勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編

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102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 21:56:02.78 ID:4d7EN7Ieo
こんなにも長くて面白かったのなかなか見ないぜ乙!
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 22:13:11.17 ID:TycLmnA+O
いや、まだ終わってないだろ?
単に29章の完を入れ忘れただけで
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 22:19:48.06 ID:+m2CbUkOo
今までも章ごとに「完」入ってるしね
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 22:24:03.95 ID:UqQikRgxO
伝説の勇者関連の謎も残ってるしまだ続くでしょ
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 22:34:30.83 ID:zUBqqxocO
>>1
てか、なんで皆完結したと思ってるの?
29章が完結しただけだろ?
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/28(日) 23:00:23.17 ID:tmOsD42Bo
乙です
今回も最高だった!
SS読んでて鳥肌立ったりするなんて
そうそうないのにこのSSはしょっちゅう鳥肌が立つ
本当に素晴らしい
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 00:06:56.57 ID:FT+uRpkL0
おつん
やっぱり勇者は紛うことなく勇者だな
感動した
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 01:09:48.86 ID:RIP/iOOAO
おつ
今回は って言ってるからには続くんだよな?
期待
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 01:27:46.88 ID:j/ou1ij8O
勇者(父)は加護の件とかで生きてる可能性あるとか書いてたもんな
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 01:44:18.29 ID:C16P0E3E0
このクオリティの高さ
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 02:00:28.95 ID:WsfAd4/nO

やっぱり騎士は嘘つきで強かったな
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 02:01:46.89 ID:pPwrXYDr0
おつだ。
まってたよ。今回もよかった…
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 05:49:25.91 ID:3RX/wQWX0
おつおつ
大魔王の存在も確認されてるもんな。まだ続いてくれるだろ。

こんな終わり方しか決着しなかったのは、やっぱり悲しいな。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 09:13:23.33 ID:qVPbyZ0GO
勇者壊れてないしまだ続くよね?

カミーユ以上に精神崩壊するの待ってるんだから。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 09:59:25.88 ID:hL4bYxVUo
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 14:47:20.30 ID:/4WzUfQk0
勇者は騎士の加護を継承したんだよな…もはやチートだな。

てか、ここの雑談用のスレがほしい…
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 15:36:26.82 ID:SpFVKOhQO
>>117
騎士の加護の継承は勇者だけに行く訳じゃないからチート並に上がってるとは限らなくね?
もしかしたら上がってるかもしれないが
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 20:49:12.29 ID:dcv+0jU3O
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 21:19:14.87 ID:jdMFunuXO
そもそも今回は加護の継承の例外にも該当しないから、いずれにせよ騎士並みのチートは手に入らんわな。
いちおつ
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 21:27:40.97 ID:OgEoPVRxo
>>117
肉親じゃないから
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 21:35:01.57 ID:qkm1SoKjo
全継承じゃないにしろ強くはなってるだろ
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 22:01:41.90 ID:/hBNBg9go
>>121
肉親関係なくね
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 22:05:54.18 ID:3ghntMaEO
>>123
関係あるだろ
騎士の過去話読み直せ
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 22:06:41.15 ID:jdMFunuXO
まあ確かに加護の継承の例外は肉親だから起こるとは断定されていなかったな。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 22:07:32.52 ID:/hBNBg9go
>>124
そうだっけか
でもそしたら100%じゃないんじゃなかった?じゃなきゃ騎士そもそも強くないだろ
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 22:42:06.90 ID:SVNlF69Qo
魂が似てるからなのか、血縁だからなのかはわからないってなってるから
騎士と在り方が真逆でも性質は同じ勇者にもワンチャンあるかもしれない
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/01(火) 00:28:33.03 ID:vmtDZJRpO
>>83の演出が素晴らしいな
マジでプロじゃないかと思ってしまう
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/01(火) 07:30:36.67 ID:ArcLHYS6o
騎士はいい敵だった……乙
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/01(火) 07:57:07.30 ID:y8t3HvlQO
少なくとも伝説の勇者級の男から騎士が継承したものだから肉親ブースト抜いてもかなり強いだろうな
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/01(火) 13:54:55.66 ID:OnokDB9Wo
例外については良く分かってないが、加護の継承自体ではっきりしてることは『その場にいるすべての人間が対象である』こと。
勇者一人が加護を継承できるわけじゃないぞ。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/01(火) 14:33:30.90 ID:dYIFYeVDo
一人でこの世界の最上級クラスが束になっても遊べる程度の実力がある騎士からの加護継承だぞ?
例え一部であろうがその場にいる全員がチート級になっておかしくないのに
なんで全部継承しなきゃ弱いみたいになってんだ?
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/01(火) 14:38:52.29 ID:x4gwLnOCO
「チート並に上がってるとは限らなくね?」
→「チート級になっておかしくない」
以下無限ループ
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/01(火) 15:03:09.62 ID:tEW06eWuo
騎士戦の前から勇者一行はかなり強かったと思うぞ
ただ騎士がバケモノだっただけで
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/01(火) 15:46:57.53 ID:I3DpHin3o
何割継承かも分からないし
継承分をさらに六等分されてるって考えたら
爆発的な上昇はしないんじゃね?
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/01(火) 16:12:57.30 ID:aowjpGtmO
伝説になれなかった騎士から加護の継承の例外で100%継承した加護と
国一つ分の加護(子供除く)と冒険してから得た加護


