白垣根「花と虫」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:10:43.47 ID:Ksn2qx+F0
・帝春


・時系列は新約15巻以降


・初投稿なので文は稚拙


・キャラ崩壊とめちゃくちゃなオリ設定、オリキャラ


・それでもOKならどうぞ??


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1472263843
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:12:46.41 ID:Ksn2qx+F0
ちょっと前に同じタイトルで書き込みましたが、内容を書き直しました。ちょくちょく更新するつもりです。あと、途中まで前スレの「花と虫」と同じです。そっちはhtml化しようとしてます。スレタイの横のURIボタンが何か分からない
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:16:32.76 ID:Ksn2qx+F0




…………………………。





「……、なに……?」



足蹴にした少女の口が動く。



彼は思う。自分の右足は彼女の左肩を捉え、確実にその関節を踏みにじって脱臼させたはずだ。路肩に面したオープンカフェの周りに人だかりができ、そして誰一人彼女を助けようとしない。その絶望の中で自分が垂らした一筋の糸。それに対して、今こいつは何といった?



「聞こえ、なかったんですか……」



頭に花飾りを掲げたその少女は、はっきりと聞こえる声で告げた。


4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:18:16.80 ID:Ksn2qx+F0



「あの子は、あなたが絶対に見つけられない場所にいる、って言ったんですよ。嘘を言った覚えは……ありません!」



瞳に涙を浮かべ、駆け巡る激痛に全身を震わせながらも、彼女は目をつむり舌をべぇっと出し、自分を挑発する。



(……何だこいつ。どうして打ち止めの居場所を吐かねぇ。それだけ告げれば命は助けると、そう言ったんだぞ俺は)



自分の心は平静だ。そのはずだ。しかし、胸の奥に埋没した、見えない見えない精神の暗闇の底から理由のない疼きが走る。いや、理由がないと、思いたいだけで本当は分かっている。これは……。




5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:20:00.24 ID:Ksn2qx+F0










(ッ?)









6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:24:09.60 ID:Ksn2qx+F0



視界がくすみ、灰色に包まれた過去がフラッシュバックする。足元の花飾りの少女が、全く違う別の少女に見えた。ウェーブがかった白い長髪。涙ぐんだ灰色の瞳。白いレースのワンピース。胴に茶色の細いベルトを巻き、同じ色のヒールを履いた、14歳ほどの少女。



「……良いだろう」



再び足元の人物は現在の花飾りの少女に変わった。しかし、先ほどよぎった白い少女が、サブリミナル映像のように何度も視界に挟まれてくる。



「俺は一般人には手を出さないが、自分の敵には容赦をしないって言ったはずだせ。それを理解した上で、まだ協力を拒むって判断したのなら、それはもう仕方がねぇ」



肩から足を離し、照準を頭に定め今度は殺す勢いで彼女を踏みつけようとする。目の前の光景は、テレビのチャンネルを行き来するように、現在と過去を反復し続ける。その疚しさを今すぐにでも消し去るために、足に力を込める。



「だからここでお別れだ」



処刑の一撃が振り下ろされた。


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:25:11.08 ID:Ksn2qx+F0










最後に自分が見た顔は、今か過去か、どちらの罪を映し出した少女の顔なのか、もう自分でも分からない。









8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:26:49.55 ID:Ksn2qx+F0









とある魔術の禁書目録SS 白垣根「花と虫」










9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:30:23.54 ID:Ksn2qx+F0




…………………………。




「カブトムシ!」



その一声で、垣根は目を覚ました。



途端に目に飛び込んだ、カーテンの隙間から差し込むぬるい光により、もう一度目をつむる。今の彼は窓際の勉強机の上で、羽毛付きの、小さな白いカブトムシのストラップとなっている。



また目を開けて周囲を見渡すと、赤いランドセルと、置き時計がある。時計の針は午後二時四〇分を指していた。


10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:33:40.83 ID:Ksn2qx+F0



垣根は振り向いた。声の主、フレメア=セイヴェルンが部屋の真ん中に立っている。



「大体、お前今日用があるんじゃなかったのか? いつまで昼寝こいているつもりだ? にゃあ」



白やピンクを基調とした上着はフリルやレースでモコモコと膨らみ、スカートとワインレッドのタイツで下半身を覆っている。まるで着せ替え人形のようなファッションに身を包む彼女は腰に手を当てながら、垣根に忠告する。



