八幡「やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。」凛「またね」

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477 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:36:40.51 ID:P+l3VGEy0

× × ×






休憩スペースでちょっと一休み……と言っても、元々今日は仕事らしい仕事はしてないんだが。

自販機でMAXコーヒーを買い、ソファに座ってゆっくりする。なんだが、こうしているのも懐かしい。
そういや今は炬燵は無いんだな。あれも季節感ゼロだったし大分謎だったが。



杏「うー……疲れたー」



そこにやって来るは、仕事終わりなのかやたらとぐったりした杏。
まぁ、こいつの場合レッスンとか何やってもその後ぐったりしてたけど。



八幡「お疲れさん」

杏「お疲れー。もう、杏はダメだよ……ぐはっ…」



わざとらしいうめき声を上げ、反対のソファへと倒れ込む。



八幡「なんか飲むか」

杏「甘いものを……」

八幡「あいよ」



確か炭酸は平気だったはず、と。テキトーにコーラを買って、渡してやる。



杏「サンキュー」


478 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:37:21.12 ID:P+l3VGEy0



起き上がり、ごくごくと良い音を立てて飲む杏。
その後ふぃ〜と何ともオッサンみたいな仕草で口元を拭う。そして、目が合い一言。



杏「え、なんでいんの」



今更かい。



きらり「杏ちゃん? ここにいたの……って、あー! はっちゃーん!」



そこへ諸星登場。駆け寄り、手を握ってぶんぶんと振ってくる。いや、ちょっ、そんなに軽々しく手を握るとか青少年の心を玩ばないで!