いくら100%継承で相手が伝説の勇者の次くらいの実力者の加護でも魔王には及ばなかったみたいだし
単身魔王軍相手に出来てあっさり魔王に勝てちゃう騎士の総加護量に比べたら伝説になれなかった騎士分の加護量なんて最早大したことないんじゃないの?
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/02(水) 02:43:37.70 ID:M549KTaXo
それ以上はいけない
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/02(水) 06:19:42.37 ID:vmBNipRvo
面白い乙
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/02(水) 16:38:27.37 ID:FlbfQQw+0

ラスボスは父親ってパターンかな?

続き楽しみ。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/02(水) 20:33:01.35 ID:SG6WEzup0
騎士が化け物なのは伝説の勇者に告ぐ実力者×2だからじゃないの
勇者たちの倍以上ってことだろ
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 22:50:42.14 ID:+U/ibXG8O
素で父より強くなってたからな騎士は
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/04(金) 02:35:20.11 ID:drsicY9fo
まだ大魔王が残ってるな
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/04(金) 14:07:33.28 ID:eRspRmY70

化け物以上に強い騎士を倒したから全部継げなくてさらに分割されても大分強くなってるだろうね
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/10(木) 03:02:47.95 ID:+qSnolXOo
最近見つけて、やっと読み終わった
マジ面白かった
続きをお願いします
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/10(木) 03:03:58.87 ID:+qSnolXOo
すまん、あげてしまった…
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/16(水) 02:21:53.10 ID:DNpzCf8Yo
精霊の加護ってのが経験値みたいなもんか
そうなると加護吸えるのが一部だとしても相当強くなりそうだな
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/22(火) 05:00:58.49 ID:1UsSIDf/0
期待
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/23(水) 00:44:11.78 ID:p8ZABVG9o
そろそろ更新を期待しつつ
最初から読み直すぞ
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 07:09:59.82 ID:79j1DRezO
一ヶ月近く更新無いのは珍しいな
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/27(日) 00:18:39.02 ID:qH+HRSuZO
前回も一ヶ月あいたよ。1月も2月も月末…もうすぐだと期待しよう。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/27(日) 18:41:25.79 ID:lB8cIWYkO
スラムダンク状態なんかな
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/30(水) 19:42:48.67 ID:3N5t0cpNO
3月末は期末の会社が多いからね
学生なのか社会人なのか知らないけど
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/30(水) 20:01:40.53 ID:uFZAQO9ko
学生でこんな文章書けたら将来有望だな
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/31(木) 00:28:35.06 ID:UUFJL7Z1O
次で三十章か。数字的にも展開的にもキリが良さそう……終わらないでほしいが。
待ちに待った月末です。みんな待機
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/31(木) 02:57:58.14 ID:cPo0pqpDO
もうずっと待機しっぱなしだから風邪ひいちゃったよ…
156 :1です [sage]:2016/04/06(水) 20:36:57.74 ID:lWuQiZoQ0
年度末・年度初めの忙しさに忙殺されております

休日も何かとイベントがあって書く時間が取れず……

17日の日曜には必ず投下しますんで、しばしお待ちを
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/06(水) 20:45:47.64 ID:bKpZSsZbO

〃∩ ∧__∧
⊂⌒ ( ・ω・)  あー>>1きた>>1
  `ヽ_つ  ,.ヘ_ヘ
      (   )
       u,__っ) ))))

   〃∩ ∧__∧
   ⊂⌒ (・ω・ )  あー。>>1いっちゃう>>1
  .ヘ_ヘ, `ヽ_つ_〜つ
 (   )
 u,__っ) )))))  
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/06(水) 21:21:07.46 ID:ugRn/48yo
生存報告さえあれば余裕で待てる
楽しみに待ってるから焦らずにいつもどおり書いてくれ
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/07(木) 00:25:04.40 ID:BtIjWPbSO
きたーーー!
まってる!
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/07(木) 00:59:11.96 ID:PwMVIMDM0
>>156
うおおおおおまってます!
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/07(木) 03:37:53.85 ID:V7oEv30y0
まってる!
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/09(土) 07:00:30.34 ID:Ha5Tqn5YO
皮剥いだ!待ってる!
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/10(日) 14:31:29.08 ID:VdM9x2baO
今週と思ったが来週の日曜日か
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 00:08:49.83 ID:3vfx7njmo
くるでえ…
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 11:19:10.79 ID:GzXa1Wz40
 魔王討伐から二日後の夜、武の国では盛大な祝勝パーティーが行われていた。
 武の国はその位置が魔大陸に最も近いということもあって、諸国の中でも魔王軍との戦闘回数が抜きんでており、それ故に兵の保養、士気の維持を重んじていた。
 その方針が顕著に表れているのが、現在パーティーが催されているこの豪華絢爛な迎賓館だ。
 会場の広さは1000人以上の収容が可能で、その壁や柱は至る所に緻密で華麗な模様が彫刻され、飾り付けられている。
 魔王討伐戦に参加した兵士や神官、出資した諸国の貴族、またその親類等のパーティー参加者は、迎賓館の雰囲気に負けじと華美な衣装に身を包んでおり、会場内の雰囲気をどこまでも煌びやかに高めていた。
 会場内には豪華な食事が並べられた円卓がいくつも設置してあり、参加者はその料理を食み、手に持ったグラスを傾けて大いに歓談している。
 喧騒に包まれる会場の端にはらせん階段が設けられており、そこを上がると会場全体を見下ろせる二階席となっていて、諸国の王など最重要人物達はこちらに列席してパーティーを楽しんでいた。

