【ガンダム00】沙慈「僕の義兄はフラッグファイター」

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217 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 06:51:33.60 ID:9H/9bfXg0
エイフマン「現場は……どうだ」

ビリー『死者38名、重軽傷者数は70人は下りません』

ビリー『酷い有様です。目も当てられない、ここだけまるで戦場だ』


エイフマン「……神よ、どうか御霊を安らかに、御身の下で受け入れたまえ」スッ

ホーマー「ビリー、グラハムはどうした」

ビリー『陣頭で基地の作業班と消防隊の連携を指揮した後、治療のため病院に向かいました』

ホーマー「あいつめ、何をやっている……」

ビリー『あはは、不思議とみんな従ってましてね、結果的にはスムーズに進みましたよ』

エイフマン「あやつらしいと言えばらしいかな、ユニオンの大尉だしのう」

ビリー『打撲と裂傷で血まみれのまま、オートマトン借りて重傷者の治療も兼ねてやってましたからね。戻るのはしばらくは……あぁ、いや』

ホーマー「あぁ、しばらく休めと伝えろ。此方で手続きは済ませておいてやる」

エイフマン「まあ、無駄じゃろうて」

ホーマー「でしょうが、ね」

ビリー『クロスロード女史は気絶して同じ病院に搬送されたそうです、グラハムが後で送迎するって』

エイフマン「ほれ、入院する気がないぞ、あやつ」

ホーマー「……はぁ〜……」

エイフマン「何がともあれご苦労だった、整備は引き継いでおく故、戻ってきたらゆっくり休むといい」

ビリー『了解です、ではまた』ピッ


エイフマン「さて……どう動く、ソレスタルビーイング?」



――――

ベシンッ

グラハム「いっ……!?」

看護師「痛くて当然! こんな傷、今の今まで放置して!」ガミガミ

グラハム「…………」
218 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/26(土) 07:09:25.53 ID:9H/9bfXg0
今日は此処までで
金曜日前に一回、そして金曜日にまた。

再来週はもしかしたら厳しいかも。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/26(土) 09:18:37.59 ID:t09SyVFXO

無茶をする、というと二人とももう一人ほどじゃないと返しそう
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/26(土) 20:16:15.53 ID:fUV5Q5BA0
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/26(土) 21:11:21.06 ID:tqB762Xt0
キャプテン・ユニオン??????
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/27(日) 02:56:25.23 ID:MM9MVQUQo
盾は置いていけ、父さんが作った盾だ!

いやぁサーシェスがそんな殊勝な事言うとは到底思えんなあ。
223 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/11/30(水) 12:38:13.12 ID:De6Dw/k10
申し訳ない、厳しいのは今週でした。
再来週にまとめて一気に投稿致します。
224 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/03(土) 04:58:46.53 ID:L9MABg3m0
うっわ、すいません>>217のエイフマンの「大尉」はミスです。ごめんなさい。
無視していただくしかありません、反省いたします。
225 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 03:35:29.17 ID:RH91ZoO/0
エイフマン「あやつらしいと言えばらしいかな、どこぞで活躍した星条旗の英雄どののようだのう」

ホーマー「階級が一つばかり足りないようですが、ね」


としておけば……大丈夫でしょう。
ネタでしくじるなど言語道断ですね……申し訳ないです。

では続きを。
226 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 03:56:13.04 ID:RH91ZoO/0

――市内病院――

医師「傷の縫合と打撲部の治療は完了いたしました」

医師「特殊生体縫合糸と部分薬液注射、即席培養皮膚組織移植に体液滞留型シートも使いましたから、傷は全く残りません、保証いたしますよ」

グラハム「感謝いたします、ドクター」

医師「仕事ですから。もう少し早く来ていただけたなら、痛い思いもさせずに済んだのですが?」

グラハム「お手数をおかけしたことは謝罪いたします、ですが、私も職務を全うしたまでです」

医師「とやかくは言いません、生きてこの病院に来ていただけたなら全力を尽くすまでです」

グラハム「……ドクター、医療行為は甘んじて受けました、ですので」

医師「ん、あぁ、ジャーナリストのパートナーと二人の子供の件ですね」

グラハム「友人です。治療が先決とのことでしたので、早速」

医師「ふぅーむ……」ポリポリ

医師「彼女の方は外傷は皆無、精神面での治療は専門外ですが、足繁く通っていただければ提示できる医療は数多くあります」

医師「催眠療法、VR、長期睡眠夢想療法……ええ、【貴方が多く活用している】これらのものでもすぐに手配できましょう」

グラハム「はは……軍の取り決めです、私自身は……」

医師「ええ、ええ。一定期間の長期軍務に従事した者への法律的義務、滞りなく受けていただけているようで何よりです」

医師「ですが前例……すっぽかしの前科がありますゆえ、一応ね。はい」ppp

グラハム(ぬう……先ほどの看護師といい、軍に近い病院は妙に熟れていてやりにくいことこの上ない)

グラハム(二年ほどだまくらかしたくらいで酷い言われようだ……!)


医師「子どもたちの件ですが、一時間ほど前に手術室にて処置を終え、病室でお休みになられています」

グラハム「手術の必要性が……?」

医師「……ええ、まあ……発見が遅れていれば相応には」

グラハム「!!」
227 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 04:12:35.80 ID:RH91ZoO/0
医師「腹部強打による内蔵出血だそうです。搬送中に車両の検査機器が発見し、到着と同時に施術を」

医師「ふたりとも検査段階で発見が遅れていたら……という程度には危険だったようです」

グラハム「ッ……」

医師「今では完全に安定し、個室でゆっくりと休んでおられます。無論、関係者以外にはご内密に」シー

グラハム「は……ですが申し訳ない」

グラハム「私はかの子らとはなんら無関係で……」

医師「ですが、その子供らを発見してくださった女性とはご友人なのでしょう?」

グラハム「あ……」

医師「……生きてここに来てくだされれば、力も尽くせます」

医師「手足がなくなっても、内臓が欠けても、人らしい生活への助けを今の医療なら提示できるのです」

医師「ですが、たどり着くまでに亡くなられた場合、我らにも、悼むことしか出来ません」

医師「ご友人に、医師一同、御礼を言っていたとお伝え下さい。彼女が繋がねば、幼い命は人知れず散っていただろうと」ペコリ

グラハム「……確かに、承りました」


 ・
 ・
 ・

《犯行声明文は以下のとおりです》


グラハム「……」


「さっきモールの手前のバス停でテロがあったって!」

「怖いねえ……ソレスタル何とかってのが何かしたのかい?」



《……私設武装組織ソレスタルビーイングによる武力介入の即時中止、及び武装解除が行われるまで、我々は報復活動を続けることとなる》

《これは悪ではない》

《我々は人々の代弁者であり、武力で世界を抑えつける者達に反抗する正義の使徒である》


グラハム「よくもそのような詭弁を……ッ!!」

グラハム「……くっ……」
228 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 04:30:23.10 ID:RH91ZoO/0
――病室――

絹江「……ん……?」

グラハム「! 起きられましたか、絹江さん」

絹江「――――」ボー

グラハム「あ、こほん……此処は病院で、君は搬送された。もう安心だ」

グラハム「外傷は問題ないそうだから……!」


絹江「――!」ガバッ

グラハム「ま――!!」


ガシッ


絹江「離して、まだ――っ!!」

グラハム「ま、止まって……ッチ、あぁもう……!」

絹江「――!!」ジタバタ


グワシッ


グラハム「私を見ろ、絹江!!!」

絹江「っ?!」

グラハム「もう終わった、終わったんだ! 救えたものは救った! もういない!!」

グラハム「もう、探さなくても、いい……ッ!」

絹江「……終わっ……た?」

グラハム「そうだ、終わった……!」

絹江「……あ……あ、あ」


「わああぁぁぁ…………っっ!!」


グラハム「……」ギュゥ

229 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 04:42:01.45 ID:RH91ZoO/0



 ・
 ・
 ・


絹江「……ごめんなさい、迷惑かけちゃって」

グラハム「何も問題ありません。落ち着きましたか?」ギュー

絹江「はい、おかげさまで……ありがとうございました」

グラハム「なんの。むしろあの状況でよくぞあそこまで耐えられました」ギュー

グラハム「胸を張って欲しい。貴女にはぜひとも伝えなくてはならないことがあるのです」ギュゥゥ


絹江「っ……えっと、あの……っ」

グラハム「? なにか?」ギュー


絹江「は……離してもらえると……嬉しいなぁって……あ、はは」ジュゥゥ

グラハム「……失敬」パッ

絹江「っ……」ササ



――病室外――


看護士「チッ……」

看護師「チッ……」

看護士「……どうしましょう」

看護師「違うとこ先回るわよ、患者さんは大勢いるんだから」

看護士「うっす」


――――

230 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 05:05:09.39 ID:RH91ZoO/0


絹江「そうですか、あの子達は無事に……」

グラハム「少なくとも、瓦礫とご老人の下で守られていた二人を発見するのは至難の業であったと私は思います」

グラハム「貴女が恐怖と戦った価値はあった。無論、その行為だけでも賞賛されるべきことではありますが」

絹江「でも、土壇場で倒れていたんじゃあ……ね」

グラハム「その後を私が引き継いだのです、貴女から託されたのだと私は奮い立ちましたが?」

絹江「むう……」

グラハム「何より、結果が伴った以上、卑下はかえって失礼に当たりましょう」

グラハム「彼らを救った老紳士から貴女に、貴女から私に……救急隊員、医師と繋がった、それで良いのでは?」

絹江「ふふ……駄目ね。何を言っても褒められちゃいそう」

グラハム「言っているでしょう? 賞賛されるべきだと」

絹江「はいはい……謹んでお受けいたします、と」


絹江「それにしても、ついに現れましたね」

グラハム「国際テロネットワーク……独自の情報網と上位存在による命令系統を持たない、国家なき軍隊」

グラハム「脳から神経に伝わるような従来の方針ではない、言うなれば昆虫の神経節のような存在」

絹江「ソレスタル・ビーイングを目標とみなして……自らの力ではなく、国家の威信と存在意義を揺さぶることで攻勢に出た」

グラハム「黙っている訳にはいかない、しかし打つ手があればそも早急に、早々に打っているのも事実」

絹江「実質、隠れ潜む彼らが見つけられるならガンダムに苦しんでいる道理もない……」

グラハム「厄介極まりないが、奴らは大きな失敗をしました」

絹江「それは……?」


グラハム「ガンダムでもない輩が、今回は三国を同時に、明確に敵に回したのです」

グラハム「見誤っているといっていい。奴らは、世界を舐めた」



231 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 05:27:33.73 ID:RH91ZoO/0

オモイハ- セキバクノヨゾラ-ニ- マイアガリー

絹江「!」

グラハム「む」


絹江「私の携帯……あぁそっか、そういえば沙慈とかにも連絡……」ガサゴソ

絹江「……あれ、あれれ……?」ガサガサ

絹江「ベッドの下とかに落としたのかな……すいません、グラハムさ」


グラハム「はい、こちら絹江・クロスロードの携帯です」ピッ

絹江「なにやってんですかあんたぁぁぁぁぁああ?!!!」


グラハム「何って、無論、貴女がお休みになっている間の応対を」キリッ

絹江「何であなたがそれをやるのって……ちょ、まさかデスクとかから来てないですよね?!」


グラハム「ご安心下さい、しっかりと対応しお休みを勝ち取っておきました」ニッコリ

絹江「何を言ったあああああ?!!」


グラハム「む、失礼、電話のお相手が先ほどから無言だ。もしもし?」

絹江「返してくださいってば、ちょっと……!!」


『……で……!』

グラハム「ん?」


沙慈『なんで姉さんの携帯にお前が出るんだッッッ!!!』キィーン


絹江「沙慈?!!」

グラハム「……絹江さん」


グラハム「いつの間にか彼の私に対する対応が劣悪化しているのですが、私は何かいたしましたでしょうか……?」オマエッテ…

絹江「しない!! フォロー不可!!」パシッ



――――

232 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 05:40:21.29 ID:RH91ZoO/0
デスク「絹江ー、連絡まだかー」

グラハム『お久しぶりですデスク。グラハム・エーカーです』

デスク「えっ」

グラハム『いつぞやは大変失礼いたしました、この場をお借りしてお詫びを』

デスク「あぁいえ、ご丁寧にどうも……」

グラハム『彼女ですが、現在(テロに巻き込まれたため病院に搬送されていて)私の隣(の医療ベッド)で(点滴など投与され)おやすみ中でありますゆえ、ご用件などあれば伝言としてお承り致しますが』

