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精神レイプ!概念と化した先輩
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46 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 12:45:02.13 ID:pJInSU0EO
coat博士「最後に、概念体と遭遇した場合の目標、成果の基準を定めておこうか」
宇野「成果の基準、ですか」
coat博士「最良は、概念体を生け捕りにして帰ってくること。良は、概念体を殺して帰ってくること。可は、戦わずに逃げて帰ってくること。BADは、戦ったうえで逃げるか逃げられて帰ってくること。捕らえられたり殺されるのは論外の中の論外だ」
宇野「偵察が目的ですからね」
coat博士「敵に情報を渡さず、こちらが敵の情報を得ることが何よりも大事ってことよ。君は分かっているだろうがな」
coat博士「とにかく、生きて無事に帰ってくることが大前提だ。あいつらはまだまだガキで、自分で考え行動する力はまだ無い。君がしっかり手綱を握って導いてやってくれ。現場の判断は君に頼んだぞ」
宇野「承知しました」
47 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 12:46:36.80 ID:pJInSU0EO
〜現在 北沢公園〜
宇野(クソッ、北沢公園に三人組が現れた時点でKBSトリオだと疑うべきだったんだ! 私の不用意なミスで、権田さんが......!)
宇野(落ち着け、いつも通りに戻るんだ。大丈夫、もう悩むことはない。車のミラーに写った私が証明してくれたじゃないか)
宇野「だって私は、ブスじゃないもん!」
(´・ω・`)「まだ引きずってたの!?」
彡(゚)(゚)「おい、外に出たはいいがどうしたらいいんや! あちらさん、やたら気が立っとるぞ!」
黒服にグラサンをかけた男が車から出た私たちを認めると、先程まで襲っていた権田さんから離れた。赤色と、青色の服の男二人もそれに慣い、少し離れてこちらを伺っている。黒服がリーダー格、ということなのだろうか。
赤「おいおい、なんだよお前〜」
青「おいやっちまおうぜ」
赤「やっちゃいますか?」
青「やっちゃいましょうよぉ」
黒「そのための...右手? あとそのための拳?」
赤「拳? 自分のためにやるでしょー?」
黒「金!暴力!SEX! 金!暴力、せっ......て感じだな...うん」
彡(゚)(゚)「言うなら最後まで言い切れや!」
(´・ω・`)「恥ずかしくなっちゃったのかな」
宇野「それより仲間同士の会話が、短い間でここまで破綻していることにまず驚きますね」
48 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 12:47:39.18 ID:pJInSU0EO
赤「なんだとグルルルア!!」
青「おいやっちまうぞ!!」
彡(゚)(゚)「!! 来るぞ! ワイらはどうしたらええんや!?」
宇野「まずは雑魚から片付けます!私が黒の足止めをするので、原住民は青、ブサは赤を倒してください! 急いで!」
彡(゚)(゚)「改めるどころか略すなブサイクを! 戦う方法は!?」
宇野「殴れ!!」
元々広くない道路に車を停めているため、車の頭側のあちらと、後部側のこちらを隔てる道の幅は2mほどしか無かった。こちらへ駆けてくる赤と青が、後ろに続く黒への道を塞いでいる。
宇野(逃げるなんて選択肢はハナから無い。こんな雑魚に負けているようじゃ、どの道こちらに未来は無いからだ)
宇野(頼むからちょっとは希望を持たせてくれよ、バカども!)
49 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 12:48:36.85 ID:pJInSU0EO
狭い道を進めば、赤と青にぶつかる。それならばと、私は車の屋根に飛び乗り、そのまま屋根をひと蹴りして飛翔した。
おお!? と驚いて私を見上げる赤と青の頭上を越えて、私は後方に控えていた黒の左真横に着地する。
ズン、と着地の衝撃が足裏に伝わる。衝撃の勢いを完全に殺すには、両手を使った受け身が必要だったが、私はあえて膝だけで受け止めた。当然勢いを殺しきれず、私の腰は深く沈み込む。逃しきれなかった衝撃に膝が悲鳴を上げるが、致命的な痛みでは無い。私の体重は軽いからな。
黒「おっ!?」
遅ぇよ、と呟き、衝撃の反動を右足の回転力と、左足の地面を蹴る力とに振り分ける。そして私は体幹を軸に体を回転させ、膝の中で暴れ狂っていた衝撃を全て左足に込めた......渾身の後ろ回し蹴りを、黒の肋骨に向けて放った。
宇野「っらぁっ!!」
黒「っわーーーーーい!!」
間抜けな叫び声と共に、黒は道脇の塀に向かって吹き飛んだ。これで相手が生身の人間なら、肋骨が折れて肺に刺さるか、あるいは肋骨が折れるかで確実に戦闘不能になる。しかし、
黒「うわー、もう、びっくりさせんなよー」
宇野(手応えが、まるで無い......!)
50 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 12:49:34.36 ID:pJInSU0EO
左足の踵が黒の肋骨を捉えた感触は、確かにあった。しかしそこから先の肉のめり込みや骨の割れる感触などの、衝撃に対する肉体の反発が、まるで左足に伝わってこなかったのである。
まるでハリボテを蹴り上げたような感覚だった。そのくせ黒の体の重みや肌の質感は人間そのものであり、私はその異質な感触が気持ち悪くて仕方無かった。
黒「ったく女なんかに興味ねえのによー。邪魔すんじゃねえよお前ぇよぉ!!」
宇野(ダメージはほぼ0。これが概念体か)
権田さんがやられるのも当然だな、と思っている内に、立ち上がった黒がこちらへ駆けてくる。
黒「オラァ、女ぁ!」
黒の大振りの右拳が、分かりやすく私の顔を狙ってきた。頭を横に逸らし、カウンターをかます準備をした所で、
宇野「ヒッ・・」
黒の拳の持つ脅威をほとんど本能で感じ取り、私は思い切り横に飛んだ。カウンターも次の攻撃への備えもないまま、私は素人のように地面に転がる。
51 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 12:50:25.00 ID:pJInSU0EO
黒の拳が空を切る。チッ、と舌打ちをする黒は、しかし無防備に倒れる私を追撃しようとはしなかった。どうやら戦いどころか、ケンカの場数もロクに踏んでいないようだ。
拳のスピードは、一般人と比べても並以下だった。殴る姿勢は統一されておらず、読みやすいことこの上無い。
しかし、
宇野(今のパンチ......喰らったら、間違いなく死んでいた!)
銃弾が頬を掠めた時のような、うすら寒さに背筋が凍った。視界に現れた黒の拳が破滅的な威力を誇っていることを、長年の経験が直感という形で教えてくれた。
宇野(こちらの攻撃は、全く効かない。しかしあちらの攻撃は、ただのパンチで致命傷を与えられる、ってことか? ガードも無理だよな一発の威力があんなんじゃ。 アハハ、なんだよそれ)
宇野「反則過ぎるだろ! 概念体ってのは!」
あの博士、なんてもん生み出してくれたんだ! 敵の雑魚でこの強さって、そんなのやってられるかよ!
黒「くそぉ〜。避けんなよぉ、避けると当たんねぇじゃねえかよぉ」
宇野(どっちでもいいから早く、早く来てくれバカども。死ぬ、私死んじゃうからこれ)
転んだ体勢から起き上がると、こちらへ歩いてくる黒の股の間から、向こうの様子が少しだけ見えた。
戦力の片割れであるはずの原住民が、血を流して地面に横たわる姿が視界に映った。
52 :
◆aL7BEEq6sM
[sage]:2016/05/24(火) 12:56:50.78 ID:pJInSU0EO
>>45
カオスヘッドは存在は知っていましたが、実際にプレイしたことはありませんね。
空想を実体化させる、といった能力は昔から定番だよな、とは思います。
53 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:14:21.93 ID:pJInSU0EO
彡(゚)(゚)「あの女のジャンプに気を取られて、アホ共が上を向いとるぞ! 今がチャンスや!」
(´・ω・`)「うん!青い方は僕に任せてよ!」
車と塀の間で立ち往生しとる2人に向かって、ワイらは走った。接近したワイに気づいた赤が、ハッとこちらに顔を向けるが
彡(゚)(゚)「遅ぇわ、死に晒せボケェ!」
赤の服を両手で掴み、力まかせに後方に投げ飛ばす。柔道の綺麗な投げには程遠いが、勢いのあるナイススイングで地面に叩きつけられたと思う。
赤「ぐへぇ」
数回、小さくバウンドする赤の体。逝ったか!?と思ったが、赤はすぐに起き上がり、
赤「くそっ、やりやがったな!」
彡(゚)(゚)「今のでノーダメージなんかい」
全く堪えた様子もなく、平然と立ち上がった。結構、手応えあったんやけどな。これはもう勝てんかも知れんな。
54 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:16:13.35 ID:pJInSU0EO
彡(゚)(゚)「だが、これで広い場所で戦えるで」
赤と青がいた、車と塀の間の狭い道。そんな特殊な場所で喧嘩するイメトレなんて、ワイは一度もしたことがない。だが今の投げ飛ばしで、赤とワイは障害物の無いただの道路に立っている。これで少しは、イメトレ通りに戦えるはずや。
そう思った時、後ろで異変が起きた。
青「ポカポカ殴るだけでよぉ、ウザったいんだよチビ助野郎ぉ!!」
(´・ω・`)「ぐへぇあ!」
振り向くと、原住民が青に蹴り飛ばされていた。青が放った膝蹴りが、背丈が人の腰ほどもない原住民の頭部を捉え、原住民は塀に叩きつけられた。
彡(゚)(゚)「お、おい!原住民ちゃん大丈夫か!?」
赤「おいおい先に俺と戦えよ、そのための拳でしょ?」
慌てて駆け寄ろうとするも、背後から赤に肩を掴まれる。
彡(゚)(゚)「うるっせぇこのダボがぁ!」
頭に血が上ったワイは、振り向きざまに赤を殴りつけた。
55 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:17:11.99 ID:pJInSU0EO
赤「ボリョッ!?」
右拳が赤の頭に当たると、赤はそのまま膝から崩れ落ちた。投げ飛ばしはノーダメージだったのに、何故ワイの拳一発には大ダメージを受けるのか不思議だったが、気にしている余裕は無かった。膝をついた赤の顔を横あいから蹴り飛ばして、ワイは青と原住民の元へ走る。
青「おい大丈夫か振男! てめぇ、よくも振男を!」
彡(゚)(゚)「知るかボケ! お前らが始めた喧嘩やろが!」
高く上げた両拳を強く握りあわせ、青の脳天めがけて思い切り振り下ろす。青は避ける動作もロクにせぬまま、それをモロに喰らった。
青「ガネッ!」
頭を打たれ、体から力が抜けた青がうつ伏せに倒れる。その青の頭部を思い切り踏みつけた後、ワイは原住民に声をかけた。
56 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:18:01.15 ID:pJInSU0EO
彡(゚)(゚)「おい原住民、しっかりせえや!」
(´・ω・`)「ぼ、僕は大丈夫だよ。それよりう、宇野さんを」
彡(゚)(゚)「あんな女なんて今どうでもええわ! お前が大丈夫なんか聞いとるんや!」
(´・ω・`)「だから...大丈夫だって言ってるじゃない。いつも喰らってるおにいちゃんのキックの方が、な、何倍も痛いよ」
彡(゚)(゚)「......そか。そんな減らず口叩けるなら、大丈夫...なんやな。」
車を挟んだ向こう側では、ワイに背を向けて黒が両手を上げ、その背の向こうで宇野が拳銃を手に構えていた。
顔を後ろに逸らし、仲間の青が倒れているのを横目に捉えた黒は、
黒「金田...金田! 暴力もヤられたのか!? チクショウ、てめえよくも2人を!!」
腕を下ろしてこちらに振り向いた。グラサンで隠れて目は見えないが、黒の皺で歪んだ顔は、憤怒の感情を露わにしていた。
宇野「ブサイク、早くこっちに! もう諸々限界です私!」
今まで宇野が銃で脅し、動きを抑えていたのだろう。止まらないと撃つぞ、と宇野が叫んだが、黒は気にも止めずにワイめがけて走り出す。
彡(゚)(゚)「ちょっと待ってろや。パパッとやって、終わりにして、とっととウチに帰るぞ」
(´・ω・`)「うん...ファイトだよ、おにいちゃん」
助走をつけて大きく右拳を振りかぶる黒に合わせて、ワイも三歩助走をつけて、同じく大きく振りかぶる。
彡(゚)(゚)(上等や。仲間やられてムカついてるのが、お前だけやと思うなよ!)
57 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:18:46.43 ID:pJInSU0EO
〜宇野視点〜
私は、ホラー映画というジャンルが大嫌いだ。決して幽霊が怖いからではない。なんでもありの化け物側が、一方的に人間をイジメ殺すというストーリーラインに、なんの面白さも見出せなかったからだ。
しかも後味が悪い方が怖いという理屈からか、私が観たホラー映画の結末は、全てがBADエンドだった。理不尽に強く設定された敵が、主人公達を好き放題いたぶって、ロクな解決もされずに物語が終わる。そんな作品を数本視聴した時点で、私は二度とホラー映画なんか観ないと心に誓った。
物語のテーマがバトルであれ、恋愛であれ、人生であれ、そこに勝ち負けの勝負があるから面白いのだ。大きな困難があってもいいし、その結果が敗北であっても構わない。ただ、こうすれば勝てたかも知れないという勝ちの目だけは、必ずどこかに残すべきだ。仮にもそれが、物語を名乗る代物ならば。
宇野「......本当に、大っ嫌いですよ。アンタみたいな理不尽おばけが」
黒「絶対に殴ってやる。......その為の、拳」
黒がゆっくりと近付いてくる。限られた時間の中で行動を選択する必要があるが、私は少し決断を迷った。
58 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:19:29.09 ID:pJInSU0EO
宇野(私は自分の直感を信じる。さっきの奴の右拳は、絶対に危険な攻撃だった。しかし、他の左拳や蹴りはどうだ?同様の威力があるのか?)
必殺の武器があの右拳だけなら、奴は刀を持った素人とそう変わらない。右拳にだけ注意すれば、奴の攻撃はいくらでも凌ぐことが可能だ。
だがもし奴の攻撃全てに人体を壊すパワーがあるのなら、接近戦はすなわち死を意味する。崩しやジャブですら致命傷になる攻撃を、躱し続ける自信は無い。
宇野(危険なのは右拳か、奴そのものか。......答え合わせの為に、死ぬわけにもいかないしな)
接近戦は無謀と判断した私は、地面をひと蹴りして数歩分後ろに下がった。その時、倒れた原住民と青の元へ、ブサイクが走っているのがちらと見えた。
宇野(ブサイクの方は赤を倒したみたいだな。いいぞ、少しは希望が見えてきた)
59 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:20:10.27 ID:pJInSU0EO
後方にジャンプした私を見て、黒が走る体勢に入った。黒が一歩を踏み込む前に、私はスーツの裏地から拳銃を取り出した。
宇野「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」
黒「っ! じゅ、銃!? なんで!?」
黒が足を止め、銃口を凝視する。概念体であるはずの黒の狼狽ぶりは、脅威に晒された一般人のお手本のようだ。
宇野(思ったとおりだ。日本人が銃を向けられる機会などほとんど無い。人は未知の脅威に怯える生き物だが、元々人間だった概念体もそれは同じだろう)
宇野(奴は銃を向けられたことがない。撃たれたこともない。だから奴は銃の威力を知らない。だからこそ、奴は恐れているんだ!銃の持つ未知の脅威を!)
このまま引き金を引けば、もしかしたら奴を殺せるかも知れない。銃弾の運動エネルギーならば、奴の不可思議な外皮を打ち破り、その内にある肉体にダメージを与える可能性は、確かにあった。
しかし同時に、回し蹴りを放った時の感触が、おそらく無理だと異議を唱える。あれは物理法則が通用する物質ではないと、そう本能が叫んでいた。
60 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:20:52.83 ID:pJInSU0EO
黒「なんだよお前ぇ、なんで銃なんて持ってんだよぉ! ただの喧嘩でそんなのって、頭おかしいだろぉおい」
敵が銃を恐れてくれている以上、こちらから撃つのは得策ではない。銃弾が黒の体に当たって、それでもダメージが入らなかった場合。未知は既知となって、銃の脅威は効力を無くす。そうなれば、もう私に残された手立ては0になってしまうだろう。
宇野「口を開くな。両手を挙げろ。膝をつけ。撃たれたくなければ早くしろ」
黒は怯えた表情で両手を上げるが、膝をつこうとはしなかった。銃を前に、逃げる可能性を自ら絶つのが怖いのだろうか。
黒の背後では、ブサイクが青を一撃で沈めていた。ブサイクが強いのか、青と赤が弱かったのかは知らないが、これで残すは黒1人のみ。
私が銃で注意を惹き付けている内に、黒を背後から襲って欲しいのだが、ブサイクはそのまま原住民の安否を確認するようだ。
宇野(仲間ですもんね。そりゃ無事を確かめますよね。もちろん否定はしませんよ。だからせめて、急いでくださいよブサイク!)
