精神レイプ!概念と化した先輩

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146 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/14(火) 21:58:37.57 ID:N4GINted0
権藤ではなく権田です。間違えました
147 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:45:32.59 ID:DjlbCeaJ0
目が覚めると、僕は車椅子に乗っていた。場所は分からないが、周囲を見渡すと清潔な床や壁が目に入り、どこかの建物の中だということは分かった。
最初こそ状況が分からず、軽くパニックを起こしたりもしたが、僕は数分と経たず落ち着きを取り戻した。スーツを着た美人のお姉さんが宥めてくれたのと、何故か尻の穴がヒリヒリと痛み、足腰が立たずロクに暴れられなかったおかげだ。

宇野「もう大丈夫です。悪夢は全て終わりましたから」

お姉さんはまた、これから家族に会わせてあげます、と言って車椅子を押してくれた。悪夢、とはいったい何のことだろうか。僕はあの時から今までどれだけの時間が経ち、何が起こったのかを全く覚えていなかった。
不安になった僕は、お姉さんに問いかけてみる。しかし、

宇野「覚えていないなら、無理に思い出す必要はありません。無謀な好奇心は後悔しか生みませんよ」

とだけ答えて、それっきり黙ってしまった。エレベーターに乗り、3階から1階へと降りる。そうは言われても、やっぱり気になるし、それにせっかく美人と二人きりなのに無言でいるのは勿体無い気がして、

男子高校生「あ、あの」

なおも話しかけようとしたが、

宇野「あなたが幸福に暮らす為に役に立つ情報を、私は持っていません。私への質問は無意味です」

とぴしゃりと遮られてしまった。それっきり会話が始まることはなく、僕は車椅子を押されるがままに黙して、目的地へと運ばれた。
建物から出ると、外はもう夕暮れ時だった。随分久しぶりに感じる太陽に見惚れる暇もなく、車椅子はどんどん進み、建物からかなり離れた林の中へと入っていく。少し開けた場所まで進むと、着きました、と言ってお姉さんは歩みを止めた。ここが待ち合わせ場所のようだ。
148 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:49:57.85 ID:DjlbCeaJ0
随分と一目につきにくい場所に来たな、と思っていると、左手側の奥にベンチを見つけた。ベンチには白衣を着た女性と、黒布に全身を包んだ謎の人間が座っている。どうやらこちらをジッと眺めているようで、酷く不気味だ。

男子高校生「お、お姉さん! あれ、あの人達、一体何者なんですかっ」

宇野「あれはあなたを助けてくれた人達ですよ。特に黒い方の人は、身体を張ってあなたを救ったんです。一応、感謝してあげて下さい」

男子高校生「え、えええ?」

僕の身に、一体なにがあったんだよ。真実を知りたい衝動がもはや臨海に達し、問い詰めようと後ろを振り向く。すると、お姉さんの体の向こうから見知った顔が3人、歩いてくるのが見えた。

宇野「来たみたいですね」

お姉さんが車椅子を半回転させ、僕は家族と向かい合う。父と、母と、妹の3人。僕を引き取りに来た、ということだろう。5歩程離れた距離で、僕は家族と対面した。

男子高校生「あ......ひ、久しぶり......なのかな?」

ハッ、と驚いたように目を見開く両親と、無理矢理連れてこられたのか、両親の一歩後ろで不機嫌な顔をしている妹へと。へたな愛想笑いをつくり、手の平を見せて振ってみる。
何を言えばいいのかも、今日の日付も分からないまま言葉を絞り出したのだが、向こうから言葉は返ってこない。数秒の無言の時が流れ、『外した』感が僕の胸を締め付ける。

男子高校生(ああ、これだ。この、合わない感じ。コミュニケーションも上手く取れない異物野郎扱いの、この窮屈感)

沈黙がいたたまれなくて、思わず顔を伏せてしまった。そして僕は、帰ることを望まれていない場所に、また戻ってきてしまったのだと実感した。

男子高校生(そうだよね、僕は期待はずれの失敗作だもんね。出来損ないの僕の為に、足を運ばせてしまってごめんなさいね。帰ってきちゃってごめんなさいね)
149 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:50:38.13 ID:DjlbCeaJ0
長年積み重ねた卑屈なコンプレックスが、ぶり返した。
居場所がない、認められていない、必要とされていない、愛されていない、自分が嫌いな自分の姿をまた見せつけられて。激しい動悸に襲われかけた、その時に、

母「雄一......雄一、雄一! ああ、良かった! もう帰ってこれないかと思った! も、もう元に戻れないと思って、母さん怖かったよぉ! でも良かったよぉ帰ってきてくれて......!」

母が、僕の両肩の奥に手を回し、涙声で抱きついてきた。車椅子に座る僕に合わせた為に、すがりつくような不安定な姿勢でもたれかかっている。

男子高校生「え、なに? え? え?」

予想外の母の行動に、その意味が分からず狼狽していると、父も近づいてきて口を開いた。

父「雄一......怪我は、していないか? どこか痛いところはあるか?」

男子高校生「え?......べ、別にない、けど......え?」

父「そうか......そうか。お前が無事なら、父さんもうそれだけで十分だよ。無事で良かったな雄一......よく、頑張ったなぁ」

そう言って、父さんは僕の頭にポンと手を乗せ、そのまま優しく髪をかき撫ぜる。

男子高校生(なんだよ......これ。どういうつもりなんだよ)

突然優しく接してきた両親の行動に、僕は喜びよりもむしろ、理解が出来ないことへの不安に苛まれた。両親の意図が分からなかったからだ。
150 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:51:49.92 ID:DjlbCeaJ0
男子高校生(なんで急に、こんな優しくするんだよ。......もしかして、世間体を気にして、子を案じる親の演技をしているのか? それとも、僕が死なないと保険金が入らないから、それで安心したって喜んでいるのか?)

僕を抱きしめて咽び泣く母に、頭を撫でる父。良かった、安心した、と何度も呟く両親に囲まれながら、僕は困惑と動揺と不安の中でそう邪推した。......だが、次第に。

男子高校生(ああ、でも......頭を撫でられたのなんて、いつ以来だろう。誰かに抱きしめられた記憶なんて、小学校にあがった頃にはもうなかったよな)

言葉、だけではなく、身体の触れ合いによる安心感が、僕の猜疑心を溶かしていった。そんなことよりも、身を案じられたことが、嬉しかった。無事を喜んでもらえたことが、嬉しかった。

自分の為に誰かが泣いてくれたことが、たまらなく嬉しかった。

そうしてしばらくすると、頃合いを見計らっていたらしいお姉さんが、父と母に声をかけた。

宇野「御両親様、少しだけお時間をいただいても構いませんか?」

今回の事件の説明をしたいので、少しの間建物の中で話をさせて欲しい、と。お姉さんの言葉に、父も母も頷いた。何が起こったか、何が原因だったのかを知りたいと思うのは自然なことだ。
当然、僕だって何があったのか知っておきたい。僕の部屋に現れた野獣先輩は何者だったのか、何故僕が狙われたのか、意識を失っている間のこと、知りたいことは山程あった。
しかし、僕の同行への願いはお姉さんと両親に拒否された。

父「お前は琴美とここで待ってなさい」

母「待っててね。帰ったら好きな料理作ってあげるからね」

そう言い残して、両親はお姉さんに連れられて、建物へと向かっていった。知らなくていいことは知る必要はない、ということなのだろう。
151 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:52:54.47 ID:DjlbCeaJ0
妹「......構ってもらえてよかったじゃない。家族に心配かけるだけかけて、戻ってきただけで泣いて喜んでもらって、チヤホヤされて満足した? これで気は済んだの?」

二人きりになると、黙り込んでいた妹がようやく落ち着い口を開いた。腕を組み、仁王立ちで車椅子の僕を見下ろす妹の顔は、先程よりずっと不機嫌に歪んでいる。

男子高校生「......怒るのも無理ないよな。ごめんな、時間とらせて」

妹「はぁ?」

男子高校生「琴美は、父さん達に無理矢理連れてこられたんだろ? 家族一緒で迎えに行かなきゃ、とか言われてさ。そりゃ不機嫌にもなるよな」

妹「......ッ」

男子高校生「お前の言った通りだよ。俺、こんなに心配かけて、迷惑かけて、母さんまで泣かしちゃってさ。本当は、申し訳ないって思わなきゃいけないんだろうけど......でも、それでも俺、今さ。泣いて喜んでもらって、チヤホヤされたことが嬉しくてたまらないんだよ」

妹「あんた......」

男子高校生「俺は、俺が思ってた程、邪魔じゃなかったのかなって。嫌われてなかったのかなって、思えて、それが嬉しかったんだ」

妹「あんた! ふざけんのも大概にしなさいよ!」

思いの丈を吐露していると、妹が突然、俺の胸倉を掴んだ。近づけられた妹の顔には、怒りの色が浮かんでいる。

男子高校生「な、なんだよ、急に!」

妹「私が無理矢理連れてこられた? 家族に嫌われてると思った? ふっざけんなよ、どこまで被害妄想こじらせりゃ気が済むのよあんたは!」

男子高校生「はぁ!?」

妹「私が今日ここに来たのは、私があんたのことを、バカ兄貴のことが心配だったからに決まってるでしょ! 親に命令されたって、来るのが嫌なら用事つくって無理矢理サボるわ!」

妹「家族に嫌われてるだの、邪魔者扱いされてるだの、勝手に決めつけて部屋に籠るようになったのはあんたが先じゃない! あんたが勝手に、私から距離を置いたんじゃない!」
152 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:53:54.12 ID:DjlbCeaJ0
妹の言葉に、先程まであった感慨の余韻は消し飛んだ。妹は今、僕を糾弾しているのだ。非はそちらにあったと、僕の味わった疎外感はただの勘違いだと、そう追い立てているのだ。

男子高校生「な、なんだよそれ、そんな訳ないだろ!」

だが、そう易々と非を認めるわけにもいかない。積み重ねた孤独な月日を、僕の勘違いで済まされてたまるか。そんなに軽いものなわけがあるか。自衛本能が働いて、脳が言い争いの為の思考に切り替わる。
真相を確かめる為には、言葉よりも行動の方がずっと重いに決まっている。こんなもの、虐めを行ったクズが、本当は仲良く遊んでいるつもりだった、の一言で真相を誤魔化そうとするのと同じではないか。

男子高校生「だってお前、昔はあんなに懐いてたくせに、どんどん俺に冷たくなっていったじゃないか! 俺のことずっとバカにしてたくせに、都合いいように被害者ぶってんのはどっちだよ!」

妹「もう私は中学生になって、あんたは高校生よ? いつまでも一緒にお風呂に入れるわけないし、接し方だって変わるわよ! そんなことも分かんない奴をバカって呼んで何が悪いこのバカ兄貴!」

断固抗議してやる、という決意が早くも弱まる。何かを言い返したいのに、何も思いつかない。僕の頭がポンコツなのか、病み上がりの弊害か。

妹「児童じゃなきゃ、親だっていちいち愛してるなんて言わないし、抱き締めたり頭撫でたりなんかしないわよ。それは冷たくなったからなんかじゃない。成長すればスキンシップが無くても、わざわざ言葉にしなくても、分かるようになるのが普通だからよ」

言葉に詰まる。何も言い返せない。それは多分、今、とんでもなく恥ずかしい図星を指されたからだ。
153 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:54:26.82 ID:DjlbCeaJ0
妹「それをあんたは......だから、気は済んだかってさっき私は聞いたのよ。いつまでも子どもみたいな駄々こねて! 勝手に殻に籠って! そのくせ嫌われる事には怯えきって! ......学校で何があったか知らないけど、それを私達にまで当てはめないでよ!」

妹「あんた、家族をなんだと思ってんのよ! 私のこと、なんだと思ってんのよ!」

胸倉を掴む妹の力が、弱々しく抜けていく。抑えていたものをこれで絞り切ったのか、あるいはこれから溢れる所なのか。妹の表情から怒りの色が失せ、浮かんだものは涙だった。

妹「嫌なことがあるなら、ちゃんと相談しなさいよ......。部屋で変なビデオ観てる暇あったら、私とちゃんと話しようよ......。一緒にゲームやろうよ......」

あんたは、私のお兄ちゃんじゃない、と。涙声はやがて嗚咽に変わり、妹は肩を震わせながらくずおれ、僕の膝の間に顔を埋めた。
泣きじゃくる妹の頭を撫でながら僕の胸に湧いた感情は、申し訳ないことに、またしても喜びだった。

男子高校生「そっか......ごめんなぁ琴美。俺が、お兄ちゃんが、馬鹿だったみたいだ......」

僕が欲しくて欲しくてたまらなかったものは、すぐ近くにあったのだ。真心や、親愛の情、人との繋がり。学校で傷つけられた自尊心と劣等感ばかりを気にする内に、いつしか見えなくなっていたもの。

男子高校生「気づかなかったなぁ......。俺は、 本当はこんなに、恵まれてたんだなぁ......」

父と母に会ったら、今までのことを謝ろう。今までに思っていたことも全部話そう。そうして家族との関係を元に戻して、今度こそ人生をやり直そう。ホモビも、殻に籠る部屋も、僕にはもう必要ない。

自分を心に留めてくれる人がいる、ただそれだけで、頑張ろうとする意欲は湧くのだと。頬を涙で濡らしながら、僕は静かに悟った。
154 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:56:44.46 ID:DjlbCeaJ0


彡(゚)(゚)「いい年こいた兄ちゃんが、女子中学生の顔を股の間に挟みながらワンワン号泣しとるぞ。どんな地獄絵図やねん」

coat博士「あのやりとりのどこを見てそう思ったんだ。感動的な兄弟愛の姿だろうが」

彡(゚)(゚)「ワイの童貞奪ったホモ野郎の泣き顔なんか見たくもないわ。こんなもん見せる為にわざわざ布きれ着せて、ここまで連れてきたんか」

ババアに連れられて林の中のベンチに座らされると、待っていたのは車椅子に乗ったホモ野郎の姿だった。

coat博士「ああ。お前が救った人間の姿を、お前自身に見せてやりたくてな」

彡(゚)(゚)「ふん。こんなくっさいモン見せられた所でワイの気持ちは変わらんわ。いいからはよ、ワイが降りることを認めろや」

coat博士「そう結論を急ぐこともないだろう。せっかく世界を救ったヒーローになれたというのに」

彡(゚)(゚)「あん? 世界? ヒーロー?」

coat博士「そうだ。世界とは、何も地球や人間社会全てを表す言葉ではない。一人の人間の意識が生み出す景色や価値観......ようするに『心』もまた、一つの世界と言える。地球上に70億の人間の心があるのなら、同時に70億通りの人間の世界がある、ということだ」

coat博士「そしてヒーローとは、誰かの世界、すなわち心を救う者のことを指す。現状を打破し、危機を救い、この世にはまだ希望があると誰かに思わせた人間は、救われた者達にとってのヒーローになれる。あの少年とその家族にとってのヒーローが、今まさにお前なんだ」