デスク「え……」

グラハム『……どうかなされましたか』

ですく「あっはい、なんでもないですごめんなさい」

グラハム『そうですか? 彼女は昏倒こそ致しましたが、要件であればしっかりと私が……』

デスク「(昏倒?!) あ、いえ、彼女には休暇も与えますから仕事は気にせずしっかり休めとお伝え下さい」

グラハム『左様でありますか、委細承知いたしました』

デスク「ええと、お大事にと」

グラハム『確かに』

ピッ


デスク「……これだから欧米の男ってのは……」


同僚「どうしたんスかー」ズズー




233 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/10(土) 05:40:56.33 ID:RH91ZoO/0
今日はここまで

また金曜日に
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 08:00:57.03 ID:kSiQvCI90
これは みんな ひどい w
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 09:02:07.29 ID:Qt8K/bnkO
>>232

デスクがですくになってる

236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 09:33:21.35 ID:RwoTcnAAO
仕事人間がイキナリ金髪アメリカンに落とされたんだ
ひらがなネームにもなろうよ
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 19:43:55.90 ID:Yd4RWjyDO
ですく

(・_・)

な顔してそう
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 20:02:06.34 ID:7F4K+1Doo
小学生並の感想しか出なかったからね
しょうがないね
239 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 03:28:11.79 ID:df44zdVk0


――――

絹江「……ねえ、本当に大丈夫なの……?」

沙慈『学校は臨時休業、病院に行くような怪我もない。姉さんのほうがよっぽど酷いよ』

沙慈『お休み貰ったんでしょ? だったら休んでよ……もし無理して倒れたら、そっちに飛んでいってやるからね!』

絹江「ふふっ、それは困るわね。勉強放り出されたらたまったもんじゃないもの」

沙慈『へー、別の意味じゃなくって』

絹江「……さーじー?」


沙慈『それで、ご理解はいただけましたか? ミス・絹江?』

絹江「近くに本人いるんだから、そういうことしないの……もう」

絹江「はいはい、了解いたしました! こっちで一日休んでから、そっちに戻るわ」

絹江「何かあったら連絡はして。宅配代はいつもの冷蔵庫の横、それと極力自習もすること。あと……」

沙慈『はいはい……了解いたしました! いつもの延長だよ姉さん。こっちは心配しないで』

沙慈『帰ったら、改めて話をしてよ。今回ばかりは、結構……考えさせられた』

絹江「……そう、私もよ……」


沙慈『そうだ、姉さん』

絹江「ん、まだ何かあった? なに?」


沙慈『グラハムさんに、代わってほしいんだ』

絹江「……え?」


――――

240 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 03:51:19.33 ID:df44zdVk0


――室外・廊下――

絹江「えっと……それじゃあ、お願いします」

グラハム「ええ、お預かりします」

グラハム「終わり次第そちらにお返しします、どうぞ、お休み下さい」

絹江「……沙慈……分かってるわね?」

『……』



グラハム「さて、君から私に話すこととは、恐縮の至りだな」

『……お久しぶりです、先ほどは……申し訳ありませんでした』

グラハム「構わない。君に対し好感を持ってもらえる行いは絶無」

グラハム「そしてファーストコンタクトの所業を思い返しても、君に軽蔑される要素は片手には余る」

グラハム「済まないね、沙慈君。君の姉上を私事で連れ回した、これは報いかも知れん」


『それは、言わないであげて下さい』

『姉は最近良く笑います。貴方のことだけじゃなく、エイフマン教授とか、色々なことで』

『貴方が、悪いと思って姉と関わったりすると……その、同情とか、人に気を遣われたりとか、駄目な人だから……』

『えっと……姉の友人関係にまで、口とか出す気はないので、余計っていうか、あの……』

グラハム「ふふ……理解した。彼女には今まで通り、友人としての距離と関係で接していくとしよう」

『……はい、すいません……口下手で』

グラハム「なに、同じユニオンとは言えテロの災禍に巻き込まれた兄弟同士、彼女の心痛と同じ重みを君は感じているだろう」

グラハム「想いの大きさがときに唇を重くすることもある。そのような関係……羨望を抱くよ、沙慈・クロスロード」


『重ね重ね、申し訳ありません……』

グラハム「敢えて言おう、気にするな、と」

グラハム「私も他者に誇れる見栄を持っているわけではない。誤解だと憤慨するには外界への努力が足らない男と自覚もしている」

グラハム「気まずさに拳を握ろうと、その場で謝罪しようと試みる君の誠実さ……それを知れたことで報いと思って欲しい」

『え?! あ、あの……見えてました? 僕の手って……』

グラハム「男にしかわからん共感のようなものだ、私にも経験がある」

『っ……』

グラハム「――そうやって紅潮するさまは、姉上にそっくりだ。実に奥ゆかしい」

『……それ、どういう意味です……?!』

グラハム「? そのままの意味だ、額面通りに受け取ってくれ」
241 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 04:11:22.85 ID:df44zdVk0

『……エーカー中尉』

グラハム「何かね」

『姉を、絹江を助けていただきありがとうございました』

『貴方が助けてくれたから、痣一つなく済んだんだって、姉が言っていました』

『僕にとっては、たったひとりの家族なんです。本当に、ありがとうございました』

グラハム「――その一言を聞けただけでも、彼女を助けた甲斐があったというものだ」

グラハム「身を挺して牙無き市民の身命と財産を護る……久々に軍人の本懐を全うした心地だよ」

グラハム「護れてよかった。そして……護れなかった命もあった。せめて一つ、零さずに救えたのは幸運だった」

『……戦争に、なるんですか』

グラハム「ならんさ。国家が国家に相対した政治の一手段が戦争だ」

グラハム「奴らは国家ではない。政治も解さない。ただの害虫だ、必ず掃滅する」

グラハム「それが我々フラッグファイターの使命なのだから」

『…………』


グラハム「君には、変わらぬ日常を過ごしていてもらいたい」

グラハム「テロに遭遇した以上、すぐには難しいかもしれないが……それが絹江さんの望みであると私も確信している」

グラハム「そのために私は……」


グラハム「……?」



『中尉?』

グラハム「!」

グラハム「……あぁ、いや……そうだな、奴らの正体は三国も総出で捜索しているだろう」

グラハム「すぐに沈静化しよう、そうなる努力は惜しまんさ」

『……はい、待ってます』

グラハム「警戒だけはしておいてくれ……っと、これでは先ほどの言葉とは矛盾するかな」

『いえ、普段通りに、少し気を張るだけにしておきますから』

グラハム「柔軟な対応、感謝するよ」
242 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 04:27:36.10 ID:df44zdVk0


『それじゃあ、姉にはよく休むように言っておいて下さい』

グラハム「ああ、教授には私からも感謝の意を伝えておこう」

『失礼しま……え……?』

グラハム「ん?」

『どうして、エイフマン教授が僕に連絡したって知ってるんですか?』

グラハム「男の勘だ。教授が私に伝えていたというオチはないよ」

グラハム(もっとも、デスクにはテロの詳細を伝えていたか自分でも怪しいところだからな……)

『……わかんない人……』

グラハム「ふふ、そうでなくては姉上には釣り合うまい?」

『……明言は避けます。じゃあ、いずれまた』

『改めて、ありがとうございました。中尉』


プツッ


グラハム「……そのために…………?」


グラハム「そのために、私は……飛ぼうとしたのか、今?」


グラハム「自分のことだけを考えて、自分のためだけに飛んでいた、その私が、建前にも他者のために?」


グラハム「いや、あれは……建前ではなく……」


グラハム「っ、気の迷いか……飛ぶ前に払拭しておかねば、な……」


――――


絹江「あ、戻ってきた」

グラハム「端末は無事ですよ、ご心配なく」

絹江「人間関係の方は?」

グラハム「ふふ……崩壊寸前を上手く補強出来たと自負します」

絹江「そう? まあいいわ、嘘じゃなさそうだし」
243 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 05:06:20.57 ID:df44zdVk0


グラハム「…………」

絹江「何かあった? なんだか落ち着き無いけど」

グラハム「いえ、私事です。彼との会話は得るものしかなかったと言っていい」

絹江「そんな大層なこと言える子じゃあないけれど……あなたがそう言うなら、そうなのかも」

グラハム「男子三日会わざれば刮目して見よ、帰宅すれば一皮むけた弟君に会えましょう」

グラハム「携帯です、ありがとう――」




――――


絹江「――――」

グラハム「……絹江、さん?」


 差し出された右手の携帯端末。
 それに交差して、自然と左手が彼の顔に差し出されていた。
 視線は、彼の右こめかみの包帯とガーゼから。
 痛々しく擦り切れた右頬、唇へと。
 どれを見ても、胸の奥で何かが刃を滑らせる。

 私のせいで、ついた傷だと。

 罪悪感が、鼓動とともに痛みを流す。


グラハム「……男の勲章だ、ますますいい男になってしまった」

絹江「ごめんなさい、私のせいで――!」

グラハム「言わないでくれ、そんなことを言わせるために……」

グラハム「そんな顔をさせるために、君を助けたんじゃあない」


 少し屈んだ彼の顔に、そっと彼の手が私の手のひらを導いた。
 触り心地のいい包帯の感触と、熱いくらいの体温。
 まだ少し震えるままで、少し撫でるように動かしてみる。
 意外そうに目を丸くした彼は、すぐにいつも見ないような柔らかい笑顔を見せてくれた。


絹江「っ……うふ、なに、その顔……」

グラハム「師の教えさ。笑って欲しいときはまず自分が笑え……久しく忘れていたことだったが」

グラハム「君たちといると、新しいこと以上に過去から思い出す気がする。大切なことを、ずっと前に教わったことを」

絹江「その人は素敵な人ね……私にも分かる」

グラハム「ああ、本当に素晴らしい人だった」

グラハム「教えを乞うた側が偏屈では意味も薄かったろうに……根気強く教えてくれたよ、【最期】まで」


 そう言った彼の笑顔は、ひどく寂しそうだった。
 私は知っている、その人の名前を。
 言っていい、聞いていい名前ではないことも、知っていた。
244 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 05:27:35.27 ID:df44zdVk0



絹江「……ありがとう、グラハム。あなたのおかげでこうして笑ってられる」

グラハム「謹んで受け取ろう、絹江。こうして君の笑顔が見られた、代金はそれで構わない」


 言うべきことを告げると、刃は朽ちて、胸の中で人知れず散っていった。
 釣られて笑う。
 彼も笑う。
 その日はそれで終わり。
 彼は帰路について、見知らぬ天井を見上げての一夜となった。


一つだけ、気になった。
 その人の名前を、話したことを、教わったことを……いずれ、私に教えてくれることはあるのだろうか、と。

 一つだけ、また、気になった。
 そんな権利なんて無いと、どこかで分かっているはずなのに。

 ――いつか、教えてくれる日が来るのではないかと。期待する自分がそこにいると、いうことに。

 
 一つ、分からなかったことだと、後で分かった。

 そう思った意味、その感情の名前。

 今、この瞬間に、芽吹いたものなのだと。


――――


――全世界を巻き込んで、天上人に闘争を引き起こした国際テロネットワーク。

――少数の無差別テロ、三百年以上も続く不動の手段を用いて凶行を繰り返す彼らに、三大国であっても足取りの捕捉は困難を極めた。

――そうして、世界はあることに気づいた。気づいてしまった。


――唯一、法も国境も無く、情報のみを頼りに動くことが出来る存在に。

――彼らの敗因は、たったひとつ。

――世界にとって、彼らはソレスタル・ビーイング以上に【無用】の存在だったことである。


――――


――東海岸・空母――

ダリル「聞きましたか、隊長。ガンダムが南米に出たって……」

グラハム「認識はしている。だが出撃命令は出ていなかった」

グラハム「つまりはそういうことだ。恐らく例の害虫どもの巣があったのだろう」

ハワード「ラ・イデンラ……ですか」

グラハム「害虫には高尚に過ぎる名だ、呼ぶ価値もない」

ダリル「同感です、隊長」

ハワード「なるほど、だから今回【尻尾が掴めた】わけですか」

グラハム「巣から追い出されて焦っているということだろう。慈悲など無い、職務をこなすまでのこと」


ハワード「ガンダムは、来ますかね?」

グラハム「今回ばかりは……出逢いたくはないな、機ではない」


 ・
 ・
 ・
 ・
245 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/17(土) 06:22:40.22 ID:df44zdVk0
寝てました
今日はここまで
また明日。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/17(土) 07:44:56.33 ID:X/Stbb0mO
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/17(土) 16:05:41.41 ID:kgzUSINxO
おつおつ
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/17(土) 23:26:29.29 ID:JXnuR+Q60
やはり軍人のグラハムはカッコいいな
ブシドー?知らない人ですね
249 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/18(日) 05:11:14.90 ID:Zkz/GkR90

