ほむら「幸せに満ち足りた、世界」2.5(まど☆マギ×禁書)

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79 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:10:59.43 ID:PL2otzEv0

「事故?」
「うん。通学路に車が突っ込んで来てね。
僕が妹を庇う形で大怪我したから」
「それで、母親から嫌われたってか」

「正直、家出しても仕方がないと思う。
僕も、出来るだけフォローして可愛がってたつもりだし、
兄妹仲は悪くなかった、と、思ってるけど。
妹も、祈ってくれた」

「祈って?」
「入院中に、僕のために祈ってくれた。
夢か現実か、はっきりしないんだけどね。
だって、意識もなかった筈だし。
それでも、妹が僕のために必死で祈ってくれてたのはなんとなく覚えてる。
後で看護師さんに聞いても本当にそうだったって」

「健気だな」
「うん。必死に僕の回復を祈って、
しまいには何かおかしなものが見えてたのかも知れない」
「おかしな、もの?」
「うん、なんか、願いを叶えるとか、奇跡とか、契約とか、
そんな事をぶつぶつと言ってた様な気がして」

「奇跡、か」
「実際、僕がこうして普通に動いてる事自体、
医者に言わせれば奇跡なんだって。
即死しなかっただけで、まず生きて病院を出られないって所から
信じられない勢いで回復したって、医者も驚いてた」

話を聞きながら、杏子は、すっ、と目を細めていた。
80 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:14:51.49 ID:PL2otzEv0

「何か、手がかりとかないのか?」
「携帯とか財布とかもなくなってた。只………」
「只?」

尋ねる杏子に差し出されたのは、印刷された風見野の地図だった。

「申し訳ないけど、妹のPC開けさせてもらった。
見当のついたパスワードが当たりだったから。
それで、見られる範囲で見つかったのがこの地図」

「印がついてるな」
「何か所か印がついてるから、
そこを回ってみようと思ったんだけど、一つ目であんな風に………」
「ああ、これ、アンタみたいな坊やが出入りする場所じゃねーよ、
コピーとっていいか?」

「え?」
「ちょっと、あたしが見てみるって言ってるの。
アンタはもう帰った方がいい。
そうだ、名前は? あたしは佐倉杏子」

「マナ、人見マナ」
「妹さんは?」
「人見リナ」

「そうか。連絡先聞いていいか?
何か分かったら連絡する。はっきり言って気紛れでやってる事だし、
全然当てにならないって事で良かったらだけど」
「うん」

人見マナは素直に応じた。杏子の見た所、愛されて育ったのだろう。
確かに、甘やかされたのかも知れない、と言う部分はあるが、
ある種の素直な好ましさが見える。
甘やかされても、それを他人、恐らく妹にも、
優しさに変換する術を身につけている様に見えた。
81 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:18:09.86 ID:PL2otzEv0

ーーーーーーーー

大槍一閃、魔獣が一掃され、魔獣の結界は錆の浮かんだ廃工場でしかなくなる。

「佐倉、杏子か?」

ドン、と槍の石突で床を叩いた杏子が、背後から声を聞いた。

「この辺には現れない、と思っていたが」

そんな言葉を聞きながら、
杏子は背後に現れた集団に魔獣のキューブを放った。

「最近この辺で売り出し中の魔法少女パーティーってあんたらか?
あたしも面倒はごめんだからなるだけ近づかなかったけど」

「まあ、そういう事になるだろうな。
私は朱音麻衣。風見野で槍を使う凄腕、佐倉杏子と言うのは?」
「佐倉杏子はあたしだけど。
それで、ちょっと聞きたいんだけど、人見リナってそっちの関係か?」

次の瞬間、杏子は胸倉を掴み上げられていた。

「お前、何を知ってる!?」
「美緒っ!?」

麻衣が叫び、美緒と言う魔法少女は杏子に振り解かれていた。

「やるってーの?」
「風見野でも利己的な魔法少女って聞いてる。
リーダーをどうかしたのかっ!?」

槍を持ち直した杏子に美緒が叫ぶ。

「やめなよっ!」
「よせ美緒っ!
仮にも風見野の一匹狼で名の通った相手だ」

グループの一人佐木京がおろおろと叫び、
麻衣も強く制止する。
82 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:20:45.06 ID:PL2otzEv0

「じゃあ、人見リナって、あんたらのリーダーかよ」
「そういう事だ。だから、何か知ってると言うなら話して欲しい」

不精不精引き下がった美緒に代わって麻衣が頭を下げた。

「リナの兄貴に会った」
「お兄さんに?」

杏子の言葉に京が聞き返す。

「ああ、リナの事を探してた。何日か前から行方不明だって」
「こっちも同じだ。急に連絡が取れなくなった」

杏子の説明に、麻衣が続ける。

「独りで魔獣にやられたんじゃねーだろうな?」
「まさか、あの生真面目で、自分で集めたグループを大事にしてたリナが、
何の連絡もなくなんて考えられない。
そもそも、リナの技術で魔獣相手に致命的な事態になる事自体考えにくい」

「家庭がちょっとアレみたいってのは聞いたが」
「それも、少しは聞いている。
だが、お兄さんとは仲が良かった筈だ。
誰にも何も報せず、と言うのは、リナの性格からして………」

杏子とやり取りをしていた麻衣の言葉が途切れた。

「だとすると………本気でどっかの変態野郎にとっ捕まって、
何かの弾みで変身も出来ず、って線か」
「そんなっ」
「残念だが、理論的に一番あり得る推測と言わざるを得ない」

叫ぶ京の側で、麻衣も下を向いて言う。
83 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/08/19(金) 02:24:15.83 ID:PL2otzEv0

「人見リナって、どういう奴なんだ?」
「立派な奴だ」

杏子の問いに麻衣が答え、京が頷いた。

「立派な魔法少女で立派なリーダー、であろうとしている。
そしてそれを実践している。
正直、それで少し頭が固過ぎて抱え込み過ぎる所がある。
だが、それを含めて私達はリナを支え、付いて行こうと決めた。
私達にそう思わせる奴だ」

麻衣の言葉を聞き、杏子はくるりと背を向けた。

「………親の事以外は恵まれてる奴だな、色々と」
「ああ。だから、心から無事を祈ってる。
心当たりも色々当たったが、駄目だった」
「………気が向いたら探してみるよ。
気が向いたら、だからな」
「ああ、分かったよ」

麻衣の言葉を背に、杏子は歩き出していた。

==============================

今回はここまでです>>72-1000
続きは折を見て。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/19(金) 07:27:24.46 ID:wi4EqFEgo
まだこのスレあるのか
85 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/09/15(木) 23:06:58.53 ID:Ymq9F1qf0
生存報告です
86 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/10/06(木) 20:19:13.02 ID:yiR9IGEW0
生存報告しときます
87 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2016/11/02(水) 02:39:10.35 ID:1VKAtVmY0
生存報告

そろそろ行けそう、ですが
88 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 00:45:33.11 ID:6BO///6e0
かなりお久しぶりですいません。
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>83

 ×     ×

その日、上条恭介は少なからず陰鬱な心を引きずりながら登校していた。

「おはよー」
「おはよー」
「お早う、上条君」
「お早う」

教室近くの廊下で、恭介は顔見知りの女子生徒と挨拶を交わす。

「それで、連絡とかは?」

恭介の問いに対し、割と古い馴染みの同級生は首を横に振る。
その側から向けられる、
最近こちらの学校に来た黒髪美少女の涼しい眼差しが重苦しさを増加させる。

「お早う、志筑さん」
「お早うございます上条君」

教室で挨拶を交わした恭介に対し、
彼と親しくしている志筑仁美が相変わらず優美な物腰で一礼する。
しかし、その表情には常にない疲労が漂っている。
そして、恭介の問いに対して、仁美は小さく首を横に振る。
89 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 00:51:05.14 ID:6BO///6e0

ーーーーーーーー

放課後、上条恭介は、ごくごく当たり前に安全なルートを選択し、
通いなれた歩道をテクテク歩いて帰路に就いていた。
しかし、その表情は常になく険しく、憂いていた。

そして、気が付いた時には、最近見かけた工事現場のただ中に立っていた。
そこは、取り壊し中のビルの前、囲いの中の資材置き場だった。
少なくとも、彼自身は何をされたのか、全く理解出来ていなかったが、
種を明かせば意外と単純だった。

フルブースト状態の魔法少女に胸倉を掴まれ、
短時間の内に力ずくの最高速でそこまで移動していたため、
理解が追い付かない。これだけの事だった。

「えー、と、成見亜里紗さん、だっけ?」
「そう」

そう返答した亜里紗の口調は、以前に増して剣呑なものだった。
亜里紗が恭介の胸倉から手を離し、一歩下がる。
それと入れ違う様に、近くにいた詩音千里がつかつかと恭介に近づいてきた。

「あなたに聞きたい事があります」

千里の口調は丁寧だが、前回とは違う、敵意に近いものすら感じられた。

「先輩がどこにいるのか、分かりますか?」
「ハルカ先輩? いなくなった?」

それは、自分への問いに近い恭介の呟きだったが、
次の瞬間恭介の体は軽く浮き上がっていた。
90 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 00:56:23.65 ID:6BO///6e0

「もしかして尻尾出した?」

恭介の胸倉を掴みながら、亜里紗の口角は僅かに吊り上がっていた。

「知ってる事、洗いざらい喋った方がいいよ、じゃないと………」

言いかけた亜里紗の肩が、ぽんと叩かれる。
亜里紗が移動すると、恭介は自分に向けられた銃口を見ていた。

「早めに全てを白状して下さい」

地面を一発の何かが貫き、恭介のこめかみにつーっと汗が伝う。

「さもなくば、足から始まって手の指が残っている間に、
と言う事になりますから。
それは大いに困る事でしょう、特にあなたは?」

「あー、上条君上条君、
基本、千里は常識的な冗談は通じる娘だけど、
ハルカ先輩絡みだとヒャクパー本気だから」
「ち、ちょっと待って」

「はい」

ごくりと息をのんだ恭介がまあまあまあの形で手を動かし、
千里も素直に従う。

「聞きたいのは僕の方なんだ」
「え?」
「さやかの事を、知らないか?」
「何?」

恭介の言葉に、亜里紗が聞き返した。
91 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 01:01:47.42 ID:6BO///6e0

「ちょっと、待って下さい………さやかと言うのは?
あなたの知り合いの方ですか?」
「うん、ハルカ先輩、いなくなったんだよね?
それで探しに来たんだよね?」

「ええ」
「さやかもそうなんだ、何日も家を空けて、
今までそんな事なかったのに」

恭介の言葉に、二人の少女は顔を見合わせた。

「分かりました」

千里が言った。

「正直言って、何も分からないからこちらに来た次第で、
さやかさんの事までは分かりません。失礼しました」

千里がぺこりと頭を下げて走り去り、亜里紗がその後を追う。

ーーーーーーーー

マミルームに集まっていたのは、
鹿目まどか、暁美ほむら、詩音千里、成見亜里紗、
そして巴マミと言った面々だった。

「あなたから連絡をもらった訳だけど、
奏ハルカさんが失踪したと言うのは本当?」
「ええ」

まず、ほむらと千里が状況を確認し合う。

「奏さんと美樹さんが、失踪………」

マミが不安げに呟いた。

「この組み合わせだと………」

言いながら、ほむらが顎を撫でて思案する。
その脇で、マミがインターホンに向かっている。
92 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 01:07:33.99 ID:6BO///6e0

「可能性として考えるなら、何処かで二人で剣を交えた決闘を行って、
そのまま二人とも動けなくなった、とか」
「ほむらちゃん………」
「アンタ、ふざけてるの?」
「可能性として、排除出来るかしら?」

剣呑な声を上げる亜里紗にほむらが言う。

「二人だけならな」

そんな会話に割って入ったのは、佐倉杏子だった。

「もう一人、いなくなってる」
「もう一人?」

杏子の言葉に、ほむらが聞き返した。

「人見リナ、風見野で魔法少女グループのリーダーをやってる奴だ」
「魔法少女のリーダー………」

杏子の言葉に、千里が呟いた。

「多少調べて回ったが、魔獣にやられたとも思えない、
責任感が強い真面目な奴で、
一人で勝手にいなくなる様な奴じゃないってな」
「それは、ハルカ先輩もそうです」
「さやかちゃんも、色々やんちゃな所はあったけど、
こんなに何日もいなくなる、なんて事はなかった」
「魔法少女が、失踪してる?」

口口の言葉を聞きながら、マミが言った。

「その可能性が出て来たわね」

ほむらが言う。
93 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 01:10:54.50 ID:6BO///6e0

「今の所三人。
その何れもが魔法少女で、失踪する様な理由が無い。
確かに魔法少女には危険があるけど、
三人が三人、一人で誰にも分からず連絡不能になる、
そんな間抜けが揃っている面子じゃない」
「その通りです」

ほむらの言葉に千里が同調した。
その時、マミが自分のスマホを手にして着信を受けていた。

「もしもし………ええ、ちょっと落ち着いて………ええ………」

マミがスマホをテーブルにおいてスピーカー状態にする。

「キリカを、探して頂戴」
「織莉子さん?」

スマホの声にほむらが言う。

「キリカと連絡がつかない、
その前に不審な状況があった。手がかりは………」

切迫した口調の織莉子の声を聞きながら、ほむらがメモを走らせた。

「こちらでも条件に合う所を探しながら、みんなで手分けしてって事でどうかしら?」
「それで行きましょう」

パソコンを起ち上げたほむらの言葉にマミが応じ、一同が動き出した。

==============================

今回はここまでです>>88-1000
続きは折を見て。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 01:19:18.01 ID:f0KkfsexO
このクソスレ読んでるやつまだいるのか?
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 09:38:21.40 ID:Me4fTiLmP
ここにいるぞ!
ここまで来たからには頑張って完結して欲しいな
96 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 12:56:03.13 ID:6BO///6e0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>93

