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末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」(最終章と後日譚)
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100 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/02/28(日) 00:27:34.39 ID:dkyA67w70
師匠「ふむ、野生種の林檎の酸味を敢えて活かす事で、爽やかなサラダに仕上がっているな」
末妹「どれも本当に美味しい……あら、キッシュのチーズは種類を混ぜて使っているのね」
王子「味に深みが出るんですよ、具が野菜中心でも満足感が得られます」
王子「……ずっと前に料理長さんは野獣からそれを教わり、以来、料理に合わせてあれこれ自分で工夫しているそうです」
末妹「……野獣様」
末妹「野獣様はこの席にいなくても、教えを、野獣様の好みをお屋敷の皆さんは守り続けている」
末妹「……『野獣様の欠片』を持っているのは、私だけじゃないのね」
王子「末妹さん?」
末妹「もちろん、菫花さんはいつも共におられるのでしょうけど」
末妹「料理長さん、執事さん、庭師くん、メイドちゃんも」
末妹「野獣様の教え、野獣様の言葉、野獣様の心を受け取って」
末妹「それだって野獣様の一部だもの」
末妹「お兄ちゃんだって同じ」
次兄「はい? 何が?」ポリポリ
メイド「次兄様、サラダから胡桃だけ拾って食べるのはさすがにお行儀が」
次兄「ちゃんと他の物も完食するから安心してよ、でも胡桃のお替わりがあると嬉しいかしら」ポリポリ
料理長「そう思って、持って来ましたよ。はい次兄様」ザラザラザラー
師匠「もうトッピングどころか胡桃がメインだな」
末妹「……お兄ちゃんも、野獣様の欠片を持っている」
末妹「師匠様だって、きっと」
王子「……」
王子「……そうですね、この場に彼の姿を見ることはできなくても」
王子「今もこの先も、ずっと……僕だけじゃない、君とも、皆とも」
王子「野獣はすぐそばにいる、一緒に生きて行く」
王子「お互いを忘れない限り、いつまでもね」
末妹「ええ、いつまでも……」
……
101 :
◆54DIlPdu2E
[saga sage]:2016/02/28(日) 00:28:41.13 ID:dkyA67w70
※話の続きが短くてすみません、とりあえず今回はここまで、ネムイ※
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/28(日) 03:11:27.22 ID:sCcTGgvAO
来月まで待つかなーと思っていたから嬉しい
和やかな食事風景に癒されると同時に腹が減るぅう乙ぅ
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/03/03(木) 18:57:02.30 ID:/+VKylZ8o
乙
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/03(木) 19:50:39.84 ID:T9eOeMVc0
おつー
105 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2016/03/03(木) 22:16:37.64 ID:Cq3kjopJ0
※お知らせのみ。明日の夜かそれ以降に更新します。読んでくれてありがとう※
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/04(金) 07:51:40.01 ID:tqodNt1/o
/⌒ヽ
(ゝrr<フ::. /⌒
ニ(゚д゚ ニ)ニ::{ 胡桃のお替わりがあると嬉しいかしら
(つと ヽ::ノ
(( ) ノ
´^⌒^`
107 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/06(日) 02:31:19.09 ID:eEa0kNBX0
再び、東屋。
次兄「よっしゃ、馬車に積む荷物はこれで全部……」
馬「ひん」
次兄「末妹、乗馬服に着替えたんだな。俺はそのまんまだけど」
末妹「師匠様が馬車のチェックをしてくださったの」
次兄「おっさん何でもできるんだな、ありがと」
師匠「車軸の傾きや車輪の減り、ネジの緩み具合等を魔法で鑑定し、必要な部分には微調整を施した程度さ」
師匠「儂には大した労力ではないが、普段から君達の父上の手でしっかり整備されているのがわかったよ、それが何よりだ」
次兄「それじゃ、客間の最終確認をしようか」
末妹「また後で来るね馬さん。その時はいよいよ出発よ、よろしく」
馬「ひひひん!」マカセテ
次兄「忘れ物はないと思うけどね」
師匠(忘れ物より…少年は客間の片付けをしたのか不安だのぅ、自宅の部屋の惨状を見るに……)
……
執事「末妹様、次兄様」
末妹「執事さん」
次兄「執事さーん!」
執事「……荷物運びをお手伝いさせていただくつもりでしたが、その様子では既に終えられたようですね」
次兄「元々そんなに荷物なかったからね」
執事「他にもまだご用はおありですか?」
末妹「客間を確認しに行く所です。その後は、いつでも出発できますよ」
執事「出発の前に少しばかりお時間をいただけますか? おふたりとも」
次兄「うん、いいよね、末妹」ニヘ
末妹「お兄ちゃん」
末妹「ええ、執事さん」ニコ
執事「畏まりました。では、ご用がお済みになられましたら、主人の部屋へおいでください」
……
108 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/06(日) 02:33:41.96 ID:eEa0kNBX0
野獣の部屋……
ドア:カチャ……
執事「お待ちしておりました、さ、中へ」
メイド「末妹様ぁー!」ピョン
末妹「メイドちゃん」
王子「次兄君、末妹さん、いよいよお別れですね……」
庭師「へへ、わかってはいても、やっぱり寂しいです……」
料理長「お二人とも、いつも食事を美味しそうに召し上がってくださって、わしは本当に嬉しかった……」
次兄「みんな……」
末妹「お兄ちゃん……笑顔でお別れしようって言ったじゃない」
末妹「皆さんも、しんみりしないで。だって、私達はまた会う約束をしてお別れするのに」
執事「末妹様の仰るとおりですよ」
師匠「交流のための鏡も渡してあるのだ、この部屋の銀板鏡もそいつを使う日を楽しみにしているぞ?」
鏡「ワタシノモウヒトツノ『メ』ヤ『ミミ』トナルカガミデス、イイシゴトシマスヨー」
次兄「……そっか、俺達が預かった鏡台を通して、お前とつながるわけか」
次兄「これからもよろしくな、鏡」
末妹「そうね、これからも。皆さん、これからもよろしくお願いします!」
王子「これからも」
メイド「……これからも、そうですね、次兄様もたまには良いこと仰いますー!」
料理長「そうですな、気を取り直して……お二人に、これを」ヨイショット
末妹「何かしら、大きな蓋付きの缶……」
料理長「以前、貴方様達のために作った、胡桃のサブレと鏡のクッキーです」
執事「今回はご家族の分もあります、お家でお茶の時間に召し上がっていただければ、と」
末妹「家族の分も……嬉しい!! ありがとう!!」
次兄「どれどれ……ぎっしり入っているな、たくさん作ってくれたんだね、ありがとう」
次兄(これだけあるなら胡桃のサブレを数枚ポッケにないないしてもバレますまい)
109 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/06(日) 02:36:32.31 ID:eEa0kNBX0
料理長「今回も、メイドちゃんも庭師君も……執事さんも手伝ってくれました」
次兄「!! 執事さんっ、主にどのパートを!?」
執事「……出来上がってから、わたくし一人で缶に詰める作業を。その際に手袋はしましたよ」
師匠「狼の前足に合う特注品の手袋な」
次兄「では、では満遍なく執事さんの味が行き渡っているのですねぇぇぇぇぇ!?」
次兄「ああああ、家族で分け合うのが惜しいぃぃ!!」ジタバタ
末妹「お、お兄ちゃん、私のぶんなら分けてあげるから……ね?」
執事「……」ハァ
執事(改めて、描いてくださった絵のお礼を述べるつもりだったが……その気が失せてきた……)
王子「……えーと、あのですね、僕からも何か……君達に感謝の意味も込めて贈り物ができればと……」スッ
メイド「奇麗なガラス瓶に入っていますねー」
末妹「あら、これは……紅茶?」
王子「ええ、夢の中で野獣と相談しながら、数種類を調合したものです」
王子「料理長さんの焼き菓子に最適なお茶ができれば、と思って」
王子「お気に召してくれたら良いのですが……」
末妹「素敵、きっとこのお菓子に合うわ、ありがとうございます菫花さん!!」
次兄「野獣様のオリジナルレシピによる調合ですと!?」
王子「う、うん、僕の意見も取り入れてくれたけど」
次兄「野獣様の紅茶、執事さんが手をかけたお菓子、これでお茶会をするという事は……つまり」
次兄「つまり、野獣様と執事さんの共同作業の結晶ではありませんか!?」ドドォォォォン
王子「あの」
執事「いや、わたくしは詰めただけで、本当に」
末妹「お兄ちゃん、本当に何を言っているのか私わからない」
次兄「ありがとうありがとう! 心奮い立つ、じゃなかった心温まるお土産に感動しました!!」
庭師「あっ次兄様、鼻血が」
師匠「…………何が何だか」
師匠「とりあえずしんみりした空気は払拭されたから、まあ良し、か……」
……
110 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/06(日) 02:38:37.07 ID:eEa0kNBX0
野獣の屋敷、前庭。
庭師「馬さん、元気でね」スリスリ
馬「ぶるる……」マタネ
末妹「……何度も言うけど、またこのお屋敷に二人で来ますから」
メイド「待っていますー」
末妹「鏡でお話しもしましょうね、メイドちゃん。家に着いたら、すぐ家政婦さんにお手紙を渡すわ」
次兄「……」ジー
執事「……何か仰りたい事がおありで? 先程からずっとわたくしを見つめていらっしゃいますが……」ウンザリ
次兄「執事さんの姿を出来る限り鮮明にこの目に焼き付けているだけです、お構いなく」
庭師「魔法の鏡でまた姿を見る事ができるのに」
次兄「本日の執事さんは本日限定だよ、庭師君」キリッ
王子「……僕も何度でも言います、本当に感謝しています、次兄君と末妹さんには……」
王子「それで、あの……これから、君達を友達と思っても……良いでしょうか……?」
末妹「とっくに友達ですよ、これからも」ニコ
王子「あ」
王子「ありがとう」ニコ
末妹「次に来る時は、可愛い騾馬にも会えるのを楽しみにしていますね」
王子「それまでに騾馬と仲良くなれるよう、頑張るよ」
師匠「その前に馬小屋かな、あの東屋を改造してみようか……」
料理長「お父様にジャガイモのお礼をくれぐれもお伝えください」
料理長「一緒に入っていたお茶や岩塩も、質の良いものでした」
師匠「儂も気に入ったよ、今ある分がなくなったらまた欲しいくらいだが」
師匠「今後は父上のお店から、ちゃんと客として買うことにしよう」
次兄「おっさんまた瞬間移動で買いに来るのか。我が父親ながら、父さん商売上手ですなぁ」ジー
執事「他のかたの会話に加わる時くらい、視線はわたくしからお外しになってはいかがでしょう……」ゲンナリ
111 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2016/03/06(日) 02:39:55.49 ID:eEa0kNBX0
※眠いのでここまで。次回は、お別れセレモニーの続き&道中の兄妹(たぶん) です。※
>>106
可愛いAAありがとう、次兄もリスだったらまだ可愛げあるのに
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/06(日) 08:11:36.38 ID:qsSY6HsAO
乙
まさかポケットに直接サブレを入れたりはしないだろうな次兄よ
113 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/06(日) 23:31:07.44 ID:SrQI5lXM0
師匠「……で、当面の間は緊急な出来事がない限り、鏡で話をするのは金曜日の夜。この約束で、良かったな?」
末妹「はい」コク
メイド「私、お屋敷中のカレンダーの金曜日に印をつけてしまいそうですー」ピョコピョコ
庭師「この先おいでになる時も、この馬さんと一緒ですか?」
末妹「……できればそうしたいわ、でもこの子は、私にも懐いているけどお父さんの馬だから……」
馬「ひん……」
次兄「こいつは魔法の地図を使った移動にもお屋敷の皆さんにも、すっかり慣れているからね、他の馬ならまた一から」
次兄「……って、あれ? 末妹」
末妹「なあに?」
次兄「この馬、いつのまにか執事さんが平気になっていないか?」
末妹「あ、そう言えば?」
執事「……………………」
馬「ぶるる……♪」ゴキゲン
庭師「へへへ、僕知ってますよ。執事さん、東屋の馬さんからギリギリ見える位置の窓を開けて、顔を出す所から始まって……」
庭師「その翌日は少しだけ近くの窓へ」
庭師「次は外に出て……最初は離れた場所から、少しずつ距離を詰めて来たんですよね?」
末妹「執事さんが……」
執事「うむ、まあ、その……これだけ良い馬であれば、警戒すべき野生の狼とわたくしを区別するくらい容易く……」オホン
メイド「馬さん、庭師君とは仲良くなったし料理長さんの事も最初から怖がっていないし」
メイド「執事様だけ仲間外れが寂しかったんですよねー?」
執事「こらメイド、またお前は、調子に乗って……」メゾピアノ
