白垣根「花と虫」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:10:43.47 ID:Ksn2qx+F0
・帝春


・時系列は新約15巻以降


・初投稿なので文は稚拙


・キャラ崩壊とめちゃくちゃなオリ設定、オリキャラ


・それでもOKならどうぞ??


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1472263843
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:12:46.41 ID:Ksn2qx+F0
ちょっと前に同じタイトルで書き込みましたが、内容を書き直しました。ちょくちょく更新するつもりです。あと、途中まで前スレの「花と虫」と同じです。そっちはhtml化しようとしてます。スレタイの横のURIボタンが何か分からない
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:16:32.76 ID:Ksn2qx+F0




…………………………。





「……、なに……?」



足蹴にした少女の口が動く。



彼は思う。自分の右足は彼女の左肩を捉え、確実にその関節を踏みにじって脱臼させたはずだ。路肩に面したオープンカフェの周りに人だかりができ、そして誰一人彼女を助けようとしない。その絶望の中で自分が垂らした一筋の糸。それに対して、今こいつは何といった?



「聞こえ、なかったんですか……」



頭に花飾りを掲げたその少女は、はっきりと聞こえる声で告げた。


4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:18:16.80 ID:Ksn2qx+F0



「あの子は、あなたが絶対に見つけられない場所にいる、って言ったんですよ。嘘を言った覚えは……ありません!」



瞳に涙を浮かべ、駆け巡る激痛に全身を震わせながらも、彼女は目をつむり舌をべぇっと出し、自分を挑発する。



(……何だこいつ。どうして打ち止めの居場所を吐かねぇ。それだけ告げれば命は助けると、そう言ったんだぞ俺は)



自分の心は平静だ。そのはずだ。しかし、胸の奥に埋没した、見えない見えない精神の暗闇の底から理由のない疼きが走る。いや、理由がないと、思いたいだけで本当は分かっている。これは……。




5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:20:00.24 ID:Ksn2qx+F0










(ッ?)









6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:24:09.60 ID:Ksn2qx+F0



視界がくすみ、灰色に包まれた過去がフラッシュバックする。足元の花飾りの少女が、全く違う別の少女に見えた。ウェーブがかった白い長髪。涙ぐんだ灰色の瞳。白いレースのワンピース。胴に茶色の細いベルトを巻き、同じ色のヒールを履いた、14歳ほどの少女。



「……良いだろう」



再び足元の人物は現在の花飾りの少女に変わった。しかし、先ほどよぎった白い少女が、サブリミナル映像のように何度も視界に挟まれてくる。



「俺は一般人には手を出さないが、自分の敵には容赦をしないって言ったはずだせ。それを理解した上で、まだ協力を拒むって判断したのなら、それはもう仕方がねぇ」



肩から足を離し、照準を頭に定め今度は殺す勢いで彼女を踏みつけようとする。目の前の光景は、テレビのチャンネルを行き来するように、現在と過去を反復し続ける。その疚しさを今すぐにでも消し去るために、足に力を込める。



「だからここでお別れだ」



処刑の一撃が振り下ろされた。


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:25:11.08 ID:Ksn2qx+F0










最後に自分が見た顔は、今か過去か、どちらの罪を映し出した少女の顔なのか、もう自分でも分からない。









8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:26:49.55 ID:Ksn2qx+F0









とある魔術の禁書目録SS 白垣根「花と虫」










9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:30:23.54 ID:Ksn2qx+F0




…………………………。




「カブトムシ!」



その一声で、垣根は目を覚ました。



途端に目に飛び込んだ、カーテンの隙間から差し込むぬるい光により、もう一度目をつむる。今の彼は窓際の勉強机の上で、羽毛付きの、小さな白いカブトムシのストラップとなっている。



また目を開けて周囲を見渡すと、赤いランドセルと、置き時計がある。時計の針は午後二時四〇分を指していた。


10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:33:40.83 ID:Ksn2qx+F0



垣根は振り向いた。声の主、フレメア=セイヴェルンが部屋の真ん中に立っている。



「大体、お前今日用があるんじゃなかったのか? いつまで昼寝こいているつもりだ? にゃあ」



白やピンクを基調とした上着はフリルやレースでモコモコと膨らみ、スカートとワインレッドのタイツで下半身を覆っている。まるで着せ替え人形のようなファッションに身を包む彼女は腰に手を当てながら、垣根に忠告する。



『……ああいけない。そろそろ約束の時間だ』



垣根は思い立ったように背中の甲殻を開き、その中の薄い羽根を震わせて声を作り出す。そのまま空中に飛び上がり、フレメアの方へ向かう。



フレメアの左横を通過し、彼女の後ろ辺りを漂う。彼の全身が白く輝き出すと、そのままみるみるサイズを増していき、姿が人型になっていく。そして現れたのは、身長180cm近くある、清廉な顔立ちの長髪男だった。ただ、色は全身白いままだ。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:38:15.83 ID:Ksn2qx+F0



「ありがとうフレメア。少し、悪夢に魘されてしまいまして」



垣根は振り向き、今や見下ろさなくてはならなくなったフレメアに話しかける。彼の緑の瞳をじっくり覗き返しながら彼女は訪ねる。



「どんな夢だったの?」



「いえ、大したものではありません。昔の、嫌なことを思い出したくらいのものです」



垣根は冷静に、余裕げに微笑みながらフレメアに告げた。



「ふーん。カブトムシでも夢って見るんだね」



「感覚のある生物なら、夢は誰でも見ますよ。犬猫でもね。ただ、その生物の捉える感覚の中の最も強いものが夢に現れるようなので、もちろん人間と同じような夢ではありませんけどね」



「カブトムシが見た夢は、人間的な夢?」



「ええ。とっても、嬉しいくらい人間的です」



フレメアの頭を撫で、垣根は言う。



「それでは行ってきます。留守番、お願いしますね」



「ふん?? アリ一匹通さないくらい、立派な留守番になってやる??」



垣根は笑い、そして玄関の方に歩いて行った。扉の開く音と閉まる音が聞こえた瞬間、フレメアはつまらなそうに左手のベッドに倒れ込み、口を歪めた。



「……羨ましいにゃあ」



これから垣根と遊ぶ相手に向け、届かない独り言を漏らした。彼女の目は寂しそうに潤んだが、それを否定するように勢いよく枕に顔面を突っ伏した。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:50:27.92 ID:Ksn2qx+F0
今日はここまで
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/28(日) 17:32:39.12 ID:bENzRif6O



佐天涙子と白井黒子はダイヤノイドにいた。



二人して一階のフロアにあるカフェ、「star books」のテラス席に座っている。中央の廊下を挟んだ周りの衣服、雑貨、食品のテナントは、日曜日のため人で溢れ、話し声が絶えない。しかし佐天は一言も発せず、ある一点を見つめていた。



「本当なんですの? 佐天」



相席している黒子も、視線を佐天と同じ方向へ向ける。黒子はいつもの学生服だが、佐天は黒のブルゾンの下にグレーのパーカーをまとい、ジーンズとスニーカーといった私服に身を包んでいる。




「間違いないよ。初春が待っているのは、十中八九彼氏!」



廊下の中心部。吹き抜けの広間になっているその真ん中に、イタリアを思わせる小さな白い噴水。いかにも集合場所らしいその手前の木製ベンチに座っていたのは佐天の親友。花飾りの少女、初春飾利だった。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/28(日) 17:38:53.61 ID:bENzRif6O



「考え過ぎじゃありませんの? 普通にご学友を待っているだけじゃ……」



「ふっふっふっ。親友の目は誤魔化せんぞ初春。白井さんもちゃんと見てくださいよ。あれが女友達と遊ぶ前の女の子ですか!」



不敵な笑みを浮かべ佐天は指を指す。



そんなことも知らない初春はというと、制服に身を包み、少し頬を染めながら頭の花の様子を確認している。小さな人差し指で撫でられた白いコスモスが、静かに揺れた。初春は微笑みながら、前髪を人差しでくるくる巻き始める。



