【艦これ】提督「継続しているものの」【安価】

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/27(火) 22:53:42.03 ID:5fWPT/pn0
仕事の息抜きでしたが、供養も兼ねて投稿します。


・地の文ありのSS
・独自設定キャラ崩壊強
・嫁が死んでも自己責任
・前回よりさらに遅筆


一応前作【艦これ】提督「続投しましたけど…」

https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461506612/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1482846821
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/27(火) 22:54:27.53 ID:151IDKZ4o
おお
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/27(火) 23:02:56.59 ID:5fWPT/pn0
00

人を殺したこともなければ、殺したいとも思わない。
けれど自分は遠からず人を[ピーーー]だろう。
それを賞賛される仕事についた以上しかたがない。

僕は提督である。
いつか人を[ピーーー]確率が高い職業である。

この自ら望んだ道に後悔はないが、間違えたと思えばどうしたものか。
道から降りるには未練があるし、歩けば先がないのも分かっている。
けれども軍属であり、戦時にこの職を辞すなど出来はしない。
そう思うと、この運命なる偶然が憎く思える。
現代社会が自由意志と偶然の否定を目標としても、結局我々は何度でも選択なる乱数に頼る。
人生を巻き戻せもしないのに、我々は乱数を選び続け死の坂を下り続ける。

その長い人生の中で、人を[ピーーー]可能性はいくらでもある。
事故、あるいは偶然。
もしくは僕のように自ら望んでしまったりとか。

なら偶然「安価」でも仕方ないんじゃないか。
そう思いながら、僕は今日も仕事を始めた。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/27(火) 23:04:13.53 ID:5fWPT/pn0

01


事務作業を終えると間を空けず秘書艦が入ってきた。
黒い髪のサボっていた女。
こいつノックもせずに執務室に入るような適当な人間である。
女は背もたれを抱えるようにして椅子に座る。
おしとやかさの欠片すらない。
苛立ちも込めて僕は彼女に抗議することにした。

「サボりは楽しかったかな、なあ北上」

「全然、馬券は負けた。車券もパア、あとはスロの【安価】でも打つかだけど」

こいつ、と思うと彼女は言った。

「いい時代だねー、ネットで買えるもん」

そのままポケットからタバコと携帯灰皿を出す女。
古びたターボライターを取り出すなり火を付ける。

「…煙い」

「いいじゃん、それくらい」

北上はそうカラカラ笑う。
咎める気にもならなかった。
彼女はサボっていた。
だが、自分の仕事は終わらせている。
この北上が追加の仕事をするようなマメなタイプではない。
見れば分かる。また揉めたくもない。
この女の自艦隊内での立ち位置が微妙なことを考えると、
まともに相手にするのは面倒だった。
僕は最後の書類にハンを押すと、執務を終えることにした。

「お、終わり?」

目ざとく彼女は僕を見る。

「なんだ」

「外食にでようじゃないか、提督」

「給食があるだろう」

「つまんないねー。固い固い」

と彼女は煙の輪を吐きつつ言った。

「自室に戻る」

これ以上会話する気もなかった。
そう北上に言うと、女はタバコを手にした手を振りつつ言った。

「おー。んじゃ、また明日」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/27(火) 23:09:04.86 ID:5fWPT/pn0
【安価】は次投稿までの、コンマ奇数の中で抽選。
抽選方法は、13579より、安価指示レスのコンマ以下の合致したものを拾う。
偶数の場合は、コンマ以下合計に1を追加し抽選。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/27(火) 23:11:42.31 ID:5fWPT/pn0
>>4 北上は【安価】で何の台を打ったか?
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/27(火) 23:19:20.77 ID:cBXN35LVO
ミリゴ
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/27(火) 23:21:33.50 ID:ZB6Qd9h4O
北斗の拳
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/28(水) 22:04:39.98 ID:XWQ0cEHVP
メール欄にsagaって入れると、ピーーーとかが解除されるよ
ムシキング
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/29(木) 21:12:45.76 ID:DCQRcG4p0

02


朝食をとると、僕は新聞片手に執務室に向かった。
一つ書類を処理してから、僕はコーヒー片手に新聞に目を通す。

俄然、深海との戦争は続いていた。
撃退のために人類がどれだけ金を撒いても、深海は海からやってきた。
新たな深海は新たな艦娘と同じだけ発見され、
決まりごとのように毎年大規模な海戦が勃発した。

僕はその中で、
その他の将校と同じように指揮をしていた。
毎日記録で誰かが死んでいた。
業務連絡を見れば明らかだった。
だが僕は死と隣り合わせの、そんなことすら出来なかった。

「渋い顔してどしたの?」

北上に声をかけられハッとした。
僕は新聞を置くと、彼女を見る。
いつの間にか執務室の中に彼女はいた。
執務室に繋がっている控え室から出てきたのだと思い出した。
それでもびっくりしたことに違いはない。
声には出さなかったが、顔には出ていたらしい。
まるで年頃の少女の顔をした北上は僕を覗き込んで言った。

「おー、どうした?>>8 北斗で負けたおっさんみたいな顔して」

「なんでもない」

「あそ」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/29(木) 21:15:17.79 ID:DCQRcG4p0
北上はそう言ってから手にしたナンクロを開く。
それから、いつものように自分の椅子に座った。
僕はこの光景を見て疑問を覚えた。
仕事がなければ、このように北上はいつも何かしらで暇をつぶしている。
この光景に疑問を覚えたわけではない。
いつものことだ。
だが…もっと広い意味で僕は疑問を覚えた。
こうして彼女が暇をつぶせている現状は正しいのだろうか。
戦いもしない軍艦、指揮しない提督。
僕らが抑止力としての意味もないこの時代、
こうして遊んでいることはいいのだろうか?

