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【艦これ】女提督「それはね」
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102 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/09/28(水) 10:34:06.69 ID:NBdSDHsho
某匿名掲示板のまとめ記事。アクセス数を稼ぎたいだけあって、見やすい作りになっている。
そこには比屋定海月に関する過去の記事にある顔写真と、ウネビで撮られた女の写真が並べられていた。
グラーフ「やはり似ている」
過去の記事の顔写真は彼女が20代だった頃のものだが、素人目に見てもウネビの写真とほとんど一致していた。
単なる童顔の可能性……は絶対にない。彼女が元から幼い顔つきをしていたとしても、40年経って同じである訳がない。
グラーフ「……」クイクイ
下にスクロールすると、掲示板の住人による書き込みが続いていた。
「顔が違う。解散」
「どう見ても同じだろw」
「深海棲艦が化けてるんじゃね?」
「艤装の無い深海棲艦なんて雑魚だろ」
中には色文字になっているものもあった。
「比屋定研究員の死亡記事は嘘。秘密裏に研究は進んでいて、観艦式のタイミングで彼女は裏切った。加齢が外見に出てないのはナノマシンの影響。技術流出で敵の攻勢が始まる。」
グラーフ「ふむ」
それらしい意見だ。ナノマシン体であれば顔が変わっていないことも説明できる。
グラーフ「だが信じるには値しない」ンフー
103 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/09/28(水) 10:42:15.24 ID:NBdSDHsho
雲龍「グラーフさん、さっきから一人で何を……?」
ビスマルク「……」
グラーフ「少し調べ物をな。そうだな。お前の話も聞かせてくれないか」
雲龍「なんについて?」
グラーフ「今回の騒動について。私たちは外国艦、日本海軍が情報流出を恐れて蚊帳の外にある」
小部屋に閉じ込められるような形で待機を命じられているのが、証左だ。
グラーフ「別に漏らすわけではない。知れる限りのことを私は知りたい」
雲龍「分かった。でも、私も大したことは知らないわ」
グラーフ「構わない。今は少しでも情報が欲しい」
雲龍が語ったのは羅針盤が起動した後の自分の動きだった。
護衛部隊の艦娘は錯綜する情報の中にあったこと。
指揮官の指示の下、先の見えない戦闘を開始したこと。
雲龍「あれは我武者羅な攻勢じゃ無かった。時間稼ぎや、陽動の類の動きだった……と思う」
彼女の話はすぐに終わった。
最後は『と思う』か。仕方ないだろうな。断言できる筈もない。
グラーフ「そうか」
雲龍「私が知っているのはここまで。後は知っての通り殲滅戦に近いものだったから」
グラーフ「観閲部隊の各艦で握手会をしていた艦娘が補給を済ませ合流したのか」
合流してからの展開は一方的だった。敵は羅針盤上に構成された艦娘による防御線を突破出来ず撤退。艦娘の被害は存在しなかった。と聞いている。
雲龍「ええ。貴女たちは救助に当たっていたと聞いたけど」
グラーフ「ああ。まぁすぐ終わったわけだが」
こちらも歯切れの悪い答えを雲龍に返す。
ビスマルク「……スクリューに巻き込まれて当然の落ち方だった」
おいおいビスマルクよ。今日の第一声はそれか?
グラーフ「だがそうだな。言う通りだ。逆に、巻き込まれていなかったの不思議でならない」
要救助者はすぐに見つかった。誰一人、死ぬこと無く、見つかったのだ。
104 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/09/28(水) 10:45:50.69 ID:NBdSDHsho
海上艦のスクリューは殺人的な質量と回転数を誇る。
艦の前方で落ちたのなら波は外側へ向く。だが、後方であれば。
グラーフ「巻き込まれていなければおかしい。ましてや後部デッキの側面からだぞ」
雲龍「そうね。大規模な戦闘と混乱があったにも関わらず、一人も死んでないなんて」
助かったのが許せないとか、死ぬべきだったと言う気は勿論無い。全員助かって良かった。だが、
グラーフ「作為的と言わざるをえない」
ビスマルク「……」
雲龍「誰の作為?」
グラーフ「分からん。だが、誰かの作為だ」キリッ
ビスマルク「……呆れた。グラーフって意外と頭悪いのね。さっきも2chまとめ見ながらニヤニヤしてたし」
グラーフ「なっ!? ……ならお前には分かるのか」
ビスマルク「比屋定以外に誰が居るのよ」
雲龍「ですよねぇ」
グラーフ「……私は比屋定の後ろにいる存在も含めて考えてだな」ブツブツ
ビスマルク「言ってたじゃない。味方は世界で一人だけって。それも私たちの提督の可能性が高い」
グラーフ「お前、意外と聞いていたんだな。泣いてたのに」
雲龍「え、ビスマルクさんは泣いてたんですか?」
ビスマルク「い、いいえ。ちょっと心を折られて挫けただけよ。泣いてないわ」
グラーフ「反論内容だったほうがみっともない気もするが」
ビスマルク「うるさいわね。ほっぺた舐めるわよ」
グラーフ「なぁ雲龍、コイツ……壊れたか?」
雲龍「ふふっ。元気になられて安心しました」
グラーフ「え、えぇ……?」
105 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/09/28(水) 10:53:39.36 ID:NBdSDHsho
ビスマルク「比屋定の私たちへの突っかかり方、どこかで見覚えがない?」
雲龍「もしかして」
グラーフ「風呂場での提督、か」
ビスマルク「そうよ。自分が気に食わないからって言いがかりでねじ伏せようとする姿。そっくりでしょ」
グラーフ「……ビスマルク大丈夫か?」
ビスマルク「大体ね、何で私があんなクソガキに心を折られなきゃならないのよ」
雲龍「さぁ……?」
ビスマルク「雲龍、あなたは比屋定に興味は無いの」
雲龍「私ですか。私は……直接会ってお話がしてみたいです」
ビスマルク「グラーフは?」
グラーフ「色々と聞きたいことがある」
ビスマルク「では大湊に招集されて以来、私たちは今初めて本当の意味で団結しようとしているわ」
雲龍「?」
グラーフ「そうか。良かったな」
ビスマルク「良かったな……ってね。もっと喜びなさいよ」
グラーフ「何故喜ぶ必要がある」
ビスマルク「同じ目的に向かって進もうとする仲間が二人も居るのは喜ばしいことだからよ」
雲龍「なるほど。確かにそうかもしれません」
グラーフ「日本のワビサビは分からんからドイツ語で頼む」
ビスマルク「Fest steht und treu die Wacht, die Wacht am Rhein!」
グラーフ「……勢いでなんとなく察しはついた。なるほど、喜ばしいことだ」クス
ビスマルク「Gut!」
雲龍「私たち三人でラインを護りましょう」
グラーフ「私は別にいいが、雲龍よ、お前はそれでいいのか」
雲龍「何か問題でも?」
ビスマルク「良いわよ。フランス艦が憤死するなんて、大した問題じゃないわ」
グラーフ「はいはい。で、我々ラインの護り三人組はまず手始めに何をする」
ビスマルク「観艦式で起こったことの情報収集! まずは私たちの提督を当たりましょう」
雲龍「了解」
グラーフ「うん。妥当だな。了解だ」
106 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/09/28(水) 10:54:55.66 ID:NBdSDHsho
小休止
107 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/09/28(水) 11:02:08.37 ID:NBdSDHsho
男巡って言い争いしない三人組、初めて書いたかも。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/28(水) 13:29:19.77 ID:lkNv1Nwt0
>>107
草生える
日向に鶴姉妹…時雨もか
今作もキャラ立ってていいな
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/28(水) 19:06:39.35 ID:qO3NB/0tO
待ってた乙乙
確かに前は諍いが絶えなかったなww
この3人意外とかみ合ってて良いな
110 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/10/01(土) 11:55:17.50 ID:sqkS6+yQo
↓1 コンマ判定 奇数偶数
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/01(土) 13:53:37.79 ID:AJS3hT5S0
おお、安価レスはじめてリアルアイムで見たわ
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/19(水) 17:55:52.38 ID:HZ1UXbBC0
そろそろかな
まだ保守はいらんけど待ち遠しいわ
113 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:30:49.87 ID:u1AXXBNco
寝るつもりは無かったのに、いつの間にか夢を見ているのに気づいた。
懐かしくも寂しい日々。
彼女と出会った記憶。
114 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:31:54.31 ID:u1AXXBNco
刑事「八雲、お前なぁいい加減カタギに戻れ」
八雲「んだオッサン、私がカタギじゃねぇみたいじゃないか」
刑事「高校と暴走族の掛け持ちなんてカタギから片足抜け出してんだよ」
八雲「チッ」
刑事「他の奴らとお前は違う」
八雲「あぁ?」
刑事「目が違う。毎日毎日、楽しくないだろ。最近は走るのもツルむのも妙につまらない」
八雲「……」
刑事「速さのスリルは満足には繋がらねぇよ。んなもんただの暇潰し、最後はガードレールと心中だ」
八雲「だったとして、じゃあ私は何をすれば良いってんだ」
刑事「お前大学なんて行かないだろ。仕事を探してみるのなんて面白く無いか。一生かける価値のある奴をな」
八雲「そんなモンあるかよ」
刑事「俺はこの仕事に誇りを持ってるし、命かけてるぞ。お前の場合なら、そうだな、パイロットなんてどうだ?」
八雲「パイロットぉ?」
刑事「戦闘機パイロットは良いぞ。二輪なんて比べ物にならない程速いし、何より男のロマンだ」
八雲「私は女だ」
先なんて考えたこともなかった。
未来においても、この怠惰で生ぬるい時間が永遠に続いていくように思っていた。
刑事「今回は単車も返してやる。もう来るなよ」
八雲「死ねオッサン」
刑事「パイロットだぞ。忘れるなよ」
……仕事、か。
115 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:33:07.10 ID:u1AXXBNco
教師「ん、八雲くんじゃないか。高校に来るなんて珍しいな」
八雲「なぁ担任のセンコー、軍隊に入るにはどうすりゃいい」
教師「センコー呼ばわりはやめたまえ! 駅前の地方協力本部に行けば、詳しく話が聞けるだろう。パンフなら職員室前にあったはずだ」
八雲「へー、ありがとよ」
教師「待ちたまえ八雲くん。君は軍隊で何をしたいのかね」
八雲「金貰いながら合法的に人をぶっ殺したい」
教師「ははは。先生嬉しくて涙が出てきたぞ」
八雲「どうでも良いだろ。もう話しかけんな」
教師「ちなみに私のオススメは海軍だ」
八雲「私は空軍に入ってパイロットになるんだよ。海軍は関係ねぇ」
教師「……日本に空軍は無いぞ」
八雲「は!? そうなのか!?」
八雲「〜〜ま、てなわけで、いっちょパイロットのなり方でも調べてやろうかなと思ったまでよ」
教師「そうか、刑事さんにパイロットを勧められたか……え? 君警察のお世話になってんの?」
八雲「まーちょっと、考えてやろうかと思ったまでよ」
教師「ふむ。しかし君はスケバンなのに意外と素直なんだな」
八雲「な、舐めてんじゃねぇぞ! 素直とかじゃねぇし!」
教師「ははは。うんうん。分かった分かった」
八雲「……陸軍と海軍ってどっちが良いんだ」
教師「八雲くん、僕の爺さんに会ってみないかい?」
八雲「質問に質問で返すんじゃねぇ。なんでいきなりテメェのジジイに会わなきゃいけねーんだ」
教師「は、はい。陸軍のお偉いさんだったので、話を聞いてはどうかなと」
八雲「へぇ、そいつは少し面白そうだ」
八雲(軍人てのがどんな人種か、見定めてやろうじゃねーの)
116 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:34:05.40 ID:u1AXXBNco
爺「君が八雲君か。孫から話は聞いておる」
目の前に居たのは、軍人という初めて見るタイプの大人だった。
八雲「どうも。爺さん、陸軍と海軍は入るならどっちが良い」
爺「なにゆえ軍隊に入りたがる」
平坦な一言一言が、重く響く。怖かった。
出来ることなら今すぐにでもこの場から逃げたかった。
八雲「パイロットってのが面白そうだからな」
だからこそ、私は逃げるわけには行かなかった。
爺「娘っ子がパイロット志望か。時代は変わる」ケラケラ