「………こっちにまで匂って来そうな甘〜い仕草ですの。確かに最近、浮かれ気味なニヤけ面が多いと思ってましたけど」



「そうでしょ白井さん? 私と話してる時もなんか上の空なんだもん。さぁ〜て、お姉さんに隠し事をした罪は重いぞ初春ぅ。是非とも彼氏さんの姿、拝ませていただきます!」



手元にあったカップコーヒーを一気に啜りながら佐天は観察を続行した。が、勢いよく飲み過ぎたせいかむせてしまい、ゲホゲホと俯いて咳き込んでしまった。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/28(日) 19:33:05.47 ID:lxOUj9EG0



「にしても、御坂さん何で来なかったんですかね?」



口元を拭う佐天が黒子に聞く。



「さあ……最近はまた何も言わずどこぞを彷徨くことも増えて来ましたの。話しかけても、どこか上の空で」



はぁ、と黒子はため息を吐いた。



「何か会ったのかな御坂さん」



「私たちの杞憂だと信じたいものですわ……うん?」



その変化を黒子は素早く捉えた。視線の先の初春がベンチから立ち上がり、手を振っているのだ。



「こ、これは。いよいよお出ましですの」



「おお。遂に彼氏さんが!」



顔を上げる佐天。そして現れたのは。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/28(日) 19:34:56.54 ID:lxOUj9EG0





「お待たせしました。初春さん」



「もう、女の子を待たせるなんてダメですよ。垣根さん」



「」



「」





17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/28(日) 19:38:05.69 ID:lxOUj9EG0



絶句。



想像の斜め上をワープして宇宙空間に突き抜けた後、迫りくる隕石をドリルバンカーで破壊したような衝撃。



現れたのは白人というにはあまりにも白い、白すぎる男。顔立ちは端正で、瞳には柔和な雰囲気を宿しているが、何故か緑に発光している。



ともかく現実は、この異邦人と初春が笑顔で話ながら、共に廊下の向こうへ歩いて行く光景が広がっているのだ。



やがて我を取り戻した彼女たちは、急いでコーヒー代を払い、二人の後を追って行った。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/28(日) 19:39:19.89 ID:lxOUj9EG0
ひとまずここまで
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:23:01.33 ID:LT4Hqbrc0
投下します
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:25:17.31 ID:LT4Hqbrc0



「はいこれ」



垣根は左隣で共に歩いている初春に『いちごおでん』を差し出した。二人が歩いているのはブティックのテナントの並ぶ廊下だ。



「ありがとうございます。どうしたんですか?」



「実は少々、寝過ごしてしまいました。その償いを、と思って」



垣根は申し訳なさそうに頭を掻いた。



「そうだったんですね。まあこれで良しとしましょう」



フンスと鼻息をついて、初春は思いがけぬプレゼントに満悦した。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:27:09.55 ID:LT4Hqbrc0



「それに、私の方こそ制服のまま来ちゃいましたし。全く、せっかくの日曜も風紀委員にとっては関係ないんですよね。呼び出されて、業務に追われてました」



初春はため息をつく。疲れが濃く混じったため息だ。



「なるほど。でも、頭の花は変えたんですね」



「あ、分かります?? いやー流石鋭いなぁ垣根さん。垣根さんの色に合わせて白いコスモスを添えてみたんですけど、似合ってますかね?」



「ええとても。花の咲かないこの季節でも、可愛らしく咲き揺れている」



「いやぁ〜まぁ、それほどでも」



初春はふやけた笑みを、垣根は柔らかい微笑を顔に巡らせ、共に歩く。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:29:13.18 ID:LT4Hqbrc0



初春は手渡されたいちごおでんの缶を開け、両手で持ちながらゆっくりと飲んだ。



「うん、いけますね。私これお気に入りなんですよ」



「それは良かった。なら、私も同じ物を買ったのでそれを飲むとしましょう」



「あれ? 垣根さんって食事はするんですか?」



「まあ、必要なエネルギーは未現物質で創造できるので本来必要ないのですが、味覚はあるので食べることはできます。それに、貴方のお気に入りだ。是非とも味見してみたい」



そういって垣根は缶を開け、優雅にいちごおでんを口へと運んだ。



「……………………」



「垣根さん?」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:32:13.27 ID:LT4Hqbrc0
誤字ったぞ(笑) わってなんだ!
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:33:24.93 ID:LT4Hqbrc0



一口すすったところで垣根は初春から顔を背け、一切言葉を発しなくなった。



「あれ? おーい垣根さん。どうしたんですか?」



「……初春さん。別に、無理はしなくていいんです。遅れて来た以上悪いのは私なんですから、気を使わなくていいんですよ」



「?」



なんのことですか? と、聞こうとした時だった。





「ちょっっっと待てえいそこの二人ーーー??」






25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:37:31.13 ID:LT4Hqbrc0



「??」



驚いた二人が後ろを振り返る。そこには白井黒子、そして声の主である佐天涙子。自分ともう一人を除けたいつものメンバーが揃っていた。



「さ、ささささささ佐天さん?? 何やってるんですかこんなところで!」



「こっちのセリフだバカやろう! こちとら初春の彼氏の姿を見てやろうと思ってずっと張り込んでたのに、予想外もいいところだろ! 何なのこの白人、というより白い人は!」



「初春ぅ? 最近浮かれ気味な様子を見てまさかとは思っていましたが、やっぱり殿方と逢瀬を……それで、誰なんですのこの塗装前フィギュア男は」



「な、何勘違いしてるんですか二人共! 私と垣根さんは、別に、そんなんじゃ……か、垣根さんからも言ってやってください!」



「確かに……貴女たちが思っている私と初春さんとの関係が男女との恋愛の仲だと思っているのなら、それは誤解です。そもそも、私は既にそういう性別的な概念を超えた存在ですから」



捲したてる黒子と佐天に、冷静に垣根は対処していく。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:43:47.91 ID:LT4Hqbrc0



「え? そ、それじゃあこの人は一体何なの?」



佐天は訪ねる。



「申し遅れました。私の名前は垣根帝督。学園都市第二位の能力、『未現物質』を操るレベル5です。よろしくお願いします」



見るもの全てに、木漏れ日のような安心を与える笑顔を見せ、垣根は軽く頭を下げた。


「れ、レベル5ゥ??」



佐天は仰天した。



「に、二位ということはお姉さまより上の能力者。しかも何かお姉さまより常識人っぽい!」



黒子も似たような反応だ。そもそも彼女の中の超能力者の破綻的なイメージと、目の前の彼は、赤外線センサーを避けまくるルパンの如く交わりがない。



「スッゴイじゃん初春ぅ! こんなイケメンで優しくて、しかも超能力者なんて、超優良物件の大豪邸彼氏じゃん! 色落ちしてるのがちょっと気になるけど」



初春に抱きつき頭を撫でながら佐天は精一杯の賛辞を送った。さっき垣根から丁寧に説明されたことなどすっかり忘れている。



「だ、だから彼氏じゃないんですよ佐天さん! クリスマスも近いから、垣根さんのお世話になってる女の子にプレゼントを買おうかなって、それに着いて来ただけなんです!」



「そもそも、一体どうして初春、あなたが超能力者と知り合えるようになったんですの? ひょっとしてお姉様絡みで……」



黒子が素朴な疑問を投げた。



「ああ、それは、垣根さんは今噂の都市伝説『カブトムシさん』の正体でして、以前助けてもらったからです」



「」



本日三度目の弩級の仰天に、佐天はまた絶句した。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:47:04.78 ID:LT4Hqbrc0



「カブトムシさんって、あの、困った時に『助けてカブトムシさん』って呼んだら来てくれるというあの都市伝説の?」



「ええ。私がその都市伝説の、カブトムシさんです」



「…………」



「どうされました?」



時代錯誤が過ぎて黒子は笑いそうになった。が、よくよく考えると自分の「ジャッジメントですの」もひょっとしたら同類かもと思い、何とも言えない表情が一気に面に出てきた。



