八幡「神樹ヶ峰女学園?」

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679 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/06/13(水) 17:42:30.98 ID:dHX+fxxt0
番外編「先生たちの放課後前編」


「乾杯ー!」

風蘭「っぷは〜!この1杯のために生きてる!」

樹「ちょっと。風蘭飛ばし過ぎよ」

静「すいませ〜ん。生もう1杯〜」

樹「静さんも……」

風蘭「いいじゃんか今日くらいハメ外したって」

樹「風蘭はいつも外してるじゃない」

静「生徒の前でも変な態度取り続けるのは大変なんだぞ?私なんて、たまに生徒から悲しい目で見られるしな……」

樹「それは静さんが独身アピールをし過ぎるからでしょう……」

静「甘いぞ樹。もたもたしてたらすぐに30歳だ。周りが結婚していく中、コンビニで御祝儀をまとめ買いするのは辛いんだぞ!」

風蘭「わかりますよ静さん!アタシの発明品をみた星守たちの冷たい目といったら……」

静「やっぱり風蘭はわかってくれるか!よし、今日は私の奢りだー!すいませ〜ん冷酒くださ〜い!おちょこ3つで〜」

樹「もう今日はダメね……。うん。こういう時こそ私がしっかりしなくちゃいけないわね」

風蘭「樹何ぶつぶつ言ってんだよ。この日本酒美味いぞ。ほら飲んでみろよ」

樹「き、今日は遠慮しとくわ」

風蘭「どっか具合悪いのか?」

樹「そういうわけじゃないけれど」

静「まぁまぁ、酒は無理に薦めるものではないさ。だが惜しいな。今日はこの店でもかなり上等な純米大吟醸を出してもらったのだが……」

樹「じゅ、純米大吟醸?」

静「樹がそういう気分じゃないと言うのなら、私たちだけで味わうとするか風蘭」

風蘭「そうしますか!」

樹「……わ、」

風蘭「ん〜?どうした樹〜?」

静「しっかり言葉にせんとわからんぞ〜?」

樹「わ、私も、飲みたいです……」

風蘭「あはは!そうこなくっちゃなー樹!」

静「人は酒の前では無力なもんさ。ほれ、注いでやるからやるからおちょこ持て」

樹「うう……今日は流されまいと思ってたのに」

風蘭「そう言って毎回毎回飲んでるじゃんか」

樹「うるさいわね!」

静「落ち着け樹。こぼれるぞ」

樹「す、すみません」

静「いよっし。じゃあ改めて、」

3人「カンパーイ!」
680 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/06/13(水) 17:43:43.99 ID:dHX+fxxt0
番外編「先生たちの放課後後編」


静、風蘭「そ〜れ、イツキがイッキ!イッキだイツキ!」

樹「っぷは。もう〜、そういうコールはやめてくりゃさいよ〜。恥ずかしいでしょ〜」

風蘭「へっへ〜。だいぶ酔ってるな〜イツキ〜」

静「お前もな。そういえば、比企谷の様子はどうだ」

樹「比企谷くんですか〜?彼にはほんっっとうに感謝しています!」

静「ほお、例えばどんなところにだ?」

樹「まず何よりも、星守の子たちと良好な関係を築いてくれたところです!何をするにしても、彼女たちと適切なコミュニケーションが取れないと話になりませんから」

風蘭「それに、よく働いてくれるよな。アタシの発明品の実験にもよく付き合ってもらってるし」

静「そうか……」

風蘭「あれ、静さんちょっと泣いてます〜?」

静「……タバコの煙が目に染みるんだ」

樹「今の言い方比企谷くんに似てますね」

風蘭「確かに!」

静「…………」

風蘭「あ、あれ?」

樹「もしかして、気に障っちゃいましたか?」

静「いや、確かに私はあいつとどこか似ているんだろうな。だからこそ、色々目をかけたくなるのかもしれん」

樹「その気持ち、わかる気がします。私も星守たちを見ていると、昔の自分を見ている気がして、放っておけないんです」

風蘭「ああ。つい説教を垂れたくなっちゃうよな」

静「それはつまり、私たちが大人になったという証左なのかもしれんな」

風蘭「大人、か」

樹「時が経つのは早いものね」

静「いつの日か、生徒たちとこうして酒を酌み交わせる日が来るといいな」

樹「ええ」

風蘭「よし。いっちょ比企谷や星守たちの幸せな将来を祈願して乾杯するか!」

静「うん、いいじゃないか!」

樹「仕方ないわね」

風蘭「では、比企谷と星守たちの今後ますますの成長を祈願して、乾杯!」

静、風蘭「乾杯!」
681 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2018/06/13(水) 17:47:08.24 ID:dHX+fxxt0
以上で番外編「先生たちの放課後」終了です。

久しぶりの平塚先生登場でした。

もう1つ番外編を構想中ですが、こっちは長くなりそう……。
682 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/06/21(木) 00:12:22.50 ID:bFa7/fVW0
番外編「葵の誕生日」


私は七嶋葵。神樹ヶ峰女学園に通う高校生。

授業の予習復習とか、おうちのパン屋の手伝いとか色々大変だけど、毎日とっても楽しく生活してる。

だってそれは……。

エリカ「あーおい!寄り道して帰ろっ!」

こうしてエリカがいつも私に話しかけてくれるから。

葵「ごめんエリカ。今日はバスケの自主練をしていきたいの」

エリカ「えー、どうしても?」

葵「うん。大会が近いんだ」

そう。今週末に大きな大会があるから、今日はどうしても練習しておきたかった。例えエリカの頼みでも、ここは譲れない。

エリカ「う―ん……。まあ、プレゼントはまた今度買えばいいか」

葵「何か言った?」

エリカ「ううん。なんも。てかさ葵。その自主練って1人でやるの?」

葵「うん。今日はもともと部活ない日だから」

エリカ「そっか。じゃあ私も自主練付き合っていい?」

葵「え。エリカってバスケできたっけ?」

予想外のエリカの発言に、声が少し裏返っちゃった。

エリカ「授業ではけっこう上手いほうだよ!」

葵「それは知ってるけど、そうじゃなくて」

エリカ「あー、まあ葵みたいに真剣に練習したことがあるわけじゃないかな」

葵「そうだよね。だったらどうして?」

エリカ「今日はなんかそういう気分なの!ほらそうと決まったらさっさと体育館行くよっ!」

葵「ちょ、待ってよエリカ〜」

私はなぜかノリノリのエリカに手を引っ張られながら更衣室に向かった。

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エリカ「着替えもしたし、始めちゃいますか!葵。まずは何するの?」

葵「うーん、そうだなー。じゃあボールハンドリングでもやろうかな」

エリカ「ボールハンドリング?」

葵「股の下でボールを八の字に回していくの。こんな風に」

エリカ「おお!速い!」

エリカは目を輝かせながら私のボールハンドリングに夢中だ。なんか、こういうエリカは新鮮で可愛いな。

葵「慣れればこれくらいはできるようになるよ。エリカもやってみて?」

エリカ「えーと、こんな感じ?」

もともとエリカは運動神経は悪くない。だから今もさっきの私の見様見真似である程度の形にはなっている。

葵「ゆっくりやりすぎると逆に難しいから、ある程度ぱっぱっとやるといいよ」

でもエリカならもっと上手くできるはず。

エリカ「よっ、ほっ。どうどう?」

葵「うん。イイ感じこの調子なら部活でレギュラーなれちゃうかも」

エリカ「マジ?じゃあ今から狙ってみようかな〜」

そう言ってハンドリングのスピードを上げるエリカだったけど、程なくして、ボールを置いて座り込んでしまった。

エリカ「疲れたから休憩〜。葵はまだやるの?」

葵「うん。ドリブルからのシュート練習するつもり」
683 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/06/21(木) 00:13:42.03 ID:bFa7/fVW0
番外編「葵の誕生日後編」


私が1人でシュート練習をしてしばらく経った。座り込んでいたエリカがおもむろに立ち上がって私の方へ走ってきた。

エリカ「ねえ葵。私と対決しようよ」

葵「対決って1on1のこと?」

エリカ「そ。葵が攻めで私が守り。5回勝負して1回でも私が葵からボールを取れれば私の勝ち。どう?」

エリカがどうしてこんなことを言い出してきたのかはわからないけど、少し面白そうな勝負かも。

いくら5回全部勝たなきゃいけないにしても、相手がエリカなら負けることはないはず。

葵「いいよ。やろっか」

エリカ「さっすが葵。そうこなくっちゃね!」

やる気満々のエリカは私とゴールの間に立ちふさがって両手を大きく広げる。

エリカ「私がボールを取ったら葵に1つお願い聞いてもらうからね」

葵「何それ。ちょっと怖いんだけど」

エリカ「ダメ!もう決定事項だから!ほら早く攻めてきてよ!」

葵「もう……」

こうやっていつも私はエリカのペースに乗せられていく。慌ただしくて、突飛な提案に戸惑うことも多いけど、いつも私を、周りを楽しませてくれる。

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5回のうち4回の勝負が終わり、結果は私の圧勝。そりゃ、バスケ部員のドリブルを素人が止める勝負なんだからこうなるのは当たり前だよね。

エリカ「まだもう1回チャンスはある……」

でもエリカは諦めていない。こういう粘り強さもエリカの特徴だと思う。

エリカ「さあラスト!こい!」

葵「うん!」

私がドリブルを始めた時だ。

エリカ「あ」

エリカが何やら私の後ろの方を指さした。

葵「え?」

それにつられて私も後ろを振り向いてみるが、特に何かが変わった様子はない。

エリカ「隙あり!」

次の瞬間、エリカが私の手からボールを奪っていった。エリカはもの凄いドヤ顔を私に向けてくる。

エリカ「へへ。『葵を騙すぞ作戦』が見事的中ー!」

葵「もう。ずるいよ」

エリカ「反則じゃないもん。引っかかる葵が悪いんだよ」

葵「それはそうだけど……」

確かにエリカの言うことも一理ある。もしかしたら次の大会でもこういう予想外のことが起こることがあるかもしれない。エリカはそういうことを見越してこのプレーを、ってそれは考え過ぎかな。

エリカ「じゃあ葵。私が勝ったからお願い聞いてよね」

葵「変なこと言わないでよ……」

エリカ「そ、そんな身構えないでよ!私のお願いは、大会が終わったら一番最初に私と遊んでほしいってことだから」

葵「……それだけ?」

エリカ「うん。葵の誕生日をちゃんとお祝いしたいの!本当は今日したかったけど、自主練するっていうなら仕方ないし。なら大会が終わってから真っ先に私にお祝いさせてほしいなーって」

エリカは顔を赤くしつつ、若干あたふたしながら早口で喋っている。そっか。これあ言いたくてエリカは私の自主練に付き合ってくれたんだ。

葵「うん。ありがとうエリカ。ちゃんと空けておくね」

エリカ「ホント!?約束だからね!」

こんなに私のことを思ってくれる親友がいて、私は幸せ者だっていうことを改めて実感する。願わくば、エリカとずっとこうして仲良くやっていきたいなあ。
684 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2018/06/21(木) 00:17:43.50 ID:bFa7/fVW0
以上で番外編「葵の誕生日」終了です。葵、誕生日おめでとう!

パン作りはゲームの方でやられてしまったので、違うネタを考えていたら日付を超えてしまいました。葵、ごめんなさい……。

それとリアルの都合で、8月中旬までまともに更新できなくなると思います。

書きたいことはあるけど、時間がない。長編番外編もやりたいのに……。
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 17:26:57.92 ID:oBqKreNcO
おつ
一部キャラ除いて部活はあまりフィーチャーされないから新鮮でよいぞ
686 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/07/02(月) 00:38:22.33 ID:XkuY/yUH0
番外編「お揃いの水着」前編


7月になった。千葉を含む関東は早々と梅雨明けを果たし、夏空SUN!SUN!SEVEN!状態。これが9月まで毎日続くと思うと心が沈む。エンドレスエイトのキョンはこんな気持ちだったのだろうか。

例年より早い夏に落ち込む人がいれば、逆もまた然り。気温とテンションが比例している奴もたくさん見受けられる。

例えばここ、神樹ヶ峰女学園星守クラスとか。

みき「先生!梅雨が明けましたね!夏ですよ!」

朝のHRで開口一番、星月が声を張り上げた。

八幡「ああ、ソウデスネ」

ミシェル「先生は夏嫌いなの?」

八幡「嫌いに決まってるだろ。暑くて、蒸し暑くて、死ぬほど暑い夏なんて」

うらら「全部暑いことが理由じゃない」

八幡「まだあるぞ。『インスタ映え』とか言いながらナイトプール行くパリピとか、人でごった返す花火大会だとか、汗臭くてむさ苦しい朝の満員電車とか」

楓「先生らしい偏った理由ですわ……」

八幡「だから俺の前で夏の話をするな。もし夏の話をしたやつは、パリピ認定をしてもれなく今期の全成績を赤点にする」

望「職権乱用し過ぎじゃない!?」

八幡「まあ、赤点は冗談としても、それくらい俺は夏が嫌いだ。あ、でも夏休みは好きだ。大義名分のもとでじっくりたっぷり休めるからな」

桜「その意見には賛成じゃ。わしも家でゆっくり昼寝をしたい」

明日葉「先生。桜。言いにくいのだが、神樹ヶ峰女学園の夏は色々と忙しいんだぞ」

八幡「え、なんでですか。アニメは去年やりましたよね?またやるんですか?」

花音「突然メタネタを入れてきたわねこいつ……」

仕方ないだろ。まさかあれから1年経ったことが信じられないんだから。てか、1年?あれ、俺はもしかしたらマジでエンドレスエイトしてる?それもこれも、杉田智和が先生役をやったことが原因に違いない。

ゆり「毎年夏にはイロウスがリゾート地に現れるんです。私たちはそれを討伐しないといけないですから」

八幡「それ、俺も行かなきゃいけないやつ?」

昴「そこは先生としては行かなきゃいけないんじゃないですか?」

蓮華「それに、私たちの水着姿も見れるかもしれないわよ?」

八幡「……水着?」

ミサキ「やはりそこに反応するのですね」

ミサキをはじめに、何人もの星守がごみを見るような目つきで俺を見てくる。

八幡「待て。今のは誘導尋問だろ。糾弾されるべきは俺ではなくて芹沢さんだ」

遥香「毎回毎回、責任転嫁の素早さには感心しちゃいます……」

成海の発言を受け、今度は憐れみの目線が俺を包む。

ただでさえ暑くて気分が晴れないのに、なんでこんなに雑に扱われなきゃならないんだ。これってセクハラとかモラハラとかにならないの?

樹「ちょっといいかしら」

俺がこれまで受けてきた数々のハラスメントについて考えていたところに、八雲先生と御剣先生がやって来た。

ひなた「どうしたんですかー?」

風蘭「毎年、この時期にリソート地でみんなに配る水着なんだが、それを私たちで用意することができなかった」

御剣先生の知らせに、教室中からブーイングの嵐が起こる。

八幡「水着ってなんですか?」

風蘭「ああ、そうか。あんたは知らなかったんだな。毎年、夏にはリゾート地でイロウスを討伐したご褒美に我々教師陣から水着を提供していたんだ」

はは。さっき芹沢さんが言ってた水着ってこれのことか。

サドネ「サドネ、水着着たかった」

詩穂「せっかくみんなでお揃いの水着着られるチャンスだったのに」

あんこ「ブログのネタに困るわね……」
687 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/07/02(月) 00:38:56.69 ID:XkuY/yUH0
番外編「お揃いの水着」後編


それぞれが思い思いに感想を呟いている。だが、俺はそもそもの水着がどういうものなのかも知らないので、八雲先生に聞いてみた。

八幡「ちなみに、今まではどんな水着があったんですか?」

樹「これまで作った水着は、青と白のスクール水着、セーラー水着、個人の水着の焼き直し、かしら」

八幡「色モノだらけじゃないですか。なんですかそのラインナップ」

樹「費用を最小限に抑えた結果よ……」

八雲先生は苦々しい表情で唇をかみしめる。そんな変な水着しか作れないんだったら最初からやらなきゃいいのに。

心美「じゃ、じゃあ今年は水着はナシ、ということですか?」

風蘭「いや、実は発注はしてあるんだ」

くるみ「発注してるのに用意できないんですか?」

樹「費用が足りなくてね、発注先にお金を支払えないのよ……」

八幡+19人「…………」

予想外の理由に、俺を含め星守たちも開いた口が塞がらない。こんなしょうもない理由、聞いたことないぞ。

風蘭「そこで、あんたにお願いがある」

唐突に御剣先生が俺に向き直ってきた。待て。この流れはヤバい。

八幡「……お金なんて出せませんよ」

風蘭「そこをなんとか!な、かわいい生徒のためだ!一肌脱いで、男らしいところを見せてくれよ!」

御剣先生は無茶苦茶な論理で俺に詰め寄ってくる。

樹「ちょっと風蘭、それは流石にやりすぎ、」

風蘭「もとはと言えば、イツキが値段の桁1つ見間違えたのが悪いんだろ?イツキが頼めよ」

樹「そういう風蘭だって確認したじゃない。ここはお互い様よ」

八幡「あの、ケンカなら他所でやってくれます?」

俺がツッコむと、2人は俺の手をがっと掴んで懇願してきた。

樹「お願い比企谷くん!星守クラスの担任として協力して!」

風蘭「このお礼はいつか必ず精神的に!」

おい、御剣先生。そのセリフを現実世界で言うなよ。なんか嘘っぱちに聞こえるだろ。

ただ、大の大人がこうして俺にすがってきている状況はんあんとも情けないものである。ここまでされると、俺の中にも情というものが湧いてくるらしい。俺は2人に質問した。

八幡「はあ……。聞くだけ聞きますけど、いくら必要なんですか?」

樹、風蘭「比企谷(くん)の水着合わせて20人分、占めて39200円!」

八幡「却下」

てか俺のもあるのかよ。こいつらとお揃いの水着とか絶対着たくない。
688 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2018/07/02(月) 00:43:17.50 ID:XkuY/yUH0
以上で番外編「お揃いの水着」終了です。

今回のイベントでビキニ衣装が星のかけら購入特典になっているところに着想を得ました。

全員分手に入れようと思うと39200円するんですよね。高い……。

そして、またしばらく更新できません。次回の更新まで気長にお待ちください。
689 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/07/21(土) 23:26:38.80 ID:hmUNdbMd0
最終章-26


八幡「だってそうだろ。星守は神樹に選ばれることでしか存在しない……」

ニセ理事長「その認識が間違っている。そもそも何故神樹に選ばれた者が『星守』と崇められ、禁樹が生み出したものが『イロウス』として蔑まれるのか。その理由を考えたことがあるか?」

八幡「理由……?」

そんなこと考えたことはなかった。星守がイロウスを倒す。これはヒーローが悪人を倒すことと同じように当然なことなんじゃないのか。

ニセ理事長「お前たち人間はこう考える。『人間を襲うイロウスは悪!人間を守る星守は善!』と。だが、それこそ驕りであることを人間は自覚していない」

ニセ理事長「人間は他者に悪意を持つと、その他者を忌み嫌い、最後には排除する。そんな悪意の結晶のイロウスが人間を襲うことは必然ではないか。悪意を持つ人間を、この世界から排除するために」

八幡「…………」

ニセ理事長「つまり、イロウスこそが人間の本来の心の姿であり、それに対抗する星守は偽善者に過ぎないのだ。現に、ここにいる3人の悪意を結晶化したら、見事な黒になった。あれは最早『色薄』とは呼べないな」

薄々思っていたが、星月たちが戦っているあの黒い人形のようなものは、やはり自分自身の悪意だったか。あれほどくっきりと姿まで似ているとなると、3人ともが心にかなりの闇を抱えていたってことになる。

八幡「そしたら、今まであいつらがやってきたことは全部無駄だったってことか……?」

ニセ理事長「そうだ」

俺の震えた声とは逆に、自信に満ちた声でニセ理事長は言い切った。

みき「そんなことない!」

俺の前方で剣を振るう星月がニセ理事長に向かって反論した。

みき「私は、今までも、これからも、イロウスと戦い続ける!」

ニセ理事長「殊勝なことよ。だが、いつまでそんな態度を取り続けられるかな?」

ニセ理事長が指をぱちんと鳴らすと、黒い人形たちが即座にニセ理事長の前に集まった。

それと対面するように、星月たちも俺の前に集まり武器を構える。

対する黒い人形たちは、なぜか武器を下ろした。

みき(黒)「星月みき。やっと話せた。もう1人の私」

みき「な、何言ってるの!」

みき(黒)「言葉通りよ。私は、あなたから生まれたもう1人のあなた」

みき「もう1人の、私……」

みき(黒)「わからない、なんて言わせないよ。あなたは私がどんな存在か知ってるはず。だってあなたの『悪感情』が私なんだもん」

八幡「悪感情……?」

俺のつぶやきに対し、星月の形をした黒い人形は顔を俺の方に向けた。

みき(黒)「そうだよ先生。私は星月みきの悪感情の結晶なの」

みき「……!」

星月は一瞬大きく目を見開いたが、すぐに目線を下に落としてしまう。

遥香「なら、そっちにいる私と昴も……」

みき(黒)「うん。こっちの昴ちゃんと遥香ちゃんも、2人の悪感情の結晶。それにしても、みんなたっぷり悪感情を持ってたんだね。こんなにくっきりと姿かたちが具現化されるなんて思わなかったよ」

