勇者「救いたければ手を汚せ」 

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511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/12(日) 01:17:12.10 ID:4rgWuNMGO

勇者「……盗賊」

盗賊「勇者、済まねえな。随分と遅くなっちまった」

勇者「そんなことはないよ。世界が裂ける前に、さっさと終わらせよう」

盗賊「ああ、そうだな。こんな酷え夜は、さっさと終わらせちまおうぜ」ニコッ

勇者「(盗賊、いつも通りでいてくれてありがとう。やっぱり君は凄いよ)」

盗賊「(勇者の奴、中身はあんま変わってねえんだな。なんにせよ、こっからだな……)」

魔狼「ヌフッ…まあよい、まあよい。事は成った。我と我等が捻曲げてみせたのだ」

盗賊「満足してんじゃねえよハゲ」

魔狼「ヌフッ…勇者よ、魔王よ、我は世に示したぞ。お主等は世に何を示す」ズンッ

勇者「希望。お前の居ない世界だ」ヂャキッ

盗賊「自由。てめえの居ねえ世界だ」ヂャキッ
512 : ◆4RMqv2eks3Tg :2017/02/12(日) 01:19:23.39 ID:rxNf4DDrO
短いけどここまで
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/12(日) 01:50:36.89 ID:KpSV1Y+gO

魔狼「一つになっておれば、世界は楽に逝けた。これはお主の所為じゃ、違うか?」

魔狼「母の死!思い人の死!この夜の悲劇!!全てはお主が引き起こしたのだ!!」

勇者「……………」ギリッ

魔狼「ヌフッ!ヌハハハッッッッ!!」

魔狼「ヌフッ…さあ、我と我等、魔の呼び声に応え、今こそ目を覚ますのだ」

魔狼「在るべき大地を在るべき場所へと運び、太古、原初の姿へ回帰せよ」

魔狼「歪な世界を在るべき姿へ。さあ、目覚めよ。海を統べる旧き神、深縹の王よ」

盗賊「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」タッ

魔狼「ッッ!!?」

盗賊「気分良く語ってるとこ悪りぃけど、嫁を返して貰うぜ」

ぞぶっ…ゴシャッッ!!

盗賊「(鬼王、遅くなって悪かったな。これで約束は果たしたぜ)」ザゥッ
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/12(日) 01:53:27.66 ID:KpSV1Y+gO

勇者「……盗賊」

盗賊「勇者、済まねえな。随分と遅くなっちまった」

勇者「そんなことはないよ。世界が裂ける前に、さっさと終わらせよう」

盗賊「ああ、そうだな。こんな酷え夜は、さっさと終わらせちまおうぜ」ニコッ

勇者「(盗賊、いつも通りでいてくれてありがとう。やっぱり、君は凄いよ)」

盗賊「(勇者の奴、中身はあんま変わってねえんだな。なんにせよ、こっからだ……)」

魔狼「ヌフッ…まあよい、まあよい。事は成った。我と我等が捻曲げてみせたのだ」

盗賊「満足してんじゃねえよハゲ」

魔狼「ヌフッ…勇者よ、魔王よ、我は世に示したぞ。お主等は世に何を示す」ズンッ

勇者「希望。お前の居ない世界だ」ヂャキッ

盗賊「自由。てめえの居ねえ世界だ」ヂャキッ

515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/12(日) 01:55:07.57 ID:KpSV1Y+gO
>>509>>511はミス
誤字脱字申し訳ない寝ます
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/12(日) 05:20:31.81 ID:mjJIppvDO

誤字脱字はネットの世の常よ
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/13(月) 21:22:34.49 ID:ITiMDueNO

>>>>>>

西部大峡谷

魔狼『ヌフッ!ヌハハハッッッッ!!』

魔狼『ヌフッ…さあ、我と我等、魔の呼び声に応え、今こそ目を覚ますのだ』

魔狼『在るべき大地を在るべき場所へと運び、太古、原初の姿へ回帰せよ』

魔狼『歪な世界を在るべき姿へ。さあ、目覚めよ。海を統べる旧き神、深縹の王よ』

翠緑王「(神に縋るか……)」

翠緑王「(絶望の獣よ、お主は自己が抱える矛盾に気付いておるのか)」

翠緑王「(運命からの解放を『求めている』ことに気付いておるのか)」

翠緑王「(お主は今、己が『望み』を叶えるべく神に縋っておるのだ。それにさえ気付かぬか)」

翠緑王「(望みなくして生きられはせん。望みを絶たれた者に、あのような真似は出来ん)」

翠緑王「(そもそも、絶望が形を得て存在していること自体おかしな話)」

翠緑王「(これは絶望による存在証明。生きた証……)」

翠緑王「(足掻き、藻掻き、模索し、遂には神にさえ縋り付くか。何とも、皮肉な話じゃ……)」
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/13(月) 21:27:36.60 ID:ITiMDueNO

翠緑王「(しかし、何故じゃ……)

翠緑王「(彼奴、絶望は、如何にして楔の存在を知り得た。あれは儂とーー)」

ゴゴッ…ゴゴゴゴッッ…

翠緑王「(これは、怒り…ではない。困惑か、混乱か……)」

翠緑王「(深縹の王よ、まさか目覚めの日が来ようとは夢にも思うとらんかったじゃろう)」

翠緑王「(儂もじゃよ。儂も、お主が目を覚ます時が来ようとは思うとらんかった……)」

ズシッッ!! ゴゴゴゴッッ!!!

翠緑王「(考えとる時間も懐かしむ時間もなさそうじゃな)」

翠緑王「……皆、よく聞いておくれ」

翠緑王「今、地に立つ全てが危機に瀕しておる。これは最早、人や魔だけの問題ではない」

翠緑王「魔にも人にも、木々や草花にも支えが必要じゃ。勿論、儂等にも……」

翠緑王「根付くにも芽吹くにも、座すにも立つにも、大地なくして有り得ない」
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/13(月) 21:29:40.92 ID:ITiMDueNO

翠緑王「皆が魔に何を思うとるのか」

翠緑王「皆が人に何を思うとるのか。それはよう分かる」

翠緑王「千年に渡り、果てのない戦を続けた魔神族に失望した者もいるじゃろう」

翠緑王「後の千年に渡り、偽りの歴史を生きた人間に失望した者もいるじゃろう」

翠緑王「だが、己を守るには、存続させるには、時に不要なものさえ背負わねばならん」

魔狼『ヌフッ…勇者よ、魔王よ、我は示した。世に示したぞ。お主等は、世に何を示す』

勇者『希望。お前の居ない世界だ』

盗賊『自由。てめえの居ねえ世界だ』
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/13(月) 21:32:03.31 ID:ITiMDueNO

翠緑王「見なさい」

翠緑王「長い時を経て、こうして『目覚めた者』が現れた。新たな世代、真実を知る者達じゃ」

翠緑王「あの二人…いや、三人か……」

翠緑王「あの者達は運命に抗う力と、世界を変える可能性を秘めておる」

翠緑王「『今後も』あの者達に惹かれ、新たに目覚める者が続々と現れるじゃろう」

翠緑王「失望するには、まだ早い」

翠緑王「この滅びは何としても防がねばならん。これは、儂等にしか出来んことじゃからの……」

翠緑王「……この大峡谷に身を寄せ合うのも、今日が最後。皆、頼むぞ」ザッ

『……長よ、我々はーー』

翠緑王「案ずるな、儂等は一つじゃよ」

翠緑王「大地が裂け、大波に曝されようと、必ずや種は芽吹き、気高き花を咲かす」

ミシッ…ズズンッッッ!!

翠緑王「もう少し話したかったが、残された時間はないようじゃ」

翠緑王「儂はこれより大地に根を張り国を繋ぐ。皆、達者でな……」
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/14(火) 01:37:12.66 ID:4c8F4gQDO

>>>>>>>

南部上空

魔女「あれは…木の、根?」

魔導師「何とも凄まじい光景だ。あれが旧き神、自然そのものを司る原初の力か……」

魔導師「水の流動する力。地、木々の繋ぐ力」

魔導師「幾本もの巨木、その根が、引き裂かれる大地を懸命に繋ぎ止めようとしている」

魔女「でも、少しずつ引き裂かれて……先生、このままじゃ本当に世界が滅茶苦茶に……」

魔導師「魔女よ、気持ちは分かるが我々には何も出来ん。我々の力など通用しないだろう……」

魔導師「『あれ』は人間…いや、如何に優れた魔術師だろうと立ち入れる領域ではない」

魔女「……北部は、仲間達は無事でしょうか」

魔導師「何とも言えん。この有り様だ…無事であることを願う他ない……」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/14(火) 01:37:55.30 ID:4c8F4gQDO

魔狼『さあ、来るがいい』

勇者『…………』ザッ

盗賊『勇者』

勇者『?』

盗賊『いや、何でもねえ。終わったら話す』

勇者『分かった(終わったら、か……)』

盗賊『(勇者は腹を括ってる。どうする?どうやって繋ぎ止めりゃいい?)』

盗賊『(死んで欲しくねえ。俺に何が出来る? くそっ、分かんねえ……)』

魔女「(盗賊……)」

魔導師「そろそろ頃合か……」

魔導師「旧き神の力が渦巻く今ならば、奴に気取られることなく近付けるだろう」

魔導師「魔女よ、灯す火は百や二百ではない。今の内に力を練っておけ」
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/14(火) 01:40:02.50 ID:4c8F4gQDO