「そうです。実は丁度パソコンを風紀委員の本部に置いてて、その状態でスキルアウトに絡まれてしまったんですよ。その時、佐天さんの言ってたカブトムシさんを思い出して、で、読んでみたんです。そしたら垣根さんが来て。最初は『怖かった』んですけど、よくよく話してみると正義感溢れていて、物腰柔らかで、話していると楽しくて、」



「で、恋に落ちたと」



「そうそう……って、だから違うんですって佐天さん!」



突如会話に復活してきた佐天のからかいに、初春はあう〜と、ぽかぽかと可愛い音を立てる打撃、といっていいのかもわからない子犬のじゃれ合いのような連打を佐天に浴びせた。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:52:12.90 ID:LT4Hqbrc0



「ハハハハ。まあ、それはさて置きカブトムシさん!」



「はい、何でしょう?」



佐天は食い気味で見つめながら手持ちのカバンからノートを取り出し、白紙のページを広々と見せ、直角に頭を下げた。



「サイン下さい! 私、都市伝説大好きなんです!」



ファンの鑑のようなその仕草は、周りを歩いていた人々も思わず目を注ぐような美しい礼だった。



「え、ええ。私ので良ければ構いませんが、特にサインなど考えてないので」



そう言って指先を鉛筆の芯のように変形させ、ノートに触れ、高速で何かを描き始めた。



「こんなイラストでよろしければ」



現れたのは、先ほどまで自分が変形していた、一枚の羽毛をまとった小さな白いカブトムシの絵だった。



「やったー! ありがとうございます! そんじゃ、謎は解けたしサインは貰えたし、後は二人水入らずで邪魔者は退散します。じゃーね初春! 頑張れよー!」



「何を頑張れって言うんですか!」



初春の突っ込みには返答せず、二人は廊下の向こうへと去っていった。



「す、すみませんこんな感じの友達で……」



「いえいえ。とっても賑やかで、楽しそうな人たちだ。では、行きますか」



「ですね」



そして二人はまた並んで歩き始めた。あの二人に見張られていたのは驚いたが、蓋を開ければ意気投合できた(誤解はされたままだが)ので、内心垣根は安心していた。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:53:28.07 ID:LT4Hqbrc0





特にイラストを送ったあの佐天という少女は、性格的にもフレメアと仲良くなれそうだ。今度二人を会わせて遊んでみるのもいいかもしれない、と垣根は思った。




30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:55:13.34 ID:LT4Hqbrc0
ひとまず休憩
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 23:26:54.83 ID:LT4Hqbrc0



垣根と初春は目的のブティックにたどり着いた。テナントの正面の天井には、黒字で「zoo」と書かれたメープルの看板が飾られている。



「ほう。ここが貴女の言ってた子供服のブランドですか。いい雰囲気だ。これならフレメアの喜びそうなものも見つかるかもしれない」



二人はテナントの中に入り、柔らかな電球色の照明に身を包まれながら、店内を物色する。



すると早速、横に長い3段のガラス棚の前に垣根は止まった。2段目の棚に置いていた一着を手に取り、初春に見せる。



「初春さん。これとかどうでしょうか?」



彼が手にしたのは赤いチェックの、シンプルなデザインのシャツだった。



「うん。王道で、いいんじゃないんですかね」



少なくともプレゼントとしては申し分ない。初春はそう思い、答える。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 23:29:40.93 ID:LT4Hqbrc0



「因みにそれ、値段はいくらですかね?」



「ええっと、1400円ですね。お手頃な価格だ」



難なく答えた彼に初春は何かを思うのか、親指と人差し指の間をあごに当てる。そして垣根の横を通り過ぎ、棚の向こうのハンガーに吊るされた衣服類を物色し出した。



「ちょっと? 初春さん?」



すると、吊るされた中から一着取り出し、垣根の目の前につきつける。



「ホラ、こっちの方がいいんじゃないですか? せっかくのプレゼントですし、ちょっとくらい豪華な方が……」



そう言って渡されたのは、両脇にボタンが6つ付いた灰色のピーコートだった。垣根は先ほどのシャツを棚に戻し、それを手に取る。タグを確認すると、料金は5200円だった。



「ふむ。確かに先ほどのはプレゼントにしては少し味気なかったかもしれない。それにせっかくのおすすめだ。貴女の言うとおり、これにしましょう」



感謝の微笑みを彼女に向ける垣根。次に打ち止めの服を探そうとする。



「さて、次は……あの子が欲しがっていたのはマフラーだったはず」



そう言ってマフラーの置かれた棚に向かった垣根。先ほどのガラス棚とは違い、着衣室の横にある木の棚に並んだそれらを物色しながら、やがて一つを取り出して初春に見せた。

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/30(火) 23:35:10.45 ID:LT4Hqbrc0



「このマフラー、初春さん的にはどうでしょうか?」



垣根に手渡されたそれを手に取る初春。もふもふとした感触が手に走る、スラブヤーンの白のマフラーだった。



彼女はすぐさまタグを確認する。値段は税抜き3000円。それを見た初春は他の品もまた見始めた。垣根は自分のセンスはそんなに疑わしいものなのかと、目の前の彼女の行動を見てそう思う。しかし、



「うーん……全部同じか………あ、垣根さん! これで良いんじゃないですか?」



先ほどとは違い、自分の選んだ品を変更することはしなかった初春。垣根はえ、ええ。どうもと返した。



「よし。では行きますか」



手にした二つの品を掲げ、レジ向かおうとする垣根。



「ちょ、ちょっと待ってください」



彼女の静止に、垣根は立ち止まる。



「何か?」



「いや、ホラ、せっかくだしコートやマフラーだけでいいのかなぁ〜と。スカートやズボンも見ていきませんか? 他にも、下着類もあるし」



どこか目を逸らしながら、白々しく買い物を促す彼女に、垣根は首を傾げながら聞き返す。



「とは言いましても……彼女らが欲しがってたのはこの二つだけですよ? 無駄に散財するのは如何かと」



「無駄ではないと思います! ほら、そんなこと言う時に限って遠慮してるんですよ女の子ってのは! そういうレディの繊細な感情を理解して貰うために、この私が直々に着いてきたんですから! 分かったら他も見に行きましょう!」



「いや、彼女らに限って私に遠慮なんて……ん?」



垣根は彼女の真上に吊るされた広告に目をやった。そして、何故彼女がこんなにと自分に金を使わせようとしたのか理解した。


広告の内容はこうだ。

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/30(火) 23:42:46.58 ID:LT4Hqbrc0





クリスマス間近の福引セール! 今ならお買い上げ商品1000円ごとに一回可能!

1等賞・ノート型パソコンBAIO・

2等賞・AKUOS 26インチ型・

3等賞・ダイコップLITE・

4等賞・1000円分のお買い物券・

残念賞・テッシュ4箱 1セット・




35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 23:46:00.72 ID:LT4Hqbrc0



「…………初春さん」



「え、えっと、ナンノコトデスカ?」



目を合わせず、しらばっくれる彼女を見て、垣根はため息混じりに笑った。きっと、このキャンペーンがあることを知った上で自分をここに誘導したのだろう。



「買い物はこれだけにします。それでいいですね?」



その決定に、うーと不満げな声を漏らす初春。心配せずとも、と垣根は付け加えた。



「初春さんなら1等賞当てれますよ。そもそもこれらだけでも8回回せるんですから。チャンスは十分にあります」



垣根のフォローに、そ、そうですねと俄然やる気を灯した瞳で真っ直ぐにレジを見据えた初春は、彼と並んでレジへ向かい、会計後手にした8回分の回数券を握りしめ、いざ福引の前に立ち、そして手を伸ばした。



