しかも県議の娘ともなれば先生方も相当手を焼いたことだろう。

平塚「誰とでも分け隔てなく接し、しかし実のところ誰に対しても本当の意味では心を開かない。一見してサバサバと砕けているようでいて、他人との間に頑なまでに一線を引いているところがあったな」

そんなところは葉山に似ているのかもしれない。いや、この場合、葉山の方が陽乃さんに似ている、というべきか。

102 :1 [sage]:2017/03/04(土) 01:37:21.41 ID:sjPlVRts0

八幡「特別仲のいい友達とかはいなかったんですか?」

平塚「もしもそれが、“男はいたのか”、と言う意味で訊いているのだとしたら、その通りだな」

え? なにそのイヤそうな顔。別に先生の話じゃありませんから。

平塚「やはりそれなりにチヤホヤされてはいたようだが、不思議と卒業するまで浮いた話はひとつも出なかった」

八幡「まぁ確かに意外といえば意外ですけど、あの通り超のつく美人ですからね。男の方でもおいそれと近寄りがたかったのかも知れませんよ?」

平塚「そうか、比企谷もそう思うか。うむ、そうだろう、そうだろう。ならば例え高校三年間で彼氏のひとりもできなかったとしても、それはそれで仕方あるまい。なんせ美人だからな。ガハハハハハ」

…… だからなんでこの人ってばそんな嬉しそうな顔してんだよ。あんたの話してんじゃねっつーの。

だが、そうは言ってもあの人の事だ、きっとその影では童貞達が屍の山を築いていたに違いない。そう考えると思わず名もなき墓標に向かって黙祷を奉げてしまうまである。


103 :1 [sage]:2017/03/04(土) 01:42:39.98 ID:sjPlVRts0

平塚「陽乃が2年の時、つまり丁度今の君たちと同じ頃なのだが、ひとりだけ特に仲の良い生徒がいたことがある」

八幡「 ……… いたことがある?」

不意に語りだした先生の口調の変化と、その言い回しに違和感を感じた俺が、つい声に出して訊いてしまう。

平塚「その女子生徒は、キミのように絶望的なまでに人付き合いの下手なぼっちでな」

平塚先生の語るところによると、なかなかクラスに打ち解けられずにいた彼女を見かねた陽乃さんが、なにくれと面倒を見ているうちにいつの間にか仲がよくなっていたらしい。

…… つか、わざわざ“キミのように”って付け加える必要あんのかよ。それって、もしかしてぼっちにかかる枕詞かなんかなの?

平塚「珍しく彼女と余程ウマがあったのかも知れないが、今考えると、どこかしら雪ノ下に ――― 妹に似たところもあったのかも知れない」

タイプは違うかもしれないが、由比ヶ浜と雪ノ下みたいなものか。凸凹コンビ、という言葉が頭に浮かぶ。

やめたげてよぉ!どこがどんな風に凸と凹かなんて言うの、やめたげてよぉ!

104 :1 [sage]:2017/03/04(土) 01:47:58.71 ID:sjPlVRts0

平塚「伝え聞いたところによると、陽乃の母親は彼女がその生徒と親しくするのをあまり快く思っていなかったらしくてな」

娘の交友関係にまで干渉する親であることは既に陽乃さんの口から直接聞いている。
恐らくは裕福な家の親にありがちな過干渉というヤツなのだろう。ウチのようにあまりに自由過ぎる放任主義もそれはそれでどうかとは思うが。

平塚「その生徒が、急な父親の転勤にともなって、2年の最後に遠方に引っ越すことになってしまったのだが」

先生の口調が僅かに苦みを帯びる。

平塚「後になってわかった事なのだが、どうやらその生徒の父親の勤め先が ―――― 陽乃の父親の経営する会社の子会社だった、という訳だ」

八幡「 ……… それって、もしかして」

平塚「ああ。恐らく陽乃も母親が裏で手を回したとのではないかと考えたのだろう。――― ま、今となっては真相は藪の中だが」

あねのんの母親に対する含みのある言い方も、それで頷ける。

平塚「あんなに落ち込んだ彼女を見たのは、後にも先にもあれが初めてだったよ」

何かしら思うところでもあるのだろう、平塚先生が忌々しげに、既に空になったらしいタバコの箱をくしゃりと握り潰す音がした。

105 :1 [sage]:2017/03/04(土) 01:53:06.09 ID:sjPlVRts0

ふと気が付くと、平塚先生が無言のままじっと俺を見つめていた。

その様子からして、まだ話には続きがあるようだった。それも、俺にそれを言うべきかどうか、かなり迷っている節が身受けられる。

ややあって平塚先生は両手を白衣のポケットに突っ込むと俺から目を逸らし、深々と溜息を吐きながら、まるで覚悟を決めたかのように言葉を継いだ。




平塚「 ――― その子会社なのだがな …… 。実は、由比ヶ浜の父親の務めている会社でもあるのだよ」

106 :1 [sage]:2017/03/04(土) 01:54:50.68 ID:sjPlVRts0

それでは今日はこの辺で。ノシ

忙しいですが、次回の更新はできればもう少し早めに。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/04(土) 02:40:50.73 ID:9WBKWFbwo
乙です
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/04(土) 03:48:38.51 ID:XHAJPKJ5o
ママのんモンペだったのか
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/04(土) 04:04:10.14 ID:euBR17D3O

ゆきのんの母親超いい人やん( ゚∀゚)
悪影響ばかりを引き起こすピンクの腐れビッチを遥か彼方へ追いやってくれるかもしれないんだから
そのまま八雪の前から消えてくれれば超ハッピーじゃん

後はゆきのん母に雪乃と八幡の仲を認めさせて留学を取り消せば最高のハッピーエンドだな
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/04(土) 04:15:15.18 ID:r2dtx0pZ0
原作からして母親強烈やしなあ
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/04(土) 04:22:08.27 ID:euBR17D3O
>>110
ガハマの件に関してだけはいい母親だけどな
合法的にピンクの汚物をフェードアウトさせてくれるんだから
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/04(土) 06:30:06.99 ID:wzr2Qin/O
電池くん!
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/04(土) 07:34:51.83 ID:VQIZbfjeo
乙カレー
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/04(土) 07:41:02.88 ID:K5Y3ce4HO