魔女「…………」ギュッ

魔導師「不安か?」

魔女「……想定していないことが立て続けに起きて、次に何が起きるか全く予想出来ないんです」

魔女「厳しい戦いになるとは思ってましたけど、まさか『こんなこと』が起きるなんて……」

魔女「……きっと、盗賊もそんな感じなんだと思います。この戦いの先が全く想像出来ない」

魔導師「それは私もだ」

魔女「えっ…」

魔導師「私にも、こんな経験はない。この混沌とした状況下では予想予測など役に立たん」

魔導師「だが、先を見据えるのなら今を乗り越えるしかない。この先へ進むには、それしかないのだ」

魔女「……私、やります。私がやれることをやります。だから、見ていて下さい」

魔導師「ああ、勿論だ。全て見届ける。さあ、準備が整ったのなら行くぞ」

魔女「はい」

魔女「(先は見えないけど、どうなるかなんて分からないけど、やれることを全部やろう)」

魔女「(王女様だって聖女さんだって、私なら何とか出来るかもしれないんだ)」ギュッ
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/14(火) 01:45:42.94 ID:4c8F4gQDO
ここまで
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/14(火) 01:55:06.16 ID:dHOnEz9DO
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:16:20.47 ID:1uW2r996O

>>>>>>>

魔狼「まだ、まだ淡い」ズッ

ズシンッッッ!! ミシッ…ビキビキッッ……

勇者「(一撃で地面が捲れ上がった。地割れによって大地が不安定になっているのか)」

勇者「(大師匠様が繋ぎ止めているようだけど、大地裂き溢れ出る水の力の方が強い)」

勇者「(このままだと平原どころか立っていられる場所さえ無くなーーー)」ズギッ

盗賊「勇者、脚から落とすぞ。勇者?」

勇者「(そうだ、俺は勇者だ。俺は俺だ、誰かに渡して堪るか)」ガクンッ

盗賊「勇者!!」ダッ

ガシッ…

勇者「……盗賊、ありがとう。助かった」

盗賊「(っ、酷え汗だ。痩せこけて見える。何だ、勇者に何が起きてやがる)」

勇者「もう大丈夫だ。盗賊、奴は俺が引き付ける。その先は頼む」ザッ
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:17:59.27 ID:1uW2r996O

盗賊「勇者、お前ーーー」

魔狼「フヌ、まだ耐えるか」

魔狼「だが、まだ増すぞ。より色濃く、より鮮明に蝕む。さて、どれだけ保つか……ヌフッ…」

勇者「…ッ…ぐっ…あああッッッ!!!」ダッ

魔狼「ヌハッ!向かって来るか!面白い!!!」ダンッ

ドギャッッ!!!

勇者「ぐッッ…」

魔狼「どうした、何をしておる? 爪を受け止めるだけで手一杯か?」

勇者「ッ、おおおおおッッ!!」ググッ

ギッ…ギジジ…バギンッッ!!!

魔狼「ヌフッ、流石は希望。意志で押し切り力で斬り折ったか。面白い……」
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:20:02.66 ID:1uW2r996O

勇者「盗賊!!!」

盗賊「大河の如く現れ出でよ、樽ごと呑み込め大蛇姫」

どずんッ!!! ぐわっ……

魔狼「何が出るかと思えば、図体だけの使い魔か。失せろ、戦の邪魔をするな」

ザギャッッ!!!

盗賊「(野郎、一撃で切り刻みやがった)」

盗賊「(蛇姫の力が弱いんじゃねえ、俺が扱い慣れてねえからだ)」

魔狼「どうした魔王、それで終いか?」

盗賊「今はこんだけ出来りゃあ上等さ。それより、やっと目が合ったな」

魔王「何?」

盗賊「本能的なのかどうか分かんねえが、てめえは勇者ばっか見てた。俺を見ようともしなかった」
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:21:52.27 ID:1uW2r996O

盗賊「俺に興味がない、わけがねえよな」

盗賊「てめえの内側には魔王を好いてた奴等が山程いるんだ。あれか?俺の見るのが怖いのか?」

盗賊「それとも、俺に前の王サマを重ねて恋しくなるのを避けてんのか?」

魔狼「戯れるな」

盗賊「まあ、そう言うなよ」

盗賊「こんな台詞は野郎相手に言いたくねえが、もう少し見つめ合おうぜ?」

盗賊「互いに一目惚れした、雷に打たれた男と女みてえによ」

魔狼「瞳じゅーー」

盗賊「てめえは勇者にしか倒せねえ。なら、俺が『倒せる間』を作るだけだ」
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:32:24.83 ID:1uW2r996O

魔狼「ぬっ、ぐッッ……」ギギッ

ザグッッッ!!! ブシュッ…

魔狼「ぐぬッッ…」ガグンッ

勇者「目が覚めるような痛みだろう。頭蓋を砕かれ、脳髄を刺し貫かれるのは」

魔狼「ヌフッ…ああ、確かに痛む。焼かれるようだ。だがな、この程度で終わりはしない」

勇者「いや、もう終わりだ」

勇者「全てはこの時の為、彼女が此処へ来るまでの繋ぎに過ぎない」

魔狼「(この感覚は……魔女か!!?)」バッ


魔女「彼等に、新たなる火を……」スッ

ドッッッ…ゴゥッッッッ!!


魔狼「炎の粒、火種……そうか、この炎はーー」

魔女「闇に囚われ、闇を産んだ者達よ、目の前にある光を見よ。新たな光、新たな王を見よ」

魔女「千年の間に流し続けた涙を止め、悲しみから解き放たれた眼で彼の者を見よ」
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:38:34.48 ID:1uW2r996O

魔狼「(我が内にある魔核に炎を灯すか……)」

魔狼「(成る程、全ては勇者の描いた通りというわけか。だが、『これ』だけは離さん)」

魔女「……背負った悲しみの重さ、その痛みは私には分からない」

魔女「前を向けなんて言わない。無かったことにしろなんて言わない」

魔女「ただ、過去じゃなくて今を見て……」

魔女「私にその傷は癒やせないかもしれない。だけど、変わることは出来る。きっと変えられる」

魔狼「(……そうか、まあよい)」

魔狼「(そうであるなら、我の中から去れ。今に行きたければ行くがいい)」

魔狼「(だが、覚悟しろ)」

魔狼「(今更希望を灯すなど許さん。我を産み出しながら希望を灯すなど……)」

魔狼「(絶望は、絶望を全うする)」ズズッ
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:46:08.69 ID:1uW2r996O

盗賊「おっ、出やがった」

『あれが、新たな王。姿形は違うが、確かに似ている』

『転生。本当にそんなことが……』

『思えば、決して諦めぬ御方だった。やはり、王は諦めてはいなかったのだ』

『そうであったな。諦めていたのは我等の方だったと言うわけか……』

『こんな時が来ようとは未だ信じられぬ。あれは誠に王か?夢か?幻か?』

魔女「盗賊、抜け出た魔核は頼んだよ」

盗賊「……いや、なんか多くねえ?」

魔女「……まあ、うん。確かに予想より多いけども……」

盗賊「だろ? あれは流石にキツいって」

魔女「承知の上だったんでしょ……ていうか身体まで復活するとマズいから早くしてよ」
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:48:53.76 ID:1uW2r996O

盗賊「何もせず逃がすっていう手もーー」

魔女「ないから!さっさとやれバカ!!」

勇者「(全く、こんな時なのにまたやってるよ……でも、ちょっと安心した)」

勇者「(魔女の内側から魔導師さんを感じる。あれなら、きっと魔女も大丈夫だ……)」

盗賊「……さて、やるか」

『王であるなら、力を示せ』

『王であるなら、我等を喰らえ。喰らい、示せ』

『それがよい。力無き者であるなら、内から食い破ってくれる』

『我等は従うのではない。我等は共にあった。王と共にいたのだ』

『偽りなき王であるならーー』

盗賊「いいから来いよ」

盗賊「お前らの一切合切、絶望の千年は俺が引き受けてやる。だから、来い」
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 02:47:30.62 ID:Vvfk6fYNO

『うむ、勇ましい。が、これからだ』

『宿せるか否か』

『王は求めた。生まれついての空白。それ故に更なる力を求めた』

『奪うとは、自己の存在証明。自らを有とすべく、王は欲したのだ』

『王の転生が運命ではなく、王の意志による力ならば或いは……』

『行かなければ始まらぬ。行かなければ見えぬ。あの小娘の言葉が誠ならば、見えるはず』

ズォォォォォ…ズズズ…

魔女「(……凄い)」

魔女「(数多の魔核が次々と盗賊に向かって奔っていく。まるで、巨大な魔力の渦……!!?)」
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 02:49:46.59 ID:Vvfk6fYNO

