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勇者「救いたければ手を汚せ」
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386 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:19:56.21 ID:vidETM5EO
特部隊長「……何?」
魔導鎧「以前お会いした時、彼から一切の魔力を感じませんでした。彼は完全種です」
特部隊長「剣聖に、魔力がない?」
魔導鎧「はい。彼から魔力を感じたことは一度もありません」
特部隊長「それは確かなんだな?」
魔導鎧「私を含め、魔導鎧全機は大尉に虚偽報告をするように設計されていません」
特部隊長「いや、疑っているわけじゃないんだ」
魔導鎧「なら何故?」
特部隊長「君と出逢う以前のことだ。剣聖は自身のことをこう言っていた……」
特部隊長「俺は、お前達が言うところの異形種だ。この剣を抜いてみれば分かる…とな」
387 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:21:07.18 ID:vidETM5EO
魔導鎧「……そうでしたか」
魔導鎧「私を疑っていたわけではないのですね。申し訳ありません」
特部隊長「いや、謝る必要はない。剣聖に対する認識に齟齬があっただけのことだ」
特部隊長「しかし…奴の言ったことが事実とするなら剣を抜かない限り魔力は感じられない」
特部隊長「……魔導鎧、何かに魔核を移すというのは可能なのか?」
魔導鎧「いえ。私が保有する知識の中にそのような術はありません」
魔導鎧「製造されて以降も独学で魔術を学んでいますが、不可能かと思われます」
特部隊長「……そうか。だとしたら、二人が何処へ消えたのか知る術はないな」
特部隊長「偵察機体を向かわせるにも、何の手懸かりもない状態で発見するのは非常に困難だ」
388 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:21:33.60 ID:vidETM5EO
魔導鎧「……大尉、一つ提案があります」
特部隊長「提案?珍しいな…」
魔導鎧「精霊と同期を試みれば、彼女の居場所を知ることが出来る……かもしれません」
特部隊長「同期…それは、君が躊躇いを見せる程に危険なことなのか?」
魔導鎧「はい。最悪、壊れる可能性があります」
特部隊長「なら、そんなことをする必要はない。精霊が情報を秘匿している確証はないんだ」
特部隊長「君には随分と助けられた。憶測の検証の為に君を失うわけにはいかない」
魔導鎧「確証ならあります」
特部隊長「何?」
魔導鎧「この言葉は使いたくありませんが、所謂『勘』というやつです」
389 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:22:06.40 ID:vidETM5EO
特部隊長「馬鹿な、そんなことでーー」
魔導鎧「私以外であれば、そうでしょう」
魔導鎧「ですが私はこの世界で唯一、彼女の精神性を多少なりとも引き継いでいる者です」
魔導鎧「その私が精霊の行動に疑問を持ち、彼女の動向を探ろうとしている」
魔導鎧「大尉、私は断言出来ます。精霊は、何かを隠しています」
特部隊長「いや、しかし…」
魔導鎧「短時間であれば危険はありませんし、音声だけでも拾えるかもしれません」
魔導鎧「これ以上は危険だと判断したら、即座に同期は終了します。大尉、許可を」
390 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:22:39.41 ID:vidETM5EO
特部隊長「……少し、時間をくれ」
魔導鎧「大尉、貴方は先程、私と出逢う以前と言ってくれました」
特部隊長「?」
魔導鎧「貴方は、精霊に製造される以前…ではなく、私と出逢う以前と言ったのです」
魔導鎧「……私は、人間ではありません。精神構造も精霊を基にしたものでしかない」
魔導鎧「私のような命なきものに対し、あたかも人のように接してくれる大尉に感謝しています」
魔導鎧「これを喜びというなら、きっとそうなのでしょう。私は、貴方と出逢えて良かったです」
魔導鎧「私に心があるかどうか、それを証明する術はありませんが、そう思っています」
魔導鎧「……大尉、恩返しをさせて下さい。私も、貴方に何かを与えたいのです」
特部隊長「……そんなことを言われたら俺が断れないのを分かってて聞いてるな?」
391 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:24:27.81 ID:vidETM5EO
魔導鎧「分かりましたか?」
特部隊長「当たり前だ。長いとも短いとも言えないが、これまで共に過ごしてきたんだ」
特部隊長「……君の性格は、ある程度把握しているつもりだ」
魔導鎧「性格…」
特部隊長「ああ、『君の』性格だ」
特部隊長「君は心の有無を証明する術はないと言ったが、君には確かに心がある」
特部隊長「だからだろうな、君に危険な真似をさせたくないと思う」
特部隊長「拳銃や剣のような単なる道具だと思っているのなら、躊躇いなく『やれ』と言えるのだろうが……」
特部隊長「君は人間と何ら変わりはない。君は戦友であり、俺の大事な部下だ」
魔導鎧「であれば尚のこと」
魔導鎧「大尉、お願いします。貴方の部下として、任を全うさせて下さい」
392 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:25:48.99 ID:vidETM5EO
特部隊長「異常を感じたら即刻中止だ。いいな」
魔導鎧「……了解しました。では、同期を試みます」
ヂヂッ…ヂヂヂ……
精霊『『意に添わない者』の排除」』
精霊『この大混乱、王侯貴族が死んでも何ら不思議はない。そして、それは南王も例外ではない』
精霊『託神教に否定的懐疑的な輩を一掃し、生き延びた民を教徒とし、信徒はより信仰を強める』
特部隊長「排除、託神教。断片的だが、まさか…」
僧侶『概ね順調です。『今のところ』は、ですが』
精霊『そう。なら、後は勇者を手に入れるだけということかしら』
僧侶『手に入れるだなんて、そんな野蛮な真似はしません。お迎えに行くだけです』
精霊『大隊を率いて遺体を奪い取る気なのに、随分と妙な言い方をするのね』
僧侶『遺体ではなく不朽体です。奪うのではありません、迎えに行くのです』
特部隊長「……勇者の遺体を? 一体何を……」
僧侶『では教皇様の指示通り、真実を歪める者を修正します』
393 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:27:06.26 ID:vidETM5EO
魔導鎧「…ッ、ガ…」
特部隊長「ッ!? 魔導鎧!もういい!!もう充分だ!今すぐ止めろ!!」
魔導鎧「…ま…だ…いけ…ま…す……」
精霊『……援軍程度では足りない』
精霊『魔狩りの大隊を寄越せ。全てだ、全軍だ、全軍を以て私を殺しに来い』
精霊『勇者を、救世主を手にしたいのなら、神の告げとやらを真実にしたいのならーー』
精霊『全身全霊全軍全力で殺しに来るがいい。私も、この命が尽きるまで本気で殺し続けよう』
魔導鎧「……アッ……」ガグンッ
特部隊長「っ、おい、しっかりしろ!!」
魔導鎧「…大尉…お役に、立て…まし…たか?」
特部隊長「……ああ、彼女が居る場所も、行くべき場所も、何が起きているのかも分かった」
特部隊長「早速で悪いが南都に偵察機体を派遣、南王や王侯貴族の生死を調べさせてくれ」
394 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:28:15.00 ID:vidETM5EO
魔導鎧「……大尉は…人使いが荒いですね」
特部隊長「……ああ、俺は部下に厳しいんだ」
魔導鎧「ふふっ…了解しました」ギシッ
ガシュッ…
魔導鎧「飛行術式型偵察機に告ぐ」
魔導鎧「大至急南部へ向かい、精霊と何者かの会話が事実であるのか確認せよ。了解か」
『了解しました。飛行術式型偵察機は大至急南部へ向かいます』
魔導鎧「大尉、我々も今すぐ向かいますか?」
特部隊長「いや、動くのは偵察機体の報告後だ。それまでに体調を整えておけ」
魔導鎧「……了解しました」
魔導鎧「(精霊、今日ほどあなたに感謝した日はありません)」
魔導鎧「(私はあなたに作られたことを、心から感謝しています)」
395 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/26(木) 02:29:38.56 ID:vidETM5EO
ここまで寝ます
ありがとうございます
396 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/26(木) 07:02:16.79 ID:BdQ26qM3O
>>372
はミス
397 :
◆4RMqv2eks3Tg
[saga]:2017/01/26(木) 22:58:47.05 ID:26DinylLO
絶望の宣誓、世界各地にオークを放つ。
↓
魔女と魔導師が交戦。符術師が風術隊を派遣。
魔女が対価の腕輪使用、炎そのものとなる。
↓
北部の街で勇者が花屋の子供達を救出、風術隊によって転移陣が軌道。
↓
西都。陣は娼婦によって破壊。
↓
店主は治癒師を助けに行く、道化師と娼館主は地下道で陣起動を任された魔術師と合流。
↓
店主は治癒師を救い出すが、大型オークの攻撃で両足を失う。
直後、赤髪が現れ大型オークを倒す。
↓
地下道にオークが現れるが、道化師が火元素結晶を爆発させ道を塞ぐ。
盗賊は娼婦と交戦、娼婦の願により魂を奪う。オーク殲滅。
↓
勇者と戦士の戦いが全世界に映し出される。
