【スペース・コブラ】古い王の地、ロードラン

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/21(金) 09:32:29.51 ID:u/Z6bUP30
いつかブラッドボーン編もオナシャス
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/28(金) 11:12:19.69 ID:Hb1zpgYd0
何かに追い立てられているかのように歩き出した戦士を先頭に、ソラール、グリッグス、ラレンティウスが続く。
毒を持ったぬかるみは依然として病み村の底に沈殿していたが、不思議と四人の動線を避けるかのように、彼らは身をよじった。
炎の魔女の言葉もあるが、竜に泥をすすられた為に量が減った事が、ぬかるみに溶け込んだ亡者に、いくらかの動く自由を与えていた。


黒いローブの女「コブラ」


四人に続いて、灰の丘を目指して歩こうとしていたコブラとレディを、魔女は引き止めた。
コブラはレディを先に行かせると、ズボンのポケットに手を突っ込んで、魔女に向き直った。
それは人の話を聞く時の、彼特有な癖だったが、今は葉巻も無い。


コブラ「話ね。俺との事を考えてくれたって訳でも無さそうだが」

黒いローブの女「ああ、お前の事では無いよ。お前がこれから出会うであろう、私の姉妹たちについてだ」

コブラ「姉妹?そいつはいいな。道中退屈しないで済む」

黒いローブの女「真面目に聞いてくれないか」


魔女は語気を強める事も、叱咤する事も無かったが、コブラは口を閉じた。
彼女の神妙な雰囲気を感じ取ったコブラにとって、その雰囲気が今までどういう時に漂っていたのかなど、いちいち思い出す必要も無かった。
海賊として宇宙を駆け、他人からの頼みを多く受け、また断ってもきたコブラは、彼女が言おうとしている事がロクでもないものであると見抜いていたのだ。




黒いローブの女「かつて私には多くの姉妹たちがいた。だが、母様が見出した混沌の篝火からデーモンが生まれ、そのデーモンの炎から逃れるために、皆離れ離れになってしまった」


黒いローブの女「ある者は焼かれ、ある者は正気を失い、ある者は混沌を宿し、またある者は、混沌の苗床となった母様を鎮めるため、その身を楔へと変えてしまった」


黒いローブの女「おそらく、無事に生き残ったのは私だけだろう。そして、我ら姉妹の今を知る者もな」


コブラ「………」


黒いローブの女「コブラ、お前に頼みがある」


黒いローブの女「私の姉妹たちを、楽にしてやってはくれないか」



コブラは無意識に、ポケットの中をまさぐった。
しかし葉巻は無い。



コブラ「やっぱり殺しか…だと思ったよ」フフ…

黒いローブの女「すまない……本来なら、裏切り者の私がやるべき事なんだ。分かってる」

黒いローブの女「でも、私にはどうしても出来ないんだ…」

黒いローブの女「私はもう…臆病者になってしまっているから…」


コブラ「そんな事言われても俺だって嫌だぜ。俺は海賊であって殺し屋じゃないんだ。悪いが他をあたってくれ」


黒いローブの女「………」

コブラ「おおかた、長く苦しめるくらいなら、いっそのこと…って思ってるんだろうが、そいつは大きなお世話かもしれないぜ?」

コブラ「話を聞いてみりゃ、案外楽しくやってるって事もある。姉妹だからって、向こうが何を考えてるかなんて分からないだろ?」

黒いローブの女「お前は何も知らないから…そんな事が言えるんだ…」

コブラ「ああ知らないね。だが知りすぎているヤツってのは大抵、知っている物をイジりたがらなくなるもんさ」

コブラ「それはあんたも分かってるはずだ。それに、だからこそ俺に頼んだ」

コブラ「そうだろ?」


黒いローブの女「…………」


コブラ「なあに、ちょびっと口説いて、ダメだったらあんたの話も考えるさ」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/28(金) 19:06:08.57 ID:Hb1zpgYd0
魔女の願いに曖昧な応答を返したコブラは、先を歩いていたレディに追いつくと、四人の不死と共に灰の丘を登り、横穴に入った。
横穴の中は暖かく、壁は白い蜘蛛糸状の粘着物に巻かれた、いくつもの節くれで構成されていた。
ソラールが節くれの一つに触ると、節くれはかすかに脈打った後、冷えて固まり、その様子は蜘蛛糸の存在も相まって、横穴を進む一行に、蜘蛛に捕らえられた虫の断末魔を連想させた。


コブラ「きっしょくの悪い所だなぁここも。旅の勇者をちょっとはもてなせってんだよなぁ」

ソラール「確かに良い気はしないな。この壁は何で出来ているんだ?」

グリッグス「何かの繭にも見えるが…」

ラレンティウス「なんにしても知りたくないね。こういう物には、もう触らない方がいいぞ。何が入っているか知れたものじゃない」

戦士「………」

コブラ「それにしても横穴の先に見えていたのが糸だったとはね。白くてモヤモヤしてるもんだから、てっきり霧かと思ってた」

レディ「案外この先に本当にあったりしてね。ところでコブラ、さっき彼女と何を話して…」

戦士「静かにしろっ、何かいる」シャリッ



列の先頭を歩いていた戦士が、静かに、しかし素早く剣を抜いて構えると、コブラとレディを含めた旅の一行も戦闘体制に入った。



「ううぅぅ……」



道の奥から、うめき声とも祈りともつかない声が漏れている。
音の重なり具合から、複数の何者かがいる事は確かだった。


戦士「俺が先に行く。後から来てくれ」

ソラール「分かった。貴公も気をつけろ」


返事をしたのはソラールだけだったが、その場の全員がすでに身構えている。
戦士は返事を待つ必要も無かった。


ダッ!


戦士は突貫し、声の発生源に向かって剣を振り上げた。
そして一気に振り下ろし、声の主の首を飛ばそうとした。
しかし、戦士は躊躇した。
心擦り減らす過酷な旅とはいえ、敵かも分からぬ無力な者を斬るのには、やはり迷いが生じるのだった。



卵背負いの亡者達「………」ブツブツ…



蠢く大きな節くれを背負い、重みに潰されてもなお、掌をすり合わせ祈ることをやめない亡者達。
衣服はまとわず、卵から伸びた脈動する導管に全身を蝕まれている彼らは、一心不乱に祝詞を唱えている。
だが、無限とも思える時を唱えられ続けたその祝詞は、もはや言葉の体すら整えておらず、聞くものの耳に苦悶の声として届くのも、必然と言えた。
戦士を援護するべく駆けて来たコブラ達も、その様子には閉口し、切りぎりに声を漏らすだけだった。


コブラ「こいつは…」

ソラール「むごい…不死の身にこれでは…」


さらに、その亡者達の外見から誰もが連想する物は、コブラ達をさらに戦慄させ、特に不死達を恐れさせた。

168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/28(金) 19:32:44.03 ID:xB+hs4Y8O
こ、こわい……
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/10/28(金) 23:02:19.29 ID:C+GHjOxWo
卵産み付けられてんだっけか?確か
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/30(日) 03:07:41.72 ID:se1u189k0
戦士「引き返そう…ここは本当にやばい…」

ソラール「待て、考え直せ」

戦士「お前こそ考え直せ!見て分からないのかよ!ここがどんな所か!」

ソラール「分かっている…分かっているが、しかし…」

ラレンティウス「いや、確かにここは危険だソラール。嫌な予感がする」

ソラール「………」

戦士「俺は帰るぜ!もうたくさんだ!」


コブラ「まぁ待てよ。俺たちにはまだ卵が付いてないだろ?」


戦士「うるせぇ!このまま進んだらこいつらみたいに干からびて、ここの壁の一部になっちまうんだぞ!?それでビビらねえ奴は、亡者なんかよりよっぽど頭がいかれてるんだよ!」


コブラ「俺の頭はとっくの昔にイカれてるが、干からびた亡者なんて何度も見て来たことくらいは覚えてるぜ。何を今更怖がる必要がある?」


グリッグス「キミは不死についてよく知らないようだな……不死は死ぬたびに体が崩れていく物なんだ」

グリッグス「体は細り、脳は縮んでいく。そして骨すらも崩れ始めると、今度は骨片が灰になっていく。これがどういう事か分からないはずもないだろう」


コブラ「例えここが不死の末路の塊で出来ていたとしても、俺は引く気は無いぜ」

コブラ「もっと言えば不死に卵を産みつけて、余分なヤツは灰にしちまうような化け物がこの先にいたとしても、俺は進む」


グリッグス「………無謀だぞ」


コブラ「そう来なくちゃ面白くない。俺は賭け事が大好きなんだ。特に、イカサマをする瞬間がね」


コブラ「行くぞレディ。一儲けしようじゃないの」

レディ「ベットが少ないんじゃなくて?」

コブラ「つまんなくなったら、台をひっくり返すだけさ」



コブラとレディは、四人の不死を置いて先に進んだ。
ソラールは二人について行こうとしたが、ラレンティウスの言葉と、この場そのものに後ろ髪を引かれ、動けなかった。
勇気と蛮勇、信仰と賭けは、共通点はあっても同一ではないという事をソラールは知っており、その一線を超えないように日々心がけていたからである。
太陽への信仰心を他者にも求め、変わり者と呼ばれた、不死になる前の自分に戻らないように。



コブラ「あらまぁ、こいつはマイった」フワァ…

レディ「本当に私の言った通りになったわね」



二人の目の前に、霧が立ちはだかった。
そのうねりは、やはり若干の反発力を含んでおり、コブラの手を空気の揺らぎ程度の力で押し戻している。



コブラ「やっぱり女の勘ってのは凄いね」

レディ「どういたしまして。それで、入るの?それとも入らない?」

コブラ「そりゃ入るさ。コブラはバック出来ないんでね」ブォワアアァ…



その反発力を掻き分け、コブラとレディは霧を抜けた。


171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/30(日) 03:35:56.05 ID:uRIP9iWyo
鬼が出るか蛇が出るか
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/31(月) 00:21:33.14 ID:MPyVXjea0
節くれの洞窟の先には、またも広い空間があった。
そこは楕円形の大広間で、四方の壁と天井は糸に巻かれた卵で出来ていた。
二人が潜った霧は楕円の両端の一方にあり、その反対方向には石積みの古城の一部を思わせる、丈の高い建造物が見える。
その建造物の出入り口と思しき横穴から、赤い光が漏れだした。


コブラ「さっそくお出ましか。勿体が無くていいねぇ」グン


徐々に強くなる光に応えるかのように、コブラは特大剣を抜いた。
光が発する熱は、数十メートル離れた石畳に立つコブラの髪さえもなでる。
そのコブラの頭の中を、グリッグスの語った不死の話がよぎった。


ガスッ ガシュッ ガツッ


光源が数多の脚を動かして、建造物の出入り口から姿を現す。
その者の姿は、コブラとレディの予想した物と、概ね同一と言えた。
太く長い外骨格の脚を複数本伸ばし、脚の付け根を束ねる胴体は、まさしく蜘蛛のものであり、然とした印象を、大小様々な複眼を持った頭部と丸くて大きな腹部が、更に強めていた。


コブラ「!」


しかし、コブラとレディの予想を超えた特徴を、蜘蛛は備えていた。
腹部から灼熱の炎を噴き上げている事よりも、おびただしい乱杭歯に満ちた大口を、蜘蛛の頭に開けている事よりも、その特徴は異彩を放っていた。
蜘蛛の胴体から生えた、黒髪の美女の上半身に比べれば、それらは些細な物にしか映らなかったのである。
少なくとも、コブラの眼には。





混沌の魔女クラーグ「………」フフッ…





見た目の上ではかすかなコブラの動揺を、混沌の魔女は既に見抜いており、そして勝ちを確信した。
哀れな供物が訳も分からぬままに燃やされ、吸い尽くされる様を、魔女は幾度も見てきた。
その道理を覆そうと足掻いた力ある不死も、幾人も灰へと変えてきた。
しかも、今度の獲物は見たこともない程のソウルと、その裏に潜むものを持っているのだ。
舌なめずりをせずにはいられない。


コブラ(なるほど…彼女が姉妹の一人という訳か…)

コブラ「レディ、気をつけろ。こいつは今までの奴とは違うようだ」


魔女は右掌から小さな火柱を噴くと、炎を固め、一本の異形の剣を作り出した。
そして語りかけるようでいて、その実、誰にも話しかけていないような、傲岸不遜な声を発した。




クラーグ「豊かな贄を運びし者よ。よくぞ我が前に現れてくれたな」


クラーグ「これほどの糧ならば、我が妹の病も少しは癒えよう」



剣に炎をまとわせ、魔女はコブラ達に近づいていく。
一直線に最短距離を歩きつつ、見下すような微笑を向けてくる彼女を見て、コブラも瞬時に魔女の本質の一部を見抜いた。
彼女には敵がいない。敵を敵と思った事も無く、全ての不死は彼女達の供物だったのだ。
そしてコブラの反骨心と子供心が、そんな傍若無人に口を出さない訳が無かった。



コブラ「泣かせるねぇ。化け物になっても血の繋がりは捨てられないって事か」


クラーグ「!!!」


コブラ「そういう本はバカみたいに売れるがね、歴史を作った試しがないんだ。俺みたいな海賊には不要だな」フフッ

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/31(月) 01:32:40.93 ID:rSjjck+so
歴史を作らないんじゃ考古学者にも不要そうだな
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/02(水) 14:54:17.48 ID:3Ea9QEps0
魔女の身体は、混沌の炎に半ばまで飲まれ、変質している。
ゆえに纏うのは混沌の炎であり、本来彼女の持っていた魔女としての本質も、失われている。
その本質があれば、コブラの指に嵌められた『老魔女の指輪』の効力を見抜くことが出来ただろう。
そして、指輪を強めている、コブラの中にある未知の力の存在すらも。


クラーグ「フフッ……クククク…」


クラーグ「面白い…魔女の言葉を解するか…」


コブラ「なんの話か分からんね」ニッ


クラーグ「とぼけおって……まあ良い。その方がそそられる」

クラーグ「お前を殺し、そのソウルを見てみたい」ボォォ…


魔女の手に握られる魔剣の炎が、より強く輝きはじめる。
魔力の高揚に応え、力を増していく炎が、剣の刀身を伸ばしていく。


コブラ「さすがは魔女だ。そんな殺し文句を聞くのは、ここに来て以来初めてだ」



バフォオオーーッ!!