八雲「昔は男だけだったのか」
爺「ああ。空は女には贅沢だ、実に惜しい」
八雲「寝言はアメリカに勝ってから言えや。で、どっちが良いんだ」
爺「陸軍が良いだろう」
八雲「根拠は」
爺「君は馬鹿だが元気だから陸の兵卒くらいにはなれる」
八雲「よしかいぐんだな」
爺「かっかっか。航空機の定数としては陸軍のほうが上だ」
八雲「なりやすいってことか」
爺「まぁ、そうなる」
八雲「なら爺さん、陸軍ってのはどんな組織なんだ。ウゼエとこは私は嫌いだ」
爺「ウゼェ……かどうかは知らんが、話してやろう。だが長い話になるぞ」
八雲「面白けりゃ別に聞くさ」
117 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:35:22.76 ID:u1AXXBNco
〜〜〜〜〜〜
爺「そして石原莞爾の画策により陸軍大臣任命は流れ、宇垣さんによる内閣は組閣を断念せざるを得なく――」
八雲「爺さん、もう良い。もう分かった。アンタ、話は上手い、けど……長い!」
爺「何が分かった小娘。もうすぐ盧溝橋事件だぞ」
八雲「さっきから茶番ばっかりじゃないか。しかも、大体陸軍が悪い」
爺「そうだな。切っ掛けは関東軍だが」
八雲「石原莞爾も、宇垣内閣の中で頑張れば良かっただろ。目先の利害は一致してた」
爺「神の視点じゃ。当時は無理だった……石原本人も後にお前と同じように回顧している」
八雲「なんだそれ。さっきからすれ違いばかりで、もどかしいったら無いよ」
爺「ああ、本当にもどかしいなぁ」
八雲「しかも最後はボロ負けするんだろ? ろくでもない物語だ」
爺「……お前の目の前に居るのは、その物語の登場人物だぞ」
八雲「あ……。あぁー!? だから、何だってんだよ。もっと讃えろってか」
爺「すまんな小娘。儂たちは仲間同士ですら分かり合うことが出来ず、誰の目にも惨めに負けた」
八雲「……いきなり謝るなよ。どう考えてもアンタだけが悪いんじゃないだろ」
爺「しおらしくなるな。調子が出ん」ケラケラ
八雲「じ、爺? そろそろ潰すぞ?」ビキビキ
爺「自分だけが悪いのではない、誰もがそう思い生きて死んで行っただろう」
爺「だが本当にそうなのかの。時折、ただの言い訳のように思えてならない」
爺「本気で動けば、儂が繋ぐ役目を担えたのではないか。今はそう思ってしまうんじゃ」
八雲「……」
爺「いや、もう言うまいよ。済んだことだ」
八雲「自分の中で完結してるなら話すんじゃねーよ」
爺「若いな。人の思考に完結など無い。ん、これ儂良いこと言ったの? 今のぉ?」
八雲「は? 終わりは何でもあるだろうが」
爺「考える事に関しては、終わらせているだけだ」
118 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:35:56.47 ID:u1AXXBNco
爺「軍隊は分かりやすいぞ。階級が上か、下か、同じか。そして人の織りなす組織だ」
八雲「……」
爺「小娘、入るなら陸軍はやめておけ。海軍にしろ」
八雲「手のひら返しかよ。何でだよ」
爺「平等参画を謳おうと、未だ陸は男の世界だ。海なら少しは開明的と聞く」
八雲「……分かった。ありがとよ」
爺「お前を気に入った。また話を聞きに来い」
八雲「死んどけ爺。またな!」
119 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:37:00.56 ID:u1AXXBNco
教師「八雲君、聞いたよ。祖父が随分と君のこと気に入ってたみたいでね」
八雲「おいセンコー。……あんな怖い爺さんだなんて聞いてないぞ」
教師「敢えて教えなかった」
八雲「試したのか」
教師「うん。あの程度でビビって喋れなくなるタマなら、軍人なんてならないほうが良い」
男はいつもとは違う、教師らしからぬ汚い言葉を平然と言い切った。素はガラが悪いのだろう。
八雲「……テメェ」
教師「軍は人の組織だ。中に入るのもまた人なり、だよ。今回、君なら大丈夫だと分かって僕も安心した」
八雲「面白いじゃねぇか。ちょっとは見直したぜ。学校のセンコーなんて下らない奴ばっかりだと思ってた」
教師「君に下らないものしか見えてなかったのと違うか?」
八雲「ケッ。お前、生意気なんだよ」
教師「さて、どうする。パイロットになるには、大学出てからのコースと、高校から――」
八雲「海軍の兵学校とやらへ行く」
教師「本気かい? パイロットは?」
八雲「色々調べたが、パイロットなんてやめだ。私は将軍になる。歴史を動かす女になるんだ」フフン
教師「海軍の場合は将軍じゃなくて提督なんだけど」
八雲「……細かいことをネチネチと。それでもあの爺さんの孫かよ!」
教師「まぁ分かった。僕も応援するから、頑張ろう。海軍女性士官てのは良い。ロマンがある」
八雲「またロマンかよ。今度は誰にとってのロマンだよ」
教師「僕だ!」
八雲「自分勝手な男ばっかだな、おい」
120 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:38:53.20 ID:u1AXXBNco
八雲「おーガキども、帰ったぜ」
「八雲おかえりー」
「おかえりー」
「おみなげなに? おみなげ!」
「おみやげ、ね」
八雲「今日の『おみなげ』はな……じゃーん! ジュースだ!」
「やっら! ありあとう!」
八雲「正しい日本語を使え、正しい日本語を。園長のオッサンはどこに居る?」
「部屋に居ると思う。あ、晩ごはんはカレーだよ」
八雲「ラッキー。私は大盛りな」
八雲「おっさん、居るか」
園長「どうぞ」
八雲「おっさん、居たか」
園長「……繰り返しおっさん言うな。どうかしたかい?」
八雲「高校出たら私は海軍に行こうと思う。それを伝えに来た」
園長「どうしてだい」
八雲「まー最初は刑事のオッサンによ―――」
八雲「とまぁ、こんな感じだ」
園長「……」
八雲「誇りを持てる仕事ってのが何か、まだイマイチ分からないけど、軍人てのは多分一番私の理想に近い」
園長「小さい子どもたちもお前に懐いている。背中を見せる意味でも、出来れば大学進学までして欲しい」
八雲「私には大学に行ってやりたいことなんて何も無いよ」
園長「……そうか。分かった。なら頑張れ。父親として、応援する」
八雲「ま、兵学校に落ちたらまた色々考えるつもりだよ。落ちないだろうけどね」ケラケラ
121 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:39:56.79 ID:u1AXXBNco
八雲「……おいセンコー、こりゃなんだ」
教師「何って、これから君が覚えるべき本だけど」
八雲「天井くらいまで高さあるじゃねぇか! 出来るかこんなんが!」
教師「いやー良かったよ。犯罪歴があったら受験前に一発アウトだったからね」
八雲「話を聞け、話を!」
教師「読み書き含めた英語、世界史、日本史、物理、化学、生物、国語。兵学校ではこれが学科試験で課される。しかも上位国公立レベルのものだ」
八雲「うっ……国公立!? マジかよ」
教師「ビビってるのか。情けない」
八雲「び、ビビってねーし。はぁ!? 上等だよ、要は東大行く気で勉強すりゃ良いんだろ!」
教師「そうさ。もうやるしか無いのさ」
八雲「ならさっさと始めろ! この腐れ教師が!」
教師「覚悟しとけよ。僕はロマンの為なら一身だって賭す」
八雲「私はアンタのロマンじゃねぇ!」
122 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:41:07.49 ID:u1AXXBNco
八雲「……よぉ爺さん」フラフラ
爺「……大丈夫か」
八雲「……おう、この八雲様がこれくらいで」フラフラ
爺「横になれ。少しは楽になるだろう」
八雲「アンタの前で、そんな醜態晒せるかよ」
爺「意地になるな。何も切った張ったをしとる訳じゃあるまいに。ほれ、儂の膝を枕にしてもええぞ」
八雲「……あ、もう駄目だ」バタン
爺「おうおう、倒れおったわ」
八雲「ん……」
爺「気がついたか」
八雲「……爺さん、私がアンタに膝枕を頼んだか」
爺「いや。儂の趣味じゃ」ケラケラ
八雲「もう良い。帰る」ムクッ
爺「ああ、急に起き上がると」
八雲「うっ」クラッ
爺「貧血気味なのだから、まぁそうなるわな」
八雲「……もうちょっとだけ足を貸せ」ゴロン
爺「最初から素直になっておけ馬鹿モンが」
八雲「チッ」
爺「そうじゃ、ついでに耳かきもしてやろう」
八雲「……爺さんが女に耳かきかよ。絵にならねぇなおい」
爺「老いたりと言えども、まだまだ若いモンには負けんわい」
八雲「何をだよ」クスッ
爺「ひょっひょっひょ。ほれ、耳を出せ耳を」
123 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:41:53.91 ID:u1AXXBNco
爺「どうじゃ」ゴソゴソ
八雲「……久しぶりに耳掻きなんてしたよ。気持ち良いな」
爺「随分と忙しく動き回っとるみたいじゃの」
八雲「やることが多くて、寝てらんねーんだよ」
爺「良いもんじゃろう」
八雲「は?」
爺「目的があるというのは、放浪よりも遥かに素晴らしい。そうは思わんか」
八雲「……そうかもな」
爺「ひっひっひ。まぁ無理はするでないぞ」
八雲「殺しが目的だとしても素晴らしいかな」
爺「それは軍のことを言っておるのか?」
八雲「まぁ、多分な」
爺「殺したのは結果に過ぎん。自分自身と、何かを守るためにやったことだ」
八雲「人間にとって守るべきものなんて本当にあるのか」
爺「真理を求めたがるか。良いのう。若さが、良い」
八雲「こっちは真面目なんだよ」
爺「老人にはそれも又、な。自分以外と関わりたいと願うのなら、お前にもいつか生まれるさ」
八雲「……そんなもんかね」
爺「そんなものじゃ。ほれ、次は反対の耳」
124 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:43:02.55 ID:u1AXXBNco
八雲「私には父さんも母さんも居ない」
爺「そうか」
八雲「孤児院の奴らだけだ。なぁ、本当の家族ってのは守りたくなるモンなのか」
爺「お前が今、院で共に暮らす者たちに抱いている感情と同じだろうよ」
八雲「家族ってのは……もっと暖かかったりするんじゃないのか」
爺「人による。持ってないと良い物に見えるじゃろうな」
八雲「欲しがってる訳じゃないけど、どうしてもそう思っちまうんだ」
爺「そうか。まぁ気持ちは分からんでもないぞ」
八雲「……野暮なこと言っちまったね。らしくもない」
爺「少し野暮なくらいが愛嬌があってええわ」ケラケラ
八雲「……おう」
125 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:43:44.11 ID:u1AXXBNco
教師「この場合、解の公式ではなく解と係数だね。4乗にそのまま代入するのは駄目だよ」
八雲「……」イライラ
教師「少し休憩にしようか」
八雲「勉強全体の進捗はどうなってる。このペースで間に合うのか」
教師「……」
八雲「ならもっと頑張らないと駄目だろ」
教師「小学校レベルからここまで来たのは凄いよ。うん」
八雲「甘ったれたこと言ってんじゃねぇ。合格できなきゃ何の意味も無いだろが!」
教師「甘ったれてるのは君だろう。実力を受け入れず、こんな風に苛立って」
八雲「あ゛あっ!?」
教師「まず何が出来るか考えよう。な?」
八雲「……先生」
教師「ん?」
八雲「真面目に生きるのって大変だな」ハァ
教師「あはは。僕もそう思うよ」
126 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:44:12.02 ID:u1AXXBNco
八雲「おっさん」
刑事「おう、八雲じゃねぇか。何してんだ」
八雲「実は今、兵学校を受けようと思って勉強してんだよ」
刑事「おう兵学校入ってパイロットもいいな」
八雲「パイロットはもうならねーよ」ケラケラ
刑事「そうかよ」ケラケラ
八雲「中々思うように行かなくてねー。あ、煙草くれよ」
刑事「火はあるか? ま、出来るだけ頑張ることだな。……って未成年にはやらねーよ!!!」
127 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:45:03.95 ID:u1AXXBNco
教師「一応、範囲はこれで終わりだ」
八雲「……ぶはぁ。すげぇ量だったな」
教師「よく頑張ったね」
八雲「っせぇ。まだ何も終わっちゃ居ねぇだろが」
教師「いや。それでも君は偉いよ」
八雲「先生、その。あの、な」
教師「どうかしたかい」
八雲「ひとまず、あー。お、教えてくれて、…………ありがとうございます」
教師「……ああ。良いんだよ。僕は求められたモノに応えたに過ぎない」
128 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:45:42.01 ID:u1AXXBNco
「姉ちゃん、明日試験なの?」
八雲「おう、ちょっくら長く居なくなるけど泣くなよ」
「泣かねぇよー」
「姉ちゃん頑張れ!」
八雲「おう! 次の『おみなげ』は兵学校の合格だ!」
129 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:46:09.51 ID:u1AXXBNco
教官「ではこれより、学科第一日、英語の筆記試験を開始します」
八雲(かかってこい。相手になってやる!)