「出撃しなくていいのか」

その想いからそんな言葉を言うと、北上は手を止めた。
ナンクロを閉じることなく、北上はこちらを向く。

「何言ってるの提督?」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/29(木) 21:16:35.93 ID:DCQRcG4p0

「……いや、いい」

喉元まで言葉は出かかった。
けれど先は僕には言えなかった。
だが北上は僕のことなど分かりきっていたのだろう。
彼女は口実が出来たとばかり、嘲笑混じりの表情で答えた。

「他の提督みたいな作戦が与えられないことを言ってるなら、答えるよ。
 『飼い殺しの君の艦隊が怖くて仕事がふれないんだ』ぜ」

言われて、気分が悪くなった。
頭が軋む。
僕は腹に浅い痛みを覚えた。
それを見て北上はますます楽しそうにした。

「聞くまでもなかったな」

「それでいいじゃん。臆病で長生きしよう」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/29(木) 21:17:19.68 ID:DCQRcG4p0

北上はそれだけ言ってナンクロに戻った。
ひどく気分が落ち込んだ僕は、執務を再開しようとした。
だが、ばかに集中できない。
北上の顔を盗み見る。
彼女はもう楽しそうにナンクロの紙面を見ていた。
ふつふつと怒りが起こった。
けれど言葉にするほどの行動がやはり僕には起きなかった。
不快な気持ちのまま僕は仕事に戻る。
遅遅として進まなかったが、翌日に影響は出ないだろうと僕の経験が覚えていた。

…最近、いやここに流されてからそうだ。

何も、起きない。
そして仕事はふりをしているだけ。
自己嫌悪しながら僕は書類に目を通し続ける。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/29(木) 21:26:57.32 ID:DCQRcG4p0
03

提督業を始めて最初に面食らったことはいくつかある。
中でも一番驚いたのは初期艦の不在であった。
共に成長していくはずの人材は回されず、
最終的に僕の元に新人は配備されなかった。
どんな手違いだと上層部を恨みもした。
が、思い当たる理由もあった。

それは僕が引き継ぎで提督でなったということである。
弁明をすると僕は正規の教育を受け、提督になった。
もちろん提督としての適正はある。
妖精が見え、軍人としての教育も受けている。
……だが、致命的に運がなかったらしい。
その引き継いだ艦隊が不祥事を起こしたのは半年前。
お陰で僕は経歴に泥を塗られたばかりか、
曰くつきのその艦隊を押し付けられる羽目になった。
そんな人間に、新兵を回すだろうか。
いやないだろう。
考えれば筋の通る話である。

普通の提督は、どんな生活をしているのだろうか。
そんなことを考えながら、僕は自室に戻った。

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/29(木) 21:28:35.78 ID:DCQRcG4p0

きしむ扉を開け、軍服のボタンに手をやる。
しわにならないようにハンガーに引っ掛ける。
そのままベッドに倒れ込み、仰向けに汚れた天井を見る。
年季の入った天井のシミが笑い顔のように見えた。
自分が笑われた気になり、いい気はしなかった。
目を開いているのに、ぐるぐると不安が頭の中に渦巻いていく。
僕は目を閉じた。
キャリアとして最悪なスタートを切ったと言える。
不祥事の所為で底辺の提督として軍人人生を始めることになったからだ。
ただ僕は提督家業をこのまま終わらせることは考えていない。
最後まで戦うつもりである。
国のために、家族のために。
そう強く願った。だからこそ提督になった。
なにより逃げもせず押し付けられた艦隊を率いている。
その責任感から継続していくつもりである。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/29(木) 21:29:37.98 ID:DCQRcG4p0

だが覚悟とは裏腹に気分が晴れずその場で寝返りを打つ。
二つ大きな懸念があった。
は、先ほどまで話していた北上の存在。
もう一つは、引き継いだ艦隊である。
…北上は悪い奴ではない。
仕事はこなす。
任務娘とアイテム屋娘も兼ねる。
そんな器用な女は彼女くらいだろう(北上の言葉を信じるなら、特例らしい)。
ただ、彼女が自分の元にいる理由を考えると気が重くなる。
彼女は、僕の監視だ。
上層部の意向を受け、僕と僕の艦隊を監視している。
その事実を思うと、暗澹たる気分になる。
…頭ごなしに反乱や暴走を疑われて気分がいいものか。
けれどもその監視も理由がないわけではない。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/29(木) 21:31:41.24 ID:DCQRcG4p0