――マーシャル諸島、陸上第一拠点。

――跡形もなく壊滅したその場所で、途方に暮れるテロリストを襲撃したのは人革連の無慈悲な大規模掃討部隊。

――抵抗した者はその場で鉄と火によって、降伏した者は後に荒縄を以て大衆の面前でその罪を裁かれた。



――アフリカ西部海域、海上第二拠点。

――その影響下にあったアフリカの小拠点群は、艦船から引き上げられたデータを元に尽く磨り潰された。

――最大効率の電撃戦、見事な戦術予測を駆使したAEU・MS部隊の強襲を防ぐ手だてなど、彼らはもとより持ち合わせてはいなかった。



――そして南米、山岳第三拠点。

――彼らは集結の後、ガンダムを恐れ部隊を分けること無く動かした。

――それゆえに筒抜けとなった動向は直ちにユニオン軍に伝達。

――彼らを迎えたのは、ガンダムとの遭遇戦を想定した、まさかの最精鋭。

――MSWAD・フラッグファイターであった。



250 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/18(日) 06:02:34.19 ID:Zkz/GkR90

――南米・密林地帯――

 鬱蒼と覆い茂る熱帯雨林の上空、高度を維持しつつ偵察機の示した目標ポイントへと急ぐ。
 天候は絶好のフライト日和。
 当初懸念されていた悪天候にも見舞われず、信心浅い自分でも天啓にうたれた心地になるというものだ。

 偵察機による哨戒網はしばし監視を続け、状況の確定を判断した後出撃命令を下していた。
 電波妨害、確認できず。
 その一報にため息を漏らす自分と、胸をなでおろす己を胸中に見た。


『隊長、目標を確認』

グラハム「こちらでも視認した。予定通りポイント到着と同時に急襲をかける」
 
『制圧はお任せいたします、露払いは我々が!』

グラハム「その旨を良しとする。一気呵成に畳み掛ける、続けよ!」

『『了解!』』


 レーダーに感、サブモニターを拡大する。
 ヘリオン二機、アンフ三機。他車両数台、歩兵数十名。
 縦列で鈍重極まる死の行軍を続けていた。
 目指す場所があるわけでもない遠征、されど眺めたままで済ませる慈悲などもう残ってはいない。
 僚機が指定ポイント到着を告げる。
 作戦行動、開始。

 操縦桿のセーフティロックを解除。
 火器管制システムの正常動作を確認。
 リニアガンのメインチャージ開始。

 大きく、息を吸う。
 吐く間も惜しみ、一気に機体を急降下させた。

 
 拡大モニターの敵が、こちらを見上げたのを確認。
 解除と同時にミサイルのロックをヘリオンに合わせ、僚機と同時に発射した。
 即座に反応したヘリオンが飛び退き、射角の足りぬアンフがもたもたと列を乱し逃げ惑う。
 自身のミサイルは出遅れたヘリオンの上体を吹き飛ばし、僚機のものはアンフを木々より高々吹き飛ばした後、爆発四散させてみせた。

 アンフ自体は北米において輸入鹵獲実験機体以外の軍用登録がされていない希少機体である。
 南米にはユニオン加盟以前から使用されていたものがまだあると聞いていたが、出来の悪い花火が末路では笑い話にもなるまい。
 その劣化フレアの残煙を起点に旋回、機体をMSモードへと変形させた。
 残り、二機。微動だにしないアンフに、動きのマシなヘリオン。
 それと僚機の砲弾に逃げ惑うその他大勢。
 既に制圧用の部隊はこちらに向けて移動している最中。
 余計な手間は省くのが上策。
 そして何より……

 こればかりは、自分の手でケリをつけておきたいことだった。
251 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/18(日) 06:38:00.45 ID:Zkz/GkR90


グラハム「こちらは米軍第一航空戦術飛行隊である」

グラハム「武器を捨てて投降せよ。諸君らの身柄は国際法……」


 ここまで言葉を繋げて、すぐに機体を大きく左に傾けた。
 ヘリオンのリニアライフルが有無を言わさず火を噴き、返答の代替としたからだ。
 アンフの滑空砲が動いたのを確認し、パイロットの生存と機体の稼働を認知する。
 無論、そんなものに当たれるほど寝ぼけた操縦はしていない。
 砲弾を右、左と小刻みに動かし回避してから、通常出力の砲弾で四肢を砕き、無力化する。

 すぐ横の唯一の友軍が沈黙したのを見て、腹が据わったのだろうか。
 ヘリオンは防御ロッドを構えつつソニックナイフを抜き放ち、吶喊を敢行した。
 ジェット噴射と飛び上がりを併用しての陸戦挙動。
 相応の心得を思わせる戦術が、まっすぐ自分の命を狙ってくる。

 突っ切ってきたヘリオンの右腕が、奇声を上げるナイフを胴体めがけ延ばす。
 それを右回りに回転しつつ、プラズマソードの抜刀に合わせて横をすり抜けかわした。
 すれ違いざま、がら空きの腹を焼き切る光線の刃。
 幾ばくかの抵抗を操縦桿で感じ取りながらも、交錯は一瞬。
 Eカーボンを溶断されたヘリオンが二等分され、密林の湿った大地に倒れ伏した。


『お見事です、中尉』

グラハム「改めて思うが、ただの弱い者いじめだな。感慨も湧かん」

『連中には相応しい結末というやつです。市民を狙って上前をはねようなどと!』

グラハム「制圧部隊の到着を待ってから帰投する。周囲の警戒を怠るな」

『現れませんでしたね、ガンダムは』

グラハム「残飯には目もくれぬということだろう。肥えた舌の持ち主ということだ」

グラハム「まあ……おかげで一応の面目は立っただろうが。おっと」


 不穏な動きを見せたトラックの荷台の乗組員に、銃口を向け威嚇。
 飛び上がり両手を挙げた連中の手から対地ロケットが転げ落ちる。
 馬鹿馬鹿しい、と、自然に声を出していた。
 

 この一戦以降、正式にユニオンは声明を発表。
 ラ・イデンラによるテロ行為の沈静化、そしてソレスタル・ビーイングに対する国家としての方針。
 【自国領内での介入行為にのみ防衛行動を取る】という、対決回避の姿勢を見せたのだった。

 何れにせよ、彼らとの対決は遠のくばかり。
 ガンダムと一度も対峙していない対ガンダム部隊、そう揶揄されても何も言い返せない状況は暫く続くといえるだろう。
 しかし、何故だろう。
 こうしている間にも、その時が刻一刻と迫っているような気がしてならなかった。

 まるで、運命に導かれているかのような、赤い糸の手繰る感触を。
 感じずにはいられなかったのだ。


――――


252 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2016/12/18(日) 06:48:14.90 ID:Zkz/GkR90
一応対峙だけはしてるけど逃げられてる対ガンダム部隊。
今日はここまで
年内にはアザディスタン入りしたいがどうか……

ではまた
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/18(日) 14:58:59.20 ID:zk5eRor6o
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/25(日) 22:53:13.03 ID:41lxTgKk0
更新待っとるぞ〜
255 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/10(火) 10:53:27.64 ID:r9XeeAwj0
あけましておめでとうございます
年末年始の地獄からようやく人心地ついた頃合い、いかがお過ごしでしょうか。

今週金曜日からまた再開いたしたく思います。
よろしければまた見てやって下さい。
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/10(火) 12:10:36.25 ID:oHw56coUO
あんたのssを待ってたんだよ!
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/10(火) 12:26:32.34 ID:mbn+pA4G0
待ちわびたぞっ!少年!
258 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:47:19.61 ID:9HfvohLM0
おはようございます。では再開をば
今更ながらこのSSの設定はフィクションです。本編と合致しない点、創作、多々あります。
適度に突っ込んでいただければ幸いです
259 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:48:34.87 ID:9HfvohLM0

――――

「――私だ」

『例の件についての調査報告が挙がった』

「! お前たちか……で、どうだった?」

『あぁ、クロだったよ。君の言うとおり、あの【ご老人】は我々の計画の本流へ指先を触れさせつつある』

『言われねば気付けなかったかも知れん。彼の観察眼は触れてすらいない粒子の片鱗に既に届いていると言っていい』

「やはりか……老骨と侮るなと呈し続けた甲斐があったというものだ」

「テラオカノフなんぞとの比肩に終わる器ではない。このまま放置すれば間違いなく核心に触れてくるぞ」

『ふむ……君の彼への見解は実に的確だ、その案は多少の無茶を通しても実行に移す必要があるだろう』

『だが、こちらの手を煩わせずとも、君の距離ならある程度聞き出せたのではないかな?』

「怠惰の恨み節は勘弁被る」

『ッチ……こちらの手札ではヴェーダの情報開示にも制限がある』

『同じ【監視者】なら分かっているはずだが、思慮が及ばないかね?』

「ふん……尚の事分かっているだろう。あの老人は私を警戒こそすれ信用などしておらん」

「下手に嗅ぎ回ってみろ。逆にガードを固められるのがおちというものだ」

『しかし……』

「甘く見るな。あれの眼はかつてのイオリアの腹心、E・A・レイに及ぶだけのものがある」

「鬼札がある以上、それを使って確実に尻尾を掴んでおかねばならん。それだけの相手だということだ」

『…………』

「実働部隊編成における招聘・勧誘の段階で名前が挙がったとき、声を嗄らして反対したのもゆえあってのこと」

『覚えているとも。あの偏執狂(パトリオット)を御せる手綱がない以上は……』

「あぁ」


「我らが唯一の汚点……忌まわしい【島国の鼠】の再来になる、とな」
260 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:51:37.75 ID:9HfvohLM0

『はは……監視者の全会一致否決決定を食らったただ一人の存在が、ユニオン関係者というのは、誰も彼も……』

「自虐かね」

『そう取ってもらって結構。では、伝えるべきは伝えた』

「うむ」

「人革連の襲撃は」

『退けた。だが大荒れだ』

「鹵獲者が?」

『辛うじて脱出はした、が……【ナドレ】の存在と【キュリオスの対GNフィールド装備】の露呈がね』

「……だから言ったのだ、不完全な改造兵士と身元一切不明の若造に任せるなどと……」

『【彼】を準備できなかった君の言うことかね?』

「あのご老人とも繋がり深い男だ、どだい無理だったのだよ、あれはな」

『今度の彼は、期待できるんだろう?』


「くく……飛ぶことしか能がない獣だ。期待はしておいてくれ。直に飼い慣らすさ」



――――


――MSドック――



ビリー「聞いたかい、グラハム。例の宇宙の一件」

グラハム「あぁ。人革連がソレスタルビーイングへ大規模報復行動に出たという、あれか?」

ビリー「現場には二十機以上のティエレンの残骸とおびただしい数の通信装置が散らばっていたらしい。デブリ回収業者がこぞってゴールドラッシュの再現に走っているそうだよ」

グラハム「なるほど……あの粒子の通信遮断能力を逆手に、大規模広範囲かつ短距離の通信領域を構築」

ビリー「その遮断範囲をもとに彼らの居場所を特定、宇宙型ティエレンにより強襲を仕掛けたと、そういうわけだね」

グラハム「我々の予算では厳しい作戦だな」

ビリー「止めよう、この話……金勘定は心が荒むよ」

グラハム「同感だ、友よ」


『一番機の模擬弾補充まだかー!!』

『撃ってねえっすよ一番機!』

『はぁ?! 模擬戦してたろ!!』

『だぁから撃ってねえっすってば!!』

『???』
261 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:53:18.08 ID:9HfvohLM0

