魔法少女ダークストーカー 2スレ目

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77 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/07/20(水) 22:49:52.40 ID:G8Avh2PSo
父「私でも…お前でも駄目なのか………」

母「あの子でさえ…あの子でさえ無いのなら。私だったら、幾らでも……」


父「どうする……どうすれば良いんだ!!」

母「然るべき手段を取る…しか無いでしょう。申請はまた明日にでも…」

父「だが…それでは……家も失って、財産も残らずに……あの子にも、苦しい生活をさせる事に…いや、下手すれば…」

母「それだけは…それだけは絶対に避けますから!!」


父「どうやってだ!?どうすれば………どうするのが一番良いんだ!」

母「だったら…あの子に聞いてみましょうよ」

父「あぁ……そうだな…それが一番だな。あの子自身が決めるのが一番だな」


その日…いつもと違ったのは、両親の会話だけでは終わらなかった事です。

ドアをノックする音の後…両親は、私の部屋へと入って来ました。


父「こんな時間にすまないな…起きているかい」

私「………うん」

母「ごめんなさいね…毎晩毎晩、うるさかったでしょう?」


私「ううん、そんな事無いよ」

母「そう…ありがとう」


父「その…何だ…もしかしたら知ってるかも知れないんだが…今、父さんと母さんは凄く困ってるんだ」

私「知ってる…友達の借金とか、会社の事だよね?」

父「あぁ、そうだ。それで……な。ある人が、父さん達に融資をしてくれるって言ってくれてるんだ」


私「……あのお髭の人?私…何をすれば良いの?」

母「――――ッ……」


父「移植手術…って知ってるかい?あぁ、いや……それは今言う事じゃ無いか」

私「…………」


父「なぁ、ハル……お前は、父さんや母さんと離れ離れになるのは嫌か?」

虚ろな……今にも壊れてしまいそうな震えた瞳で、父は私に聞きました。
78 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/07/27(水) 23:29:48.12 ID:xDmyIqKTo

○けつだん

ハル「お父さんとも、お母さんとも………離れるのは嫌。だから私―――」

父「そうか…なら決まったな」

私は父の問いに答え……その言葉の終わりを待つ事無く、父は語り始めました。


母「あなた…」

父「あぁ……融資の話…正式に断ろうと思ってる」

ハル「…え?」


父「あの話を受けてしまったら……ハルを売り渡すような事をしてしまったら…きっと、俺達は一緒では居られない」

母「…………」

父「例え同じ家に住んでいたとしても、心がバラバラになってしまう…そう思うんだ」


そう……父は決断したのです。

例え苦しい生活になろうとも…それでも、家族がバラバラにならない道を。


だから…私も決断しました。

私「ありがとう…お父さん。でも…私、お髭の人に会って話してみようと思う」

父「………え?何を言っているんだ?もうハルが移植をする必要は無いんだぞ?」


私「うん、判ってる。でも…お金の事は関係無くなっても、解決してないと思うから」

母「…………」

私「そもそも私…私の事なのに、何も教えて貰えなかった。だから…ちゃんと、話を聞いてから決めようと思う」


母「……判ったわ。それじゃ、私から先方には連絡しておくわね」

父「まだまだ子供だと思ってたのに…知らない内に大人になってたんだな。ハル…お前は父さんと母さんの誇りだよ」

私は…何だか気恥ずかしくなってしまってしまいました。


そしてここからが…レミちゃんとの出会いの始まりです。
79 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/07/27(水) 23:43:03.05 ID:xDmyIqKTo
○てきごう

物語に出て来るような…絵に書いたような豪邸…髭のおじさんの家ににお呼ばれされました。

いえ…正しくは、呼んで頂くようお願いした結果なのですが…そこは割愛です。


私「本日はお招き頂きありがとうございます」

髭のおじさん「いやいや、こちらこそ…本日はお越し頂きありがとうございます」


父「…先日は大変失礼しました。厚かましいとは思いますが…本日は、大人の事情は一切抜きにして、子供達の意思を尊重して頂きたく存じます」

髭のおじさん「無礼だったのは私も同じ事…お気に病まれませんよう。勿論…私としても、口を挟むつもりは御座いません」


お父さんと髭のおじさんの挨拶の後……私は、お医者さんの立ち合いの下で説明を受けました。


髭のおじさんの子供は、骨髄移植と言う手術が必要で…その手術のためには、移植をさせてくれるドナーが必要だと言う事…

その子は凄く珍しいタイプで…両親や親戚でも適合できず、ドナーになれる人が居なくて………

私が適合したのは奇跡のような確率で……他のドナーが見付かる確率は、無いに等しいと言う事を聞きました。


他にも……ドナー登録の手続きや、登録をしても手術を強要される訳では無い事等の説明……

あと何故か、血液検査の許可を今になって求められたりもしました。


一通りの話を聞いて判ったのは……


私がドナーにならなければ、その子は3か月以内に死んでしまうと言う事。その子のドナーになれるのは、私だけ…と言う事。

その事実を改めて口にされた時……私は、心臓が早鐘を打っていたのを覚えています。


そして、その時点で………私はドナーになる事を決意して…髭のおじさんの娘さん……レミちゃんに合わせて貰えるようお願いしました。
80 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/07/28(木) 23:33:31.94 ID:MJesDdk2o
○かべごし

移植手術までの2週間…私は、病院でレミちゃんと一緒に過ごしました。


レミちゃんが居た部屋…無菌室と言う部屋らしいのですが……

ずっとあの部屋に居なければいけないと言う訳では無く、多少であれば外出も出来るようでした。

ただし、手術の一週間前からはまた無菌室に戻って…私も同じくらいから準備に入る事になっていました。


なので…実質上、一緒に居られる時間は一週間。

その一週間の間……私は、レミちゃんと沢山お喋りをしました。


私「それで…先生は何て言ったと思います?」

レミ「………判らない。教えて」

学校の事…クラスメートの事……両親の事…


私「それから…お父さんとお母さんには内緒で―――」

レミちゃんが知らない、私の事………


私「元気になったら…何をしたいですか?」

レミ「沢山あるけど…まず、ハンバーガーが食べたい」


私「今は駄目なんですか?」

レミ「うん…味が薄い物しか食べちゃいけないから」

病院の事…お医者さんたちの事…レミちゃんのお父さんやお母さんの事…


レミ「ねぇ……ペットって飼った事ある?」

私「飼ってた…って言って良いのか判りませんけど、少しの間だけ、子猫の世話をしていた事はあります」

レミ「そっか………ねぇ、生き物を飼うってどんな感じだった?大変じゃなかった?」


私「そうですね。大変ではありましたけど……自分で責任を持って飼うと決めていたので。嫌ではありませんでしたよ」

レミ「………そっか」

私「どうしたんですか?」


レミ「元気になった後の事…ペットを飼ってみたいとも思ってたから」


私が知らない、レミちゃんの事………
81 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/07/28(木) 23:44:58.11 ID:MJesDdk2o
最初の頃二人の間にあった見えない壁も、自然と崩れて…


かれこれ一週間が経つ頃には、お互いが仲良くなれた………そう思って居ました。

そう…少なくとも、私はそう思っていて……


レミちゃんに言いました。


私「レミさん……一つお願いしても良いですか?」

レミ「…何?」

私「私がドナーになる代わりに…一つ、お願いを聞いて欲しいんです」

レミ「…………うん、アタシに出来る事なら」


私「じゃぁ…お願いです。ドナーになる替わりに………私の友達になって下さい」


私には友達が居なかった事…レミちゃんとの関係に、特別な繋がりを感じて居た事………

私の心が望んだままの言葉を、レミちゃんに届けました。

……………でも


レミ「私……要らない」

私「…………え?」

レミ「それが条件なら…私、移植手術なんて欲しく無い!!」


レミちゃんから返された言葉は……深い拒絶の言葉でした。
82 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/07/29(金) 00:09:13.74 ID:5GHzQsyPo
○ごうまん

全力で……私から逃げるように走り去る、レミちゃん。

レミちゃんを追って、病院の廊下を走る私。


階段を上り…上の階へと進む間……私は、ずっと考えていました。

何故…どうしてレミちゃんは、私と友達になる事を拒んだのか…私を拒絶したのか。


レミちゃんは、私の骨髄が無ければ死んでしまう……にも関わらず、それを断るだけの理由。

私から逃げ出す………その理由。


そして…気付きました。

今まで私が考えもしなかった…いえ、もしかしたら…考えても気付かない振りをしていただけかも知れない…その理由に。


私「私………最低です」


私は全力で走り……レミちゃんに追い付きました。

階段の踊り場で…手すりにもたれかかって、荒い呼吸を吐き出していたレミちゃん。

私はその真横に立って、まず……頭を下げました。


私「ごめんなさい…私、思いあがってました!」


私「私がいなければレミさんは生きられない……私がレミさんの命を握ってるんだって…きっと、考えてたんです。でも…違いました」

私の勝手な思い込み…


私「レミさんは…今、生きてます!私なんかが居ても居なくても…レミさんは自分の意思を持って今を必死に生きてます!!」

レミちゃんを…死にかけのペットか何かのように思って居た私の醜さ。


私「それなのに…私………私は、あんな卑怯な方法で、レミさんと友達になろうと………」

その全てを吐き出し……許しを請うように叫んだのですが………


レミ「違う…そうじゃ無いの!」

私「…え?」


そんな私の言葉を、レミちゃんは否定しました。
83 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/07/29(金) 00:44:44.29 ID:5GHzQsyPo
レミ「アタシの命を握ってる…移植無しじゃ長く生きられない…それは間違って無い、それは良いの!でも………」

レミ「友達になる理由が…移植の条件じゃ嫌だったの!もっとちゃんと……ちゃんと友達になりたかったから!」

私「それって………え…?」


レミ「あんな形で…約束に縛られて友達になっても、アタシは友達でいられない。きっと…もやもやした物が残っちゃう。だから……」

レミ「本当の友達になれないなら…死んだ方がマシ。そう思ったの」


私「―――――――」


ボロボロと涙を零しながら語るレミちゃんを見て……私は悔やみました。

レミちゃんは…私が考えて居たような事さえ気にしていなかった。私の考えよりも…遥かに純粋な思いを持っていた。

そんなレミちゃんを前にして、私は…自分の愚かさと醜さに苛まれながらも……それ以上に強い思いが沸き上がって来ました。


私「……ごめんなさい。そして……改めて言わせて下さい。私の………」

レミ「……何………―――――っ!?」


沸き上がる思いのまま…その思いを伝えるべく言葉を紡いだその時。

レミちゃんの身体が、ぐらりと傾き………倒れて行くのが見えました。

倒れ込む先は、下りの階段。このまま倒れてしまえば、転がり落ちる事になり…大けがは免れない。


私は反射的に、レミちゃんを支えようと…抱き留めようとしたのですが………


私「………――――」

私と言う存在は、僅かに落下までの時間を稼いだだけ。転落の勢いを受け止め切る事はできませんでした。

となれば後は…せめてクッション代わりにでもなれれば良い………そんな風に思いながら、きつく瞼を閉じたのですが………


何故か…私の身体は階段に落ちる事無く、何かに支えられていました。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/29(金) 07:07:04.17 ID:F3uJw7TDO
ここにサイドテール好きのロリコンが出てくる訳か
85 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/07/31(日) 23:44:51.53 ID:TQtww6eio
○ともだち

男の人「っとっと………怪我ぁ無ぇか?」


私「……え?」

男の人「そっちの子も…何なら誰か呼ぶか?」

レミ「あ………ゴメン。大丈夫…ちょっと足がもつれただけだから」


気が付けば…私とレミちゃんは、男の人の腕の中に居ました。


男の人「そっか。まぁ…友達とはしゃぐにしても、ほどほどにな?病院で怪我なんてしたら、冗談もいいとこだぞ」

私「え?あ………はい」

男の人「……って、ヤベぇ!また講義に遅れちまう!!」


そしてその男の人は、瞬く間に…それこそ電光石火の勢いで走り去って行きました。


レミ「人にはあぁ言っといて…あの人が真っ先に怪我しそう」

私「うん、本当………あ、ですね」


レミ「………ねぇ」

私「…何ですか?」


レミ「アタシが倒れそうになる前…何て言おうとしてたの?」

私「………何でもありません。何て言いますか…その、必要無かったみたいです」

レミ「じゃぁさ……アタシからも一つ良い?」

私「…何ですか?」


レミ「喋り方…よそよそしくて他人行儀な喋り方だけはもう止めない?」

私「それは……」

レミ「だって…そういう物でしょ?………友達って」


私「……はい!あ、いえ…………うん!」
86 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/01(月) 00:00:48.70 ID:RSmYo8h0o
●だそくに

ハル「………と言うのが、私とレミちゃんの出会いのお話です」

俺「……………」


ハル「あ、ちなみに…父の借金は、レミちゃんのお父さんが借金の事を知った時点で肩代わりしてくれていたそうです」

俺「…そっか」

ハル「それから何だかんだあって、レミちゃんのお父さんにもそのお金を返し終えて…今ではお互いの両親も仲良くやっています」


俺「んで………その、何だ。その………いつから気付いてた?」

ハル「安心して下さい。私も気付いたのはごくごく最近です」

俺「………………」


ハル「怪我……しませんでしたか?」

俺「…………良いんだよ。病院の中だったから、すぐ手当出来たしな」

ハル「……………」


ハルは………慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた。
87 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/01(月) 00:16:24.63 ID:RSmYo8h0o
俺「…で、ハルはこの後どうするんだ?」


ハル「貴方と一緒に…と言いたい所なのですが。まだやるべき事が残っているので、ギリギリまでそちらに尽力しようかと思います」

俺「………そっか」


ハル「貴方はどうするんですか?」


俺「そーだな…俺は俺で確かめたい事があっから、そっちが終わり次第…って感じか」

ハル「では…お互いやる事が終わってから、また会いましょう。終わらなくても、また虚獣との戦いで」

俺「あぁ………そうだな」


虚獣を迎え撃つその時までの、しばしの別れ………その前に………

俺は、ハルを強く抱きしめた。


ハル「わっ……あの…どうしたんですか?」

俺「いや、何となくこうしたくなってな」

ハル「じゃぁ、仕方ありませんね」


そして、ハルからもお返しとばかりに腕を回され…俺達は抱き締め合った。

ハルの存在を感じ……俺の存在をハルに伝え………

まるで永遠にその時間が続くかのような錯覚さえ感じる中で……


俺「んじゃ…そろそろ行くか」

ハル「……はい。そうですね」


俺とハルは…手を放し、それぞれの道へと歩き出した。
88 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/03(水) 21:26:50.94 ID:WQSn5+1no
●たいかは

俺「身体の方はどうだ?ちゃんと安静にしてるか?」

ユズ「あ、センパイ。お見舞いに来てくれたんッスね、ありがとうッス!」


まず訪れたのは…ユズの病室。


俺がユズに声をかけ、ユズがそれに応え………

その様子を、普段着と思われる服装のカライモンが見守っている。


俺「……普通の服も持ってたんだな」

カライモン「さすがにあの格好のまま病室まで行き来していては、目立って仕方が無いのでね」

俺「いや…服装だけ普通になっても、そのヘッドギア付けてたらどの道目立つよなぁ!?」


ユズ「あ、その事なら。仮面はここに来てから―――」

カライモン「それよりも、ここに来た以上は要件があるのではないかね?」


俺「普通に見舞いに来たって可能性は無いのかよ。まぁ…その通りなんだがな」

カライモン「で…その要件とは何だね?」


俺「その話はまた後で、二人だけの時に話させて貰うとするわ。んで…ユズの容態はどうなんだ?」

ユズ「あ、それなんッスけど…」

カライモン「幸運であり不幸…と言った所だな。ユズくんは、もう魔法を使う事は出来ない」


ユズの右手を見た限りでは…ライトブリンガーから、元に戻っては居る。

だが…過ぎた無茶をした代償は、決して安くは無かったらしい。


ユズ「最後の最後の戦いに参加出来ないのは悔しいッスけど…後悔はして無いッス」

カライモン「あぁ…あの時ユズ君が来てくれなかったら、今頃地球は宇宙の藻屑になってたろうしね」

俺「って事で…前回頑張った分、今回は俺に任せて休んどけ」


カライモン「おいおい。そこは。俺にでは無く俺達にだろう?」

俺「っと、そうだった…俺達に任せとけ。って事で、ちょっくらカライモンに話があるから借りてくぜ?」

ユズ「はいッス。お持ち帰りしないでちゃんと返して下さいッス」


そして…俺とカライモンは、ユズの病室を後にした。


…………ユズの…嗚咽と悔し涙を見ない振りをして………
89 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/03(水) 21:50:10.83 ID:WQSn5+1no
●かくにん

