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【ガンダム00】沙慈「僕の義兄はフラッグファイター」
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317 :
◆AvaUNpQJck
[ saga]:2017/04/01(土) 12:09:30.06 ID:CdvwmRlp0
――翌日――
絹江「…………」
グラハム「おはようございます、絹江さん」
絹江「……え、外出許可、え?」
グラハム「えぇ、下りておりますよ。アザディスタン領内で購入可能なジープです、軍用では悪目立ちだ」
グラハム「私もこの地の衣装に着替えていますが、何分肌の色までは誤魔化せない。了承ください」
ビリー「結構似合ってるんじゃないかい、グラハム。君はいい意味で普段変わり映えしないからねえ、こういった一面は貴重だよ」
グラハム「そうか……? 今度からは少し気を遣うとしよう」
絹江「え、え?」
ビリー「それに引き換え……彼女のはすごいな。頭からすっぽりだ。文化の違いとは言えこれでは道行きの華も愛でられない」
グラハム「こういった情勢では好都合だろうよ。しかし、視界はすこぶる悪そうだな」
イケダ「あー、実際に横が見えないから結構危なっかしいんですよ。エスコート、任せていいですかね?」
グラハム「任されました。送迎の大任、必ず無事に果たして見せましょう」
絹江「……えぇ……?」
イケダ「まー頑張れ、絹江。向こうさんからの申し出でな、知らない兵士よりは気が楽かと思ってな」
イケダ「気をつけていけよ。まだそこまでではないにせよ、どこで何が起きても不思議じゃない。気を張ってけ」
・
・
・
・
318 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 18:53:31.09 ID:x3x2IfWF0
ひりつくような緊張感が常に漂うロマンス
更新が楽しみだわ
319 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/27(木) 00:49:49.22 ID:XSzZuBu1O
ほ
320 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/05/02(火) 01:47:53.67 ID:Yg/XneBO0
均されただけの荒野の道を、がたりがたりと揺さぶられ一直線。
軍用ではない安物のジープは、お尻を何度も宙に浮かせ視界を揺らす。
着慣れない中東の民族衣装に肌をくすぐられ、どうにもむず痒く、落ち着かない。
いや、多分違うんだろう。
本当に落ち着かないのは、きっと隣に彼がいるからだ。
絹江「気まずいなぁー……!」
グラハム「少し口を閉じる修練が必要ではないかな。こと最近の君は、精神と舌がリンクしているようだ」
絹江「! あれ、喋り方……?」
グラハム「っ……職場で部下のど真ん前、君に軽い口調を向ければどうなるかくらいは察せると思ったんだがな!」
絹江「う、だって……っ」
グラハム「あぁ、そうだったな。君は自分の意志で此処に来ることを決めた、何があっても構うことなど無いと」
グラハム「私に連絡して、時勢と状況を判断材料にしようなどと思う必要もなかったと! そういうのだものな!」
絹江「ちょ、なんでそんな、怒んないでよっ……!?」
グラハム「怒りではない! ……どうしようもないのだよ、本当に」
低く、唸るような声でまくし立てながら、彼は窓を開ける。
目の前を乱暴に横切る右腕が指差す遠方、白い米粒大の軍用オートマトンが数体犇めいているのが見えた。
何だろう、そう思う間もなく、彼の思惑が判明する。
炸裂音と煙。
それらの直下から、ここからでは爆竹のような大きさの爆炎が吹き上がったのだ。
絹江「っ……?!」
グラハム「チッ、都合がいいな。忌々しい……あれが、理由だ」
グラハム「基地の構築と同時に未確認の動体反応が山ほど基地を取り囲んだ。超過激派と目されるアザディスタンの【暴徒】と目されているが、真相は分からん」
グラハム「地雷だよ。毎時点検の入る舗装道路以外は通るなよ、どこで脚を飛ばされるか皆目検討もつかん」
グラハム「……もっとも、この道が安全かどうかなぞ、明言出来はしないがね」
絹江「そんな……!」
グラハム「ああやって、本来街中でテロ監視に使う機体まで駆り出して」
321 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/05/02(火) 02:34:57.65 ID:Yg/XneBO0
グラハム「毎朝毎晩地雷除去だ。専用装備が腐らず済んだと上は笑っていたが……」
グラハム「……何がしたかったのかと問われれば、何がしたかったのかなと、首を傾げるしか無いよ」
こっちの言葉なんて待つまでもないと続けた言葉が、止まった。
憤りと、迷い。
軽く噛み締められた彼の唇が、吐くに吐けぬと堪えているようでもあった。
絹江「……ごめんなさい……」
グラハム「止めろ。くだらない体面で提言の機を逃したのは私の方だ」
グラハム「お互い泥を投げ合う必要はあるまい。己の職務を全うするために、此処にいるはずだろう」
絹江「……怒ってない?」
グラハム「何故?」
絹江「……この前、つい言い過ぎたかなって……」
グラハム「馬鹿馬鹿しい。あれしきで機嫌を悪くしていたら、【上官殺し】の汚名など着ていられん」
グラハム「もっとも、着たくて着ているわけではないが、ね」
絹江「反応に困る自虐止めてよ……一番きついやつじゃない、それ」
グラハム「はっ……あぁ、済まない」
本日、初の笑顔は、何処か空虚で、悲しげで。
そういう笑顔が見たいわけじゃないのにとか、そもそも笑う顔見たくて来たわけじゃなかったはずとか、思考は堂々巡り。
気まずさを増した空気を読まないジープのロデオに、強く尻を叩かれる。
何か言えよと、背を押されているような心地だった。
誰に? ……多分、酷くばつの悪い顔をした、サイドミラーの中の人に。
グラハム「とにかく、だ」
絹江「!」
グラハム「来たからには君は君の使命を全うすればいい」
グラハム「私から言えることがあるとすれば、軍の【要請】には必ず従うことと、相談は私かカタギリに通すこと」
グラハム「私の微々たる権限と能力の及ぶ限り、君の身命を庇護すると誓うこと……くらいかな」
絹江「……えーっと、それって」
グラハム「君が此処にいる限り、私が護ると言っているんだ」
グラハム「だからいい子にしていてくれ、手元にいなくては、あの日のように庇うことも出来ない」
322 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/05/02(火) 03:48:21.44 ID:Yg/XneBO0
絹江「――――」
グラハム「……肯定の沈黙と捉えるが、構わないかな」
フードをすっぽり被って、無言のOKサイン。
この民族衣装、外からは顔も見えないくらいの女子力マイナス全身要塞コーデ。
それでも強い日差しを防いですごく涼しい。いつも日陰の中にいるような現地の知恵の結晶なのだ。
……うん、全くの無意味。全身、燃えてるみたいに熱い。
何なんだろう。なんでそんな急に、優しく出来るんだろう。
今まで見てきたのと同じ笑顔で、どうしてそういうことが言えるんだろう。
こちとらこのまま無視かギスギスかと覚悟してて、胃痛までしてたっていうのに。
絹江「……たらし……」
グラハム「? 今のは日本語か。何と言ったんだ?」
絹江「教えない……っ」
グラハム「ふむ、後学の余地というわけだ。奥ゆかしい」
見えてはいないはずだけれど、そっちを向けない。
もう何も気にしてはいないという素振りで運転を継続する彼が、小憎らしい。
割りと女性扱いしてくれる、数少ない男の人だったけれど。
それでも、「守ってやる」が、ここまで破壊力を秘めてるなんて。
病院での、体温と鼓動までセットで思い出す特効ぶりに、正直自分でもびっくりで。
自分、もしかしてちょろいのかな。
あぁ、多分あの日のこの人のように、耳まで真っ赤だ。
――あれ、じゃああの日、彼って……?
グラハム「……街が見えてきた。フードはそのままに、まずは改革派議員の方だったな」
絹江「え?! あ、うん、いやはい!」
グラハム「気負うなよ。いくら緊張状態とは言え、いきなり街中で騒動を起こすとは考えづらい」
グラハム「いつも通り歩を進めればいい。雑踏の喧騒を、無人の野を征くが如く……君にはそれがよく似合う」
323 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/05/02(火) 03:50:48.80 ID:Yg/XneBO0
また明日。
いい加減放置しすぎたので、この期間に進めたいところ。
ちょろい
324 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/02(火) 10:48:37.90 ID:/9spur3Wo
乙〜いいね
325 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/03(水) 17:21:07.53 ID:24Sef11Co
乙
326 :
◆AvaUNpQJck
:2017/06/03(土) 04:03:28.56 ID:i0JCxRoB0
――――
「アザディスタンという国が生まれたのは、先の【太陽光発電開発事業】に強く影響を受けてのことです」
「軌道エレベーターと大規模太陽光発電システムによる恒久的なエネルギー需要の解決……それはオイルマネーの終焉を意味していました」
「この計画が提示された時、中東諸国は強く反発しましたが……同時に、啓示を受けたような心地を思えていたと、当時の官僚は語っています」
「いよいよこの時が来たか。有限の石油に頼った安寧はもう終わるのだ……と」
「多くの国家が電力受信権を得るために建設支援を表明しましたが、中東国家はその枠組に入ることを拒みました」
「自分たちの売りであるオイルマネーの代替存在を容認するわけがない。中東の連盟は全会一致を当然と、宣言に踏み込みます」
「その結果、アザディスタンの今があるので……自業自得と言われれば、そうですね、そう言えると思います」
――――
『だがその理念は御為ごかしに過ぎなかった。それを受けた奴らが、三大国がまずやり出したのは我らの【切除】だったのだ』
『国連は、軌道エレベーター建設などにおける最低限の産出を除いた、大規模な石油輸出規制を一方的に決議で押し付けてきた』
『理由は明白だ。三大国をして、それだけ軌道エレベーターと発電システム建設は大事業だったということ』
『つまり、退路を断ち、日和見を悉く引きずり出すこと。太陽光発電開発へ地球圏全てのリソースを組み込む下準備に他ならなかったわけだ』
『オイルマネーの既存経済基盤を破壊し尽くし、太陽光発電のみの土台に全員座ることを強要した、悪辣な手法だ』
『……言いたいことは分かる。枯渇の危険性が常に付きまとう石油への執着は袋小路だったと、そういうのだろう?』
『ならば聞かせてくれないか。【石油が無二の経済基盤であった国々が、どうやって石油無しで建設支援をこなすのか】と』
『国家運営の全てを世界銀行に掴まれ、電力受信の権利と引き換えに傀儡化した小国家群に、今なお自由がないのはなぜか、と』
『……分かるだろう。これは最後通牒だったのだ』
『隷属か、枯死か。三大国は、中東に最初から尊厳など持たせる気はなかったのだ』
327 :
◆AvaUNpQJck
:2017/06/03(土) 04:08:56.85 ID:i0JCxRoB0
――――
「その動きに反発した一部中東国家……いえ、多くの国から怒り猛る人々が武器を手に飛び出しました」
「彼らは軌道エレベーター建設事業への反対と報復を叫び、各地でテロなどの武力行使を決行」
「えぇ……聞いたこともあるでしょう。二十年間、五回にも渡る【太陽光発電紛争】の勃発です」
「……私の口からは、とてもではありませんが間違った行動であったとは、言えません」
「止めようなどありはしませんでした。だってそうでしょう?」