61 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:21:48.49 ID:pJInSU0EO
黒「お前、そんなの撃ったらどうなるのか分かってんのか? 殺人犯だぞ、殺人犯」
宇野「......」
この銃で殺せるものなら今すぐ殺したいです、なんて本音は言えないため、私は無言で返す。
黒「つぅかポリじゃねえのに銃持ってるなんておかしくねぇか? それ、本当に本物か? 実は玩具なんじゃねえの」
緊張感に耐えかねたのか、黒は都合の良い想像を真実だと思い込み始めた。黒が生身の人間なら、その現実逃避は愚か者の極みだ。が、概念体なら本物の銃を玩具に例えても、間違いではないかも知れない。
宇野(まずいな)
宇野「おい! 勝手に動くな!」
仲間に助けを求めたかったのか、黒は制止も聞かず顔を後ろに逸らし、
黒「金田...金田! 暴力もヤられたのか!? チクショウ、てめえよくも2人を!!」
うつ伏せに倒れている青と、ブサイクを視認した。これで、背後からの不意打ちの目は消えた。
宇野「ブサイク、早くこっちに! もう諸々限界です私!」
62 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:23:20.35 ID:pJInSU0EO
黒の目に怒気が宿った。危険な匂いを感じた私は動くな、撃つぞと叫んだ。
黒「うるせぇ! それってどうせモデルガンだろ、分かってんだよ!」
恐怖心からの逃避と、仲間を倒された怒りが重なり、銃の脅威は黒の心から消えてしまったようだ。
私の制止を振り切り、黒はブサイクへ向けて走り出す。私の時と同じように、黒が右拳を大きく振りかぶる。対するブサイクも、同じ動きで黒を迎え撃った。
宇野(クソッ、日本人特有の危機感の無さが裏目に出た)
銃の脅威は既に消えた。なら、私に出来ることはもうこれしかない。
私は黒の右腿に照準を定め、撃鉄を引いた。パンッと、不愉快に乾いた音が周囲に響く。
63 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:24:01.31 ID:pJInSU0EO
黒「おおっ!?」
やはり銃弾でも概念体の外皮は貫けないようだ。貫けない壁へと斜めの角度で侵入した銃弾は、行き先を求め、黒の足を下へ向けて這い回った後にどこかへすっ飛んでいったことだろう。
黒は右足を前に浮かされ、体勢を崩した。私の狙いは、黒にダメージを与えることではなく、この崩しにあった。先程の回し蹴りで、衝撃によって概念体を弾き飛ばせることは分かっていたからだ。
黒は殴る体勢から背を仰け反らされる。それを追うように、ブサイクの右拳が黒に迫る。
宇野(私は、理不尽おばけが敵のホラー映画なんて大嫌いだ。でも、)
彡(゚)(゚)「死に晒せやああああああ!!!」
黒「ゼッグズッッ!!」
ブサイクの右拳が黒の顔面を振り抜いた。地面に叩きつけられた黒は、グラサンが砕け、鼻血を流し、ピクリとも動かない。
宇野(味方にも理不尽おばけがいる映画があるなら、もう一度だけ観てやってもいいかな)
戦いの終わりに胸を撫でおろし、私は静かにそう思った。
64 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:26:47.48 ID:pJInSU0EO
〜数分後〜
宇野「あ、危なかった。もう少しで死ぬところだった」
彡(゚)(゚)「おぅ、ちゃんと感謝せえよ」
(´・ω・`)「だから、お互い様だってばおにいちゃん」
彡(゚)(゚)「血ぃ流して倒れてたくせに、あっという間にピンピンしとるなお前。心配して損したわ」
(´・ω・`)「おにいちゃんのお陰で、怪我は日常茶飯事だからね」
宇野「......私が言っていたのは、私ではなく権田さんのことです」
彡(゚)(゚)「?」
65 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:27:46.02 ID:pJInSU0EO
宇野「車のヘッドライトを見てください」
宇野が指を指す方を見ると、車のナンバープレートにもたれて倒れているオッさんと、そのすぐ脇で、
彡(゚)(゚)「なんか割れとるな、灯りのところが」
宇野「黒に当たった弾が、不規則に跳ねてここに当たったようです。弾の軌道がもう少しズレていたら、私は権田さん殺しの犯人として追われる所でした」
宇野「私としたことが、あまりに軽率でした。黒に気を取られるあまり、権田さんや周囲の安全への配慮がまるで足りていなかった」
彡(゚)(゚)「まぁ、実際当たらんかったんやからええやろ。しょせん結果が全てや」
(´・ω・`)「おにいちゃんの思考は大雑把過ぎるけど、そうだよ。ミスなんて次から気をつければいいことじゃない」
(´・ω・`)(開始5秒でノックダウンした僕は、今回、判断をミスする土俵にすら立てなかったんだけどね)
66 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:28:41.83 ID:pJInSU0EO
宇野「......そうですね。とりあえず今は、さっさと帰る支度をしましょう。なんj民さんは、気絶している権田さんを車に運んでください。原住民さんはその間に、KBSトリオ達を縄で縛ってください」
(´・ω・`)「えっ、この人達も連れて帰るの? でも7人もいたんじゃ、席が足りないよ」
宇野「車の後部座席は前に倒すことが出来ます。狭い思いはするでしょうが、なんとか納まるはずです」
彡(゚)(゚)「縄なんかこいつらに効果あんのか?」
宇野「概念体も完全に物理を透過するわけでは無いらしいので、ある程度は効果があるでしょう。ただ、彼らのパワーがどの程度のものかは未だ不明です。危険ですので、運転中に彼らの目が覚めたら、殴りつけてまた眠らせてください」
彡(゚)(゚)「運転はどうするんや? オッさんを無理矢理叩き起こすんか?」
(´・ω・`)「殺伐としてるなぁ......」
宇野「それには及びません。私が運転して帰りますので、皆さんは車の中で休んでいて下さい」
彡(゚)(゚)「オッさんと違って、お前の運転は安心出来そうにないな。なんか、うっかり人轢き殺しそうなツラ構えしとるもん」
(´・ω・`)「うっかり権田さんを殺しかけたばかりだしね」
宇野「散々な物言いですが、まぁいいでしょう。私の運転の良し悪しは、結果を見てから判断してもらいます。それに、今日初めて車に乗ったあなた方は知らないでしょうが、」
宇野「免許制度が存在する以上、交通事故というのは余程のバカか、余程の不運の持ち主にしか起こらないように出来ているんですよ」
67 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:29:25.04 ID:pJInSU0EO
〜少し前の野獣邸〜
MUR「ぐぅぅ......ううああっ、あっ!」
野獣「驚いたな。まだ概念に抵抗しているとは、大した精神力だよ」
MUR「チラチラ話し、かけるな...!お前の声は、腹が減るんだよ鈴木」
ガン掘リア宮殿で『始まりのホモ』に何かをされてから、2週間が経った。初めの三日ほどは何の変化もなく、木村達のようなモノになる気配は無かった。
もしかしたら俺は特別で、俺も鈴木のように自分を保てるのかも知れない。そう淡い期待を抱き始めた五日目を境に、ソイツは俺を刻一刻と蝕んでいった。
MUR「そうだよ(便乗) 、全部あいつが、チラチラ俺のこと見てたから、見ろよホラ見ろよ見たけりゃ見せてやるよ悪いんだ今日はいっぱい鈴木お前もだよ当たり前だよな、ああ、っああああああああ!! 消えてくれ!消えてくれ!!頼む助けてくれよ鈴木ぃ!!」
68 :
にゃんko
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:30:20.63 ID:pJInSU0EO
毎日、毎日、溢れてくる俺の中のもう一人のソイツ。初めは弱かったくせに、だんだん強くなって、抵抗するのがどんどん辛くなっていって。
今では気を抜くと、いや抑えこもうとする最中ですら、ほとんどソイツになってしまっている自分がいた。ソイツになっている時間が、楽で、痛くなくて、幸せに思えてしまうのが、俺は途方も無く怖かった。
野獣「......お前の抵抗は無駄だ。早く諦めた方がずっと楽だぞ、MUR」
MUR「な、なんで......」
野獣「二週間前、『始まりのホモ』はお前に、『概念の卵』を植え付けた。その能力がどういう理屈で、何故奴がそんな能力を持っているのかは俺も知らん」
野獣「分かっているのは、概念の卵が孵化すると、植え付けられた人間は概念体になるということだけだ。今お前の身体の中では既に、その孵化が始まっているはずだ」
MUR「......。」
野獣「概念体になるという事は、みんなが想像するキャラクターになる、というのと同義だ。お前は既にそうなったガン掘リア宮殿の仲間達を見て、必死で孵化に抵抗しているのだろう。ああはなりたくない、ってな」
69 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:31:01.31 ID:pJInSU0EO
野獣「だがな、何千何万の人間が抱くMURへのイメージと、お前一人がイメージするお前の人格、一体どちらが強いと思う? 川の激流にどれだけ逆らったところで、いつかは力尽きて流される。だから早く、楽になれよMUR」
MUR「ぅ......ゾ......」
野獣「信じてくれとは、言わない。俺は確かに重要なことを黙って、お前を今酷い目に合わせている。だがあの夜、あの公園でお前に言った言葉に、嘘は無いんだよMUR。俺は本気でお前の人生を救いたいと思っているんだ」
野獣「戦いが終わるまでのほんの少しの時間、力を貸してくれればそれでいいんだ。約束するよ。必ずお前を、家族の元へ帰してやる。お前の人生を取り戻させてやる。だからさMUR」
野獣「もうそんなに......苦しまないでくれよ」
MUR「ち、違うゾ......。野獣......」
野獣「!」
MUR「俺が、俺が嫌なのは、ホモビ時代のキャラに、戻ることなんかじゃないんだ。そんなことより、そんな下らないことより、ずっとずっと、俺が嫌なのは......」
MUR「俺が、ホモビのキャラになっている時......俺の頭の中から、娘と妻が消えてしまうんだ......。それが俺には......死ぬことよりも、耐えられない......!!」
70 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:32:22.43 ID:pJInSU0EO
忘れるものか。初めて妻とデートをした日の、あの世界の煌めきを。
忘れるものか。俺のヘタクソなプロポーズを受けてくれた時の、彼女の笑顔を。
ずっとずっと忘れるものか。俺の穢れた過去を打ち明けて、別れを切り出した時の彼女の言葉を。
「私はね、過去を積み重ねて出来た今のあなたを好きになったの。この人となら楽しく未来を歩めると思って、あなたを選んだの。
そんなことで揺らぐほど、結婚する女の覚悟って軽くないのよ?......だからホラ、そんな思い詰めた顔しないで、いつもみたいに笑ってよ」
決して忘れるものか。あの言葉に救われたから、受け入れてもらえたから、今日まで俺は生きてこれたのだ。
MUR「忘れたく...ない。忘れたくないんだよ......!」
71 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:33:00.59 ID:pJInSU0EO
そしてその最愛の妻との間に、子供を授かった。娘は妻に似て、賢い子に育ってくれた。そしてこれからもっともっとたくさんのことを学んで、未来へ羽ばたく翼を手に入れるのだ。
きっとあの子は、何にでもなれる。俺が立ち止まってしまった場所をあっさりと飛び越えて。なりたい自分に、行きたい場所に。ほんの少し手助けしてやりながら、俺はそれをずっとずっと見守っていくのだ。
こんな俺でも父親になれるのだと、教えてくれたのはあの子だ。当たり前の家庭の幸せを、教えてくれたのはあの子だ。娘は俺の宝であり、希望の光なんだ。
MUR「忘れない......俺は、忘れない......!」
野獣「......そうか。そこまで言うなら、好きにすればいい」
72 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:33:36.34 ID:pJInSU0EO
野獣「だがお前がこの部屋に篭りきりになってから、もう二週間経つ。これはマトモな人間でも気が狂う日数だ」
野獣「たまには外に出て太陽を浴びろ。世田谷区の中なら好きに歩いてくれて構わない。散歩でもすれば、少しはその苦しみも楽になるかも知れないぞ」
MUR「......ああ」
ほとんど朦朧とした意識の中で、野獣の言葉に俺は答えた。野獣が何を言っていたかもよく覚えていないが、『楽になる』という言葉が、とても魅力的に思えた気がした。
野獣「俺はこの後すぐに、遠征に出る。外に出た後は、お前の好きな場所に行けばいい。そしてここに帰ってくるんだ、いいな?」
MUR「......。」
野獣(外に出れば、閉じ篭るより何倍ものストレスがこいつを襲うだろう。視覚、聴覚に障るものが、外にはいくらでも転がっている)
野獣(そうすればこいつの孵化も、きっと加速するに違いない。これ以上苦しめない為にも、とっとと終わらせてやった方がMURの為なんだ!)
73 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:34:16.95 ID:pJInSU0EO
〜現在〜
彡(゚)(゚)「な〜んか、オッさんの運転より揺れが激しい気がするんだよなぁ」
宇野「権田さんのような最高級の腕前と比べないで下さい。車の運転なんて、目的地に無事に辿り着けばそれで合格なんですよ」
(´・ω・`)「権田さんの時は凄い快適だったんだけどなぁ」
宇野「狭くて窮屈なのは仕方ないでしょう。普通車に無理矢理7人詰めているんですから」
彡(゚)(゚)「あっ、今コイツ一時停止の標識無視しよったぞ! 交通法違反や!」
宇野「うるっさいですね! 街路の一時停止なんてノルマ稼ぎのネズミ捕りがいなけりゃ、有って無いようなもんなんですよ、......ってキャアアアアアアアアアアアア!!!!」
74 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:35:05.47 ID:pJInSU0EO
宇野の操る車がT字路を左折した時、事件が起きた。ランニングをしていたらしい、白いTシャツを着たハゲのオッさんが、かなりの勢いで車に衝突してきたのだ。
ガンッと、振動が車内に広がり、ぶつかった男が仰向けになって倒れた。
彡(゚)(゚)「これは......大変なことやと思うよ」
(´・ω・`)「冗談が、冗談じゃなくなっちゃった瞬間だね」
宇野「いやいやいやいやちょっと待って下さいよ! 今の、見てましたよね!? どう考えても向こうが勝手にぶつかってきたじゃないですか! あのハゲのおっさん絶対当たり屋ですよ! 私が左折するの見えてたはずだもん!!」
彡(゚)(゚)「自己弁護より先にやるべきこと、たくさんあるんじゃないですかねぇ」
(´・ω・`)「あっ、でも見て! あのオジさん立ち上がったみたいだよ!」
宇野「良かった!生きてた! これで捕まらないで済むぞ!生きて五体満足なら、金を握らせてどうにかなる!! ヒャッホー!!」
彡(゚)(゚)「こいつ、テンパりまくって本性だだ漏れになっとるな......ん?」
75 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:35:58.17 ID:pJInSU0EO
立ち上がったオッさんの異変に、気付いたのはワイだけのようだった。オッさんの放つ歪な気のようなものを、ワイは肌で感じた。
??「ウ...ウゥゥ......」
彡(゚)(゚)「...おい轢き逃げ女。こりゃあマズいで......はよ、逃げろや」
宇野「は? 逃げる!? そんなことしたら、私問答無用で捕まっちゃうじゃないですか! ここは金でなんとか」
彡(゚)(゚)「そういうの今要らんねん。はよ逃げるんや。いいから早く車バックさせろ」
宇野「......どういうことですか?」
彡(゚)(゚)「あいつ、多分概念体や。それに、とびっきり強いの」
宇野「っ!」
(´・ω・`)「ええっ!?」
ワイがそう言うた瞬間、宇野は元来た道にバックした後、右折してオッさんから離れるよう動いた。流石に、頭の切り替えはクッソ速いみたいや。
76 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:37:37.55 ID:pJInSU0EO
??「グウゥゥ......ゾォォォォォォォ!!!」
概念体の咆哮が、車内にまで轟く。概念体は鬼瓦のような形相で、車相手に追いつこうと全力疾走してくる。
彡(゚)(゚)「お、おい! 白Tシャツ着て、ハゲで有名なオッさんって誰がいるんや!?」
宇野「あなたが彼を強いと感じたなら、おそらくはMURだと思われます!」
彡(゚)(゚)「それってどんな奴やんや!」
宇野「KBSトリオなど比にもならない、淫夢史上最強の3人組、迫真空手部の一人です!」
宇野「MUR、KMR、そしてあの野獣先輩によって構成される迫真空手部。MURはその中にあって最上位に位置し、大先輩と呼ばれる強者です!!」
彡(゚)(゚)「野獣先輩より上......やと?」
そんな凄い奴が、なんでこんなところに?
ワイは車のミラーから顔を出し、追跡してくるMURの顔を見る。
奴のその血走った目と鬼の形相からは、欠片の理性も感じられず、疑問の答えはきっと与えられないだろうことをワイは悟った。
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/26(木) 21:54:53.45 ID:FqA0GYrNO
大長編感動モノの予感、いいゾ〜これ
78 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/27(金) 11:43:16.67 ID:rXJ5SWtRO
〜10分前〜
MUR「......どこだ、ここは。なんで俺、こんなところに」
気がつくと、俺は公園のベンチに座っていた。日中の陽射しが地面を、空を照らし、暗闇に慣れた俺の目に眩く光る。
気温はそこまで高く無かったが、俺の座るベンチは日当たりが良すぎるようで、陽に晒された肌がじんわりと湿る。服装が白いTシャツであることに初めて感謝した。日陰に移動する元気も、今の俺には無かったからだ。
MUR「身体が、ダルい」
陽射しの暑さよりも、動くことのほうが厳しかった。倦怠感が全身を包み、指先一つ動かすことさえ、今は面倒くさい。
俺は今まで何をしていたのだろう。野獣に外に連れ出されてからの記憶が、まるで無い。が、身体のダルさと引き換えたように、「俺の中のソイツ」が、今は随分とおとなしかった。
ソイツになっている時間が、俺には何よりも苦痛だ。身体を少しでも動かしたら、今の穏やかな、ソイツが静かにしてくれている状態が、また崩れてしまうかも知れない。
ソイツを刺激するのが怖かった俺は、暑さとダルさを受け入れながら、このまましばらく座っていようと決意した。
父「よーしじゃあちょっと速く投げるぞー」
少年「かかってこぉい!」
目の前にはブランコや滑り台といった定番の遊具が置いてあり、そのすぐ近くで10歳と40歳程の親子が、キャッチボールをして遊んでいた。
今は確か、6月の中旬だっただろうか。いや、俺はあの部屋に二週間は篭っていたと、野獣は言っていた。なら今は6月の暮れか、あるいはもう7月に入っているのだろう。そういえばこの公園にも、蝉の鳴き声がどこかから響いていた。
夏の始まりを告げるようなジー......というこの鳴き声は、たしかニイニイゼミだ。
79 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/27(金) 11:45:59.98 ID:rXJ5SWtRO
〜〜
娘「ニイニイゼミって、全然ニイニイ鳴いてないよね。ずっとシャワシャワ言ってるだけだし」
MUR「そうだなぁ」
娘「なんでニイニイゼミって言うんだろ。昔の人には、これがニイニイって聴こえてたのかな」
MUR「誰もニイニイって聴こえてないけど、偉い人が勝手に名付けちゃったから、みんな仕方なくそう呼んでいるだけかも知れないぞ」
娘「パパ、今すごい適当なこと言わなかった?」
MUR「......すまん」
娘「伝えるじょーほーは、ちゃんと調べて、正確にしてね。子供は親の言うことを鵜呑みにするしか無いんだから」
MUR「娘は難しいことを言うなぁ。よし分かった!帰ったらパパが調べといてやろう」
娘「うん! よろしく頼むね」
〜〜
親子のキャッチボールをぼんやり眺めながら、娘との何気ない会話を思い出す。
MUR(あれは、何時のことだったか。確か山にカブトムシを探しに行った時、だったよな。それで、今よりもっと暑い日で......えっと......それで.........あれ?)