彡(゚)(゚)「......。」
155 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:57:44.34 ID:DjlbCeaJ0
coat博士「ヒーローの本質は身体的な危機を救うことよりも、心の危機を救うことにある。
肉体が滅べば、その人の心も消失してしまう。だからTVの中のヒーローは、いつだって命懸けで誰かの命を守るんだ。
いくら肉体が元気でも、この世に飽いて絶望してしまえば、その人の心はやがて腐って死んでしまう。だからヒーローは、人々に面白いドラマを見せることによって、TVの向こうの視聴者の心を救うんだ。超人的な能力やカッコいい変身ベルトは、その為の道具であって本質ではない」

coat博士「試合に勝って欲しいという願いを叶え、子どもに将来の夢を与える野球選手も、もちろんヒーローの姿そのものだ。規模こそまだまだ小さいが、お前はTVの中のヒーロー達と同質の存在になれたんだぞ? そのことを、嬉しいとは思わないのか?」

彡(゚)(゚)「こんな汚ったない仕事させられる奴がヒーローやと? アホ抜かせや」

coat博士「ヒーローの仕事は元々汚いものさ。TVの中のヒーローは、子供達に汚い映像を見せられないので、綺麗な部分だけを切り取って放送しているからな。倒した敵の死骸が、都合よく爆発するのなんて良い例だ」

彡(゚)(゚)「......それに、いくらワイが糞まみれになってアイツをお腹いっぱいにしてやっても、ワイの腹はちっとも満たされんぞ」

coat博士「そんなことは無いさ。ヒーローにだってちゃんと......ん?」

ババアが言いかけた所で、ベンチの前まで女子中学生が駆けてきた。ワイらに気づいていたのか。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 00:21:57.83 ID:8JlNeTnAo
いい話だなあ(感動)
157 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:50:36.14 ID:Mx3of/4b0
妹「あ、あの、お兄ちゃんに、お兄ちゃんを助けてくれたのがあなた達だって聞いて、お礼を言わなきゃと思って来たん、ですけど、」

ホモ野郎の妹の目元は赤く腫れ、鼻水が詰まったのか、非常に話し辛そうな様子だ。もう少し落ち着いてから来ればいいものを、どうやら相当テンパっているようだ。

coat博士「うん。うん。お礼を言うのは良いことだな。だがその前に少し落ち着こうな。ほら、ティッシュを上げるからとりあえず諸々拭きなさい」

ババアに渡されたティッシュで涙の跡を拭き、ズビーッと盛大に鼻を鳴らす。そして目を瞑って深呼吸すると、ようやく妹も落ち着きを取り戻した。

妹「......すいません。やっと落ち着きました。これ、必ず洗って返しますね」

coat博士「いやそんなもん洗って返されても困るから、どっかに捨ててくれ。ハンカチじゃないんだから」

どうやらまだテンパっているようだ。

妹「あっ、すいません間違えました! ......ああっ、お兄ちゃん連れて来るの忘れてた! すいませんすぐ取りに戻ります!」

彡(゚)(゚)「いらんいらんいらん! あいつの顔なんてもう見たくないから、連れてこなくていい! 余計な気遣いはやめろ!」

妹「え、ええっ、そうなんですか? ......あの、じゃあ、ええと、何しに来たんだっけ私?」

coat博士「......先程、礼をしにきたと言っていたな」

妹「そ、そうでした! あ、あの、この度は兄を助けていただき、本当にありがとうございます! このご恩は一生忘れません!」
158 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:51:03.55 ID:Mx3of/4b0
妹「あ、あの、お兄ちゃんに、お兄ちゃんを助けてくれたのがあなた達だって聞いて、お礼を言わなきゃと思って来たん、ですけど、」

ホモ野郎の妹の目元は赤く腫れ、鼻水が詰まったのか、非常に話し辛そうな様子だ。もう少し落ち着いてから来ればいいものを、どうやら相当テンパっているようだ。

coat博士「うん。うん。お礼を言うのは良いことだな。だがその前に少し落ち着こうな。ほら、ティッシュを上げるからとりあえず諸々拭きなさい」

ババアに渡されたティッシュで涙の跡を拭き、ズビーッと盛大に鼻を鳴らす。そして目を瞑って深呼吸すると、ようやく妹も落ち着きを取り戻した。

妹「......すいません。やっと落ち着きました。これ、必ず洗って返しますね」

coat博士「いやそんなもん洗って返されても困るから、どっかに捨ててくれ。ハンカチじゃないんだから」

どうやらまだテンパっているようだ。

妹「あっ、すいません間違えました! ......ああっ、お兄ちゃん連れて来るの忘れてた! すいませんすぐ取りに戻ります!」

彡(゚)(゚)「いらんいらんいらん! あいつの顔なんてもう見たくないから、連れてこなくていい! 余計な気遣いはやめろ!」

妹「え、ええっ、そうなんですか? ......あの、じゃあ、ええと、何しに来たんだっけ私?」

coat博士「......先程、礼をしにきたと言っていたな」

妹「そ、そうでした! あ、あの、この度は兄を助けていただき、本当にありがとうございます! このご恩は一生忘れません!」
159 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:52:22.25 ID:Mx3of/4b0
彡(゚)(゚)「......ふん、言葉だけならどうとでも言えるわ。本当に感謝してるってんなら、行動で示してくれてもええんやないか?」

coat博士「おい、お前何を言い出すつもりだ」

彡(?)(?)「ワイはなぁ、お前の兄ちゃん助ける為に泥被ってんやで? その礼をしたいってんなら、お前もお前の花を差し出すくらいの覚悟、見せるべきとちゃうか?」

妹「え? え? 花って、あの花のことですか? ええと......ええと......あ、あった!」

そう言うと妹は、何を勘違いしたのか近くに生えていた木の枝を折り、ワイの元まで持ってきた。枝の先には、五つの白い花弁に囲まれた中心に、長い黄色のおしべが数十本と並ぶ花がついていた。

妹「ど、どうぞ! 受け取ってください!」

彡(゚)(゚)(こいつ、花を差し出せと言われて、そのまんま花持ってきおった。ワイの言い方が悪かったんか? それともこいつがガイジなんか?)

coat博士「......ふふっ、夕方なのにまだ咲いているのがあったか。この花の名は夏椿、平家物語でお馴染みの、日本における沙羅双樹だ」

coat博士「背負う花の意味は、この世の無情。これは一日花である為につけられたものだが、花言葉として『愛らしい人』というものもある」

coat博士「いい花を、どうもありがとう。ほら、お前も早く受け取りなさい」

ババアに急かされ、ワイは渋々、花を手に取る。受け取ってもらえて安心したのか、妹の顔がパァと晴れ、

妹「本当に本当に、お兄ちゃんを助けてくれて、ありがとう!」
160 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:53:21.15 ID:Mx3of/4b0
先程まで泣いていたのを忘れたかのような、それはそれは満面の笑顔で、妹は感謝の言葉を口にした。その顔に、その言葉に、一切の打算や他意が無いのは流石のワイにも伝わり。

彡(゚)(゚)「お、おう。ちゃんと感謝してるなら、それでええんや」

無邪気なその面を汚してやる、といった荒んだ気分が削がれ、ワイは思わずたじろいだ。

coat博士「ほら、いつまでも兄を放ったらかしにするのも悪かろう。お礼はもういいから、兄を連れて建物の入り口にでも向かいな。そろそろ、向こうの話も終わる頃だろう」

妹「あ、そ、そうですね! どうもありがとうございました! それじゃあ、また!」

ペコリと一礼すると、妹は兄の元へと帰っていった。妹が何事かを兄に話すと、兄もこちらへむけて頭を下げる。そしてそのまま、妹が車椅子を押していき、二人は林の向こうへと消えていった。

彡(゚)(゚)「.........。」

ベンチにババアと二人残されながら、ワイは受け取った花を、しばらくジッと眺めた。

coat博士「......随分と気に入ったみたいじゃないか。お望みの『花』ではなかったんじゃないのか?」

彡(゚)(゚)「......そうやな。そうなんや......これは、ワイが欲しかったもんじゃ、ないんや。なのに、なのに、なんでやろなぁ......」

脳裏に浮かぶ、あの妹の笑顔。耳の中でいつまでも反響する、ありがとう、という言葉。花を受け取った時の、指と指が触れ合った僅かな感触。花を眺めていると、それらがずっと鮮明に思い出させられ、

彡(゚)(;)「なんでやろなぁ。なんで、こんなもんで涙なんか、出てくるんやろなぁ」

不思議と、視界が滲んだ。
161 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:54:05.77 ID:Mx3of/4b0
coat博士「それは、それがお前の本当に欲しいものだからだよ、バカ息子」

彡(゚)(;)「は、はぁ? アホ抜かせ、ワイが欲しいのは、美味い飯と、酒と、女と、金や。こ、こんな下らないもんなんかや、ないわ......」

coat博士「お前が自覚している自分の欲望は、表層に表れた上辺の意識でしかない。お前も意識の底の底の本心では、欲望と悦楽よりも、真心や親愛を望む願望の方が強いのだろう」

coat博士「その感情はヒーローとして、人としてとても、とても大切なものだ。その花を美しいと、嬉しいと思える内はお前は大丈夫だよ。......今のお前は少しだけ、心が疲れているだけさ。少し遊んで、少し休んで、朝日が登ればきっと気分も良くなるから」

そろそろ行くか、言うと、ババアはベンチから立ち上がり、グッと背筋を伸ばした。そして後ろに座るワイへ振り返って言った。

coat博士「その花、大事にしておけよ。それが、それこそが、ヒーローの報酬なんだからな」

彡(゚)(;)「ヒーローの......報酬?」

coat博士「ああ、そうだ。まぁいずれお前にも分かる日がくるさ。ほれ、いつまでも座ってないで、早く立て。置いていくぞ?」

彡(゚)(;)「いくって、どこに行くんや?」

coat博士「ヒーローにも休息が必要だろ?」

ババアはニッと笑いながら、言葉を続けた。

coat博士「特別に許可を貰って、もう閉館時間が過ぎた市ヶ谷記念館の中を、貸し切りで見学出来るよう手配した」

彡(゚)(゚)「おおっ!」

coat博士「さぁ原住民も待っているんだ、早く行くぞ。たまには......水入らずで遊ぶのも、そう悪くないだろう?」
162 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:55:32.58 ID:Mx3of/4b0



〜ガン掘リア宮殿〜
深夜の集会を終え、解散となった会議室の中で。野獣は、始まりのホモに話を切り出した。

野獣先輩「KBSトリオは今日もサボりですか。......舐められてるんですかね」

始まりのホモ「いやぁ元々彼らは、人の話を聞けるほど賢くないんですよ。大して重要な人材じゃないですし、放っておけばいいんじゃないですか?」

野獣先輩「そう......ですね。そうかも知れません」

始まりのホモ「そんなことより、見てくださいよMURさんの姿を。あれ、僕のお手柄なんですからね。褒めてください」

始まりのホモはそう言うと、会議室の端でKMRと雑談をするMURへと指を向けた。

KMR「あっ、それエロ本じゃないですか! 買ってきたんですか!?」

MUR「そうだよ、河原に落ちてるの拾ってきたんだよ。お前も見たいか?」

KMR「な、なんで見る必要なんかあるんですか」

MUR「そんなこと言って、さっきからチラチラ見てただろ。......見たけりゃ見せてやるよ」

KMR「ありがとうございます......」

その姿は、完璧にMURそのものだった。
163 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:56:29.01 ID:Mx3of/4b0
始まりのホモ「もっと早く僕に言ってくれればよかったのに。田所さんも人が悪いなぁ」

野獣先輩「......少し、事情がありましてね」

始まりのホモ「そうですかそうですか。まぁ、事情は人それぞれですもんね」

大して気にする素振りも見せず、始まりのホモはうんうんと頷く。
始まりのホモはしばし間を置くと、じゃあ僕もそろそろ行きますね、と言って踵を返し、出口のドアへと向かう。そしてドアノブに手をかけた所で、こちらへ振り向いて言った。

始まりのホモ「あ、そうそう。ホモガキ達の『アレ』、ようやく100人集まりそうですよ。大体あと三日、ってとこですかね」

野獣先輩「そうですか。では、ぼちぼちこちらも準備を整えておきます」

始まりのホモ「うふふ、楽しみですね。それでは田所さん、良い夜を」

そう言い残し、始まりのホモは今度こそ、ドアの向こうへと消えていった。

野獣先輩「あと、三日か」

ドアを見つめながら、野獣は一人呟く。何か物憂い気なその目の脇で、MURとKMRがなおも会話を続けているのが見えた。
164 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:57:22.99 ID:Mx3of/4b0
MUR「あぁ〜いいゾーこれ」

KMR「ンッ!ンッー、ンッー!」

MUR「こんなとこ見られたら、また妻と娘に怒られちまうかもなー」

野獣先輩「っ!?」

KMR「ンンー、オホッ!......え? MURさんって、奥さんいたんですか? 初耳ですよ?」

MUR「あ? いるわけないだろ、何言ってんだお前」

KMR「ええ、MURさんが言い出したんじゃないですか」

MUR「おっ? そうだったか?」

野獣先輩(馬鹿な! 家族の名前を、覚えていたというのか!? あの思念の濁流に押し流されてなお、ほんの僅かな記憶の断片だけでも残したというのか!)