↓
魔女は北都暴動収束後、勇者の下へ
精霊は南部へ、剣聖は盗賊の下へ
↓
盗賊と剣士の再会。戦闘
精霊、南部へ到着。僧侶との戦闘
↓
特部隊長は元帥の命により精霊を探ることに。
魔導鎧が精霊と同期を試みる。
託神教の動きを察知するに至り、南都へ飛行偵察機体を派遣する。
398 :
◆4RMqv2eks3Tg
[saga]:2017/01/26(木) 23:10:58.59 ID:26DinylLO
ごちゃごちゃしてきたので状況整理。
抜けてる箇所があるかもしれませんが、大体はこんな感じです。
終わりに近付いてはいますが、考えていたより長くなりそうです。
ここのところ投下が遅くて申し訳ない。
長くなりましたが、読んでる方、レスしてくれた方、本当にありがとうございます。
凄まじく眠いので寝ます。
399 :
◆4RMqv2eks3Tg
[sage]:2017/01/26(木) 23:23:54.68 ID:26DinylLO
説明が不足している部分や疑問があれば言って下さい。
設定等は短編にあるので、よければ読んで下さい。
400 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/27(金) 06:44:36.53 ID:IYvjqUdDO
乙
401 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:19:58.66 ID:guLrcQbjO
>>>>>>>>
南部上空
『王女様は死んだんだよ?』
魔女「(痛っ!! 『また』これか)」
魔女「(さっきより間隔が短くなってる。きっと勇者に近付いてるからだ)」
魔女「(痛みも酷くなってる。もう少し、後もう少しで着くのに……)」
『もっと喜びなよ。これで邪魔な奴は消えたんだからさ』
『だけど、どれだけ頑張っても、どれだけ尽くしても、勇者が私を見てくれることはないよ』
『この想いが実ることは絶対にない、私は一方的に勇者を愛し続けるだけ……』
『ずっとずっと、王女様を想う勇者を見ているだけ。私を見てくれない勇者を見ているだけ』
『……力なんて求めなければ、私は勇者と結ばれたかもしれないのに……』
402 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:22:13.20 ID:guLrcQbjO
魔女「(ッ、うっさいな!!)」ブンブンッ
ボゥッ…
魔女「?」
魔導師「魔女、先程より頻度が多くなっているようだがーー」
魔女「わ、私なら大丈夫ですって!これくらい全然平気ですから!!」
魔導師「大丈夫なものか。自分の身体をよく見てみろ、炎が酷く乱れている」
魔導師「此処へ来るまでも街や村で戦闘を重ねたのだ。疲れもあるだろう」
魔導師「焦る気持ちは分かるが、痩せ我慢せずに一度立ち止まれ。気を静めるのだ」
魔女「……嫌です。今痩せ我慢をしなかったら一生後悔します」
魔導師「いいから止まれ。その痛みを和らげる妙案を思い付いた」
403 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:24:14.05 ID:guLrcQbjO
魔女「えっ…?」
魔導師「私とで『それ』を共有し、二分するのだ」
魔導師「今の私とお前は二心同体、内にある魂は二つ。互いの魂を繋げれば可能であろう」
魔導師「あくまで繋ぐだけだ。どちらかが消滅することはない」
魔導師「私がどこまで肩代わり出来るかは分からんが、今よりは確実に楽になれるだろう」
魔女「でも、これは私のーー」
魔導師「分かっている。それは、お前が覚悟の上で受け入れた痛み」
魔導師「自身の望みと引き換えに手に入れた力、せれと共に与えられた責め苦……」
魔導師「代償などという言葉では足りん。それは最早、呪いとさえ言えるものだ」
404 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:25:11.22 ID:guLrcQbjO
魔女「…………」
魔導師「……受け入れたからには背負うべきだと、そう思っているのだろう?」
魔導師「だがな、このままでは勇者の下へ行ったところで何の役にも立てんぞ」
魔導師「よいか、魔女。少しは狡くなれ。第一、相応の対価は既に支払っているのだ」
魔導師「支払いは済ませたのだから、これ以上の請求に応じることはない」
魔女「けど、それが代償だって刀匠さんが……」
魔導師「フン、対価の仕組みなど知ったことか。何をしようとバレなければよいのだ」ウム
405 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:27:41.20 ID:guLrcQbjO
魔女「っ…あはははっ!!」
魔導師「ようやく笑ってくれたな……」
魔女「……先生?」
魔導師「弟子よ、絶望に囚われていたとは言え、お前の仲間を傷付け、悲しませてしまった」
魔導師「あの時、勇者が現れなければ…そう思うとぞっとする。魔女、本当に済まなかった……」
魔女「いいんです……」
魔女「こうして本当の先生と一緒にいられるだけで、私は嬉しいですか…ッ!!」ズキッ
ギュッ…
魔女「あっ…」
魔導師「魔女、お前な遙かな高みへ昇った」
魔導師「今や、お前の師として何かを教え授けることなどないのかもしれん」
魔導師「だがな、その痛みを和らげることは出来る。いや、させてくれ」
406 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:30:18.41 ID:guLrcQbjO
魔女「…せ…んせい……」
魔導師「弟子が苦しみ藻掻く様を、何もせずに傍らで見ているというのは、私が耐えられんのだ」
魔導師「魔女、魂を繋ぐぞ」
魔導師「お前が命を全うするその時まで、師であることを許してくれ」
ズッ…ズズズ…
魔導師「ッ!!」ズギッ
『男の人は怖い男の人は怖い男の人が怖い男の人が怖い男は怖い乱暴された乱暴された乱暴された乱暴された乱暴された乱暴された乱暴されたでも勇者は違う勇者違う勇者に出逢えてよかった勇者に出逢えてよかった出逢え勇者は私を見てない出逢えてよかったあんな男いるんだあんな男いるんだあんな男いるんだ勇者は違う違う違う勇者は全然違う勇者は優しい優しい優しい優しい優しい優しくて温かい温かい温かい温かい温かい温かい温かい温かい背中だった優しい笑顔優しい笑顔優しい笑顔私は勇者が私は勇者が好きだ一緒にいたいな一緒にいたいな王女様より先に出逢ってたら一緒にいたいな一緒にいたい一緒にいたいな勇者に貰った勇者が私にくれた時計を持って一緒に出掛けたい一緒にいたい早く行かなきゃ早く行かなきゃ早く行かなきゃ出逢えてよかった勇者は私が勇者は私が勇者は私が男勇者大好だよ勇者私が勇者は私が助ける助ける助ける助ける勇者を助けたい私だけの勇者優しい勇者は王女様が好きお願い王女様じゃなく私を見て王女様じゃなく私をだけを見て見て見て見て見て見て私だけに笑って見せてーー』
407 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:33:56.21 ID:guLrcQbjO
魔導師「(こ…れは……)」
魔導師「(熱した針金を頭蓋から突き通されているような、刺され焼かれるような痛み……)」
魔導師「(恋慕、嫉妬、執着。それらが異常なまでに肥大化したもの。それが、この声の正体か)」
魔導師「(勇者に近付くにつれ、想いは燃え上がり平常ではいられなくなる……)」
魔導師「(燃える恋心と言えば聞こえは良いだろうが、これはまるで呪詛だ)」
魔導師「(魔女自身にこんな歪みはない。代償、対価が、これらを肥大化させ歪めている)」
魔導師「(愛していながら近付くことさえ出来ず、無理に近付けば正気を失う……)」
魔導師「(勇者は魔女が生まれて初めて心を許した異性。そして、初めて恋した男だ)」
魔導師「(魔女にとって大きな存在であることは、最早疑いようもない事実……)」
魔導師「(私や精霊ならば抑え込めるだろうが、この年頃の娘に耐えきれるはずもない)」
408 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:38:21.41 ID:guLrcQbjO
魔導師「(此処へ来るまでもつらかったろうに……)」
魔導師「(しかし、このままでは共に戦うどころではない。狂ってしまう)」
ズッ…ズズズッ…
魔導師「………っ、く…」フラッ
魔女「!!」ガシッ
魔導師「どうだ、魔女…少しは良くなったか?」
魔女「は、はい。さっきと比べたら全然大したことないです。意識もはっきりしてきました」
魔女「だけど先生が……」
魔導師「なに、気にすることはない。それより、もう一つ話がある。絶望についてだ」
魔女「……何か、打つ手が?」
魔導師「違う。少々酷なことを言うが、今あの場に行っても役には立てんだろう」
409 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:41:02.83 ID:guLrcQbjO
魔女「…ッ、でもーー」
魔導師「焦るな逸るな、最後まで聞け」
魔女「……はい」
魔導師「お前は力を手にしたばかりだ。世辞にも使い熟せているとは言えん」
魔導師「その力を真に理解していたのなら、私を覆っていた黒塊をも瞬きの間に焼き尽くせただろう」
魔女「理解…」
魔導師「そうだ。魔術と同様、認識と自覚、何より理解が重要なのだ」
魔導師「今のお前が使えるのは炎による治癒。傷を癒し、他者を救う。魔術師の信条を体現した力」
魔女「けど、役には立てないって……」
魔導師「お前一人ではな……しかし、そこに盗賊…魔王が加われば話は別だ」
410 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:45:27.41 ID:guLrcQbjO