勇者「ふいぃ〜〜……」

 魔王討伐の成功に最も寄与した人物としてパーティーの当初に皆の前で紹介され、ちやほやの嵐に巻き込まれた勇者は、這う這うの体で喧騒の中を抜け出してようやく一息ついていた。

勇者「ちやほやされるのは嫌いじゃないはずなんだけど、やっぱり今はどうしてもそんな気分になれないなぁ……」

 会場の壁に背を預け、やや沈んだ印象の声を漏らす勇者。
 そんな勇者の様子の要因として挙げられるのは、まず単純に大きな疲れだ。
 『あの男』との死闘で何度も生死の際を彷徨ってから、僅かに二日しか経っていない。
 体の傷自体は回復呪文によりほぼ完治してはいる。だが肉体的・精神的な疲労はまだまだずっしりと勇者にのしかかっていた。
 また、最後に『あの男』と交わした幾ばくかの会話。
 その内容が、勇者の頭の中をぐるぐると回り続けている。
 勇者はふとした瞬間にその内容に思いを馳せ、黙考してしまうため、気持ちが盛り上がり切らずにいるのであった。

166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 11:20:07.72 ID:GzXa1Wz40
 勇者は頭を振って思考を中断し、会場内の様子を眺める。

勇者「みんな笑顔で、楽しそうだ。良かったよ、本当に……」

 勇者は一人そう呟いて、グラスを傾けた。
 本来であれば魔王討伐の立役者である勇者がこのように一人で落ち着ける時間など取れるはずもない。
 共に戦っていた兵士達、英雄に顔を売ろうとする貴族たち、何とか寵愛を受けようと躍起になる娘たち、そんな輩がひっきりなしに勇者の元を訪れるはずだ。
 先ほどまで勇者はそんな連中の相手をしていたことはしていた。だが、その数は魔王討伐を成し遂げた英雄に対するものとしては明らかに少なかった。
 疲れを残す勇者にとっては幸いであったのだが―――『魔王を倒した英雄』としての名声は、実際に魔王の首を持ち帰った武の国兵士長を始めとした魔王城突入班に贈られたのだ。
 勇者の立場は、あくまで最終作戦立案者。つまりは軍師のような立ち位置だ。
 安全地帯で作戦指揮を執っていたとなれば、実際に命を賭し、魔王と対決した英雄に比べ、民衆から贈られる賛美の声も雲泥の差というわけだ。
 作戦決行のあの日―――勇者が実際に何を為したのかを知る者は少ない。
 だけど勇者に不満は無かった。むしろそれで良かったとすら思っていた。

勇者(どうせ、俺に対する賛辞の声は全部「流石、『伝説の勇者』の息子だ」になる……そんなん言われても何か微妙な気持ちになるし、これで良かったんだ)

勇者(ただ、まあ……母さんはその「流石、『伝説の勇者』の息子だ」が欲しかったわけで……この結果に納得してくれないかもしれないけど…それ考えるとちょっとめんどくさいけど……でも、しょうがねえよな……)

 勇者の視線の先では今も人の群れに揉みくちゃにされている武の国兵士長達の姿がある。
 しばしぼんやりとその様子を眺めていた勇者だったが、くいくいと袖を引っ張られる感覚に我に返った。
 引っ張られた方を振り向くと、金髪の美女が勇者の袖をつまんでいた。
 勇者はぼぅとして思わず女性の姿をまじまじと観察してしまう。
 女性は純白のドレスを身に纏っていた。
 ドレスは肩から胸元まで露出している形状で、胸の下から腰元まで布地がぎゅっと絞られてからふわりとスカートが広がっている。
 そのため上半身の美しい体のラインが露わになっているのだが、純白のドレスの所々に散りばめられた薄桃色の花模様によって、下品さよりむしろ清純さが演出されている。
 肩甲骨の辺りまで伸びた金髪は思わず指を通したくなってしまうほどサラリと流れていて、女性の鎖骨の間では穏やかな光を放つ宝石がネックレスに吊られて揺れていた。

