紗南「仮面ライダーサナ」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:42:47.90 ID:ZTyGLDnn0
仮面ライダーエグゼイド×シンデレラガールズSS
ギャグ要素は基本ないです。シリアスな展開。仮面ライダーエグゼイド要素は変身アイテムくらいで別にクロスものというわけでもありません、あしからず

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1479206567
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:43:46.49 ID:ZTyGLDnn0
「うぐっ、げほぉっ」

スーツ姿の男が、大きくむせて尻餅をついた。
彼は先程まで、5メートルは手前にいたはずだった。そして今その場には、赤いリボンが様々に巻き付いた怪物が掌を突き出した姿勢で立っている。

「弱い…」

怪物は、反響する女性の声で呟いた。

「『まゆは俺が守る』…?あなたたちは所詮私たちに成り代わるだけの卑小な存在…非力を知りなさい…」

「おごっ…げほぁ…」

スーツ姿の男…アイドル事務所「御白(ミシロ)プロダクション」のプロデューサーは、フラフラと立ち上が…ろうとして

「ぐぅぅ…」

どさ、と再び崩れ落ちた。体の丈夫さだけが取り柄で、若い頃といえば喧嘩負けなしの「鬼神」と呼ばれた男だったが
眼前の怪物は文字通り「人外の強さ」であった。

(すまん…まゆ…俺は、お前を…大切な担当アイドルの一人も、守れない男だ…)

プロデューサーの歪んだ視界には、怪物の後ろ、桃色のワンピースに身を包んだ少女に向けられていた。
佐久間まゆ。彼の担当するアイドルの一人…彼に好意を抱き、彼を追ってアイドルになった少女。
そして彼もまたその少女の好意に答えるように、精一杯守り、プロデュースしてきた。
…なのに今は、薄汚れた地面に横たわりピクリとも動かない。

「私にはわかる…お前の死によって、私は完全な姿になる…」

リボンの怪物はゆっくりとした足取りで、プロデューサーににじみ寄っていく。
まるで彼を…そして虚ろな目でそれを見つめるしかできない少女を絶望させるかのように
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:44:16.26 ID:ZTyGLDnn0
(いや…プロデューサーさん…いや…!)

「ま、ゆ…!」

まゆの心の叫びが、プロデューサーの手に取るように分かった。

「さぁ…これで…」

「…!」

怪物が腕を振りかざした。
プロデューサーは、思わず目を強く閉じた。夢なら覚めてくれ、と浅はかな希望に縋って

「……」

5秒、10秒…体感時間が伸びていく。何も起きない

「夢…?」

浅はかな希望が叶ったのか、しかし確かな痛みが現実であることを伝えている。
プロデューサーは目を開いた。
眼前に、ショッキングピンク色の、もう一人の怪物…否、人型が立ち塞がっていた。

「えっ…?」

思わず声を上げた。当然だ、その人型は、振り下ろされた怪物の腕を、クロスした両腕で見事に受け止めていた。
その両足は、軽くアスファルトに沈み込み、衝撃の強さを物語っている。しかし…

「…フンッ!」

人型が力を込めると、バシッ!と怪物の腕が弾き返された。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:46:07.63 ID:ZTyGLDnn0
「…貴様、何者」

リボンの怪物は数歩後ずさり、怪訝な声を上げた。

「…仮面ライダー」

「仮面…ライダー?」

今度はプロデューサーが怪訝な声を上げる番だった。

「仮面ライダー…って、日曜の朝にやってる特撮の…あれか…?げほっ」

彼は再び咳き込み、地面に手を付いた。

「…大丈夫か?立てるか?」

人型は、眼前の怪物を見据えたまま彼を労わるように話しかけた。

「…ああ、ああ、大丈夫…体の硬さだけは、自信がある」

フラフラとしながらも、プロデューサーは立ち上がる。

「まゆさんを、早く安全な場所へ」

「…ああ、分かった」

フラフラとしながらも、彼は自分のアイドルの元へと歩みを進める。
怪物は、生気のない瞳でそれを睨みつけたが、しかし動きはしなかった。

「邪魔をするな…」

再び眼前を睨みつける怪物。その目線の先に立つ"仮面ライダー"が、ゆっくりと拳を構えた。

「いいや、するね。それにこれは邪魔なんかじゃない。"正義"だ」

プロデューサーはまゆを抱え、建物の影へと消えていった。

「さあ、『ノーコンテニューでクリアしてやるぜ!』」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:47:54.66 ID:ZTyGLDnn0
――――数週間後

「よっし!クリアー!」

「…むぅ、本当にすごいですね紗南さん。私が何度も挑戦してようやく突破したところを、こんなにもあっさりと」

アイドル事務所「御白プロダクション」の1ルーム。二人の少女が携帯ゲーム機をそれぞれ手に、楽しげにはしゃいでいた。

「パズルゲームっていうのはさ、全体を素早く見てどれを動かしたらつながるかを把握するのが大事なんだよ。
 ありすちゃんは頭もいいんだし、すぐ出来るようになるって!」

「橘です。…そう簡単に言わないでください、勉強ができるのと、ゲームが出来るのは違うんですよ」

ありすと呼ばれて不満げな顔をした少女は、再びゲーム画面に向き直る。

「ほら、ここはこうすれば…」

「黙っていてください。私だって……」

もう一人の三つ編みの少女、紗南は、ありすのゲーム画面をなぞって攻略法を教えるが、素直じゃない彼女は受け入れない。
しかし、他の解法は見つからない。

「…むぅ」

渋々といった様子で、ありすは先ほど紗南がなぞった通りにパズルのドロップを動かした。
ビシビシバシッ!
小気味良い音が響き、カラフルなドロップが次々消えていく。

『ステージクリアー!』ピロピロリーン

「やった!」

「…なんだか飽きました」

「えっ!?」

紗南が喜んだのも束の間、ありすはゲーム機をぽいとテーブルに放ってしまった。

「紗南さんが教えてくれるんじゃ、パズルの意味ないじゃないですか。自分で考えなきゃ楽しくないです」

「そっか、そうだよね…ごめん」シュン

「別に…そんなに落ち込まなくてもいいです」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:48:56.12 ID:ZTyGLDnn0
ありすは再び放ったゲーム機を手に取り、側面に刺さっていたカセットを抜いた。
大きなグリップのついたカセットには『パズル&ウィッチーズ』と書かれている。

「紗南さんの持ってるゲーム、貸してくれませんか」

「え?」

「私が得意そうなのでお願いします」

「…うん!いいよ!どれがいいかな〜」

紗南は先ほどの落ち込みようもどこへやら、自分のポーチをゴソゴソと探り始めた。
と、その時だ。

ゴトンッ

「…ん?」

部屋の入り口で、何かが落ちるような音がした。

「何でしょう…?」

「なんか落ちるようなものあったかなあ?」

二人はソファから立ち上がり、入口へ
そこには、なんとも形容しがたい、派手な色をした物体と

「…ゲームガシャット?」

大きなグリップの付いた、先ほどと同じ形状のゲームカセットが落ちていた。

「これ、パズル&ウィッチーズのガシャットですね…私のじゃありませんよ?」

「分かってるよ、こっちは…ゲームセンター14(フォーティーン)じゃん!今日発売の!」

「…確か、14種類のレトロゲームが収録されたガシャットでしたよね」

「うん!私欲しかったんだー!ねえねえ、これやろうよ!」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:49:57.14 ID:ZTyGLDnn0
「えっ…ダメですよ!誰かの落し物なんですから、プロデューサーさんに届けないと…」