…彼女たちは悪い意味で特別である。

いい面を見れば、高い練度。
また同型艦と比較して……妙に強いと言う事実はある。
しかし、その理由を思うと僕は不安に駆られた。
彼女たちが強いのは深海に魅入られているからだった。
嘘か誠か(恐らくは真実だろう)、彼女たちは深海に近いらしい。
でなければ北上は監視しない。

「どうしてこうなったのか」

一人つぶやいたが答えは出ている。
自艦隊たちの、死んだ元提督に問題があった。
僕はその男のことをよくは知らない。
泡沫の提督であったこと。
どうやら赤レンガから左遷されたこと。
そして性格に難があったとは聞いている。

そんな中将とラバウルを殺したその男について、
僕だけが知り得ることは一つだけだ。

自分が間接的に殺したと言う事実だ。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/29(木) 21:34:13.95 ID:DCQRcG4p0

インドで受けた電話に答えたがために、
奴は死んだ。それしか僕には分からない。
また興味もなかった。
ただ、それでも男を彼女たちは慕っていた。
今でもである。
別に彼女たちが誰を慕おうと勝手だ。
だが、犯罪者を慕われては困る。それが反逆者ならなおさらだ。
押し付けられた僕はたまったものではない。
けれども疑いようのない事実だった。

「……」

頭痛がした。
いつもの偏頭痛である。
キリキリと、胃も遅れて痛み出した。
僕は彼女たちのしたった人間を殺しているのである。
いつもその罪悪感が消えない。
痛み止めを何処にやったか?
僕は体を起こすと、薬を探してベッドから立ち上がった。
薬の量は増えるばかりだった。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 15:46:41.05 ID:U03qxFq4O
04


老朽化した庁舎を出る。
ポストに手紙を投函する。
ふと配達が遅れるとの張り紙に気づいた。
嫌な気分になりつつ、僕は坂を下る。
目的地は港の近くの何でも屋だ。
ここで三日遅れの週刊誌を買うつもりだった。
島にはテレビもネットもある。
思えば遅れた雑誌を買って読むのも変な話だ。
これも離島だからしかたがない。


しばらく歩いて僕は店に着いた。
立て付けの悪いアルミのサッシを開ける。
店主の女性がテレビを見ていた。
骨董のスタンダードの液晶テレビ。
彼女は最近起きた本土でのテロのニュースをぼんやり見ている。
男性キャスターが、艦娘の手引きと推測を話していた。
彼女が僕に気づいたのはしばらく経ってからだった。

「ああ、提督さん。新調?文集?」

「あるならどっちも」

そう言うと、店主はカウンターから雑誌を出す。

「取っといたの。買うと思ってね」

「ありがとう」

礼を言いつつ、小銭を置くと店主は僕に言った。

「ねえ」

「なんですか?」

「提督さんのところの子、名前なんて言うの?」

艦娘の名前だろう。

「前言いませんでしたか?天城、由良、北上、夕立、涼風です」

そう言うと、おばさんは首を振った。

「ああ、違う違う。そうじゃなくて、艦娘としての名前じゃなくて。ほら、あの髪の青い子の名前。こないだね…」

店主の話は以下のようなものだった。
彼女の甥が私服で買い物に出た涼風を見たらしい。
その時に甥が知らない女の子だ!
と涼風に淡い恋心を抱いたのだという。
名前を知らなければ手紙も話しかけられない。
そう甥は思い、叔母である店主から僕に涼風の名を聞いてくれと頼んだそうだ。

「そうでしたか」

合点が行くが、なんとなく不思議にも思った。
今時の少年がそんな奥手だろうか?
ケイタイも繋がるこの島で…と思っていると店主は言った。

「腰抜けよね、ほんと」

合わせて笑ってみたが、同時に気分も良くなかった。
僕は追加で胃薬を買うと、再び庁舎へと戻った。

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/04(水) 15:56:33.52 ID:U03qxFq4O
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21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/04(水) 16:00:14.78 ID:U03qxFq4O
庁舎に戻ると、帰投した夕立がいた。
自室に向かう途中なのだろう。
ガリガリと相変わらず首をかいている。
血が出る一歩手前、真っ赤に変色した皮膚が目立つ。
入渠する度にその傷跡は消えるのだが、
やはりいい気分ではない。
無視するでなく、僕は業務から声をかけた。

「どうだ」

「問題ありません。何事もなく帰還しました」

そう夕立は言う。
彼女は制服の埃を払うと、僕の手元を見た。

「また雑誌」

どう言うニュアンスで言ったのだろうか?
僕は解らなかった。
返事がなかったからだろう。
興味なさそうに夕立は言った。

「部屋に戻るっぽい」

「そうか」

僕は何も言わず彼女を見送る。
執務は終えていたが、
追加の仕事の有無を確かめに僕は執務室の扉を開けた。
入室してすぐ、僕は煙たさに顔をしかめた。
見れば僕の執務用の机に座って、
北上が不恰好なタバコを吹かしていた。

「何をしている」
怒りから口調は硬い。
予想通り彼女は謝罪しない。
なんら悪びれた様子もないまま、北上は答えた。

「夕立の報告を代理で受けてー、手巻きを吸ってた」

乳白色の煙を吐いて、北上は言う。

「まずいまずい。辞書で巻くんじゃないね」

彼女は机から降りる。
見ればカッターで解体したらしい辞書が見えた。

「東京湾は安定だそうですってー」

「わかってるさ」

横須賀があるのだ。
問題が起きるはずもないし、起きさせもしない。
その事を知っていたからそう答えると、北上は思いもしないような一言を言う。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/04(水) 16:04:26.00 ID:U03qxFq4O


