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提督「劇をしたい」龍驤「あのさぁ、さっきからなんなの」
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95 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/21(日) 20:25:39.46 ID:60EahTQj0
暁「……え? 長門さんってそんなに強いの? 全く勝てる要素がないんだけど」
北上「逆に長門型戦艦をなんだと思ってたの? まぁいいんだけどさ〜」
響「それで、今回の演習に勝てる確率はどれくらいなのかな?」
北上「そうね〜、7割くらいじゃない?」
暁「そんなに高いの!? なんだ北上さん、驚かせないでよね!」
北上「戦闘での頭数は重要だからそうなるね〜。今回の演習だと長門さんに装備縛りがあるしね」
電「よかったよかった。これで安心して闘えるわ!」
96 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/21(日) 20:26:48.93 ID:60EahTQj0
北上「どうしてそんなに余裕なの?」
電「だって7割で勝てるんでしょ? 絶望的な差はないってことよね!」
北上「1人は轟沈確定だよ?」
暁「なんでそうなるの?」
北上「あくまでも出撃じゃなくて演習での勝利の話だからね〜。長門さんは正確に、確実に旗艦を狙ってくるよ」
北上「たとえ12.7cm連装高角砲でも、あの人は戦艦だからね。基本の火力が違うわけよ」
北上「それで確実に旗艦は轟沈、まぁ演習だから轟沈判定だね。その上で、生き延びた3盃で雷撃を打ち込んで長門さんを轟沈に追い込む」
北上「これでようやく戦術的勝利になるかな〜」
97 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/21(日) 20:47:45.20 ID:60EahTQj0
響「負ける3割は何なのかな」
北上「雷撃を打ち込んでも回避されるか、耐えきられるかだね〜。3盃生き延びて撃ちこめば、まぁ大丈夫、大丈夫」
「「……」」
響「北上さん、今から訓練をお願いします」
明確な記憶があった。姉妹から置いてけぼりを喰らう自分の姿だった。
生き延びたことへの感謝はあったが、それ以上に何もできなかったという惨めさが勝っていた。
北上「せっかくの休日なんだし、やだよ〜」
暁「お願いします!」
混濁した記憶があった。姉妹を置いてけぼりにして独りで沈む自分の姿だった。
目的は果たした、ような気もするし無駄死だったような気もする。
願わくば、次は姉妹で闘い抜き、そして勝利したかった。
北上「嫌だって、駆逐艦。あぁ、うざい」
雷「お願いします!!」
生まれ変わる前からずっと思っていた。
敵も味方も全部助け出したい。
それを実現するためには、必ず力が要る。
北上「……」
電「電からもおねがいするのです」
北上「……まぁ、なんて言うの?」
北上「ギッタギッタにしてあげましょうかね!」
――――――
―――
―
98 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/21(日) 20:53:08.67 ID:60EahTQj0
>>76
戦中戦後の物資不足でもお酒が飲みたかったということなんでしょうね。
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/21(日) 20:56:48.48 ID:x/C/858ao
ロシアでは整備兵がエンジン用のアルコール飲んでたみたいだな 今は違うかもしれんが
100 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/21(日) 21:54:09.37 ID:60EahTQj0
>>99
脱脂用、清掃用アルコールでしょうか。どこの国でも同じなんですね。
>>96
差し替え
北上「どうしてそんなに余裕なの?」
電「だって7割で勝てるんでしょ? 絶望的な差はないってことよね!」
北上「1人は轟沈確定だよ?」
暁「なんでそうなるの?」
北上「あくまでも出撃じゃなくて演習での勝利の話だからね〜。長門さんは正確に、確実に旗艦を狙ってくるよ」
北上「たとえ12.7cm連装高角砲でも、あの人は戦艦だからね。基本の火力が違うわけよ」
北上「それで確実に旗艦は轟沈、まぁ演習だから轟沈判定だね」
北上「開幕した瞬間に長門さんの戦術的勝利条件が確定するの」
北上「その上で、生き延びた3盃で雷撃を打ち込んで長門さんを轟沈に追い込む」
北上「ここまでしてようやく第六駆逐隊の勝利ってわけ」
101 :
◆zqJl2dhSHw
[saga]:2015/06/29(月) 00:51:50.00 ID:tx8CqYLJ0
――訓練場――
北上「準備出来た?」
北上「まずは回避訓練からだよ。 ちゃんと避けなよ〜?」
暁「お願いします!」
12.7cm連装高角砲が唸りを上げ、暁を襲った。
北上は射撃宣言をしてから、砲撃を繰り出した。
着弾位置とタイミングを測るための情報は十分だった。
足りないものがあるならば、それは暁の練度だろう。
暁「きゃあっ!」
北上「避けなって言ったじゃん」
暁「へっちゃらだし!」
北上「はい、もう一発」
暁「きゃあっ!!」
暁:大破
北上「少しでも動かないと絶対に当たるからね」
北上「はい、次〜」
響「よろしくお願いします」
北上「ほいっ!」
響「くっ……」
響「不死鳥の名は伊達じゃない」
響:小破
北上「いや、耐えるんじゃなくて避けるの。同じ連装高角砲使っているけど、長門さん相手だったら今ので決着だよ〜」
響「もう一度おねがいします」
北上「ほいっ!」
響「くっ、さすがにこれは、恥ずかしいな……」
響:中破
北上「うんうん、少しは動けていたかな」
102 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/29(月) 00:54:22.33 ID:tx8CqYLJ0
北上「次〜」
雷「はーい! 北上さん。行っきますよー!」
雷「えいっ!」
3人目にして、とうとう回避に成功した。
これは姉ふたりの挙動をよくよく観察した結果だった。
北上が指摘したように、少し動けば急所を外すことができ、大きく動けば回避も可能だった。
北上「まぁまぁか」
雷「そんな攻撃、当たんないわよ?」
北上「連装砲は侘び寂びがないから、あんまりね〜。ほい、ほい、ほいっ!」
雷「ムリムリムリ!」
勘違いに気がついた時と着弾は同じだった。
撃つタイミングと方向を宣言してもらい、射撃は単装砲のように一発のみ。
避けることに成功したが、それが北上の砲撃を回避できることとイコールにはならなかった。
雷「いったぁ〜い!」
雷:大破
北上「ちゃんと避けなよ〜」
雷「なによ、もう! 雷は大丈夫なんだから!」
北上「元気なのはいいことだ」
北上「よ〜し、次行くよ〜」
電「お願いするのです!」
北上「てぇええぇ!!」
電「甘いのです!」
北上「まぁ……主砲は……まぁ……そうねぇ……」
射撃回避訓練一周目終了。
第六駆逐隊は全体的にぼろぼろだった。
北上「はい、高速修復剤はいっぱい用意してあるからじゃんじゃん使っちゃおう」
103 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/29(月) 00:59:26.46 ID:tx8CqYLJ0
三十六週目
北上「駆逐艦、ちゃんと避けなよ〜。もっと回避行動の初動を早くしないと当たっちゃうよ」
雷「こんなの避けられないわ!」
北上「じゃあ休んでていいよ。そっちの方が私も楽だし」
雷「……ごめんなさい、もう一度お願いします!」
北上「うんうん」
北上「はい、3人とも高速修復剤をかぶって」
北上「まとめて行くよ〜」
北上「なんとか避けられるようになって来たね〜。それじゃあ、演習形式で行ってみようか」
「「はいっ!」」
演習開始!
――開幕雷撃――
北上は甲標的を繰り出した。
響「なっ!」
雷「嘘でしょ!」
北上「おっ? ちゃんと避けたね〜。えらいぞ、駆逐艦」
――砲撃戦――
暁「攻撃するからね」
響「さて、やりますか」
雷「ってー!」
電「なのです!」
北上「まぁまぁかな」
被弾することなく、回避しきった。
回避したが、北上も射撃を命中させられなかった。
北上「う〜ん。まぁ私はやっぱ、基本雷撃よね〜」
――雷撃戦――
北上「20射線の酸素魚雷、2回いきますよー」
暁「えっ!?」
北上「40門の魚雷は伊達じゃないから!」
まるで両舷から同時に発射したように見えた。
それほどに華麗な切り返しだった。
電「これはさすがに無理なのです!」
第六駆逐隊:大破
104 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/29(月) 01:00:21.91 ID:tx8CqYLJ0
北上「……」
北上「あれ? 駆逐艦、攻撃当ててないじゃん。ちゃんと当てないと」
暁「当てられるわけないじゃない! 北上さん、強すぎるんだから!」
響「……避けるだけで精一杯だ」
北上「あ〜もう。ほら、持ってきた修復剤。あと4つ残っているから使って」
電「まだ何かしますか? 回避は見違えるほどよくなったのです」
北上「避けれてもちゃんと当てなきゃ勝てないからね〜。ほら、次は射撃訓練だよ」
暁「的を用意しなくちゃ」
北上「そんなのいらないって」
雷「えぇ? 海に向かって撃つんですか?」
北上「違う違う、そんなことしても仕方ないよ」
105 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/29(月) 01:01:46.16 ID:tx8CqYLJ0
北上「私を狙って撃つんだよ?」
106 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/29(月) 01:03:02.26 ID:tx8CqYLJ0
雷「無理です! そんなことできるわけないわ」
暁「そうよね、一人前のレディーはそんな事しないわ」
響「……それは違うよ、暁。本当に出撃したら、的なんてないんだよ」
響「そこにあるのは、私たち『艦娘』と『深海棲艦』だけだ」
暁「で、でも! イ級にちゃんと当てたことはあるわ!」
暁「……機銃だけど」
暁「……」
北上「どうするの、駆逐艦? やらないならこれで終わりにするよ〜?」
電「北上さん、本当に大丈夫なのですか?」
北上「なに、電? 私に不満があるっていうの?」
電「そんなものはないのです」
北上「じゃあ、さっさと準備しなよ〜」
北上「「『当てられるはず』と『当てたことがある』は全然違うからね」
北上「あと駆逐艦のくせに遠慮なんかしなくていいってば」
雷「北上さん、よろしくお願いします!」
――雷撃――
4人それぞれが四連装酸素魚雷を斉射した。
それは、微動だりしない北上に吸い込まれるように進んでいった。
暁「当たった!」
響「北上さんは!?」
雷「うそ!? あれを真正面から受けて、小破だなんて」
北上「まぁ、仕方ないでしょ」
北上「私はハイパー北上さま、装甲は神なのよ」
響「ほら、やっぱり! 北上さんは雷巡だからね、酸素魚雷のことを知り尽くしているんだよ」
電「響、すごく嬉しそうね」
暁「これが、一人前のレディーなのね……」
響「北上さん、ありがとう!」
北上「後はしっかり補給して休んでお終い」
北上「あぁ、疲れた〜」
雷「北上さんも一緒に間宮さんのところに行きませんか? まだ券があるんですよ!」
北上「行かないよ〜。機関部冷却にしばらく巡航するからね」
響「なるほど。雷、私達もそうすべきじゃないかな」
北上「駆逐艦は大丈夫。ほら、さっさと行った行った」
「「本当にありがとうございました!」」
――――――
―――
―
107 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/29(月) 01:07:27.55 ID:tx8CqYLJ0
電「北上さん、ありがとうございました。演習までしていただけるなんて」
北上「まぁ、私って極めて高練度な艦娘じゃん? あの子たちにとっては十分な経験になったでしょ」
電「もちろんなのです! けど、装甲が……」
北上「いいから、いいから。アンタもさっさと行きなよ」
電「……本当にありがとうございました」
北上「昔、誰かさんも私の練度上げに付き合ってくれたからねぇ」
――――――
―――
―
108 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/29(月) 01:09:07.52 ID:tx8CqYLJ0
北上「ふぅ、きっついな〜」
北上「装甲は紙なんだよ、本当に」
「北上さ〜ん♪」
北上「大井っち!?」
阿武隈「ごっつーん!」
北上「……」
阿武隈「……」
北上「……阿武隈じゃん」
北上「なんで頭突きすんのさ」
阿武隈「そろそろ水雷戦隊旗艦の序列を決めておきたくて。たった今、神装甲の北上さんを一撃で『大破』させたあたしの方が上でいいよね!」
北上「相手が違うでしょ。川内と競いなよ」
阿武隈「夜戦バカには負けないから!」
北上「何でもいいよ、もう。えいっ」
阿武隈「あぁ! 前髪が!」
北上「いや〜、それをくしゃくしゃにするのは楽しいね」
阿武隈「やめてよぉ〜! セットし直したばかりなのにぃ〜!」
阿武隈「またセットしなくちゃ。北上さん、お風呂行きましょう」
北上「あー」
北上「……ありがとね」
阿武隈「それから、駆逐艦と仲良くなる方法を教えてください!」
北上「えぇ、あんなのうざいだけだよ」
阿武隈「嘘! あんなに楽しそうにしてたじゃない」
北上「そうかな?」
阿武隈「そうよ」
阿武隈「なんで第六駆逐隊の子は第一水雷戦隊旗艦のあたしを頼ってくれないの?」
北上「そんなの知らないって」
北上「けど、まぁ、阿武隈は練度を上げないとね。まずは川内に勝てるようになってからでしょ」
阿武隈「だから! 夜戦バカには負けないから」
北上「わかった、わかった。ほら、お風呂行くんでしょ。えいっ」
阿武隈「ふわぁぁ〜っ! あんまり触らないでくださいよ!」
北上「いや〜、ほんとおもしろいわ」
阿武隈「もうっ! 肩貸してしてあげますから早く行きましょう」
北上「はいはい」
阿武隈「あと、どうやったら第六駆逐隊の子たちは私に頼ってくれますか?」
北上「だから、知らないって……」
―――――――
―――
―
109 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/06/29(月) 01:16:07.16 ID:tx8CqYLJ0
>>91
訂正
「木曽」→「木曾」
先週は北上さまドロップが大量でした。
早く加賀の話まで進めないと、いつまでたっても加賀を手に入れることはできなさそうです。
そもそも、話を書いたら手に入るわけではないですが。
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/07/02(木) 04:08:55.45 ID:EtRGR1weO
厨房が書いてるのこれ?
