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紗南「仮面ライダーサナ」
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58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:28:40.41 ID:G2Nxxmny0
「あ、プロデューサーやっと来た」
「おうすまん、会議が長引いちまってな」
プロデューサーがルームに入ると、いつも通りソファに座ってゲームしている杏と紗南が出迎えた。
「まあ、会議なら仕方ないですね…」
その向かい…プロデューサーから見て手前に座って雑誌を広げていたありすが振り返りながら言った。
そしてその隣で一緒に雑誌を読んでいた少女も一緒に振り返った。
「お久しぶりねプロデューサー、元気そうで何より」
「おう、フルボッコちゃんのBD、売れ行きいいらしいじゃんか
握手会に付いていけなくてすまんな麗奈」
小関麗奈、このルームのメンバーの一人だ。
ソロ活動が中心的だが、他プロジェクトルームとの合同企画であるL.M.B.Gにも所属し、意外とこのルームにいることは少ない。
「いいのよ別に、むしろアンタがいない方が割と好き勝手やれて気楽だわ」
「んだとぉ?」
「あーもう、またそうやって…プロデューサーさんもです!」
「はいはいわかったわかったっての…あとの二人は?」
「ん」
杏が顎で示す。
その先には、ルームの隅に置かれたプロデューサーの事務机。
「…いつもの場所か」
プロデューサーは机につかつかと歩み寄り、その下から二人のアイドルを引っ張り出す。
「森久保はここから動きたいくないんですけど…」
「…フ、フヒ」
「大事な話があるんだよ。そん時くらい出てこい」
森久保乃々と星輝子。これでこのプロジェクトルーム全員…いや、全員ではない。
「あの…親友、まゆさんは…まだ?」
「…ああ、大丈夫だ。きっとよくなる
すまんな、待たせちまって」
佐久間まゆ、彼の最初のアイドルにして、このルームの一番の先輩だ。
今は、原因不明の体調不良で入院している。
「俺がお見舞いに行けば、少し元気になるらしいんだ。俺も出来るだけ顔を出して、元気な顔でここに連れ戻して見せるさ」
「も、森久保も、まゆさんがいないと、その…困るんですけど…」
「私たちのユニットを引っ張ってくれてるの、まゆさんだからな…フヒ」
まゆ、輝子、乃々の三人は「アンダー・ザ・デスク」というユニットのメンバーだ。
この二人がこんな性格なので、ユニットを支えてるのはまゆに他ならないのである。
「それで、大事な話って何なのよプロデューサー。普段いないアタシまで呼んでるってことは、ルームあげてのお仕事かしら?」
「えぇ〜、あんず、お仕事はちょっと〜」
「わざわざ全員揃えたんですから、それなりの事ですよね?」
6人程度のルームがザワザワと騒がしくなってくる。
「はいはいどうどう、まあ焦らしても仕方ないな。ほれ、入っていいぞ」
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:29:31.87 ID:G2Nxxmny0
プロデューサーが声をかけると、扉がカチャリと開き、また一人の少女が入ってきた。
長いエクステをさらりと揺らし、プロデューサーの横につく。
「今日から新しくウチのルームメンバーになる、にの」
「二宮飛鳥だ。よろしく頼むよ」
飛鳥はプロデューサーの言葉に被さるように言い、エクステをさらりと手でなびかせて不敵に笑った。
「お前な、紹介は俺がするって」
「ボクはこうしたいって言っただろうプロデューサー。ボクをプロデュースするのなら、これくらい把握してくれ」
「新しい子だ」「新メンバーですか」ルームがザワつく。
「はいはい静かにな…そんなら、お前が自己紹介してみろ」
「投げやりだね…まあいい」
飛鳥はエフンと小さく咳払いをする。
「…二宮飛鳥、14歳。君たちとさほど差は無いのかな?
趣味はヘアアレンジ。これはちょっとした反抗のつもりさ、学校の規律が厳しくてね
あとはラジオを聴いたり…そうそう、最近ゲームも嗜むようになったかな」
飛鳥は紗南のほうをちらと見て言った。
「ここにはゲーム好きな子もいるし、話は合うだろうね」
「ね、ね、飛鳥さんはどういうゲームが好きなの?」
早速紗南が飛びついてくる。
飛鳥はくす、と不敵に笑って答えた
「そうだね…世界観を重視してる。ダークな雰囲気のが好きだよ
あとは、スタイリッシュなプレイスタイルなのがいいかな」
「ダークな世界観…スタイリッシュ…あ、デビルズクライとか?」
紗南の言葉に、飛鳥は目を丸くする。
「これは驚いたね…いや、流石と言うべきか」
そう言ってポケットからガシャットを取り出す。側面に「Devil's Cry」と刻印されたものだ。
しかし持ち方が若干おかしい、グリップを握るのではなく、その隅を隠すように、つまんで持っている。
「わ、やった!正解!」
「フフ…後でキミのガシャットも見せて欲しいな、興味があるね」
「うん!じゃあこの後、下のカフェでやろうよ!」
その様子を見て、プロデューサーがほう、と小さく感嘆の息をつく
(なんだ…割と馴染めるじゃないか。しかし飛鳥もゲームをやるとはな
ウチはゲーマーのユニットもあるくらいだし、これは心配する必要はなかったか)
「…あの、飛鳥さん。私もついて行ってもいいですか」
黙っていたありすが不意に声を上げた。
その視線は、飛鳥の持つガシャットに注がれている。
「…ああ、いいとも」
飛鳥は再び不敵な笑みを浮かべ、視線から隠すようにガシャットをポケットにしまう。
「さてと…自己紹介はこんなものかな」
「お?おお、そうだな。ちゃんと馴染めそうで驚いたな」
「失礼だねキミは、ボクを何だと思ってるんだい」
「厨二病」
「…凄い直球にありがとう」
「事実だろ」
(また濃い人が入ってきたんですけど…)
(フヒ…本当に馴染めるのか不安だな)
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:30:24.67 ID:G2Nxxmny0
――――――――――――…
「お待たせしましたーっ、アイスカフェオレ2つと、オレンジジュースですね!」