「つまんないとか思ってる?」

「何?」

北上を見ると彼女は足を組み直す。
彼女は手巻きタバコの灰を携帯灰皿に捨て私を見た。

「何もない現状に退屈してるなら、幸福だよ。北斗図柄が揃うかもって期待してるみたいなさ」

「なんだそれは」

「激アツの話をしてもつまんないやつだなあ…まあ、スロはいいや。幸福だよ、幸福」

まるで諭すような言い方だった。
会話が成立しているのか不安に思いつつ、僕は言った。

「幸福か」

「そ幸福。退屈は幸福だから感じられる。ただ」

北上はそこで言葉を切り、付け加えた。

「一番ヤバいのはね。なすべきことが山ほどあって暇さえないのに退屈だと思うやつ」

「…意味がわからない」

「でしょ。やることいっぱいだと、忙しいとか嫌だとか思うよね?
 でもそうじゃないんだよ。退屈だと思うのよ、本当にやばくなるとさ」

「お前も感じたのか?」

そう何気なく言うと、北上は即答した。

「もちろん。作戦中に退屈だと思ったよ。相方が死ぬかもしれないって時にも」

僕は北上を警戒した。
こいつも頭がヤバいのか。
そう思ったのが顔に出ていたのだろう。
北上は手巻きタバコを携帯灰皿に押し込んで言った。

「人の話を何時でも間に受けない方がいいよ、提督」

僕は北上の真意をそこに見た。
どうやら、何かを聞きたかったようだ。
だが彼女と僕とでは会話が成立しなかったのだろう。
そう思っていると、北上は立ち上がる。
そこで釘をさすように北上は言った。

「メンヘラ女の話は特にね」

「……」

艦隊のことか。
言い返そうとして、僕は言葉につっかえた。
北上は仕事終わったから待機してます。
そう言うなり部屋へと引っ込んだ。
僕は一人残された。
電話が鳴ったのは、運が良かったかもしれない。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/04(水) 16:11:51.10 ID:U03qxFq4O
05


珍しい日だった。
演習が行われることになり、我々は島を出た。
私のみ軍服。
あとは皆私服だった。
マイクロバスを手配して乗り込む(喫煙仕様は手配した北上のせいだった)。
私服に着替えさせると、本当にただの少女にしか見えない。
ただ私服でもガリガリと首を夕立は掻いており、それを涼風が止めるように言った。

「やめろ。ホント大丈夫かよ」

「問題ないっぽい。涼風こそ、爪は噛まなくていいの?」

言われたくないと言う顔を涼風はした。
涼風が爪を噛む癖があるとは知らなかった。

「いいだろ」

「なら終わり」

そう言って夕立は外を見る。
由良は黙ってタバコを吹かし、天城はぼんやりと外を見ている。
北上はいつもの顔で夕刊の競馬情報を見ていた。
会話は一つもない。
僕から話しかけようとも思えなかった。
僕が本でも読もうかと鞄から文庫を取り出したところだった。



24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/04(水) 16:12:57.01 ID:U03qxFq4O
珍しく、由良が口を開いた。

「提督」

「なんだ」

「勝てばいいのですか?」

妙な質問。
僕は思わずページをめくろうとした指を止める。
聞き返そうとする前に、由良が言った。

「なんでもありません。失礼いたしました」

そのまま由良は新しいタバコに火をつける。
なんだったのかと思うと、新聞から顔を上げた北上と目があった。
嫌な笑みをしていた。
奴は面白そうに笑っている。
見せ物とでも受け取ったのだろう。
気分が悪くなった。

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/04(水) 16:16:06.46 ID:U03qxFq4O
バスは目的の鎮守府に着く。
駆逐艦の案内で控え室に通された。
そこで簡単なブリーフィングを行う。
今回の演習は、4対4。
北上は不参加である。
相手の艦種は何が来るかわからない。
その中で出来ることを僕は指示した。

「以上。質問は?」

そう伝えきると、天城が言う。

「問題ありません」

返事を返さない奴らもうなづきはしていた。
だから僕は咎めることもせず、最後に檄を飛ばした。

「頑張れ」

今度は皆返事を返さなかった。
部屋の端にいた北上が、片方だけ唇を釣り上げた。
何を間違ったと言うのか。
僕はその思いが消えないまま、彼女たちを演習場に送り出した。



演習の結果に驚いた。
ほぼ一方的に我が艦隊は負けた。
ボロボロの夕立は面白げもなく言う。

「負けたわ」

僕は疑念を抱く。
それは、天城の口から答えとして聞かされた。

「……サボってそれですか?」

「天城も同罪よ。途中から手を抜いたでしょ」

視線が噛み合う。
僕は、それを止めさせた。

「まあ、いい。それも経験だ」

「偽善だね」

ぼそりと涼風が言った。
僕は無視した。
由良はボロボロのままタバコを吸っている。
誰もが死んだような目をしていた。
そんな彼女たちに入渠するようにいいつけて、僕は控え室を後にした。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/04(水) 16:18:39.49 ID:U03qxFq4O