魔女「(え、何で盗賊?)」
魔導師「お前の治癒の炎は、魔術による治癒とは違う。魔術による治療は修復や治癒の促進」
魔導師「一方、お前の場合は消えた蝋燭に再び火を灯すようなものなのだ」
魔女「……先生、もうちょっと分かりやすくお願いします」
魔導師「……修復ではなく復活再生」
魔導師「魔術は、抉れた箇所に新たな肉を作る」
魔導師「お前の炎は抉れた肉を復活させる」
魔導師「新たに作るのではなく、失われる以前の状態にしているわけだ」
魔導師「もっと噛み砕いて言えば、炎が失った部分に成り代わる」
魔女「は〜、なるほど……(やっぱり先生は凄いなぁ、私より理解してるし)」
411 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:47:40.82 ID:guLrcQbjO
魔導師「本題はここからだ」
魔導師「奴には幾つもの顔がある。その全てが奴であり、その全てが奴ではない」
魔導師「それは何故だ?」
魔女「え〜っと…囚われた魔核が沢山あるからです」
魔導師「そうだ」
魔導師「奴は現在、勇者の父の姿をとっているようだが本体は絶望そのもの」
魔導師「だが、奴の中には大量の魔核がある。奴を引き摺りだすには、それを消さねばならない」
魔女「消すって言っても、中にはーー」
魔導師「分かっている。おそらく、勇者も同じことを考えているだろう」
魔導師「そこで、お前の炎が役に立つわけだ」ウム
412 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:50:44.74 ID:guLrcQbjO
魔女「へっ?」
魔導師「絶望に囚われているの者達は王の死を嘆いた者、希望を失った者」
魔導師「そこから生まれ出たのが絶望なのだが、今は逆だ。生み出した者達が囚われている」
魔導師「人間に裏切られた悲しみと失望、王を失った喪失感、そのような念が支配しているのだ」
魔導師「……少しばかりではあるが、私も奴の中に囚われていたから分かる」
魔女「あのっ、それと私の炎に何の関係があるんです? 治癒しか出来ないって……」
魔導師「厳密に言えば治癒ではない。性質が違うと言っただろう?」
魔女「消えた蝋燭……!!!」
魔導師「フフッ、そうだ」
魔導師「魔王が合流したのを見計らい、囚われの者達に長らく失っていたものを灯してやれ」
魔導師「それさえ出来れば彼等の方から勝手に出てくる。そうなれば、奴は丸裸だ」
魔導師「千年だ、千年もの間、喪に服したのだ。そろそろ悲しみから解放されてもよい頃だろう」
413 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/28(土) 00:00:03.52 ID:3hl5eRsgO
魔女「……あの、そんなこと出来ますかね?」
魔導師「大丈夫だ。お前の炎ならば『傷を癒せる』。彼等の為に涙を流した、お前にならな」
魔導師「だから、今は待つのだ。耐えて待て。その時が来るま……ん?」
魔女「……あれは、魔導鎧? 南都の方向へ向かってる。でも何で……」
魔導師「弟子よ、魔導鎧は大尉の指示無しでは行動は出来ない…だったな」
魔女「隊長の専用機ならわかりませんけど、その後に造られた機体は指示がなければ動かないはずです」
魔女「でも、こんな時に国境を越える指示を出すなんて一体何が……」
魔導師「そうせざるを得ない『何かが』あったと見て間違いはないだろう」
魔導師「我等が見えている舞台の裏側で、何かが動いているようだな」
魔女「舞台の、裏側……」
魔女「何だか凄く嫌な予感がします。上手く言えないですけど……」
魔導師「……ああ、私もそう感じるよ」
魔導師「どうやら止まっているわけにもいかないようだ。弟子よ、南都へ向かうぞ」
魔導師「魔王が勇者と合流するまで、もう少し時間が掛かりそうだからな……」
414 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/28(土) 00:09:24.58 ID:3hl5eRsgO
今日はここまでにします
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/28(土) 00:10:30.59 ID:3hl5eRsgO
今日はここまでにします寝ます
416 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/28(土) 10:23:15.25 ID:gNbTbSrlo
乙乙
417 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/28(土) 13:40:15.43 ID:hjfwRvLDO
乙
418 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:27:17.61 ID:JycQbLx1O
>>>>>>
盗賊「…ハァッ…ハァッ…」
剣士「凄いな、あれだけ斬ったのに死なないのか。腕も脚も十数回は切り落としたのに……」
剣士「やはり再生力は魔神族の方が優れているのか? いや、仮にそうだとしてもその再生力は異常だ」
剣士「取り込んだ魔核に比例して治癒再生力が向上しているのか……」
剣士「それとも王の力を自覚したからなのか。或いは守りたいものがあるからなのか」ウーン
盗賊「(クソッ、めちゃくちゃ強え。手も足も出ねえ、奪った奴等の力も通用しねえ)」
盗賊「(いや、俺が使い馴れてねえだけか)」
盗賊「(こんなことなら黒鷹の言うこと聞いて、真面目に力の使い方を練習しとくんだったな)」
剣士「……雪か。あぁ、そう言えば勇者と一緒に雪だるま作ったりしたなぁ」ポケー
419 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:28:23.44 ID:JycQbLx1O
盗賊「(隙だらけだ。今ならやれる)」タンッ
剣士「あの時は確か……」ズッ
ヒュッ!!
盗賊「(……と思ってもコレだ。何処から何をしようが確実に合わせてきやがる)」ザッ
剣士「……君は何の為に命を張る。その身に魔を宿してまで戦うのは何故だ?」
剣士「地下の彼等だって見捨てようと思えば見捨てられたはずだ」
剣士「そうしていれば、こんなことに巻き込まれずに済んだというのに」
盗賊「そんな小難しいことは考えてねえし後悔もしてねえ。つーか、さっさとそこを退いてくれ」
420 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:29:20.24 ID:JycQbLx1O
剣士「なら倒せ。僕を殺して先へ行け」
剣士「君は目の前の敵を殺し、奪いながら、一日一日をどうにかして生きてきたはずだ」
剣士「今だって、『それ』と同じだよ。今更になって何を躊躇う必要があるんだい?」
盗賊「……俺にも、あんたに聞きてえことがある」
剣士「ん、なに?」
盗賊「あんたの腕なら、今すぐにでも俺を殺せるはずだ。なのに何で殺さねえ?」
盗賊「殺す殺すと言いながら首を狙わねえのは何でだ? そうすりゃ楽に殺せんのによ」
剣士「初めはそのつもりだったさ」
剣士「君をあの場に行かせるのは、絶望にとっては何が何でも避けたいことだからね」
剣士「だけどね、君を見ていたら少しだけ期待してしまったんだよ」
421 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:30:48.73 ID:JycQbLx1O
盗賊「期待?何をだよ?」
剣士「君達になら、運命の喉笛を噛み千切ることが出来るんじゃないかってね」
盗賊「……あのさ、さっきから運命には意志があるだとか何とか言ってるけど、いまいち分かんねえんだよ」
盗賊「教える気があんならはっきり言ってくれねえか。あんまり勿体振ると飽きられちまうぜ?」
剣士「はははっ!君は本当に面白い子だなぁ」
盗賊「(笑い方、勇者に似てんな)」
盗賊「(それだけじゃねえ、喋り方から太刀筋までそっくりだ……いや、勇者が似てんのか?)」
盗賊「(あ〜、そういや爺さんが言ってたな)」
盗賊「(俺達の知ってる勇者とは、勇者が己を守るべく生み出した人格だとか何とか……)」
盗賊「(統合だ何だ言ってたけど、今の勇者はどうなってんだ?)」
盗賊「(どう変わろうが友達だってことは変わんねえけど、あれから会ってねえからなぁ…)」
422 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:32:55.04 ID:JycQbLx1O
剣士「人も魔も、全てが囚われている」
盗賊「なにそれ」
剣士「話の続きさ。全ては運命によって作り出されたものなんだよ」
剣士「今起きている世界を巻き込んだ希望と絶望の戦いさえも、その一部に過ぎない」
剣士「絶望はそれを知った。だからこそ、再び希望を取り込もうとしたんだ」
剣士「これまでの全てを破壊して、運命が紡いできたものを無に帰す為に」
剣士「方法はともかく、奴は奴なりの考えで世界に真の自由を与えようとしているんだろう」
盗賊「……は?」
剣士「まあ、そうなるだろうね。急にこんな話を聞かされれば無理もない」
423 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:34:23.80 ID:JycQbLx1O
剣士「でも、これを逃せば次はない」
剣士「全ては運命に囚われたまま、誰もそれに気付くことなく生きていくことだろう」
剣士「救世主の再臨、人と魔の戦争、魔神族の滅び。そして、人の世に千年の平和が訪れる」
剣士「これが、これから起きるであろう出来事。運命によって仕組まれた歴史」
剣士「絶望はそれを防ぐ為に戦っている。いや、滅ぶわけだから防ぐとは言えないか……」