遥香(黒)「それくらい、私にも色々思うところがあるのよ」

昴「それ以上喋るな!!」

業を煮やした若葉が威嚇するようにハンマーを振り上げる。
690 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/07/21(土) 23:28:13.95 ID:hmUNdbMd0
最終章-27


昴(黒)「やめなよもう1人のアタシ。自分の気持ちくらい、薄々わかってるでしょ。アタシたちが本当にあなたたちの悪感情から生まれた存在だってことが」

激高する若葉とは逆に、黒い若葉は冷静にこちらをたしなめる。

みき、遥香、昴「…………」

そして本物の3人は完全に黙ってしまった。その隙に付け込むように、向こうの3人は口撃を仕掛けてきた。

みき(黒)「ねえ私。私ってさ、周りに合わせずに、1人で突き進んじゃうことがあるよね。先生、遥香ちゃん、昴ちゃんと4人で新種のイロウスを倒した時なんてさ、もしかしたら私のせいでみんな死んじゃってたかもしれないんだよ?自覚ある?」

みき「あ、あの時は、先生にいいところを見せようと……」

みき(黒)「うん。それが自分勝手だって言ってるの。相手は新種のイロウスでしょ?なおさら、危険なことはできなかったはずだけどなあ」

みき「う……」

遥香「あなた、よくもみきを」

星月に代わって成海が反撃を試みるが、それを嘲笑いながら、黒い成海が口を開いた。

遥香(黒)「あら。私だって人のことは言えないはずよ。寂しがり屋さん?」

遥香「別に私は、寂しいなんて……」

遥香(黒)「思ってるわよね?昔のような孤独を恐れて、自ら他人に奉仕することで繋がりを求めてる。それのどこが寂しがりじゃないと言うの?」

遥香「そ、それは……」

昴(黒)「うーん、じゃあこの流れで言っちゃおうかな。ねえアタシ。アタシは周囲にうんざりすることはない?っていうか絶対あるよね」

成海が何も言い返せないのを見て、黒い若葉までもが追及を開始する。

昴「え……そ、そりゃ、ないこともないけど」

昴(黒)「ううん。もっともっと嫌だなあって思ってるはず。だってアタシはみんなが思うような『王子様』じゃないもんね」

昴「……っ」

他の2人のように、なすすべもなく若葉も押し黙ってしまう。

ただ、当然と言えば、当然の結果だ。向こうは自分の「悪意」が結晶化した姿。自分の本心なんて筒抜けに決まってる。そんな奴相手に言い訳なんか通じるわけがない。

ニセ理事長「ふふふ。さあ、どうだ比企谷八幡。お前が信頼を寄せる星守たちも、一皮むけば悪意の塊だ。いや、むしろ一般人よりも多いかもしれないな。こんな奴らをお前は信用できるのか?」

ここぞとばかりにニセ理事長が俺の心に揺さぶるをかけてくる。

しかし不思議と俺は動じなかった。それどころか、思わず笑みがこぼれてしまうほど落ち着いていた。

ニセ理事長「何笑っている」

八幡「安心したから、かな」

語気を強めるニセ理事長と対照的に、俺は至って普通な返答をする。そんな俺の様子に、星月たちでさえも困惑した表情を見せる。

みき「安心ってどういうことですか?」

八幡「文字通りの意味だよ。お前らが、心の中では色々葛藤を抱えてたことが知れて安心したんだ」

昴「アタシたちの葛藤がわかって、安心?」

遥香「先生って、やっぱり変な人なんですね」

八幡「おい待て。言動が変なことはある程度自覚してるが、今それを言うなよ」

みき「じゃあ、真剣にそう思ってるってことですか?」

星月は何が何だかわからない、といった顔で俺に質問してきた。

まあ、自分の本心相手に何も言い返せないこいつらに俺の考えを理解しろってほうが無理か。
691 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2018/07/21(土) 23:29:57.76 ID:hmUNdbMd0
今回の更新は以上です。

スレが落ちないように、繋ぎとして少しだけ更新しました。

久しぶりの更新となりましたが、また数週間更新できなくなります。すみません。
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 21:12:57.83 ID:zUVolnMv0
乙!
八幡の悪意が出て来たら凄そうだな
693 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/08/13(月) 17:08:16.10 ID:uSIXM2XH0
最終章-28


ニセ理事長「何を笑っている比企谷八幡。次はお前の番だ」

ニセ理事長がそう言うと、新たな黒い実が枝に現れた。それはたちまち大きくなり、ついにひび割れて、中から1人の人のようなものが出てきた。

出てきた人は、細身の体型で、頭から黒いアホ毛が出ている。少し汚れたスーツからはけだるそうな雰囲気を感じるが、小町からもらったネクタイピンがきらりと光っている。まるで、鏡を見ているような錯覚に陥る。

八幡「こいつは……俺か」

流石にこれは見間違えない。他の3人と違い、まったくもって俺と瓜二つの姿をしてるんだから。違うところ言えば。

みき「あっちの先生。目が腐ってない」

昴「うんなんか、あっちの方が爽やかな感じがする」

遥香「目だけでずいぶん印象って変わるのね」

なぜかニセモノの俺の方が綺麗な目をしていた。おかしいだろ。本物よりもかっこいいって。目が腐ってない俺なんて、ただの完璧イケメンじゃねえか。こんな俺だったら、今頃クラスの人気者だな。

なんて冗談半分で考えてはみるものの、冷静に考えれば俺のニセモノだけ明らかに俺に似すぎている。他の3人のニセモノは真っ黒なのに、俺のニセモノだけ色も服装も含め、完璧に俺である。

八幡「お前は俺の悪意の結晶、なのか」

ニセ八幡「ああ。見ればわかるだろ」

八幡「まあな」

俺のニセモノは不敵な笑みを浮かべている。まるで本物の俺を見下しているかのように。

ニセ八幡「ま、俺が出てきたとこで、星月たちみたいに肉体的な戦いができるわけはないし、何しようか」

八幡「別に何もしなくていいぞ。なんなら、そのまま禁樹へお帰りになってくれ」

ニセ八幡「いくら家を愛してる俺だからって、仕事を振られちゃやらないわけにはいかないだろ」

八幡「なんだよ。お前の仕事って」

ニセ八幡「決まってるだろ。お前の心を折ることだよ。もう1人の俺」

もう1人の俺って言葉。遊戯王っぽくて、ドキッとするのは俺だけでしょうか。いや、ニセモノの俺も意識したに違いない。だって少し満足そうだもん。

一方の星月たちは俺のニセモノの発言を受け、すぐさま武器を構える。

ニセ八幡「あー、別にお前らに危害を加えるつもりはない。というか、さっきも言ったろ。俺は非暴力不服従主義なんだ」

八幡「その言葉、ガンジーが聞いて泣くぞ」

ニセ八幡「死んでなお言葉が残ってるなら本望だろ、多分。知らんけど」

うええ。なんか自分と話してると変な感じになってくるな。

みき「先生が2人いると、めんどくささが倍増するね……」

昴、遥香「確かに……」

八幡「うっせえ」

俺も思ってたけど、それを口にするな。悲しくなるだろ。
694 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/08/13(月) 17:09:12.53 ID:uSIXM2XH0
最終章-29


ニセ八幡「そろそろ本題に入るぞ。まどろっこしいのは嫌いなんでね」

ニセモノはその目を凛と輝かせ、いやに白い歯を見せながら語り始めた。

ニセ八幡「もう1人の俺。お前もこちら側へ来い。俺や禁樹とともに世界を人ごと変えよう」

八幡「そのセリフ、雪ノ下からパクったな」

ニセ八幡「まあな。それよりどうだ。今ならお前の力で世界を支配できる。悪くはないだろ?いや、むしろ願ってもないチャンスだ」

八幡「お前俺の心だろ。なら、俺がそういうことに興味ない人間だってことが、」

ニセ八幡「いや、ある。俺はお前の心だぞ。俺が心にもないことを言うと思うか?」

八幡「……」

果たしてこの言い合いは分が悪い。なんたってあっちは俺の「真」の心を体現しているんだから。

ニセ八幡「そこの3人といたって、また裏切られるのが関の山だ。そうだろ?」

八幡「まあ、そうかもしれないな」

みき「え、なんで今反論しないんですか?」

八幡「あいつを目の前にして、嘘は通じないだろ」

遥香「では、まだ私たちのこと……」

八幡「ああ。完璧には信じられない」

昴「そんな……」

八幡「こればっかりは性質なんだ。今更どうしようもない」

遥香「なんでそんな冷静なんですか?」

八幡「逆に足掻いても仕方なくない?」

みき「今はそんなことを言ってる場合じゃないですよ!」

八幡「落ち着けって。それに、俺はあいつの存在を否定しているわけじゃない。あいつも含め、俺は俺だ」

ニセ八幡「そう。だから比企谷八幡はお前らのことを信じちゃいないんだ。お前らは、俺の対極にいるような人間なんだから、なおさらな」

みき「対極って、」

ニセ八幡「それは聞かなくてもわかるだろ。俺とお前らは住む世界が1ミリたりともかぶってない。別世界の人間なんだよ」

遥香「先生。本気でそう思ってるんですか?」

八幡「否定はできん……」

だって普通に考えればそうでしょ。ホモサピエンスだってことくらいしかこいつらとの共通点を見出せないどうも俺です。

昴「そうだとしても、先生はこうして傍にいてくれる!」

ニセ八幡「まあ、それが仕事だからな。契約上、理事長が首を縦に振らなきゃ俺は元の学校には戻れないんだ。この奴隷的状況から抜け出すためには、お前らの意思を尊重して、それを支援するよう動くのが一番手っ取り早いだろ」

みき「そんな……でもさっきは私たちと一緒に行きたいって言ったじゃないですか!」

ニセ八幡「それこそ空気を読んだんだよ。お前らの士気を下げるわけにもいかなかったからな」

遥香「先生。これも本当ですか?」

八幡「嘘じゃありません……」

なんで成海だけは俺を睨みつけてくるんだよ。喋ってるのはあっちだろ?あっち睨めよ。

ニセ八幡「つまりだ、俺はお前らのことなんてちっとも考えてないわけだ。たまたま利害が一致したから近くにいただけ。わかった?」

ニセモノの俺は、相変わらず目をキラキラさせながら俺たちの心にナイフを次々に刺してくる。俺はともかく、他の3人はかなりダメージを負っている。そんな俺たちを見て、ニセ理事長もニヤニヤしている。

この圧倒的状況を打開するためにはどうすればいいのか。1つだけ手があるが、それはなるべく使いたくない。なぜなら、俺のメンタルが崩壊する危険性があるからだ。

しかし、そんな悠長なことを言っている場合ではない、か……
695 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2018/08/13(月) 17:10:23.62 ID:uSIXM2XH0
今回の更新は以上です。

お久しぶりです。これからまたぼちぼち更新していくつもりですので、またよろしくお願いします。
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/13(月) 17:30:11.07 ID:1ZPCxnfxO
乙!
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 15:16:32.71 ID:6APyYA6pO
なるほど、八幡の場合は本人は堪えないけど他にダメージが行くのか。面白い
698 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/08/20(月) 17:59:55.57 ID:wlIVTH580
最終章-30


ニセ八幡「なあもう一人の俺。変なことを考えてないか?」

俺の分身ともなれば、思考回路まで筒抜けらしい。当然ちゃ当然だが。

ニセ八幡「この状況を打開するなんて不可能だぞ。なんたって、俺だけじゃなく、星月にも成海にも若葉にも問題はあるんだからな」

追い打ちをかけるようにニセモノの俺は言葉を続ける。

するとしばらく黙っていた星月たちの黒いニセモノまで口を開き始めた。いや、本当に口があるかどうかわからないけど、表現上、ね?

みき(黒)「うん。こっちの先生の言う通り。私は自分のしたいことばっかりして、周りに迷惑をかけてばっかりなダメな存在。先生や他の星守の子たちに助けてもらわないとなーんにもできない無力な人。2人はどう?」

遥香(黒)「私はさっき言ったように、他人に奉仕することでしか自分を保てない存在。特に私より弱い人や、みきのような恩人に奉仕するのがとっても好きなの。だって自分がよりすごい人に思えるじゃない?自分自身には、価値なんてないもの」

昴(黒)「アタシはどっちかというと周りから過大評価されてるからなあ。ただスポーツができてショートカットなだけでカッコいいキャラになってさ。本当は女の子らしい言動や服を着たいのに、周囲の期待に応えるために我慢して、遠慮してる」

この流れはまずい。影のような自分の悪感情にこんな風に言われたら、誰だって心に傷を負う。ましてや、星月たちだ。ここまで実態を保った悪感情が出てくるほど心に闇を抱えていたのに、表面的にはそれを一切出していない。ということは、こういう思いを知られたくなくて、隠そうと努力してきたといえる。

それなのに、この非常事態の中において、他人に、しかも自分とかなり仲のいい人物の前で自らの心情を「暴露」されてしまった。

これでショックを受けるな、と言うほうが酷ってもんだ。

遥香(黒)「私たち、お互い醜い感情を持っていたのね」

昴(黒)「うん。それもかなり酷いレベルのをね」

みき(黒)「こんな私たちが、星守なんてやっていけるわけないよ。そう思わない、私?」

そしてそのような心の状態を、ニセモノたちが気づかないはずがない。ここぞとばかりに精神攻撃を畳みかけてくる。

対するこっち側の3人は顔を曇らせ、下を向いてしまっている。もちろんお互いの顔なんて見向きもしない。まあ見られないし、見せたくもないんだろう。

ただ、その体勢からにじみ出る雰囲気が、彼女たちが限界にあることを知らせてくる。

これ以上は、ダメだ。

みき「わ、私は、星守に……向いて……」

八幡「ああ。少なくともお前らは星守には向いてねえよ」

星月の言葉に割り込むように俺は言い放った。
699 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/08/20(月) 18:00:51.44 ID:wlIVTH580
最終章-31


みき(黒)「先生。どうして私たちはダメなんですか?」

八幡「今の言葉聞いてりゃ誰だってそう思うだろ。こんなことだけ考えてるやつに、小町のことを守ってもらおうなんて思わん」

昴(黒)「あくまで妹さん基準で物を考えるんですね」

八幡「もちろんだ。小町は世界で一番かわいい妹だしな。そんな妹を守るのが兄としての務めだろ。なあそっちの俺」

ニセ八幡「ああ。千葉の兄は妹を全力で守らなきゃいけない、という不文律まであるくらいだ」

遥香(黒)「こんなにこっち側の自分と話が合うなんて、先生って変な人ですね」

八幡、ニセ八幡「まあな」

やべ。ハモっちゃったよ。別に俺はこいつらと仲良くしようとしてるわけじゃない。だからそんな風に疑惑のまなざしをしないでくれ俺の近くの3人。

八幡「まあ、とにかくだ。そういうことだから俺もお前らが星守をやるのは無理だろ。てか、そんな心が清らかな人間なんて、この世にいない」

地球人の誰もが筋斗雲に乗れなかったようにな。てか、乗れないのになんで亀仙人は筋斗雲持ってたんだろうか。宝の持ち腐れにも程がある。そこらへんの設定ってどうなってたんだろうか。まあ俺はドラゴンボールそこまで詳しくないから知らんけど。

みき(黒)「じゃあ私たちが星守をやることに先生は反対なんですね?」

八幡「黒いお前らはな。けど、こいつらにはやってもらいたい。むしろここまで天職な奴らも珍しいと思ってるくらいだ」

みき、遥香、昴「へっ!?」

3人とも拍子抜けした声を上げた。まさかここで俺が持ち上げるなんて思わなかったんだろう。まあ、この反応も狙ってたんだが。

昴(黒)「さっきはダメだって言ったくせに」

対して、黒い方からは不満げな声が漏れ出てくる。そろそろ一言物申すときかな。

八幡「お前らのような考え方「だけ」だとダメだって言ったんだ。お前らは悪感情の塊だからわからんかもしれんが、こいつらは他にもいろんなことを思って日々の生活を送ってるんだよ」

みき(黒)「……先生は私たちの何を知ってるって言うんですか」

八幡「俺はお前らのことをあんまり知らねえよ。短い付き合いだからな。それよりも傍の奴らに聞いてみた方がいいだろ」

俺はそう言うと、未だ状況が呑み込めていない3人を指さした。

八幡「まずは星月について思ってることを言ってもらうぞ。はい成海」

遥香「え、わ、私はみきの明るくて活発なところをすごく尊敬しています。それで私は救われたから」

八幡「次。若葉」

昴「うーんと、アタシは何度失敗しても諦めないところがみきのすごいと思うよ。特訓だってできるまでやめないし、料理も……ね……」

遥香「なんで言い淀むの昴。みきの料理は本当に美味しいじゃない」

昴「え、うん、そうだね……」

八幡「ほらな星月。お前は目の前にいる黒い心だけの存在じゃない。こうして仲間から評価されてる部分もあるんだ」

みき「え、その、ありがとうございます……」

星月はぼしょぼしょとお礼の言葉を述べる。その頬は嬉しさか羞恥かで赤く染まっている。

みき「でも、遥香ちゃんや昴ちゃんにもいっぱいいいところはあるよ!遥香ちゃんはいつも冷静に私たちを助けてくれるし、昴ちゃんは運動神経がいいからどんな状況にも対応できちゃうし」

遥香「私はたまに女の子らしくかわいい昴を見るのも好きよ?」

昴「う……そういう遥香も、凛としたところあるじゃん。アタシにはできないよ」

みき「うんうん。遥香ちゃん、健康とか生活に関してはすごくしっかりしてるよね」

遥香「そんなことないわよ……」

いつの間にか俺が蚊帳の外に置かれてしまった。むしろ蚊帳の中にいるほうが珍しいまである。だが今は俺のハブられ具合についてはどうでもいい。話を進めなければ。
700 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/08/20(月) 18:01:35.66 ID:wlIVTH580
最終章-32


八幡「ま、これでわかっただろ。俺がお前らを星守に推す理由が」

3人はお互いの顔を見合わせるが、首をひねりあってから、なぜか俺の方に向き直った。

みき「イマイチわからないんですけど……?」

八幡「なんでだよ。今の会話でわかるだろ。なあ、成海、若葉」

しかし2人ともわからないといった表情をするばかりだ。

遥香「先生、適当なこと言ってごまかそうとしているわけじゃないですよね?」

八幡「当たり前だろ。ちゃんと理由はある。俺が確証もなく動くわけないだろ」

昴「じゃあ教えてください!」

なぜかこの3人だけじゃなく、あちら側の陣営も俺の話に耳を傾けている。

八幡「つまりだ。お前らはこうして仲間の長所をきちんと理解しているし、それを尊敬しあえているだろ。上辺じゃなく、心の底からな」

俺の指摘の甲斐もなく、3人とも腑に落ちない顔をするばかりだ。

みき「それって、当たり前のことですよね?」

八幡「それを当たり前だと思えているところがすごいんだよ」

昴「先生は思わないんですか?」

八幡「俺はそこまでは思わん。すげえな、とかは思う。けど、」

遥香「けど、なんですか?」

八幡「最近は、お前ら相手には、こういうことを考えない、こともない……」

……………………

あぁぁぁぁあ。死にたい死にたい!俺何言っちゃってんのぉぉおおぉ。

言い方も気持ち悪いし、言ってる内容もヤバい。陰キャ丸出しだ。これは材木座のこと笑えない……。むしろ馬鹿にされるまである。

それに、ほら!3人とも目を丸くしちゃってるよ!もうあれだ。俺の教師生活も終わりだ。この発言を一生ネタに揺すられ続けるに違いない。「あの時の発言、ばらされたくなかったら金持ってこい」なんて言われて、俺は金をむしり取られていくんだ。

みき「あの、先生?」

星月は頭を抱えてうずくまる俺の肩に手を置いてきた。

みき「私はすごく嬉しいですよ。先生がそういう風に私たちを見てくれてるってわかって!」

遥香「ええ。別に恥ずかしがらなくてもいいのに」

昴「これ、あんこ先輩がよく言ってる「ツンデレ」ってやつ?」

成海も若葉も若干ニヤつきながら星月に続く。俺はツンデレなんかじゃないぞ。だって俺は金髪でもなければツインテールでもない。

そういえば、どうしてツンデレキャラって金髪ツインテがデフォなんだろうか。三千院ナギしかり、澤村・スペンサー・英梨々しかり、金色の闇しかり。ああ、煌上もそうだな。まあ煌上にはデレ要素がないからツンとしか言えないが。触ったら痛そう。というか蹴られそう。

