勇者「救いたければ手を汚せ」 

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486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/06(月) 21:28:12.65 ID:D/eUbSP7O
また後で書くと思います
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/06(月) 23:42:00.90 ID:pmpgKhMTO

僧侶「…っ、お願いが、あります……」

『はい。何なりと』

僧侶「私はこれから魔力を封じて、あの者の背後に回り込みます」

僧侶「一瞬。瞬きの間の隙を作って下さい。私が、この剣であの者を滅ぼします」

『了解しました。全力を尽くます』

『僧侶様、そんな顔をならさずとも大丈夫です。貴女ならば必ず成し遂げられますよ』

僧侶「あ、あのっ、皆さーー」

『皆、行こう。僧侶様、後のことはお願い致します』

『貴女が我々の為に涙を流したことは決して忘れません。では…』

『信徒として、悪しき者を滅ぼせるのであれば本望。僧侶様、どうかお元気で……』


…ザッ…ザッ…ザッ…


僧侶「……安らぎと祝福、安寧と平和を築く為、我等は戦うのです」

僧侶「勝利の上に勝利を築き、人の世に安息の千年を……」ザッ
488 : ◆4RMqv2eks3Tg [saga]:2017/02/06(月) 23:45:17.47 ID:pmpgKhMTO
>>485はミス
凄まじく眠いので寝ます。申し訳ない。
近日中に完結させたいと思います。
また明日。
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/07(火) 21:28:27.95 ID:tf4rbj+qO

精霊「(完全種6、魔術師4)」

精霊「(完全種は防御を考えない捨て身の攻撃。魔術師は主に治癒や魔術防壁)」

精霊「(攻撃的な魔術を使う者はいないようね。使ったのは、僧侶とかいう魔術師のみ)」

精霊「(潜在魔力、使用元素量共にずば抜けて高い。そこだけを見れば魔導師を凌ぐ)」

精霊「(あれは生まれ持ったものなのか、後天的に得た、もしくは与えられたのか……)」

『っ、狙いが定まらない』

『風術による加速を維持しながら他属性の魔術を行使しているのか……』

『認めたくはないが、あの者は違いすぎる。防壁展開だけでも精一杯だ』

『来るぞッ!!!前衛部隊に防壁展開!!』

精霊「(……魔狩りの大隊と称しているものの、見た限り連隊と言っても差し支えはない)」

精霊「(完全種の多さも、個々の質も、赤髪狩り時代の魔狩りの大隊とはまるで違う)」
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/07(火) 21:30:31.45 ID:tf4rbj+qO

精霊「(彼等にとって、死は死を意味しない)」

精霊「(物質界、肉体からの解放。あるべき場所へ帰ることを意味する)」

精霊「(勝敗や生死ではなく、あくまで信仰を貫くことが基盤となっている)」

精霊「(死にながら生きているのか、生きながら死んでいるのか。まあ、どちらでもいいわ……)」

精霊「(私が言えたことではないけれど、『まともな人間』なんて一人もいないのね)」

精霊「(それにしても、よくもまあ、ここまでの信徒を作り上げたものだわ)」

精霊「(赤髪狩りの失敗から学んだのか、それ以前から存在していたのか……)」

『くっ…魔力防御してこれか。想像していたより凄まじい魔力だ』

『魔力だけじゃない。使用している元素量も桁外れだ。魔術防壁の再調整が必要だな』
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/07(火) 21:31:18.37 ID:tf4rbj+qO

『奴の魔術は攻撃と言うより分解に近い』

『ああ、完全種のことは熟知しているようだ。でなければ外傷無しで殺すのは無理だ』

『体内に含まれた僅かな元素に干渉しているんだろう。悔しいが、我等が敵う相手ではない』

『僧侶様なら対応出来るのだろうが、僧侶様は……』

『何とか持ち堪えたな』

『油断するな。正直、まだ奴の底が見えない』

『何か思惑があると言うのか?』

『もしかすると、大隊が終結するのを待っているのかもしれんな』

『そんな馬鹿なことがあるか。大隊相手に手加減しながら戦うなど、どうかしている』

『奴にはそれだけの力がある。あの力は、本当にどうかしているんだ』
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/07(火) 21:33:27.10 ID:tf4rbj+qO

精霊「(……ハァ…この類の人間は満足して死ぬから嫌なのよね)」

精霊「(まあ、この場に縫い止めるのは成功しているからいいのだけれどーーー)」

戦士『我と我等が滅びようと、お前が滅びをもたらすであろう』

戦士『勇者よ、断言しよう。お前は決して自由になどなれん』

勇者『貴様の思うようにはならない。俺には友がいる』

戦士『『そうならぬ為』に、友の手を汚させるか。己が救われる為に、友の手を』

勇者『……可変二刀、一刀型』

戦士『……いいだろう。ならば、王が来る前に終わらせてくれよう』

精霊「(魔王が動いた……)」

精霊「(ということは、剣聖は私用を済ませたのね。後は勇者と魔王、そして魔女……)」

精霊「(あの二人が勇者と合流すれば、これまでの流れは変わる。後の千年を覆せる)」
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/07(火) 21:37:18.97 ID:tf4rbj+qO

精霊「(勇者の意志は固い)」

精霊「(今、勇者を動かせる『人間』はあの二人しかいない……)」

精霊「(あの子は生きてくれるかしら? あの子にとって生が苦痛でしかないのなら、私はーー)」

ズッッッ…

精霊「神が、背後から刺せと命じたのか?」クルッ

僧侶「いいえ、これは私の意志です」

僧侶「貴方はあってはならない存在、故に手段は問わない。貴方に対し、卑怯ということはない」

精霊「背後から忍び寄り刺し貫く。これを卑怯と言わず何と言うのだ」

精霊「お前が遂行したのは正義ではない。お前は堕ちた。穢れた存在となった」

僧侶「そうであるなら、そうなのでしょうね。私自身は、穢れたなどとは思いませんが」

精霊「血に塗れたその手で何を救う。その矛盾を抱え、更に世を惑わすか」

僧侶「貴方の言葉には惑わされない」

精霊「(治癒しない。魔力が抜け……違う、これは崩壊ね。あの剣かしら……)」

精霊「(あの剣…刀身の赤。あれは私の血ではない、あれは……)」
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/07(火) 21:42:05.80 ID:tf4rbj+qO

僧侶「千霊の剣」

僧侶「これは貴方のような悪魔にのみ、救われぬ存在にのみ行使することが出来る」ヂャキッ

精霊「(なんて趣味の悪い)」

精霊「(刀身は血液。おそらく、完全種の血液を練成して造り出したもの)」

精霊「(名の通り、千の完全種から生み出したのかしら。あれに刺されたかと思うと気分が悪いわ)」

精霊「(外傷は大したことはないけれど、内側から破壊されていくのが分かる)」

精霊「(魔力分解、肉体構成への干渉…人間を無理矢理完全種に作り替ーー)」

僧侶「貴方に、神の赦しは得られない」

精霊「ふ、ふふっ…赦しなど求めたことはないわ。それより、あなたは自分を許せる?」

精霊「人殺し。法衣をまとった殺人者、神を信じながら魔を行使する者」

精霊「幾多数多の矛盾に満ちた歪みの塊。それでも尚、自分を肯定出来る強さがあるのならーー」

ザンッッッ!! ドサッ…

僧侶「………………」

精霊「……貴方に…神など必要ないでしょう……」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/07(火) 23:19:32.68 ID:aJyh5GsBO
精霊さん...
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/07(火) 23:57:57.79 ID:tf4rbj+qO

僧侶「もう、話すことはありません」

精霊「あら…そう…それは…残念ね……」

僧侶「個人的に、あくまで個人的にですが……」

精霊「?」

僧侶「何故、貴方がそうなったのか。何故、そうならざるを得なかったのか知りたかったです」

僧侶「異常なまでの力への執着。それは、力に縋るしかなかったからですか?」

精霊「…………」

僧侶「…………」

『僧侶様、御無事ですか?』

僧侶「……ええ、もう終わりました。何もせずとも、この者は滅びるでしょう」
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/07(火) 23:58:25.39 ID:tf4rbj+qO

『では、勇者様の下へ?』

僧侶「いえ、その前に負傷者の治療を行って下さい。お迎えに行くのはその後でも間に合います」

『はい、了解しーーー』

ズォッッッ!!! ゴゴゴッッ…

僧侶「転移陣!!? 今更何を!!」

精霊「…煩いわね…何もしてないわよ……」

僧侶「(……嘘、ではないようですね。確かに、この者から魔力を感じない)」

僧侶「(けれど、転移陣から発せられる魔力は酷似している。一体何が……)」

精霊「……知識への欲求は、私譲りみたいね。どこで、こんなこと覚えたのかしら」

僧侶「(対象を中心として転移陣を起動して転移。この方法は、高位の魔術師にしか出来ない)」

僧侶「(弟子…ではない。子でもない。何者かは分からないけど、何かがやってくる)」

僧侶「(この者の魔力を辿って膨大な数の何かが……!!)」
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/08(水) 00:00:46.41 ID:ZMOITYU0O

僧侶「皆さん!戦列を整えて下さい!!」

ズンッッッ!!!