時間を潰そうと、演習先の喫茶スペースに向かう。
そこにはここの艦娘と、北上がいた。
北上は肝が太いらしい。
ここの艦娘からの好奇の視線を浴びながら、上等なソファーに腰掛けている。
彼女は雑誌、それもるるぶを読んでいた。

「おい」

声をかけると、彼女は僕を見た。

「聞いたよ、負けたって?」

北上はそう言うと、無地のビニール袋を出す。

「そんなカス提督にお土産」

制服に着替えこそすれ、僕は北上から強いタバコの臭いを嗅ぎ取った。

「…お前、まさか」

「いやーベタピンの5スロでムキになってさー」

「聞いていないぞ」

「うーん上乗せゲームが伸びればワンチャンあったんだけど」

噛み合わない会話。
その上、訳のわからないギャンブル用語に僕は目眩がした。
呆れつつも、僕は彼女の前に座る。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/04(水) 19:44:06.46 ID:U03qxFq4O

「正気か?」

「いやあ、だって長引くの分かってましたから〜」

彼女はそう答えると、ビニール袋からバームクーヘンを取り出す。

「食べる?」

「不要だ」

「美味しいから大丈夫だよ」

「そう言うことじゃない」

言うと、北上は手を引っ込めた。

「手下どもの手抜きにご立腹?」

言葉に詰まった。
僕の沈黙に、彼女は言う。

「いいじゃん、別に。ペナなんてないでしょ」

北上はそう言うと、るるぶを置いて立ち上がる。

「帰ろう、提督」

僕は彼女の顔を見上げる。
悔しいが言い返せなかった。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/09(月) 20:08:20.94 ID:FmEABDeH0
06


演習から島に戻ると同じ日常が待っていた。
北上は、退屈から自動麻雀卓を買おうといい出した。
クソくらえと内心思いつつ、僕は却下した。
別に麻雀牌の取り扱いがうまくたって意味がない。
何も変わらない同じような書類仕事に精を出すしかない毎日。
気づけば僕から目的が消え失せていた。
もう惰性にさえ頼れす、この日常に僕は退屈さを覚え始めていた。
仕事だと言い聞かせていたが、気が狂いそうだった。
飼い殺しの言葉を噛み締めながら、今日も僕は執務を終えた。
徒労刑の気分でいると、声がした。

「お、終わりか〜」

目ざとく北上が気づいた。
彼女は乳酸菌飲料のパックを机に置くと大きく伸びをする。

「じゃ〜提督」

彼女は返事も聞かず、自室に引っ込んだ。
僕もペンを戻すと、執務室を出た。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:09:28.68 ID:FmEABDeH0

日暮れの島を何気なく歩く。
目的もなく浜まで歩いた。
特に意味はない。
そうして歩いていて、僕は人影に気づいた。
波打ち際に人間みたいなものが…
サッと、血の気が引くのがわかった。
急いで近寄ると、それが確実に人間であるとわかった。

白い肌。
茶色い髪。
白人系だろう。

僕はその人物におそるおそる手を伸ばした。
触れた肌は海水の冷たさだった。
だが、たしかに脈はあった。

「大丈夫ですか」

自分が濡れるのも厭わず、彼女を引っ張り声をかけた。
目が開かれることはなかった。
震える指で僕は119をダイヤルした。
通話が繋がると、端的に状況を話した。
ヘリが来るらしい。
僕はそれを待ちながら、たのむから死んでくれるなと願い続けた。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:10:33.15 ID:FmEABDeH0

07


電話連絡を入れてから執務室に戻ると、北上がきつい顔をしていた。
彼女は僕を見るなり、呆れと怒りの混じった調子で言った。

「面倒なことをしたねー、バカ提督」

「……」

返事を即座にはかえせなかった。
だが僕は、言葉を選んで言い返す。

「人道から間違いはしていない」

「だろうね。アメ公の空母を拾うのは間違いじゃない、ホント、ホント、はぁ…」

北上はそう言うと、自分の灰皿からしけもくを手にする。
そのまま彼女は火を付ける。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:11:03.82 ID:FmEABDeH0

「問題は二つ。失態しやがったアメ公。
 そしてあたし達的にマズイのはに君が見つけたってこと」

北上は息を吐く。

「上は君も容疑者に加えるはずだよ」

僕は北上に言い返す。

「納得がいかない。僕は軍人として、サラトガを救助しただけだ」

「君がただの提督だったらね。あの男の後釜でなければこうはならなかった」

僕は北上を見る。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:12:12.16 ID:FmEABDeH0

「あの男って。前任者なら死んでるだろ」

「そう。書類の上では」

「…どういうことだ?」

「奴が生きてた可能性の方が高いんだよ、中将殺しまで。
 おまえけに、混乱のせいで奴の屍体の情報はまだ上がってない。
 生きてる可能性は低いけど、死んでるとも断言できないってのが現実だよ」