昨晩敵前逃亡した電池がこんなところに!
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/04(土) 07:48:33.55 ID:5b+gYiFEo
>>109
親父が子会社→由比ヶ浜が飛ばされる→じゃあ私が留学しますから→ママのんも男の影気になってたしオッケー

の流れかと思ったんだけど、そっち?
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/04(土) 09:03:24.82 ID:QtgxyEHA0
乙。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/06(月) 12:09:07.85 ID:FhsgM2cBo
乙です
118 :1 [sage]:2017/03/06(月) 14:15:29.04 ID:6uHVd2UB0

八幡「 ……… 雪ノ下はそのことを知っているんですか?」

平塚「さぁ、な。だが、聡い彼女のことだ。やはりその辺りのことは察しているのかも知れん」


八幡「由比ヶ浜の方は?」

平塚「それこそわからんよ。キミとて自分の親の務めている会社の事など、いったいどれほど知っていると言えるのだね?」

小さく肩を竦めて見せる。

言われてみれば確かにその通りだ。俺の知っていると事と言えば、残業で毎晩帰りが遅く、休日出勤も多い。そのくせ大した手当も出ない。つまり、限りなくブラックに近い、という事くらいだろう。


八幡「もしかして、雪ノ下が留学を決意したのも、その事に関係があるんじゃ …… 」

平塚「そうかも知らんが、そうでないかも知れん。陽乃の件についてはあくまでも伝聞に過ぎないし、私も彼女に直接問い質した事があるわけではないのでな」

結局のところ、要は何もわからない、ということである。……… 案外、使えねぇな、この先生。

平塚先生はその事に関してはそれ以上何も言わず、俺も敢えて聞こうとはしなかった。

その口から吐き出される最後の白い煙を見るともなしに目で追うが、それはどこからか吹き付ける風に紛れ、すぐに消えてなくなる。

119 :1 [sage]:2017/03/06(月) 14:18:03.42 ID:6uHVd2UB0


平塚「 ――― それで、キミはどうするつもりなのかね?」


タバコを吸い終えて急に手持無沙汰になったのか、腕を組み壁に背を預けるようしてながら平塚先生が俺に向けて問うてきた。


八幡「 …… どうするって。今朝の話の続きですか? だったら俺は」

平塚「そうではない。言っただろう、あれはただ単に雪ノ下の意向をキミに伝えたまでだ、と」

まるで煙を払うかのように、うるさそうに目の前で手を振る仕草をする。


平塚「私が聞きたいのは、このまま黙って彼女が留学するのを見過ごすつもりなのかね、という事だよ」

八幡「見過ごすも何も …… 」

平塚「今回の件が彼女の本心ではないことくらい、キミにもよくわかっていよう?」

だが、例えどんな事情があるにしろ、最後に決めるのは彼女自身だ。
彼女が自分自身で留学という手段を選択した以上、それを止める手だても、明確な理由も俺にはない。

120 :1 [sage]:2017/03/06(月) 14:21:51.31 ID:6uHVd2UB0

平塚「ふむ、どうやらキミは、何かしら思い悩んでいるところがあるみたいだな?」

俺の態度に何を感じとったのか、先生が重ねて問うてくる。


八幡「 ……… いえ、別に何も悩んでなんかいません」

答えとは裏腹に、逸らした目が意に反してそれを肯定してしまう。


平塚「ふっ、まぁ、いいだろう。どうせ訊いたところで、キミが素直に口にするとも思えんしな」

八幡「 ……… はぁ、そりゃどうも」

オキヅカイイタミイリマス、と茶化したように付け加える。 


平塚「だがな、比企谷」

八幡「 ……… はい」

平塚「余計なお節介かも知れんが、自分が良かれと思ってしたことでも、それが逆に誰かを傷つけることがあるということをよく覚えておいた方がいい」

いつになく鋭い言葉は、俺の心の無防備な部分をまるで狙ったかのように穿つ。

平塚「優しさとは、時に意図せずして人を傷つけるものだ。それがわからぬキミでもあるまい」

俺は答えない。敢えて応えるまでもなく、それはこれまでの俺の人生の中で、既に嫌というほど経験しているからだ。

121 :1 [sage]:2017/03/06(月) 14:24:06.10 ID:6uHVd2UB0

平塚「キミは優しい。だが、その優しさが他人には理解しにくい。だから誤解を生む ……… キミの行動は見ていて痛々しいのだよ」

揶揄するでも、叱るでもなく、淡々と諭すようなその言葉に羞恥のあまり自分の顔が赤らむのを感じる。


平塚「それに、な ――― 全ての人間を救おうとするのは無理だ。そんなことは誰にもできはしない」

八幡「 ……… そんな殊勝なことは考えていません」


平塚「高校生活というのはある意味社会の縮図だ。だが、現実社会はもっと汚い。キミがキミと関わるすべての人間を助けようとしていたら、今度はキミの方が磨り減ってしまう」

平塚「それでもキミが犠牲になることで他の全員を救うことができると思っているならば、それは慢心だ。それこそ、キミの嫌いな欺瞞にすぎない」


八幡「だからっ!」


苛立ちのあまり、知らず返す声も強く高くなってしまう。

122 :1 [sage]:2017/03/06(月) 14:27:28.80 ID:6uHVd2UB0

平塚「“幸福の王子”の話を知っているかね」

不意に先生が話題を変える。だが、それがまだそれまでの話の延長線上にあることは声の調子でわかった。

八幡「 ……… オスカー・ワイルドはあまり好きじゃないんで」

あのひねくれた感性に対する反感は、もしかしたら近親憎悪なのかもしれない。それに、今どきワイルドでも許されるのはせいぜいスギちゃんくらいのものだろう。

平塚「キミのことだ、あの物語で王子が最後にどうなったかくらいは知っていよう?」

俺は先生から逸らした目をコンクリートの三和土(たたき)に落とす。白と灰色の作る斑模様の床から今更のように冷気が足を伝って這い登るのを感じた。


平塚「キミのその優しさが自分自身を傷つける。そして、最後にはキミを慕うものまで傷つけることになるのだよ」

その言葉は俺に向けていながらも、その目は恐らく俺を捉えていない。まるで俺の背後にある何かを遠く透かし見ているかのようであった。

平塚「キミがぼっちでいる限り、他人との繋がりを絶ってなおかつ人を救おうとする限り必ず限界はくる。それを今のうちに理解しておいた方がいい ――― 手遅れになる前に、な」