御白プロの一階に併設されたカフェ。
いつものようにメイド服で喫茶のお手伝いをしている安部菜々がコトコトと三人のテーブル上にコップを置いていく
「では、ごゆっくり〜」
「…さて、どこから話そうか」
菜々が下がったのを見計らって飛鳥が切り出す。
「え?ゲームやるんじゃなかったの?」
紗南はゲーム機を取り出し準備万端といった様子だったが、二人の様子がおかしいことに首を傾げた。
「紗南さん…まだ気づいてなかったんですか」
ありすが呆れたように言う。
「飛鳥さんも、あんなわざとらしい隠し方でバレないとでも?」
「フフッ、まあ、元から君たちには言おうと思ってたんだけどね」
飛鳥はまたも不敵に笑って、ポケットからデビルズクライのガシャットを取り出した。
隠されていた隅の部分には、押し込めるボタンがついていた。
「…やっぱり、飛鳥さんも変身できるんですね?」
「ああ、それにキミの活躍も見てたよ。紗南」
「えっ!覚えてるの!?」
「勿論さ。そもそも、これで変身できる人は皆バグスターの活動を記憶することができる人間だ」
「バグ…?」
「"バグスター"。そう呼んでるし、彼らも自らをそう呼ぶ。
キミが戦った、あのオレンジ色の粒子から生まれる怪物たちの名さ」
(バグスター…そういえば、あの時もそんな事…)
ありすは先日戦った老紳士怪人の事を思い出す。
「…なぜそんなことを知ってるんですか?」
「フフッ、ボクは君らより先輩だよ?これくらいは当然だよ」
「では、そのガシャットはどこで手に入れたんですか…知ってる事、全部話してください」
「おいおい、怖い顔をするなよ。
…随分とご執着のようだね、何かあったと見えるけれど?」
「っ、貴方には関係のない事です」
(…いいの?文香さんの事言わなくても)
紗南がひそひそと耳打ちしてくる
(まだ…飛鳥さんの事を信用できませんから)
「フフッ…信頼されてないみたいだね。
いいだろう、ボクが知っていることを話そう」
飛鳥は仰々しく足を組むと、語り始めた。
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:31:42.63 ID:G2Nxxmny0
「まずこのガシャットだが、とある人物から貰い受けた。
キミたちにガシャットを渡したのもおそらく同じだろうね…」
「その人物は誰なんです」
「フフッ、言ったところで、きっとキミたちの知らない人間だよ…
まあ、白衣の少女とだけ言っておこうかな」
「白衣…?」
「そしてバグスター。どこから来たのか、どこから生まれたのかは知らない。
ただひとつ言えることは、彼らは普通の人間にはその活動が全く記憶されないこと。どれだけ大騒ぎしてもね
そして、それはこちらも同様でね」
飛鳥は手に持ったガシャットをクルと一回転させると、唐突にそのボタンを押した。
『デビルズクライ!』デデデーン!
閑静なカフェに電子音が鳴り響き、飛鳥の背後にDevil's Cryのタイトル画面が大々的に表示される。
当然、周囲からざわめきが沸き起こった。
「なんだなんだ」「え、ホログラム?」「撮影かぁ?聞いてないぞ」
「なっ…何してるんですか!?こんな所で!」
ありすが立ち上がり大声を上げるが、もう起こってしまったこと、どうしようもなく視線を周囲に泳がせる。
大勢の目がこちらに注がれている。これではプロデューサーどころか、世間中に知れ渡ってしまう。
「心配はいらないよ…言ったろう?ボクら以外にこの行動は記憶…」
飛鳥がそこまで言って言葉を切った。
「あ」
同じ方を向いていた紗南も、小さく声を上げた。
ありすは振り返って、そして見た。
一瞬だけ、ウサミミメイド服を飲み込んだオレンジの粒子塊を
「…菜々さん?」
「やれやれ…狙わずして、奴らを炙り出せてしまったようだ」
飛鳥は椅子から立ち上がる。
「この話は後にしようか…ま、この程度ならボク一人で充分。キミたちはそこで見ておくといい」
そして、ナップザックから例のベルトを取り出した。
シュイイン、ガチッ
手慣れた様子で、ベルトを腰に固定する。そしてガシャットをキリキリと回しながら、上に放った。
「…変身」
落ちてきたガシャットをパシッと受け止め、そのまま端子へと差し込む。
『ガシャット!』
『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』
『アイムア…アイドル!』
「さぁ、開戦(ハジ)めようか…!」
3頭身の姿になった飛鳥が、バグスター塊へと突撃する。
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:32:41.95 ID:G2Nxxmny0
―――…
「…飛鳥さんも、変身できたなんて」
「さっきからそう言ってたじゃないですか…けど、なんで菜々さんが」
ありすと紗南は屋内へと避難し、飛鳥とバグスターの戦いを見ている。
周囲の人たちは、皆散り散りに逃げてしまった。
「そういえば、アタシが戦った時は未央さんがバグスターに…」
「はい、そして文香さん、今回の菜々さん…
多分ですけど、まゆさんの時もそうです。しっかりプロデューサーさんから聞く必要があるかもしれませんけど」
「皆、うちのアイドルだね」
「それです…もしかすると他のところでもバグスターとやらの被害が出てるかもしれませんけど、今のところはアイドルだけが狙われてます…」
「どういう事なんだろう?」
「解りません、解ったら苦労しません…だから、飛鳥さんにはいろいろ聞きたいことがあります」
ありすはキッ、と眼前で戦う飛鳥を睨んだ。
「ハァッ!」
変身した飛鳥の姿は、拘束具めいてベルトの巻かれた衣装だ。
より長くなったエクステを靡かせながら、高速で相手を翻弄している。
大きなウサ耳のように腕を生やすバグスター塊は、腕をやみくもに振り回し応戦、その腕が飛鳥を捉えにかかった。
「フフ、どっちを見ているんだい」
しかし捉えた筈の飛鳥の姿は陽炎のように掠れて消え、バグスター塊の背後にまた同様に現れた。
「デビルヘイズだ!回避コンボの始点になる技だよ!」
「解説は聞いてません!」
興奮した様子の紗南にありすが即ツッコミを入れる。
「武器を持つ必要すらない、ねっ!」
飛鳥はそのまま、赤熱する拳をバグスター塊に連続で叩き込む。ヘルファイアナックル!