戦士「……なんだその鳩が豆鉄砲を食ったような顔は」

 金髪の女性の正体は戦士であった。

戦士「……退屈なら一緒にここを抜け出さないか? 正直、言い寄ってくる男が多すぎて、辟易しているんだ」


167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:21:35.92 ID:GzXa1Wz40
 勇者と戦士は迎賓館を抜け出し、王宮内のテラスにやって来ていた。
 ここはかつて勇者が善の国の神官長と語らった場所で、武の国の町並みを一望できる。
 魔王討伐に沸く町はいつまでも祭りの如き喧騒に包まれていて、絶えることなく揺れる町の灯が何とも幻想的な風景を造り出していた。

戦士「綺麗……」

 ぽつりと呟いた戦士の、思わぬ艶やかさに勇者はどきりとしてしまう。

戦士「……ふん。なんだ、先ほどから呆気にとられた顔をして」

勇者「……いや、いつもと雰囲気が違い過ぎて、その」

戦士「似合わないのは自覚しているよ。武の国の侍女から是非にと勧められて着てみたが、こういうのはもっと淑やかな女性が着るべきだ。こんなに筋肉がついた肩を晒して、みっともないったらありゃしない」

勇者「き、筋肉…? ええ…? そりゃ確かに普通の女の子に比べれば筋肉あるとは思うけど、逆に戦士細すぎるでしょ。何で俺より細いの。そんなんでどうやってあの剣振ってんの」

戦士「私の筋力の高さはあくまで地の精霊の加護によるものだからな。素の腕力ならおそらくお前とそんなに変わらないさ」

勇者(あ、でも素の腕力ちょっと鍛えた男並みにはあるんっすね。コワイ!)

戦士「お前は細いというが、やはり一般的な女性に比べれば段違いに太い。今日パーティーに来ていた貴族の娘たちを見て思い知った……似合わんことはするもんじゃないな」

勇者「そんなことねえって!!」

 少し悲しそうに目を伏せた戦士に、勇者は思わず大声を上げていた。
 戦士が目をぱちくりとして勇者を見る。

勇者「あ、やー、その……」

 勇者はしどろもどろになりながら言った。

勇者「さ、さっきも言ったとおり、俺は全然太いなんて思わないし、むしろ細いと思ってるし、めちゃ綺麗だよ、戦士。俺、戦士見てぼけっとしてただろ? 正直、見惚れてた」

戦士「な、な、」

勇者「戦士カワイイ! 可愛いよホント! カワイイ! カワイイ!」

戦士「ふあ…!?」

 戦士へのフォローのつもりで喋っていた勇者だったが、喋っているうちに恥ずかしくなって、それを誤魔化すために妙にテンションが上がって、何だかどストレートに戦士を褒めちぎりだした。
 戦士の顔が真っ赤に染まる。
 戦士は自分の心臓の音が高まり、全身が一気に熱くなったのを自覚した。

勇者「それに戦士さっき言ってたじゃん! 男に言い寄られまくってるって! モテモテやん! モッテモテやんキミ!! ヒュウー! 僕も惚れてまうわこんなん!!」

 羞恥心を誤魔化すための暴走で謎のチャラ男と化した勇者の言葉に、戦士が敏感に反応した。

戦士「ほ、惚れ…!? お、おまえぇ!! 本気か!? それ本気で言ってるのかオマエ!!」

勇者「本気も本気!! ちょーマジホンキっすよパイセン!!」

戦士「いいのか!? 私も(お前が私に惚れたという事を)本気にするからな!?」

勇者「しちゃいなYO! YOU(自分が魅力的な女の子だっていうのを)本気にしちゃいなYO!!」

 ぷすぷすと戦士の頭から湯気が上がり出す。
 勇者は戦士が女としての自信を取り戻したものだと確信し、自分の仕事に満足感を覚え拳をぐっと握った。

戦士「で、でも……」

 もじもじとしていた戦士は、おずおずと口を開いた。




戦士「お前……エ、エルフ少女のことは、どうするんだ?」


勇者(何故ここで突然エルフ少女の名前が……?)キョトンヌ



168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:24:03.69 ID:GzXa1Wz40
 戦士の問いにキョトンとする勇者だったが、何とか戦士の意図を汲み取ろうと頭をフル回転させた。

勇者(なるほどつまり、戦士はエルフ少女と比べて自分の魅力に劣等感を抱いてしまってるというわけだ。同じ金髪だしね。仕方ないね)

勇者(ならば俺の次なるミッションは戦士がエルフ少女に抱く劣等感を払拭してやる事!!)

 自身の導き出した結論に何ら疑いを持たず、勇者は口を開く。

勇者「エルフ少女? あー、エルフ少女ね。彼女も確かに綺麗だ。まさしく人間離れしていると言っていい。だけどね、僕は君の魅力が決して彼女に劣っているとは思わない。いや、僕個人の好みの話で言えば、むしろ君の方が魅力的だよ。だから、君は(自分が魅力的な女の子だと)自信を持っていいんだ」

戦士(『俺がお前のことを好きだという事に自信を持っていい』だとぉ…!? 何だこいつ、言ってることがまるでスケコマシじゃないか! 自信満々にこんな事……コイツ、本当はすごく女慣れしてるのか!?)