みき「先生。変なこと考えてないで、戻ってきてください」

星月によって、俺は思考の迷宮から強制的に脱出させられてしまった。

八幡「なんだよ……」

みき「この状況、どうすればいいんですか?」
701 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2018/08/20(月) 18:05:42.56 ID:wlIVTH580
今回の更新は以上です。

書いていない期間が長くて、勘が鈍ってます。ごめんなさい。
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 18:11:17.20 ID:cP/MV6WgO
乙!
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 22:02:46.50 ID:zPU3EdER0
おつ
704 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/09/02(日) 18:01:28.29 ID:6jFyZVqt0
最終章-33


八幡「どうするもなにも、俺は知らん」

みき「ええ……」

八幡「ええじゃねえ。というか、何ニヤニヤしてんだよお前。ちょっと気持ち悪いぞ」

みき「ニ、ニヤニヤなんてしてません!」

昴「いやいや。みきはさっきからずっとニヤニヤしてるよ?」

遥香「そういう昴もね」

八幡「成海もだよ……」

揃いも揃ってなんなのこいつら。この状況でニヤつけるとか、何考えてるのかわからん。怖すぎ。

みき「だって、先生があんなこと言うからですよ!」

八幡「あんなことってなんだよ」

みき「星守が、私たちの天職だって言ってくれて」

八幡「は?」

見れば星月だけでなく、若葉や成海まで耳まで真っ赤にしてニヤついている。ちょっとこの子たちチョロ過ぎじゃないですかね。将来が心配になるレベル。

八幡「いいか。お雨らは俺の言葉を取り違えている。別に俺は無条件にお前らを賛美しているわけじゃない」

昴「じゃあどういうことですか」

八幡「俺がお前らを推したのは、お前らの中に大きな善意と大きな悪意が共存しているからだ」

遥香「善意はいいとして、悪意があってもいいんですか?」

イマイチわかってない星月と若葉を尻目に、成海は疑問をぶつけてくる。

八幡「確かに俺はさっきお前らの長所を評価した。だが、同時に悪意の方もそれなりに大切だと思ってる」

昴「悪意が大切?」

ここで若葉も話に加わってきた。

八幡「そりゃそうだろ。善意100%のやつとか、逆に怖いわ。マザーテレサやナイチンゲールとかの伝記読んだことあるだろ?俺はあれを読んで、彼女たちの善意にぶっちゃけ引いたな」

遥香「それは先生だけでは……?」

八幡「いや、俺の親父も言ってたぞ。『こういう伝記に載るような奴らは精神がいかれてる』ってな」

昴「先生のお父さんも相当ですね……。それでも悪意はない方がよくないですか?」

八幡「バカ。悪意が少ないやつには、悪意だらけの奴の気持ちに寄り添えるわけないだろ」

これは真理だ。そんな奴相手でも『理解』は可能だ。そいつが何を考え、何をしたいのか把握することはできる。

だが、絶対に寄り添うことはできない。いじめられた経験がないやつが、いじめられたやつの苦しみに共感できないように。意識せずになんでもできるやつが、努力しても上手くいかないやつに上手く教えられないように。

持つ者が持たざる者に慈悲の心をもってこれを与える、なんて雪ノ下が言ってたが、これはその対象に心から寄り添っているわけじゃない。あくまで立場が上にいる者からの奉仕なのだ。

だが、星月たちは違う。自らの中に大きな悪意を秘め、それと葛藤しながら命がけで戦っている。それは同じく善意と悪意の間で揺れ動く人間たちを同じ立場から支援していると言い換えられないだろうか。
705 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/09/02(日) 18:02:14.69 ID:6jFyZVqt0
最終章-34


八幡「だからこそ、お前らみたいな心の持ち主が星守をやるのがいいんだよ。大きな善意と悪意を兼ね備えているお前らなら、どんな人もその手で守れるだろうから」

所詮、自分以外は皆他人だ。完全に理解することも、まして寄り添うことなんて不可能。現実ではどこかで他人と線を引いて、お互いが傷つかないちょうどいい距離を見つけることが大切なのだろう。

だが、俺は心の奥底では簡単に割り切れなかった。

俺はわかりたいのだ。知って安心したい。わからないことはひどく怖いことだから。願わくば、同じような気持ちを持つ、心許せる相手と。

そんなことは絶対にできないって思ってた。お互いがお互いの傲慢さで理解しあおうとし、あまつさえそれを欲望しあうなんて、夢でもありえないことだと思ってた。

だってそれは、他人に知られたくないような全ての自分を曝け出し、認めてもらうことと同義だから。

けれど、そんな幻想がここには実在した。

星守クラスの彼女たちは、全員が有り余る程の個性を発揮していた。当初はその眩しい光に眼を眩まされていたが、徐々に慣れていくにしたがって、彼女たちの心の闇も見えてきた。光が強ければ、その影も濃くなる。イロウスとの戦闘以外にもイベントが多かったこともあり、俺が彼女たちの心の影、悪意を把握するのにそれほど時間はかからなかった。

そんな星守たちは、俺の気持ちを知ってか知らずか、俺の心のテリトリーに土足で踏み込んできやがった。なんならめちゃくちゃに荒らされたこともあった。

ただ、彼女たちはそうして俺の心を知ろうとしてくれた。寄り添おうとしてくれた。さらには、そんな俺のことを大切に思って涙を流してくれたこともあった。

そんな体験をしていくうちに、俺の心にある感情が生まれてきた。始めはその存在を受け入れたくなかった。そんなものはまやかしだ、すぐに裏切られる、と何度も自分に言い聞かせてきた。

だが日に日にその感情は大きくなっていき、ついに俺はそれを無視することができなくなった。

その感情に名をつけるとしたら、それは「信頼」と言えるかもしれない。

八幡「お前らは、ぼっちで、捻くれて、目つきの悪い俺を認めてくれている。受け入れてくれている。そんなお前らを俺は信頼している。そして、人並外れた悪意を抱えているところも人間臭くて嫌いじゃない。だからこそ、俺はお前らを星守に推しているんだ。俺に言えることはそれだけ」

気づけば星月も成海も若葉も涙を流している。口を半開きにさせたり、手で口を覆ったり、歯を食いしばったりと、動作は違えど、皆頬を濡らしているのには変わりない。

八幡「だから、、、っ…………」

なぜだか、俺の頬が熱く湿っていく感じがする。その感覚に気付いた俺は、もう言葉を発することができなかった。

みき「…………はい!」

俺の言葉にならない言葉に反応したのは、しばらく黙っていた星月だった。星月は涙を袖で拭ってから、普段見せる満面の笑みを浮かべた。

みき「私はあっちの私が言うように、自分勝手に行動しちゃうことがある。そのせいで色んな人に迷惑をてきたことも自覚してる。そこは私の欠点だし、直さなくちゃいけないことだと思う」

朗らかな表情とは異なり、星月は言葉の1つ1つをゆっくり、はっきりと紡いでいく。

みき「でも、そんな性格のおかげで遥香ちゃんや昴ちゃん、他の星守クラスのみんな。そして先生とも仲良くなれた。イロウスを倒して、みんなの笑顔を守ることもできてる。そういうところは自分を褒めてあげたいかな」

みき「だから私は、いいところも悪いところも全部合わせた『星月みき』として、これからもイロウスと戦う!」

星月の力強い宣言を受け、成海と若葉も姿勢をすっと正した。

遥香「私はどちらかと言えば周囲の状況に合わせて行動しがち。それはみきをはじめとして、大切な人に離れていってほしくないから。悪く言えば、他人に依存することで自分を保っていられたのかもしれない」

遥香「けれど、そうして色んな人と接するうちに、自分のやりたいことがはっきりしてきたの。依存だけじゃなく、心から他の人の役に立ちたいと思ったの。そうしていつか、昔の私のような子を、全世界の困っている人を助けたいの。それが私『成海遥香』!」

昴「アタシは星守クラスの他の子たちのようなカワイイ感じに憧れてる。アタシじゃ無理だなあって思いながら、それでもカワイイものがあったらつい見ちゃう」

昴「でも、カワイイものと同じくらい、アタシは体を動かすのも好き。運動神経がいいほうだから『王子様』って呼ばれたりするけど、それはみんながアタシのそういう一面を認めてくれてるってことだから、素直に嬉しい。『若葉昴』はそんな人間なんだ!」

次いで成海と若葉も光に包まれる。薄暗いこの空間の中で、3人の放つ光は強烈なものだが、同時に何か暖かみを感じる。
706 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/09/02(日) 18:03:56.67 ID:6jFyZVqt0
最終章-35


程なくして光が収まってきた。段々と星月たちの姿を視認できるようになるにしたがって、彼女たちの服装が変化していることに気付いた。

みき「え、なにこれ!」

遥香「新しい星衣、かしら」

昴「力がみなぎってくるよ!」

どうやら星月たちが着ているのは新しい星衣のようだ。これまでの星衣(制服に何かパーツが取り付けられたようなもの)とは全く異なり、非常に体のラインにフィットし、かつ見た目麗しいデザインになっている。

肩から胸、背中にかけては、ストッキング生地のようなもので覆われていて、かなりのスケスケ具合である。

胸からへそのあたりにかけての前面は白、横と後ろはそれぞれのイメージカラーでまとまっている。

下半身は黒を基調とし、先のほうにイメージカラーが施されたミニスカートを穿いている。ソックスは、白を基調としたニーハイである。

そして目の錯覚でなければ、なぜか彼女たちの星衣がキラキラと輝きを放っているように見える。心なしか、武器まで光ってるんじゃないの。

総括すれば、何かの戦闘美少女のコスプレにしか見えないが、彼女たちはそんな衣装を恐ろしいほどに着こなしている。いや、もしかしたら彼女たちに適したデザインの結果がこれなのかもしれない。

みき「先生!どうですか?私たちの新しい星衣!」

八幡「え、ああ、まあ、いいんじゃねえの」

星月からの不意の質問に、しどろもどろになってしまったどうも俺です。

でもしょうがないよね。見てくれがいい3人が、揃いも揃って結構キワドイ星衣を着用してるんだから。目のやり場に困るって話よ。材木座あたりなら鼻血を拭いて倒れていてもおかしくない。

昴「この星衣、とってもかわいい……」

遥香「それに動きやすいわ。私の体にすっと馴染んでるみたい」

当の本人たちは俺の心の葛藤を露知らず、新しい星衣に興奮している。

ニセ理事長「ふ。今更星衣が変わったくらいで、何になる」

ニセ理事長の言葉を受け、星月たちは武器を構え直す。

みき「それは、やってみなくちゃわからないよ!」

ニセ理事長「それもそうだな。行け!」

ニセ理事長が声を上げると、黒いニセモノの星守たちが一斉にとびかかってきた。

みき「一瞬で終わらせるよ!遥香ちゃん!昴ちゃん!」

遥香「ええ!」

昴「オッケー!」

3人はゆったりと武器を構え、ニセモノたちを待ち受ける。

みき、遥香、昴「はっ!」

そして一瞬の後、ニセモノたちは残らず地面に倒れていた。

八幡「強すぎだろ……」

つい声が漏れてしまった。だが、ここ最近は最も身近で彼女たちの特訓を見てきた俺からすれば、今の動きの速さはこれまでの彼女たちの実力を大きく上回っていた。攻撃力も、こんな強敵を一発で仕留められるほどに上昇している。にわかには信じがたい。

だが、星月たちはそれを簡単にやってのけた。それも自身の悪意の結晶に対して。これは星衣の力ももちろんあるだろうが、彼女たちが、自分の心を見つめ直すことができたからではないだろうか。
707 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2018/09/02(日) 18:05:43.61 ID:6jFyZVqt0
今回の更新は以上です。

ゲームのストーリーでは神樹や理事長の正体が明らかになっていますが、こちらではその設定は無視したエンディングを予定しています。並行世界の別の「バトガ」として楽しんでください。
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 19:29:34.42 ID:VAJ9vVlz0
乙!
王道展開はやっぱ良いね!
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 20:13:20.59 ID:F5npeb//O
このいい感じの改変が二次創作感あふれてて楽しいんよ
710 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/06/09(日) 15:21:11.44 ID:XtwV7MgZ0
最終章-36


ニセ理事長「…………」

流石のニセ理事長も一瞬唖然としていたが、すぐに元の冷たい顔つきに戻った。

ニセ理事長「ふふ。まさかここまで強くなるとは思いませんでした。やはり、私が直々に手を下すしかないようですね」

次の瞬間、ニセ理事長の口から暗い紫色の人魂のようなものが飛び出した。わずかに空中を漂った人魂は後方に垂れ下がっている巨大な主根に近付き、中へと入っていった。

対する理事長の身体のほうは、その場で力なくぐったりと倒れこんでしまった。

八幡「理事長!」

俺はとっさに理事長の元へと駆け寄った。

牡丹「……比企谷先生、ですか?」

上半身だけを起こして俺に反応する理事長。普段の理事長の口調だ。その声を聞いて、少し安堵する。

おそらくさっき口から出たものが禁樹のコアみたいな部分だろう。それが理事長の身体から出た今、理事長は解放されたと見ていい。

自分たちのニセモノを倒した星月たちも勢いそのままに俺たちのもとへと走ってきた。

みき「理事長!大丈夫ですか?」

牡丹「ええ……みきに昴、遥香。みんなに迷惑をかけてしまいましたね。申し訳ありません」

理事長は顔を俯かせながら謝罪の言葉を口にした。

昴「アタシたちは迷惑だなんてちっとも思っていません」

遥香「理事長が星守のことを考えて行動してくれたこと、知っていますから」

若葉と成海の言葉を聞いた理事長は事情を説明するよう、すっと俺に視線を向けた。

八幡「すみません。あのノートのことを星守たちに話してしまいました。それでも星守全員が理事長を助けるため、イロウスを倒すために立ち上がったんです。こいつらだけじゃなく、上層階には他の星守たちが今も戦い続けています」

牡丹「そうですか……」

理事長は再び顔を俯かせてしまった。理事長としては、自分一人で片を付ける算段だったはず。俺や星守たちを危険な目に合わせないために。

けれど、俺と星守たちはここにいる。さらには理事長自身が禁樹に利用されながら、なんとか助かる始末。事態が混迷を深めていることに強い罪悪感を覚えているに違いない。

牡丹「あの、」

八幡「星月たちは自分の意志でここに来ています」

俺は理事長の言葉を遮った。それ以上の話をさせないように。

八幡「理事長がこういう展開を望んでいないことはわかっていました。でも、俺には星守たちの気持ちを無視することはできませんでした。イロウスから世界を守りたいと願う、星守たちの決意を」

おそらく理事長も心のどこかではこうなることをわかっていたのだろう。でなければわざわざノートを残しておかない。

きっと理事長は悩んでいたのだ。これまでとは比べ物にならないような世界の危機を星守たちの手に委ねるかどうか。

そんな中で、星守たちは全員が戦うと言った。それは俺にも言えることだ。一般人ながら、それなりの時間を彼女たちと過ごすことで色々と感化されちまったのだろう。ぼっちの名が廃れるなこりゃ。

八幡「だから、今はこいつらを信じませんか」

だからこそ、俺も理事長も星守たちの戦いを見守る義務がある。否、直接手が下せなくても、共に戦わなくてはいけない。それが俺たち教師の役割だ。

そんな俺の言外の思いを察したのか、理事長は薄く微笑んで静かに頷いた。

みき「よし、いこう!昴ちゃん!遥香ちゃん!」

昴「うん!」

遥香「ええ!」

星月の奮起に呼応して、若葉と成海も力強い返答をする。しかし状況は極めて不利なものだ。

八幡「多分さっき理事長から出た紫の光が禁樹のコアの部分だ。それが向こうの大樹に入った今、この空間全体が敵の攻撃範囲に違いない。気を抜くなよ」

360度を樹の根で覆われたこの空間は、どこから敵の攻撃が飛んでくるかわからない。紫の光が入ってから樹全体が紫に発光している以上、俺たちに隠れる場所はない。

遥香「比企谷先生と理事長は私たちから離れないでください」

昴「先生たちは、アタシたちが守ります!」

自衛の術を持たない俺と理事長は、星月たち3人に囲われた。いつだかの、自爆するイロウスと戦った時を思い出す。
711 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/06/09(日) 15:22:40.42 ID:XtwV7MgZ0
最終章-37


あの時は爆風を一発受け流せればよかった。だが今回は無数の鋭く尖った根が星月たちに襲い掛かっている。

そのせいで、3人を頂点とする三角形はじりじりと小さくなっていく。真ん中にいる俺と理事長への攻撃を防ぐために、3人がより近い距離を取るシフトを敷いているためだ。

3人ともよくやってはいるが、今のままではジリ貧だ。俺と理事長というハンデを抱えていては、こいつらも攻撃に転じられない。かと言って俺と理事長が自力で禁樹からの攻撃を防ぐ術があるわけではない。どうする……

みき「先生、私たちなら大丈夫です」

恐ろしくタイミングよく星月が俺たちを励ますように言葉をかけてきた。こちとら頭をフル回転させても対抗策が思いつかないのに、戦いながら話しかけてくる星月の悠長さに対して俺は苛立ちを覚えた。

八幡「だが、今の状況だといつかは破綻する。お前ら3人じゃ俺らを守るのに精いっぱいだろ」

みき「そうですね。私たち3人だと、確かに厳しいです。でも18人ならどうですか?」

なおも星月は余裕を感じさせる口調で言い切った。

こいつは何を言ってるんだ?確かに18人もいれば状況を打開するには十分な数だが、そんな人数をどうやって揃えるつもりなんだ。

待てよ。こいつ、もしかして……

突然黙りこくった俺の顔を理事長が不思議そうに見つめているのに気づいた。

牡丹「比企谷先生、みきは何を狙っているのですか?」

八幡「……多分あいつの作戦は、『援軍が来るまで耐える』です」

それしかない。18人というのもここで戦っている星守の数だ。あいつは他の星守が合流するのを待っているんだ。

俺の返答を聞き、理事長はすぐにあの出来事を思い出した。

牡丹「それって、以前比企谷先生とみきが実践した作戦ですよね?」

八幡「ええ。まさかこの状況でそれを思いついて実行しようだなんて夢にも思わないですよ」

戦闘中にもかかわらず、俺は苦笑してしまった。

だが改めて考えてみれば勝算は決して低くない。俺たちが禁樹と対峙する前から15人の星守たちは大型イロウスと順次戦闘を開始していた。一番上層階で戦っている5人なら、もうイロウスを倒していてもおかしくはない。そしてそいつらが下層階の戦闘に合流すれば、その階の戦闘もその分早く終わる可能性が高い。

そうやってイロウスを倒した15人がこの最下層フロアに集まれば、禁樹を倒すことだって夢ではなくなる。むしろ、現実的な予測だと言ってもいい。

こういう卑怯というか、人の裏をかくような手段は、神樹ヶ峰では自分の専売特許だと思ってたんだがな。まさか星月が言い出すとは思わなかった。そんな星月に対し反論しないあたり、若葉や成海も同じ考えを抱いているのだろう。つまり俺はこいつらに捻くれ思想を植え付けたことになる。これって育成失敗というやつでは?

牡丹「この子たちは本当に頼もしくなったんですね」

俺の後悔とは裏腹に、理事長は感慨深げに目を細めている。

八幡「いや、こんな消極的な対応をとることを頼もしいというのはどうなんすかね」

牡丹「以前のあの子たちなら、自力でどうにかしようとしていたでしょう。でも今は自分の限界を知り、仲間を心から信頼できているからこそ、助けを待つという選択ができているのです。比企谷先生と関わって、この子たちは変わったんです」

八幡「別に俺はそんなこと全く意図してなかったんですけど……」

牡丹「それでいいんです。生徒は教師の想像を超えて大きくなるものです。そういう場面に立ち会えることが、教師の一番の幸せではないかしら」

不覚にも理事長の最後の発言には頷けるところがあった。星月たちだけじゃなく、18人全員が日々予想外の行動を取りながらも、いつのまにか成長している。それは得てして俺の意図した方向とはまるで異なっていることが多かった。

ただ、そういう変化を俺はどこかで歓迎していたのかもしれない。そうじゃなきゃ、星守たちにここまで入れ込むことなんてできやしないだろうから。

八幡「まあ、その気持ちはわからなくもないです」

牡丹「ふふ、もう比企谷先生は立派な先生ですね」

理事長のこっぱずかしい言葉に、思わず顔を背けてしまう。

牡丹「でもこれだけは忘れないください。比企谷先生もまた、1人の生徒なんだということを」

付け加えれれた言葉の真意を問い正そうとしたとき、天井付近から轟音が鳴り響いた。

ぱっと上を見上げてみるものの、天井付近はかなり暗く何が起きているかはわからない。今のところ特に変化はないが、轟音は止むことなく鳴り続ける。

これが禁樹からの攻撃音だというなら避けるなりするのだが、何も変化がない以上、無暗に動くのも控えた方がいいはずだ。
712 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/06/09(日) 15:23:52.38 ID:XtwV7MgZ0
お久しぶりです。バトガがサービス終了するということで、このSSを再開することにしました。
713 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/11(火) 06:15:17.56 ID:PuCJg7MQO
乙!
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/14(金) 02:11:28.13 ID:e2K+D3sh0
サービス終了きっかけで再開って喜んでいいのかわからんけどおかえり
半分諦めてたけど待ってたぜ
715 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/06/16(日) 23:49:52.68 ID:rt78Tpof0
最終章-38


何の対策も講じられないうちに、とうとう天井が崩れ落ちてきた。上から大小様々な大きさの樹の欠片が降り注いできたが、俺や理事長には逃げる場所も防ぐ手立てもない。

みき「先生!」

天井の落下に気付いた星月たちが俺たちにさらに近付いてきた。助かったと思う反面、正面を見ると禁樹が木の根を鞭のようにしならせて攻撃してくるのが目に入った。

八幡「前を見ろ!」

とっさに俺は声を張り上げた。しかし星守たちは皆、上からの落下物に気を取られていて防御態勢に入り切れない。禁樹からの攻撃も落下物も同じくらいのスピードで迫っていて、かつどちらも凄まじい物量なため、3人では手が回らない。

昴「ど、どうする!?」

みき「え、え、えーと、」

遥香「私が上を、いや、でも前方の方が危険度は高い……」

この通り、星守たちは混乱している。一刻も早く指示を出さないといけないこの状況で、なぜか理事長は静かにたたずんでいる。もしかして、諦めたのか……?