厨房じゃなければほぼ間違いなく統合失調症だと思うから病院いった方がいいよ
111 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/08/01(土) 22:54:54.45 ID:mJ7tnaRJ0
――船渠――
北上「あれ? 先客がいるんだね」
阿武隈「何言ってるんですか、もう夜だから当たり前ですよ。お休みなのにどれだけ訓練してたの?」
北上「いや〜、まぁねぇ」
北上「こんばんは〜っと」
阿武隈「龍驤さんと隼鷹さんだ」
龍驤「お〜、こんばんは。って北上、どうしたんや!? 敵襲か!?」
北上「ちょっと駆逐と訓練してたんだ〜。龍驤さん、今日頑張っちゃったから、かわりに有給休暇もらえないかな?」
龍驤「それはええけど。駆逐艦相手にそこまでなるってさすがにおかしいやろ。どんな訓練してたん?」
阿武隈「この人無茶苦茶なんですよ。単艦で第六駆逐隊の子たち相手に演習形式をして、全弾回避した上で雷撃を叩き込んじゃうし」
阿武隈「何を考えてるのか、その後の雷撃訓練で北上さんが標的役になっちゃうし」
北上「思わず工作艦になっちゃうかと思ったよ」
龍驤「冗談やってわかってるけど、滅多なことは言わんといてな」
北上「ごめんごめん」
龍驤「けど、北上が稽古つけるとはなぁ。なんかあったん?」
北上「訓練つけろ、訓練つけろ! って、しつこかったからね。面倒だから黙らせただけだよ」
いつもの飄々とした雰囲気はなく、ただ柔らかな口調でそうつぶやいた。
隼鷹「なぁ、北上さん。いっこ聞いていい?」
北上「いいよー」
隼鷹「駆逐艦の子たちとの訓練楽しかった?」
北上「そうねー。まぁ……」
北上「楽しかったかな」
いつもの彼女からは決して出ない言葉だった。
訓練も任務も、面倒がってはいるがいつもそつなくこなしていた。
練度も非常に高く、単艦で長門に打ち勝てる数少ない艦娘の1人だった。
水雷戦隊の旗艦こそ離れていたが、今なお、駆逐と軽巡から尊敬を集めている。
それでも、楽しげな表情を見せたことはなかった。
龍驤「なぁ、北上。提督に具申しとこか? 建造に力を入れれば球磨型の姉妹艦も着任できると思うよ」
北上「電とおんなじ事を言うねー。そりゃ会いたい気持ちもあるけどさ、考えてみてよ」
北上「この北上さまとほぼ同格の大井っちが来るだけで大問題だよ。ただでさえ、この鎮守府は監視対象なのに」
龍驤「……軍縮か。たしかに、着任した瞬間に発令されそうや」
北上「でしょ? そうなるのは本当にやだからね」
龍驤「そうやな」
112 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/08/09(日) 22:37:33.23 ID:/mWOSGia0
阿武隈「あのー、ちょっといいですか?」
龍驤「どうしたん?」
阿武隈「あたし達って深海棲艦に対抗できる唯一の手段ですよね」
龍驤「そうやで〜、まだ人類の兵器では勝てやんのや」
阿武隈「だったらなんで戦力を削減するんですか? むしろ今も戦力不足が続いているような気がするんです」
隼鷹「あー、阿武隈さん? それはね……」
阿武隈「皆で力を合わせた方が絶対にいいですよね! 連邦や帝国と共同戦線を張ったりすればもっと早く確実に海の平和が取り戻せると思うんです!」
北上「……阿武隈」
阿武隈「ひぇ? あたし、何か変な事言いましたか〜?」
北上「アンタいい子だねぇ」
前髪を崩すのではなく、頭を撫でながらつぶやいた。
他のふたりも首肯する。
龍驤「川内やなくて阿武隈が一水戦旗艦になった理由がわかった気がするわ」
阿武隈「あれ? なんであたし褒められてるんですか?」
北上「いいからいいから。そろそろアンタも本気で訓練しないとね。川内にも勝ちたいでしょ?」
阿武隈「だから! 夜戦バカには……」
北上「勝てるって自信を持って言える? あれは水雷戦隊だけで敵艦隊を打倒するって覚悟を決めちゃってるからね。だから夜戦に全戦力を賭けてる」
阿武隈「うぅ〜」
北上「そんでもって出撃撤退の判断はかなり慎重だよ〜。陸上型の棲艦だってわかってたら絶対に出ない。もし出撃の途中で気がついたら即撤退するから」
北上「雷撃は陸の上まで届かないし、島に魚雷を打ち込んでも仕方ないからねぇ」
阿武隈「あたしなら! 島ごと吹き飛ばしてやります!」
北上「……龍驤さん聞いてた?」
龍驤「もちろんや、その発想はなかったな」
龍驤「魚雷の出力を上げる? いや、それとも……」
北上「対地魚雷って言うのもありかも。できなくはないよね」
一瞬にして、技術会議が始まってしまった。
113 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/08/09(日) 22:40:03.93 ID:/mWOSGia0
阿武隈「あの? また変なこと言っちゃいましたか?」
隼鷹「いや〜、大丈夫大丈夫。あいつらの変なところに火が着いちゃったけど」
隼鷹「さて、先に出よう。よければ髪を結ってあげようか?」
阿武隈「ほんとですか! やった!」
阿武隈「あっ、もしかして今日の龍驤さんの髪って隼鷹さんがやったんですか?」
隼鷹「そうだよ〜、せっかくの休みだしたまにはね」
阿武隈「そういえば、龍驤さんの体調はよくなったんですか? 突然休暇日になってびっくりしちゃったんですけど」
隼鷹「あー、龍驤のやつ寝坊して出てこなかったんだよ。提督も甘いよねぇ」
阿武隈「むしろそれこそ心配です。龍驤さんが遅刻なんていままでなかったです」
隼鷹「たまにはそうなることもあるって。あんまり追い詰めないでやってほしいねぇ」
阿武隈「そんなつもりは……」
隼鷹「わかってるよ。けど龍驤のやつ、提督と一緒に謝罪に出かけてるからさ。え〜と、漁連と海運の2箇所だね。責務はちゃんと果たしているから許してやってよ」
阿武隈「許すも何も咎めてないですよ」
阿武隈「……あれ? 提督とお出かけしてたんですか?」
隼鷹「ん? そうだね。何してきたって言ってたかな。謝罪の後、飯くって、酒保に補充するものを見に行って、私らへのお土産に甘味を買って……」
阿武隈「デートですね」
隼鷹「やっぱそうだよね〜。せっかくだから泊まってきたらよかったのね」
阿武隈「ちょっと隼鷹さん、それは流石に」
隼鷹「まっ、休みになったし、心太(ところてん)は美味かったしいいか? 阿武隈さんもあとで食っときなよ」
阿武隈「はい、楽しみです」
隼鷹「それはそうと、お客様。どのような髪型にしましょうか?」
阿武隈「龍驤さんのツインテールみたいに留めて欲しいです。組紐のやり方ですよね」
隼鷹「おぉ? よくわかってるじゃん」
阿武隈「結び目のところが花になってましたから。左のテールが菊結びで右が吉祥結びでしたよね。あえて変えるなんて素敵です」
阿武隈「あれだけ綺麗なら、入渠しても解かないのはしかたないですよね」
隼鷹「あれぇ?」
隼鷹はどちらの房も菊結びで留めた。
あえて別の結びをする理由がないから当然と言えば当然だった。
簡単に解けはするが、普通に過ごしているだけで解けはしない。
そして自力ではほぼ留め直すことはできない、つまり。
隼鷹「……やるじゃん、龍驤」
微妙に間違った方向に合点がいった。
114 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/08/23(日) 20:59:43.09 ID:FYsmm/Kj0
北上「これだったら、魚雷の威力で対空迎撃もできるね」
龍驤「はー」
北上「空を飛ぶ時間がが長ければ長いほど、対空防御の餌食になっちゃうからね〜」
北上「魚雷として海中を進んで、最後は空を飛ぶ雷撃だから。艦攻とは別の使い方になるのかな」
龍驤「ふーん」
北上「念の為に名前をつけておこう、『はーふーん魚雷』でいいや。使うときは特許料よろしく〜」
龍驤「了解〜、妖精さんに伝えておくわ。けど、どんだけ時間が経っても皇国はかわらんのやな」
北上「数を制限されるからしかたないよね。いつだって質を上げていくしかないんだよ」
「こんばんは! おっ、龍驤さんに北上さんじゃないですか」
「ふむ、なかなか珍しい組み合わせだな。まぁ、別に関係ないが」
北上「比叡さんに日向さん。こんばんは〜」
龍驤「キミらはキミらで珍しい組み合わせやん」
龍驤「って、あっかーん!! これはホンマにピンチすぎや!!」
北上「うわぁ……、それって長門さん? え? 本当に?」
比叡と日向の間には長門のようなものがぶら下がっていた。
北上が阿武隈の肩を借りて船渠に来た時と比べて、さらに曖昧な状態であった。
龍驤「土気、相生、金気! よっしゃ! 形は留めたで! 妖精さん、高速修復剤をお願いや!」
通信式符を飛ばし、まもなく高速修復剤が運ばれてきた。
迅速に修復が進み、すぐにでも意識が回復することが予想できた。
龍驤「……比叡、日向。仲間に何しとんのや。海やったら間違いなく長門は轟沈やんか」
日向「まぁ、そうなるな。少なくとも私は全力を尽くしたからな」
龍驤「なんや、言いたいことはそれだけか?」
比叡「龍驤さん、これはですね?」
龍驤「ちょっと黙って、いま日向に……」
115 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/08/23(日) 21:00:23.91 ID:FYsmm/Kj0
北上「え〜い、ざっぶーん」
龍驤「熱っ! めっちゃ熱いやん!! 北上っ! なにすんの!?」
北上「あっ、間違えた。こっちは熱湯だった」
北上「龍驤さん、いま比叡さんが説明しようとしてたよ。攻め立てたかったわけじゃないでしょ? 話聞きたかったんだよね」
龍驤「む、その通りや。 比叡、ごめん。 話聞かせて、ことによっては日向をぶっ叩くで」
長門「……ごほっ。がふっ、ふぅ〜。龍驤よ、私が比叡と日向に頼んだのだ」
日向「ほう、さすがは長門だ。この短期間で復活するとはな」
龍驤「何を頼んだんや? 死にたかったんか?」
長門「そんなことするわけなかろう。第六駆逐隊との演習に向けた訓練だ」
龍驤「こんなになるまでやる必要あるんか? 数の優位性は大きいとはいえ、相手は駆逐艦や。その準備に巡洋戦艦と航空戦艦を相手取るのは過剰やないか?」
比叡「あの〜、実は私、練習戦艦なんです」
龍驤「え〜、真面目な話しとったやん。急にそんなこと言われたら……、冷静になったわ」
龍驤「長門、続きを」
長門「うむ。 任務が遠征ばかりという不満を演習で発散したいだけであれば、上手に負けてやるのもいいと思っていた」
長門「たまには遠征ではなく出撃がしたい、演習がしたい、そんな理由であればな」
長門「あの3人の練度では不足も不足だ。加減をしなければ、一発の砲雷撃を打てないまま終わるかもしれん」
長門「だが、もし。本気だったら? 発散したいではなく、本気で勝ちたいと思っているのなら?」
長門「装備に制限を加えた上で、さらに私自身も加減をしたら? そんな演習に勝って、彼女たちは何を得られるのだ?」
長門「まずは、私が全力を出せるように訓練を依頼したというわけだ」
長門「まぁ、杞憂かも知れないな。遠征は経済速度で移動するから、不満もたまりやすいしな」
長門「どうだ、龍驤? 殴り合いで私と対峙できるのは、鎮守府ではこの2人だけだから。この理由では足りないか?」
龍驤「十分や。 そこまで考えてくれてありがとう」
龍驤「日向もごめんな。いきなり突っかかって」
日向「別にいいさ。説明は長門がしてくれた」
日向「それより今日の長門は頑張っていたぞ。私だけではなく、比叡にも膝をつかせたのだからな」
比叡「はい! とうとうやられちゃいました!」
龍驤「ほんまに? 長門よう頑張ったな!」
長門「やめろ、龍驤。 頭を撫でるな、恥ずかしいではないか」
龍驤「何恥ずかしがっとんのや、褒められときなよ。ほれほれ」
北上「お〜、龍驤さんの可愛がりだ。なんか懐かしいね」
長門「むぅ」
116 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/08/23(日) 21:02:17.21 ID:FYsmm/Kj0
比叡「後は砲弾回し受けを覚えて、瑞雲を使った着弾観測射撃ができるようになれば、名実ともに鎮守府の守護神ですね!」
長門「いや、お前たちと違って私にそれはできないからな?」
北上「ついでに先制雷撃もやっちゃいますか。私のお古をあげるよ〜」
長門「それもできないからな? 余っているのなら阿武隈にやればいいではないか」
北上「うん、そうしようかな」
長門「ふぅ〜」
長門「……第六駆逐隊は本気で挑んでくるのだろうか。それとも発散したいだけなのだろうか。演習まではわからんな」
龍驤「長門にヒントをあげるよ」
長門「ほう、それはなんだ?」
龍驤「第六駆逐隊は北上に頼み込んで訓練をしてたんやで〜」
長門「本当なのか、北上? お前が訓練をつけてやったのか?」
北上「まぁ、成り行きでね」
長門「そんな曖昧な理由で動くお前ではないだろう。これはいよいよ楽しみだ」
北上「本気で勝ちに行くから、よろしく〜」
長門「胸が熱くなるな」
龍驤「演習日が楽しみやな」
長門「あぁ」
117 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/08/23(日) 21:02:47.74 ID:FYsmm/Kj0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2-3 潜水艦でデイリーをこなしていた時に加賀を入手しました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
118 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/09/22(火) 22:47:01.23 ID:8NjhJW7Y0
――演習〜第六駆逐隊と長門――
「マイクチェック、ワン、ツー。ワンツーワンツー、サン、シィー!」
青葉「いやぁ、やはり金剛式マイクチェックは気合が入りますね。比叡さんに教わって以来、出撃……いえ、もっと取材が充実するようになりました」
青葉「ども、恐縮です、青葉ですぅ! 本日の演習、司会実況を仰せつかりました!」
青葉「解説は、『お肉も飛行場もまとめてフランベ』でおなじみの、妙高型重巡洋艦妙高さんです」