料理長「はは、いつもほど叱りつける時の迫力がありませんな」
末妹「執事さん……嬉しいです、ありがとう」ニコ
執事「は、はい、恐縮です……」
114 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/06(日) 23:32:50.17 ID:SrQI5lXM0
次兄「……むむむ」
次兄「執事さんが、うちの馬との親密さを深めようと陰で努力をしていた、ですと……?」
次兄「……こ、これはまさか執事さんの、将を射んと欲すればまず馬を射よ、作戦では!?」
馬(馬)「ひん?」
次兄(将?)「そんな回りくどい事しなくたって、俺はいつでも執事さんを受け入れる準備はできているのに」
次兄「執事さんったら恥ずかしがり屋さんなんだから……もぉ」ポッ
メイド「小声のおつもりでしょうが聞こえていますよー」
執事「と、とにかく、この馬がわたくしの姿に怯える事は今後ありませんから、安心してください」
王子「でも、これなら新しく来る騾馬も執事さんと仲良くなれる希望が持てます」
師匠「賢くて度胸の据わった騾馬を選ばなくてはな、菫花の目利きは少し心配だが」
メイド「今度はいつ、末妹様達がお見えになるかはまだわからないけれど……」
庭師「馬小屋を作って、そして……騾馬さんを迎える準備もしなくちゃね、寂しがってる暇はないかも」
メイド「忙しくなりそうですねー」
末妹「ふふ、そうね、私も……家に帰ったら、学校の勉強を頑張らないと」
次兄(二か月もお休みしちゃったからな)
末妹「ちゃんと来年の秋には、友1ちゃん達と一緒に卒業したいの」
次兄「俺も頑張るよ、まずは父さんと話をする所から」
末妹「二人で頑張ろうね、お兄ちゃん」
末妹(町の学校を卒業してからの、将来の私の夢)
末妹(ゆうべ野獣様にした話を、次に話す人はお兄ちゃんだから)
師匠「若い者には夢があっていいのぅ」
王子「……」
115 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/06(日) 23:34:07.74 ID:SrQI5lXM0
王子(末妹さんにも、将来の夢があるのでしょうね)
王子(いつか、ずっと先でもいいから、そのお話も聞かせて欲しいな……)
師匠「お前も頑張れよ菫花!」
王子「は、はいっ!?」ギクッ
師匠「隙あらば過去を振り返っては毛布の塊になりたがるからな、お前は」
王子「も、もうしませんよ、いや、しないように努力します」
末妹「……みんな、自分にできる事を頑張るんです、少しずつでも」
末妹「そんな毎日から、また会う時にお話ししたい事がいっぱい作られて、心の中に溜まって行く……」
末妹「私は、そう思います」
庭師「僕も、来年の春は今年よりもっと庭の花達をきれいに咲かせられるよう、頑張ります」
料理長「わしもこの歳ですが、もっと料理のレパートリーを増やしたいのです、頑張ります」
メイド「私は、えーと、食欲を自制して、もっともっと身軽な兎を目指します!」
次兄「そんなんでいいのメイドさん?」
執事「……わたくしは、皆の頑張りを守り支える執事でありたいですな」
末妹「ふふ……皆さんにまた会える時がますます楽しみです」
師匠「さあ、あまり引き留めては家に着く時間が遅くなってしまう」
師匠「……お父上も、やきもきしている頃ではないかな?」
次兄「うーん、日にちだけじゃなく家に着く時間も決めておけばよかったかなあ」
末妹「お父さん……」
(商人「ふたりで助け合って、そしてどうか笑顔で家に帰って来てくれ」 )
末妹「長兄お兄さん、長姉お姉さん、次姉お姉さん、家政婦さん……」
次兄「今度は、我が家の全員で迎えてくれるさ」
次兄「長姉ねえさんも一緒にね」
末妹「……そうね、きっと」コク
116 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/06(日) 23:39:53.80 ID:SrQI5lXM0
執事「さあ、門を開きました」
庭師「木に登って眺めたけど、周囲に危険な存在はなさそうですよ」
師匠(儂の魔法でも安全は確認済み、と)
メイド「次兄様、末妹様をどうか」
次兄「おぅ、みなまで言うな、まかして!!」ニヘ
メイド「……大好きです、末妹様」スリスリ
末妹「私も大好きよメイドちゃん、私の大切な、小さな友達……」モフモフ
次兄「ああ、俺にもいつかは執事さんとあのようなスキンシップを図れる日が来るのでしょうか?」
執事(来ません)
料理長「また会う日まで、すこやかにお過ごしください、おふたりとも……」
王子「次兄君も末妹さんも、魔法の地図を使うとは言え、どうか気を付けて……」
末妹「ええ、ありがとう、皆さんもお元気で……」
末妹(野獣様も……さようなら、またお会いしましょう……)
末妹「馬さん、お願いね」
馬「ひひひひん!」
馬車:ザシュ……ガラガラ
メイド「末妹様ー!!」
庭師「末妹様、次兄様、馬さん……」
王子「………………また会おう、僕の友達」
執事「……ご主人様、ご覧になっておられますよね……」
野獣(……また会おう、末妹、次兄よ)
野獣(二人とも明るい表情で馬車を進めている、嬉しいよ)
野獣(私も笑顔で見送るぞ、約束だからな……)
……………………
117 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2016/03/06(日) 23:45:03.95 ID:SrQI5lXM0
※ここまで※
予告と違ってすみません、細かい部分を回収しつつキリの良い所までやっぱり投下したかったので……
この後は、道中の兄妹とお屋敷の様子を挟みつつお送りする予定。
余談。この世界のこの国の学校は基本的に秋から新年度で、同年の1〜12月に生まれた子は同学年というシステムです
>>112
次兄は帰宅後に実行するポッケないない計画を瞬時に3パターンほど立てた模様
だから準備も綿密であると予測されますです
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/07(月) 04:36:14.91 ID:OAT+lfLAO
悲しい別れじゃなくて良かった
少しずつお馬さんを慣らす執事さん可愛い
119 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/12(土) 01:28:25.55 ID:NRefISqt0
…………………………………………
……………………
…………
夢の世界。
(師匠「……行ってしまったな」)
(野獣「はい、でも『しばしの別れ』ですから」)
(野獣「と言うか師匠、午前中からお昼寝ですか?」)
(師匠「眠りの魔法をかけてな、わざわざお前に会いに来てやったんだぞ」)
(野獣「それは恐れ入ります」)
(野獣「……魔法の地図の効果であっという間に森を出てしまったので、仮想の窓からも見えなくなってしまいました」)
(師匠「未練たらたらではないか」)
(野獣「そんなんじゃありません、笑顔で見送るという約束を果たしたかったのですよ」)
(野獣「……嘘の約束ではない、本当の約束を」)
(師匠「四週間前にお前があの子らについた嘘も、あの子らは本物に変えてくれたがな」)
(野獣「ええ、あんな素晴らしい兄妹を、もう裏切ることはできませんよ」)
(師匠「あの子らとお前の繋がりは、もう断ち切れないほど強いと思うぞ」)
(師匠「……200年以上の時を経て、形を変えて結ばれた、とでも言えば文学的かな」)
(野獣「……?」)
(野獣「師匠、今のはどういう意味でしょうか?」)
(師匠「図書館の娘の孫という男、5人いる中のひとりだが」)
(師匠「彼は北辺都市に生まれ育ち、そのままそこで嫁をもらい子もできた」)
(師匠「子は男ばかり3人」)
(師匠「うち三男は情熱的でな、親の猛反対を押し切って想い人と駆け落ちして王都へ行ってしまった」)
(野獣「はぁ」)
120 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/12(土) 01:30:31.16 ID:NRefISqt0
(師匠「三男はそこで名前を変え、周囲とやがて生まれた我が子達には孤児で通し」)
(師匠「職人として弟子入りした先に気に入られ、そこそこの暮らしは出来たらしい」)
(師匠「で、彼の娘だがそれはそれは美しく、仮にAとしようか」)
(師匠「Aは西端都市出身のある若者に気に入られ、彼の故郷で皆に祝福されて結婚し幸福に暮した」)
(師匠「若者はそれなりの家柄だったにもかかわらず、ほんの二代前の先祖がどこの誰かも知らない娘でも一向に構わん、と」)
(師匠「Aは本当に父親より前の先祖を知らなかった、当然、彼女の子や孫も」)
(師匠「だから、Aとその子孫達と、図書館の娘が血縁上は直系である証拠を見つけ出すのは、本当に苦労した」)
(師匠「苦労したが、事実なのは間違いない、と儂の弟子の子孫達が話しておったわ」)
(野獣「……何を仰りたいのかまだわかりませんが」)
(師匠「王家や貴族ならざる庶民が」)
(師匠「自分の数代前の先祖を知らないのは、理由によっては仕方がない、やむを得ない」)
(師匠「必ずしもその者の落ち度や恥ではない」)
(師匠「……そんなわけで、次兄や末妹が図書館の娘の話を聞いてもだ、自分達に繋がりがあるとは気付くはずもない」)
(野獣「……!?」)
(師匠「兄妹の母親……商人の妻は西端都市出身」)
(師匠「西端都市に嫁いで来たAという女性は商人の妻の父方の曾祖母、更に辿れば……」)
(野獣「……な」)
(野獣「なぜもっと早く教えてくれなかったのです!?」)
(師匠「知って、お前はどうした?」)
(野獣「」)
(師匠「商人の妻から生まれた子だけでも5人」)
(師匠「商人の妻には姉2人と弟がいる、それぞれの子供達は合計10人」)
121 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/12(土) 01:33:56.13 ID:NRefISqt0
(師匠「商人の妻の父方のいとこ達は、商人の妻と同じだけ曾祖母Aの血を引いている」)
(師匠「……(感じ悪い)親戚2と親戚3、あと(影の薄い)親戚1、その他にも4人くらいいるとか」)
(師匠「末妹達より一代前だから彼等の方が血は濃いわな」)
(師匠「ついでに彼らの子供らは……ああもう全部で何人いたか忘れてしまったぞ」)
(野獣「……」)
(師匠「な、『価値』は『そこ』ではないのだ」)
(師匠「図書館の娘の子孫は、いま生きているだけでも儂の頭脳でさえ覚え切れないほど存在するが」)
(師匠「それより、お前の友達のあの子達がどんな子で、お前とどんな会話をしてどんな思い出を作ったか」)
(師匠「その重さに比べたら、あの子達が図書館の娘と血の繋がりがあった、という事実は『ちょっとしたおまけ』程度なのさ」)
(野獣「ちょっとしたおまけ……」)
(野獣「……ですが、私にはこの上なく嬉しい、素晴らしいおまけですよ?」)
(師匠「とりあえず、お前は菫花には黙っておけよ? 本人にも言ったが、頃合いを見て儂が『会わせて』やる」)
(師匠「あいつには、時間と色々な物がまだまだまだまだ足りていない」)
(師匠「兄妹にもその時に知らせるつもりだ」)
(野獣「承知しました、でも」)
(野獣「……驚くでしょうね、三人とも」)
(師匠「うむ、ま、伝え方はじっくり考えるがな」)
(師匠「……嬉しい、か……」)
(師匠「ふ、ロマンチストのお前ならばそう考えるよな、運命とか奇跡とかそんな言葉を当てはめて」)
(野獣「時を経て形を変えて結ばれた、とかさっき仰っていたのは師匠ですよ?」)
(師匠「……ふふん」)
(師匠「運命や奇跡を当てにするだけの人生は実に阿呆らしいが、彩を添える程度であれば」)
(師匠「たまぁに起きても悪くはない、とはこの儂も思わんでもないのだぞ?」)
(野獣「師匠も丸くなりましたね」)
(師匠「お前達と付き合うからには、こちらも文学的発想に理解を持たないとな」)
……
122 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/03/12(土) 01:35:11.69 ID:NRefISqt0
※ここまで。ドライなおっさんと夢見がちなおっさん、いずれにせよおっさんしかいねえ回でした※
次回は来週のどこかで……3月中に終われるかな……
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/12(土) 03:04:20.98 ID:rainpuJAO
乙
次兄は「野獣様の想い人の血が俺の身体にもぉぉ!」とか狂喜しそうだよネ
124 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/15(火) 23:14:01.47 ID:PZ9SW6HQ0
屋敷の廊下、裏庭へ続く扉の近く。
執事「おや菫花様、バラ園へ出られるのですか?」
王子「ええ、冬に向けてバラの雪囲いをどうするか、庭師君と二人で考えようかと」
執事「なるほど、普通のバラになったからには雪の中に放って置くわけにもいかないでしょうね……」
執事「ところで菫花様、師匠様がどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
王子「ああ、師匠なら自室で二度寝してくる……とのことです」
王子「……野獣に『会いに行った』のだろうけど」
執事「……なるほど」
王子「でも、彼も今回は心から笑って見送ったと思いますよ、僕は」ニコ
執事「ええ、わたくしもそう思います」ニッ
王子「執事さん、師匠に用事が?」
執事「実はですね。さきほど玄関にこちらが」ピラ
王子「師匠宛の手紙?」
王子「……呪文か、いにしえの魔法道具を使ったかは、僕には判断できないけれど」
王子「いずれにせよ何らかの魔法で届けられたのでしょうね、ということは師匠のお弟子さんの子孫さんか」
王子(なんの用件だろう……?)