「我らの乾きを癒す唯一の井戸は固く閉じられ、余所者達は笑いながらその鍵を目の前でへし折って見せたのです」
「えぇ、本当に……誰が止められましょうか」
「にも関わらず誰しもが【仕掛けてきたのはあいつらだ】と指差しながら、泥沼の中で汚れ続けるしかなかったのですから」
――――
『多くの同胞が血を流した。異教徒とは言え、無辜の人々が涙を流した』
『……それを正しかったと、必要なことであったと言えるほど私も鬼畜ではないつもりだ』
『だが想定以上の規模と、想定外の方向に事態が転がっていったのも事実なのだ』
『PMC、国際テロネットワーク、各地域の反政府組織……悪鬼共がこぞってこの流血の宴に飛びついた』
『破壊行為と紛争が混乱を生み、また違う混乱とテロを呼ぶ……』
『我々が疲弊し、全てに終結宣言が発せられた後……この大地には、何一つ残ってはおらなんだ』
『何故、と問えるなら……何故、もう幾ばくの猶予を与えてくれなかったのか、と……そう問いたいものだな』
『我等とて、尽きゆく石油資源に固執し続けたわけではない』
『議論は荒れ、もしかしたら争いにもなったかもしれないが……それでも、世界との繋がりだけは、残せたかも知れなかった』
『見限るのが早すぎたのではないかと……あぁ、止めよう。泣き言だな。これは……』
『理由はどうあれ、引き金を引いた者が言えることではない……』
――――
328 :
◆AvaUNpQJck
:2017/06/03(土) 04:17:43.86 ID:i0JCxRoB0
グラハム「……大丈夫か?」
絹江「えぇ、これしきの外出でへこたれやしないわ。海外出張には慣れてるし」
二つのインタビューを終え、市内の軽食店で小休止。
路地裏の穴場、特派員イチオシの静かな食堂での一服は、乾いた身体に染み渡る。
どちらの邸宅でも食事をと勧められたが、初めての国では外でその国の食事をすると決めていた。
状況の悪さもあって、彼を付き合わせてしまうのは心苦しかったが……
グラハム「なに、以前は良好な幕切れではなかった。再演と思えば悪くないシチュエーションだ」
絹江「……心を読むんじゃありません!」
グラハム「読んだのは表情だ、特別なことはしていない」
絹江「見えないでしょ……この服着てたら」
この態度だ。
最初から、変に気を遣うこと自体間違っていたようだ。
グラハム「過去と現在、当事者たちの言葉に紡がれると……さしもの君にも噛み砕くのは容易ではないかな」
絹江「……分かってたこと。そう思ってた」
絹江「白状すれば、知ってることを聞かされるくらいかなって油断もあったのよ」
絹江「でも……知識と実感の差は、重いわ」
どちらのインタビューも、思っていた以上に快く受け入れられた。
どちらもそこまで影響力の高い議員ではない為、策謀や権威に組み込むことさえ出来ないようでもあった。
それもそうだろう、ここまで荒れた情勢で一介の下流議員が他国を巻き込み流れを生もうなど、自殺行為でしかない。
故に、彼らの言葉には彼らから見た歴史認識、彼らが立つ派閥の思想が色濃く滲んでいるように感じた。
面白いことに、他国を知る改革派からは歴史への強い敵愾心が感じられ、国内を憂う保守派は互いの凶行を打算無しで直視しているように思えた。
知識の差ではない。見ているものの差なのだろう。
敵を知った改革派はどうあれば勝てるのか、生きられるのかをそこから見出し。
味方を失い続けた保守派は神の教えを支えとしたことで、倫理的な面で物事を見つめるようになっている。
保守派が強硬的な対決姿勢を取るのは、あくまで【改革派の一方的な対立路線に対する拒否反応】に過ぎない。
超改革派……ユニオンを招き、保守派と徹底的な対決姿勢を取る彼らもまた、この国にとっては過剰な劇薬となりつつあると感じられた。
絹江「一人ずつ話を聞いたくらいじゃ、こうだああだは言えないけれど……」
絹江「ユニオンに救われても、国連に助けられても……このままじゃ、この国に先はないわ」
329 :
◆AvaUNpQJck
:2017/06/03(土) 04:23:34.70 ID:i0JCxRoB0
グラハム「そうだろうさ。ここは見捨てられた地だ」
絹江「……そこまで言えとは言ってないわ……!」キッ
グラハム「事実だ。産油国の矜持、三大国の傲慢、持たざる者の抵抗手段、知らざる者の無関心……様々な要素が絡み合った、忘却の大地」
グラハム「その多額の負債とすり減った精神を、隣国の統合吸収の優越でのみ癒やし続けた結果がこれだ」
グラハム「……哀れな国だよ」
絹江「 」ゲシッ
無言で一発、蹴りを入れてから辺りを見回す。
隅の窪んだテーブルに座っていたからか、回りには現地民はおらず、近寄ろうともしてこない。
聞かれず幸い、そもそも聞かれていい内容ではあり得なかった。
……もっとも、聞こえないのが分かってて言った節はあるが。
グラハム「蹴るならブーツより上にしろ。痛みがなくては罰にならん」
絹江「痛くしてほしかったら自分で頬でも抓ってて! 私にさせるためにそういう言い方したでしょ、今……!」
グラハム「……あぁ、今、確かに君に甘えた。済まなかった」
絹江「っ、もう。私以外に言っちゃ駄目よ、誤解されちゃうんだから」ズズ
グラハム「誤解も何も本心だ」
絹江「な〜に言ってんだか……そう言ってる本人が自己嫌悪してるくせに」
グラハム「っ…………」ズズ
絹江「図星ね」
グラハム「かと言って口にして良いものではなかろうさ……」
絹江「貴方らしくもない。何処で誰が聞いてるかなんて、分かんないんだから」
グラハム「……浮かれているのかも、しれんな」
絹江「ん、なんて?」
グラハム「っ……気が逸っていると言った。奴らは、まだ姿を現さない」
絹江「そう簡単にぽんぽこ出てこられても困るんだけど……取材になんないわ」
グラハム「だが、事態の収束には間違いなく姿を見せる」
絹江「そうね、間違いない」
「ソレスタル・ビーイング」
――――
330 :
◆AvaUNpQJck
:2017/06/03(土) 04:29:17.35 ID:i0JCxRoB0
「えぇ、ご存知の通りです。ラサー……マスード・ラフマディ師は我々改革派とは違う派閥に身を置かれておりました」
「ですが……彼の行動は冷静にして沈着。超保守派の甘言にも惑わされず、ただ静観にのみ徹してらっしゃった御方です」
「はい、彼を派閥で称することは冒涜にあたるとさえ私は思っています。我らの、アザディスタンの信仰の父です」
「統合後のクルジス残党勢力暴徒へ救いの手を差し伸べ、沈静に至った逸話も彼の仁徳と信仰心の証明と言えるでしょう」
「もし彼が保守派の獣を抑え込んでくださらなかったら……その懸念が今現実になりつつあるのですが」
――――
『改革派の若い連中は言うよ。今食べる糧が無いのに、何故信仰と伝統に固執するのか、と』
『飢えた子に教義を説く時間があるなら、憎い相手と組んででも腹を満たしてやるのが大人の仕事だろうとな』
『忘れておるのだ、人とは元来、獣であることを』
『クルジスへ自国の道理を説いて攻め入った過去を良いように解釈し、後足りぬものはと、他に満ち足りているかのように振る舞っている』
『大人ですら腹が満たせぬこの国が持ちこたえているのは、唯一心を信仰で支えていたからに他ならないというに』
『食うに足りず、更には信仰まで踏みにじられた人々が獣に変わりつつある現状、それがさも忍耐のない不信心の所業とでも言うように糾弾してきおる』
『そんなざまだから、その信仰そのものを支えてくださっていたラサーの不在に、そこのそいつのような輩を招き入れられるのだろうな……ふん、自業自得とはこのことだ』
『悪いことは言わん、異国の報道者。この国が血獄と化す前に、祖国へと帰るのだな』
『……いずれはこうなると思っておったが、最期はやはり同胞同士の喰らい合いか。神も我らをお見捨て給うたな……』
「大丈夫……?」
「気にするな。彼の発言は全て事実といえる」
「我々は、この国では招かれざる客だ。無論……弁えている」
――――
「……確かに、今回の一件でユニオンの軍事支援を受け入れたのは、改革派の暴走と呼ばれて仕方のないことかもしれません」
「ですが、仕方なかった、というのは分かっていただきたいのです」
「仮に暴徒化した民衆に太陽光発電の受信システムを破壊されたり、国連から派遣された技師を害されたりすれば、この国は自立の機会を永遠に失うでしょう」
「伝統に従って千年前のレンガや織物で国を運営していくことは出来ません。何に於いても、先立つものは無くてはならんのです」
「ええ、我々は真にこの国を憂う者達の……あ、失礼、こういう話はお求めではありませんよね……済みません」
「はー……最近は、こういった定形の文句も、一字一句、古参の改革議員に指示されて話すんです」
「発言権なんてもらえないままでね。何のために自費を割いて海外の大学に通ったのやら」
「議員より海外の活動家の方が市民援助に熱心な有様です、お恥ずかしい限りで」
「今回の一件も、マリナ様と【彼女】がいらっしゃらなかったらどうなっていたか……え、彼女のこと、ですか? あぁいや、それはちょっと……」
「いや、済みません、近い、近いですって……ちょ……!!!」
『クロスロード女史、そこまでだ』
『もう、あと一歩だったのに!』
「ニホン人ってこういう民族だったっけ……?」
――――
331 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/06/03(土) 04:37:46.29 ID:i0JCxRoB0
――――
絹江「……そうね……この国が這い上がる手段は一つしか無い」
絹江「太陽光発電の受信権の支援、施設誘致以外には、もう再生の道は残ってない」
グラハム「……最初から分かっていたことだ」
絹江「でもやりきれない、みんなそう思ってる」
グラハム「血を流すよりはずっといい」
絹江「それには同意」
グラハム「クルジス侵攻に関しても、あの保守派のご老人が良識を持ち合わせていただけのこと」
グラハム「他の、超保守派に至っては、他国侵攻と援助誘致の二択で迷わず銃を取る蛮族の集まりだ」
絹江「改革派の国賊を排し、全ての恵みを我等の手に……か」
グラハム「そんなものがどこにある。石油もない、資源もない、技術も人材も無い、あるのはただ信仰のみだ」
絹江「えぇ、でもまだ信仰がある」
絹江「国がまとまるための共通の文化がある。その教えは、死んではいないはずよ」
絹江「まだ……諦めるには早すぎるわ。彼らは、まだ沈みきってない」
グラハム「……意外だな」
絹江「?」
グラハム「君のことだ、国家という枠組みに囚われて先行きを見失うこの国に、もう少し硬化した態度を取ると思っていた」
絹江「あら、世界主義(コスモポリタニズム)って言えるほど明確なビジョンがあるでもないのよ、私」
絹江「国家がなければ文化が維持できないってわけじゃないといいたいだけ。ふふ、幻滅?」
グラハム「いや、好意を抱くよ。とても君らしい……さて、そろそろ帰るか」
絹江「あら、もう時間?」
グラハム「聞こえるか、外が少し騒がしい。揉め事でも起きたか、ざわついてきている」
絹江「あー……?」
グラハム「君子危うきに近寄らず、だ。かいなに姫君を抱いたまま乱闘騒ぎに乗り込む従者はいない、だろう?」
絹江「喩えが華やかですこと。えぇ、従いますわナイト様」
絹江「護ってくれるんですもの、ね?」
グラハム「……………………」
絹江「……ちょ、答えてよ……ねえってば、ね……!」
グラハム「下がれ」
グラハム「……囲まれている……」
絹江「……え?」
332 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/06/03(土) 05:00:26.87 ID:i0JCxRoB0
――――
不覚だった。
店の前には、ぎらついた眼差しの群衆が今か今かと異国人を待ち構えていた。
窓から見るに、素手の現地民、ざっと二十人弱。
成人男性、中年女性、老人、雑多な種別。
息を殺しているようだが、それでも分るほど殺気づいた呼吸が暖簾一枚向こうで繰り返されている。
グラハム(こっち側は改革派の人間が多いと聞いていたが……タレコミか?)
グラハム(しかし、ここまで暴徒化しているとは聞いていなかった。運悪く当たったか、それとも議員殿の癇に障ったか?)