130 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:47:07.51 ID:u1AXXBNco
爺「思いの外、あっさりと合格してつまらんの」
八雲「なんだそれ」
爺「これからは陸軍の敵となるわけだが、頑張るんじゃな」
八雲「……爺さん」
爺「どうした?」
八雲「色々とありがとう。アンタが居なかったら私は潰れてた」
爺「……」
八雲「……違うな。ありがとう、ございます」ペコリ
爺「八雲らしくもない。そういうのはやめろい」
八雲「自分でも不思議だよ。人に感謝してるってこんな気持ちなんだな」
爺「……今日はもう帰れ。また明日以降会いに来い」グイグイ
八雲「えっ、は、ちょ!?」
爺「感謝の言葉は育て親や家族にも言うんじゃぞ。ではな」ピシャリ
八雲「お、おい爺さん!?」
八雲「……耄碌すると涙もろくなるってのは、本当なんだね」クス
131 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:48:02.78 ID:u1AXXBNco
教官「他のチームに負けてるぞ! 白熱する精神さえあれば物量にも打ち勝てる! 頑張れ! 頑張って漕ぐんだ! ソー キャッチ ソー キャッチ!」
八雲「フンッ、フンッ! 精神でっ! 勝てるならぁ!」
教官「なんだ八雲! 言いたいことでもあるのか!」
八雲「戦争に負けてんじゃねぇぇぇぇ!!!! フンッガッ!」
八雲「あーだりー」ドカッ
「いや〜でも三位から巻き返せるとは思わなかったな」
「八雲、お前ほんとはキンタマついてんじゃねぇか?」
八雲「あ? 殺すぞ?」
「木村この馬鹿野郎、八雲にはついちゃいない。俺は知ってる」
「ヤッたのか田城」
八雲「童貞二人がホラふいて滑稽だなオイ」ケラケラ
「昼間からやめてよね。ほんと男って不潔」
教官「……」
132 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:53:25.26 ID:u1AXXBNco
八雲「おー帰ったぜお前ら〜」
「八雲おかえり〜」
「おみなげ何〜〜!」
八雲「兵学校で売ってた文房具だ。地味で悪いけどな」
「ありがとう!」
「文房具とかマジでいらね〜〜〜。食いもん買ってこいよ〜」
八雲「姉ちゃんが買ってきただけで嬉しいだろぉ?」グリグリ
「う゛れ゛じい゛!!」
八雲「良かった良かった」ケラケラ
園長「八雲、お帰り。兵学校の制服も似合ってるな」
八雲「……ただいま。……と、父さん」
「んだ〜八雲〜トーちゃんに挨拶するの照れてるのかぁ??」
八雲「う・る・せ・ぇ」グリグリ
「ぢがら゛づよ゛い゛ぃっ!!!!」
133 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:54:23.41 ID:u1AXXBNco
教官「校長殿、少しお話が」
校長「どうした」
教官「もうすぐ卒業です。一人の生徒の進路についてご相談が」
校長「ああ、配属を決める必要があるか。で、誰だ」
教官「八雲のことです」
校長「……あのじゃじゃ馬を欲しがる部署や艦は無いだろうな」ケラケラ
教官「私が欲しいです。教官補佐として配属することをお許し願いたく、参りました」
校長「ほう、そうなのか。君はあの娘が嫌いだと思っていたが」
教官「生意気ですし、嫌いですがアレは性根が優しく筋が通った女です。生徒に良い影響があると考えています」
校長「善処しよう。乗りこなせよ?」
教官「ありがとうございます」
134 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:55:07.62 ID:u1AXXBNco
八雲「オラ抜かれてんぞ! テメーらキンタマついてんのか!? 死ぬ気で漕げや! ソー キャッチ ソー キャッチィ」
「きょ、フンッ! 教官補佐殿ッ! 発言をッ!」
八雲「おー中村。漕ぎながら言ってみろ」
「女子生徒もっ! 居ますのでッ!! フンッ! そのようなっ、はつげんっはっ!」
八雲「よく言った中村! それでこそ男だ! ならぶっ倒れるまで漕げ!」
「お、おっす!!」
八雲「オラ女子共、カッコつける男なんかに負けんなよ」
「「「はいっ!」」」
135 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:56:02.76 ID:u1AXXBNco
八雲「渡辺、こんなとこで何してる。もう消灯時間は過ぎてる。規則違反だ」
「……」
八雲「……脱走か」
「……うぅ」コクリ
八雲「当直室まで着いて来い。話くらい聞いてやる」
「……」
八雲「怒りやしないよ。誰かに話してみると意外と楽になったりするんだぞ」ニッ
136 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:58:41.59 ID:u1AXXBNco
教官「こちがら今期の成績書です。目通しをお願いします」
校長「分かった。ご苦労」
教官「いえ」
校長「今年は退学者が少ないな」
教官「ええ」
校長「成績を見る限り優秀なものが多いというわけでも無いようだが」
教官「ええ、そうですね」
校長「……君、何か隠してるのかね」
教官「補佐の者が隠れて頑張っているようです」
校長「10代後半でも意外と子供だからな。彼女は頼もしい姉というわけか」
教官「姉というか、落ち込んだ者を優しく包む様子などはもう母に近いですがね」
校長「あまり行き過ぎることの無いようにな」
教官「生徒たちも分かっています。関係を持つ等はありません」
校長「違う。八雲教官補佐にとっての負担のことだ」
教官「……彼女も線引をわきまえていると思いますが、一応注意して見ておきます」
校長「ああ。私も気をつけておく」
校長(母を知らぬ者が擬似的に誰かの母代わりとは、歪なような気もするが)
137 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 04:59:14.74 ID:u1AXXBNco
校長「今日集まってもらったのは他でもない、戦争が始まった」
教官「なっ!?」
八雲「中国か、いやこのタイミングということはソ連ですか?」
校長「敵は深海棲艦と呼ばれる存在だ」
138 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 05:06:10.59 ID:u1AXXBNco
八雲「八雲少尉です。本日より艦政本部付きとなりました。よろしくお願いします」
艦政本部長「八雲少尉、噂には聞いていたよ。よろしく頼む……君はこっちの開発チームに所属してもらう」
八雲「了解。これは、れいそう……たましいですか?」
艦政本部長「読みはレイソウコン、だ。詳しくは部署の者に聞くと良い」
八雲「はい」
研究助手「は、はじめまして。じ、助手と申します」
八雲「本日より第四部特ヒト課所属になりました八雲少尉です。以後よろしくお願いします」
研究助手「よろしくお願いします。研究を進め、じ、人類を救いましょう」
八雲「その心づもりです。臨床実験に入るまで暇ですし、研究の補佐雑用に関することは私に任せて下さい。精一杯お手伝いします」
研究助手「……本当にご苦労様です」
八雲「まーなるだけ死なないようにお願いします」ケラケラ
研究助手「あ、貴女はとても勇気がある方だ。わ、私などとても志願できない」
八雲「勇気というか開き直りというか、蛮勇というか。まぁなるようにしかなりませんし」
研究助手「さ、早速雑用を任せたいのですが。よ、よろしいでしょうか?」
八雲「はい。研究に関すること以外なら何でもお申し付け下さい」
139 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 05:10:49.18 ID:u1AXXBNco
八雲「この辺の筈だけどね。ったくあの助手、名字しか言わないって探させる気無いだろ」
「ちょっと」
八雲「ん?」
「貴女、艦政本部からの出迎えの人?」
八雲「お嬢ちゃん、ちっちゃいな〜。ここは海軍の施設だから入っちゃいけないよ。危ないんだから」ナデナデ
「頭を撫でるなぁ!」ムッキャァ
八雲「お父さんとお母さんは? ここで働いてるの?」ナデナデ
「わ・た・し・が。ここで働いてるのよ」
八雲「まったまた」アハハ
「む、ムカつくわね……貴女、名前と階級は?」
八雲「艦政本部第四部所属、八雲少尉であります」ビシィ
「わー軍人さんかっこいい〜……なんて言うわけ無いでしょ」
八雲「で、お嬢ちゃんのお名前は」
「比屋定海月、艦政本部第四部特ヒト課所属、『霊装魂計画』主任研究員、階級は中尉よ」
八雲「ひやじょう・みづきちゃん? 凄いなぁ。比屋定って私が迎えに来た独身中年ババアと同じ名前だよ。そうある名字じゃ無いのに」ケラケラ
比屋定「ええ。きっと、私こそが貴女が迎えるべき羊水腐りかけ独身中年ババアだと思うんだけど」ビキビキ
八雲「えーっと。あー、そういうことか。……すいませんでしたっ!!!!」
比屋定「初回だから許してあげるわ。車はどこ?」
八雲「あちらです中尉殿」
比屋定「態度変えすぎでしょ!? いいわよ。もう普通にしてなさいよ」
八雲「分かった。行くぞガキ」
比屋定「中庸という言葉があるんだけど、貴女は知らないようね」
140 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 05:32:38.06 ID:u1AXXBNco
八雲「じゃあシートベルトだけはしっかりとお願いしますよ」
比屋定「ええ。でも事故はしないでよね。人類の叡智を失うことになるんだから」
八雲「アンタ、調子に乗りすぎでそのうち足元掬われるぜ」
比屋定「調子に乗ったくらい許されるわよ。私は凄い科学者なんだから」フフン
八雲「アンタが見つけたその……霊素ってそんなに凄いのか」
比屋定「次世代エネルギーに繋がりうる新元素って言えば貴女も少しは想像がつくでしょ」
八雲「あーなるほど。なるほど。すごいすごい」ホジホジ
比屋定「ねえあの? 本当に理解してるの?」
八雲「そんなに大事だったら自分で運転しないのかい」
比屋定「残念ながらセンスが無さ過ぎて出来ないのよ」
八雲「そうかい。足の長さが足らないとな」ケラケラ
比屋定「ちょっと、私は年上だし階級も上なのよ。敬意を持ちなさいよ敬意を!」
八雲「ごめんごめん。どうしても、ウチの園に居たガキにしか見えなくてさ」
比屋定「……慣れたことだけど、ここまで子供扱いされるのは中々無いわ」
八雲「へいへい。今後ともご贔屓にお願いしますよ主任研究員様」
141 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 05:35:15.80 ID:u1AXXBNco
比屋定「妖精に安全保障を丸投げするなど、正気なの?」
「確かに即座に結果を出すことは難しいかもしれません。また敵対する筈の異種生命体との共同戦線に不安があるのも事実でしょう。ですが味方となった彼らは全面的な協力を惜しまないと明言しておりますし、既に開示された艤装技術は信用に値します。我々造船部も長期的な視点に立ったとき、えーつまり日本が今後国際政治で主導的な立場を維持するためにも『霊装』より『自律機動戦闘艦』の方が遥かに良い」
