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【スペース・コブラ】古い王の地、ロードラン
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727 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/06/24(木) 10:37:30.22 ID:W9cmFSa50
ドザッ!
金属を打ち付ける確かな手応えを足に覚えつつ、コブラは背中から着地。
その姿勢のまま上体を上げて、古木の切り株の方へと目をやった。
コブラ「なにっ!?」
王の器は、切り株に乗ったままだった。
それどころか、蹴る前と比べても微動だにしておらず、足跡ひとつもついていなかった。
クリスタルボウイ「何をするかと思えばそんなことか」
コブラ「!」チャキッ
ヴァオオーーン!!
闇の嵐による不意打ちを喰らう寸前、コブラは咄嗟にサイコガンを抜き、サイコエネルギーで嵐の威力を軽減した。
しかし、なおも闇は重く…
コブラ「ぐふっ!」ズガーッ!
コブラは宙を舞い、その身を石の扉に叩きつけられた。
クリスタルボウイ「器は俺を選んだのだ。俺以外に、アレを操作することはできん」
コブラ「…ああ、そうみたいだな」ゴホ…
石の門の前で、コブラは起き上がりつつも、何やら手元を気にしている。
クリスタルボウイ「ほう、まだ奇策があるというのか」
コブラ「ああ、あるぜ」ピシュッ
クリスタルボウイの頭目掛けて、コブラはワイヤーフックを発射した。
そのフックをクリスタルボウイは頭を傾けて交わすと、鼻で笑いつつコブラに近付く。
コブラ「これだ!」ダッ!
ワイヤーフックはクリスタルボウイの後方、崖の側の石床に引っかかっていた。
コブラはウィンチの巻き上げをフルパワーのまま固定しており、巻き上げが生む推力と、自身の足が生んだ推力で、弾丸のように速さでクリスタルボウイに突撃し…
ドガァーーッ!
その透明な胴体に、強烈なタックルを決めた。
クリスタルボウイの脚は宙に浮き、コブラ共々崖に向かって突っ込んでいく。
ズザザッ!
そして、崖の手前でコブラは急停止し…
ブワッ!
跳ね飛ばされたクリスタルボウイは、奈落へと堕ちていった。
クリスタルボウイ「お前にはガッカリしたぞ、コブラ」ズオォ…
しかし、クリスタルボウイは奈落から再び現れた。
暗い空中に浮遊する宿敵の姿に、コブラは思わず疲れ笑いを浮かべた。
728 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/06/24(木) 12:00:05.24 ID:W9cmFSa50
コブラ「やれやれ、ここはラスベガスじゃないんだぜ?マジックショーは間に合ってるだろ」
クリスタルボウイ「そう言うな。奇術が下手なお前に、この俺が本物の奇術を教えてやろうというのだ。ありがたく頂戴しておけ」スッ…
コブラ「!」
ブゴワァッ!
クリスタルボウイが左手をコブラにかざすと、その掌から闇の飛沫が放たれた。
コブラは転がるようにそれらを回避し、回避の終わりぎわに片膝を立てて発砲姿勢を取り、今度はマグナムを二度撃った。
ドウドウーッ!
クリスタルボウイ「フフフ…」カンカァン!
コブラ「くーっ!やっぱりこの弾じゃダメかぁ」
マグナムの弾は尽きて久しい。
装填されているものも、控えているものも、弾丸は全て巨人の鍛冶屋の急増品である。
今や何でできているかも分からない、クリスタルボウイの透明なボディには、傷はおろか埃もつかなかった。
コブラに打つ手なし。
そう判断したクリスタルボウイは、王の器のもとにゆっくりと降り立つ。
コブラ「やめておけ!そいつに指一本でも触れてみろ!後悔することになるぜ!」
クリスタルボウイ「ならば止めてみろ。できるものならな」
器の中心に、クリスタルボウイの左手が置かれると、器の中心に水が溜まっていく。
だが水は、水というにはあまりに暗く、澱んでおり、奇妙な温もり、懐かしさを感じさせる気を纏っている。
おそらくそれは、人の、闇の郷愁なのだろう。
クリスタルボウイ「マジックショーと抜かしたな」
クリスタルボウイ「生憎、ショーが始まるのはこれからだ」
729 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/06/24(木) 13:13:48.32 ID:W9cmFSa50
ジークマイヤー「おおりゃー!!」ブォン!!
ジークマイヤーが横振りに振り回した特大剣を、子の仮面は転がって回避し、その勢いのままビアトリスに向かう。
ガギャアッ!!
その仮面の悪霊に向かってオーンスタインは槍を振り上げた。
しかし、その槍先は結晶の盾に防がれ、刃は通らず、雷も悪霊を十分には焼かなかった。
ただ、衝撃は悪霊に伝わったために、子の仮面はローガンに向かって跳ね飛ばされた。
シュゴォーッ!!
ローガンは向かってくる子の仮面に向かい、ソウルの槍を放った。
一方、子の仮面は背中から抜いた大剣を石床に突き立てて身体を止め、そのクレイモアを放置して、ヘッドスライディングの形でローガンの足元に突進した。
急に敵が目の前から消え、足元に出現したために、ローガンはソウルの槍を外した。
ジークマイヤー「危なっ!」ガシャン!
尻もちをつく形で、ジークマイヤーがソウルの槍をかわしきったのと…
子の仮面「……」グビグビッ
子の仮面が、ローガンの腰に下がったエストを呑むのとは同時だった。
ババッ!!
そこへと突き出される、竜狩りの槍の二連突きを、子の仮面はバク転で回避すると…
子の仮面「ていっ」ドン
ビアトリス「えっ?」
浮遊するソウルを展開したばかりのビアトリスを、奈落へ向けて突き飛ばした。
子の仮面「……」ボボボン!
ジークマイヤー「うおおっ!?」ガバッ
仮面の悪霊が浮遊するソウルを全弾浴びた瞬間、ビアトリスは崖から落ちる寸前に、ジークマイヤーの伸ばした手に助けられた。
子の仮面「んぐっ、んぐっ」
ソウルに顔を焼かれながらも、仮面の悪霊は自前のエストをラッパ飲みする。
重鈍なジークマイヤーは、ビアトリスの救出に手間取っており、手が離せない。
ドスドスッ! ボン!
子の仮面は、自身にグウィンドリンの放った弓矢と、ローガンのソウルの太矢が刺さっても、エストを飲むのをやめなかった。
エストの回復力が、攻撃の威力を上回っている。
ビュンッ!!
エストを強引に飲み続けた子の仮面の首目掛け、オーンスタインの目にも止まらぬ横凪が一閃されたが…
バオッ!!
先程までとは比べ物にならないほどの身のこなしで、子の仮面は蜥蜴のように、地表を滑るように槍を回避。
ローガンに組み付くと…
子の仮面「これあげる」ブンッ!!
グウィンドリン「!?」ドォーン!
ローガンをグウィンドリンへ向けて投げ飛ばした。
極めて高い膂力で放られたローガンを受け止めるほど、グウィンドリンの膂力は強くはない。
グウィンドリンはローガンに跳ねられ、ともに闇へ落ちるところで…
バッ!!
