にこ「きっと青春が聞こえる」

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60 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/27(日) 20:51:55.32 ID:ID/tEswDo

竹達「や、それはわかったけど……それがなんで急に泣き出したことにつながるわけ?」

にこ「それ、は……」

 言い出しづらい部分に触れられ、言いよどむ。
 
 だけど、曖昧にしちゃだめだ。

 ちゃんと、けりつけないといけないことだから。

後藤「――私たちとお別れするから、よね?」

にこ「っ」

 口を開こうとした矢先。

 思っていたことを言い当てられる。
61 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/27(日) 20:58:34.80 ID:ID/tEswDo

飯塚「お、お別れ!? なんで!?」

後藤「……私が言って、いいのかしら?」

 ちら、と視線を向けられる。

 うまく説明できる自信がなかったから、正直、ありがたい申し出ではある。

 だけど、なんで私の考えてることが、わかるの? この子は。

後藤「私もね。このグループで唯一部活に所属してるから、なんとなくにこの気持ちはわかるの」

 私の心中を知ってか知らずか、問いに答える後藤。

後藤「物理的に一緒にいられる時間が少なくなるからっていうのも、もちろんあるんだけどね」

後藤「根本的に、熱量が違うの」

竹達「熱量?」

後藤「うん。例えば私なんかは、部活やってるときなんかは『やるぞー!』ってすごく熱いエネルギーを持ってるんだけど」

後藤「みんなといるときは、なんていくか……ぬるま湯につかってるような、ほんわかーな気持ちになるの」

後藤「オンとオフ、っていえばわかりやすいかしら」
62 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/27(日) 21:07:17.41 ID:ID/tEswDo

竹達「だ、だけど、ごとーちゃんはそれでも私らと一緒にいるわけじゃん? だったらにこっちだって……」

後藤「私は今の部活に入ったの、高校からだからねぇ。正直、そんなに熱心なわけでもないの」

後藤「だから部活のことを全く考えない、オフの時間を作れる」

後藤「だけど、にこの場合は――そうじゃ、ないんでしょ?」

にこ「――――」

 後藤の言う通り。

 私にとってアイドルは、かけがえのない生きざま。

 だからこそ、やるからには中途半端を、だれよりも自分が許せない。

 目標があり。努力があり。必死さがあり。練習があり。練磨があり。

 ひたすらに毎日を、中身のあるものにさせていく。

 アニメの主人公、宇宙ナンバーワンアイドルにこにーになるためには。

 女子高生Aであっては、いけない。
63 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/27(日) 21:16:16.81 ID:ID/tEswDo

にこ「ごめん……」

 だからこれは、二度目の決別。

 この世界に来たあの日、九人という形に別れを告げた私は。

 ひどく自分勝手な理由で、今度はこの四人という形に別れを告げている。

 嫌われたって、おかしくない。

飯塚「…………」

竹達「…………」

 二人とも、うつむいたまま言葉を発しない。

後藤「ね、二人とも……にこのこと勝手だって思うかもしれないけど、でも――」


飯塚・竹達「焦ったぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」


にこ・後藤「…………へ?」
64 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/27(日) 21:21:21.01 ID:ID/tEswDo

竹達「いやそれってさ、要はこのゆるぅい雰囲気に流されちゃだめだーってだけでしょ?」

にこ「う、うん」

飯塚「じゃあさ、廊下ですれ違った時に『元気―?』とか挨拶していいんだよね」

にこ「も、もちろん!」

竹達「電話とか立ち話だってセーフでしょ?」

にこ「え、あ、そう、だけど……」

飯塚「それって、全然お別れじゃないよー」クスクス

にこ「う、え、そう?」

竹達「そーそー。そんなの全然さ――友達の範疇じゃん」

にこ「――――」

 あ、やば。

 また目頭、熱くなってきた。

後藤「なんだか、一本取られちゃった感じね?」

 
65 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/27(日) 21:29:59.86 ID:ID/tEswDo

 それから散々「重くとらえすぎ」とかからかわれて。

 三年生になるまでは今の関係を続けることを伝えて。

 一緒にご飯を食べて。

 授業を受けて。

 放課後は四人でボウリングに行って。

 お別れして。

 帰ってきて昨日のように布団に耐えれこんだところで――再び涙があふれてきた。

にこ「うううぅぅぅ……!」

 アイドルへ向けて、再燃焼していく中でも。

 このひだまりのような心地よい温かさは、きっとどこかで残り続けていくんだろうな、と思った。
66 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/27(日) 21:35:27.45 ID:ID/tEswDo

 年度が変わり、四月某日。

 ついに運命の日――音ノ木坂廃校告知の日がやってきた。

 登校し、校門をくぐる前。一度足を止める。

にこ「――よし」

 気合は十分。覚悟も十分。

 今日、ここからすべてが始まっていく。

 この世界に来てからまだひと月程度しか経ってないのに、ずいぶんいろいろなことがあったように感じる。

 ――ちょっとは成長、できたかな?

にこ「なんてね」

 少しだけ固まっていた緊張を、笑顔で解きほぐす。

 うん、やっぱりにこにーは笑顔でいなくちゃね。

 さて。行きますか。

 これから始まる、かつて始まったμ'sの誕生へ向けて、私は一歩踏み出すのだった。
67 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/27(日) 21:37:42.79 ID:ID/tEswDo








 ――その日。結局放課後まで待っても、廃校の告知が張り出されることはなかった。







68 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/27(日) 21:39:18.63 ID:ID/tEswDo
ここまで
ようやくプロローグが終了しました
やっとほかのμ'sのメンバーが出せる
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/27(日) 21:47:26.90 ID:VPrrh1+/O
がんばれ
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/27(日) 21:48:13.82 ID:+CX7SjRJo
おつ
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/27(日) 21:49:33.38 ID:uK3IoZh/O
歴史が変わってしまったのか…
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/27(日) 23:56:49.35 ID:4ZwGJ2hT0
楽しみすぎる……

小説形式の方がやっぱり好き
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/29(火) 10:48:50.17 ID:dZYH5i5h0
期待
74 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 19:36:37.14 ID:JvmSDeLco

 日付を勘違いしてたかな、と思って三日待った。

 何かイレギュラーが発生したのかも、と思って五日待った。

 半分くらいあきらめて、一週間待った。

 十日経った頃――私は学校へ行かなくなった。
75 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 19:42:03.51 ID:JvmSDeLco