那珂「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ〜!」
青葉「……」
那珂「……」
青葉「あらためまして、解説は第四水雷戦隊旗艦、川内型軽巡洋艦那珂ちゃんです。本日の演習の見所は一体どこになるでしょうか?」
那珂「青葉ちゃん、切り替え上手だね☆ その前にいろいろ説明しなくちゃだから。みんな、聞いてね!」
那珂「まず、今日の演習のスポンサーは鎮守府前漁業連合会さんだよ。応援ありがとう〜!」
那珂「次に妙高さんなんだけど……」
青葉「待ってください! なんで演習にスポンサーが付いているんですか? しかも今日は対外ではなく、内部演習ですよ」
那珂「え〜とね、今日の演習には電ちゃんが参加しているからだよ☆」
青葉「つまり、どういうことですか?」
119 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/09/22(火) 22:50:25.48 ID:8NjhJW7Y0
那珂「この鎮守府の歴史を紐解くと時間がかかっちゃうから省略するけどね。 鎮守府設立前の村人口って何人だったと思う?」
青葉「当時ですか、青葉が着任するずっと昔の話なのでなんとも予測しにくいですけど。今が600人位だから、400人位ですか?」
那珂「2人」
青葉「え?」
那珂「2人しか居なかったんだよ。 那珂ちゃんも着任していなかった昔の話だけどね。その時の1人が漁連の会長さんだよ」
那珂「今でこそ鎮守府近海は凪いでいるけどね。 そんな過酷な時代があったんだよ。そんな絶望的な状況にやってきたのが……」
青葉「電ちゃんと司令官ですか」
那珂「そうだよ☆ 那珂ちゃんもアイドルだからわかるけど、電ちゃんの偶像崇拝(あいどるぢから)ってすごいんだ」
青葉「なるほど、つまり……」
会長「青葉殿、那珂ちゃん殿! そんな昔話は良いではありませんか!」
那珂「あっ! 会長、今日はありがと〜☆」
青葉「ども、本日はありがとうございます」
会長「なんのなんの。我が君が御姉妹と共に出陣、それも相手は皇国の誉と名高い長門殿だと!」
会長「これを応援しないなどと、どうして言えましょうか!」
青葉「ずいぶん溌溂とした方ですね。会長、電ちゃんとはどのような出会いだったのですか!?」
会長「青葉殿、よくぞ聞いてくれました! 我が君との出会い、それは私がまだハナタレ小僧だった時分。 珍しく海が凪いだ日でした」
電「いい加減にするのです。早く演習を開始してください」
怒った様子ではなかったが、余裕のなさを感じさせる口調だった。
電だけではない、第六駆逐隊全員から緊張を感じた。
その空気は必然だろう。
彼女たちが対峙している相手は、あの長門なのだから。
長門「会長、今日の演習支援本当に感謝している。我々艦娘の闘い振りを披露する良い機会になった」
長門「電と邂逅、思い出、そして、貴方達が自ら復興のために尽力した話も是非聞かせていただきたい」
長門「ただし、それはこの演習が終わってからで良いだろうか。これは彼女たちに取っても重要な時間なのだ」
そう述べた長門は深々と頭を下げた。
会長「ややっ!? 頭を上げてくだされ、長門殿。私は興奮するとどうも……」
長門「かまわないさ。ただどうか今は、全力で彼女たち応援してやってはくれまいか?」
会長「承知!」
120 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/09/22(火) 22:54:51.40 ID:8NjhJW7Y0
その言葉と共に組合員が一斉に並ぶ。
鉢巻には、
電命
法被の背には、
暁に
響き渡るは
勝鬨や
その様まさに
雷の如し
ふんどしは勿論、赤だった。
121 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/09/22(火) 22:57:43.40 ID:8NjhJW7Y0
電「……」
長門「……素晴らしい」
雷「……えぇ、素敵ね」
暁「何よ、レディはこのくらいじゃ喜ばないんだからね」
響「暁、顔がにやけてるよ。けど、これは流石にうれしいな」
電「!?」
青葉「これは壮観です。会長をはじめとして、人間としての限界練度に達しているのではないでしょうか?」
那珂「すっごーい! ハッピがいつもと違うね!」
村祭りに使う法被には、鉢巻と同じ文字が刺繍されている。
つまり、この法被は今日のために新調したものである。
自分たちを応援してくれる人間がいる。
この事実は、初陣に等しい第六駆逐隊の3人に勇気を与えた。
122 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/09/22(火) 22:59:41.21 ID:8NjhJW7Y0
長門「これほどの応援があれば、彼女たちも戦意高揚間違いなしだな」
そう言いつつに視線を下に向けると、何人かの幼童と目があった。
彼らは「ながと」と書かれた鉢巻をしていた。
恥ずかしそうに、「ながとがんばれ」と応援した後、母親の後ろに隠れてしまった。
村では、端午の節句に鎧兜ではなく艦の模型を飾る。
飾る艦は各家で異なるが、やはり一番多いのは長門である。
長門のように大きく、皆を率いて闘えるよう強くなりなさい。
そんな願いが込められていた。
長門「この長門、諸君の期待に必ずや答えよう!」
高らかに謳う。
この返答を受けた幼童たちは顔を輝かせ、長門に向かって手を振った。
123 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/09/22(火) 23:01:22.90 ID:8NjhJW7Y0
長門「ふむ、子供は国の宝とはよく言ったものだな」
最高水準で戦意高揚となった長門は、改めて演習相手と対峙する。
暁「……」
響「……」
雷「……」
電「……」
4人が鉢巻を締め、不退転の意思を示していた。
長門「おどろいたな。纏う空気がまるで違うではないか」
北上から聞かされていた長門ではあったが、実際に相対するとそれ以上の雰囲気を感じ取れた。
長門は胸部装甲から鉢巻を取り出し、締める。
長門「相手にとって不足なし、だ。よろしく頼む!」
「「よろしくお願いします!」」
青葉「ではっ、演習を開始します!」
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/09/25(金) 02:34:20.52 ID:KamaJGe3o
おおまだ続いてた
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/09/25(金) 02:36:50.34 ID:Jb1ndZQIO
ageんなゴミクズ
126 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/04(日) 23:49:20.81 ID:2kfKbfCt0
――第六駆逐――
暁「始まったのね。長門さんはまだ見えないわ」
雷「姿が見えたら、即回避行動に移る。これでいいのよね? 電?」
電「はいなのです。電たちにとっては射程範囲外だけど、長門さんにとってはすでに有効射程範囲だから。むしろ見える前に避ける位の気持ちでいないといけないのです」
響「それは驚きだね。けど、それでこそ戦艦なのかな」
暁「きっとそうなのよ。せっかくの機会だから精一杯前に出ないと!」
雷「目を凝らしてもまだ見えないわね。暁、前に出すぎ! 旗艦なんだから焦んないでよね。雷が前に出るわ」
暁「わかってるわよ! 雷も緊張しすぎよ。そんなんじゃ、いざって時に動けないんだからね」
響「ちなみに砲撃戦はどんな感じなんだろうか。北上さんとやった訓練と同じでいいのかな」
電「あれを10倍、20倍と煮詰めた感じなのです。砲撃の前は空気が変わるので、それを感じ取れば見るより先に艦体が動くはず」
暁「え? 今になってそんなことを言うの? どんな空気になるのよ」
電「そうですね、喩えるなら……。全員回避なのです!」
響「!」
暁「!」
雷「あ……」
突然、電が回避行動を開始した。
暁、響、雷も喩え話に耳を傾ける前に、はっきりと感じ取った。
砲弾よりも、爆音よりも先に、長門の気迫がこの場を支配する。
響「雷!」
電「雷ちゃん!」
ほんのわずかの差であったが、一番に前に出ていた雷は艦体を強張らせてしまい、回避が間に合わなかった。
暁「雷ぃ!」
127 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/04(日) 23:51:56.44 ID:2kfKbfCt0
――司会実況――
青葉「長門さんによる先制の砲撃が決まりました! 弾着です! この距離をこんなにも早く正確に的中されられるものなのでしょうか!?」
那珂「長門さんは超弩級戦艦だからね☆ これでもいつもの射程よりずっと短い距離だよ。近距離だからコリオリ力の演算も省いて、いつもより軽い砲を使ったから射撃の反動演算を省いた。それでも信じられない程、早くて正確な射撃だったね」
青葉「コリオリ? それでも駆逐艦の射程範囲外から一方的な狙撃! 演習とは言え、これはあまりにも非道いのではないでしょうか!」
那珂「逆だよ、青葉ちゃん。長門さんは41cm連装砲、徹甲弾、零観まで外してる。可能な限り艤装の出力を抑えて、長門さん自身が本気で闘えるようにしてくれてるんだ。伝説のアイドルが新人アイドル相手に本気を出す時、色々と制限をするのとおんなじだよ☆」
青葉「成る程ぉー! 解説ありがとうございます! けど、これで決着してしまった場合はどうなるのでしょうか?」
那珂「その時は地方巡業から鍛え直しだよ! あれだってぜーったいにやらなくちゃならない大事なお仕事だからね。那珂ちゃんは今でもちゃんとやってるよ」
青葉「煙が晴れました。 状況は……雷ちゃんが中破! 暁ちゃんが大破です!」
128 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/04(日) 23:58:37.32 ID:2kfKbfCt0
――長門――
長門「……ふむ。暁が雷を庇ったか」
艦橋の高さが、より遠くまで見渡すことを可能にしている。主兵装がなくとも、彼女は間違いなく超弩級戦艦だった。
長門「艦体旗艦としては失格だ。失格ではあるが、極限状態で出た行動が『誰かを護ること』……か。これは皇国の守護者たる我々に取って最も必要な才覚だな。見事だ、暁!」
長門「そして! 一度も振り返ることなく、よくぞここまで足を進めた!」
響「演習前に第六駆逐隊で決めたからね。みんなで勝つと。あなたを目の前にして震えは止まらない。それでもやっぱり闘うって決めたから」
12.7cm連装砲を構え、照準を長門に合わせる。
駆逐艦の主砲では大戦艦の装甲は抜くことはできないが、闘う前に諦めることだけはしなかった。
響「やるさ」
初弾命中。
次弾命中。
全弾命中。
素晴らしい的中率だが、長門は回避行動すら見せなかった。正確には急所から外れるように微調整はしていたが、その意識は攻撃準備に集中していた。
被弾しながら響に照準を合わせる。
響「……無駄だったね」
長門「そんなことはないさ。艦隊で闘うときは必ず必要な能力だ。命中させないことには46cm砲ですら無意味だからな」
響「スパシーバ」
響は照準を合わせ、砲を放つ。
長門「!」
突然、長門が攻撃態勢を解き、旋回した。
この時、響の砲撃が急所にあたり、わずかに長門の装甲を貫く。
129 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/05(月) 00:03:08.56 ID:CK7/aTiw0
「なのです!」
想像だにしなかった突撃。
上方から、握り込んだ錨による打撃だった。
長門「ぬぅう!」
駆逐艦の全質量を真正面から受け止めてしまい、全身が悲鳴を上げる。
過剰かと思っていた比叡、日向との訓練がここで活きた。
十字受けによる防衛の成功である。
長門「ふぅーっ! 今のは危なかった……。黒鉄(クロガネ)時代なら……確実に轟沈だった」
耐久力が、装甲が優秀なだけにはっきりと想像できた。
長門「駆逐艦の身でありながら、よくぞそこまで練り上げた!」
特型駆逐艦暁型四番艦
最も長きに渡り鎮守府を支え続けた初期艦
暁型の、特型駆逐艦の最終艦
特型が残した数多の蓄積は、彼女に集約された。
電「電、推して参るのです!」
初期艦、電。
限界練度だった。
130 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/11(日) 22:40:21.02 ID:2CgeDF200
――司会実況――
青葉「ーーッ!! ーーッ!!」
排気量を全開にしてマイクを最大音量にしても、実況は伝わらなかった。
海原が割れそうなほどの大声援。海岸で電の名がこだまする。
当然、海でこだますることなどありえないが、途切れることのない声援はそう比喩するよりほかなかった。
那珂「青葉ちゃん、そんなんじゃダメだよぉ。ファンの皆が応援してるんだから、今は静かに実況しないとね☆」
青葉はもとより、応援に精を出していた者たち全員が那珂に注目する。
全員の耳に、那珂の声が届いたからだ。
131 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/11(日) 22:42:02.28 ID:2CgeDF200
那珂はマイクを使っていなかった。
単純な音であれば、全てかき消されてしまっていただろう。
ならば、届けた先は耳ではなく心。発したものは、声ではなく想い。
水雷戦隊旗艦である彼女は、常に戦場(ステージ)を意識している。
敵棲艦(ファン)の状況(テンション)を読み取り、自身だけでなく随伴艦(メンバー)が最高の性能(スマイル)を発揮できるように心がけていた。
たとえ、戦場でなく舞台だったとしても、行住坐臥を旗艦(アイドル)として過ごす那珂の振る舞いは変わらない。
想いをくみ取り、想いを伝える。
誰が相手であろうと、決して路線変更などしなかった。
132 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/11(日) 22:47:48.73 ID:2CgeDF200
那珂「みんなー! しっかりと電ちゃんのことを見てたかな〜?」
途切れそうな空気を繋ぎ直し、再び歓声が上がる。