オーンスタインの両手に、ローガン諸共抱き止められた。
ズガーッ!
オーンスタイン「ぐっ…!」
仮面の悪霊はオーンスタインの背中にダガーを突き立てた後…
ドゴオォーーッ!!
ジークマイヤー「なっ!?」
ビアトリスを引き上げてる途中のジークマイヤーに向かい、かの騎士の背後でフォースを炸裂させた。
ジークマイヤーとビアトリスは衝撃波によって吹き飛ばされ、縦穴の闇へと落下を始めた。
730 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/06/24(木) 15:24:31.57 ID:W9cmFSa50
ドシュッ!!
子の仮面「おほっ!?」
思わず驚嘆の声をあげた仮面の悪霊を、オーンスタインは無視した。
その右脇にはグウィンドリンとローガンを抱え、左手には竜狩りの槍を持っている。
その槍先は、ジークマイヤーの鎧の右脇と、ビアトリスのロングスカートを貫いていた。
ジークマイヤーの鎧は丸く膨れており、内部に空洞が多い。
曲面に弾かれぬほどの鋭い一閃を精妙に発せたならば、曲面を貫き、装着者を傷つけないことも可能だろう。
逆さ吊りにされたビアトリスは、杖持つ右手で帽子を押さえつつ、残った左手で必死に槍にしがみついている。
オーンスタイン「ふんっ!!」ブオォアッ!!
子の仮面「!」
二人の不死をぶら下げた槍を、オーンスタインは横に振った。
仮面の悪霊はやはり屈んで回避しようとしたが…
ガコォン!!
子の仮面「ぶぇ!」
ぶら下がったジークマイヤーの脚に引っ掛かり、顔に踵落としを食らった形となった。
ジークマイヤー「おうっ!?」ガララァン!
ビアトリス「きゃ!」ドサッ
遠心力で槍から抜けた二人の不死は、多少は混乱しつつも再び戦闘態勢をとり、石床に降ろされたローガンとグウィンドリンも杖を構える。
子の仮面「あー、食い物が食えたらな。吐けたなぁ今の」
仮面の悪霊は脳を強かに揺さぶられ、石床に手をついて、頭を振っていた。
オーンスタインはその頭に向け、竜狩りの槍を上段に構える。
ドゴゴゴオォォーーッ!!!!
その槍は振られることなく、オーンスタインは構え直した。
王の器の中から突如として噴き出た黒い大火は、冷たい不吉な光で大空間を照らす。
その光が人の顔を照らしたならば、そこには死相が見えた。
ジークマイヤー「なん、なんとぉ!?」
ビアトリス「神の器から闇が!?」
ローガン「これは…人間性?…いや、しかし…」
オーンスタイン「グウィンドリン様!?これは…」
グウィンドリン「そんなはずは…このようなことはあり得ない!」
グウィンドリン「王の器から闇の力が放たれるなど……神と、神が作りし物は、強い闇を受ければソウルを食われ、存在は喪われるはず!」
グウィンドリン「『闇に成る』などと、そのようなことがあり得るならば、なにゆえアルトリウスは深淵より戻らなかった!」
クリスタルボウイ「この器が神の物なら、確かに闇を受ければ砕けるだろう」
クリスタルボウイ「だが、これは貴様ら神々が思うようなものではないのだ」
グウィンドリン「………」
グウィンドリン「まさか王の器を作りしものは……我が父上ではなく、世界の蛇……闇撫での、カアス…」
731 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/06/25(金) 07:56:43.21 ID:QhrgqKxDo
一気に来てた
今から読むぜ
732 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/07/08(木) 05:43:10.72 ID:FpoEiwS80
オーンスタイン「カアス!?あやつが…!?」
クリスタルボウイ「ようやく気付いたか。その通り、あの器を作ったのはヤツら世界蛇だ」
クリスタルボウイ「俺が器を作ってしまえば、なんらかの不可抗力で俺が神々を食い損ねた場合に何かと都合が悪いが、かといって貴様ら神々に器を作らせるわけにもいかん。計画に余計な手間が増える」
クリスタルボウイ「だが竜から生まれ、闇へと流れて蛇となった世界蛇が、器を作ったとなれば話は別だ。俺の企みが貴様ら神々にバレたところで、俺の秘密兵器である器の真の力は明かされることは無く、神々が世界の蛇を探ろうにも、世界の蛇はフラムトを除く全てが闇の勢力下にある。神々が闇に触れられぬとなれば、こちらはフラムトだけを騙すだけで事足りる」
クリスタルボウイ「俺の記憶にも存在しない器だったおかげで、探し出すのに一苦労したが、それも保険と思えば安いものだ」
クリスタルボウイ「しかし実に滑稽だったぞ!フラムトは最後まで、火と光が人間を、そして神々を導くと信じて死んでいったわ!」
グウィンドリン「クリスタルボウイ…貴様……父上の友たるフラムトをも、その手にかけたというのか!」
クリスタルボウイ「安心しろ、俺はまだまだ手にかける。手広く仕事をするのは慣れているからな」
クリスタルボウイが挑発していることなど、グウィンドリンには分かっていた。
だが父グウィンの遺した、故意には行われなかったであろう裏切りと、フラムトの死。それらを嘲笑う者の存在を、グウィンドリンはこの瞬間だけは許すことができなかった。
グウィンドリンはクリスタルボウイに杖を向け、ソウルの大光球を放とうとしたが、蒼く輝くその杖をコブラに制された。
グウィンドリン「コブラ!なにを…!」
コブラ「やめときな。ジークとビアトリスもこっちに来てくれ。小休止さ」
口惜しくも杖を下げたグウィンドリンの元へ、ジークマイヤーとビアトリスが合流し、コブラの一行は一箇所に集まった。
それを見下ろすクリスタルボウイと、コブラ一行を正面に見据えて立っている仮面の悪霊に、攻撃の意思は無い。
子の仮面は倒しきれぬ相手に斬りかかるほど愚かではなく、クリスタルボウイにとっては、今のコブラは金鉱である。
光がより強まる時、闇もまた強まる。今殺すには惜しいのだ。
コブラ「らしくないなクリスタルボウイ!耳寄り情報で時間稼ぎなんて、まるでセールスマンみたいだぜ!」
クリスタルボウイ「フッ、慣れないことはするものじゃ無いな」
クリスタルボウイ「だが、時間を稼いでいるのは貴様も同じだろう」
コブラ「大当たり」ニッ
コブラ「今だ!レディ!」
コブラが腕時計に号令をかけると、縦穴の上奧、まさにこの大空間の唯一の物理的出入り口から、閃光が走った。
突然の輝きに、コブラ以外の全ての者が頭上を見上げようとした。
しかし、輝きは彼らに見上げることを許さぬほどに眩く、そして破壊的だった。
子の仮面「あ」
ドゴゴアアァーーッ!!!