魔女が振り下ろした剣の炎は、天井を焼いてコブラの脳天を目指した。
しかしコブラはこれを回避し、踏み出した脚を軸にして、特大剣を振り回す。


ドゴオオン!

コブラ「うおっ!?」


その特大剣が蜘蛛の脚の一本を切り飛ばそうとした瞬間、蜘蛛の脚の爪先から爆炎が放たれ、特大剣を弾き返した。
それだけに留まらず、コブラの身体さえも宙に舞わせた。


ビシーッ!


吹き飛ばされたコブラは壁に背中を打ち付け、地に伏した。
レディは一瞬コブラの元へ駆け寄ろうとしたが、それより前にやらなければならない事に気付き、行動に移した。

ドガッ!

それは、魔女の注意を引きつけ、コブラに体力を回復する時間を与える事。
レディの上段回し蹴りは、魔女の人型としての腹部に向かったが、魔剣がその射線を遮る。
魔女に手傷は無く、彼女の唇は余裕を口にする。


クラーグ「お前も奇妙だ」

クラーグ「鉄の身体だが、そうではないな……人が鉄を真似ているのではない。鉄に人が宿っているのだろうな」

クラーグ「かつての私なら全てが見抜けたものを……口惜しいな」フフフ…

レディ「それには同意ね。あなたには私が何で出来ているかなんて分からないでしょう」

クラーグ「分からぬな。まぁ、殺して覗けば見えもしようが」

レディ「それも無理よ。あなたには何も見えない」

クラーグ「やらねば分からぬわ」ニッ



ブオオオーーッ!!



レディのこめかみを狙った魔剣は、またしても空を切った。
後方へ跳んだレディは、魔女の出方を伺う。

レディ「!! 待ちなさい!」ダッ!

だが、魔女の関心は再びコブラへと戻った。
地を駆ける蜘蛛は速く、アーマロイドの俊足を以ってしても、距離を維持するのがやっとだった。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 00:50:52.11 ID:lP8HqPD7O
これが本当の殺し文句という奴か
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/03(木) 13:07:15.65 ID:kGxxCjIp0
コブラ「イテテテ…あやうくリュウマチになるとこだった」


軽口を叩きながら起き上がったコブラの足取りは、おぼつかなかった。
人間とは思えない強靭さを誇る男にも、無限の耐久力がある訳ではない。
視界はぐらつき、思考にも靄がかかる。耳鳴りも頭の中で響いている。


シャカシャカシャカシャカシャカシャカ!


その耳鳴りの音に、蜘蛛の這う音が混ざり、大きくなる。
コブラが見上げた先には、蜘蛛の大口があった。


ガチン!

コブラ「だっ!?」サッ

ガチン!ガチン!ガチン!

コブラ「まっ、待った待った!待ったぁっ!」サッサッサッ

ブオォン!

コブラ「ひえーっ!」バッ!


コブラの頭を噛み砕かんと、蜘蛛の大口は貪欲に口を開閉した。
牙を回避するために、コブラはスウェイとダッキングを多用し、全てを紙一重でかわしたが、その口撃に炎の刃まで混じりだしたあたりで、コブラは限界を悟った。
危険地帯から跳びのき、その後に少し走り、楕円形の空間の真ん中に陣取った。


コブラ「そういう熱いやつは、あんた自身の唇にお願いしたいね」ハァハァ…


壁際の攻防には魔女に分がある。
視界と行動範囲を広く取れる場所にコブラは移動したが、これは優位を取った訳ではない。
追い詰められているのだ。


ゴポゴポゴポ…


蜘蛛の大口の中から赤い光が漏れだす。
そこで、蜘蛛に追いついたレディの妨害が入った。

タン!

レディは蜘蛛に向かって高く跳ぶと…

バッ!

魔女の頭部へ向け、飛び後ろ回し蹴りを繰り出す。
魔女の二つの瞳はコブラを見ており、レディには気づいていない。



ブブン!!

レディ「!?」バシッ!


だが、不規則に密集した蜘蛛の複眼の一つに、レディの姿が映っていた。
蜘蛛は腹部を石畳に着け、そこを起点にコマのように回転し、レディの脚を弾く。
そしてレディが石畳みに落ちる前に、蜘蛛は回転力を利用してコブラに向き直り…


ゴボボォン!!

コブラ「!!」


大口から、どろりとした炎の塊を吐き出した。
塊はコブラには当たらなかったが、コブラの前後左右を取り囲むようにして地に落ち、高温を発した。
石畳を溶かし、溶岩溜まりを作るほどの高温を。


ゴワァーッ!


魔女が渾身の力を込めて放った炎の刺突が、コブラの眉間を打ち抜く瞬間、コブラの額が消えた。
火の海と突きを回避する手段は、ワイヤーフック以外には無い。
だが、天井で宙吊りになったコブラは、ますます追い詰められていた。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 14:58:52.49 ID:7ATyZpUfo
ヤバい…
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/03(木) 18:42:55.57 ID:kGxxCjIp0
コブラ「うっ…ごほごほ…」


溶けた石から立ち昇るガスが、コブラの肺から酸素を奪っていく。
そして代わりに有毒な物を、肺を通してコブラの血中に混ぜ込み。弱らせる。
だが、コブラの意識が消えるよりも早く、コブラの身体は水膨れに包まれた死体になるだろう。
数メートル離れたからといって、石を溶かすほどの高熱から逃れたとは、とうてい言えないのだから。

コブラ(くそう、なんてこった……これじゃローストコブラになっちまうぜ……)

コブラ(息は吸えないし、かと言って降りることも出来ない)

コブラ(ワイヤーフックの巻き取りの出力も、重力を無視して一直線に俺を引っ張るほど強くはない。天井に引っかかったフックを外して壁に撃ち直しても、マグマにドボンだ)

コブラ(


クラーグ「…………」


コブラ(魔女さんよ…出来る事なら俺を燃やしに近づいて来てくれないかね…)

コブラ(そしたらアンタに跳びついて、漢方薬にならずにアンタと戦えるんだがな)



クラーグ「燃え尽きるがいい」ニッ

コブラ「!!」



魔女は嘲笑を含めた微笑みでそう言うと、ゆっくりとレディの方へ振り向いた。
そして剣の炎を整えながら、レディに近づいていく。



コブラ(とんだ悪女に引っかかっちまったもんだな……伊達に不死の燃えカスで巣作りしてた訳じゃないって事か………)

コブラ「ごほっ!」

コブラ(眠くなってきた…)ゼェゼェ…

コブラ(もうヤケだ。手負いのコブラを放っておいたツケを払わせてやる)ゼェゼェ…


179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 20:44:25.96 ID:x7erI1avo
追い込まれたコブラはドラゴンよりも凶暴だ!
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/03(木) 23:44:19.36 ID:kGxxCjIp0
ブォン!! ゴオオッ!!

レディ「くっ!」ババッ


振り回される魔剣に翻弄されながらも、レディは回避に専念する事で辛うじて無傷を保っていた。
横振りが来たら身を屈め、縦振りには横飛びをし、袈裟斬りが降りかかったならば、転がるように跳んだ。
魔女の剣戟は正確では無かったが、その切っ先はことごとくレディの逃げ場を断ち、彼女から行動の選択肢を奪っていった。
クラーグの剣勢は戦いの為ではなく、狩りの為にある。逃げ場のない空間で獲物を捕まえるには削る戦いこそが必要であり、一撃必殺に用は無いのだ。


クラーグ「ウフフフ…」ヒュヒュン!

レディ「あっ!」ガッ!


間隔が無く、単調な剣戟にレディが慣れ始めた頃に、クラーグの剣がレディの足首を捉えた。
振り回しから一転、素早い突きに剣戟を変えたクラーグに、レディは対応出来なかったのだ。


ガキィン!!

レディ「!!」


クラーグは転倒したレディを蜘蛛脚で捕らえると、レディの頭を石畳に押し付けた。
次に剣を高く振り上げ、レディに再び微笑を向ける。
まるで粗相をした使いを、主が悪戯に処刑するかのように。


クラーグ「我らが糧となれ」


クラーグがレディに宣告をすると…




ドブッ




クラーグの背後で鈍い音がなった。



クラーグ「奴め、もう落ちたのか」フフフ…

レディ(コブラ…)



クラーグは勝利を確信した。
哀れな勇姿が死に、目の前の奇妙な女も灰塵に帰する。
その事に優越感と、一抹の罪悪感を覚えながら。


ガスッ


クラーグ「?」


だが、剣を振り下ろそうとした瞬間に、小さな棘でチクリと刺される感覚が、クラーグの蜘蛛の腹部に生じた。
クラーグはレディを脚で押さえつけたまま、上体をねじって背後に目を向けた。




クラーグ「なっ!? き、貴様!!」



視線の先には、溶岩の光に下から照らされながら、蜘蛛の腹部へフックを飛ばしたままの体勢のコブラと…


コブラ「かわいいねぇ、そういう顔も出来るんだな」ニィッ


そのコブラのブーツ裏に敷かれた、一本の特大剣があった。
溶岩に浮く特大剣に乗ったコブラは、不敵な笑みを浮かべていた。
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/04(金) 02:06:56.08 ID:9XIWq7yaO
ヒューッ
こいつは面白い。一気読みしてしまった
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/11(金) 16:22:41.67 ID:TepObGIC0
黒騎士の特大剣には、ある加護が元より施されている。
加護は際立って強いという訳でもなく、時の経過で半ば力を失っている。
しかし残滓を残すのみとはいえ、この特大剣は熱の類を寄せ付けず、溶岩にすら溶け込まない、ある種聖剣とさえ言える遺物なのである。
コブラはもちろん剣に施された術の存在など知らない。しかし、コブラには加護がもたらされていたのだ。

キュルルル! ボボォン!!

最高出力でワイヤーを巻き取るリストバンドに牽引され、コブラは溶岩の上をサーフィンし、跳ねた。
ブーツの裏は熱で溶けはじめていたが、その融解がブーツと剣を癒着させ、コブラだけが魔女に向かってすっ飛んでいく事態を防いでいた。
しかし、断熱加工が施されたブーツとはいえ、靴裏が溶けるほどの熱をカットし続ける事は出来ない。


ドカーーッ!!


クラーグ「!!」


コブラの体重が乗った特大剣は、クラーグの蜘蛛の腹部を飛び越し、クラーグの人としての腹部を、背中から貫いた。
貫通の衝撃でコブラは特大剣から剥がれて地面に落ち、その顔に血を被った。


バシャバシャバシャバシャ…


灼熱の大剣に貫かれたというのに、魔女の血は熱くなく、炭の香りも発していない。
魔女の負った深手は、魔女からレディを抑えつける力すら残らず奪い去ってしまった。



レディ「コブラ…もうダメかと思ったわ…」

コブラ「ああ、俺もさ」

ドスーン…



蜘蛛の脚は力なく崩折れ、重い胴体を石畳に押し付ける。
魔女は口と腹部から血を吹くと、血まみれの大剣を抜こうと刃に手を掛けた。
しかし、出血と痛みが魔女から力を奪っているため、魔女は剣をひと撫でする事しか出来なかった。
そして失血の勢いが弱まるにつれ、魔女の身体には震えが走りはじめる。



クラーグ「ば……馬鹿な………こんな、ことが……」ガクガク…


コブラ「足元を掬ってやろうと待ち構えるヤツの足ほど、掬いやすいものは無い。いい勉強になったろ?」


魔女は苦痛と混乱に顔を歪ませながら、勝ち誇るコブラに顔を向ける。
だが、もう一度血を吐いた魔女は、コブラ達に大剣の刺さった背を晒して、蜘蛛脚と蜘蛛の腹を這いずらせた。
楕円の両端の一方、魔女が姿を現した石の構造物へ向かって。



クラーグ「はぁ…はぁ…」ズズッ… ズズズ…



コブラ「………」





ソラール「わああああああああああああああああ!!」

戦士「うがああああああああああああ!!!」

ラレンティウス「うおおおおおおおおおおおお!!」

グリッグス「う、うわああああああああああ!」


突然、四人の不死が威嚇ともヤケとも言える咆哮を上げて、楕円形の空間に突撃してきた。
だが彼らの勢いは数秒も持たず、あっという間に沈静した。
戦いが終わった場に戦いは起こらず、恐怖は無いのだから。


ソラール「あ、あれ?なんだ?」

戦士「終わっ……てる、のか?」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/11(金) 17:26:18.88 ID:mnuFrbq+o
助けに来たのか
かわいいな、こいつらw
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/11(金) 19:12:10.51 ID:PuXF6VpFO
さすがみんなのアイドルww
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/13(日) 14:45:35.72 ID:p0DUIt/E0
コブラ「やれやれ、パーティーの終わりぎわに来るんじゃ、まるで片付け泥棒だな」

戦士「! 暑っつ!なんだよここ、溶岩が噴いてるじゃねえか…」

コブラ「そいつは魔女が撒いた炎だ。湧き出してるものじゃ無いから、ほっときゃ冷めるさ」

ソラール「魔女?……あの蜘蛛の事か?遠くでへばっているあの…」


ソラールに指さされた魔女は、動かなくなっていた。
だが依然と炎をまとっており、それがコブラに、魔女は今動けないだけなのだという事を伝えている。
楕円の両端に張られた霧も、晴れていない。