「ちょっとだけ!お願いっ!」

「…まあ、プロデューサーさんもまだ帰ってきませんし、それまでなら」

「やった!ありがとうありすちゃん!」

「だから橘です!」

紗南はウキウキした様子でソファに戻ると、ガシャットをゲーム機に差し込んだ。

「…あれ?」

「どうかしましたか?」

「…始まんない、おかしいなー接続が悪いのかな?」

紗南は一旦ガシャットを抜くと、端子にフッと息を吹きかける。

「…それやると錆びるからダメなんですよ?」

「えー、でもこれ効くよ?」ガシャッ

「…やっぱりつかない」

「故障品でしょうか…」

「そっちのパズウィチも貸して」

「パズ…?ああこれですか」

ありすは手に持っていたパズル&ウィッチーズのガシャットを渡す。

「んー、こっちもダメだ。動かない」

「…あ、あれが関係あるんじゃないですか」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/15(火) 19:50:19.92 ID:o8Ri6RhTo
このスレは南条ちゃんに監視されています
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:50:47.30 ID:ZTyGLDnn0
ありすは再び入口へ行き、一緒に落ちていた形容しがたい形状の塊を拾う。

「…ほら、ここに端子があります。差さりそうです」

「…でもこれ、どう見てもゲーム機には見えないよ?」

「でも、一緒に落ちてたんですし…何か関係あるはずです」

「ま、やってみればわかるか」

紗南はくるりとゲームセンター14のガシャットを回す。その時、ガシャットの隅がカチリと凹んだ。

「ん?」

『ゲームセンター14(フォーティーン)!』ピロピロパローン!

「うわっ!」

「きゃあっ!」

その途端、ガシャットからタイトル音声が流れ始めた。思わず持っていたもの取り落とす紗南とありす。
ガシャットの端子は黄色に発光し、そして差し込み口もまた、呼応するように明滅し始める。

「…!紗南さん、後ろ!」

「えっ?」

目を見開いて後ろを指差すありす、振り向く紗南。
紗南の背後の空中に、「GAME CENTER 14」のタイトル画面が浮かび上がっていた。

「何、ですか、これ…」

「新型の、ゲームガシャット…?」

「まさか!何もなしに空間に映像を映し出す技術なんて聞いたことありません!そもそもどうやってプレイするんですか!」

「…これだ!」

紗南は足元にあるデバイスと、ガシャットを拾い上げる。
途端に、紗南の脳内にイメージが流れ込んできた。使い方のイメージだ。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:52:16.87 ID:ZTyGLDnn0
「…説明書ってわけね」

紗南がニヤリと笑う。

「ちょっと、紗南さん…?」

怪訝な顔をするありすをよそに、紗南はそのデバイスを腰に当てた。
シュイイン、ガチッ

「えっ?」

デバイスからベルト帯が伸び、紗南の腰に固定される。
紗南はガシャットを構えた、自然と口から言葉がこぼれた。

「…変身!」

そして、ガシャットをスロットに差す!

『ガシャット!』
『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』

『アイムア…アイドル!』

「きゃっ!?」

まばゆい光が、紗南を包み込んだ。

「紗南さん!?」

一人事態の飲み込めないありすだけが、紗南の安否を気遣う。

「大丈夫、使い方はわかるから!」

紗南の声が聞こえ、光が収束していく
その中から現れたのは

「…紗南、さん?」

「うん!」

「…なんですか、その姿」

「…うわ!なんだこれ!」チョーン

紗南の姿はありすよりも背の低い3頭身の姿になっていた。
衣服も先ほどとは違う、まるでアイドル衣装のようだ。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/15(火) 19:53:29.55 ID:PYnUNdoJ0
レベル1はぷちデレラ状態なのか
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:53:45.35 ID:ZTyGLDnn0
「と、いうか…本当に大丈夫なんですか…?これ、生きてるんですか…!?」

ありすは目を白黒させっぱなしだ。

「う、うん…体は何ともないよ。あ、というかそうだ、ゲーム!これはゲームなんだから…敵はどこだー!?」

「え、え?何言ってるんですか!ここは現実です!敵なんているはず…」

「きゃああああああっ」

とその時、外から悲鳴が聞こえた。

「ああもう!今度は何ですか!」

ありすはもう付いていけないとばかりに窓から外を、広いプロダクションの敷地を見渡して

「…もうイヤ」

そのまま崩れ落ちた。

「ありすちゃん!?大丈夫?」

3頭身のままの紗南がそれを支える。そして紗南も外を見た。
奇妙なでこぼこしたオレンジ色の球体が、そこにあった。

「なんなんですか…さっきから訳のわからないことばかり…ゲームのしすぎですか?これは現実ですか?」

「大丈夫、現実だよありすちゃん。待ってて、今終わらせるから」

「えっ…?終わらせるって、何を」

ありすが顔を上げたとき、すでに紗南は窓から飛び出していくところだった。

「…っちょ、ここ5階!」

ありすが慌てて下を覗く。
紗南は着地と同時に前転、そのままスタッと立ち上がった。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:56:05.93 ID:ZTyGLDnn0
「おいそこの!」

紗南はそのまま、オレンジ色の物体を指さし呼びかけた。

「このゲーマーアイドル、紗南が相手だ!」

「…紗南?なのか?」

すぐそばから声がした。紗南が振り向くと、スーツ姿の偉丈夫がそこにいた。

「あ、Pさん…ちょっと待ってて、これクリアしたら説明する…からっ!」

「うおっ!?」

オレンジの球体が泡だったかと思うと、一瞬にして拳が生え、紗南を殴りつけんとした。
紗南は素早く前転し回避。

「それっ!」

そのままの勢いで殴りつける。オレンジの物体は苦し気にうごめいた。

「そらそらそらそら!」

畳みかけるようなジャブ。
それはさながら、ゲームセンター14に収録された「シティファイト」の技「マシンガンジャブ」を彷彿とさせた。

「ここでドラゴンアッパー!」

「からの↓↑←+P!地殻割り!」

強烈なアッパーカットからの、急降下での蹴り。シティファイトの鉄板コンボだ。

「おまけに、覇気弾!」

これは彼女のオリジナルコンボ。素早いコマンドでさらに衝撃波を浴びせかける。大ダメージ!