ビアトリス「うわぁっ!」
ジークマイヤー「ぬおおっ!?こ、これは!?」
グウィンドリン「くっ…!」
縦穴の幅を広げ、クリスタルボウイに直撃したエネルギーの奔流は凄まじく。
クリスタルボウイに降り注いだ光は、強大な暴風と熱を伴っており、クリスタルボウイの近くにいた仮面の悪霊を蒸発させた。
コブラの一行は、雷の使い手たるオーンスタインさえも含めて、輝きにひるみ、暴風に飛ばされまいと身を伏せた。
その一向に向けて、爆風に吹き飛ばされたパッチが転がり込んだが、あまりの輝きの強さに、誰一人としてそのことには気付かないようだった。
そして輝きが収まり、辺りが砂埃に包まれている時に…
ゴワァァーーッ!!!
その砂埃を巻き上げて吹き飛ばし、タートル号は舞い降りた。
733 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/07/08(木) 16:38:38.81 ID:dU2azOwho
タートル号!?
734 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/07/08(木) 19:29:37.93 ID:RQs3B/yuO
どうやってここに!?
735 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/07/10(土) 18:38:30.72 ID:oDMU19Fv0
ジークマイヤー「なっ……!?」
ビアトリス「なんだぁっ!?」
ローガン「せ、石棺が空を飛んどる…」
コブラ「紹介するぜ。こいつが俺の船、タートル号だ。さっきのどデカい光はタートル号の主砲、スーパーブラスターから発射されたものさ」
コブラ「ブラスターの威力は宇宙戦艦も鉄クズに変えちまうほどだ。レディはここら一帯を吹っ飛ばさないようにパワーセーブは掛けていたみたいだが、仮に最弱設定でも直撃弾を食らって破壊されないサイボーグはいないぜ。ボウイのやつがサイボーグですら無くなったってんなら、話は別だがな」
オーンスタイン「船…?…これが…?」
真鍮鎧「こんな鉄の塊が、宙に浮くというのか…」
グウィンドリン「コブラ、これはいったい…」
コブラ「時の大合一に賭けたのさ。過去の物も未来の物も、秘境も公園の空き地も全てがこのロードランでは存在するんだろ?」
コブラ「たしかに、この前まではコイツを呼び出すことは出来なかった。だが貴い物を封印して守るという、王の封印が解かれたらどうなるかは試してなかった」
コブラ「呼べたら万々歳。呼べなかったら……まぁその時の俺に任せたさ」
オーンスタイン「任せた……」
コブラ「しかし王様は中々の審美眼をお持ちのようで。封印されてたおかげで、この前メンテナンスした時と何も変わってないぜ」
スーパーブラスターが撃ちこまれた地点、クリスタルボウイが浮遊していた石畳は、黒く炭化し轟々と炎をあげている。
消滅した仮面の騎士の、莫大な密度を持つソウルはその炎の周りを漂っていた。
レディ「戦況を聞こうかしら、コブラ?」ウイィーン
滞空飛行中のタートル号の開いたハッチから、レディはコブラに尋ねる。
コブラは肩をすくめた。
コブラ「いやもうぜーんぜん駄目。押しても引いてもビクともしない。出直しだ」
コブラ「ボウイのヤツは…」
オーンスタイン「残念だが、貴公らの船でも、死には至らしめぬようだ」
コブラ「なに?」
燃え盛る炎の周囲を浮遊するソウルが、千々に分かれて炎に吸われた。
ソウルを吸った炎からは、黄金色の輝きが垣間見える。
だがその黄金色は、神の雷とは相反する者の輝きである。
そして輝きは炎を割って、擦り傷ひとつも無い透明な身を露わにした。
クリスタルボウイ「今の秘策は中々斬新だったぞ。昔の俺なら砕かれていただろうな」
ジークマイヤー「オ…オオォ…」
ビアトリス「そんなバカな…」
コブラ「へっ、なんてタフさだ。俺にはもう、お前が何者なのか分からなくなってきた」
クリスタルボウイ「何者だろうと構わんよ。お前を殺し、アフラ=マズダへの復讐を果たせればそれでいい。あとはギルドの好きなようにさせるさ」
クリスタルボウイ「さてと、それではひとつ、俺のほうの答え合わせもぼちぼち始めるとしようか」
クリスタルボウイ「俺の秘策は、これだ」
クリスタルボウイは左手を掲げ、パチンと指を鳴らした。
行ったこと、そして他者が目で確認できることは、それだけだった。
736 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/07/11(日) 02:28:42.85 ID:SXB4DH/W0
蜘蛛魔女のクラーグは、火勢を抑えた蜘蛛腹に不死たちを載せ、溶岩だまりを歩いていた。
王の封印の先には、魔女たちから直々に炎の魔術を教わった、デーモンの炎司祭が番兵として立っていたはずだったが、炎司祭の姿は無く、混沌に飲まれて機能を狂わせた石像たちも、姿を消している。
ゆえに封都への道程も、驚くほどに何事も起きない。
不死を荷のように担いで歩くという無茶も、その平静に頼った行いだった。
その静かな行進の容易さのためには、クラーグも荷馬車の真似事の屈辱を我慢できた。
戦士「うぉ…」
不死たちの一人が声を上げたが、驚いていたのは他の不死たちも同じだった。
地下の大空洞を煌々と照らす溶岩だまりは、クラーグの足元から、遠くに見える岩の塔の向こうまで続いており、その大空洞の至る所に、燃える木々と、朽ちた竜の下半身が点在している。
グリッグス「ここは…」
クラーグ「我が故郷、イザリスだ。今は混沌に呑まれ廃都と化しているが、昔は母上の生み出した偽りの太陽に照らされ、地上のように緑も豊かな都だった」
クラーグ「病み村が腐敗に沈む前は、かの大水道も我らの物だった。都には水が引かれ、小川も噴水も、畑もあった」
クラーグ「魔女の神秘や智慧を求めて、人や神が都を歩き、魔女見習いの呪術師たちが彼らの生活を支え、炎の魔術に長けたデーモン達が皆を守っていた」
クラーグ「そのような栄華を極めし時も、この都にはあったのだ」
ラレンティウス「………」
クラーグ「……生意気だな、ラレンティウス」
ラレンティウス「!? なん、なんでしょうか」
クラーグ「未熟者の分際で同情などしおって。この都は貴様の明日の姿かもしれんのだぞ」
クラーグ「炎を前にするならば、奢った想いは捨てよ。哀れみなど不要だ」
クラーグ「制御を知り、制御できぬを知る。それを畏れておればよい」
ラレンティウス「……申し訳ありません、でした」
ソラール「………」
ドドゴアアァァーーーーッ!!!!