剣士「きっと、自分が倒される為にある存在だなんて認めたくないんだろうね」
盗賊「……襤褸の野郎じゃななけりゃ、その運命ってのに抗えねえのか?」
剣士「君は頭の切り替えが早いね。今の話を信じるのかい?」
盗賊「信じるかどうかは問題じゃねえ」
盗賊「ただ、あんたは意味のねえことを口にするような男じゃねえ。違うか?」
剣士「…………」
盗賊「なあ、さっき言ってた『君達になら』ってのはその話と関係あんだろ? 話してくれよ」
424 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:36:27.19 ID:JycQbLx1O
剣士「話す前に一つ訊きたい」
盗賊「何だよ」
剣士「君は友の為に死ねるか」
剣士「君は今や一人ではない。背負っているものだってある。それでも友を救いたいのか?」
盗賊「死ぬ気はねえけど、死ぬ気で助けるだろうな」
盗賊「どうにかしてどっちも生き延びられるように、思いっ切り見苦しく足掻いてみせるさ」
盗賊「つーか、その時になってみねえとどうなるかなんて分かんねえだろ?」
剣士「っ、あははっ!! 君は欲張りだなぁ」
盗賊「んだよ、悪りぃのか」
剣士「いや、実に君らしくていい答えだよ」
剣士「『勇者の為なら死ねる』と言われるよりはずっと良い答えだ」
剣士「でも、そうか。どっちも助かるように思い切り見苦しく足掻くか。僕は……」
425 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:38:05.59 ID:JycQbLx1O
剣士「僕は、どっちも救えなかった」
盗賊「…………」
剣士「……盗賊、一度しか言わないからよく聞くんだよ」
剣士「多くの死と悲しみを乗り越えた先。その遥か彼方に真の自由はある」
剣士「『其処へ』辿り着くには長い長い時間が掛かるだろう。君自身も深い傷を負うだろう」
剣士「知らない方が良かったと、目を塞がれたまま生きていた方が良かったと思うかもしれない……」
剣士「それでも君が、本当の意味で勇者を助けたいと願うなら、それを覚悟しなければならない」
盗賊「…………」
剣士「君が行けば、運命は大きく動き出す」
剣士「本来であれば終わりであったはずのこの夜も、新たな歴史の始まりになるだろう」
426 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:39:56.19 ID:JycQbLx1O
剣士「ただ、これだけは言っておく」
剣士「苦難の先に手にした自由が、誰にとっても幸福なものになるとは限らない」
剣士「盗賊。勇者の友であり赤髪の魔王。君はそれでも、勇者の下へ行くのかい?」
盗賊「……半分も理解出来ねえけど、行かなきゃ始まらねえってことだろ? なら行くさ」
盗賊「誰が不幸になろうと、俺は俺のやりたいようにやる。これまでもそうして生きてきた」
盗賊「運命だとか、そんなもんは別にいいんだ。俺が勇者を助けたいだけだからな」
盗賊「それに……」
剣士「?」
盗賊「……死んだ人間を引っ張り出すのはあんまり好きじゃねえけどさ…」
盗賊「あいつの父ちゃん母ちゃんも王女様も、勇者に生きて欲しいと願ってるはずだ」
盗賊「普通なんてもんからは程遠い人生、理不尽な苦しみから解放されて欲しいってな」
427 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:41:08.00 ID:JycQbLx1O
剣士「君自身が救われないとしても?」
盗賊「もう救われてるさ」
盗賊「勇者、娼婦、店主、魔女、隊長、地下の奴等、他にも沢山いる…それから、あんたにもな」
剣士「……そうか、既に救われているか」
剣士「今すぐ勇者の所へ行け。と言いたいところだけど、僕は奴に囚われている」
剣士「君があの場に向かおうとすれば、何が何でも止めようとするだろう」
剣士「僕を止められるのはーー」
ザウッ…
盗賊「!!?」クルッ
剣聖「危うい場面に颯爽と駆け付けるつもりが、お前の所為で台無しだ」
剣聖「お前がぺらぺらと喋ってくれたお陰で、俺の喋ることがなくなってしまったではないか」
428 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/31(火) 22:42:47.39 ID:JycQbLx1O
剣士「申し訳ありません」
剣士「でも、どうしても僕の口から伝えたかったんです」
剣士「それにほら、師が話すと胡散臭いでしょう? 僕から話した方が良かったと思いますよ?」ニッコリ
剣聖「相も変わらず可愛げのない奴だ。変わらんなぁ、ちっとも変わっておらん……」ヂャキ
盗賊「(何だ、剣から魔翌力が溢れてやがる。あれは勇者の持ってるもんと同ーーー)」
ズッッッ…
盗賊「がッ…くっ…痛……くねえ?」
剣聖「意味は分からんと思うが取り敢えず受け取れ。『それ』は元々お前のものだ」
429 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:45:15.79 ID:JycQbLx1O
盗賊「……これは、魔核…か?」
剣聖「其奴等は千年前の魔王が宿していた者達。魔王の命尽きるまで共にいた者達だ」
剣聖「諦めもせず絶望もせず、千年もの長き間、ただひたすらにお前を待っていた」
剣聖「俺も千年待った。あの時とは姿形も違うが、魔王に借りを返すこの時をな……」
盗賊「……そうか、あんた…あんたがそうだったのか…」
剣聖「まあ、そういうことだ。俺から言うべきことはない、弟子が語った通りだ」
剣聖「今の俺に出来るのはそれくらいだ」
剣聖「所詮、俺は過去の遺物。あの時、千年前に終わるはずだった存在」
剣聖「この先はお前達が作れ。この夜を乗り越え、運命を変えてみせろ」
盗賊「……ああ、やるだけやってやるよ」ザッ
ザッ…ザッ…バサッ…バサッバサッ……
430 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:47:26.05 ID:JycQbLx1O
剣聖「……行ったか」
剣士「あの、師よ」
剣聖「何だ?」
剣士「早速で申し訳ありませんが、僕の足止め、お願い出来ますか?」ダッ
剣聖「死して尚も師に迷惑を掛けるとは本当に仕方のない奴だな」タンッ
ガギャッッ! ギャリッ…ギリリリ…
剣士「そう言わないで下さい。僕にはどうにも出来ないんですから」
剣聖「身体はともかく、奴に囚われていながら自我を失わずにいるとはな」
剣聖「お前には本当に驚かされる。まあ、何だ……強くなったな」
剣士「長いこと弟子やってましたけど、褒められたのはこれが初めてですね」
剣聖「餞別だ。師の有り難い言葉を胸に抱き、心置きなく天に昇って逝け」グッ
ギャリッ…ザンッッ!!
剣士「…ッ、やっぱり強いな……」
431 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:51:07.00 ID:JycQbLx1O
剣聖「千年もあれば嫌が応にも強くなる」
剣士「……心の何処かで『もしかしたら』と思ってたんですけどね。まだまだみたいです」
剣聖「馬鹿たれ、そう簡単に弟子に超えられて堪るかよ」
剣士「……師よ、一つ訊いても」
剣聖「言ってみろ。今夜は気分が良い、特別に答えてやらんでもない」
剣士「……救世主は何故、姿を消したのですか?」
剣聖「救世主などではない。人形だ」
剣聖「誰彼構わず斬りまくるだけの、人の形をした何かだ……」
剣聖「だがあの日、人形は心を得た。心を得た人形は弱くなった」
剣士「……………」
剣聖「自我…心が生まれ、疑問が生まれ、葛藤し、人形は人形でないられなくなったのだ」
432 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/31(火) 22:53:54.61 ID:JycQbLx1O
剣聖「手に掛けた数多の命」
剣聖「その重みに堪えきれなくなり、救世主と呼ばれた人形は、逃げるように姿を消した」
剣聖「それから長い間、人の世を歩き、人の世を見てきた。美しいものも、醜いものも……」
剣聖「あっという間に時は過ぎ、世界は見る間に変わっていった……」
剣聖「人々の記憶から魔神族という存在は消え失せ、偽りの歴史が真実を覆っていた」
剣聖「俺という存在はその為に生まれた命なのだと思うと、正気ではいられなかったよ」
剣聖「……まあ、救世主と呼ばれた存在も所詮はそんなものだ」
剣聖「あれから人として生きてきたつもりだが、人として何かを残せたかは分からん」
剣士「……初めて、師と話せた気がします」
剣聖「まあ、最初で最後だからな。特別だ」
剣士「勇者は、どうなるでしょうか」
剣聖「分からん。分からんが、俺のようにはならんだろう」
剣士「何故、言い切れるのです?」
剣聖「理由も根拠もない、そんな気がするだけだ。それに、弟子を失うのは一度だけで充分だ」
433 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/31(火) 22:55:27.20 ID:JycQbLx1O
今日はここまで寝ます
434 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/01(水) 00:29:52.03 ID:SkucvEPDO
乙
435 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/01(水) 19:20:40.47 ID:L0rgPyq6O
圧倒的描写不足
剣聖が救世主?まるで意味わからん
436 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/01(水) 22:03:36.53 ID:IfF/uWpNO
1000年前の勇者って事でしょ?