オレンジの球体は苦し気に泡立ちながら、分解、消滅していく。

「よっしクリアー!楽勝だね!」ブイ

「紗南さん!」

「ありす、オイこりゃどういう事だ」

息を切らしてプロダクションビルから出てきたありすにプロデューサーは駆け寄った。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 19:58:58.22 ID:ZTyGLDnn0
「私だって知りたいですよ!急に…急にあの、紗南さんが腰につけてるのが入り口に落とされて、それで…」

ありすは咳き込み、頭を抱えた。まだ混乱しているのだ

「クッソ…話はあとで聞く、とりあえず避難だ。おい紗南!お前も!その姿も後で聞く!」

「まだだよ!」

「…ハァ!?」

「第二ラウンド…あるみたい」

紗南は分解消滅したオレンジ色の物体を見据えた。
オレンジ色の粒子が、人の形を取っていく。

「ああ…全く、二度と邪魔だては入らないと聞いていたのに…」

粒子が固まり形作られたのは、カウボーイハットのような意匠を持つ、ガンマン風の怪物だった。

「…あれは」

プロデューサーは思い出す。数週間前の事を
リボンの怪物に襲われた時のことを

「…クソ、もう二度と俺のアイドルをあんな目に合わせてたまるかよ…!」

プロデューサーは走り出そうとした。だが、袖を掴まれてたたらを踏んだ。

「…ありす」

「嫌です…プロデューサーさんがいなくなるのは、嫌です。
 また、まゆさんの時みたいにボロボロになって帰ってくるんですか?もう、あんな姿のプロデューサーさんは見たくないんです」

「……すまん、でも」

「大丈夫だよPさん」

紗南が怪物を見据えたまま言った。

「あたしは、最強のゲーマーアイドル、三好紗南だよ!」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 20:00:16.10 ID:ZTyGLDnn0
「おい、何言って…」

「おいおい、レベル1で歯向かう気か?」

プロデューサーの言葉をさえぎって、ガンマン風の怪物は腰のホルスターから二丁拳銃を取り出すと、クルクルと弄んだ。

「レベル…?ああ、なるほどこれね」

紗南はベルト中央、ピンク色のレバーに手をかけた。

「くく…戦いはフェアで行こうじゃないか。それがオレの流儀だ」

「へえ、物分かりいいじゃん。じゃ、遠慮なく!」

紗南はレバーを右へと開く。

『ガッチャーン!』
『レベルアップ!』
『2(トゥー)!4(フォー)!8(エイト)!16(シックスティーン)!ゲームセンター14(フォーティーン)!』

開かれたベルトから光と音声があふれ出し、それとともに紗南の姿がギュン!と切り替わる。
以前と同じ頭身に戻り、伸びた腕に、足に、新たな衣装のディテールが組み込まれる。

「さあ、第二ラウンド開始だ!」

「ハハハッ!いいぜェ!」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/15(火) 20:01:48.80 ID:PYnUNdoJ0
ゲームパフォーマーみたいな感じか
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 20:02:38.27 ID:ZTyGLDnn0
「クソ…何がどうなってやがるんだ…ありす、大丈夫か?」

紗南とガンマン怪人の戦いから逃げるように、プロデューサーはありすの手を引いて広場を横切っていく。

「…少し、落ち着いてきました。
 ! プロデューサーさん、あれ!」

ありすが戦いあう二人の後方、倒れた人影を指さした。
桃色のパーカー、ハネっ毛。

「あれは…未央!?」

自分の担当ではないが、同じプロダクションのアイドル。
それも、最近で一番人気のユニット「ニュージェネレーションズ」のリーダーを務めるアイドルだった。

「クソ…巻き込まれたのか…?ちょっとここで待ってろありす!」

「えっ!プロデューサーさん!?」

プロデューサーはありすの手をほどき、未央のもとへ走り寄る。

「未央!おい未央!」

「プロ、デューサー…?」

「ああ、あ、いや、お前のプロデューサーではないが」

「へへ…同じプロデューサー、じゃん…」

「おい、しっかりしろ…!どうしたんだ、どっか怪我は!?」

「無い…と思う。でも、体が重くって…」

「待ってろ、安全なところに…」

「おっとお!ソイツは置いていってもらおうか?」

「!」

未央を抱えたプロデューサーの眼前に、ガンマン怪人が立ち塞がった。

「くそ…俺は、もう二度とアイドルを傷つけないって、決めたんたぞ…」

「ハッ!なら守ってみせなァ!うごあ!?」

ピストルを構えたガンマン怪人の腕に、光の矢が突き刺さった。

「あんたの相手はあたしだよ!」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 20:05:04.24 ID:ZTyGLDnn0
「紗南!」

その手には、いつの間にか弓が握られている。

「はぁぁぁ…」

紗南がそれをつがえると、光の矢と弦が引き絞られた。

「ッチ!」

ガンマン怪人は襲い来る矢をピストルで迎撃する。プロデューサーはその隙に未央を連れて屋内へ、ありすもそれに続いた。

「どうした!そんなもんかァ!?」

ガンマン怪人はプロデューサー達を諦めたのか、両手で二丁拳銃を乱射し、次々に紗南が放つ矢を迎撃していく。

「へへっ、まだまだ!」

紗南は弓を横にもち、再び矢を引き絞る。
引き絞られた矢が三本に分かれる。ゲームセンター14に収録された「ロビンフッドの伝説」で主人公ロビンフッドが使う技だ。

「はぁっ!」

3方に放たれた矢は曲線軌道を描いて、全てがガンマン怪人に向かう。

「何っ!?ぐおっ!」

予想外の軌道に不意打ちを食らった怪人が大きくよろめく。

「そろそろトドメといこうか!」

紗南は武器を投げ捨て、ベルトからガシャットを引き抜く

「フッ!」

慣れた手つきで端子に一息吹きかけると左腰にあるスロットへと差し込んだ。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 20:06:00.48 ID:ZTyGLDnn0
『キメワザ!』

「はぁぁ…!」

わずかな溜め、その後、スロット脇にあるボタンを押す。

『ゲーセン・クリティカルストライク!』

「たぁぁぁぁっ!」

そのまま短い助走の後、低空を一直線に飛ぶ槍じみた飛び蹴り。身を立て直したばかりのガンマン怪人は、それをモロに受けた。

「ぐあああああああっ!」

紗南はそのままガンマン怪人を蹴り押し込み、奥の壁へ叩きつける。

「もいっちょ!」

そしてその反動で浮き上がり、廻し蹴りを叩き込んだ。

「がああああああっ!」

電子の爆発が生まれ、ガンマン怪人が0と1の粒子となって霧散した。

『ゲームクリアー!』パパパーパ パラッパー

ベルトが音声とファンファーレを流す。

「よっし!あたしに負けはない!」

紗南は爆発を背景にガッツポーズ。

「おい、紗南!」

「あ、Pさん」

声をかけられ振り向いた紗南は、無意識的な動きでレバーを戻し、ガシャットを引き抜く。

『ガッチャーン↓』
『ガッシューン』

紗南が纏っていたアイドル衣装は01粒子となって消え去り、元通りのパーカーと短パンの姿に戻る。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 20:07:32.96 ID:ZTyGLDnn0
「お前…今のどういう事だ。どうなって…」

「どうって…ゲームだよ!新しいの!ほら!」

「今のどこがゲームなんだ…これは没収だ」

プロデューサーは差し出されたガシャットを取り上げる。

「えっ!?なんで!?」

「なんではこっちのセリフだ!お前は大切な俺の担当アイドルなんだぞ…危険な目に遭わせられるか…!」

「紗南さん」

プロデューサーの後ろから、ありすが顔を覗かせる。

「少し前、プロデューサーさんが、まゆさんを連れてボロボロで帰ってきたの、知ってますよね?」

「ああ…うん…」

「…実はあの時、さっきお前が倒した怪物に似たやつにやられたんだ」

「えっ」

驚きを隠せない様子の紗南、小さく頷くありす

「さっき聞いたんです…だから、プロデューサーさんは、もう二度とアイドルに危ない目に遭わせたくないって」

「あの怪物が何なのか、お前がどうしてあんな姿になってたのか…今はそんな事はどうでもいい、お前らが無事でいてくれなきゃ…俺は困るし、辛いんだよ」

「Pさん…」

「だから、もう二度とあんな真似はするな…だからこれは没収だ」

「…わ、わかった。ごめんなさい…」

「いいんだ…しかし、一体どこの誰がこんなものを…」

プロデューサーはゲームセンター14のガシャットを見つめる。
そんな彼を、遠巻きに見つめるのはひとりの少女。

「…大丈夫さ、すぐにまた、必要になる」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 20:10:27.83 ID:ZTyGLDnn0