にこママ「じゃあ私仕事行くけど……ほんとに看病してなくて大丈夫?」

にこ「……ん。大丈夫だから」

にこママ「だけどもう三日でしょ? ただの腹痛っていってもこれだけ続くなら……」

にこ「大丈夫だから。寝てれば……よくなるから……」

にこママ「……明日も変わらないようだったら、病院へ行きましょう。いいわね?」

にこ「…………」

にこママ「……行ってきます」

 見送りの言葉を返すこともできず、黙ったまま家のドアが閉まる音を聞く。

 さすがにママもおかしいと思い始めたみたい。

 たぶん、私がずる休みしてるって気づいてる、よね。

にこ「……はぁ」

 なんだかほんとにおなか痛くなってきそう。
76 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 19:53:11.70 ID:JvmSDeLco

 眠って、目覚めて、ご飯食べて、眠って。

 この三日間それだけを繰り返してた。

 いつか目覚めたら。

 全てが夢でした、ってなればいいのに。

 そんなことを願いながら、だけどそんなことにならないってわかりながら。

 ただ無駄に時間を削っていくことに焦りながら。

 もう――なにもする気になれなかった。

にこ(これ……ずっと学校行かなかったらどうなるんだろ?)

 不登校?

 ひきこもり?

 卒業もできなければ、進学もできない、の?

にこ「――――っ」

 じわりと心を蝕む予想に背筋が震えた。

 どうしよう、どうしよう――
77 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 20:31:53.41 ID:JvmSDeLco

 ――――――

 ――――

 ――

「――というわけで、本日特集するのは今大人気のスクールアイドル、A-RISEです!」

にこ「――ん、」

 いつの間にか落ちていた眠りから目覚める。

 つけっぱなしにしていたテレビは夕方のニュース番組を垂れ流していた。

にこ(やば、電気代もったいない……って、A-RISE?)

 聞きなれた名前と、流れ出した曲に意識がはっきりする。

 
 Can I do? I take it, baby! Can I do? I take it, baby!

 
にこ(これ――Private Wars?)

 かつては私たちがラブライブで下した相手が――画面の中で、輝いていた。
78 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 20:43:29.52 ID:JvmSDeLco

 かつてμ'sができる前。飽きるまでリピートしてた曲。

 
 What`cha do what`cha do? I do ``Private Wars``

ほら正義と狡さ手にして

 What`cha do what`cha do? I do ``Private Wars``

 ほら人生ちょっとの勇気と情熱でしょう?


 歌詞なんか見なくても口ずさめるほど聞いていた曲。


 もう辞めちゃうの?

 根気がないのね

 ああ…真剣に欲しくはないのね


 そんな曲が、今になって。


 What`cha do what`cha do? I know ``Dangerous Wars``

 ただ聖なる少女は趣味じゃない

 What`cha do what`cha do? I know ``Dangerous Wars``

 ただ人生勝負を投げたら撤退でしょう?

 
にこ「――――」


 What`cha do what`cha do? I do ``Private Wars``

ほら正義と狡さ手にして

 What`cha do what`cha do? I do ``Private Wars``

 ほら人生ちょっとの勇気と情熱でしょう?
 

 私の心を打ちのめすのは――なんでなの。
79 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 21:03:06.59 ID:JvmSDeLco

 テレビから流れる曲を、呆然と聞いていたものだから。

 ピンポーン。

にこ「あ、はーい」

 不意に鳴ったチャイムの音につい反応してしまった。

にこ(あ、しまっ……)

 と思っても後の祭り。宅急便だろうが宗教勧誘だろうが居留守は使えなくなってしまった。

 まあ、別に本当に具合が悪いわけじゃないから、居留守使う必要もないんだけどさ。

にこ「はーい、どちらさ……ま?」

 なーんて油断してたものだから、ドアを開けた瞬間、時間が止まってしまった。

「こんにちは、矢澤さん」

にこ「あな、た……」

 だって、予想できる?

 ドアの前に――例の元アイドル研究部員が立ってるだなんて。
80 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 21:27:59.72 ID:JvmSDeLco

にこ「……麦茶しかないけど」

「気をつかわなくていいのに。病人でしょう?」

にこ「もう治ったから、大丈夫よ」

「そう、じゃあ明日は出てこれるのね。安心したわ」

にこ「…………」

 ほんと、わけがわからない。

 なんで私は今この子のおもてなしをしてるわけ?

「じゃあ、これ。今のうちに渡しておくわね」

にこ「あ、ありがと……」

 渡されたのは、私が休んでる間に配られたプリントの数々。

 どうも同じクラスであるこの子が私のお見舞いに選ばれたらしい。

 ――この子、三年の時も同じクラスだったっけ?
81 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 22:51:02.82 ID:JvmSDeLco

「これ……」

にこ「え?」

 いぶかし気に見ていると、彼女はつけっぱなしになっていたテレビに視線を向ける。

 ニュースはいまだ変わらずA-RISEの特集を続けていた。

「今一番人気のスクールアイドル、A-RISEか……」

にこ「…………」

 何の含みもないはずのその言葉が、なぜだろう、いやに私の心をささくれ立たせる。

「すごいわね。ここまで上り詰めればスクールアイドルだって立派なものだわ」

にこ「……立派じゃなくて悪かったわね」

「誰もそんなこと言ってないじゃない?」

にこ「言ってるようなものでしょ!? そーよ、たしかに今の私は仲間一人いないちっぽけなぼっちよ!」

にこ「だけど、だけど私だって、前までは……!」

「前?」

にこ「…………」

「なんで急に押し黙っちゃうのよ」クスクス

 なんで、なんて言えない。

 私がこのA-RISEより人気のグループにいた、なんて、信じてもらえるはずがなかった。
82 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 22:59:03.77 ID:JvmSDeLco