123 :1 [sage]:2017/03/06(月) 14:29:25.60 ID:6uHVd2UB0

そんなことはわかっている。しかし、どうしようもないことだってある。

誰も傷つけたくない。だったら傷つける前に自分から遠ざかればいい。物理的な距離が遠ざけられないのなら、せめて心の距離だけでも。
今までもずっとそうやってきたし、恐らくこれからもそうだろう。

ぼっちにとって間合いの見切りは必須だ。適度な距離を置けば誰も傷つけずにすむし、少なくとも傷は浅くてすむ。
だからこそ、誰に対しても彼我の適切な距離を保ってきた。

期待して裏切られるよりも、期待させておいて裏切ってしまうことの方が、より深く自分を傷つけるのだから。

だったら最初から期待なんてさせない方がいい。期待に応えることができないことがわかっているなら尚更だ。

そして今ならまだ間に合う。俺にとっても


―――――― 彼女にとっても。


124 :1 [sage]:2017/03/06(月) 14:30:57.54 ID:6uHVd2UB0

次回の更新はできればまた近日中に。ではでは。ノシ
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/06(月) 16:08:25.73 ID:VsnQZErno
おつ
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/07(火) 02:42:42.02 ID:H1tZ+Esjo
乙です
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/07(火) 12:33:58.78 ID:WYZdmNNko
おっちゅ
128 :1 [sage]:2017/03/10(金) 10:02:07.02 ID:Q0dm+vWz0

顔を上げると平塚先生が“それみたことか”と言わんばかりの表情を浮かべて俺を見ている事に気が付いた。

内心の葛藤や動揺を気取(けど)られまいと、素知らぬ顔をしてマッカンに口をつける。
だが冷えた缶の中身はいつの間にか既に空となっており、空気を吸い込むやたら間の抜けた音だけが虚しく響くばかりだった。

腹立ち紛れにゴミ箱に向かって放り投げた缶はものの見事に狙いが外れ、壁に当たって跳ね返ると、まるで嘲笑うかのような甲高い音を立てて俺の足元へと転がり戻って来た。

その一部始終を平塚先生が面白そうに眼を細めて眺めている。

129 :1 [sage]:2017/03/10(金) 10:06:04.45 ID:Q0dm+vWz0

八幡「 ――― それで、先生はいったい俺にどうしろって言うんですか?」

諦めたような溜息をひとつ、俺は足元の缶を拾い上げると必要以上の力を込めてゴミ箱に押し込みながら仏頂面になって訊ねる。

まるでその話題から逃れるかのような問いかけに、何を感じたのか平塚先生が口角を緩めるのが見えた。
俺の向ける憮然とした表情に気が付くと笑いを噛みころすようにして口許を手で隠す。


平塚「なに、結果として雪ノ下が後悔することのないようにしてやってくれればそれでいい。やり方はキミに任せる。好きにしたまえ」

なにそれあまりにもふわっとしてね? うちのカマクラだってそんなふわふわしてねーぞ。いやあれはどっちかっつーともふもふ?


八幡「なぜ俺が?」

平塚「キミが適任だと私が判断したからだよ」

……… しかもそれ全然理由になってねぇし。

130 :1 [sage]:2017/03/10(金) 10:07:39.99 ID:Q0dm+vWz0

八幡「俺が余計なことをして、雪ノ下が嫌がったりしませんかね?」

いらぬお節介を焼いて全てを台無しにしてしまったのでは元も子もない。


平塚「それはまずないだろう。ああ見えて、彼女はキミのことを信頼している。口ではなんと言っていようが、な」

八幡「あいつが? 信頼? 俺を?」

思いがけない言葉に、つい訊き返してしまう。


平塚「好意を持っていると、そう言い換えてもいいかも知れんな」

八幡「なっ?!」///

いかにもさらりと告げられたその言葉に、先程とはまた違う意味で顔が熱くなる。

131 :1 [sage]:2017/03/10(金) 10:14:13.86 ID:Q0dm+vWz0


平塚「なんだ気が付いていなかったのか。キミらしくもない。いや、それともこの場合、いかにもキミらしい、と、そう言うべきかな」


――― あの学年はおろか、全学年を通じてトップクラスの美少女である雪ノ下が冴えないぼっちに過ぎないこの俺の事を?

俄かには信じ難いが、それは同時に、過去幾度となく同じような勘違いを繰り返してきた俺が、二度と同じ轍を踏むまいと常に排除してきた可能性でもあった。


八幡「 ……… どうしてそう思うんですか?」

逸る気持ちと動悸を抑えつつ、できるだけ平静を装って低く訊ねる。我ながら噛まなかったのが奇跡だ。


平塚「彼女のキミを見る目を見ればわかる。ま、強いて言うならば、勘、というヤツだな」

そう言って、指先で自らのこめかみをとんとんと叩いて見せるその仕草に、なぜか妙にイラっとさせられた。


八幡「 ……………… それってもしかして“野生の”ってヤツですか?」

女の子の年齢さえも見抜いてしまうという、例のアレ?