戦士「……我は、化身」

戦士「あの冬の夜に希望と別たれ、この身体を得た時から絶望は形を成した」

戦士「汝、我となりて希望を喰らうのだ。そう、喰い尽くす為に、喰らい尽くす為に」

魔女「(なんて、禍々しい……)」

魔女「(むせ返る程の憎悪に満ちている。あれが、戦士さんの肉体を依り代に顕現した姿……)」

勇者「魔女、盗賊を頼む」ザッ

魔女「うん、分かった。だけど、あの人はーー」

勇者「君が火を灯してくれた」

勇者「残すは奴だけだ。あれさえ消し去れば、この夜は明ける」

勇者「あれは俺がやる。俺にしかやれない。大丈夫、すぐに終わらせる」
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 02:51:25.58 ID:Vvfk6fYNO

魔女「待って」

勇者「ん?」

魔女「聖女さんと王女様のこと……私なら、何とか出来るかもしれない」

勇者「……そっか。でも、もしそれが可能だとしても王女様だけでいい」

魔女「………えっ?」

勇者「こんなこと勝手に決めたくないけど、母さんは戻らない方が幸せだと思う」

勇者「……いや、幸せとか不幸とかじゃない。きっと、母さんは『それを』望まない」

勇者「例え君が母さんを呼び戻してくれても、僕の家族は元には戻れないから……」
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 03:05:14.00 ID:Vvfk6fYNO

魔女「………」ギュッ

勇者「ッ、ごめん。君を責めてるわけじゃないんだ。嬉しいんだけど、無理なんだよ……」

勇者「絶望の化身となった父さんは、もう戻ることはない。父さんは、もういないから……」

勇者「……父さんが自分を捧げた時、共に未来を生きることすら奪われた」

勇者「だから、もういい。疲れているだろうから、ゆっくり眠らせてあげたいんだ」

……ザゥッ…

戦士「希望よ、最期だ。遂に、時が来た」

勇者「出来ることなら、父さんと一緒に眠らせてあげたい」ヂャキッ

魔女「……っ、そっか。うん、分かったよ」

勇者「……ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」

魔女「(勇者の背中が遠離る。何か言わなきゃ、何か言わなきゃダメなのに……)」

魔女「(あの背中には何も言えない。きっと、何を言っても……)」

王女『貴方は勇者と共に戦える。正直なところ、わたくしは嫉妬しています』

王女『魔女さんが苦悩していることは存じていますが、それでも羨ましいのです』

王女『共に戦い、互いに支え合う……それは、わたくしには出来ないことですから』

王女『……わたくしにはどうやっても出来ないことも、貴方になら出来る』

魔女「(無理だよ王女様。私じゃダメなんだ。私の声は、勇者に届かない……)」
538 : ◆4RMqv2eks3Tg [saga]:2017/02/19(日) 03:12:11.61 ID:Vvfk6fYNO
次くらいで終わると思います
また明日
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:04:37.34 ID:I+YIA33OO

魔女「(……私は、どうしたら)」

魔導師「魔女、気をしっかり持て」

魔導師「考えるなとは言わん。あの背を追いたい気持ちは痛いほど分かる」

魔導師「お前は自分と王女を比較しているようだが、『どちらだろうと』無理だ」

魔女「えっ…それはどういう……」

魔導師「此処に立っているのがお前ではなく王女だとしても、勇者を繋ぎ止めることは叶わんだろう」

魔導師「あれは決意の背」

魔導師「有無を言わさぬ、如何なる介入も許さぬ、そんな意志を宿した背だ」

魔女「…………」ギュッ

魔導師「……信じること、想うこと、願うこと。待つ者には、それしかない」
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:05:53.76 ID:I+YIA33OO

魔女「信じる……」

魔導師「魔女よ、悲観するな」

魔導師「必ず帰ってくるものと信じ、やるべきをやれ」

魔導師「お前は魔王を任された」

魔導師「あの者は勇者にとって無二の友。そして、お前にとっての友でもある。そうであろう?」

魔女「友だち……!!?」ゾクッ

ゾゾゾゾゾ…ズォォォォォ…

魔女「何…あれ…あれが魔力だっていうの?」

魔女「魔の…渦…濁流…あんなの、受け入れられるわけが……ッ、盗賊!!!」タッ
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:09:38.44 ID:I+YIA33OO

盗賊「(意識、記憶が流れ込んできやがる)」

盗賊「(戦、戦、戦、血の流れ、赤い川、屍の上の屍……これが、魔神族の歩みってわけか)」

盗賊「(何処だ。俺は何処に立ってる? 彼処にいるのは王と救世主…か…?)」

『終わりだ、魔王』

『無垢な面しやがって……』

『全く、何も知らないってのは罪だな。いや、疑う心すら与えられなかったか』

『なら、俺がくれてやる』

『お前に心を与え…お前の罪を教えてやる。俺がお前を、人にしてやる』

盗賊「(ッ、なんだ…頭が痛え。今のは、王の思念……!?)」

盗賊「(くそっ、凄え数だ。渦に呑まれる。あの野郎、こんだけ溜め込んでたのかよ……)」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:12:39.19 ID:I+YIA33OO

魔女「盗賊!!!」

盗賊「(……声……誰だ? 俺は…何処だ?)」

ゾゾゾゾゾッッ…ズォォォォォ!!!

魔女「ッ、渦に遮られて届かない」

魔女「(あの渦をどうにかしないと盗賊に近付くことも出来ない……)」

魔女「(でも、あんな激流をどうやって突破すればいい?)」

魔女「(魔神族、混じり気のない純粋魔力。なら元素で中和…いや、無理だ……)」

魔女「(膨大な純粋魔力に匹敵する元素なんて使えない。あれはもう、魔力と言えるかどうかも分からない……)」

魔女「(あんなのに身を任せてたら、あれに耐えきれなかったら盗賊は……)」

『世界の危機だとか、滅びだとか言われてもピンとこねえけどよ……』

『世話になった奴とか、一緒に戦った奴とかが死ぬのは嫌だろ?』

『他の奴等がどうなろうが知ったこっちゃねえけどさ、それだけは嫌なんだよ……』
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:15:27.85 ID:I+YIA33OO

魔女「……私だって、そんなの嫌だよ」

『俺の大事な奴、勇者の大事な奴、お前の大事な奴、隊長の大事な奴……』

『巫女や鬼姫、こっち側の奴等…地下街に住む奴等の大事な奴とかさ……』

『そういうもんを繋げて拡げてったのが、世界ってやつなんだろ?』

魔女「……私の世界には、あんたが…」

魔導師「魔女?」

魔女「……先生、補助お願いします」

魔導師「……飛び込む気か」

魔女「はい。それしか、方法はないですから」

魔女「あの渦は一つであって一つじゃない。膨大な数の魔が生み出したもの……」

魔女「私には、あの渦の流れを読む力はありません。でも、先生になら出来る」
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:16:38.46 ID:I+YIA33OO

魔女「私と先生の魂は繋がってる」

魔女「先生が炎の主導権を握って、盗賊の場所を私に示して下さい」

魔女「そうなれば、後は渦の中を走るだけ。必ずや辿り着いてみせます」

魔導師「……危険は承知の上か。分かった、私が流れを読む。お前は指示に従え」

魔女「はい」

魔導師「いいか、決して気を緩めるな。あの渦、思念に取り込まれれば終わりだ」

魔導師「お前がそうなれば、私も渦に呑み込まれる。どう足掻こうと戻ることは出来んだろう」
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:18:36.86 ID:I+YIA33OO

魔女「……分かっています」

魔導師「それと、もう一つ」

魔導師「以前の王は多数の魔を宿していたようだが、一度に全てを宿したわけではない」

魔導師「戦い、奪い、喰らう。一つ一つ、その身に宿していったのだ。それを続けた結果が……」

ゾゾゾゾゾッッ…ズォォォォッッ…

魔導師「……お前の言う通り、これは一つであって一つではない。魔が群れ集った『何か』だ」

魔導師「もう少し穏便に済むかと思ったが、どうやら魔神族の本質を侮っていたようだ……」

魔導師「正直に言うが、これは一度で宿せるものではない。最悪の場合、魔王はーー」

魔女「消えませんよ」

魔女「盗賊は、こんなことで世界から消えるような奴じゃない」
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:21:38.51 ID:I+YIA33OO

魔導師「……魔女」

魔女「それに、『これは』私が呼び起こしたモノ。あいつに任せて見てるだけなんて嫌です」

魔女「先生、準備は出来ています。私はあいつを……友達を、助けたいんです」

魔導師「……ッ、来い」ザッ

魔女「(炎の主導権が先生に移った。今から、私が先生の炎……)」

魔導師「渦に僅かな裂け目を作る」

魔導師「迷わず飛び込め。躊躇えば掻き消える。見えた瞬間に跳ぶのだ」

魔女「はい、分かりました」

魔導師「案内は任せておけ。魔の流れも読み切ってみせよう」

魔導師「但し、私が出来るのはそれだけだ。渦の中で気を保ち、走り、維持するのはお前だ」

魔導師「私の役目は導いてやること。お前の役目は、連れ帰ってくることだ。よいな?」
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:28:00.07 ID:I+YIA33OO