市内の状況の悪化があれば、メディア関係者には逐次速報が届き勧告が下される。
勿論そんなものはない。彼女の端末は静かなものだ。
ともすればたまたま不運にも気性の荒まった集団に目をつけられたか。
とにかく、このままここにいるのもまずい。
店主からの「さっさと出てってくれ」という無言の嘆願が、彼らが踏み込んでくる可能性に言及していた。
グラハム「性急な展開だな……退屈な神々が痺れを切らしたか?」
絹江「異教徒がお嫌いなのかも……どうするの?」
グラハム「正面突破……は愚策だな。武器こそ持っていないが数が多い、下手にことを構えたらそれこそ危険だ」
グラハム「……今日はヒールではないな? 走るぞ」
絹江「いつでもどうぞ……!」
彼女がフードを取る。
少し汗ばんだ髪が艶やかに跳ねた。
呼吸を整える。
いよいよ、外が騒がしくなりつつある。
そして、二人ほぼ同時に振り返ると。
仰天する店主へと突撃。
カウンターを乗り越えて、一気に厨房を駆け抜けた。
絹江「裏口から抜ける!」
グラハム「それしかあるまい……!!」
グラハム「あった……!」
333 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/06/03(土) 05:22:15.85 ID:i0JCxRoB0
トタンの補強のなされた片開きの裏戸。
手を伸ばして、ドアノブに触れた瞬間。
自分の意志よりも速く、扉は遠のいて、開かれた。
グラハム「!?」
絹江「え、えっ?」
「――こっちだ」
外の光、熱風と熱気が肌に当たる。
そこにいたのは、フードを被った、絹江と同身長ほどの人物。
此方が認識すると同時に、一声だけかけて走り出したではないか。
グラハム(男の声……かなり若い、少年か? )
グラハム「っ、こっちだ!」
絹江「きゃ……?!」
考える間も用意されず、彼女の手を取りその背を追う。
事態は理解している。
周囲の人間は何事かと此方を見るが、それを気にする猶予も惜しい。
フードの人物は、馴れたように路地の奥へと走り込み、時折ついてきているかと後ろを振り返る。
確かな動き、そして速度。
自分が彼女を牽引していても追いつけぬとは、恐れ入る。
グラハム「…………」
釣られるように振り向いた。
必死についてくる絹江の苦悶の表情以外、特筆するものは何もない。
追跡はされていない。
グラハム「おい、もういいのではないか!」
「黙って付いてこい!」
グラハム「彼女が限界だと言っている!」
「……もうすぐだ、頑張れ」
グラハム「ちっ……!」
聞く耳も持たない様子だったが、彼女の話題で何か引っかかったらしい。
明らかに態度が軟化した様子だった。
グラハム(これで、罠であったなら……)
最悪、抜かねばならんか。
懐の銃を確かめる。
使わぬ展開を切に望むが……
グラハム(予測不可能の事態に対処してこそ、であるな)
・
・
・
・
「ここでいい」
「自警団もここまでは見回りに来ない、安全だ」
グラハム「…………」
334 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/06/03(土) 05:40:05.37 ID:i0JCxRoB0
あれから五分ほど。総合して十五分といった位置。
建物からは明らかに人の気配が消え、器具なども使われなくなって久しい様子。
ゴーストタウン、というべき様相。
建築物の様式事態が市街地と何ら変わらないことが、不気味さを引き立てているようだった。
絹江「ぜっ……ひゅ、かふ……おぇ……ふひ、っ……!!」
グラハム「絹江、大丈夫か。女性が発してはいけない音声が漏れている」
絹江「っっ…………!!!」
グラハム(重症だな)
「これを渡せ」
グラハム「!」
未だ息の整わぬ彼女に与えろと、ミネラルウォーターが投げ渡される。
訓練している自分はともかく、彼もまた既に平常な呼吸に移行しているようだった。
口は空いていなかった。
怪しんでいると、手を差し出してきた。毒味をするというのだろう。
……何故だろう。安全の証明以上に、酷く不愉快な展開を予期した。
そのまま彼女に与える。
この場で毒を盛る意味も薄いが……何より、勘が告げていた。
彼は、敵ではないと。
絹江「ぷはっ……ありがとー……!!」
グラハム「自警団、とは、穏やかではないな」
「あの地域はもともと派閥の争いが頻発している場所だ」
「先日、ボヤ騒ぎと暴行事件が相次いで起きた。保守派の人間に対してのみだ」
「だからああやって保守派の自警団が徘徊していた。あの店の場合、野次馬も混ざっていたようだが」
グラハム「徘徊、か。君は改革派か。それともこの地の人間ではないのか?」
「……答える必要性を感じない」
グラハム「大有りだ。私は君を信用したわけではない」
グラハム「何者だ。何故助けた? 所属は何処だ?」
「…………」
グラハム「無言は、疑心を掻き立てるだけと認識して欲しい」
絹江「グラハム……!」
335 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/06/03(土) 05:46:34.35 ID:i0JCxRoB0
睨み合い、とはいえ表情も分からぬ以上一方的なもの。
観念したのか、彼はフードに手をかけ、そっと目の前で下ろしていく。
そこにあった顔、それに一切の見覚えはなかったが。
絹江「……あ……」
グラハム「ん?」
絹江の表情は、大きく変わった。
驚愕と、困惑。
何故、という疑問が全面に押し出された、彼女らしい快活な感情表現。
絹江「あーーーーーーーー!!!」
グラハム「……どうやら、知り合いだったらしいな? 少年」
刹那「……覚えられていたとは意外だった。だが、知っている顔だ」
・
・
・
・
336 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/03(土) 08:16:21.12 ID:gYGBW+UD0
これは予想外の展開だ
337 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/03(土) 13:42:31.50 ID:I8DxkyXJ0
そういやいたんだっけソラン君は
338 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/05(月) 19:06:46.68 ID:xDg6qiMn0
そっかおとなりさんだっけか
339 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/10(土) 07:58:57.51 ID:1gDJfIODo
間接キスの可能性に不快感を覚えるグラハムにニヤニヤした
340 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/12(月) 20:12:42.68 ID:3Fc4JNclO
乙です
341 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/06/27(火) 05:12:01.97 ID:yCXjXdjX0
グラハム「…………」
憮然。
少し離れた場所で、軍人は護衛対象とその隣人の会話を恨めしげに見つめていた。
無論自分のこと。
彼女に言われるまま、彼から離されたというのが正しかった。
絹江「……そう、この国が貴方の故郷だったのね」
刹那「正確には違う。その中に併合されたクルジス共和国が俺の生まれた国だ」
絹江「そっか……日本には、何をしに?」
刹那「この国では学べないことが何でも学べる。それだけであの国にいる価値はある」
絹江「建築業とか?」
刹那「最近は農業にも興味が……」
グラハム「…………」
この距離では聞こえてくる声は僅か。
会話の内容など察することさえ難しい。
だが、はっきり判別できるものもある。
それは、時折見せる彼女の楽しそうな笑顔。
インタビュー時やスクープを追うときに見せるものとは違う朗らかなもので。
自分にも見せてくれたことがある、彼女の心根を垣間見るような可憐な表情の一つであった。
グラハム「…………」
絹江「貴方の家は近いの?」
刹那「かなり遠い……と言うのは語弊だ。日本に行くときに、一通り処分していて……」
グラハム(当然、か……)
我ながら、名状し難い感情だった。
彼女の笑顔に、【残念】に近い感想を抱いていること。
笑っている事実よりも、会話も聞けない距離や、反応が向かない意識の問題に、失望と近似の体感を覚えていることだった。
グラハム(あの少年が気に食わないわけではない、疑念は晴れないが危険な存在でもない)
グラハム(彼女の態度も悪くはない、ああやって笑えていること自体に問題などあるはずもない)
グラハム(だが、しかし――)
グラハム(私以外にも、見せてしまえるのだな)
グラハム(あんな、笑顔を)
グラハム(……いや、馬鹿馬鹿しい)
グラハム(気の迷いだな、飛行時間が少ない証拠だ)
グラハム(帰投したら本部に直訴するか、いっそ許可された空域を延々回ってみせようか)
グラハム(そうすれば、こんな……)
グラハム(……あぁ……馬鹿馬鹿しい……)
342 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/27(火) 09:10:36.43 ID:ItGwOxuaO
グラハムさん……それは愛ですね分かります
343 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/28(水) 20:26:02.19 ID:oDEnDiUBO
今のハムは飛べば飛ぶほどモヤモヤが溜まるだけだな
344 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/06/29(木) 05:04:57.14 ID:gDtWp2PT0
そうやって無為な脱力に身を任せて――辺りの警戒だけは怠らずに、だが――いるうちに。
ようやく、彼女からお呼び出しの合図がかかる。
人の気も知らないで、凶器のごとくその微笑みを突きつける我が姫君の残酷さよ。
観念して立ち上がる、その時。
刹那「……」
グラハム「!」
ほんの僅かな、体幹の移動。
恐らくは無意識的な動き。
染み付いた反射神経の為した悪戯であろうが。
右手側を逃がすような、不自然な動きを此方に向けた。
グラハム(……武装しているな。携行可能な、恐らくは銃器)
グラハム(右利きか。仮に交戦すれば、左手側の絹江は盾にされる)
グラハム(訓練された初動、一般人の自衛にしては鮮鋭に過ぎる予備動作だが……)
やはり彼女から離すべきか。
よぎる思考は最速で銃を構える動きをシミュレートした。
……が、彼女の前に立つまで、それが実行されることはなかった。
敵では、ない。
その何一つ確証に足る根拠を持たない直感が、腑に落ちたまま居座っていたからだった。
絹江「? どうしたの、怖い顔」
グラハム「心配無用。番犬は主を護るためなら牙を衆目に晒すものだよ」
絹江「まだ彼を疑ってたりする……?」
グラハム「ふ、もしそうであったなら、君に嫌悪されようと二人きりにはしなかったさ」
刹那「信用はされていると思っていいのか?」
グラハム「ここから徒歩で帰りたくはないのでね、道案内か代行車の手配がしたい」
刹那「手間は取らせない。車の回収と滞在場所への帰還の為に最善を尽くす」
グラハム「甲斐甲斐しいな、この上ない提案だが……いくら出せばいい?」
絹江「ちょ、グラハム!?」
グラハム「ギブ・アンド・テイクはビジネスの基本だ。最初に取り決めておけば後のトラブルは未然に防ぐことが出来る」
グラハム「彼に危険が及ぶなら尚更のことだ。私は彼との親交も無いのでね、これが誠意と思っていただこう」
絹江「むう……」
刹那「……不要だ。案内はするが、礼はいらない」
グラハム「気に障ったなら謝ろう」
刹那「いや……」
刹那「すでに受け取っている、前払いでな」
絹江「! あ……」
345 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/02(日) 02:14:08.68 ID:cjgx9tkUo
これはお裾分けのことかな?