「ハアッ!」
思い切り振りかぶった最後の一発の衝撃のままにバグスター塊はぼんぼんと数度バウンドし、そして腐った果実のように潰れ霧散し始めた。
「フ…まあ叩き起こされたバグスター程度ならこんなものか」
霧散していく粒子の中から、安部菜々の姿が現れる。
「っ…!」
「あっ、ありすちゃん!」
思わず走り出したありすを紗南が追いかける。
「紗南さん、足を持ってください」
「う、うん」
見る間に収束していくバグスター粒子を横目に見ながら、ありすと紗南は菜々を店内へと運び入れる。
「菜々さん、大丈夫ですかっ」
「ん…あれ…ここは…?」
「お店の中だよ、大丈夫?起きれる?」
「あっすいませんっ!なんかお手数を…あつつっ」
菜々は起き上がろうとして、腰を抑えてまた倒れ込んでしまった。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:35:22.02 ID:G2Nxxmny0
「無理はしないでください…すぐよくなりますから」
ありすは優しく言ってから、顔を上げて飛鳥の方を見やった。
対峙するバグスター粒子はすでに人らしき形を形成していた。
「なぜ、私がいるとわかったの…」
メルヘンチックな意匠があちこちに点在する少女体型の怪人は恨めしげに飛鳥を睨み付けた。
「ただの偶然さ、己の運命を呪うがいい」
「おのれ…私たちの繁栄を邪魔する人間め…」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。ボクらの未来を邪魔するというのなら――…」
飛鳥はピンとベルトのレバーを指ではじく。
「セカンドフェイズ」
そして逆の手で持ちあがったレバーを開いた。
『ガッチャーン!』
『レベルアップ!』
『DieDieDie!マストダイ!デビルズクライ!』
拘束具のように体中を覆っていたベルトがはじけ飛び、ぼろ布のような衣装が露になる。
背中からは煤か黒煙のようなかすれたマントがたなびき、ベルトの左側にはオーブのついた鍵が吊り下がった。
「…――例え子供のような風貌でも、容赦はしないよ」
そう言って、腕を腹の前でクロスさせた。
その両手に01粒子が集まり、二丁の大ぶりな拳銃が現れる。
『ガシャコンデュアライザー!』
「ハァッ!」
素早くそれを乱射する。
銃を横向きに持ち、上下になるように構え…よくある"カッコいい二丁拳銃の構え方"だ。
「いやああっ!」
少女怪人は外見らしい悲鳴を上げてぴょんぴょんと逃げ回る。
「…悲鳴のわりに結構避けるね。なら」
銃を背中にしまい、右手を左肩のあたりに持っていく。
そしてスナップを利かせて、腕を振るった
「チェイン!」
腕先から鎖が伸び少女怪人を捉えた。
「なっ…」
「そぉ、れッ!」
そのまま背負い投げの要領で地面へとたたきつける。
「あぐうううっ!」
「まだまだッ!」
素早くデュアライザーを引き抜き、銃弾の雨を喰らわせる。
「おのれぇ…おのれぇっ!」
倒れたまま、銃弾を腕で防ぐ少女怪人。
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:37:07.21 ID:G2Nxxmny0
「おおおオオオオオのレエエエエエ!!」
その腕がミシミシと音を立てて肥大化した。
「おっと」
「オオオアアアアアア!!!」
飛鳥が一瞬ひるむ、怪人はその射撃が止まった隙にバネめいて立ち上がり、巨腕を振り上げて突進する。
飛鳥は慌てず、赤い拳銃…左手に持つそれの銃身に刻印されたAボタンを押した。
『ズ・シャーン!』
大ぶりな二丁拳銃が合体し、隠されていた刃が飛び出してくる。
そこにあったのは一本の幅広な刃を持つクレイモアだった。
「ッ!」
巨腕による突進を、幅広な刃で受ける。
それでもその凄まじい突進に、一気に数メートルも押し込まれた。
「…っへえ、変わった能力を持ってるようだ。
だが、反動で理性が無くなるようだな。」
「ヴヴーッ!」
「そういう"奥の手"というのは、最後まで見せないものだよッ!」
飛鳥は叫び、剣の鍔にあるBボタンを3連打した。
「ッセァ!」ズバババッ!
「ギャアアッ!」
一瞬にして三つの斬撃が少女怪人を…否、もうそれは少女の姿ではない、丸太のような腕にダチョウのような足をもつ異形の怪物だ。
隆々とした胴に、3つの斬撃痕が残る。
「オオオッ!」
だが怪人は一瞬ひるんだのみで、再び飛鳥めがけ腕を振りかぶる。
飛鳥は剣の柄と鍔の間にある、銃の時の名残であるトリガーを引いた。
「スタンプ・スラッシュ!」
「アガアアッ!?」
3つの斬撃痕が光を放って炸裂し、怪人は倒れのたうち回った。
「さあ、お前の罪を数えるがいい」ガッシューン
飛鳥はガシャットを引き抜き、左腰のスロットへと差し込む。
『ガシャット!』
『キメワザ!』
「ッハァ!」
回転跳躍でのたうち回る怪人の直上へと舞い上がると、その横のスイッチを押した。
『デビルズ・クリティカルストライク!』
「セイヤァァッ!!!」
そのまま怪人を踏み抜くような急降下キックを繰り出す。
「オゴオオオオアアアアアアッ!!」
怪人の断末魔が、電子爆発によって消し飛んだ。
「ッフ…」
爆心地からすっくと立ち上がった飛鳥は、体に降りかかる01粒子を軽く払い、変身を解除した。
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:37:47.28 ID:G2Nxxmny0
「終わったみたい」
カウンターから様子を伺っていた紗南が、その様子を見て言った。
「菜々さん、体の調子は」
「え?あ、はい。良くなってきました…あの、菜々はどうしてたんでしょう?」
「…っ…なんでもないですよ。ちょっと倒れただけです」
ありすはきゅっと唇を噛みしめる。
もう覚えていないのだ。バグスターが撃破されたその瞬間に、記憶は消えていくとでも言うのか
「やあ、大丈夫かい菜々さん」
「あ、飛鳥ちゃんまで…なんだかご迷惑をお掛けしてしまったみたいですいません!」
菜々はよろよろと立ち上がる。
「急にフラッと倒れるんだ、驚いたよ。キミもアイドルなんだから無理はしない方がいい」
「そうですね、最近確かに忙しかったですから…もう菜々も歳…じゃなくて!17歳でも無理は禁物ですよね!」
「そうそう、休憩も仕事の一つさ、ハハッ」
「……」