数分後、大量のテッシュボックスを持った男女二人がテナントから出てきた。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 23:46:38.29 ID:LT4Hqbrc0
今日はここまで
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 01:01:52.74 ID:1Jhwobuto
帝春好きだったので、久しぶりに新作が読めて嬉しいです
内容もキャラを良く捉えてて違和感もなく話も面白くてグッジョブです
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/04(日) 16:42:52.58 ID:ER6T843yo
きたい!
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/09(金) 22:26:58.11 ID:93iVx0FB0
レスありがとうございます! ちょっと遅くなりましたが、少しずつ投下していきたいと思います!
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/09(金) 22:29:24.65 ID:93iVx0FB0



てくてくと廊下を歩く垣根と初春。互いに4箱入りのティッシュセットを、両手に2個ずつぶら下げている。



「うぅ……せっかく新しいパソコン欲しかったのに……」



福引で狙いの商品を引き当てられなかった悔しさを引きずりながら、初春は低いトーンで呟いた。



「良かったじゃないですか。涙を拭くティッシュならたくさんある」



「こんなに入りませんよ! もう! 全部垣根さんに上げますから好きにしてください!」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/09(金) 22:31:35.50 ID:93iVx0FB0



はいはいと言った垣根はそこで立ち止まる。すると両手のティッシュセットが全て跡形もなく消失した。



「え? ひょっとして消滅……」



「そんな勿体無いことしませんよ。自宅にワープさせただけです。ほら。そっちのも貸して」



目の前の現象に驚きつつも手にしたそれらを垣根に渡した。そして先ほどと同じようにそれらも消滅する。



「か、垣根さんテレポートも使えたんですね……」



「3次元上の物体を11次元の計算に置き換える既存のやり方ではありませんがね。未元物質により生み出した『負の質量』を持つ物質との相互干渉によるワープ現象ですよ」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/09(金) 22:34:01.37 ID:93iVx0FB0



互いに手元をすっきりさせた後、垣根はさてと呟いた。



「初春さん。吹き抜けの広場に39アイスクリームがありましたよね? 良ければ一緒に食べませんか?」



「え? いいんですか! 私すっごい好きなんですけど!」



初春は瞳を輝かせて垣根に食いかかる。目が1.5倍ほど大きくなったような気がする。



「ええ。私の奢りです」


えーいいのかなー何選ぼうかなー?? と体を揺らす初春。垣根は微笑み、そして二人は並んで歩く。一階のフロアに降り、人混み溢れる廊下を歩き、やがて前方に目的地の広場が見えてきた。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/09(金) 22:37:34.74 ID:93iVx0FB0



吹き抜けの大広間の中心に、目的地の39アイスクリームがある。その手前に白い丸テーブルが5、6つ散らばっており、茶色い鉢に植えられた観葉植物が、その一帯を囲むよう置かれている。各席に座りながらスイーツを食べ、談笑する人々が見える。



肝心の店の前には、店の幅を少し超えたほどの列が右方向に一列並んでいる。



「ありゃ。流石に日曜は並んでますね」



「ええ。ですが、待つ楽しみというものもある。それでは行きますか」



列の最後尾へと歩き出した垣根を見て、それに付いていく初春。ざわざわと話し声の絶えない列の右横を歩きながら最後尾へ向かっていると、その直前で足を止めている垣根の背中があった。



「垣根さん? 何で立ち止まってるんですか?」




「……これはまた、奇妙な縁だ」



飛び出した台詞には、微かな諦めが込められていた。初春は首を右に逸らし、前方を見る。



「あーもう! 早くアイス食べたいー! ってミサカはミサカは一向に縮まらない行列に向かって、意味のない訴えをしてみる!」



「意味がねェって分かってンなら黙ってろクソガキ。俺だって別に食いたくもねェスイーツのために我慢して並んでるンだからよォ……アン?」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/09(金) 22:42:19.95 ID:93iVx0FB0



互いに苛々している、兄妹のような男女。明らかに見知ったその二人の顔に、垣根は絶句する。丁度同じタイミングで、向こう側もこちらの存在に気付き、垣根と似たような顔をした。



「……お前何してンだこんなところで」



「いや、こちらの台詞です。貴方こそ何を? 一方通行」



「ん? 誰かと思えばカブトムシではないかーって、ミサカはミサカはアイスを奢って貰うのに都合のいいカモを見つけたことを内に秘めながら、喜んでみる」



「今現在、その邪な考えはだだ漏れていますけどね」



そう言って垣根は笑う。学園都市最強の能力者、一方通行と、彼が世話をしている少女、打ち止めがそこにいた。



細身の体に白髪、白一色の衣服、ついている杖やアルビノの瞳といい、冷たく尖った印象の一方通行。くるんとしたアホ毛、見るからに柔らかい冬物のブラウンのワッフルコート、そして輝く天真爛漫な瞳と暖かい印象の打ち止め。いつ見ても対照的な二人だと垣根は思う。



「見て分かンねェのかよ。買い物だよ買い物。ッたく俺一人だけでいいの勝手に着いて来やがって」



「どこ行くって聞いたらゲームショップなんて言うから気になるよ。最近ミサカにゲームブームが来てるのを知ってるでしょって、ミサカはミサカは確認してみる」



よく見ると一方通行は、片手にゲームソフトの入った袋をぶら下げていた。そしてこの時期のことも考慮して、彼の本当の目的を察する。



「なるほどなるほど。実に微笑ましいことだ」



「アァ? ンだその見透かしたような面は。ていうかお前の横のそいつ……」



一方通行は垣根の背後から顔を出す初春に目をやる。初春は小動物のようにビクッと震え、こ、こんにちはと小声で挨拶した。



「あ、あれ? どこかで会ったこと……」



初春はあやふやな記憶を辿り、一方通行に尋ねる。



「会ったも何も、お前の目の前のそいつに」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/09(金) 22:46:04.64 ID:93iVx0FB0



一方通行が言葉を繋げるその前に、彼の横の打ち止めが初春めがけて飛び出してきた。



「あ! ひょっとして! あの時の花頭のお姉ちゃんだよねって、ミサカはミサカは思わぬ再会に心踊せ、お姉ちゃんに駆け寄ってみる!」



「え? あ、あー! ちょっと前に会った御坂さん似のおチビちゃん!」



久しぶりですと声を弾ませ、二人は両手を合わせながら喜ぶ。



「……何でお前、『こいつ』といるンだ?」



一方通行は垣根に尋ねる。



「まあ、『色々』ありまして」



垣根は返答する。その濁された反応に、これ以上の追撃は無意味だと思い、一方通行は質問を止めた。



「で、一応聞きますけど、これ、貴方達が最後列なんですよね?」



「見りゃ分かンだろ。何だ? まさかお前らもここの……」



一方通行は途中で台詞を切り上げ、隣にゆっくり視線を向ける。すっかり意気投合し談笑し合う初春と打ち止めの姿がそこにあった。追い打ちをかけるが如く、二名ほど自分たちの後ろに並び初めている。



「……しばらく、宜しくお願いしますね」



垣根は何とか笑ってみせたが、嫌悪一色の顔をした一方通行から、キモいから止めろと吐き捨てられた。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/09(金) 22:51:11.90 ID:93iVx0FB0
一通さんアンド打ち止め合流! 一通さんはこの話のキーパーソンに添えています。ひとまず今日はここまでです。



レスして頂いた方々、本当にありがとうございます! 1.2週間毎に更新していく予定なので、気長に待って頂ければ幸いです。因みにもうストーリーの半分ほどは書き溜めています。今もう半分を執筆中なので、なんとか消されることなく完走したいです。最後にもう一度、こんな素人のSSを応援して頂いて、ありがとうございます! 絶対に書き切ってみせます。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/16(金) 20:25:29.51 ID:YGrcOzYFO
投下します
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/16(金) 20:30:23.95 ID:YGrcOzYFO



30分後、目当てのものを買えた彼女らを連れ、四人は白い丸テーブルに座った。正面から見て北側に垣根、東に一方通行、南に打ち止め、西に初春という席だ。テーブルの上にはドーム型のアイスが3つ乗ったパフェと、カップに入ったチョコ味のアイスクリームがある。