……
ふたたび、夢の世界。
(師匠「儂の弟子の子孫な、早々と、騾馬探しに取り掛かってくれている」)
(野獣「おお、それは楽しみですねえ……!」)
(師匠「早ければ今月中にでも、質の良い騾馬の生産者リストを送ってくれるらしい」)
(師匠「リストに従って、実際に訪れ実物を見て決めると、だいたいこんな予定だ」)
(師匠「確かな生産者を選んでくれるとは思うが」)
(師匠「どんな優れた騾馬でも菫花がうまく扱えるには時間も手間もどれほどかかるのかと、心配でもある」)
(師匠「特別に忍耐強い個体だと有難いものだ」)
(野獣「菫花だってがんばりますよ、そして騾馬相手にもそれは通じるはず」)
(師匠「そうあってほしいな」)
125 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/15(火) 23:15:19.89 ID:PZ9SW6HQ0
(師匠「……なんにせよ、乗馬教師のアドバイスも時には必要かな?」)
(野獣「末妹ですね」)
(師匠「鏡越しの会話、か」)
(師匠「それで思い出したが、お前が鏡の魔法で使った合言葉」)
(野獣「え?」)
(師匠「『かぐわしき小さな赤いバラ、陽だまりの庭に踊るそよ風、小雀のさえずりに耳を傾けまどろむひととき』」)
(野獣「だだだだだだ、誰から聞いて」)
(野獣「あ、そう言えば私が鏡を使う様子も……何度もご覧になっておられたのでしたっけ……」)
(師匠「第一印象からお前らしいとは思ったが」)
(師匠「……お前の掌で愛らしくさえずる小さな雀、お前の屋敷の庭に踊る心地よいそよ風」)
(師匠「お前の心に花開いた甘い芳香の小さな赤いバラ」)
(野獣「 」)
(師匠「今になって考えるに……お前にとってのあの少女を文学的というか詩的に形容しt」)
(野獣「わああああああああああああああああ!?!?!?」アセアセ)
(師匠「図星だな」)
(師匠「今さら照れることか」)
(野獣「……だから本当は次兄にも教えたくなかったのですよ……」ボソ)
(師匠「ん、あの子に話したのか。気付かれたか?」)
(野獣「……乙女チックなカフェのメニューみたい、とは言われましたが」)
(師匠「妹への口止めは?」)
(野獣「え? していませんよ、よけい怪しまれるじゃないですか」)
(師匠「ふむ、意外と妙なところでだけ鋭い勘の働く少年だ、少し考えれば正解に辿り着きそうな」)
(野獣「ちょ」)
(野獣「追い討ちかけないでください、ああ、ドキドキしてきた……」)
(師匠「それくらいなんだ、お前の情けない所はすでに散々さらけ出しているではないか」)
(師匠「お前の小心も簡単には治らんようだな……」)
……
126 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/15(火) 23:17:13.11 ID:PZ9SW6HQ0
南の港町へ進む馬車、肉眼ではその姿は見えない……
ガラガラガラガラ……
馬「ぶるる……」
次兄「……お前は学校の先生になりたいんだ」
次兄「うん、絶対いい先生になれるよ!」
末妹「ありがとう。そのためにはまず学校に戻って勉強を頑張らないと」
次兄「末妹なら、すぐ遅れを取り戻せるさ」
次兄「それで思い出した、美術学校の受験科目にも一般教養くらいあったはず」
次兄「去年まで家庭教師に習っていた勉強を復習せねば、まずは教科書を部屋の混沌から発掘し」
次兄「……見つかるはず、たぶん、いや、願わくば」ブツブツ
次兄「とにかく兄ちゃん、復習の鬼と化しますよ!!」バァーン
馬「ひん」
末妹「……最後だけよくわかんなかったけど、頑張ろうね、お互いの夢のために」
次兄「頑張ろうな、野獣様が喜んでくれる報告をしたいし!!」
次兄「家に着いて、落ち着いたら父さんとじっくり話を、俺と末妹それぞれの」
次兄「……その前に、魔法の鏡の話をするほうが先、だな」
末妹「ええ、お父さんは私達がお屋敷の皆さんと友達でいたい気持ち、わかってくれたけれど」
末妹「だからと言って……それに甘えて良いお返事を最初から期待しないよう、きちんとお話ししなくちゃね!」キリッ
次兄「」
次兄(……末妹が可愛くお願いしたら父さんはイチコロ、とか甘い作戦を考えていたが)
次兄(もうちょっと真面目な方向へ軌道修正しなくては、うむむ……)
127 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/15(火) 23:19:09.54 ID:PZ9SW6HQ0
末妹「ところで、お兄ちゃん」
次兄「はっはい?」
末妹「鏡の合言葉を野獣様から教わるって話、何日か前にしていなかった?」
次兄「確かにしてた、ね。結論から言うと、預かった鏡台に魔法がかかっているから、合言葉は不要になったけど」
次兄「でも、教えてはくれたよ」
末妹「あら、どんな言葉だったの?」
次兄「知りたい? ま、それも当然っちゃ当然か」
次兄「……『かぐわしき小さな赤いバラ、陽だまりの庭に踊るそよ風、小雀のさえずりに耳を傾けまどろむひととき』」)
末妹「……可愛い合言葉ね、優しい野獣様らしいな」フフ
次兄「ああ、実に乙女チックでポエミーでファンシーで野獣様らしいと、俺も思ったが」
次兄「……今にして思えば、これって全部……野獣様目線の、末妹の事じゃないかな?」
末妹「」
馬「ひんっ!?」ザシュ
次兄「ちょ、なんで馬を止める!? ど、何処だよここ!!??」
末妹「はっ……ご、ごめんなさい! 魔法の地図では普通ではありえない場所も通るって」アワアワ
手綱:ピシ!
馬「ひん!」カッ…カッポカッポ…カッカカッカカッ
次兄「……よかった、また周囲の風景が魔法の地図の道になった……」ホッ
末妹「止める気はなかったの、つい手綱を握る手に変な力が入っちゃって……本当にごめんなさい」
次兄(……ものの数秒間だったが、南の港町よりずっとでかい都会のど真ん中だった)
次兄(通行人から見れば、馬車が忽然と街の中に出現したように見えただろう)
次兄(もう少し止まっていたら、向こうにいた兵隊さんだか憲兵さんだかが近寄って来たかもしれないな……)ヒヤアセ
128 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/15(火) 23:21:58.13 ID:PZ9SW6HQ0
次兄「俺の方こそごめん、そんなに動揺するとは思わなかったから」
末妹「……そう、それが合言葉……」
次兄「あのね、俺けっこう強引な方法(精神的な意味)で聞き出しちゃったんだ」
次兄「恥ずかしそうにしてたし」
末妹「恥ずかしそう……」
次兄「でも末妹に秘密にしてくれとは言わなかった……」
次兄「……あっ、秘密にしろなんて言ったら、よけい怪しいからかな……?」
末妹「 」
次兄「いや、それでも末妹の事かなー、なんてのは俺の推測に過ぎないから!?」
末妹「……そうよ、野獣様自身が説明されていなかったら、推測しかないもの」
末妹「バラの花、爽やかなそよ風、小さな雀さん」
末妹「野獣様のお好きなものの名前を詰め込んだだけの合言葉よ」
末妹「私の事だなんて、無関係に決まってるわ、からかわないでお兄ちゃんたら」
次兄「……」
次兄(無関係と思うなら何故、棒読み気味で顔を真っ赤にして、こちらを見ようともしないでしょうねぇ)
次兄(うーん、乙女心は難しいっす)
馬「ひひん……」
ガラガラガラガラ……
……
(野獣「まさか、な、次兄……末妹……」)
…………
馬車が南の港町に着くまで、あと少し……
…………
129 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/03/15(火) 23:22:34.28 ID:PZ9SW6HQ0
※今夜はここまで。※
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/16(水) 00:24:00.12 ID:kNNPHFpAO
おつん
動揺する野獣と末妹ちゃんが可愛い
次兄は変なところで勘がいいからなww
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/18(金) 05:54:04.27 ID:2RCqN40mO
乙 ほんとこのお話すき
キャラがみんな愛おしいぜ…
132 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/21(月) 02:30:08.45 ID:MefZcEaC0
ガラガラガラガラ……
次兄(……そろそろ末妹も平常心かな?)
次兄「……時間的に、もう道中の半分以上は来ているな」
末妹「そうね」
次兄「この先の話より何よりも、お屋敷で起きた事を話すのが先、と言うか」
次兄「父さん達もそれを聞いてくるだろうねえ」
末妹「……そうね」
次兄「正直、どこからどう話そうか俺もわかんなくて……末妹と事前の打ち合わせも持たなかったんだけど」
末妹「うん、私も……いろんな事がありすぎて、どこから話していいかわからないの」
馬「ひひん」
末妹(……でもね、お兄ちゃん)
次兄「でもね末妹、今思うのは」
次兄「どう話すかなんて、あらかじめ決めなくてもいいかな、って」
次兄「魔法絡みの話とか、軽騎兵が押し寄せた話とか、慎重に扱うべき話題もあるけどさ」
次兄「父さん達が聞いてくるのに答える形で、後はそれぞれ心の赴くままに話せばいいような気がするよ?」
末妹「……お兄ちゃん」
次兄「ふぇ?」
末妹「私も、それでいいかなって、お兄ちゃんに提案しようと思ったところなの」ニコ
次兄「そっか、じゃあ決まりだな!」ヘヘ
……………………
…………
南の港町、商人の店の前……
看板:【本日は休業させていただきます】
通行人A「おや、今日は商人さんの店はお休み?」
通行人B「2、3日前にお断りとお詫びのチラシが配られていたよ」
通行人A「予定の用事か、まあ商人さんの病気とか悪い理由じゃなきゃいいよ」
……
133 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/21(月) 02:31:41.89 ID:MefZcEaC0
商人の家。居間……
商人「……」ウロウロウロウロウロウロ
次姉「……お父さん、気持ちはわからないでもないけど、じっとしていなさいよ」
次姉(さすがに当日は予想通りになったわ)
長兄「父さんほら、とりあえず椅子に座って落ち着こうよ」
家政婦「皆様、ホットミルクをお持ちしました。旦那様も、どうぞ」
商人「あ、ありがとう……いただくことにするか」ガタ
長兄「家政婦さん、ナイスタイミング」
長姉「家政婦さん、私ホットミルクに蜂蜜入れたい。アカシア蜜がいいわ」
家政婦「はい、お持ちしますね長姉様」ニコ
長兄「全く……お前はマイペースにも程がある」
長姉「いつも通りで別にいいじゃないの。あ、ありがと家政婦さん♪」
長兄「到着時間の目安だけでも決めておけばよかったかな」
次姉「お父さんの話だと、町外れからは魔法関係なく普通に帰って来るんでしょ?」
次姉「それなら明るいうちに家に着くよう、あの子達も逆算して出発するわよ」
商人「明るいうち……か」
商人「ああ、日没までト」
次姉「日没までトイレにも行けやしない、なんて言わないでよお父さん?」
商人「あう」
次姉「落ち着いて笑顔で迎えなくちゃ、あの子達に無駄に気遣いさせるつもり?」
商人「あうう」
次姉の営業用ボイス「しっかりなさい、どっしり構えた父親を目指すのでしょう?」
商人「はい!」シャキーン
長兄「父さん、軽く仕事の話でもしようか。他にする事がないから余計に気を揉むんだよ」
商人「そ、それもそうだね」
134 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/21(月) 02:33:32.14 ID:MefZcEaC0
商人「あの子達に、あの子達の強さを信じると言ったのは私なんだ……」
商人「私も信じてもらえるに値する父親でいなくては」
長姉「今、落ち着いていてもソワソワしてても、まさにその時が来たらグダグダになっちゃうから同じだわ」
長姉「ま、それでも別にいいと思うけどね……」
長姉「……ホットミルク美味しい」フゥ
長姉「私こそ、こんなに悠然としてあの子達を迎えていいのかしら」
次姉「いいに決まっているじゃない、姉さん。……私にもそれ頂戴?」
長姉「……いいのかな。はい蜂蜜の瓶」
次姉「ありがと」ハチミツトロー
次姉「笑顔の一つでも見せてあげたら、末妹は嬉しいと思う」
次姉「あ、次兄のリアクションは多少むかついても気にしないでサラッと流すように」
長姉「笑顔……」
長姉(そう言えばあの子に、どれだけ前からまともな笑顔を見せていないだろ……)
次姉「それに、姉さんは幸せな報告をしなくちゃね、驚くだろうけど祝福してくれるわ」
長姉「……祝福、してくれるかな……こんな私を」
次姉「しない理由がないじゃない」
次姉「あの子達の普通の姉になる、今日が第一歩なんだから、頑張って踏み出すのよ」
長姉「普通の姉になる」
次姉「自分で言ったんでしょ、お父さんを気の済むまでクッションで叩くのと引き換えに」
長姉「……うん」コクリ
長姉「あんたがそばにいてくれたら、私、できると思う!」
次姉「そうよ、私がついてるからね、姉さん」フフ
…………
135 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/03/21(月) 02:34:29.18 ID:MefZcEaC0
※今回ここまで。読んでくれる皆さんありがとう、もう少しです……※
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/21(月) 04:41:02.14 ID:/6JYJeEAO
乙
家族間の空気もすっかり和やかになったなぁ
137 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/23(水) 20:40:34.11 ID:J2U2rzNt0
ガラガラガラガラ……
末妹「……ほんとはね、ちょっとだけドキドキしているの」
末妹「お家に帰るだけなのにね」
次兄「ドキドキ?」
末妹「お父さんと、野獣様と、約束した通りに精いっぱい笑うつもりでいるけど……ぎこちない笑顔にならないかな?」
末妹「……皆から聞かれて色んな話をする時に」
末妹「どんな出来事も涙ぐまないで話せるかな?」
末妹「……って」
次兄「…………」
次兄「……いいんじゃないかな、ぎこちなくても涙ぐんでも?」
次兄「逆に、ちゃんと笑えても涙が出なくても、いいんじゃないかなぁ?」
次兄「俺も、父さん達も、メイドちゃん達も、野獣様も」
次兄「末妹のしょっぱい顔よりは笑顔の方がきっと好き、でも」
次兄「俺は何より自然な末妹でいて欲しいし」
次兄「他の皆に聞いても、同じように答えると思う、きっと」
次兄「だからね、笑っても泣いてもそうじゃなくても、どれでも末妹なんだから」
次兄「どの末妹が出てきても、俺含めて皆は受けとめてくれる筈だから」
次兄「お前も、自分の中からどんな末妹が出て来ようとも……」
次兄「…………恐れる事は何もない、のよ?」
末妹「……」
末妹「……お兄ちゃんって、やっぱり凄いのね」
次兄「すごい?」
末妹「今の言葉で、私とっても気が楽になったの……ありがとう」
次兄「むぅ、むふふ……」
次兄「兄ちゃんは立派なこと語ったつもりはありませんが、少しでも末妹の助けになったのなら幸いですわよ」ニヘヘヘヘ
馬「ぶひひん♪」
ガラガラガラガラ……
138 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/23(水) 20:42:36.81 ID:J2U2rzNt0
次兄「……あれ? ねえ末妹、前をよく見てごらん?」
末妹「……!」
末妹「景色がはっきり見えて来た……町外れの、糸杉林の丘よ!!」
馬「ひっひーん」パカッパカッ
末妹「一度馬車を止めるわ、ここなら大丈夫」
次兄「おっし、了解」
末妹「馬さん」グイ
馬「ぶるるる……」ザシッ
次兄「……うん、間違いない」
次兄「地形といい、林の佇まいといい、羊の群れといい、南の港町の郊外だ」
羊たち「めへえええ」「むえええええ」「んめえええ」
末妹「……帰って来たのね……」ホッ
次兄「いやいや、一般的には見知った道こそが、気の緩みから来る事故多発危険地帯ですぞ」キリッ
末妹「そうね……街の中を通ることになるし」
末妹「この時間帯で人の少なそうな道を通りましょう? 少し遠回りだけど楽に通れる分、早く着けると思うの」
次兄「任せるよ、俺よりお前の方がその手の判断は正確だ」
末妹「馬さん、こっちへお願い」ピシ
馬「ひん」
カッポカッポ……
……
商人の家。
長兄「……で、来年の春はこれとこれを季節商品の目玉に」
商人「……予感がする」
長兄「父さ」
商人「あと5分もしないうちに、あの子達の馬車が我が家の門を通る!」
長兄「それ何回目だよ、さっきから15分おきのペースで」
139 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/03/23(水) 20:44:32.69 ID:J2U2rzNt0
商人「今度こそ間違いない、五度目の正直だよ!」
長兄「はいはいわかったから父さん、それより……この工房、いつから責任者の名義が変わったの?」
商人「あ、ああ……ここは確か、娘婿さんが引き継いで……」
次姉「やれやれ」フゥ
長姉「おっかしいの、お父さんたら……」フフ
長姉「……」
長姉「お父さんのこんな様子を見ても、嫉妬で腹が立ったりしないで笑っていられる」
次姉「姉さん」
長姉「……次姉、私ちょっとは大人になれたかな?」
次姉「うん、姉さん……」
長姉「えへへ……あんたが認めてくれるのは嬉しい……」
長姉「……?」
長姉「!!」ガタッ
次姉「姉さん?」
長姉「次姉! あんたの後ろの窓、見て!!」
次姉「え?」
長兄「へ?」
商人「!!」
家政婦「門の向こうに、小さな馬車が……!」
商人「末妹!! 次兄!!」
長兄「よし、外に出よう!」
次姉「皆で出迎えるのよ!!」
長姉「ええ、皆で……!」
…………
140 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/03/23(水) 20:45:19.72 ID:J2U2rzNt0
※今回ここまで。次回はおよそ一週間後……※
時節柄、予想より何かと立て込んでなかなか進められません、ごめんなさい……
あと何度「馬」を「梅」と打っては慌てて直したことか
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/24(木) 00:33:12.90 ID:nGCHJCTAO
師匠のローブをモッチャモッチャしてた羊さんやんけ!