なんとなくわかるけどな
437 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/02(木) 09:25:23.24 ID:cs6cXhmDO
前勇者であることを臭わせる描写もなにもないから唐突な気はする
438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:42:11.07 ID:06iealdTO
>>>>>>>>
勇者『(そろそろ、来るか)』
戦士『面構えが変わったな。魔王の、友の気配を感じ取ったか』
勇者『……茶番は、もう止めだ』
戦士「何?」
勇者『亡き父との再会を果たし、物心付いた時から憧れていた気高き戦士とも剣を交えられた』
勇者『もう充分だ……』
勇者『過去に、父に思いを馳せるのはこれが最後。子供として振る舞う必要もない』
勇者『貴様には父と母を、愛する者さえも奪われた。そして、無関係の者達まで……』
勇者『絶望、俺の片割れ。いよいよ、俺の望みを果たす時が来た』
勇者『これより先は復讐だ。誰が為でもない、俺が俺自身の為に闘う。俺の戦だ』
439 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:43:00.07 ID:06iealdTO
戦士『ヌフッ…ヌハッ!ヌハハハッッ!!!』
戦士『成る程、それがお前の手にした本当の顔というわけか』
戦士『どうにも大人しすぎると思った。だが、これで合点がいった。そうか、そうであったか』
戦士『或いは、それすらも自己を守るべく生まれた新たな仮面か……』
勇者『否定も肯定もしない』
勇者『勇者は一人。戦士と聖女を親に持つ、一人の人間にして貴様を打ち倒す者』
戦士『ヌフッ…その眼付き、戦士を思い出す。勇者よ、お前は父に似てよき男になった』
戦士『内に秘めた激情は『あの時』の戦士以上やもしれん。身を焦がす程に煮え滾る魂の熱を感じる』
戦士『血は受け継がれた。やはり息子を希望の器にしておいて正解だったようだ」
戦士『勇者、囚われの子よ、よくぞ成長した。それでこそ希望、我と我等を脅かす唯一だ』
戦士「しかし、その顔付き、迸る闘志。大凡、これから世界を救おうとする人間のものとは思えぬな』
440 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:44:59.87 ID:06iealdTO
勇者『……救うか。結果、そうなるだけの話だ』
勇者『俺にとっての復讐が、世界を救うことになってしまうだけのこと』
勇者『復讐する相手が絶望の名を冠する異形であるというだけで『そうなってしまう』んだ』
戦士『先程とは打って変わって敵意を剥き出しにしているな。今の今まで感情を抑え込んでいたのは何故だ?』
戦士『母と王女の命より世界を選び取り、父との再会に喜び涙していた息子……』
戦士『ヌフッ…あれらは演技か?』
戦士『演技だとするならば、お前には幾つの顔がある?』
勇者『あれも自分だ。偽りない勇者の想いだ』
勇者『言ったはすだ。勇者の望みは、貴様の存在しない希望に満ち溢れた世界にすることだとな』
勇者『動機が復讐だろうと、その先に希望があるのならそれでいい……』
勇者『恨まれようと憎まれようと、それらを受け入れる覚悟はとうに出来ている』
勇者『この闘いの始まりがどうであろうと、理由がどうであろうと、貴様が迎える結末は変わらない』
441 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:45:56.47 ID:06iealdTO
勇者『俺が勝ち、貴様は滅びる』
勇者『それを以て戦は終わり、この夜が明ける。皆は明日へと歩き始める』
戦士『其処に勇者の姿がなくとも、か?』
戦士『目的を果たしたのちに己が消えようと、世界が救われるのであらばそれでもよいと?』
勇者『……どうだろうな』
勇者『絶望を打ち倒す力があろうと、そう簡単に勝てるとは思っていない』
勇者『この戦いの果てに俺が何をどうするのか。それは貴様を倒してから考える』
勇者『……何がどうあろうと、何が起きようと、俺は為すべきを為すまでだ』
時計屋「(……小僧)」
花屋息子「あの、お爺さん」
時計屋「……何だ、起きたのか。横になっていろと言っただろう」
442 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:48:22.07 ID:06iealdTO
花屋息子「お礼、言い忘れてたからさ」
時計屋「……礼など要らん。花屋とは知らぬ仲でもなし、当たり前のことをしたまでだ」
花屋息子「当たり前…なのかな……」
時計屋「……何?」
花屋息子「俺達から部屋を奪おうとした大人達の方が、『此処』じゃ当たり前な気がするよ」
花屋息子「居場所を得るために奪い合って争って、そうやって自分の居場所を手に入れる……」
花屋息子「こんな時だから『そうなる』のが当たり前なのかもって、そう思ったんだ」
時計屋「……奴等は兵士に連れて行かれた。当たり前ならば兵士になど連れて行かれはしない」
花屋息子「……そっか、そうだよね」
時計屋「……酷く疲れているな。横になって目を閉じていろ。それだけでも少しは楽になる」
443 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:49:50.27 ID:06iealdTO
花屋息子「俺は、眠れないそうにない」
時計屋「……そうか。妹はどうだ?」
花屋息子「よっぽど疲れたのか、怖かったのか……今はぐっすり寝てる」
戦士『フヌ…フヌ……』
戦士『そうであるなら、我と我等を救おうなどという考えは早々に捨てることじゃな』
戦士『我と我等、そしてお主にも、残された時間はそう長くはないのだからな』
勇者『分かっているとも』
戦士『ほう、ほお…顔色一つ変わらぬか、面白い。どうじゃ?どんな心地じゃ?』
戦士『心蝕み、今にも食い破らんとするものを宿した痛みは? それが如何程のものか申してみよ』
444 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:50:32.27 ID:06iealdTO
勇者『…………』
戦士『フヌ…ヌフフッ…まあ、よいわ』
戦士『どれだけ保つか、いつまで勇者のままでいられるのか見物じゃわえ』
勇者『俺は、最期まで勇者だ』
勇者『少なくとも、貴様を葬り、その最期を見届けるまではな……』
花屋息子「ねえ、お爺さん」
時計屋「……どうした」
花屋息子「勇者さんは、何で俺達を助けてくれたんだろ。何で、あんなに酷い目に遭っても戦えるのかな……」
445 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:53:45.27 ID:06iealdTO
時計屋「……儂にも分からんよ」
時計屋「化け物共が現れてから今日まで、人は自分の身を守るだけで精一杯だった」
時計屋「他人。まして世界を背負うなど、とてもじゃないが儂には想像出来ん」
時計屋「助けられた意味など考えるな。あるのは、助けられたという事実だけだ」
花屋息子「事実?」
時計屋「……そうだ」
時計屋「気紛れか、関わりがあったからなのか。それとも何らかの目的があったからなのか……」
時計屋「理由など、考えるだけ無駄だ」
時計屋「ただ、如何なる理由があったとしても助けられたということに変わりはない」
446 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:55:40.86 ID:06iealdTO
花屋息子「……うん、そうだね」トスン
戦士『我と我等が滅びようと、お前が滅びをもたらすであろう』
戦士『勇者よ、断言しよう。お前は決して自由になどなれん』
勇者『貴様が思うようにはならない。俺には友がいる』
戦士『『そうならぬ為』に、友の手を汚させるか。己が救われる為に、友の手を』
勇者『……可変二刀、一刀型』
戦士『……いいだろう。ならば、王が来る前に終わらせてくれよう』
花屋息子「……勇者さん」ギュッ
時計屋「……もう見るな。これ以上は、見ていても辛くなるだけだ」
447 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:57:18.53 ID:06iealdTO
花屋息子「辛くなんかない……」
花屋息子「だって約束したんだ。応援するって、勇者さんと約束したんだ」
花屋息子「頑張ってとか、そういうんじゃない。生きて欲しいから応援するんだ」
花屋息子「勇者さんは、また会おうって言ったんだ。優しい顔で笑いながら……」
花屋息子「でもね、あれが嘘だってことは分かってるんだ。あれは…さよならの笑顔だったから」
時計屋「…………」
花屋息子「俺は嫌だ。さよならなんてしたくない。だから、最後まで見る」
花屋息子「勇者さんは勝つ。必ず帰って来る。妹と一緒にありがとうって言うんだ」
花屋息子「目を逸らしたら胸を張って会えない。俺だって男なんだ。逃げるもんかよ……」グシグシ
448 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:58:55.27 ID:06iealdTO
時計屋「……男、か」