グリッグス「まさか、倒したのか?たった二人で?」

コブラ「ああ。出来れば口で堕としたかったがね」

グリッグス「?…クチで?…何を言ってるんだ?」

ソラール「たまにそういう事を言うんだ。気にしてもしょうがないぞ」


ラレンティウス「………」


コブラの軽口にグリッグスが首を傾げている間に、ラレンティウスは突っ伏して震える大蜘蛛に近づいていた。
もちろん、手の炎を強めて、いつでも火炎を発せられるように構えてはいる。
だが、ラレンティウスの心の内には、介錯の慈悲や警戒よりも先に、好奇心が立っていた。
炎に魅せられた大沼の者にとっては、炎をまとう蜘蛛は具現した神秘なのだ。


ラレンティウス「うおっ!?」

ソラール「なんだ?生きてるのか!?」


だが、ラレンティウスが思うよりもずっと、神秘というのは惨たらしく横たわっていた。
三人の不死は、呪術師と蜘蛛の元へ駆け寄るが、コブラはついて行かず、手首のバンドを弄っている。
レディは屈んで、魔女の炎にはたかれた自身の足首の状態を診ている。


グリッグス「!? こ、これは…?」

ソラール「大変だ………みんな手を貸してくれ!蜘蛛から彼女を引きずり出す!」ググッ


クラーグ「!!」メリメリ…


戦士「待て待て待て!腹に剣が刺さってる!ゆっくりやらないと傷口が開いちまうぞ」グッ…

戦士「…ん? あ、あれ?」

ソラール「どうした?抜けないのか?」

戦士「こいつ、蜘蛛とくっついてるぞ…」

ソラール「は?」

戦士「ていうかこの剣コブラのじゃねえか!みんな構えろ!こいつは魔女だ!」シャリン

ソラール「お、おう?」シャリ…



剣を抜くのに躊躇しているソラールを、戦士は焦りを込めた目で睨んだ。
その隙をついて、ラレンティウスが戦士と魔女の間に割って入った。
コブラはリストバンドの『設定』を終え、レディと共に四人の不死に近づいていく。



ラレンティウス「ま、待ってくれ!剣を抜く前に考える事があるだろ!?」

戦士「ああ考えたね!だから殺す!お前の炎の探求に付き合えるほどの余裕は無いんだよ!」

戦士「この巣を見ろ!さっきの魔女は俺たちを助けたかもしれないが、こいつは不死の灰で巣を作って亡者に卵産みつける化け物だぜ!?今殺さないと俺たちが壁になっちまうだろうが!」

ラレンティウス「し、しかし…!」

戦士「うるせぇ!そこをどけ!」

コブラ「いいや、もっと考えた方がいい」

戦士「!」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/14(月) 01:35:13.70 ID:GMofeS0XO
デートへの誘い文句をかな?>考えた方がいい
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/20(日) 03:39:50.58 ID:uC4NEk+N0
コブラに呼び止められた戦士は、口論をやめてコブラを睨んだ。
その視線には明らかな抗議の意と、呆れが含まれている。
だがコブラは身を引かない。巣の外で出会った女に、送った言葉の証明がしたいのだ。


戦士「またあんたかよ。今度はなんだってんだ?」

コブラ「何って、口説くのさ」

戦士「また訳のわからん事を……いいか?今までは上手くいったかもしれないけどな、そんな事は俺に言わせりゃ…」クドクド


戦士が愚痴をコブラに吐きつけるが、それを無視しつつ、コブラは魔女に向かって左手をかざすと…


ピッ

魔女「っ!」トスッ

ラレンティウス「あっ」


リストバンドからワイヤーを飛ばし、魔女の肩に刺した。
呪術師が小さく声をあげるが、コブラの行動に迷いは無かった。


パリッ!


放たれたワイヤーを通して、魔女の身体に通った衝撃は、あくまで弱く、目立たなかった。
だが、弱った魔女から意識を奪うのには、それで十分だった。


魔女「……」カクン


コブラ「ただし、今は辞めとくがね。美人を誘う時はムードを作っておかないとな」


サイコガンに込めるエネルギーには調節が効く。
極限まで強めれば星を破壊し、最小まで弱めれば麻酔効果を持つのみに留められる。
そのエネルギーを、サイコガンから義手を通してリストバンドのワイヤーに纒わせれば、無制限に使えるテーザーガンが完成する。
しかし、コブラはその仕組みを不死たちに説明する気は無く、不死たちも、単なる毒針としか見なかった。


ラレンティウス「……殺したのか?」

コブラ「生きてるよ」

グリッグス(えらく即効な麻酔だな……しかもこんな魔女までも眠らせる程とは、どこの工房で調達したんだ?)

ソラール「さっきから話が読めないんだが、何がどうなってるんだ?」

戦士「俺に聞かないでくれよ。俺にだってコイツのやってる事が分からねえんだから…」


レディ「見て、霧が晴れているわ」



魔女がうな垂れて数秒が経つ頃には、楕円形の空間の出入り口を覆っていた霧は、消え始めていた。
そして、レディが指差した石の構造物は、向こう側の景色を、出入り口から覗かせていた。


コブラ「なるほど、やっぱりそういう事か」

レディ「そういう事って?」

コブラ「二体の魔除け像を倒したあたりから気になってたんだ。思った通り、この試練のキーパーソンにのみ、霧を制御する事が許されているみたいだぜ」

レディ「これも魔法のなせる技って事なのかしら」

コブラ「さあな。なんにせよ、手玉に取られてるみたいで良い気はしないがな」

コブラ「さてと、彼女が起きる前に、妹君に謁見するとしようか。鐘なんかより俄然興味をそそられるってもんだ」

レディ「まぁ、コブラったら」フフフ…


ソラール「妹君?本当になんの話かさっぱり分からないんだが…」

ソラール「なぁ、貴公は何か知っているか?」

戦士「だから知らねえって!いちいち俺に聞くな!」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/20(日) 05:53:45.05 ID:AEja6wL7o
ソラールと戦士が萌えキャラ化してるww
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 10:36:38.88 ID:fldI0Liu0
流石コブラ
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/20(日) 19:16:47.92 ID:uC4NEk+N0
コブラは構造物に入ると、視線で物色するかのように、辺りを見渡しながら歩みを進めた。
だが目ぼしいお宝は一つも無く、見えるのは朽ちた石畳と、朽ちた石壁。それに角の丸くなった階段と、卵で出来た節くれだけであった。


コブラ「はーあ、近頃ろくなモノ見てないぜ。いかにもお宝って感じのヤツはないのかねえ」

レディ「お宝なら外の沼で取ったじゃない。それに、お目当の美女にも何人か出会えたのではなくって?」

コブラ「堅っ苦しい魔女に、顔をチラッとしか見せてくれない魔女。あと蜘蛛の脚を生やしたサドっ気たっぷりの魔女だろ?お預け食らってるようなもんだ」

コブラ「ハイレッグスーツが懐かしいぜ。脚とお尻ぐらい見せてくれたっていいと思わないか?スタイルだって悪くないのに、二人は全身を隠して、あとの一人は女郎蜘蛛だ。俺への風当たりが強すぎるんだよ」

レディ「文化が違うのよ。仕方ないわ」

ソラール「……その言いぶりでは、まるで貴公らの世界では丸裸が普通かのように聞こえるんだが…」



コブラ「おっ!見ろレディ!鐘だ!」


文句たらたらなコブラの前に、古びた釣鐘が不意に現れた。
鐘の前方の床には、卵に縁取られた落とし穴が穿たれているが、左右に迂回路も確保されており、落下の心配は無い。


コブラ「やれやれ、ようやくゴールか」ふー


戦士(本当に着いちまった…)


ラレンティウス「なぁ、鐘を見た事が無いから言うんだが、これがあの『鐘』なのか?」

コブラ「ああ、間違いなくな」

ラレンティウス「それにしては…なんと言うか、無造作な様じゃないか?」

コブラ「伝説なんてそんなものさ。見れば日常になる」

コブラ「じゃ、鐘はあんたらで鳴らしといてくれ。俺には重要な任務があるんでね」

ソラール「えっ?」


コブラは、ソラールの肩をポンと叩くと…


タッ


ソラール「あ!」


不死たちが止める間も無く、落とし穴に飛び降りた。



コブラ「よっとくら!」スタッ

ソラール「おい!何してるんだ!?それは見るからに罠…」

コブラ「蜘蛛ってのは巣の真ん中、もしくは一番奥に陣取る生き物だ」

コブラ「そして、この穴は建物の中心部にある。ど真ん中でしかも奥ってコト」

コブラ「それにここは罠じゃないぜ。広場になってる。罠なら今頃、俺は串刺しだ」

コブラ「レディ、キミも来るか?」

レディ「当然よ」スタッ

コブラ「そういうことだ。あとは任せたぜ!」


タッタッタッタッ…



ソラール「………」

グリッグス「なんて無茶苦茶な男だ……何を考えている?」

戦士「頭がおかしいんだよ。俺には分からんね、どうやったらここまで能天気になれるんだかな」

ラレンティウス(俺もついていくべきだろうか…)
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 00:39:38.87 ID:j8hI1sSAO
本当に丸裸同然の姿の奴が普通にいるとは純真なソラールさんには想像もつかなかったようだ
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/21(月) 14:11:33.13 ID:MkMtqYWV0
コブラが落ちた穴の先にあったのは、同じ石造りではあったものの、今までのものとは違った特殊な空間だった。
円形の部屋からは、階段と、赤い光を漏らす出入り口が設けられており、小部屋の床の中心部には、青銅に似た金属で作られた、巨大な蓋とも盾ともつかない装飾が施されている。
宝石の類は無い。しかしその様相が、この部屋の持つ役割を二人に推察させた。


コブラ「見ろレディ。ここはチェックポイントらしいぜ」

レディ「そのようね。階段とあそこの横穴を繋ぐだけなら、この広場は必要ないわ」

コブラ「ああ、ただの通路にしてしまえばいい。つまり、ここには最低でも三つの出入り口が通っているはずだ」

コブラ「すると、まず怪しいのは…」


コブラ「ここだっ!」ピョン


巨大な装飾に飛び乗るコブラ。
しかし、何も起きない。


コブラ「なんだ?魔女の館なんで呪文を唱えよってか」

コブラ「オープンセサミ!」



コブラは呪文を唱えた。
しかし、何も起きない。



コブラ「ちぇっ、はずれかぁ」

レディ「………」トントン…


コブラが遊んでいる間に、レディは石壁を叩いて回っている。


レディ「………」スカッ

レディ「! あったわコブラ!ここよ!」


その手が壁の中を抵抗無く通過した時、壁の一部を覆っていた幻は掻き消えた。
幻があった場所の先には、卵で作られた一本の横穴が通っており、その先に卵を背負った亡者が伏せっていた。
その亡者の更に先には、篝火が焚かれている。


コブラ「ホログラムか。それにしちゃ嫌に精巧だったな。俺でも見分けがつかなかったぜ」

レディ「亡者がいるわね。どうするコブラ?今の所、道は三つよ」

コブラ「こっちに行こう。もともとあった道より、新しく見つけた道を行く方が気が楽で良い」



横穴を進む事に決めた二人は、卵背負いの亡者の手前まで歩いた。
亡者は突っ伏したまま動かず、声も上げない。


コブラ「レディ、こいつをどけるぞ。手伝ってくれ」


その亡者をどかそうと、二人が亡者の脚に手を掛けた瞬間…



ゴオオオォォーーーン… ゴオオオォォーーーン…



使命の鐘が鳴り…



卵背負い「鐘が鳴ったか……」モゾッ…

コブラ「でっ!?」


亡者は身をよじり、天井を見上げた。
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 14:39:11.42 ID:/m3SxmocO
亡者がしゃべった!?
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 14:40:35.10 ID:k6+51iTqo
鐘って誰が鳴らしてもいい感じ?
使命を負った人間一人一人が鳴らさないといけないのかと思ってたが
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/22(火) 02:48:03.62 ID:Izwcoel9o
今のロードランはあらゆる時空がひとつになってるらしいから一回でいいんじゃない?
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/24(木) 21:08:13.57 ID:RI5+wLza0
毎回わくわくさせてもらってます。
コブラとレディの世界観に対する馴染み具合がヤバい。
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/27(日) 05:23:19.89 ID:JZqxQz8n0
卵背負い「叶うなら、この音色はわしが灰となるまでは、響かずにおいて欲しかった…」


虫のように両手足を動かし、卵の重さで膨れた腹を揺らしながら、亡者はコブラに振り向いた。
崩れた皮膚には血管が張り巡らされ、卵が揺れると、それらは合わせて脈動している。
脈動する血管は顔にも現れており、血管が動くたびに、その上を走る涙もまた、筋道を増やしていた。


卵背負い「お主ら、姉上様を殺したのであろう……」



震える声で亡者は言う



卵背負い「でなければ、ここには来れぬ……」

コブラ「まるで俺達が悪党みたいな言い方だが、今回に限ってはそうも…」

卵背負い「黙らんか!わしを殺すならやるがいい!だが姫様には手出しはさせん!」ガシッ

コブラ「よ、よしなよ!あんた少し悪趣味が過ぎてるぜ!」グイーッ


興奮した亡者の耳には、コブラの弁明は届かない。
鬼気迫る表情でコブラの脚にしがみつく様は、亡者というよりは餓鬼に近く、これにはコブラもたじろいだ。
レディはやむなく、コブラの背中から特大剣を抜くと、刃を上段に構える。
しかし、しわがれて、それでいて透き通った声を聞き、レディは剣を収めた。



「誰かそこにいるの?」


篝火が焚かれた部屋から聞こえるその声は、弱々しく震えていた。


卵背負い「!!…な、なんと……姫様が口を利きなされた…!」

「姫様?……それは何のことなの?……私、わからない…」

コブラ「怪しい者じゃありませんよお姫様。少しお茶でもと思いましてね」

卵背負い「何を言うかお主は!姫様、この男の言うことを聞いてはなりませぬ!」


ガッ


卵背負い「ぶっ!」


美女との関わりの予感がすれば、コブラの行動からはより一層に迷いが消える。
亡者の背負った卵を踏みつけ、コブラは天井高く飛び上がった。
亡者は顔を石畳に打ち付けたが、コブラは気にしない。


スタッ!