「あの子たちと、距離をとったんだって?」

にこ「え?」

「春休み前まで仲良かったあの三人。クラスが変わったからっていうのもあるんだろうけど、それにしても極端じゃない?」

にこ「それ、は……」

「……矢澤さんの中には、あったんじゃないの?」

にこ「え?」

「あの関係を断ち切ってでも、作りたい関係が。あったんじゃないの?」

にこ「なんで、それ……」

「あ、本当にそうなんだ。カマかけてみるものね」クスクス

にこ「…………」

「怒らないでよ。別に馬鹿にしてるわけじゃないわ」

「ただ、今の矢澤さんを見てると、なにがしたいのかわからないんだもん」

にこ「なっ、」

「ねえ、もう一度聞くわ」

 やめて、と言うより早く。


「あなたが私たちを置き去りにしてまで守ってたものは――もう、いいの?」


 再度、彼女の言葉が私を射抜く。

「――長居しちゃったわね。お大事に」

 手早く荷物をまとめると、彼女は私が返事する前に出て行ってしまった。

にこ「――――」

 押し黙るみじめな私をよそに、A-RISEだけが、画面の向こう側で笑顔を振りまいていた。
83 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 23:01:39.50 ID:JvmSDeLco

 翌日。彼女にああ言った手前休むこともできず、私はいやいやながら登校した。

 教室のドアを開けても、二、三人が視線を向けて、それだけ。

 まあ、別にいいけどさ。

「…………」

 一番後ろの席で、あの子がにやにやしてるのだけは、なんだか癪にさわった。
84 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 23:14:53.72 ID:JvmSDeLco

 お昼休みにアイドル研究部へ逃げる癖は、残念ながら復活してしまった。

 ママお手製のお弁当を片手に提げつつ、部室へ向かう。

にこ(アイドル。あいどる。愛弗……)

 何かを考えているようで、実は考えていないまま、とぼとぼ廊下を進む。

 ここにきて気づかされたことが、ひとつ。

 私――μ'sに関しては、穂乃果たちにおんぶにだっこだったんだ。

 あの子が作ったグループに、私が「入れてもらった」だけ。

 私がしてたことといえば、意地張って彼女らをつぶそうとしてたことくらい。

 自分からアイドルの道を進むのは――そのころ、とっくにやめてたんだ。

にこ「ほんと……私、なにがしたいんだろう」

 昔も、今も。

 やりたいことははっきりしてるはずなのに、なんでこんな中途半端なんだろう。
85 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 23:21:55.92 ID:JvmSDeLco

「ほらー、やっぱり誰もいないみたいだよ? 早く行こうよー」

「あ、うん……おかしいな……」

 と。私の目指す先から会話が聞こえる。

「一人しか残ってなかったんでしょ? やめちゃったんだよ、きっと」

「そう、なのかなぁ……」

「だからさ、一緒に陸上部やろうよ! きっと楽しいよ」

「で、でも……私運動苦手だし……」

「なおさらだよ! 一緒にがんばって大会とか出られるようになろうよ!」

「う、うーん……」

「そもそも入部するかどうかも決めてなかったんでしょ? ここ。だったらすぱっと諦めちゃおうよ」

「そう、かな……」

 会話から察するに、部活に悩む一年生、ってところかしら。

 あーはいはい、美しい青春模様は私と関係ないところで――

 って、ちょっと待った。

 この声が聞こえてるのって、私が向かってる場所――アイドル研究部の部室前から、よね。

 というか、というか!

 この、聞き覚えのある声って、まさか――
86 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 23:24:11.63 ID:JvmSDeLco

凛「ほら、とりあえずご飯食べにいこ、かよちん。食堂埋まっちゃうにゃ!」

花陽「あ、ちょ、引っ張らないで凛ちゃぁぁぁん!」

 
 曲がり角を曲がり、勢いよく私とすれ違った二つの人影は。

にこ「は、ははは……」

 忘れもしない、大好きな二人の後輩。
87 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 23:30:23.35 ID:JvmSDeLco

 嘘、だって、花陽が?

 自分から、アイドル研究部を訪ねてきたの?

 あんな内気で、穂乃果たちに半ば無理やり勧誘されてようやくμ'sに入った、あの子が――

にこ「く、くくく……」

 なんだか、笑えて来ちゃった。

 そっか。そうだよね。

 やりたいから――やるんだよね。


『あなたが私たちを置き去りにしてまで守ってたものは――もう、いいの?』


 今ならはっきり答えられる。

 よくなんか、ない。

 私はまだ、全然――μ'sのこと、諦めてないんだから!

にこ(なければ、作ればいいじゃない!)

 そうだ。いつまでも穂乃果頼りじゃ先輩として情けないもんね。

 誰も作らないなら、私がμ'sを作っちゃえばいいのよ。

 あの九人を――この手で、もう一度集めてやる。

 
にこ「それが、私のやりたいことだから」
88 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/03(日) 23:31:20.08 ID:JvmSDeLco
ここまで
ようやく話が動き出した
89 : ◆FIL6bekrn. [sage saga]:2016/04/03(日) 23:36:07.68 ID:Aepcm88h0


えりちとか難攻不落そう

支援
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/04/03(日) 23:36:43.56 ID:Aepcm88h0
やべえ酉付けてたはずい
91 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/10(日) 22:17:56.34 ID:wLPEX5oto

 思い立ったが吉日とは昔の偉い人の言葉。

 その日の放課後、私は一年生の教室へ顔を出していた。

「小泉さーん、お客さんだよー」

 ちょうど教室を出ようとしていたクラスの子に、花陽を呼ぶよう頼むと。

花陽「は、ははは、はひ!?」

 わかりやすいくらい動揺してる声が教室から飛んできた。

 目を白黒させつつ隣にいる人物を見やる。

 一言二言会話をすると、とてとてと危うい足取りで近づいてくる。
92 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/10(日) 22:26:34.54 ID:wLPEX5oto

花陽「わ、私ですか?」

 不安げに瞳が揺れている。

 ま、入学してひと月も経ってないのに急に三年生から呼び出されたら、花陽でなくてもこんな反応にはなるだろうけど。

にこ「そ、間違ってないわよ。はな……小泉さん」

花陽「は、はぁ……」

 危ない危ない。ついいつもの癖で下の名前で呼びそうになっちゃったわ。

凛「で、三年生がかよちんになんの用ですか?」

 少しつっけんどんに尋ねてきたのは、当然のようについてきていた凛である。

 もちろんこの子にも用があるわけだからなにも問題はないけれど。

にこ「そんなに構えないでよ。別にとって食おうってわけじゃないんだから」

凛「別に、そんなつもりは……」

 否定しながらも、警戒は解いていない様子。
 
 ほんとこの子、猫みたいねぇ。
93 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/10(日) 22:38:03.52 ID:wLPEX5oto