クラーグ「!」
燃える都の岩塔が、轟音を上げて突如、溶岩だまりに沈んだ。
沈下の速度はあまりにも速く、その様は沈下というより落下と言えるものであり、更に沈んだのは岩塔だけではなく、その周辺の溶岩だまりや竜の脚までも飲み込み、沈下の範囲を急速に拡大させていく。
沈下現象は燃える木々を飲み込み、炭化した亡骸を飲み込み、焼けた遺跡群をも沈めていく。
戦士「なんだ!?何が起きた!?」
クラーグ「地盤が割れた!逃げるぞ!」
ラレンティウス「地盤が…!?」
クラーグ「混沌が溢れた折に、地下の多くが破壊を受けたのだ!掴まっていろ!振り落としても拾いはせ…」
不死たちが蜘蛛腹の長毛にしがみついた瞬間、廃都イザリスの遺跡群があった地点から、音すらも聞こえぬほどの大爆発が起きた。
その凄まじい閃光は不死たちから視力を奪い、その音は鼓膜を破り、放たれた熱波と衝撃波は、炎を操るクラーグの力に遮断されてなお、鎧を熱し、衣服を炙った。
クラーグは炎の土石流とも言える爆発を、逸らし、弾き、相殺したが、衝撃波に押され、今にも宙へと放り上げられんばかりにその身を揺さぶられた。
737 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/07/11(日) 02:33:46.23 ID:SXB4DH/W0
ソラール「かはっ!」
数秒か、数刻か、分からぬ時を気絶していたソラールは、全身に走る激痛に目を覚ました。
そして蜘蛛毛にしがみつかせていた両手を離し、無我夢中でエストを懐から取り出し、一滴残らず飲み干した。
激痛は夢のように消え、傷も癒えて、ソラールは他の不死たち同様、爆発が起きた方向に目を向ける。
そして絶句した。
他の不死たちと同じように、クラーグと同じように、眼前に広がる光景に言葉を断たれた。
爆発が起きた地点には岩の塔も、燃える木々も、文明の名残りも、竜の脚も無かった。
そこには、大空洞を縦に貫く、熔けた鉄の城がそびえていた。
クラーグ「………な…」
クラーグ「なんだ…これは……」
熔鉄の城は荘厳な彫刻に覆われ、しかしそれらは全て歪み、煤けている。
焼けた灰を被った石壁には、溶け付いた鎖が巻かれ、黒々としている。
城の尖塔群はところどころに穴が穿たれ、正門前の石畳は崩落しかけており、それどころか城自体が、全体として傾いていた。
それらが溶岩だまりに下から照らされ、赤々と鈍く光る様は、狂気に堕ちた吟遊詩人の悪夢を思わせた。
ガコン…
城の正門は、内よりゆっくりと開けられ…
ガシャッ
中から現れた騎士の重鎧は白く、しかし灼けて、煤けていた。
手に持つ斧槍は刃こぼれし、その足取りも重々しい。
しかし、何かを探しているように、周囲を見渡していた。
738 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/07/11(日) 02:39:43.62 ID:SXB4DH/W0
古き地。
世界は分かたれ、神秘に覆われ 、
ただ不死たちの残り香と、死にゆく神々の遺物と、わずかな残り火があった。
だが、闇はすでに、ずっと古くからあったのだろう。
闇は命を生み、命は火を招き入れ、差異がもたらされたのだ。
熱と冷たさと、生と死と、光と闇。
そして闇は遂に、食餌の時を迎えた。
光に照らしだされ、生み落とされた影たちが、偉大なる闇を見出したのだ。
大いなる父。創造主を。
人の世に生まれ、望むと望まざるとに関わらず、人の本質、闇を見つめる者。
人間性によって輝く混沌、そこに生きるデーモンたち。
神を否定し、はねつけ、あるいは喰らい、貶めるもの。
そして、闇より出しもの。
それらは偉大なる闇に導かれ、古きこの地に現れた。
不死の街に現れし呪縛の騎士は、不死たちを狩り出し、
法王の剣はアノール・ロンドへと向けられ、
煙の騎士が、煤けた母により解き放たれた。
そして、時の合一は彼らを闇へと繋ぎ止め、ロードランの均衡は失われた。
それは、真なる闇の時代の到来を意味するだろう。
だが、人が暗闇というのなら、暗闇の内にも、人の姿はある。
今や、火はまさに消えかけ 、
人の世には届かず、夜ばかりが続き 、
ロードランの地には、呪われし人、
その憐れな、なれ果てさえも現れていた。
739 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/07/11(日) 02:47:51.59 ID:SXB4DH/W0
指を鳴らす。
クリスタルボウイが行ったことは、たったそれだけのはずだった。
しかし、クリスタルボウイの影は広がり、黒い霧を漂わせる。
神々は、不死たちは、そしてレディとコブラは恐怖した。
拡がる闇は孕んでいたのだ。
意思を。心を。自我を。
羨望を。愛を。
求めることを知っていたのだ。
だからこそ恐怖したのだ。求めに応じてしまう、そのたまらぬ心地良さに。
コブラ「オオオーーッ!!!」
ズバオオォーーッ!!!
コブラは反射的に、クリスタルボウイへ向けてサイコガンを撃ち放っていた。
本能に突き動かされ、意味の無い行いに走ったことは、一度や二度ではない。
だが心の全てを恐怖に支配されたことは、過去に一度しか無い。
しかしこの恐怖は、左手を失ったあの日の、あの瞬間のものですら無かった。
それは手に入れることの恐怖。望まれ、愛されることへの恐怖だった。
コブラ「!?」
コブラの放ったサイコエネルギーは、黒い霧から現れた、小さく暗い煙塊のそばを通り過ぎると、クリスタルボウイに命中する前に細り、消えた。
その煙塊を、クリスタルボウイの影から伸びた掌が握ると、煙塊は掌に収まり、ひとつとなる。
暗く骨張ったその掌は大きく、影から現れつつあるその者の腕は、コブラの身長よりも長かった。
クリスタルボウイの影はさらに広がり、煙塊の主がその全身を露わにする頃、もうひとつの何者かを浮かび上がらせていた。
もうひとつの者は老い、半ば崩れかけていた。
レディ「コブラ!逃げて!!みんなを連れて!!」
レディの叫びも、コブラの耳にはどこか遠くに聞こえた。
煙塊の主は、見上げるほどに巨大な骨の鎌を持ち、その得物に釣り合うほどの痩せた長身をもつ者。
彼女は遺骸の山とも言うべき身体を持つが、その有り様は野心、あるいは渇望に溢れた支配者のものであった。
老いた者は、人の身の丈よりも長い、歪み折れた剣を持ち、その武器に違わず崩れかけた鎧姿。
膨れた体の胴体には大穴が穿たれ、血と灰に歪んだマントに湧く肉色のソウルに身を縛られるその様は、奴隷のものであった。
クリスタルボウイ「コブラよ、これは簡単な話なのだ」
クリスタルボウイ「時を超えて、全ての篝火は繋がっている。だからこそ、篝火に照らされる者も繋がっている」
クリスタルボウイ「王の封印が解かれ、神にとっての貴いものが守られなくなり…」
クリスタルボウイ「篝火の繋がりが闇の神アーリマンの手に渡ればどうなるか……これで分かっただろう」
そして、立ち尽くすコブラの首を目掛け、デュナシャンドラの大鎌は振り回され、脳天には奴隷騎士ゲールの大剣が振り下ろされた。
740 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/07/11(日) 02:50:43.33 ID:MZ8V0BWdo
まさか溶鉄城?
2、3のキャラも出る?