時計屋「そうだな、お前は立派な男だ。儂も男だ。共に行く末を見届けよう」
花屋息子「お爺さん…ありがとう……おっかない人だと思ってたけど、優しいんだね」
時計屋「……優しくなどない。時計にしか興味のない、変わり者の偏屈爺だ」
花屋息子「皆そう言ってたし、俺もそう思ってた。でも、違うよ。お爺さんは、優しい人だ」
時計屋「……そうか」
花屋息子「ねえ、勇者さんは帰って来るよね?」
時計屋「……ああ、今度は来る時は自分の金で買いに来ると言っていたからな」
花屋息子「約束?」
時計屋「……約束か。まあ、そんなものだ」
時計屋「あの時はかなりまけてやったんだ。来てもらわなければ困る」
449 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 01:59:58.86 ID:06iealdTO
短いけどここまで
次から進むと思います
450 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/04(土) 07:32:07.73 ID:RJ98c47DO
乙
451 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/04(土) 12:42:05.58 ID:GZHtbw4KO
乙。
452 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 20:54:04.99 ID:1U4qo7RyO
>>>>>>
東部第三地下施設
勇者『もう充分だ……』
勇者『過去に、父に思いを馳せるのはこれが最後。子供として振る舞う必要もない』
勇者『貴様には父と母を、愛する者さえも奪われた。無関係の者達まで……』
勇者『絶望、俺の片割れ。いよいよ、俺の望みを果たす時が来た』
勇者『これより先は復讐だ』
勇者『誰が為でもない、俺が俺自身の為だけに闘う。俺の戦だ』
狩人「(……何だろ。凄く悲しいはずなのに、奇妙な寂しさを感じる)」
狩人「(あんなに背が伸びて、身体も逞しくなって、顔付きも男らしくなった)」
狩人「(あっという間に私を追い越して、勇者は大きくなった。身体も、心も……)」
狩人「(……まだ、12歳。私より四つ年下なのに、生きている場所がまるで違う)」
453 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 20:55:02.69 ID:1U4qo7RyO
狩人「(もう、あの頃には戻れない)」
狩人「(一緒に泥遊びしたり山を登ったり、雪だるま作ったりして遊んでた、あの頃には……)」
狩人『ていやっ!』
勇者『うわっ! ぺっ…ぺっ…うあぁ、口の中に入っちゃったよ。顔は狙わないって言ったのに』
狩人『うっ…ごめんね勇者』
狩人『あんまり避けるから、意地でも当ててやりたくなっちゃって……目に入ってない?大丈夫?』
勇者『ちょっと入ったかも…と見せかけて、えいっ!』
狩人『わぷっ!ぺっぺっ…』
勇者『はははっ!やったぁ!!』
狩人『このぉ、だましたなぁ!うりゃあああ!!』
454 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 20:57:25.60 ID:1U4qo7RyO
勇者『あはははっ!まっ黒おばけだ!!』
狩人『このぉ、これでも喰らーー』
猟師『何処へ行ったかと捜してみれば、こんな所にいたのか!!』
狩人『げっ…』
猟師『勇者!狩人!! 田んぼで遊ぶなとあれ程言うたのに、またやっとんのか!!』
勇者『あっ、猟師のおじさんだ』
狩人『見つかっちゃったもんはしょうがない。勇者、逃げよう』
勇者『え〜、逃げたらもっと叱られるよ?』
狩人『怒られるのは夜でいい。今怒られたら遊べなくなっちゃうんだよ?』
勇者『あ、そっか。夜になったら怒られればいいのか。じゃあ逃げよう』
455 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 20:58:52.09 ID:1U4qo7RyO
猟師『こ、こら…待たんか!!』
狩人『ていっ!』
猟師『ぶはっ!』
狩人『あ、当たっちゃった』
勇者『……えいっ』
猟師『ぬはっ!』
勇者『あははっ!おじさんも真っ黒おばけだ!!』
狩人「(あれから、8年か……)」
狩人「(流れている同じ時間のはずなのに、こんなにも違うのは何でだろう)」
狩人「(背負ったものが違うから?運命、宿命?生まれた時から決まっていた?)」
狩人「(選ばし者と呼ぶ奴がいる。救世主だと呼ぶ奴がいる。悪魔の子だと叫んでいた奴もいた)」
狩人「(想像や理想を勇者に叩き付けるみたいに、皆は自分の想い描く勇者を口にする)」
狩人「(何も知らず、知ろうとすらせず濁った想いをぶつける奴等)」
狩人「(……なら、私は? 私はどうなんだろう)」
456 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 21:01:01.02 ID:1U4qo7RyO
勇者『否定も肯定もしない』
勇者『勇者は一人。戦士と聖女を親に持つ一人の人間、貴様を打ち倒す者』
戦士『ヌフッ…その眼付き、戦士を思い出す。勇者よ、お前は父に似てよき男になった』
戦士『内に秘めた激情は『あの時』の戦士以上やもしれん。身を焦がす程に煮え滾る魂の熱を感じる』
戦士『血は受け継がれた。やはり息子を希望の器にしておいて正解だったようだ」
戦士『勇者、囚われの子よ、よくぞ成長した。それでこそ希望、我と我等を脅かす唯一だ』
戦士『しかし、その顔付き、迸る闘志。大凡、これから世界を救おうとする人間のものとは思えぬな』
狩人「(私も、奴等と何も変わらないのかもな)」
狩人「(勇者が抱えたもの、背負ったもの、痛みや悲しみ……私は何も知らなかった)」
狩人「(幼馴染みだってだけで、勇者を知っていた気になって……っ!!)」ガンッ
457 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 21:02:12.89 ID:1U4qo7RyO
狩人「私は…」
ザッ…ザッ…ザッ…
狩人「?」クルッ
特部隊長「君が狩人だな。さあ、戻ろう」
狩人「……何で、隊長さんが…」
特部隊長「君の両親に捜すように頼まれてな。あまり動き回ると迷うぞ?」
狩人「……ゴメンなさい。歩いてないと、動いてないと、どうにかなりそうなんだ」
特部隊長「君は、勇者の幼馴染みだそうだな」
狩人「うん、そうだよ。でも、『それだけ』」
特部隊長「…………」
狩人「幼馴染みってだけ。何も知らない奴等と変わらない、その他大勢の一人だよ」
狩人「勇者を知らない自分が嫌で、置いて行かれた気がして、勝手に苛ついてるだけ……」
458 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 21:04:02.29 ID:1U4qo7RyO
特部隊長「奇遇だな、俺もそんな気分だよ」
狩人「えっ…」
特部隊長「……俺は、彼女のことを何も知らなかった」
特部隊長「だというのに、時間を共に過ごす内に知ってる気になっていたんだ」
特部隊長「彼女を理解していると、彼女の隣に立っていると錯覚していたのもしれないな」
特部隊長「そんな自分に腹が立つ……」
特部隊長「勝手に知っていた気でいた自分に、分かった気でいた自分に、どうしようもなく腹が立つ」
狩人「……彼女って、精霊さんのこと?」
特部隊長「……ああ、そうだ」
狩人「大人でも、そういうのあるんだ」
特部隊長「大人も子供も関係ないさ」
特部隊長「何も出来ないというのは、見ているだけというのは…とても歯痒く、苦しいものだ」
459 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 21:05:02.75 ID:1U4qo7RyO
狩人「……そんな人だと思わなかったな」ポツリ
特部隊長「?」
狩人「あ、いやその…悪口じゃないんだ」
狩人「こんな村娘に対して、そんな風に…普通に話してくれる軍人なんていなかったからさ」
特部隊長「……俺も意外だ」
特部隊長「さっさと連れ帰るつもりが、聞かれてもいないことまで話してしまった。済まないな」
狩人「謝らないでよ。話してくれて助かった。一人で考えてたら潰れてたかもしれない」
特部隊長「………」
狩人「どうかしたの?」
特部隊長「……いや、初対面の少女に何故こんなことを話してしまったのかと思ってな」
460 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 21:06:11.25 ID:1U4qo7RyO
狩人「そっか、そう言えばそうだね」
特部隊長「?」
狩人「私は、前に魔女や精霊さんから話は聞いてたからさ。隊長さんのことは知ってるんだ」
狩人「この地下施設を守ってる魔導鎧は隊長さんが指揮してるんだろ?」
特部隊長「……………」
狩人「何だよ、その顔。大丈夫だって、さっきのことは誰にも話したりしないから安心しなよ」
特部隊長「違う、そうじゃない……何というか、君とは初めて会った気がしないんだ」
狩人「へ〜。あ、そういや魔女にも似たようなこと言われたっけ。何でだろ?」
461 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 21:07:42.84 ID:1U4qo7RyO