ーーーーーーーー

「詳しい話、聞かせてもらえるかしら?」

マミルームに再集結した一同の中で、
新たに合流した美国織莉子に暁美ほむらが尋ねる。

「有難う」

織莉子は、巴マミが差し出した紅茶を傾ける。

「見えたのよ」
「予知?」

ほむらの質問に、織莉子は頷いた。

「キリカが、見覚えの無い車に乗っていなくなるシーンが。
変な感じだったから、私はキリカに連絡を取った。
キリカも覚えが無いと言った。
だけど、その後で連絡が取れなくなった」

「それで、私に連絡して来たのね?」
「ええ、私が見た光景を覚えている限り伝えたんだけど………」
「彼女も、手がかりも見つからなかったわね」

割と大量の魔法少女が出動しての捜索結果をほむらが告げた。

「まだ、連絡はつかないの?」

亜里紗の言葉に、織莉子が頷く。

「こんな事、今までなかった」
「ああ。あいつ、織莉子にべったりだったからな」

この中では織莉子と割と古い知り合いである杏子が言った。
97 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 13:01:17.74 ID:6BO///6e0

「きな臭いわ」

ほむらが言う。

「今、その事で話し合っていたんだけど、
最近、魔法少女が相次いで失踪してる」
「なんですって?」

ほむらの言葉に、織莉子も硬い口調で聞き返す。

「こちらの美樹さやかもいなくなった。
その事で、こちらのホオズキの魔法少女も合流していた所」

千里と亜里紗が頷き、ほむらが概略を説明した。

「それじゃあ、魔法少女が相次いで姿を消していて、キリカも」
「状況から言って、十分考えられる」

織莉子の言葉にほむらが応じた。
織莉子の元々の性格から動揺は少ない様にも見えるが、
内心の動揺は想像以上だろうと、その事は周囲の者からも見えていた。

「でも、正直手詰まりね」

マミが言った。

「探し回っても手がかりは見つからなかった。
今までの失踪は警察にも届けが出ている。
取り敢えず、織莉子さんは連絡を待って、
今夜は一度、それぞれの狩りに行きましょう。
決して単独行動はとらない様に。
明日、又ここで話し合うと言う事で」
98 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 13:07:16.23 ID:6BO///6e0

 ×     ×

翌日放課後、マミルームのリビングに、
一人の少女が疾風の如く飛び込んできた。

「魔法少女失踪事件の事、詳しく聞かせて」
「………この娘は?」

飛び込んで来た少女が、周囲をじろりと見回して叩き付ける様に言った。
その有様に、余りの勢いに戦闘態勢を取りながらほむらが尋ねる。

「日向カガリ、私達のチームメイト」

追い付いた千里が質問に答えた。

「天乃スズネ………」
「日向マツリです。ほら、カガリ」

千里らと一緒に現れた鈴音がミリ単位で頭を下げ、
華々莉との関係が一目で推測できる日向茉莉が頭を下げながら華々莉に促す。

「只事ではなさそうね」

そんな様子を見ていた織莉子が口を挟んだ。

「ツバキが、いなくなった」

ぼそっと言ったのは鈴音だった。

「ツバキ?」
「私達のリーダーよ」

聞き返すほむらに千里が言った。
99 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 13:12:33.00 ID:6BO///6e0

「じゃあ、そっちはリーダー、
サブリーダーがいなくなったって言うの?」
「そういう事っ」

少し驚いた口調で言うマミに、亜里紗が苛立ちを隠さずに言った。

「前にも言ったけど、うちは実質的に二つのチームの合同に近い。
副長のハルカ先輩の下に私とアリサ、
リーダーのツバキの下にカガリとスズネ、両方に属しているマツリ」

「対立とか派閥とかじゃないけど、
元々の人間関係とかもあってやり易い様に組んでる」

千里の説明を亜里紗が補足する。

「ツバキはマツリ達の家の家政婦でもあるんだけど、
私達が学校にいる間にいなくなってた、連絡もつかない。
携帯の電源もずっと切られてるし、まさかと思って………」

「今まで、こんな事は無かった。しかも、魔法少女失踪事件の真っ最中。
チサト達がそっちに向かっている間も
私達は私達でハルカを探してはいたけど、他に考えられないっ」

泣き出しそうな茉莉に続いて、
吐き出す様に言った華々莉がギリッと歯噛みしていた。

「それじゃあ、一度分かっている事をまとめましょう」

マミが提案し、報告会が始まる。
それぞれに分かっている事を報告するが、
ほむらの聞く限り目新しい話は出て来ない。
100 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 13:17:07.48 ID:6BO///6e0

「車に乗った?」

華々莉が織莉子を見て言った。

「呉キリカは、自分で車に乗ったと言う事でいいの?」
「ええ、私が見た映像はそうだった」
「魔法少女を力ずくで車に乗せるとか、
それも何人も、そっちの方が無理だろうな」

織莉子の言葉に杏子が続いた。

「それで、何か他に見えた事は?」

マミの質問に織莉子は首を横に振る。

「車に乗った時の映像は辛うじて見えたんだけど、
それ以上の事は何も見えない。
キリカの事を見ようとして集中しても形になる映像が全然出て来ない。
多分………意図的にジャミングされてる」
「なんですって?」

織莉子の言葉に、ほむらが聞き返した。

「いくつもグリーフシードを消費して全力で集中して、
それでも、一つの事に就いてここまで何も見えないなんて
そんな事は今までになかった」
「完全に、こっち側の人間か」

織莉子の説明を聞き、杏子が天を仰ぐ。
その側で、華々莉がすくっと立ち上がった。

「カガリ?」
「ツバキを、探す」

声を掛ける茉莉に華々莉が告げた。
101 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/03(木) 13:21:16.93 ID:6BO///6e0

「ちょっと………」

マミが声を掛けるのにも構わず、華々莉はそのまま出て行った

「どういう娘なの?」
「ちょっと、難しい娘だから」

ほむらの質問に千里が応じた。

「あの娘を本当に抑えられるのは、ツバキだけでしょうね」
「あいつの前にツバキと犯人探し出さないと、犯人の方が危ないな」

千里がぽつっと言い、亜里紗がバリバリと頭を搔いて続けた。

「教えて………」

呟いた鈴音は、胸の中できゅっと手を握っていた。

「誰が、こんな事をしたのか………」
「もう一人いた………」

呟いた亜里紗がごくりと息を飲む。

==============================

今回はここまでです>>96-1000

コメントどうもです。
続きは折を見て。
102 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 02:38:56.20 ID:DBnCgKGX0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>101

ーーーーーーーー

「大漁だな」
「ええ」

夜更けの見滝原、高台の公園で
魔獣狩りを終えた杏子とマミが余り嬉しくなさそうな会話を交わしていた。

「怪しそうな所を重点的に回ったから、魔獣には遭遇したけど」
「さやかちゃんは、見つからなかった」

ほむらの言葉に、まどかが悲し気に続いた。

「失踪しているのは魔法少女、何か手がかりだけでも、
とは思ったんだけど」

マミも無念の思いを隠さない。

「ったく、何処行きやがったあいつら………」
「さやかちゃんにハルカさん、他にも何人も、
あの、ツバキさんも………」
「そう考えるべきね」

まどかの言葉を、ほむらが肯定する。

「日向マツリに色々確認したけど、予定や約束を完全にすっぽかしてる。
何より今まで発見されたと言う連絡が無い」

そのまま、話が続いても実りも無く、
その夜は重苦しさを残した解散となった。
103 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 02:44:35.88 ID:DBnCgKGX0

 ×     ×

「日向カガリは?」
「連絡はしておいたんだけど、家にも戻ってない。
返事は返って来るから失踪はしていないと思うけど」

放課後のマミルームリビングで、ほむらの質問に茉莉が答える。

「それ、本人の返事なんだろうな?」
「うん、そう言われると思ったのか折り返しの電話はくれるから」

杏子の問いに茉莉が答えた。
失踪した者を別にすると、
マミチームと椿・遥香チームのほとんどの者がこの部屋に顔を揃えていた。

「来たみたいね」

インターホンに応対したマミが言う。

ーーーーーーーー

「カガリっ」
「ちょっと遅れたけど、一応それだけのものは持って来た」

口調が強くなる茉莉に、
華々莉が答えて自分のノートPCをテーブルに置く。

「警察関係の情報を収集してきた」
「警察?」

華々莉の発言に、ほむらが聞き返した。

「ええ、その辺のお巡りさんから始まって、
上から下から横から手繰れるだけ手繰ってね。
警察自体の動きは鈍いから外れかとも思ったんだけど、
あすなろ警察署にこれを一連の事件と疑って独自に動いてる刑事がいた」

PCのディスプレイに、一覧表が表示される。
104 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 02:51:55.68 ID:DBnCgKGX0

「奏ハルカ、美樹さやか、人見リナ、他にも、
この近隣で発生した条件の似ている失踪事件がかなり詳しくリストアップされてる」
「さやかちゃん………」
「思った以上にいるわね」

リストを見ながらマミが言った。

「あすなろ警察署………確かに、あすなろにも該当者がいるのね」

リストを見て、千里が呟く。

「事件扱いのケースだと、
失踪直前の携帯電話の位置情報や聞き込みの結果も入ってるわね」
「ええ。車に乗った、と言う証言も出て来てる。
状況から言って、頭の方をどうにかする能力が絡んでる」

ほむらの言葉に華々莉が続く。

「このリストを参考に、失踪した魔法少女のテリトリーを洗ってみましょう」
「当面、それしかないかなぁ」

マミの提案に亜里紗が応じた。

「私はあすなろに行く」

ほむらが言う。

「杏里あいりは私の古い友人、
あいりの友人の飛鳥ユウリとも面識がある」

「それじゃあ、私となぎさちゃんはここに残るから、
安否確認のメールはさっき言った通りのルールでお願い」

マミの言葉に、一同が小さく頷いた。
105 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 02:57:19.37 ID:DBnCgKGX0

ーーーーーーーー

「よう」
「佐倉杏子」

あすなろ駅周辺で、遭遇した相手にほむらが言った。

「当てはあるのか?」
「取り敢えず、さっきのリストから
あの二人とあすなろの魔法少女の関係先を調べるつもり」

「じゃあ、一緒に行くか。こっちの魔法少女にちょっと当てがあるんだ」
「そうなの?」
「ああ」

「さっきはそんな事言ってなかったけど」
「日向カガリ」

ほむらの問いに、杏子がぽつっと言った。

「今、敵対するつもりはないけどあいつはちょっとヤバイ。
今、あいつに手がかりがあるって言ったら何やらかすか分からない、
そういうタイプだ」
「同感ね」

ーーーーーーーー

「よう」
「杏子ちゃん、に………」
「暁美ほむらです」
「あたしの知り合い、見滝原の魔法少女だ」
「見滝原の………」

あすなろ市内のビストロで、
取り敢えず三人の少女が一つのテーブルに就く。

「こちらが?」
「ああ、和紗ミチル、こっちの魔法少女」
「和紗ミチル、よろしく」

杏子に紹介され、ミチルが頭を下げる。
106 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 03:01:51.93 ID:DBnCgKGX0

「それで、今日はどうしたの? 急に連絡とって来たけど」
「飛鳥ユウリ」
「杏里あいり」

それぞれ杏子とほむらが、ほぼ同時に言った。

「覚えてるよな」
「うん、二人がもめてる所をわたしが間に入ったんだから」
「そうだったの」

「うん。それから杏子ちゃんと約束してたんだけど」
「ああ、悪かったな。仲間と引き合わせるとか言われてたけど、
ちょっとこっちで色々あってな。なんとなく流しちまった」

「その、飛鳥ユウリの友人が杏里あいり、杏里あいりは私の友人。
そして、総合すると二人とも魔法少女と言う事になる」
「うん、知ってる。地元が同じだから」

ほむらの言葉にミチルが応じた。

「二人とも、姿を消してる」
「え?」

ほむらの言葉に、ミチルが聞き返した。

「飛鳥ユウリと杏里あいりが失踪した。
他にも、何人も魔法少女が姿を消してる」
「ちょっと待って、姿を消した、って、
それって魔獣退治で………」

ミチルの言葉に、説明していた杏子が首を横に振る。

「こっちの仲間や知り合いの知り合いも姿を消してるが、
魔獣絡みにしては色々不自然な事がある。
あすなろでもユウリとあいり、それに双樹って奴も姿を消してるらしいが、
何か聞いてる事無いか?」
「………」

杏子の問いに、ミチルは首を横に振る。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/07(月) 03:05:44.36 ID:DBnCgKGX0

「ごめん、最近ちょっとあの二人とも連絡とってなかったし、
そういう事は知らなかった」
「そう………さっき、仲間って言ったけど、
あなたのお仲間で不自然に姿を消した人とかは?」
「いない」

ほむらの問いにミチルが答えた。

「あなたのお仲間ともお話しがしたいわね。
広範囲に魔法少女が失踪しているから、少しでも情報が欲しい」
「うん、わたしから話しとく。
只、忙しい娘もいるから今すぐってのは無理だけど」