にこ「あなたたち、今日のお昼アイドル研究部の部室に来てたでしょ?」

花陽「えっ」

凛「なんで知ってるんですか?」

にこ「あなたたちの去り際にすれ違ったの、気づかなかった?」

 顔を見合わせる二人。

 同時に顔を横に振るということは、案の定気づいていなかったのだろう。

にこ「ちょっと話が聞こえたんだけど、アイドルに興味あるんでしょ?」

花陽「そうですけど……あなたは?」

にこ「ああ、名乗ってなかったわね。私は矢澤にこ。アイドル研究部の唯一の部員にして、当然部長よ」

花陽「え!?」

 途端、花陽の目に輝きが灯る。
94 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/10(日) 23:07:44.35 ID:wLPEX5oto

にこ「単刀直入に聞くわ。あなた、アイドル研究部に入らない?」

花陽「は……はい! ――あ、」

 力強くうなずいた後、何かに気づいたように花陽は顔を曇らせる。

 視線はそのまま隣に立つ凛へ向けられる。

花陽「あの、凛ちゃん。陸上部のこと、なんだけど……」

凛「かーよちん」

 言いずらそうにする花陽のセリフを、笑顔で遮る凛。

凛「凛に気を遣う必要なんて全然ないんだよ? かよちんは、かよちんがやりたいようにするのが一番だから」

凛「そう。やりたいことやるのが―― 一番、だから」

花陽「凛ちゃん……」

にこ「あのー、しんみりしてるところ悪いんだけど」

にこ「私としてはあなたにも入って欲しいの――星空さん?」

花陽・凛「え?」
95 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/10(日) 23:26:30.64 ID:wLPEX5oto

 そう、花陽だけじゃ意味がない。

 だって私がそろえたいのはμ'sの九人。

 凛だってそのうちの一人なんだから。

にこ「どうかしら? 小泉さんとも仲がいいみたいだし、きっと馴染むはずだわ。陸上部のこともあるかもしれないけど、」

凛「私はいいです」

にこ「…………え?」

 ぴしゃりと。

 強い否定の言葉だった。

凛「私は――いいです。アイドルとか、そういうの、似合わないから……」

にこ「や、でも……」

凛「いいです」

 有無を言わさぬ否定は、変わらず。

凛「じゃあ、私はもう陸上部に仮入部してるから……失礼します」

凛「かよちん、頑張ってね」

花陽「……うん。凛ちゃんもね」

にこ「あ、ちょっ……」

 止める間もなく、凛は荷物をまとめ教室を走り去っていった。
96 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/10(日) 23:49:30.46 ID:wLPEX5oto

花陽「あの……矢澤先輩?」

にこ「っ、と。なに?」

 ぼーっとしていた私の意識を花陽の声が引き戻す。

 まさかあんなに頑なに拒否されるなんて……穂乃果の話と違うんだもの。

花陽「先輩がなんで凜ちゃんを誘ったのかはわからないですけど……凛ちゃんは、アイドルとか、そういうのはやらないと思います」

にこ「なん、で?」

花陽「その、あんまり詳しくは言えないんですけど……凛ちゃん、可愛い格好するのに抵抗あるから……」

にこ「…………」

 それは知ってる。

 スカートをはいて男の子にからかわれたりして、自分には可愛い恰好は似合わないと思い込み。

 以来ボーイッシュな恰好を好むようになった、とは。

 でも、だからってアイドルをやることを拒むほどではなかったはず。
97 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/11(月) 00:07:04.84 ID:Axli+PN8o

にこ「――変わってるってこと、なの?」

花陽「?」

 私の独り言に首をかしげる花陽。

 この子にしたってそう、μ'sに加わるまで穂乃果の強引な勧誘や凛と真姫ちゃんの後押しがあったはず。

 にも関わらず、彼女がこうも素直にアイドル研究部の門を叩いたということは。

 ――元の世界とは、変わってるってこと、なの?

花陽「あの、先輩? どうしたんですか?」

 心配そうにこちらをのぞき込む花陽に構うこともできないほど。

にこ「――――」

 私は、この世界の厳しさを噛みしめていた。
98 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/11(月) 00:07:54.32 ID:Axli+PN8o
短めですがここまで
凛ちゃん編の始まりです
編ってつけるほど長引くかもわからんけど
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/11(月) 14:44:31.13 ID:j94QJXQo0
いいぞ
支援
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/11(月) 19:53:02.34 ID:5JYLlcmcO
期待ですわ
101 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/11(月) 20:42:57.09 ID:Axli+PN8o

にこ「お、おはよー……」

凛「…………」

 うわ、ものっそ嫌そうな顔された。
 
 例えるなら、そう、「なにこの人朝校門の前で待ち伏せまでしてストーカー?」って感じの顔。

 なんでそんなに具体的に表現できるかって?

 その通りの状況だからよ、ちくしょう。

凛「……なんの用ですか?」

にこ「い、いやね、昨日の話、ちょっとばかし考えてもらえないかしらー、なーんて思ったり……」

凛「はぁ……」

 ため息!

 これ見よがしにため息!

 いや確かに自分のやってることがちょっとうっとうしいかなーとはわかってるけども!

凛「ちょっと……ううん、かなりうっとうしいです」

 ……ちょっとじゃなかった。
102 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/11(月) 20:48:22.78 ID:Axli+PN8o

凛「その話は昨日お断りしましたよね?」

にこ「や、それはたしかにそうなんだけど……」

凛「じゃあこれ以上話すことないです」

にこ「わ、私にはあるの!」

凛「私にはないです!」

にこ「あるの!」

凛「ないです!」

花陽「ちょちょちょ、ちょっとふたりとも……こんなところでやめようよ……」

 まるでこころとここあみたいなやり取りをしていると、ずっとだんまりだった花陽が間に入る。

花陽「矢澤先輩、凛ちゃんのことは昨日話しましたよね……?」

 ぼそっと、私にだけ聞こえるように耳打ちしてくる。

にこ「そりゃ、聞いたけど……」

 だからといって、はいそうですかとあっさり譲れないものもこちらにはあるわけで。

にこ「ほら、なんていうか……ワンチャンあるかなー、みたいな」

花陽「……? 凛ちゃんはワンちゃんっていうか猫ちゃんって感じですけど……」

にこ「あー……うん、そうねー……」
103 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/11(月) 21:22:03.84 ID:Axli+PN8o