僧侶「こ…れは……」

ガシュッ!ガシュッ!ガシュッ!ガシュッ!ガシュッ!

特部隊長「……………」

精霊「(……まったく…本当に…)」

特部隊長「我々の任務は大隊の進軍阻止」

特部隊長「何があっても南部平原…勇者の下へは行かせるな。誰一人だ、誰一人通すな」

特部隊長「……これより任務を遂行する。魔導鎧隊全機、了解か」

『はい。魔導鎧隊全機、了解しました』ガシュッ

特部隊長「精霊、遅れて済まない」

精霊「……呼んでないわよ、馬鹿」

特部隊長「何とでも言ってくれ」

特部隊長「俺はもう嫌なんだ。何も出来ず、何もしないまま誰かを喪うのは……」
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/08(水) 00:08:57.21 ID:ZMOITYU0O

精霊「……昔の女と重ねるなんて最低ね」

特部隊長「減らず口を叩けるなら大丈夫だな」

特部隊長「今、医療機体を寄越す。辛いだろうが、それまで耐えてくれ。というか、死ぬな」

精霊「…あなた、この私に命令する気? 随分と偉くなったものね……」

特部隊長「事実、偉いからな」

精霊「そうね…そうだったわ…西部司令官様だものね……」

特部隊長「……俺は、あなたのことを何も知らなかった。いや、知ろうとしていなかった」

特部隊長「これが終わったら、あなたに聞きたいこと話がしたいことが山ほどある」
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/08(水) 00:12:42.00 ID:ZMOITYU0O

精霊「何故?」

特部隊長「俺はあなたを知りたい。理解したいと思う。あなたが良ければ、だが」

精霊「……私のことなんて、そんなに面白くないと思うわよ」

特部隊長「それでも構わない」

精霊「……………」

特部隊長「……では、行ってくる」

特部隊長「後は任せて休んでいてくれ。頼むから、大人しくしていてくれよ?」

ガシュッ…ガシュッ…ダッ…

精霊「ふふっ…まったく本当に…本当に馬鹿な人……でも、そう悪くないわね」

精霊「……死ぬなと、そう言ってくれたのは…ほんの少し…嬉しかったわ……」

ガシュッ…

精霊「………………」

『精霊を発見、これより治療を…治、療…を……』

サァァァァァ……

精霊「………………」

『……精霊…私は、大尉に何と報告すればよいのですか…』
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/08(水) 00:14:45.99 ID:ZMOITYU0O
ここまで寝ます
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/08(水) 07:32:31.73 ID:gAlZzJqGO
精霊あっさり死んだなぁ
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/12(日) 00:13:03.82 ID:4rgWuNMGO

>>>>>>

戦士「勇者よ、お前も気付いているのだろう?」

勇者「…………」

戦士「この戦いの果てに得られるものなど何もない。待っているのは既に決定された結末」

戦士「全ては触れられざる運命に仕組まれたもの。それを理解した上で戦うのか」

勇者「ああ、それでも戦う」

勇者「俺は復讐を果たし、運命を変える。俺が終わるのは、その後だ」

勇者「貴様になど終わらせはしない。終わりの夜になどさせはしない」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/12(日) 00:14:02.43 ID:4rgWuNMGO

戦士「フヌ、ヌフフッ……」

戦士「そうか、そうであった。お前はそうでなくてはならぬ存在だ」

戦士「そうあるべく生まれ、そうなるべく生きた存在。この夜の為に生まれた命」

勇者「貴様がどう言おうと、これは俺の命、俺の身体だ。俺の行く先は、俺自身が決める」

勇者「俺が歩いてきた道は俺が決めてきた。どんな要因があろうと、決断したのは俺だ」

戦士「ヌハッ!ヌハハハハッ!!」

戦士「定められた道を歩くだけの人形が!!繰り糸が見えぬだけのヒトカタが言いよるわ!!」

勇者「俺がそうであるとなら貴様も同じだ。運命の束縛から逃れようと藻掻く人形にすぎない」

勇者「そうではないと否定する為、自己を肯定する為、貴様は世界の破壊を選択した」
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/12(日) 00:15:37.23 ID:4rgWuNMGO

戦士「……………」

勇者「俺は、貴様とは違う」

勇者「俺は運命を変えられると信じている。一人では不可能だろうが、友がいれば変えられる」

戦士「ならば、変えてみせるがいい」メギッ

ズオォォォォォッッ…

魔狼「ハッ…ハッ…ハアァァァァァ……」

勇者「(巨体の黒き獣。身体を埋め尽くす幾千の赤い眼。これが、母さんの言っていたーー)」

魔狼「我は、此処に示す」

魔狼「決して変えられぬ結末が、あることを…」

勇者「……貴様は、何だ」

魔狼「ヌハッ…懐かしいやり取りだ」

魔狼「我等と我等は、救われぬ、奪われぬ、潰えぬ、何者も抗えぬ事柄」

魔狼「我と我等は望みを絶つ存在。望みを絶つことを胸に抱き、滅び去った者」

魔狼「我と我等は、闇に沈んだ古き者共より産まれ出た。故に、示さねばならぬ」

魔狼「希望と別たれ、在るべき姿を得た比類無き絶望として、世に示さねばならぬ」
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/12(日) 00:17:07.63 ID:4rgWuNMGO

勇者「何を示す」

魔狼「現世に遍く全てのものを喰らい尽くし、輪廻を絶つ。終末だ」

勇者「今の貴様にそんな力はない。俺を、希望を喰わなければ『元には』戻れない」

魔狼「ヌフッ…ああ、ああ、それは重々承知しておるとも。我と我等には成し得ぬことだ」

魔狼「だがな、希望と一つにならずとも術はある。我と我等には、その術があるのだ」

魔狼「全てを破壊することは叶わぬが、世界を原初に…在るべき姿に戻すことは出来る」

魔狼「天があり、地があり、海がある。希望よ、不思議に思うたことはないか?」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/12(日) 00:25:59.53 ID:4rgWuNMGO

勇者「迂遠な会話は不要だ。何が言いたい」

魔狼「お前の知っている翠緑の王。あれは魔が産まれ出る以前からある原初の王、旧き神」

魔狼「言わば大地そのもの。ならば、起源を同じくする海の神もいるだろう」

勇者「それが事実だとして、何の関係がある」

魔狼「我と我等は、破壊だけを目的としてオークを放ったわけではない」

魔狼「お前と一つにならずとも、既定、因果から外れる方法はあるのだ……」

勇者「一体何を言っーー」

ゴゴッ…ゴゴゴゴッッ……

勇者「この揺れは……」

魔狼「ヌフッ…聞け、これこそが旧き神の目覚めよ」

魔狼「オークを放ったのは、世界各地に点在する楔を破壊させ、彼の者を目覚めさせる為だ」
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/12(日) 00:35:23.18 ID:4rgWuNMGO

魔狼「これが我と我等の導き出した答え」

魔狼「お主が我と我等の要求を拒むことなど初めから分かっておったわ。全てはこの為よ」

魔狼「全てとまではいかぬだろうが、より多くが死に、より多くが滅ぶのであらばそれでよい」

魔狼「絶望と希望が一つで在ったのに対し、この大陸は元々別たれていた」

魔狼「楔が消えた今、世界は多大なる犠牲を伴いながら在るべき姿に戻るであろう」

魔狼「ヌフッ…これより、大地は裂ける」

勇者「…………」ヂャキッ

魔狼「無駄じゃ無駄じゃ、我と我等を倒したとて止まることではない」

魔狼「ヌフッ…我と我等は、彼の者を目覚めさせただけにすぎぬのだからな」

魔狼「ヌフッ…大人しく一つになっておれば、このようなことにならなかったものを…ヌハハハッッ!!」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/12(日) 01:06:34.97 ID:4rgWuNMGO

魔狼「一つになっておれば、世界は楽に逝けた。これはお主の所為じゃ、違うか?」

魔狼「母と思い人の死も!この夜の悲劇も!!全てはお主が引き起こしたのだ!!」

勇者「……………」ギリッ

魔狼「ヌフッ!ヌハハハッッッッ!!」

魔狼「ヌフッ…さあ、我と我等、魔と絶望の呼び声に応え、今こそ目を覚ますのだ」

魔狼「在るべき大地を在るべき場所へと運び、太古、原初の姿へ回帰せよ」

魔狼「歪な世界を在るべき姿へ。さあ、目覚めよ。海を統べる旧き神、深縹の王よ」

盗賊「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」タッ

魔狼「ッッ!!?」

盗賊「気分良く語ってるとこ悪りぃけど嫁を返して貰うぜ」

ぞぶっ…ゴシャッッ!!