ーーーーーーーー

「なかなかウエストに厳しい一日になりそうね」

日が沈み、風見野のラーメン屋で相席した杏子にほむらが言った。

「ま、今日も狩りに行くし、体が資本ってな」

ニカッと笑う杏子に、ほむらが嘆息する。
かくして、美味しいラーメンと共に話が進む。

「あそこのパスタ、
美味しかったしボリュームも一杯だったわね。彼女も………」
「………ああ、今のあいつには少し多すぎたらしいな」

ほむらの言葉に、杏子はつと横を見て言った。
ふとした無言の中、本棚に視線の向いたほむらの目が見開かれる。

「?」
「思い出した」
「何?」
「和紗ミチル、どこかで見たと思ったら」
「なんだ、知ってたのか?」
「一方的にね」
108 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/07(月) 03:09:21.24 ID:DBnCgKGX0

ーーーーーーーー

食後、ほむらと杏子の姿はネットカフェのブースにあった。
今時スマホでもいいのだが、
そんな時代から取り残された様なラーメン屋では気が引けた。

「ワルプルギスの時に来てたから、
元々魔法少女としても見た事のある面子ではあったんだけど」

言いながら、ほむらがパソコンの操作を続ける。

「御崎海香、中学生小説家か」
「ええ、それから牧カオル。
中学レベルだけど、そのつもりで探せば見つかる女子サッカー選手」
「この二人がミチルの仲間だって?」

「ええ、多分。
少なくともあの店で彼女達とつるんでいるのを見た事がある。
それから、和紗ミチルには双子の姉妹がいる筈よ。
何か、彼女に不審を覚えたんでしょう?」

「ああ………まあな」
「どっちにしろ彼女のグループには接触する必要がある。
みんなにどこまで情報を共有して協力を求めるか、考えましょう」

==============================

今回はここまでです>>102-1000
続きは折を見て。
109 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage saga]:2016/11/09(水) 02:44:14.78 ID:B3RAv/ZC0
すいません、差し替え入ります。

該当箇所を、以下の通り差し替えになります。

>>107

==============================
ニカッと笑う杏子に、ほむらが嘆息する。
かくして、美味しいラーメンと共に話が進む。

「私達はデザートだったけど、パスタも美味しそうだったわね。
ボリューム一杯だったから彼女も………」
「………ああ、今のあいつには少し多すぎたらしいな」

ほむらの言葉に、杏子はつと横を見て言った。
ふとした無言の中、本棚に視線の向いたほむらの目が見開かれる。
==============================

差し替えは以上です、失礼しました。
110 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 01:36:05.68 ID:t3CPdH3c0
それでは今回の投下、入ります。

>>108

==============================

ーーーーーーーー

佐倉杏子、暁美ほむらが
あすなろ市で和紗ミチルと接触していたその夕方のお話。
百江なぎさは仲のいい親戚のお姉さんである巴マミの家を出て、
一人、見慣れた帰路に就いていた。

しかし、この日は、少々いつものルートを外れつつある。
その理由は明らかだった。

「フォンデュー、フォンデュー、
あっつあつのフォンデュはいかがっすかぁー」

百江なぎさは、涎を垂らしそうになりながら、
一台の手押し屋台の後をふらふらと追跡していた。

「お嬢ちゃん」

ぴたりと止まった屋台の側で、
屋台を押していたショートボブのお姉さんがなぎさに声を掛けた。

「お嬢ちゃん、フォンデュ好きかな?
お子様用のノンアルコールのもあるけど」

風邪マスク姿のショートボブが、なぎさににっこり笑いかける。

「大好きなのですっ!」
「だって」

その言葉に、調理台にいたもう一人のお姉さんがにっこり笑う。

「じゃあ、開店祝いに一本サービス、バゲットでいい?」
「はいですっ」

ショートボブの誘いになぎさが易々と応じて、
調理台で調理が始まる。
111 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 01:41:44.73 ID:t3CPdH3c0

「はーい、お待たせー」

ふわふわ髪を三角巾に包んだお姉さんが調理台から出て来て、
わくわくと舌なめずりするなぎさにフォンデュを差し出した。

「熱いから気を付けて食べてねー………」
「有難うなのですーっ」

エプロンをたゆんと揺らしてなぎさの前にしゃがみ込んだお姉さんが、
なぎさに囁きかけながらフォンデュを渡した。

「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」

明るく挨拶を交わし、なぎさと屋台は別方向へと別れて行った。

ーーーーーーーー

屋台と別れた後、ひょこひょこ歩いていたなぎさは、
塀による人通りの死角となった一角にたどり着いていた。
そして、そのまま停車したワンボックスカーに近づいた所で、
なぎさの体が秘かに装着されていたリボンに引っ張られ、ガクンッ、と、停止した。

「ぐ、ぐっ………」

次の瞬間、空から斜めに撃ち込まれた光弾がなぎさを直撃し、
なぎさの動きが止まる。

「なぎさちゃん逃げてっ!」

聞き覚えのある叫び声を聞き、体の自由を取り戻したなぎさが
自分の体から延びるリボンを頼りに元来た道を一目散に駆け戻る。
ワンボックスカーから、黒スーツの集団がバイザーを装着してばらばら降車する。
その内の一人が、飛来した光弾を浴びてぶっ倒れ、残りの者が一斉に拳銃を抜く。

(本物の拳銃っ)

近くの低いビルの屋上から、
黒スーツと撃ち合いになった詩音千里がささっと身を伏せる。
112 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 01:46:58.29 ID:t3CPdH3c0

「何やってんだこの野郎っ!!」

怒声と共に、黒スーツの一人が吹っ飛ばされる。
辛うじて軍用ナイフを抜いた者もいたが、
ブーストで飛び込んで来た成見亜里紗の敵ではなかった。

「さあて、きっちり吐いてもらおう、かっ!?」

亜里紗がグロッキーの黒スーツの一人の胸倉を掴んでいたが、
それをどんと突き放して飛びのいた。

(電撃っ!?)

と、思った次の瞬間、びゅんと振った亜里紗の鎌が鞭を弾き飛ばす。

「逃げろっ!」

そして、亜里紗との間に割って入った浅海サキの言葉に、
黒スーツ達は這う這うの体で車に飛び乗った。

「じゃあ、あんたが話してくれるってーのっ?」

鼻から下にマスクを巻いたサキを、亜里紗が鎌を振って威嚇する。
バババッ、と、両者が交錯した。

((速さ、の能力はお互い様かっ))

荒い息を吐きながら、双方が心の中で呟く。

「ちっ!」

長さの変わった鞭を亜里紗が寸手で交わし、
続いて亜里紗が大鎌の刃と柄をぶん回してラッシュする。

「くっ、この、っ………」

鎌の柄に鞭が巻き付き、力ずくで弾ける。
サキの頬の辺りを柄が掠める。
113 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 01:52:30.97 ID:t3CPdH3c0

「な、に、やってんだぁ………
こんのっやろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!!!」
「!?」
「落ち着けっ!!」

助けられる筈のサキが叫び声を上げる。
次の瞬間には、雪崩れ込んで来たクマーの大群は、
その大半が一掃されていた。

「!?」

チリ、ン………

「教えて………」

振り返ったサキの大剣が、負けじと振るわれた豪剣と衝突する。

「あなたの名前を、何故こんな事をしているのか………
ツバキはどこに行ったのかっ!?」

刃が弾け、若葉みらいと天乃鈴音がじりっと対峙した。

ーーーーーーーー

路地裏をすすすっと移動していた宇佐木里美は、すっと足を止めた。

「操る能力はあなたのものね?」

里美の前方から現れた巴マミが、マスケットの銃口を向けて里美に問う。

「話してもらいましょうか?
何故こんな事をするのか、失踪した魔法少女はどこにいるのか?」

里美は、ふっ、と昏い笑みを浮かべて小さく両手を上げた。
114 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 01:56:47.32 ID:t3CPdH3c0

「分かりました、今、詳しくお話しします」

マミは、そう言って静々と接近して来る里美をじっと警戒する。
すぐそこまで接近していた里美とマミの距離が、
ふいっ、と急接近していた。

「!?」
「そう、そのまま銃を床に置いて両手を上げて、動かないでちょうだい」

里美は、里美の指示に従うマミからじりじりと距離を取る。

「!?」

里美が、ざっ、と飛び退いたが、
近くの曲がり角から飛び込んで来た光弾は、巴マミを直撃していた。

「!?」
「チェックメイト」

里美がハッとその意味に気付いた時には、
懐に飛び込んで来たマミが里美の顎の下にアンティーク拳銃の銃口を差し込んでいた。

「喋らないで下さい、喋ったら容赦なく撃ちます」

曲がり角から現れた詩音千里が銃口を向けて言う。

「巴さん、ここでの尋問は危険です。この手の能力には心当たりがある。
喋らせないでカガリに引き渡して口を割らせるべきです」
「分かった、わっ!」

その時、ざっ、と振り返ったマミの召喚した大量マスケットの銃弾と
飛来したミサイルが衝突、爆発した。

「えっ、えほっ!!」

周囲が煙に包まれ、気が付いた時には里美の姿は消失していた。
115 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 02:00:40.47 ID:t3CPdH3c0

ーーーーーーーー

「!?」

鈴音、亜里紗は、近くでの爆発と発煙にぴりっと反応した。

「くっ!」

そして、ドドドッと飛来した幾つもの光球から身を交わす。

「双方引き揚げよっ!!」
「何勝手言ってやがるっ!?」

他の面々同様巻覆面を装着して
牧カオルと共に現れた御崎海香の言葉に、亜里紗が激昂した。

「これ以上は警察沙汰になるって分からないかしら!?」
「スズネっ!」

海香が叫んだ時は鈴音が大跳躍で海香に斬りかかり、
亜里紗の叫びと共に、
カオルの硬化した両腕でガキインッと受け太刀された鈴音が後ろに吹っ飛ぶ。

「つーっ」
「こ、のっ………」

痛そうにぶんぶん腕を振るカオルを前に、
益々激昂する亜里紗の肩を掴んだのは鈴音だった。

「言う通り、これ以上はまずい………」

普段低体温系な後輩が目を吊り上げて言う言葉を前にしては、
亜里紗も従わざるを得ない。
116 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/10(木) 02:08:24.70 ID:t3CPdH3c0

ーーーーーーーー

「動きがあった」

風見野で、メールの着信を確認したほむらが鋭く言った。

「来やがったか誘拐犯っ!」
「戻りましょう、見滝原に」

吐き捨てる様に言う杏子に、ほむらが促した。

==============================

今回はここまでです>>110-1000
続きは折を見て。
117 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/15(火) 02:37:59.98 ID:TB46B0gp0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>116

ーーーーーーーー

「つまり、なぎさを囮に使った、って事か?」

マミルームで、大まかな説明を聞いた杏子が言った。

「結果としてはそうなるわね。

出来る事なら失踪事件が解明されるまで、少なくとも事件の集中時間帯は
なぎさちゃんは私の手元で保護しておきたかったんだけど、
急に事情が変わって一度親元に帰さざるを得なくなった。

だから、本当は念のためと言う事で、
追跡用のリボンを付けて近場にいたホオズキの娘達にも
協力を要請してたんだけど………」

「そうしたら、本当に本命が食い付いて来た、って言う事?」

ほむらの言葉に、マミが頷いた。

「今までの例から帰宅後は大丈夫だと思うけど、
念のため後から合流した鹿目さんと織莉子さんにお願いして
なぎさちゃんを家まで送って周辺警備をしてもらってる」

「これで色々はっきりしたな」
「ええ、敵は魔法少女と武装した人間のグループ。
そして、狙われているのも魔法少女と見ていい」

杏子の言葉にほむらが続けた。
118 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/15(火) 02:43:29.41 ID:TB46B0gp0

「で? 結局捕虜の一人も確保出来なかった訳?」

腕組みして聞いていた日向華々莉が片目を開いて言った。

「向こうも集団、かなりの手練れでもあったわ。
かなり派手に暴れたから、あれから本当に警察も出動してた」
「ああーっ、もうっ。
そんなの私がいたらいっくらでもごまかし効かせたのにっ」
「仕方ないよ、間に合う場所じゃなかったんだから」

マミの言葉に華々莉が吐き捨てる様に言い、茉莉が宥めた。

「せめて一人でもとっ捕まえてたら
アジトでもなんでも吐かせられたのに、これじゃあ手がかりなし?」
「気になる事がある」

苛立ちを隠さない華々莉にほむらが言った。

「もしかしたら、あすなろに何かがあるのかも知れない」
「あすなろ市? 今日あなた達が行ってた?」

マミの質問にほむらが頷いた。

「証拠、って程でもないんだけどな。
あすなろの魔法少女で和紗ミチル、
今日そいつと接触したんだけど、どうも様子がおかしかった」

杏子が説明する。
119 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/15(火) 02:48:59.08 ID:TB46B0gp0

「オーケー、その和紗ミチルをとっ捕まえて吐かせる、居場所どこ?」
「分からん」

杏子の言葉と共に、
チャクラムを振り上げた華々莉を茉莉がドウドウドウと押さえる。

「だけど、手がかりはあるから、
少し穏便に話をしていただけないかしら?」

腕組みをして見ていたほむらが、ファサァと黒髪を掻き上げて片目を開いた。

ーーーーーーーー

会合は、マミルームからほおずき市内の夜のファミレスに移っていた。

「御崎海香、牧カオル、ね」

既に為されたほむらの説明に、マミが呟く。

「似てる………」
「うん、顔隠してたから確定とは言えないけど」

スマホに映し出された海香、カオルの顔に鈴音と亜里紗が言う。

「いらっしゃいませ」

ほむらが、聞こえて来た店員の声にちろりと視線を向ける。

「当たりっぽいね」

店に入ってほむら達と相席し、注文を終えた日向華々莉が言った。

「ほむらの言った通り、御崎海香御殿はちょっと調べればすぐ分かる」
「中学生でもあんな豪邸に住んでる人気小説家、当然目立つわよね」

華々莉の言葉にマミが言った。
120 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/15(火) 02:54:55.23 ID:TB46B0gp0