魔女「必ず帰ってきます。友達を連れて、必ず」

魔導師「……うむ、ならばよい。では、道を開くぞ」スッ

ゴゥッッッッッ!!! ビシッ…

魔女「……見えた」タンッ

ゴゥッ…ズズ…オォォォォォッッ……

魔導師「……出逢いは変化の兆し、一人の男への想いが憎しみを拭い去り、女は過去を乗り越えた」

魔導師「戦の果てに友を得て、友に支えられ、今や魔術師達の標となりつつある」

魔導師「……我が弟子が、魔術の導き手となるか。何とも、不思議なものだ…」

ゴゴッッ…オォォォォォォ……

魔導師「……咎人と忌み嫌っていた盗賊も、今では魔女の世界に欠かせぬ存在となった」

魔導師「魔女よ、お前が自分自身が得たもの……それは、私では与えられなかったものだ」

魔導師「……盗賊よ、許されぬ咎人であり王である者よ、死んでくれるなよ」

魔導師「己の為、勇者の為、世界の為、そして何より、私の娘の為に……」
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:32:30.05 ID:ESmxwZ9aO

魔女「これは…」フワッ

ゴゴゴッッ…ズォォォォォ……

魔女「思念、歴史が渦を巻いて…あれは……」

『人間が何の役に立つ。精々が家畜、でなければ奴隷にすべきだ』

『俺は守ると決めた。そうしたいのなら俺と戦え。俺に勝ったら自由にしろ』

『てめえのような、甘ったれにやられるなんて…畜生…人間なんぞに守る価値など…』

『お前の言う通り人間は弱い。弱く、儚く、それでいて温かい種族だ』

『俺は、その温もりに救われた。弱者だと蔑んできた人間に……』

『その心変わり、甘さが、いずれ仇となる…』

『……それでも構わない。もう決めたことだ』
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:35:17.45 ID:ESmxwZ9aO

『ありがとうございます』

『礼など要らん。俺がそうしたかっただけだ』

『私もそうしたいからお礼を言っただけです。本当にありがとうございます』

魔女「……疑ってたわけじゃないけど、人と魔は本当に共存してたんだ」

魔女「あっちは戦か、こっちも戦か。さっきの魔神族みたいに、争わずにいられたら……」

ボゥッ…

魔女「先生の炎…っ、そうだ、見入ってる場合じゃない。早く盗賊の所に行かなきゃ」

ユラユラ…スーッ…

魔女「炎は下に向かってる。盗賊は下か、暗いな。それに嫌な気配がする」

魔女「渦巻く思念の質も段々重苦しくなってるし。持って行かれないように気を付けないと……」フワッ
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:37:00.29 ID:ESmxwZ9aO

盗賊「(……此処は、城?)」

盗賊「(ああ、そうだ。此処は俺の城、これは俺の玉座。魔神族は統一、残るは……)」

盗賊「(そう、残るは奴だけ……いや、奴って誰だよ? 俺は何を言ってんだ?)」

『考え直してはくれないのか』

『俺はお前の駒じゃない。俺は俺の意志で魔神族を統一した』

『それは違うよ。運命がそうさせた。そうなるように定められていたんだ』

『それは既に聞いた』

『俺の歩いた道も、全ては運命に従った結果、因と果の結び……』

『俺はその為に生まれ、その為に与えられた力で魔神族を統一した。だったな』
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:38:14.50 ID:ESmxwZ9aO

『そうだ。その通りだ』

『そこまで分かっているなら、何故分かってくれないんだ?』

『君はこの手を離れ、定められていた場所より更に高い場所へと登り詰めた。それも自力でだ』

『君なら此方側に来ても問題ない。さあ、道を歩む側から、道を創る側へ来るんだ』

『殻を破れ、偽りで築き上げたものなど捨てて共にーー』

『断る。創るだの創られるだの、そんなのはもう御免なんだよ』

『以前も言ったはずだ。必ずや喉笛に噛みつき、運命を噛み千切ってやるとな』
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:38:49.26 ID:ESmxwZ9aO

『……以前も言ったはずだ』

『そうあるべく創造された者が、そうあるべく創造した者に挑むなど不可能だと』

『ならば、俺はそうあるべく創造されたんだろうよ。運命に牙を剥き、運命に楯突く為にな』

『減らず口を…これは君の為に書き上げた物語だ。しかし、君がそうなら仕方ない』

『面倒だが、新たな物語を描かなければならない。夢を、希望を見せなければならない……』

『勇者…いや、此処では魔王か。君の物語は、跡形もなく消え失せる』

盗賊「(やってみるがいい。てめえは俺がぶちのめす。この手で、必ず……)」
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:41:05.85 ID:ESmxwZ9aO

『憐れな。それが君の望んだ最期か』

『君は同胞を己の戦に巻き込み、運命に抗い、築き上げた全てを失った』

『そして遂に、君自身も消え失せる。大乱を制した勇敢なる英雄は、歴史に残ることはない』

『……構わない。綻びは作った』

『あの程度の綻びなど、取るに足らんよ』

『だろうな、今はほんの小さな綻びだ。だが、それが俺の意志を継ぐ鍵となる』

『何百年何千年掛かろうと俺は決して諦めない。必ず、自由を手にしてみせる』

『自由などまやかしだ。決して手の届かない、手にすることの出来ないものだ』

『それを希望という者もいる。手が届かないからこそ、誰もが求めてやまない』

『求めるのこと、それ自体が自由であり救いなんだよ。自由とは、その為にある幻にすぎない』

『貴様等からすれば、そうなのだろう。だが、今の俺は自由だ。支配も束縛もされない』
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:25:01.48 ID:4qTeTbufO

『死が解放? 笑わせてくれるな』

『今のうちに笑っていろ。俺は必ず甦る。俺の意志で甦り、世に自由を与える』

『誰の為でもなく、俺自身の為でもなく、真の自由の為に、俺は戦い続ける』

『そんな予定はないが期待しておこう』

『出来ることならーー』

盗賊「出来ることなら、奪うだけでなく与えたかった……この力では、真の自由は掴めない」

盗賊「奪うのではなく、与える力を…まやかしではない、本物の希望に……」

盗賊「俺の戦はまだ終わらない。必ずや鎖を断ち切り、紡がれた運命をーー」

『あのさ……あんた、さっきから何をブツブツ言ってんのさ』
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:27:00.62 ID:4qTeTbufO

盗賊「お前は…?…」

『さっき結婚したばっかりなのに嫁の顔を忘れるとか……まあ、仕方ないか』

『あんたは盗賊、私の旦那。ほら、手首の腕輪を見てみなよ』

盗賊「腕輪? 俺はこんなものをしていたか…俺は……」

『いつまでも呆けてんじゃないよ。友達を待たせてんでしょ?』

盗賊「……友…」

『そう、友達。勇者と魔女』

『あんた、隊長さんに言ってたじゃないか。勇者は親友だってさ』
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:27:59.90 ID:4qTeTbufO

盗賊「勇者…」

勇者『悩んでるなら悩んでるって正直に言ってくれ。僕が出来る範囲で手を貸す』

勇者『僕等は友達だ。僕の前で悪人の振りをする必要はない』

勇者『魔王になっても友達だよ。優しい王様になってくれるならね』

盗賊「ッ、そうか…そうだった。あいつは俺の…勇者は俺のーー」

『ちょっと…ねえ、聞いてんの?』

盗賊「あ、ああ…悪りぃな。お陰で目ぇ覚めた。危ねえとこだった」
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:29:50.46 ID:4qTeTbufO

魔女「はぁ?」

盗賊「……は? 何でお前がいんだ?娼婦は?」

魔女「えっ、娼婦さん? いや、知らんけど……ていうか大丈夫?」

盗賊「(さっきのは何だったんだ。確かに娼婦がいたはずだ。それにあの記憶……)」

魔女「おい」

盗賊「悪りぃ悪りぃ、ちょっと変なもんを見ちまってな」

魔女「……まあ、あちこちに思念が渦巻いてるし、霊体でも見えたんじゃないの?」

盗賊「……霊体…そうかもな。それより、どうやって来たんだ?」

魔女「先生に助けて貰ったんだ。それで何とかかんとか此処まで来られたんだけど……」
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:31:35.62 ID:4qTeTbufO

魔女「問題は……」

ゴゴゴッッ…オオォォォォォ…

盗賊「これをどうすっか、だよな……」

魔女「……まだ、行ける?」

盗賊「ああ。よく分かんねえけど、さっきより楽になった。今なら行ける」

盗賊「この渦の流れさえ読めりゃあ、何とか出来るかもしれねえ」

魔女「流れ…それなら……」スッ

ボゥッ…ユラユラ……

盗賊「これは?」

魔女「道標の炎。私が此処に来られたのも、先生の炎が流れを示してくれたからなんだ」
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:33:33.65 ID:4qTeTbufO

魔女「辿ってきた道は、この炎が記憶してるはず……」

ボゥッ…ボッ…ボッ…ボッ……

魔女「ほら、あれが炎が辿ってきた道。足跡みたいになってるでしょ?」

盗賊「ああ、これなら流れを掴めるな。うっし、やるか」

魔女「どうする気? やっといて何だけど、これ全部は流石に……」

盗賊「大丈夫だ。見た目は派手だし魔力も凄えが、流れが掴めりゃ大したことはねえ」

盗賊「魔核が魔力を放ってやがるんだ。なら、元ある魔核に魔力を詰め込めば何とかなる」スッ

ズズ…ズォォォォォ……

魔女「(凄い。吹き荒れる魔核に魔力を…)」

魔女「(流れが見えているにしても、これはかなり繊細な作業のはず。いつの間にこんな……)」

盗賊「後は引き寄せるだけだな」

魔女「引き寄せるって…あんなに暴れ回ってるのをどうやって……」

盗賊「まあ見てろって、何とかするからよ」

魔女「(何だろ、この感じ…盗賊の何かが変わった気がする。何かあったのかな……)」

盗賊「……絶世の鬼女、鬼妃よ。十二単の山の姫よ。微笑み引き寄せ生き血吸え」
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:08:15.65 ID:4qTeTbufO

>>>>>>>>

戦士「消えろ」ズッ

勇者「(鈍い、さっきとはまるで違う。これなら簡単に避けられる)」

戦士「何故逃げる。さあ、斬り合え」

勇者「(焦り、怒り。何より、自分から離れていった魔神族への憎悪を感じる)」

勇者「(この機を逃せば次はない。ここで決める。これで終わらせる)」ダッ

ザンッッッ!!