平塚「オンナだ、オンナっ! 女の勘だっ! キサマ、わかっててわざと言っておるだろう?!」

声を荒げて抗議する平塚先生を、

八幡「あー、なるほど、はいはい。あの何の根拠もないくせにやたらと的中率だけは高いという、あっちの方ですね」

小指で耳をほじくりながら超テキトーに受け流す。


……… でもこの先生の場合、男前過ぎちゃって、正直、あんま説得力ないんだよな。

132 :1 [sage]:2017/03/10(金) 10:16:35.49 ID:Q0dm+vWz0

八幡「 ……… 一応確認しときたいんですが、これって命令ですか?」

もしそうだとしても、それだけでは動機としてあまりにも不十分だ。

常に日頃から、仕事と名の付くものから逃れるためとあらばいかなる苦労も厭わず、“働いたら負け”を座右の銘とする俺という人間に対しての言い訳が成り立たない。
その労力を最初から仕事に活かした方が遥かに効率的かつ建設的ではあるのだが、これはあくまでも俺という人間にとってはポリシーの問題なのである。

133 :1 [sage]:2017/03/10(金) 10:26:28.44 ID:Q0dm+vWz0


平塚「 …… やれやれ、キミという男はつくづく面倒臭いヤツなのだな」


平塚先生がほとほと呆れ果てたような顔をしながら、壁に寄り掛かったままそのすらりと伸びた長い足を無造作に組み変える。


平塚「私個人としては、キミには自発的にやってもらえればありがたいと思っていたのだが ……………… キミの先程からの態度を見ていて少しばかり気が変わった」

八幡「気が変わった? それ、諦めたってことですか?」

思いのほかあっさりと引き下がる先生に、逆に俺の方が慌ててしまう。


平塚「そうではない。これは“命令”ではなく“依頼”だ」

八幡「 …… 依頼?」

その言葉をそのまま額面通りに受け取るとなれば強制力は更に弱まってしまう。必ずしも俺がその依頼とやらを引き受けなければならないという理由はないからだ。


平塚「どうやらキミは何か勘違いしているようだな」

そんな思いが伝わったのだろう、キツネにつままれたような顔をしているであろう俺に、ゆっくりと頭(かぶり)を振りながら先生が言葉を継ぐ。

八幡「 ……… どういう事ですか?」


平塚「わからんかね? この件はキミ個人ではなく、奉仕部に対しての正式な“依頼”として扱う、という意味だよ」

134 :1 [sage]:2017/03/10(金) 10:30:14.16 ID:Q0dm+vWz0


八幡「 ……… は?」


平塚「ところで比企谷。キミを初めて奉仕部に連れてきた際に話した例の勝負の件だが、まだ覚えているかね?」

戸惑いを隠せないでいる俺に対し先生がさりげなく尋ねてきた。
なんとはなしにだが、やけに白々しく感じるのは気のせいか。それどころか何やらきな臭いものまでプンプンと漂ってくる。


八幡「 ……… え? あ、はい。もちろん。それって確か、昨年の生徒会長選の時にも確認してますよね?」

結局、あの時は色々とゴタゴタが続き有耶無耶の内に終わっている。


平塚「私の厳正な審査によると、今のところ僅差で雪ノ下が勝っている。二位はキミだ」

八幡「 …… はぁ。そうスか。でも、それが何か?」


色々と言いたいこともあるにはあるのだが、それ以上になぜここでいきなり例の勝負の話を持ち出したのかという方が気になり、よせばいいのについ話の続きを促してしまう。

135 :1 [sage]:2017/03/10(金) 10:34:11.56 ID:Q0dm+vWz0

平塚「仮にこのまま雪ノ下がいなくなったと仮定しての話だが、その場合、誰かしらが次の部長にならない限り、残念だが奉仕部は部は休部せざるを得ないことになる」

八幡「 ……… でも、それならそれで仕方のないことですよね?」 

俺に雪ノ下の代わりを務めるつもりはないし、由比ヶ浜とて同じ考えだろう。

平塚「そうなると当然、例の勝負の継続も不可能となる。つまりは現時点で1位である彼女の判定勝ち、ということになるわけだ」


八幡「 ……… はい?」

言葉の意味が頭に浸透するまで暫く時間を要した。


八幡「や、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。それってフツウに考えて雪ノ下の試合放棄による負けか、もしくはノーゲームになるのが筋なんじゃ …… 」

話が思わぬ方向に流れつつあることに気が付き、無駄とわかりつつも慌ててそれを遮る。


平塚「ほう。いったい誰がいつそんなルールを決めたのだね?」

八幡「……… ぐっ」


平塚「その場合、勝者である彼女が敗者であるキミに下すであろう命令は ――― 最早、言わずともわかるな、比企谷?」




―――――― なるほど、俺に代わりに奉仕部の部長やれってか。


136 :1 [sage]:2017/03/10(金) 10:37:35.42 ID:Q0dm+vWz0

平塚「だが、それではあまりにも一方的過ぎて、キミが不憫というものだろう ―――――― そこで、だ」

いかにも芝居がかった言い回しで、もったいつけるような間を置く。


平塚「この依頼をキミたちの勝負に含めるよう、特別に取り計らってやっても構わないのだが ………… と、言ったらどうするね?」


――― 白衣の悪魔。まさにそんな形容詞がピタリと似合う腹黒い笑みを浮かべて平塚先生が俺を見た。


平塚「つまりはそういうことだ。どうだ、少しはキミもやる気になったのではないのかね?」

いかにも恩着せがましく言ってはいるが、どう考えたって脅し以外のなにものでもない。


八幡「 ……… 汚ねぇ。……… 大人って、やっぱ汚ねぇ。 ……… 腐ってやがる」

平塚「 ……… 私としてもキミのその腐り切った目で言われると非常に心外なのだが」


137 :1 [sage]:2017/03/10(金) 10:43:48.54 ID:Q0dm+vWz0

このくだり、あと少しだけ続きます。とりあえず、一端ここで。

次の更新はさほど日を空けないうちに。ではでは。ノシ
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/10(金) 11:06:02.77 ID:l9Htou67o
おっ
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/10(金) 11:33:49.80 ID:3RGqRVKvo
乙です
140 :1 [sage]:2017/03/10(金) 20:38:12.95 ID:4HNvyQ/Y0
さりげなく訂正。

>>135 一行目

残念だが奉仕部は部は休部せざるを得ないことになる → 残念だが奉仕部は休部せざるを得ないことになる

141 :1 [sage]:2017/03/10(金) 20:44:07.20 ID:4HNvyQ/Y0

平塚「ま、諦めたまえ。キミは潔く負けを認めるか、それとも奉仕部の一員としてこの依頼を引き受けるか、そのふたつにひとつしか選択肢はないのだよ」

なおも恨みがましい目を向ける俺に、平塚先生が勝ち誇ったかのように意気揚々と告げた


―――― かと思うと、


平塚「それに、キミの場合、わかりやすい大義名分とやらがあった方がいいのだろう?」

思いもよらず、そんな事まで言い出した。


八幡「 ……… は?」

平塚「あくまでも仕方なく、それも利己的に立ち回るというスタンスの方が、キミとしても座りがいいだろう、とそういうことだよ」


八幡「 ……… それこそ言っている意味がよくわかりませんが?」

そうは言いながらも、自分の目が眩暈でも起こしそうなほどの目まぐるしい勢いで泳ぎまくっているのがわかった。
眼球だけで競泳なんかしたら、ぶっちぎりで優勝するレベル。ちなみに2位は鬼太郎の目玉おやじ。(俺予想)

