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「『須賀京太郎』とは、あなたのそうぞう上の存在に過ぎないのではないでしょうか」
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98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/04(水) 12:33:50.01 ID:hlpsUJTTo
首を反らして、飾ってあるカピパラのぬいぐるみを見る。
───ねえ、まだやるの?
───もうちょっとなんだって。
───あ。
───おっしゃ! ほら、カピそっくりだろこれ!
───可愛いけどさー……買ったほうが安かったんじゃないのかなー。
───ばかやろー、自分の手で取るのが良いんじゃねーか。ほれ。
───? なに?
───ウチにはカピがいるからな。これは咲にやる。
───……なんの為に取ったのさ。
────でもまあ、ありがとう。京ちゃん。
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/04(水) 12:35:16.59 ID:hlpsUJTTo
そうだ。
彼が居ないなんてありえない。
だったら、ここにあるぬいぐるみはなんなのだろう。
あの時、少ないお小遣いをかけてとって私にくれたぬいぐるみは、たしかにそこにある。
確かに、そこにあるんだ。
目を閉じる。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/04(水) 12:35:52.02 ID:hlpsUJTTo
昨日は、確かに京ちゃんが居た。
そこには部長も染谷先輩も、和ちゃんも優希ちゃんも居て、皆で話しながら帰った。
京ちゃんは私の荷物を持っていて、駅に着いて、私を家に送った。
そして京ちゃんは───
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/04(水) 12:36:35.37 ID:hlpsUJTTo
バッと跳ね起きようとして、勢いが足りなくて後頭部をしたたかに打ちつけ、少し悶絶する。
そして、床に手を付きながら身を起こす。
そうだ、なんで思いつかなかったのだろう。
制服のママ、部屋を飛び出して、靴を履いて家を出る。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/04(水) 12:37:44.69 ID:hlpsUJTTo
先輩たちの会話で、まるで京ちゃんがいなくなったように錯覚していた。
そもそも、それもおかしな話だけれど、それでもこれは大きな勘違いだ。
駆けて、すぐそこにも関わらず息が上がりながら辿り着いたのは、ある一軒家の前。
外はもう夕方で、夕焼け色に辺りが染まっている。
朱色に染まったポストの上に掛けられた表札の名前は──須賀。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/04(水) 12:38:42.90 ID:hlpsUJTTo
最初から、悩むよりも先に、こうすればよかったのだ。
何が起きているのかは分からない。
でも、だからこそ話すべきだった。
話そう。
話して、一緒に考えてもらうんだ。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/04(水) 12:39:28.88 ID:hlpsUJTTo
インターホンを押す。
聞こえてきた声に、私は声を張り上げる。
「あの、京ちゃんいますか!」
京ちゃん──須賀京太郎、本人に。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/04(水) 12:44:21.36 ID:hlpsUJTTo
ここからが本編。
まさか導入だけで今までの最長になるとは……
本編はさくさく行きたい
ではまた後日
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/04(水) 12:47:14.29 ID:hlpsUJTTo
ちなみにモブってかぶっちゃけ須賀夫妻はオリジナルです。
それ以外にも普通に二次SSですのでオリジナル設定だらけ&オカルトだらけなのでどうぞよろしく。
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/11/04(水) 12:50:48.74 ID:hlpsUJTTo
いや、導入は最初に終わってる部分だ……寝ぼけてるわ
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/04(水) 12:51:35.19 ID:Obg1fPDSO
おおう心拍数上がってきたとこで…
乙です
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/04(水) 12:54:49.32 ID:rCZWIuxwo
乙です
続ききになる
110 :
sage
:2015/11/04(水) 14:18:33.39 ID:wEnBd2yk0
乙ですー
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/04(水) 14:30:39.28 ID:F+GhERqzO
乙です
>>88
で1年の一行目が空白なのは何かあるからなのか…
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/04(水) 16:39:20.61 ID:osDFVctyo
>>88
空白部分きっちり須賀京太郎って文字数分開いてんのな
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/04(水) 18:09:01.48 ID:FqaKTlAQo
マジかよ、細けぇな
スゲェ
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2015/11/04(水) 18:59:38.65 ID:zeMaPSuS0
ビミョウに関係ないけど、第一話で咲を嫁さんとからかってた
モブこと嫁田の本名は高久田誠らしいな
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/04(水) 21:28:36.42 ID:y1ngOgzk0
敦賀にしろ、風越にしろ、長野の外にしろ清澄に居る場合より麻雀の腕が上がっていそうなのがなんとも。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/04(水) 21:45:08.68 ID:FqaKTlAQo
>>115
いきなりどうした?そんで敦賀が既に長野県外な件
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/04(水) 22:49:33.32 ID:GvnBDzGyo
これは生まれてないパターン
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/06(金) 21:27:55.24 ID:xW1QBM6QO
>>114
リッツちょっと細かすぎませんかねぇ…?