次も楽しみに待ってんよ
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/01(金) 23:46:33.04 ID:g+HHV34AO
完結したら人が来そうなので今のうちに貼るっす
癖の抜けない長姉と次姉
http://m1.gazo.cc/up/27753.jpg
幼馴染男と家政婦さんと旧長姉
http://m1.gazo.cc/up/27754.jpg
酒と涙と商人と長兄
http://m1.gazo.cc/up/27755.jpg
特にネタのない王子と師匠
http://m1.gazo.cc/up/27756.jpg
あとちょっとかな、頑張ってつかぁさい
143 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/04/02(土) 20:36:21.33 ID:a0X3qbh30
※4月に突入するわ前回から一週間どころじゃないわ色々すみません※
※予告。次回のお話は明日更新です※
>>142
ありがとう!! 初見のキャラもいて嬉しい……
特に家政婦さんにめっちゃ感激です!
144 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/03(日) 22:42:41.88 ID:Oq2sfte90
手綱:グイッ
末妹「馬さん、止まって……どうどう」
馬「ぶるるる……」ザシュ
末妹「ここからは馬車を降りて、馬を引いて行くわ」スタッ
次兄「おう、俺も降りる」ボテッ
次兄「……帰って来たな」
末妹「うん……」
商人「次兄! 末妹!!」
次兄「父さん!!」
末妹「お父さん!!」
馬「ひんひひひん(旦那様)!!」
長兄「待ってろ、すぐ門を開くよ」ガシャ
次兄「兄さん」
次姉「末妹、おかえり!!」
長姉「……おかえり……」ボソ
末妹「……長姉お姉さん!!」
家政婦「おかえりなさいませ、次兄様、末妹様」ニコ
末妹「家政婦さん、ただいま」ニコ
長兄「末妹、手綱を……馬は俺が繋ぐよ、お前もお疲れ様」ポンポン
馬「ぶるる♪」
商人「ああ末妹、よく帰って来た……」ウルウル
商人「さあ、私の広げた両腕に飛び込ん
次姉「末妹ぉ!!」ガバッ!!
末妹「お、お姉ちゃん!?」ムギュ
商人「 」
商人の広げた両腕「 」
145 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/03(日) 22:44:37.27 ID:Oq2sfte90
次姉「ああよかった、元気そうな顔しているじゃない……」ギュー
次姉「……野獣は助かって……生きているのね? あんたを裏切らなかったのね?」
末妹「……」
末妹「……そうよ、野獣様は今も、これからも、お屋敷の皆さんと一緒」
末妹「そして、私と……私とお兄ちゃんの、本当の友達になってくれたの……」
商人「……」
商人の広げた両腕「……」
次兄「……父さん、そのスペースに俺が収まるって案は、やはり却下……ですかね?」
商人「ハッ」
商人「何を言うんだ次兄、お前の帰りだって待ちわびていたんだぞ!?」ガバッ
次兄「むきゅ」
次兄「……ただいま、父さん」
商人「お帰り……お前達は、友達を救えたんだな……?」
次兄「……うん」
次兄「色々あったので結果だけ述べますと、野獣様とは確かな男の友情が芽生えました」
商人「そうか、それはよかった……」ギュ
次兄「……ついでに、俺より少し年上だけど精神年齢は大差ないであろう人間の男子とも、それなりに親しくなりました」
商人「」
商人「お、お前に……人間の友人ができたと言うのか……!?」
次兄「野獣様の関係者で……まあ、世間では友人と呼べる範疇に入るのかな」
次兄「彼はこっちに色々と曝け出してくれたし、なんだかんだで見捨てられないと言うか無下にできないタイプと言うかー」
商人「次兄に人間の友人……」
商人「……奇跡だああああああああああああ!!」ブワァ
次兄「父さん俺の顔の上で泣かないでしょっぱい」ペッペッ
146 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/04/03(日) 22:45:50.98 ID:Oq2sfte90
※今回ここまで、短い上に半端でごめんなさい……今週中に最低もう一回は更新予定※
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/04(月) 02:52:28.65 ID:jLjdJxrAO
乙した
まぁ確かに次兄に友達が出来たことが一番驚愕すべきニュースかも知れない
148 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/04/09(土) 21:51:37.50 ID:HZOgSVyC0
※お知らせとお詫び。今週中といいつつ週をまたいでしまいました、ごめんなさい。更新4/10(日)夜です…※
149 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/10(日) 23:59:35.27 ID:YTgr5KrH0
次姉「……後からでも、詳しい話を聞かせてもらっていい?」
末妹「うん、お話しするね。私も、聞いて欲しいことがあるの、お姉ちゃ……」
末妹「……!」ハッ
次姉「……!!」
次姉「末妹、さっき私をなんて呼んだっ!?」
末妹「ご、ごめんなさい!! 火を噴かないで!?」
長姉「火噴きドラゴンの妹を持った覚えはないんだけれど?」
次姉「……ごめんね、姉さんには話していなかった……というか誰にも秘密にしていたの」
次姉「末妹と一緒に店番にも出るようになった頃」
次姉「私がこの子に『お姉ちゃん』と呼ばれたいと思うようになって、でも」
次姉「……恥ずかしいから、私の許可もなく勝手に呼ばないように、とも頼んでいたの」
末妹「……私は私で、お屋敷に行っている間に誰もいない所で練習していたの……さっきはつい、思わず口から出ちゃった」
長姉「…………」
長姉「変な妹(こ)達ねぇ、許可だの練習だの」
長姉「私達が女学校に入る前は、末妹は私達二人のこと『お姉ちゃん』って呼んでいたのに」
末妹「」
次姉「え」
長姉「ちょ、小さかった末妹はともかく、頭のいい次姉まで忘れちゃったの!?」
長姉「そりゃ、私だっていつ頃から『お姉さん』呼ばわりに変わったか正確には覚えていないけど……」
末妹「……すっかり忘れていたわ……」
次姉「10年以上前の話だもの、4歳にもなるやならずだったあんたは仕方ないけど」
次姉「……」
次姉「私ったら、末妹への関心が薄れていたのね」
長姉「それは私だって」
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/11(月) 01:16:38.88 ID:8VnPeuiAO
乙?
151 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/11(月) 23:51:31.58 ID:PksL/iBd0
長姉「私だって、さっきのあんた達の会話で昔のことを思い出したのよ」
長姉「そう言えば、いつの間にか末妹の私達への呼び方が変わったていたな、って」
長姉「実際にそのことが起きていた間は、気に留めずに流していたのよ」
末妹「……私……私は」
次姉「……末妹はあんまり小さかったからね」
次姉「年に2回の長期休暇にはこの家に帰省していたけれど」
次姉「私達と半年も離れていれば、当時のあんたには何年も離れていたのと変わらないでしょうに」
次姉「でも私も姉さんも、それだけの時間と空間の距離を埋める努力なんかしなかったし、末妹とは」
長姉「……うん」
長姉「お父さんの膝の上やお父さんの隣を争うライバルだったもの」
長姉「……実際のあんたはチビのくせに私達に遠慮して、お父さんから少し離れた場所で遊んでいたのにね、私達のいる場では」
末妹「……お姉さん」
長姉「あんたは心底から優しくて良い子だった、わかってるの、わかってたの」
長姉「今更だけど…………」
末妹「……」
次姉(過去の態度を謝るの? 姉さん……?)