741 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/07/11(日) 03:40:55.92 ID:MZ8V0BWdo
読み進んだら出てた…
しかしラスボス二人とは中々にハード
742 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/07/11(日) 07:03:23.46 ID:Pq5ZrHUDO
王たちの化身さん助けて…
743 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/07/12(月) 16:17:46.16 ID:pmreEBlUo
レイムにサリヴァーンに呪縛者に…
744 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/09/24(金) 22:55:54.28 ID:ik+gqKsF0
コブラは眼を見開いて、しかしこの瞬間、動けなかった。
火に照らされるこの世界において、闇とは、人間の心のありようそのものである。
心を宿し、心を望み、心を映し、心を歪め、心を喰らう、無明のさまの体現者なのだ。
ゆえに、襲い来る闇の化身たちは、コブラの心をも竦ませる。
コブラは知っていた。
求められることの恐怖を。羨望と愛の恐ろしさを。
コブラは、おぞましき闇の者どもに対し、自身が郷愁や恋慕を感じたことに恐怖したのだった。
おぞましき二つの刃に、確かに見てしまったのだ。
ジェーン。キャサリン。
ドミニク。ゆう子。
コブラ「………」
たとえそれが、心に生じた幻であり、死という悲劇をもたらす鎌であり剣であったとしても。
飢えし傷を癒やしうるものを求めることを、それを失うことを、コブラは恐れた。
オーンスタイン「コブラーっ!!」
竜狩りはそのコブラの背にスモウの姿を見て、駆け出さずにはいられなかった。
コブラを狩らんとする二つの刃が、神器さえも容易く砕きうる魔性を秘めたものであったとしても。
ガギイィィーーッ!!!
そしてやはり、コブラに迫った凶刃を同時に防いだ竜狩りの槍は、真っ二つに叩き折られ…
ドガッ!!
コブラ「!」
オーンスタイン「グウッ!」
槍の持ち主の胸に、二本の凶刃が深々と突き刺さることを許した。
オーンスタイン「オオオーーッ!!」バリバリバリッ!
ドガガァーーッ!!
オーンスタインはコブラを背にしたまま、左手に握った雷の杭を石床に打ちつける。
そこから生じた雷の爆発に、二体の闇の怪物は一瞬怯んだ。
オーンスタインはその隙を見逃さず、右手に槍の穂先を、左手にコブラを抱えて、その場から飛び退き、グウィンドリンのいる一行のもとへと戻った。
コブラ「レディ!クローを出せっ!」
コブラがそう言い切るより早く、レディはピアノ鍵盤型のコンソールを操作し、コブラ達へ向けクローマニピュレーターを動作させていた。
不死達はアイアンゴーレムの巨腕のごとき機械に狼狽える余裕すらなく、無我夢中でクローにしがみつき、オーンスタインはグウィンドリンに肩を貸されてクローの手中に逃げ込む。
ジュガガーーッ!!!
コブラ一行を避難させるべく、タートル号は飛び立とうとした。
しかしその船体目掛けてデュナシャンドラが撃ち込んだ闇色の光線は、タートル号正面の防弾フレームを爆ぜ腐らせ、湿った泥塊のように溶かし、タートル号全体を大きく揺らした。
バシュウゥッ!!
グウィンドリンのソウルの大光球はデュナシャンドラの顔を焼いたが、神の敵対者にして闇の化身のひとつたる彼女には、のけぞらせる程度の効果しか示さない。
グゴワアアァァーーッ!!!
浮上にもたつくタートル号を次に襲ったのは、この世における「真の人間」たりうる者の放つ、尽きることの無い飢えた嵐だった。
あらゆるものを欲し、食らい、破壊し尽くす、肉色の魂の奔流がタートル号を飲み込まんとする中、その魂の嵐を押し留めているのはコブラのサイコガンだけだった。
闇の魂は神喰らいの力を持つ。そのことを知る身であるがゆえに、オーンスタインとグウィンドリンは力を発さず、コブラはサイコエネルギーやっためたらに撃つしかなかった。
ソウルの業も、神の雷も、闇の魂の前では無力であり、サイコエネルギーは闇の魂たちに餌と錯覚させる希少な囮だったのだ。
意思で放たれ、意思で動く力など、彼らには生き餌としか見えない。ゆえに撃てば誘き寄せられ、連射したなら勇んで散るのである。
745 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2021/09/24(金) 23:07:15.44 ID:ik+gqKsF0
>>744
訂正
×コブラはサイコエネルギーやっためたらに撃つしかなかった。
◯コブラはサイコエネルギーをやたらめったらに撃つしかなかった。
746 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/25(土) 10:24:30.63 ID:qbwJCHo0o
うお来てた
747 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/25(土) 13:19:05.75 ID:d4MiPiCb0
おお、来てた。
なんか、力量というより相性的な問題で、闇とか深淵とかにやたら弱いっぽいのよね、ダクソ世界の神族。
748 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/26(日) 04:34:02.05 ID:CMI2fw+DO
敵側が強すぎる
オンスタで駄目なら灰の人とか主人公クラスの味方が居ないとキツそう
749 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/09/27(月) 10:21:16.28 ID:X1PAicHe0
コブラ「今だレディ!上昇しろ!」
闇の魂たちがサイコエネルギーにかまけ、それらを食らい尽くしている隙をつき、レディは船体のバランスを整える。
レディ「コブラ!みんなにしっかり掴まっているように言って!」
コブラ「みんな掴まってろ!飛ぶぞ!」
ジークマイヤー「っ!」ギュッ
レディはマニピュレーターにロックを掛けると、出力値を低く設定したまま、タートル号をようやく浮上させた。
出力を抑えているとはいえ、コブラいわく宇宙屈指の逃げ足を持つ船が生み出す推力は、クローに掴まれている者たちに強い圧迫をもたらした。
不死達は由来の知れぬ強烈な目眩をこらえ、オーンスタインは苦しげに傷口を抑える。
そしてやはり、闇の者たちは追撃の手を緩めなかった。
「ウオオオオーーッ!!」
理性のかけらさえも感じさせぬ獣声が響き、レディは我が眼を疑った。
宙を飛び上がる宇宙船に、追いつく者を見たからである。
肉色の魂を身に纏ったその怪老は、フロントガラスに左手をつけ、右手に握った大剣を振り下ろした。
レディ「くっ!」ガクンッ
レディは咄嗟に舵を切り、船体を揺らして、怪老の体勢を崩す。しかし怪老は振り落とされず、崩れた体勢から無理矢理に大剣を振るった。
ドグァーーッ!!
レディ「オオーッ!」
振るわれた大剣は、小型ミサイルを跳ね除けるフロントガラスを貫通し、船内に肉色の魂をなだれ込ませるに足るだけの大穴を作った。
痛みか飢えか、安楽か悦楽か、由来の判別がつかぬうめき声を怪老があげる。
にわかに怪老のマントが脈打つように蠢きはじめ、数多の声が漏れ始める。
レディは決死を覚悟し、舵を限界まで切った。
ドガァーーッ!!