いったいそれは、どれだけの意志の強さと幸運が必要なことだろうか。驚愕に目を見開いて、野獣はMURをまじまじと見つめる。

KMR「もう、冗談も大概にしてよ。そもそもMURさん、彼女だってロクに出来てないくせに」

MUR「なんだとおいKMRァ! お前だって彼女いねぇだろお前よぉ」

KMR「やめてくれよ......」

野獣先輩「......。」
165 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:58:05.16 ID:Mx3of/4b0
驚くべきことではあるが、いざ事が起こってしまえば、それはそこまで理不尽なことでは無いのかも知れない。思念の集合体である概念体は、数千数万の人間のイメージによって型どられる。
だがそのイメージのほとんどは、信念や心の強さとは縁遠いホモガキ共によるもの。膨大な量ではあるが、一人一人の思念を取ってみれば酷く薄っぺらい思念だ。
そこにMUR個人が抱く強烈な意志の力が加われば、僅かにではあるが、思念の集合体に『異物』を混入する余地はあったのかも知れない。ほとんど不可能なことではあるが。

野獣先輩「......。」

完全な0と、0.00001%は大きく異なる。あの概念体にMURの意志が僅かにでも残っているならば、奴の意識が戻ってきてしまう可能性も、限りなく小さくはあるが、確かに生まれてしまった。

野獣先輩「だが、始まりのホモに報告する気にもならんな」

この事を教えれば、奴はまた嬉々として『概念の卵』をMURに植え付けることだろう。野獣としても、不確定要素は出来るだけ取り除いておきたいのが本音だ。
しかし、それでも、どうしても。これ以上MURをどうにかしようとする気は、微塵も起きなかった。もう、そっとしておいてやりたかった。

そう思わせた理由は、概念に必死に抗っていたMURへの憐憫と、変わり果てたMURの姿の痛ましさが。そして何よりも、MURへの畏敬の念が強かった。

野獣先輩「安心しろよ、MUR。約束は必ず守る。計画が全部終わったら、必ず家族の元に帰してやるからな」

固い口調で一人呟くと、野獣は始まりのホモが去ったドアを、鋭い眼光で睨みつけた。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 03:19:25.69 ID:qX9xuBs7o

ところで産卵プレイはありますか?
167 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 23:08:57.55 ID:fkMAYBEXO
えぇ......(困惑)
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/20(月) 00:44:43.51 ID:Lw0gpEkDo
植え付けたら産むという帰結ですかね…?
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/20(月) 20:10:44.45 ID:qWh1KGkGo
産め!ホモの子を!
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/21(火) 02:07:44.16 ID:ZTEgsmRG0
やはり野獣先輩は人間の鑑
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 08:04:06.82 ID:tEMWbh9HO
始まりのホモはホモビ出演が発覚したやきう選手ですね間違いない
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 13:43:27.02 ID:X8YcLMwQO
臭いスレタイから恵まれた本編
173 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/22(水) 16:25:12.60 ID:hZQZ8JbiO
コメントありがとうございます。有難いことこの上ないです。

スレタイはもう変えたくて変えたくて仕方ないです。リセットボタンを押してやり直したい。
174 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/22(水) 16:25:39.78 ID:hZQZ8JbiO
宇野と権田のオッさんに出会い、世田谷区で概念体と戦い、地獄の訓練と悪夢の苦痛を味わい、市ヶ谷記念館をババアと原住民と一緒に見に行った激動のあの日から、三日経った。

彡(゚)(゚)「オラァ死に晒せやぁぁぁ!!」

(´・ω・`)「し、死にたくない! 死にたくない!」

宇野「なんJ民! 自分より弱くて小さい相手になにをそんな手こずってる! さっさと一発当てて楽にしてやれ! 動きが大雑把過ぎるぞもっと的を小さく絞れ!」

宇野「原住民! もっと気合入れて避けろ! 最小限の動きで避ける見切りなんて戦場じゃ役に立たんぞ! お前は一発でも攻撃をくらえばお終いなんだ! 不必要なぐらい大げさに避けろ!」

彡(゚)(゚)&(´・ω・`)「ぁぁぁあああああああ!!!」

〜〜
彡(゚)(゚)「ゼェ...コヒュー...ゼェ...コヒュー...」

(´・ω・`)「つらたん......つらタンク......」

宇野「大分動きはマシになったと思います。あと10分休憩したら、次はまた組み手の練習から始めましょう」

彡(゚)(゚)「ゼェ...コヒュー...ゼェ...コヒュー......ゴブフォッ!!」

慌ただしかった初日の次の日から、今日までの三日間。ババアが研究室に篭っている間、ワイらはずっと訓練を受けていた。練習内容は、型の基礎と、組み手と、実戦形式の戦闘訓練の繰り返しだ。
175 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/22(水) 16:28:13.82 ID:hZQZ8JbiO
(´・ω・`)「初日の、筋トレよりかは、確かにマシだけど、それでも、辛いものは辛いね」

ワイが糞の掃き溜めのような汚れ仕事をさせられた時に、原住民はずっと筋トレを続けさせられていたらしい。ワイの比ではないだろうが、原住民も相応の苦痛は経験済みなのだろう。

宇野「辛くて当たり前です。三日前の地獄は、これからの苦痛に『耐える』為であって、苦痛を『感じなくなる』為のものではありません。苦痛を感じないということは、そいつは心が壊れているということです。そんなイカれを、戦いの場で頼りにすることなど出来ません」

宇野「心技体のうち、私があなた方に教えられるのは技だけです。体を強くしたいなら、博士になんとかしてもらってください。心を強くしたいなら、強くなる為の何かを、自分で見つけてください」

技や体と違って、心は、他人が無理矢理どうこう出来るものじゃないので。と、宇野は言葉を続けた。

彡(゚)(゚) (......強くなる為の何か、か)

coat博士「失礼するぞ、邪魔しに来たぞ。追い返されても居座るぞ」

ワイの呼吸がようやく元に戻ってきた頃に、ババアが部屋に入ってきた。ボサボサの髪にクマの出来た目元を携えて、気だるげな低いテンションだ。

(´・ω・`)「わーい。博士が来たよ、休めるよ」

彡(゚)(゚)「ババアは話が長いから助かるわ」

宇野「黙りなさい軟弱者ども。それで、何の御用ですか?」

coat博士「ああ。概念体についての説明と、これからのことを話そうと思ってな」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 16:51:37.56 ID:y74h2Yku0
狂気を感じる
否、狂気しか感じない
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 17:13:15.89 ID:gZrLsM+ao
文才も感じる
官能小説の文才も感じる
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 20:40:49.42 ID:X8YcLMwQO
むしろ内容的にこれしかないタイトル
179 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/01(金) 22:42:45.40 ID:FD8bK7d+O
16話目 coat博士&始まりのホモ「戦う準備は整った」


宇野と権田のオッさんに出会い、世田谷区で概念体と戦い、地獄の訓練と悪夢の苦痛を味わい、市ヶ谷記念館をババアと原住民と一緒に見に行った激動のあの日から、三日経った。

彡(゚)(゚)「オラァ死に晒せやぁぁぁ!!」

(´・ω・`)「し、死にたくない! 死にたくない!」

宇野「なんJ民! 自分より弱くて小さい相手になにをそんな手こずってる! さっさと一発当てて楽にしてやれ! 動きが大雑把過ぎるぞもっと的を小さく絞れ!」

宇野「原住民! もっと気合入れて避けろ! 最小限の動きで避ける見切りなんて戦場じゃ役に立たんぞ! お前は一発でも攻撃をくらえばお終いなんだ! 不必要なぐらい大げさに避けろ!」

彡(゚)(゚)&(´・ω・`)「ぁぁぁあああああああ!!!」

〜〜
彡(゚)(゚)「ゼェ...コヒュー...ゼェ...コヒュー...」

(´・ω・`)「つらたん......つらタンク......」

宇野「大分動きはマシになったと思います。あと10分休憩したら、次はまた組み手の練習から始めましょう」

彡(゚)(゚)「ゼェ...コヒュー...ゼェ...コヒュー......コッ、ゴブフォッ!!」

慌ただしかった初日の次の日から、今日までの三日間。ババアが研究室に篭っている間、ワイらはずっと訓練を受けていた。練習内容は、型の基礎と、組み手と、実戦形式の戦闘訓練の繰り返しだ。
180 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/01(金) 22:43:33.24 ID:FD8bK7d+O
(´・ω・`)「初日の、筋トレよりかは、確かにマシだけど、それでも、辛いものは辛いね」

ワイが糞の掃き溜めのような汚れ仕事をさせられた時に、原住民はずっと宇野による筋トレを続けていたらしい。ワイの比ではないだろうが、原住民も相応の苦痛は経験済みなのだろう。

宇野「辛くて当たり前です。三日前の地獄は、これからの苦痛に『耐える』為であって、苦痛を『感じなくなる』為のものではありません。苦痛を感じないということは、そいつは心が壊れているということです。そんなイカれを、戦いの場で頼りにすることなど出来ません」

宇野「心技体のうち、私があなた方に教えられるのは技だけです。体を強くしたいなら、博士になんとかしてもらってください。心を強くしたいなら、強くなる為の何かを、自分で見つけてください」

技や体と違って、心は、他人が無理矢理どうこう出来るものじゃないので。と、宇野は言葉を続けた。

彡(゚)(゚) (......強くなる為の何か、か)

coat博士「失礼するぞ、邪魔しに来たぞ。追い返されても居座るぞ」

ワイの呼吸がようやく元に戻ってきた頃に、ババアが部屋に入ってきた。ボサボサの髪にクマの出来た目元を携えて、ダルそうな低いテンションだ。
181 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/01(金) 22:46:50.90 ID:FD8bK7d+O
(´・ω・`)「わーい。博士が来たよ、休めるよ」

彡(゚)(゚)「ババアは話が長いから助かるわ」

宇野「黙りなさい軟弱者ども。それで、何の御用ですか?」

coat博士「ああ。概念体について、新たな説明と訂正をしにきた」

宇野「説明?」

coat博士「まぁ、訂正の意味合いの方が強いかな。以前話した、概念体の能力を決める計算式は覚えているか?」

彡(゚)(゚)「『ステータス』と、」

(´・ω・`)「『知名度』のかけ算、だったね」

coat博士「正解だ。だがその計算式にはもう少し、説明を付け加えるべき要素があった。分かりやすくする為に、説明には例え話を使おう」

coat博士「『ステータス』を器に、そして『知名度』を水に置き換えて考えてみてくれ。器が大きければ大きい程、水が入るスペースは増えるよな。しかしここで、肝心の水が少ししか無かったらどうなる?」

彡(゚)(゚)「まぁ、デカい器を用意した意味はないわな。水が少ししか無いなら、器もちっこいので十分や」

coat博士「正解だ。では今度は逆に、水はたくさんあるのに、器が小さかった場合を考えてみよう。小さい器に、このたくさんの水を注いだらどうなる?」

(´・ω・`)「器からはみ出て、こぼれちゃうだけだよ。せっかくのお水がもったいないね」

coat博士「正解だ。つまり器(ステータス)だけ大きくても、水(知名度)だけ多くても仕方が無い。両者がバランス良く伴っていなければ、力は十全に発揮出来ん」
182 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/01(金) 22:47:30.83 ID:FD8bK7d+O
宇野「......説明は分かりやすくなりましたが、言っている事は以前と何も変わってないですね」

coat博士「まぁ、まぁ。本題はこれからだ。......私は、君ら概念体のステータスを増やすことも、知名度を高めてやることも出来ん」

coat博士「だが、今ある器の形を変えたり、一部を削って、新たな小さい器を作ることなら出来る。全体に均等に配分された君らの能力を、ある一点に集中させる......つまり、武器を生み出すということだ」

彡(゚)(゚)「武器?」

(´・ω・`)「集中させる?」

coat博士「例を挙げよう。宇野くんの話によれば、KBSトリオの黒い奴......仮にSと呼ぼうか。Sは他のK、Bとほとんど同じスペックであったにも関わらず、右拳には驚異的な威力を感じたという」

coat博士「理由は単純で、ネット上にSがそういう能力を持っている、という概念が存在しているからだ。Sの能力の名前は『其為右手(イマジンブレイカー)』といって、あらゆる敵の異能を打ち破るらしい」

彡(゚)(゚)「イマジンブレイカーって......お前そりゃ、あれやないか」

coat博士「若者の間で人気のとあるライトノベルの能力らしいが、Sの淫夢ビデオ内での発言と似ている点があってな。それを面白がった淫夢民がでっち上げた、悪ふざけの産物だ」
183 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/01(金) 22:48:31.24 ID:FD8bK7d+O
coat博士「故に、『Sの右手には特別な力がある』という概念が生まれた。そしてSは、右手にのみ突出した力、すなわち武器を手に入れたというわけだ」

coat博士「お前らが遭遇したMURの、肉塊の群れを産む能力も、同じく淫夢民の悪ふざけの賜物だな。あれはMUR肉と呼ばれる、MURの体の様々な部位を繋ぎ合わせて出来た化物だ。その珍妙な姿がウケた為か、淫夢民の間では結構な知名度があるらしい」

coat博士「このように、敵にはその知名度に合わせた個性、武器が備わっている。一方こちらは、何の特性も持ち合わせていない、いわばプレーンの状態なわけだ」

彡(゚)(゚)「ゴチャゴチャ言われたが、ようはワイらをパワーアップさせよう、って話やろ?」

coat博士「目的と結果はその通りだが、これからするのは、厳密に言えば改造だな」

coat博士「お前の体が、仮に戦闘力600だとしよう。その戦闘力を頭部、胴体、両脚両腕の6つの部位に、100ずつ均等に振り分けた状態が今のお前だと考えてくれていい」

彡(゚)(゚)「ふむ」

coat博士「今のお前の全身はバランスが良く、どこを叩かれても、攻撃力99のダメージまでならいくらでも耐えられる」

coat博士「だが相手の攻撃力が200だった場合、お前はその攻撃を耐えることも、弾くことも出来ん。抵抗することもままならん」

(´・ω・`)「そんなの、それこそステータスが強いかどうかの話じゃない。僕らにはどうしようもないよ」
184 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/01(金) 22:49:18.75 ID:FD8bK7d+O
coat博士「だからこそ我々も、そのステータスに偏りをつくろうとしているのさ。私はお前らに更なる力を授けることは出来ん。だが今ある600の戦闘力を、Sのように右手に300、あとの残りを全身に振り分けることは可能だ」

彡(゚)(゚)「パワポケの野手のステータスがCCCCCなのよりも、AACEEの方が使い易くて楽しい、みたいな感じか?」

coat博士「そういうことだ。戦闘であれ、戦術であれ、戦略であれ、何事も突出した偏り(武器)があった方が有利だ、ということだ」

(´・ω・`)「そうと決まれば早速始めようよ!僕、早く強くなりたい!」

彡(゚)(゚)「せやせや! なんでもいいから早よう武器よこせ! なるだけカッコいいの!」

宇野「......まだ今日の訓練は終わっていませんよ?」

彡(゚)(゚)「そんなもん後回しに決まっとるやろ!」

coat博士「いや、改造はお前らが眠っている時に行わせてもらう。くたびれてとっとと眠ってもらった方が都合がいいので、むしろいつもより厳しくしてやってくれ」

宇野「了解です」

彡(゚)(゚)「ファッ!?」

(´・ω・`)「今日はもう終わりの流れだと思ったのに!」

coat博士「強くなりたいんだろう? なら鍛錬は怠るな。せっかく良い指導者がいるんだから、お前らはむしろもっと積極的に励め」


coat博士「何かを得るには代償が必要だ。その点、汗水垂らすだけで済む鍛錬は、強さを得る代償としては非常にリーズナブルだからな」
185 :スレッドムーバー :2016/07/03(日) 09:23:56.41 ID:???