きらり「今日からだったもんね! やっと会えたにぃ〜」

八幡「お、おう。お疲れさん」



俺がたじろいでいると、杏が納得したように頷いていた。



杏「あーそう言えば正社員として入るって言ってたもんね。今日からだったんだ」



何ともあっけらかんとしたその言い方。だが、その気持ちは俺も少し分かる。



杏「……たまにオンラインで会うし、ソシャゲでログインしてるの確認できるから、あんまり久しぶりな感じしないなぁ」

八幡「俺が心に留めたことをあっさり言うんじゃない」



まぁ、そこがお前の良い所だけどよ。





479 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:37:53.12 ID:P+l3VGEy0

× × ×






八幡「……やっぱ、懐かしいな」



丁度人が少ないのを見計らって、事務スペースへとやってくる。
目の前にあるのは、かつて俺が使っていたデスク。

正式にここの社員になったとは言え、またここを使っていいかは分からないからな。今はこうして眺めているだけ。

何も物が無いのを見る限り、特に誰も使ってはいないようだ。……その割には、何故か奇麗にしてあるが。



八幡「ちょっとくらいなら……」



ちひろさんや社長なら構わないと言いそうなもんだが、念のため周りに人がいないことを確認し、座ってみようと椅子を引く。



輝子「フヒヒ……」



キノコの精が、そこにいた。



八幡「…………」

輝子「だ、黙って椅子を戻さないで……」

八幡「冗談だ」



改めて椅子を引いて、そこへ座る。
……こうしてると、本当に懐かしいな。

正直に言えば、輝子ならここにいるんじゃないと思ってやって来た。


480 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:38:24.19 ID:P+l3VGEy0



八幡「どうだ、元気にやってるか?」

輝子「フフ……ちひろさんに許可を貰って、ここを正式にキノコの栽培場所として使わせて貰ってる。……見よ、この新たなフレンドを」

八幡「聞きたいのはそういうことじゃないんだが」



まぁ、たまにLINEとかで連絡は取ったりするから、上手くやってることは知ってるけどよ。



八幡「あんまり俺が戻ってきても驚かないんだな」

輝子「フヒヒ……まぁ、ね」



俺の質問に、いつもとなんら変わりなく、さも当然のように、輝子は言う。



輝子「八幡のことだから……帰ってくると、思ってた」

八幡「そんなん分かるのか」

輝子「分かる。……親友、だからな」



そうして、また笑う。

……そうか。



八幡「……親友なら、分かっても仕方ないな」


481 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:38:50.98 ID:P+l3VGEy0



そんなことを言われてしまえば、俺も納得するしかない。
やれやれ。何かもお見通しだぜ。


俺がそう言って笑うと、輝子も嬉しそうに微笑んだ。



輝子「……あ、そろそろ、来るな」



不意に、輝子がケータイを見ながらそう呟く。



八幡「来る?」

輝子「八幡。外に、行くんだ……」



真剣な目でそう告げる輝子。

まさか、来るってのは……



八幡「……ああ。分かった」



椅子から立ち上がり、すぐに出口へと向かう。
チラッと背後を見てみれば、机の下から掲げるように腕を突き出す輝子の姿。

その手は、健闘を祈るように親指を立てていた。
ターミネーターかよ、お前は。



……けど、サンキューな。





482 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:39:38.03 ID:P+l3VGEy0

× × ×






事務所の外へ出てみれば、気持ちの言い風が吹いていた。


朝出た時は早過ぎて気付かなかったが、今日はどうやら快晴みたいだな。気温も丁度良いし、仕事初日としては最高と言える。

まぁ、もう既に半日以上は終わってしまったんだが。



事務所の前に立ち、ぼーっと空を眺めながら待つ。

輝子はそろそろ来るとか言ってたが、辺りに人影は無いし、特に誰か来る様子も無い。
っていうか今更だが、来るのってのはあいつのことで良いんだよな? 宅配便とかじゃないよね?



八幡「…………」



……しかし、こうして事務所の前に立っていると思い出すな。

あれは最初の最初、初めてここへやって来た時。
今もしてるこのネクタイを見てニヤついてる時に、あいつに見られたんだっけ。あん時は、まさかその女の子が俺の担当アイドルになるなんて思いもしなかったな。