花陽「凛ちゃんも。そんなに邪険にする必要ないでしょ?」

凛「だって……凛は……」

花陽「うん、私はわかってるよ」

凛「…………」

 黙り込む凛。

 言い負かされたとか、そんなじゃなくて。

 あったかーく包み込まれて、ぐうの音も出ない感じ。

 かと思うと、凛は私の方に向き直り。

凛「……ムキになってすいませんでした」

 そっぽ向きながら、だけど、しっかりとその言葉を口にした。

 なによ。

 これじゃまるで、私が悪者みたいじゃない――

にこ「…………」

 まるでもなにも、これ明らかに私が悪者よねぇ……
104 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/11(月) 21:37:12.23 ID:Axli+PN8o

にこ「お昼」

凛「え?」

にこ「お昼、よかったら一緒に食べない?」

花陽「私たちと、ですか?」

にこ「他に誰がいるのよ。私がそっちの教室行くからさ」

にこ「小泉さんとは同じ部員同士だし、親睦深めるのも悪くないでしょ?」

花陽「悪くは、ないですけど……」

にこ「星空さんとも、仲直りってわけじゃないけどさ」

凛「別にいいですけど……矢澤先輩、一緒にご飯食べる人いないんですか?」

にこ「うぐぅ!?」

凛「え、ひょっとして……ご、ごめんなさい」

にこ「いいの、謝んないで。余計傷つくから」

花陽「で、でも貸し切りの部室があるならひとりぼっちのご飯も恥ずかしくないですもんね!」

にこ「楽しい!? 先輩を的確に殺しにかかって楽しいの!?」

花陽「あ、あれぇ……?」
105 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/11(月) 21:40:27.15 ID:Axli+PN8o
またもや短いけどここまで
続きはまた後日
106 : ◆yZNKissmP6NG [sage saga]:2016/04/11(月) 21:43:44.78 ID:Axli+PN8o
今回、ちょっと凛ちゃんの性格きつく感じるかも
アニメ一期の序盤の真姫ちゃんとの絡み見てたら懐いてない人には結構ドライなのかなと思ったらこんな感じになった
凛ちゃんはこんな子じゃねえと思った人にはすまぬ
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/04/13(水) 04:45:12.66 ID:eh8vBxMd0
期待
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/13(水) 10:52:14.35 ID:WPv3eLrDO
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/14(木) 00:06:16.15 ID:YxcUYWE40
ぼっちから友達げっとを経験した俺からしたら
この気持ちわかるぞ
110 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 18:09:30.41 ID:B5IKHymdo

にこ「というわけでお昼よ」

凛「ほんとに来た……」

にこ「嫌そうな声出さないでよ、傷つくじゃない!」

凛「べ、別に嫌そうにしたつもりはないですけど……」

花陽「ほらほら二人とも、またけんかになっちゃう前に、ほら、ご飯食べよ?」

にこ・凛「はーい……」

 あろうことか花陽にたしなめられ、凛と私は渋々ながらお弁当を開いた。

凛「へぇ、先輩の卵焼きおいしそうですねー」

にこ「あ、あああ、あげないんだからね!?」

凛「えーっと、まだなにも言ってないんですけど……」

にこ「ふかー!」

凛「そんな威嚇してる猫みたいな真似されても……」

 いけないいけない、連日お弁当箱からかっさらわれた苦い思い出からつい卵焼きを守ろうとしてしまったわ……
111 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 18:24:48.11 ID:B5IKHymdo

 あ、猫といえば。

にこ「そういえばり……星空さん、猫の真似しないの? ほら、語尾ににゃーにゃーつけてさ」

凛「ぅえ!?」

 え、なんでそんなに驚くの?

 なんか普通に喋ってる凛に違和感バリバリだったから聞いただけなんだけど。

花陽「えっと、矢澤先輩?」

 なにかのどに詰まらせたのかけほけほとせき込む凛の代わりに、花陽が答える。

花陽「なんで凛ちゃんが普段猫みたいな喋り方してるって知ってるんですか?」

にこ「ぅえ!?」

 数秒前の凛と全く同じ声を出しつつ、今度は私がせき込む番だった。

 しまった。

 名前は何とかかろうじて寸止めできてたけど、こんなところでループのほころびがでてしまった。
112 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 22:13:27.20 ID:B5IKHymdo

にこ「あ、や、えーっと、それはその、あれよ。あんたたち二人が部室の前で会話してたのを聞いたからよ」

 しどろもどろになりながらなんとか記憶を手繰り寄せる。

 その時にゃーにゃー言ってたわよね……言ってたわよね?

凛「あー、あの時」

花陽「そっか、あの時の会話、聞いてたんですもんね」

にこ「で、でしょ?」

 せ、セーフ……

 危うくやぶへびになるところだったわ。

にこ「それで? 質問には答えてもらえるの?」

凛「え、っと……」

 もじもじする凛。

 ほっぺが少し赤くなってるのは……恥ずかしがってるの?

 なによ、ちょっとかわいいじゃない、この後輩。
113 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 22:18:48.67 ID:B5IKHymdo

花陽「恥ずかしいんだよね、凛ちゃん」

凛「か、かよちん!」

にこ「恥ずかしい?」

花陽「はい。凛ちゃんがあの言葉遣いになるのって、親しい人の前だけですから」

花陽「あんまり慣れてないひと相手だと、恥ずかしいんだと思います」

にこ「へー……」

 正直、意外だった。

 凛って言ったら底抜けに元気で明るくて、人見知りとかそういうのとは対極の存在だと思ってたから。

 まさしく借りてきた猫、って感じなのかしら。
114 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 22:33:45.06 ID:B5IKHymdo

にこ「なんていうか……猫っぽいわよね、あなた」

凛「え?」

にこ「いや、もちろんにゃーにゃー言うっていうのもあるけどさ」

にこ「なんか性格というか生き方というか。猫ちゃんそっくりよね」

にこ「よっぽど好きなんでしょ? 猫が」

花陽「あ……凛ちゃん、あの、」

凛「好きじゃないです」

にこ「…………へ?」

凛「好きじゃないです、別に」

 頑なな否定は。

 昨日と同じ、強い拒絶。
115 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 22:40:58.35 ID:B5IKHymdo