グラハム「勝利宣言がない以上大失敗に終わったというところか……空恐ろしい、相手があの【宇宙の青鬼】だと言うのにな」

ビリー「フラッグが出来るまで、宇宙戦闘であれと対峙できるMSはどこにも存在しなかったからねえ」ハハハ

グラハム「重量による反応速度や移動範囲の制限が無い宇宙では、機動力の優位性が軽減する」

グラハム「地上でさえ頑強さと攻撃力で並び立つ奴らに、宇宙用ヘリオンやリアルドで対抗できるわけもないのは道理だが……」

ビリー「例の新型リニアライフル、オービットパッケージのフラッグに搭載が決定しているそうだよ」

グラハム「妥当だな。もし宇宙でやりあう場合、あの貫通力がないとフラッグとて打つ手に欠ける」

ビリー「もっとも、宇宙でやりあう想定も少ない現状、そうそう数は増えないだろうけど」

グラハム「荒事を抱えていないというのはいいことだ。フラッグの数が少ないということ、即ちユニオンの治世が二国に勝る言外の証明と言えよう」

ビリー「君らしいお褒めと、素直に受け取っておこうかな」



――日本――


『ワイワイキャッキャッ』

沙慈『……というわけなんだ……』

絹江「ふうーん」

沙慈『……姉さん……?』

絹江「そのまま連れて帰ってもらったら?」

ルイス『お姉さまひどぉい?! アメリカ汲んだりまで応援に行った義妹を見捨てるんですか!?』

沙慈『はい?!』

絹江「だぁれが義妹じゃ!! 第一私が知らないうちに食材は減ってるわお菓子と茶葉が減ってるわ、何かあったとは思ってたけど……!」

絹江「沙慈、お姉ちゃん流石にガールフレンドの母親まで連れ込んでいいとは言ってないからね!」

沙慈『連れ込んでなーいっっ!!』

ルイス『大丈夫! さっき胃袋は掴んでおきました!』グッ

絹江「何が大丈夫!?」

同僚「絹江さ〜ん、出ていきましたよ、連中」

絹江「! すぐ行く!」

絹江「もう……失礼だけはないようにね。粗相も!」

沙慈『……は〜い……』


ピッ


絹江「ふう……」
262 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:54:36.70 ID:9HfvohLM0

同僚「弟さんっすか?」クチャクチャ

絹江「うん。でも大丈夫、あの子はしっかりしてるから」

同僚「なら結構。これからしょっぴかれても平気っすね」プー

後輩「えぇ!? やっぱりそういう案件なんですかこれ?!」

同僚「そりゃあね、ユニオン安全保障局(NSA)のケツ追っかけて取材でしょ? 連中に目ぇつけられたらどうなるかってねえ」パァン

後輩「ひぇぇ……せ、先輩……今からでもUターンってのは……」

絹江「……車は?」

同僚「ドローンで確認済み。大通りの方曲がってった」パチンッ


絹江「よし――行くわよ!!」


同僚「んむ……うっす」

後輩「全然聞いてねえ……!!」

同僚「諦め給えよ後輩くん、男だろぉ」ポン

同僚「特集ボーナスに釣られた者同士、せいぜいこき使われようではないか、なー」

後輩「国に睨まれてまでやることじゃないですよぉ……」



――――


グラハム「……」ピ

ビリー「! 例のラ・イデンラに関する彼女の記事かい」

グラハム「図らずとも当事者となった者の書く記事だ、反響は大きいが、彼女はあくまで本命を追い続けるつもりのようだ」

ビリー「ソレスタルビーイング……か、200年前のセキュリティではデータの信憑性なんて毛ほども残っちゃいまいだろうに、剛毅なことだね」

グラハム「まだ追う糸口はあるようだ。彼女の眼は先を見据えている」

ビリー「……ふぅん」
263 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:57:17.65 ID:9HfvohLM0
ビリー「……随分肩入れしているようだね、君も」

グラハム「どうした、少し呼吸が乱れたぞ」ピピ

ビリー「いや、なんでも。ただ僕と君の会話で空とガンダムが介在しないのは彼女くらいのものだからね」

グラハム「ガンダムは関わっているぞ」ピッ

ビリー「そういうことじゃあ……あぁ、うん、いいよ。僕のほうが纏まらないようだ」

グラハム「改めて纏まったら聞かせてくれ、戦友に対する盟友の見解を、私も所望する」

ビリー「戦友……ね」

ビリー(はてさて……【障害】にならなければいいけれど)


グラハム「……」

「【英雄無き町】……か」



 《私が発見した前述の二児をかばっていたA氏の奥方、彼女は私が止める間もなく安楽椅子から立ち上がり、両の手を握って、微笑んだ》

 《私のダーリンは格好良かったでしょう、と。あの人は私のヒーローだったの、と。》

 《感謝の言葉とともに重ねられた思い出の端々は、掠れて、震えていたように思える》



ルイス母「A氏はメディア、ネット、内外で身を呈し子供らを救った英雄と称えられている」

ルイス母「だが……彼女の言葉から思い起こされるA氏の人物像は、おおよそテロから児童を救ったヒーローには程遠い」

沙慈「……」

ルイス母「昼は友人とカフェでチェスをたしなみ、夜は彼女の焼くパイと珈琲を読書のともに」

ルイス母「過ぎゆく時に微睡む、一人の老人の等身大の生活そのものだった」

ルイス母「毎晩、うたた寝に沈む彼の膝に毛布をかけるのは孫の日課だったそうだ」

ルイス母「軍人でもない、ましてや若い頃も文筆業で本の虫だった彼に戦うすべはなかった」

ルイス母「そんな彼を【英雄】に変え葬ったのは、誰か」


ルイス母「そんなものは、本当に彼とその家族にとって必要な肩書であっただろうか……」


沙慈「……」

ルイス母「大変だったわね、お姉さんも、あなたも」

沙慈「ありがとう、ございます」

ルイス母「もう少し、ここで読ませてもらってもよろしいかしら」

沙慈「願っても、ないことです」

ルイス母「……ありがとう」


ルイス(私の端末……)
264 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 05:59:03.56 ID:9HfvohLM0
 《ガンダムが取りだたされ、世界の目は新たな楔に向いている》

 《だが、あのようなものを生み出したのは我々が目を瞑り続けた醜悪であり、聴くことを避けてきた悪辣な悲鳴そのものである》

 《戦うべきはそれらである、と私は考えている。国際テロネットワーク、弱者の生命のビジネス循環という三百年間の汚点こそ、我らの対峙すべき悪であるはずだ》

 《ある人は囁く。ガンダムが、ソレスタルビーイングがそれを為すならば、その存在意義はあるのかも知れないと》

 《ならば私はこう叫ぼう。とんでもない、それを成すのは我々であるべきだ。繋がり、語り合い、助け合っていくべき我々が為していくことだ、と》


 《この世界に英雄は要らない。怠惰の犠牲、悪意の贄を許容し続ければ、次の百年をまた無為に重ねるだけに終わるだけだ》


グラハム「…………」ピッ


「やってくれたのう、彼女も」


グラハム「……」ニコッ

エイフマン「……」ニヤッ


エイフマン「彼女は【ソレスタルビーイングを受け入れつつ否定】しておる」

エイフマン「彼らがなそうとする目的に添いつつも、その存在自体は赦しておらん」

エイフマン「ゆえに彼らの活動を【世界の怠惰の犠牲】と称した……なるほど、らしいのう」


グラハム「彼らの存在意義を断ってしまえば、ソレスタルビーイングの存在自体が不要になる」

グラハム「確かに、テロリストを追っていたほうが勝ち目がない怪物相手に槍を向けるよりは有用でしょう。ガンダムは、民間人を攻撃しないのですから」

エイフマン「今回ユニオンとAEUの示した領域外不干渉宣言に関してはこれに近しい部分もある……が」

グラハム「これはそれ以上の狂気……日本人らしい発想だ」パシンッ

エイフマン「あぁ」


グラハム「彼女は、【国境を無くせ】と言っているのです」
265 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 06:07:17.50 ID:9HfvohLM0
 エイフマン「くっくっ……今回ソレスタルビーイングが上手くハマッていたのは、国境という境界と情報の軋轢の影響を受けない立ち位置に寄るもの」

グラハム「それすらも否定するのであれば、何としてでも避けねばならないのはこのままソレスタルビーイングが例外の機構として収まってしまうことであるが」

エイフマン「その枠を埋め、かつ彼ら無くして解決し得なかった問題を解決し続けるためには、垣根をなくし情報伝達をスムーズにすること。単純な話よな」

エイフマン「この歴史の大事件を利用しろと言外に言っておるわ、この娘は」

グラハム「紛争根絶は不可能でも、その努力をする枠組みに彼らを据えてはならない」

グラハム「その役割を今までになってきたもの達が変わらず、英雄ではなく兵士として取り組むべきと、そう述べているように感じます」

エイフマン「そういう、お前さんはどうなんじゃ」

グラハム「私、ですか?」

エイフマン「とぼけるでない、彼女の忌避する英雄そのものじゃろう、お前さんは」

エイフマン「誰も到達し得ない領域で、未知の境界にひたすら挑み続けるその様を、古来より人は英雄と称えた」

エイフマン「誰も助けられぬ果で朽ちる定めを嘲笑いもして、な」

グラハム「……私は、己が市民らに尊敬されうる人格と考えてはおりません」

グラハム「仮に誰も届かぬ空で死ぬのであれば、それは本望というものでしょう。望むべくして辿った末路です」

エイフマン「……絹江嬢には言うなよ、結果が見えておる」

グラハム「ええ……口が避けようとも口外は出来ません」


グラハム「……国境、といえば」

エイフマン「ん?」

グラハム「かつて、国家が統合され経済特区に変わってしまう兆しの折、日本人はそれを大した混乱もなく受け入れたとされます」

グラハム「結果、流入する文化の蹂躙の尽くをねじ伏せ、むしろユニオン領内に広く自文化を拡散してさえ見せた」

グラハム「驚異的なメンタルと努力です。彼らは国家を無くした代わりに、文化共有圏を国土の数十倍に拡げてみせたのですから」

エイフマン「知っとるか? タコヤキはテキサス固有のフードではなく、元々日本の文化なのだそうだ」

グラハム「……それは、初耳です……本当ですか?」

エイフマン「マジマジ、本当と書いてマジじゃ」

エイフマン「ふふ、彼女の精神性にその片鱗を見出すか?」

グラハム「……日本人は学んでいたのかもしれません。【文化と国家は同一ではなく、合一されるものでもない】と」

グラハム「故に彼女のように、それを忌避することこそ怠惰の悪習とさえ言い切ってしまうのやも」

エイフマン「一愛国者としては耳が痛い……ユニオン結成に於いても、国家を守り中心に据えたアメリカ合衆国民としては、容易くは学べんメンタルじゃ」


エイフマン「くふふ……全く、よく似たもんじゃ……」

グラハム「え?」

エイフマン「んっん、失言じゃ。忘れろい」

グラハム「……?」
266 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 06:20:04.90 ID:9HfvohLM0
エイフマン「まあ早急にはいかんだろうが、ほれ」

グラハム「む」

グラハム「……っ?!」

エイフマン「大統領直々のお呼び出しでな。明後日からしばらく人革含めて密談タイムじゃ」

グラハム「高度な政治判断にプロフェッサーの叡智が活用されると?」

エイフマン「まさか。あの戦車擬人化フェチの変態(テラオカノフ)と意見を交わす程度じゃよ」

グラハム「ふふ……お二人は相変わらずの仲のようで」

エイフマン「ワシのことを年寄りの冷や水扱いしてきおったら、リニアライフルを叩き込んでやってくれ」

グラハム「そうなったら、ロシアの荒熊との一騎打ちでしょうかね」



エイフマン「ドリームマッチは結構じゃが……【勝てるのか】?」ニヤリ

グラハム「【今ならば勝機あり】、そうお答え致しましょう」ニコリ


――――

絹江「……ありがとうございました」


パタン


同僚「んー……手がかり、なんすかね、これ」

絹江「手がかりも手がかり、重要な足取りよ」

絹江「二百年前、この松原氏の曽祖父は材料工学の権威だった」

絹江「その権威が何の前触れもなく、身辺を整理し蒸発」

絹江「これを彼らNSAが追っているのであれば間違いない」

絹江「ソレスタルビーイングは、当時の事実を辿ることでのみ真実に近づける――!」


同僚「それから、どうするんです?」

絹江「え?」

同僚「いや、ね……連中が本当にしたいこと、そしてその欺瞞を暴きたいってことは分かるんですけどね」

同僚「今、何が起きているかってとこに重点がないと、軽いんじゃないかっていうんですかね……例の記事も、簡単に言っちまうなあって、思っていたりなかったり」

絹江「……貴女のそういうとこ好きよ。忌憚ない意見ってやつ?」

同僚「どーも」

同僚「これで、特集番組は組めそうで?」

絹江「お陰様で。まだまだ裏付けは必要だけれどね」

同僚「じゃー前夜祭で焼肉行きましょ焼肉。最後のシャバの飯になるかもだし」

後輩「最後?! 最後ナンデ!?」


絹江「……今の目が足らない、か……」
267 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/14(土) 06:21:03.86 ID:9HfvohLM0
ここまで
また来週
ようやくアザディスタン
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/14(土) 08:55:58.21 ID:e3UkeF3O0
超乙