青葉「あっ、あれは一体何だったんでしょうか? 艦娘の常軌を逸していたのでは!?」
那珂「あれはね……」
那珂「単なる体当たりだよ☆」
青葉が唖然とし、観客は大笑いする。
那珂「でもね、青葉ちゃん。いつもの2倍の跳躍と!」
青葉「跳んだことなんてありません!」
那珂「いつもの3倍の回転が!」
青葉「回転もしません!」
那珂「もぅっ、青葉ちゃん意地悪だよ!」
会場は笑いと拍手に包まれた。
那珂「那珂ちゃんジョークはこれくらいにして。駆逐艦の重量であれだけの高さと回転だからね、その力積は41cm連装砲にだって負けないんだから!」
青葉「そんなに!? それだけの威力があるなら、始めからやった方がいいのでは?」
那珂「近づけたらそうだよね☆ 近づく相手は誰かな〜?」
青葉「長門さんでした! あの警戒網をくぐり抜けるのは至難の業です!」
那珂「そうだよ、普通だったら絶対に成功しないんだ。長門さんが別のことに集中してたりしないとね」
青葉「響ちゃんです! 響ちゃんが長門さんに砲撃戦を挑んでいました。あの時、全弾命中という素晴らしい成果をあげ、長門さんの意識は響ちゃんに集中していたはずです! そんな状況で長門さんはよく電ちゃんの進撃を察知できましたね」
那珂「戦場は刻一刻と変化する所だからね。場を掌握して、艦隊の全部に指示を出せる艦娘が連合艦隊旗艦なんだよ!」
青葉「長門さんです! 連合艦隊旗艦長門です!」
こっちで響コール、あっちで電コール。
間を開けずに長門コールも響き渡る。
それだけで伝えきれてない、まだ足りていないと判断した那珂はさらに解説を加えた。
舞うように席を離れ、小さな観客に目線を合わせてから、鈴のような声で簡潔に述べる。
那珂「ながとさんはね、みんなのおうえんでもっとがんばれるんだよ☆」
アイドルの笑顔は、道理のわからない子供相手に潤滑油のように染みわたった。
彼らは母親の後ろから出て、小さな体をいっぱいに使い、ながとの名を何度も何度も呼んだ。
133 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/11(日) 22:48:59.72 ID:2CgeDF200
青葉「……」
青葉「暁ちゃんと雷ちゃんもこの歓声の中で闘って欲しかったです……」
マイクを通さず、小声でこぼす。
一生懸命、遠征任務を続けてきた彼女たちがようやく掴みとった機会だった。
一度の砲雷撃もできないまま終わるのはあまりにも忍びない。
134 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/11(日) 22:49:31.15 ID:2CgeDF200
「……水雷戦隊を侮らないで」
135 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/11(日) 22:50:20.75 ID:2CgeDF200
「……水雷戦隊を侮らないで」
136 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/11(日) 22:51:15.87 ID:2CgeDF200
>>135
削除
マイクどころか、零式聴音機ですら拾えない程小さな声だった。
その声が、機関部を水没させるかのごとく青葉を覆う。
青葉「……」
中破、そして大破の艦娘に何ができるのか。
しかも、それは駆逐艦で相手は超弩級戦艦だ。
万全の状態ですら、拮抗してはいない。
疑念と共に那珂を見据える。
137 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/11(日) 22:53:19.76 ID:2CgeDF200
那珂「……」
周囲の空間が歪む。
青葉が見た錯覚でしかないが、その気迫はあの武勲艦を想起させるものだった。
華の二水戦旗艦
艦体が真っ二つになろうとも、その戦意衰えることなし。
結果、皇国に勝利をもたらした、あの武勲艦を。
那珂「さぁ、まだまだ砲撃戦は続くよー!!」
138 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:40:29.15 ID:QTJQMTd80
――第六駆逐隊――
電「響ちゃん、諦めちゃだめなのです」
響「すまない。最後は全力で回避しなくちゃいけなかったね。電はかなり無茶をしたけど大丈夫かい?」
電「大丈夫なのです。雷撃を打ち込む機会まで耐えましょう」
響「了解!」
139 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:42:01.40 ID:QTJQMTd80
挺身により電は小破となった。
長門に打ち込むということは、電自身にもそれ相応の反動があるということだ。
響を庇う代償は決して安いものではなかった。
ただし、これは決して自棄になったわけではなく、勝つための最善策だ。
水雷戦隊の決戦兵器である酸素魚雷を長門に叩き込むため、少しでも命中確率を増やす必要があった。
下手な鉄砲の例えは正しく、数多く打てば実際に当たる。
問題は1盃の駆逐艦に載せることができる数に限界があるということ。
そして、1盃の駆逐艦が当てることができる魚雷の威力では戦艦を打倒することができないということだ。
140 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:43:00.21 ID:QTJQMTd80
3盃生き延びて酸素魚雷を当てることができればなんとかなる。
訓練前の北上の言葉だが、的を射ていた。
2盃なら可能性が残り、1盃ではわずかな希望も残らない。
鳳翔が着任するまでの長い期間、単騎で闘い続けた電は決して諦めることはなかった。
そんな彼女が手にした、姉妹で闘う初の機会。
電「皆で勝つのです!」
141 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:46:58.19 ID:QTJQMTd80
――長門――
長門「……巧いな」
駆逐艦の機動力により、長門はT字不利を取らされ続けた。
装甲の薄さを代償に、彼女達の速力は長門のそれを凌駕している。
力に対して決して力で対抗せずに、速さで対抗する。
同行戦に比べて、火力は4割といったところだろうか。
その状況下でも定石通り、練度が低い艦に狙いを定め砲撃を放つ。
この2盃が相手であれば響が標的艦となる。
142 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:48:17.90 ID:QTJQMTd80
それは向こうも承知の上だろう。
砲を放つその瞬間、電が砲塔めがけて射撃を放ってくる。
豊満な胸部装甲で受けたのであれば、駆逐艦の砲撃などものの数ではないが、砲塔であれば話は別だ。
的中してしまうとその砲が使えないばかりか、射撃妖精の士気まで低下してしまう。
実際、響が放った一撃が砲塔1つを再起不能に追いやり、見かけの被害以上に戦力は低下していた。
これは駆逐艦としては十分の戦果だった。
1つであれば大きな影響はないが、正確に当て続けられると話は変わってくる。
砲撃を放てない戦艦は大きな的でしかないからだ。
143 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:49:10.18 ID:QTJQMTd80
電は正確に、偶然に頼らず当てる技量がある。
必然、電に対しても砲を放つ必要があり、結果1盃に対しての火力と命中精度が低下してしまった。
響「くっ、まだやれる」
長門の砲撃を躱し続けることはできなかったが、何とか装甲を抜かれずに堪えていた。
互いに決定打を出せずに、腰を据えた砲撃が必要なことは明白だった。
機は熟した。
144 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:49:50.05 ID:QTJQMTd80
電「響ちゃん!」
響「雷撃!」
響が酸素魚雷を放ち、電は長門に向かって走り出す。
電が前衛で響が後衛の形となったが、電が響の射線に重なってしまっている。
長門「真正面は無駄だ! 当方に迎撃の用意あり!」
きっちりと向き直り、構える。
初回は不意打ちだったが、今回は違う。
電の挺身だけであれば一方的に迎撃可能、2段構えの雷撃も響だけであれば耐えられる。
長門は狙いを定めた。
145 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:51:11.67 ID:QTJQMTd80
電「右舷投錨、 最大戦速!」
停止と加速を同時に実行する矛盾。
電「面舵いっぱい!!」
投下した錨を起点に弧を描きながら海上を滑り、長門の背後をとった。
146 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:52:06.28 ID:QTJQMTd80
長門「なん……だと!?」
長門は電の狂気ともいえる操舵を予測できずに反応が遅れてしまった。
電「雷撃、なのです!」
長門は必死に舵を切る。
完璧な挟撃だったため、どちらかの魚雷は確実に長門に喰らいつく。
147 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:52:44.47 ID:QTJQMTd80
響「やった!」
先に発射した響の酸素魚雷が長門左舷に命中。
北上との訓練後、何度も何度もイメージトレーニングを重ねた成果が表れた。
長門を中破に追いる。
電「このまま夜戦に突入なのです!」
想像以上に損害を与えることができたため、電ですら高揚を隠せなかった。
148 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/21(水) 21:53:57.18 ID:QTJQMTd80
長門「まだだ!」
長門は電が放った魚雷に対応する。
速力を上げて、自らの右舷で魚雷を迎えに行った。
響「一体どういうこと?」
電「……やられました。注水復元です」
勝負の天秤はいまだ平衡を保っていた。
149 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/25(日) 17:43:17.76 ID:OgAyCE7K0
――司会実況――
青葉「……青葉、あんな動き見たことがありません。那珂ちゃん、解説お願いします」
那珂「本当に驚きました。思わず私も参戦してしまいそうになるくらい……」
青葉「あのぉ、那珂ちゃん? 解説をおねがいします」
那珂「はっ!? 艦隊のアイドル那珂ちゃんだよ〜☆ まず、長門さんから説明するね」
青葉「響ちゃんの雷撃を受けたあと、なぜ電ちゃんの雷撃まで受けてしまったのでしょうか」
那珂「これは継戦力を確保するためだよ。もし、昼戦だけで勝敗判定をするならあんなことはしないよ。被害が単純増加しちゃうからね」
青葉「なるほど」
那珂「まだ夜戦が残っているからね。左舷側に傾斜したままだと速力はともかく回避が難しくなっちゃうんだ」
青葉「確かに。取舵※1はとれても、面舵はとれないです」 ※1:左折
那珂「でしょ? だから両舷のバランスを合わせるためにあえて右舷側にも雷撃を受けたんだよ」
青葉「ですが、注水弁を開けばいいのでは? わざわざ艦体に穴を開けてまで傾斜復元する利点がわかりません」
那珂「演習ならそうだよね、夜戦への移行は若干の準備時間を設けるから。けど実戦は違うんだよ、雷撃のあとにまた雷撃があったり、航空戦力だって控えているかもれない。間に合うかどうか、これが運命の5分になっちゃうかもしれないよ」
青葉「長門さんはそこまで考えて」
那珂「第六の皆の中で実戦経験があるのは電ちゃんだけだからね。そもそも、この演習は第六駆逐隊が出撃できるようにするための準備だから、長門さんは惜しみなく全力を見せてくれているね」
青葉「そうでした。今後、青葉が片舷に魚雷を受けたら、半舷にも魚雷を受けますね!」
那珂「そんなことしたら轟沈しちゃうよぉ。皆も長門さんの真似をしちゃダメだからね。真似しなきゃいけないのは最善を尽くすために常に全力を出すこと、だよ☆」
青葉「了解です!」
那珂「次は電ちゃんの説明をするね」
青葉「あれは訓練にない動きでした」
那珂「青葉ちゃんは皇国海軍防衛マニュアルを全部読んだかな?」
青葉「……いえ、全部は」
那珂「大丈夫、大丈夫☆ 提督が把握していたら大丈夫だから。那珂ちゃんたちはあくまでも運用される兵器だからね」
青葉「きょーしゅくです」
那珂「そこに書いてあるんだ、『対異星艦隊迎撃法』ってね。実戦で使ったのは妙高さんだけだけど」
青葉「アハハハ、那珂ちゃんジョークですね」
那珂は笑顔を返した。
青葉「……え?」
那珂「さて、そろそろ夜戦突入の是非を確認しよう!」
青葉「あ、はい。現在の戦果だと長門さんが勝利で終了です。第六駆逐隊に夜戦突入の意思を確認しますね」
応答を待つ。
青葉「4人全員が夜戦突入の意思を示しました! えっ? 4人全員ですか?」
それを聞いた那珂が見たことのない笑顔になった。
那珂「これが水雷魂なんだよ☆ さあ、青葉ちゃん。はやく夜にしてね」
青葉「取り扱い説明書にしたがって……、『使う時は柏手を2つ打つんやで』成る程。はい、それでは両儀式符にて昼夜反転! 夜戦開始です!!」
150 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/25(日) 17:44:46.44 ID:OgAyCE7K0
――第六駆逐隊――
暁「……」
真っ暗闇のなか思案する。
長門の砲撃を受けたため、全く身動きが取れなかった。
旗艦の責務を果たさないまま、妹達に負担をかけている。
このまま演習が終わるとして、どうなるだろうか。
皆で頑張ったと讃え合えるだろうか。
長門はおそらく暁達を褒めるだろう。
初陣をよくよく頑張った、と。
北上は労うだろう。
まぁ、駆逐艦だしね。とりあえずおつかれさん、と。
第六駆逐隊はどうだろうか。
響と電が昼戦を耐えぬいてくれた。
中破して震えていた雷はその勇姿を見て缶を温めなおしてくれた。
なんと誇らしい妹達か。
暁自身はどうか。
何もできなかった自分自身を許せるだろうか。
否! 断じて否!