少年「あっ、くそぉ」
何度目かの往復を経て、息子の方がボールを取り損ねた。跳ねたボールがコロコロと転がっていき、俺の足元で止まった。
MUR(あの時、妻はどこにいたんだ? そもそも、あれは何年前の出来事だっけ? あれ、おかしいな。思い出せない。思い出せない? 思い出せないってことは、それってつまり俺は)
MUR(妻と娘との思い出を、忘れた...ということか?)
少年「すいませーん。おじさーん。そのボール僕のですー。投げてもらっていいですかー?」
MUR(待て、待て、待て。なんでだ、思い出せない。そもそも、娘と遊びに行った場所は、他にどこがあった? 遊園地やピクニックには、絶対いつかは行っているよな)
足元のボールを見つめながら、俺は必死で彼女たちと過ごした日々を思い起こす。少年が俺に声をかけたが、俺は返事をすることも、ボールを投げ返してやることも出来ない。身体のダルさもあったが、それよりも俺はとても、とても静かに......パニックを起こしていたから。
80 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/27(金) 11:47:10.11 ID:rXJ5SWtRO
MUR(なんでだ? なんで出てこないんだ? ニイニイゼミの話なんかより、もっとたくさんの思い出があっただろう。例えば、例えば......とにかく、楽しかった思い出が、たくさんあったはずだろう......)
公園に響く蝉の鳴き声が、肌を照りつける太陽の熱が、俺の渇いた焦燥感を逸らせている気がした。動かない身体に反して、心臓は鼓動を加速させ、頭の中で耳鳴りが響く。
思い出そう、思い出そうといくら命令しても、浮かんでくるのは輝いたあの時間ではなかった。脳の力が緩み、脳裏に映し出されたのはむしろ、
鈴木『MURさん、これ夜中腹減んないですか?』
MUR『腹減ったなー』
鈴木『この辺にぃ、美味いラーメン屋の屋台、来てるらしいっすよ』
MUR『行きてえなー』
鈴木『じゃけん夜いきましょうねー』
MUR『おっ、そうだな...あっそうだ、オイ木村!』
浮かび上がる、あの悪夢のような光景。撮影はもう10数年前の出来事なのに、今は何故か、つい最近の出来事のように鮮明に思い出せる。俺があの場で何を言ったのか、何をしたのかを。
その代わりに、妻と娘と共に過ごした日々の記憶が急速に褪せていくのを感じる。まるで夢から醒めた後のように、彼女たちとの思い出から現実感が消えていく。確かにあったという確信が薄れていく。
MUR(あぁ、そうか......)
少年「取ってくれてもいいじゃん、もう」
少年が俺の足元まで来て、ボールを拾う。かがんだ姿勢から立ち上がろうと顔を上げた時、俺と目があった。
少年「おじさん? おじさんどうしたの?」
MUR(もう、駄目なんだ、俺)
野獣『分かっているのは、概念の卵が孵化すると、植え付けられた人間は概念体になるということだけだ。今お前の身体の中では既に、その孵化が始まっているはずだ』
先ほど野獣が言った言葉を、思い出す。身体のダルさの原因も、記憶が消えた理由も、やっと分かった。
少年「おじさん.........泣いてるの?」
81 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/27(金) 11:49:46.04 ID:rXJ5SWtRO
MUR(俺の身体は今、サナギと同じなんだ。身体がダルかったのは、孵化のために俺が大人しくしている必要があったから。記憶が消えていくのは、俺がどんどん、ソイツに近づいていってるからなんだ)
MUR(今まさに俺は、俺じゃなくなっている最中なんだ)
父親「お、おい明日名!その人から離れなさい!」
少年「お父さん! この人泣いてるよ!泣いてるよ!」
父親「いいから早く! 今日はもう帰るぞ!」
挙動不審な俺を、危険人物だと思ったのだろう。父親が少年の腕を掴み、どんどん遠くへ離れていく。
父親の判断は、正しい。俺はもう、人間じゃ無くなってしまうのだから。概念体とやらになった後で俺が何をするのかは、俺にも分からない。
キャッチボールをしていた親子が去り、公園に残ったのは俺と、どこかで鳴いているニイニイゼミだけ。
MUR(そういえば俺はあの後、ニイニイゼミの名前の由来を、娘にちゃんと教えてやったのだろうか)
なんでこんなしょうもない記憶が、こんな時に一番頭に残っているんだろうと俺は自嘲する。彼女たちとの思い出が消えてしまうって時に、なんで俺は......。
MUR(......もしかして、)
MUR(俺はニイニイゼミにまつわる娘との会話を覚えていたんじゃなく、今、この場で思い出したんじゃないのか? 目の前で親子が遊んでいて、ニイニイゼミが鳴いていたから)
MUR(記憶にまつわる何かを見れば、俺はその出来事を思い出せるんじゃないだろうか。だから、俺はあの時の妻が何をしていたのか思い出せなかったんだ。この場に、妻を連想させる何かはなかったから)
じゃあ、妻と娘に会えば、俺は彼女たちとの記憶を、思い出せるんじゃないか? 記憶を失わずに、済むんじゃないか?
そう思い至った俺は、重たい身体を無理矢理立ち上がらせた。概念体になろうとする意志が、俺に動くなと命じているなら、俺はそれに逆らわなければ。
MUR「帰ろう。妻と娘のところへ」
82 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/27(金) 11:50:24.44 ID:rXJ5SWtRO
帰ろう。もう帰ろう。ホモビだの、概念だの、そんなことはもうどうでもいい。この記憶が、彼女たちの顔さえ分からなくなってしまう前に、家に帰らなければ。
MUR「ぐぅ、うぅ、ぐっ...!」
全身を包む倦怠感が、一歩、また一歩と踏み出すことにさえ、苦痛を伴わせる。身体が叫んでいるのだ、お前は大人しくしていろと。
MUR「うるっせぇんだよ......俺は、家に帰るんだ!!」
なんとか足を踏み出し、俺はようやく走り始めた。最初は沼の中を進むような、酷い疲労感を伴った。だが10歩、100歩と進む内にだんだん身体が楽になっていく。重い鎖が外れたみたいに、どんどんスピードが上がっていく。
MUR「うおおおっ、おおおおおおお!!!」
走る。走る。走る。公園を抜け、街路に出た。俺の家の方角はどっちだったろうか。思い出せない。思い出せないが、動かないよりかはマシだ。走っていればいつかは家にたどり着くはずだ。そのはずだ。
走る。走る。走る。身体が凄く軽い。走るのが気持ちいい。家に帰れば、妻と娘が待っている。早く帰って、シャワーも浴びたい。これだけ汗を流したのだ、きっと気持ちがいいだろう。
走る。走る。走る。家に帰れば妻と娘が待っている。家についたら、もう俺は空手部なんて辞める。鈴木や木村には悪いが、あんな部活、俺は苦しくて嫌なんだ。
走る。走る。走る。妻と娘が待っている。妻と娘が待っている。早く帰らなきゃ、家に帰ってラーメンにミンミンゼミを入れるんだ。妻と娘が待っているんだから。
MUR「いえっ、いえっ、つまぁ!むっ!!」
俺は走った。とにかく走った。そして走っていると黒い車が道からでてきて、はねられた。びっくりしたので、でも俺はぜんぜん平気だったから、車が動くのをみて、車で思いついた。
そうだ、この車に連れていってもらって、車で家と妻と娘に連れていってもらおう。妻と娘が待っているんだから。
MUR『俺も乗せてくれ』
そう言っているのに、車はいきなり動いて、俺にお尻を向けて、走ってしまう。待って、って言っているのに、走ってしまう。
MUR『待ってくれ!俺も乗せてくれ! 俺を家に連れていってくれ!』
車は止まらない。走ってしまう。追いかけなきゃと思って、俺は走る。頑張って走って、走っていると、車から黄色い奴が車から顔を出して俺を見た。俺を見た黄色い奴が俺を見るから、そいつに向かって俺は大声で叫んだ。
MUR『俺を家に連れていってくれ! 俺を家に連れていってくれ!』
MUR『妻と娘が、待っているんだ!!』
83 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/27(金) 11:57:15.79 ID:rXJ5SWtRO
彡(゚)(゚)「お、おい! もっとスピード上げろや轢き逃げ! もう追いつかれるぞ!」
宇野「轢き逃げ言うな!無茶言うな! こんな住宅街の狭い道でかっ飛ばしたら、また人轢いちゃうかも知れないじゃない!」
彡(゚)(゚)「一回轢いたら百回も万回も大して変わらんわ!」
(´・ω・`)「変わるに決まってるでしょ!」
宇野「じゃああなたが運転してくださいよ! 私もうあんな怖い思いするの嫌なんですよ! 当たった瞬間もう、強い衝撃が前からドンっとして、」
宇野がヒステリックに叫ぶのを遮るように、ドンっという衝撃が車内を揺らした。今度は後ろからのようや。
宇野「うひゃあああもうやだぁ! 今度はなんなんですか玉突き事故ですか!? 私の過失は0ですか!?」
彡(゚)(゚)「ちゃうわボケ! お前がちんたら運転するから追いつかれたんや! むしろお前の過失が10や!」
宇野「安全運転してるのにっ」
(´・ω・`)「宇野さんのキャラが壊れてる......」
縄で縛ったKBSトリオの向こうに、バックドアの上に四つん這いで乗るMURの姿が、ミラー越しに見えた。さっきの衝撃は、こいつが飛び乗ったことによるものだろう。
彡(゚)(゚)「おい! MURが車の後ろに乗っとるぞ!どうするんや!」
宇野「......あー、もう! 今から車を右に寄せて走らせます! なんJ民さんは左のドアを開けて車の屋根に登って、彼を車からはたき落として下さい!」
彡(゚)(゚)「戦え...ちゅうことか?」
宇野「車から落としてくれれば手段はなんでも構いません。原住民さんはその後で扉を閉めてから、なんJ民さんら外の様子を私に報告してください!」
84 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/27(金) 12:01:11.38 ID:rXJ5SWtRO
(´・ω・`)「ラジャ!」
彡(゚)(゚)「そうと決まれば......オラァ!」
青「ガネッ!」
赤「ボリョッ!?」
黒「ゼッグズッ!!」
気絶しているKBSトリオを、念のため一発ずつ殴ってから、ワイは左側のドアを開いた。
彡(゚)(゚)「途中で目が覚めたら面倒やからな。ほな、行ってくるで」
(´・ω・`)「行ってらっしゃい!気をつけて!」
車の屋根に手をかけ、一息で全身を屋根まで運ぶ。バックドアに両足を着けるMURに対して、やや高い位置で向かい合う。
彡(゚)(゚)「よう、お前がMUR大先輩やな」
MUR「......ゾ、ゾ、ゾ」
バタンと音を立てて、原住民がドアを閉めた。それとほぼ同時に車が左折を始め、慣性による圧がかかる。ワイは身体を少しよろめかせながら、足場が悪いとこで長いこと戦うのは、多分よろしくないなと思った。
85 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/27(金) 12:05:27.48 ID:rXJ5SWtRO
彡(゚)(゚)「戦う前に、2つだけ礼言うとくぞ。結構余裕あったはずなのに、車壊さないでくれてありがとな。狙いが何かは知らんが、ワイこの車けっこう気に入っとるんや。お釈迦にされたらそりゃもう、たまらんかったわ」
MUR「......ウゥ」
彡(゚)(゚)「2つ目。お前みたいな文句無しに強い奴を、ワイは待ってたんや。さっき戦ったアホどもは、まぁ一発で倒せたんやけども。あんな雑魚っぽいの倒しても、ワイが強いのか弱いのかよう分からんからな」
彡(゚)(゚)「お前はなんか言いたいことあるか?」
MUR「ゾ、ゾ、ゾ、いいゾ〜」
彡(゚)(゚)「......そか。まぁ、そうやろな。んでは」
彡(゚)(゚)「分かり合えない事が分かったところで、やらせてもらうぞ死に晒せぇ!!」
宇野「原住民さん! 上の様子は!?」
(´・ω・`)「ま、まだ戦ってないみたい!」
宇野「人のこと遅いだのチンタラしてるだの言っといて、なに自分はまったりしてんだあの野郎!」
宇野(! クソッ、また左折だ。嫌だなぁ、曲がりたくないなぁ、人跳ねるの怖いなぁ)
住宅街で運転するストレスが、私の精神を削っていく。なんでこう、日本の道路はどこもかしこも狭いのだろうか。あとなんでこんな曲がり道が多いの。
宇野(あー、もう! 権田さんさえ健在なら、こんな怖い思いしないで済んだのになぁ! 私の判断ミスが原因なんですけれども!)
横目でチラリと、助手席で気絶している権田さんを見てみるが、まだまだ起きる気配は無さそうだ。
権田「.........」ピクッ
権田(せ...た...が...ゃ......)
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/28(土) 02:18:12.50 ID:5bdgYUAoO
素晴らしいssなのにsage進行、誇らしくないの?
ageて、どうぞ
87 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/28(土) 15:09:08.33 ID:dCwLvCntO
登場人物
・彡(゚)(゚) (なんJ民)
coat博士の『概念を実体化させる技術』によって生まれた概念体。元になった概念は2ちゃんねるの実況板、なんJのマスコットキャラクター。短気で粗野で攻撃的な性格で、精神年齢は小学生と同等。
coat博士から『野獣先輩を倒せ』という使命を与えられ、現状はそれに従って行動している。面白ければなんでも好き。
・(´・ω・`) (原住民)
coat博士がなんJ民を生み出した際におまけのようについてきた、イレギュラーな概念体。元になった概念はなんJ民同様、なんJのマスコットキャラクター。性格は気弱で戦闘能力も低いが、粗野ななんJ民のフォロー役として彼と行動を共にする。
自分が何故『原住民』という名前なのか、その理由となる記憶を一切忘れている。好きな食べ物はきゅうり。
・coat博士
『概念を実体化する技術』を開発した女科学者。概念体の野獣先輩を生み出した元凶であり、彼の凶行を止める手段としてなんJ民を産んだらしい。
年齢は31歳。なんJ民をバカ息子と呼ぶ。趣味は観察記録。
・宇野 佐奈子
政府からcoat博士をサポートする為に遣わされた特派員。プロ意識が高く、己を美人だと自負している。
年齢は25歳。趣味は映画鑑賞だが、ホラー映画は大嫌い。
・権田源三郎
黒くてゴツくて頑固な背のデカい車の運転手。宇野とは何度か仕事を共にした仲。
年齢は53歳。生涯を運転手として貫き通したいと思っている。
・野獣先輩
coat博士によって生み出された概念体。都内を中心に起きている連続失踪事件の犯人で、淫夢民、ネット民をターゲットに次々と精神レイプしていく。彼に精神を犯された被害者には、憑かれたように世田谷区へ向かおうとする謎の現象が起きる。
己に課した『虐げられたホモ達を救う』という使命を果たすため、『始まりのホモ』に協力を仰ぎ、仲間を増やしながらある計画を進める。
・始まりのホモ
野獣先輩と行動を共にするホモ。孵化すると概念体になる『概念の卵』を、他者に植え付ける能力を持つ。
その正体は謎に包まれている。
・MUR
当たり前の家庭を築いた幸せな男だが、かつて小遣い稼ぎにホモビに出演した過去を持つ。
ある日、娘にスマートフォンをねだられた事をきっかけに、娘に過去を知られる恐怖に怯えていた所で、野獣先輩に出会う。心の弱りを突いた野獣先輩の誘いに乗り、始まりのホモによって概念体の卵を植え付けられてしまう。愛するものは妻と娘。
人物紹介を書いてみました
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/28(土) 21:25:10.23 ID:jBlPuxLqo
原住民怪しすぎますね…
89 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/28(土) 21:52:09.32 ID:qJ9yOxM20
単語解説
・概念体
coat博士の『概念を実体化させる技術』、あるいは始まりのホモの『概念の卵』が孵化することによって生まれる、概念と物体の中間に位置する存在。
・ホモビ
主に男性同士の性交渉を取り扱う、同性愛者の視聴を想定したアダルトビデオ。現在は本来意図した客層と異なる人間が、視聴者の大多数を占めている。
・真夏の夜の淫夢
2001年にコートコーポレーションによって発売されホモビの名称、及びホモビ全般をネタにする文化やコンテンツの総称。
2002年に、とある野球選手が、かつてホモビに出演していたとするスキャンダル騒動が起きた際、彼が出演した本作品も同時に知名度を上げた。ネット上ではそれ以降、本作品やその他のホモビをネタにして面白がる文化が綿々と紡がれていった。(以降このコンテンツのことを淫夢と呼ぶ)
2008年〜2009年、ネタ切れによって下火になった淫夢に、野獣先輩が登場する。その圧倒的なキャラ立ちと印象的な演技、セリフによって、淫夢というコンテンツは再び炎上する。以降、様々なホモビ作品が淫夢民によって発掘(無断転載)された。
ネタの面白さ、インパクトの強さによって人口が多数増加した淫夢は、現在2ちゃんねるやニコニコ動画を中心に一大コンテンツと化している。その影響力は甚大であり、最近流行りの言葉が実はネットの流行語で、その流行語もさらに元を正せば淫夢語録(ホモビ出演者の印象的なセリフ)だった、という実例がある程である。
淫夢民
ホモビをネタにして面白がる人物達の総称。野獣先輩の登場以降、爆発的に人口が増え、彼らがどのような存在かを一括りにすることはほぼ不可能である。彼らの年齢、実社会での身分、そしてその活動内容は多種多用であるからだ。
学生もいれば中年男性もいるし、サラリーマンもいれば無職もいる。ニコニコ動画でMADを生み出す者がいれば、それを視聴するだけの人間もいるし、2ちゃんねるでホモビ内容の解釈を行う者や、淫夢語録だけの会話を楽しむ者もいる。ホモビ出演者に好意的なコメントをする者もいれば、罵倒や嘲りを含んだコメントをする者もいる。
つまり現実では、こういう人間が淫夢民だ、と判断するのは不可能であり、裏返せば街を歩いてすれ違う全ての人間が、淫夢民である可能性を秘めている。逆にネットではその多様性故に、淫夢に関する話題に触れた者は内容如何に関わらず、その時点で淫夢民と化すのである。
ただ一つ彼らに共通するのは、その行為の本質が「ウンコをつついて面白がる」のと同じだということだ。淫夢民の多種多様な活動も、要はウンコをどうつついたらより面白くなるだろうか、という模索である。
当然、素顔を多数の人間に晒されたうえにウンコ扱いされた側は、少なくとも平穏を望む人間にとってはあぁ〜もうたまらないことだろう。
・なんJ(なんでも実況ジュピター)
巨大提示版2ちゃんねるの中の、有力な板の1つ。野球の実況、雑談を主とし、猛虎弁やネットスラングを多用する独特な言語を持つ。
スレッドの保持数が異常に少ないことから、回転率が高く、印象的なセリフや出来事を共有しやすい、といった特徴があるが、特筆するべきは野球chから流入してきた歴史、実況を主とする性質から生まれた文化にある。
全てのスポーツは戦いであり、その戦いを応援する彼ら自身も、また好戦的な人物となる。戦いの無い協調、共存よりもむしろ対立と騒動を望み、住人同士の煽り合い(レスバトル)も頻繁に起こる。淫夢民の面白さの追求方法が「ウンコをつつく」のであれば、こちらは「互いにウンコを投げつけ合う」ことで面白さを追求する。他人への気遣いもなく、本能のままに衝動的に行動するその様は、まさに小学生そのものである。
実社会での立場、肉体、他人からの評価、その全てを取り払った名無しの彼らの姿は、
小学生の頃に戻りたいという、大多数の願いの表れなのかも知れない。
ノンケの方向けの用語解説も作りました。来てくれ......。
90 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/29(日) 19:58:12.09 ID:iACsiqApO
彡(゚)(゚)「オラァ!」
二歩助走をつけて、MURの顔を目掛けて前蹴りを放つ。屋根とバックドアの高低差から、腹蹴り程の低姿勢で、顔を狙えた。体勢に無理がなくなる分、普通より強い勢いで蹴れたと思う。
MUR「ゾッ!?」
ワイの蹴りに対して、MURはカウンターも、受けを取る素振りすら見せず......