「…未央、未央!」

「ん…あれ…?」

「未央ちゃん…!」

「うわっ、しまむー…しぶりん…?」

「未央が倒れたって聞いて、飛んできたんだよ」

「良かったです…未央ちゃん〜…」

「ああ、よしよし…ごめんねしまむー、心配かけちゃって」

「何かあったの…?ただ倒れたって聞いて来ちゃったんだけど」

「えっと…あれ?なんだったっけ…なんか、怖い目にあったような…」

「ええっ、未央ちゃん…誰かに襲われたとか!?」

「あ、いや、そういうんじゃなくて…むしろ誰かに、助けてもらったよう、な?」

「…なんだかはっきりしないね」

「ぅうん…なんだろうこれ、よく思い出せない…」

「でも、未央ちゃんが無事で良かったです〜」グスグス

――――……

「…不思議なことに、未央や周囲にいた人たちは、あの惨劇をまるで覚えていないか、知らない様子だった」

ニュージェネの担当プロデューサーからの未央の容態報告メールを閉じて、プロデューサーは複雑な表情を見せた。

「そんな、あんなに非常識で大きな騒ぎだったのに…」

「でも、あたしたちは覚えてるよ?」

「そう、俺たちだけ…覚えてる。何がどうなってんだ、一体」

あの事件の後、まるで悪い魔法にでもかかったかのように、あたし達の日常は一変してしまった。
でもこれは、ほんの始まりに過ぎなかった。あたし達は、既に逃れることのできない流れに飲み込まれてしまっていたんだ。


To be continued... See you next Game.
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/15(火) 20:13:45.09 ID:ZTyGLDnn0
続きます。たぶん
「何!?ライダーアイドルといえば南条光ではないのか!?」と思うかもしれませんが、ご安心ください、登場予定はありますよ。というか既に登場してます。って言っちゃうと分かっちゃうかな?
現実世界にライダーがいたら、みたいな雰囲気の割とハードなシリアス展開を予定しています。平成1期っぽい感じ?

あと続きものなんでコテとか付けたほうがいいですかね?そういうの書くの初めてなもので
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/16(水) 00:17:35.32 ID:/zvxClF3o
ここで投下しつづけてくれるならなくてもいいかな?
期待しつつまってるよ
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/17(木) 16:49:43.60 ID:GL4IIYHy0
ちょっときになる部分があったので加筆修正してます。
タイトルも勢いで付けてしまったので何かもうちょっと凝りたいような…ような…

今更ですね
ともかく上の一話は>>18以降をちょっと修正したので今夜投下します。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/17(木) 22:40:50.20 ID:GL4IIYHy0
ちょっと今日中は無理だった。
すみません明日に
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/18(金) 15:38:04.18 ID:5izXiM2w0
お待たせしました。修正版を投下します。
と言っても>>18-19だけなんですけどね
以降はこんな事のないようにもっと推敲してから投下したいです
27 :>>18改稿 :2016/11/18(金) 15:39:11.95 ID:5izXiM2w0
「紗南!」

その手には、いつの間にか奇妙な形の弓が握られている。
ベルトが光を明滅させながら叫んだ。

『ガシャコンセイバー!』

「はぁぁぁ…」

紗南がそれをつがえると、光の矢と弦が引き絞られた。

「ッチ!」

ガンマン怪人は襲い来る矢をピストルで迎撃する。プロデューサーはその隙に未央を連れて屋内へ、ありすもそれに続いた。

「どうした!そんなもんかァ!?」

ガンマン怪人はプロデューサー達を諦めたのか、両手で二丁拳銃を乱射し、次々に紗南が放つ矢を迎撃していく。

「へへっ、まだまだ!」

紗南は弓を横にもち、再び矢を引き絞る。
引き絞られた矢が三本に分かれる。ゲームセンター14に収録された「ロビンフッドの伝説」で主人公ロビンフッドが使う技だ。

「はぁっ!」

3方に放たれた矢は曲線軌道を描いて、全てがガンマン怪人に向かう。

「何っ!?ぐおっ!」

予想外の軌道に不意打ちを食らった怪人がよろめく。

「まだまだ!」

紗南は弓の中央に印された四つのボタンのうちの一つ、槍の刻印が施されたものを押す。

『ド・シューン!』

弓の反り部分がパタンと閉じ、一直線の槍のような形状になった。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/18(金) 15:41:08.76 ID:5izXiM2w0
「そぉ…りゃあっ!」

それをやり投げの要領で投擲する。さながら収録された「バルーンバトラー」の槍攻撃だ。

「ぐふぅっ!」

体勢を立て直したばかりのガンマン怪人はそれをモロに受け、奥の壁にまで吹き飛ばされそのまま縫い止められた。

「ぐぬ…う、動けん…!」

「さあ、トドメだ!」

槍を引き抜こうとするガンマン怪人
紗南は決断的に叫ぶとベルトからガシャットを引き抜く

「フッ!」

慣れた手つきで端子に一息吹きかけると左腰にあるスロットへと差し込んだ。

『ガシャット!』
『キメワザ!』

「はぁぁ…!」

わずかな溜め、その後、スロット脇にあるボタンを押す。

『ゲーセン・クリティカルストライク!』

「たぁぁぁぁっ!」

猛烈な助走、その勢いをのせたまま、ガンマン怪人へ強烈なボレーキックを叩き込んだ。

「がああああああっ!」

電子の爆発が生まれ、ガンマン怪人が0と1の粒子となって霧散した。

『ゲームクリアー!』パパパパーパーパッパラー

ベルトが音声とファンファーレを流す。

「よっし!あたしに負けはない!」

紗南は爆発を背景にガッツポーズ。

「おい、紗南!」

「あ、Pさん」

声をかけられ振り向いた紗南は、無意識的な動きでレバーを戻し、ガシャットを引き抜く。

『ガッチャーン↓』
『ガッシューン』

紗南が纏っていたアイドル衣装は01粒子となって消え去り、元通りのパーカーと短パンの姿に戻る。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/18(金) 15:43:27.42 ID:5izXiM2w0
以上です。
すっかりライダーでおなじみになった「専用武器の名前読み上げ」が無かったのと変形機構出すの忘れてたのでそれを追加した次第です。
キックのイメージはガタックのライダーキックをイメージしてます。飛びまわし蹴りですね。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/18(金) 15:48:08.54 ID:5izXiM2w0
おまけ:専用武器解説。