にこ「……なんなの? それ」

凛「なんなのって……なにがですか」

にこ「しらばっくれてるんじゃないわよ。アイドルの話といい今の話といい、急に冷たくなっちゃって」

にこ「『その話はしないでくださいオーラ』全開じゃない」

凛「そこまで、わかってるなら……」

にこ「やめないわよ」

凛「っ」

にこ「この話。やめないわよ」

凛「なん、で……」

にこ「理由は、なんていうか、答えづらいんだけど……」

 今の状況をぼやかしつつうまく伝える方法を探して。

にこ「なんていうか――アイドルにしろ猫にしろ、ほんとは好きなんじゃないかな、って」
116 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 22:48:03.01 ID:B5IKHymdo

 この世界が過去なのか並行世界なのか、はたまた全く違うなにかなのか。それは私にはわからない。

 だけど。

にこ「私にはあなたがそれらを嫌ってるとは、どーしても思えないのよねぇ」

 だって、なんにせよ「凛」だもん。

 人一倍元気ににゃーにゃー言ってて。

 ぴょんぴょん身軽に跳ねまわって。

 かわいいのは似合わない、って言い張りながら。

 あの真っ白なウェディングドレスがあれほど似合った――凛だもん。

 
 ねえ、凛。

 一体なにを強がってんのよ、あんたは。

 
117 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 22:57:58.63 ID:B5IKHymdo

 【Side:凛】

 勝手な人だなぁ、とは思ってた。

 なんだか強引で、私がいいって言ってるのにしつこく勧誘してきて。

 気持ちがぐらぐらぐら揺れちゃうから――やめてほしいのに。

 私がアイドル?

 考えられないよ。

 きらきらでふわふわなお洋服を着て、踊る?

 笑われちゃうよ、きっと。

 だから私は、アイドルなんて――
118 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 23:33:05.57 ID:B5IKHymdo

にこ「私にはあなたがそれらを嫌ってるとは、どーしても思えないのよねぇ」

 頭がカーッって熱くなった。

 隣でかよちんが慌ててるけど……ごめん、我慢できないや。

凛「先輩に――なにがわかるんですか!」

 ついおっきな声を出してしまう。かよちんも、周りの人たちも、びっくりしながら私を見てる。

 だけど、目の前に座る人だけは。

 矢澤先輩だけは、すごく真剣な顔だった。

凛「勝手なことばっかり言わないでください! 迷惑なんです!」

 ダメだ、ってわかってるのに、止まんない。

 なんだかよくわからない感情がぶわーってなって、次から次へと良くない言葉が出てくる。

 それは、きっと。

凛「嫌ってるとは思えないって? 嫌いです! アイドルも、猫も、だいっきらい!」


 図星だったって、わかってるから。
119 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 23:41:32.80 ID:B5IKHymdo

 だんだんのどが痛くなってきちゃった。

 いつの間にか立ち上がってたみたい。すとん、と落ちるように椅子に腰かけた。

 これで参ってくれたかな? ってちょっぴり期待したけど、矢澤先輩の顔色が変わることはなかった。

 それどころか。

にこ「あんた――うそ、下手ね」

 なんて。余裕ぶってるのがむかつき。

 だけどもう叫ぶ元気も残ってないや。

 どうせなにを言ってもへっちゃらみたいだし、叫ぶ必要もないよね。

凛「昨日会ったばかりの人に――なにがわかるんですか?」

にこ「――――」

 あれ? おかしいな。

 なんでこの人。


 今日一番、悲しそうな顔してるんだろう。
120 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/14(木) 23:42:10.36 ID:B5IKHymdo
ここまで
サイド凛ちゃんはもうちょっと続く
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/14(木) 23:50:59.45 ID:3qFiENUjo
乙乙
ワクワクする
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/15(金) 01:22:52.21 ID:4VXiUEBh0
ループもんで関係リセットはくるもんがある
おつ
123 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/15(金) 21:40:12.63 ID:7r/zU2x2o

 夕暮れ色の遊歩道を、一人で歩く。

 かよちんはアイドル研究部に顔を出すって言ってた。

 私も陸上部に行こうかと思ったんだけど、ちょっとそういう気分じゃないから先輩にごめんなさいして今日はお休み。

 そんなこんなで、ひとりぼっちの帰り道です。
124 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/15(金) 21:40:41.83 ID:7r/zU2x2o

125 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/15(金) 21:48:02.58 ID:7r/zU2x2o

>>124はミスです、申し訳ない

* * * * *

凛「はぁ……」

 ため息は、疲れたから。

 昨日今日となんだかよくわからない先輩にからまれて、精神的にぐったり。

 なーんであんなにしつこいんだろ。

凛「凛なんて、アイドルやってもかわいくないのに……」
 
 ぽつん、とひとりごと。

 それは、ずっとずーっと昔から私にかかってる、のろい。

 スカートなんて似合わない。

 女の子らしさなんてない。

 かわいらしさなんて、ない。

凛「――――」


 そうやって、自分に言い聞かせてる、のろい。
126 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/15(金) 21:57:19.68 ID:7r/zU2x2o

凛「あ……」

 かさかさ、と生垣が揺れたかと思うと、中から小さな黒猫が顔を出した。

 ――みゃう。

 小さく鳴きながら、黄色いおめめが私を見上げる。

凛「わぁ……」

 かわいいなー。

 こっち来ないかな?

凛「にゃーにゃー、こっちに来るにゃー」

 しゃがんで手招き。これがほんとの招き猫?
 
 って、これじゃ猫招きか。

 なんて、つまらないことを考えてたら。

凛「わっ、わっ、」

 びっくり。ほんとに近づいてきた。

 飼われてない猫ちゃんて警戒心が強いから、どうせ無理かな、なんて思ってたのに。
127 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/15(金) 22:02:19.70 ID:7r/zU2x2o

 みゃう。

 ちっちゃな体は、もう私の目の前まで来ていた。

 手を伸ばせば、触れられる。

 ふわふわの体を撫でられる。

 大好きな猫に、触れる。

 もうちょっと、もうちょっとで――

凛「……っくちゅん。――あ、」

 すぅ、って。

 気持ちが一気に、冷たくなった。

凛「ごめんね」

 言いながら立ち上がる。

 びっくりしたのか、黒猫はすぐにまわれ右してどこかへ行ってしまった。

凛「えへへ、ティッシュ、持ってたかな」

 ひとりごとを呟きながら鞄をあさる。

 お目当てはなかなか見当たらない。 

 
128 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/15(金) 22:05:15.80 ID:7r/zU2x2o