MUR「ゾォォォォォォォ!!」
突き飛ばされたそのままに、普通に車から落ちていった。
彡(゚)(゚)「えぇ......」
道路にゴロゴロと転がるMURを眺めながら、ワイは呆然と立ち尽くす。
彡(゚)(゚)「あっけなさ過ぎるやろ......」
なんだろうか、この肩透かし感は。まるで将棋で言えば、1手目で互いに角道を空け、先手の相手が、何故か2手目で左側の銀を上げた時のような。いやむしろ、プロ棋士同士の高度な対局が、初歩的なミスである二歩で台無しになった時のような虚無感が、ワイを襲った。
勝利の喜びも、敗北の屈辱も感じない。勝ち負けの戦いにあるべき絶対的ななにかが、先程のKBSとの戦いから今に至るまで、ずっと欠けている気がした。
彡(゚)(゚)「ワイが強過ぎる......ってことか?」
宇野は、MURは野獣先輩より格上だと言っていた。なら、野獣先輩もこんな程度のもんなのだろうか。もしそうならばあまりにも......あまりにも、張り合いが無さすぎる。
彡(゚)(゚)「はぁ......つまんな。...ん?うぉ!?」
車内に戻るため、片膝をつき、ドアをノックしようと頭をもたげた時に、車が大きく左右に揺れた。
91 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/29(日) 20:07:53.61 ID:iACsiqApO
彡(゚)(゚)「お? お? おぉ!?」
車は頭を左に向け、右に向け、狭い道をクネクネと曲がりながら進む。蛇行運転、というやつだろうか。ワイを振り落とそうとするように、慣性による圧が身体を揺らす。
しばらくすると蛇行が収まり、車は再び直進を始める。
彡(゚)(゚)「おい! ちゃんと運転しろや轢き逃げ! お前、諸々雑過ぎるぞ!」
ドアをドンドンと叩き陳情するも、ワイの声は聞こえていないようだった。車内の様子はミラー越しで見え辛いが、後部座席に原住民の姿はなく、運転席では......権田のオッさんが、何故か宇野の左腕を掴んでいた。なにやら揉めているように見える。
彡(゚)(゚)「なんやあれ。痴話喧嘩か?それに原住民はどこ行ったんや......ゲホォ!」
車の屋上部分から乗り出していたワイの頭が、道端の電柱にぶつかった。痛みは無いが、衝撃により、身体の向きを車の後方へと向けられる。
彡(゚)(゚)「おービックリした。生身の人間なら首もげてたところや......ん?」
MUR「ゾォォォォォォォ! ゾォォォォォォォ!!」
後ろに目を向けると、雄叫びを上げてこちらへ走ってくる人影があった。先程と変わらぬ白いTシャツに坊主頭のその出で立ちは、間違いなくMURだ。
彡(゚)(゚)「ハハッ、あの一発喰らってピンピン走っとるわ。やっぱKBSよりずっと頑丈みたいやな。......ええで、第2ラウンドと行こうやないか」
あれで終わっちゃつまらんもんな、と呟き、ワイは構えをとってMURを見つめる。さぁ来い、早く来い、と意気が高揚したのも、しかしほんのひと時の間だけだった。
MUR「イイィぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
彡(゚)(゚)「! な、なんや!?」
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/29(日) 20:17:51.14 ID:WhxZe08xO
みてるぞ
93 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 00:32:39.82 ID:PkyIq8kN0
走りながら、MURは両手を顔の前で交差させ、上体を仰け反らせる。大して筋肉のついていなかった腕に血管が幾筋も浮かび上がり、奴の白かった肌も急速に赤黒く変色していく。
MUR「ゾォォォォォォォッッ!!!」
MURの咆哮が、ワイの鼓膜を揺さぶる。溜めた力を一気に解放するように、MURは両腕を大きく広げる。露わになった顔は憤怒の色に染まり、瞳孔の開いた瞳が真っ直ぐワイを捉えていた。
そこまでは、まだいい。理性の無い状態という意味なら、MURの姿は先程までとなんら変わりがないから。ワイが驚愕したのは、奴の背中から湧き出てきた......
彡(゚)(゚)「なんやそれは......なんや?」
構えた腕を思わず下げて、ワイは呆然とそれを眺めた。ボコボコと丸い肉塊が、MURの身体から弾き出たのだ。そして丸い肉塊は空中で形を変化させ、動物のような体を型取り、地に足をつけた。
94 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 00:33:17.75 ID:PkyIq8kN0
十数個程生み出されたソレは、なんとも形容し難い形状をしていた。丸い大きな肉塊から、首と頭部......のようなものが伸びているが、目も鼻も口も、およそ動物に必要なパーツは何一つ、その頭部には備わっていなかった。のっぺらぼうである。しかしそのくせ、頭部の髪?に当たる箇所には、真っ白な人間の指が4本づつ、左右に分かれて生えており、ワキワキと蠢いていた。
頭部、首、恐らく胴体部分であろう丸い大きな肉塊。どの部分にも毛や皮といった動物的な装飾はなく、ピンク色のツルツルした人肌だけが、その奇妙な物体の全身を包んでいた。
更に、その物体から地面に伸びる脚部は、ほっそりした人間の脚そのものであった。胴体部分に比べてアンバランスに長い二本の脚が、奇妙な肉塊を支え、前へ前へと走らせている。
彡(゚)(゚)「なんや、それは!! 一体なんなんやそれはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
異様な物体達が、十数の群れになって追いかけてくる。あまりに理解不能で不気味な光景に、ワイは思わず絶叫した。
ワイを絶叫に駆り立てた、この初めて経験する感情。その正体が、未知に対する『恐怖』と呼ばれるものだとワイが知るのは、大分後のことであった。
......そしてその奇妙な物体の正体が、ある淫夢民の悪ふざけによって作られた、MUR肉と呼ばれるキャラクターだとは。この時のワイには、尚更知る由も無かった。
95 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 00:35:29.09 ID:PkyIq8kN0
〜車内〜
権田「ムゥ......グ...ゥゥ...」
宇野「権田さん? 嘘、もう起きたんですか?」
権田「え、えぇ。ご心配をおかけし申し訳ありません。......運転まで、させてしまったようで」
宇野「いえ......まぁ、ええ。気にしないで下さい」
私が銃弾で殺しかけたり、権田さんの車で人?を撥ねたり、現在車の上に敵がしがみついていることは、今は黙っておこう。寝起きにストレスをかけるのも不憫だろうし。
宇野「今日はこのまま私が運転しますので、権田さんは休んでいて下さい。もうこの道を真っ直ぐ走れば、渋谷区に離脱出来ますので」
権田「そう......ですか。もう、着くのですね」
歯切れ悪く、権田さんが答える。なにか、らしくない。寝起きで頭が働かないのだろうか。
違和感が頭をよぎった時、後部座席に座る原住民が私を呼んだ。少し興奮しているようだ。
(´・ω・`)「宇野さん宇野さん! あの怖いオジさんが落ちていったよ! おにいちゃんが勝ったみたい!」
宇野「マジなのですか? アイツ、そんなに強かったんですか」
KBSトリオはまだしも、MURまで瞬殺出来るのか。だとするとこれは、もしかしてかなり......こちらに分がある戦いではなかろうか。MURより知名度や格が高い淫夢のキャラなど、そうそういないはずだ。
96 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 00:36:43.68 ID:PkyIq8kN0
宇野「ともあれ、これで無事に帰れますね」
権田「そうですね。ところで宇野さん、このまま真っ直ぐ行った二つ目の信号を、左に曲がってくれませんか?」
宇野「はい?」
助手席に座る権田さんが、突拍子も無いことを言い出した。寝ぼけているのだろうか。
宇野「いえ、もうこの道を真っ直ぐ行けば、首都高に乗って帰れますので」
権田「私は権田源三郎ですよ? 都内の道を全て網羅している男の助言です。お聞き届けになった方がよろしいかと」
宇野「......。」
私だけが知っている近道があるんですよ、と権田さんは戯言を続けるが、正直言って近道もへったくれも無い。真っ直ぐ走れば渋谷区へ抜ける高速道路があるのだ。これ以上の最短はありようが無いし、それに、
宇野「ここで左折しても、世田谷区の北側に向かうだけです。今は遠回りをしている余裕はありませんので、また次の機会に......痛っ!?」
寝言をいなし、意味の無い助言を無視して真っ直ぐ車を進めると、権田さんの右手が私の左腕を掴んだ。太く大きな手によって、骨を潰すような勢いで固く握られる。
宇野「なっ! ご、権田さん、一体なにを!」
権田「いいから言うことを聞きなさい! 運転において、私の言葉は絶対です! それにこれは私の車だ! 私の車は絶対に、私の思い通りに動かなければならないのです!!」
97 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 10:08:42.15 ID:PkyIq8kN0
私の左腕を、権田さんが無理矢理引き寄せる。左手が握るハンドルが左に切られ、車体もそれに倣う。狭い道でそんなことをすれば、事故は必至だ。私は無理矢理ハンドルを右に切り、車の進行方向をなんとか元に戻そうとする。
宇野「や、やめて下さい! 権田さん!」
権田「うるさい! これは私の車だ! 私の車なんだ!」
権田さんはなおも左腕を引き続け、私もそれを戻そうとする。車は蛇行運転となり、危うく塀にぶつかりかけたり、車の脇が電柱にかすったりする。血走った目に憤怒の表情を浮かべる男を相手に、しばらく危機的なやり取りをしていると、原住民が叫んだ。
(´・ω・`)「どうしたの権田さん! へ、変だよこんなの、おかしいよ!」
宇野(その通りだ。こんなのはおかしい。自らの運転に誇りを持つ権田さんが、こんな事故が起こって当然の暴挙に出るなんて、本来なら絶対に有り得ないことだ)
宇野(では今、有り得ないことが起きている理由は何だ? 彼をおかしくさせているモノはなんだ? ......考えてみれば、答えは簡単だ)
権田「黙りなさい! 私は、私は、世田谷に行かなければならないのです!!」
宇野(権田さんは今、精神を犯されている...! 先程の、KBSトリオのレイプによって!)
98 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 10:09:30.27 ID:PkyIq8kN0
異常な事態の原因が分かると、半ばパニックだった心理状態から回復出来た。冷静になった私は、権田さんに握られている左腕をハンドルから離した。
権田「むぅ!? 小癪な真似を!」
車の進行方向が正常に戻る。右腕だけで車を操作しながら、私は原住民に向かって叫んだ。
宇野「原住民さん!権田さんは今、KBSの暴行によって錯乱しています! 私はこれ以上手が離せません、なんとか権田さんを黙らせてください!!」
(´・ω・`)「黙らせるって、ど、どうやって!?」
宇野「殴れ!!」
(´・ω・`)「え、ええぇ......」
権田さんが、今度は左腕でハンドルを切ろうと狙ってくる。これ以上は、まずい......!
宇野「原住民さん、早く!」
(´・ω・`)「う、うわああああああ」
原住民はほとんど破れかぶれで、後部座席から助手席と運転席の間に割り込んでくる。
権田「!? ふ、ふざけるな! お客様が、神聖な運転席に入ってくるなあああああああ!!!」
ハンドルを掴むはずだった左腕が、原住民への攻撃に狙いを変えたようだ。権田さんは拳を思い切り振り上げて力を溜め、原住民の脳天目掛けて叩きつけた。
ゴッ、という音が響く。人間なら間違いなくタダでは済まないその威力に寒気がしたが、
(´・ω・`)「うわああああああん!」
腐っても概念体、ということだろうか。その小ささ故に助手席の足元に落ちた原住民は、権田さんの拳を意に介さずに、半べそで権田さんを殴りつけた。破れかぶれは継続中らしい。
しかし、何も考えずに殴る原住民の拳というものが、原住民の立つ場所と身長の関係で......。
(´・ω・`)「うわああああああ! うわああああああん!!」ポコポコ
権田「 あ、ま、待って、こは、そこはダメ! やめ、はうゎ!はが、はらま、ああぁ!!」
......全て、権田さんの股間に集中していた。
99 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 10:10:20.77 ID:PkyIq8kN0
権田「はっ、はっ、はっ、はぅ、はぁぁ!それ以上は、それ以上は、やめ! でな、私、私ぃっ、ひはぁ!」
権田さんの右手が、私の左腕を掴む力は、既にほとんど無い。女の私には一生分からない痛みだが、相当痛いのだろうな。その、男の金的というものは。
権田「私、女の子になってしまいますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
聴くに耐えない断末魔の悲鳴を上げて、権田さんは泡を吹いて気絶した。なおも殴り続ける原住民を止め、
宇野「......よくやってくれました原住民さん。もう大丈夫です。悪は滅びましたよ」
権田さんの子種まで滅んでいないか心配しつつ、私は彼を褒めた。
100 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 10:10:56.11 ID:PkyIq8kN0
(´・ω・`)「うぅ、うぅぅ、ブニブニした感触が、気持ち悪いよぉぉぉ」
宇野「今、私達が目にした権田さんは、本当の権田さんじゃありません。だから今日見た彼の姿は......出来れば、忘れてあげてください」
(´・ω・`)「......うん、分かったよ」
宇野「さぁ、後部座席に戻って、今度こそ休んでいてください。本当に、あとはもう帰るだけですから」
後部座席にいそいそと戻る原住民を尻目に、私は危機の終わりにほっと一息つい
(´・ω・`)「え? なにあれ? なにあれ! なんなのさあれ!? 宇野さん! 宇野さん! あれ、後ろのあれ見てよ!」
宇野(......一息、くらい、つかせてくれよ)
後ろを見ろ、と言われ、私はバックミラーに目を向ける。そこに写っていたのは、鬼気迫る形相でこちらに駆けてくるMURと、
宇野「......なん、ですかあれ。いやあれはなんですか。馬鹿なんですか。ホント馬鹿なんですかどいつもこいつも」
MURを超えるスピードで、肉塊に人間の足が生えたような、いや実際に足が生えている、謎の物体の群れが追いかけてきていた。キモいの一言に尽きる外見だが、その分アレに追いつかれるのは......多分、そうとう怖い。
宇野「......原住民さん。車のどこでもいいので、しっかり掴まってて下さい」
(´・ω・`)「な、なにする気なの!?」
宇野「私はこれより、鬼になります」
首都高の入り口まで、およそ1.5km。おそらくこれが、本日最後の修羅場だろう。
宇野「もう左右の安全確認なんてやりません。信号なんて知りません。ネズミ捕りがいたら轢き殺します。皆で赤信号渡ってる馬鹿なんて皆殺しです」
(´・ω・`)「ヒエッ」
宇野「さぁ行きますよ」
ギアを5速に変更し、
宇野「法定速度の、壁の向こうへ」
私はアクセルを踏み抜いた。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/30(月) 18:19:52.95 ID:Vbr5naYaO
これは久しぶりに見る文才の無駄遣いやなあ...
102 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/01(水) 23:16:24.99 ID:D1P5XDW6O
狭い街路の運転でストレスが溜まっていた私にとって、アクセル全開で車を走らせるのは、ある意味願望であった。もう何も考えずに、ただ真っ直ぐ車を突っ走らせたいと思う衝動が、私を突き動かす。
が、アクセルを踏んでから数秒と経たず、その願望は打ち砕かれた。
(´・ω・`)「宇野さん待って! おにいちゃんが落ちた!」
宇野「なんですって?」
それが本当なら大事だ。まさか奴を置いていくわけにもいかないので、落ちたのなら無論回収しなければならないのだが......