『ガシャコンセイバー』
・ゲームセンター14で紗南が変身した際に呼び出す「4段可変武器」
・中央の四つのボタンによって「剣」「弓」「槍」「槌」の4種類に変形する。
・ガシャコン武器特有の「Bボタンによる強攻撃」は存在しないが、ゲームセンター14に収録されたゲームの主人公が使う技を自在に使える。
・紗南のゲーム知識と相まって変幻自在な戦い方を行う。
イメージ
http://i.imgur.com/DBku4Ox.png
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/20(日) 01:40:56.47 ID:+ZkGAdKU0
乙!
昨日ゲーマドライバー買ってきたから自分的タイムリーな内容ですな
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:08:17.62 ID:qJIGiTwi0
お待たせしました。二話が完成したので投下します。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:08:49.88 ID:qJIGiTwi0
「じゃあ、俺はまゆのとこにお見舞いに行ってくるから」

「あ、行ってらっしゃいー」

「気をつけて」

「ああ…」バタン

「………」

「………」

あれ以降、なんだかこのルームの空気が少し重くなったようだった。
紗南は相変わらずゲームに夢中だが、ありすがそわそわと常に落ち着かない様子になっていた。

「…大丈夫だよありすちゃん。Pさんは強いし、体も丈夫だし」

「橘です。…今日はそうじゃなくて、ですね」

「なにか予定でもあるの?」

「…っ、まあ、そうです。気にしないでゲームしててください。こういう時だけ気を遣われても困ります」

「それもそっか」

紗南は再びゲーム機に目を落とす。
楽観的なものだ、つい先日、怪人と戦った張本人だというのに。

「…紗南さんは、あれ、なんとも思わなかったんですか?」

「あれ?」

「先日の、騒ぎです。誰も覚えてませんけど」

「ああ…うーん、やってる間はさ、ただゲームをしてる感覚だったんだよね。特に違和感とか、おかしいなとか思わなかったし、今でもそんな感じ」

「…それって、おかしくないですか。いや、もう全部おかしいですよ。あの騒ぎを私たちしか覚えてないことも、そもそもあのガシャットは誰が持ってきて、私たちのルームの前に置いたんですか?」

「確かに気になるけど…気にして分かることだったら苦労はしないよ」

紗南はゲーム機をパタンと閉じる。
紗南のその行動の異常さは、ありすもよく知っていた。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:09:57.94 ID:qJIGiTwi0
「…紗南さん、割と気にしてたんですね」

「…うん、まあね。」

紗南は再びゲーム機を開く。
と、ルームの扉がトントンと小さくノックされた。

「…!」

「?」

ありすは途端に顔をパァっと輝かせ、紗南は怪訝な顔をした。
カチャ、と扉が開き、顔をのぞかせたのは

「あの…ありすちゃんは…」

「文香さん、お待ちしてました。準備は出来てます、さ、行きましょう!」

「あ、はい…」

「用事って、文香さんとか…」

鷺沢文香、御白プロに所属するアイドルの一人だ。最近ありすと交友が深い。
というか、ありすの方から積極的に彼女に近づこうとしている節がある。

「仲いいなあー」

「紗南ちゃんも私と仲いいって割と言われるじゃん」

「まあねー、って杏さんいつの間に!?」

ソファの下から滑り出てきたのは双葉杏、実はこれでも17歳…紗南とありすを含んだこのプロジェクトのメンバーで、最年長だ。

「初めから居たんだけどなー」

「そうなんだ…」

「ところでさー、さっきの話」

「えっ?」

「騒ぎって何?」

「…杏さんも、知らない?」

「知らないっつか、全然耳に入ってこないしー」

「…別に、何でもないよ。それよりゲームしよ!」

「え?お、おう」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:10:29.26 ID:qJIGiTwi0
「…ありすちゃん、なんだか機嫌がいいですね」

「そうですか?」

後ろを歩く文香に声をかけられ、振り向きながらありすは応える。

「いつもは、私の横に並んで歩くのに、今日は前を歩いてますから…」

「それは…今日は私が文香さんを先導するんです。前を歩いて当然です」

「それも、そうですね」クス

ありすはプイと前に向き直り、すたすたと歩みを進める。時折、ちらと後ろを確認し、文香がちゃんといることを気にしながら。
口ではこういっているが、今日の彼女は文香の言うとおり上機嫌であった。
なんといっても同じオフ日…しかも祝日だ。空は快晴、出かけるには絶好の日。

(ガシャットとゲーム機は…よし、あります)

(下調べは完璧…まずは…)



…数分後

「ここです」

「お洒落なお店ですね」

「ここのフルーツパンケーキが絶品と評判なんです。今回は、信頼できる情報源なので確かです」

「それは楽しみです…」

店内に入ると、ふわりと焼きたてパンケーキの匂いがふたりを出迎えた。

「信頼できる、というのは、例の"あいぱっど"で調べたのですか?」

「いえ、今回はかな子さんに聞きました」

「あぁ…それは安心ですね」

「本当に信頼できる情報というのは、信頼できる人の口から直接聞くことです」フンス

「信頼できる本、というのも…信頼に足る情報源だと思いますよ?」

「…っそれを言ったら、信頼できればなんでもいい事になってしまいます。それはダメです」

「…ふふ、そうですね」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:11:25.83 ID:qJIGiTwi0
二人はカウンターで注文を終え、席に着く。

「あの、文香さん。一緒にゲームしませんか?」

「ゲーム、ですか。どのような?」

「ビデオゲームです。ほら、持ってきたんです」

ありすは文香の隣に座り、ゲーム機と「パズル&ウィッチーズ」のガシャットを取り出す。

「…私に、出来るでしょうか」

「パズルゲームですから、頭のいい文香さんならすぐ出来るようになると思います!」ガシャッ

「…あれ」シーン

「…どうか、しましたか?」

「あ、いえ…」

(ちょっと、なんで電源が入らないんですか!?)

ありすはガシャットを抜くと、再び差し込もうとして

「あ…」

「…?」

ガシャットの隅にあるボタンに気がついた。正規品に無いはずのボタンに

(こ、これ…あの時の)

それは、最初に紗南と拾った正体不明のガシャットであった。

(そういえば、持ったままでした…それでそのまま間違えて…)

「あのぅ…?」

「あっ、ふ、文香さん、えっと、その」

予想外の事態にしどろもどろになるありすを見て、文香はにこっと笑った。

「大丈夫ですよありすちゃん、また今度、教えてください。私もゲーム…興味出てきましたから…」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:11:56.12 ID:qJIGiTwi0
「文香さん…」

ありすは恥ずかしさに顔を赤らめて俯いた。

「すみません…」

「いいんですよ。今日は、このお店に連れてきてくれただけでも満足です…」

「ほら…パンケーキ、来ましたよ」

二人の前に、イチゴやパイン、ブルーベリーなどが色とりどりに飾られたパンケーキが運ばれてくる。

ありすは、赤い顔をウェイトレスさんに見られないように顔を俯かせたまま元の席に戻る。

「あ、あのっ」

その時だ、二人の机に一人の男性が近づいてきた。
服装や顔立ちから察するに、学生であろう。

「あの…鷺沢、文香さん…ですよね?」

「…はい、そうですが」

それを聞くと、男子学生はぱあっと顔を輝かせた。

「あの、オレファンなんです!サ、サイン貰っても…」

男子学生は手に持っていたキャンパスノートを差し出す。
文香はにこりと笑ってそれを受け取った。

「えぇ…いいですよ」

「や、やった!」

「…むぅ」

それを見て、ありすは不満げに頬を膨らませた。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!応援してます!」

男子学生は緊張した足取りで自分の机に戻っていく。
店を出ていくところだった白衣の少女にぶつかりそうになっていた。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:13:03.43 ID:qJIGiTwi0
「…これから食べようって時に、失礼です」