タートル号は上昇しながらも錐揉みに回転し、強力な遠心力をもって怪老の身体を伸ばし、岩壁に叩きつけた。
しかし奴隷騎士は剥がれなかった。怪老の肉体は、今や岩などとは比べようもなく堅牢となっていたのだ。
フロントガラスに指を突き刺した左手だけで身体を船に繋ぎ止め、その身に激突した岩の方が砕けてしまったほどに。
レディ「そんなに離れたくないなら、せいぜい掴んでいることね!」
レディは整備点検用のコンソールを開くと、システムが活きていることを確認し…
カチッ!
フロントガラスの交換用のボタンを押した。
歪んだフロントガラスの四隅を接着している固定具は、デュナシャンドラからの攻撃により損壊し、フロントガラス同様に歪んでいたが、歪みに逆らって無理矢理にロックを外し、バチバチと火花を散らした。
ガラスごと船体から切り離された怪老はマントをなびかせ、再びタートル号に接近する。
レディは怪老の接近を制するべく、再び舵を切った。
ドガッ!! ガガガガガガガ!!
タートル号と岩壁に挟まれ、身を剃られた怪老は船尾まで押し転がされた。
怪老は全身を血に濡らし、なおもタートル号のロケットブースターに手を伸ばす。
レディ「悪いけど、しつこい殿方はタイプじゃないくってよ!」
レディ「出力を上げるわ!みんな掴まってて!」ガッ
シュゴオォォーーッ!!
レディが叩くようにして出力操作用のレバーを押すと、ブースターから噴き出す炎は一気に強まり、怪老の全身を焼いた。
怪老はなおも死なず、しかし爆発にも似た風に逆らえるほどの飛翔能力は持たなかった。
タートル号はついに奴隷騎士ゲールを振り切ると、火の炉の祭壇の広間に降りるために穿った大穴、火継ぎの祭祀場「跡地」から飛び出して、地面ぎりぎりに降りた。
しかし着地はせず、レディは船体をホバリングさせた。着地用のマニピュレーターには今、旅の仲間たちを掴ませているのだから。
レディ「みんな船に乗って!彼らが追ってくる前に空に逃げるのよ!」
750 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/09/27(月) 11:24:21.12 ID:X1PAicHe0
>>749
×レディ「悪いけど、しつこい殿方はタイプじゃないくってよ!」
◯ レディ「悪いけど、しつこい殿方はタイプじゃなくってよ!」
校正さんは偉大
751 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/11/15(月) 08:56:13.85 ID:0HmHMvRho
気長に待ってる
752 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/12/25(土) 09:23:38.88 ID:S0I1LbMM0
マニピュレーターを伝ってタートル号の船内に入った不死達と神々は、疲れ切っていた。
周囲に広がる、見たこともない金属が作り出す幾何学模様。由来の知れぬ造形。未来や過去にも姿無き文明の結晶。
それら全てに関心や警戒心を払えず、ただもたれ掛かり、あるいは寝そべるしかないほどに。
グウィンドリン「礼を言うレディ。そなたの船が駆けなければ、今頃我らは死んでいただろう」
床に倒れ伏したオーンスタインに癒しの奇跡を施しつつ、暗月の君主は震える声で、操縦席に座るレディに感謝した。
かの神の手元に輝く光は、オーンスタインの鎧に穿たれた二つの穴を照らし消さんとするが、恐るべき威力により生じた傷は、その光さえも切り取るかのような暗さを崩さない。
レディ「礼を言うのはまだ早いわ。今はこの状況を切り抜けることだけを考えましょう」
レディが手元のコンソールを操作すると、タートル号は減速し、ゆったりとした航行に移行した。
操縦席から離れて、レディはメインデッキに倒れ込む仲間たちに語りかける。
レディ「タートル号の操縦をオートパイロットモードに設定したわ。私たちは遥か上空の雲の上。いくら彼らが強大でも、空は飛べないはずよ」
レディ「グウィンドリン、あなたはオーンスタインを医療室へ。彼をベッドに寝かせたら診断プロトコルが自動で立ち上がるわ。あとは治療プロトコルを…」
グウィンドリン「…プロ、トコル…?」
レディ「………」
混迷を極めた状況の中でただ一人冷静な判断力を保ち続けたレディも、内心はやはり掻き乱され、動揺していた。
グウィンドリンはタートル号の機能を何ひとつ知らない。
それどころか、奇跡や魔術による治癒でのみ負傷を癒す文化にあっては、医療などというものの概念にすら疎い。
奇跡や魔術に触れぬ者は、未開の人か、異端の者。もしくはとこしえに神都に入らぬ、辺境の怪物や獣たちぐらいであるのだから。
レディ「いえ、なんでもないわ。彼を安静にできる場所に連れて行きましょう」
真鍮鎧の騎士「私も手を貸そう。オーンスタイン様、お気をたしかに」
レディはグウィンドリンと火防女騎士とともにオーンスタインを支え、医療室の前に立つと、自動ドアの開閉スイッチの下に設けられた掌サイズのハッチを開け、中のボタンを押した。
押されたボタンは、大型医療機器を医療室内に運び込むために備えられた通路拡張機能を作動させ、自動ドアを壁内に収容し、出入り口と廊下の横幅を拡げた。
四者がその入り口を潜り、廊下を歩む様を、壁に寄りかかって座るローガンは眺める。
ローガン「………」
しかし、ローガンにはその驚異的と言える技術に驚嘆する余裕などまるで無く、かの頭脳には暗き閃きが渦巻いていた。
闇、もしくは人間性と呼ばれるものは、人の本質を司り、あらゆるものを求める。
ローガンが人間性に対して抱いていた仮説はやはり正しかったが、その偽りなき有り様は、ローガンの求めたものではなかった。
人間性の化身。つまり闇の化身と呼べるであろう者達の、自らが求めたものをことごとく滅ぼして喰らい尽くすその様は、むしろローガンが求める真の叡智からは、遥か遠くにあるものだった。
ローガン(……学びを求めたがゆえに、学びを失い、また智慧を失う)
ローガン(そうか…まずは智慧を恐るるを知るべきであったか…)
ローガン「………」フフ…
智慧を求める者が闇に生まれし者ならば、求められた智慧も必ず闇に蝕まれ、喪われる。
ならば智慧を尊ぶ者は、智慧に触れてはならない。真理を見てはならない。啓蒙を得てはならない。
それらを尊いものとしたいのならば、知るに足るだけの真の光としたいのならば、魔術を大いなるものとしたいのならば、眼も耳も口も潰れねばならないのだ。
ローガンの旅は終わった。生きる理由とともに。
床に倒れたままのビアトリスとジークマイヤーは、疲労困憊の身を起こすことができず、ローガンが静かに壊れていくさまに気付けなかった。
そして、どさくさに紛れてタートル号に逃げ込んだ盗人に、見覚えがあることにも。
コブラ「………」スッ…
床に座り込んでいたコブラは、やおら立ち上がる。
しかし力は無い。足元に伸びているパッチにも、一瞥をくれてやるのみだ。
足取り重く、コブラは力無いままに操縦席に向かい、重くなった腰を席に降ろす。