暁「……許さない。絶対許さないんだから!」
昼戦中、ずっと見るているだけだった。
当然、長門の位置は覚えてる。
暗闇になろうともはっきりと捉えている。
暁は長門に向けて探照灯を照射した。
151 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/25(日) 17:45:36.62 ID:OgAyCE7K0
――長門――
長門「むっ!?」
暗闇に目を慣らしていたところに強烈な光を浴びせられた。
刹那、暁の姿が焼き付いた。
あまりの光量のため、夜戦中に視力が回復することはないだろう。
暁にとって探照灯を使うことはトラウマだったはず。
それを乗り越えて、本気で勝ちを目指している。
長門「くっ」
長門にとっても強烈な閃光はトラウマだったため、艦体が震えている。
乗り越えることは容易ではない。
それでも暁の勇気には応える必要があった。
長門「目標、暁。連装砲、斉射!」
目を閉じたまま、きっちりと弾着させた。
暁:大破(轟沈判定)
長門「ふんっ!」
海面を一定間隔で叩き続けた。
152 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/25(日) 17:46:55.65 ID:OgAyCE7K0
――第六駆逐隊――
響「……」
長門の砲撃音に紛れて移動、速やかに缶の火を落とした。
機関部を停止させたためもう回避はできないが、暁がつかみとった機会をなんとしても活かしたかった。
視覚を封じたとはいえ、長門を無力化できたとは言いがたい。
響が発する音を見られてしまう可能性があり、悪い予感こそよく当たる。
響「……」
無言のまま、四連装酸素魚雷を放つ。
渾身の一撃だ、外れたとしても耐え切られたとしても後悔などない。
暁は成すべきことを成した。長門の位置は完全に捕捉できている。
電はわざわざ大きな音を出しながら長門に向かっている。少しでも酸素魚雷を悟らせないためだ。
雷もすでに移動を終えていた。艦体の震えは止まったようだ。
なんと誇らしい姉妹だろうか。
酸素魚雷の行方を眺め、水柱が上がることを確認した。
響「よし!」
長門「目標、響。連装砲、斉射!」
響「……そんな」
響:大破(轟沈判定)
153 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/25(日) 17:47:25.50 ID:OgAyCE7K0
――長門――
海面を叩きながら電を待つ。
耳を済ませても、響と雷の音は見えなかった。
間違いなく、大音を立てて陽動している電の作戦だ。
響も雷も、おそらく暁が探照灯を放った時とは違う位置にいるだろう。
電「電の本気を見るのです!」
長門は声のする方を向き、迎撃の体勢をとる。
連撃だろうと一撃必殺狙いだろうと対応できるだけの鍛錬は積み上げていた。
直後、切札を切るような甲高い音が鳴り響く。
長門「一撃必殺か! いいだろう受けて立つ!!」
154 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/25(日) 17:47:55.99 ID:OgAyCE7K0
『主錨』
『副錨』
『副錨』
155 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/10/25(日) 17:49:42.59 ID:OgAyCE7K0
長門「は?」
主砲や魚雷を想定していたが、電は鎖付きの錨を投げつけてきた。
電「捉えました」
長門を縛り付け、主砲を構えながら宣言する。
長門「あぁ、私がな」
ほんの少し艦体を揺さぶり、鎖を通して電を制した。
電「柔!? よくここまで鍛錬を積みました」
長門「お前に認めて貰えて光栄の至だ」
海面を叩きながら返答する。目は閉じたままだった。
電「……」
響の酸素魚雷到着まで、5秒前、4、3……
長門「せいやぁ!!」
裂帛の気合と共に海面に衝撃を与えた。
それも同時に2箇所。
直後、響と長門の間で水柱が立った。
電「信管過敏!? そんな、酸素魚雷の整備は十二分にしたのです」
長門「目標、響。連装砲、斉射!」
電「まさか……遠当て? それよりもどうやって酸素魚雷と響ちゃんの位置を……」
長門「終わったあと、ゆっくり間宮で話そうじゃないか」
電「……そうですね」
長門は連装砲を、電は酸素魚雷を構える。
長門「てぇー!!」
電「なのです!!」
長門の砲撃は全弾電に吸い込まれ、電の酸素魚雷は長門の下に向かい沈んでいった。
電:大破(轟沈判定)
長門「終わりだな」
電「えぇ。電達の、第六駆逐隊の勝利です」
BOB! という轟音と共に、海が長門を捉え上空へ吹き飛ばした。
長門「……馬鹿な」
長門:大破
これにて第六駆逐隊と長門の演習終了。
結果発表を待つ。
156 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/01(日) 22:54:34.38 ID:/77XVT0Q0
――司会実況――
青葉「演習終了です! 暁ちゃん達と長門さんが戻り次第、提督による結果発表です」
那珂「……川内ちゃん、今日の出撃代わってくれないかな。これを見た後だと、遠征じゃちょっと物足りないかも」
青葉「那珂ちゃん、落ち着いて。そのあたりの話は司令官と相談してください」
那珂「わかってるよぉ。結果発表の時に聞いてみるね」
青葉「ところで、最後まで司令官は顔を見せませんでした。どうやって採点するのでしょうか」
那珂「普通に採点するんじゃない? 見ていなくとも観ていただろうし、聞いていなくとも聴いていたんじゃないかな。それができなきゃ那珂ちゃん達の指揮(プロデュース)はできないからね☆」
青葉「そうですか? いえ、意味不明ですけども。では、青葉はインタビューの準備をしちゃいます」
川内「その前に、提督の結果発表を聞きなよ」
那珂「あ、川内ちゃんだ。ねぇ、今夜の出撃代わってよぉ」
川内「提督が良いって言ったらね。今回は私がお願いしたわけじゃなくて、提督の指令だから」
那珂「う〜、いいなぁ」
青葉「……いったい、どこから現れたんですか?」
川内「ん〜? 青葉の意識の隙間からかな。なんとなく那珂が暴走しそうな気がしてね、提督より一足先に来たんだよ」
那珂「那珂ちゃんはアイドルだから暴走なんてしないよ」
川内「電が長門さんの虚を突いたりして、那珂の戦意も高揚。思わず参戦しそうになったりは?」
那珂「……してないよ」
川内「……」
那珂「してないよ?」
川内「わかった、わかった。ほら、もうすぐ結果発表だから」
那珂「はーい」
157 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/01(日) 22:56:14.43 ID:/77XVT0Q0
執務室の方角から白い塊が飛んできた。
着地と同時に正体が明らかになる。
提督「間に合ったか? 間に合ったよな!」
青葉「ぜんぜん間に合ってません! もう終わっちゃいましたよ」
提督「何たること! 作戦会議を終わらせて、大本営との交渉まで終わらせたというのに!」
青葉「初めての演習なのに。これじゃ暁ちゃん達、泣いちゃいます」
提督「うぐっ。青葉よ、痛いところを突くじゃないか。成長したな」
青葉「ども、きょーしゅくです!」
提督「しかし、責務は果たさせてもらおう! ちょうど帰ってきたようだしな」
雷は暁を曳航して、長門は響と電を曳航して戻ってきた。
誰一人として五体満足ではない上に、第六駆逐隊は全員が涙していた。
負けてもいい程度の覚悟で臨戦していたのであれば決して流れない涙だと、見る者全員が感じ取った。
提督「皆、よく闘ってくれた。早速だが、結果発表をする」
那珂「全員、傾聴!」
提督「まず演習の勝利は、長門だ! また、単騎のためMVPも長門だ、おめでとう」
長門「あぁ、私にとって価値ある一戦だった。ありがたく貰っておこう」
提督「次に、第六駆逐隊のMVPは雷だ、おめでとう」
雷「……ぐすっ。ありがとう……えぐっ、ございます」
提督「講評に移る。まずは暁から」
暁「はい……ぐすっ」
提督「旗艦が随伴艦を庇うなど言語道断だ。結果として艦隊すべてを危険に晒すからだ。そんな艦娘は旗艦を務めるべきでない」
暁「……はい」
提督「ただし! 誰かを守ることこそ我々の存在意義だ! よく雷を庇った、暁ぃ!!」
暁「えっ? はい?」
提督「夜戦の照明灯もだ。あれがあったからこそ、お前たち4人が一斉に長門に挑むことができたんだ! お前にとってのトラウマだろうに、よく勇気を振り絞った」
暁「えーと、ありがとうございます。お礼はちゃんと言えるし」
提督「今回は花マルをやろう! よーしよしよしよしよし。いい子だ暁、よくできた!」
暁「はわわわ。頭をなでなでしないでよ! もう子供じゃないって言っているでしょ!」
提督の手は急に動きを止めた。
暁「ど、どうしたのよ? 急に止まっちゃったりして」
提督「すまない。そうだな、暁は一人前のレディだからな。つい、妙高や隼鷹と同じように褒めてしまった」
158 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/01(日) 22:57:53.07 ID:/77XVT0Q0
暁の脳内で中央演算装置がオーバークロックを起こす。
同時に、高度な数式が展開された。
妙高≒隼鷹≒一人前のレディ≒暁
暁「……」
無言のまま脱帽し、頭を差し出す。
提督「ん? 妙高や隼鷹と同じ扱いでいいのか?」
暁「と、当然よ!」
提督「暁、よくやった」
暁「♪」
暁はあまりにもあっさりと陥落してしまった。
ほんの少し前まで涙を流し、鼻水を垂らしていたとは感じさせないほどに。
泣いていた他の3人もその様子を見て自身を改めた。
悔しさはよりも、この機会を与えてくれた指令に報告をしたい気持ちが勝ったからだ。
提督「響ぃ、講評だ!」
響「ああ、わかったよ。けれど司令官、首だけでこっちに振り返るのはやめてくれないかい? 人間の可動域を超えているよ。はっきり言うと怖い」
提督「何をいまさら」
響「そうだね」
提督「響は……うむ、いい表情だ。何か納得できたか? だが講評はさせて貰おう」
響「お願いするよ」
提督「昼戦の主砲、雷撃を放つところ、長門の砲撃を回避するところ。夜戦の雷撃もよくやった。可能戦闘機会を余すところなく使っていたな。花マルだ!」
響「スパシーバ」
提督「……」
響「どうしたんだい、司令官? 何か気に触ることをしてしまったかな」
提督「お前の祖国はどこだ? お前が守りたい国は?」
響「あぁ、そうか。そうだね、不誠実だったよ。私は『響』。皇国で生まれ育った暁型の駆逐艦だ。祖国はこの国しかない」
提督「そうだな」
響「けれど、司令官。私は連邦だって同じように守りたいんだ。私はあの国でも闘っていたからね。彼らが深海棲艦の脅威に晒されたなら、その時は助けに行きたい。これは皇国に仇なす意志だろうか」
提督「そんなことはないさ、お前は暁型だからな。誰かを助けるときは、俺が止めたって押っ取り刀で駆けつけるだろう」
響「ふふっ。ありがとう、司令官。雷と電も待ってるから」
提督「ああ」
響「……」
159 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/01(日) 22:59:13.99 ID:/77XVT0Q0
提督「油断したな! よーしよしよしよしよし。いい子だ響、よく頑張った!」
響「はわわわわ」
提督「お前は暁型のお姉さんだからな。たまにはしっかりと子供扱いをしてやろう。仲間を置いて歩を進めるのは辛かったろう、単独で長門に対峙するのは怖かったろう。よくよく耐えたな!」
響「あり、ありがとう。はわわ」
提督「高角砲だったとはいえ、長門の砲撃は命中していただろう。なんで昼戦で中破にもならなかったんだ? 響の装甲はオリハルコンか何かでできているのか?」
響「ふ、不死鳥と言う通名もあるくらいだからね」
提督「説明不足だよっ! 恐怖で足が竦むところを奮起していたからだな。耐久力じゃなくて、回避で勝負したのがよかったな! これはお前の意思の強さと言っていいだろう。よしよし」
響「さすがにこれは恥ずかしいな」
提督「頑張ったら褒められるということだ。遠征帰りでもこんなんだったろう?」
響「言われてみればそうだね。どうもありがとう。今度こそ雷のところへ行ってあげて」
提督「うむ」
暁型三番艦へ向き直る。
提督「雷ぃ、講評だ!」
雷「はい! 司令官。雷はもう泣いてなんかいないわ」
提督「殊勝な心掛けだが、まずは初撃を回避せんかぁっ! 出撃したいと言い出したのはお前だろう。駆逐艦の薄い装甲では耐久戦はできないんだ!」
雷「はい。うぅ、……ぐすっ。りょうがいでず」
提督「つぎは夜戦だ! 怯え縮こまっていたのに、よく缶を温め直したな! なぜ戦意を取り戻せたんだ?」
雷「えぐっ……え? え〜と、暁と響が必死に闘ってたから、雷もなんとかしようとして……」
提督「そうだ! そうやって足りなくともなんとか絞りだそうとする心意気こそ大和魂だ! よくやった、雷!」
雷「うん? ありがとう、司令官! もーっと私に頼っていいのよ?」
提督「おうとも、頼りにしている。あとは戦闘技術の評価だ。酸素魚雷でバブルパルス攻撃とか、いったいどういう発想だよ!」
雷「北上さんに言われたの、『最終手段として長門さんの下の方に魚雷を走らせるんだよ〜。爆破のタイミングは電が合わせてね』って」
提督「……やはり北上か」
雷「けどその雷撃しか攻撃できなかったわ」
提督「それでいい。闇雲に主砲を打つよりもよほどお前の成長につながったよ。いい子だ、雷! よくできた。 ひゃっほーう!」
雷「あははは、目が回るわよ。ちょっと、本当に目が回るから。電、見てないで司令官を止めてよね!」
提督「これくらいにしておこう。当然、雷も花マルだ! 次は電だな」
電「はいなのです」
提督「その前に、あっちの対応を頼む」
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/12(木) 11:44:30.15 ID:jPUBvEHMO
>>95-96
ここは電じゃなくて雷じゃね?