ありすは不満そうだ、理由はそれだけではあるまい。
文香は神妙な顔をして言った。

「そんなこと言っちゃ駄目ですよありすちゃん、ファンの皆さんには、優しくしないと。
 皆さん、応援してくれてるんですから」

「それは、そうですけど…」

「アイドルの私たちが、不安そうな顔をしていては、ファンの皆さんも不安になってしまいます。
 私たちが笑顔でいることが、皆さんの笑顔に繋がるんです」

「だから…ほら、ありすちゃんも笑ってください。それは私の元気にもなるんですから…」

「…文香さん」

ありすは顔をあげた。
文香は、こめかみに指をあて、辛そうな表情をしていた。

「文香さん…?」

「…あ、いえ、すいません、少し頭痛が…」

「風邪ですか…!?」

ありすは慌てて椅子から立ち上がった。ガタタッ、と大きな音がなり、ウェイトレスが怪訝な顔でそちらを見つめた。

「いえ、そんなことは…先程まで何とも無か…つっ…」ドサッ

「文香さん!?」

文香はありすをなだめようとして立ち上がり、そしてそのまま床に倒れてしまった。

「文香さん!文香さん、しっかりしてください!」

ありすは文香の傍に駆け寄り、肩を揺すった。
しかし文香は辛そうな表情のまま、強く目を瞑ったままだ。

「文香さ…っ!」

そこでありすは見た、文香の白い首筋からオレンジ色の粒子のようなものが泡立つのを
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:14:09.76 ID:qJIGiTwi0
「えっ…?」

ありすは思わず肩から手を離し、固まった。
背後で、先ほどの男子学生が救急車を呼ぶ声が聞こえた。
見えたのはほんの一瞬だったが、ありすは今の「オレンジ色」を知っていた。
いや、知っていたと言うより、見たことがあった。

「そん、な…なんで…」

ありすは尻もちをついたまま、一歩、二歩と後ずさりした。
その指が、カチャ、と何かに触れた。

「…っ」

振り向くと、隣の机の下、シックな床板と机脚にはあまりにも不釣り合いな、「何とも形容しがたい形状の塊」が落ちていた。
そしてそれも同様に彼女は知っていた。

「なんで…なんでですか、なんで、これが…ここに…」

それは間違いなく、紗南が"変身"したあのベルト。

「きゃあああああああっ!」

感情を表に出す暇もなく、悲鳴が店内に響き渡った。こちらを不安げな顔で見つめていたウエイトレスの悲鳴だった。
その視線の先は彼女よりさらに奥、ありすは再び文香のほうへ向き直った。

「文香、さん…っ?」

文香の体中から、オレンジ色の粒子が炭酸水の気泡めいて泡立ち始めていた。
それは瞬く間に彼女の身体を覆い隠し、オレンジ色の泡立つ塊へと姿を変える。

「これ、って…」

ありすは茫然とそれを見つめる。
そしてその中で、不思議な冷静さである答えにたどり着いた。

「あの時の…未央さん…まさか…」

紗南がガンマン怪人と戦っていた時、そのすぐそばで倒れていた未央。
弱ってはいたが外傷は無く、ガンマン怪人が消えるとすぐに安静を取り戻した未央。
オレンジ色の球体がいたときは、あんな目立つ服を着ていたのに誰も彼女に気付かなかった。

そして今、泡立つオレンジ色の物体の中に、文香がいる。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:15:32.63 ID:qJIGiTwi0
「…っ!」

ありすは覚悟したように左の手でベルトを掴むと、ゆっくりと立ち上がった。

「……文香さん、さっき、私の笑顔が文香さんの力になるって、言いましたよね」

左手に持ったベルトを腰に当てる。
シュイイン、ガチッ。紗南の時と同じように帯が伸びて腰に固定された。

「私も、同じです。文香さんの笑顔が、元気な姿が、私を励ましてくれるんです…!」

『パズル&ウィッチーズ!』テテンテテテーン!

そして、右手に持ったままだった「パズル&ウィッチーズ」のガシャットのスイッチを押し込んだ。
タイトルコール、電子音、ありすの背後に「パズル&ウィッチーズ」のタイトル画面が現れる。

「私は、文香さんの笑顔を守ります!自分のために!文香さんのために!」

ありすは力強くガシャットを構えた。

「変身!」

『ガシャット!』
『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』

まばゆい光が視界を包み込む、しかし不思議と眩しくはなかった。

『アイムア…アイドル!』

急速に光が失せる。少し低くなった視界、太く短い指と不釣り合いに広い手のひら。
窓に反射した3頭身のありすの姿は、魔女のような衣装に身を包んでいた。

「…やれます。やらなきゃならないんですから」

ありすはその手をぐっと握りしめる。今更、プロデューサーの顔が頭をよぎった。
彼がこれを知ったら必ず止めさせるだろう。だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
前に目線を向けると、オレンジ色の物体は宙に浮かび、閉じられた本の姿を取っていた。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:17:38.50 ID:qJIGiTwi0
「文香さん…必ず助けてあげますから」

彼女は左腰に装着されたボタンを押した。

『ステージセレクト!』

ベルトが音声とともにまばゆい光を放つ。
光は周囲の風景を溶かして消し去り、新たな景色を映し出す。
そこにあったのはもはや狭い店内ではない、色とりどりの花々が咲き乱れる広大な草原だった。

「…ここは」

ありすはここもまた知っていた。
以前、夕美、藍子、美波…そして文香と共に、撮影で訪れた草原。

…パラパラパラッ

ふいに、眼前のオレンジ色の「本」が開いた。泡立つページから、文字が連なったムチが伸びてありすを襲った。

「…っ!」

感傷に浸っている場合ではない。ありすは素早く横ステップでムチを回避。
反射的に地面を蹴っただけだったが、ひと息に5メートルほども横へと跳んだ。

「すごい…これが、ベルトの力?」

ありすは腰に装着されたそれに触れた。
更なる使い方のイメージが彼女に流れ込んできた。

「…なるほど」

右手を前に突き出す。虚空に01粒子が沸き立ち、棒状に固まると彼女の腕に収まった。
それは、先端に魔法的意匠に加え「Aボタン」と「Bボタン」が刻印された短めな杖であった。

『ガシャコンロッド!』

ベルトが明滅し、その名を叫ぶ。

「パズル&ウィッチーズは、魔女が魔法によって古代の遺跡を解き明かしていくパズルゲーム…だから魔女衣装、そして杖ですか
 魔女の事なら、以前お仕事で調べました。完璧です」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:19:23.05 ID:qJIGiTwi0
本は再びありすに向き直ると文字のムチを放つ。

「はぁっ!」

彼女はその杖を突き出すように振った。
またたく間に光弾が生み出されると、迫りくる文字のムチを打ち砕く。

本は忌々しげに震え、更に文字のムチを放つ。

「何度同じことをしようと…無駄です!」

さらに強く杖を振るう。更に多くの光弾がムチを砕き、本にまで到達。まばゆい光を放って弾けた。
苦し気にオレンジ色の表紙を泡立たせながら、本はよろけて地に落ちる。

「今です!」

ありすは杖を更に振るった。凍てつく冷気が生み出され、氷によって本を地面へと張り付ける。

「はああっ!」

杖を構え、ありすは本へと突撃する。杖が炎を纏い、燃え盛る槍と化す。
本はバラバラッとページをめくった。

「…っ!」

すんでのところでありすは突進を止めた、開かれた本のページからは文字の鎖で捕らえられた文香の上半身が浮き出していた。
確認しなくてもわかる、本物の文香だ。今も変わらず、つらそうな表情で目を閉じたまま動かない。