長姉「……私のことも昔のように『お姉ちゃん』って呼んでくれるかしら!?」
次姉「はぃ?」
末妹「 」
長姉「どうなの、ねぇ、やっぱり私は駄目!?」ズイッ
末妹「…………だ、駄目なんかじゃないわ」
末妹「むしろ、私がそう呼んでも……いいの?」
長姉「いいの、色々言いたいことがあったような気がしたけど……それをどう言葉にしたらいいかわからなくて……」
長姉「途中はすっ飛ばして結論から伝えることにしたの」
長姉「それに次姉ばっかりそう呼ばれるのはなんだか悔しいんだもの!!」
次姉「あの、私のことは取っ掛かりにするつもりで、追い追い姉さんのこともそう呼んでもらおうかな、とは思ってたのだけど」
末妹「……」
152 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/11(月) 23:54:28.24 ID:PksL/iBd0
末妹「それじゃあ……長姉お姉ちゃん……?」
長姉「」ピクッ
末妹「おね」
長姉「……ちょ、何よ、何よこれ」
長姉「小さい頃はそう呼ばれていたわ、確かに覚えている、なのになぜ」
長姉「ちょっと、やだ、何よ、なんでこんなにくすぐったいのよ!?」ジタバタ
末妹「……えーと」
長姉「次姉、あんたよくこれで平気でいられたわね!?」バシバシバシバシ
次姉「平気じゃなかったわ、だから『火を噴く』なのだけど……」
次姉「……私を叩かないでくれる?」
……
長兄「……馬を小屋につないで休ませて戻ってきたら」
長兄「妹達は3人で何やってんだろ??」
家政婦「ふふ、仲が良さそう……」
家政婦(もうすっかり心配はいらないようですね、長姉様も)
長兄「家政婦さん、馬の世話の手伝いまでさせて申し訳なかったね」
家政婦「あら、お気になさらないでくださいませ」
家政婦「……本当は私、動物は好きなほうですの」
末妹「あ、家政婦さん!」
家政婦「何か私にご用ですか、末妹様?」ニコ
末妹「さっき渡しそびれてしまったのですが、これを」ゴソゴソ
家政婦「お手紙……ですか?」
末妹「メイドちゃんから家政婦さんへ、って」
家政婦「……!!」
末妹「メイドちゃんは字が書けないから、代筆してもらったそうですが」
末妹「手紙と一緒に、メイドちゃんが摘んだ四つ葉のクローバーが」
153 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/11(月) 23:56:05.22 ID:PksL/iBd0
家政婦「メイドさんが……あの可愛らしいふわふわの小さな手で……」ホワワワ
長兄「家政婦さんの表情がめっちゃゆるいんですがこれは」
家政婦「ありがとうございます、末妹様!!」
長兄「ウサギさんからお手紙着いた」
長兄「冷静に考えたら実に非現実的な状況だけど、嬉しそうだな家政婦さん」
長兄(……このひとも、こんな顔するんだなあ)
商人「末妹!!」
末妹「お父さん」
商人「お帰り、私の可愛い、そして勇敢な娘……!!」ギュ
末妹「お父さん……ただいま……」ギュ
次兄「兄さん」
長兄「お帰り、次兄」ニコ
長兄「……なんだか、少し逞しくなったんじゃないか?」ワシャワシャ
次兄「毎日のように朝食のパンはジャムか蜂蜜つけ放題でお茶会にはたくさんのお菓子」
次兄「多少、太ったのかもしれません」
長兄「いやいや、体型の話じゃなくて」
長兄「なんと言えばいいのか、子供から若者の目になりつつある、と言うか……」
長兄「意志の輝きが見られるとでも言えばいいのか」
次兄「意志……」
次兄「……うん、叶えたい夢ができたせいかもしれない」
次兄「将来の夢ね」
長兄「将来の……?」
次兄「兄さんにも近々話すよ」
長兄「……ああ、聞かせてくれるのを楽しみにしているよ」ワッシャラワッシャラ
次兄「いやん、寝癖が強調されるいじり方はほどほどにしてぇ」
154 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/04/11(月) 23:56:49.62 ID:PksL/iBd0
※ここまで。昨夜は寝落ちしてしまいした、すみません!!※
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/12(火) 02:03:53.12 ID:R0Gjn1HAO
改めて乙
長姉がお姉ちゃんぽいこと言うの珍しいよね(失礼)
156 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/04/15(金) 21:29:51.89 ID:fK3DcANT0
※この週末は所用で身動きとれないため、次回はあと数日?お待ちください…※
※本編はあと2〜3回更新分で終わり&あとはちょこちょこ後日譚、の「予定」です※
余談。
お蔵入り設定その1…執事(狼)がメイド(兎)に禁断(?)の片想い(種族&年齢的に)
お蔵入り設定その2…230年後に蘇った王子は女性扱い上手で何かとポンコツじゃない
……リメイク前の序盤あたりはなんとなくこんな想定していました。今になって思えば(以下略
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/16(土) 00:26:21.20 ID:e7GO7GiAO
報告乙。無事でなにより
>>156
この王子は末妹&次兄と友達になれるんだろうか…コミュ力はありそうだけど
158 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/04/24(日) 01:10:55.70 ID:cM7V2mMO0
長兄「そう言えば、次兄」
次兄「何?」
長兄「父さんがこのあいだ教会主催の行事に出席したんだけど、そこで図書館長さんに話しかけられて」
長兄「図書館に入ってからこの4年間で二人しか借りていない本を、王都の歴史学者が探していたそうだ」
長兄「なんでも、本屋からちっとも売れない本を買い取った中の一冊で」
長兄「まさかそれが、歴史学者の研究対象になるようなものとは館長さんもまるで予想できなかったらしい」
次兄「……?」ハテ
長兄「それがな、その本を最近……一人目から3年半ぶりらしいが……借りた二人目がお前だって言うので」
長兄「『どんなお子さん』か関心を持ったみたいだ」
長兄「埋もれた歴史に興味があるのなら将来そちらの方面に進んでは?……とか、ね」
長兄「父さんは普段のお前をありのまま話すのもどうかと思って、その場は適度かつ無難に話を合わせておいたようだが」
次兄「お父様の判断は大人として正しくってよ」トホホ
次兄「……うん、その本が何の本かはわかる、覚えている」
次兄「俺が先月借りた中の一冊、図書館が数年前に本屋から買い取るも、殆ど借りる人もおらず新品同様の本」
次兄「230年前に滅びた小国の機械オタ……機械いじりの好きな伯爵の手記、だろ?」
長兄「そうだよ、その学者はあの国の歴史についての通説に疑問を持ったとかで」
長兄「あちこちで資料になるものを探しているらしい」
次兄「……」
次兄(確か……なんちゃって貴族として、菫花さんのなんちゃって父上としておっさんが屋敷に来た次の日)
次兄(俺達に事情を話して謝ってくれた後、だっけ)
……
〜〜次兄の回想……野獣の屋敷……〜〜
次兄「……そうか、野獣様は、菫花さんもだけど、自分のせいで機械マニア伯爵が処刑されたと思っていたのか」
末妹「私はその伯爵様のお話、初めて聞いたわ」
159 :
おっとage忘れ
[saga]:2016/04/24(日) 01:14:48.57 ID:cM7V2mMO0
次兄「このお屋敷が絡む話ではあるけど」
次兄「本で読んだ時はまだ野獣様に直接関わりがあるとは思っていなかったからね」
次兄「野獣様の正体を知るまでは……」
次兄「……夢の世界で会った時にタイミングを見て話そうとは思っていたけど、なんとなく話しそびれて」
次兄「そんなに悩んでいたのなら、早くあの手記の存在を教えてあげればよかった……」
師匠「気にせんでいい、昨夜、儂から夢の中で教えてやったからな」
師匠「あいつとは取り敢えず話しておきたい事が沢山あったので、その話は最後になってしまったが」
師匠「安心しておったわ、あいつの人生では40年近く胸に刺さっていた棘が取れた、とな」
末妹「野獣様は優しいお方、責任を感じておられたのでしょうね……」
次兄「でも……子孫が偶然見つけた手記とやらは、信用に値するとおっさんは思うの?」
師匠「ああ、細部を見るに信憑性は高い」
師匠「小国の当時を生きた者でなければ知り得ない情報が、ごく自然に当り前のように盛り込まれていた」
師匠「学術的には貴重な資料になるだろうが、その価値を理解できる現代の学者も今のところ殆どいなさそうだ」
末妹「菫花様にもそのお話しを?」
師匠「ああ、あいつが目を覚まし、儂とまともに会話できる程度に回復していたら話してやるさ」
次兄「……学術的な価値か」
師匠「正直、一般人には悪い印象しかなく、それ故に経済的には価値のないこの屋敷に」
師匠「そっちの方面では価値を見出す者が、このさき現れないとは言い切れないのだ、そう……明日にでもな」
師匠「学者という人種は物好きだからの」
次兄「そうなったら、ここを直接調べたい人も……」
師匠「ははは、儂の所有物になった時点で、曲がりなりにも戸籍を持った人間が暮らす一般家屋よ」
師匠「見学ぐらいさせてやるわ、但し、住民の生活を脅かさない範囲でな」
次兄「おっさん……」
師匠「……善意の一般人として、学問の発展には可能な範囲で協力もするが」
師匠「守るべきは守らんでどうする、それがこの時代での儂の存在意義と言うに」
160 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/24(日) 02:10:32.11 ID:cM7V2mMO0
師匠「……それに、今までは敢えて意図的にそうしていた部分が大きいとは言え」
師匠「あの小国も胡散臭い伝承から解放され、少しは正確な歴史が知れても良いのかもな、もう、な」
次兄「生き証人のおっさんが匿名で論文でも発表すれば、すぐのような気もしますが」
師匠「過去の歴史を掘り起こすのは後世の人間の仕事だ、と儂は思う」
師匠「苦労して掘り起こされ、世に広まった『それ』が」
師匠「どのくらい正確か、どのくらい間違っているか、ニヤニヤしつつこっそり眺めてやるのが過去から来た人間の役目よ」
次兄「あくまでおっさん個人としての役目にしか思えないけど」
師匠「……それを悪用して、この時代を不幸に陥れかねん存在が現れたら、そいつを止める努力はするぞ?」
師匠「ま、実のところ悪用できるほどの何かは出てこないだろうが」
師匠「さっきも言ったが、儂はこの屋敷とここに暮らす者達を守り抜く」
師匠「……そして、ここを訪れる親しき者達も守りたいと今は思う」
末妹「師匠様」
次兄「おっさん、俺達がここに来ることを認めてくれるの?」
師匠「世間的にはともかく、儂はここの番人なのだ、真の主ではない」
師匠「『主人』の友を番人として歓迎するさ」
師匠「あ、ちなみにこの部屋は魔法で遮断しているから、野獣も様子を窺うことはできんからな?」
師匠「君らも今の会話は秘密にしておくように」シー
末妹「どうして秘密に?」
次兄「うーん、弟子に対するお師匠としてのプライドと言うか、野獣様に対するツンとしてのキャラを貫きたいと言うか?」
末妹「…………よくわからないわ、お兄ちゃん」
次兄「うむ、お前はそれで良い」
次兄「とにかく態度や性格はどうあれ、おっさんが野獣様達を守ってくれるのは間違いないよ」
次兄「それどころか現状では世界最強の守護者だ」
末妹「そうね、本当によかった……本当に……」
……
161 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/04/24(日) 02:14:43.71 ID:cM7V2mMO0
※ここまで。次回は次兄の回想が終わった所から。※
読み返して自分ではとっくに入れていたつもりになっていた機械オタク伯爵のフォローがすっぽり抜けていたことに気付き
描写がなかった(作者がいい加減な)だけで、作中人物は忘れていませんでした!
……という事にしておいてください……すみません……
162 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/24(日) 18:26:49.15 ID:cM7V2mMO0
…………
長兄「……で、その本は既に図書館じゃなく歴史学者の所有になっただそうだ」
次兄「ハッ」
次兄「ぼーっと回想に浸っていた、いかんいかん」
長兄「館長さんが言うには、またどこかで見つかったら図書館に補充しておくって話だけどな」
次兄「そっか……」
次兄(例えあの場所に興味を持つ学者が出てきても、おっさんがいれば大丈夫だろう)
次兄(それに、もしも『ろくでもない王子』という世間の通説が訂正されるのなら、それは良いことかもしれない)
商人「さてと……いつまでも庭先でこうしているわけにも行かない。家に入ろう、二人ともお腹は空いてないか?」
玄関のドア:ギィ……
家政婦「皆さん、お茶の時間ですよー」
次兄「家政婦さんいつの間に家の中に」
家政婦「サンドイッチと栗のタルトを用意しました、軽いお食事代わりにもなりますよ」
商人「ありがとう」
商人「さ、次兄と末妹は旅装を解いて居間においで?」
末妹「はい!」
末妹(そうだ、近いうちにお土産でいただいた紅茶とお菓子を使ってくれるように、後で家政婦さんにお願いしよう)
末妹(それから……)
末妹(家政婦紹介所の決まりがあるから、我が家の飲食の場には同席はできないって聞いているけど)
末妹(家政婦さんにもあのお菓子を食べて欲しいな、メイドちゃんも一緒になって作ってくれたんだもの……)
次兄「朝食はたっぷり食べたけど、さすがにこの時間になればお腹も空いたかなぁ」
次姉「……どうしたの姉さん、なんかニヤニ……ニコニコしているけど」
長姉「えへへへへへ、家政婦さんには内緒にしてもらっているけど、今日のタルトは私が作ったの」
次姉「あら、いつの間に? うちのキッチンからお菓子を焼く匂いはしていなかったと思うけど」
163 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/24(日) 18:29:50.35 ID:cM7V2mMO0
長姉「昨日は料理教室がお休みだったから、打ち合わせの後で教室の厨房を貸してもらったの」
長姉「1日置いたほうが、味も馴染んで美味しいお菓子だから」
次姉「さすが姉さん。クッキーも初めてにしては上手だったものね」
長姉「……ま、まあね」
長姉(あれからお菓子だけでもせめて幼馴染男のレベルに追い付くよう、基礎を必死に勉強したし)
長姉(昨日も先生にも付きっきりで指導を受けながら作ったし、大丈夫!! なはず……)