1期で刹那がご近所付き合いしてるシーンは好き
346 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/07/14(金) 04:09:01.74 ID:fWAvYQs50
グラハム「……?」
刹那「あんたが知る必要はない。俺と彼女の問題だ」
グラハム「……そう、か。私は部外者か」
彼は答えなかった。
必要が無いと思われたのだろう。
自分で発した【部外者】というレッテルが、糊付けされたような気分だった。
何故か絹江は上機嫌。
何故だろう。
ここまで、喜ぶ彼女を見たくないと思ったのは初めてだった。
絹江「〜〜〜♪」
刹那「旧市街地を迂回して、先程の区画に反対側から向かう」
刹那「あそこは一回騒ぎが起きると治安用のオートマトン群が展開される、群衆と自警団はいないはずだが……万が一もある」
グラハム「……好きにしてくれ」
刹那「懸念があるなら今のうちに言っておいてくれ、後から言い出されては敵わない」
グラハム「二度は言わん……」
刹那「絹江・クロスロード、そちらは問題ないか」
絹江「任せるわ、刹那くん。ふふ」
グラハム「…………」
絹江「というか君、そういう感じの子だったのね……まともに話したこと全く無かったから、ちょっと意外だったわ」
刹那「沙慈・クロスロードからは聞いていなかったのか?」
絹江「んー、【みんな中学生くらいに一回はああなるよねって感じの子】って沙慈は……」
刹那「今後あいつとは距離を置く」
グラハム(悪意の無い讒言とは恐ろしいものだな……)
・
・
・
・
グラハム「着いたな。迅速かつ的確な案内、見事だ」
刹那「当然のことをしただけだ」
絹江「良かったぁ……張り込まれてたりしてないみたい」
グラハム「予定より大幅の遅延を強いられはしたが、な」
絹江「さて、それじゃあ早速帰ってインタビューのまとめでも……」
グラハム「触るな!!」
絹江「っ」ビクッ
刹那「!」
347 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/07/14(金) 04:23:26.78 ID:fWAvYQs50
絹江「ど、どうしたの……?!」
グラハム「ふう、君はもう少し警戒心を練磨すべきだ。絹江」
グラハム「ここはアウェー、問題が発生した以上その爆心地にほど近い我らの所有車に細工がされている懸念は、抱いて当然と思うのだが?」
刹那「待て、それは……」
グラハム「黙っていてくれ、私は最悪を想定した提言をしている」
刹那「! ……」
グラハム「……」
絹江「そ、そうよね……ごめんなさい。ちょっと浮かれてた」
グラハム「謝罪には及ばない、その為に私がいる」
グラハム「君はジャーナリストの同僚たちにこの区画の危険性を連絡してくるといい。情報の共有は早いほうがいいだろう?」
グラハム「その間に軽く点検をしておくさ。近くにいては困るが、離れすぎないように頼む」
絹江「うん、わかったわ。じゃああの看板の前にいるから、終わったら教えて」
刹那「…………」
グラハム「さて、手伝ってもらおうか」
グラハム「自動車整備の知識は皆無でも……【見るフリ】くらいは出来るだろう?」
刹那「……今回の件はあくまで自警団の過剰防衛行動に過ぎない、発信機も爆弾も、仕掛けるに足る時間もノウハウもあったとは思えない」
刹那「お前は……絹江・クロスロードを俺から離すために虚偽の懸念を伝えたのということか」
グラハム「……引っかかる言い方だが……間違ってはいないな、否定はしない」
グラハム「あまり彼女を待たせるわけにもいかない、単刀直入に言おう」
刹那「俺と彼女はただの隣人だ。深い関係はない」
グラハム「そっちじゃない!! ……コホン」
グラハム「君は、何者だ?」
グラハム「何故この国に来た、いや……何故、戻ってきた?」
刹那「…………」
グラハム「怖い顔だ。ようやく君の素顔に迫れた気がする」
348 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/14(金) 07:36:12.27 ID:t0cJtTFpO
でも大事なのはそっちだろ?
349 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/14(金) 12:05:06.21 ID:Tm05RBpJ0
読者の聞きたい話、おそらくは前者だっ!!
350 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/14(金) 17:11:23.72 ID:/XQGTl9m0
そっちじゃない!(ちょっと気になる)
351 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/14(金) 22:47:11.54 ID:gvNezDxKO
刹那がハムを翻弄する珍しい図
352 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/07/15(土) 05:47:17.98 ID:2Icd+a780
刹那「俺が、テロリストの一味だといいたいのか?」
グラハム「先刻告げたとおり、疑念はない。だが理由もない、今、君がこの国に来る理由がだ」
グラハム「君は絹江に言っていたな? 家財一式は既に処分していると」
グラハム「此処アザディスタンで、クルジス人の境遇と扱いを知らぬほど、私も無学ではない」
刹那「…………」
グラハム「親戚がいるわけでもない、家も残っているわけではない。針のむしろに自ら飛び込むが如き所業」
グラハム「何が、君を駆り立てるのか……」
グラハム「その、懐に隠したものの説明とともに聞かせてもらいたいと思ってね」
刹那「銃は、護身用だ」
グラハム「ふむ、情勢を鑑みれば違和感はない」
刹那「そして……被差別部落民が、仇敵アザディスタンの不幸を笑いに来たと言えば、不思議ではないだろう」
グラハム「あり得ない。君の眼はそんな濁りを宿してはいない」
グラハム「君の眼は、戦う者の眼だ」
グラハム「君は、此処に戦いに来た。違うかね?」
刹那「……勝手な想像だ」
グラハム「これでも、人を見る目だけは自負しているのだがね」
刹那「……この世界に、神はいない」
グラハム「!」
刹那「紛争で見てきたものの全てが、俺にそう教えてくれた」
刹那「ならば、今この国で何かを成すのは、人であるはずだ」
グラハム「神はいない、か……アザディスタン、いや中東出身者からそれを聞くとは意外だった」
刹那「俺は、人が何を為すのか、そして為したものが何かを、この目で見たい」
グラハム「命を懸けても、か?」
刹那「人は死ぬ。何もしなくとも……こうしている間にも、人は死んでいく」
刹那「だから此処に来た。行き着く先を、見届けるために」
刹那(ガンダムとともに……)
グラハム「……人は死ぬ、か」
353 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/07/15(土) 06:19:17.94 ID:2Icd+a780
刹那「――爆弾のチェックは終わったな。下がってくれ、ボンネットを閉める」
グラハム「! あぁ、済まない」
バタンッ
刹那「知りたかったことは、これで分かったのか?」
グラハム「まだ得心とまではいかないがね」
刹那「武器を取らない戦いもある。彼女のように、ペンを取る者もいる」
グラハム「……このグラハム・エーカーをはぐらかすか?」
刹那「だが否定は出来ないはずだ。絶対に」
グラハム「チッ……狡猾な。分かった、認めよう。私の敗北だ」
刹那「俺には俺の戦いがある」
刹那「彼女にも、そしてお前にも」
刹那「余計に気を回すな。そこまで要領のいい男ではないはずだ、あんたは」
グラハム「見透かすような発言をする……」
刹那「実際、分かりやすい男だ」
グラハム「自覚はあるが、直接言われるといい気分ではない」
刹那「ならもう会わない方がいい」
グラハム「同感だ、だが……物怖じしない性格は、気に入った」
グラハム「無論、その眼も含めて、だがね」
『そろそろ大丈夫〜?』
グラハム「っと……姫君の忍耐にも限度が来たか」
刹那「俺は此処で別れる」
グラハム「送迎の礼くらいは受け取ってもいいのではないか?」
刹那「近場で友人を待たせている、改革派だが外国人を見せて機嫌を損ねさせたくはない」
グラハム「はっきり言ってくれる」
グラハム「……聞きそびれていた、君はどちらを支持する?」
刹那「どちらでも、内戦が起これば関係はなくなる。全員が被害者で、加害者だ」
・
・
・
・
354 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/07/15(土) 06:51:52.70 ID:2Icd+a780
――帰路――
絹江「んー……風が気持ちいいー」
グラハム「乾燥地帯とて、日が傾けばなかなか過ごしやすくなるものだな」
グラハム「だがあまり気温自体は下がらない、油断して熱中症にならぬように」
絹江「はーい!」
グラハム「そう言えば、別れ際に彼に何か手渡していたようだが?」
絹江「連絡先の書いた紙よ。現地の案内役がいたほうが良さそうだって、今日分かったものね」
グラハム「ふふ……私はお役御免かな?」
絹江「その前に、そんな暇ももう無くなるんだから」
グラハム「……何?」
彼女の言葉を待たずして、基地の方角から大きな影が車上を通過した。
見紛うはずもない。
ユニオンフラッグ。太陽光発電受信施設方面へ、一編隊が一直線に向かっていった。
風に彼女の淡い栗色の髪がたなびく。
もう、この国で、この距離で眺めることは叶わないだろう。
絹江「飛行可能空域の大幅な解放……アザディスタン領内の空域警護をユニオン軍に全面委任することがさっき議会で正式に決まったそうよ」
グラハム「忙しくなるな」
絹江「……嬉しそうじゃないわね?」
グラハム「嬉しいさ。君がいなければ、アクセルを全力で踏み抜いているところだ」
絹江「そっか」
本心だ。ようやく飛べる。
思うところが無くなったわけでもない。
むしろ懸念は増えたと言っていい。
だが、私も戦うことにしたのだ。
慚愧も逡巡も抱えて、今できることを為す。
彼に出来て、私に出来ぬことはあるまい。
彼のような眼で、飛んでみたくなったのだ。
理由は、自分でもよく分からなかった。
グラハム「聞かないのか」
絹江「何を?」
グラハム「彼と私の会話の内容さ」
絹江「気になってはいる、かな」
グラハム「話して利になるほど確信は得られなかったがね」
絹江「でもね、貴方が敵じゃないって言ったし、彼についてはあんまり心配してないのよ、私」
グラハム「結構。信用されているようで何よりだ」
絹江「信頼よ。貴方が口に出したことは、疑うつもりがないの」
グラハム「……そう、か?」
絹江「あとで教えてね。あるはずもない爆弾探しの件は、それでチャラにしてあげる」
グラハム「……やはり気付いていたか。悪い女だ」
絹江「伊達に母親と姉を兼任してきませんでしたもの」
355 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/15(土) 12:36:07.81 ID:HzYO2CqF0
これだけ人として成長したハムが変なお面つけるようになるのか先が気になる
356 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/20(木) 19:15:34.01 ID:y54jzuB80
グラハム子供扱いされてて笑う
357 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 02:45:09.33 ID:VLpfipn70
保守
358 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/08/18(金) 06:05:53.90 ID:ONyzrAD30
基地の入り口に到達する。
――あぁ、爆発しなくてよかった!