「文香さ…あぐっ!?」

文香の周囲から文字のムチが現れ、眼前で止まったありすを弾き飛ばした。

「っ…人質という訳ですか。卑怯ですよ…」

ありすは空中で体勢を立て直し着地すると、再び杖を構えた。

(…しかし、あれじゃ迂闊に叩けません)

ありすは注意深く、本の様子を伺う。
それは相変わらずページから触手めいて文字のムチをくねらせ、ありすの動きを警戒している。
文香の姿は再びその泡立つオレンジ色の中へと消えていった。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:21:01.75 ID:qJIGiTwi0
(文香さんは…あの中に、何としても助け出さないと)

(いえ、ダメです。焦ったらまたさっきみたいに…冷静に観察するんです。パズルみたいに)

ありすは目を凝らし注意深く観察した。
そしてページとページの隙間、綴じ目に目を凝らした。

(…いた!)

綴じ目の中、かすかな隙間から、文香の姿が見えた。

「そこ…ですっ!」

ありすはスナップを利かせて杖を振るった。杖先から光の紐が放たれ、綴じ目のかすかな隙間の中へ吸い込まれた。

「は…あっ!」

ありすは足を踏ん張り、思い切り杖を引いた。重い、確実な手ごたえ。
本は動揺したように体を震わせ、紐をちぎらんと滅茶苦茶に羽ばたく。

「観念…するんです、ねっ!」

更に思い切り、紐に手をかけて引く。ずるり、と文香の身体が本の中から引きずり出された。
本は苦し気に泡立ちながら、燃える本のようにチリチリと霧散していく。

「文香さんっ!」

吐き出された文香をありすは受け止める。

「文香さん…文香さんっ」

「…ぁ、ありす、ちゃん…?」

文香は薄目を開け、ありすを見た。
その口元に、かすかに笑みが浮かんだ。

「…ぁりがとう、ございます…」

「…!」

ありすは涙をぐっと堪え、文香をそっと花畑の中へ下ろした。
まだ、終わっていない。ありすは文香を守るようにその前に立つ。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:21:54.88 ID:qJIGiTwi0
「ぐぬぅ…小娘…なかなかできおる…」

霧散するオレンジの粒子は再び収束し、片眼鏡の老紳士めいた怪人へと姿を変える。
老紳士怪人は口元に生えたカールひげを撫でながら、ぎらりとその片眼鏡を光らせた。

「橘です。率直に聞きます、あなた方は何なんですか」

ありすは杖を構え、その眼差しに臆せず言った。

「何、とな?ハハハ、いきなり質問から始めるに飽き足らず「何」とな、ハッハッハ!
 無礼な小娘だ。だがいいだろう…我らは『バグスター』。人間に次ぐこの星の支配者となる存在よ
 よって「何」ではなく「誰」と聞くべきぞ小娘」

「だから橘です。…バグスター?この星の支配者?何を馬鹿げた事を言ってるんですか、ゲームやアニメじゃあるまいし」

ありすは呆れたように呟く。
その呟きを聞いて、老紳士怪人は手をたたいて喜んだ。

「ゲーム!左様、ゲームだよ小娘!ハハハ!」

「…?会話が成り立ちませんね」

「それならそれで良い。さて質問には答えた、今度はこちらから提案だ」

「その後ろにいる娘、その娘の「大切なもの」が欲しい」

老紳士怪人はありすの後ろ、倒れたままの文香を指さして言った。

「…?」

ありすは怪訝な顔をした。

「文香さんの大切なもの…?そんなもの、私に聞かないでください」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:22:32.27 ID:qJIGiTwi0
「…ンフフフフ、分かっていないようだな小娘…それはお前の事だよ!!」

老紳士怪人がマントをひるがえす。その裏からいくつもの文字のムチが現れ、ありすを襲った。

「…っ!」

ありすは反射的に杖を振るった。光弾がムチを砕く、しかし、先ほどより圧倒的にムチの数が多い。

「…このままじゃ!」

ありすは後ろをちらと見る。
倒れたままの文香は、薄目をあけ、ありすを見上げた。

「…文香さん」

「…私は、大丈夫です」

文香はまた、にこりと笑った。そしてまた倒れ伏した。

「…っ!」

ありすはキッ、と高笑いを続けながら際限なく文字のムチを放つ老紳士怪人を睨み付けた。
すべき事はわかっている。今のままでは勝てない、紗南はあの時どうしたか

「…第二ステージ!」

ベルトのレバーへ手をかけ、開いた。

『ガッチャーン!』
『レベルアップ!』
『解き明かせ、古代遺跡。パズル&ウィッチーズ。』

荘厳な音声が流れ、ベルトから放たれたまばゆい光が襲い来る文字のムチを一瞬で焼き払った。

「なぬっ!?」

ありすの姿が流れるように切り替わる。魔女の衣装はより豪華爛漫に、頭身は元に戻り、その頭を01粒子が覆うと鍔広の魔女帽子になった。

「…あなたを倒して、文香さんの笑顔を守ります!」

ありすはガシャコンロッドのAボタンを叩く。

『キュ・イーン!』

シャコッ!と杖の柄が伸び、ありすの身の丈にも並ぶ長杖となった。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:24:04.88 ID:qJIGiTwi0
「ぬぅっ…できるものならやってみるがいい!」

老紳士怪人は再びマントをひるがえす。文字が渦を巻いて彼の周囲を飛び回り、次々とありすへ襲い掛かった。

「はぁぁぁぁ…」

ありすは目を閉じ、長い杖の柄を撫でる。
彼女の周囲に風が生じ、その長い髪とフリルスカートをはためかせる。

「はあっ!」

そして光の蓄積した杖先を天に突き出すように掲げた。
風が解放され、襲い来る文字列を吹き飛ばした。

「何だと!?」

「この程度ですか、今度はこちらの番です!」

ありすは再び杖の柄を撫でる。
紅蓮の光が杖先へと集中し、燃え盛る熱を帯びた。

「はあっ!」

ありすは杖先を地面にたたきつける。途端に、老紳士怪人の足元が赤熱した

「なっ…!」

避ける暇もなく、老紳士怪人は火柱に吹き上げられた。

「ぐおおっ!」

「はぁぁ…っ!」

続いてありすは円を描くように杖を振るう。
杖の軌跡に沿って、次々と光弾が生み出され、宙を舞う老紳士怪人めがけ飛んだ。

「ぬぐうううっ!」

老紳士怪人は腕で必死に光弾を防ぐが、衝撃で更に高く打ち上げられていく。

「さあ、フィナーレです!」ガッシューン↓

ありすはガシャットを引き抜くと、杖先にある端子へと差し込んだ。

『ガシャット!』
『キメワザ!』

「は、ああああああああ…」

ありすは杖を横に持ち、より一層強く長く、杖を撫でる。
極彩色光が稲妻を伴って杖に走り、杖先へと集中していく。

「…ったああああああああ!」

『ウィッチーズ・クリティカルフィニッシュ!』

極太の極彩色光線が杖先から迸り、上空の老紳士怪人を包み込んだ。

「ぐおおおおおおああああああっ!」

極彩色の光に焼かれ、老紳士怪人は01粒子へと分解される。
電子の爆発が生まれ、草原の上空に花火めいて散った。

『ゲームクリアー!』パパパパーパーパッパラー

ファンファーレと共に、草原の景色は消え失せ、元のパンケーキ屋店内へと戻る。

『ガッチャーン↓』
『ガッシューン』

「…っはぁ」

ベルトのレバーを閉じ、ガシャットを引き抜くと、あたりはまるで何事もなかったかのように静寂に包まれた。
ありすがため息を吐くと、遠くから救急車の音が聞こえてきた。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:25:07.08 ID:qJIGiTwi0
――――――――――――――――…