次姉「でも……昨日作ったってことは」
次姉「あの子達に食べさせたくて、って意味よね?」
長姉「」
長姉「な、何よ、それのどこか悪い!?」
次姉「悪いわけないわ、なぁんだ、私が思っていたよりずっと良いお姉さんしてるじゃない♪」
長姉「……」ムー
長姉「……家政婦さんとあんた以外には秘密なんだから」
長姉「味の感想……具体的に客観的に、後で聞かせてよね?」
次姉「はいはい」
……
そんなこんなで帰宅日は過ぎて行き……その夜……
商人「……野獣の正体が、人間だったと」
商人「しかも、230年前に滅んだ小国の王子様だった、とはねぇ……」
長兄「……………………」
次兄「兄さん、大丈夫?」
長兄「……いやもう、もはやどんな話が出て来ても受け入れる以外ないからね、うん……」
次兄「というわけで、お屋敷に住んでいるのは、表向きは師匠のおっさんと菫花さん」
末妹「おふたりには戸籍もある……作った、と言うべきかしら」
次兄「使用人の皆さん4匹は、表向きは普通の動物……お屋敷のペットってことで」
164 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/24(日) 19:31:04.84 ID:cM7V2mMO0
商人「そうか、あの野獣にはもう会えないのか……」
商人「……なんだか寂しいな、いつか私も、彼とまともにゆっくり話をしてみたかったのに」
末妹「……お父さん」
次兄「でも、野獣様は消えてしまったわけでも死んでしまったわけでもない」
次兄「なあそうだろ、末妹?」
末妹「ええ、これからも野獣様はお屋敷の皆さんを見守っているし」
末妹「お屋敷に泊まれば、野獣様が望む限り、『夢の世界』でお話もできる」
次兄「だからこれからも……野獣様は執事さん達のご主人様であり、末妹と俺の友達なんだよ」
末妹「お父さんが寂しいと思っているって言葉、野獣様に伝えるわ」
末妹「きっと、嬉しいと言ってくださると思う」
次姉「…………」
長姉「ねえ、師匠さんって人がうちの店に来た事のあるお客様でしょ、あともうひとり」
長姉「野獣の正体の王子様……菫花さんって人?」
長姉「あんた達の友達になったのはわかったけど、どんな人なの?」
次兄「どんな人って、身長は父さんや次姉ねえさんと同じくらいでー、性別は男でー、本人の生活年齢は二十歳でー」
長兄「俺と同い年か(生年月日はさておき)」
次兄「うん、でもパッと見はせいぜい17かそこらかなあ、体型とか顔立ちとか」
次兄「兄さんと並んだら10歳差くらいには見えるかも」
長兄「ちょっと待て、それは遠回しに俺が実年齢より老けている、と?」
商人「……」ハッ
商人「次兄の友達……若い男性……末妹とも友達……若い男性……?」
次姉「!!」
次姉「ね、姉さん、そういう細かい話はまたの機会にしない!?」
長姉「で、でも、あんたも気にならない?」
次姉(姉さん、そういう話は私と末妹の三人だけの時にするものなの……)ヒソヒソ
165 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/04/24(日) 19:37:36.47 ID:cM7V2mMO0
※ここまで。
>>153
から本編は二週間近く休むわ、昨夜の更新では唐突に時系列戻るわ、何かと申し訳ありません……※
今後の大雑把な予定。可能ならGW前にもう1回、その次は5/7〜8頃です。
今週の更新がなくても4/29〜5/6間は更新なしです……ご参考までに……
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/25(月) 04:11:06.30 ID:mp2fUQcAO
乙×2
妙齢の美女たる長姉の作ったタルトより、アニマル使用人達が作ったお菓子の方が信頼出来る不思議
167 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/27(水) 22:23:08.24 ID:VQU88E8B0
次姉「ねぇ、次兄と末妹は疲ているでしょ? そろそろ休ませてあげましょう、ね、お父さん!!」
商人「え?」
商人「あ、ああ、そうか、そうかな、いや、そうだな、それがいいな、うん」
次姉「お父さんを頼むわ兄さん」
長兄「へ? 頼むって?」
次姉「二人が元気に帰ってきたお祝いとか言って飲みに誘うの、で、早く寝かせてしまいなさい」ヒソヒソ
次兄「まだまだ寝るには早いよ、俺もまったく疲れてな」
次姉「あんたはとっとと寝ちゃいなさい、明日は私と同じくらい早起きしてもらうから……開店準備手伝ってね!」
次兄「うぇえ!?」
次姉「そろそろ朝寝坊の習慣から抜け出さないと将来困るわよ、それに、次兄にももう少し店の仕事覚えてもらわないと」
次兄(ふぇぇ……こうなったら父さんになるべく早くカミングアウトして、進学のための勉強に専念させてもらわねば)
末妹「朝のお手伝いなら私が」
次姉「あんたは学校行かなくちゃ、ま、明日1日くらいお休みしてもいいけどね」
次姉「……で、今からきっかり30分後に私の部屋に来なさい? 寝間着で構わないから」ヒソヒソ
末妹「え??」
次姉「しっ、次兄にも内緒だからね?」コソコソ
次姉「姉さん、いいでしょ? 話の続きを心おきなく、ね」
長姉「う、うん」
長姉「……あんたが仕切る時はとにかく逆らっちゃ駄目な気がする、なんとなく」
長兄「さぁ父さん、二人で軽く飲もうか、明日の仕事に差し支えない程度に」
長兄「今夜はお祝いだ、次兄も末妹も元気に約束通り帰って来て」
長兄「それを我が家の全メンバーで出迎えることができたんだからね!! めでたいよ!」
商人「めでたい……か」
商人(確かにな……再び家族がひとつに、いや、再びどころか、今まで以上に……)
商人「ああ、そうだな。飲もう、長兄」
……
168 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/27(水) 22:25:20.90 ID:VQU88E8B0
……30分後、次姉の部屋。
ドア:コンコン……
次姉「末妹? どうぞ」
ドア:カチャ……
末妹「……おじゃまします……」ソローリ
長姉「お先におじゃましてるわよー」
次姉「そんなにおそるおそる入って来なくても大丈夫」クス
長姉「でもさ、ここお父さんの書斎が近いでしょ? 話し声が聞こえちゃわない?」
次姉「二人は兄さんの部屋で飲んでるわ、ここからは少し離れているから大丈夫」
末妹「……なんのお話をするの? お姉……ちゃん」
次姉「何を畏まっているのよ、おいで、一緒にベッドに座ろう?」
末妹「……はい」ポス
次姉「ふふ……私と姉さん、よくこうやって寄宿舎の部屋で、一つのベッドに座って話をしたっけ」
長姉「そうだった、こんなフカフカのベッドじゃなかったけどね」
長姉「部屋で姉妹二人きりになれる時が、唯一の気が楽になれる時間だったわ……」
末妹「……」
次姉「もう、あんたにしんみりして欲しわけじゃないの」
次姉「今宵、ここは殿方禁制の空間……女同士でしかできない話をしましょ?」
末妹「」
末妹「わ、私……女同士でしかできない話って……そんな話題、持っていたかしら??」
次姉「難しく考えなくていいの、お父さんには聞かせにくい話、それならわかりやすいでしょ?」
末妹「」
長姉「あのさ、早速だけど菫花さんってあんたと次兄の『お友達』になった人」
長姉「もう少し詳しく聞いていい?」ワクワク
169 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/04/27(水) 22:27:00.90 ID:VQU88E8B0
末妹(……友2ちゃんと友3ちゃんが、お屋敷の男の人達のことを聞きたがっていたの思い出したわ)
長姉「……あっ、言っておくけどこれは純然たる好奇心だからね?」
長姉「私の心は幼馴染男のものだから、誤解しないでね!!」
末妹「……幼馴染男さん??」
次姉「ちょ、姉さん」
長姉「……!!」ハッ
長姉「ややや、やだ私ったら、まだ末妹達は何も知らないんだった!!」アタフタ
次姉「このさいだから喋っちゃったら? そのほうが末妹も話しやすい雰囲気になるかも」
長姉「…………」
長姉「次は、ね。末妹……」
〜かくかくしかじか〜
末妹「……婚約……結婚するのね、幼馴染男さんと……」パァァ
末妹「素敵、素敵!! おめでとう!!」
長姉「あ、ありがとう……」
長姉「……なんか照れるわね」ボソ
末妹「明日、お兄ちゃんにも教えていい?」
長姉「いいけど……あのね、私のいない所で教えてね?」
長姉「きっと驚くだろうけど、それは予想の範囲内だけど」
長姉「目の前で奇声を発したりされたら私、あの子(次兄)をぶん殴りそう」
次姉(キョエーとかヒョヘーとかね、想像できるわ……)
末妹「わ、わかった、気をつける」コクコク
長姉「……私が喋ったんだから、今度は末妹の番」
長姉「ずばり聞くけど」
末妹「は、はいっ」
170 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2016/04/27(水) 22:28:05.99 ID:VQU88E8B0
※ここまで。次回は5/8くらいかと思われます※
姉妹トークの続きの他、父と長兄飲みトークとかマロンタルトの感想とか次兄とか(たぶん)
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/27(水) 23:10:36.15 ID:rZwkNTXAO
連休前の更新乙
姉妹三人でガールズトークをする日がくるとはなぁ
172 :
>> 169誤字訂正。 ×長姉「次は、ね。末妹……」 → ○長姉「実は、ね。末妹……」
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/08(日) 20:01:25.87 ID:gfPINU0D0
長姉「ずばり聞くけど、その菫花さんって素敵な人なの!?」
末妹「…………」
末妹「……ひとつひとつ努力して、苦手を克服しようとしている人、よ」
末妹「自分が生きてきた時代の、200年も後の世界で生きて行こうって頑張って」
長姉「あー、そうじゃないの、そうじゃなくてねえ……なんと言ったらいいのかしら……」
次姉「そうね、次兄の説明よりもう少し詳しい見た目から話してもらったらいいかな?」
末妹「見た目」
末妹「……うんと、髪の毛は金灰色で、肌はすごく色白で……ひとみの色がね、薄紫……スミレの花のような色」
末妹「お父さんと同じくらいの背丈だけど、細くって……華奢と言えばいいのかな?」
末妹「お兄ちゃんが言うとおり、一見すると私やお兄ちゃんとそんなに離れているとは思えない感じ」
末妹「あ、実年齢とね。見た目年齢はやっぱり離れて見えると思うけど」
次姉「はいはい、そこは言わなくともよろし」
次姉(幼い外見を気にしているのねぇ、この子なりに)
長姉「…………終わり?」
末妹「う、うん」
長姉「……ええい、ド直球で行くわ!!」
長姉「その人、顔はどうなの!? 美形なの平凡なの残念なの!? 個人の感想でいいから!!」ズバーン
末妹「」
末妹「……うん、と……」
末妹「きれいな人、よ。絵本の挿絵から抜け出したみたいな……」
末妹「こんな男の人が本当にいるんだ、って思っちゃった」
末妹「……それくらい、きれいなお顔」
長姉「……そう」
長姉「色白、アッシュブロンド、薄紫のひとみ、どちらかと言えば童顔だけど絵に描いたような美形……と」
長姉「わかった。ありがとう!」スッキリ
173 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/08(日) 20:03:56.49 ID:gfPINU0D0
末妹「長姉おねえちゃ……」
長姉「個人的な好みのタイプとはちょっとずれているけど、実際にいたら目の保養だわー」
次姉「好奇心が満たされて気が済んだのね、姉さん」
長姉「そ、さっきも言ったけどあくまで好奇心」
長姉「この先、どんなイイオトコが現れても私の愛は幼馴染男のものなんだからねー♪」
末妹「……どんな人が現れても……」ポツリ
次姉「……末妹?」
長姉「しかし、お父さんに知れたらえらいことになりそう」
長姉「そんな美男子が次兄だけじゃなく末妹とも友達なんて、ね」
次姉「お父さんなら顔はどうあれ(男子ってだけで)心配しそうだけど……」
末妹「……本当に『お友達』よ、お父さんが心配するようなことは」
長姉「わかってるって、あんたまだまだお子様だし」
長姉「初恋なんていつになるやら〜」ゴロン
末妹「……っ」
長姉「……ちょ、何よ、あんたその思い詰めたような顔は」ガバッ
長姉「悪かった、悪かったわ、からかったりして……ねぇ怒ってる?」アワワ
末妹「……」フルフル
次姉「末妹……泣いているの?」
末妹「……ううん、大丈夫、泣いてない」
末妹「もう……いっぱいいっぱい、泣いたもの……」エヘ
次姉「末妹」
長姉「……どういうこと、何があったの?」
末妹「ええと……あのね、やっぱりお父さんに簡単には話しにくいこと、あった」
末妹「だから……女同士のお話として」
末妹「……お姉ちゃん達に、聞いてほしいな……」
……
174 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/08(日) 20:42:37.16 ID:gfPINU0D0
次兄の部屋……
次兄「……うーん、眠れん」モゾ
次兄「明日は次姉ねえさんにどえらい早い時間に叩き起こされる予定が組まれてしまったと言うに」
次兄「……姉さんの場合、『叩き起こす』が文字通りなだけに」ガクブル
次兄「……」
次兄「父さんと兄さんはおチャケ飲んでるんだよな」
次兄「父さんの部屋はここから離れ……あれ?」
次兄「……ボソボソした男声が壁の向こう、隣の兄さんの部屋から」
次兄「今夜は兄さんの部屋なのか」
次兄「……お酒ひとくち飲んだらよく眠れるかな?」
次兄「我が国では18歳の誕生日からお酒に関しては大人と同じ扱いで」
次兄「16歳の誕生日から、お酒の種類と量の制限つきで一部解禁なのです」
次兄「というわけで、真面目な父さん兄さんでも強く拒むこともありますまい、合法ですからね」
次兄「美術学校に進学すれば嗜む機会もできるだろうし」ガバ
次兄「大人の階段を昇る一歩として……」
次兄「ここらでデビューしてみようではありませんか」カチャ
次兄「まぁ最初はマジで舐めるだけ、口に合わなければ即効やめるだけのこと」
長兄の部屋のドア:コンコン……
商人「……ん? 誰だい?」
長兄「次兄かな、起しちゃったか、小声で話していたつもりなんだが……」
ドア:カチャ……
次兄「……へへ、父さん、兄さん、こんばんはぁ」ソロリ
長兄「ごめんよ、うるさかったかい?」
次兄「ううん、どうせ眠れなかったから」