宇野(「アレ」に突っ込まなきゃいけないのよね、その場合。勘弁してよもう)
慌ててギアとスピードを落とし、後方を確認する。サイドミラーにもバックミラーにも、なんJ民の姿は確認出来ない。距離が縮まり、先程よりも大きく見える肉塊どもと、その後ろに続くMURの姿だけが視界に広がっている。
宇野「見えませんよ、本当に落ちたんですか!?」
(´・ω・`)「落ちたけど、車になんとかしがみついてるみたい!」
車窓を開けて首を外に出した原住民の報告に、ひとまず安堵を得られたものの、これで全速力で奴らから逃げる狙いが狂ってしまった。なんJ民が車上か、あるいは車内に戻るまで、またスピードを出すわけにもいかない。奴が振り落とされてしまえば、それこそおしまいだ。
宇野「あー、もう! 勝手に落ちてんじゃないわよあのマヌケ!」
103 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/01(水) 23:17:34.49 ID:D1P5XDW6O
彡(゚)(゚)「あのアマほんま無能の極みやな! もう更迭や更迭、それしかあらへん!」
止まってくれない車に引きづられながら、ワイは必死にナンバープレートにしがみついていた。車から落ちたのは勿論ワイのミスではなく、宇野が断りもせず速度を上げたからだ。
あの謎の肉塊を相手に、どう対処したらいいだろうか。そう考え込んでいる時に不意打ちを喰らったのだから、ワイが圧に負けて転んだのは当然だ。全てあの女が悪い。
彡(゚)(゚)「とりあえず車に戻らな、文句も言えへん」
ガリガリと地面を削りながら、ワイは右手を離してバックドアの取っ手部分に手をかけた。左手を離し、今度はバックドアに手をかけるも、そこはツルツルと摩擦が少なく、とても掴めなかった。仕方なく両手で取っ手を持ち、体を起き上がらせた後、
彡(゚)(゚)「ふんぬらばっ!」
跳び箱の要領で、バックドアまで尻を運ぶ。前から自覚してたが、相当筋力あるよな、ワイ。
窓の向こうで原住民がこちらに顔を向けているのを見つけ、手で挨拶をしてやった後。尻もちの姿勢から立ち上がったワイは、車の屋上に上がり、前の方へ歩き、横向きに寝転んで運転席の窓を叩いた。中の宇野が鬱陶しそうな表情で窓を開ける。なんやその態度は。
彡(゚)(゚)「おいヘタクソ! お前がいきなり速度上げたせいで落ちたやないかこの無能!無能!無能!」
宇野「はぁ!? アンタさえ落ちなければ今頃首都高まで一息でいけたんですよ!? ちょっとは踏ん張り効かなかったんですかこのマヌケ!」
彡(゚)(゚)「なんやとこのブス!」
宇野「な!? またそれを、...... ! チッ、なんJ民さん顔を上げて、早く!」
そう言うと宇野は懐から拳銃を取り出し、ってオイオイオイ。
彡(゚)(゚)「悪口一つでワイを殺す気かお前はぁ!」
必死で顔を上げると、車の右側に並走する、例の肉塊が視界に写った。
彡(゚)(゚)(ついに追いついてきたんか......!)
104 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/01(水) 23:18:09.40 ID:D1P5XDW6O
間近で見ると、肉塊の背丈は頭部を合わせて、140cm程はあった。思ったより更にデカい。
パン、と不愉快な銃声が響くと、その肉塊はあっけなく横に倒れた。そして、車のスピードから置き去りにされた肉塊をしばらく眺めるも、倒れた肉塊はキモい脚をジタバタするばかりで、起き上がる気配は無い。腕がないのだから当然かも知れない。
銃弾一つで処理できたことと、やがて後続の肉塊達に踏み超えられるその様を見て、意外とアイツら、脆いんじゃないかとワイは思った。
宇野「意外と弱いわね」
サイドミラーを見て、宇野も同じ感想を抱いたらしい。
彡(゚)(゚)「それ使えるなぁ。なぁワイにも貸してくれや」
宇野「嫌です。弾は残り5発ですし、そもそもあなたじゃマトモに当てられませんよ......キャッ」
左側から強い衝撃がきた。振り向くと、左側にも肉塊が並走していた。衝撃の原因はそいつの体当たりだったようだが、肉塊はバランスを崩すことなく未だ走っている。
銃声が鳴り、左側のソイツも倒れた。これで弾の残りは4発。さっき数えた肉塊の数は15だったから、倒した2体を引いて、残り13か。
彡(゚)(゚)「向こうが勝手に倒れることはないようやな。弾の数が全く足りんぞ、どうするんや」
宇野「ひとまず並走してくる肉塊は私の銃で処理します。なんJ民さんはとにかく、奴をどうにかしてください!」
105 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/01(水) 23:18:46.89 ID:D1P5XDW6O
宇野が言うのとほぼ同時に、ドンっと音を立てて、MURが車に飛び乗ってきた。位置は最初と変わらず、バックドアに足を立て、屋上に手をつき四つん這いの姿勢だ。
彡(゚)(゚)「そうか、お前もいたんやったな。そんじゃ今度こそ、第2ラウンドといこうやないか!」
先程と同じように、勢いをつけた前蹴りを放つ。また何のリアクションもせず突き落とされるかと思ったが、
MUR「ゾッ!」
MURは両腕を顔の前でクロスさせ、ワイの蹴りを防いだ。片脚を弾かれたワイは、よろめきながら後ろに一歩下がる。その隙を、突かれた。
MUR「イイゾォォォォォォォ!」
彡(゚)(゚)「!?」
MURが無防備に体勢を崩したワイへと接近してきた。バックドアから屋上へと飛び移り、ワイの懐へと侵入したMURは、腹部へ拳を放った。
彡(゚)(゚)「ウグゥッ......!」
予想以上に重い拳が、深々とワイの腹を抉る。息を一気に吐き出してしまい、慌てて酸素を取り込もうと思うものの、2発目の拳が、間髪入れずにもう一度刺さった。
彡(゚)(゚)(あっ! い、痛い! 痛い! 痛い!)
あまりの激痛に、ワイは腹を抑えながら横向きに崩れ落ちる。痛みに耐えようと眼をつむりかけた所で、MURが倒れたワイに覆い被さった。
鬼の形相をした男が、おそらくワイの顔を狙って、右拳を思い切り振り上げた。血走ったその眼が、手加減など知る訳もなく。
彡(゚)(゚)(あ、マズい。トドメ刺される)
106 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/01(水) 23:19:45.91 ID:D1P5XDW6O
命の危機を初めて感じたワイは、痛みを我慢してなんとか......足を持ち上げて、MURの尻を蹴飛ばした。
MUR「ゾッ!?」
殴る為に前傾に力が掛かっていたからか、瀕死のワイの蹴りでも、ギリギリMURを落とすことが出来た。車から落ちたMURが、丁度横を並走していた肉塊を巻き込んで、地面にゴロゴロと転がっていく。残り12。
彡(゚)(゚)(痛い! 死にかけた! 痛い! ワイ舐めてたわ、ケンカを舐めてたわ! 殴られるって、こんなに痛いんか! 殺す気で来る敵って、こんなに怖かったんか!)
屋上に這ったままで、初めて味わう実戦の恐怖に、ワイは慄いた。イメトレとも、ゲームやテレビとも違う、生の痛みに、死の恐怖。
腹の痛みがだんだん引いていき、呼吸が戻ってくるも、まだ、立ち上がれない。
銃声がまた1発、続けてもう1発響いた。宇野がやってくれたのだろう。これで、肉塊は残り10。弾は残り2発。
彡(゚)(゚)(嫌や、また殴られとうない。あんな痛い思いしとうない! 嫌や、嫌や、嫌や。頼むからもう、来ないでくれ!)
ワイの願いも虚しく、肉塊の群れの向こうから、また奴の咆哮が響いてきた。走ってくる、走ってくる。何も変わらぬ、あの鬼の形相で。
彡(゚)(゚)「そんな......」
もう、勘弁してくれ。ワイが半ば絶望しかけた時、後部座席の窓が開き、原住民が顔を出した。
(´・ω・`)「おにいちゃん! またあのオジさんが登ってきてたの? 大丈夫!?」
彡(゚)(゚)「原住民......」
107 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/01(水) 23:20:27.03 ID:D1P5XDW6O
(´・ω・`)「もしかして、まだやってくるの? 僕も一緒に戦おうか!?」
彡(゚)(゚)「......。」
ワイの身体であんなに堪えたMURの拳を、原住民が喰らったらどうなってしまうだろうか。いや、原住民だけでなく、権田のオッさんや宇野も、あんな拳を喰らえば、間違い無く死んでしまうだろう。
彡(゚)(゚)(......そうや。肉塊をどうにかした所で、MURを止められなければどうしようも無いんや。そんで今、MURと戦えるのはワイだけや。ワイしかおらんのや)
彡(゚)(゚)「......お前なんか今役に立つか、アホ。いいから車ん中戻って、大人しく待ってろ。ワイと宇野が、なんとかしてやるから」
(´・ω・`)「で、でもおにいちゃん!僕、」
彡(゚)(゚)「お前がワイの心配するなんて100年早いわ。車ん中戻れ、鬱陶しいんじゃ」
(´・ω・`)「っ!......う、うん。分かったよ...」
108 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/01(水) 23:21:02.01 ID:D1P5XDW6O
彡(゚)(゚)(そうや。ワイがなんとかせにゃならんのや。痛いだの怖いだの言っとる場合やない。動くんや。動かなきゃ死ぬしかないんや!)
ワイはようやく、立ち上がった。抑えていた腹がズキズキと痛むが、気にしている場合じゃない。ワイが守らなきゃいけないんだ。この車を、原住民を、オッさんを、ついでに宇野を。
背中に吹くこの風は、車が動いている証拠だ。この風が凪いだ時に、ワイらの命運は尽きる。逆に風を絶やさなければワイらの勝ちや。動き続けていれば、いずれ首都高に辿り着く。世田谷から抜ければ、きっと希望の芽が出るはずや。
気合いを入れ直し、ワイは身構える。肉塊の群れから、3体飛び出してきた。
彡(゚)(゚)(肉塊の狙いは、体当たりで車を壊すことか? それなら......)
肉塊が左に1、右に2に分かれ、車の横に並んだ。左右から同時に体当たりされたらたまらんし、2体同時には捌けんと思ったワイは、左の1に狙いを定めた。
案の定、右と同時に体当たりしてきた肉塊を、ワイは車にぶつかる直前に横あいから蹴り飛ばした。並走している時は距離があって届かんが、これならワイも奴らを倒せる。
ほぼ同時に右から衝撃がくるが、予想済みだ。ワイは踏ん張って、車から落ちないよう耐えた。
思ったより衝撃が少ない。振り向くと、並走している肉塊は1体だけだった。宇野が一体倒していたのだろう。これで残り8、銃弾は1。
109 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/02(木) 13:47:55.22 ID:WKhm3BlZO
MUR「ゾォォォォォォォ!!」
後方で、MURの咆哮が響く。また距離が縮んできているようだ。その咆哮に応えるように、右側を並走していた、先程の生き残りが加速した。
彡(゚)(゚)「! あ、あの野郎!」
肉塊も学習するのだろうか。一時的に車より速くなった肉塊は、車の前に身体を割り込ませた。もたれてくる肉塊が車の前へ進む力を削ぎ、みるみる内にスピードが殺されていく。
彡(゚)(゚) (アレを放っておいたら、肉塊にもMURにもすぐに追いつかれてまう!囲まれるぞ!)
宇野もヤバいと分かっているのだろう。窓から腕を出し、屋上をバンバンと叩いて合図してくる。アレをなんとかしろ、と。
ワイは前方のボンネットへと駆け、邪魔な肉塊を横へ蹴り飛ばした。残り、7体。
と、そこでアクシデントが起きた。焦って蹴りを放ったことによる体勢の不安定と、
MUR「ゾォォォォォォォ!」
スピードが減退したことで、MURが先程よりも早く車に戻ってきた振動が重なり、
彡(゚)(゚)「また落ちるんか!」
前方に向かって、ワイは車から落ちた。
彡(゚)(゚)「アババババババババ」
地面に体がつくと共に、車に轢かれる。車の底部と地面の間をすり抜けられる程、ワイの体の厚みは薄くないらしく、頭が、腹が、底部の部品にガツンガツンとぶつかり続ける。
やがて暗い視界が開け、外に出た。
彡(゚)(゚)「っ、マズい、何か掴まな」
慌てて腕を伸ばすと、幸いにも片手がナンバープレートに手が届いた。
彡(゚)(゚)「よっしゃ、冴えとるな。お?」
車に戻ろうと体勢を整え上を見上げると、MURの足が、目の前にあった。
彡(゚)(゚)「.........。」
ワイはMURの右足首を掴み、後ろに思い切り引っ張った。
MUR「ゾッ!? ゾォォォォォォォ!」
車からMURを落とし、その反動でワイはバックドアに足をつける。
110 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/02(木) 13:48:31.73 ID:WKhm3BlZO
(´・ω・`)「あっ! 宇野さん、おにいちゃん戻ってきた。戻ってきたよ!」
原住民はワイの安否を宇野に伝えているようだ。まぁ、落ちるのももう二度目だ。向こうも先程よりは動揺も少ないだろう。
また二体、肉塊が左右に並走してきた。先程と同じように、同時に車に体当たりする算段らしい。
彡(゚)(゚)「もう慣れたわ! 芸の無い奴らめ!」
ワイは迷わず左に狙いを定め、体当たりのタイミングに合わせ、肉塊の横っ面を蹴り上げた。振動は、来ない。予想通り、宇野が右の肉塊を仕留めたのだろう。これで肉塊は残り5、弾は0。
しかし、慣れてきたのはこちらだけでは無いのか、MURがまた車に飛び乗ってきた。戻ってくるまでの時間が、どんどん早くなっていく。
更に、数を3分の1まで減らされた為か、肉塊達にも動きがあった。後方で控えていた5体の肉塊が、一気に車に横並びになる。その数は左に2、右に3。
彡(゚)(゚) (いよいよ向こうも大詰めか。けどどないしよ。弾はもう無いし、MURと戦っとる間に一斉に体当たりされたら、防ぎようが無い)
MURと戦うか、 肉塊達の体当たりに備えるか、どちらを選べばいいか悩んでいると、あることに気付いた。
MUR「......。」
彡(゚)(゚) (こいつ、ワイが仕掛けない時は特に何もせーへんよな)
そう、初めて車に乗ってきた時から、コイツはずっと、バックドアに突っ立っているだけなのだ。車を壊すチャンスならいくらでもあったはずなのに、攻撃らしい攻撃といえば、ワイが奴を落とそうとした時に、ワイを殴ってきただけ。
彡(゚)(゚)(車を壊すのが目的じゃないんか?)
違和感は、もう一つあった。肉塊達である。車を壊すなら、今が絶好の機会だ。5体いっぺんに体当たりされたら防ぎようが無いし、今ならそれが出来るはず。なのに、肉塊達は車の横を並走するだけで、一向に仕掛けてこない。
彡(゚)(゚) (理由は、MURが乗っているからか?......それなら)
ワイは身体を寝そべらせ、運転席の宇野に話しかけた。
彡(゚)(゚)「おい宇野! 宇野!分かったことがあるんや!」
宇野「あなた何やってるんですか! 早く肉塊を、いやMURをなんとかしてくださいよ」
彡(゚)(゚)「だからそれが分かったんや! MURが車に乗ってる限り、肉塊共は体当たりせーへん。そんでMURもMURで向こうから何かするつもりは無いらしいんや!」
宇野「なんですって?」
一瞬怪訝な顔を向けられるが、体当たりを仕掛けてこない肉塊達に思い当たったのか、宇野もワイの意見に頷く。
彡(゚)(゚)「なんかこの事利用する手はないか?」
宇野「......一つ、策があります。よく聞いてください」
111 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/02(木) 13:49:42.13 ID:WKhm3BlZO
.........。
約1分後。ワイは肉塊共を尻目に、MURをジッと眺めていた。
身体を縦にしながら四つん這いになるその姿は、木に掴まる蝉の幼虫を思わせる。
彡(゚)(゚)「......結局、コイツの目的ってなんなんやろうなぁ」
いやそもそも、コイツに目的なんて無いのかも知れないな、と一人納得する。蝉といえば、今は丁度夏の始まりの時期だ。 今は聴こえないが、もうどこかで蝉が鳴いているかも知れない。
(´・ω・`)「おにいちゃん! そろそろだよ!」
彡(゚)(゚)「おう、任せとけ」
首都高への入り口が見えた頃、窓から原住民が首を出して報せる。宇野の策は至ってシンプルだった。
宇野『勝負は首都高の入り口。そこでケリを着けましょう』
(´・ω・`)「......GO!! おにいちゃん!!!」
彡(゚)(゚)「ウォォォォォォォ!!」
原住民の合図と共に、ワイはMUR目掛けて走り出す。狙いは最初の時と同じ、顔を目掛けた前蹴り。
MUR「ゾッ!」
MURの反応は早く、既に顔の前で腕をクロスさせ、防御の姿勢を取っていた。だが、
MUR「!?」
車のスピードが一気に上がり、MURの体勢が崩れる。逆にワイには追い風が吹き、蹴りの威力がむしろ上がる。
宇野『首都高に入る直前、なんJ民さんが最初に車から落ちた時同様に、一気にギアをあげスピードを上げます。体勢を崩したMURを、そこで一気に蹴落として下さい』
宇野『くれぐれも、気を付けて。これはタイミングが命です。合図は原住民さんが報せます』
彡(゚)(゚)「タイミングはばっちりやで! 死に晒せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
MUR「ゾォォォォォォォ!!」
112 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/02(木) 13:50:12.75 ID:WKhm3BlZO
MURが絶叫を放ちながら、車内から転げ落ちる。それに呼応するように、離れて並走していた肉塊達が一気に車へと距離を詰める。一斉に体当たりをかますつもりのようだ。だが、
彡(゚)(゚)『でも待てや。それでMURはなんとか出来たとして、肉塊共はどうするんや』
宇野『だから、タイミングが命なんですよ』
車が首都高の入り口に入り、並走する肉塊達もそれに寄ろうとするが、
肉塊「 」
入り口の両脇の壁に頭をぶつけ、まとめて転倒した。自分のスピードで自爆するあたり、奴らに考える力はやはり無いようだ。
宇野『日本は狭い。なんでも狭い。首都高の入り口も、車がギリギリ入れるくらいの間隔しかありません。その狭さを利用するんです』
彡(゚)(゚)「一網打尽......ってやつやな」
坂道を登り、高速道路へと車は進む。しばらく後ろを眺めても、肉塊もMURも、もう追いかけてくることはなかった。
(´・ω・`)「おにいちゃん、お疲れ様」
彡(゚)(゚)「おう。終わったな」
原住民が後部座席のドアを開け、ワイを招いた。他の運転手達に、車の上に立つワイの姿を晒すわけにもいかんだろう。ワイは急いで車内へと戻り、戦いの終わりにホッと一息ついた。
113 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/02(木) 13:51:31.33 ID:WKhm3BlZO
どこかで、蝉の声が聞こえる。どこか懐かしく感じる、あの蝉の声が。この蝉の名前は、なんだったっけ。どこで聞いたんだっけ。この蝉は、俺は、誰と.........。
MUR「ゾォォォォォォォ!!!」
車が行ってしまったが、まだ追いつける。俺は帰らなくちゃいけないんだ。帰らなくちゃいけないんだ。
腹ばいになったMURはそう叫んで、また起き上がって車を追いかけようとした。だが、
??「いけませんねぇMURさん。世田谷区を出るなと、田所さんに教わらなかったんですか?」
MUR「グッ、ウゥ、ゾォォォォォォォ!!」
突如現れた、黒いフードを被った男に腹を踏みつけられ、MURは身動きが取れなくなる。なんだ、この男は、誰だ。
MUR「ゾォォォォォォォ! ゾォォォォォォォ!!」
??「あららら、話も通じない。初めて見るケースですねこれは」
がむしゃらに暴れるMURを意に介さず、黒フードの男、始まりのホモはMURの顔をまじまじと見た。
始まりのホモ「おかしいなぁ。パッと見はもうほとんど概念体なのに、なんでちゃんとしたMURになっていないんだろ?」
始まりのホモ「......まぁ、どうでもいいか。勿体無いけど、卵を重ね掛けしちゃいましょう。とっとと駒になってもらわないといけないし」
そう言うと、始まりのホモはMURの顔に右手をかざした。頭がボヤけ目眩がする、どこかで味わったような、奇妙な感覚がMURを襲う。
MUR「ウ......アゥ......アァ......」
始まりのホモ「これで大人しく寝てなよ。目が覚めたら、今度こそMURになれているはずだから」
114 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/02(木) 13:52:10.76 ID:WKhm3BlZO
気勢を無くし、虚ろな目になったMURから離れ、始まりのホモは高速道路へと目を向けた。
始まりのホモ「......coat博士はKBSトリオを捕まえましたか。まぁ、最初の被験体としては上々じゃないですか?」
始まりのホモは、かつて見た気丈そうな女の顔を思い浮かべ、クスクスと笑う。
始まりのホモ「あの人のことだ。きっと上手くやるんだろうね。現状を調べ、実態を把握し、対策を練り、訓練を施して、そうやって強くした概念体を、またここに送り込むんだよね。勝てると踏んで、この世田谷に。僕らのホモの領域に」
彼は笑う。ここまでずっと僕の思い通りだ、僕の手のひらの上だ、と。
始まりのホモ「うふふ、急げ急げよcoat博士、地獄の門は目の前だ。早く早く、門番の僕を倒さなきゃ。門の向こうの亡者の群れを、殺して回って減らさなきゃ......」
始まりのホモ「時間切れの日の世界の亀裂が、どんどん酷くなっちゃうぜ?」
始まりのホモに、銃弾は効かない。斬撃も雷撃も、猛毒も爆炎も、核兵器ですら、彼や他の概念体達の命を脅かしはしない。現世のいかなる軍事力を持ってしても、彼らの行軍を止めることは出来ないだろう。
彼らは無敵の強姦魔。概念に包まれた肉体を駆使し、自由と自我を奪う怪物の群れ。
115 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/02(木) 13:52:45.63 ID:WKhm3BlZO
始まりのホモ「恐ろしいものの形を・ノートに描いてみなさい・ そこに描けないものが・君たちを殺すだろう・」
どこかで聴いた歌の詩を口ずさみながら、彼は笑う。頭に思い浮かんだのは、顔であった。時計の針を、目に見える脅威だけを基準に前に後ろに動かして、悦に浸る老人共の顔。その茶番に踊らされて、一喜一憂するバカ共の顔。想像するだけで、彼は笑いが止まらなくなる。
教えてやろう。想像出来る程度の恐怖など、大した脅威では無かったということを。
教えてやろう。命を脅かす真の脅威は、時計の盤面の外側、思考の埒外にあったということを。
奴らに教えてやろう。僕の怒りを、僕の哀しみを、僕の喪失を、僕の怨みを。脅威と恐怖をもって、奴らの頭に刻みつけてやろう。
始まりのホモ「FIRST BLOOD(先に手を出したのはお前らだ)......終末時計を叩き壊して、僕が世界を変えてやる」
怪物は笑う。全ては思惑通りに進んでいると、世界は己の手の中だと言わんばかりに、不遜に笑う。その傍らで、ほとんどの自我を亡くしたMURの瞳だけが、彼の表情を見つめていた。彼の醜く歪んだ口元や、暗く淀んだ瞳の意味する所を、しかしMURには思考する余地がなかった。
だから誰一人として、彼の思惑を知らない。そして誰一人として、彼の気持ちは分からない。今は、まだ、この世界の誰も。
始まりのホモ「変えてやる......壊してやる......ウフフ、ハハッ、ハハハハ、アハハハハハハハ」
MURの耳に微かに聴こえていた、蝉の鳴き声。彼が思い出に到る為の僅かな希望は、しかし始まりのホモの大きな哄笑によって、黒く・き消されてしまう。
MUR(む......つ.........)