盗賊「(鬼王、遅くなかって悪かったな。これで約束は果たしたぜ)」ザゥッ
510 :水雷魂 ◆k9WSufkcbI [sage]:2017/02/12(日) 01:10:01.91 ID:MnDqY4qa0
あ、すいません、PCのバグで変なとこにかきこんでしまいました
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/12(日) 01:17:12.10 ID:4rgWuNMGO

勇者「……盗賊」

盗賊「勇者、済まねえな。随分と遅くなっちまった」

勇者「そんなことはないよ。世界が裂ける前に、さっさと終わらせよう」

盗賊「ああ、そうだな。こんな酷え夜は、さっさと終わらせちまおうぜ」ニコッ

勇者「(盗賊、いつも通りでいてくれてありがとう。やっぱり君は凄いよ)」

盗賊「(勇者の奴、中身はあんま変わってねえんだな。なんにせよ、こっからだな……)」

魔狼「ヌフッ…まあよい、まあよい。事は成った。我と我等が捻曲げてみせたのだ」

盗賊「満足してんじゃねえよハゲ」

魔狼「ヌフッ…勇者よ、魔王よ、我は世に示したぞ。お主等は世に何を示す」ズンッ

勇者「希望。お前の居ない世界だ」ヂャキッ

盗賊「自由。てめえの居ねえ世界だ」ヂャキッ
512 : ◆4RMqv2eks3Tg :2017/02/12(日) 01:19:23.39 ID:rxNf4DDrO
短いけどここまで
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/12(日) 01:50:36.89 ID:KpSV1Y+gO

魔狼「一つになっておれば、世界は楽に逝けた。これはお主の所為じゃ、違うか?」

魔狼「母の死!思い人の死!この夜の悲劇!!全てはお主が引き起こしたのだ!!」

勇者「……………」ギリッ

魔狼「ヌフッ!ヌハハハッッッッ!!」

魔狼「ヌフッ…さあ、我と我等、魔の呼び声に応え、今こそ目を覚ますのだ」

魔狼「在るべき大地を在るべき場所へと運び、太古、原初の姿へ回帰せよ」

魔狼「歪な世界を在るべき姿へ。さあ、目覚めよ。海を統べる旧き神、深縹の王よ」

盗賊「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」タッ

魔狼「ッッ!!?」

盗賊「気分良く語ってるとこ悪りぃけど、嫁を返して貰うぜ」

ぞぶっ…ゴシャッッ!!

盗賊「(鬼王、遅くなって悪かったな。これで約束は果たしたぜ)」ザゥッ
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/12(日) 01:53:27.66 ID:KpSV1Y+gO

勇者「……盗賊」

盗賊「勇者、済まねえな。随分と遅くなっちまった」

勇者「そんなことはないよ。世界が裂ける前に、さっさと終わらせよう」

盗賊「ああ、そうだな。こんな酷え夜は、さっさと終わらせちまおうぜ」ニコッ

勇者「(盗賊、いつも通りでいてくれてありがとう。やっぱり、君は凄いよ)」

盗賊「(勇者の奴、中身はあんま変わってねえんだな。なんにせよ、こっからだ……)」

魔狼「ヌフッ…まあよい、まあよい。事は成った。我と我等が捻曲げてみせたのだ」

盗賊「満足してんじゃねえよハゲ」

魔狼「ヌフッ…勇者よ、魔王よ、我は世に示したぞ。お主等は世に何を示す」ズンッ

勇者「希望。お前の居ない世界だ」ヂャキッ

盗賊「自由。てめえの居ねえ世界だ」ヂャキッ

515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/02/12(日) 01:55:07.57 ID:KpSV1Y+gO
>>509>>511はミス
誤字脱字申し訳ない寝ます
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/12(日) 05:20:31.81 ID:mjJIppvDO

誤字脱字はネットの世の常よ
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/13(月) 21:22:34.49 ID:ITiMDueNO

>>>>>>

西部大峡谷

魔狼『ヌフッ!ヌハハハッッッッ!!』

魔狼『ヌフッ…さあ、我と我等、魔の呼び声に応え、今こそ目を覚ますのだ』

魔狼『在るべき大地を在るべき場所へと運び、太古、原初の姿へ回帰せよ』

魔狼『歪な世界を在るべき姿へ。さあ、目覚めよ。海を統べる旧き神、深縹の王よ』

翠緑王「(神に縋るか……)」

翠緑王「(絶望の獣よ、お主は自己が抱える矛盾に気付いておるのか)」

翠緑王「(運命からの解放を『求めている』ことに気付いておるのか)」

翠緑王「(お主は今、己が『望み』を叶えるべく神に縋っておるのだ。それにさえ気付かぬか)」

翠緑王「(望みなくして生きられはせん。望みを絶たれた者に、あのような真似は出来ん)」

翠緑王「(そもそも、絶望が形を得て存在していること自体おかしな話)」

翠緑王「(これは絶望による存在証明。生きた証……)」

翠緑王「(足掻き、藻掻き、模索し、遂には神にさえ縋り付くか。何とも、皮肉な話じゃ……)」
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/13(月) 21:27:36.60 ID:ITiMDueNO

翠緑王「(しかし、何故じゃ……)

翠緑王「(彼奴、絶望は、如何にして楔の存在を知り得た。あれは儂とーー)」

ゴゴッ…ゴゴゴゴッッ…

翠緑王「(これは、怒り…ではない。困惑か、混乱か……)」

翠緑王「(深縹の王よ、まさか目覚めの日が来ようとは夢にも思うとらんかったじゃろう)」

翠緑王「(儂もじゃよ。儂も、お主が目を覚ます時が来ようとは思うとらんかった……)」

ズシッッ!! ゴゴゴゴッッ!!!

翠緑王「(考えとる時間も懐かしむ時間もなさそうじゃな)」

翠緑王「……皆、よく聞いておくれ」

翠緑王「今、地に立つ全てが危機に瀕しておる。これは最早、人や魔だけの問題ではない」

翠緑王「魔にも人にも、木々や草花にも支えが必要じゃ。勿論、儂等にも……」

翠緑王「根付くにも芽吹くにも、座すにも立つにも、大地なくして有り得ない」
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/13(月) 21:29:40.92 ID:ITiMDueNO

翠緑王「皆が魔に何を思うとるのか」

翠緑王「皆が人に何を思うとるのか。それはよう分かる」

翠緑王「千年に渡り、果てのない戦を続けた魔神族に失望した者もいるじゃろう」

翠緑王「後の千年に渡り、偽りの歴史を生きた人間に失望した者もいるじゃろう」

翠緑王「だが、己を守るには、存続させるには、時に不要なものさえ背負わねばならん」

魔狼『ヌフッ…勇者よ、魔王よ、我は示した。世に示したぞ。お主等は、世に何を示す』

勇者『希望。お前の居ない世界だ』

盗賊『自由。てめえの居ねえ世界だ』
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/13(月) 21:32:03.31 ID:ITiMDueNO

翠緑王「見なさい」

翠緑王「長い時を経て、こうして『目覚めた者』が現れた。新たな世代、真実を知る者達じゃ」

翠緑王「あの二人…いや、三人か……」

翠緑王「あの者達は運命に抗う力と、世界を変える可能性を秘めておる」

翠緑王「『今後も』あの者達に惹かれ、新たに目覚める者が続々と現れるじゃろう」

翠緑王「失望するには、まだ早い」

翠緑王「この滅びは何としても防がねばならん。これは、儂等にしか出来んことじゃからの……」

翠緑王「……この大峡谷に身を寄せ合うのも、今日が最後。皆、頼むぞ」ザッ

『……長よ、我々はーー』

翠緑王「案ずるな、儂等は一つじゃよ」

翠緑王「大地が裂け、大波に曝されようと、必ずや種は芽吹き、気高き花を咲かす」

ミシッ…ズズンッッッ!!