比屋定「この場は開発の進捗を報告する定例会の筈でしょ。ナノマシン体が技術的に困難だからって話をすり替えないで頂戴。特フタさんは私たちに対して優位を取るためのカードが無いって明言してるようなものよ?」
「すり替えではない。技術の妖精一元化はメリットが多いという事実の提示だ。開発進捗に関しては『霊装魂』だって我々と同じような状況だろう」
少将「いいや。『霊装魂』の理論研究は既に完成している」
「……第四部長殿、大本営の許可さえ頂ければ、現在抱えている技術的な諸問題に関しては妖精たちの全面的な協力が得られ解決できます。ナノマシンによる自律機動戦闘艦の建造は決して不可能ではない。計画は一挙に軌道に乗ります」
少将「妖精の内戦に巻き込まれているのではないか、という疑いも強い。協力関係にあるとはいえ全幅の信頼を置くのは早計と上層部は考えている」
比屋定「大本営のくせにいい判断ね。同等の力を持たない協力関係など隷属と同義よ」
「日本が無くなるかもしれない時局に至ってまでソレを優先しますか」
比屋定「誇り無しで生きるなら死んだほうがマシだもの」
少将「比屋定君、やめたまえ。ともかく猶予は無い。艤装による沿岸砲台と妖精航空隊に頼り続けるのは限界もある。大本営はいち早く成果を得られた計画の採用を約束するとのことだ。期待しているぞ」
比屋定「はい。お任せ下さい」
「……承知しました」
比屋定「では進捗の報告へ移らせて頂きます」
八雲「おーおーやりあってるね〜」
142 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 05:36:54.41 ID:u1AXXBNco
比屋定「八雲、帰るわよ」
八雲「特フタの課長さん見るからに激怒してたが?」
比屋定「あら覗き見してたの。でも売国奴は気にしなくて良いわ」
八雲「へいへい。手厳しいことで」
比屋定「今日は外でカツ丼にしましょう」
八雲「へいへい。店までの運転は?」
比屋定「頼もしいゴリラのお姉さんに任せるわ」
八雲「クソババア」
比屋定「は? 卵子全部溶かすわよ」
八雲「勘弁。あ、鍵を待合室に忘れちまった。ちょっと待っててくれ」
比屋定「私の気は長くないわよ。急ぎなさい」
八雲「へいへい」
143 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 05:37:40.06 ID:u1AXXBNco
「……」
艦政本部長「定例会は終わりかね」
「はい。つつがなく、とは行きませんでしたが」
艦政本部長「個人的にはナノマシン体の方が好ましいと考えているの」
「本部長殿から大本営へ進言して頂けないでしょうか」
艦政本部長「勿論可能だ。しかし説得の道具が足りない。特ヒト課の連中が粗相を起こしてくれればな」
「……彼らは臨床実験の段階で人死を出す可能性があります」
艦政本部長「国民感情は多少の犠牲を許容するだろう。なぁ課長君」
「何でしょう?」
艦政本部長「君もあの女は嫌いだろう? 私の部屋で少し世間話でもどうかね」
八雲「……」
144 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 05:52:17.95 ID:u1AXXBNco
比屋定「カツ丼の並盛り、御飯少なめで」
八雲「ダブルのカツ丼。特盛りで」
八雲「臨床実験はいつから始めんだ」
比屋定「一ヶ月後ってところね。……貴女は怖くないの?」
八雲「海軍内から被験者出さなきゃ体面に関わるって理屈は理解できるつもりだぜ」
比屋定「下らないわね」
八雲「カッコつけるには体面も大事だよ。私も昔スケバンやってたから分かる」
比屋定「体面もスケバンも論理的じゃ無い」
八雲「論理で世界が回ってるわけじゃない。組織ってなそういう面もあると思うよ」
比屋定「驚いたわ。全部筋肉かと思ったのに」
八雲「潰すぞチビガキ」
比屋定「なっ!? この、このっ!」ポコポコ
八雲「いたくねーいたくね〜」
145 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 05:54:34.26 ID:u1AXXBNco
研究助手「ひ、比屋定さん。拘束台の装置で何か問題はありますか」
比屋定「拘束具はコレだと弱いわね。八雲、秘密警察の方からもっと強いの貰ってきて」
八雲「秘密警察ね〜。了解」
研究助手「ひ、秘密警察……」
比屋定「お願いね。あとは問題ないわ。助手は実験に必要な機材の配置を、引き続き」
研究助手「り、了解です」
少将「失礼する。八雲君、ちょっといいかね」
八雲「はい。どうせ暇ですので」
比屋定「はぁ?」
八雲「申し訳ございません少将殿。私には重大な任務があるのです」キリッ
少将「廊下まで聞こえていたよ。君の任務に私も同行しよう。話は道中で良い」
比屋定「いや、えっ。少将殿のお話ならそちらを優先しても大丈夫です」
少将「分かった。ちなみに比屋定君、私が話すのは例の相談だ」
比屋定「う……」
少将「行き帰りの車内なら聞かれずに持って来いだと思う」
八雲「?」
比屋定「……お願いします」
146 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 06:11:16.08 ID:u1AXXBNco
少将「急に同行なんて悪かったね」
八雲「いえ。私が事故らないように祈ってもらえると幸いです。シートベルトはお願いします」
少将「ははは。比屋定くんと随分上手くやってるみたいじゃないか」
八雲「そうでしょうか? いがみ合ってばかりな気もしますが」
少将「科学者としての実力は確かなのだが、皮肉屋なところが目につくだろう」
八雲「問題ないです。ウチの園に居たガキみたいで可愛いもんですよ」
少将「比屋定くんは君より歳上なんだけどね……『艦政の凸凹』というあだ名を知っているかな」
八雲「いえ? それはなんでしょうか」
少将「身長180を超える君と140程しかない比屋定くんにつけられたものなんだが」ケラケラ
八雲「………」
少将「喜んでくれて何よりだ」
八雲「喜んでないです」
少将「比屋定くんは敵が多い。心を許せる仲間など居ない」
八雲「そっすか」
少将「彼女の言葉はとても強い。そして正しい。誰も彼女の隣には居られない」
八雲「……」
少将「私も可能な限りフォローはしているが、中々な」
八雲「なんでソレを私に話すのでしょう」
少将「君に彼女と一緒に暮らして貰いたい」
八雲「は? 嫌です」
少将「別に構わない。命令するまでだ」
八雲「……」
少将「比屋定くんが君に向ける視線は親しみの情を帯びている。君も気付いているんじゃないかな」
八雲「余計意味が分かりません。少将殿、大丈夫ですか」
少将「なら言い方を変えよう」
少将「彼女を危険から守って欲しい。また、被験体となる君の経過を観察する意味もある」
八雲「危険」
少将「彼女は恨みを多方面から買っている。計画の完遂の為なら私は何だってしよう」
八雲「あー、なんとなく心当たりはあります」
少将「護衛役には君が一番適任だと思う」
八雲「はぁ〜、分かりました」
少将「ありがとう。君の献身には本当に感謝する」
八雲「どうせ何言っても引き受けさせられるんですよね」
少将「まぁそうなるね」
147 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 06:13:31.64 ID:u1AXXBNco
八雲「邪魔するぜ〜。今日から私の家になるわけだが」
比屋定「……いらっしゃい」
八雲「おう。荷物は手持ちバッグ分だけだからスペース空けてくれ」
比屋定「単細胞は持ち物も少ないのね」
八雲「興味無くてな。私は好きなものにしか執着しないんだ」
比屋定「えーっと、要らないものは」ゴソゴソ
八雲「……にしてもきったない部屋だなぁ」
比屋定「か、科学者は時間が無いのよ!」
八雲「へいへい科学者が悪い科学者が悪い。なぁベッドってあるか」
比屋定「一人用のがあるけど」
八雲「まぁアンタ小さいし、二人で使っても問題無いよな」
比屋定「はぁ!?」
八雲「ま、今日からよろしく頼むわ」
比屋定「いやいやいやいや!? ソファで寝てね?」
八雲「へいへい」
148 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 06:16:23.44 ID:u1AXXBNco
比屋定「ただいま〜」
八雲「おかえり〜。設営はどうだ?」ジュージュー
比屋定「霊素注入用の機材の調整がまだできてなくてね。来週中には実験を開始できるわ」
比屋定「っていうか料理?」
八雲「カップ麺の空きを流しに溜めるのやめろ。ていう溜めるにしてもせめて水で洗ってからにしろ。コバエがわんさか」「わーわー!! もう言わないで!」
比屋定「何作ってるの?」
八雲「ハムエッグ。卵もハムも値上がりしてんだけどたまに食べたくなるんだよなぁ」
比屋定「……早く成果を上げないとね」
八雲「ま、気負うなや。飯食って寝ようぜ。ケチャップかければ完成だ」
比屋定「貴女はもっと……ううん。ご飯にしましょうか」
比屋定「!! 美味しい」
八雲「ガキどもも喜んで食うからな。多分美味いんだろうな」
比屋定「ガキって言うと孤児院の……ねぇ、明日からも何か作ってよ」
八雲「残念ながらコレしか作れねぇんだよな。後はてんで駄目。やる気も起きねぇ」ケラケラ
比屋定「がっかりね」
八雲「悪かったよ」
比屋定「……また作ってよね」
八雲「ああ。航路が平和になって、色々安く輸入できるようになったら好きなだけ食わせてやる」
149 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 06:16:59.74 ID:u1AXXBNco
八雲「ただいま〜。あ〜教え子の話聞いてて飲み会になっちゃってよ〜」
比屋定「おかえりー」ゴォーゴォー
八雲「一応聞いておくが、エプロン姿で何ヤッてんだ?」
比屋定「料理だけど」
八雲「その音は?」
比屋定「レシピ通りチャーハンを作ってるの」
八雲「ふざけんな!! 色々おかしいだろう!! 音とかニオイとか煙とか!!」
比屋定「おかしいわねぇ。レシピ通り作ったんだけど」
八雲「……いただきます」パクッ
比屋定「いただきます」パクッ
八雲「……」
比屋定「マズイわね」
八雲「分かってるなら……」
比屋定「試すのが大切、でしょ」
八雲「知るかよ。もうお前の飯は食わねぇ」
比屋定「駄目よ。人が食べてくれないと盛り上がらないもの」
八雲「勝手な奴だなぁおい」
150 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 06:18:19.14 ID:u1AXXBNco
八雲「ただいま〜」
比屋定「ただいま〜」
八雲「あー疲れたなぁ」
比屋定「私もよ〜」
八雲「飯どうする」
比屋定「何か作って」
八雲「しょうがない」
比屋定「不味かった」
八雲「ハムエッグ以外出来ないんだって」
比屋定「でも、ありがとね」
八雲「……ん」
比屋定「ねぇ」
八雲「ん〜」
比屋定「実は貴女を被験者に選んだのは……私なの」
八雲「へ〜」
比屋定「怒らないのね」
八雲「人はいつか死ぬんだ。怒るわけない」
比屋定「ソレはそれで歪んでない?」