そんな、彼女の唐突な冗談に、釣られて笑ってしまった。
こんな時間が、彼女との最後になるかもしれない。
【奴ら】との対峙は、誰であっても分の悪い全賭けの強要だ。
それが分かっていない、こともないようだ。
そっと広い袖の中に隠した、震える指を見て見ぬふりして、アクセルを踏み込んだ。
・
・
・
・
ビリー「やあ、グラハム。白馬の騎士の役目は無事に完遂できたようだね?」
グラハム「それがなカタギリ、思わぬ黒騎士の来訪で落第の烙印と相成った。どうか笑ってくれ」
ビリー「OK、じゃあ空で汚名を雪ぐとしようか。君の得意分野だ、そうだろうフラッグファイター?」
グラハム「ふっ……と、いうことは?」
ビリー「新型水素ジェットは万全快調だよトップガン。往っておいで、君の空だ」
グラハム「そうこなくてはな。恩に着るぞ、盟友!!」
何を言う間もなく、身に着けていた民族衣装を脱ぎつつMSドックへと早足で駆けていったグラハム。
盟友……ビリー・カタギリが彼を出迎えた時点で、そんな予感はしていたのだけれど。
まさかこうもあっさり置いていかれるとは、流石に思っていなかった。
絹江(……お礼、言いそびれちゃったな……)
ビリー「さて、お隣は空いていますか? お姫様」
絹江「えっ、はい?」
ビリー「失礼。ここから報道宿舎は遠いですからと、グラハムにね」
絹江「彼、何も言ってなかったと思うんですけど?」
ビリー「盟友ですから。信用できません?」
絹江「……いーえ、お任せいたします、カタギリ技術顧問」
ビリー「合点承知。ささやかなドライブと洒落込みましょうか」
ジープは走り出す。
不満げな私と、ご機嫌なビリー氏を乗せて。
何故不満かなんて、自分にだって分からない。
――彼には分かって、私には分からなかった、あの人の仕草?サイン?……そんなものの有無に。
ここまで心を掻きむしられるとは、思ってなかったんだ。
ビリー「どうだい、彼との関係は?」
絹江「へ?」
ビリー「今回の護衛の一件、聞いてたと思うけど彼から言い出したことでね」
ビリー「上官の待機命令に貴重な士官用外出許可まで消費しての押し通りっぷりだ」
ビリー「激戦も間近のユニオン陣営に青天の霹靂と……我々の間でもっぱらの噂でね」
絹江「なっ……?!」
359 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/08/18(金) 06:56:49.48 ID:ONyzrAD30
いきなり、何てことを言い出すんだろう。
知らない顔ではないにせよ、デリカシーの欠片もない。
沸々と湧いた言葉をぶちまけようとして、彼を睨みつけ――
絹江「っ……!」
ビリー「――で? 勿論、言いたくないのなら構わないよ」
ビリー「大体は察せるけど……本人の言質がある方が【上】への説得力は増す、というだけさ」
言葉を、飲み込んだ。
全く笑っていない、彼の眼を見て。
これが下世話な野次ではなく、本気の懸案事項であると、察したからだ。
ビリー「……失礼。こういうところで駆け引きを使えるほど僕は器用じゃないものでね」
ビリー「ただ、分かってもらいたい」
ビリー「これから、世界を揺るがす存在、【ガンダム】にぶつかろうという我らのエースが」
ビリー「唯一無二のカスタムフラッグと戦術マニューバを持った、代えがたい切り札が」
ビリー「予想外のことで外出を強行し、暴徒に囲まれあわやという事態を招いた」
ビリー「そのことが、どれほどユニオン軍にとって重大なことであるか、ということをね」
忘れていた、訳じゃない。
ただ、足りなかったんだと思う。
【ただ一人の兵士が、性能も劣るカスタム機で、上位の怪物に立ち向かう】という事実。
彼の存在自体が、自分など比較にならないほど重要な【要素】であるということへの、実感が。
絹江「……どうなりますか?」
ビリー「上は君を日本に強制送還したがった。しかしそれは却ってグラハムへの悪評を増やすだけだと、説得してくれた上官(叔父)がいてね」
ビリー「現状維持で決着。少なくとも、しばらくは近寄らないほうがいい。したくても厳しいだろうけど」
絹江「分かりました……」
ビリー「……君を非難したつもりではないんだ、済まない」
ビリー「予想外の事態であったことも分かるし、そも君の無理な行動で起きたわけでもない。情報不足が招いた側面もある」
ビリー「ただ運が悪かっただけ。その不運が、君たちの関係を他に邪推させるきっかけになったという、ただそれだけのことなんだ」
絹江「っ……私は、無二の英雄を誑かす毒婦と、そう思われているわけですか」
ビリー「説明はした、説得もした。だがグラハムの友情への姿勢が悪目立ちしたと言うだけさ」
ビリー「分かってると思うけどね、彼自身、評判がいい方じゃないんだ。あぁ、ほんと、間が悪いとしか言いようがない……」
ため息から伝わるのは、少なくとも彼が味方してくれたという事実。
少し目が合うと、ばつが悪そうに困った笑みを向けてくれた。
絹江「ご迷惑をおかけしました、カタギリさん」
ビリー「いや、こちらこそもう少し話し方を考えるべきだった。ごめんよ、どうもこういうのは僕の手じゃないな……」
ビリー「まあ、しばらくはお互いの仕事に専念しておこう。君はジャーナリスト、彼はパイロット」
ビリー「君の仕事への邪魔はさせないよ。それは――彼に託された僕の役目でもあるからね」
360 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/08/18(金) 07:18:39.06 ID:ONyzrAD30
ジープは宿舎の前で止まる。
短い時間、そのはずだったのに、ひどく長い間走り回っていたような心地だった。
『おーい、絹江ー!!』
絹江(あ、イケダさん)
ビリー「じゃあ、僕は失礼させてもらいますよ」
絹江「! 重ねて、迷惑をお詫びいたします。申し訳ありませんでした」
ビリー「……これだけは言っておこうかな」
ビリー「今回の件は僕としても不本意の出来事だ。今までその手の問題と無縁だったグラハムに湧いた与太話と、どいつもこいつも食いついてきている」
ビリー「尾鰭が付く前に、そういった羽虫は黙らせたいと思ってる。彼は戦場で、君は筆を執って、ね」
ビリー「任せてもいいと思えるからこその提案だ。活躍を期待するよ、未来の名ジャーナリスト」
此方の返答を聞く前に、朗らかに笑んで走り去ってしまうポニーテールの紳士。
言われるまでもない。そんな下らない風評を真実で流しきってこそ、ジャーナリストだ。
……ただ、そう、ただ、一つだけ、気にはなった。
あなた自身は、どう思ったのか。
私に向けた目は、悪評への怒りだけだったのかと。
少しだけ、聞いておきたかった。
彼が去って暫くして。
アスファルトを切りつける風を伴い、漆黒のフラッグが暮れなずむ大空へと飛び上がっていった。
夕焼けに照らされた装甲、翼、主砲に至るまで。
男の子のロマンになんて、何の興味も惹かなかったはずなのに。
――彼の乗機だと思うだけで、酷く格好のいいものに見えてしまう自分がいた。
――――
「動かないで下さい、刹那・F・セイエイ」
「此方を見ないまま、先程彼女に渡された紙を頭上へ」
刹那「…………」スッ
361 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/08/18(金) 07:41:18.53 ID:ONyzrAD30
「……たしかに」
「…………」
刹那「……もういいのか?」
「一つだけお答えを」
「この連絡先の下にある言葉」
「【一番美味しかったのは何だった?】というのは、どのような意味でしょうか」
「ブフッ……!」
「おやめになって……クク……うふっ……!!」
刹那「そのままの意味だ、他に意味があるなら教えて欲しい」
「なっ……!」
刹那「連想できるものがあるなら提示して確認を取るべきだ」
「そ、それは……その……!」
「だ、ダメだ……もう……!!」
「ッ……ッッ」バンバン
紅龍「ッ、お嬢様、もうよろしいでしょう! 刹那・F・セイエイ、帰還を歓迎します!!」
刹那「あぁ、特に問題はない。どうやら例の事態も把握しているようだ」
紅龍「……はい、ヴェーダを介して市街監視カメラを傍受しておりました」
刹那「そこで笑いながら転がっている二人は?」
紅龍「っ……トライアングラーがどうとか言って、先程から勝手に……」
刹那「そうか。俺は部屋で休む。ガンダムでの野外監視は予定時刻で行う」
紅龍「はい……ごゆるりと……」
刹那(……筑前炊き、だったか……あれが一番良かったかもしれない)
――――
362 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/18(金) 12:54:20.28 ID:kA0zifj90
ハムとビリーの友情が眩しい
363 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/19(土) 15:30:59.53 ID:thJKqpb1o
真面目に一番美味しかった食べ物考えるせっちゃんかわいい
364 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/04(月) 01:22:52.61 ID:YpMLaDo7o
やる夫スレにも出張してるとは思わなかったぞ
365 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/10(火) 09:11:42.92 ID:kQ/oiBDzO
保守
366 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/12(木) 06:50:02.47 ID:p5zbU3hb0
絹江(何がともあれ、事態は大きく動いた)
絹江(国内体制の盤石化を待たないままの全域への干渉の容認は、間違いなく保守派の神経を逆撫でするだろう)
絹江(軍部がその一点を急いだ理由は分かるけれど、恐らくこれで彼らの決意は固まる……)
絹江(初手は、間違いない――)
――――
ハワード『隊長、この近辺で良ろしいのですね?』
グラハム「付近の地形データをリアルドに録らせているが、今日は様子見を兼ねてしばらく偵察飛行と考えている」
ダリル『起伏が思ったより多いですね。スタンドモードで待機することも考えるべきでしょうか?』
グラハム「選択肢にはなるだろう。ただでさえこの専用フラッグの燃料は浅く乏しい」
グラハム「【ガンダムとともに燃料切れの警告ともご対面】では、世間の物笑いだろうよ……」
ダリル『それでも、隊長ならやってくれそうですけれどね?』
ハワード『はは、違いない!』
グラハム「ふっ、ジョークとして受け取らせていただこう、諸君」
グラハム(さて、情勢が動くならば十中八九この地から――)
――――
ロックオン「さて、冗談はさておいて……奴さんら、予想通りの展開だな」
王留美「当然でしょう、ガンダムが現れた空域が未認可の制限区域では、彼らの出向いた意味が無くなってしまいますもの」
ロックオン「こっちはそうなったほうが楽なんだがなあ……まあ、大国の傲慢としちゃ【らしい】結論だな」
刹那「議会の決定を受けて超保守派は確実に行動に移る。総数は少ないが、アンフはMSとしての必要火力を保持する優先攻撃対象足り得る存在だ」
ロックオン「あぁ、まずはしっかり俺達の存在をアピールしてかねえとな」
刹那「戦術予報士からの連絡は?」
紅龍「二手に別れ、機動力に長けるエクシアは遊撃として北部山岳地にて待機」
紅龍「デュナメスは【最優先防護施設】の指定ポイントにて継続待機、及び事態発生時の即時収束を目標とのことです」
ロックオン「あー、成る程ね」
王留美「最優先防護対象」
刹那「――」
――――
アレハンドロ「太陽光発電受信施設、建設現場」
アレハンドロ「マイスター達は守り抜くことが出来るかな、リボンズ?」
リボンズ「……ご安心下さい、アレハンドロ様」
リボンズ「予測と対策を以ていかなる障害をも排除できる存在、そう確信した人物を」
リボンズ「我々は【雇った】のですから……」
367 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/12(木) 13:33:59.54 ID:SOCDR45d0
待ちかねたぞ、少年
368 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/12(木) 19:00:26.60 ID:p5zbU3hb0
――――
イケダ「却下だ馬鹿、大馬鹿野郎」
絹江「ですが……!」
イケダ「いいかよく聞け」
イケダ「アザディスタンの超保守派閥が何らかの手段で受信アンテナを壊しに来るってのは確かに良い着眼点だと思う」
イケダ「だがな、それを政府やユニオン軍が理解してない訳がないし、保守派だって手段を選ばないのは確かだ」
イケダ「確実にMSによる攻勢、歩兵や武装トラックの突撃だって視野に入る!」
イケダ「そんな鉄火場に単独で張り込みだと? 市街でどんな目にあったのか分かってねえのかお前は!?」
絹江「っ……でも、ガンダムも間違いなくそこに来ます!」
イケダ「そうだな! 既存MSの装甲を軍艦もろとも吹っ飛ばすような連中も来るだろうな! で、なんだ?!!」
絹江「……ナンデモナイデス……」
イケダ「ちっ……あー、いいか、絹江。俺たちの仕事はあくまで【事実を伝える】仕事だ」
イケダ「昼間あんだけ危ない目にあって怯まない姿勢は褒めてやる、けどな」
イケダ「お前が目指すべきなのは、今回の経験で【十年先、二十年先】のスクープを撮りに行くことだろう」
イケダ「言ったろ、何もしなくたって此処では死ぬ。死ぬ可能性が高いと分かってて行かせるほど俺も人は辞めてねえ」
イケダ「時代に惑わされるな、わかったか?」
絹江「……はい、申し訳ありませんでした」
スタッフ「話つきました?!! 時間無いんですよほら運んで!!!」バァンッ
絹江「ひゃいっ?!」ビクッ
イケダ「よーし行くぞ!!! 市街地のスタッフ待機のホテルに張り込む!!! 何かあったら現地速報!!!」
スタッフ「基地の許可OKです!!!」
イケダ「出発!!! 【頭飛んでも映像飛ばすな!】復唱ッッ」
「「「【頭飛んでも映像飛ばすな!】」」」
絹江「さっきと言ってることが違う……!」
イケダ「とにかくアンテナはダメ、OK?」
絹江「……はい」
――――
369 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/13(金) 01:11:18.63 ID:XWuh+/nSo
これだけ?