にこやかに笑う飛鳥、紗南とありすは茫然とその姿を見ていた。
―――――――…
「これで分かったろう?…バグスターの行動も、ボクらのガシャットを用いた行動も、同様に誰にも記憶されない」
何事もなかったかのように日常の騒がしさを取り戻したカフェ、三人は置かれた飲み物にも手を付けずに神妙に話をしていた。
「なんで、誰も覚えられないの?」
紗南が率直な疑問を繰り出す。
「さあ?ボクも知らない…ただ言えることは、ヤツらは人間の中に潜み、人間に成り代わって地球の支配者になろうと目論んでいる。そしてこのガシャットとあのベルト…"ゲーマドライバー"は、ヤツらを倒す唯一の武器という事だけさ
そしてゲーマドライバーを使えるのは…」
「バグスターの活動を記憶できる人間だけ…」
飛鳥の言葉をありすが続けた
「そう…まあ、更にちょっとした条件があるんだがこれはボクらには関係ないね」
「なんで向こうはアイドルばっかり狙ってくるの?」
「…?ああ、そういえば確かにそうだな」
飛鳥は一瞬よくわからないという顔をして頷いた。
「それも解らないんですか…」
「ああ、まあ向こうからすればボクらは天敵だからね…執拗に狙うのもわからなくはない」
「だったらアタシ達に憑りつけばいいのに」
「それは無理だろう。ゲーマドライバーとガシャットはヤツらからボクたちを守ってくれる力でもある
外堀でも埋めて孤立無援にでもしようとしてるのか?フフッ、人外の癖に知恵の働く奴らだ」
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:38:35.23 ID:G2Nxxmny0
「…そんな存在に、私たちだけで立ち向かえるんでしょうか」
ありすは今になって不安が込み上げてきたようだった。
「…大丈夫だって!アタシは最強のゲーマーアイドル、三好紗南!絶対ノーミスクリアしてみせるよ!」
「フフッ、頼もしいね
ありすの心配はわかるさ、けれどこれはボクらにしか理解(ワカ)らない、記憶(シ)らない事だ。
たとえ孤立無援であったとしても、ボクらは戦い続ける…ボクらがやられた時、それは人類の敗北だからね」
飛鳥はまるで他人事のように言った。
「……あなたは、怖くないんですか。自分がやられること」
「そうは言ってない、怖いさ、ボクも…だからこそキミ達に話をした」
飛鳥は勿体付けるようにエクステを弄り、今までになく真面目な顔をして言った。
「ボクと一緒にバグスターと戦ってほしい。ヤツらを根絶させるその瞬間まで、ね」
「……」
「……でも、アタシのガシャットプロデューサーさんにとられちゃったし」
「えっ?」
「…プロデューサーさんも、覚えてるんです。バグスターの事を」
「えっ!?」
飛鳥は2連続で驚いてから、ぶるる、と顔を振ってまた真面目な顔に戻った。
「いや、すまない…少し想定外だった。まさかあのプロデューサーが適合者とはね…」
「…話すべき、でしょうか」
「でも心配性のPさんの事だから、絶対みんなの取り上げるよ?」
「いつかは話す必要があるだろう…でも今は、黙っておくべきだろうね。
紗南のガシャットに関しては…そうだね、ボクが後で取り返してあげよう。フフッ、ワクワクするね」
「…まさか、プロデューサーさんの机を漁る気ですか」
「さあて…?どうだろうね?」
飛鳥はクスクスと笑い、席を立った。
「それじゃあボクはこの辺で失礼するよ…あとありす、キミのガシャットも後で見せてくれるかい?」
「なっ…」
「バレてないとでも思ったのかい?フフッ…この場に付いて来る時点である程度予想は付くものだよ。じゃあね」
飛鳥は手をひらひらを振って、カフェを後にしていった。
「…やっぱり、あの人は信用できません」
「えー」
To be continued... See you next Game.
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:41:54.10 ID:G2Nxxmny0
お待たせして申し訳ありません。第三話、投下完了です。
今回は前回のラストに意味深に登場した飛鳥回。
いわゆる先輩枠かつ"知っている"枠です。解説役がいないと物語は回しにくいですからねー
今後はこの三人が"正義のヒーロー"として活躍していきます。お楽しみに!
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:49:39.87 ID:G2Nxxmny0
おまけ:ガシャット&専用武器解説。
「デビルズクライ」
・悪魔に支配された世界で、ハイスピード&スタイリッシュに悪魔を狩り人間の開放を目指すスタイリッシュアクション。
・元ネタは「デビルメイクライ」4を友人宅でやらせてもらったことがあるんですが、スタイリッシュに戦うのはとてもじゃないが無理でした。
・飛鳥の性格的には「プロトタイプ」の方が良かった気もしますが、こっちはやった事がなかったのと知名度もDMCやベヨネッタに比べるとどうしても落ちるのでこうなりました。
・特殊な攻撃を放つときは技名を叫ぶが、これは飛鳥の趣味です。
専用武器:ガシャコンデュアライザー
・Aボタンで二丁拳銃とクレイモアに変形する武器。
・元ネタは当然、ダンテのエボアボ&魔剣リベリオン。
・銃ライダーの宿命か、拳銃モードはイマイチ攻撃翌力に欠けます。ダンテのエボアボもそうですが
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/09(金) 19:51:53.73 ID:G2Nxxmny0
第三話は
>>57
からです。
今後はこうやって投下後に始点書いた方がよさそうですね。
あとタイトル付けました。今更です、スルーしてもいいです。次の時にあるかもわかりません
こんなgdgdですけどよろしくお願いします
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/09(金) 20:09:38.86 ID:9bqTQM790
これでライダーは三人…
公式風に呼ぶなら
三好紗南の変身する仮面ライダーサナ レトロゲーマーLV1or2
橘ありすの変身する仮面ライダーアリス パズルゲーマーLV1or2
二宮飛鳥の変身する仮面ライダーアスカ デビルズ(orスタイリッシュ)ゲーマーLV1or2
といったところかな?