「取り敢えず交番押さえて、
適当な理由つけてご近所の事情通から情報聞き出した。

御殿に住んでるのは御崎海香、牧カオル、和紗ミチル、昴かずみ。
ミチルとかずみは、家庭の事情はあるみたいだけど恐らくは一卵性の双生児。
この四人は親の海外勤務だかで中学生だけで共同生活送ってる。

直接住んでるのはこの四人だけだけど、
その友人含めて十人ぐらいが常時たむろってるって話、
みんな中学生ぐらい、男っ気なしでね」

日向華々莉がメモを確認して説明する。

「それが、魔法少女のグループ?」
「ミチル本人の発言とも符合しそうね」

マミの言葉をほむらが肯定する。

「それで、そのお屋敷だけど、もぬけの殻だった」
「なんですって?」

華々莉の言葉にマミが反応した。

「一人で確認したの?」
「警察使ってね。盗聴器つけたお巡りさんにお屋敷に行ってもらって、
適当な理由つけて聞き込みしてもらったんだけど、結果は留守。
出て来たらやり様もあったんだけどね」

「正直、留守で助かったわ。
相手の実力は相当なものよ、人数もいる。
あなたの能力があったとしても、
いつだって相手より優位な立場にいると思いこむのは禁物よ」
「………へーへー」
「逃げたか」

華々莉の報告とマミのお説教を聞きながら、杏子がぎりっと歯噛みする。
121 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/15(火) 02:58:22.62 ID:TB46B0gp0

「それに、セキュリティが厳しいのも確か。
留守宅への侵入となるとちょっと骨よ。
窓ガラス一枚割れても警備会社に連絡が行く」
「私ならブービートラップを仕掛ける」

華々莉の言葉にほむらが続けた。

「爆弾を仕掛けるまでもない。
ウェブカメラ一つでも、不法侵入で通報されたら言い訳が効かない」
「そういう事」

ほむらの言葉に華々莉が天を仰ぐ。

「それだけのお屋敷だと………
相手も中学生、張り込んでたら何れ戻って来ないかしら?」
「根競べね」

言葉を交わすマミとほむらに、杏子が鋭い視線を向けた。

「忘れてないか? さやかの事。
向こうの意図はさっぱり分からない、十人じゃ効かない魔法少女が行方不明、
悠長な事言ってらんねぇぞ」
「一人でも戻って来たら、洗いざらい吐かせてやるんだけど、
ツバキをどうしたのか、返答次第では………」

杏子の言葉に、華々莉がぎりっと歯噛みした。

「戻りました」

そんな中、美国織莉子と鹿目まどかが玄関からリビングへと姿を現す。

「ご苦労様。何か変わった事は?」
「いえ、特には」
「今までのパターンや分かった手口から言って、夜の自宅が狙われる可能性は低いわね。
むしろ自宅警備の帰りの方が危ないから二人で戻って来てもらったけど」

マミと織莉子が言葉を交わし、
顔を見合わせたまどかと織莉子がふふっウェヒヒと小さく笑みを交わすのを
ほむらは涼やかな眼差しで眺めていた。
122 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/15(火) 03:01:40.39 ID:TB46B0gp0

「日向カガリ」

言葉を続けたのはほむらだった。

「あなたの能力の事、詳しく聞かせて欲しい」
「ん?」
「私に少し、考えがある。
リスキーなやり方になるけど、当たれば大きい」

「勿体ぶらないでくれる?
確実にツバキを取り戻せる方法がある、って言うんだったら、
別に魔法少女でも警察でもガチバトルしたってかまわない」
「カガリッ」
「………若干、近いわね」

華々莉を制する茉莉の前で、ほむらはそう口にした。

「織莉子さん、あなたにも知恵を借りたい」
「私に出来る事なら。私も、一刻も早くキリカを取り戻したい」

ーーーーーーーー

「美国織莉子、まどかがあの人とコンビで行動ってちょっと珍しかったわね」

マミルームからの帰路、ほむらがまどかに話しかけた。

「うん。なぎさちゃんが襲われて、そこにいたマミさんやホオズキの娘達が
犯人を捜索するって事で、ちょうど間に合って手が空いたのがわたしたちだったから」
「そう」

「うん。だから、最初ちょっと近づき難かったけど、
織莉子さんの方から気を使ってくれたり、優しい人だと思う。
間近で見ると、改めて綺麗で素敵な人だったし」
「そう」

「………でも、やっぱり寂しそうだった。キリカさんがいなくて。
わたしも、もう何日もさやかちゃんがいなくて、
さやかちゃん、どうしてるんだろう? 大丈夫、だよね」
「分からない」

泣かせたくない、と、思いながらもほむらの理性は安直を拒んでいた。
123 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/15(火) 03:05:27.46 ID:TB46B0gp0

「魔法少女とそれ以外のグループが何人もの魔法少女を生け捕りにしておいて、
それで何をやりたいのかがさっぱり分からない。

………少しだけ、時間を頂戴。今回の襲撃で敵は尻尾を出した、
それを手繰る策を考えた。何としてでも引っ張り出して、
美樹さやか、他の魔法少女達の事も解明してみせる」

「うん、ほむらちゃんがそう言うんなら」

痛々しい、それでも精一杯の笑みが、ほむらの胸に響く。

「それじゃあ、まどか」
「うん、ほむらちゃんも気を付けて」

挨拶を交わし、まどかが自宅に入るのを見届けてほむらは歩き出す。
当面の対策としては、帰宅まで何人たりとも物理的に近づけない、
それしかなさそうだ。

==============================

今回はここまでです>>117-1000
続きは折を見て。
124 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 02:58:54.24 ID:gLShNy640
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>123

ーーーーーーーー

「それで、百江なぎさの確保には失敗か」

「ホテル・ニューアスナロ」スイートルームで、
レディリー=タンクルロードが確認する。

「見滝原、ホオズキの魔法少女が本格的に動き出してる。
ミチルにも接触して来たってなると、聖団の仕業だと割れるのも時間の問題だ」
「ミチルに接近して来たのは風見野の佐倉杏子か?」

浅海サキの言葉に、レディリーが聞き返す。

「うん、佐倉杏子ちゃんに、それから見滝原の暁美ほむら。
杏子ちゃんとは前に会った事があるから」

ミチルが応じた。

「元々、佐倉杏子は暁美ほむら初め巴マミのチームと親しい関係にある。
それは調べがついている」

レディリーが言う。

「今、時間の問題と言ったけど、もう既に確定しているでしょうね」
「あたし達がこうやって夜逃げして来てる時点でな」

御崎海香の言葉に、牧カオルが続いた。

「巴マミ、詩音千里のチームと交戦、百江なぎさの確保に失敗して、
そしてミチルに接触して来た事が繋がったから、
即座にデータを持ってこっちに移動して来たけど」
「賢明な判断ね」

海香の言葉に、連絡を受けて受け容れを即断したレディリーが応じる。
125 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:04:15.25 ID:gLShNy640

「根本的な事を確認したい」

浅海サキが言う。

「当たり前だが、私達がやっている事は犯罪だ、
法に触れている、相手にも家族もいる、
魔法少女の仁義で言っても袋叩きにされても文句は言えない」
「そんな事、させる訳ないだろっ」

サキの言葉に若葉みらいが割り込む。

「本当に、それだけの価値はあるのか?」
「それを確答出来るなら、こんな手段はとっていない」

サキの質問に応じたのは、同じ聖団仲間の聖カンナだった。

「根拠と言えるのはレディリーの占星術と私のコネクト、
しかも、その技術でもはっきり結果が出ている訳じゃない、
むしろ、理論的には異常なし、と結論付けるのが当たり前の勘頼み」
「それでも、何かがある、んだよね?」

カンナの言葉に、和紗ミチルが応じる。

「ああ、私はそれを感じる。特に、かずみのジェムからだ。
かずみにコネクトする反応には何か、違和感とも言えない違和感がある。
胸騒ぎ、とでも言うべきか」

要領を得ない説明に、集結した聖団のメンバーも言葉が見つからない。

「私の占星術でも同じ反応よ。理論的には異常なし、むしろ良好。
だけど、私に告げる何かがある。その鍵になるのが昴かずみのソウルジェム。
実力者揃いのマギカ集団が本格的に動き出したとなると、猶予はないわね」
「後、どれぐらい必要なのかしら?」

レディリーの言葉に海香が質問した。
126 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:10:04.16 ID:gLShNy640

「本来ならあの四人、百江なぎさに加えて日向カガリ、暁美ほむら、鹿目まどか。
この四人はぜひとも確保したかった。

だけど、日向カガリは美琴ツバキ、日向マツリとのセットが多くて手出しが難しい上に、
カンナとこちらの調べでは、聖団の乙女の力をもってしても面倒な相手。

暁美ほむらと鹿目まどかは対の存在、引き離す事は危険過ぎると私の占いが告げている。
現実的にも、仲間との行動が多い上に、
暁美ほむらの能力も手出しが難しい類のものらしい」

「じゃあ、無理なのか?」
「いや」

サキの言葉をレディリーが否定する。

「元々、欲を言えば切りがない事でもあるわ。
リストアップした中からピックアップした対象者となる魔法少女。
範囲を広げて調べればまだまだ幾らでも出て来る筈よ。

鹿目まどかは、対象者とはむしろ正反対の資質の反応だけど、
だからこそ、本来は要として確保したかった。

だけど、これだけ集まれば、決行の見込みは立った。
何より向こうの動きに猶予が無い。取り掛かる」

「そういう事だ」

レディリーの言葉に、カンナが続いた。

「とにかく、計画を実行する。話はそれからだ。
それでどんな結果が出るか。
その結果次第では、総員で土下座する事になるが」
「あの様子だと、それで生きて帰れるかね」

カオルがややおどけた口調で言うが、懸念は真面目なものだった。

「元々こちらで持ち込んだ話、お金で片が付く事なら幾らでも
ジュラルミンケースで往復ビンタしてあげる」
「いいだろう」

レディリーの言葉にサキが続く。
127 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:16:12.44 ID:gLShNy640

「かずみに対する懸念がある、カンナがそういうのなら私は信じる」

若葉みらいがすっと視線を向ける中、サキが言った。

「他に方法が無いならその方法で最善を尽くす。それだけだ。
それが世の中の罪に当たると言うなら、私はそれを背負う」
「ボクも背負うよ、サキ」
「そういう事ね」

同調したみらいの後で、海香が言う。

「現実問題として、もう後戻りは出来ない。
巴マミ、美琴ツバキのグループはすぐにでも私達を狙って来るでしょう。
その時に手土産が出来るか土下座するか。
何よりも、かずみへの懸念が一欠片でもあると言うなら、
私達は誰を敵に回しても払拭する」

「当然だ」

海香の言葉に、カオルが力強く頷いた。

「ありがとう、みんな」

かずみが上ずった声で言い、顔を上げたかずみの頭を
ミチルがポンとぽんと撫でた。
128 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:19:49.94 ID:gLShNy640

 ×     ×

「暁美さん、今日もお休みですわね」

学校のお昼休み、
まどかとお弁当を共にしていた志筑仁美が言った。

「うん、お家の都合で何日か留守にするって」
「早乙女先生もそうおっしゃっていましたけど」

まどかが説明するが、仁美はどこか不安げだ。

「暁美さんもお休み………寂しい、ですわ」

ストレートには口に出さない。それだけに精神的に厳しい。
一番明るいムードメーカーの物言わぬ失踪は、
それだけの空白を齎していた。

ーーーーーーーー

放課後、まどかは学校の玄関でマミと合流していた。
事態が見えて来た今、なりふり構ってはいられない。
まどかにとってマミは優しい先輩だが、
珍しく一緒に下校しているとさやかとほむらの不在が身に染みる。

「メール、届いたわよね?」
「はい、ほむらちゃん今からマミさんのお部屋で合流したいって」
「何か、分かったのね」
129 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:23:27.12 ID:gLShNy640

ーーーーーーーー

マミルームには、マミ、織莉子、椿・遥香チームの全員、
失踪が確認された者以外の全員が集結していた。
ほむらが、マミのチームと織莉子、ホオズキの面々に資料を配る。

「御崎海香、牧カオル、和紗ミチル、昴かずみ。
この四人の最近の携帯電話の位置情報よ」

ほむらの説明を聞きながら、一同は地図資料に目を通した。

「百江なぎさちゃんが襲撃されたその日の位置情報、
四人が集まっていたセルのメイン施設ホテルニューアスナロ。
そこで聞き込みをかけたらビンゴだったよ」

日向華々莉が説明を続けた。

「四人とその仲間はホテルのスイートに泊まり込んでる。
当日の部屋の借主はレディリー=タンクルロード。
科学の学園都市の大物経営者。
彼女も随分前から借りてたこの部屋を次の日に引き払ってる」
「………げっ、何これ?」

華々莉の説明と共に、レディリーの資料を見た成見亜里紗が言った。

「科学の学園都市、何でもありね………」
「表向きだけでもこれよ、まだまだなんか出て来るんじゃないの?」

詩音千里の言葉に、華々莉が言った。
130 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:27:27.33 ID:gLShNy640

「こんなもの、どうやって手に入れたのよ」
「ハッキングが出来たら一番簡単だったけど、
それが無理だったから、人間の方をハッキングさせてもらったわ。
日向カガリの能力で警察を動かして、関係する情報を引き出してもらった」