カライモン「それで…私への要件と言うのは一体何なのだね?」


人目を避け…訪れた場所は、屋上。

ごうごうと鳴り響く風の中で、備え付けのベンチに座りながら…カライモンが本題を切り出して来た。


俺「なぁ…いつから気付いてたんだ?」

カライモン「いい加減…主語を付け給えよ、主語を。それでは、誰の事を言っているのか判らないでは無いかね」

俺「付けなくても判ってんだろ?ってか誰とか言ってる時点で、とぼけ切れてねぇよ」


カライモン「…良いから言い給えよ。私の想定の方が深かった場合、余分な事を喋る事になってしまうだろう」

俺「お前なぁ……まぁ良いわ。終焉を齎す者の干渉を受けた全部の事だ」

カライモン「カマ掛け…と言う訳では無く、確信を持っての質問のようだね」


俺「そー言う事だから、いい加減腹を探るような事は止めて本題に入ってくれ。で、いつからだ?」

カライモン「一番最初…と言う意味では、ライトブリンガー…ハル君との戦闘からだね」

俺「………ってそれ、お前が参戦してすぐじゃ無ぇかよ!何でその時点で気付いた事になってんだよ」

カライモン「前にも言ったが…信仰やそれに伴う勢力図が歪だったためだよ。見えない何かが存在している事は、容易に想定する事が出来た」


俺「…………」

カライモン「……それに」

俺「それに?」


カライモン「覚えているかね?あの時エディーも言っていただろう。私も特殊な資質を持っている…と」

俺「あぁ…そーいやぁそんな事言ってたなぁ」

カライモン「あれはどうやら…3つ目の核に属する魔力の事らしい。そして、更に付け加えるなら…」


俺「……まだあんのかよ」

カライモン「根幹を食らう竜の力に至っても…ディメンションスレイヤー同様の、二つの核の複合能力らしい」

俺「マジかよ。あぁでも、言われてみれば確かにそうだよなぁ…そう考えりゃぁしっくり来るわ」


カライモン「光と、例の三つめの核の複合………今更だが、イデアイーターとでも名付けておくか」

俺「それまた随分アレなネーミング…って、関係してるって自覚ある割にゃぁ余裕だなぁオイ」

カライモン「…と言う訳で、もし私が敵に回った際には遠慮無く全力でぶつかってくれ給え」


俺「いや、縁起でも無ぇ言葉を期待してる訳でもねぇよ。ってか、話を戻すが…確信したのはどの辺りだ?」
90 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/03(水) 22:43:24.27 ID:WQSn5+1no
カライモン「狭間に巣食う蜘蛛……アラクの糸に関わる一連。後は…先の虚獣との闘いだろう。そう言う君はどの時点で気付いたのだね?」


俺「俺は……虚獣の戦いの後だな。そっから色々あって…色々あって、黒幕の尻尾を垣間見たんだと思う」

カライモン「…光と闇の核が復活したのかね?」

俺「っ……あ、いや…復活した…って訳じゃぁ無いと思う」


カライモン「では…次は私から質問させて貰おう。君はどうするのだね?真相に踏み込んで、それに抗うだけの覚悟があると?」

俺「正直な所…まだ判らねぇ。ってか多分、踏み込んでみて…そこからなるようになる…いや、するんだと思う」

カライモン「ふむ………まぁ、それならそれで良いだろう」


俺「で…そう言うお前はどうなんだ?気付いた上で、この後どうすんだ?」

カライモン「私の方は、既に行動に移っている。ちなみに…この件に関してはアラク君にも協力して貰っている」

俺「さすがと言うか何と言うか……んじゃまぁ、確認も出来たし俺はそろそろ帰るとすっか」


カライモン「では…最後に私から1つ言わせて貰おう」

俺「ん?何だ?」

カライモン「最悪の結末は、まだ確定している訳では無い。最悪よりも少しはマシな未来も残っている…らしい」


俺「それは…あれか。いや…可能性がある以上足掻いてみるか」

返答…と言うよりは、独り言のように呟き、俺はその場を立ち去った。

そして、屋上から院内へと続く階段へと向かう途中……

       
―――ノイズが走った
91 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/07(日) 22:54:30.86 ID:NwoHXpb/o
●えんぜつ

エディー「我々は、大いなる決断を迫られています。そして…その決断次第で我々の…世界の未来は大きく変わるのです!!」

部屋の外…遥か遠方から聞こえる、エディーの声。


俺「あー…っと、今一体どんな状況だ?」


現状を把握すべく、部屋の中を見渡すと……羽根の生えた猫型マスコット…獣人が二体と、薄紫色の髪の女の子が一人。

猫型マスコットの片方は…ハルの契約者、ディーティー。額に01と書かれたもう片方は…ユズの契約者、DT。


薄紫色の髪の女の子の名前は、アラク。先の会話にでも出てきた、狭間に巣食う蜘蛛で……

世界線で、現実の世界と虚構の世界を移動したりさせたりする能力を持っている。


見た限り……今俺が居るのは、虚構の世界…Ifの世界と言う訳では無く、もう一つの世界。元の世界とはコインの裏表のような存在のAndの世界らしい。

一旦Ifの世界を経由して…元の世界からこの世界のこの場所に、糸で連れて来られたらしいのだが……その意図自体は、未だに掴めない。

俺はとりあえず、その場に居る全員に聞いてみる事にした。


DT「とりあえず…エディーに関しては、エリアディレイクターの職務を全う中なので欠席を許しておくれ?」

俺「とりあえず、状況を説明してくれるならな?」

ディーティー「聞く前にまず自分のその頭で考えてみたらどうだい?」


相変わらずの態度を取るディーティーの、その頭を掴み…俺は改めてDTの方を向く。


DT「ボク達は今……決戦に向けて準備をしているのさ。それで、光と闇の核の声を皆が聞けば士気向上になると思ったんだけど……」

俺「悪ぃが、そっちの方は期待しねぇでくれ。相変わらずこいつらは寝たまんまだ」

DT「………そのようだね」


俺「ってか、何でアラクまでこっちの世界に居るんだ?カライモンを手伝ってる筈じゃ無かったのか?」

アラク「コレガ、ソノナイヨウ。チナミニ、ショウサイハアカセナイ」

俺「お前もか…まぁ良いけどな」


ディーティー「と言うか……決戦の日までキミは何をするつもりなんだい?そんな事すら決められない優柔不断なのかい?」

俺は返事代わりに、ディーティーの頭を掴む手に力を籠めた。


DT「いや、茶化すつもりも焚き付けるつもりも無いんだけど…一応は皆の動向を把握しておこうと思ってね。実際どうなんだい?」

俺「んー……今ん所詳しくは言えねぇが、俺は俺で行動してる最中だ。一応、その辺りが落ち着いたら全部話すわ」

ディーティー「信用ならな………いぎぃっ」

また更に、さっきよりも強くディーティーの頭を握った。


俺「って事で…そろそろ元の世界に戻してくれっか?」

DT「こちらの世界の時間の経過は、あちらの世界の10分の1。まだそんなに時間も経っていないのに、そんなに急ぐ事なのかい?」

俺「あぁ……なるべく早くに片付けておきたい事なんでな」


DT「なら仕方ない。また会うのは暫く先になるだろうけど…それまで元気で居ておくれよ」

俺「あぁ…お前等も達者でな」

アラク「オタッシャデー」


そして俺は、ノイズと共に元の世界………俺の住んでいるアパートの自室に戻された。
92 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/07(日) 22:59:31.31 ID:NwoHXpb/o
●たびだち

実は……俺は嘘を吐いていた。

その嘘で、皆の思いを裏切ったが………後悔はしていない。


俺「さて………諸々のインチキでショートカットしても、ばれねぇようコッソリ行くにゃぁ最低で5日はかかっちまう…か」

俺はベランダに出て……全身をダークチェイサー化した。

俺「大分待たせちまうが、許してくれよな?」


目指す先は………宇宙の彼方。

扉の魔法…ゲートを開いて、俺はその先を見据えた。


ちなみに、俺が吐いた嘘は何かと言うと………

俺「虚獣の顕現まで、あと5日……二日後、皆が追い付くまでにケリを付けなきゃならねぇよな」


以上だ。


そして俺はゲートを潜り……虚獣が顕現する、その座標へと向けて旅立った。
93 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/07(日) 23:03:05.36 ID:NwoHXpb/o
●いつかめ

俺「予想はしてたが……こりゃまたとんでもねぇなぁ………」

出発から五日目。俺は…目的地である、宇宙の最果てへと辿り着いた。

そして、そこで見た光景は………


俺「……………」


目の前を丸ごと埋め尽くす……恐らくは、今居る宇宙と同等の質量を持った…冗談みたいなデカさの虚獣だった。

しかし……その異様な光景を、目に焼き付けている暇すら無く……無慈悲にも、虚獣は顕現。

更にはそれと同時に、円形の口を開き……その中央に真っ黒な塊を形成。


俺「おいおい…嘘だろ?」


黒い塊自体は、以前カライモンが使ったブラックホールに似ている。だが…問題は、そこに付与されている魔法のような物だ。

形式から逆算して、恐らくは……扉…ゲートに類似した物。

狙う場所がどこかまでは定かでは無いが…そのいずれを狙ったとしても、齎される被害が尋常では無い事は判り切っている。


俺はそれを食い止めるべく、ディメンションスレイヤーを形成し…斬りかかろうとしたその瞬間………


周囲に、黒い線が駆け巡った。
94 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/07(日) 23:15:20.80 ID:NwoHXpb/o
●ほしくず

輝く数多の星々と…有機物とも無機物とも取れない幾つもの白い塊……それが、解体された虚獣の欠片である事はすぐに判った。

そして…レミは、その中央に居た。


レミ「この子達…ね。銀河系ごと消滅させようとしてたから、仕方無く…こうするしか無かったの」


近い物は、手の届きそうな距離…遠い物は、恐らく何光年も離れた先まで……四散した虚獣の欠片を眺めながら、この状況に至った理由をレミの口から聞いた。

俺「あぁ…判ってる」


レミ「………ゴメンね」

俺「おいおい、謝んなよ。ってーか…この後どうするんだ?この虚獣は最後の抑止力だったんだろ?」

レミ「そうね…アタシとしても、この世界が無くなるのは嫌」

俺「………だよな、俺だって嫌だ。何だかんだで、俺はこの世界が好きだしな」


レミ「だから…終わらせよ?それが…アタシの最後の………」

俺「………」

レミ「………………」


俺「…そっか」
95 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/07(日) 23:18:02.13 ID:NwoHXpb/o
●あらがい

俺「しっかし…あれだよな。スピリットの能力がなまじ便利過ぎたもんだから、俺達…完全に依存しちまってたよな」


レミ「……うん」

俺「んで、その結果がこれだ。多分…神風自身も、操られてた事に気付いてなかったんだろうな」

レミ「…そうね。虚獣は…本来の役目通り、世界を救おうとしてただけって…判った筈だしね」


レミ「……ゴメン。本当なら…アタシがもっと早く気付いてれば、こんな事になって無かったのよね」

身に纏ったダークチェイサー……ロストを変化させ、装甲及び武装を強化するレミ。


俺「そうでも無ぇさ…多分、知っててもここまでは足掻いてただろうしな。それに……自分の意思じゃ止められねぇんだろ?」

中二病フォーム末期モード…最初から全力全開で、迎え撃つ俺。


レミ「うん……嫌なのに…抑え切れないの。この世界を…終わらせたくて仕方無い。だから…終わらせて」

ロストの爪が根元から鞭のようにしなり、俺に襲い掛かる。

俺はその攻撃を避け、光の刃で爪を切り落としにかかるが……


俺「―――っ」

黒い線が放たれ、それを阻害。

俺は、辛うじて黒い線を避け……更に距離を取った。


俺「ってか…いつ頃からだったんだろうな?」

レミ「確実なのは、アンタがこの子…ロストに襲われた時だけど。多分…神風が闇の核の一部を奪った時には、もう始まってたんだと思う」

俺「闇の核の一部に隠れて…ずっとストーキングしながら周りを騙して来たんだろうな。ある意味、本当のダークストーカーじゃねぇか」


俺は悪態をつきながら、ダークチェイサーの鉤爪を形成。


俺「で………コイツは一体どんなルールで動いてんだ?」

レミ「…アタシも全部は判んない。とりあえず…アンタがアタシを殺さなきゃ、アタシがこの世界が終わらせちゃうのは確か」


レミは、背中から8本の尻尾を生やし…元からあった尻尾と合わせて、9本の尻尾で攻撃を繰り出して来た。
96 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/08/07(日) 23:29:28.29 ID:NwoHXpb/o
旋回しながら尻尾を避け…その一本に向けて鉤爪を振り下ろす俺。


だが、その切っ先が尻尾を掠めた……その瞬間。


銀髪の女性『何故…何故なんだ!!君達とならば、更なる次元の高みに上る事が出来るんだよ!?何故それを拒むのさ!!』

夢の中でも無いって言うのに……例の、銀髪の女性の声が聞こえた。


銀髪の女性『そうか…まだ、この次元に未練があるんだね?』

切り結び…ぶつかり合う度に聞こえてくるその声は、どうやら俺だけに聞こえている訳では無いらしく…

レミもまた…その声を耳にして、表情に影を落としていた。


銀髪の女性『この世界は有限で…終焉は必ず訪れる。それはキミ達も判って居る事だろう?』


俺「なぁレミ…お前もあの3人の夢を見たのか?」

レミ「……うん。やっぱりアンタも見てたのね」


銀髪の女性『忘れてしまったのなら、ボクが思い出させてあげるよ』


最早、疑う余地も無い事なんだが……レミの言葉を聞いて、俺は確信した。


銀髪の女性『思い出すまで……何度でも…何度でも何度でも何度でも。ボクが…終焉を齎す者となってねぇ!!』


あぁ……やっぱりか。


そう…ここからが本当の………本当の、最後の戦いだ。

レミ……いや…………


……………三つめの核との…な。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/08(月) 06:27:30.07 ID:S/YtMsIDO
そいやぁ、正体不明が一人?一体居たっけな…乙
98 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/03(土) 20:04:30.28 ID:BKmQ0ZLDo
●もくてき

俺「にしても…もうちょっとくらい手加減出来ねぇのか?」

レミ「しようと……しるんだけど…これが限界…っ……」


終焉を齎す者…三つめの核との戦いにおける目的は一つ。

俺もレミも、この目的を果たす事を前提として立ち回り……着実に歩みを進めて行く。


俺「あと、一応…聞いとくが、怖かぁ無ぇのか?」

レミ「怖く無い…なんて言えないけど……仕方ないからね」

俺「………そっか」


レミ「ワガママ言うと……なるべく痛くしないで欲しいってくらいかな」

俺「そりゃぁ…お前が抵抗しなけりゃ、だな。暴れりゃ暴れる程、痛い思いをする事になっちまうだろうな?」


俺は…右手と左手に、ディメンションスレイヤーを形成。


レミ「あのさ…」

俺「………何だ?」


レミ「何か…アタシ達の会話って、無理矢理ヤらしい事されてるみたいよね」

俺「………お前なぁ。ちったぁ緊張感持てよな?!今から何するか判ってんだろ?」


レミ「判ってる。ちゃんと……してよね?」


お互いの意思を確認した上で、俺はディメンションスレイヤーを構え…

レミへと斬りかかった。


だが…………


俺「な………にぃ…?」

ディメンションスレイヤーの刃は、レミに届く事無く……


それを構えていた俺の腕ごと、黒い線に八つ裂きにされてしまった。
99 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/03(土) 20:14:34.23 ID:BKmQ0ZLDo
●うんめい

操られているレミが、それに抗いきれずに黒い線で攻撃して来る事…そこまでは当然、想定内だった。

そして…その迎撃により、俺の腕が切り落とされてしまう…と言う事態も、遺憾ながら想定内。


だが………


俺「こりゃあ…一体どう言う事だ?!」

目の前の現実は、俺の予想の遥か彼方を突き抜けて行った。


迎撃のために放たれる黒い線………

それを切り払った上で、レミをディメンションスレイヤーで斬る…その筈だった。そうなる筈だった。

だが、実際には…光の闇の究極形態とも言えるディメンションスレイヤーを、黒い線が切り裂いてしまった。


あまりにも不可解な出来事を前に、目の前が真っ白になりかけたその瞬間…俺は、不意にカライモンとのやりとりを思い出した。


俺「そうか…そう言う事かよ…っ」

狭間での出来事や虚獣との戦闘が、カライモンにとって確信を得るに足る物だった事…

根幹を食らう竜の力は、ディメンションスレイヤー同様の複合能力である事……


思い返せば…虚獣に耐性を付けられる事無く、何度と無く繰り返し致命傷を与え……

狭間においては…数多の世界線を、ことも無げに切り裂いていた。

つまり…………


俺「世界を切り裂く………終焉を齎す者の力。黒い線が、まさにそれだった…って事かよ」


愚痴るように呟く俺。

そんな俺に対して、レミは作り笑いを浮かべてながら言葉を続け…

レミ「うん、そう。だから……切り離すのは多分無理。ちゃんと…アタシの事殺して」


そして再び…今度はレミの言葉で、俺の頭の中は真っ白に染め上げられた。
100 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/03(土) 20:21:13.13 ID:BKmQ0ZLDo
俺「………は?」


レミの言葉を聞き…俺は思い違いに気付いた。

俺は…終焉を齎す者とレミを切り離し、その上で終焉を齎す者だけを倒そうとしていた。

だが、レミは………最初から、終焉を齎す者諸共…自分も心中するつもりだった。


レミ「正直言っちゃうと…もしかしたらって期待して無かったって訳じゃ無いんだけど……やっぱり無理だったわね」

俺「やっぱり…って、気付いてたのか?」

レミ「…うん。力関係って言うか相性って言うか…出来ないだろうなって事は、何となく………ね」


………俺は思い知った

自分の浅はかさ……何とかなるだろうと楽観していた甘さ……そして、覚悟の無さ。


思い返してみれば、ハルが光の恩恵派に連れ去られた時もそうだった。

目の前の現実から逃げ出して…希望にすがって、覚悟の一つも決められなかった。

そしてその結果………俺は、一度ハルを失った。


そう…だから……もう迷ってはいけない。レミの想いに答えるのが、今の俺の義務だ。

自分の不甲斐無さを悔やみながら、覚悟を決めたその上で…………


俺「そっか…悪ぃな。んじゃぁ、今度こそ確実にいくぜ」

レミ「うん、お願い。これ以上長引いちゃうと…アタシ、マズいかもしれないから」


俺「あぁ、安心しろ……ほんの一瞬だ。そんでもって…」

レミ「……何?」

………俺は持てる全ての力を使い、数多の球状のダークチェイサーを形成。


俺「終わったら…何もかも元通りにしようぜ!!」


レミ「…………」

レミは…微笑みながら俺を見据え……


そんなレミに向けて…俺は、ダークチェイサーによる一撃を放った。
101 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/03(土) 20:29:20.28 ID:BKmQ0ZLDo

