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以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/12(木) 23:18:10.88 ID:PRviaZz6o
麻衣はもう先に来て硬い石のベンチに腰かけていた。
「ごめん」
僕は麻衣を待たせてしまったことに妙な罪悪感を感じて麻衣に謝った。彼女はそれには
答えずにでも優しく微笑んでくれた。
その昼休みは麻衣は珍しく寡黙だった。彼女は僕にお弁当を勧めた。そして僕が彼女に
勧められるままに手づくりのサンドイッチを食べている間、黙ったまま微笑んで僕を見つ
めていたのだった。それは奇妙なほど静かな時間だった。
朝、お互いに抱き合い引き寄せあったときのような情熱的な感情は今でお互いに収まっ
ていて、それでもお互いをより近くに、まるで自分の分身のように親しく感じている度合
いは朝のひと時よりも大きかったかもしれない。麻衣の沈黙はもう僕を不安にさせること
はなかった。
「先輩?」
「うん・・・・・・美味しいよ本当に」
僕はサンドイッチを飲み込んで答えた。小さい頃から料理をしているだけあって彼女
の料理の腕前はお世辞でなく確かなものだった。
「ありがと」
彼女は言った。「でもそんなこと聞きたかったんじゃないのに」
「うん? 何?」
「あたしね」
麻衣は僕の方を見つめた。顔には相変わらず優しい微笑を浮かべていた。
「本当に先輩と出会えてよかったと思う。普通なら一年生と三年生なんか出会う機会って
少ないじゃない?」
「まあ、同じ部活とかじゃないと普通はないよね」
僕は答えた。それに同じ部活だったとしても三年生と一年生のカップルはうちの学校で
も珍しかった。ほとんど中学生に近い一年生と大学生に近い三年生ではいきなり恋人同士
に至るにはギャップが激しすぎるし、少しづつ長い時間をかけてお互いにわかりあうにし
ても一年と三年では共に一緒に過ごせる期間は短かかった。部活からの引退や受験を考え
ると長くても半年くらいだったろう。そう考えると僕と麻衣のようなカップルが成立した
のは一種の奇跡だった。
「お兄ちゃんと二見さんのことがあって、たまたまあたしがパソコン部に入ろうと思った
から、あたしと先輩って知り合えたんじゃない?」
「うん」
本当にそのとおりだった。それに僕が学園祭の準備にかまけていて、パソ部に顔を出さ
なければ彼女と知り合うことすらなかっただろう。いろいろあって偶然に生徒会に居辛く
なった僕が生徒会室を避けて部室に避難したからこそ僕は今、麻衣の彼氏でいられるのだ。
そう考えると本当に綱渡りのような偶然が積み重なった、危うい一筋の糸の上で僕たちの
儚い恋は成就していたのだった。僕は本当に幸運だったのだろう。
「先輩と知り合う前のあたしと、先輩の彼女になったあたしって別な人間なのかもしれな
い」
麻衣は随分と難解な表現で話を続けた。僕との出会いを喜んでくれたのはわかったけど、
それにしてもそれは大袈裟な物言いだった。
「いろいろあたしも成長したのかもね」
麻衣は言った。「あたしって今までお兄ちゃんが大好きで、今までも他の男の子に告白
されたこともあったんだけど、いつもお兄ちゃんのことを考えちゃって」
「うん」
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