マミの疑問にほむらが応じる。

ーーーーーーーー

(回想)

「何だね、君達は? ………」

京都府警管内のとある警察署署長室で、部屋の主が不意の訪問者に声を掛ける。
フードを被ったままのジャンパー姿の人物とスーツ姿の女性。
それが、面会予定もノックも無しに堂々と立ち入って来たのだから、
署長から見て不審人物以外の何物でもない。

「お静かに」

日向華々莉がジャンパーのフードを少しずらして声を発すると、
署長がデスクの上のスイッチに伸ばした手が止まる。

「これより警察庁長官及び京都府警察本部本部長からの極秘指令を伝えます。
従って、他の者の出入りは禁止していただきたい」

華々莉の言葉に、署長が姿勢を正した。

「改めまして、わたくし内閣総理大臣特別秘密補佐官秘書を務める加賀爪、と申します。
これより、わたくしの上司の話を聞いていただきます。
彼女の話には一片の嘘も間違いも無い、と言う事を最初にご理解下さい」

華々莉の言葉と共に、彼女に手で示されたスーツ姿の女が動き出す。
署長の前に移動した彼女が身に着けたリクルート風のスーツは全体に半サイズ程小さいらしい。
ブラウスのボタンを上から三つ開放しながら、
膝上四捨五入二十センチのタイトスカートを合わせたスーツをきりっと着こなしている。
131 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:31:07.70 ID:gLShNy640

「初めまして。わたくし、
内閣総理大臣特別秘密補佐官を務めます織田みくり、と申します。
京都府警察本部長は警察庁長官及び内閣総理大臣の承認を得て、
貴方に対して私の指示には絶対に従うべし、
全ての責任は本部長、引いては総理大臣が負う、との命令を下しました。
その事をまずご理解下さい」

髪をアップに纏め、赤縁眼鏡を装着した
スーツ姿の美国織莉子が宣告と共に優美に一礼する。

「あなたには、この警察署に設置された廃ビル爆破事件捜査本部、
その中からあなたを班長、
警部一名を主任とした捜査班を一つ編成して引き抜いていただきます。
捜査班は、口が堅く手堅い人間を揃えていただきたい」
「お言葉ですが補佐官」

織莉子の唐突過ぎる指示に、署長は真面目に応じる。

「私にその様な権限はありません」
「しかし、経験と人望はあります。
京都府警に於いてノンキャリアの刑事人脈を実質的に掌握しているのはあなた、
その事を把握した上での指示です」

そう言って、織莉子はデスクに一台の携帯電話を置く。

「この電話に一番最初に登録された番号、アドレスは府警本部長に直結していると考えて下さい。
あなたからの要請があれば、
府警本部長以下が必要な体裁を整え、指示命令を下す体裁になっています。
あなたが選んだ捜査班のメンバーを伝えたならば、
そのメンバーには名古屋のここ、このホテルの部屋に極秘に集合する様に出張命令が下ります。
もちろん、あなたも含めてです」

織莉子が、携帯電話を操作し画面を示しながら告げる。
132 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:34:53.87 ID:gLShNy640

「名古屋、ですか」

「ええ、そこであなた達には、
私の指示に従って独自の捜査、と言うより調査を行っていただきます。
はっきり言って爆破事件の捜査とは全く関係はありません。
公式には、上が独自に仕入れたネタの裏取りが空振りで終わった、と言う結果になりますが、
人事評価の上では十分な配慮が為される様に取り計らいます。
元々この事件の捜査は公安主導で刑事警察は初動の足場固めに限定されるものです。
公安にも、警備局を通じて念のため無駄足を踏んでもらっているだけだと根回しをしておきます」

「………補佐官」
「何でしょうか?」
「そもそも、爆破事件自体が………」
「元々完全に廃墟だった廃ビルが死傷者を出す事も無く
軍用火薬を用いて綺麗に瓦礫の山になりましたね」

赤縁眼鏡を通した織莉子の笑みは、実に魅力的な女性の微笑みだった。

「テロリストやシンジケートと言った枠では収まらない、
世界存亡の危機が迫っています。
今は、と言うより恐らく永久に詳しい説明すらできませんが、
今回の事はそれを回避するための超法規的措置です。

そのために私が絶対的な権限を行使すると言う事に就いては、
日本はもちろんアメリカ、イギリス、EU、中国ロシアに至る迄、
各国の政府代表が承認している。

こういう事は言いたくありませんが、
少なくともあなたと府警本部長は完全にCIA、DIAに掌握されている。
私の一言であなた達の免職はもちろん刑務所、その上すらあり得る、
もちろん真実が何であれ関係なく、です。
それだけの事態である事をご理解下さい」

「………了解しました」

「敢えて言います、極秘捜査班の仕事は、
私の指示に従い必要な情報を収集する、それだけです。
まともな説明も何も期待しないで下さい。
知る事それ自体に大変な危険の伴う事です」
133 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:38:43.88 ID:gLShNy640

「厳しい、ですな」

「はい。そのために、
府警本部長と裁判所は完全にこちらの、貴方の支配下に入ります。

適当な名目で主任警部が令状請求を行えば、
裁判官がそれをフリーパスで通す様に手配します。
同じく、京都府警本部の鑑識も科学捜査研究所も、
あなたがこの携帯を通じて要請を出せば、
適当な名目での依頼でもただちに通る様に手配が行われます。

有体に言いましょう、形さえ整っていれば申請書、報告書は
落書きでもでっち上げでも構わない。
形式上は完全に犯罪ですが、これは超法規的措置です。
最悪でも全責任は総理が負う、あなた達が罪に問われる事は無い事を保障します」

そう言って、織莉子は膨らんだ茶封筒をデスクに置く。

「捜査費用の一部です。名古屋で追加をお渡しします。
金で買える時間と情報には糸目をつけないで下さい。
経費に関しては書類も領収書も不要、完全に自由裁量です。
調査が終わり次第、全員に相応の特別手当が支給されます。
これも、書類には残らない現金です。
もう少し詳しい事は、名古屋で集合した時点でお話しします」

ーーーーーーーー

(回想修了)

「何故に京都?」
「彼女、カガリさんの能力で全てをカバーするのは難しいと言う事よ。
だからある程度はトップダウンの極秘捜査と言う形式をとったけど、
上からの命令でやらされてるだけだと、
地元で対象者が知り合いだと変に勘ぐられるリスクが大きくなる。
それはなるべく避けたかったと言う事」

ほむらの説明を受けて、杏子の当然の疑問に織莉子が付け加えた。
134 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:42:37.34 ID:gLShNy640

「その、捜査のための費用はどこから?」
「少なくとも紛失して良心が痛む類のお金でない事だけは保障するわ」
「警察関係を押さえていく内に、
帳簿上は既に支出されてて幹部の手元で自由裁量な現金が結構あったからね、
その辺もまとめて使わせてもらったけど」

詩音千里の問いにほむらがファサァと黒髪をかき上げ、華々莉が補足するのを
成見亜里紗は笑みを引きつらせながら聞いていた。

「それで、四人組の携帯の位置情報を突破口にホテルを割り出して、
ホテルと御崎海香邸、その周辺の防犯カメラの録画データを集めるだけ集めた」
「それも京都府警に?」

詩音千里の問いに、説明していたほむらが頷いた。

「こっちの警察にも私が根回ししたけどね。
所轄の生活安全課の課長押さえて、特に公共の防犯カメラのデータは誰が持ってるか、
関係する情報を出させて、スムーズに押収出来る様に根回しもしてもらった。
それも、署長と県警本部の本部長と生活安全部長からの重要極秘命令って事にしてね」

華々莉が自分達の動かした経緯を報告する。

「押収した録画データは、京都府警察本部の科学捜査研究所に解析させた」
「それって、あのぼやけた画像をはっきりさせる技術?」
「そう。それに、別々の映像の中のどれが同じ人物であるかも可能な限り特定した」

千里の問いに、説明を続けていたほむらが応じる。

「それで、四人組と常時つるんでいる残りのメンバーのおおよその顔写真も作成出来た。
その写真を使ってあすなろ市内の中学校の職員室を片っ端から当たって、
メンバーを直接撮影した顔写真と個人情報を引き出したから、
その残りのメンバーに関しても携帯電話の位置情報を押収出来た」

「その辺の事は、本人らに連絡がいかない様に
私達が直接学校と掛け合った上で忘れていただいたけどね。
で、身元が割れた所で、全員分の携帯電話の位置情報もgetって事で」

「やりたい放題だな」
「もう、いっそ世界征服でもしちゃえば?」

ほむらと華々莉の説明に、杏子と亜里紗が呆れ返った様に言った。
135 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:46:38.44 ID:gLShNy640

「それじゃあ、その携帯電話の位置情報から
彼女達の立ち回り先を?」
「大体合ってる」

マミの言葉にほむらが言った。

「だけど、普通の立ち回り先じゃない。
彼女達は百江なぎさの事件以降自宅や学校からは姿を消している。
そしてこれ」

ほむらが示したのは、携帯電話の位置情報だった。

「旧あすなろ工業団地の一角。
ニューアスナロを出た後、グループの位置情報がここに集中してる。
それ以前からもしょっちゅうこの辺りに位置情報が記録されてる」
「立ち寄ってる、ってレベルじゃないわね」

資料を読み返したマミが言う。

「位置情報の集中箇所、他はまだしも、これだけは理由が本当によく分からない。
場所柄魔獣退治なのかも知れないけど、
それにしては訪れている頻度が以前からおかしい」

華々莉が補足した。

「この地域のコンビニ、スーパー、ドラッグストアの防犯カメラの記録からも、
メンバーがごく最近立ち寄った映像が幾つも発見されてる。
美樹さやかも他の魔法少女も、失踪してから時間が経過している。
手段や手がかりを躊躇している余裕はないわ」

ほむらの宣言に、他の面々も強く頷いた。

==============================

今回はここまでです>>124-1000
続きは折を見て。
136 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:28:40.83 ID:z1Lpz1fr0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>135

ーーーーーーーー

巴マミ
暁美ほむら
鹿目まどか
美国織莉子
佐倉杏子
詩音千里
成見亜里紗
日向茉莉
日向華々莉

以上のチームが、旧あすなろ工業団地の一角を訪れていた。

「この辺りね」

掌にソウルジェムを乗せた暁美ほむらが言う。

「ええ、確かに何か反応してる。魔獣ではないけど、何かがある」

同様に、掌のソウルジェムを見つめてマミが言った。
頷き合い、めいめい魔法少女に変身して、詩音千里がざっと前に出た。
千里は、一見すると無人の廃工場の敷地に魔法拳銃を向け、発砲する。
発砲された魔法弾が、途中でオーロラと化して目の前に広がった。
137 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:35:27.44 ID:z1Lpz1fr0

「建物………」

目の前に現れた物体を見て、マミが呟く様に言う。

「何か、こっちの認識をごまかしてたか」
「それとも、異次元空間に存在していたか………」

華々莉とほむらが、めいめい推測を述べる。
一同は、周囲に注意を払いながら、
目の前に現れた結構な大きさの洋館風の建物に接近する。

「どう?」
「ドアは開いてる」

背後でティロ・フィナーレを抱えて尋ねるマミに
玄関ドアを確認していたほむらが応じた。

ーーーーーーーー

「薄暗いなぁ」

成見亜里紗が呟く。

洋館に足を踏み入れた面々は、
そのまま、洋館の中のだだっ広いホールをうろついていた。
壁には燭台が並び、蝋燭が点灯されている。

「蝋燭って古風だけど、誰かが火をつけたって事よね?」
「誰かを待っているのか、歓迎されたのか」

ほむらの言葉に、マミが真剣な表情で応じた。

「あれ?」
「どうしたのまどか?」

ほむらが問い返す。まどかの視線は、前方の床に向けられていた。
138 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:40:50.98 ID:z1Lpz1fr0

「これって………」
「待って、まどか」

言って、ほむらが盾から検知器を取り出す。

「………特に反応は無いわね。
ブービートラップとしてはポピュラーな手法だけど」
「じゃあ、大丈夫なの?」
「恐らく」

ほむらとまどかが言葉を交わし、まどかが床から持ち上げたのは、
ミニチュアの座椅子に鎮座した小さな熊のぬいぐるみだった。

「可愛い」
「テディベアね」
「あれ? これ」

こんな状況にも関わらず、
椅子ごと持ち上げたぬいぐるみに目線を合わせるまどかの顔が綻ぶ。
ほむらがその笑顔を堪能している間、
マミがぬいぐるみの素性に当たりを付け、杏子が何かに気付いた。

「鬘に、リボン?」

確かに、ぬいぐるみは人間、それも女の子らしきものを模した鬘を被っており、
その鬘には赤いリボンが結ばれていた。

「あら?」

そして、巴マミが視線を別に向ける。

「あっちにもあるみたい」

マミの言葉に、少し離れた場所に移動すると、
確かにそこにも同様のぬいぐるみが置かれていた。
ほむらがふとそのぬいぐるみを持ち上げる。
基本、今現在もまどかが愛でているぬいぐるみと同じものだが、
黒髪ロングの鬘を被っていた。
139 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:46:05.33 ID:z1Lpz1fr0

「おい」

亜里紗が言った。

「なんか、結構あっちこっちにあるぞ」
「ええ、あっちにも」

亜里紗の言葉に、マミは一番近い別のぬいぐるみに移動する。
そして、巻髪の鬘を被ったぬいぐるみを持ち上げる。

「これ、なんかあんのか?」
「確かめてみましょう」

杏子の言葉に千里が応じて、
一同は幾つもおかれているぬいぐるみを確認するためホールに散る。

「えっ?」

ぬいぐるみの一つを持ち上げていた千里が何かに気付く。

「!?離れてっ!!」

マミが叫んだ時には、床がカッと光を放っていた。
それも、全面的にではなく、何かの模様に合わせるかの様に発光している。
それと共に、天井にもぼっ、ぼっと光が点灯し始めた。