戦士「ぐぬっ…」

勇者「(ッ、浅い。身を捩ったか)」

勇者「(回復は早い、反撃する間を与えるな。可変一刀、二刀型)」ガヂッ
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:14:12.04 ID:4qTeTbufO

勇者「(絶やすな、緩めるな)」

ザシュッッ!!ザンッ…ドズッッ…ゴシャッ……

戦士「がっ…まだだ…希望は…喰……」ドサッ

勇者「(手応えはあった。刺し貫き叩き斬った。どうだ? まだなのか?)」

戦士「ぬぅぅ…」

勇者「(まだだ、まだ息はある。体勢が整ってない今ならーー)」

戦士「がッ…アアアアアアッ!!」ダンッ

勇者「(焦るな、大丈夫だ。勢いだけで荒い。これなら避けらーー)」ズギンッ

ドズッッッ!!

勇者「ぁぐッッ…」

戦士「ヌフッ…やっとか、やっと毒が効いてきたか。待った甲斐があったな……」ザッ

勇者「(ッ、やめろ…来るな、そんなものは求めてない。俺は違う、俺はーー)」ズギンッ
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:15:55.84 ID:4qTeTbufO

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563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:17:03.43 ID:4qTeTbufO

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564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:17:42.04 ID:4qTeTbufO

【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:41:17.26 ID:4qTeTbufO

勇者「がッっ…アアアアアアアッッッ!!」

戦士「ヌフッ…ヌハッ!ヌハハハッッ!!」

戦士「苦しいか?だが、それは希望であるが故の痛み、お前も覚悟していたはずだ」

戦士「縋るしか出来ぬ弱者共の想いが支配していく感覚はどうだ?塗り潰されていく感覚は?」

勇者「……………」ドサッ

戦士「ヌフッ…聞け!愚か者共!!」

戦士「貴様等は身に降りかかる危機に怯え!己の命さえ他者に預ける愚図だ!!」

戦士「勇者を苦しめているのは貴様等だ!!戦うこともせず!救われることだけを願う!!」

戦士「見よ、この様を!たった一人の人間に全てを託した結果がこれだ!!」

戦士「貴様等の歪み狂った願い想い!それが寄って集って勇者を殺したのだ!!」

戦士「救いを求めるあまり!救いそのものを殺したのだ!!」

戦士「この夜は明けぬ!世界に夜明けは訪れぬ!!さあ、死に滅べ!死に絶えよ!!」

戦士「最早救いなど訪れようもない!!今夜で全てが終わるのだ!!!」
566 : ◆4RMqv2eks3Tg [saga]:2017/02/20(月) 01:43:37.03 ID:4qTeTbufO
駄目だ寝ますまた明日
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/20(月) 02:22:25.34 ID:W3Nvgcfuo

終わり間近か
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/20(月) 03:45:24.99 ID:epLEgU/DO

やはり眠気こそが最強か…
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 20:52:52.74 ID:lVJJ/gEqO

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勇者「ただいま〜」

聖女「お帰りなさい。どう?今日は釣れた?」

勇者「……ううん、全然駄目だった」

勇者「見向きもしないんだ。場所を変えたり餌を変えたり、色々してるんだけど……」

聖女「きっと、向こうには分かるのね」

勇者「分かるって何が?」

聖女「よ〜し、釣ってやるぞ!っていう気持ち」

勇者「魚なのに?」

聖女「そう。勇者は魚を見てるでしょ? 魚は何処にいるのかな〜って」
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 20:54:19.42 ID:lVJJ/gEqO

勇者「うん、そうしないと釣れないから」

聖女「きっと、魚達も勇者を見てるのよ。だから、勇者の気持ちが分かるの」

聖女「あっ、あいつは俺達を釣る気だ。気を付けないと食べられちゃう…ってね」

勇者「……僕を、見てる…」

聖女「ふふっ、釣れないなら、いっそ飛び込んでみたらいいんじゃない?」

勇者「えっ?」

聖女「釣れない釣れないって悩みながら水面を見てるだけじゃ埒が明かないでしょ?」

聖女「だから飛び込むの。同じ場所に身を置いて、同じものを感じるのよ」

聖女「そうすれば、きっと違ったものが見えてくる。本当に大切なもの、もっと綺麗なものが」

勇者「……大切なもの」

聖女「さ、そろそろお昼にしましょ。お父さんを呼んできて?庭で薪割りをしてるから」
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 20:56:01.94 ID:lVJJ/gEqO

勇者「あ、うん。分かった」

トコトコ……

勇者「お父さ〜ん、そろそろお昼ご飯だよ〜」

戦士「ん、もう昼か。昼飯は何だった?」

勇者「山菜のお味噌汁と干物。熊の肉は今日の朝で終わりだったんだって」

戦士「何?あれで最後だったのか? 無いものは仕方ないな、昼から狩りにでも行くか」

勇者「狩り!?僕も一緒に行く!!」

戦士「あのなぁ、狩りは遊びじゃないんだぞ?」

勇者「大丈夫。山に入ったら騒がない、遊ばない、お父さんから離れない」ハイ
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 20:57:26.84 ID:lVJJ/gEqO

戦士「……本当かぁ?」

勇者「本当だよ!嘘吐かないもん!!」

戦士「……そうか、そうだった。勇者は嘘吐きが嫌いだったな……」

戦士「さぁて、あいつも待っているだろう。飯も冷める。そろそろ行くか」

勇者「うんっ!」

トコトコ…

戦士「……なあ、勇者」

勇者「な〜に?」

戦士「お前から見て俺は、父は強いか?」

勇者「うん!とっても強いよ!! 僕も、いつかお父さんみたいになりたいんだ!!」

勇者「あんなにでっかい剣はまだ振れないけど……大っきくなったら、あの剣を振ってみせる」
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 21:00:21.43 ID:lVJJ/gEqO

戦士「何だ、振るだけでいいのか?」

勇者「ううん。僕はお父さんに勝って、あの剣を貰うんだ。お父さんより強くなる」ウン

戦士「……俺より強くなるか。そうだな、男ならそうでなくては駄目だ。待っているぞ」

勇者「ねえねえ、お父さんは何で強くなりたいと思ったの?」

戦士「理由か。そうだな、見たいものがあったからだろうな」

勇者「見たいものってなに?」

戦士「この世界に一つしかない場所、一人しか立つことの出来ない場所」

戦士「そこから見えるのは一体どんな景色なのか、俺はそれを知りたかった」
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 21:02:56.03 ID:lVJJ/gEqO

勇者「見えたの?」

戦士「ああ、見えた。今でも見える。俺が追い掛けていた景色は目の前にある」

勇者「ここが、お父さんの見たかった景色?山と川しかないよ?」

戦士「はははっ!そうだな。だが、それだけじゃない。答えは目の前にある」

勇者「何にもないよ?」

戦士「勇者、お前だよ。嫁と息子がいる景色。そして、三人で暮らす家……」

戦士「強さだけでは手にすることが出来ないもの、かけがえのないものだ」

戦士「求めていたものとは違うが、これも俺にしか見ることの出来ない唯一の景色だ」

サァァァァァ…

戦士「……勇者、お前にもあるはずだ。お前だけが立つ場所、お前だけの景色が」
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 21:04:53.96 ID:lVJJ/gEqO

勇者「父さん?」

戦士「息子よ、目を閉じ耳を澄ませ」

戦士「そして見つけろ。お前を求める声ではなく、お前を救う者達の声を……」ザッ

勇者「父さん? 待って!」タッ

戦士「……息子よ、愛しているぞ。生まれた時から今に至るまで…そして、これからも……」

…ザッ…ザッ…ザッ

勇者「お父さん?お父さん!? 待って!置いていかないで!!一人にしないで!!」

戦士「お前は一人ではない。父は、お前の中にある。この景色の中に在る」

勇者「父さん!待って!!もっと話したいことがあるんだ!!もっと一緒にいたいんだ!!!」

戦士「声を聞け、勇者。お前を待つ者達の声を、お前が出逢った者達の声を」
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 21:10:45.46 ID:lVJJ/gEqO