八雲「私は納得してる。だから良いじゃねぇか」
比屋定「良いけど」
八雲「罪悪感を覚えてるんだったら、私を選んだ理由を教えてくれよ。なんで私だったんだ」
比屋定「身体能力が高いこと、女性故に霊装魂に対して適性が高いこと」
八雲「隠すな。霊装魂は汎用性に価値がある。体が丈夫な女性士官なんて今時珍しくもないだろ」
比屋定「……両親が居なかったから」
八雲「はぁ?」
151 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 06:48:16.29 ID:u1AXXBNco
比屋定「私にも居ないのよ。何か共感したっていうか」
八雲「お、奇遇だなあ。にしても変な理由で選ぶんだな」ケラケラ
比屋定「それにね、霊素は寂しがり屋の元素なの。だから私には見つけられた」
八雲「へ〜」
比屋定「寂しがり屋の貴女にもきっと適合してくれる」
八雲「私って寂しがり屋か?」
比屋定「ええ」
八雲「自覚無いなぁ」
比屋定「きっといつか分かるわよ」
八雲「はいはい。あーならもう寝ようぜ。眠い」
比屋定「ねぇ」
八雲「んだよ」
比屋定「今日は一緒に寝ない?」
八雲「すまん。私はノンケだ」
比屋定「な、何の想像してるのよ!? ……ずっとソファなんて体痛いでしょ」
八雲「ん〜。比屋定さんが一緒に寝て欲しいって言えれば、考えてやるよ」
比屋定「考えてやるって生意気じゃない」
八雲「なら私は別に。ずっとソファで良いですし」
比屋定「な、なら…………」ゴニョゴニョ
八雲「ん〜?? 聞こえないですよ〜?」
比屋定「一緒に寝たいって言ってるの!」
八雲「……アンタ変な人だな」
比屋定「うっさい! 黙れ!」
152 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 06:49:29.20 ID:u1AXXBNco
比屋定「一つのベッドに寝ると……体熱凄いわね」
八雲「私はゴリラにしては普通だ」
比屋定「あはは」
八雲「比屋定さんだって暑いよ」
比屋定「そうなの? 自分では分からないものなのね」
八雲「いい歳してるくせに男と一緒に寝たこと無いのか?」ニヤニヤ
比屋定「うるさいわね。ゴリラさんはあるの?」
八雲「元スケバンにそれ聞くか普通」
比屋定「……エロというよりグロね」
八雲「……」ベシッ
比屋定「ちょ、痛っ!?」
八雲「寝ますよ」
比屋定「ねぇちょっと理不尽すぎない?」
153 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 06:53:38.57 ID:u1AXXBNco
比屋定「ただいま〜」
八雲「……」スゥスゥ
比屋定「あら、ゴリラさんはお休みですか」
八雲「……」スゥスゥ
比屋定「狸寝入りじゃないみたいね」
頬に指先を這わせても彼女は気にせず寝息を立てている。
唐突な自分語りだが私は世の中への憎しみで動く存在だった。
幸せそうな家族が、男が、女が、憎くて仕方なかった。
私は何も持っていないのに何故お前たちは持っている。
憎しみでガムシャラに動いているうちに天才と呼ばれるようになった。
光り輝く舞台は私を暖かく迎え入れた。
家族的なハンディや不遇を乗り越え続け成功した努力家として。
まったく世間とは綺羅びやかで呑気なものだ。
私はいい気になった。
どこにも所属したことの無かった私は、自分を祭り上げてくれる環境を守りたくなった。
分かりやすく言えば深海棲艦を倒して世界を守ろうと思った。
比屋定「貴女は変な奴ね」
可哀想な孤児でも天才科学者としてでもなく、比屋定海月として扱ってくれる存在。
乱暴に私の頭を撫でる大きく柔らかな手。
粗暴でも真っ直ぐに私を捉えた言葉。
彼女の隣を歩くときの安心感。
比屋定「私、こんなの知らなかったよ」
神様が居るかどうかは知らないが、神様を信じている人が居るのは知ってる。
好きという感情だって同じこと。
比屋定「八雲……」
科学者は観測した事実を決して取り消しはしないのだ。
誰かを想って流れる涙を私は初めて知った。
八雲「……」
154 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 06:54:18.00 ID:u1AXXBNco
比屋定「ただいま」
八雲「おかえり」
比屋定「ゴハンは?」
八雲「お惣菜買ってきた」
比屋定「それね、大正解」クスッ
八雲「美味しい」
比屋定「うん。とても良いわ」
八雲「コレくらい作れるようになりて〜な〜」
比屋定「貴女が同じような味を作れるようになったら、私と結婚してくれない?」
八雲「良いぜ」
比屋定「えっ」
八雲「は?」
比屋定「いいの?」
八雲「いや、何をマジになってるんだよ」
比屋定「そ、そうよね。あはは」
155 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 06:55:35.70 ID:u1AXXBNco
八雲「やっぱ気になる男とか居ないのか」
比屋定「だから居ないわよ」
八雲「助手なんてどうだ。あいつ確か独身だろ」
比屋定「え〜あの人は男として無しでしょ」
八雲「酷くないか? 私も同感だけどよ。なんかキモいし」
比屋定「分かる! なんかキモいわ!」
八雲「あはは! だよなぁ」
比屋定「あはは!! ……八雲こそ、いい人居ないの? 貴女も三十路でしょ」
八雲「う〜ん。色々求婚はされるんだけどね」
比屋定「はぁ!?」
八雲「……は?」
比屋定「えっ、なんでゴリラが人間から? 求婚の意味分かってる? 発情期にオスを好きになるって意味じゃないのよ?」
八雲「お前は私を何だと思ってるん、だっ!」ゴチン
比屋定「ぷぎゅう」
比屋定「八雲に目も鼻の穴も手も足も二本ずつあるからって、求婚なんて有り得ない!」
八雲「えーっと、ゴリラにも同じものがついてるってツッコミは無しか」
比屋定「誰からよ」
八雲「ん〜、大体教官やってた頃の生徒だな。たまに先輩とかが入る」
比屋定「うそ……」
八雲「嘘ついてどうすんだよ」
比屋定「……貴女やけに慕われてるわよね。一緒に歩いてると挨拶されてばっかりだし」
八雲「普通だろ」
比屋定「私で考えてみなさいよ」
八雲「あー確かに少ない、っつーかほとんど無いな。まぁ人間色々あるだろ」ケラケラ
比屋定「……」
八雲「え、なんだよその顔は」
比屋定「やっぱり貴女、本当は私のこと見下してるんでしょ」
八雲「は?」
比屋定「友達も知り合いも全然居ないみっともない奴だって」
156 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/05(土) 07:06:41.00 ID:u1AXXBNco
比屋定さんは怒っている。
さっきまで一緒に笑っていたのに、もう見たことが無いほど激怒している。
八雲(……?)
たまに居る感情がピーキーな人、とは少し違っているように見えた。
比屋定「三十路のチビの貧乳が天才科学者っていい気になって、形而下でも形而上でも薄っぺらい人間で!」
八雲「比屋定さん……その、生理か?」
比屋定「貴女なんか大っ嫌いよ!! なんで私の隣に貴女が居るのよ!」
八雲「あ、アンタが私を呼んだから」
比屋定「呼ばなかったら来なかったんでしょ!? 私たちはその程度の関係なのよ」
もう滅茶苦茶だ。
八雲「そうか。生理か。なら仕方ないな」
比屋定「いなくなれ!! いなくなれ!! 消えろ!」
八雲「おい」
比屋定「な、何よ!」ビクッ
八雲「嫌いなら殴っていいよ」
比屋定「なぐ」
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/07(月) 15:45:40.81 ID:LtHh+d0Z0
書き込んでいいか悩むところで切れてるな
ともかくお疲れ
待った甲斐があったわ
八雲さん長身のイメージだったが180もあんのかよw
続きも期待してるわ
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/07(月) 15:47:44.57 ID:LtHh+d0Z0
書き込んでいいか悩むところで切れてるな
ともかくお疲れ
待った甲斐があったわ
八雲さん長身のイメージだったが180もあんのかよw
続きも期待してるわ
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/09(水) 09:18:26.13 ID:ztibzgNdO
乙乙
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/26(土) 04:02:43.05 ID:4Jr4fidjO
ほしゅ
161 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:07:02.94 ID:6UrSFTGKo
強い感情が篭っているのであろう八雲の目に一瞬たじろく。
比屋定「今までは手加減してたけど私が本気で殴ったら痛いわよ」
八雲「構わない」
比屋定「ほんとに痛いんだからね!」
八雲「いいよ。全力で来な。座ってちゃやりにくいだろうし、寝室へ行こうか」
私は寝室で同居人の女と棒立ちになって、何をしているんだろう。
比屋定「アンタなんて大っ嫌い。年上に敬意は払わないし、生意気だし、キモいのよ」
八雲「それだけか」
比屋定「もっとあるわよ! 黙ってて!」
八雲「なら気持ちを全部乗せて私を殴れ。絶対気持ちいいから」
比屋定「頭おかしいんじゃないの!?」
八雲「嫌いな奴はぶっ飛ばしてきた。気に食わない奴もぶっ飛ばしてた。この私が言うんだ、間違いない」
比屋定「ええ、良いじゃないの。殴るわよ」
八雲「ああ」
比屋定「澄ましたツラしてるんじゃないわよ!」
162 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:08:47.32 ID:6UrSFTGKo
八雲「してないよ」
比屋定「してるわよ」
八雲「そっか。分かった」
比屋定「……?」
八雲「っラァ!」ボッコォ
比屋定「なっ」
八雲は自分の右手で自分の右頬を殴った。
八雲「イッテェ!!!! 初めて自分で自分殴ったけど私、筋力ありすぎだろ!! ゴリラかよ!」
比屋定「何してるのよ、本当に頭おかしいんじゃないの……」
八雲「信じてくれ。私はアンタの前で澄ましてなんかない」
比屋定「証明するためだけに殴ったの……?」
八雲「ああ。それ以外の方法、私は馬鹿だから分からないよ」
比屋定「ば、馬鹿じゃないの」
八雲「私が嫌いなら殴れ」
比屋定「……分かった。分かったわよ。思いっきり殴ってやるわよ」
八雲「顔に届かないだろうから、膝折るよ」
比屋定「ええ、良いわよ。さっさとしなさい」
八雲「はい、どうぞ」
163 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:09:29.76 ID:6UrSFTGKo
彼女は本当に膝を折る。私が顔を殴りやすいように『配慮』までしてくれる。
自分で殴った右頬が腫れて痛そうだ。
比屋定「生意気なのよ」
八雲「好きなところを殴ってくれ」
比屋定「……」
八雲「……」
八雲は覚悟を決めたかのような表情でこちらを見つめる。
自分は何でも受け入れるみたいな顔をして……気に食わない!