思わず、笑みが零れる。

本当に、懐かしいーー





483 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:40:16.87 ID:P+l3VGEy0








「なに、ニヤニヤしてるの?」









よく通る、済んだその声。



不意を突かれてかなり驚いたが、それでも、動揺はない。

今日は、いつ会えるのかとずっと考えてたからな。


振り向けば、そこには思った通りの人物。


容姿は特に変わらない……と思ったが、ちょっと大人っぽくなったか?
もしかしたら、少し背が伸びたのかもしれない。元々高い方なのにな。


……相変わらず、まっすぐな目をしてやがる。



凛「もしかして、アイドルのプロデューサーになれるのが嬉しかったの?」



イタズラっぽく笑って言うその台詞は、いつかの真似事か。
なら、俺も返す答えは決まってる。



八幡「ちげぇよ。……このネクタイ、妹に選んで貰ったんだ」

凛「知ってる」



そうして、俺たちは笑い出した。

……ああ、本当に、俺は戻ってきたんだな。


484 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:41:16.79 ID:P+l3VGEy0



八幡「昼過ぎから出社とは、随分と社長出勤だな。うちの社長なんて6時前にはいたぞ」

凛「午前は直行で収録があったんだよ。っていうか、それはうちの社長が特殊なんでしょ?」

八幡「どうしても俺より早く会社にいたかったらしい」

凛「社長らしいね」

八幡「あと、ちひろさんもな」



久しぶりに会ったってのに、話すことはこんなことばかり。



凛「あ、そう言えば春香がまた会いたいって言ってたよ? みんなでお茶でもしようって」

八幡「……そういや、LINEでそんなことも言ってたな。っていうか”春香”?」

凛「それもだよ、そもそもなんでLINEのIDを交換してるんだか」

八幡「ま、まぁ、おいおい説明してやるよ」

凛「どうだか」



笑って、他愛のない話をする。



凛「あのフラワーバスケット、どこで買ったの?」

八幡「どこって、普通に近所の花屋だが」

凛「ふーん。……うちじゃなくて、他所の花屋で買ったんだ?」

八幡「いや、さすがにお前んとこは無理だろ……ちょっと考えたけど」

凛「考えたんだ……」



もっと、話さなきゃならないことがあったと思ったのに。



凛「そのスーツ、久しぶりに見たよ」

八幡「社会人は最低二着はあった方が良いって聞いたから、もう一着買ったけどな」

凛「でも、今日はそっちを着てきたんだ」

八幡「……まぁ、な」

凛「……そのネクタイピンも」

八幡「…………まぁ、な」



話したいだけ話して、いつの間にやら、もう事務所の前で随分と話し込んでいた。


485 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:41:58.00 ID:P+l3VGEy0



凛「…………ねぇ」



向かいに立っていた凛は俺の近くまで歩いてくると、隣に立ち、ふと事務所を見上げた。

俺も、それに習う。



凛「もう、いなくなったりしないんだよね」



こっちを見ずに、そう問いかけてくる凛。



八幡「なんだ、俺がいなくてもトップアイドルを目指すんじゃなかったのか?」

凛「もう、またそうやってひねた言い方をする…」



拗ねたようなその物言い。

自分でも悪いと思うが、これが俺なんでね。諦めてくれ。



凛「これはただの確認だよ」



そう言って、凛は強気に笑ってみせる。



凛「私は私がなりたいから、トップアイドルを目指す。一人でも、走り続ける覚悟はある。……けど」

八幡「…………」

凛「……あなたが隣にいてくれれば、きっともっともっと、遠くまで行けると思うんだ」



そう言う凛の瞳は、キラキラと輝いている。

まだ見ぬ景色を見通すように、輝きの向こう側を、見定めるように。


486 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:43:00.97 ID:P+l3VGEy0






凛「私の、隣にいてくれる?」






俺を見て、凛は再び尋ねてきた。






八幡「……そんな今更な質問、すんなよな」





だから、俺は決まりきった、ずっと思い続けていた答えを返す。






八幡「当たり前だろ。……俺が、隣にいたいと思ってるからな」





約束のために。

凛のために。

そして何より、俺のために。



俺は、ここへ戻ってきたんだ。



そんな俺の答えに、凛は「そっか」と言って、満足したよう微笑んだ。



凛「……本当に、先に迎えに来て貰っちゃったな」

八幡「あ?」

凛「なんでもないよ」


487 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:44:49.92 ID:P+l3VGEy0



上手く聞き取れず聞き返すが、凛は笑って流すのみ。

いや、なんかすげぇ気になるんですけど……



凛「それより、そろそろ事務所入ろうか。ちひろさんとか探してるかもよ」

八幡「あ、おい!」



俺を放って、さっさと行こうとする凛。

……本当、決めたらどこまでも行こうとする奴だ。



一度は辞めて、それでもこの場所に焦がれ、俺はまた戻ってきた。

隣にいたいと、凛を、トップアイドルにしたいと、またやってきたんだ。


どうやら人生ってのは、簡単には終わらないらしい。



好きになった女の子はアイドルで。

だからこそ辞めたプロデューサーに、俺は、再びなった。



……本当に、おかしな話だよな。

もしも自伝を書くんなら、最後の〆はこうしようと思う。



いつかの再提出の、更にやり直し。









凛「ほら、早く。プロデューサー!」



八幡「……ああ」









やはり俺の青春ラブコメは、まちがっている。















488 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:45:54.28 ID:P+l3VGEy0
というわけで、これにてシリーズ完結です! ありがとうございましたっ!!
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/12(土) 23:47:12.90 ID:n9Hu7dAZ0
乙。盛大に乙。
本当に面白いSSだったよ。
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 23:47:55.50 ID:nzIdWN2w0
おつ よかった
491 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:49:48.98 ID:P+l3VGEy0
本当に、四年間もありがとうございました。長いこと待たせてしまって申し訳ない……
492 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/12(土) 23:52:08.77 ID:P+l3VGEy0
これまで読んでくれて、本当に感謝しかないです……!
依頼は明日あたりに出しますので、ご感想や質問等頂けると嬉しいです。