このスレッドは一週間以内に次の板へ移動されます。
(移動後は自動的に移転先へジャンプします)

SS速報R
http://ex14.vip2ch.com/news4ssr/

詳しいワケは下記のスレッドを参照してください。。

■【重要】エロいSSは新天地に移転します
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462456514/

■ SS速報R 移転作業所
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1463139262/

移動に不服などがある場合、>>1がトリップ記載の上、上記スレまでレスをください。
移転完了まで、スレは引き続き進行して問題ないです。

よろしくおねがいします。。
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/03(日) 14:34:57.70 ID:WYJCM0KFo
当たり前だよなあ?
187 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/03(日) 22:47:51.69 ID:Cedb29uZ0
感想、美味しゅうございました。
コメント、美味しゅうございました。

読者様 ネット民様 筆者は、もうすっかり追い出されてしまって書き込めません。
何卒、お許しください。
長らく書き込みを放置したり、ご迷惑おかけして申し訳ありません。
筆者は、読者様の蕎麦で暮らしとうございました。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/10(日) 11:44:25.35 ID:lZGv9p2Do
えぇ……(困惑)
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/10(日) 18:09:41.94 ID:OvC6r+3no
書き込めてるよなあ?
今からでも書くんだよオラァン!
190 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:43:25.95 ID:SuOXDHYRO
夜。一通り訓練を終えた私達は、権田さんの車に乗り、coat博士の研究所へと向かった。

権田「皆様方には大変なご迷惑をおかけしたようで、申し訳ございません」

人間へと復帰した権田さんは、開口一番謝罪を口にした。

宇野「いえ、今回の件は私の落ち度です。権田さんが謝る必要はありません。......前の車も、私が壊してしまったんですから」

前の車が駄目になったのは、MURに追いかけられた時だ。肉塊共の二回の体当たりによって、前席左側と後部座席右側のドアに、大きな凹みが生じていた。また、車の屋根やバックドアにも小さな凹みが数個あり、側面には擦り傷やぶつけた後があちこちに付いていた。

権田「いえいえ、修理すれば充分治りますから、それこそお気になさらないでください」

彡(゚)(゚)「......ワイ、あの車気に入ってたんやけどな」

権田「すぐに修理して、またあの車で運転させていただきます。しばらくは、この車でご辛抱ください」

彡(゚)(゚)「......。.........そか」

なんJ民の権田さんへの態度は固い。訓練の疲れもあるのだろうが、性交渉を強要させられた相手、という負の情が根強いのだろう。

彡(゚)(゚)「まぁ、早うしてくれや」

しかしなんJ民が罵倒を口にすることは無かった。彼にも、権田さんに罪はないことが分かっているのだろうか。だとすると、感情のおもむくままに暴言を吐き散らしていた頃と比べれば、大した成長ぶりだ。
191 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:44:26.09 ID:SuOXDHYRO
宇野(私の指導のおかげかな)

成長に繋がる出来事に、特に心当たりは無い。ならばきっと、積み重ねた鍛錬が、彼の心を強くしたのだろう。それはつまり、私の手柄だということだ。感謝してほしい。

権田「そろそろ着きますよ」

(´・ω・`)「うー、久しぶりの我が家だー」

『私有地につき立ち入り禁止』と書かれた看板を越え、山道に入ってしばらくすると、三日ぶりに目にする研究所に到着した。

権田「私はここで待機しています。何か御用がございましたら、いつでもお申し付けください」

駐車場に一人残った権田を置いて、私達は建物の中に入る。

coat博士「こっちだ、ついて来い」

coat博士に促されるまま歩くと、連れてこられたのは地下室であった。
以前顔を出した時には見せてもらえなかったが、最先端技術の研究室というのには、実のところ少し興味があった。期待を胸に秘めながら階段を降り、室内を視界に納める。すると、

宇野「......はぁ?」
192 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:45:26.18 ID:SuOXDHYRO
眼前に広がった光景は、予想外のものだった。研究室は薄暗く、狭さを感じさせる。実際はかなり広々とした間取りなのだろうが、その四方を埋め尽くすように、旧時代の大型電算機や、使用意図の分からない何かの機械がズラリと並んでいて、スペースを圧迫していた。
ピコピコと音を鳴らしながら赤や青に点滅する、いかにも70年代のSF映画に登場しそうな謎の機械群は、いっそ見るものをバカにしているようにさえ思えた。

宇野「なんですか、この......イメージ通りというか、あまりにチープな施設は」

明らかに、現代の科学技術に即した部屋ではなかった。まさかこんな、電卓や8ビットが持て囃されていた時代の遺物で、概念体を生み出したとでも言うつもりなのだろうか。

coat博士「それっぽいだろ? ここは趣味で?き集めたアンティーク(時代遅れのコンピュータ)部屋でな。本当の実験室はこの更に奥の部屋だ」

宇野「何故、わざわざこんな部屋を?」

coat博士「本命の実験室のカモフラージュ......って意味もあるにはあるが、まぁただの私の趣味さ。特にすることが無い時は、実験室よりこっちの趣味部屋にいることの方が多いな」

coat博士「都市の機能としてはビル群の方が優れてはいても、観光地としては、昔の面影を残した場所の方が魅力的だろ? それと同じで、最先端の機材は研究に必須ではあるが、画一的で情緒が無いからな。休む時ぐらい、懐古主義のノスタルジーに囲まれていたいのさ、私は」
193 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:46:14.31 ID:SuOXDHYRO
彡(゚)(゚)「ワイらもたまに、ここでファミコンやらスペースインベーダーとかで遊んどるぞ」

(´・ω・`)「すること無さ過ぎる時だけにね。ここ、PSもwiiも置いてないから」

彡(゚)(゚)「ホンマは新しいゲーム機で遊びたいんやが、ババアが置いてくれへんのや」

coat博士「買いたきゃ自分で買え。最先端の現代機器なんぞ、私の趣味部屋に置いてたまるか。昔ながらの情緒や風情がぶち壊しになっちまうだろ」

宇野「......新技術を発明した科学者の言葉とは、とても思えませんね」

coat博士「趣味と仕事は別物なんでね。......それでは、今度は私の仕事部屋をお見せしようか」

そう言うと博士は、壁に貼り付けられた暗証キーに番号を入力し、下部の指紋認証に人差し指をかざした。すると、部屋の最奥部にあった本棚がズルズルと横に移動し、新たな部屋が姿を現した。

宇野「またこんな、ベタな仕掛けを......」

coat博士「そんな呆れた顔をするなよ。言っとくが、私の学会の知り合いの部屋は、皆これよりもっと個性的だぞ?」

宇野「あなたの学会にはアホしかいないんですか」

coat博士「ちゃんと成果を上げてきた奴らなんだがな......。まぁ、科学者に『なる』には物覚えの良い頭がなけりゃ話にならんが、そっから科学者が『成る』のには、独自性や遊び心を忘れん柔軟な頭が必要ってことさ」
194 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:47:23.00 ID:SuOXDHYRO
いいから早く入ってみてくれ、と促され、実験室に足を運ぶ。
実験室は、薄暗かった趣味部屋から打って変わり、屋上に散りばめられた電灯に白く照らされていた。手前には、大量の資料が積まれたデスクや、私には理解の及ばない何かの機械が置いてある。奥にはスパコンが幾数台と立ち並び、最先端の研究に相応しい意匠を誇っていた。
中でも目を惹くのが、研究室の中央にドンと構えた、二台の装置であった。

彡(゚)(゚)「ここに来るのも久しぶりやな」

(´・ω・`)「久しぶりというか、僕らが生まれた時と今日とで2度目だね、ここに来るのは」

宇野「生まれたというのは、やはりこの装置でですか?」

(´・ω・`)「うん。僕ら、気付いたらこの中に横たわってて、起きたら博士が目の前にいた」

彡(゚)(゚)「生まれた直後のことなんてボンヤリとしか覚えてないけどな」

縦3m、横と高さが幅1mのその装置は、私に棺桶を連想させた。装置に繋がる幾つものパイプが無ければ、私がこれを装置と分かる術も無かっただろう。

coat博士「お察しの通り、この二台の装置が『概念を実体化する技術』の要であり肝だ。こいつらはここで生まれ、ここで強化される」

彡(゚)(゚)「なんでもいいから早く寝かせてくれや」

coat博士「だったら早く装置の中に入れ」

(´・ω・`)「じゃあ早く外の電気消してよ。眩しくて眠れないよ」

coat博士「中に入れば気にならんから大丈夫だよ」

そう言われ、二人は装置の中に入っていく。

coat博士「......さて、これで後は、こいつらが寝るまで待つだけだ。宇野くんも今日は休んでくれていいぞ。寝泊まりは、二階のリビングに来客用の部屋があるから、そこを好きに使ってくれ。私の趣味ではあるが、映画もそこそこ揃ってる」

明日の朝になったら、また趣味部屋に来てくれ。その博士の言葉を最後に、今日の私の仕事は終わった。
195 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:48:16.97 ID:SuOXDHYRO

〜〜〜
夜が明ける少し前。しばしの眠りから覚めた私は、coat博士の実験室へと向かった。趣味部屋から声をかけると、中から操作したのだろう。本棚が移動し、私は再び実験室へと招き入れられた。

coat博士「早かったな。昨夜は、私の用意した映画は観ずに寝たのかい?」

宇野「いえ、『蠅男の恐怖』を視聴させていただきましたよ。展開が支離滅裂で良い映画とは言えませんが、名作です」

coat博士「......私のコレクションはSFがほとんどだが、君は数ある中から何故それを選んだんだ?」

宇野「なんででしょうね。ここの、薄暗い地下の研究室を見たせいかも知れません。タイトルを見たら無性に観たくなってしまいまして、おかげで寝不足です」

coat博士「そうか、別に急いで来る必要はなかったんだがな。まだこいつらも寝ているし」

宇野「それです。昨日は聞きそびれてしまいましたが、何故、彼らがわざわざ眠るのを待っていたんですか? 身体の改造には痛みが伴う、といった理由からですか?」
196 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:49:34.96 ID:SuOXDHYRO
coat博士「痛み、ではない。こいつらを気遣っているのはその通りだが、理由はより重大なものでな。ようは※スワンプマン......いや、どこでもドアの怖い話に近いな」

※スワンプマン(泥男)......同一性やアイデンティティーについて問う為の思考実験。
[ある日、一人で散歩をしていた男Aが、沼の側で落雷により死んだ。しかしこの時、落雷と沼の泥が奇跡的な化学反応を起こし、死んだ男Aと全く同一同質、同じ記憶を持つ泥男A'が生まれた。そして散歩から帰ってきたA'がAであると、職場の人間や家族は、疑うことさえ無く受け入れた。A'は明日も明後日も、Aとしての生活を続けていく。
しかし、A'は決してAでは無い。落雷によって死んだ本物のAの亡骸は、今も沼の傍らで横たわったままである]


宇野「どこでもドア......あの身体が分子レベルでバラバラになるって奴ですか」

coat博士「そうだ。どこでもドアで空間をくぐる際、のび太くんの体は、一度バラバラになった後で、記憶や肉体を行き先の空間にそっくりそのまま再構成されているのでは? という説だ」

coat博士「どこでもドアの話の肝は、スワンプマンと違い、元の人間が必ずしも死んでいるわけではない、という点だ。スワンプマンの場合、AからA'へという、死んだはずのAと全く同じ体格人格でありながら、その実全く別の人間であるという恐怖がある」

coat博士「ではどこでもドアの怖い話のどこに、人は恐怖は覚えるのかな?」

宇野「それは、まぁ、身体がバラバラになる点でしょう。のび太くんが無邪気な顔でそんな恐ろしい体験を、しかも知らず知らずの内に何度も味わっているのか、という不気味さもあります」
197 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:50:44.19 ID:SuOXDHYRO
coat博士「そうだな。しかし本人が死んでしまうスワンプマンと違って、どこでもドアの話は、本人が知らなければどうということは無い。私の作った『概念を実体化する技術』の装置も同様だ」

coat博士「どこでもドアも私の装置も、記憶の断続性や人格の同一性はクリアしている。しかし一度『自分は一度バラバラになった』と知ってしまえば、もう頭からこびりついて離れることはない。必ず『今の俺はバラバラになる前の俺と、本当に同じ人間なのか?』と、答えの無い思考にハマってしまう」

coat博士「すなわち、自我の危機が訪れてしまうんだ。こいつらをそんな危険に晒すわけにもいかんので、眠って意識が消えるまで待っていたわけだ。繰り返すが、知らなければどうということの無い話だからな」

宇野「バラバラになった彼らは、本当に記憶の断続性や人格の同一性はクリアしているんですか?」


coat博士「人間と違って、こいつらの意識の源流は、脳や肉体ではなくデータの中にある。今私がやっているのは、頭から脳みそ取り出して弄った後、元の頭にすっぽり収めるようなもんだ。まず間違いなく同じだよ」

それにしてもだ、と、博士は言葉を続ける。

coat博士「KBSトリオの存在と、MURの能力の話を聞いて、私は正直凹んだよ。KBSトリオ如きがいるということは、間違いなく他にも仲間がいる、ということだ。しかもSやMURの例からみて、向こうは能力の付与についてさほど苦労していないらしい」

coat博士「技術を作った私でさえ、生み出せた概念体は野獣を含めた3体だけだ。あちらは我々と比べて、随分と技術が進んでいるらしい」
198 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:52:07.17 ID:SuOXDHYRO
同時刻〜ガン掘リア宮殿〜

戦う準備が整いました、という始まりのホモの言葉を受け、野獣は立ち上がった。
夜明け間近のガン掘リア宮殿にて、野獣と始まりのホモは、全ての仲間を外庭に集めた。集まった仲間達の顔には、それぞれ期待の色が浮かんでいる。
その数は数十名にも昇り、熱帯夜の暑さと密集による熱気とが、彼らの高揚をさらに高める。彼らは明らかに、解放の時を今か今かと待ちわびていた。
彼らの様子を確認してから、野獣と始まりのホモはこの時の為に用意された壇上に昇った。ひとしきり注目が集まるのを待った後、野獣は口を開いた。

野獣「随分と待たせてしまったが、タメの時間は今日で終わりだ。これからお前達には、世田谷区全土に散って、我々の勢力を拡大させてもらいたい」

野獣「難しいことは言わん。ルールや制限など設けない。お前らはただ、本能のままに暴れ、望むままに犯せ。好みの男を、好きな時に、好きなだけレイプしてやれ! それこそが、俺達を追い詰めた奴らへの復讐となり、俺達の理想郷を創り上げる手段となる!」

野獣「自分を偽るな! 性癖を隠すな! 生まれ持った本能を愛してやろう!俺達はそれに値する程の苦痛を味わってきた! 俺達はそれを可能にする力を手に入れた!!」

野獣「勃ちあがれ同胞よ! 今この時より、解放の宴を始めよう!!」
199 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:52:46.89 ID:SuOXDHYRO
野獣の声を受け、仲間達は盛大な歓声を上げた。歓声はやがて雄叫びに、最後には狂喜の絶叫へと色が変わっていった。
彼らの興奮は当然である。なにせ、絶対的リーダーからついに許可が出たのだ。『犯していい』と、『好きなように暴れていい』と、『好きな奴を好きなだけレイプしていい』と。

性欲を抱えた男なら、誰でも一度は夢想する。
人権も道徳も、人目も社会的立場も、法律も警察もお構い無しに。街を歩く自らの性的対象を、手当たり次第に犯してみたいと。ハーレムをつくってみたいと。性奴隷が欲しいと。心も身体も拘束して、ソイツの全てを思うがままに支配してみたいと。

男の欲望の一つの頂点が、今まさに叶おうとしているのだ。彼らの顔にはもう、理性などほとんど残ってはいない。

野獣「さぁ行け野郎共! 暁の地平線に精子をかけてやれ!!」

「「ウォォォォォォォーーーッ!!!!」

野獣の最後の言葉を皮切りに、彼らは雄叫びをあげ、始まりのホモに定められた持ち場へと走っていった。
200 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:53:37.81 ID:SuOXDHYRO
始まりのホモに振り分けられた、世田谷区での彼らの持ち場は、次の通りである。
『ガン掘リア宮殿(本拠地)......野獣先輩、KMR、MUR、始まりのホモ(テロリストの勧誘の為一時離脱)