370 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/13(金) 01:19:01.19 ID:TEH0LsLB0
戦場は、全員の予想通り。
この大地の希望にして憎しみの矛先、受信アンテナ建設現場。
アザディスタン政府は即時二個小隊を派遣し防衛体制を強化。
ユニオン軍も同調し、最精鋭を圏内に配備しつつ、外周にもMS部隊を配備する形でそれに応えた。
そう、【ガンダムが最も出現するポジション】として、協力を惜しまなかった。
グラハム「…………」
仮眠を終え、パイロットスーツを身に着ける。
首元までしっかと留める。
断頭台の枷とも思えるほどに、今日のそれは首を締め付け離さない。
――いよいよだ。
待ち望んでいたときがいつ来るかも分からない。今日で四日目。
間違いなく事は起こると判断しての張り込みも後何回繰り返すか。
隊員の中には遺書を書く者もいる。
遺産相続の関連を細かに考える者もいた。
誰しもが所属をたやすく変えられるほどの技能や経歴を持つわけではない。
変えようのある現在で未来に備える思考と行動を、自分は尊敬するし評価したい。
「隊長は、お書きになられないのですか?」
そう問われたこともある。
【対ガンダム調査隊】などという【これから最も死ぬ可能性が高い兵士】と表明しているような部隊にいるのだ。
少し笑ってしまったが、その懸念と心配はもっともだと思ったものだ。
答えは単純。
残す家族もいなければ、託す友人もいない。
死後の財産など気にする意味もない。
あるのはただ、今生の蒼穹への渇望ただ一つ。
『グラハム、燃料補給完了だ』
グラハム「待ちわびていた、すぐに向かう」
メットを携え、部屋を飛び出る。
此処に来た理由を忘れるな。
背負うものを違えるな。
言い聞かせながら、愛機までの道のりを踏みしめる。
……以前の自分は、果たしてこのような高揚に程遠い感情を挟む余地を残していただろうか。
その自問に答えることもなく、夜闇へと舞い上がっていった。
・
・
・
・
『隊長、始まりました!!』
グラハム「やはり来たか……!」
371 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/13(金) 04:37:00.72 ID:TEH0LsLB0
暗闇の大地にぽつり、ポツリと戦火が灯される。
点いては消える蝋燭の灯へ一直線。
受信アンテナは未だに無事、戦地急行こそユニオンのドクトリン。
……その勢いは、ロックオン可能な距離まで来て一気に削ぎ落とされた。
『この地を荒らす不信仰者共に、神の雷を!』
『くそっ! ユニオン軍の応援はまだか!!』
ハワード『た、隊長?! 味方同士でやりあってますぜ!』
ダリル『駄目だ、認識コードは統一されている! これじゃあ……!』
グラハム「ッ……!」
右から左へ、アンフが鈍足ながら右往左往し互いを狙い合う。
飛び交う無線にも
敵が、分からない。
今モニターにて交戦するアンフは全機統一のアザディスタン国防軍識別。
元々防衛体制を敷いていた状態で二個小隊が完全な混戦に陥ってしまっている。
【内通者】、その可能性への対策を、あろうことか両軍ともに対策しないままだったのだ。
グラハム(もし下手に国防軍側を撃てば、ユニオンの外交問題に発展する……)
グラハム(だがアンフの主砲はティエレンと同型の長砲身滑腔砲、アンテナ施設への砲撃は致命打になりかねない!)
下手を打てば国際問題。
何もしなくとも国際問題。
ガンダムという餌につられてがっついた代償がこれか。
高揚感に水差す心地の理由の一端を垣間見た。
だが、このまま止まる訳にはいかない。
時間がかかっても次善策で対応する。やってみせる。
グラハム「ハワード、ダリル! 無線と機体識別番号を照らし合わせて我々の部隊別認識識別番号に反映させろ!」
グラハム「敵味方識別だけでいい! 教義だ、鉄槌だと喚く輩のそれを洗い出せ!!」
グラハム「それまでは……私がスタンドモードでアンフを引きつける!」
『し、しかし隊長! 奴ら鉄人と同じ火器を!』
『危険です! 反映してからでも!』
グラハム「――フラッグにそんなものが当たるかァッ!」
一挙に、高度を下げた。
その時だった。
372 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/13(金) 05:47:49.38 ID:TEH0LsLB0
まず、レーダーへの干渉、不通。
続けて、一直線。
光の線が奔ったかと思えば、アンフが轢かれた人形のように地に転がった。
以前イナクトのお披露目の際に見た、上空への精密砲狙撃。
それが高所から次々にアンフを区別なく叩き伏せていったのだ。
グラハム「……ビーム狙撃……まさか!」
『隊長、ガンダムです!!』
目視、確認。
一度突入体勢になった機体を即座にスタンドモードへ変形しつつ、モニターに拡大図を表示する。
【盾付き】【板付き】【ガンマン】……通称は多いが、間違いない。
ガンダムだ。
強力な中距離以遠狙撃能力を持ち合わせ『隊長!!上です!!!』
グラハム「なに……ッ?!」
そんな思考の固着さえ許さない、次の展開。
それは立て続けに撃ち上げられていく四発のミサイル。
瞬間、思考を挟むこと無く体は動き。
瞬間、展開は思考を許さない速度で最悪へと転がっていく。
グラハム(これは、なんという……!)
リニアライフルの速射をありったけ叩き込む。
間に合うはずもない。
4つの光は無数の光に散り、網のような広がりのまま基地へと降り注ぐ。
ガンダムも立て続けにビームを放った。
しかし、多弾頭ミサイルの数の暴力に追いつかない。
自分の弾丸など当たったかさえ疑わしく……
――――
サーシェス「はっはぁ! BINGO!」
サーシェス「いつまでも……されるままじゃあねえんだよソレスタルなんたらぁ!!」
――――
着弾。
そして、爆発。
連日、見張っていた太陽光発電受信アンテナ施設は、一瞬で吹き飛び瓦礫の中に埋もれた。
ガンダムですら、呆然としているのが分かる。
今、この国の希望が、自分の目の前で吹き飛ばされた。
何かが 切れたような 音がした。
373 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/13(金) 06:29:22.95 ID:TEH0LsLB0
――――
『太陽光発電施設から爆発と炎上を確認! 同時に電波障害!』
『ガンダム出現! 防衛部隊に反乱者が出たとの報告確認!』
マリナ「何が起きているの……ッ?!」
シーリン「……とにかく、今は貴女の身の安全が第一よ。シェルターへ」
――――
イケダ『……はい、速報が入りました! たった今、太陽光アンテナ施設が、何者かの襲撃によって』
絹江『イケダさん……!』
イケダ『えぇっ……あー、また速報です!!』
ルイス「沙慈、沙慈! 今、一瞬だけお姉さまが映ってた!」キャッキャ
ルイス母「あら、沙慈くんに似て可愛らしいお姉さんねぇ」ウフフ
沙慈(良かった……無茶して変なことに巻き込まれたりしてなかったか)ホッ
イケダ『ゼイ―ル基地、及びカズナ基地から、MS隊が無断で発進したようです!』
イケダ『発進したMS隊は神の矛を自称し……これが真実であれば……』
イケダ『アザディスタンは事実上の内戦状態に突入する可能性も有りえます!』
沙慈「! 姉さん……!?」
ルイス「いかん、一気に空気がシリアス寄りになった」
ルイス母「ワタクシ達、浮いてないかしら」
――――
絹江「嘘でしょ……受信アンテナが壊されたら、この国への復興支援は根底から崩されるのに……!」
イケダ「ユニオン軍の兵士に金掴ませといて正解だったなぁ。どうやら防衛部隊に超保守派が混じってたらしい」
イケダ「まさかアザディスタンの内情がここまでぐらついてたとは……いよいよおしまいか?」
絹江「ガンダムも……出たって……っ!」
イケダ「あぁ、だがユニオン軍も大慌てらしい。ここまでひどいとなると、建前のアザディスタン防衛支援の方に人員を割かざるを得ないはずだ」
イケダ「……例の中尉どのはどうなってるか……」ポリポリ
絹江(グラハム……ッッ)ギュ
――――
紅龍『ガンダムエクシアは指定ポイントより南下して市街地に入り込んだゼイ―ル部隊を撃滅して下さい』
紅龍『敵機隊はアンフが五機、しかし事態の早期収束の為一刻を争います。急行を』
刹那「ミッション了解、ゼイ―ル基地の超保守派MS部隊の出撃を紛争幇助行為と断定」
刹那「ガンダムエクシア、目標を駆逐する」
『悪い、待たせた!!』
刹那「! ロックオン!」
374 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/13(金) 07:08:31.33 ID:TEH0LsLB0
ロックオン『ミサイルを撃った犯人は見つけられなかった……すぐに蜂起の通信も来ちまったからな』
ロックオン『……すまん。施設を守りきれなかった』
刹那「今は目の前の事態に対処を。デュナメスの力が必要だ」
ロックオン『おう……引き続き狙い撃つぜ!』
王留美『ロックオン、一つだけ確認を』
ロックオン『何だい』
王留美『当該空域にユニオン軍の部隊が展開していたはずですが、機体への影響は?』
『いや、無いぜ』
『そもそも俺は交戦してない。ミサイル発射後すぐにあさっての方向に飛んでいっちまった』
『ニゲタ! ニゲタ!』
刹那「…………?」
王留美『そうですか。では支障なしと判断し、カズナ基地のアンフの迎撃をお願いします』
ロックオン『了解! ガンダムデュナメス、目標を狙い撃つ!』
――――
375 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/13(金) 08:09:56.75 ID:TEH0LsLB0
荒れ地と岩肌を揺らす水素ジェットの轟音。
夜間、起伏、超低空。
条件を聞いただけでベテランですら怖気の走る超高難度の飛行を、巡航形態のイナクトはいとも容易く行っていた。
そのパイロット、アリー・アル・サーシェスは、任務達成の高揚感と共に特殊な無線を弄くる
自身の【ビジネス】の結果が、どんな阿鼻叫喚をもたらしているか。
その過程を、純粋に楽しめる精神性の持ち主であった。
「ッち……どうしようもねえ」
「せっかくのパーティーが台無しだぜ。ソレスタルなんたらがよ!」
悪態をついて無線を切る。
彼の望んでいた音楽は、神の名を謳い国を枯らす愚者の咆哮だ。
彼の望んでいた戦慄は、無垢で純粋な民衆が暴力によってその身を散らす、瀬戸際の嘆きだ。
だのに、早くも反乱軍――彼の部下が散々に焚き付けた馬鹿ども――はガンダムによって半数が殲滅。
このまま長引く気配さえ無いままに、この喜劇は幕を閉じようとしているのだ。
彼自身が出ていけば、国防軍を殲滅しクーデターの幇助も可能だったかもしれない。
事実、十二機のMSをヘリオン単騎で撃滅した経歴もあるほどだ。
しかしそれは出来ない。
彼は影だ。
姑息に、卑怯に、醜悪に。
何もかもを台無しにするのがお仕事なのだから。
「まあ、いい」
なので、今回はここまで。
彼は決して深追いはしない。
彼が受けた仕事は【アザディスタンの内戦の誘発】という、奇妙なもの。
理由も相手の素性も知らないが、大金が出るとなればやらない理由が無い。
そのためのプロセスを踏めばいい。
まだ、手札は残っている。
【この国の心の支え】という、鬼札が。
「もうこの国はおしまいだ」
機体が予定ラインを通過する。
蜂起させたMSの対処で、監視網は大幅に狭まっている。
勿論織り込み済みでルートを構築している。
そう、先のアンテナ破壊も、「どのガンダムが迎撃に出ても絶対に仕留めきれない」ようにと武器とタイミングを図ったのだから。
「ユニオンはガンダムを追ってこっちに手が回らねえ」
「終わってみれば楽なもんだ」
「国一つ荒らし尽くすなんてなぁ……ハハハハッ!!」
少々の無理をして機首を上げる。
此処で高度を上げれば、夜明けまでには索敵網を気にせず潜伏地域に辿り着けるだろう。
彼は深入りをしない。
無用な戦いは仕掛けない。
余計な危険も犯さない。
誰かが、深入りさえしてこなければ。
「ッ!?」
376 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/13(金) 08:28:41.09 ID:TEH0LsLB0
アラートから回避行動に移行するまで、およそ一秒もなかった。
その反応速度をもってしても、それは、機体のすぐ横を掠めるほどの距離まで迫っていた。
蒼い、リニアライフルの光弾。
間違いなく彼を狙って撃ち込まれた一撃だった。
「何だぁ?!」
青天の霹靂。
続けて数発の弾丸が機体目掛けて飛来する。
加速、続けて減速、機体のバランスだけはぶれさせない機動が狙いをことごとく避けてみせる。
「チィッ!!」
予定の大幅な修正の予感、そして、自分の落ち度への舌打ち。
拡大モニターに機影を捉える。
夜明けはまだ遠い、そんな暗闇でも確かに存在を主張する光沢の漆黒。
最新鋭機、ユニオンフラッグ。
そのカスタマイズバージョン、たった一機の最精鋭が、一直線に。
グラハム「見つけたぁあああああああッッ!!!」
アリー・アル・サーシェスの、この紛争の元凶の元へ、牙を剥き襲い掛かってきたのだった。
――――
377 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/13(金) 08:29:17.35 ID:TEH0LsLB0
ちょい一休み
今日また更新して進めたい
378 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/10/13(金) 09:07:47.31 ID:G8arBofkO
【速報】対ガンダム隊隊長、ガンダムとの交戦放棄
死ぬ可能性の高いところには人は送らない
死ぬ場所には人は送る
矛盾しないな!