刹那、前方からの攻撃も上からの落下物も霧散した。あっけにとられたのもつかの間、煙が舞う中に目の前にたくさんの人影が現れた。

明日葉「先生、みんな、大丈夫ですか?」

濛々と煙が立ち込める中、俺たちの元へ現れたのは楠さんだった。

みき「あ、明日葉先輩……」

楓「明日葉先輩だけじゃありませんわ!」

うらら「うららたちもいるんだから!」

ついで千導院や蓮見も現れ、気づけば15人の星守たちが俺たち5人を取り囲んでいた。さっき俺たちを助けてくれたのもこいつらだろう。壊れた天井から降りてきたのか?

遥香「皆が助けてくれたのね、ありがとう」

成海の感謝に下級生を中心に何人かの星守が照れたように頬をかいた。

望「あ、昴たちも星衣変わったんだ!似合ってる〜!」

昴「あ、ありがとうございます……この星衣、かわいくてお気に入りなんです」

サドネ「みんな、オソロイ!」

違うところでは、天野たちがお互いの星衣の変化について話している。確かに高1以外の星守も全員見目麗しい星衣姿に変わっている。色合いは違えど基本的な形状は皆同じなため、それぞれの身体のラインが強調されており、目のやり場に非常に困る。

ただ、星守たちが全員揃ったことで、空気がにわかに明るくなった。特に高1組は心に余裕が生まれたことが弛緩した表情からもわかる。

花音「理事長!大丈夫ですか?」

理事長のもとには煌上をはじめとする何人かが集まってきた。俺の周り?もちろん誰もいない。当たり前のことすぎて最早何も思わない。

牡丹「ええ」

ミシェル「むみぃ、理事長先生、元気そうで安心した」

牡丹「心配をかけましたね」

理事長のはっきりとした受け答えに、周囲の星守たちは安堵した顔を浮かべる。

八幡「てか、なんで天井が崩れ落ちるなんてことになるんだよ」

つい口から出た疑問に対し、傍にいた藤宮が「やれやれ」といった感じで説明し始めた。

桜「それはじゃの、スキルを大量に発動したせいで、地面が衝撃に耐えられなかったのじゃ」

八幡「スキルだけで地面が壊れるわけないだろ」

俺の反論に対し、国枝が申し訳なさそうに胸の前で両手の指だけを合わせながら口を開いた。

詩穂「星衣が変わって、皆さん飛躍的にパワーアップしたんです。そのせいで力加減が上手くできない人が多くて……」

なるほど、確かに力の制御が苦手そうな人に何人か心当たりがある。にしても、地面を割る程の力なんてオーバースペックもいいところだ。そのせいで味方の俺たちまで危険な目にあったぞ。急激なアップデートも考え物だな。
716 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/06/16(日) 23:50:24.94 ID:rt78Tpof0
最終章-39


ひなた「よーし、ひなたいっきまーす!」

ゆり「待てひなた!先生からの指示を聞いてから動け!ですよね、先生?」

突撃を始めようとする南を火向井がなんとか押しとどめる。

ふと気づくと、星守全員が俺のほうへと顔を向けていた。どの顔もやる気と緊張に溢れ、程よい集中力を保っている。

自分への視線をずらすように、俺は禁樹に向けて指さした。

八幡「向こうに見える太い根っこが禁樹の本体だ。あれを叩く」

禁樹は未だに主根を中心として暗い紫色の発光を続けている。禍々しいその色を見ているだけで気分が悪くなってくる。

くるみ「とても邪悪な気配を感じます。この世のものとは思えないくらい……」

蓮華「神樹の対照的な存在だもの。当然ね」

星守たちは俺よりも険しい視線で禁樹を睨みつける。神樹に選ばれた彼女たちからすれば天敵の親玉みたいな存在だ。無理もない。

あんこ「これが最終決戦かしら」

八幡「でしょうね」

粒咲さんの言う通り、これが最後の戦いになるはず。先手必勝。星守が揃った今こそ、こちらから攻勢をかけるべき時だ。

俺は高1組の3人をここに残し、他の15人に部屋中に張り巡らされている禁樹の根への攻撃を開始させた。星衣が変化したおかげか、モチベーションのせいか、はたまたその両方か、全員の動きが以前とは比べ物にならないくらい速い。みるみるうちに周囲の禁樹の根が切り刻まれていく。

禁樹「星守、よもやここまでやるとは」

突如空間中に不気味な声が響いたと思ったら、禁樹の主根の発光が強まった。ついで、部屋中に拡散していた禁樹の根が全て主根に吸収されていく。

心美「ど、どうなってるんですかこれ……」

八幡「俺にもわからん……」

1つわかるのは、何かがイヤなことが起こる、ということくらいだ。先ほどまでは明らかにこっちが押していた。状況を打開するために禁樹側はとんでもない攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。そうじゃなきゃこんな怪しすぎる行動は取らない。

そのうち、主根の一部に光が集中し、その部分が球体状に盛り上がってきた。

みき「この感じ、あそこから何か出てきます」

星月は一瞬たりとも禁樹から目を離さずに静かに呟いた。そわそわしている星守も多い中、冷静過ぎる星月の様子に戸惑いを覚える。こいつ、こんなにクールだったっけ?声質は確かにクールっちゃクールだけど、性格はキュート寄りじゃない?

結論から言えば星月の直感は正しかった。球から出てきたのは、星守たちと同じくらいの体型の人間だった。一見すればただの女性だが、顔の大部分を隠す黒いベール、ベールと同じ色のドレス、そんな黒い衣装に映える白い髪が異質さを増長させている。

禁樹「人間の星守と戦うには、こちらも人間の姿でいたほうが最も絶望を味わわせることができる」

昴「絶望になんて、アタシたちは負けない!」

禁樹「そう。でも、すぐにわかるわ。力の差というものを」

禁樹はゆっくりと両手を俺たちの方へと突き出した。

遥香「皆避けてください!」

成海の叫声とほぼ同時に星月が俺の腰に手を回してきた。

八幡「お、おい」

離せ、と言おうとした次の瞬間、禁樹はレーザービームを放った。

星月は俺を抱えたまま斜め後ろ方向へとジャンプをして禁樹のレーザービームを回避した。

上から見ていると、理事長も俺と同じように若葉に抱えられているのが見えた。他の星守たちもどうにか避けているようだ。

レーザービームの射程外に着地し、星月は俺を解放した。

みき「先生、大丈夫ですか?」

八幡「ああ、助かった……」

正直、星月に抱えられてなかったら死んでた。決して油断をしていたわけではないが、それでも禁樹がレーザービームを放つなんて夢にも思わなかった。改めて自分のいるところが、死と隣り合わせの場所であることを痛感する。

もう次はない。そう自分に強く言い聞かせた。
717 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/06/16(日) 23:53:27.89 ID:rt78Tpof0
今回の更新は以上です。

この話を書く際に、バトガのアプリ開いてキャラクターのストーリーを確認してるんですが、それももうすぐ出来なくなるんですよね。そう思うととても寂しいです。
718 : ◆JZBU1pVAAI [sage saga]:2019/06/17(月) 00:02:34.07 ID:8XbPNxhE0
>>716 訂正

最終章-39


ひなた「よーし、ひなたいっきまーす!」

ゆり「待てひなた!先生からの指示を聞いてから動け!ですよね、先生?」

突撃を始めようとする南を火向井がなんとか押しとどめる。

ふと気づくと、星守全員が俺のほうへと顔を向けていた。どの顔もやる気と緊張に溢れ、程よい集中力を保っている。

自分への視線をずらすように、俺は禁樹に向けて指さした。

八幡「向こうに見える太い根っこが禁樹の本体だ。あれを叩く」

禁樹は未だに主根を中心として暗い紫色の発光を続けている。禍々しいその色を見ているだけで気分が悪くなってくる。

くるみ「とても邪悪な気配を感じます。この世のものとは思えないくらい……」

蓮華「神樹の対照的な存在だもの。当然ね」

星守たちは俺よりも険しい視線で禁樹を睨みつける。神樹に選ばれた彼女たちからすれば天敵の親玉みたいな存在だ。無理もない。

あんこ「これが最終決戦かしら」

八幡「でしょうね」

粒咲さんの言う通り、これが最後の戦いになるはず。先手必勝。星守が揃った今こそ、こちらから攻勢をかけるべき時だ。

俺は高1組の3人をここに残し、他の15人に部屋中に張り巡らされている禁樹の根への攻撃を開始させた。星衣が変化したおかげか、モチベーションのせいか、はたまたその両方か、全員の動きが以前とは比べ物にならないくらい速い。みるみるうちに周囲の禁樹の根が切り刻まれていく。

禁樹「星守、よもやここまでやるとは」

突如空間中に不気味な声が響いたと思ったら、禁樹の主根の発光が強まった。ついで、部屋中に拡散していた禁樹の根が全て主根に吸収されていく。

事態の不穏さを感じ取った星守たちは再び俺の元へ集まってきた。

心美「ど、どうなってるんですかこれ……」

八幡「俺にもわからん……」

1つわかるのは、何かがイヤなことが起こる、ということくらいだ。先ほどまでは明らかにこっちが押していた。状況を打開するために禁樹側はとんでもない攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。そうじゃなきゃこんな怪しすぎる行動は取らない。

そのうち、主根の一部に光が集中し、その部分が球体状に盛り上がってきた。

みき「この感じ、あそこから何か出てきます」

星月は一瞬たりとも禁樹から目を離さずに静かに呟いた。そわそわしている星守も多い中、冷静過ぎる星月の様子に戸惑いを覚える。こいつ、こんなにクールだったっけ?声質は確かにクールっちゃクールだけど、性格はキュート寄りじゃない?

結論から言えば星月の直感は正しかった。球から出てきたのは、星守たちと同じくらいの体型の人間だった。一見すればただの女性だが、顔の大部分を隠す黒いベール、ベールと同じ色のドレス、そんな黒い衣装に映える白い髪が異質さを増長させている。

禁樹「人間の星守と戦うには、こちらも人間の姿でいたほうが最も絶望を味わわせることができる」

昴「絶望になんて、アタシたちは負けない!」

禁樹「そう。でも、すぐにわかるわ。力の差というものを」

禁樹はゆっくりと両手を俺たちの方へと突き出した。

遥香「皆避けてください!」

成海の叫声とほぼ同時に星月が俺の腰に手を回してきた。

八幡「お、おい」

離せ、と言おうとした次の瞬間、禁樹はレーザービームを放った。

星月は俺を抱えたまま斜め後ろ方向へとジャンプをして禁樹のレーザービームを回避した。

上から見ていると、理事長も俺と同じように若葉に抱えられているのが見えた。他の星守たちもどうにか避けているようだ。

レーザービームの射程外に着地し、星月は俺を解放した。

みき「先生、大丈夫ですか?」

八幡「ああ、助かった……」

正直、星月に抱えられてなかったら死んでた。決して油断をしていたわけではないが、それでも禁樹がレーザービームを放つなんて夢にも思わなかった。改めて自分のいるところが、死と隣り合わせの場所であることを痛感する。

もう次はない。そう自分に強く言い聞かせた。
719 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/17(月) 08:53:08.55 ID:ZQMOpU600
乙!
まあ、その辺はしょうがないね。
此方の完結も楽しみにしている!
720 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/06/28(金) 22:59:24.68 ID:41ijbt5O0
最終章-40


禁樹「わざわざお前たちと同じ姿になってやったのだ、星守。どこからでも反撃してくるがいい」

レーザービームを撃ち終えた禁樹はあからさまに俺たちを挑発してきた。表情はベールに覆われているためどんなものかはわからないが、口元が怪しく吊り上がっているのが非常に不気味だ。

すぐそばの星月をはじめ、他の星守たちも数人の集団を形成しつつただ武器を構えて禁樹を牽制している。

禁樹「だんまりですか。ならば遠慮なくこちらからいかせてもらいましょう」

禁樹は立ったまま地面を滑るように動き出すと、一瞬で俺の目の前に現れた。

間近で感じる禁樹の圧は凄まじかった。理事長の身体を乗っ取って俺を懐柔しようとした時とはレベルが違う。絶望をそのまま具現化したような圧倒的なプレッシャー。そんなものを俺は刹那の間に体全身で感じ取ってしまった。

みき「先生には指一本触れさせない!」

隣にいた星月が禁樹に向かって剣を振り下ろした。しかし、禁樹の身体の周りに半透明の膜のようなものが現れ、星月の攻撃はその膜によって遮られてしまった。

みき「な、なにこれ……」

禁樹「私にお前たちの攻撃は効かない」

ミシェル「みき先輩!先生!」

桜「今助けるぞい」

離れた場所から禁樹に向かってガンやロッドの弾が次々に放たれる。しかし禁樹は体を動かさないまま横へとスライド移動をして弾を避けた。

禁樹「無駄なあがきを」

禁樹は先ほどのように手を前に出し、綿木と藤宮に向けてレーザービームを放った。

八幡「星月、逃げるぞ!」

禁樹が攻撃に気を取られている隙をついて、俺は星月の腕を引っ張って禁樹の前から脱出を図った。

禁樹「そう簡単に逃げられるかしら」

俺たちの逃走に気づいた禁樹が追ってきたが、数人の星守が俺と禁樹の間に割り込んできた。

楓「ワタクシたちの存在を忘れてもらっては困りますわ」

禁樹「星守が何人集まろうと、私には勝てない」

ひなた「やってみないとわからないよ!」

千導院と南が近距離攻撃を仕掛けるが、やはり禁樹は素早く移動する。

くるみ「こっちにもいます」

禁樹の移動した先に常盤がハンマーを振りかぶって待ち構えていた。禁樹の動きに合わせ、常盤はハンマーを振り下ろした。

禁樹「自分たちの無力さに気づかないとは愚かね。星守」

禁樹の呟きが強がりに聞こえるほど、常盤のタイミングは完璧だ。現に、今まさに常盤のハンマーが禁樹を捉えようとしている。

しかし常盤のハンマーが禁樹に届くことはなかった。またしても膜が禁樹の身体の周りに発生し、常盤の攻撃は阻まれてしまった。

くるみ「嘘……」

禁樹「だから言ったでしょう」

うろたえる常盤に向けて禁樹はレーザービームを発射した。常盤はハンマーを盾にするが、すぐにハンマーは粉々になり、その衝撃で常盤は大きく吹き飛ばされてしまった。

蓮華「くるみちゃん!」

常盤の身体が壁に激突する直前、芹沢さんが空中で常盤をキャッチすることに成功した。

望「よくもくるみを!」

違うところでは、激昂した天野が力任せにガンを撃つが、どの弾も禁樹の防御膜によって防がれてしまう。

禁樹「感情に任せて攻撃したところで、私には届きませんよ」

望「うるさい!」

禁樹は天野の攻撃を防ぎながら、またしてもレーザービームを撃つ構えをとった。

心美「望先輩!」

花音「危ない!」

朝比奈と煌上が天野を強引に引っ張りだしたことで、3人は間一髪レーザービームを回避した。
721 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/06/28(金) 23:02:36.18 ID:41ijbt5O0
最終章-41


みき「みんな……」

隣にいる星月は、両手の拳をぐっと握りしめて禁樹を睨みつけている。今にも飛び出していきそうなのをなんとか堪えている感じだ。

みき「先生どうにかなりませんか!?」

必死の形相で星月は俺に懇願してきた。これまでは我先にイロウスへ突っ込んでいた星月が、こうして俺に助けを求めている。幾ばくかの間を空けて、俺はある疑問を口にした。

八幡「1つ、不思議なことがある」

みき「不思議なこと?」

八幡「禁樹は防御膜を持っているだろ。それでこっちの攻撃を防げばいいのに、たまに回避行動を取る理由がわからない」

みき「その謎を解けば、禁樹に攻撃できる……?」

八幡「可能性はある」

そう結論付けた俺と星月は、刻一刻と変わる戦況を観察する。綿木の攻撃は防がれ、蓮見と藤宮の攻撃は避けられる。サドネと国枝の攻撃も避けられたと思えば、粒咲さんの攻撃は防がれる。

武器種、学年、スキル、特殊効果……。どれをとっても規則性が見当たらない。

ゆり「はあ!」

その時、火向井が素早い動きで禁樹に接近し、剣を振り下ろした。

禁樹「ふふ」

しかしその攻撃は防御膜によって阻まれてしまう。だが、火向井はそんなことおかまいなしに防御膜に対し剣を突き付け続ける。

ゆり「絶対に負けない!」

禁樹「諦めの悪い子」

しばらく火向井の攻撃を防いでいた禁樹が、面倒くさそうにレーザービームを撃とうと手を前に出した時だ。

明日葉「ゆり!」

突如、楠さんが禁樹の背後に現れた。

禁樹「ちっ」

楠さんの乱入に焦った禁樹は手を引っ込め、火向井から距離を取った。

明日葉「く、避けられてしまった」

ゆり「明日葉先輩、ありがとうございます」

楠さんの援護に安堵したのもつかの間、星月が俺の袖をくいくいと引っ張ってきた。

八幡「どうした」

みき「先生、もしかして禁樹は複数の攻撃を同時に防御できないんじゃないですか?」

八幡「複数の攻撃?」

みき「はい。今の場面でも、ゆり先輩の攻撃は防御できていたのに、明日葉先輩が来た瞬間に禁樹は逃げました」

星月の指摘を基に思い返してみれば、確かに禁樹が防御膜を張った時は単体での攻撃ばかりだ。逆に複数の攻撃には膜を張らずに必ず避けている。

八幡「星月。成海と若葉にその仮説を試すよう指示しよう」

みき「はい!」

俺と星月は理事長を守っている成海と若葉のところへ行き、先ほどの仮説を話して協力を仰いだ。

牡丹「同時攻撃には弱いですか、なるほど……」

昴「そういうことなら、アタシが禁樹の攻撃を引き付けます」

遥香「その隙を私が付けばいいのね」

3人とも仮説に納得し、若葉と成海はすぐにお互いの役割を確認した。

八幡「あくまで検証が目的だ。無理に攻撃を当てようとしなくていい。危なくなったらすぐに退避してくれ」

遥香「わかりました」

昴「みき。先生と理事長のこと頼むよ!」

みき「任せて昴ちゃん!」
722 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/06/28(金) 23:15:37.44 ID:41ijbt5O0
今回の更新は以上です。

アプリ終了まであと1か月。それまでに完結させたかったですが、今の更新頻度だと厳しそうです。
723 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/07/14(日) 00:05:43.73 ID:qLxb6eET0
最終章-42