北沢地域(半ば制圧済み)......ピンキー姉貴、一転攻勢(シャブラサレータ)、ホリ・トオル、KBSトリオ

世田谷地域......MNR、TNOK、イニ義893、SNJ、DB

玉川地域......KBTIT、平野源五郎、虐待おじさん、ひで

砧地域......AKYS、まひろ、じゅんぺい、我修院、中野くん、関西クレーマー

鳥山地域......GO 』

これらの枠のどこかに、その他の概念体が浮動で散る。そして、

始まりのホモ「さぁお前らも早く行け、この役立たず共」

??「「了解です! はじめくん様!!」」

今日の為に準備した、例の『ホモガキ達』約100名も、彼の命令と共に散っていった。彼らは、KBTITやAKYSといった主だった概念体の、手下としての役割が与えられている。いわば、仮面ライダーにおけるショッカーだ。

始まりのホモ「......さて、では僕もそろそろ出かけますかね」

野獣先輩「本当に必要なんですか? その、参謀役のテロリストというのは」

始まりのホモ「勿論です。世田谷区の制圧は、僕らの目的の第一段階に過ぎません。次のステップの為には、軍略の知恵がどうしても必要になります」

野獣先輩「......それに、あの『ホモガキ達』は使い物になるんですか?」

始まりのホモ「どうですかね。coat博士が寄越してくる刺客には無力でしょうが、少なくとも一般人が相手なら無敵でしょう」

始まりのホモ「なにせ『ホモガキ達』は、僕が邪道に邪道を重ねて創り上げた......曲がりなりにもれっきとした、『概念体』ですからね」
201 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:55:19.20 ID:SuOXDHYRO


〜同時刻 coat研究所 地下実験室〜

朝。目が覚めたワイと原住民は、寝起き早々ババアに文句を垂れていた。

彡(゚)(゚)「なーんも変わっとらんやんか。失敗したんかババア」

(´・ω・`)「見た目も感覚も昨日と全く同じだね」

coat博士「いや、お前らの改造はちゃんと成功したよ。今の状態は精通したばかりの小学生みたいなもんだ。やり方さえ覚えれば、すぐにおっ勃つようになる」

彡(゚)(゚)「唐突に下ネタぶっこむのやめーや」

coat博士「よし、ではまず原住民からだ。パッと頭に浮かんだ言葉を叫んで、何かを出そうとしてみろ」

(´・ω・`)「ええっ! 急に言われても分かんないよ、何かってなに?」

coat博士「なんでもいいさ。インスピレーションに任せて唱えれば、必ずお前の武器を出せる」

(´・ω・`)「い、インスピレーション? ええと...ええと......」

彡(゚)(゚)「はよせえや、時間かければかける程どんどん場が白けるぞ。こういうのはノリと勢いが命や」

宇野「宴会の無茶振りみたいなこと言わないでください。追い詰めてどうするんですか」

(´・ω・`)「うぅ......う!」

(´・ω・`)「わ、“わたすはJの守り神”!!」

CORPORATION “炸裂のきゅうり神”
202 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:57:44.08 ID:SuOXDHYRO
彡(゚)(゚)「なんちゅうかけ声やねん」

(´・ω・`)「わ! なんか出てきた! 右手になんか出てきて......ってなんできゅうり神様が!?」

原住民が驚きの声をあげる。その手には確かにきゅうりが握られているが、先端部が顔の形に掘られている点を除けば、見た目はただのきゅうりでしかなかった。

彡(゚)(゚)「なんや、武器どころかロクに栄養にもならんもんが出てきたぞ」

(´・ω・`)「きゅうり神様の前でなんて失礼なこと言うんだよ! きゅうり神様に謝ってよ!」

彡(゚)(゚)「あーん? 何がきゅうり神や。こんな顔が彫ってあるだけの安物、いつまでも有難がっとるんやないで」

ワイは原住民の手からきゅうりをひったくり、

(´・ω・`)「あっ!」

彡(^)(^)「偶像崇拝はパクーで」

顔っぽいきゅうりの先端部を、思い切り齧ってやった。すると、水気ばかりで味の薄いきゅうりの破片が口内に弾け......、

(´・ω・`)「ああっ! きゅうり神様が!」

彡( )( )「ホゲッ......」

きゅうりが、炸裂した。突然バラバラに弾け飛んだ無数の破片が、きゅうりを握った右手へ、顔へ、そしてワイの口内全域へと襲いかかった。
203 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 20:59:21.45 ID:SuOXDHYRO
彡(×)(゚)「ハッ、カハッ、ハガガ」

右手と顔は、まだ凄く痛い程度で済んだ。が、口内は剥き出しの歯と歯茎と唇とを満遍なく攻撃され、死にたくなる程の激痛が襲った。

(´・ω・`)「うわぁ、おにいちゃん大丈夫!?」

彡(×)(゚)「カ、ハカカ、カハバ(大丈夫なわけないやろ殺すぞ)」

coat博士「おい、今のきゅうりはまだ出せるか?」

(´・ω・`)「え? う、うん。僕、きゅうり神様ならいくらでも出せそうな気がするよ。ホラ」

coat博士「右手と左手に一つずつ......量産も可能か。いいぞ、これなら原住民の身体が弱くても、敵に投擲しながら離れて戦える。今みたいに罠のような使い方も出来るだろう。サポート向きの良い武器だ」

宇野「罠には、向いてないんじゃないですか? さっきのも今のきゅうりにも、何か不気味な顔が彫ってありますし。差し出されてもまず口にはしませんよ」

(´・ω・`)「だから、きゅうり神様を馬鹿にしないでってば」

宇野「あ......いえ、あなたの神を否定しているわけではないですよ。気安く他人様の神を侮辱した奴の末路は、総じてああなりますからね」

coat博士「うむ。因果応報という奴だな」
204 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 21:00:11.20 ID:SuOXDHYRO
彡(×)(゚)「お、ら、ち、しろ(お前らちょっとはワイの心配しろや)」

(´・ω・`)「ごめんおにいちゃん......実はさっき、ちょっとだけね」

(´^ω^ `)「きゅうり神様が爆発した時、心がスカッとしちゃった!」

彡(゚)(゚)「お前、あとで、ほんと、覚えとけよ」

coat博士「お、もう回復したか。早いな」

彡(゚)(゚)「うるせぇ、いいから次いくぞ。今度はワイの番やろババア」

coat博士「そうだな。いいか、パッと頭に浮かんだ言葉を唱えるんだぞ。これは一種の暗示でな、ファンタジーの呪文詠唱なんかも......」

彡(゚)(゚)「ようはオナニー用に、一番好みのエロ本用意しろってこったろ? 話が長いんやババア」

coat博士「むっ、親に対してなんて口の利き方だ貴様」

彡(゚)(゚)「うっせババア。......頭に思い浮かぶ言葉、ねぇ。今はこれしか出てこんわ。“ワイは嫌な思いしてないから”」

CORPORATION “蛮族の棍棒”

宇野「なんですかその、自分勝手極まりないクズ発言は」

彡(゚)(゚)「ふんっ、孤独に荒んだワイの心にはこの言葉がお似合いなんや......おっ?」

気付くと、ワイの右手に、茶色の棍棒が収まっていた。ゴツゴツとした窪みやこぶがいくつもあり、良く言えば無骨、率直に言って不細工な見た目だ。
205 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 21:01:09.57 ID:SuOXDHYRO
彡(゚)(゚)「なんやこれ。せっかく武器使うならバットが欲しかったんやけど」

coat博士「まぁ、棍棒をより洗練させ、球を打つのに適した形にしたのがバットだしな。未熟者の今のお前には、棍棒ぐらいが丁度いい」

彡(゚)(゚)「なんやとババア」

coat博士「その棍棒が、今のお前の限界ってことだ。悔しけりゃもっと鍛えて、もっと強くなることだな。そうすればいずれお前好みのバットも作ってやれるさ」

coat博士「さぁ、これで戦う準備は整った。敵はそこにあり、目的は明確で、武器も揃えた。後はただ、力の限りに戦い、敵陣を弱らせ、そして大将首を狙うだけだ」

彡(゚)(゚)「大将首?」

coat博士「私が与えた使命を忘れるんじゃないよ。大将首が誰かなんて決まっているだろ」

coat博士「お前の使命はただ一つ、『野獣先輩を倒せ』だ。これからたっぷり親孝行してもらうから、覚悟しろよバカ息子」
206 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 21:04:01.67 ID:SuOXDHYRO
【ステータス】
彡(゚)(゚) (なんJ民)
心......知識D 判断力C 精神力D 対人能力E
技......回避C 組手C 間合いC 攻撃手段D
体......腕力B 敏捷性C 持久力D 耐久性B

特殊概念
・蛮族の棍棒
そこそこ硬く、そこそこ重く、当たるとかなり痛い無骨な棍棒。なんJ民自身はバットを使いたがっている為、使用者との相性はあまり良くない。

『総合能力 C』


(´・ω・`) (原住民)
心......知識D 判断力C 精神力C 対人能力B
技......回避B 組手D 間合いE(武装時 B) 攻撃手段E
体......腕力E 敏捷性B 持久力C 耐久性B

特殊概念
・炸裂のきゅうり神
敵に投げつけるも良し、置いて罠にするも良し、食べるのは悪しのきゅうり型炸裂弾。一定以上の圧がかかると爆発し、破片の衝撃によりダメージを与える。が、現時点での火力は少し強めの爆竹程度でしかない。
原住民は、御神像を爆破する冒涜行為への躊躇いと、戦いに貢献したい気持ちとで板挟みになっているという。
きゅうり神の爆発を見届ける彼の表情からは、戦いの虚しさへの哀愁が常に漂っている。

『総合能力 D』
207 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/10(日) 21:09:57.75 ID:SuOXDHYRO
ここまでで序章というか、第1章、みたいなものが終わりました。次章からようやく本題に入れます。

1週間以内にエロスレに追い出される、という話はイタズラだったんですかね
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/11(月) 01:02:32.54 ID:SQZ+ey8Po
ホモはせっかちで時間に厳しい
209 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/11(月) 23:07:19.77 ID:UmkqGBU0O
【第2章】 『同性愛者の理想郷』編 開始

苛立ちを抑える私の背後から、停車中の電車のアナウンスが聞こえる。ドアを閉める間際の甲高いサイレンが、また不愉快に私の耳を突いた。

ドアが閉まります。ドアが閉まります。ドアが閉まります。

何度も何度も、電車の到着の度に耳に入るその警告音は、私の心境と妙に重なるようで、更に苛立ちを加速させる。

女子高生「......ムカつく、意味分かんない」

土曜日の朝の、SJ学園前駅の南口にて。7時を回った腕時計を睨みながら、私は小さく地団駄を踏んだ。もう、かれこれ30分も待ちぼうけを食らっている。

女子高生「なんで、こんなに待たされなきゃいけないのよ」

私は今日、彼氏である智樹とデートの約束をしていた。千葉の遊園地に行って、久し振りに羽目を外して遊ぼうと誘ってきたのは、智樹の方からであった。

女子高生「ムカつく、ムカつく、ムカつくよ」
210 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/11(月) 23:08:16.23 ID:wQB5CPMY0
野球部に所属する智樹と付き合い始めたのは、去年の秋、高校一年の文化祭の時からだ。
告白してきたのは智樹の方から。坊主頭は少し嫌だったけど、わりと仲も良かったし、顔も悪くないし、話していると楽しいし、私はその告白を受けることにした。
それから、もうすぐ一年が経つ。 現在の二人の関係は......少なくとも私にとっては、あまり良好ではない。智樹が私をどう思っているのかが分からないし、気持ちが分からないのは、それだけ意思疎通が取れていない、という事の顕れだと思う。

女子高生「いっつも、私が我慢する側だよ。いつもこうだよ」

待ち人が来るはずの方角へと、身体だけは真っ直ぐ向けたまま。私は下を向いて、彼氏への恨み言を呟く。すると背後からまた、駅に迫る電車の、レールの継ぎ目をなぞる音が聴こえた。
もう、この音が耳に入るのも何度目だろうか。音が鳴る度に、「智樹が来ていれば、今頃あの電車に乗れただろうに」と、頭の中で声が響いて、苛立ちが消沈の色へと変わっていく。

告白してきたのは、智樹の方なのに。
今日のデートだって、誘ってきたのは智樹からなのに。
それなのに、待たされているのは私だった。
今日まで付き合ってきて、不満やストレスを溜め込んでいるのも、私だった。
211 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/11(月) 23:09:00.67 ID:wQB5CPMY0
ドアが閉まります。ドアが閉まります。ドアが閉まります。

また響く、不愉快な警告音。いっそ耳に届かない所まで移動したかったが、待ち合わせ場所がここなので身動きがとれない。これ以上彼と、無駄にすれ違うのは御免だった。
やがて、響く警告音のせいか、嫌な思い出ばかりが脳裏に浮かんだ。
平日休日問わずに、毎日行われる野球部の練習せいで、一緒に街を歩いた回数すら数える程しか無かった。今日もそうなのだが、一日丸々使ったデートなんて、期末テストの準備期間ぐらいにしかチャンスが無いのだ。
また、クラスが同じだった一年の頃から、二年次のクラス替えを境に、溝は深くなっていった。クラスが離れ離れになってからというもの、学内ですら、共に過ごす時間は目に見えて減っていた。

「えっ、奈央ちゃんと智樹くんって付き合ってたの!? 嘘っ、完全フリーだと思ってた!」

以前クラスメイトに言われた、無遠慮な一言を思い出す。あれには、心底ガックリときた。
その発言をしたクラスメイトの意図はともかくとして、私はその時にようやく突きつけられたのだ。周りに付き合っていると認知されない程に、二人が一緒にいる時間というのが、一般に比べひどく短いという事実を。
その言葉を受け、流石に改善を図るべきだと思い立ち、相談をしたのがつい一昨日の出来事だ。
212 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/11(月) 23:09:40.85 ID:wQB5CPMY0
放課後の練習が終わるのを待ち、夜のファミレスで話を切り出した私は、

「うーん、そっか。じゃあさ、奈央が野球部のマネージャーをやってくれる、ってのはどう? そしたらずっと一緒にいられるよ」
「この間一人辞めちゃって、丁度人が足りてなかったんだよね。ね、どうかな? 奈央は部活やってないし、前からやって欲しいなとは思ってたんだよ」

ヘラヘラと笑いながら返してきた智樹に、心の底からブチ切れた。

私は、「彼女」って名札のついた、アンタの人生のアクセサリーなんかじゃない。私には私のしたいことがあるし、彼女だからってアンタが好きでやっていることを、私が身を捧げてまで支える義理も義務も無い。
私はずっと、智樹に合わせてきたよ? 色々我慢して、本当は辞めちまえって思ってた野球部の応援にも行ったよ。アンタがベンチを温めてるだけの試合でも、頑張れって叫び続けたりしたよ。
でも、アンタが私に合わせてくれたことは一度も無いよね。ずっと野球のことばかりで、私の為に何かを我慢したことなんて一つも無いよね。
なのにこの後に及んで、また私がアンタに合わせろって言うわけ? 何様のつもりなの?