勇者「……だけど、僕にはもう…」

ギュッ…

聖女「ほら、泣かないの」

勇者「っ、母…さん…母さんっ……」

勇者「母さん、ごめんなさいっ……僕の所為だ、僕が母さんを…僕がいなかったら……」

聖女「はぁ…まったく…なに言ってるの。あなたがいなかったら私はいないのよ?」

聖女「あなたが生まれてくれたから、私は母親になれたの。あの人だってそうよ」

聖女「あなたがいなかったら、父親にはなれなかった。だから、そんなこと言わないの。ね?」

勇者「母さん……」

聖女「……勇者、やり遂げなさい。一度決めたのなら、どんなことがあっても諦めては駄目よ」

聖女「どんな結末が待ち受けていようと、いつか必ず、あなたは幸せになれる」
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 22:05:29.45 ID:lVJJ/gEqO

勇者「…でも、僕は……」

聖女「あっ、一つ言い忘れてたわ」

勇者「?」

聖女「勇者、愛してるわ」

聖女「世界中の誰よりも、あなたのことを想ってる。だって、母さんだもの」ニコ

勇者「……僕もだよ。僕も、父さんと母さんを愛してる」

聖女「……さあ、耳を澄まして声を聞きなさい」

聖女「ほんの少し、僅かな間かもしれないけれど、あなたを必ず救ってくれる」

勇者「……うん、分かった」

サァァァァァ……

勇者「……耳を澄まして…声を、聞け……」
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 22:08:57.37 ID:lVJJ/gEqO

『っ、陛下!大丈夫ですか!?』

『……妻も、いつしか私も、あの子を我が子のように思っていたんだよ』

『この夜に二人だ…私は、二人の子を喪った……光を、希望を、未来を……』

勇者「東王様……」

『知ってるかい?あの子はね、野菜嫌いだったんだよ。もう、会えないのかね……』

勇者「給仕長のおばさんだ。もう、随分会ってないや……」

『そんなっ…勇者君まで…こんなこと……』

『王妃様、泣かないで下さい。勇者様は絶対に生きています。そうでなくては…私は……』

勇者「…騎士さんも泣いてる……でも、何処へ行けば……」
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 22:10:15.90 ID:lVJJ/gEqO

『オイ、クソ猫。何処へ行くつもりだ』

『離せ。聞かずとも分かるだろう』

『テメエが行って何になる?』

『黙れッ!!彼のいない世界など私には耐えられない!!離せ!!』

勇者「神聖術師……」

『ドワーフの肩を持つ訳ではないが、お前が行ってもどうにもならん』

『それに、この揺れだ。まともに転移出来るかも怪しいところだ』

『そんなことはどうでもいい!!私は彼の所へ行くんーー』
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 22:16:09.84 ID:lVJJ/gEqO

『ぎゃあぎゃあと…喧しい女じゃわえ」

「妾とて気を抑えておるというのに、まったく、まったく情けない奴よ』

『して、武闘家。土術に秀でた者は集めたのかえ?』

『ええ、準備は出来ております。今すぐに起動しますか?』

『……いや、もう少し待つ。せめて、王と勇者の安否が分かるまでは…』

勇者「地下街の皆だ…無事でよかった……」

『勇者、死ぬな。私はまだ何も返していない。あの時の借りを、何も……』

『陛下、御心配なさらずとも勇者様は必ずやり遂げます。あの時もそうでした』

『不可能と思えたことを、あの方は実現して見せたのです』

『……そうだったな。初めは口先だけの小僧かと思っていたが…国を変え、私を変えた…』

『生きろ、勇者』

『咎人の俺がおめおめと生き延び、お前が死ぬなどあってはならん……』

勇者「北王、目が優しくなってる。監視さんは、あの時と変わらない。相変わらず、頑固そうだ……」
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 01:01:33.28 ID:nSr793NGO

『勇者、立て…立ってくれ…』

『助けに往けぬ囚われの魂。絶望でありながら希望を想うか、弟子よ』

『……あの子は僕の希望であり、戦士と聖女の…戦友の息子です』

『この身、魂が絶望に囚われていようと、それは決して変わらない』

『……案ずるな、勇者は終わらん。あれは俺の弟子だ』

『そう言いながら心配そうな顔してますね。初めて見ました、お師匠様のそんな顔……』

勇者「お師匠様、お兄ちゃん……僕は…何処へ行けば……」
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 01:02:50.06 ID:nSr793NGO

『これが貴様等の望みか!託神教!!』

『……望みなどではありませんよ。これは神の告げ、あるべき運命です』

『ふざけるなッ!!』

『こんな運命があって堪るか!!神だと!?笑わせるな!!』

『この様を見ろ!魔が溢れ大地は裂けた!!地獄以外のなにものでもない!!』

『貴様等が信仰しているのは神などではないッ!!貴様等は悪魔だ!!』

勇者『…託神教…戦ってる? この声は…誰だろう……』

『悪魔なら既に滅ぼしましたよ。名前は確か、精霊さん…でしたか』

勇者「…精霊が? でも、存在を感じる。生きてるはずだ……」
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 01:07:17.65 ID:nSr793NGO

『勇者さんは負けない。負けないんだ……』

『ぅ…ん…お兄ちゃん、それなぁに?』

『っ、起きちゃったのか。寝てなきゃ駄目だろ?』

『ねえ、なんで?』

『なんで、ゆうしゃがたおれてるの? あの人は、なんでわらってるの? お父さんは?お母さんは?』

『いかん、様子がおかしい。儂は魔術師を呼んでくる。お前は傍にいろ、いいな?』

『わ、分かった』

『お兄ちゃん、こわいよ…そとに、かいぶつがいたの、はいいろの、おっきな…かいぶつ……』

ギュッ…

『ッ、大丈夫、大丈夫だ』

『もう怖くない、俺が傍にいる。勇者さんだって頑張ってる。だから、大丈夫だ』

勇者「ッ、出口は何処なんだ。早く、早く行かないと……」
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 01:10:07.32 ID:nSr793NGO

『終わりだ。喰らってやる』

『ぐっ…勇者、大丈夫か?』

勇者「盗賊? くそっ!何処だ!何処へ行けばいい!!」

『魔王…フヌ、あの渦から生還するとは大したものだ。だが、もう終わりだ』

『勇者は潰えた。希望は想いによって塗り潰された。今更庇ったところで何も変わらん』

『黙れ』

『現実を受け入れろ、友は死んだのだ』

『例え起ち上がったとしても、それは最早勇者とは呼べぬ存在だ。守る価値などない』

『うるせえって言ってんだろうが!!!』

『魔女!王女と勇者の母ちゃんを連れて此処から離れろ!!このままじゃ落ちちまう!!』
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 01:33:42.46 ID:nSr793NGO

『で、でもっ…』

『いいから行け!早くしねえと崩れちまう!!二人が落ちたら勇者に何て言うつもりだ!!』

『っ、分かった……盗賊、後はお願い…』

『おう!またな!!』

『う、うんっ!また後で!!』

『……行ったか』

『下らん。何をしようと、お前の力では我に勝てん。これ以上の戦いは無意味だ』

『てめえには無意味だろうが、俺には意味がある。殺させて堪るかよ』

『言ったはずだ、それは最早勇者ではない。さあ、大人しく希望を差し出せ』

『友を友のままで逝かせてやりたいのなら、救世主に殺されたくなければな』
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 02:37:21.88 ID:nSr793NGO

盗賊「救世主だ? ざけんじゃねえ…」

盗賊「こいつが救世主なんぞになるわけがねえんだよ。こいつは、『勇者』だからな」

勇者『!!!』

戦士「そうか、ならば死ね」

戦士「魔を出す間など与えぬ。死人を庇いながらどこまで保つか見物だな」

盗賊「どこまで保つかなんて知るかよ。やるだけやるさ、こいつが目を覚ますまではな……」

戦士「その行動によって救世主が生まれ、再び歴史をなぞる結末を迎えるとしてもか?」

盗賊「……そうは、ならねえさ」

勇者『僕を求める声ではなく、僕を救う声。今まで聞いた声、それが僕を導くのなら……』

精霊『どんな形であれ、あなたがやった結果は想いとして必ず返ってくる』
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 02:47:57.63 ID:nSr793NGO

勇者『……精霊、君を信じるよ』スッ

【不滅の希望】
【最愛の息子】【唯一の景色】

【未来を切り拓く力】【私の王子様】
【夜明けをもたらす者】【愛すべき愚か者】

【不屈の闘志】【負けず嫌い】
【魔王すら救う者】【大好きな人】

【もう一人の我が子】【未来の息子】
【本物の英雄】【やさしいお兄ちゃん】

【偽善を貫き通す善なる者】
【何を奪われようと何かを与えようとする者】

勇者『これが、僕を救う声。僕を、勇者にしてくれる声……』

戦士「フヌ、まあいい……」

戦士「我を、絶望を産みながら希望を宿した裏切り者と共に砕け散れ」ズッ
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 02:52:10.46 ID:nSr793NGO

盗賊「(あ〜、こりゃ死んだな……)」

ガギャッッッ!!! パラパラッ…

戦士「何ッ!!」

ゴーレム「…………」ズズズ

戦士「馬鹿な。勇者が消えた今、まして自分の意志で出られるはずがーーー」

勇者「勇者は生きている。散るのは、お前だ」

戦士「!!?」

勇者「遅い。消え去れ絶望、お前は多くを奪いすぎた」

ゴシャッッッ!!!