もはや意味を得られない脳と視界に、黒い影が滲む。急速に、端から端へと広がっていく。そして、
MUR(ご......め............)
影が全てを飲み込んだ瞬間をもって。MURの意識と記憶は、今度こそ闇の中へと消えていった。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/03(金) 18:14:42.88 ID:TAZoK+52o
文才がありすぎる
117 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/05(日) 16:39:25.79 ID:IU0V1sgv0
宇野「なんJ民さん、原住民さん。お疲れの所で申し訳ありませんが、今日は研究所とは別の場所に宿泊して頂きます」
高速道路に車を走らせながら、宇野が言った。日はまだ高く、まだまだ夜の出番は無いとばかりに、青々とした空が車窓から広がっている。
彡(゚)(゚)「なんや、カプセルホテルにでもぶち込むつもりか? この満身創痍のワイらを」
(´・ω・`)「早くお家帰りたいよぉ」
彡(゚)(゚)「そーやそーやババソーヤー」
原住民の弱音にワイも同調する。時間にして1時間も経っていないが、今日世田谷で起きた出来事はあまりに慌しく強烈だった。とっとと帰って飯食って糞して寝たいのだ、こちらは。
宇野「私だって疲れてるんですから我慢して下さい」
彡(゚)(゚)「こっちが辛いんだからそっちも辛いの我慢しろって、ブラック企業の常套句やないか。ワイらは社畜やないぞ」
宇野「......一方的に権利ばかり主張する奴も、それはそれでどうかと思いますがね。しかし家に帰りたいとおっしゃいますが、」
宇野「あなた方にとっては、coat博士がいる場所こそが家なのでは?」
彡(゚)(゚)「なんで今ババアが出てくるんや」
(´・ω・`)「今から向かう場所に、博士もいるってこと?」
彡(゚)(゚)「ああ、そういう」
宇野「その通り。敵の能力が分からない以上、敵の概念体をそのまま研究所に連れて行く訳にはいきません。どんな手で居場所を割られるか分かりませんからね」
(´・ω・`)「お腹に発信器が付いてたりとか?」
宇野「まぁ、そんな所です。『概念を実体化する技術』は日本国のトップシークレット。研究所の場所を知られる可能性は、限りなく0でなければいけません」
彡(゚)(゚)「今から行く場所は敵にバレてもええんか?」
宇野「少なくとも、連中が事件を大っぴらにしたいと思うまでは、まぁ安全な場所でしょう」
宇野「行き先は国防省技術研究本部。この国の軍事技術の集積所です」
彡(゚)(゚)「......ほう! それは色々、見学しがいがありそうやな!」
(´・ω・`)「きっとカッコいい兵器とかたくさんあるんだよ!楽しみだね!」
彡(゚)(゚)「おう!漢のロマンの宝箱がワイらを待ってるんやで」
(´^ω^ `)「僕、なんだかワックワクしてきたよ」
彡(^)(^)「ワックワクやな!」
宇野「.........。」
118 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/05(日) 16:40:07.30 ID:IU0V1sgv0
〜〜
coat博士「無事に帰ってきたようで何より。さて、まず報告を聞こうか?」
彡(゚)(゚)「報告もクソもあるか! 人のこと荷物扱いしおってからに!」
(´・ω・`)「狭くて、暗くて、怖かったね」
彡(゚)(゚)「頑張って戦ったワイらへの仕打ちがこれかババア!」
場所は、国防省庁舎D棟3階。使用中、とだけ書かれた扉の1室で、概念体どもが不平を漏らす。
coat博士「仕方無いだろう。まさかお前らの姿を庁舎の人間に晒す訳にもいかん。極秘だから、で通すのにも相当な労力が必要だったんだぞ」
パッと見は化物、なんとか誤魔化せても良くて着ぐるみの彼らを、公衆に晒す訳にもいかなかった。そこで「荷物」として彼らを箱に詰め、このcoat博士の研究室まで連れてきたのだが......。
彡(゚)(゚)「色々見学しようと思っとったのに! ワイらの純真なワックワクを返せ!」
(´・ω・`)「ヘリコプターとか見たかった......」
そうとうご立腹のようだ。
宇野「箱に詰められようが詰められまいが、一国の軍事技術をそう易々と拝めるわけないでしょう」
彡(゚)(゚)「じゃあ最初からそう言えやボケ! 夢と現実の落差が激し過ぎるんや!」
coat博士「また学べて良かったじゃないか。そう、夢が無いと人生はつまらんが、あまり夢を見過ぎると現実に叩き起こされて痛い目を見るぞ」
(´・ω・`)「叩き起こした側が言うセリフじゃない......」
coat博士「まぁ今度市ヶ谷記念館に連れていってやるから、それで我慢しろ。ヘリコプターも見れるぞ」
(´^ω^ `)「ほんと? やったぁ」
彡(゚)(゚)「あっさり懐柔されんなや原住民!」
coat博士「自衛隊のカッコいい武器も見れるぞ」
彡(^)(^)「気が利くやんかこのババア!」
宇野(チョロいな......)
119 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/05(日) 16:40:52.13 ID:IU0V1sgv0
coat博士「納得してもらえた所で、今日起きたことの報告をして貰えるかな?」
彡(゚)(゚)「おうええで。まずな、車が黒くてゴツくて固たそうやったんや。そんで出てきた権田のオッさんが、これまた黒くてゴツくて頑固そうで、しかも長かったんや! そん時ワイは思ったな、車に足らんかったもんをこのオッさんは持っとるって。そんでそんで、ドライブがこれまた楽しくてな、」
coat博士「よし分かったもういいぞ。では宇野くん、頼む」
宇野「はい」
彡(゚)(゚)「なんでや! 話はまだこれからやぞ!」
宇野「世田谷区にはcoat博士の予想通り、KBSトリオがいました。交戦の結果、権田さんが精神をレイプされたものの、なんJ民さんの奮戦のおかげで3人の生け捕りに成功。そのサンプルがこちらです」
彡(゚)(゚)「おい、ワイの話を聞け!」
(´・ω・`)「おにいちゃん、ここは下がろうよ」
coat博士「ほう、これがKBSトリオか。ビデオの中の容姿と何一つ変わらんな」
宇野「撮影から十数年経って、容姿の劣化が起きていないのは不自然ですね。概念体には若返りの効果でもあるんでしょうか」
coat博士「というより、ビデオの中の容姿の枠にハメられたのだろうな。概念体になることで、『皆が思っているKBSトリオの姿』に変えられてしまったのだろう」
coat博士「それにしても、素晴らしい結果じゃないか。交戦し、概念体を生け捕りにして帰ってくる。成果の基準は、文句無しの最良だ」
宇野「いえ、そういう訳でもありません」
coat博士「ん?」
私は、世田谷区で起きた出来事をかいつまんで説明した。概念体に物理攻撃が効かなかったこと、私が肌で感じた黒の右拳の脅、そしてKBSトリオを、拳1発で倒したなんJ民の話。
精神を犯された権田さんの豹変と、帰りの途中で遭遇したMURの強度、そして奴が産み出した謎の肉塊共の話を。
120 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/05(日) 16:41:51.34 ID:IU0V1sgv0
coat博士「ふむ......。MUR、か」
宇野「今日起こったことの概要は以上です。更に詳しい説明は、なんJ民さん達から聞いてください。......一つ、質問してもいいですか?」
coat博士「なんだね? 私の3サイズでも教えて欲しいのか?」
彡(゚)(゚)「なんかこう、己の年齢を弁えない女ほど、痛々しいもんも無いんやなって」
coat博士「お前ほんと、三十路の女性に殺されても文句言うなよ?」
んん、と咳払いしてから、私は言った。
宇野「概念体って、そもそも何なんですか?」
coat博士「......。......と、言うと?」
宇野「まぁ、元々違和感はあったんですよ。『概念を実体化する技術』の触れ込みはこうでしたよね。少ないエネルギーで大きなエネルギーの物体を、なんでもアリに産み出せる夢の技術だと」
coat博士「そうだな」
宇野「つまりは概念を利用して、ある特定の物体を創る、ただそれだけの技術だったはずです。爆弾は爆弾で、人間は人間でしかありません。だのにその枠を外れた『能力』が備わっているのはおかしいでしょう」
宇野「あなたの技術に求められていたのは、ただ爆発するだけの爆弾です。なのに今は、物理攻撃で破壊出来ない、不良品の爆弾が生まれてしまっている。求められていたのはただの人間なのに、そいつは肉塊を身体から生成する奇妙な能力を備えている」
宇野「野獣先輩が脱走したのも、それと関係があるんじゃないんですか? 概念体とは、つまりどういう理屈の何なのですか。私が出会った概念体は、まるっきりただの化物でしたよ」
coat博士「簡単な話さ。全ては、ただ私の技術が未完成だった故に起きたことだ」
宇野「......あっさり認めるんですね」
121 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/05(日) 16:42:20.70 ID:IU0V1sgv0
coat博士「恥ずかしいから隠していたかったんだがな。君の言う通り、概念を利用して『100%の物体』を産み出すのが、本来の私の目的だった」
coat博士「だが私の技術はまだそこに届かなくてな。私が作った野獣先輩やなんJ民は、『半分が概念、もう半分が物体』で出来た、言わば出来損ないだ」
彡(゚)(゚)「テメェ、ワイを今出来損ないと言ったな!」
(´・ω・`)「おにいちゃん、抑えて!」
coat博士「概念ではあるが、実体を持つ物体でもある。物体ではあるのに、完全な物体では無い。その矛盾の答えは、君が誰よりも正確に味わったはずだ」
そう言われ、左足の踵が黒の肋骨を捉えた時の感触を思い出す。銃弾の運動エネルギーを持ってしても、貫けなかった概念体の外皮を思い起こす。
触れない、わけでは無い。衝撃を加えて吹っ飛ばすことも可能だった。しかし薄皮一枚先の内部には、一切の影響を与えられなかったあの不気味な身体。
coat博士「出来損ないは、出来損ないであるが故に、完全であるよりも強い力を発揮した。一つ目の特徴は君の言った通り、ただの攻撃には影響を受けないこと。そしてもう一つは、」
coat博士「概念体の半分が物体で出来ているが故に。皆が思っている対象の強さや能力、即ち概念を現実に実体化出来る、という点だ」
宇野「イマイチ、良く分かりませんね」
coat博士「ではこれから説明していこう」
122 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/06(月) 23:20:51.41 ID:thcFHAz20
coat博士「例えば、ベンチプレスを300s持ち上げられる人物がいたとする。その男は多くの人間に認知されていて、とても有名人だ。さて、彼を認識する多くの人間の意識、概念からデータを取り出し、『概念を実体化する技術』で概念体として生み出したとしよう」
彡(゚)(゚)「ベンチ300って化け物やろ」
coat博士「生み出した概念体は、ステータス上はベンチプレス300sを持ち上げる能力を持っている。ここでもし彼が純粋な概念であれば、ステータスがいくら凄いところで、実在する重りを持ち上げることは1rたりとも出来ない。実体が無ければ、それはただの幽霊のようなものだからな」
coat博士「逆に、彼が純粋な実体であれば、彼はステータスの通りに300sの重りを持ち上げられるだろう。しかし先述の通り、私が作った概念体はそのどちらでも無く、概念が半分、実体が半分で構成されている」
coat博士「実体を持っている為に、概念体は自らの概念上のステータスをもって、実在する物体に影響を及ぼせる。しかし、概念体の実体は半分しか無い為、その能力全てをステータス通りに実行出来るわけではない」
彡(゚)(゚)「??」
coat博士「まとめると、概念体は概念として定められた能力を、実在する人間や物体に振るうことが出来る。しかし完全な実体ではないために、その効力は本来の力の半分程しか発揮出来ない、ということだ」
123 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/06(月) 23:21:34.41 ID:thcFHAz20
彡(゚)(゚)「ベンチ300のオッさんを概念体にすると、実際にはベンチ150しか持ち上げられないオッさんが生まれてくるってことか?」
coat博士「そういうことだ。その男がオッさんかどうかは知らんがな」
彡(゚)(゚)「なんか大したことなさそうやな」
coat博士「産み出す概念体のステータスによるさ。例えばゴジラを概念体として生み出したとしよう。するとパワーこそ半分にはなるが、依然人智を超えたパワーと巨体を持つあのゴジラが、実在する兵器が一切通じない無敵状態でこの世に現れることになる」
(´・ω・`)「うわぁ・・・」
彡(゚)(゚)「考えたくもない光景やな」
宇野「まぁゴジラに通常兵器が効かないのは元々ですけどね。ゴジラを殺せるのはオキシジェン・デストロイヤーもとい芹沢博士だけです」
彡(゚)(゚)「じゃあ、あれか? 結局はステータスが強いもん勝ちってことなんか?」
coat博士「そういうわけでもない。概念体の強さを決める要因はもう一つある。今からそれを説明しよう」
124 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/06(月) 23:23:07.59 ID:thcFHAz20
そう言うとババアはペンと紙をとって、机に向かいあって何かを書き始めた。そして30秒程経つと、ワイらにほれ、と一枚の紙切れを見せてくる。
彡(゚)(゚)「・・・なんやこの落書き」
coat博士「今私が即興で考えた、絶対無敵宇宙最強くんだ。どうだ強そうだろう」
適当に書かれた人間のようなものの絵の横に、無敵!だの、絶対勝つ! といった陳腐な文字が躍っている。お世辞を言う気も失せる程、その絵はひっどい出来であった。
coat博士「こいつにはな、どんな攻撃も跳ね返す絶対バリアと、絶対に防げない最強のスピアを持っているんだ。それに時間や運命を操作する能力を持っていてな、なんでも思い通りに出来るんだ。凄いだろ」
彡(゚)(゚)「やめろや、痛々しい通り越して可哀そうになってくる」
coat博士「それでな、女の子にはもうモテモテでな、でも色恋沙汰には鈍くてな、でも優しい笑顔を振りまく度にそれはもう女の子がメロメロになってな」
宇野「まだ続けるんですか」
(´・ω・`)「僕、こんな博士の姿見たくなかったよ」
coat博士「だからゴジラなんて一瞬で殺せるぐらい強いんだよ」
125 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/06(月) 23:23:52.82 ID:thcFHAz20
宇野「......。いや、それはおかしいでしょう」
coat博士「何故だい宇野くん。私の絶対無敵宇宙最強くんは本気になれば星すら壊せるし、光速を超えたスピードで移動することも可能なんだぞ。ステータスを見れば、ゴジラなんか敵にもならないのは一目瞭然だ」
宇野「冗談でもむかっ腹が立つのでやめて下さい。怪獣王ゴジラを相手に、こんな紙切れの落書きなんて比べるのもおこがましい。格が違います」
coat博士「格が違うから、君は絶対無敵宇宙最強くんを、ゴジラより上だと認めないんだな? では、君の言う格とは何によって決まるのかね?」
宇野「それはもちろん、誰もが認める実績を持つかどうか、でしょう。ゴジラには多くの子供達に畏怖を、多くの大人達には深いメッセージ性を刻み込んだ実績があります」
coat博士「その通りだ。もっと簡単に言ってしまえば、ようするに知名度だな。概念とは『皆に共通し、皆で共有するおおよその意識』のこと。ステータスがどれだけ凄かろうと、今この場にいる人間が初めて認識した絶対無敵宇宙最強くんなんて、概念としては屁にも劣る」
coat博士「まとめるぞ。概念体の能力を決める要素は大きく2つ。対象となる概念のステータス、そしてその知名度だ。能力を求める数式は、大雑把に言うとこうだな」
『概念体の能力=概念のステータス×知名度』
coat博士「ステータスばかり大きくても、知名度が無ければ存在は希薄になる。逆に知名度がいくらあっても、元々の能力が低ければどうしようも無い。つまり、知られざる英雄やハンプティ・ダンプティを概念体にしても、何の役にも立たないってことだ」
彡(゚)(゚)「はえ〜」
(´・ω・`)「......。」
coat博士「何か質問はあるか? 無ければ次に進むが」
126 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/09(木) 00:19:52.84 ID:XwsdcoCH0
coat博士「では次のステップに進もう。私はこれから、君たちが持ち帰った概念体を使って彼らの実態を把握する。1日では終わらんかも知れないから、そうだな。大体3日程を目処としてくれ」
宇野「実態を把握するって、あなたは彼らの生みの親でしょう? 分からないことなんて、例えば何があるんですか」
coat博士「むしろ分からないことだらけさ。私が直接手がけたオリジナルは野獣先輩となんJ民だけだ。野獣先輩が増やした仲間の構造は私の知るものと違うかも知れないし、増やし方も分からない。それに私は概念体同士のダメージの与え方や倒し方、」
coat博士「そして概念体に精神を犯された人間を、治す方法も調べなければならん」
宇野「......ええ、そうですね。事態の収拾にはそれが不可欠ですし、権田さんも元に戻していただかないと車の運転もままなりません」
coat博士「別に君が運転すればいいじゃないか。 帰りはそうして来たんだろ?」
宇野「勘弁して下さい。しばらくはハンドルも触りたくないんです私」
coat博士「...? そうかね。まぁとにかく、私が研究をしている間は君たちの時間が余るわけだ。そこで、だ」
彡(゚)(゚)「その間に見学して来ていいってことやな!」
(´・ω・`)「ヘリコプター見ようよヘリコプター」
coat博士「今度連れてってやるって言っただろバカ共。そんなものは後回しにしてやってもらうことがある。戦闘訓練だよ」
127 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/09(木) 00:20:32.81 ID:XwsdcoCH0
彡(゚)(゚)「訓練だと? 嫌やそんな面倒臭そうな」
(´・ω・`)「なんか怖そうな響きがするねおにいちゃん」
宇野「むしろ今までやっていなかったんですか? 野獣先輩と戦うのが目的で産まれてきたのに、随分甘やかされて育ったんですね」
coat博士「産まれてから今までの2ヶ月間は、全て教育に注いできたのでな」
宇野「何故そんな悠長なことを」
coat博士「仕方ないだろ。こいつら、特になんJ民は精神年齢が幼な過ぎて戦闘以前の問題だったんだ。会話してる最中、飯の最中、寝てる時ですら隙あらば脱糞する様な奴だったんだぞ? むしろ短期間でここまで真っ当な人間に近づけた私の手腕を褒めてくれ」
(´・ω・`)「ああ、昔のおにいちゃんは確かに酷かったよね。理由も無く暴言吐いたり騒いだり、気分で僕を殴ったり、糞漏らしたり、まさにジャイアンそのものだったよ」
宇野「ジャイアンは糞は漏らしませんよ、糞は」
彡(゚)(゚)「まぁ今でも漏らそうと思えばすぐ漏らせるけどな」プリッ
coat博士「漏らすな! 処理するこっちの身にもなれこのバカ!」
彡(゚)(゚)「へいへい自分で拭きゃあええんやろ。半漏れやから気にすんな」フキフキ
宇野(臭い......)