379 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/13(金) 10:01:49.76 ID:PhV7BdJz0
いいね
380 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/13(金) 11:00:30.46 ID:ix2YBGKU0
空気を読むグラハムがこれほどまでに恐ろしいとは
381 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/13(金) 14:11:52.63 ID:mUTCDjgUO
やはりそうきたか
382 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/13(金) 14:59:20.45 ID:0g7PduMAO
やばい!この展開は熱い!
383 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/14(土) 01:05:24.38 ID:4wxOcFMo0
『た、隊長?! ガンダムが……あっ!』
『隊長! 隊長ー!!』
部下たちの声が、遠退いていく。
追っては来れても、追随などままなるまい。
自覚はある。全くもって愚かな行為だ。
それでも、フラッグは止まらない。
一直線に想定ルートへと【先回り】をする。
本来ガンダムが逃走経路として取り得るであろうと推測し、リアルドに調査させた飛行経路の出口へだ。
決して逃さない。
報いは、必ず受けさせてやる。
・
・
・
・
交錯。
発砲。
加速、旋回、また発砲。
イナクトとフラッグのドッグファイト、その道の人間が知ったなら歴史的な一戦として記録されるであろう対決が、異国の空で繰り広げられていた。
互い違いに背後を取ろうと急旋回を繰り返し、あわや激突のすれすれを紙一重で縫い続ける帳の決闘。
逃げるイナクト、追うフラッグ。
それはかつて空の覇者を争った本機達の、名残の戦いのようでもあった。
グラハム「ぬぅぅっ……!」
サーシェス「しつけェんだよ……ッ!」
イナクトは小さく左右に曲がり、追随するフラッグがバランスを取った瞬間、大きく曲がって距離を取り背後を奪う。
専用フラッグは一挙に加速し大きく旋回、起伏利用や宙返りなどでそれを無理矢理に振り切り元へと戻す。
お互い背後からの精密射撃をギリギリで避けつつの攻防。
一瞬、一発で決まる神経の削り合いを【イナクトが】仕掛けていた。
グラハム(対ガンダム用に出力を増強した大型ジェットで捉えきれん……!?)
グラハム(いや、違う。逆だ、一撃離脱戦術を取らせぬ運動性重視の攻勢に、此方が巻き込まれている!)
グラハム(こいつは相当な手練……相応の機体まで用意されたプロフェッショナル!)
サーシェス(なんつう馬鹿みてえな加速力だ……このイナクトだってリミッター外して軽くしてるっつうのによ)
サーシェス(あれが例のガンダム用のチューンナップ仕様か。頭おかしいんじゃねえのか、ユニオンの技術者は!)
384 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/14(土) 01:38:02.60 ID:A4iAqi6x0
教授、褒められてますよw
385 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/14(土) 03:32:02.76 ID:4wxOcFMo0
また、機体が大きく交差する。
僅かなブレに差し込むようにまたイナクトが回り込む。
グラハムの舌打ち。
サーシェスが初めて笑みを浮かべる。
明らかに細やかな機動性はイナクトの方が上回っていた。
それを補って余りあるパワーが、強引にフラッグのイニシアチヴを確立させる。
確かな技量の差、明確な性能差、それがどれほどの厚みかはまだ不明瞭であっても。
【敵パイロットの方が巧い】という感覚は、グラハムにとって久しく無かったちりつきで。
【敵機の方が強い】という感覚は、サーシェスにとってそう珍しからぬざわつきであった。
グラハム(とかくこのままでは埒が明かん! 速度の優位こそ、このフラッグの独壇場なれば!)
サーシェス(距離離されたらこっちがマズイ、だがそろそろ山がなくなってひらけちまえば奴さん速度を上げるに決まってる……!)
グラハム「仕掛け時か……だが……!」
サーシェス「いいねぇ……この感じ、たまらねえぜ!!」
一瞬の並び、拮抗が思考の猶予を生む。
グラハムが一挙に加速し、閉所を抜けんとした瞬間だった。
グラハム「?!」
サーシェス「そぉら!!」
ロックオンアラート無しの、イナクトからのミサイル発射。
誘導しないまま突き進むそれを回避した、そのとき思考が追いつく。
グラハム(しまった、これは……!)
機体を抜けて幾ばくの猶予無く、機体を大きく右へと傾ける。
その瞬間、ミサイルが爆発。
爆炎と衝撃に、徹底軽量の専用フラッグは大きく揺さぶられ、破片の嵐に晒された。
グラハム「ッッ……!」
時限信管。
本来目標を見失った際の自爆用途で用いられる補助信管を、マニュアル起動で設定し直した即席トラップ。
サーシェスはほんの一瞬の拮抗で設定し、かの機体の加速まで計算して撃ち込んできたのだ。
衝撃と急制動、爆炎に視界を奪われ激しく揺らされるコクピット。
スーツに固定された身体が軋む音が聞こえてきそうなほどのGが肌を締め上げる。
そして、バランスを乱したフラッグより低高度。
イナクトは高度を落とすことで加速をつけ、下から突き上げるようにフラッグを狙う。
まるで水面の獲物を狙うサメの如き戦闘機動。
砲身は、無防備なフラッグの横腹へ狙いを定めた。
386 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/14(土) 04:16:23.25 ID:4wxOcFMo0
サーシェス「これでお陀仏ァ!!」
力強く、引き金を引く。
加速とともに高度を上げる、身体が歓喜の悲鳴を上げる。
その勢いのままに放たれたリニアライフルの一射。
惚れ惚れするような軌跡のまま、吸い込まれるようにフラッグへ向かい……
すり抜けた。
サーシェス「……あ?」
そして、アラート音が耳を劈いた。
反応は後方。
消えたのではない、高速戦闘の中で確かに彼はその有様を目撃した。
傾きを直し、狙いをつけられたまま、それは【変形】したのだ。
一瞬で、下半身を展開し、四肢を投げ出し、大気を掴んだ。
その急激な抵抗変化と、後押しするジェットの微調整で跳ね上がり急減速。
イナクトの急襲を回避した上で、スタンドモードへと空中変形を成し遂げた!
これぞ、人呼んで!
グラハム「人呼んで……グラハム・スペシャルッ!!!」
サーシェス「ん、だとぉっ?!」
チャージされた高初速のリニア・シェルがイナクトを狙い撃つ。
高度を上げれば速度は下がる。
必殺のタイミングを回避すべく、半ば墜落めいた捻りをつけてイナクトは落下し、その一撃を辛くも回避してみせる。
グラハム「これを避けるかッ、だが!!」
サーシェス「この野郎……ッ!?」
明らかな無茶に機体は錐揉み状態で高度を下げていく。
瞬く間にその状態は安定へと戻っていくも、追撃の手に対処など出来るはずもない。
一射、右を過ぎる。
二射、左を掠めた。
三射目の照準が、揺れるイナクトの上部を確かに捉える。
グラハム「覚悟ッ!!」
。
この紛争への終止符を、今。
決着の確信。引き金を、引く。
387 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/14(土) 04:32:28.94 ID:4wxOcFMo0
ちょっと休憩
明日また、必ず
388 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/14(土) 04:35:32.93 ID:6NgiXKGm0
さっすが主人公
389 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/14(土) 05:24:28.07 ID:7BYB/J2H0
グラハム格好いい
390 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/10/14(土) 08:28:26.70 ID:Zd1LCDIXO
頭おかしいや変態は必ずしも罵倒の意味で使われるとは限らない
ただし頭のおかしい仮面の変態は罵倒の言葉ですのでお間違い無きよう
391 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/14(土) 10:21:16.09 ID:lKkL3t2AO
乙です。
大分前に最初の辺読んだきりだったから今一気に読んだ、多少……多少?の改変もあるとはいえこうして別の視点から見るとまた違った印象とかも出来るな……。
一期をレンタルで観ただけだからもっかい借りて来て観るかな二期と纏めて。
392 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/14(土) 12:18:44.33 ID:Lmr9ua0u0
身持ちが固いなあ。ガン、、、イナクト!
393 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/14(土) 12:47:02.60 ID:HfFArx7/o
グラハム最高!
394 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/15(日) 03:43:11.74 ID:m6HAmtDp0
――それは、同時に起きた。
グラハム「?!」
小さな警告モニターの点滅が、揺さぶられた視界の端に映り込む。
《Bingo!Bingo!》
機械音声が鳴る。
これは、【燃料残量の不足】を知らせる警報。
【燃料の限界値】を通過し、危険域に入った為に起きた緊急アラートだ。
このユニオンフラッグカスタムは、フラッグの倍の速度さえ生み出せる出力の代わりに、ありとあらゆるものを犠牲にしている。
特に燃料を遥かに多く使う高出力フライトユニットと、燃料の搭載量さえ減らし軽量化している重ね技で【警告から限界点までの猶予が非常に狭い】。
しかして対ガンダム戦が一瞬のみ、現行機で耐えられたことは殆ど無い。
然り。あのイナクトは、先回りの消費を加味しても、このフラッグにそこまで食い下がって見せていた。
その一瞬の、よそ見。意識をそらされた瞬間。
グラハムは己の不覚を思い知る。
足元にいた蒼影が、驚くべき安定感で機首のリニアライフルをこちらに向け、【止まって】いたからだ。
グラハム「なっ……!?」
サーシェス「隙きありッてなァ!!」
曲芸飛行のような精緻極まる反転砲撃。
機体以前の問題だ。このイナクト、一体どれ程の怪物が駆っているというのだ。
グラハムの背筋に悪寒が走る。
とっさにリニアを下げ、ロッドの回転で防御態勢を取る。
またしても牙を剥くライフル弾。
一発一発、弾き返す度に散る火花に目を細める。
この期に及んで、燃料の配分をグラハムは脳裏から外しきれなかった。
敢えて敗因を指し示すならば、それだろう。
その逡巡を、確かにサーシェスは見切っていた。
故の、一手。
グラハム「――な」
サーシェス「は――!」
サーシェスは、そこから一気に【踏み込んだ】。
そう。
イナクトは、そのまま、一直線に、フラッグ目掛けて突っ込んだのだ。
395 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/15(日) 04:19:56.00 ID:m6HAmtDp0
グラハム「ッ――!」
構えた、そして、放った。
最大チャージの、ティエレンさえ真っ向から貫徹する一撃。
それを、イナクトははっきりと見て避けた。
機首が上がる。
如何な大出力を誇るフライトユニットとて、加速の出発点が違えば効果を出しきれず。
交錯。
確かに狙った。
惑いを抜かれた。
フラッグの頭部を、正面カメラアイを強かに叩きつける、すれ違いざまのイナクトの翼。
琥珀色のバイザーを粉々に打ち砕かれながら、衝撃と視界途絶によろめく巨体は。
あざ笑うかのようにバレルロールを見せつけ離脱する蒼い機影を見上げながら、ゆっくりと。
血塗られた信仰の大地へと、墜ちていった。
サーシェス「悪くなかったぜ兄ちゃん、ユニオンの狗にここまで肝を冷やされたのは……【二度目】か」
サーシェス「あばよ、次はガンダムのケツを追ってくんな! 狗らしく吠えながらな……ハハハハハハハッ!!」
・
・
・
・
その日、乾いた大地に二人の男の慟哭が響き渡った。
一人は、救えなかった幼き骸の前で、望んだ存在になどなれなかった自分へ失望し、呻いた。
一人は、己が矜持さえ曲げ立ち向かった邪悪に真っ向から打ち破られ、天を仰ぎ吠えた。
雨が降る。
血を流し、嘆く民を包み込むような、優しい雨だった。
女が見上げる。
彼は今、何処にいるのだろうと空を見つめた。
まだ、戦いは終わらない。
だが、終わりは確かに近づいていた。
・
・
・
・
「ふむ、そろそろかな」
「老骨の骨身など惜しんでも仕方あるまいさ、さて……」
「安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)の真似事など、いつぶりかのう? くっくっく……」
396 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/15(日) 04:23:48.97 ID:m6HAmtDp0
グラハム、黒星。
木曜日か金曜日にまた更新を。
397 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/15(日) 05:52:46.47 ID:fDsG/7Nz0
サーシェス退場はないと思ってたが完全に負けるとはな
398 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/10/15(日) 07:52:43.12 ID:4eSHB5hJO
カスタムフラッグの強い点 加速力、攻撃力
カスタムフラッグの弱い点 それ以外
399 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/15(日) 08:28:06.12 ID:juQg4r050
乙です。
疑似太陽炉積むまでは持久戦は厳しいもんなぁ……
400 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/15(日) 10:18:02.10 ID:12OxJcK90
これカスタムフラッグの弱点突かれたんじゃなくて、サーシェスがヤバすぎてグラハムでも手こずってたら僅かなとこから逆転を許したって感じで、中身の強さで結果が出たみたいな話っぽい?