●おもわく

レミの放った黒い線により、真っ二つに分断されるダークチェイサー達。

だが……それらは分断されて尚、再び新たな形…球体となりレミに迫る。


分断されては再形成を行い…時に自ら分裂しながら、レミとの距離を縮めるダークチェイサー。

そして、ついにはレミの眼前にまで迫り……その形態を、球状から針状へと変化。

逃げ場の無い全方向からレミを取り囲み………


後は、中心…レミに向けてそれを収縮させるだけ。

それで決着がつく……

その筈だったのだが………


正体不明の違和感に襲われ、俺は最後の一手を打てずに居た。


レミ「…何?どうしたの?早くしてよ!!」

俺「いや、待ってくれ……何か…何か変なんだ。何て言うか、こう………間違ってるような……」

戸惑い…迷いながら足踏みする俺。

そして、その違和感の正体は……思いも寄らない相手から明かされる事となった。


光の核『汝の願いは…適わぬ』

俺「………はっ?…って、久しぶりに出てきたと思ったら……いきなり何言ってんだ!?」

………いや、これは嘘だ


闇の核『貴方自身…気付いて居る筈です。いえ…確信を持たないまでも、片鱗を掴んでいる筈です』

そう…俺は気付きかけている……あと一歩で気付く所まで来て居る。

だが………その一歩を踏み込む事を、戸惑っているだけだ。


目を逸らしている…知る事から逃げている…その事を思い知った上で………

光の核『あの者を…アーカイブから蘇らせる事は出来ぬ』


現実を突き付けられた
102 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/03(土) 20:36:45.54 ID:BKmQ0ZLDo
俺「何だよそれ…訳判んねぇよ!だってよぉ…アーカイブはあの後修復したって言ったじゃねぇか!!」


往生際悪く…俺は食い下がる。

判ってる……こんな風に逃げてばかり居るから、俺はダメ人間なんだ。


闇の核『そう…今のアーカイブに現存しているのは、修復よりも後の情報のみです。つまり……』

そう…判ってる。判ってるけれども認めたく無いだけだ。

けれど…幾ら駄々をこねても、状況は悪化の一途を辿るだけ…改善の兆しなど一筋も無い。


俺「レミだけ……終焉を齎す者の干渉を受ける前の、レミだけをアーカイブから引き出す事は不可能……って事か」

俺は………それ以上の抵抗を諦め、現実を口にした


レミ「あーぁ…もうちょっとだったのに。そこも気付かれちゃったのね」

俺「………」


レミ「だから最初から言ってるじゃない、アタシを殺してって…ね」

俺「レミ……お前………」


レミ「こうなる事が判ってて…虚獣との闘いで、そっちの二人は隠れてたんでしょ?」

光の核『………』

レミ「アンタじゃ頼りない…とまでは行かないけど。アンタの手でアタシを殺すくらいなら、虚獣にやられる方がマシだとか思ってたんじゃない?」


闇の核『全て…判って居たのですね』

レミ「そりゃぁ……ねぇ?」


生き返る事が出来るのを前提とした、一時的な死…

そんな甘い物では無く、二度と戻る事の出来ない本当の死……自らの消滅。


レミは全てを見据え…その上で覚悟を決めていた。

対して俺は、この期に及んでもまだ活路を見出そうと…決断から逃げて足掻いて居た。

だが、それはもう許されない。


残された僅かな時間の中…俺は、覚悟も決められないまま……ただただ、必然と言う言葉を言い訳にして…


逃避の先、レミの言葉に甘え……


妥協ですら無い、ただの諦めの末に………最後の一歩に踏み込んだ。
103 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/03(土) 20:47:42.09 ID:BKmQ0ZLDo
●げんいん

全ての…終焉を齎す者との戦いに終止符を打つべく、解き放たれたダークチェイサー達。

逃げる事も迎撃する事も適わない全方位からの攻撃が、余す事無くレミに襲い掛かり……後は、その結末を見届けるのみ。

そう…その筈だったんだが………


レミ『待って!!』


レミの言葉…いや、思考の伝達により…俺の放ったダークチェイサー達は、その動きを止めた。

何故レミがそんな行動に出たのか…その結果とそれに至るまでの理由は、深く考えなくても判る。


俺「くそっ……遅かったか!俺が悩み過ぎたせいで…完全に……」

終焉を齎す者に、完全に乗っ取られてしまった。

その結論に行き付いた所で、ダークチェイサーの第二波を形成するのだが…


レミ「うぅん…そうじゃ無い、そうじゃ無いの。でも………」

俺「……え?」

レミ「でもアタシ……やっぱり、この世界を終わらせる。こんな世界…続いちゃいけないから!」


大粒の涙を流しながら…レミが叫び声を上げた。


俺「…はっ!?何言ってんだよ!?いきなりどうしたってんだ!?」

レミの流した涙が、雫となって宙に舞い…そのまま沸騰してかき消える。

しかし俺達には、そんな光景をのんびりと眺める暇すら無く…また新たな窮地が訪れる。


レミ「ゴメン…ゴメン、ゴメン!ゴメン!!でも…ダメなの!!」

おかしい…いや、死を前にした人間としてはむしろ正しい反応なのかも知れないが……レミのこの行動は理解できない。

先程までとは真逆の行動…真逆の意思。一体何がレミを変えたのか………いや、何かなんてのは判り切っている…犯人は一人しか居ない。


俺「終焉を齎す者に…何かを吹き込まれたのか!?」


レミ「…………っ!!」

………レミの沈黙が肯定である事は、すぐに判った。


となると…問題は、何を吹き込まれたのかと…言う事。

この豹変を引き起こすだけの物は、一体何なのか…憶測を組み立て始めた所で…

闇の核『恐らくは…終焉を齎す仕組みその物。避けようの無い宿命に、触れさせられてしまったのでしょう』


その答えを、アッサリと告げられた。
104 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/03(土) 20:53:05.08 ID:BKmQ0ZLDo

俺「一体どう言う事だ!仕組みって一体何だよ!!


闇の核『彼女…無の核の干渉に関しては、貴方も既にご存知の事かとは思いますが…』

俺「お、おう……」

無の核…その名前自体は初耳なんだが…余計にな茶々を入れて話の腰を折ってもいけないので、とりあえずは肯定しておくのだが…


光の核『スピリットや、あの者のように…無の核に接触干渉を行った者は、同時に無の核からの干渉を受けておる。そして、それとも異なり……』

俺「いや待て。ロストの正体が三つめの…無の核だってんなら、俺もモロに干渉受けてる筈だよな?」

追い付けないどころか置き去りになりつつある会話の中、俺は思わず突っ込んだ。


闇の核『そう……本来であれば、光と闇…そして無の核の干渉を色濃く受けた貴方が、真っ先に終焉を齎す者となる筈でした』

俺「………は?じゃぁ、何で俺は無事なんだ?」

闇の核『まず…私の空間の中でそれを察知した際、仮初の…一時的な封印を貴方方に施したのです』

光の核『その際…暴走した我が眷属の襲撃に逢い、汝等の命その物を脅かしてしまったが…な』


俺「って…あの熱病って、適応の副作用じゃ無かったのかよ!?」

光の核『そしてその後…終焉を齎す者として覚醒するよりも早く、前以って我らが汝と同化し…無の核の支配を免れるに至った…と言う話だ』

俺「スルーしやがった……って待てよ?だったら…現に今レミがあんな事になってんのは……」


好奇心で…ましてや勢いなんかで知ろうとしてはいけない事が、この世には存在する。

そして…今の俺の言葉が正にそれだった。


闇の核『………そう。終焉を齎す者として…貴方の代わりに覚醒したのです』

俺「―――――――――ッッ!!?」


俺は……突き付けられた真実に絶句した。
105 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/03(土) 21:08:13.34 ID:BKmQ0ZLDo
俺「ッ……何で…何で俺なんだ!!何で…レミなんだよ!!せめて…せめて逆なら…ッ」


闇の核『それは―――』

レミ「………良いの。アタシは…これで良かったと思ってる。多分…どっちでも同じ結果になってたと思うから」

俺「何だよそれ…判んねぇ……ワッケ判んねぇンだよ!!!」


レミ「…だから良いの…もう良いの。考えないで!!何も考えないで、このまま終わって!!」

俺「そんな事…出来る訳―――――ッ!?」


レミ言葉により、ダークチェイサー…ひいては俺自身の動きが止まり……

身動きが取れない間に、レミは両手を天に掲げた。


何が起こるかは判らない…が、何をしようとしているかは嫌と言う程判る。

世界の終焉………それだけは止めなければならない。

にも拘わらず、俺は指一つ動かす事が出来ない。


レミの力を打ち払うべく、全力で抵抗する…が、改善の兆しは一向に無し。

俺は、するべき事…出来る事を考え抜き………


俺「あぁくそっ………こうなったらアレを使うしか無ぇか…!!」

奥の手を使う事を決意した、その瞬間――――


レミの後方から迫る光の束が、その無防備な背面へと襲い掛かった。


ついでに言うと…俺は、その光の束に見覚えがあった。

そう、つまり………今の出来事が示しているのは…


俺「なっ…まさか、ハルか!?」

ハル「はい。お待たせしました」


そう…ハルが駆け付けてくれたという事だった。
106 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/03(土) 21:16:59.40 ID:BKmQ0ZLDo
俺「………って、何でここに居るんだ!?到着は二日後の筈じゃ……」


しかし…腑に落ちない事が一つある。俺は皆に嘘を吐き、本来の予定よりも二日前に到着している。

にも拘わらず、ハルは今この瞬間にこの場に居る。

俺は、その事を問い質そうと試みるが……


ハル「……………」

無言の笑顔により、それは遮られた。


俺「えっと………ハル?何か……」

無言の笑顔…この重圧を向けられる理由に、心当たりはある。

先にも言った通り、ハル達を騙して出し抜いた事か、あるいは…ハルが何かを………


俺「………まさか!また俺の事監視してたのか!?」

何かを隠している時なんだが………

ハル「様子がおかしかったので…ちょっと保険で。あと、それもありますけど……私、少し怒っていますから」


………どうやら、その両方だったらしい。


レミ「お願い……二人とも。邪魔しないで…このまま……終わらさせて」

悲痛な嗚咽と共に、俺達の会話に割って入るレミ。

その声色…その表情からもレミの感情を読み取る事が出来る…が、だからと言って同意する事も出来るかと言えば、話は別だ。


ハル「レミちゃんが何を知って…何を考えてるのか判らない。でも……私は、それが正しい事とは思えない。だから…私はレミちゃんを止める」

レミ「何で……何で……ッッ」

判ってくれないのか…とは、レミは言わない。それ故に…レミが何に対して理不尽を感じて居るのかは判らない。


結局の所…レミも語らず、光と闇の核もそれ以上は語らずで…一番大事な部分が不明瞭なまま、強引に事態が進み……


レミは…残った8本の尻尾を、蛇の頭のような物に変質させて再構築。

ハルは…ライトブリンガー形態に移行。

俺は…ディメンションスレイヤーで自らに干渉を行い、身体を構成するダークチェイサーからレミの干渉を切り離し……


不本意ながらも、双方の臨戦態勢は整った。
107 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/13(火) 22:12:49.58 ID:glw2eDqco
●たいざい

俺「そんで、この後は………いや、確認するまでも無ぇか」

ハル「…はい。レミちゃんの武装をとにかく削って削って…無効化させてから、力づくで本心を聞き出します」

俺「って、改めて聞くとかなり物騒な内容だが…やり過ぎんなよ?」


ハル「大丈夫です。実は拳で語り合うのは慣れっこなので」

俺「…マジかよ」

ハル「冗談です」

俺「おま………」


ハル「でも…レミちゃんとの喧嘩は、一回や二回じゃありませんから。安心して下さい」

俺「そうだな、その点だけは心配してない。そんじゃまぁ…二人で…」


ハル「止めましょう…レミちゃんを!」


まず俺が、ディメンションスレイヤーを解除して…右手を蛇腹剣状に変化。

更にそれを使って、レミの周囲を取り囲み………レミに向けて収束。

駆け巡る刃がレミに迫り…レミの放った黒い線がそれを切り裂き、俺の刃は跡形も無く消え去る。


だが………


俺「おいおい、俺にばっかり構ってて良いのか?」

レミ「――――ッ!!」


ハルの放った閃光が、黒い線を貫き…蛇の頭の一つを吹き飛ばした。


俺「さすがに二対一は分が悪ぃだろ?降参した方が良いんじゃ無ぇか?」

レミ「っ……冗談!!」


単純な頭数もさる事ながら…火力においても、完全に俺達が有利。俺とハルは、この流れまま一気に押し切ろうと試みるが…

残った7つの蛇の頭が肥大化し…それに伴い竜の頭に変化。

更には、続いて形成された胸部にレミが包み込まれた後…翼と四肢が形成され……


最後に形成された尻尾により、俺とハルの身体は遥か彼方まで弾き飛ばされた。
108 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/13(火) 22:26:42.79 ID:glw2eDqco
俺「虚獣…程じゃぁ無ぇが、中々のデカブツになったじゃねぇか」

弾き飛ばされながら…周囲に舞う虚獣の肉片を視界に捉えながら……俺は、絞り出すように呟いた。


今のレミ…及びダークチェイサー達の全長は、残存する虚獣のどの肉片よりも巨大で重厚で……その出で立ちだけで、俺達を圧倒していた。

俺は、虚勢をはりつつも…その変貌に畏怖すら覚えていた。


だが…


ハル「でも…それは、レミちゃんの心がそれだけ追い詰められているって事。ただの…上辺だけだから」

中央の頭から背中にかけて…ハルの携えた光の刃が、それを両断。レミ本体には傷一つ付けないまま、大打撃を与えた。


俺「凄ぇってか、怖ぇってか……何かもう、俺…いらなくね?」

ハル「いえ…まだこれからです。反撃が来ます!」


ハルが叫ぶか否か…俺とハルに狙いを定め、迫り来る竜の頭達。

俺とハルはその牙を寸での所で躱し、間合いを取る…と、竜の頭は再び咢を開き……

俺「…って、嘘だろオイ。ここ…宇宙空間だぞ!?」


その口から炎を吐き出した。


ハル「大丈夫ですか!?怪我は!?」

俺「何とか命だけは…って感じだが、結構なダメージを受けちまった」


不意打ちな事もあってか…炎による被害は甚大。

身体の大半が消し炭に変わり、使い物にならなくなってしまった……とまぁここまでは、該当部位を再生すれば良いだけの事なんだが…

俺「再生も追い付かない程…一気に焼き尽くされちまったらさすがに不味いな」


……と言っている間に、攻撃の第二波が到着。

付け加えて言うと…今回は、既に口の中に炎を貯め込んだ状態で頭を突き出し…着実にオレを燃やし尽くしに来ている。


が、しかし……俺も、そう簡単にやられてやる気は無い。


虚獣の肉片を盾にする事で、次々に襲い来る炎をやり過ごし……

ハル「レミちゃん…がら空きだよ!!」

その隙を突いて、またも背後からハルが光の刃を一閃。


先に斬撃を与えた首は、完全に千切れ飛び…残った首にも、大きな傷を残した。
109 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/13(火) 22:43:48.14 ID:glw2eDqco
●とびはね

7つ…いや、残った6つの首はその形状を維持する事が出来ず…またも変貌。

首の一本一本が翼となり…レミは6枚の漆黒の翼を形成。そして、その羽を周囲に舞わせ……


俺「何だ何だ…今度は中二病フォームの真似事か?」

レミ「…………」

にじみ出る嫌な予感を拭い去るよう、茶化す俺。だが、それに対して…レミが返すのは無言。


そして……これはもう慣れたと言うか、最早予定調和になりつつある事なんだが…嫌な予感はやっぱり的中した。


羽の羽毛の一本一本が、鋭い針のような物に変質して……それが更に放射線状に展開。

とくれば後は……


俺「オイオイオイオイ…3Dで弾幕シューティングとか冗談キツ過ぎんぞ」

さながら花火のように……全方位から…更に全方位に向けて、拡散し…ありとあらゆる物に対して無差別に襲い掛かった。


先の炎のように、虚獣の肉片の陰に隠れてやり過ごす事は不可能……かと言って、これを正面から受けるのはこの上無い程に無謀。

ハルに至っては、光の障壁で咄嗟に身を包んで居る物の…この攻撃を防ぎ切れるかどうかと言えば、怪しい所。

となれば後は………


俺「受けられねぇ以上…避けるしか無ぇよなぁ」


回避……そのために俺は、自分とハルの周囲に加速空間を展開した。


放たれる弾幕と弾幕の僅かな隙間を縫いながら…レミとの距離を詰めて行く、俺とハル。

対するレミもそれを察し、翼で己が身を護りに入るが…俺達からしてみれば、その行動はかえって好都合。

俺とハル…二人で形成した光の刃を携え………


レミを本人を傷付ける事無く、翼のみを切り裂いた。
110 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/13(火) 22:59:10.25 ID:glw2eDqco
レミ「抗わないでよ……アタシの邪魔をしないでよ!!」