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/07(土) 00:29:11.71 ID:WuPVEzRE0
こんな連載終了まで使わないような設定考えてるせいで
連載が滞ってるという
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/07(土) 21:51:50.27 ID:Ffb+sTZEo
嫁田嫁田うるせぇよ。咲ちゃんを京太郎の嫁なんかにする気はねぇと
リッツが無言で抗議するために設定した可能性が微レ存…?
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/07(土) 22:19:29.43 ID:wKtTuIMco
なぜそんな解釈になるのか考えが異次元過ぎてさっぱり理解ができない
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/10(火) 22:58:04.93 ID:wKTIAR4F0
異次元とかそんなんじゃなくて、ただのバカなんだろ
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/15(日) 23:27:20.90 ID:i7N1NEDKo
ある程度まとまってから投下と書いた分を投下できる時に投下はどっちが良いんだろう
速度的にはあまり変わらないと思われ
誤差レベルで前者のほうがミス減少、後者のほうが進行速度上昇効果かな
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/16(月) 00:04:29.83 ID:T57G5xn9o
話破綻するようなミス起きないなら後者じゃね
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/20(金) 00:13:56.49 ID:8dmqsYp4O
まだかな
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/29(日) 23:58:10.01 ID:ZFRLUvawo
「あら、咲ちゃん?」
インターホンから発されるのは、聞き慣れた優しげな女性の声。
しかしそのゆったりとした応答が今はもどかしい。
「あのっ」
「今丁度暇してたのよ、どうぞ上がっていって」
私の声を聴く前に、パタパタと足音が聞こえてくる。
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:00:19.24 ID:6LOow//vo
ああ、もう。
こういう人なのだ。
インターホンも切らずに遠ざかる足音を聞きながら、諦めてドアが開くのを待つ。
ガチャリと、ドアが開く。
その向こうから顔を出したのは、若く綺麗な女性。
「いらっしゃい。なんだか久しぶりね、高校生になってからあまりウチに来ることが無かったから」
綺麗なセミロングの金髪と肩に掛けたカーディガンを揺らして、微笑む。
「インターハイに行く前に会ってるじゃないですか」
「あの時は挨拶だけだったもの」
彼女は、京ちゃんのお母さん──須賀京香さん。
小さい頃から私やお姉ちゃんのことを知る、近所のお姉さんだ。
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:01:55.26 ID:6LOow//vo
「ちょうど今朝にマカロンを焼いたの、ココナツの。今も好きかしら」
ココナツのマカロンは昔から好きだ。
京香さんの作る、間にクリームを挟んだ方も美味しいのだけど、私はあのカリッとした方が好きだった。
でも、来たのはそのためじゃない。
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:03:50.25 ID:6LOow//vo
「あの、京ちゃん居ますか?」
そう、わたしはその為に来たんだ。
京ちゃんに、今起きていることを話さなければいけない。
なんで今日来なかったのか、今の状況を知っているのか。
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:04:49.32 ID:6LOow//vo
先生が、クラスメイトが。
部長が、染谷先輩が、優希ちゃんが、和ちゃんが。
誰も、京ちゃんのことを覚えていないということを。
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:06:06.51 ID:6LOow//vo
もしかして。
京ちゃんが、私のことを知らなかったらどうしよう。
京ちゃんまでが、私を一人異端者にするかもしれない。
須賀京太郎を、皆が知らないように。
皆を、私を須賀京太郎が知らなかったら。
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:07:10.97 ID:6LOow//vo
そうだったら。そうだとしても。
不安だったけれど、京ちゃんに会って確かめないといけない。
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:10:19.73 ID:6LOow//vo
───
───……。
……………… 私は、そんな。
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:13:50.07 ID:6LOow//vo
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そんな、他愛のないことを考えた。
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:15:05.52 ID:6LOow//vo
考えて、考えて、考えなければ。
私は、考えていなければ。
考えていなければ、考えてしまうから。
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:18:23.91 ID:6LOow//vo
・ ・ ・ ・ ・ ・
考えてしまう。
だって、見えてしまったから。
京ちゃんと言ったときの。
京ちゃんと、私が言った時の。
京香さんの顔が。
まるで。
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:20:52.77 ID:6LOow//vo
「京ちゃん?」