勇者「これで…終わりだ……」

勇者「僕とお前を結びつけていた因縁因果。その何もかもが、これで終わ…り……」
589 : ◆4RMqv2eks3Tg [saga]:2017/02/21(火) 02:53:23.06 ID:nSr793NGO
寝ます明日で終わります
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 20:24:41.38 ID:sWlsxVByO

>>>>>>>>

特部隊長「貴様は、貴様だけは……」ダッ

僧侶「(速い。いえ、速…過ぎる!!)」

ギャリィッッッ!!!

特部隊長「全てが神に…運命によって定められているだと? ふざけるな……」

特部隊長「戦とは人の意思で起こり、人と人とが戦うものだ。神が介入する余地などない」

僧侶「貴方が否定しても揺らぎはしませんよ。こうあるべく定められているのですから」スッ

ぼぎャッッ…

特部隊長「がッ…」ガグンッ

魔導鎧「魔術防御壁を貫通。彼女の魔術は精霊に匹敵します。大尉、このままではーー」

特部隊長「大丈夫だ。まだ脚は動く、腕も動かせる。眼も見える。俺は、まだ戦える」

僧侶「(この者は、本当に人間なのでしょうか?)」

僧侶「(あの鎧によって威力軽減されているとはいえ、肉は裂け骨は砕けているはず……)」
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 20:27:46.17 ID:sWlsxVByO
 
特部隊長「まだだ。俺の戦は、まだ……」

僧侶「(何か、何かが、ずれている)」

特部隊長「俺は、俺の意志で此処に立っている。俺の意志で貴様と戦っている」

特部隊長「理由も意義も信念も神に預け、神の告げと称して命を奪う貴様等とは違う」

僧侶「(何故、立てる…この者は一体……)」

特部隊長「俺が奪った命、俺が守った命」

特部隊長「全ては俺の意志だ。運命が奪ったわけではない、運命が守ったわけでもない」

特部隊長「俺が照準を合わせ、俺が引き金を引き、俺が彼等の生を終わらせた」
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 20:30:17.95 ID:sWlsxVByO

特部隊長「俺は俺の意志で守った」

特部隊長「銃弾、剣、渦巻く憎悪や劣情に晒されながら生き抜こうとする彼女達……」

特部隊長「拘束され、組み敷かれ、踏みにじられ、辱められ、死ぬことすら許されず欲望に食い尽くされた」

特部隊長「俺は、命を奪った。奪ったからには背負わなければならない」

特部隊長「無念、怨恨、憎悪、慟哭。凍て付く戦場の、焼き焦がすような死を……」ザッ

僧侶「…………」ゾクッ

特部隊長「軍属、命令、任務。そんなものがなくとも、俺は戦場に立つ。立たなければならない」

僧侶「(鎧の王。この呼び名、あながち間違っていないのかもしれない)」

僧侶「(あの者、精霊のような魔術師でもない。ただの人間が何故ここまで…まさか……)」

特部隊長「神が戦場に立つことはない。戦場に神はいない。戦場に立つのは人間だけだ」ザッ
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 20:32:00.85 ID:sWlsxVByO

僧侶「(……やはり、間違いない)」

僧侶「(この者は踏み出した。人の身でありながら踏み出しつつある。理の外へ……)」

特部隊長「人であることを神に預けるな。貴様等が奪った命は、貴様等の命で償え」

僧侶「(この者は危険だ、いずれ必ず脅威となる。そうなる前に絶たなければーー)」

勇者『消え去れ絶望。お前は多くを奪いすぎた」

ゴシャッッッ!!!

勇者『これで…終わりだ……』

勇者『僕とお前を結びつけた因縁因果。あの夜から続いた何もかもが、これで終わ…り…』

僧侶「(空を覆っていた絶望の眼が消えた。勇者様、成し遂げたのですね。今、お迎えに参ります……)」
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 20:33:59.61 ID:sWlsxVByO

特部隊長「何を笑う、託神教」ズッ

ザンッッッ!!

僧侶「ッ、腕が…でも、この程度……」シュゥゥ

特部隊長「……魔術というのは便利だが、扱い次第で薬にも毒にもなり得る」

特部隊長「魔術は知識の道。極めれば命を引き延ばし、死を捻曲げることさえ可能となる」

特部隊長「魔術師とは人を癒すべく生まれた存在。その道から外れた時、その者は魔に堕ちる」

僧侶「何をーー」

特部隊長「精霊が教えてくれた言葉だ」ザッ

僧侶「!!!」ビクッ

『悪魔への怖れは神への裏切り。神の加護を疑っている証。お前は、神を否定した』
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 20:36:45.05 ID:sWlsxVByO

僧侶「(ッ、違う。私は怖れてなどいない)」

僧侶「(勇者様は成し遂げた。崩壊も近い。ならば、この者と戦う必要はない)」

僧侶「(これ以上、負傷者を出すわけにもいかない。今優先すべきは、皆の命……)」スッ

ゴゥッッッッ!!!

特部隊長「……くッ、退いたか」

魔導鎧「大尉、我々も此処を離れましょう。このままでは崩壊に巻き込まれてしまいます」

特部隊長「………ああ、そうだな」

特部隊長「だが、東部へ帰還する前に勇者と盗賊の下へ行かなければ……」

特部隊長「託神教がそう簡単に勇者を諦めるとは思えない。必ず動くはずだ」

特部隊長「あの魔術師…僧侶が勇者の下へ向かう可能性は非常に高い」
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 20:42:47.05 ID:sWlsxVByO

特部隊長「勇者と盗賊。あの二人の帰還を以て、この任務は終了する」

特部隊長「……問題は地下施設。この揺れだ。幾ら堅牢に作られているとはいえ怪我人は出る」

特部隊長「機体は何機か残してきたが、あれでは足りないだろう」

特部隊長「勇者と盗賊の下へは極少数で向かい、他機は地下施設へと帰還させる」

魔導鎧「了解しました。精霊の遺体はーー」

特部隊長「帰還する機体と共に東部へ移送」

特部隊長「少しばかり窮屈だろうが、この揺れが収まるまでは魔導鎧の中で待ってもらう」

魔導鎧「そんなに窮屈ですか?何なら出ても構いませんよ?」
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 20:45:15.46 ID:sWlsxVByO

特部隊長「くっ、ははっ、はははっ!!」

特部隊長「いや、済まなかった。君なしで歩くのは無理なんだ。中にいさせてくれ」

魔導鎧「仕方ないですね。まあ、いいでしょう。放り出すのは止めておきます」

特部隊長「……魔導鎧、ありがとう。さあ、そろそろ行こうか」

魔導鎧「(僅かでも助けになれるのなら、私はそれでいい。しかし『あれ』は一体……)」

『俺は命を奪った。奪ったからには背負わなければならない』

『無念、怨恨、憎悪、慟哭。凍て付く戦場の、焼き焦がすような死を……』

魔導鎧「(あの時に感じた『何か』。あれが大尉が抱えているものならば、あれは……)」
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 00:04:56.00 ID:bsteboAZO

>>>>>>>

勇者「…終わっ…た…」フラッ

盗賊「お、おいっ!」

ガシッ…

勇者「……盗賊、見ててくれた?」

勇者「僕、やったよ? あの日から続いてたことが、やっと終わったんだ。やっと……」

盗賊「ッ、勇者、しっかりしろ。一緒に帰るんだ。どいつもこいつも、お前を待ってる」

勇者「……一緒には行けない」

勇者「もう、僕には時間がないんだ。もうすぐ、僕は勇者じゃなくなる」

勇者「今『こうして』いられるのは、皆の想いが繋ぎ止めてくれてるからなんだよ……」

勇者「でも、それも…もうじき消えてしまう。救いを求める声は凄く大きくて、とっても多いから……」
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 00:10:32.04 ID:bsteboAZO

盗賊「……何でだよ」

勇者「?」

盗賊「何で、お前が背負わなきゃならねえんだよ!!どいつもこいつも縋るだけじゃねえか!!」

盗賊「祈るだけ!願うだけ!!てめえらは何一つ自分でやろうとしねえ!!」

盗賊「世界が滅ぶ時も人任せだ!!何が救世主だ!何が救いだ!ふざけんじゃねえ!!」

盗賊「こいつが、勇者が救われねえなら意味ねえだろうがよ!!」

勇者「……盗賊…もういい。もういいよ…」

盗賊「いいわけねえだろ!お前はまだ始まったばっかりだ!!」

盗賊「こっからだろうが!! なあ、何でだよ…何でこうなっちまうんだ……」

ポタッ…ポタッポタッ……

勇者「……ありがとう、盗賊。僕は、君と出逢えて本当に良かった…」スッ
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 00:16:42.40 ID:bsteboAZO

盗賊「…………」スッ

ガシッ…ギュッ…

盗賊「ああ、俺もだよ。お前と出逢えて本当に良かった」

勇者「……盗賊、お願があるんだ」

盗賊「(……やめろ、やめてくれ。お前がそれを言っちまったら、俺はーー)」

勇者「僕は…僕は僕のままで死にたい。最期まで、勇者でいたいんだ……」

盗賊「ッ!!!」ギュッ

勇者「……父さんの剣を取ってくれないか。あれなら、僕を砕けるはずだ」

勇者「取ってくれるだけでいい、後は僕がやる。さあ、早く…そうしないと手遅れになる」

勇者「僕は救世主なんかになりたくない。君を、大事な人達を傷付けたくない。さあ、剣を……」
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 00:18:29.20 ID:bsteboAZO