作戦通り、まずは若葉が禁樹に向かって真正面から突撃した。

昴「はああ!」

禁樹「血迷ったか、星守」

余裕の表情で禁樹は防御膜を張って若葉の攻撃を防ぐ。

昴「まだまだ!」

攻撃が通らなくてもなお、若葉はハンマーを防御膜から離さない。

禁樹「そこまで死にたいのなら、殺してあげます」

禁樹が若葉に向けて右手を上げた時だ。成海が気配を消しながら禁樹に近付いてスピアを突き出した。禁樹は成海の存在には全く気付かずに若葉を注視している。


禁樹「2人とも、ね」


禁樹は呟くと同時に背後にも防御膜を展開し、成海の攻撃を遮断した。

遥香「……っ!」

禁樹「終わりよ」

禁樹はすぐにレーザービームを前方、後方に向けて発射した。禁樹のすぐ近くにいた若葉と成海はもろにビームを食らってしまう。

昴、遥香「きゃあ!」

2人は大きく悲鳴を上げると、その場にぐったりと倒れこんでしまった。

禁樹「ふふふ」

禁樹はとどめを刺すために、またしてもレーザービームを発射する構えをとった。

八幡「サドネ!蓮見!若葉と成海をこっちへ運んでくれ!」

更なる被害を食い止めるため、俺は禁樹の近くにいた2人に負傷者の救出を指示した。

サドネ「う、うん!」

うらら「……了解!」

サドネと蓮見の迅速な行動によって、禁樹の攻撃が当たる直前に若葉と成海を運び出すことができた。

牡丹「昴、遥香、しっかりしてください」

ぐったりとしている若葉と成海に対し、理事長が声をかける。2人とも意識はあるようだが、とても動ける状態ではない。

不意に口の中に鉄の味がした。口元を拭うと、唇から血がにじんでいる。無意識のうちに唇を強くかんでしまっていたらしい。

さっきの作戦を立てたのは俺だ。その結果、成海と若葉を傷つけてしまった。俺が償わないでどうする。俺は力なく目を伏せた。

八幡「若葉、成海……すまん」

昴「謝らないでください、先生……」

遥香「私たちも納得したうえで先生の作戦に賛成したんです。先生だけの責任ではありません」

八幡「けど、元をたどれば提案した俺の責任だ。本当にすまない……」

こうして俺が謝罪したところで、彼女たちが俺を糾弾しないことはわかっている。ただ、彼女たちは彼女たちで、自分の力不足を苦にするかもしれない。俺の謝罪によって、少しでも自分を責めないようにしたい。俺にできることは、このくらいだ……

禁樹「ふふ、はっはっは!情けないな星守よ!」

ふわりと空中に浮かび上がった禁樹が俺たちに向かって高笑いをした。

禁樹「いつ私が防御膜は単体攻撃しか防げないと言った?」

注目を集めた禁樹はさも得意げに語り出した。その一言一言が俺の鼓膜を不快に振動させる。

禁樹「一度希望を見た人間は、それを折られると深い絶望を味わう。私はそれが見たかった。星守が絶望する、その瞬間を」

禁樹の演説じみた言葉は、俺の思考力を加速度的に鈍らせていく。先刻、禁樹に耳元で囁かれた時以上の虚脱感に苛まれる。

周囲を見渡せば、俺と同じように力の抜けた星守も多く見受けられる。自分たちの努力が全くの無駄だったわけだから、当然の反応だ。
724 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/07/14(日) 00:06:25.63 ID:qLxb6eET0
最終章-43


けれど、ここで引いては全てが終わる。これまでの星守たちが守ってきた過去も、これから訪れるであろう未来も。

この状況を覆せるのは彼女たち星守しかいない。これは確かだ。同時に俺は彼女たちの担任という、星守を助けられる数少ない役職をやらされている。否、自分でやると決めたんだ。ならば、その責務を最後まで果たさなければならない。

ただ、そんな責務とは関係なしに、俺個人として何も思わないわけではない。そうした感情が、つい漏れ出てしまう。

八幡「俺たちの感情を勝手に規定するんじゃねえ」

禁樹「何?」

俺の怒気を含んだ声に、禁樹が低いトーンで反応した。

八幡「希望を折れば絶望する?冗談じゃない。人間、そう単純には出来てないんだよ」

最後の方は吐き捨てるような口調になった。現にこんなに危機的な状況においても、俺は絶望していない。あるのは禁樹への怒り、そして現状打破への野心だ。

そんな時、ふと、隣に人の気配を感じた。

みき「……私も絶望なんて、しない」

見ると、背筋をピンと伸ばした星月が禁樹を睨みつけていた。

みき「私たちは、あなたに勝つまで、絶対に希望を捨てたりしない!」

星月の言葉に感化されて、他の星守も体を起こし、禁樹に厳しい視線を送る。全員の目が、闘志が燃えているように輝いていた。

禁樹「どれほど喚こうが、お前たちはここで死ぬのだ」

そう宣言する禁樹だが、あの防御膜さえ破れれば勝機はある。しかし、適当な小細工は通用しない。それならいっそ……

八幡「理事長、ここにいる星守たちの力を誰か1人に集めることは可能ですか?」

牡丹「何をするつもりですか?」

八幡「全員の力を合わせて防御膜を強引に突破します」

単純な話、莫大な力があれば防御膜を破れるんじゃないかと思っただけだ。力こそ正義、ってやつ。

牡丹「神樹の力を借りれば可能ですが、少し時間が必要です」

八幡「わかりました」

俺は星守たちを集め、作戦には程遠い愚直な攻撃案について説明した。

あんこ「わかった。時間ならなんとかして稼ぐわ」

桜「これ以上、奴の好きにはさせん」

星守たちは皆力強く頷いた。

そんな星守たちを一瞥した理事長は少し言いにくそうに口を開いた。

牡丹「ただしこの方法には1つ問題があります」

ひなた「問題?」

牡丹「力を結集させる星守には、身体的にも精神的にも大きな負担がかかります。人類の希望を一身に背負うのです。生半可な覚悟では身体が持たないでしょう。ですから、」

みき「私がやります!」

理事長が言葉を言い終える前に、星月が食い入るように名乗りを上げた。

ゆり「おい、みき!非常に危険な役目だってことをわかってるのか!?」

みき「はい。でも私は、みんなの希望を禁樹にぶつけたい。そして、絶対に勝ちたい」

楓「みき先輩……」

詩穂「みきさん……」

千導院や国枝をはじめ、皆が星月の決意に圧倒されている。俺だってそうだ。人類の命運を握る決断を即時に下せる星守なんて、星月以外にはいない。

明日葉「……わかった。みき。人類の希望をお前に託す。頼んだぞ」

そんな様子を見て、楠さんは星月を指名した。

みき「はい!」

八幡「よし。そしたら星月以外の動ける星守は理事長と星月の援護だ。なんとかして時間を稼いでくれ」

星守たち「はい!」
725 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/07/14(日) 00:10:56.59 ID:qLxb6eET0
今回の更新は以上です。

卒業アルバムやリアルグッズくじなど、まだまだ楽しみなコンテンツが発表されますね。リアルマネーがどれだけ飛ぶか心配になりますが。
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/17(水) 06:43:31.87 ID:o2CsUsScO
乙!
727 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/07/27(土) 15:42:15.70 ID:tDTVO7NF0
最終章-44


牡丹「いきますよ、みき」

みき「お願いします!」

理事長は目を閉じて手を合わせると、何やらよくわからない呪文を唱え始めた。

明日葉「全員、みきと理事長を守れ!」

楠さんの号令の下、星月と理事長を中心とする何重もの円が星守たちによって構成された。

禁樹「ゼロがいくら集まったところで、ゼロはゼロでしかないわ」

禁樹は薄く微笑むと両掌をこちらへ向けた。確かに禁樹の言う通り、俺たち個人は奴からすれば無力に等しい。それならこちらは数で対抗するのみ。

八幡「全員、遠距離無効スキルを使ってくれ」

俺は周囲を見渡しながら1つの提案をした。

楓「何故ですの?」

千導院を筆頭に、何人もの星守が疑惑の視線を送ってくる。

八幡「1人じゃ足りなくても、全員がスキルを重ね合わせればあのレーザーを防げるかもしれないだろ。こっちは時間が稼げればいいんだ。あいつの挑発に乗って反撃する必要はない」

望「なるほど……」

心美「や、やってみましょう……!」

俺の説明に納得した星守たちは続けざまにスキルを発動した。みるみるうちに俺たちの周囲に泡のようなバリアが何重にも張り巡らされる。

八幡「ただ、もしものために回避行動を取る準備も忘れるなよ」

花音「当たり前よ。もう禁樹の思い通りにはさせない」

俺が忠告するまでもなく、星守たちは即座に動く体勢をとっていた。

禁樹「お望み通り、まとめて殺してやる」

禁樹は余裕を崩さないままレーザーを発射してきた。

だが、バリアが見事レーザーを防いだことで、禁樹の攻撃が俺たちに届くことはなかった。

ひなた「やった!」

詩穂「みんなの力を合わせた結果ね」

禁樹の攻撃を始めて防げたことで、星守たちのやる気は俄然高まってきた。

禁樹「おや」

対する禁樹は少し驚いた表情を見せるものの、特に慌てた様子はない。

ミシェル「むみぃ、禁樹、全然びっくりしてない……」

あんこ「まあ、レーザー以外の攻撃手段を持っててもおかしくはないわよね」

粒咲さんの言う通り、俺たちは禁樹の攻撃の1つを防いだに過ぎない。奴が何をしてくるのか、俺にはさっぱり想像がつかない。

禁樹「全く、面倒ね」

禁樹はそう呟くと再び両手をこちらへと向けてきた。

サドネ「またレーザー?」

ゆり「威力を高めてくるかもしれない。もう一度バリアを張ろう!」

皆が火向井の言に従い、バリアを展開した。先ほどレーザーを防げたこともあって、数人の顔にはいくらかの自信が浮かんでいる。

禁樹「ふふ」

そんな俺たちの様子を見て、禁樹はなぜか薄く微笑んだ。

八幡「全員、バリアは無視して逃げろ!」

禁樹の微笑みに得体の知れない恐怖を感じた俺は、とっさに大声を出した。

刹那、禁樹の手からはレーザーとは異なる紫に光る等身大の球がいくつか発射された。
728 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/07/27(土) 15:47:57.43 ID:tDTVO7NF0
最終章-45


八幡「動ける人は動けない人を抱えて脱出しろ!理事長と星月も早く!」

何か確かな証拠があるわけではない。ただあるのは「このままだと殺られる」という直感だけ。それを根拠にせっかく築いたバリアを放棄するのは惜しいが、犬死にするリスクに比べれば何倍もマシだ。

俺たちの脱出から少し遅れて、紫の球がバリアに衝突した。ところが紫の球はバリアをいともたやすく貫通し、さっきまで俺たちがいた場所をえぐり取った。

詩穂「私たちのバリアが効かないなんて……」

桜「八幡の指示がなければ今頃わしらは全滅してたわい。助かったぞ」

八幡「……あぁ」

正直、この勘は当たってほしくはなかった。レーザーの時と同様にバリアが機能すれば、俺の判断はただの早とちりに過ぎず、星守たちに小言を言われてそれでおしまいだったろう。だが、現状バリアは破られてしまった。必然、他の策を講じなければならない。

禁樹「残念」

禁樹は依然として嘲笑しつつ上から俺たちを見下ろしている。こいつに一泡吹かせるためにも、どうにかしてさっきの攻撃を無力化しないといけない。それならば。

八幡「蓮見、朝比奈。ちょっといいか」

心美「は、はい」

うらら「何ハチ君、こんな時に」

朝比奈と蓮見は至って簡素に俺の傍へやって来た。いつもなら「え、えーと、私、何かしましたか?」とか、「え〜、ハチ君、やーっとうららの魅力に気付いたの〜?」とか言ってくるところだが、流石にこんな状況じゃ、そんな余裕はないわな。

八幡「前に朝比奈の神社でイロウスと戦った時、イロウスを引き付ける爆弾を使ったよな。あのスキルを発動してほしいんだ」

うらら「でも、あれくらいの爆発じゃ禁樹にダメージなんて与えられないと思うけど……」

蓮見は疑わし気に反論を口にした。その隣で朝比奈も、むむと考え込んでいる。どうやらご納得いただけていないようだ。

八幡「さっきと同じで、あいつにダメージを与える必要はない。今は少しでも理事長と星月のために時間が稼ぎたいんだ。だから禁樹の意識を星月たちから逸らせればそれでいい」

心美「そういうことなら、うららちゃんのスキルはぴったりですね」

うらら「任せなさい!」

どうにか2人の了承を取り付けることができた。なんか近頃の俺ってこんなことばかりやってるな……。まあ立場上仕方ないんだが。

八幡「できれば他にも同じようなスキルを使える人が欲しいんだが、誰か知ってるか?」

うらら「かぼちゃの爆弾はうららしか使えないよ」

心美「SPを回復させるスキルは私以外にも楓ちゃんやミミちゃんが使えます」

八幡「ならその2人も蓮見の支援に充てよう」

俺は綿木と千導院も近くに呼び、今決まった作戦を伝えた。

楓「わかりましたわ。うらら先輩のSPを回復し続ければいいんですわね」

ミシェル「頑張ろうね、楓ちゃん!」

うらら「心美、後輩にカッコ悪いところ見られないように気合入れるわよ!」

心美「う、うん!」

八幡「それじゃあ準備でき次第、始めてくれ」

そう言い残して、俺は星月と理事長の元へ向かった。

みき「先生。みんなは大丈夫ですか?」

八幡「ああ。今、次の時間稼ぎの策を実行するところだ」

牡丹「流石、比企谷先生は柔軟な対応を取ってくださりますね」

八幡「え……あ、はあ……」

これってあれですか、「卑怯なことを考えさせたら比企谷先生の右に出る人はいないですね」って解釈していいやつですか?実際、理事長がそんな風に思ってるとは考えにくいが、素直に褒められた経験が少ない俺は、どうしても言葉の裏を考えてしまう。ここまで考えてようやく自分が褒められていたのだと理解できた。全くもって俺の思考回路はポジティブな事柄に関しては効率が悪い。まあ、理解できたところで葉山のように爽やかに返答ができるわけもなく、しどろもどろになるだけなんだが。

八幡「とにかく、だ。星月。お前は儀式に集中しろ」

自分を落ち着かせる意味も含め、俺は星月に改めて向き直ってシンプルな言葉をかけた。

みき「はい!」
729 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/07/27(土) 15:49:19.79 ID:tDTVO7NF0
今回の更新は以上です。

サービス終了前最後の更新になりそうです。バトガ、4年間本当にありがとう!
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/27(土) 21:58:19.20 ID:WOWDxL5N0
乙!
731 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/08/15(木) 00:34:08.05 ID:6C3xRANF0
最終章-46


うらら「『パンプキン・クイーン』!」

俺が星月と話しているうちに、蓮見が早速カボチャ爆弾を1つ設置した。

禁樹「ふっ」

禁樹はカボチャに対してほとんど見向きもせずに俺たちに向けて紫の球を発射してきた。

しかし球は禁樹の手を離れるや否や、俺たちにではなく、カボチャに向かって一直線に飛んで行った。そしてカボチャと球が接触した時、派手な爆発が起こった。

心美「うららちゃん!やったね!」

うらら「このままいくわよ!『パンプキン・クイーン』!」

勢いづいた蓮見は次々にカボチャ爆弾を設置していく。ただし、そのどれもが禁樹の攻撃によってすぐに破壊されてしまう。

楓「『スペシャリーヌードル』!」

ミシェル「『イノセントラビット』!」

同時に千導院と綿木が蓮見のSPを回復させているため、カボチャ爆弾が尽きることはない。

禁樹「必死になってこちらの攻撃を逸らすなんて、やり方が卑しいですね」

ひなた「そんなことないもん!立派なさくせんだもん!」

花音「落ち着いてひなた。禁樹の挑発に乗っちゃダメ」

あんこ「そうね。どんなやり方だって最後に勝てばそれでいいのよ」

禁樹「どんなやり方だっていい、ですか。その言葉、忘れないでくださいね」

禁樹はなおも不敵な笑みを崩さない。

桜「何をするつもりじゃ」

禁樹「こうしてあなたたちと遊ぶ時間もおしまい。そろそろ絶望に浸ってもらうわ」

ゆり「私たちは決してお前に屈したりはしない!」

禁樹「ふふ、いつまで威勢よくいられるかしら」

禁樹が空中で両手を大きく広げると、地面のいたるところに黒い魔法陣が浮かび上がってきた。

禁樹「本当は私1人で始末したかったけれど、仕方ないわね。数の暴力で押し切ってあげる」

禁樹がそう言い終えると、魔法陣から大型イロウスが湧き出してきた。それらの全てがカボチャ爆弾に向かって動き出した。

うらら「ちょ、こんなにいっぱいイロウスくるなんて聞いてないわよ!」

楓「これではスキルの発動が到底間に合いませんわ……」

蓮見や千導院が動揺するのも無理はない。それほどまでにイロウスの数が多すぎる。これでは爆弾を設置してもすぐに破壊されてしまう。ただ、現状では蓮見のスキル以外で禁樹の攻撃を無力化する方法はない。なんとかしてイロウスの攻撃からカボチャを守らなければならない。

明日葉「イロウスは私たちが殲滅する。うららたちはスキルの発動を最優先しろ」

俺と同じ結論に至ったのか、楠さんが素早く周りに指示を与えた。

蓮華「みんな、もう少しの辛抱よ。頑張って」

サドネ「サドネ、がんばる」

望「そうだよね、ここまできて諦めるなんてカッコ悪いもんね」

次いで芹沢さんが励ましの言葉をかける。2人のスピーディーな対応のおかげで、星守たちは多少落ち着きを取り戻した。

とはいえ劣勢なのは変わらない。津波のように押し寄せるイロウスに対し、星守たちは懸命に水際で食い止めている。正直、いつ決壊してもおかしくない。

そう思いながら戦闘を注視していると、最も外側にいるイロウスの挙動がおかしいことに気づいた。ほとんどのイロウスが同じ方向、つまり蓮見のカボチャ爆弾の方向を向いているのだが、なぜか外側のイロウスはそっちを向いていない。

蓮見のスキルにはイロウスを引き寄せる距離の限界がある。おそらくイロウスが密集し過ぎて、末端までスキルの効果が行き届かないのだろう。だからはぐれイロウスが現れるのも不思議ではない。現状無視していい存在だ。
732 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/08/15(木) 00:35:38.04 ID:6C3xRANF0
最終章-47


ただ、イロウスの数が増えるにしたがって、はぐれものの数も増えてきた。その中で、何匹かのイロウスが明らかに俺たちの存在に気づいたように、こちらへまっすぐ向かってきた。

俺は助けを呼ぼうとするが、はたと思いとどまってしまった。

動ける星守は全員蓮見たちのサポートに参加しているため、俺の近くには負傷した常盤、若葉、成海と、儀式中の星月と理事長が残っているだけ。人数だけ見ればそれなりにいるが、現時点では誰1人イロウスと戦うことができない。つまり唯一動ける俺が何とかするしかないわけだ。

が、今の俺にイロウスを止める手段はない。これまで何度か大型イロウスと対峙したことはあるが、その全てで俺はただ逃げ回ることしかできていない。今までは勝算がある上での逃走だったが、今回はそれが全くない。

その時だ。

遥香「『ホーリーナイトソング』!」

昴「『アキュートグラウンド』!」

くるみ「『べジタブルギフト』!」

断続的に3つのスキルが背後から唱えられた。俺が認識できたのは、まず目の前にバリアが張られた後、イロウスが雷に打たれ動かなくなったと思ったら、突如向こうの地面から巨大な人参が生えてきて、イロウスがそっちへ吸い寄せられた、という事象だけだ。

昴、遥香、くるみ「先生!」

振り返ると、先ほどまで座っていた3人が未だ傷を庇いながら俺の元へと歩いてきた。

八幡「今の、お前らのスキルか?」

遥香「はい」

昴「イロウスが近づいてきたことはアタシたちにも見えたので、いてもたってもいられなくなったんです」

八幡「そうか……それにしても、いったい何がどうなってるんだ」

未だ思考が現実に追いつかず、何が起きたのか説明するよう3人に促した。

遥香「まず私のスキルでみんなのHPとSPを回復しつつ、防御のためにバリアを張りました」

昴「次にアタシがイロウスの足止めを麻痺させる落雷スキルを使いました」

くるみ「そして最後に私が人参さんを生やしたんです」

八幡「人参さんを生やした?」

最後の説明が飛躍し過ぎていて、何を言っているのか理解できなかった。

遥香「くるみ先輩の人参には、うららちゃんのカボチャと同じようにイロウスを引き寄せる効果があるんです」

昴「そのくるみ先輩のスキルを使うために、アタシと遥香が協力したんです」

八幡「はあ……」

蓮見のカボチャは百歩譲ってスキルの一種だと考えられるが、常盤が出した人参は、スキルじゃなくてこいつの育てた新種なんじゃないかと思うのは俺だけでしょうか。もしそうだとすれば、植物の言葉が聞こえる割にはえげつないことするんだな常盤って……

まあそれはとにかく、やっと状況を掴めた。この3人の力を合わせれば少数のイロウス相手なら対処できるわけか。

くるみ「私のスキルは発動までに時間がかかりますけど、昴さんと遥香さんが助けてくれれば、少しはお役に立てます」

常盤の言葉に追随して、若葉と成海もうんうんと頷く。しかし、スキルを1発撃っただけでも3人の顔には疲労の跡が色濃く表れている。おそらく3人の体力は近いうちに再び尽きる。それを考慮すればここで無理をさせてはならない。最悪、命を落としかねない。

ただ、同時に前線の状況も芳しくない。前線の崩壊はそのまま人類の崩壊と同義だ。怪我をおしてまで戦いに赴こうとする常盤たちもそれは重々承知のことだろう。

八幡「ならここからできる範囲で向こうの星守たちを助けてやってくれ。常盤は蓮見が処理しきれなかったイロウスの引き寄せ。成海と若葉は常盤の補助だ」

だから俺は妥協案を出すことにした。彼女たちの意見を尊重しつつ、けれど犠牲にはしない。そもそもこの作戦自体、星月の儀式を完了させるまでの大掛かりな時間稼ぎにすぎないのだから、こういう戦い方もアリだろう。