北上はそう言ってから続けた。

「その上で、これはあたしの独り言だけど」

「独り言?」

「…わかんないならいいや。
 君が提督になれたあの時、沈んだのは3隻。
 大淀、明石、ビスマルク」

「…報告もそうだな」

「ただ、これには裏があるのよ。
 轟沈を目視出来たのは大淀のみ。しかも報告者はビスマルク。
 おまけにローマも消えてる」

僕は背筋に冷たさを覚えた。
言い難い、不安。知らず僕の手が首に回っていた。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:12:44.95 ID:FmEABDeH0

「どう言うことだ?」

「Missing in Actionしたやつからの報告ってこと。
 あたしは個人的に、全員生きていても不思議でないと思うね」

僕は、あの電話を思い出した。
若い女の声。

「提督?」

「なんでもない」

「とにかく、追って連絡が来るはず。黙ってりゃ大丈夫」

「本当か?」

思わず口から疑問が飛び出す。
北上はびっくりしたように目を開く。

「意外だね。そんな弱気な言葉なんて聞くと思わなかった」

「忘れろ」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:14:10.94 ID:FmEABDeH0

僕はそう言うと、北上に尋ねた。

「質問してもいいか」

「なんなりと」

「…お前は味方か?」

僕が聞くと北上は即答した。

「味方だよ。一蓮托生のね」

そう言った北上の表情は真顔だった。
疑いが口をついて出そうになった。

嘘じゃないか、お前は僕の敵だろう、と。

だけれども僕はぐっとこらえると言った。

「信じるぞ」

そう言ったとき、北上は目を閉じていた。
僕は答えない彼女を不気味に思った。
そして夜は更けていった。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:14:45.77 ID:FmEABDeH0

翌朝だった。
随分早い時間に僕宛の電話が来た。
その報告を受けて僕は耳を疑った。
確認しても先方の担当者は同じことを繰り返した。
僕はメモ紙を片手に、嫌な予感を感じ取っていた。

「……わかりました。その様に対応します」

そう、告げると僕は電話を切った。
それを見ていた北上が、あくびをかみ殺しながら質問してきた。

「で、何って?」

なんて説明しようか。
そう思い悩みながら、僕は北上に顛末を話すことにした。

「あの空母」

「サラトガね」

「どこの所属でもなかったそうだ」

ピタリと北上のあくびが止まる。
彼女は目つきを細めて質問してきた。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:15:58.62 ID:FmEABDeH0

「……それは確かかな?提督?」

「間違いない」

僕が答えると、北上は言った。

「おかしな話だね。この国で、サラトガを建造した狂人がいるって?冗談もいい加減にしようぜ、提督」

僕も疑問だった。
この国の提督がかの国の艦娘を建造できた試しがない。
そもそも海外艦は交換、ないし海域でドロップを回収するしか出来ないはずだが…

「間違いない」

北上は黙る。
僕は不安から口を開いた。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:16:51.34 ID:FmEABDeH0

「…なあ」

「なに、提督」

「前任者がやったってことはないのか。
 僕の前任者は、どこまで出来たんだ?」

自分でもバカなことを言っている自覚はあった。
だが、北上に向けた質問はつっかえもせず出てきた。
僕のその言葉に、北上は嫌そうな顔をした。

「奴が生きてて、サラトガ作ったっていいたいの?バカじゃん提督。艦娘手術ができるやつはアイツ以外にもいるよ」

「…もし技能があるなら、可能性はないか?」

そう僕が言うと北上は否定した。

「それだけはないね。人間だよ、奴だって。この国で建造できないものを作り出せるはずがない。
 改造なら例外かもしれないが、それも怪しい」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:19:17.39 ID:FmEABDeH0

そこで北上は面倒そうだったが、前任者の技術について話してくれた。

「あいつが出来たのは妖精の技の一歩手前までだよ」

「わからん、細かく説明してくれ」

「乱暴な話が建造以外全て出来たってこと」

その断言に僕は絶句した。
そんな人間がいてたまるかと同時に思った。
その驚きは北上にとっては既知のことらしく、彼女は補足した。

「別に驚くほどのことじゃないよ。わたしら、魔法で動いてるわけじゃない。
 ブラックボックスの部分が正体不明の妖精ってなだけ。
 …提督さ、組み立てられなくてもスマホを使えるし、車に乗れるでしょ?そーゆーこと。
 ただ…前のアノ阿保はその妖精の技以外は全て理解してたと私は思ってるんだ。
 もっとも、そんな人材がいなければ私たちを量産できないんだけど」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:22:30.11 ID:FmEABDeH0

北上はそこで一旦言葉を切る。
彼女は新品のタバコを取り出すと、宙に円を描きながら言った。

「奴だけの特殊技能であるってわけじゃないってことは、提督も知ってるでしょ?
 ただ…そこまで全般理解できてた奴は少ないよね?って話」

「……軍規違反だ」

「でも事実だし。それにさ、誰かができることはルール化してあるのが、この世でしょ?
 例えば艤装のプログラミングくらい、Cや論理回路を学んだ人間ならできるはずだよ。
 けどまあ、プログラミングが出来て妖精のようなオカルトに明るく、でもって軍人で医学博士でなんてゴロゴロいないよ。
 あと標準のコードが何処からでも理解しやすく、改変しやすい作りってもの想像できるけどね」