翠緑王「もう少し話したかったが、残された時間はないようじゃ」

翠緑王「儂はこれより大地に根を張り国を繋ぐ。皆、達者でな……」
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/14(火) 01:37:12.66 ID:4c8F4gQDO

>>>>>>>

南部上空

魔女「あれは…木の、根?」

魔導師「何とも凄まじい光景だ。あれが旧き神、自然そのものを司る原初の力か……」

魔導師「水の流動する力。地、木々の繋ぐ力」

魔導師「幾本もの巨木、その根が、引き裂かれる大地を懸命に繋ぎ止めようとしている」

魔女「でも、少しずつ引き裂かれて……先生、このままじゃ本当に世界が滅茶苦茶に……」

魔導師「魔女よ、気持ちは分かるが我々には何も出来ん。我々の力など通用しないだろう……」

魔導師「『あれ』は人間…いや、如何に優れた魔術師だろうと立ち入れる領域ではない」

魔女「……北部は、仲間達は無事でしょうか」

魔導師「何とも言えん。この有り様だ…無事であることを願う他ない……」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/14(火) 01:37:55.30 ID:4c8F4gQDO

魔狼『さあ、来るがいい』

勇者『…………』ザッ

盗賊『勇者』

勇者『?』

盗賊『いや、何でもねえ。終わったら話す』

勇者『分かった(終わったら、か……)』

盗賊『(勇者は腹を括ってる。どうする?どうやって繋ぎ止めりゃいい?)』

盗賊『(死んで欲しくねえ。俺に何が出来る? くそっ、分かんねえ……)』

魔女「(盗賊……)」

魔導師「そろそろ頃合か……」

魔導師「旧き神の力が渦巻く今ならば、奴に気取られることなく近付けるだろう」

魔導師「魔女よ、灯す火は百や二百ではない。今の内に力を練っておけ」
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/14(火) 01:40:02.50 ID:4c8F4gQDO

魔女「…………」ギュッ

魔導師「不安か?」

魔女「……想定していないことが立て続けに起きて、次に何が起きるか全く予想出来ないんです」

魔女「厳しい戦いになるとは思ってましたけど、まさか『こんなこと』が起きるなんて……」

魔女「……きっと、盗賊もそんな感じなんだと思います。この戦いの先が全く想像出来ない」

魔導師「それは私もだ」

魔女「えっ…」

魔導師「私にも、こんな経験はない。この混沌とした状況下では予想予測など役に立たん」

魔導師「だが、先を見据えるのなら今を乗り越えるしかない。この先へ進むには、それしかないのだ」

魔女「……私、やります。私がやれることをやります。だから、見ていて下さい」

魔導師「ああ、勿論だ。全て見届ける。さあ、準備が整ったのなら行くぞ」

魔女「はい」

魔女「(先は見えないけど、どうなるかなんて分からないけど、やれることを全部やろう)」

魔女「(王女様だって聖女さんだって、私なら何とか出来るかもしれないんだ)」ギュッ
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/14(火) 01:45:42.94 ID:4c8F4gQDO
ここまで
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/14(火) 01:55:06.16 ID:dHOnEz9DO
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:16:20.47 ID:1uW2r996O

>>>>>>>

魔狼「まだ、まだ淡い」ズッ

ズシンッッッ!! ミシッ…ビキビキッッ……

勇者「(一撃で地面が捲れ上がった。地割れによって大地が不安定になっているのか)」

勇者「(大師匠様が繋ぎ止めているようだけど、大地裂き溢れ出る水の力の方が強い)」

勇者「(このままだと平原どころか立っていられる場所さえ無くなーーー)」ズギッ

盗賊「勇者、脚から落とすぞ。勇者?」

勇者「(そうだ、俺は勇者だ。俺は俺だ、誰かに渡して堪るか)」ガクンッ

盗賊「勇者!!」ダッ

ガシッ…

勇者「……盗賊、ありがとう。助かった」

盗賊「(っ、酷え汗だ。痩せこけて見える。何だ、勇者に何が起きてやがる)」

勇者「もう大丈夫だ。盗賊、奴は俺が引き付ける。その先は頼む」ザッ
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:17:59.27 ID:1uW2r996O

盗賊「勇者、お前ーーー」

魔狼「フヌ、まだ耐えるか」

魔狼「だが、まだ増すぞ。より色濃く、より鮮明に蝕む。さて、どれだけ保つか……ヌフッ…」

勇者「…ッ…ぐっ…あああッッッ!!!」ダッ

魔狼「ヌハッ!向かって来るか!面白い!!!」ダンッ

ドギャッッ!!!

勇者「ぐッッ…」

魔狼「どうした、何をしておる? 爪を受け止めるだけで手一杯か?」

勇者「ッ、おおおおおッッ!!」ググッ

ギッ…ギジジ…バギンッッ!!!

魔狼「ヌフッ、流石は希望。意志で押し切り力で斬り折ったか。面白い……」
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:20:02.66 ID:1uW2r996O

勇者「盗賊!!!」

盗賊「大河の如く現れ出でよ、樽ごと呑み込め大蛇姫」

どずんッ!!! ぐわっ……

魔狼「何が出るかと思えば、図体だけの使い魔か。失せろ、戦の邪魔をするな」

ザギャッッ!!!

盗賊「(野郎、一撃で切り刻みやがった)」

盗賊「(蛇姫の力が弱いんじゃねえ、俺が扱い慣れてねえからだ)」

魔狼「どうした魔王、それで終いか?」

盗賊「今はこんだけ出来りゃあ上等さ。それより、やっと目が合ったな」

魔王「何?」

盗賊「本能的なのかどうか分かんねえが、てめえは勇者ばっか見てた。俺を見ようともしなかった」
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:21:52.27 ID:1uW2r996O

盗賊「俺に興味がない、わけがねえよな」

盗賊「てめえの内側には魔王を好いてた奴等が山程いるんだ。あれか?俺の見るのが怖いのか?」

盗賊「それとも、俺に前の王サマを重ねて恋しくなるのを避けてんのか?」

魔狼「戯れるな」

盗賊「まあ、そう言うなよ」

盗賊「こんな台詞は野郎相手に言いたくねえが、もう少し見つめ合おうぜ?」

盗賊「互いに一目惚れした、雷に打たれた男と女みてえによ」

魔狼「瞳じゅーー」

盗賊「てめえは勇者にしか倒せねえ。なら、俺が『倒せる間』を作るだけだ」
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:32:24.83 ID:1uW2r996O

魔狼「ぬっ、ぐッッ……」ギギッ

ザグッッッ!!! ブシュッ…

魔狼「ぐぬッッ…」ガグンッ

勇者「目が覚めるような痛みだろう。頭蓋を砕かれ、脳髄を刺し貫かれるのは」

魔狼「ヌフッ…ああ、確かに痛む。焼かれるようだ。だがな、この程度で終わりはしない」

勇者「いや、もう終わりだ」

勇者「全てはこの時の為、彼女が此処へ来るまでの繋ぎに過ぎない」

魔狼「(この感覚は……魔女か!!?)」バッ


魔女「彼等に、新たなる火を……」スッ

ドッッッ…ゴゥッッッッ!!


魔狼「炎の粒、火種……そうか、この炎はーー」

魔女「闇に囚われ、闇を産んだ者達よ、目の前にある光を見よ。新たな光、新たな王を見よ」

魔女「千年の間に流し続けた涙を止め、悲しみから解き放たれた眼で彼の者を見よ」
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:38:34.48 ID:1uW2r996O

魔狼「(我が内にある魔核に炎を灯すか……)」

魔狼「(成る程、全ては勇者の描いた通りというわけか。だが、『これ』だけは離さん)」

魔女「……背負った悲しみの重さ、その痛みは私には分からない」

魔女「前を向けなんて言わない。無かったことにしろなんて言わない」

魔女「ただ、過去じゃなくて今を見て……」

魔女「私にその傷は癒やせないかもしれない。だけど、変わることは出来る。きっと変えられる」

魔狼「(……そうか、まあよい)」

魔狼「(そうであるなら、我の中から去れ。今に行きたければ行くがいい)」

魔狼「(だが、覚悟しろ)」

魔狼「(今更希望を灯すなど許さん。我を産み出しながら希望を灯すなど……)」

魔狼「(絶望は、絶望を全うする)」ズズッ
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:46:08.69 ID:1uW2r996O

盗賊「おっ、出やがった」

『あれが、新たな王。姿形は違うが、確かに似ている』

『転生。本当にそんなことが……』

『思えば、決して諦めぬ御方だった。やはり、王は諦めてはいなかったのだ』

『そうであったな。諦めていたのは我等の方だったと言うわけか……』

『こんな時が来ようとは未だ信じられぬ。あれは誠に王か?夢か?幻か?』

魔女「盗賊、抜け出た魔核は頼んだよ」

盗賊「……いや、なんか多くねえ?」

魔女「……まあ、うん。確かに予想より多いけども……」

盗賊「だろ? あれは流石にキツいって」

魔女「承知の上だったんでしょ……ていうか身体まで復活するとマズいから早くしてよ」
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:48:53.76 ID:1uW2r996O

盗賊「何もせず逃がすっていう手もーー」

魔女「ないから!さっさとやれバカ!!」

勇者「(全く、こんな時なのにまたやってるよ……でも、ちょっと安心した)」

勇者「(魔女の内側から魔導師さんを感じる。あれなら、きっと魔女も大丈夫だ……)」

盗賊「……さて、やるか」

『王であるなら、力を示せ』

『王であるなら、我等を喰らえ。喰らい、示せ』

『それがよい。力無き者であるなら、内から食い破ってくれる』

『我等は従うのではない。我等は共にあった。王と共にいたのだ』

『偽りなき王であるならーー』

盗賊「いいから来いよ」

盗賊「お前らの一切合切、絶望の千年は俺が引き受けてやる。だから、来い」
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 02:47:30.62 ID:Vvfk6fYNO