 勇者は己の任務として一度こうすると定めたなら、迷いなくそのための最善手を選択するプロフェッショナルである。
 そこには躊躇いも衒いも無い。

戦士(くそぉ…!! こんなチャラチャラした言い回しは私の大っ嫌いなもののはずだ……なのに何でこんなに嬉しいと思ってしまうんだぁ…!!)

 ぼん! と戦士の頭から蒸気が噴き出し、戦士は思わず勇者から顔を背けて両手で自分の顔を覆った。
 その様子を見て、勇者は己の任務達成を確信し、ぐっとガッツポーズをする。

勇者(エルフ少女……そういえば、彼女は戦いの後に『自分の矮小さを思い知った。私は君の傍にいるには相応しくないようだ』と言い残し、姿を消してしまった)

勇者(彼女には本当に世話になって、まだまだ何の恩返しも出来ていないのに……)

勇者「会いに行かなきゃな、エルフ少女に」

戦士「 な ん で だ キ サ マ ! ! ! ! 」

勇者「ひええ!?」

 ぐわっ! と牙を剥かんばかりに勇者に食って掛かった戦士だったが、すんでの所で思いとどまり、頭痛をこらえるように頭を抱えた。

戦士(わ、わからん…! 何のつもりなんだコイツは…! もしかして私は弄ばれているのか? マジでコイツはプレイボーイのスケコマシで、私はその術中に陥ってしまっているのか…!?)

勇者「…!? …!?」ドキドキ…!

 煩悶する戦士の様子を勇者は恐る恐る伺っている。
 やがて戦士はふぅー、と大きく息をついて、勇者の方に向き直った。

戦士「まあ、いい。どうせ、私の取るべき道はひとつだ」

 戦士は決意に満ちた瞳で勇者を見つめている。
 その表情に、先ほどまでの狼狽は欠片も無い。

戦士「勇者。私はもう、先日のような無様な姿を晒しはしない。お前一人に全てを押し付けずにすむよう、私は強くなる。そして私はお前の傍に立ち続け、お前の為に剣を振り、お前の負担を分かち合う。そのことを今ここで誓おう」

 凛とした瞳に射抜かれ、勇者は面映ゆくなってぽりぽりと頭を掻いた。

勇者「……ありがとう戦士。戦士がそう言ってくれることは凄く嬉しい」

 勇者の顔に笑みが浮かぶ。

勇者「……だけどもう、必要ないんだ」

戦士「必要ない? どういうことだ? むしろ必要なのはこれからだろう。魔界にはまだ、大魔王が控えている。私達の戦いはこれからが本番のはずだ」

 戦士の言葉に、勇者は首を横に振って、はっきりと口にした。

勇者「魔界には行かない。大魔王を倒さずとも世界を平和にすることは出来る。俺達はもう、戦わなくていいんだ」


169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:24:47.79 ID:GzXa1Wz40






     第三十章   勇者、______




170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:25:37.14 ID:GzXa1Wz40
 パーティーも終わって、翌日。
 武の国の会議室には各国の代表とその護衛が再び集められていた。
 勇者は会議室に集まった皆の顔をゆっくりと見回し、言った。

勇者「今回皆様にこうしてお集まりいただいたのは今後の方針について提案をさせていただくためです」

武王「今後の方針……ふむ、魔王を倒したとはいえ、魔界には大魔王が控えている。その大魔王打倒の為の対策をここで練るという訳だな?」

勇者「……いえ、少し違います」

 勇者は首を横に振って武王の言葉を否定した。
 俄かに会議室がざわめき始める。

勇者「大魔王に対する対策、という意味では間違っておりません。しかし、必ずしも大魔王を打倒しなくともこの世界に平和をもたらすことが出来るというのが私の考えです」

善王「具体的には?」

 秩序を重んじる若き王、善王が勇者の話の先を促した。
 勇者は頷く。

勇者「魔物達は魔界というこの世界とは異なる別の世界から来ているということは既に皆さんご承知の通りかと思います。ならば今後魔物の侵略を防ぐのは簡単な話で、要はその通り道に蓋をしてしまえばいいわけです」

勇者「その通り道というのが、魔王城です。魔物達は皆、魔王城を通じてこの世界に現れていました。魔王城の容量からは有り得ない数の魔物が次々と魔王城から現れたのも、これが理由です」

勇者「今回我々は魔王城の制圧に成功し、魔物の出現を防ぐことが出来ている。あとはこの状況を継続していけばいい」

勇者「具体的には現在魔大陸を覆っている『宝術』の結界を維持するために堅牢な結界陣を魔王城周りに敷設する。そして魔王城の奥に発見された『魔界への出入り口と思しき泉』には常に見張りを置く。見張りと軍との通信手段を整備し、有事の際には即座に戦力をそこに投入できるようにする」