俺「だーからよぉ…自分の思い通りにしたいってんなら、理由くらい話してみろって言ってんだよ!!」


レミ「それが出来ないから困ってるんじゃない!!」

ハル「そっか…レミちゃん、やっぱり困ってるんだね。不本意だけどこんな事してるんだね」

レミ「―――――ッ」


強引に会話を打ち切り……千切れた翼を黒い線で繋ぎ集めるレミ。

翼の残骸は、レミを中心に円を描いて車輪のような物を作り出し……そこから今度は、5本の脚のような物が形成された。


超高速で回転する車輪と、そこから繰り出される蹴撃。

レミも俺達もヒットアンドアウェイを繰り返し、互いの間合いを測るが…単純なリーチで言えば、俺達が不利。

レミの攻撃は、畳んだ脚を伸ばしただけとは到底思えない程のリーチを持ち……俺達に、一方的にダメージを蓄積させて行く。


俺「中々に厄介だが…こんな時は、やっぱアレだよなぁ」

ハル「そう………ですね」


だが…起死回生の手段は、俺達の手の中にある。

俺とハルは、互いにそれを確認した上で……


まずは俺が、レミを取り囲むように停滞空間を形成。

続いてハルが、俺の発生した停滞空間に停滞空間を重ね……レミの動きを阻害した所で、車輪ごと5つの脚を破壊。


こうして、レミを無力化する事が出来た……かのように見えたのだが…


レミ「…まだよ。まだ終わって無いんだからっ!!」

レミは、背面から巨大な4本の腕を形成し………


その全てに黒い線を纏わせた。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/17(土) 18:53:45.05 ID:qksBBmvzo
弾をスローにして避ける弾幕STGにしか見えなくなったww
112 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/25(日) 21:15:04.88 ID:j6wkVGJbo
●そうこく

黒い線………それはディメンションスレイヤーさえも切り裂く力を持った、超常の何か。

未だに不可解な部分が多く、正直な所相手にしたくない存在なのだが………


俺「…………」

ハル「………」

ネガティブなイメージばかりの、その半面で一つだけ…今までの経緯を顧みた中に、僅かな光明があった。


俺とハルは、互いの視線でそれを確認した後…光の刃を形成。

これまでの戦いに加え…つい先程の切り結びでも確認したばかりの、その結果に基づき……


黒い線の弱点…光の力をもって、巨大な腕へと斬りかかった。


俺とハルの光の刃が、レミの纏った黒い線と交わり…兼ねてからの予想通り、それを分断。

そこから更に、返しの刃で4本の腕を切り落としにかかった所で……


ハル「…えっ?」

分断され弾け飛んだ筈の黒い線が、今度は逆に光の刃を霧散させ…俺達へと襲い来た。


予想外の展開…本来訪れるべき状況を覆すそれを前に、俺達はまたも不意を突かれ…

迫り来るのは、もう数えるのも面倒な程に繰り返して来た危機。

だが、突如…そんな俺達と黒い線のの割って入るように、カライモンが出現し……

根幹を食らう竜のアギト…自称イデアイーターでそれを迎え撃った。


俺「ハル……は、まぁ判らないでも無いんだが。何でお前まで…」

カライモン「最初から信用して居なかったのでね、予め盗聴と追跡をさせて貰っていた。それだけだよ」

俺「おま………」


カライモン「それと…これはあまり良く無い知らせなのだが」

俺「これはじゃ無くて、これもだと思うんだが…まぁ良い、一体何だ?」

カライモン「先のディメンションスレイヤーとの対峙から見て、属性相性としてはイデアイーターに分があると想定していたのだが…」


と…語る途中で途切れる、カライモンの言葉。

そして、そこから先は言葉では無く結果で……上半身と下半身に真っ二つに分断された、その姿により示された。
113 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/25(日) 21:32:47.41 ID:j6wkVGJbo
強制離脱した所を見ると、一命こそ取り止めて居るようだが…損傷の具合から考えても、カライモンの即時復帰は見込めない。

いや、それ以前に…例え戻って来れたとしても、根幹を食らう竜の力が通じないのであれば戦力として数えるのも怪しい所。

そしてそれは、同時に………光…闇…光と闇の複合に、光と無の複合…それらの攻撃手段が、全て封じられたと言う事で………


ハル「でしたら……また停滞空間を重ねてレミちゃんの動きを封じましょう」

俺「あぁ、そうだな…隙が無いなら作るしか無ぇよな」

その道筋は必然的に狭まり…正面突破を避けての、脇道からの曲技へと移らざるを得なくなる。


俺とハルは、再びレミに向けて停滞空間を形成し…その動きを阻害。

先の攻撃でも成功を収めた、黄金パターンで…今度は黒い線を避けつつ、再び4本の腕に斬りかかり…その一本を屠るに至った訳だが……


俺「嘘………だろ?」

レミ「悪いけど…停滞空間は、次からは効かないわよ。もう…諦めて」

腕の一本を奪った代償は……損傷によるハルの強制離脱と、俺の身体の微塵切りだった。


以前の…完全にダークチェイサー化していない俺だったならば、今の攻撃で確実に死んでいた。

と言うか…今の状態であっても、受けたダーメージは決して小さくは無く……

更に言うならば、レミの言葉はハッタリでは無く…間違い無く本気。


何度となく繰り返した平行線の会話の末に、業を煮やしたレミが…本気で俺達を排除しにかかって来ている。


それを思い知り、固唾を呑む中で……

レミは、残った三本の腕を束ねて背中から足元に回し…それぞれの手が、再び頭と…4本の足を形成。


3つの頭を持った…犬のような物に姿を変えた。
114 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/25(日) 21:52:23.32 ID:j6wkVGJbo
●ばんけん

俺「悪ぃけどな…何度聞かれても俺の答えは変わらねぇぜ?お前の方こそ、いい加減諦めたらどうだ?」

レミ「悪いけど…アタシも答えは変わらない。諦らめる訳にはいかないの」


俺「まぁ…お前が何の理由も無しにそこまで意地を張るとは思えねぇし、何かがあるのは判る。でもな……」

レミ「………何よ」

俺「その理由を、お前が俺達に話さないのは訳が判らねぇ」


レミ「………判らなくて良い事なのよ」

俺「何でだ?もしかしたらお前の考えに同意して、世界を終わらせる側に回る事だってあるかも知れねぇだろ?ってか、その可能性の方が…」

レミ「そうじゃ無いの…それは無いの。アタシがしようとしてる事に、アンタ達は絶対賛成なんてしないから!!」


俺「っ……だったら、何でそんな事しようとしてんだよ!お前をそこまで突き動かしてんのは何なんだよ!!」

レミ「それを言えたら、こんな苦労はしてないわよ!!」

俺「だったら、しなくても良いような苦労なんかしてんじゃ無ぇよ!俺達はそんなに頼りないか?お前を助けてやれないと思われてんのか?」


レミ「違うわよ!!アンタ達だから言えないの!アンタ達には知られちゃいけない事だから――――」

その言葉を紡ぎかけた所で…レミは慌てて口を抑えた。


俺「………は?俺達に知られて困る事……いや、まさか…そのために……俺達に知られないために、世界を終わらせようとしてんのか!?」

レミ「―――――――ーッッ!!」


目は口ほどに物を言う…とは言うが、今のレミが正にそれだろう。

俺の言葉にレミは明らかに狼狽して、視線は忙しなく宙を泳ぎ……俺の言葉が事実である事を物語っていた。

となれば後は…問題は、肝心のその内容だが………


レミ「……………」

狼狽を乗り越え…再び固い決意を瞳に宿したレミから、それを聞き出す事は至難の業。

再び拳と言葉を交えながら、レミの心に隙を作り出す……それしか無さそうだ。


そして、そのためにも…今一度レミの力を削ぐべく、レミを覆うように停滞空間を発生させたのだが……
115 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/25(日) 22:18:44.06 ID:j6wkVGJbo
俺「………え?」


先の攻撃…4本の腕の内の一本を屠った時と同様、俺の身体は微塵切りにされていた。

しかし……その代償を支払った上での成果さえも、先のそれとは異なり……


レミ「だから言ったでしょ…停滞空間はもう効かない…って」

レミに関しては一切の無傷。いや、それ以前に……

俺「何で…どうして停滞空間から……」


レミは停滞空間に捕らわれる事無く…俺の正面に佇んでいた。


レミ「すぐバレるだろうから言っちゃうけど…停滞空間に捕縛された瞬間にアタシも加速空間を使ったのよ」

俺「なっ………」

レミ「それに…例え停滞空間を重ねられたとしても、アタシにはその状態から反撃する手段があるの」


俺「黒い線…だな」

レミ「そ、今のあれの速度は…多分、停滞空間を幾ら重ねても止められないもの」

俺「そっか…成程な。んでもな…そんだけ絶望的な事を言われても、俺は諦めねぇからな?」


レミ「………残念。じゃぁこれで……」


打つ手無し…いや、それどころか…先回りされて、俺が打つべき手を潰す手を打たれている。

今…再び黒い線を受ければ、俺は間違い無く死ぬ……そんな確信めいた予感を味わわされた瞬間……


レミ「ッ―――――!?」

突如、背後に現れた何か―――……ブラックホールがレミを飲み込んだ。


そう………

こんなタイミング…いや、そもそもこんな芸当が出来る奴を、俺は一人しか知らない。


俺「ったく…復帰したならしたって言ってくれよ。また寿命が縮んだぜ」

カライモン「何を言ってくれる。予め君に教えていたら、奇襲が失敗に終わったかも知れないだろう」


俺「……どこまで信用無ぇんだよ」

カライモン「どこまでも果てしなく…だろうね」


カライモンの帰還…それにより僅かながら生まれた余裕の中で、俺達は軽口を交わした。

だが、それが長く続く事は無く………


ブラックホールが真っ二つに裂け…その奥から、レミが再び姿を現した。
116 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/25(日) 22:43:58.57 ID:j6wkVGJbo
●とうかく

レミの……3つあった犬の頭の内の、1つはかき消えているものの……逆に、それ以外の部位に関しては殆ど無傷。

更にそこから、残った2つの頭が再び形を変えて左右の髪留めと重なり……巨大な角を作り出した。


カライモン「ふむ…正直驚いたよ。まさかレミくん単体であれだけの力を持っているとはね」

俺「いや、話は聞いてたと思うんだが…あれは…」

カライモン「無の核の力…と言いたいのだろうが、その点はむしろ君の勘違いだ。今の彼女は、無の核の力を用いる事無く戦っている」


俺「………は?いや待て。でもレミは無の力を―――ー」

カライモン「君だって…光と闇の力を借りずとも、ある程度は自力でディメンションスレイヤーを形成出来ていただろう?」

俺「あぁ……そーいやぁそうけど…何ってーか、今までのレミとは余りにも……」


カライモン「今までの戦いでは、相手が相手なだけに無意識に手を緩めてしまっていたが…今では、その余裕も無いと言った所だろう」

カライモンの言葉を聞き…俺は、今までの戦いを思い出した。


ディーティーみたいな、気兼ね無くぶちのめせる相手は別として……

思い返せば…俺達が戦った敵のほとんどは、被害者…あるいは罪の無い超自然の摂理の存在のような者たちばかり。

いわば…本来ならば、レミが守るべきと思って居るような存在ばかりだった。


そう言った意味では、カライモンの言う通り…今回は本気のレミを相手にしていると言う事になるのだろうが…それはつまり……


俺「それって…レミが乗っ取られたら……無の核の力が加わったら、完全に手に負えねぇって事だよな?」

カライモン「その通り。なので、そうなる前に決着を付けてくれ給え」

俺「……って、毎度毎度簡単に言ってくれるなっての!!?」


カライモン「簡単…と言う訳でも無いが、今回はそう難しい事でも無いだろう」

俺「……は?」
117 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/09/25(日) 23:19:51.33 ID:j6wkVGJbo
カライモン「考えてもみ給え。今回の鍵になっている3つの核…それぞれには属性の相性があると考えて良いだろう?」

俺「まぁ…それは俺も考えたさ。3すくみ…要はジャンケンみたいな物だろ?そう思って、ディメンションスレイヤーを試してはみたんだが…」

カライモン「知っている。同じくイデアイーターに至っても敗北を喫する結果となった。だが…全ての攻撃が全く効果が無かった訳では無いだろう?」


俺「あぁ…光の刃でなら黒い線を断ち切れた。んでも、それも途中から出来なくなって……いや、待てよ?その前は……」

カライモン「そう…どうやら尻尾を掴みかけているようだね。そもそも…目の前のあれはレミ君であって、虚獣では無いのだよ?」


今までの経緯と結果が俺の中で積み重なり…その中を糸が貫いて行くような感覚。

あと少し……あと少しで全てが繋がり、糸を引き延ばした瞬間にそれを形作る筈……


だが………最後の一つが足りない。


俺「駄目だ……足りない。これをやるにはディメンションスレイヤーが必要だってのに…その前の所でディメンションスレイヤーが無いと…」

矛盾……理屈が通っても、現実がそれに伴わないためのジレンマ。

無い物強請りの上でしか到達出来ない、机上の空論を展開し…俺は、解決不可能な壁にぶちあたった訳だが………


ハル「だったら…もう一本あれば良いんですよね?」

そんな俺の前に現れたのは、戦線に復帰したハルだった。


…………いや


俺「………え?ハル…なのか?」

瞳に六芒星の光沢を宿した、Ifの世界の……


ハル「はい、私です。ちなみに、Ifの世界の私ではありませんからね?」

いや…それもどうやら違ったらしい。

目の前のハルはハルで、俺の良く知っているハルだった。だが、俺の知っている…知っていたハルとは少し違ったようで……


俺「だったら、その目………え?って事は…え?まさか…やるべき事って…」

ハル「はい、これの事です。一緒の時間を作るために、予定より早めに完成させたんですけど…それでもギリギリなるとは、思いませんでした」

俺「その………すまん」


ハル「では…その分は後日、ちゃんと埋め合わせをして下さいね?」

いつか見たハルAのように……ハルは光と闇の力を織り交ぜ、ディメンションスレイヤーを形成して見せた。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/26(月) 06:32:25.48 ID:8bVcHCGDO
相変わらず、平然と無茶振りをされ、平然と無茶振りをクリアしてくるなぁ…
ヤンデレ恐い(((°Д°)))
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/26(月) 21:40:59.92 ID:21QXxWH80
まぁ、レミさんはお産とか生物学的な意義は一応果たしてましたしね……ねっ?
120 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/10/24(月) 22:28:16.83 ID:EO/mYlfGo

●かたほう

俺「そんじゃ悪ぃが二人とも…俺が合図したら、同時に仕掛けてくれ!」


ハル「はい、判りました」

カライモン「任せ給え」

レミの左後方にハル…右後方にカライモンが位置し、正面には俺が立ちはだかる。


俺達の出方をレミが伺う中……二本の角の間に何かを形成し、それを構え始めた時……

俺「今だ!!!」

俺のかけ声と共に、ハルとカライモンがレミに向けて突撃。


ディメンションスレイヤーと、イデアイーター…二つの超常の力に、レミは一瞬意識を向けるが……

程なくして再び…その意識は、俺の…手元へと注がれた。


形成するのは…今までのディメンションスレイヤーとは異なる、別の形のディメンションスレイヤー。


まず柄の部分が曲がり…片手で握り込む形状のグリップを形成。

刀身からは直線的な刃を廃し……幾重にも重なる、螺旋状に捻じれた刃を形成。

こうして新たに作り上げたディメンションスレイヤーの、その切っ先から……針のように細く鋭い弾丸を発射した。


俺の放った弾丸と、レミの形成していた何か…恐らくは黒い線の塊と思われる物が直撃して―――


レミ「―――――――ッ!?」


視界に映るのは……流れるように宙に舞うレミの髪と、髪留めと一体化していた角の…いや、角だった物の破片。

角の間から放たれた筈の、黒い塊は跡形も無くかき消え…レミの瞳は、俺の手に握られたディメンションスレイヤーを睨み付けていた。


カライモン「カラドボルグ…螺旋剣型のディメンションスレイヤーか。成程ね…」


レミ「アンタ…今の……まさかアンタも……」

俺「いや…黒い線は愚か、無の核の力も使って無ぇよ」

レミ「だったら…だったら何で!!何をしたのよ!!」


俺「なぁに、難しい事じゃぁ無ぇ……同じ事をしただけだぜ。ただ…ちょいとばかし、ズルはしたけどな」

レミ「………………」
121 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/10/24(月) 22:47:26.77 ID:EO/mYlfGo
俺「黒い線…あれって、見た目が同じでも4種類…いや、下手したら10種類あったんじゃねぇのか?」