まるで───
「どなたかしら。私のことではないのよね、私も昔は京ちゃんと呼ばれていたけど」
私は───
「……っぁ、はぁ、ぁ」
頭の中が、冷たくなる感覚。
同時に熱が頭の後ろの方に集まる。
息が吐き出せなくなった。
呼吸ってどうやるんだっけ。
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:21:47.47 ID:6LOow//vo
「咲ちゃん?」
私は、目を押しつぶすように手のひらを押し付ける。
その場に座り込んで、ただただ。
嗚咽を閉じ込めることしか出来なかった。
139 :
流石に眠すぎる……予定途中だけど寝ます
[saga]:2015/11/30(月) 00:27:15.44 ID:6LOow//vo
───本当は、そうなのではないかと予感はあった。
───その予感を、直視したくなかった。
───京ちゃんの居ない世界なのではないか。
───だから、そのことを考えないようにして、希望だけを残してここに来た。
───希望だけを。
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/30(月) 01:21:22.37 ID:IooNf0zpo
乙です
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/30(月) 07:32:00.87 ID:r3bvyRXSO
ハッピーエンドでありますように
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/30(月) 10:31:01.23 ID:jy8ulPza0
乙
楽しみにしてるので頑張ってください
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/30(月) 10:37:21.64 ID:ACQFTXZBo
おつおつ
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/30(月) 12:19:41.03 ID:b6hGT/D7o
乙です
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/30(月) 12:44:44.96 ID:ktOebnOHo
乙
続きが楽しみだ
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/30(月) 12:50:15.39 ID:KSnk9VpPo
なんか佐為を思い出すな
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/01(火) 01:34:56.54 ID:DgMnGDoE0
俺はハルヒの消失思い浮かんだけど
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/01(火) 03:25:45.80 ID:fNssn7kXo
俺も消失のが近い感じ
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/01(火) 14:15:08.29 ID:pVloPvwOo
乙
洋榎スレ思い出したが
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/01(火) 16:53:53.48 ID:nsK0+nooo
虹の見方?
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/01(火) 17:38:10.41 ID:pVloPvwOo
うn
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 14:23:19.24 ID:LB6iXSW9o
「落ち着いた?」
突然泣き出した私を支え、京香さんは時折バランスを崩しながらもリビングへと導いた。
京香さんは体が丈夫ではなく、私よりも力がない。
それでも、気遣いの一つ一つが丁寧で、献身的だった。
目の前のテーブルに置かれた、ホットミルクを眺める。
ミルクパンでゆったりと暖められたそれは、僅かなはちみつの香りを漂わせている。
「……うん、ありがとうございます」
まぶたは、まだ熱い。
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 14:24:33.69 ID:LB6iXSW9o
京香さんが、私をじっと見る。
そしてどこかのんびりと、自分のカップに入れたホットミルクに口をつける。
そうしたしぐさは、自分のためというよりも、私を安心させるためのもののように思えた。
ほう、と暖かなため息をついて、言う。
「きっかけは、きっと、私の反応なのでしょうね」
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 14:26:54.42 ID:LB6iXSW9o
呟くような、穏やかな声。
京香さんは、人の反応に鋭い。
「……聞かせてもらっても良いかしら、『きょうちゃん』のこと」
大丈夫、落ち着いている。
「覚えて、いないんですね」
「覚えて?」
「京ちゃんは──須賀京太郎は。子供です」
「京香さんと、龍太郎さんの」
155 :
用事が……誰か代行(ry 夜再開できるかな
[saga]:2015/12/06(日) 14:29:40.44 ID:LB6iXSW9o
その言葉を聞いて、京香さんは目をゆっくりと見開く。
そして僅かに顔を伏せ、表情は困惑、そして悲しみへと変わりゆく。
口を開こうとして躊躇い、息を静かに吐いた。
その呼気には、少なくない痛みを感じた。
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 15:07:03.75 ID:hiDtDoLro
とりあえず乙
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 15:18:47.72 ID:eOX0ivIpo
乙?
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 15:22:38.05 ID:awiyo9ESO
ゴクリ
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 17:34:24.53 ID:FR9n5Ym3o
京ちゃん自体はいたのかな?