161 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/14(土) 19:25:02.36 ID:LhWGe+c60
会長「お母さん。大丈夫ですか、お母さん」
泣きながら、会長が電の元へやってきた。
応援をしていたと比べてひどく弱々しく情けない顔をしていた。
電「ふぅ」
電はため息をつき、呆れた顔になりながらも暖かく応えた。
電「電はとても強いですから、このくらいへっちゃらなのです。坊はいつまでたっても泣き虫さんです」
子をあやすように会長の頭を撫でてやる。
電「それよりちゃんと演習を見てましたか? 電は坊達が安心して暮らせるように頑張っているのですよ?」
会長「はい、ちゃんと見てました。瞬きもせずに、僕はちゃんと見ていたのです」
電「そう、電の前では格好を付けずに普通に話せばいいのです。けれど、瞬きはちゃんとしてくださいね」
会長「はい。はいなのです」
電は会長が落ち着くまで頭を撫で、話しかけてやる。
電「そろそろ演習を終了させないといけません。また時間を作ってお話しましょう。いつでも鎮守府に遊びに来るのです」
会長「はい。ありがとう、お母さん」
目をこすり、深呼吸していつもの調子に戻る。
そして組員に向けて号を発した。
会長「皆! これが我が君だ、我らの守護者達だ!」
伝説は真実だった。
提督が連れてきた艦娘が、その日の内に近海を解放したという伝説だ。
会長が電を語る時、皆は話半分に聞くようにしている。
実際に闘っている姿を見たことはなく、遠征任務をする艦娘だと思っていたからだ。
鎮守府前海域の解放は、比叡や日向によるものだと判断していた。
それは間違いであったと、今日、完全に理解する。
会長「今晩の慰労会の準備に移れ!」
ヨーソローの応答とともに速やかに撤退を始める。
組員は提督へ挨拶を済ませ、保護者たちは子供達の相手をしてくれていた長門に礼を述べた。
子供達は満足気な顔になり、長門はそれ以上に満足していた。
162 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/14(土) 19:28:15.00 ID:LhWGe+c60
青葉「ふふふ、降りてきました! 青葉、取材を始めます!」
天啓を得た青葉が会長にインタビューするために駆け寄った。
青葉「会長! 取材させてください。電ちゃんとの出会いから今日に至るまでをお願いします!」
那珂「青葉ちゃんって、おバカさんだね☆」
青葉「えっ?」
会長「青葉殿、よくぞ聞いてくれました! 我が君との出会い、それは私がまだハナタレ小僧だった時分。 珍しく海が凪いだ日でした」
会長は嬉々として話を始める。
会長「提督、青葉殿をお借りしていきます。手短に話しますが、立ち話で済む話ではありませんので! 慰労会までには間に合わせます」
提督「青葉をよろしくお願いします」
提督は一礼する。
提督「あと慰労会ですが、ありがたくお受けします」
会長「なんのなんの、私こそお礼をさせてください。いつも我々を守ってくださりありがとう存じます!」
提督「お上より賜った、我々の存在意義ですから」
提督の表情は誇らしげだった。
提督「では、青葉の取材が入ったので明後日の夜ですね。慰労会楽しみにしております」
会長「精一杯もてなしますので!」
青葉「……え? 会長の取材は慰労会までじゃ」
提督「青葉、自分で口にしたことは必ずやり遂げろよ」
青葉の脳内で中央演算装置がフリーズを起こす。
キャッシュもメモリも真っさらにして現実から逃げたかったが、強制的にリカバリされる。
逃げることなど許されない。
会長への取材が決定した瞬間に慰労会開催時刻が48時間ほど延期された。
それについて誰も気にしていない。
それどころか青葉に憐憫の目を向けている。
電「青葉さん」
青葉「はい! ワレアオバ!」
混乱していることが容易に読み取れた。
電「明後日の慰労会で会いましょう」
青葉「いやーっ!!」
163 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/14(土) 19:30:22.94 ID:LhWGe+c60
青葉を見送り、電に提督式賞賛術をかけた後、長門の講評を始める。
提督「長門、不十分な兵装でよくぞここまで闘った」
長門「ああ、私はビッグ7だからな。どんな条件であろうと最善を尽くすさ」
提督「うむ、素晴らしい。戦闘技術の評価だが、まるで比叡を見ているようだったぞ」
長門「その評価はありがたい、少しでも早く追いつきたいからな」
提督「お前ならできるさ。正直、夜戦時1発目の雷撃で終了すると思っていた。それがどうだ? 昼戦の雷撃を両舷で受けてまで、継戦力を確保。探照灯で視覚を奪われても擬似アクティブソナーで対応。しかも通しで魚雷を迎撃だ。比叡でも今の長門くらいの時はここまではできなかったんだぞ?」
長門「指導者の差ではないか? 私には比叡と日向がいたが、比叡には提督しかいなかったろう?」
提督「なんだと! 泣くぞ、そんなことを言うなら俺は泣くぞ!」
長門「最後まで聞いてくれ、彼女達は自分たちが躓いた箇所とどう乗り越えたかを教えてくれたのだ。決して提督の指導が悪いと言っているわけではない」
提督「そうか、そう言ってくれて助かる。あと少しで俺は泣くところだった」
長門「……龍驤も大変だな」
提督「気にするな、このたぐいの苦労をするのは龍驤だけだ」
長門「そうだな。しかし、比叡の技術指導よりも言葉が重かった」
提督「ほう、琴線に触れるものがあったか」
長門「『敵を倒す必要はありません、しっかり防御してちゃんと帰りましょう!』、だそうだ」
提督「これだけではお前は反発するだろう。戦艦同士の殴り合いはどこに行ったんだ?」
長門「まだ続きがある。『私達を介錯する駆逐艦なんて、万が一にも作ってはいけません!』」
提督「……そうか。比叡は十分以上にわかってくれているんだな」
長門「あぁ、そうだ」
提督「精神面の話で言うか言うまいか迷ったが、今の長門であれば大丈夫だな」
長門「ほう、何かな」
提督「暁の探照灯、よく乗り越えてくれた」
長門「あれは乗り越えられてなどいない、無理やり動いただけだ。そう簡単には、乗り越えられない」
提督「それでいい。長門、よく頑張ったな」
長門「やめてくれ、提督。頭を撫でないでほしい。その、恥ずかしい」
提督「何を恥ずかしがってるんだ、頑張ったら褒められるんだ。ちゃんと褒められておけよ、ほらほら」
長門「むぅ」
第六駆逐隊ほど素直にはなれなかったが、それでも長門の頬は緩んだ。
北上「お〜、提督の可愛がりだ。最近どこかで見た気がするね」
164 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/14(土) 19:30:51.98 ID:LhWGe+c60
>>160
本当ですね。見つけてくれてありがとうございます。
>>95
差し替え
暁「……え? 長門さんってそんなに強いの? 全く勝てる要素がないんだけど」
北上「逆に長門型戦艦をなんだと思ってたの? まぁいいんだけどさ〜」
響「それで、今回の演習に勝てる確率はどれくらいなのかな?」
北上「そうね〜、7割くらいじゃない?」
暁「そんなに高いの!? なんだ北上さん、驚かせないでよね!」
北上「戦闘での頭数は重要だからそうなるね〜。今回の演習だと長門さんに装備縛りがあるしね」
雷「よかったよかった。これで安心して闘えるわ!」
>>96
差し替え
北上「どうしてそんなに余裕なの?」
雷「だって7割で勝てるんでしょ? 絶望的な差はないってことよね!」
北上「1人は轟沈確定だよ?」
暁「なんでそうなるの?」
北上「あくまでも出撃じゃなくて演習での勝利の話だからね〜。長門さんは正確に、確実に旗艦を狙ってくるよ」
北上「たとえ12.7cm連装高角砲でも、あの人は戦艦だからね。基本の火力が違うわけよ」
北上「それで確実に旗艦は轟沈、まぁ演習だから轟沈判定だね」
北上「開幕した瞬間に長門さんの戦術的勝利条件が確定するの」
北上「その上で、生き延びた3盃で雷撃を打ち込んで長門さんを轟沈に追い込む」
北上「ここまでしてようやく第六駆逐隊の勝利ってわけ」
165 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/14(土) 19:39:06.37 ID:LhWGe+c60
>>160
見つけてくださったお礼に、どうでもいい設定を。
鎮守府艦娘序列
1位
2位
3位
――提督の指令無しで戦闘が許可されている壁――
4位:重雷装巡洋艦 北上
5位
6位
――概念艤装を展開できる壁――
7位
8位
9位
10位
11位
12位:戦艦 長門
――主力艦娘の壁――
話の中では多分出てこないです。
166 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:08:12.16 ID:NoHVzsGH0
提督「来たか。準備はできたか、北上?」
北上「うん、バッチリだよ」
提督「よし。それでは第六駆逐隊と長門の演習を終了する。双方、今後もよくよく努めてほしい」
那珂「全員、礼!」
「「ありがとうございました!」」
提督「続いて水上部隊の出撃だ。お前たちも船渠に向かう前に見送りを頼む」
那珂「ねぇ、提督。那珂ちゃん、ちょっとお願いがあるんだぁ」
提督「奇遇だな、俺も那珂にお願いがある」
那珂「提督のお願い? 命令じゃなくて?」
提督「うむ。近日、劇をやることはもう伝わっているな?」
那珂「もちろんだよ。龍驤さんの晴舞台だからね、那珂ちゃんの役がないことには目を瞑ります」
提督「ははは、ありがとうな。その日は大元帥にも御台覧いただくことになっていてな。お迎えの際、艦隊式をしようと思っている」
那珂「……」
提督「僚艦はすでに決めていて、隼鷹、長門、祥鳳、潮、漣の5人だ。劇に参加しない艦娘ではあるが、開幕にふさわしい艦選だと確信している。当然、旗艦は那珂しかないと考えていた」
那珂「……」
提督「ところがな、今夜の作戦にも出てもらいたいんだよ。出撃先の海域が海域だからな、川内ではやや心配なんだ」
川内「ひどいなー。夜戦だからこそ私、でしょ?」
提督「お前が旗艦ならな。今夜は僚艦として出てもらうから、いつもとは勝手が違うだろう。どのみち悪い方に偏ったとしても大丈夫ではあるんだが」
川内「まぁそうだよね。慢心しているわけではないけどさ、私ならいけるよ」
提督「そこで那珂に選んで欲しい。今夜の出撃か、観艦式での旗艦か」
那珂「……」
提督「時期も迫っているから、今すぐにでも観艦式準備をしなければならない。ちなみに、川内も旗艦として観艦式に臨むのに十分な華を持っている。那珂は安心してどちらでも選んでほしい」
川内「やだなー。いいよ、そんなに褒めなくっても♪」
那珂「……」
北上「どっちでもいいから早く決めてよね。あんまり時間かけると、阿武隈が限界疲労になっちゃうんだけど」
北上が阿武隈の状況を伝え、提督がそちらを確認する。
妙高と島風が必死に阿武隈をなだめ、落ち着くように話しかけていた。
夜戦に対する不安からか、または僚艦の練度が自身を大きく超えているからか、阿武隈は呪文のように『こんなあたしでもやればできる』と唱え続けていた。あまり長い時間は耐えられそうにない。
提督「そのようだな。那珂、どうだ?」
改めて、意思を問う。
167 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:08:47.59 ID:NoHVzsGH0
那珂「ポゥ!」
168 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:09:18.73 ID:NoHVzsGH0
突然の発声、同時に海へ向かって跳躍。
僅かな滞空時間を利用して、艤装瞬着を果たす。
提督は川内を見る。彼女は首を横に振り、言外に那珂のような艤装展開はできないと伝えた。
北上「すげー」
着水と同時に転覆寸前まで傾斜。これ程激しく動いたにも関わらず、海面に波紋は疾走しなかった。
長門「……零・重力か」
那珂は不自然なほど自然に傾斜復元し、それを見た長門が驚愕した。
傾斜復元と同時に、その場で連続旋回を果たす。
那珂「アォ!」
海面上にも関わらず、発声と共に急停止した。
間を置かずに、自慢のダブルカーブド・バウが小さな波を立てながら、那珂は『後ろ』に推進する。
電「月面歩法なのです……か? いや、艤装展開した艦娘は後退できません!」
皆の目を釘付けにして、圧倒的な操舵術(パフォーマンス)を魅せつける。
那珂は、銀幕から抜けだした女王よりもさらに輝いて見えた。
169 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:09:52.16 ID:NoHVzsGH0
那珂「……」
呼吸を乱すことなく、那珂は戻ってきた。
ほんの数分だったが、演劇を観終わったような満足感に包まれる。
第六駆逐隊は感涙しながら、狂乱寸前だった阿武隈は驚愕しながら、また、あの北上ですら、ここにいた全員が那珂に拍手を送っていた。
提督「前言撤回だ。第四水雷戦隊、旗艦那珂に命ずる」
那珂「はい」
提督「艦隊式を必ず成功させてくれ。頼んだぞ」
那珂「那珂ちゃんにお任せ〜☆」
今日一番の笑顔だった。
川内「いやったぁあああ! 夜戦だ、夜戦ー!!」
こちらも一番の笑顔になった。
北上「まぁよかったね」
提督「さて、次は那珂のお願いだな。急遽、妙高と解説役を代わってもらったからな。オフの時にも関わらず助かった」