「「やばっ!」」
「まどかっ!!」

亜里紗、杏子が叫び、ほむらがまどかを目で追う。
とにかく、一同ぬいぐるみを放り出して壁際へと走る。

「なん、だこりゃ?」
「なんだか分からないけど………」

亜里紗が呻き、杏子が呟きながら槍を手にすっと前に出る。

「スズネちゃん」

茉莉の声を背に、鈴音も光る床に向けて剣を構える。
140 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:49:51.22 ID:z1Lpz1fr0

「どう、マツリ?」
「聞こえる、嫌な、まがまがしいものが」
「そうね、それに、これは………魔力だわ、それも巨大で邪悪な」

華々莉の言葉に茉莉が答え、マミが続いた。

「ティロ・フィナーレッ!!」

まず、床から巨大な噴煙が上がり、
その中心に向けてマミが一撃を加えた。

「よけてっ!!」

マミの叫びと共に一同が左右に分かれ、
一同がいた場所に何かが飛び込んできた。

「ひっ!」
「くっ!!」

ほむらが、すくみ上ったまどかの前に立った。

「なん、だこりゃ?」
「地獄の番犬ケルベロス」

杏子の問いに応じたのは、マミだった。

「こうやってみると、普通にグロテスクね………」

目の前の、巨大な三頭犬を見据えてほむらが言う。

「こ、のおっ!!」
「危ないっ!!」

ぶうんっ、と振るった亜里紗の鎌はケルベロスにひらりと交わされ、
大ジャンプから亜里紗の背後に回った大犬に
千里がドンドンドンッと発砲する。

「デカイ癖に身軽ですばしっこいのかよっ!!」

千里の発砲が交わさるのを見て亜里紗が叫んだ。
141 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:53:28.10 ID:z1Lpz1fr0

「ほむ、らちゃん………」
「!?チッ!!」

まどかの呻きにほむらが反応し、
光る床の中心にほむらがマグナムライフルを連射するが、
床から響く不気味な音はやまない。

「魔法陣、体系的に魔術を使える人間が絡んでる」

その床を見ていた織莉子が言った。
黒い、悪臭の噴煙が上がった。

「おおおおおっ!!!」

茉莉の側で、鈴音が豪剣を振るい急接近していた巨大な蛇をぶった斬る。

「どけ、馬鹿っ!!!」

そこに華々莉が割り込んでバリアを張り、
噴射された毒液をバリアが防御する。

「嘘っ!?」

茉莉が言葉に出し、鈴音の表情にも驚きが浮かぶ。
空中で、幾つもの水晶球が音を立てて激突する。

「ヒュドラよっ」

美国織莉子が叫ぶ。

「ギリシャ神話に出て来る沼蛇の怪物。
あの首は、斬った切り口から一本が二本に分裂するっ」
「ああ、見ての通りだねっ」

織莉子の言葉に華々莉が応じる。

そして、華々莉が蛇と睨み合いになり、
蛇が別の蛇の胴体に噛み付いた。
142 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:56:44.06 ID:z1Lpz1fr0

「よし、っ………」

しかし、次に飛んで来た毒液を華々莉は這う這うの体で交わしていた。

「数が多すぎるっ!」

何体もの巨大な蛇が
根本で結合している様なヒュドラを相手に華々莉が吐き捨てた。

「わわわっ!!」
「詩音さん、成見さんっ!!」

マミが叫ぶが、ケルベロスにロックオンされた千里と亜里紗はいつしか
玄関からその外へと退却を余儀なくされていた。

「お、おいっ!」

叫んだ杏子の視線を追うと、床が改めて光を放っていた。

「まだ、何か出て来るのかよっ!」

杏子が叫ぶ間にも、魔法少女達はヒュドラとケルベロスを相手に
這う這うの体の状態を崩せない。

「あれよっ!」

叫んだのは織莉子だった。

「鹿目さん、あの星、一番輝いている所、あれを射ち抜いてっ!」
「はいっ!」

織莉子の言葉に、まどかがきりきりと弓を引き絞り始めた。

「このっ!」

その側で、フルオートのAKMが発砲される。
迫っていたヒュドラの注意を向ける程度の事は出来たらしい。
143 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:59:52.58 ID:z1Lpz1fr0

「ひっ!」

注意を引き付けた結果として、ずしゃあっと床を滑るほむらに
何本もの大蛇の首ががぱっと大口を開いて迫って来る。

「おらあっ!!」

その内の一本に多節棍が絡み付き、魔法少女の馬鹿力で引っ張られる。
その根元が鈴音によって一刀両断される。

「下がってっ!!」

マミの声と共に、大量のマスケットが空中からヒュドラを銃撃し、
流石にヒュドラも無事と言う訳にはいかない。

「あ、有難う」

息を荒げたほむらの言葉に、めいめいが頷いた。
その時、光の尾を放ってまどかの矢が天へと吸い込まれた。

「収まった………」

天井の星々と床の輝きが消失し、蝋燭だけがホールを照らす。

「完全な予知はまだ妨害されているけど、それでも、
天の星々と地面の魔法陣、その関連は何となく把握できた」

織莉子が額を押さえながら言った。

「だけど、出て来たものは引っ込まないみたいね」
「増えないだけ上等、かしら?」

ほむらの言葉に、マスケットを構えたマミが汗を伝わせながら応じる。

==============================

今回はここまでです>>136-1000
続きは折を見て。
144 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 02:40:22.41 ID:qgufq2ev0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>143

ーーーーーーーー

「参ったなぁ」

自分達が追い出された洋館の玄関近くで、成見亜里紗が嘆息を漏らす。

「まさに、地獄の番犬ね」

亜里紗の親友にして魔法少女仲間の詩音千里も、
洋館の入り口にぬーんとばかりに居座る巨大な三頭犬、
通称地獄の番犬ケルベロスを見て呆れた様に言った。

「実際、強いんだよなぁあれ」

亜里紗が苦い声で言う。

「他に、入口探した方が早いかも」
「かもね」

ーーーーーーーー

本来は魔法少女若葉みらいの願いにより実現した
テディベア博物館「アンジェリカ・ベア」。

現在、その一階ホールでは
見滝原、風見野ホオズキから訪れた魔法少女達がヒュドラと激闘を展開し、
地下ホールには若葉みらいを初めとしたあすなろ市の魔法少女グループ
「プレイアデス聖団」が集結していた。

聖団の側には、一組の紳士淑女を従えた
一見して幼いゴスロリ少女レディリー=タンクルロード。
元々が魔法に加え、魔法を取り入れた科学力が導入されていたこの博物館を、
魔術と先端科学で更にいわゆる魔改造を施したのはレディリーに他ならない。
145 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 02:45:59.91 ID:qgufq2ev0

「指示通りに配置を完了した」
「そう」

聖カンナとレディリーが言葉を交わす。

「理屈通りの配置、なのよね」

大きな本を手にした御崎海香が尋ねた。

「その通りよ」

レディリーが答える。

「これから私が行う事は、言わばこのホールに計算通りの世界を再現する。
この世界がそのまま再現される、本来であれば。
それ以上の意味は何も無い筈よ」
「魔術的な意味合いから言っても、
只、世界を表現する術式、それ以上の意味は見出せない」

レディリーの発言を海香が補強する。

「未だに何を言ってるのか分からないんだけどっ」

口を尖らせたのは若葉みらいだった。

「サキやみんなを巻き込んでここまで危ない思いをして、
それで意味が無いとか言われても」
「意味が無いならそれに越した事はないわ」

噛み付きそうなみらいに、レディリーは余裕を見せる。

「その場合、只の取り越し苦労と言う事になる。
但し、攫ったマギカ達に対する言い訳が難しくなるけどね」
「取り越し苦労ならそれに越した事はない、かずみに関わる事だからな。
やってしまった事に対しては、土下座でも八つ裂きでも私が引き受ける」

浅海サキの言葉に、みらいがサキとかずみをすっと見比べる。
146 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 02:51:23.64 ID:qgufq2ev0

「魔法少女の肉体は、大丈夫か?」
「ああ、さっきも点検した。
この地下のレイトウコは無事稼働してる」

牧カオルの問いに、神那ニコが応じた。

「始めるわよ」

一同がホール中央に集まる。
ホール中央でレディリーがデスクに用意されたパソコンの操作を始める。

「魔術師、って光景じゃないね」
「それは、私に対する挑戦と受け取ってもいいのかな?」

牧カオルの言葉に神那ニコが反応した。

ホールの天井にプラネタリウムが輝き、
ホールの床には魔法陣が光を放つ。
円を基調とした大量の図形と地図、星座が、
床の上でそれぞれの色に輝き始める。

「そろそろ、魔術師らしい事を始めましょうか」

レディリーが口元に笑みを浮かべ、パソコンを離れる。

魔法陣が走る床の方々に、テディベアが置かれている。
テディベアにはソウルジェムと、
そのジェムの持ち主の髪の毛が装着されている。

「世界を再現する」

レディリーが言った。

「マギカ達のパーソナルデータ、その魔術的意義。
そこから導き出される理論的な位置、方角を星座と対応させる」

「魔法少女の中でも、
独特の違和感がある魔法少女のソウルジェムを使って、だな」

レディリーの言葉にニコが続く。
147 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 02:57:22.82 ID:qgufq2ev0

「私の占星術と財力に基づく調査力、聖カンナのコネクト、
それらを総動員して可能な限り調べ上げた。
まず、地理的要素の強い見滝原、風見野、あすなろ、ホオズキ。
その土地の魔法少女の中から、僅かな、ズレとも言えない違和感がある者達を」

「本当に何かおかしな事があるなら、
海香が分からない筈がないんだけどな」

レディリーの言葉に、カオルが改めて問い直す。

「そう。理論的には何のズレも間違いも無い。
只、私達、私と聖カンナの勘がそう告げただけの違和感。
ソウルジェムはマギカの魂の輝きそのものを現している。
私の占星術を持ってすれば、
極端な話ソウルジェムが二つあれば星座と対応させて世界を描き出す事が出来る」

「その世界は、今、私達がこうして生きている世界」
「ええ、その筈よ」

海香の問いに、レディリーは笑みを以て応じた。

「これだけのソウルジェムと対応させた場合、
かなり正確に世界は描き出される。
そして、その世界は、私の占星術が先々に至る迄その幸福を示し続けている、
至って穏やかで平和な、
災いらしき災いが絶えて見えない世界、そうなる筈。
時間みたいね」

僅かずつ動く星々を眺めていたレディリーが言い、
中央の、更に中央へと動き出す。
中央に置かれた祭壇に立ち、その上で両腕を広げて呪文を口にする。
聖カンナが目を細める。
テディベアに装着されたソウルジェムが淡い輝きを見せ始めた。
148 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 03:00:37.06 ID:qgufq2ev0

「終わったのかしら?」

祭壇から戻って来たレディリーに海香が尋ねる。

「そういう事になるわね。
少なくとも起爆スイッチは押した筈だけど」
「で、ソウルジェムがちょっと光っただけ………」
「おいっ」

言いかけたみらいをサキが制する。

「ん?」

牧カオルが気付いた。
他の者達も気付き始めたらしい。
蛍よりも遥かに小さい光の粒が周囲を漂い始めた。

「何かが召喚された?」

レディリーが呟く。
その間にも、光の粒は徐々に量を増す。
それは、ピンク色の光の粒だった。

「これは? なんだ? まるで………」
「分からない。でも、嫌な気分ではない………」

戸惑いを覗かせるレディリーの側で、
やはり解析に失敗した海香が言った。
その間にも光の粒は量を増し、
いつしか、ホール全体の視界を靄の様に覆い始めていた。
149 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 03:04:18.98 ID:qgufq2ev0

ーーーーーーーー

「星と魂との対応、そこから色の手がかりを見つけたか」

「アンジェリカ・ベア」の外で、そんな呟きが聞こえた。

「個別の違いが分からなければ理論値で最初から作り直して比較する。
稚拙だが発想は悪くない」

「止まりなさい」

詩音千里が、前方に見える影に魔法銃を向けた。

「あなたも魔法少女? あすなろのグループかしら?」

千里の問いも、銃口も全く無視してすたすたと動き出す。

「待ちなさいっ!」
「気安いぞ」

千里が肩を掴み、引き留めようとした次の瞬間、声が聞こえた。

「!?」

その時には、千里の体はお星さまになる勢いで吹っ飛ばされていた。

「な、な………
な………に、やってんだっ
てめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっ!!!!!」

成見亜里紗の怒号が一帯に響き渡った。
150 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 03:07:49.36 ID:qgufq2ev0

ーーーーーーーー

ヒヒヒヒヒ

「ん?」

カオルが周囲を伺う。

ヒヒヒヒヒヒ

「海香、聞こえたか?」
「ええ」

聖団が、徐々に効かなくなる視界の中、警戒を始めていた。

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ

「笑い声?」

レディリーが呟く。

「どちらかと言うと、可愛らしいわね。
邪気は感じられない。魔術的なものも………」
「物の怪に誘われてる、って線は?」
「それは無いわね」

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ

海香の問いにレディリーが応じる。

「そんなものであれば、私が気づかない感じない筈がない」
「何が、起きて………」
151 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 03:11:43.67 ID:qgufq2ev0