「何でさも当たり前のように同席してンだよお前らは」



気だるげに一方通行は突っ込んだ。彼の隣では、さっそくアイスを頬張りご満悦な打ち止めがいる。



「えー。いいじゃないですか。アホ毛ちゃんとも喋れるし、あなただって、垣根さんと仲良く」



「アァ?」



途端に一方通行の赤い瞳が鋭く滾った。



「い、いえ。ナンデモナイデス」



「ああ。言葉には気をつけるべきだなァ。この白ゴキブリと俺が仲良しなンてどこをどう見れば思うンだテメェ?」



「ちょっと、表に出ましょうか一方通行。貴方は今私に言ってはいけないNGワードぶっちぎりの一位を言ってしまった」



異常に威圧的で、張り詰めた笑顔をしながら、垣根は一方通行に近寄る。彼も彼で上等だコラァとガンを飛ばすなど、乗り気な反応を見せる。



「ちょ、ちょっと二人とも?? 喧嘩は止めて下さい?? 人もいっぱいいるし、そもそも超能力者二人の戦いとか、シャレになりませんって??」



「カブトムシー? いつものあなたらしくないぞって、ミサカはミサカは似合わない喧嘩腰に違和感を抱きつつ忠告してみる」



二人の必死な鎮火を見て、垣根は毒気が削がれたようにため息をついた。



「まあ、初春さんもいることですし、今日のところは多めに見ましょう」



「抜かせ雑魚が。二位が一位勝てる日なんざこねェよ」



「貴方前に私の悪意の集合体に負けかけませんでした? 麦野さん付きで」



「オーケーオーケーェッ?? 今なら無料で害虫駆除を行ってやるよォッ??」



再び立ち上がった両者を見て、初春はもー?? と言いながら宥める。何とか場も収まり、初春と打ち止めは手元のスイーツを食べ始めた。


49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/16(金) 21:20:24.98 ID:W+aikN4y0




「ん〜。やっぱりここのトリプルアイス乗せパフェは絶品ですね」



満足気にパフェを頬張る初春を見て、垣根はおまけで付いてきた小さなプラスチックのスプーンの袋を開け、一口いいですか? と彼女に聞く。快く了承してくれたので、自分の方へ出っ張っているドーム状のアイスの表面を掬い、口に入れた。



「うん。確かにこれは美味しい。これは」



「これは?」



何と比較したのか気になった初春が聞き返したが、垣根は微笑むばかりだった。仕方ないので、自分も笑ってみせた。



「ケッ。公衆の面前でイチャついてンじゃねェよバカップル共が」



仲睦まじい二人の様子を見て、視線を横に逸らしながら一方通行は呟く。すかさず初春は、そ、そんなんじゃありませんから! と弁明する。



「てかお前、さっき超能力者二人って言ってたが、俺が超能力者だって知ってたのか?」



一方通行の質問に、初春はパフェを食べながら答える。



「知ってるっていうか、思い出しました。以前会いましたよね? 垣根さんと一緒に」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/16(金) 21:25:03.90 ID:W+aikN4y0





その答えに、一方通行の瞳は冷ややかに尖る。彼女を見つめ、質問を続ける。



「まあ違いねェが、第二位と一緒に会ったっていうことは、お前ら二人の馴れ初めも覚えてるってことだよな?」



初春はパフェを運ぶ手を止めた。しばしの重い無言がテーブルに流れる。





51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/16(金) 21:36:32.04 ID:W+aikN4y0



「ええ。覚えてますよ」



だがその粘い空気はすぐさま消えていった。初春は迷いなく、むしろ軽く笑ながらそれを告げた。一方通行は一気に緊張感が抜け、栓が抜けるようなため息を吐いた。



「アァ。そうかよ。まあ別にいいンだがな。だが俺はそいつを完全に認めたわけじゃねェ。今のところ害がないからほっといてるだけだ。『前』のテメェを知ってる以上、気を許す気になンてなれねェよ」



忠告めいた鋭い瞳で、一方通行は垣根を睨む。



「分かっていますよ。貴方と私の関係は、それでいい」



垣根は余裕な笑みを崩さず彼に告げた。一方通行は舌打ちをし、再び顔を横に逸らす。



「ただ、一つ言わせてほしい」



アァ? と言いながら一方通行は逸らした顔をもう一度垣根の方に向けた。



「私と貴方は決して相慣れないとしても、今の貴方は、私は好きですよ。さっきみたいに冗談めいたやり取りができる貴方が。前なら絶対あり得ませんでしたし」



机に肘を置き、?杖をつきながら横目で垣根は彼に告げた。微笑みながらも、冗談ではないという口調で。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/16(金) 22:11:36.66 ID:W+aikN4y0



「……ケッ。俺はテメェなンざどこを取ってもムカつくメルヘン野郎に過ぎねェと思ってるがな。前は論外もいいとこだが、今は今で気色悪りィ」



眉間に皺を寄せながらも、悪い気はしていないような腕組みをし、一方通行は垣根に返す。



「心外だ。文字通り心を入れ替えて頑張っていると言うのに。貴方も以前の悪党のように、一ヶ月近くで終わるような信念で今の貴方を崩そうとしないでくださいよ? 夏休みのバイトじゃないんだから」



「確かに悪党は一ヶ月近くで辞めちまったが、一ヶ月で人間まで辞めた奴に言われたくねェ」



「辞めたんじゃありません。辞めさられたんです。貴方に」



内容は少しブラックだが、こんな風に談笑し合える二人の姿を見て、初春は心の内が暖かくなってきたのを感じた。ふと打ち止めを見てみると、既にアイスを平らげ空になったカップを見て、物寂し気な目をしていた。気づくと自分のパフェも残りわずかだ。



「あー。何だか私もうちょっとアイス食べたくなってきたなーアホ毛ちゃんもそうですね?」



「確かにもっと食べたーいってミサカはミサカは奢ってもらえるのをいいことに追加オーダーを頼んでみる!」



互いに腹を抑えながらテーブルに突っ伏し、横目で垣根をちらちら見る。



「はいはい。そんなあからさまな訴えしなくても、普通に買ってきますよ」



垣根は席を立ち上がる。



「オォイ? お前そンなに食って晩飯食えンのか?」



一方通行は打ち止めに聞いた。



「甘いものは別腹だもんってミサカはミサカは育ち盛りの食欲に限界はないことを誇張してみる!」



「ンなこと言いながらこの前も晩飯残してただろうが。この辺で抑えとけ」



「この前食べたのは焼き芋だったし! あんな炭水化物お腹膨れるよ! だからアイスは別腹なのってミサカはミサカは再度訴えてみる」



「ダメだ。黄泉川がうるせェ。大体もう冬だろうが。腹壊すぞボケ」



呆れ顔でそう告げる一方通行に、ブーたれる打ち止め。垣根はそんな二人見ながら笑い、では、初春さんのものだけと言いながら店の方へと向かった。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/16(金) 22:15:01.14 ID:W+aikN4y0




「ホント、親子みたいですねお二人」



初春もまた微笑み、二人に告げる。一方通行はケッと吐き捨て視線を横に逸らした。



「そう言えばなんですけど、第1位さんって、垣根さんとよく話したりするんですか?」



遠くの行列に再び並んだ垣根の姿を見ながら、初春は訪ねる。



「アァ? ンなわけねェだろ。そもそもあのクソと話すことなンざそうねェよ」



不機嫌丸出しの瞳で初春を睨む一方通行。



「そ、そうですか。でも、アホ毛ちゃん絡みでたまに話すんじゃないですか? その時に何か、昔の話しとかしてません?」



彼女のその問いに、一方通行はしばし黙り込んだ。



「……ねェな。昔の話は」



しばらくして帰ってきた返答に、そうですか。と初春は何でもなさそうな声でそう言った。それから手元のカップジュースを持ち、口元に寄せてストローを吸う。



「……………………」



一方通行は、怪訝な目で初春を見つめた。彼女はそれに気づかず、手に持ったカップの中を見ているような、それとも何も見ていないような目をしていた。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/16(金) 23:00:41.94 ID:W+aikN4y0
ちょっと休憩
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/17(土) 16:47:31.73 ID:OIca83J7O
なんか50レス目から表示されなくなったんですけど、数字上ではちゃんと投下されてるよな。皆さんには表示されてるんですかね?
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/17(土) 16:49:55.12 ID:OIca83J7O
あ、次にい行っただけでした(笑) すみません。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 18:48:22.72 ID:HlY59vW40
投下します
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 18:50:49.92 ID:HlY59vW40