レミ「………今更隠しても仕方ないわね。そうよ、アタシは4種類…闇の線と無の線…闇と無の線に、無と闇の線を使えるわ」

俺「んで、1度に出せるのは1種類…いや、2本の線を一組だけ……だろ?」


レミ「…よく気付いたわね」

俺「さっき、光の刃で黒い線を切れた時に…な。さて…ここまで説明すりゃぁ、後は判んだろ」

レミ「そうね…でも、一応答え合わせだけはしてあげるわ」


俺「ディメンションスレイヤーの時は…こっちの闇にそっちの闇をぶつけて相殺して…こっちの光に、そっちの無をぶつけて押し切った。だろ?」

レミ「…正解」


俺「そんで、根幹を食らう竜の力…イデアイーターの時も同じように…無に闇、光に無をぶつけて…今度は両方を断ち切った」

レミ「そう……その通りよ」

俺「んで、蛇腹剣の時は…闇の力に闇で対抗した結果、ハルの光の力で消し飛んだ。これが今回のヒントになった訳だが…」


レミ「でも…だったら。闇と無の線を誘発させるだけなら、ハルかカライモンのどっちかだけで充分じゃない?」

俺「いや……どっちかの場合、闇の線のみか無の線のみでアイコにされる可能性があったからな」


レミ「両方に対抗するために、アタシが闇と無の線で対抗せざるを得ない状況にするために二人を使って…まんまとそれに乗せられたって訳ね」

俺「そーいうこった。んで、後はさっきも言った通り……」

レミ「アタシの真似して…ディメンションスレイヤーで、アタシの闇と無にアンタの光と闇をぶつけて来た…って事よね」


俺「あぁ、そうだ。んでもまぁ…大分作り替えちまったもんだから、前みたいな細かい干渉が出来なくなっちまったがな」

レミ「じゃぁ逆に、細かくない干渉…今できる事って一体何?」

俺「そうだな、例えば……お前ん中の無の核を無理矢理引き摺り出すとか………そんくれーだな!」


レミ「えっ――――!?」


俺がそう宣言すると同時に、レミの背中から銀色の球体が弾き出され……

その球体は瞬く間に……夢の中に出てきた、銀髪の女性へと姿を変えた。
122 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/10/24(月) 23:01:16.57 ID:EO/mYlfGo
●むのかく

銀髪の女性『フフッ………フハハハハハ!中々やるじゃないか!感心したよ!』


どこかで聞いた事のあるような…笑い声を上げる銀髪の女性。

物理的な振動では無く思念に直接響いてくるようなその声に、僅かな不快感を感じながらも…俺は言葉を返す。


俺「へっ…生憎そう言う強がりは聞き飽きてるんでな。もうお終いだ、悪足掻きは止めて観念しやがれ」

銀髪の女性『フフッ……フフフ…何だい?もしかして、これで勝った気になっているのかい?』

俺「気になってるも何も、事実これで終わりだってーの。レミさえ盾にされてなけりゃぁ―――」


銀髪の女性『残念。それがそもそもの間違いだ』

俺「……はっ?」


銀髪の女性『ボクを彼女から引き離して、ボクだけ倒せばそれで終わり。世界の終焉を回避してハッピーエンド……そんな風に考えてるんだろう?』

俺「それのどこが違うってんだよ!お前さえ倒しちまえば、レミはもう―――」

銀髪の女性『だから………それが大間違いって言っているのさ。ねぇ?』


レミ「……………」

俺「何だよ……何で否定しないんだ?一体どう言う事だよ!!」


銀髪の女性『まず前提として…まかり間違って、奇跡的にここでボクを退けたとしても……世界の終焉は訪れる』

俺「……………は?」


カライモン「永遠に続く物など無く、万物はいずれ滅びる…そう言った意味での終焉の事を言っているのかね?」

銀髪の女性『そう、当然それもある。でも…実際はもっと近く、具体的に言うならば―――』

恐らく…銀髪の女性が口にしようとしているのは、今回のレミの行動の根幹にある物。

俺達は、固唾を呑みながらそれに聞き入るが……


レミ「止めて!!」

当のレミがそれを遮った。
123 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/10/24(月) 23:21:07.84 ID:EO/mYlfGo
銀髪の女性『おやおや、ここからが良い所なのに…』


レミ「………アンタはこの世界を終わらせたい。アタシはアンタの思惑に乗って、世界を終わらせる…それで良い筈でしょ!!」

俺「いや、待てよ!だから何でお前がそっち側で話を進めてんだよ!!今の状況が判んねぇのか?この状態でソイツを倒せば――」

銀髪の女性『どうなるか判って居ないのはキミの方だよ?』

俺「………は?」


疑問符を浮かべる俺を余所に、再び銀色の球体に戻ってレミの中へと沈み込んで行く、銀髪の女性。

そして、レミに至ってもそれを拒む様子は無く……再び二人は引き離す前の状態に……いや………


俺「…………」

前の状態よりも、更に悪化していた。


無の核『どうしたんだい?ボクを倒すんじゃぁ無かったのかい?』

レミから感じ取れる力は、先程までのそれの比では無く………

今まで身を潜めていた、無の核の力が加わった事を…文字通り痛い程に肌で感じる事となった。


無の核『さぁ、頑張ろう。頑張ってボクを倒そうよ。そしたら次は………』

レミ「止めて!!もうそれ以上は――――」

悲痛な叫び声を上げるレミを余所に、レミ…いや、レミの身体を操る無の核が指さしたのは……


ハル「…………え?」

ハル…………いや………


レミ「―――――ッッ………」


厳密には……ハルの下腹部だった。
124 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/10/25(火) 00:01:42.83 ID:rhgc8MqBo
●ひめごと

レミ「どう…して………っ!!」


無の核『勘違いしているようだから、思い知らせてあげただけだよ?まず……キミとボクは対等なんかじゃぁ無い』

レミ「ッ………!!」

無の核『キミはボクの駒に過ぎない、黙ってボクに従うしか無いんだ。さぁ…これでもう逃げ道は無くなった。全てに終焉を齎そうじゃないか』

レミ「―――――――ッ……」


俺「は?何だよ…どういう事だ?」


ハル「………そう言う…事だったんだね。レミちゃん」

俺の理解が追い付くよりも早く、展開は更に先へ先へと進んで行く。


俺「何で…何でアイツを倒した後に、ハルが…いや、ハルに何があるって言うんだ!?」


無の核『鈍い…って言うよりも、わざと気付かないフリをしているのかな?一応確認しとくけど…キミが最有力候補だったって事は判ってるんだろう?』

俺「終焉を齎す者としての候補の事か?だとしても、ハルはその条件には当て嵌まんねぇ筈だろ!!」


無の核『そう……彼女本人は……ね?』


俺「本人って………は?…え?………それって………え?…まさか………」


言っておくが…気付いて居ない振りをしていた訳じゃぁ無い。

しかし…その可能性に関して、全く考えて居なかったと言えば嘘になる。


だが………それをまさか……よりにもよって、この場で…こんな形で知る事になるとは思っても居なかった。


ハル「ここでレミちゃんごと終焉を退けても…今度はこの子の番になるだけ……」

レミ「………」


ハル「だからレミちゃんは、そんな事にならないように……そんな事にならないように、この世界を終わらせようとしてたんだね」

レミ「………………」
125 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/10/25(火) 00:13:48.05 ID:rhgc8MqBo
無の核『悠久に続く命の中で…愛する者の命と世界を天秤にかけて、それを奪い続ける。実に滑稽だろう?生き地獄だろう?』

俺「………黙れよ」


無の核『先送りにすればするだけ地獄が続く…だったら、今終わらせてしまえば苦しみも少なくて済む。いや………』

俺「黙れつってんだろうがよぉ!!!」


無の核『いっそ何も知らない内に終わってしまった方が、苦しまずに済んだ訳だ。もっとも…今となってはそれも叶わないけどねぇ!』


レミ「………―――ッ」

カライモン「暴露した本人が、何を白々しい……」


悲痛に染まる皆の顔。ただ…その中で一人だけ、無の核だけは笑みを浮かべているのが…手に取るように判る。

そんな………そんな無の核に、俺は……


俺「だったら……だったら尚更!そうならねぇように手前ぇを駆除しちまわねぇとなぁ!!」

ディメンションスレイヤーの銃口を向けた。


今の俺の中に渦巻いている感情を、どう表現すれば良いだろうか…

怒り…憎しみ…悲しみ…悔しさ、憤り……反吐が出る程に下衆な無の核に対し、ありとあらゆるドス黒い感情が止めど無く溢れ出る中……

俺は…レミと無の核を再び分断すべく、弾丸を解き放ったのだが――――


無の核『だから……その前提の時点で破綻しているんだって』

俺「な………に……?」


その弾丸は、レミと無の核を引き剥がすには至らず……

レミの眼前で、ガラスのように砕け散ったしまった。
126 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/10/25(火) 00:31:27.52 ID:rhgc8MqBo
俺「馬鹿な……何でだ!?さっきは確かに………」


無の核『さっきのアレ…キミとしては、ボクを引き摺り出したつもりなんだろうけど…それは大きな間違いだ』

俺「…は?」

無の核『あの時は……引き摺り出されたんじゃなくて…ボクが姿を見せてあげただけなんだよ?』


俺「……っ…んなのは強がりだ!!第一、引き摺り出された時は現に――――」

無の核『驚いてた…かい?あれは、その発想と干渉に至った事に驚いた…それだけさ』

俺「なっ…………」


無の核『良いね…良いねぇその絶望に満ちた表情。あぁ、そうそう。それと、言い忘れてたんだけどもう一つ』


俺「何だよ………何なんだってんだよ!!」

無の核『さっきまでの属性云々のやりとりだけど…あれはもう考える必要無いからね?』

俺「そりゃぁ、一体どう言う…………」


無の核『今のボクは…光も闇も…当然無も、全ての力を使う事が出来る………そう言ってるのさ』


無の核の宣言に………俺のみならず、その場に居た全員が凍り付いた。

それまでの経緯から、予想する事は出来たとは言え…それを現実として突き付けられた時の衝撃は計り知れない。

レミ一人を相手取るだけでも手一杯だったにも関わらず、更にそこに無の核が加わり……


深く考えるまでも無く導き出された結論は……俺の奥の手はアッサリと封じられて、手詰まり。

ブチ破るべき壁は途方も無く厚く、更にはその先にもそれ以上の壁が待ち構えている。

心を折るには十分過ぎるだけの現実を、目の前に突き付けられ………俺の心が、絶望に飲み込まれようとする中で………


ハル「それが…一体何だって言うんですか」


ハルは……ハルだけは、その現実に立ち向かおうとしていた。
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/25(火) 05:47:02.77 ID:o9z9VXnr0
子供とかって、大体未来への希望とか書かれるけど、それを逆手に取ってくるかぁ……
128 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/10/25(火) 23:01:37.65 ID:rhgc8MqBo
●ふくつの

無の核『おや…意外だね。キミはもう少し利口だと思って居たんだけど………勝ち目が無いって事が判らないのかい?』

ハル「判って居ます…でも、そんな事は些細な事です」

無の核『………勝ち目が無いって事は、大事な物を守れないって事だよ?』


ハル「………それも判っています」


無の核『………………』

ハル「………………」


無の核『あー………じゃぁ聞くけど、キミにとって重要な事って一体何なんだい?』

ハル「そんな事…決まっています。彼と居る事…レミちゃんと居る事……それを諦めない事です!!」


無の核『あぁ…あーあーあー…そう言う…そう言う事か。恐れ入ったよ……まさか君がそんな考えを持って居たとはね』


ハル「…………」

無の核『それって裏を返せば…例え皆を助けられなくても、自分がその信念だけ貫いて居たならそれで良い…他はどうなろうと構わない…って事だろう?』

ハル「……………」

無の核『でもさぁ……それって結局、何の解決にもなって居ないよねぇ?想いだけで何とかなるとか思っているのかい?』


無言のまま言い返さないハルに、したり顔で問い詰めて行く闇の核。

だが……そこで、堪え切れなくなった俺が口を挟む。


俺「何とかならねぇだろうなぁ………でもな」

無の核『おや、そこでキミ答えるのかい?まぁ良いや…でも………何だって言うんだい?』


俺「少なくとも、なぁ…諦めちまったら、可能性がある事も出来なくなっちまうだろぉがよぉ!!」


正直な所…策と呼べるような策は何も無く、勝ちの目なんて物は一切見えて来ない。

しかし、それを理由に諦める事など出来ず…俺は、抵抗を続けた。
129 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/10/25(火) 23:24:35.24 ID:rhgc8MqBo
無の核『………癇に障るなぁ…その考え方』

俺「そりゃぁ結構なこった」


無の核『何も考えて居ないくせに、ただただ無責任に可能性なんて言葉に縋るだけの愚かな行為…僕が一番嫌いな物だよ』

俺「そりゃぁそうだろぉなぁ…お前はただ困難から逃げて、それに二人を巻き込んだだけだもんなぁぁ!!」


無の核『………超越と逃避の区別も付かない愚鈍がっっ!!」

俺「手前ぇがそう思い込んでるだけで、実際は同じ物じゃ無ぇか!!」


無の核「この………いや、もう良いか。話すだけ無駄だ、もういい加減終わりにしよう』


レミの身体を操り…右手を高く掲げる、無の核。

その掌の先には、知覚も形容もし難い何かが蠢き……

それが、終焉その物である事を本能的に理解すると同時に………


    ノイズが走った。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/26(水) 04:30:19.51 ID:j4Rn9IrX0
みんなの想いが世界を救うと信じて……!
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/10/27(木) 07:31:20.99 ID:IjQqnd240
↑打ち切りにすんなやwww
132 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/11/26(土) 20:17:51.92 ID:dwYs+t49o
●ほうかい

終焉が…一瞬にして世界を包み込み………

黒い雨が世界を塗り潰して行く。


見渡す限り一面は黒に染まり…残された存在は、俺とレミの二人だけ。

ハルも…カライモンも……虚獣の肉片までも、全てが飲み込まれて消えてしまった。

だが…その結果を悲しむ暇も悔やむ暇も与えられる事無く、俺も黒い雨に曝され………


世界の全てが終焉を迎え……最後に、俺と言う存在が消え去り行くその刹那に……


また、ノイズが走った。


無の核『やれやれ………君達は本当に諦めが悪いねぇ。ここまで来て、そんな足掻き方をするとはね』

カライモン「足掻きとは心外だね。これでも一応、前もって準備していた策略だよ?」

無の核『だとしても…結局は無駄な足掻きに終わったね。この結果も予想通りなのかい?』

カライモン「正直な所…想定の範囲内ではあったが、期待通りでは無かったと言う所かな」


終焉に飲み込まれ…消えたと思って居たカライモンと、無の核が交わす言葉。

俺は、余りにも唐突で急激な展開を追いかけるが…事態はそれを上回って走り過ぎて行く。


無の核『あんな物…幾ら切った所で、終焉の達成とはみなされない。それは先の戦いでも判って居た事だろう?』

カライモン「終焉を齎す者としての覚醒前と後で、その定義が変化しないとも限らないだろう?それに…」

無の核『時間稼ぎくらいにはなる……とでも、考えて居るのかい?』


二人の会話から推測した限りだが……


どうやら先の終焉は、カライモンの手引きで移動させられたIfの世界での出来事だったらしく……

何か俺の知らないルールの上で、搦め手を使ったようなのだが…それが不発に終わったであろう事も伺えた。


そして…その未知のルールの部分に、遅れて俺が推測の手を伸ばした所で……


またもノイズが走り、俺は別の世界へと引き寄せられた。
133 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/11/26(土) 20:34:31.88 ID:dwYs+t49o

どこかの世界…どこかの星の地表で、繰り返されるその行為。

高く掲げられたレミの右手に、何かが蠢き…それを見て俺は、先の世界の終焉を思い出した。


終焉を齎す者の力が、世界の全てを飲み込み…また一つの世界が終わる。

そう…この世界も、先の世界と同じように終わる。そんな予感のまま、成り行きを見守って居たのだが……


無の核『…………』

何故か…その行為が繰り返される事は無く、世界は未だに健在だった。


無の核『……小賢しい事この上無いね。こんな手に僕が引っかかると思ったのかい?』

カライモン「いいや?途中で気付いて止めると思って居たよ。そう…止めて貰えて良かった。Ifの世界と同じように終わってしまわなくて本当に良かったよ」

無の核『くっ……食えない奴だねキミは』

カライモン「お褒めに預かり光栄だよ」


何が起きたのか…いや、何故起きなかったのか。

カライモンと無の核のやり取りから、俺は再び推測の手を伸ばし……やっとの事で、掴むべき物の表面に触れ……


俺「………って、終焉の達成って…あぁ、そう言う事か!!」


自分の居る場所を、改めて認識した所で初めて……綻びの向こうから毀れ出した、微かな光明を見た気がした。


カライモン「そう………Ifの世界ならばいざ知らず…実在の世界では、終焉を齎す力を一度しか使えない…と言う事だ!…なぁ、そうだろう?」

無の核『…………………』
134 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/11/26(土) 20:46:18.38 ID:dwYs+t49o
●うらがわ

俺「一度しかって、そんな事……あぁでも待てよ?そもそも、世界の終焉なんて何度も起こす物じゃぁ無い訳だし……」

カライモン「原因…または理由がどれなのかまでの解明には至って居ないが、恐らくは……」


無の核『個体が世界に干渉出来る限界…それと、世界の終焉が次の世界線でのプロセスに組み込まれている…その他諸々、全てがその理由だよ』

カライモン「おや……やけに素直に認めてくれるでは無いか。観念して白状モードにでも入ったかね?」


無の核『いいや…その逆さ。それが知られた所でどうと言う事は無い……そう言って居るのさ!!』


突如として、無の核…レミの身体から溢れ出る力の奔流。

光…闇…無……俺の知りうる限りの核の力がうねり、一つになって……レミに、新たな外殻を作り出した。


無の核『忘れて居るかも知れないけど…ボクはこの三つの力を全て使えるんだよ?』


つい先ほどまでの力が、ほんのお遊びに見える程の…絶対的な力を見せつける無の核。

当然その力は脅威であり、俺達を絶望のどん底に叩き落すには十分なのだが……それとは別にもう一つ。

何故か…何かが、俺の中で警鐘を鳴らし続けている。

しかし、その原因を追う暇も無く…レミの右手から繰り出された一撃が、ハルとカライモンをいとも容易く薙ぎ払い……


無の核『キミ達が何を考え…何を画策していようとも……それを実行する前に片付けて、その後で世界を終わらせれば良い…それだけじゃないか』


痛感する寒気を咀嚼している暇すら無いままに、再びノイズと共に俺は別の世界に引き押せられ……

目の前の脅威から、距離を置く事が出来た………かのように思えたのだが――――


無の核『おいおい、忘れたのかい?並列世界間を移動出来るのは、キミ達だけじゃぁ無いんだよ?』

再び目の前に…レミの顔でうすら笑いを浮かべた、無の核が現れた。


俺「あぁ、そうだったな…そうやって、世界を跨いでストーキングを続けて来たんだったよなぁ!!」

無の核『で……それとは逆に、キミ達の並列世界間移動は頻度が落ちて来ているんじゃ無いかい?狭間に巣食う蜘蛛の限界かな?』


俺「………っ…」

この上無く悔しい事だが……無の核の言っている事は、恐らく当たっている。


厳密に、あと何回…と言った憶測を立てる事は出来ないが、乱発出来ない事は確実。

可能な限り、その範囲内で決着をつけたい所ではあるのだが……


どうやって、無の核を倒すのか…いや、それ以前に………

どうやれば、今この瞬間を生き残る事が出来るのか…まず乗り越えるべきその問題が丸々残っている。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/27(日) 03:13:53.57 ID:kbEuZRvD0
ええい、世界を何個も何個も壊しよってからに……!
ん?そうか!だったら創ればええねん!(錯乱)
136 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/12/26(月) 16:30:43.40 ID:u5xxCPuoo
●おさらい