『うむ、勇ましい。が、これからだ』

『宿せるか否か』

『王は求めた。生まれついての空白。それ故に更なる力を求めた』

『奪うとは、自己の存在証明。自らを有とすべく、王は欲したのだ』

『王の転生が運命ではなく、王の意志による力ならば或いは……』

『行かなければ始まらぬ。行かなければ見えぬ。あの小娘の言葉が誠ならば、見えるはず』

ズォォォォォ…ズズズ…

魔女「(……凄い)」

魔女「(数多の魔核が次々と盗賊に向かって奔っていく。まるで、巨大な魔力の渦……!!?)」
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 02:49:46.59 ID:Vvfk6fYNO

戦士「……我は、化身」

戦士「あの冬の夜に希望と別たれ、この身体を得た時から絶望は形を成した」

戦士「汝、我となりて希望を喰らうのだ。そう、喰い尽くす為に、喰らい尽くす為に」

魔女「(なんて、禍々しい……)」

魔女「(むせ返る程の憎悪に満ちている。あれが、戦士さんの肉体を依り代に顕現した姿……)」

勇者「魔女、盗賊を頼む」ザッ

魔女「うん、分かった。だけど、あの人はーー」

勇者「君が火を灯してくれた」

勇者「残すは奴だけだ。あれさえ消し去れば、この夜は明ける」

勇者「あれは俺がやる。俺にしかやれない。大丈夫、すぐに終わらせる」
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 02:51:25.58 ID:Vvfk6fYNO

魔女「待って」

勇者「ん?」

魔女「聖女さんと王女様のこと……私なら、何とか出来るかもしれない」

勇者「……そっか。でも、もしそれが可能だとしても王女様だけでいい」

魔女「………えっ?」

勇者「こんなこと勝手に決めたくないけど、母さんは戻らない方が幸せだと思う」

勇者「……いや、幸せとか不幸とかじゃない。きっと、母さんは『それを』望まない」

勇者「例え君が母さんを呼び戻してくれても、僕の家族は元には戻れないから……」
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 03:05:14.00 ID:Vvfk6fYNO

魔女「………」ギュッ

勇者「ッ、ごめん。君を責めてるわけじゃないんだ。嬉しいんだけど、無理なんだよ……」

勇者「絶望の化身となった父さんは、もう戻ることはない。父さんは、もういないから……」

勇者「……父さんが自分を捧げた時、共に未来を生きることすら奪われた」

勇者「だから、もういい。疲れているだろうから、ゆっくり眠らせてあげたいんだ」

……ザゥッ…

戦士「希望よ、最期だ。遂に、時が来た」

勇者「出来ることなら、父さんと一緒に眠らせてあげたい」ヂャキッ

魔女「……っ、そっか。うん、分かったよ」

勇者「……ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」

魔女「(勇者の背中が遠離る。何か言わなきゃ、何か言わなきゃダメなのに……)」

魔女「(あの背中には何も言えない。きっと、何を言っても……)」

王女『貴方は勇者と共に戦える。正直なところ、わたくしは嫉妬しています』

王女『魔女さんが苦悩していることは存じていますが、それでも羨ましいのです』

王女『共に戦い、互いに支え合う……それは、わたくしには出来ないことですから』

王女『……わたくしにはどうやっても出来ないことも、貴方になら出来る』

魔女「(無理だよ王女様。私じゃダメなんだ。私の声は、勇者に届かない……)」
538 : ◆4RMqv2eks3Tg [saga]:2017/02/19(日) 03:12:11.61 ID:Vvfk6fYNO
次くらいで終わると思います
また明日
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:04:37.34 ID:I+YIA33OO

魔女「(……私は、どうしたら)」

魔導師「魔女、気をしっかり持て」

魔導師「考えるなとは言わん。あの背を追いたい気持ちは痛いほど分かる」

魔導師「お前は自分と王女を比較しているようだが、『どちらだろうと』無理だ」

魔女「えっ…それはどういう……」

魔導師「此処に立っているのがお前ではなく王女だとしても、勇者を繋ぎ止めることは叶わんだろう」

魔導師「あれは決意の背」

魔導師「有無を言わさぬ、如何なる介入も許さぬ、そんな意志を宿した背だ」

魔女「…………」ギュッ

魔導師「……信じること、想うこと、願うこと。待つ者には、それしかない」
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:05:53.76 ID:I+YIA33OO

魔女「信じる……」

魔導師「魔女よ、悲観するな」

魔導師「必ず帰ってくるものと信じ、やるべきをやれ」

魔導師「お前は魔王を任された」

魔導師「あの者は勇者にとって無二の友。そして、お前にとっての友でもある。そうであろう?」

魔女「友だち……!!?」ゾクッ

ゾゾゾゾゾ…ズォォォォォ…

魔女「何…あれ…あれが魔力だっていうの?」

魔女「魔の…渦…濁流…あんなの、受け入れられるわけが……ッ、盗賊!!!」タッ
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:09:38.44 ID:I+YIA33OO

盗賊「(意識、記憶が流れ込んできやがる)」

盗賊「(戦、戦、戦、血の流れ、赤い川、屍の上の屍……これが、魔神族の歩みってわけか)」

盗賊「(何処だ。俺は何処に立ってる? 彼処にいるのは王と救世主…か…?)」

『終わりだ、魔王』

『無垢な面しやがって……』

『全く、何も知らないってのは罪だな。いや、疑う心すら与えられなかったか』

『なら、俺がくれてやる』

『お前に心を与え…お前の罪を教えてやる。俺がお前を、人にしてやる』

盗賊「(ッ、なんだ…頭が痛え。今のは、王の思念……!?)」

盗賊「(くそっ、凄え数だ。渦に呑まれる。あの野郎、こんだけ溜め込んでたのかよ……)」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:12:39.19 ID:I+YIA33OO

魔女「盗賊!!!」

盗賊「(……声……誰だ? 俺は…何処だ?)」

ゾゾゾゾゾッッ…ズォォォォォ!!!

魔女「ッ、渦に遮られて届かない」

魔女「(あの渦をどうにかしないと盗賊に近付くことも出来ない……)」

魔女「(でも、あんな激流をどうやって突破すればいい?)」

魔女「(魔神族、混じり気のない純粋魔力。なら元素で中和…いや、無理だ……)」

魔女「(膨大な純粋魔力に匹敵する元素なんて使えない。あれはもう、魔力と言えるかどうかも分からない……)」

魔女「(あんなのに身を任せてたら、あれに耐えきれなかったら盗賊は……)」

『世界の危機だとか、滅びだとか言われてもピンとこねえけどよ……』

『世話になった奴とか、一緒に戦った奴とかが死ぬのは嫌だろ?』

『他の奴等がどうなろうが知ったこっちゃねえけどさ、それだけは嫌なんだよ……』
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:15:27.85 ID:I+YIA33OO

魔女「……私だって、そんなの嫌だよ」

『俺の大事な奴、勇者の大事な奴、お前の大事な奴、隊長の大事な奴……』

『巫女や鬼姫、こっち側の奴等…地下街に住む奴等の大事な奴とかさ……』

『そういうもんを繋げて拡げてったのが、世界ってやつなんだろ?』

魔女「……私の世界には、あんたが…」

魔導師「魔女?」

魔女「……先生、補助お願いします」

魔導師「……飛び込む気か」

魔女「はい。それしか、方法はないですから」

魔女「あの渦は一つであって一つじゃない。膨大な数の魔が生み出したもの……」

魔女「私には、あの渦の流れを読む力はありません。でも、先生になら出来る」
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:16:38.46 ID:I+YIA33OO

魔女「私と先生の魂は繋がってる」

魔女「先生が炎の主導権を握って、盗賊の場所を私に示して下さい」

魔女「そうなれば、後は渦の中を走るだけ。必ずや辿り着いてみせます」

魔導師「……危険は承知の上か。分かった、私が流れを読む。お前は指示に従え」

魔女「はい」

魔導師「いいか、決して気を緩めるな。あの渦、思念に取り込まれれば終わりだ」

魔導師「お前がそうなれば、私も渦に呑み込まれる。どう足掻こうと戻ることは出来んだろう」
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:18:36.86 ID:I+YIA33OO

魔女「……分かっています」

魔導師「それと、もう一つ」

魔導師「以前の王は多数の魔を宿していたようだが、一度に全てを宿したわけではない」

魔導師「戦い、奪い、喰らう。一つ一つ、その身に宿していったのだ。それを続けた結果が……」

ゾゾゾゾゾッッ…ズォォォォッッ…

魔導師「……お前の言う通り、これは一つであって一つではない。魔が群れ集った『何か』だ」

魔導師「もう少し穏便に済むかと思ったが、どうやら魔神族の本質を侮っていたようだ……」

魔導師「正直に言うが、これは一度で宿せるものではない。最悪の場合、魔王はーー」

魔女「消えませんよ」

魔女「盗賊は、こんなことで世界から消えるような奴じゃない」
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:21:38.51 ID:I+YIA33OO