頭おかしいでしょグラハムスペシャル中の逆転劇から一瞬で更に逆転してるって・・・さすが一期最強の一人
401 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/15(日) 10:27:04.01 ID:ScI0AOSJ0
サーシェスって初めて乗ったガンダムで他ガンダムを圧倒したし、パイロットの腕だけなら1期最強だと思う。
402 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/15(日) 11:26:21.79 ID:lvCuz5Aa0
示威目的ゆえに間合いの違いはあれど4機とも真っ向から敵を粉砕する作りのガンダムを相手にするために無理を積み重ねてカスタムしたフラッグじゃ高いレベルで中庸な機体と戦闘するのに適正では無いしなあ
乗り手の性格的にも相性は最悪に悪い
403 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/15(日) 18:08:54.56 ID:kuuUNaJIO
>>401
そのサーシェスにトランザム使った後にデュナメスで近接戦闘して片目で圧倒したロックオンとかいう化け物
ダリル特攻がなければ勝ってたろう。特攻で初めて片目見えてないことに気づかれたぐらいだし
404 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/15(日) 19:59:22.60 ID:CgM/oq6Go
ニールはがちで最強だろ
狙撃だけでなく実は近距離もいけるという
405 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/15(日) 20:51:53.20 ID:tYsSaJYho
>>401
トリニティー長男は元々グラハムに腕斬られる力量な上
アリー戦はガンダム乗る前に腹に銃弾撃ち込まれて瀕死状態で戦ってるから
406 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/17(火) 23:19:05.81 ID:AlFUse/Y0
まあ、サーシェスって伸びしろがないから二期だと相対的に弱体化するし。
悪い意味で変わらない存在だったが故に、最後に至っては接近戦で、格闘武器のないライルを倒せないという体たらく。
407 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/18(水) 14:23:30.96 ID:V06X0COM0
2期は体の半分は消し炭だけど、肉体は再生医療で再生したとして、
パイロット能力に影響はあったりするんだろうか?
408 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/10/18(水) 20:55:13.02 ID:tiDGmJpUO
>>405
アインお兄ちゃんを名有りモブみたいに言うなw
>>407
現代レベルの技術で考えれば反射神経やトラウマが完全回復するはずが無い
義肢はそれを自分の肉体と感じられない限り拒絶反応が出るし機械義肢は心理的に自分の体にはなり得ないから絶対に100%の回復はあり得ないと聞いたことがある
あとsageろ
409 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/21(土) 02:09:03.27 ID:Fw50dqIC0
土曜
410 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/21(土) 03:17:24.20 ID:25zoZOnS0
――市街地――
シャッター音が耳の奥を揺らす。
両断された土色の装甲は、汚れと傷でフラッシュさえまともに弾かない。
暗く、重い、残骸から滲む理想の残滓と無念の現実。
反乱軍のアンフ、ガンダムによって蹴散らされたそれを十数枚の画像データに収め終わると、何も言わずその場を去った。
イケダ「どうだ?」
絹江「はい、全体的にアングルを決めて被写体が収まるようにやってみたつもりです」
イケダ「よし、いいぞ。こういうことは現地でねえと学べないからな」
絹江「有難うございます、教えていただける時間も取っていただいて……」
恩返しみたいなもんだ、と笑う彼に、此方ははにかむしかなく。
撤収準備を終えた別行動報道陣と分かれて後、基地までの道のりを揺られ揺られて帰っていく。
自分もそこそこしぶといと思っていたのだが、流石に海外特派員とそのチームは筋金入りだ。
早くも戦場と化していた街から得た画像や情報を精査し、吟味している。
眠気なんかに負けている場合じゃないな、と思いつつ、身をシートに投げ出す。
肩が、少し震えている。
思い出したんだ。
あの惨状……ラ・イデンラによる眼の前での爆弾テロの光景を。
そして、そこにはなかった、もっと大きな恐怖を。
「大丈夫? クロスロードさん」
絹江「はい、少し……以前のことを思い出しちゃって」
「無理しないで寝ときな。イケダさんはもう爆睡してるし」
「休まないと次に差し支えるよ。切り替えは大事さ、だろ?」
絹江「っ、はい」
アンフの装甲、そしてその奥の金属の機器達、フレーム、人。
皆、諸共に断ち切って破壊し尽くす、一切両断の暴威。
ガンダム。
そのあまりの破壊力を目の当たりにして、自分は今震えている。
411 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/21(土) 03:48:46.18 ID:25zoZOnS0
ただ破壊するだけなら、こうも恐れてはいないだろう。
――綺麗だったんだ、本当に。
鏡面のような光沢のある、斬られた断面。
あまりに少ない周りの被害。
転がる残骸の数々を仕留めたとされる、経過時間。
その全てが、美しかった。
仕事としては完璧な、発生即殲滅の繰り返し。
そして、そんな別次元の性能のものとやり合う為に此処へ来た、彼らの存在。
――勝てるのか、本当に。
あまりにありふれた疑問が骨身を凍えさせる。
彼は無事だろうか。
ガンダムは、もう一体いたらしい。
戦えたのだろうか。戦ってしまったのだろうか。
死んでしまっては、いないか。
言葉にしようもない悪寒が皮膚の下を這うようで、気持ち悪い。
ゲート前を通過して、荷物を各々担ぎ出す取材陣。
追随して抱えた荷物は、こんなに重かっただろうか。
絹江(……考えたって仕方ないこと)
絹江(例の件もある、私は私のなすべきことをするだけ)
絹江(分かってる、分かってるけど……!)
力の入らない身体を動かし、車外に出る。
目の前をせわしなく通り過ぎていく兵士、整備員、その他諸々。
当然、クーデター対処はユニオン軍も全力で対応している。
しかしその動きは慌ただしい。そう、【こうなるとは思ってなかった】という焦りが前面に出た動きだった。
国内情勢が荒れ、テロやデモが頻発するまでは想定内だったのだろう。
しかし軍部が割れて攻勢に出るなどと、そのような終わりの始まりにいきなり発展するとまでは思っていなかった。
故に初動も慌ただしくなった。
もしガンダムが鎮圧をしていなかったら、早期の解決は困難を極めたはずだ。
組織的なガンダムとの交戦を意図して避けたフシがある、とはイケダさんの言だ。
この戦い、これからどう転ぶんだろうか。
本当に、疑念ばかりが――
「イケダさあん!!」
イケダ「おん? 待機組か、一体どうし……」
「さっき輸送機が着陸して……搬送されてきたんですよ」
「聞いたら、例の専用フラッグ、撃墜されたって!!」
絹江「 え 」
412 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/21(土) 05:00:17.45 ID:25zoZOnS0
――一気に、音が遠のいた。
「絹江! 待て、おい……絹江ッ!」
――荷物を投げ捨て、全力で走る。
――まさか、まさか……まさか……!
「あ、おい、君……!」
――MSドック、さっき搬送されてきた、まさか、あぁ、まさか!
――酷く寒い。走っているのに、汗が出てるのに、こんなにも暑いのに……!
「運んでくれ、すぐに交換を」
「ひどいな、頭部ジョイントがぐちゃぐちゃだ」
――呼吸が止まる。
――思考が固まる。
――目の前を、黒いフラッグの頭が ゆっくり 運ばれてっ て
「絹江、しっかりしろ! おい!」
「あ、待って、誰か倒れて……ストレッチャー!!」
――――
――会議室――
「……とにかく、だ」
「君はガンダムを前にして敵前逃亡をし、あまつさえその対ガンダム用カスタマイズされたフラッグで」
「イナクト相手に敗北を喫した事実は変わらない、そうだね!?」
「グラハム・エーカー中尉!」
グラハム「はっ、その通りでございます。閣下」
基地に集まっていた将官級、勢揃い。
自身を中心に据えての、さながら簡易の軍法会議といったところか。
咎める姿勢の基地司令の言に、何一つ言い返さずに肯定を返す。
しかし、司令含め数名、佐官階級含めて十数名、続けての指摘も無く唸るばかりであった。
413 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/21(土) 05:33:29.23 ID:25zoZOnS0
「しかし司令、これは由々しき事態でありました」
「彼の追撃と交戦で、【第三勢力の介入】は白日のもとに晒されました」
「もしこの交戦がない場合、我々は敵への的も絞れず……」
「ッ! 我々の敵はガンダム、ソレスタルビーイングだ! 【第四勢力】の存在など今は……!」
「お言葉ながら閣下、このフラッグの映像記録からも分かる通り、犯行勢力はただのテロリストではありません!」
「左様、現行の武装勢力でイナクトを改良した上で、中尉ほどのエースと渡り合える組織など非常に限られます。皆無に近い」
「これほどの操縦をこなす存在に加えガンダムもまだ健在です。中尉への責任追及は一時保留にしては如何でしょうか」
「これがもしAEUの仕組んだ、アザディスタンを利用した罠であった場合、生じる世論への悪影響は計り知れません」
「此処は撤退も視野に入れねば……アザディスタンと共倒れする必要などありません」
「それは性急だ、始めてしまった派兵を一方的に切り上げるなどそれこそ世論が!」
「だが見ただろう! 市街地テロでは、我らの手が及ぶ範囲は……!」
「軍隊にまで超保守派がいる以上、怖くて共同戦線など張れやしない」
「忌々しい中東の弱国め。ガンダム鹵獲まで保てばいい。当初の目的を」
「そもそもガンダムを鹵獲できなければ派兵の意義自体が」
「ラフマディの見つければ事が足りる、まずはそこで……」
「はっ、捜索協力を奴らがしてくれんのに、どうやって探せと言うんだ!」
グラハム(…………)
混乱そのものには、一理があった。
しかし、その上での意思統一が出来ていない。
それは、この派兵自体に元から良い感情を抱かないもの、体面を気にするもの、ただガンダムを欲するもの。
それらが混在した状態で【予想外の事態】に地盤を揺るがされたからに他ならない。
グラハム(どうあれ、私の責任だ)
グラハム(その場でガンダムに仕掛けるか、追った上で勝てば良かったのだ)
グラハム(私の、責任だ)
グラハム(なぜ、私はあの時……ガンダムに向かわなかった?)
グラハム(あの時……燃えるアンテナ施設を見て……)
グラハム(それから……)
「もういい、グラハム・エーカー中尉!」
グラハム「! はっ、閣下」
「君への処分は保留とする。継続して対ガンダム調査隊の責務を全うせよ」
「忘れるな、君の任務はガンダムの鹵獲だ」
「個人の感傷で、国家の利益をないがしろにすることは許されん。分かったな?」
グラハム「……はっ、グラハム・エーカー中尉、作戦行動に戻ります」
グラハム(……何故、私は、奴を追ったんだ……?)
414 :
◆AvaUNpQJck
[saga]:2017/10/21(土) 05:34:29.99 ID:25zoZOnS0
また今夜、必ず。
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/21(土) 09:52:09.93 ID:5+wooVBMO
乙
グラハムさんアウトローへの第一歩を踏み出したか
416 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/21(土) 14:30:26.25 ID:52iEGcw/0
兵士としては失策だけど戦士としては満点の判断だったよグラハム
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