四人がダイヤノイドにいる頃。ツンツン頭の少年、上条当麻は病院に居た。エレベーターで4階まで登り、「408」と書かれたプレートのある病室のドアの前に立ち、ノックする。何だ? と中からふてぶてしい声が聞こえのを確認し、彼は笑いながら病室に入る。



「何だはないだろ。せっかく見舞いに来てやったってのによ。フィアンマ」



彼はフンと笑う。セミロングの赤い髪と、鍛えているとは思えない細身の体。隻腕。普段はくまなく赤いスーツに身を包んでいるが、今は緑色の病院着だ。かつて「神の右席」と呼ばれた集団のリーダー。右方のフィアンマが、少し立てらせたベッドに横になっていた。



「それで、見舞いの品は持ってきたんだろうな?」



「心配せずとも。ほれ」



上条は片手に下げたレジ袋から何かを取り出す。



「お前の好きなものって何か分からなかったから、適当に買ったけどよ。ほら。トマトジュース」



「俺様の何を持ってしてトマトジュースだ? 色か? 色なのか?」



渡されたトマトジュースに不満げな顔をするフィアンマ。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 19:42:25.26 ID:HlY59vW40



「大丈夫。それだけじゃねぇって。味気ない病院食のお供に、旨いかキムチだ」



「舐めてんのか! お前俺様を舐めてんだろ! 金欠のクセにこんなしょうもない一発ギャグに散財するな! 一体俺様のことを何だと思ってる?」



「ドヤ顔で俺と御坂を助けにきて速攻でミイラのおじいちゃんに吹っ飛ばされた、世界を救おうとした男」



「…………………………」



フィアンマは黙りこくり、俯いた。



「わ、悪かったって! そんなに落ち込むなよ」



あせあせと弁明しながら窓際に周り、パイプ椅子を取り出す上条。内心何しにきたと思ってはいたが、本人も自覚していたようだ。ふと窓の外を見てみると、日は半分近くまで沈み、街灯がちらほらと灯り始めている。



「ふん。何も、手も足も出なかったというわけではない。実際、妖精化の槍の何本かは奴に打ち込めたのだからな」



「え? にしても全く微動だにしてなかったぞあいつ。何本くらい打ち込めたんだ?」



語り出したフィアンマの言葉に引っかかりを感じた上条は、彼に聞く。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 19:45:13.64 ID:HlY59vW40



「さあ……何せ1秒を何億分割した世界での攻防だったからな。正確な数は覚えていないが、まあ、3本くらいは食らっていたと思う」



そう言って、手に持ったトマトジュースにストローを突き刺し一気にすするフィアンマ。名前ほどトマト感がないな。詐欺か? などと呟いている。



「3本」



繰り返す上条。別に、僧正が生き返るなどという懸念はしていない。僧正は死んだ。それは確定事項だ。



「フィアンマさーん。夕食の時間ですよー」



「入れ。チッ。またその味気ない定食か」



「文句言わないでください。こんな美人のナースに夕食運ばれるなんて、この病院の中でもそうそうないですよ」



「自分を自分で美人という女など信用できるか」



「自分を自分で俺様なんていう人よりはマシだと思います」



だが、そことは違った場所で胸騒ぎがしている。幾たびの戦闘の中でいつの間にか形成された危機を察知するセンサーのようなものが、彼方からサイレンを鳴らしているような、そんな気持ちだ。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 19:50:35.81 ID:HlY59vW40



「ところで聞きたいのだが、この旨いかキムチというの、一緒に食べても大丈夫か? せっかくの見舞いの品なのだが」



「うーん。本当は刺激物は遠慮して欲しいんですけど、まあ元気そうだし、そろそろ退院だからいいですよ」



「分かった。全く。かつては神の右席のリーダーとして、ローマ聖教を影から支配していた俺様が、今やこんなナース一人に伺いを立てねばいかんとは」



「はいはい。またそのローマ聖教とやらの話、聞かせてくださいね。今度はあの左方のテッラっていう人の話」



「奴との馴れ初めを聞かせてやる。もう下がっていいぞ」



ごゆっくり。という言葉が耳に入ってきた時点で、上条は顔を上げた。茶髪でショートの髪型をしたナースが病室から出て行ったのを見届けたところで、彼は顔をフィアンマに向けた。



「お前、結局俺の見舞いの品、くまなく活用してんじゃん」



「悪いか? どの道あるものは利用する他あるまい……結構いけるな」



キムチの蓋を開け、一口つまんで感想を述べた後、少量を白ご飯の上に乗せ、また口に運んだ。



「そもそもお前、今の今まで何してたんだ? 船の墓場でオティヌスと一戦交えたとこまでは聞いたけど」



「22学区というところか? そこに潜伏し、妖精化の術の改良に勤しんでいた。お前らの愛の逃避行を追撃するのも悪くはないと思ったが、あの男から貰った物質の適合作業に時間を食ったしな」



フィアンマはおひたしを箸でつまんで口に放り込んだ後、味噌汁の入ったお椀を手に取り、中の汁をすすった。



「あの男?」



口に含んだ味噌汁をごくんと飲み干した後、彼は述べた。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 19:52:20.21 ID:HlY59vW40





「垣根帝督。と名乗っていたな」





63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 20:14:35.94 ID:CkZaxwRRO



その名を聞いた途端、上条の顔は強張り、記憶の底の海で稚魚が踊りだしたかのように頭の中がざわめいた。



(……垣根帝督? どっかで聞いたこと……)



しかし、未だ確証の持てないざわめきだったために、話を続けてくれとひとまずフィアンマに会話の主導権を移した。



「ふむ。まあ俺様もオティヌスにやられてその辺で伸びていてな。目を覚ましたら、既にお前らはいなかったわけだ。そして船の墓場の周辺を彷徨いていたら、その男と出くわした。どうやらその男、主神の槍の製造のために利用されていたようでな。それで俺様に……何だ? こう、一定の形を保たないプラチナのように光る白い球体を渡してきてな。いや、そんな顔しないでくれ。あれが何か俺様にもよく分からなかった」



確かに今の自分は怪訝な顔をしているが、理由はそれではない。それで? と上条は聞き返す。



「お前それを貰って、それで妖精化の術を改良したのか?」



「主神の槍の製造、ということは魔神の力をコントロールする術を有した物質ということだ。利用するには適した代物だろ。これから起こる新たな魔神との戦いにも使えるかと、そう思っただけだ」



「ちょっと待て。お前知ってたのか? 魔神がオティヌスだけじゃないって」



「元々オティヌスはオッレルスの個人的な理由で相見えたのが主な理由に過ぎん。魔神という存在は、何も北欧神話に限ったわけじゃない。いずれお前のその右手を狙って奴らがこの世界に攻めてきた時の対策を、俺様たちは練っていたのだ」



得意げに語った後、だが全く歯が立たなかったのが事実だかな。と自虐気味にほくそ笑んだフィアンマ。それを見た上条はひとまずため息を吐き、その後に言葉を続ける。


64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 20:17:41.90 ID:CkZaxwRRO



「そんなしょげんなよ。そもそも魔神なんて勝てる方がおかしいだけだろ」



「だがお前はその魔神と分かり合うことができた。対等の立場に立つことにより、少なくとも魔神の一人を無力化したんだ。それに比べれば俺様など余りにも無力だった。第3の腕など所持していた身としては、随分と効いた皮肉だ」