コブラ「なるほどぉ、こりゃお姉さんも心配するわけだ。君みたいな凄い美人が妹だと、さぞ大変だろうぜ」


降り立ったコブラの前には、病床に伏せった美女が座り込んでいた。
陶器のように白い肌に、薄っすらと浮き出た肋骨が痛々しく、身体は細く、髪は白銀色のシルクのようだった。
だが、姉と同じくヘソから下は大蜘蛛と化しており、白い糸に巻かれ、卵に囲まれていた。





混沌の娘「貴方は誰?……そこにいるの?」




娘は手を伸ばし、コブラの肩や厚い胸板に触れる。
指の動きはたどたどしく、正体を掴めないようだった。


コブラ「!」


薄く開かれた両の眼には、白く濁った瞳が浮かんでいた。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/27(日) 14:07:32.51 ID:yKdf0b0So
>>195
そうなんだ。じゃあみんなで協力してやれば早いのにな
結構不死の人いるみたいだし
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/27(日) 23:02:54.94 ID:nmRUEiPjo
そもそも時空が一つにまとまりつつあること自体に気付いてない不死は結構いそう
元・心折れた戦士なんかは全く気付いてなかったろうし今でも分かってるのか微妙
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/03(土) 06:49:33.40 ID:4PLo+dUy0
コブラ(目が見えていないのか。それに血色も悪い。蜘蛛も白くなっちまって、まるで抜け殻だ)

コブラ(気の毒だが、俺のソウルを吸収してどうにかなるようには見えないな…)



混沌の娘「姉さんが人を連れてくるなんて初めてだわ…それも三人も…」

混沌の娘「きっと、いいことなのでしょうね」


コブラ「三人?このジイさんは勘定違いじゃないかな」

混沌の娘「?」

卵背負い「お気になさりませぬな。今までわしらの声は、貴女様には届かなんだ。お目も見えぬのですから、わしらなぞ居らぬも同じですじゃ」

卵背負い「それにしても、なぜ急に、わしらの声をお聞きに……いえ、言葉を話すようになられたのですか?」

混沌の娘「私は、いつものように話しているだけです……聞こえていなかったの?」

卵背負い「はい。わしはてっきり、わしら如き不死が、高貴な貴女様に口を効いてはならぬのだとばかり…」

混沌の娘「そんなつもりは…」

卵背負い「! いけません、忘れておりました!この者達はわしが退治して…」



コブラ「ははーん、そうか分かったぞ」ギューッ

卵背負い「あいちちち!い、痛いっ!手を踏むんじゃない!」

レディ「何が分かったの?」

コブラ「姫様。この巣の外で、君の姉妹に会ったんだが、その時にこう言われたんだ」

混沌の娘「姉妹…」

コブラ「お前の力が、私を感知しているのかってな」

混沌の娘「貴方の力?…確かに、貴方からは強い力を感じる。まるで…」

コブラ「でも俺には何の話か分からないんだ。ここに来るまでにソウルを溜め込んではいるが、そのソウルが自動翻訳機なんていう代物になるとは思えない」

コブラ「つまり、俺のソウルは原因じゃあない。すると、俺の心当たりは…」ゴソゴソ…


コブラ「コイツだけになる」スッ


レディ「指輪ね!」

コブラ「そう、多分こいつのイタズラだ。触ってみるかい?」

混沌の娘「う、うん…」







混沌の娘「!! これをどこで…?」

コブラ「俺には君の姉妹以外にも魔女の知り合いがいてね。その知り合いから貰ったんだ。なんでも、使い道が分からないそうだ。コイツがなんだか分かるのか?」

混沌の娘「これは……私たちの指輪……どこにいても絆が別たれず、誰にも縁を傷をつけられないように、皆が持っていた」

混沌の娘「でも母が混沌の火を産んでからは、私たちも、指輪も、本来の魔力を失ったはず…」

コブラ「その力ってのは?」

混沌の娘「魔女と人の言葉を分け、時を操ってお互いの姿すら隠してしまう力があるの。この指輪が私達の手にある限り、私達の意思で人との関わりを意のままに出来る」

コブラ「つまり、魔女がこの指輪を使えば、人間は魔女に出会えないし、出会えたとしてもお喋りは厳禁って訳か。独身指輪の頂点だな」フフッ

混沌の娘「でも、おかしいの……これは私達にしか使えないはず……」


混沌の娘「まさか…」


混沌の娘「まさか、姉さんは…」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/03(土) 07:41:23.97 ID:4PLo+dUy0
コブラ「それについても話そうと思ってたんだ。君のお姉さんは…」

混沌の娘「殺した……殺したのね…!」

コブラ「おいおいおいおい勘違いしないでくれ。俺はそんな事…」

混沌の娘「だって…だってそうじゃなきゃ…おかしいじゃない…!」フゥフゥ…

卵背負い「この悪漢め!ただではおかんぞ!放せ!」


白い魔女は激しく動揺し、呼吸を乱し始める。
コブラの足元で暴れる亡者の抵抗は激しくなるが、レディが卵を押さえつけると、苦しげに顔を歪ませて黙った。
とうのコブラは、泣き出した魔女を見て動揺した。護られた、病弱な美女の涙を茶化せるほど、コブラはー軽薄ではなかった。


混沌の娘「姉さん……!」

コブラ「話を聞いてくれないかね……姉さんは生きてるよ。まぁ確かに、灸はすえたかもかもしれんが…」

混沌の娘「そんなの嘘!あの指輪を使えるのは私達だけ!その指輪を貴方が使えるのなら、貴方は一度、魔女のソウルを宿しているはず!」

混沌の娘「姉さんを殺さないと魔女のソウルは得られない!貴方が…!」

混沌の娘「貴方がっ……けほっ、うぅっ…」ハァハァ…

レディ「ちょっ、ちょっとコブラ、どうするの?」

コブラ「…どうしましょ……」



ドダダダダダッ…!!



戦士「コブラ逃げろ!やばい!」ゼェゼェ

コブラ「?」


脂汗を流すコブラの背後で、数人の人間が転げ回る音が聞こえた。
振り向いたコブラに戦士は声を張り上げるが、語彙が足りないせいか伝わりが悪い。
戦士には言葉を厳選する余裕は無かった。そして、病んだ白い魔女が、有害か無害かを見分ける時間も。


戦士「 って、こっちも蜘蛛の魔女かよ!引き返せ!」

グリッグス「引き返せってどこに!?」

ソラール「挟まれたのか!?」

ラレンティウス「こりゃ消し炭だな…」

戦士「うるせえこの野郎!」


シャカシャカシャカシャカシャカシャカ!


戦士「わあああああああああああああああ!!」


戦士を含め、四人は悲鳴を上げたが…


戦士「あ!?」


足音の主は、天井を駆けて四人の真上を通り過ぎ…


クラーグ「………」ドスーン!


憤怒の表情でコブラの前に降り立った。



コブラ「………」

レディ「問題解決ね」


極限まで緊張状態が高まるはずだった場に、レディの言葉が小さく響いた。
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/03(土) 10:29:36.22 ID:t2hv0JCoO
あそこに姉さん入れるのか……
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/03(土) 13:21:44.45 ID:0j/TqbETo
一つの問題を解決したかもしれんが新しい問題がまた一つ出来たような気がするのは俺だけか
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/03(土) 18:35:29.49 ID:9Dvl6u/F0
一難去ってまた二難って問題を増やしまくって最後に一気に持っていくのがコブラだしなあ 平常運転である
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/05(月) 10:20:03.36 ID:xVqkSL/60
クラーグ「貴様……」


混沌の娘「!」


コブラ「よく効く胃薬を持ってるんだな。腹の傷が塞がってる」


髪を逆立て、目を血走らせたクラーグの負傷は、完全に癒えていた。
纏う炎は強く、火の粉が羽虫のようにクラーグの人間の腹部に群がっている。
右手に持った魔剣は炎を侍らせ、左手にある黒騎士の特大剣は、赤く熱されている。


クラーグ「我が血族を脅かし、五体を残して行けると思うな」

クラーグ「炎を浴び、贄となって生きるがいい!」ブワッ!

戦士「う、うわぁ!!よせーっ!!」


その両手に持った剣を胸元で交差させ、二刀を眩く輝かせたクラーグ。
彼女は、まさに自身を火の玉と化さんとしていた。



混沌の娘「姉さん、待って!その人と話をさせて!」



だが、クラーグの怒りの炎は、彼女の妹の言葉を前に呆気なく鎮静した。
クラーグにとっても、妹の言葉が全てという訳では無く、庇護と愛情の対象ではあったが、服従し、全てを許容してもいいという訳では無かった。
そのような関係などを度外視した、単純な疑問が炎を消したのだった。


クラーグ「………なに?…何故だ?」シュウウウウ…

混沌の娘「この人は、姉さんを殺してないと言った……そして、それは本当だった」

混沌の娘「それに…いつでも私を殺せるはずなのに、私は傷ついていない…」

コブラ「そ、そうそう!俺はもう人畜無害を絵に描いたような男でね!このとおり…」

クラーグ「おだまり!!」

コブラ「おーこわ……」


混沌の娘「とにかく……私達が思っているような人じゃないような気がするの…」


クラーグ「………」


気を削がれたクラーグは、しかし殺気をまとった視線でコブラを睨みつける。
コブラは背中を丸めてハンズアップの姿勢を取っており、レディも背筋を伸ばしてはいたものの、両手を上げて降参の意を示している。
そのボディーサインの意味する物などクラーグは知らなかったが、無防備で滑稽なポーズに、敵意は感じ取れなかった。


クラーグ「お前は何を企んでいる?」

コブラ「何も企んじゃいないさ。ただ、姉妹って言葉にえらく弱いって事は確かかもな」


コブラからの即答は相変わらず正体を掴ませない。
しかし、その時のコブラの視線は、クラーグには見覚えがあった。
溶岩の上に立ち、ニヤけつつも、コブラの眼には強い何かが宿っていたのだ。


クラーグ「………」


クラーグ「企み無し……その言葉の真偽など、我らには分からぬ」

クラーグ「不毛な問いだ。だが、信ずるなども出来ようはずはない」

クラーグ「この篝火に休みたいのならば止めはしない。だが、不穏な事をすれば炎がお前を焼くぞ」


コブラ「ああ、それで構わない。タダで休めてオマケに美女の裸体付きなら、言う事無しさ」

コブラ「あんたらも来いよ。俺たちを歓迎してくれるそうだ」

戦士「………」
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/05(月) 10:22:52.13 ID:qD6WquwNo
なんて心の休まらない篝火だ……と戦士は思ってるんだろうな
コブラはわりと本気で美女の裸体が拝めるから悪くないとか思ってそうだが
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/12(月) 09:05:19.40 ID:DIY4vn380
旅の一行を受け入れ、半時が経った。
炎を纏った蜘蛛の魔女は、自身の腹を貫いた男を歓迎などしていない。
しかし、病に伏せる蜘蛛の魔女に説かれ、怪しげな二人と、ただの不死四人に篝火を許した。
だが、説かれただけでは無い。クラーグにはコブラという男を知る必要があったのだ。
何よりも、妹のために。


コブラ「冗談を抜きに聞くがね、そのお腹の傷はどうやって塞いだんだ?お腹に巻いた炎で治したのなら、そいつの名前ぐらいは教えてほしいね」

クラーグ「この『ぬくもり』に名などありはしない。貴様の格好に名など無いのと同じようにな」

コブラ「こりゃ一本取られた……っと言いたいところだが、この服の名前ならあるぜ」

クラーグ「くだらん。どのような名があると言うのだ」


コブラ「一張羅っていうんだ」


クラーグ「やはり下らんな」

屁理屈の如きコブラの軽口にクラーグは呆れたが、それでもコブラの一行を追い出す気にはなれなかった。
超常の存在に囲まれ、事実として四人の不死達はそれらに怯え、部屋の隅で居どころなさそうに縮こまっているというのに、少しも臆せず堂々と下らない言葉を連らせるこの男。
その存在の服装、背景、人格、能力、そして秘する何かに、魔女は惹かれているのだ。
叶うなら灯の下に照らしだし、隙あれば奪わんと…


クラーグ「貴様は何者だ?」

コブラ「その言葉にはちょいと飽きてきたな。耳にタコができそうだ」フッ…

クラーグ「何故我らの指輪を使える?指輪に力を寄せ、己以外にも魔女の声を聞かせるなど、本来の我らにしか出来ぬことのはず」

コブラ「さあな。少なくとも俺に魔女の親戚はいないはずだ」

コブラ「正直言って、本当に心当たりが無いのさ。指輪に好かれる覚えは無いし、指輪に命令できる呪文も知らない」

コブラ「手品は出来るがね」


クラーグ「この私に嘘は通じぬぞ」

コブラ「俺はこれでも真実を語ったつもりだ」


クラーグ「ならば貴様の内に潜む大いなるソウルと、輝く『人間性 』はどう語るのだ?」


レディ「人間性?」

コブラ「そいつには自信があるぜ。友達は沢山いるが敵もいっぱいいる」


クラーグ「そういう者では無い。人間性とは、言わば人の本質となる『精霊』を指すのだ」


コブラ「精霊ねえ…」


混沌の娘「人間性は、人を人たらしめるもの……ソウルが減れば、不死はソウルに餓え、人間性を失えば、不死は亡者になる」

混沌の娘「そして両方を失い、長い時をすごせば、不死は亡者という姿すら留められず灰になってしまうの」

コブラ「俺の聞いた話と違うなぁ。ソウルを失って死に続けると体の再構成の精度が落ちてきて、最期は灰になると聞いたぜ」

混沌の娘「それも正しいはず。見方がそれぞれで違うだけなの」

コブラ「ややこしいなぁ」



クラーグ「人間性は、暗く、暖かい者だ。それらは互いを求め、寄り添い合う」



クラーグ「だが貴様に見える人間性は、それらとは異なっている。炎のように光り輝き、寄り添うので無く惹きつける者なのだ」


208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/12(月) 11:50:00.10 ID:vVD8UkLYO
和解?とまでは行かないが休戦するとは
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/12(月) 22:45:45.18 ID:7nbrj1Rp0
あまりにも強く引き寄せられると焼き尽くされる破滅の炎でもあるんだよなあ(美女限定)
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/13(火) 00:10:15.16 ID:FW8Uy9nN0