142 :1 [sage]:2017/03/10(金) 20:45:57.42 ID:4HNvyQ/Y0

八幡「あー…、ちなみに、もし、ですけど、俺が断ったらどうなります?」

平塚「その場合は、キミが約束を違えたと知った時の雪ノ下の反応を想像してみるがいい」

八幡「やりますやります! 命に代えてでも是非やらしてください!」

平塚「うむ。キミならきっとそう言うだろうと信じていたぞ」

143 :1 [sage]:2017/03/10(金) 20:51:07.73 ID:4HNvyQ/Y0

平塚「いやはや、これでひと安心だな。万が一、キミが引き受けてくれなかったらどうしようかとも思っていたのだが」

八幡「その場合、俺がどうされるかについてはあまり考えたくありませんからね。つか、俺ってそこまで信用ないんですか?」

平塚「自分の日頃の行いを顧みることだな」

八幡「過去の汚点は振り返らないことにしているんで」

平塚「キミの場合、過去はもとより、目の前の現実からも目を逸らすべきではないと思うのだが …… まぁいい。なんにせよ、期待しているぞ、比企谷」

八幡「 …… は他人から期待されるような人間じゃありませんよ」

最後まで憎まれ口を叩く俺に対し、


平塚「それでも、だ」

そう言って先生は俺に向け手をひらひらさせる。話は終わり、さっさと行け、ということなのだろう。

144 :1 [sage]:2017/03/10(金) 20:52:48.60 ID:4HNvyQ/Y0

――― やれやれ。

ったく、さんざっぱら人をけしかけといて、最後は放り投げるなんて、勝手もいいところである。
しかも俺の性格や行動を的確に把握し、先回りして気持ちを汲んでくれているから余計に始末に悪い。

うじうじと悩む俺の背中をそっと押すのではなく、いつも掌の跡が残るほど思い切り叩いて叱咤激励してくれる“癒し系”ならぬ“どやし系”。

それでも、もし俺があと10年早く生まれていて、この先生に出会っていたなら、間違いなく惚れていたのではないかとさえ思えてしまうのは、


うん、多分、単なるストックホルム症候群(シンドローム)か何かだねっ!

145 :1 [sage]:2017/03/10(金) 21:01:35.45 ID:4HNvyQ/Y0

ひとつだけ気がかりなことがあったので、俺は足を止めて平塚先生に振り返る。


八幡「 ………… 最後にひとつだけ聞いてもいいですか?」

平塚「ふむ。よかろう。言ってみたまえ」


八幡「この場合、依頼人はいったい誰になるんですかね?」

雪ノ下の掲げる奉仕部の方針は、依頼人の抱える悩みや問題を解決することではなく、あくまでも解決のための手助けをする、というスタンスだったはずだ。
だとすれば、どのような形であれ、依頼を引き受けるに当たっては、やはりその依頼人とやらをはっきりとさせておくのが筋というものだろう。


先生は“なんだ、そんな事もわからんのかね?”という顔をして暫く俺の顔を見ていたが、

平塚「キミもたまには頭だけではなく、胸に手を当てて考えてみたらどうだね」

謎めいた言葉を口にする。


八幡「 ……… そうですか、では遠慮なく。…… って、痛ッてッ! いったい何すんですかッ?!」

平塚「それはこちらのセリフだッ! 私の、ではない、キサマの胸だッ!」


ぴしゃりと叩かれ、渋々引っ込めた手の甲をさすりつつ、俺は仕方なく言われるままにその手を今度は自分の胸に押し当てる。

普段なら男の胸なんぞ頼まれても触りたくはないし、自分の胸なぞいくら触ったところで面白くもなんともないのだが、そのまま無言で考えること暫し。やがて、



なるほど、――― と得心がいった。


146 :1 [sage]:2017/03/10(金) 21:07:05.95 ID:4HNvyQ/Y0

その足で職員室まで戻ると、やはりキーボックスにはまだ部室の鍵が掛かったままになっていた。

その少し錆びついた無骨な鍵を手にとり、しばし眺めた後、しっかりと手に握り込むと、利用簿に名前を記入しそのまま部室に直行する。


古くなってやや強情になった鍵を開けると、当然のように中には誰もいない。

もともと必要最低限のものしかなく、ひたすらガランとした室内の隅には、まるで忘れ形見のようにポットとティーセットが一式置かれたままになっていた。


俺はいつもの定位置、つまり窓際に席を占める雪ノ下とは反対側、廊下側の席に座りつつ、いつになく目まぐるしく頭を回転させる。

理由はできた。動機としても、まぁ十分だろう。あとは計画と実行あるのみだ。


雪ノ下と葉山の家の婚約を破棄させる方法 ――― そのことについては、実は俺の中に腹案がないというわけではなかった。

だが、正直なところ成功率はかなり低い。そして万が一成功したにしても、そこには多大な犠牲が伴う。

下手をすれば、人ひとりの人生を大きく狂わせ、台無しにしてしまうことにもなるかも知れない。


――――― それでもやはり、やらなければなるまい。

147 :1 [sage]:2017/03/10(金) 21:09:25.01 ID:4HNvyQ/Y0

しかし、計画を実行に移すにあたって、その前にしておかなければならないことがひとつある。

むしろそちらの方が俺にとってはハードルが高いといっていいだろう。
もしかしたら、それこそ俺にとって大切なものを全て失ってしまうことになるかもしれない。

そう考えると苦いものがこみ上げ、どこか楽な方へ楽な方へと逃げ出したくなる気持ちが抑えきれなくなる。

計画の精度を高めるためには、やはり極力、推測や憶測など情報のノイズを排除する必要がある。

まずは今まで誤魔化し、先送りにし続けてきた俺の本当の気持ちを、あのふたりに正直に伝えることだ。全てはそれからだろう。


しかし、そこでまた難問にぶち当たる ――――― いったい、どうやって ?