さて………現状をまとめてみよう。

あまり認めたくは無い事だが……正面から戦って、俺達に勝ち目は無い。


無の核『ほらほら、どうしたんだい?早く逃げないと肉片一つ残らないよ?』

少しでも間合いを取ろうと後退した所で…その先に回り込まれては、四体を切り刻まれ……


無の核『おや、やっと回復したようだね?さぁ、早く逃げなよ』

アラクの力により…ノイズと共に並列世界に飛んだ先でも、追い付かれて頭を鷲掴みにされ……

更には、並列世界の連続強制移動に付き合わされて……細胞…いや、分子レベルでボロボロにされる始末。


遅れて追い付いたカライモンにしても、成す術無く一瞬にして消し炭にされてしまい……


そんな風に見せ付けられた圧倒的な力の差でさえ……無の核にしてみれば、本気どころか朝飯前…いや、多分もっと容易い事で…

それを実感した時、俺の目の前は真っ暗闇に染まってしまった。


そう…今までの攻撃は全て、わざわざ俺達に判り易い方法で力を見せつけてくれただけで…

本気を出せば…俺達なんかでは及びも付かない方法で、知覚すら出来ないまま一方的に全てを終わらせる事が出来たであろう事が嫌でも判る。


勝てない…勝つ手段を持たないとか言う以前に、勝つ方法その物を導き出す事すら出来ない。

そんな現実を前にして、心が完全に折れてしまいかけたのだが…………


ありのままの…自分自身のこの状態を受け入れた時、何故かそこに違和感を覚えた。



もう一度…おさらいをしてみよう。


何が起きるのか…どんな手で追い詰められ、何が起ころうとしているのか。

向かう先は暗雲に包まれ…俺達の行く手は、果てしなく厚い壁に阻まれていて…… 


一つだけ言えるのは………無の核はまだ、本気を出して居ないと言う事だけ。

もしも…三つの核の力を用いて俺達を消し去ろうとしていたのならば、俺達はなす術も無く消滅して居る筈。


だが何故………

何故今まで、それを実行に移さなかったのか?


満身創痍ながらも、俺達はまだこうして生きている…この世に存在している。


と言うか、それ以前に……もっと前の段階での違和感がある。

無の核自身も、並列世界間の移動が出来る…

にも関わらず何故、俺達が居ない間に元居た世界に終焉を齎さなかったのか………


いや……そんな事は判り切っているいるじゃないか。


これがもし、戯れや気まぐれだったって言うなら話は別だが……

やりたくても出来ない……それ以外の理由がある筈が無い。


無の核からすれば…手の内を暴かれ、一刻も早く決着をつけて全てを終わらせたい筈。

それでも出来ないと言う事は、何か出来ない理由がある筈だ。


今までの経緯の中に、何か手掛かりは無いか……俺は記憶の糸を手繰り寄せ……


俺「まさか……いや、ありえるか……?」
137 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/12/26(月) 17:01:35.83 ID:u5xxCPuoo
●あやまち

銀髪の女性『何故…何故なんだ!!君達とならば、更なる次元の高みに上る事が出来るんだよ!?何故それを拒むのさ!!』

銀髪の女性『そうか…まだ、この次元に未練があるんだね?』

銀髪の女性『この世界は有限で…終焉は必ず訪れる。それはキミ達も判って居る事だろう?』

銀髪の女性『忘れてしまったのなら、ボクが思い出させてあげるよ』

銀髪の女性『思い出すまで……何度でも…何度でも何度でも何度でも。ボクが…終焉を齎す者となってねぇ!!』


銀髪の女性…無の核の言葉を思い出し………

その可能性に辿り着いた。


俺「やたらと執着してるとは思ったが…まさか、ここまで徹底してるたぁなぁ……」

無の核『…何の事を言っているのかな?』


俺「それが終焉の条件なのか、お前の拘りなのかまでは判らねぇが…こいつ等の目の前で世界を終わらせるのが、お前の目的だろ?」

無の核『………それが判った所でどうするんだい?』

俺「否定は無し……か。ばれた所で支障が無い…って所だよなぁ」

無の核『当然だとも。片鱗を掴んだくらいでそれを止められる筈が無いだろう?』


辿り着いた答えにより、一矢報いる事は出来た。

だが……一本の矢で与える事が出来る程度の傷では、足止めは叶わない。

一歩…また一歩。確実に迫り来る終焉の足音を聞く中……


また、ノイズが走り――――


目の前には、無数の巨大な白い肉片が散らばっていた…………―――

俺「…ってオイ!!ここって―――」


凡ミスなのか、能力の限界なのか…そもそも、それを責める事が筋違いなのは重々承知の上なのだが…

無の核『おやぁ?うん……この残り香…間違い無いようだね』

マズい……こここだけは………この世界だけはマズい。


無の核『さぁ…終わらせようか。キミ達が生まれ育った、この世界をねぇ!!』

逃げるどころか…自分から火に飛び込んで、その身を焼き尽くすような…

いや、加えてそこに殺虫スプレーを構えられている状態とでも言うべきか……


俺「………って、そんな事考えてる場合じゃ―――」

言葉も思考も…紡ぎ終える暇さえ与えられないまま…


無の核は、その右手に終焉の力を篭め始めた。
138 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2016/12/26(月) 17:42:50.75 ID:u5xxCPuoo
●らんしん

阻害出来る見込みなど無い…が、だからと言って手をこまねいて見ている訳にも行かない。

俺は、ディメンションスレイヤーの銃口を無の核の右手に向け…その引き金を引き絞る……、


が………そんな抵抗すらも許されない。


力を篭めた筈の指は、引き金を引き切る寸での所で止まり…当然のように、他のどの部位も動かす事は敵わず…

苦し紛れに展開した停滞空間に至っても、ほんの僅かな時間稼ぎにしかならず…

辛うじて形成していたイタチごっこさえも、知覚不能な超常の力により捻じ伏せられ…

今正に、終焉が解き放たれようとしたした瞬間………


宇宙空間に走る白い亀裂と共に、ハルが現れた。


ハルもまた、登場と同時に停滞空間を展開し…無の核がそれに応戦。

俺の時と同じように、僅かな時間のイタチごっこに持ち込むかのように思われたのだが……


ハル「…………」

俺「………え?」


何故か…ハルは一瞬だけ俺の方に視線を向け、手に持ったステッキを回転。

ステッキを逆手に持ち、両手で握り締めたまま光の刃を形成し…


俺「………はっ?」

レミ「……―――え?」

無の核『な……っ?!』


光の刃を…自らの下腹部に突き立て……そのまま、身体を刺し貫いた。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/26(月) 22:30:57.28 ID:Zt4wp63Xo
久方に更新キタ━(゚∀゚)━!
140 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/01/25(水) 02:06:40.44 ID:69iZzNRyo
●あつれき

皆の思考が停止し、時間が止まってしまったかのように硬直する中……


―――一番最初に動き出したのは俺だった。


ハルが何を思い…何を意図して…何のためにあんな行動に出たのか…その答えに、俺が最も早く辿り着き…

俺に続くようにレミが動き出し……無の核を拒絶。

レミの身体から弾き出された無の核を、ディメンションスレイヤーの弾丸が撃ち抜いた。


レミ「ゴメン……ゴメン!ハル!!アタシの…アタシのせいでっ!!!」

ハル「うぅん…良いの、レミちゃん。これも…私が決めた事だから」


無の核『馬鹿な…馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!イカレてる!狂ってる!!そんな…そんな道を選ぶなんて!!』

俺「驚きぁしたが…俺は、ハルがイカレてるとは思わねぇよ」


半身を失い…所々が掠れた声で叫ぶ無の核。


レミ「アタシ…ずっと思い違いしてた!傲慢だった!!ハルのためって決め込んで…肝心のハルの気持ち、全然判ってなかった!!」

ハル「それじゃ…今度からは、ちゃんと話そ?皆で話して…それで決めよ?」


無の核『判ってるのか!?ハルが取った行動は…これから先もずっと――――――』

俺「あぁ…判ってる。判ってなけりゃぁ、ここまで怒りが込み上げて来ねぇよ!でもなぁ!!」


ハル「そう……例え拭えない罪と悲しみを背負っても…」

レミ「苦しみ続ける事に…なったって」


俺「これから先もずっと、手前ぇと戦い続ける…皆、そう決めたって事なんだよ!」


無の核『―――…っ……馬鹿げてる。第一、戦い続けた所でボクに勝つ事なんて出来ない!その位は判ってる筈だ!』

俺「あぁ…確かにな。んでも…俺達が足掻き続ける事で、手前ぇの目的を邪魔し続ける事が出来る。そうだろ?」

無の核『っ……どれだけ腐った性根なんだ。第一、それが無意味な悪足掻きだと何故判らない!』


俺「性根の悪さはお互い様だ。んで…悪足掻きなのは認めるが…あながち無意味ってぇ訳じゃ無ぇよ。現に………」

無の核『……………』


俺「ハルの行動で…今も依り代も、その先に依り代にする筈だった存在も失って、お前はもう、世界に終焉を齎せない!そうだろ!!」
141 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/01/25(水) 02:10:37.96 ID:69iZzNRyo
●ておくれ

俺達…ハルの行動により一気に形勢を逆転された無の核。

無の核『………フフッ……ハハハ…ハハハハハ!』

しかし…そんな状況下にありながらも、無の核は高笑いを上げ始めた。


俺「ハン、そう言うのはもう良いってんだよ。高笑いが逆転フラグだと思ったら大間違いだ!」


無の核『フフ…フハハハハ…ハハ……いや、失敬。そうじゃ無い…そうじゃ無いんだ』

俺「だったら何だってんだ。ついに諦めて観念したか?」

無の核『まさか?そんな筈が無いだろぅ?ボクが言いたいのは、そんな事じゃぁ無いんだ』


俺「………だったら何だってんだ。勿体ぶらずに言ってみやがれ!」

無の核『せっかちだなぁ…じゃぁ、お望み通り教えてあげるよ。僕が言いたいのは……』


俺「………」

ハル「………」

レミ「………」


勿体を付ける無の核と…それに聞き入る俺達。

そんな中、不意に……俺達と無の核の間に、一筋の黒い線が走り……


無の核『もうとっくに、勝負はついている……そう言っているのさ!』


――――世界に


―――――黒い雨が降り注いだ
142 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/01/25(水) 02:18:59.61 ID:69iZzNRyo
●おしまい

星々の光が、一つ…また一つ。黒い雨に飲み込まれて消え去り……

真っ黒に染まり切った景色の…その向こう側から、無の核の声が響く。


無の核『残念だったねぇ?あとほんの一瞬だけ早ければ止められたかも知れないって言うのに』

レミ『………っ……』

無の核『さぁ…今度こそ本当の終焉の始まりだ!』


雨に触れた物は、その存在その物を丸ごと削り取られ…無に飲み込まれて行く。

今はまだ、俺達の下に降り注ぐ雨は少ないが…それも時間の問題だろう。


無の核『……とは言え、こんな様で勝利を語る程にボクは恥知らずでは無いからねぇ。痛み分けと言う事にしておこうじゃぁ無いか!』

わざとらしく…笑いを堪えながら言い放つ、無の核。


無の核『残された僅かな時間で、この世界の終焉を見届て…それからキミ達も後を追うと良いさ!!』

そして、その言葉を最後に無の核の声は途絶え…この世界には、俺達だけが取り残された。


俺「あの口ぶりからして…俺達を消し去るのは最後の最後…って所か」

レミ「……ゴメン。アタシが……アタシが、もっと……」

俺「いや、だからそれはもう良いっての。今更そんな事言っても仕方無ぇだろ?」

レミ「…でも………」


ハル「レミちゃんは、私達の事を思ってしてくれたんだから…例えそれが間違いだったとしても、私は嬉しかったよ」

レミ「ハル……」


ハル「第一…謝らなければいけない事だったら私だって彼に…」

俺「え?」


ハル「ずっと黙ってて……それなのに、あんな土壇場であんな事……」

俺「あぁ…でもまぁ、ハルだって迷って…悩み抜いて決めた事なんだろ?だったら、俺はそれを責める気にゃぁならねぇよ」

ハル「………ありがとうございます、その言葉で救われました。それに…」

俺「…それに?」


黒い雨が世界を塗り潰し…俺達の頭上から降り注ぐ。


ハル「それに…最後に……最後の時にこの三人で一緒に居られるなら……」

俺「ハル………」

レミ「ハル……ハルぅ………」


俺は二人を抱き寄せ…最後に……迫り来る終焉への、抵抗の意思を示すよう…ディメンションスレイヤーを突き立て………


―――――黒い雨に飲み込まれた、世界は……終焉を迎えた。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/25(水) 07:23:35.17 ID:72E6obrV0
上には上が居る考えでいくと、無の核が世界壊してちょづいてるのを、上位の上位存在なんてのが目障りに思ったりしたら
世界がこうされてる理由も因縁も何もかも無視されて、あっさり過ぎる程にあっさりと、ぷちっと潰されて終わるのかな?
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/06(月) 18:14:44.04 ID:L+P8Waao0
こいつって結局ウロボロスだかより強欲な私怨で世界壊してるじゃんね(呆れ)
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/23(木) 16:45:46.03 ID:STozTom70
で、もちろんこれで終わりなんて訳ないんだろ? 溜まったフラストレーション、カッ飛ばせるキモチ⤴続きがあるんだよな?
146 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/03/20(月) 18:32:05.72 ID:UVX0DcQxo
〇しなおし

―――さて。

途中で幾つかの誤算はあった物の、ボクの目的は無事に達成された。


さっきまで居た世界…彼女達が固執していた世界の終焉は成った。

後は…物質媒体を失った彼女達の痕跡を辿って、再び説得を試みる。それが叶わないのであれば、判って貰えるまで続けるだけ―――


カライモン「………なんて事を考えて居るのだろうね」

ボク『―――っ!?………あぁ、そうか…キミはあの世界に戻っていなかったねぇ。いや…あえて戻らず、故郷の世界との心中を避けたと言うべきかな?』

カライモン「そうだね…世界との心中を避けるため、あえて戻らなかった」

ボク『やはりねぇ…その割り切りの良さと言い、才能と言い…認めよう、君は切り捨てるには惜しい逸材だ。どうだい?何ならボクの……』


カライモン「だが……君は大きな勘違いをしている」

ボク『………何?』


カライモン「よぉく確かめてみ給え。いつものように…世界を終わらせる度にしていたように、彼女達…核の存在やその痕跡を辿ってみると良い」

ボク『そんな事、言われるまでも無く………ん?』


カライモン「……ふふふ…気付いたようだね」

ボク『そんな…馬鹿な!!こんな事………っ!!』

カライモン「ある筈が無い…だろう?だが…ところがどっこい、これが現実だ!」


ボク『何故だ…ボクは彼女達の居た世界を終わらせた…終わらせた筈なのに……何で、何で別の世界に彼女達の痕跡が残ってるんだ!!』


カライモン「策士策に溺れるとは言うが…見事に溺れてくれたね。いやぁ、見て居て爽快だったね」

ボク『な…に……?』


カライモン「なまじ目が良すぎる物だから、逆に見えない物を見ようとしない…そんな事だから、引きずり込まれて溺れて居ても気付かないのだよ」

ボク『………能書きは良いから、早く種明かしをすれば良いじゃないか。そのためにキミはここに来たんだろう?』

カライモン「やれやれ、せっかちだね……良いだろう、教えてあげよう。どうやって君を出し抜いたのかを…ね」


口元に笑みを浮かべ…カライモンは語り始めた。
147 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/03/20(月) 18:52:29.44 ID:UVX0DcQxo
カライモン「まず初めに…判って居るとは思うが、ついさっき君が終わらせた世界は……私達の生まれ育った世界では無い」