コブラ「俺は興行師なんだ。プロレスが好きでね」

コブラ「で、大いなるソウルってのはなんなんだ?俺に守護霊でも取り憑いてるのかい?」


クラーグ「貴様には何者もついておらん。ただ門があるのみだ」


コブラ「また訳の分からん用語が出てきたな。その門は誰が通るんだい?」


混沌の娘「誰も通らないわ。少なくとも今はね」


コブラ「そうかい。興行は中止か」フッ

クラーグ「貴様のソウルは、僅かながらではあるが、その力を増し続けている。果てなど無く」

クラーグ「だが、その様は定まらん。貴様の中で大きく振り動いているのだ」


コブラ「………」


コブラ「それについては心当たりがあるぜ」スッ


コブラは立ち上がり、左手に手を掛ける。
そして腕を抜いた。


コブラ「こいつだ」


クラーグ「ほう………おもしろい…混沌に侵されたのちに、このような呪物に見えるとはな」

コブラ「こいつはサイコガンという。精神力をエネルギーに変え、破壊光線として撃ち出す超ハイテクな射撃武器だ」

コブラ「ここに来る前は好きなだけコイツをぶっ放せた。だがこのところ調子が悪くてね。昔は何発撃っても少し休めば回復したんだが、今は撃てて二発ってところさ」

コブラ「ただ悪い事ばかりでも無い。コイツを撃ってどれだけ疲弊しても、ソウルさえあれば即座に回復できるから、休憩時間が省ける」

コブラ「まぁ、ブラック企業に勤めてるみたいで良い気はしないがね」


クラーグ「その武器を持つ資格は、無限に精神力を生み出す資質を持つ者に限られるということか」


コブラ「そういうこと。その精神力をこっちではソウルなり人間性なりと呼んでいるそうだが、そんな事は俺には関係ない」

コブラ「そういう魂だのなんだのについて、俺が知りたい事は一つ」

コブラ「なぜ俺の精神力は、他人の精神力を必要とするほどに、回復しなくなったのか………それだけさ」


クラーグ「回復はしている」


コブラ「なに?」


クラーグ「我ら魔女には、ソウルと人間性を見抜く力がある。そうでなければ、炎を御する事など出来ぬ」

クラーグ「その我らの眼に映るのだ。貴様のソウルと人間性は光を放ち、常に力を大きくし続けている」

クラーグ「だが、許されていないのだ」


コブラ「許されていない?誰の許しが必要だっていうんだ?」


クラーグ「誰あらぬ、太陽の光の王の許しだ」


コブラ「………」


コブラ「やれやれ、薪の王に続いて太陽王か。ここの王族連中も相当海賊に頭にきてるようだな」

クラーグ「薪の王?」

コブラ「俺をこの世界に送り出した好き者さ。姿を見てはいないがね。ロードランのどこかにはいるんじゃないかと踏んではいるが、手掛かりは無しだ」

コブラ「あんた、その王様について何か知らないか?」
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/13(火) 07:00:12.69 ID:qHXHOwNcO
海賊と仲のいい王なんて海賊王くらいなんじゃ
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/14(水) 02:38:05.83 ID:nuiv5cNS0
クラーグ「………」


クラーグ「薪の王という名には、思うところが無いわけではない」

コブラ「すると?」


クラーグ「おそらく、篝火の中でも特に強大なもの……『最初の火』のことだろうが…」



クラーグ「…………」



コブラ「ん?」

クラーグ「…それは世界を照らす強大な火だ。無を光と闇に分け、生と死、熱と冷たさを生む、世の理の根源そのもの」

コブラ「そりゃまた大袈裟だな。俺は神に選ばれたってわけか」

クラーグ「いや、それは驕りというものだ」




クラーグ「火を守る薪に、王など存在しないのだからな」




コブラ「王がいないだって?」

クラーグ「火守女はいるだろうが、その者は火の番人にすぎない。我が妹もここの篝火の番だ」

混沌の娘「………」

コブラ「そいつは分かったが、王がいないってどういう事だ?それじゃあ俺達を呼んだのは誰だっていうんだ?」


クラーグ「分からぬ……その『薪の王』とやらが火を絶やすまいと貴様を呼んだのだろうが…その王が何者かも、火を絶やさぬ術も…私は知らない…」


コブラ「参ったな……魔女のあんたにも分からないとなると、魔法音痴の俺じゃ手も足も出ないぜ」


混沌の娘「最初の火を見出し、それを守る術を見つけた方々は、私たちも知っている」

混沌の娘「古き神々…偉大なる死者…鱗無しの竜……そして、私達の母…」

混沌の娘「皆が火を見出し、守ったからこそ、この世界は永く繁栄したの」

混沌の娘「けれど…私達の都が混沌の炎に呑まれ、死者が眠り、神々の地に不信が漂い始めた時、私達の関わりは絶たれてしまった」


混沌の娘「そして、最初の火について、母は何も話さなかった……」


混沌の娘「第二の火を生み出そうとして、炎に呑まれ、苗床となり、私達を忘れてしまうまで…」


混沌の娘「うぅ……」

クラーグ「無理をするな!身体に障りがあるぞ!」

混沌の娘「いいの…姉さん………今日はとても調子がいいの……これは、ただ…」

混沌の娘「少し、哀しくなっただけだから…」



コブラ「………」



クラーグ「話はここまでだ。この子に、今以上の辛さは与えたくない」

コブラ「分かった。この話はよそう。それじゃ…」

クラーグ「待て、貴様の問いに我等は答えたのだ。次は我の声を聞いてもらうぞ」

コブラ「いいでしょ、聞きましょ」
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/14(水) 10:46:32.69 ID:nuiv5cNS0
クラーグ「貴様らの処遇についてだが…」


四人の不死「!」ピクッ



クラーグ「命は取らん。ソウルにも用はない」


四人の不死「………」ホッ…


コブラ「ほう、そりゃありがたいね」

クラーグ「だが人間性は置いていってもらおう」

四人の不死「!?」ピクッ

コブラ「それはさっきの話と食い違うぜ?人間性を失えば亡者になるんだろ?」

クラーグ「全て寄越せとは言わん。そこの不死どもにも用はない。そこいらの人間性では、妹の病を癒すにも一時しのぎにしかならぬと、はるか昔から我は気づいていたのだからな」

クラーグ「この機は逃せぬ。エンジー」


卵背負い「は、はっ!」


クラーグ「この男を抑えろ」

エンジー「仰せのままに!」ガシッ

コブラ「ちょ、た、タンマ!」

レディ「待って!病気を治すのに、なぜコブラの人間性が必要なの!?」


クラーグ「混沌の火は、力持つ者を大樹、炎、蟲、もしくはその全てに変じさせる。力持つ者の性質を受け継ぎながらな」

クラーグ「我が妹は混沌の火を宿した事により、我と同じく炎を纏う蟲となったが、その身に己の性質を変じさせる程の毒を入れてしまった」

クラーグ「それゆえ、毒を卵に込め身より出そうにも、蟲入りの卵しか生じぬ」

クラーグ「混沌の火に人間性を結びつかせ、蟲としての性質を弱め、卵から蟲を除き、代わりに毒を入れようともした………しかし、痛みを数瞬消すのみだった…」

クラーグ「もはや手は無い。無論、干からびる程吸うわけでは無い。全てを吸い尽くしたところで、それを身に入れられるほど、我が妹は丈夫ではないのだからな」


コブラ「手は無いって言ったって、吸われる方の身にもなってくれ!」

レディ「なるほどね。だからそこらじゅう卵だらけだったのね。合点がいったわ」

コブラ「レディもなんとか言ってくれ!俺は枯れちまうよ!」

レディ「私もなんとかは言いたいわよ?でも、ここで貸し借りは無しにしておくべきだとも思うのよ」

レディ「これで晴れて『おあいこ』という事にしてくれないかしら?」


クラーグ「無論、そのつもりだ」



ボッ! シュボボボボ…



膝から下を、エンジーと呼ばれた卵背負いにホールドされたまま、コブラは目の前の炎を見た。
炎はクラーグの掌の上で踊っており、ぬるい熱を漂わせている。


クラーグ「闇霊どもの所業に似るが、この炎は本質から異なる」

クラーグ「混沌の火は人間性を求めるゆえ、貴様の眼には同じに映るだろうがな」


魔女の言葉と共に、炎は輝きを増してコブラの口元に近付き…


シュオオオオオオオ…


唇の隙間から、光の粒を吸い出しはじめた。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/14(水) 11:26:06.48 ID:Jnx3pgYnO
レディひどいww
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/21(水) 05:44:12.90 ID:2QTtJEOU0
光の粒子は炎に引き寄せられ、渦を巻く。
観念したコブラは眼を固く閉じ、事が過ぎるのを待つことに決めた。


クラーグ「!」


クラーグは何かを察知したのか、空いている手も炎にかざす。
光の粒子はまとまり、炎の表面を波のようにうねり始め…


シュボン!


クラーグ「………」


炎を押し潰し、散らばって消えた。
同時にコブラも眼を開けたが、その顔は現状を掴めない様をよく表していた。


クラーグ「これは……」

コブラ「おいそんな意味ありげな所で言葉を切らないでくれ。胃が痛くなってくる」

レディ「どういうことなの?」

クラーグ「信じがたい事だが………こうなってしまっては、受け止めるしかないな…」


クラーグ「貴様の内にある者は、ソウルでも、ましてや人間性でもないようだ」


コブラ「!?」


コブラは目を見開き、自身の耳を疑った。
ソウルが減ると気を失い、得ると気力が充実するという現象を、コブラは受け入れはじめていた。
その矢先の、信じがたい言葉である。
甚だ不満な、他人の魂で動いているという実感さえも幻想だったのだ。


レディ「それって……」

クラーグ「ただならぬ者と思ってはいたが……まさか測りきれん程とは…」

コブラ「測りきれないってどういう事だ?俺に何が起きているんだ?」

クラーグ「……貴様、ソウルを吸った事はあるか?」

コブラ「あ、ああ、そいつはもう何度も…」

クラーグ「では、人間性を吸った覚えはあるか?黒く暖かな、灯火のような姿をしている者たちだ」

コブラ「そいつは見てないぜ。何か問題?」

クラーグ「それはありえん。人間性を溜め込む者を屠ると、稀に人間性がソウルと共に抜け出るのだが」

クラーグ「ここに来るまでに貴様は幾多の異形を手に掛けたはずだ。北の僻地のデーモンを殺さぬ限り、病み村に入る事はおろか、ロードランにすらたどり着く事かなわぬはず」


コブラ「………」フフッ


クラーグ「覚えがあるのであろう?」


コブラ「ああ……確かに、あんたの言う通りだ」

コブラ「だが納得できないね。人に嫌われる奴には心が無いと言われるが、これじゃまるで人形だぜ」

クラーグ「恐らく、貴様に宿る人間性に似た輝き……もしくは貴様自身が、人間性を怖気させるのだろう」

クラーグ「だが、貴様は傀儡という訳でも無い。傀儡ならば我らは既に死んでいる」




コブラ「………」




216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/22(木) 11:02:59.06 ID:XxWU3bWtO
コブラの身に何が起きてるというんだ……
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/26(月) 17:21:47.65 ID:IKXgtHoUO
やっぱりコブラはカッコイイな…
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/31(土) 05:47:26.17 ID:cmm0SRXdO
支援
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/05(木) 12:13:02.21 ID:sCrONZX4O
あけおめ保守
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/12(木) 15:54:47.50 ID:55hxxrqYO
忙しいのか…支援
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/17(火) 21:33:18.55 ID:TySI6MQy0



コブラが恐るべき真実の一端を掴んだ頃…





騎士「うーむ…」


鍛冶屋アンドレイが仕事場としている小教会の、裏口から伸びる石橋。
その石橋の先にある、重々しい城門に閉ざされた要塞の正面で、丸い騎士が唸っていた。
だが腕組みをしてあぐらをかいている騎士は、決して太っている訳ではない。
彼の着るフルプレートアーマーこそが、他と比べて明らかに特異であり、丸いのである。


ビアトリス「おい、そこの」

騎士「ん?お、おお!」


その丸い騎士に背後から声を掛けたのは、月光の蝶を倒し、あらかた森を探索し終わったビアトリスだった。
もっとも、森の最奥へと至る『鍵』を、彼女は得てはいなかったが。


騎士「貴公もこの門に難儀しているのか?」

ビアトリス「別にこの先には用はないが……貴公はなんなんだ?タマネギ?」

タマネギ「たっ……ちっがーう!このカタリナの騎士に向かって、しかも初対面というのになんたる無礼な!」

ビアトリス「す、すまない。悪気はなかったんだ。カタリナの騎士とやらには疎くてね。許してくれ」

カタリナの騎士「ふふん、分かればいいのだ」

ビアトリス「ところで、貴公はなぜこの門の前で唸っている?この先に不死の使命に関わる地があるのか?」

カタリナの騎士「私は不死の使命に興味は無い。だが不死になったからには、命ある限り見聞を深めようとは思っていてな。こうして旅に出ているのだ」

カタリナの騎士「戦っても死なないとあれば、冒険者冥利に尽きるだろう?ガハハハ!」


ビアトリス(酷い酔狂だな。使命も志も無く、ただの趣味に命を賭けるとは……)


カタリナの騎士「まぁ、その冒険も、この門が開かなければ終わってしまうかもなぁ」

ビアトリス「それならそれでいいんじゃないか?さして目指す物も無いのだろう?」

カタリナの騎士「うーん……でもなぁ…気になるし…」


ガコン!