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/09(金) 21:23:15.96 ID:+KDjRPmio
おつおつ 好きなアイドルがメインでとても俺得
文章がイメージしやすくて飛鳥くんカッコイイの伝わってくる
そんで白衣の少女とは某アイドルかしらん
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/12(月) 19:40:24.08 ID:yQ+lgN9ro
>>71
”適合者の条件”を考えると彼女だけどドライバーの開発者を考えると彼女だし…どっちだろうな
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/12(月) 23:52:04.36 ID:KgexBDr30
>>73
2人とも関わってるけど、表に出てるのはどっちか1人とか
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 19:07:10.28 ID:wE4VPC8M0
お待たせしましたー。今夜9時ごろに4話が更新できると思いまーっ
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:16:58.18 ID:wE4VPC8M0
第4話:二人はnot friendly
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:18:22.43 ID:wE4VPC8M0
「ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイ」
御白プロダクションのあるレッスンルーム、緑ストライプのトレーニングウェアを着た女性が、リズムを刻みながら二人のアイドルのダンスレッスンをしていた。
「はい決めポーズ!……よし、だいぶ様になってきたな。これなら来週のミニライブには間に合いそうだ」
その女性…御白プロのダンス専門トレーナーは満足げに頷いた。
「はぁーっ…」
「…ふぅ」
決めポーズのままで固まっていた紗南とありすは同時に大きく息を吐き、その場に座り込んだ。
「お疲れのようだね」
キィ、とレッスルンルームの扉が開く。
「あ、飛鳥さん。おつかれさまー」
「…何か用ですか」
「フフッ、差し入れだよ
全くボクは嫌われているようだね」
スポーツドリンクを差し出す飛鳥はそう言いながらもまんざらでもなさそうだ。
「ねえ、あんずの分は?」
「うわっ」
レッスンルームの隅でゴロゴロしていた杏がむくりと起き上がって言った。
「…なんだ、双葉さんもいたのか。見かけなかったから居ないと思って持ってきてないよ」
「えー…まあいいけど。あと、そんなかしこまらずにあんずでいいよ〜」
杏はぶーと頬を膨らませるが、それほど不満ではなさそうだ。
「私達三人は一つのユニットなんですから、一緒にレッスンするのは当然です」
「ゲーマーズ.incって言うんだよ!」
「ゲーマーアイドルのユニットってコンセプトなんだってさー、あんずはゴロゴロしてるほうが好きなんだけどな〜」
「へぇ…」
「…そういえば、二宮も来週のライブに出るんだったな?」
トレーナーが飛鳥に訊ねる。
「そうなんですか?」
「ああ、キミ達と同じルームに入って初めてのお仕事さ。
フフッ、奇遇だね」
「へー、お互い頑張ろうね!」
「ああ…ところで二人とも、もうレッスンは終わりだろう?少しいいかな?」
紗南とありすは顔を見合わせると、飛鳥と連れ立ってレッスンルームを後にした。
「…なんだ、随分仲がいいなあの三人は、いいのか双葉、付いていかなくて」
「別に?子供同士秘密の話くらいひとつふたつあるでしょ」
「お前も子供だろう…あと、次のレッスンは本番前最後だからな、お前にもみっちり踊ってもらうぞ」
「じゃ、あんずはこれで〜」
「コラ逃げるな!」
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:20:02.78 ID:wE4VPC8M0
「…わざわざ連れ出して、何ですか。と聞くまでもないですよね」
「バグスターの事?」
「ああ、昨日キミ達と別れた後、少し調べてね。
確かに、バグスターの被害にあっているのはうちのアイドルだけのようだった」
「待ってください、どこでそれを調べたんです?誰も覚えていないのに」
ありすがすぐさま突っ込んだ。
「…前も言ったと思うけど、ボクにはちょっとした協力者がいるんだ」
「例の、白衣の少女ですか?誰なんですか、名前くらい教えても」
「悪いけど言えないよ。…じゃあこれだけ言っておこう、彼女はとある理由でバグスターに追われている。
ボク以外とは会うつもりは"今のところ"無いらしい」
飛鳥は「今のところ」を強調して言った。
「…つまり、今後会える可能性も」
「まあ、あるんじゃないかな。これでこの話は終わりだ、奴らバグスターはどこに潜んでこの話を聞いているかわからない。
奴らに関しては分からないことだらけさ、ボクも…彼女もね」
「…だから、あなたは信用ならないんです」
ありすは不機嫌そうに言った。
「一緒に戦ってほしいなんて言いながら、自分の持っている情報は共有しようとしない…そんな相手と友人になんてなれません」
「バグスターに関してまだ解らない事だらけなのは事実だよ…まあ、無理に信用しろとは言わないよ。隠し事があるのも事実だしね」
「開き直ったって無駄ですよ」
「まあまあ二人とも…」
紗南がいよいよ仲介に入る。先の思いやられる関係だ。
「…話はそれだけですか」
「…情報共有のために、連絡先の交換くらいしようかと思ったんだけど、この調子だと駄目そうだね」
「あ、アタシとなら…ほら、アタシとありすちゃんはユニットだから基本一緒にいるし…」
「橘と呼んでください」
仏頂面のありすを置いて、紗南と飛鳥は連絡先を共有する。
「…そもそも、私たちは本来アイドルですよ?こんなことに時間を割かれるのは良くないと思います」
「じゃあバグスターの動きを放置するのかい?」
「っ…そうは言ってません。私は文香さんを守ると決めた…」
「あれ、それ言っちゃっていいの?」
紗南のツッコミに、ありすは「あ」と小さく声を上げた。
飛鳥がフフッと笑う。
「それも"彼女"から聞いたよ。鷺沢さんを助けたそうじゃないか」
「…どこまで知ってるんですか、その"彼女"は」
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:21:13.75 ID:wE4VPC8M0
「さあ?ボクは話を聞いただけさ」
「ともかく、私は文香さん…いえ、ここにいるアイドル全員が私にとって大切な仲間です。それを害するバグスターは、許せません。