那珂「え〜とね……」
当初の目的とは代わってしまったが、よりよい物を手に入れることができた。
すでに満ち足りたので、この権利を誰かに譲歩しようと考える。
那珂「今日の演習なんだけどね、本当のMVPがあると思うんだ。その人のお願いを聞いて上げて欲しいかな」
提督「おぉ! 何と言う心根の優しさ。これが艦隊のアイドルだというのか!?」
那珂「そうだよ☆ 四水戦の四は幸せの『し』! 那珂ちゃんはね、皆に『し』を運ぶお仕事をしています!」
直視できない眩さだった。
深読みしすぎた阿武隈は気絶しそうになる。
提督「そうか、そうだな」
長門を見る、彼女は頷く。
六駆を見る、彼女たちは頷く。
提督「本日の演習、真MVPを発表する。北上! おめでとう」
北上は阿武隈の気付けをするため、前髪をいじっていた。いじってあげていた。
170 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:10:24.34 ID:NoHVzsGH0
北上「え? なに?」
川内「北上さんが今回の演習のMVPだってさ。何かお願いを聞いてもらえるって」
北上「ふーん」
提督「さあ、北上。第六駆逐隊をここまで導いたお前の教鞭こそがMVPだ。何でも1つ願いを叶えてあげます」
北上「いいよ、別に」
提督「何でもいいぞ。俺にできることならな」
北上「間宮のフリーパスって貰える?」
提督「それでよければ。それにするか?」
北上「待って、本気で言ってんの? じゃあ、ずっと有給休暇にして貰っていい?」
提督「それでよければ。それにするか?」
北上「おお! 待って待って。じゃあ世界征服しちゃおう!」
提督「あぁ、俺の艦娘が恐ろしいことを……。しかし、提督責任だ。どこまで行けるかわからんが、やろう。それにするか?」
北上「やんないよ、そんなのは興味ないし。言ってみただけ。じゃあ秘書艦になるとか! 秘書艦、北上。いいねぇ、しびれるねぇ」
提督「秘書艦は龍驤だから。それは無理だな」
北上「……」
川内「北上さん、わざと避けてるのかもしれないけどさ。ちゃんとお願いしてみたら?」
那珂「そうだよ。せっかくの機会なんだから言ってみようよ」
北上「何でもじゃなかったじゃん。言うだけ無駄でしょ」
那珂「さっきのは北上さんが悪いよ。それ意外のお願いは、かなり無茶なのが混じってたけどOKだったでしょ?」
北上「まぁ……そうねぇ……」
提督「さあ、北上。願いは決まったか?」
171 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:11:03.77 ID:NoHVzsGH0
北上「……大井っちに会いたい」
172 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:11:59.72 ID:NoHVzsGH0
提督「それでいいのか?」
北上は小さく頷いた。
自分では気がついていなかったが、気づかないようにしていたが、駆逐艦の面倒を見ていた時にはもう誤魔化すことはできなかった。
姉妹に会いたい。
鎮守府の保有制限や運営方針を盾にして、我慢をしていることすら忘れて過ごしていたが限界だった。
173 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:12:39.98 ID:NoHVzsGH0
提督「その願い叶えよう」
174 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:13:09.33 ID:NoHVzsGH0
その言葉に耳を疑った。
監視対象になっているこの鎮守府は保有数に制限をかけれている。
その上限、24盃。
そして、鎮守府に在籍している艦娘の数は24。
新しく艦娘を着任させる場合、必要な処置は明言されている。
決して発動してほしくない命令の1つだった。
提督「北上よ。お前が駆逐艦に訓練を付けてくれた日の夜に、嘆願書が4通届いた。どれも『大井』を着任させてほしいという内容だ。名前は伏せるが、提出者は軽空母が2人、駆逐が1人、そして軽巡が1人だ」
北上は電と阿武隈を睨みつけ、2人は目を逸らした。
提督「さっそく大本営との交渉を開始した。それが今日のさっきまでかかってしまったことは、まぁ、俺の力不足だ」
北上「何回か交渉してくれたの?」
提督「いや、ずっと交渉し続けた」
北上「は? 提督、馬鹿でしょ。何日たったと思っているの?」
提督「監視対象になっているが故に、この鎮守府はそう簡単に無視されない。無理を押すためには多少狂気を見せるしかなかった。向こうの担当は交代できるが、こっちは俺1人だったからはっきり言って大変だったがな」
北上「……うん」
提督「やはり条件を突きつけられた。雷巡は巨大な戦力だからな。新規着任させる場合、駆逐艦3盃と引き換えだとさ」
175 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:13:44.05 ID:NoHVzsGH0
北上「いらない」
176 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/23(月) 00:14:45.94 ID:NoHVzsGH0
即断だった。大井を着任させるために駆逐艦3盃を解体処分する。決して、許せる内容ではなかった。
北上「大井っちにそんな咎は背負わせない。……アンタたちも馬鹿なこと考えないで」
暁、響、雷が泣きながら北上の元へ寄ってきた。
駆逐艦が3盃やってきた。
泣きじゃくり過ぎて何を言っているかわからなかったが、言いたいことは伝わってきた。
北上「自己犠牲が美徳なわけじゃないから。暁は一人前のレディって言ってたじゃん。……鼻水つけないでよ」
暁は頷きながら、北上の制服の袖で鼻をかむ。
北上は怒らなかった。
北上「雷も、誰かを助けたいなら自分と引き換えにするのはありえないから。……鼻水つけないでってば」
電も頷きながら、北上の制服の袖で鼻をかむ。
北上は怒らなかった。
北上「響もわかってるの? 誰かのために死ぬなんてありえないから。誰かのために生きて、生きて、結果死ぬことはあるけど。生き延びたことは恥でも何でもないから」
響は泣いたまま北上の胸に顔を埋める。
北上「あー、駆逐艦はうざいなぁ」
本心からの一言だった。
北上「けどまぁ、ありがとね」
これも本心だった。駆逐艦の面倒を見るのもそう悪くないと思えた。
大井には会えないかもしれないが、駆逐艦への指導を通じて、それなりの充実感が生まれ始めていた。
提督「さらに、極めて高練度な雷巡を駆逐の指導教官にさせるなとも指摘された。そんなことに使うより出撃させろということらしい」
北上が抱いた小さな願いは摘み取られた。
177 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/29(日) 23:22:10.98 ID:Zan650g40
北上「はいはい、それでいいですよー。教育でもなんでもなく、予定通り夜戦をしてきますよ。ついでに旗艦の練度を上げてくるからさ。ほら、駆逐艦。アンタたちは入渠して補給して遠征の準備をしなさいな」
響「……司令官。さすがにあんまりじゃないかな」
雷「そうよ! 普段から北上さんに頼りっぱなしなんだから、もっとちゃんとしてよね」
暁「レディに対する態度じゃないわ!」
すぐさま抗議の声を上げた。上官に対する反抗とも取られかねないが、そんなことはどうでも良かった。
北上「止めてよね。別にアンタたちがどうこう言う必要はないから。条件付きだったけど、提督は本気だった。それ以上はどうしようもないよ。お上にゃ逆らえないからねぇ」
諦観せざるを得ない。いままでずっとそうだったのだ。この制限は簡単に変えられるようなものではなかった。
提督「おい、そっちでまとめるな! 最後まで聞いてくれ。まったく、誰の教育だ? なんでお前らは最後まで聞かずに泣きそうになるんだ。……長門よ、なぜそんな顔で俺を見る?」
長門は苦笑いせざるを得なかった。誰の教育かは一目瞭然だったからだ。
提督「まあいい、話を続ける。雷巡を教官に使うなという言葉こそ俺が引き出したかったものだったのだ! 雷巡を使わざるを得ないほど艦娘が足りていない、どんなに弱くてもいいから巡洋艦の艦娘を着任させて欲しいと烈火の如く訴え続けた」
北上「それで?」
提督「俺の粘り勝ちだ! 正規の手順で訴えた結果、駆逐艦並みの戦力に限って25盃目の着任が認められた。これで暁達の教育が捗る!」
北上「ふーん、よかったね。新しい教官が来るってさ」
響「たとえ新しい教官が来たとしても、北上さんに訓練を付けてもらえたことは絶対に忘れない」
北上「いいよ、忘れても」
雷「絶対忘れないから!」
北上「はいはい、ありがとね」
そっけない言葉をかけながらも、3人の頭を撫でてやる。
北上はこの小さな満足を小さな胸にしまいこんだ。
直後、声が響き、神妙な空気をいとも簡単に引き裂いた。
178 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/29(日) 23:22:46.84 ID:Zan650g40
龍驤「おおい、新しい船ができたみたいだよ!」
179 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/29(日) 23:23:33.88 ID:Zan650g40
提督「きたか! 見ろ、久しぶりに仲間が加わるぞ!」
暁「新人さんが来たのね? なら一人前のレディな暁が面倒を見てあげるわ!」
龍驤「あのさぁ、キミらの先生になるんやで? まぁ、ええか。自己紹介、いってみよう!」
「あら……ほほう……? なるほど。これは少し、厳しい躾が必要みたいですね」
180 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/29(日) 23:24:06.17 ID:Zan650g40
大井「練習巡洋艦、大井です。心配しないで……。色々と優しく、指導させて頂きますから」
181 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/11/29(日) 23:24:58.84 ID:Zan650g40
北上「大井っち?」
大井「えぇ、北上さん。あなたの大井ですよ。やっと会えましたね」
何度夢に見たか思い出せないほど、恋焦がれた艦娘がそこに立っていた。
艤装こそ夢見の姿と異なっていたが、間違いなく彼女だった。
北上「嘘、本当に? だって、あれ? なんでだろう。やっと会えたのに、すっごく嬉しいはずなのに。なんで涙が出るんだろう。あれ?」
182 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/06(日) 23:06:48.92 ID:hT/G1Qws0
大井「きっと今までずっと我慢していたからですよ。さぁ、私の胸で泣いてください」
北上「……うん」
大井の大きな胸に顔を埋める。しばらく顔をあげることはできなさそうだった。
大井「北上さんをこんなになるまで放って置くなんて……。ちっ、なんて運用……」
提督「おい、龍驤」
龍驤「なんや?」
提督「大井の言葉に、俺はひどく傷ついた」
龍驤「甘んじて受けるしかないやろ。理由はどうあれ、事実は事実や」
提督「まぁ、な」
龍驤「あとで慰めたるから」
提督「わお!」
北上「大井っちの艤装はアタシとお揃いじゃないんだね。どして?」
大井「これですか? これは戦力削減のために練巡に艦種変更しているんですよ。本当なら北上さんとお揃いが良かったんですけども、提督がこんなんですから」
北上「そうなんだ。一緒に出撃したかったのにな」
大井「大丈夫ですよ、北上さん。一緒に出撃はできませんけど、これからの闘いはずっと一緒です」
北上「そだね、これからはずっと一緒だね」
大井「はい♪ ずっと一緒です」
龍驤「……ええ話やんか」
提督「うむ、全身全霊を持って交渉した甲斐があったな」
大井「提督!」
提督「なんだ?」
大井「私を着任させるのが遅すぎて、北上さんをここまで追い詰めたことは決して許しません!」
提督「あぁ、これに関しては完全に俺の実力不足だ」
大井「けれど、手段を選ばず私を着任させたことだけは認めてあげます。本当にありがとうございます!」
北上「提督、ありがとね」
提督「喜んでもらえて何よりだ。どうする、北上? 今日の出撃は誰か別の艦娘に替わってもらうか?」
北上「球磨型をナメないでよね。やることはちゃんとやるからさ」
大井「北上さん、素敵……。私も駆逐艦を遠洋練習航海に連れて行きますね。さあ、あなた達。航海の準備をしてきなさいな」
提督「素晴らしい」
183 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/06(日) 23:07:14.79 ID:hT/G1Qws0
雷「ちょっと待って、新人さんがいきなり偉そうじゃない?」
暁「そうよ、私達のほうが先輩なんだからね!」
電「はわわっ、落ち着くのです!」
響「少し落ち着こう。あの人は北上さんと同格の……」
大井「はぁ?」
大井は教鞭を振りぬいた。
教鞭で打たれたとしても艦娘にはまったく効果はない。
戦闘での砲雷撃は革製品とは比べるまでもない程強力な代物だからだ。
艦体面では無傷が約束されている。しかし、精神面に与える影響はどうか?