爪の先が掌に食い込むほど力を込め握りこぶしを作り、振り上げる。
比屋定「……」プルプル
八雲「……」
比屋定「……えいやぁ!!!」ボコッ
八雲「ぶっ」
164 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:10:23.20 ID:6UrSFTGKo
左頬に良いのが入った。八雲が少し仰け反る。
比屋定「このっ! このぉっ!!」ガッ ポコ
八雲「………っ」
比屋定「えいっ! っ!」ポコポコ
八雲「……」
比屋定「……! ……っ!」
八雲「海月さん」
比屋定「最初っから……」
八雲「スッキリしたかい?」
比屋定「私の気持ちなんて分かってるんでしょ……馬鹿ゴリラ」ポロポロ
八雲「知ってることしか分からないよ」
比屋定「……うぅ」
八雲「卑下なんてしなくていい。アンタは立派な女だ」
比屋定「なんで怒らないのよ」
八雲「……」
彼女は多分私のことを分かっている。
私がいきなり感情を爆発させた意味不明な行動の意味も。
私の言葉は八雲でなく、大嫌いな私自身に向けられていた。
自分が自分をどう認識しているかを吐き出したに過ぎない。
八雲はずっと、私を優しく抱きしめるでもなく、呆れるでもなくひたすら見つめ続けている。
比屋定「全部全部、分かってるんでしょう」
八雲「……」
165 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:11:14.14 ID:6UrSFTGKo
比屋定「私はこんなに……ちっぽけで」
八雲「誰かと比較しちまえば、背も器もちっちゃい魅力の無い女だと思うよ。皮肉屋でズボラで化粧もしない髪もボサボサ」
比屋定「うぅ」
八雲「良いじゃないか。比屋定海月なんてそんなモンだろ」
比屋定「良い?」
八雲「良いよ。てっぺんから足の先まで、私の知ってる比屋定さんだ」
比屋定「良くないじゃない!」
八雲「アンタが自分をどう思ってるか知らないよ? 私はそういうの良いと思うけどな」
比屋定「……」
八雲「まー三十路に入ると今までとは勝手が違うから、今更無理〜なことも増えるから色々早めにした方が良いぜ」アハハ
比屋定「会って一ヶ月くらいしか過ごしてないじゃない」
八雲「なのになんでこんな風に言うのかって?」
比屋定「……」コクコク
八雲「私は私を助けてくれた人たちと同じように自分以外と向き合う」
比屋定「理解出来ない」
八雲「助けられた分だけ恩返しさ。まぁそういうことにしといてくれ」
比屋定「誰にでも同じように?」
八雲「ああ、可能な限り。命が尽きるまで同じようにするつもりだよ」
比屋定「だからお金が貯まらないのよ」
八雲「そうかもしれないね。でも、信じて裏切られる方がずっと気が楽さね」
166 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:12:33.42 ID:6UrSFTGKo
比屋定「私が大切だからこんな風にしてくれるんじゃ無いの」
八雲「みんな大切だよ」
比屋定「気持ち悪い答えね」
八雲「私は今アンタを大切に出来てないかい。気持ち悪いって思わせちまうかな」
比屋定「……」
八雲「私自身はそうは思わないんだ」
自分のために、他人の気持ちなど関係なく主観で全肯定して受け入れる。
文字で読んでみれば独善極まりない。
そして私をどこまでも一人の比屋定海月として扱ってくれているのか。
頭の悪い彼女には、自分の感情と自分を取り巻く現実を擦り合わせ共生させるには、この方法しか無かったのだろう。
彼女は私を抱きしめない。安っぽい言葉とお世辞で慰めもしない。
ただ自分が知り感じた事実だけを述べる。
彼女が私に与えようとしているのは何だろう。救済? 友情?
……違う。彼女にとっての大切にするとは与えるのではなく自らを曝け出し一緒に居ようとすることなのだろう。
押し付けがましく与えるのではなく、堂々と叩き付ける。
余りに残酷じゃないか。
比屋定「分かってるんでしょう」
八雲「さっきからソレばっかだな」
比屋定「……」
客観視してワガママなのは私だろう。思い通りにならないからキレるロリ三十代。
八雲は向き合わせてくれ、とだけ言う。
残酷だ。
だって私は弱いのに。
167 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:13:10.88 ID:6UrSFTGKo
八雲「本当に欲しいなら言葉にしろ。私は逃げない」
比屋定「……あはは」
清々しくて笑いすら出て来た。
何もかも分かっているからこそ、私が本当に言って欲しい言葉は出さない。
その日は久しぶりにベッドとソファで別れて寝た。
168 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:14:01.38 ID:6UrSFTGKo
八雲「うー」
少将「八雲君、今日は顔が腫れている気がするのだが」
八雲「ちょっと殴り合いしたので」
少将「……比屋定くんと?」
八雲「はぁ、まぁ」
少将「大丈夫なのか?」
八雲「男同士で腹を割って話さなきゃいけない時もありますから」
少将「私は突っ込まないぞ。明日から臨床実験だが、本当に良いんだね?」
八雲「はい。死んでも構いません。まー理論的に死ぬことは無いそうですし」
少将「理論の穴を埋めるための実験だ。仮に成功しようとも、先に待っているのは」「分かってます」
少将「……すまない。私も少し動揺しているのかもしれない」
八雲「世界の海を守ろうって計画なんですから」
少将「世の男どもが君くらい肝が据わっていたらな」
八雲「私と同じのばっかりの世界なんて嫌ですよ」ケラケラ
169 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:14:50.33 ID:6UrSFTGKo
比屋定「……ただいま」
八雲「おかえり」
比屋定「……ご飯は」
八雲「おかずにハムエッグ作っといた。私は食ったから大丈夫」
比屋定「ありがとう。もう、寝るの?」
八雲「おう明日も早いし寝ようぜ」
比屋定「明日なんだよ」
八雲「そうだな」
比屋定「怖くないの」
八雲「アンタの理論なら多分死なないんだろ。なら大丈夫だろ」
比屋定「私が不安なのよこの馬鹿!!」
八雲「なら最初っからそう言えや。慰めてやろうか?」ニヤニヤ
比屋定「私がご飯食べる間一緒に居てよ」
比屋定「……」モグモグ
八雲「美味いか」
比屋定「ええ」
八雲「そっか」
比屋定「昨日はごめんなさい」
八雲「いや、謝ること無い。見たところ昨日よりスッキリしてるし」
比屋定「気のせいよ」
比屋定「ごちそうさま」
八雲「明日も早いし寝ようぜ」
比屋定「待って」
八雲「?」
比屋定「今日で最後かもしれないんだから、お礼をさせて」
170 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:15:36.06 ID:6UrSFTGKo
比屋定「上手でしょ」
八雲「……別に」
比屋定「身体は正直なものね」
八雲「ちっ」
比屋定「ふふっ」
お礼とは、八雲への耳掻きだった。
八雲「よりにもよって耳掻きたぁ、何だかなぁ」
比屋定「何か因縁でもあった?」
八雲「命を吸い取る手をしてる爺さんのことをちょっとな」
比屋定「?」
八雲「なぁ」
比屋定「ん? どうかした?」
八雲「なんでアンタは、ここまで霊装魂に拘るんだ」
比屋定「さぁ。どうしてかしらね」
八雲「ナノマシンを使った自律機動戦闘艦の方が面倒は少ないし、実現可能だ」
比屋定「何故そう思うの」
八雲「私だってある程度はお勉強も出来る」
比屋定「そうね。実は助手にも同じことを言われてるわ」
八雲「自分の言い出したことだから意地になってるのか」
比屋定「あら、私がそんな女に見える?」
八雲「……」
比屋定「ま、まぁ見えるわよね……」
171 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:17:14.81 ID:6UrSFTGKo
比屋定「自律戦闘艦を作ることは、人間が深海棲艦を作ることと同義なのよ」
八雲「敵の戦車を潰すために自前で戦車を作るのは合理的な判断だ」
比屋定「そして同数以下しか作れないなら、より質の勝る戦車が必要になる。ここが気に食わないの」
比屋定「自律戦闘艦は人の外の存在。女の肉体を模した器と敵に無い知性と感性が与えられるそうよ」
八雲「知ってるよ。自我を持つ擬似生命を創りだすのが嫌ってか」
比屋定「ちょっと違うわ。私は兵器とはあくまで道具でなければならないと思う。人の手によって動かされる人のためのもの」
八雲「セーフティだって整備する。根本が人のためのもの、って部分で変わりない」
比屋定「アテにならないわ。自我を持つ兵器はいずれ私たちの支配から外れ……人そのものに影響力を与えようとするでしょう」
八雲「根拠は」
比屋定「イブよ。創造主の言いつけを破って果実を食べてしまうのだから。女型の自律戦闘艦だって、きっとそうなる」
八雲「宗教を引き合いに出すなよ」
比屋定「女がいかに邪悪な生き物か、この星のベストセラー本に書いてるのよ」
八雲「へいへい」
比屋定「そもそもがこの戦争は誰の戦争?」
八雲「人間と深海棲艦だろ」
比屋定「深海棲艦と自律戦闘艦はナノマシンによって妖精が生み出したもの。海でそれらが戦うとすれば、人間はどこに居るの?」
八雲「……確かにそうだけど。なんていうか、アンタの言うことは承服しかねるよ」
比屋定「そう?」
八雲「霊装魂にすれば人の血が流れる」
比屋定「自律戦闘艦なら誰も傷つかない?」
八雲「……そうだよ」
比屋定「……」クスクス
八雲「あー! もう! 私にらしくないことを言わせるな!」
比屋定「貴女らしいわよ」
八雲「自分の誇りを守るために誰かの血を求めるのは、軍人以前の邪道だ」
比屋定「なら貴女は邪道を行こうとする私をどうする? 殺す?」
八雲「……なんでそうなるんだよ」
比屋定「自律戦闘艦は希望になるのかもしれない。戦争を終わらせ、全ての人と妖精を繋ぐ架け橋にも」
八雲「……」
比屋定「でもそれは、色んな奇跡が起きなければ実現しない。そもそも、彼女たちの自我が、人の幸福を願わなければ叶わない未来」
比屋定「セーフティとして誇りと愛情を植え付けられた彼女たちが学び、その偽りの自分と向き合った時にどんな悲しみを背負うのか」
比屋定「全てを知って尚、人でない彼女たちは人と共に生きる道を選ぶかしら?」
八雲「それは……」
比屋定「私だったら人間を憎んで全部壊しちゃうかもしれない」
172 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:18:47.67 ID:6UrSFTGKo
比屋定「今まで私は自分が築き上げてきたものを守りたいと思ってた。今は違う気持ちで守りたいと思う」
八雲「……」
比屋定「誰かを想う気持ちって皆が持っているんでしょう?」
八雲「私もそう信じてるよ」
比屋定「論理的じゃ無いし科学者失格かもしれないけど、感覚だとしても自分が知ってることはやっぱり無視できない」
八雲「おぉ!」
比屋定「こんな日が来るとは思わなかったわ」
比屋定「一人の人間が持つ可能性と未来、それを尊重出来る社会。今は色んな物に邪魔されて難しいけど。いつか、きっと理想の場所へ辿り着くために」
比屋定「私は人間の誇りと皆の気持ちを守りたい」