だから、戦います。あなたはどうなんですか飛鳥さん、戦う理由はあるんですか」
ありすの言葉に、飛鳥の顔からフッと笑みが消えた。
「…?」
「戦う…理由、フフッ、さあ、楽しそうだったから…かな」
だがそれも一瞬、いつも通り不敵な笑みを浮かべて飛鳥は答えた。
「…本当に、あなたは信用ならない人ですね」
「…アタシも、特に理由がない…かなあ」
「ちょっと、紗南さんまで!」
「いや…そういうのじゃなくて
アタシもさ、ここに来ていろんな人やPさんに会って、今までゲームしか知らなかった自分の世界が凄い広がったんだよね。
それで、それが当たり前になっちゃった、今更もうゲームだけの世界には戻れないもん。…だからアタシは、その当たり前を守るために戦う…って感じ?理由がないんじゃなくて、全部が理由って言うのかな」
「…凄いいい事言ったはずなのに、煮え切らない感じで全然感動しません」
紗南はてへへ、と頭を掻く。
「ともかく!あなたの事はまだ信用してないんですからね!」
ありすは機嫌悪げにずんずんと廊下を先に進む。
と、唐突にその足が止まった。
「?…どうし」
飛鳥は訊ねようとしたが、その理由はすぐに分かった。
廊下の先から、見慣れた一人のアイドルが走ってきたからだ。
「ゼェ…ハァ…」
「…杏さん?どうかしたんですか」
先にルームに帰っていたはずの杏が、なぜか息を切らして走ってきたのだ。
「あ、ありすちゃん…えっとね…ゼェ…えっと…ハァ」
「落ち着いてください、らしくないですよ。杏さんがそんなに慌てるなんて」
「…うん…えっと……なんだっけ?」
ありすはズルッ、と肩を滑らせる。
「もう、しっかりしてくださいよ」
「うん…なんか、怖いもの見た気がするんだけど…よく覚えてない…」
その言葉に、飛鳥がピクと反応した。
(…杏さんは、"適合者"ではないね?)ヒソ
「え?あ、うん…」
隣にいる紗南に一言確認すると、タッ、と走り出した。
「ちょっと!」
ありすが慌てて後を追う。
「…何?なんなの?」
「何でもないよ!ちょっとー!飛鳥さん!ありすちゃん!待ってー!」
最後に紗南が二人を追って走り出す。
「…変なの」
杏は頭をぽりぽりと掻いてそれを見送った。
「…しかし、なんでよく思い出せないんだろう…」
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:23:49.81 ID:wE4VPC8M0
―――…
「っと!」
「きゃっ!」
自分たちのルームに入った途端、飛鳥は仰々しい動きで立ち止まり、ありすは思わずつんのめった。
「もー、二人とも急に走り出して…うわ」
最後に来た紗南が、眼前を見て思わず声を上げた。
ルームの中央に、巨大なオレンジ色のキノコが鎮座していたのだ。
キノコはドクドクと拍動しながら、その根元からオレンジの菌糸を伸ばして部屋中を覆いつくしていた。
「…また、珍妙なバグスターが現れたもんだね」
飛鳥がガシャットをキリキリと回しながら取り出す。
「…これ、まさか輝子さん?」
ありすの呟きに、飛鳥の動きが止まる。
「だよね、キノコだし…」
「…成程、宿主のイメージから形を作り出すのか。よく気付いたね」
「これくらい何度か見てくれば普通に分かると思いますが」
「…っまあ、倒してしまえば一緒さ」カチッ
『デビルズクライ!』デデデーン
ありすも、すこし顔をしかめながらもポケットからガシャットを取り出す。
「…あなたと一緒にやるのは気が進みませんが、輝子さんを助けるためです」カチッ
『パズル&ウィッチーズ!』テテンテテテーン!
「よし、アタシも!」グッ
紗南も同様にポケットから出したガシャットを押し…
「…あっ!しまった、これ普通のガシャットだ!」
今度はありすと飛鳥が同時にズルッと肩を滑らせた。
「何やってるんですか…」
「そう言えばキミのはプロデューサーに取られてたんだったね…あとで見つけておく必要があるな
今日はボクらに任せて、下がっていてくれ」
飛鳥とありすは体勢を立て直してガシャットを構える。
「「変身!」」
『ガシャット!』
『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』
『アイムア…アイドル!』
変身を察知したのか、キノコバグスターがグネグネと身をよじらせる。
するとどうだ、周囲の菌糸が盛り上がり、奇妙な姿を形作っていく。
「なにこれ…気持ち悪いっ!」
「キノコの人形…?妙なものを」
それは細長い四肢を生やした、人型のキノコであった。
キノコ人形は中央の本体を守るように次々に湧き出してくる。
「わ、わわっ!」
紗南はそれらに囲まれないように、慌ててルームの一角へ…その一角、プロデューサーの机周辺だけは何故か菌糸が全く伸びていなかった。
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:25:49.02 ID:wE4VPC8M0
「ふぅ」
紗南は机の下に潜り込むと、一息つく。
「…ぁぅ」
「ひゃああっ!」ゴツン!
唐突に背後から声がして、紗南は驚いて机に頭を打ち付けた。
「いったたたた…」
「ぁああ…すいません紗南さん…うぅ…森久保のせいで…」
「乃々ちゃん…いたんだ…」
「いたんですけど…ずっといたんですけど…」
森久保はいつになく弱弱しい声だ。その体も、いつも以上に小さく縮こまらせて、机の暗がりにすっぽりと埋まってしまっている。
「…もしかして、輝子ちゃんを?」
「ひぅっ…も、森久保は何も見てないんですけど!輝子さんが急に倒れたとか…変なぐにょぐにょに変わっていったとか…見てないです、見てないんです…うぅぅ…!」
「大丈夫だよ乃々ちゃん…皆が助けてくれるから」
「皆…?皆って誰ですか…誰でもいいです、助けてください…」
暗がりで見えづらいが、乃々はぽろぽろと涙をこぼしていた。
「まゆさんがいなくなって、輝子さんまでいなくなって…もう、森久保には頼れる人が…」
「…大丈夫だよ、アタシがここにいるから。ほら、涙拭いて」
「あぅぅ…」
紗南はポケットからハンカチを取り出す。一緒に先ほどのガシャットがコロンと落ちた。
「…あ、そうだ。ねえ乃々ちゃん、Pさんがこれと同じものどこかに仕舞ってなかった?」
「ふぇ?…えっと、そういえばこの前そこの引き出しに…」
乃々はおどおどと机の一番下の引き出しを指さす。
「ここか…鍵が掛かってて開かないや…」
「…大切なもの、なんですか?それ、いつも紗南さんがやってるゲームソフトですよね…?」
「あー、うん、そう。Pさんに取り上げられちゃって…」
「プロデューサーさんが…?そこは、森久保のポエム…じゃなくて、森久保の大切なものが入ってるんですけど…本当に大切なものだから、仕舞っておいてもらってて…」
「じゃあ、鍵とかは?」
「プロデューサーさんがいつも持ち歩いてるんですけど…森久保が頼めば、開けてもらえる…はず……」