商人「よかったらお入り? 大丈夫、私達もそんなに酔っていないよ」ニコ
次兄「ではお言葉に甘えて……」ニュルー
長兄「お前のドアを全開しないで入ってくる癖は抜けないなあ」
……
175 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/05/08(日) 20:44:40.74 ID:gfPINU0D0
※お久しぶりでした。今回ここまでです。次回は近いうち。誤字すみません何度も何度も※
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 21:25:42.46 ID:zPoARsAAO
お待ちしておりましたん
次兄に酒なんて色んな意味で危険
でも俺も末妹ちゃんの気持ちを思うと切なくて呑まずにはいられないぜ
177 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/15(日) 00:44:02.32 ID:cQYivfsC0
次兄「ここに座っていい?」カタ
長兄「ああ、どうぞ」
商人「どれ、台所でミルクを温めて来てあげよう。それともココアがいいかい?」ガタ
次兄「いやいや、ホットミルクが欲しくば父さんにそんなお手間は」
次兄「……実はね、へへ、ちょびっとだけお酒をもらえたら、よく眠れるかなー、なんて?」チラッ
長兄「ああ……なるほどね」
商人「お酒」
商人「お、お前がお酒だなんて!?」
長兄「父さん、次兄ももう16歳だよ?」
長兄「俺が16になった時は、ワインを小さなグラスで『お祝いだ』って飲ませてくれたじゃないか」
商人「……」
商人「それもそうか……うむ、どうしても私の中では次兄と末妹はいつまでもおチビさんで」
商人「頭ではとうにわかっているのに、時々こうしてその思いが表れてしまう」
商人「つくづく駄目な父親だよな……」
次兄「まあまあ、父さんは(泥沼になるから)あまり自分を責めないで?」
商人「よし、次兄に友達ができたお祝いだ、男3人で乾杯しよう!!」
長兄「ちょうど甘口のシードルもあるんだ、これなら初心者向けだろう」
コルク栓:ポン
次兄「あ、いい香りがする」クフクフ
商人「最初は少しだけだよ?」
長兄「わかってるって、ほら」シュワワ
次兄「おー、香りもだけどこの色、昔ばあやが作ってくれた林檎ジュースを思い出すなあ」
次兄「もちろん泡立ちはしなかったけど、風邪で喉が痛い時もあれだけはすんなり飲み込めた」
商人「では、我々も次兄と同じこいつで」シュワワワ
178 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/15(日) 00:45:34.57 ID:cQYivfsC0
商人「……次兄のこれまでの16年間と、これからの長い人生に」
長兄「家族の健康と幸福に」
次兄「えーとえーっと、この世界に満ち溢れるあらゆる生命体達に、っと」
長兄(次兄、大きく出たなあ)
3人「「「かんぱーい!!」」」
次兄「……どきどき」チビリ
次兄「………………」
次兄「……何これ想像と違うじゃん、渋い、からい!!」ウベー
次兄「もっと林檎しぼったままの味かと思ってた、わざわざ手間暇かけて不味くしてんじゃないの!?」
商人「うーん、お酒としてはかなり甘いし、果汁そのものではあるのだが」
長兄「果汁と言ってもそれを発酵させた酒だからね、子供の味覚では不味いとしか感じないだろうな」
次兄「……」ム
商人「はは、やっぱり次兄には少し早かったかな?」ナデナデ
次兄「…………」ムー
次兄「りょ、量が少なすぎて味がわからなかったんだもん!!」クイー
商人「あ、グラスの残りを一気に!?」
長兄「大丈夫、注いだ量は少なかったよ!?」
次兄「 」ゴクリ
次兄「……ぷっはぁ!!」ゲファー
商人「次兄、大丈夫かい、大丈夫か!?」サスサス
次兄「……………………」
次兄「にゃあああああなんだか暑くなってきたあああああああ!!」カァァァ
長兄「回るの早いよ!!」
179 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/15(日) 00:47:20.73 ID:cQYivfsC0
次兄「脱ぐ、脱ぎます、脱ぐからね!!」ヌギカケ
長兄「ちょ、待て待て、落ち着け!!」
商人「ほら、水、水を飲んで次兄!!」
次兄「俺は落ち着いています、落ち着いていますよ!?」
長兄「顔まっ赤なんだけど」
次兄「その証拠に……今から」
次兄「大事な大事な話をしまああああす!」
次兄「二人ともお席にお戻りくださぁい!!」ビシッ
商人「は、はいっ!?」ガタッ
長兄「どう見ても酔っ払いなんだけど」
次兄「お父さん、お願いがあります!」
商人「お、お願い?」
次兄「18歳になったら……王都の美術学校に、進学させてください!!」
商人「 え」
長兄「 」
……
次姉の部屋。
長姉「……なんか聞こえない?」
次姉「なんとなく兄さんの部屋のあたりが騒がしいような気がするけど、ここからは離れているし」
次姉「ま、気にしないでおきましょ」
末妹「……大丈夫かしら」
次姉「いいからいいから、話を続けて?」
末妹「うん……」
……
180 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/05/15(日) 00:47:54.57 ID:cQYivfsC0
※今回はここまで。なかなか進まなくてすみません……※
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 01:39:09.94 ID:FOI46l6AO
乙
うーんやっぱり酒に飲まれる系か次兄は
素面でも暴走してるのになぁww
182 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/21(土) 19:28:13.32 ID:QcUGknkz0
男性陣。
次兄「……以上、題して『芸術と野獣様への熱く滾る我が想い』でした、ご清聴ありがとうござりました」ペコリ
長兄「とりあえず熱弁お疲れさま」パチパチ
商人「……」
商人「野獣の言葉に励まされ、画家を将来の夢にしたくなった……か……」
商人「……我が子の夢を応援したい気持ちはあるが、お前を一人暮らしさせるのは……ううむ……」
次兄「うにょぅ、兄さんなんて9歳から家を出て勉強してたじゃないですかあああ!?」
商人「あの学校には寄宿舎があったから、小さな子供でも任せることができたんだよ……」
商人(正直、年齢だけの問題ではないが)
長兄「それなら賄い付きの下宿はどうかな、父さんの伝手があれば信用のおける家主を紹介してもらえるんじゃ」
商人「おいおい、長兄」
長兄「……父さん、応援したいと言ったよね?」
長兄「それなら俺達は頑張れと送り出してやろう」
長兄「そしていつでも、どんな結果になっても……帰って来れる次兄の『家』、それが俺達の役目じゃないかな?」
商人「……長兄」
商人「私は少し考える時間が欲しい、それだけなんだ」
商人「今すぐの話ではないと言っても、二週間も家を離れていたこの子が今日こうして元気に帰ってきたばかりで……」
商人「何よりも、酔っ払っていない次兄と改めて話をするのが先かと」
長兄「……確かに」
長兄「次兄、父さんの言うとおり今夜は結論を出すには相応しくない、部屋に戻……」
次兄「……むゆー……むゆー……」コレデモイビキ
長兄「……あれ?」
商人「いつから眠っていたんだ」
183 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/21(土) 19:29:57.61 ID:QcUGknkz0
長兄「仕方ない、このまま部屋に運んで寝かせるよ」ヨイショ
商人「大丈夫かい、私は腰に自信がないから手伝えないが……」スマン
商人「あ、次兄の部屋は足場が悪いから気をつけて?」
長兄「うん知ってる、床を埋め尽くしている有象無象を足で掻き分けて進むしかない」
長兄「一人暮らしさせるならあれは改善させないとね」
長兄「……こいつもそれなりに大きくなったなあ……重いや」ハハ
商人「…………」
ドア:ガチャ…パタン
次兄「むにゃ……ひへへへ、野獣しゃまにお姫様抱っこ……うへへへぇ」
長兄「寝言か……小さすぎてよく聞こえないけど幸せな夢を見てるんだろうな、呑気な奴め」ガチャ
長兄「……ああ、マジでなんつー部屋だ」ゲンナリ
長兄「収納場所を決めて使ったらそこに戻すだけ、それだけなのに何故できないんだろ、理解不能」ガサガサ
長兄「どっこいしょ、ベッドはまあ余計な物が乗ってないだけマシか」
長兄「……次兄だって、あの状況であんな大事な話をするつもりはなかった筈」
長兄「酔っ払いの戯言とは思いたくない、もう一度きちんと話してくれたら俺は改めて応援するよ」
次兄「……んごー、すぴぃぃぃ、ふごー、しゅるるるる……」
長兄「……お前はやっぱり俺にはできないことができる男だ……正直、羨ましい」クス
長兄「さて、今度は当初の予定通り父さんを寝かしつけなくちゃ」
長兄「長姉の結婚が決まって、下の二人も日々成長して次第に親離れ、寂しい気持ちは俺にもわかるが……」ガチャ
商人「……ぐー……ぐー……」
長兄「……テーブルに突っ伏してる」
長兄「さすがに父さんを起こさず部屋まで運ぶのは無理だ、俺のベッドに寝かせるくらいはできるかな?」ウンショ
長兄「ふう、さて……俺も疲れた、床にクッション敷いて寝るか」ゴソゴソ
……
184 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/22(日) 01:51:13.19 ID:/pH27Tf10
女性陣……
次姉「……そう、あんたは野獣に自分の想いを伝えることができたんだ」
末妹「うん……」コクリ
末妹「野獣様も、私の想いを受け止めてくれた」
長姉「」
長姉「想いを受け止めてくれたってどういうこ」
次姉「姉さん急かさないの」シー
末妹「……私が前に進めるように」
末妹「幸せを願い続けてくれると」
末妹「私がどこにいても何をしても……」
末妹「私らしく生きて欲しいと願っていると、それを夢の世界から、見守ってくださるって、そして」
末妹「……私に野獣様の一部を分けてくれた」
長姉「」
長姉「ぐ、具体的に説明してくれない!?」
末妹「……うーん、どう言えばいいのかしら、こんな小さくて、透き通ってガラス玉のようで、でも柔らかくて暖かい」
末妹「夢の世界の野獣様の一部……野獣様の心の欠片、かしら」
末妹「私にも実はよくわからないの、でも」
末妹「夢の中なのに、手に取ると野獣様に触れた時と同じ暖かさで」
末妹「こうしてね、胸に押し抱くと……そのまま溶け込んで行って……」
末妹「ああ、野獣様そのものだ……って、それだけはすぐにわかったの」
末妹「……今は、今も、これからも、私と一緒……」ニコ
185 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/22(日) 01:52:43.50 ID:/pH27Tf10
次姉「末妹……」
長姉「……………………」
次姉「……よかったわね、末妹」キュッ
末妹「お姉ちゃん?」
次姉「素敵な恋だったのよ、あんたの初恋は、ね……」
末妹「……ええ、私は幸せ」
末妹「野獣様と出会えてよかった、野獣様を好きになってよかった……だから……」
次姉「うん、うん」
次姉「あんたはいい子、だから……幸せになれる、ううん、絶対幸せになるのよ……?」ギュー
末妹「……お姉ちゃん」
末妹「ありがとう……」ギュ
次姉「……ふふ」ナデナデ
長姉「……」
……
末妹「……すー……すー……」
次姉「眠っちゃった、さすがに疲れたかな」
長姉「……あのさ、次姉」
次姉「何、姉さん」
長姉「この子はいい初恋したって……あんた本気で?」
次姉「……結ばれないで終わる恋に意味なんかないって、姉さんは思うの?」
長姉「そ、そこまでは思ってないわよ」
長姉「……でも、末妹が自分の恋心に気付いた時には、もう、野獣は……」
186 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/22(日) 01:54:14.16 ID:/pH27Tf10
次姉「えそうよ、辛かったでしょう、切なかったでしょう、どんなにか」
次姉「……それでも末妹は、後悔していない、幸せだって、笑うのよ」
次姉「だから素敵な恋だったの、違うかしら?」
長姉「……」
長姉「……そういうものかしら」
次姉「大丈夫、この子は強いもの」
次姉「いつかきっと……新しい恋だって見つけられる、何年先かわからないけどね」
長姉「…………人外で独身で優しい紳士でお父さんより年上なんて男(ひと)、また現れると思う?」
次姉「やだ姉さんたら、別に野獣が末妹の好みのタイプって話じゃないでしょ?」
次姉「好きになった相手があの野獣だっただけで、だいたい野獣も中身は人間で」
長姉「でも、初めて好きになった相手は『人外』で親子以上の年上」
長姉「……そんな思い出を聞かされたら、世の男性はだいたいドン引きするんじゃないかしら?」
次姉「……」
次姉「……つまり、それを理解して丸ごと受容してくれる相手でなくちゃ、って言いたいのね?」
長姉「現実問題よ、末妹が次に好きになる相手は、きっと人間だもの」
長姉「人間の女の子が人間の男性に人間の世の中で恋をするんだもの」
次姉「確かに(次兄じゃあるまいし)人間相手よね」
長姉「……私達の世の中は夢の世界みたいに、森の中の忘れられたお城みたいに」
長姉「なんでもありで、なんでも許されたりはしないもの……」
次姉「確かにそう簡単に理解ある男性には巡り逢えないかもしれないけど」
次姉「わかってくれない男なんか、こっちから願い下げよ」シュッ
長姉「」
187 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/22(日) 01:55:48.85 ID:/pH27Tf10
長姉「今の拳の動き、目にもとまらなかったんだけど……」
次姉「大丈夫、少なくとも世の中には、好きな相手にはいくらでも寛容になれる人間がいるんだもの」
次姉「例えば正面から殴られても、靴を投げつけられても、板で叩かれても、首を捻じ曲げられても、相手が好きな人ならば」
長姉「え」
長姉「ちょ、ちょっと、何言ってるの、誰の話よそれは!?」
次姉「しーーーっ、末妹が起きちゃう」
長姉「あ」
末妹「……んん……すぅ、すー……すー……」
次姉「……大丈夫」
次姉「この子はね、絶対幸せになるんだから……」
長姉「……妹の心配してる場合かしらね」ボソ
次姉「もぉ……私の事はいいの、焦ってないって言ってるでしょ」
次姉「さてと、もう寝ない? 明日も早いからね」
長姉「あんたはここで寝るの? 末妹は?」