ビアトリス「あっ」

カタリナの騎士「おっ!」



ゴゴゴゴゴゴ…ゴリゴリ…



222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/17(火) 22:57:50.20 ID:890YvTioo
キター
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/18(水) 01:20:14.74 ID:EcaQ8O7lO
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/17(金) 03:01:28.19 ID:Vob1EhVso
待ってるの
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 23:14:05.61 ID:5VyRjDny0
俺も待ってるの
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 00:59:02.70 ID:Cm3zmTyY0
まるで二人のやり取りに応じるかのように、要塞は城門を退けた。しかし、要塞は二人を歓迎している訳ではない。
二人のあずかり知らぬ場所で、あずかり知らぬ力が起こり、城門をこじ開けたに過ぎない。


カタリナの騎士「………」ジャリッ

ビアトリス「………」


その都合の良すぎる機に、悠々とかぶりつく二人では無い。
騎士は身の丈ほどもある長い鉄剣を構え、ビアトリスは杖の先に魔力を溜める。
そして案の定、城門の暗い口から、二匹の異形が飛び出してきた。



蛇人達「ギシェエエエエ!」



蛇の頭を持つ大男達は、手に持つ大鉈を振り上げて、二人に飛びかかる。

カタリナの騎士「むん!!」グシャア!!

一匹は巨剣に頭から叩き潰され…

ズバッ!

もう一匹はソウルの太矢に貫かれ、撃ち落とされた。



カタリナの騎士「むおっほっほ!他愛も無い!」

ビアトリス「いや待て!まだ死んでいない!」


頭骨を割られた方は、片目を眼窩からこぼしつつも起き上がる。


カタリナの騎士「おっ!?」


撃ち抜かれた方は、腹の風穴には見向きもせずに跳ね起きて、騎士の胴体に大口を突き立てていた。
鎧の分厚いプレートと、広く取られた内部の空洞のおかげで、騎士の身体自体は無傷だったが、それでも牙は深く食い込んでいた。


ビュン!!

カタリナ騎士「おおおおおおおおお!?」ビュンビュン!

ドカッ!

ビアトリス「はうっ!?」


蛇人の怪力によって振り回された騎士は、ビアトリスを跳ね飛ばし、諸共に城門へと放り投げられた。
要塞に入るという目的は達したが、今は喜ぶべき時ではない。


ビアトリス「ごほっ!ガハッ!」

カタリナの騎士「ええい!ここで死んではカタリナ騎士の名折れよ!貴公はこれでも飲んでてくれ!」

ズボッ

ビアトリス「むぐっ!?」


騎士は血を吐くビアトリスの口に、自前のエスト瓶を突っ込むと、彼女を脇に抱えて飛び起き、走り出した。
行先である要塞の中は暗く、何があるかも分からないが、引き返そうにも手負いの二匹が向かってくる。迷っている暇は無かった。

ガチャッガチャッガチャッガチャッ…

騎士の鎧が、一歩地面を蹴るたびに擦れて音を鳴らす。その音の合間に、蛇の気管支から漏れる威嚇音が混ざる。
無論、重い鎧を着込んでいる騎士は、威嚇音が段々と近づいている事に気付いている。しかし鎧の重さと手負いの魔女が、彼の脚を鈍らせていた。
もっとも、何も着ておらずとも、彼の鈍足に大した違いは無かったが。

カタリナの騎士「おおっ!?」

蛇に追いつかれる寸前、騎士は不思議な物を見た。石の足場に一本だけ掛けられた、長く細い石橋の上を、時折、巨大な鉄の塊が複数纏まって通過する光景。
騎士は、逃げ切れようが逃げ切れまいが、どちらにしろ詰みに追いやられていた事を悟りながら…

ドン!

蛇人の一人に突き飛ばされ、石の足場から落ちた。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/19(日) 08:30:24.07 ID:KmpP89Nfo
タマネギ騎士たち死んでしまったん?
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/19(日) 14:22:53.79 ID:UrPfk96To
まぁ篝火近いし…(震え声)
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/19(日) 19:01:01.52 ID:Cm3zmTyY0
ザボーン!

カタリナの騎士「ぶほっ!はぁ、はぁ、た、助かったか…」


落下した先には、廃された貯水槽のような空間が広がっていた。
腐った水はタール状に濁っており、落ちた二人にそこそこの軽傷を負わせただけだった。


ビアトリス「すまんな。貴公のエストを使ってしまった…」

カタリナの騎士「ん?構わんよ。騎士として当然の事をしたまでだ。ガハハハ!」

ドパーン!

カタリナの騎士「!?」



蛇人「………」ピクッ…ピクッ…



二人の不死を追う異形の一匹は、迷いも無く足場から飛び降りた。
しかしその異形は片目の視力と脳の一部を失っていたせいで、着地の姿勢が取れず、頭からタールに突っ込んでしまった。
ぬかるんでいるとは言え、タールの下には硬い石畳がある。砕けた頭骨を更に砕けさせ、異形は事切れていた。

ビアトリス「………」

カタリナの騎士「あ、閃いたぞ」カチャッ

事の一部始終を見た騎士は手を叩くと、大の字に事切れた蛇人の上に乗っかり、剣を高く掲げた。
その直後に…


ズン!!

蛇人「オァッ!?」


降ってきた蛇人の尻穴に、騎士の特大剣が深々と刺さった。
当然、刃は内臓は尽く切り裂いており、蛇人は即死した。


ビアトリス「なんとえげつない」

カタリナの騎士「成敗!ふん!」ブン!!

どちゃっ

カタリナの騎士「ふー……さて、これからどうするべきか。貴公、何か策はあるか?」

ビアトリス「まずはこの泥濘から出る道を探そう。策を講じるのはその後で…」


ゴリゴリッ…


ビアトリス「? 待て、今の音はなんだ?」

カタリナの騎士「む、また来たか!」


石臼を擦るような音が、空間の何処かからビアトリスの耳に届いた。
二人は再び体勢を整えるが、音の主は二人の体勢を容易に崩すほど力を備えていた。


ドバッ!!


闇の中から飛び出した怪物の身の丈は蛇人の比ではなく、黒い金属の皮膚と長い尾、背中に備えた刺又状の大彫刻以外は、概ね人の形をしていたが、その人型の巨躯からは頭部と片脚が欠けていた。


ズガアァーーッ!!


怪物の得物は、自身の背中に備えられた彫刻と同じ形をした、黒く長い刺又であり、刺又は尋常ならざる膂力によって振るわれた。
一振りだけで騎士の特大剣は討ち払われ、ビアトリスの杖は叩き折られた。
そしてふた振り目が二人を襲った瞬間、二人の意識は途絶えた。


楔のデーモン「………」


刺又の窪みに二人の不死を嵌めたまま、怪物は廃された貯水槽の闇へと再び姿を消した。
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/02(木) 02:47:54.70 ID:S2RZQfLv0
ピンチやん
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/09(木) 21:16:00.84 ID:rzQ7wWNBO
期待支援保守
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/16(木) 03:34:10.61 ID:Q9eYSUEro
一気に読んだよすげえ面白い
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/03/19(日) 03:14:04.11 ID:FCEDN2IQ0
保守ー
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/19(日) 03:53:02.63 ID:nEYjaJThO
いいねえおもしろいわ
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/19(日) 20:06:39.84 ID:dJLY/tP3O
最高
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/02(日) 02:17:16.30 ID:ao9UHekK0
老人「わーーーっ!!」


ビアトリス「!?」ガバッ

カタリナの騎士「おおう!?」ガバッ



そして、二人が次に目覚めた場所は、各々の牢の中だった。
彼らを収監している牢は鳥籠状で、それらは一本の石橋を左右から挟み、間隔を開けて幾つかが吊り下げられている。
囚われている不死は四人であるが、うち1人は朽ち果てて動かず、うち1人は大袈裟に巨大な帽子を被った老人であり、残りの2人はついさっき、老人の怒声で目を覚ました。


老人「貴公らが騒がしくするものだから、思考に浸れんじゃないか」

老人「特にそこのカタリナの騎士殿!」

カタリナ騎士「!!」

老人「貴公のいびきには、甚だ閃きを妨げられたぞ。不死立つ前に、我欲に耽って腹を肥やしたのではないかね?」

カタリナ騎士「ぬ、ぬぅ……面目ない…」


老人「………」


ビアトリス「あっ!貴方は、まさか…」

老人「 今度は何かね?」

ビアトリス「いえ、間違いようもありません!貴方はかの大魔法使い『ビッグハット・ローガン』では!?」

カタリナの騎士「?」



老人「…………」



ローガン「大魔法使い、か……極めに至らぬ者にその名は合わんよ」



ローガン「ビッグハットくらいが程よいのだ。この未熟にはな」


ビアトリス「未熟だなどと…それでは私の立つ瀬がございません…」

ローガン「蓄えた知識に差があるにすぎん、はらからよ。所詮我らは探求者の身なのだよ」

ローガン「しても妙だな。貴公の帽子から見るに、どうせ私を師と崇めておるのだろうが、その探求者がなぜ魔法の心得無き者と共にいるのだ?数十年と誰も来なかった場所に、一度に二人も閉じ込められるというのはそういう事であろう?」

ビアトリス「それには訳が…」


カタリナの騎士「むむむむむ失礼な!魔法は使えんが奇跡は使えるぞ!この牢など屁でも無いわ!」


ローガン「待ちなさい。奇跡と魔法は力の形こそ似通っているが質は全く異なるものだ。それに貴公の『放つフォース』ではこの牢は開けられん」

カタリナの騎士「!? なぜ私が放つフォースを使えると!?」

ローガン「その者が何を使うかというのは、見ればおおよそ分かるもの。魔法防護という奇跡がある以上、我ら魔術師も神の業を知らねばならんのだ。ま、使えるかと言われれば、それは別の話だがね」


ビアトリス(奇跡もお知りになっているとは……それで未熟ならば私はなんなんだ…?)


カタリナの騎士「ぬぅー…」

ローガン「まぁこうして会ったのも縁だ。貴公、名はなんと言う?」



カタリナの騎士「むっ、そう言えば名乗りがまだであったな。私はカタリナのジークマイヤー。不死となったからには見聞を深めようと思ってな。こうして旅に出ているのだ」


ジークマイヤー「ん?……はて、どこかで同じような事を言った気がするなぁ」

ローガン「うむ、宜しく」ペコリ
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/02(日) 04:37:41.84 ID:ljWHQ9zQ0
待ってた
DLC2も来たことだしめでたい
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/03(月) 04:21:56.45 ID:dcSosHf10



三人の不死を捕らえた古城から遠く離れた、深い谷底。
そこには遥か太古を生きた竜達の骸と、それをついばむ青い飛竜共だけがあった。
陽の光は僅かしか差し込まず、何が飛竜で、何が飛竜の影かも、そこでは分からない。

ゴゴゴゴ…

飛竜「!」ピクッ

暗いゆえに、どこから揺れが近づいているのか飛竜共には分からない。
何が揺れているのかも分からない。
だが勘のいい幾つかの者共は、翼をはばたかせて谷底から陽光のもとへ飛び立つ。
敵意を感じ、戦闘体制に移行した仲間達を残して。


ドゴオォーーーッ!!!



貪食ドラゴン「ワギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」ガラガラガラ…

コブラ「ドラゴンライダーコブラ!ただい…わっぷ!口に泥がっ!」ペッペッ



飛竜共「ギャッ!?」



ズシイィーーーン……



臆病だった者達は幸いだった。
敵を迎え討つ事を選んだ者達は、谷の岩壁を喰い進んできた巨大な地竜にひき潰され、岩の地面に埋まってしまった。
谷底にはやはり、古い竜の骸と、それを喰う竜が残された。


レディ「ソウルを纏った髑髏に、大ビルと木の枝を巻きつけて釣り餌にするなんて、貴方の作戦の立て方も大分ここに染まってきたわね」

コブラ「こんな汚ったないモノにも舌なめずりするドラゴンがあっての事だ」ポイッ

大ビル「……」ドテッ ウネウネ…

コブラ「にしても危なかったぜ。黒づくめの魔女がドラゴンを消し炭にしてたら、今頃はまだ泥沼の中だろうな」



戦士「………」

ソラール「………」

コブラ「なんだ?いやに元気が無いじゃねえか?ありがとうの一言くらいあったっていいんじゃないのぉ?」

戦士「あんた……本当になんなんだ?どういう頭をしてたらこんな事思いつく?」

コブラ「楽しい事が好きなだけなんだ。今のはただのゲームさ」

戦士「ゲ……」

ソラール「……だめだ、理解できん」

レディ「ゲームって言葉が?」

ソラール「いやそうじゃなくて…」


グリッグス「な、なぁ、それよりいいかな?地上に出られたのは良いんだが、どうやって登るんだ?」

ラレンティウス「あ、ああそうだ!ここらにハシゴでもあるのか?」

コブラ「いや無いね。だがコイツを使えばなんとかなる」サッ


コブラ「ワイヤーフックだ」ピシュン


カーーン!