勇者「要点を挙げるなら、こんな所でしょうか。折角ですので、今回大まかな役割の分担と費用負担の割合まで決めてしまいたいのですが」

武王「待て待て待て。勇者、ちょっと待て」

 淡々と議事を進行しようとする勇者に待ったをかけたのは武王だ。

武王「何故そんな面倒なことをしなくちゃならん。魔界への入口が判明しているのならやることはひとつだろう。すなわち、魔界への突貫! これまでただひたすらに受け身になって耐え凌いだ我々が攻勢に転じる、今がまさに好機であろう!!」

兵士長「然り。魔王を討伐したことで兵の士気もこの上なく高まっております。大魔王討伐を掲げれば、この勢いは決して衰えることは無いでしょう」

 やはり魔王討伐の中心的役割を担ったためか、武の国の面々には自信が漲っている。
 しかし勇者は二人の熱意を受けてなお、首を横に振った。

勇者「いえ、いいえ。確かに兵達の士気はこの上なく軒昂でありましょう。しかしそれでも人類の力は大魔王には及ばない」

武王「そんなことはやってみなくてはわからん。勇者たるお主がそんなに臆病でなんとする」

勇者「いいえ、わかります。何故なら―――魔界では『宝術』が使えない」

171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:26:14.84 ID:GzXa1Wz40
勇者「我々の精霊加護を底上げし、相対的に魔物の力を押さえつける宝術。この宝術無くしてこの度の我々の勝利は有り得なかった。そうでしょう?」

勇者「しかし宝術はあくまで土地の精霊に働きかけ、その力を強めるもの。魔界にはその土地の精霊が存在しない。もしかしたらそれに類する存在はいるかもしれないが、それらがこちらの宝術に反応してくれるわけがない」

勇者「宝術が使えない以上、こちらの勝利は絶望的だ。なんせ、『光の精霊』の加護を得ていた我が父、『伝説の勇者』ですら大魔王討伐を成すことが出来なかったのだから」

勇者「いや、それ以前にそもそも、我々の持つ精霊加護が魔界でも維持できるのかすら疑問だ。もし精霊加護が消失してしまうとしたら、我々は一般の民とそれほど変わらぬ動きしか出来なくなる。勝てる道理が無い」

勇者「だから―――次善の策しかないのです。私の提案では確かに、根本的な解決には至らない。常に魔界の出入り口を監視しなくてはならないという負担も生じる。しかしそれでも――――確かに世界に平和をもたらすことは出来るのです」

 ―――沈黙があった。
 誰も彼もが苦虫を噛み潰したような顔になって、勇者の言葉を飲み込んでいた。
 再び手を挙げて発言したのは善王だった。

善王「魔王城の出入り口を塞いだところで、また別の所に出入り口を造られたら意味がないのではないか?」

勇者「その可能性はほとんどないとみています。理由は、この十年余りの間、魔王城以外の出入り口が造られていないからです。異界への出入り口を簡単に造れるのならば、世界中の至る所に造っていたでしょう。その方が、この世界を侵略する上で遥かに効率がいい」

勇者「それをしなかったということは、大魔王にとっても異界への出入り口を造るということはそう軽々には出来ることではないと、そう推測できます」

 勇者の説明に、善王は納得したようだった。
 勇者は参列した諸国の王の顔を見回す。

勇者「他に質問は…? ……無いようでしたら具体的な段取りの話に入らせていただきたいと思います」


172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:26:46.08 ID:GzXa1Wz40






 ―――こうして、世界には平和が訪れた。





173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:27:44.72 ID:GzXa1Wz40
 抜けるような青空の下、とある教会で二人の男女が多くの人々の祝福を受けていた。
 教会の入口から出てきた男女に、周囲の人々から色とりどりの花びらが散りばめられる。
 男女は幸せそうに笑みを浮かべながら、人々の列の真ん中を歩んでいく。
 女性が身に纏っているのは、純白のウェディングドレスだ。
 つまり、結婚式である。
 新郎の名は武道家。
 新婦の名は僧侶であった。

戦士「おめでとう僧侶!! 本当におめでとう!!」

僧侶「ありがとう! 本当にありがとう戦士!!」

勇者「くわぁーー!!!! ちくしょうがこの野郎うまい事やりやがって!! そういや祝勝パーティーの時もお前らシレっといなくなってたもんな!! この野郎が!! コンチクショウが!!」

武道家「えーいやめろひっぱるな!! 高いんだぞこの衣装!!」

勇者「パーティーの仲間に涼しい顔して手を出すヤリチン野郎め!! おめでとう!!」

武道家「凄まじく人聞きが悪い!! ありがとよ!!」

竜神「うおろろろ〜〜ん!!!! クッソーーー!! 諦めんぞーー!! こら僧侶!! お前武道家を不満にさせたら私がすぐ寝取りにいくからな!!」

僧侶「ま、負けません!! 私、武道家さんの望むことなら何だってしてみせますから!!」

勇者「ファック!! ファァァァァァック!!!! クソが!! 爆発しろ幸せ新婚きゃっきゃうふふ野郎が!!!!」

武道家「痛い痛い痛い揺らすな揺らすな」ガックンガックン!

黒髪の少女(うう…! 来るのだろうとは思っていたけれど、やはり勇者が来ている…! どうしよう、いざとなると緊張するわ……二次会よ、二次会が勝負よ私!!)