ただ一つ。星月の儀式が終わらないことにはこの時間稼ぎの意味も全く無くなってしまう。いくら星衣が強化されたとはいえ、星守たちは恐ろしい量の大型イロウスを相手にしながら禁樹の攻撃も防いでいる。そんな重労働が永遠に続くわけがない。一刻も早く儀式が終わらないかと、先ほどから星月の様子をチラチラと伺っているのだが、じーっと目をつぶったまま座っているばかりである。

対する理事長は呪文を唱え終わると、星月に向けていた両手を下げて、なぜか俺の方に向き直った。

牡丹「比企谷先生、儀式の最終段階をお手伝い願えませんか」

理事長は真剣な目つきでそう言った。
733 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/08/15(木) 00:40:07.49 ID:6C3xRANF0
今回の更新は以上です。

更新頻度が遅くなってしまい申し訳ありません。終わりになればなるほど、展開の仕方は難しくなるものなんですね。バトガのアプリが終わってしまい資料が限られてしまうのが痛いところです。もっと早く書けばよかった……

けどここまで引っ張ったのでそれ相応の綺麗なエンディングにしたいと思います。なのでもうしばらくお付き合い下さい。
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/15(木) 01:16:00.91 ID:GipHKvi/O
乙!
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/15(木) 10:48:51.28 ID:LtjP79zUO
アプリできなくて卒アル待ちの今が創作勢にはキツいよな
応援してる
736 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/08/31(土) 16:15:13.76 ID:f+/061hE0
〜interlude〜

その知らせは突然訪れた。

いつもは八雲先生が話をする朝のHR。けれどあの日は理事長が教壇に立って開口一番にこう言った。

牡丹「今日からこのクラスに新たな仲間が加わります」

星守たち「え!」

理事長の言葉にクラス中が驚きの声を上げた。だって星守クラスはその名の通り星守しか在籍できないクラス。イロウスと命がけで戦う星守は、神樹様に認められた人しかなることができない。だから仲間が増えるなんて滅多にないイベントだった。

蓮華「とーってもかわいい子なのかしら?」

楓「星守としての責務をきちんと果たす、勇敢な心を持った方だといいですわね」

うらら「転校生なんて、初めからキャラ強過ぎよ……ここみ! うららたちも負けてられないわよ!」

心美「負けてられないってどういうこと〜?」

このように多くの星守が新しい仲間が来ることにテンションを高くしている。

昴「新しい仲間かー、仲良くできるかな?」

遥香「昴なら大丈夫よ」

すぐ近くに座る昴ちゃんと遥香ちゃんもとっても楽しそう。

樹「みんな静かにしなさい。まだ理事長の話は終わってませんよ」

八雲先生の一喝によってクラスは再び静けさを取り戻した。

牡丹「詳しい話は本人が来てからすることにしましょう。それでは……みき」

みき「は、はい!」

いきなり名前を呼ばれて、反射的に立ち上がってしまった。私何か悪いことしたっけ? 普段から先生たちに怒られてばかりだから、心当たりがありすぎて絞り切れない……

牡丹「あなたに案内役を命じます。今から私と一緒に来てください」

みき「え?」

私が転入生の案内役? 明日葉先輩やゆり先輩がやったほうが私よりも上手く案内できそうなのに。

みき「理事長、あの」

牡丹「急いでくださいみき。もうすぐ待ち合わせの時間です」

みき「は、はい」

疑問を挟む余地もなく、私は理事長にせかされながら教室を後にした。

校門に向けて廊下を歩いていると、理事長が「あっ」と何かに気づいたような声を出した。

牡丹「そういえば早急にやらなくてはならない重要な仕事があることを思い出しました。申し訳ないのですがみき1人で案内をしてもらってもいいですか?」

みき「私1人でですか!?」

牡丹「みきなら大丈夫です。ではよろしくお願いしますね」

私が返事をする前に理事長は勝手に決めると、そそくさと理事長室の方向、つまり校門とは逆の方向へと歩いていく。

みき「待ってください。理事長。せめてどんな子が来るのか教えてもらっていいですか?」

私がそう言うと、理事長は足を止めてこっちに振り向いた。

牡丹「見ればすぐわかると思いますよ。だって来るのは男子高校生ですから」

みき「男子、高校生?」

どうして女子校である神樹ヶ峰女学園に男性が、しかもよりにもよって同年代の高校生が来るのか、全く理解できない私は、理事長の言葉をむなしく繰り返すしかなかった。

牡丹「ええ。その彼の名前は比企谷八幡くんといいます。仲良くしてくださいね」

まるでイタズラに成功ように満足げな表情を浮かべながら、理事長は再び私に背を向けてしまった。

みき「あ……」

対する私は何も反応できないまま、その場にぽつんと取り残されてしまった。

正直、何が何だかさっぱりわからないけれど、ひとまず今は校門に行ってその人をお迎えしなくちゃ。
737 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/08/31(土) 16:15:51.93 ID:f+/061hE0
せっかく来てくれるのに待たせてはいけないと思い廊下を小走りで移動すること少し。校舎の出入り口から校門が見えるところまでやって来た。

昇降口でちょっと立ち止まって校門のほうを見てみると、確かに男子の制服を着た男の子が1人立っていた。

みき「本当に男子が来てる……」

つい独り言が漏れてしまった。神樹ヶ峰女学園に、まして星守クラスに男子が来るなんて信じられなかったけど、実際に男子の姿を見ると、理事長に言われたことが現実なんだと実感が湧いた。

私はそれほど男子に抵抗はないけれど、大切な役目を任されている以上、しっかり頑張らないといけない。私はそう意気込んで、一歩一歩踏みしめるように校門へと歩いて行った。

校門に近付いていくにつれて、男子生徒、もとい比企谷くんの姿かたちがはっきりしてきた。私よりも15センチくらい高い身長。少し猫背な姿勢。少しぼさっとした黒髪に、特徴的なアホ毛が生えてる。そして何より、どうやったらそんな風になるのかわからないくらい腐った目。そんな人が何やら落ち着かない様子で考え込んでいる。

突然女子校に来させられて困ってるのかな。多分そうだよね。私の立場からしたら、いきなり「男子校に行け」って言われるようなものだもんね。うん。

なんてことを思いながら、私はついに比企谷くんの目の前までたどり着いた。私は深く息を吸って声をかけることにした。

みき「あのー」

少し声が小さかったかな。男子生徒には私の声が聞こえていないようだ。

みき「あのー、すみません」

今度はもう少し大きな声で呼んでみた。けれど、まだ比企谷くんは私に気づかない。よっぽど緊張してるみたい。

みき「あのー! すみません!」

けっこう大きな声を出してみたけれど、やっぱり比企谷くんは無反応。いくらなんでもこの声の大きさで聞こえないなんてことがあるのかな。こうなったら一番大きな声を出してやる。

みき「あの!! すみません!!」

八幡「戸塚!」

今までずっと考え込んでいた比企谷くんが突如大きな声を発した。

みき「うわぁ! びっくりした! いきなり大きな声を出さないでくださいよ、比企谷くん」

本当に心臓に悪い。というか、戸塚って何?

なんて疑問はとりあえず今は置いといて、ようやく比企谷くんが私の存在に気づいてくれたので良しとしよう。これで一歩前進。

対する比企谷くんは私のことをじっと見つめたと思ったら、ふい、と顔を背けてしまった。

あ。この人、私を無視した。

みき「ちょっとー! 聞こえてますよね? 無視しないでくださいよ比企谷くん!」

私が再度言い寄ると、観念したのかようやく私に向き直ってくれた。

八幡「ああ、ごめん。で、君誰? 何してるの?」

なんだか私と話すのがすごく面倒くさそうに見えるのは気のせいかな。気のせいだよね。

みき「私は星月みきです! 比企谷くんを迎えに来ました! ようこそ、神樹ヶ峰女学園へ! これから私がこの学校のことを色々教えてあげますね!」

挨拶と自己紹介は明るく元気にするのが一番! 私は普段に増して張り切って挨拶をした。

対する比企谷くんはというと、

八幡「お、おう……」

この通り気の抜けた返事を返すだけ。逆にさらに心の距離を取られた感じ。でも不思議とそこまで嫌な気持ちにはならない。むしろ、もっとこの人のことを知りたいとさえ思う。

みき「じゃあ早速行きましょう!」

それなら私からたくさん話しかけていこう。そうすればこの気持ちの正体もわかるかもしれない。
738 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/08/31(土) 16:17:49.18 ID:f+/061hE0
儀式中、ふと先生との初めて会った時のことを思い出した。

結論から言って、比企谷先生は変な人だ。それも相当。毎日嫌そうに担任の仕事をしているし、私たち星守が話しかけてもろくに反応をもしてくれない。たまに話したと思ったら、捻くれたことばっかり言う。あと、私がお菓子を作ってあげても「いや、今はちょっと……」って言って遠慮もする。

でも文句を言いつつも私たちの特訓を毎日きちんと見てくれて分析もしてくれるし、話も聞いてくれる。それになんだかんだ言ってお菓子もちゃんと食べてくれる。なぜか食べ終わった後に毎回ひきつった笑顔になるけれど。

それになにより、比企谷先生は優しいし、頼りになる。イロウスとの戦闘ではいつも的確な指示をくれるし、いざという時は私たちを鼓舞してくれる。戦闘後に恒例になってる「なでなでタイム」の時は、顔を真っ赤にしながら、でもすごく優しい手つきで私の頭をなでてくれる。おかげで私は先生の「なでなで」の虜になってしまったくらいだ。

多分、比企谷先生と初めて会った時から、私は直感的に分かったんだと思う。比企谷先生が私たち星守にとってとても大切な存在だってことに。

儀式を通して、みんなの希望を集めている間も、ずっと先生の思いを探してた。

そして今、先生の思いが「なでなで」を通して私に流れ込んできた。恥ずかしそうな、でも確かな「信頼」。私が先生に対して持っていた気持ちと同じものを先生も抱いていたのだ。それを直に感じることができて、少しくすぐったい。でもそれ以上に、私の中に集まっていたみんなの希望の力が、何倍にも膨れ上がっていくのがわかった。
739 : ◆JZBU1pVAAI [sage saga]:2019/08/31(土) 16:21:04.64 ID:f+/061hE0
今回の更新は以上です。

初めて八幡以外の視点で物語を進めてみました。素直なみきが心の中でどんなことを考えていたのかを想像するのは難しかったけれど、新鮮な体験でした。
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/31(土) 20:35:49.46 ID:IcNarYXW0
乙!
741 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/09/18(水) 01:08:24.92 ID:PV3YaRVQ0
最終章-48


理事長に言われるがまま、俺は星月の傍に立った。相も変わらず星月は目をつぶったまま女の子座りを続けている。

それはともかく、俺は何すればいいのん? と理事長に視線を向けてみるが、理事長からは微笑みが返ってくるだけ。なんでこの人は重要なことをいつも言わないのかな……。

まあ、わざわざ俺に頼んでくるあたり、大体の察しはついている。大方「なでなで」をしろということなのだろう。

この学校に来た初日から幾度となくやらされてきた「なでなで」。星守クラス担任の重要な仕事だとは言われているが、正直今でも全く慣れない。妹である小町ならともかく、赤の他人である女子中高生たちの頭をなでるなんて、一歩間違えなくても変態的な行為だ。そんな行為を嬉々として受け入れる星守たちも、それを推奨する教師たちも、やはり相当ずれているに違いない。

ただ、そんな行為とはいえ。いや、そんな行為だからこそ伝わる思いもある。例えば言葉や態度と言った表面上のやり取りならば、虚言を吐いたり演技をして誤魔化したりすることもできる。けれど、「なでなで」は身体接触を伴う。いかに外面を取り繕っても、内にある感情が手を伝って流れ込んでしまう。実際、俺は「なでなで」をする時に心拍数が異常に高まり手汗も止まらなくなるが、星守にはそれが全てバレている。

もしかしたらこういう身体接触をする時にも完璧に演技ができる人がいるのかもしれない。陽乃さんや葉山辺りなら上手くやれそうではある。しかし俺は生粋の男子ぼっち高校生。表面上の会話すらほとんどしてこなかった人間だ。そんな俺が同年代の女の子の頭をなでるなんて非日常的な行為を飄々とこなせるわけがない。毎度毎度穴掘って埋まってしまいたいくらいの恥ずかしさと戦っている。

一方で、恥ずかしさと戦っているのは星守も同じだということを俺は知っている。普段から底抜けに明るい奴らも含め、なでられている最中は皆が顔を赤くする。時には普段しないような会話さえしてしまうほどだ。こうして互いが恥ずかしがりながら、だからこそ本当の関わりを持てる「なでなで」の時間は、確かに八雲先生が言うように星守との親密度を高める行為なのかもしれない。あるいはこういう思考をしている時点で既に毒されているとも言えるが。

とにかく、この状況で「なでなで」を要求されているということは、すなわち俺の星月に対する偽らざる気持ちを伝えろ、と言い換えることができるというわけだ。

今日だけで何度感情を露わにすれば気が済むんだ、と愚痴をこぼしたくもなる。とはいえ、やらなければいけないことには変わりない。俺はそっと右手を星月の頭に乗せた。

普段は星守たちから「なでなで」をせがまれる故、言うなれば「なでさせられている」状態だ。ところが今は、目をつぶってじっと座る星月の無防備な頭を俺がなでまわすという、通報不可避な様相を呈している。

だからなのか、いつもとは違ったなで方をしているのが自分でもわかる。これまではどちらかというと、労いの意図が大きかったため、なるべくやわらかい手つきで触れるようにしていた。しかし今は、これから起こるであろう戦闘にたった1人で向かう彼女を信託する気持ちが強い。自然、なでる力も強くなってしまう。

俺たちをラボから送り出した八雲先生や御剣先生もこんな気持ちだったんだろうか。今になって2人の気持ちがよくわかる。これならいっそ、現場で下っ端をしていたほうが遥かにマシだ。本質的に社畜マインドを持ち合わせている俺が他人の仕事を鼓舞するなんて、本末転倒にも程がある。こういうのはこれっきりにしてもらいたい。

とどのつまり、俺は星月を信じて待つことしかできないわけだ。まあ、勝算は低くないと思う。信じた道を進む星月の強さはこれまで何度も見てきた。今回もその強さを発揮してくれることだろう。

八幡「頑張れよ」

絞めとばかりに俺は一言そう呟いた。

すると、星月の身体が光に包まれた。先刻、星月たちの星衣が変化した時と同じ光だ。

光に包まれるシルエットから、星月の星衣がまたしても変化していることがわかった。腰のあたりから髪留めと同じような花びらが生えたり、下半身後方を覆うスカート? の裾がより大きくなったりと、全体的により豪華な星衣に変わっている。

そして光が収まり星衣の全貌が明らかになると、思わず嘆息が漏れてしまった。

それくらい、彼女の姿は神々しかった。直前までの星衣は黒と赤が目立っていたが、今回の星衣は白とピンクが主である。そのせいか、今まで以上に星衣が光り輝いているように思える。その姿は戦闘をするというよりも、何かのパーティーに赴くプリンセスのようだ。

そんな星月の変化とは逆に、周りにいた若葉、成海、常磐の星衣が消滅し、彼女たちは元々着ていた制服姿になった。これはつまり、星守としての力が星月に集まったということの現れだろう。

ということは……

とっさに俺は視線を大型イロウスや禁樹と戦う星守に移したが、やはり彼女たちも皆制服姿に戻っている。

八幡「お前ら、こっちに来い!」

星衣が消えたということは、星守としての力もなくなったということだ。いくら特訓を積んでるとはいえ、星衣の力無しにイロウスと対峙できるとは思えない。

みき「先生、私が行きます」

星月はそう言い残して消え去ったと思ったら、次の瞬間には向こうで大挙していた大型イロウスが一匹残らず消滅していた。大型イロウスが消滅していく中、力強くかつ煌びやかに立つ姿に、思わず息をのんだ。

いくらなんでもチート過ぎませんか? という感想は胸の内に留めておくことにする。まあ、18人の星守の力が結集したんだ。あれほどの力が発揮できるのも頷ける。

そんなことを思っていると、向こうから制服姿の星守たちが走ってきた。どうやらこっちと合流するつもりのようだ。

しかしそんな格好の獲物を禁樹が逃すはずがなく、星守集団に向けていくつもの球が発射された。

みき「はあ!!」

瞬間、星月が大きな声とともに球と集団の間に現れ、その勢いのままに球を一刀両断していく。空中で盛大に鳴り響く爆発音が周囲に響く。しかし空中で爆発したおかげで、星守たちがその爆風に巻き込まれることはなかった。
742 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/09/18(水) 01:09:39.70 ID:PV3YaRVQ0
最終章-49


明日葉「先生、儀式は成功したんですね」

集団の先頭を走っていたためいち早く俺のもとへたどり着いた楠さんが、息も絶え絶えに俺に尋ねてきた。

八幡「はい。楠さんたちが時間を稼いでくれたおかげです」

俺が返答している間にも続けざまに星守たちが合流してくる。その表情はどれも期待半分、不安半分、と言ったところ。

一瞥したところ、戻ってきた星守たちに大きな外傷は見当たらないが、全員酷く疲労していた。しかしそんな状況でも互いに支え合って、皆が星月と禁樹の戦いを固唾をのんで見守る。

禁樹「全く、星守というのは諦めの悪い集団だこと」

みき「希望を信じて最後まで戦う。それが星守だから!」

苛立ちと呆れを隠さない禁樹に対し、益々熱気を帯びながら斬りかかる星月。しかし星月の攻撃は禁樹の防御膜に防がれてしまう。

禁樹「どんな手を尽くそうと、最後に待っているのは絶望。それがわからないの?」

みき「希望を信じてる限り、絶望はしない!」

星月が禁樹の脅しに屈さずに剣をつき立て続けたことで、次第に防御膜にヒビが入り始める。

みき「私が絶望するなんてありえない。だって、私はみんなの希望だから!」

ついに星月が防御膜を突破した。その勢いのまま禁樹に向かって突進していく。

禁樹「星守〜!」

唸る禁樹はどこからか黒い剣を出現させ、星月の剣はそれに受け止められてしまう。

みき「くっ……!」

それからしばらくの間、星月と禁樹は壮絶な剣の応酬を繰り広げた。空中で、地表で、空間のあらゆる所で剣がぶつかり合う音が鳴り響き、あまりのスピードに目が追い付かない。

サドネ「ミキ、すごい」

望「アタシたちの力が集まればあんなに速く動けるんだ」

同じ星守の中にも俺と同じ感想を抱くものが多い。それほどまでに、今回の戦いはこれまでとは次元が違う。

両者の戦いは完全に互角と言っていい。それはつまり、何か決定打に欠けているということだ。決定打……?