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:26:59.17 ID:wE4VPC8M0
「話は聞かせてもらったよ」にゅっ
「ひいぃっ!?」
飛鳥がレベル1の姿のまま、机を覗き込んできた。
「あ…へ…?飛鳥、さん…です…か……?」
乃々が目を白黒させて訊ねる。
「ああ…紗南のガシャットはこの引き出しの中、そして鍵はプロデューサーが持ってる。フフッ、だからここだけ奴らが来れないのか。ガシャットの力を恐れているんだな…
さて乃々さん、後ででいいから、鍵をプロデューサーから借りてもらってもいいかい?」
「あ、え?」
「ちょっと飛鳥さん…乃々ちゃん茫然としてるよ」
「まあ、この状態で何言っても記憶には残らないんだから、後でキチンと言うよ…フフッ」
「ちょっと飛鳥さん!手伝ってください!」
「はいはい」
ありすの声に、飛鳥が机を飛び越えて見えなくなった。
「え…ぅぇえっ…と?あの…今の、は…?」
「あー…えっとね、話すと長くなるし難しいんだけど…」
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:29:00.04 ID:wE4VPC8M0
―――…
「キリがありません…」
「全くだ、本体に攻撃が届かないね」
飛鳥とありすはキノコバグスターを挟んだ形で追い詰めようとするが、周囲の菌糸から無尽蔵に湧き出すキノコ人形が攻撃をことごとく阻んでいく。
「…ここはひとつ、協力しようと思わないかい?」
飛鳥がひゅっ、とひと跳びにキノコバグスターを飛び越えてありすの傍へ降り立つ。
その間にも銃撃を仕掛けているのだが、やはりキノコ人形が全て防いでしまった。
「仕方ありませんね…」
「キミの魔法で、このキノコ共を蹴散らしてくれ。ボクがトドメを差そう」
「はぁ?あなたの方こそ、その二丁拳銃で道を切り開いてください。私がとどめを差します。私の方が高威力です」
「…全く」
言い争っている場合ではない。飛鳥はやれやれと右の拳銃、青いそれに刻印されたBボタンを連打した。
「抉れッ!」
マシンガンじみた連射が拳銃の口から吐き出される。
部屋狭しと埋め尽くし始めていたキノコ人形たちが、一直線に大きく削り取られた。
「はあっ!」
そこを炎の槍と化した杖を持ったありすが貫く、即座にキノコ人形は再生しようとしたが、間に合わない。
ありすの身体がキノコバグスターの中にめり込んだ。
キノコの表面の波が一瞬凪いだかと思った瞬間、内側から炸裂し周囲にオレンジ色の飛沫を散らした。
「…やっぱり、輝子さん」
その中心でふわりと着地したありすの腕の中で、気絶したように眠る輝子がいた。
「全く、もうちょっと華麗に倒せないものかな」
身体に降りかかった飛沫を掃いながら飛鳥が愚痴る。ありすは睨み付けたが何も言わず、そっと輝子を床に寝かせた。
散らばった飛沫がモゾモゾと動き出し、バグスター粒子となって、部屋の窓から外へと逃げだしはじめる。
「おっと、逃げるつもりのようだけど」
「追います。当然です」
「…終わった?」
紗南がおそるおそる机から顔を出す。
「紗南さん、輝子さんを頼みます」
「え?あ、うん」
紗南が床に寝かされた輝子の元へ走り寄るのと同時に、二人は開いた窓へと走り出す。
「ぁぅ…」
乃々もそろそろと机から顔を覗かせると、ちょうど二人が窓から床を蹴って飛び出したところであった。
「……!?」
「セカンドフェイズ」
「第二ステージ!」
乃々が今まで生きてきた中でしたことがないほど目を見開く中で、二人は空中で同時にレバーを開いた。
『『ガッチャーン!』』
『『レベルアップ!』』
『解き明かせ古代呪文、パズル&ウィッチーズ。』
『DieDieDie!マストダイ!デビルズクライ!』
空中で二人はレベル2へと変化し、プロダクションの正面広場…最初に紗南が戦った場所に降り立った。
飛鳥は片膝を立てた"スーパーヒーロー着地"で、ありすは足元に魔法陣を展開しふわりと…最後に、魔女帽子が彼女の頭にぽふ、と乗った。
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:32:11.20 ID:wE4VPC8M0
「…ヴヴヴゥ……」
二人の眼前で怪人を形作っていくバグスター粒子は、デスボイスのような重低音の唸り声をあげなら二人を睨み付けた。
体中にチェーンやトゲを巻き付け、顔はコープス・メイクのような白黒…さながらヘヴィメタルバンドのメンバーのような風体を持つ獣人の怪物であった。
「オ゛ォ…オ゛オ゛オ゛…」
野獣怪人は狼のような口を半開きにし、涎を滴らせながら唸り続ける。
「言葉も解さぬ獣か…へぇ、こんな奴もいるんだね」
「どちらにせよ、敵です」
スチャ、とガシャコンロッドを構えるありす。彼女の周囲にいくつもの光弾がまたたく間に現れる。
「ヴォゥ!ヴォゥヴ!」
それを見た野獣怪人は低く吠え、片手を地に付けた獣らしい野性的な構えを取った。
「はぁっ!」
ありすが杖を振るうと、光弾は曲線軌道を描いて野獣怪人に襲い掛かる。
「ウオ゛オ゛ッ!!」
対し怪人は、すさまじい速さのスプリントでその弾幕へと飛び込んでいった。
「なっ…!」
目で追うのもやっとほどの黒い弾丸と化した野獣怪人は、弾幕を低姿勢で避けると、ありすへと猛烈なタックルをかます。
「あがっ…!」
「っと…!」
飛鳥が反応したときには、ありすは既に奥の花壇へと頭から突っ込んでいた。
「ハハ…大丈夫かいありす!」
「っつ…平気です!ちょっと出足を挫かれ…っ!」
「ア゛オ゛オ゛ッ!」
花壇から起き上がったありすに怪人は飛び掛かるように追い打ちを仕掛ける。
が、その体が空中でいくつも爆ぜ、怪人は呻き声をあげて横へとそれた。
「全く、無視しないで欲しいね」
ガシャコンデュアライザーを構えた飛鳥が銃口から立ち昇る硝煙をフッと吹き消す。
「…一応、お礼は言っておきます。ありがとうございます」
ありすはムスッとした表情で起き上がる。
「一人では辛い相手だ。フフッ、共同戦線と行こうじゃないか」
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:33:57.64 ID:wE4VPC8M0
飛鳥はデュアライザーのAボタンを押し、変形したクレイモアをブンと振るう。
「相手は高速移動ができる。となれば、当然スタイリッシュアクションゲームのボクの方が適任だろう
援護、よろしく頼むよ」
「むぅ…」
ありすは不服そうながらも、同様にガシャコンロッドを長杖に変形させて両手に持つ。
「ヴォオ゛オ゛オ゛…」
野獣怪人は変わらずデスボイスじみた唸り声をあげて警戒する。
「さあ、来たまえよ悪鬼(デーモン)」
飛鳥は左手でクイクイと怪人を挑発する。
野獣怪人の足と腕がギリ、と引き締まった。