......そんなことを、夕飯時の、わりと混雑したファミレスの席で。私が人目も気にせずまくし立てた結果が、今日のデートだ。
213 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/11(月) 23:10:45.61 ID:wQB5CPMY0
流石にマズいと思ったらしい智樹が、土曜日は全部奈央との時間にするから! と平謝りしてきた末の、デートの約束であった。にも関わらず、である。

女子高生「野球の試合には遅刻しないくせに、私との約束には平気で遅れるんだなぁ」

結局、智樹は今回のデートを、私のご機嫌とり、ぐらいの軽い気持ちでしか見ていないのだ。そもそも、日常での接点が少ないという私の問題提起に対する、とりあえずデートをしようという提案自体が、的外れでその場しのぎのものでしかないだろう。

女子高生「............あ、雨だ」

ヒステリックな女の癇癪を、とりあえずご機嫌を取って宥めよう、といった軽薄な智樹の意図に気付き始めた頃。曇り気味だった空から、にわかに雨が降り始めた。はじめポツリ、ポツリと垂れるようだった雨は、あっという間に激しさを増していった。

女子高生「あー......。なんかもう......いいわ、どうでも」

天気はかなりの大雨で、すぐに回復する見込みも無さそうだった。これで千葉の遊園地で遊ぶ計画は台無しになったのだが、もう、ショックなど特に感じない。落胆も怒りも無く、あるのは冷え切った心だけ。

女子高生(もういいや。無理して合わせるの、もう面倒くさい。数ヶ月ぶりのデートで遅刻かまされたり、悪天候だったり、色々と合っていないのだ、私と智樹は。そういう巡り合わせなのだ私達は)
214 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/11(月) 23:11:34.70 ID:wQB5CPMY0
ドアが閉まります。ドアが閉まります。駆け込み乗車はおやめ下さい。次の彼女までお待ち下さい。

女子高生(さよなら智樹。バイバイ智樹。次の彼女は、甲斐甲斐しく支えてくれるようなマネージャーの中からでも探してください)

ご健闘をお祈りします、とでもメールを送って、家に帰ろう。そう思い携帯を取り出した丁度その時、電話の呼び出し音が鳴った。呼び出し主は、智樹であった。

女子高生「......もしもし。なに? もしかして今起きたの? 外は雨だし、これ以上待てないから、もう私帰るよ。それとね、私もうアンタと」

男子高校生「奈央! 奈央! た、たす、助けてくれ!助けてくれ! おれ、俺、襲われてる!」

女子高生「......はぁ?」

男子高校生「場所はMJ公園で、警察を、あ、あぅ! は、早く来てくれ!た、頼む......頼む助けて!......アッ!」

意味不明なメッセージを伝えると、智樹は私の返事も待たず電話を切った。唐突で、要領を得ない内容であった。

女子高生「助けて? 襲われている?......意味、分かんない」

突然の雨に襲われて身動きが取れない、ということなのだろうか。つまり、傘を持って迎えに来い、ということか。

女子高生「......ほんと、自分のことしか頭に無いんだなぁ、アイツ」

MJ公園と言えば、SJ学園前駅から歩いて10分程の場所だ。そのぐらいの距離、走ってくればよいではないか。ずぶ濡れになるのも構わず走ってくる姿を見せれば、遅刻したことぐらい、許してやったかも知れないのに。しかも私に歩かせて傘をせがむなど、情け無さ過ぎてほとほと愛想が尽きる。だが、

女子高生「しょうがないな。最後に一回だけ、またアイツに『合わせて』やるか」

ドアを閉めきる直前に、駆け込み乗車に間に合った運と、繋がってしまった縁に免じて。アイツの目的地までには、連れて行ってやろう。
どうせ転がりこまれてしまったのだから仕方無い。傘を届けてやって、家に帰れるようにしてやって、それで私の仕事は全部終わりだ。

女子高生「さて......まずは傘を買わなきゃね」

駅中のコンビニへと、私は足を運ぶ。相合傘をする気は毛頭ないので、私の分と、智樹の分とで2本買った。

代金は当然、智樹の全額負担の予定である。
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/12(火) 00:08:52.44 ID:El+uo5Jxo
ホモは女子の描写が上手い
216 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:39:24.60 ID:TwzxSY9iO
〜30分前〜

coat博士「戦いについての重要な説明は特に無い。殴れば敵が傷つき弱り、殴られれば自分が痛くて怖い思いをする、ってことが分かっていればそれでいい」

coat博士「だが出発の前にもう一度、これだけは確認しておこうか。エネルギーの受け渡しについてだ」

(´・ω・`)「エネルギーの受け渡し?」

coat博士「概念体は半分が概念、もう半分が実体で出来ている。曲がりなりにもこの世に実存している以上、その身体にはエネルギーが含まれている」

彡(゚)(゚)「はぁ」

coat博士「私はお前らの持つエネルギーの位置は変えられるが、総量そのものは弄れない。では、お前らが強くなるにはどうしたらいいかと言うと、答えは簡単。同じエネルギーを持つ他人から、無理矢理奪ってしまえばいい」

彡(゚)(゚)「その手段がSEXやと? なんやそれ出来の悪い悪夢やんか」

coat博士「私がそういうルールを作った訳じゃないんで、文句を言われても困る。それにそう馬鹿にしたもんでもないぞ。SEXは肉体的接触による奪う、奪われるという関係において、食事の次に重大なものだ。処女を奪う、童貞を奪われる、人妻の貞操を奪う、ホモに尻穴を奪われる。男女の秘所は、すべからく神秘的にして動物的だ」

彡(゚)(゚)「なーに言ってだ」

宇野「.........。」
217 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:40:11.87 ID:TwzxSY9iO
coat博士「エネルギーを吸収する為に相手の肉体を喰らうという手段もあるが、これは効率が悪いし、なによりバカ息子の精神的苦痛が大きい。ならば性交渉の方が遥かにマシだろう、ということだ」

彡(゚)(゚)「ホモとのSEX、めちゃくそ辛いんやが」

coat博士「そんなもん100回もやりゃ慣れるから我慢しろ」

彡(゚)(゚)「100回もやらせる気なんか......」

coat博士「んで、ここで注意が必要なのはエネルギーの受け渡しの法則だ。法則は至ってシンプル。『概念体同士がSEXすると、受け攻め問わず、エネルギーの弱い方から強い方へとエネルギーが渡される』というもの。強い奴は奪い、弱い奴は奪われるという自然な道理だ」

coat博士「下手に強い奴とSEXすると、逆にエネルギーを奪われるから気をつけろよ」

宇野「受け攻め関係なく......じゃあ、自分より強い相手からはエネルギーは奪えない、ということですか?」

coat博士「いや、相手を弱らせればその限りじゃない。殴って蹴ってレイプが可能になるまで弱らせれば、まずこちらが奪う側に回れる。問題は自分より強い奴を、どうやってそこまで弱らせるかだが......そこは君たちで上手いことやってくれ」

(´・ω・`)「なんかポケモンみたいだね。体力ゲージを赤まで体力減らして、モンスターボールで捕まえるの」

彡(゚)(゚)「ワイの場合、捕まえた先にあるのはレイプやぞ。ワイらの青春をこんな汚ったない仕事と一緒にすんな」
218 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:40:56.62 ID:TwzxSY9iO
coat博士「ではまとめるぞ。お前らの当面の目的は、」

@世田谷区に行き、概念体or精神レイプ被害者を発見すること。
A概念体を発見したら、捕獲を目的とした戦闘を行うこと。この際、概念体は生け捕りが望ましいが、状況によってはその場でレイプ(エネルギーを奪う)するだけでも良しとする。
Bまた、精神レイプ被害者は見つけ次第優先して保護すること。殺傷は厳禁。
C敵の情報収集を行うこと。どこにどんな敵がいたか、相手の目的は何か、といった情報だけでも価値がある。
D成果の有無を問わず、必ず帰ってくること。なお、探知の恐れがある為、基本的に研究所ではなく防衛省庁舎を使用する。

coat博士「......こんなところかな。まぁ、とにかく行ったら帰ってきてくれればそれでいい。Dさえ守ってくれれば、大抵の問題は後からどうにでも出来るからな」

宇野「今は分からないことの方が多いですからね。とりあえずは、手探りで始めていきましょう」

coat博士「ん。とりあえず今日の話は以上だ。全員、気をつけて行ってきな」


〜現在〜

彡(゚)(゚)「......なぁ、結構な大雨やぞ。これもう中止でええんやないか?」

宇野「辞めるわけないでしょ。ピクニックじゃあるまいし」

(´・ω・`)「濡れたら風邪引いちゃうよ」

権田「皆さんの分の傘は用意しているので、ご安心ください」

権田さんが用意した大型のワゴン車に乗り、私達は世田谷区を見回っていた。ワゴン車は、出来るだけ大勢の人数を収容出来る為のものだ。
219 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:41:43.10 ID:TwzxSY9iO
(´・ω・`)「今日は、目的地は特に無いの?」

宇野「とりあえず敵を探さなきゃ話になりませんからね。......見つからないに越したことはありませんが」

彡(゚)(゚)「んじゃ、しばらくワイらは暇なんやな」

宇野「サボらないで、周囲を見張っててください。気付いたことがあれば教えてください」

彡(゚)(゚)「えー面倒くさ......ん?」

なんJ民が文句を垂れようとした時、車が急に停止した。何事かと権田さんに尋ねると、

権田「気付いたことがありますので、少しお時間を。向こうから歩いてくるあの女性、どう思われますか?」

そう言われ、前方の女性......女子高生だろうか......に意識を向けると、確かに少し異様だった。大雨の中傘も差さずに歩く彼女は、どうやら泣いているようだった。大口を開け、顔を歪め、両腕をぶらんと垂らしながら、裸足で道路を歩いている。

宇野「なにか......あったんでしょうか」

彡(゚)(゚)「やめとけやめとけ。公共の場で泣くような女に関わっても、ロクな奴はおらんぞ。アレもどーせ彼氏に振られただのなんだの言って、自分の世界に浸っとるだけやろ」

(´・ω・`)「泣いてる女性になんて酷いこと言うのさ。それにおにいちゃん、『雨に濡れた女は下着が透けて興奮する』って前に言ってなかった? あの人今まさにそんな状態だけど、随分冷たいね」

彡(゚)(゚)「当たり前や。いいか原住民、エロってのは健全な精神が伴って初めて成立するんや。例えばメンヘラ女の裸なんて、異常者の精神状態への恐怖がエロより上回って、まったく興奮せんもんなんやぞ」

(´・ω・`)「おにいちゃんの、さも実際に体験したかのように語る癖、ほんと凄いと思う」

宇野「......権田さん、傘を2本出してください。それと二人は、糞みたいな会話してないで心の準備でもしていて下さい。私は彼女に話を聞いてきます」

彡(゚)(゚)「お、おい! だから関わらん方がええって!」

なんJ民を無視し、私は車内から降りる。そして傘を開き、車のすぐ近くまで来ていた女の子へと歩み寄る。
220 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:42:17.53 ID:TwzxSY9iO
女子高生「ヒック......グスッ......やだぁ......もうやだよぉ......」

宇野「ちょっと君、傘も持たないでどうしたの? どこか痛いの? ご両親は?」

女子高生「ヒッ、......な、なに? 誰? お姉さん、誰なの?」

宇野「私の名前は宇野 佐奈子。とりあえずほら、この傘をあげるわ。そんなにずぶ濡れじゃ風邪引いちゃうわよ?」

警戒されている、というより、怯えた目でこちらを伺いながら。女の子は差し出された傘を、おそるおそる受け取った。

女子高生「傘......ずぶ濡れ......」

宇野「怪しい者じゃない......って言っても信じようがないわね。でも、あなたさえ良ければ、車でお家まで送ってあげましょうか?」

端から見たら、誘拐事件のワンシーンにしか見えないだろうな、と我ながら思っていると、

女子高生「私......逃げ......ヒッ......うぅ......うぅ、うぁぁぁ」

女子高生「うわぁぁぁぁもう嫌だ嫌だ嫌だよぉぉぉぉ!! お家、帰りたいよぉぉぉぉぉ!!」

私の言葉のどこかに、癪に触るところがあったのだろうか。女の子は突然、傘を放り出して私の胸にしがみつき、また盛大に泣き出した。

女子高生「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめん......ごめんごめんごめぇうわぁぁぁ、あああああ!!」

宇野「えぇ......」

なんJ民の言う通り、関わったらマズいタイプの娘だったのだろうか。
などと一瞬湧いた疑念を振り払い、私は泣きじゃくる女の子の背中を、しばらく撫でてやった。
221 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:45:35.83 ID:TwzxSY9iO
......しばらくすると、女の子もある程度落ち着きを取り戻したのか、

女子高生「......ありがとう、ございました。勝手に胸をお借りしてすいません」

と、放り投げた傘を拾い上げ、言った。そこでようやく、お互い怪しい者では無いと確認し合えた為に。家まで送ることを、彼女は頼み、私は引き受けた。名前は、奈央というらしい。
奈央さんにその場で少し待つよう伝えた後、私はワゴン車の二列目のドアを開けた。ワゴン車は一列目が運転席、二列目がなんJ民達の座る後部座席、三列目が広いスペースの来客席となっている。

宇野「今から先程の女の子を後ろに乗せます。あなた方の姿を見られると面倒くさいので、二列目と後部の間にカーテンを引きます。極力会話は控えて、顔は絶対に覗かせないでください」

彡(゚)(゚)「はぁ!? あの女連れてくってのか? 気でも触れたんかこの無能!」

宇野「ちょっと、彼女に聞こえたらどうするんですか」

彡(゚)(゚)「どうでもいいわ! いいか? 一歩でもあの女車に乗せたら、その時点でワイらは誘拐犯確定なんやぞ。裁判所に訴えられたら負け率100%の、懲役賠償金取られ放題のノーガードや!」

宇野「誘拐じゃありませんし、訴えられたりもしません。大丈夫ですよ」

彡(゚)(゚)「訴えられないってなんで分かるんや!? この国は女性様に訴えられたらお終いなんやぞ! 痴漢は証拠が無くても有罪確定。女が原因で離婚になっても、親権はいつでも女性様が有利! 中年上司の注意や叱咤も、女性様が怒れば即セクハラや! 女性優先席って何や? だったら男性優先席も用意するんが筋ってもんやろアホか!」
222 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:46:05.91 ID:TwzxSY9iO
宇野「原住民さん、きゅうり神を一本下さい」

(´・ω・`)「え? あ、はい。どうぞ」

彡(゚)(゚)「何が男尊女卑や! 何が男女平等や! 今の時代、男の方がよっぽど差別されとるわ! 奴等は『社会的に弱い』からこそ、国に守られて、実際は滅茶苦茶強いんや! ちょっと声かけただけでも不審者扱いする癖に、草食系男子とか馬鹿にすんのもいい加減にせえよ!? こんな歪んだ不平等は正さなアカン! 今こそ革命のと......モガッ!?」