次姉「一緒でいいわ、このまま起こしたくないし、小さくて細いからこのベッドでも邪魔にならないもの」
長姉「……私もここで寝る」ボソ
次姉「あら、それなら私が姉さんの部屋で」
長姉「だめ、あんたも一緒」グイ
長姉「小さい頃は、ううん、寄宿舎でも時々こうして二人で同じベッドに潜って眠ったじゃない」
次姉「……でもねえ、さすがに狭くない?」
188 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/22(日) 01:57:06.93 ID:/pH27Tf10
長姉「私達も今より少し小さかったけど、寄宿舎のベッドはもっともっともーっと狭かったもの、だから」
次姉「わかったわかった、ま、夜中になって冷えて来たし……3人でくっついて眠るのも悪くないかもね」
ムギュムギュ
長姉「……た、確かに、ちょっと……」キュウクツ
末妹「うーん……ん、すやすや……」
長姉「……やっぱり子供ね、一度眠ったらなかなか目が覚めない」
次姉「ふふ……可愛い顔しちゃって」
次姉「末妹とは小さい時も、こんな機会なかったわね」
末妹「……お母様……すー……」
次姉「……お母様の夢、見てるのかな」
長姉「記憶ないのにね……」
次姉「お父さんやばあや、あと兄さんから、話は聞かされているだろうけど」
長姉「……私と次姉しか知らないお母様の話も、教えてあげたいな」ボソ
次姉「ふふ、姉さん、すっかりいいお姉さんじゃないの」
長姉「な、何よ、お父さんとも約束したもの、普通の姉になるって」
長姉「そうよ、普通よ、普通の姉。別に特段いい姉なんて目指してないんだから」
次姉「ええ、普通のいいお姉さん」クスクス
長姉「……」ムー
長姉「もう眠っちゃう、邪魔しないでね」ゴロン
次姉「はいはい……」
次姉「……おやすみなさい、姉さん、末妹……」
末妹「くー……くー……」
…………
189 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/05/22(日) 01:57:56.46 ID:/pH27Tf10
※今回はここまで。本編はあとちょっと(のはず)※
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/22(日) 02:18:53.87 ID:WmqIxtcoO
乙
思うことは色々あれど、とりあえず長兄が次兄のヤベエ絵を発見しなくて良かったなって
191 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/22(日) 23:22:03.60 ID:2lA72EtY0
翌朝……
次姉「え? 次兄を起こさないでやって、って?」
長兄「明け方に様子を見に行ったら、頭が痛いんだと」
次姉「……どうして明け方に次兄の様子なんか見に行ったの?」
長兄「」
長兄(酒飲ませたから心配になって、とか、頭痛も二日酔いとか……とはちょっと言いづらいなあ)
次姉「ま、いいわ。なんだかんだ言って体力ない子だもの、疲れとか風邪気味とか、そんなところでしょ」
次姉「医者(せんせい)呼ぶの?」
長兄「っと……それは様子を見てからにするよ」
商人「……おや次姉、おはよう」フアァ
次姉「お父さん、おはよう……眠そうね、昨夜は遅くまで飲んだの?」
長兄「日付が変わる前に切り上げたけどね」
商人「私はさっき起きたんだ……馬の世話もすっかり末妹に任せてしまったよ」
商人「……そう言えば長兄、次兄は大丈夫かい? 昨夜はあんなになって……」
次姉「昨夜? あんなに?」
長兄「……えーと……実はね」
〜
次姉「なあんだ、そういうこと。忘れがちだけど年齢は合法だし、保護者付きだし」
次姉「シードルそれっぽちで二日酔いねぇ、次兄らしいかも」
次姉「隠すこともなかったのに、兄さん」
長兄「なんとなく後ろめたくて……」
次姉「とにかく、どうやらお酒に弱い事はわかったんだから、ほどほどにするよう二人で言い聞かせてあげて」
商人「ああ、そうするよ」
長兄「本人がもう懲りているかもしれないけどね」
……
192 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/22(日) 23:24:34.15 ID:2lA72EtY0
次兄の部屋。
次兄「…………」ドロドロ
次兄「……い、いかん……己の原形を保てない気分……」グニョグニョ
次兄「以前、兄さんが珍しく寝込んだのも二日酔いだったんだな……たぶん」
次兄「……似てない兄弟でも体質は似るのかしら……いやそもそも酒の摂取量が、まるで違うのでしょうがね……」
ドア:コンコン……
次兄「ぬ」
末妹の声「……お兄ちゃん?」
次兄「ぬぅお、末妹か……鍵は開いてるにょ……」ズルズル
ソロリ……
末妹「……辛そうね」
次兄「んむ、これは……病気ではないが、一種の中毒症状でな……」
末妹「知ってる。お父さん達から色々聞いたの」
末妹「……あのね、これから……大人になっても、お兄ちゃんはほどほどにした方が、良いと思う……お酒」
次兄「……ううううう、恥ずかしい……」メリメリメリメリ
末妹「お兄ちゃん、枕に顔が埋もれるほど押し付けたら息ができない」アワワ
次兄「……酔っている間、どのような醜態をワタクシは晒したのでしょうか」
次兄「グラスを空にしてからの記憶がね、全く無いのです……父さんと兄さんは何を見たか聞いたかと思うと……」
末妹「」
末妹「覚えていないんだ」
(商人「……末妹……次兄は末妹には話してあると言っていたが、実は……昨夜……」)
193 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/22(日) 23:26:51.32 ID:2lA72EtY0
末妹「……大丈夫、恥ずかしがるような事は何もなかったわ、だってお父さん普通に心配していたもの」
次兄「普通に」
次兄「……そうなの、でもそこはそれ、大人の対応というモノではないのですかねぇ」
末妹「もう、そんなに心配なら後で単刀直入にお父さんやお兄さんに聞けばいいじゃない」フフ
末妹(……お父さん)
(商人「……次兄の口から改めて話を聞くことにするよ、お酒が完全に抜けてからね」)
(商人「返事はそれからだ、しかし……前向きに考えたい気持ちは私にもある」)
(商人「解決すべき現実的な課題は、あの子と一緒になって取り組まなくては」)
(商人「場合によっては、皆に……末妹にも協力してもらうことがあるかも、その時は……」)
末妹「……本当に大丈夫だからね、お兄ちゃん」
末妹(きっと、お父さんもわかってくれる、応援してくれるから大丈夫)
次兄「……うん、お前が大丈夫と言うのなら……」ニヘ
次兄「…………」シーン
末妹「お兄ちゃん?」
次兄「……むゅるるる……むゅるるる……」ヘンナイビキ
末妹「眠っちゃった」
末妹「酔っ払いさんは眠るのが一番で顔は横向けたほうがいいって、お父さんが」ヨイショ
次兄「……むゅるる……もふもふぅ……むゅるる……もふもふ……」
末妹「もふもふ……野獣様かな、執事さんかしら?」
末妹「……本当に、ほどほどにしてね……」クス
……
194 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2016/05/22(日) 23:27:33.39 ID:2lA72EtY0
※今回ここまで。読んでくれてありがとうございます、また次回に……※
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/23(月) 01:13:07.44 ID:SHroONgsO
乙
次兄にも恥ずかしいという感情があるのだなぁ(失礼)
196 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/29(日) 02:20:23.62 ID:+u0xSqqH0
その日の夕方。
次兄「末妹よ」ヌッ
末妹「お兄ちゃん、起きてて大丈夫?」
次兄「寝て起きて家政婦さんの実家に伝わる秘伝の特濃ハーブティーを飲んでまた寝て起きたらスッキリですわ」
次兄「起き抜けに食事抜きで腹が減ったと言ったら、家政婦さんが昨日のマロンタルトの残りをくれた」
次兄「美味しくいただいたので、たぶん胃も回復です」
末妹「よかった……」ホッ
次兄「というわけで、今夜あたり父さんにあの話をしないか? 魔法の鏡を使ってお屋敷と」
末妹「……別の話はまだしなくていいの? 美術学校を受験したいって」
次兄「ん? 当初の予定通り、そっちはもう少し先で構わんでしょう」
次兄「俺達のお帰りなさいムードが完全に消え失せ、お前が学校に再び通い、完全な日常モードが戻ってからが良い頃合いかと」
末妹「……」
(商人「次兄は昨夜のことを覚えていないのか……それなら、すまんが末妹も黙っていてくれないか?」)
(商人「あの子なりに慎重に考えを巡らせながら機を窺っているはずだ」)
(商人「再び次兄からあの話題を切り出すまではね、お願いだから……」)
末妹「……うん、今日は魔法の鏡の話をしようね」
次兄「そうと決まれば、さっそく事前の打ち合わせをしようぞ!!」シュビシッ
末妹(そのポーズに何の意味があるの? とか聞かない方がいいのねきっと)
……
次姉「次兄、元気になったみたいね。さっき、末妹を連れて庭に出て行ったわ。明日こそは朝から働かせなきゃ」
長姉「しかしあの子達、いくつになっても仲がいいと言うか、いつまでも子供と言うか……」
長姉「あの分じゃ、末妹には次の恋なんてどれだけ先の話か」
次姉「姉さんこそ末妹の心配し過ぎ」
次姉「誰もが自分の速度で大人になって行くんだから」
197 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/29(日) 02:22:10.37 ID:+u0xSqqH0
次姉「私達は姉としてほどよく信頼してほどよく心配して……ゆったり見守りましょうよ」
長姉「……次兄のことも?」
次姉「次兄には次兄の世界での幸せがあるんだろうと最近は思うし」
次姉「あとこれはただの勘だけど」
次姉「あの子もなんだかんだ言って、自力で世の中にそれなりに居場所を見つけ出せるような気がする」
長姉「……私はよくわからないけど、最近」
長姉「誰よりひ弱だと思っていた次兄が、ある意味しぶといというか逞しいんじゃないか、とは思うようになったわ」
次姉「そ、だからあんがい大丈夫、あの子達は」
次姉「……それより兄さんの方が、少し心配になってきた……かな?」
長姉「どこが? 将来も安定して……お父さんが店を継いだ時と違って、今から取引先との顔繋ぎも順調ぽいし」
次姉「その安定感と、あれだけの見た目と町のおじさんおばさん連中からの評判の良さと……」
次姉「それでいてあんまりモテないのは逆に心配にならない?」
長姉「……あ」
次姉「私達が知らないだけで、今まで女の子と付き合った経験も皆無だとは思わないけど」
次姉「たぶん、長続きしないし彼女の方から振ってくるパターン……かと」
長姉「一時期、恋愛小説にはまっていただけあるわね、あんた」
長姉「しかし……確かに兄さんには、女心の勉強をもっとしてもらわないと駄目かも……」
……
商人の店。
長兄「……ぶぇっくしょん!?」
商人「おや長兄、風邪かい?」
長兄「……危なかった、帳簿を汚してしまう所だった」ズビー
商人「この季節だ、夕方になると冷え込んでくる」
商人「身体の丈夫なお前だが油断はいかん、上に何か羽織っておいで」
長兄「うん、そうする。部屋から取って来るよ」ガタ
198 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/29(日) 02:23:44.65 ID:+u0xSqqH0
……
家政婦「長兄様、ご休憩ですか?」
長兄「あ、家政婦さん。いや、ちょっと肌寒いからこの上着を取りに来ただけさ」
家政婦「あら、でもその上着ボタンが一つ取れかけていますわ」
長兄「ああ、これくらい平気ですよ、外出するわけでもなし」
家政婦「でもお店にはお客様がいらっしゃいますよ?」シュッ
長兄「家政婦さん、針と糸を持ち歩いているの?」
長兄(しかも今、ポケット以外の場所から取り出した? どうなっているんだこの人の服?)
家政婦「失礼致します、お召しになったままで構いませんわ」
長兄「っちょ、家政婦さん!?」
家政婦「動かないでくださいませ、すぐ済みますから……」
長兄(うわあ、近い近い!? 頭が俺の顔の真下に!?)
長兄(……この人の髪、次姉の黒褐色よりもっと黒々して)
長兄(いつも結い上げているからわかりにくいけど……まっすぐで、ツヤツヤなんだなあ)
長兄(あ、睫毛がけっこう長
糸を切る音:プツ
家政婦「終わりましたよ長兄様?」
長兄「 」ハッ
長兄「そ、そうですか、早かったですね、ありがとうございました……」ドキドキ
家政婦「突然で申し訳ありませんでした」
長兄「とんでもない、謝らないでくださいよ」ブンブン
199 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2016/05/29(日) 02:25:38.28 ID:+u0xSqqH0
長兄「……だいたい、家政婦さんには父が塞ぎ込んだり長姉が閉じこもったりした時期には」
長兄「何かと仕事以上、お給料以上の事をお願いしてしまって……それどころか」
長兄「俺が頼んだ以上に、あれこれ細やかに気を配って動いてくれた」
長兄「特に、長姉は家政婦さんが支えてくださらなかったら……どうなっていたかと……」
家政婦「さすがに買いかぶり過ぎですわ、長姉様を支えたのはご家族の皆様、そして幼馴染男様」
家政婦「……ですが、そう仰っていただけるのは正直……嬉しいですね」
長兄「……家政婦さんの所属する紹介所の契約は1年ごと、年が明けたらどうなるのか最終的には紹介所が決める」
長兄「しかし……ぜひ来年も、我が家との契約を続けてほしい」
長兄「父も弟や妹達も頼りにしているのです、もちろん俺、いや、私も」
家政婦「……」
家政婦「……光栄ですわ長兄様、家政婦として」ニコッ
長兄「あ」
家政婦「ですが今は、お店で商人様がお待ちではありませんか?」
長兄「っぅえ!? 忘れてた!?」
長兄「あ、改めてありがとうございました!! それじゃ!!」バタバタバタ
家政婦「……うふふ……」
家政婦「ばあや様、本当に素敵なご家族ですね、この家の皆様は……」
〜
長兄「……ああ、何やってんだ俺、だいたい俺は年下」
長兄「って、いやいや、そーゆー話じゃないし!?」
長兄「……本当に何やってんだろ、俺……」ハァ
商人(……何をブツブツ言ってるんだろう、あ、溜め息)
商人(この子は一人で抱え込むからなあ……)
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