148 :1 [sage]:2017/03/10(金) 21:10:27.44 ID:4HNvyQ/Y0

続きはまた来週になります。ではでは。ノシ
149 :1 [sage]:2017/03/10(金) 22:13:02.18 ID:4HNvyQ/Y0

主語が抜けてた。orz

>>143 6行目

八幡「 …… は他人から期待されるような人間じゃありませんよ」
            ↓
八幡「 …… 俺は他人から期待されるような人間じゃありませんよ」

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/10(金) 22:21:31.85 ID:3RGqRVKvo
乙です
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/11(土) 04:12:26.45 ID:Zycv/jy6o
おつーな
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/11(土) 08:07:35.36 ID:xrUAJ357O

結局、八幡に任せるだけで自分は何もやらないのな独神は
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/11(土) 08:27:30.79 ID:MHMul1GqO
電池くん!
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/11(土) 10:21:59.45 ID:tPPZIfAg0
おつです.続きをまってます.
155 :1 [sage]:2017/03/13(月) 08:36:12.11 ID:Eutne6CV0

いわゆる間奏曲的な何か。
156 :1 [sage]:2017/03/13(月) 08:42:14.72 ID:Eutne6CV0

いつもより早めに部活を切り上げたその日の帰り路、家まで自転車であと数分といったところで、どこかで見たような後姿に出くわした。

青みがかった黒髪。凝ったお手製のシュシュで束ねたポニーテールを左右にぴょこぴょこと揺らして歩くその様は、誰あろう、


…………… えっと、マジ誰だっけ?


あまり深い人間関係を構築してこなかった人間にありがちな欠点として、他人の名前を覚えるのが苦手、というのが挙げられる。
いわゆる、ぼっちあるあるというヤツだ。
もっとも俺の場合、それ以上に他人から名前を覚えられるのを超苦手とするという更なる欠点もあるのだが、それはまぁいい。

確か妹の小町の友達の川崎大志の姉ちゃんで、俺と同じクラスでもある、川なんとかさんだ。多分。

いや待て大志の姉ちゃんなんだからフツウに考えてこいつも川崎だろ。

157 :1 [sage]:2017/03/13(月) 08:45:41.50 ID:Eutne6CV0

その川崎(暫定)は、背中に小さな女の子を背負い、手に買い物袋を下げている姿が妙に板についている。大変だな。若いのに。

名前の方はよく覚えてなかったにせよ一応クラスメートではあることだし、それにお互いの身内も同じ中学の同級生なのだから満更知らぬ仲という訳でもない。

追い越すのに無視するのもなんだし、かといっていきなり声をかけるのもなんかアレな気がしたので、仕方なくチリンチリンとごく控えめにベルを鳴らして注意を引くと、


川崎「 ―――― あ゛?」 ジロッ


千葉のヤンキーどころかヤ○ザでさえもビビって道を譲るうえ、黙ってサイフまで差し出しそうな鬼の形相でメンチ切られてしまった。


八幡「お、オレだよ、オレ! オレ! オレ!」


そのあまりの迫力に、思わず振り込め詐欺かサッカーの応援歌並みにオレを連呼してしまう。なんなら学生証を掲示して見せるまである。


158 :1 [sage]:2017/03/13(月) 08:47:53.62 ID:Eutne6CV0

川崎「 ……… なんだ、あんたか」

八幡「なんだじゃねぇよ、まったく……… 」


そういえば大きな道路を挟んでいるだけに俺とは中学の学区こそ違っていたが、彼女の家は比較的近く、それも近所とさえ呼んでも差し支えない場所にあったはずだ。

その割に小町と大志が同じ中学というのも解せないし、それ以上に許せなものがあるのだが、多分、少子化やらなにやらでここ数年のうちに区割りの変更でもあったのだろう。

取りあえず深く追究するのはやめることにした。いや別にどこからか圧力があったわけじゃないから …… って、いったい誰に言い訳してんだよ、俺。


159 :1 [sage]:2017/03/13(月) 08:50:46.80 ID:Eutne6CV0

八幡「妹のお迎えの帰りか?」

川崎「まぁね」

詳しい事情は知らないが、彼女の家も両親共働きで帰りが遅いため、こうしてたまに親の代わりに妹を保育園に迎えに行くことがあるらしい。
手にしているネギの刺さったエコバックは、ついでにどこぞで買い物でもしてきたのだろう。


八幡「重そうだな、持とうか?」

川崎「慣れてるから」

俺の申し出に川崎が素っ気なく答えるが、どうも見ていて危なっかしい。


八幡「いいからかせよ。どうせ途中まで一緒なんだから」

自転車から降りると、川崎の方へと手を差し出す。


川崎「い、いいよ」///

遠慮する彼女の手から半ば無理やりエコバックを取り上げ、念のため割れ物がないか中を確認してから自転車の前かごに乗せた。


川崎「 …… あ、あんがと」///

――― やさしいじゃん。と、そっぽを向きながらも照れたようにぽしょりと付け加える。

当然である。俺の妹愛主義はそれこそ筋金入り。その有効範囲は遥か遠く彼方、他人の妹にさえも及ぶのだ。


160 :1 [sage]:2017/03/13(月) 08:52:58.78 ID:Eutne6CV0

川崎「保育園までけーちゃ …… 京華のこと迎えに行ったんだけど、なんかお遊戯で疲れたちゃったらしくて」

そのまま肩を並べるようにして歩きながら、ただ黙っているのもなんとなく気恥ずかしいのだろう、訊かれもしないのに川崎が語り出す。

八幡「 …… ほーん」

テキトーな相槌をうちながらチラリと覗くと、背中では京華が器用に姉につかまりながら、天使のような顔で寝息を立てている。

これがもうあと十年も経てば、姉ちゃんみたいに鬼の形相を浮かべるようになるのかと思うと、まさに生命の神秘以外のなにものでもない。ダーウィンだってあの世でびっくりだ。