その台詞に、上条は笑う。



「無力化なんて、大層なもんじゃねぇよ。オティヌスの時も、ずっと翻弄されっぱなしだった。一度は心も折れかけた。それでもあいつと向き合ってたらさ、いつの間にか何か、分かっちまうもんがあるだけだよ。俺が特別なんてわけじゃなく、誰だってできることだ」



「…………そうか」



漠然とした、雲を掴むような返答。彼にとってはまだ、理解できない領域の話なのかもしれない。自らのエゴで世界の歪みを直し、世界を「救ってやる」と豪語していた自分が、無意識に避けていたことだから。



「これからだよフィアンマ。これから、少しずつ分かっていけばいいんだ」



そんな取り留めのない会話をしている内に、先ほど感じた粘ついた違和感はいつの間にかどこかに消えていった。厳密には完全に消えた訳ではないが、それを無視して上条はこう答えた。



「にしても、お前にそんな大事そうなものを与えるなんて、ひょっとしたらいい奴だったのかもしれないな。その垣根って奴」


65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 20:22:12.76 ID:CkZaxwRRO
旨いかキムチ美味しいよね。我が家の必需品です。というわけで少し休憩。そしてこれから少し投下スピード早めます。執筆中のこの話もある程度まとまってきたので、一気に書き上げていきたいと思います。



にしても新約13巻以降フィアンマさんマジで入院しっぱなしなのかな? 早く本編でも触れてあげてほしい。個人的に結構好きなキャラなのでこのSSで登場させたのに……。



あ、因みにもう出番はありません。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 22:31:29.26 ID:HlY59vW40
投下します
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 22:39:53.51 ID:S9o7luAHO



垣根が買ってきた二つ目のパフェも食べ終え、一行はダイヤノイドを出て、駐車場の黒いアスファルトに刻まれた横断歩道を渡っていた。時刻は午後五時を過ぎ、夕焼けもピークを過ぎた茜色に染まっている。



「初春さん。帰りの足は付いているのですか?」



垣根の問いに初春ははっとし、バス停の看板の前へ急いで向かう。辿り着いた先で時刻表に目をやる初春。垣根は側でそれを見、一方通行と打ち止めは看板の横のベンチに座る。



「……あった。あと二十分くらいで寮の近くのバスが来ますね……ちょっと遅いなぁ」



初春は残念そうに呟く。二十分もすれば日はほとんど落ちる。近づく夜の冷気が彼女の肌に突き刺さった。



「初春さん」



へ? と次の瞬間、有無を言わさず垣根は初春を両手で抱え上げた。俗に言うお姫様だっこのポーズだ。


68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 22:43:45.82 ID:S9o7luAHO



「へぁっ? ちょ、かき、垣根さん? 何を……」



呂律の回らない初春が聞く。顔はアルコールを浴びたように真っ赤だ。



「それならおそらく、私が飛んで行った方が早い。座標、出せますか?」



あくまで紳士的に、垣根は落ち着いて対応する。初春は一度深呼吸をし、バッグの中からタブレットを取り出し操作する。ここです。と初春は何とか言葉を発しながら垣根にそれを見せた。



「了解……なるほど。ここなら10分くらいで着く。しっかり掴まっていてください。一方通行、打ち止め、今日はここまで」



言い終えた瞬間、垣根の背中から六枚の翼が生えた。この世のものとは思えないほど、無機質で白い、巨大な翼をはためかせ、垣根は空へ去っていった。跡地には羽が数枚はらはらと散っていく。ばいばーい! カブトムシー! お姉ちゃーん! と、打ち止めは大きく手を振った。



「……お前のそういうとこが俺はムカつくんだよ。自覚しろアホメルヘン」



一方通行は呆れ吐き出し、打ち止めを連れ家に帰ろうとベンチから立ち上がり、歩き出す。しかしすぐさま立ち止まり、打ち止めの方を向いた。



「どうしたのあなた?」



「……まあ、帰ってから説明するわ。多分今日は、晩飯一緒に食えねェ」



「え? まさかあなたミサカの見ていないとこで間食したんじゃないのって、ミサカはミサカは疑惑の目であなたをイテッ」



頭頂に振り下ろされたチョップにより打ち止めは黙った。帰るぞォと無造作に歩き出す彼を、頭をさすりながら打ち止めは追いかける。空に浮かぶ千切れ雲たちが、薄紫に漂っている。夜はもう近い。


69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 22:50:53.00 ID:HlY59vW40



……………………。



一方、空を飛ぶ垣根の腕に包まれた初春は、視界に広がる学園都市の街並みに見惚れていた。



「綺麗」



思わずそう漏らす。無機質に生えたビル郡の向こうに、色の濃い夕陽の残照。それを鏡のように写しているビルの色。麓に広がった街に小さな灯りが次々に広がっていき、まるで星空を下から眺めているような気分だ。西の空は、透き通った藍色だ。



「初春さん。寒く、ないですか?」



突如垣根が話しかけてきた。初春ははっとし、大丈夫ですと返す。



「能力で体温は一定に保てますしね」



両手を合わせてそう答える初春。触れたものの温度を一定に保つ自身の能力「定温保存」により、上空の凄まじい冷気は彼女には届かない。



「そうですか。よかった」



そう言った彼の顔を、胸元辺りから見上げる。こうして間近で見るとやはり整った顔立ちだ。思わず初春は、右手を彼の頬に添える。



「初春さん?」



それに気づいた垣根は彼女を見る。内心また照れ隠す素振りを見せるかと思っていたが、初春は動じずに、彼を見つめていた。



「寒くないですか? 垣根さん」


70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 22:54:48.23 ID:S9o7luAHO



初春の気遣いに、垣根は笑う。



「大丈夫ですよ。私の体は人間のそれとは違う。この程度の寒さなど余裕で遮断できる」



「…………そうですか」



小さくそう答えて、右手を頬から離した。彼の腕の中で、彼と会った日のことが過る。うっかりパソコンを風紀委員の本部に置き忘れた日。以前捕らえたスキルアウトの仲間たちの復讐。人の来ない路地裏に連れていかれ、自分の身が危機に晒された時、自分はこう叫んでいた。



(助けてカブトムシさん!)



そこに羽を散らしながら現れた彼。あの時は、スキルアウトに絡まれた時の何倍もの混乱と恐怖で、まともに言葉すら出せずにその場にへたり込んでいた。やがてスキルアウトの面々を追い払った彼が自分へ振り返った時、彼も自分が何者か気づいた。



(…………貴女は)



(ひっ、や、止めて! 来ないで!)



腰を抜かしたまま後ずさった。背後にコンクリートが当たった感触を今でも覚えている。もうだめだ。根拠もなくそう思った。



しかし彼は自分に近づこうとはせず、悲しみと後悔を背負った瞳で、自分を見つめるだけだった。



71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 22:58:04.43 ID:S9o7luAHO



(……貴女には理解できないかもしれない。しかし今は、何も言わず、この場を収めてほしい。自分勝手なことを言っているのは承知しています。『かつて貴女を殺そうとした者』が、一体何を言っているのかと)



彼の口調を聞いていると、不意に違和感が込み上げてきた。違う。余りにもかけ離れている。かつて自分を殺そうとしたあの男と。



(できることなら、もう二度と会わないことを祈ります。そして貴女も、私のことは忘れてください。それでは)



彼は自分に背を向け、この場から飛び去ろうとした。考える前に、自分の口から言葉が飛び出した。



(待って)



彼は立ち止まり、振り返る。



(……勝手なこと言わないでくださいよ。忘れられるわけないでしょ。あなたのこと)



ふらついた足取りで立ち上がり、彼を見据える。聞きたいことは山ほどあるが、一番最初に発する言葉は決まっていた。



(名前は、何ていうんですか?)