盗賊「んなこと出来るかよ……」

盗賊「お前がこうならねえように、こうなることを防ぐ為に来たってのに…俺は……」

勇者「……君は、王だ」

盗賊「!!」

勇者「僕には僕の、君には君の道がある。君には王としてやるべきことがある」

勇者「僕が救世主になれば魔神族を殺すだろう。君は勿論、大人子供関係なく殺し尽くそうとするはずだ」

勇者「この夜の出来事は全ては魔神族の仕業だと、世界はそう思ってる。だから望むんだ……」

勇者「世界から異形種を…魔神族を消し去り、人の世を取り戻して欲しいと……」

勇者「人は真実を知らない。この流れを変えられるのは、君しかいない」

盗賊「俺が?んなこと出来るかよ」

勇者「出来るさ。君は優しい王様になれる。そして世界を、運命を変えるんだ」
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 00:30:46.38 ID:bsteboAZO

盗賊「へっ、そうかよ」

盗賊「でも、お前にそう言われると『そうなる』ような気がしてくるよ。不思議なもんだな……」

サァァァァァ…

勇者「雲間が晴れた。明るいね」

盗賊「ああ、眩しいくれえだ」

勇者「今は何時なんだろう。夜明けはまだなのかな?出来れば朝日を見たかったなぁ……」

盗賊「……本当にいいのか。これが、お前が考え抜いて出した答えなのか」

勇者「うん。やりたいことは沢山あるけど後悔はない。これでいいんだ」

盗賊「そうか…なあ、勇者」

勇者「ん?なに?」

盗賊「また、会えるか」

勇者「会えるさ。いつか必ず、また会える時が来る。その時が来るまで…お別れしよう」
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 01:04:10.67 ID:pgii9/+7O

勇者「……じゃあ、またね」ヂャキッ

盗賊「(これでいいのか?本当にこれしか道はねえのか?俺は何も与えられねえのか?)」

盗賊「(何もしないまま、目の前で勇者が死ぬ様を見て終わるのか?俺はーー)」

バシュッ!

盗賊「!!?」

僧侶「勇者様、お迎えに参りました」

僧侶「さあ、剣を置いて下さい。『そんなこと』をする必要はありません」スッ

勇者「盗賊!離れろッ!!」ズッ

僧侶「(ッ、させない!死なせない!!貴方は私の光!魔を滅ぼし人を導く救世主!!)」

僧侶「(例え傷付けることになろうと、共に来てもらわなければならない!!)」カッ

ゴッッッッッ!!!

勇者「ぐッ…」ドサッ

盗賊「がッ…くそっ!見えねえ!! 勇者!勇者ッッ!!」
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 01:28:06.35 ID:pgii9/+7O

僧侶「通しませんよ」ザッ

盗賊「てめえは…」

僧侶「魔王、貴方には此処で滅んで貰います。人の世の為に、安息の千年の為に」ヂャキッ

盗賊「ったく、どいつもこいつも…」

盗賊「どいつもこいつも勇者様勇者様か!揃いも揃って救いようのねえ奴等だな!!」ザッ

僧侶「(一撃、一撃で仕留める。如何に魔王であろうと魔は魔。この剣なら……)」ザッ

盗賊「屍の上に屍を築く者よ、亡者を従え歩く者よ、現世と常世の橋渡せ」

ゾゾゾゾゾゾッッッッ!!!

僧侶「なッ!!」

盗賊「『これ』はあんまし好きじゃねえが、てめえに付き合ってる暇はねえ!!」タンッ

僧侶「くっ…」

盗賊「ハッ!馬鹿正直に相手すると思ったのか馬鹿女!!死体と踊ってろ!!」
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 20:27:23.63 ID:9td5Sy6UO

勇者「(駄目だ、体に力が入らない)」

勇者「(あの人は僕を迎えに来たとか言ってたけど、救世主を欲してるだけだ)」

勇者「(あの人達に見つかる前に何とかしないと。父さんの剣は……ッ、探さなきゃ……)」

…ズリッ…ズリッ…ズリッ……

勇者「…ハァッ…ハァッ…何処だ、何処にある……」

勇者「(あの剣さえあれば、こんな争いは終わりに出来る。僕は、僕のままーー)」ズギッ

聖女『ほんの少し、僅かな間かもしれないけれど、あなたを必ず救ってくれる』

勇者「(もう駄目なのか。嫌だ、そんな終わりは絶対に嫌だ。僕は、勇者なんだ……?)」

『勇者様だ!見つけたぞ!こっちだ!!』

『凄まじい…何と傷ましい。おい、直ちに治癒班を寄越せ!大至急だ!!』

『勇者様!しっかりして下さい!!我々が来たからにはもう安心です!!』

勇者「(この人達が見てるのは僕じゃない、君達が求めてるのは…ッ!?)」

勇者「(ぐッ!想いが流れ込んでくる…頭が割れそうだ…苦しい…痛い…僕は…僕はーーー)」
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 20:30:33.86 ID:9td5Sy6UO

盗賊「(何処だ!何処にいる!?)」

盗賊「(畜生、土煙が酷え。あの女の魔術の所為でまるで見え……あっ、忘れてた)」

盗賊「(見透かせ鷹の眼、世界を見渡すその眼で全てを見せてくれ。友を、見せてくれ)」

盗賊「(……勇者は、向こうか)」

盗賊「(既に四、五人が囲んでやがる。なる程な、あの女が派手にぶっ放したのはこの為か)」

盗賊「(俺の視界奪って、その間に土煙に紛れた仲間が連れ去るってわけだ。ざけやがって……)」

盗賊「(どんな手を使おうが、是が非でも勇者を連れ去るつもりか。させるかよ!!)」ダッ

『ッ、魔王!!』

『止めろ!この者は決して勇者様に近付けるな!!』

盗賊「そこら中からわらわら湧き出やがって!虫かテメエらは!邪魔なんだよッッ!!」ゴッ
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 20:32:55.66 ID:9td5Sy6UO

『法術隊!防壁展開完了!!』

『良しッ!騎兵隊!槍兵隊!何としてでも奴を止めるぞ!!時を稼ぐのだ!!』

盗賊「ぐッ…退けッッ!!邪魔すんじゃねえ!!!てめえらに構ってる暇はーー」

『騎兵隊、槍兵隊、突撃せよ』

ドズッッ!ズドドドドッッッ!!

盗賊「がッは…畜生ッ!畜生ッッ!!!」

盗賊「(何だよ、もう少しだってのに届かねえのかよ。これで終わっちまうのかよ)」

盗賊「(俺が迷ったからか? 何も出来ねえクセに引き止めようとしちまったから……?)」

ズンッ! ガシュッ…ガシュッ…ガシュッ…

『何だ!魔王の援軍か!!』

『いや、これは…この魔力は…まさか追って来たというのか!?』
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 20:34:09.45 ID:9td5Sy6UO

盗賊「(今の音…どっかで……!!)」

特部隊長「いつまで膝を突いてるつもりだ。西部の勇者はその程度か?」スッ

盗賊「へっ、うるせえ。元素槍で刺されまくったんだぜ?膝突くぐらい許せよ」スッ

ガシッ…グイッ!

特部隊長「まだ行けるな」

盗賊「ああ、何とかな。つーか遅えんだよ。危うく死ぬとこだったじゃねえか」

特部隊長「そう言うな、これでも急いできたんだ。道は俺が開く。さあ、行くぞ」

盗賊「ありがとな。本当に、助かった……」

特部隊長「……見ない間に随分と変わったな」

特部隊長「それより、その辛気臭い顔は何だ。まるでらしくない。あの時のお前とは大違いだ」
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 20:35:35.66 ID:9td5Sy6UO

盗賊「あ?」

特部隊長「笑え、盗賊。『あの時』のように不敵に笑ってみせろ。その方が、お前に似合ってる」

盗賊「(笑え、か。ったく、キツいこと言ってくれるぜ)」

特部隊長「お前には訊きたいこと話したいことが山ほどあるんだ。勿論、勇者にも……」

特部隊長「何としても勇者を連れ帰る。この地獄を切り抜けて、在るべき場所へ」

盗賊「……ああ、そうだな」

特部隊長「さあ、行くぞ!!!」

『来るぞ!いいか、奴を人と思うな!!』

『あれは魔神族!鎧の王!!奴を含め、一機残らず破壊しろ!!勇者様に近付けるな!!』

盗賊「(勇者、今行くからな。もう少しだ。もう少しでお前に届く。だから、待ってろ)」
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/22(水) 20:37:11.84 ID:9td5Sy6UO

盗賊「…ハァ…ハァッ…此処だ、この辺りに」

『勇者様、行きましょう。貴方の在るべき場所は此処ではありませぎッッッ…』

『勇者様!勇者様!?気を確かッッ…」

「な、何故だ。何故こんなことが、これでは告げと違ギァッッ!!!』

ゴシャッッ…ザシュッッ…ゴギャッッ…ザンッッ…

盗賊「(何だ、この気配は…何が……)」

…ザッ…ザッ…ザッ……

勇者「…………」フラッ

盗賊「勇者!無事か!?そっちで何があった!!」ダッ
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