「オ゛オォッ!」
「ッフ!」
瞬間、ギャイィン!と金属同士がこすれあう音が響いた。飛鳥の振るった大剣と怪人の爪がこすれあったのだ。
火花が散り、二者は距離を取って再び睨み合う。
「はぁぁ…!」
ありすが杖を大きく振るうと、頭上に巨大な雷球が生まれ、
「はあっ!」
返す腕で素早く振ると、蒼雷が怪人を襲った。
「ァウ゛ッ!」
だが怪人はまたも目にもとまらぬスプリントでそれをやすやすと回避、飛鳥と再び打ち合った。
「そんな!」
「全く、何をしてるんだい」
飛鳥は怪人と鍔迫り合いをする。ギンッ!と剣の向きを変え、鍔に銃口を怪人に向け、トリガーを引いた。
「ガァッ!」
不意の銃弾を喰らった怪人がたたらを踏む。
「ハッ!」
飛鳥はその隙を付いて怪人に横なぎ一閃。更に一歩踏み込んで…
「…はああっ!」
「っとお!?」
足の止まった怪人めがけ、ひときわ強力な蒼雷が落ちた。飛鳥が慌てて一歩引く。
その主は他でもない、ありすだ。頭上の雷球に湛えられた雷が全て怪人へと注ぎ込まれる。
「おい!危ないだろう!」
「援護をしろと言ったのはあなたでしょう!」
「邪魔をしろとは言ってない!」
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:35:44.11 ID:wE4VPC8M0
「ッガア゛…」
バチィッ…と音を立てて雷が消えると、ぶすぶすと煙を上げて野獣怪人は膝をついた。
「…っ!トドメは私が!」ガッシューン
「いいや、ボクがやるね!」ガッシューン
二人は同時にガシャットを引き抜く。ありすはキメワザスロットに、飛鳥はクレイモアの柄先にそれぞれ差し込んだ。
「っはぁぁ…」
ありすの足元に魔法陣が現れ、その体がふわりと宙に浮かぶ。
更に魔法陣から極彩色の光が彼女の足へ移っていく。
「フゥゥ…」
飛鳥は大きく息を吐いて、黒炎を纏うクレイモアを構える。
『ウィッチーズ・クリティカルストライク!』
『デビルズ・クリティカルフィニッシュ!』
「たあああああっ!」
「セヤァァァァッ!」
ありすはそのまま上空からの極彩色キックを、飛鳥は滑るような踏み込みからの一閃を怪人へと見舞った。
「オ゛オ゛オ゛オオオオォォォ!」
地面を震わせるような雄叫びを上げて、野獣怪人は01粒子となって爆散した。
「…よし」
「フゥ…」
同時に立ち上がる二人。一瞬顔を見合わせると、フン、と互いに鼻を鳴らして顔を逸らした。
「まさかキミがここまで不仲を引っ張るとは思わなかったよ」
「あたなこそ、自分の本心を打ち明けたらどうですか。あまりにも隠し事が多すぎます」
「まだ言うべきじゃないだけさ。タイミングというものがあるんだ」
「なら、そのタイミングはいつですか」
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:36:51.47 ID:wE4VPC8M0
「おーい、二人とも―!」
第三者の声に二人が振り向くと、プロダクションビルの入り口から紗南が走り出てくるところだった。
「紗南さん…輝子さんは?」
「乃々ちゃんが見てくれてるよ。でも、何ともなさそう…どうしたの?難しい顔して」
紗南が飛鳥の様子を見て訊ねた。
「…別に、何でもないよ。そうだ、キミのガシャットを取り返しておかないとね」
飛鳥は腕組みを解いて、何事もなかったかのように話を逸らす。
「うん、さっき乃々ちゃんにお願いしたよ。プロデューサーさんと会ったときに開けてもらって、一緒に取り出しておいてって」
「仕事が早いね、助かるよ」
「へへっ、それほどでも」
「……」
飛鳥と紗南が並んで歩きだすのを、ありすは後ろからしかめ面で見ていた。
「…ダメです、私はアイドルなんですから」
そんな自分に気付いたのか、ぺしぺしと頬を叩いて自分を叱咤する。
「…こんな戦いが、いつまでも続けられるわけありません…」
ありすは再び、飛鳥の後姿を睨み付けた。
「早く終わらせるためにも、飛鳥さんには全部喋ってもらわないと…」
そして、二人を追うようにビルの中へと入っていった。
To be continued... See you next Game.
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/17(土) 21:41:39.47 ID:wE4VPC8M0
第四話は
>>75
からです。
平成ライダー序盤でおなじみの不仲ライダーズが顕著な4話です。エグゼイドもあの調子では協力し合うのはずいぶん先そうですねえ
しかしタイトルが仮面ライダーサナなのに紗南ちゃんが1話から戦闘どころか変身すらしてません。ノリと勢いでタイトル付けたからこういう事になる。
4話まで進んで、設定なんかはずいぶん固まってきました。大筋のストーリーも出来てきたので筆がそこそこ進みます。
これからもよろしくお願いします。
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/17(土) 22:56:43.42 ID:ND3p9lBDO
パックマンガシャットに太鼓の達人ガシャット……
シンデレラガールズガシャットはまーだ時間掛かりそうですかねー
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/19(月) 16:55:13.42 ID:S6V+8v290
今気付いたんですけどありすの変身音声間違ってますね…
二つ案を出しててこんがらがっちゃったっぽいです。気を付けます
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/08(日) 11:55:35.13 ID:jLuEf3qBo
待ってる
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/16(月) 12:15:07.84 ID:t5HKc2Ud0
すみません。祖父が危篤で、書いている余裕が無いのでしばらくお休みいたします。
待っている方は申し訳ないです
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/11(土) 00:51:58.04 ID:oXJxFl3lO
本編でもパズルゲーマー出てきたね
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/16(火) 03:11:15.97 ID:dhQa28uB0
待ってます
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/30(火) 06:42:40.32 ID:wUVaEsf8o
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