眼前にある穴の開いたフロントガラスからは風は入らない。
タートル号の船体表面に張られたフィールドが突風を遮断し、ただ澄んだ青空と、暖かな陽光をガラスに映している。
先程までの混乱はどこにもなく、タートル号には不死達の小さな息遣いだけが、微かに響くばかりだった。
753 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/12/26(日) 04:01:35.87 ID:L7UzDnfM0
ピッ
コブラが座席に備えられたキーパッドを指で叩くと、小気味のいい電子音とともにコンソールの引き出しが開かれ、中から葉巻でいっぱいのシガーボックスとジッポライターが顔を出す。
コブラはそこから葉巻を一本取ると、シガーカッターで先を切り、ジッポで火をつけるとそれを吸った。
コブラ「………」
久しぶりの葉巻は沁みた。
だが、その沁みは心地の良い感覚ではなかった。
虚しさや哀しみを酒や葉巻で紛らわせたことはある。
しかし、絶望的な敗北を喫した時には、いつも別の何かが必要だった。
葉巻や酒ではない別の何かが。
その別の何かとは、己の内に潜む精神の爆発。
迸る精神力は常に絶望を討ち払ってきた。
しかし、今回ばかりは己の精神力さえも打ち砕かれてしまった。
万策は尽き、サイコエネルギーはもはや敵を強める餌にすぎない。
ゆえにコブラは葉巻を吸った。のどかで雄大な、呆れるほど美しい空を眺めながら。
コブラ「…今度ばかりはボウイ、お前の勝ちかもな」
コブラの黄昏た目には、万物を喰らう人間の倒し方は浮かんでいない。
傷ついた戦士達を乗せて、タートル号は黄金色に照らされた雲の上を、あてもなく漂っていた。
754 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/12/29(水) 06:39:22.89 ID:twaQ0+/NO
うお来てた
755 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/12/29(水) 07:11:21.29 ID:xjkVkqJ/0
灼熱の地底に現れた熔鉄の城。
その城の正門から現れた「煤けた白騎士」は、斧槍を持ったまま崩折れ、片膝をついた。
蜘蛛魔女のクラーグは蜘蛛腹に不死達を乗せたまま、煤けた白騎士に近付き、その者を見下ろす。
クラーグ「何者だ?すでに廃都とはいえ、貴様に我が故郷を潰せなどとは頼んではおらぬぞ」
焼けた白騎士は重々しく頭を上げ、重厚に過ぎた兜のスリットを通して、炎の蜘蛛を目にした。
混沌を纏いし魔女は炎の剣を持ち、混沌の餌とするためか、背に不死達を乗せている。
白騎士は、かの魔女こそがまさに己が主を誘惑した怨敵であると確信した。
ガッ!
クラーグ「………」
今まさに力尽きんとしていた白騎士の両脚に力がみなぎり、かの騎士は立ち上がった。
妄執にも似た使命感が、消えかけた命に最後の隆盛を呼び起こしたのだ。
ビキビキビキ!!
クラーグ「!」
白騎士が構えを取ると、煤けた鎧には白い薄氷が張り巡らされ、その全身から目に見えるほどの冷気を立ち昇らせる。
灰色にくすんだ斧槍にさえも白い輝きが宿り、往時の力を取り戻すかのように鋭くなった。
ソラール「結晶ゴーレムか!?」
グリッグス「いや、こんな種類は見たことがないが…」
クラーグ「結晶ではない」
戦意を燃やす騎士を前にしたまま、クラーグは一人納得すると、剣に纏わせた炎を消した。
戦士「!? おい!何やってんだ!?」
クラーグ「白い騎士よ、我らは敵同士ではないようだ。矛を引け」
煤けた白騎士「………」
言葉が通じないのか、声を発せないのか、あるいは思慮しているのか。白騎士は矛を収めはしないものの、斬りかかることもない。
ラレンティウス「…相手が何者か見切られたのですか?」
クラーグ「此奴が纏っているのは氷だ」
ラレンティウス「氷…?」
戦士「そんなばかな…水がこんなところでこお…」
クラーグ「凍るわけがない。だが、此奴の冷気は炎に耐える力を持っている。鎧も得物も、質が良い」
クラーグ「そのような者がここに現れたということは、混沌を封じるために此奴に武具を与え、此奴を鍛え、この地へと送った者がいるということだ」
クラーグ「ならば混沌を敵とする者同士、ここで斬り結ぶのも不毛であろう?」
戦士「…そりゃあ、そうかもしれんが…」
グリッグス「たしかに、向こうにも迷いがあるように見える。しかし、言葉は通じるのだろうか…」
クラーグ「炎の魔女の指輪の力を侮るな。指輪を持たぬおぬしらは此奴とは話せぬが、指輪を持つ我が望めば、我が言葉は此奴の耳にも届く」
クラーグ「騎士よ、同じ敵を討たんと欲するならば、名を名乗るがいい。それともやはり斬り合うか?」
魔女の提案を聞き、白騎士はしばしの間を置くと、兜を脱いでその亡者頭を晒した。
白く乾いた皮膚は骨に張り付き、喉は枯れて目も落ち窪んでいるが、長白髪はある種の気品を残しており、その瞳には強い意志の輝きが保たれている。
そして、白騎士は声無き喉をそのままに、乾き切った口を動かした。
クラーグ「…ロイエスの騎士?…それは名ではなかろう。我は名を聞いておる」
ロイエスの騎士「………」
クラーグ「名は忘れたか。たしかに亡者であるらしい。…しかしなおも使命は忘れぬとは、見上げた忠義者よ」フフフ…
756 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/12/29(水) 07:55:40.10 ID:NYzGPuGdo
まさかのロイエスの騎士
白王もどこかに…
757 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/12/29(水) 13:46:37.75 ID:SjH94s+DO
123入り乱れてワクワクする
これなら味方も集まるか
758 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2022/02/14(月) 23:30:11.64 ID:xHJb4II30
乙
凄く良かったので、更新待ってる
759 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/02/15(火) 00:04:10.30 ID:7L0HGD+lo
SS速報避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
760 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2022/02/20(日) 13:04:53.08 ID:Q4vidJth0
今や見る影もなく荒廃した火継ぎの祭祀場には、底の見えない大穴が開いている。
バオオーーッ!!
その大穴の闇そのものが盛り上がると、闇から黄金色の輝きが迸り、祭祀場の焼けた土に足をついた。
クリスタルボウイ「ふん、コブラめ。相変わらず逃げ足の速いやつだ」ピシュッ!