八幡「星月! スキルだ! スキルを使え!」

思わず俺は叫んだ。なんでこんな単純なことに気づかなかったのか。星月の力を込めた攻撃は禁樹の防御膜さえ破れる。なら、それを使わない手はない。

みき「はい!」

一度星月は距離を取り、再度禁樹に向かって斬りこんでいった。

みき「『クラリティ・フォース』!」

星月は今まで以上の速さで剣を振るって無数の斬撃波を飛ばすが、その全てを禁樹は斬りはたいていく。その衝撃で辺り一面に火花と土煙が立ち込めてしまい、思わず目をつぶってしまった。

目を開けると、剣を振り下ろした星月と、腰のあたりで上下真っ二つになった禁樹の姿があった。

星守たち「やった!」

星守たちは完全に斬られた禁樹の姿を見て歓喜の声を上げる。しかし、理事長の顔は未だ険しいままだ。

それもそのはず。2つに斬られた禁樹の身体は、それぞれが原型を留めないほどに溶解しながら再び凝固しようとしていた。

牡丹「みき! 禁樹は人間の絶望心によって具現化されたものです。それを倒すためには反対の力、つまり希望の力で完全に消滅させなければなりません!」

理事長は小さな体を目一杯使って声を荒らげた。

みき「わかってます理事長。これで最後にします」

星月はそう言うと剣の切っ先を真上に上げながら、胸の前に両手で構える。

みき「みんなの希望をこの一撃に込める!」

星月が言うと、剣全体が一段と光り輝き始めた。とんでもない量のエネルギーが集まっているのか、星月の身体の周りを複数の小さな電撃がまとう。ぱっと見、スーパーサイヤ人にでもなったかのような迫力だ。

みき「『エレナ。アミスター』!」

上空に浮かび上がった星月がスキル名を唱えた。瞬間、星月の身体から強大な球状のエネルギー波が三度発射され、空間全体が大きな衝撃に包まれた。
743 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/09/18(水) 01:12:43.89 ID:PV3YaRVQ0
今回の更新は以上です。

必殺技の描写がド下手なのは>>1の力不足です。詳しく知りたい方はスキル名で検索してください……
744 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/09/30(月) 21:05:38.91 ID:qtbuNIGP0
更新待ってる皆さん、申し訳ありません。ここ最近リアルが忙しくて全然書けてないので、更新遅くなります。
745 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/10/11(金) 22:54:02.24 ID:84WfHOsV0
最終章-50


全身に凄まじい爆風が襲ってくる。腕を上げて巻き上げられる砂埃から目を守りつつ、下半身に力を入れてなんとか耐えていると、

禁樹「お、おぉ……」

禁樹は言葉にならない呻き声を発しながら、ついに完全に消滅した。

星守「やったー!」

再び星守たちは歓声を上げる。宿敵であるイロウスの親玉を今度こそ倒したのだ。これまで彼女たちがどれほど悩み、苦しんできたか身近で見てきた俺には、この空気を茶化すことはできない。だからと言って、俺もこの流れに乗るかと言われればそんなことはしないのだが。

そんな偉業の立役者でもある星月は、ゆっくりと地面へ降下してきた。しかしその身体からは急速に光が失われている。

昴、遥香「みき!」

歓喜の輪からいち早く飛び出した若葉と成海を先頭に、星守たちが星月の元へと駆け出した。星月が地上に降り立ったのと、星守たちが彼女を囲んだのはほぼ同時だった。

みき「みんな……」

僅かに一言呟いた星月だったが、光とともに星衣が消えると、その場に崩れ落ちた。

花音「みき! 大丈夫!?」

みき「あはは、ちょっと力が抜けちゃいました……」

楓「ゆっくり身体を休めてください、みき先輩」

おそらく星守の力を結集させたことの後遺症だろう。肉体的にも精神的にも高い負担がかかると理事長も言ってたし、今は千導院の言うように、無理をさせてはならない。

しかし星月を労っているのもつかの間。再び空間が大きく揺れ出した。

ひなた「ど、どうなってるの!?」

牡丹「おそらく禁樹が消滅したことによって、ここを支える力も失われたのです。一刻も早く脱出しなければなりません」

桜「なんじゃと……もうわしは動けんぞ……」

うらら「うららも……」

あんこ「ワタシも……」

体力の消耗が激しい中学生組を中心に、苦悶の表情を浮かべる者も多い。1人最上級生が混ざっているけど、気にしない気にしない。

蓮華「みんな、あと一息頑張りましょう?」

明日葉「必ず全員で地上に帰るぞ」

対して周囲を励ます2人の上級生。それによって大方の星守は顔を上げて最後の力を振り絞る決意を固めたように見える。

心美「で、でもみき先輩は……」

ただ、朝比奈の不安げな視線がチラチラと俺を捉える。……そんな風に見なくてもわかるっつの。

八幡「星月は俺が運ぶ」

ここにいるのは疲労した女子中高生、小柄で年齢不詳の女性、そして男子高校生の俺。誰が考えたって一番体力が残ってる男の俺が運ぶべきだ。まあここまで直接的には何の貢献も出来てないわけだし、こういう単純な力仕事くらいは引き受けないと罰が当たりそう。

花音「アンタが自分から他人を助けるなんて……。明日は暴風雨かしら」

サドネ「おにいちゃん、大丈夫?」

八幡「おい」

どうやら俺の厚意はこれっぽっちも伝わらなかったらしい。煌上はともかく、純朴なサドネにこう言われるのはかなりキツイものがある。

ひとまず文句は心の中にしっかりと刻み込み、俺は星月の傍で膝立ちをした。

八幡「乗れるか?」

みき「はい、ありがとうございます」

若葉と成海に手伝ってもらい、どうにか星月をおぶることができた。形式上仕方のないことだが、星月が俺に体重をかけていることや、彼女を支えるためにむき出しの太腿を鷲掴みしていることがひどく気にかかる。まあここを出るまでの辛抱だ。無心。無心になるんだ。

牡丹「皆さん、今は何よりここを脱出するのが最優先です。動ける人から階段を上がってください」

理事長の指示を受け、星守たちは地上へ続く階段へ急ぎだした。対する俺は星月を背負って速度も落ちるから最後に登ればいいかな、と思っていたが、視界の端にチラチラと動く人影を発見した。あの黒いアホ毛は……。

みき「先生?」

俺の不自然な顔の向きに気づいたのか、星月が不思議そうに問いかけてきた。

身勝手は百も承知だが、こいつには俺の選択を見届けてもらおう。俺の意志の証人になってもらうために。
746 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/10/11(金) 22:55:05.74 ID:84WfHOsV0
最終章-51


八幡「悪い。少しだけ付き合ってくれ」

みき「え、ちょっと……」

八幡「理事長。星守たちの先導、よろしくお願いします」

返事も聞かないまま、俺は黒いアホ毛の持ち主の元へ歩を進める。

ニセ八幡「よお」

黒いアホ毛を持つ綺麗な目をした俺――もう1人の俺が軽く手を挙げてこちらへ歩いてきた。

みき「なんであなたが……」

ニセ八幡「なぜか俺だけ禁樹に取り込まれなかったんだよ」

星月の強張った反応に対し、肩をすくめるもう1人の俺。

八幡「流石俺だな。仲間にも存在を忘れられるとは」

ニセ八幡「まあ、元が元だからな」

もう1人の俺は本人比200%の爽やかスマイルを浮かべる。気持ち悪さがない分、余計腹が立つ。どうしてニセモノのほうが良い顔してるのだろうか……。

八幡「で、何か言いたいことがあるんだろ」

ニセ八幡「ああ」

待ってましたとばかりにもう1人の俺が一言。

ニセ八幡「もう1人の俺。ここで心中しよう」

みき「な、何言ってるんですか!?」

俺よりも早く星月が反応した。

八幡「落ち着け星月」

みき「こんなふざけたこと言われて、落ち着いてなんていられません!」

なんなら当人の俺よりも激昂している。確かに傍目から見ればぶっ飛んだ提案なのだろう。

ただ、俺はあいつとほぼ同じ思考回路を持つ。正確には、俺の思考回路奴をもとに、奴が形作られているんだ。どういう意図でこんな突飛なことを言い出したのか大体の想像はつく。

八幡「あいつは、本気だ」

ニセ八幡「ああ」

ほらやっぱり。

みき「どうして……」

星月は信じられないという反応をする。おぶっているから表情まではわからないが、その声色からは戸惑いを感じられる。

ただし、時間的制約と論拠の不足からここで全ての過程を説明することはできない。今はひとまずの決着を付けられればそれでいい。だからここは毅然とした態度で臨む。
747 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/10/11(金) 22:55:36.57 ID:84WfHOsV0
最終章-52


八幡「俺はお前の言う通りにはしない」

俺の返答に、もう1人の俺は苦虫を嚙み潰したような表情を見せる。

ニセ八幡「……お前は求め続けるつもりか?」

八幡「ああ」

ニセ八幡「お前が求めようとしているものは、妄想の産物でしかないんだぞ? お前や俺が手に入れられるようなものじゃない。それはお前もわかってるだろ?」

流石もう1人の俺。俺が散々思い悩んだところを的確についてくる。

だけど、俺はお前とは違うんだ。だから、

八幡「……それでも俺は、求め続ける」

もう1人の俺は何も言わず、その場でじっと立ちすくむ。その目は俺の心を見透かそうとしているようにも見えるが、多分こいつには一生かかっても理解できないだろう。俺の一部を切り取った存在が、俺の全体を把握するなんて不可能だ。

ニセ八幡「お前は、過去の自分を否定するのか?」

だから、こういう問いにも俺は堂々と答えることできる。


八幡「それじゃあ悩みは解決しないし、誰も救われないだろ」


まさかこの言葉を俺が言うことになるとは思わなかった。多分あいつが使った文脈とは違っているだろうが、今の俺の偽らざる気持ちを表すのにはこの言葉が適切だと思う。

ニセ八幡「パクリじゃねえか……」

八幡「うるせ」

パクリでもいいんだよ。大事なのは、そこにどんな思いが込められているかだ。今の反応からも、こいつが俺の思いを否定的に捉えていることは明らかだが、そんなことは関係ない。俺のことは、俺が決める。

ニセ八幡「そこまで言うなら、精々頑張ることだな」

もう1人の俺は完全に諦めた様子で皮肉を言う。しかし、すぐにその表情が険しくなった。

ニセ八幡「だけど忘れるなよ。俺は常にお前の心にいるからな」

そう言い残して、もう1人の俺はすーっとその姿を消した。

これは比喩なんかじゃない。あいつの言う通り、俺の心には常にあいつがいる。俺の決断を懐疑し、否定し、思いとどまらせようとする悪意が。これから先、俺はそんな悪意と戦い続けなきゃいけないのだろう。今、俺はその選択をしたのだ。

みき「せ、先生は何を言い争ってたんですか?」

一瞬の後、星月が遠慮がちに尋ねてきた。わざわざ俺たちの議論、いや、俺が自分にケジメをつける瞬間を見てもらったんだ。説明責任は果たさないとな。

八幡「……上で説明する」

一言呟くと、俺は星月を背負い直し、今度こそ階段へと走りだした。
748 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/10/11(金) 22:57:50.05 ID:84WfHOsV0
今回の更新は以上です。

遅くなりまして申し訳ありません。なんとか戦いのシーンは終わりました。ラスボスということを踏まえてもグダった感は大いにありますが、大目に見てください。
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/12(土) 01:43:50.86 ID:pQn1g37d0
おつおつ
遅くなっても失踪しそうにないから安心して追える
750 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/13(日) 19:08:11.43 ID:k82C9X/P0
乙!
751 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/10/26(土) 00:41:09.98 ID:xx8pfKLY0
最終章-53


地上を目指し階段を上り続けることしばらく。ようやく穴から抜け出し外の光を全身で浴びることができた。となればよかったが、地上の世界は夕暮れで真っ赤に染まり、神樹の根本は校舎の陰になっているため、少し薄暗い。

八幡「はあはあ……やっと着いた……」

俺は最後の力を振り絞って星月をゆっくりと地面に降ろす。

みき「先生大丈夫ですか?」

八幡「ああ……」

星月の質問に、その場にへたり込みながらどうにか頷く。いくら重くないとはいえ、女子高生1人をおぶって何百段もの階段を急いで上がれば足腰はガクガクになる。

星守たち「先生! みき!」

なんとか息を整えていると、俺と星月は瞬く間に星守たちに囲まれてしまった。服はボロボロで怪我をしている人もいるが、ひとりも欠けることなく全員がここに集まっている。その事実に素直に安堵してしまう。

……こんな風に他人の心配をするようになるなんて夢にも思わなかった。人間、死地をくぐり抜ければ多少の変化はしてしまうものらしい。そうか、俺はサイヤ人の血を引くもの者だったのか。

みき「先生、なんでニヤけてるんですか?」

ばっちり表情に出ていたらしく、星月がジト目を向けてきた。

八幡「なんでもねえよ」

適当にごまかしていると、さらに2つの人影がこちらに急いでるのが目に入った。

風蘭「比企谷、みき、よく帰って来たな!」

樹「約束、ちゃんと守ってくれたわね」

ラボから飛び出してきた御剣先生と八雲先生も心底嬉しそうな様子だ。

みき「えへへ」

星月は気恥ずかしそうに頭をかく。こいつ、いつもは怒られてばかりだからな。褒められることに慣れてないのが丸わかりだ。

同じく人に褒められ慣れていない俺はというと、「うす……」と軽く頭を下げるだけ。もう、慣れてないにも程があるわ! こういう対応しかできないからぼっちになるんですよね、わかってます。

2人の先生が合流したことで、星守たちのテンションがさらに高まる。普段あまりはしゃがない奴も含め皆が禁樹討伐を喜び合っている様子は、どこか演技じみている。まるでこの熱気を冷まさしてはいけない、という不文律が存在しているかのように。

牡丹「皆さん、揃いましたね」

一足遅れて理事長もこちらへとやって来た。その歩みはいつも通りのペースながら、何か寂寥感のようなものを見て取れる。

牡丹「では、星守クラス『最後』の授業を始めましょう」
752 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/10/26(土) 00:41:50.39 ID:xx8pfKLY0
最終章-54


理事長の言葉に、俺の周りの人たちが一様に肩を震わせたのがわかった。

まあ、予想通りの展開だ。

ひなた「最後……?」

うらら「な、何言ってるのよ! うららは、星守とアイドルを両立させるために明日からも頑張るんだから……」

南や蓮見は形だけの抵抗を示す。しかし、それが形ばかりの抵抗であることは彼女たちの震えた声が証明していた。

牡丹「今、この時間をもって、星守クラスは解散となります」

先ほどよりも幾分か力の入った宣言。それは一切の反論をさせまいという意思の表れのようにも聞こえる。

くるみ「今日で解散……」

蓮華「れんげたちはこれからどうなるの?」

星守たちの不安そうな空気を察したか、芹沢さんが詰め寄る。

牡丹「皆さんは一般生徒と同じく通常学級に異動となります。ですので、引き続きこの学校に通ってもらうことになります」

桜「むぅ、今更一般学級に編入か……」

藤宮をはじめ、困惑する星守は何人も見受けられる。そんな中、綿木がおずおずと挙手した。

ミシェル「先生たちもミミたちと同じようにクラスを変わるの?」

綿木の問いかけに、理事長は一瞬顔をしかめた。しかしそれは次にまばたきをした時には元に戻っていた。

牡丹「樹と風蘭にもこのまま教師を続けてもらいます。星守関係の仕事がなくなる分、今までよりも仕事量は減りますね」

理事長はそうほほ笑むが、八雲先生と御剣先生は複雑そうな表情をしたままだ。

みき「あの、比企谷先生は……?」

今度こそ理事長の顔が雲った。その表情が既に言わんとしている内容を如実に表していた。

牡丹「……星守クラスの解散とともに、比企谷先生。いいえ、比企谷八幡くんとの交流を終了することとします」

明日葉「つまり、比企谷先生は明日から神樹ヶ峰女学園にはいらっしゃらない、ということですか……?」

牡丹「そういうことになります」

サドネ「ヤダ! おにいちゃんも一緒がいい!」

望「これでお別れなんて、アタシも嫌!」

星守クラスの解散を知らされた時以上の動揺が走った。泣き出す者、叫ぶ者、事態を呑み込めていない者、色々いる。

ここで俺は何を言うべきか。担任として訓話をする? それは違う。交流生としてお礼を言う? それも違う。

俺は、比企谷八幡という1人の人間として、こいつらに言わなくちゃいけない。
753 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/10/26(土) 00:44:03.66 ID:xx8pfKLY0
最終章-55


八幡「……お前ら、何か勘違いしてないか?」

想定以上に痰が喉に絡まり、かすれた声になってしまった。1つ咳払いをして改めて口を開く。

八幡「俺は星守クラスをサポートするためにこの学校に来させられたんだぞ。星守クラスが無くなれば俺の存在意義もなくなるだろ」

ゆり「星守クラスがなくなっても、先生が個人的に残ればいいのではないですか?」

八幡「元々俺は別の高校の生徒だ。ここにいる理由は、もうない」

昴「だったら星守クラスをなくさなければ……」

八幡「それはダメだ」

若葉が呟いたその言葉に、思わず強い口調で反論してしまった。場の温度がいくらか下がったような気もするが、いちいち気にしてはいられない。

八幡「星守はイロウスから人類を守る存在だ。その脅威がなくなった今、星守が存在する意味は完全に消滅した。目的を失った組織は、速やかに解体されるべきだ」

イロウスという脅威がなくなったことで、人類にとって星守は希望の象徴から過剰な暴力装置となった。このままいけば、遅かれ早かれ彼女たちの力が悪用される恐れがある。そんな事態は何としても避けなければならない。

楓「確かにイロウスが消滅すれば、星守は必要ないかもしれません。ですが、先生がここからいなくなる必要はありませんよね?」

八幡「俺は一介の男子高校生だぞ? 今までは教師兼生徒という特例でここに在籍できたが、それが無くなれば女子校の神樹ヶ峰女学園に俺がいられるわけないだろ」

花音「なら校則を変えれば……」

八幡「俺1人のために校則を変えるってか? そんなこと無理に決まってる」

心美「でも先生と離れるのは寂しいです……」

朝比奈の呟きに、場が水を打ったように静まり返る。

こういう感情に訴えかけてくる系の発言は、どうも苦手だ。さっきまでのように論理的な追及にはそれを上回るロジックを提示すればいいが、こういう場合は正直お手上げだ。

何せ、感情的にはこの学校を離れたいと思っていないのだ。だからこそこれでもかと理論武装をして、誰の目から見ても俺がこの学校から離れなければならないと全員に納得させなくてはならない。

八幡「俺の存在は、遠くないうちにお前らの障害になる」

あんこ「どういうこと?」

八幡「晴れて一般生徒になれたお前らは、星守クラスの関係者である俺の存在を疎ましく思うようになるってことだ」

遙香「そんなことないです! 私たち星守クラスは全員先生のことを信頼しています!」

八幡「仮にお前らはそうだとして、じゃあ他の大多数の生徒はどうだ? 星守クラスと違って、俺は他の生徒からしたら今でもタブー扱いされてるんだぞ。放課後に廊下を歩いてて俺がどれだけ白い目で見られてるか知ってる?」

これは嘘ではない。教職員含め、全員が女性のこの学校で唯一の男子である俺の存在は異分子そのものだ。これまでは星守クラスの関係者と言うことで大目に見てもらえていたが、その紋所が無くなれば、俺がどういった扱いをされるかは火を見るより明らかだ。

詩穂「その時は私たちが助けて、」

八幡「どんな時も助けてくれるのか? それは無理だ。第一お前らが常に俺のことを気にかける余裕なんて、時間的にも精神的にもないだろ。それにイロウスの時と違って、相手は同年代の女子だぞ? 人間関係がトラブルの元になるのは同じ女子のお前らが一番わかるはずだ」

強引なことは百も承知で、俺は考え付く限りの論理を並べ立てた。最後に仕上げの一言を添える。

八幡「俺は、俺のせいでお前らに余計な負担をかけさせたくない」

これが俺に言える精一杯の、そして唯一の感情論だ。

俺は鈍感じゃない。むしろ敏感な方だ。だから星守たちが俺に肯定的な印象を抱いているのに気づいているし、それを憎からず思っている自分の気持ちも自覚している。

ただ、それを甘受してしまっては、過去の俺を否定することになる。うわべだけの馴れ合いに慣れ、そこに迎合することは忌避すべき欺瞞だ。そんなものを俺は求めていたわけじゃない。

だからこれは一種の賭けだ。

本来赤の他人であるはずの俺たちが、神樹に導かれ、短くも濃密に関わってしまった。この時間は絶対に消すことができないほどに俺たちの心に刻み込まれてしまっている。

なればこそ。これから先どのような距離を保っていくのが正しいと彼女たちは考えているのか。俺の言葉に対する反応でそれがわかる。
754 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/10/26(土) 00:46:24.52 ID:xx8pfKLY0
今回の更新は以上です。

八幡のキャラ変が過ぎるかもしれません。皆さんの中での八幡像と解釈がずれていても、それはそれとしてご理解ください。
755 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/29(火) 05:51:30.21 ID:5pW/EgIOO
乙!
756 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/11/15(金) 01:37:50.20 ID:V9pRHS1W0
最終章-56


みき「……1つ教えてください」

俺は視線だけで星月に続きを問うた。

みき「先生と偽物の先生がしてた会話。あれはどういう意味なんですか?」

そういえば上で説明する、って言ったままだったか。説明責任は果たすつもりだが、さてどう言えばいいものか……。と俺が悩んでいる間に、星月は事情を知らない人に向けて概要を話していた。いや、俺の偽物がイケメンだったとか言わなくていいから。

星月が話し終えると、周囲の視線が星月から俺へと移動した。いくつもの強い目力に圧倒される。そのせいか、口の中がカラカラに乾く。間を置く意味も含めて、残った水分で唇を湿らせた。

八幡「これまでの俺の考え方と、これからの俺の考え方のすり合わせをしたんだ」

みき「もっと詳しく言ってください」

どうにか言い終えた俺だが、すぐにツッコミを受けてしまった。流石に今の説明では伝わらんか。

八幡「まあ、なんつうの。孤高のぼっちを貫く俺としては、ここでの体験はイレギュラーだったわけで。でもそれを例外だと排除するには俺の過去に深く刻まれ過ぎて……。だから、俺の中でどう折り合いをつけていくのか。そういうケジメみたいなものをもう一人の自分に対して言ったのが地下でのやりとりの意味、です……」

小学生並みの論理力を展開してしまった。自信なさ過ぎて最後が丁寧語になる始末。はじめ、なか、おわり、なんてあったものじゃない。まぁ実際言葉にできる思いなんてのは、心の中で蠢く感情の一部でしかない。常に思考し続け、常人の何倍にも膨れ上がった俺の心を言葉にしたところで、破綻をきたすのは自明の理だ。そうはいっても、もう少しわかりやすく伝えられた気もするが。