たこ焼きがテキサスのソウルフードになってるとか、ちょっとあり得そうだなw
テキサスコーンのタコヤキ味しか知らないけど
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/15(日) 01:16:26.11 ID:nNE2UGnXo
なんかグダグダになってきたな
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/16(月) 10:35:27.35 ID:kzfR4E0S0
テキサスでタコヤキってタコスと混じった結果か?
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/17(火) 18:56:11.01 ID:1wyRuMJPO
タコってついてるし似たようなもんだなきっと
272 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 09:29:37.32 ID:xXnfJEIM0


――――


 時計を、眺めていた。
 長い、長い、長針の傾きの度にため息を漏らす。
 何時間にも思える一分を積み上げて、日は昇り、傾き、朱に染まり――夜が訪れる。


「……行こうか」


 予定時刻にはまだ早く、長針の半周を待つ必要があった。
 だが、自分は我慢弱い。
 猶予という名の焦りに背を押されるまま、部屋を後にする。

 休暇を空の下で過ごす、中々にない経験だ。
 堪能させてもらおう。我が戦友よ。


――――


絹江「…………」

グラハム「…………」


絹江「……なんでもういるのよ……」ガクッ

グラハム「それはこちらの台詞だ、予定集合時間より45分も早い」

絹江「そりゃあ移動手段とかタイミングとか……まぁ、楽しみだったし、色々よ。色々」

グラハム「それは良かった。少なくとも両者ともにこの時間には意欲的らしい」

絹江「そういうことね。じゃあ、エスコートはお任せしても?」スッ

グラハム「承った、姫君。かぼちゃの馬車は裏に停めてあります、どうぞこちらへ」スッ

絹江「ふふ……よしなに」


 ・
 ・
 ・
 ・

 
273 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 09:53:38.26 ID:xXnfJEIM0


――ユニオン領内・某ホテルBAR――


絹江「…………」キョロキョロ

グラハム「予約していた者だ」

バーテンダー「照合が完了いたしました。いらっしゃいませ、Mr.エーカー」

グラハム「行こうか。窓際の席になる、高所が苦手でなければいいが」


絹江「予想はしてたけど……ほんっと全力ね……貴方」ハァ

グラハム「こういうところは得意ではなかったかな?」

絹江「いいえ、でも格好だけまともにしてきて良かったわ」

絹江「……今回は、ちゃんと自分の分は支払うからね?」

グラハム「結構。それも想定済みだ」

絹江「あら意外、すんなり引き下がったわね」

グラハム「金だけで矜持を示すほど、薄い男になったつもりはないさ」


グラハム「では、いい夜にしよう」

絹江「乾杯」


 ・ 
 ・
 ・

グラハム「例の記事を読んだ」

絹江「どうだった?」

グラハム「あの後、彼の家族に会っていたというのは初耳だった」

絹江「男性のご家族に問い合わせて、二人の子供の家族と会ってもらってた合間に、少しね」

絹江「二人を救えたのは彼の献身あってのこと、それを知ってほしかっただけだったんだけど」

絹江「付け込んだインタビューって、言われたりもしてね。要反省よね、こればっかは」

グラハム「君は正しいことをした、そう確信できる内容だった」

絹江「……ありがとう、グラハム」
274 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 10:26:38.98 ID:xXnfJEIM0

グラハム「……教授から」

絹江「ん?」

グラハム「プロフェッサー・エイフマンから、指摘を受けた」

グラハム「君の記事にある英雄不要論だが……私自身、その英雄の条件に合致しているのではないか、という指摘だ」

絹江「……」

グラハム「私は、この指摘が正鵠を射ていると思っている。少なくとも、君が意図したものに対して、だがね」

絹江「……流石は教授ね、見透かされているってわけか……」

グラハム「私自身は疑問視している」

絹江「そうね、世界のためにその身を捧げる存在……英雄をそう定義するなら、軍人をその枠にあてがうのは正しいとは言い難くもある」

グラハム「そうだな、あくまで身命を担保に給金を得る存在、そのような者も多く、私も……」

絹江「あなた達軍人は軍事力として平和と治安維持に貢献するもの」

絹江「故に法と秩序を護るものであり、かつそれらに護られるものでもある。捧げられるものではなく、そうあるべきものでもない。それが大きな違いよ」

グラハム「……興味深い答えだ」


絹江「まあ、そういった条件を無視しても……かねがねご指摘通りってところかしらね、ヒーローさん?」チン

グラハム「過大評価だ、私は自分の欲求に殉じて飛んでいる。高尚な理念も持ち合わせず、人間的な魅力にも欠落した異常者だ」チン

絹江「そういうところが、英雄らしいと言えばらしいのよね?」

グラハム「ふ、玩具を振り回して遊ぶ幼児と同格の精神構造のこの私がかね?」

絹江「でも、貴方は言ったわ。それでも、誰かを護るために、相手が何であってもその前に立つって」

グラハム「!」

絹江「貴方の言葉だからこそ信頼できるのよ。嘘が下手な、貴方だからこそ……ね」

グラハム「ッ……」グイッ

グラハム「ふぅ……褒め上戸のようだな、君は。酔いが回っていると見える」

絹江「あら、まだ駆けつけ三杯にも及ばないわ」クスクス
275 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 11:10:23.20 ID:xXnfJEIM0

絹江「……聞いたわ。人革連とユニオンの上層部が秘密裏に会合を重ねているとか」

グラハム「秘密裏とは何だったか、という気分だな」

グラハム「情報においては君のほうが精度は上だろう。間違いはあるまい」

絹江「むー……なんか知ってるわね、その口ぶり」

グラハム「仮に認知していても守秘義務がある、我が口は貝の如しだ」

絹江「知る権利!」

グラハム「ははは、部外者に口を滑らせる馬鹿はユニオンにはおらん」

絹江「だいぶブーメラン投げてない? それ」

グラハム「あぁ、既に手遅れという奴だ。だが、正確な情報はこちらにも降りては来ていない」

グラハム「仮に共同戦線ともなればこれ以上無い心強さだが……なにせ我らは自国領内以外での武力介入には介入しないと宣言してしまっている」

絹江「やるからには、相応の搦手が必要……か」


絹江「……」

グラハム「何を考えているかは分かる。肝心要の搦手がどうなるか、だろう」

絹江「可能性として一番考えられるのは、ユニオン側が他国の治安維持に乗り出すパターンね」

グラハム「世界の警察機構を自認し、国連軍とも関係深いユニオンであるからこその手段だな」

絹江「分かっているつもりなのよ、そういうの……ありきたりなものだってね」

絹江「でも……それは対象国の内情を考慮されて行われるわけじゃあない」

グラハム「熟知している」

絹江「貴方は……どう思うの?」

グラハム「……私の存在意義は、ガンダムの打倒と機体の回収にある」

グラハム「舞台を整える力もない以上、与えられた環境に異を唱えることは単なる自己否定以上の矛盾だろう」

絹江「でも……!」

グラハム「絹江」

グラハム「私は、軍人だ。命令には従う、それだけだ」
276 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 11:38:46.19 ID:xXnfJEIM0
絹江「っ……」グイ

グラハム「……」コク

絹江「……」チリンチリン

バーテンダー「お伺いいたします」

絹江「ギムレットを」

グラハム「私はマティーニを頼む」

バーテンダー「かしこまりました」


絹江「はぁ……そうね、そう……軍人だもの、貴方は」

グラハム「現実は虚構のようには行かないものさ」

絹江「その現実を知らない以上何も言えやしない、ええ、そうなのかもね……」

絹江「でもね、グラハム……私は……貴方に、自分を誇れないような戦場に立ってほしくないのよ」

絹江「素晴らしい人だって知っているし、それに……」


絹江「……それに……私は……」


グラハム「そこまでだ。これ以上は杯にばかり手が伸びてしまう」

グラハム「なに、私は十分すぎるほど報われている。このような落伍者を気にかけてくれる友人にも恵まれた」

グラハム「こうしているだけで、いいのだ。飛ばぬときにも安らげる、それだけで、いい――」

277 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 12:27:37.75 ID:xXnfJEIM0

絹江「ッ……駄目ね、私。世間知らずってのがバレバレ」

グラハム「過ぎた謙遜だ。見知った世界の広さなら、同年でも君に並びうる者はそうはおるまい」

絹江「うん、言い換える。きっと、もっと知りたいんだわ、私」

絹江「もっと知りたい……もっと見たい……もっと解りたい。だから、焦ってる」コク

グラハム「は……その様子だと何か言われたか。構うことはないよ、君はまだ若く、学ぼうという意欲も総身に滾って余りある」

グラハム「足元を疎かにして駆けずり回っても、ひとたび転げ回れば全て台無し。よくある話だろう」

絹江「……」コク

グラハム「一歩一歩、踏みしめていくべきだ。ただでさえ君の歩幅は常人の倍はあろうというのに」

絹江「……」コク


グラハム「せっかくの視野と見地まで投げ捨てて……?」


絹江「……」コク


グラハム「……絹江」

絹江「……」

グラハム「それは私のマティーニだ」

絹江「……」

グラハム「…………」


絹江「  」グラァ


 ・
 ・
 ・
 ・

グラハム「君といると、本当に飽きることがない」

絹江「……ごめんなざい……」グター

グラハム「気にするな、皮肉だ」
278 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 12:55:22.46 ID:xXnfJEIM0
――車内(グラハムのマイカー)――


グラハム「飲み方は、手慣れていると感じた」

絹江「……」

グラハム「だから、君は飲めるものだと考えた。いける口だとね」

グラハム「私も飲むときはそこそこに飲む質だ、だから……勢いもそのままに来てしまったんだが」

グラハム「いや、言い訳はいい……済まなかった。付き合わせてしまったのだな、君には……」

絹江「あなたに、ね」

グラハム「!」

絹江「電話で話してて、このお誘い受けた時、正直、舞い上がったの」

絹江「こういう経験、あんまりないから。貴方と行くところって普段行かないようなところばかりだし、それもコミコミ」

グラハム「……そうか」

絹江「でもね、いざ行こうかってなった時、何でかしらね……足がすくんじゃって」

絹江「……うん、先に、煽ってきてたの。それなりに」

グラハム「……何だ、それは……」ハハッ

絹江「気づかなかったでしょ……貴方は、一歩引いて接してくれるから」

絹江「香水強めにしなくても大丈夫って思ってたら、足元を掬われたわ……ほんと、馬鹿な話ね」

グラハム「なに、気にするな。それなりに長くいた、話もした。楽しい夜だった……気分は?」

絹江「だいじょうぶ・・・」

グラハム「休んでいてくれ、宿泊先に着いたら起こすさ」

絹江「ん……」


(まあ……)

(言いかけた言葉に……何を言いそうになってたかってことに……)

(自分で動揺して、こうなったとは、言えないわよね…………)


 ・
 ・
 ・

279 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 13:11:33.86 ID:xXnfJEIM0
――翌日・早朝――


絹江「…………」





絹江「どこ、此処?」



――マンション・グラハム宅です――


絹江「それはどうも……」

絹江「……」


絹江「……ええ……?」




280 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 13:30:11.72 ID:xXnfJEIM0
――――

同僚「ここんとこ、もうちょいわかりやすく行けないかな……表現硬いよね」

後輩「やってみます!」


PPPP


同僚「おっ……はいはい、私ですよっと」

同僚「あぁ……ええ、やっておきましたよ。いつも通りに、滞りなく」

同僚「えぇ、またタダ働き? 休暇もなくこんなこと……へいへい了解」

同僚「……は、んなわけ無いでしょう。一番知ってるくせに」


P

同僚「ったく……絹江サンはうちらに任せてどこで何やってんだか」

後輩「例の失踪者、ユニオン西海岸で一番新しい人がいるんですってよ」

同僚「口実でいちゃついてんじゃねえだろうね全く」

後輩「あっはっは、まっさかー」


――――


「おう、お前ら。準備しろ、移動を再開する」

「了解」

「ジジイはどうだ?」

「相変わらずですね、荷物の一部です。ピクリともしねえ」

「ほっときゃいいさ。肝心なのはこっからだ」

「向こうの諜報役にも指示は出しといた、内情は筒抜けだ」



サーシェス「さあ、掻き回してやるぜアザディスタン……誰も彼も死に腐る、泥沼の内戦までなぁ!!」
281 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/01/21(土) 13:32:11.88 ID:xXnfJEIM0
ここまで
アザディスタンまでいってない?なんのことだか
次は日曜日〜月曜日に一回。次金曜日。
ではまた
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/21(土) 14:41:11.55 ID:iBSk43y30
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/22(日) 07:49:05.99 ID:muF8UBlE0
カボチャの馬車って言い回しすこ
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/27(金) 19:59:30.74 ID:5KMFN7fGO
12時に魔法が解けて酔い潰れてしまったんやな
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/29(日) 10:09:38.56 ID:++HKK52Ao

ハムさん飲酒運転って思ったけど、アメリカは飲酒運転も問題ないか
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/31(火) 10:05:05.67 ID:PCBtRqAP0
子ブッシュは飲酒運転で切符切られた経験あるとマジレス
たぶん自動運転なんだろ
287 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 01:17:28.96 ID:zSFv4luf0
済まない、罵倒してください
では続きを
288 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 01:26:54.85 ID:zSFv4luf0
――――

絹江「……」

絹江(殺風景な部屋、ベッドとクローゼット、時計に鏡、目立つ小物は殆ど無し)

絹江(時間はお昼前……すごいな私、半日近く爆睡してたってわけ)

絹江(……えーーーっと)ポリポリ

絹江(ここがどこかなんて、考えられるとすれば一つだけだけど……)


絹江「……」ササッ

絹江(よし、はいてる。上着だけ、脱いでる。あ、壁に掛かってた)

絹江(まー、なんかあったとかって感じじゃないし、あの人に限ってそういうのは有り得ない訳だけど)

絹江「……なんでまた……??」

絹江「!」

絹江(……大きいベッド……きれいなシーツ)シュル

絹江「……いつもここで寝てるのかな……」


絹江「……」クン

絹江「…………」クンクン


ガチャッ


ビリー「……あれ?」

絹江「」マンマル

『どうだ、カタギリ』

ビリー「ん〜、まだ寝ているみたいだ。物音がしたかと思ったんだけれどね」

『疲労が溜まっているのだろう、そっとしておいてやってくれ』

ビリー「そうしよう、レディの寝所を覗いた不届きを自ら晒すほど僕も命知らずじゃない」


パタン


絹江(いるんならノックして……っ!!!!)