魔導師「……魔女」

魔女「それに、『これは』私が呼び起こしたモノ。あいつに任せて見てるだけなんて嫌です」

魔女「先生、準備は出来ています。私はあいつを……友達を、助けたいんです」

魔導師「……ッ、来い」ザッ

魔女「(炎の主導権が先生に移った。今から、私が先生の炎……)」

魔導師「渦に僅かな裂け目を作る」

魔導師「迷わず飛び込め。躊躇えば掻き消える。見えた瞬間に跳ぶのだ」

魔女「はい、分かりました」

魔導師「案内は任せておけ。魔の流れも読み切ってみせよう」

魔導師「但し、私が出来るのはそれだけだ。渦の中で気を保ち、走り、維持するのはお前だ」

魔導師「私の役目は導いてやること。お前の役目は、連れ帰ってくることだ。よいな?」
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 16:28:00.07 ID:I+YIA33OO

魔女「必ず帰ってきます。友達を連れて、必ず」

魔導師「……うむ、ならばよい。では、道を開くぞ」スッ

ゴゥッッッッッ!!! ビシッ…

魔女「……見えた」タンッ

ゴゥッ…ズズ…オォォォォォッッ……

魔導師「……出逢いは変化の兆し、一人の男への想いが憎しみを拭い去り、女は過去を乗り越えた」

魔導師「戦の果てに友を得て、友に支えられ、今や魔術師達の標となりつつある」

魔導師「……我が弟子が、魔術の導き手となるか。何とも、不思議なものだ…」

ゴゴッッ…オォォォォォォ……

魔導師「……咎人と忌み嫌っていた盗賊も、今では魔女の世界に欠かせぬ存在となった」

魔導師「魔女よ、お前が自分自身が得たもの……それは、私では与えられなかったものだ」

魔導師「……盗賊よ、許されぬ咎人であり王である者よ、死んでくれるなよ」

魔導師「己の為、勇者の為、世界の為、そして何より、私の娘の為に……」
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:32:30.05 ID:ESmxwZ9aO

魔女「これは…」フワッ

ゴゴゴッッ…ズォォォォォ……

魔女「思念、歴史が渦を巻いて…あれは……」

『人間が何の役に立つ。精々が家畜、でなければ奴隷にすべきだ』

『俺は守ると決めた。そうしたいのなら俺と戦え。俺に勝ったら自由にしろ』

『てめえのような、甘ったれにやられるなんて…畜生…人間なんぞに守る価値など…』

『お前の言う通り人間は弱い。弱く、儚く、それでいて温かい種族だ』

『俺は、その温もりに救われた。弱者だと蔑んできた人間に……』

『その心変わり、甘さが、いずれ仇となる…』

『……それでも構わない。もう決めたことだ』
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:35:17.45 ID:ESmxwZ9aO

『ありがとうございます』

『礼など要らん。俺がそうしたかっただけだ』

『私もそうしたいからお礼を言っただけです。本当にありがとうございます』

魔女「……疑ってたわけじゃないけど、人と魔は本当に共存してたんだ」

魔女「あっちは戦か、こっちも戦か。さっきの魔神族みたいに、争わずにいられたら……」

ボゥッ…

魔女「先生の炎…っ、そうだ、見入ってる場合じゃない。早く盗賊の所に行かなきゃ」

ユラユラ…スーッ…

魔女「炎は下に向かってる。盗賊は下か、暗いな。それに嫌な気配がする」

魔女「渦巻く思念の質も段々重苦しくなってるし。持って行かれないように気を付けないと……」フワッ
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:37:00.29 ID:ESmxwZ9aO

盗賊「(……此処は、城?)」

盗賊「(ああ、そうだ。此処は俺の城、これは俺の玉座。魔神族は統一、残るは……)」

盗賊「(そう、残るは奴だけ……いや、奴って誰だよ? 俺は何を言ってんだ?)」

『考え直してはくれないのか』

『俺はお前の駒じゃない。俺は俺の意志で魔神族を統一した』

『それは違うよ。運命がそうさせた。そうなるように定められていたんだ』

『それは既に聞いた』

『俺の歩いた道も、全ては運命に従った結果、因と果の結び……』

『俺はその為に生まれ、その為に与えられた力で魔神族を統一した。だったな』
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:38:14.50 ID:ESmxwZ9aO

『そうだ。その通りだ』

『そこまで分かっているなら、何故分かってくれないんだ?』

『君はこの手を離れ、定められていた場所より更に高い場所へと登り詰めた。それも自力でだ』

『君なら此方側に来ても問題ない。さあ、道を歩む側から、道を創る側へ来るんだ』

『殻を破れ、偽りで築き上げたものなど捨てて共にーー』

『断る。創るだの創られるだの、そんなのはもう御免なんだよ』

『以前も言ったはずだ。必ずや喉笛に噛みつき、運命を噛み千切ってやるとな』
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:38:49.26 ID:ESmxwZ9aO

『……以前も言ったはずだ』

『そうあるべく創造された者が、そうあるべく創造した者に挑むなど不可能だと』

『ならば、俺はそうあるべく創造されたんだろうよ。運命に牙を剥き、運命に楯突く為にな』

『減らず口を…これは君の為に書き上げた物語だ。しかし、君がそうなら仕方ない』

『面倒だが、新たな物語を描かなければならない。夢を、希望を見せなければならない……』

『勇者…いや、此処では魔王か。君の物語は、跡形もなく消え失せる』

盗賊「(やってみるがいい。てめえは俺がぶちのめす。この手で、必ず……)」
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 22:41:05.85 ID:ESmxwZ9aO

『憐れな。それが君の望んだ最期か』

『君は同胞を己の戦に巻き込み、運命に抗い、築き上げた全てを失った』

『そして遂に、君自身も消え失せる。大乱を制した勇敢なる英雄は、歴史に残ることはない』

『……構わない。綻びは作った』

『あの程度の綻びなど、取るに足らんよ』

『だろうな、今はほんの小さな綻びだ。だが、それが俺の意志を継ぐ鍵となる』

『何百年何千年掛かろうと俺は決して諦めない。必ず、自由を手にしてみせる』

『自由などまやかしだ。決して手の届かない、手にすることの出来ないものだ』

『それを希望という者もいる。手が届かないからこそ、誰もが求めてやまない』

『求めるのこと、それ自体が自由であり救いなんだよ。自由とは、その為にある幻にすぎない』

『貴様等からすれば、そうなのだろう。だが、今の俺は自由だ。支配も束縛もされない』
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:25:01.48 ID:4qTeTbufO

『死が解放? 笑わせてくれるな』

『今のうちに笑っていろ。俺は必ず甦る。俺の意志で甦り、世に自由を与える』

『誰の為でもなく、俺自身の為でもなく、真の自由の為に、俺は戦い続ける』

『そんな予定はないが期待しておこう』

『出来ることならーー』

盗賊「出来ることなら、奪うだけでなく与えたかった……この力では、真の自由は掴めない」

盗賊「奪うのではなく、与える力を…まやかしではない、本物の希望に……」

盗賊「俺の戦はまだ終わらない。必ずや鎖を断ち切り、紡がれた運命をーー」

『あのさ……あんた、さっきから何をブツブツ言ってんのさ』
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:27:00.62 ID:4qTeTbufO

盗賊「お前は…?…」

『さっき結婚したばっかりなのに嫁の顔を忘れるとか……まあ、仕方ないか』

『あんたは盗賊、私の旦那。ほら、手首の腕輪を見てみなよ』

盗賊「腕輪? 俺はこんなものをしていたか…俺は……」

『いつまでも呆けてんじゃないよ。友達を待たせてんでしょ?』

盗賊「……友…」

『そう、友達。勇者と魔女』

『あんた、隊長さんに言ってたじゃないか。勇者は親友だってさ』
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:27:59.90 ID:4qTeTbufO

盗賊「勇者…」

勇者『悩んでるなら悩んでるって正直に言ってくれ。僕が出来る範囲で手を貸す』

勇者『僕等は友達だ。僕の前で悪人の振りをする必要はない』

勇者『魔王になっても友達だよ。優しい王様になってくれるならね』

盗賊「ッ、そうか…そうだった。あいつは俺の…勇者は俺のーー」

『ちょっと…ねえ、聞いてんの?』

盗賊「あ、ああ…悪りぃな。お陰で目ぇ覚めた。危ねえとこだった」
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:29:50.46 ID:4qTeTbufO

魔女「はぁ?」

盗賊「……は? 何でお前がいんだ?娼婦は?」

魔女「えっ、娼婦さん? いや、知らんけど……ていうか大丈夫?」

盗賊「(さっきのは何だったんだ。確かに娼婦がいたはずだ。それにあの記憶……)」

魔女「おい」

盗賊「悪りぃ悪りぃ、ちょっと変なもんを見ちまってな」

魔女「……まあ、あちこちに思念が渦巻いてるし、霊体でも見えたんじゃないの?」

盗賊「……霊体…そうかもな。それより、どうやって来たんだ?」

魔女「先生に助けて貰ったんだ。それで何とかかんとか此処まで来られたんだけど……」
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:31:35.62 ID:4qTeTbufO