私は、大きく開いたなんJ民の大口へと、きゅうり神を放り込み、

宇野「ハッ!」

下顎目掛けて、突き上げるように掌底を放った。外部からの衝撃により、なんJ民の口内できゅうり神が爆発する。掌底により顎は塞がれ、逃げ場を失ったきゅうりが口内で弾け、乱れ暴れた。

彡( )( )「ホゲッ......」


宇野「一つ。あなたが挙げた例は、ことさら酷い例を故意に選んだものであり、一般的な事例ではありません。一つ。相手がそういう輩かどうかを見極める目ぐらい、私は持っています。一つ。目の前の人間を『自分の思っている枠』に当てはめ、見極める努力もせず拒絶したあなたの思考は、それこそあなたの言う差別にあたります」

宇野「ネットで話題になるような、酷いニュースばかりを見るからそうなるんです。世の中はそんなに単純でも無ければ極端でもありません。......今すぐ認識を改めろとは言いませんが、彼女を運んであげる間だけは、その野蛮な口を閉じていてください」

彡( )( )「ワ...ワイは......間違って......な.........」

(´・ω・`)「なんでもいいけど今は大人しくしておこうよ。僕、あんまりきゅうり神様使いたくないんだ」

彡( )( )「お......ぼえ......てろ......」
223 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:47:10.75 ID:TwzxSY9iO

〜〜〜
宇野「だから、やり過ぎたのは私が悪かったですって。何度も謝ってるんですから、いい加減許してくださいよ」

彡(゚)(゚)「謝っただけで済むかボケ。ワイという貴重な戦力を傷付けた罪は計り知れんぞ」

宇野「治るんだからいいじゃないですか。後で好きな食べ物なんでも奢ってあげますよ」

彡(゚)(゚)「足らんわ。本気で謝る気なら、何でもするから許してください、ぐらいの事言ってみぃや」

宇野「嫌ですよ。こんなことで一々自由と人権明け渡してたら、命がいくつあっても足りないじゃないですか」

彡(゚)(゚)「あ! こいつ今こんなことって言ったぞ!まったく反省しとらんやんけ!」

宇野「それに人に親切にした見返りに、敵の居所が分かったんだから結果オーライですよ」

SJ学園前駅から東に1km程の所まで、奈央さんを送り届けた後、私たちはMJ公園へと向かっていた。車内で聞いた奈央さんの話によると、その公園に概念体と、レイプ被害者がいるのは間違いなかった。

奈央さんが話してくれた内容はこうだ。
奈央さんは今日の6時半に、SJ学園前駅で、彼氏とデートの待ち合わせをしていた。しかし待ち合わせの時刻から30分経った7時になっても、一向に彼氏は現れない。
彼氏は野球部に所属しており、日頃の習慣から、遅刻などまずしない男である。遅刻と、遅刻=自分が軽んじられている、それまでに積もっていた不満、雨に降られてデートが台無しになったこと。様々な要因から不機嫌になった彼女が、家に帰宅しようとした時に、彼氏から電話がかかった。
曰く、襲われていて、動けないから、助けて欲しい、と。
224 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:47:49.17 ID:TwzxSY9iO
雨のせいか聞き取り辛い彼氏の言葉を、奈央さんは『雨に襲われているから身動きぐ取れない、助けてくれ』と解釈。MJ公園へと二本の傘を持って向かっていった。

そしてMJ公園に着いた彼女は、大雨の中何者かにレイプされている彼氏の姿を、その目に収めた。彼氏だけではなく、公園の至る所で誰かが誰かを襲い、誰かが誰かに襲われていた。十数人はいたというその者達は、みな男だったという。
さらに、一際異様な男が一人いた。その男は、Yシャツに赤い縞模様のネクタイを締めた、サラリーマンの様な出で立ちであった。そいつは、男が男を襲う地獄絵図を、一人ベンチに座りながら眺め、愉快そうにワインを飲んでいたという。
奈央さんはその光景を見て、恐怖でパニックになった。「奈央、奈央、助けて」と聞こえる声も無視して、一心不乱にその場から逃げ去った。
走って、走って、とにかくその場から逃げ続け、やがて息が切れて歩くようになってくると。やがて、意味を理解出来なかった光景への恐怖心に加えて、自分は助けを求めた彼氏を見捨てて逃げた、ということがぼんやりと分かってきて。
怖いのか、悲しいのか、申し訳ないのか、悔しいのかも分からない、グチャグチャの気持ちになって。人目も道路の車も気にせず、泣きながら歩いている時に、私が現れたのだという。

権田「宇野さん、MJ公園に着きましたよ」

宇野「分かりました。では行きましょう、皆さん」

彡(゚)(゚)「偉そうに命令すんな!」

(´・ω・`)「内ゲバやってる場合じゃないよ、おにいちゃん」
225 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:48:38.33 ID:TwzxSY9iO
車外に出ると、奈央さんに聞いた通りの光景が、未だに広がっていた。狭い公園のあちこちで、雨に濡れるのも構わず、性行為を一心不乱に繰り広げる男達。そして公園の中央奥のベンチに座り、悠々とワインを飲むYシャツの男。

彼のいるベンチの側まで近づくと、私達を見咎めたその男が語りかけてきた。......乱交に勤しむ男達は、こちらを気にも止めない。

??「おや? こんなところに来客とはね。私に何か用かね?」

宇野「用も何も、私達は」

??「おっと、私としたことが女性を先に名乗らせてしまうところだ。紳士として恥ずべき振る舞いは避けなければね」

我修院「私の名は我修院。世の中にある美味といわれるものはもう全て食べつくしちゃっ…しまった、哀れな食通さ」

(´・ω・`)「食通って、美食家のこと? そんな人が、なんで男の人達に変なことさせてるの?」

我修院「いい質問だ、おちびちゃん。我々食通にとって、食事とは音楽のようなものなのだよ。優れた音楽を新たに発掘した時の快感は、君達にも覚えがあるだろう?」

(´・ω・`)「う、うん」

我修院「だが先程言ったように、私は最早、この世の美味という美味は食べつくしちゅっ......まった男だ。これでは、新たな美味への快感は望めない。私は食通を極めると同時に、食通が最も愛する快感を、永遠に失ってしまったのだ」
226 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/15(金) 15:49:12.59 ID:TwzxSY9iO
宇野「......この状況をつくった答えになっていませんね」

我修院「なに。食材の味への新鮮さは望めないなら、食材をより楽しむ状況を模索しよう、という当然の発想さ。ポールダンス、女体盛り、宴会、通夜。家族と、友人と、嫌いな奴と、知らない奴と。食事の環境によって美味さが変わるのは、食通以外も知っている常識だからね」

我修院「手始めに『大雨の中、理性もなく、性行為に励む浅ましい男達を見下しながら』呑むワインは如何程のものか、と試していたわけさ。.........失敗だったがね!」

そう言うと、男は右手に持っていた......恐らくは雨に打たれて味が薄くなっていた......ワイングラスを、続けて左手に持っていた酒瓶を地面に叩きつけた。一瞬視界が捉えたラベルには、『Roman?e-conti』の文字が。

宇野「ええええっ!? ロマネ・コンティ!? ロマネ・コンティって、例のアレですか!? 例のアレですよね!? なに捨ててんですか! まだ中身残ってたじゃないですか馬鹿なんですか!? 私にも飲ませてよ!!」

我修院「どんな最高級の酒も、飲み飽きてしまえば見知らぬ安酒にも劣るものさ。趣のある状況をつくってみても、美味くなるどころか更に不味くなってしまった。絶望だよ」

彡(゚)(゚)「雨がグラスに入って、味が薄くなってたからちゃうんか?」

宇野「ひどい......許せない......許せない! なんJ民さん! 原住民さん! やりますよ!」

彡(゚)(゚)「なんや、やっと戦うんか?」

宇野「そうですよ! 私はレイプ被害者の保護を、なんJ民さんは我修院の捕獲、原住民さんはなんJ民さんのサポートをお願いします!」

(´・ω・`)「ラジャッ!」

彡(゚)(゚)「お前に命令されんのは腹立つが、了解」

我修院「な、なんだね? 私を捕らえる? なんの話だ?」

宇野「我修院! 貴様はさっき言ったな!? 「紳士として恥ずべき振る舞いは避けなければ」と。ふざけるな! 『女の子を泣かせた』貴様は、紳士としてとっくに失格だ!」

我修院「な、なんの話だ! お前達は、いったい何者だ!」

宇野「私達は、お前達全員を引っ捕える為の、」

彡(゚)(゚)「正義の味方の、ヒーローの」

(´・ω・`)「coat博士の、一味だよ!」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/15(金) 16:35:57.67 ID:qBLJcOmWo
アツゥイ!
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/15(金) 21:03:34.81 ID:SZAupREPo
ホモは文豪
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/22(金) 01:59:02.08 ID:CA8tU/R00
ほうお。
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/07/29(金) 20:34:50.12 ID:Nros6u9V0
いいねぇ〜
231 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/30(土) 19:34:08.30 ID:7+k8sXgP0
【18話 我修院と......】

勢いは弱まったものの、雨は依然として降り注いている。視界を曇らす暗い空と、絶え間ない雨の線は鬱陶しく、また雨でぬかるんだ地面も動き辛い。身体を濡らす雨は、しかし気温の高さから冷えることなく、生温い湿気の不快感だけを与えてくる。
恵みの雨への感謝など、忘れて久しい都会人の一員として、私もシンプルに雨がうざかった。

「さて、奈央さんの彼氏はどいつかな」

雨に濡れるのも構わずに性交渉に励む、被害者達の群れへと足を運ぶ。精神レイプの被害者であり、加害者である彼らの元へと。

coat博士『精神を犯された人間の特徴は、大きく2つしかない。一つは、強烈な世田谷区への帰巣本能を持つこと。もう一つは、同性との性交渉を激しく求め、そのことしか考えられなくなる、というものだ』

虚ろな目で、涎を垂らし、排泄物に塗れた身体で腰を振る彼らの姿は、ゾンビを想起させた。自由意志を剥奪された人間ほど、痛々しいものはない。

coat博士『彼らは自我を奪われているだけで、肉体はただの人間だ。手荒なマネは控えるようにな』

博士によれば、彼らはただの人間。ならば気絶させて動きを止めたいのだが、自我がない、というのが少々面倒くさい点だ。
232 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/30(土) 19:35:01.58 ID:7+k8sXgP0
気絶させるには、心臓から頭部への血の巡りを止め、酸素の供給を一時的にストップさせる方法がある。だが漫画やアニメと違って、手刀をうなじに叩き込むのは、現実にやるとかなり死にやすいので危険だ。首を締めるというのも時間がかかるし、蘇生の為の喝を忘れるとやっぱり死にやすい。
では急所を突く方法はどうかというと、これもマズい。金的や鳩尾といった正中線の急所は、力加減を間違えたり狙いを外すと、甚大な後遺症が残る。しかもこの急所は『地獄のような痛みによって気絶させる』箇所なので、自我の無い彼らには、傷付くだけで気絶の可能性は低いかも知れない。
ならばと、私は手当たり次第に、彼らの顎に拳を放つ。顎は脳を揺らし、昏倒させる急所だ。これならば、自我の有無に関わらず、身体を動かす脳の機能をストップ出来る。
私は手近な奴から、一人、二人と気絶させていく。すぐ隣で仲間が倒されているというのに、他の奴らは見向きもしない。SEXのこと以外は、本当に頭の中に無いのだろう。

しばらくすると、いよいよ最後の一組まで殴り終えた。ワゴン車に運ぶ作業は権田さんにやってもらおう、と思いながら、四つん這いになった受けの男に蹴りを放つ。次いでタチの男に向け、若干疲れた腕で最後の一振りを放った。すると、

宇野「! えぇ?」

拳には、KBSトリオを蹴った時の、手応えの無いあの嫌な感触が。そして顎を抉られたタチの男は平然として、気絶した相方の穴へと腰を振り続けている。

宇野「概念体......ですか? こいつが?」
233 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/30(土) 19:35:30.54 ID:7+k8sXgP0
その男は、ただの年配のサラリーマンにしか見えなかった。以前、一応チェックしたホモビ出演者の顔のどれとも合致しないし、何よりKBSトリオや我修院と違って、自由意志やキャラが全く見受けられない。

宇野「どういうことだ? 凄いマイナーな男優かなにかか?」

いずれにしろ、概念体であるなら、なんJ民に頼ることになりそうだ。そう思いなんJ民の方を向いてみると、

我修院「ホラ、ホラ、もっと食べたまえ。たらふく食べたまえ。美味いと感じる喜びを、もっともっと噛みしめたまえ」

彡(^)(^)「うめえ! うめえ! こんな美味い肉喰ったの初めてや!」

(´・ω・`)「うめ、うめ......素晴らしいね。噛み切れない程ではない絶妙な固さが、歯応えとはこういうものだ、と教えてくれているようだ。噛む度に溢れ出る肉汁とスパイスが混じり合い、幾度もの感動を与えてくれる」

我修院「まったく羨ましいね。私にとっては飽き果てた食材でも、君たちにとっては新たなる美味の発見となる。嗚呼、私ももう一度だけ、もう一度だけでいいから、君たちのような快感をまた味わいたいよ」

何故か、仲良く食事会を開いていた。

宇野「なにやってんだ、あのバカは」
234 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/30(土) 19:36:21.22 ID:7+k8sXgP0
〜〜少し前〜〜
我修院「ま、待ちたまえ! 私は暴力は嫌いだ! 紳士として、まずは話し合いで解決しよう!」

開口一番、我修院は命乞いをしてきた。気を削がれたワイは、思わず立ち止まって理由を問うた。

彡(゚)(゚)「あん? なんでや、お前は悪者やろ? ワイは正義のヒーローやろ? 戦う以外にすることないやろ」

我修院「君は誤解している! 私は悪者などではない、しがない食通の紳士だ!」

(´・ω・`)「なに言ってんのさ、男の人達に酷いことさせてたくせに」

我修院「私は彼らをレイプしていない。彼らに何かを命令したことも無い。私は既に『出来上がっていた』彼らの、監視を任されていただけだ」

彡(゚)(゚)「任されてたって、誰にや?」

我修院「野獣先輩だよ」

彡(゚)(゚)「!」

(´・ω・`)「博士の言ってた、悪の親玉だね」

我修院「悪? 親玉? ......君達の言っていることは先程から良く分からんが、とにかく私は彼の命令に従っていただけだ」

彡(゚)(゚)「野獣先輩ってのは、お前らにとっての何なんや?」

我修院「待ちたまえ。君は順序というものを知らんのか? 君の言う敵である私が、君達に今、私の命綱である情報を喋るわけがないだろう」

彡(゚)(゚)「なんやと? てめぇ立場分かっとんのかボコりまくるぞ」

我修院「立場も分かっているし、ボコりまくられたくないから、取引しようと言っているのだよ。私は暴力は苦手なので、降伏すると言っているんだ」

我修院「私はこれから、君達の捕虜となろう。私の知る限りの情報を君達に話すから、君達は私の身の安全を保障してくれ」
235 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/30(土) 19:37:02.75 ID:7+k8sXgP0
彡(゚)(゚)「なんか、ややこしいわ。お前ボコって縛り上げた方が効率ええんとちゃうんか?」