彼は少し驚きながらも、微笑みながらこう告げた。



(帝督。垣根帝督です)


72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 23:00:09.78 ID:S9o7luAHO



………………………………。



それから何度か話す内に、色々と分かってきた。今の彼は、自分を殺そうとした垣根帝督の中にあった、善意の集合体だと。今は過去の償いと、善意の赴くままに誰かを救い出すため「カブトムシさん」をやっていることも。



「垣根さん」



「うん? どうしました?」



「垣根さんの中に、私を殺そうとした時の垣根さんは、まだいるんですか?」


73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 23:01:13.53 ID:S9o7luAHO









そして、彼は自分に対して、未だに心を開こうとしてないことも。










74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 23:06:26.12 ID:S9o7luAHO



「……え? どうしてまたそんな」



「知りたいんです」



「…………いない、とは言えない。私を形成する未元物質のネットワーク状に、少なからず彼の人格は残っている」



「……そうですか」



いつもの笑顔を失い、砕けたガラスが混ざったような物言いの彼を見て、初春は黙り込んだ。互いに近く、触れ合っているこの距離での重い沈黙。未だ埋まらない、埋まるはずのない深い溝。



垣根はそれを何でもないように微笑みながら、彼女へ言葉を送る。



「心配しなくても、貴女を傷つけた時の私はもう戻りませんよ。そして私も、決して貴女を傷つけさせはしない」



「違うんです」



垣根のフォローに、すぐさま否定の返答を下した初春。彼はまた黙ってしまい、そして今度は彼女が口を開く。



「垣根さん。今度良かったらお茶しませんか? 私、初春飾利と、垣根帝督が初めて出会ったあのカフェで」


75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 23:10:52.67 ID:S9o7luAHO



今度こそ確信を突かれたように、胸に募る苦しさを表情に出す垣根。しかしそれは一瞬で、すぐに平静を装った顔へ戻す。



「私は、構いませんが、貴女は……」



「私も大丈夫です」



そう言って初春は、今度は右手を、自分の肩を抱く左手に添えた。



「……どうして?」



「あなたと向き合いたいんです」



ずっと、自分の中にくすぶっている想い。自分はまだ、彼と何も始まっていないのだ。



「垣根さん。無理に気を遣わなくていいんです。私たちの関係はまだ、過去に囚われている。私は今のあなたが好きです。だからもっと、過去のあなたのことも私に見せてください。それで、誰も責めたりしませんから」



彼の左手を、初春はぎゅっと握った。体温を一切感じない、無機質な白で模られたその手。この奥に隠れた彼の気持ちに触れようと、試みる。だが、



「……大丈夫ですよ。心配なんかしなくていい。私は私だ。それ以上でも以下でもない」



再び自分に見せたその微笑み。その薄皮一枚で隔てた自分との距離。初春は黙り込み、ただ、握った手を離そうとはしなかった。二人の関係は一定の温度を保ったまま、動こうとしない。


76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/23(金) 23:12:49.54 ID:S9o7luAHO
今日はここまで。ここまでが序盤です。次回からどんどんと話の核心に迫っていきます。では。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/27(火) 23:44:33.32 ID:HeLmrG5/0
投下します
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/27(火) 23:46:30.67 ID:HeLmrG5/0



初春を学生寮まで送り、自身もフレメアの待つ寮へ帰ろうと、窓から灯りの漏れるビルに挟まれた夜道を歩いている時だった。垣根は車道沿いの柵に寄りかかる白い影を見つけた。彼の背後で公衆電話が緑色に光っている。



彼はその影に話しかける。



「一方通行」



彼はその声に反応し、赤い瞳を垣根の方へ向ける。



「どうしたのですか? まさか私を待っていたと?」



半笑いで聞いてみたが、対する彼に笑顔はない。



「少し前、戦った敵にこんなことを言われた。『いつまでガキの付属品やってんだ』ってな」



垣根の質問には答えず、柵にもたれかかったまま話を続ける。


79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/27(火) 23:51:29.65 ID:HeLmrG5/0



「その時は単にムカついただけだったが、後々考えてみると、案外的を得てンだよなァ。思えば俺が自分から、本当の自分の中から沸き起こるものに従ったことなンてなかった」



吐く息が白く染まる。車道を走る車のエンジンと、空を切る音が混ざり、響き、消えていく。垣根はひとまず彼の話に乗る。



「そんなことはないでしょう。貴方の、打ち止めを守りたいという意思は本物だ。本物の、貴方の中から起こる想いのはずだ」



「その感情を俺に与えてくれたのはアイツだ。全てそうだ。受け身なンだよ。この力も、絶対能力進化実験も、暗部も、今の日常も。全部外からの影響で得た結果だ。選択したのは俺だが、選択肢を生み出したのは俺じゃねェ」



確かに。その意見にも一理はある。



「付属品っていうのは間違っちゃいねェな。ガキに救われて、全部アイツの後を追ってるだけなンだからよ」



「ですが、やはりその言い方には悪意がある。そんなことを言い出したら、本当の自分の中から湧き上がるもの。そんなもの従っている人間が、一体どれだけいるか」


80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/27(火) 23:54:04.67 ID:HeLmrG5/0



「ハッ。確かに元も子もねェ意見だ。オスカー・ワイルドも言ってたな『ほとんどの人間は他の人間だ。奴らの思考は誰かの意見。奴らの人生は模倣。奴らの情熱は引用だ』」



「意外ですね。貴方ワイルドとか読むんですか。てっきりそっちには興味がないかと」



「この前俺に絡んできたクソの名前が、そいつの本の題名と同じだったから、読んでみたンだよ。まあ内容はそいつみたいなイカれた女の話だったが、この作者の言葉には、どうも気になるモンが多いってだけだ」



「分かりますよ。性格に難こそあれど、彼の言葉は中々真意を突いたものが多い。先ほどの言葉もそうだ。人は結局、何かの憧れを胸に秘めないと生きれないのでしょう」



「憧れ、ねェ」



一方通行はもたれていた柵から離れた。



「だから、そんな言葉を気にする必要はないと思いますね。誰だってそうですよ。人は強くない。誰かに生かされている者がほとんどなんだ。誰でもそう」



垣根は、一度言葉をそこで区切った。車の往来がしばしの間止み、辺りはしんとした空気に包まれる。



「私も」


81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/27(火) 23:55:33.47 ID:HeLmrG5/0



一方通行は、垣根を真正面に捉える。



「私も……それこそ付属品の形容がふさわしい。垣根帝督の精神の一部から生まれた、彼の付属品。打ち止めとフレメアに生きる意味を与えられた、彼女らの付属品。まあ、普段はフレメアのランドセルのストラップという、本物の付属品をやっているんですけどね」



垣根は笑う。冗談めいた口調で、どこか切なげに



「オリジナルのお前からすれば、付属品ごときが、何俺の名前名乗ってンだ、何て思ってンだろうな」



「ええ。彼なら、きっとそう思うでしょう」



そして二人は沈黙する。遠くから車の近づいてくる音が聞こえる。それが彼らの耳元まで接近した時、一方通行が先に沈黙を破った。



82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/27(火) 23:56:13.60 ID:HeLmrG5/0










「アイツはどこにいる?」









83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/27(火) 23:58:43.52 ID:HeLmrG5/0



背後から来た車のライトが、一方通行の顔を一瞬照らし、去っていった。一方通行の顔に光と影が浮かんだその瞬間、まるで自分の奥底の闇を映し出した鏡が現れたようだと、垣根は感じた。



「生きてンだろ? オリジナルのお前が」



「……知っていたんですね」



「お前の悪意の抽出体を倒した時に、生身の内臓がまだ片付いてないと思ってな」



一方通行は淡々と語る。



「まあとっくに学園都市から持ち出された後だったがな。だが内臓はまだ生きている。生身の肉体を軸にして生まれる個体なら、未元物資そのものなお前のネットワークの統制下に置かれない、なおかつ限りなく本来の垣根帝督に近い個体になるはずだ。お前、知ってンだろ? アイツがいる場所を」



垣根は無言で、一方通行を見つめる。今言うべき言葉を丁寧に喉元に並べ、一つずつ発する。



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