「…ただいま戻りました」

ありすはよろよろと疲れた様子でルームへと戻ってきた。

「おかえりー、あれ、なんか疲れてる?」

「…紗南さん、まだやってたんですか。杏さんも」

「うん、今ねー、100戦サバイバルマッチ中なんだー
 どっちが先にやられるかって」

紗南と杏はそれぞれソファと床に座りながらゲーム機をピコピコと揺らしている。

「今82戦目なんだけど、まだ決着つかなくてさー」

「杏さんに最強ゲーマーアイドルの座は明け渡すもんか!」

「前落ちものパズルで負けてるじゃーん」

「ぐぬぬ…それはそれ!これはこれ!」

「…ハァ」

ありすはため息をついて、ソファに深く腰掛けた。
あのすぐあと、文香はありすの後ろで気絶するように眠っていた。
急いで起こしたが、何が起きたのかまるで覚えていないようだった。念のため救急車で運ばれていったが、おそらくは何ともないだろう。あの時の未央と同様に…

そう、同様に…何も覚えていないまま…

「…なんで、私たちだけ覚えてるんでしょうか」

「…っ、あ」ビロビロリーン

「よっしゃ勝ちー、へへーん、やはり最強ゲーマーアイドルはこの双葉杏様って事だねー」ピロリロリーン

「ちょ、ちょっと気が散っただけだし!今度は勝つから!」

「そうー?」

「……杏さん、さっき部屋の前できらりさんが飴持って待ってましたよ」

「え、マジで!?」スタコラサッサー

紗南の様子から何かを察したありすは、適当なことを言って杏を外へと出す。

「…やっぱり、気にしてるんじゃないですか」

「…バレてたか。いやというか、ありすちゃんも何かあった?」

「まあ、ありました。話すと長くなりますけど、とりあえずこれ」

ありすはそう言って、ポケットから「パズル&ウィッチーズ」の変身ガシャットを取り出す。

「あ、これ…あの時一緒に落ちてたやつか」

「そうです。あと、これも」

ポーチの中に隠したベルトも見せる。

「…もう一つ、同じのがあったの?」

「これは予想ですが…誰か、私たちにこれをこっそり渡しておきたい人がいるんじゃないでしょうか」

「…何のために?」

「それは…わかりません、けど、多分…多分ですよ?
 私たちに…あのオレンジ色の怪物たちを、倒してほしいんじゃないか、って…」

「きらりいないじゃーん!」

杏がもう戻ってきた。
二人は立ち上がり、部屋を後にする。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:26:04.15 ID:qJIGiTwi0
「え、ちょちょ、ちょっと、どうしたのさー」

「…杏さんは、あの事件の事は」

「覚えてない…皆と一緒だよ」

ありすと紗南は歩きながらこそこそと話し合う。

「なんであたし達にあんな怪物たちを?」

「分かりません…分かったら苦労しません。というか、全部私の想像です。正しいという根拠はまるで無いですよ」

「うーん、わかんない!
 …Pさんには?」

「言ったら、どうなると思いますか」

ありすはガシャットをからからと振って聞き返した。

「そっか…あたしと同じように没収されるだけ…だよね」

「…実は、文香さんが――」

「――えっ!?そんな、大丈夫だったの?」

「声が大きいです!
 だから、私はこの事はプロデューサーさんには言いません…また文香さんが危険な目にあったとき、私がこれを使って守ります」

「大丈夫なの…?私も手伝いたいけど、ガシャット没収されちゃったからなあ…」

「一人でできます。子ども扱いしないでください」

「でもやっぱり一人だとさ…」

歩きながら話し合う紗南とありす、その二人と、一人の少女がすれ違った。
キリキリ…キリキリキリ…
長いエクステを付けたその少女は、片手でガシャットをクルクルと回しながら、不意に立ち止まり離れ行く二人を見据えた。

「…フフ、これはまさに運命(デスティニー)と言うべき巡り合わせ、かな?」

少女はパシッ、と回していたガシャットを掴んだ。
そのグリップ端にはボタンがあり、側面には「Devil's Cry」と刻印されていた。


To be continued... See you next Game.
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:29:36.47 ID:qJIGiTwi0
以上です。
今回は2号ライダーめいたありす変身回でした。
ありすの変身後の衣装は「ひかりの創り手」特訓後のイメージです。ありすは魔女っ子が似合うと思います、とっても。
そして最後に登場した変身ガシャットを持つ長いエクステの少女…一体誰なんでしょうねえ…

次回をお楽しみに!
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 23:35:38.52 ID:qJIGiTwi0
おまけ:ガシャット&専用武器解説。
「パズル&ウィッチーズ」
・元はスマホ向けソーシャルゲーム。パズルを解いて、古代遺跡の謎を解き明かすファンタジーRPG
・元ネタは名前でわかると思うけど「パズル&ドラゴンズ」
・ありすがスマホ(パッド)をよく持ってる&ゲームが趣味という設定から「ソーシャルゲームベースで作ろう」という事でこうなりました。

専用武器:ガシャコンロッド
・Aボタンで片手で持てる短杖と身の丈ほどの長杖に切り替わる魔法の杖。
・短杖では隙が少ないが威力の低い魔法が、長杖では威力は高いが隙の大きい魔法が撃てる。
・Bボタンによって同じ魔法を連続発射することができ隙を埋めることが可能。
・魔翌力とかの概念は無く、いくらでも撃てる。強い
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 20:37:59.67 ID:erAEVFXTo

けど>>46の必殺技のところ音声はガシャットの名前の前半分からとるんじゃなかったっけ?
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/21(月) 22:15:20.12 ID:MGZO5BdD0
>>51
そうなんですけど、そうなるとなんか語感が悪いというか…
「ゲーム・クリティカルストライク」とか「パズル・クリティカルフィニッシュ」とか、ひねりの無い感じになるのは嫌だなあーという事で変えた次第でございます。
うーん、でもやっぱりエグゼイドベースだから原型忠実にやるべきでしょうかね?
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/22(火) 07:05:10.75 ID:FPdvp8lkO
それぐらいだったら改変してもいいと思うけど
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/26(土) 18:20:10.60 ID:i+hmHdhjo
乙です
めっちゃ面白いです続き期待
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/08(木) 22:55:29.88 ID:qs0atiLn0
大変お待たせして申し訳ありません。
明日には第三話投下できると思います
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/09(金) 04:00:28.11 ID:iFJoF+TjO
まったた
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/09(金) 19:28:09.32 ID:G2Nxxmny0



第三話:悪しきモノよ、Must Cry。
101.58 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)