『……ああいけない。そろそろ約束の時間だ』



垣根は思い立ったように背中の甲殻を開き、その中の薄い羽根を震わせて声を作り出す。そのまま空中に飛び上がり、フレメアの方へ向かう。



フレメアの左横を通過し、彼女の後ろ辺りを漂う。彼の全身が白く輝き出すと、そのままみるみるサイズを増していき、姿が人型になっていく。そして現れたのは、身長180cm近くある、清廉な顔立ちの長髪男だった。ただ、色は全身白いままだ。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:38:15.83 ID:Ksn2qx+F0



「ありがとうフレメア。少し、悪夢に魘されてしまいまして」



垣根は振り向き、今や見下ろさなくてはならなくなったフレメアに話しかける。彼の緑の瞳をじっくり覗き返しながら彼女は訪ねる。



「どんな夢だったの?」



「いえ、大したものではありません。昔の、嫌なことを思い出したくらいのものです」



垣根は冷静に、余裕げに微笑みながらフレメアに告げた。



「ふーん。カブトムシでも夢って見るんだね」



「感覚のある生物なら、夢は誰でも見ますよ。犬猫でもね。ただ、その生物の捉える感覚の中の最も強いものが夢に現れるようなので、もちろん人間と同じような夢ではありませんけどね」



「カブトムシが見た夢は、人間的な夢?」



「ええ。とっても、嬉しいくらい人間的です」



フレメアの頭を撫で、垣根は言う。



「それでは行ってきます。留守番、お願いしますね」



「ふん?? アリ一匹通さないくらい、立派な留守番になってやる??」



垣根は笑い、そして玄関の方に歩いて行った。扉の開く音と閉まる音が聞こえた瞬間、フレメアはつまらなそうに左手のベッドに倒れ込み、口を歪めた。



「……羨ましいにゃあ」



これから垣根と遊ぶ相手に向け、届かない独り言を漏らした。彼女の目は寂しそうに潤んだが、それを否定するように勢いよく枕に顔面を突っ伏した。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/27(土) 11:50:27.92 ID:Ksn2qx+F0
今日はここまで
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/28(日) 17:32:39.12 ID:bENzRif6O



佐天涙子と白井黒子はダイヤノイドにいた。



二人して一階のフロアにあるカフェ、「star books」のテラス席に座っている。中央の廊下を挟んだ周りの衣服、雑貨、食品のテナントは、日曜日のため人で溢れ、話し声が絶えない。しかし佐天は一言も発せず、ある一点を見つめていた。



「本当なんですの? 佐天」



相席している黒子も、視線を佐天と同じ方向へ向ける。黒子はいつもの学生服だが、佐天は黒のブルゾンの下にグレーのパーカーをまとい、ジーンズとスニーカーといった私服に身を包んでいる。




「間違いないよ。初春が待っているのは、十中八九彼氏!」



廊下の中心部。吹き抜けの広間になっているその真ん中に、イタリアを思わせる小さな白い噴水。いかにも集合場所らしいその手前の木製ベンチに座っていたのは佐天の親友。花飾りの少女、初春飾利だった。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/28(日) 17:38:53.61 ID:bENzRif6O



「考え過ぎじゃありませんの? 普通にご学友を待っているだけじゃ……」



「ふっふっふっ。親友の目は誤魔化せんぞ初春。白井さんもちゃんと見てくださいよ。あれが女友達と遊ぶ前の女の子ですか!」



不敵な笑みを浮かべ佐天は指を指す。



そんなことも知らない初春はというと、制服に身を包み、少し頬を染めながら頭の花の様子を確認している。小さな人差し指で撫でられた白いコスモスが、静かに揺れた。初春は微笑みながら、前髪を人差しでくるくる巻き始める。



「………こっちにまで匂って来そうな甘〜い仕草ですの。確かに最近、浮かれ気味なニヤけ面が多いと思ってましたけど」



「そうでしょ白井さん? 私と話してる時もなんか上の空なんだもん。さぁ〜て、お姉さんに隠し事をした罪は重いぞ初春ぅ。是非とも彼氏さんの姿、拝ませていただきます!」



手元にあったカップコーヒーを一気に啜りながら佐天は観察を続行した。が、勢いよく飲み過ぎたせいかむせてしまい、ゲホゲホと俯いて咳き込んでしまった。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/28(日) 19:33:05.47 ID:lxOUj9EG0