『さて、何処まで話したんだっけ』

『我が不貞の濡れ衣を晴らす途中だったと記憶しているが』

『あぁ、OK』

絹江「……」
289 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 02:27:25.99 ID:zSFv4luf0
――――

ビリー「昨晩、酒気を漂わせた君から救難連絡を受けたときは何ごとかと思ったけど」

ビリー「叔父さんも空気の読めないお人だよ、君の逢瀬の最中に呼び出しとはねぇ」

グラハム「タイミングとしては最悪だった。自動運転では法定速度以上を出さない上に、彼女のホテルは基地と正反対」コポポ

グラハム「将官殿を一時間以上待たせる度胸は私も持ち合わせていない、故の援軍、感謝するよカタギリ」カタン

ビリー「なんのこれしき、君と僕の仲だろう、盟友?」ズズ

ビリー「うーん、良いブレンドだ。相変わらずあの喫茶から買い付けているのかい、グラハム?」

グラハム「休暇中くらい真の珈琲を飲まねば、基地で頂く融かした暗黒物質をそれであると脳が誤認しかねん」

ビリー「同感だ。これが貰えただけ一晩アシを務めた甲斐があったというもんだよ」コク


――――

絹江「……」コソコソ

絹江(そういうことか……確かに夜間市街地でも30マイル出ないもんね、あれ)


『しかし、君に付き合えるとはね。想定外の酒豪のようじゃないか、クロスロード嬢は』

『お前が言うか? その顔で毎回平然としているのだからな、全く』

『いや、はっは。正直ね、君がぐったりしている彼女を抱いて車から出てきたときは、【シット、この野郎やりやがったな】って中指立てたもんだけど』

『正直も過ぎると友情破綻のきっかけになるぞ、カタギリ』

『杞憂で良かったよ、そういう輩は教授の逆鱗のお隣さんだからねえ』

『私も鉄面皮ではない。あのまま基地に向かうことの危険性と無人さは理解しているつもりだ』

『ほう?』

『ほう、じゃない。後部座席に寝かせた紅頬の絹江嬢を見られて、弁解だけでどうにか出来るはずがあるまい?』

絹江(一応そういう体面気にするだけの常識は持ち合わせてたか……)

『一応そういう体面気にするだけの常識は持ち合わせてたか……』

『思考が完全に射出されているぞ、カタギリ』


絹江(でも、深夜にホーマー・カタギリほどの大物が彼を呼び出すって……?)

――――

ビリー「それで、いよいよだけれど、どうするんだい? グラハム」

グラハム「どうもこうもあるまい。軍人である以上、職務と命令に殉じるのみ」

ビリー「その割には、司令に随分突っかかっていたみたいだけれど……」

グラハム「考慮すべき点を予め確認していたに過ぎんよ」

ビリー「そう、そこだ」

グラハム「?」

ビリー「君はいい意味で人の話を聞かない男だ。【予測不可能な事態に対処する】、その二言なしの思念に基づき無用な心配は聞く耳さえ持たない」

ビリー「その君が、作戦概要なんて【想定通りのことに固執した】から、叔父さんは怪訝な顔をしたんだよ」

グラハム「…………」

290 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 02:58:28.38 ID:zSFv4luf0
グラハム「なあ、カタギリ」

ビリー「ん?」

グラハム「気にはならないか、今回の対外派兵……」

ビリー「中東の火薬庫、火の点いた導火線付き」

ビリー「確かに君が心配するのは分かるよ。なにせ今回の一件はそもそも軍部も及び腰だったからねえ」

ビリー「政治家連中はそれに業を煮やして国連決議の支援プロジェクトまで立ち上げる始末だ。コーナー氏は何を考えているんだか……」

グラハム「問題点が保有戦力や武装勢力の範疇にない、我々が向かったところで出来ることは皆無だろうよ」

ビリー「だが、紛争になりうるなら彼らは来る」

ビリー「それこそが軍上層部の思惑じゃないのかい。数少ない火種の中で、最も集約率の高い展開が可能だ」

ビリー「僕の中の君は、喜々として作戦参加を受領するとばかり思っていたんだけれど……?」

グラハム「…………」

ビリー「まいったね、こりゃ……無自覚にも程がある」ズズ

グラハム「命令には、服従する」コポ

ビリー「ありがとう。そもそも、君らは君らの仕事をこなすだけ。命令も強制もされない、作戦範囲内での独自行動が確約されるはずだ」

ビリー「何が面白くないのかは分からなくもないけれど、集中はしておくれよフラッグファイター」





ビリー「相手は……あのガンダムなんだからね」



ガタンッ
ドタタッ


グラハム「ッ!」

ビリー「おぉ?!」


絹江「あいたた……っ」


絹江「…………あ」

グラハム「……!」

ビリー「やれやれ……」


 ・
 ・
 ・
 ・



291 :初登場 ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 03:32:11.47 ID:zSFv4luf0


――ソレスタルビーイング・エージェント機――

王留美「――という訳でしてよ」


ロックオン『おいおい、遂に来たかって感じだな』

刹那『アザディスタン……!』


王留美「そのご様子ですと、既に概要は知られていると考えてよろしいですね?」

ロックオン『あぁ。ミス・スメラギがいつも苦い顔してにらめっこしてたからな、嫌でも焼きついちまうよ』

ロックオン『アザディスタン王国……中東という往来に埋まった見えてる地雷ってな』



――アザディスタン王国。

――旧き王家を擁立し象徴に据えることで成立し、周辺の小国を外交的、もしくは武力によって統合した中東の振興国である。

――中東全体の石油輸出規制の影響、そしてそもそもの石油資源の枯渇。

――そして統合した諸国との軋轢、保守派と改革派の宗教対立、それらを起因とした国内情勢の悪化。

――今、最も火種を多く抱えている国家と、誰もが名指しするであろう、発火寸前の火薬庫であった。




紅龍「現在象徴として第一皇女・マリナ・イスマイールを擁し、政治は議会制で執り行っておりますが」

紅龍「経済支援外交で各国に飛び回らざるをえない彼女では、第一党の改革派の勇み足を留めきれず、保守派の不満は増す一方」

紅龍「それも宗教的指導者であったマスード・ラフマディ師が受け止めることで一線を越えずに済んでいましたが……」

ロックオン『そのラフマディの爺さんが、今回何者かに拉致された……か』

紅龍「おっしゃる通りです」

刹那『改革派の手の者か?』

王留美「ヴェーダの予測ではその可能性は8%を割りますわ」

ロックオン『へえ、低いな?』

王留美「改革派からすれば、保守派の不満をせき止めてくれる唯一の防波堤が彼ですもの」

ロックオン『いなくなって困るのは、好き勝手のツケを払わされる自分たちってわけか……』

王留美「ところで、スメラギ・李・ノリエガはどのような予測を?」

ロックオン『聞いて楽しいもんじゃあねえさ……なに、簡単なことでな』


ロックオン『普通に武力介入したところで紛争は終わらない……相手が【市民】であるアザディスタンではな』


刹那『っ……』
292 :初登場 ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 04:01:40.92 ID:zSFv4luf0


――後に、局地的戦略概念として語られる学問の貴重な資料として挙げられる、クルジスの紛争。

――ここでは、【少年兵】という存在がクルジス側の武装勢力で多用されたことの「効果」が注目を集めた。


――大別すれば、二つ。

――一つは、少年兵が対象問わずMSや成人兵士によって殺害されることで、その映像が「善悪の内情を飛び越えて彼らに同情的な世論が作られる」という【偶像性】によるもの。

――そしてもう一つは、彼らとの交戦による相手兵士側への強い心的ストレスと、その影響。継続的作戦構築を困難にさえさせた【倫理的攻撃性】によるものである。


――これらが重なった結果、クルジス紛争では、戦場カメラマンたちの連日に及ぶ決死の取材で集められた映像資料が、あろうことか戦争そのものを長引かせたのではないかという統計結果すら報告されていたのだ。


王留美「……これらは、正式にクルジスが併合されてからも無差別に繰り返されておりましたものね」

ロックオン『併合確定の後から蒸し返しによる混乱、国軍及び派兵国連軍のPTSD被害の保障、アザディスタン側との軋轢、問題の押し付け合い、二転三転する軍事裁判……』

ロックオン『アザディスタンの現在の情勢悪化も、初動を狂わされた足並みの乱れが少なからず影響してるって見方も多い』

王留美「この作戦を指揮した存在は……」

紅龍「っ、お嬢様」

王留美「……全く、唾棄すべき存在であると言わせていただきますわね」

刹那『…………』


王留美(殆ど資金的に猶予の無くなった戦後状態でさえ継続可能で、どう転んでも敵側に混迷をもたらしうる、安価な肉の奴隷)

王留美(この一件、【少年兵をどうやってあの短期間で大量に集めて投入できたか】が議論されるほど、運用側の手腕が【高く評価された】ものなのだけれど)

王留美(流石に口を滑らせる訳にはいきませんわね……相手が彼であれば尚更、ね)


ロックオン『まあつまり、本気で情勢が悪化した場合、【勝ち目度外視で人間が突っ込んでくる】わけで』

ロックオン『それを世間に見せちまった場合、俺達の評判が悪くなるだけじゃなく、俺達自身にも悪影響があるだろうってのがミス・スメラギの第一の懸念だ』


王留美「(今更ですわね)……第一?」


ロックオン『はは、第二の懸念は簡単だ。同じ理由で対外派兵の国連軍も人間相手にMSを出さない』


ロックオン『つまり、出て来るMSは全部、もしくは大半俺たちガンダムに襲い掛かってくるって寸法だ』

王留美「……成る程、上辺の派兵にも意味を持てる……と」

293 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 04:29:00.71 ID:zSFv4luf0


刹那『第三の懸念もあるだろう』

ロックオン『おぉ?!』

王留美「……それは?」

刹那『俺達が対外軍を攻撃して防備が手薄になった場合、もしくは国連の支援が撤退した場合』

刹那『アザディスタンが切望している太陽光発電の受信システム建設支援はテロの格好の標的となり、根本的な紛争根絶が不可能になるであろう、ということだ』

紅龍「……確かに、技術者に対するテロ行為は完璧には防げません。ましてや現地民ですら信用できなくなっては……!」

王留美「……つまり、我々が取るべき道は」


 ・大規模戦闘は避け、支援施設を防護し、市民軍への攻撃及び介入を最小限にし、国連支援が継続できる範囲での作戦行動で、この紛争を終わらせる。


ロックオン『……絶望的だな、ガンダムの出る幕かい、これは』

刹那『ガンダムでなくては出来ないことだ』

刹那『ガンダムマイスターである俺たちにしか出来ない……俺たち無くしては終わらない戦いだ』


ロックオン『いつになくやる気満々だな、刹那。そう来なくっちゃな……!』


刹那(今度こそ、俺は……ガンダムになる!)