特部隊長「……君に兄姉はいるか?」
狩人「いや、一人っ子だけど。何で?」
特部隊長「そうか…ならいいんだ」
狩人「なに、どしたの?」
特部隊長「……いや、友人に雰囲気が似ていたものだから、つい訊いてしまった」
特部隊長「俺の思い違い、勘違いだったようだ。さあ、戻ろう」
狩人「あのさ、友人ってーー」
戦士『フヌ…ヌフフッ…まあ、よいわ』
戦士『どれだけ保つか、いつまで勇者のままでいられるのか見物じゃわえ』
勇者『俺は、最期まで勇者だ』
勇者『少なくとも、貴様を葬り、その最期を見届けるまではな……』
462 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 21:08:37.49 ID:1U4qo7RyO
狩人「……………」
特部隊長「…………」
ガシュッ…ガシュッ……
魔導鎧「大尉、偵察機より報告が入りました」
特部隊長「来たか……」
狩人「(魔導鎧、精霊さんの声だ……)」
特部隊長「狩人、済まないが他の機体を迎えに来させる。それまで待っていてくれないか」
463 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 21:10:04.93 ID:1U4qo7RyO
狩人「あ、うん。分かったよ」
特部隊長「それから……」
狩人「?」
特部隊長「君はその他大勢などではない」
特部隊長「何も出来ない自分に苛立つのは、何かをしようと思う人間だけだ」
特部隊長「対等な立場で隣に立ちたいと、支えたいと思っているからだ」
特部隊長「彼の一部分を見て全てを知った気になり、好き勝手に言う連中とは断じて違う」
狩人「……ありがとう」
魔導鎧「大尉」
特部隊長「分かっている。行こう」
ガシュッ…ガシュッ……
狩人「隣に立ちたいのは、支えたいと思うから……隊長さんも、そう思ってるのかな……」
464 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/04(土) 21:11:20.17 ID:1U4qo7RyO
休憩また後で
465 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 22:07:43.45 ID:1U4qo7RyO
>>>>>>>
同時刻 北都城
魔女「先生、これは…」
魔導師「ああ、オークの仕業に見せかけた人間の犯行に違いない」
魔導師「武器はオークが所持していたものを使用したようだが、それにしては遺体が綺麗すぎる」
魔女「……確かに」
魔女「魔神族出現によって更に権力を増した教皇と、それを快く思わない南王」
魔女「それに加えて、偵察機体が言っていた『意に添わない者』の排除という言葉……」
魔女「オーク出現による大混乱、都には『救援に駆け付けた』魔狩りの大隊、か……」
466 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 22:15:18.56 ID:1U4qo7RyO
魔導師「十中八九、託神教の仕業だろう」
魔導師「動機は十分だが証明は出来ん。何しろ、この大混乱の最中に起きたことだ」
魔導師「託神教による謀殺だと主張しても、見向きもされず鼻で笑われるだろう」
魔女「……最終目的は何なんだろ」
魔女「偵察機から聞いた話から推測すると、勇者の身体と救世主再臨が目的なのかな」
魔女「……何が魔狩りの大隊だ、狩られるべきはお前等だ。神を語る穢れ共が」
魔導師「(凄まじい怒りが流れ込んでくる。先程より更に歪みが酷くなっているな)」
魔導師「(連続する感情の爆発。私は勿論、魔女自身も抑えてこれか……)」
魔女「ふ〜っ。精霊は何者かと交戦中か。相手は託神教なんだろうけど…再臨、再臨か……」ウーン
467 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 22:18:02.69 ID:1U4qo7RyO
ガシュッ…ガシュッ……
魔女「あ、来た。報告終わったのかな」
『お二方、申し訳ありません。我々の不手際で厄介なことになりました』
魔導師「……何だ、何があった」
『南王の安否を確かめるべく派遣された兵士に目撃されてしまいました』
『どうやら、我々とオークが共謀した。ということになっているようです』
『魔狩りの大隊もそれに便乗。南都城の襲撃は『魔鎧の王』による仕業だと吹聴しております』
魔女「ッ、ふざけてる…現状は?」
『精霊は現在、託神教信徒の僧侶という魔術師及び魔狩りの大隊と交戦している模様』
『魔狩りの大隊の兵士は、今も続々と精霊の下へ向かっているようです』
『我々魔導鎧隊は、精霊と共に魔狩りの大隊の足止めを行うことになりました』
『勇者さんをどうするつもりか不明ですが、奴等を捨て置けばよからぬことが起きると』
468 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 22:20:53.68 ID:1U4qo7RyO
魔導師「その指示は誰が出した」
『東王陛下、元帥による御指示です』
『託神教の企みを阻止せよ。とのことです』
魔女「……分かった。色々ありがと、あんた達は先に行って」
『その前に、大尉から伝言があります』
『守るべきものの為、互いに最善を尽くそう。だそうです』
魔女「……そっか。隊長さんにさ、終わったら会おうって言っといてよ」
『はい。了解しました』
『では、我々は行きます。お二方、お気を付けて』
ガシュッ…ガシュッ…ヒュオン…
魔女「守るべき者の為か。私も頑張ろ」
魔導師「……ふむ。大尉とは中々に面白い男だな」
469 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 22:22:52.89 ID:1U4qo7RyO
魔女「え、何がですか?」
魔導師「弟子よ、大尉の言う守るべきもの。それは何を差していると思う?」
魔女「それはもう、話の流れからして精霊のことじゃないんですか?」
魔導師「フフッ、そうだな。お前ならばそう受け取るだろうな」
魔女「他にも意味が?」
魔導師「そう難しい話ではないよ。分かる人間には分かるように出来ているだけだ」
魔導師「勇者の為に戦うお前なら、守るべきものは精霊を差すと思うだろう」
魔導師「軍に属する者ならば、国家国民を守るべきものとして認識するだろう」
魔導師「聞き手によって受け取り方が異なる言葉になっているというわけだ」
470 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 22:24:09.08 ID:1U4qo7RyO
魔女「あ〜、なるほど」
魔女「隊長さんは軍人だし、立場上下手なこと言えないから『ああいう言い方』したんですね」
魔女「そりゃ、俺は精霊を守る!なんて言えないか。何言われるか分かんないし」
魔女「あ〜あ。やっぱり、大人って大変なんだなぁ……」
戦士『勇者よ、断言しよう。お前は決して自由になどなれん』
勇者『貴様が思うようにはならない。俺には友がいる』
戦士『フヌ…『そうならぬ為』に友の手を汚させるか。己が救われる為に、友の手を』
勇者『……可変二刀、一刀型』
戦士『……いいだろう。ならば、王が来る前に終わらせてくれよう』
471 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 22:25:41.68 ID:1U4qo7RyO
魔女「…………」ギュッ
魔導師「……魔女、そろそろだ。魔王の合流に備え、我々も平原へ向かうぞ」
魔女「あの、先生。精霊はーー」
魔導師「お前は己のやるべきことにのみ集中しろ。でなければ、勇者は救えん」
魔女「ッ、申し訳ありません」
魔導師「託神教の企み。その全貌は分からぬが、精霊も勇者の為に戦っている」
魔導師「我々は我々で、勇者の為に戦う。戦う場所が違えど想いは同じだ」
魔導師「誰もが様々な想いを抱いて戦っている。魔女、お前は何の為に来た。何の為に戦う」
魔女「……友人との約束、自分の我が儘を通すため。勇者に生きて欲しいからです」
魔導師「ならば、それのみを考えろ。何があろうとも目的を果たせ。抱いた想いを胸に、戦え」
472 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 22:35:19.48 ID:1U4qo7RyO
魔女「ッ、はいっ!!!」
魔導師「フフッ…うむ、晴れ晴れとしたよい顔になった。それでよい」
魔導師「それならば勇者に会っても問題はないだろう。笑顔を忘れるな?」
魔女「うっ…からかわないで下さいよ」
魔導師「……魔女よ」
魔女「はい、何です?」
魔導師「このような、偉ぶったことしか言えずに済まぬな。こんな言い方しか出来んのだ」
魔女「そのままでいいです」
魔導師「?」
魔女「だって先生は先生で…その、ほら…お母さんみたいな人だから……」
473 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 22:39:27.68 ID:1U4qo7RyO
魔導師「…………」
魔女「だから、そうやって偉そうにしてるくらいが私には丁度いいんです」ウン