ヒヒヒヒヒ

解析不能を示すスマホを懸命に操作していた神那ニコが、
ふと、その手の動きを止めた。

ヒヒヒヒヒ

「ミチル?」

異変に気付いたかずみが双子の姉に声を掛ける。

ヒヒヒヒヒヒ

「うふふっ」

どこからともなく聞こえて来て、
段々とその存在が認知される可愛らしい笑い声。
それに呼応する様に、宇佐木里美も艶めいた笑みを浮かべた。

「お、おいっ」

ふらり、と、あらぬ方向に動き出した仲間達を見て、
牧カオルが声を上げる。
152 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 03:15:08.97 ID:qgufq2ev0

「引き寄せられている」
「何に?」
「分からないっ」

レディリーの問いに、
引き寄せられている仲間の事は把握してもその先が見えない聖カンナが
その通りにコネクトの結果を伝える。
その間にも、和紗ミチル、神那ニコ、宇佐木里美、浅海サキは、
心ここにあらずと言った表情でふらふらと動き出し、
中央からピンク色の靄の中へと移動しようとする。

「あれは? ………」

レディリーが目を凝らす。
ピンク色の靄の中に、白い人影の様なものが見え隠れしている。

「い………い、くな………
行くなサキ行くな
行ぐなザギィィィィィィィィィッッッッッッッッッ!!!!!」

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ

==============================

今回はここまでです>>144-1000
続きは折を見て。
153 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:01:38.04 ID:65YIRYbq0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>152

「待ちなさいっ!」

「アンジェリカ・ベア」地下にしつらえられた儀式場で
レディリー=タンクルロードが叫ぶが、
ふらふらと動き出した面々は全く意に介さない。

(魔術? しかし、私の感覚を以てしても禍々しいものは感じられない)

ヒヒヒヒヒ

ティ

ピンク色の光の靄が辺りを覆い、
何処からともなく可愛らしい笑い声が響き続ける。
靄の中に白い人影が見え隠れし、
それに誘われる様に、複数の魔法少女がふらふらと歩みを進める。

「レディリー、どういう事なのっ!?」

普段は沈着な御崎海香から鋭い質問が飛ぶ。

「そちらでは、何か分からないの?」
「分からないわね、はっきり言って解析不能。
魔法で解析出来る次元のものじゃないみたいね」
「魔術もご同様」

本を広げて苦い声で言う海香に、レディリーは言葉を続けた。

「ふ、ざ、け、る、な」

血の滴る様な声で呻くのは、若葉みらい。
154 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:03:53.37 ID:65YIRYbq0

「サキ、サキが、レディリー、お前………」
「取り敢えず、大事な彼女を引き留めておくべきね」
「分かってるっ! サキッ!!!!!」

みらいにしがみつかれた浅海サキは、呆然と天を仰ぐ。

(なんなの? 魔術に誘われている、と言う感覚が感知出来ない?
魔法少女を何処かに誘い込む存在………)

「かずみ?」

和紗ミチル、神那ニコ、宇佐木里美、浅海サキがふらふらと動き出し、
他の面々が何とかそれを留めようとしている中で、
牧カオルがそれとは違った声を上げた。

「どうしたの?」
「いや、今、かずみ?」

海香の質問にも、カオルが要領を得ない返答しかしない。

「!?」
「?」

海香とカオル、レディリーが目を見張る姿に、
昴かずみはきょとんと反応する。

「気のせい、じゃあ、ないみたいね」

ごくりと息を飲む海香に、カオルが頷いた。
ほんの一瞬、かずみの姿が丸で陽炎に呑まれた様に見えた。
そして今、さっ、と、かずみの体に何かが走る。

「かずみっ!」

ついにはカオルがかずみに駆け寄り、その両肩を掴む。

「かずみ、大丈夫かっ!? なんでもないかっ!?」
「う、うん」
「どう?」
「ええ、異常は、ないわ」
155 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:05:59.28 ID:65YIRYbq0

レディリーの問いに、
海香は明らかに納得していない返答をする。

海香の本はその結果を示していても、
ほんの一瞬ずつ、かずみの姿が陽炎に揺らぎ、
或は、昔のポンコツテレビの様に
ささっと白い横線が走っているのを目の当たりにしているのだから
それも当然の反応だ。

ヒヒ

ヒヒヒヒヒ

ウェヒヒヒヒヒ

「おいっ!」

聖カンナの叫び声だった。

「ソウルジェムがっ」
「なんですって?」

レディリーが駆け付けたのは、
儀式に用いられたソウルジェムだった。

「濁りが、広がってる」
「肉体から切り離しているのに?」

レディリーが問い返すが、確かに、
テディベアと共に床の魔法陣に配置されたソウルジェムを確認すると、
じわじわと濁りが拡大し続けている。

「若葉みらい、ソウルジェム、テディベアを集めろっ!!」
「分かったっ! ラ・ベスティアッ!!」
「こっちよっ!!」

レディリーの誘導で、ソウルジェムを装着したテディベアは一か所に集結する。
その間に、レディリーは中央デスクのパソコンを操作する。
集められたテディベアが、ばこんっ、と、半透明なドームに蓋される。
156 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:07:04.98 ID:65YIRYbq0

「どう、だ?」
「駄目だっ!!」

レディリーの問いに、カンナが叫び返す。

「濁りの拡大が止まらない」
「あらゆる有害光線、
宇宙線を遮断する遮断フィールドの効果が無い、と言う事は………
世界そのものか?」

レディリーが、未だ星々の瞬く天を見上げる。

「まさかヴァルキュリア? だとすると北欧神話?
だが、その特徴は見えない………
それは、死の国、だとでも言うのか………」
「どうする?」

ぶつぶつ声に出し始めたレディリーに、カンナが問い直す。

「今からまともに術式を解除していても間に合わない。
精密な術式だけに、中途半端な事をしたらもっと厄介な事になる。
聖カンナ、コネクトを貸しなさい」
「ああ、いいだろう」
「全員、撤収の準備を」
「なんだって?」

レディリーの指示に、カオルが尖った声を上げる。

「彼女達を助けても、どの道ここは維持出来ない、
魔法少女どころじゃない、
昔の米ソと全面戦争の方が遥かにマシ、って相手を敵に回す事になる」
「何を、しようって言うの?」

海香が尋ねる。

「魔術と科学が角突き合わせていた、
そんな時代の負の遺産、かしらね」
157 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:08:51.00 ID:65YIRYbq0

ーーーーーーーー

「遅ェぞ、オリジナル」

科学の学園都市、研究所の一室で、
駆け込んで来た御坂美琴に一方通行が毒づいた。

「どうなってるの? 妹達に何がっ!?」
「あなたの理解している状況は?」

美琴の質問に、芳川桔梗が質問で返す。

「ええ、私の目の前で急に倒れたからあの病院に預けた。
他の妹達もそうね。打ち止めも?」
「だからこうやってンだろうが」
「ウィルスだとか………」
「ええ、そうよ。MNW、ミサカ・ネットワークに
ウィルスを流し込んだ者がいる」

端末のキーボードを操作しながら、
芳川は焦りを隠せない口調で告げる。

「おいおいおィ、今更ウィルスとか、
MNWのセキュリティーはどうなってるんですかァ?」

軽口に聞こえるが、
返答次第では椅子の上に挽肉が鎮座するのは確実だろう。

「普通だったらまずあり得ない、
こんなハッキング、出来る筈がない」
「でも、出来てるのよね?」
「ええ、そうよ。今の所、理解出来ない技術を使ってね。
何処かから不可思議な技術を使って、
MNWに外から干渉してる、セキュリティーが丸で機能していない」
「それで、済むと思ってるんですかァ」
「どいて、私がやる。ハッカーの逆探知と改竄箇所の修復ね」
「お願い」
「後の方、オリジナルだけで出来るんですかァ?」
158 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:10:03.37 ID:65YIRYbq0

ーーーーーーーー

「召喚せよっ!!」

呪文と共にPCを操作していたレディリーが、
叫びと共にリターンキーを叩いた。

「白い」
「稲妻?」

ばばばっ、と、一瞬辺り一帯に走った情景に、
一同が感想を漏らす。

「コネクト、切ったわね?」
「ああ、物凄い勢いで追跡して来てる奴がいた」
「でしょうね」

その間にも、ばばっ、ばばっ、と、
白い稲妻が幾度か周囲を照らす。

「なんだ、これは?」

聖カンナが眉をひそめる。

「稲妻、電気の様でいて電気ではない、
得体の知れない感触だな」
「流石、鋭いわね」

カンナの言葉に、レディリーは返事になっていない賞賛を返す。
次の瞬間、


「!?!?!?」

地下儀式場の下から上に、
ずっどぉーんっ、と、ばかりに、白い何かが一息に突き抜けた。
159 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:11:29.79 ID:65YIRYbq0

「!? サキッ!!」

無機質な人工の照明の下、
ふらりと倒れ込んだ浅海サキを若葉みらいが抱き起す。

「ミチル!?」
「おい、ニコ」
「里美、大丈夫かっ!?」
「変身が、解けて………」

倒れた面々を介抱する中、海香が異変に気付く、

「引き揚げるわよっ、死にたくなければ一刻も早く!!」

==============================

今回はここまでです>>153-1000
続きは折を見て。
160 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:24:07.66 ID:pKwKL5HU0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>159

ーーーーーーーー

「………」
「危ないっ!!」

「アンジェリカ・ベア」一階ホールで、
暁美ほむらは悲鳴を上げて鹿目まどかに飛びついた。

「ほむらちゃん?」
「何、ぼーっとしてるのっ!?」
「あ、ご、ごめんっ!」

ようやく状況に気付き、まどかが頭を下げる間にも
その側では怪獣以外の何物でもないヒュドラと
巴マミや佐倉杏子等が激闘を展開していた。

「行かなきゃ」
「え?」

ぽつりと呟いたまどかの言葉に、ほむらが聞き返す。

「何? どうしたのまどか?」
「う、ううん。何か、この建物の中に何かがあるって言うか」
「ああ、確かに」

まどかの言葉に続いたのは、日向華々莉だった。

「この建物の、多分地下だ」
「何? マツリには分からないけどっ!!」

華々莉の言葉に茉莉が続くが、実の所、ほむらも華々莉に同感だった。
或は、まどかや華々莉の反応に暗示されただけなのかも知れないが、
それでも、ほむら自身が先程までとは違うざわっとしたものを感じている。
161 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:26:28.09 ID:pKwKL5HU0

「どちらにしても」

ほむらが、魔法武器の弓矢を用意し直す。

「あの化け物をどうにかしない事には」

確かに、その通り。
大量に首を持つ巨大な蛇、ヒュドラが暴れ狂っている状況では
先に進むも何もありはしない。

「みんな、ホールに展開してっ!
多少首を増やしてもいいから、
少しだけあいつを引き付けて混乱させて頂戴っ!」
「分かったわっ!!」
「オーケーッ!」
「分かった」

どうやら何かを決めたらしいマミの言葉に、
次々と返答が飛ぶ。
ほむらの矢が突き刺さり、杏子の槍がぶっ叩く。
許可を得た天乃鈴音が飛翔し、
その豪剣がヒュドラの首を一つをぶった斬る。

「オラクルレイッ!!」

美国織莉子がとっておきの一撃を食らわせた辺りで、
ホールに大量の銃声が響き渡った。
ヒュドラが、床に用意された大量のマスケットを撃ちまくるマミに
絶叫と共に猛スピードで接近する。

「マミさんっ!」
「大丈夫っ!」

まどかが叫ぶが、マミは一足早く飛翔してそれに応じていた。
そして、気付いた時には、
ヒュドラは地面から噴出した大量の黄色いリボンによって
雁字搦めにされていた。
162 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:28:25.58 ID:pKwKL5HU0

「ヒュウッ、流石だね」
「手練れの技ね」

未知の相手との苦戦の中でも、
気が付けば今まで通りのヴェテランの手並みを見せる。
そのマミの危なげなさに杏子とほむらも安堵する。

「………まどか?」

そして、ほむらがふと視線を戻すと、
やはりまどかがぼーっと突っ立っていた。
幾ら、ヒュドラが拘束されたばかりとは言え。

「ほむらちゃんっ!?」
「まどかっ?」

そして、今度は気が付いた様に叫び出す
そんなまどかに、ほむらが駆け寄る。

「何かが、変わった?」

耳を澄ませていた日向茉莉が呟く。

「みんな下がって!!」

織莉子が叫んだ、その次の瞬間だった。

「!?!?!?」

何かが、ぶち抜けた。

「何?」

マミが、目をぱちくりさせて誰ともなく尋ねる。

「白い、何かが、上から下に………」

そう言ったのは、鈴音だった。
よく見ると、今だ、周辺の空中にはぱちっ、ぱちっと何かが弾けている。
163 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:29:06.94 ID:pKwKL5HU0

「電気? 雷?」

その白く弾ける光の破片を見て、ほむらが呟いた。

「女の人………」
「えっ?」
「何となくだけど、女の人みたいだった」
「マツリも、そう思う」

まどかの言葉に、茉莉が続いた。

「何が起こるか、じっと見てたけど、
なんて言うのか、物凄く大きい髪の長い女の人の白い幽霊」
「ああ、あたしにもそう見えた」

茉莉の言葉に、杏子も同意する。

「ヒュドラは?」

ぽつりと言ったマミの言葉に、一同はようやく気付く。
ヒュドラも、ヒュドラを拘束していたリボンも雲散霧消していた。

「魔法陣も、起動状態がシャットダウンに変わったみたい」

床を調べた織莉子が言う。

「つまり、ここで発動していた魔術が、消えた?」
「そういう事になるわね」」

ほむらの言葉を織莉子が肯定した。

「こっちに階段があるっ!」

いつの間にか、ホールの奥にある扉の前に移動していた茉莉が言った。
164 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:30:10.07 ID:pKwKL5HU0