比屋定「人の可能性と言いながら……自分以外の血を流す道を行くことが他の誰かから矛盾に見えるとしても」
比屋定「私は自分の信じる道を進み続けるよ。自律戦闘艦の可能性でも、妖精の可能性でもなく、人間の可能性を信じるのなら霊装魂しか無いと思うから」
比屋定「私たちは他のものに頼らなくたって、自分で平和への道を切り開ける」
比屋定「奇跡は私たち人の手でこそ起こすべきよ……貴女はどう思う?」
八雲「アンタが人間の可能性って言葉に酔ってるようにしか見えないね」
比屋定「ふふっ。かもね。だってとっても眩しいんですもの」
八雲「いんや、私も同じさ。私も多分そいつを信じ続けてここに居る」
比屋定「自問自答したって壊れない、納得できる強度を持ったモノを科学者は事実と呼ぶ」
比屋定「私にとって自分の気持ちは確かな事実よ」
八雲「……」
比屋定「祈りなんて軍人には必要ない。一緒に動きましょう」
比屋定「救済を与える神の居ない国に生まれた人間として、自分の信じるように」
比屋定「自分自身と未来に生まれてくる私たちと同じ気持ちを抱く存在のために」
八雲「吹っ切れたみたいで良かったよ」
比屋定「八雲」
八雲「おう」
比屋定「……」
八雲「最後まで聞きたい」
比屋定「好きよ、八雲。だから私とずっと一緒に居て欲しい」
八雲「良いよ」
比屋定「……馬鹿。こんなの女から言わせるんじゃ無いわよ」
八雲「ウホウホ」
比屋定「あはは!!」
173 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:20:07.71 ID:6UrSFTGKo
実験室は悲鳴で満ちていた。
比屋定「……」
研究助手「主任、被験者が耐えられるかどうか」
八雲「まだだぁ!! 私はまだ耐えられる!」
比屋定「……霊装の同調率と出力を理論計算値の限界まで上げなさい。実験第三段階を達成します」
研究助手「しかし」
比屋定「上げろと言っている」
研究助手「……了解しました」
八雲「がぁぁぁぁぁぁ!!!!」
研究助手「……理論計算値限界に到達。これ以上は被験体が霊装と融合を始めます」
比屋定「それはまだ仮説よ。第三段階クリア、実験を第四段階へ移行します」
研究助手「本気ですか!? 被験体が人間としての生活を捨てることになりますよ!!」
比屋定「何故冗談を言う必要があるの。分かっていたことでしょう。同調率と出力を十秒ごとにコンマ1ずつ上げていって」
研究助手「で、ですが」
比屋定「分かりました。私がコンソール操作をします。どきなさい」
研究助手「………」
比屋定「被験体、聞こえてたわね。覚悟を決めなさい」
八雲「望む……ところ……」
比屋定「……」
八雲「迷うんじゃあない!! ここは立ち止まる所じゃ無いだろうが!!!」
比屋定「……ええ」
比屋定「その通りよ」
174 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:21:06.14 ID:6UrSFTGKo
〜〜〜〜〜〜
八雲「……」
研究助手「被験体が意識を失いました。全身の細胞核霊素汚染率……83%。加えてコアの形成を確認」
比屋定「よろしい。第九段階をもって実験を終了。推移データを全て私の自室デスクへ」
研究助手「……霊装同調率と霊装出力増強に伴うフィードバック臨床実験を終了します」
比屋定「被験体を医務室へ。私は自室で報告書をまとめます。お疲れさま、後はよろしく」
研究助手「……」
175 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:22:16.48 ID:6UrSFTGKo
八雲「……よう」
比屋定「……! 八雲! 良かった、もう目を覚まさないのかと」
八雲「まだ逝けるもんかよ」
比屋定「……だって、三日も!!」
八雲「アンタが泣くなよ。私一人の身体くらい、人間全体に比べりゃ安いもんさ」
比屋定「霊素汚染で貴女の染色体は……心臓の横にはコアまで……」
八雲「分かっている」
比屋定「……」
八雲「で、いつまで生きられるんだ。三日か? 一週間か?」
比屋定「貴女は死なない。既にコアが生きていくのに必要な霊素を、体内で生成し始めている」
八雲「人間としての話だよ」
比屋定「……現在の汚染率は89%、このまま行くと三週間後には全身にまわる」
八雲「人間に戦わせるためのシステムが、非人間を生み出しちまうわけかい。なんとも」
比屋定「……」
八雲「そうだ。謝らなくていい。私もお前も、好きなようにやったんだ」
比屋定「違うよ……何て言えばいいのか、全然分からないの」
八雲「謝ったら怒るよ」
比屋定「謝らせてくれないの」
八雲「ああ。それはしちゃ駄目だ。これから流れる血に対しても笑顔でありがとうと言え」
比屋定「私、そんなに風には――――「駄目に決まってんだろ」
八雲「もう折れる気か? アンタの人間への想いはそんなもんなのか?」
比屋定「……」
八雲「私は進んで被験体になったんだ。これで良いんだ。私たちは強くならなきゃ駄目なんだよ」
比屋定「良くないよ。八雲が納得出来たって、私は出来ない」
八雲「納得しろ」
176 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:23:14.89 ID:6UrSFTGKo
比屋定「自分の大切な存在が傷ついても動じない人を強いなんて言わない」
八雲「………」
比屋定「そんなの! ただ壊れてるだけよ……」
八雲「今更自分だけは正気でいようなんて、都合良すぎないか」
比屋定「……」ビクッ
八雲「泣くな。私だけは味方だ」
比屋定「……お姉ちゃん、ギュッてして」
八雲「……………は?」
今思えば、そいつは後に数多く繰り返される、彼女の幼児退行の始まりだった。
比屋定「くらげちゃんはねー。お姉ちゃんのこと大好きなのー」
八雲「お、おう」
退行した彼女は自らを「くらげちゃん」と名乗った。
比屋定「キャッキャッ」
彼女はその内にはしゃぎ疲れて寝てしまう。朝起きると元通り。
177 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:24:18.94 ID:6UrSFTGKo
研究助手「被験体028が……死亡しました」
比屋定「随分と脆いのね。健康な八雲を基準に考える計算式は誤りだったのかも」
研究助手「も、脆い? 人が死んでるのに」
比屋定「だから何かしら」
八雲「……」
退行の揺り戻しであるかのように、研究室で彼女は苛烈になっていった。
私は霊素体になってしまったため、以後の実験は海軍内外で新たな被験者を募り行った。
そして次々に人間として死んでいった。
比屋定「045は完全な霊素体に変化しました。次のを用意して。時間が無いの。急いで」
比屋定「お姉ちゃんだっこー」
時折、生物としても死んだ。
比屋定「次。もっと丈夫な奴を連れて来なさい。実験にならないじゃない!」
比屋定「お姉ちゃん、遊んでー遊んで−」
女として、死んだ。
比屋定「幹事長殿、党からのご支援に感謝します。必ずや日本の海を海軍が守り抜いてご覧に入れましょう」
比屋定「あー、うんちでちゃったー」
比屋定「接続に関する実験は完遂。次は運用面での同調差異解決を目的とした外洋での――
比屋定「ばぶばぶ」
178 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:25:53.15 ID:6UrSFTGKo
八雲「……よしよーし」ナデナデ
比屋定「キャッキャ」
八雲「おっぱい飲みまちゅかー?」
比屋定「うにゅー!」
シャツを捲り上げると彼女は夢中で吸い付いた。
私に耳かきをしてくれた頃の彼女はもうここには居ない。
比屋定「ん……」ブルブル
八雲「あ、こらー。ベッドの上でシーしちゃ駄目って言ってるだろー。はい脱ごうね〜」
比屋定「やー! やー!!」ジタバタ
八雲「ほら、暴れないの」
今の彼女を見ていると、私の目からは涙がとめどなく溢れ続ける。何故だろう。
八雲「なー、クラゲちゃん」
比屋定「……?」
八雲「二人で死んじゃおうか」
そう問いかけながら、細首に指をかける。
比屋定「……」
彼女は何も言わず、嫌がりもせず私の手を受け入れてくれた。
八雲「最初はちょっと苦しいかもしれない。でも、我慢してくれ。私もすぐに行く」
比屋定「……いたいの?」
八雲「ああ、ごめんな。ちょっと痛いかもな」
比屋定「ううん。お姉ちゃんがいたいの? だいじょうぶする?」
八雲「……っ。そうだな、痛いんだ。してくれるのかい」
比屋定「いいよ〜」ナデナデ
八雲「ありがとう……ありがとうね」
比屋定「えへへ。だいじょうぶ〜」ナデナデ
八雲「もう嫌なんだ。傷ついていくアンタを、これ以上見つめられない」
比屋定「?」
八雲「ごめんよ。私が間違ってた。止めるべきだったのに、優しいアンタに酷な道を押し付けてしまった」
比屋定「……?」
八雲「頼む、誰でも良い。時間を巻き戻してくれ。次はもっと良い結末を迎えて見せる」
比屋定「……」
八雲「お願いだ。人間の可能性を信じた奴の道の先が、こんなんじゃあんまりにも酷すぎる」
比屋定「まだ、いたい?」
八雲「……」
179 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:26:19.58 ID:6UrSFTGKo
八雲「いいや。もう大丈夫だよ。ありがとう」
比屋定「イシシ! 良かった!」
八雲「クラゲちゃん」
比屋定「?」
八雲「実験、好きかい」
比屋定「きらい! こわい!」
八雲「もう実験するの辞めてもいいんだよ」
比屋定「なにを?」
八雲「霊装魂の実験さ」
比屋定「れいそ……れいぞうこ!」
八雲「……」
180 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:26:58.99 ID:6UrSFTGKo
比屋定「八雲、おはよう」
八雲「……おはよう」
比屋定「貴女、今日から霊装部隊の外洋演習でしょ。時間、大丈夫?」
八雲「ヤバイな」
比屋定「貴女の大人らしからぬ粗相の跡は私が消しておくから。早く行くことね」クスクス
彼女は昨晩自分が粗相したシーツを持ち上げ、楽しそうに笑っていた。
八雲「……助かるよ」
比屋定「何度も言うけど漏らすのは恥ずかしいことじゃないわ。メンタルヘルスで改善する可能性もある」
八雲「病院行くならお前も来てくれるか」
比屋定「私は実験の報告書で忙しいし、そもそも行く必要が無いもの」
八雲「クラゲちゃん」
比屋定「クラゲちゃん? ちょっと、正しい読みはミヅキよ」
八雲「実験するの、好きかい」
比屋定「……? 必要だからしてるまでだけど」
八雲「実験、辞めても良いんだぜ」
比屋定「馬鹿言わないで。あと少しで何もかも報われるの。私は進み続けるわ」
181 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:27:40.21 ID:6UrSFTGKo
八雲「霊装部隊六名、外洋演習日程を終え、ただいま帰投しました」
少将「……よく戻った」
八雲「少将殿、お顔色が優れませんが」
少将「霊装魂計画は実質的に破棄することとなった。今日は、君にそれを伝えに来たんだ」
八雲「なっ!? 馬鹿な!? 何故今になって」
少将「特フタ課で同時進行していた自律機動戦闘艦計画、それをベースにしたモノに計画を変更となった。大本営の正式な認可も受けている。既にスタッフも移動済みだ」