 ・
 ・
 ・
 ・


――ユニオン・ホテル途中道路――


絹江「…………」

グラハム「…………」

絹江「…………」



グラハム「……………………」


絹江「きまずいっ……!!」クゥッ

グラハム「言葉に出ているぞ」
294 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 06:11:01.83 ID:zSFv4luf0


グラハム「……私は、自ら考えて意見をし、確認を取ったに過ぎない」

絹江「……」

グラハム「君に影響を受けたということは何一つ無い」

絹江(それはそれでジャーナリスト失格っぽいけどなあ)

グラハム「それに言動一致は揺るぎない。私は命令に背くつもりはない、軍人としての責務をまっとうするだけだ」

グラハム「……君との意見の相違に思うところがないわけではないという意味では、君の琴線に触れていてほしくもあるが」

絹江「はー……」

絹江「よりによってアザディスタン……それもガンダム目当てが丸分かりの、形骸的派兵か」

グラハム「不快か」

絹江「不毛よ。仮にガンダムを鹵獲出来ても、中東の対三国意識はますます悪化する」

絹江「自国内で面倒見なくちゃならないところに貴方達が行っても、責任転嫁されるだけ」

絹江「道化も良いところだわ、何一つ改善されない、何も解決なんかしない……馬鹿みたいじゃない……!」

グラハム「……同感だ」

絹江「なら何故……?!」


グラハム「私が、ガンダムと戦いたいからだ」


絹江「…………」ガク

絹江「ほんと……そこでユニオン軍としての使命も、対ガンダム調査隊の矜持も出さないところが……貴方らしいわ」クシャ

グラハム「もっとも強い感情を表明しただけにすぎない、他意はないさ」

グラハム「……軽蔑したか」

絹江「少し……ううん、けっこうキテるかも」

絹江「そういう人だって知ってたつもりだし、立場が他の方法を取らせてくれないことも分かってるけど」

絹江「……何か思っていて欲しいと思うこと自体、私のエゴですもの、ね。分かってるわ」


グラハム「……到着した。私はここまでだ」

グラハム「私の事情に付き合わせてしまった、無礼の埋め合わせが許されるならまた後日に」ガチャ

絹江「最初に粗相をしたのは私でしょう。気にしないで」

グラハム「手を」スッ

絹江「結構よ、車くらい一人で降りられる」

グラハム「……あぁ、済まない」




絹江「……それじゃあ」


グラハム「あぁ」





「さようなら」
295 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 06:28:26.26 ID:zSFv4luf0



――――

『儂じゃ』

「おはようございます、プロフェッサー」

「今、貴方のお時間をこの若輩者に割いていただくことは出来ますでしょうか」

『……良かろう。何じゃ?』

「アザディスタンへの、派兵が決定いたしました」

「対ガンダム調査隊も同行し、独自行動による鹵獲作戦決行が予定されております」

「私も、フラッグを駆ってガンダムと相まみえることでしょう」

『ようやく面目躍如と言ったところか。待ち望んでおった展開だろうて、なぁ?』

「……プロフェッサー・エイフマン、私は分からないのです」

『……何が、かのう?』

「あれだけ渇望しておりました。これだけ切望してきました」

「各国の精鋭がぶつかり、敗北し続けている存在への切符が、ようやく手元に転がり込んできたのです」

「ですが、歓喜は鳴りを潜め、狂喜は何処吹く風……嬉しいはずなのに、何故なのか」

「こうなったことを、何処かで喜べない……私がいる、そんな気がするのです」

「プロフェッサー、単刀直入にお答え下さい」



「このような私に、フラッグを駆る資格は、あるのでしょうか?」



――後日――


――JNN――


デスク「……絹江、今お前何つった」


絹江「…………」

後輩「っ……」ビクビク

同僚「……アチャー」

同僚(焚き付けすぎたかな……?)


デスク「もう一回言ってみろ、そうしたら特番の話は無しだ。お前を外す」

絹江「……何と言われようと、お答えできることは一つです」

後輩「せ、先輩?!」



絹江「私を、アザディスタンへ特派員として派遣してください!!」
296 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/02/18(土) 06:32:42.13 ID:zSFv4luf0
ここまで
ほんと申し訳ない

次回、金曜日までに必ず。


【アルコール耐性個人評】

絹江:趣味がおっさん。あの顔で結構強い。絡み酒

グラハム:どっちかというと蒸留酒好き。あの顔でかなり強い。笑い上戸

ビリー:その顔でユーヌ・ピュレ(高度数のアブサンメイン)とか嘘だろ?なので強い。翌日に残るタイプ

レイフ:こんなイケメン爺さんがバーで飲んでたら初恋してる乙女みたいな目でずっと見てると思う。



コーラサワー:甘いものやスッキリしたものが好き。ワク。

マネキン:あんまりお酒強くない。

セルゲイ:ビール好き。強いけど奥さんには一回も勝てなかった。



アブサン系は駆けつけに飲むには味が独特過ぎる(あれ無理、臭い)ので最後に飲むのがいいと聞くが、いきなり飲みだす辺りビリーって実はスメラギ並の酒豪なのではないかと考え出している。

アブサン 30〜60ml
グレナデンシロップ 15ml
ミネラルウォーターで満たす
ビルド/タンブラー
という感じ。誰か試して。


ではまた。
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 10:54:49.75 ID:CbP/gEVrO
乙だと言わせてもらおう
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 13:34:06.28 ID:ZzOtqjvNO
乙!
マネキンさんは確かに弱そうだ…すぐ顔が赤くなりそう
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/20(月) 09:24:17.07 ID:tBeIGjT00
せっちゃんは飲めなさそう
仮に飲んだとしたらタイプR35になりそう
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/13(月) 07:06:12.00 ID:T4lYVCyMO
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/22(水) 18:21:48.63 ID:ULFad9VR0
タイプr3t
302 : ◆AvaUNpQJck [sage]:2017/03/29(水) 04:33:15.12 ID:SkN4kyuo0
長らくお待たせいたしました。
個人的諸用に何とか今区切りがついたもので、明日深夜より再開したく思います。
303 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/03/30(木) 04:33:12.78 ID:sVF1DYSf0
ようやく帰宅。
可能な限り進めます
304 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/03/30(木) 04:42:21.15 ID:sVF1DYSf0
――アザディスタン――


 荒涼とした大地に、それは一夜にして現れた幻のように灰色を広げていた。
 地上戦力の航空輸送展開と高度な建築技術により構築された、仮設前線基地。
 世界の警察を自負するユニオン軍だからこそ可能とするの十八番、他二国に追随を許さない展開力であった。

 
「まさしくヒデヨシ・トヨトミの再来だねえ。いつ見ても惚れ惚れする陣容だよ」

「……誰だ、それは」

「古代日本のキングだよ。一夜にして城を敵陣の目の前に打ち立てたとされる築城の名人だとか」

「博識だなカタギリ。だが、あくまで燃料弾薬の補給用中継点に過ぎない、過信は禁物だ」

「合点承知、ケツまくる準備はいつも万全さ」

「それは重畳」


 興奮してまくし立てる白衣の盟友を窘めながら、今なお構築半ばの基地を歩く。
 砂塵交じる乾いた風に顔をしかめて歩いていると、会う者が皆敬礼を送ってくれる。
 全て、本作戦への要たる最精鋭への期待と敬意を込めた礼。
 それに対する軽い答礼も途中から返せなくなる。
 出来たばかりで行き違う波のような人々全てに反応など、とうてい無理なのだから。

 時折、空から大きく影が落とされ、航空輸送機が物資とMSを満載して基地に降り立つ。
 日本由来の、MS技術にも貢献した技術は荒野を滑走路に変えることも容易く行ってみせる。
 既に基地には、陸戦型フラッグや地対空ミサイルを始めとした【仮想敵への戦闘準備】が着々と構築されつつあった。
 アンフやヘリオンを相手取るには明らかな過剰戦力。
 露骨なものだと内心毒づく自分に、何処かで気づかないふりをした。

 積み重なったコンテナ、内容物が特殊な暗号バーコードで記されているそれらの林を抜け、日差しから逃げるように横長の建物へと入る。
 即座に中にいたスタッフ全員の敬礼が彼らを迎えた。
 全員、MSWAD基地から追従してきたMS技師、整備兵、研究者たち。
 世界を揺るがす【天使】を相手取るために集められた、有数のバックアップ。
 ただ一名を除いて、彼が望む全ての支援体制がここに集っていた。


「……ご苦労、ゆっくりしてくれ」
305 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/03/30(木) 04:57:04.31 ID:sVF1DYSf0

「エイフマン教授は……結局こっちには付いてこなかったね」

「現地におけるガンダムとの交戦は最小限になる、との予測だったな」

「だから現地で交戦データを元にした戦術改善案を考案するのは無用、自分が向かう意義も皆無……だそうで」

「その予測が的中しないことを願うしか無い。成すべきを為す、ただそれのみさ」

「グラハム、君は……」

「真意ならば、理解しているつもりだ」

「なら……良いんだけど」


 肩をすくめる盟友。その姿から視線を外すことは出来ても、胸中の暗雲は振り払いきれずにいた。
 それは、かの教授がこちらに来なかった理由が、それだけではないと知っていたから。
 この作戦が正道にないこと……【ガンダム鹵獲のための口実的軍事支援】であることへの不快感が起因していることを感じていたからに他ならない。


(……大義だけで、舞台が整うはずもない)

(軍事活動は慈善事業ではなく、明確な経済行為の延長にすぎないことも自覚していた)

(表向きに対外介入では軍を動かさないとしてしまった以上、こうなることは明白だった)

(――あぁ、分かっていたはずじゃないか。偽善と欺瞞の上を飛ぶことが、自分の唯一の飛び方だってことは)

(分かっていた、はずじゃないか……)


 ただ、戸惑っていた。
 恩師の子供じみた抗議が、現実ではなんら役に立たないことも理解していて。
 この機を逃せば、ガンダムとの対峙など何時になるかわからないことも危惧していて。
 ただ飛べるだけで、戦えるだけでいい、それが自分の人生なのだと規定もしていて。

 なお、この青く澄み渡った空を飛ぶことに対し、戸惑っていた。


 恩師の答えは、ただ一つ。

【飛ぶかどうかは、自分で決めろ】

 ずっとそうしてきたはずなのに、何故か酷い難問を投げられた心地だった。



「……ん?」
306 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/03/30(木) 07:36:53.66 ID:sVF1DYSf0

 ふと、その蒼に陰りが浮かぶ。
 飛来する機影は、軍用輸送機。
 MS搬入には扱えない、旧型のものだった。
 基地の隅、物資搬送には遠い位置に着陸する機体。
 揺らぐ陽炎に降り立つそれに、何故だろう。
 強く、視線を釘付けにされた。


「なんだろうね、あれ」

「物資輸送の場合はあの滑走路は使わない……仮設居住区か?」

「軍施設から遠いねえ。というと民間人かな?」

「民間人」

「あぁ。今回のアザディスタンは排他的な思想が蔓延しつつあるからね」

「こっち側の外国人関係者は、軍からある程度の支援体制を組むそうだよ」

「関係者……例えば……?」

「そりゃあ、たとえば……ほら」


「報道関係者、とか……?」


 嫌な予感というものは、大抵の場合感じたときには手遅れなものだ。
 こと自分の勘というものを重視する、私のような原始的思考をしたものには。



――――

――輸送機内――

絹江「…………」

イケダ「着いたぞ、クロスロード」

絹江「はい、アザディスタン……ですね」

イケダ「……後悔、してんのか」

絹江「自己嫌悪は、しています」

絹江「でも、それが止まる理由になるなら、今の私は此処にはいません」

イケダ「……」ポリポリ

イケダ「紛争地帯の特派員は、自分の墓穴の横で蕎麦啜ってるようなもんだ」

イケダ「気を抜くな、自分の命を最優先に考えろ、そんで……スクープの匂いがしたら俺に言え」

イケダ「最大限安全を確保してから、GOサインを出してやる。先走んなよ、絶対にな」

絹江「はい……!!」


兵士「アザディスタンにようこそ、ニホンのご友人方」

兵士「これから宿舎に誘導させていただきます。外出、取材等の要件は手元端末の基地要項にてご確認ください」

兵士「あなた方が我々ユニオンの人道的支援の証人になってくださることを望み、またそのように振る舞うことを誓います」


絹江「…………」
307 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/03/30(木) 09:17:22.77 ID:sVF1DYSf0


絹江(わざわざこんな取り決めで囲う理由……解りきってるわね)