魔女「問題は……」

ゴゴゴッッ…オオォォォォォ…

盗賊「これをどうすっか、だよな……」

魔女「……まだ、行ける?」

盗賊「ああ。よく分かんねえけど、さっきより楽になった。今なら行ける」

盗賊「この渦の流れさえ読めりゃあ、何とか出来るかもしれねえ」

魔女「流れ…それなら……」スッ

ボゥッ…ユラユラ……

盗賊「これは?」

魔女「道標の炎。私が此処に来られたのも、先生の炎が流れを示してくれたからなんだ」
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 00:33:33.65 ID:4qTeTbufO

魔女「辿ってきた道は、この炎が記憶してるはず……」

ボゥッ…ボッ…ボッ…ボッ……

魔女「ほら、あれが炎が辿ってきた道。足跡みたいになってるでしょ?」

盗賊「ああ、これなら流れを掴めるな。うっし、やるか」

魔女「どうする気? やっといて何だけど、これ全部は流石に……」

盗賊「大丈夫だ。見た目は派手だし魔力も凄えが、流れが掴めりゃ大したことはねえ」

盗賊「魔核が魔力を放ってやがるんだ。なら、元ある魔核に魔力を詰め込めば何とかなる」スッ

ズズ…ズォォォォォ……

魔女「(凄い。吹き荒れる魔核に魔力を…)」

魔女「(流れが見えているにしても、これはかなり繊細な作業のはず。いつの間にこんな……)」

盗賊「後は引き寄せるだけだな」

魔女「引き寄せるって…あんなに暴れ回ってるのをどうやって……」

盗賊「まあ見てろって、何とかするからよ」

魔女「(何だろ、この感じ…盗賊の何かが変わった気がする。何かあったのかな……)」

盗賊「……絶世の鬼女、鬼妃よ。十二単の山の姫よ。微笑み引き寄せ生き血吸え」
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:08:15.65 ID:4qTeTbufO

>>>>>>>>

戦士「消えろ」ズッ

勇者「(鈍い、さっきとはまるで違う。これなら簡単に避けられる)」

戦士「何故逃げる。さあ、斬り合え」

勇者「(焦り、怒り。何より、自分から離れていった魔神族への憎悪を感じる)」

勇者「(この機を逃せば次はない。ここで決める。これで終わらせる)」ダッ

ザンッッッ!!

戦士「ぐぬっ…」

勇者「(ッ、浅い。身を捩ったか)」

勇者「(回復は早い、反撃する間を与えるな。可変一刀、二刀型)」ガヂッ
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:14:12.04 ID:4qTeTbufO

勇者「(絶やすな、緩めるな)」

ザシュッッ!!ザンッ…ドズッッ…ゴシャッ……

戦士「がっ…まだだ…希望は…喰……」ドサッ

勇者「(手応えはあった。刺し貫き叩き斬った。どうだ? まだなのか?)」

戦士「ぬぅぅ…」

勇者「(まだだ、まだ息はある。体勢が整ってない今ならーー)」

戦士「がッ…アアアアアアッ!!」ダンッ

勇者「(焦るな、大丈夫だ。勢いだけで荒い。これなら避けらーー)」ズギンッ

ドズッッッ!!

勇者「ぁぐッッ…」

戦士「ヌフッ…やっとか、やっと毒が効いてきたか。待った甲斐があったな……」ザッ

勇者「(ッ、やめろ…来るな、そんなものは求めてない。俺は違う、俺はーー)」ズギンッ
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:15:55.84 ID:4qTeTbufO

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【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主
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563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:17:03.43 ID:4qTeTbufO

【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:17:42.04 ID:4qTeTbufO

【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】【救世主】
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 01:41:17.26 ID:4qTeTbufO

勇者「がッっ…アアアアアアアッッッ!!」

戦士「ヌフッ…ヌハッ!ヌハハハッッ!!」

戦士「苦しいか?だが、それは希望であるが故の痛み、お前も覚悟していたはずだ」

戦士「縋るしか出来ぬ弱者共の想いが支配していく感覚はどうだ?塗り潰されていく感覚は?」

勇者「……………」ドサッ

戦士「ヌフッ…聞け!愚か者共!!」

戦士「貴様等は身に降りかかる危機に怯え!己の命さえ他者に預ける愚図だ!!」

戦士「勇者を苦しめているのは貴様等だ!!戦うこともせず!救われることだけを願う!!」

戦士「見よ、この様を!たった一人の人間に全てを託した結果がこれだ!!」

戦士「貴様等の歪み狂った願い想い!それが寄って集って勇者を殺したのだ!!」

戦士「救いを求めるあまり!救いそのものを殺したのだ!!」

戦士「この夜は明けぬ!世界に夜明けは訪れぬ!!さあ、死に滅べ!死に絶えよ!!」

戦士「最早救いなど訪れようもない!!今夜で全てが終わるのだ!!!」
566 : ◆4RMqv2eks3Tg [saga]:2017/02/20(月) 01:43:37.03 ID:4qTeTbufO
駄目だ寝ますまた明日
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/20(月) 02:22:25.34 ID:W3Nvgcfuo

終わり間近か
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/20(月) 03:45:24.99 ID:epLEgU/DO

やはり眠気こそが最強か…
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 20:52:52.74 ID:lVJJ/gEqO

>>>>>>

勇者「ただいま〜」

聖女「お帰りなさい。どう?今日は釣れた?」

勇者「……ううん、全然駄目だった」

勇者「見向きもしないんだ。場所を変えたり餌を変えたり、色々してるんだけど……」

聖女「きっと、向こうには分かるのね」

勇者「分かるって何が?」

聖女「よ〜し、釣ってやるぞ!っていう気持ち」

勇者「魚なのに?」

聖女「そう。勇者は魚を見てるでしょ? 魚は何処にいるのかな〜って」
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 20:54:19.42 ID:lVJJ/gEqO

勇者「うん、そうしないと釣れないから」

聖女「きっと、魚達も勇者を見てるのよ。だから、勇者の気持ちが分かるの」

聖女「あっ、あいつは俺達を釣る気だ。気を付けないと食べられちゃう…ってね」

勇者「……僕を、見てる…」

聖女「ふふっ、釣れないなら、いっそ飛び込んでみたらいいんじゃない?」

勇者「えっ?」

聖女「釣れない釣れないって悩みながら水面を見てるだけじゃ埒が明かないでしょ?」

聖女「だから飛び込むの。同じ場所に身を置いて、同じものを感じるのよ」

聖女「そうすれば、きっと違ったものが見えてくる。本当に大切なもの、もっと綺麗なものが」

勇者「……大切なもの」

聖女「さ、そろそろお昼にしましょ。お父さんを呼んできて?庭で薪割りをしてるから」
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 20:56:01.94 ID:lVJJ/gEqO

勇者「あ、うん。分かった」

トコトコ……

勇者「お父さ〜ん、そろそろお昼ご飯だよ〜」

戦士「ん、もう昼か。昼飯は何だった?」

勇者「山菜のお味噌汁と干物。熊の肉は今日の朝で終わりだったんだって」

戦士「何?あれで最後だったのか? 無いものは仕方ないな、昼から狩りにでも行くか」

勇者「狩り!?僕も一緒に行く!!」

戦士「あのなぁ、狩りは遊びじゃないんだぞ?」

勇者「大丈夫。山に入ったら騒がない、遊ばない、お父さんから離れない」ハイ
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 20:57:26.84 ID:lVJJ/gEqO

戦士「……本当かぁ?」

勇者「本当だよ!嘘吐かないもん!!」

戦士「……そうか、そうだった。勇者は嘘吐きが嫌いだったな……」

戦士「さぁて、あいつも待っているだろう。飯も冷める。そろそろ行くか」

勇者「うんっ!」

トコトコ…

戦士「……なあ、勇者」

勇者「な〜に?」

戦士「お前から見て俺は、父は強いか?」

勇者「うん!とっても強いよ!! 僕も、いつかお父さんみたいになりたいんだ!!」

勇者「あんなにでっかい剣はまだ振れないけど……大っきくなったら、あの剣を振ってみせる」
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 21:00:21.43 ID:lVJJ/gEqO

戦士「何だ、振るだけでいいのか?」

勇者「ううん。僕はお父さんに勝って、あの剣を貰うんだ。お父さんより強くなる」ウン

戦士「……俺より強くなるか。そうだな、男ならそうでなくては駄目だ。待っているぞ」

勇者「ねえねえ、お父さんは何で強くなりたいと思ったの?」

戦士「理由か。そうだな、見たいものがあったからだろうな」

勇者「見たいものってなに?」

戦士「この世界に一つしかない場所、一人しか立つことの出来ない場所」

戦士「そこから見えるのは一体どんな景色なのか、俺はそれを知りたかった」
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 21:02:56.03 ID:lVJJ/gEqO