戦士(あの娘、確か港町ポルトの……何かすっごく勇者の方見てない?)


 沢山の祝福を受け、最後に新婦はその手に持ったブーケを天高く放り投げた。

 次に幸せを掴む者として、そのブーケを受け取ったのは――――――

174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:29:32.80 ID:GzXa1Wz40


 それから、勇者は魔王軍残党の討伐隊として世界各地を転々とした。

 魔物の残党の中で今の勇者を苦しめられるものなど存在せず、勇者は危なげなく魔物を討伐していった。

 世界を回る中で、勇者は多くの事を知った。

 たとえば、倭の国にて、『鉄火』の娘の健在を。

 たとえば、極北の地にて、とある孤児院の存在を。


 更に月日が経過し、魔物の残党もほぼほぼいなくなって、世界はいよいよ平穏を取り戻し――――




 ―――――勇者は、魔王城に立っていた。



175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:30:51.75 ID:GzXa1Wz40


騎士『魔王城の奥にな、底を覗き込んだ時に何故か空が見える変な泉がある。それが魔界への入口だ』

騎士『魔界で精霊加護が維持できるか? ああ、それは大丈夫だ。ただ、魔界には精霊なんてものが存在しねえから、新たに精霊加護を得ることが不可能だ。つまり、魔界ではレベルアップが出来ない』

騎士『魔界って名前のイメージ通り、何ともおどろおどろしい環境で最初は面食らうだろうけどな。食糧さえちゃんと持って行きゃ、生きていく上で問題は無い』

騎士『入口も一方通行って訳じゃないぜ。行ってから、食糧が尽きたりしてやっぱ無理だと思ったら向こうの泉に飛びこみゃいい。それでこっちに帰ってこれる』

騎士『……ここでお前にスーパーサプライズをくれてやろう。実はな、「伝説の勇者」……お前の親父は、魔界で生きているんだぜ』

騎士『なに? 知ってた? 何だよマジかよ。ここでのお前のリアクションに期待してたのによ〜』

騎士『でもまあ、ってことは、さっきの俺の説明を聞いて、お前ならもう気付くよな?』

騎士『そうだ。お前の親父は生きている。なのに、帰ってこない。入口を通りさえすりゃ、こっちの世界には簡単に帰ってこれるのに。つまり、そこには何かしらの理由があるんだ』

騎士『……そして俺はその理由を知っている。「伝説の勇者」の結末を知っている。だが、こればかりは教えてやらない。お前が自分で確認しなきゃ、意味がないからな』

騎士『こんだけ根掘り葉掘り聞いたんだ……行くつもりなんだろ? ……魔界に』



176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:32:54.80 ID:GzXa1Wz40
 勇者の脳裏に浮かぶのは、『あの時』騎士と交わした最後の会話。
 ずっと忘れようと思っていた。
 ずっと、気にしないように努めていた。
 だけど、駄目だった。
 父の墓の前で今でも涙を流し、ふとした時に深いため息をつく母の姿を見るたびに、胸が締め付けられる思いだった。
 だから勇者は決心した。

 魔界へ向かう。
 ただしそれは、大魔王を討伐するためではなく、父を救出するために。
 いつだって帰ってこれると騎士は言った。
 なのに父が帰ってこないという事は、帰ってこれないという事だ。
 なにかのっぴきならない状況に、父は陥ってしまっているという事だ。
 だから、助けに向かう。
 死んだはずの『伝説の勇者』を連れて帰って来て、この物語はようやくハッピーエンドを迎えることが出来るのだ。

勇者「よし…!」

 決意を新たに、勇者は魔王城の奥へと進む。
 見張りの者には既に話をつけてある。勇者を止めようとする者は誰も居ない。
 そのはずだった。

「待て」

 勇者の前に立ち塞がる者があった。
 燃え盛る火炎の如き紅蓮の大剣を背負った金髪の美女。
 勇者の前に立ち塞がったのは、戦士だった。

戦士「……どこに行くつもりだ?」

勇者「……少しだけ、魔界へ」

 逡巡の末、勇者は正直に答えることにした。
 元より、この場所にあってはどう言いつくろっても誤魔化しはきくまい。

戦士「そうか」

勇者「驚かないんだな」

戦士「お前の様子を見て、何か考え込んでるのは分かってたからな」

 戦士もまた、勇者と共に魔物の残党の討伐を行っていた。
 必然、勇者と行動を共にする機会は多かったのだ。

戦士「お前、黒髪の少女の告白を断ったろう」

勇者「……何で知ってるんだ?」

戦士「気になってな。後をつけてしまった」

勇者「プライバシーの侵害だ」

戦士「ごめん。でも、その時に聞いてしまったんだ。お前が『まだ自分の命がどうなるかわからないから』と言って断るのを」

戦士「その時に、色々考えた。正直、お前も私も、もはやこの世界に敵はいない。それほど、突出した強さを私達は得てしまっている。そんなお前が、命を危ぶむほどの状況……考えるほどに、答えはひとつしか思い浮かばなかった」