コブラ「よし。さ、俺に掴まってくれ」

戦士「なんだよそれ…」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/03(月) 08:00:37.17 ID:P6GakXnWo
よくこんなのに乗る気になったな……
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/12(水) 09:49:21.29 ID:eXT9OF6OO
Tバック支援
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/13(木) 03:18:29.18 ID:fMt0zt8E0
一本の細い鋼線は谷底から伸び、コブラとレディが病み村への入り口として使った横穴の崖っぷちに刺さった。
ワイヤーのウインチは力強く駆動し、コブラ達を引き上げていく。
コブラの右足にはソラールが、左足には戦士が、左脇にはグリッグスが、背中にはラレンティウスが、掲げられた右手にはレディが、それぞれしがみついている。
しかし、不死達をまたしても驚愕させていたのは、黒騎士の大剣を保持するコブラの咬合力だった。


スタッ


コブラ「っかー!アゴが外れるかと思ったぜ!アウチチ…」

ソラール「ハハ…もうどこから突っ込めばいいのやら…」

グリッグス「君は……そんな物があるかは分からないが、胆力を高める魔法を習得しているのか?」

ラレンティウス「いや、コレは噂に聞く呪術『内なる大力』なのかも…」

コブラ「? なんの話かサッパリだな」

戦士「そんな事どうでもいいだろ?なんで強いかなんて関係ない。大事なのはコイツが強いってことだ」

戦士「さっさと行こうぜ。グズグズしてると下の大食い野郎が登って来かねないぞ」

ソラール「うむ。ひとまずは祭祀場に行こう。ここから行ける篝火の中で、あそこの物が一番近い」

242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/13(木) 08:18:28.91 ID:X12HY6hiO
待ってた
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/13(木) 08:26:43.03 ID:tjAOnzRFo
一番凄いのはウインチとワイヤーの気がするw
五人+ロボットと大剣て相当な重さ
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/13(木) 10:51:47.38 ID:hkBN//u/O
コブラだからで済んじゃうのがコブラ
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/13(木) 11:09:30.64 ID:tgJN50/A0
東京MXで再放送始まった
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/14(金) 00:59:08.68 ID:ZtOv7Aan0
ソラールの提案に従い、一行は祭祀場へ戻る。
祭祀場は一見すると何も変わっていないように見えたが、それも遠目に見た限りのものである。
少なくとも二つ、決定的な違いがあった。


レディ「!? なんなのこの臭い!?」

戦士「うわ臭えっ!なんだこりゃ!」

コブラ「俺たちが留守してる間にトイレでウンコしてそのまま流さなかったヤツがいるな」


一つは、祭祀場に漂う悪臭。
それも瑞々しい生腐りのものではない、埃を被り、年季の入った古い腐臭。
それは空気の流れに乗り、祭祀場の遺跡の奥から漂っていた。


ラレンティウス「俺が見てこよう。大沼より少し臭い程度だ。死にゃあしないさ」


呪術師ラレンティウスにとって、その悪臭は故郷に通じるところがあった。
臭いの出どころを確かめるという理由はあったが、孤独を好む彼も、永い旅の中に郷愁を見出していたのだった。


ソラール「おい見ろ!篝火が!」

グリッグス「なっ…まさか…」



二つ目の異変は、篝火の鎮火だった。



戦士「おいちょっと待てよ…こりゃねえよ…」

ソラール「火が消えている。誰がこんな事を…」

コブラ「水を掛けたヤツがいるってことか」

グリッグス「水を掛けたぐらいでは消えないが、それらしい事をやった者はいるだろう」

コブラ「それらしいこと?」


グリッグス「ああ。一つの篝火には一人の火守女がつく。その火守女を殺すか、それとも力を奪うかすれば、篝火は消えるんだ」


コブラ「なるほどねー……しかしおかしいぜ。篝火に用があるヤツは不死人だけなのに、その篝火を誰が消すってんだ?この地にいるのは俺とレディを除いてみんな不死人ばかりのはずだ。そんな中で火守女を殺したとあっちゃあ、殺したヤツ本人も面倒をおっかぶる事になるはずだぜ?」

グリッグス「そこなんだ……火守女を殺したとしても、得られる人間性は高が知れているし、エストの補給も出来なくなる。ソウルにも期待は出来ないはずなんだ……一体なぜ…」

戦士「クソッ!篝火下の牢を見て来たが、やっぱり火守女が殺されてやがる。ここはもう終わりだ……」

コブラ「下の牢に人がいたのか?そりゃあ気づかなかった」

ソラール「気づかんのも無理はない。宗教者達が主に火守女をロードランに送り、彼女ら全てが目を埋められた生娘達ではあるが、教義によっては、火守女は動くことも話すことさえも禁じられると聞く。少なくとも『白教』という宗派はそうだったらしい。遥か昔の、忘れられて半ばおとぎ話となっている物語によればな」

コブラ「酷い事をするもんだ。そんなんだからおとぎ話になるのさ」



ラレンティウス「ウオオオオオーーーーッ!!」ダダダダダ…



コブラ達が消えた篝火を囲んでいると、悪臭の正体を突き止めたラレンティウスが、必死の形相で走ってきた。
全身から漂う悪臭は、彼が止まった拍子にあたりにばら撒かれ、コブラ達は顔をしかめた。


コブラ「本当にひどい臭いだな。肥溜めでも近くにできたのか?」

ラレンティウス「そんな事言ってる場合じゃない!ここから逃げるぞ!」

ソラール「逃げる?なぜだ?」

ラレンティウス「口のでかい巨大な竜が奥にいるんだよ!臭いの元はそいつだった!」


悪臭に、でかい口に、巨大な竜。ラレンティウスの言葉に嘘は無かった。
しかし、彼に不死の使命に対する熱意がなかったからだろうか。焦りが言葉を飛ばしてしまったのか。それともその両方か。
言葉の真意は歪められて皆に伝わり、旅の一行は口に出さずとも理解した気になってしまった。
谷底にいる貪食な巨竜が飛竜共を食い尽くし、祭祀場にまで登り詰めつつある、と…
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/14(金) 04:18:01.95 ID:ZtOv7Aan0
その巨大な竜にとっては、思わぬことだった。
竜は人語を解し、話すことも出来る。
偉大な力に恵まれており、滅びぬ体と永い寿命を有し、王の時代すら見てきた。
そしてなにより、竜は竜ではなく、巨大な蛇だった。

ラレンティウス「ウオオオオオーーーーッ!!」ダダダダダ…




王の探索者フラムト「ま、待てい不死者よ。怯えるのは分かる。だがまずわしの話を…」





フラムト「………」


フラムト「やれやれ、行ってしまったわい。二つの鐘が鳴り、1000年の眠りから覚めてみれば、わしを起こした者があのような小心者とは…」

フラムト「望むべき不死の英雄なども、なかなか現れんということか」




「また竜か。しょうがない。さっさと移動するぞ」

「そうねコブラ。でもここから近い篝火って言ったら、あそこしかないわよね?」

「そうだな。たんまり殺したから霊も俺に纏わり付いている。武器の修理のついでにミソギといくか」

「そうか、教会近くのアンドレイがいる篝火か。あそこまでは確かに竜も来れんだろう」


石畳に開いた穴から首を出すだけの身であるため、蛇は去りゆく不死達を制止することができなかった。

声の様子からして、ここには不死の一団があり、彼らはコブラという男を中心に結束しているようだった。
それは探索者たる蛇に、この世界についての決定的な激変を再び思い起こさせる。
世界の大合一が起こる前、不死達はほとんど互いに触れ合うことなく、霊体として並行世界を行き来しつつ、儚く足掻くだけの者達だった。
例え眠りについていても、蛇は知っている。それが役割だったからだ。
そして今や、使命を帯びし者達は孤独ではない。闇に潜む霊達すらも。


フラムト「いや、やはりこの目覚めは、来るべき英雄の為なのかもしれぬな…」

フラムト「コブラ……今は声しか分からぬ者よ。わしはここで待っておるぞ」




コブラと呼ばれた男と、その仲間達の声は、足音と共に消えていった。
蛇は首を穴からもたげたまま、一時の眠りに就こうとした。
だが再び複数の足音が近づいてきた事に気付き、眼をまた開いた。






ソルロンドのペトルス「おお!素晴らしい!貴方が聞きしに伝わる『世界の蛇』であらせられるか!ささ、お嬢様。どうぞ謁見なされ。このような機会、幾度もあるものではございますまい」


聖女レア「…………」


ソルロンドのニコ「むーん…」


ソルロンドのヴィンス「うえっ…ひどい臭いだな…」


レア「こっ、こらヴィンス!控えなさい!失敬ですよ!」あわわ…



だが、蛇の前にはコブラと呼ばれそうな者など一人もおらず、声も聞こえなかった。
代わりに、なんとも間の抜けた、頼り甲斐のなさそうな一団がざわついており、蛇はため息をついた。

ヴィンス「うわくっさ!ごほごほっ!」

レア「もう、貴方という人は…」

そのため息に露骨な嫌悪を示した近衛の僧兵に、気品はあるが人への教養に欠けていそうな聖女が再び叱咤した。
しかしその声は小さく、叱咤というよりは、独り言に近い愚痴りであった。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/14(金) 20:50:33.82 ID:Mn0q2sEYO
待ってた
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/17(月) 05:39:34.34 ID:1mfTIWGG0

レア「ご無礼をお許しください…私の護衛がとんだご粗相を…」

フラムト「わしは気にはせんぞ。礼節などという物は力の優劣を決めるための物だ。わしらは争わんのだから、礼節も要らぬだろう」

レア「か……寛大な御言葉、有り難く頂戴致します」

レア「あの、それでひとつ、お尋ねしたい事があるのですが、宜しいでしょうか…」

フラムト「うむ、よいぞ。何が聞きたいのだ?」

レア「その……注火の秘術についてなのですが、何処に向かえば…」


フラムト「なんと?」


レア「えっ」


フラムト「不死の使命を遂げるために来たのではないのか?」



レア「あっ、そ、その使命を遂げる者のために、篝火の火を強めエストを高める術を捜しているのです!それが白教のたまわる使命であり、我らに課された責務なのです!ですので、我らが不死の使命を軽んじているというわけでは、決して…!」

フラムト「ああ、分かった分かった。責めているわけではない。ただ思った答えと少々違ったのでな」

レア「………」ホッ…

フラムト「あの術ならば、神の敵対者たる邪神へと仕えた、太古の屍術師が編み出したと聞く。もっともその者はすでに滅び、名ばかりを継ぐまがい者が術を簒奪したがのう」

レア「詳しい場所は御教えになられないのでしょうか…」


フラムト「それはお主らが見出さねばならぬ」


レア「……そう、ですか…」

ペトルス「屍術師……お嬢様、もしや秘術は地下墓地にあるのでは?屍を操る者は、屍を求めるでしょう」

レア「そうですね……では、そちらに行くことにしましょう」


フラムト「行先は決まったかな?不死の旅人よ」


レア「はい、探索者たる貴方様の御言葉のお陰です。早速向かうことに致します」ペコリ


フラムト「うむ。お主に炎の導きのあらんことを」



先行きの不安な者達を送り出し、蛇はまたため息をついた。
ある一団は求めるも見えず、ある一団は望まぬも目見えた。
行先に暗雲立ち込めるのは、何も不死達だけではない。
あらゆる物がままならならず、決して定まらないのなら、世界の蛇といえど肩をすかされるのだ。


フラムト「鴉よ。お主も辛かろうて」ふふ…


蛇の含み笑いに、大鴉はカァとひと鳴きし、またも飛び去った。
死臭香り雪積もる、北の不死院へ向かって。


250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/18(火) 01:20:40.76 ID:VOoFu+FYO
世界が同じになったならリロイやタルカスもいるのかな?
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/28(金) 07:53:56.56 ID:sOoFyV980
カーン! カーン!

カイーン!



寂れた不死教会の階下から、鉄を叩く音が響く。
コブラから受け取った宝石の如く輝く石を用いて、鍛治職人のアンドレイが剣を打っている。
その手に握られた分厚い大剣が仕上がるまで、一行は鍛治部屋の真上に位置する篝火の間で、小さな炎を囲んでいた。


コブラ「この火にも火守女が付いているのか?」

ソラール「そのはずだ。ここが教会というのもある。多分、今はこの建物の地下にでも……」

コブラ「なるほどね。つまりコイツも殉教の炎ってわけか。宗教ってのはやたらと女の子を殺すから好きになれないね」

ソラール「…白教の信徒の前では、そういうことはあまり言うんじゃないぞ」

コブラ「会わないさ。ロードランは信じる者の足元を掬いにかかってる」ボボボ…


ズボンのポケットから出したキノコを篝火で焼き、程よく色味が変わったところで、コブラはキノコをかじる。
つられてソラールもエストを飲むが、その味は焼きキノコとは程遠く、人としての習慣をソラールに思い出させただけだった。
グリッグスとラレンティウスは炎を光源として、術書に目を通している。
そんな中、戦士は手持ち無沙汰になり、懐から取り出した黒い丸石を掌で転がし始める。

丸石には、教会近くの古城を見つめる、人の目玉が開いていた。
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/04/28(金) 09:25:57.43 ID:sOoFyV980