勇者「見えたの?」

戦士「ああ、見えた。今でも見える。俺が追い掛けていた景色は目の前にある」

勇者「ここが、お父さんの見たかった景色?山と川しかないよ?」

戦士「はははっ!そうだな。だが、それだけじゃない。答えは目の前にある」

勇者「何にもないよ?」

戦士「勇者、お前だよ。嫁と息子がいる景色。そして、三人で暮らす家……」

戦士「強さだけでは手にすることが出来ないもの、かけがえのないものだ」

戦士「求めていたものとは違うが、これも俺にしか見ることの出来ない唯一の景色だ」

サァァァァァ…

戦士「……勇者、お前にもあるはずだ。お前だけが立つ場所、お前だけの景色が」
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 21:04:53.96 ID:lVJJ/gEqO

勇者「父さん?」

戦士「息子よ、目を閉じ耳を澄ませ」

戦士「そして見つけろ。お前を求める声ではなく、お前を救う者達の声を……」ザッ

勇者「父さん? 待って!」タッ

戦士「……息子よ、愛しているぞ。生まれた時から今に至るまで…そして、これからも……」

…ザッ…ザッ…ザッ

勇者「お父さん?お父さん!? 待って!置いていかないで!!一人にしないで!!」

戦士「お前は一人ではない。父は、お前の中にある。この景色の中に在る」

勇者「父さん!待って!!もっと話したいことがあるんだ!!もっと一緒にいたいんだ!!!」

戦士「声を聞け、勇者。お前を待つ者達の声を、お前が出逢った者達の声を」
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 21:10:45.46 ID:lVJJ/gEqO

勇者「……だけど、僕にはもう…」

ギュッ…

聖女「ほら、泣かないの」

勇者「っ、母…さん…母さんっ……」

勇者「母さん、ごめんなさいっ……僕の所為だ、僕が母さんを…僕がいなかったら……」

聖女「はぁ…まったく…なに言ってるの。あなたがいなかったら私はいないのよ?」

聖女「あなたが生まれてくれたから、私は母親になれたの。あの人だってそうよ」

聖女「あなたがいなかったら、父親にはなれなかった。だから、そんなこと言わないの。ね?」

勇者「母さん……」

聖女「……勇者、やり遂げなさい。一度決めたのなら、どんなことがあっても諦めては駄目よ」

聖女「どんな結末が待ち受けていようと、いつか必ず、あなたは幸せになれる」
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 22:05:29.45 ID:lVJJ/gEqO

勇者「…でも、僕は……」

聖女「あっ、一つ言い忘れてたわ」

勇者「?」

聖女「勇者、愛してるわ」

聖女「世界中の誰よりも、あなたのことを想ってる。だって、母さんだもの」ニコ

勇者「……僕もだよ。僕も、父さんと母さんを愛してる」

聖女「……さあ、耳を澄まして声を聞きなさい」

聖女「ほんの少し、僅かな間かもしれないけれど、あなたを必ず救ってくれる」

勇者「……うん、分かった」

サァァァァァ……

勇者「……耳を澄まして…声を、聞け……」
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 22:08:57.37 ID:lVJJ/gEqO

『っ、陛下!大丈夫ですか!?』

『……妻も、いつしか私も、あの子を我が子のように思っていたんだよ』

『この夜に二人だ…私は、二人の子を喪った……光を、希望を、未来を……』

勇者「東王様……」

『知ってるかい?あの子はね、野菜嫌いだったんだよ。もう、会えないのかね……』

勇者「給仕長のおばさんだ。もう、随分会ってないや……」

『そんなっ…勇者君まで…こんなこと……』

『王妃様、泣かないで下さい。勇者様は絶対に生きています。そうでなくては…私は……』

勇者「…騎士さんも泣いてる……でも、何処へ行けば……」
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 22:10:15.90 ID:lVJJ/gEqO

『オイ、クソ猫。何処へ行くつもりだ』

『離せ。聞かずとも分かるだろう』

『テメエが行って何になる?』

『黙れッ!!彼のいない世界など私には耐えられない!!離せ!!』

勇者「神聖術師……」

『ドワーフの肩を持つ訳ではないが、お前が行ってもどうにもならん』

『それに、この揺れだ。まともに転移出来るかも怪しいところだ』

『そんなことはどうでもいい!!私は彼の所へ行くんーー』
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/20(月) 22:16:09.84 ID:lVJJ/gEqO

『ぎゃあぎゃあと…喧しい女じゃわえ」

「妾とて気を抑えておるというのに、まったく、まったく情けない奴よ』

『して、武闘家。土術に秀でた者は集めたのかえ?』

『ええ、準備は出来ております。今すぐに起動しますか?』

『……いや、もう少し待つ。せめて、王と勇者の安否が分かるまでは…』

勇者「地下街の皆だ…無事でよかった……」

『勇者、死ぬな。私はまだ何も返していない。あの時の借りを、何も……』

『陛下、御心配なさらずとも勇者様は必ずやり遂げます。あの時もそうでした』

『不可能と思えたことを、あの方は実現して見せたのです』

『……そうだったな。初めは口先だけの小僧かと思っていたが…国を変え、私を変えた…』

『生きろ、勇者』

『咎人の俺がおめおめと生き延び、お前が死ぬなどあってはならん……』

勇者「北王、目が優しくなってる。監視さんは、あの時と変わらない。相変わらず、頑固そうだ……」
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 01:01:33.28 ID:nSr793NGO

『勇者、立て…立ってくれ…』

『助けに往けぬ囚われの魂。絶望でありながら希望を想うか、弟子よ』

『……あの子は僕の希望であり、戦士と聖女の…戦友の息子です』

『この身、魂が絶望に囚われていようと、それは決して変わらない』

『……案ずるな、勇者は終わらん。あれは俺の弟子だ』

『そう言いながら心配そうな顔してますね。初めて見ました、お師匠様のそんな顔……』

勇者「お師匠様、お兄ちゃん……僕は…何処へ行けば……」
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 01:02:50.06 ID:nSr793NGO

『これが貴様等の望みか!託神教!!』

『……望みなどではありませんよ。これは神の告げ、あるべき運命です』

『ふざけるなッ!!』

『こんな運命があって堪るか!!神だと!?笑わせるな!!』

『この様を見ろ!魔が溢れ大地は裂けた!!地獄以外のなにものでもない!!』

『貴様等が信仰しているのは神などではないッ!!貴様等は悪魔だ!!』

勇者『…託神教…戦ってる? この声は…誰だろう……』

『悪魔なら既に滅ぼしましたよ。名前は確か、精霊さん…でしたか』

勇者「…精霊が? でも、存在を感じる。生きてるはずだ……」
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 01:07:17.65 ID:nSr793NGO

『勇者さんは負けない。負けないんだ……』

『ぅ…ん…お兄ちゃん、それなぁに?』

『っ、起きちゃったのか。寝てなきゃ駄目だろ?』

『ねえ、なんで?』

『なんで、ゆうしゃがたおれてるの? あの人は、なんでわらってるの? お父さんは?お母さんは?』

『いかん、様子がおかしい。儂は魔術師を呼んでくる。お前は傍にいろ、いいな?』

『わ、分かった』

『お兄ちゃん、こわいよ…そとに、かいぶつがいたの、はいいろの、おっきな…かいぶつ……』

ギュッ…

『ッ、大丈夫、大丈夫だ』

『もう怖くない、俺が傍にいる。勇者さんだって頑張ってる。だから、大丈夫だ』

勇者「ッ、出口は何処なんだ。早く、早く行かないと……」
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 01:10:07.32 ID:nSr793NGO

『終わりだ。喰らってやる』

『ぐっ…勇者、大丈夫か?』

勇者「盗賊? くそっ!何処だ!何処へ行けばいい!!」

『魔王…フヌ、あの渦から生還するとは大したものだ。だが、もう終わりだ』

『勇者は潰えた。希望は想いによって塗り潰された。今更庇ったところで何も変わらん』

『黙れ』

『現実を受け入れろ、友は死んだのだ』

『例え起ち上がったとしても、それは最早勇者とは呼べぬ存在だ。守る価値などない』

『うるせえって言ってんだろうが!!!』

『魔女!王女と勇者の母ちゃんを連れて此処から離れろ!!このままじゃ落ちちまう!!』
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/21(火) 01:33:42.46 ID:nSr793NGO

『で、でもっ…』

『いいから行け!早くしねえと崩れちまう!!二人が落ちたら勇者に何て言うつもりだ!!』

『っ、分かった……盗賊、後はお願い…』

『おう!またな!!』

『う、うんっ!また後で!!』

『……行ったか』

『下らん。何をしようと、お前の力では我に勝てん。これ以上の戦いは無意味だ』

『てめえには無意味だろうが、俺には意味がある。殺させて堪るかよ』

『言ったはずだ、それは最早勇者ではない。さあ、大人しく希望を差し出せ』

『友を友のままで逝かせてやりたいのなら、救世主に殺されたくなければな』
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