宿敵を嘲笑いつつ、クリスタルボウイは二つの暗紫結晶を石畳に放つ。
放たれた結晶は暗い輝きとともに闇を放ち、その闇からは二人の『人間』が姿を現した。
その祭祀場に急遽浮上した強大な闇に吸い寄せられたのか、大穴の周りにはいつのまにか幾人もの亡者、幾体もの骸骨が群がり、それに混じって髑髏鎧の騎士や、子の仮面の悪霊の姿もあった。
デュナシャンドラ「我が王よ。あのような卑小なる者が、まことにあのコブラなのですか?」
ゲール「………」
骸の貴婦人とでも言うべき痩躯の者は、クリスタルボウイ同様にコブラを嘲ったが、怪老は一言も発さず、ただ重々しい息をもらすだけである。
クリスタルボウイ「あなどるな。貴様はコブラの最も警戒すべき点をまだ見ていない。ヤツはここからがしぶとい」
デュナシャンドラ「そうは申しますが、あの者は呪われた不死ですらない、定命の者でございましょう?神の器をも手にし、闇のソウルの因果をその身に束ねられた貴方様を、いかに煩わせるというのです?」
クリスタルボウイ「その認識が甘いと言っているのだ」
デュナシャンドラ「………」
クリスタルボウイ「不死身という言葉はヤツのためにあるようなもの。ヤツの存在は一握の灰ほどもこの世に残してはならんのだ!」
クリスタルボウイ「お前たちに命令する!アーリマンの力に惹かれた者たちを引き連れ、ヤツらよりも先に王のソウルを集めろ!」
クリスタルボウイ「そしてコブラを発見したならば、この俺を呼べ!ヤツの首は俺が直々に狩りとる!」
クリスタルボウイ「ゆけーっ!!」
ザザザーーッ!
クリスタルボウイの一声とともに、闇に群がり仕えし者どもは一斉に散り、二人の人間のうちの一人は闇に沈み込んで姿を消し、もう一人は肉色のソウルを纏って嵐の如く飛翔していった。
そして刺客たちを放ったクリスタルボウイは、ひとり石階段を降り、古い昇降機の置かれた石部屋に立つ。
目指すは忌み地にして闇の苗床。
かつて自らが堕とした人の亡国、小ロンドの遺跡である。
761 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/02/21(月) 07:20:36.83 ID:SHUxHxf6o
SS速報避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
762 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/02/22(火) 12:14:52.56 ID:fZKL+a8FO
>>760
来てた
ボス同士の会話熱い
763 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/03/03(木) 21:33:04.58 ID:rL+e0MDDO
奴はここからがしぶといとかコブラのことある意味信頼してるとすら言えるクリボーの評価にほっこりする
764 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/05/09(月) 02:57:58.92 ID:Qv/Z+nTlo
保守
765 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/05/19(木) 12:16:48.75 ID:41MGYa+6o
3ヶ月ルールまだあるっけ
766 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2022/06/12(日) 02:19:26.12 ID:9sMPyAz/O
待ってます
767 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/06/12(日) 19:20:05.16 ID:p3JpPPYU0
待ってません
768 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/06/19(日) 15:08:11.93 ID:qv3mgGJH0
闇に生き、闇を求め、闇に還りし者たちは、今やロードランの隅々に蔓延り、大路を跋扈している。
そのさまは緑の茂る、精霊たちの封地も例外ではない。
黒森と呼ばれ、心持つ者たちに恐れられたその地もまさに、闇の手に堕ちようとしていた。
東国の戦士「気狂いどもめ…狩猟団を敵に回し、何を得るつもりだ」
東国の戦士「貴様らの求めるものなど、この地には無いぞ」
同胞をことごとく斬られ、大業物をも弾き取られた男は、鉄の盾を構えて侵入者と相対している。
男の懐のエストはもはや尽きており、残り少ない狩人たちも、敵が連れてきたダークレイス達に手を焼き、助力できない。
闇霊「我々が求めるものなど、お前如きに分かるはずもない」
闇霊「我々は侵し、殺し、奪うまで」
封地を荒らす者達の長、赤黒いソウルを纏いし騎士は、黒騎士の斧槍を中段に構えて東国の戦士ににじり寄る。
そして東国の戦士の脳裏には、盾で斧槍を絡め弾くという選択は浮かばなかった。
一度敢行した際に、手の内を読まれて発火を合わせられてしまい、その時の負傷が残り少なかったエストを枯渇させてしまったのだ。
ダッ!
地を蹴って、侵入者が東国の戦士との間合いを詰める。
東国の戦士は盾を構えてはいるものの、その盾は命を長らえさせるだけで、戦士に勝利をもたらすものではない。
ドスッ!
そして、一刀が鎧を貫いた。
しかし、東国の戦士は盾を構えながらも、呆気にとられた。
東国の戦士は古今東西を歩き、多くの武具を見聞きし、あるいは使い、蒐集してきた。
その眼にかなう業物が、侵入者の背を貫いて、胸部から覗いていたからである。
闇霊「グッ!」
短く息を漏らす侵入者を、業物の持ち主は蹴り飛ばし、地に伏せさせる。
そして起き上がりぎわに一閃を入れ、そのまま沈黙させた。
東国の戦士「なにっ…!?」
剣と剣とを使いこなす、二刀流によって。
黒森に生き、そして黒森を目指す者は、知ることになる。
新たな戦士の到来と、闇に一石が投じられたことを。
二刀で侵入者の首を撥ねた獅子鎧の騎士は、東国の戦士に背を向け、歩きだす。
そして森を抜け、不死教区を歩き、かつて竜が居た大橋で出会う。
その者は、獅子騎士と同じく、やはり疑問を抱いていた。
確たる真理を見たというのに、何故我らは闇に呼ばれたのか、と。
769 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/06/19(日) 15:40:48.47 ID:qv3mgGJH0
しかし、獅子騎士と同じく、その者の口も言葉は無く、眼前の者への敵意も無い。
互いにあらゆる敵と戦い、その全てを制し、世の真理を見て、正しき道を選んだことを知っている。
その道が壊れ、歪んでいたと知っていたとしても、道を歩き通したのである。
例え全ての道が、ひとつの滅びに行き着いていたとしても。
そして、滅びの道の末に、見るべき灯を見つけたのだ。
原初の闇と、原初の火。原初の無がある世界を。
過去も未来も、光をも捨てた者。
フォローザに生まれ、今やただひとりとなる獅子騎士には、アン・ディールにより与えられし忌み名がある。
そして、全てを終わらせし者。
火無しの灰騎士にも、火防女からの言葉があった。
絶望を焚べ、火を閉じた者達は、再び闇に導かれ、己の意志で戦いに身を投じる。
常に不変であった者…
闇を、変えるために。
770 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/06/19(日) 16:45:29.27 ID:2n6hxnEDO
あんまり記憶に無いアルバートと…
ついに灰の人か
771 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/07/05(火) 16:28:59.60 ID:vfkWEp/jO
うお来てた
772 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/07/05(火) 23:51:33.60 ID:4DVYUFGdo
>>769
まさか2と3主人公が…
773 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/10/24(月) 04:43:56.39 ID:tq4he4YNo
気長に待ってる
774 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/02/17(金) 23:22:25.84 ID:VIf+M5HnO
保守
775 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/11/22(水) 05:23:35.42 ID:Lwlw0rTs0
エタったか
楽しみだったけど仕方ない
今までありがとうございました
776 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/11/22(水) 20:51:56.29 ID:PJdSvuLr0
エタったスレわざわざ上げるとか馬鹿なの?
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