コブラ「で、その石っころはなんなんだ?剣に化けでもしたら森深くの岩に刺しに行ってやるぜ」

戦士「分からねえ。火守女の死体から転がってきたんだが、なんかの生き物みたいだ。気味悪いぜこれ」

レディ「ちょっと見せてくれないかしら?」


レディの提案に戦士は従い、石をレディに投げ渡した。
石の視線は変わらず、古城を指している。




レディ「うーん………見たところ目玉以外に異常はなさそうね。感触は滑らかだわ」


コブラ「……いや、確かにこいつはかなり気味の悪い代物だ」


レディ「えっ?」

戦士「もう何か分かったのか?」

コブラ「ソラール」

ソラール「なんだ?」

コブラ「火守女から視力を奪う方法、知ってるかい?」

ソラール「すまないが俺は詳しいやり方は知らない。白教には深く関わらんようにしているんでな」

ラレンティウス「待て、俺は聞いた覚えがある」

グリッグス「君がか?篝火は白教の範疇では…」

ラレンティウス「篝火は炎の中でも特別だ。炎を探求する俺たちにとっても篝火は神聖であり、探求すべき神秘のひとつなんだ」

ラレンティウス「聞いた話では、火守女の目を潰すには『蝋』を使うらしい。火守女の身体に宿る無数の人間性を、蝋を通して燃やし、守り、また取り込む為と言われている」

ラレンティウス「だが呪術王のザラマンが言うには、火守女に良くないもの見せないためとも……」


ラレンティウス「………」


ラレンティウス「………まさか…」


コブラ「そのまさかさ。この石は石なんかじゃなく、蝋で出来ている。この中に埋まっている目玉は火守女のものだろう」

コブラ「そして、これでどうやって目を潰したかも分かったな」


ソラール「…目に溶けた蝋を流し込み、眼球を包んだところで冷やし、固める…」

戦士「やめろよ…胸糞が悪くなる…」

ラレンティウス「………」


コブラ「だが問題はここからだ。こいつの視線から考えても、目玉に関わる『何か』は向こうの古城にある」

コブラ「そして、二つの鐘が鳴らされた後に、火守女が何者かに殺される事によって、コイツは現れた」

コブラ「そうすると、この目ん玉についてちょっとした疑問が生まれる」


コブラ「不死の使命に関わるものか」


コブラ「それとも罠か、だ」


253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/28(金) 14:29:29.73 ID:4W8CWas5o
目の潰し方エグいな……かぼたんカワイソス
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/20(土) 13:55:38.88 ID:ecAw2HtH0
待ってる
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/27(土) 07:41:45.88 ID:UFJ0a1hq0
ソラール「罠?」

グリッグス「この俗世と離れた地で我々を陥れて、誰が得をすると言うんだ?せいぜいいくらかの人間性とソウルを得られるだけじゃないか」

戦士「馬鹿だな。目的と手段が食い違ってるヤツもいる。ソウルも人間性も関係ない奴らだっているぜ」

グリッグス「…まさか闇霊どもか?例え罠だとして、彼らがこんな回りくどい事をするだろうか?」

戦士「回りくどさは関係ないんだよ。人に煮え湯を飲ませて喜ぶ連中なのさ、あいつらは」

コブラ「なぁその闇霊ってヤツ、赤黒い煙だか光だかに包まれていたりするかい?」

グリッグス「ああ、そうだ。でもどうしてそれを?彼らに会ったことがあるのか?」

コブラ「それっぽいのを何度か叩きのめした事があってな。もしかしてと思ってね」


コブラ「それに、そいつらが俺たちを……いや、俺をハメるっていうのなら、いくらか納得できるのさ」


グリッグス「…それは、どういう…?」

コブラ「教会の鐘を鳴らしに行った時、金色の鎧を着た男に一杯食わされてね。そいつが言うには、俺の命を狙う奴がロードランには居て、その鎧の男自身、俺を殺すために何やら暗躍するつもりでいるらしいんだ」

コブラ「つまりそいつの雇い主なり、懸賞金の出資元にとっては、俺は道を塞ぐどデカい岩ってわけだ。この場合は懸賞ソウルになるんだろうな」フフッ

コブラ「まぁ何にしてもだ。そいつらの狙いは大雑把に見積もっても、俺とレディだけってことさ」


グリッグス「………」


ソラール「…コブラ。まさか別行動を取ろうって考えてるわけでは無いだろうな」

コブラ「そのまさかさ。罠だった場合のことを考えれば、そっちの方が都合がいい」

戦士「な……なんだよそりゃ!?ここまで来て解散か!?俺はあんたの実力を当て込んで今まで付いて来たんだぞ!?」

コブラ「残念だが俺はおたくらが思うほど強くはない。大富豪で切り札を切ったところで、革命を起こされちゃひとたまりもないからな」

ソラール「大富豪?」

戦士「らしくねえよ…今まであんだけ強気でいたくせしやがって、そりゃないだろ…」

レディ「彼にも色々あるのよ。とっても長い話になるから詳しくは言えないけれどね」



ガチャーン!



ソラール「ぬっ?」

アンドレイ「出来たぞコブラ!あんな量の光る楔石を一度に使うなんざ久々だったからなぁ。時間食っちまったぜ!ガハハ!」

コブラ「ようやくお披露目か、待ちわびたぜ」フッ…

アンドレイ「こいつの斬れ味は今までとは段違いだ。そこらの亡者だったら押しつけるだけで斬れるだろうぜ。しかしあれだけの光る楔石をどこで手に入れたんだ?」

コブラ「病み村の沼底を洗いざらい掻っ攫ったのさ。宝石じゃないって知ってたらあそこまで熱心にはやらなかっただろうなぁ」


ソラール「コブラ」

コブラ「んー?」

ソラール「本当に一人で行く気なのか?」

コブラ「そのつもりだ。罠じゃなかったのなら一人の男がヘタを掴むだけで済むが、そうじゃないなら下手すると揃って地獄行きだ」

コブラ「それに二つの鐘を鳴らした結果何が起きたのか、俺たちはまだ何も分かっちゃいない。現状を把握するためにもここは別れるべきなのさ」

戦士「………」

コブラ「クラーグがちょいと口を滑らせてくれれば、俺たちも楽ができたんだがなぁ」


ソラール「……そうか。分かった。それならば貴公に太陽の導きがあることを願うだけだ」


コブラ「ああ、願っててくれ。行くぞレディ!」

レディ「OKコブラ!」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/27(土) 09:13:58.91 ID:pbIjQEu8O
キター!支援
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/27(土) 10:56:13.11 ID:FjQagzF4o
別れるのか、そうか……がんばれ戦士
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 00:36:38.21 ID:gZWls8TY0
篝火から離れたコブラとレディは、開かれた門の奥に影を落とした古城へ向かう。
その道程にはいくつかの血が擦られており、茶色く変色している。


コブラ「早速不穏だな。吸血鬼でも出てきそうだ」

レディ「冗談にしても笑えないわね」


門をくぐり、影を進んだコブラに、古城は第一の資格を送り込んだ。


ゴリリッ

コブラ「!」

ビュビュビュン!


コブラが踏んだ石畳は沈み込み、その動力を仕掛けに伝えた。
仕掛けはコブラの目の前に見える、階段の半ば程から三本のボルトを連射する。


コブラ「………」パパパッ


しかし、それらはいずれも蛇の手に捕獲されたのだった。


コブラ「舐めてもらっちゃ困るぜ、こちとら光速で飛んでくるプラズマを100ダースは躱してるんだ」

レディ「ナイスキャッチね、コブラ!」

コブラ「へへッ、このダーツで景品を当てに行くとするか」


ボウガンの三点バーストをいなしたコブラは、三本のボルトを握りしめ、歩を進める。
そして階段を登った先の、広く薄暗い空間に行き着いた。


コブラ「こりゃまた古典的だぁ」ハハ…


空間の手前側と奥側にのみ足場が設けられ、それを繋ぐのは一本の石橋。
その石橋の床面上をスレスレで通り過ぎるのは、複数本の巨大なペンデュラムの刃。
更に石橋の3メートルほど上にもまたしても石橋があり、どちらの石橋にも、蛇の頭を持つ者が陣取っていた。


コブラ「決まりだな。こりゃ確実に罠だ。だがこうまで露骨だとまるでアトラクションだぜ」

レディ「景品は出そうに無いわね」

コブラ「いーやぁ、まだ分からんさ」チャラッ…


コブラは手に持ったボルトを掌で転がすと、眼つきを変え、振りかぶった。


コブラ「ワンストライク!」ビッ!

蛇男「!?」

」スコーン!!


力強い投球フォームから放たれた一本目のボルトは、ペンデュラムをすり抜けて奥の蛇人の額を射抜いた。

蛇女「ゲッ!」

上の石橋に立つ蛇人は、予想外の攻撃にも反応し、掌から何かをうち出そうとするが…


コブラ「ツーストライク!」バッ!

蛇女「ギョエッ!?」スコーン!!


先の蛇人と同じく額を撃ち抜かれ、瞬時に絶命した。


コブラ「ツーストライクでバッターアウトか。メンバー不足で俺の打席に立つから悪いんだ」ニッ

レディ「コブラ、見て分かったのだけれど、この石橋を渡った先が上の石橋のようよ?振り子の刃の反動で登れないかしら?」

コブラ「そいつは名案だ。パパっと登っちゃいましょ」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 01:41:46.01 ID:IEvOSkjqo
>まるでアトラクション
ちょっとメタな視点でいくとプレイヤーにとっては本当にアトラクションなんだよなぁと思ってしまった
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 09:17:17.52 ID:DzEJNhKxO
フレンドパークでしょ(誤差)
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/05/28(日) 16:35:57.29 ID:gZWls8TY0
ペンデュラムに跳びつき、生み出される推力を利用して上の石橋に跳び乗った二人。
石橋の上で早速始めたのは、死体漁りだった。


コブラ「蛇の頭に四本の腕に三本の波打ち刃か。古代宗教芸術史にこんな奴がいた気がするぜ」

レディ「この剣…」チャキッ…

ヒュン ヒュン


レディは蛇女の握っていたフランベルジュを手に取ると、その場で二、三度軽く振った。
炎とも例えられる大剣は、片手で振るには幾分重すぎる得物だったが、アーマロイドの腕力に掛かればまるで羽毛のように舞った。


コブラ「いけそうかい?」

レディ「この程度なら左手だけでも充分ね」

コブラ「そりゃ良かった」

レディ「あら?」

コブラ「ん?」

レディ「見てコブラ、あれってかなりいかにもじゃない?」


レディが指差した先には小部屋があり、宝箱と、そのすぐ後ろにある石積みの壁と、詰まれた石の隙間に紛れさせようと工夫された、小さい穴があった。
そして、小さい穴は宝箱を開けようとする者の額を、丁度射抜ける高さに穿たれていた。


コブラ「あーあ…一度破れた手を二度も打つかね普通」

レディ「どうする?私が先に行く?ボウガンぐらいなら私の体で弾き返せるわよ?」

コブラ「キミの体に当たったらボルトが粉々になる。ダーツの残弾は多い方がいい」


見え透いた罠にコブラは近づく。
宝箱を開けた瞬間に飛んでくるであろうボルトを入手するために。
だが思ったよりもボルトは早く飛んできた。


ガコン

コブラ「!」

ビュビュビュン!


仕掛けの起動スイッチは宝箱ではなく、コブラの足元の石板だった。
射出装置が発動するタイミングを計ったからこそ、そのタイミングを乱されたコブラはボルトを躱さざるをえなかった。
単純に反射を頼っていれば、こうはならなかっただろう。
ボルトはコブラの後ろに立っていたレディの体に当たり、弾かれて空間の闇へと飛んで行った。


レディ「フフフッ…してやられたってところかしら」


コブラはバツが悪そうに頭を掻くと、ため息をつきながら宝箱を開けた。
宝箱の中身は楔石の大欠片が二つだけだった。


コブラ「わざわざ宝箱にしまう程の物かねーこれは」

レディ「一応貰っときましょう?」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 18:55:03.85 ID:nnaxxMs7O
罠の餌にそんな上等なものを使う必要はないということか……汚いさすがフロム汚い
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 03:07:29.26 ID:HcZEJIGs0


ジークマイヤー「うーむ…うーむ…」

ローガン「いつまで唸っておる。貴公の微力で開けられるなら、とっくに私が牢を破っているだろうに」

ローガン「もっとも、飽きてはいるがここに居るのも悪くはないのだがね。死ぬことは無く、人間性も留めていられるのだからな」

ビアトリス「……先生」

ローガン「…ふむ、すまないが私は君の師ではない。そう呼ばれるとむず痒く思うぞ」

ビアトリス「すみません…ですが、先生と呼ばせてください」


ビアトリス「先生は何故、門下の者達を置いて不死の旅に出られたのですか?皆がいれば心強いでしょうに…」


ローガン「門下の者達、か……あの者らは勝手に私についてきたに過ぎん。君のように私を真似て大帽子を被りはするが、君のように真摯ではなかった」

ローガン「彼奴らがソウルの矢と魔法の剣を修得し、何を想う?使命のためではなく、探究のためでもなく、それら魔法はもっぱら他者を下す為にのみ振るわれているわ」

ローガン「もはや真にヴィンハイムの徒と言えるのは、未熟なるグリッグス。それとは別にヴィンハイムから去り、自立した異端の者らのみだ」

ローガン「そしてグリッグスも、真摯ではあるが黒の正装を纏うには能わん。あの装束は血塗られている。彼奴は私に憧れ、己に実績を重ねる為に修練し、結果としてあの衣装を与えられただけの者だ。戦いには向かずその力も無い」


ビアトリス「…………」




ガコーン…




ジークマイヤー「ん? むむむ?」


ゴロゴロゴロゴロ…




ビアトリス「……先生、それでは私では…」

ローガン「君?キミは……ふむ…」

ジークマイヤー「こ、これは!この音は!」ゴロゴロゴロゴロ…!

ビアトリス「先生!」

ローガン「キミは…うむ……なかなか…」

ジークマイヤー「おおおおおおお!?この音はぁ!?」ゴロゴロゴロゴロゴロ…!!

ローガン「さっきから騒がしいぞ!少しは静かにしてられんの…」


ドドドドガッ!グワシャアアァーーーーッ!!


ローガン「か?」




ビッグハットが荒げた声は、石壁が爆発的に飛び散る轟音に掻き消された。
振動でそれぞれの吊り牢は僅かに揺れたが、不死達の視界は鮮明だった。


ゴロゴロゴロゴロ!!!

コブラ「のわーーっ!!?」

蛇人「」

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!!


広大な密室を、大岩が破った。
大岩は砲丸の様に丸いが、その大きさは古屋ほどもあり、転がるそれには蛇人の礫死体と叫ぶコブラが貼り付いる。
その様子を、開いた大穴の奥からレディは心配そうに見つめていた。
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 09:08:37.61 ID:ItGwOxuaO
なにやってんのコブラさん!?
935.37 KB Speed:0.2   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)