(´・ω・`) (臭いが凄く気になる......)
coat博士「ん、とにかくだ。今までは指導する人間がいないこともあって、2人にはロクな訓練を積んでこなかったんだ。概念体の能力は筋トレなんかで強くならんし、組手をさせようにも2人の体格差が大き過ぎた。やってきた事と言えば、武道の映像を観せてイメージトレーニングさせたぐらいだ」
彡(゚)(゚)「イメトレの達人と呼んでくれて構わんよ?」
(´・ω・`)「実技の出来ない保健体育マスター、みたいな称号だね」
宇野「酷いですね。何もやってないようなものじゃないですか」
coat博士「だから君に鍛えてやって欲しいのさ。もちろん2日や3日じゃどんなに上手くいっても、付け焼き刃程度のものしか身につかんだろう。そんなもんでも、きっとどこかで役に立つ」
coat博士「なにせ、敵は身体こそ無敵だが、その身体を動かす頭は素人そのもののはずだからな」
128 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/09(木) 00:21:21.98 ID:XwsdcoCH0
暑い陽射しと青空の下で、車が行き交い、親子が手を引いて歩いている。ぼんやりと風景を眺めると、右を100m進んだ曲がり道の角に、ネズミ捕りが獲物を待っているのを見つけた。わざわざ見えにくい場所に立つ熱心な仕事ぶりに苦笑していると、目の前を赤い車が横切り、曲がり角に向かって急ぎ足に通り過ぎていった。
あらら、御愁傷様。そう車の尻に向けてポツリと呟くと、彼は視線を前方に戻し、そのまま斜め上に傾けた。
いつもと変わらぬ日常。ずっと続いていくはずの平和な世界。その昼の真っ只中に、始まりのホモは1人立っていた。
先程までとは違い、その顔はいささか渋い。太陽の陽射しが鬱陶しいのもあったが、それより当てが外れた悔しさが大きかった。
始まりのホモ「流石に、そんな馬鹿なわけ無かったか。無駄骨折っちゃったなぁ」
林の向こうに覗く庁舎を車道から眺め、彼はため息をついた。KBSの気配を追ってここまできたのだが、そこで待っていたのは防衛省の敷地だった。
始まりのホモ「いつかの時の為に、研究所の場所は押さえときたかったんだけどね」
まさかここが本拠地な訳ではあるまい、と彼は推測する。敵の概念体が出入りするには、あまりに警備が、無関係の人間の目が強すぎる。こちらの探知を恐れた、一時的な避難と見るのが妥当だった。
良い判断だ、と彼は思った。今はまだ、こちらの存在を公にする訳にはいかない。敷地に少しでも踏み込めば感知される防衛省は、隠れ場所としては最適だ。
129 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/09(木) 00:22:31.89 ID:XwsdcoCH0
場所が場所なら、嫌がらせ半分に攻め込むのも面白そうだ、といった驕りからくる浮かれもすぐに失せた。代わりに胸の内に湧いたのは、
始まりのホモ「博士に思惑を読まれたみたいで、あまり良い気はしないねぇ」
何の価値もない、無意味な悔しさだった。戦った訳でも、実際に痛手を被った訳でもない。それでも心に、小さな屈辱感が引っかかる。理性では消すことの出来ない、感情のわだかまりが。
別に今すぐお前らをどうこうするつもりは無かった、馬鹿じゃなきゃ普通はそうすると思っていたさ。相手もいないのに、そう言ってやりたい気持ちが湧いてくる。その衝動は、幼稚な万能感から来る駄々というよりは、生来の負けず嫌いな性格からのものだった。勝負事に対するプライドは、人より数倍強い自負がある。
始まりのホモ「落ち着け、僕の悪い癖だ。それよりも、もっと考えるべきことがあるだろう。例えば、そうだ。あの庁舎の落とし方とかだ」
消えない感情は、他に転化するのが手っ取り早い。彼は目の前に佇む国家機関へと、その思考を切り替えた。
国家を支える一翼、防衛省のその総本部。門の脇に堂々と飾られる大臣筆の省庁看板は、これから戦う敵の規模を、改めて意識するのに充分な荘厳さを誇っていた。
始まりのホモ「よく考えなくても、とんでもない事だねぇ。国を敵に回すってのは」
勝ちに至る戦略は、ある。その為の計画も順調に進んでいる。だがそれに従って、彼方にあって此方に足りないものというのも、当然見えてくる。
130 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/09(木) 00:23:07.51 ID:XwsdcoCH0
一つは、人や物を動かす為の資金。そして何より足りていないものは、戦略や戦術を練り、戦闘の指揮を振る軍事的な頭脳だった。
始まりのホモ「こっちは所詮、ホモの寄せ集めの素人だからなぁ。今のままじゃ、向こうに頭脳戦の土俵に上げられたら勝ち目が無い」
軍事に聡い協力者が欲しいところだ。だが、例えば傭兵を雇うにしても金が要るし、そもそもそういった手合いを日本に呼べるのか、という点にすらこちらは疎い。また仮に雇える条件が整ったとして、果たして協力してくれるかも怪しい。何せ世間的に見れば、こちらはほとんど.........。
始まりのホモ「あ、そっか。要るじゃん、協力してくれそうな奴」
彼の顔が一転、晴れやかになった。思いついてみれば答えは明快で、何をそんな悩んでいたのかと馬鹿らしくなる。
協力者の条件はシンプルだ。軍事に聡くて、金が目的ではなくて、国を敵に回しても付いて来てくれて、日本の秩序が乱れても嘆くどころかむしろ大喜びしてくれる奴。
そんな条件に当てはまるのは、彼が思いつく限りではたった一つ。
始まりのホモ「そうだ、テロリスト、呼ぼう」
そうと決まれば早速手配だ、と彼は踵を返す。小躍りしかねない程に浮かれた気分でしばらく歩くと、水を差すようにポケットの電話が鳴った。
誰だいこんな時に、と思いながら呼び出しに応じると、声の主は野獣だった。
野獣先輩「もしもし、はじめさん? MURがまだ帰ってきていないんですが、そちらで見つけてはいませんか?」
嬉しいことは、重ねて訪れるものらしい。
始まりのホモ「ええ、何やら暴れていたようでしたので、彼は私が保護しましたよ。今夜、またガン掘リア宮殿に集まりますよね? その時に彼も連れていくので、田所さんも安心して休んでいて下さい」
そう言って電話を切った始まりのホモは、その場で立ち止まり、しばらく肩を震わせる。やがて、もう堪え切れないと言わんばかりに腹を抱えながら、彼は大口を開けて笑いだした。
131 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/12(日) 14:46:42.46 ID:5i9ijA5mO
ババアの言いつけで、ワイらは宇野から戦闘の訓練を施されるはずだった。戦闘訓練と言うから、格闘のイロハを習ったり稽古をする、ベスト・キッドな風景を想像していたのだが......
彡(゚)(゚)「ンゴゴゴゴゴゴ」
(´・ω・`)「ふんもっふ! ふんもっふ!」
宇野「ハイハイハイ休まないサボらないペースを下げない。まだ30分しか経っていませんよ〜」
待っていたのは、フルメタルジャケットの世界だった。ババアがKBSトリオを連れ研究室とやらに消えて行ってから3時間が経過したが、あれからというもの、ワイらはぶっ続けで筋トレを強要されていた。
始めは体幹トレーニングを、次にスクワットを、そして今は腕立て伏せをロクな休みもなくやらされている。
彡(゚)(゚)「お、おかしいやろ!こんなん、意味がないやないか!」
(´・ω・`)「ぼ、僕たちに筋トレは無駄って、は、博士が言ってたじゃない!」
宇野「ハイハイハイ質問するフリしてサボろうとしない。指導する側にはバレバレなんですよ〜」
彡(゚)(゚)「こ、このアマ......!」
宇野「ハイ、無駄口叩いたのとサボろうとした罰で10分追加しまーす」
彡(゚)(゚)「あああああああああああ!!」
(´・ω・`)「鬼だよこの人、情けが無いよぉ!」
宇野「ハイあと40分。ペースを乱さず頑張りましょうね〜」
宇野は全く容赦なく、宣言通りの時刻までワイらの肉体を苛め続けた。
132 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/12(日) 14:47:28.04 ID:5i9ijA5mO
......そしてようやく宇野のお許しが出ると、ワイと原住民はすぐさま仰向けに寝転がった。
彡(゚)(゚)「ハァ......ハァ......あれ? この感じは、なんや?」
長い長い苦痛の時間が終わり、苦しみから解放されると、それまでの時間が短かったのか長かったのかの感覚が分からなくなった。
彡(゚)(゚)「何故か、懐かしい......ワイはこれを......どこかで......」
『それ』を味わっている現実の時間は間違いなく長く、体幹時間も永遠に続くかと錯覚する程長かったはず。なのに『それ』が終わって、意識が別の時間に移行すると、あまりに変化に乏しいその時間は『ただ、同じことを繰り返した思い出』でしかなくなる。思い出す記憶は、時間の長さに比べて酷く希薄だ。
彡(゚)(゚)「なんや......この感覚は......懐かしくて、思い出したくもない......あの頃の......」
(´・ω・`)「ハァハァ......疲れたねおにいちゃん。......おにいちゃん?」
頭に浮かぶのは、仄暗く、陽も差さない湿気た部屋。そこでは、ワイを照らす光といえばパソコンのディスプレイしか無い。
ゴミ箱に入れる方法も忘れたのだろうか。あたりには使用済みのティッシュと、飲み残しも気にしないビールの缶が散らばっている。床は溜まったゴミのせいで踏み場もないが、ベッドとパソコンのデスクの間を往復するだけのワイには、何の支障もない。ワイが散らした種々様々な液体が床に染み込み異臭を放つのも、もはやワイの死臭でさえ無ければいいと言って、次第に気にも留めなくなっていった。
彡(゚)(゚)「それでも......昔はこの部屋のドアを開けようと、もがいた時期もあったんや......でも、無理やったんや......ワイには無理やったんや......」
(´・ω・`)「う、宇野さん! おにいちゃんの様子が変だよ!」
宇野「変なのは元からでしょう」
(´・ω・`)「そういう意味じゃなくて!」
ネットの中では、ワイは本当のワイでいられた。この世で最も特別な、ありのままのワイでいられた。でも一歩でも外に出てしまえば、そこにはもう本当のワイはどこにもない。世間から見たワイは、引きこもりで、ニートで、進むべきレールから外れてしまった、才能の無い不健康な男でしかなかったから。
ドアの向こうに待ち構える、ワイのことを何も分かっていない世間の目が。ワイのことなどとっくに追い越して、地位や幸福や家族を得た同級生達の存在が。いつもいつも、ワイの外へ向かう気力を挫いた。勝ち組じゃない、見下されるばかりの己の姿になんて耐えられなかった。
133 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/12(日) 14:48:12.06 ID:5i9ijA5mO
彡(゚)(゚)「ワイは......ワイは......」
宇野「あーこりゃ駄目だ。すっかり自分の世界にトリップしちゃってますね」
(´・ω・`)「駄目なの? おにいちゃんはもう助からないの? そんなの嫌だよ」
宇野「あなたまで頓珍漢なこと言わないでください。寝惚けた奴を起こす方法なんて簡単です」
このままじゃ駄目だと思う気持ちと、ずっと楽なこのままでいたいと思う気持ちとで板挾みになり、結局何一つ行動を起こせなかったあの頃。もうとっくに学生じゃないのに、毎日が学校をずる休みした時に似た、あの取り返しのつかない罪悪感と焦燥感に苛まれていた日々。
そして、いつか必ず来る終わりに怯え、自分に似た境遇の奴らを2ちゃんで探し、ネタで笑い合うことで安心感を得ようとした日々。ディスプレイの向こうのそいつが明日生きているとも限らないのに。そいつらの存在は、自分の人生の残り時間となんら関係無いと分かっているのに。それでもワイは仲間を見つけては、まだ大丈夫、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせ続けた。
吐き気を誘うほど過剰に甘くて、それでいて微かに苦い、腐った苦しみ。しかしそんな地獄の責め苦の中でも、僅かにだが心の拠り所はあった。
データの中でのみ存在を確認出来る、死亡説が流れる程に消息不明な、ある男がいた。
その男をネタにして笑っている時だけは、短い時間ではあったが、素直に面白いと思えた。
その男を馬鹿にして笑っている時だけは、歪んでいるかも知れないが、素直に楽しいと思えた。
例えその笑いが、見下す対象を求める、卑しい感情からのものだったとしても。ワイはその男に、少なからず心を救われたのだ。ワイだけでなく、きっと他にも多くの人間が、その男を心の拠り所にしていたに違いない。
『いいよ!こいよ!胸にかけて胸に!!』
『イキスギィ! イクイク......ンアーッ!!』
彡(゚)(゚)『......ハハッ、なんやこいつ汚ったねぇなぁ......アハハ』
彡(^)(^)『アハハッ、アハハハハハハ』
彡(●)(●)『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ』
その男の名前は、や
彡(゚)(゚)「やや! 嫌や! もうあの頃に戻りとうない! 戻りたくなんか、なぁぁいぃぃぃ!!」
宇野「いいから早く戻ってこい、このバカ!」
彡(゚)(゚)「いだっ!?」
134 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/12(日) 14:49:10.75 ID:5i9ijA5mO
側頭部を蹴られ、仰向けのワイの顔が90度曲げられた。何事かと体を起こすと、目の前には、
(´・ω・`)「うわぁ良かったぁ! もう戻ってこないのかと思ったよ!」
宇野「だから、ただ寝惚けてただけですって。大袈裟過ぎるんですよあなたは」
原住民と宇野が立っていた。あれ、おかしいな。さっきまでワイは確かにあの......。
彡(゚)(゚)「あぁ、今の夢だったんか......」
宇野「とっとと起きて下さいよ。30分経ったらまたトレーニングの開始です」
現実への復帰に安堵する間も無く、宇野がほざいた。
彡(゚)(゚)「ふ、ふざけんな! だから何の意味があるっていうんやこの筋トレが!」
(´・ω・`)「僕たちが筋トレしても、筋肉が増えるわけじゃないんでしょう?」
宇野「知っていますよ。勘違いしているようですが、今鍛えているのは体ではなく、甘やかされて育ったあなた方の心です」
宇野「パフォーマンスを支える心技体の内、最も重要なのは心だと私は考えます。技があっても、体格差の激しい相手には通用し辛い。技と体が揃っていても、戦意が伴っていなければそれは木偶と同じです」
(´・ω・`)「心技体の使い方ってそんなだっけ」
宇野「元の意味なんてどうでもいいんです。とにかく実戦では、痛みへの耐性と、痛い思いをしても己を見失わない心の強さが求められます。訓練を積めばある程度痛みに慣れることは可能ですが、あなた方には時間が無い。だからこそこの訓練を洗礼としてください」
宇野「戦い、攻撃を受け、ダメージに身体が悲鳴を上げた時、あなた方もきっと心の声を聞くでしょう。『もういいじゃないか。こんな辛い思いを俺だけがする必要なんてない。もう何もかも放り投げて、辞めてしまおうじゃないか』と」
彡(゚)(゚) (ああ、MURに殴られた時似たようなこと思ったな)
宇野「戦意を失くした瞬間に勝敗は決します。そうならない為の手段は大きく2つ。1つ目は自分が戦う理由......まぁ大義でも正義でも私利私欲でも何でもいいです。これをはっきり自分の中で決め、大切に抱えておくこと」
宇野「2つ目は、痛い思いをした時に、『それでもあの時のアレに比べればまだマシだ』と思える経験を積んでおくことです。そうすれば実戦における心の強さも鍛えられ、後ほど行う『技』の訓練も、かなり楽に行えます」
135 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/12(日) 14:49:55.81 ID:5i9ijA5mO
(´・ω・`)「じゃあ今日の筋トレは、身体を鍛えるんじゃなくて、辛い思いをするのが目的ってこと?」
宇野「その通り。ぬるま湯に浸かりきったあなた方の甘さを、今ここで捨てるんです。地獄のようにキツい思いをしてもらわなきゃ困ります。死にたくなるぐらい泣いてもらわなきゃ困ります。そして今後の戦いで傷つく度に思い出してください。『それでも、今日やった筋トレに比べればマシだ』と」
(´・ω・`)「ヒェェェ」
彡(゚)(゚)「......ふん、こんなもんどうってことないわ。ワイの知ってる地獄に比べりゃあな」
肉体の苦痛など、あの後悔と自責と念が渦巻く、暗い魂の牢獄に比べればどれ程気楽なものか。ワイはもう、二度とあの場所にだけは戻らん。あの苦痛に比べれば、こんな筋トレなんぞ屁でもない。