絹江(支援体制のない二国の記者団の動きをアザディスタンの国内情勢で制限させ、効率的に情報発信できる体制を組むことでイニシアティブを確立させる)

絹江(また事態を過剰に煽ることでも情報の比率を意図的に偏らせ、MSの大量投入をカモフラージュする)

イケダ「万が一MSの導入数を指摘されても、それの対処は一言で済む上にそれが自然と来たもんだ」

絹江「!」

イケダ「そういう感じのこと考えてたろ。ブンヤの頭ン中はだいたい一緒だよ」

イケダ「俺たちも、契約書書かされてるわけじゃあ無いが、庇護を受けちまってる以上下手なこと書いたらおしまいだ」

イケダ「嫌なとこで繋がっちまってるよな。JNN(うち)は上が軍と仲良しってことがよ」

絹江「……こうなってからでは、もう遅いんでしょうか?」

イケダ「さあね、まあどうあれ俺達がやることは……」


「人の置かれる何時如何なる状況下に於いても、その行動が真に無為となることは有り得ない」


絹江「!」

イケダ「おぉ?!」


グラハム「……少なからず正義の御名の下、その者の歩みが止まらぬ内は」

絹江「っ……」

イケダ「ぐ、グラハム・エーカー……中尉!」

グラハム「お久しぶりです、絹江さん……まさか、こちらに来るとは思っておりませんでした」

イケダ(無視!?)
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/30(木) 13:29:42.52 ID:3drKm1WwO
イケダさん変につつくと馬に蹴られますので諦めてくださいww
309 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/04/01(土) 08:44:54.12 ID:CdvwmRlp0
絹江「……レイフ・エイフマン教授の講義の決まり文句でお出迎えとはね」

絹江「あの方も此方に?」

グラハム「来ているとお思いですか、あの御方の高潔さは貴女のそれに近いものがある」

絹江「そう……で、その嫌がらせみたいな口調、続けるつもり?」

グラハム「公務中です。当てつけというなら、お互い様と言わざるをえない」

絹江「私も、自ら考えて要望をして、正式に特派員としてアザディスタンに来たにすぎないわ」

グラハム「!」

絹江「勘違いしないで。あなたに影響されるほど軽い取材はしてないの」


グラハム「…………」


絹江「…………」


イケダ「え、何この空気」

兵士「喧嘩別れ一週間頃の学生カップルみたいな会話ですね……」

イケダ「やめろそういう具体的なの」


絹江「……まあ、いいわ。お出迎えご苦労様」

グラハム「!」

絹江「さ、とっとと案内してちょうだい。今日中に宿舎回りは作っときたいのよ、仕事用に……っ!」ボフン

グラハム「っ、おも……?!」

イケダ(荷物持たせた!?)

絹江「明日から特番一回分はネタ稼いでかないと干されちゃうの。インタビューするかもしれないから、そのときはよろしく」ニコ

グラハム「……魔性だな」

絹江「? なんか言った? 悪口?」

グラハム「三割方は。さあ行きましょう、車を用意してある」

ビリー「ハーイ」

絹江「あ、ちょ、ちょっと!!」





イケダ「……荒れそうだなあ、色んな意味で」

兵士「元カノにズルズル付き合わされてキープくんにされるパターンですね、分かります」

イケダ「だからやめろってそういうの……!」

310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/01(土) 08:56:54.91 ID:DWim9rWZO
自分が、とまでは言わずともそうなっていった知り合いを見てきたかのような一般兵の評価やめろwww
311 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/04/01(土) 09:29:08.23 ID:CdvwmRlp0
――――


――日本・JNN――


同僚「行っちまいましたねー」

デスク「そうだな」カチカチ

同僚「良かったんですか? いくらハイパー特派員のイケダさんがいるからって、あの人中東は初めてでしょ」

デスク「そうだな」カチカチ

同僚「特番の方はもともとデータマンみたいなもんだからいいすけどね―」

デスク「そうだな」カチカチ


同僚「……聞いてます?」

デスク「そうだな」カチカチカチカチ

デスク「…………」ウツラウツラ


同僚(……睡眠不足になるまで心配するくらいなら行かせなきゃ良いものを)

同僚(俺も物分りが良いほうじゃあ無いが、全く不器用なもんさ)


同僚「……上の連中、よくまあ絹江さんの特派員ぶっこみに許可出しましたね」

デスク「……」ピク

同僚「やっぱりあれですか、血筋パワー……ってのに上もまだ期待してるわけだ」

デスク「あいつがアザディスタンでも活動できると確信した上での取り為しだ。他意はない」

同僚「お、聞いてた」

デスク「ずっと聞いてる。ケツを机から降ろせ、減給するぞ」

同僚「失敬失敬……っと」


デスク「……絹江のやり方に、クロスロード氏のやり方は含まれちゃいない」

デスク「お前は知らないだろうけどな、ありゃあ真似しようとして出来るもんじゃないんだよ」

同僚「格が違うと?」

デスク「質が違うってのが正しいな」


デスク「何ていうかな……あれは取材と言うよりは……」

デスク「答え合わせだ」

同僚「……へえ……」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/01(土) 09:33:06.82 ID:P1hw/rhZ0
この一般兵、絶対修羅の道を見てるよ。いろんな意味で(笑)
313 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/04/01(土) 09:49:03.03 ID:CdvwmRlp0
デスク「ほれ、油売ってないで、仕事にもどれ、仕事に」シッシッ

デスク「材料が良くても拵えが悪けりゃあ食えたもんは出来ねえぞ。絹江に言い訳は通用しねえの、分かってんだろ」

同僚「あはは、絹江さん叱り方も可愛いからなあ」ケラケラ

デスク「ったく……お前も物好きだよ。今回の尻拭い、全部引き受けたらしいじゃねえか」

同僚「乗りかかった船ですから。沈めるのは忍びねえ」

デスク「……それのお陰で引き継ぎもスムーズに済んだってのはあるが、でけえヤマだってのに呑気にしやがって」ハァ

デスク「あー……お前、そっちか。いや、そういうんなら応援するぞ。今更男だ女だってのも……あれ?」

同僚「はは、ご冗談。今更色恋にかまけるほど若かねえですよ、あたしゃ」

デスク「……急にジジ臭いこと言いやがって……」

同僚「ええ、御年百五十五でござい」

デスク「あーはいはい、ギネスギネス。ほれいけ、すぐいけ、さっさといけ」シッシッ

同僚「雑―! せっかく虎の子のギャグだってのにー」ブー


デスク(あれ、あいつ旦那いるって言ってなかったっけ……?)シュボ

デスク(あの中尉といい、あいつも変なのばっか寄せ付けんなあ……)フー


同僚「……」ニヤ


 ・
 ・
 ・
 ・

――アザディスタン――

マリナ「どうして、ユニオン軍をこの地に招き入れたのですか!?」

改革派議員「…………」
314 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/04/01(土) 10:06:18.19 ID:CdvwmRlp0
マリナ「ラサーのいない今、保守派の神経を逆なですることがどれほど危険なことかは、貴方がたも分かっていたはずでは……!」

改革派議員「ッ……どうやら、一部の有力議員派閥がユニオンの申し出に折れたのが原因であると……」

マリナ「申し出って……?!」

シーリン「決まっているわ、大方大義名分と引き換えの機会提供と言ったところでしょうよ」

マリナ「シーリン?」

シーリン「ユニオンはソレスタル・ビーイングの自国領内以外の活動を黙認する声明を出したわ」

シーリン「それはつまり、単独での対ガンダム戦略を放棄したとも取れたわけだけれど」

シーリン「このアザディスタンは、かつてのクルジス紛争……いえ、戦争においてMS戦術の非有効性を証明してしまった土地」

シーリン「あれだけの軍勢……まず間違いなく全てガンダムにぶつけるつもりで連れてきているでしょうね」

マリナ「そんな……っ」

マリナ「この国は、ガンダムの生き餌として放られたのに等しいと、そういうのですかシーリン!?」

シーリン「生き餌とすら見られてないかも。少なくとも利用するだけするつもりなのは間違いないわ」

シーリン「国連の援助だって何考えているかわからないというのに、彼らが善意で手を差し伸べたわけがないのは当然と言えましょうね」

改革派議員「申し訳ありません、マリナ様……貴女の外交努力で、せっかく太陽光発電受信システムの支援がこの国に来たというのに……」

マリナ「……っ」グッ

シーリン「出来ることをしなさい、マリナ」

シーリン「猶予は殆ど残されていない……国内の不満が最高潮に達する前に、手を打たないと」


シーリン「……アザディスタンは、内戦に突入することになるわ」

315 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/04/01(土) 10:48:59.04 ID:CdvwmRlp0


――宿舎内・食堂――

イケダ「改革派と保守派、双方の議員に取材許可が降りたぁ?!」

絹江「現地の特派員に仲介を頼んで、明日と明後日。それぞれ30分も貰えませんでしたけど」

絹江「イケダさんは報道の方で忙しいと思うので、どっちも私が自分で行ってきます」

イケダ「い、いやおまえ……確かに一人だけ余分ではあるし、しばらくは頼むこともないとは言ったが」

絹江「はい、なので自分で使わせてもらいますけれど」

イケダ「……あー、いや、構わん」

絹江「?」


イケダ(イヤミのつもりはなかったが、牽制目当てで結構強めに言ったはずなんだがなあ)

イケダ(まいったな、デスクの言うとおりだ。特攻娘……クロスロード氏とは逆ベクトルでヤバイ奴だこれ)


イケダ「……で、俺がOK出せる奴なんだよな?」

絹江「この二人です」スッ

イケダ「どれ」チラ

イケダ「……端役もいいとこじゃねえか、新人の改革派議員に数合わせの保守派閥。なんでこれを?」

絹江「私は情報でしかこの国を知りません。だから、知っていることを感じたいと思ったんです」

絹江「その結果に新しいことがなくても、次が見えてくると、そう思うから」

イケダ「あぁ……事実を積み重ねて、ってやつか」

絹江「知ってるんですか?」

イケダ「有名というか、ブンヤの格言みたいなもんだからなあ」

イケダ「いやほんと、そういう意味では夢みたいだな。まさかあの人の娘と仕事とはね」

絹江「そう、ですか……」

イケダ「あれ、気にならない?」

絹江「参考にならないですから。父のやり方を聞いて肩透かしを食うのは、もう両手に余っちゃうくらい」

イケダ「クールだねえ……ま、確かにそうか。ありゃ真似出来ん」

イケダ「端末で軍に外出許可申請のメール、送っとけよ。軍隊ってのは頭が固くてな、送るのが遅れた分だけ返信も遅えんだ……」

絹江「はーい……」


――宿舎内・自室――


絹江「…………」ドサッ

絹江「……来ちゃったなあ」
316 : ◆AvaUNpQJck [ saga]:2017/04/01(土) 11:28:41.68 ID:CdvwmRlp0
――――

デスク『行って来い。特ダネ掴むまで帰ってくるんじゃねえぞ』

デスク『あー……あと、死ぬなよ。弟さんの前で土下座すんのだけは簡便だ』

――――

同僚[空港で笑って手を振っている。謝罪も挨拶もさせないまま、何を考えているのやら……]

――――

沙慈『いいよ、行ってきな』

沙慈『……なに、行きたいんでしょ? なら何時も通りじゃないか』

沙慈『うん、ずっと決めてたことだからね。姉さんが取材したいって言ったなら、それがどんなことでも止めはしないって。絶対に』

沙慈『……僕のことを、枷じゃないって言ってくれるんなら、ね』

沙慈『うん……行ってらっしゃい、姉さん。必ず帰ってきて、約束だよ』


――――


絹江「…………」ギュ

絹江(もし……もし、ガンダムが現れなかったらすぐにでも帰ってこられるのかもしれない)

絹江(でも、それじゃあ駄目だ。分かっている、自分が得ようとしているものが、この国の混乱と天秤にかけられているってことくらい)

絹江(こうやって見れば、私の仕事だって変わらない。世の中が荒れてなければ、一筆だって進まない生業だ)

絹江(……強く、言っちゃったな)

絹江(怒って、るんだろうな)

絹江(また、話してくれるかな……前みたいに)


 ゴゥッ


絹江「!」

絹江(水素ジェットの噴出音……アザディスタン領内はまだ飛べないはず)

絹江(ラフマディ師の捜索も含めたら、事態は一刻を争うはずなのに……何もかも噛み合ってない)

絹江(彼らは、ソレスタル・ビーイングは……この指揮者のいない演奏会で何を演じるつもりなの……?)


絹江(……いやな女だなぁ、私……使い分けてる)

絹江(どうしようかな……なんて……謝れば……)

(…………)スヤァ


――――


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