繰り返しになりますが、本当にありがとうございます!
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 00:20:29.43 ID:79ug4WY5o
お疲れ様でした
ありがとう御座います
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 00:23:47.49 ID:V3OgtkAV0
お疲れ様でした、完結おめでとうございます!
終わってしまうのが惜しいSSは初めてです……。
完結記念にまた最初から読み直してきます!
繰り返すよえになりますが本当にお疲れ様でした!
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 01:19:58.02 ID:A9aQ0D1R0
お疲れ様でした!
こんないいSSを長期間に渡って書いてくださりありがとうございました!
終わるのが名残惜しいですが、また違うSSを書いてくださる際には喜んで読みたいと思います。
今後も投稿者様の幸多きことを願っています!
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 01:45:03.66 ID:fynfD0a60
お疲れ様です
いいssでした
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 01:52:07.84 ID:AEj8QraDO
4年とか長過ぎだろwwww
改めて長い間お疲れさまでした!また最初から読み直すのが大変だな…
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 07:55:03.60 ID:CSKew7A2o
お疲れ様でした。
本当に面白かったです。
上手く言葉に出来ないけど八幡の再入社が本当に嬉しいです。
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 09:17:19.61 ID:Rax5p71vo
お疲れ様でした、これとISとWの奴は無事に完結できて良かった
その後の未来に幸多があらんことを
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 09:39:13.97 ID:Ce+BRJ5Y0
やっと追い付いたって思ったら終わってた
まあ、乙
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 14:38:22.56 ID:h1GV2jSrO
お疲れ様です
このSSを知ったのが高校だったのに今じゃ大学生やってますよ笑
この世界の八幡と凛、そして他のキャラ達に幸あれ!
502 : ◆iX3BLKpVR6 [saga]:2017/08/14(月) 01:10:52.07 ID:Z7ggV59f0
たった今HTML化依頼出してきました。

沢山の感想、本当に嬉しいです! ありがとうございます!
これだけ長い間待たせてしまったのに読んで頂けるなんて、自分は本当に幸せ者だと思います。

またどこかでお会いしたその時は、どうかよろしくお願いします。ありがとうございました!
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 01:49:24.34 ID:vP/JaeloO
屑幡の俺SGEEEEEEEEEEEEプロデュース(笑)やっと終わってくれたか
なにも面白くなかったしキモウザかったんでもう一生書かなくていいよ
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/15(火) 01:09:30.71 ID:ykbkQ1By0
>>502
俺ガイル系の数あるクロスSSの中でも一番好きでした
いいネタが浮かんだらまた書いてください、乙でした!
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/17(木) 04:42:40.49 ID:TcqrGOxe0
長らく乙でした とてもよい作品でした 4年もやってたんか…また次の作品も期待してます
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/05(火) 21:54:49.58 ID:0ELO367V0
これ俺が高1の時に確か読んでハマったんだよな。もうあれから4年か…
このSSがモバマス始めるきっかけにもなったから本当1には感謝してます。4年間お疲れさん。また新しい面白いSS書いてくださいな
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 00:03:14.79 ID:HJFmXf9W0
久しぶりに覗いてみたら完結してたとは…
長い間お疲れ様でした
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/14(火) 21:50:37.52 ID:tx2EZV5Z0
いいssだった、掛け値なしに
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/21(火) 19:07:27.50 ID:gZTtq84f0
今日このシリーズの存在を知って一気に読みきった
ssの完成度じゃねぇ…
今更見てないと思うけど、とても面白い物語をありがとうございました
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/07/26(日) 04:39:10.16 ID:4Ci5LZWl0
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