「にしても、御坂さん何で来なかったんですかね?」



口元を拭う佐天が黒子に聞く。



「さあ……最近はまた何も言わずどこぞを彷徨くことも増えて来ましたの。話しかけても、どこか上の空で」



はぁ、と黒子はため息を吐いた。



「何か会ったのかな御坂さん」



「私たちの杞憂だと信じたいものですわ……うん?」



その変化を黒子は素早く捉えた。視線の先の初春がベンチから立ち上がり、手を振っているのだ。



「こ、これは。いよいよお出ましですの」



「おお。遂に彼氏さんが!」



顔を上げる佐天。そして現れたのは。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/28(日) 19:34:56.54 ID:lxOUj9EG0





「お待たせしました。初春さん」



「もう、女の子を待たせるなんてダメですよ。垣根さん」



「」



「」





17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/28(日) 19:38:05.69 ID:lxOUj9EG0



絶句。



想像の斜め上をワープして宇宙空間に突き抜けた後、迫りくる隕石をドリルバンカーで破壊したような衝撃。



現れたのは白人というにはあまりにも白い、白すぎる男。顔立ちは端正で、瞳には柔和な雰囲気を宿しているが、何故か緑に発光している。



ともかく現実は、この異邦人と初春が笑顔で話ながら、共に廊下の向こうへ歩いて行く光景が広がっているのだ。



やがて我を取り戻した彼女たちは、急いでコーヒー代を払い、二人の後を追って行った。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/28(日) 19:39:19.89 ID:lxOUj9EG0
ひとまずここまで
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:23:01.33 ID:LT4Hqbrc0
投下します
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:25:17.31 ID:LT4Hqbrc0



「はいこれ」



垣根は左隣で共に歩いている初春に『いちごおでん』を差し出した。二人が歩いているのはブティックのテナントの並ぶ廊下だ。



「ありがとうございます。どうしたんですか?」



「実は少々、寝過ごしてしまいました。その償いを、と思って」



垣根は申し訳なさそうに頭を掻いた。



「そうだったんですね。まあこれで良しとしましょう」



フンスと鼻息をついて、初春は思いがけぬプレゼントに満悦した。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:27:09.55 ID:LT4Hqbrc0



「それに、私の方こそ制服のまま来ちゃいましたし。全く、せっかくの日曜も風紀委員にとっては関係ないんですよね。呼び出されて、業務に追われてました」



初春はため息をつく。疲れが濃く混じったため息だ。



「なるほど。でも、頭の花は変えたんですね」



「あ、分かります?? いやー流石鋭いなぁ垣根さん。垣根さんの色に合わせて白いコスモスを添えてみたんですけど、似合ってますかね?」



「ええとても。花の咲かないこの季節でも、可愛らしく咲き揺れている」



「いやぁ〜まぁ、それほどでも」



初春はふやけた笑みを、垣根は柔らかい微笑を顔に巡らせ、共に歩く。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:29:13.18 ID:LT4Hqbrc0



初春は手渡されたいちごおでんの缶を開け、両手で持ちながらゆっくりと飲んだ。



「うん、いけますね。私これお気に入りなんですよ」



「それは良かった。なら、私も同じ物を買ったのでそれを飲むとしましょう」



「あれ? 垣根さんって食事はするんですか?」



「まあ、必要なエネルギーは未現物質で創造できるので本来必要ないのですが、味覚はあるので食べることはできます。それに、貴方のお気に入りだ。是非とも味見してみたい」



そういって垣根は缶を開け、優雅にいちごおでんを口へと運んだ。



「……………………」



「垣根さん?」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:32:13.27 ID:LT4Hqbrc0
誤字ったぞ(笑) わってなんだ!
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:33:24.93 ID:LT4Hqbrc0



一口すすったところで垣根は初春から顔を背け、一切言葉を発しなくなった。



「あれ? おーい垣根さん。どうしたんですか?」



「……初春さん。別に、無理はしなくていいんです。遅れて来た以上悪いのは私なんですから、気を使わなくていいんですよ」



「?」



なんのことですか? と、聞こうとした時だった。





「ちょっっっと待てえいそこの二人ーーー??」






25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:37:31.13 ID:LT4Hqbrc0



「??」



驚いた二人が後ろを振り返る。そこには白井黒子、そして声の主である佐天涙子。自分ともう一人を除けたいつものメンバーが揃っていた。



「さ、ささささささ佐天さん?? 何やってるんですかこんなところで!」



「こっちのセリフだバカやろう! こちとら初春の彼氏の姿を見てやろうと思ってずっと張り込んでたのに、予想外もいいところだろ! 何なのこの白人、というより白い人は!」