戦士「だから、お前の様子を注意深く伺っていた。そうしたらこの二、三日で、大荷物の準備を始めたから、ピンときたんだ」

勇者「いよいよもって、プライバシーの侵害だな」

戦士「ごめん。本当にごめん」

勇者「いいよ。それで、何しに来たんだ? お前も、そんな大荷物を持って」

戦士「わかっているんだろう? 私も一緒に連れていけ」


177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 11:33:55.30 ID:GzXa1Wz40


勇者「駄目だ、って言っても聞かないんだろうな」

戦士「そうだな。流石に付き合いが長い。私の事をよくわかってるじゃないか」

勇者「よくよく考えてみれば、お前も俺の親父―――『伝説の勇者』のことが、大好きだったな。一緒に行きたいと言い出すのも、当然のことだった」

戦士「だ、大好…!? オイ、変な言い方をするな!! 私が『伝説の勇者』様に抱く感情は、あくまで師弟としての敬愛だ!!」

勇者「さあ、行こう。ここから先は命の保障は出来ないぞ。――――俺も、そんな風に誰かに、命を賭す程に想われてみたいもんだ」

戦士「おい待て!! お前! 何か盛大な勘違いをしてないか!!?」




 こうして勇者は新たな旅への一歩を踏み出した。


 この先、どれ程の苦難が待ち受けているのか――――――勇者はまだ、何も知らない。








第三十章   勇者、魔界へ       完






178 : [saga]:2016/04/17(日) 11:36:05.24 ID:GzXa1Wz40
今回はここまで

お待たせして申し訳ない

本当に遅筆じゃが、必ず完結するんで思い出した頃にひょいと覗いてほしいんじゃー


……待ってると行ってくれる皆様のおかげでモチベを保っていられます

179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 11:37:53.22 ID:BwAMC0Uco
乙乙
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 11:40:07.66 ID:Z+5vsdO2O

完結までいつまでも待てるぜ
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 11:48:51.92 ID:tSC2oNvBo

これからは二人旅?
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 11:49:54.92 ID:K3/SD62S0

勇者の勘違いは続く…
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 12:12:48.94 ID:bxhkGV5Ao
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 12:27:15.81 ID:hTaIauVho
乙!

勇者はなぁ……もう人格の根底に「自分は『伝説の勇者の息子』でしかない」と刷り込まれちゃってるからなぁ……。
自分に向けられる感情は全て『伝説の勇者の息子』に対するもので、自分に向けられた物じゃないと思いこんじゃってるからなぁ……。

頑張れ、戦士!!
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 12:28:05.92 ID:dF/jgoBCo

まだまだ続きそうで安心した
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 12:33:40.54 ID:l+oSLSFW0
乙!
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 13:07:34.50 ID:FiyxzMw7O
末永く待ってる、完結するまで待ち続ける
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 14:59:14.27 ID:aVIP91pAO
本編の武道家のハーレムルートはいつ頃になるのだろうか?
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 16:46:43.47 ID:gBnkm49bO
おつ!
まだまだ期待!本当にキャラクターの微妙な葛藤描くのが上手いな
過去の作品あるなら教えてほしい
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 17:10:20.24 ID:VNmb5pLbO
おつうううううううう
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 22:16:38.80 ID:p+fyyf5Zo
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 22:34:53.13 ID:3vfx7njmo
うああああああ不完全燃焼卯卯卯卯卯卯卯、
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 23:09:49.01 ID:OJsgyrgxO
乙!
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 23:57:33.34 ID:FPqFEynVO
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/19(火) 07:53:08.71 ID:b54gQEJ0O
エルフ少女はこれでサヨナラではないよな…?
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/30(土) 04:10:14.04 ID:gb0EChCV0
主人公の武道家はハッピーエンドかぁ…
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/01(日) 01:31:57.76 ID:cdmUlN8Po
GW中に燃料の投下あるかなー
198 :ザコ ◆yCN5hS2KDdU/ [saga]:2016/05/04(水) 14:23:29.90 ID:pr9Q79bJ0
俺の周りを包む緑色のバリアが水の剣の攻撃を防ぐ。

賢者「何!?」

ザコ「そのままタックル!」

賢者「グハッ!」

完全防御を纏ったまま突撃してやった。ダメージはでかいはずだ。
と言っても回復魔法陣の上なので回復するのだが・・・

ザコ(参ったって言わせるの面倒臭すぎるだろ!)

正直このままじゃ終わりそうにない。

ザコ(そうだ!良い事思いついた)ニタァ

ザコ「竜王、今から言うことを勇者に伝えに行ってほしい」

竜王「むぅ・・・この竜王を雑用に使うとは」

ザコ「頼むよ」

竜王「仕方ない、行ってやろう」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/04(水) 14:23:57.70 ID:pr9Q79bJ0
やばい別スレご送信。恥ずかしいとごめんなさい!
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/04(水) 15:55:03.22 ID:o8YpcGa40
>>199
お前さんのスレも面白いから安心しなww
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/04(水) 18:07:05.89 ID:jJrs85cnO
ワロタw
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