八雲「そんなことは聞いてない! 比屋定さんの霊装魂が一番進捗も良かった筈だ!」
少将「……比屋定君は」
少将「消えてしまったんだ」
八雲「……」
182 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:28:38.37 ID:6UrSFTGKo
6日未明、神奈川県横須賀市の海岸において、入水自殺。「不甲斐ない私を許して下さい」
6日午前3時50分ごろ、横須賀市郊外にある海岸近くの住民から「女性が入水自殺している」との通報があった。警察と海保が駆けつけ海中捜索も行われたが現場付近は海流が複雑に入り乱れる海域であり、未だ発見には至っていない。海岸近くに停められた車には遺品、遺書と思われるものが残されており、そこから行方不明者の身元は比屋定海月(ひやじょう みづき)氏(38歳)であると確認され、動機などについて警察が調べを進めている。
氏は日本海軍艦政本部に勤務する研究員であり、三日前から無断欠勤が続いていた。また、時折同僚らに「死にたい」と漏らすこともあったという。遺書には「計画は失敗しました。不甲斐ない私を許して下さい」等と書かれていた。氏は研究チームの主任を務め、日々この重責に耐えていたのではないか、と関係者は語っている。
自殺について海軍報道官は「自殺を事前に防げず誠に遺憾である。事実関係を明らかにし、問題点を探った後、再発防止に努めたい」とコメントしている。
八雲「何の茶番だよこれは……!」
183 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:29:47.07 ID:6UrSFTGKo
八雲「総長! 話がある!」
軍令部総長「……対応中だ。出て行きたまえ」
研究助手「………」
八雲「助手も居たか。丁度いい。この発表は何だ、比屋定さんが自殺するわけ無いだろ」
軍令部総長「自殺だそうだ。コメントは警察発表の結果を受け入れたものに過ぎない」
八雲「助手! お前も何とか言え! ……その資料、何だ」
研究助手「あ、こ、見ないで下さい!! き、機密事項です!」
八雲「黙りな! これ……全部、霊装での実験に関するものじゃないか」
研究助手「れ、霊装魂計画は、全て機動戦闘艦計画に引き継がれましたので。で、データも自動的に」
八雲「ふふふ……そうかい。そういうことかい」
軍令部総長「……」
八雲「比屋定さんばっかり悪者にして、美味しいとこだけ持っていくのか」
助手「……」
八雲「あの人がお前らの前で一度でも『死にたい』と呟いたことがあったのかい」
研究助手「や、八雲さんが外洋演習に出られて以来、主任はふさぎこみがちになりまして」
八雲「もう既に自分を殺し続けてた奴が、2〜3日で心変わりして自殺を決意したって?」
研究助手「……」
八雲「自殺したって何の解決にもなりゃしない。だからあの人は、壊れながらでも研究を続けてた」
軍令部総長「もう帰りたまえ。君への沙汰は、追って伝える」
八雲「車も運転出来ない奴が! なんで横須賀の郊外まで行って死ぬんだよ!」
軍令部総長「おい、誰かコイツをつまみ出せ」
研究助手「……不満が残るのでは」
軍令部総長「残ったところで問題無い。証拠は全て消し去ってある」
研究助手「大人しく退役するでしょうか」
軍令部総長「八雲はああ見えて優秀だ。飼い主が誰か、よく分かっているさ」
研究助手「……」
184 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:30:31.46 ID:6UrSFTGKo
八雲「……」
「隊長!」
「隊長、比屋定さんはどうして自殺なんか」
「総長は何と?」
外へ出ると霊装部隊の仲間に取り囲まれた。
八雲「アンタたちの命、私に預けてくれるか」
「どうか、したんですか?」
八雲「あの人は誰かに殺された可能性がある」
「……そんな」
八雲「私はこの時代の軍人として、自分の命ごときはなんとも思わない。信じる秩序のためいつでも死ねる」
八雲「そんな自分を誇りにすら思っていた」
「私もです!」
「同じ心づもりです!!」
「……」
八雲「だが、秩序それ自体が歪んでいるのなら、正すのもまた己の役目と心得ている」
八雲「海軍の秩序が私の大切な仲間を貶めるのなら、私は、そんなものを護らない」
八雲「……綺麗事を言ったところで今からするのは私個人の憂さ晴らしだ。断じて天下国家の為じゃないよ」
「誰かを殺すんですか」
八雲「殺すもんか。私が殺すべきは一人しか居なかった。その人は、多分もう居ない」
「……」
八雲「真実を明らかにするため、まずは比屋定さんの遺品を確保する。頼む、手伝ってくれ」
185 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:31:20.31 ID:6UrSFTGKo
八雲「……処分したってのは何だい」
「ですから捜査は打ち切られましたので、関係する文物は全て処分いたしました」
八雲「まだ一週間も経っちゃいないんだよ!? そんなことがあるわけ無いじゃないか!」
刑事「おい、八雲だろ。久しぶりだな。煙草に付き合え」
八雲「刑事さん……」
刑事「真面目に仕事してるみたいだな」
八雲「入水自殺の捜査が打ち切られた件、何か知ってるかい」
刑事「……上から圧力があった。資料はもう残ってない」
八雲「やっぱり自殺じゃ無いんだね」
刑事「情況証拠しか無い。断定は早計だ。だが、通報の電話も、遺留品も不自然な点が多すぎた」
八雲「……」ギリッ
刑事「ので、俺が写真を残しておいた。このネガに入ってる」
八雲「良いのかい。こんなもん渡しちゃ、後々困ったことになるかもしれないのに」
刑事「仕事の矜持くらいは守らねぇとな、悪ガキに説教も出来やしねぇ」ケラケラ
八雲「本当に助かるよ。何か困ったことがあれば、私に言いな」
刑事「ケツの青いガキに相談するようなこたぁねぇよ」
八雲「くっくっく、アンタも相変わらずだね。煙草貰って良いかい」
刑事「女が吸うんじゃねぇよ。……ほら」
八雲「ありがとな」
186 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:32:02.32 ID:6UrSFTGKo
「遺書の筆跡が、比屋定さんのものと一致しません」
「車の所有者も全くのデタラメです!」
八雲「当たり前だよ。あの人は車なんて持ってないんだから」
「部屋の私物は全て処分されていました。研究室の比屋定さんのデスクも空です」
八雲「一番恐れてた事態になりそうだね」
「……?」
八雲「アンタたちはもう関わらなくていい。後は私一人でやるよ」
「な、何でですか!? 私たちじゃお役に立てませんか!?」
八雲「恐らく首謀者は海軍内に居る。事を大きくしても誰も守ってくれない。首切られるのは私だけで充分だよ」
「……」
八雲「養うべき家族が居るんだろ。無理する必要は無い。もう随分と無茶をして貰った」
「……ごめんなさい」
「アンタ、八雲さんを見捨てる気!?」
「恥知らずにも程が有る!」
八雲「やめな! 忠誠ヅラしていい気になるんじゃないよ! 抜けることをとやかく言うなら私が引っ叩くからね!」
「八雲さん………八雲さんごめんなさい……」
「……」
「……良いんですか」
八雲「良いんだよ。アンタたちには見届けて欲しい。ここからは私の喧嘩だ」
187 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:33:16.55 ID:6UrSFTGKo
ふと昔のことを思い出した。
毎日が楽しくなかった。死と隣り合わせの瞬間にだけ自分という存在を感じられた……あの日々。
仲間と喋り、笑いあっても心は躍らない。
いっそのこと何もかもが消えてしまえばいいのに。
そう願いながら単車に跨がり続けた高校時代。
海軍に入っていなければ私はどうなっていたのだろう。
父さんに刑事のオッサン。先生、爺さん、良くしてくれた先輩、仲の良かった同期の奴らや可愛い教え子、親父さん。
比屋定さん。
比屋定さん
どうしてなんだよ。
188 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2016/11/29(火) 20:33:43.51 ID:6UrSFTGKo
小休止
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/30(水) 01:24:44.32 ID:h+EaxVxr0
乙
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/02(金) 18:50:04.20 ID:areomz2I0
乙
やっぱ面白いわ
続き楽しみにしてる
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/05(月) 22:50:37.30 ID:QFBwNt4DO
乙乙
ホント面白い
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/08(木) 11:54:06.95 ID:1zqjl9AA0
保守
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/08(木) 12:49:13.68 ID:1zqjl9AA0
流石に下過ぎやわ
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/02(月) 20:10:12.27 ID:74JYvaFm0
むぅ
一月か……
待ってるぞ
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/17(火) 00:02:43.82 ID:Yuy+9yEuO
ほしゅ
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 15:27:24.59 ID:/TYuadF80
そろそろ来るか?
197 :
◆mZYQsYPte.
[sage saga]:2017/01/26(木) 00:37:00.35 ID:TKHM9UqCo
ちょっと待ってください。必ず書きます。
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/26(木) 11:19:00.91 ID:QEJC9NXo0
生存報告乙
やっぱなんもないと不安になるから助かる
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/19(日) 22:37:59.56 ID:JDpOUm7nO
ほしゅ
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/02(木) 18:56:14.45 ID:bNtMXyJ5O
ほ
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/26(日) 00:48:14.04 ID:NqWmx8JA0
即死判定ってスレ主が2ヶ月書き込まないだっけ?
そろそろヤバいかも…
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