そこで北上は「後半は蛇足だったね」と付け加えタバコに火を付けた。

「…だが出来たんだろ」

「おっしゃる通り。前任者は、そのルールを作った側だったから全部出来た。
 元医者。それも大本営の開発部署にいた男。妖精の技以外なら出来て当然とも言えるよね」

「そんなのが、なんで提督に?」

「知らない。それは本人しかわかんない」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:23:14.68 ID:FmEABDeH0

「ただ」と前置きして北上は推測を話した。

「なんで奴が僻地の提督にさせられたのかと言うのは、ある程度予想がつくよ。
 結局上が警戒したからだと思う。 
 変に知識がある奴を迂闊に野放しには出来ない。
 だから提督にして、僻地に追いやり適当な任務で飼い殺してた筈」

僕は、前任者の待遇が我が事の様に聞こえた。

「このままフェードアウトか死んでくれたらラッキーだったのに、そいつは二つもやばいことをやった。
 一つは、ラバウルの事件への関与。
 もう一つは提督も知ってる通り、深海を率いての中将殺し」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:24:11.71 ID:FmEABDeH0

僕は、インドでの事件を思い出していた。
北上は煙を吐きつつ続けた。

「奴が消えた以上、中将殺しの目的もわからない。
 けどちょっとした予想は立てられるよね、事件を追うと」

「予想?」

「…自分のことなのに忘れたのかい?提督」

「僕は前任者は死んでいると聞いた」

「そうね。そもそもラバウルの事件後どこかのバカがあいつを殺そうとした。
 それで奴は死んだ、表向きには。
 けれども奴は、公式に死亡したことを逆手にとったんじゃないかな?」

「…意味がわからない」

「死んだことを利用して何人か殺したい奴がいたんでしょ。例えば中将とか」

北上はそう断定した。
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:24:49.27 ID:FmEABDeH0

「そこが理解できないんだ」

僕は北上にそうハッキリと言った。
北上は黙って僕の話を聞いてくれる様で、言いかけた言葉を引っ込めた。

「なぜ、前任者は中将を殺す必要があったんだ?
 それにラバウルの事件への関与だって、彼である必要が何処にあったんだ?」

北上は目を閉じる。
彼女は顔を下に向けたまま言う。

「憎かったから。邪魔だから。その二つのほか、中将殺しはあたしには思いつかないね」

「は?」

「ラバウルの事件に関しては奴の技能に目をつけたラバウルがいたってことでしょ」

「いや、そこがわからないんだ」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:25:33.33 ID:FmEABDeH0

北上は視線を上げる。

「どこが?単純じゃん。ラバウルが先に声をかけたんでしょ。で、邪魔だから殺した」

「ラバウルの事件はわかった。けど、中将殺しがなおさら異質だ。憎む理由が想像できない」

「殺されるだけのことを前任者は中将からされたんじゃない?」

「そんなことあるか?」

僕が言うと、北上はタバコの灰を灰皿に入れた。

「それこそ本人に聞けって話」

北上はそう面倒くさそうに言うと、結論を出した。

「提督。脱線した話を戻すよ。
 君が思う様なことはない。サラトガを奴が作れるとは思えないし、仮に作れたとしても理由がない。
 作ったなら、なぜ放置したの?そもそも言ったら、どうして自分の製作物を回収に来ないんだってね」

制作物と言われ、僕は自分の艦隊を思い出す。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/09(月) 20:28:09.89 ID:FmEABDeH0

「何のために」

「もう一回暴れるために」

僕は、言葉を探してから口に出した。

「ただの艦娘たちじゃないか」

「ただの?改造品が?」

「……改造」

「改造品は修理保証外だよ。だからみんな純正、スペックよりも安定性」

「なんて言い方だ」

「ピーキーに組むのは好みじゃないんだ。私もそうだったけどね」

北上はそう言うと、話題を変えた。

「推理ごっこはやめようか。お昼にしよう提督」

僕は北上との不満を覚えたが、彼女の指摘も事実だった。
僕らができるのは演繹だけだ。
真実など決めつける以外に作ることなど出来ない。
僕は、ここでは彼女の意見に従うことにした。

45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/09(月) 20:36:11.61 ID:FmEABDeH0
【安価】は次投稿までレスのコンマ奇数の中で抽選。
抽選方法は、13579より、安価指示レスのコンマ以下の合致したものを拾う。
複数の場合は数字の小さいものから。
偶数の場合は、コンマ以下合計に1を追加し抽選。

>>提督の身に【安価】が起きる
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/10(火) 13:16:30.33 ID:IPYcjGN40
誤解
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/20(金) 17:16:04.57 ID:cceG3KXa0

08


知らない女が訪ねてきた。
それはサラトガの事件からしばらくしてからだった。
彼女は、艦娘関連の資材会社に勤めているらしい。
担当が変わったから挨拶したいとのことだった。
名刺に海外事業部と書いてあったので、僕は世間話として話題に挙げた。

「海外にいたんですか」

「ええ、インドにいました」

「へえ、僕もいたんですよ」

「奇遇ですね。ただ二度と行きたくないですが」

女が渋い顔をした。
僕は何かあったのだろうか。
僕はその程度に思い、話題を掘り下げなかった。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 17:17:07.75 ID:cceG3KXa0