「初春ぅ? 最近浮かれ気味な様子を見てまさかとは思っていましたが、やっぱり殿方と逢瀬を……それで、誰なんですのこの塗装前フィギュア男は」



「な、何勘違いしてるんですか二人共! 私と垣根さんは、別に、そんなんじゃ……か、垣根さんからも言ってやってください!」



「確かに……貴女たちが思っている私と初春さんとの関係が男女との恋愛の仲だと思っているのなら、それは誤解です。そもそも、私は既にそういう性別的な概念を超えた存在ですから」



捲したてる黒子と佐天に、冷静に垣根は対処していく。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:43:47.91 ID:LT4Hqbrc0



「え? そ、それじゃあこの人は一体何なの?」



佐天は訪ねる。



「申し遅れました。私の名前は垣根帝督。学園都市第二位の能力、『未現物質』を操るレベル5です。よろしくお願いします」



見るもの全てに、木漏れ日のような安心を与える笑顔を見せ、垣根は軽く頭を下げた。


「れ、レベル5ゥ??」



佐天は仰天した。



「に、二位ということはお姉さまより上の能力者。しかも何かお姉さまより常識人っぽい!」



黒子も似たような反応だ。そもそも彼女の中の超能力者の破綻的なイメージと、目の前の彼は、赤外線センサーを避けまくるルパンの如く交わりがない。



「スッゴイじゃん初春ぅ! こんなイケメンで優しくて、しかも超能力者なんて、超優良物件の大豪邸彼氏じゃん! 色落ちしてるのがちょっと気になるけど」



初春に抱きつき頭を撫でながら佐天は精一杯の賛辞を送った。さっき垣根から丁寧に説明されたことなどすっかり忘れている。



「だ、だから彼氏じゃないんですよ佐天さん! クリスマスも近いから、垣根さんのお世話になってる女の子にプレゼントを買おうかなって、それに着いて来ただけなんです!」



「そもそも、一体どうして初春、あなたが超能力者と知り合えるようになったんですの? ひょっとしてお姉様絡みで……」



黒子が素朴な疑問を投げた。



「ああ、それは、垣根さんは今噂の都市伝説『カブトムシさん』の正体でして、以前助けてもらったからです」



「」



本日三度目の弩級の仰天に、佐天はまた絶句した。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:47:04.78 ID:LT4Hqbrc0



「カブトムシさんって、あの、困った時に『助けてカブトムシさん』って呼んだら来てくれるというあの都市伝説の?」



「ええ。私がその都市伝説の、カブトムシさんです」



「…………」



「どうされました?」



時代錯誤が過ぎて黒子は笑いそうになった。が、よくよく考えると自分の「ジャッジメントですの」もひょっとしたら同類かもと思い、何とも言えない表情が一気に面に出てきた。



「そうです。実は丁度パソコンを風紀委員の本部に置いてて、その状態でスキルアウトに絡まれてしまったんですよ。その時、佐天さんの言ってたカブトムシさんを思い出して、で、読んでみたんです。そしたら垣根さんが来て。最初は『怖かった』んですけど、よくよく話してみると正義感溢れていて、物腰柔らかで、話していると楽しくて、」



「で、恋に落ちたと」



「そうそう……って、だから違うんですって佐天さん!」



突如会話に復活してきた佐天のからかいに、初春はあう〜と、ぽかぽかと可愛い音を立てる打撃、といっていいのかもわからない子犬のじゃれ合いのような連打を佐天に浴びせた。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:52:12.90 ID:LT4Hqbrc0



「ハハハハ。まあ、それはさて置きカブトムシさん!」



「はい、何でしょう?」



佐天は食い気味で見つめながら手持ちのカバンからノートを取り出し、白紙のページを広々と見せ、直角に頭を下げた。



「サイン下さい! 私、都市伝説大好きなんです!」



ファンの鑑のようなその仕草は、周りを歩いていた人々も思わず目を注ぐような美しい礼だった。



「え、ええ。私ので良ければ構いませんが、特にサインなど考えてないので」



そう言って指先を鉛筆の芯のように変形させ、ノートに触れ、高速で何かを描き始めた。



「こんなイラストでよろしければ」



現れたのは、先ほどまで自分が変形していた、一枚の羽毛をまとった小さな白いカブトムシの絵だった。



「やったー! ありがとうございます! そんじゃ、謎は解けたしサインは貰えたし、後は二人水入らずで邪魔者は退散します。じゃーね初春! 頑張れよー!」



「何を頑張れって言うんですか!」



初春の突っ込みには返答せず、二人は廊下の向こうへと去っていった。



「す、すみませんこんな感じの友達で……」



「いえいえ。とっても賑やかで、楽しそうな人たちだ。では、行きますか」



「ですね」



そして二人はまた並んで歩き始めた。あの二人に見張られていたのは驚いたが、蓋を開ければ意気投合できた(誤解はされたままだが)ので、内心垣根は安心していた。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:53:28.07 ID:LT4Hqbrc0