 そうだよね。ダメだよね。

 許されないことだもんね。

 私がかわいいカッコするのも。

 私が猫を触るのも。

 許してもらえないもんね。

 ねぇ、矢澤先輩。

 あなたには、きっとわかりません。

 「やりたい」が、できない気持ち。

 「やりたい」を、否定される気持ち。

 「やりたい」を、許されない気持ち。
129 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/15(金) 22:11:52.55 ID:7r/zU2x2o

 それは例えば、「かわいくなりたい」をクラスの男の子に否定された女の子。

 それは例えば、「猫を撫でたい」をアレルギーに否定された少女。


 それは例えば――「生きたい」を冷たさに否定された、小さな二つの命。

 
 世の中には、許されないことなんてたくさんあるんです。

 自分の「やりたい」を否定されることなんて、やまほどあるんです。

 ねぇ、矢澤先輩。

 あなたには、わかりませんよね?

 こんな、みじめな気持ち。


凛「……あれぇ? おっかしいなぁ。見つからないなぁ」

 鞄の中をいくら探っても、入れたはずのポケットティッシュは見当たらない。

 もう鼻はぐずぐずだよ。

 それに、ほら。


 涙まで、出てきちゃった。
130 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/15(金) 22:20:16.61 ID:7r/zU2x2o

 次の日。いろんな気持ちがぐるぐるして寝付けなかったせいで、遅刻ギリギリの時間に登校することになってしまった。

 かよちんには先に行くようにメールしておいたので、今日はひとりで登校。

凛「おはよー……」

 ねむたい目をこすりつつ、教室のドアを開ける。

花陽「あ、凛ちゃん……」

凛「おはよーかよちん……ふあぁ」

花陽「眠そうなところ悪いんだけど、ちょっと聞いてもらいたくて」

凛「え?」

 ちょっとまじめな顔のかよちん。

 なにかあったのかな?

花陽「昨日のお昼……ほら、いろいろあったでしょ?」

凛「あ、……うん」

 思い出すと、とっても恥ずかしい一日前の思い出。

 うー、もう思い出したくない。

 
131 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/15(金) 22:25:24.86 ID:7r/zU2x2o

花陽「あれを見てたクラスの子がね、矢澤先輩のこと見覚えあって、それであんまり関わらない方がいいんじゃないか、って」

凛「見覚え?」

花陽「あ、見覚えっていうか、正確には部活の先輩から聞いたらしいんだけど」

花陽「矢澤先輩って、一年生の時にちょっといろいろあったらしくて、その……」

花陽「友達が、いなくなっちゃったらしいの」

凛「……ふーん」

 なんていうか、あんまり意外って感じはない。

 むしろ、あーやっぱりなー、って気持ち。

花陽「それでね、その時の事件が……」

凛「それ、聞かなきゃダメかにゃ?」

 正直、かよちんには申し訳ないけど、あんまり興味がない。

 もともと気が合いそうにない人だったし、そんな人の昔話聞いても――

花陽「うん、だめ」

凛「…………」

 久しぶり、だった。

 かよちんがこんなに、強引なの。

花陽「聞いてほしい。凛ちゃんには」

凛「え、っと……」

 答えられずもごもごしてる私を置いてけぼりにして、かよちんは話し始めた。


花陽「三年生の間では『アイドル研究部事件』って言われてるらしいんだけどね――」
132 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/15(金) 22:39:18.26 ID:7r/zU2x2o
ここまで
シフトとエンター同時押しで即書き込みとは知らなんだ
今回SID知らないとちょっとついてこれないかも、すまん
自分もにこにー関連と円盤について来たの以外は漫画版しか知らないけど
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/16(土) 13:50:10.54 ID:P5oMlzmH0
乙です
楽しみ
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/16(土) 15:14:34.48 ID:6g0Qd22Vo
乙です
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/16(土) 16:59:33.22 ID:aTBXgbTRO
乙!
今後の展開が凄い楽しみ
136 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/27(水) 20:08:20.92 ID:NPhJ0Vn2o

凛「矢澤先輩!」

にこ「え?」

 凛にぼろくそ言われた次の日の放課後。

 なによりもきっつい一言をもらって、柄にもなくへこみながら部室で花陽を待っていると、意外な人物が私の名前を呼んだ。

にこ「星空さん? なんでここに、」

凛「教えてください!」

にこ「え?」

凛「教えてください!」

にこ「な……なにを?」

 鬼気迫る様子で同じ言葉を繰り返す凛。

 戸惑う私の質問に、少し考えるようなそぶりを見せた後、こう言った。


凛「なんで――なんで、アイドルになりたいんですか?」
137 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/27(水) 21:06:09.20 ID:NPhJ0Vn2o

にこ「なんでって……え?」

 この子、私に怒ってるんじゃなかったっけ?

 いや、今も険悪な顔つきではあるんだけど。

 突然の訪問。突然の質問。

 それでも、なんで急に、という言葉は。

凛「――――」

 彼女の真剣な視線の前では、口にできなかった。

 
138 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/27(水) 21:15:23.55 ID:NPhJ0Vn2o
 
 改めて問われると答えに詰まる質問だった。

 みんなを笑顔にさせたいから?

 仲間と一緒に頑張りたいから?

 達成感が欲しいから?

 どれも合ってて、どれもぴんとこない。

 答えはきっと、もっともっとシンプルで。

 でも、本質的。


にこ「――やりたいから、よ」
139 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/27(水) 21:26:42.01 ID:NPhJ0Vn2o

凛「――――」

 息をのむ凛。きゅっ、と唇を結んで、視線を床へ落とす。

凛「なんで……」

 それは、質問というよりは独り言のように聞こえた。

凛「なんで……あんなこと、あったのに……」

にこ「あんなこと? って――」

凛「好きなこと……やりたいこと、否定されたのに」

凛「なんで……そんなこと、言えるの……」

にこ「――――」

 ああ、知っちゃったんだ。

 私が三年前――この世界では、二年前か――どれだけ惨めだったか。
140 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/27(水) 21:33:26.88 ID:NPhJ0Vn2o