ボク『そう言う事なんだろうね、でも納得が行かない。あの世界には彼女達の痕跡が確かにあった…あれはどう言う事だい?』

カライモン「そこはやはりと言うべきか…残留した痕跡で判別をして居たのだね。ヤマが当たって良かったよ」


ボク『いや…例え判って居たとしても、一昼一夜で用意出来る濃度では無かった。いや、そもそも偽装なんて出来る筈が無いんだ』

カライモン「だろうね。だから下手に偽物を用意しても無駄だと思い、本物を使わせて貰った」

ボク『本物………まさか?』


カライモン「そう……隣合ったもう一つの世界。より濃く痕跡の残った、あの世界に君を誘き寄せたのさ」


ボク『ボクを欺くため…そのために世界を丸ごと囮にしたって言うのかい?いや、だとしてもおかしいじゃないか。そもそも―――』

カライモン「絡み合った二つの世界線は、同時に断ち切られる筈だった…だろう?だから………あらかじめ二つの世界を分断しておいた」


ボク『なっ…………』

カライモン「それと誤解の無いように言っておくが…あの世界の住人は、全員Ifの世界に避難済み。つまり犠牲者は皆無だ」

ボク『………………』

カライモン「これに関しては、さすがのアラク君にも重労働でね。肝心の君との戦闘においてはご存知の通り…本当にギリギリの余力になってしまったよ」


ボク『成程…成程ね。完敗だ、完全に出し抜かれてしまったよ………今回は…ね』

カライモン「………今回は?」

ボク『一度空撃ちしたら、それで終わりかと思ったかい?少し時間はかかるけれども、もう一度プロセスを一巡させれば良い…それだけだよ』


カライモン「………そうか…それが君の思惑か」

ボク『さすがにそこまでは考えが及ばなかったかい?残念だったねぇ!一度勝っただけで良い気にならないでくれるかい?最後に笑うのはこのボクさ!!』

カライモン「いや、そう言う意味では無い。と言うか…痕跡を探った時点で気付いている物とばかり思っていたのが…」


ボク『は?一体何の事を……ん?………な…に……?そんな…これは、まさか……!?』


カライモン「そう…私がこうして長々と種明かしをしていたのは、あくまで時間稼ぎのためだ。そして………」

ボク『馬鹿な…馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!何故だ…何故……世界の終焉に飲み込まれた筈なのに!!』


カライモン「次回なんて物は存在しない。今回が君の最終回…終焉だ」


ボクの目の前に、あの男と二人の女…世界と共に終焉を迎えた筈の三人が、姿を現した。
148 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/03/20(月) 19:17:29.90 ID:UVX0DcQxo
●からくり

降りしきる…終焉の黒い雨の中。俺とハルとレミは身を寄せ合っていた。


辺り一面の景色を塗り潰し…最後の締め括りとばかりに、俺達の頭上から降り注ぐ黒い雨。

俺は、それに向けてディメンションスレイヤーを突き立て…親指でハンマーを押し込んだ。


先端から根元にかけて、螺旋状に光が走り……ひび割れから刀身全体に、亀裂が走る。

そして、刀身の奥から現れた光が六角形を形成し………


ハル「え……?これって、もしかして……」

レミ「あ、そっか…これ、例の……」

俺「あぁ…そうだ。ついでに言うなら…特大サイズだから、三人で相々傘だって出来ちまうぜ」


その傘で、終焉の黒い雨を弾き飛ばした。


俺「さて、諦めモードに入ってた所を悪いんだが…このままじゃぁ、どうにも収まりがつかねぇ。俺は、無の核を追いかけようと思うんだが…」

レミ「ま、当然よね」

ハル「ですよね」


俺「追いかけて…例え無の核を倒せたとしても。世界を元に戻せる訳じゃぁ無いし、そもそも倒せるかどうかも判らない」

レミ「そう…ね。依り代を無くして、使える力が限られてるとしても……そもそも、存在その物が生物を超越しちゃってるものね」

ハル「でも……だからと言って、それを理由に諦めるのも何ですから………」


レミ「じゃぁ…あれ、いっとく?」

ハル「そう…だね」

俺「あぁ…そうだな」


レミ「世界は…もう終焉を迎えてる……」

ハル「無の核は、存在自体が別次元で…勝てる見込みも無い……」

俺「どうしようもないような絶望的な状況…やる事なす事全部無駄に終わるかもしれねぇ。んでも……」


「「「それがどうした!!」」」
149 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/03/20(月) 20:18:41.71 ID:UVX0DcQxo
●かくしん

俺「……って、こりゃぁ一体どーいう状況だ?」


無の核を追いかけ、再び世界の壁を超えて来た俺とハルとレミ。

当然ながら…俺達三人は圧倒的な劣勢を覚悟した上で、無の核との決戦に臨んだ訳なんだが…


カライモン「やれやれ、遅かったではないかね」


待ち受けていたのは……無の核と対峙する、カライモン。

いや…カライモンの唐突な登場はいつもの事なので、驚く程の事では無いのだが……この場合の問題は、無の核の方だ。


無の核『…………』

俺達の生存が不測の事態だったのは判る。が…この余裕の無さに関しては、不可解な事極まり無い。


俺「…なぁ、俺達が居ない間に何があったんだ?何となく、無の核が気圧されてる感じがするんだが?」

カライモン「時間稼ぎ以外は別に何もしていないよ?君達が戻るまでの時間稼ぎと足止めだけして…あぁ、後は君達が無の核を倒すと宣言したくらいか」

俺「は?…おま…そんな無茶な宣言を……」


カライモン「出来ないのかね?」

俺「あー……いや…やるさ、例え出来なくてもやってやるっての。どうせそのために戻って来たんだしな」

カライモン「ならば別に良いだろう?ほら、有言実行し給え、私を嘘吐きにするつもりかね?」


いけしゃぁしゃぁと、いとも容易く無理難題を押し付けて来るカライモン。

それに対して言いたい事は山程あるが、今はじっと堪え…俺は、無の核に向き直る。

が…それらの一連のやりとりの間に余裕を取り戻したのか…無の核は口元に笑みを浮かべていた。
150 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/03/20(月) 20:30:05.40 ID:UVX0DcQxo
無の核『ははっ…ははははは!!何だい何だい、驚かせてくれちゃって!結局、無策のまま戻って来ただけなんじゃないか!!』

俺「っ………」


悔しいが…無の核の言う通りだ。

勢いだけで戻っては来た良い物の…具体的にどんな手段があるのかと聞かれれば、それに即答など出来よう筈も無い。

いや…例え時間があって充分に考え抜いたとしても…打開策が浮かんでくるとは到底思えない。


あの手もダメ、この手もダメ…付け焼刃は剥がれて、切り札は切り返されて、奥の手は絡め取られ…最後に手痛い反撃をくらったばかり。

後、残っている物と言えば―――


カライモン「………いい加減、出し給えよ」

俺「…はっ?」

カライモン「まだアレが残っているだろう?それを見越した上で、私は勝利宣言を行ったつもりなのだが?」

俺「いや、んでもあれは…今までの結果を見ても、相性が……って、何でその事を知ってんだ!?」


カライモン「私から言えば、むしろ何故今まで隠し通せていると思っていたのかが不思議だね。アレが無ければ、時間も場所も判らなかっただろうに」

俺「それは確かにそうなんだが……いや、んでもな?お前だって見て来ただろ?アレは無の核との相性が―――」


そう…確かに一つだけ残っている隠し玉はある。しかし…今までの結果で実証された通り、その有用性は見込めない。

だが、何故だろうか……余裕を取り戻した筈の無の核の顔が、俺達の会話を聞いてまたみるみる内に青ざめていくように見えた。


カライモン「それは間違いだ。まず前提からして間違っている。相性が悪かったのは無の核では無い。無の核と………」

俺「無の核と?………あぁ…あぁぁぁ!!そうか、そう言う事か!!」
151 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/03/20(月) 20:32:43.44 ID:UVX0DcQxo
正直な所…俺一人の考えでは、その結論に辿り着く事は出来なかった。

だが、カライモンの確信じみた言動と無の核の様相により…俺は、その答えに辿り着くための道筋を見付ける事が出来た。


カライモン「やっと気付いたようだね?ではもう判った筈だ。無の核単品が相手なのであれば…」

無の核『……っ…何を思い付いたのは知らないが、それが勘違いだとしたらどうするんだい?一歩間違えば…それが原因で―――』

俺「世界を滅ぼす事になるかもしれない……か。成程…やっぱり予想はドンピシャだったみたいだな」

無の核『―――っ!!』


追い詰められ…必要以上に饒舌になった無の核。

滑稽なその姿に哀れみさえ覚える……が、だからと言って手心を加える気も無い。


今度こそ……今度こそ。無の核と…それに関わる因縁を断ち切るため……

正真正銘最後の手…隠し玉を突き付ける。


俺「出てこい……………ケート!!」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/20(月) 21:32:23.94 ID:thZrnkhe0
そいつは……!                    誰だっけ?
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/03/22(水) 20:33:09.89 ID:1n1qcHOY0
毛糸だけに隠し”玉”?w
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/25(土) 20:39:12.72 ID:nhkppLNV0
っべーわ、マジ記憶にねーわー
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/26(日) 13:28:20.00 ID:aCnVOlQCo
なんと1スレめにも名前は出てないんだぜ
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/26(日) 13:46:02.96 ID:qxScK0nxo
大丈夫、2スレ目でも>>151だけだ
157 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/04/25(火) 12:57:49.86 ID:/Xz7vhnao
●はんてん

全身からカサブタを引き剥がされるような痛みと違和感と共に…それは姿を現した。


カライモン「…………」

やれやれやっとか、と言わんばかりの呆れた顔でそれを見るカライモン。


レミ「えっ……何で……?」

事態を飲み込めず、困惑するレミ。


ハル「え?…あ……これって……つまり」

遅れながらも、理解するハル。


そして…………


無の核『……………』

険しい表情を浮かべた無の核が


目の前に現れた、人型の…少女の形をした虚獣を睨み付けた。


俺「さて……これでもう、無の核との決着がつく訳だが……お前たちもそれもで良いんだよな?」


光の核『………』

闇の核『………』


元は二人の友人だったとは言え…その行き過ぎた友情…いや、愛情や愛憎により悪質なストーカーと成り果ててしまった無の核。

その余りにも横暴が過ぎる振舞い故に…二人の中では、答えが出てしまっていた。

そして…その答えは、無言の肯定となって示され……俺は、その肯定の下に行動を起こす。



無の核『ぁ…がっ…………』


――――決着は正に一瞬だった。


無の核が、黒い線…いや、ディメンションスレイヤーの力さえ含んだ黒い線で、ケートに襲い掛かるが……

その行動を読んでいたケートは、難無くそれを回避。

更にそこから、無の核の眼前に転移した後……


呆気無い程簡単に、無の核の大半を削り取った。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/25(火) 13:47:02.73 ID:Uy9ZXZpv0
そこは一撃全消滅で決めろよ。九割九分九利は甘えってのがどっかの界隈ではあるんだぜ?
159 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/04/25(火) 14:11:11.27 ID:/Xz7vhnao
●おしえて

無の核『こん……な…事………ボクは…認め……無い…っ』


自身の大半を消失し…存在自体が希釈され、その維持すらもままならなくなった無の核。

長くは持たない…このままの状態で放置したとしても、形勢が覆る事は無い。それは誰の目から見ても明らかだった。


俺「いい加減認めろよ。お前はやり過ぎた…んで、そのツケが回って来たんだよ」

無の核『認められる…か!納得できる物か!!何で…何でキミが虚獣を……』

俺「コイツを浸食した時、そのまま俺ん中に取り込んだ」


無の核『じゃぁ…そもそも……何で…虚獣が…ボクに対する…決定打になると……判った』

俺「判ったってーか…思い出したんだよな。俺達の…最初の最初、全部の出来事が始まるきっかけをな」


レミ「きっかけって言うと…えっと、ロストがアンタを襲った所よね?」

俺「いや、もっと前だ。俺が巻き込まれる以前に、神風が……」

レミ「闇の核の一部を奪って、その中に無の核の一部が潜んでて…その際に神風が無の核の干渉を受けて……あ!そっか!!」

俺「そうだ…神風が闇の核にしたのと同じ事を、今度は虚獣が無の核にすれば良い…って訳だが」


カライモン「ちなみに、補足しておくならば…同じ力を持った、根幹を食らう竜でも同じ事が出来た訳だが…さぁ、続け給え」


ハル「その手段と可能性を…隠蔽されていたんですよね。虚獣やスピリット自身…そして、私達を利用する事で」

無の核『…………』
160 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/04/25(火) 14:18:01.90 ID:/Xz7vhnao
俺「まず第一に、それぞれの核の力…ディメンションスレイヤーで虚獣を書き換える事は、世界の崩壊に繋がるって仕組み」

ハル「これにより私達は…虚獣に対しての内部干渉は出来ない、してはいけない…されてはいけないという前提が出来ました」


俺「んで次に、大本命。虚獣からの直接干渉だが…こいつは、神風を操るって言う反則技でそれを回避した訳だ」

レミ「そっか…虚獣が今みたいな行動を取れなかったのって、神風が居たから…予測されて邪魔されるから、実行できなかったって事ね」

ハル「そう…だから、質量による消耗戦に持ち込まざるを得なくなった訳」


俺「でもって最後に…虚獣ケートス戦で、神風が身体を張って地球を守った事で、この前提が崩れた訳だが……」

無の核『…………』

俺「最後の虚獣は、既に顕現を開始しちまっていて…折角の千載一遇のチャンス、神風の不在に付け入る事が出来なかった…と」


レミ「で……後は私達も知っての通り。コイツがアタシ達を出し抜こうとして、嘘を吐いて一人で虚獣の所に向かって…」

俺「焦った無の核が、レミを連れて先回り。奥の手の黒い線を使って、行動を起こされる直前に先手を打った」

ハル「これらの要因のせいで、私たちは…虚獣の力を誤認…いえ、誤解させられて居たんです」


俺「ってのが真相な訳だが……カライモンは、この辺りの事も全部分かってたんだよなぁ?」

カライモン「勿論…無の核の力は既に分析済みだ。まぁ、私にしてみれば造作も無い事だったがね!」

俺「いや、それ悪役のセリフ。ってか、モロにやられフラグ立つから止めようぜ!?」


無の核『ははっ……はっ…なんだよ……だったら…何で……何でこのタイミングなんだ!!』


カライモン「ふむ…少し考えれば判る事なのだが。君がそれを聞くとは、余程余裕が無いようだね」

当然と言えば当然の疑問。ついでに言えば俺も気になっていたその部分を…

半ば呆れ顔になりながらも、カライモンは語り始めた。


カライモン「至極単純な話…一番の問題は、レミ君の安否だよ」

レミ「え?アタシ?」

カライモン「虚獣の力とは言え…レミ君と一体化している状態で、無の核のみを削り取る事が出来るかどうかは未知数だ。となれば…」


レミ「アタシが無の核から解放されるのを待ってたって事!?そんな…アタシなんかと世界を―――」

カライモン「そう言うのは止め給え」

レミ「えっ…あ………ゴメン」


カライモン「では二番目の問題だが…これは、その時点では不確定だった、終焉を齎す方法その物だ」

俺「まぁ、そうだよなぁ…どんなのか判らねぇ以上、下手な事は出来ねぇよな」

カライモン「とは言え、これも想定内…虚獣を巻き込む事も無く、且つ世界の終焉を避けつつ空撃ちさせる事に成功した…と言う訳だ」
161 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/04/25(火) 15:05:10.45 ID:/Xz7vhnao
●かくへん

無の核『こんな……こんな事………嫌だ…認め…たくない!……消えたく………』


消滅を目前に控え、足掻き続ける無の核。

散々やりたい放題やらかして来た末の当然の結果ながらも、その姿には哀れみを禁じ得ない。

が…だからと言って、今更こいつの行いを許す訳にもいかない。


俺「ったく…往生際が悪いにも程があんだろ。お前はもう、完全に俺達に……ん?」

念には念を…相手が無力化されていると判っては居ても、何をしでかすかは判らない。

そう思って、無の核を注視する最中………


―――それは起きた。


俺「んなっ!?」

レミ「な…何これ!?」


無の核から銀色の 何か が溢れ出した。


無の核『そんな…馬鹿な……ボクを…見限った…のか…?ボクは…選ばれ………選ばれ……え?…あ……?』

狼狽する無の核を余所に…形容し難い形状と躍動によりその存在を誇示する、銀色の何か。

一体何が起きているのか…目の前の物は一体何なのか…皆が皆困惑と警戒の表情を浮かべる中……


闇の核『そんな……あれは…』

光の核『あり得ん!奴は…っ』

光と闇の核だけが、確信を持った眼差しでそれを見据え


ケート『………ウロボロス』


……虚獣ケートが、その名前を呟いた。
162 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/04/25(火) 15:29:42.16 ID:/Xz7vhnao
俺「……はぁっ!?」

ウロボロス……それは、光と闇…そして無の核の3人の世界を滅ぼした存在。

世界が食い潰されるその瞬間まで、何人たりとも抗う事は出来ず…3人が今の状態となるに至った元凶。

改めてそれを目の当たりにした俺は、思わず声を上げ……


当たり前のように、いや…僅かな期待に突き動かされ、カライモンへと視線を向けた。


カライモン「……無茶を言わんでくれ給えっ!あんな規格外な物、事前情報も無しに…っっっ――そうか…本来の管轄と言うのはそう言う事か!!」

俺「管轄?」

カライモン「いや、こちらの話だ。それよりもまず、ありったけの情報を寄越し給え!可能な限りの対抗策を練るしかあるまい!」


俺「情報っても…俺が見せられた記憶じゃぁ有効な手段は無さげだったんだが…おい、お前達は何か知らねぇのか!?」

光の核『奴は…ありとあらゆる法則を超え、世界その物を存在ごと食らい尽すモノ…』

闇の核『ウロボロスに対し…私達は肉体を捨てて、こうして精神のみの存在となって逃げる事しか出来ませんでした』


光と闇の核から伝えられる情報は、俺も知っての通りの内容。

至って簡素で…現状を打破するには至らない物。

何か…ほんの少しでも、何かのきっかけになる物が無いかと模索する中……


無の核『いや……精神体でさえ…ウロボロスから……逃れる事は…出来なかった』

いらん横槍を、無の核が―――――ん?