161 :1 [sage]:2017/03/13(月) 08:55:23.27 ID:Eutne6CV0


川崎「 ――― 溜息なんて、らしくないじゃん」


隣を歩く川崎が不意にそんな事を言い出した。

おっと、どうやら無意識のうちにまたやってしまったらしい。そういや昨日も小町に言われてたっけ。


川崎「結衣たちとなんかあったの?」

ごくさりげなくだが、切り出されたその言葉に探るかのような色がある。


八幡「 ……… どうしてそう思うんだ?」

図星を指されて思わず訊き返してしまう。それが肯定を意味すると気が付いたが、刻既に遅しというヤツだろう。

教室で見せている姿には、とりたてて変化はないはずだ。
だいいち、俺も由比ヶ浜も普段から教室では滅多に会話をしないし、ここ暫くは目を合わすことすらもない。

162 :1 [sage]:2017/03/13(月) 08:56:52.91 ID:Eutne6CV0

川崎「 ……… なんかそんな顔してるから」

八幡「へぇ、お前にわかるのかよ?」

訳知り顔といった感じの彼女に、揶揄の意味を込めてそう訊くと、 


川崎「 ………… わかるよ、いつも見てるし」 

ついぞ思いがけないような返事が返ってきた。


八幡「あん?」 


本人も意図していたなかったであろうその答えに驚くあまり、思わず川崎の顔を二度見してしまう。


川崎「え、や、ちがっ、そういう意味じゃなくて!」///

八幡「わ、わーってるっつーの」///


だからそんな風に真っ赤な顔でわたわたと取り乱されたら、却って俺の方がどんな態度とっていいかわかんなくなんだろ。

163 :1 [sage]:2017/03/13(月) 08:59:13.76 ID:Eutne6CV0

川崎「姫菜から聞いたんだけど。…… 雪ノ下 …… さん、留学するんだって?」

八幡「なにお前それ海老名さん脅して無理やり聞き出したの? ちょっと顔かしな、とか言って女子トイレに呼び出して?」

川崎「だから違うって!」

八幡「それともやっぱ校舎裏? 素直に吐かせるために腹パンとかしたんじゃねーだろーな?」

顔は痕が残るからやめときな! ボディにしな! ボディに! みたいな感じ?

川○「あんたの様子が変だから気になって訊いたらフツウに教えてくれたんだよっ!」

八幡「お、おお、そうなのか」 

どうでもいいけど、勢い余ってなんかとんでもねぇこと口走ってねぇか、こいつ?