宇野「ほう。良い威勢ですねぇ、好きですよそういう生意気なの。いいでしょう。ではなんJ民さんの筋トレメニューは、原住民さんの倍に増やしましょう」
彡(゚)(゚)「ファッ!? ちょっと待て、それとこれとは話が別やろ!」
宇野「そういう話ですよ。今、この場で、あなた方に地獄を見てもらうのが私の目的です。あなたの過去がどうとか知ったこっちゃありません。今の負荷が大したことないなら、増やすのが当然でしょう」
彡(゚)(゚)「聞いとらんぞそんなこと!」
宇野「余計なことを言ったのはあなたですよ」
(´・ω・`)「口は災いの元だね」
宇野の理不尽な仕打ちに、なおも抗議しようと口を開きかけた時。扉が開き、ババアがやってきた。
coat博士「や。どうだい訓練は」
宇野「順調に辛い目に合わせています」
coat博士「それは結構。それより報告したいことがあってな、ちょっと時間をもらっていいかね?」
宇野「もちろんです。もう何か分かったんですか?」
coat博士「色々あるが、一番大事な話から始めようか。......精神をレイプされた人間の、治し方が分かった」
136 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/12(日) 14:51:31.19 ID:5i9ijA5mO
宇野「!」
(´・ω・`)「おおっ!」
彡(゚)(゚)「やったやないか、これで権田のオッさんも治るんやな!」
宇野「良かった...! これでもう、運転しないで済むんだ私......!」
(´・ω・`)「泣くほど嬉しいんだ......」
彡(゚)(゚)「なぁ、なんでこいつこんな運転すんの嫌がっとるんや?」
(´・ω・`)「......色々あったんだよ」
彡(゚)(゚)「ほーん。で、具体的にどうやって治すんや? お薬ブスーッと刺したりするんか?」
coat博士「......。いや、そういうわけでは、ない、んだよ息子よ」
彡(゚)(゚)「なんや歯切れ悪いな、らしくないぞ」
coat博士「いや、いざ面と向かうと、中々言いづらいなと」
彡(゚)(゚)「恥ずかしいとかそんなタマやないやろ。はよ言えや気になるやんか」
coat博士「......言っていい?」
彡(゚)(゚)「おお」
coat博士「ほんとにほんと?」
彡(゚)(゚)「だからはよ言えってばこの三十路ババア」
coat博士「分かった。単刀直入に結論だけ言うとな。精神をレイプされた男を治す方法は、」
彡(゚)(゚)「ふむふむ」
coat博士「なんJ民。お前が、彼らと性交渉をすることだ」
彡(゚)(゚)「......は?」
coat博士「言った通りの意味だ。お前はこれから、彼らの理性ひいては彼らの人生を取り戻す為に......彼らとの性交渉、つまりはSEXをするんだ!」
彡(゚)(゚)「は? は? はぁ? はぁぁぁぁぁぁ!? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
この時のワイは、ババアの言葉にただただ驚くことしか出来なかった。しかしこの後、ワイは今まで知る由も無かった、もう一つの地獄へと突き落とされることになる。
そう、それこそ宇野が言っていた、『それでもあの時のアレに比べればまだマシだ』と思うような、筆舌に尽くしがたい苦行へと。
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/12(日) 16:13:54.58 ID:5czDqtPp0
きたか…
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/12(日) 20:58:41.04 ID:GHwOKO2po
やったぜ!
139 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/14(火) 19:14:57.64 ID:Q6BlKbleO
大体15話目『レイプ被害者の治療』
自分は特別じゃないと気づいたのは、何をやっても一番になれなかった小学生の頃。
自分は弱者だと気づいたのは、クラスの乱暴者達に苛められた中学生の頃。
そして高校生になった僕は、いよいよ自分に明るい未来は無いのだと気づいた。十数年生きてきて、特技も長所もロクに挙げられない奴なんて、もう、駄目だろうとしか思えなかった。
いつまで経ってもクラスの中で浮いていた。昔は懐いていてくれたはずの妹には馬鹿にされ、罵倒され、雑に扱われる毎日。そして僕を見る両親の目から、日に日に期待の色が薄れていくのが分かると、自分がどれだけ矮小な存在かをまた思い知らされる。
事件が起きるわけでもなく、何かが変わるわけでもない、ただただ決まったレールの上を歩く怠惰な日常の中で。同じレールの遥か前方に、肩を並べて歩くカップルや友人と笑い合う同級生達の姿を見つける度に、僕の自尊心は削れ、劣等感だけが膨れ上がる。
もうたくさんだ。これ以上嫌なものを見たくない。
もうたくさんだ。これ以上自分を嫌いになりたくない。
過去に戻してくれ。やり直させてくれ。リセットボタンを押させてくれ。そうしたらきっと、今度こそ上手に生きてみせるから。
叶うはずのない妄想を何度も繰り返しながら、その日も僕は家路に着いた。家にも僕には居場所がない。家族と同じ空間にいるのにも苦痛が伴う僕は、帰るとすぐに自分の部屋に篭り、PCを立ち上げ動画サイトを開く。
野獣先輩『まずうちさぁ......屋上......あんだけど......焼いてかない?』
遠野『あぁ^〜 いいっすねぇ^〜』
僕の唯一の憩い。それは、ホモビデオ......特に野獣先輩の出演した作品だった。他の人々が書き込んだコメントと共にそれを観ていると、その時間だけは、今日あった嫌な出来事を忘れられた。いつも抱えている虚無感や劣等感から解放されるのだ。彼を見ていると、たくさんのコメントを見ていると、不思議と心が救われる。理由は多分、誰かを笑う快感と、普段は味わえない仲間との連帯感......のようなものを、体感出来たからだと思う。
日常の憂さ晴らし。僕にとって淫夢は、かけがいのないものであると同時に、それ以上の意味を持たない一時の憩いの時間でしかなかった。
だから、予想なんて出来るわけなかった。
男子高校生「赤字コメントでもしてみるかな〜俺もな〜」
野獣先輩「楽しそうだな」
まさか行方不明の彼が目の前に現れて、僕をレイプしてしまうなんて想像、薬でもキメてなきゃ頭をよぎることすら無いだろう。
野獣先輩「俺の裸が見たいんだろ? ......見たけりゃ見せてやるよ。その代わり、お前のケツをもらうけどなあああああああああああ!!!!」
男子高校生「や、やじゅ...っ! ああああアァアアアっ!!!」パンパンパンパンパンパン
突如訪れた、想像の外側の出来事によって。僕の日常は、世界は、一瞬で破壊された。
140 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/14(火) 19:16:19.35 ID:Q6BlKbleO
〜〜〜〜
密閉された、狭く薄暗い部屋に、その行為のためだけにあつらえたベッドがただ一つ。余計な物は一切排除された簡素な空間に、俺と『コイツ』だけが立っていた。逃げ場の無いこの状況で、これから何をするかなんて言うまでもなかった。
突っ立ったままのコイツに先んじて、俺はベッドに腰掛けた。ギシッと骨組みの木が軋む音がし、尻が深々と沈む。安物だな、と舌打ちをすると、それを合図だと勘違いしたのだろうか。コイツが俺の股間目掛けて飛びつき、そのまま一物にむしゃぶりついた。
「ん、ぐむ、んむぅ、んむちゅ」
コイツの舌が、裏スジを、亀頭の側面を的確に激しく攻め立てる。男の悦ぶ箇所を熟知したその奉仕は、激しく情熱的でありながら、繊細な気配りすら感じさせる。奉仕への必死さ、そして丁寧さは、早く大きくなれと懇願しているようにも見え、なんともいじらしい。
早く応えてやれ、と言わんばかりに、俺の一物も瞬く間に膨れ上がった。主観ではあるが、その大きさと長さは、俺の歴史の中でも一番といえる最高傑作だった。
141 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/14(火) 19:17:48.94 ID:Q6BlKbleO
「オラ、もっと速くしゃぶれよ。あくしろよ」
そう急き立ててやると、コイツは直立した俺の一物の先端を咥え、右手で竿の中間から根元にかけてをさすり、左手で玉袋を揉みしだいた。
「な、なに!? クッ! グッ、フゥゥッ......3点同時攻めを、これ程精巧に行えるとは、な、なんて奴だ......!」
「ん、ちゅぶ、ぐちゅ、ちゅ、んん」
3点同時攻めは本来、誰もが一度は夢想し、そしてほとんどの人間が夢半ばで挫折する秘技だ。難易度が高い理由は単純。成功させる条件として、受け手には十分な竿の長さがあること、そして攻め手には三つの異なる動作を並列して行う、高い処理能力が求められるからだ。
「くぉぉぉぉぉっ!!」
それだけに、3点同時攻めが完成した時の威力は絶大だ。
まず、満遍なく密着した唇が亀頭全体を包み込み、上下に動かす度にムズがゆい快感が先端を襲う。舌先は一定のリズムで回転し、尿道の周囲を絶え間なく舐め回す。そして口内から漏れる生暖かい吐息が、唾液にまみれた亀頭に幾度となくふりかかる。とてつもない。
右手の掌は竿の根元に小指をつけ、竿の中〜下部を包むように握っている。上下に動かして竿を擦ったり、あるいはギュッと握り締めたり、たまに恥骨のあたりを揉んだりして、亀頭とは別物の快感を与えてくれる。その所作は、さながら精液を掘り起こさんとする採掘現場だ。
この二つに添えられるように、玉袋を掴む左手が良い仕事をしている。子種を宿す秘所が、温かい掌に包まれる安心感と、勢い余って握り潰されやしないかという不安とに挟まれ、倒錯したギャップを本能に訴えかける。さらに指が金玉をコリコリと弄り回し、あと少しで痛みに変わろうかという、決して無視出来ない快楽が脳に運ばれる。もう頭の中が精子でいっぱいだ。
142 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/14(火) 19:18:46.67 ID:Q6BlKbleO
頭の奥がジンと痺れる。心地良い目眩が視界をぼんやりと揺らす。意識は一物のことばかりに向き、この快楽がずっと続けばとさえ思う。
しかし時間に限りがあるように、肉体にも限界という縛りがある。極上の快楽を享受した我が一物は、その刺激の強さ故に、2分と経たず絶頂へのカウントダウンを開始した。
(今、ここで出すわけにはいかない......!)
肉体には限界があり、射精可能な回数にも限りがある。今日相手をするのはコイツだけではなく、後がつかえていた。フェラでイっている余裕はこちらにはないため、焦った俺はコイツの髪の毛をがしと掴み、乱暴にベッドへと放り投げた。
「あうっ、ああ!」
コイツは地に足を残したまま、上半身をベッドの上について、四つん這いの姿勢になった。最後までやり通したかったのか、名残惜しそうに切なげな声を上げるが......
「お前も気持ちよくなりたいだろ? オラ入れるぞ、これでフィニッシュといこうやないか」
唾液と我慢汁に濡れまくった一物に、もはやこれ以上の補助液など必要ない。無防備なメス穴へと、ズブリと挿れてやった。
「ッ! く、くふぅ、うぅ、うぅんん!」
ズブリ、ズブリと、肉壁を掻き分け、ゆっくりと侵入していく。他我の領域を無遠慮に犯していく。
今まさに俺は、蛮族と化した。尊厳を奪い、肉体を犯し、何もかも我が物にせんとする魂と欲望の解放が、今の俺の全てであった。愚かな蛮族の俺が、相手の身体を労わるなど、なおさら愚かしいことだ。
143 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/14(火) 19:19:37.04 ID:Q6BlKbleO
「あっ! んああ、ああアウゥッ!!」
ストロークを加速させて腰を振ると、コイツの苦悶に満ちた嬌声が耳を震わせる。馴染む間もなく激しいストロークに晒されているのだから、その反応は当然だった。しかしこの時、被害者ぶったコイツの声が、俺には酷く不愉快に届き、思わず手が出た。
バチン、バチン。苛立ちを解消する為に、右手で何度も尻を叩いてやる。無遠慮に思い切り叩いた為、コイツの尻が赤く腫れあがるが、
「んああっ!ああっ! あああぃぃん!!」
痛みをむしろ悦んで受け入れていた。とんだ変態だな、と罵倒しながら、俺は更にストロークを加速させる。
バックから突き上げる、最も原始的な獣の体勢。最早二人の意識に理性は欠片も残っていない。快楽を貪り喰わんとする衝動だけが、俺達を突き動かす。
「クッ、そろそろか......」
巨大な波が、竿の先端へと登ってくる。そろそろ準備が必要だ、と脳が指令をだす。
そして、盛大なフィニッシュへと向かう、内側の感覚に意識を向けると......。
「......ん?」
竿の先端に、外側からの感触があった。穴の方から波のようにおしかけるこの感覚は......間違いなく......あ、無理無理無理無理もう無理無理無理無理汚い汚なすぎる嫌だ嫌だ嫌だ耐えられない妄想にも限界がこれはアバババババババババババババババババババババババババババ
144 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/14(火) 19:20:24.14 ID:Q6BlKbleO
〜〜〜〜
彡(゚)(゚)「もう嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁこれウンコやないかウンコやないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」ジュッポジュッポジュッポ
男子高校生「ん!ん!も、もう駄目です!イッちゃいますぅぅぅぅ!!!」
彡(゚)(゚)「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ男の声を出すなぁぁぁぁぁ!!お前は女の子や!女の子なんやぁ! ワイの童貞卒業の相手が、男であってたまるかぁぁぁぁぁぁぁうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ジュッポジュッポジュッポ
男子高校生「も、もう無理!イクッ、イクぅぅぅぅぅぅ!!!」
彡(゚)(゚)「あっ、ワイも出る!出てまう! クソ、クッソぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
彡(゚)(゚)&男子高校生「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!)」
彡(゚)(゚)「ハァ......ハァ......」
宇野「お疲れ様です。男子高校生の分はこれで終了です。次は、権藤さんをよろしくお願いします」
彡(゚)(゚)「こ、殺して......殺してクレメンス......」
宇野「ダメです」
権藤「ハァハァ、も、もう待ちきれないよ! 早くヤらせてくれ!」
彡(゚)(゚)「あああああああもう嫌だああああああああああああああ」
145 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/06/14(火) 19:21:08.53 ID:Q6BlKbleO
......。
結局、男子高校生、権藤の汚っさん、KBSトリオの計5人と、ワイはヤらされた。全てが終わった頃、時刻はもう夕暮れ時となっていた。
今日、この日ほど、強烈な苦痛を味わったことは無いと断言出来る。それは、この先何があっても、『それでもあの時のアレに比べればまだマシだ』と思うのに十分な地獄だった。
だが、それと同時に。
『もういいじゃないか。こんな辛い思いを俺だけがする必要なんてない。もう何もかも放り投げて、辞めてしまおうじゃないか』
宇野が言っていた心の声が、今まさに聞こえる。だがその声に対して、反論も反対意見も、全くワイの胸の内から出てこなかった。もう、全部投げ出してやめたかった。理不尽だと思った。こんな辛い思いをしてまで、野獣先輩を倒すだとか、誰かを守るだとか、やってられるかと思った。
彡(゚)(゚)「そうや......もう、やめよう。知らんわ人間がどうのこうのなんて。だって、どうせ、」
ワイは人間じゃないんだから、とまで言いかけて、流石に喉の奥にしまいこんだ。例え独り言でも、それを言ってしまったら、もう後戻り出来ない気がしたから。
宇野「なんJ民さん、お疲れ様でした。coat博士がお呼びですので、すぐに向かってあげて下さい」
人の気も知らんで、宇野が言った。ムカつくが、丁度よかった。ババアに伝えよう、もうやめさせて欲しいと。それで終わりにさせてもらおう。もうワイは、こんな嫌な思いしたくないんだ。
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