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 18:01:02.58 ID:2Naznvg1o
永遠送りだと帰ってくるのに1年かかりますね。
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:23:35.36 ID:LB6iXSW9o
てちてち、と床が鳴る。
見ると、京香さんの足元に毛むくじゃらなかたまりがふんふんと鼻を寄せていた。
カピバラのカピだ。
京香さんはカピを撫でて、表情を和らげた。
カピは京香さんの足の間へと潜り込み、身を落ち着ける。
京香さんが、静かな表情で私を見た。
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:24:25.63 ID:LB6iXSW9o
「咲ちゃんも、知っているでしょう?」
彼女は言う。
「私は、子供を産めないの」
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:25:25.59 ID:LB6iXSW9o
「体が出産に耐えられない。そして、この体の弱さは遺伝する可能性が高いと言われている」
「生まないではなく、産めない」
「……、咲ちゃんも、知ってるでしょう?」
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:29:13.55 ID:LB6iXSW9o
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:30:10.85 ID:LB6iXSW9o
「───」
私は11桁の番号を言う。
京香さんは一瞬虚を衝かれた顔をするが、すぐにそれが何か気づいたらしい。
少しだけ逡巡した後、どうぞ、というように私の後ろを手のひらで示す。
その指先は迷いを示すように僅かに曲がっている。
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:30:54.36 ID:LB6iXSW9o
私はソファーから立ち上がって、一瞬ふらついて、駆け出す。
壁際に置いてある電話に手を延ばし、受話器を持ち上げる。
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:32:17.08 ID:LB6iXSW9o
私は携帯電話を持っていない。
でも、だからこそ、よく掛ける電話番号は覚えている。
自分の家、お父さんの携帯電話、和ちゃんの携帯電話、優希ちゃんの携帯電話。
そして、
───番号を押す。
京ちゃんの携帯電話の番号だって。
間違えるはずがない。指先が覚えている。
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:33:26.99 ID:LB6iXSW9o
───♪〜
ガタガタガタ、という音と、アップテンポなメロディーが聞こえた。
すぐ、真横から。
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:34:26.36 ID:LB6iXSW9o
電話機の横に、影に隠れるようにして、見覚えのある携帯電話が震えている。
「……咲ちゃんが言った電話番号は、その携帯電話の番号」
京香さんの声は、遠くてそれほど大きな声ではないのに、よく聞こえた。
「使ってない携帯電話だから、なんで咲ちゃんが番号を知ってるのか分からないけれど──」
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:35:32.75 ID:LB6iXSW9o
「──居ないのよ。少なくとも、ここには。咲ちゃんの探す、『きょうちゃん』という人は」
大丈夫。
大丈夫。
私は落ち着いている。
大丈夫、私は落ち着いている。
京香さんが悪いのではない。
この世界からすると、私がおかしいのだから。
だから──
───お願い、落ち着いて。
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:37:26.23 ID:LB6iXSW9o
「──あの、フラワーアレンジメント」
「?」
「焼き物で出来た掛け時計、太陽発電のラジオ、手彫りの写真立て」
「──その、肩に掛けているカーディガンも」
「全部……全部っ」
───ああ、駄目だ。もう無理だよ。
───聞きたく無かった。
───京香さんの、京ちゃんを他人のように呼ぶ声なんて。
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:38:53.52 ID:LB6iXSW9o
「京ちゃんが……京ちゃんのなのに」
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:39:53.84 ID:LB6iXSW9o
───フラワーアレンジメントは、母の日のプレゼントだと一緒に作った。
───焼き物の時計は自然公園の手作りコーナーで。
───ソーラーラジオは、中学校の選択授業で上手く作れたのだと自慢気だった。
───手彫りの写真立ては、結婚記念日のプレゼント。
───カーディガンは、誕生日プレゼントで一緒に探した。
174 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:40:21.91 ID:LB6iXSW9o
「なんで、忘れてるんですか?」
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:41:09.33 ID:LB6iXSW9o
電話を置く。
写真立てにふらふらと近づく。
「なんで、覚えていないんですか?」
手彫りの写真立てには、今よりも若い京香さんと龍太郎さんが手を組んではにかんでいる。
その写真立ての隣の、シックな木目調の、もう一つの写真立てを手に取る。
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:42:49.23 ID:LB6iXSW9o
「なんで───」
「───なんで、この写真には、京ちゃんが写ってないの?」
177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:44:02.43 ID:LB6iXSW9o
そこには、どこか自然にあふれた緑色の風景と、綺麗な湖。
そして、今とほとんど変わらない京香さんと龍太郎さんの二人だけが、やさしい笑みをたたえている。
───去年の夏の家族旅行、3人で撮ってもらったはずの、家族写真の中で。
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:45:38.09 ID:LB6iXSW9o
ばたり、と扉の閉まる音で、意識が戻る。
あれ、いつの間に自分の部屋に戻ってきたのだろう。
何か忘れ物をしているような気がするけれど、思いつかない。思い出せない。
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:46:54.41 ID:LB6iXSW9o
ふらりと、本棚へと近づく。
アルバムを探して、手に取る。
その重みは、お腹の方に響いた。
そして、座りもせずにページを捲る。
焦燥感で、手が震える。
──体の奥のほうが冷たい。
手が止まる。
カリカリと、爪先が紙をひっかく。
最後のページ。
閉じる。
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:48:30.80 ID:LB6iXSW9o
中学時代の写真は多くない。
その多くないほとんどに、一緒に写っていたはずなのに。
居なかった。
何処にも。
写真にすら。
京ちゃんの姿が。
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:49:16.57 ID:LB6iXSW9o
アルバムを抱えて丸くなる。
ぎゅうと抱きしめていると、わずかに落ち着く気がした。
抱きしめる。
ぎゅうと、抱きしめる。
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:50:22.82 ID:LB6iXSW9o
遠くで名前を呼ばれている気がして、目を開いた。
気がつけば電気をつけていない部屋は真っ暗で、今は何時なのだろう、とぼんやり思う。
咲、電話だぞー。
お父さんの声だ。
ふらふらと、立ち上がる。
ゴトリと音を立ててアルバムが床に落ちた。
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:52:10.45 ID:LB6iXSW9o
電話のそばに行くと、お父さんが受話器を揺らしていた。
私を見て笑う。
「なんだ、寝てたのか? 凄いことになってんぞ」
あまり長くなるなよ?