ーーーーーーーー

「逃げられたかも知れない」

螺旋階段を地下へと下りながら、茉莉が言った。

「なんとなく、こっち側から人の気配みたいのがあったんだけど、
今はそれが消えてる」
「まさか、ツバキ達もその中にっ?」

茉莉の言葉に、華々莉が鋭く問い返す。
そして、到着した地下一階は、無機質なホールだった。

「これも、魔法陣ね。だけど、魔力の反応はない。
或は、こちらも一度発動させてシャットダウンさせた。
でも、さっきのと比べて物凄く複雑な内容よ。
様々な占いの要素が入り組んでる」

床を調べながら織莉子が言う。

「どう?」
「専門家って訳じゃないけど、素人目にも無理そうね」

マミに問われ、
最早ガラクタ同然のパソコンを操作していたほむらが言った。

「おいっ、ちょっと来いっ!!!」

遠くから、佐倉杏子の怒号が聞こえて来た。
165 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:32:08.79 ID:pKwKL5HU0

ーーーーーーーー

「何、これ?」

地下二階に到着したまどかは、絶句していた。

「まさか、誘拐された魔法少女達?」

ほむらもやっと言葉を発するが、それは、SFじみた光景だった。
地下二階のホールには大きな透明カプセルが林立し、
透明な液体が満たされたその中には
意識を失った少女達が立ったまま眠っている様に見える。

「ツバキ、ツバキッ!!」

その間にも、既に華々莉と鈴音は走り出していた。

「置手紙がある」

マミが言った。

「カプセルの中の魔法少女の解放方法。
解凍、水抜き、記号に合わせてソウルジェムを近づける、
手順に従って行えば復活します、って」
「それ、信用出来るのか?」
「どっちにしても、やるしかない」

杏子が言うが、ほむらが結論付ける。
近くには、ビニールパックに入った
メモつきソウルジェムも大量に用意されている。
その時には、織莉子が動き出していた。
166 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:34:15.40 ID:pKwKL5HU0

「キリカ、目を覚ましてキリカ………」

織莉子が、呟きながらカプセルの基盤の機器を操作する。
そのカプセルの中にいるのは、呉キリカに他ならなかった。

「キリカッ!! 目を覚ましてっ!!」
「………織莉子?」
「そうよっ」
「………なんだい、これはっ!?」

立ったまま肩まで水に浸かったキリカが叫び出す。

「ちょっと待ってて、
今全部水を抜くから、転ばない様にしてね」
「………全員、手分けして初めて頂戴っ!」

「実験」成功を見届けたマミの指示で、他の魔法少女達も動き出した。

「さやかちゃんっ!」
「まど、か?」
「ツバキッ!!」
「あら、あら………」
「人見リナさん?」
「ええ………そうだけど」
167 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:35:52.15 ID:pKwKL5HU0

ーーーーーーーー

「チサトっ!!」

「アンジェリカ・ベア」屋外で、詩音千里は自分を呼ぶ叫び声を聞いた。

「大丈夫だったのっ!?」
「ああ、マツリ。ええ、大丈夫」

気が付いたらあすなろタワーまで吹っ飛ばされて、
今ようやく戻って来た所だったが、
まあ、今の所自分は大丈夫、そういう事だった。

「それよりマツリ、こんな所で、中は………
………先輩っ!?」
「心配、かけたわね」

その言葉に、千里の涙腺が緩みそうになる。
だが、それはまだ早い、と言う妙な雰囲気を千里は察していた。

「こちらで把握している、失踪中の魔法少女は全員救出出来た」

奏遥香の背後から現れ、説明する暁美ほむらの歯切れは悪い。

「何か、あった?」
「こっちに来て頂戴っ」

ーーーーーーーー

「アリ、サ?」

千里の親友成見亜里紗が、微動だにせず千里の目の前に横たわっていた。

「な、に?」
「今は、ソウルジェムを離して仮死状態にしてあるわ」
「どうしてっ!?」

マミの説明に、千里が叫んだ。
ほむらが、無言で亜里紗のソウルジェムを肉体に近づける。
亜里紗は、ぱっと目を覚ました。
168 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:37:00.16 ID:pKwKL5HU0

「アリサ………」
「嫌あああああっっっっ!!!!!」

千里が声をかけようとした瞬間に、亜里紗は絶叫していた。

「嫌、嫌、嫌あ、嫌………」
「アリサ?」

亜里紗は、我が身を抱き、ガタガタと震えながら逃げる様に這いずり回る。

「やだ、やだ、やだ、やだ、もうやだ、もうやだ、もうやだあっ!!!
やだようやだようやだようやだよう………」
「私達が見つけた時から、ずっとこうなの」

マミが言った。

「何かに、ひどく怯えてる。
浄化してもソウルジェムの濁りが止まらない。
だから一時的にああしていたの」
「アリサ? ねえどうしたのアリサっ!?」
「やだあっ!!!」

差し伸べられた千里の手を振り払い、亜里紗は絶叫する。

「やだあっ!! もうやだあっ!!」
「普通じゃないわ、何らかの魔術が使われている。
詩音千里、なんとかならない」
「もちろん」

ほむらの言葉に、千里は亜里紗に銃口を向ける。
それを見て、亜里紗は目を見開いた。
特に親しい訳でもないが、
知り合いではあるほむらから見て、異様な光景だった。
はっきり言って、亜里紗のキャラクターが違い過ぎる。
169 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:38:10.72 ID:pKwKL5HU0

「大丈夫よ、亜里紗。今すぐその悪い夢………!?!?!?」

千里が引き金を引く。
だが、次の瞬間、弾き飛ばされたのは千里の方だった。

「うああああーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!!」

それを見て、いよいよ亜里紗も
丸で地に潜ろうかと言う異様な態度で恐慌を始めた。

「そん、な………」
「どういう事なの?」

呆然とする千里にほむらが尋ねる。

「分からない。敢えて言うなら、グレードが違い過ぎる」
「何?」

千里の説明に杏子が聞き返した。

「なんと言うのか、アリサにかけられている術が高度過ぎて
私の解除を遥かに上回っていると言うか」
「そんな………」
「アリサ、しっかりしてアリサっ!!」
「やああああっ!!!!!」

説明を聞いた茉莉が震えている間にも、
少々長い眠りから覚めたばかりの遥香が亜里紗の肩を掴もうとしたが、
亜里紗はぶんぶん腕を振り回して抵抗した。

「駄目っ! 一時しのぎで洗脳しようにも何かが邪魔してる、
浄化してもキリがない、キューブの残りも………」
「やだ、やだぁ………」

一難去っての事態に華々莉がギリギリ歯噛みしている側で、
亜里紗は泣きじゃくっている。
170 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:39:27.83 ID:pKwKL5HU0

「やだ、やだぁ、もうやだぁ、
助けて助けて助けて助けて助けて………」
「あああああっ!!!!!」

詩音千里は、日向華々莉を突き飛ばす勢いで、
ガッ、と、亜里紗の両手を取った。

「や、やっ、や………」
「大丈夫、私、チサト、チサトだから、アリサ」

千里の言葉と共に、千里と亜里紗が光り輝いた。

「チサトっ!?」
「だい、じょ、うぶっ」

そんな二人に、バチッ、と稲光が光ったのを見て遥香が叫ぶが、
千里は手を離さない。

「高度な術式を力ずく、力押しで解除するつもり?」

織莉子が言う。

「危険ね、既にカウンターが続々撃ち込まれてる」
「愛、だね」

事態を把握する織莉子に、キリカが続けた。

「あああああっ!!」
「チサトっ、一回離れて、危険よっ!!!」
「アリサは………」

遥香の制止を拒否した千里が、苦しい息と共に告げる。
171 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:41:24.05 ID:pKwKL5HU0

「アリサ、は、ひどいいじめを受けていて、
魔法少女になって克服したけど、簡単に、消える傷じゃない」
「ええ、そうよ」

千里の言葉に、遥香が続く。

「まだ知り合う前だったとは言え、
同じ学校の上級生として生徒会長として魔法少女として、
私は恥じ入るばかり」

バババハバッ、と、千里の体を電撃が貫き続ける。

「アリサ、は、私の魂を、救ってくれた。
だから、だから私が、
今度、は、私がああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!!」

==============================

今回はここまでです>>160-1000

恐らく本年最後の投下、だと思いますので。

それでは良いお年を。

続きは折を見て。
172 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2017/01/22(日) 21:18:25.67 ID:2HaHrhio0
生存報告です
173 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2017/02/18(土) 03:38:23.16 ID:eMp5afFD0
生存報告です
174 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:17:46.52 ID:Hw2qFdHg0
まずは訂正です。

>>121

そんな中、美国織莉子と鹿目まどかが玄関からリビングへと姿を現す。

そんな中、美国織莉子と鹿目まどかが姿を現す。

>>122

マミルームからの帰路、ほむらがまどかに話しかけた。

帰り道、ほむらがまどかに話しかけた。

完全にやらかしてました、すいません。

それでは今回の投下、入ります。
175 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:23:26.44 ID:Hw2qFdHg0

==============================

>>171

ーーーーーーーー

イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤ、ダ……………

沈む、沈む沈む闇の底に沈むもういいそれでもいいこの苦しみから

光が、見えた、手を引いてくれるのは

そうだ、光に引き上げてくれた、
沈んで、

たまるか

ーーーーーーーー

「かああああああっっっっっ!!!!!」

成見亜里紗が、一声叫んで身を起こした。

「気が付いたっ!?」
「あ、ハルカ? 無事だった? ………」
「それはこっちの台詞よ、
でも、心配かけてごめんなさいっ」

亜里紗の手を取った奏遥香は、涙目だった。

「ん?」

そして、亜里紗は気が付く。

「チサト? ねえ、ちょっとチサトどうしたの?」

跳ね起きた亜里紗が、近くで身を横たえる詩音千里に駆け寄った。
176 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:29:00.97 ID:Hw2qFdHg0

「アリ、サ? 気が付いた?」
「うん、夢を見た、あの時の夢」
「あの時の?」

「あの時、チサトがアタシの事を、
アタシの心を救って、今のグループに誘ってくれた時の事、
全っ然かなわなくてさ」
「そうだったね」

くしゃっと笑顔になった亜里紗に、千里もふふっと笑みを見せた。

「ん、んんっ!」
「チサト? ねえどうしたのチサトっ!?」
「離れてっ!」

叫ぶ亜里紗を、巴マミが鋭く制する。

「彼女の魔力消耗、ソウルジェムが限界値に近づいてる。
キューブも使い果たした、今は時間を稼ぐしかない」
「そんな………」

マミの説明を聞き、亜里紗が両膝をついた。

「………あ、あ………」

そして、亜里紗もそのまま体を折る。

「そう、あなたのソウルジェムも危険領域である事に違いは無い。
今、大至急魔獣を探してる」

状況を告げたのは暁美ほむらだった。

「ん、ぐっ………これ、マジでヤバイ、かも………」
「!?」

跪いて体を折る亜里紗、その様子を見守っていたほむらが物音に視線を向ける。
そちらでは、千里がゆらっと立ち上がっていた。
177 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:34:16.05 ID:Hw2qFdHg0

「ア、リサ」
「チサト………」

亜里紗も、苦しい息と共にそちらに目を向ける。

「良かっ、た、戻って来て」

すとん、と膝をついた千里が口にした。

「うん。まあ、なんか又、ヤバそうだけどさ」

そう言って、亜里紗が笑みを作った。

「今度は、助けてあげられない、かな」
「お互いに、今まで、色々と」
「こちらこそ」
「勝手に、終わらないでくれるかしら?
じきに、キューブが間に合う、筈だから」

手に手を取り始めた千里と亜里紗に、
ほむらが苛立たし気に言う。
それは希望的観測に過ぎないのだが、諦めるつもりは毛頭なかった。

「何?」

奏遥香が呟く。
「何?」と言われても何がなんだか分からない。
だが、感じる事は出来た。
或は風、或は星々の輝き。

論理的な五感の数値に変動はないのかも知れない。
だが、魔法少女達は感じていた。
何かが、動いている、輝きが増している、近づいている。
それは、魔獣等と言うものではない、何かもっと。

「鹿目さん?」

そして、巴マミは気付いた。
呆然と突っ立っている鹿目まどかに。
178 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:37:29.43 ID:Hw2qFdHg0

「まどか?」

ほむらが声を掛けるが、まどかは反応しない。
そのまま、まどかは天を仰ぎ、ゆっくりと腕を広げ始める。

「鹿目さん?」
「まどかっ!!!」
「暁美さんっ!?」

ほむらに続き、マミが叫び声を上げた。

「ほむら、ちゃん?」

荒い息を聞きながら、まどかがぽつっと言った。

「あ、ごめんなさい」

ほむら自身も、今、気付いていた。
自分がまどかに飛びつき、抱き着いていた事に。

「まどか、今、何が?」
「え?」

そっと腕を離し尋ねるほむらに、まどかはきょとんと答えていた。

「!?」

一同が物音に反応する。
そちらを見ると、佐倉杏子と、レイトウ監禁から
復帰したばかりの美樹さやかがこちらに駆け込んで来る所だった。

「佐倉さん、美樹さんっ!?」
「やっべーかも」

荒い息を吐きながら杏子が言う。
それを裏付ける様に、ここに残った魔法少女達も身構え、
魔獣を探しに出ていた呉キリカもずしゃあっと戻って来た。
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