光の核『その髪……瞳…』

闇の核『貴女…やはり……』


視線を向けた先に居たのは、紛れも無い無の核だった。

だが…その髪や瞳は、先程までの銀色とは異なり………透き通るような空色をしていた。
163 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/04/25(火) 16:02:33.61 ID:/Xz7vhnao
無の核『ウロボロスは…そもそも、物質的な病原菌でも無く…ましてや世界の仕組みでも無いんだ。あれは………っ…!』


俺「あー……ちくしょう!!様式美として突っ込みたい事や聞きたい事が山ほどあるが、今は省略してやる!!早く続けろ!!」

レミ「えっ!?そこ省略しちゃうの?」

ハル「今は一刻を争う時だと思うから…ね?」


無の核『世界の枠を超え…より上位の存在から干渉する、恐らくは………淘汰と言う現象その物なんだ』


俺「んで…その上位の存在をどうにかするには、一体どうすりゃぁ良いんだ?」

カライモン「いや、簡単に言ってくれるが…上位存在への干渉など、そう簡単には行えんだろう。それこそ、幾つもの条件が…いや、そうか」

無の核『そう……これが偶然なのか…必然なのかは、判らないけど………不可能では無いんだ』


俺「…って、だったら勿体ぶってねぇで早くその方法を教えろよ!!」

無の核『勿論教えるさ…でも、その前に一つ……キミに確認しておきたい事があるんだ』

俺「だったらそれも早くしろ!何でも答えてやんよ!」


無の核『じゃぁ聞くけど………』

と…散々勿体を付けた所で、俺を見据える無の核。

そしてその口元が、再び僅かに動き………俺に問いかけて来た。


無の核『キミは………絶望に染まる覚悟があるかい?』
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/26(水) 00:14:25.41 ID:icWIsgnz0
ないです。
165 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/05/12(金) 21:09:40.11 ID:trHU3eXho
●かいせき

俺「…………はっ?」


無の核が発した言葉…その言葉の意味を理解する事が出来ず、俺は聞き返した。

俺「そりゃ一体どういう意味だ?絶望って…完全に真逆の事だよなぁ?いや、えっと…あれか?可能性はあっても、絶望的に低いとかそう言うやつか?」

無の核『それは……』


俺「だったら確かめるだけ無駄だ。危険も失敗も承知の上でここまで来てんだぜ?今更そんな事を理由に引き下がったりする訳無いだろ」

無の核『そうじゃ…無いんだ』


俺「いや、だったら何なんだよ!?」

無の核『絶望って言うのは…悲劇的な結末を迎える事じゃ無い。世界を守る事は出来る…でも絶望する事になるんだよ』


俺「何だよそれ…思いっきり矛盾してんじゃねぇかよ……」

無の核『いや…矛盾はしていないんだ。それより…早く決断しなければ、もう時間が……無い…』

俺「っ………いいじゃねぇか!絶望でも何でもしてやろうじゃねぇか!!さぁ、とっとと教えやがれ!!」


無の核『……思慮の浅いキミなら、そう言うと思ったよ。それじゃぁまず…虚獣をキミの中に戻して、ボクを取り込むんだ』

俺「…お前……ウロボロスから解放されて、元に戻ってる筈なんだよなぁ?そう言う減らず口を叩かれると、いまいち信用出来なくなるぞ」


毎度毎度の事ながら…言われたままに行動するのは癪だが、他に手が無い以上それに従う他は無し。

俺は……無の核の言葉に促されるまま、手順を進めて行く。


無の核『と、口では何だかんだ言いながらも…結局ボクを信用してるんじゃないか』

俺「うるせぇ。さっさと次を教えろ」


無の核『判ったよ、素直じゃないねぇ。さぁ…次は光と闇…あの二人の力を内に残したまま、意識だけを外に開放してあげて』

俺「また土壇場で無茶振りを…ってーか、それで良いのか?」

無の核『あぁ…こんな事になってしまったのはボクの責任だからね。今更だけど…二人を巻き込む訳にはいかないさ』


俺「いや、そうじゃ無ぇよ」

無の核『え?』

俺「お前じゃなくて二人に聞いてんだ。コイツ一人だけ格好付けさせて、自分は高みの見物出来るようなタマかってな」


闇の核『そのような事……』

光の核『出来る筈がなかろう!!』


俺「だってよ」

無の核『っ………ぅ………』


俺「そら、感傷に浸ってる暇なんか無ぇんだろ。次だ次」

無の核『………うん!!』
166 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/05/12(金) 21:26:31.90 ID:trHU3eXho
●ついおく

俺「で……3つの核の力をまとめたら、次はどうする!」


無の核『この状態でウロボロスを取り込んで…封じ込める。そして、その上で無効化する方法を探し出すんだ』

俺「ってオイ。それって……」

無の核『そう……以前僕が試みた時は、逆に取り込まれてしまった。でも………』


闇の核『今なら…』

光の核『我等の力…それに』

俺「あー……小っ恥ずかしくなるからそれ以上言うな、要はアレだろ?」


ケート『皆の力を合わせれば、不可能だろうと乗り越えられる』

俺「って、そこお前が持ってくのかよ!!ってか、普通に喋れんのかよ!!」


ケート『どやぁ』

俺「いや、そこは逆に声に出す物じゃ無ぇよ!」

ケート『………注文が多い』


俺「注文じゃなくて突っ込みだよ!ってか、突っ込み所多いのはお前のせいだよなぁ!?」


無の核『いや…気持ちは判らないでも無いんだけど、早く…出来ない…かな?そろそろ……』

俺「ってうおっ!?めっさ消えかけてる!!」

無の核『うん…だから……ね?』


と言う訳で……改めて仕切り直し、ウロボロスへと向き直る俺達。


そして俺は、蠢くウロボロスの中心に向けて右手を伸ばし……その指先がウロボロスに触れた瞬間………
167 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/05/12(金) 21:28:31.51 ID:trHU3eXho
俺「っあ……!?」

ウロボロスが俺の中に入り込み…まるで激流のような勢いで身体の中を駆け巡って行く。


まずそれは……体表に現れた黒い入れ墨のような物になって、触れた右腕から全身に広がり……

それに伴うように、ウロボロスが今まで見て来た物……記憶の断片が俺の中で何度も何度も通り過ぎる。


一つの記憶…一つの世界…その世界に存在するありとあらゆる物の記憶。

たった一つのそれを、咀嚼する訳でも無くただ飲み込むだけで頭が壊れておかしくなってしまいそうになる。

にも拘わらず、それが何度も何度も…それこそ無限に続くかのような錯覚に苛まれた後………


気が付けば………

体表の模様が全て左手の手の平に向けて収縮して行き……


その手の中に、赤い立方体を作り出していた。


俺「何だ……これ?」


無の核『ウロボロスにより集積された、知識の結晶体…とでも言えば良いのかな』

俺「あぁ…そう言う系な物な訳な。んでこれをどすうれば良いんだ?」

無の核『その立方体…箱を開けるんだ。そうすれば、さっき言った通りの手順に進む事になる』


俺「成程…な」


無の核からの説明を受け、俺はその立方体に手を伸ばす。

そして、いざその立方体…箱を開けようとした瞬間…………


カライモン「………待ち給え!!」

カライモンから、制止の声が上がった。


俺「どうした?あんまり長くは持ち堪えらんれねぇんだが…」


カライモン「どうしたもこうしたもあるか!君は…それが何か判っているのか?!それを開けてしまえば、君に待っているのは…」

いつに無く…切羽詰まった声色で、必死に俺を止めようとするカライモン。


俺「絶望…だろ?にしても、締め括りが開けちゃぁいけねぇ箱で…開ければ絶望とか…話が出来過ぎてるよなぁ」

カライモン「ならば…そう思うのであれば、止めれば良い事では無いかね!!」

俺「つっても……ここまでやっちまった以上、後戻りは出来ねぇからな。ま、上手く行くように祈っててくれ」


だが…俺はそんなカライモンの制止を振り切りって、箱を開け………



―――絶望の


――――――本当の意味を理解する事になった。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/12(金) 21:56:05.23 ID:XybloxoM0
世界を救える(人類を救えるとは言っていない)けど絶望……ニーア(レプリorゲシュ)かな?
169 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/05/16(火) 00:20:18.82 ID:U8irbCpYo
●いりぐち

俺は……ウロボロスに集積された情報の掌握へと乗り出す。

つい先程の、箱が形成される前に見た物とは比べ物にならない程…膨大な量の情報。


今いる世界の…他の世界の……

始まりから終わりへと向かう全てを、ウロボロスに食い尽くされたありとあらゆる並列世界の数だけ……


人の身であればその片鱗に触れただけでも自我が崩壊してしまうような情報量を……

三つの核の力を借りる事により、辛うじて自己を保ちながら飲み込んで行く。


俺「これが…ウロボロスに集積された記録。ウロボロスに食い尽くされた世界の記録か」


三つの核達が元居た世界………

魔法と言う概念すら存在しない、化学の発達した世界………

文明の水準が低い世界に、高い世界。


異世界との交流が盛んな世界に、閉鎖された世界………

時には、有機生命体すら存在しない世界さえもその毒牙にかかり………


ウロボロスに記録された全ての結末を覗いた末に……ある結論に行き付いた。


俺「ウロボロスに滅ぼされなかった世界は……ゼロ。誰も…ウロボロスに抗う事は出来なかった………」

その結果から導き出される答え…可能性を反芻する度に、全身から血の気が引いていくような感覚に襲われる。


そこにあった……いや、ある筈だった希望は失われ…残された深淵に飲み込まれかけ―――


無の核『落ち着くんだ、結論を焦るんじゃない!』

無の核の声に、意識を引き戻された。
170 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/05/16(火) 00:36:17.37 ID:U8irbCpYo
●えんざん

無の核『今見た物は…あくまでウロボロスの記録だ。よく考えて…記録がある物が全てとは限らない』

俺「あぁ…そうか……ウロボロスに関わってない世界もあるよなぁ。ってか、逆に……」

無の核『そう…完全に駆除され…記録を取る事すら出来なかった世界が存在した可能性さえあるんだよ』


俺「あぁ…くそっ。何でこんな基本的な事にさえ頭が回んなかったんだ」

光の核『情報の量が量故に…我等が補助しているとは言え、思考ロジックの展開にも負荷がかかっているのであろう』

無の核『それに加えて…ウロボロスの記録その物に意識や思考が引きずり込まれている可能性もある。充分に注意してくれ』


俺「あぁ、それは判った。んでも…どっちにしろ今のままじゃ、ウロボロスへの対抗策を探しようは無いよなぁ?こっからどうすんだ?」

無の核『なぁに、これも想定の範囲内さ。ここから…ウロボロスの記録を使って、僕達の存在その物をより上位に押し上げるんだ』


俺「……マジか?そんな事が……あ、いや…元々お前はそれを目的に研究してたんだったな」

無の核『そう…それが歪んで君達に迷惑をかけてしまったけれどね』


闇の核『私達も…その歪みを見出してしまったが故に、一つになる事を拒みました』

光の核『だが……今であれば一切の懸念も無い。共に征こう!』


無の核『二人とも………ありがとう』



俺「で……水を差して悪いんだが。どうやって上位の次元に上りゃぁ良いんだ?俺も、その…意識だけの存在になるのか?」


無の核『その点は心配無いよ。キミと言う存在には、あの世界で実際にウロボロスに対処するための媒体として残って貰う事になる』

俺「あぁ…そっか、なら大丈夫か。んじゃ、ここからどうするんだ?」


無の核『現状では…僕達三つの核が基盤になって、ウロボロスの記録を閲覧している訳だけど…それじゃぁ足りなかった。となれば……』

俺「足りない部分を補完……ケートの…虚獣の力を使って演算すれば、それが出来る…って事になるのか?」

無の核『そう、ご名答。補足すると…その段階に入れば、後は同じ要領で幾らでも更に上の階層に上り続ける事が出来る』


俺「成程…な。んじゃぁ、さっさと行くか!」


詰まる所…今までの手順は、あくまで準備段階だったと言う事。

ここから先に控える、本番に向け……俺は踏み込んで行った。
171 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/05/16(火) 01:06:23.68 ID:U8irbCpYo
●けんさん

俺「まだか…まだこの階層にも無いって言うのか…!」


螺旋階段を登るように…

一歩…また一歩……少しずつ…少しずつ上の階層へと足を進めて行く。

だが………まだ先は見えない。ウロボロスに抗う術は見つからない。


俺「くそっ…こんなまどろっこしいやり方じゃぁ駄目だ!!」

俺は階段から跳躍し…更に上の階層へと一気に飛翔する。


今までとは比べ物にならない量の情報が、理性や意識を削ぎ落とす中…

俺はひたすらに…ひたすらに、上に上にと飛び続け………


遂に見つけ出した。


俺「これが、ウロボロスに対抗しうる手段…さしずめ、ウロボロスの統括って所か」

銀髪の…左半身を入れ墨ような模様に覆われた、一人の男。

その左目の虹彩には、円を描いた蛇のような模様があり…ウロボロスゆかり者である事はすぐに理解出来た。


俺「ってオイ…これって下の階の………あぁ、そうか…そういう事だったのか」

見つけてしまえば、何て事は無い。

探していた物は意外と近くにあって…全てを知ってしまえば、すんなりと納得出来てしまうような内容だった。


俺「俺達の世界のウロボロスは…本来のウロボロスから派生してしまった、いわばバグのような物だった…か。んで…」

後は………


俺「念のため、ウロボロスを退けた後の経過も確認しなけりゃなぁ」

事の顛末を確認してから、それを実行に移す…それで終わり。


俺は……この長きに渡る因縁に終止符を打つため、その先を見渡した。



――――そう


―――――そこには全てがあった。
172 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/05/16(火) 01:08:34.37 ID:U8irbCpYo
●すべての

―――――

『これからもずっと……私と、いえ、私達と一緒に居て下さいね』


―――――

『じ…自分ッスか!?本当に…自分で良いんなら――――』


―――――

『全くもう…春からは父親になって、夏には二児の父なんだから。しっかりしてよね?』


―――――

『で……こんな俺もついに正社員か…』


―――――

『それで君は…うちの娘とレミちゃん…どちらが本命なのかね?』


―――――

『いや待ってくれ、俺が社長って…はぁ!?』


―――――

『にしても…コイツ等と分離して真人間に戻ったは良いが、逆に違和感あんだよなぁ……』


―――――

『本当に…これが貴方の望んだ結末か?』


―――――

『そうで御座いますね…貴方様のお力を持ってすれば、時間の問題かと』


―――――

『よりにもよって…何でボクを選ぶかなぁ』


―――――

『%■◎#▽※』


―――――

『――――――――――』


―――――――――――――


大きく分けて、971741130562083245688888888通り………

その全ての結末を観測した。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/17(水) 20:41:17.61 ID:AiCA/sOu0
シュタゲ知らんけどどっちが観測結果多いんだろうな
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/19(金) 22:11:04.50 ID:nmBiq6EZ0
同じ数字が並んでると気持ちよく感じるとこあるね
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/19(金) 22:31:01.07 ID:ecLuAvsS0
無限の密度の比較じゃなくて数え上げられる量で済んで良かった
176 : ◆TPk5R1h7Ng [saga]:2017/05/29(月) 22:00:41.15 ID:mG4WGedqo
●ぜつぼう

――――――――――――


俺「……………え?」


俺「おい…嘘だろ?これで全部か?これっぽっちか?」


全てを知って…全てを理解して………無の核の言葉の意味を理解した。

全てを知ってしまうと言う事は、ありとあらゆる可能性を掌握してしまうと言う事で…

全てを掌握してしまえば、必然的に…そこには一切の不測が存在しなくなる。


俺「他にもまだ…まだ何か……別の未来が………」


そう、それはつまり…一切の未知を失ってしまうと言う事。

全てがロジックに基づいて始まって終わり、予定調和のまま全てが終わる。


そこに………希望なんて物は存在しない。



最後に知覚したのは、無価値と化した達成感と…埋めようの無い喪失感だけ。


未来の可能性は無限大だとか、そんな言葉は滑稽な詭弁に過ぎない。

始まりがあれば終わりがあるという言葉のように…世界は有限で、そこから生まれる可能性にも限界値が存在する。


運命に反逆したつもりで、幾ら自分の意思で未来をねじ曲げようとも…所詮それも予定調和。

自分の意思で掴み取った未来さえも、結局は予め想定されていた断片の一つに過ぎない。


自分が知覚しうる全ての可能性を網羅し、新たな可能性を求めてより上位の階層に上ろうとも…


   結果は同じ。


希望を求め…希望を消費し尽し……残されたのは、絶望だけ。



この選択に…この行動に一体何の意味があるのだろうか?

こんな無駄な事に意味は無い…いくらハッピーエンドを迎えても、それはただの決められた結末の一つに過ぎない。


全てが無駄な足掻き…

その結論に辿り着いた時………俺は一つの間違いに気付いた。


俺「そうか……より上に上にって登ってたつもりだったんだが…本当は……上に向かって落ちてたんだな」


不可逆の上位存在化……


希望は手に入らないからこそ希望であり、手に入れてしまえば希望では無くなってしまう。

そして…一度手に入れてしまえば、それを希望に戻す事は出来ない。


戻ろうとしても戻る事は出来ず…そもそも、戻る事に意味を求める事さえも出来なくなった。

俺は…そのまま、絶望の深淵へと墜ちて――――
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