「嫌な体験は忘れるのが吉らしいですね」

「そうですね、事故だと思ってます」

そう言いつつも、僕は女との会話をいつ切り上げようかと考えていた。
同席している北上は、ほぼほぼ最低限しか会話していなかった。
長く話す意味もない。それは誰もが分かっていた。
それから二言ほど言葉の往復が終わると、女は帰ると言った。
船の都合があるらしい。
僕は彼女を見送りながら、静かな北上を不気味に思っていた。

49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 17:18:18.37 ID:cceG3KXa0

執務室に戻ると、北上はタバコをふかしていた。
彼女は眉間にしわを寄せている。

「どうかしたか?」

「いやあ、運命って物を考えてたんだよ」

「何言ってんだ」

僕が言うと、北上は僕を見た。

「同じインドって。奇妙な偶然だと思わない?」

「彼女の仕事なら当然だろ」

「提督は本当に因縁とか考えないんだね」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 17:20:46.84 ID:cceG3KXa0

なぜか嫌味を言われたことだけ僕は理解した。
ただ、原因がわからない。
僕は北上に言う。

「偶然だ、何もかも」

「そうかい」

北上はそう言って白い煙を吐いた。
いつもより、ソレは長く漂っていた気がした。

「何か気に触ることを僕はしたのか?」

その態度に苛立って僕が質問すると、北上はゆるゆると首を振る。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 17:21:28.19 ID:cceG3KXa0

「悪運ってのに、驚いただけだよ。PGG引くよりビビってる」

「PGG?」

「飛行機が落ちる確率の別名だよ」

「それと僕が…北上、お前を苛立たせてることに関係はあるのか?」

北上は僕を見る。
呆れた顔をして彼女は長々と喋った。

「この際言うけど提督はある意味大馬鹿だ。
 誤解ばかり、都合のいいのが人間。
 だけど、君は底抜けに酷い。
 あたしが不愉快になってるのは、
 さっきの女がインドで拉致された邦人の被害者の可能性が高いってことにだって。
 でもって君はソレすら気づかない。
 明らかに提督、君が出会っちゃいけない人間なのに」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 17:22:25.84 ID:cceG3KXa0

僕は北上の顔を驚いて注視する。
北上は新しいタバコに火をつけながら言った。

「君は君のあるべき世界の合理に安定してる。
 あたしは今そう実感してるよ」

「…それの何が悪い」

そう声を絞り出すと、彼女は疲れた笑みを向ける。

「そう偶然なんてない。確率だ、そうとでも言いたいんでしょ」

北上はタバコをくわえ僕に近づく。
北上は僕を見る。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 17:23:17.76 ID:cceG3KXa0

「なにもかも偶然で終われば、世界に宗教は存在しないよ。
 でもって、あたし達みたいなギャンブル中毒もいないんだよ。
 ねえ、提督?
 君は少しは運とやらを信じたほうがいい」

「馬鹿を言え。何もないさ」

「ならいいさ。大抵前兆があるんだけどね」

北上はそう言うと、離れた。

「北上」

僕は部屋に戻ろうとする、彼女を呼んだ。
北上は嫌そうに止まる。

「何さ」

「何が怖い?」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 17:23:52.73 ID:cceG3KXa0

僕がそう思ったことを言うと、北上は即答した。

「亡霊が出てくること。
 明確な争いの予感。
 あたし、割と嫌な予感って信頼度高めだと思ってるから」

「その嫌な予感を教えてくれ」

そう言うと、北上は完全に固まった。
彼女は大きく目を見開く。

「………前任者が破滅した原因と対面するかもしれないからさ」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 17:24:57.18 ID:cceG3KXa0

北上はそう言う。

「は…?」

「そもそも、奴はなぜ排除されたと思う?」

「それはラバウル殺しをしたから」

「じゃラバウルは何故、奴に殺される必要があったの?」

「それは、奴が悪意を持ったからじゃ」

「動機が弱いね」

「なんだよ」

「人が人を[ピーーー]のは、サイコパスでも普通でも…ありがちなのは自分にとって障害になると思ったときさ」

「それだけの悪意があったんだろ」

「じゃ悪意を持った前任者はラバウルを殺したとしよう。
 であれば、何故大本営は奴を裁かなかったんだろうね?」

「確証がなかったから。だからインドで殺した」

「あんな醜態をさらす殺し方を大本営がすると思うの?」

「…」

「提督は察しが悪いね」

北上は昔から僕が言われることを指摘した。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 17:25:34.08 ID:cceG3KXa0

「あたしは奴殺しの犯人は別だと見てるんだ。
 その別、つまり奴が暴走する発端となった原因ってのと…
 さっきのインド帰りの女は絶対に関連がある。
 そんな原因と会いたいかい?あたしは絶対に嫌だ」

そこまで北上は言うと、今度こそ背を向けた。

「まだ生きてたいからね。
 つーことで、提督。
 あたしは部屋でレースが待ってるから」

北上はそのまま部屋に消えていった。
僕は、北上の考えを考えていた。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/12(日) 00:53:42.92 ID:0X8V4sWT0
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