大井の教鞭の握り方は日向が刀を執る時とまったく同じだった。
人差し指と中指で挟みこむように教鞭を執り、猫の手のまま振りぬいた。
日向と同じということは、熱量や速度という数値化できる尺度では測れないと言うことだった。
大井「いいですか? 北上さんが私との時間を割いてまで確保された貴重な時間です。1秒たりとも無駄にしないでください!」
「「了解!」」
全員で敬礼をして、内2盃は液漏れを起こした。演習で大破、中破だったため仕方がないことだった。
大井は船渠へ向かう第六駆逐隊に声をかけた。
184 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/06(日) 23:08:00.61 ID:hT/G1Qws0
大井「電さんは遠征ではなく出撃ですので装備を整えてきてください」
電「そうなのですか?」
大井「はい、こちらへ向かう際に龍驤さんから聞いています。阿武隈が倒れそうなので早くしてあげてください」
電は姉達を見た。
暁「遠慮なんかしないで、電は阿武隈さんについてあげてね」
響「阿武隈さんは私達第一水雷戦隊の旗艦だからね。支えてあげないと」
雷「雷達もすぐに電に追いついちゃうんだから! 今はできることをするわ!」
電「はい! 皆で頑張るのです!」
遠征組はすぐに入渠しに行った。
電は船渠に向かう前に、今夜出撃するメンバーの方を見た。
島風「阿武隈さん、大丈夫ですよ。一緒に魚雷を打ち込んで、島ごと吹き飛ばしましょう!」
阿武隈「島風ちゃん、ありがと。うん、こんな私でもやればできる」
妙高「阿武隈さん、まずは呼吸を整えてください。それではできるものもできないですよ」
阿武隈「はい、妙高さん。ひっひっふー、ひっひっふー」
北上「ほら、阿武隈。前髪がくしゃくしゃじゃん、梳いたげる」
阿武隈「ありがと、北上さん。んぅぅ!? さっき北上さんがやったからじゃないですか!」
川内「そんなこと言ってないでさ、旗艦なんだからしっかりしなよ」
阿武隈「わかってるってば! 川内には負けないから!」
185 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/06(日) 23:08:32.44 ID:hT/G1Qws0
島風「あっ、電ちゃん。話終わった? 早く夜戦に行こうよ!」
電「はいなのです。しかしすごいメンバーですね。阿武隈さんの練度では、今回の海域は時期尚早なのでは?」
島風「基礎鍛錬も大事だけど、戦闘で得られるものも大事って判断だって。ほら、北上さんと妙高さんも一緒に行くんだよ」
電「なるほどなのです。実戦であの2人を間近で見られる機会はめったにないのです。作戦名はなんですか? 高速艦でまとめ得られているから、『はやきこと島風の如し』ですか?」
島風「作戦名は聞いてないよ。『電撃作戦』なんてどうかな? これならすごく速いよね」
阿武隈「……作戦名は「阿武隈の練度を上げる作戦」です」
電「海上で電気なんて、四方八方に霧散しておしまいなのです。ここは島風の如しがいいのです」
島風「電ちゃんはもっと速さのお勉強をしたほうがいいよ。電圧と大気圧じゃ出せる速度の桁が違うもん。電撃がいいよ」
阿武隈「……電ちゃんは入渠して補給して準備をしてきてくださーい」
電「島風ちゃんももっと考えたほうがいいのです。電達は艦娘だから、物理現象の制約すら解き放つことができます。つまり、皇国最速を誇る島風の名を冠した作戦こそ、最速の概念を顕せるのです!」
島風「そんなの精神論だよ。本当に速さを表現するなら、光か電気しかないもん!」
阿武隈「……あたしの指示に従ってください。んぅぅ、従ってくださぁいぃ!」
駆逐艦同士が組手を始めてしまった。
片や地域の守護神にまで祀り上げられた艦娘。大破状態とはいえ、限界練度は伊達ではなかった。
片や皇国海軍最速の艦娘。その速さに関して余計な説明は不要であり、駆逐艦としてはこの鎮守府で第2位の練度を誇っている。
阿武隈では到底止めることはできなかった。
186 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/06(日) 23:10:10.86 ID:hT/G1Qws0
島風「オウッ!?」
電「はぅっ!?」
妙高が旗艦の指示を聞かない駆逐艦の艦首を掴み上げた。
妙高「私、実は結構料理が得意なんですよ。カレーを調理するときはブランデーを使ってお肉をフランベするなんてこともします」
島風「はい! みょうこうカレー美味しいです!」
妙高「ふふ、ありがとうございます。あと、対基地の殲滅なんかも得意だったりするんです。誰が言ったのかわかりませんが、三式弾で飛行場をフランベする、なんて」
電「はいなのです! 主砲で大型爆撃機を落とせるのも妙高さんだからなのです」
妙高「ありがとうございます。さて、おふたりはどちらが好きですか? 今すぐに提督の命令に従い、阿武隈さんの指示に従って出撃し、作戦完了後に暁の水平線を眺めながら食べるカレー。それとも命令違反による処罰」
優しい声にも関わらず、ひどく冷たかった。
妙高「命令や指示に反するのは大変なことですよ。進路変更に失敗すれば互いにぶつかってしまうこともありますからね。電さんならわかるでしょう? たとえ仲間同士でさえ不用意にぶつかってしまえば轟沈してしまうということを」
電「わかるのです! ちゃんとわかるのです!」
艦首はなお掴まれたままだった。
妙高「島風さんはいかがですか? この『阿武隈の練度を上げる作戦』を最速で達成するために必要なことはなんですか?」
島風「電ちゃんに早く戦闘準備してもらって、すぐに出撃することです!」
妙高「そうです。さすが皇国最速の島風ですね」
艦首はなお掴まれたままだった。
妙高「命令違反の場合の処罰ですが、私は執行できます。微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く執行できます。なぜならこの私は妙高型重巡洋艦の一番艦だからです」
妙高は駆逐艦2盃をゆっくりと降ろした。
妙高「阿武隈さん、指示を」
阿武隈「ひぃ! 電ちゃんは入渠して補給して来てくださーい! 合流次第出撃します!」
電「はいなのです! 40秒で戻ってくるのです!」
電は紫電のような速度で船渠へ向かった。
北上「やっぱり電も駆逐艦だねぇ」
大井「えぇ、北上さん。勝手なことをしないように指導してあげないといけませんね。私達は巡洋艦ですから」
北上「そだね」
川内「阿武隈もさ、妙高さんに頼ってるんじゃなくて旗艦としてちゃんと決めないとね」
阿武隈「夜戦バカのくせに! まともなこと言わないでよ!」
提督「川内の言うことももっともだな。阿武隈、抱負を語っておけ」
阿武隈「ひぇ! やだ、提督?」
龍驤「旗艦の啖呵切りは大事やで、僚艦からの信頼が得られたり得られんかったりするからな」
阿武隈「龍驤さんまで」
187 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/06(日) 23:10:50.39 ID:hT/G1Qws0
誰も責めているわけではないが、自然と追い詰められてしまう。
啖呵切り、なにか格好いい言葉を探す。
那珂に倣ってもっと書物を読むべきだったと後悔した。
アイドルは知性が伴ってないといけないというのは那珂の持論だった。
皇国の歴史で言えばそれは花魁の在り方だ。
花魁はアイドルだからあっているのか?
そもそもアイドルとはなにか?
阿武隈は提督からの問とはかけ離れた方向へどんどん進んでいく。
電「電、準備完了なのです!」
大井「何で先に行った他の3人は来ないのよ……」
北上「これでアタシは大井っちに見送ってもらえるね」
大井「も、もちろんですぅ」
川内「阿武隈、全員揃ったよ」
阿武隈「こっ……」
『皇国ノ興廃コノ一戦ニアリ、各員一層奮励努力セヨ』
これこそ海戦にふさわしい言葉だ。この言葉を啖呵にすべきだと判断した。
阿武隈「こっ……」
北上「こ?」
188 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/06(日) 23:11:20.57 ID:hT/G1Qws0
阿武隈「今夜は夜戦です! 鎮守府(おうち)に帰るまでが夜戦です! 皆でちゃんと帰ってきましょう!!」
189 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/06(日) 23:12:07.82 ID:hT/G1Qws0
「「了解!!」
提督「やはり阿武隈は一水戦旗艦にふさわしいな」
龍驤「ほんまやな」
阿武隈「第一水雷戦隊、阿武隈。旗艦、先頭、出撃します!」
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/12(土) 03:03:02.09 ID:52pIJeOAO
阿武隈かわいいなおい
191 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/13(日) 23:12:28.32 ID:1rjESQhY0
――正規空母寮――
定刻前に館内放送が流れた。
『本日は秘書艦が体調不良のため、休暇日とする。繰り返す、本日は秘書艦が体調不良のため、休暇日とする』
瑞鶴「あれ、翔鶴姉。今日お休みだって」
翔鶴「龍驤さんが体調不良だなんて。大丈夫かしら?」
瑞鶴「まぁ、あの人だから大丈夫でしょ。轟沈したって、『潜水空母、龍驤見参!』とか言って帰ってくるって絶対」
翔鶴「……そうかもしれないわね。折角の機会だから、少し外に出て見ようかしら。赤城さんに甘味処に連れてって貰って。祥鳳さんもお誘いして……。瑞鶴も行くわよね?」
瑞鶴「う〜ん、私はいいや。もう少しで何か掴めそうな気がするんだ。今から道場に行ってくる」
翔鶴「そう? 休める時は休むようにしてね」
瑞鶴「わかってるって」
192 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/13(日) 23:13:20.61 ID:1rjESQhY0
――射撃訓練場――
瑞鶴「さて、道場についた瑞鶴です。さも当然という風に加賀が稽古していました。……何で休んでないのよ」
三立分の矢を取り射位に立っていた。
妨げにならないよう射終わるまで外で待つ。
軽やかな離れの弦音が耳に心地よい。
これは見るまでもなく的中だった。
瑞鶴「……よし!」
心の中で発声したつもりだったが、思わず口に出てしまう。
加賀の技量に疑いの余地はなかった。
一航戦を自負するだけのことはある。
瑞鶴「あれ? 何で戻るの?」
一本だけ射った後、残りの矢を取り退場してしまった。
加賀「こんな所で何をしているのかしら?」
瑞鶴「ひゃ! えっと、稽古をしに来たのよ」
加賀「……そう」
会話が続かない。まったく続かない。
矢を回収しに行くわけでもなく、道場に戻るわけでもない。
加賀は瑞鶴をじっと見ているだけだった。
沈黙に勝てなかった瑞鶴が口を開く。
瑞鶴「蜻蛉、回収してくるから私に稽古つけて」
加賀「別に、いいですけど」
意外な回答だった。快諾、とまでは言えないかもしれないが、加賀は瑞鶴の願いを聞き届けた。
瑞鶴「あれ? ちょっと待って! すぐ取ってくるから!」
瑞鶴は安土に向かって走る。
その姿を見て加賀は小さく笑みを浮かべた。
193 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/13(日) 23:13:54.10 ID:1rjESQhY0
――――
瑞鶴は呼吸力で会を作る。
離れはその延長だ。然るべき時がやってくる。
小気味良い音を立てて、蜻蛉が的を貫いた。
残心ではまだ油断しない。
弓倒しを終え、加賀を見る。
加賀「もっと胴造りを意識しなさい。艦載機の発艦がぐらつきます」
瑞鶴「はい」
瑞鶴は得心した。
確かに引き分けから注意を払っていたが、胴造りは甘かった気がしたからだ。
二本目は胴造りに注意を払った。
竜骨を通して艦首から船尾まで一体となる感覚に包まれた。
一本目と同様に的中だった。
瑞鶴は加賀を見る。
加賀「もっと胴造りを意識しなさい。艦載機の発艦がぐらつきます」
瑞鶴「……はい」
指摘があったということは、まだ甘かったからだろう。
胴造りというより、足踏みをおろそかにしていたかもしれない。
素直に反省して三本目に臨む。
194 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2015/12/13(日) 23:14:25.67 ID:1rjESQhY0
――四本目――
加賀「もっと胴造りを意識しなさい」
瑞鶴「……はい」
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