しかしこうやって悔いたところで、一旦放出された言葉は戻らない。それらは否応なく他人の耳に入り、それぞれの物差しで勝手に解釈される。そうなってしまえば俺にできることは何もない。たとえそれが誤解であったとしても。

みき「その答えが、私たちの元から離れる、ってことですか?」

幾ばくかの沈黙の後、星月が口を開いた。その手は強く握りしめられる余り、ぷるぷると震えている。

八幡「ああ」

これ以上、俺が彼女たちに発する言葉はない。俺の短い返答が全てだと悟った星月は、改めて一歩こちらに歩み寄ってきた。

みき「……先生と離れるのはいやです」

予想を外れなかった言葉に、視線が自然と地面に落ちてしまう。

やっぱり伝わらないか。お年頃で、かつ長年の悲願を達成した直後のハイテンション思春期女子相手に、俺の論法は通じないらしい。しかし他の誰に対しても俺の理論が通じるとは思えない。あれ、ダメなの俺じゃん。ファイナルアンサー出てしまった。

それはともかくとして、他の手を考えるしかない。そう思った時だった。

みき「って言えればよかったんですけどね」

まるで考えてもみなかった言葉が続いた。思わず顔を上げて星月を凝視してしまう。その表情は普段とは全然違うもので、例えるなら慈愛にみちた表情、と言えばいいのか。

みき「どれだけ捻くれたことを言われても、先生が私たちのことを大切に思ってくれていることはわかります。わかっちゃうんです」

――わかっちゃうんです。その言葉が意外にも心にストンと落ちてきた。

多分これまでの俺なら「そんな簡単にわかるなんて言うんじゃねえ! お前は山田奈緒子か」って心の中で文句を言いつつ、露骨に嫌な顔をしたに違いない。そして嫌われ、二度と話さなくなるに違いない。

だが、星月の言葉に対しては、そういったアレルギー反応は起こらなかった。それが不思議で仕方ない。自分でも気づかないうちにここまで彼女のことを、ひいては星守のことを認めていたのか。我ながら自らの心の変化に驚きを隠せない。

みき「言い方は前と全然変わってない。でも、そこに込められてる感情は違う気がするんです」

そうか。星月の場合、俺の言葉の裏を見抜いたうえで話をしているんだ。それと同時に、俺も星月の考えていることが『わかってしまう』。彼女が上辺だけの言葉を使っていない、ということが。

この考えに論拠なんてものはない。あるのは直感だけ。これも今までの俺なら欺瞞と吐き捨てるような結論だ。ただ、これはまちがってないと思う。否、まちがいにさせてはならない。

みき「みんなはどう?」

星月は左右に立つ同胞へ問いかける。皆思うところがあったようで、肯定の反応が小さいながらもはっきりと聞こえてくる。

八幡「……すまん」

素直に頭が下がった。これまで陳謝や建前上頭を下げた経験は山のようにあるが、思考より先に頭が動いたのはこれが初めてだ。彼女たちの素直で純真な返答に心動かされたらしい。我ながら流されやすくなったものだ。

みき「ただ、」

星月は悪戯っぽく口角を上げた。

みき「このまま先生の言う通りにする、なんて言ってないですよ?」
757 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/11/15(金) 01:39:37.16 ID:V9pRHS1W0
最終章-57


八幡「は?」

更なる予想外の発言に声が裏返ってしまった。

みき「イロウスの討伐、明日葉先輩の退院、あんこ先輩の復帰、比企谷先生の交流終了、そして星守クラスの解散。お祝い事は目白押しです!」

星月の後ろで「あーそうか!」みたいな盛り上がりが生まれている。彼女たちの思い至ったアイディアも大方予想がつくが、それが外れていることを願って俺は問いかけた。

八幡「で?」

八幡「だから、これからパーティーを開きましょう!」

星守たち「賛成!」

星月の言葉に合わせ、星守たちの声がぴったりと揃った。小学校の卒業式かっつの。

風蘭「よし! アタシの全自動チャーハン製造機改を披露する絶好の機会だな!」

樹「ちゃんとしたもの作りなさいよ風蘭」

牡丹「楽しみですね」

教師陣もやる気満々のようだ。どこにそんな体力が残ってるんだよ。

八幡「いや、俺参加するなんて言ってないんですけど」

詩穂「絶対帰しませんよ?」

微かに鼻の根元を黒く染めながら国枝が微笑んできた。控えめに言ってめっちゃ怖い。

八幡「あれだ、今日は妹がアレで……」

うらら「こまっちにはもう許可貰ってるわ!」

俺の中での切り札的存在の小町も、蓮見の根回しによって使用不能になってしまった。

花音「あんたは今日までこの学校の関係者なんだから、パーティー参加も仕事の内よ。諦めなさい」

むう、仕事と言われてしまうと、俺の中の社畜マインドが嫌でも反応してしまう。おかしいな。どうして一生徒(しかも交換留学生的な立場)の俺が、学校で社会人の心得を取得してるんですかね。シンデレラストーリーで取得できるスキルでしたっけ?

こうやって絶望に浸る俺とは対照的に、勝手に盛り上がる星守や教師たちの表情は、なぜか光り輝いて見える。もう日も暮れる時間のはずだが……。

くるみ「皆さん、上を見てください」

常盤の声に従い見上げてみれば、神樹の全体が神々しい光に包まれていた。まるで星月たちの星衣が変化した時のようだ。

サドネ「キレイ」

楓「神樹も祝福してくれているのですわね」

あんこ「でも、それだけじゃないみたい」

粒咲さんの言う通り、輝く枝葉は先端の方から徐々に霧散していた。

ゆり「神樹が、消えていく……」

牡丹「イロウスが根絶されたことで、神樹もその存在理由を失ったのでしょう」

理事長の言葉は、そのままこの星守クラスの現状にも当てはまる。それは言葉にせずとも全員が共有できた。

その証拠に、皆がめいめいに両手を胸の前で組んで神樹に祈る姿勢をとった。俺もつられて同じポーズをする。

今まで神に祈ったことは無い。むしろ貧乏クジばかり引かされて、神を恨んでいるまである。神樹に対してもそうだ。この樹の意思によって、俺はこの学校に来ることになったのだ。愚痴の一つも言いたくなる。

キャラの濃い18人の星守と、押しの強い2人の教師、なんだかんだ丸め込んでくる理事長との交流は本当にしんどかった。毎日が激務だったと言っても過言ではない。特別労働手当を請求してもいいレベル。俺が魔法少女だったら速攻でソウルジェム濁ってた。

ただ、こんな日常は間もなく終わる。

枝葉はもう完全に消え、太い幹も高い所から順に消失していく。そのスピードは速くないが、止まることはない。もうあと数分で神樹は完全に消滅するだろう。

周囲では鼻を啜る音が聞こえる。星守たちも、変わりゆく自らの日常と神樹の消滅を重ね合わせているのだろうか。

溢れる涙をハンカチで拭った楠さんは、改めて姿勢を正した。そんな彼女の様子を見て、他の星守たちも泣くのをこらえて神樹に向き直る。

明日葉「神樹様、今までありがとうございました」

星守たち「ありがとうございました!」

楠さんの号令に合わせ、星守たちの感謝の言葉がグラウンドに響き渡る。

彼女たちの声は、神樹の残滓とともに遥か空の上まで届くような、そんな挨拶だった。
758 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/11/15(金) 01:40:47.59 ID:V9pRHS1W0
今回の更新は以上です。

おそらく次回か次々回で完結します。
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/15(金) 15:10:46.57 ID:7wAR9FKe0
乙!
760 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/11/23(土) 00:49:11.79 ID:9Cp/jU4S0
エピローグ


数枚の桜の花びらが春の心地よい風に乗って、開け放たれた廊下の窓からひらひらと舞い落ちる。校舎を青々と覆う神樹の存在で忘れがちだが、この学校にはいろいろな植物が植えられているんだったっけ。いつだか鉢植えから聞こえてきた声を思い出す。

……ついノスタルジックに浸ってしまった。なにせ5年と数か月ぶりの校舎だ。少しくらい許してほしい。

そうやって頭では過去を懐かしみながらも、足は目的地に向けて止まることはない。

とにもかくにも、俺は再びこの神樹ヶ峰女学園に戻って来てしまった。

全ての原因は、大学4年生のときに俺の所属していた研究室を狙い撃ちした出頭要請、もとい教員募集の知らせだ。当時所属してた研究室で教員免許に関する講義に出てたのは俺一人。もし俺が教員免許を取得してなかったらどうするつもりだったのだろうか。まあ、平塚先生経由でそこらへんの情報を掴んでたんだろう。そういった点では抜け目のない人たちだし。

とどのつまり、前回の拉致から、今度は任意同行という体でこの学校に呼び出されたわけだ。そこで理事長から下された判決は「内定」という名の有罪判決。量刑は無期限の労働。俺は黙秘権すら行使できないまま、その場で必要書類にサインさせられ、この学校に収監されることになった。

そして今、真新しい囚人服……じゃなかったスーツに身を包んだ俺は新任教師として担任クラスへと歩を進めている。それにしても新人に担任持たせるか普通。企業だったら研修とかするんでしょ? かび臭い研修施設に数週間閉じ込められて、企業理念なんかを叩きこまれるアレ。うーん、いきなり仕事させられるのも嫌だけど、洗脳されるのも嫌だ。やっぱり労働は悪。悪・即・斬!

明日葉「比企谷先生」

振り返ると、白いブラウスに紺のジャケット、グレーのタイトスカート、極めつけに黒縁眼鏡というザ・女教師スタイルに身を包んだ楠さんが早足で追いかけてきていた。しかし纏う雰囲気は、5年前とほとんど変わらない。

八幡「どうも」

明日葉「ご無沙汰しております。こんなに早く先生とこの学校でお会いできるなんて思ってませんでした」

軽い会釈しかしていない俺に対し、楠さんは礼儀正しくびしっとしたお辞儀を返してきた。これが育ちの差か……。

そうして俺たちは並んで歩き出した。どうせお互い同じ目的地を目指しているのだから、当然と言えば当然。それゆえ会話は続く。

明日葉「でも驚きました。先生、今日までこの学校に赴任すること秘密にしてましたよね?」

八幡「別にわざわざ言いふらすことでもないでしょう」

明日葉「神樹ヶ峰始まって以来初の男性教師になったことが言いふらすことではないと!?」

俺の言い訳は、かえって楠さんの神経を逆撫でしてしまった。別にそこまで反応しなくてもいいじゃないか。

八幡「まあ状況が状況ですから。褒められた赴任、というわけでもないですし」

5年前、星守たちが禁樹を倒したことで、それと繋がっていた神樹も消滅した。

と思っていた。

合宿所でのパーティー中、1人抜け出した俺が何の気なしに神樹の根元を見てみたら、既に小さな神樹の新芽が土から顔を出していた。神樹があるということは、禁樹も存在するということになる。感動的な別れをした手前、星守たちに言い出せなかった俺は、密かに理事長、八雲先生、御剣先生にだけ事情を明かした。

パーティー終了後、3人と一緒に神樹の根元を掘ってみたが、根に当たる部分がごっそりと消えていた。おそらく禁樹は神樹の根元ではない別の場所に根を下ろしているのだろう。

その時話に上がったのは、近い将来に再び禁樹由来のイロウスが発生することと、それを倒すために星守が必要になることの2点だった。神樹と禁樹の大きさはほぼ比例するため、神樹が小さいうちは禁樹にもイロウスを生み出す力はない、ということらしい。その時の俺は、このまま神樹が枯れ果ててくれればと強く祈ったのを覚えている。

しかし神樹はその後も順調に成長し、今日見たときには大木と呼ぶにふさわしい大きさになっていた。つまり禁樹も同程度、あるいはそれ以上に大きくなっているはずで、イロウスの発生もすぐ間近に迫っていると言える。俺のところに教員募集の通知が来たのもこういう背景があってのことだ。

そんな俺の自嘲的な呟きに、楠さんは言葉を詰まらせた。

明日葉「しかし、いつかは訪れる運命です」

八幡「できればもう少し後の方がよかったんですけれど」

明日葉「仕方ありません。それが人間というものですから」

楠さんはすっと窓の外を見やりながら話を続ける。

明日葉「昨年この学校に赴任してから、私は『副担任』として担任も生徒もいないクラスのために入念に準備をしてきました」

その口調は憂いを帯びていて、とてもじゃないが口出しできる調子ではない。なんと反応すればいいのか、非常に困ってしまう。星守の任務に人一倍誇りと責任を感じていた楠さんのことだ。複雑な心境であることは想像に難くない。
761 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/11/23(土) 00:49:42.40 ID:9Cp/jU4S0
明日葉「そして今日、比企谷先生が『担任』として星守クラスを受け持ってくださることに、とてもやりがいを感じています」

楠さんはそう言うと、一転して俺に笑顔を向けた。5年前を彷彿とさせるその表情のおかげで、少し雰囲気が持ち直したような気がする。おかげで口も動く。

八幡「喜んでお譲りしますよ。なんなら今すぐこの場で」

明日葉「適材適所って言いますよね。比企谷先生以上に担任業務が務まる人はいらっしゃいません」

適材適所。他人に使う分には都合が良い言葉だが、人に言われると気分が下がる。字面的に「材」という字が気に食わない。材木座を連想させるのはともかくとして、まるで人を物のように扱っているようじゃないか。そういう風潮もあってか、最近は「人材」を「人財」と言い換えている企業もよく目にする。まあそういうところのモットーは「人<財」なわけで、結局馬車馬の如く働かされることに変わりはない。そしてハイになってウマぴょいするまである。

そういうブラック経営者とは違って、楠さんは言葉本来の使い方をしているのだろう。真面目が服着て歩いているような人だ。この状況で冗談を言うとは考えにくい。そんな人に太鼓判を押されてしまってはやらざるを得ないというものだ。

八幡「ま、できる範囲でやりますよ」

明日葉「ふふ、頼もしいですね」

口元に手を当ててくすくす笑うその仕草は、メイドラゴンを一発で仕留める破壊力だった。

そんなやり取りをしているうちに、目的地の教室にたどり着いた。「星守クラス」と書かれたルームプレートは真新しく光沢を帯びている。

明日葉「さ。比企谷先生」

八幡「ええ」

ドアをスライドさせて中に入ると、備品の何もかもが記憶通りのまま配置されていた。その風景に懐かしさが込み上げてくる反面、座っている生徒の数の少なさには寂しさも感じる。

生徒は教卓前の机に計3人座っている。入り口から近い順に、銀髪ショートのロシア系女子、黒髪ロングに眼鏡をかけた委員長系女子、そして茶髪ボブにカチューシャをつけた活発系女子である。どれも見た目の印象だから実際のところはわからんが、そんな感じの生徒たちだ。

教壇に上がり教卓に出席簿を置いた俺は、目の前の3人に一挙手一投足を凝視されてしまった。珍しいものを見るような視線にいささか居心地の悪さを覚える。

とりあえずこういう時は挨拶が肝心ですよね! ゾンビランドサガで学んだ。まぁ目の前の子たちはゾンビではないけれど。なんなら目の感じからして俺がゾンビという可能性まである。フランシュシュへの加入待ったなし。

八幡「えー、おはようございましゅ……」

緊張のあまり噛んでしまった。ましゅって何。フランシュシュ引きずりすぎでは? むしろ先輩! って呼んでほしい。

照れ隠しの意味も含め、後ろの黒板に自分の名前を書いてから、改めて前の3人と相対する。

八幡「あー、俺は星守クラス担任の比企谷八幡だ。それでこっちの人が」

明日葉「副担任の楠明日葉です」

俺の雑なフリに、楠さんは一礼をして応える。

八幡「じゃあ早速連絡事項を、」

茶髪「あー!!」

ぬるりとHRに移行しようとした時、茶髪の女の子が俺を指さしながら大声を上げた。

八幡「え、何」

茶髪「あの時のおにいちゃん!」

あの時っていつだよ、ていうか君誰? という疑問が口から出かかった時、その子の首元で、小さな丸い宝石がきらりと光るのが目に入った。

あれ、あの宝石なんだか見覚えがあるな……。

茶髪「5年前、大型イロウスから村を守ってくれましたよね!」

思い出した。俺が初めてこの学校に来た日、星月と一緒にイロウス退治をした村にいた女の子だ。確かあの時は俺が抱えて走れるくらいの体躯だったはずだが……。5年も経てば体躯も変わるのか。なんだか親戚のおじさんになった気分。

八幡「あぁ、そんなこともあったな」

茶髪「わたし、あの日からずっと星守になることが夢だったんです!」

八幡「そう……」

突然前のめりになられても八幡困る。学校を廃校の危機から救いたいの?

八幡「まあ待て落ち着け。お前1人テンションを上げられても他の奴らが困る」

一つ咳払いをして、すっと目を細める。どうやらこいつには現実を突きつけないといけないらしい。
762 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2019/11/23(土) 00:50:45.64 ID:9Cp/jU4S0
八幡「ここで残念なお知らせです。皆さんは『普通』の青春を送ることができません」

俺の言葉に目の前の3人はぽかんとしている。

明日葉「比企谷先生!?」

驚く楠さんを手で制し、なおも俺は話を続ける。

八幡「皆も知っての通り、このクラスは神樹に選ばれた特別な生徒が配属されるところだ。その目的は『イロウスの討伐』ただ1つ」

軽い口調ではなく、あえて厳粛に伝える。そうでないと彼女たちに対しても不誠実だ。

八幡「だからこれから6年間、キツイ特訓に明け暮れなきゃいけないし、イロウスが出現すれば年中無休で駆けつけなければならない。この学校に入学する前に説明があったと思うが、改めて確認しておく。そんなクラスの担任になった俺なんて、ブラック企業も真っ青な労働形態で働かされるんだよな。高プロ制度ってなんだよ」

明日葉「先生、最後私怨になってます……」

おっといけね。つい自分が定額働かせ放題の存在になってしまったことへの恨みが出てしまった。話を戻さなきゃ。

八幡「まぁそういうことで、お前らは晴れて人類を守るために無制限でボランティアをする存在になってしまいました」

茶髪「そんな言い方……」

八幡「ただ」

茶髪の子の言葉を遮り、俺は最も言いたかったことを口にする。

八幡「俺や楠先生、それに他にもこのクラスを支える先生たちはいるし、何より、ここに座っているお前らはそういう苦楽をともにできる仲間だ。そいつらと過ごす青春は、きっと意味のあるものになると思う」

いざ言葉にしてみると、ずいぶん陳腐な表現になってしまった。ただ一方で彼女たちの学園生活は、普通じゃない青春、間違った青春、そういう見方をされるかもしれない。でも、それをどう感じるかは当人にのみ委ねられた権利だ。余人がそれを勝手に解釈し、言葉を当てはめ定義づけることは絶対に許されない。

それならば俺にできることは何か。それは彼女たちがまちがった青春を送らないように選択肢を与えること、そして選択肢を減らすこと。これに尽きる。いつか俺がしてもらったように。

八幡「まとめると、この『星守クラス』の関係者は皆で運命共同体です。決して自分だけ特訓サボるとかはしないように」

決めポーズとばかりに、俺は右手の人差し指をピンと立てた。このままチッチッってする勢い。しかし隣からはため息が聞こえる。

明日葉「比企谷先生がそれを言いますか……」

八幡「俺はサボりません。もっともな理由を付けて合法的に仕事をしないことは多々ありますけど」

明日葉「サボるよりもタチが悪いですね……」

なおも呆れた反応をする楠さんに反論しようとした時、前方3人からジト目を向けられていることに気づいた。俺自身、新しくも懐かしくもある立ち位置に舞い上がっていたらしい。

八幡「まぁ、そういうわけでこれからよろしく頼む」

そうして深々と頭を下げた。支えると言った手前、きちんと彼女たちの成長を見届けなければならない。たとえどれだけ手がかかろうとも。

八幡「じゃあ自己紹介ということで、トップバッターは立ってる君からどうぞ」

俺は茶髪の子に視線を向けた。ぱっと見、最も手がかかりそうな、でも最も大きく伸びそうな俺の生徒に。

茶髪「は、はい! わたしの名前は、」
763 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2019/11/23(土) 00:55:43.62 ID:9Cp/jU4S0
以上で本編は完結です! 原作の方も完結巻が出たということで、こちらもなんとかペースを早めて終了させることができました。よくある八幡のクロスSSではありますが、自分的には構想通りのラストにすることができて満足です。

リアルが忙しいので未定ではありますが、もしかしたら番外編を投稿するかもしれません。

読んでくださった皆さんの反応にとても励まされました。本当にありがとうございました。
764 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/23(土) 11:28:18.67 ID:6WH6qbJhO
【決講】可奈「飛べ飛べ神鳥〜♪る〜ぐ〜ちゃん〜♪」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1574466531/
765 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/23(土) 20:19:46.47 ID:84v7ORkt0
完結乙!
楽しく読ませてもらったぜ!
可能なら外伝も楽しみにしている。
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