特にイラストを送ったあの佐天という少女は、性格的にもフレメアと仲良くなれそうだ。今度二人を会わせて遊んでみるのもいいかもしれない、と垣根は思った。




30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 19:55:13.34 ID:LT4Hqbrc0
ひとまず休憩
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 23:26:54.83 ID:LT4Hqbrc0



垣根と初春は目的のブティックにたどり着いた。テナントの正面の天井には、黒字で「zoo」と書かれたメープルの看板が飾られている。



「ほう。ここが貴女の言ってた子供服のブランドですか。いい雰囲気だ。これならフレメアの喜びそうなものも見つかるかもしれない」



二人はテナントの中に入り、柔らかな電球色の照明に身を包まれながら、店内を物色する。



すると早速、横に長い3段のガラス棚の前に垣根は止まった。2段目の棚に置いていた一着を手に取り、初春に見せる。



「初春さん。これとかどうでしょうか?」



彼が手にしたのは赤いチェックの、シンプルなデザインのシャツだった。



「うん。王道で、いいんじゃないんですかね」



少なくともプレゼントとしては申し分ない。初春はそう思い、答える。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/30(火) 23:29:40.93 ID:LT4Hqbrc0



「因みにそれ、値段はいくらですかね?」



「ええっと、1400円ですね。お手頃な価格だ」



難なく答えた彼に初春は何かを思うのか、親指と人差し指の間をあごに当てる。そして垣根の横を通り過ぎ、棚の向こうのハンガーに吊るされた衣服類を物色し出した。



「ちょっと? 初春さん?」



すると、吊るされた中から一着取り出し、垣根の目の前につきつける。



「ホラ、こっちの方がいいんじゃないですか? せっかくのプレゼントですし、ちょっとくらい豪華な方が……」



そう言って渡されたのは、両脇にボタンが6つ付いた灰色のピーコートだった。垣根は先ほどのシャツを棚に戻し、それを手に取る。タグを確認すると、料金は5200円だった。



「ふむ。確かに先ほどのはプレゼントにしては少し味気なかったかもしれない。それにせっかくのおすすめだ。貴女の言うとおり、これにしましょう」



感謝の微笑みを彼女に向ける垣根。次に打ち止めの服を探そうとする。



「さて、次は……あの子が欲しがっていたのはマフラーだったはず」



そう言ってマフラーの置かれた棚に向かった垣根。先ほどのガラス棚とは違い、着衣室の横にある木の棚に並んだそれらを物色しながら、やがて一つを取り出して初春に見せた。

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/30(火) 23:35:10.45 ID:LT4Hqbrc0



「このマフラー、初春さん的にはどうでしょうか?」



垣根に手渡されたそれを手に取る初春。もふもふとした感触が手に走る、スラブヤーンの白のマフラーだった。



彼女はすぐさまタグを確認する。値段は税抜き3000円。それを見た初春は他の品もまた見始めた。垣根は自分のセンスはそんなに疑わしいものなのかと、目の前の彼女の行動を見てそう思う。しかし、



「うーん……全部同じか………あ、垣根さん! これで良いんじゃないですか?」



先ほどとは違い、自分の選んだ品を変更することはしなかった初春。垣根はえ、ええ。どうもと返した。



「よし。では行きますか」



手にした二つの品を掲げ、レジ向かおうとする垣根。



「ちょ、ちょっと待ってください」



彼女の静止に、垣根は立ち止まる。



「何か?」



「いや、ホラ、せっかくだしコートやマフラーだけでいいのかなぁ〜と。スカートやズボンも見ていきませんか? 他にも、下着類もあるし」



どこか目を逸らしながら、白々しく買い物を促す彼女に、垣根は首を傾げながら聞き返す。



「とは言いましても……彼女らが欲しがってたのはこの二つだけですよ? 無駄に散財するのは如何かと」



「無駄ではないと思います! ほら、そんなこと言う時に限って遠慮してるんですよ女の子ってのは! そういうレディの繊細な感情を理解して貰うために、この私が直々に着いてきたんですから! 分かったら他も見に行きましょう!」



「いや、彼女らに限って私に遠慮なんて……ん?」



垣根は彼女の真上に吊るされた広告に目をやった。そして、何故彼女がこんなにと自分に金を使わせようとしたのか理解した。


広告の内容はこうだ。

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/30(火) 23:42:46.58 ID:LT4Hqbrc0





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