魔導師「フフッ、生意気な弟子だ。しかし、私の娘か。私の娘にしては優秀すぎるな」
魔女「魔導師の娘なんだから優秀で当たり前ですよ。まあ、まだまだ半人前ですけどね……」
魔導師「(成長したのだな……)」
魔導師「(心を支配していた憎しみは消え、純粋な魔術師の顔になった)」
魔導師「(人だけでなく、生けるもの全てを癒す魔術師か)」
魔導師「(そんなものは、理想夢想だと思っていたんだがな……)」
魔女「先生?」
魔導師「……弟子であり愛しき娘よ、この夜を明けるぞ。覚悟はよいな」
魔女「は、はいっ、覚悟は出来ています。私は友との約束を果たして、皆で夜明けを見たい……」
魔女「……行きましょう、師であり優しき母よ。私と共に、この夜を明けましょう」
474 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/04(土) 22:48:06.42 ID:1U4qo7RyO
今日はここまで寝ます
随分と長くなりましたけど、ようやく終わりに近付いてきました
読んでる方、レスしてくれた方、ありがとうございます。
475 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/05(日) 01:43:45.15 ID:E7AOKf8DO
乙
476 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/05(日) 09:20:01.18 ID:Y758JA7JO
乙。
477 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/06(月) 20:54:40.27 ID:D/eUbSP7O
>>>>>>
勇者『俺は、最期まで勇者だ』
勇者『少なくとも、貴様を葬り、その最期を見届けるまでは……』
僧侶「(決着は近い。早く、一刻も早く勇者様の下へ行かなければ……)」
精霊「私は『全て』と言ったはずだぞ」スッ
僧侶「法術隊!防壁展開!!!」
ゴゥッッッッ!!! ビシッ…ビシビシ…
僧侶「くっ!!!」ズザザッ
精霊「さあ、全てを寄越せ」
精霊「私を滅ぼさなければ勇者の下へは行けはしない。避けて通ることなど出来はしない」
精霊「望むものを手にしたいのなら力を示せ。私も力で応えよう。尽きるまで応えよう」
478 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/06(月) 20:55:46.83 ID:D/eUbSP7O
僧侶「異物、悪魔め……」ギリッ
精霊「さあ、列をなし向かって来い。魔狩りの大隊、神の僕、憐れな盲目者」
僧侶「黙れっ!!!」
精霊「……怒りで脆弱な精神を繋ぎ止めたか」
精霊「先程まで私の力を見て心底震えていたというのに大したものだな」
精霊「ありもしない何かに縋る弱者よ、神はお前に何を与えた。お前は神から何を得た」
僧侶「うるさい!!」
精霊「神の為に魔を行使するのは何故だ、神は何故にお前に魔を行使させる」
精霊「それは神の力か?それとも神の為の力か? お前の力は何の為にある?」
479 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/06(月) 20:57:36.20 ID:D/eUbSP7O
僧侶「うるさいっ!」
僧侶「うるさいうるさいうるさいっ!!!」カッ
ゴシャッ…ボタッ…ボタボタッ…
精霊「まるで赤子のようだな」シュゥゥ
僧侶「…ゲホッ…ハァッ…ハァッ…人を惑わす悪魔、人心掻き乱す化け物め……」フラッ
精霊「酷い汗だ。どうした、何を怖れる? 信仰が揺らいだか?」
僧侶「黙れぁああああっ!!!」ダッ
ガギャッッ!!
精霊「縋るのは弱者だからだ」
僧侶「違うっ、これは信仰だ!!」
精霊「いいや、何も違わない」
精霊「神とは、己の力を信じられぬ者が寄り掛かる為にある存在でしかない」
480 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/06(月) 20:59:52.60 ID:D/eUbSP7O
僧侶「ふざけたことを言うなっ!!」
精霊「ならば、神とは何だ?」
精霊「弱者を救済する為に神があるのか?神が存在を得る為に弱者があるのか?」
精霊「お前が信じている神は何を告げた? 神に委ねる弱者よ、委ねなければ生きられぬ者よ」
僧侶「っ、うああああああああっ!!!!」
ザンッッッ!!
精霊「ふふっ…」フワッ
僧侶「…っ…悪魔め…」
精霊「どうした、何を怖れる」
精霊「神が見守っているのだろう? 何を怖れる必要がある?」
僧侶「私は怖れてなどーー」
精霊「悪魔への怖れは神への裏切り。神の加護を疑っている証。お前は神を否定した」
481 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/06(月) 21:03:14.69 ID:D/eUbSP7O
僧侶「うぁ…ち…ちがう…私は……」
精霊「神の否定は自己の否定」
精霊「拠り所をなくした弱者は、己が脚で地に立つことすら出来はしない」
精霊「神はお前に失望した。お前の裏切りによって神の加護は失われたのだ」
僧侶「やめーー」
精霊「神を疑い、魔を怖れたお前を、神は許さないだろう。疑いとは、許されざる罪だ」
僧侶「ちがう、おそれてなんかない。わたしは、悪魔など怖れ…な…い」ドサッ
精霊「似合いの姿だ。地に伏し神に祈れ。それが、神がお前に望んだ姿だ」
精霊「神の許しを得るまで這いつくばっていろ。お前の中の神が許すまでな」
482 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/06(月) 21:07:40.69 ID:D/eUbSP7O
僧侶「待て、待…て……」ガクンッ
僧侶「(……私は疑ってなどいない。神の告を、神の存在を信じている)」
僧侶「(あれは悪魔の惑わし、魔を孕んだ巧言偽言。私の弱さがそれを許しただけにすぎない)」
僧侶「(早く起たなくてはならないのに、身体に力が入らない)」
僧侶「(なんて、なんて情けない……)」
僧侶「(一時だろうと魔に怯み、打ち負けてしまった自分が情けない)」
僧侶「(……癪だけれど、あの者の言う通り認識を改めなければならないようですね)」
僧侶「(あの者にはそれだけの力がある。その事実だけは、受け止めなければならない)
僧侶「(我々が戦っている者は人でありながら人ではない。あれは邪教の徒、魔の使いなのだから)」
483 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/06(月) 21:11:27.99 ID:D/eUbSP7O
僧侶「(きっと、どこかで油断していたのでしょうね……)」
僧侶「(神への甘え、それが付け込む隙を与えてしまった。けれど、もうそれはない)」
僧侶「(神を冒涜し存在を貶めた罪は重い。あれこそ許されざる罪。罰しなければならない)」
僧侶「(私は、あの者を滅ぼさなければならない。何としてでも……)」
僧侶「(あの者を在るべき場所へ、煉獄へと送り返さなければ……)」
『……侶様!僧侶様!! 僧侶様!しっかりして下さい!!』
僧侶「うっ…あ、ありがとうございます」
『お身体は、どこかーー』
僧侶「いえ、私なら平気です……それより皆は?皆は無事なのですか?」
484 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/06(月) 21:13:41.47 ID:D/eUbSP7O
『既に二百名以上が……』
僧侶「そんなっ!!」
『僧侶様、悲しむお気持ちは分かりますが、どうか気を静めて下さい』
『魔狩りの大隊の要である僧侶様が崩れれば、勝ち目はなくなってしまいます』
僧侶「でもっ!!」
『僧侶様、彼等は殉教したのです』
『目を閉じる最後まで信仰を貫き、悪しき者に立ち向かい、身を賭して戦ったのです』
僧侶「……………」
『僧侶様、貴女は優しすぎます。我々は魔狩りの大隊、神の告げに従う兵士です』
『この命は、とうに神の下へ捧げているのです。ですから、悲しむことはありません』
485 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/02/06(月) 21:22:32.69 ID:D/eUbSP7O
僧侶「…っ、お願いが、あります……」
『はい。何なりと』
僧侶「私はこれから魔術を封じ、あの者の背後に回り込みます」
僧侶「一瞬。瞬きの間の隙を作って下さい。私が、この剣であの者を滅ぼします」
『了解しました。全力を尽くしましょう』
『僧侶様、そんな顔をならさずとも大丈夫ですよ。貴女ならば必ず成し遂げられます』
僧侶「あのっ、皆さーー」
『僧侶様、後のことはお任せします』
『我々の為に涙して頂いたこと、決して忘れはしません』
『出来ることなら勇者様と並び立つお姿を見たかったですが悔いはない』
『悪しき者を滅ぼせるのであれば本望。僧侶様、お元気で……では、行って参ります』
…ザッ…ザッ…ザッ…
僧侶「安らぎと祝福、安寧と平和を築く為、我等は戦うのです」
僧侶「勝利の上に勝利を築き、人の世の安息と千年の……」ザッ
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