にこ「だって、さ」

凛「え?」

にこ「だって、それが自分じゃない」

にこ「誰に否定されようと」

にこ「誰に馬鹿にされようと」

にこ「それが私。矢澤にこだもの」

にこ「痛さだって本気なの。悪い? 本気なのよ」


にこ「それが――私だもん」


凛「――――」

凛は、押し黙ったままだった。
141 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/28(木) 02:27:58.31 ID:u7u6+g4Go
とりあえずここまで
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/28(木) 02:29:28.26 ID:B2W4Gs/vo
おつ
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/28(木) 09:04:46.37 ID:9A7P0hgDO

面白い
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/28(木) 09:21:21.97 ID:xIKBjOtXo
乙です
145 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/29(金) 04:08:55.80 ID:0QXlmUxeo

花陽「ね、凛ちゃん」

 凛の後ろから姿を現したのは、いつの間にかいた花陽であった。

 訳知り顔の様子を見ると最初から聞いていたのかもしれない。

花陽「凛ちゃんは、どうしたい?」

凛「凛は……」

花陽「――いいんだよ、言っても」

凛「かよ、ちん?」

花陽「ああしたい、こうしたいって。いいんだよ、言っても」

凛「でも凛は、」

花陽「許されないから?」

凛「…………」
146 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/29(金) 04:20:11.55 ID:0QXlmUxeo

花陽「――もっと、早く言えればよかったんだと思う」

花陽「だけど、私に勇気がなかったから」

花陽「ひょっとしてこれも、凛ちゃんからしたら『否定』になっちゃうかもしれないって」

花陽「凛ちゃんに嫌われちゃうんじゃないかって」

花陽「だから、言う勇気がなかった」

花陽「でも、矢澤先輩を見て、思ったの」

花陽「私も、やりたいことやっていいんだって」

花陽「言いたいこと、言っていいんだって」

凛「……かよちん? 何言って、」


花陽「凛ちゃんの――ばかっ!」
147 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/29(金) 04:29:09.67 ID:0QXlmUxeo

凛「えっ……」

花陽「許されるってなに!? 誰にそんな権利があるの!?」

花陽「ばかみたいっ! 凛ちゃんそんなこと言って、逃げてるだけだもん!」

花陽「あの雪の日から――」

凛「あ、やめ……」


花陽「猫ちゃんたちを助けられなかったあの日から、ずっと逃げてるだけ!」


凛「――――っ」
148 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/29(金) 04:41:37.70 ID:0QXlmUxeo

花陽「……ね、凛ちゃん」

花陽「花陽はね、ずっと凛ちゃんのまぶしさにあこがれてたの」

花陽「きらきらで、まっすぐで、元気いっぱいな凛ちゃんに、あこがれてたの」

花陽「だからね。いますごく悲しい」

花陽「否定されるのを怖がって曇ってる凛ちゃんを見るのが、すごく悲しい」

花陽「……えへへ。勝手、だよね。わかってる」

花陽「だから言えなかった」

花陽「これが、花陽の……ほんとの気持ち、です」

花陽「ばかって言って、ごめんね?」

凛「かよ、ちん……」
149 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/29(金) 04:47:51.42 ID:0QXlmUxeo

花陽「凛ちゃん?」

凛「……なぁに?」

花陽「怖いよね、否定されるのって」

凛「……うん」

花陽「怖いよね、許されないのって」

凛「……う、ん」

花陽「でもね、大丈夫」

凛「……う……」

花陽「たとえこれから先。十人が、百人が、千人が、凛ちゃんを許さなくっても」

凛「う……ぅぅうう……」
150 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/29(金) 04:48:17.70 ID:0QXlmUxeo






花陽「私が――凛ちゃんを許してあげるから」


凛「ううぅぅ……うあぁぁぁぁぁぁあああああん!」





151 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/29(金) 04:54:32.97 ID:0QXlmUxeo

 なんだか、置いてけぼりにされちゃったけど。

 まあ、いいわよね。

 だって、口なんてはさめるわけないじゃない。


凛「うぁぁぁぁああああん!」

花陽「うん……っく……大丈夫、だからね……ひっく」


 あんなきらきらした雫より、説得力のある言葉なんて、もってないもの。

 だから、そう。


 アイドル研究部の部員が三人になったのは、また別のお話、ってことで。
152 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/04/29(金) 04:55:51.45 ID:0QXlmUxeo
ここまで。凛ちゃん編終了
猫のくだりとかはとりあえず漫画版SIDでも読んでもらえれば補完できます
次はまた近々
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/29(金) 10:58:02.95 ID:WNYzSX7wo
乙です
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/30(土) 00:05:06.14 ID:y0F5KO2uo
りんぱな尊い
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/30(土) 00:57:01.07 ID:Im7HMyqto
最初に仲間になるならりんぱなだよなぁ
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/30(土) 12:29:56.34 ID:vKW5LK620
おつ
この世界のリーダーは何やってんだろ
157 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/03(火) 08:02:53.44 ID:lm87M5QRo

【Side:真姫】

 白鍵に乗せた指から、すぅ、と緊張感が全身に染み渡る。

 どんな音を鳴らそう。

 どんな曲を紡ごう。

 そう考えるだけで、胸がどきどきしてくる。

 だというのに。

真姫「はぁ……」

 今日は――ううん、ここ最近はずっと、ため息ばかりが口をつく。

 ぽーん ぽーん

 意味なくピアノを鳴らしても、沈む気持ちは浮かばない。

 せっかく先生にお願いして、放課後に音楽室を開放してもらってるのに。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/03(火) 08:24:08.17 ID:lm87M5QRo

真姫「―――――」

 すっ、と意識を指先に集中させる。


 大好きだばんざーい!

 まけないゆうき 私たちは今を楽しもう

 大好きだばんざーい!
 
 頑張れるから――


 よどみなく動いていた指が、いつもここで止まってしまう。

 まあ、歌詞ができてないんだから当たり前なんだけど。

 それでもいつもならいい歌詞がすらっと浮かんで問題なく続けられるのに。

159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/03(火) 08:27:13.60 ID:lm87M5QRo

 不調、だから?

真姫「…………」

 そんなわけないし。

 それじゃまるで――友達ができないこと、私が気にしてるみたいじゃない。

 友達なんていらない。作らない。

 邪魔になるだけだもの。

 私はひとりがいいの。

 自分で選んでるの。

 友達なんて、友達なんて――

真姫「…………はぁ」


 私、誰に言い訳してるんだろ。
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