川崎「 ……… って言うか、あんたの方こそ、あたしのことなんだと思ってるわけ?」

八幡「や、なんだと思ってるとか言われてもだな ……… 」

まさかここで“実はさっきまで名前もよく思い出せませんでしたー”などとは言えない。口が裂けても言えない。下手をすると口の中が裂けるほど殴られるかもしれないし。


164 :1 [sage]:2017/03/13(月) 09:03:46.51 ID:Eutne6CV0


八幡「 ……… だいたい、お前の言う“俺らしさ”って、なんなんだよ」

先程の川崎の言葉に何ら含むものはないのだろうが、照れ隠しということもあってか、つい返す言葉も不躾になってしまう。

そんな俺を横目で見ながら彼女が、ばっかじゃないの、と呟くのが聞こえた。

こいつ口ぐせなのだろう、既に聞きなれた感もあるせいなのか言葉は悪いが不思議と嫌な感じはしない。それこそ雪ノ下の罵倒に比べたらかわいいものだ。


川崎「 ……… あんたはあんたじゃん」


と、小さく付け加える川崎。


まるで答えになってはいないが、言われてみればその通りだ。所詮、らしさなんてもんは、周りが勝手に決めつけたイメージに過ぎない。

にも拘わらず、俺もやはり他人に対して、らしいだの、らしくないだの、型に嵌め込んで自らの理想や想像を相手に押し付けているのだ。

165 :1 [sage]:2017/03/13(月) 09:06:37.18 ID:Eutne6CV0


――― だとすれば、本当の意味で、俺らしさとはいったいなんなのだろう。


その時、何かしらふと閃くものがあり、自然に足が止まる。

考えるまでもない、それはやはり“ぼっちである”ということだ。

天上天下唯我独人。何を恐れることをやある。失敗したところで失うものなどなし、例え全てを失ったところで、せいぜい元のぼっちに戻るだけの話なのだ。

失うもののない強(したた)かさ、それが“ぼっち”であるが故の俺が持つ、唯一無二のアドバンテージだったはずだ。

やれやれ、そんなことさえも忘れていたとは、どうやら長い間ぬるま湯に浸かり過ぎて、己の本質まで見失っていたらしい。

そう考えると肩の力も抜け、何か色々とふっきれたような気さえした。

166 :1 [sage]:2017/03/13(月) 09:08:53.55 ID:Eutne6CV0

俺の気持ちの変化を察したものか、川崎が満足気な顔をしてこちらを見ている。

もしかしたら、こいつもこいつなりに俺を励まそうとしてくれたのかも知れない。


―――― と、


いきなり器用にも妹を背負ったまま、川崎が俺の足を軽く蹴飛ばした。

八幡「うぉっ、なんだよ?」

川崎「あんたさ、やっぱ変にうじうじ悩んでるより、あのふたりと変な部活 …… 奉仕部だっけ? …… とかで、わけのわかんないことやってる方がずっと似合ってるよ」

八幡「 ……… なんだそれ。つか、お前の蹴り、マジ痛いんだけど?」

一見がさつで、不器用で、ぶっきらぼうで、それでいて明らかに心のこもったその態度と言い草に文句を垂れつつも、つい俺の顔に苦笑が浮いてしまうのがわかった。


167 :1 [sage]:2017/03/13(月) 09:13:00.92 ID:Eutne6CV0


川崎「さて、と、じゃ、あたしん家(ち)、こっちだから」

足を止めた川崎が俺に向けて告げる。


八幡「お、そうだったな。ほれ」

川崎「ん」

そう言って自転車の前かごに積んでいたエコバックを返し、俺はそのまま再びチャリに跨った。



――― おっと、この場合、やはり川崎に対して何か礼くらいは言っておくべきなのだろう。


暫くペダルを漕いだところで思い立ち、自転車を停めて改めて川崎の方へと振り返る。


八幡「サンキューな、川崎! 愛してるぜっ!」


川崎「 ……………… 知ってる」


自然と口を衝いて出たいつもの軽口に、川崎の方もいつもの仏頂面、しかもいつも以上に素気なく応じる。そして、


川崎「 ………… あたしも」 


目を逸らしながら、躊躇いがちにぽしょりと付け加えた彼女のその頬が、遠目にも赤く染まって見えたのは、茜射す黄昏の光の加減なのだろうか。

168 :1 [sage]:2017/03/13(月) 09:17:15.30 ID:Eutne6CV0

川崎「………な、何よ?」

ぽかんとして言葉を失う俺に、川崎が憮然とした表情で半眼になって俺を睨めつける。


八幡「 ……… あ、いや、お前も冗談とか言うんだなって」

川崎「う、うるさいわね!! いいからとっとと帰りなさいよっ!」///


真っ赤な顔で、うがーっとがなりたてられた俺は苦笑しながら再び自転車のペダルに足をかけた。

最後にもう一度背中越しに振り返り手を上げて挨拶しようとしたが、既にどこぞの角でも曲がったものか、その姿はまるで夕陽に溶けたかのように消えてなくなっていた。

169 :1 [sage]:2017/03/13(月) 09:22:38.65 ID:Eutne6CV0

その晩、俺はいつもよりも早めに夕飯を終え、風呂に入って寝間着のスウェットに着替えると、何をするでもなくベットに寝っ転がったまま薄暗い部屋で天井を見上げていた。

枕元にはスマホがコンセントに繋がれたまま無造作に転がり、充電中であることを知らせるLEDが煌々と光を放っている。

昨日、小町に渡された紙片を取り出し、仄かな光を頼りに小さな文字列を見るともなしにぼんやりと眺める。


さきほど、メールを一通、送ったばかりだ。


さして待つこともなく、ためらいがちな音を立ててメールの着信を告げるバイブの音がした。

俺はスマホを手に取ると一読してからポチポチとメッセージを打ちこみ、再度返信。

次の返信はすぐに帰って来た。文面もごく簡潔で、短い。


内容を確認すると、そのまま布団に潜り込む。

ここしばらくの疲れがどっと出たのか、まる海の底に引きずり込まれるようにして急速に意識が遠のいてゆく。

夢うつつのまま揺蕩うような状態で、ひとりの少女の顔がおぼろげに浮かんだ気がしたが、それが誰なのか、どんな表情を浮かべているのか、認識する前に意識は途切れた。



そして俺はそのまま朝まで深い眠りに落ちる ―――――― 夢を見ることもなく。

170 :1 [sage]:2017/03/13(月) 09:25:45.53 ID:Eutne6CV0

>>163 6行目 川○ → 川崎

次回の更新はできればまた今週中に。ではでは。ノシ
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/13(月) 13:58:44.47 ID:gaDaq3/fo
乙です
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/13(月) 14:41:44.48 ID:wc83JKW/o
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 15:05:40.23 ID:9xlI0D7J0
おつです.
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/13(月) 22:33:22.58 ID:xiIAxMP4o
おつ
さきさきかわいいよさきさき
175 :1 [sage]:2017/03/17(金) 00:05:02.20 ID:/Uegr1aI0


俺の選んだその少女 ―――― 由比ヶ浜結衣は、既に約束の時間の前から待ち合わせの場所にひとり佇んでいた。


襟と袖口にファーのついたアイボリーのダッフルコートの下に白いタートルネックのセーター、チェックのミニ丈ボトムスにスエードのニーハイブーツ。

いわゆるガーリー系のファッションに身を包んだ由比ヶ浜は、ショーウィンドウの前でせわしなく辺りを見回しながら、時折、ぽわぽわとピンクがかった茶髪のお団子髪に手を遣っている。

俺が彼女のいる処までたどり着くまでのわずかの間に、横合いから、恐らくはナンパ目的なのだろう、大学生くらいの若い男のふたり連れが歩み寄り、声をかける。

由比ヶ浜は胸の前で小さく手を振って断る仕草をしていたが、俺の姿に気が付くとすぐさまぺこりと小さく頭を下げてこちらに向け速足で駆けてくる。

袖にされた男たちは残念そうな表情を浮かべて暫くその後姿を見ていたようだが、やがて気をとりなおして別の相手を探しにどこかへ行ってしまった。


結衣「もうっ! ヒッキーってば、おっそ ――― ……… くないか」

時計を確認するまでもなく、約束の時間までにはまだ間があるはずだ。

由比ヶ浜もそのことに気が付いたのだろう、口にしかけた言葉もきまり悪そうに尻すぼみになり、そのまま消える。


八幡「 ……… すまん」

それでも多少なりとも心細い思いをさせてしまったことに対して素直に詫びると、

結衣「ん。許す」

少しはにかみながら、照れたような笑みを浮かべて俺を見た。

なんとはなしにその笑顔を直視することができず、ついと目を逸らしてしまう。

176 :1 [sage]:2017/03/17(金) 00:07:47.08 ID:/Uegr1aI0

そんな俺の腕、丁度、肘のあたりになにやらふくよかな感触が伝わってきた。

見るといつの間にやら由比ヶ浜が自分の手をくるんと俺の腕に巻き付けている。すぐ近くからふわりと漂ってくるフローラル系の香りが鼻腔をくすぐる。

八幡「えっ? やっ? ちょっ? なに、お前?」 いきなりなんなのこいつ。

そのいつになく大胆で積極的な振る舞いに戸惑う俺に、

結衣「へへっ」

由比ヶ浜は悪戯っぽく微笑んで見せる。

それでも一応、抗議の意思を込めた視線を送ってみたものの、素知らぬ顔をしてあっさりと流されてしまった。


結衣「 ……… で、どこ行こっか?」

俺はあきらめて寒さで靄る溜息をひとつ。


八幡「取りあえずは、暖かい場所、かな」

寄せてきた由比ヶ浜の身体は、服の上からでもそれとわかるほど冷え切っている。


――― いったい、いつから待ってたんだよ、こいつ。

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