我修院「君は先程、正義の味方を名乗っていただろう。ならば、降伏した相手の取り扱い方ぐらい覚えておきたまえ。紳士さを捨てた蛮族には、正義の看板は荷が重いぞ」

彡(゚)(゚)「いちいち偉そうで腹立つなコイツ」

(´・ω・`)「でも戦わないで済むなら、それに越したことはないんじゃないかな」

我修院「イマイチ不服なようだね。では、君達にも個人的なメリットを捧げよう」

そう言うと、我修院はベンチの傍らに置いてあった小包を、こちらに渡してきた。

彡(゚)(゚)「なんやこれ」

我修院「酒の肴に持ってきた、ただのつまみだ。私には飽き果てた雑穀でしかないがね」

彡(゚)(゚)「ふん! 上から目線も大概にせえよ。お前の残飯なんか要らんわ」

我修院「まぁ、まずは食ってみたまえ。もし私の身を保障してくれたら、そうだな。その残飯など比べ物にもならない美食への道を、私が案内してやろう」

〜〜現在〜〜
『食通の中の食通しか招かれることのない』という店を、最近知人に紹介されてね。と、我修院は言葉を紡いだ。

我修院「新たな美食を期待しては裏切られ、を繰り返した為に、あまり乗り気でなかったのだがね。だが、君らのおかげでもう一度チャレンジする気力が湧いてきたよ。もし君らさえ良ければ、私と一緒に来てみないかい?」

我修院に貰った極上の肉を啄みながら、そんな夢のような話を聞いていると、向こうで変態をボコ殴りにしていた宇野が近付いてきた。
236 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/30(土) 19:37:44.41 ID:7+k8sXgP0
宇野「なに、仲良く談笑しているんですか」

(´・ω・`)「あ、宇野さん。あのね、この人僕らに降参して、捕虜になりたいんだって」

明らかに不機嫌な態度の宇野に向けて、原住民が我修院が捕虜を願い出た旨を伝えた。

宇野「降参? あなたが? ......なにか、狙いでもあるんですか?」

我修院「逆に聞くが、捕虜になるのに『己の身を守りたい』以外の理由がいるのかね?」

宇野「......まぁ、楽に生け捕りに出来るに越したことはありませんね。あなたを車で運ぶに当たって、縄で拘束させてもらいますが構いませんね?」

我修院「極力、紳士的に頼むよ」

宇野「では、早速荷物を積む作業に入りしましょう。原住民さんは権田さんと一緒に、私が倒した人達を車に積んでください。なんJ民さんは、あそこで腰振ってる男をぶん殴って下さい」

彡(゚)(゚)「なんやあれ。なんでアイツだけ倒れてないんや?」

宇野「見覚えはありませんが、アレもあなたや我修院と同じ、概念体みたいです」

彡(゚)(゚)「ほーん。なんか個性が無いというか、こう、オリジナリティに欠ける見た目やなぁ」

(´・ω・`)「同じこと繰り返して言ってるよ、おにいちゃん」

宇野「ちゃっちゃと終わらせて、今日は早く帰りましょう。あんまり濡れる時間が長いと、風邪を引いてしまいます」

そう言う宇野に続いて、小降りになってきた雨の中、ワイらは気絶した野郎共を車に運び始めた。
237 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/30(土) 19:38:21.51 ID:7+k8sXgP0
【ステータス】
我修院
心......知識A 判断力C 精神力B 対人能力B
技......回避E 組手E 間合いD 攻撃手段E
体......腕力E 敏捷性E 持久力D 耐久性D

特殊概念
・飽くなき探求の終着点(グルメ・ターミナス)
この世全ての美味を把握、理解する舌と頭脳。それが我修院の持つ唯一の、そして決して他の追随を許さない絶対の能力である。

ちなみに、
「この世の美味という美味を食べ尽くした」
という我修院の言葉に?偽りは無いが、しかしそれは真実でもない。何故なら、この世には何万という料理の種類があり、何億という料理人が存在し、一つの料理に対する調味料の加減だけでも、そのバリエーションは何百通りと変化する。
人間の、たかだが数十年の生涯の中で味わい尽くすには、世界に偏在する美味の総量はあまりにも膨大過ぎる。

では、何故彼はこの世の全ての美味を食べ尽くし、その味に飽いているのかというと、それは彼の味覚に問題があった。生涯において、それでも常人の何百倍という美味を味わい続けた彼の味覚と脳は、いつの頃からか重大なバグを抱えるようになったのだ。
そのバグとは、『初めて食したはずの美味を、口に含んだ瞬間に、いつかどこかで食べたものと錯覚してしまう』というデジャヴ現象である。このデジャヴのせいで、我修院は何を食べても既視感を覚え、何を食べても新鮮味を感じない、食通にとって最悪の状況へと陥ってしまった。

美食を求め、食通を極めたからこそ、食を感じる機能に欠陥が生じ、人並みの『美味しい』を喪ってしまった男、我修院。
しかし、彼にもまだ希望はある。彼が把握しているのは、あくまでこの世全ての『美味』である。ならば、一般的にはとても『美味とは呼べない』ものなら、彼の味覚に新しい刺激を与えることが可能かも知れない。
例えば、それは....................................。
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/30(土) 21:30:43.85 ID:6CQMOowEo
本格能力バトルものですね…
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/01(月) 09:07:05.85 ID:1I1aZTp20
ええ・・・・・・
240 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/08/02(火) 11:57:40.65 ID:VLRklyEc0
十数人を詰め込み、流石にかなり窮屈に思えるワゴン車の後部座席で、私は我修院と対面した。この車は現在、ある料理店へと向かっている。
理由は、なんJ民達のたっての希望と、その店に連れて行くと約束しなければ、決して何も喋らないという条件を出されたからだ。
私はテープレコーダーのスイッチを入れ、縄で拘束した我修院へと質問を始める。

宇野「では我修院、あなたの知っている情報を教えてもらいましょうか」

我修院「質問がアバウト過ぎるね。インタビューというものは、聞き手が何を知りたいかを明示しなければ話にならないぞ」

宇野「んなこたぁ分かってます。順を追って聞きますが、まずはあなたの所属を」

我修院「自由気ままなフリーの食通......と言いたいところだがね。現在の私は、『ホモ・アルカディア』と名乗る組織に所属している」

宇野「ホモ・アルカディア? ホモの方は、どうせあっちの意味でしょうが、その後のアルカディアというのは......」

我修院「古代ギリシアの時代に実在したとされる、理想郷の名前だな。ホモ・アルカディアという名前は、『同性愛者の理想郷』という意味で付けたらしい」

宇野「理想郷というと、ユートピアの方が馴染み深いと思いますがね。では、ホモ・アルカディアのリーダーというのは」

我修院「田所浩二......君達には、野獣先輩の呼び名が馴染み深いようだね。我々は、彼の元に集まり、彼の命令で動いている」
241 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/08/02(火) 11:58:15.79 ID:VLRklyEc0
宇野「我々というのは?」

我修院「基本は、同性愛者の集まりだ。私は違うがね。みんな野獣先輩に集められた、という点以外では、個々の特徴が強すぎて特に共通点は無い」

宇野「ホモ......面倒臭いのでアルカディアと呼びます。アルカディア、そして野獣先輩の目的は何ですか? あなた方は彼の目的を知っているんですか?」

我修院「真意、という意味なら全く知らん。だが、彼はいつも我々に、『俺は同性愛者を救う為に戦っている』と公言しているな」

宇野「では、あなた方は彼の思想に共鳴して、彼に従っているということですか」

我修院「もちろん、中にはそういう者もいる。だが私から見れば、大半の連中はただ、欲望を発散する場所を求めているだけに思えるね」

宇野「自分はどちらとも違う、といった口ぶりですね。では、あなたが野獣先輩に従う理由は何ですか?」

我修院「分からん」

宇野「は?」

我修院「分からんのだよ。私は、気付いたら彼の部下になっていたのだ。部下になる直前のことは、イマイチ覚えていない」

宇野「......直前のことを覚えていない、ですか。なら、彼の部下になる以前のあなたの人生は、どのようなものだったんですか?」

我修院「今と変わらず、美食の道を探求していたよ」

宇野(......あくまで、『我修院としての人生』の記憶しか持っていない、ということか)
242 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/08/02(火) 11:59:04.98 ID:VLRklyEc0
......野獣先輩サイドの、概念体。彼らがどういう手段で、どこからやってきた存在なのかを、我々はまだ知らない。
彼らがどの段階で概念体になったのか。概念体になる以前は、かつてホモビに出演した役者、生身の人間だったのか。それとも、あるいは役者とは無関係に、無から生み出されたまったく新しい命なのか。
我修院に自覚が無い以上、私に過程を探る術はない。それはcoat博士の領分だ。ならば私は、せめて今の状態だけでも把握しなければ。

宇野「ではあなたは、意志を持って彼の部下になったわけではないのですね。しかし食通のあなたには、特に野獣先輩に従う理由は無いでしょう」

我修院「従う理由なら、あるさ。......良いことを教えよう。我々は今、世田谷区の外には決して出れない。何故だか分かるかね?」

宇野「そうなんですか? いえ、さっぱりです」

我修院「大半の者はまだ気付いておらんが、我々は見張られているのだよ。野獣先輩の片腕、始まりのホモによってね」

宇野「始まりのホモ、ですか。どんな奴なんですか?」

我修院「常に黒いフードを被った、顔も分からん不気味な男だよ。野獣先輩が理想と、性欲を発散するハッテン場を提供してくれるアメなら、始まりのホモはムチの役割を持った男だ」
243 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/08/02(火) 11:59:45.73 ID:VLRklyEc0
「あれは、まだ私が野獣先輩の部下になったばかりの頃だ」と、我修院は語り始める。

我修院には当初、TKGWという食通の仲間がいた。我修院を含む野獣先輩の部下は、「今は自由に行動してくれて構わん。だが、世田谷区の外には決して出るな」という指示を受けていた。
しかし我修院とTKGWら食通を極めんとする者にとって、世田谷区以外での食事の禁止というのは、1日2日だけでも苦行であった。
同性愛者の人権にも、ホモSEXにも興味は無く、野獣先輩に従う忠誠心も無かった二人は、ある日脱走を図った。
二人には、脱走、という意識もあまり無かった。監視も警備も無い状態だったので、危機感を感じなかったという。渋谷区へ向かう二人の頭には、次に食す美味の事しか無かった。しかし、

TKGW「我修院さん! ホラ早く早く! こんな三流グルメだらけの町を出て、本物の美食を堪能しマ°ッッ!!!」

意気揚々と歩き、遂に渋谷区との境目に差し掛かった瞬間。5m先を歩いていたTKGWの頭が吹き飛んだ。首の上のものがフッと消えたと思うと、数瞬後に頭があった場所へと血が噴出した。そして数秒後には、TKGWの首から下は前のめりに倒れ、血を地面に撒き散らし、小刻みに痙攣を起こしていたという。

我修院「......驚愕する、とは正にあのことだ。数秒前まで共に喋り、共に笑い、共に歩んでいた者が、突然無惨な死骸に成り果てる。悲しいとか怖いとかいう以前に、思考が追いついて来なかったよ」

宇野「まぁ、そうですよね。よく分かりますよ」
244 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/08/02(火) 12:00:37.82 ID:VLRklyEc0
我修院「訳も分からずTKGWくんの死体を凝視していると、あの男が目の前に現れて、私にこう言った。『駄目だよ、世田谷区の外に出ちゃ。田所さんとの約束を破っちゃ駄目じゃない』 『この子は境界線を越えちゃったけど、君はギリギリセーフだよ。今度からは気をつけてね』と」

我修院「おそらく彼は、見せしめとしてTKGWくんを殺したのだろう。そして私は、見せしめの証人として見逃された。......TKGWくんと私の位置が逆だったら、殺されていたのは私だったのだ。あまりの恐怖に、2日間食事が喉を通らなかったよ」

宇野「......その始まりのホモは、どうやってTKGWの頭を吹き飛ばしたのでしょうか」

我修院「さっぱり分からんよ。だがあの時、左側の道の塀に、盛大な血の跡が着いていたのを覚えている。あれはきっと、潰れたTKGWくんの頭だったのだろう」

宇野「映画スキャナーズのような、『超能力で頭がパーン!』ではなくて、何らかの凄まじい圧力が、TKGWの側頭部から襲ったということですね」

我修院「どうだろうね、分からんよ。もっと言ってしまえば、始まりのホモがずっと私達の跡をつけていたのかも知れんし、もしかしたら境界を越えた瞬間に瞬間移動の様なことをしたのかも知れん。あの男に関しては、分からないことが多過ぎて怖くてたまらん」

我修院「とにかく、始まりのホモの監視があって、我々は世田谷区の外には出れない。だが、ただ黙って野獣先輩に従っていれば安全は保証され、しかもオイシイ思いにありつける。わざわざ彼の元を離れようとする者は、少なくとも今はいないよ」
245 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/08/02(火) 12:01:48.61 ID:VLRklyEc0
宇野「では、あなた方は世田谷区の中で何をしているんですか」

我修院「割り振られた担当地域に居を構えて、好き放題やっているよ。大半の連中は、一般男性のレイプに興じているようだね。私のように同性に興味の無い男は、先ほど君が見たような監視員をやっている」

宇野「割り振られた地区、ですか。他の仲間の居場所は?」

我修院「悪いが私は、野蛮人との交流は浅くてね。教えられるのは一人だけだ」

そう言うと、我修院は『中野オリジナル』なる店の名前と、その住所を口にした。中野くんという男とは、料理人と食通の関係から、何度か会話をしたことがあるという。

宇野「いいんですか? 真っ先に仲の良い仲間を売ってしまって」

我修院「別に親しい間柄ではない。彼の料理を食えば君も分かるだろうが、私は彼が死んだとしても、欠片も惜しいとは思わんよ」

宇野「.........。」

大して期待していなかった、他の概念体の居場所まで分かった所で。私は頭の中で、我修院から得た情報を整理してみる。
@野獣先輩は仲間を集め、組織を作っていた。組織の名前はホモ・アルカディア。
A野獣先輩の仲間は概念体であり、何らかの方法で増やしているようだ。数は不明だが、今の所数十人程度と想定しておく。
Bホモ・アルカディアは世田谷区内でのみ活動し、精神レイプ被害者を増やしている。その目的は不明。
C概念体の記憶、性格はホモビの内容や設定に準拠している。
D概念体も大きなダメージを受けると死ぬ。野獣先輩の片腕、始まりのホモは、概念体を殺めるだけの力を持ち、世田谷区の外に出ようとする仲間を粛清している。
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