渡された受話器を耳に当てる。
電子音が聞いたことのあるメロディーを奏でている。
フックを押して、保留を解除する。
聞こえてきたのは部長の声だった。
明日来れる?
断ろうとして、でも口からでた答えは違った。
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:53:10.28 ID:LB6iXSW9o
ベッドへと這い登る。
手を伸ばして、引っ張りだしたものに腕を回しながら、横になる。
カピバラのぬいぐるみを抱きしめて、目を閉じる。
明日には、何かが変わってるかもしれない。
そんな淡い期待に、全思考を預けながら。
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/06(日) 20:54:27.06 ID:LB6iXSW9o
高校100年生の私に期待するのは当然!
という声を聞きながらまた後日。
今日中にもう一度更新したいけど難しいかなー
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 20:58:24.17 ID:EYW6OvbDo
乙です
続き期待
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 21:03:02.24 ID:C9M8P3uy0
乙
咲から京太郎の話を聞いてドン引きする麻雀部一同、そこまで私は鬼畜じゃないと引き気味に答える部長と部長ならやりかねないと茶化すワカメまで浮かんだ。
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 21:51:33.54 ID:awiyo9ESO
乙
接点薄いはずなのになぜ懇意なのかという疑問を須賀さんが抱いてくれたなら
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 21:59:49.92 ID:vZHvsAwKO
京太郎がいなければ起こりえなかった事象や、京太郎と咲しか知らない何かがヒントかな。
>>1
はやる夫スレとか見てた?
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 21:59:59.17 ID:2loKAQzLo
乙
続きを期待せざるを得ない
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/06(日) 22:09:51.74 ID:ZPAxlv5S0
>>164
のなにか書いてありそうなスペースが気になる……
犯人は神d
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/07(月) 02:03:20.23 ID:ao/mAR2T0
書いてありそうなと言うか実際に何かある
ドラッグしても文字数だけじゃさっぱりだが
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/07(月) 12:52:59.90 ID:qcjmC+KNo
乙です
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/08(火) 00:34:21.72 ID:pd900vKz0
京ちゃんいなきゃ咲はどうして麻雀部に入ったのか
鍵はここにある気が
195 :
ちょっと書きながら投下してみる
[saga]:2015/12/25(金) 23:59:28.08 ID:EgRF+ZNRo
「まあ、なんの為に集まってもらったのかは、あえて説明する必要もないでしょう」
部長が言う。
背の高いカウンターチェアに斜めに腰掛けて、足を組んだ格好は部長によく似合っていた。
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/26(土) 00:03:59.83 ID:j1NV0rNZo
私達が今いるのは、部室ではない。
麻雀喫茶『roof-top』。
染谷先輩の実家で、何故か出前のカツ丼が評判の雀荘だ。
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/12/26(土) 00:09:55.41 ID:j1NV0rNZo
部長はカウンター席に腰掛けて、優希ちゃんと和ちゃんは私と同じテーブルの席に座っている。染谷先輩は立ったまままだ。
今は開店前で、他にお客さんの姿はない。
「……」
私はただぼんやりと、机の上に置かれたお冷のグラスを見つめている。
これから始まるだろう議論に、弁論を用意する気力もなかった。
まるで魔女裁判のようになるだろう。
物語の中でしか知らない悲劇の描写を引き合いに出してみる。
それでも、悲壮感の欠片すら感じない。
只々、胸の内に空白を感じるだけだ。
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